☆☆☆ 本当はHな桃太郎 ☆☆☆

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 「うっ…うえっく……ひっ」
  誰も通らぬ街道を、泣きじゃくりながら、ただ歩いていた。
  村を出てどれほど歩いただろうか。
  太陽がいまだ頭上を照らしているということは、さほども進んでないと思われる。だが桃子はも
はやくたびれ果てている自分に気づいて、気づいたと同時に道の真ん中にぺたりと座り込み、そして
動けなくなった。
 腰の古布で涙を拭いそのままずびびと鼻をかんだ。
 あれからずっと泣きどうしだ。こんな歩き方をしていたら鬼が島にたどり着くまでに、呼吸困難で
死んじゃうよ。どうしたってもう村には帰れないのだし…。
 そうして再び涙を拭おうと古布に手をやり、そこにいた小さな黒い蝶のような妖魔に気づき、桃子
は顔を曇らせた。古布についた桃子の鼻水を吸っている。子供の頃から何度も見てきた光景だが、さ
すがに今日は胸が悪くなり、きっとにらんで立ち上がり、ばたばたと古布をふるって追い払った。
「ばかっ!お前のせいで、お前たちのせいで!!」
 ひらひらと空に消えたそれを見送ると、ふう、と一息大きく吐き出して、そうしてまた溢れてくる涙に桃子は再びしゃがみ込んだ。

 私が妖しのたぐいであることを、少なくとも人間ではないことを、おじいさんとおばあさんは知っ
ていたのだろうか。
 村の出口でいつまでも手を振り見送ってくれた育ての親の顔が浮かぶ。
 桃から生まれたなどと教えてくれていたからにはおそらく…
 「知ってたんだろうな。なのに存分に可愛がってくれた、十分だ。」
 自分を納得させようと何度も心で頷くが、追い出された、捨てられたという思いに未だ涙ぐむ。
 子供の頃はよかった。だが桃子の胸が張り、尻が丸みを帯びてきたころから、ちらほらと妖魔妖獣
のたぐいが桃子の周りに現れるようになった。彼らはとりたてなにをするわけでもなくただ桃子と遊
んだりじゃれあったり…具体的には、例えば口を開けているとさっきのように桃子の唾液を啜ったり
、体のある特定の部位を舐めさすったりしていたのだが、子供の桃子にとってそれは不快どころか好
ましい、可愛い小動物との触れ合いだった。
 だが村では今までそのような妖しめいたものが現れたことはなかったという。遠くの村では妖獣に
村人が食われたやら、妖魔がいたずらに子供を隠したやらの話があり、このまま妖しの増えるがまま
にするわけにいかぬ、もうここまでとばかりにおばあさんに「鬼が島にいっておくれ」と泣きつかれ
たのだ。村の者全員の、それは命令だった。
 鬼とは妖魔妖獣と交わり生まれた半人半妖のことだ。
 自分に群がる妖しのたぐいに、そしてそれを少しも恐れない己に、そうではないかとは思っていた
が桃子はずっと認めたくなかった。だが現に桃子に集まる妖し達は、桃子の成長と共に増え、そして
姿も共に大きくなっていく。もう逃げられない日が来てしまった。自分が人間ではないという事実。
そして大好きなおじいさんとおばあさんとわかれなければならないことを。
 旅立ちの折におばあさんが泣きながら手渡してくれたのが染み反(しみこたん)だ。
古着物を短冊に裂いたそれは、女の月の障りにわらに被せて使うものだ。
 桃子はまだ大人になってはいなかったが、近くそのときが訪れるのはすでに十分張り出した胸やく
びれだした腰を見れば明らかだ。そのときのための、最後の母心を桃子は泣きながら受け取った。
 
 まさかそれがイヌイと旅をするきっかけになろうとは、ひいては自分が何者か知ることになろうと
はそのときは夢にも思わなかったけど…。
108102:2007/06/16(土) 05:34:06 ID:XO/hOw27

「お嬢さん、お嬢さん。」

 イヌイと出会ったのは、村を出てすぐといってもいいだろう。別れを思い出しての涙がどうにも止
まらず、再び染み古反を握りしめたときだった。
 端の茂みから出てきたのは見慣れぬ灰白犬の妖獣だった。大きな体に青みがかった毛並みだが姿は
人間に近い。半妖かもしれないとはじめは思った。成獣の妖しを見たのは桃子は初めてだったのだ。

「腰につけた染み古反、ひとつくれねえか。もう倒れそうなんだ。」
 妖獣は少しも倒れそうにない様子でそう言って、桃子の前に立ちはだかった。
「なによ、いきなり…。見ない顔だけど誰?半妖?半犬?半狼?」
「イヌイだ。一応妖獣…かな。お嬢さんに腹が鳴るくらいだから。」
「おなかがすいてるの?私もきび団子くらいしか持ってないんだけど。」
 さすがに幼少の折から妖魔妖獣と戯れてきただけあり、少しも恐れた様子なく桃子は言った。
 だが相変わらず涙はまだあふれている。
 と、目前がいきなり暗くなり、その妖獣イヌイが一歩で間合いを詰めたのだと思うと同時にべろり
と涙ごと頬を舐め上げられた。

「うひゃあっ」と桃子が後ずさり、小石に足を取られそのまましりもちをつく。
「なんだよ色気ねえ声だな。それにこの味…まさかおぼこか?」
 いきなり味わわれた上にこの言い草。当てられたからこそ桃子はムカっとして立ち上がった。
「ちぇ、ついてねえ。なら染み古反なんか持ってんなよなあっ!」
「なにすんのよっこの犬っころ!!」

 立ち上がりがてらに勢いつけて大きく右手を振り上げる。手のひらはパーだが、突き上げる勢いは
アッパーだ。
 まともに入ってイヌイの体は吹っ飛んだ。桃子は昔から妖獣との戯れの中、襲われることはあって
も、そうされた時の反撃をかわされたことはなかった。妖しのたぐいに桃子は文字通り力が強い。そ
れが桃子の能力である。それがなぜかは後でイヌイより知るが、今は当たり前にぶっとばす。

「痛ってえなあ。これはとんだおてんば桃だぜ。」
「えっ」
 桃と呼ばれて、もう一発食らわそうと振り上げていた手を降ろす。
「なんで私の名前…。」
 ぶっとんだはずのイヌイだが、猫よろしくくるりと着地を決め、たいして痛くもなさげにあごをさ
すりながらまた歩み寄ってくる。丈夫そうな妖しだと桃子は思った。
「へえ、名前も桃ってんだ?桃岩から出たところ、育ての親は見てたのかね。」
「!?」
「あ?もしかしてお前何も知らないのか!?…どおりで青臭い…。」
 ため息に落胆の色を隠せずイヌイは大きく肩を落とした。
「何も…て、そういうあんたは何を知ってるの!?私のこと!?なんで…っ」
109102:2007/06/16(土) 05:38:55 ID:XO/hOw27
「ならしょうがねえな、今はこれで保たせるか…」
 言いながら長い腕を桃子の腰にまわすや否やぐいと持ち上げ、そのまま名の通り桃色の唇を吸い上
げる。
「……んっむううっ」
 今まで唾液を狙ってきた妖しも、こんなに乱暴に、ダイレクトに啜ってきたものはないよ!第一み
なまだもっと小さな妖獣で…。 

 突然のことに何をされてるか理解できずに、呆然と口を吸われていたが、あごを掴まれ大きく口を
開けさせられたところで、分厚い大きな柔らかい固まりが侵入し桃子の狭い口内を満たした。それが
イヌイの舌であると認識する頃にはすでに息苦しく、桃子はあわてて鼻息をすする。
「すっ…ふっん、も…があ…っあっ」
 のどまで届いたそれに、こみあげそうになり慌てて両腕を突っぱねると、イヌイは難なく吹っ飛ん
だ。

 が、舌を抜き際に口内をぐるりとかき混ぜ、桃子の小さな舌を捕らえて引き抜くようにからめる
ことを忘れなかった。
「…ヒャ…あんっ」
 最後に強く舌奥をなぞっていったそれに、初めての刺激を覚え、声を上げてしまった。
 何、今の…変な声でちゃった…!
 むせながら、糸をひいて外に飛び出したどちらのものか知らない唾液をぬぐう。
「はは。なんだ、素質は十分ありそうだな。ごちそうさん。」
 
口づけ…という言葉もまだ知らない桃子のこれがファーストキス、そして初めて受ける正式な妖獣の
補食だった。

 そして自分の体が作り出す粘液が妖魔妖獣のエネルギー源となることを、桃子はこのとき初めて知
ったのだった。

 正確にはいきなりこのような無礼を働いたイヌイという妖獣を、桃子が息切れるまでぶっ飛ばした
その後ということになるが、ここまでたたきのめしても笑ってまた寄ってくる妖しには出会ったこと
はなく、つくづく丈夫な妖獣だと感心すると同時に、桃子は初めて妖獣を少し怖いと思った。
 だがイヌイは口を啜って後は、口は悪いが礼をつくして桃子に接し、自分を殴り疲れてぐったり
する桃子に山から冷たい水を汲んできて飲ませたり、よく熟れたあけびや甘い糖蜜を運んできて舐め
させたり、なかなかかいがいしい。
 そうして十分落ち着いた頃にふかふかのイヌイの尾をまくらに、桃子は自分の正体を知ったのだ。

110102:2007/06/16(土) 05:42:49 ID:XO/hOw27
「唾液がまあてっとり早いんだが、それほどたいした効用はない。」
「な…なによ効用って…。」
「一番力つくのはやっぱり愛液だなあ。」
「あ…あいえ…き?」
「それも達ったときのはとくにいい。」
「いくって…どこにいったとき!?」
「三回くらい達してからのは一舐め300キロメートルってなくらいに悦い。」
「???」首を捻るばかりである。

 まったくわけがわからない桃子を無視し、舌なめずりをしながらうっとりとイヌイが語る。どうや
ら愛液というものを筆頭に自分の体が生み出す粘質の体液が、妖獣妖魔の求めてやまない力の元であ
り、それゆえに幼い頃から自分は妖しに群がられ、ついには村を追い出されたわけだと。
 なるほどと、桃子は理解した振りをした。本当はわかりたくない。泣きながら住み慣れた村を追い
出され、育ての親と別れたのはつい先ほどだ。そのどうしようもない事実を思い出す度に目頭は熱く
なるがそんな桃子を伺うこともなく、イヌイは衝撃的な桃子の正体を続けて語る。

「そして十分経験と成熟をすませ、お前はやがて岩になる。」
「……」もはや自分のこととは思えない。

「それが桃岩属の最終形態な。知らなかったのか。同族の桃岩に触れると記憶は伝授されるんだが、
お前を生んだ岩と育ての村は離れてしまったか、岩が朽ちたか…。確かにこのあたりに桃岩属の形跡
はないな。妖しのたぐいがまったくといっていいほど少ないのがなによりの証拠だ。おまえが知って
る妖しはみな幼体だったのだろう?おまえをたよりに補食してるならなかなかでかくもなれねえしな
。餌がなければ…」
 ちらりと桃子の方を見やって、少し間をあけてイヌイは「桃岩がなければ」と言い直した。
 「桃岩がなければ妖しは生きられない。お前の育った村に妖しがいなかったのはそのためだ。だが
お前が来た。そのまま村に住んでいればやがて立派な桃岩となり、新しい足がかりを得て遠くの妖し
もここまで遠征できただろうに。」残念だ、とイヌイは続け、桃子は改めてイヌイは妖し側なのだと
思った。
 と、なるとやはり自分が村を出されたのは、つらいが正解だったのだ。こんどこそ思い切ろう、諦
めよう。だって自分は人間の味方だもの。そんなふうに桃子は思った。

111102:2007/06/16(土) 05:47:58 ID:XO/hOw27
「どちらにせよ、村を追い出されたなら早いこと桃岩を探して情報得るこったな。お前は自分の事も
世界のこともあまりになにも知らなすぎる。鬼が島なんて行ったって、半人の荒くれがのさばってる
だけだぜ。あいつらは俺たちみたいに桃岩を大事にしないんだ。半分人間だから人間の食べ物で十分
生きていけるくせに、嗜好で桃岩のしずくを食らうんだぜ?お前なんかどんな目にあわせられるか…
俺にされたみたいに無理矢理粘液奪われるか…まあ、そのうちわかると思うが、もっとひどいめに遭
うだろうぜ。桃子、お前まだ未伝達のおぼこのわりに…なんつーか…。」

 イヌイは桃子に語りながらずっと遠くの山間を見ていたが、そう言って自分の尾を振り返る。
 毛並みのよいそれにぐんにゃりと頭を預ける桃子の、放心した顔越しに深々とした胸の谷間が見え
る。二つの山は寝そべってなお、あまり上物でない固い布地をも押し上げ着物の合わせをずらして存
在を主張していた。イヌイの視線に気づいて顔をあげた拍子にぷるんと揺れた。
 柔らかそうだ。
 そう思ってイヌイは自分が今発情期でないことに感謝した。これは…ひでえよなあ、これで…こん
な体でまだおぼこだなんて。早くしないと他のやつらも可哀相だぜ…。さりげない責任転嫁でこれか
らしようとすることを正当化しておく。

「イヌイ…。」
 言葉途中のイヌイにけだるげに話しかける。彼の胸中など知る由もないのだろう。
「同族に触れば知識を得れると聞いても、私…桃岩がどんな岩かも知らない。よかったら教えて…で
きればそこまで連れて行って欲しい。」
「いいぜ、それっぽいのがここにくるまでにあったが、枯れてるようで見過ごしたんだ。まあ、だか
ら腹がへってお前に声をかけたわけだが、今から思うとあのあたりには妖しの姿もまだ見たし、おそ
らくあの岩はまだ生きているのだろう。俺の足だと三日後の夜には着く。」
「本当…!?」がばっと、身を起こしキラキラした目でイヌイを見た。
 初めてまともに目が合って、イヌイはようやく桃子の顔立ちの美しさに気づいた。真っ黒な絹糸の
髪は額の真ん中をわけ、たまごの輪郭を際立たせていた。きりりとしたりりしい眉。漆黒の大きな瞳
は好奇心に満ちて丸い、いかにも快活な少女のそれだが、今のように笑うととたんに目尻がたれ、
ふにゃりとした隙が見えてどうにもそれが色っぽい。真っ白な肌をそれこそ桃のように紅潮させた幼
さの残る頬を、そういえばさっきべろりと舐め上げた。すべすべの柔らかな頬の産毛の感触を思い出
し、まだ子供だ、と心で頷いた。だからはだけた着物の合わせから、あきらかに肌色の違う円形を覗
かせていても、わーい、とはしゃいでイヌイの尾を嬉しげになでて平気でいる。
 思わず唇を寄せたい桃色だ。まだ子供だ。
 イヌイは自分の中の二つの声を、やれやれといった感慨で聞き流した。

112102:2007/06/16(土) 05:56:20 ID:XO/hOw27

「そのかわり」
イヌイの声にびくんと桃子は肩を揺らす。

「俺がお前を連れて行き、お前が桃岩に触れて晴れて桃岩属の記憶を伝授出来たら、その染み古反を
少し分けてくれないか。」
「え…?いいけど…何につかうの?男だよねイヌイ?」
 生理用品など必要ないだろうと、桃子は首をひねるが、そういう桃子も実は生理用品など必要ない
ことをまだ知らない。まだ…ではなく、ずっと。だが染み古反の桃岩属の使い方など、今教えなくと
も桃岩に触れれば同族伝授で知るだろう。

「じゃあ行くか。」
 イヌイは質問などされてない風に立ち上がり、桃子を担ぎ翔た。
 ひゃあ、と声をあげつつ桃子は妖獣の速さに慣れている。さすがに担がれ空を翔たことはなかったの
でおっかなびっくりイヌイの首に捕まっているが、楽しそうだ。
 マジで子供だな…イヌイは心ではそう言語化するが、鎖骨あたりに柔らかい二つの頂の重みを感じ
、抱いてる側の腕に乗った丸い弾力を受け、牝だ、と体が叫ぶのを止めようはなかった。 

 この後のことを思うと自然に口角が緩む。先駆けて味わった口内の粘液のおかげですでに元気だ
。思わぬ拾い物をした。こんな機会は二度とないだろう。存分に味わおう。

 そして俺のものにしよう。

                               このへんまでにしときます。