253 :
102:
240の続きです
・・・・・・・・・・・・・・
岩窟に戻った桃子は、真っ先に奥に横たわる小猿に駆け寄り、無事を認めて安堵した。
その眠っているたもとのかごに三羽の雉のヒナ。
タキジとの約束を思い出し、桃子はためらいながらヒナのは入ったかごに手をやると、その振動に
親の帰宅を察したヒナ達がいっせいにピイピイと大口を開けて鳴き始めた。その声の大きさに慌てて
辺りを見回すと、タキジが置いていったのだろう粟の入ったすり鉢を見つけた。桃子は急いでそれを
ヒナが食べやすいよう砕きにかかる。と、不意にヒナの鳴き声がやんだ。
振り返るとそのうを大きく膨らませたヒナ達は、イヌイの手のひらでもう眠りに入っていた。
「何をあげたの?」
「虫。」
何の虫かはあえて訊かずに、桃子は黙ってすり鉢を置いた。
「このヒナはタキジさんとの約束で…。」
「聞いている。せいぜい大きく育ててやるんだな。」
雨のせいもあってか、もう辺りは暗く陰りだしていた。
早い山の夕暮れだった。
「…冷めてしまったな。」
イヌイはそれだけを言うと、黙って火をおこし、朝マサルが入れたみかん茶を温めながら、
水桶で手を濡らして、炊いてあった米を握る。
ぼんやりとその様子を眺めていた桃子に、ヒナの次はお前だとばかりにイヌイは、大きなおにぎりを
口元に差し出した。
桃子もそれをヒナよろしく両手をだらんと垂れたまま、大口をあけてかじりついた。
受け取らずイヌイの手からそのまま食べ続ける桃子を、イヌイは黙って見下ろしていた。
ザアッと強まる雨の音に当たりはいっそう暗くなり、イヌイの銀の光が強まったように見える。
桃子は体のだるさも手伝い、今が夢の中にいるように錯覚する。
鋭利な青白い光のせいだ。でも夢じゃない。
口に温かく感じる米の甘みが、食堂を通り腹に落ちていく感覚が、空腹の桃子に現実感を与えてくれる。
飢えて欲し、満たされて足る…おなかが空くってすごい。
遠雷の音を夢うつつに聞きながら、その感覚にすがるように桃子は一心不乱に食べた。
最後に残った米粒の一つをイヌイの指ごと口に含んで、舌を絡めてそれをしゃぶった。
桃子の熱い小さな舌の感触にイヌイは不機嫌そうに眉根を寄せる。だがそれが不機嫌ではない確信が
桃子にはあり、それを確かめるように、指をくわえたまま上目でイヌイの顔色をうかがう。
「…そんなこと、どこで覚えた。」
イヌイはそのまま桃子の舌を引っ張り、生意気だ、とばかりに指ではじいて桃子にキャン、と
声をあげさせた。
子供のくせに。なんだその扇情的な仕草は。
イヌイは苛つき桃子に背を向ける。
「もっと。」
背後の声にイヌイの毛皮がさざめく銀の波を立てた。
「もっと欲しいイヌイ。」
柔らかい固まりに背中から抱きつかれて、イヌイはさっきより小さいおにぎりを大きな手のひらで
器用に握る。振り向いて、ほら、と口に押し込んでやる。
不自然に素早く引っ込めたイヌイの手を桃子が笑った。
それでイヌイは本当に不機嫌になった。
「勝手に温めて食って寝ろ。」
「どこにいくの?」
「…おまえのいないとこ。」
意地の悪い言葉を残して銀の獣は雨の中へ消えて行った。
その後ろ姿に桃子はつぶやく。
意外だ。
「…イヌイ、照れ屋さんなんだ。」
そうして自分も顔を赤らめた。
254 :
102:2007/11/05(月) 18:43:49 ID:xFUDN1CI
・・・・・・・・・・・・・
イヌイが好きだ。
言葉にし、自覚した気持ちを桃子はあらためて認める。
あの粗野で意地悪で性格の悪い大犬が好きだ。
荒々しくて凶暴でヒヒ猿を二匹も問答無用に引き裂いて食った、あの恐ろしい妖獣が。
だがあの猛々しい腕は美味しい物を作り出す。私を力強く抱き寄せる。
器用な指に撫でられると切なくて、誰にされるより蜜が溢れる。
何でも知ってて頼もしくて、時々優しくて。
……好き。
そのイヌイが見せた愉悦の表情が桃子は忘れられない。
あの恐ろしい肉の柱から飛び出た白濁の雫は熱く、それはそのままイヌイの情熱のようで、
体に浴びて震え、口中に出された物も吐き出すなんて出来なかった。残さず飲み込んで、桃子は嬉しかった。
私もイヌイを食べちゃった!私もイヌイを夢中にさせる事が出来たよ!
またしてあげたい。して欲しい。私にあの切なげに上気した顔をまた見せて欲しい。
欲しい、と言えば、約束通り拒まずに…くれるだろうか。
桃子は忌々しそうに雨に逃げたイヌイを思い出し、口端を持ち上げる。
「あんな顔見られて、恥ずかしかったのかな…。」
くすくすと笑いながら、桃子はすっかり冷めて硬くなった鱒を焼き石に乗せて、命じられた通りに温める。
ムニエルに仕立てた鱒の香ばしい匂いが桃子の鼻を刺激し、ぐう、と腹を鳴らせた。
「夢じゃない。」
空腹に再び現実感を取り戻して、桃子は嬉しくてたまらない。
「イヌイ…。」
好きだよ。もっと、あなたが知りたい…。
思いがけず見た、興奮に猛るイヌイの姿に、それを桃子にぶつけて悦楽した顔に、イヌイとの距離が
縮まった気がするのは気のせいとは思えない。さっきおにぎりを食べさせてもらった時のあの微妙な空気が
それを確信させる。それに耐えきれず逃げたイヌイにも、今までとは違うなにかを得た気がする。
だからもっと…。
今朝目覚めたときと同じくイヌイの不在の岩窟で、なお降り続く雨の隙間をぬって闇が降りてくるのを
桃子は一人で、ただ見つめた。
肌寒く思わないのは、目の前でパチパチと薪をはぜさせる、たき火のせいだけでは決して無かった。
255 :
102:2007/11/05(月) 18:47:14 ID:xFUDN1CI
・・・・・・・・・・・・・
逃げたのではない。
俺はただ、後始末をしに出たのだ。
イヌイは誰に言い訳するでも無く、何度も心で繰り返していた。
逃げたわけじゃあ…。
「ちっ、案の定か。」
温泉の洞窟に戻ったイヌイは、自分のつけたヒヒ猿の血の染みの地面を手前に、奥の壁下に伏せるように
とまっている、黒い蝶のような羽虫を見つけて舌打ちした。そこイヌイが桃子を追いつめた壁際だった。
「妖魔も落ちぶれるとみじめなものだな。ヒヒの食った残り汁で生き延びるか、情けねえ。」
近寄るイヌイに気づいて黒い蝶は広げていた羽を畳んで、ゆらりと殺気をまとう。
ーーー誰の所行だと思っている、業外の妖獣が…ーーーー
「ふん、なにげに大きく育ってんじゃねえか。俺の食い後にハイエナしてるのをちゃんと見逃してるだろう。
桃子の雫は地に残ったもんでも、十分うまいだろうよ。」
挑発しておきながら、イヌイは妖魔を無視して手前の地に四つん這いに口づける。
ズゾオオッと奇妙な音をさせて、地面に黒々と染み残ったヒヒの血があっという間に消え去り、
地面は元の明るい土色に戻った。イヌイは立ち上がり、舌なめずりをすると、わずかに銀色の光を強めた尾を
その地に打ち付けゲップをもらす。
ーーーさすが、ハイエナはお得意ってわけだな狼ーーー
「残さず食う行儀の良さを誉めろよ。残飯あさりがすんだなら失せろ、目障りだ。」
ーーー銀狼…調子に乗るな、おまえも今に…ーーー
「失せろ。」
イヌイが毛皮の光を強め、わずかにその身を膨らませるのを見て、妖魔はバサリとその羽を羽ばたかせ
そのまま洞窟の闇に消えて行った。
それを見送りもせず、イヌイは自分の啜った地面に視線を落とし、小さくため息をついた。
「…美味かったぜ。」
日暮れに際し、徐々に深まる闇の中、イヌイの毛皮の青白い光がぼんやりと岩壁に反射している。
雨音と共に時折ゴボリと温泉の湧き出る音を聞いて、イヌイは着物を脱ぎ捨てると、湯煙を
光らせながら温泉に身を沈めた。
256 :
102:2007/11/05(月) 18:50:50 ID:xFUDN1CI
どうかしている。
イヌイは温かい湯に硬く力んでいた肩までつかり、大きく息を吐いた。目の前の湯気が二つに割れ、
自身の伸ばした足を見る。股間の一物は今啜った血のせいで、湯の中にありながらわずかにその存在を
主張して毛から覗く。猛りは発情期の動物の性だ。だが…。
ーー俺以外の妖獣の補食は嫌だとか言うなよ、桃岩が。
そう言ったのは俺ではないか。
どんな妖獣、妖魔にも、基本的には体を開いて餌になるのがお前達一族の生き方だと。
見ず知らずの通りすがりの妖しにも応えるように出来ていると…。
なのに俺がヒヒを食ったのは…。
「なんと美しい。光る獣が入ると湯全部が光るのですね。」
涼しげな声とともに湯煙の間からふわりと降りて来た妖しは、下からの光でその妖艶な顔の怪しさを
さらに強めて笑った。さしずめ銀の湯といったところでしょうか、と鬼のタキジは心から感服したように言った。
湯煙を乱さず目前に浮かぶタキジに、どうやって羽ばたいているのかとイヌイも感服しつつ、だがうんざりと
目をやった。
「さっきはありがとうよ。マサルを助けてくれて。恩に着る。」
「そんな顔ではないようですが。まあ、恩を着せられてくれるわけですね。」
くすくすと、いつもの笑いをこぼしタキジは、湯の中から飛び出た岩に腰掛け、昼間と同じく裾をめくって
鱗の足を湯につけた。
「あの桃岩を、どうして食べなかったのですか?」
にやにやと笑いながらもタキジは目を伏せ、自分の足が光る湯を揺らすのを眺めている。イヌイの光を
中から広げて輝く湯は、その炭酸の小さな光をキラキラさせながら、揺れる波をも光らせ美しい陰影を
湯気に照らしている。タキジは己の投げた質問よりも、その美しさに夢中になっているようだった。
理由はともかくこちらを見ないタキジの様子に、イヌイは口を滑らせる。
「泣いていたからな。泣いてる桃岩は不味い。」
自分が自分のために用意したその理由を、口に出して誰かに言いたかったからかもしれない。
返ってはこないだろうとふんでいた返答を得て、タキジは少し驚いた顔を見せてようやくイヌイに
目を合わす。思いがけず大犬は心細げにタキジを見ていた。
「おやおや。」
タキジは面白い事が起きている、とばかりに急に興味をイヌイに移して、さっきまで夢中になっていた
湯の光に向けていたのと同じ目を、ぼんやり脱力したその妖獣に向ける。
「銀狼のイヌイともあろう者が、ずいぶんグルメな事を言う。」
「俺を知っていたのか。」
「有名ですからね。金猿のサルトルに銀狼のイヌイ。あの子猿はサルトルの子ですね、桃岩が産んだ…。」
パシャンと音をさせ、イヌイが湯をすくって顔に浮き出し始めた汗を洗う。その雫でキラキラと
湯の表面が光を放ち、タキジは目を細めてそれを眺めた。
257 :
102:2007/11/05(月) 18:54:12 ID:xFUDN1CI
「だから不思議に思い訊いているのですよ。どうしてあの桃岩を食べないんです?せっかくの発情期に。
泣いてたとはいえ、あの桃岩もまんざらではなかった…。」
「食うとも。ただまだ…。」
「まだ?」
からかいを含んだ声色にイヌイがはたと口をつぐむ。
こんな鳥鬼に何を話している、俺は。
「まだ子供だからですか?」
くくと笑うタキジを無視して、湯から出ようと立ち上がる。
「あれはまだおぼこでしょう?初食いしなくていいんですか?有利ですよ。最初に迎え入れた物の印象が
やはり強いですからね。桃岩は誰の形状にも合わせるように出来ていますが、感覚と印象だけはどうにも
ならない。サルトルの子を産んだ桃岩も、結局はあなたではなく、初めてをまかせたサルトルを選んだのも…。」
ザバアアッと音をたて、湯の固まりが宙を飛んだ。湯煙を切り裂いてそのままタキジの座っていた岩に
ぶつかり、水玉はイヌイの光を散らして辺りは一気に明るくなった。
その明かりが高く飛び上がったおかしげに笑うタキジの顔をイヌイに見せて、イヌイはさらに不愉快を強めた。
「桜桃がサルトルの子を産んだのは、あいつが初めてだからじゃねえ!!」
子供のように声を荒げるイヌイに、タキジは上空から文字通り高笑いして言った。
「あははは!まさかあの醜い桃岩が忘れられずに…なんて操を立ててるわけではあるまい?
それはそれで美しく、私の好みではありますが。」
イヌイの銀の毛が天を突く勢いで逆立ち、光は鋭さを増し闇を裂いた。
それをいっそう面白そうにカラカラ笑って、雉は美しい尾羽を揺らして自らの羽に光を受け悦に入る。
「より好んでる余裕のないはずの狼犬が、何を躊躇しているのだか。泣かれるのが嫌なら先に
食ってあげましょうか?鬼は相手を選びませんから、飽きたら譲ってあげますよ。その頃には
たとえ泣いてもそれは快楽の涙でしょうし、グルメな犬にも甘露でしょうよ。あはははは!」
グオオウッとイヌイが咆哮し、ヒヒの時と同じく湯煙を持ち上げタキジを狙う。
「沸点が低い妖獣だ。コワイコワイ。はははは!」
優雅な動きと反した速さで湯気をよけると、タキジはそのまま苦手なはずの雨の闇に逃げていった。
洞窟に一人残されたイヌイは、ハアハアと肩で息をしつつ湯の真ん中に突っ立って闇を睨んだ。
「鳥鬼タキジ…。」
厭なやつだ。俺が桃子を食わなかったのを、その理由を…。
自分よりも知っていそうなタキジを、イヌイは心から忌々しく思った。
・・・・・・・・・・・
258 :
102:2007/11/05(月) 18:57:42 ID:xFUDN1CI
桜桃は川で溺れているのをサルトルが助けた桃岩の子供だった。
お世辞にも可愛いとは言えない、体つきも貧相で、ささやか過ぎる胸の隆起の片方には大きな
茶色い痣があった。ああ、これでは…、とサルトルが言ったのだ。
ーーこれでは俺たちが愛してやるしかないようだな。
俺たちはモテるし桃岩ちゃんには不自由しない。
だからおまえのようなブスな桃岩ちゃんは、かえって珍しくて面白い。
ちゃあんと食わせてあげるから、おまえもビクビクしたりしないでいい。
ほおら、もっと。桃岩らしく横柄に、俺たちにふんぞり返っていいんだぜ。
ブスったれてニコリともしない子供が、美味しいものにその身を健康に太らせ、少しずつ
笑うようになり、柔らかに微笑むまでになっていったのを俺は横で見ていた。
そうさせたのはサルトルで、俺はただサルトルに頼まれるままに桜桃をもてなし、優しくし、
補食を手伝い、発情期にはその身を食った。
それだけだ。
すべてサルトルの通りに…だから、桜桃がその眼差しをサルトルに向けているのは当然のことだった。
たとえ先に桜桃を食ったのが俺だったとしても、それは変わらなかっただろう。
ーーありがとうね、イヌイのおかげで私は…ーーー
桜桃の優しげな笑顔はもちろん俺にも向けられた。
だが違う。俺は何もしていない。ただ横で二人を見ていただけだ。
見ていた…とても不思議に思いながら。
俺が桜桃を食うのを見守るサルトルの突き刺すような目を。
その他の妖獣に屠られる時間を酒を飲みやりすごし、それでも苛つく金猿を。
その後、必ず彼に寄り添い体を預ける桜桃を。
やがて何もしゃべらなくなっていく二人を…。
耐えきれず逃げるように、二人のもとを発った朝も雨が降っていた。
桜桃が岩になり、マサルを産んで砕けたと聞いた夜もそうだった。
だからではない。
雨の日にこんな気分の波が揺れるのは、雨には妖術が陰る、すべての妖獣の性質のためだ。
湯から出て着物を着た。だが桃子とマサルの待つ下の岩窟に戻る気になれず、イヌイはその場に立ち尽くし
雨を眺める。吐く息が白くなびき、自身の欲望を思い出す。
なぜあのまま桃子に突き入れ、食わなかった?食えなかった…!?
あの鳥鬼の言う通り、おぼことわかったときから、はじめからそのつもりだったくせに。
「…くそっ。」
イヌイはあれからずっと耳に残っている、桃子の小さな声を振り払うように首を振った。
ーー好き…。
それは昔聞いた桜桃の声と重なり、イヌイは唇を噛んで口惜しさに唸る。
何故死んだ、サルトル!?今聞きたい、お前はどうやって…。
俺は、…俺はヒヒを食い殺した…。
ーーーイヌイが好き…。
身勝手に放った白く濁った欲望の粘りを、胸に塗り付けて微笑んだ、いたいけな少女の顔。
バカな子供だ桃子…お前は。まだ、何も知らない…。
259 :
102:2007/11/05(月) 18:59:59 ID:xFUDN1CI
・・・・・・・・・・・・
イヌイが重い足取りで岩窟に戻ると、マサルが起き上がって火をいじっていた。
「あっ、おかえり〜イヌイのおじちゃん。温泉ゆっくりつかれた〜?」
その言葉でタキジが来たのだと察したイヌイは、桃子の不在に毛を逆立てる。
「桃子お姉ちゃんはねえ〜、タキジのお兄ちゃんと一緒にお散歩してくるって。すぐ戻るっていってたよ。
タキジのお兄ちゃんも『雨だから遠くには行きません、この上の一本杉の梢くらいまでしかね』って
イヌイのおじちゃんに伝えてだって。みんなが僕を伝言係にしちゃってやんなっちゃう〜。でもびっくり
したよう、ヒヒ猿イヌイのおじちゃん食べちゃったんだって〜?僕も食べたかったよう。残してくれたら
よかったのに〜。」
すでに元気を取り戻してよくしゃべるマサルに、イヌイはため息を吐き隣に座った。
マサルの頭をくしゃくしゃと撫でて大丈夫か、と一応訊く。
「ぜんぜん、元気〜〜!!僕食べられちゃうところだったんだってねえ!タキジのお兄ちゃんが
助けてくれたんだってねえ!いいなあ、鳥!飛べるなんてすごいよねえ〜!」
おそらく桃子を抱いてタキジが飛んでいったと思われる、雨の林の向こうを眺めて羨ましげに言う
マサルの首根っこを掴んで、イヌイは無理矢理小猿を懐に抱きしめた。
きゃあい、と嬌声をあげて笑ったマサルだが、珍しくぎゅうと抱きしめられたことを不思議に思って
イヌイの顔をのぞく。
「おじちゃん、どうしたの?」
「…おまえは、父親にしか似てないな。」
マサルの顔を懐かしく眺めながら、包むようにイヌイは撫でた。
「母ちゃんブサイクだったから似なくてよかったって、父ちゃん言ってたよ。」
身もふたもないマサルの言い草に、イヌイは笑ってバカと言った。
「サルトルは照れ屋だからそう言ったのさ。ブサイクじゃない、お前の母ちゃんは…綺麗な女だった…。」
つぶやいて目を伏せたイヌイを見て、マサルはへへ、と笑ってそうなんだと抱きついた。
そのまま小猿を抱いて横たわったイヌイは、岩窟の入り口からのぞく小さな空を見やった。
ーーこの上の一本杉の梢くらいーーにいるから来るなら来い、ということか。
タキジの伝言にイヌイは一瞬迷って、そして行かない方を選んだ。
ついて行ったのならお前の責任だ、桃子。いっそ姦られてくればいい。
その方が俺も…。
イヌイは昼間、泣きながらヒヒに嬲られていた桃子を思い出し、だがそれを打ち消すように
ぎゅっと目を閉じた。
妖鳥の愛撫は巧いらしいし、なによりアレが痛くないと聞いている。少なくとも下卑たヒヒや
猛った大犬よりはましだろう。それにタキジは鬼だから…。
俺の目的の邪魔にはならない。ならばいい。
ならば…いっそ、いいはずだ。
誰に聞かせるでもない言い訳を、イヌイは繰り返し心に唱え続けた。
・・・・・・・・・・・・
260 :
102:2007/11/05(月) 19:05:21 ID:xFUDN1CI
「約束を確認に。それから見せたいものがあります。」
雨の中を飛んで来たくせにまったく濡れていないタキジは、それでも見えない水滴を振り払うように、
美しい長い玉虫色の髪を揺らしてそう言った。
満腹にうとうとしていた桃子は、物音にイヌイが帰って来たと思い嬉々として顔をあげたので、
タキジの姿にがっかり肩を落とすのをうっかり隠せずタキジを見上げた。
自分の預けたヒナのような、そんな桃子の様子にタキジは、犬は温泉に入ってましたよ、と笑う。
桃子は心を見透かされたようで恥ずかしく、顔を赤らめながらも、ふうん、とそっけないふりをした。
マサルを助けてくれた礼を言うと、名前に反応したのか小猿が目を覚まし起き上がってきた。
心配していたマサルが思った以上に元気そうなので、桃子はタキジと共に雨の夕刻の闇に外に
出ることにした。タキジとは話す必要があったが、桃子はそれをなぜだかイヌイに見られたくはなかった。
雨だから、近くの濡れない場所まで飛びますよ、というタキジの言葉で、桃子は促されるままタキジに
横抱きにされた。
細腰の頼りなげなタキジだが、それでも男のせいか鳥鬼のせいか、その腕は見かけによらずがっしりと
安定して桃子を支えた。だが桃子は万が一にも振り落とされないようにタキジの襟元にしがみつき、
それでもたまらず、最後にはその身を押し付けるようにぎゅうと首に抱きついていた。
木々が、山が、山々が、みるみる小さくなっていく。
悲鳴をあげる間もないスピードで、タキジは垂直に上昇し、雨雲を突抜け、ぽっかりと雲海の上に出た。
沈みかけた夕日が西の空を赤く赤く染め、燃えているような雲は果てが見えずに続いている。
あおげばそれを包み込むような広い空が、どこまでも遠く澄んだ紺色を徐々に静かに深めていた。
明るく光る星が一つ、二つ、やがて次々に光を灯して数千の光が桃子を囲んでいく。
知らない世界がそこにはあった。
荘厳さに恐怖も忘れて桃子はぽかんと口を開けて、その景色に見蕩れた。
すっかり陽が沈み、星が見慣れた夜の様子を見せ始めた。
タキジは桃子に景色を堪能させるように一言もに声をかけなかったが、暮れきる直前になり、
そうそう、と口を開いた。
「見えますか。あの陽が落ちた端に見えるのが鬼が島です。」
驚きにタキジを振り返り、慌ててその陽が沈んだ方を見る。わずかに小さく鋭利な山頂が
雲海からのぞいていたが、やがて陽が沈みきり、闇に飲まれて見えなくなった。
「あれが鬼が島…。」
「ええ、我らの故郷です。」
「えっ?」
聞き間違いかとタキジを見る。
横抱きのまま首にしがみついている桃子は、間近にタキジの黒々と深い闇の瞳を覗く。
顔に刺された五色の刺青が、謎掛けのように桃子にせまってきた、と思った。
「我ら、の故郷ですよ、桃岩さん。だから、あなたに見せたかった…。」
ごく自然に唇が重なり、ついっと軽く吸われた。
大きな棗の瞳を丸くさせる桃子を、タキジはその薄い唇からぺろりと舌を出し笑った。
「鬼が島は桃岩で出来ているのです。知りませんでした?」
何事もなかったように話すタキジに、桃子も今のはただ肌がぶつかっただけの気がして、
それよりも聞いた衝撃的な情報に、うんうんと首を縦に振る。
「妖獣と人の子…半妖の鬼のほとんどがあの島に住んでいるのは?」
「それは知ってる。私、はじめは鬼だと思われてて、鬼が島に行くように言われて村を
追い出されたの。」
「なるほど。その途中で銀狼のイヌイに逢って、桃岩だと知ったわけですか。」
「タキジさんはイヌイを知ってたの!?」
「有名です。ただでさえ強い、絶滅危惧種の妖獣の中でも彼は特別強い。最後の一頭は無敵と
言われていますからね。」
261 :
102:2007/11/05(月) 19:07:50 ID:xFUDN1CI
桃子はさらに驚いてぽかんと口を開ける。
「犬じゃないのイヌイ!?」
「狼ですよ。見たらわかりませんか?あんな猛々しい犬、犬も迷惑です。」
涼やかに笑い、タキジは開けたままの桃子の口に再び自分のそれを重ねると、同時に舌を差し入れ
桃子に絡めた。
今度はさすがに桃子も自然とは思えず、慌てて口を閉じ顔を背ける。だが追って重なる口端から、
再び舌を差し入れられると、不思議に心地よい感触に桃子は思わず声をもらした。
「あ…んん、や…何を…っ。」
気づけば抱かれた手の一方が、そのまま桃子の胸に伸び、着物の合わせにすべりこみ柔らかな肉を揉む。
ひああ、と声を出して桃子は仰け反った。
前もそうだったと思い出しながら、一気に溢れて来た股間の泉に恥じて顔を赤らめた。
「ふふふ。本当に、感度のいい。私の手はそんなに気持ちいいですか?」
尋ねながらも自覚しているタキジのビロードの指先が、躊躇も無く乳頭を捕らえて優しくなで上げる。
「だめ…タキジさん、…あっああっん!」
いかんともしがたい快楽の波が立ち、桃子は息をあげながらも、慌ててそれを拒もうとタキジの肩を掴んだ。
突き飛ばそうとしたその瞬間、お忘れですか?ここがどこか…、と耳元でささやかれ我に返る。
夜空に浮かぶ桃子を抱いたタキジの足下に地面はない。どこまでも続く、どれほどの厚さかもわからない
雲の絨毯が眼下に広がるばかりだった。
突き飛ばして、飛べるタキジはいい。困るのは桃子だ。
「タ…タキジさんっ!」
放り出され落下する想像に身震いして桃子は、タキジに哀願するよう抱きついた。
「ああ、困りましたね。そんなにくっつかれると、愛撫出来ないじゃないですか、桃子さん。」
「しないで、お願いっ!」
「どうしてですか?桃岩なのに。」
胸を諦めたタキジの腕は、しっかり抱きついている桃子をいいことに、支える役目を放棄して
下半身に滑る。丸い尻を軽く撫でたあと、その手は着物の裾を大きく開いて、そのまま片方の太腿を
尻から掴んで足を割る。否応無く落ちないよう、桃子は自らタキジの腰に足を絡めてしがみつく形になり、
ダッコされた桃子の尻をタキジの両手が着物をめくって撫でさすった。
「ああっ、嫌っ!!怖い!…やっ、やだあっ!!ばかあ!いやああ…っ!!」
タキジの手は後ろから桃子の大きく開いた女陰に伸びた。ゾロリとした快感に、一瞬高所の恐怖も忘れて
桃子は喘いだ。
ヒヒ猿の時に比べて嫌悪感も何もない。タキジの指は触れた場所から快感を引き出し、桃子は
みるみる高みに駆け上がる。股間の雫はドウッと音をたてて溢れているようにさえ感じる。
どうして簡単にこんなになってしまうのだろう。
嫌だ!気持ちいい!!気持ちいい、が嫌だ!だってそれはイヌイが教えてくれた…っ!
262 :
102:2007/11/05(月) 19:11:08 ID:xFUDN1CI
つぷりと水を湛えた泉の穴に、いきなり二本の中指が埋まる。
そのまま強く淫芽をタキジの腹に押し付けるように尻を揺さぶられ、桃子の体を稲妻が駆け抜けていく。
脊髄が快感を充たし、桃子は額から声をあげて戦慄いた。
恥じる事も、抵抗する間も与えられず、桃子はあっけなく達した。
両腕をタキジの首に回したまま、顔をタキジの鎖骨に埋める。
ハアハアと息を乱した自分の吐息で顔を湿らすと、乾燥につれた皮膚が少し緩んだ。
タキジの指はまだ自分の中に収まったままで、収縮する自分の肉を感じて桃子は泣き出した。
「何故泣くんです?気持ちよかったのでしょう?」
ぶんぶんと首を振った。
両手足でタキジにしがみついたまま、桃子は嗚咽を漏らして身を揺らす。
するとまだ中に収まったままのタキジの指が桃子を刺激し、ぎゅうと締め付け、さらに愛液を溢れさせた。
「うっ…うう…っ、お願い…ゆ、び…抜いて…。」
「ふふ。イイ、のでしょう?いやらしい桃岩さんだ。もう一度イキますか?」
膣の中のタキジの指がくにゅりと蠢き、桃子の腹側にしこる肉壁を擦る。イヌイにも一度擦られ、
漏らしたようにびしょびしょに濡らしたあの場所を、どうして知っているのかタキジも的確に捕らえて
擦り上げる。
「いやあっ!そこダメぇ…っ!ダメえぇーーっ…えっえっ…ううーーー。」
さっきとは違う鈍い感覚に、それでもなにかが突き抜け、びしょびしょと水っぽい淫汁が
タキジの上下する指の激しさに雫を散らす。そのままピストンする指の片方を抜いたタキジは、
腹に押し付けていた陰核を指で摘んでぐりぐりと押しつぶした。
「あーーーーーーっ!!」
立て続けに再び、さらに高い絶頂に達して、ガクガクと身を痙攣させ、桃子は涙に濡れる顔を
くしゃくしゃに歪めて声無き慟哭にのどを震わせた。
桃子の中に突き入れた指をなおもくちゅくちゅと繰りながら、タキジはさっきと変わらぬ声で再び尋ねた。
「びしょびしょですね、桃子さん。桃岩はこうして妖しの餌となる。それがあなたたちの一族の
生き方であり、宿命です。こうされることであなた達は成長し、経験を積んで大人になっていくのですよ。
だから、これが気持ちいいようにあなたの体は出来ているでしょう?なのに何故泣くのです?」
ひっくとのどを鳴らし、桃子は小さく嫌だ、とつぶやいた。
「イヌイじゃないと…嫌だ…っ。」
待っていた答えにタキジは瞳を輝かせ嬉々と笑った。
「でもイヌイさんは来ないですね。ここで私があなたにこうしている事を彼は知ってるはずなのに。」
再びひっく、と音が漏れる。肩を一度大きく上下させて、桃子はタキジを見あげた。
「知ってますよイヌイさんは。でも、来ませんね。」
263 :
102:2007/11/05(月) 19:13:45 ID:xFUDN1CI
泣き濡れた瞳を陰らせていく桃子を、にっこり微笑み眺めつつ、タキジは自分の腰を桃子の尻に
押し付けた。
細長い棒のような尖ったものが突き出ており、桃子の尻の頬に刺さった。
「恥ずかしながら私のこれはイヌイさんはおろか、マサルくんにも及びませんが。」
その言葉で桃子はそれが何かを知る。
「鳥ですからそれは仕方がないので、別に気にしちゃいませんが。」
タキジは桃子からずるりと指を抜いた。その感触にもうっかり声を漏らしながら、桃子はその
抜いた指にからんだ粘液を舌でねっとり舐めとるタキジに、おにぎりを食べる時自分がイヌイに
してみせた行為を思い出して胸を苦しくさせた。
あの時は、自分とイヌイが何か変わったと…心が近づいたと思った。
少なくともあんなに激しく自分を求めて、その後照れて逃げたあのイヌイなら、きっと、
知ってたら助けに来てくれる…。
「さすがに指よりは太いので、少しは痛むかもしれません。」
言ってる意味が分からず、桃子は問うようにタキジを見た。
「でもあの銀狼の凶暴な肉茎をいきなり入れるよりは、確かにはるかにましでしょうね。
泣いてる桃岩は不味いから食わなかったと言っていましたよ。そんなにあの狼がいいのなら、
今はいいけど、彼のときは泣かないように我慢が必要ですね。」
そうしてタキジは桃子の尻肉に突き刺していた己の棒を、先ほど指を抜いた秘壷にあてがった。
指を抜いたあの場所に、これを差し入れるつもりだ。
ひらめいて、桃子は愕然とした。
イヌイのあれも本当はそのつもりで…。
でも私が泣くから興ざめして…?
照れだと思ったあの顔は、本当は不服で不愉快をあらわにしたものだったの…?
では本当にイヌイは知っているのだ。桃子がここでこうしてタキジにされている事を。
それから今からされるだろうことを!
自分がそれを桃子にするときに、泣かれたり面倒がないように、タキジに先にさせるのだ!
知っていて…!させてるの…!平気なの…!!
「入れますよ。」
「う…わあーーーーーっ!」
ドンッ!!と思い切り両手で、足で、タキジを突き飛ばし、桃子は一瞬宙に跳ね上がり、急速に落下した。
自分の体がただの固まりになり、加速をつけて落下するのを、桃子は遠くから眺めているように感じた。
哀れな、思い上がった岩でしかない自分だった。
最後の一匹である特別な強さを誇るあの狼に、どうして愛される事を望んだり出来たのか。
バカみたい。バカみたいだ私。イヌイを満足させられたと思った。あんな事くらいで。
私なんて、ただの岩なのに。
誰にでも濡れる、淫乱な、ただの餌なのに…!
恥ずかしい。私は私である事が恥ずかしくて悲しい。
このまま砕けて散ればいい…!!
灰色の雲を抜け、それがみるみる遠ざかっていく。
強い空気の抵抗を背に受けながら、その様子をただ瞳に映した。
264 :
102:2007/11/05(月) 19:24:56 ID:xFUDN1CI
ああ、雨は…、もう降っていない。
さっき見た星空もやがて姿を現すだろう。
あの小さな明かりがけなげに光るのを、もう一度、見たかったな。
…イヌイと。
そう思った瞬間。
ガツンッと強い衝撃が背中から貫くように腹に抜けた。
その反動で桃子は両手足を大きく跳ね上げながらも、体はそのままなにかに固定され動かなかった。
うぐうっと呻く自分の声が、背中のそれと重なり、桃子は目を開けた。
開けたとたんに視界に広がる光に刺されたその瞳から、だらだらと止めどなく涙があふれて、
自分を包む青白い光はさらに拡散して増した。
「う…ううーーっっ…!」
「自業自得だろう。泣くな、鬱陶しい。」
「イヌイ……っ!!」
自分を受け止めてくれた、逞しい肉の壁にすがりつくように抱きついた。
既に見慣れた銀色の光を放つ毛に顔を埋め、わあっと泣き声をあげる。
「泣くな。」
繰り返すイヌイの声は、だが苛立っても怒ってもいなかった。
それでも桃子の細い肩があんまり震えて止まないので、イヌイはその小さな頭を懐にかき抱いて
何度も頭を撫でてやった。
もう片方の手に掴んだ杉の高枝は、桃子を受け止めた衝撃にぼっきり折れて、そこだけ空を覗かせている。
ちょうど開いたその窓にふわりとタキジが姿を見せた。
「ふふ。やはり来ましたね、銀狼。」
「危ないやつだな。少しでもズレていたら受けられなかったぞ。」
「そんなヘマはしませんよ。あなたも私も。」
ぺっとイヌイがタキジに唾を吐いた。
顔を背けてよけた片腕の羽にそれがかかり、タキジは一瞬眉をひそめたが、すぐさま肩を揺らして笑い出す。
にんまりと持ち上がった口角から、嬉々とした声が溢れた。
「くくく、いいですね。いいですよ、イヌイさん!素敵です!さすが業外の妖獣です!絶滅危惧種は
そうでなくては…そうこなければね!!ああ、楽しい…っ!!」
「お前を楽しませるためになど何もしていない。」
「その桃岩が好きなのですか?」
「失せろ。」
「桜桃よりも?」
ぶんっ、とイヌイの尾が、毛を逆立てつつ風を切る。
なんなくよけた後、タキジはさっきイヌイの唾を受けた腕の羽を引き抜いた。
根元に肉がからみ血が滴る羽を放り投げ捨てて、タキジは桃子を呼んだ。
「約束しましょう。あの三羽のヒナが育つまでに…。」
「失せろと言った!」
「あなたが鬼が島に行くときは、私もついて行きましょう。少なくともその凶暴な狼よりは
心強いお伴と思いますよ。なんせ生まれ故郷ですからね。」
しびれを切らせてイヌイが吠えて、銀毛を逆立てる。動じずタキジは笑ったまま、やんやと手を叩きながら
上へ昇っていく。
「綺麗ですね、発情期は獣も。私は綺麗なものが好きなので、また見に来ます。」
カラカラと高い笑い声を響かせながら、タキジは空の高みに消えていった。
265 :
102:2007/11/05(月) 19:29:59 ID:xFUDN1CI
雨は完全に止み、高い杉の梢にいながら虫の音が響いて聞こえていた。
イヌイはまだグスグスと鼻を鳴らす桃子の肩を強く抱いた。
「…泣くな。」
他に聞きたい事も言いたい事もある気がするのに、それしか言葉は出てこない。
いつのまにか風に分厚い雲は流れ、杉の梢の窓からは、さっき上空で見たのと同じ
小さな星の光がのぞいていた。
温かいイヌイの腕の中でそれをぼんやり眺めながら、桃子は涙を止められなかった。
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本番を目前にして今回はこのへんで
励まし、リポD、ありがとうございます!
次はもっと早く来ます〜。長くなってて本当にすみません。