嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 泥棒猫24を
音羽の家は公園から少し離れた場所にあるマンションの二階にあった。
階段を登る時の足の激痛に耐えて、ようやく音羽の家の中に入れる。
ドアを開けて音羽慌ただしいく走って行くと俺のためにシップと包帯を持ってきた。
音羽による不器用な治療が終わると俺はようやく安堵の息を吐いた。
「これでしばらくは大丈夫です。後はちゃんと病院に行って検査と痛み止めの薬をもらえば大丈夫だよ」
「ありがとう。音羽」
「えへへ。どういたしまして」
音羽は優しく微笑すると持ってきた湿布と包帯を元通りの場所へと戻して行く。
音羽の家の中はいかにも女の子らしい生活空間に染められて部屋の広さは一人暮らしには適度な広さであった。
そこで俺は思わず聞いてみた。
「音羽って、もしかして一人暮らしなのか?」
「そうだよ。ここに戻ってからだけど」
「おじさんとおばさんは?」
「……ずっと前に亡くなったの」
「そうか」
「ううん。そんなに気を遣わなくていいよ。一人暮らしだと言っても今日からは月ちゃんがいてくれるから寂しくなんかないんだから」
「でも、女の子が一人暮らしなのに男が泊まろうというのも色々問題が」
「幼なじみ同士だから全然問題ないよ。大体、月君の足の怪我が癒えるまでは私はちゃんと面倒みるって決めているもん。心配しないで」
「ああ。ありがとうな」
音羽の共同生活に胸が躍るようなものはあるが、衣食住の内、食だけは音羽のお世話になるわけはいかない。
忠生があのお弁当を食べて泡を吹いて倒れた時の記憶はつい最近の事だ。これだけは最初に主張しておこう。
「でも、俺はコンビニの弁当しか食べないからな」
「えっ!? わ、私の愛情がたっぷりと詰まった稲荷寿司を食べてくれないんですか?
誠意を込めて月ちゃんのために作ってあげようと思ったのに」
「今の俺の体でそんな毒物を体内に注入したら食中毒で間違いなくとどめを刺される自信はある」
「むっ。酷い言い草ですね。毒物なんて入れていないのに」
音羽が拗ねるように頬を膨らませるが厳しすぎる事実を俺は無視することはできない。
虹葉姉と紗桜と同等の料理技術を持つ音羽に料理をさせるということは俺が死ぬと同意義の意味を持つ。
「まあ、いいじゃないか」
「よくありません。月ちゃんの立派なお嫁さんになるために花嫁修業でもやりまくって、修業を終えた時は幸せの鐘が鳴る教会で
月ちゃんと永遠の愛を誓うぐらいに美味しい料理を作ってやるんだからね。覚悟してね!!」
「逆の方向を極めないように頑張れよ……」
「逆ってなんですか。私は月ちゃんのとこの虹葉さんと紗桜さんのポンコツな女の子とは違うんですよ。
もう、家庭を月ちゃんに任せている最近の家事をしない主婦のような女の子達には絶対負けませんから」
「あの二人をライバル視する時点で音羽の生活能力は退廃的のように思えるんだがな」
虹葉姉と紗桜は普段から家事を俺に任せているおかげで俺なしでは生活できない女の子になってしまったことに
天国にいるおじさんとおばさんに謝りたくなる。
それと同等レベルの音羽にこれから世話をされるといろんな意味で不安に思ってしまう。
「それにしても」
気になることはただ一つ。
「どうして、音羽は虹葉姉と紗桜にライバル視しているんだ?」
「こ〜ん……」
意表を突かれたのか音羽の表情は強張り視線を俺からずらした。ただ、何のこともない一言で見事に部屋の空気が変わってしまった。
「月ちゃんはどうしていつも大切な事には気付かないのかな?」
「うん?」
「あの姉妹は私にとっては倒すべき天敵なんです」
「天敵ってオイ」
「鷺森家の名に懸けて必ず滅ぼしますから」
「いや、滅ぼさなくていいから」
この調子で足が治るまで俺はここで上手くやっていけるのかと首を傾げたくなってきた。
第12話『悪魔の囁き』
*水澄紗桜視点
兄さんが部屋の窓から飛び出してから一週間の月日が流れました。
家は兄さんがいないおかげでまるで電灯10個分が失われたような暗さを漂わせています。
あちこちに私たちが食べ散らかしたコンビニのお弁当を片付けることもなく置かれていて、そこからはすでに異臭を発しています。
それでも、私たちは何かをしようという気力は皆無であった。
兄さんがいないだけでお姉ちゃんも私もこんなにダメになっちゃうなんて。
前に兄さんが門限時間を守らなかっただけで私たちの心は引き裂かれて崩壊寸前だった。
寂しい。 寂しすぎるよ。
お姉ちゃんは虚ろ瞳をして、私の頭を大切に撫でてくれています。
でも、内心はお姉ちゃんも私以上に寂しがり屋で兄さんの事が心配でたまらないんです
こうやって、お互いしっかりと抱きしめておかないと正気を保つことなんかできない。私が狂わないのはお姉ちゃんのおかげです。
でも、一週間は長い。
せっかくの楽しみにしていた兄さんとの夏休みの時間が過ぎて行く。
私とお姉ちゃんはどれだけ楽しみにして夏休みという日を待っていたことやら。
学校で引き裂かれていた兄さんを私とお姉ちゃんとで好きなだけ独占できる時間がどれほど愛しいことか。
夏休みが終わることを、他の誰よりも私たちは惜しんでいる。
なのに。
兄さんがいない……。
絶望が私の心を蝕んで行く。
兄さん! 兄さん! 兄さん! 兄さん! 兄さん! 兄さん! 兄さん! 兄さん! 兄さん!
兄さん! 兄さん! 兄さん! 兄さん! 兄さん! 兄さん! 兄さん! 兄さん! 兄さん!
兄さん! 兄さん! 兄さん! 兄さん! 兄さん! 兄さん! 兄さん! 兄さん! 兄さん!
兄さん! 兄さん! 兄さん! 兄さん! 兄さん! 兄さん! 兄さん! 兄さん! 兄さん!
どれだけ呼んでも兄さんは私たちの前から現われてはくれない。
目の前が真っ暗になりそうであった。
私は兄さんがいない現実を逃避していると頭を撫でてくれていたお姉ちゃんがふと立ち上がって食器台の方へ向かいます。
私は首を傾げながらお姉ちゃんの行動を見守っているとお姉ちゃんは乾いた笑みを浮かべて言った。
「月君が帰ってこないの」
絶望に心酔している表情を浮かべて虚ろな瞳をして私に向かって言った。
お姉ちゃんの気持ちは痛い程わかります。
だって、兄さんがいないだけで私は自分が壊れるそうになるぐらいに狂いそうだ。
「月君はきっと監禁されているんだよ。あの泥棒猫に!!」
泥棒猫という言葉にお姉ちゃんはどれだけの殺意を込めているのか充分に伝わってくる。
私も泥棒猫と該当する人物の指を全て切り落としたい衝動にかられる。
「だから、ね?」
食器台から取り出してきたのは銀色の光を宿して眩しいフォークであった。
「刺しに行かなきゃ!! 刺してやるぅぅ!!」
錯乱したお姉ちゃんを私は慌てて後ろから抑え込む。
強い力でバタバタと暴れだすお姉ちゃんを抑えるのは苦労したが、本当はそのまま泥棒猫とこに放してやりたかった。
「うぐぅ……ぐすぐす」
お姉ちゃんの嗚咽する声を聞くと私も泣きたくなってきた。
兄さんがいないだけで私たちはこんなにも弱い。お姉ちゃんに甘えるように抱き締めるとまた優しく頭を撫でてくれた。
「月君は私たちの事を嫌いになったのかな?」
「兄さんは今まで私たちの事を本当の姉や妹のように接してくれてたよ」
「そうだね」
「いつも私たちの事を想ってくれていた」
「でも、月君は私たちを置いて家をでちゃった」
それは避けられない事実。
家族の私たちを見捨てて兄さんは家を出る事実を冷酷にも受け止めよう。
兄さんの隠していたエロ本が見つけられたことで私たちに気まずい思いをさせたっていうことで気遣って家を出なくてもいいんだよ。
あのエロ本は全て燃やしてしまったけれど。
本の中にある裸のメス欲情するぐらいなら私たちにして欲しかった。
私は兄さんのためならなんでもしてあげる。
エロ本にあったような事を私は兄さんのためなら喜んでしてあげるから。
戻ってきてよ。
お願いだから一緒にいてよっ!!
「紗桜ちゃん?」
「私も憎いよ」
兄さんに近付いてくる女性が。異性が。
私の大切な物を奪って行く女たちが。
もし、兄さんが他の女に生活を送っているのなら。
私は喜んで殺人者となろう。
その女に生存権は存在していない。
鈍器で頭を潰して、潰して、原型がわからない程に殴ってやる。
それでも私の気がおさまるはずがないので、ガソリンを流して火を付けてあげる。
生きたまま焼かれる姿は私にとっては喜びだよ。
「
兄さんに近付く泥棒猫が」
「うふふ。紗桜ちゃん」
お姉ちゃんも私と同じ気持ちのようだ。更に優しく頭を撫でてくれた。それが何よりも嬉しかった。
だから、泥棒猫から兄さんを取り戻そう。
私たちのために。
*水澄虹葉視点
月君が帰ってこない。
もう、2週間にもなる。
家族想いの月君が2週間も家に連絡をしないのは基本的にありえないことである。
私は月君のことならなんでも知っている。
ずっと暮らしていた家族だもの。
月君が私のことをわかってくれているように私も月君の事ならなんでもわかっている。
月君は私たちと一緒でとても寂しがり屋さん。
誰かに依存しないと厳しい世の中を生きては行けない。これも私たちと一緒。
月君の依存する相手は当然私たちだ。
家族という表向きの殻で偽り、本当は私たちは両想いの間柄であると私はそう思っている。
そんな月君が私たちに連絡の一つも入れてこないってことは誰かに監禁されている可能性が高いと思った。
月君は学園では結構モテる男の子だ。学園中のメス猫どもが私たちの月君を狙っている。
いやらしい欲情に満ちた瞳で見つめているメス猫どもが多い。
そのわかりやすい例はバレンタインデーの時だ。
月君の下駄箱にチョコを入れてくるメス猫達が多いこと。私は紗桜ちゃんと協力してチョコをいつも焼却炉で全て燃やしている。
月君にチョコを送っていいのは私たちだけなんだから。
だが、監禁となると話は別だ。
想いを受け入れない男の子を監禁して自分の好みに洗脳する恋愛最上級テクニック。
もし、月君が泥棒猫に洗脳されているとするならば、家に帰ってこない理由がわかる。
手を手錠で拘束されて女の子の言う通りにしないと生存できない苛酷な状況下では人の精神は簡単に病んでしまう。
な、なんて羨ましい!!
じゃなかった。
洗脳されている人間を説得して家に帰すのは難しい。マインドコントロールされた人間は大抵の人間の言葉に耳を貸すことはない。
それが家族から声であってもだ。
だから、早急に対策を打ち出す必要性があったのに。私たちは今まで何をやっていたのであろうか?
月君が泥棒猫から取り返そうとはせずにただ泣いているだけであった。
私たちが泣いていたら、月君はきっと私たちの事を心配して帰ってくると心のどこかで信じていたに違いない。
なんて、滑稽な事なんだ。
泥棒猫に捕われているなら、私たちの手で泥棒猫から取り戻さなくちゃいけない。
それがどんな障害が待っていてもだ。
その前に。
「紗桜ちゃん。お買い物に行くよ」
「えっ!?」
「月君を取り戻すためにいろいろと準備しなくちゃね。長期戦になるからね」
「お姉ちゃん!!」
月君。きっと。きっと。泥棒猫から助けだします。必ず!!
これにて謹慎終了
頑張って嫉妬SSスレに復帰致します。
でも、年末はとても忙しいからこれが今年の最後の更新になる可能性が高いですが
謹慎している間にヤンデレスレで短編でも投稿しようと考えたが忙しいゆえに
ヤンデレスレの定義と空気の流れが全く読めなかったので諦めました。
ネタ的には
とりあえず、真っ先にタイトルが浮かびました
『七人殺しの千紗』
好きな異性である主人公に声をかける勇気も持てない千紗は
主人公が私に興味を持ってくれないのは主人公に寄ってくる女の子のせいだと
勝手に決め付けて、主人公に近付く女の子を殺すことを決意します。
流れ的には主人公の幼馴染やクラスメイト、バイト仲間、隣に住んでいるお姉さんと
言ったお約束的なキャラクターを惨殺してゆく。
ラストでは千紗が主人公に近付いた女の子を殺した事を告白しながら
私と付き合ってください
と虚ろな瞳をして主人公に無理矢理抱きつきます
あまりにも恐怖で脅えた主人公は逃げ出そうとしますが
人間離れした千紗に追いつかれて、両足両腕を切断されて
千紗の家へと運び出されます。
ラストでは
主人公の世話を懸命に千紗が看病するというHAPPYENDオチで終わります
でも、ヤンデレスレ向けじゃないなと思って、ネタだけ考えて投稿しませんでした
どちらかというと凶悪ヒロイン向けのような気も
最後に雪桜の舞う時に☆埋めネタは今回は休載します
書く時間がありませんでしたw
(((((;゜Д゜)))))
お帰りなさいそしてGJ!!
ヤッパこの姉妹最高だぜ!
そして月の外道で嘗めた思考回路も最高だw
トライデント氏のご帰還は正にクリスマスの奇跡だなw
トライデント氏復帰キタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*・゜゚・* !!!!!
これで今年のクリスマスもなんとか凌げそうだ。・゚・(ノД`)・゚・。
「お嬢、世間じゃもうクリスマスらしいゾ。」
「クリスマス?……でも、一週間もしないウチにお正月…」
「だめですよ、日本人はお祭り好きなんですから、そこはサランラップです。」
「シャラップね………ごほん!と、ところで、晋也は……ク、クリスマスは、誰かと……」
「いやーっはっー!クリスマスですぜー!女どもは受かれるイベント!無神論者だけどいまは神様に感謝だぜ!」
「………」
「ということでお嬢!明日から三日ほど休暇を……」
「却下!!!晋也はクリスマスも年末年始も休暇無し!!ずっと私の世話をすること!!」
「ヘェェェェィィイ!ああぁぁんまりだぁぁぁ!なんでー!?」
「う、うるさいわね。雇主の私の言うことが聞けないの?とにかくっ!休みは無しよ!」
バタン!
なんか怒ったまま出ていってしまった。なんだかなぁ、相変わらずお嬢ってば気難しいヨ。しっかし、クリスマスかぁ。
クリスマスといったらプレゼント。うん、雇主であるお嬢に、プレゼントの一つぐらい用意しようかね。我が儘な小さいお姫様に。うーん……なににしよ。
バタン
「ん?」
「晋也さぁん、また佐奈様を怒らせましたねぇ?」
「あ、里緒さん、グッドタイミング。実わさー、お嬢にクリスマスプレゼントをあげようかと考えてるわけなんだけど……」
「えー、本当ですかぁ?うーん、私、晋也からだったら何もらってもうれしいですよぉ。ダイヤとかダイヤとかダイヤとか……」
「ソーリー、里緒さんに聞いたのが間違いだったヨ。」
「うふふ、冗談ですよ。…うーん、そうですねぇ。佐奈様だったらなにもらってもうれしいんじゃないですかぁ?」
なんでもっていうのが一番悩むんだよなぁ。まぁ、この屋敷で働いてるし、それなりにお金はあるからな。
「ようっし!ここは俺らしく、セクハラ方面でセメルゼッ!」
〜〜〜♪♪〜〜♪
さっそく部屋に戻り、MY秘蔵Boxを開ける。山を下りる度買ったり、通販で取り寄せたりして集めた逸品だ。
恐らく給料の大半をこれに注ぎ込んだと言っても間違いないだろう。では……
「オープン!」
パカッ
…………
バンッ!
「は、、歯は派は葉は!ま、まいったなぁ!働き過ぎかな?箱の中が空っぽに見えるよ!?」
パカッ
………………
「な、んっでぇ?ないのぉ!?」
パチパチパチパチ……
「ん?」
なんだか火が焚ける音と、プラスチックを焼いたときの匂いがする。イヤな予感がし、ベッタリと窓に張り付いて見ると……
パチパチパチパチ……
あの後ろ姿は……志穂?そしてあれは焚き火……その中にはッッッ!?
「MYコレクショーン!!!!」
さっそうと窓から飛び出し、消化活動に入る。が、すでに時おそし。MYコレはこんがりと良い色に焼けていた。
「もう、なにすんのよ。せっかく焼芋焼こうとしてたのに……」
「ヤキモチと一緒にAVを焼くなぁぁぁ!うああああ!」
「ふん、丁度良いじゃない。年末の大掃除よ。こんな下らないものがなくなって、綺麗になったでしょ?」
「ううぅぅ……えぅ……お、おれこの惨劇を火の七日間と称し、決して忘れることはないだろう……」
「それ、なんてパトレイ……」
「ふっひゃひゃや!この代償……おのれの体で払ってもらうわいっ!」
「えっ!?ちょっ!ばか……!」
とかいいながらも本気で抵抗しないあたり、志穂も好きものよのう。
「晋也〜!さっきはすまなかったな。ついカッとなって………て…」
「あ。」
「あ。」
服がはだけた志穂に、それを脱がしにかかっている俺。そこから叩き出される結果は一つ………
「う…うぅ…く……うああああん!ふええぇ!」
「お、お嬢!な、泣くなって……」
「ねぇー、晋也ぁ、続き、しよ?」
「ばっ……おま…」
「うわああああん!」
そのまま泣いて走りさってしまうお嬢。
「お、お嬢〜〜!!勘違いだぁ!俺が愛してるのはお嬢だけだよー!!カムバック!お嬢!!!」
「ねぇー、晋也ぁ〜〜〜。」
「くぅ!」
そ、そんな猫みたいな声出されたら……俺は猫が大好きなんだ!
それにしても、お嬢を喜ばせようとしてるのに、なんでこうタイミングが悪いかなぁ。
……余談だが、志穂が燃やしたAVは、『フィニッシュの時、男優の喘ぎ声が女優のソレをかき消してしまう駄作。』というダミーだ。
本当の秘蔵品は鍵をかけ、倉庫に厳重守備している。鍵の番号は4桁で俺しか知らない……
「それもなくなってRYYYYUUUUUUU!!!AWOOOONNNN!!!!」
GJなんだけど、
サブタイだけしか書かないのは紛らわしいから止めて欲しいと思うます
あと投稿終了がわかりづらいので何かしら「おわり」とか「つづく」とか入れるなり工夫してもらいたいんだぜ
↑禿しく同意だ。 ついでに800ゲト
もう次スレの時期か
まだ前スレ埋まってないのに…
萩原葵の兄、萩原大樹は一言で言うなら脆弱な人間だった。
機械弄りの好きな技術屋気質と、酷く繊細な芸術家肌の両面を持ち合わせていた。
常にオドオドして周囲を見渡しては、気弱で挙動不審な印象に拍車をかけていた。小柄で活動的でもなく、小麦色の肌の子供達の中で、一人小さな雪達磨のような自分を持て余していた。友達と外で遊ぶくらいなら室内に遊び相手を探した。それが葵と工具箱だった。
それでも兄は昔から妹の前でだけは強がろうとした。内向的な性格は社会的にあまり好まれないことを知っていた。妹が自分のせいで要らぬ謗りを受けるのが許せなかった。
そのために大樹は彼の安息地であった妹に寄り付かなくなった。賢い妹は黙ってそれを受け入れた。彼のプライドを守り、自分に向けられた決定を尊重しようとした。結果、賢過ぎる妹は全てを失った。兄は工具箱だけでは生きていけなかった。
「兄さん? 入ってもいい?」
ノックする。葵は兄をそう呼ぶ。『お兄ちゃん』と呼べば甘えが見えるし、『兄貴』やまして代名詞なんかだと敬意が感じられない。一年ほど前、悟り切った少女が思春期に悩み抜いた末の判断だった。これも間違っていた。何もかもが間違っていた。
呻き声のような覇気のない了承を受け、葵は兄の部屋に入る。大柄な柱時計が壁際に佇んでいる。お前は用無しだと言われた気がした。そこに何もなかった頃に戻りたかった。
兄を見守るのは自分ではなくて時計の役目だった。
「……どうしたの? 何か用事?」
大樹は訝しげに訊いた。葵は用事がなければ大樹に近付くことさえなくなっていたのに気付く。お互いの必要性は出来立ての和紙より脆くなっている。けれど、葵にとってはそれはどんな鋼にも比類しない強固な繋がりだった。
「兄さんあのね……やっぱり兄さんはあの女とは――」
「……またその話? いいよもう……。彼女は葵が言うような人じゃないよ。……どうして葵はそんなにまで僕を嫌がるんだよ? 馬鹿にしたいんだよ? 僕が誰かを好きになるのがそんなにおかしいことなのかよっ!」
あの時自分は兄を守ることを誓った。また、大樹が兄の立場を保持したままで、葵に負い目を感じずに生きていけるよう手を尽くした。甘えられる余地を残したいという気持ちもあった。虻蜂取らずの格言。教わった時には手遅れだった。
葵は確かに兄の心を慮ることに長けていた。ただ、相手の気持ちを傷付けずに自己主張することは困難を極めた。それは大人でも習得に梃摺る交渉技術だった。そうしたビジネススキルは、理解していても実践できなければ意味がない。
葵は兄を立てることにしか気を回せなかった。
「その……私はそんなつもりじゃ……」
「もういいから。そのことだけなら早く出てってくれよ……」
激昂したはずの大樹。だが、その顔には悲しみが克明に貼り付いている。
何時からか素っ気なくなった妹。クラスメイトからの些細なからかいを真に受けて、苛めじゃないかと苦しんだとき。
工学部に行きたかったのに要領が悪いせいか数学がまるでできず、担任の不用意な「お前は理系じゃやっていけないだろ」の宣告に怯えて、文系志望で文理分けの申請を出してしまったとき。
脆弱な兄は五歳も歳の違う妹に救いを求めた。だが妹は兄のためを想ってそれを突き放した。誓いを破らぬように心がけているうちに、性格が硬直したまま形成されていった。
妹は表面上は昔のように兄に懐かなくなった少女にしか見えなかった。大樹もそう思ったから孤独に苦痛に苛まれ続けた。
居た堪れなくなった葵は、黙って兄の部屋を出た。「ごめん……」弱々しい声が聞こえた。それが彼女に決意をさせた。
情けない兄を嫌悪して無視するようになった妹、それが葵。最愛の兄の評価。神からの嫌がらせはあまりに残酷だ。
説得は通用しそうにない。葵が何を言っても大樹には無視だけでは飽き足らず、遠まわしな罵倒を浴びせかけているようにしか思えないんだろう。
兄の願いも虚しく、葵は大樹と同じで内向的かつ友達が少なく、口下手だった。その上、兄の意に逆らって自己主張などできるわけがなかった。葵はそうしないように生きてきたのだ。
自室に戻ると、ラジオを付けて手頃な番組に合わせた。何かの学習教材の付録だったキット。兄が組み立てた手製の品。柱時計とは異なり、葵が貰っていた。
ラジオ好きなクラスメイトなど一人もいない。最近は低年齢層にまで技術革新の波が押し寄せている。ラジオよりも携帯、パソコンが主流だ。葵は一人時代に取り残されている。
兄のことを想う。縋る相手が掌を返した。裏返った愛情は何となるのだろう。
だが、大樹は弱音を吐くことはなかった。相変わらず妹の前では平気な素振りを見せていた。絆創膏を貼って誤魔化していた傷。その実は悪化を止めていただけだった。
今更それを抉るような妹の振る舞い。歳の差は消え、兄よりも妹のほうがずっと冷静な現状が生まれる。構造的には葵を頼る大樹の構図に似ていた。依存か憎悪か。片方が感情的ならもう片方は自然と理性的に動けるものだ。葵はその傾向が極端だったに過ぎない。
番組のリクエストコーナーで流行のメロディが流れていた。哀しい旋律のバラードだった。鼻がつんとした。強風に煽られる竹林のように胸がざわめいている。
大樹は騙されていた。女慣れどころか他人にすら免疫を持てないような人だった。嘘っぱちの労わりと同情に引っ掛かっていた。葵が欠けた部分。空洞のできたコンクリートを手近な泥で塞ごうとしていた。
大樹に残された友達。ドライバーセットや半田鏝の納められた工具箱。大樹はそれを駆使して相手の女に尽くしていた。手作りのラジオや無線機なんかをいくつもあげていた。
無骨なプレゼントだった。葵でなければ喜ばないようなものだった。世間知らずな大樹は、嬉しいと言う女の言葉を信じているらしかった。
中学時代に技術科目で腕前を褒められたのが切欠だったと言っていた。無感動な妹の気を惹こうと、照れたように頬を掻きながら出した話題。葵はそれを作り話だと思った。兄は葵が不可欠な人間のはずだった。どうしてそんな嘘を吐くのかと頭にきて責め立てた。
思えばあれが分岐点であり、決定打だった。あそこで形振り構わず兄を引き止めていればこんなことにはならなかった。あそこで自分が優しく同調してあげれば、兄は女の存在が紛い物であることを素直に認めてくれた。葵は堂々と兄の守護者であり続けられた。
無意味な後悔だった。それでも葵は大樹を守り続けるつもりでいた。
ラジオを切った。感傷に浸る時間は終わりだ。
葵は電気スタンドの笠の裏に隠してある鍵を取り出した。誰にでもプライバシーがあるんだよ、そう葵に説きながら兄が取り付けてくれた蝶番と金具。それを繋ぐ南京錠を解いた。机の引き出しを開いて、目当てのものを引っ張り出した。
兄がくれたものよりも一回り大きく、外装もスケルトンの安っぽいプラスティックなんかではない。ずっしりとした重量を感じさせる、黒光りした立派なラジオ。確かに、この引き出しには大樹を守る葵の明かされたくない秘密が詰まっていた。
技術屋気質で芸術家肌の兄。妹は何処までも兄に似ていた。妹も機械工作が得意だった。そのためにそうしたものの扱いに慣れていた。
盗聴器とその受信用のFMラジオ。受信距離は短いが、最も手軽で安価な盗聴セット。葵の小遣いでも十分に入手可能だった。年間数十万台が流通する最新技術の塊。社会変動に対して葵も無関係ではなかった。
仕掛けた部屋は言うまでもない。何かへの当て付け。柱時計の内壁にくっつけてある。
ラジオに接続したヘッドフォンを装着する。つまみを捻って音を拾う。誰かに見られたら確実に怪しまれるだろうが、葵は部屋に鍵をかけていない。両親なら適当にあしらえる。もし大樹に葵がこうして盗み聞きをしていることを知られても、それはそれでよかった。
果たしてそのときどうなるのだろう。それはわからない。しかし、自分の半身にも近い純度で兄を慕う葵にとって、守るべき兄を拒絶する鍵など以ての外だった。秘密にするのは自分の守護者としての立場だけだ。兄の立場を壊さぬために。
バサバサと冊子が床に散らばる音の後、話し声が聞こえた。大樹がバックから携帯電話を取り出して通話を開始した。毎日のように聞かされていれば、嫌でも推理ができるようになる。
大樹は酷く落ち込んでいた。聴覚だけで十分判断できた。妹との不仲を嘆いていた。昔のように戻りたいと弱音を吐いていた。兄の願いは妹の願いと変わらなかった。
葵は柱時計を呪った。自分に余計な誓いを立てさせたあの時計を呪った。元に戻せぬ時間軸の代わりに、それを指し示す現存する物質を憎んでいた。
そして地獄からの使者が葵を絶望に追い込んでいく。葵を狂わせる雄叫びをヘッドフォンから流し続ける。兄が冥界に引きずり込まれそうになる。悪魔が手薬煉引いて待ち構えている。守らなければ守らなければ。葵は使命感に追い立てられていく。
電話相手の声までは拾えない。拾うまでもない。兄の声質に張りが戻ってくる。兄がどす黒い甘言に唆されていく。何時しか話題は葵のことからは離れ、二人は葵のいない世界に沈んでいく。葵以外の人間が兄を救うことなどできない。兄は騙されている。
憤怒に震え、悲痛に打ちひしがれる葵に、一つの妙案が降り立つ。
古びた時計の錆びた針。先端は鋭く、下部に近付くにつれて幅広になっていく硬質な鉄片。柄のない剣に似ていた。騎士が振るう正義の刃。悪に鉄槌を下すには最適に思えた。
あれを取り外して女の首に突き立てる。時間軸の呪縛から開放され、同時に守護者の使命を果たせる。葵は天才的発想だと思った。
そうと決まれば相手の女がどんな奴かを突き止めなければならない。受信範囲の広い高価な盗聴器が要る。小学生である葵は、どう頑張っても高校に侵入することはできない。尾行すれば手っ取り早いが、兄譲りの気質を誇示することで兄の眼を覚ましたい。
葵は兄を羊水にして育った赤子のようなものだった。
――だから、気付かない。現状認識の誤りに、気付けない。
兄が世界法則である葵は、『それ』に疑問を挟みはしない。
どれだけ賢くても彼女は小学生であり、そして嫉妬に狂った一人の女だった。
ボーン、ボーンと古めかしい合図が鳴る。柱時計の内部に置かれた盗聴器は、その共鳴を余すことなく葵に送り届ける。耳を劈く厳粛な響き。その音色が直に途絶える。過去に戻れる。やり直せる。
葵は今度こそ、好きなだけ兄に甘えようと思った。
……ガードナーの単語が間違ってる気がしないでもない。
そして妄想乙、で終わる話。
恐らく投下上のミスはないはず……。
それと、中途半端に区切れてるんで、保管の際は一纏めにして貰えると助かります。
よりによって昨日今日にインスピレーションがビビッとくるあたり、
複雑な気持ちになりますね……。まあいいか、好きなシチュだし。
どっちも短い上、一本目は読むことも困難みたいですが、
クリスマスのささやかな暇潰しにでもしていただければ。
GJ!
「あの女」側の話も読みたいと思ってしまったのは俺だけじゃないはず
今宵、リアルワールドで起きている修羅場に想いを馳せつつ
投下します。
12月24日
今宵はクリスマス・イブ
街中にクリスマスソングが流れ、ケーキを買っていくお父さんが足早に帰る、
年に一度の記念日
子供達はサンタのプレゼントを待ちながら夢を見ている、そんな奇跡がバーゲン
セールで売られている日に、一人のサンタがある街に到着した。
「ふーっ、間に合った。飛行機の乗り継ぎしても半日も掛かっちゃったわ」
彼女の名は
「三択ロース410号」(19歳 処女)
正真正銘本物のサンタだ。ただしまだ半人前だったが。
あ〜あ、私も自家用ソリがあればこんな苦労もしなくていいんだけどな〜〜。
レンタルは高いし、何で仮免の時は自腹でプレゼント配達しなきゃいけないのよ!!
……愚痴っても仕方ない、免許を取るまではガマンガマン。
彼女には目的があった。ちょうど一年前のクリスマスの日にある少年にプレゼン
トを届けた。
一目惚れだった。
まだ小学生の高学年ぐらいだろうか、その少年に三択はあろうことか心を奪われ
てしまったのだ。
だからこそ飛行機を乗り継ぎしてでも三択ははるばる日本まで来たのだ。年に一
度だけ、この日にしか逢えないから……。
「懐かしいわ……、別段変わってないわね。あの子元気にしていたかしら」
目的の少年の家に到着した三択は懐かしさに浸りながら、ゆっくりと家の周りを
見渡し、中の様子を伺った。
……どうやら全員寝静まったようね。じゃ、始めますか。
庭に侵入した三択は鳶職も真っ青なテクニックでスルスルと壁を登り、あっとい
う間に二階に上がった。だが――
失敗した……。ミニスカートのサンタ服なんて着てくるんじゃなかったわ。これ
じゃ足が寒い上にショーツ丸見えじゃない!!……まあ誰も見ないけど。
二階のベランダに登った三択は窓の前に立つと、何やら袋をごそごそと探し、あ
るものを取り出した。
えーー……っと、このテープを此処に貼って……よし。で、取り出したるはこの
ハンマーで、こつんと叩けば……。
カチャン
よし、成功。鍵を外して、おっじゃましま〜〜す。
泥棒も感心するほどの早業で鍵を開けた三択はすべりこむように部屋へ入った。
そこはいかにも男の子の部屋らしくバットやグローブがあり、クリスマスツリー
が暗闇の中ネオンを輝かせていた。
そんな部屋のベットに一人の男の子が寝ていた。
「むにゃ………」
「お久しぶり。元気にしてた?……って寝てるか。………かわいい」
暫らく少年の顔を眺めていたら、枕元の靴下と一緒に手紙があった。宛名は……
「さんたさんえ」
「え?!私に手紙?……嬉しい……」
早速手紙を読んでみると
「さんたさん。一年かんいい子にしてました。てすとも100てんとりました。
やきゅうはほーむらんをうちました。だからぷれぜんとください。おながいします。
4の3 つかはらたくや」
つたない字ながらも一生懸命書いた手紙に三択は込み上げる思いが止められなか
った。
「ぐすっ……うんうん。いい子にしていたのは知っているから。よ〜〜し、お姉
ちゃん大奮発しちゃうよ。まずは……」
三択は持ってきた袋の中に手を入れた。すると手には何やら物の感触が触れ、取
り出した。
「ふ〜ん、今欲しいのはプラモデルか。じゃ、まずはこれと、次は……」
出したプラモデルを枕元にそっと置き、次にポケットから銀の腕輪を取り
出し、少年の腕に嵌めた。
「この腕輪はね……お守り。悪い虫から守ってくれるわ。大事にしてね。
ちゅっ♪」
頬に優しくキスをし、立ち去ろうとしたその時ベットの中から
「う………ん、お兄ちゃん大好き……」
三択の動きが止まった。見る見る眉毛が吊り上がり、眉間に皺を寄せた。
今……ベットの中から……
おそるおそるベットの布団を取ってみると、少年の体にしがみ付く少女が寝息を
立てて寝ていた。
「んっ……………お兄ちゃん」
むか。誰よこいつ。私の少年に抱きつきやがって!!離れなさい!!
まるで床に貼りついたガムテープを剥がすかのようにベリベリッと
少年から剥がした。
「はいはい、不法侵入者は追い出さなきゃ」
少女の体をかかえて、近くにあった毛布ですまきにし、寒い廊下に投げ捨て、ドアに鍵を掛けた。
「これでよし、と。それじゃまた来年ね。待っててね、少年がもう少し
大きくなったら迎えに来るから」
修羅場を愛する皆にメリークリスマス!!
続きません。こんなネタ今日しか出来ないから作っちゃいました。本当だったら
「魔法少女」投下しようと思ったけど……
今度は正月ネタでも書こうかな
嫉妬25ろされる
25った瞳
25日はクリスマス
雌豚は地獄25
(めすぶたはじごくにGO)
>>811 GJ。すまきワロタ
将来の再会が非常に楽しみですね
新スレ立て、行って参る
822 :
737:2006/12/24(日) 22:41:15 ID:DIdgaBk8
時間が空いてしまいましたが、737には続きがあります。
よろしければ投下したいのですがいかがでしょうか
823 :
名無しさん@ピンキー:2006/12/24(日) 22:45:47 ID:47i8zwHW
オーケー。
>>823 ありがとうございます
一応737から投下します。
826 :
737:2006/12/24(日) 22:53:48 ID:DIdgaBk8
「おはよう!」 「おふぁよう」 欠伸交じりに挨拶をかえす。「また寝癖ついてるよ?」
彼女はこちらへ近づくと少し背伸びをしてポンポンと秀一の髪を直す。
長い髪が風で踊り、ふわっと良い香りがする。秀一は恥ずかしさから少し顔を背けつつ感謝の気持ちを伝える。
「・・・ありがとう」 「いえいえ♪」彼女は秀一に笑いかけた。毎朝その笑顔を見るたびに心が落ち着く。
「今日レッスン無いよね?」「うん、来週からだよ」 そして学校まで他愛無い会話を続ける。
TVのニュースは日に日に悪くなっていく世界情勢を伝える。
しかし、日本の隣国による核の脅威についての特別番組を観た後でも、宗教戦争で一触即発という国々の報道を観た後でも
二人で登校しているこのときだけは、秀一は 「世界は平和だ」 と胸を張って言えた。
827 :
737:2006/12/24(日) 22:55:15 ID:DIdgaBk8
「夫婦登校かよ、朝からラブラブだな!」
二人一緒に教室に入ると男子からやじが飛んできます。
根も葉も無い事ですが、秀君と「夫婦」と言われ嫌な気はしません。
少なくとも自分が秀君と一緒に居ても不釣り合いでは無いということです。
安心感と喜びが胸を満たします。思わず笑顔になってしまいました。
そのことを周りに悟られないように顔を伏せて自分の席へ向います。
途中、ちらりと秀君の方を見ました。困ったような顔でやじを飛ばした男子達としゃべっています。
一抹の不安が胸をよぎった。
――――秀君は「夫婦」とまで言われてどう思っているのかな・・・
828 :
737:2006/12/24(日) 22:58:38 ID:DIdgaBk8
彼女は顔を伏せて自分の席へと行ってしまった。朝から夫婦などと言われ、嫌だったのだろうか。
なんだか申し訳ない気持ちになった。
「朝の第一声がそれか。挨拶はどうした、挨拶は。それに僕達は夫婦じゃなければ付き合ってもいないぞ」
おどけた調子だがしっかりと男子達に釘を刺す。
誤解や噂をそのままにしておくと、彼女を傷つけることになる。
しかしすぐに男子から疑いの声があがった。
「うそつけ。幼馴染で登下校から昼食まで一緒、しかもその相手があの北條優奈で男がロマンス感じないわけないだろ?」
「あのなぁ・・・」 確かに登下校も昼食も、高校入学してからこの一年間一緒だったし、これからもそうだろう。
だがそれは彼が最初に言った「幼馴染」という言葉で全て説明がつく。
「幼馴染」とはそういうものなのだ。
北條優奈。僕の幼馴染。
健康的にスラリとのびた脚。細い腰に、セーターとブレザーの上からでもはっきりと分かる胸。
決して胸が大きいというわけではないが体の線が細いため胸が強調されて見える。
肩までの黒く艶のある綺麗な髪。長いまつげと黒目がちの大きな瞳が特徴の整った顔立ち。
その容姿もさることながら、常に笑顔で誰にも分け隔てなく優しく接する人柄から
性別、先輩後輩問わず好かれていた。女子は嫉妬を超え羨望の眼差しで彼女を見ているし、
本人はまったく気付いていないがクラスのアイドル的存在だ。
まさに非の打ち所が無い。自分との接点は「幼馴染」というだけだ。
――――だがそれがいい。今の関係が自分には心地よかった。
829 :
737:2006/12/24(日) 23:09:14 ID:DIdgaBk8
投下終了です。
不愉快な方はスルーでお願いします
読んで頂き、問題点や不自然な所、日本語としておかしかったりもっと良い表現があるだろという所がありましたら
是非ご指摘お願いします。
ご指摘頂いた事を糧にさらに精進する次第です。
GJ。 途中で投げ出さず完結させて欲しい、お願いしたいことはそれだけです
完結させるのって大変だよね。俺も端緒は思い浮かべど終わらせることはできんな。
クリスマス超超超投下ラッシュだワッショ━━∩(´∀`∩(´∀`∩(´∀`∩(´∀`∩(´∀`∩)━━イ
ノン・トロッポ、投下します。
美術部は美術室を部室として使っていた。
愛美は戸を開けると、その中へつかつかと入っていった。
愛美の後についてきていた進は、体は教室の外に置いたまま、教室の中を覗き込んだ。
何かあれば、すぐに帰ろうと思ってのことだ。
そこには、女生徒がひとりだけいた。その女生徒と目が合った。見覚えのない顔だった。女の子にしてはずいぶん背が高い。
髪を無造作にゴムで束ねていた。束ねきれていない髪が、ぴょんぴょんとはねている。髪の色は多少薄かった。
くっきりした二重の目に、濃い眉毛。目の下あたりにそばかすが散っているのが特徴的だった。全体的に、彫りの深い顔だった。
その彼女と目が合ってしまったのだから仕方がない。進も諦めて教室に入ることにした。
進は愛美の隣にたった。愛美が口を開きかける。
だがその前に、女生徒が機先を制して話し出した。
「おお、君は平沢進君ではないか。いや、お噂はかねがね」
進はそれを聞いて、機嫌を悪くした。
沙織のおかげで、進は校内でそれなりの有名人であるが、その評判はよいものではなかったからだ。
沙織の金魚の糞であるというぐらいなら事実なのでまだいいが、根も葉もない噂も流されていた。
それを察したのか、女生徒が付け加えた。
「おおっと、誤解しないでもらいたい。あたしは足立沙織と同じクラスの友達でね。沙織から直接、君のことは聞いているのだよ」
つまり、彼女は1年先輩らしい。
「あたしは3−Aの山口翠(やまぐち みどり)。美術部の部長をやっている」
「あ、僕は」
「だから知ってるって。平沢進君。2−C所属。まれに見るがんばりやさんだが、子供っぽいところがある。好きな食べ物はシチュー。コーヒーには砂糖とミルクを入れる。
炭酸飲料が苦手。好きな色は青で、好きな音楽はテクノ。趣味は読書、それから」
翠は、そこでいったん休憩を入れて、というよりタメを作って続けた。
「絵が上手いらしい。これは全部沙織が勝手にしゃべったことだから。間違いがあったらいってね」
進は沙織の暴露ぶりにあきれた。友達と自分の話をしているなどと、想像もしていなかった。
「いや、だいたいあってます。絵が上手いってこと以外は」
翠はそれを聞いて「ふーん」と肯いた。
「で、その平沢進君がいったい何用でこんなところまで?」
そこで、蚊帳の外に置かれていた愛美がやっと口を開いた。
「見学です、美術部の。平沢君、どこにも入ってなくて、だからわたしが誘ったんです」
「ほおほお、グッジョブ、川名さん!この部には何かが足りないと思っていた。画材か?予算か?いや違う!それは若い男だ。あたしは若い男に飢えていた」
「あの、別にまだ入ると決めたわけじゃないですから」
進は釘を刺した。翠はいかにも口が上手くて、押しの強い娘であるように、進には思えた。
進はそういうタイプが苦手だった。あれよあれよと向こうのペースに巻き込まれて、進のような人間はいつの間にか流されてしまう。
実のところ、沙織もまた似たようなタイプだったのだが。
「いやいや、まあ見てってよお客さん。画材は全部部費で買えるし、静物だってこんなのもあるし」
翠はそういって、水牛の頭蓋骨らしきものを手に取った。
「ほらほら、ハリケーンミキサー!!なんちて。それだけじゃない。うちの部には5人の美少女が控えている。そこにいる川名さんなんて、結構かわいいでしょうが。え、何?
それとも川名さんがかわいくないとでもいうつもり?」
「あ、いや、かわいいと思いますけど」
翠の押しに、進がついいってしまうと、愛美はそれを聞いて顔を赤くした。
翠はそれを見て、にやりと笑った。
「まあもちろん、筆頭美少女はこのあたしなんだけどね。なんだったらモデルだってしてあげるよお。何、全裸がいい?仕方ないなあ、そこまでいわれちゃあ、後には引けない。あたしのナイスバディーを拝んで空までぶっ飛びやがれ!!」
翠はそういって、セーラー服のリボンを解き始めた。進は展開のあまり速さについていけていない。
おろおろすることもできず、ただ唖然としていた。
翠を止めたのは、進ではなく、愛美だった。
「ちょっと部長!平沢君が困ってますから」
「あははー、ごめんごめん。やっぱりメインは後輩に譲らないとね。ほらほら川名さん、平沢君も待ってるから、じっとして」
今度は、翠のリボンを解き始めた。
「あっ、あのっ」
愛美はなぜか律儀に翠のいうことを聞いて、じっとしていた。リボンが完全に解かれてしまう。
愛美が進の方をちらりと見た。赤い顔をしていた。だが、単に恥ずかしがっているという風ではなく。
進はやっと再起動した。
「ストップ!僕はいいですから、もう止めてください」
「ふむ、平沢君がそういうのなら、このくらいでよしておくか。じゃあ、入部は決定ということで」
翠が愛美のリボンから手を離した。愛美はそれをすばやく結びなおした。
「いや、だからまだ決めたわけじゃなくて」
「まあまあ、とにかく仮入部ということで。しばらくここに来て、いい感じだったら本入部すればいいんだし。だから、明日から放課後にはここに来るように。いちおう活動日は月曜から金曜まで。
うちは固いところじゃないから。気が進まなかったら休んでもいいし、天気がよかったら外で描いていてもいいし。顧問は明日来ると思うから」
「あの、でも沙織ちゃ、足立先輩が」
「知ってる知ってる。いつも一緒に帰ってるんでしょ。まあ、そのときまでいればいいじゃない。教室で描くのも、ここで描くのも一緒でしょ」
確かにそうだった。それに、断るのに沙織のことを理由にするのは、いかにも情けないことのように進には思えた。
だとすれば、他に断る理由などないようにも思えた。
「あの、分かりました。とりあえず明日から様子見ということで」
「おお!来てくれるか。後の歴史家は、君の決断を英断と呼ぶだろう、平沢卿」
翠はそういって、右手を差し出してきた。握手をしろということらしい。
進が杖を離して右手を出すと、翠はそれを握ってぶんぶんと振った。
怒涛の展開に時間を忘れていたが、そろそろ沙織が迎えに来る時間だった。今日はもう戻ることにした。
「ささ、川名さん。旦那を送って差し上げて」
一人で大丈夫だという進に、翠は無理やり愛美をつけた。
美術室に来たときと同じように、二人して教室に向かった。
「すごいひとだったね」
「あの、ごめんなさい、うちの部長っていつもああだから。迷惑だった?」
愛美が顔をうつむかせていった。
「いや、確かに驚いたけど。でも面白かったし。ああいう人は嫌いじゃないっていうか」
「平沢君は部長みたいに明るい人が好きなの?」
話が妙な方向に進んでいた。