218 :
102:
212の続きです。
・・・・・・・・・・・・・・・
鼻腔をくすぐる香ばしく甘い香りで桃子は目を覚ました。
ああ、この匂い、なんだっけ。そうだ、ケイキ。あの黄色いふわふわで甘くとろけるケイキ。
イヌイが約束通り今朝も作ってくれたんだ。嬉しいな。食べたいな。大好き…。
「…イヌイ。私、いっぱい食べたいよう…。」
ぼんやりと目をあけながら、桃子は無意識に欲求を口に出した。つぶやくようなちいさな声に返答は無く、
桃子はそのままゆっくりと身を起こすと、そこにはジュウジュウと音を響かせ焼け石でケイキを焼く
マサルの姿だけがあった。桃子の姿に気づいてマサルがぱあっ、と頬を紅潮させ笑顔を向ける。
「あっ桃子お姉ちゃん。起きたの?よかったちょうど焼き終わったところだよ。温かいうちに一緒に食べよう。
葡萄とサル梨のジャムも作ったんだ。かけて食べるんだよ。焼き目が編み目になって最高の出来だよ!
あつあつのふわふわのやわやわのとろとろのあまあまでふちはカリカリなの!今日は雨で冷えるから、
鍋にたくさんしょうが入りみかん茶も炊いてあるよ。ささ、起きて!こっちおいでよ。食べようよ。」
言われなくてもとびつきたい香りの充満する中、桃子はそんなふうに自分をもてなすのは、
自分が彼らの餌で桃岩だからだと、わかりきった事にすねたくなり、また寝床に横たわり
かけられていた布に丸まった。
「桃子お姉ちゃん?食べないの?うそ〜、すごくおいしいのに!!」
信じられない、といった感じでマサルが寄ってくる。布から目だけを出して覗き込むマサルを見ると
心配に泣きそうな顔をしていた。
「…どっか痛いの?」
不安げな声に、この小猿が父親を病気で亡くしたばかりだという事を思い出し、桃子は布から顔を
全部だし笑ってみせた。
「ごめんね、大丈夫。ちょっと体がだるいだけなの。ここでこのまま食べたいな。こっちまで
持って来てくれる、マサルくん?」
元気な桃子の声に安心したマサルは、うんっ、といい返事でかまどに戻り嬉々として朝食を運ぶ。
落ち着いて見回すとそこは浅い岩窟だった。入り口はせまいが高く、岩の窓からしょうしょうと降る
雨の音とそれに揺れる林が見える。かまどは雨が降り込まない程度の外近くにこしらえていて酸欠に
なることはない。雨のひんやり湿気た空気と釜戸の湯気が混じりあい、不思議な空気に満ちた洞の、
岩がむき出す地は硬いが意外なほど温かい。
もう一匹の獣の姿が見えない事は、目を覚ましたときから気づいていた。だがなんとなくマサルに
聞くのが恥ずかしく、桃子は黙って少しの不安ともどかしさに耐えていた。
木のカップに入れたショウガ入りみかん茶は、起き抜けの桃子の冷えた体を温め食欲に弾みを付けた。
気を良くして桃子は掛けていた布をめくってマサルに入る?と促すと、うんっっ!とさっきよりいい返事で
小猿は桃子の温かい床に潜り込む。そのままうつぶせに横たわってケイキを頬張るお互いの朝ご飯の
行儀の悪さを兄弟のように笑いあった。
おいしいね、ありがとね、と桃子がケイキをおいしそうに食べるを見てマサルは心底嬉しそうだ。
ケイキの一片をあ〜ん、とマサルに向けると、マサルは少し驚いたように身構えたが、すぐさまあ〜ん、と
口を開け桃子を待った。うそ、あげないよ、と意地悪するつもりだった桃子だが、マサルの切ないまでの
期待の顔に初志を曲げてケイキを口に放り込んでやる。ぱくんと音をたてるような仕草で口を閉じると、
マサルはそのまま嬉しそうに桃子にすり寄って、口を押さえて黙り込んだ。そのわざとらしいまでの不自然さに
尋ねざるを得ない桃子である。
219 :
102:2007/10/07(日) 16:55:30 ID:NVjDqRhM
「どうしたの。いつももっと元気におしゃべりなのに。」
口を押さえたまま、上目でしゃべっていいか、と桃子に訊く。わかるから不思議だ。桃子も黙って
目でいいよ、と許可をする。すると押さえていた手をはずし、ぷはっと息を吐いたマサルは、今までが
堪え難かった様子で一気にまくしたてた。
「イヌイのおじちゃんに怒られたんだよう〜。僕のおしゃべりが多すぎるって〜。桃子お姉ちゃんは
疲れてるから、あんまりしゃべってうるさくするなと言われたんだよう〜。だから僕しゃべらないように
耐えてるの。それからおっぱいも触っちゃダメだって〜。昨日僕がいじりすぎて痛い痛いになってるからって〜。
ごめんねえ、桃子お姉ちゃん。だけど桃子お姉ちゃんのおっぱいはほんとうに気持ちよくて僕すぐに
触りたくなっちゃうの。だから口を押さえて我慢してるの。こうすると二つの我慢を同時に出来て、
一石二鳥で、僕って賢いお猿さんでしょ!だけど桃子おねえちゃんがケイキ食べさせてくれたりするから…。」
ここまで一息に話し、急に息を切らしてはあはあと休む。早口の猿である。
聞くのに必死だった桃子だが、慌てて今のうち、と口を挟む。
「ごめんね。あ〜んて、赤ちゃんみたいで嫌だった?」
マサルはかあっと顔を赤らめて、ううん、と黙って首を振る。これはしゃべるのを我慢して、ではなく、
照れくさそうに嬉しそうにだ。桃子はその様子にほのぼのと笑い、またケイキをひとつつまんで再びあ〜んと
差し出してやる。マサルの瞳が喜びにキラキラ輝きためらわずあ〜んと口を開けるのを確かめて、
桃子は今度こそそれをひょいと自分の口に放り込み、あっけにとられるマサルに悪戯っぽく笑って言った。
「うん、お・い・し〜!!」
真っ赤になったマサルがバカバカと罵りながら桃子の胸に飛びつく。思わずきゃっ、と声を上げた桃子に、
マサルはああっそうだった、ごめんよう〜、とイヌイの戒めを思い出してまた口に手を当てじっとする。
その様子が可愛らしく、桃子はマサルの頭を抱いて胸に押し当てつつ撫でてやる。
「あのね、マサルくん。変にいじったり揉んだりしないんだったら、胸触ってもいいよ。」
「えっ、本当?!桃子お姉ちゃん!」
いいよと言われてためらわず、着物の合わせに手を突っ込む。
「さっ触るだけだよ!動かしちゃやだよ!」
「でも、それじゃあ気持ちよくならないよ?」
「ならなくていいの!」
あわてて声を荒げる桃子に、あっ今日は痛いからヤなんだっけ、と簡単に納得してマサルは谷間に
顔を埋めつつ力を抜いて心地良さげににんまり笑う。
「桃子お姉ちゃんのおっぱい大好き。凄く気持ちいい…。」
うっとりと夢心地のマサルは、桃子の柔らかく吸い付く絹の山肌に頬ずるも、色めき立ったところは無く
すっかりくつろいでいる。体は桃子より少し大きいが、その程度のまだ子供の様子に桃子は安心して、
胸をマサルに貸したまま、仰向け気味に横臥した行儀の悪い朝食を続けることにした。
葡萄のとびきり甘いジャムも最高だったが、桃子はサル梨のさっぱりした清々しい甘みが気に入った。
軽く煮詰めているだけのそれはとろりとした中で時々シャクっと、歯触りも楽しい。
今日作ったのはマサルくんみたいだけど、ケイキはイヌイのと同じ味だったな。マサルくんのお父さんと
三人でいる時に三人で覚えた料理なのかもしれないな。…いいな。私も覚えたい…。
桃子は味覚だけを働かせてぼんやりと空を眺めつつ、イヌイはどこに行ったのだろうと思う。
小猿と楽しく戯れていたときも、実はずっとそう思っている。こうなるとマサルの存在がありがたく心強い。
この補食が出来ないという桃岩との半妖を見捨てて、一人どこかに消えるようなイヌイではないだろう。
自分を見捨てる事はあっても…。
220 :
102:2007/10/07(日) 16:59:34 ID:NVjDqRhM
桃岩は…餌は他にもいるものね…私じゃなくても…。
雨のせいだろうか。沈みやすい自分の気持ちに桃子はうんざりする。
イヌイに何かを求めている感じは昨夜と同じだが、昨夜のような熱く股間が焦れる欲求ではもちろん無い。
目が勝手に大犬の姿を探し、いないと確認するたびに、桃子の胸に小さいが重たく冷たい石が乗せられていく、
そんな辛さだった。積み重なりだんだんと息が出来ない。この石を取り除けるのはイヌイだけだと、
それだけはわかっていて、早くその大きな力強い腕でぶん、と払いのけて欲しいと願う。
…欲しい、と言う気持ちだって昨夜は教えてくれたけど、これは違うよね…?欲しい、だったら
イヌイは拒まない約束してくれたのにな…。
桃子は昨夜の、初めて自分からイヌイに求めた行為に今更顔を赤らめ、思い出した感覚を打ち消すために
むしゃむしゃとケイキを口に押し込んだ。口いっぱいのそれが桃子の口中の唾液を吸い、乾いた口は
あわてて唾液を分泌する。昨日の朝、初めてこれを食べた朝はあんなに嫌だったイヌイの補食が、今朝は
昨夜同様、無い事が寂しい。それ以前に姿が見えない事がこんなにも心細い。たった一日で
自分のこの変化はどうだ。
「桃子お姉ちゃん。」
マサルの声に我に返る。マサルの視線で桃子は自分がケイキをむちゃくちゃに口に押し込む時、
ジャムをたくさん胸にこぼしてしまっていた事にようやく気づいた。マサルの鼻先にもいくつもサル梨は
垂れていた。
マサルくんごめん、と言いたく口をモゴモゴ言わせた桃子を見て、マサルはどう受け取ったのか、
うん、と頷いて胸にこぼれたジャムをぺろぺろ舐めとり始めた。谷間に滑って行ったサル梨の果肉を追って
マサルは桃子の着物をはだけさせ胸を開いた。
「んふ…んん…っ!」
乳房に急に与えられた刺激に、桃子はびくんと体を揺らし、思わぬ声を上げた。
谷間に逃げた果肉をようやく捕らえてマサルが顔をあげると、大きな白桃の胸の頂きに揺れる
赤い果肉があり、マサルは桃子を伺い見る。
「ふんんっ!」
ダメよと首をふりつつ言ったつもりだが、マサルはそれを口に含んで優しく舌で転がした。
んふんっとくぐもった声で一瞬仰け反った桃子は半身を起こしながら、慌てて口中の唾液を吸いつつ
ふくらみ、未だ飲み込みきれないケイキの固まりを手で取り出すと、やっとはっきり言葉をぶつける。
「ダメよって言ったの!マサルくん、ダメ!」
マサルは乳首から唇を離すと、桃子を見てえへへ、と笑った。わかってやったのは間違いなかった。
もう、とマサルの体を突っぱねるが、その反対の手をぱくっと口に入れられ、桃子はびっくりして
身を硬直させる。マサルが口から桃子の白魚の手を吐き出したときは、その手に持っていた桃子の
唾液に湿ったケイキは無かった。
「僕ねえ、下のお口からは補食出来ないんだけど、上からは出来るの。あんまり好きじゃないから
よっぽどお腹すいてるときしかしないけど。」
そういえば初めてマサルにあったときも口を吸われた。あれはつまりとてもお腹がすいていたからと
いうわけか、と桃子は思い出す。そうだ唾液も妖獣のご飯だ。
「だけどなんでかなあ、桃子お姉ちゃんのは甘くておいしいと思うの。」
それはケイキの甘さだろう、と言いかけた桃子の口にマサルの口が重なった。小さな舌が
にょっきり入って来て、驚いて顔をそらす。
「ダメ?お口吸わせて、桃子お姉ちゃん…。」
気づくと桃子に股がるように上に乗ったマサルの股間に、なんだか熱く硬いものがある。
えっ?なに?なんだろうこれ!?ごりごりする…。
「お姉ちゃあん…っ!」
マサルは無意識にそのごりごりした硬いしこりを桃子の腹に押し付けるように擦りながら、
桃子の肩を掴み口を吸おうと唇を寄せる。
え…、ああ、そうだよマサルくんが作ってくれた朝ご飯の代わりに、今度は私がご飯を上げる番だから
当然のこと…だけど…。
桃子は何度も自分に言い聞かせるが、どうにも無意識に顔をそらせてよけてしまう。
「桃子お姉ちゃんっ、チュウー!!」
口を尖らせ今度こそは、と桃子の両頬を挟んだ手に力がこもり、あっ吸われる、と思った瞬間
桃子は嫌、と叫んで両手で力一杯マサルを突き飛ばした。
221 :
102:2007/10/07(日) 17:03:06 ID:NVjDqRhM
あっけなく吹き飛んだマサルの体が高い岩壁の天井ににあわやぶつかる、というのを、
大きな手のひらが見事キャッチして、そのまま掴んで岩窟奥に放り投げた。小猿の体は軽く跳ねて、
キャキャと嬉しげな声を上げて、帰って来た獣を桃子とともに仰ぎ見る。
「こら、今日は乳は我慢しろと言っただろう。」
「ごめんなさ〜い。」
ちっとも反省した様子の無い小猿にまったく、とため息をつき、捕って来た獲物を釜戸の前に
乱暴に置く。大きな鱒が6匹、口から笹で串刺しにされたまま、生きてるようにびしゃんと跳ねた。
昼はこのまま焼き石を使ってムニエルだ、と猿に指示をしてやっと固まったままの桃子を見た。
目が合い、そのまま桃子は動けなくなった。
姿を探し、帰還を待っていたはずの彼を、桃子は今は呆然とその姿を見る以外なんのアクションも
とれない。例えばしようと用意してた、おかえりと声をかけ駆け寄る事さえも。
話す言葉や態度はいつものイヌイだ。
…イヌイだ。
イヌイだけど…!
青いまでに冴え冴えと光る、銀の毛皮の妖獣がそこに立っていた。燻されたようないつもの灰色の毛皮が
磨かれ、鋭利な光をまとい美しい。だが綺麗というより凛々と雄々しいその姿は、黙ってそこあるだけで
桃子の目と思考を奪い、畏怖に凍り付かせ離さない。
唖然と口を開いたまま、桃子はイヌイにただ見惚れた。
そんな桃子を、やはり銀のテカリを見せる氷の瞳でしばらく見下ろしていたイヌイだが、
ふいと鼻で笑って今日は冷える、とようやく言った。
「そんなかっこうでいると風邪をひくぞ。」
はっと気づいて桃子は胸も露にはだけた着物を慌てて直そうとするが、手は震え目はイヌイから
離せなくて上手く帯が結べない。
「何やってんだ、そんなに寒いか。」
近づいてくる。そう思ったとたん桃子の心臓がドクンと響きを上げ、警告の早鐘を打つ。
まっすぐに桃子に向かい手を差し出す、銀色の…輝く光を湛えたイヌイ。ドクドクと鼓動が速まり息が上がる。
「桃子?」
「嫌…っ!」
結んでやろうと帯に伸びた大きなイヌイの手を、桃子の細い腕が思い切りはね除けさらに体まで吹き飛ばした。
イヌイはくるりと体を回し、後ろ足で岩壁を蹴り力を相殺して、壁際に降り立った。
すこし驚いた顔をしている。それは桃子も同じだった。
イヌイは肩をすくめて笑った。
「俺が怖いか、桃子?」
キャキャキャとマサルがイヌイの周りを飛び跳ね、銀の毛皮に抱きつきやはり桃子を笑う。
「怖くないよ、桃子お姉ちゃん!かっこいいでしょ、イヌイのおじちゃん、発情期に入ったんだよ!」
「発情期…?」
何の事だかわからない。わからないが、ただいつもと違う雄々しいイヌイに体が無意識に緊張する。
だけど決して嫌なわけではないのに、跳ね飛ばしてしまった自分もわからない。桃子は動揺していたが、
イヌイの気にはしていない様子に少しほっとする。
「ギラギラ光ってちょっと目障りだろうが、だいたいいつも一週間程度で元に戻る。それ以外は特に何も…。」
え〜!?とマサルのブーイングの声をシッと制して黙らせる。
「ちょっとギラギラする以外は別にいつもと同じだ。」
嘘ではない。物は言いようだな、とイヌイは笑いをもらす。知らないなら知らないままでいい。どうせ明日
桃岩に接触したらすべて知れる事だ。
「雨が思ったよりひどくなったから今日はここに留まる。せっかく今夜には仲間に会えると思ったのに
残念だったな。明日晴れたら向かうつもりだが、急がなくてもが夜には着くだろう。だから今日は
ゆっくり休むといい、桃子。猿に邪魔はさせないし、目障りに光る俺も奥で寝る、今日こそは自重しよう。」
お前が望まない限りは、とつけたし桃子の顔を赤らめさせると、はは、といつものように笑いきびすを返し
背を向ける。宣言通り岩窟の奥の岩陰に身を隠すように横たわって、イヌイはそのまま静かになった。
薄暗い岩窟の壁が、銀の光を受けその一角だけを青白く灯していた。
マサルは入り口付近の桃子と奥のイヌイを見比べ行き来し、どうしようかとおたついていたが、
やがてイヌイに首根っこを掴まれ懐にしまわれた。乱暴な扱いだがマサルは嬉しそうに笑い声をあげ
銀毛に身を寄せた。
岩窟にはしょうしょうという外の雨音だけが響き始めた。
222 :
102:2007/10/07(日) 17:07:05 ID:NVjDqRhM
桃子も横になり、布を被って身を抱くように丸まった。
訪れた静けさに一息つくと、みるみる顔が紅潮して行くのを自覚する。
掛けた布から顔を出し、ぼんやり光る岩壁の方を見る。あの元に光るイヌイが横たわっていると
思うだけで胸が苦しくなる。
どうしちゃったの、私、変。あのイヌイはかっこいい。かっこいい…ずっと見てたいのに、
なのに逃げ出したくなる。見られると、恥ずかしくて、ドキドキする…。
桃子は先ほど見たばかりのイヌイの姿を、まぶたに反芻させ身もだえる。
ふいにキャキャキャ、とマサルの甲高い笑い声が響いた。続いて低いイヌイの何か呆れるような
つぶやきが聞こえ、どかどかと毛深い獣同士が戯れる音がした。楽しげだ。それが桃子はとても
うらやましくなり身を起こす。光る壁の方を見ながらしばらく考えて、やっぱり、と立ち上がる。
布団代わりの布をぐるぐる体に巻き付け、それをひきずり二匹の寝てる獣の足下に歩み寄った。
もの言いたげに自分を見下ろす桃子に気づいて、イヌイは眉根を寄せた。
「なんだ桃子。」
不機嫌な声色に桃子は一瞬躊躇したが、イヌイの片手で軽々うつぶせに押さえ込まれている
マサルを挟んで、川の字に横になる。
「二人ばっかり楽しそうでずるい。」
ぶっきらぼうな桃子の言い草に、思わず吹き出すイヌイである。
「なんだ。桃子、おまえも遊んで欲しいのか?子供。」
「そんなんじゃ…っきゃあっ!」
子供と笑われ抗議する桃子の憤慨をみなまで言わせず、イヌイは桃子をその尾でうつぶせの
マサルの上に、同じようにうつぶせになぎ倒す。桃子の下でマサルがけたたましく笑い声を上げた。
「うひゃあ、桃子お姉ちゃんがボヨンと来た〜!!」
「わっ、イヌイっ!わわ、わあ〜っ!!」
イヌイは今度はマサルの下に尾を滑り込ませて、そのまま桃子ごと持ち上げる。桃子とマサルは
イヌイの腹上で、お手玉よろしく交互に空中に放り投げられ転がされた。マサルは楽しげに笑い、
桃子は悲鳴を上げていたが、しだいに上に下に体が宙に投げ出される、その不自由さが面白くなり、
マサルと顔を見合わせ笑いあう。
そうだ、私の体を放り投げてるのはイヌイだ!体が浮いて怖いけど、イヌイがヘマして
私を落とすわけがない。イヌイは絶対落とさない!この怖いのは楽しい!!
「あはははっ!イヌイ、すごい!力持ち〜!!」
桃子はすずが転がるような娘らしい声を上げて笑った。銀色のイヌイが眼下で近寄ったり
遠ざかったりするのを、宙で眺めてうっとりする。自分を楽しませてくれる。笑っているようにも見える。
安心する。
同じように楽しげなマサルが、桃子に追いつき抱きつこうと手を伸ばし、桃子の体をぐるぐるに包んでいた
布をひっぱった。勢いで三回転からだが回り、布ははぎ取られ地面に落ちた。一瞬目を回した桃子だが、
マサルがいつのまにか着物を掴んで胸を開けようとしているのに気づいて、あわてて両手で胸元を押さえた。
だが間に合わず桃子の二つの大きな乳房が、交互に揺れつつ着物から飛び出した。
「キャハハハ!すごい!桃子お姉ちゃんおっぱい、ゆっさゆさ!」
「いや!バカ!マサルくんのバカー!!」
桃子は真っ赤になって、自分の飛び跳ねる乳房を着物の内に納めようとするが、相変わらずイヌイに
お手玉されててうまくいかない。だんだん腰下も乱れて太腿までひらひらとめくれていく。
ふと眼下のイヌイが気になり顔を見ると、ニヤニヤと笑っている。桃子は急に泣きそうに顔を歪めて
イヌイに叫んだ。
「イヌイ、もういい。下ろして…、もう下ろしていいよーっ!」
両手を頭の後ろで枕に組み、尾と片足で桃子とマサルを投げていたイヌイが、その声に応じて宙から
落とされた桃子を胸の上で尾で受け止めた。そのとたん。
「あ…っ!」
「いて。」
重力と反動を受け桃子の乳房がブルンと大きく振られて、イヌイの鼻っぱしらをこずいて垂れた。
その横をマサルがボスっとイヌイの胸に受け止めてもらえず頭から落ちて嬌声をあげる。
「ごめんなさいっ!」
桃子が慌てて胸を持ち上げるように押さえる。
「いいなあ〜イヌイのおじちゃん!桃子お姉ちゃん僕も!僕もおっぱいでお顔ペチンとして〜!」
223 :
102:2007/10/07(日) 17:10:15 ID:NVjDqRhM
下から手を伸ばしたマサルが、ふたたび桃子の着物から乳房を取り出そうとするのを、イヌイがたしなめる。
胸を押さえたまま桃子ははじめのようにマサルを挟んで川の字に転がされ横になった。
赤い顔して言葉に迷っている桃子に、巻いていた布をふわりと掛けてやる。
イヌイは思いがけずくらったボインパンチがおかしくて、クックッと肩をゆらして笑っている。
「なかなかいい眺めで楽しめたぞ。」
「ス…スケベ犬…!」
「見ていただけだろう。」
顔が火を噴いたように熱い。本当に、イヌイに見られると変になる。
桃子は掛けられた布を頭からかぶり直して、イヌイの視界から逃れて胸の動悸が収まるのを待った。
「ああ〜ん。もう終わり?イヌイのおじちゃん、もっとして〜。」
遊んでもらえた楽しさに興奮してはあはあ息をみだしつつ、マサルはもっととせがんでいる。
「今日はもう終わりだ。マサル、おまえもうでかいからくたびれるんだよ。」
「疲れたら桃子お姉ちゃん食べたらいいじゃない〜。」
無邪気なマサルの言葉に、桃子は一瞬びくりと体を震わしイヌイを見る。だがイヌイは桃子と視線を
あわさず、今日は休みの日だと言っただろう、とマサルに言いきかせている。
「べえ〜だ。じゃあいいよ、桃子お姉ちゃんでぼよんぼよんするから!」
そう言ったマサルは桃子の掛け布の中に、もそもそと入って来て両手両足で桃子に抱きつくと、
パフッと桃子の胸に顔を埋める。
「こら、マサル。」
「変にいじらなかったら触っていいってお姉ちゃん言ったもん!!」
イヌイは困った顔の桃子に疑わしげに視線を送る。しかし確かにそう言った桃子は、かまわないからと
頷いて、さらにマサルの背に手を回して撫でてやる。ふと、思い直して一応の注意をつけ加える。
「さっきみたいにイタズラしたらまたぶっ飛ばすからね。」
桃子の許しの声にうんっと嬉しそうに目を細めると、マサルはそのまま掛布の中に潜り込み、
乳房に頬ずりしておとなしくなった。
しょうがないやつだ、とイヌイは呆れてため息をつく。その吐息が近くて桃子は恐る恐る顔をあげて
イヌイに向ける。
心臓が止まるかと思った。イヌイとの間のマサルが潜っているため、とても近くに顔があった。
さっきは怖かった銀の光沢の瞳が無表情に桃子を見ていた。その光沢に赤い顔でうっとり見蕩れる
自分の姿が映っているのを桃子は恥ずかしく思った。鼓動はなおもドキドキと早く、いっそ
言ってしまった方が楽な気がして口に出す。
「銀色のイヌイ、かっこいいね。」
マサルと同じ、まるで子供の感想のような言い方に我ながら絶望する桃子だ。かっこいいのは
本当だけど、何かもっと、違う含みがある気がするのに。そんな言い方が出来るといいのに。
だが桃子の言葉にイヌイはあきらかに驚いた顔で、そうか?と自分のあごに手を這わせる。
「いつもかっこいいつもりだがな。」
そう言ってにやりと笑うので、桃子も吹き出して、よく言うよと笑った。
「朝飯は食ったのか?」
「うん、マサルくんが…ケイキはイヌイが言ってくれたんでしょう。ありがとう、今日もおいしかった。」
「あれはもともとマサルの親父に教わったんだ…。」
ほんの少し目を細めてイヌイは思い出すように言った。
「ほかにもいろいろ…、桃岩は甘いものが好きだからな。いろいろそのうち作ってやる。」
「私と、まだ一緒にいてくれるの?」
口に出して、桃子は朝から感じていた自分の心細さの正体に気づいて腑に落ちた。
224 :
102:2007/10/07(日) 17:13:21 ID:NVjDqRhM
そうだ、今日はたまたま雨で足止めしてるけど、本当は今夜桃岩にたどり着くはずで、
イヌイとの旅の約束はそこまでだ。明日桃岩に着いたら、私はまた一人で…一人でどうしたら
いいのだろう。
「いつまで…一緒にいてくれるの?」
急に不安げに涙ぐむ桃子をイヌイは瞳も揺らさず見つめている。
「他の桃岩さんたちと旅したことあるって言ってたよね。その人達はどうしたの?どうして別れたの?
イヌイは、マサルくんはこれからどこに行くの?私もついて行っても…っ!」
「それはお前次第だな、桃子。」
感情的に声を震わす桃子にイヌイは穏やかにそう言って、マサルにいつもそうするように大きな手で
頭をくしゃくしゃと撫でてやる。
「お前が今不安なのは、どうしていいか迷うのは、まだ何も知らないからだ。明日同族から情報を
伝授されたら不安も消える。俺たちと旅をどうするかはそれから決めたらいい。」
「一緒にいていいの?」
「言っただろう、お前次第だ。お前は美味いし、マサルも気にいってる。お前が俺たちと別れて
他に行きたくなるまで、好きなだけ同行するがいい。他の桃岩たちもそうして旅して別れた。」
淡々と話すイヌイの言葉に安堵すると同時に、胸にチクリと小さな痛みを桃子は感じた。
ーー美味いし、マサルも気に入ってるーー
…イヌイは?
私が供給するご飯以外に私を気に入ってはくれないのだろうか。所詮餌だしそんな感情は
ないのだろうか。私は…また一人になるのは心細いし寂しい。誰かに一緒にいて欲しい。
それがイヌイであって欲しい…。
桃子は自分の頭を撫でるイヌイの太い手首をとり、間近に引き寄せじっと見つめた。銀の光をまとい
逞しい腕は輝いて桃子の頬を照らす。それが力強い腕だとも桃子はもう知っている。この腕を放して
他に旅立ち別れて行ったなんて、今までの桃岩たちはなんて愚かなのだろう、と思った。
「…イヌイは朝ご飯は?」
せつないがそれでも自分の気に入ってくれている部分がある事を思い出し、その部分を示唆しながら
桃子は顔を赤らめ言った。
「今朝方たくさん食っただろう?」
イヌイは捕られた腕で桃子の顔の熱を感じて笑う。もうそろそろ慣れてもいい頃合いなのに、
おぼことはいえ何がそんなにまだ恥ずかしいのだろうか。
「いらないの?」
「足りている。」
「そう…。」
桃子は断られた申し出に自ら恥じて俯いた。
…私、食べられること以外にイヌイが気に入りそうなこと知らない。
どうしたら、と訊くことはあからさますぎて恥ずかしい。でもどうしたらいいのだろう。
マサルくんは胸を触っていいよというだけであんなに喜んでくれた。まだ子供だから抱きしめて
甘えさせてやると嬉しそうだった。でも大人のイヌイは…。
預かっているイヌイの腕を胸に抱きしめた。本当はこの腕に抱きしめられたい自分だ。マサルのように
甘えたいのは、私もまだ子供だからだろうか、と桃子は途方に暮れる。
「マサルがいないぞ。」
押し付けられた柔らかい肉の谷間に、埋もれているだろうと思っていた坊主頭の不在に
イヌイが言った。マサルくんのことばかり、と桃子は拗ねつつ、お腹の方に潜って行ったと伝える。
イヌイが布をめくって中をのぞくと、確かに茶色い頭がなにやら動いていた。
「おっぱいを放棄とは珍しいなマサル。」
イヌイが笑いながら声をかけても、マサルは潜ったままである。
「マサル?」
あらためて上から見るとマサルの脚は布からにょっきりとはみだしていた。その脚が小刻みに
ぶるぶる震えている。
「マサルくん?!」
子供の異変にあわてて桃子が布をめくりつつ身を起こす。露になった小猿の仕草にイヌイは、
しまったと小さく舌打ちして、あわててまた布をかけてやる。
「なにすんのよイヌイ!マサルくんが…っ!」
「いいから。」
「だって苦しそうに震えて…おなかさすって…っ!!」
「いや、いいから放っといてやれ…ああ。」
イヌイを無視して桃子は大丈夫かとマサルの体に身を寄せると、マサルはお姉ちゃん〜と抱きついて来た。
体は熱く、はあはあと息は荒い。ため息をつきながらイヌイもマサルに近寄った。
225 :
102:2007/10/07(日) 17:20:28 ID:NVjDqRhM
「おなか痛いの、マサルくん!?」
「ううん、痛いんじゃないの。痒いの…ここが…ここ…っ。」
見るとさすっていたのは、思っていたお腹ではなく、その下の、脚の間に小さくでっぱったしこりで、
マサルはそこを握るように手のひらでごしごしと擦り続けている。
「そういえばさっきもそこ私に擦り付けゴリゴリしてた…毒虫にでも刺されたのかなあ。どうしよう、イヌイ。」
桃子のつぶやきにイヌイがたまらず吹き出した。
「どうにかしてやるか、桃子?」
顔はにやにやと押さえきれない笑いをもらし、肩を揺らしてイヌイはマサルを仰向けに抱き寄せた。
「おい、マサル。お前今までにもここがこんな風になったことあるか?」
「ううん、イヌイのおじちゃん。なんなのこれ、僕昨日からなんかおかしいなあって…。僕病気?」
「そうか、初めてか。おかしくないし病気でもないさ。手を離せ。」
いわれた通りに手を離したそこに、白い毛に覆われた小さな突起があり、桃子とイヌイとマサルは
三人そろってそれを覗き込む。
「かわりに掻いてやれ、桃子。」
面白くてたまらないようにイヌイが笑いながら桃子に指示する。その様子からさほど深刻な事態では
ないことに気づいた桃子だが、相変わらず苦しそうなマサルからも、掻いて〜桃子おねえちゃん〜、と
泣きつかれ、ためらいながらもそれに触れた。
「わっ、硬い。」
小さな突起だが石のようにしこって硬く、熱い。
「強く握って上下にごしごししてやってくれ。」
イヌイのいううとおりに桃子が擦ると、ああ〜ん、とマサルが甘ったれた声を出し、もっととせがむ。
上半身をイヌイに抱かれ、腕にしがみつきマサルはさらにはあはあと苦しそうだ。
「えっ、大丈夫なの、イヌイ?マサルくん、苦しそうだよ!?」
「いいからそのまま、手を休めずに続けろ。」
とまどいながら手を動かす桃子の様子をイヌイは楽しそうに眺めている。そのいやらしい
にやつき方が多少気になるが、こんなことをイヌイは喜ぶのか、と桃子はいわれるままにそれをしごく。
「わあっ、何!?なんか大きくなったよ!?」
急ににょきっとピンク色の肌を露にしつつ、小さなしこりは松茸くらいにその背を伸ばした。
「や〜ん、桃子おねえちゃん、やめないでえ〜っ。」
「だそうだぜ、桃子。」
そうはいってもさっきの倍以上に腫れたそれを、大丈夫だろうかと恐る恐る握りしめる。ちょうど手に
馴染む太さになり、握りやすいと思いながら上下に擦った。そのとたん、キキーッ、と小猿が悲鳴を上げて
ビクンっと体を揺すって腰を突き上げた。
「ああっ!!」
思わず桃子も声をあげる。
「はははははっ!おめでとう、マサル!大人の仲間入りだ!!」
イヌイが大声で笑いながらマサルの頭をぐしゃぐしゃに両手でかきむしった。
ぐったりと脱力するマサルの脚の間で、桃子は自分の手にはじけた半透明の白い液体を唖然と見つめ続けた。
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話の流れ上今回はほのぼのこの辺で