【涼宮ハルヒ】谷川流 the 36章【学校を出よう!】

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729非単調ラブロマンスは微睡まない 19:2007/01/22(月) 02:28:27 ID:hNuiLuYr

 三月。
 一生分のシナプスを繋ぎ終えてしまうのではないかというほど悩んだホワイトデーの贈り物も無事決定し、進級するに当たっておよそ全てのイベントを消化したと思われた頃に、そのお誘いはやってきた。
「あのぅ、キョンくん。悪いんだけど、また少しだけ、付き合ってくれませんか……?」
 申し訳無さそうに言う朝比奈さんを見れば、未来的用件だということはすぐに察しがつこうというもの。
 これがハルヒの、繋げる回路を三キロメートルほど間違ったような誘いなら即刻唾棄する所だが、エンジェルの頼みとあらば話は別口だ。どこまでだって延長ケーブルを繋げよう。
 今みたいに二人っきりの部室でお茶を嗜むのもいいが、未来のために手を取り合って励むのもオツなもんさ。大事な部分は二人ってとこで、他は何しようとオマケみたいなものだ。
 俺は不埒な考えを尾も出さず、自分ではそこそこ決めているつもりの笑顔で頷いた。
 するとどうだろう。朝比奈さんはやんわりと毛布のように微笑むと、そっと俺の手を包み込む。これだけでも頷いた甲斐はあろうというものだ。
 一人で悦に入っている間に、例のきつい立ち眩みが襲ってきた。いい加減御馴染みになってもよさそうなもんだが、いつまで経っても慣れないこの感覚。
 頼りない上下左右がぐるぐると回り、NASAの訓練にでも使えるんじゃないかというほど脳内がシェイクされる。
 吐き気を催しながらも、滅多に触れることのできない朝比奈さんの肌の感触をしっかりと確かめながら耐える事しばし。 
 なんか移動がいつもと比べて長くないか、と俺が疑問を抱いた、その次の瞬間、それは起こった。
「…………ーーっ!!」
 今までとは段違いの、もう立ち眩みとは表現できないような激しく不安定な感覚。
 世界に何かが圧し掛かって海に転覆させようとしている。
 イカれたジェットコースターがスペースシャトルに接続されたような、猛烈な揺れだか上昇だか落下だか、とにかく何もかもが無茶苦茶だ。
 細胞一つ一つに乱方向でくっついた力場に、体をちぎれんばかりに引っ張られ、何かを考えることも不可能で、俺はただ、このままじゃ死んじまう、と本気で思っていた。
「誰…………が、異常な…………! ……ットワークに……生? …………どう……っ!!」
 傍にいるはずの朝比奈さんの声は、遥か遠くなったかと思えば、耳元に大音量で響くほど近くなったりして、何を言っているのかまるでわからない。
 握り締められた俺の手には爪が深く食い込んで、ひどく痛かった。
「そんなのは…………から早く引き……て!! この…………ョンくんが、キョンくんがどこ………って……!!」
 全てがブレて、一点に集中し始めた。閉じた瞼の奥で眼球がぐるぐると回り、そこを中心に体と体のまわりの全てが渦に飲み込まれていくような感覚だ。
 神経は鳥肌を立てた瞬間の掻痒感に囚われ、あべこべに繋ぎなおされていく。
「……せん……い…………………ら!」
 そして次第に、何もわからなくなっていった。
 ここはどこで、何だ? 
 自分が幾つも見つかって、誰がどれなのか、何がそうしていたいのか、脳の電流はどこを通してどいつに向かう?
「離し……ダメ! お願い! …………ないで!!」
 離す? 何を? 俺は何か握っているのか? 
 どれだ、どの俺がどれをどうしてどんな物を一体どこで、
「誰か! 早く誰か助けて!!」
 泣きそうな声がはっきりと聞こえたのを最後に、とうとう耐えられなくなった俺は、手を離してバラバラになった。 

730非単調ラブロマンスは微睡まない 20:2007/01/22(月) 02:29:28 ID:hNuiLuYr

 次に俺が目を醒ましたのは、自宅のベッドの上。
「キョンくーん、朝だよー!」
 いつもと同じような妹の声で起こされた俺は、べたつく目を半開きにしたまましばらくぼんやりしたあと、慌てて飛び起きるなり自分の体を確かめる。
 ……ちゃんとある、よな。
 さっきまでろ過された砂粒ぐらいに破砕されてたような気がするが、どうやら勘違いだったらしい。
 俺は胸を撫で下ろし、そのままベッドに倒れこんだ。
 変な夢を見たせいか、起きぬけとは思えないほど疲れきっていた。心身ともに御影石を丸呑みしたかのような重さだ。
「こらー、キョンくん! 二度寝しちゃだめ!」
 兄の心中を慮ることなく、妹は布団をめくりあげる。てか寒っ!
 俺は丸まった姿勢で寝転がったまま妹の手から布団を取り返すと、
「今日は具合悪いんだ。もうちょっと寝かせてくれ」
 いつもと違い、あながち嘘ってわけじゃない。
 妹も野生の勘でそれに気づいたのか、うー、と唸ったあと、控えめに尋ねてきた。
「でも、本当にいいの?」
 何だそのおずおずとした物の言い方は。俺を寝坊させないための新しい作戦か。
 小賢しいやつめ、と思いながらも、寝返りを打って妹の方を振り返り、
「……何でそんなこと聞くんだ」
 妹は、珍しく困ったような顔をしながら、
「だって今日、入学式だよ?」
 その言葉を聞いて、俺の眠気はすぐに消し飛んだ。
 今日は入学式。
 一体、誰の?


 結論から言うと、その日は俺の入学式だった。
 暗い気持ちで坂道を登り、そしてハルヒと出会った、あの入学式である。
 知らぬ間に一年前に戻っていた事を知り、あれがどうやら夢ではなかったようだと気づいても、他にどうすることもできず、坂の角度を憂う代わりに途方も無い不安を抱えながら学校に向かった俺は、不安が的中していた事を知った。
 一年五組の、見慣れたクラスメイト達。
 しかし、俺の後ろでトンチキな自己紹介をぶちまけるはずの変態娘は、どこにもいなかった。朝倉涼子さえ、そこにはいない。
 普通の自己紹介が披露されるたび、原因不明の焦りが俺の心に募っていく。
 オリエンテーションが終わり、同じ中学だった友人との挨拶もそこそこに、俺は谷口に詰め寄った。
「涼宮ハルヒを知らないか?」
 谷口は目を白黒させ、気押されたように口を開く。
「いや、知らないけど……」
 思わず膝を落としてしまいそうになった。
 それでも俺は、失礼を詫びる言葉を残して、二年生の教室へと向かった。途中には一年九組があって、そこに古泉はいなかったけど、少しだけ気分が楽になる。
 しかし、朝比奈さんがいる筈のクラスに行っても、愛らしい未来人はどこにもおらず、不躾な新入生へ向けられた奇異の視線の中に見知った長い髪の上級生も混じっていて、俺は逃げるように教室を出るしかなかった。
 念のために立ち寄った部室には、テーブルと椅子があるだけで、読書家の宇宙人の姿は見当たらない。
 そりゃそうだ。まだ入学初日だし、部活に入部できるのはもう少し先のことなんだから。
 パソコンを立ち上げてみても、旧式のOSがむき出しのデスクトップを表示するだけで、どこにも特別なプログラムは見当たらない。
 俺はなんとか胸中に燻る不安を消したくて、長門のマンションに向かって走り出した。
 ハルヒの使った手でまんまとマンションの中に押し入り、708のチャイムを鳴らし、硬いドアをノックする。
 誰も出てこなかった。
 しつこくドアを叩く音を聞いて出てきたのだろう、隣の部屋の若い男性は、その部屋が空き部屋だという旨だけ怒鳴りつけると、すぐに引っ込んでしまった。
 念のため訪れた505の部屋には、年配の女性が住んでいて、朝倉涼子なんて聞いたことも無いという老女にお茶をごちそうになってから、大きなマンションを後にした。
 希望の糸が一本一本耳障りな音を立てて切られていくなか、崩れる足場から逃れるために女子校のままの光陽園学院に赴き、出てくる生徒に片っぱしから涼宮ハルヒの名前を尋ねていく。
 誰も首を縦には振らなかった。
 やがて、不審な人物の話を聞きつけた教師が校舎から現れるのを見て、俺は慌てて逃げ出した。
 見慣れた景色が、まるで違う世界のように追い立ててくる。
 俺は一人だった。
731非単調ラブロマンスは微睡まない 21:2007/01/22(月) 02:30:54 ID:hNuiLuYr

 それでも、最初はまだマシな方だった。
 個人的な事情なんて省みず時間は流れていくわけだし、学生らしく毎日学校に通っていれば、嫌でも健康的な生活を送らざるをえない。
 部活にも入らないまま、やった覚えのある授業を諾々と繰り返し、クラスメイトともそこそこの関係を結んで、日々平穏に過ごしていると、自分がどこにいるのか忘れそうになるぐらいだ。
 俺は記憶が鮮明なうちに、と思って、大きなスクールカレンダーを購入し、そこに覚えている限りの予定を書き込んでいった。どこに行った。何をした。
 席替えの時、くじ作りを手伝う振りをして窓際の一番後ろを抜き取って自分のものにしたりもした。
 ここにいれば、きっとそのうち朝比奈さんか長門か、ひょっとしたら古泉でも、俺を元の場所に連れ出してくれるに違いないと信じていたからだ。
 しかし、ゴールデンウィークを越え、古泉が転校してくるはずの日もあっけなく過ぎ去り、世界が瀕死の危機を迎えたあの夜も明けきってしまうにつれ、俺は段々と追い込まれていった。
 そして、夏を目前に控えたある日の放課後。 
 ブラバンの演奏が遠くに聞こえる中、俺は文芸部室へ向かっていた。
 未だに誰も訪れない文芸部室を、俺はそれまで定期的に掃除していた。SOS団抜きの放課後の長さは想像以上であり、それを埋め合わせる意味で始めた習慣だ。
 いつもどおり途中で拝借したバケツを片手にドアノブを握ると、部屋の中から誰かの話し声が聞こえてきた。
 ……まさか。
 一瞬期待して、でも期待しすぎないように、ゆっくりとドアを開く。
 果たしてそこにいたのは、見たこともない男子生徒三人組で、そいつらはあろうことか、部室に置かれていた本棚を運びだそうとしていた。
「お前ら、なにやってんだ!」
 俺はバケツを放り出して、倒した本棚を持ち上げようとする男に掴みかかった。
「な、何って、これを図書室に運ぶんだけど……」
 驚きの混じった声で、わけのわからないことを言う。
「それはこの部屋の備品だろ? 何で運び出したりするんだよ!」
 ああ、と一人離れた所に立っていた男がこちらに近づきながら、
「文芸部はもう廃部が決まったんだ。今年は新入部員も入らなかったしね。この部屋の備品は、図書室に持ってくことになってる」
 生徒会の役員らしいそいつは、面倒くさそうに顔をしかめると、
「新しいの買えばいいのに、とんだリサイクル精神だよ。一々手間のかかることをさせて」
 何でもないそんな物言いが、この時はどうしょうもなく気に食わなかった。
 リサイクルだ? ふざけたことを抜かすじゃねえか。
「あんたも私物を置いてるんなら、今の内に持っていった方が……」
 俺は何事か言おうとするそいつの胸倉をあらん限りの力で掴み上げ、脅しつけるように言った。
「文芸部には俺が入部してやる。今からここは俺の部室だ。だからお前ら、この部屋の物に触るんじゃねえ」 
 目を見開いて黙り込んだそいつを部屋の外に引きずり出したあと、残った二人も同じように叩き出して、倒された棚を必死で立て直す。 暗くなると、パイプ椅子に座って窓の外を眺めながら、俺は少しだけ泣いた。
 
732非単調ラブロマンスは微睡まない 22:2007/01/22(月) 02:31:26 ID:hNuiLuYr

 翌日、いつか長門に渡されたのと同じ入部届けに、今度は『文芸部』と書いて担任に提出した俺は、それからしばらく学校を休みがちになる。
 何をしていたのかと言えば、まず、電話帳を開いて団員と同じ苗字の人に片っぱしから電話をかけていた。特に涼宮と古泉。
 未来から来たわけでもなく宇宙人でもない二人なら、ここにいてもおかしくないはずだ。
 しかし、懐かしい声が携帯から聞こえてくることは無かった。
 電話の次は、皆で訪れた場所を一人で回ろうと決めた。ハルヒが消えた冬のパソコンみたいに、どこかに何かの手がかりが残されているかもしれない。
 先立つものを用意するために日雇いのバイトで金を貯め、さすがに孤島は無理だったが、鶴屋家の別荘までは行くことができた。生憎と、中に入ることはできなかったんだが。
 そんな風に過ごしている内に家族が本気で心配し始めたので、今度は毎日学校に行くことにした。しかし、ただ行くだけで、授業にも出ず部室でぼーっとしていることの方が多かった。
 出席簿には、バツ印が重なっていく。
 幸い、というか、どうでもいいことなのだが、単位を落とす事は無かった。テストなら勉強しないでもある程度できる。答えを事前に知ってるからな。 
 おかげで教師からの信頼は綺麗さっぱり失ったが、クラスメイトは成績優秀な怠け者だと受け取ってくれたらしく、特に扱いが変わるわけでもなかった。まあ当然だ。俺はどう見ても不良って感じじゃない。
 ただ、同じ中学の奴は何かと心配してくれたみたいで、特によく部室を訪れてくれる国木田には感謝しながらも、誤魔化すしか術が無かった。
 部室に鶴屋さんがやってきたのは、そんな夏の日のことだ。
 
733非単調ラブロマンスは微睡まない 23:2007/01/22(月) 02:32:11 ID:hNuiLuYr

 昼休み。部室で弁当を食べ終え、窓際で食後の読書に勤しんでいると、歴史の授業に便宜上使用される地図帳ぐらい滅多に開かない扉が、錆びた音を立てて開かれる。
 現れたのは、いつも元気で快活だった、きっとこっちでも同じように元気で快活なのだろう、そんな上級生だった。
 人形についたボタンみたいにぱっちりした目で俺を見つけるなり、肩まで捲し上げた夏服のしわを伸ばすように片手を挙げ、彼女は笑う。
 こんな距離で目を合わせるのは、実に数ヶ月ぶりだった。
「お! キミが例の……えーっと、キョ、キョ、……キョンくんだねっ」
 俺は呆然としつつも、鶴屋さんがここにいることを不思議に思っていた。
 教師に目をつけられないため、俺がここにいるってことは信用できる奴にしか教えていない。それが、どうして。
 俺の目に浮かんだ疑問を読み取ったのか、鶴屋さんは勝ち誇るように笑うと、
「谷口くんに聞いたら、しゅしゅっと教えてくれたよっ!」
 あの野郎、可愛い子の頼みだけはザルで聞きやがる。今度安物のコーヒーフィルターでもプレゼントしてやろう。
 俺はため息をついた。飼い慣らされた子猫みたいに無遠慮に近づいてくる鶴屋さんを改めて見るにつけ、気が重くなるのをひしひしと感じる。
 正直、鶴屋さんとはあまり顔を合わせたく無かったのだ。SOS団の近くにいたこの人から他人行儀な顔をされるのは、あまりにも辛い。
「……誰か知らないけど、俺に何か用でもあるんですか?」
 こんなことを言わなくちゃならないのも、結構きつかったりする。
 意識して無愛想に接する俺を、硬くて掘れない地面の上でもがくモグラを見下ろす鳥のような笑いを浮かべ、鶴屋さんは言う。
「おや、自己紹介せにゃなんないの? あたしのこと知ってるくせに?」
 思わず声をあげそうになった。
 この鶴屋さんは、自分のことが俺に知られているとは思わないはず。なんせ、会って話したことすらない。
 なら、ひょっとして……
「キミさぁ、こないだうちんとこの別荘に来てたっしょ? 防犯カメラに、ばっちしくっきり写ってんだっ」
 俺はいい加減学習した方がいい。ここにいるのは、SOS団の名誉顧問じゃないんだ。
 こんな気分になってしまうから、会いたくなかったのに。
「さあ、覚えがないですけど。人違いじゃないんですかね?」
 ここはとぼけといた方が賢明だろう。妙な疑いを持たれるのはさすがにまずい。犯罪者になるのは、普遍的にごめんだ。
 しかし、鶴屋さんは甘いねっ、と言わんばかりに指を突きつけながら、
「いやいや、キミの顔は間違えないよっ。前からキミのこと、色々チェックしてたんさっ」
 チェック? どうして鶴屋さんが俺を気にするんだ? ここに来て接点を持ったことなんて、一度も無かったはずなのに。
「すげー興味あるんよねっ、キミのこと。入学式の日にうちのクラスに来たキミだっ。あん時もあたしの顔見て、すぐ出てっちゃったっしょ? あたしに言いたいことでもあるんかな、とか考えてたら、気になって寝れないのさっ!」
 ああ、あの時か。しかし、一瞬目を合わせただけなのに、相変わらず鋭い人だ。ひょっとしてカボチャの気持ちとかもわかってしまうんじゃないだろうか。
 内心感嘆の言葉を述べながらも、それ以上関わるつもりの無い俺が、誤魔化しを口にしようとすると、
「昨日も昨日でさ、途中で立ち止まっては、どっかをじっと見つめたり、ベンチをずっと触ってたり、ありゃ何のオリエンテーリングなのかなっ?」
734非単調ラブロマンスは微睡まない 24:2007/01/22(月) 02:33:14 ID:hNuiLuYr

 昨日?
 昨日は、確かに街に出て色々な場所を回っていた。たまに落ち着かない気分になると、一人で不思議探索の真似事をする時がある。しかし、そんなこと谷口にだって言った覚えは無く、したがって鶴屋さんが知っているはずが……
「あ、そうそう。ごめんだけどねっ、昨日尾けさせてもらってたからっ」
「……つ、尾けた?」
 万引きとかと同種の後ろめたさを秘めた言葉を、鶴屋さんはあくまでハキハキと、 
「たまたまぶらぶらしてた時、駅前で見かけたんさっ。じっと立ってたもんだから、ありゃ、誰か待ってるんかね、と思ってちょろっと眺めてたんだけど、いきなりふらりと歩き出すし、どうにも気になっちゃってねっ!」 
 ぺろっと長い舌を見せる鶴屋さん。でもそれって、犯罪に近い感じがしますけど。
「んにゃ、自白したから帳消しだっ!」
 いつの間に法律は力士のトランクス並に緩くなったのだろうか。
「ね、ね、キミっていっつもあんなんしてんの? 別荘んときもじっと建物を見てただけだったじゃん? ただの趣味ってわけじゃないよね?」
「いや、それはだから、つまりですね……」 
「隠したって無駄だかんねっ。キミからは、なんか面白そうな匂いがするんだっ! 独り占めしてないでさぁ、お姉さんにも教えておくれよ!」
 鶴屋さんは、画竜に点睛を入れる芸術家ぐらい真剣に、そして週末の子供のようにわくわくと輝く好奇心でもって、こちらの目を見つめてくる。
 耐え切れず外に目をやると、ここに来たばかりの頃咲いていた桜の木は、もうすっかり地味な緑色に覆われ、他の木と区別がつかなくなっていた。
 だから俺は、
「……本当に聞きたいですか?」
「うんっ!」
「ちゃんと最後まで、聞いてくれますか?」
「もちろん! あたしゃ中途半端が嫌いなんさっ! 地獄の果てまで初志貫徹だよっ」
 俺は、ゆっくりと口を開いた。
 別に鶴屋さんの好奇心に負けたってわけでもない。
 ただ、俺は誰かに知っておいてほしかった。自分がどこから来て、そこにはどれだけ楽しいことがあったのか。
 この頃になると、たまに考えることがあったんだ。ひょっとしたら、俺は頭がどうかしちまってるんじゃないかってな。
 宇宙人だの未来人だの超能力者なんてのは最初っからいなくて、ハルヒだって脳内劇場の登場人物に過ぎず、入学式の日に妄想に取り付かれた俺は、一人わけのわからない夢を見てるに過ぎなんじゃないか。
 笑い飛ばすには悲しすぎる現実。そんなもの、認めたくはない。
 だから、俺は話し続けた。自分の記憶が本物だと確信するために、脳のローランド溝をなぞる様に微に入り細に入り話しまくった。
 昼休みを経て、放課後も学校が閉まるまで話し続けた。 
 そして翌日。
 外が暗くなる頃、ようやく最後まで語り終えた俺に向かって、鶴屋さんは喝采の拍手を打ち鳴らす。
「すごいすごいっ! まるで違う世界の話みたいだっ! おもしれーっ!」
 飛び上がって喜ぶ姿を見ながら、俺は恐々と尋ねた。 
「……こんな話、信じてくれるんですか?」
 鶴屋さんは打つ手をぴたりと止めて、腕組しながら眉間に皺を寄せ、
「う〜ん、話は正直ちょっと眉唾っぽかったよ。あたしが出てんのも、何か変な感じだったし……でも、聞いてて楽しかったしねっ! そんなんが本当なら、サイコーだっ」
 そのまま頬を引き、ニッと見慣れた笑顔になって、
「それに、キミはずっと真剣だったっしょ。話してる時も、街を回ってた時も、ずっと真剣だった。だから他はうっちゃっても、キミのことは信用することにしたんさっ!」
 ちょっと待ってな、と言って部室を飛び出し、またすぐに舞い戻ってきたかと思うと、
「これ!」
 俺の鼻先に引っ付けてきたのは、草書体で『文芸部』と書かれた入部届けだった。
「異世界探し、あたしも混ぜてっ!」
 
 一人っきりだった文芸部員は、こうして二人になった。
735非単調ラブロマンスは微睡まない 25:2007/01/22(月) 02:34:08 ID:hNuiLuYr


 夏休みに入るなり、俺はやたらと豪華なクルーザーに乗せられて、例の孤島に向かった。もちろん鶴屋さんの根回しによるものだ。
 そこまでしてもらう必要は無いと言ったのだが、あたしが行きたいの一点張りで、どうしようも無かった。
 建物も何もない無人島で、俺たち二人は一日だけ泳ぎまくった。
 一日限りの合宿から戻ると、今度はプールに向かった。やはりアメフラシのごとく大量発生していたガキどもと共に即席ルールの水中サッカーで遊んだ。筋を軽く痛めた。
 盆踊り大会では、俺も無理矢理浴衣を着せられた。蓄えを全放出する勢いで豪遊したあと、ちゃちな花火をした。浴衣姿の鶴屋さんがポニーテールだったせいで落ち着かない気分だったことは胸の奥に閉まっておく。
 鶴屋山で虫採りもした。セミを棒受け漁で捕獲されたサンマのように乱獲し、にも関わらず一向にボリュームが落ちないセミの合唱を聞いていると、いつの間にか夜だった。
 キャッチアンドリリースの精神は、もちろん忘れない。セミにしてみたら、何がしたかったんだこいつらと思ったことだろう。
 鶴屋家の蔵にあった望遠鏡で天体観測をした。無愛想な宇宙人のことを話すと、鶴屋さんは会ってみたいと言ってくれた。
 バッティングセンターでまた筋を痛めた。カッコつけようとすると良いことがあった験しが無い。
 花火大会の日は雨だった。代わりに図書館に行って、元の世界で読みかけだった本を借りてきた。同じ内容。なのに、どうしてあいつらはいないんだろう。
 ハゼ釣り大会で鶴屋さんが優勝した。商品は最新型のデジカメ。何かあれば写真を撮るようになった。
 肝試しはちっとも怖くなかった。暗かったからかどうか解らないが、いつの間にか俺たちは手を繋いでいた。
 宿題も自力で全部終わらせた。二年生とは内容が違うので、写しあうことができなかったからだ。
 カエルのバイトはしなかった。さすがに鶴屋さんをあんな灼熱地獄に放り込むわけにはいかない。
 とにかく、五人だった思い出を、二人でやりなおした。
 帰るための手がかりを得ることはできなかったが、それでも楽しかった。
 もし一人だったら、俺は何をしていたんだろうか。想像すると、少し恐ろしい。


 やがて秋になり、文化祭が近づくと、流石に映画を撮るわけにもいかなかったので、予定を早めて機関誌を作ることにした。
 鶴屋さんはやはり抱腹絶倒の冒険小説を書き、俺は短い恋愛小説の代わりに、自分の実体験に基づいたSF小説を長々と書いた。五人分の文章だ。なかなか面白いものができたと思う。
 俺たちの小説に加え、無理矢理手伝わせた谷口と国木田の渋々な尽力もあり、紙面はかなり充実した内容となった。
 評価もそれ相応に高かったらしく、そのせいで図書部の教師に目をつけられた俺たちは、半ば強制的に図書部が発行する新聞とやらのコラム欄を担当させられることになったりもした。
 ステージを欠場したバンドは、一つも無かったという。
 

 そして、冬を迎えようとする頃。 
 自分の中に、鶴屋さんに対するある種の感情が芽生えている事を認めないわけにはいかなくなった。
 ずっと一緒にいてくれた上級生。
 情が宿るのも当然といえば当然で、どうしようもないことかもしれない。
 しかし、それだけだと思い込むのは、ひどく難しい事だった。
 鶴屋さんといるとき、元の世界のことを考える時間はいつの間にか少なくなって、俺はただ二人でいられることを、純粋に楽しんでいた。
 手段と目的の逆転。よくある話だ。
 カレンダーには、元の世界のものとは違う、新しい予定がどんどん増えていった。
 戻るために思い出をなぞっていたわけでなく、新しい思い出を作るために進もうとしている自分がいる。
 以前一度は否定した、常識的で退屈な世界を、あいつらの影も形もない世界を、俺は受け入れようとしている。
 それに気づいたからには、決断しなくてはならなかった。
 どっちにしろ、ずっとこのままでいいわけがない。それだけは、初めからわかっていたことだ。
 つまりは二択。
 あいつらを探し続けるか、それともここで生きるか。
 真面目に出席するようになっていた学校を風邪と偽って丸一週間休み、ろくに眠る事もできずに考え続けた末、俺は決めた。
 冬独特の、すべてが薄ぼんやりとした空気の中で、一つだけ確かなものがある。

736非単調ラブロマンスは微睡まない 26:2007/01/22(月) 02:35:14 ID:hNuiLuYr

 十二月初旬。
 昼はそこそこの賑わいを見せていた学校の近くの公園には、夜を間近に迎えるにあたり、さすがに子供たちも夕食に勝る価値を見出せなかったのか、人っ子一人見当たらなくなっていた。
 さらに、アリもキリギリスも凍死しそうな寒さを伴った空気は手入れを怠った五十代の肌のように乾燥しており、もう少し暖かい日にすればよかったかもしれない、と俺に思わせるには十分な天気。
 告白の成功率と気温の相関関係は多分誰も調べたことが無いだろうが、一々北極海まで赴いた上で愛を語られても迷惑としか思えないだろう。財布の中身ぐらいなら賭けてもいいぜ。
 心中で微妙にテンパりながら公園の真ん中につっ立ったまま、少しでも寒さを防ぐためマフラーの中に顔を埋めていると、
「ちわっ! 遅くなってごめんよっ」
 何枚着ているのか、張り切りすぎた雪だるまのように膨らんだ鶴屋さんが、ケーブル編みの柔らかそうな手袋を拝むようにこすり合わせながら、柵をまたいで小走りにやってくる。
 俺の前で急停止すると、足だけはそのまま小刻みに動かしながら、
「いはー、めっさ寒ぃー。キョンく〜ん、スキー合宿の打ち合わせなら、こんなとこでしなくてもいいんじゃないかな? それともあれかいっ? 寒さ先取りってことかいっ?」
 さすがに直球で行く勇気は持てず、そんな理由にかこつけて呼び出していたことを、すっかり失念していた。
 豆鉄砲を乱射されるハトのように慌ててフォローの言葉を入れようとすると、鶴屋さんはぐりんとした目を半分閉じて、
「キョンくん、何か隠してることあるっしょ?」
 ぐ、と詰まる俺を見て、きしし、と悪党っぽく笑うと、 
「うちら長い付き合いだからね、そんなんはばればれさっ。で、なになに? ひょっとして、何かサプライズあんのかなっ?」
 ビックリ箱を解剖しようとするやんちゃ坊主のように、目を輝かせはじめる。
 俺はそれを見逃さなかった。
 ここだ。この話の流れに乗るしかない。波乗りの神様よ、カメハメハ大王とか、とにかくその辺の偉人よ、俺にご加護を!
「……じ、実は、鶴屋さんに伝えたいことがあるんでふぇ」
 噛んだ。やはり一銭も投じたことがない連中に頼ってもダメだ。瀬戸際の教訓。大体何だよカメハメハって。親ふざけてんのか。
「でふぇ? キョンくん、今更語尾を変えて無理矢理キャラ変えんのは難しいにょろ。そういうのはさ、入学した時から決めとかなきゃね」 
 いや、キャラ変更の話とかじゃなくてですね。というか、語尾がでふぇとか抗菌物質のデフェンシンぐらいしか思いつかない。抗菌物質キャラ。未踏の領域だ。学校に巣食う不良共を一掃してくれそうな勇ましさがある。
 ……でもなくて。
 いかん。目の前の大仕事にびびってしまい、さっきから思考が逃避しがちだ。
 俺は絵に描いたようにキョトンとしている鶴屋さんを見ながら、マフラーが盗まれたバイクみたいな心臓の音に乗せて、自分自身に暗示をかける。
 やれ。もう吹っ切れ。一回噛んだら、もう何回噛んでも一緒だろ。もともと、そんぐらいみっともない方が分相応なんだ。
 一度大きく深呼吸してから、俺は一息に言う。
「今まで色々、俺のわがままに付き合ってくれてありがとうございました」
 噛まなかった。一筆書きのように滑らか。
「なーにっ、そのことなら気にしないでいいっていつも……」
 毎度のことを、とでも言いたげに俺の肩を叩こうとした鶴屋さんは、糸止めに繰られたように動きを止め、
「……今までってことは、ひょっとして、やめちゃうの?」
 俺は頷いた。鶴屋さんは一瞬顔を俯かせたが、すぐにまた顔を上げ、目の奥にいつに無く真剣な色を浮かべると、
「そか……じゃあ、文芸部も解散なのかなっ。今日はそれを知らせに?」
 静かに尋ねてきた。少しぐらい、寂しいと思ってくれているのだろうか。もしそうだとしたら嬉しいけど、同時に心苦しくもある。
 俺は、ちぎれんばかりに首を横に振った。
「帰ることを考えるのは、もうやめます。でも、文芸部はやめません」
 鶴屋さんは、英語のリスニングを聞かされるチェシャ猫のように何が言いたいのかわからないといった様子で、困惑と笑顔の間を彷徨っていた。
 もう、引き返す事はできない。
「帰るための手がかりとか、そういうの抜きで、鶴屋さんと二人でいたいんです」
 唾を飲み込み、乾いた喉を一度濡らして、
「俺、あなたのこと好きですから」
 それ以上目を合わせていられず、深々と頭を下げる。
「だから俺と、……その、こ、これからも一緒にいてください」
737非単調ラブロマンスは微睡まない 27:2007/01/22(月) 02:36:14 ID:hNuiLuYr

 俺の言葉が途切れるや、公園の中に忘れられていた静けさが、隅に追いやられた報復とばかりに殺到してきた。沈黙の針が冷えた耳を撫で回している。
 閉じようとしても言う事を聞かない瞼を諦め、自分のつま先を見つめながら、頭の中は熱暴走していた。
 ついに、言ってしまったのだ。
 ほとんど前フリなしの告白。こんなんでいいのか。いや、ダメだろ。雑誌の特集とかでダメな告白の仕方ベスト5とかにランクインされる感じかもしれない。
 まぁいいさ。断られる確率の方が高そうだってことは、事前に見当ついてたからな。二人っきりでもペースを崩す様子が無かったし、まず男として見られてないのは間違いなさそうだ。
 だからって、こっちで生きるという決意を変えるつもりはない。それはもう決めた事で、この告白は、決意表明みたいなものでもある。
 手がかり探しはもう止める。そうだな、文芸部としてもっと積極的に活動するのもいいかもしれない。コラムだって、始めてみれば楽しいもんだったし。
 その時、もう鶴屋さんは隣にいてくれないかもしれないけど、そんときゃ暇そうな谷口辺りを引き込んで、アホらしいことやるってのもいいかもしれない。
 でも、しばらくは何をする気も起きないだろうな。振られたくねえ。ショックで拒食症とかになったらどうしよう。まあ、そこまで繊細じゃないけどな。
 一呼吸の間に、幾つもの思考が並列処理で加速していく。
 そして、その内の一つでも何らかの結論を出す前に、
「こちらこそよろしく!」
 柔くて軽くて丸っこいものが、俺の腹の辺りにタックルをしかけてきた。
 一瞬わけがわからなかった。コチラコソヨロシク。何だそれ。南米の方の新しい王様の名前か何かか。コチラコソ王。どっちだ。
 いや、そんなことより見ろよ。鶴屋さんが俺に抱きついてるぜ。どうして? ホワイ? 映画の撮影?
 やがて、忙しく駆け巡っていた血液が深い場所に落ち着いていき、混乱の魔法をかけられたような頭にも、一献の冷静さが戻ってくる。
 ……成功。
 俺はそっと深く、コートの奥に隠された熱を確かめるように抱きしめると、口の中を思いっきり噛んだ。すげえ痛い。夢じゃない。
 脳からわけのわからない麻薬が飛び出して、ただひたすらにハッピーな気分だった。もし死ぬなら今がいい。何一つ悔いは残らないだろう。
 涅槃の境地へいざ旅立たんとしていると、抱きしめた背中が小刻みに揺れているのに気づいた。
「つつつ、鶴屋さん? どうなさりなさったんですか?」
 言葉がまったく覚束いていないが、それは置いといて、慌てて顔を下に向けても、卵みたいな形の頭頂部しか確認できない。
 ひょっとして、俺の体臭かったか? あんだけ風呂入ったのに。
 それとも、念のためと思って使った制汗スプレーがまずかったか? 一吹きもしなかったのに。
 完全にパニクっていると、ずずっと鼻を啜る音が聞こえ、途切れ途切れに吐き出される湿った声が、俺の腹部を暖めていく。
「だって、キョンくんいつも帰るために一生懸命で、そういうとこ好きで、でも、だから、あたしのことなんて、見てないんだろうなって思ってたから……」
 どうやら体臭は正常なようで安堵すると共に、こんな時どうすればいいかわからない自分の経験値の少なさに慙愧の念を抱きつつ、鶴屋さんの背中にまわした手を撫でるように叩く。
「機関誌、毎月発行しましょう。放課後は毎日打ち合わせですね。どっか取材に行くのもいいかもしれない。あと、旅行にも行きましょう。今度は俺の行った事無い所がいいです。でもなるべく、リーズナブルな所で」
 こうやって楽しいことを話してやれば、誰だってすぐ泣き止むさ。うちの妹から導き出された法則だから、互換性には乏しいかもしれんが。
 公園は相変わらず気圧に難癖をつけたいぐらい寒かったが、二人で一緒にいれば、実はそうでもないことに気づいた。


 それから、日々は目まぐるしく過ぎていった。
 放課後は部室で過ごして、夕方になれば一緒に下校し、休みになれば一緒に遊んで、暇なときにはメールする。
 クリスマスには調理室に忍び込んで手料理を振舞ってもらい、正月は初詣に行って、バレンタインには味のしないチョコをもらった。
 不思議なことなんて何一つ無い、十人並みの生活。手を握るだけで幸せになれる安易な人生。
 それでも俺は、ずっとここにいたいと願っている。
738非単調ラブロマンスは微睡まない 28:2007/01/22(月) 02:37:12 ID:hNuiLuYr

 フラッシュバック。
 やがて意識は現実と重なり、目の前に焦点を結ぶ。
「まず、現状を説明します」
 記憶と異なる、まるで大人になった彼女のように隙の無い厳しい顔のまま、朝比奈さんは口を開いた。
「あたしたちが時間航行をしている最中、STC間のネットワーク……我々のTPDDでアクセス可能な時空間領域に、情報生命体が寄生しました。コンピ研の部長さんや阪中さんの件を覚えていますか?」
 いまだ口を開く事ができない俺を待たず、朝比奈さんは続ける。
「あの時と同じです。規模が膨大になり、寄生対象が我々の概念装置に入れ替わっただけだと考えてください」
 情報生命体。像が自動的に結ばれる。馬鹿でかいカマドウマと、阪中家のルソー。
「情報生命体は、それがもともとの能力なのかそれとも寄生する事により何らかの変異を起こしたのか、おそらく後者でしょうが、ネットワークのあちこちに無数のリンクを貼り付けはじめました」
 この辺はさっぱり。他所に回して欲しい議論だ。 
「ここと同じような世界とのリンク。同位でありながら我々の歴史とは因果を共有しない、完全に独立した、ありえないはずの時空へのリンクです。平行世界の出現と考えてもらって構いません」
 ありえないだって? どうして。俺はここにいるのに。
「我々の世界に直結しうるリンクがこのまま増え続ければ、やがて可能性は限界に達し、急速的な収縮活動が行なわれると予想されます。そうなれば終わりです。全ては消え、宇宙は始まりの状態に戻るでしょう」
 世界の終わりに宇宙の始まりと来たもんだ。随分大仰な話じゃないか。
「幸い、寄生した生命体の位置は長門さんの協力で特定することができました。今ならまだ消去可能です。ネットワークが正常化されれば、リンクも有り得ないものとして消失するでしょう」
 そいつは良かった。何よりだ。
「次に、キョンくん。あなたのことです」
 俺のことはもういい。放っておいてください。
「あなたは情報生命体が寄生した際の時空震に巻き込まれ、存在が散り散りにされてしまいました。本来ならそこであなたは消えてしまう筈なのですが、何故かここ、元の時空と近似な時空で、あなたとして再生されています」
 どうやら俺は、よっぽど生き汚いらしい。
「おそらく、涼宮さんの力が何らかの影響を及ぼしているのだと思います。存在の上書きか、或いは二重化か。何にせよ、不幸中の幸いでした」
 涼宮。ハルヒの名前を他人の口から聞いたのは、一年ぶりだ。あいつは今、どこで何をやってるんだ? ちゃんと楽しくやっているんだろうか。
「情報生命体を消去すれば、この時空は実質的に消失します。涼宮さんの鍵であるあなたを、それに巻き込ませるわけにはいきません」
 ……待て。何だって? 
「朝比奈さん、この時空が消失って……」
「先に言っておきますが、あなたに拒否権はありません。無理矢理にでも連れて帰ります。これは、長門さんと古泉君を含めた、我々の総意です」
「な……!!」
 俺は立ち上がり、朝比奈さんにしがみつく。
「答えてください! この時空が消えるって、どういうことですか!」
 朝比奈さんは一瞬瞳を伏せたあと、すぐに毅然と俺の顔を見上げ、
「リンクが消失すれば、この時空は観測不能になるの。そうなれば存在しないも同然です。仮に情報生命体の能力でのみ定義されていた時空であった場合は本当に消える事も考えられます。どちらにせよ、結果は変わりません」

739非単調ラブロマンスは微睡まない 29:2007/01/22(月) 02:38:14 ID:hNuiLuYr

 消えるだって? 谷口も国木田も、家族も、鶴屋さんも?
「明日の夜、迎えにきます。その時までに、お別れを済ませておいて下さい」
「ま、待ってください! それ、その消えるとかって、何とかできないんですか!」
 俺が捲くし立てても、朝比奈さんはあくまで冷静に、
「不可能です。先ほど述べたとおり、情報生命体を捨て置くわけにはいきません」
「じゃ、じゃあ、こっちの人をあっちの世界に移すとか、とにかく、何か方法が」
「それも不可能です。ほら、見て」
 朝比奈さんは俺に向かって手を掲げる。街灯に照らされた腕は、指先から肩にかけて半透明で、体の向こう側の景色を透かしていた。
 絶句すると同時に納得した。だから、幽霊。
「膨大に増え続けるリンクのせいで時間航行は妨げられ、未来の時間の位置も不明瞭になり、通信も困難な状態です。加えて我々の時間移動プロセスは、このような事態を想定されて作られてはいません」
 朝比奈さんは腕を下ろすと、
「少しの間しか、異なる時空に留まることはできないの。長く留まりすぎると、弾きだされて消えてしまう」
 公園の時計にちらりと目を向けて、
「それに、一定時間ごとに元の時空に戻ってポイントを更新しないと、増え続けるリンクに押し流されて、どちらの時空も位置を見失ってしまいかねません」
「……なら、俺が戻ったって、消えてしまうだけじゃないですか」
「そうかもしれません。ですが、そうならない可能性も高いです。あなたがここで無事に存在しているのと同じように」
 ゼロより少しでも大きい数字を、ってことか。
 そんな、いい加減なことで…………第一、どうして、
「どうして、今更そんなことを」
 すぐに来てくれれば、俺は何も、
「今更なんかじゃ、ないんですよ」
 朝比奈さんは冷えた表情を俯かせると、懺悔するような響きでぽつりと零す。
「さっきも言った通り、時間移動は妨げられています。今時間平面を移動するのは、濁流に身一つで飛び込むようなもの。それでも、同時間軸上に存在する近似の時空に移動する事だけは、辛うじて可能でした」
「同時間軸……?」
 二年生への進級を控えた、三月。
「そう。キョンくん、あなたにとっては一年後のことだったかもしれないけど、あたしはあの日のうちに、あなたの元に向かったんです」
 ……そうだ。
 俺が妙な気配を感じたあの夜が、朝比奈さんと共に時間移動を行なった日だった。
 じゃあ何か。俺が一年かけて、もとの世界と重なる時間軸に戻ってきてしまったから、今なのか。今更、こんな……
「本当はすぐに連れて帰るつもりだった。でも、あなたはここで、新しい関係を築いていたから……ごめんなさい、キョンくんの部屋のカレンダー、勝手に見てしまいました」
 妹じゃ、なかったんだな。
「あたしは、ずっと迷って……できるだけ、ギリギリまで待ってもらいました。でも、もう限界です」
 俯かせていた顔を上げた朝比奈さんは、厳しい表情に立ち戻ると、
「いいですか。明日の夜、あなたを連れてもとの時空に戻ります。これは規定事項です。決して覆りません」
 朝比奈さんが目を閉じると、フィルムを炙ったように所々欠落していた輪郭は、次第に夜にぼやけて消えていく。
「待って、」
 こんな一方的な話だけしといて、行っちまう気かよ!
「待ってください朝比奈さん! 俺は、俺はもう帰るつもりは……」
 俺の言葉を待つことなく、朝比奈さんの体は風に吹かれるように一瞬で消えた。
 夜の公園で、俺はまた一人になった。
740非単調ラブロマンスは微睡まない 30:2007/01/22(月) 02:39:19 ID:hNuiLuYr

 春はうららかと言うが、うららかって一体どういう意味なんだよ。
 窓際でどうでもいいことを考えながら、紙パック入りのスポーツドリンクというアルミホイルに包まれた水羊羹のようにどことなく不自然さを感じさせる飲料で喉を潤わせていた俺に向かって、目の前でアップルジュースを嗜んでいた国木田は、
「で、昨日の手紙は結局何だったの?」
「ああ、ありゃ人違いだ。どうも送り先の宛名を間違えたらしいな」
 人間誰しも、間違いを起こすものさ。死後だってそれは変わらないみたいだぜ。
「ま、言いたくないならいいけどさ。一応、お払いとかしてもらった方がいいんじゃないかな」
 嫌だね。俺は困ったとき神に祈りはすれども平常時は無宗教かつ無信仰なんだ。妙な説法に札束をつぎこむつもりは無い。
「ダメだ。キョン、今度俺と一緒に寺に行くぞ。俺たち何か変なのに呪われてんだ。あんな山道、掘り返したら白骨死体の一つや二つ出てくるに決まってる。その内の一つが、俺たちの背中にくっついてんだよ」
 これまた紙パックのコーヒー牛乳を飲んでいた谷口が、正気の面構えで夢遊病患者のような妄言を吐く。そんなもん妄想だ妄想。行くんならお前一人で行ってくれ。
「バカタレ。憑いてるのはお前であって、俺はとばっちりを受けた形なんだぞ。お前が傍にいる限り、俺たちに明日はねぇ!」
 失礼な奴だなおい。そういうのが発展していじめ問題に繋がるんだぞ。
 俺は最後の一滴まで逃すまいと紙パックを握りしめつつ、
「わぁったよ。行く行く」
 行くから、必死な顔を接近させるのは止めてくれ。
「うん。やっぱり二人とも行くべきだよね。こういうのは、何らかの対処を受けたっていう意識が一番の薬だっていうし」
 訳知り顔で頷く国木田に、谷口は至って真面目に、
「何他人事みたいに言ってやがんだ。お前も寺に行くんだよ」
「え? 何で僕まで」
「お前もあの手紙に目を合わせただろ。呪われてるぜ、間違いなく」
「……どんな感染経路なの」
 谷口の奴、よっぽど幽霊を見たのがショックだったらしい。何でもオカルトの方向に結び付け始めやがった。こりゃ、こいつが変な宗教に嵌るより先に寺へ行かないとな。
「じゃあ、春休みになったら三人で行くか」
 寺に遊びにいくなんて初めての経験だが、何事も行ってみないとわからないからな。意外と日々の煩悩を白紙に戻すいい機会になるかもしれん。
「おっし、絶対な。国木田、お前もだぞ」
 国木田はさも気が進まなそうに渋々と頷くと、
「はいはい。わかったよ」
 谷口は、一年間刺さりっぱなしだったささくれが何かの拍子に抜けたかのように満足気な様子で、
「あー、これで寝る前に盛塩しないで済むな。いや、呪いが解けて悪いものが消えれば、アドレスを交換してから三ヶ月音沙汰無しのあの子からもメールが来るかも」
 それはもう諦めろよ、とは取り立てて言わない。どうせ言っても聞かないことは火に触ったら火傷するぐらい明らかだ。
「なに、その悟ったような顔は」
 国木田が、空の紙パックを指でいじりながら問うてくる。
「あいつアホだなぁと思って」
 まあ、プラス思考は悪い事じゃないけどな。俺が言うと国木田は、それこそアホらしいと言わんばかりに、
「今更気づいたの?」
「いや、再確認だ」
 俺たちは視線を交わしたあと、揃って肩を竦めると、あの子とやらがどんな子なのか聞いて欲しそうな谷口のために口を開くのだった。

741非単調ラブロマンスは微睡まない 31:2007/01/22(月) 02:40:08 ID:hNuiLuYr

 放課後から少しばかり時計の針を進めた時間。
 息を切らして部室の扉を開けると、
「あ、キョンくん、遅かったじゃないかっ。今日も部活中止になんのかと思ったよ」
 口を尖らせながらも、目元を緩ませる鶴屋さん。うぬぼれてしまいそうになる瞬間だ。
「すいません。ちょっと野暮用がありまして」
 俺が閉じられたノートパソコンに目を向けると、鶴屋さんは餌を一人で獲ったインパラの如く誇らしげに胸を張り、
「あたしの分は終わったよ! あとは印刷するだけっ!」
 ひょっとして、昨日も一人で書いていたのかもしれない。悪い事をしてしまった。こんな寂しい部屋に一人でいるのは、それほど楽しい事じゃないだろう。
「じゃあ、今日はのんびりしましょうか」
 俺の分の小説は既に書き溜めてあるので、その内の一つを出せばいいだけだ。なんせ荒唐無稽なSF小説のネタに関してだけはストックが幾らでもあり、詰まるという事が無いからな。
 鶴屋さんの横に座り、憂いの欠片も見当たらないような笑顔を眺めながら、どうでもいい言葉を交わす。
 考えてみれば人生においてどうでもいい会話が占める割合はことのほか多く、それでもまだ政治の話とかできればまだ建設的なんだろうが、今のところそんなのは授業でやってれば十分だ。
 この点については他の多くの学生から賛同を得られると思うね。
「ね、ね、キョンくん。来年新入部員がはいったらどうするっ? 大所帯になるかもしんないよっ」
 で、気づいたらこんな話になっていたりする。
「誰も入れません。拒否します」
 先日密かに決定した事項だ。
「え、なんでさっ?」
 そんな普通に聞かれたら答えに窮してしまうんだが。そのぐらい察して欲しいと思うのは我がままなのだろうか。
 鶴屋さんは口篭る俺を見て、サディスティックな笑みを浮かべながら、 
「こゆことできなくなるからかい?」
 いきなり耳に生温い息を吹きかけてくる。わかってて聞いてきたな。たまにSスイッチが入るから、この人は油断できない。
 しばらく身もだえしていると、今度は俺の膝の上に乗っかってきて、脇をくすぐりはじめた。
「ちょ、ちょっと、鶴屋さん、くる、くるしいですって!」
「うひゃひゃひゃ! ここかいっ? ここがいいのかい?」
 傍から見たら何やってんだこいつらと思われるだろうが、俺たちは暇な時大抵こんな感じなのである。
 で、それにも飽きたらいそいそと本を読み始める。
 当初は空っぽだった本棚も、俺たちが少しづつ持ち寄る事で、本棚としての役割を次第に果たし始めていた。
 ただ、俺もそうなのだが、特に鶴屋さんは面白ければ何でもOKという人なので、様々なジャンルが無秩序にひしめきあって、凝り性の人が見たら思わず整理整頓したくなること請け合いだ。
「キョンくん、読むのめっさ早いなあ。もうちょっとゆっくり読んでおくれよう」
「じゃあ鶴屋さんが持って下さいよ」
「やだねっ」
 俺の膝に座ったままで、だだをこねて足をバタつかせる鶴屋さん。人間椅子になってしまったような気分だ。というかそのまんまなのだが。
 色々と我慢を強いられる姿勢なのだが、これはこれで顎を鶴屋さんの肩に乗せて楽できるため、密かに気に入っていたりする。
 水を打ったように静かな部室に、紙の摩擦音が聞こえている。遠くからはブラバンの練習音。低い音や高い音が重なり、頬には絹のような感触がさらさらと流れ、どこまでも眠気を誘う。
 そのためか、いつもは鶴屋さんが俺の腕にもたれかかって寝てしまうか、もしくは俺も後ろにのけぞったまま眠ってしまうことが多々あるのだが、今日は珍しく最後まで一緒に読んでいた。
 さすがスペクタクルアクション巨編。帯に偽りなし。
「あたしらってさ、結構バカップルだよねっ」
 鶴屋さんが漏らしたとおり、やはり俺たちはバカップルなのかもしれないが、自分で認めたら最後の牙城が崩れるので認めない。


742非単調ラブロマンスは微睡まない 32:2007/01/22(月) 02:41:18 ID:hNuiLuYr

 部室で本に読み嵌ってしまったせいもあり、鶴屋さんを家の前まで送る頃には、もう七時を大きく回ってしまっていた。
 人の声は少なくなったせいか、虫の涼しげな鳴き声が、門の向こうの前庭からよく聞こえてくる。
 俺たちは自転車の傍で蹲ったまま、そんな音を聞いていた。はしゃぎすぎて疲れている体にはいい薬だ。総天然マイナスイオン。
「うっひゃー、お腹空いたなー。ねえ、キョンくん? あたしん家でご飯食べて行くかい?」
「つかぬことを聞きますが、今日お父様はご在宅ですか」
「うん。ばっちしいるっさっ」
「じゃあやめときます」
「うわ、ださいっ。キョンくんビビリにょろ〜」
 女性にはわからないんだ。父と言う鋼鉄装甲の如き壁が。しかも鶴屋さんのお父様と言えばこんな大きな家を建てるぐらいの傑物であり、俺なんて指先一つでダウン間違いなし。
 想像だけで敗走してしまいそうになる自らの小さな肝っ玉を恥じ入りつつも、モラトリアム的考えでこれから大きくなるだろ、とか暢気に考えていると、ブレザーの袖がそっと引かれた。
「もし、もしキョンくんがよければなんだけど。あたし本当にさ、おやっさんに紹介したいって思ってるんだけどなっ」
 恐る恐る、といった様子で、俺の顔を覗きこんでくる鶴屋さん。
 何も恐れることなんて、ありはしないのにな。
 答えのかわりに、俺は鶴屋さんを抱きしめ、
「へ?」
 そのまま持ち上げて、再度自転車の後ろに座らせる。
「ちょ、ちょっとキョンくん、どうしたの? あたしんち、ここなんだけどなっ?」
「旅行」
「りょこう?」
「二人で旅行に行きましょう」
「へ? ……い、いいけど、どこに?」
「どっかに」
「どっかにって、そんなやっつけな、あ、うわわっ!」
 ペダルに力を込め、地面を蹴って走り出す。慌てた鶴屋さんの腕が、俺の胸に巻きついた。 
「りょ、旅行って、ひょっとして、今からなのっ?」
「当然です」
 命短し走れよ男女。有り余る時間をわざわざ無駄に過ごすことはあるまい。
「ちょ、ちょっと待ってよキョンくんっ、そんな急に、いや、二人で旅行にはすごい行きたいけど、今日じゃなくったっていいんじゃないかなっ」
「今日行きたいんです」
「でもでも、ほら、家族が心配するんじゃ」
「あとで両家とも俺が責任持って連絡します」
「うっ……で、でもさ、着替えとかも、ほら、女の子には準備が色々……」
「全部現地調達で」
 何のためにこつこつ貯蓄していたかと言えば、それは正にこの日のためである。
「……う〜、だって、まだおやっさんに紹介もしてないのに、いきなりお泊りなんてさ、」
「旅行が終わったらその足でお伺いさせていただきます」
 何なら紋付袴だって用意しよう。
743非単調ラブロマンスは微睡まない 33:2007/01/22(月) 02:41:49 ID:hNuiLuYr

 それから車輪の音だけが続き、やがて、回された腕に力が籠もる。
「キョンくん、さっきまでビビリだったくせに、いきなり超強引だね」
 俺にだってそんな気分の時があるんですよ。彗星が接近してくるぐらいの頻度ですけど。
「昨日様子が変だったことと、関係あるのかなっ?」
 いえ、全然。以前から計画してたことです。意外と後先考えるタイプですからね、俺は。
「……ははっ、確かに結構そういうとこあるよね、キミはっ!」
 鶴屋さんはどうやら立ち上がったらしい。俺の肩をばしっとはたくと、
「おーっし! じゃあ温泉にでも行ってみるかいっ?」
 いいっすね、名湯巡り。戻ってくる頃には、お肌が生まれ変わってますよ。
「よぅっし! 目指せ美肌! さしあたっては、駅へゴーゴーだっ!」
「お任せあれ」
 歌でも歌いながら行けば、あっという間に着きますよ。
「ええっと、温泉だから……じゃあ、『She Came in Through the Bathroom Window』でいっとくかいっ?」
 それ温泉どころか風呂ともあんま関係ないです、と俺が教示する前に、鶴屋さんの歌は始まってしまっていた。
 近所迷惑なので良い子は真似しないようにしてほしい。
 まあ、三曲目から一緒に歌ってしまっていた俺が言えた義理じゃないんだけどな。
 つられてしまったんだからしかたない。流されるのは得意なんだ。それに恥の一線を越えてしまえば、あとは楽しいだけだった。
 たまに車や自転車なんかが大声で歌いながら走っているのを見るにつけ、丸聞こえなんだけど恥ずかしくないんだろうか、と斜に構えていたが、ここは俺が謝る所だろう。済まん。悪かった。
 なるほどラブアンドピースを叫びたくなるわけである。歌を歌いながら走る道のりは素晴らしい。鶴屋さんはともかく、俺の歌がはた迷惑であることは否めないが、それでも声を張り上げる。
 駅に向かう一本道の下り坂は一夜限りのステージと化し、そしてそのステージは、鶴屋さんの悲鳴で唐突に幕を閉じられた。
 
744名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 02:44:16 ID:rNULwUWv
四円
745非単調ラブロマンスは微睡まない 34:2007/01/22(月) 02:45:21 ID:hNuiLuYr

「キョンくん! 前!!」 
 今まで誰もいなかったはずの空間。自転車の鼻先に、手を広げた朝比奈さんの姿が現れる。
 くそ、なんて無茶を!
「っ!」
 反射的にハンドルを捻じ曲げ、車体を傾かせながらアスファルトに弧を描いて縁石に乗り上げたのを最後に、自転車は俺の体から離れる。
 一蹴の浮遊感の中、鶴屋さんの小さな悲鳴が聞こえる。抱きついてくる体温。俺は背中から落ちないことだけ考えながら、顔面を道路脇の草地に擦りつけた。
 頬に幾つもの熱い線が引かれ、ついた手の平に細かい小石が突き刺さる。背中に軽い体重が掛かっていることを考えると、どうやら鶴屋さんを放り出さずに済んだらしい。重さに感謝。
「キョンくんっ!?」
 鶴屋さんの二度目の悲鳴が耳元で響き、背中に乗っていた体重が消える。
「……大丈夫。ちょっと擦っただけです」
 立ち上がった俺の頬に、鶴屋さんは自分のポケットから取り出したハンカチを添えてくれる。少し血が出ているらしい。
「ホントに? ホントに大丈夫? どこも痛くない?」
「ええ、全然」
 本当はあちこち痛いのだが、小石が刺さった程度で、無視できるレベルだ。一度ナイフで刺された経験があるからな。おかげで随分我慢強くなった。
 視界にちらつくハンカチの向こうで、朝比奈さんは手を広げた姿勢のまま、じっとこちらを見つめていた。よかった、無事みたいだ。
 自転車に目をやる。こっちは前輪がひどく曲がってしまっていた。これじゃ走れそうにない。
 俺は放り出された鞄を回収し、親が撃たれた小熊のように心配そうにしている鶴屋さんの手を取る。
「少し歩いて、タクシー拾いましょう」
「ちょ、ちょっと待ってよっ。少し休まないと、まだあちこち……ううん、その前に、あの子に謝らないと」
 朝比奈さんに駆け寄ろうとする鶴屋さんを、手を引いて制す。
 鶴屋さんは少しよろめいて、俺に向かって何事か言おうと口を開いたが、
「あなた達を行かせるわけにはいきません。キョンくん、昨日言ったとおり、あたしと一緒に来てもらいます」
 先に声を発したのは朝比奈さんだった。普段のマシュマロボイスと違って、愛らしくも硬い、糖度抑え目の板チョコみたいな声だ。あんまり似合ってない。
 俺は聞こえないフリをして、鶴屋さんを連れて歩道に上がろうとする。
「キョンくん、あの人、今……」
「ほら、鶴屋さん。しっかり歩かないと」
 遅くなりすぎると、泊まるとこ探す時間が無くなってしまいます。それこそいかがわしいホテルぐらいしかね。
 それでも、鶴屋さんは足を止めたまま動こうとはしない。
 ただ優しく、
「ね、あの人、キョンくんを迎えに来たんでしょ?」
746非単調ラブロマンスは微睡まない 35:2007/01/22(月) 02:45:53 ID:hNuiLuYr

 俺は首を振る。
「いえ、知らない人です。もう春ですからね。変な事を言う人が出てきてもおかしくないでしょう」
 色々なものが花開いてしまう季節だ。開いてはいけないものも開いてしまうもんさ。
「自転車は壊れたけど、あの人は幸い怪我一つ無いみたいだし、ここは当初の計画を優先して……」
 しかし、俺の言葉を千切るように、握っていた手が振り解かれる。
「鶴屋さん?」
 笑顔を消した鶴屋さんは数歩後ずさると、腰に手を当てて、
「キョンくん、嘘ついたねっ。お姉さんは悲しいなっ」
「俺は何も嘘なんて、」
「あたし全部知ってんだからっ。キョンくん、もう帰らないといけないんだよね?」
 人並み外れて鋭いあなたにしては珍しいですが、生憎と外れです。
「鶴屋さん、いいですか? あの人は知らない人で、俺は今から帰るんじゃなく、旅行に行くんだ」
 二人で一緒に、温泉でも目指して。
「何を想像しているのか知りませんが、それはただの考え過ぎです。大丈夫、心配しないでも、俺はどこにも行きませんから」
 しかし鶴屋さんは、こんな表情を見たのは初めてだ、寂しそうに薄く笑うと、
「ダメだよ。旅行なんていつでも行けるけど、帰るチャンスはもう無いんだ。ね? 今戻らないと、二度と帰れなくなっちゃうんでしょ?」
 俺は伸ばしかけた手を止めた。どうしてだ。鋭いなんてもんじゃない。まるで全部知っているみたいな話振りじゃないか。
 ……まさか、朝比奈さんが。
 ガードレールが白く浮かんだ歩道の上に、疑念の目を向ける。
 しかし、
「どうして、そんなことまで……」
 朝比奈さんは俺の疑問を肩代わりするかのように、一言零しただけだった。通りがかった軽自動車のライトが照らした表情は、深い戸惑いしか見当たらない。
 どうなってる。朝比奈さんは何もしていないのか?
 言いようの無い不安に駆られて、もう一度鶴屋さんの手を取ろうとした俺は、 
「僕が教えた。あんたが昨日、そいつと会っている間にね」
 草地の奥の木に寄りかかって、薄笑いを浮かべている男を見た。
747非単調ラブロマンスは微睡まない 36:2007/01/22(月) 02:46:43 ID:hNuiLuYr

「……てめぇ、なんでこんな所にいやがる」
「自分の時間に戻れないのは、僕としても困るんでね。この件はさっさと片付けておかなくちゃならない」
 かつて朝比奈さんを俺の目の前で攫った未来人野郎は、偉そうな足取りでこちらに近づきながら、
「それに何故かあんたの名前は僕の今後の予定表にも記されている。正直言って、あんたがどこでどうなろうとさして興味は無いんだがな、ふん、任務は任務だ。元の時空まで牽引してやらねばなるまい」
 そのまま俺を挟んで歩道と点対称になる位置まで歩くと、立ち止まって朝比奈さんに鋭い目を向ける。
「しかし、放っておいてもあんた達の方で上手く処理してくれると思っていたが。まったく、念のために監視しておいて正解だった」
 視線はそのままに、口元を嘲りの色に歪ませ、
「朝比奈みくる。彼女はあっちではあんたの友人だそうだが、そこにいる彼女は別人だ。二人を重ねて感傷的になるのは勝手だが、それでこの仕事をおざなりにされたんじゃ、僕としても非常に迷惑を被る。わかるか?」
 子供に言い聞かせるような口調。気に障る。朝比奈さんは俺の苛立ちが感染したかのように、
「そんな! おざなりになんてしてません! キョンくんが事故に巻き込まれたのは、あたしの責任なんだから、あたしが、あたしがきちんとやらないと」
「口ではなんとでも言える。だがあんたのやり方を見ていると、わざとそいつらに逃げ道を作っているとしか思えないな。最低限の努力で浅ましくも自らの責を果たしたように見せかけ、あとはご両人の選択に丸投げしようという魂胆が見え見えだ」
「逃げ道なんて……、あたしはただ、二人に時間を」
「なら、そいつが寝ている間にでも縛り付けて連れ出せばよかったんだ。あの宇宙人の手を借りたっていいさ。どうとでもできたはずだろう? なのにあんたはやらなかった。二人に時間を与えるふりをして、責任から逃げていたに過ぎない」
 朝比奈さんは鞭打たれたように顔を俯け、押し黙る。そいつは面白がる様を隠そうともせず、
「いくらここが僕らの時空とは関係無いからと言って、あんたの立ち位置が変わるわけじゃない。それともそっちの連中は、下世話なヒューマニズムを規定事項の上に位置づけているのか? だとしたら僕には何も言うべきことは無いんだがね」
「おい!!」
 俺は声を荒げた。いい加減ムカつくんだよ。
「朝比奈さんに嫌味を言うためにわざわざ来たのか? てめえも大した暇人じゃねえか」
 未来人野郎は、睨みつける俺をつまらなそうに一瞥すると、
「とにかく今までは見逃していたが、この期に及んでまで愚かな真似を続けられると、流石に手を出さないわけにはいかないということだ。もっとも、あまり体力を浪費したくなかったのでね。楽な方法を取らせてもらった」
 朝比奈さんは弾かれたように顔を上げ、
「あなた、一体何を……」
 そいつは落ち着き払ってまた数歩下がると、
「さっきも言ったろう。そいつが元の時空に帰るという事を彼女に話したって。こんな下らん任務は、それだけで十分片付けられる」
 どういう意味だ、と追求しようとした俺の前に立ちはだかったのは、いつもみたいに明るく笑う、鶴屋さんの姿だった。
 そして、いつもみたいに良く動く口で、
「キョンくん、お別れだねっ」
 軽く軽く、別れの言葉を。
748名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 02:48:27 ID:hNuiLuYr


続きは次スレです。

【涼宮ハルヒ】谷川流 the 38章【学校を出よう!】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1169401405/l50
749名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 02:52:24 ID:hNuiLuYr
訂正。
申し訳ない。

【涼宮ハルヒ】谷川流 the 38章【学校を出よう!】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1169401405/
750名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 03:04:12 ID:wAMq5Vj/
>>743
久しぶりの長文、楽しまさせてもらいました

>> 744
スレ立て乙
751750:2007/01/22(月) 03:08:14 ID:wAMq5Vj/
すまん>>743>>747>>744>>749
752名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 05:45:41 ID:JDfwhcL7
久しぶりの大作、なら分かるが
長文って、頭悪い。
753名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 09:29:36 ID:Ta1REqaD
確かに言葉の使い方は間違ってるが、文脈から好意が感じ取れるんだから
それに突っかかるのはちとカリカリし過ぎでないかい?
754名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 10:40:23 ID:n8+WN+Rf
全ての人間に好かれる作品は存在しない
前提としてここにいる人はプロではない
書く書かないは個人の自由、読む読まないもまた自由
嫌いなら嫌いでいいが黙ってNG登録しろよ、わざわざ文句書いて空気悪くする必要は無い
俺は好きだけどね、まあ>>2って事だ

>>752の短文で面白い作品に期待しつつ、埋め
755名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 14:59:53 ID:0eya7TKh
>>754




お前、なにか壮大な勘違いしてないか?
756名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 15:36:20 ID:8THgdSfy
>>752が安価してないためかもわからんが、
確かに>>754は大きな勘違いをしてるようだ。


という埋め
757名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 17:05:59 ID:YjbEEvxb
スレの最後に恥さらしてる>>754が不憫で飛んできました

>>754短文で面白い作品に期待しつつ、埋め」

うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
758名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 17:17:27 ID:yRa8LYvV
>久しぶりの長文、楽しまさせてもらいました

これは流行る

>>754
顔が真っ赤だぜ?どうしたんだ?
759名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 17:30:29 ID:MHFBQQhS
>>754
「空気悪くすんな」「>>2を読め」といちいちうるさく言って空気悪くしてくのって、
全部>>2を書いた本人なんだよね。何時もくだらない議論を巻き起こしてスレを無駄に消費させるのも>>2の人。
散々喧嘩売りまくった挙げ句に「>>2読んで頭を冷やせ」がお約束。
過去スレであれだけうざがられてもまだこうして活動を続け赤っ恥かいていくあなたに敬意を抱いてしまう。
760名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 18:12:55 ID:XMcymlkb
一連の流れの意味がよく分からない。
761名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 18:12:56 ID:sSKOO0Fp
うめ
762名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 18:18:31 ID:T48WVoYK
飛猿横流れ
763名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 18:41:06 ID:gGgqPWSD
>>759
全ての人間に好かれる煽りは存在しない
前提としてここにいる人はプロ市民ではない
煽る煽らないは個人の自由、釣るられる釣られないもまた自由
嫌いなら嫌いでいいが黙ってNG登録しろよ、わざわざ文句書いて空気悪くする必要は無い
俺は好きだけどね、まあ>>754って事だ

>>759の短文で面白い作品に期待しつつ、埋め
764名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 20:45:04 ID:CAPBUlaP
埋めヶ丘幼稚園
765名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 21:04:42 ID:Va56zP53
埋めネタ
憂鬱の長門の自己紹介の前

「ふぉんふんいふほ?」
こら、口にチ○ポを咥えながら喋るんじゃありません。
766名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 22:43:27 ID:I9pGhgdo
まだ埋まってない?
767名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 23:22:08 ID:BgS0Yis2
このシリーズのスレも38個目か・・・・・

初代の頃が昨日のように思えるぜ。
768名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 23:32:31 ID:7cQV7Rx+
専ブラで使いやすいのってなんだろう。ずっとJaneだが、一度キコにしようとして断念したことがある。
769名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 23:40:46 ID:cjwJZPFO
トホホ、埋めネタ書いてたら12kになってしまった。
次にまわすか……。
770名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 23:55:40 ID:nr8ustoM
埋めだああああああああああああああ
あああああああああああああああああ
あああああああああああああああああ
あああああああああああああああああ
あああああああああああああああああ
771名無しさん@ピンキー:2007/01/23(火) 00:09:21 ID:xHUrGhH/
                ´   ,゙. :.;i.,゙. .:,' i .f _i_ :| . |  : .   i   !    !    .  、 : ハ
                   i. :/|.{. .: i ,ri'{´ U{l`.:|、. : . .r=}: 、.j!: .  :}    i   .   i
                   }:' { |. .: :|. ::|! ,ァc、! ヽ:{ ヽ. : . : .| | メ\  .|: .  .;.   | . : }
                  ノ′ !:', :.:八:|{ 《{ノ;;ハ  丶 \,rz≦、  |ヽイ:. :./:. . j. :  j
                     }ヘ.:{| :|:}  ト -i|      ´ {ノ;;心j/い: . /}:. : ./. : :,'
                         ヾ!、 l.:| └‐′      ト{rt;;ルノ:./:リ: /: .  ! ;
                         '; .:|.{    '      、匕ージ/イ :{=メ/: : :! |.:i      埋め
                           ヽi人   ヽー  _      ,゙  :{ヘノ〉: : : .  i {
                              }リ. :\   |   ノ      .i   :|ン: : : : :. : !.|
                            〃. : .:\ ー ´     _..ィ:|   :{ : : : : :,' :. ヽ!
              ,.、           /. : . : : : : }:ヽ-r─‐ '' ´: : :{::j  .八: : : :,': : : . .゙、
            / }          /′. : : : : : ノィ仁|     . : :|/ . : : : };.: : ': : : : : .. ヽ
               :  !    __..ィ´. i.; . : :/: : : //z='-、 ___ _;/′. : : : : { \{: : :i : : : . .. \
        ┌‐、ー| :{´ ̄ ̄ ̄ . . ,ィ|:. . :ノ.: ://'´-‐-、 \,// . : : : : : :j ::.::._;\{: : : : : : : . . 丶
      厂{ 乂!ヽ} .|: : : . . . . : / /{{ /{. :/ /_,.. -、 .:ヽ/ ,′. : : : /:.://;;;;;;;;;;;;;\、: : : : : : : . ヽ
      〈 ヽ  \` }  . . .: :/.. /{;;乂 ヽ{ /´   .:ヽ/   i . : : ;.イ:/;;;;;;;/´ ,ィ¬小; : : : : : : : : .`、


772名無しさん@ピンキー:2007/01/23(火) 00:24:02 ID:WPIDy/Nr
>>769
wktk

よってksk
773埋めネタ:2007/01/23(火) 00:24:39 ID:85wBbUc2
SS用のテキストに書いてあったメモ程度のネタ。
何のシーンに使うつもりだったんだか思い出せない。



「あなたは」
 沈黙を破ったのは意外にも長門の方だった。俺の上に乗ったまま、顔だけをこちらに向けてきている。
「あなたはインターフェースに魂があると思う?」
 何だか逃亡した目標を狩る悩み多き賞金稼ぎのような瞳を浮かべつつ、えらく重い命題を出してくる。
 お前の期待に沿えなくて悪いが、俺はまだインターフェースというものをちゃんと理解していないと思う。
 だから、俺にその答えを出す事はできない。

「……そう」
 長門は一転して市場に売られていく子牛のような瞳をしていた。
 でもな、長門。そんな俺でもこれだけは言える。これだけは間違ってないと言い切れる。
 なにせ俺自身が一生忘れる事がないだろう、あの冬の三日間に体験した事だからな。
 俺は長門をそっと、でもしっかりと抱きしめながら言ってやった。


「長門有希はヒトと同じ夢を見る」


 それはユキのように儚く解けつつも、すっと心に染みこんでいく淡い夢。
 それはユキが望んだ、人並みの幸せを求める心のこもった暖かい夢だ。
774名無しさん@ピンキー:2007/01/23(火) 00:30:51 ID:85wBbUc2
>>772
じゃこっち埋まったら向こうに落とすか。
正直あの鶴キョンの後に埋め用ネタを落とすのは勇気がいるのだが。


>また、谷川スレに

【涼宮ハルヒ】谷川流 the 38章【学校を出よう!】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1169401405/
775名無しさん@ピンキー:2007/01/23(火) 00:38:09 ID:g9leBNZm
「この長門有希には夢がある!」
776名無しさん@ピンキー:2007/01/23(火) 00:38:29 ID:M0eIyuzD
埋めたい。もぐらのように。
777名無しさん@ピンキー:2007/01/23(火) 00:40:19 ID:85wBbUc2
ありゃ、499k……計算間違えたか。
それじゃ、チラシの裏からもう一つ。


 長門が素っ裸で本を読んでいた。

 のっけからこんな事言って誠に申し訳ないが、もう一度事実確認の為に言わせてもらおう。
 俺が部室を訪れると、部室の中では長門が素っ裸で本を読んでいた。


……何書こうとしてたんだ、俺。
778名無しさん@ピンキー
                           ______
                     ,. -''"´´「    `丶、
                        / /´ ̄ ̄ ̄ \   \
              /⌒ヽ. // //´  ̄ 、 ̄`ヽヽ\  ヽ.    / `ヽ
                |   ∨7′/ / ! ヽ  \::. ',ハ ∨⌒ヽ  /    }
               !    ∨ :,'.:/__/ヽ ヽ\  ヽ,.斗',  ',\ } !    ノ    _
     ,. -‐…ー- 、  '、   l .:.lΛ:/ \\ヽ `<」::;ハjl  ! !Λ,'   /,. ‐''"´   `丶、
  /          \ ヽ   { .:.::{ ,ィテ=ミ  ヾ  イ下ミト | l ノ  /          \
  {           ヽj    ',.::::',!{∨ヒj     近ノ;j ! l | |/   /             }
  ヽ、   ___      ヽ.   ヽ、:\`ー'' __'__ `¨´| l::|イ{,. -┴- 、   ,. ‐…ー‐--‐'′
   `¨¨´   Λ   , ‐''" ̄``¨ヾ:{ ̄`  V´  `}   ,':. j j/      \  }
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        〉       _,. -‐''´ヽ:ヽ> 、_    ,. イ/:::///´ ̄ ̄`丶、     〉
.        {     -‐''´     ノ\\}  `¨´ 「///人       `   ノ  埋め
          /\            /Υ´`ツ_ __ _ヽ´: /:.Y´ \_       j\
       {   i\      ,.-‐'′ /.:.:.:/´ ,. --- 、 `∨:.:.:ヽ、   ̄     /}  }
.       /l   | {:{ヽ.  '´     /.:.:.://,. -―- 、\}:.:.:.:.:.:.{ヽ、     ノ// ,ノ\
.     /    \ヽ \_,,. ‐'7′.:.:{/       `ソ:.:.:.:.:.:.|\`ー‐…'´/      \