【モテモテ】ハーレムな小説を書くスレ【エロエロ】7P
魔法使いや科学者の設定なら感覚共有した触手でいける
そろそろ次スレ・・・
>904を見て思ったが
エロ的要素のない精神的ハーレム小説に需要はどれだけあるのだろうか?
一部の作品を除いたラノベは主人公がある種のハーレムを築いていたとしても
当然エロシーンはないわけだ。
性的欲求としてハーレムを求めているのなら、すぐにでもエロに移行する気がするのだがどうなのだろう。
まあ最近は同人でエロシーン補完できるし、そういう意味では「エロを読むための予備知識」としてありなのかなあ。
両方楽しめばいいのさ
18禁以上の行動だけがエロ要素ではない!
という主張は置いておいて。
ハーレムにエロ要素が必須な訳でも無いでしょう
と言うかハーレムに於いて一番重要なのは「たくさんのカワイイ女の子に惚れられる、囲まれる」って部分でしょ?
そこがハーレム好きどものリビドーストライクコースなんだから肉体関係なんてむしろ無くても全然オッケーぐらいのモンじゃない?
サブカルの「ハーレム作品」は気まぐれオレンジロードに始まり
天地無用で完成したって言われているくらいで、もともとビジュアル先行なんだよね。
それまで少女向けだったラブコメを少年向けにするための手法の一つで、
「男に売れるラブコメ」と言うめぞん一刻の系譜を踏むジャンルのサブカテゴリーに属する。
商業的なライトノベルのハーレム物はそういう歴史的な経緯を踏まえていて、
むしろ80年代のバブル時代のノリが時代のニーズで低コスト化
(極端な話、流通を度外視すれば制作費=原稿料で、当たればメディアミックス)した、
という側面があり、需要は年齢層から所得平均まで計算されつくされている。
で、エロの位置づけを考える時、
「ラブコメは性愛小説の一種だ」ってのは、間違ってないにしても現実を見ていない考え方で、
正しくは「恋愛小説の中にはエロもある」という事になろう。
一概にはいえないが、このスレの趣旨から言えばエロがない奴は
エロい二次創作以外は別物だ、というのが俺の結論だ。
>一概にはいえないが、このスレの趣旨から言えばエロがない奴は
>エロい二次創作以外は別物だ、というのが俺の結論だ。
すまんがここを俺にわかるようにもっと噛み砕いてはくれないか。
>>908ではないが……
エロパロ板なんだからエロ書けよ、にツンデレ、クーデレ、天然のバリュー三人娘
エロ本にエロが一切無いなんて有りえないわな
950で次スレか、450KBで立てるか、どっち?
>>912 とりあえず器だけでも用意しておくべきかと。
プロットを考えてみる。
主人公はとあるパソコンオタク。
メイド大好きな彼は知人に紹介されたメイドカフェによく行くようになり店で働いている
メイドさんと仲良くなり・・・。
主人公は売れないミュージシャン。
いつものごとく街角でギター片手に歌を歌っているとそこにいつも来る一人の少女。
主人公のファンだというその女の子と色々話しているうちに彼女から告白を受け・・・。
主人公は新米警察官。
先輩に教えられながら今日も町の平和を守る日々、ある日連続窃盗事件が発生し
その犯人らしき男を追跡する事になる。
犯人が潜伏していると思しき場所で見たものは・・・。
主人公はとある地方都市にある一軒の古本屋の店主。
ある日謎の中年男性が見たことも無い西洋の古書を店に持ち込んでくる、男はその本
を主人公に買って欲しいと言い出しまた主人公こそこの本に選ばれた人だと言い張る。
実はその本には途方も無い力が眠っており・・・。
主人公は大学で考古学を専攻した学者。
ある時恩師の頼みである地方都市にあるという遺跡の調査の手伝いを依頼される。
その遺跡には昔その土地を支配していた豪族にまつわる秘密の品が眠っている
という言い伝えを聞かされながら向かう事となる果たしてその秘密とは・・・。
主人公はとある高校のオカルト部部員。
ある日部長(女性)と副部長(女性)に誘われその高校の七不思議を一緒に探索する事
になってしまう。
部長達3人では不安だという事で知り合いの運動部部員(何故か全て女生徒)と一緒に
夜の高校探検をするのだがそこで見たモノとは・・・。
プロット2
主人公は某国に君臨する独裁者。
一見冷酷に見える彼だがその胸の内は熱くそして国民を愛する気持ちは強い。
しかし、独裁者は孤独なもの、だがそんな彼を暖かく迎え支える人たちがいた
その人たちとは・・・。
主人公は超能力者。
重力を操るその力は時に人を遠ざけ、組織や国家にその力を付け狙われた。
様々な目に会いながらそれでも人を愛しよう信じようとする主人公。
影に生きながらもその力で人々を助けようと誓う。
ある日山間部での交通事故にあった一人の少女を助ける、命には別状が無い
ものの人里離れた場所での事故に途方にくれる少女を能力を使い麓にある少女
が住む村まで送り届ける。
去り際に彼女に引き止められるのだが・・・・。
そういえば中心である主人公の設定から先に考えないとハーレムって難しいな
>>917 まあ主人公の設定がないとヒロイン達をどう絡めるのかとかが難しくなるからねぇ。
先に考えないと、ってのは、一概にそうとは言えないと思うよ。
俺の場合、ヒロインを考えて、それに応じた男を考える。
だから、ご都合主義のしわ寄せが男に集中するタチのSSが多いんだけどな。
主人公が海賊(SFなら宇宙海賊)。
様々な事情から最初は人質としてヒロイン達を攫うがその後情が移ったり、仲間や
家族に見捨てられたりして行き場をなくした彼女達を囲う事になる・・・。
主人公はしがない探偵。
浮気調査や迷子のペット探しなどのせせこましい仕事が大半だったが仕事をしていた
関係で複数の女性と懇意になり・・・。
主人公はとある豪華客船に乗り込むコック。
外洋航路を航海中に行われたイベントのさなか一人の女性と出会う彼女は幼い日
に離れ離れになった幼馴染だった。
十数年ぶりに再会し喜び合う二人しかし彼女にはある秘密が・・・。
無駄とは知りつつもプロットやネタだけでもとにかく投下。
埋めモード入りか?ちょっとはやくない?
主人公はラーメン屋
テレビで紹介されて以来行列のできる店として繁盛するが
主人公は外資系企業再建ファンド日本代表
とある企業を買収すべく乗り込んでみるも、
企業防衛を図る女性役員らの甘いわなが。
主人公はヒヨコ鑑別師
ある日選り分けられたメスのヒヨコが……。
>>920 懐かしいネタを引っ張り出してきたなww
埋めに入ったら、俺に20kb下さい。
当方に迎撃の用意あり。
いつものアホネタですが。
20KBなどくれてやる
この俺の餓えと渇きを癒せ
あと80kbもなにして埋めろっちゅーんじゃーっ
大ネタ投下が無いと1000まで持つんじゃねーの?
NIGHT TALKER
ハレムリスト、とか
>>926 この早漏!
埋めネタをお持ちの職人様はガンガン投下してくださいませ。
Blue Leafの「恋愛行進曲」もハーレムなのかな?
AXEエフェクトの、海岸に立つ男性めがけて水着女性がわんさか押し寄せるCMはハーレムっぽい。
>>932 あのCMって男が自分に振りかけている消臭スプレーの香りというかフェロモン
に反応しているという設定なのか?
唐突だけど、ハーレムと言ったらダ○ク・シュ○イダーだなー。
「俺なら全人類の二分の一は幸福絶頂に出来る!世界中の”女”全てを
ダ○ク・シュ○イダー様のハーレムに入れるのだあ!女にとって俺に
抱かれる以上の幸福は、この宇宙に存在せん!!」
う〜む、実に男らしいぞー。
>>921 ヒヨコ鑑定士でハーレム…
あれたしか尻をきゅっと押して余計なものを排出させた後
尻穴に指を突っ込みまさぐって鑑定するんだったよな?
>>926 スレッガーさんかい?! 早い! 早いよ!
失礼します。
次スレが立ったので、埋めがてら吸血鬼のエロなしパートを投下させていただきます。
注意事項は以下の通りです。
・エロがない上に、詰め込んだのでかなり長いです。
色々伏線を回収したりしてるので、以前の投下分と合わせて読まれることをお勧めします。
「エロもないのに読んでられるか!」という方は、『或る吸血鬼の懸念事項』でNG登録してください。
・誤字脱字は、海より広い心でご指摘下さい。
研究室のドアを開けると、爾がソファから立ち上がり、
「講義中に申し訳ありません」
と型どおりの挨拶をした。その姿は、早朝からの呼び出しに応じて方々を駆け回り、かなり草臥れている。目の下の
隈に、乱れた髪の毛がその印象をさらに強めていた。
美濃山は挨拶もそこそこに、すぐに向かいに座る。
「例の件だね。君に話を聞いてから気にかけてはいたんだが・・・」
「一晩で三人です・・・」
テーブルの上には既に地図が広げられていた。犯行『予想』地点を示す青い印の場所が、犯行『達成』地点を示す
赤で塗りつぶされている。
昨夜の深夜から未明にかけて、三人の新たな犠牲者が出てしまった。
現地を警戒していながらこの有様である。犠牲者を出してしまったのも勿論だが、自身の無力さにも、爾は苛立ち
を感じていた。
「一晩で三つの儀式を行ったわけか・・・早すぎるな。一人の術者がやったとは思えない」
「しかし、この手の儀式は一人がやらなければ意味がないはずです。手分けしては成立しません」
「確かに・・・魔導紋がなぁ・・・それに術式の構成時間を考えると・・・」
美濃山は、専門用語を含む独り言を呟きながら首を振った。
「ふむ、ひとまずそれは置いておこう。
実は、昨夜の件が無くても、君に連絡を取ろうと思っていたのだよ」
そう言うと、美濃山は立ち上がり、キャビネットから一枚の折りたたまれた図面を取り出した。
「『索』のことなのだがね・・・それっぽいものが見つかったよ。手に入れるのに苦労したが・・・」
席に戻った彼は、爾の地図の横にその図面を広げた。
それは爾が持ってきたものと似たような地図だったが、道路や等高線の他に、別の線が縦横に細かく走っていた。
通常の地図ではなく、何か専門的な分野に使う、特殊なもののようだ。
「これは・・・?」
「地下ケーブルの設置計画図だよ。宅地造成のときの・・・6年も前のものだから、探すのに苦労したよ」
「ケーブル・・・」
縦横に街を走る線のうち、何本かがマーカーで上からなぞられている。
その形は、魔方陣の形――六芒星と、それを内接する円だった。
六芒星の頂点と、爾の地図の印は完璧に一致している。
「当時の事情を調べてみたが、電線を地下ケーブルに切り替える工事は、入札の時に一社がかなり強引に割り込ん
で落札したらしい」
「その会社が・・・『連中』の・・・」
「隠れ蓑、ってとこだろうな。ちなみにその後、ケーブルの仕事を終えたあとにこの会社は、さっさと潰れてしま
ったそうだ。いや、もう必要がないから、潰したんだろうな。
恐らくは、このケーブルで、六ヶ所の場を繋ぎ、一つの術へと纏め上げるのだろう」
恐らくは、このケーブルで、六ヶ所の場を繋ぎ、一つの術へと纏め上げるのだろう」
同じ町に住んでいながら、これほど堂々と犯行の準備を進めていたのだ。大胆に過ぎると言えばそうなのだが、向
こうとしても爾の存在など知ったことではないだろう。
だが、『何のために?』という疑問は解けないままだ。
そもそも、なぜこの場所でならなければいけなかったのか。
この街を包むほどの魔方陣を、どうしてわざわざ会社を立ち上げてまで、仕上げなければならなかったのか。
そう思った爾の目に、地図上の一点が、あたかも光を発しているように浮かび上がった。
「まぁ、これが解っても、今更どうしようも無いのだが・・・ケーブルを切るわけにもいかんだろうし、なんにし
ても目的がなぁ・・・魔方陣の形状を見る限り何らかの呪詛だとは思うのだが・・・」
白髪に手を突っ込んで、美濃山は説明を続ける。
だが、その説明は殆ど爾の耳には入っていなかった。
「・・・その工事が行われたのは、6年ほど前からなんですね?」
「あ、あぁ・・・そうだが・・・」
ふいに質問されて、美濃山が戸惑う。
ある仮説が、爾の脳裏に浮かんでいた。
図面にひかれたラインを目で辿って、爾の顔は蒼白になった。
「まさか・・・」
『外れてりゃいいな、っていう予測はあるけどね』
勇太が言っていた『予測』とは、このことなのか。
爾の背を、冷たいものが伝う。
「鴇沢君・・・?」
――直径20キロの魔方陣――それほどの仕掛けでなければ、討ち果たすことの出来ない『相手』。
――30年前の『抗争』――彼らの頭目を葬ったのは『誰』か。
――6年前からの計画――6年前に『何』がこの場所にやってきたか。
答えは常に目の前にあったのだ。気付かなかった自分が馬鹿に思えてくる。
魔方陣の円内に、そのマンションはある。勇太の言葉が、脳裏をよぎった。
『相手の立場になって考えろ』
これほど目立つ、大掛かりなことをしてでも『連中』は彼を倒したいだろう。
その恨みも30年ともなれば、さぞかし蓄積されたことだろう。
「どうした?具合でも悪いのかね?」
彼女は美濃山の問いには答えず、跳ねるように立ち上がった。
あっけに取られる美濃山を尻目に、爾は鞄をひったくると、
「失礼します!!教官!!」
と部屋を飛び出した。
一人残された美濃山はしばらくポカンとしていたが、やがてソファに深々と身を預け、窓から差す西日に目を細めた。
雲が夕日に焼かれて、血のような赤い色に染まっていた。
※ ※ ※
ええ、そうです。イルマとジルマは、双子です。
村には代々、その家の長女が巫女を務めるという家系があり、二人はその家に生まれました。
一応、姉がイルマで、妹がジルマということになって居ましたが、今回の場合は特殊な事情があったため、『2人で
1人』の巫女ということになったのです。
――特殊な事情?
はい。
巫女の家系は、村の中でも強い魔力を備えた者の血を、濃くしていったものです。
ですが、あの2人は、周囲が期待しているほどの魔力を持っていなかった。
結論を言えば、代々の巫女のおよそ『半分』の魔力しか、備えていなかったのです。
――それで、『2人で1人』・・・と?
姿形は勿論、声や話し方、好みまで一緒でしたから、周囲の勧めで、見分けをつけるために、髪型を変えていたくら
いです。赤毛を右側で編み込んでいるのが、姉のイルマ。左側が妹のジルマ。
勿論、双子だからといって完全に一緒というわけでもなく、イルマの方が、どちらかといえば活発なようで、ジルマ
がそのブレーキ役をすることが多かったですね。得意な魔術も、イルマは電撃や炎熱などの攻撃系、ジルマが結界など
の防御系と、互いの欠点を補い合っていました。
母の胎内で魔力を分かち合った二人ですから、『2人で1人』という言い方も、単なる比喩以上の説得力を持ってい
ました。
・・・口さがない村の者は、『出来損ないの巫女だ』などと陰口を叩くこともありました。
村の信仰神・・・その象徴である『私』を守るには、不十分だと。
しかし、彼女たちは十分にやってくれました。まだ年若く、未熟な部分もありましたが、それでも、2人で力を合わ
せて私を守ってくれました。
――それで、彼女たちは、今、どこに・・・?
遠く・・・東の地でしょう。
・・・あの者たちが、この森を焼くときに、『ニホン』という地名を口にしていました。
――そう・・・ですか。
あなたは、悲しんでいるのですね?
――え?
大丈夫です。ありきたりな言い方ですが、形のあるものは、いずれ壊れてしまうのです。
あなたが、私に何もできないことを、気に病む必要はありません。確かに、不本意な終わりではありますが、それだ
けです。私はもう、十分に生きました。
それよりも、あの双子を、お願いします。彼女たちは、あの者たちに連れ去られ、きっと恐ろしいことに利用されよ
うとしています。
人間よりも遥かに大きな魔力をその身に宿す、竜人族の中でも特別な2人なのです。おそらく、利用されれば恐ろし
いことになる・・・。
――・・・はい、必ず。
ありがとう・・・。
あなたは、優しい方ですね・・・。
最後にお話できるのが、あなたのような方で良かった・・・。
彼はトランス状態から意識を覚醒させた。
涙が頬を伝っていた。
辺りは、一面の焦土だった。炭化した家の残骸が墓標のように立ち、地面までも文字通りの灰色で覆われている。
20メートルほど離れたところに、彼らが乗ってきたヘリが止まっており、それがこの場で唯一、炎の洗礼を受けて
いないものだった。そして、生きているものは、『機関』が派遣した、彼らだけである。
ここにはかつて、竜人族の集落があった。『竜人』という名前は、魔力のセンサーの役割を果たす額の角と、強大な
魔力を持つことから連想された単なる比喩でしかない。また、『種』ではなく、『族』と呼ばれるのは、彼らがこのロ
シアの国境付近にある深い森の奥で、独自の言語を操り、独自の信仰を持ち、殆ど血縁の一族だけで自給自足の生活を
していたからだ。
――全ては過去形の話になってしまったが。
現実には、世界唯一の村は炎に呑まれ、そこの住民も殆どが命を落とした。
村から延焼した炎は、森を二週間の間、数百ヘクタールに渡って焼き尽くした。対外的には、この一件は原因不明の
山火事ということになっていたが、遺体に残された弾痕が、その嘘がいかに薄っぺらいものであるかを物語っていた。
彼は、目の前の大樹を見る。
直径20メートルほどの、太い幹。それが、五メートルほど上で、ぼっきりと折れていた。恐らく、業火に晒され、
自重に耐え切れなかったのだろう。もしも無事なら、資料によれば高さ70メートルの大木だ。樹齢に至っては、想像
さえもつかない。だが、その年月が、先ほどの会話を生んだと言ってもいいだろう。
樹木も、長い時を生きれば意思や自我を持つ。先ほどの会話は、彼が自らをトランス状態に持ち込み、意識をこの木
とリンクさせて得られたものだ。
世界でここにしか居ない種が、殆ど全滅させられたという重大事件である。『機関』の上層部は、何としても解決を
しなければと息巻いていたが、その成果は芳しくなかった。これだけ大規模な山火事を完全に世間に対して隠しおおせ
るわけもなく、その対応だけで精一杯なのだ。もしマスコミのヘリが、地図にはない集落の後を発見したら、それだけ
で大騒ぎになる。
そんな中、魔術師としてはまだ駆け出しの彼が、この調査へと借り出されたのだ。
「・・・何か、情報は・・・?」
彼の傍らに立つ、軍人風の男が言った。
「日本・・・だそうだ。その地名を、聞いたと。それと、村の双子の巫女が拉致されたらしい」
「・・・そうか。日本支部に連絡をとろう」
短い会話だった。だが、それだけで十分だった。
決してドライなわけではない。彼も、自分も、今回の事件に関しては相当の怒りを持っているし、使命感も抱いてい
る。ただ、その怒りや使命感を、決して人間の世界に持ち込めないというだけの話だ。
それがお互いに解っているからこその、会話だった。
彼は立ち去る前に、もう一度大木に触れた。
人間の胴体ほどもある根が地面に潜り込み、そこから途方もなく太い幹へと続く。その姿は、既に樹木の一種という
域を超えるほどの神々しさを、炭化した今でも周囲へ放っていた。
自我を持った時点で、この木は樹木として生きることを辞めていたのだ。
そして、この村で竜人族の営みをただ見届け続け、理不尽にその命を奪われた。
自分の無力さが悲しい。死に掛けであるこの木に対して、何も出来ない自分が恨めしい。その感情さえ、一般には受
け入れられないものなのだ。そのまま、深々と溜息をつく。
その溜息で弛緩した意識の隙間を縫うように、突然微かなイメージが手の平から流れ込んできた。それは、木が語り
かけてきたわけではなく、ただ意思の残滓が偶然流れ込んできた、ノイズに近いだけのものだった。
だが、彼はそのイメージの意味を悟ると、突然しゃがみこんで足元を素手で掘り返し始めた。
灰が積もった地面は、まだ仄暖かい。灰をどけ、地面を露出させると、さらに慎重に手を進めていく。
ふと、小さな手ごたえを感じた。
それは、二センチほどの種子だった。
霊樹が、この世に残した、小さな小さな希望。
それを見つけた彼の目に、再び涙が溢れる。
同僚が怪訝そうな顔をするのも気にせず、彼は種子を抱き締めたまま、焦土の真ん中で声にならない嗚咽を漏らし続
けた。
※ ※ ※
「今こそ!!」
狩野はその場にいた30人ほどの群れに向けて、大声で言った。
「今こそ、雪辱を晴らすときはきた!!アレン様が成し得なかった、世界の掌握!その一歩として、今ここに復讐を!!」
「「「「「復讐を!!!!!!」」」」」
鋭い牙が覗く口で、集団は吠えた。
ある建設会社の資材置き場だった。
既に、場は完成している。六人の生贄から採取した血液を混合したものを絵の具とし、彼らが街に送電ケーブルで描
いたものと同じ魔法陣が出来上がっていた。
その中央で、狩野は演説をしている。黒いバンが4台、リムジンがそれらに挟まれるように1台。それら車のライト
は全て点けっ放しにされ、狩野をスポットライトのように照らしていた。
「我らは今宵『母体』を得る!!『イヴ』を得た我らはまさに『アダム』となるだろう!!」
「「「「「おおおおおおおぉぉぉぉ!!」」」」」
大気を震わせる異形の声。
その熱気と歓声の中、二人の少女が狩野の横に連れてこられる。フードを被っており、表情は見えない。
「さぁ・・・始めよう。イルマ・・・ジルマ」
狩野は少女たちの耳元で告げると、魔方陣の外に出た。
少女たちはフードを取る。
その下から現れた顔は、ほぼ完璧に相似形であったが、髪型だけが違っていた。
右側で髪を編み込んでいるのが姉のイルマ。反対側が妹のジルマだ。
丸顔に、あどけない童顔をしていたが、その表情は堅い。
双子は、同じ動作で首から下げたペンダントを握った。
それは、樹齢3000年を越す、彼女たちの故郷にある霊樹から作ったもので、村の信仰神の姿が彫り込まれていた。
人型に翼を持つ神の姿を握り締め、二人は頷きあう。
同時に、双子は口を開いた。呪文を詠唱し、術を完成するために。
「おぉ・・・・」
狩野が息を漏らす。
それは声とも音ともつかない、不思議な音色だった。
彼女たちの種族、竜人族が持つ、独特の発声器官から生まれる、歌のような呪文。
異なる二つの旋律は絡み合い、溶け合って大気に一旦拡散する。双子の良く似た性質を持つ魔力が、完璧に統合さ
れ、一つの形を造り上げていく。
二人で手分けをして行った生贄の儀を、一つの術として纏めるためのコーラスは、やがて生贄の呪詛を吸収して再
び集合を始める。のたうつような怨念が地下のケーブルを駆け巡るのを、イルマとジルマは額の角で、鋭敏に感じて
いた。
術式の図面を描いたのは、狩野だった。だから、イルマ達は直接に彼の口からこの術の効果を知らされていない。
恐らく、彼女たちは狩野からすれば、生贄達と等しく、術を完成させる『装置』であり、『道具』なのだ。
だが、目の前で泣き叫ぶ生贄を殺され、術を強要され、その上でも自分が何をしているのか、まったく見当がつか
ない程、彼女らは鈍くなかった。
自分たちがこの術を為すことで、何か恐ろしいことが起きる。
だが、もはや彼女たちに自由は無いのだ。この場で逃げようとも、行く場所も無い。村はもう、焼き払われた後だ。
狩野は、全てが終わったら村に帰すようなことを言っていたが、それが嘘だということを、二人は理解していた。
抗う術はなく、そして帰る場所もない。
2人に出来ることは、たった一つだけ。
歌声のような呪文を、大気に浸透させて、自らの『意思』を乗せることだけだった。
※ ※ ※
勇太はベランダで煙草を吸っていた。
既に日は没したが、どんよりとした雲が、街の明かりを微かに反射して垂れ込めていた。眼下に広がる家々に灯る
明かりの、遥か遠くを透かしてみるように、彼は遠い目をして煙を吐き出す。
「勇太ー、夜食できたよー」
「んー、ごめん、いらないかな」
勇太がそう答えると、エマがリビングから不機嫌な顔を覗かせた。
「いらないって・・・勇太が作れって言ったんでしょー?」
「あとでチンして食うからさ。ラップでもしといて」
話している間、彼は相手の方を見ていなかった。その態度に、エマの眉がハの字になる。サンダルを突っかけてベ
ランダに出ると、勇太の隣で住宅地よりも先の山に向けられた視線の先を追った。
「・・・何見てるの?星?」
「いや・・・そんなに綺麗なものじゃないね」
勇太は視線を固定したままで、答える。その声は、いつもの勇太のものでありながら、老人のように、しわがれて
いるようにも聞こえた。まるで700余年という時間を、人間と同じように老化して生きてきたような声だった。
その声に驚いて、エマが勇太の顔を見る。だが煙草の火に照らされたその顔は、当然ながら、いつもの勇太だった。
「エマにも見えるさ・・・サキュバスって時点で、人間よりは素質があるからね。実認識と虚認識の識閾値を統合し
て・・・」
「ゆーたぁー・・・」
情けない声を上げるエマの頭を、勇太は苦笑いしながらグシャグシャと撫でた。
「ま、ようするに『心の目で見ろ』ってこと。もうちょっと具体的に言うと、『目で見る』って言うより、『肌で見
る』って感じかな」
「それでも難しいよぉ・・・それにあたし、別に幽霊とか見たくないし」
「いや、必ずしも幽霊ってわけじゃないけどな」
膨れっ面で抗議するエマに、勇太は肩を竦めてからもう一度、山の方を見た。
その奥から、ゆらゆらと煙のように立ち上る、濃密な怨念が、勇太の『感覚の目』に映し出されていた。その呪詛
が一筋、枝分かれしてこちらに伸びてくるのを確認して、勇太は煙草のフィルターを噛み潰し、
「始めたか・・・」
と呟く。エマは首を傾げたが、彼はそれについては何も言わずに、
「血液パック、一つ持ってきてくれるか?」
と彼女に言いつけ、頬に軽くキスをした。
エマはその言葉どおりに、サンダルを脱いでリビングにあがった。輸血用の(ここでは飲料用だが)血液パックは、
キッチンにおいてある専用の冷蔵庫に保管されている。
キッチンへ一歩を踏み出したエマの背後で、ふいに水を撒いたような音がした。
振り返ると、ベランダへの出入り口が真っ赤に染まっていた。
※ ※ ※
※ ※ ※
爾は走っている。駅からのだらだら坂は、全速疾走するには辛いコースだったが、それでも訓練生時代に鍛え抜か
れたのが役立った。自分の女らしくない体を、この時だけは感謝した。
既に遅い時間のせいか、やけに大きな外車が路上駐車されている以外は、人影もなかった。ぽつぽつと、街頭が頼
りなくマンションの前の道を照らしているだけだ。
大きく息を切らして、目的の部屋を見上げる。
どうか間に合っていますように。その願いを込めて、一歩を踏み出そうとした爾の顔に、水滴が降って来た。どん
よりと曇った天気だったが、とうとう降って来たのかと思い、何気なく手で拭う。
だが、それは透明ではなく、色を持って爾の手に薄く延びた。
街灯の光に照らすまでもなく、血だった。
もう一度、勇太達の部屋を見上げた爾の目に、何か棒状のものが回転しながら飛んでくるのが映った。反射的に身を
屈めると、それは彼女の体を掠めて、湿った音と共にアスファルトと激突し、路面を滑走して、停止した。
人間の、肩から先の腕だった。
厳密には、それが人間のものでないことを、爾は瞬時に悟る。
間に合わなかったか。勇太の部屋を見上げると、ベランダに片腕のないシルエットが、部屋からの照明で浮かび上が
っていた。
と、そのとき、突然、路上駐車していた外車の後部ドアが開いた。
車から降りてきたのは、車のイメージを体現したような女だった。ブロンドの髪は、緩く巻いており、毛皮の派手な
コートを見につけている。透ける様に白い肌が、街灯に照らされて眩しいほどだった。
そのまま、パープルのピンヒールを鳴らし、澱みない足取りで腕へと歩み寄る。近寄ることで顔立ちがはっきりする
と、相当に美しい女であることが知れたが、その表情には驚きや恐怖といったものは一切なかった。
あまりにも動揺した様子がない女に、爾は違和感を抱く。もしかしたら、『連中』の仲間かもしれない。
その疑念に身構えたが、女は爾自身には全く興味がないように、勇太達の部屋を見上げた。
横目でその目線を追った爾が見たのは、重心を崩してベランダの柵から転げ落ちる、勇太の姿だった。
片腕のないシルエットは、8階の高さから真っ逆様に落下する。
そのまま、地面に激突すると、思わず爾が目を閉じようとした瞬間だった。
長身が、空中で反転した。落下の空気抵抗に弄ばれる動きではなく、意思を持って足を下にする動きだ。
そのまま、叩きつけるような音を立てて、彼は着地した。衝撃を吸収すべく、膝を曲げている様子は、体操選手が宙
返りの後の着地を決めているように見えた。
そのまま、曲げていた膝を伸ばすと、脚の痺れを取るようにブラブラと振って、周囲を見回す。それから、爾達を見
つけると、そのまま平然と歩いてきた。
街灯に照らされた顔は、やはり勇太だったが、顔の右半分が血で汚れていた。
ふいに、女が足元の腕を、ピンヒールでぞんざいに蹴り上げた。その腕は、放物線を描き、頂点を少し過ぎたと
ころで、勇太の左腕にキャッチされる。
「こんばんは、爾」
その様子が、全くいつもと同じだったため、挨拶された当の本人は混乱した。その間に女が、勇太に向って何事か囁
く。英語のようだったが、小さな声だったため、爾には聞き取れなかった。
驚くべきことに、勇太はそれに答えながらあっという間に右腕を接合して見せた。会話の片手間の仕事ではあったが、
爾は初めて勇太が人ではない力を使うところを、直接目の当たりにした。
破れたカットソーの袖で汚れた顔をぞんざいに拭い、地面に捨てると、再び爾のほうに向き直る。露になった腕は、
地面に激突した際の損傷も完全に修復されていた。白く街灯の光に浮かぶ、その手を出して、
「すまん、携帯貸して」
と勇太は苦笑いをして見せた。狐につままれた思いで、どうにかスーツのポケットから携帯電話を出して手渡すと、滑
らかに番号をプッシュする。先ほどまで、肩先からもがれていたとは思えない動作だった。
「あ・・・もしもし?エマか?うん、俺。今、マンションの下にいるんだけどさ・・・うん、大丈夫。爾も一緒なんだ。
ごめんな、心配かけた。うん、あと爾のほかに客がいるから、茶を二人――」
女が手をヒラヒラと振った。
「――いや、爾の分だけでいいや。俺はちょっと出かけてくるから。アレだったら、先に寝てて。ん、ちょっと急ぐか
ら、じゃぁね」
そう告げると、携帯を爾に返した。
「・・・とりあえず、日本語に統一するか。アルミラ、こちらは『機関』でお世話になってる鴇沢爾。爾、こっちは、
アルミラ=C=ファニュ――」
そこで、勇太は言葉を区切ると、悪戯っぽく眉を動かした。
「俺の義理の妹だ」
「え・・・」
その一言で、完全に爾は絶句してしまう。
真祖の吸血鬼である勇太の、親戚。それはつまり、彼女自身も真祖であることを示している。いや、それ以上に、
『義理の妹』という関係が突飛過ぎる。
「『元』だけどね・・・・・よろしく」
高みから見下ろすような声だったが、日本語自体は変なアクセントもなく、流暢だった。もっとも、爾は碌に返答
できなかったのだが。
絶句する彼女を放って、アルミラと勇太はマンションを見上げた。
「そっか、屋上の連中は、お前さんの方でやってくれたのか」
「えぇ、家の駄犬が、処理してるわ・・・いや、終わったみたいね」
アルミラが目を細める。マンションの屋上から、影が地面に向けて降りてきていた。しかし、その形は、犬とは遠
く隔たっている。それは、各階のベランダを器用に伝うようにして落下速度を落とし、地面へと軟着陸を果たした。
その姿を見て、爾は息を呑む。
長く突き出した鼻に、大きく裂けた口。全身を覆う褐色の体毛。大きくたわんだ背骨は、フサフサとした尻尾へと
続いていた。
「・・・じ、人狼種」
どうにか、それだけを喉から搾り出す。
半人半獣のそれは、爾を縦長の瞳で見、それからアルミラへ視線を移す。アルミラは、軽く頷くと、車のほうを顎
で示した。
素早く車のドアへ消える人狼を見て、勇太は口笛を鳴らす。
「やるねぇ。随分と怖い『駄犬』だな」
「どうにも、節操がないのが悩みどころね。あなた」
そういって、突然指差され、爾は我に返った。
「屋上、相当酷いことになってると思うから、念入りに後始末しといてくれないかしら?」
「あ・・・は、はい」
「うちのベランダも頼むよ」
戸惑いながらも、爾は二人に背を向けて、携帯を取り出した。その後ろで、真祖同士の話は続く。
「説明してもらえるのかしら?それとも、急いでる?」
「ちょっとね・・・ありゃ、余所から術者を連れてきてるな」
「そう・・・私も『視た』けど・・・随分と殊勝な奴みたいね」
「あぁ・・・死なせるのは惜しい」
「また、お得意の偽善かしら?」
「なんとでも・・・・・・茶くらい飲んでいけばいいのに」
「冗談でしょ?あの『猿真似』達と顔合わせるなんて、ごめんよ」
爾が電話を終えて向き直ると、勇太はその背中から翼を生やしていた。何の気配もなかったので、爾は跳び上がり
そうになる。形だけは、蝙蝠のそれに似ていたが、生物らしさとは無縁だった。墨を押し固めて作ったような、真っ
黒い羽を、一回だけ動かすと、それだけで勇太の体が宙に1メートルほど浮いた。
マンションに着いてからの僅かな時間に、心臓が限界を迎えかけている爾に、勇太は笑って見せた。
「・・・あいつらを頼むよ。爾」
「あ・・・」
その一言で、爾は一気に現実に引き戻される。信頼されているという事実が、自分の成すべきことを彼女に思い出
させた。
「はい!」
歯切れのよい返事を聞くと、勇太は満足そうな笑みを浮かべ、そのまま夜空へと一気に舞い上がっていった。
黒い羽は夜の帳に紛れて、すぐに点となり、見えなくなる。
車のドアが開き、そこから西洋人の男が降りてきた。かなり大柄で、筋肉質な体を窮屈そうに黒いスーツで包んで
いた。映画のシークレットサービスのような恰好だった。
「一応、紹介しとくわ。執事のフリッツよ。日本語は出来ないんだけどね」
アルミラがそのまま、フリッツに英語で爾を紹介する。
大きく頷く頭の褐色の髪の毛が、彼が先ほどの人狼であることを示していた。
「後片付けを押し付けて悪いけど、私たちは引き上げるわ」
「はぁ、そうですか・・・お気をつけて」
そう言った爾に、アルミラは片眉を上げて見せる。
「いいの?『機関』の人間として、真祖が悠々と大手を振って歩いているのを見過ごすのは、拙いんじゃないかしら?」
アルミラ目の奥に、僅かに宿った挑戦的な眼差しを、爾は真っ直ぐに見据えて答えた。
「私には止める術もありませんから・・・上司に多少小言は言われるでしょうが、それだけです」
「ふぅん・・・あの男には抱いて貰ったの?」
「なっ!?」
唐突に言われて、爾は声を上げた。だが、アルミラは意に介さず、既に歩き出している。
「まったく・・・無駄足もいいところだわ・・・」
ぼやきながら、車に乗り込む。フリッツも、明らかに日本の風習に慣れていない、不恰好な礼をしてから、運転席に
乗り込んだ。
走り去るテールランプを見送りながら、爾はアルミラの言葉を反芻して、立ち尽くす。
そもそも、初対面で自分が女だと見抜かれることすら、ほとんどなかったのだ。それは、真祖の眼力だと思うにして
も、『抱いて貰ったの?』とはどういう意味だろう。ただの冗談だったのだろうか。
だが、今はそれについて深く考えている暇はない。勇太達の部屋に行かなければ。
自分のすべきことを思い出すと、爾は入り口へと急いだ。
部屋に上がると、テオに出迎えられ、キッチンへ通される。そこには、エマと紫苑が既に紅茶を飲んで待っていた。
だが、暖かい団欒といった雰囲気ではなく、空気はただただ重い。特に、エマは普段の快活な印象を完全に失ってい
た。紅茶に口をつける動作も、どことなく機械的で、緊張で口が渇くのを抑えるためのようだ。
テオが爾の分の紅茶を差し出す。礼を言ってそれを一口啜ったところで、紫苑が口を開いた。
「じゃぁ・・・始めましょうか」
「せやな・・・爾クン。今から、ちょっと込み入った話するさかい・・・」
「あ、外しましょうか?」
慌てて腰を浮かしかける爾を、紫苑が手で制した。
「いいの。爾さんにも、聞いていて欲しいお話だから・・・」
「はぁ・・・」
生返事をして、爾は再び椅子に腰を落ち着ける。
「まぁ、元はといえば、ボクのせいやからな・・・エマもここに来て一年が経ったし、話しといてもええやろ」
「別に、テオだけのせいじゃないわ。いい機会というのには賛成だけど」
「うん・・・・ありがと」
まだ話の流れが掴めず、目を白黒させる爾を見て、紫苑が微笑んだ。
「エマにね、私たちの昔のことを、話しておこうと思って。本人が、聞きたいって言ってるのもあるけれど」
「え?」
エマに視線をやると、彼女は軽く頷いてみせる。それは、相当に過酷な話を聞かなければならないという、覚悟を
秘めた眼差しだった。爾はまだこの時知らないことだが、エマは目の前で愛する男が傷つく姿を見てもなお、過去か
ら目を逸らしては居られなかったのだ。
「まぁ、ボクらが話せるのは、ボクのことだけやけど・・・せやな、さしあたり、紫苑から話してくれるか?あんた
の方が、付き合い長いからな」
テオに促されて、紫苑は頷く。それから、一度大きく息を吸って、語り出した。
「そうね・・・まず、私のこの姿だけど・・・これは、ある人から借りたものなの」
そこで、言葉を区切り、全員を見る。
「彼女の名前は、レイチェル=ガリアンド・・・あの人の・・・そうね、配偶者だった女性ね」
「は、配偶者って・・・奥さんってこと?」
素っ頓狂な声を上げるエマに、紫苑は頷く。その目は、鬱々として暗く、あえて感情をオフにしているような印象
を受けた。
爾も目を見張る。アルミラが勇太の義理の妹なら、紫苑が姿を借りているその人物は、アルミラの姉ということだ。
「えぇ・・・もう亡くなったけれども。時系列に沿って話さないと、訳が解らなくなるわ。
そう・・・今、宇宙の成り立ちとして最も有力な説は、ビッグバン理論と言われるものだけど・・・・・私のこと
を話すには、ここまで遡らなくてはならないわね・・・・」
※ ※ ※
「どういうことだ!これは!!」
遠くで、狩野の叫びが聞こえる。怒号と混乱の坩堝のなか、イルマは魔方陣の中央で仰向けに倒れながらも、笑お
うとした。だが、顔の筋肉を動かすだけで全身に走る激痛のせいで、それは上手くいかなかった。
イルマは、満足だった。
自分の力で、誰かを傷つけることなく済んだのだから。例え、そのせいで自分が滅びたとしても、巫女として生き
てきた自分としては、満足だった。
妹のジルマも、同じ考えのはずだ。今までも、ずっと一緒だったのだし、今回も自分の考えに同調して力を貸して
くれたのだから。
体中が錆びついたように動かなかったが、それでも辛うじて首を妹の方に向ける。二人の手は、固く繋がれていた。
妹は、血に濡れた顔で、それでも微笑んでいた。
(大丈夫・・・お姉ちゃんと一緒なら・・・平気)
念話だった。すでに虫の羽音のように微弱で、辛うじて意味が汲める程度のものだった。
声を出そうにも、声帯は爛れてしまい、呼吸さえも辛かった。
(ごめん・・・でも、こうするしか・・・)
(いい・・・この後も、ずっと利用されて、沢山の人を傷つけるよりも、ずっと、いい)
(うん・・・ありがとう)
儀式を始める直前の僅かな時間、2人は念話を使い、そして決断した。
詠唱にほんの僅か、気取られない程度の『意思』を込めること。
その『意思』は、術の矛先を自らに向けるというものだった。それはつまり、どこの誰かも解らない標的を、自分
の身を犠牲にして守る、という『意思』だ。
既に術式自体が仕上げの段階だったため、全ての呪詛を『意思』にそぐわせることはできなかったが、それでも、
二人は精一杯を尽くした。
身体の芯の方に、深々と生贄の怨嗟が爪を立てている。激痛はやまなかったが、それでも安らかだった。
ふいに、ジルマの念話が聞こえた。
(神様・・・・助けて・・・お姉ちゃんだけでも・・・)
それは、はかない祈りだった。既に、念話に乗せるイメージと、そうでないイメージの差別化が出来ていないよう
だった。
(馬鹿なこと言わないで・・・2人は、ずっと一緒だったでしょ?)
(違うの・・・違う・・・)
(何が、違うの・・・・・?)
ジルマの目から、涙が零れる。それは、血に染まった顔に一筋のラインを引いた。
(私・・・あいつに・・・犯されたんだ・・・・)
(・・・・!!)
小さく、浅い呼吸が乱れた。脳裏に、小さく声が聞こえるだけの狩野の顔が浮かぶ。
(私は、汚れちゃったの・・・・だから、神様が助けるなら、きっとお姉ちゃん・・・)
その告白を聞いて、視界が滲んだ。
悔しかった。
あの男は、自分たちから何もかもを奪っていった。
故郷も、家族も、巫女としての役割も。
その上、妹の純血まで。
それを知らなかった、自分に怒りが芽生えた。1人で悲しみ、自らの境遇を嘆くしかしなかった自分が、腹立たしく、
悔しかった。そうしている間、妹はたった一人で、悩んでいたのに。
(術・・・上手くいってよかった・・・汚れちゃった私と一緒じゃ、失敗するって、思ってたけど・・・)
自分は姉なのに。どうして、守ってやれなかったんだろう。
いつも、何から何まで一緒だったから、故郷から引き離された今でもずっと一緒だと、根拠もなくそう思っていた。
(違う・・・違うよ、ジルマ・・・・ジルマ・・・)
(お姉ちゃん・・・自分を、責めちゃ、ヤだよ?私は・・・いいから)
(よくないよ・・・よく、ない・・・!!)
喉が潰れてなければ、きっと大声で泣き叫んでいただろう。
五体が満足ならば、きっと思いつく限りの攻撃魔術を狩野に叩き込んでいただろう。
怒りと悲しみと情けなさがない交ぜになって、全身の傷口から噴出してきそうだった。
だが、何もかもが遅すぎた。
車のヘッドライトで照らされているはずなのに、視界が酷く暗い。吸血鬼たちのざわめきが、遥か遠くに聞こえる。
(・・・悔し・・・な・・・んな・・・り・・・)
ジルマの念話も、途切れ始めた。もう、何もかもが手遅れだ。
瞼が重い。イルマは、もうそれに逆らうことはやめることにした。
目を閉じる前に、イルマは繋いでいない方の手で、ペンダントをもう一度強く握った。
人に翼の生えた姿。村の大樹に宿るとされる、その姿を脳裏に思い浮かべ、目を閉じようとしたとき。
2人に影が差した。
裸足の足が、2人の顔の間に割って入ってくる。
どうにか、イルマは目だけで足の持ち主を確認した。
その人物には、羽が生えていた。
((・・・・か、み・・・・・さま・・・・?))
2人は、同時にそう思った。
「なん・・・、間に合っ・・か・・」
そんな会話が聞こえてきたが、彼女に内容を吟味することは、もう出来なかった。
※ ※ ※
夜の闇を押し固めたような、質感を感じさせない羽。
影のような、黒く長い髪。
鳶色の目は、怒りに燃える。
彼らが最も認めたくないものを、彼ら自身が用意したヘッドライトが照らし出していた。
「なんとか・・・間に合ったか」
勇太が指を鳴らすと、双子がそれぞれ、ドーム状の光の膜に包まれた。
呪詛を中和する魔術と、損傷を受けた組織を再生する術を、同時に重ねて掛けているのだ。光が二つの術の干渉で、
シャボン玉のような美しい揺らぎを見せている。
その輝きは真祖と、彼らの圧倒的な戦力の差を物語っていた。
真祖は、その『生態』として魔術を使う。
チーターが途方もないスピードで走ったり、イルカが数十分も潜水をするのと同じ、進化上で与えられた種としての
『生態』だ。他の者がそれに追いつくには、自動車や潜水艦を作るのと同じ、『技術』を用いるしかない。すなわち、
術式の組成、魔力の確保、儀式の執行、呪文の詠唱、精神の初期化・・・それらの手順が、魔術における『技術』であ
る。
目の前の存在は、その『技術』の成果を、指を鳴らすだけで、いとも簡単に実現してのける。チーターが内燃機関の
助けなしに、時速100キロ以上へ加速するように。
そして、『彼ら』に『技術』はもう残されていない。あるのは、生身の身体と、彼の前では『僅か』と言っていい武
装だけだ。
術の効果が、滞りなく現れているのを確認すると、勇太は口を開いた。
「作戦失敗の次は、迅速な撤退・・・それが鉄則のはずだが?特に、俺みたいなのを相手にするときは、な」
全員が、声にならない声を上げた。双子が倒れてから10分と5分と経っていないのである。それに、撤収が完了し
たところで、逃げおおせるとはとても思えなかった。その場にいる全員が、勇太の姿を見ただけで、それを本能で察し
ていた。
ふいに、ヘッドライトに照らされた両翼が、液体のように形を失って、一つに纏まる。
「・・・・喰われろ」
その言葉をきっかけに、タールの塊のようなそれは、爆発的に体積を増大させ、奔流となって襲い掛かった。それは
夥しい数の蝕腕へとほどけていく。一本が大人の胴回りほどもあり、その先端には爪か牙、あるいはその両方がついて
いた。
逃げ惑う者も、立ち向かう者も、行動に対して期待した結果が、ことごとく裏切られるのを享受するしかなかった。
喉笛を食い破られ、身体を内側から切り裂かれた死体は、野生の動物が獲物を喰らうときの無秩序な破壊を思わせた。
バンが宙を舞い、頭から地面に突き刺さる。『中身』ごと雑巾のように絞られ、オイルと血と部品を撒き散らしなが
ら、炎上したそれは、さながら燃え上がる墓標のようだった。
狩野は、自分が描いた絵が、上からペンキをぶち撒けられて、塗り潰されるのを感じた。
骸が打ち上げられ、花火のように空中で弾ける。血の雨が降り注ぎ、狩野の全身を汚した。のたうつ大量の触手に、
為す術なく蹂躙される者たち。B級のモンスター・パニック映画を思わせる光景だったが、それは絶望的な現実だった。
悲鳴、銃声、爆発音。肉の裂ける音、骨の砕ける音、血が降り注ぐ音。
獣臭、火薬臭。血の臭い、糞尿の臭い、臓物の臭い、焦げる臭い。
感覚の全てを、極彩色の地獄が彩る。
その殺戮の中心に佇む勇太の視線と、立ち尽くす狩野の視線が交錯した。
狩野はスーツの内側にある拳銃を思い描いた。
それを抜いて、照準し、引き金を引くまで、おそらくコンマ1秒も要らないだろう。
しかし、それでも全く足りなかった。
銃では勝てないのだ。時間は問題ではない。
しかし、それでも狩野はスーツに手を差した。
それが合図のように、勇太が纏う闇が襲い掛かる。真横に跳び、鉄骨の後ろへ隠れる間に4発を撃った。
空振りした触手が地面に穴を空けるが、すでに別の数本が狩野の後を追っていた。
隠れていた鉄骨の山が薙ぎ倒され、狩野は更に移動を続けた。崩れてくる鉄骨の隙間を縫うようにして、人ならざ
る反射神経と筋力で動き続ける。
襲ってくる触手の先端が二つに割れ、その中に鋭い牙と、柘榴のように真っ赤な舌が見えた。
その口中に向け、狩野は引き金を引く。
舌が砕け、弾丸が貫通して抜けていったが、それがダメージではないことも承知の上だった。
進行方向に、鋭い鍵爪を持った触手が先回りしていた。
避けることはできなかったが、身を捩り、右腕を爪に差し出した。
肩から先が、吹き飛ぶ。
激痛が走るが、それには構わず、胴と離れた腕を残った方の手でキャッチする。
更に移動しようと足を動かしたが、それは絡みついた触手によって阻まれた。
そのまま、身体が宙に浮き、天地の区別が一瞬なくなる。
「ぐああぁっ!!」
次の瞬簡には、骨が何本か折れる音と共に、地面に叩きつけられていた。狩野はその場に激しく嘔吐する。血と胃
液のカクテルを地面に撒くと、ゆっくりと顔を上げた。
そこは、勇太の足元だった。
「・・・不便な身体だ」
勇太はそう言って、切断面を顎で示した。
そこには既に薄く皮膜が貼って、傷口を覆っていた。腕の方の断面にも、同じように組織が再生している。
後天性吸血鬼がその身に施している組織再生処置は、完全に元の通りにするものではない。細胞を魔力で活性化し、
怪我が治るプロセスを、早回しにしているだけだ。だから、切断などの重症では、かえって接合の機会を失うことに
なってしまう。
だが、狩野は相手の言葉を聞いてもなお、薄く笑った。
その奥によぎる余裕を見て、勇太は眉を上げる。
狩野が左手に抱えていた自らの右腕を放った。同時に、有らん限りの力で後ろに跳ぶ。
ズタズタに避けた袖の隙間から、右腕にびっしりと刻まれた刺青が覗いた。万が一を考えて事前に彫らせておいたも
のだ。そして、目の前の相手は、その万が一を尽くさずには倒せない相手だった。
狩野が呪文を一言、叫ぶように言った。
同時に右腕に刻まれた刺青が青白く発光し、腕に残っている魔力を残らず破壊エネルギーに換える。
爆風は、炎上するバンの炎を吹き消し、倒れる数々の死体を完全に破砕した。
狩野自身も爆風で吹き飛び、やがてシートに包まれた資材に激突して停止する。
土煙がもうもうと立ち込め、何も見えなくなっていた。固唾を呑んで彼はその奥を見透かすように目を凝らした。
ふいに一陣の風が吹き、土煙が割れる。
その中から現れたのは、直立する勇太の下半身だった。腹から上は、粘度細工を乱暴に引き裂いたように、消失して
いた。
その体から伸びていた触手も、今は死に絶えた大蛇のように地面に転がっている。
――やったか。
狩野が淡い期待を抱き、その身を起こしたときだった。
地面にその身を横たえていた触手が、全て一度に立ち上がった。
そのまま、一気にその根元――勇太の下半身へと集う。大蛇のような触手は細く解けて、立体的に布が織られていく
ように編み込まれ、人型になっていった。
やがて、下半身までが覆われて、全身が真っ黒な勇太の形が修復されると。その中央に亀裂が走る。
狩野の呼吸が荒くなっていった。そんなはずはないと、必死で打ち消そうとしたが、そうしてる間にも、ひび割れは
全身に広がり、そして砕けた。
中から現れたのは、爆発の前と同じ、勇太の姿だった。表面の薄い殻のようなものは、微かに光りながら、地面に落
ちる前に薄い光を放ちながら消えてゆく。まるで、蛍の群れの真っ只中にいるようだった。
鋭い歯が並んだ口が、欠伸でもするように大きく開かれる。
全身から染み出す魔力が空間を支配し、圧倒的なプレッシャーが迫った。狩野は冷や汗が滲み出すのを感じ、喉を鳴
らす。いまや、狩野は完全に無力な獲物だった。尽くせる手段は、もう一つも残っていなかった。
唐突に、勇太が言った。それまでとは、全く違う口調だった。
「・・・貴様らは、馬だ」
「・・・何?」
「目の前にぶら下がった餌に釣られて、永遠に走り続ける馬だ・・・・お前の背中に乗っていた者は、餌が目的ではな
い」
一瞬なんのことか解らなかった。だが、『背中に乗っていた者』がアレンを指すことに思い至ると、狩野は歯を食い
しばった。
自分の崇拝している対象を、目の前の敵が知った風な口で語っている。それだけで、狩野の怒りを呼ぶには十分だっ
た。
狩野の怒りに気付いているはずの勇太は、それでもなお、断言した。
「ただ、お前らは利用されただけだ」
「黙れ、お前などに、何が解る・・・!」
「あの男の目的は、世界の掌握などではない。そんなことは、どうでもよかったのだ」
「なに・・・?」
勇太は、そこで軽く息をついた。狩野は、反射的に返事をしたことを、心の底から後悔した。これでは、自ら術中に
嵌るようなものだ。
「・・・あの男は、ただ、女に会いたかっただけだ。繁殖がどうとか、そんなことはどうでもよかったのだ
――ただ、会いたかった。それだけだ」
その言葉の真意を悟り、狩野は声を絞り出す。
「・・・・嘘だ」
そんなはずはない。アレンの望みは、世界を吸血鬼のものに塗り替えること。愚かな人間を『家畜』として飼い慣ら
し、支配すること。
そう思っていた。ただ、盲目的に、そう思っていた。疑ることなど、考えてもみなかった。
だが、その一方で勇太の言葉に、狩野が衝撃を受けているのも事実だった。
それが事実なら、自分は只の道化ではないか。
脳裏をよぎるその思考を振り払い、狩野はもう一度口にした。
「・・・・嘘だ」
資材に被せていたシートが、バタバタと騒々しい音を立てた。
生きている者は狩野と勇太、そして双子の巫女だけで、虫の一匹もあたりには居なかった。
血で描かれた魔方陣の中央で、光に包まれ安らかに眠る、二人の美しい少女。その周囲には、墓石のような車の残骸
と、土葬を仕損ねたような半壊の骸が、無秩序に散乱していた。
その、異常な風景のなかで、勇太は、狩野の最後の支えを挫くべく、口を開いた。
「ならば、貴様はあの男に、一度でも番号以外で呼ばれたことがあるか?」
その台詞を聞いた瞬間、狩野の全身が震え始めた。そして、それが勇太の言葉に対する、彼の答えだった。
「黙れ・・・」
食いしばった歯の隙間から、なんとかそれだけを搾り出す。だが、震えは止まらなかった。100年以上に渡って揺
ぎ無かった忠誠が、音を立てて崩れ始めていた。
「番号で呼ぶのは、単に、管理上その方が楽という以上の理由はない」
「・・・違う」
「あの男は、常に一人だった。貴様たちが、どれだけあの男に心酔していたかは知らないが、本当の目的は常にあの男
の胸の中にしかなかったし、あの男はその目的のためだけに行動した」
「・・・黙れ」
「貴様があの双子を『道具』として使おうとしたように、貴様もあの男の『道具』だ。それも、使い捨ての、酷く騙さ
れやすい――」
「黙れええええぇぇぇっ!!」
絶叫と共に、残った左腕が振り回された。それは、感情の爆発に伴うもので隙だらけの一撃だったが、それだけに一
切のブレーキがなかった。人間相手ならば、その体を安々と引き裂く程度の力はあっただろう。
――人間相手ならば。
空間に衝撃が走り、狩野の腕が爆発した。
悲鳴を上げる間もなく髪の毛を掴まれ、そのまま大きく後ろに引っ張られる。
万力のような力で、頭が後ろに反り、喉仏が露になった。
相手の意図を察し、狩野は両腕を失ったままもがく。それは、ちょうど彼が今まで血を吸った獲物たちがしたのと、
同じだった。
勇太は、その喉仏に深々と牙を突き立てた。
血は、魔力の源だ。そして、魔力は精神活動を行うための原動力である。通常、人間は食物等から必要分の魔力を
体内で作れるが、吸血鬼は自らの肉体で魔力を精製することができない。だから、血液を介して他の生物から魔力を
補給するのだ。
だが、狩野の血を吸う行動は、勇太にとってはまったく別のものだった。
血を吸う化生の血を吸う。それは、相手を完膚なきまで蹂躙する行為。『まがい物』の吸血鬼が持つ、ささやかな
プライドを粉々に打ち砕く殺し方なのだ。
「ごぉ・・・がっ・・・はっ・・・・」
血を吸われる可能の目前に、過去の光景が映った。
長めの灰色がかった髪を揺らし、あどけない天使のような微笑を、アレンは狩野に向ける。
『15(フィフティーン)』
狩野が『15』のナンバーを襲名した時のことだった。彼は、直立不動の姿勢で、アレンが歌うように言うのを聞
いていた。
『15・・・15・・・よし、覚えたよ・・・・』
そう言うと、再び彼は天使のような笑顔を向ける。その姿はまだ幼さすら感じられ、それだけを見れば、とても数
千人の後天性吸血鬼の群れを束ねる長とは思えなかった。
だが、その緑色をした瞳の奥に宿る確かな狂気が、彼が人間とは違うことを雄弁に物語っていた。
その狂気こそが、狩野達をどうしようも惹きつける魅力なのだ。
独善的でありながら、他者を熱狂させる何かを、カリスマと呼ぶのではないか。
ずっと、あの狂気と混沌を宿した、緑の瞳に見つめられていたかった。
優しく耳を擽る声が、狩野の神経を緩やかに侵し、自分の全てを委ねてしまいたくなる。
いや、自らの全てを使って、アレンに仕えようと、そう強く思った。
『15・・・期待しているよ』
だが・・・そう。確かに――
――確かに、この後にも先にも、狩野がアレンに名前で呼ばれることはなかったのだ。
「ごぁ・・・がぶ・・・・げ・・・」
狩野の喉から声が漏れる。だが、勇太はそれを掻き消し、わざと聞かせるように汚らしい音を立てて血を啜った。
やがて、狩野の体から体温が消えると、両腕のない骸を捨てる。一度、口を開け、血の匂いを口腔から追い出した。
「哀れな・・・」
死体を見下ろすと同時に、背後で双子を包んでいた光のカプセルが宙へ溶けるように消える。それは、呪詛の解除と、
損傷を受けた組織の修復が終了したことを示していた。それをちらりと見て、『後始末』を頼むためにズボンのポケッ
トを探す。だが、携帯を持って来ていないことを思い出し、それから自分がやってのけた惨状を見て、がっくりと肩を
落とした。
その背中を、誰かが遠慮がちにつつく。
双子の竜人が、怯えたような、縋るような目で、こちらを見ていた。
「「かみ・・・・さま・・・・?」」
二人は、たどたどしい日本語で、そう言った。
以上ですが、自分はなにをしてるんでしょうね。
『或る吸血鬼の懸念事項』でNGにしろと言いながら、名前欄に入れるのを忘れるなんてorz
しかもエロなし、ハーレム分も殆どなしでテキストファイル41kbって、殆ど荒らしかとorz
すみませんでした。
・次回予告
双子双子双子双子・・・以上!
半年ROMりたい気分ですが、完結するまではやっていきたいと思います。
本当に、色々と大変失礼しました。
>とくめー様へ
>>942の※印が2行連続している部分はコピペミスです。まとめのさいには一行消してください。
毎度毎度お手数をおかけします。
NoNoNo
GJですよー