【電波的な彼女】片山憲太郎作品【紅】 2冊目

このエントリーをはてなブックマークに追加
1名無しさん@ピンキー
我が身はあなたの領土。我が心はあなたの奴隷。  
ここは片山憲太郎氏の著作についてのエロパロスレです。
 
前スレ
【電波的な彼女】片山憲太郎作品【紅】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1150541908/l50

2名無しさん@ピンキー:2007/02/10(土) 01:26:24 ID:INQ3AQ7k
新スレ建て乙
3名無しさん@ピンキー:2007/02/10(土) 01:27:17 ID:fwjzEkxo
おお、立ってる。
よかった。
4名無しさん@ピンキー:2007/02/10(土) 09:30:50 ID:PVlAWRnr
>>1 乙ッス!
5名無しさん@ピンキー:2007/02/10(土) 10:07:01 ID:ipO19bVc
>>1さん乙です。
6名無しさん@ピンキー:2007/02/12(月) 01:31:59 ID:GewgPW9J
>>1

あれかな?
やっぱり伊南屋さんが降臨してくれなきゃ活性化はしないんだろうなぁ。
7名無しさん@ピンキー:2007/02/12(月) 15:45:44 ID:PDX1Jd7P
前スレの>>775からどうぞ。

 ジッ、と鬱陶しい雨の前髪越しに彼女の瞳を見つめる。
 微かに覗く彼女の瞳は驚きと緊張が見え隠れしているような気がする。
 いつも力になってくれるこいつは果たしてどんな存在なのだろうか。伊吹に訊かれたあの問いがふっと脳裏をかすめる。
 だがこいつは決まってこう答えるだろう。「ジュウ様の騎士であり奴隷です」と。
「え、ええと…」
「あ、ああ、悪い。少し考え事をしてた」
 どういうわけか雨もどこかぎこちなさそうにする。しかし、それは居心地が悪いものではなく、どこか嬉しいような恥ずかしいようなもの。
 ジュウにはそう感じられたが、あえてそれは頭の外から追い出して言葉を続けた。
「……おまえも気をつけろよ」
「はい?」
「雪姫にも言ったが、こいつの狙いは俺だ。
 大切なものというのが何かは分からないが…おまえたちにも被害が及ぶかもしれない」
 一瞬驚いた様子だったが、雨は嬉しそうに微笑んだ。
「…ありがとうございます。私はジュウ様に仕えることが出来て光栄です」
「あのな…」

 そんな大げさな。ここのところ雨と一緒にいることが多かったためか、彼女の言い回しには慣れたつもりであったが、
 やはり時折彼女の思考回路はどうなっているのかと知りたくなるときがある。
 けれど、それは彼自身の好奇心が他人に向いているということになる。

 以前は他の誰かに興味を抱くことなんてなかったのに。
 思えば、雨と出会ってから少し自分は変わったように思える。変わることが全て良いことだとは思わないが、
 それでもこの変化は良いものだろうと、信じたくなった。

 と、そこでジュウの携帯が鳴る。
「悪い。ちょっと待て。 ……円堂から?」
 雨に断り、携帯を開くと『円堂円』と画面に写し出されていた。
 珍しい。男嫌いで、ジュウにあまりいい印象を持たない彼女から自分に電話をかけてくることはなかった。
「もしもし、円堂か?」
『柔沢くん? 今どこにいるの?』
「雨の家だけど……」
『ならちょうど良かったわ。…いい? 今すぐ雨と一緒に駅前の病院に来て』
「駅前の病院? ああ、そこなら知ってるけど…どうしたんだよ?」
 矢継ぎ早に話す円の言葉を聴きながら、頷いた。夏休み前の事件でジュウが世話になった病院だ。
 冷静沈着な彼女がここまで慌てて話すのは珍しい。何があったのだろう。
 円は一拍置いた後、静かに言葉を紡いだ。
 
『……雪姫が襲われたの。今、手術中よ』

 なんだって。ジュウは言葉にする前に、携帯を取り落としてしまった。


※※※
と、今回はここまで。
なんというか、色々と冒険してみたので、違和感覚えるところもおありかと思いますが、
暇つぶしにどうぞ。そして遅れましたが>1お疲れ様です。
8名無しさん@ピンキー:2007/02/12(月) 17:54:54 ID:dUSBCwdo
『常識破り』続きキターー!!

GJですわ!雪姫をも下した敵、ジュウはどうなってしまうのか!?
暫くss投下はないかもと思ってたが、油断できねぇ・・・・・・
9名無しさん@ピンキー:2007/02/12(月) 19:27:49 ID:Illz4ndE
開けてぇ

お姉ちゃん、もう来ないから、来れない様に、したから、
私が、替わりに、従者、してあげるから、


ドア、開けてぇ
10名無しさん@ピンキー:2007/02/12(月) 19:38:16 ID:ZCoaPXbw
光…か?
11名無しさん@ピンキー:2007/02/12(月) 20:36:05 ID:dUSBCwdo
いいね、ヤンデレ光
怖さの中にキラリと光るもんがあるのです。
ただ光の純愛もみてみたいと思うのが人心でして・・・
12名無しさん@ピンキー:2007/02/12(月) 22:05:14 ID:Illz4ndE
柔沢「朝から何のようだ」
堕花妹「え? いや、その、えと、そうだ、前に痴漢騒ぎから助けてあげたんだから、
     その貸しを返してもらいに来たのよ!!」
柔沢「・・・・あのあとの事で帳消しになったんじゃないのか?」
堕花妹「乙女の唇とあんたがボコボコになるのとが吊り合うわけ無いでしょ!!」
柔沢「そうか。まあ借りは返さんといかんよな。





    それにしても、雨が来れないって何したんだ?」
堕花妹「お母さんに『お姉ちゃん虫歯が痛い』って言ってたよっておしえたら
     歯医者に連れて行かれたの。お姉ちゃん、歯医者苦手だから」
13名無しさん@ピンキー:2007/02/12(月) 22:07:54 ID:8kgoHkx5
そんなオチwww
14名無しさん@ピンキー:2007/02/12(月) 22:10:54 ID:Illz4ndE
ぶっちゃけ雨が歯医者苦手なわけないと思うんですがね
さらに言えば光はもっとこうなんていうか見てる方がじれったくなるような
強気で直接ジュウに甘えるようなところは見せないと思うんですけどね○| ̄|_

伊南屋さんや前スレ651さんみたいなのが書きたいなぁ ムハー( ´Д`)≡3
15名無しさん@ピンキー:2007/02/12(月) 22:17:58 ID:PDX1Jd7P
>>14
その情熱、メモ張に叩きつけろッ!
16名無しさん@ピンキー:2007/02/12(月) 22:18:30 ID:PDX1Jd7P
帳……だな。
17名無しさん@ピンキー:2007/02/13(火) 22:37:19 ID:hwOGilxN
堕花妹「ちょっ、ちょっと調理実習で作りすぎただけだから、
     捨てたら勿体無いだけだから、へんな感違いするんじゃないわよ!!」

金髪の王様に渡される、小さな、でも可愛らしく包装されたチョコクッキー。

柔沢「・・・・ああ、旨いな。 雨が褒めてただけの事はある」
堕花妹「バカぁ・・・・こんなときに他の女の子の事なんか話題にしないでよ・・・・」
柔沢「ん? なんか言ったか?」
堕花妹「なんでもないっ!!」






>15者
( ´_ゝ`) こうですか 分かりません!!
(´<_`  ) 甘いめのは久しぶりに書いたけど、難しいね
18名無しさん@ピンキー:2007/02/13(火) 22:57:30 ID:V88PeWEC
そうして意地を張って
一日早く渡しちゃうわけですね。
光ちゃんいい娘やのぅ
19名無しさん@ピンキー:2007/02/13(火) 23:25:13 ID:DAh1Z/CP
見事なツンデレw GJ!
そして当日は当日で雨の 手 作 り チョコを渡されて
どうしようかと悩むジュウ様のお姿が見えるw
20伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/02/14(水) 00:43:39 ID:ZzD7HcjX
「ジュウ様、どうぞ」
「あ、あぁ……」
 ジュウが雨に渡されたのはシンプルな包装紙に包まれた、甘い香りを放つ物体だった――
「いや、ていうか箱から甘い匂いが漏れるってどんなんだよ!?」
 ――ごもっともな話だ。普通はこんなにはっきりと匂いはしない。
「……少々失敗してしまいまして」
 珍しく俯き、落胆を見せる雨の姿に、ジュウは心が痛んだ。
「いや、そのなんだ? ありがたく頂くからよ」
「……ありがとうございますジュウ様。」
「気にすんな」
「私の心を込めて、“身を削る”思いで作りました」
 雨の言葉にジュウは一瞬、疑問を感じる。
 そして、ジュウは見た。
「……なあ、その手」
 ジュウが指したのは、何ヶ所か絆創膏が巻かれた指先だった。
「チョコを刻む際に怪我をしまして」
「それだけか?」
「――……それだけですが」
「今の間は何だ!?」
「御心配なく。……病気にはなりませんから」
「入れたな。入れたんだな? 血を、チョコに血を入れたんだな!?」
「そんなこと――」
 そこまで言って、しかし雨は口を閉ざした。
「最後まで否定しろ!」
 かなり本気でチョコを食うのが恐ろしいジュウであった。


 スマヌ。こんなんしか思い付かなかった。
 レディオ・ヘッドの続きは今暫く待っていただきたい。
 以上、伊南屋でした。
21名無しさん@ピンキー:2007/02/14(水) 01:34:52 ID:YuylJ21J
ほ の ぼ の 純 愛
イヤまさに電波的なバレンタインでしたw GJッス!伊南屋さん
22名無しさん@ピンキー:2007/02/14(水) 02:01:45 ID:iSOfYo4E
えっ?ほのぼの?
しかし、以外に雨とジュウのボケ突っ込みも良いな。
>>20 GJ
23名無しさん@ピンキー:2007/02/14(水) 09:41:16 ID:ZzD7HcjX
>>22
ほのぼの純愛スレを見れば分かる。
24名無しさん@ピンキー:2007/02/15(木) 00:11:37 ID:ofbCJPvu
>>23
なんと!
また知ってはいけない世界を知ってしまった気がする...
25名無しさん@ピンキー:2007/02/15(木) 10:52:05 ID:CXUMqhgs
光…だよな
26名無しさん@ピンキー:2007/02/16(金) 19:24:01 ID:NMIS/rW9
保守
27名無しさん@ピンキー:2007/02/18(日) 18:29:32 ID:8D2bkXef
雨「ジュウ様のために保守いたします」
28名無しさん@ピンキー:2007/02/19(月) 13:06:04 ID:OPyUA0t6
これは過疎り杉
29名無しさん@ピンキー:2007/02/19(月) 20:18:49 ID:T1bf8yLA
前スレ、過去倉庫行きになったな
30名無しさん@ピンキー:2007/02/19(月) 21:54:52 ID:T1bf8yLA
前スレが倉庫行きになったな
31名無しさん@ピンキー:2007/02/20(火) 21:45:48 ID:oZJj0QsC
前スレが倉庫行きになったな
32名無しさん@ピンキー:2007/02/21(水) 07:21:51 ID:hZu/1j7H
保守
33名無しさん@ピンキー:2007/02/23(金) 22:48:35 ID:1rqHX1Gc
保守
34名無しさん@ピンキー:2007/02/24(土) 07:56:47 ID:mSOKv4lF
保守
35名無しさん@ピンキー:2007/02/24(土) 22:03:04 ID:7ITYVjKi
やっぱ伊南屋さん待ちかねぇ?
36名無しさん@ピンキー:2007/02/24(土) 22:43:17 ID:QQqaueNv
伊南屋さんじゃないですが、書くためのネタをサーチしてます
なにか受信できれば書きたいです





抽象的に言えば、

村上さんの・・・・匂いがする
体中に、ついてる・・・・夕乃の、匂いを、つけたはずなのに・・・・
銀子の・・・・匂いがするッ! 真九朗さんの体中から、あの女の匂いがするよッ!!
37『常識を破るモノ』 − ジュウの決意:2007/02/25(日) 00:12:42 ID:RwOADItg

 俺はいつもこうだ。
 気づいたときには遅い。後悔ばかりして生きている。どうして俺はこんなにもバカなんだ。
 藤嶋の時も。桜の時も。いつも誰かが被害に遭ってから気づいてしまう。

 どうしてあの時もっと真剣に雪姫に忠告をしてやれなかったのか。
 いや、それ以前にどうして真実を打ち明けられなかったのか。
 誰にも迷惑をかけたくないというちっぽけなプライドがそうさせたのか。

 考えても考えても、答えは出ない。やっぱり俺はバカだ―――。




 円から連絡を受けて十数分後、ジュウは雨を連れ病院に向けて疾走していた。
 円の言葉を聞いて、彼は信じても信じ切れなかった。詳しい事情はまだ聞いていないが、
 あの雪姫がそう簡単にやられるような人間ではないことは、よく知っている。
「ジュウ様……」
「喋るな…! 俺は…!」
 気遣う雨の声も封殺して、ジュウは怒りを何とか静めようとしていた。
 不甲斐ない自分への怒り。そして、雪姫を襲った犯人へと怒り。
 その怒りのあまり、冷静さを欠いている。怒りに己を委ねればいいことはないと
 今までの事件でも学んだと言うのに、それでもその怒りを抑えることができなかった。
 だが今はそれよりも雪姫の安否。それが唯一ジュウの理性を繋いでいた。
 アスファルトを叩く足音を強くしながら、人ごみのなかを掻き分け疾走していく。今はただ、雪姫のために。


「……やっと来たわね、柔沢くん、雨」
 病院のロビーで待ち受けていたのはいつも以上に鋭さを増している円の眼差しだった。
 まるで、そこに敵意を込めればナイフのように肌身を切り裂かれそうなほど、鋭く。
「それで、雪姫の様態は?」
「一命は取り留めたみたいよ。ただし、当分の間は面会謝絶らしいけど」
「…そうか」
 そこでジュウは安堵の吐息を吐き出す。もしかしたら、と最悪の場合を考えていたが、
 円の話によると奇跡的にぎりぎりのところで致命傷を免れていたらしく、
 あと少しでも相手の狙いが的確であったか雪姫が対応できていなかったら、確実に命を落としていただろうとのこと。
「今日雪姫と遊びに約束をしていたのよ。少し時間が立っても待ち合わせに来なかったから、
 駅周辺を探してみると案の定よ。血を流して倒れていたの、雪姫が」
「円堂……おまえ」
 彼女を知らないものが見たら、なんでそんなに冷静にいられるんだと声をあげていただろう。
 しかし、ジュウも雨も彼女が冷静ではないことは、一見してすぐにわかった。
 爪を噛み、苛立たしげにとんとんと足踏みをする。
 いつも冷静沈着である彼女がこれだけの僅かな苛立ちでも見せることがかなり珍しい。
 それだけ彼女もまた怒りを感じているということだった。

38『常識を破るモノ』 − ジュウの決意:2007/02/25(日) 00:15:05 ID:RwOADItg
「円堂、実は……」
 そんな円の様子を見て、ジュウは逆に自分の頭がクリアになっていくのが感じられた。
 冷静な様子ではあるが、雨も実際のところ怒りを感じていないはずがないのだ。
 ただ雨はジュウの前だから冷静な振る舞いができ、感情をコントロールすることが出来ているのだろう。
 俺はなんてバカなんだ。自分だけが怒りを感じているわけではないのだ。
 そう思いながら包み隠さず円にあの脅迫文のことを話した。

 全てを聞き終わった円は険しい表情でジュウを睨みつける。
「柔沢くん、いつか言ったわよね。あなたが何をしようと勝手だけれど、それに雨や雪姫を巻き込まないでって?」
「円! これはジュウ様の罪ではないでしょう」
「いい。雨、お前は下がってろ」
「しかし」
「雨」
「……分かりました」
 冷静な声で何か言いたげな雨をジュウは制止させ、じっと真正面から円からの視線を受け止める。
 分かっていたのだ。もしかしたら雪姫も狙われるかもしれない危険性を。だから忠告した。
 だがちっぽけなプライドのために事実を話さなかった。なんて中途半端な自分。
 それに円にも忠告されていたことだ。雨や雪姫を巻き込むぐらいなら、彼女らに迷惑がかからないように遠く離れさせると。
 結局これはジュウの傲慢さによって引き起こされた悲劇。少なくともジュウはそう思い込んでいた。
「円堂、お前がこいつらと俺を引き離れさせたいのならそれでもいい。
 けど、今はやることがある」
「………何を?」
「俺は、この『常識破り』って奴を捕まえてみせる。」
「それが貴方にできると思うの? ナイフを持っていなかったとは言え、雪姫を襲った相手よ」
「だからお前の力を貸して欲しい。もちろん雨も、だ」
「勝手な独り善がりね」
 冷たい刃のような円の言葉。だが、言われても当然。自分から彼女たちを巻き込もうとしているのだから。
 けれど、自分は無力。それを十分に承知している。だからこそ、彼女たちの力が必要なのだ。
 偽善者だろうが、卑怯者だろうが、雪姫を襲った犯人を捕まえたい。

 そう訴えかけるようにジュウは力を込めて円を見つめた。円はそれには答えず、今度は雨に視線を向ける。
「わたしはジュウ様の従者です。ジュウ様のお言葉に従いましょう」
「雨……。貴女はそれでいいの?」
「もちろんです」
 自分の言葉の内容が誇らしいと言わんばかりの雨の笑顔をしばし見つめたあと、
 円は呆れるようなそれでいてどこか冷たくないため息をついて、瞼を閉じる。

「…あなたたちは本当にバカね。しなくてもいいことを、目を背けて見なかったふりにしておけばいいことを、
 あなたたちはしようとしている。でも、悪いことじゃないわ」
 前髪を掻きあげながら、円は呟く。どこか表情も穏やかで、口元を緩めている。
 どうやらジュウは彼女にまた試されていたようだ。しかし、ジュウは気分を害するわけでもなく、素直に驚いた。
 それだけ叱責されるようなことを黙っていたのだ。本来ならば縁を切られてもおかしくはなかったのだ。
「それじゃあ…」
「ええ。協力しましょう。でも、これはあなたのためじゃない」
 彼女が自分に協力してくれるのは、飽くまで彼女自身や雨、雪姫のため。そこに馴れ合いはない。
 だが、それでもジュウにとっては十分力強い仲間だ。気を引き締めた表情で頷いた。
「分かってる。それで上等だ。何が何でもあいつを襲った犯人を…『常識破り』をとっ捕まえてやる…!」

 もう二度と後悔しないように。もう誰かを悲しませたりしないために。
 無力なら、無力なりの悪あがきを見せてやる。

 ジュウは静かに未だ姿を見ぬ敵へと宣戦布告した。
39名無しさん@ピンキー:2007/02/25(日) 00:18:48 ID:RwOADItg
そんなわけで続きを投下させていただきました。
他の職人さん方のつなぎにお読みくださいませ。
内容的にはそれほど進んでいませんが……orz

>>36
是非に頑張ってくださいませ。
銀子、銀子なのかっ!?
40名無しさん@ピンキー:2007/02/25(日) 01:28:31 ID:9LUO7wsN
>>39
GJ!!
続きが、続きが気になるっ!
41名無しさん@ピンキー:2007/02/25(日) 09:02:04 ID:HR5Br1c2
GJGJGJ!!続きが気になる…
42名無しさん@ピンキー:2007/02/25(日) 15:14:03 ID:W1BFGuPn
前スレの作品の保管場所ってあります?
なければ前スレのログupお願いします。
43名無しさん@ピンキー:2007/02/25(日) 19:10:05 ID:AdEX4Mw8
真九朗さん
昨日、来てくれなかった
真九朗さん真九朗さん
今日も、来てくれなかった
真九朗さん真九朗さん真九朗さん
帰るときに、村上さんに引っ張られて行くのが見えた
真九朗さん真九朗さん真九朗さん真九朗さん
村上さんの所為だ
真九朗さん真九朗さん真九朗さん真九朗さん真九朗さん
村上さんが悪いんだ





だから、私を恨むようなことはしないでくださいね?
だって、それは、自業自得なんですから。
44sage:2007/02/25(日) 20:58:45 ID:rQnVMB85
誰か過去スレ読む方法教えてくれ
カードは、、、持ってないんだ
45名無しさん@ピンキー:2007/02/27(火) 18:45:15 ID:/EoJy6yN
>>44
幸福値をためれ
46名無しさん@ピンキー:2007/02/28(水) 07:14:01 ID:lxN8ed6a
保守
47名無しさん@ピンキー:2007/03/01(木) 23:30:15 ID:6jRTzXFJ
今から書きかけの駄作を投入しちゃいます。
怒らないで下さい。
電波物で続きは後々書く予定です。
48名無しさん@ピンキー:2007/03/01(木) 23:30:48 ID:6jRTzXFJ
体が重い……
ジュウは目を覚ましつつ体を起こすと、いつもとは違う感覚を体に纏っていた。
それは物理的な重さではなく、体の中が重いという感覚だ。
「あ~結構辛いな……」
ジュウの声は風邪特有のガラ声になっていた。
「……風邪か、ばかは風邪ひかなかったはずだが」
自分で言って可笑しくなる。まぁ、誰でも風邪くらいはひくか、とジュウは思った。
「それにしても、寒いな」
それもそのはず、昨夜は暖房が冷房になっていたのだ。タイマーをセットしてつけたはいいが
冷房では全く効果がない、逆効果もいい所だった。
この寒い12月、朝は氷点下に近い温度だ。冷房のせいでジュウの部屋は氷点下になっていた。
「ぅえっくしゅ!」
今日が日曜日でよかった、さすがに学校には行きたくはない、とジュウは思っていた。
ジュウはベッドから降り、部屋の電気をつけてカーテンを開ける。
朝日の真っ赤な光と部屋にある蛍光灯の淡い光がジュウを明るく照らす。
ジュウは思わず目を離す。
空はまぶしいほどの静寂。雲一つない快晴だった。
「……これで体が健康なら言うことなしなんだが」
49名無しさん@ピンキー:2007/03/01(木) 23:31:32 ID:6jRTzXFJ
時刻はすっかり昼時。ジュウはお腹がすいていた。朝は食欲がなかったので摂ってなかった。
しっかり薬だけはあったので白湯で風邪薬を飲む。龍角散喉飴を舐めるとガラ声は治った。
紅香はもちろん不在。頼れるのは自分のみ。冷蔵庫は空っぽ。あるのは薬だけ。
「しょうがねぇ、買い物に行くか……」
渋々立ち上がると、ジュウは部屋に戻り着替え始めた。防寒対策にぴったりな服装だ。
インナーは長身で首の長いジュウにぴったりな紫のタートルネックに黒のカーディガン、
アウターにはファー付きのコートでしめる。
パンツは足の形がわかるほどのタイトな物。白いベルトを装着して、ほぼ完成だ。
首には使いやすいボーダーのマフラー。髪が跳ねていたので、ハンチングで隠す。
全体のバランスがとれるように調整。持ち物は財布と携帯をポケットに突っ込んで終わり。
バッグは持たない。
「まっ、こんなもんか」
靴を履き、鍵を閉めて玄関をでる。風がジュウの頬をたたきつけるように吹く。
しかし、タートルネックにマフラーをつけているジュウにはそれほど寒さを感じなかった。
あるのは倦怠感と熱。それだけだ――
50名無しさん@ピンキー:2007/03/01(木) 23:35:19 ID:6jRTzXFJ
――商店街にいき、街で一番大きいデパートに入っていった。
今日の献立は決まっていた。
ジュウは栄養満点の鍋物を作ろうと考えていた。
「ヤサイからだな……」
ヤサイを無作為に籠に入れていき、しらたき、豆腐、肉団子、卵
などを籠に放りこんでいた時。
「ぅああ〜〜ん!」
幼い女の子が泣いていた。しかも、ジュウの方向に向かって来ていた。
名も知らない女の子が泣きながら
「おかぁさーん!お姉ちゃーん!」
必死に叫んでいた。
ジュウは昔、似たような事があったなと思い出していた。
それはジュウが5歳の時、ジュウはこの女の子と同じように紅香と買い物にきた時、
はぐれてしまった。周りには知らない大人達がいっぱいいて、泣いていたら
邪魔物を見るような目でみられた。孤独だった。さみしかった。紅香を必死に探した。
探したが見つからない。世界に一人、取り残された気分だった。自分は捨てられたんじゃないか?
とさえ思っていた。結局紅香が見つからないのでデパートを出た。
入り口の所で紅香が煙草を吸って待っていた。
紅香を見つけた時、安心感でまた泣いてしまった。泣いていたら紅香に殴られた。
「この程度の事で泣くな。もっと強くなれ、自分ひとりでも大丈夫なように」
紅香はスパルタ教育だ。そんな事言われてもまだ5歳だ。泣くなという方が無理だった。
「ったく、嫌な事思い出しちまった」
女の子は相変わらず泣いたままだった。周りに助けてくれそうな大人はいない。
ジュウは迷わずに近づいてきた女の子に目線を同じ高さにしてやさしく声をかけた。
「どうした?」
女の子はやさしいジュウの声を聞き、自分に向けられている物だと自然に理解していった。
不思議と女の子は泣き止んでいた。安心したのか、落ち着きを取り戻していた。冷静になる。
ぽつぽつと女の子はジュウに話を始めていた。
「迷子・・になった。何処へ行けばいいか……わからない」
女の子の口から直接迷子という言葉を聴いて、苦い思いが一つ浮かんでいた。
鏡味桜のことであった。えぐり魔から助けることが出来なかった。救ってやりたかった。
あの時交番に届けてやれば愚か者も思い直してくれたかもしれなかったのだ。
今度はこの子の親が見つかるまでいてあげよう、とジュウは思っていた。
「親、一緒に探すか?」
「いいの?」
「あぁ、一人じゃ心細いだろ」
「ありがとう」
女の子は嬉しそうにジュウに抱きついた。
51名無しさん@ピンキー:2007/03/01(木) 23:41:20 ID:6jRTzXFJ
とりあえずここ迄です。
タイトルはまだ決まってないです。
日本語や設定がおかしい所とかあると思いますが暖かい目で
見てやって下さい!

それではまた。
52名無しさん@ピンキー:2007/03/02(金) 10:34:05 ID:YrKL7l/U
GJ!相も変わらず子供に優しいジュウ様に萌えたw
53名無しさん@ピンキー:2007/03/03(土) 07:58:49 ID:dpsiA7/p
ほしゅ
54名無しさん@ピンキー:2007/03/04(日) 02:51:36 ID:gZUepjWV
>>51
GJ!!
続きを楽しみにしてる。

&保守
55名無しさん@ピンキー:2007/03/04(日) 15:48:02 ID:iRTBxUEV
てか新刊出ないよな
56名無しさん@ピンキー:2007/03/05(月) 21:07:28 ID:u6v9+QxZ
遅くなったがGJ!!
ジュウらしくていいね
57名無しさん@ピンキー:2007/03/06(火) 07:10:19 ID:uBG1Kmb3
hosyu
58名無しさん@ピンキー:2007/03/07(水) 20:56:10 ID:T1AOp1yZ
誰か書こうよ…
59名無しさん@ピンキー:2007/03/08(木) 00:42:37 ID:RtaYYfxB
ればればさばくたに〜
60名無しさん@ピンキー:2007/03/08(木) 01:08:01 ID:u6oIl9/e
新刊でネタが欲しいぞ
61名無しさん@ピンキー:2007/03/09(金) 07:09:55 ID:wRNglc7I
でたのか
62名無しさん@ピンキー:2007/03/09(金) 07:44:39 ID:i0IB2uoJ
新刊情報kwsk
63名無しさん@ピンキー:2007/03/09(金) 09:55:55 ID:/y+vREpD
でも出るのって紅だしなあ。(予定表から消えたらしいがw)
紅も出れば一応買って読むけど、正直電波の方が数段嬉しい。
つうか電波なら手放しで喜ぶ。
流石に予告まで出しといてこれから電波に変更ってことも無いだろうし。


こんなこと書いてるが、ここのSSは紅モノでも嬉しく楽しく拝読させて頂いております。
原作だと鬱陶しいとしか思えないキャラも、ここの神々の作品だと普通に受け入れられる。
何でだろう、自分でも謎なんだ。
文章の相性がより合ってるとか、そう云うことなのかも知れないけど。
64名無しさん@ピンキー:2007/03/10(土) 22:28:15 ID:wTHRNq55
保守
65名無しさん@ピンキー:2007/03/11(日) 02:51:19 ID:d4WrZ2R8
温故知新。昔の情報がスレの活性化になることを期待して
前スレのhtml

うpろだドットネット
2号
upload20000029832.zip
パス=denpa
66名無しさん@ピンキー:2007/03/11(日) 08:41:01 ID:CW9XitQE
>>65
GJ!!
67名無しさん@ピンキー:2007/03/11(日) 09:32:30 ID:d4XfmYeP
>>65
ケータイから見れる?
68名無しさん@ピンキー:2007/03/12(月) 22:53:19 ID:2V+QOQuD
保守
69名無しさん@ピンキー:2007/03/14(水) 10:48:35 ID:GxlpJoXZ
保守
70きんいろ 1/2:2007/03/15(木) 11:07:52 ID:ykeVitX4
 嫌な色をした二つの目がわたしを見つめている。顔は陰になっていて見えないのに、濁った光を放つ双眸と弧を描く真っ赤な口だけが鮮明だ。

 ああ、またあの夢か……。

 「私」は夢の中で嘆息する。

 わたしは腕を掴まれていて逃げることが出来ない。目の前に立つ悪魔のような存在が怖くて泣き出す寸前だけど、こんな変なやつに涙を見られるのが嫌で意地になって暴れ続けた。

 ああ、「私」はこの続きを知っている。

 ―――金色。

 ああ、「私」が鮮明に記憶している最後の情景。

 あっという間に悪魔を追い払った金色はまるで絵本に出てくる王子様のようで、わたしは金色が正義の味方に違いないと思った。

 ああ、長い時が流れた今でもこうして夢に見る、「私」の王子様……

 金色は自分は正義の味方ではないという。外国人でもないらしい。けれど、わたしは金色の髪の毛で誰かを助ける人は絵本でしか見たことがない。日本人の髪の毛は黒で、金色は特別だ。だからこの人は特別な存在に違いない。

 ああ、「私」の特別な人。

 金色の

 あなたの

 名前は――
71きんいろ 2/2:2007/03/15(木) 11:08:39 ID:ykeVitX4
 ぱしぱしと頭を叩かれる感触に意識が急激に覚醒した。

「――――う」

「ようやく起きたか」

 彼の優しい声がかけられる。

「もう時間だぞ。早く支度をしろ」

「……うん。今日は手術の日だっけ」

 手術。医療技術が発達し、視力を与える義眼が開発されたのは記憶に新しい。私はそれの被献体第一号だ。

「やっぱり怖いか?ごめんな、俺は側に付いていてやることしかできない……」

「くすっ。謝らないで。これは私が望んだことだもの」

 そう、私が彼の反対を押し切って決めたこと。彼が気に病む理由はない。

「…そうか。わかった。車の用意をして待ってるからな」

 彼が部屋を出ていく。私はいつものように手探りでクローゼットを開き、服を手に取る。

 早く病院に行こう。目が見えるようになったらやりたいことが二つある。

 彼の絵を描いて、

 彼と桜を見る。

 さあ、行こう。約束を、果たすために。

 怖くなんかない。胸は希望で一杯だ。

 明けない夜は――――――ないのだから。
72名無しさん@ピンキー:2007/03/15(木) 12:15:21 ID:XzCy+eMU
伊南屋氏は何処へ…………
73名無しさん@ピンキー:2007/03/15(木) 12:18:41 ID:sQM/NSXN
>>71
GJ
最初誰の事か分からなかったが3回読み直してようやく分かった。
74名無しさん@ピンキー:2007/03/15(木) 12:22:23 ID:aM9V5kD2
ワンワン
75名無しさん@ピンキー:2007/03/15(木) 16:18:35 ID:XzCy+eMU
>>71遅ればせながらGJ。
えぐり魔にやられた娘とジュウ……かな?
76名無しさん@ピンキー:2007/03/15(木) 19:09:07 ID:z2xCTSVj
堕花姉「光ちゃん、これ、ジュウ様から」
堕花妹「え!? マシマロ? なんで?」
堕花姉「前に貰ったクッキーのお礼だそうよ」
堕花妹「え、あ、うん、その、お姉ちゃん?」
堕花姉「なあに?」
堕花妹「あのね、クッキーっていうのはね、調理実習で作って余」
堕花姉「光ちゃん」
堕花妹「抜け駆けとかそんなんじゃなく」
堕花姉「光ちゃん」
堕花妹「お姉ちゃんの気持ちも知ってるけどやっぱり私はあいつのことが好」
堕花姉「光ちゃん





           絶対、許してあげないから」
77名無しさん@ピンキー:2007/03/15(木) 19:55:40 ID:OpldfGy9
>>76
ッキャーw
78名無しさん@ピンキー:2007/03/15(木) 21:56:16 ID:cXhieHsC
>>70氏GJッス!
桜の初恋はジュウ様なんだろうなー。と思いながらほのぼのしましたw

>>76 つーか何気に光が好きって言ってるw
79名無しさん@ピンキー:2007/03/15(木) 23:41:12 ID:9F2GbRhF
>>72
別スレで絵師やってたぞ
80名無しさん@ピンキー:2007/03/16(金) 00:59:23 ID:Uj/qT5te
>>79あの人は文も書けて絵も書けるのかよ……本当にすげーな
てかどこのスレ?
81名無しさん@ピンキー:2007/03/16(金) 01:02:39 ID:IKyPajFL
>>別スレで絵師やってたぞ

詳細を!
82名無しさん@ピンキー:2007/03/16(金) 01:46:54 ID:k6r9ujfk
ヒント痴漢
83名無しさん@ピンキー:2007/03/16(金) 07:37:31 ID:lQ4xuOyI
紅3が5月になってるな。
電波の方は予定にも出ないが・・・
84名無しさん@ピンキー:2007/03/16(金) 07:42:23 ID:dCleJAyx
同時進行なんて事になったら片山先生が死んじゃうだろーが。
85名無しさん@ピンキー:2007/03/16(金) 09:18:14 ID:Uj/qT5te
>>82伊南屋氏いたーーーー!!
86名無しさん@ピンキー:2007/03/16(金) 22:15:23 ID:qx+STCiH
ちなみに、ヤンデレスレにもいたりするぜ
87名無しさん@ピンキー:2007/03/17(土) 08:11:19 ID:aCN9uk72
ほしゅ
88名無しさん@ピンキー:2007/03/17(土) 23:19:17 ID:nCi+hd5Y
>>76
雨、ねーちん化 キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!?
89名無しさん@ピンキー:2007/03/18(日) 10:28:54 ID:D22ZgGF0
ねーちんって誰ですか
90名無しさん@ピンキー:2007/03/19(月) 16:32:20 ID:koNaSKEG
ほしゅ
91名無しさん@ピンキー:2007/03/20(火) 13:01:36 ID:jtn8112I
ほしゅ
92『常識を破るモノ』 - 雨に対する考察:2007/03/20(火) 19:47:13 ID:lYbDnkG9
>>38の続きです、暇つぶしにどうぞ。

 それから一週間ほどが過ぎた。
 その間、ジュウは雨と共に現場付近の探索に出かけたが、得られる情報は殆どなかった。
 雨に言わせればよほど綿密に計画を立て、こういったことに慣れている人物、ということらしいが。
 確かにジュウが考えてみても、情報が少なかったことからそれは頷けてしまう。
 えぐり魔も同様に情報は殆ど得ることができなかったが、それは犯行者と被害者の両親と繋がりがあったからだ。
 その事件と決定的に違うは、この犯行は完璧な『犯罪』ということにある。
 どのような犯罪でも、必ずどこからかほつれが出てくるものだが、今回の場合は圧倒的にそれがないのだ。

 時間が経てば経つほど、ジュウの心には漠然とした不安が色濃く彩られていく。
 雪姫を襲った犯人、おそらくは『常識破り』であろう人物はわざわざ犯行予告までしてきている。
 今回雪姫を襲ったのも、その意の固さを見せしめとして示したのだろう。
 ならば、確実に仕掛けて来ると考えても違いはない、とジュウは考えていた。

「……今日も手がかりはなし、か。クソッ!」
「ジュウ様…、焦らないで下さい。
 最悪の場合、標的となり得る様な人物を見張り、襲ってきたところを捕らえればいいのですから」
 すっかり夕暮れが早くなった12月。通学路を並んで歩くジュウと雨。
 『常識破り』の事件に加え、巷を賑やかす凶悪事件が日常茶飯事となった最近では、
 薄暗がりのこの通学路もその犯罪の狩場のひとつとなってしまっている。
 電柱に備え付けられている電灯もちかちかと点滅しかけているのもあり、
 『普通』の女子学生であれば、この通りを歩くのも厭いそうなぐらいに、気味が悪かった。
 実際、痴漢がよく出没らしく、被害に遭っている女生徒もなかにはいるとか。

 ジュウは収穫のなさに苛立ちを感じていたが、ちらりと横に並んで歩く雨に視線を落としてため息をつく。
(そういえば、こいつ、『普通』じゃねえよな…)

 堕花 雨。
 出会ったのは、夏休みに入る少し前のこと。
 いきなり、何の脈絡もなく体育館裏に呼び出され、下僕宣言をされてしまう。
 はっきり言ってしまえば、第一印象は最悪。初めて母親の紅香以上に『敵わない』と判断せざるを得ない人物だった。
 それから、彼女から逃げ惑う日々が続き、終いには先輩の不良を使って雨に襲わせるなどと言った愚考もした。
 だが、結局のところ彼女が自分の傍にいることを許してしまい、現在に至る。

 今までに、色んな事件に首を突っ込んで、その度に雨に救われた。
 むろん、彼女が話すような前世などと言った話は未だ信じていないが、それでもなぜだろうか。
 彼女と共にいる時間が独りでいた時間よりも心地よく思えるのは。

「……雨、お前も気をつけろ。お前だってヤツの標的になってるかもしれないんだ」
「ジュウ様…」
 その言葉が意外だったのか雨は立ち止まりぼぉっとジュウのことを見つめる。心なしか顔が赤い。
 しかし、すぐに表情を引き締めると自信に満ちた表情で控えめに頷いた。
「ご安心を。ジュウ様の目の前から勝手に消えるようなことは致しませんから」
「そうか…、それならいいんだ」
 普段であれば、その言葉に納得できただろう。堕花雨という少女はそういう人間だからだ。
 けれどこのときばかりは、ジュウは不安を覚えた。雪姫でさえ『そいつ』には敗北してしまったのだ。

 ―――堕花雨が自分の目の前から姿を消す。

 それを考えると寒気が走った。
 雨たちが自分の傍から離れることは何度も想像していたことだ。
 つまらない自分にいつまでも付きまとわないだろう。いつかはまた自分は独りに戻るのだ。
 年少の頃から親しい友人という友人がいなかったジュウにとってはそれが当然の結果だと信じ込んでいた。
 しかし、それでも雨と共にいる時間が奪われると考えると、なぜか切なさがこみ上げてくる。

 自分はいつの間に、これだけ軟弱になってしまったのだろうか?
93『常識を破るモノ』 - 雨に対する考察:2007/03/20(火) 19:50:20 ID:lYbDnkG9
 そして、何の手がかりを得ることも出来ないまま、宣告された聖夜まで残りわずかとなった。
 二学期の終業式も終えて、ジュウは一人デパートの中をうろついていた。
 『常識破り』のことで忘れかけていたが、クリスマスイブには雨にクリスマスプレゼントを渡すことになっている。
 本来ならクリスマスに渡すつもりだったのだが、やはりわざわざ家族水入らずのパーティーを邪魔するのも
 何だか気が引けると思ったジュウは、その理由を告げず24日にプレゼントを渡すと約束した。
 理由を告げなかったのは、雨が遠慮すると思ったからだ。
 家族の温かい愛情というものとは縁遠いジュウではあったが、それぐらいの気配りぐらいはしてもいいだろう。

「にしてもあいつが喜びそうなもの……な」
 雨の趣味はどこか普通の女子高生とはズレている。
 普通の女子高生であれば、アクセサリーやぬいぐるみと言ったものをプレゼントすれば喜びそうなものであるが、
 果たして雨にその類のものを渡して彼女は喜ぶだろうか?
 いや、ジュウのプレゼントということになれば彼女が喜ぶとは思うが、やはり『ジュウのプレゼント』としてでなく
 心の底から彼女を喜ばせるようなプレゼントを贈りたい。
 しかし、そうは思っていてもやはり順当に思い浮かぶのがアクセサリーの類だった。

 自分の想像力はなんて貧困なんだ。
 ジュウは自分に毒づきながらも、アクセサリーが並べられているショーケースを眺めていた。

「柔沢、こんなところで何してるの」
「…村上……先生?」
 ふと声をかけられ、振り返ってみると無表情に視線をジュウに向けるスーツ姿の村上銀子の姿があった。
「アンタこそ、こんなところで何してるんだよ」
「…デートよ」
「え?」
 ぶっきら棒に言う銀子の頬は僅かに赤くなっていた。ジュウにはそれが意外でならなかった。

 村上銀子については色んな噂を耳にしている。
 あまりの鉄面皮に近づく男はおらず婚期を逃しているのではないか、とか、
 むしろ近づく男は辛辣に口撃して追い払っているのではないか、など、そんな色気の無い噂が飛び交っている。
 それよりも何よりも、彼女が一瞬ひとりの少女らしい少女に見えたのだ。恋に生きる少女、とは
 雨の口からマンガやゲームなどのストーリーからそういう類のキャラクターがいることは聞いているが、実際目の前に現れるとは思いもしなかった。

 ジュウの視線を感じたのか、不機嫌そうに彼を見返した。
「……何? 私がデートしてたら不思議?」
「いや、そんなことはねえけどよ…」
 ジッと睨まれて、言いよどむジュウ。そんな彼を気にした風でもなく、ぷいっと顔を逸らしながら彼女は呟く。
「デート…と言っても、スリーマンセル…いえ、この場合はフォーマンセル、と言うのかしら。
 ……ったく、あいつったら『二人で』って言ったのに」
 既に銀子の意識はジュウになく、他の誰かに飛んでいるようだ。
 ぶつぶつと文句を呟く様子は学校では見られない彼女の姿だった。
 ようやく我に返ったのか、更に無表情になるとジュウを再び睨みつけた。

「私のことはどうでもいいの。貴方は何をしていたのよ」
「……あ、いや……、プレゼントを買いに…」
 何故か、ジュウは素直に白状してしまった。口を滑らせてしまったと言った方が適切か。
 兎も角、鋭い銀子の眼光に敵うことはできず、しどろもどろながら口にした。
 そこからある程度の事情を悟ったのか、ふっと小さく冷笑を浮かべると腕を組んで彼を見る。
「人間、素直が一番よ。自分の思いを伝えられるときに伝えられる……、その逆になるよりはよっぽどマシよ」
「……?」
 何のことを言っているのだろうか?
 ジュウは不思議に思いながらも、自然と納得してしまう。

「青春なんてもの、あっという間に過ぎてしまうんだから、後悔しないようにしなさい」

 銀子はそれだけを伝えるとその場を離れた。
 気のせいか、彼女の後姿は上機嫌そうに見えた。
94名無しさん@ピンキー:2007/03/20(火) 19:51:59 ID:lYbDnkG9
短いですが、今回は以上です。
だんだんペースが遅くなってますが、生暖かく見守ってやっておいてください。
95名無しさん@ピンキー:2007/03/20(火) 19:55:11 ID:5u/Dt5sr
>>94
GJ
96名無しさん@ピンキー:2007/03/20(火) 22:26:55 ID:ZfIjbF7N
アア(*´Д`)ーン
97名無しさん@ピンキー:2007/03/21(水) 12:03:36 ID:klm6q5nJ
>>94
G☆J
98名無しさん@ピンキー:2007/03/23(金) 08:18:45 ID:uPMiF71F
ちょいいいか?
今俺は先天的女体化ジュウ様SSを書いているんですが……
ジュウ様の一人称とか名前とかどう変更すべきか迷ってるんですが、皆の意見聞きたいな。と
できれば雪姫とかのも考えて欲しいとこッス
99名無しさん@ピンキー:2007/03/23(金) 08:22:55 ID:uPMiF71F
ゴメン
つーかその前に先天的な女体化ってアリなのか聞く事を忘れていたよ
イメージ的には紅香以外のキャラが全員性転換してあるんだが……
100名無しさん@ピンキー:2007/03/23(金) 12:35:45 ID:aVKt+pLW
断然ありかと
一人称はオレっ娘で
101名無しさん@ピンキー:2007/03/23(金) 21:12:58 ID:u3etC7US
断然ありです、全然OKです、よろしくお願いします。
女ジュウ様の一人称はオレっ娘だよねぇ、やはり。
それ以外だとジュウ様の受け属性がパワーアップし過ぎそうw
人物の名前は変えなくていいんじゃないかなぁと・・・ややこしいしw
雪姫は女の子な名前だけど、私的にはそのままで問題無しです。

期待してます、楽しみに待ってます!
102名無しさん@ピンキー:2007/03/23(金) 21:58:24 ID:vbd0uNX3
自分的には私でも俺でもいいんですがね
坂上智代みたいなキャラでw
名前の方はややこしいから別にそのままでいいかと……
10398:2007/03/23(金) 23:44:53 ID:uPMiF71F
皆さんご意見ありがとうございます
とりあえずジュウ様はオレっ娘でいって名前変更はなし
後は作者の趣味で書いていきたいと思います
104名無しさん@ピンキー:2007/03/24(土) 12:20:26 ID:7UmB/zAg
むだかなーっと思いつつo2onで前スレ検索させといたら引っかかったw
持ってた人ありがd
105名無しさん@ピンキー:2007/03/26(月) 08:06:37 ID:x0B9lIHd
ほしゅ
106伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/03/28(水) 01:32:04 ID:4a+fCcFv
『レディオ・ヘッド リンカーネイション』

 真九郎の体を、熱が駆けていた。
 右腕を中心に、血が沸騰しているかの様な錯覚に見舞われる。
 熱は高揚を呼び、高揚は破壊衝動を齎す。
 近く、耳元か。否、そうではない。脳内、思考の中で自分自身の声が響く。
 壊せ、壊せ、壊せ。
 荒れ狂う躯は暴力を求め、破壊を欲する。
 その声を振り払い、猛る体をなんとか制する。
 そうして意識を集中する。体内で渦巻く衝動を、一つのベクトルに収束する。
 ――眼前の敵を討つ。その一つに。
「おぉぉっ!」
 気迫。同時、真九郎の右肘、そこの皮膚を突き破り現れる物があった。
 鮮血を滴らせ、水晶の如き輝きを放つそれは――
 崩月の、異能の印。
 異形の、戦鬼の証。
 真九郎に力を与える“角”だ。
 角から流れ込む活力を確かめ、真九郎は視線を上げる。強い瞳で目の前の敵を――《ビッグフット》と、その背後。九鳳院竜士を睨み付ける。
 そして、背に庇う紫の存在を想う。
 終わらせよう。紫を呪縛から解き放つのだ。
 ――敵は二匹、守るは一人。果たす力は我にあり。
 真九郎は、一歩を踏み出す。
 最早、真九郎は自らが負ける理由など、皆目見当も付かなかった。

 * * *

 《ビッグフット》の咆吼が、屋敷全体を震わせる。獣の雄叫びが、巨漢の腹底から響く。
「ゴ、ゴロズ! オマエ、ゴロス!」
 不愉快に濁った《ビッグフット》の声を聞きながら、真九郎はただ醒めた瞳で敵を見据えていた。
 本当は《ビッグフット》だって分かっているのだろう。
 今眼前に対峙する者が、自分とは異質な者だと。
 崩月の戦鬼と言う異端を、獣の本能で捉えているはずだ。
 それでも退かないのは《ビッグフット》が結局は人間だから。
 ――意志というものを持っているからだろう。
 獣ならば、本能に従い一も二もなく逃げ出す“個体としてのスペックの差”を、意志一つで埋めようとする。
 意志。或いは――意地。
 それは人間が持つ、仕様もない欠点であり、しかし何より恐ろしい特性だった。
 モチベーション一つで、事態はどうとでも転がる。
 普段の、あらゆるものを恐れ、脚を竦ませる自分が分かり易い例ではないか。
 だから真九郎は、意志一つで此処に立つ《ビッグフット》を、決して侮りはしない。
 全力で倒すべき好敵手と、真っ向から相対する。
107伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/03/28(水) 01:33:55 ID:4a+fCcFv
 勝利とは、常にそれを望んだ者に与えられる。故に、自ら勝利を貪欲に求める。
 襲い来るは意志の力。迎え討つも意志の力。
 意志と意志は視線を伝い、絡まり、ぶつかり、火花散らす。
 周囲を、闘争の雰囲気が包み、高まる。
 それが臨界に達した時。
 動いたのは《ビッグフット》だった。
「ゴアアァァァアアア!!」
 丸太のような腕を振りかぶり、突進する。
 大気を乱す程の勢いで頭上から振り降ろされる拳槌を、真九郎はバックステップで躱す。
 真九郎が立っていた床が、小爆発でも起こしたのかの様に床板を捲り上がらせた。
 戦鬼の力を解放した今でも、直撃を貰えばただでは済まないだろう一撃。
 人間離れ――否、生物離れした破壊力 。
 それが、《ビッグフット》の鈍重そうな外見とは裏腹に、高速で飛んできた事に真九郎は戦慄を覚える。
 刹那にぶり返しそうな脚の震えを、体内から溢れる熱で塗り潰し、真九郎は《ビッグフット》を見る。
 ――確かに速い。しかし、躱せないわけではない。
 現に、先の一撃は見切る事が出来た。
 それもひとえに、《ビッグフット》の動きが直線だったからだ。
 どれだけ速くとも、直線の動きは見切りやすい。
 直線ならば、究極的には弾丸だって見切る事は可能だ。
 ――もっとも、この場合は弾丸と言うよりは砲弾だが。
 粉塵を巻き上げ、“爆心地”に立つ《ビッグフット》は、鋭い眼光を真九郎に向け輝かせる。
 噴煙の向こうに、闇夜に浮かぶ獣の瞳のように、《ビッグフット》の眼があった。
 再び視線が絡む事数瞬。再び《ビッグフット》が仕掛ける。
「ゴァァアア!!」
 咆吼。跳躍。振り上げるは、組んだ双掌。
 放物線を描き、それはやって来る。
 弧の頂点を超え、重力に引かれ堕ちる《ビッグフット》の巨体。
 その落下エネルギーも威力に変換し、破砕ハンマーの如き一撃が、再び屋敷の床を抉る。
 これを、横っ飛びに躱した真九郎は反撃に移る。
 着地から刹那も置かず、真九郎は再度身を弾ませた。
 運ぶ脚は《ビッグフット》へ。繰り出す一撃は拳。
 《ビッグフット》のそれがハンマーや砲弾であるなら、真九郎のそれは紛うかたなき弾丸。
 撃ち、貫く。《ビッグフット》の大手から比べれば赤子のような拳は、それだけに威力が集極化する。
 さしずめライフル弾のような拳撃を、《ビッグフット》の腹に打ち込む。
「ガッグォォウ!!」
108伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/03/28(水) 01:38:51 ID:4a+fCcFv
 苦悶の叫び。しかし、致命打ではない。
 常人なら臓腑をぶちまけたくなるような衝撃を、しかし《ビッグフット》の筋肉の装甲は耐えて見せた。
 打ち込んだ真九郎を、巨漢はまるで纏わりつく付く羽虫のように腕で打ち払う。
 真九郎がとっさに身を庇い、盾にした腕が痺れる。身体自体は横殴りの衝突に、宙を舞った。
「っくぅ……」
 こちらも致命傷とはならずとも、躯を走り抜けた衝撃は確かにダメージとなり真九郎に呻きを漏らさせた。
 接地と同時に身を回し、真九郎は受け身を取る。
 直ぐに身を起こした真九郎は、追撃に迫っていた《ビッグフット》の拳をいなした。
 拳をいなしたまま、流れる動きで懐に潜る。
 開いた胴目掛け、再度固めた拳を叩き込む。真九郎が放った全力の一撃。
 《ビッグフット》の巨体が、衝撃に浮き上がる。
「ゴガッ……!」
 搾り出すような呻きが、《ビッグフット》の口腔から漏れる。
 ――まだだ。
 真九郎は、これで倒れる相手ではないと考える。
 刹那。浮いた《ビッグフット》に追撃する。
 鞭のようにしならせた脚による回し蹴り。
 ただし、鞭は鞭でもこの蹴りは鉄鞭の威力だ。
 宙にあった《ビッグフット》の巨体を、水平近い放物線を描く程の勢いで蹴り飛ばす。
 鞠のように跳ねながら、《ビッグフット》の巨体が床を転がる。
「グッ……オァァア」
 ようやく止まった《ビッグフット》が、苦悶の呻き声を漏らす。
 流石に、受けたダメージは先の比ではない。倒しきれるとは言えないものの、それでも動きに支障が出る程度には痛めつけたつもりだ。
 今のたった二発には、それに足るだけの威力を込めた。
 ――なのに。
「なんでお前は、立ち上がる……」
 ゆらりと、大男の巨体が、再び聳える。
 口の端からは血を垂らし、口から漏れる息は苦しそうに荒くしながらも。
 ――その目は未だ獰猛な輝きを持って、真九郎を睨み付けていた。
「あ……」
 不味い。そう思った時には、既に遅かった。
 角から流れ込む熱に塗り潰されていた恐怖が、真九郎を再び包んだ。
 体が、にわかに震え出す。
 負けるはずは無いのに。勝つはずなのに。
 しかし、それでも真九郎は《ビッグフット》の気迫に呑まれてしまった。
「くっ……ぅ」
 ――止まれ、止まれ、止まれ、止まれ。
 体の芯がぐらつくような震えを抑えようと、全身に力を込める。
 だが、意識すればする程に恐れは膨らんでいく。
109伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/03/28(水) 01:44:02 ID:4a+fCcFv
 なんて弱い心だ。勝つんじゃ、なかったのか。
 今や、角から流れ込む暴力的な衝動ですらも恐怖に潰されている。
 なんて――情けない。
「ゴォォオオオ!」
 《ビッグフット》が、その巨体を跳躍させる。砲弾のような拳が真九郎に迫る。
 それを見ていながら、見切っていながら。真九郎は動けなかった。恐れに竦んだ体はろくな反応も出来ずに衝撃を叩き付けられる。
「ぐあっ!」
 辺りの物を巻き込みながら、真九郎の体躯が宙を舞う。
 それは、先の《ビッグフット》のリピートだった。
「ガァッ!」
 追撃。圧倒的な質量を持つ拳が、真九郎に振り落とされる。その一撃は床板を真九郎の体諸とも破壊した。
 ――くそっ……。
 心中で真九郎は悪態を吐く。
 頑丈な体が恨めしい。神経は尋常でない苦痛を脳に伝える。普通ならば肉塊となってしまう程の攻撃を受けた体はそれでも壊れはせず、麻痺すらもしていない。
 ただ、はっきりと激痛だけを律儀に伝えてくる。
 いっそ壊れてしまえば安らかになる。
 いっそ壊れてしまえば恐怖も消える。
 だったら――抵抗なんか無意味じゃないか。
 解放されよう。
 真九郎は、瞼を閉じる。

 ――もう、いいや。

 頭上では、《ビッグフット》の巨体が、月灯りを遮っていた。
 全てを諦めた真九郎に、ゆっくりと“決着”が訪れる。

 ――終わりだ。
 
 否、それは一つの声に妨げられる。
 幼い少女の声が真九郎の鼓膜を叩く。在らん限りの叫び声は、一つの名前を呼んだ。

「――真九郎!!」

 * * *

 少女は信頼している。
 自らを浚ってくれた少年を。未だ知らぬ景色を教えてくれた少年を。
 少女は信奉している。
 自らを守ってくれた少年を。身に代えて守る約束を交わした少年を。
 だから――。
 少女は疑わない。
 少年が負ける姿など想像しない。
 少年の勝利の姿しか幻視しない。
 そうして叫ぶ。
 少年の、名前を。
 この世界で、一番大切な響きを持つそれを。
 信じる侭に、想うが故に。

 ――ほら、大丈夫。負けはしない。

 だって少年/英雄は立ち上がったから。

 ――少女の信じる姿、そのままに。

 * * *

 ――ああ、俺は馬鹿だ。
 何を諦めてるんだ。苦しみから解放される?
 そんな事、出来るはず無いのに。死は解放ではなく逃避だ。
110伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/03/28(水) 01:48:50 ID:4a+fCcFv
 本当にどうしようもないな、俺って奴は。だからいつまで経っても弱いままなんだ。
 負けないんだろう?
 ――そうだ。負ける理由がない。
 負けてやる理由もないのに諦めるなんて、とんだ怠慢だ。
 そんな事、あの紫が許すはず無い。
 いつだって精一杯で、なのにそれを顔に出さずにいつも頑張っている紫が許すわけなんか無い。
 ――じゃあ、俺も頑張らなきゃな。
 サボってると怒られるし、最悪紫を泣かせかねない。
 それだけは駄目だ。譲れない。
 体は――動く。
 力も十分行き渡る。
 立ち上がる――簡単だ。構えを取り迫る拳に備える。

 咆吼。耳障りだ。鬱陶しい。
 拳撃。遅すぎる。鬱陶しい。
 躱す。舞う粉塵。鬱陶しい。
 驚愕。睨む巨漢。鬱陶しい。

「――本当、鬱陶しいな……」

 打撃は効き辛い。ならば、打撃は止めよう。
 爆ぜるように身を跳ばす。拳を引き防御の構えを取ろうとする《ビッグフット》へと駆ける。
 遅い。防御は間に合わない。土台無理だ。
 真九郎は、《ビッグフット》の懐へ潜り込む。右腕に意識を集中する。
 胴はがら空きだ。しかし、筋肉の鎧は変わらずにある。
 ――関係ない。
 刹那。真九郎は渾身の一撃を、《ビッグフット》に突き刺した。

 ――突き刺す。そう、文字通り突き刺した。
「グゴッ!」
 《ビッグフット》が悲鳴を上げる。それまでとは違う、切迫した苦鳴。
 《ビッグフット》の体が崩折れる。それに合わせ、“ずるり”と、真九郎の肘。そこから伸びた“角”が抜ける。
 真九郎が撃ち込んだのは肘。そして、崩月の角。
 十分な強度を持った角は、《ビッグフット》の防壁を穿っていた。
 皮を、肉を、筋を。全てを貫き《ビッグフット》の体内まで刺し貫く。
 蹲る《ビッグフット》の腹からは血液が流れ、血溜まりを作る。
「グォオオ……ッ」
 致命傷。最早どうしようもない。意志だって挫けているだろう。
 その証に、《ビッグフット》の瞳から輝きは消え、苦痛に頼りなく揺らいでいる。
 それすらも僅かの間。やがて《ビッグフット》は意識を途絶させたのか、その巨体を横たえた。
 真九郎は確信する。自らの勝利を。
 《ビッグフット》はもう動かない。それを確認して、振り返る。
 安心だと、もう大丈夫だと言ってやるために。出来る限りの笑顔を浮かべ。
 なのに――。
「紫……?」 そこに、少年の名を呼んでくれた少女の姿は、なかった。

 続
111伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/03/28(水) 01:56:42 ID:4a+fCcFv
 毎度、伊南屋に御座います。

 ちょっとあり得ねーくらいに久し振りです。
 一応ROMってはおりまして。たまに自分の話題が出ると有り難いやら申し訳ないやら。
 そんなもんで流石にそろそろ書かないかんなと。投げたわけではないとアピールせにゃいかんと、そう思いまして。若干半端ながらも今回の投下と相成りました。
 レディオ・ヘッドもそろそろクライマックスです。ぶっちゃけみんな内容忘れてんじゃねえかって感じですが今しばらくのお付き合いを。

 最後に、他スレでも見ていて下さっていた皆さんに感謝を。
 それではいずれまた、必ず。
 以上、伊南屋でした。
112名無しさん@ピンキー:2007/03/28(水) 03:07:27 ID:+E2Z04/4
GJッス!
真九朗の熱さに燃えつつ、多分連れ拐われたであろう紫が心配です……
113名無しさん@ピンキー:2007/03/28(水) 06:48:34 ID:pMeNwfeA
熱い(*´Д`)!!
114名無しさん@ピンキー:2007/03/28(水) 08:24:13 ID:AHgzeQ8/
神が降臨しなすった!!
G J で す ! !
115名無しさん@ピンキー:2007/03/28(水) 21:05:15 ID:ruieoWEu
待ってました、伊南屋さん!!
神的ハイクオリティなGJっぷりに感動です!!
11698:2007/03/29(木) 23:21:44 ID:aSVkmxBM
筆が進むのが自分が思ってたよりも遅いので、最初の方だけ載せたいと思います。
設定として、雪姫とジュウ様は既に付き合っている事になってます
ちなみに作者、マトモなSS投稿はこれが初めてなので
ツッコミ所を見つけても生暖かい目で見てくれれば幸いッス……
117先天的女体化ジュウ様:2007/03/29(木) 23:22:43 ID:aSVkmxBM

 雪姫と付き合う様になって、2ヶ月が過ぎようとしていた。
 今日は土曜日で学校が休みなので、ジュウは雪姫の家に遊びに来ていた。
 とは言っても、雪姫の家に泊まっていく。という選択肢は殆どなかった。
 雪姫の家にも親が居ない為に、気にしなくてもいいよ? とは雪姫に言われたが、彼氏の家に入り浸るというのは、あのろくでなしの母親の様になるみたいで癪だ。という理由で、ジュウが雪姫の家に泊まるという事は殆どなかった。
 その代わり、というのだろうか。雪姫の家に朝から遊びに行く事が多く、一緒に昼飯を食べ、午後は散歩か部屋の中で一緒に過ごす。というのが、二人の休日の過ごし方になっていた。
 本日は休日で、時刻は12時前。まだまだ成長期らしい彼氏を満腹にするべく、雪姫の家で昼飯を作っているのだが―――

118先天的女体化ジュウ様:2007/03/29(木) 23:23:25 ID:aSVkmxBM
「ねぇねぇ、まだできないのー?」
「………」
「お腹すいたよーぐぅぐぅだよーペコペコだよー」
「………」
「どの位ペコペコかと言うと、食前なのにジュウちゃんというメインディッシュを――」
「黙って待っていろ。もう少しで出来上がるから」
「ハーイ」
 両手をワキワキとさせながら満面の笑顔で近付いて来た雪姫を、険の篭った声と睨みで制する。だが実際には、これ位の事で雪姫が怯む訳が無い。その証拠に、雪姫に堪えた様子はなく。むしろ嬉々とした表情で、自分の椅子に向かっていく。
 コイツの場合はただ単に、食事が出来上がるのを待っている間、私が料理に集中するせいで自分に構ってくれなくて退屈なだけなのだ。
 それでも食欲は雪姫にとって大切な物であるらしく、たまに自分に構ってくれれば満足――とまではいかないが、我慢位ならばできるらしい。
 だが以前、こちらが料理中なのにも関わらず余りに煩く構うものだから、無視を決め込んだ事があった。
 その時の報復は酷いもので、オレは口に出すのすら恥ずかしい様な辱めを受け、しかもその時は料理中だったのも併さって辺りが酷い有り様になったものだ。
119先天的女体化ジュウ様:2007/03/29(木) 23:24:26 ID:aSVkmxBM
 だからオレはその時の教訓を胸に、調理中だろうと雪姫との会話だけは最低限交そうと心に決めてあった。
 先程もそうだ。あのまま構ってやらなかったら何をされていたか分かったものではない。いや、大体されそうな事は想像がつくのではあるのだが。
 そう考えて、その事自体はそれほど不快に思っていない自分に気がついた。口ではあれこれ言いながらも結局の所、自分はやはり雪姫の事が好きなのだ。
 だからこそ、自分の手料理をおいしく食べて欲しい為に、料理を作る時は黙って集中していたいのだが。
 全く、オレも丸くなったものだ。昔の自分がこの状況を見たら何と思うだろうかな、とジュウが自嘲を含んだ笑みを浮かべながら思った時、背中に視線を感じた。
 料理の火加減を確かめてから振り向いてみると、オレをこんな風に変えた原因の張本人がニコニコと笑いながらこちらを見ていた。
120先天的女体化ジュウ様:2007/03/29(木) 23:25:19 ID:aSVkmxBM
「何を笑っている」
「んー? 僕はただ、台所に立って料理してくれているジュウちゃんも甲斐甲斐しくて可愛いなー、って思ってるだけだよ? これに着ている物が裸エプロンなら――」
「出来上がったぞ。ホラ」
 話が雪姫のペースの軌道に乗りそうだった所を、ぶっきらぼうぼうに言い放ちながらドン、と料理を目の前に置く事によって言葉を切らせる。
 言葉を遮られた事を気にした様子もなく、雪姫は目の前に置かれた料理を嬉しそうに見る。
「いただきまーす」
 そう高らかに宣言すると、やはり嬉しそうに笑いながら、雪姫は食べ物を勢いよく口に運んでいく。
「あまり急ぎすぎるなよ。作った側としては、もうちょっとゆっくり食べて欲しいんだけどな」
「んぅ〜? だっふぇ」
「口に物を入れて喋るな」
 口一杯に頬張りながら喋る雪姫に注意を促す。
 まるで子供そのものみたいなその行動は、雪姫の中性的な顔も相まって実年齢よりも幼く見える。
「……んぐ……んぐ……ごきゅん……だって僕お腹ペコペコだったし。それにジュウが作ってくれた料理ってとっても美味しいからさ、料理が暖かい内に食べちゃいたいんだよ」
121先天的女体化ジュウ様:2007/03/29(木) 23:26:07 ID:aSVkmxBM
 好きな奴から純粋な笑みで、料理が美味しいと言われて嬉しくない筈がなく。オレは少し顔が赤くなったのを誤魔化す様に、料理を口に運ぶ振りをしながら顔をうつむかせ、口を開いた。
「ん……そうか」
「そうだよ」
 オレの小さく呟いた言葉にもにこやかに笑いながら返事を返し、雪姫はまた自分の皿に手を出していく。
 口に持っていく速さは先程と変わらなかったが、それでも口の中で噛む回数は先程より少し増えたかな、と思う。
 なんにしろ、自分が作った料理をこんなにも美味しそうに食べてくれるのなら、こちらも作り甲斐があるというものだ。
 雪姫の幸せそうに食べる姿を見て、柔沢ジュウはそう思った。


    ※
122先天的女体化ジュウ様:2007/03/29(木) 23:27:40 ID:aSVkmxBM
とりあえずここまでッス……
この後もうちょっとほのぼのして、それからえちにいきたいと思ってます

ジュウ様の一人称は男の時と見分けがつく様に、俺ではなくオレにしました。
雪姫の一人称は普段は僕で、あの状態になると(今のとこ出ていませんが)俺になる予定です
本編では雪姫がジュウ様を呼ぶ時は名字で呼びますが、付き合ってるのにそれはちょっとよそよそしいので、基本的に名前を呼び捨て、からかう時は名前にちゃんをつける。という設定です
また何か意見や要望があれば、できるだけ取り入れていきたいと思いますので、感想と一緒に言ってくれれば作者の燃料になります……
123名無しさん@ピンキー:2007/03/29(木) 23:29:05 ID:e+Apiw/7
>>122
GJ!!!!!
124名無しさん@ピンキー:2007/03/30(金) 00:34:13 ID:c9PRt9Km
>>122
G☆Jッス!!!

要望があるとすれば、男雪姫と女ジュウ様がイメージしにくいから、
この物語での外見・身体的特徴なんかが表れる描写があれば、
読み手としては物語に更に深く入り込めて良いかなぁと私的には思います。

続きwktk
125名無しさん@ピンキー:2007/03/30(金) 21:41:17 ID:0Ag3GPaK
さて、そろそろ保管庫をなんとかするべきだと思うんだが。
126名無しさん@ピンキー:2007/03/31(土) 22:22:42 ID:KfA/qzX2
ほしゅ
127名無しさん@ピンキー:2007/04/02(月) 19:41:24 ID:rdeGXvjZ
ほ~しゅ
128名無しさん@ピンキー:2007/04/04(水) 07:50:23 ID:Udtue2Ue
hosyu
129名無しさん@ピンキー:2007/04/04(水) 09:28:13 ID:11HOvu09
あぁ、自分勝手なイメージが・・・
伊南屋さん先天的さん、ゴメン。
暫く貼らせて下さい。

http://imepita.jp/20070404/328720

http://imepita.jp/20070404/328260
130名無しさん@ピンキー:2007/04/04(水) 09:30:38 ID:q86/qTg9
( ゚д゚)

(.゚д゚.)
131伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/04/04(水) 11:40:51 ID:mskDf+54
今まで他人のSS読んで絵を描くことはあったけど描いて貰ったのは初めてだ。なる程、嬉しいですね。
ましてレベルが高いならなおのこと。
本当になんとお礼を言えば良いやら……。
兎に角GJです!
13298:2007/04/04(水) 13:06:47 ID:c1Gv0uWs
え?え?ちょw 雪姫がイメージ通りなんですがwww
鋼錬のエドみたく、真ん中分けで後ろを縛ってるのをイメージしてたんですが……
イヤ、もうホントにGJッス!
ああヤバい震えが止まらねぇ
133名無しさん@ピンキー:2007/04/04(水) 14:14:31 ID:EkLXedXX
消えてる? それともPCからじゃ見れない?
134名無しさん@ピンキー:2007/04/04(水) 15:12:41 ID:11HOvu09
>>131-132
ありがたや。
こっちは大丈夫だろうか・・
http://p.pita.st/?fiefhdsx

http://p.pita.st/?wplktuv5
135名無しさん@ピンキー:2007/04/05(木) 11:53:41 ID:qJpp1fcW
>>134
見れましたよ。
いやぁホント素晴らしいです。
GJ!!!
136名無しさん@ピンキー:2007/04/05(木) 16:48:23 ID:L8YDSMDu
>>134
鋼な弟がいそうだW
GJ!!
137名無しさん@ピンキー:2007/04/05(木) 18:12:05 ID:Iix4a8Is
>>134新たな神が降臨しなすった!!GJ!!!!!
138伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/04/05(木) 21:22:14 ID:ub8cGAd/
なんか人が描いた後にアレなんですが……
女体化ジュウ様
http://imepita.jp/20070405/767600
139名無しさん@ピンキー:2007/04/05(木) 22:27:31 ID:OZygWS5N
>>138
両刀使いだったとは、オジサン一本取られたよ。
140名無しさん@ピンキー:2007/04/05(木) 23:32:55 ID:Iix4a8Is
女体化ジュウってやっぱり髪は金髪?
141名無しさん@ピンキー:2007/04/06(金) 00:17:01 ID:0PFjUhh+
>>140
その方がジュウらしいし、円がいるからねぇ。
142名無しさん@ピンキー:2007/04/06(金) 19:30:02 ID:s2PH2c7E
( ゚д゚)  ・・・・・・・・?


( ゚д゚ ) ・・・・・見れない
143名無しさん@ピンキー:2007/04/07(土) 00:28:35 ID:ei33vTAJ
>>142
イメピタがPCから見えない様ですね。
144伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/04/07(土) 01:07:05 ID:X91twukE
まったく同じものですが、こっちなら見えるかねえ?
http://p.pita.st/?m=bnfl8lfg
145名無しさん@ピンキー:2007/04/07(土) 09:16:58 ID:JvizmNVN
見えませんorz
146名無しさん@ピンキー:2007/04/07(土) 09:21:34 ID:ei33vTAJ
>>144
設定でPC許可宜しくです。
147伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/04/07(土) 09:28:09 ID:X91twukE
設定しときました。
ついでにこちら。
……一応言ってきますけど女体化ジュウ様ですからね?
http://p.pita.st/?m=knkchnsy
148名無しさん@ピンキー:2007/04/08(日) 08:16:30 ID:mR7aEweF
保守
149名無しさん@ピンキー:2007/04/08(日) 11:34:08 ID:NCZ1BF9B
>>伊南屋さん
ありがとうございます、見れました!
GJです!!!
ヤバイよ女体化ジュウ様かわいいよw
150名無しさん@ピンキー:2007/04/11(水) 07:15:29 ID:WjpZlVeg
hosyu
151名無しさん@ピンキー:2007/04/12(木) 07:02:43 ID:DpqNW7G9
このスレ賑わうときは賑わうが、過疎るときはかなり過疎るな…差がすごい
152名無しさん@ピンキー:2007/04/13(金) 06:53:11 ID:Fu61XwQl
ほしゅ
153名無しさん@ピンキー:2007/04/14(土) 22:12:30 ID:t1iEphGT
保守
154名無しさん@ピンキー:2007/04/15(日) 07:26:16 ID:wApZcnJw
hosyu
155名無しさん@ピンキー:2007/04/16(月) 07:01:58 ID:r9EQO75m
hosyu
156名無しさん@ピンキー:2007/04/19(木) 02:24:13 ID:vAH2MIRd
ほしゅ
157名無しさん@ピンキー:2007/04/19(木) 08:01:53 ID:zyGyj0vz
>>151
別のスレでヤンデレ自重しろって言われたからSS思いつきません
ラブラブが書けたらまたここに投下したいです
158名無しさん@ピンキー:2007/04/19(木) 13:45:20 ID:3XJ4gIlV
ヤンデレ?良いんじゃね?
前スレからヤンデレSSは投下されてたけど別に叩かれたりとかなかったから。
要は楽しめれば良いと思う。

つかむしろ投下すべきだとヤンデレスキーの俺は強く主張する。
159名無しさん@ピンキー:2007/04/19(木) 13:46:50 ID:3XJ4gIlV
ヤンデレ?良いんじゃね?
前スレからヤンデレSSは投下されてたけど別に叩かれたりとかなかったから。
要は楽しめれば良いと思う。

つかむしろ投下すべきだとヤンデレスキーの俺は強く主張する。
160名無しさん@ピンキー:2007/04/19(木) 13:47:59 ID:3XJ4gIlV
ごめん。何この連投
161名無しさん@ピンキー:2007/04/20(金) 07:07:21 ID:lRLUdYdS
hosyu
162名無しさん@ピンキー:2007/04/22(日) 19:50:11 ID:RC154DjP
ほしゅ
163名無しさん@ピンキー:2007/04/24(火) 05:12:14 ID:O3WRf1iV
ほしゅ
164名無しさん@ピンキー:2007/04/24(火) 20:03:41 ID:n0cu/11D
堕花「ジュウ様、お願いがあります」
柔沢「めずらしいな、何だ?」
堕花「私を、ずっと傍に置いて下さい」
柔沢「・・・・(まあ雨が俺に飽きるまでなら)いいぞ」
堕花「ありがとうございます、ジュウ様。ずっと、ずっと一緒です。








                                       絶対、離しませんから」
165名無しさん@ピンキー:2007/04/24(火) 21:38:59 ID:ANNwEetP
*´Д`) < …イィ
166名無しさん@ピンキー:2007/04/25(水) 00:43:55 ID:4ogOTQFY
雨ってヤンデレ化しそうにないというか、本当にヤンデレ化したら
マジ怖い。
某ゲームのねーちんみたいに光をいたぶりそう。
167名無しさん@ピンキー:2007/04/25(水) 20:12:01 ID:NWNaUEOG
アイツの事が気になる
 ↓
アタシのこと、見てくれない。お姉ちゃんたちばっかりお喋りしてる
 ↓←ここで逆転ホームラン
そうだ!! アタシのことしか見れないようにすれば良いんだ!!




ルートA. お姉ちゃんたちがいなくなれば良いんだ

ルートB. 部屋から出れないようにしてアタシがずっと面倒見てあげれば良いんだ♥

ルートC. 来世では、アタシが従者になってあげるから、一緒に■■■■■■■■
168名無しさん@ピンキー:2007/04/26(木) 07:15:01 ID:JUXYkKQ6
hosyu
169名無しさん@ピンキー:2007/04/27(金) 00:39:43 ID:/ERi9oG2
雨と光でヤンデレ修羅場……ガクガクブルブル
170名無しさん@ピンキー:2007/04/27(金) 10:03:55 ID:qKBHvQGg
そこに雪姫も加わり……。
もう円だけが頼りだな。
171名無しさん@ピンキー:2007/04/27(金) 12:47:11 ID:QrpZ16LV
「なあ円」
「なに?」
ベッドの中、天井を見ながらジュウは隣の円に訪ねる。
「まだ俺たちのこと内緒にするのか?」
「ええ、雨たちに知られると色々と面倒だから」
乱れた髪を撫で付けながら円はジュウに擦り寄る。
「俺としてはきちんと言う事がケジメみたいなもんだと思うんだけどな」
「まだちょっと早いわ。





             まだ、毎月あるもの」

「ン? なんか言ったか?」
「なんでもないわ。ただの独り言よ」

隣の王にばれないよう腹を撫でながら、決定的なものを得るため動かないよう身を休める円。
172名無しさん@ピンキー:2007/04/28(土) 09:17:10 ID:XcsIYknx
円お前もかww
173名無しさん@ピンキー:2007/04/28(土) 10:58:05 ID:ekWPOcN7
凄え怖いですw
174名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 04:28:52 ID:YuFseDjo
そんな爆発寸前の火山のような、こぼれる寸前のミルク皿のようなジュウ達の前に
仮出所してきた美夜が現れるのであった。
王の危機に少女達は団結する…かも、きっと、もしかしたら…………orz
175名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 20:40:15 ID:PYuF0AJk
あの男の所為だ

親友が壊れたのも

親友の妹が狂ったのも

もう一人の親友が孕んだのも

あいつの所為だ

友達になれると思ったのが錯覚だったんだ

自分の刃は切彦でも無い限り止められない

殺してやる
絶対殺してやる
それでみんな元通りだ
176名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 21:03:00 ID:4MxKC40Z
保守
177名無しさん@ピンキー:2007/05/01(火) 17:31:51 ID:yfK73Yus
>>175
紅香にやられてBADEND一直線ルートにしか見えない
178名無しさん@ピンキー:2007/05/02(水) 07:10:14 ID:YkUOYuCM
hosyu
179名無しさん@ピンキー:2007/05/04(金) 13:30:55 ID:veRd0sSK
ほしゅ
180名無しさん@ピンキー:2007/05/06(日) 13:53:25 ID:6w07bDeg
保守
181名無しさん@ピンキー:2007/05/08(火) 23:31:29 ID:4P964m8y
ほしゅ
182名無しさん@ピンキー:2007/05/10(木) 23:57:16 ID:SQxViygR
保守
183名無しさん@ピンキー:2007/05/12(土) 12:25:49 ID:DuUk3XzX
hosyu
184名無しさん@ピンキー:2007/05/12(土) 12:45:49 ID:3GrKRiEE
保守
185名無しさん@ピンキー:2007/05/13(日) 06:06:29 ID:r93rlyl+
hosyu
186伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/05/13(日) 14:44:25 ID:5hRdrVG0
『レディオ・ヘッド リンカーネイション』

 響く。高笑い。嘲笑。少年の声で。
 九鳳院竜士。
 少年の、名前。
「ははっ! はははっ、はははは!」
 ――手に入れた。
 遂に、手に入れた。願って、願って。それでも手に入らなかったモノを。
 九鳳院紫。
 自らの、妹を。
 腕に力を込める。抗う感触。確かに、紫が腕の中に居る。
 腕の中で、泣いている。
 それを確かめ、走る。
 ――まったく、馬鹿な奴だ。
 竜士は思い出す。紫を守ろうとする少年を。
 真逆、《ビッグフット》を倒すとは。
 ――途中、一度は倒れそうになってたのにね。
 一度は倒れて、竜士が勝利を確信して、込み上げる歓喜に笑い出しそうになったのに。
 紫が、全てを覆した。
 たった一度。紫が少年の名を呼んだだけで、少年は立ち上がった。
 ――まあ、理由はどうあれ、腐っても崩月の小鬼か。
 直ぐに動いたのは我ながら正しい選択だったと思う。
 あいつは、勝利条件を履き違えていた。目的はあくまで紫。
 目の前の敵を打ちのめす事ではない。こちらとしては紫さえ手に入れば後はどうなろうと構いはしない。
 だから竜士は、《ビッグフット》を――《ビッグフット》という駒を棄てた。
 合理主義。棄てる事で勝てるなら、全てを棄てる。勝利に貪欲な、勝利を求め続けた一族で叩き込まれた、戦術と呼ぶにはシンプル過ぎる思考。或いは、思想。
 騎士(ナイト)を殺されようが、城(ルーク)を崩されようが、女王(クイーン)を身代わりにしようが、王(キング)が残り、相手の王(キング)を詰みさえすれば良い。
 チェスのような、ゲームのような論理(ロジック)。
 そういった冷静さが、あの少年には欠けていた。
 ――なりふり構わないのは良いけど。全体を見渡せないようじゃね。
 目の前の障害に気を取られ過ぎた時点で、ある意味勝敗は決していたと言える。
 そう考えて、竜士は微笑を浮かべる。
 とびっきりの玩具を手に入れた子供の様に。ただ笑う。
 後少し。屋敷から離れてしまえば良い。
 たったそれだけ。
「止まりなさい」
 たったそれだけを、遮る声。
 夜に凛と響く少女の声で。
 事務的な、要件を告げるだけの声。
 その言葉に、竜士は立ち止まり視線を巡らす。
 そうして、見つけた。夜に浮かぶ、大小二つの影を。
 王者と従者の、二人の姿を――。

 * * *

「その娘を返して頂けますか?」
187伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/05/13(日) 14:46:21 ID:5hRdrVG0
 雨は抑揚なく告げる。その様をジュウはただ傍らに立ち傍観するだけだ。
「ふざけるな。紫は僕の妹だ。“返せ”だと? 紫は元から僕のモノなんだよ!」
 雨の言葉に激昂する竜士を眺めて、そしてその腕の中で涙する紫を見て、ジュウは自らの内に負の感情が高まるのを感じた。
 怒り、侮蔑、憎悪。
 恐らく自分はこいつを赦せない。
 ぎりぎりと音がする程、拳を握り締める。
「さぁ、どけよ。あの馬鹿な崩月の小鬼みたく、誰に喧嘩売ってるのか分からない訳じゃないだろう――“獣王”」
 口角を吊り上げて、竜士はジュウの二つ名を呼ぶ。――王の二つ名を。
 つまり、竜士はこう言いたいのだ。
 “ここから先は国同士の問題になるぞ”と――。
 ――関係あるか。
 そう考えて、しかしそれを口には出来ない。
 今、激情のままに竜士を殴り飛ばし、紫を竜士から奪うのは容易い。
 しかし、それでは国民を危険に曝してしまう。一国の王として、それは出来ない事だった。
 自分一人が危険に曝されるならそれも出来ただろう。事実、真九郎はそう思って九鳳院から紫を連れ出したのだと思う。
 しかし、自分はそれが出来ない。
 幼子一人救えないで何が王だ――。
 無力感。
 黙り込むジュウを見て、竜士は立ち去ろうとする。そこに浮かぶ表情は勝者の愉悦。
 だが――。
「止まりなさいと、言ったはずですが」
 再び雨の声。
 冷静で、冷徹で、どこまでも温度の無い声。
 それを、抜き放った剣と共に竜士に向ける。
「――貴様っ!」
「あなたは――」
 あくまでも淡々と雨は言葉を紡ぐ。
「あなたは“誰に喧嘩を売っているのか分かっているか?”と問いましたね。それに対する返答はこうです――」
 はっきりと、雨は答える。

「知ったことではありません」

 場が凍る。
 それは、余りにも単純で、しかしまるで状況を踏まえていない発言に聞こえた。
「おい、雨――」
「あなたが誰か――そんなことは知ったことではないのです。あなたはこの場に置いてはただの誘拐犯。それ以上でも以下でもありません」
 制するジュウの声すら意に介さず、雨は続ける。
「あなたは紫と言う一人の少女を手に入れようとしている。私達はそれを止めようとしている。この場で意味があるのはその事実だけです」
 語る雨に、竜士は反駁する。
188伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/05/13(日) 14:48:04 ID:5hRdrVG0
「そんな事は詭弁だ! 僕は九鳳院の人間で、この紫の兄だ。どう考えたって僕に分がある。誘拐犯は貴様等の方だろう」
 その言葉に、雨は意外な程あっさりと答える。
「成る程、確かにそれはそうですね」
 首肯。認める発言。
「だったら――」
「もっとも――それが全て事実ならですが」
 提示。疑惑の問掛。
「あなたが九鳳院である証は? 腕に抱える幼子と兄妹関係にあるという根拠は? 謳うだけなら誰にでも出来る事です。
 言葉自体に力はありません。それを事実であると証明して初めて、名乗りには意味があるのです」
 ――例えば、この場で竜士以外が“九鳳院竜士”だと名乗る事は可能だ。
 名乗るだけならば――。
 しかし、その証明は出来ない。疑い、否定される。
 ではもしも――その証明が出来るとしたら。
 本人しか知り得ない事、持ち得ない事。本人でしか有り得ない事を、有していたら。
 それを証として周りが認めたならば、この場ではその者が“九鳳院竜士”となる。
 ――事実とは関係なしに。
 逆もまた然り。
 証明し得ないからには、この場に置いて竜士は“賊”でしかない。
 ――これもまた、事実とは関係なしに。
 つまり雨は、眼前の少年を“九鳳院竜二”とは認めず、始末すると言っているのだ。
 そこに国家が入り込む余地はない。
 だが、実際にそんな無理が通るかと言えば、それは――否だ。
「……どけよ。こんな議論に意味なんか無い。お前は馬鹿じゃない。それを僕は知っている。だからこそ分かるはずだ、ここは退くべきだと。それがお前の国――いや、主のためになると」
 雨は――答えない。
「僕はお前らがここで退いてくれれば特別事を荒立てる事なんかしない。紫が手に入れば十分なんだ」
 やはり沈黙。
 その沈黙を、竜二は苛立ちと共に過ごす。
「ジュウ様」
 不意に雨が主を呼ぶ。
「私はジュウ様に従い、そしてジュウ様が望む結果を約束します。ジュウ様はこの者を如何なさいますか?」
 問われ、ジュウは言う。
「……構わない。この外道をぶちのめせ」
「貴様っ!」
「かしこまりました。――さて、“九鳳院”竜二」
 雨は竜二を呼ぶ。その字名と共に。
「あなたはこの議論に意味はないと言いました。――ええ、そうです。議論自体に意味はまったくありません」
 激憤する竜二を見据え、雨は滔々と語る。
「ですが、議論という行為を行った事実には意味があります。……聴こえませんか?」
189伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/05/13(日) 14:49:31 ID:5hRdrVG0
 言われ、竜二は耳をこらす。
 その耳朶を叩く音は――足音。数人がこの場所に近付いている。
「会話というものは手っ取り早い時間稼ぎになりますからね。その点、貴方はよく会話に食いついてくれました」
 そう雨が語る間にも、足音は近付いている。
「紫!」
 夜の闇、駆け抜ける少年の声。その声に竜二に抱えられた紫が、表情を取り戻す。
「――真九郎ーっ!」
 少女の声は悲痛に、彼女を探し求める少年の元へ響く。少年だけではない。少女を救うために戦い、走る者達をも導く。
「あ、あ……」
 竜二の顔が絶望に染まる。
「どうやら役者は揃ったようですね」
 その言葉の通り、見覚えのある姿が集まってくる。
 夕乃が、円が、雪姫が、そして――真九郎が。
 その姿は皆、一様にボロボロだが、通ずるものが一つ。
 未だ折れぬ真っ直ぐな視線。視線が語る紫への想い。
 雨は皆を代表して言う。
  チェック メイト
「  詰みの一手  です」
 勝利の宣言を。
「あ……、しん……くろぉ」
 微かな呟きは紫。嬉しさに感極まったように、それまでとは違う涙を流す。
「もう大丈夫だ、紫。――ごめんな、怖い想いさせて」
 真九郎の謝罪を紫は首を振り否定する。否定する言葉は、喉が震えて出せないけれど。
「竜二」
 強い、強い声。
 真九郎は竜二を見据え、はっきりと告げる。
「紫を、放せ」
「く……っ」
 忌々しいものを見るように竜二は真九郎を睨み付ける。
 しかし、揺るがない視線に睨み返され、竜二は殊更ゆっくりと紫を解放した。
「真九郎っ!」
 掴まれた腕が解放された瞬間、紫は真九郎の元へと走り出した。
 夜で視界が利かないからか、危なかっしく駆ける。それでも必死に走る紫はしかし、何かに躓きバランスを崩す。
「紫っ!」
 それを、真九郎が駆けつけ抱き止める。
「しんくろぉ……しんくろぉ……」
 ぎゅっと、その小さな腕で真九郎を紫が抱き締める。真九郎は答えるように抱き返す。
 それを見つめていた雨が、竜二に向き直る。
「さて、退いてくれればこちらとしては特別事を荒立てるつもりはありませんが?」
 先の竜二を真似た言葉に竜二が悔しげに呻く。
「貴様ら、こんな事して九鳳院が黙ってると――」
「黙りなさい」
 雨が遮る。
「言ったはずです。貴方が誰かなど知ったことではないと。それは九鳳院であれ、変わることは在りません」
「つまり――」
 雨の言葉をジュウが引き継ぐ。
190伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/05/13(日) 14:51:37 ID:5hRdrVG0
「売られたケンカなら買ってやる。今なら高価買い取り中だ」
 高らかに、王は宣ずる。

「来いよ、九鳳院。潰してやる」

 * * *

 朝が来る――。

「良かったか?」
 そう問い掛けたのは真九郎だ。
「何がだ?」
「九鳳院に喧嘩売っただろ」
「違う、あくまで買い取るだけだ」
 冗談めかすジュウに真九郎は更に問う。
「お前の国が危険に曝されるんだぞ? なのに――」
「雨がな、言ったんだよ。俺が望む結果を約束するって。俺はそれを信じてる。だから決意できる」
「――そうか」
 しばしの沈黙。
「……なあ」
 破ったのは真九郎。
「何か、俺に出来ることはないか? 一応、俺も国民になったんだ。お国のためなんて柄じゃないけど、ジュウのためにって事なら、悪くない」
「なら、紫のそばに居てやれよ。そのために俺は力を貸したんだ。なら、紫を守って、そばに居てやれ」
「――ああ」

「ジュウ様、そろそろお時間です」
 割って入るように雨の声。
「もうそんな時間か」
「……戻るのか」
「ああ、仕事もあるしな。雨がこっちに来ちまったから尚更増えてるはずだし。一応戦争の準備もしなきゃならない」
 ――しばらくは休みなしだ。そう呟いてジュウは立ち上がった。
「崩月のじいさんに挨拶してから行くか。――雪姫と円を呼べ」
「既に」
「よし、行くぞ」
 そこでジュウは一度振り向き、真九郎を見た。
「またな。縁があればまた」
「――ああ」

 こうして、二人の少年の邂逅は幕を閉じた。
 だが、それも一時の事。少年はやがて再び合間見える。
 その時は未だ遠くとも、いずれ必ず――。

 ――これは、一人の王が世を統べる少し前の話。
 二人の少年が出会う。
 そんな昔話。

fin.
191伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/05/13(日) 14:57:12 ID:5hRdrVG0
 と言うわけで毎度、伊南屋に御座います。

 長きに渡り続いた『レディオ・ヘッド リンカーネイション』とりあえずの閉幕となります。
 未熟で至らない部分の多々ある拙作に最後までお付き合い頂き有難う御座いました。
 正直書き続けるにつれ技量不足に悩まされ、自分としては満足の行く作品とは行きませんでしたが、少しでも楽しんで頂けたのなら幸いです。

 これからについて。

 しばらくは単発SSを書こうかなと。
 とりあえずレディオ・ヘッドを完結させるために我慢したネタがいくつかあるので、それの出来が良ければ投下すると思います。

 それでは以上、伊南屋でした。
192名無しさん@ピンキー:2007/05/13(日) 21:32:38 ID:4WNGWpgn
なんて素敵(*´Д`)
次回作も期待大
193名無しさん@ピンキー:2007/05/13(日) 22:05:54 ID:a7z1Cxvx
GJ!!
おつかれでした〜
194名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 06:52:38 ID:KuyvIroo
おかえりなさい。GJ
195名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 07:23:58 ID:yrFLbKh5
GJ!!すばらしいです。
単発SSも期待しています。

保守祭り長かったな〜
196名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 20:42:03 ID:0TI+C7jR
おおぅ、久しぶりに来たら作品投下されてるぅ〜、相変わらず良い仕事ですなぁ。

新作もまったり待たせて頂きます。
197名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 23:40:20 ID:mYV2OivH
>>伊南屋さん
お帰りなさい、そして心からGJ!!!
次回作も楽しみに待ってます。
198名無しさん@ピンキー:2007/05/16(水) 02:56:57 ID:2MM38Em1
初めてここに来たが…2冊目!?
199名無しさん@ピンキー:2007/05/17(木) 23:28:19 ID:oITPTrEl
2冊目だぜ
200名無しさん@ピンキー:2007/05/18(金) 06:46:45 ID:xxxayY3x
ほしゅ
201名無しさん@ピンキー:2007/05/21(月) 04:31:04 ID:NUBJvNHI
ほしゅ
202名無しさん@ピンキー:2007/05/22(火) 02:35:39 ID:ASEWWU9X
燃えもいいけど萌えもほすぃ保守
203名無しさん@ピンキー:2007/05/23(水) 07:29:13 ID:aEE7szFa
ドギツいエロが欲しい今日この頃
204名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 00:23:42 ID:4Om/crp/
>ドギツいエロ

ジュウ様が女共にマワされるシチュしか思い浮かびません><
205名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 20:54:08 ID:kjhH34N3
誰か描いて
206名無しさん@ピンキー:2007/05/25(金) 07:18:00 ID:x6MoUkpH
描いてって事は絵のリクエストか?
だとしたらエロパロ板的には不適当なリクエストかと。

まあ見てみたいけどさ。
207名無しさん@ピンキー:2007/05/25(金) 07:26:02 ID:rBBY8Ylr
スマソ
「書いて」の間違い
208名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 08:48:45 ID:dTEUEKkf
保守
209名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 23:00:07 ID:M7Iw5K1N
まあアニメになれば良いにつけ悪いにつけ人が増えるだろう
210名無しさん@ピンキー:2007/05/28(月) 00:31:22 ID:LHLyR6Ff
誤爆?
211名無しさん@ピンキー:2007/05/28(月) 01:05:32 ID:96nK4JB9
なんか紅アニメ化の話が沸いて出てるらしいぜ
212名無しさん@ピンキー:2007/05/28(月) 05:59:26 ID:QfRH4m88
マジか?
だから3巻延期したのかな?
213名無しさん@ピンキー:2007/05/28(月) 06:16:58 ID:LHLyR6Ff
マジだ。
むさくさ久しぶりに本スレ行ったらその話題で持ちきりじゃん。
でもこれってタレコミであって公式情報じゃないんだよな。
はてさてどうなることやら…。
214名無しさん@ピンキー:2007/05/28(月) 16:09:52 ID:540U4gWt
マジに誰か保管所作らないか?
過去の作品が読みたい…
215名無しさん@ピンキー:2007/05/29(火) 23:00:06 ID:k5G60JFl
ほしゅ
216名無しさん@ピンキー:2007/05/31(木) 22:52:04 ID:6I6Lvyw1
ほしゅ
217名無しさん@ピンキー:2007/06/02(土) 22:56:11 ID:16v1JhWA
ほしゅ
218名無しさん@ピンキー:2007/06/02(土) 23:18:34 ID:bCx1KWxB
ずっとsageじゃ保守になんなくない?
219名無しさん@ピンキー:2007/06/03(日) 00:10:37 ID:7bIKxA8j
じゃああげ
220名無しさん@ピンキー:2007/06/03(日) 19:14:08 ID:ezQi7lb/
age
221名無しさん@ピンキー:2007/06/05(火) 22:51:39 ID:zpLiAIM+
ほしゅ
222名無しさん@ピンキー:2007/06/08(金) 00:33:28 ID:JqlwQJBs
保守
223名無しさん@ピンキー:2007/06/08(金) 19:07:59 ID:OIfJ/eer
保守代わりに、>>93の続きを投下しますです。
燃えも萌えもないですが。
224『常識を破るモノ』-急転落下:2007/06/08(金) 19:08:49 ID:OIfJ/eer
 悩みに悩んで閉店ギリギリまで粘った結果、雨へのプレゼントは3000円程度の安いアクセサリーにすることにした。
 十字架をあしらったアクセサリーがついている程度の質素な造りのネックレス。
 もっと高価な物を買うことが出来たかもしれないが、残念ながらジュウの懐はそれほど温かくはなかった。
「まあ…プレゼントが決まっただけでもよしとするか」
 誰かにプレゼントを買うなんていつ振りだろうか。
 昔は母親に誕生日や母の日に贈り物と称して、お手伝い券や肩たたき券など渡していたような気がするが、
 それもまだ紅香がまともに母親として役割を果たしていた頃のことだ。
 今となっては、贈り物を渡すような友人すらいない。果たしてそれは気が楽と思うべきか、それとも寂しいと思うべきか。

 兎も角、誰かに贈り物をするなんて久しぶりだった。
 何故か、このアクセサリーを雨に渡すことを楽しみにしている自分がどこかにいる、と不意にジュウは感じた。
 すぐにその感情は、恥ずかしいという気持ちと馬鹿馬鹿しいという思いに摩り替わる。
 まるでこれじゃあ、恋人にでも贈り物を贈るみたいではないか。
 しかし、それとは別に雨の反応が楽しみだということはジュウ自身も認めた。
 勿論、ジュウからの贈り物ということで彼女が喜びそうだというのは分かる。
 だが、少しジュウが雨のことを褒めただけで喜ぶ彼女のことだ。
 きっと贈り物なんかすればそれ以上の反応を見せてくれるだろう。

 そこで、少々打算的な自分に苦笑する。
 誰かの反応を楽しみにする、これもまたジュウにとっては久しぶりの期待感だった。


 そして、幸か不幸かクリスマスイブが訪れた。
225『常識を破るモノ』-急転落下:2007/06/08(金) 19:10:08 ID:OIfJ/eer
 雨の家に行くのは夕方だと、ジュウは彼女に伝えておいた。そしてそれまで家から出ないように、とも。
 一応念には念を押した。何かあれば雨か光に電話して貰うようにしてある。
 最初、光は気色ばんだが、雨が上手く言い包めた。これで雨が被害に遭うという可能性はぐんと低くなるだろう。

 雨について取り敢えずは安心したジュウは、『常識破り』について円と情報交換するため、カフェで落ち合うことにした。
 クリスマスイブということもあってか、店内は客で賑わっていた。
「結局情報はなし…か」
「ごめんなさい。…もう少し時間があれば、ヒントのひとつぐらいは掴めたはずなんだけれど」
「いや、結果から言えば俺も同じだ。円堂が謝るようなことじゃねえよ」
 素直に謝る円は珍しく、軽く驚きながらもジュウは首を横に振った。
 確かに以前の事件で彼女の情報網はかなりのものだと思っていたこともあり、多少の期待はあった。
 だが、相手は難なく雪姫に大怪我を負わせ、警察から逃げ延びれているヤツだ。尻尾が掴めないのも当然だろう。
「それより、今日と明日についてだ。ヤツが狙ってくるとしたら、この二日間。
 実際雪姫が被害に遭ってるんだ。雨はもとより、円堂、お前だって標的になる可能性がある」
 ジュウが真摯にそう呟く。すると、円はそんな様子のジュウが面白いのかいつものような冷笑を浮かべた。
「あら、柔沢くん、心配してくれてるのかしら」
「ふざけるな。俺は真面目に言ってるんだ」
 からかわれている、と思ったジュウは語気を強めるが、それがどうしたと言わんばかりに円は冷笑で受け流す。
「貴方って、本当に不思議ね。いえ、不思議というよりもヘンだわ。
 それほど親しくない私にも、雨や雪姫と同じように心配してくれる。
 もう少し貴方、他人には無関心だと思っていたけれど」
「……」
 円にそう言われ、ジュウは押し黙った。
 確かに自分はもっと他人には無関心だったはずだ。ところがどうだろう。
 同じクラスメイトに、ほんの少しの間会話を交わしただけの少女、そして自分を嫌っている少女。
 誰もが自分とは親交の深い人物だとは、今でも到底思えない。
 だというのに、彼女らが事件に巻き込まれ、被害者となった途端に、自分は事件に首を突っ込んでいる。
 彼女らに対して無関心を決め込んで、何も知らない振りをしておけば、今まで危ない目に遭わずに済んだだろう。
「分からねえよ…」
 ジュウが言えたのはそれだけだった。
 円は何か言いたげではあったが、軽く溜息をつくとかぶりを振り、出てきたコーヒーに手を伸ばし一口啜った。
「……まあ、いいわ。それはいいとして、貴方も気をつけなさい。
 最終的なターゲットは貴方なんだから。貴方に何かあったら、雨が悲しむわ。私はそうなることを許さないから」
 貴方はどうでもいいけれど。そんなことを言葉の裏に滲ませながら、円は窓の外を睨む。
 天気は陰り、今にも雨が降りそうなほどの曇り空となっていた。
「分かった」
 素直にジュウは忠告を受取り、コーヒーを飲み干した。

226『常識を破るモノ』-急転落下:2007/06/08(金) 19:11:02 ID:OIfJ/eer
 気づけば、既に時刻は夕方に差しかかっていた。
 雨も降り出してきて傘を持って来ていないジュウは、面倒だ、と心の中で毒づく。
「雨ね」
「そうだな……どうやって、あいつの家まで行けばいいんだか」
「近くにコンビニがあったでしょう? そこで買っていけばいいじゃない」
 そういえばそうだった。この一帯は飲食店から洋服店、ゲームセンターなど様々な店が立ち並んでいる。
 コンビニも例外ではなく、この店から出て100メートルほど歩けばすぐそこにある。
 この雨だ、ビニール傘も販売していることだろう。仕方がない、と腰をあげるとコーヒー代をテーブルの上に置く。
「そろそろ、あいつの家に向かう。……雪姫のほうは頼んだぞ」
「……ええ。一度襲われたからと言って、また襲ってこないとは限らないし」
 円はそう言ったが、実際のところジュウも彼女も再び雪姫が襲われるとは、端から思っていない。
 病院という場所は多くの人間が出入りする。
 無差別殺人でもすれば話は別だが、ひとりを狙い絞って殺すには少々人の目に付き過ぎる。
 聞こえは悪いが、『常識破り』にとって雪姫は所詮見せしめでしかなかったのだ。
 それ以上のことはしないだろうと、どこか確信めいたものをふたりは感じていた。

 ならば、どうして円を病院に向かわせるのか。
 答えは簡単だ。『常識破り』に彼女を襲わせ難くさせるためだ。
 交友関係の狭いジュウにとっては仲の良い友人とは呼べない円もターゲットの候補として見てもおかしくはない。
 円自身、空手の心得があるので心配はいらないだろうとジュウは考えていたが、あの雪姫を襲った犯人だ。
 念には念を、ということである。
 そこは円も理解していたというわけだ。勘の鋭い彼女のことだ、遠回りな言い草でも勘付いてくれているだろう。

「本当に心当たりはないのかしら」
「え?」
 唐突に漏れ出た円の言葉にジュウはきょとんとする。
 出来の悪い生徒に教える教師のように、円は溜息をついて説明した。
「『常識破り』についてよ。だって、おかしいとは思わないの?
 雪姫が襲われたからとはいえ、最終的なターゲットは…柔沢ジュウ、貴方なのよ」
 つまり、ピンポイントで狙ってくるということは、何かジュウが私怨を買っているのではないだろうか、と。

「……色々と、恨まれる覚えはあるけどな」
「自覚していたら世話ないわよ」

 円は微笑む。
 だが、ジュウにはそれが嘲笑なのか、好意的なものなのかは分からなかった。
227『常識を破るモノ』-急転落下:2007/06/08(金) 19:11:59 ID:OIfJ/eer
 結局情報交換はしたものの、有力な情報がないまま二人は別れることにした。
 別に友人とも呼べない彼女と話すようなことはなかったし、その時間が楽しいものだとは、ジュウには想像がつかなかった。
 無論、それは相手にとってもそうだっただろうが。
 店の前で別れ、病院へと向かう円の背を見送りながら自らもまずは傘を買いにいこうと足を近くのコンビニへと向ける。

 その時。

「携帯…?」
 幸せ潰しの事件の際に故障した携帯電話を買い替えたばかりの新品同然の携帯から、爽快なメロディが流れる。
 ディスプレイには「堕花光」の文字が無機質に表示されていた。
「なんだ?」
『ねえ、お姉ちゃんそっちに行ってない?』
「は? 今日は家にいるんじゃないのか」
 不思議がる光の言葉に、不意にジュウの胸中に不安がよぎる。
『お姉ちゃん、ちょっと出かけてくるって言って出かけたから、あんたに電話かけたんじゃない。
 あんたがわたしに頼んだことでしょ?』
 次第にジュウの不安は色濃くなっていく。
 想定していた最悪の場合が、ふと脳裏によぎる。ジュウは自然と声が震えるのが分かった。
 情けない、と思うよりもまずその不安が的中しないで欲しいという願いが強く、構っていられなかった。
「な、なあ……、あいつ、お前にどこに出かけるか言わなかったのか?」
『だからこうしてかけてるんでしょ。お姉ちゃんったら、何も言わずただ「ちょっと出かけてくるわね」って言っただけで、
 そのまんま出て行っちゃったんだもん。だから、あんたなら知ってるんじゃないかと思って』
「………!」
 
 雨がいなくなった。
 ジュウはその衝撃に携帯電話を取り落としそうになった。
 あれだけジュウが釘を刺しておいたのに、彼女がそれを反故にするような真似をするはずがない。
 だが、事実として雨が家から出て行った。それが示すものは一体何なのか。
 ―――考えるまでもない。
 雨は何らかの方法で、『常識破り』に家から呼び出されたのだ。
 あの雨をジュウの言いつけを破ったのだ。そう考えるのが当然である。
 雨がジュウの言いつけを破り、自ら自分の身を危険の中へ晒し出すとは到底思えなかったのだ。
 確信めいたものがあった。雨とは出会ってから半年強ほどの付き合いだが、
 ジュウは、それぐらいは雨の行動を理解することは出来るようになっていた。

「くそッ、何であいつ…!」
 雨の行動に腹立つ。
 危険だとは分かっているのに、自分のせいで危険な目に遭うのは分かっているのに。
 ――――そして、同時に自分自身の不甲斐なさに。
 考えて見れば、今までだって彼女が大怪我をしないとは限らなかったのだ。
 紗月美夜との対峙、草加聖司の雇った始末屋との戦い、暗木との『勝負』、確かにその時はジュウも危機に瀕していた。
 しかし、それと同時に雨もまた危険な状況に身を置いていたのだ。……自分の馬鹿馬鹿しい見栄と無計画さのために。

 今回にしたってそうだ。実際に雪姫は自分の知人というだけで大怪我を負わされた。
 そして、今度は雨自身を。
 いつもそうだ。やっと今になって、紅香が『弱い』と評価する理由が少しは分かったような気がする。
 それは、自分自身を守れないばかりか、他人すらも危険な目に巻き込んでしまうから。
 だから、無力。

 何をやっても中途半端で、結局己の無力さだけを思い知らされる。
 今までの事件にしたってそう。何一つ、自分の力で誰かを助けたということはなかった。

「俺は……俺はッ! 馬鹿だ!!」

 ジュウは乱暴に携帯をズボンのポケットに突っ込むと、12月の冷たい雨の中を駆け出した。
228名無しさん@ピンキー:2007/06/08(金) 19:14:50 ID:OIfJ/eer
取り敢えずここまで。
ようやく中盤まで来たような気がする。
……だれか、伊南屋氏のような燃え分と、
女体化ジュウ様のような萌え分をそれがしに分け与えてください。
229名無しさん@ピンキー:2007/06/08(金) 19:23:17 ID:OIfJ/eer
いま気づいた……急転落下じゃなくて、急転直下と付けたかった…orz
230名無しさん@ピンキー:2007/06/08(金) 22:08:32 ID:V+TCJNg0
ひさしぶりにGJ.
231名無しさん@ピンキー:2007/06/08(金) 23:03:16 ID:yVtF0xBF
いやぁ、GJっす。
萌えも、萌えも、作者さんが入れていなくても
読み手が勝手に掘り起こせますから心配無用ですよ。
232名無しさん@ピンキー:2007/06/09(土) 10:58:20 ID:FqqXsB/g
G☆J!!
雨が円襲ってジュウvs雨→雨がヤンデレで終わりだったりして
233名無しさん@ピンキー:2007/06/09(土) 18:56:24 ID:TgdISF2i
GJ!!!!
救世主、現る!ホンマありがとう。
続きwktk!!
234名無しさん@ピンキー:2007/06/10(日) 16:34:52 ID:/AauclqV
ほしゅ
235名無しさん@ピンキー:2007/06/11(月) 20:54:32 ID:9Kz4Rikr
hosyu
236名無しさん@ピンキー:2007/06/13(水) 22:08:29 ID:J98EWsUL
hosyu
237名無しさん@ピンキー:2007/06/14(木) 11:34:59 ID:znPhfqxZ
保守
238名無しさん@ピンキー:2007/06/16(土) 22:58:36 ID:FtY8RShp
ほしゅ
239名無しさん@ピンキー:2007/06/17(日) 21:47:27 ID:5l0BftDR
hosyu
240名無しさん@ピンキー:2007/06/17(日) 23:36:28 ID:oIQoL/Ww
そいやこのスレも一周年か……
241名無しさん@ピンキー:2007/06/18(月) 00:44:12 ID:6y2vRCXh
242名無しさん@ピンキー:2007/06/18(月) 07:40:23 ID:kJ9lfG6/
243名無しさん@ピンキー:2007/06/18(月) 08:42:35 ID:qDDBhQz/
244名無しさん@ピンキー:2007/06/18(月) 23:33:50 ID:W/tuuPjR
245名無しさん@ピンキー:2007/06/19(火) 00:19:12 ID:5gxPT2e8
246名無しさん@ピンキー:2007/06/19(火) 00:25:37 ID:VJV1qry6
247名無しさん@ピンキー:2007/06/19(火) 20:43:06 ID:SRf7L0Hm







248名無しさん@ピンキー:2007/06/20(水) 08:53:00 ID:jqJJMM15
!!
249名無しさん@ピンキー:2007/06/20(水) 18:23:49 ID:pox8VvTT
柔沢「円堂、前借りてたジュース代」
円堂「それくらいいいわよ」
柔沢「いや、こういうのはきちんとしないと」
円堂「いいってば」
柔沢「しかしだなぁ、


堕花妹「駄目だよ円堂さん!! そんなの、そんなの・・・・

光ちゃん妄想劇場 #28571
柔沢『しかしだなぁ、こっちの気がおさまらんよ』
円堂『だったら』
柔沢『だったら?』
円堂『その分愛してくれればいいわ』
柔沢『わかった』

堕花姉『そんなのいけません!! ジュウ様に愛してもらうのは私です!!』
円堂『だったら』
堕花姉『だったら?』
円堂『一緒に愛してもらいましょう』
堕花姉『それならいいわ』

斬島『ハイハーイ!! あたしもいいかなー?』
円堂『仲間はずれはいけないこと』
堕花姉『一緒に可愛がってもらいましょう』
斬島『やったー!!』



                 そんなの、ハーレムになっちゃう!!」

ジュウと円の話に割り込んだ光は、大きく叫ぶとぽてりこ・・・・と倒れた。
250名無しさん@ピンキー:2007/06/20(水) 18:27:39 ID:kLaEPedq
落ち着けwww
251名無しさん@ピンキー:2007/06/20(水) 23:22:21 ID:pxusZd08
芋焼酎噴いたww
252名無しさん@ピンキー:2007/06/21(木) 00:23:57 ID:WJXMZZo9
二万八千五百七十一ってw
いったいどれだけ妄想してるんだww
253名無しさん@ピンキー:2007/06/21(木) 06:53:03 ID:iphBSZfv
いいなコレ
254名無しさん@ピンキー:2007/06/22(金) 10:21:10 ID:o1vbdFRG
ワロタw
255名無しさん@ピンキー:2007/06/23(土) 20:51:32 ID:ZVUxMuu9
雨「ジュウ様」
ジュウ「様付けはやめてくれ、周りの目が痛い」
雨「わかりました、では、閣下、マスター、大将、主上,ダーリン
陛下,ご主人様 ボスの中からお選び下さい」
ジュウ「どれもいやだよ、あと、1つ違うのあったろ」
雨「いえ、気のせいです、空耳かと」
256名無しさん@ピンキー:2007/06/23(土) 21:01:57 ID:oBonuwE6
ダーリンwww
ってゆーかジュウ様を大将と呼びてぇええぇぇぇ!!!
257名無しさん@ピンキー:2007/06/24(日) 00:23:24 ID:FffGsqwe
さりげなく混ざってる「ダーリン」に雨の乙女心を垣間見たw
258名無しさん@ピンキー:2007/06/24(日) 01:42:10 ID:rYdb0cyf
保管庫は無いのだろうか?

前スレのも読みたいのだが。
259名無しさん@ピンキー:2007/06/24(日) 09:00:32 ID:Zv4pHH5/
>>258作ってくれ
260名無しさん@ピンキー:2007/06/24(日) 15:40:18 ID:ABM/r9Xe
ほんと、いい加減保管庫欲しいよな。
結構前から言われてることだし誰かいないんかなぁ
261名無しさん@ピンキー:2007/06/24(日) 18:47:34 ID:AkAChrfB
http://red.ribbon.to/~eroparo/

ここに頼むか?
262名無しさん@ピンキー:2007/06/25(月) 08:42:13 ID:kVUYg4Gz
そこでもいいが我儘いえば独立がいいな
263名無しさん@ピンキー:2007/06/25(月) 09:12:14 ID:Dya619VG
>>262に同意
こまめに見てるわけじゃないけどあの保管庫は収録が遅い気がするから
264名無しさん@ピンキー:2007/06/25(月) 12:40:56 ID:N+s9ClvW
>>263が作ってくれる保管庫に期待
265名無しさん@ピンキー:2007/06/25(月) 13:38:11 ID:Dya619VG
>>264
作りたいのはやまやまだが今時PCがスタンドアローンの俺には無理な話だ
266魔茶:2007/06/27(水) 23:39:16 ID:IfJAL2Ml
 「あなたが落としたのは、この犬耳雨ですか、それとも
  この猫耳雨ですか
ジュウ「どっちも落としてない、そもそも何も落としてない
ていうかあんた誰だ」
 「正直者のあなたには両方プレゼント、やったね
  それではさよなら」シュタ
ジュウ「うお、1瞬で消えた」
犬雨、猫雨「「ジュウさまぁー」」
ジュウ「マジでおいてきやがった。くそ俺にどうしろと」
ガサ
光  「オネイチャン・・・」

  つづく・・・・かも。
267名無しさん@ピンキー:2007/06/28(木) 07:34:44 ID:0na8dm8W
GJ!!
続きwktk
268名無しさん@ピンキー:2007/06/28(木) 17:14:38 ID:4zjp02gb
GJ!
続きに大いに期待
269名無しさん@ピンキー:2007/06/28(木) 20:39:04 ID:0na8dm8W
保管庫ってWikiだと簡単に作れる?
俺のPCもスタンドアローンだから作れないが……
270名無しさん@ピンキー:2007/06/29(金) 07:25:31 ID:U8eVrzEe
作れる。
なのはエロスレの保管庫なんかはlivedoor wiki
問題は、wikiだと誰が編集するんだってこと。
作ったけど誰も編集しない立てただけの保管庫なんてことになるかも

wikiを作るのは簡単、編集する人探すのは大変
271名無しさん@ピンキー:2007/06/29(金) 08:56:46 ID:U8eVrzEe
今日は休みだったから仮に作ってみた。
片山憲太郎作品エロパロ保管庫
ttp://www35.atwiki.jp/katayama/
前スレの作品まとめるの大変すぎ
気が向いたら編集する
272伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/06/29(金) 14:47:45 ID:rU1PQKkf
>>271
GJとしか言えねえ。
嬉しさの余りSS熱が漲ってきた。
273名無しさん@ピンキー:2007/06/29(金) 15:46:23 ID:MM24X7TM
GJッス!保管庫が作られるとやっぱ感動ッスわwww
電波が漫画化やら紅アニメ化の噂などちょっと来年はガチで片山の時代がくるんじゃね?
274名無しさん@ピンキー:2007/06/29(金) 16:25:34 ID:2jG11VjE
>>271
GJ&乙。
275271:2007/06/29(金) 17:52:38 ID:U8eVrzEe
勝手ながら保管庫にSSを転載させていただきました。
前スレ分は保管終了。
小ネタなどは見落としがあるかもしれませんし、誤字の訂正は指摘があったものしかやっていません。
疲れたんで今日の作業は終了

最後に伊南屋氏を初め職人の皆さんと過去ログをupしてくれた65氏に感謝します。

276名無しさん@ピンキー:2007/06/29(金) 18:08:59 ID:oNl1EYGl
>>271
とてもGJ!!
277271:2007/06/29(金) 22:58:39 ID:U8eVrzEe
なんとなく作業してたら現行スレで投下された分も保管完了。
278名無しさん@ピンキー:2007/06/30(土) 09:03:16 ID:k2C48jm4
本当にGJ!!ありがとう!!
279名無しさん@ピンキー:2007/07/01(日) 02:46:40 ID:vG5F/LAe
今更ながらにGJ!
280名無しさん@ピンキー:2007/07/01(日) 16:21:45 ID:pbUazmiL
後れ馳せながらGJ!
281名無しさん@ピンキー:2007/07/01(日) 21:39:22 ID:82vyhH9M
なんて検索すれば保管庫にいけますか
282名無しさん@ピンキー:2007/07/01(日) 22:25:37 ID:HdNu0lrE
>>281
271にあるべ
283名無しさん@ピンキー:2007/07/03(火) 07:59:14 ID:uaTNe2xY
久々にここに来たんだが、保管庫できててマジ嬉しかった!
今更かもしれんが>>271に心からサンクス&GJ!!
284名無しさん@ピンキー:2007/07/03(火) 20:01:39 ID:2aKGvKFc
とうとう保管庫ができたか
作品が増えるのを祈るぜ
285名無しさん@ピンキー:2007/07/05(木) 22:47:31 ID:HMzgPDLN
286名無しさん@ピンキー:2007/07/06(金) 15:20:36 ID:SP/j20nU
しゅ
287名無しさん@ピンキー:2007/07/07(土) 11:30:04 ID:V/7I3o++
紅はいらないから電波の続きでないかな
288名無しさん@ピンキー:2007/07/07(土) 12:29:53 ID:xP/AcDI5
紅アニメ化キターーーー(゚∀゚)ーーーー!!
http://a.pic.to/eks3s
289名無しさん@ピンキー:2007/07/07(土) 16:05:08 ID:jxLcY3X0
何!?
290名無しさん@ピンキー:2007/07/07(土) 23:12:33 ID:hFoct87W
いいのか!ヒロイン幼女だよ!?
七夕SS短編投下します
291魔茶:2007/07/08(日) 00:12:46 ID:UmnhQ0Te
「短冊に願い事を書いて、笹に飾ってくださーい」
ジュウと雨は商店街の店員らしき人物にそう声をかけられた。
「どういたしましすか?ジュウ様」
「まぁ、いいんじゃないか、暇だしな」
店員は短冊とペンがある机を指さして、
「短冊はあそこにあるのを使ってくださーい」

   5分後

「よし、書けた!。おまえの方はどうだ?」
「こちらも書けました。私がジュウ様の分もくくりつけおきます」
「いや、俺がやろう。高い方が願い事が叶いそうだしな」
最終的に笹に短冊をかけたのはジュウだった。
(雨の奴、なんて書いたんだ?)と思ったジュウは短冊を見た。
雨の願いは
    『ジュウ様に終生お仕えする』だった
見なかったことにしよう、ジュウは微妙な気持ちで短冊をかけた。
「じゃあ帰るか」
「はい」
道中に雨は
「ジュウ様は、何とお書きになられたのですか?」
ジュウはウソをいった
「ババアに勝つ、だ」
「お手伝いいたしましょうか?」
「いや、勝てる勝てないはともかく2対1は卑怯だからやらねえ」
「わかりました」

本当の願い事は・・・・
      
292魔茶:2007/07/08(日) 00:33:10 ID:UmnhQ0Te
訂正 「終生」ではなく「永遠に」です
もっと長い文書けるようになりたい
293名無しさん@ピンキー:2007/07/08(日) 00:34:03 ID:L+birrHi
GJッス! イヤなんかやっぱこの二人のこの関係は見ていて和みますわwww
294名無しさん@ピンキー:2007/07/08(日) 01:53:14 ID:V6LlF7IA
やっぱりジュウは複雑なマザコンだな。
295名無しさん@ピンキー:2007/07/08(日) 02:02:51 ID:eOZxfzYG
>>291
GJ!!
なごむ〜

>>294
だがそれがイイ!
296名無しさん@ピンキー:2007/07/08(日) 07:25:31 ID:bDMfaWhx
紅アニメ化か〜福岡で放送あるといいな
魔茶さんGJです!!
297名無しさん@ピンキー:2007/07/08(日) 11:06:50 ID:V6LlF7IA
アニメが良かったら、電波の続きが出るかなぁ。
298名無しさん@ピンキー:2007/07/09(月) 18:32:49 ID:UjMl0ksh
斬島「ジュウ君ってさあ、ゲームしないんでしょ?」
柔沢「ああ、ちょっとどうにも好きになれんのでな」
斬島「そんなの偏見だよ!! とりあえずやってみて。本体も貸すから」
柔沢「そうか、わかった。・・・・『スーパーアリオ』?」
斬島「そう!! ジャパーンが世界に誇る最高傑作なんだよ!!」
柔沢「そうか」



斬島「どうだった?」
柔沢「なかなか面白かったぞ。食わず嫌いはいかんな」
斬島「でしょー!! 次はコレ、『見つめて内藤』!!
    これをやれば相手の気持ちを考えられるようになるよ!!」
柔沢「そうか」



斬島「どうだった?」
柔沢「なかなか面白かったぞ」
斬島「次は、ププッ、これ!! 『惚多留』!!
    これで友情とか勉強して!! プフーッ!!」
柔沢「そうか。やってみよう」
斬島「えっ?」



斬島「あのう、そのう、どうだった?」
柔沢「とても面白かったぞ」
堕花「雪姫ーーーーっ!!」
斬島「ごめんよう、雨、ボケのつもりだったんだよう。
    パッケージ見ればつっこまれると思ったんだよう」
柔沢「友情と愛情、紙一重なんだと勉強になった」
堕花「ああ、あの穢れの無いジュウ様が、こんなに俗世にまみれてしまって」
斬島「ごめんよー」
堕花「――――――――――私の手で堕としたかったのに」
斬島「えっ?」





円堂「・・・・やらしい」
299名無しさん@ピンキー:2007/07/09(月) 18:37:34 ID:8c4GrZ7P
ジュウ様純真すぎますw
あと円はもう完全に銀子キャラが板に付いてきたなw
300名無しさん@ピンキー:2007/07/09(月) 18:52:24 ID:6GXetWca
>>298
エロパロ行けw
301名無しさん@ピンキー:2007/07/09(月) 19:03:05 ID:8c4GrZ7P
>>300
落ち着けwwww
302名無しさん@ピンキー:2007/07/09(月) 21:13:35 ID:V3jDbanB
>>300
気持ちはわかるがもちつけwwwwww
303名無しさん@ピンキー:2007/07/09(月) 22:11:33 ID:yXY+SeuL
>>298
まじウケしたGJ!!

>>300
モチツケww
304300:2007/07/09(月) 22:48:37 ID:sMJDiycV
何故俺にこんなにレスが付いてるんだって思ったら…。
名前欄みて今気付いたwwwここエロパロじゃんw
俺テラバカスorz
305名無しさん@ピンキー:2007/07/10(火) 01:50:53 ID:L8q/p+vf
誰か惚多留の元ネタ教えて下さいな(;∇;)
306名無しさん@ピンキー:2007/07/10(火) 07:53:55 ID:HPRMHFIq
スーパーマリオ
みつめてナイト
炎多留
307名無しさん@ピンキー:2007/07/10(火) 08:18:20 ID:EPk6CYsW
何ていうかジュウ様はげんしけんの咲さんみたいなイメージがある
イヤ、オタク嫌いとかそーゆーのじゃなくて
つーかむしろジュウ様は一生懸命なれる物があるのは羨ましいと思っているしな

まぁ何が言いたいかっつーと、いざぷよぷよとか始めても全然出来なくて
何日かやって少し連鎖とかできるようになって
雪姫に対戦しないか?との発言をしたことを開始10分ほどで後悔して少し落ち込む
そしてそれ以来ゲームには触らないみたいなwww
308名無しさん@ピンキー:2007/07/10(火) 12:45:45 ID:L8q/p+vf
>>306
ありがとう(^∀^)ノ

炎・多・留と・・・・・!(°□°;)

(o´∀`o)
309魔茶:2007/07/11(水) 00:10:25 ID:9iwWBEt4
書き手が増えるのを祈って投下
310魔茶:2007/07/11(水) 01:20:49 ID:9iwWBEt4
「ジュウ様、それでははじめましょう」
「おう、すぐに力尽きるなよ」



「ただいま〜」
「あいつまた来てる、・・・うん文句いってやる
 別にあいつに会いたい訳じゃないんだから!」

〜雨の部屋の前〜
「ん、声が聞こえる」

「ジュウ様、もっもぉ限界です」
「しょうがねえなぁ、じゃあ次は俺の上に乗れ」
ガチャ
「あんた、お姉ちゃんに何させようとしてんのおおおおおおお」
「え、何って筋トレ〔腕立て〕だけど」
そこには雨を背中に乗せて腕立てするジュウの姿が。
「まぎらわしいのよ、勘違いしちゃったじゃない」
「何と勘違いしたんだよ、なにと!?」
「ナニっていうか、えと,あの・・・女の子に何を言わせようしてんのよ
 この変態金髪不良男〜」ドゴォォ  タッタッタッタッ
「痛ってぇ、俺が何したっていうんだよ!?」
「いったい、どうしたのかしら光ちゃん?」
311魔茶:2007/07/11(水) 01:33:47 ID:9iwWBEt4
上に乗れ」の次の雨の台詞「はぃ、それでは失礼します」を入れ忘れてました
312名無しさん@ピンキー:2007/07/11(水) 08:46:38 ID:RpbNEdQS
クスリときてしまったw
313名無しさん@ピンキー:2007/07/11(水) 10:49:51 ID:Dnev62LT
どうでもいいけど>>312が「クスリきれてしまったw」に見えた。
314名無しさん@ピンキー:2007/07/12(木) 00:53:52 ID:0tCEGKqD
315名無しさん@ピンキー:2007/07/12(木) 00:57:45 ID:H8SUDT9k
神降臨ですー!
なぁんて素晴らしい絵だ!
これは誰かSSを投下するしかないぞっ!
316名無しさん@ピンキー:2007/07/13(金) 13:17:40 ID:bdajSuJ+
>>314
⊂⌒~⊃。Д。)⊃ うほえあぁあぁ
317名無しさん@ピンキー:2007/07/13(金) 13:36:29 ID:Fk7X1E4F
なんて素敵(*´Д`)♥
318名無しさん@ピンキー:2007/07/13(金) 16:19:00 ID:DhtgJ9mC
ちょっwww ジュウ様が無駄にエロイwwwwww
319271:2007/07/13(金) 19:30:41 ID:T8REGxeh
>>314
GJ!

以下報告
保管庫にアップ用のページ新設
314氏の画像と合わせて過去ログを保管庫にup
過去の画像は保管してたらupします。
320魔茶:2007/07/13(金) 21:45:42 ID:2wgnved+
これは・・・!?
自分の小ネタSSの腕立てジュウ様?
321名無しさん@ピンキー:2007/07/14(土) 09:43:54 ID:PYQTGfzI
神 降 臨 !!
322名無しさん@ピンキー:2007/07/16(月) 08:12:47 ID:gAkACa5K
保守
323魔茶:2007/07/16(月) 11:24:19 ID:CLTMXLzd
とりあえず、プロローグのみ投下
それなりに長いのを書くつもりです
324アルバイタージュウ:2007/07/16(月) 11:47:37 ID:CLTMXLzd
くそ、騙された。
やはり自分は頭が悪いのか。
知り合いだからといって、安易に請け負ったのだから。
だから俺はこうして今、執事喫茶でバイトしている。

『柔沢君、バイトしてみない?』
『いや、別に金に困ってないし・・・』
『えぐり魔の時の借りを返してもらってないけれど』
『わかったよ、で内容は』
『喫茶店で2週間ほど、』
『まあ、それくらいなら』
『これが店までの場所の地図よ』
『用意がいいな、だが俺みたいな不良を紹介していいのか?、円堂』
『大丈夫よ、君の不良ぽっさなんて、金髪と腕っ節くらいだから』

微妙に自分を否定された気分だ。
そして、行ってみたら執事喫茶だった。
「マジか」
325名無しさん@ピンキー:2007/07/16(月) 11:49:45 ID:fo9obElp
326名無しさん@ピンキー:2007/07/16(月) 11:54:51 ID:BFj8CRqn
そういえばジュウ様って生活費どうしてるんだろう

紅香と小遣いと食費の値上げをかけて
交渉という名の喧嘩をする二人

そして据え置きなお小遣い
327名無しさん@ピンキー:2007/07/16(月) 14:21:29 ID:XQKdjpb+
>>326
一般的に1人暮らしで必要な額を、毎月振り込んでるんじゃない?紅香はジュウに対して血と硝煙には無縁な、限りなく平凡な人生を歩んで欲しいだろうから。
328名無しさん@ピンキー:2007/07/16(月) 18:23:15 ID:kLNitkni
雨がぽちぽちとキーボードを打つとあら不思議、
ジュウ様の口座の残高が一桁増えます
329名無しさん@ピンキー:2007/07/17(火) 04:35:19 ID:Ih4IpQ3o
ってゆーかジュウ様が執事か!
似合わなそうでかなり似合いそうだな……
330名無しさん@ピンキー:2007/07/17(火) 07:12:14 ID:vWKvvHk1
最初はグダグダだけど何かあると……みたいな
331名無しさん@ピンキー:2007/07/17(火) 19:16:08 ID:OtBp4pwE
ヒロインの名前はジュウ。そして、かっこいい方の名前は雨。
ごく普通のふたりは、ごく普通に出会い、ごく普通に主従関係になりました。
でも、ただひとつ違っていたのは、ヒロインは・・・・王様だったのです。
332名無しさん@ピンキー:2007/07/17(火) 19:23:55 ID:DXieClP4
>>331
『ヒロイン』が『王』様?
333名無しさん@ピンキー:2007/07/17(火) 21:10:00 ID:IksHveju
>>332
ジュウ様は電波のメインヒロインだから間違ってなくね?
334名無しさん@ピンキー:2007/07/17(火) 21:16:22 ID:Ih4IpQ3o
ヒロインの王様を守る頼もしき三銃士の女達の物語なんだよ
335名無しさん@ピンキー:2007/07/17(火) 22:24:35 ID:DXieClP4
何時の間にヒロインに・・・w
俺が間違っていたのか(o^Д^o)
336名無しさん@ピンキー:2007/07/18(水) 01:30:41 ID:NLxYUWCr
>>326
父親じゃなかったか?
337名無しさん@ピンキー:2007/07/20(金) 22:05:27 ID:7J0UKQUO
338名無しさん@ピンキー:2007/07/21(土) 19:48:28 ID:lPTCRjHn
339名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 07:09:15 ID:cFJ697UF
340名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 10:59:36 ID:ZDZNNLtj
341名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 14:17:25 ID:cFJ697UF










342名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 15:47:09 ID:/USp9AUl
>>341
雨、自重www
343名無しさん@ピンキー:2007/07/24(火) 20:51:49 ID:4CrZZA/B
保守
344名無しさん@ピンキー:2007/07/25(水) 11:32:55 ID:cUwl5zss
過疎ってるな
345名無しさん@ピンキー:2007/07/25(水) 15:06:17 ID:54w50z5m
やはり新刊でないとなぁ・・・・
346名無しさん@ピンキー:2007/07/25(水) 18:52:58 ID:h4UAI/ku
柔沢「もうすぐ一週間か」
夏休みが始まり、ジュウの生活サイクルが変わってきた。その理由は・・・・

堕花姉「ジュウ様、夏期休暇明けには試験があります。そのため課題は
     毎日少しずつこなし休みボケをされないような生活が好ましいと思います。
     よろしければご一緒にどうですか?」

円堂「宿題は7月中に済ませて、テスト対策は残り五日で見直すくらいで良いと思うの。
    残りは空手漬けの毎日ね。柔沢君も一緒にどう?」

斬島「宿題? 残り二日で勝負すれば良いんだよ!! ジュウ君、夏休みは一緒に遊び倒そうよ!!」

堕花妹「えーっと、えーっと、そうだ、お姉ちゃんたちに迷惑かけるなんてもってのほか!!
     夏休みはあたしがあんたの監視をするわ!! だから常にあたしの目の届くところにいなさい!!」


ルートA:雨と毎日勉強した
ルートB:円と空手の組み手をした
ルートC:Ya――――Ha――――!!
ルートD:光に面倒見てもらった
347名無しさん@ピンキー:2007/07/25(水) 19:05:57 ID:ZXqKu5lt
いや、何でもいいので書いちゃってくれると嬉しい
個人的にはCで
348名無しさん@ピンキー:2007/07/25(水) 19:42:19 ID:h4UAI/ku
ルートA
柔沢「ごめんください」
堕花姉「ジュウ様、暑い中ようこそ。私の部屋へどうぞ」

堕花妹「だめだよお姉ちゃん、いきなり部屋に上げるなんて!!
     そんなの、そんなの・・・・


光ちゃん妄想劇場 #600292
柔沢『ここはどんな感じだ?』
堕花姉『あぁ、ジュウ様、切ないです。早く、早くください!!』
柔沢『もういい頃合だな。いくぞ』

〜2時間中略〜

堕花母『あらあら、お疲れ様。麦茶でも飲んで休んでくださいな』
柔沢『ありがとうございます。そうだ、一緒にどうですか?』
堕花母『雨ちゃん、良いのかしら?』
堕花姉『かまいません。これもまた"勉強"です』

〜3時間中略〜

堕花姉『はぁ、はぁ、流石に疲れました』
柔沢『そうか? じゃあ少し休んでろ。


    その間俺はそこの隙間から覗いてるのと"勉強"しておくさ』
堕花姉『すみませんジュウ様。さあ光ちゃん、出てらっしゃい・・・・』


                     そんなの、親子姉妹丼になっちゃう!!」

スパーンっと襖を勢いよく開けて飛び出してきた光は、
大きく叫びながら鼻血を撒き散らしてぽてりこ・・・・と倒れた。
その顔はだらしなく緩みきっていた。



柔沢「雨、ここの訳解るか?」
堕花姉「ここはhave to〜をそのまま訳せばいいので『○○しなければならない』で良いのですよ」
柔沢「そうか、じゃあ2番だな」
堕花姉「はい」
二人は一週間前と変わらず光のことを無視して勉強を続けた。
349名無しさん@ピンキー:2007/07/25(水) 20:08:19 ID:h4UAI/ku
ルートB
柔沢『ごめんください』
円堂『いらっしゃい。これが胴着よ。早速着替えてちょうだい』
柔沢『わかった。それはそうと他の人にも挨拶はしておいたほうがいいんじゃないのか?』
円堂『ごめんなさい、言うのが遅れてたわ。他の者は食中毒で入院しているの。
    元気なのは私と昨日から入門した光ちゃんだけなのよ』
柔沢『そうか。なら三人で出来る"特訓"をすれば良いだけさ』
円堂『もう、こんな明るいうちから? まあいいわ。光ちゃんもいいわね』

――――――――最後の円堂さんの言葉は質問ではなく確認でした。




堕花妹「ってなるハズだったんだけどなぁ」

師範「ちぇえい!!」
総員「「「「「「「「ちぇえい!!」」」」」」」」
光はアイアンストマックを甘く見ていた。


円堂「柔沢君は受けや流しを強化すれば怪我を減らせると思うの」
柔沢「そうか。よろしく頼む」
大勢の門下生に囲まれての訓練の中、端のほうでマンツーマンで訓練する二人を見て
光は渋い顔を作った。マンツーマンの理由は、
「だって彼だけが素人だもの。ある程度上位の者が教えないとね」という事らしい。
師範を除き、円より強いものは皆入院してしまった。それは自分が原因だ。
策士、策に溺れる――――光は泣きたくなった。
350名無しさん@ピンキー:2007/07/25(水) 20:27:55 ID:h4UAI/ku
斬島「ジュウ君、お祭りに行く準備しようよ!!」

堕花妹「だめだよ雪姫ちゃん、お祭りだなんて!!
     そんなの、そんなの・・・・



光ちゃん妄想劇場 #600292 Ver.2
斬島『ジャーン、どうかな、この浴衣!! 似合う?』
柔沢『ああ、可愛いぞ。・・・・雪姫、自分できれいに着付け出来るか?』
斬島『うん。あー、もしかして、ジュウ君我慢出来なくなったの?』
柔沢『ああ、すまんな。お前の姿を見たら抑えられなくなりそうなんだ』
斬島『んふふー、嬉しい事言ってくれるじゃないのー♥
    ・・・・今はまだ我慢出来てる様だけど、これを見ても冷静でいられるかなー!?』
堕花妹『あの、その、えと、どうかな?』
柔沢『・・・・光ーーーーーーーーっ!!』
堕花妹『あん♥』

                   そんなの、メチャメチャにされちゃう!!」



斬島「ジュウ君、28番のトーンとホワイト取って」
柔沢「ああ。・・・・なあ雪姫、最近の祭って自分で漫画書いて売るもんなのか?」
斬島「そうだよー。楽しみにしてる人達が日本中から集まってくるんだよ」
柔沢「日本中からか、それは凄いな」
斬島「いっぱい楽しもうね!!」
柔沢「ああ、そうだな」
緩みきった顔でぽてりこ・・・・と倒れた光を脇に寄せると、
雪姫とジュウはがりがりと漫画を描き続けた。


ジュウが"祭"の正体に気付くまで、あと三週間――――――――
351名無しさん@ピンキー:2007/07/25(水) 20:41:51 ID:h4UAI/ku
いったいなんでこんなことになったんだろう。

光に電話で呼び出されたところは廃棄されたテナントビルの一室だった。
「ここは浮浪者も暴走族も寄ってこないの」
部屋に入ると扉が閉まり、顔の下半分を奇妙な形のマスクで覆った光が
扉を閉めてそう言った。

「だから、ずっと、誰にも、邪魔、されないの」
そこまで聞いたら急に体から力が抜けて崩れるように蹲ってしまった。


「ずっと、ずっと、一緒。

. お姉ちゃんにも、円さんにも、雪姫ちゃんにも、誰にも、誰にも邪魔させない。
. ずっと、二人だけ。他には、何にも、だあれも、要らない」


三日前に円堂の悲鳴が聞こえた気がした。
一昨日は雨の声が聞こえた気がした。
さっきは雪ひ
「駄ー目。他の事考えちゃ、駄目」


ああ、もう、どうでも、いい。この匂いと、この身体さえあれば、もうどうでもいいか。


――――――――新しい蝋燭に火を灯すと、光はジュウの上で動き続けた。


                           彼が、自分しか見えなくなるように――――――――
352名無しさん@ピンキー:2007/07/25(水) 21:31:40 ID:cUwl5zss
結局どのルートも光ルートっぽいw
後、妄想劇場の回数が一気に増えてる上にヤンデレ度も上昇ww
353名無しさん@ピンキー:2007/07/25(水) 22:07:17 ID:O7WJHsbl
>>346
この光スキ〜めw 大変美味しゅうございましたw
セリフ頭の名前は「雨」と「光」で良いのでは?
354名無しさん@ピンキー:2007/07/25(水) 22:17:43 ID:72rcGfwI
つーかジュウ様純真すぎwww 祭りのアレとかは気づいて!
355名無しさん@ピンキー:2007/07/25(水) 23:15:35 ID:54w50z5m
GJ!!
光ちゃん妄想劇場大好きだわw
356名無しさん@ピンキー:2007/07/26(木) 03:27:28 ID:F8xp2G1Q
一週間で50万回以上妄想ww
さすが中学生ってところかw
祭りに連れてかれたジュウさまの反応が気になるw
357名無しさん@ピンキー:2007/07/26(木) 10:18:38 ID:JKIoTDrD
あれか!!光ルートの中での3つのルートか!!wやっぱり電波はみんなヤンデレが似合うw
358魔茶:2007/07/26(木) 21:43:37 ID:ZuoHWST0
久しぶりに投下
359名無しさん@ピンキー:2007/07/26(木) 21:59:58 ID:mQUUXW5s
何でageんの?
360アルバイタージュウ:2007/07/26(木) 22:46:56 ID:ZuoHWST0
帰りてぇーとジュウは思ったが、約束した以上はやらねえとな、と考えながら
扉をくぐった。
「すいません。円堂円さんに頼まれてきたんですが・・・」
「あぁ。君が柔沢君かい、円堂さんからきいてるよ」
出てきたのは中肉中背の中性的な美人だった
「僕は店長の浦之蒸峰二です。よろしく!」
「・・・よろしくお願いします。」
「君には接客をお願いするよ。とりあえずこの服をきてきてくれ」
ジュウは執事服を渡された。
執事服を持って、ジュウは案内された控え室で服を着替え始めた。
円堂の奴め、後で覚えてやがれ。
そう思いながらジュウは働き始めた。


四時間後
「今日は、これくらいでいいよ。明日から平日3時間、土日は5時間で
 お願いするよ。」
「はい、わかりました。それじゃあ失礼します。」

「いやぁー、初々しくて母性本能くすぐるキャラだな〜?
 敬語も少しできてないのが、またいい!」


次の日の学校の放課後

「雨、俺は今日から2週間ほど用事があって、放課後は一緒に帰れない」
「はい、わかりました。」
雨の顔が寂しそうに見えたので
「用事がすんだら、どこか遊びにつれってやるよ」
「はい、ありがとうございます!!」
そしてジュウはバイトに向かった。

続く
361名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 02:31:54 ID:5gHMMzNm
>>360
続きを楽しみにしてます
362名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 06:01:21 ID:UsdG+wVI
>>360
続きを〜
363名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 01:02:25 ID:XnzUlj6T
選挙権を得る年齢になったとき電波や紅のキャラたちはきちんと参加するのだろうか?
364名無しさん@ピンキー:2007/07/29(日) 01:05:02 ID:WCOTYayA
>>363
名前欄がすでにN即+

参加はするだろう
でも、時を待って雨たちが新党を作ります
365名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 14:06:14 ID:FyDZjzV/
保守
366名無しさん@ピンキー:2007/08/01(水) 04:56:39 ID:F8RdzhgO
私たちの公約はただ一つ王政復古です
すばらしい主による政治を
367名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 21:53:04 ID:S9o4b+LL
>>366
いや、それは危な過ぎるからw
368名無しさん@ピンキー:2007/08/03(金) 19:03:07 ID:AYZRvcWQ
民主主義人民共和国
369名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 00:07:42 ID:kVWEK6vn
党の名前は「ジュウ様党」?「主党」?
370名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 18:40:07 ID:uIv4GNNx
ジユウ民主党
371名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 22:45:50 ID:xYLWHgK9
ジユウ党に1票!
372名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 12:38:14 ID:QP2M8RFg
保守
373名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 22:06:06 ID:VmqQ8Asf
「や・・・ん・・んぁ、うぅん?」
「ちょっ、ちょっと何してるんですかっ?夕乃さん!」
「ウフフ、朝のお稽古じゃないですかぁ♪」
「あ、朝のお稽古って!何の稽古ですか、何のっ!?」
「ウフフ♪何でしょう?」
「ゆ、夕乃さんっ?それに何ですか、その格好はっ!」
「ウフフ♪殿方の夢の結晶、体操服じゃないですかぁ♪」
「じゃないですかぁって・・・」
「真九郎さんだって、ムラムラするって言いましたよね?」
「い、言いましたけど、それとこれとは話が・・・」
「ウフフ♪真九郎さん♪」
「は、はいっ」
「これは紫ちゃんには、まだ無理なお稽古なんですよ♪」
「なっ、何でそこに紫が出てくるんですかっ!訳が分かりませんよっ」
「ウフフフフフフ♪」
「ゆ、夕乃さん?」
「だって仕方が無いじゃないですかぁ、全部真九郎さんがイケないんですから♪」
「は、話が飛びすぎですよ、しかもどうしてソレが稽古の事に繋がるんですかっ!?」
「繋がる≠セなんて、真九郎さんもやっぱりソノ気なんですね♪ウフフ♪」
「あ〜、夕乃さん?」
「さっ、続きをしましょうか真九郎さん♪」
「夕乃さん、話を聞いてます?」「エイッ♪」
真九郎は離れようとしたが、無理だった。真九郎より細身でも、女性でも、彼女は師匠格。弟子の動きなど、簡単に封じてしまう・・・「って、何をするんですか〜!」「ウフフ♪何でしょう♪」
「もう、嫌ぁ〜〜〜〜〜〜!」
374名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 22:14:57 ID:VmqQ8Asf
ウフフ♪ヤッちゃった♪
あ〜漫画が楽しみだ〜。
375名無しさん@ピンキー:2007/08/08(水) 13:26:37 ID:nymXqCFg
最後の数行は気にしないぞw
376名無しさん@ピンキー:2007/08/11(土) 10:32:53 ID:1N/UKdr+
保守
377名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 10:27:07 ID:vl70Zlot
保守
378名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 00:00:40 ID:bkezeEjG
職人様に期待しつつ保守
379名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 17:30:56 ID:1S0oB3Pf
380名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 21:32:43 ID:KhSuF76y
赤マルジャンプ買ってきた。
山本ヤマト氏には期待できると思った。
雑誌買うから本編出してください…

浮上
381名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 23:33:31 ID:L7fdpbIE
このスレが盛り上がるためにも、いいかげん新刊出してくれ・・・・
382名無しさん@ピンキー:2007/08/19(日) 06:07:04 ID:pSHNTByV
ピンポーン
ピンポーンピンポーン
ピンポピンポピンポピンポ
ピポピポピポピポピポピポ
ぴぴぴぴぴぴピピピピピポポポポポポポポポポ
「・・・・こんな朝から何のようだ」
朝から連打されたチャイムの音で叩き起こされたジュウは、不機嫌さを隠しもせずに
玄関のドアを開けた。そこにいたのは
「ジュウ君、何モタモタしてるの? お祭り始まっちゃうよ!!」
ドラムバッグを抱えた雪姫だった。
「・・・・なに?」
「だーかーらー、おーまーつーりっ!! サークル参加だけど、
そろそろ行かないと間に合わなくなっちゃうよ!!」


よく分からないまま雪姫に腕を引かれて走り出すジュウ。





              明日は、どっちだ
383名無しさん@ピンキー:2007/08/19(日) 17:13:29 ID:y56aJEcx
>>382
チャイムの音だけで笑ってしまったw
384名無しさん@ピンキー:2007/08/19(日) 20:08:03 ID:n5IzNn3k
「・・・・疲れた」
家に帰ってきたジュウは、灯りを点ける気力もなくベッドに倒れこんだ

あんな早朝だったにもかかわらず満員のモノレールに乗って着いた先は有明。
いつの間にかカラフルな格好に着替えた雪姫に手を引かれ、
ダンボールの積んであるパイプ机の前に立っていた(鞄の中身は着替えだったらしい)。

放送がかかったと思ったら地鳴りとともに人の波が押し寄せてきた。
先頭に雨と円がいた気がした。


――――――――――――そこから先は思い出せない。

帰りもギュウギュウ詰めのゆりかもめの中で、妙にいきいきとした雪姫が印象に残った。

(もう寝よう)
シャワーを浴びる気力も無い。タオルケットをかぶり寝ようとしたところに



ピンポーン
ピンポーンピンポーン
ピンポピンポピンポピンポ
ピポピポピポピポピポピポ
ピピピピピピピピピピポポポポポポポポポポ

非常に嫌な予感がしたが、このままでは近所迷惑になる。

扉を細く開けると、そこには、両手に派手な紙袋をぶら下げた雪姫が――――

「ジュウ君、戦利品のチェックと冬コミの打ち合わせしよっ!!」















              明日は、どっちだ
385名無しさん@ピンキー:2007/08/20(月) 08:29:41 ID:K8uy4W2r
電波とげんしけんのコラボとか面白そうだな〜いや、俺はヤンデレが見たいんだけどさ。
386名無しさん@ピンキー:2007/08/21(火) 23:32:00 ID:cDZIm+bs
>>384
どっちだ!?
387名無しさん@ピンキー:2007/08/24(金) 00:06:22 ID:+1aDGJ1h
保守
388名無しさん@ピンキー:2007/08/24(金) 00:16:31 ID:OVJ9AxDn
明日はどっち〜だ〜♪
389名無しさん@ピンキー:2007/08/26(日) 09:30:36 ID:hwYhxXey
保守
390名無しさん@ピンキー:2007/08/27(月) 12:11:12 ID:DSIwVD7z
「早くお姉ちゃんの前から消えなさいよ!!」
「お前もたいがいしつこいな」
「このH!! 変態!! 異常性癖!! 絶倫!!」
「ちょっと待て!! 何だそれは!!」
「想像でものを言うな!!」
「お前がな!! ・・・・ったく、普段からどんな想像してるんだ?」
「え? どんなって、それは・・・・



              リピート
光ちゃん妄想劇場 #2 .再生

『駄目っ、そこは違う!!』
『気にすんな。それに知らないのか? こっちでも出来るんだぞ』
『嫌っ、やめて!!』
『そうか、じゃあやめよう』
『・・・・え?』
『どうした、やめてほしかったんじゃないのか?』
『――て下さ―』
『ん? なんだ?』
『・・・・入れて、下さい』
『どうした、はっきり言わないと分からないぞ?』
『あたしの、お尻に、入れてください!!』
『よしよし、よく言えたな。それじゃあ御褒美だ』
『あん♥』





「おい光、鼻血出てるぞ」
391名無しさん@ピンキー:2007/08/27(月) 16:37:31 ID:Fw97TdeZ
畜生、俺の光たん妄想キャラ確定かよw
392名無しさん@ピンキー:2007/08/28(火) 12:11:09 ID:exFQ17Mv
>>391
        _ ,,           /     /   i      ヽ
        /ヽ/          /      /   /|     iヽ
         /`         /    / ./.{./ ,<   i     | ヽ
        、/          |   //  {//    ヽ  |‐, |
        ノ ヽ         i / i |   !/_     ヽ i  ヽ
       _i__            i { | | /~ ヽ、   −゛   〉
         / |           i i | ./ .:.:.:.:      ~ ̄`ヽ /
         ´ ┘           ヽ | {      ´   .:.:.:.:.:.`/ /
        ―|‐           ヽ| ヽ   {~ ―,     / /
         ノ            ヾ/ !> .. ー ´    _/ / /
        ,−、                ,`l ー−,,フ ̄/ //´
         ノ            _, r ≠ ̄/  ~´ {i`< ´
          ・           /i //  / ´ヽ  /    ヽ、
393名無しさん@ピンキー:2007/08/30(木) 12:26:27 ID:m1l7saOj
>>390
光ちゃん妄想劇場素晴らしいなw
394名無しさん@ピンキー:2007/09/02(日) 01:40:27 ID:md2J+Jtb
保守
それは従者の務め
395名無しさん@ピンキー:2007/09/05(水) 08:48:13 ID:RcSaUaj0
保守
396名無しさん@ピンキー:2007/09/06(木) 13:16:02 ID:wRsq6dfb
たまには紅も希望保守
397名無しさん@ピンキー:2007/09/06(木) 20:46:27 ID:NzTokFBv
新刊いつ出るのかな……。
保守
398名無しさん@ピンキー:2007/09/07(金) 01:35:48 ID:Ok2IKm+m
そういえばドラマCD出るけどみんな買う?
399名無しさん@ピンキー:2007/09/07(金) 11:04:28 ID:W1an8EE/
お布施のつもりで
400名無しさん@ピンキー:2007/09/09(日) 22:20:32 ID:jAjoyfKo
ドラマCDだと紫はみゆきちらしいな
401名無しさん@ピンキー:2007/09/09(日) 23:24:26 ID:mrGe3O7X
>>398
kwsk
402名無しさん@ピンキー:2007/09/12(水) 23:59:55 ID:WHxKXAA/
保守
403名無しさん@ピンキー:2007/09/13(木) 01:36:13 ID:h3vRYq1e
赤マルジャンプの紅を読んで、夕乃さんがかぁいすぎると思った。
紅って面白い?
404名無しさん@ピンキー:2007/09/13(木) 08:11:51 ID:lkRCyret
紅よりは、電波的な彼女をオススメする
405名無しさん@ピンキー:2007/09/13(木) 14:44:55 ID:5nmJ27K2
紅読む前に電波を読め
406名無しさん@ピンキー:2007/09/13(木) 15:40:48 ID:h3vRYq1e
>>404-405
dクス。気の向くままに買ってみるよ
407名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 08:12:51 ID:KmkH/fN8
保守
408名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 06:48:48 ID:aZGKZNoZ
ほしゅ
409名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 00:54:40 ID:VsO4Jc5L
ほし
410名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 08:44:31 ID:PH9aZ5ok
ひゅうま
411名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 23:24:52 ID:7nltV5tR
ほし
412名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 08:57:35 ID:NIAXizkd
いってつ
413名無しさん@ピンキー:2007/09/26(水) 23:11:17 ID:i1xDOl9r
つ・・・つんでれ
414名無しさん@ピンキー:2007/09/27(木) 19:51:11 ID:wUhqE1AK
れ…れず
415名無しさん@ピンキー:2007/09/27(木) 20:17:38 ID:n2jFi8vI
ず……ずこっく
416名無しさん@ピンキー:2007/09/27(木) 22:27:29 ID:B5KJM1aB
く…くりとりす
417名無しさん@ピンキー:2007/09/28(金) 06:51:07 ID:TGpwujyJ
す…すまた
418名無しさん@ピンキー:2007/09/28(金) 17:38:54 ID:8ME0fVdt
た・・・たわばっ
419名無しさん@ピンキー:2007/09/29(土) 04:55:21 ID:b62f7+1K
つ・・・つんでれんさいまだかぁああああああ
420名無しさん@ピンキー:2007/09/30(日) 00:20:58 ID:g4DXSQB2
あ・・・雨お姉ちゃんと雪姫先輩がケダモノに〜
http://imepita.jp/20070930/008430
最近はコー◯◯アスも面白いw
421名無しさん@ピンキー:2007/09/30(日) 00:45:39 ID:zKb14hMZ
後ろの腹黒そうな男前はどこのどいつですか光ちゃんww
422名無しさん@ピンキー:2007/09/30(日) 10:14:26 ID:IcewStrW
>>420
GJ
423名無しさん@ピンキー:2007/09/30(日) 14:24:28 ID:o7auxeo8
ちょい少女マンガチックな感じの絵柄が光の妄想っぽくていい感じッスwww
GJ!
424名無しさん@ピンキー:2007/10/01(月) 22:30:51 ID:+DHPCRCC
みれなかった・・・orz
425名無しさん@ピンキー:2007/10/03(水) 06:47:23 ID:K1ZwoSIl
>>424
ドンマイ
426名無しさん@ピンキー:2007/10/05(金) 06:46:07 ID:/+VqEg8v
保守
427名無しさん@ピンキー:2007/10/07(日) 18:06:01 ID:s6yRAfom
428名無しさん@ピンキー:2007/10/08(月) 08:59:32 ID:YB7gzlK6

429名無しさん@ピンキー:2007/10/10(水) 00:44:55 ID:Xb2UbXe6
電波的Daysな保守

http://p.pita.st/?hfk4stuw
430名無しさん@ピンキー:2007/10/10(水) 01:16:34 ID:79bCxLdK
つまり○んでいるわけでつね (*゚∀゚)=3ムッハー

ところで01が無くて03が2つあるのが不思議
431名無しさん@ピンキー:2007/10/10(水) 06:28:39 ID:ZrOf8wyA
GJ
432名無しさん@ピンキー:2007/10/10(水) 11:23:40 ID:dn8pnkG8
見れなんだ(´・ω・`)
433名無しさん@ピンキー:2007/10/10(水) 16:01:03 ID:QC/YGNRl
流れるの早ぇよ……
434伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/10/10(水) 17:27:02 ID:vx7BsAKv
「ふぅ……っん」
 紫が僅かに声を漏らした事で、真九郎は動きを止めた。
「もしかして……痛かったか?」
 真九郎の問いに、紫は微かに首を横に揺らすだけして返した。視線が続けろ、と命じている。
「分かった……」
 無言の指示に簡潔に応え、真九郎は手の動きを再開させた。
 柔らかいピンク色の粘膜を傷付けないようにと、慎重に動かしていく。
 小刻みに一つ一つ確かめるように表面をなぞる。
 時折くすぐったそうに紫が身じろぎをするが、真九郎は一々気にしていたら切りがない、と動きを止める事はしなかった。
 最初にせがんできたのは紫だった。
 そのくせ、やたらと緊張して堅くなっていたが、いざ初めてしばらくするとその緊張も解けたようですっかり身を真九郎に任せていた。
 風呂上がりの肢体をパジャマに包んだ紫の髪は未だに半渇きで、なんとなくそれを一房とって指先で弄んでみた。
 しっとりと湿った髪は、少女特有の細やかさで、真九郎の手のひらを滑っていった。
 それを見届けると、真九郎はすぐに意識を戻し、動きを再開する。
 丹念に先端を滑らせ、たまに微かに力を込めてなぞる。
 しかし、真九郎も慣れているわけではない。どうしても敏感な部分に、余分な力を込めて触れてしまうらしく、その度に紫は眉根をしかめる。
「ごめんな。すぐ終わらせるから」
 真九郎の気遣いが嬉しいのか、紫は目元だけで笑みを象ってみせた。
 言葉を偽りにしないために若干動きを早める。ただ、それで動きが雑にならないように意識を集中させる。
 幾分、生理反応で分泌される体液で潤んだそこを傷めないように、振動するかのような微細な動きで真九郎は事を進めていく。
「もうすぐ、終わらせるから」
 これで最後と、真九郎は仕上げにかかる。
 紫の内側を隅から隅まで撫で上げる。

 ――それが終わりだった。


「ふはっ」
「はい、これでおしまい。うがいしておいで」
「うむ。ありがとう真九郎」
 真九郎の膝から頭を上げ、にっこりと笑ってから紫は洗面所へと駆けていった。
「――はぁ〜、緊張した〜」
 溜め息を漏らす真九郎の手には、小児用の小さな小さな――歯ブラシ。
 紫が、真九郎に歯を磨いて欲しいと言ったので安請け合いしたものの、これがなかなかに精神を削る作業だった。
 桃色の歯茎は柔らかく、下手をすれば血が滲んでしまう。
 なにより敏感な部分なので痛がらせかねない。
435伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/10/10(水) 17:28:31 ID:vx7BsAKv
 故に、紫のまだ生え変わらない小振り乳歯だけを磨かなくてはならないのだ。
「ま、紫は喜んでくれたし良いか」
 そう呟くと同時、うがいを終えた紫が戻ってきた。
 手には――真九郎の歯ブラシ。

「さあ! 次は真九郎が磨かれる番だ!」


 歯茎がズタボロにされ、真九郎はその日よく眠れなかったという。




以上歯磨きネタ。
人に歯を磨かれるとやたら気持ち良いと感じるのは僕だけですか?
436名無しさん@ピンキー:2007/10/10(水) 17:33:13 ID:JaX3N7wI
>>435
437名無しさん@ピンキー:2007/10/11(木) 00:13:11 ID:TL/AZAia
なんというGJ
保守してきてよかったと感じる瞬間だな
438名無しさん@ピンキー:2007/10/11(木) 02:29:14 ID:tb0YjMsC
>>435
伊南屋さん、待ってたよ!
( チッ、エロ無しか)とは思ってませんw GJです。
439名無しさん@ピンキー:2007/10/11(木) 06:46:31 ID:4k1hSdw7
居南屋さん、おかえりなさい

って言っていいのか?作品が投下されると保守し続けた甲斐があるよ
440名無しさん@ピンキー:2007/10/11(木) 10:57:46 ID:WFja1lVl
電波も紅も新刊きぼぬ
出ないかなぁ
441名無しさん@ピンキー:2007/10/12(金) 23:54:14 ID:3QadxnhV
GJ伊南屋さん!
・・・ところでもしかしてあなた、最近「いやぁ どろどろしたの入ってくるぅぅぅ」スレにおられやしません?
442名無しさん@ピンキー:2007/10/16(火) 13:56:13 ID:kpXaB/if
新刊待ちあげ
443名無しさん@ピンキー:2007/10/18(木) 18:25:47 ID:RVzeJD+6
「真九朗より、強ーい!!」な展開
444名無しさん@ピンキー:2007/10/18(木) 23:18:13 ID:0MsM3mie
紫「・・・・」
夕乃「やっぱり誰もいないじゃないですか・・・」
って展開にな〜れ!
445名無しさん@ピンキー:2007/10/19(金) 01:29:55 ID:ihZDF1e+
紫『わ、私は真九郎を待ち続ける!!たとえこのスレが廃墟となっても……』
446名無しさん@ピンキー:2007/10/19(金) 13:59:57 ID:BI9F3YJc
ジュウ様・・・
447名無しさん@ピンキー:2007/10/20(土) 17:46:42 ID:D/bQfYSs
発売延期……
448名無しさん@ピンキー:2007/10/23(火) 21:08:21 ID:3r2X9ih8
また延期か!
449名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 07:25:57 ID:R5ZVOsJY
と言うか出る予定だったのか!
450名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 18:51:31 ID:GlPBTD9I
つか、電波を出して〜
451名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 20:23:12 ID:FTXkok+l
つか、どっちでもいいから出して〜
452名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 20:30:20 ID:ohSXrnoX
やっぱ紅より電波出してほしいな。
453名無しさん@ピンキー:2007/10/28(日) 14:56:27 ID:LjD8VM5Y
ジャンプに小冊子が付いてきたぞ
中身は赤○でセブン限定企画だが
454名無しさん@ピンキー:2007/11/01(木) 06:45:51 ID:Y6XqI2Li
保守
455名無しさん@ピンキー:2007/11/01(木) 17:04:10 ID:dBm4dpWF
待ちあげ
456名無しさん@ピンキー:2007/11/01(木) 20:33:02 ID:MTHnlG3U
アニメ絵\(^o^)/オワタ
457名無しさん@ピンキー:2007/11/01(木) 20:33:28 ID:3Pht4O/m
あれは抜ける
458名無しさん@ピンキー:2007/11/02(金) 17:29:48 ID:Vdj86E71






紅は戯言シリーズのパクリ






459名無しさん@ピンキー:2007/11/02(金) 18:15:24 ID:fT+JSjxT
アニメのキャラデザやばいだろ
460名無しさん@ピンキー:2007/11/02(金) 22:01:56 ID:cR5BCbMk
アニメのキャラデザ誰か切実にうp頼む
461名無しさん@ピンキー:2007/11/03(土) 00:22:18 ID:DWPwkblS
462名無しさん@ピンキー:2007/11/03(土) 01:15:09 ID:cgY+D4l5
>>461
thx
これはないだろ…
463名無しさん@ピンキー:2007/11/03(土) 02:24:18 ID:6QXHetMQ
…うわぁ
マジやばいわ
コレは名作劇場系のキャラデザだ
464名無しさん@ピンキー:2007/11/03(土) 16:33:27 ID:z7AMRq7D
これはない
465名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 13:40:51 ID:TSJ8WlmN
原型を留めてないような気がするのは俺だけ?
466名無しさん@ピンキー:2007/11/05(月) 14:49:38 ID:1wAxhCFg
答えるまでもない
467名無しさん@ピンキー:2007/11/05(月) 19:35:05 ID:CCz7b79p
可愛いじゃん
ぜんぜん違うけど
468名無しさん@ピンキー:2007/11/06(火) 03:49:12 ID:PIbGA5Z0
ジャンプSQ読んだけど、マンガの方はガチじゃね?

まあ後の展開次第だけどさ。
469名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 06:48:59 ID:T0GCurpm
保守
470名無しさん@ピンキー:2007/11/11(日) 03:35:38 ID:Tr+nKSkh
保守
471名無しさん@ピンキー:2007/11/15(木) 06:56:28 ID:A0mitdQ6
保守
472名無しさん@ピンキー:2007/11/17(土) 14:44:28 ID:hWb6/Kdl
保守
473名無しさん@ピンキー:2007/11/18(日) 07:12:35 ID:P1rWRDtD
さて、お前らに問おう。
お前の嫁は誰だ?(電波編)

@ジュウ
A雨
B光
C雪姫
D円
E紅香
F美夜
G香奈子
H鏡味桜
I一子
474名無しさん@ピンキー:2007/11/18(日) 10:37:38 ID:Qy52+AOr
@からDまで。
475名無しさん@ピンキー:2007/11/18(日) 12:45:13 ID:NjECoX7q
雨だな
476名無しさん@ピンキー:2007/11/18(日) 13:05:15 ID:gFlEplzN
もちろん雨だろ。
…と言いたいところだが、雨はジュウ様の奴隷なので、
俺は香奈子を貰っていきますね。

ところで、生徒会長がいないのはなぜなんだぜ?
477名無しさん@ピンキー:2007/11/18(日) 17:39:23 ID:8wdo7C+D
ではこの隙に光はもらっていきますね。
478名無しさん@ピンキー:2007/11/18(日) 17:40:48 ID:tJnDoyxW
@→俺の主
A→俺の先輩
B→俺の妹
C→俺の嫁
こんなとこか
479473:2007/11/19(月) 00:52:37 ID:IjEaVcu4
>>476
ケータイからでマル11がなかったからで、白石会長はあんまり熱狂的なファンがいないのかと思っていたので除外しました。



個人的な予想では鏡味が来るかなと思ってたけど予想外れたみたいですね……主要キャラ恐るべし
480名無しさん@ピンキー:2007/11/19(月) 12:06:02 ID:CBDUPiy0
>>479
俺は桜が好きだぞ。
ぶるぶると震えてゴーゴー♪
くすくすと笑ってゴーゴー♪
481名無しさん@ピンキー:2007/11/19(月) 15:36:37 ID:J+ju/RLR
>>480
型月厨は帰りなさい。
482名無しさん@ピンキー:2007/11/19(月) 17:16:12 ID:T5hrSmYa
型月厨っていうほどなのか?
483名無しさん@ピンキー:2007/11/19(月) 18:42:47 ID:VAbSefwf
ピンポーン
ピンポーンピンポーン
ピンポピンポピンポピンポ
ピポピポピポピポピポピポ
ピピピピピピピピピピポポポポポポポポポポ

「何の用だ」
前にも聞いたことのある呼鈴連打を止めるため、ジュウは急いで玄関の戸を開けた。
そこにいたのは案の定
「こんばんはジュウ君、泊めて!!」雪姫だった。
しかし全く予想外のことを言われた気がする。
「何だって?」
「しばらくジュウ君のところに宿泊させて欲しいの」
「何で」
「あたしの住んでるマンションの横の電柱に車が突っ込んだみたいで、
. 停電してるの。復旧には暫くかかるみたいなんだ」
「そうか、それなら仕方な」


「駄目駄目駄目駄目、絶っ対、駄目ーーーーっ!!」
納得し、それならとジュウが招きいれようとしたときに、
下駄箱の戸がスパーンッと開いた。そこから這い出てきたのは
「そんなの、そんなの・・・・

 光ちゃん妄想劇場 #∞(ヨコハチ)無限大
『もちろん家賃を払うよ!! カ・ラ・ダ・で・ね♥』
『ああ、それは楽しみだ』

        そんなの、一昔前の押しかけ物の漫画になっちゃう!!」

「そっちがお袋の部屋だ。適当に使ってくれ」
「ラジャー。一人寝が寂しくなったらいつでも来て良いよ。あたしも行くから」
「行かん。来んな」
最近少しおかしくなってきた光をそのままに、二人は奥に入っていった。
484名無しさん@ピンキー:2007/11/19(月) 19:01:05 ID:CBDUPiy0
>>483
キャ〜光たんGJw
けど雪姫はアパート暮らしでつ。
485名無しさん@ピンキー:2007/11/19(月) 19:31:26 ID:T5hrSmYa
>>483
つーか光がそこで何をしていたかが気になるwww
486名無しさん@ピンキー:2007/11/22(木) 17:42:32 ID:NQ/koqFb
三巻発売保守
487名無しさん@ピンキー:2007/11/23(金) 01:56:02 ID:ftTqWguc
保守
488名無しさん@ピンキー:2007/11/23(金) 20:19:52 ID:ra29S4VQ
新刊読んで、ちっちゃいジュウ様の枕元にプレゼントをこっそり置いていく紅香さんが読みたくなった。
ちなみに一緒にいるのはトナカイの格好をさせられた犬の人。
489新刊発売記念(夕乃編 1/3):2007/11/24(土) 06:18:11 ID:lx/GpHDU
 一気に引き寄せられて、あらがう暇もなかった。気づいたときには、固く抱きしめられていた。外見は細いくせに鋼のように逞しい腕と、引き締まった胸板の感触が、衣服ごしであるにもかかわらず、生々しく伝わってくる。
「は、あ」
 喘ぐように声を上げるのが、精一杯だった。自分の身に起こっていることが、信じられなかった。こんな。こんな。崩月夕乃ともあろう者が。
「夕乃さん」
 聞き慣れた優しい声に耳元で囁かれて、体からいっさいの力が抜けた。おののきながら、全てを相手に委ねて、目を閉じる。
「夕乃さんがいれば他には何もいらないよ」
 世界がとろけた。とろけて、暗転して。
 そして、崩月夕乃は再び目を見開いた。
 ひとりきりで。相手のぬくもりも失せて。見慣れた天井を見上げながら。
 夢。
 なんて夢。
「ふふ」
 思わず、笑いが漏れる。あまりに幸せすぎて。あまりに滑稽すぎて。
「わたしもです。真九郎さん」
 せめてもの呟きが、やっぱりむなしく虚空に散じてしまうのを見届けてから、夕乃は自分の体の異変に気づいた。半ばまさかと思いながら、股間に右手を入れてみる。抜き出した人差し指と中指の間には、きらきらと光る粘液の橋がかかっていた。
(わたし)
 恥ずかしさに耳まで赤くなりながら、再び秘所に指を舞い戻らせる衝動に、夕乃は勝てなかった。そうすることだけでかろうじて、さっきの夢を、確かなものとして自分の体に刻み込めるように思えた。
(ああ)
 濡れて冷たくなったショーツの中に指を滑らせるだけで、夕乃はきれいな顎をわずかにのけぞらせた。真九郎を想って自分を慰めるのは初めてではないが、今日はいつにもまして自分の体が敏感になっているのが分かる。
(しん、くろう、さん)
 右手の動きがつい激しくなってしまうのを何とか堪えつつ、左手もパジャマの中に差し入れ、ブラジャーの中に這わせた。
(んんっ)
 固くなった乳首を指先でもてあそびながら、脳裏に想い人の顔を描く。夕乃の想像の中で、その少年は言った。
『夕乃さん。こんなになってる』
(やあっ)
 夕乃は枕の上で首を左右に打ち振った。
(だって。だって。真九郎さんっ)
『ほら、ここも』
 指が秘裂を押し広げ、肉芽をなぶる。背中が反り返った。
「あんっ。あっ」
『そんな声出したら、聞こえちゃうよ』
(やっ)
 夕乃は眉根を寄せながら、それでも歯を食いしばった。乳首が優しくさすられ、乳房が激しく揉みしだかれ、クリトリスが柔らかく揉み潰され、蜜壺の中が荒々しくかき回される。間断なく与えられる快感に、必死に耐えた。
『すごいよ。夕乃さん』
(あんっ。いじめ、ちゃ、やあっ。あうっ。あっ)
『そんなこと、しないよ』
 少年はあくまでも笑顔で、しかし容赦はしてくれない。夕乃の体の全てを知り尽くした上で、じんわりと着実に絶頂へと追いつめてゆく。
490新刊発売記念(夕乃編 2/3):2007/11/24(土) 06:21:07 ID:lx/GpHDU
(真九郎さんっ。お、お願いっ)
 何を頼んでいるのか、夕乃の理性はすでに白濁してしまっていたが、少年は夕乃の望みを知っていた。
『俺、夕乃さんのこと好きだよ』
 それは、少年が実際に口にした言葉。夕乃の記憶の中でいつでも鮮明によみがえる、とても大切な宝物。
(わ。わたし。わたし、もっ)
 少年と出会ってから八年。最初は弟のように思っていた相手に、どうしようもなく魅了されてしまっていることに気づいたのは、いつごろだったろう。
 暖かな家族の愛情に育まれた、優しさと素直さ、気弱さと幼さ。
 深い絶望のゆえに、自分など無価値だと思いこんでいる、危うさと脆さ。
 それでも、あまりに過酷な世界になんとか抗おうと足掻く、意志と願い。
 その全てが愛おしい。あまりに愛おしすぎて、怖いくらいだった。
 物心がついて以来、自分には人並みな幸せなど無理だ、と思っていた。
 <崩月>の血。人殺しの血。暴力と破壊を渇望する血。
 その血を継ぐ身とあっては、人に愛される資格など、生まれつきありはしない。たしかに母は父を得たが、それは万に一つの奇蹟のようなもので、自分にもそんな幸運が訪れるとは、あまり思えなかった。
 とはいえ、それでも諦めきれず、せめてものこと、他人から好意くらいは持ってもらえる存在になろうと努めた。容儀ふるまいに気を配り、人のためになることを心がけ、明るくしっかりした娘さん、と評判になった。ただ、その裏ではいつも、諦めと怯えをかみ殺していた。
 だが、真九郎に出会ってはじめて、本当の答えを知った。必要なのは、人に愛されるのではなく、人を愛することだった。
 真九郎を想うこと。真九郎を守ること。真九郎を導くこと。真九郎と共に生きてゆくこと。それこそが、崩月夕乃がこの世に生を享けた理由だった。迷いも不安も、全ては消え失せた。
『夕乃さんのこと好きだよ』
 ふたたび響く、少年の優しい声。暖かな笑顔。
(も、もう。わ、た、し。しん、くろう、さん)
 もはや、何も分からなかった。ただ、荒々しい呼吸と動きのなかにいた。きつく閉じた瞼の裏で、光が散った。
(す、き)
 全てが真っ白だった。自分の体が硬直し、それからがくがくと震える感覚が、とても遠かった。
(あ、あ)
 指の動きは、それでも止まらない。休む間もなく夕乃を次の高みへと押し上げる。そして次。またしても。
(ゆ、ゆるし、て。も、もう。わた、し)
 それが何度繰り返されたのか、夕乃には分からない。かつてない極みに達して身も心もばらばらになってから、ようやくにして解放されたとき、少年がもう一度、好きだよ、と言ってくれたような気がした。夕乃はその言葉の残響の中で、ゆるやかに奈落へと滑り落ちていった。
491新刊発売記念(夕乃編 3/3):2007/11/24(土) 06:26:16 ID:lx/GpHDU
 ゆっくりと感覚が戻ってくる。弓なりになっていた背中が緩んで布団の上に落ち、不足気味の酸素を吸い込み、全身の力が抜けていく。
(真九郎さん。わたし)
 自己嫌悪はない。いつかは、想像ではなく現実で、真九郎とこうなるはずだから。それは夕乃にとっては、ごくごく自然ななりゆきだった。
 夕乃にとっては。
(でも)
 夕乃は唇を噛んだ。あれほど鮮明だった夢の記憶が、快感とともに否応なく薄れてゆくというのに、なす術もなかったからだった。
 そう。真九郎は、遠い。触れた、と思った瞬間に、そこには居ない。夕乃がいくらあからさまに好意をぶつけても、そして、
真九郎も夕乃に対して人並み以上に好意を持ってくれていることは明らかなのに、真九郎との距離は、肝腎なところで一向に縮まらない。
 夕乃には解る。真九郎は、昔の夕乃と同じだ。自分が人から愛されることなどありえないと、思っている。もし他人から好かれていると感じても、
そんなものは錯覚か、でなければかりそめのものにすぎない、と。そんなものに期待したり執着したりしてはいけないのだ、と。
 夕乃は、ため息をついた。
 ただ、そんな真九郎も、最近はずいぶん変わってきた。理由は、分かっている。
 九鳳院紫。あの少女を守ると決めたとき、生来の優しさと、修羅場をくぐり抜けてきた毅い意志とが、ようやく真九郎の中でうまくかみ合って処を得たようで、
そんな少年に夕乃はあらためて惚れ直したものだった。他人と向き合うことに、以前ほど躊躇しなくなってきているのも、なかなかによい傾向である。
 とはいえ、つい先日、学校の廊下ですれちがっても挨拶一つしてくれなかったことを思い出してしまって、夕乃は落ち込んだ。
(真九郎さんの、ばか)
 それにクリスマスも近いというのに、まだ何も言ってくれない。こちらは、何十という誘いをことごとく振って、ただ一人からの言葉を一日千秋の思いで待っているというのに。
 一緒に住んでいるうちは、年末年始を共に過ごすのはごく当たり前のことだったが、真九郎が独り暮らしを始めた今となっては、
もうそんなこともないのかもしれない。その可能性に思い当たったとき、夕乃は愕然とした。
 あの無邪気で押しが強くてわがままな九鳳院紫や、厚かましくもくっつき回る根暗な村上銀子あたりと、ひょっとするとすでに何か約束しているのかもしれない。
だから、こちらには何も言ってくれないのかもしれない。
(んもうっ)
 夕乃は勢いよく跳ね起きた。ぐずぐず悩んでいても仕方ない。ここはいつもどおり、こちらから打って出る場面だった。
 なんだかんだいって、真九郎は夕乃には逆らえないのだから。
「ふふふふふ。真九郎さん。待ってなさい」
 表御三家のお嬢様が何だ。長い付き合いの幼馴染みが何だ。そんなものは蹴散らかして、崩月夕乃は紅真九郎と末永く添い遂げるのだ。
 今年は秘密兵器もちゃんと準備した。そろそろ、積年の努力と想いが報われてもよいはずだ。いや、報われさせてみせる。この崩月夕乃が。
 真九郎を捕まえるのには、学校がよいか(会えるのは確実だが周囲の目もあるし時間もとりにくい)、それとも放課後の方がよいか
(会えるかどうかは不確実だが、時間はたっぷり取れる)思案をめぐらせ始めた夕乃は、そこではじめて、人の視線に気付いた。
 扉が、少し開いている。その向こうからこちらを覗き込んでいるのは、
「…ちち散鶴」
「お姉ちゃん。大丈夫?」
「はははい?」
「だって。苦しそうな声がしたし。汗びっしょりだし。ふふふふふ、とか変に笑ったり」
「え。いいいやこれは。そそそそれにあなた、いいいつからそこに」
「お母さん、呼んでくる!」
「え、あ。待っ」
 あわてて手を伸ばしたが、遅かった。人見知りなくせに身内だけのところでは妙に活発な妹は、くるりと身を翻して、ばたばたと階下へ降りていった。
「お母さんお母さん、お姉ちゃんがお兄ちゃんの名前呼びながらふうふう言って、汗びっしょりなの!」「あらあらまあまあ」という会話を遠くに聞きながら、
夕乃は腕を上げた姿勢のままで、布団の上に上体ごと倒れ伏した。
 その後の夕乃の苦労について、多くは語るまい。朝食の間中、冥理の生温い視線に耐えたり、汚れた下着を母親から隠し通して丑三つ時に泣きながらこっそり洗ったり、まあ、そういったことだ。
 それもこれも、みんな誰かさんのせいだった。
「くすん。真九郎さん。許しません。会ったらおしおきです。うふうふうふふふ」
492新刊発売記念(銀子編 1/3):2007/11/24(土) 06:31:14 ID:lx/GpHDU
 後ろ手に、風呂場の戸をぴしゃりと閉めた。盛大かつ乱暴に、頭からかけ湯をかぶった。体ごと放り込むようにして、湯船に身を沈めた。湯が盛大に溢れだして、大きな水音を立てる。
 それだけして、ようやく何とか少し鬱憤が晴れた。
「お父さんのバカっ」
 いくらなんでも、あれはないだろう。娘をからかうのが生き甲斐の一つといっても、度が過ぎている。「おう銀子、風呂空いてんぞ。さっさと入んな」「これから真九郎が来んのよ。後にする」
「シンちゃんかい。まだ来てねえな。それよりガス代がもったいねえ。入らねえなら湯落としちまうぞ」「分かったわよ。さっさと入っちゃうから、真九郎が来たら待たせといてよ」というやりとりの挙げ句に、
真九郎がやって来てもあまり待たせないように慌てて飛び込んだ風呂の中、湯気の向こうで湯船につかっているのが真九郎と知ったときは、心臓が止まるかと思った。などと思い出していると、またぞろ動悸がぶり返してくる。
 そういえば、真九郎の方はいたって冷静だったように思えるのも、癪に障る。
「…バカ」
 いくら小さいころには一緒にお風呂に入ったこともある仲とはいえ、年頃の女の子の裸を目の前にして、もう少し何というか、慌てるとか赤くなるとか、年頃の男の子らしい反応があってしかるべきではないだろうか。
近眼の銀子には、真九郎の表情は今ひとつはっきりしなかったのだが、それでも真九郎の視線は素直で暖かくて、些かのいやらしさも含んでいなかった。銀子の肌が、それだけは確実に覚えている。いかにも真九郎らしくて、好ましいと思う。
 とはいえ、それはそれで、非常に腹立たしくもあるのだが。
 銀子は、湯船の中の自分の体を見下ろした。たしかに、魅力的ではない、かもしれない。やせっぽち。がりがり。特に、崩月先輩あたりと比べると、一部の肉付きに関しては劣等感を覚えざるをえない。精一杯の努力はしているというのに、人生というのは不公平なものだ。
「…そういえば、見たこと、あるのかしら」
 真九郎は八年間も崩月家に住み込んでいた。その間に、もしかすると崩月先輩のも見たことがあるのかもしれない。お淑やかな顔をしているくせに呆れるくらい積極的な、あの女なら、自分から見せることさえあり得る。
「…やだな」
 それで見比べられたとしたら。それで魅力がないと思われたのだとしたら。
 そこまで考えてから、銀子は苦笑した。
「関係ないでしょ。あたしってば」
 自分が真九郎に与えるのは、肉体的魅力などではない。もっと別のものだ。銀子自身がそのように決め、そうなるように努力してきたのだった。だから何をいまさら、くよくよすることがあろうか。理性はそう断じるのだが、
(見られた)
 銀子は、両手で顔に湯をかけた。
(見られた見られた見られた)
 さっきは正直パニくってしまっていて、風呂場を飛び出す時にあらぬところを手で隠すことにすら思い及ばなかった。立ち上がったとき、真九郎の目の前で思いっきり全てを晒してしまったようにも思う。
(あたしって、バカ)
 ずるずると、鼻のあたりまで湯に沈み込む。
 いつだって、そうだ。真九郎に関わることになると、自分は愚かになる。いくら冷静に賢明であろうとしても、叶わない。今だって、あのまま一緒に入っていたら、などと考え始めている自分がいる。
493新刊発売記念(銀子編 2/3):2007/11/24(土) 06:34:41 ID:lx/GpHDU
(真九郎も、いやだとか言わないわよね)
 それには確信があった。気弱で、優しい幼馴染み。銀子の頼みなら、たいがいのことには首を横に振らない。多少はためらったとしても、銀子が堂々と命ずるなら逆らわないはずだ。
(昔みたいに、一緒に湯船に…は、むりか)
 我ながらばかなことを考えているとは思ったが、止まらなかった。
(いや、だったら、あたしが真九郎の上に)
 そうしたら、真九郎は抱っこしてくれるだろうか。首筋に真九郎の息づかいを、背中に真九郎の細身ながら強靱な体を、胴回りに真九郎の優しい手を、感じることができるだろうか。
 銀子は、我知らず浴槽に背中をこすりつけた。真九郎が、ついさっきまで入っていた湯船。なら、この自分なら、真九郎の感触が残っているのを感じ取れるのではないか、
と思った瞬間、体の中を何とも言えない戦慄が走り抜けた。
(あたし…)
 分かっている。真九郎なら、こんなことはしない。分かっているのに、銀子は、自分の手が脇腹から腰、太股をゆっくりとなぞっていくのを止めることができなかった。目を閉じ、
ぼうっとした頭で、自分の掌を真九郎のものだと想像してみる。体の芯からぞくぞくした。
(真九郎…)
 現実の真九郎は、今、同じ屋根の下にいる。その事実が、銀子の想像にいっそう拍車をかけた。
(真九郎。真九郎。真九郎)
 右手が両腿の間に割って入り、さらにその奥に進んだ。すでに勃起した秘核をさぐりあてると、細い指先でなぞり上げる。
「んんっ」
 想像以上の快感に声が漏れ、腰が引けた。浴室内で声が反響し、外まで響いてしまったように思われて、銀子は一旦動きを止めた。誰も呼びかけてこないことを確かめ、唇をかみしめる。声を出すのは我慢しなければ。
今日のこのありさまでは、少し難しいかもしれないが。
 再び、クリトリスを軽くひっかく。
「!」
 眉根をきつく寄せ、口を軽く開き、大きくのけぞった。自分の体とは思えない敏感さだった。声を抑える分、感覚が鋭敏になっているのかもしれない。
(あっ、あうっ、し、しん、くろうっ)
 気弱で臆病で頼りなくて、自分自身以外の人間にはとんでもなく優しくて、己には生きる価値なんてないと思いこんでいる、はかなげな男の子。よりにもよって揉め事処理屋などという、どうみても適いていない仕事まで始めてしまった莫迦な少年を守るのは、
昔っから銀子の役目で、今だってそのつもりだ。崩月の連中など、知ったことか。柔沢紅香など、地獄に堕ちろ。たとえ表御三家と裏十三家の全てを敵に回しても、退いたりはしない。
 そのために、銀子は自分を鎧うことを覚えた。真九郎を守るためには、銀子が冷静で賢くあらねばならない、と思ったから。真九郎への想いに振り回されたり溺れたりすることなく、何が真九郎にとって最善かを見極め、助言し、そして、真九郎に何かあれば、必ず助ける。
何があっても。
 そのために余計なものは、全て切り捨ててきた。学校の友達も。情報屋を始めた時の、父親の心配顔も。将来のささやかな幸せへの望みも。真九郎から好かれたいという気持ちさえも。しばしば聞きたくもない苦言を呈する以上、嫌われたっていい、と覚悟を決めた。
 それなのに。
 真九郎はずるい。思ってもみない時に、欲しくてたまらない言葉をくれる。その全てが、銀子が築き上げたなけなしのガードを紙のようにあっけなく突き通して、心に刺さる。言われて初めて、自分がどんなにその言葉を心の底から欲していたかを、思い知る。
「もし何かトラブルがあったら、俺に言ってくれ。最優先で引き受ける」「タダでいい、銀子なら」と来た。そんな無防備でバカな科白に、どうしようもなく胸が熱くなるのを止められなかった。
「愛してるよ」と電話越しに言われた。その言葉ごと抱きしめられたようで、からだの底から、慄えた。
「おまえが美人だってことは、昔から知ってるよ」と面と向かって言われた。美人かどうかなんてどうでもいいことのはずだったのに、天にも昇る気持ちがした。
「キスしていいか?」と電話口で訊かれた。まざまざと真九郎の息や唇の感触を覚えて、電話を切ってから陶然と立ち尽くした。
494新刊発売記念(銀子編 3/3):2007/11/24(土) 06:35:55 ID:lx/GpHDU
(しん、くろぉ…)
 愛撫の手を休めることなく、薄目を開けて、水中の自分の体を見下ろす。小ぶりな乳房の上で屹立する乳首が、どうしようもなく淫蕩に見えた。自分は、こんなにも真九郎を求めているのか。片手の指先で乳首をいじり出すと、腰の中にずしりと響いた。
(あっ、あんっ、いやっ。やっ)
 浴槽の中で体を反転させて四つん這いに近い恰好になると、縁に手をかけ、声が漏れないようにと、その甲に口を押しつけた。突き出した尻が水面の上に出たのか、腰をうねらせる度に小刻みな水音がする。
(ああ…)
 今、自分はとんでもなくいやらしい姿をしているのに違いない。紅真九郎は、村上銀子のこんなに乱れた姿を、想像したことがあるだろうか。第一の親友の、こんな浅ましい有様を。
 いや。真九郎には知られるまい。気取られてもならない。そうしなければ、銀子が必死で築き上げてきた立ち位置が、失われてしまう。崩月夕乃や、九鳳院紫に対抗するための、唯一のよりどころなのだから。
 少なくとも、今のところは。
 だから。だから、今だけは。思いきり、溺れよう。このあと、水も漏らさぬ冷静さで、少年にとっては悪い知らせを口にできるように。
(んっ、あんっ、しんっ、くろうっ、そこっ、いやっ、あああっ)
 片手だけでは足りなかった。首だけを浴槽の縁にひっかけ、右の指で肉壺の中をかきまわし、左の掌で陰核をこねる。情報屋として見てきたさまざまなポルノ映像の中から、もっとも興奮したシーンを思い出す。
 腰が激しく跳ねるのも、もう気にならない。
(イくイくイくイくイくイくイくっ!)
 全身が硬直し、きつく目を閉じ、口を丸く開ける。
「は…ああああっ」
 やがて大きく息を吐き、体から力が抜けた。その拍子に顎が浴槽の縁から滑り、銀子はみっともなくも湯船の中へ沈んだ。慌てて浮き上がったが、少しお湯を飲んでしまったらしく、
「けほっ…けほっ」
 せき込むうちに、なんとなく笑いと涙がこみ上げてきた。全く、大人っぽく快楽の余韻にひたることもできない。これが素の自分。クールでドライな村上銀子の本当の姿。
 だから、まだ背伸びをしていよう。背伸びが必要なくなるくらい、強くなるまで。いつか、真九郎と何もかもを分かち合えるようになる、その日まで。
 いつになく素直な気分だった。だから、浴槽の縁に後頭部をあずけて天井を見上げながら、こんな科白も呟けた。
「…真九郎。好きよ」
「何か言ったかあ?」
 いきなり脱衣場の向こうから声をかけられて、銀子は文字通り飛び上がった。
「ななななによっ! おおお父さん?」
「いやー、なんかすんげえ音してたぞ。大丈夫か?」
「だだだ大丈夫よっ! 何でもないからっ! あっち行ってっ!」
「そうかあ? それよりシンちゃん、待ってンぞ。お前が呼んだんだろ。あんまり待たせんじゃねえぞ」
 そこで、銀正はわざとらしく声音を低くした。
「女磨くのもたいがいにな。でえじょうぶだって。多少出てるところが足りなくったって、風呂あがりの色っぽさで迫りゃあ、シンちゃんもいちころよ」
「へへへヘンなこと言ってないでっ! ほら、あっち行けっ!」
 わはははは、しかし娘ってのは難しいねえ、と笑いとぼやきを繰り返しながら銀正が去ったのを待って、銀子は大きくため息をついた。
 さあ。この後は、真面目なお仕事の時間だ。銀子がもたらす情報を、真九郎がどう受け取るか。不快な知らせではあろうが、真九郎は知る必要がある。である以上、それを報せるのは、銀子の役目だった。他の誰にも、こればかりは譲れない。
 しかし、だ。その前に。
「女を磨く、か…」
 銀子は、左腕を持ち上げ、右手をその上に滑らせてみた。まあ、あと少しぐらいは待たせても、罰は当たるまい。拝ませてやったものに比べれば、お釣りが来るくらいだ。新しく買ってきたコンディショナーとか入浴剤とか、まだ試してないものもあったし。
 かくして念入りに入浴を終えた銀子が、脱衣場で音符柄のパジャマを前に、これで女ぶりが上がるか下がるか、数分間真剣に悩んだのは、また別の話である。
「…お、やっと上がったか。おうおう、ほんとに妙に色っぺえな」
「そ」
「そっか今日からシンちゃんも俺の息子かあ。しかし、そのパジャマはねえだろう。スケスケのネグリジェとか今度買ってきてごぶぐはあ」
「おとーさんあとでゆっくりおはなししましょあらどうしてうずくまってるのあとずさるのおびえるのいっとくけどにげたらゆるさないわよおとーさん?」
495名無しさん@ピンキー:2007/11/24(土) 07:49:40 ID:lx/GpHDU
投下終了。してから気付いたが、「キスしていいか?」は
お風呂でご対面の後だった。まあ、以前にもそんなことが
あったんじゃないかなカナ? ということで請容赦。
496名無しさん@ピンキー:2007/11/24(土) 10:09:22 ID:CVsGEj4f
GJ!あなたが神か!
497名無しさん@ピンキー:2007/11/24(土) 21:50:36 ID:jRq0dEII
自分でもキャラの心情とか、原作読んで妄想しまくっていたが、
コレは上手いの一言に尽きる。
GJ!
498名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 07:45:04 ID:8cMQPEip
久しぶりに来たら良いモノがgj今回は夕乃さんの挿絵がなかったのが残念だw
499名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 11:59:49 ID:+2EZ0ZWl
GJGJJGJ!!!1

ちょちょちょtyちょおっと新刊買ってくる!
500名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 17:53:24 ID:JgaADG6v
コメントTHX。

新刊呼んだら妄想が止まらず、一気に書いた。
二人とも、いろいろネタはあるのに内面描写が省かれているので、そこを使わせてもらった。
(紫や環・闇絵では、なかなかこうはいかない)
作者としては意図的にそうしているのだろうから、余計なことではあるだろうが。
なんか、作者が作ってくれたパズルを組み立ててる感じもあった。

作者も苦しんでいるのは良く分かるし、大人の事情もいろいろあるだろうが、
赤の他人にこんな妄想をさせるだけのポテンシャルをもったキャラは立っているので、
開き直ってあまり右顧左眄せず、書きたいように書いてくれればなあ…、
などと、無責任なことを勝手に書き散らしてみたり。

今回のについては、その後、早書きの部分を多少手直ししたりしたが、
大筋が変わらないものをすぐに投下というのもウザいだろうから、
ほとぼりが冷めたころに、保守がわりに投下する、かも。
501名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 01:40:04 ID:m8/r+fhd
楽しみにしてる
502名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 10:42:51 ID:Us9UGfZo
GJ
新刊読み終わるまで二巻構成だってことに気付かなかったorz
503名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 14:00:57 ID:nSQ3njwr
栄養ドリンクつよすg
504名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 23:34:45 ID:Idh5NfGp
GJ!!
505名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 20:50:46 ID:2f/8q78+
これはよかった。GJすぎる
真九郎の何気ない一言に対する反応がツボすぐる
506名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 21:07:55 ID:RVyKTpWQ
G☆J
感動した!
507名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 11:54:03 ID:AjkjSMLq
GJ
508名無しさん@ピンキー:2007/12/05(水) 02:46:33 ID:qd5N73JM
紅祭の中、何度目になるか電波を再読。

誰か、紅香さん主役で息子にデレデレ話書いてくれんかなあ…
(勿論、ジュウ様本人にはそのデレっぷりは伝わらないのがお約束で)
509名無しさん@ピンキー:2007/12/05(水) 11:07:12 ID:IqFJfMdI
>>508
それだと一巻ラストのジュウ様が意識不明になった所を、
紅香さん視点でやれば良い具合のデレっぷりが見れそうだw
510名無しさん@ピンキー:2007/12/06(木) 00:33:35 ID:6FQapuNA
むしろ電波二巻の優しいお母さんごっこを内心はドキマギしている紅香さんとか
511名無しさん@ピンキー:2007/12/06(木) 00:45:52 ID:IFCixyn4
先月のジャンプSQみた時は
「紅のアニメ絵?これはねーよw」と思ったけど
今月のジャンプSQにのってるモノクロ絵見た後で
「紅のアニメ絵……アリだな」と思ったヤツはオレだけじゃないはず。

山本絵の特徴的な鼻の描き方を、悪い意味で再現しちゃったもんだから
先月のキモ絵になっちゃったんじゃないかな?
期待はできなくとも、悪いものにはならないと思うんだけど…いや、しかし……
512名無しさん@ピンキー:2007/12/06(木) 00:53:50 ID:uXvedaKY
もしジュウが日記を書いていたらこんな風になってるはず・・・
まぁ、間違いなく書かないだろうけどww


○月○日
朝、学校へ登校途中光に会った。
挨拶をしてみたところ、何故か知らんが「わ、私はただ登校してるだけよ!」などと捲くし立てられた。
俺はただ挨拶をしただけなんだが。それに光の中学はこの近辺ではなかったはず。
特に聞く理由もなかったのでそれで納得しておいた。まぁ、あいつはあいつで色々あるんだろ。
俺が「そうか、邪魔して悪かったな」と言ったら、少し落ち込んだように見えた・・・俺の錯覚だろうけど。
何故だ。俺が何か変なことでもしたんだろうか。女はわからん。

×月×日
今日は円堂に俺がガキの頃に見ていたアニメのDVDを借りた。
この前、雨と雪姫と円堂の会話にその名前が出ていたので、懐かしさから少し口を挟んだら
いつの間にか円堂からDVDを借りて見ることになっていた。俺はちょっとした懐かしさから発言しただけで
大して興味もなかったんだがな。まぁ、見直してみるのも悪くはないかもしれない、と思い結局借りることにした。
「ありがたく借りさせてもらう」と言ったとき、雨と雪姫の顔が微妙に引きつっていたのはなんだったのか。
そして今日、円堂に家に来てもらい、玄関でDVDを受け取り、それで終わりだと思っていた。
だが、その後何故か俺の家で視聴が始まったのはなんでなんだ。
「別にいいじゃない。柔沢くんちのTV大きいんだし。せっかく見るなら迫力があったほうがいいわ」とは円堂の言葉。
なんやかんやで結局、円堂と一緒にアニメ全話見てしまったのは俺の弱さか。
昼過ぎから見始めて、見終わった時は結構な時間になっていたので夕飯食ってくか?と尋ねると円堂は承知した。
「柔沢くんの好みも確認しておきたいしね」と言っていたが、あれはどういう意味だったんだ?未だにわからない

△月△日
今日はせっかくの休日ということで惰眠を貪ろうと思っていたのだが、雪姫からの電話でたたき起こされた。
なにやら買い物に付き合えとのことだった。断ると何度も言ったのだが、しつこく駄々をこねられ、最後は俺が根負けした。
こういうとき、自分は弱くなったのだなと俺は実感させられるのだ。以前の俺ならこうはいかなったはずだ。
待ち合わせ場所に現れた雪姫の格好は、ちょうど円堂に借りたアニメに出てくるヒロインと同じ格好だった。
俺が詰問すると、雪姫は「どう、可愛いかな?」というばかり。俺は正直に「変だ」と言った。
アニメは見たが、そういう感性は俺にはないものだからだ。わざわざアニメの中の服を現実に持ってくる意味がわからない。
すると、雪姫は「うんうん、円にまだ染まってなくてあたしは安心だ〜」などと訳のわからないこと言った。
何で俺が円堂に影響されなきゃならないんだ?
結局買い物の内容は雪姫がいつもしているコスプレの服を選んでほしい、ということだった。
当然、アニメやゲームのコスプレなので俺はわからないぞと雪姫に言ったのだが、「二人っきりでデートだ〜」と言うばかり。
「荷物持ちなら他のやつにやらせろよ。俺じゃなくても他に沢山いるだろ?」と言ったら雪姫は「柔沢くんは相変わらずだね」と笑って、殴られた。
何で俺殴られたんだよ。わかんねえ。
513名無しさん@ピンキー:2007/12/06(木) 01:20:08 ID:Mt0Qctl9
激しくGJ!!
514名無しさん@ピンキー:2007/12/06(木) 08:21:17 ID:1NQ4x97f
GJ!!
なんにも違和感がない…
515名無しさん@ピンキー:2007/12/06(木) 09:47:31 ID:1BYfh6E6
GJGJ。この全てを物陰から見ていた雨の日記も読んでみたい...。
516名無しさん@ピンキー:2007/12/06(木) 10:35:25 ID:dGTIgdJf
弥生さんからの報告でこの日記をチェックした紅香さんが「これはひどい」と頭を抱える様が見える。
517名無しさん@ピンキー:2007/12/07(金) 03:28:35 ID:hf7G0qpu
>>516
で、矯正してやろうと優しいお母さんをやってみるものの
ツッコミをくらって失敗したりして
内心ものすごく恥ずかしいのに強がる紅香ママなんだな!
518>>510に捧ぐ:2007/12/08(土) 02:24:30 ID:tltBfoMC

――ああ、久しぶりだ、こういう感覚は

私は鏡の前に立って、そう呟いた。
今の私の格好は慣れないエプロン姿。この姿を見た息子はどんな反応をするだろう。
照れながらも嬉しそうにしてくれるだろうか、それとも捻くれた表情で嘲笑するだろうか。
息子なら後者に近いだろうな、と確信してはいるが。前者は自分で考えておいてなんだが、ありえない。
しかし、想像すると不安と期待で胸がドキドキする。と、そんなことを考えた自分に苦笑する。
普段は母親らしいことなど全くしていないというのに……いや、だからか。

くるっと一回転してみる。回転でエプロンがふわりと舞い上がった。
改めてエプロンを凝視してみる。フリルのついた可愛らしいエプロン。
自分の私服にはこんな可愛らしいものはない。昔、まだこの家にいたころ買ったものだ。
当時の息子がお母さん、可愛いねと評してくれたのを思い出した。思わず顔がにやけそうになる。
いかんいかん、こんな顔を息子には見せられない。

視線を鏡に戻し、再び鏡に映っている自分の全体を見てみる。
くくっ、と苦笑いしか出てこなかった。まるでメイドかどこぞの新妻ではないか。
しばらくは鏡の前で笑いが止まらなかった。

冷蔵庫には既にお手製の料理が入っている。
昼過ぎには家に帰り、準備を始めていたのだ。急いで『仕事』を片付けられたのは幸い。
メニューはクリームシチューだ。これなら冷蔵庫で冷やしても問題は無い。
冷蔵庫でシチューを発見したときの息子の顔が楽しみだ。
見つけたときは色々言うのだが、結局、ぶつくさ言いながらも食べるのだ、私の息子は。
百パーセントに近い確信があった。なぜならいつもそうだからだ。
たまに帰ってきて料理を作り、それを息子が発見したとき、息子は嬉しさと寂しさが入り混じった複雑な表情をする。
見つけたときは嬉しいのだろうが、いつも私に対して持っている複雑な感情が寂しさという色を加えるのだと思う。
しかし、私には分かる。食べているときの息子の微妙な表情の変化を。
普段から仏頂面の多い息子だが、食べているときは少しだけ嬉しそうな表情になる。
そんな顔を見るのが私は好きなのだ。
いつもは見れない貴重さからか、それともその表情を私が見ているという独占欲からか、それは私自身にもわからない。
だが、最近は息子にも表情の変化が多くなっている。特に堕花雨とかいう少女と知り合ってから息子は変わった。
いつも何かを諦めて、何にも関わらず、何かをしようともしなかった息子。まるでそれが自分の生き方とでもいうかのように。
が、堕花雨という少女と知り合って息子は積極的にではないが動き始めている。恐らくそれは息子自身も自覚しているだろう。
それが良いことなのか悪いことなのか私には判断はできない。
息子は弱い。いや、今も弱くなっているといったほうが正しいのか。人とのつながりは息子にとって重しになる。
それは息子自身が一番自覚している事実。大切なものがあればあるほど、息子みたいな『弱い人間』は生き辛くなる。
それが事実。不可避の事実。
息子は弱い。だから私は……

ガチャガチャと玄関のほうから音がした。恐らく息子が帰ってきたのだ。
鍵を開けている途中なのだろう。

私は急いで玄関に向かった。可愛い息子を出迎えるために。


「おっかえりなさーい!」


――どうか、息子だけは……せめて、『普通』に生きれますように

519名無しさん@ピンキー:2007/12/08(土) 02:31:07 ID:tltBfoMC
オマケ

ジュウ「文句があるなら食うなよ」
紅香(・・・気づかなかったのか)

紅香 ショボーン(´・ω・`)

原作をこう解釈すると幸せになれるかもしれないぜ!
妄想してみよう!
520名無しさん@ピンキー:2007/12/08(土) 02:40:17 ID:TEWaZmQZ
>>518
うおおお!
おかーーーさーーーーん!!
G J !!
521名無しさん@ピンキー:2007/12/08(土) 02:42:52 ID:j4DijmmK
ついさっきその場面を読んだばっかだから余計きたぜこのやろう…!!
GJだっ!!!
522名無しさん@ピンキー:2007/12/08(土) 03:46:39 ID:s28mwxRJ
GJGJGJ!!!!!!!!!!!
523名無しさん@ピンキー:2007/12/08(土) 12:10:02 ID:yTiUTLoA
G☆J
524名無しさん@ピンキー:2007/12/08(土) 23:19:38 ID:kTHYFMsF
GJ!!!!
525名無しさん@ピンキー:2007/12/09(日) 01:26:26 ID:9yAi9fgZ
>>512を読んでいて受信した毒電波をどうしても遮断できなかったので、
これより信号ログを投下。
シチュエーションを勝手に拝借したことについては申し訳ない。というか、
妄想のネタをありがとう。
雨が明らかに原作準拠でないので、原作のイメージを大事にしたい人は
読まぬが吉。
526雨のジュウ様監視もとい観察日記 1/7:2007/12/09(日) 01:27:04 ID:9yAi9fgZ

○月○日

 今日は光ちゃんにイエローカード1枚。累積4枚です。

 どうも最近、様子が変でした。朝はいつもより早く家を出ていくし、帰りは妙に遅いのです。わたしを起こすのが大の楽しみのはずだったのに、それもさぼりがちになっていましたし。そのことを指摘してみたら、それとなく話題をそらしたりしましたね。
 もしやと思って、今朝あとをつけてみたら案の定、向かったのはジュウ様の家の近くでした。交差点で物陰に隠れながら何か呟いていましたので、唇を読んでみましたところ、
「落ち着けあたし最初は偶然を装うのよそれであたしがなんでこんなところにいるか問いつめられたら何よあんたに会いにきたのよなんか文句あんのってそしたらあいつがえっもしかしてお前俺のこととか言っちゃってきゃあー!」とかなんとか。
 人目もはばからず、真っ赤になった頬を両手で挟んで頭を左右に振り回していた可愛い光ちゃん。あまりに可愛いので食べてしまいたいくらいでした。ええ本当に。文字通り、頭からばりばりと。
 残念ながらわたしがそれを実行に移す前にジュウ様が来られたので、光ちゃんは勢いよく飛び出していったのですが、二、三言葉を交わしただけで、ジュウ様はそのまま一人で学校へ向かってしまわれました。残念でしたね光ちゃん。
 ただね光ちゃん。世の中には、未遂罪というものもあるのです。知っていますか? まあ、もし学校で習っていなくても大丈夫ですよ。そのうちに、お姉ちゃんがちゃんときっちり骨身に沁みるまで教えてあげますからね。
527雨のジュウ様監視もとい観察日記 2/7:2007/12/09(日) 01:28:43 ID:9yAi9fgZ

 今日のところはそっとしておいてあげても良かったのですが、せっかくなので、ジュウ様の後ろ姿を見送りながらがっくり肩を落とす光ちゃんの背後5センチのところまで音もなく近づいて、声をかけてみました。
 無駄な努力に一生懸命な光ちゃんを可哀想と思わなかった訳ではありませんけれど、姉としてはやはり、登下校時の寄り道は良くないと諭してあげるのが義務ですから。
 どうでもいいですけど光ちゃん、全身を強張らせて膝をかくかくさせながら、首だけ180度回転させて真っ青にひきつった半泣きの顔を見せることができるなんて、ホラー女優としての才能があるんじゃないでしょうか。
 でもね光ちゃん、お姉ちゃんのことをまるで幽霊みたいに「ででで出たあ」なんて、それはちょっとどうかと思います。貴女は大事な大事な妹なのですから、お姉ちゃんはいつも貴女の側にいますよ? 貴女がジュウ様のまわりをうろうろしているような時は特に。
 けっこう傷ついたので何も言わずにじっと光ちゃんを見つめていたら、どんどん血の気が失せていったかと思うと、驚いたことに、いきなりばったり倒れて気絶してしまいました。
 だから、貧血を起こしたりしないよう朝ご飯はちゃんと食べなさいっていつも言っているじゃないですか。いけない光ちゃん。本当にいけない子。

 ですから、明日からは途中まで光ちゃんと一緒に行くことにしました。光ちゃんが寄り道をしないよう、中学校へ向かうのをしっかり見届けてから、そのあとはジュウ様と合流することにしましょう。完璧です。一石二鳥です。
 これで、光ちゃんが累計5枚で次節出場停止になることも、当分は避けられます。良かったですね光ちゃん。わたしも実の妹に厳しい処分を下したくはないですから。
 光ちゃん。貴女はあの、なんといったか名前など憶えていませんが、背が高くてイケメンで頭が良くてケンカが強くて女の子に優しい男の子と、ふつうに青春していればよいのです。お姉ちゃんからの心からの忠告です。光ちゃんなら分かってくれると、信じています。
 信じていますからね。
528雨のジュウ様監視もとい観察日記 3/7:2007/12/09(日) 01:29:47 ID:9yAi9fgZ

×月×日

 今日は監視カメラの画像を見ながら書いています。あの母親がまたジュウ様に手を上げるなどという大罪を犯したときに、すぐに飛んでいけるように設置しておいたものが、いろいろと役に立ってくれています。
 そろそろ、円がジュウ様にDVDを貸しにやって来る時間です。画面に映っているのは、ジュウ様の家の玄関。円がやって来る時間は、学校でジュウ様に確認済みです。円とジュウ様の間に何もあるはずはありませんが、念のためです。
 ああ、やって来ました。ジュウ様が玄関でDVDを受け取り、円はそのまま帰り

 いけません。目の前で起こっていることが信じられず画像に夢中になるあまり、記録がおそろかになってしまうところでした。
 でもなぜ、ジュウ様の家のリビングの映像に円が映っているのでしょう。なぜ、ジュウ様とソファに並んで座ってDVDを観ているのでしょう。
 ジュウ様は、そんなDVDには本当はあまり興味がないのです。借りたからすぐに観ないといけないなどという法もありません。暇な、本当に暇なときにでも、時間つぶしに観ればよいのです。
 その時に退屈しのぎに会話の相手が必要なら、円などよりもわたしにお声がかかるはずなのです。あのアニメについてなら、わたしだって優に三日はぶっつづけで語れる自信があります。決して寝かしたりなどしませんよジュウ様。
 ほらジュウ様、円などと観ているから少し眠たそうではありませんか。ああ、うつらうつらしています。体が傾いて、ジュウ様そちらはだめですああ良かったそうそちらの方へ

 シャーペンが折れていましたので取り替えました。いつの間に折れたのでしょう。
 いえ、今はそんなことより、一大事です。ジュウ様が、円に寄りかかって眠っておられます。ジュウ様が眠りに落ちる瞬間、円がソファの上で微妙に自分の体重を移動させて、ジュウ様の倒れる方向を操作したのです。
 ……肩枕。いいですね、肩枕。わたしもまだしてさしあげたことがない肩枕。
 少し目を離していた隙に、こんなに円との距離が近づいてしまうなんて、わたし、思いませんでした。ええ、思いませんでしたとも……。
 しかも、ジュウ様の目を覚まさないよう、細心の注意を払ってジュウ様が倒れ込んできたのを柔らかく受け止めていましたね。最初の体重移動は微妙すぎて、さすがのわたしも少々判断に迷ったのですが、おかげで偶然ではないとはっきり確信できました。
 そう思って観察すると、いつものポーカーフェイスのようでいて、ほんの少し唇の端が上がっていませんか? 頬に僅かに紅が差していませんか? 目尻が微かに下がっていませんか? わたしの目はごまかせませんよ円。
 それにしても、貴女の含羞んだ表情をこの目で見られる日が来るなんて、人間長生きはしてみるものです。
 わたしの親友、円堂円。そのうちに腹を割って話す必要がありそうです。まずは貴女の腹を実際に割ってみるところから始めてもいいですね。いえ別に、どこかのゲームみたいに、貴女のお腹の中に何かあるなどと疑っている訳ではありませんよ?
 ジュウ様の貞操はわたしが日夜お守りしているのですから、そんなことなどありえません。
529雨のジュウ様監視もとい観察日記 4/7:2007/12/09(日) 01:31:08 ID:9yAi9fgZ

 ああ、ジュウ様が目を覚まされました。円の肩から頭を持ち上げて、ちょっとびっくりした表情をしておられます。そうでしょうとも。とっとと離れて下さい。
 円は平静な顔ですが、かすかに舌打ちしたのが聞こえました。寝起きのジュウ様はお気付きにならなかったでしょうが、わたしの記憶にはしっかり刻み込みましたよ円堂円。
 ああ、そろそろDVDも終わりです。あのうジュウ様、円なんかに気を遣って、小さい頃の思い出話なんて始めなくてもよいのです。こんなに遅い時間なのですから、円もさっさと帰りたいはずです。
 円がちょっと目を細めて熱心に聴いているように見えるのも、そのふりをしているだけなのに決まっています。男嫌いの円が、男の子の話を面白がるはずなどある訳がないではありませんか。
 いえ、ジュウ様の話は面白いです。どのキャラのファンかで友達とケンカになって負けて泣きべそをかいた話などは、特にぐっと来ました。そこにわたしが居たら、ジュウ様を泣かした不逞の輩など、とっくの昔に短い生涯を終えることになっていたでしょうに。
 そしてそのあと、幼いジュウ様を慰めて涙を拭ってあげたり。ああ、考えただけでぞくぞくしてきます。
 だからジュウ様、ジュウ様のお話の真の価値はわたしが一番良く分かるのです。わたししか分からないのです。わたしだけが伺えばよいのです。円などには豚に真珠猫に小判ですから、勿体ないのでもう止めてください。
 よし、DVDが終わりました。さあ円が帰ります。立ち上がってジュウ様に別れを

 またシャーペンが折れていました。どうもこのごろはすべからく、安かろう悪かろうで困ったものです。単に文字を書いているだけなのに割れ目が入ってしまうなんて、よほど粗悪な材料を使っているのでしょうか。まあ、今この状況ではどうでもよいことです。
 台所のカメラの映像の中で、ジュウ様と円が並んで流しの前に立っています。優しいジュウ様の社交辞令を、常識のかけらもない円が額面どおりに受け取って、この有様です。ぶぶ漬け食べていきなはれと言われたら大人しく去るのが人の道というものですよ円堂円。
 ですからジュウ様、お好みの料理のことなど円に話される必要はありません。わたしだけに教えて下ればよいのです。円にしても、ジュウ様から畏れ多くもレシピを教えていただくなんて、中学の家庭科が全滅だった空手バカの貴女がそれでどうしようというのですか。
 もし貴女がこしらえた毒物をジュウ様に摂取させようとでもいうのでしたら、こちらにも考えがあります。覚悟した方がよいですよ円堂円。
 ほら結局、ほとんどジュウ様が作ってしまわれたではないですか。だから、貴女など役に立つはずがないとあれほど。ジュウ様の手料理に変な手出しをすることはまかりなりません。そう、ジュウ様の手料理にああジュウ様の手料理それにジュウ様のエプロン姿
530雨のジュウ様監視もとい観察日記 5/7:2007/12/09(日) 01:32:14 ID:9yAi9fgZ

 日記の上に鼻血を垂らしてしまいましたので、ページを改めます。
 それにしても最近のシャーペンは本当に脆いですね。なんだってこうも次々と折れてしまうのでしょう。仕方がないので頑丈な万年筆を使うことにしましたが、今はそれどころではありません。
 ジュウ様の手料理。手料理。それをジュウ様と円が。一緒にいただきますとか。あら柔沢くん意外と美味しいじゃない料理上手なのねとか。そんなことねえよ普通だろとか。なんですかその仲睦まじげな会話は。
 頭がぐるぐるしてきました。
 え。ジュウ様。今なんとおっしゃいました。雪姫も。ホットケーキを。ジュウ様が焼いて。雪姫がぶんどって食べて。そのまま寝て。
 ということは。ジュウ様の手料理を。いただいていないのは。わたしだけ。
 わたし。だけ。
 そんなバカなことがなんてことどうしてわたしだけがどうしてどうしてどうして

 気付いたら、すでに円は帰ってしまった後でした。わたしとしたことが、あまりの衝撃の事実に我を忘れて茫然としていたなんて。その間にジュウ様に何もなかったのだとよいのですが。従者失格です。
 この失意は、浴室のカメラ映像で癒すことにしましょう。ジュウ様、そろそろシャワーのお時間ですよ。
 大丈夫、万年筆はなぜか四つにへし折れて床に転がっておりましたけれど、このボールペンは書き味がとても良いのです。余すところなく全てを記録することができますから、いつでも始めて下さい。
 それにしても円堂円。今日の貴女は、イエローカード3枚です。一気に累積5枚です。最初はピッチに立つそぶりも見せなかったので、油断していました。
 ナニもぶち込まれないようにがちがちにガードを固めるだけのキーパーなんですから、大人しく自陣に引きこもっていなさい。勝手に予想外の攻め上りを見せるばかりか、そのまま敵陣エリア内に留まるなんてことをしてはいけません。
 これはどうやら、次節出場停止だけでは処分が甘すぎるようです。3ヶ月ほど試合禁止とか、そういったレベルでしょう。ああ、怪我で半年間欠場とか、そういうことも起こりますね世の中では。気を付けた方がよいですよ円。親友として心からの忠告です。
 貴女に聞く耳があればですが。なくても、わたしは全然構いませんけれど。
531雨のジュウ様監視もとい観察日記 6/7:2007/12/09(日) 01:33:16 ID:9yAi9fgZ

△月△日

 今日は休日なので遅くまで寝ていようと思っていたら、アラーム音で目が覚めました。ジュウ様の家に誰かが電話してきたのです。電話機に盗聴器を仕掛けて置いたのが役に立ちました。
 ジュウ様に関する限り寝起きのよいわたしが、すぐさまイヤホンを耳にすると、流れてきたのは雪姫の声でした。強引にジュウ様を誘いだす雪姫に、ジュウ様もさんざん抵抗はされたのですが、結局折れてしまって、一緒に出かける約束をしてしまわれました。
 雪姫。貴女はいちど、他人の迷惑ということを真剣に考えてみた方がよいです。何ならこのわたしが、貴女の皺の少なそうな脳味噌に直接そのことを擦り込んで差し上げましょうか。

 当然ながら、わたしも同行することにしました。二人の背後に、影のように付き添いながら。主に余計な配慮をさせないように、ひっそりと。従者としては当たり前のことです。
 ただ残念なことに、ジュウ様の衣服に盗聴器を仕込んであったのですが、雪姫の指がジュウ様の周囲をしきりに舞ったかと思うと、全て機能を停止しました。二人が立ち去った後の地面の上に、真っ二つになった盗聴器がいくつも散らばっているのを確認。
 さすが雪姫。斬島の名は伊達ではありません。指の間にカミソリかカッターの刃でも仕込んでいましたか。二人の会話を捕捉できないのは困ったものですが、やむをえません。そのまま護衛任務を続行しました。
 それにしても雪姫。その恰好はどんなものでしょう。奇天烈とまではいいませんが、いつの時代の衣装ですかそれは。ジュウ様も困惑しておられたではありませんか。
 ああもういったい何ですか。不満げに頬を膨らませたかと思えば、非常に嬉しそうににこにこするなんて。何を話しているのか、気になって仕方なかったではありませんか。
 それに雪姫。もしかして、わたしに気付いていましたか? 幾度か、挑戦的な視線がこちらに投げてよこされたように思えたのは、わたしの気のせいですか?
 だいたい雪姫。あんな露出の多い衣装を試着してジュウ様の気を引こうなどと、不届き千万です。高潔なジュウ様が目のやりどころに困っておられたではありませんか。ちょっとばかり人より出るところが出ているからといって、図に乗ってはいけません。
 いつぞや二人でメイドの恰好をしたとき、ジュウ様の視線がもっぱらわたしに注がれていたのを、もう忘れましたか? ジュウ様の好みは、控えめな子なのです。性格も体型も。例えばわたしのような。あくまで、例えばの話ですけれど。
532雨のジュウ様監視もとい観察日記 7/7:2007/12/09(日) 01:34:27 ID:9yAi9fgZ

 それにしても雪姫。楽しそうでしたね嬉しそうでしたね浮かれてましたね良かったですねジュウ様と一緒に街を歩くことができて。盗聴器はなくとも、唇の動きは読めるのですよ。「二人っきりでデート」とか、そんなことまで口走っていましたね。
 貴女はいつでも躁いでいるように見えますが、本当は冷静な人間です。そんな貴女が、あんな風に気持ちを上下させるのは、ジュウ様の前にいる時だけですね。
 貴女がジュウ様に会ってどんなに変わったか。自分でもそれなりに分かっているつもりでしょうが、わたしから見ればまだまだ自覚が足りません。自分自身に戸惑っている斬島雪姫は可愛いです。貴女を可愛く感じることがあるなど、思ってもみませんでしたが。
 でも雪姫。ジュウ様は貴女になど興味はありません。だから、途中で機嫌が悪くなったのでしょう? うわべは変わらず笑っていたけれど、わたしはごまかせません。ジュウ様から何を言われたか存じませんが、なにげにジュウ様に一発入れてもいましたね。
 ジュウ様に危害を加えたら命はない、と言っておいたはずですね?

 まあいいでしょう。今回は特に何もなく済んだようですから。別れ際に「雨には内緒ねっ」とか「また二人きりでねっ」とかそんなこともぬかしていたようですが、わたしは別段気にしていません。
 貴女がジュウ様とどうにかなるなど、天地がひっくり返ってもありえないのですから。いつだったかジュウ様が雪姫と付き合っているなどと言い出したときも、ちょっと、ええほんのちょっとだけ、やきもきしたりもしましたが、結局はお芝居でしたからね。
 ジュウ様のお相手には、もっと相応しい人がいるはずです。例えば誰のような、とは申しませんが。
 それでも雪姫。今日はレッドカードものです。累積も12枚です。ちょっとカレーにアサガオの種の粉が入っていたり、実家に匿名で善意の電話連絡があって呼び戻されたりと、二度も出場停止処分を受けたというのに、反省の色というものが一切見えませんね貴女には。
 これはそろそろ、わたしも本気になっていろいろ考えねばならない潮時ということでしょうか。仮にも親友たるもの、やはり遠慮も会釈も仁義も人情も躊躇も容赦もなく本音で付き合わなければならないものなのですね。

 ジュウ様。どうぞご安心ください。わたしは忠実な僕として、いつでも貴方様を見守っております。ジュウ様、とわたし、の平穏に仇なす者は、なんぴとたりとも容赦いたしません。わたしが必ずや排除いたします。
 はい。二人の前世の縁に誓って。なんぴとたりとも。
533名無しさん@ピンキー:2007/12/09(日) 02:05:28 ID:hnxOmQLS
GJGJGJGJGJGJGJGJGJGJGJGJGJGJ!!
534名無しさん@ピンキー:2007/12/09(日) 02:06:06 ID:mgkYkhAc
肩枕ってw・・・嫌ぁ〜〜w 夕乃さんですぅ、雨の名を借りた夕乃さんですぅwww
535名無しさん@ピンキー:2007/12/09(日) 02:09:36 ID:CvyVfGPL
雨怖っ!!!
もう雨の言い回しがサイコーすぎるっwwww
GJッス!
536名無しさん@ピンキー:2007/12/09(日) 05:15:12 ID:zUU4G6Km
雨GJすぎるwwww

しかし紅香さんは対息子ツンデレだなwwwwww
537名無しさん@ピンキー:2007/12/09(日) 11:13:14 ID:tYFyTrmS
やべえ…あんた神だよ……GJ!!ヒロインみんな黒いしwww
538名無しさん@ピンキー:2007/12/09(日) 13:22:20 ID:Jcgb9DXY
GJ
しかし雪姫の実家は拙いぞ雨w
539名無しさん@ピンキー:2007/12/09(日) 14:09:57 ID:J4Bh5bNW
まさにGJ!!!!!
雨が黒怖すぎて紅茶噴いたw
540名無しさん@ピンキー:2007/12/09(日) 14:29:58 ID:qHtj7Nms
>>525
この、バカ野郎!
面白すぎて悔しいじゃないか!

それはともかく、あんな小ネタをここまで昇華してくれてこちらこそありがとう
>>512のとき、雨も書こうと思ってたんだけど雨は難しくて書けなかったんだよね
いまいち想像できなくてさ。
お前さん凄いぜ!
541名無しさん@ピンキー:2007/12/10(月) 12:17:39 ID:/hBCU6HE
>>519
ひょっとして、気付いてもらえなかった腹癒せにフルボッコにしたのかw
542名無しさん@ピンキー:2007/12/10(月) 12:37:41 ID:/fuG6YBy
アレは単純にまた馬鹿をしでかしそうな息子に愛の教育をしただけだよ
ただ紅香さん不器用ですから
543名無しさん@ピンキー:2007/12/10(月) 17:48:00 ID:k9RIyYMI
ジャンプSQの既刊紹介の所に「電波的な彼女」全3巻と書かれていた。
これはまさか(ガクガクブルブル
544名無しさん@ピンキー:2007/12/10(月) 18:31:16 ID:W3g9Wquh
(既刊)全三巻に決まってる。でなけりゃ紫と電波的を合わせた新シリーズ開始フラグに決まってる。
そうに決まってる……!
545名無しさん@ピンキー:2007/12/11(火) 02:00:03 ID:B562UKAX
>>525
GJww
言葉がもうちょっと柔らかい方が雨っぽいかなと思ったけどこれもこれで。
というか夕乃さんwww
546名無しさん@ピンキー:2007/12/13(木) 00:48:36 ID:v9dDYsCA
雨の口調が誰かに似てると思いながら読んでたら夕乃さんだったか・・・。
547名無しさん@ピンキー:2007/12/17(月) 16:22:28 ID:3JXkOAf4
保守
548名無しさん@ピンキー:2007/12/18(火) 18:43:00 ID:2Ir3Looy
このスレも最近またもりあがってきたな〜
549名無しさん@ピンキー:2007/12/18(火) 20:48:46 ID:WmteoLxo
ネタがねえええええええ
思いつかねえええええええ
…未読の紅シリーズでも読んで考えるか…
550名無しさん@ピンキー:2007/12/20(木) 02:58:02 ID:5NrR3cVf
ふと思いついた闇絵さんネタ。…10回シリーズくらいになる、と、いいなあ。
551闇絵さんと晩ご飯 1/3:2007/12/20(木) 02:59:16 ID:5NrR3cVf

 その日、真九郎が買い忘れの醤油を提げて部屋に戻ってみると、ちゃぶ台の前に、上から下まで黒づくめの女性が座っていた。
「闇絵さん?」
「おかえり、少年」
 当然のように挨拶を返されて、真九郎は頭をひねる。何か、闇絵と話す約束でもしていただろうか。
「えっと…どうしたんです」
「どうもしないよ。そろそろ夕食の時間だと思ってね」
「え…」
 立ち尽くす真九郎の脳裏に、ここ一週間の晩ご飯どきの情景の記憶が蘇ってくる。

 一週間前。残り物の材料でチャーハンと炒め物を作った。冷蔵庫がすっきり空になったのを見て、多少の達成感を覚えた。そういえば、当然のように、環と闇絵も一緒に食べていたような気がする。
 その次の日。紫がやって来て、寿司を注文した。紫に押し切られて九鳳院家が代金を支払い、心ならずもヒモの気分を少し味わった。そういえば、当然のように、環と闇絵も一緒に食べていたような気がするた。
 その次の日。スーパーの特売の塩鮭を焼いた。財布の中身の状況によっては、男として耐えねばならない場合というものもある。そういえば、当然のように、環と闇絵も一緒に食べていたような気がする。
 その次の日。夕乃がやってきて、トンカツを揚げてくれた。自分で料理すると、なかなか後始末も面倒な油を使う機会がないので、ありがたかった。そういえば、当然のように、環と闇絵も一緒に食べていたような気がする。
 一昨々日。夕乃が置いていってくれたシチューを暖め直した。シチューは、やはり一度冷めてからの方が旨いということを実感した。そういえば、当然のように、環と闇絵も一緒に食べていたような気がする。
 一昨日。とても寒かったので、出来合いの鍋物を買ってきた。やはり冬と言えば鍋だよなと、日本の食文化の偉大さを痛感した。そういえば、当然のように、環と闇絵も一緒に食べていたような気がする。
 昨日。紫がやって来たので、たまにはと思って、楓味亭から出前を取った。出前を持ってきた店員は、真九郎の部屋の中にいる面々を見渡し、代金を受け取りながら「…やらしい」と言った。そういえば、当然のように、環と闇絵も一緒に食べていたような気がする。
552闇絵さんと晩ご飯 2/3:2007/12/20(木) 03:00:17 ID:5NrR3cVf

 そして今日。当然のように、闇絵はちゃぶ台の前に座っている。
「…ええと、環さんは?」
「大学の飲み会だそうだ。ところで今日は、食材を見る限り、和食系かな」
「はあ…」
 真九郎が置いておいた買い物袋の中身は、すでに確認済みらしい。ほんの一瞬だけ、プライバシーとか家計のやりくりとかについて物申そうかとも思ったが、無駄というもおろかな行為であることは火を見るより明らかだったので、何も言わないことにする。
 それに最近、無意識に三人分の食材を買い込む癖がついているような気がしてならないのだ。事実を確認するのが恐くて、考えないことにしているが。
「えっと…ブリの照り焼きに、きんぴらに、卯の花って感じですが…」
 闇絵が嫌いな献立が含まれていはしないかと、僅かな期待を込めて言ってみたが、
「結構なことだ」
 闇絵が平然と頷いたので、真九郎はため息をついてから台所に立った。

「結構な夕食だった」
 闇絵が箸を置く。真九郎は淡々と食後のお茶を淹れた。人生、深く考えたら負けということもある。ただ、ちょっと興味があったので訊いてみた。
「闇絵さんは、料理とかしないんですか」
 闇絵はちょうど湯呑みを口に当てたところで、答えない。闇絵がゆっくりとお茶をすすり、湯呑みをちゃぶ台の上に戻すまで、真九郎はなぜか背筋を伸ばしていないといけないような気がして姿勢を崩せなかった。
「私はね。少年」
「はい」
「何が嫌いと言って、自分の身を労することが一番嫌いだな」
「はあ」
 闇絵は、それでこの話はもうおしまいといった風情で、またお茶を飲んでいる。真九郎も、ここいらが引き時と思わない訳ではなかったのだが、
「でも、何かは食べないと、やっていけませんよね」
 単純に不思議だったのだ。自分が五月雨荘に来る前、環と闇絵の食生活はいったいどうなっていたのだろう、と。
 環はまあ、自分で何とかするのだろうが、闇絵となると、想像もつかない。闇絵が出前を取ったり弁当を買ってきたり外で食べたりしている姿など、現実感がなさすぎて、笑えてくるほどだった。
553闇絵さんと晩ご飯 3/3:2007/12/20(木) 03:01:19 ID:5NrR3cVf

 闇絵は、不思議なものを見る目つきで、真九郎を眺める。
「当然だろう。だから、こうして食べている」
「はあ」
 誰のものを食べていたかについては、突っ込むべきではないのだろう。この際。
「少年。食事というのは、大切なものだ。いわば、自分自身を作り上げる作業でもある。何でも手当たり次第に食べればよい、というものではない」
 このところ、自分の部屋にある食材が手当たり次第に環と闇絵の胃袋に収まってしまっている事実を指摘することも、止めておく。
「考えてみるに、食事というのは恐いものなのさ。ある意味、全身を委ねるのも同然の行為と言える。何かを口にするということは、それを完全に信頼しているということでもあるからな」
「はあ…なんか最近、ある人たちからは安上がりだからって委ねられっぱなしのような気もしますが」
 ちくりと皮肉のつもりで、愚痴ってみる。どうせ通じないだろうと思っていたので、闇絵が眉を少し持ち上げたときは、真九郎の方がびっくりした。だが、闇絵の次の科白は、真九郎の理解を少し超えた。
「少年。キミの言葉に鈍感なところは、大いなる罪悪だな」
「はあ。それはどういう…」
「あー!」
 大声とともに、いきなり扉が開かれる。
「あたしをのけ者にして闇絵とふたりきりで晩ご飯なんか食べてる! ずるーい!」
 真九郎が避ける間もなく、武藤環は真九郎に飛びかかって馬鹿力でがっしりとホールドすると、うるうるさせた瞳で上目遣いに真九郎を見上げた。
「ね。あたしの分もあるよね。ね?」
「環さん…今日は、大学の飲み会じゃあ」
「最近、出入り禁止なんだようっ。お前なんかワクですらないブラックホールだから割り勘で飲めるかとか言われてっ。非道いと思わない?」
「あー…まあ、無理もないかと」
「うえーん! 真九郎くんまでそんなこと言うのっ。闇絵にも話しといたのにっ。なんであたしに声かけないのさっ」
「そうだったかな」
 闇絵は涼しい顔でお茶をすする。ぎゃあぎゃあ喚く環をなだめるため、真九郎は再び台所に立つべく腰を上げた。さて何か、欠食大学生にあてがうようなものは残っていたろうか。献立を組み立てるのに忙しい真九郎の耳に、かすかな呟きは届かない。
「…なかなかに乙な夕食だったよ。少年」
554名無しさん@ピンキー:2007/12/20(木) 04:37:46 ID:qBUdchtf
闇絵さああああん!!
ありがとう。GJすぎる!
555名無しさん@ピンキー:2007/12/20(木) 11:24:03 ID:9+pAISWb
>>550
闇絵すわぁぁぁぁぁんw
ところで、タマ姉は闇絵の事を「さん」付けでは?
556名無しさん@ピンキー:2007/12/20(木) 16:41:35 ID:5NrR3cVf
>>555
550だが、指摘ありがとう…そのとおりだ。orz
さん付け・ですます調なので、次があればそうしとく。
ついでに、闇絵さんの真九郎への二人称は「キミ」ではなく「君」だった。orz
557名無しさん@ピンキー:2007/12/20(木) 21:43:20 ID:E/8GGSIA
仄かなデレ…いいね
558名無しさん@ピンキー:2007/12/20(木) 22:47:18 ID:jSEu56ra
闇絵さんのデレはなんかもうそれだけで新しいジャンルだなw
559名無しさん@ピンキー:2007/12/20(木) 23:40:59 ID:qc0DL1hE
新しい属性に目覚めたかもしれない。GJと言わせて貰う。

環はさん付けだったような気がする。

腹ペコもたまには良いものだなぁ。
560名無しさん@ピンキー:2007/12/23(日) 22:14:48 ID:5zWXeNrg
ヤバイ・・・闇絵さん良い!!
G☆J
561名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 00:15:53 ID:zmmTfZ2U
闇絵さんとほにゃらら、その二を投下。今回はちと筆がすべりすぎた箇所もちらほら。
どさくさに紛れて、環のセリフ他を修正した「闇絵さんと晩ご飯 3/3 revised」も。
562闇絵さんと晩ご飯 3/3 revised:2007/12/24(月) 00:16:58 ID:zmmTfZ2U

 闇絵は、不思議なものを見る目つきで、真九郎を眺める。
「当然だろう。だから、こうして食べている」
「はあ」
 誰のものを食べていたかについては、突っ込むべきではないのだろう。この際。
「少年。食事というのは、大切なものだ。いわば、自分自身を作り上げる作業でもある。何でも手当たり次第に食べればよい、というものではない」
 このところ、真九郎の部屋にある食材が手当たり次第に環と闇絵の胃袋に収まってしまっている事実を指摘することも、止めておく。
「考えてみるに、食事というのは恐いものなのさ。ある意味、身を委ねるのも同然の行為と言える。何かを口にするということは、それを完全に信頼しているということでもあるからな」
「はあ…なんか最近、ある人たちからは安上がりだからって委ねられっぱなしのような気もしますが」
 ちくりと皮肉のつもりで、愚痴ってみる。どうせ通じないだろうと思っていたので、闇絵が眉を少し持ち上げたときは、真九郎の方がびっくりした。だが、闇絵の次の科白は、真九郎の理解を少し超えた。
「少年。君の言葉に鈍感なところは、大いなる罪悪だな」
「はあ。それはどういう…」
「あー!」
 大声とともに、いきなり扉が開かれる。
「あたしをのけ者にしてふたりきりで晩ご飯なんか食べてる! ずるーい!」
 真九郎が避ける間もなく、武藤環は真九郎に飛びかかって馬鹿力でがっしりとホールドすると、うるうるした瞳で上目遣いに真九郎を見上げた。
「ね。あたしの分もあるよね。ねっ?」
「環さん…今日は、大学の飲み会じゃあ」
「最近、出入り禁止なんだようっ。お前なんかワクですらないブラックホールだから割り勘で飲めるかとか言われてっ。非道いと思わない?」
「あー…まあ、無理もないかと」
「うえーん! 真九郎くんまでそんなこと言うのっ。…闇絵さんもっ。こないだそう話したじゃないですかっ。なんであたしに声かけてくんないんですっ」
「そうだったかな」
 闇絵は涼しい顔でお茶をすする。ぎゃあぎゃあ喚く環をなだめるため、真九郎は再び台所に立つべく腰を上げた。さて何か、欠食大学生にあてがうようなものは残っていたろうか。献立を組み立てるのに忙しい真九郎の耳に、かすかな呟きは届かない。
「…なかなかに乙な夕食だったよ。少年」
563闇絵さんとタバコ 1/4:2007/12/24(月) 00:18:09 ID:zmmTfZ2U

 それは、ほんの出来心だった。
「…タバコって、どんな味がするんですか?」
 いつものように、真九郎が買ってきたタバコを、午後の陽が差し込む五月雨荘の庭先で、とても美味そうに吸う闇絵を見て、ちょっと好奇心にかられて訊いてみただけだったのだ。単にそれだけだったのに、
「試してみるかね? 少年」
「は?」
 気付いたら、闇絵がたった今までくわえていたタバコが、目の前に差し出されていた。
「ええと…」
 あまりの突発事態に、頭の中が真っ白になる。それに対して闇絵は当たり前のように、
「少年。人間の五感というものは、口で説明されても到底理解など及ばないものだ。知りたければ、実際に試してみるしかない。そう思わないか?」
「はあ、そりゃあ…」
 そう言われてみれば、そのとおりのような気もする。
「しかし、これは…」
「吸い差しで悪いがね。済まないが、わたしの貴重なタバコを君の好奇心のためだけに新しく一本丸ごと進呈する気にはならないな」
「はあ…」
 タバコをこよなく愛する闇絵のセリフだから、説得力だけはあった。
「試してみるなら、早くしたまえ。タバコがもったいない」
「それじゃ…お言葉に甘えまして」
 闇絵からタバコを受け取り、くわえてみる。吸い口に軽く残る温もりと湿り気が、妙に生々しかった。これって間接キスだよなあ、とぼんやりと考える。とはいえ、まさか闇絵がそんなことを気に掛けるとも思えなかったので、真九郎も気にしないことにする。
 不用意に吸い込むとむせる、というくらいの知識はあったから、おそるおそる慎重に息を吸ってみた。どうにも、気の抜けるような味わいしかしない。真九郎の微妙な表情を見て取ったか、闇絵が助言してくれた。
「火が弱くなっているようだな。ゆっくりでいいから、もっと深く吸い込みたまえ」
 なるほど、と、言われたとおりにやってみる。その途端、強烈な刺激が喉と肺を襲った。
「ご…げ、げふっ…おっ…かふっ…」
 体をくの字に折って、せき込む。
「少年。大丈夫かね」
 涙目で見上げると、いつの間にやら真九郎の手からタバコを取り戻した闇絵が、いかにも面白そうな目つきで見下ろしていた。
564闇絵さんとタバコ 2/4:2007/12/24(月) 00:19:19 ID:zmmTfZ2U

「な…何なんです、それ…」
「ただのタバコだよ。両切りだがね」
 闇絵は平然と言いながら、ふかぶかとタバコを飲み、ながながと煙を吐き出した。
「やはり、タバコはいいな。ああ、君もだ。少年。期待を裏切らないというのは、何であれ素晴らしい」
「言っててくださいよ…」
 ようやく息が整い、真九郎は上体を起こした。まだ、喉のあたりがいがらっぽい。
「それで、どうかね」
「え…」
「試してみた感想だよ。そのために吸ってみたのだろう」
「はあ…」
 正直なところ、細かい感覚など全てぶっとんでしまっていて、何をどう語りようもない。二度とごめんです、と正直に言うのも(まあ、見透かされているだろうが)悔しい気がして、ふと思いついたことを口にしてみた。
「なんだか…闇絵さんみたいな匂いがしましたよ」
 闇絵が吸っているタバコの匂いなのだから、言わずもがなのことではあったが、言外に闇絵の仕打ちに対する抗議をこめてみたつもりだった。
「ほう」
 闇絵が、うっすらと笑う。真九郎はさっきのセリフを心から後悔したが、もう遅い。
「わたしの匂いかね。ふむ。おもしろいな」
「え、ええと…そのですね、深い意味はなく…」
「少年。知っていると思うが、人間、自分の匂いというものは案外に分からないものだ。わたしも自分の匂いがどういうものなのか、よく知らないのだよ。非常に興味深い」
「はあ…」
「自分の匂いを確かめられるというのは、なかなか滅多にない機会だな。ぜひ嗅いでみたいのだが、いいかね?」
「はあっ?」
 一瞬、何を言われたのか理解できずにいる間に、気付くと、闇絵の顔がすぐ間近にあった。まぶたを軽く閉じ、形のよい鼻を真九郎の口のすぐ側に近づけている。真九郎の視界には、白い額となめらかな頬、優美な眉と長い睫が、いっぱいに広がっていた。
「……」
 自分のおかれた状況に現実感がなさすぎて、指一本動かすことすらできない。闇絵の顔に息を吹きかけるのが恐ろしくて、一言を発することも憚られた。体温すら感じられそうな距離にある闇絵の造作の逐一が、ガラス細工のように脆く思えたのは、どうしたことか。
 そうするうちに、何とも言えぬ香りが真九郎の鼻腔をくすぐり始める。それもそのはずで、闇絵のつば広の帽子がちょうど、闇絵の体から立ち上るものを真九郎の顔のあたりに留める役目を果たしているのだった。
 むろん、タバコの匂いはある。しかしながらそれ以外に、何とも形容しようのない香りが幾筋も絡み合って、真九郎の脳髄を痺れさせてゆく。それは、単に芳香というのとは全く異なり、いわば全身の力を奪うような、魔術めいてすらいる機作を有していた。
565闇絵さんとタバコ 3/4:2007/12/24(月) 00:20:21 ID:zmmTfZ2U

「ふむ」
 唐突に闇絵が身を引き、真九郎もようやく呪縛から解放されて我に返る。新鮮な空気を吸い込んで安堵したような、やや惜しいような、なんとも自分自身でも扱いかねる気分だった。
「あー…その…闇絵さん?」
「なるほど。こういうものか。よく分かった。それに、少年ともずいぶん違うものだな」
「はあ…そ、それはどうも…」
「なかなかに得難い経験だったよ。協力に感謝する」
 そう言うと、闇絵は呆然とする真九郎を置いて、五月雨荘の中へ入っていった。たった今起こったことがうつつとも思えずに佇む真九郎の肩に、いきなり手が置かれる。何となく、肩の骨の軋む音が聞こえたような気がした。
「真九郎くーん。ナニしてたのかなー?」
 振り向くと、環が満面の笑みを浮かべて真九郎を覗き込んでいた。
「えっ…何って…」
「なんかさー。今、闇絵さんとけしからん振る舞いに及んでなかったかなー?」
「いや別に…あれはそんなんじゃあ…」
 言いつつも、闇絵の帽子に半ば隠されていたせいで、角度によってはキスでもしているかのように見えたかもしれない、と思い至る。案の定、環は、いまさらとぼけなさんな青少年っ、と真九郎の背中を叩き、
「しっかし、真九郎くんもほんっとに守備範囲広いよねー。年上もいけるなら、いつでもあたしに声かけてねって、いつも言ってるのにい。ううん環、悲しいっ」
「いやだから、なんかぜったい誤解してますからそれ。それから、人の胸の上で指をこねくりながら上目遣いはやめてもらえませんか。絶望的に似合ってません」
「うわ、ひどっ。でも誤解なんかしてないよー。あたら若い男の子の精気が吸われるのは見過ごせないっちゅーかそれはかなりもったいないっちゅーかだったら先にお姉さんが出涸らしにしちゃってもかまわないよねっちゅーか、そういうことでいいんだよね?」
「いいわけないでしょうっ。どさくさに紛れて何を言っとるんですかあんたはっ」
「むふふー。闇絵さんだけえこひいきはいけないなー。あたしにも愛をおくれよう」
「ちょ、どこ撫でてんです、わあっ」
 環の手から逃れようともがく真九郎は、ふと視線を感じて顔を上げた。そこで、4号室の窓からこちらを見下ろしている闇絵と、まともに目が合ってしまう。
「や、どーも。闇絵さん。ご機嫌いかがです?」
 環も闇絵に気付いたのか、真九郎を羽交い締めにしたままで、悪びれもせずに声をかけた。闇絵の表情は少し遠くて分からないが、いらえは淡々と真九郎と環の耳に届いた。
「そうだな。悪くはないよ」
「そうでしょうねえ。もちろん」
 環も晴れ晴れとした笑顔で返す。同じアパートの住人どうしの平凡なやりとりのはずだった。それなのに何故背中を冷たい汗が伝うのか、真九郎には皆目分からない。どうやら、いつもどおり、深く考えない方がよさそうだった。
566闇絵さんとタバコ 4/4:2007/12/24(月) 00:21:47 ID:zmmTfZ2U

 まあ特段、深く考えなくても日々は過ぎてゆくのだ。ふだんどおりにささやかな夕食を摂り、銭湯で一日の疲れやその他もろもろを洗い流し、幼なじみが貸してくれたノートに手を合わせながら少し勉強をし、明日に備えて早めに床につく。
 そろそろ一人用のちゃぶ台で三人が食事をし続けるのは限界かもしれないとか、独り暮らしとは思えぬ食費のせいで今月はどうみても赤字になりそうだとか、若干の問題もなくはないが、それだって、いつもどおりに先送りしてしまえば、なんということもない。
 なんということもない、はずなのだが。
 いったいなぜ、翌朝、登校時に車で送ってくれた九鳳院家の息女は、真九郎が車に乗り込んで暫くすると、「なんだか面妖な瘴気をまとっているな。魔女にでも憑かれたか」と、どこで憶えたのかえらく難しい言葉遣いで呟き、それからずっとご機嫌ななめだったのか。
 いったいなぜ、昼休みに新聞部の部室へ弁当を食べに行ったら、そこにいた同級生の幼なじみが少し鼻をうごめかせたかと思うと半目になり、「…やらしい」との一言のもとに真九郎を叩き出したのか。
 いったいなぜ、下校間近にたまたま行き会った師匠の娘が、強引にハンカチを貸してよこしたのか。「十六種の香を焚きしめてあります魔除けにもなるんです寝るときに必ず枕元に置くように因みにわたしのお布団も同じ香りですからうふふ」とは、どういう意味なのか。
 真九郎には、何がなんだか分からない。
 たぶん、一生かかっても分かることはなさそうだった。
567名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 00:24:35 ID:zmmTfZ2U
投下終了。
このあとの予定は未定のお題としては、10回にはまだちと届かないが、
闇絵さんと猫 闇絵さんと黒い服 闇絵さんと夜の雨 闇絵さんとお買い物
闇絵さんとお手紙 闇絵さんとお昼寝 闇絵さんとお酒 (一部、看板に偽りがあります)
などができる…と、いいなあ。
568名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 01:38:39 ID:YNOT8x0k
GJ!!このシリーズ好きだ。
569名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 03:10:39 ID:C3ZZfg2C
>>567
タ、タマ姉w萌え〜〜〜!
おっと失礼w俺も闇絵すわぁんに憑かれたいっw
570名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 08:50:33 ID:iDhl0ZIa
「ジュウ様、メリークリスマスです」
「・・・・ああ、たしかにそうだがな」
場所はジュウの住むマンションの一室。
「ジャーン!! どうかな、このミニスカサンタ。似合う?」
「ああ、似合ってるぞ。だがな」
冬休みに入り、ゆっくりとした朝を迎え、そろそろ朝食をと思い
居間に続く戸を開けたジュウの前に広がるのは、
「柔沢君、大皿借りてるわよ」
「好きに使ってくれてかまわん。ああ、いや、そうじゃなく」
煌びやかに装飾された部屋だった。
「何でこんな風になってんだ」
「ジュウ君、あんまし細かいこと考えてると禿げるよー」
「柔沢君はただでさえ染髪で頭皮を痛めてるんだから、気をつけたほうがいいわよ?」
「余計なお世話だ!! そもそも鍵はどうした、鍵は!! 確か寝る前に確認したはずだぞ!!」
「問題ありません。私が開けました」
「チェーンは!?」
「あたしが切ったよー。駄目だよー、あんな安物使ってちゃあ。防犯意識がダメダメよー!!」
ジュウは目を手で覆うと上を向き嘆息した。
「ああもう好きにしてくれ」
「いけませんジュウ様」
「なに?」
珍しく自分の従者きつい言葉に目をやると、三人とも少し怒ったようにこちらを見ている。
「パーティーはみんなで楽しむものです」
「『みんなで楽しむ』、なんかエロくねえ!?」
「まあ雪姫のたわごとはともかく、こういう催しは一緒に盛り上がるものよ」
ポカンとした表情を浮かべたジュウは、「それもそうだな」と少し楽しそうに笑った。
それを聞いた三人にも、内側から暖かいものが湧き出してくるのが分かった。








『どこもかしこも甘いぞ』

. そんなの、そんなの、生クリームプレイになっちゃう!!」

光は己の妄想に嵌まり込み自宅から出れないでいた。
571名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 11:07:24 ID:zmmTfZ2U
ちょwこの妄想はいつ始まったんだwwwww
ひさかたの光劇場GJwwwwwwwwww
572名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 12:52:12 ID:jdhtSj/D
>>570
光はオチ要員だなぁ

GJッス!
573名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 15:51:49 ID:kzIwoIWS
いつのまにか闇絵さんといっしょシリーズが始まっててびっくりした
他のキャラにもグッときたりと素晴らしくGJ!!

しかし見れば見るほどしんくおーはいい立ち位置にいるなー
574名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 22:55:02 ID:MuOTn/Bb
光=オチ要員 ってここではもう決定事項なのかw
光ファンはこれでイイのか?w

何はなくともGJだがな!w
575名無しさん@ピンキー:2007/12/25(火) 00:29:33 ID:GDPaAhG0
保管庫を見れば彼女がどれだけオチとして愛されているのかよく分かるw
576名無しさん@ピンキー:2007/12/25(火) 22:08:38 ID:Lj3uv7Ff
>>571
妄想は最後のとこだけです
分かり辛くてすみません

>>573-575
最近は妄想劇場かほのぼの純愛しか思いつけません
どなたかイチャイチャの書き方を教えてください
577名無しさん@ピンキー:2007/12/25(火) 22:14:33 ID:qjZ3lnDU
>>575のレスがあるまで保管庫あるなんて気づかなかったぜ
578名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 02:36:16 ID:3YJqFxPg
同じく気がつかなかったんだぜ
579名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 19:33:36 ID:M+useQKk
hssh
580名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 22:23:29 ID:RkHLQbes
保管庫知らない人の為に
ttp://www35.atwiki.jp/katayama/
581名無しさん@ピンキー:2007/12/29(土) 15:32:52 ID:uwCS/GYi
今公式サイトでPV見てきたんだが、正直微妙じゃね?
なんかな…期待外れっつーか…
582名無しさん@ピンキー:2007/12/29(土) 16:12:14 ID:xzFlpvCw
PV見た
銀子が全然かわいくない…
583名無しさん@ピンキー:2007/12/30(日) 08:18:56 ID:Ek4+eawc
黒 歴 史 決 定
584名無しさん@ピンキー:2007/12/30(日) 16:45:49 ID:93+5p00Q
暫らくぶりに保管庫更新
585名無しさん@ピンキー:2007/12/30(日) 21:32:55 ID:le4sGTud
アニメ思ったほど悪くない気がするのは俺だけ?
586名無しさん@ピンキー:2007/12/30(日) 22:36:43 ID:pvi76xr4
嵐の間に保守したり保管庫を更新してくれた人たちへthank you all!!
アニメは、まあ出来上がってから判断することにしよう...。
それまでは、読みたいものは自分で書いちゃえということで闇絵さんとほにゃらら、その三。
今回はちょっとストレート過ぎるし短いが、これ以上いじってもgdgdになりそうなので、
このへんで見切り発車で投下。
587闇絵さんと猫 1/3:2007/12/30(日) 22:37:45 ID:pvi76xr4

 ダビデというのは妙な猫で、いつも闇絵と一緒にいる。
 猫なのだから、たまには自由気ままに出歩いていても良さそうなものなのに、真九郎の知る限り、闇絵の側にはいつもダビデがいるし、ダビデの側にはいつも闇絵がいる。五月雨荘以外の場所でダビデを見かけた記憶もない。
 といって、べったり闇絵に甘えているというのでもなかった。闇絵の膝の上で丸くなっているときも、そんな雰囲気を微塵も感じさせることはなく、端然とした寝姿を崩さない。
 そんな落ち着いた関係が、真九郎にしてみると、ちょっと羨ましかったのかもしれない。自分はといえば、しきりにまとわりついてくる七歳の女の子との距離感すら、実のところ測りかねているのだから。
 そんなわけで、ある午後のこと、いつものように大木の枝の上にいる一人と一匹に、真九郎はつい尋ねてしまったのだった。
「いつも仲いいですよね。ダビデと。何か、猫を飼うコツってあったりするんですか」
 闇絵は、無表情に真九郎を見下ろす。そのまま沈黙が続き、真九郎がさすがにいささか気詰まりになったころ、闇絵はやっと口を開いた。
「面白いことを言うな。少年」
「え…面白いですか」
「どうしてまた、わたしがダビデを飼っているなどと思うのかね。もしかすると、ダビデがわたしを飼っているのかもしれないぞ」
「いや…それはないでしょう、さすがに」
 人をからかうのもたいがいにしてほしい、と闇絵を睨み付けてはみるのだが、闇絵がいたって真面目くさった顔をしているものだから、何となくそんなことがあってもおかしくないような気までしてきた。そんなタイミングを見計らったわけではないだろうが、
「冗談だよ。少年」
「はあ…」
 真九郎はどっと疲れた声を出した。闇絵は構わず、淡々と続ける。
「そうだな。強いて言うなら、気の置けない友人といったところかな」
「友人…ですか」
「ああ。わたしもダビデも、今のところは、お互いが近くにいても気にならない。そういったところだ」
「はあ。なるほど」
 その物言いは、多少突っ込みどころがあるような気もしたが、それなりに説得力もあった。何となく微笑ましくなって、
「それにしても、闇絵さんに猫って、すごく似合いますよね」
「ほう。もしかするとそれは、わたしも猫のようだという意味なのかな。少年」
 闇絵のさりげない一言に、真九郎の笑顔はなぜか途中で凍り付いた。
588闇絵さんと猫 2/3:2007/12/30(日) 22:38:44 ID:pvi76xr4

 もっとも、闇絵の視線には何の感情もこめられておらず、面白がっているのかはたまは怒っているのか、真九郎などには見当もつかない。ただ、一つだけ確かなことは、その視線を振り切ってこの場を去るという選択肢だけは与えられていない、ということだった。
 真九郎はしどろもどろになって、
「いや猫も悪くないというか…特にあまり深い意味は」
「ふむ。少年。往々にして、とっさの場合の反応にこそ、その人間の真実が多く含まれるものだ。君がたった今何を言い、何を言わなかったかは、非常に興味深いな」
「はあ…」
 闇絵が何を言わんとしているのか、正直なところ真九郎にはさっぱりだったが、この場を丸くおさめられそうなセリフを必死で探す。
「ええと…俺、好きですよ。猫」
 そう言った瞬間、不思議と、少しだけ呼吸が楽になった気がした。ほっとして、もう少し続けてみる。
「好きというよりは、憧れるというか…猫みたいに超然として独立独歩でいられるほど、自分に自信が持てたらいいな、とか思いますね。まあ、ペットとして飼うなら、犬の方が懐いてくれていいのかもしれませんけど」
「犬かね」
「…闇絵さんは、あんまり好きじゃないみたいですね?」
「はっきり言えば、嫌いだな。概して、飼い主に媚び諂い、強いものには絶対服従するくせに、弱いものにはとことん居丈高だ。生き様として美しいとは言い難い」
「はあ…」
 真九郎は曖昧に笑う。別に意外な言い草ではなかったが、そこまで言うこともあるまいにという気もした。ただ思ってもみないことに、闇絵は少し考えてから、こう付け加える。
「もっとも、犬にもよるがね。わたしも最近分かってきたのだが、犬も色々なのがいるようだ」
「へえ…」
「中には、誰かに飼われることを潔しとせず、どういうわけだか好んで独りきりでいるくせに、何かを命がけで守ってみたり、弱いものには優しくせずにはいられないような、変わった犬もいてね。それもまた愚かであるには違いないが、どうしてだか嫌いにはなれないな」
「はあ…そんなこともあるんですか。俺には、あまり良く分かりませんけど」
「そうだろうな」
 闇絵は、うっすらと頬笑んだ。
「君には、分かるまいよ。少年」
589闇絵さんと猫 3/3:2007/12/30(日) 22:39:47 ID:pvi76xr4

 それは確かに、闇絵の言うとおり真九郎にはちょっと理解が及ばないのかもしれないのだが、とはいえ真九郎としては、そんな闇絵の言い方に少なからずへこみもしたのだ。まあ、自分でよく分からないことについては、やはり他人の知恵を借りるに限る。
「…どう思います? 環さん」
「んー。そりゃあ、真九郎くんには分かんないだろうなー。むしろ、その場で分かってもらっちゃ困るっていうかさー。しかし闇絵さんも、あたしの目のないとこで、なかなかやってくれるじゃないですかうふふふふふふふふ」
「はあ…?」
「いーのいーの。そのまま、いつまでも純真なあたしの真九郎くんでいてねっ」
「ひょっとして俺バカにされてますか? それに何ですかそのあたしのってのは」
「うーん情ないなあ。でも、そんなとこがまたステキっ」
「ええとですから抱きつかないでください胸を押しつけないでください人の体を撫で回さないでくださいっつかそっちもじっと見てばっかりいないで助けてくれっ」
「…待て環。真九郎の膝に乗るのはわたしと決まっている」
「…真九郎さん。あとで道場に来なさい。いいですね」
「…やらしい」
590名無しさん@ピンキー:2007/12/30(日) 22:41:37 ID:pvi76xr4
投下終了。一応、闇絵さんシリーズの全10回分がほぼできたので、
今後、細かい手直しをしながら週1くらいのペースで投下予定。
591名無しさん@ピンキー:2007/12/30(日) 22:48:55 ID:aST3H3ul
GJ!!!毎回楽しみにしてます
592名無しさん@ピンキー:2007/12/31(月) 15:23:40 ID:t1IOYgr4
闇絵すわぁ〜〜んw
593名無しさん@ピンキー:2007/12/31(月) 19:06:47 ID:TBDLKwG8
「ジュウ様、除夜の鐘をつきに行きましょう」
「面倒臭いな」
「まあ厄除けだと思って。柔沢君、散々な一年だったでしょ?」
「・・・・一応行っとくか」


ゴ〜〜ン
「き、消えるるるぅぅぅららぁぁあああああッ!!」
「雨、大変だ!! 煩悩の塊の光ちゃんが消えちゃうよ!!」
「かまいません。


 倍率が、低くなりますから」
「それもそうか」
「何の倍率だ?」
「ジュウ様は知らなくても良いことです」
「知らない方が幸せってこともあるんだよ〜」
「・・・・そうか」
594名無しさん@ピンキー:2007/12/31(月) 22:03:24 ID:mOjzzabq

だが、そんなことでは俺たちの光タンは滅びない!

*****

「…ですが、ひとつ問題があります。人間の煩悩とはたった108ではすまないのです。チベットでは84,000あるといわれています。まして、光ちゃんのこと」
「…」
「…」

「あ…あれ? あたし、なんか消えてくーって思ったのに、何ともない…? てゆーより、なんか頭も体も前より軽い…?」

「しかも、108の煩悩が清められた分、新たな煩悩が生まれる余地も生まれるわけです」
「…」
「…」

「ああッ…お姉ちゃんダメッ一杯の年越しそばを二人で分け合って食べるなんて! あまつさえ一本のおそばを両側から二人で食べてくなんてッ…そんなのそんなの、二人の距離が無限に近づいていっちゃうッ…!
 雪姫先輩もッ…振袖の帯をつかませて自分からくーるくーるなんてッ!…自分からよいではないかよいではないかなんて言っちゃうなんてッ…そんなのそんなの、美味しすぎるッ…!
 円堂先輩ったらッ…新年の目標は武道百般をまず柔道からだなんてッ…空手には立ち技しかないけど柔道には寝技もあるからってッ…あたしも、絶対ついてきますからッ…!」

「ですが心配ありません。煩悩を除く鐘は本来は毎日朝晩つくもの。わたしが日夜鐘を鳴らしつづけている以上、いつか必ず」
「…」
「…」
「さらに呪詛調伏風水陰陽道真言祈伏その他もろもろ総てをあげて、必ずや怨敵は打ち滅ぼして見せましょう。ジュウ様とわたしの未来のために」
「(やはり真の敵は姉ッ…それにしても柔沢くんと二人っきりで初詣の約束したなんて言えないッ…振袖が出先で脱げても一人でも着付けられるよう特訓を重ねたなんて、言えないッ…)」
「(姉が過去視なら、妹は未来視の能力でも身に付けたというの? 恐るべし堕花姉妹ッ…! これじゃあ合気道に剣道でも始めて煙幕をはるしかないじゃないの…そうね柔沢くんとの特訓は警察の道場でも借りて人払いをさせなければッ…!)」
595名無しさん@ピンキー:2007/12/31(月) 23:30:19 ID:wwm16Qn4
吹いたwww
そして、問題のジュウ様を放置しているあたりも吹いたw
596名無しさん@ピンキー:2008/01/01(火) 00:40:20 ID:c3VliUPq
あけおめGJ
597名無しさん@ピンキー:2008/01/01(火) 10:39:53 ID:l3kJq5yW
ことよろGJ
598名無しさん@ピンキー:2008/01/01(火) 11:23:00 ID:pmNJR53Q
あけおめ〜GJ!
599名無しさん@ピンキー:2008/01/01(火) 11:43:38 ID:s0mrcLjU
闇絵旦!
600名無しさん@ピンキー:2008/01/01(火) 22:52:09 ID:PBJTHC2i
もう投下は全部超乙だぜwww
あぁかわいい・・・
601名無しさん@ピンキー:2008/01/02(水) 01:04:30 ID:EmAuKdmm
>>593
ダウニー先生乙

元旦おめでとうさん
602名無しさん@ピンキー:2008/01/03(木) 21:29:33 ID:cJucs72c
保守
603名無しさん@ピンキー:2008/01/04(金) 17:06:17 ID:bwljS8sr
ダウニー先生w

いわれて気付いたわwww
604名無しさん@ピンキー:2008/01/04(金) 20:09:40 ID:94zvf7DX
|・ω・)
605名無しさん@ピンキー:2008/01/05(土) 23:16:42 ID:v+/ztT6d
人がいない...だが空気など読まずに闇絵さんとほにゃらら、その四。
606闇絵さんと黒い服 1/4:2008/01/05(土) 23:17:54 ID:v+/ztT6d

 その日、いつものように帰宅の挨拶を樹上の闇絵とかわし、自室に戻ろうとした真九郎は、ふと足を止めて振り返った。なんとはなしに覚えた違和感の正体に、遅まきながら気付いたからだった。
「闇絵さん。今日は、ちょっと恰好が違いますね」
 声をかけてみたのだが、闇絵は空を眺めてタバコをくゆらせる姿勢を崩さなかったので、もしかすると耳に届かなかったのかもしれないと思った真九郎が再び踵を返しかけた時、
「ふむ。これくらいだと気付くのだな。なかなか面白い」
 するりと聴覚に忍び込んできた呟きに振り向いた真九郎を見下ろす闇絵は、確かにいつもと違って、黒いブラウスの上に黒いショート丈のボレロカーディガンを重ね着していた。
「はあ…まあ…」
 いつものことながら、闇絵のセリフの含意がつかめず、真九郎は曖昧なあいづちを打つ。そういえば、今まであまり気にとめたことはなかったのだが、ひょっとして。
「ひょっとして少年。今まで、わたしがいつも同じ服を着ているなどと思っていたのではあるまいな」
「えっ…いやーそのー…」
 なんだか得体の知れないプレッシャーを感じて、目が泳ぐ。手に冷たい汗が湧く。闇絵はさらに真九郎を追い込むように、
「そして今、わたしが実は日によって微妙に違う装いだったのに、全然気付かなかったのではないかなどと不安になっているのではあるまいな」
「あー…えーとですね…」
「少年。女性には、他人がやたらと触れてはならない神秘というものがあってな。男というのは、それに敬意を払うことで、かろうじて生存を許されることになっている。これもまあ、そういった類のことではある」
「はあ…」
 どうやら放免してもらえるのか、と思いきや、
「だが、それでも敢えて問うことにしよう。いったい君はどちらだと思うのかな。いつも同じ服なのか、それとも違うのか。うむ。これは実に興味深い設問だ。少年が隣人としてどれだけわたしのことを気に掛けてくれているかを理解するのに、極めて有用な問いと言える」
「いやいきなりそう言われましても…」
 そも五月雨荘は隣人付き合いを大切にするような場所じゃない筈ではとか、いつも黒づくめなんだから服のディテールまで気付く訳ないでしょとか、どっちにせよクローゼットは似たような黒い服で一杯なんでしょうがそういえば洗濯してるの見たことないですねとか。
 いろいろな考えは頭をよぎったのだが、そのどれもが口にすると自分の命を縮めそうな気がして、真九郎は、ここは素直に頭を下げておくことにした。
「えー……分かりません。すみません」
「ふむ。正直さと潔さは美徳だが、時として人をがっかりした気分にもさせるものだな」
607闇絵さんと黒い服 2/4:2008/01/05(土) 23:19:06 ID:v+/ztT6d

 その闇絵のセリフを耳にした真九郎は、やっぱり人をいじってるだけだったんだな早めに白旗を掲げておいて良かった、と内心冷や汗を流しながら、なんとか話題を変える術を探す。そしてようやく思いついたのが、
「それにしても、闇絵さん。黒が本当に好きですよね」
 闇絵はかるい微笑を浮かべたままで、その膝の上ではダビデが大きな欠伸をしてみせる。どちらも真九郎の思惑など全てお見通しというかのようだったが、めげずに続けてみた。
「何でしたっけ、いつだったか話してくれた…黒は女性の美しさを際立たせる、でしたっけ」
「そんなことを言ったかな」
「はあ、確か。まあ、闇絵さんを見てると分からないでもないですけど」
 この場を切り抜けるためのお世辞も入ってはいるが、まずは偽らざる実感だった。闇絵の青白い美貌も神秘的な立ち居振る舞いも、その黒衣があってこそ一層映えることに、真九郎としても疑問をはさむつもりはない。
 だが闇絵は、さも当たり前のことを言われたかのように、いたってつまらなさそうな口調で、
「少年。なかなか洒落た物言いを身に付けたものではないか」
「…すみません」
 やはり、真九郎ふぜいが一筋縄でかなう相手ではなかった。しおたれる真九郎がさすがに哀れになったのか、
「たしかに、わたしを見てそう言いたくなる気持ちは分からないではないがね」
 慰めなのか自慢なのか、今ひとつ微妙なフォローが入ったりはした。
「はあ…」
「ただ、黒というのはずっと身に着けているには怖い色だよ。よほど本人が勝らねば、服に喰われてしまって、単に陰々滅々となるだけだからな。わたしにしたって、物心ついてこの方黒以外を着たことなどないが、それでもいまだに日々これ精進といったところさ」
「そんなもんですか…」
 女性というのも、なかなかに大変なものだと素直に感心する。闇絵と黒服というのは、真九郎にとってみれば自然極まりない取り合わせで、それ以外の姿など想像もできない。おそらく、産着も(闇絵に赤ん坊の頃があったとしての話だが)黒だったに違いない。
 ただ、闇絵のセリフを受けてあらためて考えてみると、ちょっとした疑問は生じた。
「…でも、ほんとにずっと黒ばかりで、たまには飽きたりしませんか」
 闇絵はまじまじと真九郎を見た。まるで、そこに火星人がいることに今気付いたとでも言いたげに。
「…ふむ。少年。君はときどき、大変面白いことを言うな。飽きる、か。考えてみたこともなかったよ」
「いやですから、あの、それほど深い意味はですね」
 また何かやらかしてしまったかと慌てる真九郎に構わず、闇絵は真面目くさった表情で続ける。
「人間というものは、大体において、かくあるべしとか、かくありたいとか、かくあらざるをえないとか、そういったことで生きていくものだ。それが、自分が自分であることに飽きる、か。なるほど。たしかに、そういう単純な選択肢もあるのかもしれないな」
「え、ええと…」
「いや、思った以上に有益な会話だったよ。ありがとう、少年」
 そう言うなり、闇絵は再び、空に視線を戻してしまう。真九郎がそこにいることなどすっぱり忘れ去ってしまった様子とあっては、真九郎も首をひねりながら、自室へ引き上げざるを得なかった。
608闇絵さんと黒い服 3/4:2008/01/05(土) 23:20:22 ID:v+/ztT6d

 その翌日のこと。
 帰り際にたまたま環といっしょになり、買い物袋の中身を詳しくチェックされながら五月雨荘に戻ってきた真九郎は、門の側の大木の上に見慣れた姿を認めて、いつものようにポケットからタバコを取り出した。
 木の上からすとんと降りてきたダビデにタバコをくわえさせてやると、身軽に闇絵のところに戻る。闇絵はダビデから箱を受け取って一本を取り出し、どこからともなく取り出したマッチで火を付け、どこへともなくマッチをしまい、ふかぶかと一服した。
 何もかもが、いつもどおりの光景だった。
 それなのに、真九郎も環も、その場に根が生えたようになって、闇絵を凝視したまま動けない。
「どうしたのかな。二人とも。わたしがタバコを吸うのがそんなに珍しいかね」
 ややあってから、闇絵が多少うっとうしげな口調で訊いた。真九郎と環は顔を見合わせ、しばらく視線だけで美しい譲り合いの精神を競い合った結果、真九郎がおずおずと口を開く。
「あの…その袖口」
「ああ。これかね。昨日、君と話したことを少し実践してみただけだよ。何か?」
「い、いえ…」
 訊きたいことは山ほどあったが、それを尋ねると心にも体にも優しくない結果が訪れるような気がして、真九郎は口をつぐんだ。環も、じつに珍しく一言も発しない。
 その二人の視線の先で、闇絵がタバコを持つ手の袖口に僅かにのぞく純白のレースは、深い闇の中に差し込んだ一筋の陽光のように、どんな豪奢な装いよりも鮮烈な印象をもって、見る者を惹き付けてやまなかった。
 よく考えればそんなに大したことではないはずなのに、なぜこれほどまでに驚きと魅惑を覚えねばならないのか、真九郎には分からない。分からないまま、闇絵の手が優雅にタバコを扱う様から、ただ目を離せない。
「…ふーん」
 だから、後ろで何やら考え込んでいる環にも、真九郎は気付かない。

 さらに、その翌日の午後のこと。
「ただいまっ真九郎くんっ」
「…ええとどちらさまでしょう」
「んふふふふー分かんないかなーあたしだよあたしっ」
「って…ええっ…た環さん? どどどうしたんですその服は髪型は化粧は」
「いやー最近ちょっと出遅れ気味だから、そろそろ真九郎くんにあたしの真の魅力を見せつけとかないとなー、なんて。どう? このスタイルに美貌、めったにない掘り出し物ですよ旦那っ。今なら先着一名様に漏れなく進呈しちゃおうかなっ」
「はあ…これは見違えますね。美人なのは元から知ってましたけど…っていうかそんなに小綺麗にできるなら普段からしといてくださいよ」
「…えー、そんだけえ? 他になんか言うことないのー?」
「いやそんなに露出が多くて寒くないのかなってああもしかしてホステスのバイトとか始めたんですかええとなんですか何で目が笑ってないんですか何で人の頭を小脇に抱えるんですか何で俺の頭蓋骨がめりめりいってるんですかちょっと待ってうわあああっ」
「真九郎くーん。可愛さ余って憎さ百倍って、知ってるかなー?」
609闇絵さんと黒い服 4/4:2008/01/05(土) 23:21:33 ID:v+/ztT6d

 とまあ、そんな風に、いつだって、女性というのは男どもの度肝を抜くことに長けてはいるのだ。闇絵と環には限らない。

 九鳳院家の末娘ときたら、車の中で真っ赤なパーティードレスに着替えながら、いつもと違って赤いパンツを取り出すように真九郎に命じたり。「しし真九郎の趣味は知っているが、たたたまには意外性で攻めるのも有効だと環が言うのでなっ、たた他意はないっ」とか。
 あのエロ大学生いつかシメてやると思いながら「まあ…たまにはいいんじゃないか」などと言ってみたら、どういうわけだか、相手はふにゃあとだらしなく笑み崩れるし、バックミラーで跳ね返って突き刺さってくる隻眼の運転手の視線はやたらと痛いし。

 崩月家の長女ときたら、稽古に訪れた真九郎の前に、髪を結い上げた割烹着姿で現れたり。「ええと巫女さんはやりましたしFAとかナースは狙いすぎみたいで本当はメイドも捨て難いんですけどやっぱり控えめな方が殿方には好まれるかとあのういかがですか?」とか。
 どうでもいいけどその恰好で稽古するのかと思いながら「あー…良妻賢母っぽいね」などと言ってみたら、うっとりと昇天した表情で暫く自失するし、我に返ったかと思うと「ええと襟足の後れ毛なんかに凝ってみたんですけどムラムラします?」と畳みかけてくるし。

 村上家の一人娘ときたら、崩月家でそんなことがあったと話したところ、「…やらしい」と睨み付けてきたり。いやさ、それはいつもどおりのことだったのだが、その翌朝、なんだかいつもと違う雰囲気を漂わせていたり。
 それが何に起因するものなのか、午前中一杯頭を悩ませた挙げ句、昼休みの新聞部部室で相手が何故かやけ食い気味に三つ目のアンパンにかぶりつく口元を見てようやく頓悟し、「リップ付けてんだな、珍しい。けっこう綺麗だな、それ」と言ってみたところ。
 ごくナチュラルなピンクだが艶めいた光彩がなくもなく、道理で少しあでやかに見えたはずだと思いながらの素直な感想だったのに、相手は素っ気なく「冬は乾燥するからね。にしても相変わらずぼんやりしてるわねこのバカ」と罵ってくるし。
 さらに、「ごめん。今まで荒れ性とは知らなくてさ。そのうちにハンドクリームでも買ってやるよ」とフォローのつもりで言ってみたら、一瞬何かを言いかけて結局口を食いしばり、おそろしげなくらい無表情になってじっとり睨み付けてくるし。

 本当に、女性が唐突に何をしでかすかなんて、愚かな男には予測もつかないものなのだった。これもきっと女性の神秘というものなんだろう、と、真九郎などでは棚上げしておかざるをえないくらいに。
610名無しさん@ピンキー:2008/01/05(土) 23:23:10 ID:v+/ztT6d
投下終了。なんか、闇絵さんにいじられて悶える真九郎が一番可愛く思えてきた。orz
次回は「闇絵さんと雨の夜」。
611名無しさん@ピンキー:2008/01/05(土) 23:48:48 ID:xe9HyB2z
なんというGJ
いやすばらしいな。
612名無しさん@ピンキー:2008/01/06(日) 00:29:36 ID:S5gVjG15
タマ姉〜〜! 闇絵すわぁ〜ん!好きじゃ〜〜〜w
613名無しさん@ピンキー:2008/01/06(日) 11:07:25 ID:Et5QGmbJ
GJ。最後にはエロが入ってくることに期待
614名無しさん@ピンキー:2008/01/06(日) 19:54:55 ID:/rjwlTgg
「ジュウ君ジュウ君柔沢君、唇荒れてるよ」
「ああ? そんなの舐めてりゃ治る」
「いけませんジュウ様。濡れたままにしておく、とくに唾液では余計に荒れる元です」
「そうなのか?」
「はい。よろしければこのリ」
「柔沢君、よかったらあたしのリップ使ってみる?」
「じゃあ試しに使ってみるか。雪姫、ちょっとかりるぞ」
「んふふー、どうぞどうぞ好きなだけ」
「匂いが無くてなかなか良いな。・・・・どうした、雨?」
「何でもありません!! ・・・・雪姫、後でおぼえてなさい」
「嫌ぷー」


「ひとつのリップを使いまわし? ・・・・やらしい」




『じゃあ塗ってくれ。 ・・・・お前の唇でな』
. そんなの、そんなの、フレンチキスになっちゃう!!」
615名無しさん@ピンキー:2008/01/06(日) 21:20:15 ID:S5gVjG15
>>614
お前さんは俺の光たんをどんだけ貶めれば気が済むんだw
616名無しさん@ピンキー:2008/01/06(日) 22:46:17 ID:B6/+T3I3
>>614
光吹いたw
617伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/01/06(日) 23:04:08 ID:HurUj8aI
 人との出会いは何時だって唐突だ。
 突然に、理不尽に、こちらの都合なんてお構いなしにやってくる。
 例えばそれは――なんて事ない休日の昼下がりだったりする。

 † † †

 柔沢ジュウの昼寝を妨げたのは、自宅の玄関から響く、安っぽい呼び出しチャイムの音だった。
 ジュウはまどろみに沈んでいた意識を強制的に浮上させられ、反射的に舌を打った。
 対応に出るのが面倒で、呼び出された事実を忘却の彼方に追いやり、再び枕に頭を埋める。
 だが、来客はそれを許してはくれなかった。
 まるで推し量ったかのような正確さで、頭が枕に着地した瞬間にチャイムが鳴らされる。
 そこからは一定のタイミングでチャイム音が連続した。
 余りに迷いのない鳴らしっぷりに、来客は中に人が居ることを確信しているのではないかと考える。
 そんな事に思考を回す間にも甲高い音がジュウの鼓膜を震わせ続ける。
 再び舌打ち一つ。仕方なしにジュウは対応に出る事にした。
 適当なジーパンを履いて玄関へ。不機嫌さを隠しもせずにジュウは扉を開けた。
「はい、どちら様?」
 来訪者は気の弱い人間ならそれだけで身を竦ませそうな声音に、実に短い言葉で返した。
「柔沢紅香さんのお宅はこちらでしょうか?」
 その言葉にジュウの不機嫌さは極まる事になった。
 あのろくでなしの母親、その関係者。
 そう思うとジュウの中に、目の前の人間に対するネガティブな興味が湧いた。
 改めて客人を眺める。
 少女――それも美を付けてなんの文句もない少女だった。
 歳は自分と同じくらいだろう。見た目には、あの母親との関係を疑いたくなるような清純そうな雰囲気だ。
「確かにここは柔沢紅香の家だが、あいつなら居ない。何処にいるかも分からないし、何時帰るかも分からない」
 どんなリアクションを取るか窺いながら、やはり不機嫌な声で吐き捨てる。
 すると少女は意外にも顔を綻ばせて言った。
「不在であることは知っています」
「は?」
 ともすれば聞き流してしまいそうな程の自然な物言いに、ジュウは間抜けな返答をしてしまう。
「私は紅香さんにここの部屋を借りていいと言われて来たんです」
「は……? な?」
「しばらくお世話になりますね? え〜と……柔沢ジュウ……さん?」
618伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/01/06(日) 23:05:21 ID:HurUj8aI
 † † †

 こいつは私の知り合いだ。しばらく家に置いてやれ。
 こいつに関わる金銭的な部分は本人から遠慮なく徴収して構わない。
 部屋は私の部屋を使わせるように。
 手を出しても構わないが、やるからにはそれなりの覚悟をするように。
 母より。

 たったそれだけだった。
 少女から渡された手紙には、ジュウの母親である紅香からのメッセージがそれだけ書かれていた。
 ぞんざいに書き殴ったであろうにも関わらず、やたらと達筆な文字で書かれたその手紙は、字面も合わせて紅香らしさに溢れていた。
 ジュウは手紙を握る手に力を込め、くしゃりと握り潰す。
 沸き上がるのは怒りと呆れだった。
 ろくな説明のない手紙。自分に対する言葉など何一つなく、それでも最後に思い出したように書き加えられた「母より」という言葉。
 他に言うことは無いのかという想いと、せめてもう少し分かり易く事態を説明しろという苛立ちに、鹿目面を作る。
「あの……」
 文面に目を通す間、ずっと黙っていた少女が声を上げた。
「分かって頂けましたか?」
 さっぱり分からないし、分かりたくもない。そう言って彼女を追い返すのは容易だろう。
 しかし、訳も分からぬまま頭ごなしにそうするのは気が引けた。
「……手紙には目を通したか?」
「……見ていませんけど」
 小首を傾げ答える少女に手紙を突き出す。
「……」
 しばらくの沈黙の後、少女は紙面に走らせていた視線を上げると、少し――いや、かなり困ったような苦笑を浮かべた。
「なんていうかその……紅香さんらしい手紙ですね」
 ――まったく、どうしろってんだ。
 内心で呟き、ジュウは黙考に耽る。
 追い出すのは容易いが、それと同じくらい置いておくのも容易い。手紙の文面を信じるならば金銭的にも問題はないようだ。
 言ってしまえばどうだって良いのだ。ジュウに関わってきさえしなければ。
 唯一追い出す理由足り得る感情は、母親の適当な指示に素直に従うのが癪だということだ。
 だが、これにメリットが無いわけでもないと思う。
 事情は知らないが、それにさして興味が在るわけでもない。鬱陶しいと感じたら追い出せば良いだけだ。
 ここで彼女を預かればあの母親に貸しを一つ作れると考えれば別段悪くはない。ならば――。
「……勝手にしてくれ」
「え?」
 ぞんざいに、しかしあっさりと許可をだしたジュウに、逆に少女が面食らう。
619伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/01/06(日) 23:07:50 ID:HurUj8aI
「その、事の経緯とかきかないんですか?」
「不必要な干渉さえしなきゃしばらくここに住んで構わない。何があったかも俺は問わない。部屋は――」
「紅香さんの部屋、でしたよね?」
 少女は瞬時にジュウの意志を汲んだらしく、とりあえずなるようになったと笑顔を浮かべた。
「じゃ、俺は出掛けるから後は自由にしてくれ」
「え? 何か用事でもあるんですか?」
 ――お前には関係ない。
 そう言うようにジュウはさっさと自室へと戻り扉を閉めた。
 つまるところ、ジュウは不干渉条約を自らも積極的に実行しようという事だ。
 幸い時間潰しの術は心得ている。
 着替えながらジュウはこれからどこで隙を潰すか考える事にした。

 † † †

「柔沢紅香……か」
 彼はそう呟いて苦い表情を浮かべた。
「相手取るには厳しいな」
 自分の目的、すべき事。それに対する障壁としては些か難易度が高い。
 そう考えて、しかし彼は口元に笑みを浮かべた。
 妨げがあったとして目的やすべき事が変わるわけでもない。例え柔沢紅香を敵に回してもそれは変わらなかった。
 むしろ――
「さて、どこまで通用するか」
 彼は、柔沢紅香と張り合える事実に少々の歓喜すら感じていた。
「……待ってろよ」
 呟く声は虚空に消えて、誰の耳にも届かない――。

 † † †

「あれ? ジュウくんじゃん」
 ふと立ち寄った書店でかけられた声に、ジュウはしまった、といった表情で振り返った。
 そう言えばこの辺はこいつの学校からわりかし近い場所だったな、と気付いて、ジュウは自分の迂闊さを呪った。
「なになにどしたの? この辺にいるなんて珍しいね。あ、まさか休日に私の事をストーカーとか?」
「違うから黙れ」
 鋭く言い放って、声をかけてきた相手――雪姫を睨み付ける。
 雪姫はジュウの厳しい視線を受けて尚、満面の笑顔を返した。
「やだな〜、もう。ちょっとした冗談だって」
 ケラケラと笑って見せる雪姫に、ジュウも眉間に刻まれた皺をほぐし、代わりに脱力の溜め息を吐く。
「で、こんなとこでどしたのジュウくん?」
「……別に、なんでもねえよ。暇潰しに適当に歩いてただけだ」
 覗き込まれるような体勢に、若干背を反らして互いの距離を離しながらジュウは答える。
 雪姫はその答えに笑みを深めた。
「暇なんだ?」
「……そうだが」
 次の言葉が容易に想像出来て、ジュウはまたも自らの迂闊さを呪った。
620伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/01/06(日) 23:10:13 ID:HurUj8aI
 雪姫は雪姫で暇なんだろう。それを同じ暇をしている自分を巻き込んで遊ぶつもりに違いない。
「じゃあさ、一緒に遊ぼうよ」
 ――ほらな。
 内心でそう呟いて、ジュウは考える。
 別に断る理由はない。いくつか用意していた選択肢が増えるだけ。そしてそれを選ぶのは悪い考えでもない。
 そこまで黙考して、ふとジュウは気付く。
 かつて――雪姫や、もう少し前に雨と出会う以前の自分なら、こんな誘いは一考の余地もなく切り捨てていた。
 弱くなった――というよりは単純に気を許していると云うことかもしれない。
 あんなに独りが良いと、そう思っていたのに。
 もっとも
「分かった。付き合おう」
 ――今感じるそれを否定したいとも思わない。
 ジュウは雪姫に手を引かれ歩き出した。

 † † †

「柔沢ジュウ……か」
 そう呟いて彼女は楽しそうな表情を浮かべた。
「面白そうな人間だったな」
 柔沢紅香の息子。
 弱い、とても弱い人間だと母親である柔沢紅香は言っていた。
 そんな彼は、彼女に不干渉を求め、不干渉を与えた。
 ――それも名前を聞くことすらしない徹底ぶりだ。
 彼女にとってそれは真新しい対人関係であり、不思議な感覚をもたらした。
 もしかしたらそれは、彼女が本当の意味で対等に扱われた瞬間だったかも知れない。
 家族も家族に似た人達も、彼のようにはしなかった。
 良きにしろ悪きにしろ重要視されて扱われてきた。
 だから、どうでも良いと切り捨てられて、逆に楽しいというか、面白いと感じた。
「ふふ……」
 小さく声を零して彼女は笑む。
「彼は……柔沢ジュウという人間はあとどれくらい私を楽しませてくれるだろう?」
 見慣れぬ部屋。彼女は束の間の自由を謳歌する―――。

 † † †

 時の流れを早いと感じたと言うことは、案外自分は楽しんでいたらしい。
 付き従うままに街を歩き回り、買い物に付き合い(自分も買ったが雪姫は倍以上買っていた。しかも持たされた)、喫茶店で雑談に興じた。
 やがて陽が暮れ始めたあたりでようやくジュウは時間の経過を意識した。
 腕に付けた馴染みの時計を見れば、示す時間は午後の六時をやや過ぎた辺り。
「もうこんな時間か……」
 ぽつりと零した呟きに、先を歩く雪姫が振り向く。
「あっと言う間だったね」
 小さな微笑を浮かべ、再び前を向く。
「ご飯どうしよっか?」
 問われ、ジュウは考える。
621伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/01/06(日) 23:12:42 ID:HurUj8aI
 財布の中に大した額は入れずに出て来た為、外食するには若干心許ない。
 ならば選択肢としては家に帰り自炊が推奨される。
 ――そういえばアイツはちゃんと飯食ったのか?
 自宅に置いてきた来訪者を思い浮かべる。
 如何に不干渉を決め込んだとはいえ長い間の放置は気になる。
 疑わしい訳ではない。しかしそう考える事が紅香に全幅の信頼を寄せているみたいで不愉快だということもある。
「俺は帰ってから飯を食う」
「そっかー。私はどうしよっかなー?」 首を斜めにして考える素振りを見せてから、雪姫はくるりとジュウに体ごと返した。
「ねえねえジュウくんジュウくん柔沢くん。私もジュウくんの作ったご飯が食べたいな?」
「……は?」
 咄嗟にジュウは反応出来なかった。
「ほら、いつだったかジュウくんが作ったフレンチトースト食べたでしょ? あれが美味しかったからさ。他にもジュウくんの手料理食べたいなーって」
 そう言って雪姫は手を合わせ、ねだる仕草を取る。
 これが平時であれば別に構わなかった。どうせ文句を言った所で、何だかんだで押し切られただろう。
 それに一人分作るのも二人分作るのも大して手間の差はない。
 しかし今は家に人がいる。紅香が連れてきた少女が。
 あの少女を見られたら、雪姫はどんな反応を示すだろう。とりあえず面倒な事になりそうな事だけは予想出来る。
「……来客がある」
 返した言葉はそれだけだった。偽りはなく、断る理由としては十分。流石に雪姫も諦めるだろう。
「ありゃ……。ん〜、そっか〜」
 ジュウの思案通り雪姫は、不承不承といった面持ちで納得した。
 納得してもらった所でお開きとなり、途中まで雪姫と帰り、少しの世間話をして別れた。

 ――その後、独りきりの帰路、夕暮が薄闇に呑まれかけている空を見上げたジュウが、雪姫の荷物を持ちっ放しだと気付いたのは既に自宅のアパートが見えてからだった。

続く
622伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/01/06(日) 23:21:53 ID:HurUj8aI
 ――はい、と言うわけでお久しぶり。毎度、伊南屋で御座います。

 続きものです。
 しかし次の投下は別な話になります。
 しかもそれも続きものだったりします。
 住人の皆さんにはご迷惑をお掛けします。
 一応一週間に一回の投下。それを各SSで交代。つまり一作品隔週投下を目論んでいます。
 
 ついでなので次作品について。
 レベィオ・ヘッド番外編です。タイトルは「Radio head Reincarnation〜黒い魔女と紅い魔女〜」
 メインはあの二人になります。
 第一話の七割まで完成しているので約束はまだ守れるはず。
 あまり期待しない程度にお待ち下さい。

 それでは以上、伊南屋でした。また来週。
623名無しさん@ピンキー:2008/01/07(月) 00:46:02 ID:893sO8DT
ぐぐっと来たぜ!
GJGJ!!
いやー、先が楽しみで仕方ない。
624名無しさん@ピンキー:2008/01/07(月) 01:10:24 ID:Lum5XJmh
>>610>>614>>622もGJ!
そろそろ闇絵さんのターンなのかもしれないな
625名無しさん@ピンキー:2008/01/07(月) 11:04:02 ID:10EmWIAM
>>622
才能ありすぎです。
先がめっちゃ気になる、GJならぬゴットGJ!!
626名無しさん@ピンキー:2008/01/07(月) 15:40:42 ID:b+25bq1h
帰省から戻って来たらこの投下ラッシュ。
オラワクワクしてきたぞw
627名無しさん@ピンキー:2008/01/07(月) 16:12:17 ID:L4Rh0Phv
畜生、自分は妄想劇場しか書けないのに、皆さん素晴らしいのをお書きなさる(*´Д`)
628名無しさん@ピンキー:2008/01/07(月) 16:47:37 ID:xUgnea/N
GJすぎるwwwww

スレ確認を怠らないようにしなければならなくなった(*ノノ)
629名無しさん@ピンキー:2008/01/08(火) 00:00:02 ID:zPVXxlSS
職人さんGJの流れにのって、>>227の続きを投下させていただきます。

・今更ですが、捏造設定たっくさん
・捏造どころか、オリジナルのキャラクターまで出ちゃいました。
・急展開杉
・久しぶり過ぎて、展開に矛盾があるやも

そんなところに気をつけて、お読み頂けるとありがたいです。
NGワードは『常識を破るモノ』で。
630常識を破るモノ−流転:2008/01/08(火) 00:07:17 ID:V2LOwsqW
 幼い頃から自分は闇の世界に生きてきた。
 別にそれが幸とも不幸とも感じなかった。それが自分にとっての「日常」であり「常識」であったのだから。
 『常識破り』。気づけば、そんなあだ名で呼ばれていた。だが私はそれをいつの間にか気に入っていた。
 自分だけが特別、そんな錯覚に陥ることができたから。その点だけは自分でも歪んでいるな、という感情は持ち合わせていたのだが。
 私は別に特殊能力の保持者でもなければ、斬島の一族のように刃物の扱いに長けているわけではない。

 だが唯一、他人と変わっているところがあるとするなら…そう、「あらゆる状況から未来を予測すること」が出来るくらいだろうか。

 当然、それは予測は予測であって予知能力ではない。後者が超常能力に対し、前者は立派な『予測』というデータに基づくものであった。
 故に直接私自身手を下すことはそう多くはない。だが、もちろん最低限の『殺し』の技術は会得している。
 そう、人を殺すのに派手な技や人を超える力など不要なのだ。首に両手を沿え、ほんの少し力を込めれば……人は死ぬ。
 代々、そうして私の家系は裏で汚い仕事を担ってきた。この日もちょうど人を殺したばかりだった。
 別に私は人を殺すことに悦楽を感じているわけではない。それなりの倫理観も持ち合わせてはいるつもりだ。…ただ「人を殺す」という点以外については、だが。

 しかし、意外なところで私の邪魔をした人間がいた。柔沢紅香。対峙したのは初めてだったが、成る程、全盛期よりは力を衰えていると聞いたことはあったが、
 全くそんなことを感じさせないくらい彼女は若かったし、むしろその凶暴性は磨きがかかっているとも思えた。
「悪いが、このままあんたを野放しにしていたら、ウチの悪餓鬼にも被害を及ぼしそうなんでね。
 あれでも一応はあたしの息子だ。あれでなかなか厄介ごとに首を突っ込むみたいでさ、あんたが関わりあう前に歯止めかけさせてもらった」
 私を打ちのめした時、彼女はそう言った。成る程、彼女の凶暴性に磨きがかかった理由が何となく分かったような気がする。
 陳腐な言葉だが『守りたいものがあるから』なのだろう。私には到底理解の出来ない理由ではあったが。私はずっと独りだった。
 守られることはなかったし、守りたいと思うものもなかった。ただ単に私は、『私』として生きることが出来ればそれで十分だった。

 ―――なんという空虚さ。笑ってしまう。自分自身、『生きる』という意味を理解していないではないか。
 
 もしも、『生きる』ということを大切にしているのであれば、他人の命の重みも分かるものだ。
 だが――、私にはそれが感じられない。ならば、私は、ただ単に何も理解していないと言うことになる。
 守りたいものもない私には、何もない。ただ生命活動を維持している人形に過ぎないということだ。
 結局、家の者に操られているだけのからくり人形。

 しかし、奇遇にも柔沢紅香は本人も意図しない内に、その人形に『興味』という種を植え付けた。
 孤高だった彼女が『守りたい』と感じられるものは一体何なのか、という『種』――柔沢ジュウを。



「ん、んっ………」
「やあ、目覚めたかい。堕花雨君?」
「…」
 廃工場。少女は自分のことながら、陳腐な場所を選んだなと感じつつも、自ら縄で縛り上げ地面に転がしている少女に視線を向けた。
 堕花雨―――、あの『柔沢ジュウ』の最も近い場所にいる人間、それが彼女であった。
 雨はその鬱陶しい髪の間から、ただジッと目の前の少女に視線をぶつけていた。

 年の頃は自分と同じぐらいだろうか。中性的な顔立ちで、一見しただけでは男か女かははっきりと区別できない。
 それでも女だと分かったのはその声と体つきであった。
 声は高いものの、耳をつくような甲高さではなくどこか甘く蕩けるような優しい声色だった。
 体つきも、雨より若干背が高いぐらいなのに、黒いシャツの上から見ても分かるぐらいにそのラインははっきりとしている。

 彼女は長い髪をひとつのお下げに束ねた髪の房を手に取り、退屈そうに弄る。
「やっぱり私の『予測』したとおりだ。君は柔沢ジュウ君のこととなるといささか冷静さを欠くようだね。
 どうだった? 私の嘘は。あれぐらいの脅迫文ならば、小学生にも書けるとは思うけれど、効果覿面だったようだね」
「……」
 雨は少女の言葉に耳を貸さず、身動きが取れない身体の代わりに、その視線で殺してしまいそうな程に殺気を込めて睨み続けていた。
631常識を破るモノ−流転:2008/01/08(火) 00:13:31 ID:zPVXxlSS
 少女はおどけたように肩を軽く竦ませて、溜息をつく。
「やれやれ、そこまで怒られるとは思ってもいなかったよ。
 『柔沢ジュウの身柄は預かった。彼を無事で返して欲しければ、独りで廃工場に来い』
 ……ふふふ、あまりにも典型的な脅迫文にしては」
「雪姫を襲ったのも貴女ですか」
 少女の言葉をさえぎる様に、雨は殺意を視線に乗せてぶつける。

 そんな雨の様子が面白かったのか、少女はくすくすと笑みをこぼし、首を縦に振る。あっさりとした肯定。
「ご名答。その通り私が彼女を襲った。驚いたかい?『斬島』が相手なら、確かに私の方が不利だろう。
 ただし、それは刃物を手にしているという前提条件の下でのことだ。刃物を手にしていない『雪姫』という少女ならば、話は別だ。
 確かに、刃物を手にしていない『雪姫』でも、一般人よりも、体力・反射神経・運動能力・体術ともに劣りはしないだろう。
 そう柔沢ジュウ君よりはね。いやいや、そう怖い顔をしないでくれ。別に彼のことを馬鹿にしているわけではないよ?
 柔沢紅香の息子。なるほどなかなかに度量があるみたいだね。少し冷静さが欠けているようにも思えるが、行動力と決断力、そして打たれ強さは流石と褒めるべきだろう。
 おっと、話が逸れてしまった。つまり、『雪姫』のスイッチが切り替わるその瞬間までに彼女を狙えばいい。
 そのスイッチのキーである『刃物』だが、取り出してそれを握るにはどうしても僅かな隙が生じてしまう。
 彼女の行動を『予測』すれば、そんなものどうにでも防ぐことが出来る。これでも一応は『殺し』の技を持っているのでね。
 まあ、『斬島』に成り変わった時のリスクへの恐怖を取り除けば、簡単だと言えば簡単だったかもしれないね」

 朗々と詩吟を詠むかのように、すらすらと言葉が出てくる少女。雨はその内容に興味を持つことはなく、ただひたすら睨み続ける。
「貴女は一体何者ですか? そして、その目的は?」
 少女の上機嫌な表情はすぐに崩れ、興味が冷めてしまったかのようにやれやれとため息をこぼした。
「君は思ったよりもせっかちのようだね。何事にも時の流れとタイミングというものがある。
 まあ、そういう意味では、このタイミングでそれを訊ねてきた君にも興味があるが、それはおいておこう。

 歪空 亜月(ゆがみそら あつき)。

 『歪空』――『空を歪める』ことさえ可能とする非常識な『常識破り』。
 『亜月』――『空を歪める』ことから生じて見える二つ目の『偽りの月』。
 それが私の名が表す意味だ。どうだい、なかなか洒落ているだろう?」

 そして少女、歪空亜月は微笑んで口にした。

「私の目的は、柔沢紅香の息子――柔沢ジュウを絶望に陥れること。それが目的さ」
632常識を破るモノ−流転:2008/01/08(火) 00:17:50 ID:zPVXxlSS
 その頃、ジュウは雨の中を走り回っていた。びしょ濡れになったシャツが身体に張り付いて気持ち悪い。
 だが、そんなことを自覚的に感じられないほど、彼には余裕がなかった。思い当たる場所はすべて回ってみた。
 そんな行動とは裏腹に、彼女の姿はなく、絶望感と焦りが彼の思考を黒く塗りつぶしていた。

「くそ、冷静になれよ、柔沢ジュウ!」
 それを理性で押しとどめようとする。感情的に身を任せて、今までに功を奏したことはない。

 それは今までの事件からも学習したことだった。だが、雨に危険が迫っていることは確実だ。
 あの雨が自分に言伝なく姿を消すなどありえない。そして、彼女はこうも約束した。
 『ジュウ様の目の前から勝手に消えるようなことは致しませんから』と。

 …本当に軟弱になったものだ。たった一人の人間が目の前からいなくなっただけで、こんなに取り乱してしまうなど。
 そう、こんな不安な気持ちを抱えたくがないために、ジュウは今まで親密な友人は作ってこなかった。
 自分のために誰かが危険に晒されるなど、そんなことが起きるなら彼女と出会わなければ良かった。

「何を言ってやがる……馬鹿か、俺は」
 あまりにも情けない思考が浮き出てきた自分に苦笑をこぼした。そんなことを考えている場合ではない。結論を出すには早すぎる。
「俺が犯人なら、どうする?」
 そう、そこだ。最終的なターゲットはジュウだと円は言った。
 もし雨を殺したとするなら、彼女の遺体なり何なり、その痕跡をジュウに見せ付けるはずである。
 それが未だ見つからないということは、最悪の状況はまだ訪れていないということだ。しかし、のんびりとはしていられない。
 最悪な状況が訪れていないだけで、現時点においてジュウは後手に回っている。
 このままでは、雨を探すどころかいつジュウも襲われるか分からない。

 早く、手がかりを見つけ出し、雨を助け出さなければ。

 しかし、どうする? 手がかりと言っても、これと言ったものはない。
 電話越しの光の様子を考えるに、呼び出した証拠などは堕花家には残ってないだろう。
 円に連絡するか? 一番現実的な手段ではあるが、彼女もまた危険に晒される可能性もある。
 それは最後の手段ぐらいに考えておこう。それに彼女と連絡を取ったからといって、手がかりが見つかる保証があるわけではない。
 八方塞がりだな。やはり、円に連絡をするか。今はプライドや見栄を張っている場合ではない。
 軽蔑されるかもしれないが、雨を救い出すには一刻を急ぐ。携帯を取り出して電話しようとしたその時、その円から電話がかかってきた。

『柔沢くん?』
「円堂か! 実は、雨が……」
『分かってる。「常識破り」が何かしらの手を使って雨に干渉したみたいね』
「おまえ、どうしてそれを…それに、病院にいるんじゃないのか?」
『馬鹿ね、雨が消えたと知って自分だけじっとしていられるわけないじゃない。今は自宅。
 すぐに折り返してメールを送るから、そこに行ってみて。たぶん…ヒットすると思うわ』
 早口にまくしたてると、円は電話を切ってしまった。不思議に思っていると、すぐに彼女からのメールが送られてきた。
 そこには、町外れの廃工場名の文字と簡単な場所の案内。行ったことなどないが、場所なら分かる。
 ―――ここに雨がいると言うのだろうか? しかし、どうして円が知っているのだろうか。
 確かに彼女の情報網は、これまでにも頼りにしたことがある。だが、流石の彼女もこんな短時間で調べがつくわけがない。

 だが、今更だった。
 ジュウは、彼女からの情報を疑うほど賢くはなかった。いや、疑おうと思えば幾らでも疑えただろう。
 しかし、冷静になってみればなるほど、彼女のことを疑うことは出来なくなってしまっていた。
 それがなぜだか、彼にはわからない。それでもジュウは、行動を起こすことを決心した。
 不確定要素は幾らでもある。両手の指を使っても数え切れないほどだ。

「……やってやろうじゃねえか」
 
 ―――『常識破り』? ハッ、それがどうした。
 雨と出会ってから、既に、俺は『常識』という枠の外に足を突っ込んでいるんだ。
 『危険』や『不安』なんて『常識』、こっちからぶっ壊してやる。
 
 雨、待ってろ。 お前が俺を主と呼ぶなら、俺は主としての義務を果たしてやる……!
633名無しさん@ピンキー:2008/01/08(火) 00:19:51 ID:zPVXxlSS
今回は以上です。
…さて、今更覚えている人がいるのやら、どうなのやら。
まあ、細々と書き続けるつもりです。
634名無しさん@ピンキー:2008/01/08(火) 00:19:57 ID:PU2Tsk2e
なにこれ
635名無しさん@ピンキー:2008/01/08(火) 00:33:32 ID:PU2Tsk2e
あ、エロパロ板だね
ごめん。本スレかと思った
636名無しさん@ピンキー:2008/01/08(火) 10:13:08 ID:KW5lcXYQ
常識破り続きキタゥァーー!!
待ってましたぜ。
このまま幕了までつっぱしってください。

しかし最近のss連続投下は神すぎるな。
次巻が出たころにはここの神職人さんたちの手によって
星噛絶奈が萌キャラ化していると信じている。
637名無しさん@ピンキー:2008/01/08(火) 16:29:11 ID:iz4A0qrk
待ってましたああああ(*ノД`*)


続きwktk
638名無しさん@ピンキー:2008/01/10(木) 00:40:05 ID:jdPkmMJ2
おお。古参の職人さんたちも戻ってきてくれて、一気に賑やかに。
妄想劇場からシリアスまでいろいろ読めて、とても嬉しい。

その端にこっそり連なって、闇絵さんとほにゃらら、その五。
...エロパロ板でこう言うのは心苦しいのだが、このシリーズは最後までエロはないんだ。済まない... orz
闇絵さんのエロは自分にはハードルが高すぎるので、神職人の降臨を期待。
639闇絵さんと雨の夜 1/5:2008/01/10(木) 00:45:31 ID:jdPkmMJ2
なんか、うまく書き込めない...? 連投になってたら済まない。
*****

 一日中しとしとと降り続いた雨は、真九郎が夕方遅くに五月雨荘に帰り着く頃になってもまだ止む気配はなくて、当然ながら門の側の樹上にも見慣れた姿は見えなかった。ほっとしたような物足りないような気分で自室の扉を開けたところで、足がひとりでに止まる。
「やあ。少年」
 全身漆黒の装いの麗人が、部屋の中に座ったままで挨拶をよこした。いや、それだけなら(あまり慣れたくないことではあるが)もはやさほど驚きはしない。問題は、闇絵の膝先に頭をもたせかけるようにして、すやすやと寝息を立てている少女の方だった。
「…紫」
「ああ。三時間ほど前に来てね。つい今し方まで一緒に話していたのだが、ちょっと待ちきれなかったようだ」
「はあ…」
 とりあえず荷物を置いてから、寝顔を覗き込む。陶器人形のように整った貌が安心しきった表情で眠る様は、それを見る側の心まで和らげてくれるような気がした。
「…すみません。面倒みてもらったみたいで」
「構わないよ。この子と話すのは、なかなかに面白い」
 闇絵の口調まで、いつもに比べるとやや物柔らかに聞こえた。少女の小さな体の上に毛布まで掛けてあるのは、闇絵にしては上出来すぎるくらいの心遣いである。
「…よく寝てますね」
 闇絵と紫の側に腰を下ろしては見たものの、起こすべきかどうか迷う。そんな真九郎に闇絵は少しだけ目を細めて、
「少年。替わってもらってもいいかな」
「は?」
「そろそろ、タバコを吸いたいのだ」
「あ。そうですね」
 なんと、この世で最愛の対象と公言して憚らないタバコまで我慢してくれていたらしい。真九郎は恐縮しながら、闇絵が膝をはずせるよう、紫の形のよい頭をそっと支えた。
 闇絵が身を引いたあと、代わりに手近にあった座布団を敷いてやる。少し感触が変わったせいか、紫はか細いうめき声を上げはしたが、そのまま眠り続けた。
 闇絵は窓辺へ移動し、窓を少しだけ開けると、タバコに火を点ける。静かな雨音を背景に、目まで軽く閉じて、じつに美味そうに久しぶりの一服を味わっていた。
「すみません、なんかいろいろと」
「いや。気にすることはないさ。しかし、何時間も文句一つ言わずに待ってもらえるとは、相変わらず愛されているな。少年」
「はあ…」
 いまさら照れたり否定したりする気にもならず、真九郎は天使のような寝姿を見下ろす。全く何だって、この稀有な少女が自分なんぞの人生に入り込んできてそのまま居座ることになってしまったのだか。
「それにしても、何の用なんでしょうね。急用なら、電話してくれてもよかったのに」
「さあね。わたしには話してくれなかったよ。なんでも、電話では話したくないような口振りだったな。以前そうした時に、あまり良い思い出がないらしい」
「へえ…」
 いったい何のことなのか。真九郎には、思い当たるふしがない。まあ、そのうちに起きて話してくれるだろう。
640闇絵さんと雨の夜 2/5:2008/01/10(木) 01:12:14 ID:jdPkmMJ2
 
「それじゃ、どんな話をしてたんですか」
「いろいろだよ。君のことが半分。その子自身のことと、わたしのことを、少しずつ。あとは、そうだな。女としての心得について、かな」
「…何かまたヘンなことを吹き込んだんじゃないでしょうね」
 思わず半眼になって、人をからかうことに長けた黒い魔女を見やる。その視線を平然と受け流す闇絵はいたって無邪気な風で、
「君と違って、その子は賢いからな。わたしとしても、めったなことは言えないさ。しごく真面目にお相手したつもりだが」
「…そうですか」
 いろいろとひっかかるところの多い言い草ではあったが、追求しても不毛な気がして、とりあえず見過ごすことにする。とはいえ、そんな真九郎を横目で見つつ、闇絵が窓の外へタバコの煙を吐き出してから、
「いや本当に、大した女の子だよ。表御三家も捨てたものではないな」
 そう口にしたことには、ちょっと頷けなかった。
「それは…どうでしょうね。こいつはこいつで…九鳳院に生まれなくても、やっぱりこんなだったんじゃないかって、思いますけど」
「少年。それは違うよ」
 闇絵があっさりと言い放つ。紫の最も大事な部分を否定されたような気がして、真九郎はつい鋭い視線をとばしてしまい、闇絵の苦笑に受け止められた。
「なるほど、人間の本質はそう変わるまいよ。だが、九鳳院に生まれたからこそ、その子は今のその子になったのさ。違う環境で生まれ育っていれば、違う表れ様をした筈だ。それは、君が普通の家庭に守られたままだったら今の君にならなかったのと、同じことだ」
「それは…そうかもしれませんけど」
 それでも、やはり納得はできなかった。
「でもこいつは…俺みたいに弱い人間じゃないから。だから、きっと」
「それは君の願望にすぎないな。少年」
 真九郎がかっとなりそうな自分を抑えられたのは、そう言う闇絵の瞳が、とても深くて昏い色を湛えているのを見てしまったからかもしれない。
「どんな状況でも変わらない確固としたものなど、この世にはない。それは君も良く知っているはずだ。希望や願いと、現実を一緒くたにしてはいけないな。君がこの世界で確かな拠り所を求めるのは勝手だが、その重荷をこんな少女に託すのはどうかと思うね」
「俺は…そんなことは…」
 弱々しく言い返しながら、それでも闇絵の言うことが真実だと、悟らざるをえなかった。確かに、紅真九郎は九鳳院紫に過大な期待と幻想を抱いているのかもしれない。それは認めよう。だが、闇絵がふるう言葉の剣は、諸刃であるはずなのだ。
「じゃあ…闇絵さんはどうなんです。闇絵さんも、今の自分は、たまたまそうなっただけのあやふやな人間だって、そう思うんですか。自分にも何一つ確かなものはないって、そんなふうに思えるんですか」
「わたしか」
641名無しさん@ピンキー:2008/01/10(木) 01:12:22 ID:o9o4wWsR
支援
642闇絵さんと雨の夜 3/5:2008/01/10(木) 01:13:23 ID:jdPkmMJ2
 
 闇絵がその問いを予想していなかったはずはない。だが、闇絵はすぐには答えなかった。タバコを窓枠でもみ消すと窓から離れ、真九郎と紫のすぐ傍らに来て膝を折る。
「わたしはね。少年。今のわたしになるしかなかった。どの道を通ろうと、結局は」
「それって…」
 今し方言ったことと矛盾してるじゃないですか、と反論しかけて、闇絵の横顔に浮かぶ何かに言葉を飲み込む。闇絵の目はじっと紫に注がれていて、その指は優しく少女の長い黒髪をなぞっていた。
「それは、石ころが地面に落ちるのと同じことなのさ。不可避ではあるが、何も意味しない。ただ、そうなるというだけのことだ」
「闇絵さん…」
 何を言うべきか見当もつかずに眉をひそめるばかりの真九郎に、闇絵は一瞬だけ横目をくれてから、微かに自らをあざ笑うかのような苦笑を漏らす。
「少年。そう困った顔をするな。単に事実を述べているだけだ。それにわたしだって、君と同じように、時に夢くらいは見る。だから本当は、君のことをとやかく言えるような立場ではないのさ。さっきは、済まなかったな」
「いやそれは…でも、夢って…」
「そうだな。たとえば、ちょうどこんな」
 言いかけた闇絵だが、頭をかるく振って、
「いや。忘れてくれ。あり得ないことについて語るのは時間の無駄だ。少年」
 立ち上がろうとして、だが、袖を引かれて果たせなかった。目を落とした闇絵に向かって、稚い中に芯の強さを秘めた声が放たれる。
「…確かに、あり得ないな」
「…紫」
 闇絵の袖を、小さな手がそっと掴んでいた。
「起きてたのか」
 真九郎が驚きの目を向けると、紫は少し恥ずかしそうに目元だけで笑んだ。寝起きのせいか、目の縁が少し赭い。
「うむ。さきほどからな。盗み聞きをしたようですまない」
「いや…それはいいけどさ。うるさかったか」
「そんなことはない。大切な話だ。…闇絵。お前の言うことは、ややこしくて良く分からないところも多いが、これだけは言える。わたしは、わたしだ。九鳳院紫以外だったらどうだったかなどと、実際にそうならなかったのだから、考えても仕方がない」
 闇絵は、少しだけ眩しそうな目をして、じっと紫を見ていた。
「お前たちも、同じだ。真九郎は真九郎だし、闇絵は闇絵だ。これまでどんなことがあったにせよ、今のお前たちは確かにここにいる。それに、わたしがわたしでいるのは、お前たちがいるからだ。わたしたちは、お互いがいるから、自分でいられる。わたしは、そう思う」
 紫はもう片手を伸ばして真九郎の手も捕まえると、二人を引き寄せながら、にっこりと笑った。
「だから、お前たちが今ここにこうしていてくれて、わたしはとても嬉しい。そして、お前たちも同じに思ってくれるなら、もっと嬉しい」
 真九郎と闇絵は、そんな紫の頭上で目を見合わせる。全く、九鳳院紫という少女には、つまるところ誰もかなわないのだった。
「…そうだな」
 真九郎が紫に微笑み返そうとした時、階下から人の声が上がってきた。
643闇絵さんと雨の夜 4/5:2008/01/10(木) 01:15:02 ID:jdPkmMJ2
 
「…ちょっと武藤さん。それってまたいかがわしいビデオなんじゃないでしょうね」
「えーそんなことないよ。これくらいじゃ真九郎くん、興奮のあまりあたしを襲ってくれたりしないもん。最近じゃ教育上の配慮もばっちりで、幼女ものとか同級生ものとか上級生ものとか綺麗なお姉さまものは避けて、大学生のお姉さんものでまとめてるし」
「それのどこが教育上の配慮ですかっ」
「そりゃもちろん正しい嗜好を身に付けてもらってあたし好みに育て上げるためのって、きゃあ何言わせんの恥ずかしいっ」
「恥ずかしいのはこっちですっ。とにかくそれは没収です没収っ」
「あれえそんなご無体なっ…ちえーいいもん他にいくらでもあるから。後でまた持ってこようっと」
「…あなたとは、いっぺんきっちりとお話させていただいた方がいいようですね…」
「わあ夕乃ちゃん怖ーい。そのお顔、ぜひ真九郎くんにも見せたげよう!」
 そこで、真九郎の部屋の扉が大きく開け放たれる。
「喜べ真九郎くん! 夕乃ちゃんが晩ご飯を作りに来てくれたよー! あたしのために!」
「いやそれ、たぶん違いますから」
 思わず突っ込みを入れた真九郎の目の前で、しかし何故か、扉を押し開けた環と買い物袋を提げた夕乃は、二人揃ってその姿勢のまま凍り付いていた。
「え、と…」
 二人の視線を辿る。その先には、紫を中心にして寄り添うような恰好の真九郎と闇絵がいて、その光景はまるで、
「…なんか親子みたいじゃん。あんたたち」
 環が常ならぬ低い声でぼそりと呟き、
「…真九郎さん。そこに直りなさい」
 夕乃がこれ以上はないというくらいに平板な声で命じた。

「いやー、そんなわけないよねえ! 最初からそう思ってたよ!」
 嘘つけ、と視線で突っ込む真九郎の前で、環は白々しくも笑って言ったが、視線は微妙にあさっての方向を彷徨っていた。もう一方の夕乃はといえば、一応台所に立って夕食の準備は始めたものの、まだ疑いの晴れきっていない視線をちらちらとよこしてくる。
 真九郎は肩を落として、深い深いため息をついた。あれほど言葉を尽くして説明したというのに、
「…ほんとに分かってくれたんでしょうね」
「そうだぞ、誤解もはなはだしい」
 紫も憤懣やる方ないといった様子である。闇絵は我関せずといった風情で、窓の側でタバコをふかしていた。
「真九郎と闇絵が夫婦で、わたしがその子どもだなどと、あり得ん。なぜなら真九郎の妻はわた」
「あー、お前もそれ以上言うな。話がややこしくなるから」
 真九郎に遮られて、むう、と脹れる紫のご機嫌を取る必要はさすがに感じたので、
「それにしても、待たせてごめんな。ちょっと学校の用事があってさ。退屈したろ」
「いや、それは大丈夫だ。闇絵とは、いろいろ興味深い話ができたからな」
「…へえ。例えばどんな」
「うむ。女とは、男に自分を追いかけさせてこそ一人前だとか、そういうことだ。そのためには、ふだん冷たくしておいて、たまに優しくすると良いらしい。なかなか筋が通っているから、今度ぜひ試してみようかと思うのだが、真九郎の意見はどうだ?」
 …やっぱりロクな話してやがらん、と窓辺のヘビースモーカーな女を睨んでみたが、相手が窓の外の雨景色にもっぱら興味をそそられている風とあっては、その甲斐もない。
644闇絵さんと雨の夜 5/5:2008/01/10(木) 01:16:47 ID:jdPkmMJ2
 
「…まあ、それはおいといて。お前、俺に何か用があったんだろ」
「おお、そうだ。あやうく忘れるところだった。実は今度また、授業参観があってな。真九郎に、来てほしいのだ」
「ああ…なんだ、そうなのか。いいよ。約束だからな」
「そうか!」
 紫が、晴れやかに笑顔を花開かせる。
「そう言ってくれると思っていたぞ。うん。やはり、電話せずに直接話しに来てよかった」
「あー…」
 それでようやく思い出す。なるほど前回の時は電話越しに色々あったからな、としみじみ思い返した真九郎は、不意に背後に人の気配を感じて振り向いた。
「わ」
 いつの間にやら、すぐ近くで正座していた夕乃が、えーこほん、と咳払いをして、
「あのう、そういうことでしたら、わたしもご一緒に。この間は残念ながら貴重な機会を逸してしまいましたが、今回こそは立派に夫婦役を務めさせていただきます」
「えー、何なにそれっ。夫婦役? あたしも行きたいあたしもっ」
「夕乃など要らん。環もだ。真九郎だけでよい」
「紫ちゃん。これは、真九郎さんが自らわたしにお願いされたことなんです。ねえ真九郎さん?」
「はあ、まあ…」
「えー、紫ちゃんのいけずう。真九郎くんは、みんなのものなんだよっ。独り占めしちゃだめだなー。そうだ全員で行こう! 奥さんが何人いたって構わないよねー、真九郎くん? ちゃんと先生とか他の父兄さんにはそう挨拶するからさっ」
「いやそれは…俺の社会的立場ってものも少しは考えてくださいお願いです」
「そうです日本は一夫一妻ですっ。ですからここはわたしが」
「だから真九郎以外は誰も来なくてよいと」
「そーだねえ銀子ちゃんにも声かけよっか? 後は…ええと」
「環」
 窓の側、紫煙の向こうから聞こえた静かな声に、環がぎくりと動きを止める。
「はははいぃなな何でしょうか?」
「なぜ今、わたしから目をそらしたのかな?」
「いやそりゃあ…闇絵さんはこーゆーの興味ないかなー、ないだろーなー、なあんて思っちゃったりしま…して…」
「ほう」
 それまでの喧噪を一気に鎮めてしまうほどの異様な空気の中、闇絵は宛然と微笑む。
「どうしてそう思うのか、ぜひ理由を聞きたいな」

 それは、何かの拍子に別の自分なんてものに思いを馳せてしまっても不思議のなさそうな、ちょっと物憂げに静かな雨が降り続く夜のことだった。

 ちなみに、結局、親戚一同で参観という設定で紫の小学校の校門前に(さすがに闇絵は来なかったが)勢揃いした面々を前に、再びスーツに身を固めて現れた情報屋の二代目が何と呟いたかは、述べるまでもあるまい。
645名無しさん@ピンキー:2008/01/10(木) 01:20:13 ID:jdPkmMJ2
投下終了。途中で支援してくれた人、ありがとう!
他スレによると、1行目に何も書いてなくて改行コードしかないとはじかれるみたいだ。
今回は、スペースを1つ入れて解決した。

全10回の中で、個人的には一番好みな仕上がりだが、「晩ご飯」のシンプルさもそれはそれで懐かしかったり。
...まあ、などという繰り言はほっといて、それぞれに読む人なりに愛でてもらえれば、これにすぐる喜びはなし。
次回は「闇絵さんとお買い物」。
646名無しさん@ピンキー:2008/01/10(木) 01:35:08 ID:o9o4wWsR
>>645
GJッス!
闇絵さんをメインの添えつつも他のキャラも絡まってイイ感じッス
だがしかし闇絵さん、冷たくしてると泥棒猫がかすめ取っちゃう場合があります!
例えを例えば、傷心中に上手く仲良くなっちゃう刃物娘さんとか居るわけで
647名無しさん@ピンキー:2008/01/10(木) 09:59:30 ID:Z68m4KPs
>>645
GJ!
アニメが近付くに連れて、活気づいてくればいいのう・・・。
648名無しさん@ピンキー:2008/01/10(木) 14:06:29 ID:7zGncHV/
>>645
闇絵すわぁ〜〜ん、結婚して下さいw
アニメなんて知らないw
649名無しさん@ピンキー:2008/01/10(木) 15:30:40 ID:zBLrPoZz
闇絵さぁあああん!!
素晴らしくGJでした
いやはやしんくおーの周りは、闇絵さん曰くの悪女な方々ばっかりですよね
650名無しさん@ピンキー:2008/01/10(木) 19:35:57 ID:JL+HC2FX
GJ
651名無しさん@ピンキー:2008/01/10(木) 21:34:01 ID:LWz9eo1Z
あぁもうGJすぎる
いいなぁ
652名無しさん@ピンキー:2008/01/11(金) 19:05:21 ID:wvag//AU
ちょwwwwwww親戚一同てwwwwww
653名無しさん@ピンキー:2008/01/11(金) 19:24:04 ID:8Uk6MrkD
誰か切彦ちゃんとのからみを書いてやれよ
654名無しさん@ピンキー:2008/01/12(土) 20:39:19 ID:qKxqMnr8
「・・・私初めてです」
「そう・・・でしょうね」
「・・・凄く大きいです」
「ちょっ」
「・・・とっても硬いです」
「き、切彦ちゃん!」
「・・・ツルツルです」
「あ、あの限界なんだけど」
「・・・もう、入れちゃうんですか?」
「・・・うん」
「・・・優しくですか?」
「え? まぁ、そうかな」
「・・・ドキドキです」
「では、イキます」
「・・・あっ」












「どうでした肘の角?」
「・・・ユニーク」
655名無しさん@ピンキー:2008/01/12(土) 22:19:58 ID:Hh+psC6b
どこのTFEIさんですかwwww GJwwww
でも切彦ちゃんなら、英語はひらがなかも。
656伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/01/13(日) 00:39:21 ID:JCZ4v7Rm
 闇絵が初めて興味を示す。その様子を見ながら加奈子は耳を傾けた。
「狙われているのは金持ちの子供ばかり。なのに一切の要求がない、か――確かに子供が消える理由が分からないな」
「そうです。浚われたのなら犯人には意図があるはず。なのにその意図が見えない――」
「だからあくまで失踪だと、そう言うのだね?」
 闇絵は嘲笑うように鼻を鳴らす。加奈子がそれに不快そうな表情を示しても、構わず闇絵は続けた。
「これは誘拐だよ。意図は見えなくとも悪意は見える。これは神隠しや迷子なんかじゃない。子供達は浚われたんだ」
 そして、と加え闇絵は加奈子を見詰めた。
「君もそう考えているから、私に依頼なんかをするんだろう?」
 ――鋭い。
 全てを見透かしたような闇絵の言葉に、加奈子は些かばかりの驚嘆を感じた。
 闇絵の言うとおり、加奈子自身今回の件は誘拐であると確信している。
 分からないから失踪であると、それで片付けようとする怠慢な者達と違い。加奈子は諦めたくなかった。
 だからこその独断専行。裏の稼業を担う人間への依頼なのだ。
「――意図が見えないなら、考えられるのは二つ」
 闇絵が再び喋り出す。
「そもそも犯人に意図が無いか、我々と犯人の見ているものが違うかだ」
 沈黙でもって答える加奈子に闇絵は更に言葉を重ねる。
「前者はあまり考えられない。意図無く悪意を振るえるのは愚かな狂人だ。そして愚かな狂人はこんなに綺麗に悪事を犯さない」
「では犯人の意図は私達の考えるようなものとは違う、と?」
「そうだ。そして私達普通の人間と違う思想を持ち、かつ理性をもって行動できる。狂人には違いないが、理知的な狂人だ。――最も厄介な相手だよ」
 やはり無表情にそう告げて闇絵は締めくくった。
 沈黙が降りる。
 闇絵は瞼を閉じ、葉巻の煙を深く吸い込み、ゆっくりと味わってから吐き出した。
 そういう種の葉巻なのか、やや離れた位置にいる加奈子にも微かに甘い匂いが届いた。
「……なんとかしてくれますか?」
 加奈子は静かに問う。
「なんとかして欲しいのだろう?」
 闇絵は笑んで答える。
 それが、契約完了の合図だった。

 † † †

 街は不穏な空気に満ちていた。
 大人達は消え去っていった子供達に自らの子を重ね、子供達は明日は我が身と、言い知れぬ不安に包まれていた。
 そんな街の中。誰ともなく口にする言葉。
『魔女』
657伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/01/13(日) 00:41:00 ID:JCZ4v7Rm
おかしい……
1レス目が飛んでる。
投下し直します。
658伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/01/13(日) 00:43:24 ID:JCZ4v7Rm
『Radio head Reincarnation〜黒い魔女と紅い魔女〜』

 T.
 ほう、という溜め息が室内を満たす。
 思案に暮れる部屋の主は、常の癖として眼鏡の弦を指先で押し上げた。
 部屋の主。名を藤嶋加奈子と言う。
 獣王の二つ名を持つ国王に仕え、辣腕を振るう女傑――とはいえ、未だ少女と呼んで良いような年齢ではあるが。
 その彼女が考え込む事案は城下を騒がす小児失踪事件である。
 ここ数ヶ月の間に、城下から南方に位置する街で子供が失踪する事件が十数件発生しており、それが噂となって国民の不安を煽っている。
 ただでさえ戦乱の最中。しかもこの国はその渦中の中心と言っても過言ではない。
 そんな状態の国内で、こういった状況は些か好ましくない。やはり国民の気運は大切だ。
 それに、藤嶋加奈子個人として子供が失踪するという今回の事案は気分が悪いというのもある。
 ――だから仕方ないのだ。
 あんな怪しい――いや、妖しいと言った方がしっくりくる――人物に依頼をするのは。
 悔しい事に、これが一番確実な手段なのだから。
「……はぁ」
 ここ最近、癖になりつつある深い溜め息を吐いて、加奈子は思い返す。
 ほんの少し前、この部屋で会話した人物とのやり取りを――。

 † † †

「子供が消えている、ねぇ」
 無表情で確かめるように呟いた人物を、加奈子は決して友好的とは言い難い視線で見ていた。
 まるで闇がそこにわだかまったかのような雰囲気。くわえた葉巻から立ち昇る紫煙でさえ、光を拒む暗雲のように見える。
 客観的に見るなら美しい女性だ。
 ただ、どうしても退廃的な印象が付きまとう。
 それは気だるげな仕草や、黒で揃えた衣装、禍々しい装飾品や傍らに控える黒猫。そして、何より深い黒曜色の瞳がそう思わせるのだろう。
 漆黒の麗人。生業は魔術師。その道ではそれなりに名の通る人物だ。
 曰わく、“黒い魔女”闇絵、と。
 加奈子は闇絵に事のあらましを話し始める。
「……事は、ここから南に向かって三日程歩けば着く街で起きています」
「それで?」
「それなりに拓けた街で、富裕層もそれなりに。事実失踪した子供達は揃って裕福な家の子供です。しかし――」
 そこで一旦区切って、加奈子は再び言葉を繋いだ。
「身代金――と言うより、一切の要求がないんです」
「ほう? それは不可解な事だな」
659伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/01/13(日) 00:46:43 ID:JCZ4v7Rm
 闇絵が初めて興味を示す。その様子を見ながら加奈子は耳を傾けた。
「狙われているのは金持ちの子供ばかり。なのに一切の要求がない、か――確かに子供が消える理由が分からないな」
「そうです。浚われたのなら犯人には意図があるはず。なのにその意図が見えない――」
「だからあくまで失踪だと、そう言うのだね?」
 闇絵は嘲笑うように鼻を鳴らす。加奈子がそれに不快そうな表情を示しても、構わず闇絵は続けた。
「これは誘拐だよ。意図は見えなくとも悪意は見える。これは神隠しや迷子なんかじゃない。子供達は浚われたんだ」
 そして、と加え闇絵は加奈子を見詰めた。
「君もそう考えているから、私に依頼なんかをするんだろう?」
 ――鋭い。
 全てを見透かしたような闇絵の言葉に、加奈子は些かばかりの驚嘆を感じた。
 闇絵の言うとおり、加奈子自身今回の件は誘拐であると確信している。
 分からないから失踪であると、それで片付けようとする怠慢な者達と違い。加奈子は諦めたくなかった。
 だからこその独断専行。裏の稼業を担う人間への依頼なのだ。
「――意図が見えないなら、考えられるのは二つ」
 闇絵が再び喋り出す。
「そもそも犯人に意図が無いか、我々と犯人の見ているものが違うかだ」
 沈黙でもって答える加奈子に闇絵は更に言葉を重ねる。
「前者はあまり考えられない。意図無く悪意を振るえるのは愚かな狂人だ。そして愚かな狂人はこんなに綺麗に悪事を犯さない」
「では犯人の意図は私達の考えるようなものとは違う、と?」
「そうだ。そして私達普通の人間と違う思想を持ち、かつ理性をもって行動できる。狂人には違いないが、理知的な狂人だ。――最も厄介な相手だよ」
 やはり無表情にそう告げて闇絵は締めくくった。
 沈黙が降りる。
 闇絵は瞼を閉じ、葉巻の煙を深く吸い込み、ゆっくりと味わってから吐き出した。
 そういう種の葉巻なのか、やや離れた位置にいる加奈子にも微かに甘い匂いが届いた。
「……なんとかしてくれますか?」
 加奈子は静かに問う。
「なんとかして欲しいのだろう?」
 闇絵は笑んで答える。
 それが、契約完了の合図だった。

 † † †

 街は不穏な空気に満ちていた。
 大人達は消え去っていった子供達に自らの子を重ね、子供達は明日は我が身と、言い知れぬ不安に包まれていた。
 そんな街の中。誰ともなく口にする言葉。
『魔女』
660伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/01/13(日) 00:49:50 ID:JCZ4v7Rm
 ――いつからか街には子供浚いの魔女の噂が流れていた。
 出所は分からない。ただ、見えない不安に、魔女という形を与える為に流れているように“彼女”は感じた。
 分からない恐怖よりは、異形であっても分かりやすい恐怖であった方がましだと人間は考えるからだろう。
「は、気に入らないな」
 そう毒吐いたのは事件に対してか、下らない噂に踊らされる街人達に対してか。
 異様な街の雰囲気の中にあって尚、圧倒的に特異な雰囲気を纏い歩む姿。
 “彼女”はゆったりと街の大通りを紫煙と共に進む。
 例え夕暮れに在っても、朱に沈まず。
 例え血飛沫に濡れても、赤に溺れず。
 何よりも苛烈にして鮮烈。燃え盛る炎の如き美女。
 ――柔沢紅香は、このつまらない事件を終わらせてみるか、と。そう考えていた。

 † † †

 闇絵がその街に辿り着いたのは、契約から五日後の事だった。
 夕刻も近かった事もあり、とりあえず宿を探す事にする。
 そのことを傍らの友人に伝えると快い返事が返って来た。
「情報収集も考えたら酒場や大衆食堂も兼ねている所が良いよね」
 最もらしい事を言っているが、どうせ飲み食いしたいだけなのだろう。
 闇絵の友人――武藤環はそういう人間だった。
 しかし最もらしい事とはそれなりに理屈が通っているもので、加えて闇絵にそれを積極的に否定をする理由も無かった。
 だから、すぐに(主に環の)理想に叶った宿が見つかった事は二人にとって幸いだった。
 特に目立つ所のない大衆向け宿場。三階建ての内、一階を食堂兼酒場とし、二階と三階を宿にあてたオーソドックスな作り。
 値段も建物の質もそこそこの宿。ただ、部屋数だけは割と多いようだった。

 軽い鐘の音を鳴らしながら立ち入ると、気の早い幾人かが酒を飲み交わして居るところで、いくらかのアルコール臭が鼻をつく。
 鐘の音色に店内の視線が集まり、普通ならばすぐさま散るはずの注目が固定された。
 皆一様に闇絵の醸し出す異様な空気に、ぽかんとした顔をする。
 闇絵はそれを意に介さず、環はニヤニヤと若干下卑た笑みを浮かべながら、カウンターに向かう。
「二人部屋を一つ借りたいのだが」
 カウンターの内に居た年若い、黒い長髪の女性へと尋ねると、女性は呆けていた意識を素早く切り替え仕事を始めた。
「かしこまりました。部屋代になりますが――」
「これで」
661伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/01/13(日) 00:51:39 ID:JCZ4v7Rm
 闇絵は宿の外に張り出された料金表を見て、あらかじめ用意していた金額を渡す。
「――はい、確かに。お食事代などは別途になりますのでその都度お支払い下さい」
 手慣れた様子で台詞を淀みなく告げる。それに首肯して闇絵は微かな笑みを浮かべた。
「ありがとう」
「ではお部屋に案内いたします。」
 カウンターとフロアを仕切る扉から出て、階段へと先導する。二人はそれに付き従い部屋に案内される。
「この街へはどうして? どこかへ向かわれる途中ですか?」
 世間話を切り出して来たのは女中だった。
「何故そう思う?」
「この街、それなりに拓けてはいますけど特に見るようなものはありませんから。都会を目指すなら城下に向かえば良いわけですし」
「――私達はその城下から来たんだよ。ここを目指して」
 す、と女中の瞳に不信が宿る。
「それは、どうしてですか?」
「人浚いが現れると聞いてね」
 闇絵の言葉に女中は息を呑む。表情に浮かぶのは疑惑。
「あ〜、あのさ。私達ちゃんと国から要請受けて事件の解決に来たんだ。だから怪しいものじゃないよ」
 それまで控えていた環が口を挟む。闇絵の発言が疑いを深めたと悟ってのフォローだった。
「そうなん……ですか?」
「うんうん」
 と、そこで三階の隅にある部屋の前に辿りつく。
 女中は鍵束から一本の鍵を外し、それで扉を開ける。
「それではこちらが部屋の鍵になります」
 鍵を闇絵に手渡し、室内に招き入れる。中は掃除の行き届いた部屋で過ごしやすそうだった。
「それでは私はこれで失礼します。不躾な質問、すみませんでした」
「いや、構わないさ」
 女中は安堵の笑みを漏らすと、そこから立ち去るために背を向けた。
「少し良いか?」
 ――それを妨げる闇絵の声。
「君は一連の事件をどう思っている? 良ければ聞かせて欲しい」
 女の背に向けて問い掛ける。問い掛けられた女性は振り返らず、首を横にだけして答えた。
「不幸な……とても不幸な事だと思います」
「……そうか」
 闇絵はそれ以上何も問わず、長い黒髪を翻しながら女が去るのを見届けた。
「さて、私も舞台に上がってしまった訳だが……これからどうなることやら」
 女中が去り、環と二人きりの部屋の中、闇絵は小さく笑んで呟いた。

続く
662伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/01/13(日) 01:01:38 ID:JCZ4v7Rm
 毎度、伊南屋に御座います。
 なにやらサーバーが不安定な時に書き込んでしまったようでスレの住人の皆様には御迷惑お掛けします。

 二本同時進行SS二本目になります。
 レディオ・ヘッド リンカーネイション(以下RR)本編より約1ヶ月後のお話です。と言っても本編との時系列はストーリーとは関係ないので気にせずどうぞ。
 闇絵さんメイン紅香サブのお話になります。しばらくのお付き合いをしていただければ幸いです。

 以上、伊南屋でした。

追記
 前回投下した、もう一本のSSにタイトルを入れ忘れました。タイトルは「彼と彼女の非日常」です。
663名無しさん@ピンキー:2008/01/13(日) 01:13:47 ID:QiuHTf4S
>>662
キャア〜〜〜w 俺のアホな投下物の後に素晴らしい作品がw
伊南屋さんG〜Jッス!
664名無しさん@ピンキー:2008/01/13(日) 21:56:24 ID:YEvLOEy6
ヤベェ過疎気味だったスレが職人で賑わってきたぜ
伊南屋さんGJッス! つーか藤嶋がご健在で、アレ? ウィンドウがぼやけて見えるよ……
665名無しさん@ピンキー:2008/01/14(月) 22:35:39 ID:rvDGOZ0y
たまにはオチ要員以外の光さんを読みたくなって書いてみたら、
エロはおろか萌えもデレもなく、ヤマやオチすら微妙な出来に。興味ない人はスルーヨロ。
666光さんのお正月 そのいち:2008/01/14(月) 22:36:59 ID:rvDGOZ0y
 
 おみくじは、大凶だった。それも、とことん救いのない内容で。あまりにあまりだったから、細かいとこはさっさと記憶から消去した。一方、お姉ちゃんは小吉。
「良かったね、お姉ちゃん」
 にこっと笑ってみせたら、お姉ちゃんは何も言わずに、あたしの腕を二、三度ぽんぽんと叩いてくれた。ありがと、お姉ちゃん。
「結びにいこうね。光ちゃん」
「うん」
 そうそう、こんなのはとっとと神様に突っ返しにいかなきゃ。ただ、ちょっと出遅れたせいか、神社の梅の木にはもうおみくじが鈴なりで、あたしたちは空いている枝を探しながら、この四、五日降り続いた雪が残る境内をぶらぶらと歩き出した。
「お」
 横合いから声がかけられる。
「雨? ……に、光か」
 そちらを向くより先に、誰だか分かってた。あいつだ。何より、お姉ちゃんの顔がぱっと明るく輝くんだもの。
「ジュウ様」
「おう」
 やっぱり、あいつだった。それも、あろうことか、振り袖姿の雪姫先輩がいっしょだった。それなのに、動じる様子もなくあいつのところへ駆け寄ってくあたり、お姉ちゃんもおめでたいというか何というか。
「おめでとうございます。ジュウ様。雪姫も」
「ああ。おめでとさん」
 それに、あいつも全く悪びれるようすもなく普通に応じてるってのは、どういうつもりなんだ。
「やっほ、雨。おめでとー。光ちゃんも」
 雪姫先輩も、いつものように明るく手を振ってくるけど、その前に一瞬だけ、あいつの陰になる位置で、ちょっと天を仰いだのをあたしは見逃さなかった。
 全く、お姉ちゃんも雪姫先輩も、こんなののどこがいいんだろうね。本人ときたら、周りの気も全然知らずに、のほほんと間抜け面なのに。その顔の真ん中に正拳を入れてやりたくなるのをガマンして、せめて睨み付けるだけで済ませてやろうと思っていたら、
「光ちゃん?」
 お姉ちゃんの声がした。柔らかい、それでいてピアノ線みたいに厳しいものを含んだ声。この声には、いつだって逆らえない。
「ごあいさつなさい」
「……明けまして、おめでと。今年も相変わらずみたいだけど」
 それでも、精一杯いやみをこめて、慇懃無礼な口調で言ってみたのに、
「おう。おめでとさん。今年もよろしくな」
 お姉ちゃんに対するのとちっとも変わらない調子で返された。なんだか、まともに相手されてないみたいで、ムカつく。お姉ちゃんと雪姫先輩が少し立ち話を始めたのをいいことに、あいつの腕を掴んで引き寄せた。
「……この金髪エロ外道。どういうつもりよ」
「どういうつもりって、どういうことだよ」
「お姉ちゃんを初詣に誘いもせずに、雪姫先輩と一緒って、どういうことかって訊いてんのよ」
 なのにあいつときたら、きょとんとした顔で、
「いやどういうも何も、家でのんびり寝てたら、雪姫のやつが押し掛けてきて、強引に連れ出されたんだよ」
「ふーん」
 まあ、それはそうなんだろうけどさ。こいつに、雪姫先輩を誘うような甲斐性があるなんて思えないしね。
 それでも、気に入らない。こいつから初詣に誘われるでもなく、年賀状が届くでもなく、ちょっと沈んで(るように見え)たお姉ちゃんの気が少しでも晴れるように、って連れ出したあたしの苦労はどうしてくれんのよ。
「あんたね。バカでアホなのは今更もうどうしようもないとしても、ちょっとは心配りってもんをね」
 いい機会だからとっちめてやろうと思ったのに、
「光ちゃん? どうしたの?」
 お姉ちゃんに声をかけられたんじゃ、途中で諦めるしかない。あたしはあいつの腕を放すと、ため息をついた。
667光さんのお正月 そのに:2008/01/14(月) 22:38:22 ID:rvDGOZ0y
 
 それでも、あいつと一緒に四人連れになって嬉しそうなお姉ちゃんを見てると、まあいっか、なんて気にもなってしまったりして。
 雪姫先輩のあでやかな振り袖姿に比べたら、お姉ちゃんもあたしもそんなにおめかししてなくて、ちょっと引け目はあったんだけど。あいつはそんなこと全然気にしてないようだったから(雪姫先輩も気の毒に)、こっちも気にしないことにする。
 お喋りは、もっぱら雪姫先輩の独擅場だった。雪姫先輩って、明るくて賑やかな割にはどことなく油断ならない印象があったんだけど、あいつといる今は、どういうわけだか何となく、根っから子供っぽく見える。ヘンなの。
「でさ、中吉なんだけどっ、恋愛運のとこがねー、もうサイコーっ! 既成事実から成就せん、だって! 既成事実って、一体なんだろうね柔沢くん?」
「さあな。いろいろあるだろ」
「イロイロって、ナニかなー? 柔沢くんは、どんなのがいい?」
「俺にそんなこと訊いてどうすんだ。おまえ次第だろ」
 あいつったら、心の底から不思議そうに訊き返した。むう、とふくれる雪姫先輩には構わずに、こっちに顔を向ける。
「そっちもおみくじくらい引いたんだろ。どうだった」
「わたしは小吉でした。待ち人来る、とのことでしたが、引くまでもなかったかもしれません」
「……そうか。そっちは?」
 あたしに振んなってのよ。半ばやけ気味に、小さい声で答える。
「……大凶」
「ああ。俺と同じか」
「え」
 びっくりしてあいつを見上げたら、
「大凶なんて、めったにないだろうにな。お互い、縁起が悪いな。新年早々」
 あいつが笑ってみせるから、あたしはそっぽを向いた。
「あ、あんたなんかといっしょにしないでよっ! あんたは、日頃の行いが悪いだけでしょっ」
「まあ……そりゃそうかもな」
 なんで、そこで苦笑するだけなの? あたしの言うことなんか、まじめに取り合う気もしないってことか。つい気分がとげとげしくなるのが、自分でも分かる。黙り込んだあたしの横で、お姉ちゃんがとりなすように、
「ジュウ様のおみくじは、もうどこかに結わえてしまわれたのですか?」
「え……ああ、ちょうどあのへんに」
「うん。柔沢くんが二人分いっしょに結んでくれたんだよ? ねー」
「おまえがあんな高い枝に結べっつうからだろうが。自分の手が届くようなとこだって空いてんのによ」
「むー。そういうことは言わないのっ」
 確かに、高いところの枝は少し空きがある。お姉ちゃんはもちろん、あたしでもちょっとつらいけど、あいつなら余裕で届くだろう。
「ほらよ」
「はい。お願いします。ありがとうございます、ジュウ様」
 気付くと、あいつが手を差し出していて、お姉ちゃんが自分のおみくじをその上に乗せてた。あたしも、自分の手の平の中でくしゃくしゃに丸めてしまってたのに目を落とす。そうか。あいつと同じか。大凶だけど。
「どうした?」
「う、うん。よろしく」
 あいつに渡したおみくじが、枝に結ばれるのを、ぼけっとしながら眺める。今年一年の出だしとして、どんなもんなんだろ。あのおみくじって。
668光さんのお正月 そのさん:2008/01/14(月) 22:39:49 ID:rvDGOZ0y
 
「さて、帰るか」
 おみくじを結び終えて、ぱんぱん、と手を叩いたあいつが言い、
「えー」
 雪姫先輩が、さっそく不満そうな声を上げる。
「まだ、もっと露店とか見て回ろうよー。せっかく振り袖なんか着てきたんだしっ」
「いや、だからだよ。長くいると汚れるだろ」
「へーきへーきっ。雪姫さんともあろう者が、そんなヘマしませんって」
 雪姫先輩は下駄でからころと石畳を鳴らしてみせた。確かに、雪かきはしてあるとはいえ足下がいいとは言えないのに、裾には少しの泥もしみも見られない。
 雪姫先輩って、別に何も武道とかスポーツとかやってないのに、ときおり、常人とは思えない身のこなしや足捌きをみせることがあるのを思い出した。円堂先輩も、道場でならともかくストリートでは雪姫先輩とあまりやりたくない、って言ってたことがある。
 スゴイよね。あたしが必死に練習してもできないようなことがひとりでにできて、美人で、スタイルが良くて、明るくて、自信たっぷりで。そんな人があいつなんかに構うんだから、世の中ってのは分かんない。
「ね? 行こっ」
 雪姫先輩はあいつの手を引っ張り、あいつはあたしたちの方へ首を向けて、
「お前らはどうする?」
 そんなこと訊かれたら、お姉ちゃんがなんて返事するか決まってるじゃない。
「お邪魔でなければ、お供します」
「ああ。頼む」
 ん。なんか、思ってもみない一言を聞いた気がする。
「正直、俺だけじゃ間が保たねえ」
「はい」
 お姉ちゃんはにっこり笑って、あいつの後に続いた。そっか。あいつは、雪姫先輩が苦手なのか。何となく、分かる気がする。ふーん。
 それにしても、雪姫先輩のバイタリティーと食欲は底なしだった。たこ焼きと綿あめとフランクフルトと焼きそばとりんご飴とイカ焼きと甘酒と……ええと、それ以上は憶えてない。あたしたちも多少は付き合ったけど、大半が雪姫先輩のお腹の中に消えてった。
 あの細い体のどこに入るのかなあ。羨ましい。コツがあるなら教えてほしい。
 あと、射的でお姉ちゃんと勝負して、これは見事に負けてた。ふふん。と思ったら、今度はあいつを無理矢理巻き込んで、今度は勝ってた。あいつはあからさまに手を抜いて適当にやってたけど、それでも雪姫先輩はえらく得意げだった。
 もしかすると、あいつと遊べれば、勝ち負けなんかどうでもよかったのかも。あいつに勝ったのに気をよくしたのか、お姉ちゃんにリベンジを挑む雪姫先輩からようやく解放されて、
「いや、やられたやられた」
 悔しさのかけらもない口調でぼやきながら、あいつはあたしの横に並んだ。
「ほれ。食べるか」
 ついでみたいに、色とりどりの飴が入った袋をあたしに差し出す。あたしは無言で、その中から一つをつまみ上げると、口の中に放り込んだ。
「助かったよ。おまえらがいてくれて」
 お姉ちゃんと雪姫先輩の後ろ姿を見ながら、あいつはそんなことを言う。
「ふーん。そんなこと言って、お邪魔だったんじゃないの?」
「かんべんしてくれ。俺はそろそろ帰って寝たいよ」
 本音にしか聞こえないってのが、どうしようもない。こんなに可愛い女の子たちといっしょにいて、出てくるセリフがそれですか。つくづく、お姉ちゃんも雪姫先輩も報われないなあ。ああ、なんかすごく腹が立ってきた。人の気も知らないで。
「そんなに言うんだったら、先に帰ったら?」
「いや……そうはいかねえよ。雨や雪姫に悪い。あいつらは楽しそうだしな」
 そのくせ、あいつの二人を見る目はすごく優しくて、あたしをいっそう苛立たせる。
「へーえ。じゃあ、あたしは? あたしとなんか、いてもしかたないでしょ」
「はあ? おまえなにを言って……」
「あんたに悪いみたいだから、あたし、先に帰る。お姉ちゃんにそう言っといて」
 あたし、なんでこんなこと言ってんだろ。頭の片隅では冷静にそう思いながら、でもいったん口にした言葉の勢いは止まらずに、あたしはあいつに背を向けた。
「おい……」
 呼びかけを振り切るようにして人混みを押し分け、抜けた、その一瞬の後、足が空を踏んだ。
669光さんのお正月 そのよん:2008/01/14(月) 22:41:08 ID:rvDGOZ0y
 
「っつ……」
 お姉ちゃんが慎重にあたしの足首を触り、あたしは痛みに顔をしかめた。それでも、お姉ちゃんはややほっとした表情になって、
「たぶん、捻挫でしょう。骨や腱までは大事ないようです」
 うん。自分でも触ってみた限りでは、あたしもそう思う。今は痛くてたまらないけど。
「そりゃ良かった」
 あいつの声も、少し安心した感じ。ただ、あたしは気まずくて顔を上げられずにいるから、あいつの表情までは分からない。迷惑そうな顔をしてるんだろうな。きっと。
「いやー、びっくりしたねえ」
 雪姫先輩が笑いながら、
「あんなとこに石段があるなんて、運が悪かったねー。さっそく、おみくじが当たった?」
「おまえな……」
 あいつがたしなめてくれる。雪姫先輩もさすがにちょっと悪いと思ったのか、
「う……ごめんよー。でも、二、三段しかなくて、良かったよねっ? あれで長い階段だったりしたら、ほんと、シャレになんなかったかもっ」
 確かにそのとおりで、けど、あたしはそのちょっとした石段をものの見事に踏み外し、派手にひっくりこけて、足を挫いたのだった。ああ、自分で言ってても情けなくてたまらない。捻挫以外にも、服はどろどろだし、手には擦り傷なんかできちゃうし。
 お姉ちゃんは立ち上がると、冷静な声で言った。
「ジュウ様。申し訳ありませんが、しばらく光ちゃんをお願いできませんか」
「どうするんだ」
「手当をできる場所を探してきます。雪姫」
「あいよ」
「いや、だったら俺が」
「ジュウ様。わたしと雪姫は、このあたりに土地勘があります」
「そーそー。柔沢くんが行っても、迷うだけかもよ? ちゅーことで、雨?」
「二人で手分けしましょう。どちらかで見つかれば携帯で連絡し合ってそちらへ合流するということで。それから、何がなくとも、十五分後にはここに再集合すること」
「了解」
 こういうときの、お姉ちゃんや雪姫先輩の行動力はすごい。あっという間に段取りをつけて、動き出しちゃった。後には、ちょっと呆然としたあいつとあたしが取り残される。しばらく、気詰まりな沈黙が続いたあと、
「あー……災難だったな」
 あいつが、いくらか困ったような声で言った。あたしは、ちょっと泣けてきたのを悟られたくなくて、虚勢を張ってみる。
「ふん……いい気味だって、思ってんでしょ。迷惑かけて、悪かったわね」
「おまえな……」
 あいつが、あたしの横に腰を下ろす気配がした。バカ。そんなことしたら、服が汚れるのに。
「なんでそうカリカリ……あ、いや、俺のこと嫌いなのは分かるけどよ。いろいろあったし」
 い、いろいろって、何よ。あ、あれとかこれとか、そりゃ、いろいろあったけどさ。
「だからまあ……仲良くしてくれとは言わんが、俺だっていろいろ気は遣ってるつもりなんだ」
 へーえ。それでも。ほんと、男ってのはお気楽なんだから。
「でな。せめて、人の顔見りゃすぐにハリネズミみたいになるのだけは、何とかしてくれよ」
「あたしが……いつ……ハリネズミみたいだっ……てのよ……」
「いや、そういうとこがさ」
 あいつがため息をつく。悪かったわねっ。この痛みさえなきゃ、もっとぽんぽん言い返してやれるのに。
「おまえがつんけんしてると、おまえの姉ちゃんも心配するし……前に言ったと思うけど、俺も、おまえみたいなやつはどっちかっていうと好きだからな。ちょっと、困ってる」
 こいつ、なんてこと言うんだ。それに、なんであたし、泣いてるんだ。こんな時に。
670光さんのお正月 そのご:2008/01/14(月) 22:42:24 ID:rvDGOZ0y
 
「え……おい、痛むのか」
 あたしの嗚咽が聞こえたんだろう。あいつはみっともないくらいに慌てた声を出した。あたしはむちゃくちゃな顔と気分のままで、かろうじて声を絞り出す。
「うるさいっ……ほっといてっ……」
「いや、そう言われてもな」
 ちくしょう。なんかあたし、こいつには、みっともないとこばっか見られてる気がする。ああもう、いまさらだけど、どうしてこうなっちゃうんだろ。
「痛くなんか……痛いけどっ……悔しいのよっ……」
「ああ。そうか」
 なに? なんで、そこで、そんなに腑に落ちたような返事ができるの。
「悔しい、か。そうだよな」
「え……」
 独り言みたいに言われた意外なセリフに、あたしは顔を上げた。あいつは何だか面はゆそうな表情で、
「何もできずに、助けてもらうしかないってのは、きついよな。俺もそうだった」
「……」
 あんたも、そんなことがあったの? ふてぶてしいくらいに自分のしたいように生きてるはずの、あんたが?
 あたしがまじまじとあいつを見つめていると、あいつは顔をそらした。
「まあ……自分の恥ってのは、なかなか言えねえもんだな……そのうち、姉ちゃんに聞かせてもらえよ。俺がどんなに無力で無謀で、バカなことをしてきたか」
 そうか。お姉ちゃんが関わってるのか。何があったか知らないけど、それでお姉ちゃんのこいつに対する想いは何も変わってないってことは確かで、だから、こいつが言うほどには、あたしなんかが軽々しくこいつをけなしたりできるようなことじゃないんだろう。
 それだけに、自分の無力さを告白するあいつの言葉は、あたしの耳に重く響いた。
「それで、おまえの姉ちゃんに……それに、雪姫や円堂にも……教えられたよ。自分のできるだけのことを精一杯やったら、それでよしとするしかない、ってな。結果が……望んだとおりにならなくても、な」
 最後のとこは、あたしがはっとするくらい、とんでもなく苦々しかった。あたしじゃなくてあいつの方が泣いてるような気さえして、あたしは思わずあいつの袖口を引っ張ってしまう。あいつは、そんなあたしに顔を戻して、薄く笑った。
「だからな、気持ちは分かるけどよ……適当に開き直ってもいいんじゃないか、ってことさ」
「あんたは……開き直れた、の……?」
 あたしにそう訊ねられて、あいつは苦笑した。
「あー……どうかな。それは分かんねえ」
「なによ、それ……」
 吹き出したのは、どっちからだったろう。あたしは顔を伏せ、あいつは空を見上げて、目も合わせずに、しばらくクスクスと笑いあった。
「しょうがねえ、なあ……」
「あんたが? ……それとも、あたし?」
「どっちも、だな」
「なによ、それ……あんたに比べりゃ、あたしはずっとマシよ」
「そう、だろうな。ああ。俺は、まだまだだよ」
 ヘンなの。なんで、こんな話してんだろうね。あたしたち。
671光さんのお正月 そのろく:2008/01/14(月) 22:43:46 ID:rvDGOZ0y
 
 それから少しの間、会話が途切れた。それから、あいつがふと思いついたように、訊いてくる。
「あー……そういえば、伊吹のやつとはうまくいってるか?」
「う……うん……」
「そうか」
 あたしの曖昧な返事にあいつが目だけでほほえんでみせるもんだから、あたしはそれ以上何も言えない。
 ほんとは、伊吹先輩とは、その後どうにもなってない。こいつがあれだけ骨を折ってくれたのに、そんな結果になっちゃったもんだから、こいつにはなかなかそう言えずに今日まで来ちゃったけど。
 あの日、伊吹先輩は心から真剣に謝ってくれて、その様子は、あたしの大好きな真面目で優しい伊吹先輩そのものだった。
 それなのに、あたしは、なんでだか、いつぞやの告白については白紙に戻してもらってもいいですか、なんて言ってしまってたのだった。いろいろあったから、心の整理をも一度したいんです、って。
 それを聞いた伊吹先輩も、意外そうな顔はしなかった、と思う。もしかしたら、ちょっとほっとしてたのかもしんない。
 まあ、そうだよね。あの流れだと、あたしとお付き合いすることになっても、責任感の強い伊吹先輩のことだから、あたしを好きだからっていうよりも、あたしに済まないからっていう気持ちの方が強かっただろうし。お互いにとって、それはあまり良くなかったと思う。
 ただ、伊吹先輩、さっさといなくなったあいつが居た方を見ながら、「そうだな。俺も……今、君に付き合ってくれと言われてOKする資格はないような気がするしな」とか言ってた。
 それに、「また気持ちが落ち着いたら、試合とか練習とか見に来てくれるかな」とも言ってくれて、ほとんど見栄と優柔不断さだけでうなずいたあたしに、にっこりと笑ってくれた。そして、も一度深くお詫びしてくれてから、潔く立ち去った。
 その全部が、ああ伊吹先輩ってやっぱりいい男だな、と思わせるに十分だった。
 けど、……もう、どきどきしなかったんだ。伊吹先輩と話してても、前みたいには。あいつの側にいる、今みたいには。あたし、ひどい女なんだろうな。きっと。お姉ちゃんや雪姫先輩のこと、とやかくなんて言えない。
 なんたって、伊吹先輩のことをそうやって保留しときながら、あたしは、自分がこいつのこと好きなのかどうかすら、まだ分かってない。伊吹先輩に恋してたのとは明らかに違うってことだけ分かってて、だから、たぶんこれは恋じゃない。もっと別の、何かなんだ。
 こいつの顔を見るだけで苛ついて腹が立って、不安でどぎまぎして、息が苦しくて胸が詰まって、でもそんなの、何ていうのか、あたしは知らない。お姉ちゃんがこいつの話をするときの幸せも、雪姫先輩がこいつを見るときの優しさも、あたしには縁がない。
 それに、こいつは、きっとあたしのことなんて何とも思ってない。それは、こいつの言動を見てればだいたい分かる。そもそも、お姉ちゃんとか雪姫先輩とか円堂先輩とかに取り囲まれてたってよろめかないやつが、あたしなんかに魅力を感じたりしないだろう。
 そんな対象じゃない、ってはっきり言われたこともある。あの状況だと、あたしを正気に戻すためにわざとそんな言い方をしたのかもしんない。それとも、混じりけなしの本音なのかもしんない。そのどっちなのか、確かめたくて確かめたくなくて、あたしは悶々とする。
 もう、自分が何考えてんのか、分かんない。自分が何をしたいのかも、分かんない。今のこの時間が続くのが怖くて、でもそれが終わってしまうのが恐ろしくて、ひたすら息を詰めてるだけなんて、そんなの、あたしじゃない。
 だめだ。こいつといると、あたしはむちゃくちゃになる。むちゃくちゃなことをしそうになる。それはたぶん、こいつのせいでもあたしのせいでもなくて、単に、巡り合わせが悪いだけなんだ。だから、こいつとは、あまり関わらない方がいい。とうに、分かってたんだ。
 だから、こっちに近づいてくるお姉ちゃんを見つけたとき、あたしは心底ほっとした。そのきゃしゃな姿は、まるで聖女様みたいに輝いて見えた。
672光さんのお正月 そのなな:2008/01/14(月) 22:44:59 ID:rvDGOZ0y
 
 お姉ちゃんが見つけてきたのは、喫茶店だった。手近な病院や診療所はどこもお休みで、そこなら氷を貸してもらえるから、ということだった。
 喫茶店までは、癪だけど、あいつにおぶってもらった。ほんとは肩を貸してくれるくらいで良かったのに、ちょっと距離があるし時間をかけると体が冷えるからって、お姉ちゃんに押し切られた。
 まあ、お姉ちゃんが側にいてくれれば、あたしも落ち着いていられる。失礼にも「けっこう重いな」とか呟いたあいつに対しても、落ちる寸前まで頸動脈を押さえとくくらいで勘弁してやったんだから、冷静なもんでしょうが。ふん。何さ。
 喫茶店で、お姉ちゃんがもらってくれた氷で足首を冷やしている間に、連絡を受けた雪姫先輩も合流してきて、あたしが何とか落ち着いたのを見るや、フルーツパフェなんかを注文してた。この人も、いろんな意味でタフだなあ。
 お姉ちゃんが近くの薬局へ湿布薬やテーピング材を探しにいき、あいつが(あたしん家の親は外出してて迎えに来られないから)タクシーを拾いに行ってしまうと、喫茶店では、雪姫先輩とあたしが二人きりで差し向かいになった。なんか、この取り合わせも珍しい。
 さて。何を話そうか。
「……あの、雪姫先輩。すみません」
「んー?」
 口にスプーンをくわえて上下させながら、雪姫先輩が視線だけで先を促してくる。いろいろ、器用な人だ。それにしても、ナイフを使うようなメニューは注文させるなよ、ってあいつが何度も言い残していったのは、どういうわけなんだろ。
「いえ、今日は……あいつと二人で初詣だったのに、こんなことになっちゃって」
「そーだよ。全く。いーとこだったのに」
 予想外に真面目な声で言われて、ぎくっとして雪姫先輩の顔を見た。無表情にあたしのこと睨み付けてたので思わず背筋を伸ばしたら、雪姫先輩はにやりと人の悪そうな笑顔を浮かべた。
「びっくりした?」
「え……あの……」
「ま、半分は本音かなー。雨には言えないからさ。柔沢くんはあのとおり鈍感バカだし。八つ当たりみたいで、光ちゃんにはもうしわけないけどさ。あたしだって鬱憤くらいは晴らしたっていいよね?」
「は、はあ……」
「まー、気にしない気にしないっ。マジで怒ってるわけじゃないから、安心してよ。邪魔されるのは今日が初めてじゃないしさ。あたしも、こう見えて気が長いから。ゆっくりやることにしてんの。この件ではさ」
「雪姫先輩は……」
 あたしは口を開いてから、言いよどむ。どこまでこの人が真面目に答えてくれるのか、いまいち確信が持てなくて。でも、
「んー? なあに?」
 あっけらかんと促されて、かえってふんぎりがついた。思い切って、訊いてみる。
「あいつなんかの、どこがいいんです……?」
「バカなとこ」
 即答だった。あたしが目を白黒させてるのを見て、朗らかに笑ってくれる。
「それ以外、なんもないじゃん。柔沢くんて」
「いや……でも、雪姫先輩みたいに、美人で明るくて……だったら、もっと他の」
「そんなの、あたしはいらない。柔沢くんがいい」
 これも即答だった。あたしはあっけにとられるしかない。
「雪姫先輩て、どうして……」
「ふーん?」
 雪姫先輩は、逆に、とても不思議そうにあたしの顔をしげしげと眺める。
「なーんか、光ちゃんにそんなこと訊かれるのって、意外かも。光ちゃんだって、あいつのこと好きじゃないの?」
「え……まさか……」
 手を振りかけて、この人の前ではごまかしは無理だろうと思い直す。正直に白状した。
「わかんない、です……」
「ふーん?」
「もう、頭ん中めちゃくちゃで……あたし、何がなんだか……」
「そっか」
673光さんのお正月 そのはちな:2008/01/14(月) 22:46:18 ID:rvDGOZ0y
 
 雪姫先輩は、ふう、と息を吐いた。それから、しばらくの間黙ってたかと思うと、
「光ちゃんは……柔沢くんと、ちょっと似てるね」
「え……ええっ」
 言うに事欠いて、何を言い出すんだこの人はっ。目を剥くあたしの前で、でも雪姫先輩は淡々と続けた。
「いや、さ。悩んで、迷って、割り切れなくて……でも、ほんとに大事なことは、ちゃんと見失わない。うん。よく似てるよ。あたしや雨とは違う」
「あの……」
「あたしたちは、悩まない。迷わない。割り切れる。何をするのが適切かとか、何ができるかとかは分かってて、それがどうしたらできるかも、知ってる。でもね。どうすべきかは、分からない。そんなこと、はなから考えない」
「……」
 お姉ちゃんについては、いくらか異議を唱えたいところもあったけど、雪姫先輩の口調の何かが、あたしに口を挟ませなかった。
「だからさ。うん……ほんとは、黙ってようと思ってたけど、この際、言っちゃうか。あたしはね、あたしや雨や他の誰より、光ちゃんの方が柔沢くんに近いかも、って思ってたりするよ?」
「そんなこと……」
「自分じゃ、分かんないよねー。ま、あたしの思い違いって可能性もあるけどさ。その方が、ある意味じゃありがたいけど。でも、考えるんだ。あたしや雨は……結局、柔沢くんには相応しくないかも、って」
「……」
 この人は、そんなことを考えてたのか。そんなにも明るい笑顔で。屈託のない口調で。
「あたしたちは、柔沢くんがケガしないよう、死なないよう、守ることはできる。でも、柔沢くんの心までは、守れない。柔沢くんとあたしたちは、根っこが違うから。どうやったら守ってあげられるか、知らない。分からない。でも、光ちゃんなら、もしかしたら」
「あたし……そんな……」
「うん。今の光ちゃんじゃ無理だよ」
 いかにも雪姫先輩らしく、あっけらかんと、人を突き落とすようなことを言ってくれた。それでも、その笑顔に悪意はなくて、
「それに、混乱してるのも良く分かるよ。あたしだってそうだったし……今でも、かな。けどね、慌てて結論を出さないでほしいな。別に、柔沢くんの彼女になるか絶交するかの二者択一じゃないんだから。それ以外の選択肢だって、いくらでもあるよ?」
「でも……」
「だからさ。ゆっくり考えてよ。自分がどうしたいのか。まだまだ時間はあるよ」
 雪姫先輩は、そこで自分の言いたいことは言い終わったからか、再びフルーツパフェに取りかかる。もう、あたしのことなんかどうでもいいって感じに見えたけど、あたしは、そこでは終われなかった。
「……ひとつ、訊いてもいいですか」
「なに?」
 雪姫先輩は、いたって気のない受け答えだったけど、一方的に言いっぱなされたってだけじゃ、あたしも引き退がれない。
「どうして、あたしにそんなことまで……?」
「んー」
 生クリームを一すくい、じっくりと味わってから、
「正直、ライバルは少ないにこしたことはないんだけどねー。でもそれより、柔沢くんにとっての選択肢を増やしておきたいから、かな。いわば、あたしや雨のバックアップってとこだね。もちろん、あたしから譲る気なんかないけど」
「……」
「というわけで、基本的にはお仲間として扱うつもりだけど……でも、分かってるよね? 光ちゃんが、もしいい加減な気持ちで柔沢くんと関わるなら、あたしは……たぶん雨も、容赦しないよ?」
 そんな無邪気な顔で、人の背筋が凍るような脅しをしないでほしい。あたしは、仕方なく苦笑する。
「肝に銘じときます。……にしても、雪姫先輩って、ほんとに」
 パフェを頬張りながら目だけで笑われて、あたしも、それ以上の野暮を言葉にするのはやめておいた。
674光さんのお正月 そのきゅう:2008/01/14(月) 22:47:34 ID:rvDGOZ0y
 
 雪姫先輩とそんな話をしたせいだと思う。喫茶店の入り口から、お姉ちゃんと二人連れだって入ってきたあいつを見たとき、あたしの心は意外なくらいに平静だった。正面からあいつの顔を見ることだって、できた。
 もちろん、気持ちの整理がぜんぶついたわけじゃない。まだ、あいつの前から逃げ出してしまいたいって、あたしのどっかはどうしようもなく思ってる。それに、雪姫先輩にうまく乗せられた感じがするのも、ちょっと癪だ。
 それでも……雪姫先輩の話を聞いてるうちに思ったんだ。もしこのまま投げ出して中途半端にしたら、あたし、一生後悔するんだろうな、って。お姉ちゃんや雪姫先輩が踏みとどまったところであたしは逃げた、って思いを一生背負ってくんだろうな、って。
 それは、イヤだ。イヤだ。あたしにだって、なけなしのプライドくらいはあるんだ。
 だからね。ゆっくり、確かめていこう。いや、作っていこう。自分の気持ちも、あいつとの関係も。あたしはあいつのことを好きになるのかもしれない。それとも、やっぱり、最初から思ってたように嫌いなままなのかもしれない。それは、まだ分からない。
 ただ、一つだけ確かなことがあって、あいつはもう、あたしの心からいなくなったりはしない。無視したり、忘れたりはできない。まずは、そこから始めよう。うん。雪姫先輩の言ったとおり、時間はまだまだある。
 それにもう一つ。雪姫先輩と同じように、あたしにも、譲れない一線てものがある。もしあいつが、お姉ちゃんにいい加減な気持ちで関わるなら、そのときは、あたしも容赦はしない。あたしは、あたしよりも何よりも、お姉ちゃんに幸せになってほしいから。
 だから、全てはこれからなんだ。何がどう転がるかなんて、誰にも分からない。もしかするとあいつはあたしの義兄になるかもしれないし、恋人になるかもしれないし、仇敵になるかもしれないし、親友になるかもしれない。うん。楽しみだね。

「……ええと、それでおまえ。やけに人にガン飛ばして、もしかしてケンカ売ってんのか」
「ふふん。あんたなんかに? 冗談でしょ。あたしはもっと高い女よ。……って、何笑ってんのよっ。雪姫先輩もっ。ああっお姉ちゃんまでっ。うがあっ」

 ああ。そうだ。きっと、退屈だけはしないだろう。こいつが相手なら。
675名無しさん@ピンキー:2008/01/14(月) 22:47:57 ID:g88sffnJ
しえん
676名無しさん@ピンキー:2008/01/14(月) 22:48:11 ID:rvDGOZ0y
おしまい。投下してみると、やっぱり長くて読みにくいな。申し訳ない。
677名無しさん@ピンキー:2008/01/14(月) 22:54:04 ID:g88sffnJ
>>676
いやいやキャラが原作と比べてもほぼ違和感無くてとても良かった。
それに久方振りに真面目な光ちゃんが見れて最高でしたわGJ!!
てか支援の意味無かったなorz
678名無しさん@ピンキー:2008/01/14(月) 23:15:49 ID:qgqgWY/v
光かわいいよ光
ということで>>676GJ
679名無しさん@ピンキー:2008/01/15(火) 00:26:47 ID:ibDsxkFq
GJだたよ。
落ち以外の光をリアルタイムではじめれ見れたw
680名無しさん@ピンキー:2008/01/15(火) 16:37:05 ID:XmHuIS8r
GJです(・ω・`)
681名無しさん@ピンキー:2008/01/16(水) 01:42:46 ID:hc3IpGDC
支援せざるを得ない!GJ!
682名無しさん@ピンキー:2008/01/16(水) 20:10:26 ID:wjnZWDAw
やっと、電波の1巻が買えたよ(*´∀`)


2・3を先に読んでからの1ヶ月は長かったorz
雨は、電波を装っての接近だったのですね(・ω・`)
683名無しさん@ピンキー:2008/01/17(木) 00:13:39 ID:sjE3/o/Z
闇絵さんとほにゃらら、その六。今回は微萌えも微デレもないんだ済まん。
どっちかてえと、前回出番が殆どなかった人のテコ入れ回かも。
684闇絵さんとお買い物 4/4:2008/01/17(木) 00:14:46 ID:sjE3/o/Z

 それは、壮絶なまでに場違いな光景だった。
 近所の肉屋の店先に、買い物バッグを提げた闇絵がたたずんでいる。

 それを目にした瞬間、周囲の時空が歪んで見えたというか、ふと幽明の境を踏み外してしまったというか、足下の固い地面がいきなりどこかへ失せて体が宙に浮いたというか、とにかく、尋常ならぬ衝撃が真九郎を打ちのめした。
「あ…」
 何か言おうとしても、声帯が何かに絡め取られてうまくいかない。何度も繰り返し努力して、ようやっと自分のものとも思えぬ嗄れ声が絞り出された。
「や…闇絵さん?」
 力ないその声が、しかし確かに届いたと見えて、頭のてっぺんからつま先まで黒づくめの姿が、真九郎の方を振り向いた。正面から向き合うと、なおさらあり得ない光景に思える。地面に落ちるその影までが、作り物めいて見えるのはどういう訳なのか。
「やあ、少年。今帰りかね」
「はあ…まあ」
 そちらへ歩み寄りながら、まだ本当に現実のこととは思えない。
「な…何してるんですか、こんなとこで」
「買い物だよ。見れば分かるだろう」
「いや、まあ…」
 小さく頷きながら、できれば他の返事をしてほしかった、と思う。どんな奇天烈な答えであれ、目の前の黒い魔女がふつうの主婦みたいに買い物をしているなどという事態よりは、まだしもこの世界の色々な法則に抵触することなく信じられる気がした。
 闇絵はといえば、真九郎のそんな疑わしげな視線などに全く注意を払う様子もなく、再び店の方へ向き直った。
「店主。どうかな」
「はあ…」
 肉屋の主人が、これも青ざめた表情で突っ立っている。真九郎に向けたすがるような視線が痛々しかった。
「ウチは普通の肉屋でして…ご注文のような品はどうも」
「それは困ったな。ヒツジの脳味噌だのヘビの乾物だのヤギの睾丸だのクイ肉だのカメの蒸し焼きだのカイ・ルゥクだのがないというなら分からないでもないが、そんなに特別なものを所望しているつもりはないのだが」
「いやお客さん…いきなり仔ブタ一頭丸ごとって言われましても…っていうか、日頃何を食べとるんですあんた」
 店主の勇気ある突っ込みなど、闇絵にとってはむろん意に介するに値しない。平然と陳列棚を見渡しながら、
「仔ブタの丸焼きはこの上なく旨いのだが。産まれる直前のならなお良いな」
「はあ…」
「それなら、せめてブタの足と血くらいはあるかな」
「ございません」
「トリの頭と脚は」
「それもちょっと」
「ウシの脊髄は」
「あんたニュースとか見とらんのですか」
「そうか。何もないのだな」
 闇絵は真面目に落胆したらしく、ずらりと並んだ牛・豚・鶏の様々な種類の肉を目の前にして嘆息した。店主の顔が微妙にひきつる。
「では店主、世話になったな。また来よう」
「贔屓にしないでくださいよ。お願いですから」
 店主の祈るような声を背中に、闇絵はその場を離れた。真九郎も慌てて後を追う。
685闇絵さんとお買い物 2/4:2008/01/17(木) 00:16:10 ID:sjE3/o/Z
 
「…ええと」
 闇絵の横に追いつき、おそるおそる声をかけた。
「どう…したんですか、いったい」
「何のことかな」
「いやあ…闇絵さんが買い物だなんて、珍しいな、と…」
「ほう」
 闇絵が横目で真九郎を見ながら、片眉だけを持ち上げてみせた。
「少年。わたしが買い物をしていては何かおかしいのかな」
「え…いやそんなことは…」
 大いにありますけど、と言いたいのをぐっと堪えて、乾いた笑い声でごまかす。まあしかし、場の空気など一切読まない買い物の中身は、いくぶん闇絵らしくて少し安心というかなんというか。
 闇絵の無表情な視線の前には、そんな真九郎の心の声など全て余すところなく看取されてしまっていたのかもしれないが、やがて闇絵自身が僅かに苦笑した。
「確かに、わたしもひさしぶりだ。とりわけ、このあたりではな」
「はあ…」
「九鳳院の少女がな」
 いきなり紫の名が出てきて、真九郎は少しびっくりする。
「少年がわたしと環にせっせと食事を貢いでいるという話をしていたら、食材くらいはわたしたちで整えようと言い出してな」
「いや別に貢いでるわけじゃ…と、紫が来てるんですか」
 先日の雨の夜以来、どうやら紫は、真九郎がいない時でも闇絵や環のところを訪ねてくるようになったらしい。少女の教育上あまりよろしくないのではないか、という懸念は拭えなかったが、本人が望むことを止めさせるのも野暮に思えて、そのままにしてある。
「ああ。そう言われてみれば、少女の言い分にも一理ある、ということになったのだ」
「はあ…。それで、ですか」
 有り難いと言えば言えなくもない話だったが、どうせ料理するのは真九郎の役目になるであろうことを考えると、大した助けになるようにも思えなかった。それに問題は、
「…それで、何を買ったんですか」
 闇絵が提げているスーパーの買い物袋に疑惑の眼差しを投げかける。さっきの肉屋とのやりとりから推して、まともな食材が入っているかどうか、極めて疑わしかった。
「ああ、これかね。そんな大したものではないよ」
「見せて貰っていいですか」
 当然のように、下げ渡される。ここから荷物持ちをしろということでもあるんだろうなと思いながら、真九郎は袋の中身を確かめた。
「…」
 するめや干し貝柱、塩辛といった辺りは(酒のつまみと思えば)まあまともとして、袋に一杯のニンニクに、色も香りもとりどりのスパイスが一揃い、豆板醤の大瓶ときては、調味料棚を賑やかにはしてくれても、これで一食をでっちあげろと言われればお手上げだ。
 それにしても、それほど珍妙な品物を置くはずもないスーパーだからこの程度で済んだのだろうな、といささか安堵しなくもない真九郎の胸中を見透かしたかのように、
「ろくなものがなかったよ。その割に、値切るのにずいぶん苦労したしな。わたしも腕が落ちたか」
「…値切ったんですか。スーパーで」
 一体どうやって、と訊きかけて、止めた。世の中、知らない方がいいこともある。
686闇絵さんとお買い物 2/4:2008/01/17(木) 00:17:12 ID:sjE3/o/Z
 
「それで、それぞれの食材を専門に扱う店なら、もう少しはましかと思って廻ってみたのだがな。大概が、あの体たらくだ」
「はあ」
「全くもって、昨今の食文化の零落ぶりは嘆かわしい」
 いやいつも人に食い物をたかっとるあんたが言わんとってください、という真九郎の内心の突っ込みなど全く関知せず、闇絵は真剣な口調で続ける。
「魚屋もホンオ・フェを置けとまでは言わないが熟鮓の一つも出せんとはけしからん話だ。八百屋ときたら正体不明のキノコなど一切並べていないしな。乾物屋にもどこにも、シロアリやイモムシはおろか蜂の子もイナゴもザザムシもカイコのサナギも見当たらんとは」
「はあ…」
 いつになく熱を込めて語る闇絵の前で、ここは日本の普通の商店街であって、決して世界のびっくり食材市場ではない、という事実を指摘するのは憚られた。
 それと共に、仮に(まずあり得ないだろうが)闇絵と旅する機会があっても絶対についていくまい、と心を決める。何を食べさせられることになるやら、知れたものではない。
「それは残念でしたね」
 それでも一応、無難に話だけは合わせてみようかと思ったが、
「そうだな。そのうち何か手に入ったら、ぜひ少年に料理してもらおう」
「全力で遠慮しときます」
 やはり引くべき一線は守っておいた方がいいようだった。闇絵の咎めるような視線には気付かないふりをして、少しだけ話題を変える。
「そういえば、今日はダビデはどうしたんです」
「ああ。五月雨荘で留守番さ。どうやら今日は外出する気分ではないらしい」
 ダビデも、なにかしら不穏な空気を感じ取りでもしたのだろうか。闇絵との付き合い方については、ダビデを見習うべき点もいろいろと多いのではないかなどと思いながら、さらに訊いてみる。
「ええと…それで、紫と環さんはいっしょじゃないんですか」
「ああ。それぞれに手分けして買い物を済ませることになっている。ちょうど、これから落ち合うところでね」
「はあ」
 そちらはもう少しまともだと助かるんだが、と思いつつ、まず間違いなくそんなことはあり得ないという確信もあった。世間的な常識など持ち合わせない箱入り娘と、世間的な常識など気にしたことがない酔いどれ大学生に、何を期待しようもあるまい。
 結局、五月雨荘における穏当な食生活を守り抜く上で頼りになるのは(まあ、時折夕乃の力は借りているにしても)自分一人、という冷厳な事実を突きつけられて、真九郎が深い深いため息をついたところへ、
「真九郎!」
 前方の交差点の角から元気のよい声がかけられたかと思うと、小さな体が勢いよく走り寄ってきた。思いっきりぶつかるようにして抱きついてくるのを、腰を落として受け止めてやる。その後ろから、環がにやつきながら歩いてくるのが見えた。
 真九郎にしがみつかんばかりの恰好で、紫は頬を上気させて目を輝かせながら、
「やっと帰ってきたな! 喜べ、今日は真九郎が買い物をする必要はないぞ!」
「あー…闇絵さんに話は聞いたよ。偉いな」
 気持ちは有り難いと思うので、とりあえず褒めておく。ただ、それとは別問題として、
「で、何を買ったんだ」
「うむ。これだ!」
 紫から手渡された買い物袋には、一杯にチョコレートやらクッキーやらビスケットやら飴やらが詰まっていた。
「美味しそうなものばかりを選んだからな。ピーマンとかニンジンとか、人間の食べ物でないものは一切入っていないぞ」
「…そうだな」
 つい泣けてくるのを何とか堪え、環にも目を向ける。そちらは、袋の中で缶や瓶がぶつかり合う音を聞いただけで、確かめる必要すら感じなかった。
「…そっちは食べ物じゃなくて飲み物ですか」
「何言ってんの真九郎くんっ。これはね、全部お米とか麦でできてるんだよー。これさえ飲んでれば、ご飯やパンなんて食べなくてもいいんだよー。知らないの?」
「…はいはい」
687闇絵さんとお買い物 4/4:2008/01/17(木) 00:18:22 ID:sjE3/o/Z
 
 という訳で、そこからまた買い物をし直して台所に立つような気力も体力も、真九郎にはなかったのだ。
「…で、ご注文は。スケコマシ」
 だが、だからといって、客に向かって容赦なく身も凍るような視線と刺すような罵り文句を投げつけてくる店員がいるラーメン屋で晩ご飯を食べることにしたのは、失敗だったかもしれない。三人も客を連れてきてやったのだから、感謝してくれてもいい筈なのに。
 それは確かに、入ってくる際に紫と環が真九郎の左右から腕に抱きついて騒いでいたり、闇絵は闇絵で「ほう。こういうのが少年の好みか。憶えておこう」などと思わせぶりな視線を店内と店員に走らせたり、店にとってはやや感じの悪い迷惑な客かもしれなかったが。
 あまりの居たたまれない雰囲気に、ぼそりと「…じゃあ味噌ラーメン」と呟くのが精一杯の真九郎に比べ、連れの三人は遠慮も配慮もなく、
「あたし、ラーメンギョーザ定食二人前ね! 青島もとりあえず五本!」
「ううむこれは何と読むのだ。なに、ホイコーロー? よく分からんが、ではそれにしよう。辛くて子どもの口には合わないから何か他のにした方がよいだと? 絶対、そのホイ何とかにするぞ」
「まずは皮蛋だな。それから担々麺を、花椒と唐辛子は四倍増しで」
「…うけたまわりました。ところで、お勘定は一緒で構いませんね、スケコマシ。別々だとうちも面倒ですから」
「いやそれはいいけどさ…何だよそのスケコマシって」
 せめて、こっそり抗議はしてみたのだが、ラーメン屋の看板娘は、真九郎一行が陣取ったテーブルを睥睨しながら、動ずる気配も見せずに言い放った。
「ロリコンどころじゃないあんたの手広さに呆れ果ててんのよ。スケコマシ」
「手広さって…」
「幼女から年増までお盛んなことで。スケコマシ」
「お盛んって…」
「周りに女の子侍らしてんのをここまで見せびらかしに来るなんていい度胸ね。スケコマシ」
「侍らすって…」
「乱交ならあの怪しげなアパートに引きこもってしてれば? スケコマシ」
「乱交って…」
 お前ぜったい何か誤解してるよ、と目で訴える真九郎に、冷たい冷たい一瞥をくれると、幼なじみの店員は厨房へ引っ込んだ。それを見送った紫と環が真九郎に顔を寄せてくる。
「ううむ。真九郎。銀子はなぜあんなに不機嫌なのだ?」
「俺が訊きたいよ…」
「それに、スケコマシとはなんだ?」
「いやそりゃあ…ええとだな」
「んふふふふー。紫ちゃん、お姉さんが教えたげよーか?」
「あんたは引っ込んでてください。まあその、バカとかいうのと同じだよ。…たぶん」
「へええー? ま、いっけどさー。いやー、それにしても今の銀子ちゃん、可愛いかったよねー。真九郎くんもそう思わない?」
「そうですか…? 一体どこらへんが…?」
「そっかやっぱ分かんないかー。うん、それでこそあたしの真九郎くんだっ」
「いや、何言ってるのかさっぱりです、それ」
 ぐだぐだと会話につきあいながら、真九郎は、ふと向かい側に座った闇絵に目を留める。いつもと同じ無表情で、いつもと同じにタバコをふかしているその姿は、だが不思議と、小綺麗とは言い難いラーメン屋の中で周囲にしっとりと融け込んで見えた。
 周りに自分たちがいるからだろうか。それとも、さっき歩きがてら話すうちに、やや意外な側面について知ったからだろうか。いずれにせよ、最初に肉屋の前で見かけた時よりも遙かに人間臭く見える闇絵から、真九郎はつい目を離せなくなった。
「どうしたのかな。少年」
 どれくらいの間そうしていたのか、よしない凝視を断ち切ったのは、闇絵の何もかもを承知したような穏やかな声で、
「あ、いや…」
 真九郎はうろたえて目をそらす。その罰が当たったという訳でもないだろうに、紫の膨れっ面と環の目が笑っていない笑顔に遭遇して頬をひきつらせる真九郎の耳に、厨房のあたりから低い低い呟きが忍び込んできたりもしたのだった。
「…やらしい」
688名無しさん@ピンキー:2008/01/17(木) 00:20:24 ID:sjE3/o/Z
投下終了。ナンバリングがぼろぼろで申し訳ない。orz
>>684が1/4で>>686が3/4なので、投下した順に読み下してほしい。
今回はオチがちょと強引。orz 次回は「闇絵さんと紅香さん」。
689名無しさん@ピンキー:2008/01/17(木) 01:36:02 ID:IllbGmt+
いやぁ良いね、この日常の1コマ。
にしても・・・カイ・ルゥク萌え〜〜w
690名無しさん@ピンキー:2008/01/17(木) 22:42:02 ID:wsqb1s20
やっぱ銀子のやきもちはかわいい。

>>688GJ!
691名無しさん@ピンキー:2008/01/18(金) 16:19:30 ID:0GpiA0tv
G☆J
いやぁホント素晴らしいッス!
692伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/01/19(土) 23:09:21 ID:UudWZnrn
『彼と彼女の非日常・U』

 結論から言ってしまえば、ジュウの心配は杞憂だった。
 ジュウ自身は夕飯くらい作ってやっても良いかと考えていたが、居候少女にとってそんな心配は無用だったらしい。
「あ、ほふぁえりふぁふぁひ」
 寿司だった。高級らしかった。それを、リスのように食べていた。
 ジュウが帰ったきた事に気づくやいなや、傍らにあった茶で口の中のものを流し込む。
 ごくりと寿司を喉に通すと、少女は改めて口を開いた。
「案外、早かったですね。もっと遅くなるかもと思ってお寿司一人分しか取ってないんですけど……」
「いや、それは構わないんだが……」
 今朝、初めて見たときの清楚なお嬢様という印象は、すっかりなりを潜めていた。
 服は動き易そうな普段着のようだし、寿司を食べながら見ているのはバラエティー番組だ。
 むしろ今ある印象は活発そうな少女で、変わらず丁寧な口調や、洗練された仕草が実は無理をしているのではないかと思う。
 行儀が良いんだか悪いんだか分からない所作。その結果としてあるのが庶民派のお嬢様という中途半端な印象であり、それがどうにも妙なチグハグ感を演出していた。。
「俺が出ていた間、何をしてたんだ?」
 なんとなくジュウがそう尋ねると、少女は優雅な動作で茶をすする。それは別に取り澄ましたような態度ではなく、実に自然な挙動だった。
「別に何も。一日中家に居ましたし」
 笑顔で答える少女に、ジュウは呆れてしまう。
「何もしてないって、本当にか?」
「強いて言うなら部屋を眺めてましたけど」
 少女の返答に、ますますジュウは呆れる。
「それは……退屈だったろ」
「いえ、案外そうでもないですよ?」
 その答えをジュウは俄かには信じられなかった。
 正直、この家に見るようなものは何もない。
 必要最低限のものだけで暮らしているのだ。ジュウ自身がゲームをやらないので当然ゲーム機の類は当然ないし、また本も読まないので置いていない。
 強いて言うなら紅香の衣類だろうか。
 紅香の部屋には大量の衣類が保管してある。女の子であればそういった物に興味が湧くかも知れない。
 ただ、紅香の服はどれも派手なものばかりだ。この少女の趣味に合うとは思えない。
 いや、だからこそ好奇心に駆られるという事も考えられるか。
 そう考えるならば、まあこの家にも見るものはある事にはなる。
 ジュウがそう自己解決すると、少女が別な話題を切り出した。
693伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/01/19(土) 23:10:58 ID:UudWZnrn
「そう言えばジュウさん、晩御飯の方は?」
 少女の問いに、ジュウは答える。
「これから食おうかと思ってた所だ」
「……やっぱり二人分取っていれば良かったですね、お寿司」
「気にすることはねえよ。そもそも互いに干渉しないって条件だ」
 ――言ってしまえば、こうして話していることですらジュウにとっては予定外なのだ。気が付けば少女のペースに呑まれ会話などをしていた。
 油断していたと見るべきか。得体の知れないという意味では彼女はそう分類される対象だ。少し迂闊だったかも知れない。
 この所見舞われた幾つかの事件を経て、ジュウは以前にも増して他人に懐疑的な視線を向けるようになっていた。
 無論、いくらか見知った相手なら疑ったりはしないのだが、だからと言って彼女の事を知ろうとも思わない。
 ――改めておかしな事になったと思う。
 見ず知らず、名も知らぬ少女と一つ屋根の下。今朝方、唐突にしかも半ば一方的に決まった事とは言え、余りにも現実味に欠ける話だ。
 そして少女。どうにも一筋縄ではいかなそうだと、そんな雰囲気をジュウはなんとなくだが感じていた。
 ただ、それを決して嫌がっていない。むしろどこか居心地の良さを感じ、面白がってすらいる自分が居る。
 それが一番不思議だった。
 自分が、誰かと共に過ごす事を楽しんでいる――望んでいる。
 昼間、雪姫と共に居た時にも感じた思考が甦る。
 弱く――なったのだろうか。
 独りを望んで、孤立を選んで、ただ一つの完成された強さを目指して。
 それが今やこんな見ず知らずの相手にすら心を許すような態度で接している。
 こんな姿を見て、あの母親は何を思うだろう。強さを体現したようなあの女は。
 見下すだろうか、嘲弄するだろうか、愚かだと切り捨てるだろうか。
「――――は」
 思わず苦笑が漏れる。
「どうしたんですか?」
「いや、何でもねえよ」
 自分はもう知ったのだ。一人ではないという事を。だから、今はそれを守る為に精一杯になろう。柔沢ジュウという人間は、そんな大層なものではないかも知れないけれど。
 自虐的な考えを振り払ってジュウはキッチンに向かう。冷蔵庫の中身をざっと見ると大した食材は無く、簡単な物しか作れそうにない。
 そう言えば炊飯器の中に炊いた白米が幾らか残っていたのを思い出す。それから組み立てられるメニューは実に簡単なものだ。
 卵、豚肉、幾らかの野菜。
694伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/01/19(土) 23:13:22 ID:UudWZnrn
 中華の基本であり、手軽に作れる料理の代表格。
「今からチャーハン作るけどお前は――」
 要らないよな。そう言いかけて、しかしそれは少女の返事があっさりと打ち消した。
「是非とも頂きます」
 ――まったく。よく食うお嬢様だよ。
 笑顔で更に食べると宣言した少女を見て、ジュウは内心で呟き、溜め息混じりの苦笑を浮かべた。
 握る包丁は手慣れた挙動。
 チャーハン数食分の食材を刻む音が、部屋を満たした。

 † † †

 チャイムが鳴る。
 今朝の事がデジャブする。来客を伝えるそれにジュウは苦鳴を漏らす。
「くっ……」
 ジュウの左手にはフライパン。右手には菜箸。
 チャーハンの仕上げに入った今、その呼び出し音は最悪のタイミングと言えた。
 あと三十秒。それだけあれば完璧な出来で皿にチャーハンを移せる。
 今すぐ対応に出るか、少しだけ客を待たせるか。
 幾ばくの逡巡の後にジュウが選んだのは後者であり、結果としてそしてそれは失敗だった。
「手が放せないようですし、私が対応に出ますね」
 そう聞こえたのは居間の方から、少女の声で。
 自分がこの家のものでないことを忘れているような言動にジュウは焦りを隠せなかった。
「ちょ、おま、待て!」
 そう叫んでも時既に遅し。その時点で扉は既に開け放たれ、それ故に来訪者にもジュウの声は届いていた。
 ジュウは来訪者に予想がついていた。忘れられた荷物。その中身、そして持ち主がそれを一時でも早く読みたがっていた事実。
 慌てて玄関へ(それでもチャーハンは律儀に皿に乗せ)向かう。
「ジュウくーん?」
 ゆっくりとした口調――そこに怒気が含まれているのは気のせいか。
 声の主は――雪姫。
 予想通りの来客。しかし、来客は雪姫だけではなかった。
「――ジュウ様、こちらの方は?」
 自らを称する事ジュウの奴隷、従者、守護の騎士。
 ジュウに一方的に前世からの忠誠を誓った少女。
 堕花雨がそこにいた。
「なんで……雨が居るんだ?」
 思いも寄らない登場に狼狽えつつ問うと、雪姫が答えた。
「帰りがけに行きあってね? それで今日買ったものを見せようと思ったらジュウ君に持ってもらったままだって気付いてさ」
「雪姫がジュウ様のお宅まで取りに行くと言うので付いてきたのです」
 雨が返答を引き継いだ。
 ジュウは小さく溜め息を吐く。
「今日は来客があると雪姫には言っただろうが」
695伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/01/19(土) 23:14:52 ID:UudWZnrn
「うん。でも荷物を取りに行くだけなら良いかなって」
「……分かった。今取ってくる」
 仕方なし、と奥に向かおうとしたジュウを雪姫の声が押し止める。
「待ってよ」
 どこか冷え冷えとした声音に、ぎくりとして立ち止まる。
 ――いや、ちょっと待て。なんで脅えてるんだ俺は。
「そう言えば聞いてなかったよね。来客って、どういう来客なのかな? 来客ってそこの女の子の事でしょ?」
「いや、どういうって……」
 どう説明したものか、ジュウが答えあぐねていると、それまで黙って様子を見ていた少女が口を割った。
「来客というか、同居ですよね?」
 ――何で俺に同意を求めやがる。しかもその発言は誤解を招くだろ。
「へぇ……同居、ねえ」
 ジュウの予想通りの誤解をしたらしい雪姫がすっ、と目を細めて言う。気のせいか、其処に刃を持った時の鋭さを垣間見た。
「いや、ちょっと待て。こいつは名前も知らないような相手で」
 やたら棘のある口調に、知らずジュウは怯んでしまう。
「名前も知らない女の子と同居なんか出来ちゃうんだ、ジュウ君は?」
「そうなのですか? ジュウ様」
 真っ直ぐな二人からの視線。物理的な圧力すら伴いそうなそれに晒され、精神的に追い詰められていく。
 良く考えれば全くの無実なのに、なんだこの状況は。
 まるで自分が、浮気していた事が露見したろくでなしみたいだ。
 無言のプレッシャーに屈し、ジュウは深々と溜め息を吐き出して室内を指した。
「……取り敢えず中に入れ。順を追って説明する」
 いつもの自嘲でも何でもなく、今の自分はさぞ情けない姿を晒しているのだろう。
 そう思うとジュウは自らの心が深く沈み込んで行くのを止める事は出来なかった。

 † † †

 簡潔な説明。
 今日の朝、彼女がここを訪れたこと。
 手渡された母親からの手紙のこと。
 打算と意地を天秤に掛けて出した答え。
 ジュウから不干渉条約を定めたこと
 そして――今に至る経緯。
「なる程ね」
「お話は理解しました」
 頷いて答える二人にジュウは安堵の吐息を零す。
「だけど」
「ですが」
 それをひっくり返す声が重なる。
「少し、不用心過ぎじゃないかな?」
「少し、不用心過ぎはしませんか?」
 突き刺さるのは猜疑の瞳。向ける矛先はジュウと少女の両方に。
 たじろいで受けるジュウと、平然と受ける少女。
「一つ、問います」
 雨が少女に声を掛ける。
696伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/01/19(土) 23:16:20 ID:UudWZnrn
「貴方は一体――誰ですか? ジュウ様の味方ですか? 敵ですか? それとも無関係な人間ですか?」
 返答如何によっては容赦はしない。
 言外にそう込めて、雨は問う。
 少女は――答えない。
「少し、友好的にいこうか? まずは名前から。私は斬島雪姫。この子は堕花雨。――あなたの名前は?」

 笑顔の下に疑いを隠しす。
 あくまで穏やかに、雪姫が問う。
 少女は――笑いだす。
「は……はははっ、あははははっ!」
 雨も雪姫も、それをただ眺める。
「ははは……本当に、本当に面白いな柔沢ジュウ。お前は私の想像以上だ」
 口調が――変わる。
 傲岸にして不遜、偽る事を止めた声。
「堕花に斬島か。紅香の事だ、何も知らせていないだろうな。なのに、出会ってしまうか――皮肉だな」
 全く面白い。そう呟いて、少女はジュウを見た。
 ――真っ直ぐに。
「名乗ろう。ここで名乗らねば失礼に当たる――先に名乗ったその二人に最大級の敬意を表さねばな」
 少女は、高々と名乗りを上げる。
「私は紫。――九鳳院紫だ」

 反転。
 ちょっと変わった日常は非日常に。


続く
697伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/01/19(土) 23:23:37 ID:UudWZnrn
 はい、と言う訳で毎度、伊南屋に御座います。

 彼と彼女の非日常。第二回になります。
 紫です。つまりクロスです。
 クロスSSを同時進行か。大丈夫か自分。
 ……正直不安です。
 とりあえず執筆ペースは順調。幾ばくかのストックも溜まりつつあります。
 この余裕を使って一発ネタでもやろうかなとか思ってます。出来ればエロいの。

 ――なので。

 久しぶりに募集かけます。
 ご希望のカップリング。シチュエーションなんかをおっしゃって頂ければ形にしたいと思ってます。
 詳細であればあるほど嬉しいです。

 ではでは以上、伊南屋でした。
 スレの繁栄を願って、また来週。
698名無しさん@ピンキー:2008/01/20(日) 06:15:01 ID:AaH59d0z
なんてブラボー!!(*´Д`)
699名無しさん@ピンキー:2008/01/20(日) 07:16:29 ID:zWevVd7g
きたああああああっ (*´∀`)
待ってました。


ジュウ様と雨が出てくるなら、どんなのでもry
700名無しさん@ピンキー:2008/01/20(日) 08:03:49 ID:iSYx/job
>>697
やはり血縁なのか?血縁エンドなのかw
タマ姉とロリコン!
701名無しさん@ピンキー:2008/01/20(日) 14:22:48 ID:YJRxP5h1
雨さんにとろとろにとかされるジュウ様で
702名無しさん@ピンキー:2008/01/21(月) 12:54:11 ID:ycPnFw1j
雨さんに迫られるジュウ様で
703名無しさん@ピンキー:2008/01/21(月) 13:50:52 ID:ycPnFw1j
GJ!!!

雨さんに迫られるジュウ様で
704名無しさん@ピンキー:2008/01/21(月) 18:38:17 ID:ycPnFw1j
二重サーセン orz
705名無しさん@ピンキー:2008/01/21(月) 23:40:58 ID:Y5cSzojH
GJッス!
イヤしかし妄想をする事は度々あるが、まさかジュウ様と紫の絡みが見れようとはwww
続きを一日千秋の思いでお待ちます。全裸で

リクエストは流れに沿って蟲惑的に絡み合うジュウ様と雨で!
イメージ的には黒き王と世界最古の魔導書でおねが(ry
706名無しさん@ピンキー:2008/01/22(火) 21:21:57 ID:YlCDbNc1
このスレの住人の大半はデモベが大好きそうだなwwwwww
707名無しさん@ピンキー:2008/01/23(水) 18:31:27 ID:UttDSRcq
GJ!!!!
708名無しさん@ピンキー:2008/01/23(水) 18:55:52 ID:VpTnHVh1
やっぱ僕、ロリコンだったみたいでさ。紫の綺麗な体知ってしまったら、
夕乃さんなんか薄汚くて抱く気にもなれないんだよ、この年増!!
709名無しさん@ピンキー:2008/01/23(水) 22:56:23 ID:g2TnpZT3
それだと夕乃さんが黒幕にw
710名無しさん@ピンキー:2008/01/23(水) 22:57:06 ID:g2TnpZT3
sage忘れスマン
711名無しさん@ピンキー:2008/01/23(水) 23:27:33 ID:Ivxly5ZX
ちと流れを切るようで申し訳ないが、闇絵さんとほにゃらら、その七。
712闇絵さんと紅香さん 1/4:2008/01/23(水) 23:29:00 ID:Ivxly5ZX
 
「そういえばお前、最近、闇絵と仲がいいらしいな」
 紅香の不意打ち気味のセリフに、真九郎は唾を飲み込み損ねでもしたか、激しく咽せた。夕闇が迫る五月雨荘の門前で、愛車のドアに手をかけて少し振り返った姿勢のまま、紅香は苦笑しながら、そんな真九郎を見やる。
 いきなり、「最近調子はどうだ」などと押し掛けてきて、ひとしきりマイペースな会話で真九郎をきりきり舞いさせた挙げ句に、突風のように立ち去ろうとした矢先のことだった。
「…な…」
 なかなか自分の思うようにならない横隔膜に手こずりながら、それでも真九郎が訝しげな視線を向けると、紅香はにやにやしながら、
「この間、環と飲んでな。なんでも、お前が闇絵にばかり甘いといって、えらく荒れていたよ。いつもの三倍は飲んでたんじゃないか」
「はあ、それは…」
 そんな人外の酒量につき合える紅香も紅香だと思わなくもなかったが、
「それで、どうなんだ」
 紅香にあらためて突っ込まれて、真九郎はげんなりした。
「酔っぱらいの言うことなんか、まともに受け取らないでくださいよ。別に、相変わらずですけど。闇絵さんはああいう人ですし」
「そうかね」
 紅香は細いシガレットを取り出すと、火を点けた。どうやら、この話題はもうしばらく続くらしい。
「まあ、あれと人がましく近所づきあいができているということ自体、奇蹟みたいなものかもしれんが」
「はあ…」
 遠慮のかけらもない紅香の言い草に、真九郎は曖昧に笑いながらも、
「でも悪い人じゃありませんよ」
 なけなしの弁護を試みたが、紅香はいささかの感銘を受けた風もなく、タバコの煙をどれだけ遠くまで真っ直ぐに吹き出せるかということに熱中しているようだった。
「良い悪いの問題じゃない。本人が善意か悪意かなんて関係なく、周りにある結果しかもたらさない人間というのが、世の中にはいるのさ」
「それは…ご自分のことですか」
 とっさに、そんな切り返しがどこから出てきたものか。真九郎自身にも驚きだったが、紅香までが珍しく目を瞠った。
「ほう…言うじゃないか。真九郎」
「いやその…済みません。生意気言って」
「いや、面白い。三日会わざれば、ということか。それとも、あれの薫陶がいいのかな」
「…別にそういうわけじゃないと思いますが」
 紅香は、ふふん、と鼻を鳴らしてタバコをくわえる。
「確かに、お前の言うとおりかもしれん。わたしはその場その場の気分でしたいように行動しているだけだが、周りからは不思議と決まって同じふうに言われるからな」
「はあ…」
 この世界に入ってまだ日の浅い真九郎の仄聞でも、紅香に関する風評はその悉くが畏怖と嫌悪に彩られていて、真九郎のように敬意をもって見る向きなど絶無といっていい。その通った後に無惨な暴力と破壊の跡しか残らないとあっては、無理もないかもしれないが。
「…しかしだな。あれと似た者同士のように言われるのは、しごく心外だ」
713闇絵さんと紅香さん 2/4:2008/01/23(水) 23:30:15 ID:Ivxly5ZX
 
 紅香の口調と視線に何がこめられていたというのか、真九郎はその場を動けなくなった。紅香はカエルを目の前にしたヘビのような微笑を浮かべて、
「そのあたり、お前の考えるところを、もう少し詳しく聞かせてもらおうじゃないか。ん?」
「えっ…いやその…」
 掌に嫌な感じの汗の冷たさを覚えながら、そういえば闇絵の前でも全く同じように気圧されたことがあったのを思い出す。ただ、そう口にしたが最後、若い身空にとてもよからぬことが起こりそうなので、自分一人の胸におさめておくことにしたが。
「そりゃ…お二人は全然違いますよ。見りゃ分かるじゃないですか」
 そんな通り一遍の逃げ口上では、むろん解放してもらえるはずもなく、次に何を言うべきか、真九郎は必死で自分の頭の中を引っかき回した。
「べ…紅香さんは、尊敬っていうか、俺の目標っていうか、いや俺なんかが言うのはおこがましいにもほどがあるってのは良く分かってるんですが、そんな感じで。こんな俺でも、なんとか生きてやっていこう、って思えるのは、やっぱり紅香さんのおかげで」
 紅香は相づちなど打ってくれないが、先を促しているのは明らかだったので、続ける。
「闇絵さんは…俺なんかには良く分からないことだらけで、いつもちょっと困らされてますけど、それもあんまり嫌じゃないっていうか、何というか…いつもここに居るのが当たり前っていうか、ここに居てくれて良かったっていうか」
 真九郎がしどろもどろに言い終わるころ、紅香はいつの間にか、目を眇めて真九郎を射抜くように見つめていた。
「…真九郎。お前も、妙なやつだ」
「はあ」
「わたしとあれについて、そんなことを言うのはお前くらいだろうな」
「そう…ですか?」
 確かに一般的な見方ではないのかもしれないが、それは彼女たちを良く知らないからに過ぎないと、真九郎などには思えるのだ。いやさ、真九郎とて紅香と闇絵の何を知っているわけでもないだろうが、それでも何がしか感ずるところはある。その点は譲れない。
「ふん」
 紅香はタバコを地面に落としてハイヒールで踏みにじり、
「まあ…お前がそんなだから、九鳳院の天然少女だの崩月の鬼娘だのとも普通につき合えるのかもしれんな。環が懐くのも、分かる気がするよ」
「はあ…」
 戸惑う真九郎の前で、紅香はおとがいに指を当てて、何か考える風情を見せつつ唇の先だけで微笑んだ。
「しかし、あいつがお前のことでやけに突っかかってくるのは、単にわたしのことを毛嫌いしているだけかと思っていたが、これは案外と」
「それくらいにしたがよかろう。紅香」
714闇絵さんと紅香さん 3/4:2008/01/23(水) 23:31:33 ID:Ivxly5ZX
 
 いきなり声が降ってきて、目に見えない拘束から解き放たれた真九郎は頭上を振り仰いだ。門の側の大木の上、枝が重なって形作る闇の中に、ぽつりと赤い光点が見えた。
「闇絵…さん?」
 気付いてみれば、そこにいても何の不思議もない人物ではあった。なのにその瞬間まで、真九郎には毛ほどの気配も感じられなかった。その隠形ぶり、犬塚弥生と比べたらどちらが勝るだろうと、由ないことを考えてしまう。
 闇絵の姿は闇に融けたままで、声だけが淡々と流れてきた。
「いたいけな少年が、底意地の悪い若作りの年増にいたぶられて困っているのを見ていられなくてね」
「なんだ、いたのか。根暗で地味で影が薄いと目立てなくて大変だな」
「気付いていたくせに、しらばっくれるものではない」
 紅香は人の悪そうな笑みを見せる。
「いやなに。真九郎がお前のことをどう思っているか、聞かせてやろうと思ってな。わたしにしては親切すぎたかな」
「大きなお世話と言わせてもらおう。第一、少年が周りについて何をどこまで理解し考えているかなど、本人に問うまでもあるまい。見たままのとおりだろう」
 そう指摘されて、紅香があらためて真九郎の顔を見つめる。なぜだか、その視線がとても生温い。
「…それもそうか」
「いや、それで納得されると、なんかほんとにみじめな感じがするんですけど」
 真九郎の弱々しい抗議など、二人にかかっては歯牙にもかけてもらえない。いつもどおり、この二人だけの間で成立する緩やかに緊迫した空気が、あたりを支配していた。こうなると、真九郎の出る幕などない。
「それにしても、お前が真九郎なんぞをそんなに気に入るとはな。闇絵。世の中、異なこともあるものだ。人間関係について宗旨替えでもしたか」
「その言葉、そっくり返そう。紅香。他人のことなどめったに意に介さないお前が、こうして顔を見にやって来るのだからな」
「…ふん」
 紅香はしばらく枝の間の闇を見透かしているようだったが、やがて身を翻すと、愛車のドアを開けてシートに身体を沈めた。
「さて。旧交も温めたことだし、そろそろ行くか。じゃあな真九郎。闇絵。せいぜい、愛想を尽かされんように精進しろよ」
「そちらもな」
 闇絵の静かな返答に、紅香は一声朗らかに笑うと、車を急発進させた。そのテールランプを見送りながら、排気ガスと焼けたタイヤの匂いが薄くたなびく中で、真九郎はようやっと異様な緊張感から抜け出て肩を落とし、大きく息を吐いた。
715闇絵さんと紅香さん 4/4:2008/01/23(水) 23:32:51 ID:Ivxly5ZX
 
「…二人とも、相変わらずですね」
 少しくらいはその場を和ませようとして言ってみたのだが、闇絵のいらえは実に素っ気ない。
「少年。交友関係は、よく考えて選んだ方がいいな」
「はあ…」
 それほど、紅香のことが嫌いなのか。闇絵がいつになく本音を垣間見せてくれたように思えるのが嬉しく、さきほどの重圧がなくなった開放感も手伝って、真九郎は軽口を叩いてみた。
「それって、ここの人たちも含めて、ってことでいいですか?」
 闇絵の気配が、消えた。タバコの火で、そこにいることだけは明らかだったが、息づかいも衣擦れも、一切を感知できない。真九郎が息を詰めて見守る中、再び闇絵が夕闇の中から立ち現れるまでにどれほどの時間が経ったろう。
 聞こえてきたのは、どことなく詠うような調子の、低い声だった。
「少年。さきほどの君と紅香のやりとりの中にも、若干の真実はある。わたしと紅香の間にも、いささかの共通点がないわけではない」
 二重否定の微妙な言い方に、思わず失笑してしまう。だが、闇絵は真面目くさった声で続ける。冷静な、冷静すぎるほどの、声音だった。
「どちらも、周りの人間を仕合わせにすることがない。そういう風にできている」
「…闇絵さん」
 不意に夜気の冷たさが身に沁みる思いがして、樹上を見上げる。相変わらず、タバコの火しか見えなかった。それがなければ、闇絵はそのまま、どこか昏い深淵に身を隠してしまうのだろう。
 真九郎はいったん目を閉じ、それから見開く。見えないものを何とか見ようとして。
「俺…よく分かりませんけど。今の俺は…不仕合わせなんかじゃ、ないですよ」
 闇からは、沈黙しか返ってこない。そこへ向けて放たれる真九郎の言葉もまた、そのまま虚無に吸い込まれてしまっているのかもしれなかったが、それでも構わないと真九郎は思った。
「闇絵さんと紅香さんがいて、紫やみんながいて、それで、だから、俺は何とかやってるんだ、って、そう思います。だから」
「少年」
 いつものように無感動な声が落ちてきて、真九郎はほっとする。
「はい」
「夜は美しい。なぜか分かるかな」
「え…」
 話題の切り替わりようについていけず、真九郎はぽかんと口を開けた。闇絵はそれを知ってか知らずか、言葉を継ぐ。今度は、明らかに含み笑いの響きがあった。
「いろんなものを隠してくれるからさ」
 相変わらず、闇絵の言うことは真九郎には半分も分からない。分からないまま、それでも普段どおりの闇絵でいてくれるなら、それはそれでいいか、と真九郎は諦めた。
716名無しさん@ピンキー:2008/01/23(水) 23:34:09 ID:Ivxly5ZX
投下終了。次回は「闇絵さんとお手紙」。
717名無しさん@ピンキー:2008/01/24(木) 08:36:09 ID:VvJuafst
GJ!!!


闇絵さんハァハァ
718名無しさん@ピンキー:2008/01/24(木) 22:29:14 ID:Zos/bmXN
闇絵さんは真九郎の発言を聞いて何を思ってたんだろうか

なんにせよ超GJ!
719名無しさん@ピンキー:2008/01/26(土) 22:01:52 ID:18lo18kd
や、闇絵たん・・・
720伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/01/26(土) 23:29:25 ID:psk3wsgk
『Radio head Reincarnation〜黒い魔女と紅い魔女〜』

U.
 闇絵が行動を起こしたのは日が暮れてからの事だった。
 とは言っても何の事はない。ただ夕飯ついでに情報収集をしようという程度の話だ。
 先程、早速呑み喰いに対する期待に胸を膨らませて食堂へと降りた環を追って階下へと向かう。
 階段を下り、食堂に近付くにつれ、闇絵の耳へ喧騒が届き始めた。
 それは階段を残り数段にした時点で既に鼓膜を震わす轟声となり、物理的な振動すら伴って、最後の一段を降りた闇絵を迎えた。
 フロアには何かを取り囲み、騒ぎ立てる男達が叫び声を上げていた。
 その叫び――頑張れだとか、負けんなだとか、良いぞ姉ちゃんだとか、
 声援と罵声が混じり合った喧騒の中心に、闇絵は確信を持って視線を運ぶ。
 そこには闇絵の思った通り、環が居た。
 男達に囲まれ、赤い顔に笑顔を浮かべている。その周囲には数人の男が倒れている。彼らは環とは対照的に一様に青い顔だった。
 喧嘩――ではない。宿に入った時とは比べものにならない程の酒臭さ。そして次々と空けられる酒杯。
 呑み比べが始まってから既に大分経っているようだった。
「さんじゅ〜……え〜と、なんとかはいめぇ〜!!」
 もはや思考も呂律も回っていない環の掛け声と共に、一斉に杯が呷られる。
「……っぶはぁー!」
 最早女性としての恥も尊厳も捨てきった吐息を腹の底から吐き出して、環が空になった杯をテーブルに叩き付ける。
 その隣、羆のような大男が呷る途中で力尽き、杯に残った酒を頭から被りながら仰向けに倒れた。脱落者がまた一人。
 友人の相変わらずの底無し振りに、闇絵は環が最後まで残るだろうと予想して視線を外す。
 そうすると偶々か、先程闇絵達を部屋に案内した女中がおり、目線が重なった。目が合った女中は、極自然な挙動で闇絵の下へと歩み寄ってきて、口を開きかけた。
「すまないな私の連れが」
 女中が声をかけるより早く闇絵が言う。声を掛けようとしていた女中は機先を制される形になり、タイミングを外され若干反応が遅れる。
 しかし、それも一瞬の事で、直ぐに気を取り直した女中は明るい笑顔でもって返した。
「お酒を皆さんが呑めば儲かるのは私達ですから」
「ふ、まあ確かにそうだ」
 明け透けな物言いに微笑を返し、闇絵はカウンター席の椅子に腰を掛ける。
「夕食を貰おうか」
721伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/01/26(土) 23:30:40 ID:psk3wsgk
「でしたら羊肉なんて如何ですか? 今朝、良い肉が入ったんですよ」
「じゃあそれを」
「かしこまりました」
 そう言ってキッチンに女中が消える。
 料理を待つ間、闇絵は再び乱痴気騒ぎを眺めて隙を潰す事にする。
「たぶ〜ん〜よ〜んじゅ〜っ!」
 また一人、酒を浴びて男が倒れる所だった。

 † † †

「ふむ、なかなか美味い」
 運ばれて来た羊肉のスパイス焼きを食べ、闇絵が賞賛を口にした。
「ありがとうございます」
 笑んで答える女中――少し会話をした所、一子と言う名前らしかった――は小さくお辞儀をした。
 世間話をした程度だが、短い間で闇絵は一子の知性の片鱗を垣間見ていた。
 情報収集については彼女から聞いてみようと決める。
「少し、良いだろうか?」
「なんでしょう?」
「子供の失踪事件についてだよ」
 話題を切り出した瞬間、それまで和やかであった一子の雰囲気が変わる。暗い事案に気を沈めたようであった。
「……そう言えば、調べにきたんでしたっけ」
 無言で頷いて見せると一子は溜息を吐き出した。
「多分、私が知っているのは貴方達と大して変わりません。ただ子供が消えて、それっきり。要求もなく戻ってきたものもいない」
「行方不明者に知り合いは?」
「いいえ。浚われた子供達は全てお屋敷組だそうですし」
「お屋敷組?」
「ああ……街の人間じゃないから分からないんですよね。お屋敷組と言うのは街の東にある区画――つまりお金持ちの人達の屋敷が集まっている場所に住む人達の事です」
「なる程ね」
「それで――私達はお屋敷組とはあまり関わりませんから」
 どうやらこの街は富裕層とそうでない街人で住み分けがなされているらしい。
 故に一子は浚われた子供、加えてその関係者については知らない――ということらしかった。
「ふむ……期待が外れてしまったか」
「お役に立てずすいません」
「いや、謝る事はないさ。それではそうだな……最近何か街に変わった事は無かったかな?」
 そう言うと一子は二つの言葉を口にした。
「魔女と……揉め事処理屋さんでしょうか?」
「ほう? それはどういう事かな?」
「魔女っていうのは、子供達が浚われているのは、この街に魔女がいるからだという噂です。揉め事処理屋さんは、あなた方以外に数日前から事件を追っている方です」
722伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/01/26(土) 23:32:15 ID:psk3wsgk
 魔女の方は噂の域を出ない話のようで、闇絵にとってまだ思案に至る事柄ではなかった。むしろ闇絵が気になるのは揉め事処理屋の存在だ。
 闇絵には揉め事処理屋と言われて思い当たる人間がいくつかいる。特に思い浮かぶのは、未だ少年でありながら揉め事処理屋として働く少年である。
 もしかしたら彼も仕事を回されてこの街に来ているのではないかと考える。
「その揉め事処理屋というのはどこに?」
「実は……この宿に」
「ほう?」
 以外な答えに闇絵が軽い驚きを見せると同時、一子の視線が闇絵から外され、入り口に向けられる。
 その視線を追って、闇絵は納得した。
「“アレ”が、揉め事処理屋だな?」
 現れたのは――
 圧倒的存在感は王者の風格。纏う気配は強者の鋭さ。
 柔沢紅香が傲然と歩んでくる。

† † †

「よ〜ん、ん〜? ごじゅ〜? あ〜……とりあえずにゃんとかはいめ〜!」
 また脱落者が二人。残るは環を含めた四人。
「まったく騒がしい事だな」
 口に葉巻を加えながら酒宴――否、酒戦とでも言うべきか――を眺めて紅香が零す。
「まあ見ている分には悪くない見せ物だ。人の愚かさが良く出ている」
 そう呟いて皮肉気な微笑を浮かべる。
「そうは思わないか、闇絵?」
「さて、どうだろうね?」
 視線を交わすこともなくただ言葉だけをやり取りする。その様は気の置けない友人であるようにも見えたし、互いに憎み合う敵同士であるようにも見えた。
「お知り合い……ですか?」
「まあそんな所だ」
 紅香が答えながら、闇絵の隣に腰掛ける。
「とりあえずウイスキーを」
「あ、はい。かしこまりました」
 すぐさま出された濃い琥珀色の液体を嚥下し、それからようやく紅香は闇絵に向き直った。
「お前もこの街に仕事で来たのか? 黒い魔女として」
「ああ。そちらも?」
「私は個人的な興味だ。いや、興味と言うよりは苛立ちの解消かも知れん」
 紅香の意図が何となく読めて、闇絵はただ無言で頷く。こう見えた子供好きな紅香にしてみればこの事件は気分の良いものではないはずだ。
「首尾は?」
「手掛かりなんか無いってのが正直な所だな。目撃者無し、痕跡無し。いつ、どこで、どうやって連れ去られたのかも分からんよ」
 紅香らしからぬ調査の不振ぶりに、闇絵は多少の驚きを表情に浮かべた。
「弥生が居ればまた違うのだがな」
「ほう? 珍しいじゃないか、あの忠実な飼犬が主人から離れているなんて」
723伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/01/26(土) 23:33:51 ID:psk3wsgk
 ――犬塚弥生。
 柔沢紅香の影となり、手足となり、武器となる存在。
 他者に犬と呼ばれ、自ら犬と呼ぶ事すら厭わない程に紅香に心酔している彼女が、主人たる紅香から離れているのは最早異常事態とすら言えた。
「私が命じたのさ。城下に残って、何か動きがあれば知らせるようにとな」
「連絡係(おるすばん)という事か」
「ああ。しかし、弥生がいないお陰で裏から調べる事が出来んよ。私は目立ってしまうからな。隠密は苦手だ」
 そう言うと紅香はグラスに半分程残ったウイスキーを一息に呷った。
「まったく、人に頼る事を覚えてしまうといかんな」
 グラスを一杯だけ空にしてから苦笑して、紅香は立ち上がる。
「もう行くのかい?」
 闇絵の問いに紅香は溜め息を混ぜて答える。
「ああ。無駄だと思ってやった聞き込みは期待通り成果ゼロ。何か新しい動きが無いことにはどうしようもないからな。今日はもう寝るよ」
 まるで、次の事件が起きる事を予期しているような、そしてそれを期待しているような物言いだった。
「ん? 良く見たら美味そうな肉じゃないか」
 皿に盛られた料理を見つけ、紅香は闇絵から許可を取ることなく一切れつまみ上げる。そのままそれを口に放って、紅香は言った。
「うん。美味いじゃないか。柔らかくて――」



「――まるで新鮮な子供の肉みたいだ」



 紅香が口端を吊り上げる。


「んま〜いっ! も〜い〜っぱ〜い!」
 酔いつぶれた男達が死屍累々と倒れている。
 その中心で環は未だ杯を空け続けていた。

 † † †

 ――それは心に怒りを燃やしていた。

 何故理解しないのか。何故自分を捜すのか。捜して、罰しようとするのか。
 何が悪いというのだ。
 正しい事をしているのに。
 否。否。否。
 全てが否定される。
 それが怒りを呼ぶ、憎悪を呼ぶ、悪意を呼ぶ。
 内に燃え盛る黒い炎――負の激情。
 邪魔だ。消えてしまえ、目の前から。
 いや、いっそ消してしまおうか。
 邪魔はさせない。誰にも、妨げさせはしない――出来るはずがない。
 奴らを一人残らず消し去る。
 それが私にとって、何よりの正しさの証明となろう。
 そして、それが私の求めるものを得る糧となる。

 ――それは嗤う。
 顔には出さず、心の中で嗤い続ける。
 狂ったように、ただ嗤う。

続く
724伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/01/26(土) 23:41:15 ID:psk3wsgk
 はい毎度、伊南屋に御座います。

 >>706それは俺の事か。というわけで>>705を採用してSS執筆中。しかし実に久しぶりなエロで勝手が掴めず七転八倒四苦八苦。
 おかげで連載二本が滞りがちになるという本末転倒っぷり。
 ――大丈夫。まだストックはあるから。大丈夫……なはず。

 さて、RR外伝。一子登場。キャラが違くね? って感じなのは、あくまで店員としての言葉遣い、態度だからです。
 これから本性が出るのか……?

 というわけで以上、RR外伝〜黒い魔女と紅い魔女〜。
 それではまた来週お会いしましょう。伊南屋でした。
725名無しさん@ピンキー:2008/01/27(日) 12:16:42 ID:q+BMuvKH
datなげーよ('A`)


GJすぎます(*ノノ)
次回のジュウ様と雨の絡みwktk
726名無しさん@ピンキー:2008/01/27(日) 18:18:18 ID:SrCRBhPK
お二方ともGJ!!!

毎週楽しみに読んでます!!
727名無しさん@ピンキー:2008/01/28(月) 12:20:28 ID:tfv7QdDq
一子って誰かと思った(・ω・`)

読み直して把握した
728名無しさん@ピンキー:2008/01/29(火) 00:07:51 ID:AMcI406I
GJッス!
イヤしかし闇絵さんの出番が多いSSが続いているぜ!

>>724
おぉう! ヤベェ、自分で言っておきながら興奮で鳥肌が止まらねぇ
もうどんなエロエロな主従関係が見られるか今からもう楽しみッス!
729名無しさん@ピンキー:2008/01/30(水) 07:06:45 ID:ZXKh2kQv
ぐっじょぶ!

闇絵さんとの絡み最高(*ノノ)
730名無しさん@ピンキー:2008/01/30(水) 20:19:52 ID:ZfYWqZdF
闇絵さんとほにゃらら、その八。
731闇絵さんとお手紙 1/5:2008/01/30(水) 20:20:53 ID:ZfYWqZdF
 
『五月雨荘 闇絵殿』
 表にそれだけしか書いていない封筒を手に、真九郎は五月雨荘の門前でしばし佇んでいた。当然のように、裏に差出人を書いてもいない。
 どこから発信されたものかは知らないが、そこからここに至るまでに経由してきた郵便システムのことごとくをこの表書きで突破して、何の支障もなかったらしい。自分が住んでいる五月雨荘というのが、今更ながらにとんでもない場所に思えてくる。
 配達しに来た郵便屋にこれでいいのか尋ねても、「さあ昔からここはそういうことになっとるからねえ。消印? 切手? …なあ兄ちゃん。女房子供がいると余計なことは気にしちゃいかんし気にならなくなるもんさ」とばかり。
 まあ、それはなんとなく分からなくはないが、
「これって、普通の郵便物じゃないってことか…?」
 おそるおそる、親指と人差し指だけでつまみ上げてしまう。確かに、闇絵宛てというだけで十分に普通ではないのかもしれない。
「少年」
 宛先人の顔を思い浮かべたと全く同時に、当の本人から声をかけられて、真九郎は思わず背筋を正した。もしかすると、こちらの心を読んでいるということは…さすがにないだろうが、この完璧なタイミングからいって完全には否定しきれないというあたりが、一番怖い。
「…はい?」
「いつまで、人宛の手紙をひねくり回しているのかね」
「あ、ええと…すみません」
 郵便屋も自分も、闇絵の名前など口に出さなかったはずなのに、あの距離からどうやって自分宛ての封筒だと判別したのか。謎は尽きせなかったが、確かに、多少隣人の礼儀に悖る行為だという自覚はあったので、素直に謝りながら、闇絵の腰掛ける大木に歩み寄る。
「ちょっと、珍しいというか意外で」
「ほう」
 真九郎は、木の下で手紙を受け取ってくわえたダビデが、器用に闇絵のところまでよじ登っていくのを見上げた。闇絵は細い指で封筒を取り上げながら、
「意外というのは、ここに手紙が届くことかね。それとも、わたしに手紙をよこすような知り合いがいたことかね」
「…両方ですかね」
 これくらいのやり取りには既に慣れたから、難なくこなすことができる。変に言葉の裏を勘ぐったりせず、淡々と受け流すのがコツだと、ようやく最近悟ったのだった。
「ふむ」
 闇絵の声音には、気のせいかもしれないが、ややつまらなさそうな響きがないでもない。真九郎は、なんとはなしに小さな勝利感を覚えた。
732闇絵さんとお手紙 2/5:2008/01/30(水) 20:21:57 ID:ZfYWqZdF
 
 そんな風に気をよくしたおかげだったか、闇絵との会話を続けてみる。
「それにしても、最近、手紙ってのがそもそも珍しいですよね。携帯とかメールで事足りますし。最近、俺も手紙って出したことも貰ったこともないですよ」
「奇遇だな。わたしもだ」
 闇絵は封筒を切り開く。ペーパーナイフなど持っているはずもないのに、真九郎の遠目にも、すっぱりときれいな切り口が開いたのが見えた。
「そりゃまあ、闇絵さんの場合そもそも人と連絡を取ることが滅多に…」
「何か言ったかね」
「い…いいえ」
 気を抜くな、と自分に言い聞かせる。相手が闇絵であることに変わりないのだから。
「そういえば、いつぞや俺の携帯からアフリカに電話したことがありましたよね。今度も、そんな感じですか」
 これくらいはぎりぎり訊いてもいいだろう、というあたりを測りながら尋ねてみる。闇絵も、そんな手管などお見通しだよ少年、とでも言いたげに、ちらりと視線を投げてよこしはしたが、お咎めを口に出すことはなかった。
 真九郎としても、まともな答えなど、はなから期待していない。いくら、五月雨荘では珍しく近所づきあいのある仲とはいえ、自ずと踏み越えてはならない一線があることは承知している。だいたい自分自身からして、話したくないことだらけなのだから。
 だから、闇絵が開いた封筒を逆さに振ってみせたときには、かなり驚いた。
「そうだな。こんな感じだよ。少年」
「はあ…えっと」
 とっさに闇絵の示したかったことが分からず、闇絵の手中の封筒にしばらく目をこらしてから、ふいに悟る。
「それ…中身が。空って、ことですか」
「ふむ。空とは、どういうことかな」
 闇絵が含み笑いをしながら訊き返すものだから、真九郎はなおさら混乱せざるをえない。
「いや、だって…中に何も」
「だからといって、何も伝えていないとは限らないよ。少年」
「はあ…」
 それは、そういうこともあるのかもしれない。何か事前に取り決めた符丁でもあるのか、真九郎には察知できない何かが仕込まれていたのか。いろいろな可能性が真九郎の脳裏を駆けめぐったが、どれが正解なのか皆目見当もつかなかった。闇絵も、教えてはくれまい。
733闇絵さんとお手紙 3/5:2008/01/30(水) 20:23:03 ID:ZfYWqZdF
 
 呆然と立ち尽くす真九郎を見下ろしながら、闇絵は軽いため息のような笑いを漏らした。
「少年。人が人に意を伝えるには、じつに様々なやり方があるものだ。動物の鳴き真似。歌声。太鼓の音。狼煙。旗。腕木。電気信号や光に無線。むろん、文字や書簡というのもその一つだ」
「…」
「それぞれに、信号の取り決めも暗号の作り方も解読の方法も、千差万別でね。ある意味、そこには人類の叡智が尽くされているといってもいいだろうな。実に興味深い分野だよ。そうは思わないかね」
「それは…まあ」
 いつもの衒学で煙に巻こうというのか、それとも闇絵なりに何かを伝えようというのか、真九郎には判断がつかない。
「もっとも、全てが全てうまくいくとは限らない。人間というのは、どうしようもなくお互いを誤解するようにできているらしい。…中には、周囲が言葉と態度でこれ以上はないくらいにあからさまに伝えようとしていることを、全く理解できない鈍い愚か者もいる」
「あの…そこでなんで俺をじろじろ見るんでしょうか…?」
「と、いうことだよ。少年」
「いや、それじゃ何のことだかさっぱり…」
 闇絵は、そんな真九郎にそれ以上構おうとせず、空の向こうに視線を向けた。独り言のように、続ける
「そうだな。いまだかつて、人と人の間で完全な意志疎通が成り立ったことなど、ないのかもしれないな。己を表現し、何かで媒介させ、受け取って理解する…全てにおいて、あまりに力不足だよ。人類の叡智などと言ってみたところで、たかが知れている」
「それは…そうかもしれませんけど」
 闇絵の言うことは、真九郎の実感とも合致する。いつだって、自分は他人のことなど理解できないし、他人は自分のことなど理解できない。お互いに、言えないことや見せられない顔が多すぎて、それを慎重に隠しながら臆病な探り合いをするので精一杯だ。
 そう、真九郎も思っていた。つい最近までは。九鳳院紫に出会うまでは。
「でも…それでも、たまにでも、ちょっとでも分かり合えるところもある。それって、大したことなんじゃないかって、思いますけど」
 闇絵が再び真九郎に目を戻した。もしかしたら、少し微笑っていたかもしれない。
「むろんだ。少年。そんなことでもなければ、到底やっていられないよ。君とこうして話してもいないだろうな」
「はあ。それはどういう…」
 首をかしげる真九郎の目の前に、ひらひらと封筒が舞い降りてきた。
「少年。済まないが、捨てておいてくれないか」
「えっ…」
 木の根元から拾い上げる。やはり、中身も何もない、薄っぺらな封筒だけだった。
「いや、でも…」
「もう用は済んだ。必要にして十分なことは伝わったからな。わたしほどの素養があれば、そういうこともある。君も見習うといい」
「はあ…」
 それきり闇絵は口を閉じてしまったので、真九郎も不得要領なまま、部屋に引き上げざるを得なかった。
734闇絵さんとお手紙 4/5:2008/01/30(水) 20:24:16 ID:ZfYWqZdF
 
 真九郎は、テレパシーだの幽霊だの虫の知らせだのといった、超自然的なものを信じたことはない。自分の体に崩月の角などという代物を仕込んでおいて言うセリフではないかもしれないが、人間には己の五感を超えることなどできないと思っているからだ。
 だからその晩、なんとなく眠れないままに五月雨荘の庭に出てみたのも、特に何かを感じたとか、これといった理由があった訳ではなかった。
 それなのに、おそろしいくらいに皓々とした満月の明かりの下、いつもの大木の枝にいつもの一人と一匹を見いだした時に、ああやっぱり、と思えたのは、どういうわけだったか。
 何も言わず、そちらに静かに歩み寄ると、木の幹に背をもたれさせて、同じように月を見上げてみる。闇絵の邪魔をしたくないとは思ったが、かといって、何も見なかったことにして背を向けることもしたくなかった。だから、黙って側にいることにした。
 闇絵が話しかけてくるなどとは、期待もしていなかった、のだが。
「少年」
「…はい」
「知っているかな。月は人間に狂気をもたらすと言われている」
「聞いたことはあります。どれだけほんとかは知りませんけど」
「わたしもだ。だが、仮になにがしか正しいとしても、結局のところ、狂うのは人間自身だよ。月のせいではない」
「…」
「人間というのは度し難いものだな、少年。善も悪も、全ては自分の外にあると信じたがる。そうして、神だの悪魔だのを作り上げる」
「それは…そうしないと、怖いからじゃないですか。自分以外のどこにも逃げ込む場所がなくて、何もかも自分の中からしか出てこないなんて、ぞっとしますよ」
「少年もかな」
「俺も…そうですね。どうみても自分のせいじゃないって思うことは結構ありますから。そんなのは、空の上の誰かさんのせいだって思ってます。…だからって、自分のしたこととかしなかったことまで、そんなヤツに預けるつもりはありませんけど」
「なるほど」
「闇絵さんは、どうですか」
 闇絵は、答えない。いつものことながら大人は狡いなあ、と真九郎が呆れていると、
「少年。しばらく留守にするよ」
「…はい」
 本当はもっと驚くべきだったのだろうが、真九郎はいたって穏やかに闇絵の宣言を受け止めた。あまりに美しい月夜だったからかもしれない。その肩に軽い衝撃を感じて目をやると、ダビデが腰を下ろしていた。
「闇絵さん…俺、猫って飼ったことないんですよ。ほんとにしばらくならいいですけど」
「話ができてよかったよ。少年」
 最後まではぐらかす風の受け答えに、苦笑せざるを得ない。ダビデを肩に乗せたまま、五月雨荘に戻り、玄関のところで振り返ってみると、月明かりは誰もいない大木と庭だけを深閑と照らしていた。
735闇絵さんとお手紙 5/5:2008/01/30(水) 20:25:17 ID:ZfYWqZdF
 
「あたしには挨拶なしかー」
 背後からした声に、真九郎は振り向かない。
「…環さんは、何か知ってるんですか」
「うんにゃー。ここって、そーゆーとこじゃないじゃん」
「まあ…そうですね」
「戻ってきたけりゃ戻ってくるっしょ。そうじゃなきゃー、ま、そうじゃないってことで。あたしとしちゃ、不戦勝は本意じゃないけどねー」
「はあ…何のことです」
「いーのいーの。さーこれで、心おきなく二人で愛の巣を始められるなっ、と。心ゆくまで爛れた日々を送ろうねー。えーと、とりあえずお腹空いたな何か作ってね、ア・ナ・タっ」
「はいはい」
 腹ぺこ大学生には適当にレトルトでもあてがうとして、明日はどこかでキャットフードを買ってこないとな、と思いながら、真九郎は玄関のかまちに上がった。
 今晩くらいは、環の相手でもしながら、もう暫く月を眺めていてもいいだろう。こんなに印象的な満月夜は、ぜひ記憶に留めておく価値がある。

 そう。あとで、梢に腰掛けていたあの姿ごと全てが幻だったのではないか、などと思ってしまわないように。
736名無しさん@ピンキー:2008/01/30(水) 20:26:29 ID:ZfYWqZdF
投下終了。次回は「闇絵さんとお昼寝」「闇絵さんとお酒」の二本立て。
737名無しさん@ピンキー:2008/01/30(水) 21:33:49 ID:4ouovpzQ
あ〜、ほにゃららシリーズ好きだぁ。 エロく無いけどw
738名無しさん@ピンキー:2008/01/30(水) 23:16:39 ID:ytF3ruAx
なんというかこのシリーズは闇絵さんだけじゃなく環さんもけっこう堪能できるよねw
739名無しさん@ピンキー:2008/02/01(金) 20:55:11 ID:9syLyiSD
移転保守
740伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/02/02(土) 11:24:58 ID:hu10TCWB
「彼と彼女の非日常・V」

 ――九鳳院。
 その名を知らない人間は、物心がつくかつかないかの幼子か、最早周囲を認知出来なくなった老人か位のものだろう。
 その程度には、九鳳院という家系の存在は強く、大きく、異彩を放っていた。
 実質上、この国に置ける支配者であり、もしかしたら世界ですら彼らの持ち物であるかも知れなかった。
 つまり九鳳院は、王者――そう呼ばれる一族だった。

 † † †

 誰も、何も口にしない。
 ジュウは驚きの余り頭が真っ白になっていたし、雨と雪姫は思考に集中する事で沈黙していた。
 少女――九鳳院紫と名乗った彼女は反応を伺っているらしい。まるでからかっている相手を観察しているようでもあった。
 からかっている――。
 からかっている?
「嘘だろ?」
 思考に浮かんだ疑念を言葉にする。
 だが、それを否定したのは他でもない。忠実なる従者たる堕花雨だった。
「いいえ、恐らくは本当かと」
「なん……で?」
 何故そう言えるのかとジュウが問おうとすると、いち早くそれを察知した雨が答える。
「テレビはご覧になりませんか?」
「一応見てるが」
「ではテレビで九鳳院の息女を見た事は?」
「たまに……」
 うろ覚えだが、何かの式典に出席した九鳳院家の面々の中で同年代の少女が豪奢なドレスに身を包んで着飾った姿がイメージとして脳裏に浮かぶ。
「テレビに映る九鳳院家の息女とはメイクと服装が違いますが、人相はほぼ一致します」
 そうなのだろうか?
 言われてみればそんな気もする。
「しかし、ほぼであって完璧ではありません。ですがそれはとある仕掛けで解決出来ます。即ち――影武者」
「どういう意味だ?」
「影武者は本物に似た人間を使っているはずです。ならば逆にも考えられます。つまり、本物は影武者に似ている」
「ふむ。だがそれでは私が本物である証明にはならないのでは?」
 紫が疑問を差し挟む。
「はい、あくまでこれは仮説です。信憑性は全くありません」
「ではなぜ本物だと?」
「勘です」
 実にシンプルな、しかも無茶苦茶な理由だった。
「勘ですが――確信はしています」
 暫くの沈黙。それを紫が崩す。
「ははっ! 全く面白い。飽きないなお前達は」
 無邪気に笑う紫を見ながらジュウは考える。
 ――本当にこいつはあの有名な一族の一人だって言うのか?
 ジュウには判断する材料がない。故に判断を雨に任せるしかない。
741伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/02/02(土) 11:27:47 ID:hu10TCWB
「付け加えましょう。貴方は私達に対して興味を持った――正確には名前にでしょうか。それが証になります」
 紫は無言で頷く。口元には笑み。本当に無邪気な、心からの笑みだった。
「信じて貰えるならばなんでも良い」
 あっけらかんと言ってのける。
「ところで」
 不意に、笑顔に若干の申し訳なさを浮かべ紫が言う。
「チャーハンが冷めてしまうから早く食べたいんだが」

 † † †

「ふむ、ふまい」
「はふ、はふ、はふ」
「ジュウ様。口元に御飯粒が」
「んぁ、悪ぃ」
 団欒。その光景はそう呼ばれるものだった。
 気が付けば四人で食卓を囲み、皆が一様に箸を動かしている。
 多めにチャーハンを作っておいて良かった、とジュウはなんとなく考えた。
 加えて考える。
 目の前の少女――紫は九鳳院の一族らしい。
 それがどれだけ途方もない事か、正直ジュウには理解が及ばない。ただ“多くなるかも知れない。少なくとも今は呼び捨ての方がジュウにはしっくり来た。
「その割には雨には様付けで呼ばせてるよね」
 雪姫が皿から顔を上げジュウをからかうような調子で言う。
 ジュウは眉根をしかめるとぶっきらぼうに反論した。
「呼ばせてる訳じゃないさ。雨が勝手にそう呼ぶだけだ」
 ――嫌がってもいないくせに。
 雪姫の小さな声はジュウの耳には届かない。
「ふふ」
「なんだよ、いきなり笑い出して」
 微笑んだ紫を、ジュウが問い質す。
「いやなに、中々に複雑な人間関係のようだと思ってな」
 懐かしむような表情を浮かべてそれだけ言うと、紫は再びチャーハンを口に放り込む。
「……そろそろ本題に入っても宜しいでしょうか?」
 切り出したのは雨だった。
「まず貴方が誰であるかは分かりました。ではその次です。何故貴方は此処に来たのですか?」
「……ふむ」
742伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/02/02(土) 11:29:03 ID:hu10TCWB
 雨の質問に紫は暫く黙り込む。紫はなんとか言葉を探して探しているようだった。
「簡単に言えば、追われている」
 暫く悩んだにしては単純な答え。
 しかし、意味の重さは大きい。
「追われて……る?」
「そうだ。私を追う者がいて、私はそれから逃げている」
 さも当然であると言うように紫が話すのを見て、何故そんなに平静であるのかと考える。
 日常化しているのだろうか。誰かから狙われる事を。
 それを当然と受け入れているのだろうか、彼女は。
「どうして追われてるんだ?」
「――悪いが話す事は出来ない。身内の恥を晒すことになる」
「そんなの――」
 関係ないだろう。
 そうは言えなかった。
 とてもではないが、言える筈がなかった。
 彼女と自分では今まで生きてきた、見てきた世界が違い過ぎる。それを無責任に否定する事は出来ない。
 頂点に立てば、敵は増える。いつだって誰かがその頂点に取って代わろうとする。
 権力争いの中で、紫という少女の利用性はどれだけ高い事か。常に危険と隣り合わせだったはずだ。
 そして彼女は言った。
 ――身内の恥を晒すことになる。
 九鳳院家の中ですら争いの種はあるのかもしれない。それに紫は巻き込まれたのだろうか。
 途轍もない世界の闇を突きつけられた気分だった。
 お前の知る不幸など、数多ある地獄の欠片でしかないのだとあざ笑われている気がする。
「なに、すぐに出ていくから安心して欲しい。迷惑は掛けない。今欲しいのは時間だ。思い知らせる時間。自分が何をしたのか思い知らせねばならない」
 そう言って紫は笑んだ。真っ直ぐな、力強い笑みだった。
「ジュウ様」
 雨がジュウを覗き込む。その瞳は問うていた。
 ――柔沢ジュウはどうするのか?
「…………」
 考えるまでもない。自分は――柔沢ジュウという人間は、なんとかしたい。そう思っている。
 理由ならそれで十分だ。
「俺に、なにか出来ることはないか」
「気持ちは有り難く受け取ろう。だが、すまないがこれは私の問題だ。ここに置いてもらう以外、ジュウにして貰える事はない」
「……そうか」
「すまないな」
「いや、だったらこっちは勝手にやらせてもらうだけだ」
「……は?」
「時間を稼ぎたいんだろ? 追いかけてる奴から逃げたいんだろ? だったら俺が何とかする」
 食卓を見渡す。信頼できる従者の少女と、その友人を見つめる。
「手伝ってくれるか?」
743伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/02/02(土) 11:29:58 ID:hu10TCWB
「ジュウ様が望むのであれば」
 即答する雨。
「……私はパス」
 否定する雪姫。
「……そうか」
 強要は出来ない。危険かも知れないし、元々雪姫はドライな人間なのだ。返答は当然だ。
「分かったか? 俺と雨は勝手にやらせてもらう」
 紫は大きな溜め息をつく。
「……分かった。勝手にするがいい」
 仕方ないというように肩を竦める。


「まったく、こんな風になってしまっては本当の事を言えないじゃないか」


 小さな小さな呟きは、誰の耳にも届かない。

 † † †

 携帯。通話する声。
「――ああ、分かった。ありがとう」
「――――」
「分かってるよ。じゃあまたメールで……え?」
「――――」
「そう言うなよ。仕方ないんだ」
「――――」
「……なんでそうなるんだよ」
「――――」
「……あぁ。じゃ、切るからな」
 プツっ。
 ツー、ツー、ツー。
 ……ピロリロリン。
「っと来た」
 着信。
「……まったく、メールにまでこんな事を書くか普通? ――えっとデータは……」
 メールに添付された地図データを展開する。
「なるほど、ここか」
 画面に映る地図。その中央にポイント付きで表示される建造物。
「なんだ。案外近いじゃないか」
 なんの変哲もないアパート。
 ――ジュウの住むアパート。
「待ってろよ。紫」
 歩き出す。動き出す。
 目的を目指して、淀みなく。
 進み出す。動き出す。
 ――“彼”が、追跡を再開した。

続く
744伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/02/02(土) 11:34:52 ID:hu10TCWB
 はい毎度、伊南屋に御座います。

 彼と彼女の非日常、第三回です。
 ……展開遅っ!
 少しテンポを考える必要ありですね。申し訳ありません。
 次回からは若干コメディ分が増しますので話自体の進展は正直……なんとかします。ごめんなさい。

 来週についてはRR外伝の方になります。
 なんとか無事両方進行していて自分でびっくり。止まらないのを祈るばかりです。

 なお単発ネタについてはもうしばらくお待ちを。

 それでは以上、伊南屋でした。
 また来週。
745名無しさん@ピンキー:2008/02/02(土) 12:16:28 ID:nd5HIKl4
>>744
GJです!

”彼”って、即ちアレで……
となると、紫がここにいる原因はアレか。

いやいや、何だか甘い展開になりそうなヨッカーンw
746名無しさん@ピンキー:2008/02/03(日) 02:49:33 ID:zrRtZCXN
成程、紫に関係がある‘彼,って・・・竜士かぁ、こいつは変化球だw
747名無しさん@ピンキー:2008/02/04(月) 00:01:18 ID:rjztUHAA
>>744
GJッス! イヤしかしどうやらあの幼なじみとの繋がりは切れてないようで
って事は暗黒面に目覚めた訳ではないのかあのロリコン?
まぁどちらにしろ続きが楽しみッス!
748名無しさん@ピンキー:2008/02/06(水) 23:53:09 ID:bg4WyaK4
闇絵さんとほにゃらら、その九と十。
ひとつながりのお話になってしまったので、まとめて投下。
749闇絵さんとお昼寝 1/3:2008/02/06(水) 23:54:13 ID:bg4WyaK4
 
 五月雨荘の門を入ったところで、ちょっと買い物袋の中身を確かめるために身をかがめてしまったものだから、声をかけられるまで気付くのが遅れた。
「おかえり。少年」
 涼やかな声に真九郎が顔を上げると、黒い帽子と黒いブラウスと黒い革手袋と黒いロングスカートと黒いハイヒールを身にまとった麗人が、けむるような微笑を浮かべながら、門の側の大木の根元に腰を下ろしていた。
「…ええと。ただいま、帰りました」
 とっさにそう答えてしまい、何かが間違っているような気分のまま、闇絵に歩み寄る。その膝の上で、ダビデが早速丸くなっているのを見て、思わず苦笑した。まあ、どれだけ間があいたとて、やはり飼い主は飼い主ということらしい。
「今日は、早いな」
「はあ…試験期間なもので」
「そうか。それなら、時間はあるかな」
 そう言いながら、闇絵は自分の傍らの地面を軽く掌で叩いた。その意味を把握しかねた真九郎は、
「えっと…珍しいですね。今日は木の上じゃないんですか」
「少年」
 再び、同じ動作が繰り返される。それでようやく、闇絵の意図を悟った。だが、そう言われても真九郎にも都合というものがある。
「その…買ってきたものを先に冷蔵庫とかにしまってきたいんですが」
 それでも、闇絵は頬笑んだままだった。真九郎はため息をついて諦める。闇絵と触れ合わないぎりぎりの距離を保って、その隣に腰を下ろした。冬とはいえ、まだこの時間なら陽射しはけっこう暖かいが、地面から尻伝いに昇ってくる冷気には多少閉口する。
「今晩は、何かな」
「一応、寄せ鍋のつもりで…」
「そうか。楽しみだ」
 当然のようにうそぶかれ、はて食材の量は足りるだろうかと、真九郎は買い物袋の中をもう一度覗き込んだ。まあ、何とかなるだろう。いつものことなのだから。
 闇絵はといえば、もう別のことを話し始めている。
「ここに腰を下ろすのは初めてだが、なかなかに新鮮な眺めだな」
「…はあ」
 これもいつものことながら、闇絵のセリフの奥にあるものは、真九郎には半分も分からない。もしかすると何も意味などないのかもしれないし、もしかするととてつもなく深い意味があるのかもしれないのだが、真九郎としては適当な相づちを打つのが精一杯だった。
「いつもは見下ろしていたものが、自分と同じ高さにあるというのも、なかなかに乙なものだ」
「…そうですか」
「というわけでな。ちょっと肩を借りるよ。少年」
「はあ…はあっ?」
 惰性で頷いてから、とんでもないことを言われた気がして、闇絵の方を見ようとした矢先に、真九郎の肩先に丸い重みが寄りかかった。
750闇絵さんとお昼寝 2/3:2008/02/06(水) 23:55:12 ID:bg4WyaK4
 
 どれくらい、そのまま硬直していただろう。無意識のうちに呼吸まで止めていたらしく、窒息間際でようやく気付いて、ゆるゆると息を吐き出し、吸った。できるだけ、自分に寄りかかっているものに響かないように、細心の注意を払いながら。
 そして闇絵は、人の気も知らぬげに穏やかな表情で、真九郎の肩に頭をあずけ、静かな寝息を立てている。いつものつば広の帽子は傍らに落ちてしまっていて、横目で見ると闇絵の白いつむじを窺うことさえできた。
(ええと…)
 何とか落ち着いてものを考えようとするのだが、肩に覚える重みと暖かみが、それを阻んで許さない。いったいぜんたい、自分の身に何が起こっているのか。なぜこんなことになっているのか。
「はあ…」
 一度大きく深呼吸し、動悸を鎮め、一つずつ状況を確認していく。しばらく行方不明だった闇絵が、唐突に戻ってきた。よし。強引に、自分を隣に座らせた。それも、よし。どうやら、いつもどおりに夕食をたかりに来るらしい。それも、まあ、よし。
 そして、真九郎にもたれかかって、あっさり、あっという間に眠りに落ちてしまった。これは…了解不能だった。何か、あり得ないことが起きている。
 だが、それは現実だった。目を覚ます気配すらなく、まるであたかも、疲れ切ったあまりにそうせずにはいられなかったかのように、闇絵は真九郎に体をあずけている。
「…どこで何してきたんですか。闇絵さん」
 呟いてはみたものの、答えが返るはずもない。このあと目を覚ましても、たぶん何も教えてはくれないだろう。だったら、観念して枕代わりを努めるしかないな、と思う。それが、自分にできる精々のことなら、それはそれで仕方がない。
「闇絵さん」
 せめてのこと、闇絵の黒髪に自分も頭を寄せて、囁いてみる。少しでも闇絵が安心できればいいな、と思いながら。
「闇絵さんがいない間は、まあ、いつもどおりでしたよ」
 時折紫が遊びにやって来て、たまに夕乃がご飯を作りに来て、まあ大概は環が食べ物をたかりがてら入り浸っていて、概ね賑やかな日々だった。闇絵の不在については、誰も語らなかった。もしかすると、真九郎が触れたがらないのに気を遣ってくれたのかもしれない。
「ダビデも大人しくしてましたし。キャットフードを食わないのには困りましたけど」
 それよりも、真九郎の食べ残しのご飯に味噌汁をぶっかけた猫まんまの方が、ダビデの口に合うらしかった。おかげで、少なからぬ金額を支払ったキャットフードの缶が、まだいくつも手つかずのまま、真九郎の部屋に転がっている。
 そしてダビデもまた、闇絵を待つ素振りを一切見せなかった。そんな人間などはじめから居なかったかのように、食べて寝て日々を過ごしていた。
「俺も…まあ、いつもどおりで」
 学校へ行き、銀子と他愛もない話をし、たまさか入る揉め事処理屋の仕事をこなし、紫や夕乃や環とそれなりに騒がしくて穏やかな時間を過ごした。闇絵の部屋の前で足を止めたりすることもなかった。
 いったんそこで足を止めたら、扉を開けてみる誘惑に勝てる自信がなかった。扉を開けたとき、そこには誰一人住んだ形跡のないがらんとした空室があるだけではないかという、ほぼ確信に近い疑念を意識したくなかった。
 それもしかし、今となっては全て過ぎたことだ。
「まあ…これからも、またいつもどおりなんでしょうね」
「ふーん。そうなんだ」
751闇絵さんとお昼寝 3/3:2008/02/06(水) 23:56:10 ID:bg4WyaK4
 
 目を上げると、環が満面に笑みを浮かべながら立っていた。ただ、心なしかこめかみのあたりがひきつり、気のせいか目が笑っていない。
「そのどこが、いつもどおりなのかなあー?」
「え、いやこれは…その…闇絵さんがいきなり」
「ほおーう?」
 環は、しげしげと闇絵の顔を覗き込む。それでも、闇絵は目覚めない。
「まあ、闇絵さんたら平和な顔しちゃってえー。なんか憎たらしいねー、すんごーく」
「ま、まあそう言わず…なんか疲れてるみたいで」
「ふーん。ナニしてきたんだかねー。おお、いいこと考えちゃった」
 言うなり、環は闇絵と反対側の真九郎の隣に座り込むと、闇絵同様に真九郎に寄りかかった。真九郎が逃げられないよう、その腕をがっしりと自分の胸に抱え込む。
「な何してんですかっ」
 とんでもなく強力なくせにこの上なく柔らかい感触にうろたえる真九郎に、環はにやにやしながら、
「えー、いーじゃんかーえこひいきはなしっ」
「えこひいきって、これはそういうことじゃ」
 真九郎の抗議にも、環は耳を貸さない。有無を言わさず、
「闇絵さんが目え覚ますまでは、このままねっ」
「勘弁してくださいよ…」
「むふふー真九郎くんとお昼寝お昼寝っ。ところで、今晩は何かなあ?」
 買い物袋に目を止めて、闇絵と同じことを訊いてくるので、仕様ことなしに、同じ答えを返す。
「まあ、寄せ鍋をしようかと…」
「じゃあ、今日は宴会だねー。…いいよね?」
 なぜか少し顔をそむけ気味にしながら、不意にふと優しげになって訊ねる声に、真九郎は少しだけ体の力を抜いて、空を見上げた。
「…はい。そうしましょう」
752闇絵さんとお酒 1/3:2008/02/06(水) 23:57:14 ID:bg4WyaK4
 
 喉の渇きで、目が覚めた。
「あー…」
 濁点つきの声を上げながら、真九郎は頭を少し持ち上げて、部屋の中を見渡す。
 すぐに環の寝姿が目に入ったが、ぼさぼさ頭の寝癖やら、だらしなく開いて涎を垂らす大口やら、胸までめくれ上がったTシャツやら、腹を掻いたままの恰好の手やら、大股を開いたジャージ姿やら、女というか人として色々終わった姿を見るに忍びず、目をそらす。
「ええと…」
 いつの間にか、意識を失ってしまっていたらしい。体を動かそうとした途端に襲ってきた鋭い頭痛に呻きながら、ゆっくりと上体を起こした真九郎に、涼しげな声がかけられた。
「起きたかね。少年」
 闇絵が、窓辺に腰掛けてタバコをくゆらせていた。見慣れた、懐かしい光景だった。
「はあ…」
「少し、水を飲んだ方がいい。持ってきてあげよう」
「あー…すみません…」
 ずきずきする頭に指を当てていると、目の前にミネラルウォーターのペットボトルがどすんと置かれた。今まで冷蔵庫に入れてあったのか、喉に心地よく冷えた水を、心ゆくまで飲み干し、一息つく。
「はあ…」
「だいぶ、飲んだようだな」
 闇絵は再び窓辺に陣取り、ほんの少しだけ唇の両端を持ち上げて真九郎を眺めていた。
「そのようで…」
 何とか、昨晩の記憶を蘇らせようと努力する。
 最初は、ただの鍋パーティーだった。「人数は多い方がいいに決まってるよねー」という環の一言により、紫や夕乃、銀子まで呼び出して、食材も足りないからまた真九郎が買い出しに走って、なんだかよく分からないまま盛大な会が催された。
 集まった三人とも、そこに闇絵がいることに驚いたとしても、それを色に出したりはしなかった。闇絵の方も、特に何を語るわけでもなく、話の輪に積極的に入るでもなく、いつものように淡々と飲み食いをしていた。
 三人が帰ったのは、九時ごろだったと真九郎は記憶している。九鳳院家の車が迎えに来て、紫だけでなく夕乃や銀子まで送ってくれるというので、有り難くお願いすることにした。
 去り際に、紫は「…また魔女憑きの心配をせねばならぬな」と呟き、夕乃は「姉さん女房といってもあまり年上はよくないのです分かりましたか真九郎さん?」と念を押し、銀子は「…スケコマシ。バカ」と耳に鋭く囁いた。どれも今一つ意味不明だが、まあよしとする。
 問題はその後で、三人を見送って部屋に戻ると、どこから取り出したか泡盛だの焼酎だのの一升瓶をずらりと並べた環が「今日は飲むからねっ」と宣言したのだった。「いや、自分未成年なんで…」という真九郎の真っ当な主張など、一顧だにされなかった。
753闇絵さんとお酒 2/3:2008/02/06(水) 23:58:16 ID:bg4WyaK4
 
 そこから後の記憶は、途切れ途切れになっている。環に勧められるまま、杯を重ねた。最初はそれでもおそるおそる舐める程度だったが、いつ頃からだったか結構なペースで付き合ってしまった。よくぞ急性アルコール中毒にならずに済んだものだと思う。
 それでも、そんなに時間が経たないうちに、真九郎はへろへろになって沈んでしまったはずだった。その頃には環が闇絵に飲み比べを挑んでいたような気もするが、はっきりしない。まあ、そのとおりだとしても、勝敗のほどは、眼前に明らかだった。
「今、何時ですか…?」
「四時は回っているはずだが」
 時計など持っていないはずが、勘で分かるらしいあたりが、いかにも闇絵らしい。真九郎は呻いた。
「やばいな…学校が…」
 多少はアルコールを抜いておかないと、この体調では登校もおぼつかないし、仮に行けたとしても酒臭い息を吐いているようでは話にならない。だが闇絵は容赦なく、
「まあ、諦めた方がいいと思うがね。もう暫く横になっていたまえ」
「いや、そういう訳にも…」
 このまま二日酔いで学校を休んだりしたら、夕乃や銀子に何を言われるか知れたものではない。這ってでも行っておいた方がいい。
 そんな真九郎の考えを見抜いたのか、闇絵ははっきりと苦笑を浮かべた。
「全く、よく仕込んである。あの娘たちも、なかなかに健気なものだ。よくよくの果報者だな、君は。少年」
「は…?」
「仕方がないな」
 闇絵はタバコをもみ消し、真九郎の側に寄ってきたかと思うと、後ろ側に回り込んで真九郎の視界から消えてしまう。
「え」
 真九郎の肩にひんやりとした手がかかり、有無を言わさぬ力で仰向けに引き倒した。後頭部が、何か柔らかいものに受け止められる。
「大人しく寝ていろと言うのに」
 見上げると、闇絵の玲瓏とした相貌が、すぐ上から真九郎を覗き込んでいた。真九郎は何度か瞬きを繰り返してから、ようやく自分がどんな体勢にあるかを理解する。これは、いわゆるひとつの、膝枕というものであるらしかった。
「あ…」
 慌てて起きあがろうとする肩を、細い指が押さえつけて離さない。どういう力の入れ具合なのか、決して強い力が込められているとは思えないのに、真九郎はどうにも身動きできなかった。
「いや、闇絵さん…?」
 どういうつもりなのか全く理解できず、闇絵の顔を再び見上げる。闇絵はやや目を細め気味に、そっと言った。
「昼間の礼だよ。少年」
754闇絵さんとお酒 3/3:2008/02/06(水) 23:59:20 ID:bg4WyaK4
 
「…ああ…」
 そう言われて、自然と真九郎の体から力が抜けた。
 あの後、ふと目覚めてからずっと、闇絵はそのことについていっさい触れず、まるで午後の一幕などなかったかのように振る舞っていたのだった。まあ、今の一言の後の澄ました表情からして、二度とあの一件について言及するつもりもなさそうだったが。
 それでも、とりあえず今暫くは、素直にこの恩恵に与っていても良さそうだった。
「闇絵さんは…飲んだんですか」
「ああ。近年にないほどにな」
 底なしの環が轟沈するほどの飲みっぷりだった筈なのに、アルコールの余韻など微塵も感じさせない様子で、さらりと言ってくれる。真九郎としては弱々しく笑うしかない。
「酒、強いんですね」
「強いというのかな。いくら飲んでも酔えないんだ。そういう体質らしい」
「はあ…それは、いいですね」
 今の真九郎から見れば羨ましい限りの話だったが、
「そうかね。まあ、そういう見方もあるかもしれないな」
 闇絵は素っ気なかった。真九郎がこのまま大人しくしていそうだと見極めをつけたのか、その手を真九郎の肩から頭へと移動させる。こめかみに感じる冷たい指の感触が心地よくて、酔いがそこからすうっと抜けていくようですらあった。
「いつもは、負けず嫌いと飲むことが多いからな。あまり飲んでみせないようにしているのだがね」
「はあ」
「わたしが居なかった間の話をいろいろと聞いているうちに、これは少し懲らしめておいた方がいいだろうと思ったのさ」
「はあ…」
 淡々と言う笑顔が、かなり怖い。いったい環はどんな話をしたというのか。興味がないわけではなかったが、確かめずにおく方がよさそうだった。
「闇絵さんは…」
 真九郎の呼びかけに、闇絵は声を出さずに、少しだけ首を傾げてみせる。その無表情で怜悧な美貌を眺めるうちに、真九郎は我知らず微笑った。
 いろいろ、訊きたいことはあった。あの手紙は何だったのか。なぜ、自分にあんな話をしたのか。どこへ行って、何をしていたのか。戻ってくるなり、あんなに正体もなく眠り込んでしまうほど、なぜ消耗していたのか。そして…なぜ、ここに戻ってきてくれたのか。
 どうでもいい、と思った。五月雨荘の住人は相互不干渉だとか、闇絵が自分について語ることを好むまいとか、知らない方がこちらにとってもいいだろうとか、そんな当たり前の理由からではない。闇絵が闇絵でいてくれるなら、それで十分だと、紅真九郎は思うのだ。
 だから、言うべきことは、たった一言だけだった。本来なら、あの庭先で再会したときに最初に口にすべき言葉だったが、まずは遅すぎるということもあるまい。真九郎は目を閉じて、ゆっくりと口を開いた。
「…おかえりなさい。闇絵さん」
 ほんの少しだけ、沈黙があった。それから、ごくさり気ない声で、真九郎の望むいらえが、花びらのように落ちてきた。
「ああ。ただいま。少年」
755名無しさん@ピンキー:2008/02/07(木) 00:00:24 ID:bg4WyaK4
これにて全10回のお話はおしまい。
最後まで、エロどころか、何がどうなるわけでもない淡々とした点景のお話ばかりで、恐縮の至り。
書く方としては、原作キャラの力に乗っかって、存分に愉しませてもらった。
読む方も些かなりとも愉しんでもらえたのであれば、幸甚なる次第。
では、またネタを思いつけば、その時に。
756名無しさん@ピンキー:2008/02/07(木) 00:45:33 ID:NcBqaPXU
すげぇいいねぇ。

いた、淡々としているからこそ闇絵さんっぽいというかね。
あぁ、いいねぇ。
757名無しさん@ピンキー:2008/02/07(木) 12:31:17 ID:sva9VkyV
>>755
GJ!
結構好きだよ、こういう話。
758名無しさん@ピンキー:2008/02/07(木) 12:50:07 ID:bDCq6pWX
入試会場からGJ!!!
あなたの作品が最近の一番の楽しみだったぜ
是非またこのスレに投下して下さいまし
759名無しさん@ピンキー:2008/02/07(木) 22:08:34 ID:1QW8A6N2
あぁ、いい闇絵さんだ・・・
膝枕のくだりとかいいなぁ
760名無しさん@ピンキー:2008/02/08(金) 23:34:35 ID:3VWd9NYs
G☆J
このシリーズ大好きです!
761伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/02/09(土) 07:52:29 ID:mUK7Ddds
『Radio head Reincarnation〜黒い魔女と紅い魔女〜』

V.
 闇絵が街に着いてから三日。
 それが新たな事件が起こるまでの期間だった。
 また一人、子供が消えた。ただしそれは――

 命と共にだった。

 † † †

「やれやれだな」
 葉巻をくわえた紅香が“ソレ”を見て苦々しく呟く。
 闇絵と環も並び、一様に眉根を寄せていた。
「これは明らかな挑戦だ。喧嘩を売ってきてる」
 不快感も露わに紅香が口にする。
「私達なんかにどうにかされてやるもんかって言いたいんだ。……舐められたもんだよ、柔沢紅香ともあろう者が」
 そこにあるのは怒りという感情だった。
「……酷い」
 環が呟く。余りにも無惨な、“ソレ”はそう形容するしかなかった。
 三人が見つめるそれは、悪意に満ちていた。
 顔面の皮を針で止め、無理矢理作った歪な笑顔。
 腕を下半身に、脚を上半身に左右逆に縫い付けられた身体。
    ・・・・・・・・・
 それが手を吊って逆さまにぶら下げられていた 。
 ――初めて見つかった犠牲者の少女、その姿。消えた翌日。街の広場に晒されたそれを三人は見ていた。
「これはなんとも魔術的じゃないか。手足の逆転、左右の逆転、上下の逆転、そして死に向ける感情の逆転か。逆転のモチーフは魔術の初歩だ」
 闇絵の言葉に紅香が問う。
「これは魔術なのか?」
「そんな大層なものではないよ。もっと低俗で稚拙なものだ」
 胸元の髑髏を撫でながら、闇絵は視線をある方向に向ける。
「これがしたかったのは、ああいうことさ」
 向けた眼差しの先には死体を見てむせび泣く一組の夫婦。高級な衣服の肥えた男と、傍らに立つ貴金属をふんだんに使った装飾品で飾った女。身なりの良さから“お屋敷組”であることが窺い知れた。
「ああして、誰かを不幸にする事が目的だ。不幸の手紙や相手の不幸を願うおまじないみたいなものさ」
 見つかった死体。その両親が彼等だった。
 最愛の愛娘“だった”モノを見て、彼等の胸中に去来する感情が如何なものであるかは想像に難くない。
 そして、それこそが犯人の目的であると闇絵は判じた。
「無論、紅香が言ったように挑戦という意味合いもあるだろうな。わざわざこのタイミングで事を大きくしたのが証明だ」
「……挑戦って?」
 環の問いに、紅香が答える。
「次はお前たちだって言いたいのさ。これは恐らくだが、私達も狙われるぞ」
762伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/02/09(土) 07:54:31 ID:mUK7Ddds
 そう言った紅香は、むしろ楽しそうに笑う。
「どうするの?」
 環が闇絵に問う。
「決まっているさ。私は私の仕事をこなすだけだ。それ以上でもそれ以下でもない」
 何でもないように闇絵はそう口にした。それからふと、考え込む素振りを見せる。
「……あの少年なら、どう感じるだろうか」
 闇絵は呟き、考える。
「きっと彼なら憤慨するだろう。怒り、悲しみ、犯人を見つけ出そうとするだろう」
 ならば、と闇絵は思う。
「それを代行するのもまた一興」
 闇絵が自身の動く理由を追加する。
 仕事。それに加え個人的な雑感。
「人の噂の中の“魔女”か。面白い」
 黒い魔女が笑う。口端を吊り上げるだけの微かな笑み。
「挑戦……受けようじゃないか」
「魔女による魔女狩りか?」
 紅香も笑みを浮かべる。傲然とした、猛獣のような獰猛な笑み。
「だったらその狩りに加わる私はさしずめ紅い魔女ってとこか?」
 鋭い瞳で、死体を見る。
「後悔させなくちゃいけない。誰に喧嘩を売ったのか、分からせてやらなきゃ」
 黒い魔女と、紅い魔女――そして姿なき魔女。
 ――狩りが、始まる。

 † † †

 現場から引き上げた闇絵達三人は、異様な雰囲気に包まれる宿の従業員達に出会した。
 女性ばかりの従業員達は一様に深刻な表情で向かい合い、何かを話し合っている。小声で内容は窺い知れない。
 取り囲まれる様に中心に位置しているのは、見知った姿――闇絵達を部屋に案内した一子だった。
 どうやら纏め役となっているらしく、周囲の声に耳を傾けては言葉を返していた。
「どうしたんだね?」
 ――ぴたりと声が止んだ。
 一斉に声のした方、つまり闇絵へ瞳が向けられる。
「あ……闇絵さんでしたか」
 一子が気付き、安堵したような息を漏らす。
「驚かせてしまったかな。すまない」
「いえ、気にしないで下さい」
「ふむ、そうかい? ……それでこれは?」
 一子に問い掛けると、彼女はしばし逡巡して答えた。
「……実は、今朝見つかった女の子の両親が、この宿の主でして」
「ほう?」
「旦那様はすっかり混乱してますから、店を続けても良いのかどうか」
「……なるほど」
 先の現場を思い出す。号泣し、悲嘆に暮れていた夫妻。彼らの取り乱しようは確かに店の運営が手に着くようなものではなかった。
 それによって宿全体に混乱が伝播したという事らしい。
「どうするの? もしかして宿閉めちゃう?」
763伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/02/09(土) 07:55:27 ID:mUK7Ddds
 若干不安げに環が尋ねる。
「私たち、宿から出なきゃだめとか?」
「いえ」
 環の問いに、一子ははっきりと答えてみせる。
「取りあえず宿の方はお客様を追い出す訳にもいかないので、私たちだけでなんとかします。食堂はお泊まりのお客様だけという事にするつもりです」
「一時的に飲食業を休止するのか」
「はい。ですから皆さんはこちらにいらっしゃって下さって構いません」
 答えに環が安堵を漏らす。
「そっか、よかった〜。宿をまた探さなきゃいけないかと思った」
 表情を綻ばせて言う環に、一子も笑みを返す。
「……しかし、冷静なんだな」
 紅香の言葉に、一子は首を振り向かせる。
「私くらい、しっかりしませんと」
 責任感の塊の様な発言。優等生的な、模範的な解答。
 紅香はそれを無表情で眺めるだけだった。
「……さて、私は一足先に部屋に帰らせて貰うよ」
 淡白に言って、紅香はさっさと階段を昇って行ってしまう。結果として闇絵と環が取り残される。
「……お二人はどうなさいますか?」
「そうだな。改めて情報を整理しようと思う。今までの被害者について少しでも多くの情報が欲しい。手伝ってくれないか?」
「え……、でも私は」
「街の人間しか知らない風評などが在るだろう? それを知っている範囲で教えてくれ」
「……わかりました」
 街の人間でなくては分からない部分を、一子に求め、一子それには頷いて答えた。
「こんな下らない事は早く終わらせるに限る。怠惰は何事にも代え難い資産だ。早くその怠惰に浸りたいものだよ」
 気だるげに呟いて、闇絵はゆったりと部屋に向かい始めた。

 † † †

 資産家の息子。貴族筋の娘。大商家の姉妹。違法な組織の首領の孫。
 ――実に多種多様な成功者の家から子供が消えていた。
 それ以外でも最近調子の良い商店の子供。年離れた兄が、軍で昇進した幼い妹。
 こうしてまとめて見れば実に分かり易い意志が垣間見える。
 つまり、幸せそうな人間が憎いという――妬み。
 闇絵が推測した、不幸を振り撒くという思想は的を射たことになる。
「……何も無さそうでも、夫婦仲が良い、家を建て替えた、妻が妊娠している家庭。些細な幸せすら逃さない勢いだな」
「そんな家の子供達ばかりが浚われてるんだね」
 闇絵と環は互いを見合って溜め息を吐き出す。
 なんと矮小で歪んだ理屈か。
764伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/02/09(土) 07:56:33 ID:mUK7Ddds
「この程度の事すら見抜けんとは……王国の官僚共も間抜けだな。いや、今更気付く私も大して変わらないか」
 自嘲気味に零して、闇絵は紫煙を吐き出す。
「にぁ」
 足元の黒猫、ダビデが鳴き声を上げて闇絵を見上げる。
「……そうだな。今更言っても仕方ない」
 ダビデの鳴き声から意図を汲み取ってか、闇絵はぽつりと零した。
「これで犯人の特定出来ないかな」
「正直難しいな。幸せな人間が妬ましいなど、誰でも抱える感情だ」
 犯人の意図が見えた所で、犯人像が固まる訳ではない。
 とはいえ、輪郭は見える。
「強いて言うなら不幸な者。自分が不幸だと思い込んでいる者だな。そして、それを理由に他者を攻撃する事を厭わない」
「……そんなのさっぱりだね」
「ふむ……」
 再考する。
 既存の情報の整理、新規情報の整合。
 消えた子供、男児三、女児七の割合。女児多め。
 殺された子供。大掛かりな人体改造。人の所行とは思えない行為。
 考察――魔女の意図。
 推察――無差別の中の規則性。
 目まぐるしい思考を闇絵は走らせる。
 閃き――疑念。
「死体……」
「え?」
「あんな死体を、どうやって作った? たった一日しかなかったのに」
 人の体を解体し、結合する。単純だが手間のかかる作業だ。
 それをたった一日で成し遂げる。
 仮説。
 ――魔女は一人じゃない?
 複数の人間の意図が絡んでいる。だから、魔女という“個人”の意図が見えない。
 魔女という個人はなく、魔女という群体があるとしたら。
「――私達は、魔女の腹の内に収められているのかも知れないな」
「それって……」
「出掛けよう。調べる事が出来た」
 言って、闇絵は宿の部屋を出た。

続く
765伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/02/09(土) 08:01:27 ID:mUK7Ddds
 今週も毎度、伊南屋に御座います。

 RR外伝第三回になります。
 事件らしい事件にようやく直面。ここから事態が動き出す予定です。
 このまんま行くとあと五回くらいで終わるやも。

 一発ネタについては未だ執筆中。忙しかったのもありますが、思うように筆が進みません……。
 もうしばし……! もうしばしの時間を下さい。

 それでは以上、伊南屋でした。
 また来週。
766名無しさん@ピンキー:2008/02/09(土) 21:57:23 ID:I3mjBw9m
伊南屋さんGJッス!
しかし黒と赤の魔女二人怖ぇー! この二人だけは絶対敵に回したくねぇ……

一発ネタの方も気長に全裸でお待ちしますよ
767名無しさん@ピンキー:2008/02/10(日) 07:13:19 ID:MIpal+QT
幸せつぶし来たーーーー(*´Д`)ーーーー!
768名無しさん@ピンキー:2008/02/10(日) 13:54:18 ID:IOvwqFOd
伊南屋さんG☆J
769名無しさん@ピンキー:2008/02/12(火) 23:01:10 ID:iP5Q/T72
これは?携帯だけだけど
ttp://courseagain.com
 
「えー本日は大変お忙しいところ、裏十三家有志による会合にお集まりいただき、ありがとうございます。…どういうわけか、それ以外の飛び入りの方々も多いようですが、気にせず司会進行役は不肖わたしが務めさせていただきます」

「それはどーでもいーんだけどさあ。ここってバイオエタノール置いてないの? やっぱ風味が違うっていうか、最近凝ってんのよ。トウモロコシよかサトウキビの方が好みでさあ。え、なに。国産だと稲藁製? とっととブラジルあたりから密輸してこいっての」
「ぶるしっと。あいあむふぁっきんびじー。ゆーのうふぁっくゆーびっち。あいがったごーあんどゆーいーとしっとあんどだい。ゆーさっく。ふぁっくゆああすほーる」

「…お黙りなさいすぐに済みます。本日の懸案はただ一つ、紅真九郎は崩月家の崩月家による崩月家のための存在であり、その所有権使用権ならびに管理権は崩月家のみに帰属する、ということの確認です。それさえご同意いただければ、お帰りいただいて結構ですよ。
 …もちろん、その後は二人とも、ちょおっとお話がありますけど。なんでも、うちの真九郎さんがいろいろお世話になったみたいで。うふふ。だいじょうぶですよ。わたしも、手加減てものくらい知ってますから。うふふ」

「なになに、紅くんのこと? えー、そりゃないんじゃない? 独占はんたーい! だって、あんなに安心して全力でボコれる男の子、ほかにいないんだもーん!」
「ほわっとあせるふぃっしゅびっちゆーあすほーる。…独り占めはよくないです。拳と刃物で語り合う友情は大切です」

「…そうですか。お二人の意見はよく分かりました。では早速、表で決着を」

「まあまあ。そう慌てないの」
「えっ…お母さん? あの、どうしてここに…それに散鶴まで」
「だって、真九郎くんのことでしょう? それにわたしたちだって崩月家の一員だもの」
「あのその…崩月家といっても、その…つまり真九郎さんはわたしだけの」
「なに言ってるの。真九郎くんを手塩にかけて、念入りに好みの男の子に育ててきたのは、一体だれだと思ってるのかしら」

「は? って…まさか…お母さん…」

「だって、ねえ。お母さんも、お祖父ちゃんの娘だもの。うふふ」
「なな何を…そそそんなふふ不潔ですっ」
「あらまあ…とってもイイことなのに。ねえ、散鶴?」
「うんっ。あたしも、お兄ちゃんのおよめさんになるの。やくそくしたもん」
「ふふ二人とも…」
「そうねえ。あなただけ、崩月の血筋に似合わず不器用だものね。まあ、一人に一途なのも、それはそれでいいのかもしれないけど。でもね、それなら…その一人のひとを、みんなで一緒にいたぶ…じゃなくて愛するのも、それはそれでとってもステキなことなのよ?」
「はあっ? なな何を…しし真九郎さんは、わわわたしだけを見てくれるんですっ。ふふ二人は清い身体のまま、すすステキな海辺のホテルで、しょしょしょ初夜を…って、なな何ですか、どどどうしてみんな、そそそんな可哀想なものを見る目つきで」
 
「えー? わたし、もう何回ヤったか憶えてないよ? どんなに乱れて暴れても平気な相手って、そうはいなくってさ。無理矢理押さえつけらるのって、かなり新鮮で燃えちゃうし。しまいにはお互い色んな意味で足腰立たなくなっちゃって、ああステキっ。ねー切彦?」
「ひーいずべりーすとろんぐあんどたふ、あんどすーぱーてくにしゃん…」
「なーにカマトトぶって赤くなってんのよ。ほら、カッター」
「…あいつはいいぜ。あの最中に刃物押しつけてやると、あたしん中のあいつがぐうっと大きくなるんだ。たまらないね。だもんで、ちょっと手元が狂って切っちまうときがあって、そしたらおしおきされるんだ…ああ…何かを切るよりイイことがあるなんてな」

「あああなたたち…そんな…って、まままさかそっちも…」

「いやー夕乃ちゃんごめーん。ビデオ鑑賞会とかしてたら、なんかそんなことになっちゃってさー。一応、ビデオ研究会っつーことで、設定とか衣装とかシチュとか真似すんだけど、いつも途中で訳分かんなくなっちゃんだよねー。真九郎くん、スゴくてさー。
 最近じゃあたしたちのをビデオに撮んだけど、一人きりんときはそれ観てるだけで十杯はいけちゃうねー」
「ほう。それほど研究熱心ではないが、わたしも少年とはいろいろ試しているな。この間など、木の上で後ろからだったが、あれはよかったよ。夕暮れどきだったが、だれかに見られているかもしれないと思うと、一層そそったものだ。うむ、思い出しても体が火照る」

「おまえ、屋外でなどとけしからんじゃないか。わたしなど、ちゃんとホテルのスイートルームで誰にも邪魔させずに心ゆくまでたっぷりと楽しむぞ。最近じゃ、あれに関してはどちらが先輩で後輩か分からんが。それにこないだは、途中で割り込んでくるのもいたしな」
「申し訳ありません。お二人の睦み合いがあまりに激しいもので、隠形を保つことができず。それにしても、あれはまことに、犬らしいひとときでした」

「…みんなやらしい…え、あたし? いえその…ええとですね…いやただちょっと、情報料払えないっていうから体で払えって言ってみたら、いきなり押し倒されて…最近じゃちょっと、さすがに払ってもらいすぎかもって…あのバカ…ほんとにばかなんだから…」

「あらあらまあまあ。すっかり、皆さんに先を越されてしまったわね」
「…って、おおお母さん。まままさか、お母さんまで…?」
「残念だけど、まだよ。すっかり出遅れたようね。真九郎くんの手ほどきはわたし、って思ってたんだけど。でもそれじゃ、筆おろしはどなたとだったのかしら?」
「ふふ筆おろし…って…あなたたち…え…? だれも、違う…? みんな、初めてとは思えないくらいタフで上手だった、って…それじゃ、一体…まままさか、散鶴あなた」
「よくわかんないけど、お兄ちゃん、あたしが大きくなったら教えてくれるって。だから、それまで待ってるの」
「そそそれじゃ…ここここにいる人じゃないってことは、ここにいない…のは、ひひ一人だけ…もももしかして…まままさかそんな…」
「あらあら。真九郎くんたら。そんな趣味なら、うちの散鶴だってよかったのに」
「お姉ちゃん、どーしたの? なんか、なみだがあかいよ? つのでてるよ?」

「真九郎さん…わたし鬼になってもいいですかいいですよね…? うふふふふふふ修行です特訓です監禁もとい山籠もりです一年くらいしごいてしごいてしごいてしごいてしごきまくってわたし以外は見えなくしてさしあげますからうふふふふふくくくくく」
 
  * * * *

「お…お父様。お呼びと伺い、さっそく参上いたしました」
「紫か。つつがないようだ」
「は…はい。ありがとうございます。九鳳院の娘として恥ずかしくないよう、日々精一杯努めております」
「うむ。実は、裏の連中が連名で抗議文を送ってきておる。おまえも奴らと多少付き合いがあるようだから、何か分かるかと思ったのだが」
「は…抗議文、ですか」
「そうだ。なんでも、有望な稀少人材を青少年保護条例違反まがいに青田刈りすることに関する我が家の教育指導方針について厳重に抗議するとか言っておるらしいのだが、なにか心当たりはあるか」
「はあ…さ、さあ。わたしにも、なんとも…。あの、しょせん、自分たちの娘どもの躾ひとつろくにできないような連中の言うことでございましょう。お父様がまともに耳をお貸しになることなどないのではありませんか」
「…ふむ。おまえもなかなか言う。誰の影響か知らんが。まあよい。ともかく、相手は場合によっては戦争も辞さぬ勢いのようだ。親衛隊には守りを固めさせたし、騎場にも注意させるが、おまえも気を付けよ」
「ありがとうございます。…ただ、あの、特段の心配はご無用かと存じます。わたしには、何があっても誰が相手でも、わたしを絶対に守ると誓った者が一人、ついておりますゆえ」
「例の《崩月》の小鬼か」
「お父様。お言葉ですが、わたしの前であの者を軽んじるのはやめていただきましょう」
「…」
「あ、も、申し訳ありません。つい」
「いや。よい。下がれ。ご苦労だった」
「は、はい。…あの、お父様」
「なんだ」
「その一件、今後はわたしの耳にも入るようにしていただけませんか。お父様がおっしゃったように、わたしが何かの役に立たないともかぎりますまい。それにわたしも、九鳳院家の者として、裏の者どもの扱い方のひとつも、そろそろ覚えてよい頃かと存じます」
「考えておこう」
「あ、ありがとうございます! では、失礼いたします」

  * * * *

「え、崩月の別宅? 辺鄙な山の中だけどって、いや全然構わないよ。夕乃さんの頼みなら、何でもするけど。一緒に行って、何するの? 蔵の整理? 地下室でもいい? どっちも防災防音は裏十三家仕様で完璧って、すごいね。え、今のは関係ないから忘れろ? はあ」

「夕乃さんのことどう思ってるかって、そりゃ、頼りになる姉さんかなあ。なんか面と向かって言うのも照れるね。あ、なんか唇から血出てるけど…ちょっと荒れただけ? 冬は乾いて大変だよね」

「口うるさくてうざったい姉ですみませんって、何言ってんの。そんなことないよ。夕乃さんがいてくれるから、俺なんかでも真っ当でいられるんだし。夕乃さんに悪いことなんか絶対できないよね。そんなことしたら、逃げても一生追っかけられそうだしさ。あはは」

「え? 愛情さえあれば逃げようなんて考えないし考えさせないのが家族だ? 一時の気の迷いで過ちを犯すのは人間だから仕方ないけど、愛情をもって正道へと導くのが家族というもの? そうなんだろうね。夕乃さんならきっと、そんな理想的な家庭を作れるよ」

「ほんとかって、そりゃもちろん。え、なに? だったら、家族も同然の自分に何か話すことがあるんじゃないか、って、え。え…ええと…いや、ないよ。特に。うん。いやだなあ。あははは…は。えっと…それで、何の話だっけ。そうそう、別宅だよね」

「それじゃ、今週末にでも。はあ、崩月家の秘事だから誰にも言うな? 夕乃さん以外は家の人でもだめ? 分かった。任せてよ。大丈夫だから。はい。じゃあ、また」
 
  * * * *

「えー、彼氏できたろ、って? いやーそんな、えへへへ、でも聞いてくれるっ? 紹介してくれた揉め事処理屋の彼と、こないだひょんなことで再会しちゃってえ、なんかそんなことになっちゃってえ、あはははは。いや大丈夫だよ犯罪じゃない…と思うよたぶん」

「いやその、なんてゆーか、あたしから誘った?てゆーかさ依頼料まけてもらったしお礼?みたいなさっ。いやーそれにしても彼初めてでさ、ウブくて可愛くて、でも優しいのっ。おねーさんとしてはそんな若い子にもうめろめろですよっ。ふふふー」

「ただね…彼ったら段々、なんかスゴくなっちゃってさ…何度も会ってるうちに、正直、体がもたないかもって思ってたんだけど、最近ちょっとソフトになってきたんだよね。なんでかなあ。えー、自慢と惚気はそんくらいにしとけ? ごめんねえ幸せモンでさっ」

「やだなあ。なんか、うずうずしてきちゃったよ。うふふふ愛しのあの人の番号はっ、と…え…圏外…? あれえ? …どーしたんだろ」

774名無しさん@ピンキー:2008/02/14(木) 01:00:21 ID:s8iM5B9m
いきなりの投下にてスマン。各方面からのお叱りについては覚悟完了。
べ別にバレンタインssの筆は進まないけどこんなのなら書けちゃったなんて
そんなのじゃないんだからねっ! orz
775名無しさん@ピンキー:2008/02/14(木) 01:12:57 ID:g3NGN6to
嗚呼神よ……
あなたはここにいらっしゃったか……

激しくGJ!!!!!
776名無しさん@ピンキー:2008/02/14(木) 06:28:44 ID:Ez3wbX9C
GJ
777名無しさん@ピンキー:2008/02/14(木) 08:02:56 ID:9WkfgwIX
GJッス!
オチにワロタwwww
778名無しさん@ピンキー:2008/02/14(木) 08:09:19 ID:lX5sQ2WZ
鞄の中身をしまうときに先客があることに気がついた。
引き出しの隅に、隠すように置いてある、可愛らしく包装された小箱。
添えられているカードを開くと綺麗な書体でただ一言、
『いつまでも、あなたに仕えます  A』

気恥ずかしくも嬉しく思い、早速包みを剥がして蓋を取る。
歪なのは手作りだからなのだろう、「料理は苦手」と言っていたのに頑張ってくれたようだ。
一つ口に入れると、とろける甘み。
ふくよかな香り。
そして舌に引っかかる何か。

行儀悪いと思いながらも口に指を突っ込み引っ張り出す。



ずるりと、髪の毛と、爪が出てきた。


あまりの事に固まっていると、後ろから声が聞こえる。
「心を込めて作りました。全部召し上がってくださいね」
779名無しさん@ピンキー:2008/02/14(木) 09:29:32 ID:pfdvi8/d
>>778
朝早くから乙。
しかし雨ならリアルでありそうだから困る。
780名無しさん@ピンキー:2008/02/14(木) 11:29:58 ID:Ez3wbX9C
姉妹そろってヤンデレなら尚良し!!
781名無しさん@ピンキー:2008/02/14(木) 13:08:12 ID:9WkfgwIX
ヤンデレっつーよりほのぼの純愛やな
782名無しさん@ピンキー:2008/02/14(木) 23:32:30 ID:dsgeDsTB
>>774
GJ!
しかしなんとも羨ましい環境だな真九郎ww

>>778
GJだが怖いw
でもそんなに形状がわかるかたちで混入するのかなw
783伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/02/16(土) 07:16:11 ID:l4KL/Vbp
今週分の投下開始

「電波的な彼女」がBADエンドを迎えたものとして読んで下さるとよろしいかと
784伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/02/16(土) 07:16:37 ID:l4KL/Vbp
 ――かつて彼は英雄であった。
 いや、英雄であろうとしていたと言った方が正しいのかも知れない。
 彼は意図せずとも他人の不幸に関わり、そして彼は他人の不幸を見過ごせなかった。
 それが、彼にとっての不幸だった。
 救いたくて、無力を嘆いて、それでも救いたくて。
 それで、一体何人を救えただろうか。
 決して多くはない。むしろ、不幸を運んだとすら言えるかも知れない。
 必死で足掻いて、足掻いて、足掻いて。
 そうして彼は――折れてしまった。
 その心が耐えるには、彼は余りに世界の闇を、人の闇を見てしまった。
 絶望の暗黒に染まってしまう程に、余りに多い闇を――。

 † † †

 ――その姿は金色。しかし一片の光すらなく、故にそれは闇だった。

 怠惰な表情で柔らかな愛撫に身を任す少年は、闇に染まりきっていた。
 彼の象徴たる金髪を指で梳きながら、少女はただ少年を見ている。
 ただ二人の閉じた世界が、そこに在った。
「はむ……ん、ちゅ」
 少年の首筋から胸元を少女の口唇と舌とが擽り、指が身体を撫で、必死に快楽を送る。それに何かを感じているのか否か。少年は少女を変わらぬ表情で見つめるだけだ。
 丹念に舐る少女は時たま少年に熱っぽい視線を送る。
 舌が這い、その後に唾液の跡が残る。それを唇で吸いたて、拭う。
 繰り返される動作が不意に止み、少女が頭を上げた。
「ジュウ様」
「続けろ」
 少年――ジュウという“獣”を表すような名を呼ばれたが、彼は少女が何かを言うより早く続きを強要し、彼女の言葉を封じる。
 それに対し、少女は何も言わず命じられた通りにした。
 再び口元を少年の胸元へ寄せ、愛撫を再開する。
 無数の口づけ、舌先と指先の愛撫、繰り返されるそれを少年はただ享受する。
「は……あふ。ん、ちゅぱ」
 少女はただ無心に奉仕する。それが少年の心を動かす事はないと知りながらも、そうせずにはいられなかった。

 いきなり少女の身体が引き上げられた。
 彼女の細い肢体を少年の腕が抱き締め、少女の顔を自らのそれに近付ける。
「んく……っ」
 唇と唇が触れた。
 荒々しく、擦り付けるような接吻を、それでも少女は健気に受け入れた。
「ふぁ……」
 吐息と共に唇が割開かれる。その隙を見逃さず、ジュウの舌が侵入する。
「は……ん、ちゅぷ、んはっ……ぁ。……はぁむ……ん」
785伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/02/16(土) 07:17:53 ID:l4KL/Vbp
 絡み、包まれ、吸い、引き込まれ。互いの柔らかな舌が蠢き合う。
 歯茎が撫でられ、微かなくすぐったさが走る。歯茎を撫で返し、唾液を啜る。
 まるで繋がった部分が性器であるかのような深い接触。
 少女は自分の中で、熱が高まっていくのを感じた。求められる喜びと官能の疼きに、躰が反応を示す。
 唯の一度とて少年の指すら触れていないのに、まるで深く貫かれたような快楽に、芯が潤む。
 少年の首に回した腕をそっと抱き締めて、更に深い繋がりを求める。
 決して豊かとは言えない胸元に少年の胸元を合わせ、鼓動を重ねようとする。
 しかし、それは叶わなかった。
 際限なく高まる少女の心臓と比して、少年のそれは凪の如く平穏を保っていた。
 平坦に、一定の脈を打ち続ける。
 改めて、久しぶりに彼女は自分が最早少年の心に届く事はないのだと思う。
 それが哀しくて、それでも諦めきれなくて、彼女は意地であるかのように身を擦り寄せた。
 赤らんだ肌が少年の身体を撫でる。
 細く、しかし柔らかな指先が少年の幹を掴む。
 唾液をたっぷり絡めた舌が少年の下腹をくすぐる。
 丹念な愛撫に、少年の身体が本能に疼いた。
 ゆっくりと勃ち上がったそれを見て、少女は知らず、ほうと吐息を漏らした。
 熱を帯びて脈打つ肉柱にそっと舌をあてがい、根元から先端までを舐め上げた。
 びくん、と跳ねる少年の肉樹の様子に少女は微かな、妖艶とすら言える笑みを浮かべる。そのまま舌先を何度も往復させ、快感を送らんとする。
 しきりに這い回る舌のぬるりとした感触に、悦びの声の代わりに先走りが吐き出される。
 それすら舐めとり、ついでとばかりに先端の裂け目を割開いて、刺激を与えて、少女は少年の絶頂を誘う。
「ちゅ、んむっ……はふっ、んぁ」
 先端への責めから、唇を広げ飲み込むように竿を咥内に収めてのストロークに転じる。
 口の中にたっぷり溜められた唾液が卑猥な音を立てて泡立つ。
「んぐっ、ぐちゅっ、ちゅぶっ、んぶっ」
 リズミカルに前後し、銜え込んだ唇を締めてより強い官能を与える。
「ぐっちゅ、ふむっ……ん、れるっ、んぷぁっ……はぐっ……んぅん」
 口端から漏れ出た涎がとろりと流れ落ち、付け根を濡らす。
 それも喉を突く程に深くまで受け入れた際に唇で拭っていく。
 時折、苦しげな吐息を混じらせながらも、少女は絶えず呑み込んでは吐き出すのを繰り返した。
786伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/02/16(土) 07:19:45 ID:l4KL/Vbp
 それが幾分も続く。その間にも舌は複雑なうねりで絡みつき、変化に富んだ快楽で限界まで追い立てる。
「……雨」
 ――久方振りに少女は名前を呼ばれた。
 熱心に口唇でもって奉仕しながら、少女――雨は視線を少年に向けた。
 少年の顔にようやく表情らしい表情が浮かんだ。
 せき止められたものを決壊させたいという願望。それを必死で堪える少年を、雨は不謹慎だと思いながらも可愛いと、そう感じた。
「く……っ!」
 不意に、頭を掴まれて根元に押し付けられた。
 雨がその意図を察するより早く、ジュウは熱の塊をその喉に叩きつけていた。
「んぶっ!? んぐっ、ぅぷっ! んんっ、ん……んくっ、んく……うっ……ん」
 何度か噎せながらも、必死に粘る液体を嚥下する。
「んっ、ん……ぷはっ……はぁっ、はぁっ」
 口端を微かに精液が垂れ、桃色の唇を白く染める。
 それを舌を滑らせて掬い取り、雨は陶然と息をついた。
 漂う青臭い香りを深く肺に入れ、吐き出す。
 また、雨の体の芯が熱くなる。
 縋るような、懇願するような視線を主たる少年に向けると、そっと指先を欲望を吐き出したばかりのものに添える。
 ジュウは、何も言わない。ただ胡乱な瞳で雨を見つめ返すだけだ。
 許容はなく――拒否もなかった。
 好きにしろと、そう言っているようであった。
 するりと、雨の掌が滑った。
 唾液にまみれた樹幹に柔らかな愛撫が施され、萎えかけていたそれが俄かに息を吹き返し直立する。
 身を乗り出すようにして、雨がその直上に体を置いた。
 深呼吸を重ね、タイミングを計るようにゆっくりと体が沈んでいく。ぬかるみに切っ先が触れると、にちゃりという淫猥な水音がした。
「ふっ……ぅん」
 ぐっ、と一息に雨の腰が降りた。さほどの抵抗もなく、ジュウが雨の内に滑り込む。
「あっ……っっ!」
 ずしりと響くような快感の衝撃が雨の胎内を貫く。内臓すら押し上げてしまいそうな程深く打ち込まれた剛直に幾ばくかの恐れすら感じる。
 だが、それすらも白く染め、霧散させるように、ジュウが腰を律動させた。
 粘着く摩擦音が互いの結合を主張する。ジュウの腰が雨を突き上げる度に淫らな破裂音が炸裂した。
「あくっ! ふっ……くぅ! んはぁっ!」
 それらの音と同期して、雨の口から官能の声が溢れる。
787伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/02/16(土) 07:21:58 ID:l4KL/Vbp
 あまりに強い刺激に、意識せず雨の腰が浮きがちになった。それを、ジュウは手に腰を添えて抑える――否、引き寄せた。
「っっっ!!」
 これまでになく深く、深く打ち貫かれ、呼吸すらままならずに雨は総身を震わせた。
 肉壁が収縮し、電流にも似た悦楽が子宮を中心に駆け巡る。声ならぬ声をあげ雨がジュウの体にしがみついた。
 それを、ジュウは更に深くを――抉った。
「――――っ!?」
 血液が沸騰するかのような熱が快感と共に走り抜ける。思考が吹き飛び、ただ絶頂に身を任せる。
 体が言うことを聞かず激しく痙攣する。その度に雨の脳内に白い閃光が瞬き、意識が吹き飛びそうになる。
 ぞくぞくとした感覚が背筋を抜け、それなのに体は燃えるように熱い。
「んぁあっ!」
 手心も加減もなく、ジュウは雨を穿ち続ける。
 肉と肉の擦過音が耳朶を叩くたび弾け飛んだ意識が引き戻され、それすらも体内を迸る衝撃に打ち消される。
 跳ねる雨の肌から汗の滴が舞い飛ぶ。髪が振り乱され、前髪が揺れる度に快感に蕩けた瞳が垣間見えた。
 ただがむしゃらに己の絶頂だけを求める動きに弄ばれ、絶え間ないオーガズムの中で雨は嬌声を上げ続ける。
 ――終わりは唐突に訪れた。
「……っ!」
 ジュウが声にならない呻きを上げて身を強張らせる。
 雨の胎内に熱が広がり、精液が注ぎ込まれた事を知らせる。わだかまるようにして熱を保つそれを感じて、雨は一際強い絶頂に打ち上げられた。
 しばらく躰を硬直させていた雨は一つ、大きな息を吐いて身をくたりと弛緩させた。
 呼吸を徐々に緩やかにし、息を整える。
 そうしてから見上げた少年の顔は、痛みに――或いは悼みに耐えるかのような表情だった。

 † † †

 ――気が付いたら眠っていたらしい。暗い部屋の中で雨は意識を覚醒させた。
 鈍い思考と体を御して、周囲の認識に努める。
「…………っく……」
 ――微かにしゃくり上げる声が聞こえた。
 すぐ側、ベッドの傍らに眠る少年の声だった。
 目尻に涙の跡がある。眠りながら泣いていたらしい。
 雨は知っている。
 こんな時、彼は夢を――悪夢を見ているのだと。
 かつて救いたくて、しかし救えなかった人達の夢。彼等の幻影を見ながら少年は悲しみに暮れているのだ。
 ――雨は知っている。
 彼をこの悪夢から救う事は出来ないのだと。既に絶望してしまった少年を、立ち上がらせる事は出来ないのだと。
788伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/02/16(土) 07:22:58 ID:l4KL/Vbp
 ただ、そばに居て彼の全てを許すことしか出来ない。
 だから、雨は少年の側に居続ける。それが使命なのだと言うように。他に出来る事などないのだからと。
「ジュウ様……」
 小さく呟いて、ジュウの瞼に口付ける――涙を拭う。
 これ以上、彼が傷つかぬよう少女は彼の側に居続ける――。
 たった一つの誓いを絆として。


789伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/02/16(土) 07:26:33 ID:l4KL/Vbp
 はい、と言うわけで毎度、伊南屋にございます。

 今回は連載をお休みして短編となりました。
 ジュウ様が色々絶望しちゃった後の話。
 次回からはまた、彼と彼女の非日常の方に戻ります。

 それではまた来週、伊南屋でした。
790名無しさん@ピンキー:2008/02/16(土) 07:44:09 ID:ytmR3mNs
素敵だけどなんか物悲しい(つД`)
791名無しさん@ピンキー:2008/02/16(土) 13:04:49 ID:C3qGiRKj
GJッス伊南屋さん!
イヤ最初はもう照男君なジュウ様にニヤケが止まんねー感じだったのですが
金色の闇とか髪の毛指でイジるとか“折れてしまった”とか“獣”とか無感動なとことか
それに匹敵するほどエロイ雨に興奮し、最後はもう、アレ? ウィンドウが霞んで文章が読めないよママン。

もうリクを出した身としてはとにかくGJな一言に尽きます!
792名無しさん@ピンキー:2008/02/17(日) 00:34:44 ID:ivR5oIDx
本当にGJです!!
793名無しさん@ピンキー:2008/02/20(水) 10:25:59 ID:PLVqjMcF
伊南屋さんGJ!
794名無しさん@ピンキー:2008/02/21(木) 22:05:32 ID:3aHafa/y
保守
795名無しさん@ピンキー:2008/02/22(金) 01:56:08 ID:SqUV52Vy
         >ーヽィ
        イ从l^ヽ l  だれかおいらを基地まで送っておくれ
        ノ从Д`bレ お土産ももたせてね(はぁと
         /   /⌒ヽ
      _/⌒/⌒/ / |__
     / (つ /_/ /\ |  /\
   /  (_____/  ヽ/   \
  /| ̄ ̄         ̄ ̄|\   /
/  |             |  \/
    |             |/
コーラサワー・みかん・センチメンタリズム・ドーナツ・ミルク・中国産餃子
きのこ・絶望・大胸筋・フェルト・技術顧問・リボンズ・ジョシュア・紫の履歴書
魔杖剣「内なるナリシア」・ラボたんのもとから消え去った原稿
796名無しさん@ピンキー:2008/02/23(土) 08:49:06 ID:UpHwFzat
>>795
されど〜の話は他所でやれ
797伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/02/23(土) 23:36:15 ID:fg1doZbd
今週の投下、開始。
798伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/02/23(土) 23:36:43 ID:fg1doZbd
「彼と彼女の非日常・W」

 ――時は若干遡って、ジュウと雪姫が遊んでいた頃、同じ街。

「あーゆーくほーいん?」
 突然聞こえた声に、光は振り返った。背後から女性が光を見ている。
 相手がこちらを見ていることに気付いて、自分に話しかけたのだと理解する。
「あーゆーくほーいん?」
 再度の問い掛けに、光は首を傾げる。
 ――Are you クホーイン?
 問われた言葉の意味が通じず、少々困ってしまう。
 クホーインって何だろう? 何かの英語だろうか。だとしたらまだ習ってない単語とか? いや、でも何か聞き覚えあるし。
 などと考えていると、質問が変えられた。
「あーゆーむらさき?」
 あなたは紫色ですか?
 ――いや、意味分からないし。
「……えーっと」
 改めて、問い掛けの相手を見る。
 若い女性。美人だけど小柄。首が埋まるようなマフラーを巻いている。ぼんやりとした表情――虚ろな瞳。
 ゆらゆらとして不安定な印象。
 ――もしかして変な人に捕まった?
 浮かんだ疑念から、狼狽えて咄嗟に周囲を見渡し、逃れるきっかけを探す。
 しかし、今の自分を助けるものなし。
 ――こんな時に“アイツ”が居たら、いつかの時みたいに恋人のフリでもして逃げられるのに。
 そんな考えが浮かんで、それを少しでも期待している自分に気付き、浮かんだ思考を振り払うように慌てて頭を振る。
 ――あんな奴が居ること期待するだなんて、絶対に有り得ない。有り得てはいけない。ましてや、恋人のフリだなんて。
 そう自分に言い聞かせる。
「……ふーあーゆー?」
 思考に囚われる光の意識を引き戻し、質問が変えられる。
 ――Who are you?
 今度は理解できた。
 逡巡して、迷いに迷ってから光は質問に答える事にした。
「え、えっと……あいむオチバナひか――え?」
 相手に合わせて英語式――つまり名字を先に名乗ろうとした光を、鋭い眼光が貫いた。
「あなた……堕花、ですか?」
 それまでの間延びした話し方が嘘のようなはっきりとした声。
 一片の容赦すらない圧迫感。
 女性が不意に、懐に手を差し込んだ。
 ――女性が嗤う。口端を吊り上げる獰猛な笑み。
 それは、獣が牙を剥く様子にも似ていた。
 漂い始める剣呑な雰囲気。
 差し込んだ手が、何かとんでもない物を取り出すんじゃないかという直感で、光は後ずさった。
「えっと……あの?」
 脅えた瞳で問い掛ける。
 
799伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/02/23(土) 23:37:51 ID:fg1doZbd
 女性は答えない。
 ただ、爛々とした瞳の輝きを増すだけ。
 まるでその二人の周囲だけ世界から切り離されたような静寂と緊迫感。
 光はただ得体の知れない恐怖に冷や汗を流し、気圧されるだけ。

「――あぁ」

 急に何かに気付いたのか。唐突に女性は危険に満ちた空気を霧散させる。そのまま、再びそれまでの姿が幻だったかのようにぼんやりとした表情に戻っていく。
「……いっつみすていく。忘れてました。これは約束に反します。それに――」
 懐から抜き出される手――何も掴んではいない。
 その手をポケットに無造作に突っ込んで言う。
「あなたは堕花ですけど“こっち側”じゃないみたいですし」
「え? あの?」
「失礼しました。それでは」
 ふらふらとした所作で女性が立ち去ろうとする。
 それを無意識に光は、咄嗟に肩を掴んで止めていた。
「……なにか?」
 振り向いて、やはりぼんやりと女性が問う。
 何故自分でもそうしたかは分からない。一度冷静に省みて、光はその答えを今更になって得た。
「誰か、探してるんですよね?」
「はい。でもあなたは違うし、知らない」
「そうなんですけど、その……なんていうか」
 意を決して光は言う。

「手伝わせてくれませんか? その人捜し」

 ――光がそう言ったのは、目の前の女性がまるで道に迷った子供のように頼りなかったから。
 つまるところ、堕花光という少女はどうしようもなくお人好しなのだった。

 † † †

 ――時計の針を再び進めよう。

「差し当たっての問題は九鳳院さんの寝床であると私は判断します」
「……俺の母親の部屋だろう?」
「分かってないねージュウくんは。そんな危険な状況に出来る訳ないでしょ?」
「……すまん。何が危険なのか分かり易く言ってくれないか」
「一つ屋根の下に若い男女が二人きり。ジュウ様の情操教育上よろしくありません」
「いつから俺はお前に教育されてたんだっ!?」

 ――というようなやりとりがあって。

 間違いなんて起きないと主張するジュウと、そんなの分からないと譲らない雨、雪姫の二人の意見がぶつかった。
 結局多数決にのっとり一対二でジュウが敗退(それまでの間紫は傍観するだけだった)。
 結果として何故か雨と雪姫もジュウの家に泊まる事になり、紫が紅香のベッド、雨と雪姫がジュウのベッド、そしてジュウがソファ(これは頑としてジュウが譲らなかった)という配置になった。
800伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/02/23(土) 23:41:49 ID:fg1doZbd
 意図せず妙に人を惹き付けてしまう所とか。
 そんな姿が、今は傍に居ない“彼”と重なって、少し――ほんの少しだけ切なくなる。
 ぎゅっとその身を抱くように、縮こまる。
 来てくれているだろうか。見つけ出してくれるだろうか。不安になる。
「駄目だな、私は。私はまだこんなにも弱い」
 会いたくなる、縋りたくなる、その胸に飛び込みたくなる。
 だけど、それは出来ない。
「来るなら来い。私は許しはしないのだから」
 大きな決意を小さく呟いて、紫は瞼を閉じた。直ぐに意識を帷が覆って、紫を眠りの淵へと運んでいった。

続く
801伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/02/23(土) 23:47:49 ID:fg1doZbd
 今週もおばんです。毎度、伊南屋で御座います。

 彼と彼女の〜第四回です。
 ギロチンな人登場。加えてコメディな回です。
 最近コメディなノリのものを作っていなかったので余り自信なし。つまらなくても多目に見て下さい……。

 次回はRRになりますが……もしかしたら休むかも。
 ちょっと他スレに投下する予定があるので……。
 一応七割くらいの確率で投下しますが、もしかした残り三割の「休み」になるかもって事ですが。
 
 そんな訳で以上、伊南屋でした。
 それではまた。
802名無しさん@ピンキー:2008/02/24(日) 00:00:08 ID:qUeLIaBc
GJ!
つか情操教育ツボったwww
ジュウさまはまだ思春期前なのですね(ぉ
803名無しさん@ピンキー:2008/02/24(日) 00:06:49 ID:yPDasLpt
GJ!
情操教育吹いたwwwwテラ保護者wwwww

>>795
おら、腕時計やるから帰るぞ
804伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/02/24(日) 00:27:07 ID:XK/pP5UX
すいません!>>799>>800の間、まるまる1レス飛んでました!
以下にその1レス置いときます
805伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/02/24(日) 00:30:24 ID:XK/pP5UX
 † † †

「ジュウくんのベッドー!」
 ぼふっ、と音を立てて雪姫がベッドにダイブする。そのままベッドの上を転がる。
「雪姫。ジュウ様のベッドになんて事を」
 大の字に広がり、窘める雨に悪戯っぽい視線を向けて雪姫が笑みを浮かべる。
「良いじゃん。雨もおいでよ」
「そんな事……」
 ちら、と背後に立つジュウに視線を向ける。その内にあるもの――幾ばくかの期待。
「別に俺は気にしないけどな。だからお前も気にしなくて良いぞ」
「……そうですか?」
「ああ」
 ジュウは期待に気付かず意図しないままに期待に応える。
 雨の表情が微かに綻ぶのには気付いて軽く頭を撫でてやる。本当に撫でやすい位置にある頭だと考えてから、ジュウは自分のしている事に気付いた。
「……っと、悪ぃ」
 急に気恥ずかしくなって手を降ろす。
 こんな子供をあやすみたいな真似は自分らしくないし、なにより雨に失礼だ。
「あー……リビングに行くわ」
 なんとなくバツの悪さを感じて、逃げるように退出する。
 後ろ手にドアを閉めてから、ジュウは盛大な溜め息を漏らした。
「なにやってんだか……」
 本当に自分らしくない。知らず苦笑してしまう。
 のろのろとソファに歩み寄って、そのまま身を沈ませる。もう一度だけ、自嘲の溜め息を吐き出してから、ジュウは雑多な思考を放り捨てた。

 † † †

「あーめー?」
 からかうような雪姫の声に、雨は隠しきれない躊躇いを見せていた。
「フカフカだよ?」
 ぴく。
「あったかいよ?」
 ぴくり。
「それに――ジュウくんの匂い」
「〜〜〜〜っ!!」
 誘い文句に、ついに耐えきれなくなる。ベッドに歩み寄ると、しばらく耐えてから決心する。
「え、えいっ」
 ぽふっ、とぎこちなく、その小さな体躯をベッドに踊らせる。
 それを、雪姫は溜め息混じりに見ていた。
「もったいない」
 小さく呟いて友人の恋路を愁う。
「……そういう所、ジュウくんの前でも見せればいいの……に…………」
「……」
「いや、ダメだ。やっぱり見せられない」
 ただ無言で、何も答えない雨。

「すーはー、すーはー」

 ――熱心に深呼吸を繰り返していた。
 それはもう何度も、何度も。

 † † †

 毛布にくるまり、紫は考える。

 ――少し、“彼”に似ている。

 自分の正しさを信じきれない所とか。そのくせ真っ直ぐ過ぎる所とか。
806伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/02/24(日) 00:32:23 ID:XK/pP5UX
というわけで>>798>>799>>805>>800の順になります。申し訳ないorz。
807名無しさん@ピンキー:2008/02/24(日) 01:14:14 ID:e7tmt09s
GJッス!
イヤしかしジュウ様のベッドで休むべきか悩む雨や深呼吸する雨の破壊力ヤヴェ!
思う存分萌えさせて頂きました!

そして真九郎
お前ホントもうアホだな
紫また怒らせるとかバカの極みだな
808名無しさん@ピンキー:2008/02/24(日) 22:04:33 ID:0SZVh0rS
超GJです。
あいかわらず伊南屋さんの作品は完成度が高すぎる。
今回は情操教育されていたジュウや軽く変態チックな雨が凄すぎました。

ところで切彦ちゃんらしい人物が出てきましたが、今回は真九郎の協力者なのでしょうか?
この先の展開に目が離せないです。
あー、時間が長く感じる・・・・・・
809名無しさん@ピンキー:2008/02/24(日) 22:33:33 ID:V7hMbF+x
雨ヤバスww
超GJ!
810名無しさん@ピンキー:2008/02/25(月) 12:49:54 ID:lcPZWxl8
ジュウも男である。
雪姫から同人誌の譲渡は断ったが、家にヌードグラビアの類いは何冊もあるし毎夜とは言わないが、結構な頻度でお世話になっている。
今夜も世話になろうと本棚に手を伸ばし…
「…ない」
思わず小さく呟いてしまった。本棚にぱっと見た程度ではわからないよう置いておいた男の秘密がない。
…ババァに見つかったか?だが、あの紅香が一々捨てるだろうか?
色々と思考を巡らしたが、無いものは考えても仕方ない。
釈然とはしないが、そこで思考を振り捨てた。

───────

「ジュウ様は高潔です。このような物は、不要」
811名無しさん@ピンキー:2008/02/25(月) 21:15:07 ID:bXkWUwl1
>>810
あるあるあるw
いかにも雨はやりそうだよねえ
812名無しさん@ピンキー:2008/02/29(金) 10:26:38 ID:wlz4pvd4
遅ればせながら、伊南屋さんGJ!!!

>>810
ワロタw
813名無しさん@ピンキー:2008/03/01(土) 21:59:14 ID:UDhjO1lG
保守
814名無しさん@ピンキー:2008/03/05(水) 20:43:46 ID:/VHRDIEs
保守
815名無しさん@ピンキー:2008/03/06(木) 23:10:07 ID:1LziperL
ちーちゃんの下着は俺がもらった!
816伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/03/08(土) 12:04:37 ID:k58Br1Ec
「Radio head Reincarnation〜黒い魔女と紅い魔女〜」

W.
 調査、必要な情報の取捨選択、思考――推理。
 地道な聞き込み、平行して子供達が消えたと見られる場所を回る。
 確認作業、過ぎていく時間、手段の変更――二手に別れ効率化を図る。
 闇絵と環は別れ独り。紅香もまた宿に独り。皆が一様に独り。
 ――故に彼女達は狙われた。

 † † †

 路地裏。陽の当たらない暗い道。人の目に付かない街の中の死角。
 闇絵はゆったりとした足取りを止め、振り返らずに声を上げた。
「ふむ、いい加減にしたらどうかね?」
 目を伏せたまま、誰もいない虚空に問い掛ける。
「私とて、素人の尾行程度は気付ける。ましてやぞろぞろと足音をさせては尚更だ。――大人しく出て来てはどうかね?」
 しばらくの沈黙。まるで獣が獲物を前に草むらに身を伏せているような気配。
 やがて、路地の入り口から、奥から、更に細く別れた小さな路地から、建物の陰から人影が現れる。
 一人、二人、三人と増え、四人五人と更に増える。
 全てで――十二人か。各々の手には、包丁、ナイフ、鋏等々。どこにでもある、しかし危険極まりない凶器が握られていた。
「……多いな。これだけの人手があれば“作業”も“工作”もさぞ楽だったろう?」
 確信と余裕に満ちた声。
「お前達が全てを仕組んだ――いや、仕組まされたんだろう?」
 誰一人として答えはしない。ただ、ぎらつくような視線を向け、剣呑な空気が増すのみ。
 それをそよ風程にも感じていないかのように闇絵が言う。
「一体どうするんだい? 殺すかね? “あの少女”のように」
 沈黙、静寂、無音――言葉なき肯定。
 一人がじゃり、と足を擦り距離を詰める。緊張が高まる。張り詰めた糸が弾け飛ぶその一瞬。
「にぃお」
 ――闇絵が微笑を浮かべたのを、十二人の内、一人でも気付いていたかどうか。
「!?」
 全員が弾かれたように、鳴き声の主に視線を向かわせる。
 そして見る、声の正体――黒猫。
「ね……こ?」
 拍子抜けを喰らい、誰ともなく深い息を漏らす。
 ――油断。
「あっ!」
 一人が声を上げた。
「居な……い?」
 闇絵の姿が消えている。取り囲んでいたはずなのに。
 僅か数秒目を離しただけで。
 路地にわだかまる闇に溶けてしまったかのように――まるで、魔法のように。

 † † †

 武藤環は強い。
817伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/03/08(土) 12:06:13 ID:k58Br1Ec
 それは当人にとって紛れもない、そして当たり前の事実であった。
 柔沢紅香には及ばないとは思う。あれは別次元だ。そもそも理屈からして違う。
 それでも、武藤環は強い。大抵の人間には負けないし、負けるつもりなど毛頭ない。
 彼女は自分でそう思っていたし、それは間違ってもいない。
 ――だから、その光景は至極当然の光景だと彼女は感じていた。
 地に倒れ、折り重なる男達。いつかの夜の光景とよく似ている。
 酔い潰れ――ではない。その顔にあるのは苦悶の表情と痛みに滲む脂汗と口端から流れる血。
 男達。その全てが環に打ちのめされた者達だった。
「ぐ……てめぇ」
 恨めしげな声を上げる男を見て、環はきょとんとなる。
「あれ? おじさんこの間の――」
 這いつくばって環を見上げた男。それは数日前の呑み比べで、割と最後まで残っていた男だった。
 突然に襲い掛かられて、何かを考えるより先に体が反応して打ち倒していた為、ろくに顔など見ていなかった。
 故に、男に見覚えがある事を今になって気付いた。
 よくよく見れば他の男達も、あの夜に酒場に居た客達のようだった。
「ん〜……どゆこと?」
 何故自分が男達に狙われ、闇討ちのような襲撃を受けなければいけないのか。理由があるとするならば――。
「――魔女?」
 倒れ伏す男に歩み寄り、しゃがんで問い掛ける。
「ねえねえ。おじさん達さ、もしかして魔女の事何か知ってる?」
 ――誰も答えない。
「う〜ん。……えい」
 ごきり。
 そんな音がした。
「あっ……がっ!!」
 近くにあった枝を折るような風情で、環が男の一人の腕を取り、その関節を本来からは有り得ない方向に曲げ、男が鳴いた。
「えっと、もっかい聞くね? 魔女のこと何か知らないかな?」
 ――再びの沈黙。
 肘を外された男は痛みに声も上げられず、他も声一つ上げはしない。
「もう一本イっちゃう?」
 環の顔に浮かぶ酷薄な笑みに、男達が表情を引きつらせる。
 男達は気付いたのだ。目の前の女が情けも容赦もなく、自分達の体を壊してのける存在だと。
「し、知らない! 俺達は全部“魔女が全部やった”事にしようとしただけで、魔女の事は何も知らない!」
「……私を狙った理由は?」
「脅された。お前等を襲わなきゃ全部バラされるって。ただし、代わりにお前等は好きに犯って良いとも言われた」
「私達の命と体が目的ね。それでバラすって、何を?」
「そ、それは……」
818伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/03/08(土) 12:08:28 ID:k58Br1Ec
 男が言葉に詰まる。胸中の葛藤が見て取れる程、彼は狼狽していた。
「んー? ――もう一本?」
「わ、わかっ分かった! 話す。話すからっ!」
 たった一言で男の葛藤は消え、とても素直になった。
 よく躾られた飼い犬のように――まるで魔法の言葉だと、環はほくそ笑んだ。

 † † †

 柔沢紅香は眠っていた。
 夕焼けの光。カーテン越しの薄い橙に染まる部屋。床に投げ出された衣服。綺麗に洗濯された純白のシーツ。横たわる下着姿の美女。
 無防備極まりない姿を晒す紅香の姿がそこにあった。
 規則的な寝息を立て、豊かな胸を緩やかに上下させて眠る姿は、彼女を狙う者達にとってはまたとない、千載一遇の好機と映ったはずだ。
 だからであろうか。
 よく手入れされた扉が音もなく開いた。
 踏み出す足。慎重に絨毯の床の上を進む。
 やがてそれが、ベッドの傍らに辿り着いた時――
「なんの用だ?」
 ――瞼を開かぬままに、紅香が問い掛けた。
 ぴたりと足が止まる。耳に痛い程の静寂に包まれた空間に、ただ呼吸音だけが聞こえた。
「まったく、何か言ったらどうなんだ?」
「――起きてるとは思わなくて、少し驚いてしまったんです」
 そう答えたのは女の声だった。
 紅香が瞼をゆっくりと開き、それを視界に収める。
「で、用はなんだ。一子?」
 女――ベッドの傍らに立つ一子は小さく笑んだ。
「そろそろお夕飯の準備が出来ますのでお呼びしようと思いまして」
「……そうか、有難う」
 紅香もまた笑みを返す――冷たい程に感情のこもらない笑みを。
「二人はどうしてる?」
「闇絵さんと環さんの事でしょうか?」
「ああ」
「お二方でしたら、用が出来たと言って出掛けたきり帰って来ていませんね」
 一子の答えに紅香は鼻を鳴らして頷いた。
「そうか、闇絵も気付いたか」
「……気付いた?」
「ああ、いくつかの違和感と悪意があるということにさ」
 一子が怪訝な表情を作り、首を傾げて見せる。理解が及ばないといった風情だ。
「説明が必要かね?」
「っ!?」
 降って沸いたような気配と声に一子が振り返る。
「闇絵……さん」
 部屋の片隅、夕焼けの光が僅かに届かぬ暗がりの中、闇がわだかまるようにして、闇絵が壁に寄りかかり立っていた。
「いつの……まに?」
「さてね?」
 体を壁から離して自立して、闇絵が一子を真っ直ぐに見つめる。
「そんな事より、本当に説明が必要かね?」
819伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/03/08(土) 12:11:56 ID:k58Br1Ec
「それはどういう意味――」
「こういう意味だよ」
 言って、紅香が指差す。
「魔女はお前だ」
「何を……」

「例えば、女ばかりの宿の従業員」

「?」
 一子が眉を潜める。
「例えば、私達以外に見当たらない宿泊客。例えば、酒場に集まる男達。例えば、宿の質の割には妙に身なりのいい経営者」
 闇絵が一つ一つ例えを上げる度に、一子の顔から表情が欠落していく。
「一つ、客が見当たらないのはこの宿の部屋が宿泊以外に使われる事の方が多いから」
 一子の瞳が冷めた光を帯びる。
「一つ、酒場に集まる男達は酒以外にも用があって集まっている」
 口が真一文字に引き結ばれる。
「一つ、経営は宿でも酒場でもない第三の商売で成り立っている。従業員が女ばかりなのはそうでなければ出来ない商売だから」
 能面のような無表情が、一子の顔を覆った。
「以上が私が感じた違和感と、それに対する仮説だが、さて?」
 ――どう思う? その問いに一子は沈黙を返す。
「……改めて言おう。魔女は君だ、一子」
 能面が剥がれ落ち、仮面の笑みがそれに代わった。
「何を証拠に」

「あ、居た居た」

 まるで場の雰囲気を介さない口調で環の声が割って入った。
「ねえ一子ちゃん。ここが娼館だってホント?」
 一子の仮面の笑みですら、凍り付いた。
「聞いたんだよね。私を襲った人達から。ここでよく女を買うんだって」
 闇絵が淡々と告げる。
「君のミスは、ここにきて私情で殺す相手を選んだ事だ」
 一子は最早、無表情ですらなかった。何かを押し隠すような無表情すら抜け落ちて、ただ彼女本来の表情として冷笑を浮かべた。

「そうだとしたら、なんだって言うの?」

 鼻で笑って、一子は続けた。
「私が娼婦だとして、私が魔女だとして、それがなんだと言うの?」
 もはや偽る事のない闇を――悪意をさらけ出していた。

「私は、ただ幸せになりたかっただけなのに」

 ――魔女は黒い笑みで、血の涙を流すような表情をしていた。
 凄絶な泣き笑いで一子は全てを認めた。

続く
820伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/03/08(土) 12:14:33 ID:k58Br1Ec
 はい、というわけで毎度、伊南屋に御座います。

 あらかじめ言い訳。
 地味に魔法が実在するという設定だったRRですが、その設定を使うときが次回、ついに来てしまいました。
 ――力量不足著しい。
 まあ魔法自体に対した意味はないので、次回いきなり魔法出てきても流して下さい。

 言い訳に終始しましたが今回はこれにて。
 以上、伊南屋でした。
821名無しさん@ピンキー:2008/03/08(土) 14:23:36 ID:TgP3Yhy2
>>820
チン☆⌒ 凵\(\・∀・) 続きまだぁ?
822名無しさん@ピンキー:2008/03/09(日) 14:07:53 ID:rQsAfl+A
GJッス伊南屋さん!
しかし相変わらず文章が緻密なことでして
823名無しさん@ピンキー:2008/03/10(月) 21:32:42 ID:8Nlfdugd
伊南屋さんGJ!
いつもながら素晴らしいクオリティー☆
824名無しさん@ピンキー:2008/03/12(水) 20:20:05 ID:THZ5T2Cz
保守
825名無しさん@ピンキー:2008/03/13(木) 01:35:04 ID:daKn0rj0

 兄さまが紫をすき放題に嬲るロリ鬼畜はありませんか?
 ひょっとしてペド野郎はお断り?
826名無しさん@ピンキー:2008/03/13(木) 22:15:26 ID:sX4GErep
それはお前がやるんだよ!
827名無しさん@ピンキー:2008/03/15(土) 00:55:23 ID:OM9kCPYX
ジュウ×雨投下
エロなし電波なしむずかゆい青春臭いの



 生理現象めいて不随意かつ唐突に訪れる悪夢との対峙は精神力をどうにも削り過ぎる。
目覚ましを経ず自然に目を覚ます休日の朝のすがすがしさと言ったら果てがないはずだった。
身体が求めるままに惰眠を貪り予定もなく過ごす。知人と友人の間をふらふら行き来するような
関係の連中と連れ立って出掛けることもあれば、一人でゲーセンやら本屋やらで暇を潰すことも
できる。一切合切が常識の範囲で自由である喜びに胸をときめかせる――ことはまったくないが、
それなりに気楽なはずの週末、俺の目覚めは最悪だった。最も悪いと書いて最悪。今のところの
俺にとってワーストのそれは、悪夢に魘されて起きることだ。内容は様々、思い出せないことも
あれば過去の出来事を単純にトレィスしているだけのこともあるし、そこに恣意的な解釈が
混じってまったくのファンタジーと化していることもある。どれであっても悪夢には違いがない。
裸の雪姫に迫られる夢だろうが母親との壮絶な銃撃戦の果てにあっけなくおっ死ぬ夢だろうが
三輪車に轢かれて植物人間になる夢だろうがすべてが並列だ。汗びっしょりで目覚める不快感の
元には、何もかもがまっ平らだ。

 苛立ち紛れに寝巻き代わりのTシャツを乱暴に脱ぎ捨ててベッドの下に放り、改めて部屋の中を
確認する。窓から見える空の青はまだ薄っすらとしていて、そう遅くない朝なのが解った。細長い
ため息を吐いてから頭をばりばりと乱暴に掻くと、抜け髪の金色がベッドの上にはらりと落ちる。
色が薄くて目立たないが、そろそろシーツを洗おうか。ついでにシャワーも浴びてすっきりしようか。
ベッドから脚を下ろしたところで、がらり、と音がした。

 この部屋の中に引き戸は一種類しかない。
 ずばり、窓。

「あ」

 視線を向ければ、水彩絵具を薄く薄く溶かしたような空を切り取って見せていた窓に、
シルエットのような黒が乱入していた。
 休日だと言うのに制服姿、長い髪と長い前髪で外側から窓を開けた相手は、珍しくぽつりと
不覚そうな声を零して俺を見ている。
 驚きもせず呆れもせず、考えが半周ばかりして、俺はむしろ感心した。

「早いな、お前」
「おはようございます……ジュウ様」

 窓からの闖入者、堕花雨はいつものように淡々とした声音でまずは俺に朝の挨拶をした。

「いつぞやと同じくジュウ様に呼ばれている気がしましたのでやはり同じ手段で侵入を試みたのですが、
起き抜けで身体が思うように動かず、難儀してしまいました。その間にジュウ様は落ち着きを
取り戻されたようで、お役に立てず申し訳ございません」
「もっと他に言うことがある気もするんだが」
「パジャマで出歩くのは憚られましたので、休日ではあったのですが咄嗟に手近にあった制服を」
「そこでもない」
「申し訳ありません、二度と入るなと言われていたのに、また窓を使ってしまいました」
828名無しさん@ピンキー:2008/03/15(土) 00:56:01 ID:OM9kCPYX
 『いつぞや』のように本気の詰問でもない突っ込みに、雨はほんの少し項垂れ気味にしてみせる。
フローリングの床に正座した雨の頭を、俺はベッドに腰掛けた形のまま見下ろしていた。いつもより
更に低い位置にある旋毛を眺めながら、何となくその頭をぺたぺたと叩いてみる。汗で湿ったシャツを
着直す気にはなれず、上半身は裸のままだ。雨が顔を伏せているのはその所為か。それとも
間に合わなかったことにか。少なくとも、不法侵入そのものを反省しているわけではないだろう。
 俺の従者を自称するこの堕花雨と言う娘との付き合いも、少なくとも性格のいくらかを認識出来る
程度の期間に及んでいる。だからこいつが俺に呼ばれたと思ったらいかなる障害を排してでも傍に
やって来ることは解っているし、その部分に関して譲るつもりがないことも解っていた。つまりは怒りも
突っ込みも無駄だろう――ガシ、と軽く自分の頭を引っ掻いて、俺は窓を見る。開いたそこからは
少し冷たい朝の空気が流れ込んでいた。雨は黙ったまま、目の前に正座している。

 ――『いつぞや』も、同じような位置に座っていたっけか。
 あの時も嫌な感じの夢を見て、それで、眼を覚ましたらこいつが。

「……おい、雨」
「はい。ジュウ様」
「呼ばれてる気がするって、どんな風にだ?」

 雨は長い髪をさらりと小さく揺らして、少し顔を傾がせる。ずれた前髪の奥に、普段はあまり見えない
眼が覗けた。あの前髪にはどんなフィルターが掛かっていて、普段俺のことがどんな風に見えて
いるのだろう、なんて思考が他所へと逃げる。
 堕花雨の恐るべき勘の良さは認めるし、恐るべき思い込みの強さも同様だ。俺を主と言い張ることで
何か超能力的な嗅覚が働いていることもあるのかもしれないし、単純に第六感が優れているだけかも
しれない。
 どっちにしても幻聴ながら『俺が呼ぶ声』が聞こえるとしたら、それはどんなもんだろう。何をどうして
いるんだろう。アニメなんかなら感覚であって言葉ではないとか言う理屈が出てきそうだが、存外に雨は
思案顔を見せた。とくに激しく興味があったわけでもないのに、自然と俺もそんな雨の様子を眺めて
しまう。
 まだ頭が完全に起きていない所為か、或いは、夢のダメージが残っているのか。どっちでも、
そんなのは言い訳かも知れない。

「これはあくまでわたしの感覚ですのでジュウ様が本来発したニュアンスとは違うのかもしれませんが」
「そもそも発していないからもったいぶらなくて良い」
「わたしには、泣き声のように感じられました」

 子供がぐずる様に、心細げに。

 悪夢の内容はいつだって様々細々限りがない。日常や経験を重ねるだけでも妄想は果てしなく
展開され、それが無意識に投影されていく。過去と現在が入り混じるように混濁して吐き気を催す
ほどだ。何かの事件に首を突っ込んでいる間はそのことが。終わっても、見聞きしたものは頭の中に
じくじくと蓄積されて、気まぐれに引っぺがされた瘡蓋のようにじわじわと滲み出してくる。
 そうだ、特に今朝のはキツかった。ガキの自分が家で一人留守番をしている光景から始まって、
テレビの中には父親と母親の姿、言い争う様子。チャンネルを変えれば殺されたクラスメート。
写真の静止画、命乞いの表情。チャンネルを変えれば殺したクラスメート。笑顔でこっちに向けられる
カメラ。チャンネルを変えれば眼球のない少女の笑顔。チャンネルを変えれば母親の嘲り。
チャンネルを変えれば腐乱死体。チャンネルを変えれば。チャンネルを変えれば。
 取りつかれたようにリモコンを何度も連打して、それでも映し出されるものはどんどん醜悪に
なっていく。終わりのないそれに電源を切ろうとするのに、何故かそれが反映されない。
どころかチャンネルの移り変わりすらもいつのまにかオートマティックになっていた。一つの物事を
追体験するならまだしも、ランダムにいくつもの傷を抉り出されるような感覚はゾッとしない。
にこやかに手を振る子供たちの瞼は上がらない。テレビの前から立ち上がることも出来ず
いつの間にか俺は現在の俺になり、結局変わらずにテレビに釘付けにされている。
わけもない焦燥感とちらちら頭の奥を焼くような映像の羅列。
 そして結局そのまま途切れるように唐突に、目が覚めた。

 ……そりゃ泣きたくもなるか。
829名無しさん@ピンキー:2008/03/15(土) 00:56:39 ID:OM9kCPYX
「可能な限り迅速に行動したつもりだったのですが、申し訳ありませんでした。何か悪い夢を
ご覧になっていた時のために、いくつかアイテムも持ってきておりましたのに」
「それはポケットから見えてる一般的にはにはまったく見掛けないホーリーシンボルに関係があるのか。
そもそもそんなもん準備してたからだろ……って、これだとお前が来るのを期待でもしてたように
聞こえるか。とりあえず、不法侵入は出来るだけやめろ」
「了解いたしました。出来るだけ善処致します」
「出来るだけ、も二つ重なると途端に疑わしいな」

 はあっと軽く息を吐いて、俺は雨を見下ろす。
 たとえば三か月も前の自分なら、こんな状況を許しはしなかっただろうし、雨に対して何らかの
攻撃的な言葉を投げつけていただろう。しかし三ヶ月後の自分はこの状況を受け入れて、
あまつさえこうして日和るように言葉を重ねている。電波に毒されたのか受け流しているのか、
自分ではよく解らない。どうでも良いのかも知れない。理解せずに自分の上を上滑りさせることで
スルーを決め込む。そうしているつもり。どれにしても、雨がこの場にいることを、不愉快に
思っていないのは事実だ。恐るべきことに。
 夏になる前に会って、夏が過ぎようとして、慣らされていって、毒されていって。それはまったく
恐るべきことだ。ここにいることに違和感を覚えないのは危険なことだ。
 逆説いつか隣にいないことが不自然に思える日が来ないとも言えない。
 カギっ子にされたのはいつの頃からだったか。

 軽く頭を振る。まだ頭の中が夢から出てこないのか、いつもに増して考えるのが億劫だ。
状況さえももしかしたら掴めていないのかも知れない。実は今リビングで円が休日スタイルで
寛いでいると言われてもそうかと納得してしまえそうだ。
 目を押さえるようにして軽くこめかみを揉むと、膝に乗せていた方の手がそっと体温に包まれた。
見ると雨が俺の手を握っている。それほど力強くはないのに体温はしっかりと感じられて、
俺は単純に、ああここに雨がいるんだなあ、と思った。自分とは違う平熱、解り易い他人。
少し重さの残っていた目の奥からそれがスゥと消え始める。
 そういやお袋も体温は高い方だったっけ。多分基礎代謝とか言うのが高いんだろう。共通点は
異常な戦闘力か、異常に据わった胆か。似ている体温に安堵しているとしたら、笑えない。
ああ、それにしても、暖かいな。

 ごく何気なく、俺は雨の頭を引き寄せてみた。
 単純に顎を載せるのに丁度良さそうな位置だったからだ。
 後頭部に手を回された雨が、ふと顔を上げる。
 狙いは外れて、額に顎を押し付けるような形になった。

「――――」

 もう少しずれてたら額にキスでもするような形になっていたかもしれない。

 ば、っと音がするほどの素早さで、口元から雨の前髪の感触が消えた。
 飛びのいた雨の脚は正座の形から少し崩れていて、素足が見える。急いでいたのか靴下を
履いていなかった。朝は弱いのか、流石に寝起きは見たことがないが、よく見ると制服のスカーフも
左右が非対称気味だ。手に当たっていた温度も離れて、距離が出来る。雨の口元は一文字に
引き結ばれて硬直している。その頬が控えめながら紅潮しているのは、羞恥か怒りか――
性格を考えると、前者の方だろう。
 思い付きは魔が差すように訪れる。単純に思いついて、それをしてみたいと思って、だから俺は口に出す。
 正直なところをぶっちゃけてぶっちゃけてぶっちゃけてしまうと、拒否されるとは思っていなかった。

「雨」
「は。はい。ジュウ様」
「ちょっと抱かせてくれ」
830名無しさん@ピンキー:2008/03/15(土) 00:57:15 ID:OM9kCPYX
 一拍、雨の耳だけが完全にのぼせた。
 さらに一拍、俺は何か今非常に誤解を招くようなことを言ったらしいことに思い当たる。

「いや違う多分お前が思っているような意味じゃない。だからとりあえず誤解するな、
お前や雪姫が買い漁ってる同人誌みたいなことを言ってるわけじゃなくてだな」
「わたしは構いません、ジュウ様のお望みとあらば火の中水の中死すら厭わぬことは前世から覚悟していまひゅ」
「平静を装うとして噛んでるじゃねぇか。落ち付け、抱かせろってのはだから、あれだ、抱っこさせろってことだ」
「は」

 顔はいつもの白さ、耳だけを器用に赤くした雨から、不意にぎくしゃくとした緊張が抜ける。
その隙を逃がさないように、俺は弁解をした。なぜか自分の顔もいくらか熱い気がする。そりゃあ、
この格好であのセリフはまずかっただろうが――そう物事に動じる性質でない雨が取り乱す様子を
見てから恥ずかしくなったのは、いったいどういうことだ。
 火照った顔に窓からの風が当たる。上着を脱いだままの上半身には、幾分寒い。雨の髪が
さらさらと小さな小さな音を立てる。
 お袋の髪も長いが、こう綺麗なストレートじゃないから、この音は新鮮だ。

「頭が丁度良い位置っぽいから、してみたくなったんだよ。解ったらちょっと、こっち来い」
「あ。はい。ジュウ様」

 こいこい、手招きをされた雨は膝で歩きながら、さっきの位置まで戻ってくる。視線が外れ気味なのは
やはり目のやり場の問題だろうか。肩を掴んで、俺は雨の身体を反転させ、向こうを向かせる。
長い髪に覆われた背中がこちらを向いた。
 もう少し近くに引き寄せて、脚の間に身体を置くようにしてみる。誂えたように丁度良い位置に
なったそのつむじに、俺はのっしりと顎を乗せた。
 ざりざりと髪が擦れる音が皮膚に直に響く。手のやり場に困ったので、とりあえずは雨の肩から
前に回して、組んでみた。実に丁度良い位置になって、ふ、と息が漏れる。

 両親が諍いすら止めてそれぞれに家を出て行くより前から、俺は家の鍵を持たされていた。
それでも気まぐれにお袋がいることはあったから、家に帰って鍵の確認をするのはむしろ楽しみだった。
それが苦痛になったのは二人が完全に出て行ってからだ。誰もいないのが当たり前になってしまった
部屋で一人テレビを眺めるだけの時間を過ごすのは、妙に恐ろしかった。少しでも良い思い出ばかりが
自然に出てくるのが、何より嫌だった。塞がり掛けの瘡蓋を悪戯に剥がれるような感覚が、
じりじりと続く。慣れて諦めるまでに、それほど時間は掛からなくても。それでもじくじくとしたその時間が
苦痛だったことは、何も変わらない。嫌な思い出のまま、きっと一生そうだろう。
 顎が疲れて、角度を変えた。頬を載せる形にすると、学校の机で自分の腕を枕にしている時に似た、
程よい眠気が訪れる。他人の体温を枕にしていれば、嫌でも接していれば、それは安堵感を与える。
部屋に一人でいたことを思い出さない。瞼を閉じれば、徐々に登り始めた日の光がうっすらと広がる。
黒くはない闇。昼寝めいたまどろみ。

 雨は微動だにしない。
 きちんと正座して、そこにいる。
 ここで飛びのかれたら流石に怒るかもな、俺。
 いや、それとも、泣いたらどうしよう。



「……。朝飯でも作ろうかと思って来たんだが、私はどんな反応をしたら良いんだろうな、堕花雨。
何故私の息子は半裸かつそんな奇っ怪な場所で、実に気持ち良さそうに眠っているんだ」
「ジュウ様のお望みに全身全霊でお答えするのがわたしの使命ですので」
「そうか。ならば私はそれをしかと見届けさせてもらおう。さて、起きたらどんな顔をするかな、このガキは
――ついでに一応言っておくと、堕花、お前も大概顔が緩んでるぞ」
「ジュウ様のお望みを叶えることは私の至福ですので」
「そうか。おめでとう」
「ありがとうございます」
831名無しさん@ピンキー:2008/03/15(土) 00:58:33 ID:OM9kCPYX
終わり。地味に難しいな
雨はぎゅっと抱きしめたい子
832名無しさん@ピンキー:2008/03/15(土) 02:22:40 ID:S8873aRh
うむ、一言で云うとあれだ


すばらしいなっっっ!!
833伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/03/15(土) 02:35:51 ID:V6r5X63S
GJ!
この作品の後に投下するのが辛い内容だが、今週分投下開始。
834伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/03/15(土) 02:36:19 ID:V6r5X63S
「彼と彼女の非日常・X」

 目が覚めると、違和感がジュウを襲った。
 それがなんであるか気付くより先に、ソファに横たわっていたジュウの視界に雪姫が入ってきた。
「おはよ〜目ぇ覚めた?」
 妙に甘ったるい声がジュウの鼓膜を揺らす。
「ん……ぁ?」
 ぼんやりとした意識で、そういや昨日泊めたんだったか、と思い出す。
 むくりと体を起こすと、自分が寝た時には無かったはずの毛布が床に落ちた。
 いつの間にか掛けられていた毛布を拾い上げると「それ、私」と雪姫が自慢気に言った。
 それは黙殺することにして、ソファの上に縮こまるようにして眠って為に筋肉が硬直した体を、伸びをして解す。
「ん……ん〜っ」
 同時に深呼吸をして、新鮮な酸素を肺に取り入れる。それで違和感がなんであるか気付いた。
 空気と共に取り込んだ味噌汁の匂いと、まな板を叩く小気味良い音。パタパタというスリッパで歩く足音。
 それは人の気配だった。
 人の気配が部屋に在るのは新鮮とすら感じる程に久し振りの事だった。それが起き抜けとなれば尚更だ。
 ここ数年、朝に誰かが家に居るなど無かった事だ。
「……そういやお前」
 不意に、ジュウは笑顔を向ける雪姫の姿に気付いた。
「ん? ようやく気付いた? じゃ〜ん、雪姫ちゃん新妻ヴァージョンだよん」
 くるっと回って見せる雪姫のエプロンのフリル付きの前掛けと結い紐がふわりと舞う。
 ピンク色のエプロンに身を包んだ雪姫が軽くポーズを取って止まった。
「……なんの真似だ」
「そのまんま新妻の真似だけど?」
 コスプレが趣味の雪姫にとってはエプロンすら新妻のコスプレになるらしい。返答に軽い頭痛を覚えてジュウは頭を振った。
「ちなみにだね、これだけではないのだよ」
 にやりと笑みを作って雪姫が言うと同時、キッチンから人影が現れた。
「ん、起きていたのかジュウ」
 雪姫同様やはりエプロン(こちらは水色のシンプルなものだった)に身を包んだ紫が手にお玉を持ってジュウに声を掛ける。
「丁度今、朝食の準備が出来たところだぞ」
 屈託のない笑みを浮かべる。その背後で対象的な下品な笑顔の雪姫が言った。
「というわけでダブル新妻なんだよね」
「…………」
 いい加減呆れて言葉も出ないといった風情でジュウが溜め息をつく。
「む〜、ノリ悪いなぁジュウくんは」
「そいつは悪かったな」
 言葉を返しながら立ち上がる。
「しかし、お前料理できるんだな」
835伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/03/15(土) 02:37:43 ID:V6r5X63S
 言って、紫を見る。
「……おかしいか?」
「いや、お嬢様といえばシェフが家に居て全部作ってくれるから料理は覚えないんじゃないかと思ってな」
 ジュウの答えに紫は一度、ふむと頷くいた。
「貧弱な想像力だな」
「……悪かったな」
「いや、いいさ。私とてきっかけが無ければ、その想像通りになっていただろうからな」
 そう答えた所で、鍋の加減がよくなった事を悟った紫はキッチンに戻っていった。
 いくらか所在なさげにしてジュウは何の気なしに辺りを見渡す。
「……そういや雨は?」
 それで唯一、雨の姿が見えない事に気付いた。
「あ〜、あの子実は朝弱くてさ」
「そうなのか? ……意外だな」
 なんとなくだが、ジュウには機械のように一瞬で寝起きする雨のイメージがあった。
 隙など全く見せないあの少女にそんな弱さとも言える部分がある事に軽い驚きを隠せない。
「それでさ、雨のこと起こして来てくれないかな」
「あ、あぁ……はぁっ?」
「私達で朝ご飯の盛り付けしてるからさ。お願い」
 手を合わせて頼まれてはジュウも断りづらい。仕方無くジュウは「分かった」と不承不承ながらも答えた。
「じゃ、頑張ってね〜」
 チェシャ猫のような表情でそういう雪姫を見て、何を頑張れというのか考えながら、ジュウは自分の部屋に向かった。

 † † †

 部屋の扉を開けて、最初に感じたのは匂い。
 たった一晩、少女が二人寝泊まりしただけで、どこか甘酸っぱいような――所謂“女の子の匂い”が部屋に満ちていた。
 微かに香るそれを不思議に思いながら、ベッドに視線を向けた。
 ――眠り姫。
 そんな言葉が浮かんだ。
 胎児のように小さく手足を畳み、白いシーツに長い黒髪を広げさせて眠る姿は幻想的ですらあった。
 小さく漏れる規則正しい呼吸音、微かに瞼を揺らす仕草。そのどれもが雨の儚さを強調させていて、普段の頼もしさが幻のようにすら思えた。
 しばらくの間、ジュウは雨に見惚れていた。それを現実に戻したのは雪姫の声だった。
「ジュウく〜ん? 雨起きた〜?」
 キッチンの方から聞こえた声で我に返る。
「いや、まだだ。もう少し待ってくれ」
 そう返してから雨に向き直る。いくらかの躊躇――こんな雨を起してしまうのは惜しいという思いを覚えながらも声を掛ける。
「雨、起きろ。朝だ」
 しかし反応はなく、一瞬呼吸のタイミングが崩れた程度だった。
836伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/03/15(土) 02:38:57 ID:V6r5X63S
 朝に弱いというのは本当らしい。仕方無くベッドに歩み寄り、雨の耳元に唇を寄せる。
「起きろ、雨」
 ジュウの声に反応し、身じろぎをする。しかし、それでも目を覚ますには至らないらしく、やはり雨は瞼を閉じたままだった。
 しばらく逡巡して、ジュウは雨の肩に手を掛けた。その手を使って雨の体を揺すってやる。
「ほら、起きろ」
 小さな体は間違えて力を入れたら壊れてしまいそうで、ジュウは慎重に雨を揺らした。
「ぅ……ん」
 耳元で語り掛ける声と振動で、ようやく雨は意識を眠りから引き上げたのか、瞼をゆっくりと開いていく。
 やがて、雨の瞳がジュウを捉え、二人の視線が合った。
「よう、起きたか?」
 ジュウがそう言うと、雨は首を傾げて不思議そうな表情をした。
 雨は、まるで夢を見ているかのような朧な瞳であたりを見渡し、のそのそと体を起こそうとする。
 しかし、途中でバランスを崩し体が倒れそうになる。
「……っと」
 それを、咄嗟に腕を伸ばしたジュウが抱き止める。
「おいおい、寝惚けてんのか? ちゃんと起きろ」
「ふぇ?」
 ようやく意識が焦点を得てはっきりしてきたのか、雨の瞳に徐々に理知的な輝きが戻ってくる。
「……?」
「目、覚めたか?」
「…………?」
「……おい」
「………………っ!?」
 雨が一瞬で顔を真っ赤にして抱き止められた体を起こす。慌てたそぶりで振り返り深呼吸を繰り返した。
 それからくるりと向き直って。
「お、おはようございますジュウしゃまっ……」
 噛んだ。
 羞恥に震え、雨がまた背を向けてしまう。
 平静を保とうとして保てない雨を見て、ジュウは笑いを堪えて肩を震わせた。
「よう、お目覚めか? 朝飯出来てるぞ」
 微笑みかけるジュウに、雨は再び振り返って、林檎のような顔にうっすら涙を滲ませながら何度も頷き返した。

 † † †

「いきなりだが、そろそろ来ると思う」
 食卓を囲む面々に、紫はそう告げた。
「何がだ?」
「私が追われていることは説明したはずだが」
「つまり追手が来るという事ですか?」
「そうだな。昼頃には来るんじゃないか?」
「……なんでそう言える」
「あれでなかなか私を追っている者のネットワークは侮れんよ。柔沢紅香の家を探すのなら兎も角、小娘一人が逃げた道筋を追うのはそう難しくはあるまいよ」
 そこで、紫は味噌汁を一口啜ってから続けた。
837伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/03/15(土) 02:40:23 ID:V6r5X63S
「恐らくは昨日の時点で目処は付けられていただろう。だから元より長居するつもりは無かった。
 だが、お前達は無理にでも関わると言うし、正直予想より早かった。
 それでもまぁ、昨日来なかったのは恐らく時間だろうな」
「時間?」
「他人の家を訪れるのには相応しい時間があるだろう?」
「そんな事を気にするような律儀な相手なのか?」
「そんな事を気にするような律儀な相手なのだ」
 まるで、親しい人間を思い返すように言う紫に、ジュウは単純に疑問を覚えた。
 だがそれを口にする事はせず、続く紫の言葉に耳を傾ける。
「勿論、あちらに情報のネットワークがあるように私にもネットワークがある。それを用いて得た情報だから信頼はしてもらいたい」
 そう言って紫が携帯(見たこともない型だった)を取り出す。
「九鳳院の力を使うのは些か不本意ではあるがな」
 そう呟いて、携帯を操作する。
「……うむ、やはり大分近いな。これなら昼前には着くか」
 その言葉とほぼ同時、計ったかのようにチャイムが鳴り響いた。
 その場の全員がぴたりと静止する。
「おい、まさか」
「……いや、これは違うはずだ。九鳳院の衛星GPSの情報が間違っているとは考えにくい」
 ――そんなもん使ってたのか。
 ジュウが内心で思う内に、チャイムが再び鳴る。
「出ても大丈夫なのか?」
「……分からん」
 紫にとっても、勿論ジュウ達にとっても想定外の出来事に戸惑う。
 当然、ただの来客とも考えられるが事態が事態だけにどうしても疑ってしまわざるを得ない。
 まして、来客の少ない家なのだ。
「とりあえず対応に出ない事にはどうしようもありませんね」
「そだね〜。まあ昨日言った通り私は手出ししないけど」
 雨と雪姫の言葉に従うようにジュウは席を立ち玄関に向かう。
 玄関に立ったところで再三のチャイムが鳴り、ジュウは一度深呼吸をして扉を開いた。
「お姉ちゃんいるでしょ?」
 開口一番、そう切り出してジュウを睨みつけたのは雨の妹。
 ――堕花光だった。

続く
838伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/03/15(土) 02:43:13 ID:V6r5X63S
 と言うわけで今週も毎度、伊南屋にございます。

 いっそ清々しいくらいのネタの被りっぷり。一周回って気持ちよくなったあとに半周追加して結局凹みました。

 とりあえず>>831には改めてGJを。
 以上、伊南屋でした。
839名無しさん@ピンキー:2008/03/15(土) 03:07:30 ID:RE/AQp9+
伊南屋さんすごいっす。
まあ真九郎が知り合いをつかってさがしても紫も対抗してくるわけで。
どうやって謝るか見ものデス。
840名無しさん@ピンキー:2008/03/15(土) 12:07:25 ID:jW9cfP0P
>>827-830
ジュウ様はやはり萌えキャラ。
いや、雨も可愛いけど。
841名無しさん@ピンキー:2008/03/15(土) 18:52:09 ID:g3jkh+S8
>>831 >>838二人ともGJ!

ジュウ様が萌えキャラなのは激しく同意
842名無しさん@ピンキー:2008/03/16(日) 06:10:43 ID:IYnEQ3VE
お二方ともGJ!!
843名無しさん@ピンキー:2008/03/16(日) 14:20:40 ID:P+Kzolca
お二人ともG☆J
844名無しさん@ピンキー:2008/03/16(日) 23:17:47 ID:Dnz9Nt7q
雨寝起きのダブルパンチ食らいました………最高っす
GJ!!!!!!!!!!!
845名無しさん@ピンキー:2008/03/16(日) 23:27:46 ID:GbDFp8bQ
GJ!!
早く真九郎出てこないかな
846名無しさん@ピンキー:2008/03/20(木) 01:23:48 ID:f0+oRpK9
ロリコンが絶奈に拷問(性的に)されるSSマダー? 
847名無しさん@ピンキー:2008/03/20(木) 14:39:32 ID:FL0T8O7V
むしろショタジュウ様が絶奈に調教される展開マダー?
848名無しさん@ピンキー:2008/03/21(金) 02:49:07 ID:WfoM52t5
むしろジュウが絶奈をやっちゃうってのはない?
849名無しさん@ピンキー:2008/03/21(金) 23:12:41 ID:/OS6Lziv
紅香とかが助けに来たらすでに絶奈調教済みで何の脅威もなくなっていたと。
根っからの裏十三家キラーだなジュウ様w
850名無しさん@ピンキー:2008/03/22(土) 00:06:28 ID:4XqFtKMd
ロリコン殴られ損かよw
851名無しさん@ピンキー:2008/03/22(土) 00:57:31 ID:BBna81hp
>>849
オイオイ、ジュウ様まだ小学生だぞ


ん?別にいいのか
852名無しさん@ピンキー:2008/03/22(土) 12:35:53 ID:C31p2GEX
もしそんなルートに突入したら将来絶奈と雨が喧嘩しちゃいます!!><
853名無しさん@ピンキー:2008/03/22(土) 16:49:38 ID:CKAiVj51
久しぶりにきてみたら、みんな変な話題で盛り上がっててワロタwww
854伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/03/23(日) 01:25:38 ID:I/8T/Tn/
「Radio head Reincarnation〜黒い魔女と紅い魔女〜」

X.
 物心がついた時には父親はいなかった。
 母親は父親について語ろうとはしなかったし、また彼女もその事を知ろうとは思わなかった。ただ、周りの子供達が父親に抱き付いては甘えるのが羨ましかった。

 まだ彼女が十歳を過ぎたばかりの頃に母親は心を病んでしまった。
 母親は自分の事について何も言わなかったし、また彼女もその事を知ろうとは思わなかった。ただ、周りの子供達が母親に笑いかけられているのが羨ましかった。

 彼女が十二になるかならないかの頃に売春宿の主が彼女を買いに来た。
 母親はもう働けるような状態ではなかったし、また彼女もその事を責めようとはしなかった。ただ、周りの子供達が友達同士で遊び回っているのが羨ましかった。

 斯くして彼女は十二になるかならないかの頃に男を知った――と言うよりは男という者を思い知らされたと言うべきか。
 幼児性愛好者の為に特別に用意された商品として彼女は“管理”された。
 己の体の磨き方を教えられた。
 立ち居振る舞いを教えられた。
 媚びる為の仕草を教えられた。
 男を悦ばせる術を教えられた。
 それから数年経った今――かつての特別商品としての価値は消えてしまったが未だ看板商品だった――彼女は考えた。
 街を歩く親子を眺め、笑みを浮かべる恋人達を眺め、自分を買いに来る男達を眺めて。
 ――幸せってなんだろう?
 あまりに素朴な疑問はしかし、消えることなく彼女の中で膨らんでいった。
 そうして考えて、考えて、考えて。
 ようやく彼女は、自分が幸せを知らないのではと思った。
 詰まるところ。

 ――私は生まれてこの方一度たりとも、これっぽっちも幸せというものを感じた事がなかった。

 そう、彼女は思った。

 幸いと言うべきか。周りには似たような境遇の女達が居たから、意見を集めるには困らなかった。
 あらゆる意見を聞き、思索し、吟味し、彼女は一つの考えを抱いた。
 その考えが彼女を変えた。
 それは彼女にとって魔法のような、素敵な考えだった。
 彼女は魔法を使えるようになったのだ。

 そうして――


 ――彼女は魔女になった。


 † † †

「ねえ、闇絵さん」
「……なんだね?」
855伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/03/23(日) 01:27:03 ID:I/8T/Tn/
「私は幸せになりたいの」
「みんなそうさ」
「私は幸せを知らないの」
「それは錯覚だ」
「邪魔をしないで欲しいの」
「……悪いが、君の理由なんか知らないし、願いを聞き届ける理由もない」
「そう」
 一子が腕を振るう。銀の光が一直線に闇絵に向かって疾走る。それが闇絵の顔面に辿り着く刹那――。
「それで寝てる私を刺し殺すつもりだったのか?」
 甲高い音がして、天井に銀刃――食器に使うナイフが突き刺さった。
 一瞬でナイフの軌道の直上に立った紅香が蹴り飛ばした結果だった。
「そう簡単には行かないと思ってましたけどね」
 一子は冷笑を浮かべながら肩を竦めて見せた。
「さて、どうにも拍子抜けな感があるが王手のようだ。観念してくれるとこちらとしては楽なのだが」
「観念? ――笑えない冗談だわ」
 一子はまだ笑っている。自らの正体が暴かれ、退路もなく、絶対的な戦力差があるにも関わらず、変わらぬ笑みで佇む。
「私の魔法は終わらないわ。私が満たされるまで、世界で一番幸せになるまでは。そう――」

「この街が滅んだって」

 閃光、衝撃、爆音――業火。
「っ!?」
 突然の爆発。闇絵達が、それが宿の隣の部屋で起こったものだと気付く頃には、吹き飛ばされた壁を越えて一子は姿を消していた。
「しまった……!」
 紅香が、彼女を知るであろうものなら想像しえない苦鳴を漏らす。
 もうもうと立ち込める粉塵、黒煙が視界を塞ぎ一子の姿を覆い隠す。緞帳のような煙の向こう。
 闇絵には、一子の嘲笑う声が聴こえた気がした。

 † † †

 走る。走る。走る。
 表通りを、裏路地を、街の中の道という道を。
 ――幸運だった。
 そう一子は考える。
 保険にと、隣室の壁に爆薬を仕掛けたのは自分だが、その爆発の仕方を計算していたわけではない。
 自らも巻き込まれる事を覚悟しての起爆だった。
 そして、咄嗟に三階の窓から――飛び降りた。
 ――やっぱり、私は間違えていない。
 これも“日頃の行い”のおかげだ。
 幸せを集めて、蓄えた結果。
 ――でも、少し幸運を使いすぎたかな?
 そこまで考えて、失笑する。
 これから集まる幸せを考えればこの程度、大事の前の小事だ。
 なにせこれから街一つ分の幸せを自分は得るのだから。
 ――幸せになれる。幸せになれる。幸せになれる。
 熱に浮かされた思考に浮かんでは消える想い。
 ――私は幸せになれる。
856伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/03/23(日) 01:28:21 ID:I/8T/Tn/
 知らず、笑みを浮かべる。
 笑い、走る。
 疲労はない。体は信じられない程に軽い。
 これもきっと蓄えた幸福のお陰。
 全てが順調だ。何もかも上手く行っている。いくらかの誤算はあれど、それすら厭わない。
 あの日――魔法に気付いた日に始まり、あの日――私の魔法に賛同してくれた“あの人”が現れてから、全て順調だ。
「幸せに……なれるんだわ」
 呟き、走る。
 走る先は街の外。“あの人”の元。

 ――嗚呼、今逢いに往きます。私に幸せをくれる、貴方の元へ。

 駆ける一子。その姿は自らの血に濡れて、しかし一子はそれに気付かない。
 傷つき尚、痛まぬ体は、ただ一子の想いを成す為に動くのみ。

 † † †

「……してやられたな」
 土煙の中、闇絵が呟いた。殊更ゆっくりと立ち上がり、漆黒の衣装に付いた埃を払う。
「全く、こんな自爆同然の策に打って出るとは思わなかったよ」
「自爆は兎も角、本当に爆破するのは予想外だったな」
 口端から微かに血を滴らせ紅香は瓦礫に寝そべったまま溜め息を吐く。
「街がどうのと言ってたが、正気か?」
「正気ではなかろうさ。本気ではあるとおもうがね」
 闇絵の答えにやれやれと紅香は首を振る。
「爆破……か。一体どうやったのかね?」
「簡単な魔具を使ったと見るが」
「魔具?」
「遠隔で着火する類のものだろう。それさえあれば若干ならば、離れた位置の爆薬を炸裂させる事も出来る」
 簡単な魔術を付与し、所持者の意志をもって発動する魔具は確かに存在する。
「もっとも、身に着けて目立たぬ程度の大きさなら精々五メートルの距離が限界だ。だが、先の爆発にはそれで十分」
 ふむ、と呟いて紅香は考える。
「ということは、爆薬を街中に仕掛ければそれを片っ端から爆破して回る事で街一つを滅ぼす事も出来るわけだ」
 紅香の言葉に、環が異を唱えた。
「でも、それってかなり準備が大変なんじゃ?」
「できるさ」
 闇絵が言う。
「彼女はこの街に長く、時間はある。そして街人の中には仲間もいる」
「……そう言えば、飲みに来てた人達から襲われた」
 環が先の事を思い出しながら言うと、闇絵が頷いて言葉を繋いだ。
「それだけじゃない。私も何人かに襲われたが、こちらはこの宿の従業員――娼婦達だったよ」
 十数人の若い女達に囲まれた時、その全てが宿の者であったことに闇絵は気付いていた。
857伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/03/23(日) 01:29:52 ID:I/8T/Tn/
 彼女達が素人であったからこそ闇絵は子供だましのような手法で逃げ仰せる事が出来たのだ。
「時間があり、地理に詳しく、人手もある。条件は十分、か」
「でも、なんでこんな事に手を貸すの? 私を襲った連中は脅されていたけど、この宿の子達にそんな事はないでしょう?」
「いや、男達を脅すよりも簡単だろうさ。彼女達には共感(シンパシー)がある。それがあれば、説得して仲間に引き込むのは容易い」
 元からある仲間意識をねじ曲げてしまうのは簡単だ。だから一子はそこにつけ込んだ。そう闇絵は考えていた。
 そして、口にはしないが更なる協力者――魔具を一子に与え、街一つを爆破できる程の爆薬を用意した人物の存在も闇絵は予感していた。
 いよいよ信憑性の増した街の破滅に、三人の表情に真剣味が宿る。
「急ごう。彼女を止めなくては」
「でも、どこに行ったか分かるの?」
 そう、環が疑問を投げかけた時だった。
 宿の吹き飛んだ窓から、閃光と爆音が飛び込んできた。それに反応して目を向けると、街の一角から火が上がる様が見えた。
 業火に包まれ、建物が燃え崩れる。それが完璧に崩れ去る直前、少し離れた場所で再び爆発が起こった。
 その距離は、丁度人が走る速さに近い。まるで、誰かが火を付けて回っているかのようだった。
「あっちだ」
 紅香が指すと同時、三人は互いに目配せしあい、宿から駆け出した。

続く
858伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/03/23(日) 01:34:51 ID:I/8T/Tn/
 今週も毎度、伊南屋で御座います。

 うっかり今週分の投下を忘れる所でした。
 取りあえずは思い出したので良かったです。

 そろそろ物語はクライマックスに向かっております。
 両方の連載終わったら、また短編でも鍵だいと思ってます。
 夕乃さん純愛(ネタ要素なし)とか

 取り扱い今週はこの辺で。それではまた。伊南屋でした。
859名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 12:00:48 ID:Y7LSUZ8V
>>858
GJでした伊南屋さん!
さぁそろそろとんでもねー女共のお仕置きタイムが始まる頃合ですが楽しみにしてます!
860名無しさん@ピンキー:2008/03/26(水) 11:30:42 ID:RnQiTyVL
GJ!!
861名無しさん@ピンキー:2008/03/28(金) 10:24:58 ID:8ZGjBvD0
遅ればせながら、G☆J
862名無しさん@ピンキー:2008/03/28(金) 19:12:11 ID:J5TP7X7N
GJなんたぜ!
863伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/03/29(土) 12:06:13 ID:/SChxdSF
今週の投下。開始。
864伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/03/29(土) 12:08:30 ID:/SChxdSF
『彼と彼女の非日常・Y』

 「お姉ちゃん、いるでしょ?」
 そう言って切り出したのが光だと分かって、ジュウは確かに自分が安堵するのを感じた。
 紫とは関係のない来客だと――そう思った。
「居るんでしょ? お姉ちゃん出して」
「どうしたんだ一体?」
「良いから早くっ!」
 鬼気迫る、と言うよりは単純に切羽詰まって狼狽えた様子の光に押され、仕方無く中に居る雨を呼ぼうと振り返る。
 だが、そうするより先に雨はジュウの意志に応えたように、玄関へと現れた。
「雨……こいつ」
 ジュウが光を指すと、雨は分かっている。と言うように頷いて見せた。
「聞いた声がすると思えば……どうしたの? 光ちゃん」
 雨の姿を確認して、光の張り詰めた雰囲気が若干和らいだ。
「……お姉ちゃんに、助けて欲しくて」
「……何があったの?」
 縋る瞳の光に、雨が問い返すと光は背後から人を呼び寄せた。
 ――現れた女性の、胡乱な表情の中にジュウは既視感を感じた。その表情にではなく、それが醸し出す危うさに。
「どうも……」
 ぼそりと零すように挨拶して、彼女は小さくお辞儀をした。
「人を探してるの。昨日からずっと探してて、だけど見つからなくて……」
865伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/03/29(土) 12:09:45 ID:/SChxdSF
「人を探しているというのは、こちらの方が?」
 雨が光が連れた女性を指すと、光は頷いて答えた。
「探しているという人はどういった方なのかしら?」
「えと……それが」
 次いだ雨の問いに、光は説明を始めた。
 まず、彼女とは昨日、街で会ったばかりであるという事。そこで人捜しに手を貸す約束をした事。それが行き詰まった事。
「最初は名前聞いても分からないと思って特徴だけ聞いて捜してたんだけど、行き詰まったから他に手掛かりは無いのって聞いたら――」
 そこで光は不意に表情を曇らせ、困惑を浮かべた。
 言うか、言うまいか散々悩んだ挙げ句、あくまで連れてきた彼女が言ったことだと前置きをした。
 そうして一度深呼吸をしてから、躊躇いがちに口を開いた。
「――九鳳院財閥のお嬢様だって……」
「……っ!」
 唐突に、紫へと繋がった。
 女性が――光の連れて来た彼女が舞台の外ではなく内側の人物であった。
 そして、彼女が自分達にとって敵になり得るのか、味方になり得るのか。
 それこそが今この場においてジュウの思考を占める事柄だった。
「そう。それで、どうして探しているのですか?」
 雨があくまで平静に尋ねる。
「私も、頼まれただけですから」
「あなたに頼んだ人はどうして?」
「……決着を付けるんだと、そう言ってました」
「決着?」
 ジュウが漏らした言葉に、女性は答える。
「いえす。大切な――とても大切な事だと言ってました」
「大切な事……」
 それが何であるかをジュウが問おうとして、しかしそれを妨げるように声があった。
「柔沢、どけ!」
 常にはない、切迫した声。焦ったような、追い詰められたような余裕のない声――。

「そいつ――殺せないっ!」

 ――斬島雪姫が叫んだ。

 † † †

 飛来するそれは真っ直ぐに、唯真っ直ぐに“彼女”を目掛け虚空を駈ける。
 主の意志を――殺意を成す為に。
 迅雷の如きそれが目指すのは、眼球。抉り、光を奪うその軌道は冷徹なる一撃。
 最短を高速で抜ける刃。それを“彼女”は受け止めた。事も無げに、その指で。

 刃は語り掛ける。
 ――刺せ。
 ――貫け。
 ――斬れ。
 ――刻め。
 自然と浮かぶ陶然とした笑み。躰の芯を熱くする衝動。
 彼女は酔う。彼女の深くに響く声に。彼女の深くに流れる血に――。
866伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/03/29(土) 12:11:44 ID:/SChxdSF

 事態が呑み込めず、故にジュウは動けない。
「雪姫、これはお前が思っている事とは違う」
 紫が前に進み出て、雪姫から包丁を奪う。
「お前っ……危ないだろ」
 無造作と言える程に乱雑に包丁の刃の側をつまんだ紫を見て、ジュウは冷や汗を流す。
「……本当に優しいのだなジュウは」
 場違いな台詞と笑顔で紫が言う。
「とりあえず中に入ろう。少々騒いでしまったから人が来るかも知れん」
 早々に紫が部屋に戻る。
 ジュウ達は一度、互いの顔を眺め合いながら、何故か有無を言わせぬ紫の言葉に従い中へと入っていった。

 † † †

「私を探しに来たのだな?」
「いえす。その通りです」
 ふう、と紫は溜め息を漏らす。
「誰から頼まれたかは、まぁ察しがつく」
「……お前を追っているって奴か?」
「まぁそうだろうな。こいつに――切彦に“不殺(ころさず)”を強いる事が出来るのはアイツくらいのものだ」
 不殺――逆に言えば、それを強いらなければ殺すというのだろうか、この切彦と言う女性は。
 眉根を寄せるジュウが何を考えているのかに気付いたのか、紫は言った。
「ジュウは知らなくても良い――いや、知ってはならない事だ」
「……それは良い。納得は出来ないがな。でも、それよりも雪姫だ。なんであんなに……」
 雪姫はもういない。切彦とは一緒には居れないと言って帰ってしまった。
 居ないから、だからこそ気になる。あの雪姫があそこまで狼狽える理由を。
「それも含めての話だ。仮にそれを知るとして、私から聞くべきではないしな」
「雪姫に聞けってことか」
「まあ、そうなる」
 これ以上話す事はないと言うように紫は言葉を切った。
 ジュウはそれ以上聞けない。紫の意志の現れと、雪姫への誠意――無用な干渉をして彼女を傷付ける事を考えれば、そうするより他なかった。
「――さて、切彦」
 紫が再び、切彦に視線を向ける。
「お前は私をどうする?」
「……正直どうしようとも」
「ほう?」
「私が見つけなくともあの人はあなたを見つけ出します。というよりはもう見つけ出してるでしょう。だから私はこれ以上なにもしません」
「……なぜ?」
「見つけ出してくれとしか言われてませんし」
 契約は完了です――少し不機嫌そうに言って切彦は口を閉じた。

 † † †

「なんだったんだ?」
 立ち去った切彦を見送り、ジュウは呟いた。
「あいつも……一人の人間と言うことさ」
867伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/03/29(土) 12:12:35 ID:/SChxdSF
 紫の言葉の意味を計りかね、ジュウは首を傾げる。
「人と仲良くもなるし、恋だってする。勿論、失恋だって」
 ――それを認めたくないとも思うだろうさ。
 紫はそう言って、目を伏せた。
「これだからアイツはダメなんだ。鈍感で無神経。何年経っても変わらない」
「――なぁ」
「なんだ?」
「そろそろ教えてくれないか。お前を追っているって奴を」
 ジュウの問い掛けに紫は躊躇う。
「……別に構わないが。あらかじめ言っておこう。お前が思う程、事態は深刻ではないぞ?」
 それに雨が答える。
「それは、今までの違和感から薄々感じてはいました。貴方は追手とまるで旧知のような言葉を零していましたし」
 紫は鼻の頭を掻いて照れくさそうにする。
「――ならば洗いざらい吐こうじゃないか。正直、本当の事を言わないでいるのはこちらも気分が悪い」
 そこでちらとジュウを見て、紫は溜め息混じりに続ける。
「特に、命でも賭けるんじゃないかってくらい悲壮な表情の奴がいるからな」
 ジュウの頭を真っ直ぐ見て、紫は話しだした。
「少し……痴話喧嘩の愚痴に付き合ってくれないか?」

 続く
868伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/03/29(土) 12:16:30 ID:/SChxdSF
 はい、という訳で毎度も毎度、伊南屋に御座います。

 今回の反省。
 ――切彦物語の進行上必要なかった……orz
 好きだからという理由だけで出したのは失敗。上手く絡められんかった……。
 もっとちゃんと考えて書かねばならないですね。

 さて、彼と彼女の〜については次回あたり最終回な予定。
 RRもそろそろ終わることを考えれば最終回は同時投下になるやも。

 それでは今週はこの辺で。
 以上、伊南屋でした。
869名無しさん@ピンキー:2008/03/29(土) 23:05:03 ID:VcgK1s3c
GJです
870名無しさん@ピンキー:2008/03/30(日) 02:17:54 ID:N1BxJGar
真九郎と蓮丈との対決が終わり、紫は屋敷に戻っていた。
蓮丈「紫」
紫「は,はい?!お父様」
蓮丈「お前にとってあの崩月の小僧はなんだ??」
その質問に少し戸惑いを見せる紫、だけど・・・
紫「私にとって真九郎は大切な人です」
その答えを予想してたかのように蓮丈は呆れた感じで
蓮丈「ふん,勝手にするがよい」
そうして自室に移動する蓮丈に電話が鳴る。

さらば〜地〇よ〜から始まるあの着うたが♪

画面には 「柔沢紅香」の文字が
871名無しさん@ピンキー:2008/04/01(火) 05:20:55 ID:ephGlYuJ
あんまり雨のSSってないのな
872名無しさん@ピンキー:2008/04/01(火) 11:49:38 ID:shfqgpPC
伊南屋さんGJ!!!
873名無しさん@ピンキー:2008/04/02(水) 00:15:35 ID:nkQxew/y
「どうして私はみんなに嫌われてるの??なんでこんな目に合わなきゃいけないの??」
少年A「おめぇ気持ち悪いんだよ!!」
少年B「そうだそうだ!!妖怪みたいな前髪してんじゃねぇよ(笑)」
少年C「貞子みてぇ(笑)」
一人の少女はよってたかって少年達にいじめられていた。

その少女は少年達が去った後、ベンチで泣きじゃくっていた。
「もうやだ。学校なんて行きたくないよ、なんで??なんで私ばっかり・・・」
そんな時、頭に何かが乗った。
(え??!また誰か来たの??)
恐る恐る顔を上げると、見知らぬ男の子が頭を撫でている。
(誰だろう??)
男の子は優しい笑顔で私を見てくれている。
(なんでだろう?どうしてか落ちつく)
それから男の子にいろんなことを話した。男の子はその時なぜだからアニメや漫画の話をしてくれた。
嬉しかった。こんな私に楽しい話をしてくれた。



だいぶ時間が経って日も沈みだし、二人は家に帰ることになり、
少女「そういえばお名前はなぁに??」
男の子「俺は×××だよ」













それから何年経ち、とある公園で。

雨「・・・ということがあったんです。」
ジュウ「そんなことあったんだな」意外な表情を浮かべるジュウ 。
874名無しさん@ピンキー:2008/04/02(水) 00:38:04 ID:nkQxew/y
雨「それから私はいろんなアニメや漫画を見て、今の雪姫や円のようにアニメや漫画好きなったんです」
ジュウ「へぇ。」
雨の顔はとても嬉しそうな表情をしていた。なぜだかジュウもその表情を見てなんとなく笑ってしまった。
ジュウ「そういえばその男の子とはどうなったんだ??」何気なく聞いた質問だったが、対する雨は。
雨「今でも会ってますよ」
内心ジュウとしては少し嫉妬心のようなものがあったが、あえて口に出さず、
ジュウ「そっか」 とそっけない返事をした。

ジュウ「んじゃ行くか。明日は円堂の誕生日プレゼント買いに行くんだっけ??」
雨「はい。ジュウ様に付き合っていただくなんて申し訳ないです」
ジュウ「まぁ暇だったし、それに・・・」少し顔を背けながら
雨「??」
ジュウ「いつかお前に買ってやるプレゼントの参考に・・・」ボソボソ言ったので雨に聞こえなかった。
雨「どうしました??」不思議な感じで聞いてくる雨。
ジュウ「な、なんでもねぇ。帰るぞ」

そそくさ歩き出すジュウ。
雨「はい。参りましょう」笑顔で後ろをついていく雨。
ジュウについていきながら雨は思った。
(ジュウ様が覚えていなくても私は忘れていませんよ)
875名無しさん@ピンキー:2008/04/02(水) 00:45:02 ID:nkQxew/y
あの日の夕方・・・・

少女「そういえばお名前はなぁに??」

男の子「俺は柔沢ジュウだよ」


不良のジュウと奴隷の雨。
いつもと変わらず二人はいつもの道を帰っていく。























近くの電柱から覗く人影。
光「お姉ちゃん、またあんな金髪不良男児と帰ってる!!」「・・・・・・・・・・私も誘えばアイツと・・・・・・・・」

光の日々も続いていく。


【完】
876名無しさん@ピンキー:2008/04/02(水) 01:15:26 ID:IKpugPGZ
>>875
おつかれ
後日、光がデートに誘うのですな。
その帰りの電車の中でまた柔が痴漢に間違えられて光が・・・
877名無しさん@ピンキー:2008/04/02(水) 01:19:00 ID:nkQxew/y
この話の展開はボツかな??なんとなく書いてみたんだけど。やっぱクソ話??
878名無しさん@ピンキー:2008/04/02(水) 01:26:57 ID:Icvl/zeH
>>875
こうだろうが

『じゃあお前この首輪なんてどうだ』『ああ、ジュウ様素敵です……』
        

   そんなの、ご褒美になっちゃう!!」
879名無しさん@ピンキー:2008/04/02(水) 07:05:54 ID:Zo8YPJ0H
>>878
光はまたネタかよ!!
880名無しさん@ピンキー:2008/04/03(木) 01:54:32 ID:2bB3whWN
光ほど愛されてるネタキャラはいない
881名無しさん@ピンキー:2008/04/03(木) 19:44:26 ID:yYMP0XyD
そろそろ新スレ立てる?
あと一週間くらいは保ちそうだけど、職人さんに残量を気にさせるのも悪い気がして。
誰かできる人いる? たぶんこっちで出来ると思うけど、スレ立てたことないんで…。
882名無しさん@ピンキー:2008/04/04(金) 00:21:58 ID:Ca59va6X
この勢いなら950くらいからでも充分だと思うけどな。
883名無しさん@ピンキー:2008/04/04(金) 00:23:00 ID:FJLdNpHj
容量がやばくない?
あと7kbで次スレまで持つかね
884名無しさん@ピンキー:2008/04/05(土) 23:49:20 ID:insHwkzu
ちょっと立ててみた。
885884:2008/04/06(日) 00:11:32 ID:XTY0lBTp
【電波的な彼女】片山憲太郎作品【紅】 3冊目
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1207406903/l50
肝心なとこ忘れてた。
886伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/04/06(日) 00:39:12 ID:0T5nahuO
新スレの方にRR外伝第六回投下しました。
887伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2008/04/06(日) 00:39:51 ID:0T5nahuO
>>885
すいません忘れてました。

GJ!
888名無しさん@ピンキー:2008/04/06(日) 07:04:01 ID:C7WXaiDh
んでは埋めに>827の続きでも。やっぱり青臭いジュウ雨。


 恣意的な解釈の入り混じって不安定な記憶を頼りにするならば、甘ったるい幻想に浸ったことなど
少なくとも中学以降は確実にないと思う。控え目に言っても高校以降。だと言うのに俺の寝覚めは
奇妙に安らいでいて、それは正しく甘ったるい眠気だった。起こした身体には寝汗もなく、ぼうっとする
頭も不快なほどのそれじゃない。十分な睡眠の後で自然と覚めた目、覚めた身体。どうしてこんなに
落ち着いているのか、どうにも理解が追い付かない。
 起き抜けは脳みそが情報をどこかに置き去りにしている、と俺はよく感じる。基本的な、刷り込まれた
ように染み付いたパーソナルデータこそ簡単に引き出せるが、それ以外となるとからきしだ。
具体的には、自分の名前は言えても、寝る直前の行動は思い出せない――とか。今日が何曜日
だったか。何時に寝たか。窓から入り込む日差しは明るく、太陽は中天に差し掛かっている。
学校はどうしたんだろう。そうか、今日は休みだ。週末。ならば俺は寝過したのだろうか。
それとも知らず、二度寝でも。

 目覚ましか携帯電話がないかと、シーツの上を手で探る。
 ふにゅりと生暖かいものに触れた。
 視線を下ろす。

 堕花雨が眠っていた。

 ああ俺が感じた甘ったるい安堵感はこいつの体温から来るものか。そんな理解を押し流すように、
怒涛の不理解が言語中枢を侵食して舌を痺れさす。なんだって俺の部屋の俺のベッドのしかも壁側に
堕花雨が横たわっているのか、なんだって俺は上半身に服を着ていないのか、なんだって俺の手は
雨の胸に触れているのか。最後の一つに関しては不可抗力に触れただけだと気付き、慌てて俺は
腕を上げる。柔らかい感触が微妙に手のひらに残っていて、顔いっぱいに熱が広がった。耳まで
茹でられたような気分になる。女の胸を触ったのは初めてだと気付いて、更に混乱が加速した。
なんだ。これは。どういう状況、だ。

「中々大胆な行動をするもんじゃないか、童貞の分際で」
「ッ!?」

 唐突に背後から強いニコチン臭が這い寄って来て、俺は慌てて振り向いた。
 佇んでいるのは、解り切っていたことながら、お袋だ。少しばかり皺が寄った赤いスーツ姿、
口元には火のついていないタバコが咥えられて、シニックな笑みすら浮かんでいる。肩を揺らして
可笑しそうに喉を鳴らしたお袋は、がっしと俺の前髪を鷲掴みにして顔を引き寄せた。煙草の先端が
鼻先に擦れるムズ痒さに、俺はやっと頭を醒まして腕を突っ張る。が、その腕はびくともしない。

「どんな感触だった? 着替えさせるのにブラ外させたからな、ノーブラだぞノーブラ。
柔らかくて照れちゃったか? まだ耳まで赤いぞ、青少年」
「う――うる、っせ! なんだこれ、どーなってる!?」
「騒ぐな馬鹿が、堕花が起きるぞ」

 容赦ない右ストレートで強制的に黙らされた。
 寝起きには流石に効いた。
 お袋はフンと鼻を鳴らしてから、思い出したように煙草に火を点ける。

「大体状況の所以を聞きたいのは私の方だ。朝に来てみたらお前が堕花に寄り掛かって眠っていた
んで、堕花に説明を求めたんだが、お前が求めたとしか言わなかったぞ。体勢が寝苦しそうだったんで
とりあえずベッドに寝かせて、堕花を適当に言いくるめて着替えさせてお前の隣に寝かせたのは私だが」
「結局あんたかよ。しかも雨が着てるの俺のシャツだな」
「そうだ。お前のシャツを堕花がノーブラで着てる」
「…………」
「ああ、残念だがノーパンじゃあないぞ。流石にそれは警戒された」
「誰も期待してねえよ」
889名無しさん@ピンキー
 むしろ脱がそうとしたのか。
 にやにやと笑うお袋を無視して部屋を見渡すと、なるほど机に向かう椅子の上に、綺麗に畳まれた
セーラー服が置いてあった。その上にはシンプルな下着がくるりと丸められている。思わず視線を
逸らして、俺は殴られた頬を押さえた。熱をじんじんと溜めて行く皮膚とは別に、頭は冷静になっていく。
そう、思い出してきた。朝に眼を覚まして、雨が来て、そして、一緒に。
 思い出してみれば何の疑問もない。隣に眠っていたから何事かと動揺しただけのことだ。ふうっと息を
吐いて、俺はお袋を見上げる。携帯用の灰皿をポケットから出す途中だったお袋は、俺の目に気付き、
一瞬逡巡してから――煙草を指に挟み、あろうことか煙を思いっきり吹き掛けてきた。

「ッ、何すんだ」
「可愛げがなかったんでついな」
「この年でそんなんあるか。そもそも誰の子だと思ってんだよ」
「だからに決まってるだろ」

 くっくっく。お袋は笑う。

「私の息子の分際で、私の手より堕花雨に擦り寄ったんだ。そんな可愛げのない息子には、
煙ぐらい吹き掛けてやりたくなるね」

 昼食と夕飯の用意はしてあるから、二人で仲良く食うが良い。お袋は言い残してひらひらと手を振り、
部屋を出て行った。間もなく玄関の開閉音もあったから、恐らくはまた出て行ったんだろう。どこまで
気まぐれな女だと、呆れるよりも先に、俺はその言葉の意味を咀嚼する。
 お袋の手よりも堕花雨に擦り寄った。まさかあの女、寝てる俺に付き添っていたのか。あまつさえ
手でも伸ばしていたのか。子供扱いするように。子供のように。いつかのように怪我をしているわけでも
ない、休日の二度寝に浸る俺に。
 そして俺はそっちじゃなく、雨に擦り寄ったらしい。
 部屋にはお袋が残して行った煙草のニオイが広がっている。傍らを見下ろせば、雨は少しも呼吸を
乱さずにぐっすりと眠っていた。前髪が散って長い睫毛に縁取られた目元が覗ける。眼を閉じていても、
その端正さが解った。大きなシャツは肩幅が合わず、襟元からは胸が見えそうになっている。広がった
髪からは、シャンプーの甘い匂いが微かに香った。まどろみに感じた安堵感と、多分同じの甘ったるさ。

「……あー」

 込み上げる気恥かしさに、俺は意味のない唸り声を漏らす。

「雨、起きろ。昼飯にするから」
「ん……ん〜……」
「おい。……おーい、起きろー」
「んぅう……」

 ごろごろとむずがる雨の肩を揺すり、俺は声を掛ける。いやいやするように繰り返される寝返りは、
動物の匂い付けを連想させた。今夜ももしかしたら、雨の匂いは残るのかも知れない。体温はなくても、
その存在の確かな残滓として。煙草の匂いよりも、少しだけ強く。
 洗う予定だったシーツは、もう少しこのままにしようか。
 目を覚ました雨が寝てる間置き去りにしてしまった情報をもう一度脳に取り戻すまでの間、一通り慌て
ふためきながら布団に潜り込むのを見て、俺はそんなことを思った。

終わり。朝、昼と来たから、夜でエロまで持って行きたい かも