【涼宮ハルヒ】谷川流 the 35章【学校を出よう!】

このエントリーをはてなブックマークに追加
1名無しさん@ピンキー
谷川流スレッド設立に伴う所信表明

我がスレッドでは、谷川流作品のSSを広く募集しています。
過去にエロいSSを書いたことがある人
今現在、とても萌え萌えなSSを書いている人
遠からず、すばらしいSSを書く予定がある人
そういう人が居たら、このスレッドに書き込むと良いです。
たちどころにレスがつくでしょう。
ただし、他の作品のSSでは駄目です。
谷川流作品じゃないといけません。注意してください。

■前スレ■
【涼宮ハルヒ】谷川流 the 34章【学校を出よう!】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163690304/
■過去ログ■
http://www9.atwiki.jp/eroparo/pages/210.html

■これまでに投下されたSSの保管場所■
2chエロパロ板SS保管庫
http://sslibrary.gozaru.jp/

涼宮ハルヒのSS保管庫 予備
http://haluhi9000.h.fc2.com/

■荒らしについて■
削除依頼対象です。反応すると削除人に「荒らしに構っている」と判断されてしまい、
削除されない場合があります。21歳以上なら必ずスルーしましょう。

PINK削除依頼(仮)@bbspink掲示板
http://sakura02.bbspink.com/housekeeping/

書き込む前に。。。
http://info.2ch.net/before.html
2名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 00:42:48 ID:AWKQ4wrl
Q批評とか感想とか書きたいんだけど?
A自由に書いてもらってもかまわんが、叩きは幼馴染が照れ隠しで怒るように頼む。

Q煽られたりしたんだけど…
Aそこは閉鎖空間です。 普通の人ならまず気にしません。 あなたも干渉はしないで下さい。

Q見たいキャラのSSが無いんだけど…
A無ければ自分で作ればいいのよ!

Q俺、文才無いんだけど…
A文才なんて関係ない。 必要なのは妄想の力だけ… あなたの思うままに書いて…

Q読んでたら苦手なジャンルだったんだけど…
Aふみぃ… 読み飛ばしてくださぁーい。 作者さんも怪しいジャンルの場合は前もって宣言お願いしまぁす。

Q保管庫のどれがオススメ?
Aそれは自分できめるっさ! 良いも悪いも読まないと分からないにょろ。

Q〜ていうシチュ、自分で作れないから手っ取り早く書いてくれ。
Aうん、それ無理。 だっていきなり言われていいのができると思う?

Q投下したSSは基本的に保管庫に転載されるの?
A拒否しない場合は基本的に収納されるのね。  嫌なときは言って欲しいのね。

Q次スレのタイミングは?
A460KBを越えたあたりで一度聞いてくれ。 それは僕にとっても規定事項だ。
3名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 00:45:14 ID:AWKQ4wrl
前スレが容量オーバーになったので立てますた。
これからID:LCX4qnov氏が前スレからスレを跨いでSSの続きを投下する……はず。
4名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 00:47:44 ID:nZtwrgte
>>1
めがっさ乙!
これぞまさに「涼宮ハルヒスレの奔走」だっさね!
5名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 00:56:47 ID:p8jd1I5q
[涼宮ハルヒの決断]の続きです。

 翌朝、ハルヒにたたき起こされ、何をするかと思ったら、結局いつもの
パトロール、組分けはせずに皆で遊んだだけだったが。
 古泉の奴までしれっとした顔で参加していた。こいつは本当に油断ならん。
一度長門に頼んでシメてもらおう。
 朝比奈さんは照れからか朝は顔を赤くしていたが、そのうちいつもの素晴らしき
どじっこへと戻った。
 長門はもちろんハルヒまで、いつもと変わらない。
 なんとなく三人が俺の名前を呼ぶ時に甘いモノが混じっている気がするだけだ。

 次の日、苦行を終えて到着した教室で出会ったのは、朝倉涼子だった。
 谷口や山根を中心とする男共の大歓声にも関わらず、朝倉は俺にことあるごとに
話しかけてくる。
 喜緑さん、話が違います。俺はこいつが本能的に苦手なんだ。
 その動揺を勘違いしたのか、ハルヒの機嫌は垂直落下、男子の罵声が飛び交う。
 とりあえず昼休みに部室へ連れ出し、大人の話し合いで何とかなだめたが、
放課後に再フォローしなきゃならんだろうな。

 授業終了と同時にハルヒの手をひいてダッシュで部室へ避難した。
 歩きながら話すとなんとかハルヒの機嫌は上昇し始めた
 
 部室に入るといつもより二人多く五人もいた。

 詰め将棋をする古泉。お前はなるべく遠くで女といちゃついてろ。

 先週より200%増しの笑顔で、お茶を入れてくれる未来天使。

 何故かしっぽがある鶴屋さん。いえすばらしいポニーなんですが、
何も今日でなくても。
6名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 00:57:39 ID:ScX27rZk
初めて文面でおっきしたw続きplz
7名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 00:57:51 ID:p8jd1I5q
 いつもと変わらず本を読む長門が二人。え!!
「紹介する。わたしの双子の妹、長門阿芽」
あ、阿芽ってご両親お天気が好きなんですね。
「図書館で……あのときはありがとう……」
ま、まさか……
「そう、彼女はあのときの改変世界のわたしを元にしたインターフェース。
有機生命体との接触経験を持つパーソナルデータは貴重。思念体からの打診があった。
特に問題はないので了承した。ちなみにわたしの声はあなたの聴覚に
直接働きかけているために、あなた以外には聞こえない」
 お前のやたらと多い特技がまた一つ増えたな。
 
「キョン!あんた有希の妹をどこで引っかけたの!」
「キョン君って本当に女の子の知り合い多いんですね!」
「ちがうって!ただ図書カードを作ってやっただけ」
 こら阿芽さん思わせぶりに赤くなるな。
 
 鶴屋さんはしっぽを揺らして大笑い。
 朝比奈さんは可愛らしく頬を膨らませている。
 長門と古泉は知らん顔だ。こら古泉、下を向いて笑うな。
 ハルヒの機嫌はもうジェットコースターのように乱高下している。

 大きな音がして、扉が開いたかと思うと
「あ、キョン君いたわね。わたしもSOS団に入りたいんだけど、
ってあんたなにしてんの!」
 部室前で由良と朝倉が睨み合っていた。

  とりあえず終わり。
8名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 00:58:49 ID:p8jd1I5q
スレ立てご苦労様です
SSはもちろんこういった小説形式の文を書くのが初めてなので
容量のことすっかり忘れてました。ごめんなさい。


 当初はもっとどす黒い設定で,暗黒ヤンでれはーれむとなり、何人かは精神崩壊、
妹やミヨキチまで含め二桁の女性がキョンの餌食になる話だったんですが、
解説の古泉があまりにでしゃばりすぎるので出番を削ったところ
何故か爽やかオチに。

 設定適当なので矛盾点などのご指摘はお手柔らかに。
9名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 01:07:18 ID:3iksjbSx
リアルタイムGJ!!
10名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 01:08:49 ID:nZtwrgte
>>8 乙ですー。
スレ跨ぎは何か最近多いよな。次気をつければいいさ。
話は最高でした! もうおっきしっぱなしの和みっぱなしだよ!
しかしあんた本当に初か!? 恐ろしい子……GJ!
11名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 01:24:31 ID:ScX27rZk
初なら十分過ぎる出来GJ
12名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 02:02:20 ID:qKIMWYPV
GJだと言わせてください!
13名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 02:22:10 ID:BGO13Xgp
文章うまいよ。GJ。

けど、何というか個人的には古泉のキャラが受け付けなかったかも。
俺の中で、少年オンザで固められた古泉像を根底から覆すキャラなのが、ちと辛い……。
ベタだけど、やっぱいい奴な古泉が個人的には好きだなあ。
14名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 02:29:08 ID:nRT724DG
>>前スレ759&前々スレ837
>ほんとに出版すれば…ってのはあまりよくないかな?
>思うんだけど…こことか保管庫にある作品で同人誌作ったら…

現在、2ちゃんねるの書き込みの著作財産権はひろゆきにあるので、
このスレの作品を同人誌として出版したいのならひろゆきにききなされ。
ひろゆきの許可があれば出版可能。
(注:投稿者本人が出版するのは許可不要)

ちなみに、非営利のまとめサイト(アフィリエイトのないまとめサイト)は
基本的に黙認してる模様。>ひろゆき

なお「谷川流」作品の同人だと、
角川やメディアワークスの著作財産権を侵害する可能性が高いので注意が必要。
(今売られている同人誌は黙認されているだけ)
15名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 02:44:47 ID:aBSRibRb BE:573642296-PLT(10770)
ヨカッタヨー才能アルヨー
殿堂入りとかないのかね?
16名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 03:41:51 ID:sdO4E/iC
いやーよかったよGJ!GJ!
ところで当初の設定でやんでれ書いてくれないか?
いや、まじで頼む
17名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 03:58:14 ID:mHZEu/Vh
1スレ立て乙。
そしてID:p8jd1I5q乙。蝶GJ!
なんつーか、『谷川仕事しろ』。
いかにも機関のエージェント的な黒古泉がカッキー。
今ならヤツにほられてもいいと思ってる俺ガイル
18名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 04:37:38 ID:pH7bwlO2
初SSでエロ描写も初めてでこのレベルって……
どれだけ上手いんだよGJ!
19名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 09:07:20 ID:okZJsr5W
(・∀・)イイヨイイヨーこれは相当の出来だな
純粋にエロ抜きにして話としても面白いよ!

前スレ>>776
いいかインフルエンザ大流行の中二日も顔を見せない長戸の様子を見に
長門宅まで行ってみるとしようそこには制服のままぶっ倒れてる長門の
姿があるんだ抱き上げてみるとえらい熱。だが長門は
「駄目、うつるから・・・」と看病を拒否するんだ
しかし勿論長門は病院は駄目だろうから有無を言わさずベッドに運ぶんだ
汗だくになっているため脱がしてタオルで拭いてやるんだ下着も剥いでな
それでも後から後から濡れてくる箇所があったりしてな
そして丁重に寝巻きに包んで布団をかけてやり速攻で冷えピタ、ホットポー
その他の七つ道具を購入して長門宅に戻り半分が優しさでできている
例の薬を用法用量を守り服用させて寝かしつけてやるんだ
荒い息が徐徐に静まり安らかな寝顔になっていく過程もまたエロい
目覚めたところで水をこくこく飲ませて飯が食えるか聞くんだ
「食べられない」とまあ言うだろうそこで果物なら食べられるか聞くんだ
「果物なら食べられる」と言うだろうそういうことにしておくんだ
そこでおもむろに先ほど購入しておいた桃を剥き食べさせてやるんだ
「自分で食べられる」と言うだろうがフォークで眼前に突きつけてやれ
口の端から汁が滴り落ちる様など淫靡の極みだ
その日はこのくらいで勘弁して帰り翌日行くと熱がぶり返しているんだ
「寒い、寒い・・・」とうわ言を言う長門のベッドに入り彼女の体を抱きしめて
温めてやるんだ震えは徐徐に治まりまた深い眠りにつく
長門の寝顔を見ながらその日はそのままお泊りだ
翌日長門は回復したが別の熱が出ているんだ後はもうわかるだろう

いや話のネタとして振っただけだ。
20名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 09:33:10 ID:JgcJVQAp
決断GJ
これは読ませるぜ・・・!頭と下半身両面で

>>19
落ち着け。そして書け
21名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 11:29:30 ID:EBGcgXlQ
久しぶりの良作
ニヤニヤが止まらない
22名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 12:13:33 ID:FHzJ2Mgj
長文乙。
一部キャラが別人になってるな。
まあSSとは概ねそんなもんだけど。
23名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 14:12:29 ID:pkwPXF7p
欲を言えば二桁の女子がキョンの餌食になる展開も読みたかったな
24名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 15:48:41 ID:k/NOwTnC
ミヨキチカモーン
25名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 16:04:03 ID:pZfWTwGi
このスレのSSはやっぱ長門のものが多いのかな?
26名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 16:34:52 ID:li5hJV85
501 KB [ 2ちゃんねるが使っている 完全帯域保証 レンタルサーバー ]
--------------------------------------------------------------------------------
                      新着レスの表示
--------------------------------------------------------------------------------
掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50
_____        ________                ________
|書き込む| 名前: |タンヤオ      | E-mail(省略可): |               |
 ̄ ̄ ̄|\        ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄                 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
┌─────────────────────────────────┐
│ このスレって活気なくなったよな                                  |


ガチでこうなってた件
27名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 21:01:35 ID:R3m3XiZE
「三人寄ればもう一人寄る」

北高に入学して数ヶ月。涼宮さんの電波的な自己紹介に始まって朝倉さんの急な転校なんていうショックな出来事もあったけど、もうすぐ夏休み。私は人見知りしないほうだから男女共普通に話す。涼宮さんとは未だにあまり喋れないけどね。
でもまあこの頃になると誰々は誰々の事が好きだとかそういう色恋話の噂が出てくる。けれどそういった他愛のない噂話なんてよくあることで雑談の部類に入るものね。だから10分も経てば忘れてしまうくらい気にならないことだった。
『瀬能さんと剣持さんは二人とも榊君のことが好きらしい』
なんていう特に身近な友達の噂を耳にするまでは。
その噂には、尾ヒレがついていた。
『剣持さんは、瀬能さんが榊君とくっつかないよう瀬能さんの悪いイメージを榊君に吹き込んでいる』
正直言うと、剣持が榊君のことを好きなのは知っていた。私と剣持と瀬能は部活が一緒で仲良しだから、自分が好きなのは誰かなんてことを言いっこしたことがある。その時剣持はあっさりと榊君の名前を出した。瀬能は少し黙った後
「私、まだいないのよね。」
としか言わなかった。だから剣持は瀬能も榊君のことが好きだなんて知らないはず。それとも噂で知ったのかしら。どっちにしても剣持がそんな安物の昼ドラみたいなつまらないことするわけがない。私は信じなかったけど、こういう噂に
限って当事者の耳に入ってしまうものなのよね。

私が異変に気づいたのは、お弁当の時だった。
「あれ?瀬能は?」
聞いてきたのは剣持だった。私達はいつも三人でお弁当を食べるのだけれど、瀬能の姿がない。私は教室を見渡した後
「学食にでも行ったのかしら?」
と答えた。お弁当の時間ついに瀬能が姿を見せることはなかったから、やっぱり学食に行っていたんだろう。
「お弁当忘れたのお昼に気付いたの。慌ててて・・・。」
瀬能本人はそういったけど、何も言わずに学食に行ったことに何か引っ掛かりを覚えた。そしてその引っ掛かりが私たちの関係に亀裂を生じさせる危険性を感じ取ったものだったことに気付いたのは、部活のときだった。
これから本格的な夏になるというのに、手芸部ではマフラーを編んでいた。
「この季節感のない部活動の内容になぜ誰も異議を唱えないのかしらねえ。」
などと三人で無駄口をたたきながらマフラーを編むのが日課なのだけれど、瀬能は私とは話をあわすけど剣持とは口ごもったり話を逸らそうとする。これはおかしい。明らかに剣持を避けている。30人のクラスメイトがいる教室より部室で
の3人のクラスメイトの中の方が、その違和感がより際立つというものだわ。
帰る途中、私は思い切って聞いた。
「ねえ、今日あんた少し変よ?」
「え・・・?そ、そう、かな?」
瀬能はうつむくだけだった。そこへ
「そうよ何かあったの?悩んでることがあったら相談に乗るわよ?」
剣持も異変に気付いたのか心配そうな顔を瀬能に向けた。
28名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 21:02:23 ID:R3m3XiZE
「う・・・うん・・・」
やっぱり剣持に対してだけ態度がおかしい。一瞬あの噂が頭をよぎったけど口には出さなかった。けれど剣持は私との態度の違いにピンときたようで
「やっぱり私に何か不満があるの?言いなさいよ!嫌なのよね、こういうモヤモヤした感じって!」
ついに瀬能に食って掛かってしまった。こうなると普段おとなしい瀬能もヒートアップしてくる。
「き、聞いたんだもん!」
「聞いたって何をよ!」
顔を高潮させ涙目になりながら瀬能が口にしたのは、やはりあの噂だった。剣持は数秒面食らったような顔をした後今度は呆れ顔で
「何を言い出すかと思えば・・・。あんた、私がそんなことするわけないでしょ?第一あんた好きな人いないって言ってたじゃない!」
剣持、あんたニブいわよ。ここまでくれば瀬能も榊君のことが好きかもしれないってうっすら気付きなさいよ。
「私だって榊君のことが好きなんだもん!」
瀬能がついに心の内を吐露した途端、緊張の糸が途切れたのか泣き出してしまった。感情の高ぶりをコントロールできなくなってしまったんだろう。さすがに剣持も慌てて
「ちょ、ちょっと泣かないでよ!」
肩に手をやろうとしたが振り払われてしまった。大泣きする瀬能に剣持も声をかけることができなくなってしまっている。この状況、よくないわ。
「二人とも落ち着いて。噂なんかで喧嘩するのやめましょう!」
私達の周囲には、瀬能の泣き声だけが響いていた。それに耐えられなくなったのか剣持が一人走り去ってしまい、取り残された私は瀬能をなだめることしかできなかった。
「ねえ、本当に剣持がそんなことしてると思ってるの?」
「ひっく・・・、分からない。本当は剣持のこと信じてる。でも、どうにもならないの・・・。」
私は瀬能をそっと抱き寄せ頭を撫でた。明日からどうなるんだろう・・・

その心配は的中した。次の日からまるで世界が違って見えた。昨日までなら朝教室に入ったら剣持と瀬能にあいさつしてHRの前までおしゃべりして休み時間も話して、一緒にお弁当食べて、というワンパターンだけど楽しい時間が流れて
いたのに、今日は三人揃わない。剣持と瀬能はまだ昨日の事を引きずっていて完全に口を訊かなくなってしまっている。私が間に入って何とか取り持ってる感じね。お昼も何とか三人で食べたけどいつもより食べ終わるのが早かった。この重
苦しい空気、なんでこんなことになったんだろう。部活ってこんなに退屈な時間だったかしら。
それから数日この状態が続くと、私もダウナーになってきた。精神状態が下降気味だと普段何気なくしていることも辛くなる。北高へと続く長い坂道もすっかり慣れたと思っていたのに、坂の角度が上がったか距離が長くなったんじゃないかと
錯覚しそうになるくらいしんどくなっていた。そしてその錯覚が自分は何かの修行をしているんじゃないかというところまでレベルアップしてきた頃、事態は急転した。

「うぃーす!」
昇降口で日向に背中を叩かれた。レスリング部の馬鹿力で下駄箱に顔をぶつけそうになったわ。今の私に体育会系の無意味な明るさはこたえる。
「あんた最近暗いわねー!肌が荒れるわよ?」
私がとっさに頬を押さえると、日向はケラケラと笑い出した。
「美容ネタに反応できれば大丈夫ね。」
何に大丈夫なのよ。
29名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 21:03:01 ID:R3m3XiZE
「ねえ、ひなた。」
「ひゅうがよ!」
「どっちでもいいわ。漢字にしたら一緒だし。ところであんた、榊君の好きな子って知ってる?」
この質問には何の意味もない。別に仲を取り持とうとしてるわけじゃない。私は少し壊れかけていたのかもしれない。第一こんな質問したら私が榊君のこと好きって思われるかもしれないじゃない。
「榊君には鈴っちがいるわよ。」
そんな私に日向は衝撃の事実を告げた。次の瞬間、私は日向の襟首をつかんでいた。
「詳しく教えなさい!それと鈴っちって誰よ?」
襟首をつかまれた日向は私の腕をパンパンと叩いていた。なにそれ、私はレスリングのルールなんて知らないわよ。

鈴っちというのは、榊君の隣の席の鈴木さんだった。鈴木さんも榊君のことが好きで実はもう告白もして付き合いだしているらしい。私、ぜんぜん知らなかったわよ。まあそんなこと自慢げに言う子もどうかと思うけど、日向は鈴木さんと仲が
いいから知ってるわけね。てか日向、そんなこと私にあっさり教えちゃっていいの?内緒事じゃないの?
「でもいずれ知られることだしねー。それに榊君女子に人気あるから変な虫がついたら困るし。」
困るのは鈴木さんでしょ。でもこの日向の話で、私は私達の問題が解決するような気がした。

さて、この話題をいつ二人に振ろう。私は考えた挙句お弁当の時間にすることにした。食べ物を食べながらなら、少し気も落ち着くかもしれない。
「ねえ、今日は中庭で食べましょうよ。」
私は二人を中庭に連れ出し、木の下の日陰になっている部分の芝生に座った。お弁当箱の蓋を開け、数日続くこの重い空気を打開するため口を開いた。
「今日は聞いてもらいたいことがあるの。榊君のことよ。」
剣持と瀬能の箸が止まる。
「食べながら聞いて。」
お弁当を食べるよう勧める。
「榊君、鈴木さんと付き合ってるそうよ。」
うつむいていた二人が顔を上げ、私を凝視した。瀬能は大好物のエビフライを地面に落としたことにも気付かない。
「だからね、剣持と瀬能が仲悪くなる必要なんてどこにもないの。元通り、三人仲良くやりましょう。」
しばらく沈黙。
30名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 21:03:36 ID:R3m3XiZE
「そっかあ・・・」
「なんか私達、ピエロみたいだったわね。」
二人の顔が、憑き物が取れたように柔らかくなった。
「変な噂に踊らされちゃったけど、榊君のことが本当に好きなら、その幸せを願うのが女ってものよ。」
私は自分に言い聞かせるように二人に話した。
「そうね。人の恋路を邪魔するほど私は野暮じゃないわ。」
剣持はそう言うと瀬能の顔をじっと見つめて
「ごめんなさい!」
私達の周りから重い空気が散っていく。瀬能も
「わっ私こそごめんなさい。ひっこみがつかなくなっちゃってて・・・」
やはり二人共、本当は仲直りしたかったのだ。なかなかタイミングがつかめなかっただけなのね。
「さあ、元の鞘に戻ったところでお弁当食べましょう!瀬能、あんたエビフライ落としてるわよ。」
「え?ああっ?!」
いつもの三人での楽しいお弁当の時間が始まった。やっぱり私達はこうでなくちゃいけないわね。失って初めて分かる友情の大切さを改めて実感していると
「でもさあ」
剣持が箸を止めた。
「ならどうしてあんな噂流れたのかしら。」
このバカこのいい雰囲気に水を差すようなこと言うんじゃないわよ。私が横道に逸れかかっている話の流れを元に戻そうと口の中のご飯を高速で噛み砕いている間に瀬能が答えてしまった。
「きっと鈴木さんよ。自分達の付き合いを邪魔されないようあの噂を流したのよ。」
ああ早くこの流れを切りたいのに今日に限ってご飯固いわねえ!
「あふ、あふね。」
まだ口の中にご飯残っていたけど私は喋ろうとした。
「そうね。榊君のこと好きな女子同士で内ゲバをさせようとしたわけね。それなら納得いくわ。」
いかないでよ!しかし私がやっと普通に話せるようになった頃には、瀬能と剣持の間には共通の敵・鈴木さんという構図が出来上がっていた。
「でも私達がそんなつまらない噂でいつまでも仲悪くなってると思ったら大間違いよね。」
「そうよ。榊君だってそのうち鈴木さんの裏の顔を知って嫌気が差すに決まってるわ。」
「その時は私達、もっといい男見つけてるかもね。」
「そうねそうね!そうしたら鈴木さんと榊君二人とも笑ってやりましょう!」
私をほっといて、剣持と瀬能二人で勝手に盛り上がっている。私が最初考えていたこととは少し違う結末になったけど、私たち三人に以前のような活気が戻ったからまあいいわね。ごめん、鈴木さん。

次の日。私が教室に入ると日向が駆け寄ってきた。
「ねえ、私の名字ひゅうがよね?」
朝っぱらから何言ってんのこのコ?今クラスの中では日向の読み方が『ひなた』なのか『ひゅうが』なのかで二派に分かれているらしい。私のネタ、いつの間にクラスに流れたんだろう。てかみんな知っててやってるでしょ。
「ねえ、あんた分かるでしょ?私、ひゅうがよね?」
記憶喪失者のようにすがってくる日向に私はこう言った。
「どっちだったっけ?」


終わり
31名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 00:32:48 ID:DIMYnbDZ
>>16
ハルヒ。キョンへの執着が凄まじく、ヤンデレに。SOS団以外はみんな玩具。SでM

キョン。ハルヒが一番大切だが、みくると長門にも恋情が。最初は常識人だが、
ハルヒにつきあっていく内に徐々にヤンでいく。

長門。キョンが自分の相手をしてくれるなら後はどうでもいい。ハルヒも含めて
他は興味なし。

みくる。どこまでも他人の言いなりになるお人形。ハルヒとキョンに飼われる。

朝倉、由良、ミヨキチ、改変長門、阪中他。ハルヒに目を付けられ調教され
キョンのハーレムに。半数は精神崩壊。

古泉。とにかくハルヒが絶対の狂信者。例えヤンでいてもハルヒが喜ぶならそれでいい。
自分以外のハルヒを利用する未来人、敵『機関』勢力等は皆敵。好戦的で野心家で好色。

鶴屋さん。古泉の野心を気に入り、鶴屋家の力を持って古泉を裏から支援。
自分は参加せず、古泉が引き起こす争いを高みの見物。みくるは単に可愛いお人形。

喜緑。長門を見て、恋愛に興味がわく。手近な古泉にたぶらかされるが
割と気に入ったので、任務の暇つぶし程度に古泉を支援。


キョン暗黒ハーレム、半分以上古泉が延々と解説する、むしろ[古泉一樹の野望]
少々大げさですがこういう話でした。今思うとやりすぎなので没にして正解。
32名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 00:36:24 ID:y+uFdFSQ
意味わかんね
33名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 00:38:38 ID:GVrgx9Bs
とはいえ
34名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 00:50:08 ID:+3+8rX2+
尾も白い?
35名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 01:03:01 ID:GNiMhCED
うん、面白い
36名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 01:11:53 ID:Fa6SHPMt
だから書いてくれ
「はい、みくるちゃん、これが耳ね。あとこれ!この首輪を付けるのよ!」
「え?え?あの、ちょ…」
「ほらほら、犬が二本足で立ってちゃダメじゃない!」
「ええぇぇ〜!?涼宮さん、そ…」
「みくるちゃん?あなたは犬なの、いい?犬が人間の言葉なんかしゃべっちゃダメ!犬らしく吼えるのよ」
 なにをやってんだこいつは…。
「さ、吼えなさい」
「……わ、わん」
「よくできたわみくるちゃん!あなた犬もすっごく似合うわよ!!」
 ハルヒ、いくらなんでもやりすぎじゃないか、それは…。
 しかし…四つんばいで犬耳と首輪を付けて犬の鳴きまねをしてる朝比奈さんの姿は、痛々しくも愛らしい。
「ん〜、でもちょーっとあれね。やっぱ犬が服着てるのは似合わないわね!」
 っておい!!!
「待てハルヒ!レフェリーストップだ」
「なによキョン。文句あるの?」
 すぐ機嫌悪くしやがって、お前は子供か。
「キョンくん…!?」
 気がつけば俺の手には、朝比奈さんの首から外した首輪があった。
 俺はハルヒに首輪をはめた。
「……!!」
 そんな目で見てもだめだ。ハルヒ、お前に必要なのは、しつけだ。
「どうしたハルヒ、吼えないのか?」
 ハルヒは口をぱくぱくさせて、何か言おうとしてはためらい、ついに。
「………………わん」
 めまいを感じる。
 屈服するハルヒの姿は、実は俺が一番見たくなくて、同時に一番見たいと思っていた姿だったのだ。
「おすわり!」
 ハルヒはぺたん、とすわりこんだ。
 命令をきいたのか、ただへたりこんだだけなのか。
 おすわりの姿勢のままで、ハルヒは妙に熱のこもった視線をよこす。
 震えているのも顔が赤いのも、屈辱と怒りのせいだろう。興奮とか恍惚とかなんて、ハルヒに限ってありえん。
「お手」
 ハルヒは一瞬ためらっただけで、たしっ、とお手をした。
「よし、えらいぞハルヒ」
「…わん」
 朝比奈さんはこの異常事態にどうしていいかわからず、わたわたしている。
 さっきまで俺とカードゲームをしていた古泉も、にやけ顔が凍りついたままだ。
 普段どおりなのは、本を読んでる長門だけか。
 長門はふいと顔を上げると、ぱたん、と本を閉じた。
 その表紙には「沼正三 家畜人ヤプー」と書いてある。なにを読んでるんだこいつは。
 …というか、俺は何をやってるんだ。
 俺たちは顔を見合わせた。もちろんハルヒを含めてだ。
 なにか救われたような気分になって、俺はハルヒの首輪をはずしてやる。
「まったく、なにやらせんのよ」
 ハルヒは顔を赤くしたまま立ち上がって足のほこりをはらう。
「今日は解散!あたし先帰るわ」
 俺たちも帰るか。
 朝比奈さん、鍵閉めますよ。

 翌日。
 文芸部の部室は普段どおりだ。
 団長どのも別に変わったところはなく、PCでネットサーフィン中。
 俺は古泉とボードゲームをしている。ちなみに、モビルスーツが駒になったシミュレーションだ。
 朝比奈さんはお茶をいれ、長門は読書。本の表紙は「団鬼六 花と蛇」だったが俺は見なかったことにする。
 ハルヒの机の上には引き綱付の首輪が置かれていて、ハルヒがちらちら俺を見ている気配を感じるが、断固見ないふりをするぞ。
 SOS団は今日も平和だ。


 つづくのか…?
39名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 01:25:49 ID:GPZO2loO
お粗末さまでした。
「ベルカ、吼えないのか」という小説を読んで…
いや、こーいう小説では全然ないが。
40名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 01:40:54 ID:4wOkW5Tn
こういうのもなかなかww
41名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 04:43:57 ID:IWR5DPgB
最初読んだ時は付けられた人が従順な犬になる
「ハルヒ印の呪いの首輪」かと思った。
この後みんなで血眼になって首輪奪い合いの付け合いが始まるのかと。
42名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 08:44:22 ID:GPZO2loO
あーそれも面白いな。
しかし俺的には、自分の意思で屈服するところに萌えが。
43名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 09:00:07 ID:c54RzTAE
SOS団からメールが来た
44名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 13:09:55 ID:3L+77fbj
メールってこれか?
ttp://tool-3.net/?id=FreeMailBomb&pn=23
45名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 15:58:47 ID:vN5oOJMQ
酔った阪中がキョンをルソーと間違えて迫ってくる話ってなんていうタイトルだっけ。
46名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 16:12:57 ID:IomAn2di
>45
『the hand that feeds』だな。
47名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 18:42:00 ID:kWZJfb3O
>>30
GJ!!
女の世界って怖いわー (((;゚д゚)))
48名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 20:58:26 ID:bop7Pnr8
投下いたしまーす。
49名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 20:59:28 ID:bop7Pnr8
 第三EMP学園――。
 山間にあるこの学校に吹きつける風が、そろそろ冬であることを告げている。
 異能の力を持つ生徒達が住まう寮の一室で、一人の少女が頭を抱えていた。
「うぅ〜〜〜ん」
 蒼ノ木類。ささやかながら今回の主人公である。
 彼女は向き合った相手を見てうなっていた。
「もう少し何か教えてくれないかなぁ?」
 相手は何も話さない。つんとすましている。
「ね?お願いだから」
 相手はぴくっとこっちを向いた。長く伸びた髭が弧を描く。
「にゃ〜〜ん」


――Where did the cat come?――


(おなかがすいたの)
「それは分かったからさぁ……」
 類は猫を相手にかれこれ三十分頑張っていた。
 類は猫限定のテレパスで、猫の思考を読むことができる。
 平たく言ってしまうと、典型的有効活用不能EMP能力である。
(日なたはきもちいいの)
 猫はごろんと寝転んで、四肢を突っ張ってあくびをした。
 類はふーっと溜息に似た息を吐いた。
「困ったなぁ……どこから来たんだろう?この猫」
 三十分前、放課を迎えた類が自室に戻ると猫はいた。
 二段ベッドの下段、類の就寝場所ですっかりくつろいでいた。
「うにゃご」(ぽかぽかなの)
「……はぁ〜〜〜〜っ」
 猫の考えていることはいつも能天気だ。類はこの能力に目覚めた時からそれを知っている。

「やっぱり何も言わないの?それらしいことは」
 ベッドの上段からルームメイトの雨森日世子が顔を出した。
 先日の吸血鬼騒動では真っ先に被害者の一人となってしまった彼女も、
 今やすっかり元の調子で類と生活している。
「うん……だめみたい」
 類はうなだれて返答した。日世子は続けて疑問を口にする。
「猫、誰かがこっそり部屋で飼ってるのかしら」
「分からないなぁ……。首輪はしてないみたいだけど」
 類は嘆息する。首輪を嫌う猫は少なくないので、それが飼い猫でない証にはならない。
 実際類は実家近所の飼い猫が首輪を(きゅうくつだなぁ……これ)と思っていたのを知っている。
「誰か分かりそうな人に訊いてみたらどう?」
 日世子はやさしく言った。
「そうだね……、うん」
 類はしずしずと立ち上がると、しゃんと気持ちを切り替え、猫を抱えて自室を出る。
「あ、晩ごはんには戻るからね。……一緒に食べよう?」
「えぇ、待ってるわ」
 日世子の返答を聞いて類は笑顔になり、扉を閉めた。

 程なくして類は別の部屋の戸を叩いていた。
 こんこんこん。こんこんこん。
 ……かちゃ。
「どなたですか?」
 言いつつ現れたのは光明寺茉衣子の先進黒装束の立ち姿だ。
「あ……。、ま、茉衣子さん……えっと……」
「類さんじゃありませんか。どうされまして?」
「えぇっと……あのぅ……」
 類は慌てると意味のある言葉をなかなか発せなくなるという特技を遺憾なく発揮した。
50名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 21:00:57 ID:bop7Pnr8
「あら、その猫はどうしたのですか?」
 茉衣子は類の手元に視線を注ぎつつつぶやいた。
「猫……。そ、そう。茉衣子さん、猫なんです!猫!」
 茉衣子は表情を変えず、長い睫毛に縁取られた目をぱちぱちさせていたが、やがて
「まぁとりあえず……お入りください」
 と言って類を自室に招き入れた。

 類はひとしきり事情を話すと、茉衣子に尋ねる。
「あの……それで、茉衣子さん!この学校で猫を飼っている人に心当たりはありませんか?」
 割愛したが、類の説明にはちょっとした時間を要していた。
 ほんのわずかに険のある口調で茉衣子は答える。
「この学園でペットを飼うことは全面的に禁止されています。
 どこの班だったか失念しましたが、保安部のいずれかで定期的に各寮の部屋を点検しているはずです。
 ですから、その猫が生徒のペットだということはまずありません」
一息で言い終え、彼女は猫に目をやった。
「かっわいー!猫なんて見るのどのくらいぶりだろう?
 あ、夏に兄さんとうちに帰ったときに見かけたかなぁ。うーん、あったかいー」
 茉衣子のルームメイト、高崎若菜が猫とじゃれていた。
「そうですかぁ……」
 類もその様子を見つつ、弱ったように言った。
「それにしても」
 茉衣子は肩の力を抜いて
「あなたが抱いてきた猫はどうやってここまで来たのでしょうね。
 知っての通り、この学校は山の上にあります。
 わたくしが見たところ、あの猫にそのような野生的行動力があるとも思えませんが」
「そうですよね……」
 類は同調して頷いた。茉衣子は続ける。
「加えて、今は冬の始まりです。
 昼ならまだしも、夜にまでうろうろしていたら命を落としかねません」
「……ということは、あのぅ……」
「この猫が自力でここまでやってきたのかどうかも怪しいということです。
 ……まぁ、可能性がないわけでもありませんけれど」
 茉衣子ようやく一息ついた。
 出し抜けに若菜が
「あ、類ちゃん。聞いて聞いて。今日茉衣子ちゃんね、宮野さんと廊下で偶然――」
「若菜さん!その話はしない約束です!」
 黒衣娘は語気を荒げて言った。
「あれー、そうだっけ?」
 猫を膝に乗せた若菜は、片手で自分の頭をこつんとノックしつつ、不器用にウィンクした。
 類はおどおどして二人のやり取りを眺めていたが、
「あ、あの……それじゃわたし、そろそろこのへんで……。
 茉衣子さん、どうもありがとうございます」
「お待ちになって」
 立ち上がりかけた類を茉衣子は手で制した。
「もうひとつ可能性があります。
 いつかと同じように、この猫は誰かの頭から発生した想念体かもしれません」
 丸くなった猫を指差しつつ茉衣子は言った。
「確かめてみましょう」
 茉衣子は若菜の向かいに行くと、指先にひとつ、小さな蛍火を灯した。
「えっ……。あの、それって……」
 類があたふたする間に、茉衣子は猫に向かってそっと蛍火を吹きつけた。
 猫のふかふかした毛に当たった蛍火は消えて、しかし猫は消えなかった。
「ふぅ……」
 安堵したのは類である。
「どうやらこれも違うようですわね。
 となるとわたくしには思い当たる節がございません。あいにくですが」
「あ!宮野さんだ」
 突然若菜が入り口に目をやった。
51名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 21:01:58 ID:bop7Pnr8
「何ですって!」
 慌てて茉衣子は振り向いた。
 類もつられてドアのほうを見る、誰もいない。
「うっそー」
 若菜がくすくす笑った。
「若菜さん!あなたって人はもう……!」
 顔を紅潮させつつ、茉衣子は呆れたような怒ったような表情をしていた。
 それを見た類も思わず口元に手を当てた。

 日が暮れて、約束通り夕食をとった類は、日世子と二人で部屋に戻ると
 持って帰ってきた残り物を猫に与えた。
(まぁまぁなの)
 もややんとした猫の思念を感じつつ、類は隣に座って彼女なりの思考を巡らせていた。
 ……わたしが授業から戻ると猫がいて、この学校はペット禁止で、
 今は冬でここは山の上だから、それでこの猫は本物で、うーんと……。
「ふにゃーん」(ねるの)
 類が横を向くと猫はすっかり寝入っていた。
 今まで見てきた中でもかなりぐーたらな猫である。
「きみはのんびり屋だなぁ……」
 類はそっと猫の背を撫でた。
 窓の外は夜の闇に包まれている……。

「あぁー、わたし明日配膳当番なんだった〜。寝坊できないじゃない」
 類ではなく日世子の声。向かいで今日の復習をしていたが、思い出したらしかった。
「それじゃ夜更かしもしないほうがいいね」
 類はくすくす笑った。配膳当番……。
「……そっか」
「ん?どうしたの、類」
 日世子が不思議そうに類を見た。
「……わたしも明日早起きしなくちゃ」
 類の言葉を聞いた日世子は、首を傾げるだけだった。


 翌朝、類は日世子よりも早起きしてひとしきり支度をすると、
 毛づくろいをしていた猫を抱いてある場所へ向かった。

「あれ?その猫がどうしてこんなところにいるんだ?」
 男性の声が答えた。どうやら類の推測は当たったらしい。
 大型トラックが朝と昼の食事その他を搬送するため校舎裏に停まっていた。
「この猫を知っているんですか?」
 類は尋ねた。
 その相手。口髭を生やした運送会社のトラック運転手は、眠そうに自分の顔を一撫でした。
「あぁ。昨日の午後だ。
 俺が弁当食べてると、そいつがこの車のタイヤのあたりをうろうろしててな。
 変わった毛並みだと思って見てたが、しばらく離れないもんで。かわいくなっちまって鮭をあげたんだ」
 そこまで言うと運転手は一度眉を上下させた。
「この車にこいつが乗ってたのか?」
 運転手は猫を指差した。
「そうだと思います……たぶん」
 類は面白そうに答えた。運転手は遠い目をしつつ、
「確かにその後ちょっとばかしウトウトとして、目が覚めたら夕方になってたんで
 慌てて夜の分の搬送しにここに来たが、なるほどな。ちゃっかりした猫だ、こいつぁ」
「その時にここで降りてしまったんだと思います」
 類は楽しげに唇を波打たせていた。
 運転手のほうは伸びをして身体をほぐすと、
「そんじゃ元いたあたりに返してやったほうがよさそうだな。
 なぁに、大した手間じゃねぇし、仕事さぼ……。
 ……と、とにかく気にすんな!任せとけって!」
 はっはっはと運転手は笑った。
52名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 21:03:05 ID:bop7Pnr8
「よろしくお願いします」
 類はぺこりとお辞儀をして、猫を手渡した。
「おうよ!安心しな。……ところでお前さん」
「え……何ですか?」
「あんたはどんな変てこな力を持ってるんだ?」
 にやりと笑って運転手はエンジンをかけた。
 類がぽかんとしていると、じゃぁなと声を残しトラックは走り去った。
 類はしばらく車両入口を眺めていたが、やがて朝食を食べに学校へ引き返した。
 ……まずは日世子に話してあげよう。ふふふ。


「じゃぁな、猫ちゃん!縁があったらまた会おうぜ。鮭あげるからよ」
 運転手は猫をそっと路上に放し、にっかと笑うと、再びトラックを走らせて去っていった。
 住宅地の一角。人や車の往来は少ない。
 猫はにゃおんと鳴いてしばらく辺りをうろうろしていた。


 やがて一台の車が近くに停まる。
 黒塗りのタクシー。社名はどこにも書いてない。
 助手席からスーツに身を包んだ端整な顔立ちの女性が現れた。
 女性は猫の元にそっと近寄り、抱き上げると、空いているほうの手で携帯電話を取り出す。
 数度プッシュし、間もなく通話を始める。
「もしもし……?古泉、目標の猫を捕まえましたので連絡しておきます。
 ……灯台下暗しとはこのことですね。……えぇ、問題ありません。手はずどおりに」
 通話を終えると彼女は猫を抱いたまま車に戻った。
「新川、発進して」
「かしこまりました」
 車は走り去って、そこには誰もいなくなった。


――猫はどこから来た?――


(了)
53名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 21:27:29 ID:bfYfToOW
シャミセン?
54名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 21:33:49 ID:4wOkW5Tn
シャミツーだな、機関が確保してるってことは多分
55名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 22:41:34 ID:xbLQJ8Yb
>>54
どうりで猫のセリフとかメスっぽいわけだ。
56名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 22:44:19 ID:I+R2pFRt
ところで


茉 衣 子 君 に 何 が あ っ た の か ね ?
57名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 22:49:53 ID:bop7Pnr8
最初オチが思いつかなくてハルヒと絡ませることにしたわけですが、
シャミセンだと冬に見つけるのはおかしいのでシャミツーのほうにしました。
タイトルがうまくはまって結果的にはよかった気がしますがw

>>56
そこはいやんうふんばかんな想像をご自由にw
58名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 23:12:07 ID:cAF9EtEz
>>57
てめえぶっちゃけ考え付かなかっただろwww
59名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 23:22:42 ID:bop7Pnr8
>>58
というか若菜が勝手にしゃべったのがそれだったんですよwww知りませんwww
最近はプロットまがいのもの作って書こうとしてみてるんですけど。
60名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 01:58:55 ID:rZ0XofOv
さて、明日には書き終わるかな。
んまぁホント7月の初投下から、長かった…
まぁ俺の書くのが遅いだけなんだけど……

次はまとめて書こう うん。
なんていってるうちにどんどん鬱になっていくのはどうにかしたいもんだけど、
自分のせいだから仕方がないとして、あとはどれだけ推敲できるかがキモであり、
そんなことを書いてる間にでも書けるんじゃないかという突っ込みも的を射て当を得る物であるわけで……
61名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 02:52:29 ID:jgY6brSA
なんのことか分からんが、頑張れ。
62名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 03:41:50 ID:9TgXu39r
いやいや、長編ならある程度まとまった時に落とすに限るよ。
落としてれば続き書かな……って自分にはっぱかけられるし
途中でも反応が見られるから励み(と落ち込み)の元になるし。

どの続きなのかは判らんが期待してるよー。












俺も小出しにすべきだった……まだ書いてるのに既に100k超えのSSって一体。しかもエロ無いしorz
63名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 05:33:15 ID:C2LGKm4r
100kもあれば支援のしがいもありそうだ
64名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 11:02:46 ID:yjvsvmH4
自分もひょっとしたら1月24日にSSを投下するかもだぜ
……矛盾点がどんどこ出てきて取りやめになりそうだけどorz
65名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 15:38:25 ID:awUQ/rcH
ハルヒSSでオレオレキョンが多い理由が今判った。
アニメから入ったら同じ読みの人称とか区別がつかないんだな。
(わたし=私、オレ=俺)
66名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 15:39:27 ID:nJBG7gQE
ハルヒはあたしだろ?
67名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 15:54:49 ID:k82HACNv
長門はわたしだっけ私だっけ。原作しか読んでないのに思い出せないや。
一回だけ「あたし」になってる行もあったな
68名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 15:58:20 ID:rZ0XofOv
長門は「私」、みくるは「わたし」、ハルヒと鶴屋さんは「あたし」
だったはず。 うる覚えだけど
69名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 16:27:50 ID:ll9DVhvb
>>68
溜息で確認したら、みくるは「あたし」だったぞ。
70名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 16:35:37 ID:stl0Di6m
>>67
1巻ラストの「だいじょうぶ。あたしがさせない」だったか?
71名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 16:52:24 ID:bPNMk/ye
色々あるって事だろうね。違和感が無いならそれでいいじゃん
72名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 17:12:48 ID:ILF9NHjl
古泉が前首相になってる方が問題だな
73名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 17:13:06 ID:koDqkIxO
すまん。>>27-30って誰視点の話?
74名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 18:26:10 ID:UldDxXY4
うろ覚え
75名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 20:11:11 ID:ufekIqpx
>>73
ttp://www.akibablog.net/archives/img-mouse/2006-11-26-111.html

手芸部メンバーの話だからおそらく西嶋さんだろう
76名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 23:30:29 ID:ll9DVhvb
>>68
悪い、暴走を見直したら、エンドレスエイトでみくるは「あたし」だったけれど、
でも、雪山症候群では「わたし」だった。
つまり、ながるんも一貫していない。

ちなみに長門は「わたし」。漢字ではなく、開く。
これは一貫している。
鶴屋さんとハルヒは「あたし」で、同じく一貫している。

ちなみに、ハルヒのキョンの呼び方は「あんた」。
「アンタ」ではないところに注意が必要かも。
古泉と長門はキョンを名前で呼ばない。

でも俺も古泉を「私」にしたり、古泉や長門に「キョン(君)」と呼ばせたりする
SS書いちゃったことあるしなあ…
その時は誰にも突っ込まれなかったから、それでいいのかも。
77名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 23:39:25 ID:9TgXu39r
古泉と長門にはまだ一度もキョンと呼ばせた事は無い。
ただハルヒに「わたし」と言わせてしまったり
「古泉」を「小泉」と書いたり
「機関」を何故か「組織」と書いたりした事があるので
えばる事はできない。
78名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 23:44:57 ID:Usv9xRbI
>>77
壮絶な政治物語を書かれていらっしゃたのですね
79名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 23:45:11 ID:5sVV6tQS
>>76
みくるは笹の葉は、大も小も「わたし」。

冬山では、みくるは「あたし」って言ってる。
> 「雪ダルマですかあ。あぁ、あたしもそっちのほうがいいような……」
偽みくるは「わたし」って言ってるけどな。
80名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 23:47:15 ID:jgY6brSA
アニメから入った人は、古泉も小泉も同じ発音だからな。
81名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 23:48:51 ID:f83TheC0
くだけた会話には「あたし」、まじめな会話には「わたし」とか使い分けてる
のかもね。
検証してないけどw
82名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 23:59:58 ID:PLc3VFIR
一人称はつい漢字にしちゃうんだよなー。
83名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 09:24:22 ID:jx3ObdQQ
>>78
政治物の801じゃないんですかね。
84名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 09:29:15 ID:DqoGPaSF
小泉「アベッチー、俺の肉便器になったら内閣総理代わってやってもいいぜ?」
85名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 11:08:44 ID:rvPH9PgR
俺は「私」でも「あたし」と脳内で再生してるな。
>>81
なんとなくそんな気がするな。
検証はしてないがw
86名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 12:04:25 ID:TBfomPXf
「あたし」っていう一人称は、「わたし」を言いやすくしただけのものだから、
その場の雰囲気で発音省略したりしなかったりするのも別に不自然ではないな。
87名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 13:27:39 ID:SAfh8vWU
「あたし」はDQNっぽいと言われたことがある。そうか?
88名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 13:45:27 ID:LwQOJCOp
そうでもないだろ。現実でも普通にあたしって言う人いるし。
89名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 13:58:56 ID:TBfomPXf
鶴屋さんは電波だし
みくるはポンコツだし
ハルヒもDQNだからどっちにしろ
90名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 16:35:22 ID:KENBYqNP
>>87
言いようじゃね?
元気なキャラはあたしのがあってる気がするし、長門のあたしは誤植に見える、と。
91名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 18:42:08 ID:KZiVezBA
エヴァのアスカとレイで考えるとわかりやすかった
アスカが「わたし」だと微妙に違和感あるし
レイが「あたし」だとちょ庵野wwそれ違うwwwwてなる
92名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 18:42:58 ID:DqoGPaSF
悪い、ならなかった
93名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 18:46:15 ID:uT+9s0HB
謝るな、気にしてないさ
94名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 18:47:46 ID:KENBYqNP
なんか、せつないな
95名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 18:51:12 ID:DqoGPaSF
そうだな、もう半年もたつんだし…
96名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 19:07:57 ID:qAUHOYnk
いま思えば、憂鬱Tの体育の時間は貴重なシーンだったな
1年5組女子のブルマ見れたし。
97名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 20:02:31 ID:CoPVC7eI
俺達も、年取ったよな……
98名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 20:46:17 ID:AYJgdd0K
ノリ悪いとか空気読めとかマジレスかっこ悪いと言われてもいい
くだらない流れつくるな
99名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 20:48:29 ID:iRw5sdPI
ノリ悪い
100名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 20:49:54 ID:rVuvt0tp
空気読め
101名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 20:52:37 ID:7LJGyeQY
マジレスかっこ悪い
102名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 20:54:46 ID:iRw5sdPI
これでおk?>>>98
103名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 21:05:41 ID:KENBYqNP
ここと作者スレ、アニメ本スレとVIPSSスレがそれぞれ対応関係にあるように思える。
というか雰囲気が近い。
104名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 21:15:43 ID:zzfgniDG
前者は原作組、後者はアニメ組って感じだからね。住人層が。
105名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 21:26:09 ID:iSjfyBNy
>>7に続きはありますよね?ありますよね?!
106名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 21:38:41 ID:LwQOJCOp
VIPのハルヒスレは厨の巣。
気持ち悪いやつばっかり
107名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 21:39:16 ID:KENBYqNP
>>104
うまく住み分けできてるとも言えるよな。
代わりに領域またぐと面食らうみたいだけどw
108名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 22:18:36 ID:nJrForll
長編、投下します。

軸になるストーリーは非常に単純明快。ありふれたテーマです。
ですが、もう何というか、出し切りました。燃え尽きました……。
最後まで読んで頂けると嬉しいです。

46レスの予定。
エロなしです。
109ラスト・ラプソディ 1:2006/12/09(土) 22:19:40 ID:nJrForll
 タイムトラベルという現実とはほとほと掛け離れているはずの物も、今の俺にしてみれば三等親ほどの親密さで
定期的に顔を合わせる程にまで近しい物になりつつある。
 まったくもって非現実的も甚だしい話だが、これに嘘偽りなどは雀の涙ほどもありはせず、いつしか俺はそんな
非日常を楽しいと感じる程にまで深く受け入れていた。
 そんな俺にとっても、一般的常識範囲内での時間的イベントというものは存外、楽しいもんであり、何だか心和む
ものでもある。
 もしかしたら何処かで、未来の自分に向けて並々ならぬ期待や希望をペンに込め、便箋にはみ出さんばかりの
叱咤激励メッセージを書き上げている人々、あるいは地中浅くに埋められたそんなメッセージを掘り返し取り出し
堪能しているさなかの人々が、今も現在進行形で居るのかも知れない。
 つまり、千言万語な説明に至ったが、ほれ、あれだ。
 タイムカプセル。
 冗談にも尋常とは言い難い三半規管への負荷を耐え忍ばなければならないような事もなく、加えて、三年間寝た
きりじじいになる必要性もこれといって見当たらない健全たるイベントだ。
 つまるところ、全一般人に対し平等に参加資格が降り注ぐ時間的イベントという訳である。
 今回の話において、それがさほど重要な事柄という訳ではない。ないが、それが今回のスタート地点である為、今
しがた述べた前置きを妥当だと主張したところで、そうそうブーイングは起こるまい。
 そして、そんなことをしようと言い出しそうな奴は俺の周りでは一人以外いるはずがなく、その一人というのは
もちろん、我らが団長、涼宮ハルヒその人である。



「あんた手ぶらみたいだけど、まさか何も入れないなんてことはないわよね。ほんとにそうだったら、タイム
カプセルと一緒にあんたも仲良く、有機栄養素たっぷりの地中に冬眠させてあげるから」
 ハルヒが俺の鼻の数センチ近くまで指を伸ばして俺を差し、宣言した。
「安心しろ。大人になったお前があまりの感動の涙で鶴屋山に液状化現象が発生するほどの物を埋めといてやる」
「……ふーん。ま、楽しみにしといてあげる。開ける時のね。どうでもいいけどあんた、液状化現象の意味間違って
るわよ」
 ほっといてくれ。

 俺は今SOS団正式メンバーと共に、ご開帳が何年後かすらも決められていないタイムカプセルを埋めるという、
いかにもハルヒが考えそうな提案を遂行すべく、鶴屋さんの所有地であるところの、山と言うには低く、丘と言う
には高いあの山を登山中である。
 そう、朝比奈さん(大)のおつかいやバレンタインの為に、さんざん往復させられた忌まわしき地だ。
 もちろん、ハルヒは俺がバレンタイン時以外にここを訪れたことなど知る由もなく、俺より往復回数が少ない
為かピクニック気分で満面の笑顔と共に軽快なステップを踏んでいる。
 
 さて、先ほど口から出た「SOS団"正式"メンバー」という言い方についてだが、これにはちょっとした理由が
ある。
 ここら一帯が鶴屋さんの所有地である手前、使用の許可を得るついでに鶴屋さんにも誘いを入れてみたところ
快く承諾、つまりSOS団の輪の中に組み込まれる事になった。だが、直前になって何やら急用が出来たらしく、
急遽キャンセルする旨を鶴屋さんは名残惜しそうに俺たちに伝えるということになった訳だ。
「残念無念っ。キミたち、適当に埋めといてくれっかなっ!」
 というわけで、プレゼンティッド・バイ・鶴屋をハルヒが受け取り、俺たちが持参した物と共にそれも埋めること
となった。この場合の「プレゼント」は発表を意味するもんだったか? まあ、どっちでもいい。
 俺は若者たちの言葉の乱れについて思慮を巡らせつつ、前を行くとんだトラブルメイカーの後ろ姿を眺めながら
重い足を引きずっていた。
110ラスト・ラプソディ 2:2006/12/09(土) 22:20:20 ID:nJrForll
「朝比奈さんは何を入れるんですか?」
 俺は重い足が多少なりとも軽くならないかと、神々しさ溢れる地上の天使に話し掛けてみた。
「わたしはですねー。このお手紙と、あと……え、えーと。あああとは女の子の秘密ですっ」
 朝比奈さんは人差し指を唇に当て、それはそれは意味深なことをおっしゃった。
 何やら思考が官能的な方向にシフトしてしまったのは、少なからず俺だけではないはずだ。
「タイムカプセルというのは、そういうものですよ。僕もこれ以外の物は開ける時までみなさんには秘密です」
 古泉は一枚の紙切れを片手に持ち、ヒラヒラとさせている。
 何かやけに黒丸の目立つ紙だな。パンダの模写か何かか?
「解ってたけど、バカじゃないのあんた? 何でタイムカプセルにそんなもん入れるのよ。画家志望の幼稚園児
だって、もっとマシなもん入れるわよ」
 もっとも幼稚園児がパンダの模写なら、十分に妥当な線だと思うんだが。
 それはとにかく、今の議題はまがいなりにも一介の高校生として営んでいる古泉についてだ。
「これは、これまでにあなたと対戦した数々のゲームの勝敗表ですよ。僕としては思い出深い物です。もう少し
白丸を増やしてからにしたかったのですが」
 古泉はいつものように肩を竦める。この仕草を見るのは、もうあまつさえ三桁にも上るのではないだろうか。
 それはともかく、安心しろ。これ以上そのパンダに白丸が増えるかどうかなんてことは、お前のゲームの腕を
考慮すればおのずと答えは見えてくる。今入れておいて正解だ。
「あなたの"やれやれ"も三桁ほど耳にしているように思えますけどね」
 ここは懸命にスルーして、俺は長門の傍に並んで立った。
「長門、お前も何を入れるのかは教えてくれないのか?」
「教えない」
 長門は、両手で大事そうに持っている立方体の小箱をカタカタといわせている。非常にシュールな光景だ。
「まさか、本だとかいう誰しもが考えそうな物じゃないだろうな……」
「……そう」
 こいつにしてみれば未来の自分なんてもんは、「わたしの異時間同位体」以外、何の感慨も持たないのだろうか。
 だとしてもだな、もうちょっと捻った物でもよかっただろうに。
 長門らしいっちゃあ長門らしいのかもしれんが。
「でも安心して。本以外の物も入れてある。楽しみにしておいて」
 そうか。そりゃ楽しみだ。
 だが、まさかと思い一応言ってみることにする。
「まさか、大量の栞だとかいう……」
「正解」
 偏頭痛が襲った。
「まだ入れてある物はある。楽しみにしておいて」
 わかった。もう何も訊くまい。
 俺は傍から見れば小旅行に行くのかと思われそうな大きさのバッグを肩に掛け、手ぶらのハルヒの方に目を
やった。俺が渋々と抱えているのは言うまでもなく、そう、ハルヒが持参したバッグだ。
 やれやれ、まったく。こんなに大量に何を埋めるつもりなんだか。
「で、ハルヒ。このバッグには何が入ってるんだ?」
 だが、いかんせんこの流れだと、ハルヒも俺に教えるつもりは毛頭ないのだろう。
 わざわざ罵倒を浴びせられる為に訊くのもどうかと思ったが、つい口が滑ってしまった。
「この流れで本当に教えてもらえるとでも思ったんなら、あんたの脳はもうミジンコ以下よ。いえ、虫に例えるのも
おこがましいわ。植物よ。トールフェスクだわ」
 どうやら俺は、ハルヒにとって牧草と同等の存在らしい。せめて動物にしてくれ。そうだな、甲殻類ならお前の
蹴りから身を守れそうだ。
「ま、それでもいいわね。あんたは蟹ってことにしといてあげる」
 何だかやたらと楽しそうに言うハルヒ。そんな風に言われると、蟹でもいいと思ってしまう自分が恐ろしい。
 何というか、最近はこいつが無意味に高いワット数の蛍光灯のごとく楽しそうにしているのを見ると、まあ余計
な口出しはしないでおくかな、なんて思ってしまったりするのは、俺だけの秘密だ。
 こいつのあり余るエネルギーの根源は、やっぱりあのとんでもパワーにも関係してるのかね。
 
 そう、とんでもパワー。ハルヒの能力。
 今回の話の発端は一週間前に遡る。
 その時のことを少し語ろう。
 

111ラスト・ラプソディ 3:2006/12/09(土) 22:20:57 ID:nJrForll
 一週間前。昼休み。
 俺は先日、長門の数あるブックコレクションの中から俺程度の脳でも理解可能であろう物を見繕ってもらい、
珍しくも読書という俺らしからぬ行為に没頭していた。
 ようやく読破まで漕ぎつけ、俺は長門が普段読んでいるものと比べ三分の一ほどの厚さの文庫本を閉じる。
 いい具合にちょうど昼休みだ。返しにいくか。昼休みなら、まず部室にいるだろうしな。
 別に放課後にまた部室で会うことになるし、取り入って今返さないといけない訳でもないのだが、たまには部室で
悠々と昼休みを過ごすのも悪くはないだろうと思い、一路旧館を目指し教室を出た。
 
 コンコン。
 いつものように軽くノックをする。
 だが、しかし、
「どうぞ」
 三点リーダではない、俺の予想に反した答えが返ってきた。
 その声には聞き覚えがあり、事件の匂いをプンプンさせる声なのだが、ここで引き返すのは流石にあれなので
俺は扉を開けることにした。
「久しぶり……でもないかな」 
「そうですね」
 窓際の見慣れた団長席のすぐ後ろに、見慣れつつあるOLルックの朝比奈さん(大)が凛と立っていた。
「なんだかんだ言って、けっこう会ってるね。わたしたち」
 何だか友達以上恋人未満的な関係にあるかのような台詞だ。
「ですね。実際、まだ二桁を数えるほども会ってないってのに、俺もしょっちゅう会ってる気がしますよ」
「わたしは毎回、キョンくんに会えるの嬉しいわよ。ふふっ。可愛いし」
 朝比奈さん(大)は微妙に照れたような仕草を見せる。
 いえいえ、例えそこに長門の保障があったとしても、誓ってあなたの方が可愛いでしょう。そこは譲れません。
「長門にはまた席を外してもらったんですか?」
 俺は無表情な美白宇宙人の顔を思い出しながら訊く。
「いえ、今日は最初から居なかったわ。わたしがいるのに気付いて、来なかったのかもしれないわね。なんか悪い
ことしちゃったかな」
 朝比奈さん(大)は人差し指を頬に当て、少し上を向いて言う。普通ならブリッコ極まりない仕草だが、この朝比奈
さん(大)の場合は、例えばハルヒがK−1に出場するくらいさまになっているのだからたいしたもんだ。
「で、今回は俺に何をさせるつもりですか?」
 俺は早々に本題に入ろうとした。
「なんだか、ちょっと冷たい言い方だなあ……」
 最近、俺はどうもこの朝比奈さん(大)に対して微少の猜疑心を抱いてしまう。態度に出すつもりは毛頭なかった
のだが、どうやら無意識の内に出てしまったようだ。ミスった。
「あのね、今回はキョンくんに何か仕事をしてもらうってわけじゃないの。……いや、もしかしたら、してもらう
っていうか、することになっちゃうかもしれないんだけど……」
 後半になるにつれ、徐々に声が小さくなるデクレッシェンドで朝比奈さん(大)は呟く。
「じゃあ、またヒントとかそういうのですか?」
「そうね。そんな感じかな。あのね、よく聞いてね……」
 朝比奈さん(大)はスッと軽く息を吸い込み、

「今日から二週間後の午後七時十五分、涼宮さんの力は封印されます」

 俺の目を真っ直ぐに見据え、朝比奈さん(大)は宣告した。
112ラスト・ラプソディ 4:2006/12/09(土) 22:21:32 ID:nJrForll
 え? 何だって?
 封印とか何とかって。俺の聞き間違いでなければ、確かにそう言ったはずだ。
 マジかよ。なんてこった。
 あろうことかハルヒのとんでもパワーが消えるとは。お前もめでたく俺と同じ一般人の仲間入りだなハルヒ。
 ん? いや、まて、今"封印"って言ったよな?
 消滅ではなく封印。
 誰かの仕業ってことなのか?
「涼宮さん自身の無意識によって、力が封印されるの。そこには誰の介入もないわ」
「そうですか……。ハルヒの力が弱まっているとは聞いていましたが……」
 以前、古泉が言っていたことを思い出す。
「うん、でもね、封印だから消えちゃうわけじゃないの。もしかしたら何らかのきっかけで、また力が解放される
こともありえるの」
「てことは、一時的なものなんですか?」
 朝比奈さん(大)はふるふると顔を横に振りながら、
「ううん。よほどのことがない限り、もうずっと封印されたままになるわ」
 ……いや、何というか。もちろん、世界が安定するわけであり、それは喜ばしいことに相違ないのだが。
「うーん。なんだかあまり驚かないのね」 
「いや、十分驚きましたよ。……でも、何というか」 
 そう、喜ばしいことには違いないのだが……。
 この非日常的な日常を楽しいなどと、まがいなりにも俺の脳がそう判断しているのはもうすでに認めている。
 そんな俺にとっては、やはり、そうだな。ちょっとは寂しいと思うもんさ。
「わかりました。で、何が起こるんですか?」
 おそらく、これは禁則事項とやらに該当するだろうと思いつつも一応訊いてみた。
「ごめんなさい。詳しくは言えないの」 
 朝比奈さん(大)は少し顔を俯けて言う。予想通りの答えだ。
「あのね、二週間後までに、あなたやSOS団にとって大きな分岐点が訪れるの。その分岐方向によっては、あなた
は涼宮さんの力が封印される日を絶対に忘れちゃダメなの」
 絶対に、ですか。つまり俺にとっては、とんでもなく壮大な厄介事になると思って差し支えないですね?
 忘れちゃってもいいでしょうか、なんてことを俺が言えるはずもなく、
 朝比奈さん(大)は、あとね、と付け加えて、
「これは、キョンくんだけの胸に仕舞っておいて欲しいの。他言は厳禁。ほんとはね、キョンくんにもこの事を
伝えるのは許されなかったの。今言った分岐点っていうのは、わたしのいる未来全体にとっては全然重要ではない
こと。そういうことをむやみに過去に教えるのは禁止されてるの。ううん、もちろんこの時代のわたしにとっては
重要よ。あなたやSOS団にとってはとても重要なこと。だから、どうしても伝えたかったの」
 ぐっと手に力を入れて、俺に熱弁する。
 正直、さっきまで猜疑心オーラ全開でしたなんて、とても言えたもんじゃない。すいません朝比奈さん(大)。
 俺は軽い自己嫌悪に陥りつつも、朝比奈さん(大)の言葉に耳を傾け続ける。
「キョンくんに伝える許可を取るために、すっごくがんばったんだから。なんとか、キョンくん以外には知られない
ようにするって条件で許可してもらったの。だから、他の人に言っちゃダメだからね」
 と言いつつ、両朝比奈さん十八番のウィンクが飛んできた。稀に見る直撃してしまいたい類の遠距離攻撃。
「わかりました。絶対に言いません」
「ありがとう。頑張ってね、キョンくん」
 いつものことです。何とか頑張ってみましょう。結果は保証しかねますが。
「……ちょうどタイムリミットだわ。じゃあ、そろそろ帰るわね。じゃあね、キョンくん」 
 長い髪をふわっとなびかせて後ろを振り向き、朝比奈さん(大)は扉に手をかける。
「あ、ちょっと待って下さい。ヒントは……」
 危うくも大事なことを聞きそびれるところだった。
 そう、これを訊いておくかおかないかで、致命的な状況を打開できる可能性が大きく変わる。
「そうねえ……。ふふ、もうすでに言ってあるはずよ」
「……え?」
「じゃあ、もう行くわね」
 俺に訊き直す間も持たせず、朝比奈さん(大)は言うが否や颯爽と部室を出て行った。
113ラスト・ラプソディ 5:2006/12/09(土) 22:22:10 ID:nJrForll
 すでに言ってある?
 そこまで注意して聞いてないですよ朝比奈さん(大)。ボイスレコーダーでも用意すべきだったかもしれん。
 まあ、解らないものは仕方がない。案外、その時になって追い詰められると、ふと閃いたりするもんだ。
 だが悲しきかな、俺の脳が一休さんの数十分の一ほどのスペックだという事実は、俺自身がよく理解している。
 そんな俺の低脳さを悲観しつつも、俺はまだこの時は楽観的に考えていた。
 俺の予想を遥かに上回る事態に陥るなど、思いもせずに。
 
 これを言うのは二回目になる。だが、もう一度言っておく。
 
 それは、俺にはちっとも笑えないことだった。
 






 朝比奈さんの宣告から一週間後。
 つまり、現在。
 話を元に戻すことになる。

 俺たちの登山はようやく終盤を迎えようとしていた。
 俺がピラミッド建設の為にどでかい石を運ばされる奴隷の気分で、バッグを持ちながら重々と足を動かしている
のとは対照的に、そのまま自転車に乗せれば空を飛んでしまうのではないかというほど軽快にスキップをしている
ハルヒが、
「見えたわ。確かあの石だったわね」
 ようやく目的地が視界に入る。そう、俺がせっせと西方向へ三メートル動かしたあの石の場所だ。
 ハルヒが、いの一番に到着。言うまでもない。生粋の体力に加え、なんせ手ぶらだ。
 そしてハルヒに数十秒ほど遅れ、俺もようやく鶴屋山の制覇を果たす。
「前よりも数倍遠かったような気がするぜ。……ああ、このバッグか。この重いバッグなんだな。違いねえ」
「……あんた、この数十分の間で、何かすんごく性格が曲がったような気がするわ」
 ハルヒは、蔑みを含んだ哀れみの目を俺に向けてくる。それこそ谷口を見るに同等の目だ。
「マジで重いぞ、このバッグ。何の修行だ。SOS団が運動部になった覚えはないんだが」
「何よ、使えないわね。それに、SOS団が"運動部"なんていうちゃちな枠で括られるわけないじゃないの」
 そりゃそうだ。こんな怪しげな団体が部として認められようもんなら、まず俺は早急に生徒会連中や教師たちの
思考回路を疑わねばなるまい。
「とりあえず、マジで疲れた。ちょっとばかし休憩を挟んでくれ」
「……もう、しょうがないわね、まったく。じゃああんたは三分休憩。さ、みんな埋めるわよ」
 聞いたか? 三分て。俺といわゆる馬車馬の気持ちが今、一つになった。感動の瞬間ってやつだ。 
「どこに埋めるべきですかね? やはり、この石の下が最も適当でしょうか」
 古泉が、石に手を掛けながらハルヒに言う。
「そうねえ……」
 それを聞いてハルヒは、直線で二メートルほどの距離を行ったり来たりしながら考えている。
 何かぶつぶつ言いながら、しばらくそうしていたが、
「そこに埋めたら、時間を待たずに誰かが勝手に開ける可能性も考えられるわね」
 と言って俺の方を見てきた。
 しねえよ。
「そう? あんた、さっきみんなに持ってきた物をしきりに訊いてたじゃないの。十分に疑う余地はあるわね」
「わざわざ一人でこんなとこまで足を運んで、そんなめんどくさいことするかっての」
 もちろん俺は否定。当然だ。
「……うーん、有希なら大丈夫ね」
 聞いてないですか、そうですか。で、長門がどうしたって?
「有希なら確実に信用できるわ。ねえ有希、あたしたちにわからない場所に埋めてきてくれない?」
 長門はハルヒが言い終わるやすぐに、自分の足元に置いた小箱を再び手にする。
114ラスト・ラプソディ 6:2006/12/09(土) 22:22:46 ID:nJrForll
「お前、そんなに俺が信用ならんのか」
 心外にも程がある。
「まあ、そうね。あと、あたしが我慢できずに開けてしまいそうだからよ。だってそうでしょ? 基本的に数十年よ
数十年。そんなの待てる方がおかしいに決まってるわ」
 アホか。じゃあ何でタイムカプセルを埋めようなどと思い立ったのか、その経過が知りたい。
「彦星と織姫でも待たせられるのは十六年よ? それを地球上内の内輪で、自分たちで勝手に何十年とか意味わかん
ないわ」
「お前が言っていることの方が、さっぱり意味がわからん」
「別にあんたに分かってもらおうなんてミジンコほども思ってないわよ」
「……やれやれ、そうかい」
 埒が明かないので、俺は会話に終止符を打つべく、もうお馴染みとなったお決まりの台詞を言ってやった。
 ハルヒは、ふん、と横を向き、古泉はこちらを向き肩を竦めて見せる。この辺もお決まりだな。
「まあ、有希一人にさせるってのは冗談よ。穴掘りはあんたと古泉くんの仕事だからね」
 ハルヒはそう言いながら、俺と古泉を交互に指差す。
「もちろん、僕はそのつもりで来ましたからね」
 古泉はすでにスコップを肩に抱えてやる気まんまんな態度を示しつつ、あろうことかヘルメットまで被っている。
 ヘルメットて。
「よう、元気か」
「元気ですが……いきなり、どうしたんでしょう?」
「昨日、悪夢を見て全然寝れなかったとか、そういうことはなかったか?」
「……特にありませんが。いったいどうしたんです?」
「そうかい」
 クライマックスに差し掛かる。
「古泉」
「なんでしょう?」
 ヘルメットの被り際から見せる前髪を微妙にかき上げる古泉に、俺は言ってやった。
「似合ってるぞ」
「…………」
「…………」
「……恐縮です」
 俺は今言ったことに対し、そこはかとない後悔を感じつつ、他の連中に聞かれてないだろうかと一抹の不安を
抱いていた。
 だが、それに関しては嬉しくも杞憂に終わったようで、
「あ、長門さん。あれ? てて手が……すごく汚れてますぅ……」
 朝比奈さんが、どこかから戻ってきた長門を見つけた。
 おい、ちょっとまて、あいつマジで一人で埋めてきたのか……。しかも素手で。
「終わった」
 自らの手の汚れなど全く気にする様子もなく、淡々と長門は任務完了を告げる。
「……え? 終わったって、有希、あなたほんとに一人で全部埋めてきたの?」
 長門は視線のみで頷くという器用なことをやってのけ、そのあと俺の方に視線を送ってきた。
 たぶん、これでよかったのか、という確認だろう。俺は微妙に顔を引きつらせながらも、肯定の意味を込め、
頷いて見せた。
「そ、そう。……悪いわね、なんだか有希一人にやらせちゃって。それにしても、人間業とは思えない早さだわ。
さすが有希ね!」
 文字どおり人間ではないからな。しかし、ハルヒはそんなことは全く気にしていない様子で、言葉を続ける。
「でも、これでほんとに、どこに埋めたのか有希以外は誰もわからないわね。願ってもないことだわ」
 ハルヒは非常に満足そうに、腰に手を当てうんうんと頷いていた。
 
 兎にも角にも、こうして目的を果たした俺たちSOS団一行は、ハルヒを先頭に鶴屋山を下山、そこで解散という
ことになった。
 俺は行きの修行の後遺症で満身創痍であり、残体力が我が家に辿り着くまでの必要最小限分を満たしているのか
さえも疑問に感じつつ、なんとか一路自宅を目指していた。明日は筋肉痛だな。





115ラスト・ラプソディ 7:2006/12/09(土) 22:23:17 ID:nJrForll
 明けて翌日。
 俺は予想通りの筋肉痛に苛まれることになり、まず最初の試練である日課の早朝強制ハイキングコースに対し、
普段の数倍であろう悲鳴を上げざるを得なかった。
 そんな情けない我が足腰の弱さに失望しつつ、この歳にもなって格闘漫画の主人公の強さに心底憧れを抱いて
いたさなか、
「よっ、キョン。どうした? なんか歩き方がぎこちないぜ」
 それこそお世辞にも綺麗とは言えない歩き方で、谷口が声をかけてきた。
「残念だが、今の俺にお前の相手をしている余裕はない。この坂を登り切ることに全身全霊をかけねばならん」
「なんだなんだ。捻挫でもやっちまったのか?」
 谷口はそう言って、俺の足首を覗き込む。蹴りを入れるにはちょうどいい位置だ。
「……いや、筋肉痛だ」
「ぶわっはっは! なんだそりゃ、心配して損したじゃねーか。どーせ涼宮にこき使われた結果ってとこで当たらず
も遠からずだろ?」
 もっとも、間違ってはいないのだが、何故かこいつに言われると無性に腹が立つ。
 俺は無視を決め込み、坂を登るという行為に集中することにした。
 そうすると谷口は、
「ったく、仕方ねえな」
 と言いつつ、あろうことか俺に肩を貸してきた。
「お、悪いな」
 なんだ、けっこういいとこあるじゃないか谷口。見直したぞ。
「これで貸しを作っちまったなあ、キョン。後日を楽しみにしてるぜ」
 前言撤回。

 こうして、谷口との悲劇とも喜劇ともつかない寸劇を繰り広げつつも、なんとか学校へ到着。だが、一時限目が
体育だという事実を国木田に知らされ、俺は再び暗澹たる気分に駆られずにはいられなかった。そういえばそう
だったな。
 地獄の体育を半マネキンと化したスモールフォワードとしてチームメイトの非難を浴びつつも、なんとか乗り
切り、あとの授業は適当に聞き流して早くも放課後に突入。短縮授業バンザイ。
 そしていつものように俺は、この世の天使が淹れるお茶を啜るべく、部室へと足を運んでいた。
 
116ラスト・ラプソディ 8:2006/12/09(土) 22:24:08 ID:nJrForll
 コンコン。
「どうぞ。開いていますよ」
 まったくもって聞きたいとも思わない声が鼓膜に響く。
 だがじっとしていても始まらないので、俺は仕方なしに扉を開ける。
「なんだ、朝比奈さんはまだか」
 まだ部室には、ニヤケ古泉とハードカバリスト長門の二人の姿しか見当たらない。
「朝比奈さんは確か、昨日の帰り際に、明日は日直だと言っていたように思いますね。おや、もしかして涼宮さんも
ですか?」
「いや、あいつは掃除当番だ」
「なるほど。では、ここへの到着は涼宮さんが最後になりそうですね」
 俺は仕方なしに自分でお茶を淹れるべく、鞄を置いて湯呑みを取りに行く。
「古泉、お前も飲むか?」
 大サービスだ。泣いて感謝するがいい。
「おや、淹れて下さるのですか? 恐縮です」
「長門も飲むか?」
 長門は顔を上げこちらに視線をやり、またすぐに俯き活字の海に視線を泳がせる。今のはYESだな。
 俺は三人分のお茶を淹れ、各々に配り終えると、お茶を啜りながらしばらくぼーっとしていた。
 ああ、至福だ。
 これでお茶が朝比奈さん製なら、ここがこの世の天国だと言われようが俺はなんら疑問を持たないことだろう。
「どうやら、少しお疲れのようですね」
 古泉は、いつもより少しだけニヤケ加減を抑えた感じで言う。
「まあ、足だけだ。足以外は全くなんともない」
 
 パタン
 
 俺が言い終えてすぐだ。
 その時聞こえたのは、いつもなら下校時間前後に耳にするものであり、俺たちはそれを合図に一日の活動を終える
ことになる。
 そう、つまり長門が本を閉じる音だ。早すぎる。
「ん? どうした長門?」
 今まで一度たりとも、そういう事がなかったという訳ではない。
 だが俺はその時、何か長門に妙な違和感を感じずにはいられなかった。
「図書室」
 長門はそう言って席を立つ。
 俺はとっさに、
「お、俺も一緒に行っていいか? こないだお前に借りた本読んでから、読書も悪くないと思い始めてな」
 まず長門について行く口実を発した。
「おやおや、では僕もご一緒させてもらっていいですか? ここに一人で居るのも何ですしね」
 続けて古泉もついてくる意志を表明し、俺の方を見て微妙に頷く。どうやらこいつも違和感を感じたに違いない。
 長門は十秒ほど俺の目を見つめ、やがてゆっくりと目線を逸らし、
「……そう」
 くるり、と背を向け、足を進め始めた。俺と古泉もその後ろをついて行く。
 何だろう。雰囲気というかオーラというか、いつもの長門とは何か微妙に違う。だがそれはほんの僅かなことで、
俺たちのように毎日長門と接していなければ絶対に気付かない程度のものなのだが。
「お前も長門に何か違和感を感じたのか?」
「ええ。気のせいと言われれば、それで済まされるかもしれないほど僅かですが」
 長門を先頭に、俺と古泉が少し距離を置いてついて行く。
 先頭の長門が階段に差し掛かろうとしたその時、長門の足が止まった。嫌な予感がする。
 俺と古泉も長門に並び、階段の下側の踊り場が視界に入る。
 俺の視線はそこに存在する人影を捉え、俺は思わず顔を歪めた。
 そこには、できればもう一生会いたくない奴の姿があった。
117ラスト・ラプソディ 9:2006/12/09(土) 22:25:23 ID:nJrForll
「よう。不本意だがまたあんたに会わないといけなかったんでな」
 ネガティブな感情を顔に浮かべ、朝比奈さんを誘拐するという許すまじ行為に及んだ下衆野郎。
 あの第二の未来野郎がそこにいた。
「何の用だ」
 俺は精一杯の凄みを効かせて言い放つ。だがこいつはそれを軽く受け流し、
「ふ。今日は別に誰かをさらったりなんぞしないから安心しろ。大した用事じゃない。僕にとって規定事項と
いう訳でもない。今さっき、会わないと"いけなかった"と言ったのは言葉のあやとでも思っておけ」
「なら今すぐ消えろ。できればお前とは一生顔を合わせたくない」
 これから先、またこの野郎と対峙する機会が来るであろう予感は、なんとなくしてはいるが。
「ほう、あなたが朝比奈さんを誘拐した張本人ですか。僕とは……初めまして、でよかったですかね?」
 ここで古泉が割り込んでくる。
「ああ、間違ってはいない。あんたが副団長さんとやらか。確か……」
「古泉一樹です。以後、お見知り置きを」
「ああ、そうだった。調べてはいたんだが、名前なんぞいちいち覚えてなくてな」
 いちいち癪に障る言い方だ。
「消えろと言ってるだろう? 用がないんならとっとと帰れ」
 俺は殺意を込めた顔を保ったまま言い放つが、相変わらずこの野郎は全くこたえていない。
「ふん。人の話をよく聞くんだな。そう母親に教えられなかったか? 僕は大した用事じゃないとは言ったが、
用がないと言っていない」
「ほほう。それはどういった用件でしょう?」
 古泉はこんなムカつく野郎に対しても無意味な笑みを崩さない。だが、あの長門が改変した世界で初めて俺と
言葉を交わした時と同じだ。警戒心が現れている。
「用といってもお遊びみたいなもんさ。僕にとってはな」
 前にも言ってやったが、こんな回りくどく遠まわしな喋り方の人材は古泉一人で十分だ。
「では、手短に言ってやろう。そこの宇宙人が何やらおもしろいことになってるらしいのでな。忠告に来てやった
だけだ」
「…………」
 宇宙人ってのは長門で間違いないよな? 何言ってんだ、こいつ?
 まあ、確かに長門はある意味おもしろい奴だ。認めよう。だがそれが解るのは、俺のように長門の表情が読める
レベルにまで到達しているのが前提であり、あろうことか長門と初対面であるこの野郎に長門ワールドを理解
できる訳がない。ならば、こいつの皮肉的嘲笑的解釈だと捉えるのが妥当だろう。
 そんな俺と古泉の"?"な表情を目の当たりにし、この野郎は、
「ふ。やはり、あんたたちはまだ知らないのか。傑作だな」
 下衆な笑いじみた顔で俺たちを嘲った。
「……どういうことだ」
 俺は不本意ながらこの野郎に解答を求める。
「本人に聞くがいいさ。今日の遊びはこれで十分だ。僕の予定表に記されている以上に楽しかったよ」
 そう言うが否や、さっと後ろを向いて歩き始めようとした。
 またもや言いたいことだけ言って、早々に姿を消そうとしてやがる。何か言ってやろうと思うのだが、適当な
言葉が浮かばない。
 くそっ。何かないか。言われっぱなしってのはえらく癪だ。
 俺が言葉を選びあぐねていると、横から古泉が反撃の狼煙を上げた。
118ラスト・ラプソディ 10:2006/12/09(土) 22:25:57 ID:nJrForll
「あなたは、本当にこの為だけにここへ来たのですか? 何か別の任務があり、そのついでという訳ではなく」
 この野郎は立ち止まり、古泉の方を振り向き、
「ふん。だからどうした? 本当はもっと言ってやろうと思っていたんだがな。どうやら、禁則のようだ」
「なるほど。今のは非常に興味深い発言ですね」
「何がだ」
 明らかに苛ついている顔を古泉に向けている。だが古泉は一ミリも笑みを崩さず続ける。
「あなたの属する組織にも禁則事項というものが存在するあたり、時間遡行という物を軽率に捉えている訳では
ないようですね。法律で定められている線も大いにありうるでしょうが。まあ、同じことです。よって、普通なら
時間遡行を実行するに至るまで、様々な審査や許可が必要になってくるのでしょう。朝比奈さんが実際そのよう
ですしね。ですが、あなたはさほど意味もなさない用件の為に時間遡行をし、今僕たちの目の前にいる」
「……だからどうした」
 これは下衆野郎の言葉だ。
 だが、古泉の言わんとしていることはわかる。俺と朝比奈さんが最初にこいつに出くわした時も、こいつは
それに対して遊びだという内容のことを仄めかしていた。
「お解りでないですか? なぜあなたがそのような行動を取ることができるのでしょうか。一つ考えられるのは、
あなたが高い権限を持っているということです。ですが、あなたの容姿を見る限りでは、僕たちとほぼ同年代と
考えて間違いないと思います。その年齢で高い権限を持つ役職に就くことはまず不可能でしょう。朝比奈さんや
僕のようにね。よって、この考えは却下です。そして、もう一つ考えられるのは、」
 古泉は、ここまで言って一つ息を整え、
「あなたに非常に近しい血縁者が、非常に高い権限を持っているということです」
 この言葉に、ネガティブ未来人がピクッと僅かに反応した。
「……ふん。だから、どうしたと言っているだろう?」
 おお、下衆野郎の勢いが微妙に失せている。いいぞ古泉。もっと言ってやれ。そして止めを刺してやれ。
 今に限っては百パーセントお前の味方となろう。
「率直に言わせてもらいますと、あなたの親御さんがそちらの世界では有名な方だということではないですか?
調べれば簡単にわかる程のね。正に親の七光りですよ」
 古泉の遠まわしな嫌味がこれほど清々しく感じる瞬間が来ようとは。人生、何があるかわかったもんじゃないな。
「言いたいことはそれだけか?」
「ええ。あくまで単なる僕の好奇心からの推測ですので、お気になさらず」
 古泉は、ニッコリ笑いながら手を胸の高さに上げ、掌をあの野郎に向けるジェスチャーをする。
「……ちっ。いけ好かん野郎だ。またあんたとも顔を合わせないといけないのは非常に不愉快だ」
「おやおや、そうですか。僕としては、同年代で一人称を"僕"と言う友人が皆無に等しいもので、親近感を抱いて
いたのですが。いやはや、非常に残念です」
 ここで古泉のお決まり、肩を竦めるジェスチャーが炸裂する。
 国木田、お前の存在は俺の尊厳を賭けて証明してやるから安心しろ。たかが古泉に忘れ去られたくらいで気に
するんじゃないぞ。
 いや、そもそも古泉にとって国木田とは友人というには浅すぎる関係だな。せいぜい知り合い程度が関の山と
いったところだろう。
「……もういい。あんたの声を聞くのも我慢に耐えかねる」
 あの野郎はドライアイスを噛み砕いているかのように顔をしかめている。
「お前、これを言う為だけって、それを俺たちに言って何の意味がある?」
 タイミング的に今だと思い、俺は古泉の反撃のさなかにふと浮かんだ懸案をぶつけてみた。
「解らないか? 俺は決められた線をなぞるだけなのは嫌いだ。これは前回の顔合わせであんたに言った。つまり、
あんたたちにその宇宙人の現状を教えておいた方が、僕はおもしろい。それだけだ」
 何だかハルヒみたいな物言いだな。
「敵に塩を送る、というような解釈で問題ないでしょうか。いや、感謝しますよ。ご苦労様です」
「いちいち癪に障る言い方だ……。あんたはその喋り方をなんとかしろ」 
 そう言ってあの野郎は足早に俺たちの下を去っていった。
 いいザマだ。おととい来やがれってんだ。いや、本当に一昨日に来られても困りもんだが、俺には一昨日あいつに
会った記憶はないので、そこんとこは大丈夫だ。
 しかし古泉、よくやった。スカッとしたぜ。副団長の腕章が輝いているぞ。
「あなたからお褒めの言葉を頂くとは、恐縮です。腕章は着けていないですが」
 古泉は、自分の左腕の袖の付け根あたりを軽く引っ張る。
 やはり前にも思ったとおり、あの野郎の相手は古泉が担当だな。適材適所ってやつだ。
119ラスト・ラプソディ 11:2006/12/09(土) 22:26:46 ID:nJrForll
「しかし、どうやら只ならぬ事態になっているようですね。……長門さん」
 そうだった。
 あまりの爽快感に忘れそうになっていた。
 俺と古泉が感じた長門への違和感。それを裏付けるようなあの野郎の台詞。長門に何かが起こっているのは
間違いない。
「エラーが許容量を超えている」
 どういうことだ?
「わたしに蓄積されたエラーデータの量が、すでに限界値を超えている。わたしが異常動作を起こし、処分が検討
されたあの時以降からも、着実にエラーは蓄積され続けてきた。現在、わたしは非常に危険な状態にある」
 俺は、あの病室での長門との会話を思い出していた。情報統合思念体によって、長門の処分が検討されていた
こと。長門にまともな性格を与えなかった情報統合思念体に対して、俺は心底腹を立てたこと。
「長門、俺はあの時言ったはずだ。くそったれだ。お前がいなくなるようなことがあれば、俺は暴れるとな」
 俺の言葉を聞いているのかいないのか、長門は淡々と話を続ける。
「今異常動作を起こせば、前回を上回る規模の時空改変になりかねない。そして、今のわたしはいつ異常動作を
起こしても不思議ではない。そう判断した情報統合思念体は、今度こそわたしの処分を実行しようとした。けど、
わたしは反対した。あなたが病室でわたしに言ってくれたこと、それを考慮して。結果、一つの条件と引き換え
に、わたしの存続が決定された」
 どうはともあれ、長門が消されなくてよかった。安心したよ。で、
「それはどんな条件なんだ?」
 条件次第うんぬんで、結局俺は暴れることになるかもしれんぞ。
「異常動作を起こす直接的なトリガーとして、一番高度な危険性を持つのが情報操作能力の使用。その条件という
のは……」
 ここで言葉を止めて三秒ほど俺を見つめ、瞬き。

「一定以上レベルの情報操作能力を、今後一切使用しないということ」

 正直、戸惑った。
 もう、これからは一切長門に頼れないことになる。どんな厄介事でも、長門の力を借りずに解決しなければ
ならない。できるだろうか。いや、しなければならないのだ。
 だが、そんな気持ち半分、よかったという気持ちも半分ある。
 もう長門に辛い思いをさせずに済む。これからは、一女子高生、一文芸部員兼SOS団団員として、普通に高校
生活を送らせてやれる。俺たちがそうさせてやらなければならないんだ。

 ああ、やってやるさ。

 長門、今度は俺たちがお前を守る番だ。ゆっくり休んでくれよな。
 俺はもちろん、古泉や朝比奈さん、それにハルヒだって全力でお前を守ってくれるさ。そうだろう?
 古泉、雪山で異空間に閉じ込められた時に言ってた事、忘れたとは言わせないぜ。
「ええ、もちろんです。僕はそんな薄情な人間ではありませんよ」
「そういうことだ、長門。お前は何一つ心配しなくていい。今までの恩をたっぷりと返させてもらうからな」
 長門は、俺と古泉を五秒くらいずつ交互に見つめ、それを何度か繰り返す。瞬きの頻度が普段より少し高い気が
した。
 きっと、長門なりのお礼なんだろうさ。
 
120ラスト・ラプソディ 12:2006/12/09(土) 22:27:20 ID:nJrForll
 結局、あのネガティブ野郎がロールプレイングゲームのモンスターの如く突如現れたおかげで、俺たちは思いの
ほか大きなタイムロスを食らい、図書室に行きそびれた。そのまま部室へとんぼ返りである。
 古泉は、部室到着までの僅かな時間をも有効活用しようと思ったのか、
「長門さん。先程、"一定以上レベル"の能力は使用できないとおっしゃっていましたが、具体的に使用可能な能力
とはどういったものなんでしょう?」
 ハルヒの前ではタブーなやり取りをギリギリまで続けている。近いぞ、部室。
「情報統合思念体への記憶データの送受信。これができないと涼宮ハルヒの観察報告が不可能。あとは感知能力。
これはデフォルトの状態で無意識に作動している為」
「それだけですか?」
「そう」
 つまり簡単に言うと、第三者が目で見て取れるような魔法パワーは使えないって訳だな。割と厳しいシバリだ。
「長門、実際に力を使っちまうと、どうなるんだ?」
 続いて俺からの質問。
「わたしを構成する有機情報の連結解除プログラムが作動する」
「長門さん自身が消滅してしまうということですね……」
 縁起でもない。
「あの未来人が長門さんの状態を知っていたとなると、非常に危険ですね。今まで彼らにとって、僕たちの中で
一番脅威だったのは、もちろん長門さんだったに違いありません」
 そりゃそうだろう。ハルヒを除いた長門以外の俺たち三人と長門一人を比べても、スペックに天と地ほどの差が
ある。
「問題なのは、そんな長門さんの状態を知って、長門さんを潰しに来るかどうかです」
 どうあっても避けたい事態だな。
「可能性は高いか?」
「どうでしょうか。そこまで大胆な行動に出るのかは疑問です。ですが、一度朝比奈さんを誘拐するという十分に
大胆と言える行動を起こしていますからね。何とも言えません。油断は禁物でしょう」
121ラスト・ラプソディ 13:2006/12/09(土) 22:27:52 ID:nJrForll
 ここらで部室に到着となった。
 中に入ると、すでにハルヒと朝比奈さんが部室で待機しており、
「何やってたのよ、あんたたち! 団長を置いて出掛けるなんて無礼千万よ! キョン、あんたはあたしとみくる
ちゃんに今すぐジュース奢りなさい!」
 やれやれ、なんでまた俺だけなんだ。不公平な。
 今回に限らず、タイムロスの代償が常に現金なのは俺にとって規定事項なのか? 時は金なりとはよく言った
もんだ。
「ぶつぶつ言ってないでさっさと買ってくる! わかってると思うけど、あたしは果汁百パーのやつね」
 はいはい。あ、朝比奈さんは何がいいです?
「……いつもすみません、キョンくん。えと、レモンティーでお願いします」
 あなたのご要望であれば何なりと。
「長門、お前も何か飲むか?」
 ついでだ。
「玄米茶」
 けっこう難しい注文だぞ、それ。
「申し訳ないです。僕はホットミル――」
「お前は自分で買え」
 むしろ長門の分はお前が出せ。
 俺の無情ともつかない返答を受け、古泉は得意のあのジェスチャーを出す。
 そんな古泉を微かに視界に写る程度に見つつ、俺は部室を出ようとしたのだが。
 そういえば俺、筋肉痛だったっけ。
 思い出したかのように、足の筋肉を構成する細胞達が痛み出し、俺の歩みを阻害する。
「あんた、何? その歩き方」
「うるせー、筋肉痛だ」
 笑いすぎだろ、ハルヒ。
 俺は痛みに構わず、とっとと部室を出ることにした。

 
 変わらない。
 いつもと何も変わらないSOS団の面々。雰囲気。部室の光景。
 長門が危機的な状態であることなど、微塵も感じさせないほどに。
 ずっと続けばいい。そう思う。
 そう願ってやまない。
 そして、すべてが終わった時、俺は今度はこう言ってやりたい。
  

 それは、俺にはとても笑えることだった、と。




122ラスト・ラプソディ 14:2006/12/09(土) 22:28:27 ID:nJrForll
 長門の衝撃告白から五日。
 俺たちSOS団は、特にこれといった事態に陥ることもなく、平々凡々と日々の生活を営んでいた。
 それが一般的に平々凡々なのかは定かでないが、どっかの暴走爆走女があたしらSOS団夜露死苦的な迷惑事を
しでかすのを、SOS団にとって平々凡々と言うのは周知のとおり、事実である。
 だが、つい先日タイムカプセルという未来人朝比奈さんにしてみれば原始的極まりないであろう時間的イベント
を敢行したおかげか、ハルヒの満足感は今だ持続中であり、突飛なことを言い出すにはまだ時期早々のようで
あった。

 
 俺は終業式という、ここぞとばかりに生徒各々の忍耐力を試すかような校長の長々しい話を聞き流しつつも、
明日から春休みという事実を目の当たりにしている為か、そんな長話も悪い気はしない。
 ハルヒはといえば、そんな長話を聞き流すどころか全く耳にもせず、ぐーすかと眠りこけっている。若いって
いいな。
「おい、谷口。そこのナマケモノ女だが、涎を始め、できうる限りの乱れを整える努力をしてやれ」
 情けなくも、生物学上は一応女だ。
「はあ? そりゃお前の仕事だろうが。俺がそんなことをしてる最中に涼宮が目を覚ましてみろ。俺に明日は
来ないことになるぜ」
「まあねえ。キョンがしてあげても日常茶飯事って感じだし、おもしろくないからね。いいじゃん、谷口。して
あげたら? もしかしたら涼宮さん、谷口に乗り換えるかもしれないよ」
 よほどの地獄耳で聞きつけたのか、数人を挟んだ前の方から、国木田が俺の企てに参加してきた。
 何から谷口に乗り換えるかはしらんが。
「国木田もこう言っていることだ。どうだ、谷口。男を上げるまたとないチャンスだぞ」
 こいつがアホだという俺の認識を信じて、さらに煽ってやる。
「うーん……」
 谷口は数秒ほど考え込み、
「って、いやいやいや。どう考えても無理に決まってんだろ!」
 惜しい。だが、一瞬でも迷った谷口はやはりアホだ。俺の認識は間違っていなかったようだ。
 国木田は、くくく、と笑いと噛み殺し、
「惜しかったね」
 ああ、実に。
123ラスト・ラプソディ 15:2006/12/09(土) 22:30:16 ID:nJrForll
 こうして、谷口のアホさ加減を再認識させられた終業式を終え、教室での短いHRの後、いよいよ春休みに突入と
なった。
 いい加減、これを言うのにもそろそろ飽きてきたが、習慣とは誠に恐ろしいもので気が付けば文芸部室前に立って
いるというあたかも夢遊病患者のような事態に俺は直面していた。
「何ぼーっとしてんのよ。春の陽気で脳みそが溶け始めたんじゃない? もともと少ない脳みそがこれ以上
減ったら無くなるわよ。とりあえず、早く扉開けなさい」
 俺の後から来たハルヒに突然、声をかけられた。
 気付かなかったな。マジでぼーっとしていたらしい。
 直立状態から一転、俺は電池を取り替えたばかりの玩具のように動き出し、扉を開けた。
「うーっす」
「みんな! 今日昼食の予定ある?」
 俺のやる気のない挨拶は、ハルヒによって見事にかき消された。
 今から春休みだというのに、律儀にもSOS団のメンツは全員揃っているようだ。
「僕はありません。昼食をどうするか迷っていたところです」
「そう。みくるちゃんは?」
「あ、わたしも大丈夫です」
「有――」
「ない」
 なんて暇な人間の集まりだ。多少なりとも青春というものを真剣に考えた方がいいぞ。
 ……まあ、俺もその内の一人なのは言うまでもないが。
「じゃあ、決定ね。久しぶりにみんなで昼食に行くわよ!」
 言うが否や、ハルヒは今しがた入ってきたばかりの部室を、ものの数十秒も経たないうちに出て行く。
「お前、とりあえず俺にも予定くらい訊けよ」
「あんたはどうせ予定なんてないでしょ。ないものを訊いたところで時間の無駄よ! 異議があるなら昼食後に
文章で提出してちょうだい」
 昼食後なら、もう異議も何もないと思うが。
 などと、今更もう反論する気にもなれず、俺は結局そのまま昼食会への参加を決定した。
 
 昼食は、市内不思議探索でお馴染みとなったあの喫茶店で取ることになった。意外と久し振りだ。
 俺はランチセットを注文し、料理の到着を待ちわびている傍で、ハルヒは先に到着した大盛りナポリタンを
ずぞぞぞと啜りながら、
「今日はSOS団の活動は休みにするわ。ていうか、あたし四年振りくらいに、明日から帰省することになった
のよ。今日は、ちょっとその準備とかしなきゃいけないし。まあ、準備って程の準備でもないんだけどね。買い
出しとか」
 甚だしく以外だ。
 何というか、俺はハルヒに対して、そういうファミリー的なイベントをするイメージを持ち合わせてなかった
からな。
「で、その買い出しがけっこうな量になりそうなのよ。というわけで」
 ハルヒは、俺の方を向いて俺を指差し、
「雑用係キョン! あんたは、この後もあたしの荷物持ちに大決定だから。まあ一人いれば十分だから、みんなは
一年の疲れを今のうちに癒しておいてちょうだい。あたしが帰ってきたら、ぶっ倒れるまで遊びまくるからその
つもりで!」
 それを聞いた古泉から寄せられる生温かい視線をわざとらしく無視し、俺は盛大に溜息をついた。
 やれやれ、どうやら俺の春休みはまだ来ていないようだ。 
124ラスト・ラプソディ 16:2006/12/09(土) 22:30:58 ID:nJrForll
 そういう成り行きで、俺は今ハルヒと共にショッピング中である。
 一応断っておくが、デートなどという心躍るようなものでは、決してない。断じてない。
 ハルヒは店という店を片っ端から出入りし、俺の持つ荷物は大家族の洗濯物かのようにかさんでいった。
「あーこれも要るわね。あと、これとこれも必要だわ」
「待て、それは要らんだろ。お前、買いすぎだ」
「うるさいわね! 何であんたにあたしの必要不必要がわかるのよ。せっかく久し振りの帰省なんだから、色々
サービスしてあげることにしたのよ」
 ハルヒは笑顔で俺に文句をのたまいつつも、次々と商品を品定めし買い物カゴを埋めていく。
 百ワットスマイル・イン・百円ショップ。
「それは誰に向けて何のサービスだ、いったい」
「お爺ちゃんお婆ちゃんに決まってるでしょ。こんなに可愛い孫に四年も会ってないのよ? 可哀想じゃない。
これくらいの心構えは当然だわ」
 可愛いとか自分で言うな、自分で。
「……そうかい。そりゃ大層喜んでくれることだろうよ」
 俺はやる気無さげに答えてやった。
 ハルヒは百ワットの笑顔をそのままに、
「当然よっ! さっ、キョン。次行くわよ!」
 そう言って俺の手を取ろうのしたので、あろうことか俺は慌てて荷物を片手に纏めてしまった。
 つい条件反射で手が動いてしまったが、これではまるで、俺がハルヒに手を取られたかったみたいじゃないか。
パブロフの犬もビックリの反射だ。
 だが、まあ、なんだ。それほど卑下するようなことでもないだろう。
 たまにはそういうことも悪くないと思っている自分が居るのも、また事実なのさ。
125ラスト・ラプソディ 17:2006/12/09(土) 22:31:35 ID:nJrForll
 さて、バーゲンセールに飛び込む主婦のような買い物の嵐に付き添うこと、数時間。
 俺たち、というかハルヒは一通りの買い物を終え、満足そうに俺が両手に抱えている紙袋ビニール袋を眺めながら
歩いていた。俺にしてみれば、ひたすら重いの一言に尽きる。
「これで完璧よ。後は明日を待つばかりだわ」
 当然だ。これだけ買ってまだ完璧じゃないという方がありえない。
「ねえ、キョン。あんた春休みに何かしたいことある?」
「それは、俺の個人的な事ではなくて、SOS団でのイベントって意味か?」
「もちろん、そうに決まってるじゃない」
 春休みに入る前も、この春休みも遊び呆けるであろうという確信めいた予想はしていたのだが、実際にどんな
イベントになるかはまったくもって考えてなかった。
 うーん、この一年でかなり色々なことをやり尽くした感はある。となると、やっぱ季節事になるよな。
 けど花見くらいは、ハルヒならとっくに考えているだろうし。
 あとは、そうだな、
「四月一日にドッキリ企画なんかどうだ?」
「エイプリル・フールね。うん、そうね。悪くないかも」
 ハルヒは口をへの字にして、うんうんと頷く。お偉い老教授のようだ。
「そうだな、古泉あたりを騙すのがおもしろそうかもしれん」
「……うーん。でも、古泉くんならすぐに見破っちゃいそうね。けっこう洞察力とか鋭そうだし」
「じゃあ、朝比奈さんか?」
「みくるちゃんは簡単に騙されてくれると思うけど、何かそういうみくるちゃんを見慣れてる感がものすごく
あるわ。物足りないわね」
「となると、あとは長門しかいないぞ。あいつは……無理だろ」
 実行する以前に、企画段階ですでに見破られている可能性が大いにありうる。
「……そうねえ。やっぱり……あんたしか適任者はいないわね。ということであんた、今の会話を記憶から消し
なさい」
 無茶苦茶な。
 そんなハルヒの無茶な要求に俺はもちろん答えることはなく、両手に下げた袋が強制的にダンベルと化しつつも、
俺はなんとか足を進めていた。ハルヒの満面の笑顔を見ながら。
 
 まったく、なんて楽しそうな顔をしやがる。
 入学当時のハルヒを見た何人が今のハルヒを想像したであろうか。いや、誰も想像しなかっただろう。

 そんなハルヒの笑顔は、長門の状態のことを忘れそうになってしまうほど眩しかった。

「なあ、ハルヒ」
「何?」
「この春休み、思いっきり楽しむぞ」
 そう俺が言うと、ハルヒは今日一番の笑顔で、

「あったりまえじゃないっ!」




126ラスト・ラプソディ 18:2006/12/09(土) 22:32:12 ID:nJrForll
 その翌日。
 春休みという名目上の下、俺は昼過ぎまでのうのうと夢心地を堪能してやろうと計画していたのだが、これまた
現実というのはそう都合良くいくものではなく、俺のビューティフルホリデイは儚くも夢に散ることとなった。
 おかげで俺は、普段さながらの生活リズムを春休み初日で崩すことなく、現在、眠気と共に自転車を長門の部屋
へと向かわせている。


 そんな俺の怠惰生活計画に待ったを掛けることになったのは、昨日の夕方のことだ。
 ハルヒの専属荷物持ちをいよいよ両腕がもげるかという思いで終え、なんとか我が家へと生還を果たした直後の
一本の電話だった。発信者もまた、涼宮ハルヒ。
『忘れたわ』
 何をだ。
『あたしとしたことが、タイムカプセルに大事な物を入れるのを忘れてたわ』
 だからそれは何だ。
『機関紙よ。こないだ、文芸部として作った機関紙を入れようと思ってたのよ。いいと思わない、キョン? 何か
いかにも、って感じで』
 どう、いかにもなのかはわからんが。
「まあ、悪くないんじゃないか? 昔を懐かしむには、いい素材だと思うぞ」
 これといって反論する理由もないので、俺はハルヒに賛同してやった。
『でしょ? 数少ない、文章として残るSOS団の活動記録だからね! これはどう考えても入れるべきだわ!』
 これまた、何をどう考えてなのかもよくわからんが。
 何だろう、このあとに続くハルヒの台詞は、俺にとって面倒な内容であるという確固たる自信が湧いてくる。
 まあ、大体想像は付くが。
『でも、あたしは明日からここにはいないのよ』
 それはさっき聞いた。
『そして、埋めてある場所は有希しか知らないのよね』
 そりゃお前の一存でそうなったんだろうが。
『でも、有希一人で行かせるのもなんだし』
 それは俺も思う。
『だ・か・ら、あんたが有希と二人……いや、古泉くんも連れて行きなさい! 古泉くんも! 三人よ! この際、もう
埋めてある場所をあんたたちが知るのは許してあげる! 機関紙をタイムカプセルに入れてきなさい!』
 と、忌々しくもほぼ予想と寸分たがわぬ結果となった訳である。
『ちなみに、携帯の電波も届かない程のど田舎だから、文句は直接言いに来た場合のみ受け付けるから!』
 やれやれ、まあ未来に一つ楽しみが増えるのもそうそう悪くはない。と、自分に言い聞かせつつ、俺はこのあと
ハルヒご指名の人物に宛て、二度受話器を上げた。そうだな、鶴屋さんにも断りを入れておいた方がいいだろう。
 いやに饒舌な受信相手と、いやに無口な受信相手という全く対極を成す通話をさっさと済ませ、俺は晩飯に
ありつこうとしたのだが。
 ここでまた、携帯のバイブレータが作動し始めた。
 今度は誰だ。いやに可愛げな発信者なら大いに許すところだが。

 『着信 朝比奈みくる』
127ラスト・ラプソディ 19:2006/12/09(土) 22:32:48 ID:nJrForll
 許す。大いに許す。
 先程の電話に比べ数倍のテンションを保ちつつ、俺は再び通話ボタンに指を掛ける。
『あのぅ、明日、またタイムカプセルのところに行くんですよね?』
 携帯の音質の粗悪さですら、なんと美しいお声。お電話ありがとうございます。
「あ、はい、そうです。誰に聞いたんですか?」
『いえ、誰っていうか、未来からの指令で……あの、わたしも付いて行けって……』
 どういうことだ。
 少なからず朝比奈さんが必要になるような事態といえば、未来的な何かだと考えるのが自然だ。
 まあ、俺の心のスキマは常に朝比奈さんを必要としているのは純然たる当然なのだが、今はそういうことじゃ
ない。
 未来的な、何か時間絡みのイベントが待ち受けているのだろう。俺にとっては良くない、というオマケ付きの。
「何があるとか、具体的なことは……聞いてないですよね?」
 今までの経験上、十中八九朝比奈さんは知らされていないだろうが。
『ふぇ、ごめんなさい、教えてもらえなかったです……。あ、でも、あれをやれって言われたから……でも、あれを
やるっていうことは……そんな状況がある訳で……』
 徐々に声がデクレッシェンドしていき、最終的には一人で呟いているようだ。
「いえいえ、そんな、謝らないでください。意地悪で言ったわけじゃないですから。俺は朝比奈さんが一緒って
だけで十分嬉しいです」
 そして、心は日本晴れです。
『あ、ありがとう……。でも、あたしにそんなこと言っちゃ、ダメですっ。キョンくんっ』
 ぷくっと頬を膨らませている朝比奈さんの顔が脳裏に浮かぶ。
「ははっ。一体どうしたんです?」
『もうっ……あたしを困らせないで下さい……』
 誰だ、一体。朝比奈さんを困らせるなんて、ふてえ野郎だ。
 俺は犯人が自分であることを現実逃避しつつ、逸れた話を元に戻すことにした。
「まあ、とりあえず、明日十一時に長門の部屋に集合ですから」
『あ、なな長門さんの部屋にですかぁ。あの……マンションの前にしてもらっていいですか?』
 まだ朝比奈さんは苦手分野を克服できていないようだ。
 いい加減、もう慣れてきてもよさそうなんだが……。どうにも、女同士というのは難儀なもんだ。
「わかりました。じゃ、十一時にマンション前ってことで」
『……ごめんなさい。我が侭言っちゃって』
 いえいえ、この程度で我が侭になるんだってんなら、ハルヒなんて戦前の天皇陛下ばりの独裁者ですよ。
 用件を一通り伝え終えたので、俺は「じゃまた明日に」と言って電話を切った。

 
 とまあ、昨日の夕方に大体こんな感じのやりとりがあったって訳だ。
 つまり、ハルヒを除くSOS団団員による鶴屋山登山再び、ということである。
 だが、単なる登山で終われそうにないことを、朝比奈さんとの電話が否が応にも予感させる。そんな予感なんぞ
的中しないよう、俺はひたすら祈るばかりだ。
 だが祈ろうにも、釈迦やキリストやアラーといった各宗教の崇拝対象者たちは、無宗教の俺に対しては手厳しい
もので、無残にも俺の祈りは受け入れられることはなかった。

 教会にでも通っておくべきだったと、このあと後悔させられることになる。
 
 
 
128ラスト・ラプソディ 20:2006/12/09(土) 22:33:23 ID:nJrForll
 長門のマンション前に到着すると、古泉はすでに、俺より長めの髪を悠々と風に遊ばせながら立っていた。様に
なっているのが何故か腹が立つ。
「やあ、おはようございます。絶好の登山日和といったところでしょうか」
 古泉は無意味な笑みを俺に向け、手を挙げる。
「なんだ、朝比奈さんはまだか」
「おやおや、なんだか先日も部室で全く同じ台詞を聞いたように思いますが。やはり僕一人では役不足でしょう
か。まあ特に、今日は肝心な人物がここには来ないというのが大きいようですけど」
 その肝心な人物ってのは誰のことを言ってるんだ。
 まったく、朝っぱらからものの見事に不愉快な気分にさせやがる。ただでさえ眠いというからに。
「もう一年近く経ちます。そろそろ自分に正直になるには十分な頃合いかと……」
 お前と比べりゃ間違いなく正直者なのは、まごうことなき事実だろうよ。
「いやはや、実に手厳しいお言葉です」
 とまあ、トイレットペーパーを三角に折るほどの意味もなさない会話で時間を潰していると、ようやく朝比奈
さんがトタトタとこちらへ向かって小走りしているのが見える。
「すいませーん。遅れちゃいましたぁ……」
 朝比奈さんは、ピンクのカーディガンに、インナーは白のカットソー、そのカットソーのVネックからベージュの
シャツを覗かせていて、その色に合わせたのかスカートもベージュという、とても春を感じさせる出で立ちをして
いらっしゃる。
 それに比べ、一方俺はといえば、縄文人でも着ていそうなダサダサ縄文シャツに、カーキの縄文パンツ、足元は
縄文スニーカーときたもんだ。
 山登りに行くにも服装に気を使うところは、さすが女の子といったところだな。
「では、行きましょうか」
 俺たちは、古泉を先頭にマンションに入っていく。
 だが、ここからは何だか俺の役目のような気がしてやまないので、前に出て慣れた手つきで長門の部屋をコール
する。
『…………』
 いつもの応答。
「……俺だ。古泉も朝比奈さんも居る」
『入って』
 エレベーターに乗り込み、すかさず七階のボタンを押す。
 そして、毎度お馴染みとなった長門の部屋に通された俺たちは、コタツテーブルを囲んで座り、当の長門はお茶を
淹れにキッチンへと姿を消している。
 数分後、急須と人数分の湯呑みをお盆に乗せた長門が姿を現し、各々へお茶を配り終えると、コタツテーブルの
空いた残りの一席に無駄な動きなく腰を下ろした。
「古泉、機関紙は持ってきたか?」
 そう、これを忘れたとなると、今日集まった意味は皆無に等しい。それに伴い、俺の怠惰生活計画も無意味に
壊されたことになる。それだけは勘弁してくれ。
「ええ、もちろん。朝、学校に寄ってきたところですから」
 それはご苦労なこった。
「じゃあ、お茶をご馳走になったら、早速用事を済ませに行くか」
「ええ、それで構いません」
「……あ、はい」
129ラスト・ラプソディ 21:2006/12/09(土) 22:34:04 ID:nJrForll
 雑談をお茶請けにし、俺たちはしばらくほのぼのとした雰囲気を楽しんでいた。
 メンツはいつもと変わらないのだが、部室と長門の部屋とでは、またちょっと違う雰囲気になるのが興味深い。
 だが、そんな朗らかな雰囲気を古泉の一言が変えた。
「しかし、今長門さんを人気のない場所に連れて行くのは得策ではないですね。機関の情報によると、どうやら
最近、相手側に何らかの動きがあるようですので」
 そうだった。こんな重大なことを俺は忘れてかけていた。
 俺の脳が小動物並だという事実が、今決定された。そういえばこないだ、ハルヒに蟹にされたような気がしない
でもないが。
「長門、なんとか俺たちに埋めてある場所の記憶を植え付けられないか?」
「不可能ではない。でも、それはわたしが情報操作能力を使用することになる」
「……そうか。じゃあ駄目だな」
 長門が消えちまうのは金輪際御免だ。長門に限らず、もう誰かが居なくなるなんてことは俺の小指を賭けてでも
避けたい。やくざは嫌だからな。
 あの世界でハルヒの存在を見失った時に味わった、立っている事が困難なほどの喪失感、吐き気。あれだけは
何があろうと二度と味わいたくない。
「……ふぇ」
 さっきから朝比奈さんが俺と長門のことを、まるでデパートで迷子になった子供が従業員に助けを乞うように
キョロキョロと見ている。そういえば、朝比奈さんにはまだ言ってなかった。
「朝比奈さん、ええとですね……」
 長門の今の状態、そして再びあの未来人に会ったこと、それらを俺は、古泉の所々に挟まれる解説と共に掻い
摘んで説明した。
「……そ、そうだったんですかぁ。でも、長門さん……長門さんが、そんなのって……ひど過ぎますぅ」
 ああ、まったくもってひど過ぎる話だ。
 いかん、また腹が立ってきた。何やら最近、カルシウム不足的な事態なのかもしれん。
 俺は明日から毎日欠かさず牛乳を摂取することを心に誓っていると、
「なな長門さんっ。安心して下さい。わたし……がががんばりますからっ!」
 そんな朝比奈さんの決意たる叫びを脳に響かせ、俺たちは勇ましくも目的地へ向かうこととなった。
 玄関に向かっている途中、長門が、
「わたしの感知能力も、ここ最近は正確に作動しないことが多々ある。当てにしないで」
 と、不安要素たっぷりの一言を呟いてくれたのが気に掛かる。
 長門、ほんとに普通の女子高生になっちまったな。だが、それでいい。お前は今まで十二分に働いたんだからな。
 今度は、俺たちが働き蟻のごとく走り回ってやるさ。

130ラスト・ラプソディ 22:2006/12/09(土) 22:34:44 ID:nJrForll
「おおうっ。元気だったかいキミたちっ! 春休み初日からご苦労なこっさねっ。しっかしみくるっ、今日も
めっちゃめちゃ可愛いじゃないかっ。お姉さんどうにかなっちゃいそうだっ!」
 とかく俺たちは、山の所有者である鶴屋さんに一言挨拶をする為、一路鶴屋邸へ足を伸ばした。
 鶴屋さんから、ありがたい超ハイテンションボイスを頂き、脳裏でBGMとして流しつつ、一路タイムカプセルの
下へと登山を開始した。
「おそらく、機関の者がどこからか付いて来てくれているはずです。ですが正直、大したフォローは出来かねる
かと思います。注意しながら行きましょう」
 こんな古泉の言葉を聞いて、森さんと新川さんの顔を思い出していた。
 しかし、どうしても最初に脳裏に浮かぶのが、朝比奈さん誘拐事件の時、森さんが敵に見せたあの凍り付くような
微笑みだ。森さんが見た目どおり俺たちとほぼ同年代だとすれば、たった十数年の間に数多の修羅場を潜り抜けて
きたに違いない。それだけ凄まじい表情だった。
 いや、まったく、そんな修羅場に身を投じている森さんなんて、俺が持つイメージに全くそぐわないね。

「……やっと半分といったところか」
 俺的には割と歩いたように感じたものの、周囲に注意して気を張っている為か、思ったほど進み具合は良くない。
これが牛歩戦術ってやつなんだろ、きっと。
 パンツのポケットからマイ縄文電話を取り出し、時刻のみをチラッと見る。さほど時間も経っていない。
「あなたは、どうやら気を張りすぎのようですね。もう少し、気楽にしてもいいかと」
 古泉はそのあと、「最近、これに嵌ってるんですよ」とボトルガムを勧めてきたものの、俺は何も口に入れる気が
起こらず、
「いや、俺はいい」
 とっとと目的を済ませるべく、足早にあの石の場所を目指すことにした。
「人間の気配がある。気をつけて」
 何やら長門が妙な物を感知しているらしい。
 朝比奈さんはその言葉にビクッと反応し、こわごわといった感じで周囲を見渡している。
「長門さん、それは機関の者以外の人間でしょうか?」
「……わからない。今は感知能力が正常に作動していない様子。そこまでの特定は不可能」
「……そうですか。機関の者だといいのですが……」
 まるで自分の状態を他人事のように淡々と答える長門に対し、古泉は顎に手をやり唸っている。
「だだ大丈夫ですよね……キョ」
 
 その時。
131ラスト・ラプソディ 23:2006/12/09(土) 22:36:26 ID:nJrForll
 山側の側面。その上の方から、何やらこちらへ向かってくる物音がし始めた。かなり大きい。
 皆一斉にその方向を見上げる。
「ひええぇぇぇぇ!」
 それを見た朝比奈さんが叫ぶ。隣のホールに注意を促すキャディさんも真っ青だ。
 などと言っている場合ではない。そんな状況が迫っている。
「全速力で急ぎましょう! なんとか間に合うかもしれません!」
 木やら石やらがかなりの横範囲で側面の上から転がり落ちてくる。中には身の丈の半分ほどもあろうかという
岩も混在している。
 まるでハリウッド級SFアクション映画のような光景。制作費に何十億費やしたかなんてことは今はどうでも
いい。
「朝比奈さん! 早く!」
 腰を抜かしそうに足をガクガクさせている朝比奈さんの手を取る。そして走る。全速力。 
 ったく。何だってんだ、これは!
「おい、古泉! 下った方が早かったんじゃないのか!」
「……ええ、そのようですね。どうやら僕も動揺していたようです」
 だが、今さら引き返すとなると、事態は輪を掛けて悪い方向に向かうのは明らかだ。仕方なしに登ることに全力を
尽くす。
 俺は全力で走りながらもチラッと山側の上の方に目をやった。人影が視界に入る。
 一瞬だが、その人影の顔を認識することができた。
 
 ――あの野郎!

 あいつらの仕業か! なんてわかりやすい攻撃をしやがる!
 こんなのなら、いっそ手の込んだ小難しいことでもしやがれってんだ!

 見えたのは一人じゃなかった。居るのはあの野郎だけじゃない。
 そりゃそうだ。これだけの範囲で一斉に木やら岩やらをわんさか転がさにゃならんというのに、一人というのは
あの野郎が宇宙人でもない限りありえない。あの野郎の属性は未来人だったはずだ。
 しかし、なんというか、もっと精神的な攻撃で来るかと思っていたんだが。
 単純な上、大胆すぎるだろこれは。
「キョンくん! まま間に合わないかもぉ!」
「間に合います!」
 とは言ったものの、このままでは間に合わないのは必至だ。
 くそっ! どうすりゃいい!?
 必死で逃げおおせるSOS団一行。
 俺と朝比奈さんより少し先を逃げる古泉長門組でさえ、逃げ切るのは困難に見える。
「……残念ですが、もう……」
「いらんことを言うな! 古泉!」
 認めたくはないが、もうそこまで迫っている。まともにそれに目を向けるのはぞっとする。
 古泉が諦めの言葉を吐いたその時。
 ――長門!
 あろうことか長門が立ち止まり、襲ってくる物体に向けて手をかざした。
 能力が放たれる直前。
「駄目だ長門! やめろ!」
 俺は長門に追いつき、長門の手と制すと同時に、開きかけた口を掌で塞いだ。
「今の状況では最悪の事態になる」
 確かにお前の言うとおりだ。けどな、今長門が力を使えば、百パーセント長門だけは助からない。俺はどんなに
低い確率であろうと、全員が助かる方向に動きたいんだ。
 だが皮肉にも、長門の消滅の回避に費やした時間が致命的だったんだろう。
 気付いた時には、もう全くと言っていいほど逃げ切れる状態ではなかった。
132ラスト・ラプソディ 24:2006/12/09(土) 22:37:03 ID:nJrForll
 例によって久々の台詞が口を出る。
 マジでくたばる五秒前。
 情けなくも、こんなくだらないことを口走る余裕があるほどに、俺はもう諦め切っていたのかもしれん。
 
 だが、俺が完全に諦めかけたその時。

「そ、そうだ……あの指令ってこの時のこと……。み、みなさぁん! あああたしに掴まってくださぁぁい!」
 何だか解らんが理由を問いただす時間など今の俺たちにあるはずがなく、藁にもすがる思いで朝比奈さんに手を
伸ばす。めくるめく官能の世界へといざなってくれるのだろうか。
 古泉、長門、俺の順に全員が朝比奈さんの手を掴む。木や岩はもうあと数メートルのところまで迫っている。
「いい行きまぁす!」
 何処へだ。やっぱり官能の世界か?
 何だか諦めて開き直ったからなのか、今さら冷静に頭が回ってきているようだ。
 だが冷静になったからといって、頭に浮かぶのがこんなアホっぽいことでは何の意味もなさない、と悟りを開いた
直後。
 
 目が回る。
 足が地に着かない無重力的な感覚、上も下も認識することができず気持ち悪くて酔いそうな浮遊感がウネウネと
体中を回る。吐き気を催してきた。
 って、ちょっと待て。この感覚にはすさまじく覚えがある。
 そう、時間遡行だ。
 こんな非常事態に、いつの何処へ連れて行くつもりなんだ朝比奈さんは。
「なんだ?」
 気付くとすでに足が地に着いていた。何かこれまでに経験した時間遡行に比べ、遡行開始から終了までに費やす
時間が大幅に少ない気がするのだが。
 それはともかくだ。
 今いる場所はといえば、さっきとなんら変わらない鶴屋山の登山コースじゃないか。
「うおっ! あれは……」
 少し下った辺りの道を、先程まで俺たちを震え上がらせていた岩やらが、横切って転がり落ちていく。
 そういえば、今俺たちが居るのは、先程まで居た辺りより少し上に登った位置だ。
「……よかったぁ。成功したみたいです」
 そのはちきれんばかりの胸に手を当て、朝比奈さんはホッと息をつく。
「朝比奈さん、今のは時間遡行なんですか?」
「あ、はい。一応そうなんですけど、普通の時間遡行とは少し違って、今のは場所の移動が目的なんです。でも、
TPDDを使うには一応時間の設定もしないといけないから、時間設定はゼロ・コンマ・ゼロ五秒前。場所の設定が
百メートルほど登った位置です」
「ほほう、なるほど。瞬間移動、ということでしょうか」
「はい、そのとおりです。TPDDを応用した瞬間移動のようなものです」
 何というか、もう長門と朝比奈さんさえ居れば何でもアリだな。出来ない事を探す方が難しいだろ。
「でも、よっぽどのことがない限り、これをするのはダメなんです。とても危険なことなの。遡行前と遡行後の
時間と場所が極端に近い場合は、遡行した人にとっては危ないんです」
 一瞬、それがなぜなのかを愚かにも訊こうとしてしまったのが悪かったんだろう。
「時間平面上に発生する波紋同士の影響」
 長門の、ハーバード大学院生にも理解困難と思われる例の一言解答が、俺の頭の中を文字通り爆発させた。
「ええと、何て言えば……そうですね、例えば紙に太い水性ペンで点を打ちます。その点を遡行前の地点だと考えて
下さい。次にその点の中心から一ミリずれた所にまた点を打ちます。これが遡行後の地点。でも、ペンが太いから
点の半径は大きいし、紙にインクは滲んでるしで、二つの点がごっちゃになっちゃいますよね? それと同じこと
なんです」
 解ったような解らないような。
133ラスト・ラプソディ 25:2006/12/09(土) 22:37:40 ID:nJrForll
 いや、でもだな、それなら、
「別にもう少し前の時間に設定にして、場所もいっそタイムカプセルのところにしてしまえば、危険度は軽減
されるし、一気に目的地にも着けるしで良かったんじゃないですか?」
 俺の指摘を受け、朝比奈さんはアッという感じの表情で、
「ふぇっ。……そ、そのとおりでしたぁ。ごめんなさい……これって、つい……これくらいの時間と場所の設定
っていう先入観があって……ごごごめんなさい……」
 目をウルウルさせて責任を感じていらっしゃる姿が壮絶に可愛らしいので、俺は大いに許すことにした。
「はは。いえいえ、結果として助かったことですし、朝比奈さんがいなければ、今頃僕たちは見るも凄惨な姿だった
ことでしょう。時間遡行というとても貴重な体験もさせて頂きましたし、僕としては非常に満足ですよ」
「そうですよ、朝比奈さん。俺たちを助けてくれて、ありがとうございます」
 長門も朝比奈さんと目を合わせ、はっきりと分かる角度でコクリと頷く。
「ぐすっ……み、みなさん……ぐすっ……ありがとうございますぅ……えぐっ」
 皆の心温まるフォローを受け、朝比奈さんはとうとう泣き出してしまった。
 周知の如く解ってはいたが、なんと人情味深く涙もろいお人なんだろう。生まれは葛飾柴又、先祖はふうてんの
寅さんなのかもしれん。
「ほらほら、朝比奈さん。早いとこタイムカプセルまで行っちゃいましょう」
 俺は動かない朝比奈さんの手を取り、これでもかというほど優しくリードする。シャル・ウィ・ダンス?
 男はつらいね、まったく。

 力を合わせて皆で危機を乗り越えた後に深まる絆というものは、どうやら漫画や特撮ヒーローものの特権という
訳ではないらしい。
 先程の岩や木たちとの生死を賭けた鬼ごっこの最中に比べ、皆の顔が明るく変わり、楽しさを取り戻している。
それこそ本当に鬼ごっこでもやりかねない雰囲気だ。
 俺もその明るい顔の一人なのは今となれば言うまでもなく、春のピクニック気分を盛大に満喫し始めていた。
 
 だが、それが良くなかったんだろう。
 俺を始め、皆が完全に油断し切ってしまっていた。


 
 正にその時だった。



「いやぁぁぁぁ!!」
 本日、二度目の朝比奈さんの絶叫。
 だが、明らかに声が大きさが前回の比ではない。
134ラスト・ラプソディ 26:2006/12/09(土) 22:38:16 ID:nJrForll
 俺は後ろを行く朝比奈さんの方へ振り向く。
 朝比奈さんが目を向けている方向に、古泉の顔があった。
 だが、その顔にいつものスマイルはない。
 苦しさを堪えているような表情。
 俺は顔から下に目を向ける。


 目を疑うような光景だった。


 背中に近い脇腹の辺りから腹にかけて、鋭い金属のような物が古泉の体を貫通していた。

「こ、古泉っ!!」
 血が止めどなく溢れ出している。
 やがて、古泉は目を閉じてその場に崩れ落ち、倒れた。
 俺は怒涛の全速力で駆け寄る。
「古泉っ! くそっ!」
「古泉くぅん! いや、いやぁぁぁ!」
 俺はここから一番近い病院がどこなのかを考える。
 いや、駄目だ。見るからに病院までもちそうにない。
「うぇぇん! キョキョンくん、どうしよう……いや、いやぁぁ!」
 くそっ! どうすりゃいい!?
 山の上の方から、「うわっ、あの男に当たっちまった!」「やばいよ、一旦引こうよ!」なんて会話が僅かに
聞こえてくる。
 あいつら、朝比奈さんを誘拐した時の車に乗ってた奴らだ!
 おい、そういえば機関の人間がついて来てくれてるんじゃなかったのか? 何たってこんな事態になっても姿を
現さん!
 森さんと新川さんではないのは確かだな。あの二人なら即座に飛んできてくれるだろう。そう信じたい。
 俺が、無い頭を必死に働かせて古泉を救う方法を捻り出そうとしていた時。
 長門が、すっと古泉に近づく。
 そして、かすみ草のような白い手を古泉の腹にかざす。
「長門!」
 俺は再び長門の手を制する。
「すべては、察知できなかったわたしに責任がある」
「それは違う! お前のせいじゃない!」
「やはり、今の状態のわたしでは、あなたたちに迷惑を掛けるだけ」
 古泉の瀕死の姿。朝比奈さんの号泣。長門の自責の言葉。すべてが俺に混乱を促すようだった。

 古泉を助ければ長門が消える。逆に長門を優先すると古泉が助からない。
 何だよ、これは。
 何だって俺がこんな過酷な選択を強いられなきゃならないってんだ!

 ちくしょう!
 古泉か。長門か。
 マジでこの二択しか道は用意されてないのか?
135ラスト・ラプソディ 27:2006/12/09(土) 22:38:51 ID:nJrForll
 普段なら、ましてやこんな深刻な状況とは無縁の場面であれば、二人を天秤に掛けるような状況があったとして
俺は長門の肩を持つかもしれない。俺は長門に全幅の信頼を寄せている。
 別に古泉が嫌いという訳ではない。好きかと言われれば否定したくもなるが。
 古泉といえども、まがいなりにもSOS団の一員であるのは事実な……、
 いや、違う。
 何だか解らんが、今のは確実に間違っている。
 俺は古泉に対して邪険な態度を取ることが多々あったりするが、それが根っからの本心であるかどうかと詰問
されるとどうだ?
 決まってる。答えはノー、だ。
 古泉が悪いやつではないことは百も承知している。
 雪山の時に至っては、機関を裏切ることになっても長門の肩を持つと言ってくれたりもした。
 
 ああ、そうだよな。
 古泉、長門。

 そう、俺にとっては二人とも、甲乙やら優劣やらつける事なんて如何なる理由があろうと不可能な、何よりも
大切な仲間なんだ。
 どちらか一人を選ぶなんて芸当は、俺には到底できない。できるはずがない。
 だから。
 俺は、SOS団誰一人欠けることのない、そんな結果を生み出す選択肢を見つけ出さなきゃならないんだ!


 朝比奈さん(大)、あなたが言ってた分岐点ってのは、この事だったのか。
 確かに大きな分岐点だ。ちょっとばかし大きすぎだが。
 だが、朝比奈さん(大)はこの事態をどうやって乗り切れと言うのだ。
136ラスト・ラプソディ 28:2006/12/09(土) 22:39:24 ID:nJrForll
 いや、待て、何か忘れている。
 何か大事な事を。
 思い出せ。
 そうだ、このあと朝比奈さん(大)は何て言った?


 『その分岐方向によっては、あなたは涼宮さんの力が封印される日を絶対に忘れちゃダメなの』




 ――これだ。




 古泉と長門を救う、唯一にして絶対の手段。まあ、絶対かどうかは解らんが。
 ハルヒ、やっぱりお前か。
 俺はXデーを確認する為、携帯で日付を見る。
 朝比奈さん(大)の予告から二週間後ってことはつまり、


 ――今日じゃねえか。

 
 おいおい、いくら何でもそりゃ一日に色々詰め込みすぎだろ。生き急ぐと早死にするのがオチだぜ、ハルヒ。
 ていうか、電話が繋がらないようなところに居るんじゃあ、現地に行かなきゃならんじゃないか。とんだど田舎
だな。
 だが、行くのはいいとしてだ。ハルヒの帰省先って、どこだ?
 昨日のハルヒとの会話の中で、その都道府県名が出てきた。それは覚えてる。
 だが、そこまでだ。
 そりゃ何気ない会話の中で、何とか市何とか町まで言う必要などないからな。たとえ言っていたところで、俺が
その住所を丸暗記しているわけがない。
 まあ、その辺は後から何とかなるだろ。何にせよ今は時間がない。
 兎にも角にも、まず行動だ。
「長門! 古泉を治療してやってくれ!」
「え!? え? キョ、キョンくん?」
 長門は俺を真っ直ぐに見つめ、長門的に見れば大きな角度で頷く。
「情報連結、解除」
 古泉を瀕死たらしめている金属が、サラサラと輝く砂となり、やがて消えていく。
「流出した血液及び、欠落した腹部の有機情報を再構築」
 続いて、古泉の傷がみるみる塞がっていき、元通りの体になっていく。
「ごほっ……ん……」
 古泉が息を吹き返した。
「こ、古泉くんっ!」
「古泉!」
「ん……おや? どうしたことでしょう。確か僕は腹部の辺りに……もしや、長門さん……」
137ラスト・ラプソディ 29:2006/12/09(土) 22:39:56 ID:nJrForll
 あの朝倉の最後を思い出させるかのような光景だった。
 長門の足首から下が消えている。先程の金属のように輝く砂に変化しながら、体の下の方から徐々に消えて
いくのが見て取れる。
 長門の体の消滅が、早くも始まっていた。
「安心しろ、長門。お前をこのまま消えっぱなしにはしない。すぐに元に戻してやるからな」
 俺は右手を長門の肩にトンと乗せる。
「……そういうことでしたか。あなた、まさかとは思いますが……」
「そのまさかだと思うぜ」
 その"まさか"を俺に肯定された古泉は、笑みを崩さず動揺するという器用な事をやってのけている。
「だが、お前も安心していい、古泉。なぜかという質問には今は答えることはできんが、お前にもじきにわかる」
 朝比奈さん(大)は誰にも言うなって言ってたしな。
 古泉はまだ納得がいかない様子で、しきりに俺に説明を求めるような視線を送っている。
 長門は、膝から上のみの体を古泉の方に向け、
「心配ない。あなたが危惧しているような事態にはならない」
 それは、一体全体どういうことだ?
 今度は、太ももから上のみの体を俺の方に向け、
「わたしの有機情報連結の解除が終了した後、おそらく、情報統合思念体によって記憶の改竄が行われる」
 何の記憶を変えるってんだ。事と次第によっては、俺は黙っちゃいねえぞ。
「わたしと関わったことのある人間から、わたしに関する記憶を消去する」
 ……おい、何だよそれ。
「わたしという存在は、始めから無かった事になる」
 待てよ。何なんだよ。
 ここまで来ておいて、最後はそれかよ。
 そんなのありかよ!
 何だってそんなことをしなきゃなんねえんだ!
「長門! 何でだ! 何で古泉を助ける前に、そんな大事なことを黙ってたんだ! お前のことを忘れるだと?
ふざけるな! そんな事があってたまるか! 今すぐお前の親玉に言ってやれ! そんなたわけた事をした日には、
お前たちもただじゃすまない、こっちにはハルヒがいる事を忘れるな、ってな!」
「大丈夫。その感情も、記憶の改竄で上書きされる」
 俺はあまりのやるせなさに、あたかも風船がしぼむように力が抜けていく。
 いつの間にやら長門の消滅は、もう胸の辺りまで進んでいる。
 無力だ、俺は。
 結局何にもできやしない。今ばかりは、一般人であることを心から悔やむ。
 あまりの無力感と悔しさでいっぱいになり、俺はガクッと膝をついた。
 地面を思いっきり殴りたい衝動に駆られるが、まるで意味のない行動に寸でのところで思いとどまる。
 いかん、俺がこんなでは、どうにかなるものも駄目になっちまう。
 事が事だけに、今回ばかりは何がどうあろうと最後まで諦めるわけにはいかん。
 情報統合思念体なんぞに負けるまいと、俺は気を強く持とうとした。
 俺は気の迷いを吹っ切るように立ち上がり、声を荒げる。
「長門! 記憶の改竄だろうが何だろうが、俺は絶対にお前を忘れたりなんかしねえ! 必ずお前をここに取り戻す
からな!」
138ラスト・ラプソディ 30:2006/12/09(土) 22:40:33 ID:nJrForll
 俺が、いや、俺たちが長門のことを忘れるなんざ、しし座流星群が地球を蜂の巣にしようがありえねえ。
 長門がSOS団の皆にとってどれほどの存在なのか、あいつらは何も解っちゃいねえ。
 情報統合思念体とやらも、さぞ驚くことだろうよ。なにゆえに我々の力が通用しない、ってな。

「今一度伝える」

 顔だけになった長門が言葉を紡ぐ。


「ありがとう」


 言い終わると同時に、口が消える。
 その言葉を最後に、長門が完全に俺たちの前から消えた。

「ちくしょう! 長門!」
「うえっ、ぐすっ……長……ぐすっ……長門……えぐっ……さん、いやぁ……」
 そして古泉は何も言わず、表情が見えないほど顔を俯けている。

 俺は再び膝をついた。今度は手も地面につく。
 目眩がした。
 二度と味わいたくないと思っていた、あの喪失感が再び俺を襲う。
 やっぱり、俺には笑えないことだった。
 朝比奈さんは先程から延々と泣き続けている。俺だって泣きたい気分だ。
 しばらく、朝比奈さんの泣き声だけが辺りに響く。

 そして、そんな中、
「長門さんは、僕の命と引き換えに消滅したも同然です。それを黙って見過ごせるほど、僕は薄情な人間では
ありません」
 古泉が俯けていた顔を上げた。
「記憶の改竄は、まだ行われていないのか、結局行われることはないのか、どちらかは解りません。ですが今は
とりあえず、僕の記憶は正常です。あなた方もそのはずでしょう?」
 そう言われりゃそうだ。俺はまだ長門のことを忘れちゃいない。
 古泉の目線が俺の顔を真っ直ぐに捉え、
「先程あなたが行おうとしていた、長門さんを救う方法。そして、それを実行したところで僕が心配するような
事はない、と言いました。後々僕にもその理由が解る、ともね」
 ああ、そのとおりだ。

「今更ですが、僕はそれに賭けたいと思います」

 こいつはまだ、諦めちゃいない。
 そうだ。そうだよな。
 何を俺は弱気になってんだ。我ながら自分の弱さに反吐が出るぜ。
 記憶の改竄まで、まだ割と時間があるのかもしれない。あるいは、皆の気持ちが本当に記憶の改竄に勝ったと
いうことも、無いとは言い切れない。

 今、俺がすべき事はただ一つ。

「行って下さい。彼女のもとへ」

 行ってやるさ、今すぐにな。

「長門さんを救えるのは、あなただけです。それと……」
 古泉はここまで言って、一旦言葉を区切り、
139ラスト・ラプソディ 31:2006/12/09(土) 22:41:14 ID:nJrForll
 
「それが無事成功した後、彼女の不安定な心を支えることができるのも、あなただけなんですから」


 俺はすぐさま走り出した。
 一路ハルヒのもとへと。
 
 そして走りながら携帯の時刻を見る。
 おそらくギリだな。

 ――まってろ、ハルヒ。

 俺は気持ちスピードを上げる。
 正直、登山中のいざこざのおかげで、俺のライフゲージはすでに赤く点滅しているのだが、んなこと今は関係ない。
 長門を取り戻す為、俺はがむしゃらに走り続ける。

 そう、これは俺にしか出来ない事。
 その為に、俺が向かわなければならない。

 四年前の七夕に手にした、最後の切り札を胸にしまって。


 飛ぶが如く。



 ――いざ、最終決戦へと。





140ラスト・ラプソディ 32:2006/12/09(土) 22:41:51 ID:nJrForll
 手にしたチケットに記されてある番号と、それぞれの座席の窓側に記されてある番号を代わる代わる眺めつつ、
俺は車両内を不審者のごとく彷徨う。
「お、ここだ」
 俺が鶴屋山をせっせと下山したあと、直ちに古泉と連絡を取り、ハルヒの帰省先の都道府県を伝え、詳しい住所を
調べてくれるよう頼んだ。
 すると古泉は、新幹線のチケットを立ちどころに手配し、俺が新幹線を降りるまでに詳しい住所を調べておくと
約束した。ちなみに、俺にチケットを手渡してくれたのは新川さんだ。
 俺は自由席でも一向に構いやしなかったのだが、気前のいいことに今手にしているのはグリーン車のチケットで
ある。こういう前向きに座るタイプの車両で膝を伸ばすなんざ、俺にとっちゃあ一生縁のない事だと思っていた
ばかりに、いざ実際にそういう事態に直面すると、何だか反って落ち着かない。
 そう感じながらも、俺は優雅に足を伸ばして足先をクロスさせ有名人になった気分を味わいつつも、一刻も早く
ハルヒのもとへと、逸る気持ちを運転手に託して到着を待ちわびていた。

 そして、心地良いグリーン車に揺られること一時間半。
 目的地を告げる車内アナウンスが響き、俺は快適な列車の旅に後ろ髪を引かれつつも降車を余儀なくされた。
 すると、俺が降りるのを見ていたかのように、妹に勝手に設定されたアイドルグループの曲の着信音が鳴り出す。
これなら、ハルヒの「着信音1」の方がまだマシだぜ。
『詳しい住所が解りました。今から言いますので、メモの用意を』
 俺は古泉に言われたとおりにメモを取り、乗り換えのホームへと颯爽と足を進める。

 この後、さらにもう一度乗り換え、次は三時間に一本のバスに運良く十分で乗り継ぎ、ようやく残りは徒歩となる
ところまで辿り着いた。
 深々とした緑や土色が辺り一面の大部分を占め、建物といえばこれまた土色に近いおよそ木造建築の住宅程度
しか見当たらない。これぞ田舎といった様相である。
 ここが、あの迷惑娘を作り出す過程で一役買った人々の町、というか村だなこれは。
 などと、ハルヒの祖父母に対して失礼極まりない所存を抱きつつも、メモのとおりに歩を進める。
 しかしだな、このままハルヒ祖父母宅に突撃するのか? そろそろ晩飯時なのは間違いないが、俺はヨネスケに
なった覚えはない。
 何つうか、考えてもみてくれ。いきなりこんな田舎くんだりまでやってきて、全く面識のない友人の祖父母宅を
訪ねるなんざ、どう考えてもおかしいだろ、普通は。まあ、普通ではない状況ゆえにこうして来ているのだが。
 都合良くハルヒの方からこちらへ向かってきてくれる、なんてことはないのだろうか。
 俺は歩けど一向に変わらない景色をぼんやりと眺め、差し当たってハルヒ祖父母宅を訪ねる以外の手段が閃く
こともなく、そのままメモが記す場所を一路目指していた。

 そして、この変わらない景色に飽き飽きし始めていた頃、畑に囲まれた景色の中、その中の一つの畑の中だ。俺の
視線が一人の人影を捉えた。
 低めの背丈、肩口よりほんの少し下ほどの長さの黒髪、そして何より、両サイドにリボンをあしらった黄色い
カチューシャが、その人影の正体を物語っている。


 ――いた。


 一年間ずっと見続けてきた後ろ姿を、俺が見間違えるはずがない。
 まごうことなき、ハルヒだ。
 結果的に、祖父母宅に今晩のご飯は何なのかを訪ねるようなことをせずに済んだのはいいが、あんなところで
何をやってんだか、あいつは。
 俺は、その微動だにせず突っ立っている後ろ姿に近づいていく。
 考え込んでいるのか、俺の存在に気付く様子は全く見せない。
141ラスト・ラプソディ 33:2006/12/09(土) 22:42:31 ID:nJrForll
「よう、元気か」
 後ろを振り向き、俺の存在を確認したハルヒは、何とも言えぬ表情をしてくれた。
「え?……な……何やってんのよ、あんた! こんなとこで!」
 実にいいリアクションだな。俺は今、目を見開いて驚くハルヒという、すこぶる貴重な場面に直面している。
「こんなとこも何も、ちょっとお前に用事があってな」
「何よそれ。わざわざこんなことまで来る程の用事って何なのよ?」
 用事という言葉が稚拙に感じるほど、程度の甚だしい大役を任されてるんでな。
「まあ、それは置いといてだな。どうだ、楽しいか田舎は?」
「は?……どっちなのよ、まったく。まあ、正直暇ね。ほんとに何にもないし。こうして突っ立って哲学的思考を
廻らせる事ぐらいしかやる事がないわね」
 ハルヒは溜息をつき、その暇さ加減をぶしつけに行動で示す。
「なんだ、おじいちゃんおばあちゃん孝行でもするんじゃなかったのか?」
「してるわよ。今はちょっと息抜きで外に出てるだけなんだから」
 何だそりゃ。暇なのか息抜きが必要なほど忙しいのか、よく解らん言い草だ。
 だが、そんな俺のつっこみをハルヒは無視して、
「そんなことはどうでもいいわ。で、何なのよ。用事って」
 俺は、ひとまず間を置き、目を瞑って緩んだ気持ちを入れ直し、
「ハルヒ、SOS団が今、大変な事になってる」
 真剣な眼差しでハルヒを見据える。
「……ど、どうしたのよ。そんな真剣な顔、あんたに似合わないわよ……」
「長門が消えちまった」
 つかの間、ハルヒの動きが止まる。
「消えたって……ちょっと、あんたが何かやらかしたんじゃないでしょうね。襲ったとか」
「アホか。何だって俺が長門を襲わなきゃならん」
「ならいいけど。あんた、何か心当たりはないの? ちゃんと有希が行きそうなとこは全部探した?」
「ハルヒ、違うんだ。消えたといっても、失踪とか縁起悪いが死んだとかそういうことじゃない。文字通り、消え
ちまったんだ」
 ハルヒは痴呆症患者でも見るような視線を俺に向けてくる。何やら谷口視点に立ったような気分だ。
「……は? あんた何言ってんの? もともとおかしかったけど、さらに輪を掛けておかしくなったんじゃない?
わざわざそんなこと言いにここまで来たわけ?」
「ハルヒ、覚えてるか? 俺がだいたい一年前に……そうだ、あの五月の二人だけの市内不思議探索の時だ。その
時に俺が言ったことをだ」
「覚えてるも何も、二人だけしかいなかったんだから色々会話があったでしょうが。どの話のことよ」
「長門が宇宙人で朝比奈さんが未来人、古泉が超能力者だって話だ。どうだ、思い出したか?」
「思い出すも何も、覚えてるわよ。で、それがどうしたのよ。実はあれは本当の事なんだ、って類の話なら一切受け
付けないから」
「その通りなんだ」
「やっぱり、あんた前にも増しておかしいわ」
「ハルヒ、俺はおかしくなんかなっちゃいない。信じてくれ。お前が信じてくれんと話にならん。長門が消えた
ままになっちまう」
「何であたしが信じないと有希が戻ってこないのよ」
「簡単だ。お前にはそれだけの力が備わっているからだ」
 俺がそう言うと、ハルヒは得意げにそのキュッとくびれた腰に手を当て、
「まあ、確かにあたしの手に掛かれば有希の一人や二人くらい、ちょろっと連れ戻してあげるけどね。でも、いくら
団長だからって頼りすぎはダメよ。団員を成長させる事も団長の仕事の内なんだから」
「それも違うんだ。そういう意味での力じゃない。何というか、お前の力が一番説明し辛いんだよな」
 SOS団の皆でも、三者三様の説明だったからな。
142ラスト・ラプソディ 34:2006/12/09(土) 22:43:15 ID:nJrForll
 だが、やっぱりここはあいつの言葉を借りるべきだろ。
「これは長門の受け売りだが、お前には自分の都合の良いように周囲の環境を操作できる力がある。まあ、要する
にだ。お前が思ったり願ったりすれば、何でもその通りになるって訳だ」
「あっそ。すごいわねあたしって」
 ハルヒはものの見事に信じていない。だが、俺は構わず続ける。
「そう、すごい事なんだ。お前が宇宙人や未来人や超能力者と遊びたいと思ったから、長門と朝比奈さんと古泉が
SOS団にいる。それがお前の適当な人選だったとしても、結果としてお前は的確にあの三人を集めたんだ。お前
がそう望んだからな。そしてだ。お前が長門の消滅を信じ、心から戻ってきて欲しいと思えば、きっと長門はまた
俺たちの前に現れてくれる。ハルヒ、これは冗談でも俺の頭がイカれた訳でも何でもない。まごうことなき、事実
なんだ。なあ、お前はこの一年の間で、何か些細な事でもいい、おかしいと感じた出来事はないか? 今のは気のせい
だと自分に言い聞かせたような出来事はないか? 思い当たる節があるなら言ってくれ。全部真相を話してやる」
 これほどまでに真摯に、俺が古泉ばりの長台詞を放つを目の当たりにし、ハルヒは動揺の色を僅かながら見せ
始めた。
「……じゃあ、仮に、仮によ。みんなの正体があんたの言うとおりだったとして、あんたは……あんたは何者なのよ」
 そりゃもっともな質問だ。俺が一般人だということは揺るぎの無い事実だが、何ゆえに俺がお前に選ばれたかと
いう疑問に関しては、こちとら説明しかねる。なんせ俺が説明して欲しいくらいだからな。
「ああ、俺か。俺は正真正銘、長門と古泉お墨付きの凡庸たる一般人だ」
「何それ……てっきり異世界人とでも言うのかと思ったわ。まあ、当然よね。あんたはどこをどう見ても普通以外
の何者にも見えないわ。じゃあ、何で一般人のあんたが団員に選ばれたのよ」
 そらきた。
「それはこっちが訊きたいくらいだ。何で俺をSOS団に入れたんだ?」
 問い質したつもりが逆に問われるという不意打ちを受けたハルヒは、一瞬戸惑い、
「そりゃあ、何ていうか……あんたの台詞を聞いて思い付いたんだし……その……」
「その、何だ?」
「だから……あーもう! 雑用よ雑用! 雑用係に特別な属性なんかいらないでしょ!」
 ハルヒは口を尖らせてフンと横を向く。見慣れた仕草だ。
「そうか……てことはだな、俺以外の皆は特別な属性があることを信じてくれたって思っていいのか?」
 妙な間が空く。その僅かな間に、一瞬ハルヒの目が泳いだのを俺は見逃さなかった。
 だが、それは誠に一瞬の出来事で、ハルヒはすぐさま気を持ち直し、キッと俺を睨み付ける。
「うるさいっ! 今更……今更そんなこと信じられるわけないでしょ!」
 と、吐き捨てたハルヒは後ろに振り向き、ツカツカと早歩きで立ち去ろうとする。
 だが、俺はハルヒの腕を掴み、
「待てハルヒ! 頼む、信じてくれ。長門を取り戻せるのはお前だけなんだ!」
「あんた、しつこいわよ!」
「お前は長門を見殺しにするってのか!」
「は? 見殺し? 死んだんじゃなくて消えたんじゃなかったっけ!? とうとうボロが出たわね!」
「揚げ足を取るようなこと言わんでいい! 頼むから、長門を取り戻せるよう願ってくれ!」
「黙れっ! もうあんたの話はうんざりよ! 急だけど、なんとか明日に帰ってすぐ有希を探しに行くから、今は
とっととここから立ち去って家に帰りなさい!」
 乱暴女は強引に俺の手を振り払い、今度こそ俺の前から立ち去る。
143ラスト・ラプソディ 35:2006/12/09(土) 22:43:53 ID:nJrForll
 だが、俺はちっとも焦ってなどいなかった。
 俺がこの乱暴女に対して今から投げ掛けるのは、対涼宮ハルヒ用にして最大最強のリーサルウェポン。
 そう、俺はまだ切り札を残している。正真正銘、最後の切り札だ。
 防御回避不能にして絶対必中。
 遠ざかる背中に、俺はそれを放つ。


「待てハルヒ!『あたしならここにいるから早く現れなさい』」


 早歩きで去っていくハルヒの動きが、ピタッと止まった。
 すぐ様こちらへ振り返り、殺気のみで小動物を殺せそうな程、ものすごい形相で俺に近づいてくる。
 そして、俺との距離を詰めるや否や、金でも脅し取るのかという勢いで俺の胸倉を掴む。
 まったく、あの改変世界のハルヒと似たり寄ったりのリアクションをしてくれる。
「……何よ今の。あんた、それどこで覚えた?……」
 先程の小動物殺しの形相をそのままに、俺に凄まじい眼光を突きつけてくる。こりゃ人間でもやばい。
「どこでも何も、これはお前の言葉じゃなかったか? よかったじゃないかハルヒ。彦星と織姫は十六年どころか
たった三年で、お前のこのメッセージの意味するところを実現させてくれたんだからな」
 その凄まじい眼光は、みるみる動揺の色で覆われていく。顔はそのままの形相なばかりに、異様な表情だ。
 同じく動揺の隠せない、端々に震えが感じられる声で、
「……何で、何であんたがそれを……。あれは、あたしとあの時の変な高校生しか知ら……え? まさか……」
 ようやく、俺のしょぼい胸倉が開放される。ハルヒの顔にも、もうあの形相は見えない。

「ハルヒ。俺にはな、お前や皆がこぞって呼んでいるすっかり定着したマヌケなニックネーム以外に、もう一つの
ニックネームがあるんだ」

 そう。それは、四年近くにも及ぶ歳月の間、ずっと温められ続けてきた固有名詞。

「だがな、そのニックネームを知るのは人口約六十億の世界でただ一人。ハルヒ、お前だけなんだ」

「……うそ……そんな……」

 そして、おそらくこの瞬間こそが、俺があの時の七夕へ朝比奈さんと同行させられた、一番とする理由。

「そのニックネームこそが――」


 そして今、すべてに終止符を打つべく一言を、俺は放つ。



「――ジョン・スミスだ」



 はっきりと力強く言うことが可能だった。
 そう、あの時と違い、今はネクタイを締め上げられている状態ではない。
「そんな……あんたが……キョンが……あのジョンだったって言うの? そんなの……」
 何かが限界に達したハルヒの足元がふら付き、よろめく。
 だが、今はもちろんハルヒの隣に古泉の姿は見当たるはずがなく、俺が手を伸ばして支えてやる。
 何というか、これ程までにあの世界のハルヒと同様の反応を見せられると、妙に感心というか納得というか。
144ラスト・ラプソディ 36:2006/12/09(土) 22:44:29 ID:nJrForll
「何で、何であんたにあんな事が……あんたは一般人なんじゃなかったの?……」
 俺の手に支えられつつも、ハルヒは自力で立つべくして体勢の立て直しを図っている。
「ああ、俺は一般人に間違いない。俺に特別な力など皆無だ。あの時、俺が一人の女の子を背負っていたのを覚えて
るか?」
 一瞬、ハルヒは思い出しているような素振りで上に目線をやり、
「……そういえば。なるほど、わかったわ……」
「あの女の子こそが俺を四年前の七夕へ連れて行った張本人、未来人の朝比奈さんだ」
「……そう」
 長門の決まり文句を拝借し、これまた長門ばりの平坦さでハルヒは言う。
 だが、その短い決まり文句のあと、すぐさま顔を俯け口を開かなくなった。
 ここは男として、何か気の利いた台詞なんかをほざいてやるべきなんだろうが、俺に限っては度外れな発言に
到る危険性が高い。
 俺が古泉のようにそううまく言えるはずもなく、不本意ながら黙っている以外に俺の脳が妙案を叩き出すことは
なかった。笑いたきゃ笑え、どうせ俺はチキンだ。
 しばらく、気まずくも二人揃って無言のひと時が流れる。
 そんな気まずい沈黙を破ったのは、最初に黙りこくったハルヒ本人だった。
「……バカみたい。みんなすごい事体験してるのに、あたし一人が普通の事して、くだらない事で楽しいなんて
思って満足して」
「すまなかったハルヒ。お前に黙ってた事はこの通り、謝る」
 普段なら、俺がこいつに頭を下げるなんざ天地が何回転ひっくり返ろうがありえない話だが、まあ、流石に今は
こういう状況だ。だから、な。俺も悪魔じゃないってことさ。
「……もう、もういいわ。……さぞ楽しかったでしょうね、この一年。でも大丈夫、解ってるわ。今はそんなこと
言ってる場合じゃないんでしょ。有希がほんとに消えちゃったんだもんね。……有希」
 解ってくれたか、ハルヒ。いや、お前ならきっと解っ、
「……でも」
 ハルヒはまた、顔を俯ける。唇を噛み締めているのが、僅かに見て取れる。
 そんな直後だった。
 
 油断した。
 
 ハルヒは俺に表情を見せる事無く、見事な速さで俺の手をするりと抜け、一目散に走り出した。
「ハルヒ!」
 もちろん、俺はすぐさま後を追う。
「付いてくるな!」
「付いていかん訳にはいかんだろ!」
 無意識の内にしょうもないダジャレを口走りつつも、俺はなんとか離されるまいと運動不足ぎみの脚に鞭を
入れ続ける。
 だが、そんな出ばなをくじくかのように、俺の携帯のマヌケな着信音が鳴り始めた。
「くそっ」
 何だ、こんな時に。選曲が全く状況にマッチしてないのが無駄に腹が立つぜ。
 俺は走りながらも、おたおたと電話に出る。
『やりましたね。流石と言えるでしょう。今長門さ……』
 プチッ。
 よし、これだけ聞けば十分だ。長門は復活したに違いない。
 すまんが古泉、お前の長ったるい御高説に耳を傾ける程の余裕など、今の俺には皆無なもんでな。
 古泉のインテリジェントトークを三秒で打ち切った俺は、再びハルヒを追う事に全ての神経を注ぐ。
 そうしている間も、休むこと無く激走を続けるハルヒ。
 どうでもいいが、畑を踏み荒らしまくるのはどうかと思うぞ。
「やれやれ、とんだ中距離走だぜ」
145ラスト・ラプソディ 37:2006/12/09(土) 22:45:18 ID:nJrForll
 しかし、何なんだ。いったいどこへ行くつもりだ、あいつは。

 どこへ?

 ……いや、違う。
 問題はそれじゃない。
 この内陸部から走って海を目指そうが、チャリンコが無いために走って駅へ向かうのであろうが関係ない。
 今問題なのは行き先ではない。
 あいつは……。
 いったいあいつは、


 ――何をやらかすつもりだ。


 そう、無意識で、だ。
 最後のすかしっ屁か何だか知らんが、世界をどうにかしちまうような事だけは御免だぜ、ハルヒ。
 しかしだな。それを阻止する為には、まずあいつに追い付く事が必須条件な訳なんだが。
 何つう俊足だ、あいつは。韋駄天もいいとこだ。
 あいつに、男の俺を立ててあげようという類の気遣いでも生じない限り、追いつける気が毛頭しないのだが。 
「はあ、はあ……頼むから止まってくれ」
 そりゃ独り言も多くなるってもんだ。 

 そんな独り言オンパレードもいよいよ折り返し地点に差し掛かろうとしたその時だった。 


 ――きた。


 この感覚。
 長門が世界を再改変した時の、あの世界が捻れる様な感覚。それと酷似しているが、比べるとごく小さい。
 あれの予兆のような雰囲気を感じる。
 まずい。これは非常にまずいかもしれん。
 この一年で培った俺の直感曰く、放っておくと直ぐにも破滅的な方向に向かいかねん。

 そこでまた、俺の携帯が鳴り始めた。
 もう無視でいいだろ。許せ。

 『着信 朝比奈みくる』

 よし、気が変わった。出よう。
『キョキョンくん! じじ時空震が起き始めてますぅ! このままだと……』
 やっぱりか。俺の直感も捨てたもんじゃないぜ。
「はあ、はあ……大丈夫……はあ……です。俺が……はあ」
 走りながら喋るってのは、やたらと体力を削るもんだ。
 だが、ここで体力が尽きる事はゲームオーバーに等しく、俺は早々に朝比奈さんとの通話を切り上げ、再びハルヒ
との鬼ごっこに専念する。相手が岩かと思えば次はハルヒかよ。
 俺は電話を切る際に、時刻を確認した。

 六時五十五分。

 確かハルヒのとんでもパワー封印は七時十五分。
 あと二十分。
 これは長いのか短いのか。
 どちらにしろ、タイムオーバーを狙うのはリスクが高すぎる。
 ということは必然的に、俺がハルヒに追い付く以外に打開策は無いことになるが……。正直、体力的にはもう
かなり厳しいところだ。追いつけんのか、これ。
146ラスト・ラプソディ 38:2006/12/09(土) 22:45:56 ID:nJrForll
 だが、俺の必死の追跡も空しく、いかんともし難い運動能力の差で、先程からハルヒとの距離は開く一方だった。
 そして、ハルヒが建物の角を曲がるところを見たのを最後に、俺はとうとうハルヒを見失ってしまった。 
「はあ、はあ……どっちだ?」 
 T字路を勘で右折する。
 ちくしょう。徐々に時空震がでかくなってきやがる。

 六時五十九分。

 こりゃこの調子だと十六分経たないうちに、ハルヒにとんでもない世界にされちまう。
 まったく、あいつは何だってこんな大それた事を仕出かそうとしてやがる。
 もう今のハルヒなら、これほどの厄介事は起こすまいと思っていたんだが……。どうやら浅はかだったようだ。
 まあ、そりゃ多少ショックなのは全く解らんわけでもないが……。
 そりゃハルヒにとって宇宙人未来人超能力者というものは――


 ――ああ、そうか。


 そりゃそうだよな。


 ハルヒはずっと何年も、そう、俺が漫画的特撮的な非日常にふらっと出くわすのを夢見ることをやめてからも
ずっと、諦めることなく願い続けてきたんだよな。しかもそれは、ジョン・スミスであるところの俺のせいだと
いう事実が、少なからずある。
 そして、そんな心の底から願い続けてきた事がようやく実現したってのに、それを知ることはなく、むしろ今の
今まで隠し続けられて。
 だが、隠さなきゃならなかった、って事はハルヒも解ってくれてるんだと思う。
 解ってるが故に俺に文句も言わず、だが湧き出てくる感情をどう処理していいのかも解らず、思いのほか走り
出しちまったんだよな。一人になりたかったんだよな。
 それだけじゃない。他にも色々と思うところがあるんだろう。

 ……やりきれねえよ。
  
 これは、誰かが悪い訳じゃない。つまり、諸悪の根源というものは存在しないんだ。
 でもな、だからって何一人でウジウジしてんだ、ハルヒ。らしくもない。
 なら、ここぞとばかりに俺に当たればいいじゃねえか。いつもの事だろ?
 お前に唾と共に暴言を浴びせられるなんて荒事は、俺はもうとっくに慣れてるんだからよ。
 ここ一番って時に一人で抱え込んでどうすんだ。
 まったく。
 しょうがねえ、今回だけだぞ。どこぞのスーパーではないが、特別出血大サービスだ。
 仕方なしにではなく、俺自ら当たられ役に立候補してやる。
 だから。



 ――待ってろ、ハルヒ。


 
 そんならしくないお前なんぞ、ちっとも見たいと思わねえからな。
147ラスト・ラプソディ 39:2006/12/09(土) 22:46:39 ID:nJrForll
 七時二分。

 俺がひと通りの思考を巡らせ終え、時刻を確認した直後。
「いた」
 倉庫らしき建造物のシャッターの手前に、膝を抱えて座り込んでいるハルヒの姿を捉えた。
 まったく、マジでらしくもねえ格好してやがる。
 近づく俺に対して、ハルヒはもう逃げる様子は見せない。
「おい、何で逃げたんだ」
「……うるさい。付いてくんなって言ったでしょ」
 ハルヒは、俺の方に顔を向けずに言う。
「ったく。なに塞ぎ込んでんだお前は。らしくもねえ」
「……何よ、それ」
「いつからそんな気弱になっちまったんだ、お前は」
「うるさい……うるさいうるさいうるさい! あんたに……あんたにあたしの何がわかるってのよ! あんたは
いいわよね。この一年、あんたはさぞ楽しかったんでしょうね。色んな事体験したんでしょうね。ひそひそと
あたしに隠しながら有希やみくるちゃんや古泉くんとよろしくやってたんでしょうね、どうせ!」
「ああ、色々と不可思議な体験をさせてもらった。二度ほど命を失いかけたがな。けどな……」
「けど何? 隠さなきゃいけなかったって? 解るわよそれくらい!」
「ならいつまでもウジウジしてんじゃねえ! これからいくらでも不思議的非日常的体験をすればいいだろ!
だが、確かに隠さなきゃならなかったとはいえ、隠してたという事はマジで謝る。だからそろそろ立ち直れ!」
「やっぱりあんた全っ然わかってない! そんな単純じゃないのよ! あんたが……あんたがあたしを北高に導いて
おいて何そのザマ!」
「じゃあいったい何だってんだよ!」
「そんなの……あたしにも解んないわよ!」
 なんだそりゃ。相変わらず目茶苦茶な物言いだ。
「……もう、もういいわ……」
 時空震の予兆の膨らみ方が、先程よりも勢い付き出している。
「……おい、待て、やめろ」
「は? 何が」
「いいから、とりあえず落ち着け……」
「落ち着け? あんたが……あんたが解ってないこと言うからでしょ!」
「わかんねえよ! 俺に読心術などの能力は持ち合わせてねえ!」
「うるさいっ!!」
 まずい。もう予兆なんかじゃねえ。
 くそっ。つい感情的になってしまう。
 世界の危機はもう目の前に控えてるってのに。
 俺は……俺はハルヒに何を言ってやればいい?
 どうすれば……どうすりゃいいんだ?
 
 七時九分。

 あと六分。
 無理だ。ニ、三分ももつかどうか怪しい。

 何か、何か打開策は無いのか?
 時間がない。
 考えろ。
 何かあるはずだ。
 今ばかりは、世界はマジで俺の双肩に懸かっている。世界も安くなったもんだ。
148ラスト・ラプソディ 40:2006/12/09(土) 22:48:57 ID:nJrForll
 ヒント。
 そうだ、ヒント。朝比奈さん(大)のヒントだ。
 あの時、朝比奈さん(大)はすでにヒントは言ってあると言った。

 どこでだ?

 どこで言ってた? あの日の会話を思い出せ。
 何か、それらしき事を言ってなかったか?
 
 ……くそ、解らん。
 ていうかだな、あの日の会話とは限らないんじゃないのだろうか。
 だとすれば、今までに交わしてきた朝比奈さん(大)との会話を全て思い出さなけりゃならん。
 ……勘弁して下さいよ、朝比奈さん。
 だが、今は愚痴をこぼしている時間などない。
 全ての神経を記憶中枢に注ぎ込め。
 
 思い出せ。全ての言葉を。
 何か。
 何かあっただろ?



 くそっ。

 ……無理だ。
 ていうか、朝比奈さん(大)のヒントといえば、



 『白雪姫って、知ってます?』



 これしか思い出せねえ。





 ……って。



 
 ……まさか。




 ……マジですか、朝比奈さん。

 あのヒントが今の状況にも掛かっていたとでも言うんじゃなかろうな?
149ラスト・ラプソディ 41:2006/12/09(土) 22:49:33 ID:nJrForll
 ベタだ。またしてもベタだ。
 最後の最後で、再びこんなベタな展開が待ち受けていようとは。
 この展開で始まり、この展開で終わるなんざ、今時てんで安っぽい昼ドラでもありゃしねえ。


 だが、今の俺には、もう迷いなど無い。そんな時間も無い。


 俺は、ハルヒの両肩に手を置く。




 そして。




「もう知ってるかとは思うが、俺、ポニーテール萌えなんだ」
  『俺、実はポニーテール萌えなんだ』


「……え?」
  『なに?』





 ――そう、それはまるで。





「一年前に見たお前のポニーテールは、そりゃもう反則なまでに似合ってたぞ」
  『いつだったかのお前のポニーテールは、そりゃもう反則なまでに似合ってたぞ』





 ――あの場面の焼き増し。





「……それって」
  『バカじゃないの?』


150ラスト・ラプソディ 42:2006/12/09(土) 22:50:12 ID:nJrForll
 それは、俺とハルヒにとって通算二回目の。


 そして、現実世界に限っては俺たちの、




 ――ファーストキスだった。




 あの時よりも長く、俺たちは唇を重ねる。


 ハルヒの肩に入っていた力はすでに抜け、俺に体を委ねてきた。


 そんな時、またしても俺は思ってしまったのさ。



 ――しばらく、離したくないね。



 時空震が、


 治まっていく。


 そして、
「……落ち着いたか?」
 俺はハルヒの両手首を握る。
「……けっこうね」
「そうか、そりゃ良かった」
 言葉はこれだけだった。
 しばらく、俺たちはそのまま無言で身を寄せ合う。
 握っていたのは手首だったところが、いつの間にやら掌に変わっていた。
 そして、とうとう。



 ――七時十五分。



 すべてが今、終わりを告げた。
 この一年に及ぶ純然たる戦いに今、幕が下ろされた。
151ラスト・ラプソディ 43:2006/12/09(土) 22:50:50 ID:nJrForll
「……ハルヒ、今まですまなかったな」
「……もう、いいのよ」
 お互いに手を撫で合いながら、虫が蠢くほどの小さな声で囁き合う。
 何だろな、これ。この状況。この状態。
 後から客観的に考えると、どう捉えても自殺を図りたくなるであろうこと請け合いなのだが、この時ばかりは、
まあ、何だ、ほれ。
 ずっとハルヒとこうしてたい、などという血迷い事が脳裏をよぎったのさ。
 たから、な、今からの俺の行動や発言も、その血迷い事の範疇だと思ってくれ。むしろ、そう思ってくれんと生きて
いく自信がない。
 準備はいいか?
「ハルヒ、これからはもう何があっても一人で抱え込むんじゃない。だから、まあ、何だ、全部俺が受け止めてやる
からさ」
「……キョン、ありがと」
 潤んだ瞳を伴った上目遣い、柔らかな口調、まったくらしくねえ。ハルヒの分際で、何て反則的な事しやがる。
 俺のミジンコ並の調子なんか、狂って当たり前だ。そうだろ?
 だから、だから俺はこんな破滅的な行動に出ちまうんだよ。
「……ハルヒ」
 今一度、俺はハルヒの両肩に手を置き、そして。


 通算三度目。


 現実世界で二度目。


 今度は、その行為が成される前にハルヒも目を閉じるのが見て取れた。


 ――俺の唇が、再びハルヒのそれと重なる。


 ああ、もう、何だろな、これ。悪魔が俺の唇をハルヒと離れさせまいとしている。随分と長いんじゃなかろうか。
 なあ、もう俺も帰るの明日でいいか? このまま離れたくないんだが。
「……ん」
 なんとか俺の理性が悪魔に打ち勝ったようで、長かった口付けにようやく終止符を打った。
「……ハルヒ、俺はもう行かないと今日中に帰れん」
「……そう」
「そういえば長門は戻ってきたようだから、お前は明日に帰んなくてもいいぞ」
「……ううん。やっぱり、明日帰るわ」
「何だよ。せっかくなんだし、もっとゆっくりすればいいじゃないか」
「……いいのよ」
「何がだ」
「……もう、そう決めたのよ」
「何でだ」
 ハルヒは、なぜかみるみる顔を真っ赤にして口を尖らせ、
「もう! バカ! ほんとのほんっとにバカね、あんたは! 何であたしにそんな事言わせるのよ!」
 何だかよく解らんが、ようやく元のハルヒに戻ってくれたようだ。
 やっぱりこいつはこうでないと、俺も本調子になれん。
 安堵の意を込めて、俺はハルヒの頭をポンポンと軽く叩き、背を向けバス停へと向かうことにした。
 ハルヒは何やらまだ喚いていたが、それもいつもの事。

 今はハルヒの罵倒が心地良く、俺の頭に響いていた。





152ラスト・ラプソディ〜エピローグ 1:2006/12/09(土) 22:52:14 ID:nJrForll
 ここからは後日談となる。

 俺にとっては、とにかくあらゆる意味で大仕事となった最終決戦の直後、ハルヒは明日に帰るだの帰らないだの、
どうでもいいような事でわあきゃあ喚いていたが、結局あれから明後日に帰って来ることになった。
 そんなこんなで日が沈んだり昇ったりを二度ほど見送り、つまり今日がその明後日に当たるという訳だ。
 そんな明後日な今日に、俺は何をしているのかというと、
「本当にあなたは良くやってくれました。もう何と感謝して良いのか、それに値する言葉が見当たりません」
「ありがとう、キョンくん。一時はもう時空震がすごく大きくなりそうで、ほんとに焦っちゃいましたけど」
 SOS団のメンツ揃い踏みで親分どうぞとばかりに、すべからずしてハルヒを出迎えようとしていた。
 もちろん、そこには、
「…………」
 無事、復活した長門の姿もある。
 お前が戻ってきてくれて、ほんとによかったよ。
 こればっかりは、あの時強情にも諦めようとしなかった古泉のおかげだと言ってやってもいい。実際に口には
出さんが。
 何事も投げ出さずに諦めない事が大事だという、とてつもなくベタな事を身を以て知らされることになったな。
負けない事投げ出さない事逃げ出さない事信じ抜く事。ありがとう、懐かしき大ヒットソング。
「長門さん。情報統合思念体は、記憶の改竄を行わないつもりだったのですか? それとも、もう少し後に行う予定
だったのでしょうか」
 そう。その事に関しては俺も疑問に感じていた。
「行わない予定だった。統合思念体は、涼宮ハルヒの能力が封印される事を事前に知っていた。だが、今のままでは
進化の可能性の糸口を全く掴めないまま終わってしまう事に相応しい」
 そこまで言い終えてから、長門は俺に視線を向け、
「あなたが涼宮ハルヒに事実を告白することによって、大きな情報フレアが起こる事に統合思念体は賭けた」
「なるほど、その大きな情報フレアから進化の可能性を見出そうとしたのですね」
「そう」
「確かに、またいつ涼宮さんの力の封印が解かれるか分からないですからね。もしかすると、もう解かれることは
無いのかもしれないですし」
「わたしに、涼宮ハルヒの能力の封印に関する事項は、一切知らされなかった。だから、記憶の改竄は行われるもの
と認識していた。誤算だった。けど……」
 長門は一旦呼吸を置き、
「誤算でよかった」
 何だろう。古泉の長門を見る目が以前より、何というか優しさが込められているような感じを受ける。
 そういや、さっき古泉が来る前に長門が「古泉一樹から、多大な量の謝礼の言葉を受けた」って言ってたっけ。
 よく考えりゃ当然だな。長門は自分を犠牲にして古泉の命を救ったんだからな。何だか二人いい感じじゃない
か。よもやこのまま古泉と長門が……。
 ……いやいやいや、それはない。ありえんだろ。たとえあったところで、そんなことは俺が断じて許さん。別に
俺が長門とどうこうなりたい訳ではないが、長門にしろ朝比奈さんにしろ、まあ、ハルヒにしろ、他の男とどうにか
なるのは何だか釈然としない。
 俺もハルヒとあんな事があったばかりだってのに、何を考えてんだかね。思春期特有の妙な独占欲だろ、たぶん。

「そろそろ、涼宮さんが到着する頃でしょうか」
 皆が、めいめいの雑談に花を咲かせているさなか、巣からわんさか出てくる蟻のように、駅の改札口から人が溢れ
出してきた。
 俺を含め、皆が改札口周辺に照準を合わせキョロキョロと視線を泳がす。
 いよいよ、その改札口の一角から、
「待たせたわね!」
 ギラギラしたオーラを纏った女王蟻が、俺たちの前に堂々と姿を現した。


153ラスト・ラプソディ〜エピローグ 2:2006/12/09(土) 22:52:50 ID:nJrForll
 それからの春休み、俺たちSOS団はといえば、団長の号令のもとかの有名学園ドラマのオープニングに見る
生徒のように金八よろしくハルヒのもとへ素早く集合し、相も変わらず様々なイベントをこなしている。
 ハルヒの力が封印されたところで、結局やる事は一緒ってわけだ。だが今までと違うのは、差し当たり妙な厄介事
に巻き込まれることが無くなったという事だ。
 何だかんだ言いつつも俺はそれなりに楽しんでいただけに、終わってしまって寂しくないと言えば嘘になる。
 まあ終わってしまったものは今さら何を言おうが仕方がない。覆水盆に返らずってやつさ。
 
 さて、SOS団の特別属性持ち団員である俺以外の三人についてだが、どうやら現状に変わらず引き続きここに
居座ることになったようで、俺としては喜ばしい限りだ。おそらく皆にとってもそうだろう。
 その事について、俺は皆から三者三様の説明を受けたんだが、つまりハルヒの力がいつまた開放されるか解らない
が故に、続けて観察の任務を全うすることになった、という事らしい。俺なりの解釈によれば三人ともだいたい
こういった内容の説明だった。
 だが長門に関しては、どうやらハルヒへの説明不足が仇となったのか、能力のシバリは付いたままらしい。まあ、
ハルヒに力が皆無な現状では、そうそう俺たちにちょっかいを出してくる輩も存在しないことだろうし、さほど
心配することでもないだろう。
 とにかく、SOS団からは誰一人とも脱退者が出ずに来年度を迎えることができるというわけだ。


 そうして最後になったが、ああいうことがあった俺とハルヒはといえば、
「…………」
「…………」
 今日も今日とて、花見というこれまた日本人としては外すことのできない風習に我らがSOS団も乗っかろうと
いうことで、俺は集合場所の駅前にて皆が揃うのを待ち呆けているのだが……。
 偶然なのかワザとなのか、集合時間十五分前にも関わらず、俺とハルヒ以外のメンツはまだ姿を現さない。
「……お、遅いわね。みんな」
「……そ、そうだな。まあ、約束の時間まであと十五分あるしな」
 皆がいる時はさしてそうでもないのだが、二人きりになるとどうにもお互いを意識してしまう様子で、何だか
妙にぎこちない。唇にあの暖かい感触が蘇る。うむ、実にやーらかかった。
「ちょ、ちょっと。あんたじーっとどこ見てんのよ」
 まずい。何やら無意識の内にハルヒの唇に見とれていたらしい。
「い、いや、つい、ちょっと考え事をだな……」
「……ふーん、考え事、ね」
 それはともかく、そのぎこちなさも嫌な感じはしない。何というか、この微妙な距離感がもどかしくも意外と
心地良い。
 ハルヒは、あれから俺の事をどう思っているのだろうか。
 一方俺はといえば、たぶん、まあ、ほれ、あれだ。世間一般でいうところの、きっとそういうことなんだろう。
 
 だが、当分はこのままの関係で十分だと俺は思っている。つまり恋愛的愛憎的な進展とやらは、まったくもって
今は望んでいないということだ。
 もちろん、今の俺はハルヒに対してそういう類の感情を抱いている事は否定しない。
 だが、俺とハルヒがいわゆる恋人同士とやらにでもなろうもんなら、今のSOS団の人間関係が壊れてしまう
ような気がしてやまない。
 だから、当分俺はハルヒに対する接し方を以前と変えるつもりはない。
 ハルヒだって、俺に対して普通に振る舞おうとしてるように見えるしな。
154ラスト・ラプソディ〜エピローグ 3:2006/12/09(土) 22:54:01 ID:nJrForll
 今の俺にとっては、SOS団が何よりってことさ。 


 お前もそう思うだろ?



 ――なあ、ハルヒ? 





 ああ、そうだ。

 ひとつ忘れてた。



「ハルヒ」
 

 そういや、


「何よ」  


 最後にこれだけは言っておかなきゃならない。





「それは、俺にはマジで笑えることだったんだ」



「……は? 何が」





 気付けばもう丸一年。
 本格的な春を告げる暖かい風が、俺とハルヒの頬を優しく撫でていた。








                                  ――――ラスト・ラプソディ
155ラスト・ラプソディ:2006/12/09(土) 22:55:04 ID:nJrForll
以上です。
ありがとうございました。
156名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 22:58:21 ID:2yJYNyEy
長編投下乙
じっくり読ませて貰うよ
157名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 23:00:59 ID:ylWi2n0A
ネ申乙
158名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 23:09:17 ID:4KSZV6gi
リロってよかった
危うく神の直後に駄作を投下するとこだったぜ
159名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 23:09:57 ID:8/QE2Alp
超乙
一気に読んだ

けっこうあっさりしてたがとてもおもしろかた
次も期待してるよw
160名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 23:14:09 ID:mUecM1Ko
パンジー出すとは……




GJ
161名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 23:27:29 ID:fWZe22uG
これは偉業だ。よくここまで頑張ったと言いたい
俺も書いてるからこれがどんなに大変なことかわかるつもりだ
とにかく今から読む
162名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 23:29:16 ID:2yJYNyEy
>>158
YOU投下しちゃいなYO
163名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 23:46:24 ID:PerWtCaJ
すげぇもん見せてもらいました。乙です
164名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 00:17:04 ID:IS+2nm1b
なんつーものを読んじまったんだ
凄いよ
165名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 00:26:10 ID:0I8n9RaQ
GJ!古泉の所で血の気が引いて、憂鬱ラストシーンと重なり合うところで鳥肌たったよ。
蛇足でタイムカプセルに何が入っていたのかが非常に気になるんだが、
これは続編に期待してもいいのかな?かな?
とにかくすげー乙!
166名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 00:51:15 ID:pucwhAVv
推敲が丁寧だったなぁ……。
文の組み方が整ってて読みやすかった。
見た範囲では誤字とかなかったし。
書いた後けっこう長い時間読み直したんだろうなぁ……。
作品への愛を感じたぜお疲れ!
167名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 00:53:35 ID:Jpzii+RG
乙です。
やっぱハルヒは真実を知らされるとショック受けるだろうな。
168名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 01:00:53 ID:0eTY6Yd3
たいへんよくがんばりました
169名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 01:10:19 ID:UVdf+8cY
文章の筋がたってて長文なのにすんなり読めた。
素晴らしくGJ
ただ回収されてない伏線がいくつかある気がするけど…。そのせいかちょっとモヤモヤした
170名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 01:37:07 ID:matgJ1Ao
乙でした。

やっぱり、タイムカプセルの中身だよなぁ。
長門があのタイミングで能力を使用したのと、大量の栞には、絶対何かあると思ってたのに。
171名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 01:53:13 ID:g4/fc6iz
まがいなり、の分引いても100点超える傑作だと思う。やっぱ才能かぁ…。
172名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 01:54:13 ID:Xn+tHJ8H
おもしれーーーーーーーー!!!!
久々に長編読んだぜ。GJ
173名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 01:57:24 ID:6Vz9z4h4
神乙
久々にいいもの見せてもらった。
ありがとう。

174名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 02:38:49 ID:g1G+5KBQ
一つ個人的に気になった点をあげると
、は全角で打った方が良い
175ラスト・ラプソディ:2006/12/10(日) 02:39:41 ID:UPdQVi/F
感想、指摘を下さった方々、ありがとうございます。
最後まで読んで頂けたという事が嬉しいです。

タイムカプセルについてですが……
正直、長門を連れ出す為の前フリということ以外、何も考えてませんでした。
また練り込みが甘かったようです……。
次回、また長編を書くようなことがあれば、しっかりストーリーを練り込みたいと思います。
176名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 02:44:31 ID:TG50oQvA
長門が消えたあと敵対勢力はどうしてたんだ?
177名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 02:55:53 ID:gSbutVzZ
もちろん面白かったし、何より愛と努力を感じるね。
178名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 02:58:53 ID:6Vz9z4h4
もしかして少年オンザの人?
文章の感じが似てると思った。
179名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 03:01:04 ID:0I8n9RaQ
>>175
そ、そうだったのか……
個々人が秘密裏に何を入れたのかが気になっただけなんで、まあ、あまり気になさらずに
あともう一回読み直した時に気付いたんだが、細かいけど、>>151の8行目の冒頭は「たから」ではなく、「だから」かなと思うんだが…
傑作なので誤字は勿体無いと思ったんだが、違ってたらスマソ
次回作にwktkしてるっぜ!
180名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 03:41:57 ID:k64IIqN/
一言、上手いです。

個人的には、キョンの心情描写やハルヒの言動が原作と比べても殆ど違和感無いのに感心した。
特にキョンなんかは自分なんか書こうとしても、やりすぎると唯のうざい愚痴キャラ
かと言って弱めにしてもお人好し過ぎキャラなってしまったりと極端になってしまいがちで
憤慨あたりの「表向きは何だかんだ言っているが時折SOS団活動や非日常現象を楽しんでいるという本心をちらっと見せる」
って心情を表現するのが案外難しいんだよな。相当原作読み込んで練っているな、って感じがしました。

後、SOS団面子5人それぞれの出番配分や役割のバランスもよく丁寧に作り込まれているのもGJ
181名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 03:43:08 ID:gSbutVzZ
>>178
違う方の作品ですよ。
182名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 04:24:46 ID:KOkbbgRj
GJ、そして乙。面白かったよ。
一気に読んだが、これだけの量をストレスなく読ませるって凄いなあ……。
憂鬱と消失をリプレイしたネタばらしのシーンとか色々と張り切る古泉とかもう最高でした。

タイムボックスは俺も気にしてた。最初はドラ最終回やジュブナイルみたいに
長門復活のカギがタイムカプセルに入ってて、記憶消えたまま十数年後に掘り起こし
それを見て長門を思い出して再生するのかと思った。
183名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 05:02:17 ID:pmX0XAKG
久々にリロード連打するほどwktkさせて貰ったぜ
GJ!
184名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 05:30:07 ID:cZlBBAYC
三等親ほどの親密さで
三等親・・・
三等親???
185名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 05:40:12 ID:d+oT9A5l
長編ウザすぎスルースルーと思ったんだが、きまぐれでちょろっと読んでみたら全部読んでしまった。
ラプソの人GJすぎるよ。
でも、タイムカプセルの中身は俺も気になる。
186名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 05:54:28 ID:pmX0XAKG
きっとキョン妹が入っていたんだよ
187名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 08:50:10 ID:VSMxjAQa
>>184
先頭の行でいきなりそれだから余計気になるんだよねw
これちゃんと校正・推敲できてるのかと・・・
まあ読み進めてるうちにそんなの気にならんくなったけどw
188名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 14:29:42 ID:pucwhAVv
SSは読む人を先が気になる状態にできたらおkなんだよな。
189名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 14:34:01 ID:5nvpziw6
>>187
まあ、確かに。

はじめ読んだときは気にならなかったけど、
「一定以上レベル」とか「時期早々」とか「甚だしく以外」
というのもあった。

でも、面白かったから良し。GJ
190名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 15:18:32 ID:SAovVx14
もう一晩寝かせて推敲すれば完璧だったわけか……

しかし面白かったしGJ!
あんたにはこれからも期待!
191名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 16:05:13 ID:qRTT4Nta
これはGJ
192名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 17:48:03 ID:pucwhAVv
次SSまでのCM


――act.1?――


どこからが物語で、どこまでが現実か。
そのような疑いを、普通の人間は持たないものである。


「茉衣子くん!茉衣子くんはおるかね!」
白衣の長身、宮野秀策は朗々と叫んで登場した。
「何ですの?いつにも増して騒々しい」
光明寺茉衣子は、宮野と好対照をなすおなじみの黒衣姿で現れる。
「大変だぞ。とうとう私はこの世界の心理とも呼ぶべきものに突き当たってしまった!」
「例によって意味が分かりません。第一に相手に分かるよう努力なさったらいかがですか」
宮野は横を向いて腕組みをした。一人知った風な口調で
「やはりこの世界は有限であった。私はその果てがどこにあるのか分かってしまったのだよ」
茉衣子は頭を抱える。
「班長が二十四時間寝言を言える人物だということはとっくの昔に分かっていましたが、
 寝言はせめてベッドで言ってくださいますか」
宮野は聞いているのか否か分からない頷きをしていたが、
「そういうわけで私は早速とこの世界から飛び出すことにしよう。
 茉衣子くん、すまん。今は君に添い寝してやる暇などないのだ。さらば!」
そう言うと宮野は本当に姿を消した。さて、どこに行ったのだろう。
茉衣子は面食らったように立ちすくんでいる。
「は……班長!無責任にも程がありますわ。TPOをわきまえてください!」
茉衣子はしばしの間逡巡し、
「困りましたわ……。班長しか頼れる人はいませんのに。
 あんなトサカ頭しか頼れないこの状況自体許しがたいことですが。
 始まってしまった以上は仕方ありませんわね」
宮野はいずこかへ消えたきり戻ってこない。
茉衣子が黙ってしまうと、他に誰もいないこの場所には静寂が訪れる。
「ふむ……なかなかにあそこは興味深い場所であったな」
突然宮野が戻ってきた。茉衣子は仰天して振り返る。
「……いつの間に戻ってきたんですか!礼儀をわきまえなさい。
 人の後ろに現れる人間がどこにいるというのですか!」
「何を言う。私はいつだって礼節を欠かさぬ男なのだ茉衣子くん。
 さぁ、ちょうどいい頃合である。添い寝ならば付き合おう!」
茉衣子は眉間にシワを寄せ目を閉じつつ、
「けっこうです!」
193名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 17:49:05 ID:pucwhAVv
ひとつ手前の空間から声が聞こえる。
「すごいねー。兄さんの言った通りだぁ」
「だろ。あいつらに台本なんかいらないんだ。一行も読みきらないうちに脱線するのは目に見えてるからな。
 ならいっそ初めから全部アドリブにさせてしまったほうがいい。
 筋書きなんてあいつら二人にとっては足かせにしかならないんだ」
高崎兄妹が並んで椅子に座っている。
ここは第三EMP学園多目的ホール。
「学園祭かぁ……。今年ものんびりできそうにないなぁ、あたし」
高崎若菜が白黒コンビのノンストップトークを眺めながら言った。
「お前は誰からも頼まれごとを引き受けすぎなんだ」
高崎佳由季は嘆息した。
「しかしまぁ、本当にどんどん逸れていくなあいつら……」
その言葉を聞いた若菜はたずねる。
「何ていう演目なの?これ」
佳由季は目をつぶってそらんじる。
「ロミオとジュリエット――新説」
「分かる人いるのかなぁ……」
「分かるようなやつはキャストを見た時点で見に来ないし、
 分からないやつはそもそも分かるかどうかなんて期待してないだろ」
佳由季は両手を組んで後頭部にまわした。
若菜が尋ねる。
「ところで、これ誰のアイディアなの?」
「真琴だ。こんなアホな舞台を用意するような奴、他にいないだろ」
<<アホは余計よ>>
突き刺すような思念が佳由季の頭に届いた。
気配を感じて振り返ると、一番後ろの席に縞瀬真琴が座っていた。
<<あのコンビの夫婦漫才さ、学内に結構隠れたファンがいるらしいのよね。
 梅雨時に二人の偽者がわんさと湧いたのはユキちゃんも覚えてるっしょ?
 あたしの考えだと結構な観客動員数になるわよ>>
真琴はパーフェクトにウィンクした。
佳由季は半ばあきらめと呆れの境地で、前に向き直った。
舞台上には二人の声が轟いている。

「だから何度いったら分かりますの!大体はじめて会った時から班長は……」
「あの出会いは私にとっても忘れがたい思い出の一ページであるな。
 何せあの時は親不知が痛くて痛くてたまらなかったのだ!
 茉衣子くんも親不知には注意するがいいぞ。師匠からの忠告だ!」

そして佳由季は思った。
……これ、いつ終わるんだ?


(了)
194名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 18:08:09 ID:TruAxavo
GJ 期待してる

>>96
あのオリジナルシーンを作った京アニに賞賛を送りたい
195名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 19:10:02 ID:U5PakkKZ
>>192
CMなんて謙遜しなくていいよ、楽しい。
ユキちゃん、テニス漫画のダブルスやフィギュア漫画のペアのときに出てくる脇役みたいに得意そうに解説してるな。
196名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 21:16:07 ID:Md7z25d+
投下します。
古泉もの。
197古泉一樹の特権 1/3:2006/12/10(日) 21:18:10 ID:Md7z25d+

 放課後、僕が部室の扉を開けると、そこには長門さんしかいませんでした。
「おや、長門さんお一人ですか」
 長門さんは本に目を落としたまま無言です。見ればわかるだろう、といった風情ですね。
 僕は自らお茶を淹れ、ついでに長門さんの分も注いで彼女の側に置きました。これも無反応です。
 出会って一年、共に当たった事件の数も、増えてしまいましたが、彼女の口数だけは増えません。少なくとも僕の
前ではね。
「前から思っていたんですけど、長門さんは僕には冷たいですよね。いや、長門さん『も』というべきでしょうか?」
 少しは反応してくれてもいんじゃないでしょうか。いや、別に寂しくなんてないですけどね。
 長門さんは唇以外の全てを固定したまま口を開きました。
「この時代の一人類として古泉一樹という個体は極めて特殊。涼宮ハルヒに関わったことで、それが突出した」
 ええ、仰りたいことはだいたいわかります。 僕らの自称をそのまま受け入れるとして、長門さんと朝比奈さんは
涼宮さんがいなければ、この時代この場所にいることは決してないでしょう。でも僕は、涼宮さんがいなかったとし
てもここにいられる可能性がある。この時代を生きる人間ではありますからね。
「結果、わたしと情報統合思念体双方に対する理解力を持ちすぎた」
「なるほど、見透かされるのが嫌だから、必要がなければ喋りたくない、と」
 長門さんの眉が少し上がったような、ページにかけた指が少し動いたような。
「でも長門さんは、言語などという不確実な伝達方法に頼らずとも、別の方法をお持ちでしょう。限定された条件下
における能力者でしかない僕にその方法が通用しないというなら、僕には喋らなければいいのですよ。そうすれば僕
も解釈の仕様がない」
 見透かされるのが嫌だ、というのは実に人間的な感情であると言えますが、お気づきでしょうかね。長門さんが自
意識を持っていないのなら、僕がうっかり掘り出してしまう真実はそこには存在せず、背後に見えるのは中河くんで
したか、彼が見たようにあなたよりも上の存在でしょうから。
 長門さんは、僕の淹れたお茶で満ちたカップに指先で触れて、すぐにひっこめました。
「朝比奈みくるだけでなく彼も、わたしに対する論理的理解が追いつかない。多分、根本的な情報量と学力と蓄積し
た経験の差からくる思考限界の違い」
 直感的には理解しているんでしょうけどね。まあ、そのへんは長門さんも言わなくてもわかっているんでしょう。
にしても、彼と長門さんが二人きりのときにどういう話し方をしているか気になります。
「つまり、僕の存在が翻訳者として有為であると認めてくれているけれど、性格は信頼できないのでこれ以上の情報
を与えるのを躊躇する、といったところでしょうか。ご心配なく。長門さんが伝えてほしくないことを、彼に伝えた
りは決してしませんし……」
 唐突に、何の前触れもなく、僕の湯飲みが文字通りに弾けました。
 既にお茶が温くなっていたのが幸いでしたね。
198古泉一樹の特権 2/3:2006/12/10(日) 21:19:36 ID:Md7z25d+

ノックの前に聞こえてきた破砕音に、俺は手の平を180度返して部室に飛び込んだ。
 少しは俺の心を落ち着かせてくれ。お前らはどうしてそうなんだ。
 俺はてっきり、ハルヒが朝比奈さんに無理無体を働きでもしたついでに棚から古泉の持ちこみやがったボードゲー
ムが華麗に直滑降でもしたのかと思ったのだが、そこにいたのは意外や意外、長門と古泉だった。
 古泉専用カップらしき色の陶器の破片が粉々に散っている。長門のカップからは僅かに湯気が立っていた。それを
挟んで向かい合っていた二人がこちらを向く。
 俺が絶句していると、長門が鉄面皮が一枚足りない感じで呟いた。
「手が、滑った」
 お前がか。ありえないだろそれ。
「古泉。お前何を……」
「さて、僕たちは帰りましょうか。あなたが来たのに団長がまだおいでにならないということは、今日は活動はなし
でしょう」
 なんでお前と一緒に帰らにゃならんのだ。
「まあまあ。長門さん、後片付けをよろしくお願いします。今のことはお気になさらず。まったくの無傷です。週末
の予定が決まったら、あなたから僕に連絡を下さい」
 長門が反論するようだったら音もなく古泉の後ろを取る準備は万端だったのだが、長門は読みさしのページを開い
たまま本を伏せたので、俺は来て間もないというのに帰る羽目になった。
「おい、古泉。何があった」
 校門から出てしばらくして、俺は奴の肩に手をかけた。
「長門さんを怒らせてしまったようで」
 長門を怒らせた? どうやったらそんな恐ろしいことが、部室でできるんだ。
「あなたにはできないでしょうね」
 わざとかよ。
「実はしょっちゅう、怒らせてると思いますよ。あ、いや、怒る原因になっているというべきでしょうか」
 マジか。
「いたくマジです」
 それは気をつけないとな。あいつは溜め込む傾向がある。終わらない夏休みを全部覚えてるってのには、俺は同情
を禁じえない。
「で、俺がいつどういうときに怒らせてるって?」
「あなたの鈍さは天然ですかね。それとも、自己防衛なんでしょうか」
 いいから教えろよ。俺はあいつのためなら、多少の無茶はする。ハルヒがおとなしくしててくれるなら、多少でな
くても無茶をする。
「知ってますよ。でもそれは」
 すると古泉はわざわざ立ち止まって
「禁則事項です」
 真似するなら長門バージョンにしてくれ。朝比奈さんの真似なら、お前じゃなくて長門にしてほしいね俺は。ハル
ヒでも構わんが。
「まあ、今のは冗談として。さっき部室であなたが見た光景は、涼宮さんがあなたを引っ張りまわしたり、僕があな
たとのゲームに負けたりするのと同じようなものです。少なくとも僕はそう解釈します。そうしても構わない環境、
というのは貴重なものなんですよ。個人の関係が属する組織の関係にも自他の存在にも影響せず、ひいては当人同士
の関係の悪化もおそらくないとなれば……。まあ、僕らの場合、それを信頼ととるか単なる無関心ととるかは微妙で
すが、立場を考えれば前者と取りたいところです」
 お前の言うことは一割五分六厘くらいしかわからん。
「おや、一割五分六厘もわかっていただけるんですか。それは光栄ですね」
 謹んで訂正させていただこう。まったくわからん。
「では僕はこれで。また来週、ですかね」
 おい、忘れるな。明日は毎度お馴染み市内探索という名のピクニックや買い物や散歩だ。
 いつも通りのにやけ面を全面に晒してくるがいい。
199古泉一樹の特権 3/3:2006/12/10(日) 21:21:23 ID:Md7z25d+
暴走した。昨年のような事態は避けなくてはならない。だがエラーではない。
 本当に暴走なら、古泉一樹では対応不可能な事態が発生するはず。 
 エラーはむしろ先程の行動により、減少している。コンピ研に参加した後に近似しているが、更に減少率が高い。
想定される解答は一つ。
 わたしが古泉一樹にしたのは、八つ当たり、と称される行動である可能性が高い。
「やっほーい」
 涼宮ハルヒと朝比奈みくるが連れ立って入室した。
「有希!? どうしたの。あーダメよ素手で。みくるちゃん、ほうきとちりとり!」
「ひ、ひゃいっ!」
 制服姿の朝比奈みくるが涼宮ハルヒにほうきとちりとりをリレーした。
「うっわ。見事に粉々ね。どうやったらこうなるの?」
「壊れた」
 不的確な表現。言い換える。
「壊した」
「男二人は?」
「もう帰った」
「なんてこと! ったく、キョンの奴! 罰金なんだから!!」
 違う。原因は彼ではない。
「何? 古泉くんのせいなの?」
 そう。
「何があったの?」
「……別に」
「まあいいわ。有希なら、たまには怒るのもいいことよ。古泉くんにはご褒美をあげないと」
 彼が聞いていたら、多分、「やれやれ」と発言しただろう。数百のバリエーションが想定される。
 朝比奈みくるが片付けを終えてお茶を持ってきた。触れるとわたしのカップから指に温度が移る。適正温度だ。
 古泉一樹の入れたお茶は最初から、この部屋で飲むのに適正温度ではなかった。
「罰金でもご褒美でも、明日にすればいいんじゃないでしょうか?」
「そうね」
「反対する」
 二人がわたしを見詰める。涼宮ハルヒが一時的に静か。
「買いたいものがある。女の子だけで」
 朝比奈みくるが胸の前で手を合わせる。
「あ、いいですね。私もお茶とお菓子を買いたいんです」
「いいわね。あたしも春物買いたかったのよ。有希は何がほしいの?」
「壊したカップを買う」
 これは、ちょっとしたお詫び、とお礼。
「じゃあ、市内探索は日曜にしましょ。キョンには連絡しとくわ」
「もう一人には、わたしが」
「そ? じゃ、有希、よろしくね」
 朝比奈みくるが首を傾げてわたしを見ている。意図的に無視。読みかけの本を元に戻して座る。
 わたしは、週末の予定の変更を伝えない。
 古泉一樹は土曜日に駅前で待ちぼうけを食らうことになるだろう。わたしたちは駅前以外で待ち合わせする。
 日曜日には、高確率で彼ではなくて古泉一樹が全員の昼食代を奢ることになる。
 これは、ちょっとした意地悪。


 終わり
200名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 21:23:29 ID:IB6RzwlP
長門いいなぁ
201名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 21:37:02 ID:JBPyoa5t
これは……一見古泉×長門に見えるな……

乙!
202名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 21:43:43 ID:pucwhAVv
ミステリックサインとかワンダリングシャドウとかの古泉と長門ってこんな感じだよなwww
203名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 22:38:08 ID:5nvpziw6
長門ぉ……。
でも結局、キョンが奢ることになるんだろうなww
204名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 22:46:09 ID:HUHy031X
すまん、誰かキョンが失明する話教えてくれ
題名が思い出せないorz
205名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 22:52:13 ID:QoqrRI8n
俺もわかんね。保管庫の作品ホント多いよなぁ
206名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 22:59:04 ID:BpzK3isA
>>204
つ『二度目の選択』
207名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 23:04:18 ID:HUHy031X
>>206
ありがとう
208名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 23:14:05 ID:W/VcyFIL
皆言わないので

谷 川 仕 事 し ろ
209名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 23:17:38 ID:aYaCqoIS
まあ、奔走をまとうじゃないか。
210名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 23:58:25 ID:KOkbbgRj
>>208
「なんだよッ! 作者だぞー!
 発売延びたけど仕事してんだぞー!
 偉いんだぞーッ!」
211名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 23:59:20 ID:opSzAhPV
ヒマなんでいままでいくつSSが投下されたかをSS書きがてら手作業で数えてみた
ループタイムなどの続き物は憶えてる限り1として数えて小ネタ含めて
とりあえずおよそ954

昔投下したSSとか見つけて今すぐSSを抹消したい気分です。orz
212名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 00:09:01 ID:1cM6hPI8
>>211
集計お疲れ様。
すごい数だぁwなんと愛されとるのだろうね。
213名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 04:14:53 ID:agJGA3Fa
CDから携帯に取り込んだ朝倉涼子の「小指でぎゅっ!」のタイトルが文字化けして「ヒョネwォ」になってたのには吹いた
214名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 04:42:18 ID:J3LCgr7u
>>213
唾吹いたわwそれも若干PCにかかっちまったじゃねえかwww
215名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 11:51:04 ID:ZnxDelQM
>>211
タイトルだけで集計するならまとめサイトから全選択コピーしてエクセルにでも張り付け、
空行消して横に番号振れば簡単かつ正確に数を算出できるぞ。
216名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 16:25:31 ID:1HOI/J2h
>>211
昔投下したが続きが書けなくなって挫折したSSを見ると
申し訳なくなってきますね。
217名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 16:38:35 ID:Sy6sRoU4
ここですかさず抹消の続きマダー
218名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 16:38:51 ID:YYW1gTp9
>>216
金貰ってるわけじゃないんだからいいんじゃね。
219名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 17:04:38 ID:aj0A5ZhN
>>217
いかにも>>221が本人っぽいが……
ま、確認するすべはないしな

書き手にもいろいろあるんだろ
いきなり事故で入院したり、有希という名前の看護婦とハルヒの話で盛り上がったり
て言うかどうでもいい話になって
るな
220名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 17:13:58 ID:R0+tzsKV
>>219
ちょwwww不自然な改行ナニソレwww
wktkしながら待ってる!
221名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 17:25:51 ID:xj5uq0nr
あーすまん。多分33スレぐらいの時に俺が書いた
古泉×鶴屋もの(確か保管庫で勝手に長門×キョンになってたと思う)を覚えてる方が
いたら明日ぐらい続きを書いて投下したいんだが

>>219
待ってる。
222名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 18:07:35 ID:aOLmhxwf
久々に投下。
数レス借ります。
223名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 18:08:11 ID:aOLmhxwf


『The Day of Sagittarius 4――Ender’s Game――』


涼宮ハルヒがその宇宙的なトンデモパワーを発揮し、俺たちSOS団が15000回以上も同じ夏を繰り返すことになっちまった、あの夏休み。
その夏休みに行われたSOS団活動、「天体観測at長門のマンション」について、正確な記憶をお持ちの方はいるだろうか?いたらぜひ手を上げて欲しい。
いないな?
まあ、少なくとも、ここにいる情報統合思念体特製のヒューマノイド型インターフェイス、長門有希よりも正確な記憶を持っている人間が存在するとは思えない。
「……そう」
長門はあごを一ミリ引いて、微かに誇らしげに肯定の意志を示した。
「さて、長門、そのときハルヒのやつが一体何を言っていたのか、教えてみてくれないか?」
長門は再び一ミリの肯定。
「……その前のあなたのセリフから再生する」
長門は微かにカシャカシャと機械音をたて、しばらくじっと動かない。どうやら正確な時刻を検索しているようだ。
「……ムーディー・ブルース」
何か言ったか、長門?
「……なんでもない。正確な時刻を見つけた……リプレイを行う」
長門はおもむろに、あの夏の夜の再現を始めた。

「開始……
『いないのかしら』
『何がだ』
『火星人』
『あんまりいて欲しくないな』
『どうしてよ。とっても友好的な連中かもしれないじゃないの。ほら、地表には誰もいないみたいだし、きっと地下の大空洞でひっそり暮らしている遠慮がちな人種なのよ。
きっと、地球人をびっくりさせないようにしてくれているんだわ』
『…………』
『きっと最初の火星有人飛行船が着陸したときに、物陰から登場する手筈を整えているのね。
ようこそ火星に! 隣の星の人、我々はあなたたちを歓迎します! とか言ってくれるに違いないわ』
『そっちのほうがよっぽどびっくりするだろうよ。不意打ちもいいとこだ』
……リプレイを中断する」

「はあ……」
俺は縦にすれば火星にも届くのではないかと思えるほどの、盛大な溜息をついた。
そう、確かにハルヒは言ったのだ、「とっても友好的な連中」かもしれないと。ハルヒがそう望む以上、火星人は友好的であってしかるべきだ。
だが……。
『ぐあるるるる……ガァるるるるしゅるるるる……ぐあるるるるるるるる……じゅしゅるるるるるるるるうううう』
俺は部室のパソコンの画面に映るそいつを見て、ふたたび溜息をついた。
はっきり言って、全然友好的な連中には見えないぜ、こいつら。
『グァルルルルル……バウウううう……うあううううう』
「……まさにパープル・ヘイズ」
む、なんだって、長門?
「なんでもない」
俺と長門は、お隣の惑星を映し出した画面の向こうで、凶暴に暴れ狂う生き物を眺めた。やれやれ、ハルヒの凶暴な側面を象徴したかのようで、近づくとおれたちもやばいんだッ!
これがハルヒの願望が生み出した、火星人である。
『うばぁしゃあああああ!!!』
224名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 18:08:48 ID:aOLmhxwf

…………

「なんでだ?ハルヒは友好的な連中と言っていたのに、なんでやつらはあんなに凶暴なんだ?」
俺の疑問に、長門は首を横に一ミリ振って否定の意志を表明した。
「火星に存在している生命体が発生したのは、15498回のうち、最初のシークエンスにおいてのこと。
それからその生命体は火星で進化を重ねてきた。従って、最後のシークエンスで涼宮ハルヒが何と言ったかは、あの生命体との関連性が低い」
おいおい、じゃあ、ひょっとして……。
「最初に涼宮ハルヒが火星に生命体の存在を思考したときのシークエンスから、リプレイする……ムーディー・ブルースッ!」
おい、今何かいっただろ、長門。
「なんでもない」
再びカシャカシャと微かに音を立てながら、長門は正確な時刻を検索しているようだ。
そしてまたおもむろに「リプレイ」を始めた。

「開始……
『いないのかしら』
『何がだ』
『火星人』
『あんまりいて欲しくないな』
『ふん、怖がりね。まあ、とっても凶暴な連中かもしれないわね。ほら、地表には誰もいないみたいだし、きっと地下の大空洞でこっそり暮らしている陰険な人種なのよ。
きっと、地球人を見つけたら捕まえるつもりだわ』
『…………』
『きっと最初の火星有人飛行船が着陸したときに、物陰から襲撃する手筈を整えているのね。
ぐあるるるる……ガァるるるるしゅるるるる……ぐあるるるるるるるる……
じゅしゅるるるるるるるるうううう……グァルルルルル……バウウううう……うあううううう……
うばぁしゃあああああ!!!
とか言ってくれるに違いないわ』
『おまわりさーん』
……リプレイを中断する」

「やれやれだぜ」
225名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 18:09:21 ID:aOLmhxwf

…………

というわけで、地球は滅亡の危機に瀕しているわけである。マジでくたばる五秒前。
既に、地球の周りには、火星人たちの造った宇宙船がごっそり送られている。ただし、火星人たちはあくまでも火星に残り、宇宙船は遠隔操縦をしているらしい。
やれやれ、あんな知性のかけらもなさそうな連中が、どうやって宇宙船なんて代物を作ったかね?
「……分からない。このことに関しては、情報統合思念体も非常に興味を持っている。
原始的な有機生命体が、これだけ急速に知的存在に進化することは、通常ありえない。
涼宮ハルヒの能力の介在が不可欠。よいサンプル」
ちなみに、長門が機転を利かせてくれたおかげで、地球上でこのことを知っているのは、俺と長門以外にいない。
宇宙船がある付近に、長門が情報遮断のシールドを張ったために、地球からの観測には引っかからないらしい。
それにしても……
「一体いくつあるんだ、この宇宙船は?」
長門が部室のパソコンをカタカタと操作し、画面を切り替えた。地球を表すらしい「E」とかかれた○の周りに、火星人の宇宙船を示す光る点が無数にある。
「……およそ、8000万」
嫌がらせか。
「彼らの意図が地球の侵略にあることは明白。このままでは、一時間以内に最初の宇宙船が地球に接触する。
彼らの科学力に、人間の防衛など無意味。そのことは確実。コーラを飲んだらゲップがでるぐらい確実。そうなれば最後」
長門はパソコンから顔を上げて、俺を見つめる。
「だが、あなたを殺させはしない」
長門……。
「戦う。許可を」
「……分かった」
俺は長門の肩にぐっと手を乗せた。長門は頷くと、俺を見上げた。
「この戦争が終わったら……あなたと――」
「待て」
俺はあのセリフを言いかけた長門を止める。
「そのセリフは不吉だからやめとけ……いわゆる死亡フラグだ」
長門は真剣な表情でコックリと頷いた。戦闘開始。
226名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 18:10:39 ID:aOLmhxwf

…………

こうして、地球と人類の命運を賭けた宇宙戦争が、北高の文芸部室にあるパソコン上で始まった。
長門は超高速のタイピングで、次々と火星人の宇宙船を攻撃している。長門の説明によれば、宇宙空間の座標を指定することで、そこにある宇宙船の情報結合を解除しているらしい。
最初、火星人たちの宇宙船は、突然の攻撃に混乱しているようだった。
しかし、やがて陣形を整えると、その量にものを言わせて突入してくる。なんといっても8000万の大軍だ。
長門が設定した防衛ラインが、じりじりと後退していく。
「くっ……だめなのか!?」
「大丈夫、あなたは安全。いざとなれば、涼宮ハルヒが世界改変を行うはず。あなたは涼宮ハルヒとともに新しい世界に行くことができる」
長門は光速でキーボードを叩き続けながら、俺に向かって、一瞬、微笑んだ。
「……違うっ!」
長門が首をナナメに一ミリ動かし、疑問の意志を表明した。
「何が」
「長門っ! お前も行かなきゃ意味がないだろ! 俺とハルヒだけが生き残るなんて……そんなんじゃ駄目だっ!!」
瞬間、部室が静寂に包まれ、長門は、うっすら頬を染めているように見えた。
「そう……」
長門は、ぼんやりと俺を見つめる。
なんだか、微かに頬に赤みがさした長門が、ちょっと照れているように思えるのは気のせいかね?まあ、こんな表情をする長門も、非常にこう、なんと言うか……可愛いと言うか……。
はっ!!
「ああああ!!! 長門!!! パソコン!! 敵を忘れてるー!!!」
「!」
長門は再び光速のタイピングに戻った。だが、今の隙に、火星人の宇宙船は、一気に防衛ラインを突破し、半分の距離を縮めていた。
「迂闊……」
あぶねえ、危うく世界が破滅するところだった。
227名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 18:11:20 ID:aOLmhxwf

…………

それから一時間。
「駄目か……」
火星人たちの宇宙船は、畑を食い荒らすイナゴの大群のように地球に迫っている。
いくら長門が戦っても、もう勝ち目がないことは、誰の目にも明らかだった。
「あきらめない。まだ……」
長門が言いかけたそのときだった。

「遅れてごっめーん!!」

ばーんと盛大にドアを開けて、すべての元凶である、呪われたSOS団団長が、元気よく入ってきた。いや、むしろ俺が黒魔術を覚えて呪いたいね。
「何なに? それ、新しいゲーム?」
ひょいとハルヒは画面を覗き込む。まさか、地球を侵略している火星人との戦争の途中だとも言えない。
俺は咄嗟に適当な言い訳をでっち上げた。
「ああ、コンピ研の新作『The Day of Sagittarius 4』を長門がテストランしているんだ」
「ふーん、でも、もう負けそうね……有希が負けるなんて、よっぽどの難易度じゃない? 
どれどれ、ちょっとあたしにやらせなさいよ」
ハルヒはそう言うと、唖然とする長門と俺を尻目に、さっさと椅子に座ってしまった。
「おい、ハルヒ、止めとけ、お前に勝てる相手じゃないぜ」
しかも、負けたときの代償は、闇のゲームとやらも青いインクをかけられたみたいに真っ青になって逃げ出すぐらいだぞ。
「へーきよ。いい、有希、こういうときは、まず敵の本拠地を叩くの! 戦略の基本よ。この『M』ってかいてある○が、敵の基地でしょ? ここを潰せばいいのよ。
簡単、簡単。それ、エターナルフォースブリザードビーム!!」

ちょ、そんなコマンドないって――

俺がそう言いかけた瞬間、ハルヒはEnterキーをぐっと押し込んだ。
ピー、ボム。
「説明してあげるわ、キョン、エターナルフォースブリザードビームは、大気が凍結して相手は死ぬっていう必殺ビームよ! 
ほら、『M』って○が消えたら、敵の船も消えたじゃない。あーあ、勝った勝った。結構単純なゲームね」
「…………」
「…………」
俺と長門は無言で見詰め合った。
確かに、ハルヒの言うように、画面上にあった火星人の宇宙船を表す光の点は、残らず消えている。
そして、今頃宇宙空間には、ハルヒのエターナルフォースブリザードビームによって破壊された火星の残骸が漂っているのだろう。
「アリーヴェデルチ……」
長門が呟く。火星人よ、さようなら。
228名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 18:11:54 ID:aOLmhxwf

…………

こうして、地球の危機は救われた。
消えた火星の代わりには、長門が手ごろな大きさの惑星を銀河のどこかから探してきて、代わりにおいてある。今の俺と長門の課題は、来るべきNASAの火星探査チームを、いったいどう欺くかだ。
それと、もう一つの懸案事項……。
「実は、夏休みのシークエンスの初期に、こんな会話があった……今からリプレイする」
ああ、嫌な予感だ、俺の中にある嫌な予感の虫が、鐘が割れるぐらいに全力で警鐘を鳴らしている。

「再生……
『いないのかしら』
『何がだ』
『金星人』
『あんまりいて欲しくないな』
『ふん、怖がりね。まあ、とっても凶暴な連中かもしれないわね。ほら、地表には誰もいないみたいだし、きっと地下の大空洞でこっそり暮らしている陰険な人種なのよ。
きっと、地球人を見つけたら捕まえるつもりだわ』
『…………』
『きっと最初の金星有人飛行船が着陸したときに、物陰から襲撃する手筈を整えているのね。
ぐあるるるる……ガァるるるるしゅるるるる……ぐあるるるるるるるる……
じゅしゅるるるるるるるるうううう……グァルルルルル……バウウううう……うあううううう……
うばぁしゃあああああ!!!
とか言ってくれるに違いないわ』 」

コンピ研の次回作『The Day of Sagittarius 5』は、金星人と地球人の熾烈な戦争がテーマのゲームになりそうである。


おしまい
229名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 18:12:53 ID:aOLmhxwf
以上っす。
230名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 18:46:36 ID:jrCVV/OR
ジョジョワロタwww
231名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 18:59:12 ID:Peqkml/Z
こういうノリ、嫌いじゃないぜ
232名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 19:02:53 ID:1cM6hPI8
軽快でいいwww
ほんと長門はSSの役割でも万能だなw
233名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 20:20:53 ID:1HOI/J2h
GJッス
234名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 20:35:10 ID:NKFgWwEk
こういうノリ大好きwww
235名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 20:39:08 ID:MfMXvEa4
五部ネタかw
236SS保管人:2006/12/11(月) 21:12:24 ID:LCDU7fbw
>>211
ちなみに、保管庫ではファイルに”haruhixxx.html”と通し番号を付けてますが、最新ので”haruhi916”、
枝番を含めたファイルの総数は1100です。

他には通し番号が200を超えてるのが3つほどあるだけ。
originalが1000を超えてますが、これは複数のスレのオリジナル作品の総数なので別格で。

こうして見るとハルヒがいかに突き抜けているか分かりますね。
職人さまたちに改めてGJです。
237名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 21:19:32 ID:+0h3cOdv
エターナルフォースブリザードキタコレ
238名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 21:27:13 ID:1cM6hPI8
さて、推敲終わったので投下します。
ちょっとした挑戦作。
239名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 21:28:16 ID:1cM6hPI8
 SOS団史の中には、俺がまだ話していないものがいくつかある。
 そうしたエピソードすべてに、超常現象と呼べるような出来事が含まれていたのかは定かでない。
 つまりハルヒが絡んでいたか分からない。グレーゾーンと言えばいいだろうか。
 涼宮ハルヒという女は、俺の辞書にある常識という単語の意味を
 初めから書き直さないといけないような事件をいとも簡単に起こしてしまう。
 そして厄介なことに本人にはまるでその自覚がない。
 人の通る道に必ず引っかかるように地雷を埋めまくった挙句、
 その後始末を被害者に任せてしまうハルヒであるが、使う爆薬の全てが自前のものではないようで、
 たとえば孤島の殺人事件劇とか雪山の遭難事件なんかは主犯が別にいたわけだ。
 結果的にそれらは涼宮ハルヒがいてSOS団なる全宇宙にまたとない珍妙集団があったから
 起こったことなのだが、重要なのはそこではない。

 ハルヒには願望を実現する能力がある。
 しかし、望んでいないこともまた起こりうる。

 この二行目に俺は傍線なりアンダーラインなり赤線なりを引きたい。
 こと年末から春先にかけては、あいつが自ら望んだとは思えない事件が目白押しだった。
 一体誰が真犯人で、目的はどこにあるのか。
 現時点では分からずじまいなことが山ほどある。
 これから話すのもそうした因果関係がわやになっている出来事である。
 実はこういう話は無視できない数に登っているのだが、
 俺の中で整理ができていないこともあって中々公開に踏み切れないのだ。
 今回そのひとつを話すのは、まぁ俺の気まぐれだと思ってくれ。
 もう一度言っておくが、宇宙とか時間とか超能力とかのSFめいた話とは無縁のはずだ。

 俺は、今でもそう思っている。


――空梅雨の気まぐれ――


 夏、真っ盛り――。
 と、言いたくなるくらい暑いのに、梅雨には先週入ったばかりだった。
 旧館部室棟三階、文芸部部室を間借りしたSOS団団室は、
 セイロに入った中華まんの気持ちを疑似体験するのに持ってこいの状態で、
 俺はいっそ誰かに醤油をつけて食べられてしまいたいくらいにうだっていた。
「ずいぶんとのぼせていますね」
 この数日、俺がこうして自意識をひとり巡っていると決まって最初に介入してくるのがこいつ、
 古泉一樹である。
「そういうお前は涼しそうじゃねぇか」
 ハンサムというカタカナ四文字を体現するかのように微笑むこの男は、
「そんなこともありませんよ。こう暑いと、冷房とまでは言いませんが
 扇風機くらいは設置していただきたくなりますね」
 それだってまだ高望みってものだろ。なんせここはどこにでもある安上がりな公立高校の一部室だ。
 冬に教室にストーブを置くのが精一杯だってことは俺がこうして語るまでもなく、
 お前にもとっくに自明のことだろう。
「えぇ、もちろんですよ。ですが、この部屋には既に普通の教室や部室にはないものがいくつかあります。
 期待してみるのも浅はかではないかなと思いまして」
「確かにな」
 手始めにパソコンだ。一ヶ月前に強奪としか言いようのない方法で入手した最新機種。
 お次はポットとやかんで――
「お茶が入りましたよー」
 俺の視神経と鼓膜を同時に溶けたバターにしてしまう部室専属メイドさん
(と、呼ぶことにもはや抵抗がなくなりつつある)こと朝比奈みくるさんは今日も
 パーフェクトなスタイルでお盆を持ってこちらにいらっしゃる。
「どうぞ。ふふ」
 と、可愛く笑うと、古泉と俺の前に煎茶入りの湯飲みがことりと置かれる。
 いや、まこと。目下SOS団に俺がいる理由は朝比奈さんを眺めることと、
 彼女が入れてくださる天上の飲料を頂戴するために他ならない。
「「ありがとうございます」」
240名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 21:30:29 ID:rlXYoUyz
小泉のゲーム好きで SOS団でジュマンジをやらせて見たり
241名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 21:30:30 ID:1cM6hPI8
 げ。古泉と声がかぶっちまった。こら、ウィンクするなよ、気色悪い。
 そういえば、この朝比奈さんが着ている衣装だって古泉の言うあるなしゲームの回答のひとつだ。
 今お召しになっているメイド服。そしてバニー、ナースと普段着である制服は
 並んでハンガーラックに架かっている。そういやいつぞやのチアガール衣装はどこに行ったんだろうな。
 ハンガーの余りはまだまだあるが、果たしてこの先もハルヒは着せ替えを続けるのだろうか。
 新しい衣装を突きつけられた時に戸惑う朝比奈さんの御心と、衣装を来た彼女を見たときの俺の感想を
 両天秤にかけて、人知れず良心の呵責に心揺れる俺であった。
「どうぞ」
 続いて朝比奈さんが湯飲みを置いたのは窓辺の丸テーブルである。
「……」
 音声上では情報量皆無の無言を友として、長門有希はひたすらに読書を続けていた。
 文芸部の正式部員はこの読書ドールだけだが、さも呼吸同然の作業のようにページを繰る様は
 見ていて特別面白いものでもない。
 俺は容赦なく体温を上げる朝比奈緑茶をありがたく頂きつつ、目をつむってでも勝てそうな古泉との将棋を指しつつ、
 しかるべき時に備えていた。
 その時とは今ここにいないSOS団団長、涼宮ハルヒの登場以外の何物でもない。
 あいつがここにいないということはどこか他の場所で他のことをしているということであり、
 それは間もなく俺たちの元に災厄にも似た形となって降りそそ――
 バタン!
「お待たせーーっ!」
 このタイミングを外で待っていたかのようにハルヒは現れた。
 こいつが静かに入室することなど、過去現在未来を通じて永遠にないだろう。
 ハルヒはアカデミー賞初受賞直後の二枚目俳優も真っ青の笑みを満面に広げ、
 五歩足らずで団長机に向かうとどっかと腰を下ろし、パソコンの電源をいれて朝比奈さんにお茶を注文した。
 この間約四秒。
「あ、はははいっ」
 横暴な圧政を敷く団長に嫌な顔ひとつせず、朝比奈さんは屈託ない笑みでポットへと向かった。
 やっぱりメイド服は落ち着くのかね。
 ナース服で部室内に滞在するのは俺としても心穏やかではいられなかったしな。
 メイドならいいのかと言われれば、慣れとは恐ろしいものよなぁと答えるしかない。
「それにしてもあっついわねー。近いうちに扇風機を手配する必要アリだわ」
 ハルヒは古泉の注文を聞き届けるような発言をして、パソコンをいじり始めた。
「キョン、ゲートボールのルールは調べておいたでしょうね」
 片眉をつり上げてハルヒは俺を横目で睨んだ。
 ……あれ、本気で出るつもりなのか?
「当たりまえじゃないの。SOS団の知名度はまだまだ全然低いからね。
 とりあえず市内全体に我々の存在を知ってもらうのが目標だわ」
 そんな事になれば俺は亜光速で遠方の地へ転居する手続きを取らねばならないだろう。
 こんな変態集団にいることが学校中に知れているだけでも顔で茶が沸かせるくらいなのに、
 市内全域に及ぶとなれば俺の体温は百度計でも計測不能になってしまう。
「何ぶつぶつ言ってんのよ。それで、調べたの?どうなの」
 調べたともさ。真面目に働く団員に感謝するがいい。
 ついでに言っておくがアメフトとサッカーはなしだからな。
「分かってるわよ。あたしは一度決まったことをぐちぐち掘り返したりしないわ」
 男女混合で肩を激しくぶつけ合うスポーツなどしたら、朝比奈さんが秒速ノックダウンしかねない。
「それで?ゲートボールは何人でやるスポーツなの?」
 やれやれだ。この前の野球で満足したのかと思いきやこれだからな。
 俺は常連クレーマーに応じるサポートセンター職員ばりに辟易しながら、
「最低五人だそうだ。上限は――」
「じゃぁ五人ちょうどで問題ないわね。この後みんなで練習して、少数精鋭で華々しく明日の試合に乗り込みましょう!」
「ちょっと待てよ」
 明日だと?この前よりひでえじゃねぇか。前回の反省を活かすという考えがお前の頭にはないのか。
「いいじゃん勝ったんだし。結果が伴っていれば過程なんてどうだっていいわ」
 俺はたった今世界制服を終えたばかりのような表情のハルヒを置いて室内の他の面々に目をやった。
 古泉は柔和な表情を維持し続け、長門は顔も上げずに読書続行中、
 朝比奈さんはぽーっと俺とハルヒの間の空間を見上げていらっしゃる。……そこに妖精でも飛んでるんですか。
242名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 21:31:31 ID:1cM6hPI8
 俺は思わず溜息をついた。いい加減あきらめ始めていることだったが
 相変わらずこの部屋の中でハルヒに意見する人間は俺だけのようだな。
 たまにはタメ口でまくしたてる古泉とか眉をひそめる長門とかだだをこねる朝比奈さんとか見てみたい気もするが、
 それを言っても詮なきことであろう。
 俺はハルヒに向き直る。
「ってことはお前はゲートボールのルールも知らんのに試合の予約をしてきたと、そういうことか?」
「そうよ。文句ある?」
 即座に十通りの抗議文書の草案が浮かんだが、どれも一枚目を書き終える前に却下されること確実なので、
 ここは抑えて話を続ける。
「それで、相手は誰なんだ」
「甲陽園オールディーズって聞いたわ。もちろん今回もチーム名はSOS団だから安心していいわよ」
 何をどう安心しろと言うのだ。
 聞けば甲陽園オールディーズとは、その名の通り正真正銘の老齢紳士淑女の皆様による憩いのサークルだそうだ。
 お年寄り相手にケンカ吹っかけて何が楽しいのだろうか、こいつは。
「ゲートボールですかぁ。それって……あのぅ」
 今まできょとんとして話を聞いていた朝比奈さんは、ゲートボールと言われて思い当たるものがないのか、
 満月のように丸い瞳をぱちくりさせて不思議そうにしている。
「なるほど。近所のご老人がたとの親善ですね。人生の先輩である皆さんの言葉は、
 僕ら未熟な高校生にとって後生大事なものとなることでしょう」
 今即興で考えたような持ち上げ台詞を言うと、古泉は将棋の駒を片付け始めた。
「……」
 何の反応も見せずに読書していた長門は文庫を閉じた。
 これでまた不毛な球技練習に繰り出さねばならないんだろうな。

 ――その通り。
 ハルヒの言うがまま、俺たちは放課後を目一杯使ってゲートボールの練習に明け暮れた。
 とばっちりを受けたのはハンドボール部で、たまたま監督に来ていた岡部に耳も貸さず、
 半ば強引にスペースをぶんどったハルヒは声高らかに練習開始を宣言し、
 追い出されたハンド部は岡部共々強制退場となってしまった。ほんとに申し訳ない。
 というか一学年もようやく四分の一というところなのに、素行評価が真っ向下落するような真似は、
 この間の中間テストで快調にロースタートを切った俺としては避けたいところなのだが……。
 そんなフィリピン海エムデン海淵にも匹敵する俺の深い心配など知りもせず、
 ハルヒはスティックを全員に手渡すとコの字型のゲートをやたらめったらに地面に差し込んで気勢を上げた。
「さーて、行くわよ!第一球!」
 と言うなりボールをスティックでゴルフのスイング並みにぶっ叩き、叩かれたボールはそのままゲートを連続通過した。
 ゲートボールがこんな豪快なスポーツだとは知らなかったぜ。
「さぁ、あたしに続きなさい!まずはみくるちゃん、バシンといっちゃいなさい!」
 朝比奈さんはメイド服のまま真剣な眼差しでボールを打とうとしていらっしゃる。
 古泉は苦笑気味に静観の構え。
 長門はスティックを両手で持って観葉植物を見るような視線を注いでいる。
 また変な呪文でキテレツな属性を負荷しないでくれよ、頼むからさ。

「お疲れみんな!それじゃ明日九時にいつもの駅前!遅刻したらバス代おごりだから」
 二時間後、ハルヒはスティックの柄をフェンシングの剣のように俺に突きつけて言い放った。
 校庭のハンド部領土にはそこかしこに小さい穴が開いて、スパイクを履いた野球部員千人が
 ここでタップダンスを踊ったかのように荒れ放題である。
 重ね重ねすまない、ハンド部員と岡部。

 明日、俺はこのままSOS団市内プロモーションマッチ第二弾に赴くことになると思っていたし、
 実際最初はそのように事が運んだのだが、どういうわけかつつがなく終了とはいかなかった。
 それどころか、ゲートボール試合開始にすら立ち会えないことになる。
243名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 21:32:34 ID:1cM6hPI8
 翌日土曜日朝九時……十分前。
 当たりまえのように俺は時間前遅刻をした。
「遅いわよ!やる気あんのあんた」
 そんな新米を叱りつける旅館の熟年女将のようなことを言わないでくれ。
 休日の朝っぱらからこうしてジャージ袋片手に来てやってるだけでも感謝されるに値するだろうが。
「そんなの皆一緒なのよ。まして遅れたあんたが言う台詞じゃないわ」
 眉を怒らせて嫌な感じに口の端をひん曲げるハルヒであった。
 俺は他三名を見渡す。あぁそういえば、今回は谷口に国木田、
 妹と朝比奈さんの級友である鶴屋さんにお呼びはかかっていない。
 ハルヒは必要最低限の人数がいればそれで満足らしく、野球の時もそうだったらしい。
「補欠なんていらないでしょ。ベンチにいたってヒマなだけだわ」
 だそうだ。そういやずっとピッチャーやってたもんなお前は。
「上手にできるといいんですけど……」
 朝比奈さんは前回より若干緊張が和らいだ様子で言った。
 剛速球に高速安打がばしばし飛び交う野球に比べれば、遊ぶ相手が黒豹から
 子猫になったくらいの違いがあるだろう。
 そろそろ薄着になってゆくこの季節、地方都市に降り立った天使様が薄着になっていく様は、
 日の出直後の太陽なんて目じゃないくらいにまぶしい。
「……」
 挨拶も無言で済ます長門は制服であった。そろそろ私服をお披露目してくれてもいいんじゃないか?
 まさか学校用の衣類以外一着も持ってないなんてことはないだろうし。
「さぁ、バスの時間と乗り場は調べておきました。こちらです」
 古泉は若干ラフな格好で、そのままアウトドアで河原にでも行けば、どこかのキャンプ用品店のチラシに
 使えなくもないような出で立ちだった。
 まぁ今回は市内探索が目的ではないし、運動用の靴さえ履いていればこの場の格好は何でもかまわない。
 長身スマイル野郎を先頭に、俺たちはバス乗り場へと向かう。
 振り向くと、長門は黒檀のような目で虚空を見据えて歩いている。
 相変わらずこいつには感情も表情もないらしいな。
 長門の絶対零度の視線をせめてドライアイスくらいにすべく、俺は話しかけた。
「今日はお前の力の世話にならずに勝てるといいんだがな」
「そう」
 長門は視線を前方、古泉たちのほうへ向け、無関心に言った。
 しばし黙っていたが、バスに乗る直前になって
「へいき」
 とつぶやいてそれきりだった。何がどう平気なのかは知らないが、あのデタラメトリックを
 多用するような事態は極力避けるべきだから、とりあえず安心しておけばいいだろうか。
 SOS団にいる限り勝負事にはすべて勝たなければならないと言う宿命のごとき掟もどうかと思うが。

 バスは十五分ほどで目的地に到着する。
 人通りの少ない地域は住宅こそまぁまぁ多いが、商店はあまりない。
 バスを降りてすぐ、俺たちは後の予定を変更する原因たる人物に遭遇した。
「うわぁぁぁぁぁん」
 四、五才くらいの女の子だった。バス停の時刻案内標識の下でしゃがみこんで泣いている。
 女の子はおさげ髪で、淡いワンピースを着ていた。
「あれ、どうしたの?」
 ジャージ袋を肩にかけ最後に降りてきたハルヒは、団員四人がそれぞれの面持ちで
 女の子を囲んでいるのを見て言った。
「迷子?」
「そのようですね」
 古泉が右肩をすくめて言った。
「大丈夫だから、ね?泣かないで」
 朝比奈さんが愛情と優しさを余すことなく傾注して女の子に語りかけている。
 あまりの愛らしさに、一瞬俺が迷子になろうかと血迷ってしまうほどだったが、頬を自分で叩いて思考を元に戻す。
「警察に連絡したほうがいいか」
「近くに交番があればそこまで連れて行ったほうがいいんじゃないかしら」
 ハルヒは逡巡するように辺りを見回した。
244名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 21:33:38 ID:1cM6hPI8
 この地域に来ることは俺も少ないから、付近の交番の位置までは分からない。
「うっ、ママ……うぇっ。うわぁ〜ん!」
「ママとはぐれちゃったの?」
 朝比奈さんが訊くものの、女の子は泣き続けるばかりで質問が聞こえているのかすら判然としない。
「まだ近くにいるかもしれないわ。とりあえず通り沿いを歩いてみましょう」
 ハルヒが言った。曇り気味な表情は久々に見る。
「ゲートボールはどうするんだ?」
 俺の質問にハルヒは女の子を見つめながら、
「この子を放っておけないもの。今のうちに連絡してキャンセルしましょう」
 その役目は古泉が請け負った。携帯を取り出して通話している。
 女の子のほうは不安を隠しようもなく泣き続け、また朝比奈さんはどうにかして泣き止んでもらおうと
 懸命に頑張っていた。
「……」
 長門はしばし女の子を無感動に眺めていたが、
 やがて風にそよぐ風鈴を見るのに飽きた猫のように別のほうを向いた。
 ちょっとは心配するような素振りをするかと俺は期待したが、だめだったらしい。
 俺たちはホリデースポーツシリーズパートUをあっさりと取りやめにし、
 ハルヒ先導の下で通りを歩き始める。女の子は古泉が背負い、古泉のジャージは俺が持った。
 少し歩いて分かったことだが、この通りは車の往来も少ないようだ。
 歩道にも歩行者はほとんどいなかった。
 俺は古泉に声をひそめて訊く。
「お前の組織の力で保護者の居場所を捜すとかできないのか」
 古泉は失笑気味に笑いながら、
「機関を便利屋か何かと勘違いされていませんか。それに、ここで突然母親の居場所が分かったら不自然でしょう?
 長門さんに頼んでも同様ですよ」
 横目でちらりと長門を見た。
 まぁそうだな。このくらいでいちいち変てこな力に頼っていてはいかん。
 先頭のハルヒを見ると、ようやく遭遇した通行人に何やら質問しているようだ。

「交番は次の信号を曲がってしばらく行けばあるそうよ」
 二分後のハルヒの台詞。しばらくってどのくらいだ。
「十分って言ってたわ。このまま連れてっちゃったほうが早いんじゃないかしら」
「一度戻ってみないか。もし母親が戻って来てたら困ってると思うぞ」
 俺とハルヒは顔を見合わせて考えこんでいた。すると、
「……もどる」
 女の子がいつの間にか泣き止んでいた。朝比奈さんが話かける。
「バス停まで戻るの?」
 まだぐずついている女の子は、黙って首を縦に振った。
「うーん、しょうがないわね……」
 ハルヒは頭をかいて最後尾の長門のところまで行くと、
「戻りましょう」
 やや不服そうに言ってから再び先導しだした。こういうところはやっぱり団長である。
 俺たちは元来た道をトンボ返りしてバス停を目指す。
 何だろう。一体どうして休日の午前にこんな街はずれをそぞろ歩きしてるのか分からなくなってきた。
 ……いや、迷子らしき女の子に出会ったからだよな。
 だが何か引っかかるというか、腑に落ちない気分になるのは果たして俺だけだろうか。
 さてその女の子はというと、ついさっきまで泣いていたと思えば今度は眠り込んでいた。
 疲れたのだろうか。
 寝顔を見た朝比奈さんは微笑んで
「かわいいなぁ……」
 と言うとそっと髪を撫でた。俺からすればあなたも十分以上にかわいいんですが。
「古泉、大丈夫か。重いようなら代わるぜ」
 らしくないこのセリフは古泉のためではなく、こいつが万一女の子を落とすようなことがあるといけないからだ。
「いえ、平気です。荷物はあなたに持ってもらっていますしね」
 朝比奈さんの視線を浴びるチャンスを逃すのはちと惜しいが、それならいいさ。
 女の子の寝顔は確かにかわいかった。純真無垢というやつか。
 俺の妹にもこんな時期があったなぁなどとつい感慨にふけってしまう。
 ……まぁ、今でも幼いといえば幼いのだが。
245名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 21:34:40 ID:1cM6hPI8
「まぁ!」
 往復で十五分ほど歩いただろうか、俺たちはバス停に戻ってきた。
 するとそれを待っていたかのように女性と男の子が三人、小さなバス待合所から出てきた。
「うちの子です。よかった……」
 女性の声である。古泉は後ろを向いて、おぶったまま女の子を母親に渡した。
 女の子の母親は背が高く、ヒールを履いているのもあって俺と同じくらい身長があった。
 彼女の話はこうだった。買い物に四人の子どもを連れてバス停に着くと目的のバスは発進間際。
 全員駆け足で急いで乗って駅に着いたはいいが、末っ子だけ見当たらないことに気付いてびっくり仰天。
 大慌てで戻ってきたはいいがここにも女の子はいない。
 眩暈をおぼえて青ざめ立ちすくんでいるところに俺たちが帰ってきた――。
「誰かに連れ去られでもしていたらどうしようかと……私……」
 女性は目にうっすらと涙を浮かべて話をしていた。
「お嬢さんを連れまわしてしまって、すみませんでした」
 そう言って真っ先に頭を下げたのはハルヒであった。
「五人もいたんだから、ここに誰か待たせることもできたのに。あたしときたら……」
 真摯な物言いはいつぞやの高級マンション玄関でのやり取りを思い出させた。
 確かあの時は、朝倉の身辺調査という名目で事情聴取をしていたんだったな。
 夕方の教室ときらめく刃、隠された本性を思い出して俺は季節に関係なく寒気がした。
 あんな目に遭うのは金輪際ごめんこうむる。
 灰色空間も含め、未だに現実と認めがたい出来事だった。
 ……あれから数日の間にハルヒは感情の下り坂をどんどん下りていったが、今回は平気だろうか。
 ふと見ると女性は大きく首を横に振って、ハルヒよりも深々と頭を下げていた。
「私の方こそ本当にご迷惑をおかけして。いい人たちでよかったと心から思っています。
 ありがとうございました」

 女性はお礼をひとしきり述べたあと、何か形で示したいと言っていたが、ハルヒはそれを丁重に断った。
 女の子のほうは古泉の手を離れると間もなく目を覚ました。
 別れの挨拶をする頃にはすっかり元気を取り戻して、俺たちにぶんぶん手を振っていた。
 親戚のガキンチョの相手をしている時も思うのだが、やっぱり無邪気な子どもはいいね。

 帰りのバスの中、やはりと言うか、ハルヒは元気がないようだった。
 集合の時と比べると快晴と曇天くらいの違いがある。
「どうした。ゲートボールが潰れたのがそんなに残念か」
 どこともなく窓の外を眺めながら、俺は隣で並んでつり革につかまっているハルヒに言った。
「そんなんじゃないわよ。ただちょっと自分が許せないだけ。
 あれはベストな行動じゃなかったんだわ……。もう少し落ち着くべきだった」
 ハルヒは唇を突き出すと、悲しむような、むくれるような表情でそう言った。
 ふう。一体何の吐息だかは分からないが、どこか自分が安心しているのはどうしてだろうね。
 こいつに人並みの思いやりがあったからだろうか。
 学校ではフルスロットルで暴れまわってるか、こんな風に青色になっているかの両極端で、
 誰かに気を利かせるようなところは見たことなかったしな。
 俺はもう一度ふっと息を吐くと、ハルヒに煙たがられないよう注意しつつ言った。
「おいハルヒ。確かに結果からすると、俺たちの行動は余計だったかもしれない。
 けどな、俺がお前の立場だったら、やっぱりじっと待ってるなんてできなかっただろうぜ」
 ハルヒはつと顔をこちら側へ向けた、まだ仏頂面をしてやがる。
「あの母親の安心した顔と女の子の笑顔ははお前も見ただろ。それで十分じゃないのか」
「うん……」
 こいつがしょげてるとどういうわけかいつもより余計なことを言っちまうな、俺は。
 うむ、そうだ。SOS団のいつもの空気が妙な感じになっちまうのが嫌なんだ。違いないね。
「あんまり落ち込んでると団長の威厳が霞んじまうぜ」
「分かったわよ。バカ」
 バカね。やれやれ。
246名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 21:35:43 ID:1cM6hPI8
 果たして本当に分かってくれたのかが俺には分からなかったが、そうこうしてるうちにバスはようやく駅前に着いた。
 丁度昼食時であるにもかかわらず、ハルヒは例の喫茶店やどこかのファミレスに俺たちを連れることもなく、
 この日はすっぱりと解散になった。これで週明けに団長様の機嫌が直っていればいいのだが。
 心なし小さく見える気がしないでもないハルヒの後ろ姿を見送ると、
「どうやら閉鎖空間が発生してしまったようです。急がねばなりませんので、僕はこれで」
 携帯の画面を見ていた古泉は俺に早口でまくし立てると、背を向けて通りのほうへ走り去った。
 やっぱり今回もか。果たして未然に防ぐことはできないのだろうか。
 そう何度も危機に瀕していては世界の身が持たないだろう。
 俺が地球防衛軍の隊員に少なからぬシンパシーを抱いていると、
「それじゃぁあたしも帰ります。キョンくん、長門さん、またね」
「えぇ、また学校で」
 マイペースに手を振る朝比奈さんは、今年最後の春風のようにふわふわとこの場を後にした。
 今から月曜日のお茶が楽しみだな。
「……」
 長門はどこともつかぬ一点をじっと見据えていたが、俺が視線を追う前にくるりと背を向けて歩き出した。
 観測が目的なのは分かるが、もう少し積極的に学外活動に加わる気はないのかね、あいつは。
「やれやれだ」 
 すっかり常套句となっている言葉を発すると、俺は自転車置き場へ向けて歩き出そうとした。

 ……直後に誰かと思い切りぶつかった。

「……すいません」
「こっちこそすいません!」
 俺は慌てて謝り返した。見ると、ぶつかった相手は知らない少女だった。
 茶色い髪を一ヶ所だけ髪留めで結んで、パステルイエローのカーディガンと、ブルーのプリーツスカートを着ている。

 …………。

 恥ずかしいことに二人してしばらく見つめ合ってしまった。何やってんだ俺は。
「それじゃ俺はこれで!」
 そそくさと退散しようとする。
「ま……待って!」
 少女が俺を呼び止めた。何だろう。俺はぎくりとする。
 すぐにその場を去れなかったのは彼女に服をつかまれていたからだ。
 俺は振り返った。
「どうしたんですか?」
「あの……道案内をお願いできませんか?」

 ……やれやれ。また言っちまった。
 一体今日は何の日だ?
 ボランティアのための祝日が今日に重なってるなんて聞いてないぜ。
 SOS団が悩み相談を受け付ける場所になるよう俺は一月前に張り紙をしたが、それは校内の話だ。
 休日に知らない人に道案内頼まれる理由にはならない。
 よもや団員全員の顔写真つきで市内のそこかしこにお触れが出ているのではあるまいな。ハルヒならやりかねん。
「あの……」
「は、はい!?」
 俺がそんな熟考スパイラルに陥っていたからだろう、突然の声にやたらと驚いてしまった。
 慌てて俺は彼女に訊く。
「えっと、どこに行きたいんですか?」
 彼女はいそいそとこの街の地図を取り出して俺に見せた。
 地図に赤い印がしてある場所が目的地らしく、そこは奇しくも俺の家からそう遠くない場所だった。
 自転車ならば十分余りで到着するだろう。
 それくらいならお安い御用だ。ちょいとした寄り道だと思えばなんのことはない。
 俺が予想外の無償労働オファーに対し一働きする心でいると、
「でも、あの……」
 少女は遠慮がちにうつむいて、
「そこ……、あの、わたしの叔母のうちなんですけど……」
 何やら事情を話し出した。
247名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 21:36:44 ID:1cM6hPI8
 ……続く彼女の話をまとめるとこうなる。
 彼女は親戚のうちに休日を利用して遠路はるばる遊びに来た。
 しかし、この駅につくと間もなく電話が入った。
 それは他ならぬ彼女の叔母からのもので、どうしても外せない急用ができてしまったので
 夕方まで帰れないという内容だったらしい。
 うむ。ありがち、なのだろうか。
「ええっと、それで?」
「……この街を案内していただけませんか」

 ……何だろう。俺は何か得体の知れない感覚に包まれていた。
 これは世間で言うところのご都合主義というやつではないのか。
 ハルヒが企画したゲートボール大会がポシャって迷子の子を母親に引き合わせ、
 さて帰るかと思いきやたまたま出会った少女に頼まれたのは道案内ならぬ街案内。

 たまにはこんなこともあるさ。

 果たしてそうだろうか。今ここにハルヒはいない。
 ということはあいつがらみの出来事じゃない。……と見ていいんだよな?
 ここ二ケ月ほどの異常の連鎖によって、どうも俺は偶然と呼ぶべき出来事に対する常識的思考が
 できなくなっているような気がする。
 俺が座禅三日目の坊さん並に沈思黙考していると、
「あの……だめ、ですか?」
 少女は申し訳なさそうに言った。
 いや、だめかと言われれば、全然そんなことはない。
 不安げに立っている彼女は、着ている服も相まってさっきまでいた朝比奈さんとイメージがかぶる。
 それに、非常に今さらではあるがこの子はかわいかった。
 一人でこの子を遠くに旅に出した両親の心中を疑ってしまうくらいだ。

「だめならいいんです……すいません」
 彼女はぺことお辞儀をすると、俺の脇を駆けて去ろうとする。
「待ってくれ!」
 とっさに俺は彼女の肩をつかんでいた。
「分かった。分かったよ」
 俺は彼女の背中に向けて言った。
 どうせ今日はもうヒマだ。この後の時間を自室で無為に過ごすくらいならば、
 この子の観光案内まがいの散策ガイドを務めてやるほうが千倍はマシというものだろう。
「どこか行きたい場所があるなら言ってくれ。分かる範囲で案内するよ」

 それから俺は四時間近く彼女の水先案内人Aとなった。いや、移動はもっぱらチャリだったのだが。
 何せ俺のほうは先ほど団員全員の往復運賃を奢らされたばかりだったし、
 彼女は俺の分の交通費を出すと言ってくれたが、頼まれたとはいえ見ず知らずの人にそこまでさせては悪い。
 しかし、だからと言って二人乗りなんぞしている俺は神経回路がねじれちまったとしか思いようがない。
 今日は変な日なのだということで決め付けておいて、後でさっぱり忘れちまおう。うん、それがいい。
 と、いうわけで必然的に行動範囲も限られてくるわけで、ぶっちゃけるとほとんどそのまま
 日頃の俺の生活圏だった。休みの日まで北高に行くことになったのはさすがに予想外だったが……。
248名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 21:37:45 ID:1cM6hPI8
 五時丁度に俺は指定された家に彼女を送り届けた。
「……本当にありがとうございました」
「大げさだって。俺も結構楽しかったよ」
 チャリを止めて彼女のほうを見ると、……何と涙ぐんでいた。
 ちょっと待てって。泣かれるほど大それたことなんてしてないぞ俺は。
 もしかして傷つけるようなことを言ったとか?だとしたら謝りますが。
「そんなこと……ないです……ごめんなさい。それじゃ」
 彼女は玄関に駆け寄る。 
 急に何か言わなければいけない気がして、俺は彼女を呼び止めた。
「そういえば君、名前は?」
 まだ聞いていなかったな。
 彼女はしばし沈黙してから、
「夏季です。野合夏季」
 やっぱり知らない名前だ。
「ナツキか。またいつか会ったらよろしくな」
 俺がそう言うと彼女はしばらくじっとしていたが、うつむいて
「またいつか」
 そう言うとそそくさとドアの向こうに消えた。
「うーむ……」
 俺は何か言いようのないものを胸に感じていて、しかしそれが何なのかは分からなかった。
 これまでのどんな感情とも一致していなかったからだ。

 一人残った俺に何か訴えるように、風が夏至の夕暮れを吹き抜けた。
 梅雨に入ったはずなのに、今日は雨が一滴も降らなかったな。

 ……局地的な環境情報の改竄は惑星の生態系に後遺症を発生させる可能性がある。

 つい先日長門が言った言葉がふいに去来した。
 俺は首を振るとチャリに乗って、ペダルに力を入れた。


 やれやれ、長い一日になった。
 西日になった街を俺は自転車で家まで向かう。
 今日のよく分からん出来事は不思議の範疇に含まれるんだろうか。
 ハルヒが望んだはずのゲートボール試合が中止になったことといい、さっきのあの子といい。
 俺はこれを偶然の一言で片付けていいものかどうか考えあぐねていた。

 程なく自宅に到着する。
「どうも、数時間ぶりです」
 またしても俺の家までやってきたのは古泉一樹だった。
「お前は人の家の前で張り込むのが趣味なのか」
 俺はチャリを玄関脇に止めて言った。
「いいえ。ただあなたが何か疑問を抱いていないかと思いましてね」
「何の話だか分からんな」
 俺はシラを切った。無駄だと言わんばかりに古泉は語りを始める。
「今日は涼宮さんの提案で我々はゲートボールに行くはずでした。
 しかしバス停で急遽予定を変更することになり、迷子の女の子を母親の元へ送り届けた」
 ついでにもう一人手伝ったぜ。
 ……そんなことこいつにわざわざ言ったりしないが。
「それが何だってんだ。神の意思に反してるとか言うつもりか」
 古泉は肩をすくめて両手の平を上向ける。ふっと笑うと、
「そこまで言うつもりはありませんが、あなたも分かっているはずです。
 本来彼女が願ったことは実現しなければおかしいということを。
 まして閉鎖空間を生むような事態など、涼宮さんが望むはずはありません」
249名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 21:38:47 ID:1cM6hPI8
「お前の話によるとそういうことになるようだな。
 だが迷子の子は実在したし、実際に俺たちは母親のところまであの子を送り届けただろう。
 ハルヒの意思と無関係に何かが起きることもあるってことなんじゃないのか」
 西日が古泉の表情を無意味に際立たせた。何の演出だ。
「そう。肝心なのはそこです。
 彼女の願望が実現しなかったということは、そこに何者かの恣意が働いているということに他なりません」
「何者なんだ、そいつは」
「さぁてね。僕には検討もつきません。
 だから思索を深めるべくこうしてあなたの意見をうかがいにやってきたのですよ」
 俺の意見を当てにしてるようじゃ『機関』とやらの未来も明るくないな。
「僕は末端の人間ですからね。
 ひょっとしたら上層部による指令の元何らかのかけ引きがあったのかもしれませんが……」
 ハルヒの暇つぶしを阻止したのがお前たちだとは到底思えんがな。
「えぇ、僕も同意見です。メリットがありませんからね。
 ならばなぜあのような出来事があったのでしょうか」
「だから偶然だろ」
「僕はこうも思うんですよ。
 『すべての出来事に整合性のある理由が用意されているとは限らない』とね。
 ミステリに登場する名探偵たちはそういう事態に遭遇した時、一体どうするのでしょうね」
 こいつはこんなことを言いにわざわざ俺の帰りを待っていたのだろうか。
 顔をしかめる俺に委細構わず古泉は弁舌を回す。
「案外でっち上げのそれらしいことを言って周囲を納得させるだけかもしれませんね。
 例え客観的に見て論理が成立していなくとも、そこにいる人物が納得してしまえばそれは真実ですから」
 いい加減うんざりだな。
「俺は腹が減ってるんだ。今日は疲れたしな。そろそろ家に入りたいんだが」
「僕が言いたかったことはひとつです。経験すること全ての理由が明らかになるとは限らない。
 なぜなら僕たちは一人の人間であるからです。物理的限界を課せられている以上、知りうることもまた有限です」
 そうかい。なら俺は有限の時間を無駄にしないためにこの辺で退場させてもらうぜ。
 何も言わずに家へと踵を返す俺を、古泉はもう止めなかった。

「……そして、一人一人が知る真実は、人それぞれに異なっているのですよ」


 疲れているはずなのに中々寝付けなかったという経験はないだろうか。
 俺は今それを体現している。
 身体はあの野球大会の時と同じくらい疲れているのに、あの日と違ってちっとも眠れない。
 古泉が余計なことを言いにのこのこ現れるからだ。
 ……ハルヒは機嫌を直しただろうか。
 もし月曜日にもむくれてるようだったらと思うと、少しばかり吐息がブルー色になる。
 俺は今日の女の子と母親、そして古泉には話さなかった少女の顔を思い出そうとしていた。
「ナツキ……」
 思い浮かべた表情がやがてぼやけ、ハルヒの怒り笑いに変わった後、
 とうとう何も現れなくなって俺は夢に落ちた。
 夢には誰も何も出てこなかった。と思う。
 夢……。夢か。
250名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 21:39:49 ID:1cM6hPI8
 ………………
 …………
 ……
「どうしましたか?」
 目の前のニヤケハンサムエスパーはつまんだ駒を一足飛びさせて言った。
「いや、ちょいと思い出してただけだ」
「おや。それはSOS団の回想録ですか」
 俺は王冠のついた駒を動かしながら、
「まぁな。お前も最初はまるでとらえどころのない奴だったと思ってたのさ」
「今は違うのでしょうか?ならば僕のSOS団副団長としての信頼はまずまずですね」
「それは他の団員にも訊かないと分からないな」
 駒を置いて俺は長門の方を見た。
 春先の氷のような無表情に比べれば、今はぬるま湯くらいにまで温まったように見える眼差しで、
 穏やかに広辞苑ほどもある本のページをめくっている。
 朝比奈さんは先日八日間の双子生活から戻ってきたばかりで、
 心身ともにようやく一心地ついたらしく、今日も熱心にメイド活動に従事していた。
 俺としてもこの風景が一番心安らぐのはSOS団結成当初から揺るがない真実だ。

 ……同時に今のこの時間を守ることこそが、あの年末以降強くなり続ける俺の決意でもある。

「そういえば三月十四日の計画についてですが」
 古泉が若干声をひそめて言った。団員の信頼はどうした。
「それはこれからあなたがどの程度僕に協力してくれるのかにも懸かっていますからね」
「で、何か思いついたのか」
 俺は笑顔で団長席に座り雑誌をめくっているハルヒを横目で見やりながら、
 古泉の計画に耳を傾けた。


 終業のチャイムが鳴り、俺たちは五人揃って駅前までの集団下校をする。
 ハルヒが連日ホワイトデーのリクエストを蓄積させるのを俺はなんとかはぐらかしつつ、
 いつものように三々五々の解散をして家路に着いた。
 古泉の提案と女子ユニット三人の要求を同時に満たす方法に苦悶しながら。

251名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 21:41:00 ID:1cM6hPI8



「……よかったんですか。彼に事実を伝えなくて」
「これはわたし自身の問題。そしてわたしは彼が知ることを望まない」
「あなたが彼を差し置いて僕に打ち明けごとをするというのは意外でしたね。
 八ヶ月も前のことについてとはいえ」
「……」
「それではまた明日」
「……」
「長門さん、僕は一応SOS団の副団長です。
 彼に言えないことがあればいつでも相談に乗りますよ」

 古泉一樹は笑顔を振りまくとその場を後にした。

 ……長門有希は自宅に向かいながら一枚の栞を取り出した。
 春にはまだ少しある夕闇の中で、栞はかすかに光を帯びているようだった――。




(了)
252名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 21:42:12 ID:1cM6hPI8
以上です。
……w
253名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 22:05:12 ID:RWAzLN6G
GJ。定番と言えば定番だな。しかし良い。
254名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 22:06:48 ID:BADxRhMc
ごめん、オチの意味(>>251の部分)がわからないバカな俺を誰か助けて
255名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 22:37:58 ID:AH8LRCGf
ナツキ=長門なんだろうけど迷子がわからね。
256名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 22:43:12 ID:5aErgI9Z
アナグラムかと思ったけど、よくワカンネ。
長門とナツキが関係ありそうなのは分かったけど、何があったのかがよく分かりません。

そんなアホな俺に教えてエロい人プリーズ!
257名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 22:44:55 ID:agJGA3Fa
迷子もナツキもオチも分からない。
誰か解説を…
258 ◆Etq65eJh4c :2006/12/11(月) 22:48:10 ID:1cM6hPI8
「何なんだこれ。オチがわからない」

……それが当たりまえなのです。オチていませんからw
この話が何だったのかは今書いているSSで七割くらい明らかになります。
そんなわけでトリップテスト。
259名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 22:50:26 ID:BADxRhMc
くやしいっ ビクビクッ

若干ピキッって来たけど中身はおいしいので期待しとく。ガンガレ
260名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 23:14:51 ID:tiuNsJuM
迷子の少女を長門が羨ましがったとか?
ま、続きありみたいだし楽しみに待とうよ。


とにかくGJ!
初期の打ち解けてない雰囲気がうまくでてたと思う。
意外と難しいんだよね。
雰囲気出すのって。
261名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 23:31:05 ID:dJ6wX6W6
サイト巡りしていたら、ここのSS「長門有希の暴走」のMADを発見したので、
どんな話かと思いながら再び読み直してみたら、結構ハイレベルなSSだった。
一度読んだはずなんだが、忘れちまっていたのかな。
262名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 00:01:16 ID:A3f3fmvD
続きまってるぜ!
>>236
いつも乙です。
263名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 00:01:50 ID:8yGaOcUk
これだけ多いと、忘れるよな。
贅沢な悩みだが。

>>221 ぜひ読みたい。
264名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 00:28:55 ID:u/7iS/l9
終ってないなら了なんて書くなよ
265名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 00:44:38 ID:D/3FdToq
>>221
明日、待ってるから。
266名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 01:45:48 ID:k69+xE5U
>>221
飛び飛びに3レスほどあったアレかい?
期待期待
267名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:01:25 ID:X5mMdoX1
32章-404 『涼宮ハルヒの日常』 続き 34レス
間が開きすぎたので、以下あらすじ

学年末も近いある日。
喜緑さんの企みによって、キョンの周囲にいる特定の人物が
「涼宮さんに対するある種の遠慮を取り払われた」状態になり
キョンがやたらと弁当責めにされたり、迫られたり大変なことに。
挙句の果てにキョンはリアルな夢の中で喜緑さんとヤッてしまう。
(情報操作されてキョンはヤッたことその他を覚えていない)
そんな経緯を知らないハルヒは、変化に色々と戸惑ったりした上で、
「パーティするわよ!」と言ったのだった。
268名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:02:07 ID:X5mMdoX1

「あ、おかえりー」
帰宅し部屋に入ると、妹がベッドに寝そべってシャミセンとじゃれ合っていた。
シャミセンが嫌がってないところを見ると、まだ始めたばかりか。そのうちシャミセンが
逃げ出すだろうな、と思いつつ、かばんを机の上に置いて中から弁当箱を取り出す。
昨日は寝てしまって不覚を取ったが、今なら小腹もすいているし、晩飯まで余裕ができる。
さっさと食っちまおう。

「キョンくん、お弁当食べてなかったの?」
弁当に箸をつけた俺のそばに、妹が寄ってきた。何か変わったことがあると、すぐこれだ。
卵焼きを頬張りながらうなずく俺に、
「なんでー?」
妹はさらに質問をぶつけてきた。卵焼きを胃に収める。
「別になんでだっていいだろ」
いちいち説明するのも面倒臭い。
ぶっきらぼうに返事した俺は、妹の機嫌が斜めになる前に話題転換した。
「ああ、それより今度の土曜……いや日曜か? とにかく週末になんか用事あるか?」
「んーん」
頬を膨らませかけたまま、左右に首を妹が振る。
「そうか。なんでもハルヒがパーティを高校の部室でするから、暇ならお前も来ても――」
「行く!」
効果覿面。妹は目を急に輝かせて、機嫌を直した。そのまま踊りだしそうな雰囲気である。
踊りだすのは構わんが、シャミセンを振り回すのはやめておけよ。

「シュークリームのお姉ちゃん?」
せがまれ、パーティ参加者の名前を弁当を食べながら挙げていると、妹が阪中のところで
口を挟んだ。あのシュークリームを焼き上げたのは阪中母なんだが、よく覚えていたな。
「だってあのシュークリームおいしかったんだもん」
言外にまた食べたいオーラをにじませる妹を見て、阪中に頼んでみようかと思った。
俺も食いたいし、パーティにはもってこいだろう。
「で、あと一人は喜緑さんって名前の二年生の人だ」
最後に喜緑さんの名前を出して締める。生徒会書記だのなんだのは妹に関係ないから除外だ。
これで弁当に集中できると思ったら、妹が俺の顔をじーっと見ていた。なんだよ。
「キョンくんなんだかうれしそう」
ぽつりとつぶやく妹。
「どこが?」
心当たりは当然あったが、顔にあっさり出す人間じゃないぞ、俺は。
声を返した俺に、妹は返事をせずふくれっ面で不機嫌を表明していた。忙しい奴だな。
無言になった妹は放っておいて、俺は箸を動かした。夕立ちはすぐに収まる。
それぐらい、生まれたときから見てればわかるさ。
269名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:02:43 ID:X5mMdoX1

実際、妹は夕飯時には不機嫌などどこ吹く風で、ハンバーグを頬張っていた。
おふくろに明日の弁当はいらないと告げたときだけ、ナイフを持つ手を止めた気もしたが。
風呂にも布団にも乱入してくることなく、少々拍子抜けたものの、拍子抜けなどと思った時点で
何か越えてはいけない一線に半歩踏み入れている気がして、俺は布団を頭までかぶった。


寝入ってからどれくらい時間が経ったのだろうか。
「……ん……う」
体を揺すられている感覚がして、俺は不承不承、意識を半覚醒させた。
「揺らすなよ……なんだ? 一緒に寝るのか?」
相手が妹だと算段をつけ、寝ぼけた頭で寝言をほざく。
しかし相手は、なおも無言で俺を揺すり続けていた。うざい。
「……いい加減にしろよ。俺の睡眠を邪魔するな」
手で払って、布団を手繰り寄せようとして、
「……?」
布団がないことに気がついた。それどころか、背中に当たる感触が妙に固い。
まるで、いつぞやかのように、地面にでも寝ているような感触だな……地面?
目が覚めた。跳ね起きた。横にハルヒでもいるのではないかと思っていたが、
「お目覚めですか?」
膝を着いて微笑んでいたのは、髪をなびかせた喜緑さんだった。

辺りを見回すと、空が灰色になっているわけでもなく、巨人が闊歩しているわけでもない。
校舎の屋上に、俺は寝転がっていたようだ。ご丁寧にも制服まで着ている。夢だな、こりゃ。
夢の中で眠気を追い出す離れ業をやってのけた俺は、同じく制服姿で傍らに佇む喜緑さんに向き直った。
「どうも」
間の抜けた返事だったかもしれない。喜緑さんの首を傾げる動作でそう思った。
首を傾げたまま喜緑さんは、
「一緒に寝るなら寝るでいいんですけれど」
「え? あ、いや、それはただの勘違いで、喜緑さんとは思わなくてですね」
夢の中で寝言の弁解をする俺は、なんなんだろう。
「誰を想定して、一緒に寝ようなんて言ったんですか?」
喜緑さんも夢の中にしては、やけに切り込んでくる。近づいた髪から、いつものいい香りがした。
妹と答えてもあらぬ誤解を受けそうで、なんとなく黙った俺に、
「今度言うときは、わたしを想定しながら言ってくださいね」
喜緑さんがウィンクをくれた。割と茶目っ気のあるお人だ。
それにしても、やけにリアルな夢だ。色彩や香りまでついた夢なんてついぞ記憶にない。
もっとも記憶に残ってないだけで、夢とはそういうものなのかもしれないのだがな。
眼前の喜緑さんを見るともなしに夢の認識を改めていると、喜緑さんの口が笑みをかたどった。
「それでは、本題に入りましょう」
270名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:03:19 ID:X5mMdoX1

喜緑さんの言葉と共に、風景が黒一色になった。
だが鼻をつままれてもわからない暗さ、という表現は当てはまらないな。
俺は自分の姿が見えるし、喜緑さんの姿もこの目で確認できた。どうやって見えているのかは謎だ。
風景が消えた理由もよくわからんが、夢の中の出来事だから、こういうこともあるのだろう。

「しばらくお待ちください。ただいま連結作業中です」
漆黒に姿を浮かばせて、喜緑さんが事務的な口調で告げた。と、その口が高速で動き、つぶやきだす。
つぶやいている内容は聞き取れないまでも、俺は喜緑さんの口の動きに心当たりがあった。ありすぎた。
こんな動きができるのは、
「長門……?」
夕暮れ、朝倉涼子、バット、カマドウマ、アメフト。
光景がフラッシュバックされる。朝比奈さんが呪文と呼んでいたヤツだ。
それをなぜ喜緑さんが? 喜緑さんにそんな願望を持ち合わせていたのか、俺は。
無表情な喜緑さんもいいな、などとアホな考えを抱いていた俺を遮断したのは、
「解除します」
詠唱中の喜緑さんが俺を一瞥してから漏らした一言だった。

「お目覚めですか?」
高速詠唱を続けながら、喜緑さんが先程と同じ言葉を繰り返す。
「ああ」
しかし意味合いが異なっているのは、俺にはよく理解できた。
きっと、今の俺は苦々しい表情を取っているに違いない。取りたくもなるさ。
できれば掴みかかりたいぐらいだが、やったところで無駄だというのは、すでに学習済みだった。
だから情報操作が解除された俺は、喜緑さんを睨みつけるに留める。その喜緑さんは涼しい顔で、
「何を怒ってらっしゃるんですか? 昨日、今日といい思いをされたと思うのですけれど」
受け流してきた。俺の中で勝手に、喜緑さんとヤッた記憶がリピートされる。
すまん、あれは確かに気持ちよかった。だがそれで懐柔される程、俺は腑抜けじゃないぜ。
「いくらいい思いをしたとしても、いいように扱われて怒らない人間がどこにいるんだよ」
「あら、器量の狭いことを言うんですね。涼宮さんに選ばれたのですから、懐の深さを見せてくれないと」
古泉のような理屈を並べて、はぐらかしてきた。俺に何を期待しているんだか。
やけに人間味溢れた物言いに肩すかしを食らった気分でいると、高速詠唱が止まった。

「涼宮さん、少しお変わりになられたようですね」
飾り気のない笑顔の裏に、ほくそ笑んでいるさまが見て取れた気がした。
長門は身動きが取れず、古泉は静観。朝比奈さんもどこかおかしい。俺の焦りがそう思わせたのか。
実際、どうしようもなかった。悲しそうな長門に、俺は答えてやれなかった。俺こそ真性のアホだ。
急に理不尽な後悔が押し寄せた俺は、苛立ちを隠せず、喜緑さん、いや、喜緑江美里にぶつけた。
「なぜ俺の情報操作を解除したんだ?」
「相手がわたしではないからです」
返事ともつかない返事だった。間を置かず情報連結開始、と声を発せられ――
視界が、白で染まった。
271名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:03:57 ID:X5mMdoX1

漆黒が振り払われ、白い空間が色付く。と、そこには、
「朝比奈さん?」
制服姿の朝比奈さんが、呆然と立ちすくんでいた。遅れて場所が目に入る。部室だ。
喜緑江美里の姿は、影も形も残っていなかった。俺と朝比奈さんだけだった。

朝比奈さんは、本棚の前にいる俺の姿が視界に入っていない上に、声も聞こえていないらしい。
胸元まで持ち上がっていた手が、ゆっくりと下ろされる。視線は固定されたままだ。
俺は朝比奈さんの表情が気になって、視線を追う。開けっ放しの扉と奥に窓、廊下が見えた。
何もない。誰もいない。朝比奈さんは、何を見ているんだ?
疑問が解消されないまま、顔を戻した俺の眼前に、
「朝比奈さん!」
ぽろぽろと涙をこぼす朝比奈さんの姿があった。頬を伝う涙に合わせて、唇が動く。
しかし、俺の耳に声は届かない。ただ唇を動かしているだけなのかは、この際どうでもよかった。
朝比奈さんが泣いているという事実で、すでに俺の感情メーターは振り切れていたからな。
泣かせた奴が目の前にいたらぶん殴る勢いで足を踏み出し、手を差し伸べようとして、
「ちっ」
透明な壁に弾き返された。ハルヒと閉鎖空間に閉じ込められたときの感触が去来する。
別の箇所を触っても、同様に壁があった。朝比奈さんと俺とを隔てる壁だ。
だが、こちらは誰の仕業かすぐ理解できた。
「出てこいよ、いるんだろ?」
「あら、不可視遮音フィールドをご存知でしたか」
想像通り、雲隠れしていた喜緑江美里が姿を現し、傍らに音も立てず上履きが並ぶ。
以前、改変後の世界を修正しに過去に赴いた際、長門が張っていたフィールドを俺は覚えていた。

「なんなんだよ、これは」
泣き暮れる朝比奈さんから目を離さず、荒げた声で怒りを示す。返事は落ち着いた声で、
「朝比奈みくるが見ている夢、いえ、現実の続きです」
「……昨日、俺が夢だと知らされたあれか?」
「はい」
とことん悪趣味な宇宙人だ。プライバシーという単語ぐらい覚えておけ。って待てよ。
「現実の続き? これが?」
「そうです。まだ何もしていないので、現実そのままです」
喜緑江美里は答え、
「フィールドの遮音を一方通行にしてさし上げます」
乞われもせずに、手を前方にかざす。
すると、朝比奈さんのしゃくりあげる音が耳に入った。当然、朝比奈さんの声で。
とはいえ、泣き声を聞いても現実に起こった出来事だとにわかには信じられん。
これも手の込んだブラフなのではないかと思った俺に、朝比奈さんの声が飛び込んできた。
「キョンくん、どうして……」
272名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:04:35 ID:X5mMdoX1

「好きなのに……好きなのに。キョンくんが、好きなのに!」
かぶりを振って、朝比奈さんが悲痛な声を上げる。
「わたしじゃ、ダメなの……?」
伏せられた顔から、涙が雫になってこぼれ落ちた。
なんてこった、原因は俺か。公開スパーじゃ手ぬるいな。サンドバッグになってハルヒに殴ってもらうか。
もちろん、本物であれば、の話なのだが。

「嘘だとお思いになるのは構いませんけれど」
喜緑江美里がその俺の考えを見透かすように、うそぶく。
「紛れもなく、これはあなたが昨日部室を去ったあとの朝比奈みくるの行動です」
「理由が欲しいな。言うだけならいくらでもできる」
指で目尻を拭う朝比奈さんから目を外して問いかける俺に、
「今、情報操作は現存する情報の消去、編集しかできません。新規作成すると長門さんに気取られます」
けれんみを感じさせない口調で、喜緑江美里は淡々と唇を動かした。正面を向いたまま、
「ですから、現実の続きである必要があるんです。あなたの夢の中での出来事のように」
「……」
説得されたわけじゃない。むしろ自分の認識の浅さに呆れ返っていた。
とどのつまり、どう説明されようと俺は喜緑江美里を信じられないってことだ。気付けよ、俺。
不可視の壁に頭突きでもしたくなったが、控え目な音がそれを押し止めた。
その音は、扉が閉まる音であって、音の発生主は、
「ぐすっ、キョンくん……」
朝比奈さんだった。

扉を閉めた朝比奈さんは、頼りない足取りで再び長机に戻っていく。
片付けは終わっているはずだが、朝比奈さんは何をするのだろうか。
かばんでも取り忘れたのかと思っていると、朝比奈さんはパイプ椅子を引いて腰掛けた。
あの朝比奈さん、そこ俺の席なんですが。
「キョンくんのぬくもり……」
溜息をついてごそごそと身じろぎをするのが見える。
パイプ椅子に体温が残っているわけもなく、朝比奈さんがそう感じているだけに違いない。
理解してはいるものの、むず痒い気持ちが沸き起こってしまうのは止められなかった。
「ん」
俺にはお構いなしに、朝比奈さんは鼻から抜ける声を出したかと思うと、
「キョンくん……」
右手を胸に押し付け、荒々しく手を動かした。別人格でも宿っているかのように
乱雑に力が加わり、ふくらみがたわむ様が着衣の上からでもはっきりとわかった。
「ああっ、キョンくんもっと、優しくして」
「って何やってるんですか朝比奈さん!」
遅ればせながら叫ぶ。朝比奈さんの中にいる俺は、随分と衝動的な人間らしい。
それはどうでもいいとして、朝比奈さんの痴態を高みから見物する気など、俺には毛頭ない。
慌てて耳を塞ぎ背を向けようとして、
「現実逃避は感心しません」
喜緑江美里が動きを封じてきた。指先ひとつ動かない。俺にとっては現実じゃねえよ。
彫像と化した俺に背後から手を回して、肩口に頭を乗せた喜緑江美里は、耳元に囁きかけた。
「あなたもなされたのでしょう? 朝比奈みくるがしたからって、なんの不思議もありません」
273名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:05:10 ID:X5mMdoX1

「うん……そう、優しく……んっ」
朝比奈さんが架空の俺に対して甘くおねだりをしている。
陶酔した表情は、俺が今まで見てきた朝比奈さんより数倍色気があった。
架空の俺は、大胆にも制服の下に手を潜り込ませて、直に堪能し始めていた。

その一方で、本物の俺は、
「……」
喜緑江美里の言葉に身も心も硬直していた。朝比奈さん(妄想)の存在をなぜ知っているんだ?
「……まさか、四六時中監視されているのか?」
やっとのことで、喉の奥から声を絞り出す。つうか、口は動くのか。
「まさか。単に確定事項を述べただけです。見たわけではありません」
俺の肩にもたれかかったまま、喜緑江美里が答える。
「監視する能力はもちろん兼ね備えていますけれど、原則としてみだりに使用できませんから」
でなければ、とうの昔に長門が俺に対する情報操作を看過しているはずなんだそうだ。
長門は薄々、いやそれ以上に気付いてそうだがな。すまん長門、またお前任せだ。
ともかく、この件に関しては信じておこう。そのほうが、心が安らぐ。

朝比奈さんで妄想するのが確定事項だと言われてしまったが、
「はふっ、気持ちいいです……もっと真ん中を上下にさすって……」
実際の朝比奈さんは妄想の比じゃない。もっとエロかった。
俺の位置から見えるのは上半身と足元だけだったものの、足元に落ちたスカートや、
「あっ、くぅん、キョンくんの指が、入って」
朝比奈さんの声で、透過して見えるんじゃないかと思うぐらい、アリアリと想像がつく。
くちゅくちゅと鳴る粘質な音が、俺を刺激し、
「うっ」
「身体は正直なんですね」
喜緑江美里の這わせた手が、股間に触れる。そこは勃起していた。

「あなたにとっては、ただの妄想相手の一人かもしれませんが」
ズボンの上を妖艶な手つきでさすりつつ、喜緑江美里が俺の首筋に息を吹きかけた。
体の大部分は動かないのに、感覚ははっきりと伝達される。
「朝比奈みくるにとっては、唯一無二の人なんです。この意味はおわかりでしょうか」
「朝比奈さんは……この時代の人と付き合うわけにはいかないと……言っていたはずだ」
それに、ただの妄想相手の一人とはいくらなんでも朝比奈さんに失礼だ。憧れの人が近い。
「建前はそうでしょう。けれど、それは本当に朝比奈みくるの本心でしょうか」
「キョンくん、あたしもう、来ちゃいそう、ですっ!」
朝比奈さんのトーンが急上昇していく。湿った音の間隔も狭まり、
「あっあっ、キョンくん、キョンくんっ!!」
一際大きく俺の名を呼んで、目をギュっと閉じた。

「――っ、はあ、ふぅ」
息をついた朝比奈さんは、しばらく胸を上下させていたが、
「ううっ、うえっ、キョンくん……」
再び涙を流し始めた。その姿は見るからに痛ましかった。
274名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:05:44 ID:X5mMdoX1

ひとしきり泣いた朝比奈さんは、のろのろと立ち上がり、
「拭かなきゃ……」
机の上に置いてあったかばんを漁りだした。薄い茂みや割れ目が見えてしまう。
ウェットティッシュを取り出し、太腿から股間をなぞったあと、後ろを向いて
ティッシュボックスに手を伸ばした。大きなお尻が左右に揺れる。
「あっ」
手にしたティッシュで椅子を拭いた朝比奈さんが、下を向いた。
「替え持ってきてなかった……風邪引いちゃうかも……」
膝まで下げていた白いショーツを引き上げ、穿き直す。大きなシミが中心にあった。
「冷た」
事後処理は、あまり見たくない部類の光景だと思った。
男は虚脱感があるから余計に空しいのだが、朝比奈さんもかなりの哀愁を背負っていた。
その原因は俺にあるらしいので、なんとなく気まずい。
気まずくても、体が動かないからどうしようもな……あれ、動くぞ?
急に解放された俺は、カチリという音を捉えて顔を向ける。
閉じられていたはずの扉が、半開きになっていた。なぜに? ホワーイ?
疑問符を並べた俺に畳み掛けるように、
「キョンくん!」
朝比奈さんの声がした。扉から朝比奈さんに、対象を移す。
視線が、合った。

「えっ、あっ、朝比奈さ、え?」
「キョンくん……もう戻って、こないのかと」
足首まで戻していたスカートを躊躇いもなく床に脱ぎ捨て、朝比奈さんが抱きついてきた。
困惑した俺は、すぐあることに気付く。いねえ。喜緑江美里が完全無欠に消え失せていた。
後ろを向いても、本棚しかない。やられた。
「キョンくん、どうかしたんですか?」
朝比奈さんが放すまいと全力でホールドしつつ、頭を傾ける。
可愛らしい所作を行いつつ、後ろ足で扉を閉めるのは、はしたないと思うのですが。
「あ、わたしがどうしてスカートを脱いでいたのか、って思ってるんでしょう?」
あちこちに目を置いていた俺を、目の遣りどころに困っていると解釈したようだ。
「えへへ、ひとりエッチしてましたぁ」
明るく朝比奈さんはおっしゃられたが、目尻からひとしずくの涙が流れたのを俺は見過ごせなかった。
近くで見れば、朝比奈さんの頬には、涙が作った跡がくっきりと浮かんでいた。その跡を新しい涙がなぞる。
朝比奈さんの流した涙を思い、その涙が誰に向けられているかを思う。俺か。俺だ。
「朝比奈さん……」
抱き返したくなった。事実、俺の手は朝比奈さんの背中に回されんとしていたからな。
しかし喜緑江美里がどこかで見ているに違いない。相手の思う壺は、シャクに障る。
反抗心が寸前で思いとどまらせ、両手は朝比奈さんの肩に置かれることになった。
「俺の話を聞いてください」
275名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:06:23 ID:X5mMdoX1

「そんなことが……」
喜緑江美里に情報操作を受けてから今までを俺は話した。妄想やノゾキ、エロ関連は端折ったが。
最初はぽかん、としていた朝比奈さんも、聞き終えて驚きの表情を浮かべる。
目が覚めたように素直に驚きを発する朝比奈さんは、俺の知る朝比奈さんだった。
「ですから、その、俺を好いてくれるのは嬉しいんですが」
「キョンくん」
安心した俺が続けようとしたところを、朝比奈さんが抑揚のない声で遮った。
「キョンくんは、あたしの気持ちも偽りである、と言いたいんですか?」
真剣な眼差しをしていた。怒っているようにさえ見えた。

「確かにわたしの立場からすると、涼宮さんをないがしろにしたり挑発したり、まして
キョンくんにアプローチをかけるなんて、してはいけないことです。禁則事項に近いです」
まくしたてた朝比奈さんは、かぶりを振って、
「ううん、客観的に理解しただけで、今も心の中ではしてはいけないなんて思ってません」
情報操作、か。喜緑江美里はハルヒに対する一種の遠慮を取り除いたと言っていた。
俺を肯定するように、朝比奈さんは寂しげに微笑んだ。
「それにもしかしたら、このわたしはわたしじゃない可能性も……でも」
「うわっ」
肩に置いていた手がすり抜け、空気を掴む。朝比奈さんが飛び込んできた。
顔を俺の胸元に押し付けながら、
「以前、バレンタインのときあたし言ったでしょう? 誰かを好きになっても、未来に
帰らなければならないから。お別れしなきゃいけないから。あたしはお客さんだって」
「……ええ」
さっき喜緑江美里に言ったばかりだった。
「いくらそう思っていても、誰を好きになるかなんて、理性で割り切れるものじゃありません。
だから、赴く際に精神制御を受けるんです。好きになっても、それを当人の前で出せないように」
『わたしとはあまり仲良くしないで』
朝比奈さん(大)の言葉が浮かんだ。あのときの朝比奈さんは、もどかしい表情を作っていた。
「想いが決して伝わらない相手を想って、自分で自分を慰めて……」
『チュウくらいならしちゃっていいよ。ただし寝てる間にしてね』
これも再三聞かされた言葉だ。冗談のような言い方だったが、何を思っていたのだろう。
その経緯を知らない俺の朝比奈さんは、緊張した面持ちで俺を見上げていた。喉が鳴ったのは
俺か朝比奈さんか。見つめ返すと、朝比奈さんは深呼吸を一つして、音を紡いだ。
「あたしは、キョンくんが、好きです。愛しています」

「言えた……やっぱり、解除されてたんだわ」
感慨深くつぶやくと、張り詰めていた糸が切れたのか腰が砕けかけた。慌てて受け止める。
どう声をかければいいかわからないから、無言で。
「あは、足に来ちゃいました。ごめんね、キョンくん。大丈夫です」
俺の腕を支えにして朝比奈さんは立ち上がる。そのまま、潤んだ瞳で俺を見つめてきた。
「キョンくん、あたしの夢を叶えさせて……」
276名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:07:02 ID:X5mMdoX1

俺の背中に回していた手を、朝比奈さんはゆっくり解いた。
まだ判断力が戻りきってない俺に向かって、
「涼宮さん、ごめんなさい」
心を伴わない口だけの謝罪を朝比奈さんは発した。ようやく俺も追いつく。
「何をハルヒに謝って――」
俺の言葉は、しかし柔らかいものによって封じられた。
朝比奈さんの顔越しに『パーティ決行!』と書かれてあるホワイトボードが目に映る。
つま先立ちした朝比奈さんにキスされたと認識したのは、文字を読み終えたときだった。
いつの間にか肩に添えていた手を俺の首にかけ、手前に引き寄せながら濃厚なキスを
続ける朝比奈さんを、俺は為されるがままに受け入れていた。つうか固まっていた。

「ぷはっ」
顔を離した朝比奈さんは、息を止めていたのか、胸を押さえてせわしなく呼吸を繰り返す。
固まったままの俺に気付いたのは、息が整ってからだった。
「キョンくん、もしかして嫌でした……?」
おずおずと申し出る朝比奈さんに、犯罪者にでもなったような気分に襲われる。
「とんでもない」
即座に復帰かつ否定する。朝比奈さんとキスできて嫌だなんて言う男は、100人中5人しか
いないはずであって、俺は断じてその5人の中に含まれる性癖の持ち主ではない。
「ただ、ちょっと驚いただけで」
唇に感触がまだ残っている。素の朝比奈さんに告白された上でのキスだ。驚きもするさ。
昨日から絡んでくる朝比奈さんのテンションのままだったら、ここまで動揺しなかった。
愛しています、なんて言葉を高校生の身で受けるとは、これこそ驚天動地ってヤツじゃないか。
「よかったぁ」
俺の返事を聞いて、朝比奈さんは顔をほころばせた。かと思うと頬を赤く染めて、
「あのう、できればキョンくんにリードしてもらいたいんですけど……ダメでしょうか?」
「リード? まさか、アレのリードじゃないでしょうね、はは」
乾いた笑いを上げて冗談扱いした俺に、未だに下はショーツと靴下だけの朝比奈さんが口を尖らせた。
「なぜ笑うんですか。キスするだけが夢だなんて、あたしそんなお子様じゃありません」
朝比奈さんがお子様じゃないのはその立派な胸を見ればわかりますし、さっきだって、
「さっき?」
抜かった。問い返す朝比奈さんに、そらっとぼける。
「いや、朝比奈さん自分で言ったじゃないですか。ひとりエッチしたって」
「キョンくん、まさか見てたんじゃ……」
俺の演技力のなさは折り紙付きだったようだ。
「見たんですね? 見たでしょ? あたしのするところ、見ましたね?」
「あー、ええとその……はい」
実際には見させられたのだが、見たことには変わりない。追及に観念してうなずく。
朝比奈さんの顔色が一気に失せた。そのまま倒れてもおかしくないぐらいの蒼白さだ。
オナニーしたと言うだけならジョークで済むが、見られていたと知ったらな。妹に見られた俺並に悲惨だ。
どう声をかけ慰めるべきか悩んでいると、
「あ……あは、あはは、うふふふふ」
俺とは方向性の違う乾いた笑いが上がった。壊れた。ひたすら怖い。
「もうあたしに恥じるものなどありませんっ!」
ヤケクソ気味に、朝比奈さんが言ってのけた。
277名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:07:39 ID:X5mMdoX1

「ムードとかリードとかもうどうでもいいですっ」
そう言って朝比奈さんはショーツに手を伸ばすと、ばっさり脱ぎ捨てた。
見事な脱ぎっぷりだった。距離が近いから、ほとんど見えないが。それはそうとして、
「朝比奈さん、自暴自棄はやめたほうが」
「自暴自棄なんかしてません! あたしは最初からキョンくんとひとつになりたいだけです!」
上も脱ぎながら、朝比奈さんは俺を睨み付けてきた。明らかに責めている視線だ。
「キョンくんもキョンくんです。あたしのひとりエッチを見たのなら、いきなり襲い掛かってくる
ぐらいの甲斐性があってもいいじゃないですか。そんなにあたしに魅力がありませんか。そんなに
涼宮さんがいいんですか。あたしは喜緑さん未満ですか。どうなんですか!?」
朝比奈さんってこんなに迫力があったのか。及び腰になるぞ、これは。
「き、喜緑江美里がどこで見てるかわからないのに、できるわけないじゃないですか」
「あたしは全然構いません。むしろ燃えます」
制服を机に置きブラジャー姿になった朝比奈さんは、
「あたしの精神制御を解いてくれた上に、こんな舞台を用意してもらって感謝すべきなんでしょうけど」
喜緑江美里の姿を探すように部屋を見渡した。出てくるかと思ったが、なんの変化もない。
顔を俺に戻し、握りこぶしをわなわなと震わせて叫んだ。
「キョンくんとエッチしたのは絶対許せません!」
俺はエッチしたなんて言ってない。なのに朝比奈さんが確信を持っているということは、情報操作か?
情報を有効活用するとか言ってたな、喜緑江美里は。朝比奈さんに情報を刷り込み、対抗意識を出して
積極的に行動させるのが活用先か。で、それもこれもすべてはハルヒを焚き付けるためだと言う。
事実ならずいぶんと回りくどいやり方だ。長門にバレないためか、単に、
「喜緑さんにできて、あたしにできないなんて言いませんよね?」
「え? あ、いや……う」
沈黙を是と受け取られてしまった。事実そうなのだが弁明を入れねばなるまい、俺の意志ではないと。
焦点を朝比奈さんに合わせかけ、桃色の突起を目にして慌てて逸らす。
朝比奈さんはいつの間にかブラジャーも取って、裸身を晒していた。

「キョンくんの恥ずかしい姿、見せて」
あさってを向く俺のふところに朝比奈さんが擦り寄ってきた。制服が引っ張られる感触がする。
首から下を見ないようにチラ見すると、ほんのり赤く染めた顔で制服を脱がさんとする朝比奈さんがいた。
「や、やめ」
「うふ。お姉さんに任せてくれればいいんですよぅ」
「思い出したようにお姉さんぶらないでください!」
成長したほうを重ねてしまいそうになる。
「だーめ。あたしは上級生でキョンくんは下級生。最初からこうすればよかったんです」
楽しがっているな、絶対。お茶を淹れるときでもこんなうきうきした声は出さない。
ああ、俺の朝比奈さんはエンジェルでも未来人でも憧れの人でもなく、ただの人だったのか。
妄想が現実、と言っても擬似現実ぐらいだが、になるとある種の空疎感を得るらしい。
朝比奈さんのたおやかな御手によって身ぐるみをはがされながら、俺は世の儚さを嘆いていた。
278名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:08:26 ID:X5mMdoX1

嘆いていても俺は修験僧ではないわけであり、
「わっ……」
視覚を遮断できたとしても嗅覚や触覚を防ぐことは不可能だった。
一日の運動量が蓄積され、そこはかとなく香ってくる裸の朝比奈さんに密着されていると
朝比奈さんが驚くぐらいにしかるべき部位がしかるべき反応を見せても不思議じゃないのである。
さっき喜緑江美里に刺激されていたことも遠因だろう。
「キョンくんすごい」
何がすごいのか別に教えてくれなくてもいいです。
いっそのこと全力で逃げ出そうとも思ったが、ま、無理だろうな。
割り切って愉しむか、あくまで抵抗しつつやられるか、このまま朝比奈さんにお任せするか。
俺はどうしたらいいんだ。むしろ俺はどうしたいんだ。

「キョンくんのイクところ、一度見てみたいです」
開き直るには経験値が足りず、わざと抵抗して朝比奈さんを悲しませたくもない。
流れのままお任せすることにしたが、朝比奈さんの第一声で考えを改めたくなった。
膝を立てて何をするのかと思ったら、
「わっ、びくって跳ねました、いま」
恐る恐る手を伸ばし、触って大げさに驚きになられたのだ。
小慣れた朝比奈さんなど妄想だけで十分だったから、そこまでは微笑ましいぐらいだったが、
「熱い……ええと、こう?」
「いっ」
「ふえ、ち、違いました?」
「……思い切り搾るだけじゃ、たぶん出ないと思います」
男の生理についてあまりご存知でないらしい。雑巾絞りじゃあるまいし。
「あの、教えましょうか?」
我ながら間抜けな問いと思わなくはないものの、投げかけてみた。
「お姉さんは教えられたりしません」
お姉さんを貫き通すのか、意固地になったぶっきらぼうな返事だった。
色々無理しているな、と思ったが口には出さない。あわよくば、このまま終了に持ち込めないか。
朝比奈さんの出方を窺っていると、ぶつぶつ記憶を掘り起こす作業をしているようだった。
「……喜緑さんのとき、キョンくんは……」
参考資料は俺ですか。どれくらい鮮明にコピーされたのか気になるな。
第三者的な視点か、喜緑江美里の主観的な感覚か。後者はあまり想像したくな――
「う」
「こすれるのが気持ちいいんでしょう?」
唐突に朝比奈さんが手をあてがって上下に擦り始めた。痛いぐらいに力を込めて。
朝比奈さんの体温が伝わってくる。見てないが、きっとじっと見つめているに違いない。
考えまいとしていたが、朝比奈さんに今、手コキしてもらってるんだよな、俺。
ほかの人にしてもらうのって、こんなに気持ちよかったのか。病み付きになりそうだ。
279名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:09:11 ID:X5mMdoX1

しばらく無言でこしこし擦る朝比奈さんと顔を背けて耐える俺という構図が続き、
「あ、先のほうから何か出てきました」
言わなくてもいいのに、朝比奈さんがいちいち告げてくる。
「これって、感じてる証拠ですよね? あたしも出ますし」
悔しいが、気持ちいいのは事実だった。液の名称は俺と朝比奈さんでは違うにせよ。
「キョンくん、もうすぐ出そうですか?」
「まだです」
嘘でも一度は意地を通すところだよな。実際、耐えられないほどでもない。
それに、我慢していればしているだけ気持ちいい経験が続くに違いない。
ああそうさ、俺だってエロは嫌いじゃないんだ。ただ状況が状況なだけであって。
「でも、エッチな液が出てるのに……あ」
先端が撫でられる感触がした。指ですくったらしい。
「ぬるぬるにしたほうが、滑りやすくて気持ちいいですよね、キョンくん」
片手で擦りつつ、ぺたぺたと塗りたくっていく。そんなに出ているのか。
なんだかんだ言いつつ、俺も相当毒されているようだ。

「キョンくんの、ものすごくエッチな感じになってます……」
塗り終わり、声をうわずらせて朝比奈さんが言う。どんな感じなんだろうか。
気になりはしたが、朝比奈さんが再び両手で擦りだすと、余裕も無くなった。
「わ……なんだかまた大きくなったような……」
朝比奈さんの吐息が当たっている気がして止まない。どれだけ顔を近づけているんだ。
その図を想像すると、必要以上のエロさを感じて、ますます追い込まれていく。
だがこの状態で出してしまったら、朝比奈さんの顔にかかってしまうんじゃないか。
顔にかけるのは事故の妹だけで十分だ。俺にそんな趣味はない。
「朝比奈さん、あまり顔を近づけないでください」
「ふぁ、は、ごめんなさ」
「うっ」
条件反射でびくっと体を震わせたのか、ぎゅっと力一杯、握り締めてきた。
その刺激も辛かった上に、すぐさま擦る作業を続けたのも効いた。
「や、やば」
「え、あ、キョンくんイキます?」
嬉しそうに言って、さらに一生懸命擦りになられる。ダメだ。もう保たない。
なりふり構っていられないので下を向くと、この後に及んで朝比奈さんはまだ直線上におられた。
そこじゃどう考えても直撃コースだ。
「朝比奈さ、よこ、横に動いて!」
「横?」
俺の危急を示す叫びにきょとんと俺の顔を見上げる朝比奈さん。擦る手は止めない。
視線の合った朝比奈さんは、紅潮させた顔に色気を漂わせていて、たまらなかった。
「っ!」
「ひゃっ」
臨界点を突破し快楽が迸る。見上げる朝比奈さんの顔に、俺は思いっきり出してしまっていた。
280名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:09:52 ID:X5mMdoX1

二度、三度と精液が朝比奈さんを汚す。またやっちまったよ、俺は。
射精後の気だるさも後押しして、奈落の底まで落ち込んでいきたくなった。
「あは、こんなに飛ぶなんて知りませんでした」
対照的に朝比奈さんは、気に留めていないのか、にこにこ笑顔を浮かべていた。
「キョンくんたくさん出ましたね。これでおあいこです、ふふ」
顔を白く染めて笑う朝比奈さんを見て、お姉さんだな、となぜか思った。

「それじゃキョンくん、しましょう」
ウェットティッシュで顔の精液を拭き取って、朝比奈さんが振り向き、
「あれ……あれ?」
一点を見つめて、不思議そうな声をお出しになった。
「なんでキョンくん、小さくなっちゃったんですか?」
「なんでも何も――」
朝比奈さんの無知もここまで達していたかと思いつつ、返答しかけ、即座に考え直した。
「朝比奈さん、知らなかったんですか? 男は一回出したらその日は終わりなんですよ」
「ええっ!?」
派手に驚きになる。騙されやすいお人だ。もちろん嘘である。
「そんな、なんで教えてくれなかったんです?」
「知ってるとばかり」
とぼける。朝比奈さんを直視しないように視界から外して。
このまま終われば、朝比奈さんに多少の不満は残るにせよ、納得するしかないだろう。
朝比奈さんとセックスしたい欲求がないではなかったが、まだ抵抗心が勝っていた。
「うう、知りませんでしたぁ」
真に受けてがっかりする朝比奈さん。頭を垂れている姿が想像つく。
「あたしは準備万端なのに、夢が叶わないなんて……」
申し訳ありません、朝比奈さん。別の機会にしてください。そのときは、
「キョンくん、こうなったらあたしにもしてください」
「え」
「キョンくんのエッチなところを見てたら、あたし我慢できなくなったんですよぅ」
朝比奈さんがその肢体を俺に擦り付けてきた。豊満な胸がたわみ、圧迫感を伝える。
下半身は開いて俺の太腿に当ててきた。ぬるっとした感触がする。こんなのひとたまりもないぞ。
「や、ちょっとま」
「ね、キョンくん、はふっ、あたしも気持ちよくさせてくださぁい」
落ち着かせようとしたが、息遣いも荒く高ぶった興奮をぶつけられてはどうしようもない。
俺はあっさり陥落し、股を俺に押し付けていた朝比奈さんにそれを気付かれないわけもなかった。
「……? あのう、キョンくんの、また大きくなってますけど」
手を伸ばして、大きくなった部分をにぎにぎしてきた。硬質化している。ああ。
「キョンくん、もしかして騙しました?」
朝比奈さんのコワい笑顔を前に、俺は答える術を持たなかった。
281名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:10:32 ID:X5mMdoX1

朝比奈さんの不興を買った俺は、長机の上に仰向けに寝かされ、まな板の上の鯉と化していた。
まるでどこぞの団長のように仁王立ちした朝比奈さんが、俺を見下ろしている。
できるだけ見ずにいた股間が惜しげもなく晒され、茂みや開き気味の割れ目が目に飛び込む。
脳髄が焼き切れそうな光景だ。すでに十分に勃起していたが、さらに充血してしまう。

「いれます」
やや緊張した面持ちで、朝比奈さんが腰を沈めていく。ここまで来たら、俺も抵抗しない。
いや、抵抗と言ったら朝比奈さんに失礼か。心の大半は行為を望む俺がいた。
手が添えられ照準が合わされ、先端が朝比奈さんの中に呑み込まれていき、
「――っくう」
朝比奈さんの軽いうめき声と共に、全てが埋没した。熱に包まれ、朝比奈さんの体重が俺にかかる。
「……はぁ……ふぅ」
「あ、朝比奈さん、大丈夫ですか?」
「ん……はい。これでひとつになれたんですね……」
目をつむって余韻に浸る朝比奈さんは、身体だけでなく心で確認しているようだった。
嬉しさがにじみ出ているように思えて、俺にも伝播する。
「キョンくん、今だけは、あたしのキョンくんでいてください」
「……わかりました」
わだかまりを捨て去る。捨て去った、と思い込んだ。
朝比奈さんに負担をかけないよう、腰を固定しつつ後ろ手に身を起こす。
眼前に朝比奈さんのふくよかな乳房があった。もちろん、星型のホクロもある。
と、朝比奈さんも軽く体を前に倒してきた。魅惑的な笑みを浮かべて、瞳を閉じる。
ちゅっ。
「んぅ……ちゅ、んんっ、んむ……」
先程のキスよりもっと濃密な、情愛を交歓するキスだった。
朝比奈さんの腰が軽く揺れ、刺激してくる。本能のままに動いている様子だ。
俺も積極的に朝比奈さんの唇を奪い、舌を絡める。濡れる音がしばらく続き、
「――はあっ、キョンくん……」
目をとろんとさせて朝比奈さんが顔を離した。半開きになった口の端から唾液が流れる。
俺は支えにしていた手を離し、そのまま朝比奈さんの乳房へ伸ばした。下から持ち上げる。
「あふ」
重量感もだが零れ落ちていきそうな柔らかさに驚いた。朝比奈さんが身をよじる。
快感を抑え切れないのか、腰の動きも大胆になっていった。一度出してなかったらやばかったな。
「おっぱい、おっぱい吸ってくださぁい」
俺もそうしたいと思っていたところです。朝比奈さんの腰に手を回して、顔を寄せた。
硬くなった乳首を口に含み、舌で転がす。堪能してから、思うがままに吸い付いた。
「あっ、ああっ、いいです、キョンくんもっと、してっ」
朝比奈さんはあえぎ声を出して俺の頭を掻き抱いたかと思うと、胸を押し付けてきた。
貪欲に朝比奈さんを味わう俺は、次第に妙な心地よさに占められていった。
282名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:11:31 ID:X5mMdoX1

「――かはっ、っ、はあっ」
「ご、ごめんなさい……あまりに気持ちよくて」
「はあっ、いえ……」
心地よさの正体が酸欠だったとは。危ういところで助かった。
朝比奈さんのおっぱいにのめり込むと、危険だ。ひとつ学んだ。再び実践する機会があるか疑問だが。
背を机につけ息を整え、申し訳なさそうにしている朝比奈さんを眺める。でもおっぱいは偉大だな。
特に深い思い入れのない俺でも、そう思った。と同時に、軽い悪戯心が湧いて出る。
「ひゃっ」
腰を突き上げると、結合したままだった朝比奈さんが艶っぽい声をお出しになった。
「も、もうキョンく、んっ、やめてっ」
俺の動きに腰をもぞもぞ動かしながら言っても、説得力ないです。
そして俺の行動がまた火をつけてしまったらしい。徐々に腰を浮かしては、沈め始めた。
「キョンくん、これっ、はぁっ、こすれて気持ちいいですぅ」
乳房が揺れて視覚的に俺を楽しませる。朝比奈さんが沈むのに合わせて、俺も突く。
結合部が打ち合わさり、音が立つ。腰を痛めそうなものだが、不思議と長机は衝撃を吸収してくれた。

「はふぅ、おっぱいも、あそこも、あは」
乳房を自分でこねくり回し、惚けた顔で身体を踊らせる。
朝比奈さんの口から漏れ出る声は、だんだんと短く断続的になっていった。
それに伴って、腰を振る動きも早まる。限界が近いのかもしれない。
俺も二度目の射精が込み上げていた。朝比奈さんの中は、気持ちよすぎる。
「朝比奈さん、俺またそろそろ……」
少々情けないが自己申告した。どいてもらわないと、中出ししちまうからな。
「っ、キョンくん、イっちゃうん、ですかぁ? あたしも、もうすぐ、だからっ」
しかし何を思ったか、朝比奈さんは逆に俺の腰に手を置いてがっちりと拘束してきた。
「キョンくんを、はぁっ、あたしに、くださいっ!」
「いや……」
それはいくらなんでもマズいのではないかと思ったが、ここが現実とは違う空間であることを思い出す。
朝比奈さんの望み通りにしてあげるべきかどうか。さすがに俺も躊躇せざるを得なかった。
だが、どう考えたところで、朝比奈さんに離れる気がないなら、結果は同じか。同じだな。
「キョンく、あっ、あん、んぅっ、あっ、ああっ、はぁ、はっ、はぁん」
腹を括り、俺も朝比奈さんの腰を抱え、互いの絶頂に向けて全力で突く。
跨る朝比奈さんの膝が俺の腰をぎゅうっと挟み締め付けたが、痛みは感じなかった。
神経の全てが一点に集中して、頭の中はもう出すことしか考えていない。
がむしゃらに体を動かし、欲望が膨れ上がり――
「朝比奈さ、う、くっ!」
一気に弾け飛んだ。一番深く突き入れた瞬間だった。朝比奈さんの熱と熱が交じり合う。
「あっああっ!」
息を呑み、身体を震わせて、朝比奈さんも絶頂に達した。
283名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:12:34 ID:X5mMdoX1

硬直し、動きを止めた朝比奈さんだったが、つながっている部分だけは
精液を搾り取らんと小刻みに収縮を繰り返し、ドクっドクっと吐き出すのを受け入れていた。
二度目だというのに大量の精液を出した俺を、適度な疲労感が襲う。
と、朝比奈さんが体をゆらりとさせ、俺に倒れ込んできた。手で支え、軟着陸させる。
「ぅん……キョンくん……?」
「……なんですか、朝比奈さん?」
胸に顔をつけた朝比奈さんが、顔をつけたまま囁いてきた。
若干こそばゆかったが、応対した俺に、
「ありがとう……」
顔をゆるゆると上げて、ほんのりと微笑みをくれた。
俺は言葉の代わりに優しく抱き締め、朝比奈さんは再び顔をうずめた。

少なくとも朝比奈さんの中に入っていたものが力を失うだけの時間が経ったところで、
「キョンくん……?」
朝比奈さんがまた俺の名を呼んだ。
「なんですか?」
「あたし、すごく、すっごく気持ちよかったです。好きなキョンくんとひとつになれて」
「俺もです、朝比奈さん」
俺の返事に、朝比奈さんが身を起こす。何かを期待する表情に変わっていた。
「だから……ね、もっとしましょう?」
「え?」
「一回きりだなんて、もったいないです」
「そう言われましても」
立て続けに二回も出したんだ。三度目まで少々の充電が必要だろう、たぶん。
その旨を説明したが、
「もう騙されません」
朝比奈さんにあっさりかわされてしまった。
「こうすれば、またおっきくなるんじゃないですか?」
身を起こし後しざると、俺の両足を挟むようにあひる座りをして、ぺたんと膝にお尻をつけた。
どろっと精液が垂れるのもおかまいなしに、手を俺の股間に伸ばして、こしこしし出す。
まだ過敏で痛いぐらいだったが、俺の意志とは関係なしに次第に力を取り戻し、勃起しやがった。
「うふ、ほら、大きくなりましたぁ」
うきうきした声の朝比奈さんは、いそいそ準備を始めた。
ええい、こうなったら、やれるだけやってやる。俺は自分の若さをぶつけることに決めた。

「キョンくん、思いっきり突いてあたしをめちゃくちゃに、してっ」
「ぅんっ、恥ずかしいけど、気持ちよくて、あふっ、あそこがいいのぉ」
「ひゃあっ、そ、そんなとこきたな、あんっ、でも感じちゃうぅ」 
「えへへ、キョンくん、あたしのおっぱい気持ちいいですかぁ?」
「じゅる、ちゅぷ、ちゅぱっ、ひょんひゅんの、おいひいですぅ」

「朝比奈さん……もう無理……」
何度射精したかわからない。知る限りの行為や体位もした。俺は、へろへろになっていた。
「まだですっ! だってまだ大きくなるじゃないですか!」
そう、何度出しても、なぜか勃起し、射精してしまうのだ。そして朝比奈さんの性欲は底なしときた。
誰でもいい。つうか喜緑江美里でいいから、助けてくれ。死ぬ。
身体のあちこちに精液を付着させ、次は俺が教えてしまったフェラに決めたらしい朝比奈さんを
俺はぼんやりと眺めていた。やがて射精欲が込み上げ、相当な量の精液が朝比奈さんの口の中に――
284名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:13:16 ID:X5mMdoX1

だるい。
目を覚まして最初に思ったことは、それだった。
昨日の疲れが残っていたのか、とまず思ったが、そこまで疲れる作業をした覚えもない。
パシリぐらいでいちいち疲れていたら、SOS団の団員はやっていけないからな。
となると、変な夢でも見たか。内容は覚えてないが、そうとしか思えん。
身を起こしながら頭を振る。にしても、下半身が妙にすーすーする。なんでだ?
「うえ、おいしくないしなんかひっつくー」
不思議に思う俺の耳に、妹の声が飛び込んできた。
昨日は一緒に寝てないから、大方俺を起こしにでもきたのか。もう怒ってないみたいだな。
シャミセンのエサをつまみ食いでもしたのかと思いつつ顔を向け、俺は固まった。
「あ、おはよー」
パジャマ姿の妹がのんきに挨拶してくる。日頃であれば、普通の出来事だ。
問題は、俺のジャージどころかトランクスも下ろされていて、妹が下手人であるらしいことと、
「おい、それなんだ?」
「え? これ?」
俺が指差したのは、妹の口の端に付いた白い粘着質の物体だった。見覚えのある物体だ。
妹は指でそれを拭って、ぱくっと咥えた。むぐむぐ言わせてから、
「んーと、キョンくんのせーえき?」
「……」
あ、夢か。

「あのね」
夢なら寝れば覚めると横になった俺を床に引きずり落として、妹がつたない説明を始めた。
「キョンくんを起こそうと部屋に入ったら、キョンくん寝てたの」
寝ているから起こす必要があるんじゃないか。何が言いたいのかわからないぞ。
「違うのー。キョンくんね、寝ながらおちんちん大きくなってたの」
「……それが?」
生理現象じゃないのか。
「だって、小さくしなきゃって思ったんだもん」
「あのな、放っておいても勝手に小さくなるんだよ」
じゃないと、授業中にいきなり勃起したときに、困るだろうが。
「そうなのー?」
「ああ」
認めたくないが、一応これで経緯はわかった。その上で理解できないのは、
「で、なんでその、飲もうと思ったんだ?」
「それはね、ミヨちゃ……なんでもない」
言い掛けて慌てて口を塞いだようだが、妹とだんまりが無縁なのは、周知のところだ。
俺は妹の足を引っ掴んで手繰り寄せると、脇の下に手を滑らせた。
「言え」
「ひゃうっ、キョンく、くすぐった、きゃははは、言う、言うからっ」
弱点を責められた妹は、十秒ぐらいでギブアップした。
285名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:13:52 ID:X5mMdoX1

「ミヨちゃんに言っちゃった」
怒らないでね、と前置きして、あぐらをかいた俺に乗っかる妹は平然と言い放った。
何を言ったのか瞬時に悟った俺は、見上げる妹に冷たい視線を返す。
「だ、だって、ミヨちゃんの秘密をキョンくんに教えたのに、ふこーへーでしょ?」
冷たい視線を返す。
「だ、だいじょうぶ! お風呂場じゃなくて、わたしがハサミを借りにキョンくんのお部屋を
ノックなしで開けたら、キョンくんのおちんちんが大きくなってて、ってことにしたの。
もうすぐ六年生なのに、キョンくんとお風呂入ったなんて知られたら、恥ずかしくて死んじゃう」
「……つまりお前は、自分から勝手に暴露したミヨキチの秘密に良心の呵責を覚えて、俺が絶対
言うなと念押ししたことをあっさり反古にしたばかりか、内容も自分の都合で改変して伝えたわけか」
わざと小難しく言ってみた。わからないなりに俺の雰囲気を汲み取って妹が謝れば許すつもりだったが、
「てへっ」
妹は伝家の宝刀、可愛くごまかすを使ってきた。この状況下で効くはずがない。
「有罪」
俺はセリフの横流しをすると、再び妹を抱え込んだ。三分はくすぐってやる。

息も絶え絶えになった妹は、昨日ミヨキチの家に遊びに行ったときに言ったと白状した。
「キョンくんのせーえき見たって言ったら、ミヨちゃん顔真っ赤にしてね」
なんでも、顔を真っ赤に染めつつも、どこからか漫画本を持ってきたんだそうな。
その内容というのが、
「おちんちんをぺろぺろして、せーえきをごっくんする漫画だったの」
ミヨキチはおませさんだなあ、はは。
それはともかく、ミヨキチのように性的なものの分別がついていればいいが、どっかの妹みたいに
真に受けてそのまま試す馬鹿な小学生もいるんだから、気をつけてほしいぜ。
「で、だ。ミヨキチに精液飲んだ感想とか絶対言うなよ」
言葉だけではわかってくれないようなので、脇をつかみながら脅した。
敏感になっている妹は、ビクっと震えて、こくこく首を縦に振った。
「ミヨちゃんの秘密もう教えてないし、言わないー」
もうってことは、まだあるのか。
「あるよー。例えば、ミヨちゃんがキョンくんをもごむぐ」
危なかった。軽率だった。聞いてしまえば、また妹の口は軽くなっていたに違いない。
ミヨキチが俺をなんなのか、気にならないではなかったが、聞かなかったことにする。
妹のこの口の軽さも、いつか矯正しておかないといけないな。今は時間がないが。
「歯、磨きに行くぞ」
「はーい」
手を上げて元気よく返事する妹に気をよくした俺は、気合をつけて立ち上がった。
さ、今日も学校だ。
286名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:14:48 ID:X5mMdoX1

例によって妹とは途中で別れ、チャリを走らせ、今は坂を上っていた。
今日の俺は、昨日の俺よりは心が軽かった。主な懸念事項は、朝比奈さんの誘いを雑に断ってしまった
ことぐらいであり、昨日の今頃、ハルヒの処罰に一喜一憂していたことに比べれば、謝れば済む話だ。
朝比奈さんなら、無茶は要求してこないだろう、たぶん。

色々考えながら歩いていると、俺の横を見覚えのありすぎる女子が早歩きで通過した。
「おい」
クラスメートでもある女子に制止の声を掛ける。足を止め、振り向いたそいつ、ハルヒは、
「なによ」
「挨拶ぐらいしろ」
「……おはよ」
投げやりに挨拶をよこしてきた。ま、いいだろう。
ハルヒが足を止めて挨拶をする間に、俺は横まで移動していた。
ハルヒも再び早歩きをする気はないらしく、歩調を合わせて歩き出す。ああ、聞いておくことがあった。
「なあ、パーティって土曜日曜どっちだ?」
「日曜」
端的な返事だな。今日は金曜。明後日か。
「土曜でいいかしらって最初思ってたけど、せっかくだしキョンをこき使って豪華にしないとね」
「そんな理由なのか」
「悪い? 明日はあたしも現場監督役で来てあげるから、感謝なさい」
感謝したくねえよ。ふう、今日はセーブして過ごすか。

省エネの第一歩として、俺は口をつぐんだ。別にこれ以上話すこともない。
ハルヒもどうやら会話を楽しみたいわけではないようである。そもそもそんなハルヒは最初からいないが。
黙々と足だけが進み、
「おっはよーんっ!」
唐突にエコーがかって聞こえる声がしたかと思うと、右肩を激しくもっていかれた。またですか。
「おや、お邪魔だったかなっ?」
さて、そのにまにま笑いにはどんな意味があるんでしょうか、鶴屋さん。
「ちわっす」
「おっはよ、鶴屋さん」
ごく普通に返事する俺とハルヒに、
「キミたちぃ、もっとらしい反応をしてもいいんじゃないかい?」
鶴屋さんは大仰に手を額に当てて首を振った。俺はともかく、ハルヒに期待するのは間違っています。
しかし、これくらいで諦めないのが鶴屋さんなんだろう。茶目っ気たっぷりに継ぎ足してきた。
「それとも、もうお互いわかりきってることだから、いちいち反応しないとかっ?」
「なわけないじゃないですか」
「ふーん、へーえ、ほーお」
思わずツッコミを入れると、したり顔に変わった。余計なこと言っちまったか?
横目でハルヒの様子を窺うと、そもそもやりとりを聞いてなかったような、素の表情だった。
鶴屋さんも、ハルヒの反応を目ざとく確認していたらしい。俺と見比べつつ、冗談めかす。
「ハルにゃん、うかうかしてっと足元すくわれるよ?」
ハルヒがぴくっと眉を上げて俺が質問の意味を推し量ろうとしたとき、誰かが俺の左肩を叩いた。
287名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:15:34 ID:X5mMdoX1

誰かが叩いた、と言ったが、俺には誰が肩を叩いたのか知っていた。朝比奈さんだ。
困った。ハルヒもいやがるし、どう対応すりゃいいんだ。朝比奈さんは朝比奈さんで
怒っている可能性が高い。うーむ。とりあえずストレートに謝る路線で行くか。
「朝比奈さん? 昨日はすみま――」
振り向きつつ述べ立て始めた謝罪だったが、ぶつ切りにされた。潤ったものを押し付けられて。
一瞬、何が起こったのかわからなかったが、すぐに離れた人物の顔に焦点が合わさって、理解した。
「おはようございます、キョンくん」
朝比奈さんが、かばんを手にはにかんでいたのだ。

「わお」
鶴屋さんにとっても、今の行為は意外だったらしい。素直に驚いておられた。
俺は呆然を通り越して停止だ。昨日の今日で朝比奈さんから出会い頭のキスは、ないだろ。
「キョンくん?」
再生ボタンを押したのは、停止させた当事者の朝比奈さんだった。
「……朝比奈さん、怒ってないんですか?」
「ちょっぴり。でも昨日いい夢を見ましたし、今ので帳消しです」
なんだか肌が妙につやつやしている朝比奈さんはそう答えると、
「あ、涼宮さん、いたんですか? おはようございます」
ハルヒに初めて気付いたように言葉を連ねた。棒読みで。
何か怖いものを感じ取った俺は、おそるおそる振り返り、
「みくるちゃん、おはよっ!」
満面の笑顔を見せたハルヒに遭遇した。口元が変に引き攣っていたりもしない。
ただしハルヒは笑っていても、その意味するところは笑いから怒りまで豊富である。
今回のコイツは……なんだろうな。判定不可だ。長門ならどんな無表情でも大体わかるんだが。
そして朝比奈さんが俺よりハルヒ鑑定能力があるとは思えず、御多分に洩れなかった。
「あれ……?」
笑顔を真に受けて拍子抜けしたようだ。何を期待していたんですか、朝比奈さん。

場の空気が停滞したのを見かねたのか、
「ほらほら、ぼけっとしてると遅刻するよっ!」
鶴屋さんが後押ししてくれた。ありがたい。俺も率先して鶴屋さんに同調する。
ハルヒもさっさと、鶴屋さんの横に並びかけていた。相変わらず足も行動も速い。
もしかしたら、朝比奈さんが昨日のように腕を組んでくれるかもしれなかったが、ハルヒがいる目の前での
腕組みは、俺が遠慮したかった。なので、ハルヒと鶴屋さんの間に割り込む。
「もうっ、キョンくん!」
出遅れた朝比奈さんが後ろから文句を言うのが聞こえる。
「ややっ、あたしと腕組みでもするかい?」
「遠慮しておきます」
それはそれで願ってもない申し出ですが。
「ふう、鶴屋さん、場所代わってー」
「代わってもどうせキョンくん逃げるだけだから、あきらめるっさ」
「そんなぁ」
追いついた朝比奈さんが渋々、鶴屋さんを挟んで俺と反対側を歩き始める。
鶴屋さんと朝比奈さんの掛け合いを楽しみつつも、隣を歩くハルヒが俺は気になっていた。
288名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:16:33 ID:X5mMdoX1

やがて母校が視界に入り、ほどなくして校門に辿り着く。
阪中の姿をそれとなく探したが、今日はいなかった。朝練かもしれん。

「キョンくん、じゃねーっ」
校門を過ぎたところで、上級生のお二方がごく自然に手を振ってきた。
どこからどう見ても別れの合図であり、事実、足早に去っていった。
あまりにも自然な動作だったので、反応が遅れる。
「キョン、何してんの?」
ハルヒが俺の手を見ていた。目を下ろすと、俺の手は上向いて、何かを催促しているような仕草だった。
「いや、何も……」
勝手に出た手を引っ込める。おかしいな、朝比奈さんが忘れるはずがないんだが。
まさか、な。

「……ない」
そのまさかが起こってしまった。靴箱の中には、俺の上履きしかなかったのだ。
長門が約束を守らないなんて、想像できるか? できないよな。
やたら時間の掛かる料理でも作っているんじゃないだろうな。そうとしか思えん。
とりあえず教室だ、教室に行くぞ。

教室に入ると、一足先に教室入りしていたハルヒが肘を突いて窓から外を見ていた。
かばんを机の上に置いて、お目当ての人物の姿を探す。いた。
阪中は、佐伯、成崎、大野木といった、よく見かけるメンバーと談笑していた。
阪中がいることで、俺はほっとする。教室内で声を掛けるわけにはいかないにせよ、少なくとも
食いっぱぐれることはなさそうだ。昨日弁当いらないっておふくろに言っちまってたからな。
安心した俺は、谷口や国木田とだべる日常的行為をすることにした。やれやれ。

そして俺が思った通り、HRが終わってすぐ、阪中はかばんから何かを取り出し席を立った。
演技も一日でだいぶ向上したらしく、挙動不審になることなく、教室を出て行く。
閑散とした場所で渡してくれるんだろう。俺もすっと席を立ち、教室を出た。
阪中は後方を確認せずに、あまり使われない階段のほうへ向かう。
俺から声を掛けるのかと解釈した俺は、頃合いを見計らって、阪中の肩をぽんと叩いた。
「よっ、阪中」
「ひっ!?」
飛び上がらんばかりの勢いで、阪中が驚きの声を発した。俺だと気付くと、胸をなでおろす。
「なんだ……驚いた」
それっきりで、もじもじと落ち着きない態度で俺の顔を窺う。俺から言うのか?
「こんなこと言うのもなんだが、弁当は?」
「えっと、その、今日は……」
歯切れの悪い返事を聞いて、俺は目の前が暗くなりかけた。おいおい、嘘だろ?
「手に持ってるのが、弁当じゃないのか?」
「えっ、こっ、これ?」
阪中が持っていたのは、小さなポシェットだった。弁当が入っているにしては、厚みが足りない。
「これは、あの……」
みるみる顔を赤くさせて言葉に窮する阪中を見て、俺は死にたくなった。
「すまん、説明しなくていい。本当に悪かった」
「ううん、いいのね。わたしも……ううん。それじゃ」
謝る俺に、阪中は口を濁すと、赤い顔のまま角を曲がっていった。行き先は、トイレだよな。
ああ、何やってるんだよ俺。今のは最悪最低だ。穴があったら入りたい。
289名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:17:20 ID:X5mMdoX1

結局、長門も朝比奈さんも音沙汰なしのまま、昼休みを迎えてしまった。
阪中は珍しく学食なのか教室にはいない。何か事情があって作れなかったのか。
そんなこんなで、俺の手元にある弁当の数は、ゼロである。
「よお、キョン。今日も豪華な昼飯か?」
谷口に悪気はないのだろうが、今の俺には嫌味にしか聞こえん。
財布を持ってきてないから、学食にも行けない。だが、この場にもいたくない。
弁当がないと知ったら、谷口の奴、鬼の首を取ったようになるに決まっている。
さらに国木田が三股がバレたからだとかなんとか、嫌味なく言うだろう。嫌なコンボだ。
「キョン、ちょっと顔貸しなさい」
外に出ようと決心した俺に、ハルヒが力添えしてくれた。
制服を引きずりながら外へ連れ去ることを、力添えと言うのであれば、だが。

「なんだよ一体」
結果として外には出たが、ハルヒは何をしようってんだ。
「いいから黙ってついてきなさい」
やっぱりと言うか、俺に抗弁は許されていないらしい。いつもながら、勝手な奴だ。
ハルヒは片手で俺を掴み、もう片方の手にかばんを提げ、ずんずんと上を目指した。
やがて、見覚えのある場所に着く。最初に来たときは、カツアゲかと思った場所だ。
「あんた今日お弁当ひとつももらってないでしょ」
突然、ハルヒはそのものずばりを言い当ててきた。俺は誰にも言ってないぞ。
「なんで知ってるんだ?」
「そりゃ知ってるわよ、だってあたしが言ったんだもん」
屋上へつながる扉のノブに手を掛け、ハルヒが意地の悪い笑みを見せた。
「今日のお昼休みは、みんなで食べましょう、ってね」
ノブをひねって扉を開けると、見覚えのある面々が俺を迎えてくれた。

「や、遅かったね、キョンくんっ」
敷き物の上から、鶴屋さんが手を振っているのがまず目に入った。微笑む喜緑さんもいる。
やたらと広い敷き物に座っておのおの荷物を広げていた。ハルヒがみんなと表現したのも当然だろう。
妹こそいなかったが、その場には、残りのパーティ参加予定者が全員揃っていた。もちろん長門や古泉も。
「ごめんなさい、涼宮さんに言われてたのね」
申し訳なさそうに謝る阪中に、手振りで気にすんなと伝える。
「好きなとこ座んなさい。なんなら真ん中でもいいわよ」
その間にそそくさと阪中と鶴屋さんの間を陣取ったハルヒが、かばんを開けながら言ってきた。
もちろん俺は自分から見世物になるような愚挙は犯さない。さて、どこに座るか。
ハルヒからだと、鶴屋さん、朝比奈さん、喜緑さん、古泉、長門、阪中の順に小さな円を作っている。
朝比奈さんが熱心にラブコールを送ってくれていたが、隣に座るのは躊躇われるな。よし、
「邪魔するぞ」
どこが一番落ち着くか考えた結果、俺は古泉と長門の間に座ることにした。
「僕は選ばれて光栄と思うべきなのでしょうか」
古泉がふざけたことを抜かしてきやがった。即座に否定する。
「思わんでいい」
290名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:17:55 ID:X5mMdoX1

これだけ人数が集まると、並ぶ弁当の数々はそれだけで賑やかさを演出してくれる。
もっとも、中には妙な物体も混在していたのだが。

「長門、それなんだ?」
隣に座る長門が持ち込んだ物体を指差す。正体は知っていたが、この場にあっていいものじゃない。
「自動炊飯器」
しゃもじを手にしつつ、長門が答えた。そりゃそうなんだけどな。阪中も驚いているぞ。
俺の視線をどう認識したのか、
「大丈夫。できたて」
ぱかっと炊飯器のフタを開けた。湯気が沸き立つ。中身は白米だ。八合ぐらいある。
そして長門はその白米をしゃもじで平皿によそって、俺に差し出してきた。スプーンと共に。
米が嫌いなわけではないが、米だけを食うってのは、ある種拷問なんじゃないか。
ああ、もしかすると、白米に見えるだけで味付けされているのかもしれない。
「待って。まだ」
そうであることを願いスプーンを突き入れかけた俺を、長門が呼び止める。
魔法瓶をいつの間にか長門は持っていた。皿の上で、逆さ向ける。何かが米を覆っていった。
「どうぞ」
「って長門、これカレーライスだろ?」
温かくてうまそうだが、カレーライス以外を作ると約束してあったのは、どうなったんだ。
しかし、長門は俺のツッコミに首をかすかに振った。瞳を合わせ、ぽつりと答える。
「ライスカレー」
「そうか」
その手があったか。なんて思うわけないだろ。

長門に真意を確認しようとしたが、
「キョンくん、あたしのも食べてほしいんですけど」
「わたしも朝は渡せなかったけど、作ってきたから」
朝比奈さんと阪中が、両脇からそれぞれ弁当箱を手渡ししてくれた。ありがたく受け取る。
長門と話すのは、後回しにしておくか。先に料理をいただこう。
「よろしければこれも」
喜緑さんも用意してあったようだ。目の前に皿一枚と弁当箱みっつになった。
俺だけこんなに恵まれていていいのか。もう一人の男子生徒の様子を窺う。
「古泉……」
思わず声が漏れ出た。古泉はコンビニで買ったと思われるパンを取り出したのだ。
俺の視線に気付いたのか、古泉は笑顔をこちらに向け、
「お気になさら――」
「いけないなあっ、古泉くん! ささ、あたしのお弁当をお食べっ」
立ち上がった鶴屋さんに引っ張られ、無理矢理鶴屋さんの隣に座らされた。
鶴屋さんのは五重塔も比にならないぐらいの重箱だった。おそらく今日の為に用意したんだろう。
箸を握らされた古泉は、少し当惑しているようだったが、鶴屋さんが見守る中、だし巻きを口に入れた。
「これはおいしい」
「あははっ、まだまだあるからたんとおあがりっ」
鶴屋さんの快活な笑い声が、抜けるような青空に響き渡った。
291名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:18:34 ID:X5mMdoX1

「食べて」
長門も古泉にカレーライス、もといライスカレーを振舞った。
阪中や喜緑さんは恐縮していたが、長門や鶴屋さんみたいに大量に持ってくるほうが特別なのだ。
俺もおふくろの弁当を持っていたら率先して分けたのだが、持ってなかった。
「有希、あたしにもカレーよろしく!」
鶴屋さんの重箱をつつきながら言うハルヒは、何を考えているのやら。

「やっとお隣さんになれましたぁ」
考えが食べる順番に及んだとき、古泉が座っていたスペースに朝比奈さんが割り込んできた。
距離が近い。朝のキスをどうしても思い出してしまう。しかし朝比奈さんは平然としていた。
「キョンくん、お茶をどうぞ」
「……ありがとうございます」
朝比奈さんの度胸には圧倒されるばかりだが、お茶に異存はない。いつ飲んでもうまいな。
あっという間に全員にお茶を配る朝比奈さんは、場数を踏んでいるだけはあった。
お茶を飲んで一息、落ち着いた。よし決めた。カレーから食べていくか、と皿に手を伸ばす。
その俺の眼前に、卵焼きをつまんだ箸が差し出された。
「お口開けてください」
「……いや、それはちょっと」
朝比奈さんは、周囲の目を気にしないのだろうか。俺は気にする。
「ほら、みんないることですし……」
ぐるっと見回して、朝比奈さんに思いとどまらせようとした。が、周囲の反応も期待とは違った。
なぜかうらやましがっていたり、感心していたり、
「おおっ」
驚く鶴屋さんがいたりしたのだ。あまつさえ、朝比奈さんに倣うのも出てきた。
「食べて」
長門だ。両脇から箸とスプーンを出されてどうしろと。恨むぞ、ハルヒ。
「阪中さん、これもらうわよ!」

再三の申し出を丁重に断り、俺は自由を取り戻した。
流されると、阪中や喜緑さんも参戦してきそうな雰囲気だったからな。
そして会話を楽しみながらゆっくり弁当をひとつずついただいたが、どれもこれもうまかった。
特に初めて食べた喜緑さんの料理は、完璧だった。こんな表現が料理に対して許されるのか
どうかわからないが、隙がなかった。俺は朝比奈さん寄りの、甘みが強めで可愛らしい味かと
思っていたからなおのこと驚き、そのことを率直に伝えると、喜緑さんは微笑んでぺこりと頭を下げた。
こちらこそ、いくら頭を下げても足りないぐらいです。

「そうだ阪中」
ハルヒと味の批評をしていた阪中が顔を向けて首を傾げる。
「妹がさ、こないだもらったシュークリームをまた食べたそうにしてたから、作ってきてくれないかな」
「うん、いいよ。お母さんに頼んでみる」
「キョンにしてはナイスアイディアね。あたしも食べたいわ」
快諾する阪中にハルヒも声を揃えた。よし、楽しみがひとつ増えた。
話はこれで終わりだったので、気になっていた鶴屋さんの重箱から煮豆でももらおうかとしたとき、
「ハルにゃん、食べっぱなしっ?」
その鶴屋さんが、ハルヒに疑問を投げかけた。
292名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:19:40 ID:X5mMdoX1

「鶴屋さん、なあに?」
ぽかんと鶴屋さんを見てから、ハルヒが笑って返す。
「言いだしっぺのハルにゃんは、キョンくんにお弁当作ってこなかったのっ?」
鶴屋さんは笑いに取り合わず、口調や表情こそ普段通りだったものの、目がマジだった。
確かに、ハルヒは自分の弁当だけ持ち込んで、あとは食べまくっていただけだが。
「なんであたしがキョンなんかにお弁当作らないといけないのよ」
ハルヒがアヒル口を作る。至極真っ当な意見である。逆に作られても困る。
「ほへえ」
抜けた声を出して、鶴屋さんがハルヒを見る。見つめる。見据える。凝視する。
その眼力の強さに、あのハルヒがたじたじとなって視線を逸らした。
「一体なんなの? 鶴屋さん」
「んー、いや、なんでもないっさ、ごめんよう」
けろりと今までのやり取りを忘れたように鶴屋さんは謝ったが、
「ちょいとキョンくん、耳を貸しておくれっ」
手で俺を招く。なんでしょうか。
鶴屋さんは立ち上がる気はないらしく、従って俺が寄っていく。
古泉が空けてくれた場所に滑り込むと、鶴屋さんが手で輪っかを作って俺の耳に当ててきた。

「あのさ、前にあたし言ったっしょ。みくるにおいたはダメにょろ、するならハルにゃんにってさっ」
声を出してもしかたないので、うなずく。インパクトのあるセリフだったからよく覚えている。
ところで周囲が耳をそばだてているように思えるのは、気のせいなのだろうか。
「あれね、あたしの勘違いだったみたいっさ。ハルにゃんあまり気がないね。残念っ」
元がよく通る声のため、かなり大きく聞こえる。残念と言われても、反応に困ります。
困惑が顔に出ていたのか、鶴屋さんが軽く笑う。そして声をさらに潜めた。
「で、最近みくるがおいたしてもらいたそうなんだよねっ。なんの心境の変化か知んないけど」
朝比奈さんは露骨に俺と鶴屋さんの会話を聞き取ろうとしていた。聞こえてほしくないな。
鶴屋さん、してもらいたそうどころか、逆においたしてきそうな雰囲気でしたよ。
「あたしはみくるを応援するよっ。キョンくん、みくるにおいたしてやってちょんっ」
それだけ言って、鶴屋さんは離れた。ウィンクひとつくれて。
俺は何も言い返せない。空気をほぐしてくれたのは、
「キョンくん、まだいけるなら、このサヤエンドウがオススメっ。食べないと大損だっ」
カラっとした笑顔の鶴屋さんだった。言われるがまま、食べる。うん、うまい。
「みんなも遠慮せずにどしどし食べるっさ。全部おいしいと思うよっ」
わかり切っていたことだが、改めて思う。鶴屋さんには敵わないな、と。

鶴屋さんの重箱は、すぐに空になった。一番食ったのは、長門だ。ハルヒも食うことは食っていた。
で、重箱が空になったことによって、本日の昼食会はお開きである。腹は一杯、気も一杯一杯だ。
それでも飲み食いするだけだった俺は、食後の運動も兼ねて、片付けを精力的にこなす。
弁当箱を返す際に、阪中が、
「あ、今日の放課後会う口実がなくなっちゃった」
と少し寂しそうに笑ったのには、男心をくすぐられるものがあった。
293名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:20:42 ID:X5mMdoX1

「長門、俺が洗ってくる」
折り重なった平皿を手に取る。紙やプラスチックじゃなく、ちゃんとした重みのある皿だ。
長門は、わずかに首を上下させたが、直後に視線が別を向く。そして戻った。
「同行する」
拒絶する必然性もなかったから承諾したが、俺は先程の長門の視線を追う。
そこには、片付けをしている喜緑さんがいた。

皿は部室にあったものを持ってきたらしく、水飲み場経由で部室を目指すことにした。
屋上には戻らない。二度手間は御免だからな。そういうわけで、俺は炊飯器なども抱えている。
水飲み場まで距離がある。ここで長門に質問しない手はないぜ。
「なあ、あのライスカレー云々はなんだったんだ?」
水を向けると、数本の魔法瓶をまとめて持つ長門がこちらを向いた。
「わたしはカレーライスしか作れない」
「……そうなのか」
「そう」
なら、最初にそう言ってくれりゃよかったのによ。
非難の色合いを含めてしまったかもしれない。長門が無表情のまま、言葉を足してきた。
「正確には、カレーライス以外の料理を作ろうとしても、できあがるのはカレー」
んなベタな。そして意外すぎる。
俺は思わず長門の顔をジロジロ見てしまい、瞳が悲しみの色を帯びるに至って慌てて外す。
「わたしも普通の料理を作ってみたい」
その言葉を聞いて、俺は目を見張った。
長門が願望を自分から吐露するなんて、記憶を遡っても一件ぐらいしか思い浮かばない。
この貴重な願望を、どうしても叶えてやりたい。俺はそう思った。
「誰かに手伝ってもらったらどうだ? ハルヒとか、朝比奈さんとか」
事情を話せば、やってくれると思うぞ。ハルヒは特にな。
だが、俺の提案に長門は首を振った。
「あなたに手伝ってもらうのが最適だと思われる」
「俺?」
自慢じゃないが、俺はあまり料理できん。
「わたしが料理を作るのは、あなたのため」
「しかしだな」
「手伝ってほしい」
「でも」
「手伝って」
「……わかった」
やけに押しの強い長門に、押し切られてしまった。
しかも今日の活動終了後、長門の家で早速することになった。用事もないしいいんだけどな。
秘密にしておいてほしいと言う長門を見て、俺はこいつにも恥ずかしいと思うことがあるのかと二度驚いた。
294名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:21:27 ID:X5mMdoX1

「ほらキョン、きりきり働きなさーい!」
覚悟していたことではあるが、ハルヒは俺を徹底的に使ってきた。
放課後、部室に入った俺にハルヒは箒と雑巾を投げつけ、
「まずは掃除ね」
と部屋全体の掃除を命じたのだ。もちろん働くのは俺だけではないのだが
罰として人一倍働くことになっているため、ハルヒを始め、みんな遠慮がない。
「キョンくん、床掃除が終わったら次は窓拭きお願いします」
「本棚にはたきを」
「飾りつけもよろしく。もちろんわかってるわよね」
「これもお願いしてよろしいでしょうか」
「古泉、お前の分はお前がやれ」

そうして体を動かしまくっていると、
「みくるちゃん、有希、料理どうするか決めたいからちょっと来て」
ハルヒが朝比奈さんと長門に招集をかけ、長机に陣取った。監視下からようやく解放か。
「古泉くんは、キョンがサボらないか見張っててちょうだい」
「わかりました」
ちっ。ま、ハルヒよりはるかにマシだ。
窓拭きを黙々と続けていると、見張り役の古泉が何を思ったか雑巾を手に俺の横に立った。
「なんだ、手伝ってくれるのか?」
なら、感謝してやらんこともない。
「あなたに倒れられても困りますから」
こんな雑用で倒れるわけがない。とすると、
「何か話があるなら、聞いてやってもいいぞ」
「おや、お見通しですか」
古泉はハルヒたちが机の上に注目していることを確認してから、
「実は昼過ぎに、小規模ではありますが閉鎖空間が発生しました」
懐かしい単語だ。ハルヒの機嫌が悪くなると出てくる灰色空間か。
「ひずみ程度ですし、予期されていたことでもあるので、ものの数分で片付いたようです」
窓に息を吹きかけ、きゅきゅっと音を立てて古泉が窓を拭く。窓に話しかけるように、
「おそらく原因は鶴屋さんでしょう。今の涼宮さんに影響力があるのはあなたとあの方ぐらいです」
「待った。俺は以前、鶴屋さんから俺たちには深く関わらないって直に聞いたぞ」
俺のツッコミを古泉はさらりとかわした。
「女子高生にとって、恋のさやあては日常茶飯事みたいなものだと思いますよ」
恋のさやあてかよ。
「冗談です。鶴屋さんは逸脱しない範囲で憂慮しておられるのでしょう。今の状況をね」
窓の外を見ながら、古泉は結論付けた。
「つまり、鶴屋さんから見てもわかるぐらい、今の我々はどこか変なわけです」
295名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:22:11 ID:X5mMdoX1

「ま、そりゃそうだろうな」
主に朝比奈さんの態度を思い浮かべつつ、答えた。
古泉は苦笑すると、珍しく口の端を少し歪ませる。
「僕も最初は利害一致だと思っていて、実際そうなりつつあるのですが、率直に言って
あまり楽しくありませんね。心の奥底がささくれ立つ思いです。苦痛ですよ、これは」
「なんの話になったんだ?」
「失礼、私情でした。本筋に戻りますと、と言っても話すことはそれほど多くないんですが
あなたは僕が涼宮さんに関して申し上げたことをまだ覚えてらっしゃるでしょうか」
古泉がハルヒについて言ったことと言ったら、あれしかないな。
「あれだろ、ハルヒを信じろとかなんとか」
「ええ、そうです。くれぐれもどうか忘れないでください」
強制的にトンカチで殴られでもしない限り、忘れやしねえよ。
俺の比喩が面白かったのか、古泉は幾分、表情を緩めた。
「その方面の心配はもうないと思いますけどね。事態はすでに涼宮さんの手に移っていて
我々ができるのは、精々これくらいなので……おっと」
「こらぁ! 古泉くんも一緒にサボっちゃダメじゃないの!」
「すみません」
つい会話に熱中していて、手を動かすのを忘れていた。俺は慣れっこだが古泉がハルヒに
怒鳴られるなんて、よっぽどのことだ。倒れそうなのはお前なんじゃないのか、古泉。

「みんな今日はお疲れさま」
空が夕焼け色を映している。部室は俺の働きもあって、パーティ色に染まっていた。
「明日は買い出しだけだから、任意参加にするわ。キョンは荷物持ちよ」
「ああ」
俺に拒否権などない。そもそも疲れていて相手もしたくない。
と、朝比奈さんが挙手した。名残惜しそうに俺を見てから、
「あたし明日は鶴屋さんとお買い物があるので、お休みします」
「申し訳ありません。僕も明日は用事があるんですよ」
古泉もか。二人とも休むなんて珍しい。ま、週末だからそういうこともあるか。
古泉は確実に例の組織絡みだと思うがな。
「有希は?」
長門は何も反応しなかった。参加するって意味だろう。
「じゃ、解散!」
かばんを引っ掴んで、突風のようにハルヒは去っていった。直後に朝比奈さんが駆け寄る。
「キョンくん、日曜まで会えないんですね……寂しいです」
それは事実ですが、何も目を潤ませる必要はないと思います、朝比奈さん。
「今夜あたしの家に泊まってくれたら寂しさも紛れるんですけど……」
上目遣いでおっしゃられても、内容が色々過程を飛ばしすぎです。
「すみません、今日は寄るところがあるので」
やり取りをじっと見つめている長門を意識しつつ答えた。
296名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:22:51 ID:X5mMdoX1

長門と二人っきりで坂を下っていると、冬の出来事を思い出す。
あの長門とこの長門は、別人なんだが、言葉数が少ないのは、同じか。

マンションに行く前に、材料を買わなければいけないらしく、スーパーに寄った。
「何を作るつもりなんだ?」
入り口で買い物カゴを取って、傍らの長門に指示を仰ぐ。
「お弁当」
それは総称であって、俺は具体的な料理名を質問したわけなのだが。
「何が食べたい?」
俺がか。質問されるとは思わなかった。
「そうだな……」

ひとつ挙げると、また問われる。ひねり出すと、さらに問われる。その繰り返しだった。
遠慮しようとしても、料理の練習を名目に長門はいつになく強気の姿勢を見せる。
結果、俺の両手からスーパーのレジ袋が複数垂れ下がっていた。冷蔵庫に全部入るのか、これ。
レジで五桁の数字が表示されたときは、どうしようかと思ったしな。

「袋は流しの上に」
と言い残し、長門は自室に入っていった。靴を脱いで上がる。
何度目だったかな、長門の家にお邪魔させてもらうのは。
レジ袋をキッチンに置いて、とりあえずリビングに移る。かばんを置き、背筋を伸ばしたところで、
「着けて」
制服の上から幾何学模様のエプロンをつけた長門が、手にした布きれを俺に差し出してきた。
受け取り、広げる。エプロンだな、こりゃ。
「これも」
三角巾もか。家庭科があるから持っていても不思議ではないが、新鮮ではある。
エプロンに三角巾を着けた長門からは、妙に生活臭を感じた。
防寒のため、ファッションのため、マナーのためと色々衣服を着る理由はあるが
エプロンに三角巾は、実用性よりコスプレにシフトしつつある衣装なのかもしれない。
長門にそんな感想を覚えながら、俺も料理スタイルに身を包む。よし、準備ができたぞ。
「どう?」
着け終えた俺に、長門が疑問形で投げかけてきた。なんのことだかわからん。
「何が?」
「わたしの格好」
「は?」
耳を疑った。俺の長門辞書には永遠に含まれないであろう言葉だったからだ。
格好に無頓着以前の長門の発言とは思えない。俺の知らない間に時空改変でもあったのか。
無意識のうちに、穴の開くほど俺は長門を見ていた。いや、意識してからも見ていた。
「……」
ふい、と長門が背を向けてキッチンに消える。なんだったんだ?
297名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:23:26 ID:X5mMdoX1

手伝いに来て手伝わないわけにはいかん。
幸いなのかどうか、キッチンに入った俺は、黙々と料理道具を揃える長門を見止めた。
俺が入ったときに長門が持っていたのがまな板でよかったぜ。包丁なら別の感想だったかもしれん。

「さ、何から作るんだ?」
さっきの出来事はなかったことにして、腕まくりなどしてみる。
長門はかばんから昼に活躍した炊飯器を取り出した。飯炊きが最初か。つうかそれ入ってたのか。
「ああ、米をとぐのは俺がやるよ」
力仕事で済みそうなものは、率先してやるべきだろう。
炊飯器を受け取り、蛇口をひねる。タワシで擦りきれいにし、長門が持ってきた米袋の口を開けた。
「何合だ?」
「八合」
「……誰か食べに来るのか?」
返事は首の左右運動だった。

しゃりしゃりと音を立てて米をとぐ。たまには、家事も悪くはない。
横にいる長門を見ると、料理道具は出したものの、材料に手をつけていない。
と、視線が衝突した。
「何が食べたい?」
長門が作りたいのを作ればいいと思うんだけどな。ま、基本料理と言えば、これかな。
「卵焼き」
「わたしは食べたくない?」
「ん? 長門が食べたくないなら、別の料理にするか」
「違う」
米をとぐ手を止めた。長門にしては声に強さを感じた。
「わたしはあなたにわたしと性的交渉を結ぶ意志があるかどうか確認している」
「せ……すまん、なんだって?」
聞き間違いだと判断し聞き返した俺の腰に、長門が抱きついてきた。
俺の顔を見上げた長門は、あくまでも無感動だった。
「わたしを食べたくない?」

抱きつく長門は、映画のワンシーンのようだった。相手が古泉から俺になっている点を除いて。
そして俺はまさに映画的だと思っていた。長門の瞳になんの揺れもない。
それに長門にしては、行動も言動もおかしいだろ。
「誰の差し金だ」
軽く長門を押し返しつつ、詰問する。長門の返事は、ワンテンポ遅れた。
「……あなたも知っているはず。喜緑江美里」
「喜緑さん? お前と喜緑さんになんの関係があるんだ?」
真顔で聞き返した俺を、長門は探るように覗き込み、
「まあ、残念」
別方向からいきなり声が届いた。
298名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:24:03 ID:X5mMdoX1

「うまく行くと思ったんですけれど」
声の出所を探ると、喜緑さんがキッチンの出口に立って微笑んでおられた。
なぜ喜緑さんがこんな場所に?
「この人に施した情報操作の解除を求める」
長門が淡々と声を出す。その声の意味を確かめようとして、俺は空気の変化に驚いた。
冗談じゃなく空気が冷たい。痛い。長門が怒っている。尋常もなく。
「長門さん、もう少し男性の方を魅了する演技力を身につけるべきでは」
俺なら到底耐え切れないような長門の視線を、喜緑さんは平気で受け止めていた。
「解除を求める」
無視して繰り返す長門に、喜緑さんは軽く息を吐いた。
「どうぞ」

「こんばんは」
「何がこんばんはだ」
いかん。つい乱暴な口の利き方をしてしまった。して当然だとしても、相手の外見が外見だからな。
「あんなに情熱的な昼休みを過ごした相手に向かってひどい……」
喜緑江美里はいかにも白々しく手で顔を覆って、泣くフリをした。ダメだ。俺じゃ勝てない。長門なら。
ああ、そうだった。俺は、下手に相手をするよりも真っ先に頼まなければならないことを思い出す。
ちょうど頼む人物は真横にいる。俺は叫んだ。
「長門! 喜緑さんが全員にかけた情報操作をなんとかしてくれ!」
「了解した」
ようやく待ち望んでいた言葉を得たように、長門は一時の間も置かず返事した。
未だに口を突いて出る呼称が喜緑さんなのは、慣れの問題か。
「どう、なんとかなさるおつもりなんですか?」
喜緑江美里が手を下にずらして、俺たち二人に上目遣いを送ってきた。無論涙なんか流れていない。
「強制手段」
長門が端的に答えた。普段の長門の短い言葉は、俺にとって理解しがたいときが多々あるのだが
今回はよくわかった。つまり長門は、喜緑江美里をシメてやると言いたいわけだ。
「いいんですか?」
今度は俺だけを見て、問いかけてきた。
余裕っぷりが気になる。ま、喜緑江美里なら演技でもなんでもこなしそうだが、念のためだ。
「何がだ」
「わたしは朝倉さんとは違って、情報統合思念体の総意を得て行動しているんです」
足を遊ばせ、指を交差させ、流し目を作って喜緑江美里は言った。
「この場合、わたしに危害を加え妨害すると、処罰されるのは長門さんだと思うのですけれど」
「……長門、そうなのか?」
「そう」
あっさりと長門は首を縦に動かし、認めた。
「最初から承知している。あなたが同意しないならわたしがすべきことはひとつ」
299名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:24:40 ID:X5mMdoX1

「長門さん、献身的なんですね」
喜緑江美里が長門に向けた微笑みは、慈愛としか表現できなかった。
「でも、もう遅いのはあなたもおわかりでしょう。きっと彼の同意を理由として統合思念体に
働きかけるおつもりだったんでしょうけれど、わたしが計画を始めてすぐの頃であればともかく
既にある程度成果を得られた現時点では、到底受け入れられるとは思いません」
「……」
長門が感情を表に出すタイプだったら、下唇でも噛んでいそうな雰囲気だ。
喜緑江美里の言い分に理があるってことなのか?
「長門さんは、情報結合を解除されてもよろしいのですか?」
「情報結合の解除って確か……」
どっかで聞いたフレーズだった。記憶の糸を手繰り寄せようとしたが、
「人間に当てはめると、死刑です」
その前に喜緑江美里が丁寧にも教えてくれた。
「……」
思考の淵に佇む長門を見て、俺は長門に何を強要しようとしたのか、事の重大さを知った。
「長門、ダメだ。お前がいなくなったら意味がない」
悔しいが、さっきと逆を言わざるを得ない。長門がいなくなるなんて、考えられん。

「……大丈夫。心配しなくても、わたしは自身の情報連結解除を選択しない」
だいぶ間を空けて、長門は俺に答えた。
「長門有希という個体が有する関係性を放棄した場合に与える影響のほうが甚大」
当たり前だ。長門がいなくなったら、みんな悲しむ。ハルヒが何をしでかすかわからん。
「それがわかっていて、なぜ先程は彼の言い分を受け入れたんですか?」
「怒りに正常な思考判断能力を奪われていた。今は冷静」
およそ長門らしくない言葉だ。喜緑江美里も目を瞬かせて、軽い驚きを表わす。
「怒りだなんて、長門さん、可愛い」
俺の目には長門が再び怒ったように見えた。怖いからやめてくれ。

「それでは、申し訳ありませんがあなた以外の方の情報操作は解除いたしません」
やたらと低姿勢で喜緑江美里が結論を告げる。
「なぜ俺だけ解除したんだ?」
「だって長門さんが怒って怖いんですもの」
からかい半分だと言わんばかりに、喜緑江美里がくすくす笑う。と思うと、真顔になり、
「半分冗談です。時間稼ぎは終わりましたので、あなたを操作する必要がないんです」
俺との会話は終わりとばかりに、喜緑江美里は長門に顔を向けた。
「……どうせなら、ごまかして最後まですればよかったのに」
「余計なお世話」
長門が撥ね付ける。
「もったいない。こんなに気持ちいい経験を逃すなんて……」
語尾を聞き取れない言葉で濁して、喜緑江美里の姿が掻き消えた。
「ではまた」
ドアの閉まる音が、小さく鳴った。
300名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:25:20 ID:X5mMdoX1

残されたのは、エプロンに三角巾姿の俺と長門だけだった。
「長門、すまん」
俺は、俺をずっと待っていた長門に、まず謝った。
不可抗力だったとはいえ、長門を悲しませたのは事実だったからだ。
「いい」
長門の返事は短い。だがそこに万感の思いが込められているように思えた。
思えたのだが、それでは俺の気が済まない。
「何か俺にできることはないか?」
いつも迷惑をかけてばっかりだ。埋め合わせをしたい。
気持ちが伝わったのか、長門は少し逡巡をした上で俺に答えてくれた。
「もう少しいてほしい」
お安い御用だ。

「にしても、どうすりゃいいんだろうな」
道化の象徴に見えて仕方がないエプロンを外しながら、考えが言葉に出た。
やっと自分を取り戻したと思ったら手遅れだっただなんて、笑うしかないぜ。
「喜緑江美里は危害を加えたりはしない。通常通り行動することが最善の策」
長門が言うのならそうなんだろうが、
「精神的にかなりキツイのはなんとかならないのか」
去り際のやり取りが思い出される。喜緑江美里が言っていたのは、アレだろ。
さらには朝比奈さんともあれやこれや、辛くもあったがとても言えないようなすごい経験を、
「よだれ」
「う……」
冷淡に指摘した長門の声が、俺の動きを凍らせた。
鋭角化した長門の視線が刺さる。思い出した例が悪すぎた。

しばらく無言の応酬があった末、俺と長門はコタツテーブルに向かい合って座っていた。
テーブルの上には、長門の淹れてくれたお茶がある。
「喜緑さんってのは、どういう人なんだ?」
人という言葉は誤用かもしれないが、かと言ってインターフェースとも言い辛い。
長門の前では特にな。
「有能、世話好き、でも意地悪」
「……まあ、わからんでもないが」
「先程もあなたとの性交場面を添付してきた」
俺にどう反応しろと言うのだ。目の前に置いてあるお茶を飲んで濁す。
「朝比奈みくるのも」
「ぶっ」
むせた。何しやがるんだ、一体。
「気をつけてと言ったはず」
「ち、違う。長門、俺の話を聞いてくれ」
とんだ置き土産だ。誤解を解くべく、俺は情報操作されてからの一部始終を長門に話すことになった。
301名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:26:30 ID:X5mMdoX1

「そう」
俺が話し終えると、長門は湯飲みのお茶を少し口に含んだ。
「喜緑江美里があなたの夢に介入していたのは察知できなかった」
喜緑江美里も慎重に慎重を重ねていたらしいぞ。
しかし長門が誤認したってことは、喜緑江美里め、朝比奈さんに説明した部分を端折りやがったな。
都合のいいように編集しやがって。

むかっ腹ばかり立ててばかりでは長門も楽しくないと思い、何くれと話を振ってみた。
相変わらず言葉は少ないながらも、長門が落ち着いている様子が窺える。
そんな長門を見て、俺も久しぶりにゆっくりとした時間を過ごす実感が湧いた。
疲れっぱなしだったんだよな。肉体的にも精神的にも。

そんなこんなでいつの間にか結構な時間になっていた。
「どうせだから、御馳走になろうかな」
このまま去るのが惜しかった俺は、長門との買い物を思い浮かべつつ言う。
湯飲みを傾けていた長門は、ことりと音を立てて湯飲みを置くと、立ち上がった。
「用意する。待ってて」
「ああ、電話借りてもいいか?」
「どうぞ」
言い残し長門はキッチンに入っていった。

『はい、もしもしキョンくんのおうちです』
「お前はどんな応対してるんだよ」
受話器を取った妹にとりあえずツッコむ。
『あ、キョンくん? どうしたのー?』
「今晩は友達の家で食べていくから、おふくろに晩飯いらないって言っといてくれ」
『誰のおうちー?』
「長門」
『有希?』
「そうだよ。じゃあな。ああ、パーティは日曜な」
『キョンくんま――』
妹が何か言い掛けたが、言うだけ言って受話器を置いた俺の耳には全部入らなかった。さて、
「何が出てくるか楽しみだ」
長門のことだから、味わったこともないぐらいうまい料理を作ってくれるに違いない。

座して待つ俺の元に、長門が深皿を手にやってきたのは、しばらく経ってからだった。
「お待たせ」
皿がテーブルに置かれる。お、これはうまそうなカレーだな、って、
「カレー?」
「カレーライスは時間を置くとおいしくなる」
いや、それは俺もおぼろげながらに知っている情報なのだが、
「帰り際に買い物した材料は使わないのか?」
「これが一番おいしい」
コップに水を注ぎながら、長門は答えた。
一番おいしくても、こう度々だと食傷気味なんて言葉もあるように、どうしても飽きが来る。
作ってもらっている立場で言うのは、心苦しいものを覚えるが、長門のために言っておこう。
「俺は長門の別の料理も食べ……いや、カレーもいいな、うん」
長門を見て気が変わった。スプーンを手に取る。なぜ気が変わったかは、言わなくてもわかるだろ。
どこまでかはわからないが、あれも演技のうちだと思ってたんだけどな……。
302名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:37:31 ID:RYizraGJ
shien
303名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:43:46 ID:6sc4KdVt
支援?
304名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:56:01 ID:RYizraGJ
うう、ここで中断なのか、待ってるぞ。
305名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 02:59:20 ID:IrG+Kjh5
またこんな夜中に久々の長編投下とは…





起きててよかった!
306名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 04:22:30 ID:d6yHO2mU
どうも今回のスレは長編フィーバーみたいだね。
というわけで俺も人居ない時間狙って長編投下。60〜70スレ予定。

学校のネタバレがあるので読んでない人にはあまりオススメできないかも。
エロなし。コンセプトは東映アニメフェアみたいなバトル祭り状態。


っつー事で「ハルヒ×学校」ネタ。
「北高を出よう! Specialists Of Students VS EMulate Peoples.」
307北高を出よう! SOSvsEMP「起因」:2006/12/12(火) 04:24:35 ID:d6yHO2mU

 帰りのホームルームを終え放課後を迎えたある日の事。さて今日もまた惰性的に部室へ
行こうかねと後ろを振り向くと、ハルヒが文庫本を枕にして机に突っ伏していた。
 どうした。お前が待ち望んでいた放課後だぞ。それとそんな扱いしたら文庫本が傷むぞ。
「うん……何だかちょっと熱っぽくてね。今日は帰るってみんなに言っておいて頂戴」
 珍しく体調不良を訴えてくる。ハルヒを参らせるウィルスがこの世にあったとは驚きだ。
「うるさい。とにかく今日は帰るわ。じゃあね」
 ああ、お大事に。帰りに拾い食いとかするなよ。俺はゆっくりと静かに歩くというレア
なハルヒの姿を見つめ、その背に小さく手を振って見送りだしてやった。


 ハルヒが不調を訴えた事を「レア」だと思った時点で、俺は気づくべきだった。
 この時、既に何かが起こり始めていた事に。


 文芸部室を訪れた俺は朝比奈さんとのドッキリハプニングを避ける為、至って紳士的に
扉をノックする。しかし扉の向こうから返ってきたのは「はぁ〜い」という朝比奈さんの
甘く蕩けそうな言葉でも、古泉の「少々お待ちください」という社交辞令ばった言葉でも、
長門の「…………」といった無言の応答でもなかった。


「どうぞ」
 扉の中から少し高く澄み渡る、それでいて凛とした女性の声で入室許可が示される。
 聞き覚えの無い声に頭をひねりながら、俺は声の示すとおりに扉をそっと開けた。

 部屋の中央にパイプ椅子が置かれ、そこに見知らぬ黒衣の少女が座っていた。
 腰まで伸びる黒い長髪は差し込む光で天使の輪を作り出し、その顔は公正に判断しても
美人に入る部類である。唯一、前に垂らされた一房の髪に結ばれたピンク色のリボンだけ
が黒一色の中で色彩を放っていた。

 少女の後ろに従うよう、一歩隣には少年が立っている。やはり見覚えは無い。
 少年は黒衣の少女と違い制服らしい服を着ている。だがその制服は北高のものではなく、
また俺の乏しい知識が知るどの高校の制服でもなかった。
 見たこと無い制服だという事以外は特に外見的に目立った特長は無い少年だが、こちも
唯一目を引く部分がある。黒衣の少女とお揃いにしているのか、少年もまた水色のリボン
を鉢巻のように頭に巻いているのだった。

「事後承諾になるけど、お邪魔させてもらっているよ」
「こんにちは。あなたがこの文芸部の責任者でいらっしゃって?」
 少年の挨拶に続き、黒衣の少女が問いかけてくる。
 一体これは何だって言うんだ。またしても俺はトラブルに巻き込まれたのか。
 心のどこかでそんな現状を認識し、俺は目頭を押さえて首を小さく振った。

308北高を出よう! SOSvsEMP「起因」:2006/12/12(火) 04:25:50 ID:d6yHO2mU
「……もしもし、聞こえていますの? 聞こえているのでしたらわたくしの質問に答えてい
ただけませんでしょうか」
 あぁ、悪かった。部屋へと入りカバンを置きながら俺は答える。
「文芸部の責任者は俺じゃありません。長門という一年生です。ですが──」
 俺はこの整然とした混沌状態の部室をざっと指差しながら説明した。

 黒衣の少女がこの部屋の異常性について聞いているのならば、現在この部屋はとある非
公式団体が見ての通り寄生している状態であり、もし万が一ひょっとしてそちらに用があ
るとした場合、責任者、いや責任を取ってるかどうか全く以って怪しいので責任者という
表現はどうかと考えてしまうがそれはともかく、この混沌たる部室とそこにたむろう異能
集団を取り仕切る、全く以って団体名を語る事すら恥ずかしいその一国一城の主をあげる
とするなら、それは当然この人物に他ならないだろう。


「──ハルヒです。涼宮ハルヒ」

「だ、そうだよ。知ってるかい、光明寺」
 少年が黒衣の少女に尋ねる。光明寺と呼ばれたその少女は、その白い肌の指を一本だけ
のばすとこめかみに当てて考える仕草をとる。
「……生憎と存じませんわ。ですがその涼宮ハルヒさんですか、このただ事ならぬ部屋が
そのお方の仕業だというのならば、よほど凄いEMP能力者だと思われます」
 黒衣の少女が少しだけきつい眼差しを見せて部屋を見渡す……って、EMP能力者?
 何だか微妙に聞きなれない単語だ。ESP、つまり超能力なら知っている。ついでに自
称超能力者も該当するヤツが一人いる。それとは違うのだろうか。
「まあ似たようなもんだね」
「違います」
 二人の意見がきれいに分かれた。いったいどっちなんだ。

「同じと括って良いモノならばわざわざ別称などつけません。つまりEMPはEMPであ
りESPとは違うものなのです」
「光明寺。キミの思考、少しずつ班長さんに似てきてるよ。朱に交われば何とやらかい」
 少年の言葉を無視し黒衣の少女は更に続ける。
「ついでに申し上げるのならば、あなたからEMPの気配は全く感じ取れません。あなた
はただの一般人です」
 そんな事はわかってる。宇宙人、未来人、超能力者と異彩放つ三人からのお墨付きだ。
 それよりもわからないのはお前たちだ。そんな訳で俺からも一つ訪ねさせてもらおう。
「構いません。わたくしの知る知識内で答えられる範囲でしたらお答えします」
 黒衣の少女はどう見ても俺よりこの部屋の住人っぽい存在感と態度を見せてくる。例え
るならば傲岸不遜。天上天下唯我独尊、傍若無人なハルヒに近い感じだ。
 俺は額に眉を寄せながらとりあえず思いつく限りの可能性をぶつけてみる事にした。

 結局お前たちは何者なんだ。とりあえず宇宙人か未来人か超能力者か、はたまたそれ以
外の存在なのか。まずはそこから教えてくれ。
309北高を出よう! SOSvsEMP「起因」:2006/12/12(火) 04:26:51 ID:d6yHO2mU
「まあ何て失礼なお方でしょうか!」
 俺の質問に黒衣の女性は目に見えて怒りの表情を見せてくる。その反応はまるで馬鹿に
されて怒る一般人のようだ。
 ……もしかして、格好がアレなだけで実はこいつら一般人なのだろうか? 俺が失敗した
かと考えていると黒衣の少女は指を突きつけて怒り出した。
「未来人や超能力者はともかく、宇宙人に例えるとはどういう所存ですか。あなたの常識
と言うものを疑いたくなりますわ。
 わたくしを見てこれは何の撮影か、それともどっきり撮影かとか、そういう疑い方をす
るのでしたらわかります。わたくしはわたくしの容姿が、人より多少なりとも好感が持て
る姿を持っている事を理解しています。それは言うなれば自然の理、懐疑的になるのも仕
方がない事と言えるでしょう。
 ですが。このわたくしを、よりにもよって銀色の頭でっかちやイカタコの発展系と同列
に並べるという、その常識外れた思考はいかがなものかと思いますわ。ここはわたくしが
怒っても当然の場面、その結果あなたに突然不慮の事故が発生したとしてもそれは身から
出た錆と考え、どうぞ清潔な白いベッドの上で自戒してくださいませ」

 そう言って黒衣の少女がこちらに向けて指を指す。と、その伸ばされた腕を少年が後ろ
からそっと抑えた。
「そんなむきになるなって、光明寺。俺たちも言ってしまえば謎の生命体のような存在じ
ゃないか」
「全然違いますわっ! 少なくともわたくしは──!」
 二人の掛け合いを見ながら考える。どうやら失敗したわけではないようだ。
 宇宙人に対しての認識は常識人っぽい事を言っているが、未来人や超能力者に関しては
「ともかく」と一言で流せるようなヤツらだった。つまりこの連中はその系統の人間であ
り、また何か始まったのかと俺は二人を見ながらがっくりと肩を落とし溜息をついた。

 俺のこの憂鬱気分、誰か何とかしてくれないもんだろうか。

310北高を出よう! SOSvsEMP「起因」:2006/12/12(火) 04:27:31 ID:d6yHO2mU
- * -
 二人の喧騒を尻目に、俺はこういう時の切り札をいきなり使う事にした。あまり長門に
頼るのもどうかと思うが、どう考えてもこいつらがSOS団を巻き込む事になるのは目に
見えている。それなら相談ぐらいしておくべきだろう。
 先日の朝比奈さん誘拐の時のくじ引きで、その辺はイヤというほど思い知らされたしな。
 ついでに一度やってみたかった事でもあるので丁度いい。

「長門、今すぐ部室に来てくれないか?」
 俺は首をやや上に向けて、天井を見つめながら言葉を出した。手に携帯でも持っていれ
ば誰かと話しているように見えるだろう。だが俺は携帯をかけている訳ではない。
 ただ何も無い中空に語っただけだ。

「……へぇ、やるねぇ。アポーツ能力かい? それなら俺も」
 そう言って少年がすっと手を前に伸ばす。ポンという小気味良い音がすると、少年はい
つの間にかボールペンを手にしていた。
「うーん、やっぱりうまくいかないね」
「あなたのその子供だましな手品と比べているのでしたらレベルが違いますわ。それであ
なた、今一体何をしたんです?」
 ボールペンをもてあそぶ少年に一度突っ込みを入れた後、黒衣の少女が訝しげにこちら
を伺う。何をしたかと聞かれても別に……ああ、さっきの長門への呼びかけか。
 いきなり手品なんて見せられたからすっかり忘れていた。いや、何でもない。こうやっ
て俺が呼ぶだけで知り合いが飛んできたらちょっと面白いかなと思っただけだ。

 俺の言葉に、しかし黒衣の少女は表情を崩さない。少年は少年でそんな黒衣の少女を見
つめながら微笑み続けている。ボールペンは既に手にしていない。
「あなたに聞いたのではありません。この人の言う通り、あなたが呼び寄せたかもと考え
もしました。ですがわたくしなりに何度チェックをしてみても、あなたからEMP能力は
全く感じとれません。という事は、いくらあなたが思わせぶりに何か行動を起こしても、
それによって起こった行為があなたの仕業で無い事だけは事実なのです。
 ですからわたしはあなたにではなく、あなたの後ろに現れた、そちらの物静かな女性に
尋ねているのですわ」

 は? 後ろ? そう言われて俺が振り向くと、
「…………」
 そこにはいつの間にか長門が立っており、無言でじっと俺の事を見つめていた。
 正直に言おう。本気でびっくりした。思わず悲鳴を上げたりその場で飛び上がったり失
禁したりしなかった事をどうか褒めてもらいたい。
 そして長門よ、頼むから無音で俺の背後に立つのだけはやめてくれ。この調子で驚いて
いたらそろそろ一回ぐらい心停止を起こしそうだ。
311北高を出よう! SOSvsEMP「起因」:2006/12/12(火) 04:28:20 ID:d6yHO2mU
「…………」
 俺が何に驚いているのかがわかっていないのか、長門はただ首を数ミクロン程横へ傾け
ながら見つめてくる。まあいい。人間が驚くアルゴリズムなんてものを長門に説明しよう
ものならば、その話題だけで今日一晩徹夜してしまいそうだ。それはまた今度、機会があ
ったときにでもしよう。今はとりあえずおいておく。
 それよりも長門。もしかしてもしかすると、お前は俺が呼んだ声を聞きつけて部室まで
かけつけて来てくれたのか?
「わたしの取れる、考えられる限り最速の手段で来た」
 廊下に上履きで作ったドリフト痕が無い事を俺が祈っていると、長門はすっと俺の前に
立ち闖入者たちを見つめだした。ややあってから再度俺に向き直る。

「物理、精神、情報、その全てにおいて防御障壁が展開されている。解析不能。発生源は
リボンと思われる」
 何だそりゃ。まさかあのリボンが情報思念統合体からの力を上回るって言うのか。
「そう」
「……何人たりとも、このリボンに籠められた力を打ち破る事はできませんわ」
 黒衣の少女は俺たちを見つめながら、優しくリボンに手を添えた。
「このリボンは……二度と戻る事のないわたくしたちに対して、わたくしの親愛なる友人
が贈呈してくれた大切な物。
 彼女のばりやーは────無敵です」

 よりにもよってばりやーかよ。もっとイージスの盾とかそういう表現は無かったのか。
「ありませんわ。ばりやーという名前は、この失くしたはずのリボンを渡してくれた、わ
たくしの敬愛すべき親友がつけた名前。彼女の意思を尊重する事に比べれば、名称のチー
プさなど全く以って問題ではありません」
 黒衣の少女がリボンに静かに触れながら優しく微笑む。その表情は谷口でなくても最高
ランク評価を与えたいぐらい、正直に言って可愛かった。

「とまあ、そう言う訳さ。それに彼女のはともかく、俺のはただの盾じゃないしからね。
イージスの盾と呼ぶいう呼称はちょっと変かな」
 少年が水色のリボンを指して続ける。黒衣の少女は少年に厳しい視線を送ると一喝した。
「わざわざ手の内をばらしてどうするのですか、あなたは!」
「別に彼らは敵じゃないんだから構わないと思うね。それに万が一彼らが敵だったとして、
俺たちじゃどうがんばってもあの子には勝てないよ」

 少年は肩をすくめた後、こちらへ改めて向き直る。
「さて、そろそろ重要な事を話そうか。実は俺たちはわざわざこの部室を訪れたくやって
きた訳ではない。俺たちは気づいたらこの部室の前に立っていたんだ。
 俺も彼女も生憎と偶然って言葉は信じないタイプで、つまりここにこうして俺たちがい
るのは何らかの必然なんだと、俺は思う。
 では何故俺たちはここにいるのか。これから俺たちはどうしたらいいのか。キミたちの
知恵を貸していただきたい。
 俺たちは何の為の登場人物なのか、それを解き明かすために」

 少年はターン終了と言わんばかりの視線を投げつけてくる。さてこれは一体何の前兆だ。
 俺は一旦長門を見つめ、そして再び闖入者たちへと視線を戻した。
312北高を出よう! SOSvsEMP「起因」:2006/12/12(火) 04:29:22 ID:d6yHO2mU
- * -
 部室のドアがノックされる。部室内にいるメンバーを見渡し、仕方なく俺が応対に出る

「あぁ、あなたでしたか。ちょうど良かった。涼宮さんは?」
 我らSOS団きっての自称超能力者が、いつもより笑みを三割ほど減らして聞いてきた。
 ハルヒなら今日は休みだ。体調不良だって言って帰ったぞ。
「体調不良……やはりそうですか。ちょっと失礼」
 古泉が扉から離れて携帯を取り出し、何処かへと電話をかける。どうした、また何処か
で閉鎖空間でも発生したのか。
 部屋の連中に聞こえないようにと、俺は廊下へ出て扉を閉める。
「まだ僕にもわかりません。ですが、何だかおかしいんです」
 携帯に何か一言二言だけ告げると、古泉は携帯をしまいながら告げてきた。

「涼宮さんの精神波が今までに無い波長を示しています。閉鎖空間を発生させている時の
感覚にも似ているのですが……実際のところはわかりません。閉鎖空間が発生したと言う
報告も今のところは受けていません」
 なるほど、それでハルヒを確認しようとしたわけか。
「ハルヒのヤツ、熱っぽいとか言ってたな。案外アイツの病気が影響してるんじゃないの
か?」
「いえ、涼宮さんが熱病やその他病気にかかった時にも確かに閉鎖空間、そして《神人》
は発生していました。ですが今回の様な不完全な感知なんて前例がありません。少なくと
も僕は知りませんし聞かされた覚えもありません」
 それなら一体何が────とそこで俺は今回のイレギュラーな存在たちを思い出した。


「古泉、EMPって言葉に心当たりないか」
「EMPですか? ……いえ、残念ですが。それは一体」
「俺にもわからん。だがそれが今回の件に関わっているのはおそらく間違いない」
 俺はそう言いながら、古泉にあの二人と会わせてやろうと部室の扉を開けた。

「こんな状況でわたくしたちを放って、一体何をなさっていたのですかあなたは!
 こちらのお方は何を話しかけても我関せずと、先ほどから本を読んだまま全く反応を示
しませんし! 全く以って不愉快この上ありませんわ!」
 黒衣の少女が俺の姿を確認するなり指を突きつけて指摘してくる。視線を横に走らすと、
長門はいつもの位置でいつもの様に分厚い本を読み始めていた。
「まあまあ、彼らには彼らの事情があるんだろうって。それよりどうだい、お茶でも飲み
ながらオセロでも」
 少年は給湯設備を一瞥しながら棚を漁り、俺が持ってきたオセロを取り出していた。
「あなたはあなたでもう少し遠慮と言うか危機感を持つべきですっ! 罠でもあったらどう
するおつもりですか!」
「部室に罠を仕掛ける部活なんて滅多にないよ。そうだな、<黒夢団>ならありえるかも
知れないけれどね」
 悪びれもせずに答える少年。少し目を離しただけで部室内は大騒ぎ状態になっていた。

「……えっと、彼らは一体?」
 流石に引きつった表情を浮かべながら、古泉が俺に説明を求めてきた。
 俺に答えを求められても困る。

「すいませぇん、お掃除が長引いて遅れました〜。……あれ、キョンくんに古泉くん。二
人して廊下に突っ立ってどうしたんですかぁ?」
 入口で立ち尽くす俺たちにエンジェルボイスが投げかけられる。俺は声のした方を振り
向き、我が青春の理想郷である朝比奈さんをじっくり見つめて心技体全てを癒すと、とり
あえず古泉と朝比奈さんを部室に通してから緊急会議を開く事にした。


 何かが起こっている。この状況はそれを承けた結果に過ぎない。珍客二名に視線を送り
ながら、俺は体調不良を訴えてきた元気のないハルヒの顔を思い出していた。

313北高を出よう! SOSvsEMP「継承」:2006/12/12(火) 04:30:25 ID:d6yHO2mU
- * -
・継承

 黒衣の少女は光明寺茉衣子、少年は観音崎滋と名乗った。
「さっきの光明寺の考えで言うと、俺たちがこの名前を使っていいのか実に悩むところだ
けれどね」
「わたくしは生まれた時から光明寺茉衣子です。ですからわたくしが光明寺茉衣子と名乗
っても何も問題はありません」
「ま、名前なんてただの記号だと言うヤツもいる事だしね。別に俺も構わないさ」

 そんな禅問答のような自己紹介の後、俺はお盆にお茶を持ってきた朝比奈さんに尋ねた。
「そうだ。朝比奈さん、ハルヒの家って知ってますか?」
「え、あ、はい。知ってますけど、どうしてですか?」
 最後に古泉へお茶を渡してお盆を抱きかかえると、朝比奈さんは俺に興味を示す純粋無
垢な瞳を向けてきた。ちなみに今日は衣装に着替えてない。来客者がいるのもあるが、俺
なりに考えがあって、着替えるのを待ってもらった。

「知ってるなら話は早いです。実はハルヒのヤツが調子悪いって言って帰りまして」
「え……涼宮さんが?」
 俺は朝比奈さんにハルヒの状態を伝えた。そして俺なりに考えたその原因も。
 古泉の言葉を信じる限りハルヒの体調不良は《神人》関連、つまりは古泉サイドがらみ
とみて間違いないだろう。その場合ハルヒに必要なのは休息や医者などではない。《神人》
を何とかするための力だ。

「朝比奈さんにはハルヒのお見舞いに行ってもらいたいんです。できれば今からすぐに。
 俺たちとの連絡係もかねて、ハルヒの様子を見ていてもらいたいんですよ」
「ふふっ、キョンくんったら素直じゃないですね」
 朝比奈さんは少しだけ成長したやんちゃな弟を優しく見守るお姉さんの様な表情を浮か
べて俺の事を見つめていた。何かもの凄い誤解をされているようだ。
「わかりました。そういう事でしたら、みなさんの分もちゃんとお見舞いしてきます」
 朝比奈さんはお盆を片付け帰り支度を整える。一瞬ナース服に目をやりつつ悩んだのが
何ていうか朝比奈さんらしい。これ着て看護したらハルヒが喜ぶと思いますよ。
「やっぱり、そう思いますよね。それじゃこれ借りていきま〜す」
 ナース服とカバンを持ち、朝比奈さんは部室を後にした。これでハルヒの方に何かあれ
ば朝比奈さんがすぐに連絡してくれるだろう。

 観音崎が一連の動作を見つめ、光明寺に視線を移し、最後に俺に向かい合った。
「……今の人、何でナース」
 おっと、それは禁則事項だ。聞くな。

314北高を出よう! SOSvsEMP「継承」:2006/12/12(火) 04:31:20 ID:d6yHO2mU
「なるほど。あなたがここでの高崎兄の役割なのですね。しかし無能者な存在であるとい
う部分まで同じとは」
 光明寺が頷く。無能で悪かったな。そして誰だそいつは。これ以上まだ誰か増える予定
があるとでもいうのか。
「いえ、こちらの話です。お気になさらず」
 多少気にはなるが気にするなと言うのなら放っておこう。こっちは既に山のような懸案
事項で思考が飽和状態だからな。
 さてどうするかね。俺はとりあえず手持ちのカードを思い切りよく切ってみる事にした。

「まずはそちらに聞きたい。閉鎖空間、そして《神人》という言葉に心当たりはないか」
「ちょっ……!」
 流石に古泉が止めようと動くが、俺はアイコンタクトでそれを制止させる。
「閉鎖空間、《神人》……いえ、どちらも存じませんわ」
「《神人》は知らないけれど、閉鎖空間と呼べそうな状況なら知っている」
 またしても意見が分かれる。だからどっちなんだ。
 俺があきれながら突っ込もうとしたら、光明寺も観音崎の意見に対して意外だといった
表情を浮かべていた。

「あなた、知っているとはどういう事ですの?」
「どうもこうもないさ、光明寺。キミもよく知ってる場所だよ」
「わたくしが? それはいったい何処ですの。わたくしはそういう勿体ぶった言い方は嫌い
だと前に申し上げたはずです」
 光明寺が更に聞き返す。観音崎はそうだったねと微笑むと

「俺たちのいた学園だよ。あそこはEMP能力者が数多くいた為、学園全体は物理的、能
力的にある種の結界が展開されていた。想念体だって学園内にのみ発生して外には出てい
かない。全てひっくるめて、あそこは閉鎖空間だったじゃないか」
 観音崎は主に光明寺に教えるように答える。あまり事情が飲み込めないが、どうもEM
Pと呼ばれる謎の能力者が集う謎の学園がどこかにあるらしい。知ってたか、古泉。
「いえ初耳です。……そして実に興味深い話です」
 そして視線を長門へ送る。
「創作文献で読んだ事はある。でもこの世界においてそのような学園の存在は知らない」
 まあ超能力学園だなんて設定があるなんて、どう考えたってファンタジー小説の世界だ
よな。
「全く同感です」
 お前が言うな、超能力者。

315北高を出よう! SOSvsEMP「継承」:2006/12/12(火) 04:32:11 ID:d6yHO2mU
- * -
 その後、彼らと古泉の情報提供と腹の探りあいが一時間ほど続いたのだが割愛する。
 こいつらが何を言っているのかわからない事の方が多かった事もあるし、古泉なりに解
釈したEMPの定義についてなど今回の件に必要ない部分もかなり多かったからだ。

 その間二回ほど朝比奈さんから連絡があり、ハルヒの状態が伝えられる。
 どうも家の人がいないらしく、ハルヒは一人で寝込んでたという。朝比奈さんを看護に
送りだして正解だったようだ。
『えっと、何か身体の中で知らない人が暴れてるみたいな、そんなイライラする感じらし
いです。私にはよくわからないんですけど、キョン君わかります?』
 すいません、何が言いたいのか全然わかりません。病状に関してはとりあえずおいてお
く事にし、俺はハルヒに電話を代わってもらえるよう告げた。

『……何よ』
 とりあえず生きてるみたいだな。何だかよくわからん病気みたいだがとっとと治せよ。
『ふん、あんたに言われるまでも無いわ。こんなの一過性、大した事なんて無いんだから。
見てなさい、明日のSOS団課外活動までには絶対完治してみせるわよ』
 そうか、そいつは頼もしいな。だが明日も体調悪かったら無理せず休め。一時の意地で
体調を更に悪くしたりしてみろ、それこそ団員みんながお前の事を心配するぞ。
『……それも、あんたに言われるまでも無いわ』
 そうか、そうだったな。それじゃあ、今日はゆっくり寝てろ。病人のわがまま範疇内な
ら朝比奈さんに色々頼め。朝比奈さんも頼られるためにそこへ行ったんだから。
『……あんたに』
 あ、そうそう。もし明日治ってなかったら団員全員で見舞いに行くから。それじゃ。
『な! ちょ、ちょっと待…!』

 ぷつっ。ハルヒの叫び声を聞かず俺は通話を切り、ついでに電源も切っておいた。

316北高を出よう! SOSvsEMP「継承」:2006/12/12(火) 04:32:56 ID:d6yHO2mU
- * -
 さて、情報提供の〆として行われた古泉の長ったらしく遠まわしな解説から、なんとか
俺が理解できた事だけを述べていこう。

 彼らはEMPと呼ばれる能力を持ち合わせている。それは思春期の少年少女にのみ現れ
る、まさに不思議な能力なのだそうだ。
 その力や、テレポートやサイコキネシスといった世間一般で言われている超能力のよう
な力から、おみくじで必ず中吉を引くといった何の役に立つのか全く持ってわからない能
力まで多種多様。また一人で何種類の能力を持つ者もいるという。
 能力が現れる人間はまれで、世間ではEMP能力についてトップシークレットとなって
いる。また時期は人によってまばらだが、平均して思春期を終えるころになるとEMP能
力は消失してしまう。これは今のところ例外無しの事項だそうだ。

 さて、世間一般の目には秘密にしておかなくてはならないEMP能力。それが発動して
しまった少年少女たちは政府が秘密裏に運営するEMP専用の全寮制学園に編入させられ
る。それが彼らのいたEMP学園なのだそうだ。

 彼らのいた学園の状況は、古泉の背後関係である『機関』によく似ていた。
 彼らの不思議能力は時として『想念体』と呼ばれる謎の存在を生み出すという。生徒た
ちが放射する不思議な精神派が寄り集まり形を持つようになった存在、想念体。彼らの定
義で言うのなら、《神人》はハルヒの能力が生み出した一種の想念体と呼べる事になるだ
ろう。
 想念体は基本的に迷惑な存在として認識される。人を襲ったり物を破壊したりといった
破壊活動を行うからだ。そんな想念体を倒し学園と生徒を守る為、対想念体の能力を持っ
た人間には対想念体業務が割り当てられる。
 そして俺の目の前にいる黒衣の少女、光明寺。彼女は高いカウンター想念体能力を持っ
ているのだそうだ。ちなみに観音崎の方はどんな能力を持っているのかはぐらかされた。

「まったく……見世物ではありませんでしてよ」
 そう言いながら、光明寺は自分の指先に蛍火の様な光の弾を生み出した。同時にリボン
が淡く光りだし、光明寺の身体を薄いオーラが包み込む。あれがリボンのばりやーか。
「なるほど。感覚的に感じ取れるのですが、この蛍火は僕のあの紅い超能力に似ています。
 これはあくまで僕の推測ですが、この力でも《神人》にダメージを与える事は可能では
ないかと思われます」

 古泉が蛍火を見つめながら答えた。
 まあ予想していた通りだ。そうでなければ彼らがここに存在する理由が思いつかない。
「そうだね。それが俺たちの必然なのだろう」
 観音崎がすっと手を伸ばし、ぱちんと指を鳴らす仕草を取る。次の瞬間にはその手に小
さく包まれた飴玉をつまんでいた。
 だから何なんだその手品は。長門がさっきから微妙な好奇心を見せているじゃないか。


「必然とは、どういう事ですの」
 光明寺が尋ねてくる。だがそれには俺ではなく彼女に付き添い立つ観音崎の方が答えた。
「必然は必然さ。俺たちがこうしてこの場所に立っているのは、まず間違いなく彼らのト
ラブルを解決する為なのだろう」
「でしょうね。彼らが訪れたのはおそらくは何者かの──そう、僕たちの力が遠く及ばな
い何者かの力によってでしょう」
 モザイクをかけて語っているが、古泉が言いたい事は一つだろう。
 つまりこれもまたハルヒの望んだ結果だと。

317北高を出よう! SOSvsEMP「継承」:2006/12/12(火) 04:33:58 ID:d6yHO2mU
「長門。閉鎖空間、神人、あるいはそれっぽいのが発生している場所があるか」
 俺の問いかけにしばし長門が目をつぶる。こう見えてもの凄い力を使いもの凄い勢いで
索敵しているのだろう。その証拠に、目の前の二人からいきなり余裕の表情が消えうせた。
どうもこいつらは長門の力も感じ取れるらしい。
「な……何なんですの!? こんな、こんな力が一個人になんて……ありえませんわ!」
「想像以上、だな。正直言って、彼女が人間なのかどうかすら疑いたくなってくる」
 二人のリボンが淡く輝き、主を守護する不思議な光が二人の身体を覆っているのが見て
取れる。長門のハイスペックでこんな状態になるんだったら、もし覚醒したハルヒとか出
逢ったら一瞬にして気絶するんじゃないだろうか。


 ピルルルルル。

 と、突然部室に電子音が鳴り響く。固唾を呑んで長門の事を見つめていただけに、この
不意打ちには驚いた。それは光明寺も同じだったようで、突然の音に胸元を手で押さえて
驚きをの表情を浮かべている。古泉と観音崎はあまり表情を動かしてないが、顔に出して
ないだけでどちらも似たようなものだろう。
 長門が目を開けて懐から携帯を取り出す。鳴り響く携帯を見つめ、次に何故か俺の方を
見つめた後、長門はゆっくりと携帯を取った。

「……、……、……、……わかった」
 数度沈黙の頷きの後、やはり俺を見つめて一言だけ相手に返す。アイコンタクトではな
くただ単に俺を見ていたいだけのようだ。
 短い返事をした後、長門は携帯を切らずにすっと観音崎へと差し出す。

「え、俺?」
 観音崎は首をかしげながらも携帯を受け取る。そりゃびっくりするよな。
「はい、もしもし。……は? キミ誰? ……ああ。……いや、俺は……その話、本当なん
だな? ……わかった。……あぁ、確かめたら渡してやる」
 やはり最後には納得をみせ、今度は携帯を古泉に渡す。おいおい、一体何なんだその電
話は。

「はい……わかりました、信じましょう。それで……何ですって!? そ、それは本当の話な
んですか!?」
 古泉が珍しく表情を変えて驚いている。もう何が何だかわからない。同じように電話が
回ってきていない光明寺を見ると、彼女もまた何事かわからず苛立ちを覚えているよう
だった。騒いでないのは自分にも電話が回ってくるかもしれないと思っているからだろう。

「……それで僕らは……はい、わかりました。すぐに対処します。……はい、では」
 古泉が電話を切り長門に返す。なんだ、俺と光明寺は仲間はずれか。
「ちょっと何でしたの、今の電話は。何故あなたにまで電話がかかってくるのですか」
 光明寺が観音崎に詰め寄るが、それは古泉の有無を言わせぬ制止によってさえぎられた。

「すみませんが光明寺さん、その件に関しては後にしてください。それと」
 古泉が俺のほうを向く。何だ。
「携帯の電源が切れっぱなしでは、朝比奈さんと連絡がとれませんよ」
 忘れていた。ハルヒ対策にと切りっ放しだったんだったっけ。俺は慌てて電源を入れた。
318北高を出よう! SOSvsEMP「継承」:2006/12/12(火) 04:34:38 ID:d6yHO2mU
「さて、緊急事態です。《神人》が現れようとしています……いえ、現れたようです」
 《神人》の気配を感じ取ったのか古泉が真剣な眼差しで告げてきた。長門や光明寺たち
も何かを感じ取っている様子だ。
 俺は携帯の電源が入るのを確認してポケットにしまう。そして状況を尋ねようとした途
端、狙ったかのようにたった今しまった俺の携帯が鳴り響いた。設定した専用の着信音、
そして取り出した携帯のディスプレイに表示される名前が朝比奈さんからである事を告げ
ている。

「あ、すいません。さっきまで電源を落としてて……」
『キョ、キョン君! た、大変なんです!』
 俺の謝罪をさえぎり、朝比奈さんが必死の声で伝えてくる。
「どうかしましたか、朝比奈さん」
『涼宮さんが、涼宮さんが突然倒れて! 凄い熱で、わ、わたし一体どうしたら……』
 とそこで何か大きな音が電話の向こうから聞こえてくる。
『うひゃあっ!! ……え、キョ、キョン君!? ええっ!? こ、これって一体……!?』
 妙な叫び声と共に電話が切れた。
 何だ、何があったんだ!? 俺は朝比奈さんに電話を返そうとした。

 だが、そんな俺と部屋にいるメンバーに掛けられた古泉の言葉は、慌てふためいていた
俺の動きを完全に停止させてしまうぐらい、とんでもないものだった。




「ですが閉鎖空間は発生しておりません。《神人》が現れたのは閉鎖空間じゃありません。
 我々の住む通常空間────────この現実世界に、です」

 ハルヒの病状悪化、朝比奈さんの叫び、そして《神人》の顕在化。
 何処かで何かが起き、俺たちがそれを承けた結果、事態は考えた以上に急転する。

319北高を出よう! SOSvsEMP「急転」:2006/12/12(火) 04:35:42 ID:d6yHO2mU
- * -
・急転

 俺と長門、そして光明寺と観音崎の四人は『機関』の用意したミニバンに乗り込んで
《神人》の待つであろう現地へ向かう。対《神人》のエキスパート古泉は
「申し訳ありません。僕は別の場所へ向かわねばならなくなりました」
 そう言い残しバンに乗らなかった。
 いったい《神人》討伐に優先される用事って何なんだろうね。
「わたくしの方は詳しくは知らされておりません。ですがこの《神人》討伐に並ぶぐらい
重要な任務なのはわかります。数少ない能力者の一人である古泉を送り込むぐらいなので
すから」
 バンに同乗しているメイド姿の森さんが答える。古泉に代わり、今回は彼女が俺たちと
一緒に行動し、みんなのサポートと『機関』との橋渡しをしてくれるのだそうだ。
 ところで何でメイド姿なんでしょうか。
「それは、そうですね。禁則事項ということにしておいてください」
 どうも今年の流行語大賞は『禁則事項』で決定のようだ。

 朝比奈さんにはあの後少ししてから連絡がついた。
『ご、ごめんなさいキョン君、わたし、慌てちゃって……。えっと、こっちは大丈夫です。
 あ、その、涼宮さんは全然大丈夫じゃないんですけど。でも応援が来てくれました』
 古泉がそっちにつきましたか。
『はい。それとEMPの人も一人来てくれています。えっと、さいばー何とかって能力者
だそうです。……あ、ちょっと長門さんにかわって欲しいそうですよ』
 何でそのEMPのさいばーさんは長門を知っているんだと考えつつ、俺は長門に電話を
渡す。長門は一言二言相手に何かを告げるとすっと目を閉じた。

「……涼宮ハルヒならびに朝比奈みくると同席する者に対し、電子ネットワークを通じた
接続を確認した。彼女は自分の事を志賀侑里と呼んでいる」
 ややあって長門が再び目を開けると、携帯を俺に戻しながら告げてきた。
「志賀侑里ですって!?」
「なるほど……確かに条件は揃ってるからね。彼女がいたって別におかしくはない」
 結局登場人物が更に増えた。その志賀さんとやらはお前たちの知り合いなのか?
「彼女の友人の友人さ。直接面識は無いけれどね」
「しかし、侑里さんは何故涼宮ハルヒさんの家にいるのです? 訳がわかりません」
 全くだ。
「経緯は俺にもわからない。でも、そこにいる事が彼女の必然なのだろう。俺たちがここ
にいるのと同じ理由でね」
 観音崎が長門をみる。長門は小さく頷くと、
「わたしと彼女を介する事で、どのような状況下においても双方向通信が可能」
 よくわからんが、朝比奈さんたちといつでも連絡が取れると考えて構わないのか。
「構わない。閉鎖空間内からでも問題ない」
「それは頼もしい話です。これで万が一の時でも外界との連絡手段が断たれる可能性が低
くなりましたね」
 森さんは薄く微笑むと、再び誰かへと電話を掛けだす。彼女は彼女なりに、そして『機
関』なりに色々作戦を練っているのだろう。

『キョン君。こっちはわたしたちが何とかします。ですからキョン君は神人さんの方をお
願いします。……本当にお願いします、キョン君。涼宮さんを、助けてあげてください』
 わかってます。そこで看病する朝比奈さんのためにも、そして苦しんでいるハルヒのた
めにも。
 このメンバーの中で何ができるかわからないけれど、俺もやれる事はやろうと思います。
 朝比奈さんからの激励に、俺は力強く答えた。


320北高を出よう! SOSvsEMP「急転」:2006/12/12(火) 04:36:46 ID:d6yHO2mU
- * -
 バンの中で俺たちはこの異常事態について話し合っていた。
「先ほど申したとおり、私たち『機関』の『超能力者』の力は閉鎖空間限定です。《神人》
の顕在化に際して、《神人》の近くでなら能力者たちの能力も使用可能かもしれないと期
待されましたが……やはりそう旨い話はないようです。先に現場に到着しているわたし達
の仲間が確認しました」

 森さんが力なく、それでも微笑を絶やさずに教えてくれる。案外古泉にあのアルカイッ
クスマイルを教えたのは彼女なのではないだろうか。
 まあそれはともかくだ。つまり古泉のお仲間である超能力者たちは、《神人》を倒す為
のあの紅い力は全く使えないと、そういう訳ですね。
「はい、そうです」
 長門はどうだ。お前なら《神人》を倒す事ができるんじゃないのか。
「情報思念統合体は、あなた達が《神人》と呼ぶ存在も涼宮ハルヒの一部と認識している。
 わたしがあの存在に直接干渉する行為は禁止されている」
 それで今まで《神人》へは不干渉だったのか。妙な部分で俺は納得した。
「という訳で、我々が《神人》へ対抗できる手段は全く無くなってしまった……と、本来
ならばなっていた事でしょう。ですが──」
 言葉を受け、この為に俺たちの元へとやってきたのであろう、光明寺が頷く。
「ええ。その《神人》と呼ばれる存在が想念体と同じ存在であるならば、わたくしの出番
なのでしょうね」

「光明寺さまにお一つお伺いいたします。光明寺さまが過去に退治された想念体で、最大
の大きさは一体どれくらいのサイズでしょうか」
「最大ですか……教室程度の大きさでしたら倒した事がありますわ。それが」
 その回答に俺は苦虫を噛んだ様な表情を浮かべる。森さんをみると表情自体は変わって
いないが、やはり同じような気持ちなのか、俺のほうを見つめて薄く微笑んだ。
 想念体の標準サイズがどれくらいの大きさなのかは知らないが、やはり《神人》と比べ
ると明らかに小さすぎるようだ。
 何せ《神人》は────

「光明寺さま、そして観音崎さま。《神人》と会う前に先にお二人にお伝えしておきます。
《神人》とは十数階のビルに匹敵する大きさを持つ、まさに巨人といった存在なのです」
「……なんですって? 今、何とおっしゃいました?」
 光明寺の表情が目に見えて固まる。隣に座る観音崎の顔からも笑みが完全に消えた。
「無駄だと思うけど、あえて聞かせてくれ。……本当なのかい、それは」
「はい、我々も常にその存在自体嘘であって欲しいと思っていますが、本当の事です」
 観音崎は空を仰ぐ。ミニバンなので天井しか見えないと思うが、別に天井を見たい訳で
はないのだろうから構わないだろう。

321北高を出よう! SOSvsEMP「急転」:2006/12/12(火) 04:37:38 ID:d6yHO2mU
「光明寺さま。数十メートルの巨人、光明寺さまのお力で何とかできますでしょうか」
「……倒せるかどうかと聞かれれば、わからないと答えるしかありません。心に正直に言
うならば、そんな化け物サイズの想念体がいるなど、わたくしは知りたくもありませんで
したわ」
 目をつぶり、膝に置いた手を握り締める。それでも背筋を曲げたりせずピンとしている
のは、彼女の心が気丈な証拠か。
「ですが」
 光明寺は目を開く。そこにはある種の強い決意が現れていた。
「力ある者が逃走すれば、力無き者が虐げられます。それはわたくしの知る常識において、
許されるべき道徳ではありませんわ
 何故わたくしにこのような力があるのか────それは当然『力を使う』ためであり、
それ以外に理由など無く、また必要もない。
 これがわたくしが班長より教わった、心の底から共感できる数少ない言葉です」
「そう言ってもらえると助かります。我々も、そしてこの世界も」
 森さんは憂いを消した微笑を浮かべてきた。


 さて、何で一番の役立たずというかどう考えたってお荷物確定の俺が、この超常集団の
集う対《神人》攻撃部隊にいるのかというと特に殊勝な理由があるわけでもなく、
「あなたが必要」
 と長門に言われたからである。
 そうでもなければ俺は自分の領分をしっかりとわきまえ、わざわざこんな危険極まりな
い戦場へと赴くバンになど乗らず、今頃ハルヒの見舞いにでも向かっているところだ。
 ところで長門よ。もうこれで何回目なのかわからないがもう一度聞かせてくれ。

 俺は本当に必要なのか?

「必要。あなたがここにいる事、それが涼宮ハルヒを救う事になる」
 どういう計算でその答えが導き出されたのか、長門はきっぱりと言い切った。長門がそ
う言うのなら俺は従うしかない。俺に何ができるのかはわからないが、こいつが俺に言う
事は正しい。それだけは絶対に疑ってはならない部分だ。

「……見えてきました」
 森さんの言葉に全員が窓の外を見る。かつてハルヒの陰謀の元、俺たちが宝探しを行っ
た鶴屋家所有の山。その山頂で木々に足元を隠しながら、まるで空に浮かぶ人影のように、
直立不動の黒い巨人が下界を見下ろしていた。

322北高を出よう! SOSvsEMP「急転」:2006/12/12(火) 04:38:35 ID:d6yHO2mU
- * -
 すでに『機関』の力によって《神人》の立つ山を中心にかなりの距離に避難勧告が出さ
れている。
「表向きは映画撮影と言う事になっています。報道規制は十分に行っておりますわ」
 それがありがたい事なのかどうだかわかりませんが、世間への騒ぎはやはり小さい方が
いいんでしょうね。できれば俺も逃げ出したい気分でいっぱいですし。
 ところで森さん、一つ聞いても宜しいでしょうか。
「何でしょう」
 俺は過去二回しか見たことが無い上に二度目の時は観察してる暇すらない状況だったの
で聞くのですが……《神人》ってあんな姿でしたっけ?
「いえ、違います。あれが《神人》なのは確実なのですが、少なくとも『機関』が今まで
に知る《神人》ではありません。『機関』の見解では亜種、あるいは《神人》の新しい形
態なのかもしれないという声もあがっているようです」
 流石に新種はヤバイでしょう。せめて亜種かアルビノ程度にしておいてください。

「……想念体、ですね」
「ああ。流石にこんな化け物的なヤツは始めてみるけどね。あの班長が見たら狂喜乱舞し
て勝手な行動を取りまくっていただろうね」
「ええ。あんなのがいたら事態が悪化するだけですわ。いなくてせいせいしてます」
 光明寺が少しだけむきになる。どうも班長とやらは光明寺に対してNGワードのようだ。
 どこの世界もリーダーには苦しめられるものなのさ。


 対《神人》作戦はこうなった。
 長門と光明寺の二人がコンビとなって《神人》に近づく。そしてある程度近づいた所で
光明時が攻撃。長門は防御とサポートを行う。
 それに離れて俺と観音崎。観音崎には攻撃手段がないが、防御障壁が展開できる事から
前後の中継に入ってもらう事になった。俺が観音崎と一緒なのはこの《神人》攻撃の間、
ヘタな場所に避難するよりはこいつの障壁に守られていた方が安全だと判断されたからだ。

 彼らのリボンによる障壁の強度は既に検証済みで、彼らは先の実証実験で数発の銃弾と
長門の強烈な一撃をその障壁で見事防ぎきってみせた。
 防御に関しては問題ない。後は光明寺の蛍火次第だ。
『我々機関の方も、ありとあらゆる攻撃手段を用いて殲滅行動を開始します』
 耳につけた通信機から森さんの声が届く。森さんは機関と合流し戦闘態勢を引いていた。

『──頑張りましょう。まだ明日を後悔なく捨てられる程、わたし達は生きていません』
 わかっている。そんなのは当然の事だ。大体一高校生たる俺たちにこういう怪獣大戦争
は似合わない。
 俺たちは明日以降も、いつも通りハルヒを交えて笑いあっていればいいのさ。


『連絡。涼宮ハルヒの状態に変化発生』
 長門の声と共に前方二人が動きをみせる。光明寺が手のひら大の蛍火を生み出している
のが遠くからでも見てとれた。
 同時に今まで沈黙を守っていた《神人》が右手をゆっくりと振り上げ、左足を踏み出す。
 そのまま《神人》振り上げた右手を斜めに勢いよく下ろす。右手の軌道上にあった木々
の殆どはその勢いで吹き飛び、また残った木々も例外無く全てなぎ倒れていた。


『────こちら第三EMP学園妖撃部、光明寺茉衣子。攻撃を開始致します!』
 光明寺が生み出した輝く蛍火、その第一射が漆黒の影の如き《神人》へと撃ち放たれた。

323北高を出よう! SOSvsEMP「急転」:2006/12/12(火) 04:39:43 ID:d6yHO2mU
- * -
 《神人》のサイズ対比で見ると線香花火の灯火程度しかない蛍火は、《神人》の身体に
あたるとパンッという音と共にはじけた。意外に大きな爆発になったのか、蛍火がぶつか
ったあたりの黒い肌が青白く円状に輝いている。だがそれも僅かな間の事で、まわりの黒
い部分が青白い円を侵食し、すぐにもとの漆黒な状態に戻ってしまった。
『攻撃は効いています。光明寺さん、続けてお願いします』
『わかっていますわ! 後ろのお二方、お気をつけて。少々派手に撃たせてもらいます!』
 言うなり《神人》へ伸ばされた光明寺の指先から立て続けに蛍火が撃ち出される。
 一点集中と機動力削減を狙っているのか、全弾を左足の太もも部分に対して集中砲火。
 《神人》は踏み出していた左足をガクッとさせて立てひざをついた。
『どうですっ!』
「上だっ、光明寺!」
 《神人》が立てひざをついた勢いを利用し、左腕を長門と光明寺目掛けて勢いよく振り
下ろす。
『くっ、ばりやー展開っ!』
『…………』
 二人がそれぞれ障壁を生み出し左腕を防ぐ。直接的な衝撃は二人の防御障壁で防いだも
のの、地面に伝わる振動で光明寺がよろめいた。長門がとっさに手を伸ばしてそれを支え、
光明寺が転ぶのを寸前で防ぐ。

『た、助かりましたわ。礼を申し上げます』
『いい。それより、来る』
『え?』
 声につられ光明寺が、そして後ろに立つ俺と観音崎もまた《神人》を見る。《神人》は
目の前の二人を敵と認識したのか両手を振り上げ、その驚異的な質量を二人に対して次々
と交互に振り下ろしてきた。

『きゃああ──────────っ!!』
「光明寺っ!」「長門っ!」
 光明寺の悲鳴に俺と観音崎の叫びが重なる。もどかしい事に俺と観音崎も地面に伝わる
振動のせいで、二人の元へ駆けつけるどころか立っていることすらできていない。
 くそっ、これじゃ本当に役立たずじゃねぇか! 森さん! 観音崎! 何とかならないのか!
『APFSDSや対戦車ミサイルなら既に使用しています! ですが、《神人》に対して気休め程
度にもなっていませんっ!』
「さっきからやっている! だが何も起こらないんだ! おい、本当に俺に能力が残ってい
るのか!?」
 そんな事俺が知るわけないだろ! くそっ、長門! せめて場所を移動しろ!

『それはできない』
 長門はあっさりと俺の意見を否定した。どうしてだ。お前ならば光明寺を抱えてその場
を移動ぐらい難なくできるだろう。
『わたしたちが移動したとき、この存在があなたを狙う可能性がある』
 長門は遠くからこちらを見つめて言ってきた。何てこった、長門は俺たちの為に盾にな
りその場を移動しないと言うのか。
「だったら俺たちも連れていけばいい! とにかく撤退しろ!」
『わたし達が全員撤退すれば、この存在は何を始めるか予想できない』
 長門はこちらを見つめたまま小さく呟いた。


『────だが涼宮ハルヒが生み出したこの存在が、世界を次々と蹂躙していくのは事実。
 その現実を、あなたは受け入れられる? わたし達が撤退すると言う事は、あなたがそれ
を受け入れるという事になる。でも、あなたはきっとそれを望まない。
 それにこの存在が涼宮ハルヒに影響を及ぼしているのは明らか。何らかの対策が必要』

 長門はそう言葉を締め、再び《神人》の方へと視線を戻した。
 正直、俺は何も言い返せなかった。

324北高を出よう! SOSvsEMP「急転」:2006/12/12(火) 04:40:39 ID:d6yHO2mU
- * -
『もう大丈夫ですわ、長門さん。そのまましっかりわたくしを支えていてくださいませ。
 攻撃を再開します!』
 光明寺から蛍火が射出される。振り下ろされる両腕に対しとにかく撃ちまくるという、
狙いもへったくれもない乱射状態だ。その攻撃に《神人》の動きが鈍るも、《神人》の攻
撃自体は止まらない。
『……長門さん、どうか正直におっしゃってください。わたくしのこの攻撃で、あの巨人
を倒せると思いますか?』
 次々と蛍火を撃ちながら光明寺が尋ねる。長門は一呼吸分だけ時間を取ると絶望的な回
答を述べた。

『攻撃による損傷を《神人》の回復速度が上回っている。この攻撃のみでは不可能』
『……やはりそうですか。さてどう致しましょう。こうなってはもう機械仕掛けの神にで
も祈るしかないでしょうか?』
 そう言いながらも攻撃を続ける。無駄だとわかっていても止めるつもりはないらしい。

「無茶だ、光明寺! 一度退いたほうがいい!」
『この振動の中をですか? 長門さんが退くと言わない限りそれは無理と言うものです。
それに、わたくし自身この場を退くつもりなど毛頭ありませんわ。無駄になっているとは
いえ、想念体にダメージを与えられているのはわたくしのこの力のみ。そのわたくしが退
いて、一体誰がこの想念体を倒すというのですか』
「無駄だ! キミはどこかで期待しているのかもしれないけど、いくらあの班長さんでも
ここには絶対にやってこられない!」
 俺たちは地面の振動で転がりながらも、地道に長門たちの元へと向かっていた。

『…………わかりませんわよ。あのでたらめな存在の班長の事、もしかしたら意外な所か
ら現れるかもしれませんわ。そして、そのような可能性がほんの僅かでも残っている限り、
わたくしは無様な姿をみせる訳には参りません。
 万が一醜態を晒している姿をあの班長に見られようものなら、わたくしはその場で班長
をくびり殺した上で自害します!』
 もはやムチャクチャな理論で光明寺が撤退を拒否する。だが観音崎も必死だ。

「キミだって感覚的にわかっているんだろう! ここは俺たちの世界から見て異世界とか
そんなレベルの場所じゃない。ここは……俺たちがいた世界よりも『遥か上位』の世界な
んだ。俺たちの世界から何かが来るなんて絶対に無理なんだよ!」
『──それでも、です。わたくしは生徒自治会保安部対魔班、その班員なのですから』

 ダメだ、意志が強すぎる。観音崎の言葉で光明寺を退かせる事はできない。
 俺は転がりながら、覚悟を決めて長門に告げた。

「もういい! 長門、光明寺をつれて今すぐ退くんだ!」
 ハルヒがどうの言っている場合ではない。このままでは目の前の二人がやばい。
 だが。

『まだ』
 長門が返す。そして今までの話の流れが何だというぐらい謎な事を告げてきた。


『まだ、あなたの指示した鍵が揃っていない』
 事態は集結する。

325北高を出よう! SOSvsEMP「集結」:2006/12/12(火) 04:42:00 ID:d6yHO2mU
- * -
・集結

 同時に観音崎が突然右手を空へと向ける。

「何だこの感覚は!? まさか、本当に何か呼べるというのか!? ……ならば、来いッ!!」
 観音崎の呼びかけに掲げた右手が輝いて応える。刹那、光が弾けたかと思うと観音崎の
右手には一冊の本が握られていた。手の平より大きい文庫本サイズのちょっと薄めな本だ。
ポップなイラストとふざけたタイトルがいわゆるライトノベルである事を示している。
 ……ん? どっかで見たことあるような本だと俺が記憶を漁ろうとすると
『それを、わたしに』
 間髪いれずに長門が告げてきた。
 そうだ、それどころじゃない。俺は反射的に叫んでいた。

「観音崎、その本を長門へっ!」
 言ってからどうやって渡すんだと考える。長門たちの場所までまだ距離がある。投げた
ところで届かないし、そもそも地面の振動がそれを許さない。だが観音崎はわかったと応
えると何も考えずに本を放り投げた。
「この大きさなら俺でも操れる……頼むぜ、寮長の妹さん! 飛んでけええッ!!」
 観音崎の水色のリボンが光ったかと思うと、放物線を描いて飛んでた本がいきなり空中
に静止する。そして長門目掛けてありえないぐらいまっすぐに飛んでいった。重力なんて
完全に無視、まるで野球大会の時のインチキボールだ。
 長門が右手を真横に伸ばし、後ろから飛来する本を振り向きもせずに受け取る。左手で
光明寺を支えているというのに、なんとも器用なものだ。

326北高を出よう! SOSvsEMP「集結」:2006/12/12(火) 04:42:47 ID:d6yHO2mU
『媒体を入手、鍵は揃った』
 そのまま手にした本を額に当てる。
 鍵だと? さっきから長門は何をしようとしているんだ。


『機械仕掛けの神より接続。確認。《自動干渉機[アスタリスク]》、わたしにも機会を』
 恐ろしく静かな声で淡々と長門が呟く。いつもと違い、まるで機械音声のようだ。
 驚く俺たちをよそに、長門はそのまま抱きかかえる光明寺に告げる。


『対象より条件提示。機械仕掛けの神の名を入力せよ』
 あっけにとられたような、雰囲気にのまれたのか、光明寺の息を呑む音が聞こえてくる。
『き、機械仕掛けの神?』
 機械仕掛けの神、デウスエクスマキナ。「状況を一気に打破するご都合主義」の事だ。
 決して万能インターフェースである長門の事ではない。と、思う。

『あなたが信用せず、だが信頼するモノの名を』
 長門があくまで冷淡に告げる。ややあって、今度はふぅとため息に似た息遣いが耳に届
いてきた。

『……こんなふざけた状態をどうにかできるようなふざけた存在など、わたくしはたった
二人しか存じておりません。そしてわたくしの前に立つのは想念体。ならばわたくしが呼
ぶのは不本意なれどただ一人です。
 ええ、良いでしょう。わたくしが全く以って信用せず、だが全身全霊を以って信頼する
その機械仕掛けの神の名、お教えして差し上げますわ。
 其れは第三EMP学園の恥部、<黒夢団>首領にして生徒自治会保安部対魔班班長!
 そしてわたくしを勝手に一番弟子と呼び付きまとう天上天下唯我独尊なあの男!
 常に被害を拡大し事態を最悪へと動かす故に誰からも信用されない存在でありながら、
それでいて全てを終結させる力を兼ね揃えるが故に誰よりも信頼される存在である、第三
EMP学園きってのトリックスター!


 ──その名、班長、宮野秀策っ!』




<正解だ、茉衣子くん! 我が愛すべき後輩にして唯一なる弟子よ!>
 そんな男の声が届くと共に、《神人》の足元を中心に闇のように昏く巨大な同心円が出
現した。

327北高を出よう! SOSvsEMP「集結」:2006/12/12(火) 04:43:24 ID:d6yHO2mU
- * -
 突如現れた闇の法円から無数の黒い触手が伸び始め、《神人》の身体をがんじがらめに
捕らえて動きを封じる。
「はっはっはっ! なかなかに楽しい状況になっているではないか、茉衣子くん! 私もも
ちろん参加させてもらうとしよう!」
 触手の拘束によって《神人》の動きが、攻撃が止まった。俺と観音崎は《神人》から受
け続けた振動で三半規管がいかれた状態だったが、ふらつきながらも何とか立ち上がると
長門たちの元へと走り出した。
「光明寺! これはいったい! あの闇の法円はまさか!」
「ええ……冗談半分で期待したら本当にやってきてしまったようですわ、あのアホ班長」
 光明寺が前方を指差すと、そこには白衣を纏い両手をバンザイ風に広げて笑いながら
《神人》と向き合う人物の姿があった。どうやらあれがその班長とやららしい。
 それで、このブラックライトのような法円と今夜の夢に出てきそうな薄気味悪い触手は
そこで笑っているちょっとアレっぽく見える彼の仕業か。
「そうですわ」
「だ、だけどどうやって!? ここは彼の表現でいえば『上位の世界』だっていうのに!?」
「話は後にしたまえ! 今は議論を行う時ではない。実務の時間だ!」
 班長──たしか宮野だったか、は振り向いて檄を飛ばす。言ってる事は格好良いがその
心底楽しんでいるという笑みが全て台無しにしていた。どこかの百ワット団長を思い出す。

「ええ、確かに。ですがこれだけは言わせてください。いったい誰があなたの愛すべき後
輩で唯一なる弟子なのですか!」
「無論キミに決まっていよう、茉衣子くん!」
 宮野は何を言っているんだと言わんばかりに返す。そしてこちらに近寄るとおもむろに
光明寺を抱き寄せた。
「なっ! ……何をなさるのですか、この変態!」
「全て後だと言ってるだろう。キミは何よりも先にすべき事がある。違うかね」
「違いません! ですからわたくしを放してください! 班長がわたくしに抱きつく理由が
全く以ってわかりません!」
「意味などない。ただムードを盛り上げただけだ。久しぶりの抱擁にこう元気が注入され
やる気がふつふつと沸いてくるかと思ってな!」
「余計そがれます!」
 白と黒のかけあい漫才が続く。こうも息がぴったりだと二人に気を取られ《神人》の事
すら忘れてしまいそうだ。

「やれやれ、一安心みたいだね。光明寺も緊張が解けたようだ」
 観音崎もなにやら安堵の息を漏らしている。どうしてそこまで余裕になれるんだお前ら。
「あの二人が組んで解決しない事など一つもなく、生き遂せた想念体もまた一体もいない。
それが俺たちのいた学園で常識だったからさ。
 そう言う訳でお二人さん、早いとこ何とかしてもらいたいんだけど」
 観音崎が二人に水を向ける。光明寺たちは再会の抱擁状態から、いつの間にやら光明寺
の肩を宮野が背中から支える姿勢へと変わっていた。
「わかっておる! さあ茉衣子くん、キミの力であの巨人の外側に群がる想念体どもを派手
にぶっ壊したまえ!」
 びしりと肩越しに《神人》を指差す。って、外側? なんだそりゃ。
「うむ! アレは想念体が巨人に纏わりついておるのだ。だからあの巨人は本来あるべき力
を揮えないでいるのだろう。内面で葛藤しているのがヒシヒシと伝わってくるぞ!」
 本来の力──つまり閉鎖空間か。《神人》が、ハルヒが閉鎖空間を生み出せないのは取
り憑いている想念体が原因だと、そう言うのか。
「そう。涼宮ハルヒの意思に纏わりつく意思を破壊すれば、あの存在も涼宮ハルヒも正常
状態に回復すると思われる」
『そうなったら、後は我々能力者たちの出番です』
 長門が俺の意見にうなずき、森さんがそれを受ける。まさにその通りだ。
328北高を出よう! SOSvsEMP「集結」:2006/12/12(火) 04:44:13 ID:d6yHO2mU
「さぁキミの力を見せてやれ、茉衣子くん。キミはあんな想念体などに遅れをとるような
やつではない。キミの力もまた然りだ。前にも言ったがそれはあちらの茉衣子くんだった
ようが気がしなくもないのでもう一度言おう。しかとその心に留めるのだ。
 ──信じることだ、茉衣子くん。限界を設定しているのは自分自身の心だ。EMP能力
を持つ者に力の強弱は本来ない。相手が超回復を持つのならば、キミはそれを上回る圧倒
的な力をぶつければいい。そう、思い込みさえすればいいのだよ」
 光明寺が両手を伸ばす。右手の中指と人差し指を伸ばし、銃のような形をとる。左手は
右手首をしっかり握り支えて揺れを止める。
 光明寺が見据えるその指先に今までとは段違いに輝く、こぶし大の蛍火が灯り始めた。


「信じたまえ、茉衣子くん。キミは無敵だ」
「────当然です」


 それを合図に心のトリガーが引かれ、蛍火はまっすぐ《神人》目掛けて飛んでいった。
 触手をすり抜け《神人》に蛍火があたる。着弾地点を中心にして黒い身体に光のヒビが
無数に走り、乾いた音と共に砕け散った。黒い外側が弾け飛び、中から青白い《神人》が
姿を現す。青白い《神人》が自由になった身体を伸ばし声なき声を叫ぶと、《神人》から
強烈な波動が打ち出される。俺はとっさに長門を庇おうと抱き寄せ《神人》に背を向けた。

 いつの間に目をつぶっていたのか。
「大丈夫」
 長門の声に意思を取り戻し目を開くと、そこは先ほどと同じ景色で、しかし灰色が支配
する空間だった。どこからともなく飛び出してきた紅玉の光が《神人》に突撃していく。

『光明寺さま、観音崎さま、そして宮野さま。我々はお三方に心の底から感謝いたします。
もちろん、SOS団のあなた方にも。……さあ、下がっていてください。後は、閉鎖空間
で《神人》を倒すのは、我々の役目です』
「うむ、そうしよう。この空間もキミたちも、もちろんあの巨人も実に興味深い。さあ茉
衣子くん。我々の出番は終わりだ。後は特等席でじっくりと見物させてもらうとしようで
はないか」

329北高を出よう! SOSvsEMP「集結」:2006/12/12(火) 04:45:14 ID:d6yHO2mU
- * -
 二つのリボンと長門の障壁展開で安全地帯を生成し、俺たちは腰を下ろす。もしこれを
破れる力が襲い掛かってきたとしたら、その時すでに世界は終わっている事だろうよ。

「班長さん、キミはどうやってこの地へ来たんだい?」
 一息ついてまず切り出したのは観音崎だった。確かに今回最大の謎だ。ご都合主義にも
ほどがある。だが宮野はその場におもむろに立ち上がり腕を組むと、質問に対し
「つまりキミたちは私が宮野秀策だと信じて疑わないのだね」
 と妙な質問で返してきた。

「信じても何も、班長は班長ではないですか。それとも班長は何か別の生命体だとでも?
ああそれとも、実は班長は何か別の生命体で、ついにわたくしたちにその事実を暴露しよ
うと、そういう事なのですね」
「ふむ、さすがは我が最愛なる弟子だ。迷う事無く核心を突くとは、いやはや師として嬉
しい限りで今にも踊りだしそうだ!」
 光明寺の表に出まくりな皮肉に、宮野はまるでご褒美を貰った子供のようににこやかに
微笑むと光明寺の手を掴み、引っ張り上げ、両手を取ってぐるぐると回りだした。
「な、何をなさるのですか! 紙一重の先を行きすぎですわ! その手を離しなさい!」
「……で、どういう事なんだい班長さん」
 いつもの事だからと特に驚いた様子も見せず話を進める観音崎に、宮野は素直に手を離
し踊りをとめるとあっさり解答を告げた。

「判らないかね。私はキミたちと同じ存在なのだよ、茉衣子くん。
 私もキミたちと同じく人の意思──私の場合この少女だったがまあその辺りはどうでも
いい。詰まるところ、誰かの意思によって生み出された存在だと言う事だ。キミたちは確
か<シム>と呼んでいたか? この私もそれだ。だから正確には宮野秀策がこの世界にやっ
て来たわけではない。私のコピーが、つい先ほどこの世界に誕生したのだ」

 なんだかとんでもない事をさらりと言わなかったか、こいつ。話についていけていない
部分が多いが、ひとつ質問させてくれ。
 つまりお前、いやお前たち三人は、実は人間じゃないってことなのか?
「その通り。そして元をただせば私たちとあの巨人に群がっていたモノは同じ存在である。
私たちはより明確な意思によって生み出された故にこうして人としての身体をとり、人と
しての知性を持ち、人としての意思を宿している。
 オリジナルとの相違がどれだけあるのかという点はともかく、私たちは限りなく人間に
近い存在なのだ。彼女と共に居るキミならば、この意味が判るだろう?」
 宮野はそういい長門に視線を送った。確かに彼らが人間かどうかなど既に些細な事なの
かもしれない。今更人間っぽい人間外生命体が現れたところで、驚く感情は品切れ状態だ。

330北高を出よう! SOSvsEMP「集結」:2006/12/12(火) 04:45:59 ID:d6yHO2mU
「世界は今、涼宮ハルヒの力によって<シム>が生み出せる状態になっている」
 長門が静かに語りだす。
「涼宮ハルヒの力によって想念体が生み出され、その想念体が涼宮ハルヒに取り憑いた事
で世界はこの状態になった。
 だがこれは一過性のもの。涼宮ハルヒから想念体が分離した為、あと一時間程度でこの
特殊な状況は収束する」
 つまり《神人》に取り憑いてたような想念体がこれ以降もわらわら出現する、って事は
無いんだな。それを聞いてとりあえずは安心したよ。しかし、だ。

「ちょっと待ってください。班長がわたくしたちと同じ<シム>だというのはわかりまし
た。わたくしの力を当てればそれが真実かどうかはっきり致しますが、そこはぐっと堪え
て我慢しておきましょう。ですがその場合、新たな疑問が生まれます。
 わたくしがこうして見る限り、班長はどう見ても本物の班長と寸分違わぬ存在に思えま
すわ。そう、まさにあの時のわたくしと同じように。百歩譲って、長門さんが若菜さんと
同じく他人に色眼鏡を付加せず観察する事ができる人だと致しましょう」
 その点は一歩も譲らなくていい。長門は殆どの物事に対し、それをありのままに捉える
事が可能なやつだ。

「そうですか。ならば尚更大きな疑問が残ります」
 ああそうだな。問題は長門がいつ、何処でこの宮野の事を知ったかと言う事だ。
 長門、お前いつの間にこんな訳わからんやつと知り合いになっていたんだ?

「……」
 長門は物言わず、すっと一冊の本を差し出してくる。それはさっき観音崎が召喚した文
庫本だ。赤い背景に吸血鬼の扮装をした女の子が描かれたその表紙には、やはりどこかで
見た記憶が残っている。
 俺が頼りない自分の記憶を探していると、横から伸ばされた手に文庫本を取り上げられ
てしまった。もちろん宮野である。
「ふむ、これが我らか……なるほど『学校を出よう!』とはまさに的を得た表題だな」
 なにやら呟きパラパラとめくって中を確認する。ざっと見終えた後、本をこちらに投げ
て返すと宮野は長門に問いただした。
「キミが私と繋がっていた存在なのかね?」
「違う。あなたと繋がっていたのはその本の持ち主」
 そう言って一度長門がこちらを見ると、再度宮野に視線を戻して言葉を続けた。


「あなたと繋がっていたのは、涼宮ハルヒ」


 その言葉に、俺は今日の放課後だるそうにしていたハルヒの事を思い出していた。
 ハルヒが枕にしていたこの文庫本の存在と共に。

331北高を出よう! SOSvsEMP「集結」:2006/12/12(火) 04:46:52 ID:d6yHO2mU
- * -
 観音崎が俺の手にする文庫を見つめて頷く。
「……そうか、そういう事か。班長さんの言う上位下位の世界とは、つまりこういう表現
になるのか。そして長門さんはその本の既読者だったが故に班長さんの事を知っていた。
そうだね?」
「その通り。わかったかね茉衣子くん」
「全然わかりませんわ」
「ふむよろしい。ヒントは与えていたつもりだったが、これまたキミが消された後に話し
たのかも知れんので教えよう。
 私たちのいた世界には、私たちの世界に似た平行世界がある。同じ理屈で上位下位の世
界も存在するのだ。例えばその小説。この世界の住人からすればその小説の世界は下位に
あたる。この世界の人間がやろうと思えばいくらでも自分たちの気に入るようにその小説
の文章を、つまり世界を書き変える事が可能なのだからな」

「……ちょっと待ってください、班長。もしかして……あの本は、まさか……」
 光明寺がそれに気づいたのか、俺の持つ本をまるで忌むべき対象物であるかのような何
ともいえない表情で見つめてきた。
「その通りだ。表紙に描かれている二人のイラストを見れば一目瞭然であろう?」
 そう言われて俺は改めて表紙を見直した。観音崎は興味心身に、光明寺は覚悟を決めて
俺が二人にも見えるように差し出した文庫本を覗き込む。


 文庫本の表紙には、吸血鬼の扮装をした少女に抱かれる『黒衣の美少女』の姿が描かれ
ていた。
 ……後で光明寺にサインでも貰っておくか。これはハルヒの本だがな。

332北高を出よう! SOSvsEMP「集結」:2006/12/12(火) 04:47:45 ID:d6yHO2mU
- * -
 その後も宮野の禅問答のような講座が続く。何を言っているのかちんぷんかんぷんだと
なかば聞き流していた所で、俺の携帯にメールが届いた。

『またね。by SOS』

 なんだこりゃ。変な広告か間違いメールか? 俺が謎のメールに頭をひねっていると
「連絡」
 長門が俺に顔を向けながら告げてきた。どうやら長門の方に朝比奈さんたちからの連絡
が入ったようだ。

「トラブルは回避した。涼宮ハルヒはもう大丈夫……以上」
 そんな長門の報告とほぼ同時に、目の前で繰り広げられていた《神人》との戦いも決着
がついていた。崩れていく《神人》を、紅玉の光が大きく取り囲む位置で待機する。

『みなさん、お疲れさまです。《神人》は無事に討つ事ができました』
 耳につけたイヤホンから森さんの終戦宣言が伝えられる。これで一件落着のようだ。
「うむ。中々に興味深い戦闘だった。《神人》とやらについてキミ達『機関』とやらの見
解をぜひとも伺いたい所だが後にしよう。さてそこの少女よ、先ほどサラリと言ったトラ
ブルとは一体なんだね」
 宮野が長門を指差し聞いてくる。白衣を着ているのもあってまるで教師のようだ。
 指された生徒長門は返事をする事も立ち上がることも無く、少しだけ顔を動かして海洋
深層水を汲み出す深さの海の色のような瞳を宮野に向けた。
「涼宮ハルヒの精神に想念体が寄生していた」

 ……何だって?

「涼宮ハルヒの体調不良とあの存在の顕在化は、涼宮ハルヒの精神に想念体が寄生してい
たのが原因。こちらで想念体をあの存在から分離させた為、涼宮ハルヒ自身からも想念体
が分離した。想念体は涼宮ハルヒの思考から一つの個体となって攻撃。その場で護衛して
いたメンバーでそれを撃退。涼宮ハルヒは現在小康状態で眠りについている」
 俺の与り知らぬ所でそんな事が行われていたとは驚きだ。

「これが、この世界の既定事項。そして」

 《神人》が倒れ、閉鎖空間が終焉を迎える。空にヒビが入り、鈍色の空間は砕け散った。
 砕けた世界の破片の向こうに、現実世界で俺たちを迎え入れる一人の女性の姿が見える。
 その麗しい姿をしたスーツ姿の女性は、長門の言葉に続けて告げてきた。


「──そして、その既定事項を実行するのはあなたです。キョンくん」
 集結した事態は、再起する。

333北高を出よう! SOSvsEMP「幕間」:2006/12/12(火) 04:49:10 ID:d6yHO2mU
- * -
・幕間

 少しだけ先の話になる。
 朝比奈さん(大)によって行われた時間移動の際、俺は何かを見た、ような気がした。


 男子生徒は教室に似た一室でメガネを外し、窓の外を眺めながらタバコをふかしていた。
 その部屋に一人の女子生徒が入ってくる。男子生徒は特に驚くでも取り繕うでもなく、
そのままゆっくりと煙をのむ。
「……珍しいですね。会長がそんなきついタバコを吸われるなんて」
「たまにはな。騒がしい連中がいない時に限って、これを吸う事にしている」
 会長はタバコの箱を放り投げる。女子生徒は受け取るとラベルを見つめ
「涼宮ハルヒもSOS団も帰宅した、今の学校の状態ですか」
 会長へ向けて優しく微笑みながら、女子生徒は自分のポケットへとそのタバコをしまった。
 そんな視線にも会長は少しも微笑まず、振り向きすらせずにただ遠くを見つめてタバコを
黙ってのんでいた。

「さて、と。今日はもう閉めるか」
「後片付けしておきます。会長」
 そうかと告げて会長が女子生徒へと近づく。女子生徒は会長が咥えていたタバコを取ると、
その開いた唇へ自分の唇をそっと交わらせた。
 そのまま手に持ったタバコに気をつけながら軽く抱きつく。
 ほんの数秒そうしてから会長から離れると、女子生徒は春の日だまりのような柔らかい暖
かさを感じさせる微笑みを浮かべてきた。
「匂い、落としておきました」
「悪いな、喜緑。じゃ、後は頼む」
「はい」
 会長が部屋を後にする。残された喜緑は開いた窓に火の点いたタバコを掲げた。
「……それとも、先ほどまで戦われていた友人への餞ですか」
 喜緑は会長が吸っていたタバコをピンと器用に弾き、窓の外へと放り出した。

 だが、弾かれたタバコは放物線を描くことなく──


- * -
 危ないところだった。もう少し遅ければ、完全に消滅していた。
 その存在は静かに空間を漂う。
 だが生き残った。今は無理でもいずれ自分は力を取り戻す。その時には……。
<それは無理な話よ>
 突然の精神干渉にその存在が静止する。対抗策を考えるも、全てが手遅れだった。
<はい、これでアンタはおしまい。終劇。ジ・エンドよ。恥さらしなお兄ちゃん>
 バカな、何故お前がここにいる。
<そりゃ茉衣子ちゃんが頼るもう一人の存在ですもの。それじゃ消えちゃいなさいな>
 精神干渉する声が別れの声を告げると同時に、制止させられたその存在に対して急速に
接近する物体があった。
 飛来する物体──喜緑の放ったタバコがその存在を貫く。タバコに残っていた火種がそ
の存在に触れた途端その存在は一瞬にして焼失し、今度こそ完全に消滅した。

334北高を出よう! SOSvsEMP「幕間」:2006/12/12(火) 04:50:12 ID:d6yHO2mU
<完全に消えたわ。ありがと>
 窓からポイ捨てした途端にありえない物理法則が働き、あたかもロケット花火のごとき
速度で空の彼方へと飛んでいった、『平和』の名を冠する吸殻タバコの行方を見つめてい
た喜緑に対してどこからか声が掛けられる。
「お礼は必要ありません、《黙示録[アポカリプス]》。わたしの今回の役目は後片付け。
あなたのご助力があって、逃げた想念体を迅速に捉える事ができました。おかげで思いの
ほか早く後片付けが済みましたわ」
 喜緑が姿無き声に応える。
<そう? でもまぁお礼ぐらいは言わせてよ。アイツを倒すのはわたしの使命っていうか
宿命みたいなもんだった訳だし>
「でしたらわたしもあなたにお礼を申し上げます」
 窓の外に向かって、喜緑は静かに頭を下げた。

<……さて、それじゃわたしも消滅しようかな>
「あら、彼らみたいに留まらないのですか?」
<まぁね。アンタみたいに思考が全く読めない相手がいるっていうのは、凄い魅力的よ。
こっちの世界のユキちゃんや坊やもちょっかい出したら面白そうだし。
 でも私にとってユキちゃんはやっぱアイツなのよ。そのユキちゃんがいない世界じゃ、
面白さも魅力も半減以下に感じちゃうわ。
 ま、そんな訳でわたしは消える事にするわ。それじゃ〜ね、宇宙人さん>

 それを最後に軽げな声も、その気配も完全に消える。
 喜緑は換気を終えた窓を閉めると荷物を持ち、夕焼けに染まる部屋を静かに後にした。



 ──俺が見たのは、こんな風景だった。

335北高を出よう! SOSvsEMP「再起」:2006/12/12(火) 04:51:17 ID:d6yHO2mU
- * -
・再起

「それじゃ、過去に向かいます。酔わないように目を閉じてください」
 帰りのバンの中で俺はこれからの事について説明を受けた。後はそれを実行するだけだ。

「あ、忘れてました。時間移動の際は、携帯電話の電源をお切りください」
 朝比奈さんの不意打ちに思わず笑ってしまったが、どうやら冗談ではないようだ。
「この時代の携帯には時間の概念が組み込まれていませんから、同じ携帯電話が二つある
と通信障害が起こっちゃうんです。ですから」
 なるほど。過去の俺が取るはずの電話を、こっちの携帯で取ってしまう可能性がある訳
か。俺は言われたとおり携帯の電源を落とすとポケットへとしまった。

 ついでにもう一度持ち物を確認する。俺がみんなに渡されたのは全部で三つだ。
 まず観音崎が呼び寄せた文庫本。これはハルヒのだ。本と友達を大切にする長門いわく
「持ち主に返すべき」
との事で、勝手に持ち出した文庫本を持ち出す前の時間に返却することになった。
 次に光明寺たちから借り受けたリボン。これがあれば無敵の障壁が展開できる。ピンク
に比べ青い方は障壁の力がやや落ちるが、代わりに念動力の力が付与されているらしい。
 最後に長門が精製し宮野や光明寺が力を込めた、対想念体用の軍事用ナイフ。かつて俺
が二度ほど襲われ、しかも一度は腹に刺された記憶まで蘇ってくるあの忌まわしきデザイ
ンだが、その記憶はとりあえず封印しておく事にする。
 まるで戦争だな。俺はいつからダイハードな人生を送るはめになったんだろうか。

 目を閉じ朝比奈さん(大)の匂いを感じながら、地面が消失した感覚を覚える。
 何度体験してもこれだけは馴れない。身体全体がシェイクされるような感覚が続き、何
やら見たことあるような連中を遠くから眺めるような気分に陥り、そろそろ俺の三半規管
がギブアップを告げようとした所で重力が正常にのしかかってきた。

「お疲れさま、キョンくん。着きましたよ」
 朝比奈さんの声に目を開けると、黄昏時だった世界は太陽光降り注ぐ昼となっていた。
 同時に見覚えのある家が視界に飛び込んでくる。もう何年も慣れ親しんだ我が家だ。
「……何で俺の家なんですか」
「下校する涼宮さんと落ち合わない為です。それともう一つ」
 朝比奈さんが玄関を指し示すと、俺の家を見上げている少女がそこに立っていた。
 何を見ているのかと視線を追えば、俺の部屋の窓際ではシャミセンが少女の事を見つめ
返していた。
 シャミセンが俺に気づき顔を向ける。それに合わせて少女もこちらを振り向くと
「始めまして。あなたがキョンさんですね」
 見た事の無い制服を着た少女は優しく微笑んできた。

「あんた……えっと、志賀侑里さんか? <シム>の」
「はい。今し方キョンさんのお話を伺っておりました」
 志賀が微笑んだままそっと手を差し握手を求めてくる。俺はそんな雰囲気に微妙に照れ
ながらその手を握り返した。
 ところで俺の話を聞いてたって、誰にだ? 妹も親もまだ帰ってきてないと思うが。
 尋ねると志賀は「彼からです」と再度俺の部屋の方を向く。それに応えるように俺の部
屋からシャミセンの短い鳴き声が聞こえた。
「シャミセンさんからお話は伺いました。それにしても、本当に彼の言うとおりですの。
 キョンさんが何故わたしの名前や、わたしの正体が<シム>である事まで知っていらっ
しゃるのか、わたしはとても不思議に感じてなりません。
 でも確かに、そんな不思議なキョンさんならわたしの事を何とかしていただけそうな気
が致します」
 日向ぼっこが似合いそうな微笑を浮かべ続けながら志賀が語ってくる。
336北高を出よう! SOSvsEMP「再起」:2006/12/12(火) 04:52:15 ID:d6yHO2mU
 ってシャミセンの言った通りだと? まさか……シャミセンの奴が喋ったのか?
 俺は慌てて部屋のシャミセンを見る。シャミセンはというと既に我関せずといった様子
で日向ぼっこに明け暮れていた。
「その考えは違いますの。シャミセンさんが実際に言葉を喋った訳ではなくて、わたしが
シャミセンさんの言葉を理解できただけです。ですからシャミセンさんは何も言葉を発し
ておりませんわ」
 猫の言葉を理解した……それは初耳ですが、それもまたEMP能力ってやつですか。
「はい。……これはわたしの本来の能力ではありませんけれど」
 志賀が少しだけ寂しそうにして微笑む。彼女自身の力でない、という事は彼女もまたこ
のリボンのように誰かからその力をわけてもらったのだろう。

「そろそろ時間です、キョンくん。涼宮さんの家に移動しましょう。あ、志賀さんもご一
緒にお願いします」
「はい」
 朝比奈さん(大)は俺と志賀を伴い、近くの大通りでタクシーを捕まえる。いわくつき
の黒塗りじゃない、ごく普通のタクシーだ。三人で乗り込み、朝比奈さん(大)の指示で
俺たちはハルヒの家へと向かいだした。

「キョンくん、そろそろ皆さんに頼まれた電話を」
 ああ、そうでした。ですがどうやって掛けましょうか。俺の携帯は電源を切っちゃって
いる状態なんですが。
「キョンくんの携帯で大丈夫です。そろそろ向こうのキョンくんが携帯の電源を切ってし
まうはずですから。そういえばどうして電源を切ったんですか?」
 ああそうか。たしかあの時ハルヒの事をからかった後、電話が掛かってこないようにと
携帯の電源を落としたんだった。
「番号を教えてくだされば、その携帯が接続されているか調べてみますけれど」
 志賀が隣から告げてくる。彼女が本来持っている能力はサイバーテレパス。コンピュー
タのネットワークにインターフェースなしでダイレクトアクセスできる感応力だそうだ。
その力を応用すれば携帯が繋がるかどうか調べることができるのだろう。

 俺が番号を告げると、志賀がゆっくりと目を閉じる。
「……大丈夫のようですの。その番号を持つ端末には現在接続できません」
 ありがとう。俺は素直に礼を言うと携帯の電源をいれ、早速長門へと電話を掛けた。

337北高を出よう! SOSvsEMP「再起」:2006/12/12(火) 04:53:31 ID:d6yHO2mU
- * -
「……長門か、俺だ。未来から来た。わかるか? 一時間ぐらい前に部室でお前を呼んだは
ずだ。頼みがある。お前たちはこれから《神人》へ攻撃するはずだが、その場にはそこに
いる今の俺を必ず連れて行ってくれ。そうしないと今の俺がここに立てない。そうなると
ハルヒがやばいらしいんだ。だから頼む。
 それともう一つ、機械仕掛けの神への鍵は本と光明寺だ。わかったか。
 ……そうか、それじゃ観音崎に電話を代わってくれ」


「……観音崎か。
 ……俺はそこでお前の目の前にいるヤツだ。但し未来から来ている。証拠はないが、お
前が光明寺に贈った一輪の花が証明してくれる、と未来のお前が言っていた。俺には意味
わからんがこれで信じてくれるか?
 ……わかってもらえて助かる。それでお前に伝えたい事があるんだ。
 いいか、観音崎。お前にはEMP能力がある。お前が手品でごまかしている《物質をそ
の手元へと召喚する能力》アポーツ。今のお前にはその力がある。

 ……お前の能力は失われてない。お前の力は限定能力に変質したんだ。だから普段は何
も手繰れなくなっただけなんだ。それが誰かによって望まれた必然だからだと未来のお前
は言っていた。俺は知らんし意味もわからん。文句なら未来のお前に言え。

 ……ああ。それでお前の力なんだが、さっきも言ったが俺にはよくわからんので言われ
たままを言うぞ。お前の能力は変質した。無作為な物を手繰り寄せるんじゃなく、自動的
になった。だから普段は何も起こらないんだ。お前が何かを手繰れたとしたら、それは全
て必然的な行為であり、どんな物体であれそれは必ず何らかの意味がある。わかったか。

 ……それともう一点。お前たちはこれから巨人を倒しに行くはずだが、それが終わった
らお前たち二人のリボンをそっちの俺に渡して欲しい。それがこっちの俺に必要なんだ。
 頼む。
 ……それじゃ、薄笑いを浮かべてるキザ野郎に電話を代わってくれ」


「……古泉か、俺だ。未来から来た。時間が無い、長門が信じてるんだからお前も俺を信
じろ。信じないなら雪山の山荘、オイラー問題の前で俺に誓ったお前の言葉を一字一句そ
のまま告げてやってもかまわないぞ。
 ……宝探しをした鶴屋さんの山を覚えてるか。そこにこれから《神人》が現れる。だが
その《神人》はいつものヤツじゃない。いいか、そいつは閉鎖空間じゃなく、こっちの世
界に、俺たちの世界に直接現れる。
 ……ああ、さっきそこで話し合われた想念体、そいつらが《神人》に取り付いたんだ。
ハルヒの体調不良もそれが原因だ。

 ……今すぐそこにいる全員で討伐に向かってくれ。そこにいる俺も、客人二人も連れて
だ。『機関』にも連絡するんだ。
 ただし、お前はこっちに向かってくれ。どうもこっちでもトラブルが起こるようで、そ
の解決にはお前の力が必要らしい。
 ……ハルヒの方へはこっちの俺も向かう。そっちは長門たちに任せろ。どうにかなるの
はわかってるんだ。それじゃ、急いで来いよ……っと、もう一つ言うのを忘れるところだ
った。そっちにいる俺に携帯の電源を入れろと伝えておいてくれ。それじゃ」

338北高を出よう! SOSvsEMP「再起」:2006/12/12(火) 04:54:17 ID:d6yHO2mU
 電話を切るとすぐに電源を落とし、朝比奈さんからの電話がこっちの俺に掛かって来な
いようにする。これで俺が知る限りの伏線は張り終えたはずだ。後はこの俺がやるべきこ
とをやるだけだ。
 タクシーが一軒の家の前に止まる。俺は志賀と共に初めて見るハルヒの家を眺めていた。
 朝比奈さん(大)が躊躇う事無く玄関の扉を開ける。

「わたしが案内できるのはここまでです。……キョンくん、涼宮さんの事頼みますね」

 俺にとっては二度目のトラブル。朝比奈さん(大)の願いを承諾すると、俺は志賀と共
にハルヒの部屋へと向かっていった。

339北高を出よう! SOSvsEMP「承諾」:2006/12/12(火) 04:54:59 ID:d6yHO2mU
- * -
・承諾

 ハルヒの部屋だと教えられた扉の前で一度深呼吸をする。まさかアイツの部屋にこんな
形で入ることになるとは思いもしなかった。
 気持ちを落ち着かせ、扉を開けようとドアノブに手をかける。と、同時に部屋の中から
朝比奈さん(小)の切実な声が聞こえてきた。

「キョ、キョン君! た、大変なんです! 涼宮さんが、涼宮さんが突然倒れて!」
 何だって? 朝比奈さんの言葉に俺は勢いよく扉を開けて飛び込んだ。
「朝比奈さん、ハルヒが倒れたってどういう事です!?」
「凄い熱で、わ、わたし一体どうしたら……うひゃあっ!!」
 ナース姿の朝比奈さんは携帯を掛けたままこちらを見て驚く。
「……え、キョ、キョン君!? ええっ!? こ、これって一体……!?」
 朝比奈さんが携帯を切り俺に話しかけてきた。

 確かに電話をしていた相手が目の前に現れたら、通話を切って直接相手と話すのが普通
の反応だろう。なるほど、あの時の大騒ぎの相手は俺だったのか。
 時間移動したんだなぁと妙な所で納得しながら、俺は朝比奈さんにハルヒの事を尋ねた。
「あっと、驚かせてすいません。それで朝比奈さん、ハルヒの様子は」
「あ、え、そうです! 涼宮さんが倒れて! さっきまでは普通にベッドで起きていたのに、
突然苦しみだして……どうしましょう、キョンくん……」
 おそらくその倒れた時に《神人》が発生したのだろう。俺はハルヒに近づくと額に手を
あててみた。
「……熱があるな。朝比奈さん、氷嚢か氷枕、無ければ濡れタオルをお願いできますか」
「は、はいっ!」
 朝比奈さんが台所へと飛び出していく。俺はハルヒを見つめたまま後ろに立つ志賀に聞
いてみた。
「やっぱり想念体が原因か?」
「言い切ることはできませんけど、おそらくはそうだと思いますの。このお方の潜在能力
がもの凄くて、寄生している想念体の事が感じ取りにくいですけれど」
 やはりそうか。そうなると、あっちの連中が《神人》に取り憑く想念体を倒すまでこの
状態は続くという事になる。わかっている結果と言えど早いところ頼むぜ、光明寺。

 とんとんという階段を上る音が二つ聞こえてくる。何で足音が二つなんだと扉を見ると
朝比奈さんが古泉を引き連れて戻ってきた。
「すいません、お待たせいたしました」
 全然待ってない。むしろ早すぎだ。お前はどこでもドアでも持っているのか。
「あのぅ……涼宮さんは《神人》さんのせいで病気になっているんですよね? それなのに
古泉くんがこちらに来てしまっていいんですか? 《神人》さんは?」
「さあ、僕には何とも言えません。僕は彼にこちらへ来いと呼ばれただけなもので。です
が、未来から来た彼が言うのでしたら、僕は掛け値無しで彼の事を信頼します」
「未来から……えええっ!? キ、キョンくんは未来から来たんですか!? どうしてですか、
どうやってですか!?」
 それは後でちゃんとお話します。それよりも朝比奈さん、今はそのタオルでハルヒの事
を少しでも楽にしてやってくれませんか。

340北高を出よう! SOSvsEMP「承諾」:2006/12/12(火) 04:56:01 ID:d6yHO2mU
- * -
 朝比奈さんが洗面器に入った氷水でタオルを絞り、ハルヒの額に乗せる。俺はその様子
を眺めながら、みんなに今回の全容を伝えた。
「……では、その想念体が涼宮さんの体内にいる限り、涼宮さんはこの状態から回復しな
い、そういう訳ですね」
 ああ、そうだ。だが想念体がハルヒから追い出されるのは既定事項だ。何せさっきまで
向こうのメンバーと一緒に《神人》討伐に参加してたんだから間違いない。
「信じましょう。この時間では未来の事象ですが、お疲れさまと言っておきます」
「でででも、キョンくんはどうやって未来から来たんですか? 前から不思議に思っていま
したけど、キョンくんはどうして未来の事を知っているんですか?」

 すいません朝比奈さん、それは『禁則事項』なんです。ですが朝比奈さんの知る未来か
らの命令で俺は動いてるって事だけは言っておきます。間違ってもあのいけ好かない野郎
の未来じゃありません。
 俺の真剣な訴えに、朝比奈さんは少し残念そうに、でもいつもの様に宝石のような瞳の
輝きと共に微笑んでくれた。
「……わかりました。キョンくんの事、信じます」
 それだけでやる気が倍増しそうなありがたいお言葉と共に。

341北高を出よう! SOSvsEMP「承諾」:2006/12/12(火) 04:56:55 ID:d6yHO2mU
- * -
「ご、ごめんなさいキョン君、わたし、慌てちゃって……。えっと、こっちは大丈夫です。
 あ、その、涼宮さんは全然大丈夫じゃないんですけど。でも応援が来てくれました」
 朝比奈さんが向こうの俺に電話を掛ける。俺がこちらにいる事については、向こうの俺
には秘密にしておくように頼んでおいた。
「はい。それとEMPの人も一人来てくれています。えっと、さいばー何とかって能力者
だそうです」
「サイバーテレパスですの」
 志賀がにっこり微笑んだまま訂正する。朝比奈さん、向こうの俺に長門に変わってもら
うよう伝えてくれますか。
「あ、長門さんにかわって欲しいって言ってます……はい。あ、長門さんですか。こっち
のキョンくんにかわりますね」
 朝比奈さんが俺に携帯を回す。
「長門か、俺だ。お前、インターフェース無しで地球のコンピュータネットーワークにア
クセスできる力があるよな? それを利用して繋がってもらいたい人がいるんだ。今からそ
の人に代わるから、どうすればいいのかはその人と相談して決めてくれ」
 そういって電話を志賀に渡す。志賀は少しだけ戸惑うと
「その長門さんってお方もサイバーテレパス能力者なのですか?」
 厳密に言うと違いますが、ある意味それ以上の力を持ってます。
 長門が本気を出せばコンピュータネットワークの全てを牛耳る事すら可能なはずです。
俺が太鼓判を押すと志賀は頷いて電話を受け取り、長門とネットワーク接続を行う為の方
法を話しあいだした。

 ややあって、志賀がすっと目を細めて右手を天に伸ばす。くるりと手を回すと何かを掴
み取るかのように手を閉じ、そのまま自分の胸元へ握った手を引き寄せた。
「長門さんと接続しました。なるほど、キョンさんの仰るとおりですの。長門さんの力は
わたしのサイバーテレパス能力を遥かに凌駕しています。長門さんが自分にフィルターを
かけてくれていなければ、わたしは今頃情報過多を起こしていた事でしょう」
 驚きを表しながらも志賀は微笑む。どうにも掴みがたい性格だが、とりあえず長門と接
続できたのならよしとしておこう。

 志賀が電話を朝比奈さんに戻す。
「キョン君。こっちはわたしたちが何とかします。ですからキョン君は神人さんの方をお
願いします」
 そこまで言うと朝比奈さんが真剣な表情で俺を見つめてくる。そして。

「……本当にお願いします、キョン君。涼宮さんを、助けてあげてください」

 向こうの俺に伝えられたメッセージ。それは俺に対しても向けられていたものだった。
 わかっています、朝比奈さん。俺は黙って朝比奈さんに頷き返した。

342北高を出よう! SOSvsEMP「承諾」:2006/12/12(火) 04:57:40 ID:d6yHO2mU
- * -
「涼宮さんに取り憑く敵の正体。そして想念体の変化。僕がこちらに呼ばれた理由……。
 あなたが知る未来は先ほど語られたもので全てですか?」
 志賀の件が一段落したのを確認してから、古泉がいぶかしみながら聞いてくる。
 あぁ、残念だがこれで全てだ。想念体とどう対峙してどう倒せばいいのか。一番重要な
未来は何故か俺には教えてもらえなかったからな。

「さっき言われていた想念体の変化とその能力、それが理由でしょう。想念体の精神攻撃
を受けた時に、情報が想念体に漏れる事を防ぐ為だと思います。ここは敵となる想念体の
能力がわかっただけでも良しとしておきましょう」
 古泉はそう言いながらハルヒの部屋の本棚から一冊の本を取り出し、ぱらぱらとページ
をめくり出した。読むというよりは何かを探しているようだ。

 ……そうか、なるほど。確かに想念体や敵の事をもっと知りたければそれが一番早いな。
「ええ。この『学校を出よう!』でしたか、この本の中の存在がこの世界に出現している
のでしたら、この本こそ彼らについて全ての答えが載っている賢者の石となるわけです」
 古泉はハルヒの部屋にあった六冊の文庫本を取り出す。
 と、その内の一冊の表紙を見て俺は持ってきたモノの存在を思い出した。
 観音崎が呼び寄せ長門から返しておいてほしいと預かった『学校を出よう!』の六巻。
俺は預かってきた本をポケットから取り出すと、他の六冊と一緒に置いた。
 ついでに一緒に持ってきたリボンとナイフも取り出して机の上に置く。

「ひゃっ! キョンくん、そ、その危なっかしいナイフは何ですか?」
 朝比奈さんが抜き身のごついナイフに驚きの表情を浮かべた。あぁ、これは長門が作り
出してくれた、対想念体の力を宿したナイフですよ。
「敵をこのナイフで倒せと言うことなのでしょうか。……それでこのリボンは?」
 古泉に示唆され、俺は二本のリボンについても説明する。完全防御のピンクのリボンと
防御力はやや劣るが念動力付の水色のリボンだ。
「なるほど。このリボンの防御障壁なら、想念体の精神攻撃も防げるというわけですね」
 光明寺や宮野の言う事が本当ならな。防御壁が変化した想念体の力を退けられるのは既
に立証済みらしい。
「わかりました。まずはこのリボンとナイフを誰が持つか、それが最初の作戦ですね」

 話し合いと実験の結果、ピンクのリボンは古泉が、水色のリボンは朝比奈さんがつける
ことになった。そしてナイフは俺が預かる。
 想念体へのアタッカーとして呼ばれた古泉は、おそらく戦闘時は単独行動になるだろう。
そうなると古泉一人に対してリボンが必要なのは確実だ。残ったメンバーは戦力に不安が
ある以上、ひと塊となって防御に専念する。ナイフは防衛手段だ。
 朝比奈さんがリボン役に選ばれたのには二つの理由がある。朝比奈さんが持つ空間把握
能力がずば抜けており、更に念動力と相性が良かったからだ。
 時間と空間を指定して時間移動するTPDD、それを操るのに空間把握は絶対必須の能力な
のだという。朝比奈さんは謙遜していたが、彼女の空間把握能力は正直言って普段のメイ
ド姿なドジっ娘からは想像できないぐらい高かった。
 そして思った場所へ物体を移動させる念動力についても、朝比奈さんは誰よりも上手に、
そして確実に操ってくれた。今まで黙っていたのが勿体無いぐらい、人に誇っていい力だ。

343北高を出よう! SOSvsEMP「承諾」:2006/12/12(火) 04:58:21 ID:d6yHO2mU
- * -
「う……うああああっ! あああああああっ!」
 ハルヒが突然苦しみだす。濡れタオルを交換していた朝比奈さんが驚き、ハルヒの肩を
しっかりと捕まえた。
「涼宮さんっ、どうしたんです! しっかりしてください、涼宮さぁんッ!!」
「志賀、長門にハルヒの容態が変わったって連絡してくれ! 向こうで《神人》が動き始め
たはずだ!」
「わかりました。……はい、向こうでも《神人》が活動を開始したみたいです」
「くうっ……うああ……っ!」
 小さな声でうなされ続けるハルヒを見つめる。布団から落ちた手が何かを掴もうと動い
ていた。俺はハルヒの手を握ってやる。妹が病気の時、こうして手を握ってやるとなぜか
安心して眠りにつけるって言っていた。

 もう暫く辛抱してくれ、ハルヒ。向こうでも長門や光明寺たちがお前の為に戦ってくれ
ている。だからお前ももう少しだけ頑張ってくれ。なんなら俺のやる気を注入してやって
もいい。体がぽかぽかして発刊作用が促進される効果か望めるのだったら、お前に取り憑
く想念体だって参るだろうよ。


「あっ」
 ずっと小説を確認していた古泉が小さな声で驚く。どうした。
「いえ、本が一冊消えてしまったものですから」
 観音崎が本を呼び寄せたか。ならばもうすぐのはずだ。俺と志賀は朝比奈さんのそばに
近づく。古泉も本を閉じて机の上に置きリボンをもう一度確かめた。

「……来ます」
 志賀の言葉と共にハルヒの身体が激しくのけぞる。やる気注入にと繋いでいた手がかな
りの力で握り返された。
「うあっ、あ、ああああああぁ─────────────ッ!!」
 ハルヒの叫びと共に、全身から黒いもやのような物体が勢いよく放出される。霧散する
かと思われたそのもやはやがて一つの場所へ集いだし、


 そして、世界は一瞬にして暗転した。

344北高を出よう! SOSvsEMP「暗転」:2006/12/12(火) 04:59:05 ID:d6yHO2mU
- * -
・暗転

 見渡す限り広大な砂漠が広がっている。
 朝比奈さんはとっさにリボンの力でばりやーを展開してくれたらしい。朝比奈さんを中
心にドーム型の障壁が展開されていた。そのまま朝比奈さんはしゃがみこみ、倒れていた
ハルヒを抱きかかえる。ハルヒのそばにいた俺と志賀も一緒のドームの中だ。
 古泉のほうも障壁を展開したらしく、同じようなドームの中にその身を置いていた。

「カマドウマの時を思い出す光景ですね、これは」
 古泉は辺りを一通り見回した後で右手を前に伸ばす。すると古泉の手のひらに紅玉の光
が生まれ始めた。《神人》相手に使う力の縮小版で、これもカマドウマ戦の時に見られた
現象と同じだ。
 古泉がアンダースローで紅玉の弾を投げる。紅玉は障壁をすり抜けて飛び出し剛速球と
いう名に相応しい速度で飛んでいくと、距離をおいて存在していた黒いもや──想念体に
ヒットした。
 爆煙と砂煙があがり想念体の姿を隠す。来るぞ古泉。障壁だけは絶対に消すなよ。
「わかっています。精神を乗っ取られ操られるなんて想像しただけでごめんですからね」

 ハルヒに取り憑いていた想念体は、分離する前にハルヒの記憶を読み取っていった。
 そして奴は、自分の世界において最強と思われる人物の姿とEMP能力を手に入れる。


「──随分と激しい歓迎ですね。これがこの世界での歓迎方法なんですか?」
 声と共に爆煙が一瞬にしてかき消される。そこに黒いもやは無く、代わりに一人の青年
が古泉のような爽やかな微笑を浮かべて空中に立っていた。
 古泉の力を食らって無傷かよ。光明寺たちに言われたとおりでたらめな奴のようだ。

 『学校を出よう!』作中最大最強の難敵。
 火炎能力、精神干渉能力、迷彩移動能力など数々の能力を持ち合わせるEMP能力者。
 宮野を始めとしたメンバーが総力をあげて戦っても全く動じなかった男。


 想念体が自らを変異させ形成した<シム>。
 それは《水星症候群[メルクリウス・シンドローム]》の二つ名を持つEMP能力者、
抜水優弥の姿をとっていた。

345北高を出よう! SOSvsEMP「暗転」:2006/12/12(火) 04:59:58 ID:d6yHO2mU
- * -
「どうやら自己紹介の必要は無いようですね。どうぞ僕の事は優弥と呼んでください」
 ああ必要ないぜ、優弥。だから俺から尋ねるのは一つだけだ。
「何でしょうか」
 お前は想念体からめでたく意思を持つ<シム>になった訳だ。それならもうハルヒの事
を苦しめず、俺たちにも干渉しないでどこか遠いところで適当にのほほんと慎ましげな隠
居生活を送ってくれないだろうか。
 そうしてくれるなら俺たちはお前に何もしない。どうだ。

「……そうですね。EMPという能力も概念も存在しないこの世界では、僕の本来の目的
である『EMP能力について世界へ公開する』なんて全く意味が無い事ですしね」
 優弥は額にこぶしを当てて考える仕草をとる。だがそれも少しの間で
「ですがお断りします。僕は保証が無い事は信用しない事にしていますので」
「その保証を得る為に涼宮さんの力を使おうというのですか」
「ええ。どうせでしたら彼女の力を使い、僕たち<シム>や想念体にとって住みやすい世
界にした方がいいじゃないですか」
 古泉が新たな紅玉弾を生み出す。ハルヒを刺激し力を狙う以上、古泉の『機関』にとっ
ては完全に敵となる存在だろう。そしてそれはこちらのお方にも言える事だ。
「そ、そんなのダメです! 涼宮さんは、そんな風に誰かに利用するとか、されるとかって
言う存在なんかじゃありません!」
 朝比奈さんの言うとおりだ。ハルヒは単なる北高の一生徒で、何故か常に俺の後ろに存
在するクラスメートで、俺たちSOS団のはた迷惑なリーダーとして君臨し続ける存在、
ただそれだけの奴だ。
 だからそれ以上の何かをハルヒに求めるな。そんな事は俺が許さん。何せ誰かがハルヒ
の力を求める度に、高い確率で俺が貧乏くじを引く運命にあるらしいんでな。

「主張は素晴らしいですが、それは結局のところあなたたちの都合の良いように彼女を利
用したいだけなのでしょう? あなたたちが望む世界、望む未来を手に入れるために。あな
たがたのその行為、彼女を狙う他の存在とどう違うというのです?」
「違います。少なくとも僕たちは涼宮さんの事を第一に考えて動いています」
 古泉がきっぱりと言い返すが、優弥はそんな古泉に蔑んだ笑いを見せる。

「彼女を第一に、ですか。それは素晴らしい決意です。ならば彼女がこの世界に絶望し、
心から切実に望み実行した世界改変を、そこの彼を使ってまで食い止めたのはどう説明す
るのですか? あなたたちはあの時、自分たちが望んだこの世界が消えないように、つまり
自分自身の保身の為だけに彼女の改変を望んだ意思を握りつぶした。違いますか」
「な、何でそれを知っているんですかぁっ!?」
 朝比奈さんの驚きはもっともだ。だがおそらく優弥は想念体の時にハルヒの記憶を見て
あの五月の閉鎖空間の事を知り、そこから予想してみただけだろう。

「違わねえよ」
 俺はぶっきらぼうに返す。そうだ、俺たちだってやってる事は他の連中と同じだ。だが
俺はハルヒの力を利用しようとした訳じゃない。ハルヒに知ってもらいたかっただけだ。
 世界を改変なんかしなくったって、楽しいことばかり起こる世界なんか作らなくたって、
この世界は十分に楽しいって事をな。それでもまだハルヒが世界を改変したいって言うん
だったらその時は勝手にしろと言いたいね。
346北高を出よう! SOSvsEMP「暗転」:2006/12/12(火) 05:00:46 ID:d6yHO2mU
「ふふっ……流石ですね。彼女がこの世界の誰よりも高い評価を与えている人物だけはあ
ります。能力が全く無い能力者という部分も含めて、まるで彼のようですよ。
 彼と同じ評価をあなたに対して下すとするなら、あなたという存在こそが、涼宮さんを
手に入れる為の最大の障害となるのでしょう。ですから」
 優弥が両手を合わせる。その手の間に小さな火が生み出された。
「申し訳ありませんが、あなたを排除させてもらいます」
「そうはさせませんっ!」
 古泉が優弥の行動に真っ先に反応し紅玉弾を投げるが、紅玉弾は優弥に届く五メートル
程前で軽い音と共にあっさりと消失してしまった。しかし古泉も負けていない。一発投げ
て様子見なんて事はせず、紅玉弾を次々と生み出しては優弥目掛けて投擲していた。
 まるで少年向けの格闘マンガ状態だ。

「なかなかに面白い能力を持っているようですが、それだけでは僕は倒せませんね。なん
でしたら無駄無駄無駄と叫んであげても構いませんよ。ふふっ……さて、防戦一方なのも
面白くありませんし、こちらも攻撃を始めるとしましょうか」
 紅玉弾を全て打ち消しながら、優弥は両手をそっと開いて小さな火を地面に落とした。
 火が地面に落ちた瞬間、激しい業火となって俺のほうへと襲い掛かる。
「ひ、ひえぇ〜〜〜〜〜っ!! うひゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
 朝比奈さんが叫ぶと同時に防御壁の輝きが増し、炎を完全に受け止めた。
「高崎若菜さん、そして春菜さんの防御障壁ですか。なるほど、それなら僕の精神干渉も
火炎攻撃も無効化できます。まさに天敵のような力ですね」
 優弥は人当たりの良い笑顔を浮かべて褒め称えてくる。その仕草や表情を見ているとま
るで古泉が二人いるようにさえ感じる。実は生き別れの兄弟なんじゃないのかお前ら。
「冗談でしょう? 僕はこんなに腹黒くはありませんよ」
「同感ですね」
 無数の紅玉弾が裕也に襲い掛かり、紅蓮の炎が古泉を飲み込む。しかしどちらも相手に
全くダメージを与えていなかった。

「朝比奈さん。優弥の動きを念動力で捕まえることはできますか」
「や、やってみます。え、えりゃ────っ!」
 ハルヒをひざに抱いたまま、朝比奈さんは両手を伸ばして優弥に力を使う。
「おやおや、おいたはいけませんよ。それと、あまり念動力に集中していると」
 ピシッ。周りの障壁に小さなひびが入る。だめだ、このままじゃ破られる。
「ひゃあっ! キョ、キョンくん、どどどどうしましょう!?」
「念動力はいいです! 朝比奈さん、壁だけに集中してください!」
「わかりましたぁ!」
 朝比奈さんが障壁のみに集中を始める。ひびはあっさりと消え、障壁はその絶対的な力
を取り戻した。

347北高を出よう! SOSvsEMP「暗転」:2006/12/12(火) 05:01:37 ID:d6yHO2mU
 旗色が悪い。こちらは防御こそ優弥以上のスペックを出しているが、古泉の攻撃があそ
こまで無効化されては攻める手立てが全く無い。ナイフを持って突撃しようにも、優弥は
瞬間移動か迷彩化か、とにかくこちらに気づかれず移動することが可能だと聞いている。
 そんな奴をいったいどんな手で倒せというのか。

「通信です。キョンさんに」
 志賀が小さく告げる。どうやらこのピンチに長門が救いの手を差し伸べてくれたようだ。
「いえ、違います……発信者はSOSとなっています」
 SOS? 最近どこかで聞いたような名前だが、それにしてもいったいどういう事だ。
 長門以外で志賀を通じて俺にメッセージをよこしてきた奴がいるっていうのか。俺は頭
を抱えながらも志賀に内用を促した。
「えっと、『幸せかしら』……それだけです」

 幸せかしら……SOS? 何がなんだかさっぱりわからん。いったい何なんだ。
 この絶体絶命の状況を見て幸せだと言える奴がいたらどうか挙手をお願いしたい。
「まぁ、コイツなら言いそうだけどな」
 俺は後ろで朝比奈さんに抱きかかえられっぱなしのハルヒを見つめる。想念体が身体か
ら出て行ったことで多少は苦しさが緩和されたようだ。だが、相変わらずうなされた状態
は続いている。ハルヒの幸せはまだまだ遠いようだ。


 ──ハルヒが、幸せ?

 ふと思い出す。待て、昔どこかでそんなような言葉を聞かなかったか?
 アレはどこで、そして誰から聞いた?

348北高を出よう! SOSvsEMP「暗転」:2006/12/12(火) 05:02:29 ID:d6yHO2mU
- * -
「そろそろ彼女を僕に渡してくれないかな。分の悪い千日手だと言うことは君たちにもわ
かっているはずだよ」
「どうですかね。時間がたてば不利になるのはあなたの方ですよ」
「機械仕掛けの神でも待つつもりかい? 無駄だよ、この空間には誰も入ってこられない。
通信するのがやっとのはずさ」
「通信できるという事は完璧な閉鎖空間ではない証拠です」
 古泉と優弥が相手を挑発しあう。その間も紅玉弾は撃たれ、炎は燃え続けていた。
 機械仕掛けの神。優弥の元となる想念体、その《神人》に取り憑いていた方はまさにそ
のせいで敗北した。
 長門によって呼び出された機械仕掛けの神、新たな<シム>によって。

「その方法で向こうでの危機を回避できたのでしたら、こちらにも機械仕掛けの神、つま
り<シム>を呼び出すと言うのはどうでしょうか」
 志賀が告げてくる。そう簡単に言うが、あれは長門だからできた事だろう。
「そうでもありません。確かに<シム>を生み出すにはEMP能力、ないしそれに准ずる
力が必要と思われます。ですが先ほどから空間的にその条件が満たされているような気が
するのです」
 空間的に条件が満たされている……そういえば長門も言っていた。

『世界は今、涼宮ハルヒの力によって<シム>が生み出せる状態になっている』

 長門と志賀の意見を合わせるならば、作ろうとさえ思えば俺でも<シム>を生み出す事
が可能なのだろう。さらに考えるならば、長門があえてその事実を俺に語ったのは、俺に
対して暗に<シム>を生み出せと伝えたかったのではないだろうか。

 だが<シム>を生み出せるとして、誰を、または何を生み出せばいい。
 優弥の繰り出す炎をかいくぐり、精神攻撃を受け付けず、潜伏行動を見破れる存在?
 そんな人智を超えた規格外的な存在、まさに機械仕掛けの神と呼ぶに相応しい存在など、
俺には思い当たる節が──


 ──長門と、アイツしかいなかった。


「朝比奈さん、お願いがあります。次に古泉が攻撃したら、俺の合図で……」
「ええっ!? そんな、どうしてですかぁ!?」
 それはやってもらえたらわかります。とにかくお願いします。
「は、はぁ、わかりました、やってみます」
 朝比奈さんに期待しつつ俺は眠りっぱなしのハルヒを見つめた。ハルヒが未だに苦しん
でいるのは、きっと優弥が何かしているからなのだろう。
 だったら何が何でも優弥を倒すしかない。

 ハルヒの手を握り、俺は小さく耳に告げる。
「<シム>を生み出す方法だなんてどうすればいいのか、正直言って俺には全くわからん。
 ……だからお前の力を借してくれ、ハルヒ」

 ハルヒを志賀に託し、俺は立ち上がると持っていたナイフを構える。成功する自信なん
て全く無いがやるしかないだろう。
 このままじゃジリ貧なのはわかっている、ならばここからは現場の判断って奴だ。
 そうだったよな『SOS』、いや『505』の住人さんよ。


 事態は終結する。

349北高を出よう! SOSvsEMP「終結」:2006/12/12(火) 05:03:28 ID:d6yHO2mU
- * -
・終結

「古泉、数で押せ!」
「仰せのままにっ!」
 俺の言葉に古泉が素直に応え、作れるだけの紅玉弾を生み出して一斉攻撃した。
「何をするつもりかは知りませんが、付き合ってあげましょう」
 優弥が爽快な笑いを見せながら紅玉弾を迎え撃つ。そしてもうすぐ届くかといった所で
俺は朝比奈さんに合図を出した。
「今です!」
「は、はいっ! ええぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜いっ!!」
 朝比奈さんの叫びと共に何か強烈な力が発生する。直後、優弥目掛けて飛んでいた紅玉
弾が全て地面目掛けて急降下した。
「念動力? しかし何故地面に」
 優弥の言葉を聞き終える前に紅玉弾が全て地面に着弾する。激しい爆音と共に地面の砂
は巻き上がり、優弥の姿を砂煙の中へと完全に沈めた。

「これでどうだぁ────────っ!!」
 更に優弥がいた辺り目掛けて俺はナイフを投げつける。自慢じゃないがこれでも上ヶ原
パイレーツ相手に三振をとった実績持ちだ。まああの時はインチキだったし、今回もイン
チキ投法な訳だが。
「朝比奈さん!」
「ははははいっ! とわぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
 軽い放物線を描いていたナイフが凄い速さで砂煙目掛けて突撃していく。さらに古泉が
追い討ちをかけるように砂塵の中へ紅玉弾を撃ち放った。

 砂煙が上がる攻撃地点を見つめる。あれで倒せてれば一件落着なんだが……。
「それで、次の手はどうするのです?」
 突如背後から声がかけられる。振り向くと俺たちの後ろ、障壁のすぐそばに砂の一つぶ
も浴びていないであろう姿で優弥が立っていた。手には律儀にも俺が投げつけたナイフを
受け止めたのか、こちらに対してちらつかせてくる。

「目眩ましにナイフ投擲、まさかこんなザル計画で終わりだなんて言わないですよね?」
 まさか、もちろん次の一手は用意してあるさ。
 優弥の声に振り向いた朝比奈さんすら驚かす、王を殺す最強最後の一手が。


「はい、チェックメイト」
 その少女は規格外の強さを誇る優弥に全く気づかれること無く背後を取ると、その手か
らすっとナイフを取り上げ、優雅な動作のまま一気に優弥へとそのナイフを突き刺した。


「な──がはあっ!? ……くっ!」
 優弥が一度鈍く叫び、ついで一気に距離を開ける。痛々しく押さえるわき腹からは黒い
もやのような物が見え隠れしていた。あの黒いもやこそが、優弥の姿をとる想念体の真の
姿なのだろう。
 北高の制服を着た少女は、手にしたナイフを一振りして刀身についた黒いもやを散らす。
軽くなびくセミロングの髪を片手で抑えながら俺のほうを見ると、少女はまるであの夕焼
けに染まる教室でみせた、みんなに慕われる事が楽しげな委員長のような慈愛の笑みを浮
かべてきた。

「久しぶりね。涼宮さんの事、ちゃんと幸せにしてあげてるかしら?」
 余計なお世話だ。第一声がそれかよ。もう少し話すべきことがあるんしゃないのか。
 俺の答えに機械仕掛けの女神──朝倉涼子はただ微笑んだままだった。

350北高を出よう! SOSvsEMP「終結」:2006/12/12(火) 05:04:31 ID:d6yHO2mU
- * -
「……木々や昆虫ですら微弱な精神の波長は出しているし、それが出ているなら僕はどん
な微弱な波長でも感じ取れる。精神の波長を全く感じさせない存在なんて、生きている限
りはありえない事だ。それなのに……朝倉涼子。キミからは精神の、生命の波長を一切感
じ取れない。キミはいったい何者、いや何なんだ」
 流石の優弥も驚きを隠せないでいる。
 そりゃそうだろう、ハルヒの記憶では朝倉はただのカナダへと転校していった委員長で
しかない。そんなただの一般人という認識しかないクラス委員長が、自他共に認める最大
にして最強な能力者の力をあっさりと凌駕したんだ。驚くなという方が無理な話である。

「そうね、別に教えてあげても良いけど」
 相変わらず女友達と休み時間に談合しているような笑顔を浮かべながら、朝倉は自分の
持つナイフを軽く持ち直す。そして優弥の方を向くと、
「聞き終わるまでちゃんと生きててよね?」
 まるで子供に優しくお願いをする近所のお姉さんのような口調でさらりと告げた。


 朝倉が軽やかな動きで走り出す。かなり距離を開けていた優弥にものの数秒で近づくと
手にしたナイフを躊躇いも無く突き出した。
「この銀河を統括する情報思念統合体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒュー
マノイド・インターフェース。しかし情報思念統合体の意思に叛いた為に情報連結を解除
された存在、それがわたしよ」
 優弥は今まで以上の火炎を生み出して朝倉を包む。だが朝倉はその炎を難なく突破する
とナイフを優弥の心臓目掛けて突き出した。
「くっ!」
 優弥は一瞬にして自分の姿をかき消し、再度距離をおいた場所へと出現させる。

「稚拙といえど、コンピュータネットワークは情報だけが存在しえる世界。連結解除され
たわたしが情報の塵としてたゆたうには適した空間だったわ」
 朝倉が距離を開けた優弥に左腕を向ける。その腕が白く輝いたかと思うと、一瞬にして
光の触手に変化して伸び、優弥の右肩を深々と貫いた。直後に古泉が放った紅玉弾が優弥
を次々と襲う。
「ぐああっ!」
 優弥の身体が一瞬ぶれて黒いもやになる。すぐに優弥の姿を取り戻すが、貫かれた右肩
から先は黒いもや状態のままだった。

「この空間はあなたの情報制御の元、物質存在に対しては強固な障壁を展開しているわ」
 朝倉が触手と化した手を元に戻しつつ、律儀に優弥に語り続ける。
「だけどこの制御空間と外部との間で通信はできた。つまり情報という非物質な存在の侵
入は可能だったって事ね。情報だけの状態で存在していたわたしにとって、この空間に対
してメッセージを送る事も、そして実際に侵入するのも造作も無い事だったわ。
 でも、いくらこの空間へ侵入したとしても情報だけの状態のままじゃ何もできないわ。
そこで彼にわたしの<シム>を作ってもらう事にしたの」
 元通りになった左手を撫でながら、朝倉が俺を見つめてくる。
「あとはその<シム>の身体をわたしが乗っ取れば、こうしてめでたくオリジナルの朝倉
涼子が復活できたって訳。わかったかな?」
 俺にとってはあまりめでたい話ではない。今の話が本当なら、こいつは正真正銘本物の、
春先の教室で長門によって情報連結解除された、あの朝倉涼子って事になる。

 それで今の話はマジなのか? マジでお前はあの朝倉だって言うのか。
「うん、マジよ」
 朝倉は相変わらず腹の底が見えない無垢な微笑を浮かべてくる。
「ついでに言うと長門さんの改変劇も知っているわよ。涼宮さんの力で情報思念統合体を
消去するなんて、本当に思い切った事するわよね。わたしもそれぐらい思いきった事をす
ればよかったのかな」
 よくねえよ。全く何てこったい。
 どこをどう間違えたのか、俺は間違って機械仕掛けの死神を呼び寄せてしまったようだ。

351北高を出よう! SOSvsEMP「終結」:2006/12/12(火) 05:05:25 ID:d6yHO2mU
「と・こ・ろ・で。対想念体の力を真似て触手に付与してみたんだけれど、どうかな?」
「……何故だ。キミも<シム>、つまり想念体のはずだ。それなのにキミは何故、この触
手に込めた対想念体の力で自滅しないんだ」
 右腕はもやのままだが、それでも優弥は冷静さを取り戻しだしたようだ。俺たちと初め
て対峙した時ほどではないが、その顔に爽やかな笑みが戻りつつある。
 しかし優弥の意見ももっともだ。対想念体の力は相手を特定しない。それ故、<シム>
であった光明寺も自滅する事を恐れ、蛍火を射出する際にはリボンで防御障壁を自分に展
開していたのだから。

「それってそんなに悩む事かしら? それとも確認を取りたいだけなの? ま、いいけど」
 朝倉は簡単な問題に悩む妹に対し、いったい何を悩んでるのかと言いたげな目で見つめ
る兄のような表情を浮かべて首をかしげていた。
「自分の身体を再構成したからよ。この身体は既に<シム>と呼ばれる物体ではないわ。
だから対想念体の力もわたしには利かないと、そういう事」
 流石元インターフェース、そのでたらめっぷりは相変わらずだ。
 自分の身体を<シム>からそれ以外の物質に再構成するなんてもう反則だろそれ。

「全くですよ。……ふう、実力の差がここまで歴然としてるとはね。キミに隙でも生まれ
ない限り、どんな策を練ろうともキミに勝つ事はできないみたいだ」
 優弥は炎を全て消し去ると、肩をすくめた後に左手を上げて降参のポーズをとった。
「涼宮さんを解放してください」
 古泉が紅玉弾を手に俺たちのそばまで近づいてくる。もちろん障壁は展開したままだ。
「わかりました」
 その一言を告げた途端、ハルヒの表情が目に見えて和らいでいった。苦しがっていた声
も消えて大人しくなる。
「す、涼宮さん……よかったぁ。キョンくん、涼宮さんがぁ」
 ハルヒをずっと抱きかかえていた朝比奈さんも、ハルヒの様子に安堵の息を



「だから隙を作りましょう」



 刹那、優弥の全身からこれまでに無いぐらい勢いよく火炎が噴き出した。
 地獄の業火は気を抜いた朝比奈さんが展開していた障壁をあっさりと打ち破り、その場
にいた俺たちを一瞬にして飲み込んだ。
352北高を出よう! SOSvsEMP「終結」:2006/12/12(火) 05:06:08 ID:d6yHO2mU
 俺は朝比奈さんとハルヒを守ろうと二人に覆いかぶさった。
 同時にラジオの砂嵐を大音響で流しているようなノイズが脳内に鳴り響く。そしてノイ
ズと共に嫌悪感しか感じないクサビが俺の中につき立てられた。
 くそっ、いったい何が起こってるんだ。わかる事と言えばコイツが最後まで打ち込まれ
たら俺がやばいだろうって事だけだ。
 全身全霊を持って抵抗しようとするが、炎がまとわりつき動きが取れない。
 何かとてつもない力でクサビが打ち込まれる。一撃で半分足らずが埋め込まれた。

<無駄です。如何にあなたと言えど僕の精神干渉は防ぎきれませんよ>
 優弥の声が遠く響く。そうか、これも奴の攻撃か。
 このクサビが最後まで打ち込まれたら、俺は優弥の傀儡になってしまう、そういう事か。
 しかしおかしくないか。俺たちは優弥の炎で焼かれたはずじゃなかったか?
 いや、そんな事はどうでもいい。俺がまだ生きているのなら、早いところ優弥を倒さな
ければ。俺が抱きかかえている、この温もりを守るためにも。

<おや、動くつもりですか? そうですね、この攻撃で僕はかなり無茶をしています。あな
たが攻撃すれば僕は簡単に倒される事でしょう。
 おめでとうございます、あなたは確実に生き残る事ができました。
 ですが、あなたが今盾になっているその方々はどうでしょうか。あなたの動き方次第で
は、彼らは消し炭も残らない状態まで焼き尽くされてしまうかもしれません>
 ……くそっ、そうくるか。そう言われてしまうと動けなくなる。
 しかしどうする。このままじゃクサビを心に打ち込まれ洗脳されてしまうだけだ。しか
もこのクサビが俺だけに打ち込まれているという保証も無い。朝比奈さんや志賀、それに
ハルヒにも襲い掛かっているかもしれないんだ。

 ガツンという音と共にクサビが再度打ち込まれる。同時に全身を苦痛と快楽の束縛が駆
け巡る。心を握られ始めている証拠だ。
 たった二撃でその殆どが埋め込まれてしまった。もう一発食らったら今度こそおしまい
だろう。その前に……その前にどうしろと? こんな攻撃どうやって防げというんだ。
 何かいい手段があったはずだ。だが、クサビから響く音が邪魔をして思い出せない。

<さあ、これでおしまいです>
 その言葉に反応してか、俺の手を誰かが握ってきた。その手は暖かく、そして柔らかく、
それでいて力強い感触だった。
 握られた手から力が注がれたのか、俺は閉じていた目を開く。懐にハルヒと志賀を抱き
よせ、まるで我が子を守るかのように、朝比奈さんが二人の上にかぶさっていた。震えて
いるのか頭に巻いた水色のリボンが微妙に揺れ動いている。

 リボン? リボンリボンリボン……リボン! そうだ、リボン!
 俺は朝比奈さんのリボンに触れると、ありったけの思いをリボンに込めて叫んだ。
「ばりやぁ────────────────っ!!」
 思いっきり恥ずかしい言葉を叫んだような気がする。そもそも別に叫ばなくても良かっ
たような気もするが、こういうのは気合の問題だ。
 とにかく俺のこっ恥ずかしい呼びかけに対しリボンは青白く輝いて応え、俺たちの周り
には一瞬にして防御障壁が展開された。それと共に心の中が青白く暖かい力で満ち溢れ、
突き立てられたクサビがその差し込む光によって崩壊していく。
 どうやら間に合ったようだ。俺の下にいる朝比奈さんたちの表情を見ると、苦悩してい
た表情が少しずつ和らぎはじめていた。
 そして俺の手を握ってきていた手の先を追いかけると

「……キョン」
 ハルヒが小さく呟きながら、やはり小さく微笑んでいた。


 機械仕掛けの神は、招かれた。

353北高を出よう! SOSvsEMP<機械仕掛けの神>:2006/12/12(火) 05:07:04 ID:d6yHO2mU
- * -
・<機械仕掛けの神>

「バカな……リボンの記憶は真っ先に封印したはずなのに」
「それでも何とかしちゃうのよね、彼ったら。何の力も無いただの一般人のはずなのにね。
でもだからこそ一番頼もしく、そして恐ろしいの。あなたもそう思っているんでしょ?」
「そうですね。だから僕は彼の事を素直に尊敬しているのです」
 背後から優弥と朝倉、そして古泉の声がする。振り向くと朝倉がナイフを持った手を腰
に、もう片手を頭に置きなびく髪を抑えつつ、いつも通り優等生の微笑みを浮かべていた。
 そのそばでは古泉がぼろぼろの制服から砂を叩き落としながら立っている。ぼろは着て
ても心は錦を心がけているのか、こちらも相変わらずの爽やかな笑みを浮かべていた。
 優弥は俺の位置から二人をはさんで更に後ろ、防御障壁の外側で腕を組んで立っている。
いつの間に治したのか、その右腕は黒いもやではなく元通りの状態になっていた。

「おはよう。調子はどうかしら」
 まだ頭ががんがんするが、とりあえず大丈夫だ。俺も他の連中も火傷した形跡とかは無
いし、ちゃんと息もしている。ハルヒは小さな笑みを浮かべたまま静かに眠っていた。
 本当に眠っているのかどうかはわからないが、とりあえず苦しんでいる様子は伺えない。
 俺の答え古泉がほっと安堵の胸を撫で下ろす。
 俺にしてみれば、お前たちの方が大丈夫なのかと問い返したいぐらいひどい姿だ。
「長門さんに情報連結解除を受けたあの時よりは余裕があるかな」
「僕もまだ大丈夫です。《神人》に殴られた時に比べればこれぐらい」
 揃いも揃ってサラリときつい事を言うな。
 全く無茶しやがって。お前らが何をしたのかなんて地面を見れば一目瞭然だ。

 黒い砂地に朝倉と古泉の白い影が伸びている。光と影が反転したかのようなこの不思議
な状況は、優弥の炎で辺りの殆どが黒く焼け焦げてしまっているこの砂の大地でただ唯一、
二人の足元から俺たちの倒れていた場所までの短い空間だけが白い砂地のままだからだ。

 ハルヒの上に覆いかぶさるようにして気絶している朝比奈さんからリボンを外し、自分
の手に巻きつける。そして朝比奈さんをそっと抱きかかえてハルヒの横に寝かせた。
 その間に志賀がゆっくりと身体を起こしてその場に座り込む。大丈夫か、お前。
「はい、みなさんが守ってくださったおかげです」
 志賀もまた陽だまりのような微笑を浮かべてきた。

354北高を出よう! SOSvsEMP<機械仕掛けの神>:2006/12/12(火) 05:07:53 ID:d6yHO2mU
「さて……これが最後の攻撃になると思われます。先ほど強がっては見せましたが、見て
の通り僕はもうぼろぼろでして、実の所こうして動くのがやっとの状態なんですよ」
「なぁんだ。正直に言うと、わたしもこうやって立ってるのがやっとかな。こう見えて、
有機生命体のあなたに負けたらちょっと恥ずかしいかなって思って、少し強がってただけ」
 朝倉と古泉は口の端だけで小さく笑い、そのまま優弥の方へ身体を向けた。

 それまでじっと二人を見つめていた優弥が、静かに口を開く。
「朝倉涼子さん。あなたに一つお伺いしていいでしょうか」
「なに?」
 優弥は腕組みを解くと、両手を胸元で合わせて合掌の形をとった。
「何故あなたは彼らに協力をするのですか? そのように献身的に彼らに協力したとして、
いったいあなたに何のメリットがあるというのでしょう」
 確かに朝倉が戦う理由は全く無い。普通に考えれば、本来の目的であるハルヒの観察と
かは長門に情報連結解除された時点で解任されているだろう。だとすれば、今の朝倉には
身を挺してまでハルヒや俺たちを守る理由はない。

 朝倉は指を頬に当てて考える。そして「うん」と頷き出した答えは
「彼を殺すのは他の誰でもない、わたしの役目だから──って言うのはどうかしら?」
「なるほど、それは確かに。これ以上無いぐらい素晴らしい回答です」
「全くですね。僕もいつかはそんな台詞を口にしてみたいものですよ」
 何処の格闘マンガのお約束だそれは。
 そしてそこのWイケメンバカ野郎共、お前らもそんなので納得するな。

「想念体によってコピーされた存在とはいえ、死ぬのは遠慮したいですからね。最後の攻
撃に相応しいよう、ここからは手加減なしでお相手させてもらいます。……はああっ!!」
 手のひらの隙間から炎が現れ、一瞬で世界を煉獄に変える。古泉は障壁でガードしつつ
距離を開け、朝倉は迷わず炎の中に突撃をかけてナイフを振るった。
 こうなると俺にできることは障壁を張りみんなを守ることだけだ。手に巻いたリボンに
祈りを込めて障壁を作り続ける。

「……キョン……くん」
 ふと後ろから声がかけられた。か細いながらこの天使のような麗しい声はあのお方のだ。
 気がつきましたか、朝比奈さん。俺は後ろを振り向かずに声だけかける。優弥から目を
放す事がどれだけ危険なことかつい先ほど思い知ったからだ。
「ごめんなさい……ヒクッ、わたしの、せいで、ヒクッ、みんなが……」
 泣き声と共に途切れ途切れの言葉が震えて聞こえてくる。
 いいんですよ。あの時油断しなかったメンバーなんて朝倉ぐらいのはずです。俺がリボ
ンを持っていても同じ結果になってましたよ。
「でも……でもぉ! わたしが! もっと……役立たずじゃなかったら!」
 いいんです。役立たずのレベルで言うなら俺の方がはるかに上ですから。
 俺が恥ずかしい言葉を告げると、背中にぎゅっと暖かい温もりが伝わってきた。
「……キョンくん、ありがとう……」

355北高を出よう! SOSvsEMP<機械仕掛けの神>:2006/12/12(火) 05:08:44 ID:d6yHO2mU
「……あ」
 抱きついてきていた朝比奈さんが軽く震える。どうしました?
「通信です……未来から……は、はいっ! 名誉挽回なんていいんです! わたしに、わた
しにできる事があるんでしたらっ!」
 なんだかわからないが勢いよく返事をすると、朝比奈さんがリボンを持った俺の手に自
分の手を重ね合わせてきた。
「上司からあの人を倒す方法を教わりました。キョンくん、それと志賀さんも。わたしに
協力してもらえますか?」
「ええ、わたしにお手伝いできる事があるのなら……ですよね」
 志賀の笑みを受け俺も頷く。もちろん協力させてもらいますよ、朝比奈さん。

 朝比奈さんは俺たちに作戦を説明し、最後に志賀へと触れる。二人の視線が交差すると
志賀は朝比奈さんを見つめながら薄く微笑んだ。
 俺もまた頷きながら、空いた方の手でハルヒの手を握った。無意識にかハルヒの方も俺
の手を小さく握り返してくる。
「……ハルヒ、わかるか。あそこで古泉たちと戦っている優弥がお前を苦しめているんだ。
 今からみんなで優弥を倒してやる。だから、お前はここで安心して寝てろ」
 俺の呟きに、ハルヒは目を瞑ったまま何も応えない。眠りについた状態のままだ。

「それでよろしいんですの?」
 ハルヒを握る俺の手に志賀の手が重ねられた。それはどういう意味なのかと思ったが、
どうやら志賀は俺ではなくハルヒに話しかけているようだ。
「キョンさんたちに任せきりで、あなたはよろしいんですの?」
 再度問いかける。その言葉にハルヒが少しだけ反応したように見えた。
 志賀はそれ以上は何も言わず手を離すと、じっと俺の方を見つめてきた。何だその微妙
に優しげな眼差しは。いったい何を期待しているんだお前は。

 俺は一度ため息を吐く。わかっている、確かに志賀の言うとおりだ。このまま俺たちに
任せきりだなんてスタイルは全然お前らしくない。
 少しだけ手を強く握り、俺は眠るハルヒをたきつけてみる事にした。
「ハルヒ。お前このままアイツにやられっぱなしでいいのか? お前の事を苦しめてるのは
間違いなく奴だ。
 無意識でかまわない。どうせお前はいつも無意識でトンデモパワーを使ってんだから。
 だから眠ったままで聞け。もしお前が奴に対して怒りを感じているのなら……」
 かすかに握りあっていた手に力が加わった気がした。


「お前自身の力で、奴に一発ぶちかましてやれ」

356北高を出よう! SOSvsEMP<機械仕掛けの神>:2006/12/12(火) 05:09:33 ID:d6yHO2mU
- * -
 朝倉と古泉の攻撃を器用にかわしつつ優弥が距離を置いた時、それは起こった。
「……なっ!?」
 優弥の立つ位置を中心に突如砂が激しく隆起し始める。遠くから見ればその砂が巨大な
手の形をしているのがわかっただろう。優弥はその手のひらに立っているような状況だ。
 ハルヒの手を握る力が強くなる。それに合わせて、砂の手は優弥を捕まえるかのように
一気にその手をこぶし状に握り締めた。
 優弥が爽快な笑みでこちらを見つめてくる。
 笑っているのも今のうちだ、優弥。俺たちは今度こそお前を倒す。
「できますか? それにしてもこれが彼女の力……何て強大で素晴らしい。ですが、この
程度で僕を捕らえられるつもりでいるのならば、それは甘い認識というものです」
「そうでしょうか? そう易々とは逃がしませんよ!」
 古泉の紅玉弾が器用に動き、砂の指の隙間をぬって優弥へと襲い掛かる。だが手と攻撃
が襲い掛かる直前、優弥は瞬間移動を行った。
 朝比奈さんが未来から聞いた、既定通りの時間に、既定通りの場所へ。

「たぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
 優弥が出現すると同時に、俺の手に巻かれたリボンを掴んでいた朝比奈さんが念動力を
発動させて優弥の動きを全て封じる。
「っ!?」
 優弥は異変に気づきこちらへ向けて炎を一気に捻出したが、俺が生み出し続ける障壁に
よってその全てが阻まれた。
 一人で障壁と念動力の同時操作が難しいのならば、二人でそれぞれ行えばいい。実にシ
ンプルな答えだ。そして優弥の動きを封じるのはほんの数秒で構わないのだ。
 朝比奈さんを中心に俺たちがしたことは三つ。

 ハルヒに無意識的に攻撃させ、優弥を瞬間移動させること。

 瞬間移動した優弥を縛りつけて、更に優弥の意識をこちらへと向けさせること。

 そして朝比奈さんが知りえた優弥の転移時間とその座標を、あらかじめ志賀を経由して
朝倉へ秘密裏に伝えておくことだ。

 優弥は朝倉に対してわずか数秒の、だが致命的な隙を作ってしまった。
「──チェックメイト。二度目の待ったは無しよ」
 優弥の後ろに現れた朝倉がナイフを深く突き刺す。そのまますぐにナイフから手を離し、
優弥を捕まえるような感じに両手を開くと、十本の指を一気に伸ばして優弥の身体をこと
ごとく貫いた。
「これはおまけですっ!」
 最後に古泉が紅玉弾を撃ち込む。これが最後と全ての力を込めたのか、優弥に当たった
途端に大爆発を起こした。
「ぐああぁ──────────────────………!!」
 爆発の中で優弥が黒いもやへと変質し、そのまま徐々に霧散していく。
 それと共に砂漠状態の情報制御空間も徐々に崩壊し、気づけば俺たちはハルヒの部屋へ
と戻ってきていた。

357北高を出よう! SOSvsEMP<機械仕掛けの神>:2006/12/12(火) 05:10:26 ID:d6yHO2mU
- * -
「それじゃ朝比奈さん。ハルヒの事、後はよろしくお願いします」
「はい。……本当に今日はお疲れさまでした」
 ハルヒが目を覚ます前に退散しておこうと言う事になり、最初から来ていた朝比奈さん
だけを残し、俺と古泉、志賀の三人はハルヒの家を後にした。朝倉は俺たちがハルヒの部
屋で意識を取り戻した時には姿を消していた。
 志賀には長門へ連絡を入れておいてもらった。ハルヒが無事だと連絡するのも既定事項
だったはずだからな。

「僕はこれから『機関』のメンバーと合流します。それでは、また」
 そう言って古泉は黒塗りのタクシーで去っていった。最初は志賀も一緒に連れて行こう
と言っていたのだが、
「わたしはここでお別れいたします。あちらの<シム>の方々と直接面識があるわけでも
ありませんから」
 そういって志賀は辞退した。

 二人で黒塗りの車を見送りだす。俺の方はこのままこの時間に残る事になる。元々いた
数時間先に戻っても構わないのだが、どうせ後一時間程度でこっちのキョンが連れて行か
れるんだ。このままいても問題ないだろう。せいぜい他人から見た俺の寿命が数時間分だ
け早まって見えるだけだ。


「キョンさん、少しお時間よろしいでしょうか」
 志賀が微笑んでくる。俺が頷くと志賀は俺を連れてゆっくりと歩き始めた。電車に乗り
俺たちが集合場所にしているいつもの駅で降りる。
「こちらです」
 志賀に案内され更に歩く。何だか見覚えのある道筋を辿っているのはただの偶然なのか。

「キョンさんは、わたしに聞きたいことがありますよね」
 少し前を歩きながら志賀が聞いてくる。そうだな、確かにお前に聞きたいことかある。
例えばどうして<シム>であるお前が、この世界の者でないお前が、こうして目的地を目
指して歩くことができるのか、とかな。
「そうですね。不思議ですよね」
 まるで他人事のように笑ってくる。そうしている間に目的地へと俺たちはたどり着いた。

 俺たちが歩きついたマンションの前では四人の集団がたむろっていた。制服二人に黒の
ゴシック少女に白衣姿の男とSOS団に負けず劣らずの怪しさ大爆発な集団だ。その中の
一人、制服姿の少女が俺に近づいてきて小さく告げる。
「……遅刻、罰金」
 一度ハルヒに対し長門への影響について話し合う必要があるようだ。

358北高を出よう! SOSvsEMP<機械仕掛けの神>:2006/12/12(火) 05:11:15 ID:d6yHO2mU
- * -
「ふむ、やはりそういう事だったか」
 宮野がこちらを見て大きく頷く。どうもこいつは一人で納得し完結してしまう節がある。
頼むから何がそういう事なのかが伝わるよう言語化してくれ。
「頼まれれば語るのもやぶさかではないが、私が語ってもよろしいのかな? 志賀侑里よ」
「構いませんわ。わたしが全てを語るよりその方が盛り上がるでしょうから」
 志賀がにっこり笑って告げる。では、と宮野が片手をびしっと志賀に指差して語りだそ
うとした時、光明寺がその腕を掴んで叩き落した。
「ちょっと待ってください! 班長、あなた今何とおっしゃいました?」
「どうしたのかね茉衣子くん。今までの私の発言に何か問題でも?」
「今までといわれるならその大半以上が問題発言と括れてしまえますが、とりあえずそれ
は置いておいて、私が問うているのはつい先ほどの発言ですわ」
 そして宮野に代わり光明寺が志賀を指差すと、はっきりと聞いてきた。



「何故、彼女を志賀侑里と呼ぶのです? 彼女は確か……音透湖、だったはずです」
 その指摘に今度は宮野が光明寺の伸ばした腕を掴んで天に掲げる。
「その通りだよ茉衣子くん! 流石は私の唯一の弟子、よく気がついた! そう、私たちが
かつてのミッションで関わった時より成長してはいるが、彼女は間違いなく音透湖だ」
「何をなさるのですかこのセクハラ班長! 手を離してください!」
 その訴えにあっさりと手を離す。だが彼の言葉は止まらない。

「そして彼女こが、私が常日頃から考えに考えて届かんとしている上位世界の存在が一人、
《年表干渉者[インターセプタ]》と呼ばれる者なのだよ!」

359北高を出よう! SOSvsEMP<年表干渉者>:2006/12/12(火) 05:12:15 ID:d6yHO2mU
- * -
・<年表干渉者>

 俺たちは志賀に連れられてマンションの507号室に招待される。ちなみに二つ隣はか
つてハルヒと玄関前まで訪れた朝倉の家であり、さらに二階上には長門が住む部屋がある。
「どうぞ」
 志賀と名乗っていた音透湖にしてインターセプタの案内でリビングへと通される。
 部屋にはソファーやテーブル、テレビといった生活観溢れるものが整然と置かれていた。
ふと阪中の家を思い出し、まるでいいとこのお嬢さんの部屋に通された気分になりながら、
俺たちはそれぞれソファーへと腰掛けた。

「『学校を出よう!』の世界で、溢れかえった想念体<シム>に対して大掛かりな攻撃が
展開されたことがあったのです。宮野さんたちは当然ご存知ですよね」
 台所でやかんに火をかけながら、インターセプタが話し出す。
「ええ、痛いほどに。何せわたくしたち<シム>が学園から消去された攻撃でしたから」
「CIOB、確かカウンター想念体パラージだったか。で、それがどうしたんだい?」
「CIOB攻撃は想念体の存在を0にするものだとあなたがたは考えています。ですが、
実際は想念体を別世界へ移項する攻撃方法なのです」
「自分の世界からは同じ消失したように見えるからな。間違えてもおかしくはない」
 インターセプタのいるダイニングへ乱入し何やら焼き菓子を発掘してきた宮野は、手に
した皿にざっと盛ると俺たちのいるリビングの机に出し、勝手にぼりぼりと食い始めた。
 某団長が人の家で賞味期限切れのわらび餅を漁ったシーンが思い出される。

「あのCIOBのせいでこの世界に想念体が出現したと、そういう事なんですね」
「はい。殆どの想念体は同レベルの別世界に移項しました。ですが力の強い想念体が移項
の力を利用して上位世界へと流れてしまったのです」
「彼と涼宮ハルヒが接続していたラインを辿られたと思われる」
 宮野に負けじと菓子をほおばりながら長門が続ける。
 と、沸いたお湯を別容器に入れる音と紅茶のいい匂いが漂ってきた。人数分のカップと
琥珀色の液体が入った透明なティーポットをお盆に載せ、インターセプタがリビングへと
戻ってきた。

 注がれた紅茶にそれぞれが砂糖やミルクを落とし、香りと味を楽しみながら一息ついた。
紅茶を出す技術に関しては朝比奈さんと張っているのではないだろうか。
「俺と光明寺を彼らの部室に送り込んだのは、やっぱりキミなのかい?」
「はい、わたしです。あなたがたなら想念体相手に戦えると思いましたので。光明寺さん
の能力で自滅しないように、あのリボンも用意しました」
 と、そこで未だ預かりっぱなしだった二本のリボンを取り出す。光明寺にお礼を告げて
返すと、光明寺はそっとリボンを撫でて小さく微笑んだ。その様子を見て他のメンバーも
薄く微笑む。まるでそれは自分の意思を汲み取ってくれた相手に対し、喜びを表現してい
るかのようだった。

360北高を出よう! SOSvsEMP<年表干渉者>:2006/12/12(火) 05:13:10 ID:d6yHO2mU
「上位世界で意思のある想念体<シム>が活動すれば下位世界がどうなるか。その危険性
はわかっていただけますよね」
 ああ。もし優弥をあのままにしていたとして、優弥が『学校を出よう!』の世界にこち
らからちょっかいを出したらどうなっていただろうか。
「まず間違いなくはぐれEMP、あの《水星症候群》の派閥が勝利する世界になっていた
事でしょう」
「それぐらいで済めばかわいいもんさ。最悪、こっちの世界に想念体やEMP能力者たち
が流れて来ていたかもしれない」
 しかも今回以上の規模で、か。まさに最悪だな。

 何だかんだで、お前たちのおかげで俺たちもハルヒも、ついでと言ってはなんだがこの
世界も助かったってわけだ。ありがとよ。もちろんお前にも礼を言うぜ、長門。
「いい。それがわたしの役割」
 まあそう言うなって。それとインターセプタ、お前にも礼を言わせてくれ。
「構いませんわ。わたしにとって望まない事態を避ける為に行った結果ですから」
 それでもだ。経緯はどうあれ、彼女がハルヒを救ってくれたという事はかわらない。そ
れに俺が朝倉の<シム>を生み出した時や、ハルヒに無意識に力を使わせようとした時、
実はこっそり俺をサポートしてくれてたんだろ?
「ばれていましたか」
 いくらなんでもあの二つの行為、ぶっつけ本番にては上手くいき過ぎていた。だが彼女
がサポートしてくれていたと言うのならば納得がいく。

361北高を出よう! SOSvsEMP<年表干渉者>:2006/12/12(火) 05:13:59 ID:d6yHO2mU
- * -
「かくして真犯人は自白を遂げ、ここに事件は幕を下ろす……でいいのかな」
 ハルヒが助かったんだ。俺たちとしてはそれで問題ない。後はお前たちの存在ぐらいか。
「そうですね。どうしますか? この世界にい続けるか、他の世界へ渡るか。あなたたち
がいた元の世界や、わたしたちの世界に来るという選択肢も用意できますよ」
「それは興味深い。キミの言う『わたしたちの世界』とは私たちに介入し続ける世界かね?
それとも、本来キミがいるべき世界の事かね」
 何だその禅問答の様な質問は。

「考えても見たまえ。キミは本の中の人物を自分の世界に呼ぶことはできるかね。もしか
したらキミにそのような能力が存在しており可能かも知れん。だが一般的には不可能と答
えるだろうし、不可能という答えこそここでは期待されている。
 では、Aという話の人物をBに出すことはどうかね。これは可能なはずだ。キミ自身が
Bの話にAが登場するよう手を加えればいいのだからな」
 つまり、俺たちのこの世界に<シム>を介入させる事ができるインターセプタは、俺た
ちの世界よりも高位の世界の存在だとそう言いたいのか。

「ええ、そうです。あなたがたの考えるとおり、本当のわたしはここよりも更に上の世界
の存在です。ですから下位であるこの世界に、更に下位世界の<シム>を転移させる事が
できました」
「更に言うならば、キミはインスペクタ達をも騙している。彼らが私たちより上位にして
この世界より下位なのは明らかだ。何せ『学校を出よう!』に出ているのだからな。さて、
そうなると、キミはあたかもそこの世界の者のように振舞っている、と言うことになる。
 実に興味深い話だ。キミはいったいどれだけの高みにいる存在なのかね」
「語りましょうか?」
「結構だ。私には考える為の脳も行動する為の手足もある。いずれ自力で向かわせてもら
うとしよう。その際には同伴者がいても構わぬかな?」
「班長について異世界めぐりをするなど、よほど奇特な人間がいるのですね」
「そうだな。そして人間とはえてして自分が奇特である事に気づかないものだ」
「わたくしを見るより鏡を見て語ったほうが説得力ありますわよ」

362北高を出よう! SOSvsEMP<年表干渉者>:2006/12/12(火) 05:14:51 ID:d6yHO2mU
 会話がどんどん電波と痴情のもつれになっているように感じるのは俺だけだろうか。
 適度な喧騒をバックミュージックに、俺は紅茶を飲み干すと今日一日の疲れを癒すべく
ソファーに身体をゆだねた。途端に全身がだるくなり、一気に疲れが押し寄せてくる。
 やばい、ふかふかのソファーもあってあっさり撃沈してしまいそうだ。
 睡魔に囚われ少しずつぼける思考と視界の中、俺はある仮説を考えていた。

 なぁ、長門。情報思念統合体というのは……もしかしてそういう奴らの事なのか?
 そしてハルヒの力は、それよりも上位の存在から渡されている、ないしハルヒの望むよ
う改変している……という事なの、か……?


 長門は珍しくうっかり指紋をつけてしまい曇ってしまったガラスのような透明度の瞳で
俺を見つめ返してきた。
「情報思念統合体についてはそうとも言えるし違うとも言える。一概に上の世界の住人と
割り切れる物ではない。涼宮ハルヒの力については全く不明。あなたの考えを否定するだ
けの材料も、肯定する理由付けもわたしには行えない。
 だがそのような回答は全て些細な事。今、ここで何よりも重要なのは──」

 俺の頭が動かされ、そのまま身体が横向きにソファーへと倒される。ただ頭の下だけは
何か暖かく柔らかいものが敷かれていた。
 頭を優しく撫でられ、俺のギリギリだった意識が完全に飛んだ。



「──重要なのは、あなたの休息」

363北高を出よう! SOSvsEMP「終幕」:2006/12/12(火) 05:15:42 ID:d6yHO2mU
- * -
・終幕

 目が覚めた時、俺は慣れ親しんだ愛用のベッドで横になっていた。あまりに日常どおり
な状態に、昨日の騒動が実は夢オチだったのではないかと思えてくるほどだ。
 だが俺は知っている。ハルヒがらみでこういう夢か現実かわからない状況に陥った場合、
その九割以上はまぎれもない現実だという事を。そんな事はこの一年でいやと言うほど思
い知らされてきた。

 さてそうなると気になるのは光明寺たち<シム>の事だ。彼らはインターセプタの部屋
で話を聞いた後、どういう決断を下したのだろう。
 彼女が差し出した異世界への切符を受け取り、別世界へと移動したのだろうか。
 ……いや。あの宮野がいる限りその選択肢は考えにくい。少し話しただけだが、あいつ
はどうもハルヒと同じで、自分で自分の道を探していくタイプのようだ。
 きっとインターセプタからの提案をあっさりと断り、今頃どこかで光明寺と漫才トーク
でもしながら自力で何とかする方法でも考えている事だろう。

 気になる事といえばもう一つある。昨日の騒動で見事に復活してしまった朝倉の事だ。
あいつはあいつでこれからどうして行くつもりなのだろう。もう命が狙われるような事も、
いきなりナイフで腹を刺されるのもご免被りたい。
 まあ光明寺たちと朝倉の件に関しては長門や古泉に聞いてみることにしよう。

 大きな問題を二つ後回しにした所で、俺の脳内に次の大きな問題が浮かび上がってくる。
 俺は布団からもれている自分の右腕に視線を送った。俺の手を取り握りあっている暖か
い右手を見つめ、そこから伸びている腕をゆっくり経由し、最終的に俺が寝るベッドに寄
りかかるようにうつ伏せて眠る少女へと視線を移した。
 部屋に入る風と少女自身の呼吸で、髪と黄色いリボンの飾りが揺れる。

 問題とはまさにこの少女の事だった。さて何でこいつは俺の部屋にいるんだろうね。
 このままこうしていても仕方がないので。俺はうつ伏せの少女の頭を軽く撫でて起こし
てやることにした。顔が見えていれば前みたいにつねってやるのだが。

 ほら、起きろハルヒ。

「……ん」
 ハルヒがゆっくりと頭を起こして目をこする。そのまま一度あくびと共にのびをすると、
まだ少しぼうっとした表情で俺を見つめてきた。
 おはよう、良く眠れたか。
「全然。まだちょっと眠……ってこらバカキョン! それはあたしの台詞よ! あんた一体
今何時だと思ってるのよ!」
 さあ。何せ今まで寝てたからな。それで何時なんだ?
 俺の問いかけにハルヒが左手にはめた腕時計を見て、それを俺に見せ付けてきた。
「見ての通りもうすぐ正午になるわ。集合時間は九時だから約三時間の遅刻、しかも集合
場所は駅前だから、今なおあんたの遅刻時間は記録更新中って事。これはもう罰金レベル
じゃ済まされないわよ?」
 そうかい、そいつはすまなかった。ところで何でお前はここにいるんだ。他の連中は?
「いないわよ。みんな急用とかで朝からは出られないって言うから、今日の活動は午後か
らって事にしたの」
 三人とも急用ねえ。本当は急用じゃなく休養なのかもしれないな。
 って午後から集合だったら俺だって遅刻じゃないじゃないか。
364北高を出よう! SOSvsEMP「終幕」:2006/12/12(火) 05:16:32 ID:d6yHO2mU
「みんなはちゃんと集合時間の三十分前には連絡してきたわよ。だからいいの。でもあん
たは連絡が無かったから遅刻。
 集合時間過ぎても来ないし、携帯に電話しても電源切れてるって言うだけで出ないし。
 どういう事よと家の方に電話かけて妹ちゃんに様子を聞いたら、あんたが死んだように
眠っててどんなに起こしても起きないって言うじゃない。だからこうしてあんたの様子を
見に家まで来てあげたのよ。
 それにしても本当ぐっすりと眠ってわね。あたしがいない間にSOS団で何か疲れるよ
うな事でもしてたの?」
 ああ思いっきりしたさ。こっちは《神人》戦に優弥戦とヘビーな連戦だったんだ。緊張
の連続で身体はともかく精神が磨耗しきっていたんだろうよ。だがそんな事をハルヒに言
える訳もないので、相変わらず苦しい説明を行うことにした。

「ああ、ちょっとしたごたごたがあってな。解決はしたんだが随分とくたびれさせられた。
何があったかは古泉から聞いてくれ。俺よりもあいつの方が把握してるから」
「ふうん……古泉くんって事は生徒会がらみ? まあいいわ、後で来た時に聞けばあんたが
本当の事を言ってるのかすぐにわかるから」
 おい、何だその『後で来た時』って言うのは。
「あんたが起きそうも無かったから、午後はみんなであんたのお見舞いをする事に決めた
のよ。だからもう暫くしたらみんなもやって来るわよ」
 邪神の微笑みを浮かべてハルヒが告げる。くそっ、間違いない。こいつは昨日俺が見舞
いに行くぞとからかった仕返しをするつもりなんだ。

365北高を出よう! SOSvsEMP「終幕」:2006/12/12(火) 05:17:16 ID:d6yHO2mU
 やれやれ、客人が更に来るというのならこうして寝てもいられないか。
 俺は溜息をつくと身体を起こす。そして未だに握られている右手をじっと見つめてから
ハルヒに何で俺の手を握っているのか聞いてみた。
 ハルヒは言われてから気づいたのかぱっと手を離す。そして少しだけ挙動不審な態度を
見せながらもきっと睨み返してきた。

「あ、いや、何となくよ! ほら病気の時ってさ、こうやって手を握ってあげるとどうし
てか安心して眠りにつけるじゃない。団員の事を気遣うのも団長の務めだからね。
 後はキョンがあまりにもぐっすり眠ってるから、激しく疲れてるのかなって思ったのよ。
だったらあたしの溢れんばかりのやる気をこうやって手から注入してあげればいいじゃな
いって思いついてね。あんた目を閉じてるし。
 どう、体がぽかぽかして発刊作用とか促進されたでしょ」
 わかった、そのネタはもういいから。一度着替えるから部屋を出てくれるか。
「じゃ、妹ちゃんにあんたが起きた事伝えてくるわ。ご飯どうするんだって言ってたから」
 ハルヒは立ち上がり扉を開ける。だが何かを考えているのか、出て行こうとしない。

「……ねぇ、キョン。あんた昨日……」
「にゃん」
 ハルヒの言葉は意外な来客によってさえぎられた。見ればハルヒの足元でシャミセンが
部屋に入ろうと待ちわびている。
「あ、シャミセンごめん」
 ハルヒがどくとシャミセンはゆったりと入ってきて、俺のベッドにあがると丸くなる。
 俺たちはその様子をただじっと見ていたが、やがて
「……ううん、やっぱ何でもないわ。それじゃ妹ちゃんに伝えてくる」
 それだけ言い残してハルヒは部屋を出て扉を閉めた。

 ……ハルヒの奴、一体何を言い出すつもりだったんだろうな。何とはなしに言葉を邪魔
したシャミセンに聞いてみる。シャミセンは珍しくただ一言「にゃん」と答えてきた。


 まるでハルヒに対して『まだ早い』と制止したかのように。


 俺は昨日から切りっぱなしだった携帯の電源を入れる。着信履歴やメッセージが流れて
くるが確認は後回しだ。俺はアドレス帳の中から一人を選び出すと電話を掛ける。数回の
コール後、電話の相手と簡単な挨拶を交わし本題に入った。


「問題だ。昨日俺たちSOS団はハルヒがいない隙をつかれて、メンバー全員が精も根も
尽きるようなトラブルに巻き込まれてしまった。
 さてそのトラブルとは何か。……悪いが俺の家に着くまでに考えておいてくれ、古泉」


 シャミセンは俺の行為に興味を無くしたのか、
366北高を出よう! SOSvsEMP:2006/12/12(火) 05:18:09 ID:d6yHO2mU


<インターセプタ・1>

 意外だった、《高等監察院[インスペクタ]》。
 あなたもまた高次の存在であるのは知っていた。涼宮ハルヒをも監査している事も。
 しかし、よもやあのような手段で監察していたとは。



<インスペクタ・1>

 人間は常識に縛られる。故にこの様な存在に自分が監察されているとは誰も思わない。
 危機的状況は何度か訪れているが、現在対象に接近する事ができている。そもそも涼宮
ハルヒの監察はお前に関係ない話。文句はあるまい、《年表干渉者[インターセプタ]》。



<インターセプタ・2>

 ああ、わかっている。だがあえて意見させてくれ。
 ……あなたのお姿、とても可愛かったですよ。

367北高を出よう! SOSvsEMP「終幕・B」:2006/12/12(火) 05:19:06 ID:d6yHO2mU
- * -
・終幕・B


 ──ただゆっくりと目を閉じた。



- 了 -
368名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 05:20:18 ID:d6yHO2mU
以上ッス。気づいたら453KBとか言ってるし……。
長々とエロなし失礼でした。
369名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 05:21:11 ID:aK15XiqQ
乙にゃん。堪能しました。
370名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 07:59:04 ID:F+sJZh6H
>>368
谷川らしくてGJですな。
自作も期待しております。
371名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 09:30:05 ID:ULZsAZkF
minoriの新作「ef - the first tale. 」
http://stage6.divx.com/members/252260/videos/1045067

ムービーはポスト宮崎駿と言われている新海誠。
新海誠氏は第59回毎日映画コンクールアニメーション映画賞を、
宮崎駿監督の『ハウルの動く城』などを抑え受賞しております。
石原都知事も絶賛です。
キャラクターデザインと原画の一部に人気原画家・七尾奈留を起用。
結城辰也らminoriスタッフ総出で書き上げた原画は500枚、
差分含めると5000枚越えの大作です(通常は差分無しで70〜80枚程度です)。

シナリオははるおと、水夏、ダ・カーポを手がけた御影をフィーチャー。
minoriはこのエロゲのためにこれまでに長い製作期間と膨大な予算
(今まで儲けた資金+5000万円の借金)を費やし製作しています。
もうこれは買うしかないでしょう。

より高画質なムービーはこちらから無料でダウンロードできます。
http://www.getchu.com/soft.phtml?id=137481
http://www.russel.co.jp/hp/adult/top.html
http://download.akiba-k.com/demos/eftft_demo_VGA.lzh

公式ホームページはこちらです。
http://www.minori.ph/lineup/ef/index.html
新海誠監督の映画の情報です。超ハイクオリティアニメーションです。
http://5cm.yahoo.co.jp/teaser/index.html

関連スレはこちらです。
ef - a fairy tale of the two. 第5章
http://idol.bbspink.com/test/read.cgi/hgame2/1165323569/
minoriスレッド53
http://idol.bbspink.com/test/read.cgi/hgame/1164791573/
372368:2006/12/12(火) 13:00:14 ID:hTRvnT3c
見返してみて思ったが、40字改行は失敗だったな。
等幅フォントでないブラウザでみると、字数合わせしたら逆に読み辛くなるとは。
行数削ろうと空白行が少なくなったのも重なって、今までで一番読み辛いSSかも。
……反省。


>>267
遅ればせながらGJです!
エロいよ朝比奈さん!
話もどんどん盛り上がってて続きが本当待ち遠しいっす!
373名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 13:31:56 ID:7Am8fNwk
>>368
学校へ行こう読んだことないから、今まで無意識にこの作品のSSはすっとばしていた
のだが、このSSはハルヒワールドも密接に関わっていたから面白かったよ。
ハルヒサイドしか分からなかったが、両作品ともオールスターって感じか?
374名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 13:41:51 ID:kriUG/Ub
日曜と月曜で合計約400キロバイトもの投下があるとは……
しかも上手いし。
375名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 13:48:59 ID:yP38MZxu
インスペクタはシャミセンって事でおK?
376名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 15:07:11 ID:JpdX/b5C
>>264
そのSSはそれで終わりなんです。
イライラさせたのなら謝ります。。
377名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 17:16:05 ID:JpdX/b5C
>>368
わたくしこのスレでこの言葉を使うことは滅多にないんですが、
「谷川仕事しろ」wwww

感想をSSとして投下したいくらいの超大作お疲れ様です。
ふたつの作品を相当読み込んで、かつプロット練らないとこれはできないのではw
起承転結の2周構成も脱帽。
レベル高すぎます。どこを褒めるべきか迷うくらい。
378名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 17:21:58 ID:wqDjpX+m
>>368
GJ!

すげえな。377の時点で457KBとは
379名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 19:43:50 ID:2eebBZ/L
これはもう新スレが立つ雰囲気でわ?
史上初だな
380名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 23:29:30 ID:vClEVh5N
荒らされたのかと思いきや……すげぇな
381名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 23:53:54 ID:xRDyDQ/b
>>368
ありがとうとしか言いようがない。楽しみました!
382名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 00:28:57 ID:1yrCdYTR
>>368
ハルヒ世界と学校世界の結びつき方のレベルが半端じゃなく高かったわ。
マジですげえよアンタ・・・・・・
ただ、細かいツッコミで恐縮だが、情報"思念統合"体っていうのが
どうにも引っかかってねー。このSSの素晴らしさとは無関係だけど。
383名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 00:30:27 ID:3cNoXf0l
あいかわらずクオリティ高いな-*-の人。こう呼んでいいのかわかんないけど。
乙です。次も期待してる。
384名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 00:41:57 ID:fTw8LdCf
アスタリスクの人の作品の中でもかなりすごいよなこれw
385名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 00:54:26 ID:6PJ6MFL9
キョンの使い方が実にいいよな。
というより、キャラがちゃんと動いてる。感動した。
386名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 04:21:13 ID:rupud88T
長編書いてる職人さん方、乙です。
387名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 05:08:50 ID:QZksQwhI
原作の方では燃料投下が滞っているにもかかわらず、
これだけの名作な大作が書けるから職人はすごい

ボクセカSSが書かれないのはやはり原作が特殊すぎるのかね
三冊も出てるのにまるで話が見えてこないし、キャラの背景が謎すぎるのが…
388名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 06:00:30 ID:8jNlLsLB
燃料になりそうなのは一月に出るドラマCDくらいかな
389名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 06:16:05 ID:76a/xyPC
GJ!寝ずに読んでしまったw
面白かったです
390名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 12:24:58 ID:AFXebBtl
喜緑さんとキョン妹のキャラソンも燃料ではあるかな
ここのSSは喜緑さん黒めなの多いけど、もし穏健派100%なキャラソンだったらと思うと少し怖いな
391名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 12:41:17 ID:fTw8LdCf
原作の設定をこれでもかというくらいに使ってるのがすごい。
優弥がやたらしつこいのもまたなんともw
392名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 12:53:21 ID:3cNoXf0l
次スレは500くらいか
393名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 14:27:21 ID:EtRF4INm
黒喜緑さんってどこから発祥したの?
394名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 14:45:12 ID:AFXebBtl
おしとやかキャラor天然ボケキャラ→実は黒かった
の流れは二次創作では結構常套手段だからどこが発祥とも言えない
手軽に意外性が得られるからな。意外なのに常套手段というのも矛盾してるが
395名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 14:54:47 ID:hWeKTo83
あれですよ、ギャップ萌え。
396名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 16:26:40 ID:Y32841gq
今さっき読み終えたんだがアスタリスクの人相変わらずGJ
『学校』は未読なんだが読みたくなってきた。
397名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 16:35:00 ID:RrtroXre
喜緑さんとみくる(大)ってどっちが黒いんだろう?
398名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 16:42:25 ID:XyN1rbI0
いやしかし、実に充実したスレだったな。
スレまたぎの"決断"から、ラストラプソディに始まり、アスタリスクの人まで。
全部クオリティ高い長編だったよ。

最近そうでもなかった"SSのレベルの高さはエロパロが一番"ってイメージを
また持つことができた、感謝。
次スレもこんな感じになりますようにw
399名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 16:52:54 ID:3OGCLDlb
>>397
現時点では森さんが抜きん出てると思われ。
朝比奈さんも混乱させるようなことを言うけど、必要悪からといった感じ。
描写がないぶん、喜緑さんはあまり黒さは見られない。
400名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 16:53:22 ID:Mn7a7lsH
ここってホント凄いな!

感動したw
401名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 17:16:50 ID:Nazep6k4
朝比奈さん(大)はそれが結果的にいいことだからいろいろやってるんだろ
402名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 17:59:08 ID:AFXebBtl
下の話かと思った
403名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 20:54:01 ID:zydzM+N6
>>399
森さんは一周して根は乙女だと思っている
404名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 21:55:22 ID:Tj0b85gR
クオリティの高い長編が並ぶなか
一人ギャグSSを書いてしまったことを激しく後悔
みんな上手すぎるよ……
405名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 22:17:06 ID:Ctf8o/0s
>>404
よし!投下だ!
406名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 22:18:50 ID:x++rsq6F
古泉もの書いたものだが、置いてかないでー。
自分もかなり後悔したが、
付けあわせとか、箸休めとか、そんな感じで長編の合間にあっていいだろうと自己完結した。

レスくれた人トン。
皆、長門が大好きですね。自分も好きさ。
407名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 22:22:59 ID:Nazep6k4
確かに長門は好きだけど一番ではない
408名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 22:26:40 ID:xgQ6i/Mc
ハルヒと長門が好きだ
朝倉と鶴屋さんも忘れちゃいけない
キョン妹と森さんも外せないな
朝比奈さん?どーでもいいや
409名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 22:34:49 ID:WZmeOU3y
>>408
空気っていうか幽霊じゃね?特別な人にしか見えないっていうか…彼女もまた特別な存在なのです。
ヴェルタースオリジナル
410名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 22:34:51 ID:qT9hs1qs
それはさて置き、そろそろ新スレの時期ですね。
411名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 22:42:28 ID:Nazep6k4
>>408-409
気持ち悪いからアンチ工作はアンチスレでしろ
412名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 23:19:21 ID:fTw8LdCf
500くらいで埋まりそうってのがまたwww
これはログ保存版だなぁ。
413名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 01:07:17 ID:46eDOSyi
ところで前スレで言ってた古泉×鶴屋さんの人は来ないのかな?
414名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 02:31:52 ID:Uw4O1GtG
SS書きあがる←モノローグ、ネタを書き直す
↓              ↑
間を空けて見てみる→これでいいのか不安になる

のループになってるけど、これっていい傾向?
415名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 04:03:00 ID:q0r9h4Lc
小ネタ
長編の続きのラストに行き詰ってむしゃくしゃしてやった。 反省はしている。

もしキョンが記憶を失ったら あえて誰が何といったか書かない

本当に俺の記憶がないことが分かると一気に集まってきた。
ってか何で他のクラスからもくるんだ。 そんなに俺って知り合い多いのか?
「キョン、俺はお前に1万円貸してたんだぜ」
それくらいは分かる。 嘘つけ。
「あなたとは2度ほど関わりあいになりましたね」
まぁ上級生ならそんなもんだな。
「君はハンドボールに熱意を燃やしていたぞ!」
この教師がハンドボールバカってのはよーく分かった。
「わたしには有機生命体の記憶の概念がよく分からないな」
何か腹が痛み出したんだが、居てはいけない気がする。
「僕達とゲームで勝負したじゃないか」
すまん、全く覚えがない。
「ふみぃ、とてもまじめな人でしたぁ」
あなたのような可愛らしい人にならたとえどんな事を言われようと信じますよ。
「僕と裸のお付き合いをした事がありますよ」
顔を近づけるな。 息を吹きかけるな。
「問題ない。 一時的な記憶障害」
会話の糸口がみつからねぇ。
「えっと、とっても犬が好きだったのね」
なんとなく猫の方が印象に残る気がするんだが……
「昨日の数学の宿題はここからここの問4までだよキョン」
こいつだけやけに冷静だな。
「キョン、あんたはあたしにずっとついていくって約束したじゃない」
マ、マジか? こんなえらい美人とそんな約束をしてたのか……

どうでもいいけど、そのキョンって変なアダ名はやめてくれるかな?
416名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 04:55:07 ID:h2iL3kss
>>415
あれなんでだろう…鶴屋さんがいないのは気のせいかな?
417名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 06:46:30 ID:rkwtTbDq
>>415
GS美神の横島が記憶喪失になった話を思い出した。
418名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 06:48:43 ID:vixFofCm
>>417
懐かしいな……煩悩全快の横島か

何で10年近く前の漫画覚えてるんだ俺、最近のはあんまり覚えてないのに...orz
419名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 11:04:21 ID:FDGSZXSU
>>417-418
俺もうろ覚えだがこんな感じか。



「わたしってやっぱ何の役にも立たないダメな子ですね……」
 朝比奈さん……。そうだ、お茶をもらえますか?
「え、あ、はい」

「どうぞ」
 ありがとうございます……ほら、充分役に立ったじゃないですか。
「……あ」
 朝比奈さんのお茶はいつも楽しみなんですよ。
「キョンくん……。……好き」
 うおっ、朝比奈さんが俺に寄り掛かってと言うか今凄い発言しなかったか?
 しかし朝比奈さんってやっぱり天使の様な人だよな。未来人なのに献身的だし。
 何かこうハルヒとは違って優しいし。って言うかハルヒは最近脈ないのではと感じて来てる……。
 ここはすぱっとハルヒは諦めて朝比奈さんとゴールするべきではないのか俺!?

「よし、もうこうなったら朝比奈さんでいこうっ!!」
「『もう』!? 『こうなったら』!? 『でいこう』!?」
 ああっ、しまった心の声が!?
420名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 11:25:17 ID:i723sJr1
確かに横島だなwww
これは原作ではハルヒが美神でみくるがおきぬさんだったっけ?
421名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 11:52:42 ID:FDGSZXSU
その通り。で、こうなると。


「……なぜわたしを助けたの? わたしはインター」
 関係あるかっ! 身体が動いて助けちまったんだから仕方ないだろ!
 それに言ってたじゃないか! また図書館に行きたいって!
「……あ」


「私たちインターフェースがヤる事は最大の禁忌! 情報連結解除されるのよ、有希!」
「……彼とヤれるなら構わない。どいて、涼子」
 バカな……ヤったら死ぬだって!?




……人類の敵なのかインターフェース。
422名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 13:36:32 ID:ja2Qywkm
敵になったら怖そうだな。
正直GSの後半の魔族並の強さだろう。自由に情報操作出来るし、記憶改竄出来るし。
423名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 13:46:59 ID:PXT4ED/d
>>415
上から順に
谷口、?、岡部、朝倉、コンピ研部長、みくる、●、長門、阪中、国木田、ハルヒか。

二番目が解らん。鶴屋さんじゃないよなあ。
あと喜緑さんは?
424名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 13:51:23 ID:Hk+gl/wQ
上から二番目が喜緑さんじゃないの?
425名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 13:58:52 ID:PXT4ED/d
>>424
あ、アホか俺は……orz
426名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 14:08:25 ID:pHAE/8zW
キョンが記憶喪失だと知らずにいつものノリで話しかけるハルヒ
当然覚えてないので冷たくあしらうキョン
閉鎖空間発生
機嫌を直すために(ry

という超ありきたりな展開が浮かんだんですがSSにするべきですか
427名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 14:18:01 ID:h/Syhzfl
>>426
書いて貼ってみれば?
別に誰も困らないし。

●がハルヒに事情を説明する、というSSはどっかでみたような。

冷たくする、というよりも
「こんな美人達と恋人or友人だったのか?」
と好意的に驚く展開の方が自然のような気がするw
428名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 14:29:33 ID:i723sJr1
キョンの記憶喪失ものは黒日だっけ?あれが秀逸だったような気がする。
429名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 14:34:20 ID:pHAE/8zW
やめとこう
失礼しました
430名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 15:09:19 ID:isfwLXWA
記憶喪失で素直になってキョンフィルターが薄くなって
素直にハルヒにデレるSSもあったな。
431名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 17:45:38 ID:xyerMBnd
ある日いつものようにツマらない授業を聴きながらキョンの背中を突っ突いていた。
くすぐったそうにプルプル震えながら「おい、やめろよ」などと言ってくる。そう言われると止められないのが人間ってもんだわ。
懲りずにつんつんしてると、急にキョンが「ウガッ!」と奇声を発した。そんなに強くして無いはずだけど……?
すると一枚の紙切れがキョンのブレザーからひらひらと落ちて来た。なにかなと思ってそれを拾いあげるあたし。
その紙切れにはこう書いてあった。
『フィルター解除の仕方』
キョンは机に突っ伏している。


こんなの読んでみたい。
432名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 18:53:19 ID:FDGSZXSU
『フィルター解除の仕方』
コックを優しく握り、根元から先端の方へと動かしながら対象のフィルター名を繰り返し耳元で囁きます。
この時先端から根元の方へ動かさないようにしてください。対象以外のフィルターが解除される恐れがあります。

『フィルター設置』
コックを優しく握り、先端から根元へとゆっくり動かしながら設置したいフィルター名を繰り返し耳元で囁きます。
この時根元から先端へ動かさないようにしてください。不要なフィルターが設置される恐れがあります。
433名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 21:33:28 ID:793XyaNS
「ふんふんふ〜ん♪……ほぇ?」

「おいハルヒ、別に脱がなくたっていいだろう」
「脱いだほうがやりやすいでしょ。あ〜もう早くしてよ。我慢できない……」
「わかったわかった。今やってやるから」
「早くぅ……」
「えっと、ここか?」
「バカ、そこじゃないわよぅ……もう少し上……」
「わかった。ここだな?じゃ、いくぞ」

「何をしてるんですか?朝比奈さん」
「あ、古泉くん、それが……」
「?」

「……たっ!バカぁ、痛いじゃないの!もっと優しくしてよ!」
「す……すまん、悪かった。あっ、やばいハルヒ、血が出てきた」
「何してんのよアホキョン!……まあ、今はそれはいいから。とにかく、続きやってよ……」
「あ、ああ」
「あっ!あ、そこっ!きもちいい!あぁ〜もっと、もっとして!」
「声がでかいぞハルヒ」
「だってきもちいいものはきもちいいんだもん……はぅ!んあ!」

「こ、これはさすがに……」
「ちょっとこれは由々しき事態のようですね」
「じゃあ……」
「(コクリ)」

「そこ!そこがいいの!もっと、もっとおぉ!」

バン!

「ななな何やってるんでしゅかあ〜!」
「いくらお二方が仲がよろしいとはいえ、せめて場所くらいはわきまえってアレ?」

「あ」
「う」
「……何をなさってるんですか?」「何って」
「こいつが背中まで手が回らんと言うからな?」
434名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 22:10:09 ID:1QKDOk44
>>430
それ知らないや、何てタイトル?
保管庫にあるだろうか
435名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 22:40:09 ID:hba7shf1
「キョンの忘失」かなあ
436名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 23:50:19 ID:O5grCIHN
>>434じゃないけど忘失読んだ。フィルターすげぇ!wそしてひでぇ!w

しかししばらく来ないうちに35スレ目か…かたっぱしから読むつもりだけどオススメある?
437名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 00:02:32 ID:0968Vgf5
>>436
少年オンザグラウンドゼロ
438名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 00:07:48 ID:Nsc1hVhn
さぁみんな、自分のSSを押すチャンスだぞ。
っていうのは冗談で、
少年オンザグラウンドゼロとか
ループタイムとか
長門有希の崩壊とか
ラスト・ラプソディとか
>>2とか
涼宮ハルヒの抹消とか
パパは高校1年生とか
長門有希の暴走とか
(ry
439名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 00:16:56 ID:NJscSu9e
エロパロ産でお勧めはと言われてパッと思い浮かんだ物
少年オンザグラウンドゼロ
ループ・タイム
風邪とお見舞いシリーズ
rain after rain
長門ユキの牢獄
440名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 00:46:46 ID:pQPmd0Yc
1年5組のクラスメイトものも時々投下されるので
うれしい限りだ。
441名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 00:47:36 ID:oie1YQLl
個人的に好きなのをあげてみる

キョンの消失
低速安全二人乗りーズ
高速暴走三人乗りーズ
雨の日には、あなたと
雄弁な神と寡黙な端末
悪徳生徒会

それとこのスレの「北高を出よう!」も是非
442名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 01:08:50 ID:AqAD9RVI
低速安全二人乗りーズ
高速暴走三人乗りーズ
某超能力者の憂鬱
たとえばこんな世界改変
The Day of Sagittarius 4
涼宮ハルヒの柔道

メジャーどころを外してさらにギャグ系?で固めてみる
443名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 01:52:11 ID:bIjN8RW+
キョンの消失
少年オンザグラウンドゼロ
ループタイム、は個人的には憂鬱だけ飛びぬけておもしろい。でも他のもオススメ
ラストラプソディ、はおもしろさはピカイチだけど個人的には何か抜けてる感がある。けどオススメ
高速暴走三人乗りーズ、は文章はめちゃうまいけど個人的にはストーリーはさほど。けどオススメ
風邪とお見舞いのキョンサイド

うん、俺はこんなだ。
444名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 01:55:51 ID:sXlzI1s9
上で出てないやつで自分が好きなのは

『長門有希の暴走』
『古泉一樹の親友』
『涼宮ハルヒの誤算』
『ケーキフェアやってたから』
『喜緑江美里の気苦労』
『涼宮ハルヒの○天国』(未完だけどw)

こんな感じだな。古泉メインなら親友と少年オンザはガチだと思う。
445名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 02:05:59 ID:FMcdXfbe
涼宮ハルヒの追憶
446名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 02:23:22 ID:zfj2r5HI
ちょっと趣向を変えてエロ方面で俺の好きなのをあげてみる

『朝比奈みくるの誘惑』   みくる(大)がエロい
『朝倉涼子の逆転』     COOL EDITION聞きながら読むとエロい
『それはそんな尻だった』  尻がエロい
『涼宮ハルヒの誤算』     あんまエロくないけど好き
『俺とハルヒのXXX』     ハルヒがエロい(別の意味で)
『涼宮ハルヒの妄想』     全てがEROになる
『古泉 一樹の日常』    古泉がクロい

読み返してたら疲れたので18スレ目まで
44717-126:2006/12/15(金) 02:40:31 ID:YHjb+gCF
さて、『涼宮ハルヒの抹消』のラスト、投下したいと思います。
最初に投下してからものすごい時間がかかってるなぁ……
その間メタルギアネタをやってみたり、
透明になったりする自分の昔のSSをみて恥ずかしくなったり、
鶴屋さんエロに挑戦するも失敗したり……

大変だったけど、全部いい思い出です。
とまぁ取ってつけたような総評を述べたところで透過します。
448涼宮ハルヒの抹消:2006/12/15(金) 02:41:44 ID:YHjb+gCF
エピローグ
「キョンくん朝だよーーっ!」
その声と共に妹がコーナーポストならぬベッド端から強襲し、俺のみぞおちにクリーンヒット。 
痛みにのた打ち回りながら夢に朝倉が出なかったことを確認し、ようやく元に戻ったんだなと実感した訳だ。 なんとも痛々しい朝だ。
そして呼吸困難の原因を作った張本人は「おかーさーん、キョンくん起きたよー」と、そのまま両手を広げて俺の部屋を出て行った。 そろそろあの起こし方を止めてもらわんと骨折しかねんな。
念のため確認。 ハルヒの事も、昨日までの事も全部憶えてる。 あれだけの事があったのにもう忘れてるような奴がいれば、そいつはアルツハイマーか非常識に慣れてしまったかのどっちかだ。 あいにく俺はまだ慣れそうにもないんでね。
そんないつもと変わらぬ朝を迎えて安心してしまったのか、俺の体内時計はどうやら日本標準時間からバヌアツ共和国の標準時間まで大幅にずれてしまったらしい。 着替えながら時計を見ると、もう何というか…… 非常にやばい時間になっていた。
とりあえず焼きたて食パンを口にくわえ、オフクロのしかめっ面を横目で見つつ家を出る。
誰かのモーニングコールが欲しいな。できれば朝比奈さんあたりの。 もし頼んだとしてハルヒにバレたらモーニングコールの代わりにハルヒが妹と一緒にエルボードロップしてきそうだな。 それはそれで…… いや、何言ってんだ俺。

「キョン、始業式の時はゴメン!」
予鈴ギリギリで教室に入り、息を切らしながら席について聞いた第一声がコレだ。 まぁ珍しい事もあるもんだ。
「親父がいきなり「結婚記念日で旅行に行くからお前もついて来い」なんてガラにもない事をいきなり言い出すもんだから鶴屋さんの家にもいけなかったし、学校も休むハメになっちゃうし回りの意見も聞いて欲しいわ」
一瞬何の事か分からなかったが機能の鶴屋さんの言葉を思い出し、慌てて「結婚記念日ってお前のか?」、と言ったところで俺はマリアナ海溝よりも深く後悔した。 後とりあえずお前は父親似だ。
「んな訳ないでしょ。 まだ寝ぼけてるの? さっさと起きないと10分で目を覚ますスペシャルドリンクを作って飲ませるわよ」
どんなドリンクかは知らんが目が覚めるどころか気絶しそうな感じがするから遠慮しとく。
「とにかく! その分の話し合いも今日やっちゃうから絶対来てよね。 来なかったらあんたにイヌミミをつけてキョン犬として引っ張ってくから」
そのイヌミミをどこから引っ張り出すのかと心の中で突っ込んでいると、岡部が登場し会話は終了。 空気の読める教師っていないもんかね?
449涼宮ハルヒの抹消:2006/12/15(金) 02:42:34 ID:YHjb+gCF
で、ぬきうちで出された数学のテストの出来を気にしながら昼休み。 ハルヒの奴は例によって居ない。
「なぁキョ」
「何だ谷口。 金なら貸さんしチェーンメールは無視する事にしてるんだ。ついでに言うとオフクロが弁当を日本国旗のように彩ってるんで結構機嫌が悪いぞ」
「まぁまぁ落ち着きなよキョン。 僕のだし巻き卵あげるからさ」
「んじゃ俺もレタスをやるか。 ありがたく思えよキョン」
国木田と谷口の弁当からおかずが輸送されて何とかコートジボアールの国旗レベルにまでおかずが増えた。 谷口、どさくさにまぎれて残飯処理をさせるな。
「で、何を言おうとしてたんだ?」
「あぁ、内容としてはお前が拒否ったチェーンメールなんだがな、あの鶴屋さんが誰かに振られたとかいうメールが流れてきたんだ」
「鶴屋さんってあの文化祭の喫茶店の元気な人だよね。 一緒に映画も撮ったし」
思わず俺は箸を止める。 別に弁当がまずいとかそんな事じゃなくて当然昨日の事を思い出してだ。 再改変で鶴屋さんの記憶も上書きされてたみたいだし、俺の事じゃないよな。
「あの映画は俺はもう思い出したくもない。 それはともかくとして確かにかわいい人だったよな。 誰が振ったか知らんが1発ぶん殴ってやりたいぜ」
「やめとけ。 どうせ上級生だ。 お前じゃ勝てるはずないだろ」
そんなことを言いつつも俺は内心ヒヤヒヤしている。 チェーンメールを誰が送り出したか知らんが、見つけ次第強要罪で訴えてやる。
珍しくハルヒも大人しく、マジで何も特筆する事もなく放課後がやってきた。
「先行ってて。 あたしは1年に変な奴がいないか探してくるから」
と、ハルヒはカタパルトで打ち出された戦闘機のような速度で走っていった。
俺も長門や朝倉の件で聞かなきゃならん事があるからな。 しばらくは探してもらえるとありがたい。 ただアイツの場合本当に変なプロフィールを持つヤツをつれてきそうなんだよな……
とまぁ、そんなことを考えても俺にハルヒの連れて来たヤツの入団を拒否するような権限は持ち合わせておらず、俺のできることはせいぜい朝比奈さんのありがたいお茶を飲みながら長門にソイツの不思議プロフィールを聞く程度だろうさ。 古泉は知らん。
とにかくこれ以上教室にいても仕方がないということで席を立ち、俺は足早に部室棟へと向かう。

450涼宮ハルヒの抹消:2006/12/15(金) 02:43:59 ID:YHjb+gCF
ドアがなぜか開きっぱなしになっていたのでそのまま入ると朝比奈さんがいつものメイド服でポットのお湯を沸かしているところだった。
長門はいつもの席でパン屋がどうだとか天才ネズミの脳手術がどうとかという、よく分からない小説を読んでいた。
「あ、キョンくん…・・・ よかったまた会えた……」
振り返って俺を見た途端、朝比奈さんが汚れた川も一瞬にして綺麗な水になりそうな笑顔を見せてくれた。 若干目が潤んでたのは気のせいだったかな。
とりあえず椅子に座り、朝比奈さんのありがたーいお茶をすする。
「今日は朝比奈茶っていうのがあったんで買ってみたんですけど、どうですか?」
ゴポッ
思わず俺は吹き出しそうになり慌てて口を閉じたものの、少し手にかかってかなり熱い。
「あ、だだ大丈夫ですかぁ?」
「大丈夫ですよ。 それよりも」
俺は一呼吸置いて、言い直した。
「それよりも俺に聞く事があるんじゃないんですか?」
朝比奈さんは俺の向かいに座り、膝に手を置いてこっちを見た。
「実はあのあと1日も経たないうちに際任務という形で戻ってこれたんですけど、キョンくんはなにか知りませんか?」
俺は朝比奈さんに今回あったことをすべて話した。 当然朝比奈さん(大)や少し大きい朝比奈さんのことは本人も誤魔化してとの事なので伏せてだが。
「そんな事があったんですかぁ…… またわたしお役に立てなかったんですね」
大丈夫です。 むしろあなたがいなければ何も解決しなかったほどですよ。
とまぁそんな事は言える訳もなく、俺はただ朝比奈さんの入れたお茶をからくり人形のように飲む事しかできなかった。
「本当はこんな事は言いたくないんですけどもしわたしが…… わたしが未来に帰るような事があっても忘れないで下さい。 キョンくんが困った時に絶対に助けに行きますから」
そりゃもう全力で憶えておきますよ。 
「ところでキョンくん、このドア今日開けたら閉まらないようになっちゃったんですけど知りませんか?」
そういや今回の件で俺やハルヒがバタバタ開け閉めしてたからな。 あれで一気に寿命が縮まったか。 南無……
まぁそれはそうとして……
451涼宮ハルヒの抹消:2006/12/15(金) 02:45:12 ID:YHjb+gCF
「長門」
「なに」
「今回の事で処分とかはないのか?」
俺の聞きたかったことその1。
「してもらいたい?」
長門は黒水晶のような目をこちらに向けた。
「そんなわけないだろ。 ただ12月の時はあったからちょっと心配になってな」
「今回の件については情報統合思念体自身も落ち度があると判断している。 特定の者に処分が下る事はない」
「そうか」
「そう」
「朝倉はどうなったんだ?」
俺の聞きたかったことその2。 長門がいうには消えただけらしいが、戻ってきたりはしないのか?
「朝倉涼子は情報統合思念体のもとで待機中。 今彼女を戻すと涼宮ハルヒの注目を浴びる。 それは非常に危惧すべき事」
まぁ目立たんに越した事はないが、用心しすぎな気がするな。
(その気になればまたナノマシンを介して話す事は出来るけどね)
脳内にいきなり朝倉の声が響く。 せめて一声かけやがれ。
(まぁいいじゃない。 たまにならこうやって話せるからよろしく)
(わかったから少し黙ってくれ)
はたから見てると自分の世界に入ってるアヤシイ奴にしか見えない訳だが。
「そういや長門、パソコンで何をやってたんだ?」
聞きたかったことその3。 というより実はコレが聞きたかったんだ。 
「……秘密」
本に視線を固定したまま一言。
そういわれたら余計に気になるのが人のサガである。
「じゃあパソコンを見せてくれないか?」
俺は粘る。
「だめ」
「少しだけでいいからさ」
まだ粘る。
ふと長門は拾ってきた子犬を戻してきなさいと親に言われた子供のような目でこちらを見た。 その目、こっちがものすごい罪悪感に駆られるから。
「どうしても見るというのなら」
長門は視線をパソコンにやって、すぐに俺に戻した。
「MIKURUフォルダを涼宮ハルヒに見せる」
それは非常にまずい事になりそうだから勘弁してくれ。 つか気付いてたのかよ。
仕方ない、何をしてたかはこっそり長門がいない時にでも見るか、ヤシロアキのCDでも渡して教えてもらうか。
(あれは泣けるわね)
お前に渡すんじゃない。 まぁたとえこっそり見たとしても長門にはばれるだろうし、やっぱヤシロアキしかないか。
452涼宮ハルヒの抹消:2006/12/15(金) 02:47:37 ID:YHjb+gCF
「ところでさっハルにゃんこれが本題なんだけどねっ、次の休みにキョン君ちいっと貸してくんないかなっ」
「うーんそうねぇ…… まぁ土曜ならいいけど何かあるの?」
俺の自由意志のない今の会話にどうツッコミを入れようかと考えていると、鶴屋さんがあたまをポリポリかいて、
「そりゃあ恋人同士で2人でやる事といったらデートしかないにょろよっ」
え…… 室内の時間が数秒停止したように思えた。 その中でハルヒは俺感覚で9秒の時点で動き出し、
「な、キョ、キョキョーーーン、どういう事なのよそれはっ! 事と次第によってはただじゃおかないんだからっ! 鶴屋さん、さすがに冗談でもそれはウケないわよ」
そんな意気揚々と母親の買い物に付いて来て、何も買って貰えなかった子供みたいな顔で凄まないでくれ……
「ええええキョンくん鶴屋さんと…… え?え?」
朝比奈さんも可愛い顔でこっちと鶴屋さんを交互にチラチラ見ないでくれ。たまらん。
「ほう、それは馴れ初めをお聞きしたいものですが……」
古泉も一緒になって聞くんじゃない。顔が引きつってるぞ。
「…………………」
長門も長門でじっとこっちを見るな。
(これは予想通り面白い事になったわね)
(お前のしわざか、朝倉。 なんで鶴屋さんの記録が残ってるんだ? 鶴屋さんは世界改変の上書きであの時の記憶はないはずだろ)
(だってそっちの方が面白そうじゃない)
……はぁ。 まさか朝倉からハルヒと同じ台詞を聞く事があろうとは。 これが急進派の真骨頂という奴か。
そうこうしてる間にも鶴屋さんは早送りのように口を動かしていく。
「んで3日前にあたしの方から告ったんだけどさっ、もう速攻でOKをもらったよっ」
「キョン! あたしのいない間に何やってんのよっ! とりあえず弁解だけは聞いたげるから今すぐ硝酸を持ってきなさい。 溶かして外洋に投棄してあげるから!」
落ち着けハルヒ、何を言ってるか絶望的に訳が分からんぞ。
「ま、そういうわけだからさっ、今後ともめがっさヨロシクっ」
と鶴屋さんは長髪を翻し反転し、古泉ばりのニヤニヤで俺に近づいてきたかと思うと、
「あたしは諦めないっさ」と鶴屋さんが俺の耳元で囁いて人差し指で俺の頬をチョンとつついてイヌミミONで退室。 あとは太陽の重力並みに重い空気だけが残された。
「じゃあキョン。 ちょっとあたし達とお話しましょうかぁ……」
ハルヒがこわばった笑顔で近づいてくる。 その後ろが陽炎のようにゆらめいているのは気のせいだろうか……
さて、俺はこれからハルヒへの説明を可及的速やかに考えなければならないわけだが、それ以上に鶴屋さんという点火源をどうやって抑えるかも同時に考えなければならないハメになって、
俺の心境はノルマンディ上陸作戦の上陸用舟艇隊の一列目の部隊並みに動揺し、今すぐこの身を抹消したくなる気分だ。 透明人間にでもしてくれ。
まったく、俺の乗っかった風はどこに行くか分かったもんじゃないな。 ま、でももうちょっとだけ乗っかっててもいいだろうさ。 









……あ、そういやあの日に喜緑さん忘れてたな。
fin
45317-126:2006/12/15(金) 02:50:13 ID:YHjb+gCF
以上です。

標準レベルになっていれば思いますがいかんせんネタを入れすぎた……
次は全部書いてから投下しよう、うん。
と言う訳で次はハルヒ量2倍で書いてきます。 
454名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 02:56:58 ID:RUP1Ufw1
乙乙。今から最初の方読み直してくる。

>パン屋がどうだとか天才ネズミの脳手術
アルジャーノン吹いた
455名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 03:10:03 ID:n084Vrp8
GJ!
あと219の詳細キボンw
456名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 03:23:46 ID:sXlzI1s9
抹消の人、超乙です。初出が17スレ目というのが色んな意味ですごいですね。
自分はまだ来てない時期だけど、半年くらい前なのかな?


それからあれだ、>>444書き込んでから気付いたんだが
『長門有希の暴走』は既に書かれてたなorz
457名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 04:08:45 ID:3/kbOZ6p
487kB か。そろそろ新スレだな。
458名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 06:28:02 ID:zKCyiHmX
『涼宮ハルヒの抹消』
キタ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ゲホゲホッ・・・キ,キタ━━━━━┓
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━(゚∀゚)━!!!
459名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 08:45:38 ID:qi7782UR
乙だが誤字多過ぎだな。
急ぎじゃないなら推敲して一晩置いてまた推敲ってな
癖を付けた方がいいぞ。
460名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 11:17:20 ID:a7OWmaUM
451-452の繋がりって何か不自然じゃない?
なんか唐突にハルヒと鶴屋さんが出てきた気が…
461名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 11:21:45 ID:ErYY893X
誰も挙げないけど涼宮ハルヒの日常シリーズをお勧めしたいのは俺だけじゃないはず
462名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 11:30:14 ID:H467StHQ
タイトル忘れたからもしかしたら既出かも分かんないけど、陰謀のハルヒサイドの話が凄い好き。
ああ言う感じの女の子な話って他にあったっけ?
保管庫一から読み直すかな。
463名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 11:55:29 ID:9tQyDcDf
誰も上げてないけど長門週間とエンドレスデイト好き
464名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 12:07:39 ID:YpgsP2mr
2,3日前に抹消マダーって言ってたら本当に抹消キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!
とりあえず俺も保管庫読み返してくる。
あと俺はなぜか知らんがハイテンションユッキーが大好きだぜ!!
ってことで長門ユキさんシリーズお勧めw
465名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 16:36:19 ID:d8//L0Zp
..._〆(・ω・`彡 )з <ネタ思いついたのにSS書けない……

〆(ω・`彡 )з <書きたいのに力がでない…

φ(ω・ミэ )Э <どぅιょぉ......
466名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 17:21:33 ID:5gdN7S6U
ハイテンションユッキー系全般が最強や

>>465
俺が力を与えてやる。
がんばれ
467名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 18:15:58 ID:ZcQGMPIU
「おい、>>465
「……なによ」
「そのSS、絶対成功させような」
「……当たり前じゃない!」
468名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 19:28:54 ID:HIYNorQW
次スレ立ててくれよ…投下できねえよ…
469名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 19:31:51 ID:V0WMn/1g
仕方ねぇな
3分待ってろ
470名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 19:34:26 ID:V0WMn/1g
【涼宮ハルヒ】谷川流 the 36章【学校を出よう!】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1166178803/
471名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 19:39:34 ID:IMxYaRmc
>>470
472名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 20:28:43 ID:ZsgeBDrD
埋める?
473名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 20:31:57 ID:IMxYaRmc
>>472
小ネタの投下があるかもしれないから、無理に埋める必要はないさ
474名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 20:33:29 ID:qazQwIC5
(ω・ミэ )Э <ァレ......?

φ(ω・ミэ )Э <書きたくなってきた…?

φ(ω・`彡 )з <何だか本気で力が湧いてきたぞ…?


_〆(・ω・´;彡 )з <うわわっ!すげえがんがれる!!!おおおぉ言葉の力ってすげえええぇぇぇぇ!!!!!


うわ俺マジで泣いてる!おまいらマジサンクス!!!凄い書くから待っておおおおぉぉぉぉぉぉぉ......_〆(;ω;´


本当に有り難う。
475名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 21:15:58 ID:Vg7ZX0re
ガンダムか
476名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 22:09:50 ID:MT+9iLcf
鵜沼
477名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 22:15:49 ID:uHG5rq/i
ええ話や……
478名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 23:29:00 ID:UydDtNpH
埋めネタ
三年前の七夕にて

「なぁ長門、その奥の部屋見せてもらっていいか?」
「駄目」
え?なんでだ?確か俺が寝てるはずなんだが…
「だからあなたはいつまでたってもマンモーニのまま」
…長門、なんか言ったか?
「…なにも」
479名無しさん@ピンキー:2006/12/16(土) 00:03:26 ID:iVA3xbeF
推敲が終わらない。
480名無しさん@ピンキー:2006/12/16(土) 00:24:44 ID:t3NtfLQj
言葉の力とかいわれると朝日新聞の広告ポスターを思い出す
481名無しさん@ピンキー:2006/12/16(土) 00:51:41 ID:kKZEX9k5
自分も書いてて思い出しかけたのは内緒だ......_〆(・ω・´
482名無しさん@ピンキー:2006/12/16(土) 03:11:59 ID:viCyhygP
>>460
確かに飛んでンのな。 そんなんだから俺はいつまでもマンモーニのままなんだよ
orz
未練がましくも貼っときます    寝てこよう

>>451より
「おや、涼宮さんはどうされました?」
と、ようやく古泉が登場。 
「おそらくお前の考えてる通りだ。 新入生を見に行ってるよ」
「やはりそうですか。 涼宮さんらしいですね」
「そろそろ落ち着いてもいいと思うんだがな」
「まぁ1年前と比べれば大分落ち着いたとは思いますけど」
「あ、そうそう。 今回の件については『機関』は詮索はしないようです。 まぁ今回全く対応できなかった事で『機関』の中ではなかったことになるんでしょうかね?」
『機関』の黒歴史が増えようが新川さんが急激に老けていこうが俺には関係のないことだ。
「みんなおっまたせーっ。 あれ、このドアどうしちゃったの?」
ようやくハルヒの奴が紙袋を持ってはやてのごとく登場。
「あうう…… それ今日あけたら閉まらなくなっちゃったんですぅ」
「ふぅん、まぁこれは生徒会にでも乗り込んで経費で直してもらうとして……」
また生徒会とひと悶着起こす気か。会長もおちおちタバコも吸えないな。 てかあの会長に戻ってるよな。
「とりあえずみんなこの前はゴメン。 お詫びとして今度の探索の時はお茶でも奢るから」
また前みたいにサイフを忘れたとかは勘弁してくれよ。
「その時に話そうと思ってたんだけどとりあえず我がSOS団を新入生にも知らしめる一環として、講堂でのクラブ紹介に乗り込む事にします!!」
そんな事をエクスクラメーションマークを並べて言うんじゃありません。 まぁ一応文芸部の枠で可能だろうとも思ったが、俺は言わない。 ガソリンスタンドでタバコをふかすような事はしたくないのさ。
「とりあえずキョン。 あんたはどのクラブがでるかを確認してうまく割り込めそうなところを見つけなさい。 あと交渉役と暴動鎮圧班ね。 古泉君と有希は…… とりあえずなにか考えとくわ。 それとみくるちゃんは……」
そう言ってハルヒがなにやら紙袋をゴソゴソしだした。 もう付き合いも長い。 何が入ってるかは言わなくても分かる。
「じゃーん、このイヌミミと尻尾をつけて出てもらうわ。 きっと似合うこと間違いなし。 3ステージ満員御礼確実よ!」
多分この場合の満員御礼は岡部以下教職員のことになりそうだが、似合うのは同意しざるを得んな。
……じゃなかった。 そんなことをしたら間違いなく親御さん呼び出し、下手すりゃ停学もんだぞ。 これは何としてでも止めなければ…
そんなどうでもいいんだかよくないんだか自分でも訳の分からないことを考えていると後ろからコンコンとノック音。
「やっほー、ハルにゃん元気かい? お、その耳めがっさカワイイねっ、ハルにゃんが付けるの?」
壊れたドアを叩いて鶴屋さんがニシシと笑っていた。
「あ、鶴屋さん。 これはみくるちゃんにつけるのよ。 何なら鶴屋さんもつけてみる?」
鶴屋さんは考えるかのように(顔を見れば考えてないのは明白だ)あごに指を当て、しばらく「うーん」とかうなっていたが一瞬こっちを見て、
「じゃあちょっと付けてみるよっ」
そして鶴屋さんはイヌミミを受け取り即行で装着。 なんとも可愛らしいもののけ姫、鶴屋サンの完成である。
どうやら鶴屋さんはこのイヌミミを大層気に入った様子で、
「そういやこれ首輪とかチョーカーとかないの?」
とか、
「しっぽはどこにつけんのっ? ここ?」
などとケタケタ笑いながらひっきりなしに質問していた。

>>452
483460:2006/12/16(土) 09:09:15 ID:pa3Epz87
>>482
おつ。喉のつっかえがとれてすっきりしました。
最初誰も反応しないから、自分の頭がオカシクなったのかと心配したさ…
484埋めネタ「西遊記」:2006/12/16(土) 10:50:54 ID:VeP5xKq6
「という訳で、僕達は西へと向かわなければなりません」
 どういう訳だ。説明しろ。それとお前のその格好は何だ。
 また蚊取り線香のCMにでも出てきそうなヘンチクリンな河童モドキの姿しやがって。
「西遊記をご存知ではありませんか?」
 知ってるよ。原典小説は元より龍球かやら幻想魔伝やら、古くは大冒険やらジンガーやゴーやゴーゴー、
ドリフ、モックン、シンゴからマチャアキまでそりゃもうばっちりな。
「それは重畳です。とにかく今回は西遊記ネタだということです」
 そうかい、わかった。なら俺たちが西遊記を演じているのはこの際置いておく。
 既に冒険ファンタジーやらスペースオペラやら荒野のガンマンやらと不条理満載の状況に色々と振り回されてるしな。
 しかしこれだけは言わせろ。

「ハルヒは何処だ。アイツは一体何の役なんだ」

 如意棒を持ち先頭を歩く孫悟空長門、河童の姿をした沙悟浄古泉、可愛らしい小さなピンクの耳を
頭に載せているメイド姿の猪八戒朝比奈さん。そして袈裟を纏い習わぬ経を持つ門前の三蔵法師な俺。
 どう考えてもミスキャストだろ、これ。さりげなくメイドがいるし。
 俺はてっきりハルヒが悟空で長門が八戒、朝比奈さんが三蔵で俺は馬だとばかり思っていたが。

「涼宮さんの役どころですか。僕が考える限り二つですね」
 言ってみろ。
「一つは敵役です。涼宮さんなら一国一城の主、牛魔王あたりを演じそうだと思いますが」
 ああ、そうだな。それだったら俺も張り切ってハルヒを倒しに行ってやるぜ。
 だが問題はもう一つの場合だった時だ。
「ええ。我々は西果ての天竺にいる『神』に経文を授かりに向かっています。
 そして『神』を誰かが演じているとすれば、それは当然涼宮さんという事になるでしょうね」
 なるほど。流石は古泉、ハルヒの事をよく知っている。お前のその意見には九十点を与えよう。
「おや、意外です。ではあなたの考えをお伺いいたしましょう」

 簡単さ、牛魔王役も釈迦役もきっと両方ハルヒがやってるのさ。アイツは欲張りだからな。
「なるほど、一番らしい回答です」

485埋めネタ「西遊記」:2006/12/16(土) 10:51:31 ID:VeP5xKq6
 どんなに気分が乗らなかろうが、天竺へ向かわなかったら色々と暴れそうな奴もいるので旅を始める事にする。
 道中突然襲い掛かってきた金角役の黄緑さんと悟空長門がトンデモバトルを開始する中、
銀角役の鶴屋さんがにっこり笑ってひょうたんをこちらに向けながら

「みっくるーっ!」

 なんて呼ぶもんだから、朝比奈さんも

「は、はいっ!」

 と律儀に返答したためにひょうたんに飲まれたり、それを救出する伏線がよりにもよって

「さぁてっ、後は君だけにょろよっ、キョンくん!」
「……えっと鶴屋さん。キョンは俺の本名じゃないんですけど」
「なんとっ! ソイツはしまったねっ! いやぁコイツは一本取られたさっ!」

というなんだか頭の痛いネタだったり、火焔山の火を消そうと長門が芭蕉扇を借りに行ったら

「芭蕉扇の貸借を申請する」
「うん、それ無理」

と羅刹女役の朝倉に長門が世界の果てまで飛ばされたりと色々あったが、とりあえず全部割愛する。

 そこ、面白そうだから語れとか言わないように。
 特に西梁女人国のあたりはダメだ。あそこには八戒と三蔵が孕むエピソードがある。
 たとえ役でも朝比奈さんにそんな事してみろ、俺は迷わず国を丸ごと焼き払うだろうよ。
 俺も孕みたくは無いしな。

 それにこっちも団長命令なんだから仕方がないんだ。
 前にハルヒが言ってただろ。すぐにラスボスと戦わせろって。
 そんな訳でお望み通り全部かっ飛ばして牛魔王ハルヒ戦だ。

 これ以上スーパーモンキーな大冒険は御免被りたいので、牛魔王が西遊記のラスボスじゃないぞといった
突込みなども当然行わない。
 ラスボスだろうが隠しボスだろうがもう何でもいいさ、さっさと終わらせて平和な日常に戻ろうぜ。
 こんな状態じゃ朝比奈さんの甘露なお茶すら飲めやしないからな。

486埋めネタ「西遊記」
- * -
「待っていたわよ、キョン!」
 牛角の生えたバイキングヘルムを被り、こんがり日焼けした肌に合う色のビキニ姿に両手斧という、
どこをどう見たって呉承恩に怒られそうな、とことん間違っている牛魔王が俺たちの前に現われた。
 牡牛座のナンチャラとかいう金色の鎧を纏ってこなかった事だけは褒めてやるが、だからって何で水着姿なんだ。
「火が燃えてて熱かったのよ。大体アンタ達が来るのが遅いからいけないのよ!」
 それでこんがり小麦色か。肌の焼き方を間違ってるぞ、それ。

「さて、ここまでやってきたあんたの強さは、まぁ認めてあげてもいいわ」
 ソイツはどーも。
「という訳でキョン。それにみくるちゃんや有希や小泉くん。アンタ達全員、あたしの団員になりなさい!
 なんと今ならサービスで世界の半分をプレゼントしちゃうわ!
 うん、やっぱ部下に領土を与えるのは戦国武将の責務よね」
 腕を組みハルヒは既に天下統一したかの如く笑い出した。とりあえず今はキョンって呼ぶな。
 そしていつからお前は戦国武将になった。しかも世界の半分ってそれは牛じゃなくて竜の王だろ。
 更に言うなら団員って何だ。この場合『世界を大いに盛り上げる為の牛魔王の団』になるのか?

 突っ込みどころ満載のこの状況に頭を抱えつつも、俺は朝比奈さんたちを集め円陣を組み、
これからどうするべきか聞いてみる事にした。さてどうするよ。

「僕が涼宮さんの意見に異を唱えると思いますか?」
「やっぱり涼宮さんも一緒でないと楽しくないですよね」
「……また、花果山に」

 すいません、全ての役割を放棄して実家に帰っていいですか。
 って言うか長門よ、それは一体何の意見だ。
 俺がやるせない気持ちで馬の頭をなでると、馬がしたり顔をしながら口を開いた。

「ふむ、相手があの元気嬢なら主が篭絡すればよいではないか。
 見るにあの娘は主に多少なりとも好意を持ち合わせているように思える。
 主もまた然り、なれば一度強気で迫り床にでも入ってしまえばよい。
 ああいった跳ね返り娘こそ意外と甲斐甲斐しくなるものだぞ」

 うるさいぞ馬、ややこしくなるからお前は何も喋るな。
 馬刺しにされたくなかったら、そこで大人しくひひんとでも鳴いていろ。
「ひひん」

「それでどーすんの? まさかとは思うけどあたしの団員にならない、なんて言わないわよね?」
 なてやってもいいが条件がある。
「何よキョンのくせに。世界の半分でまだ不服なわけ?」
 世界なんていらん。代わりにお前自身をよこせ。
「……は?ちょ、キョン、あんたマジでそれ言ってんの?」
 マジもマジ、大マジだ。世界の半分と同等の扱いで不服か?
「………………わかったわ。キョン、あ、あたしを……………………あげる」
 よし、これで旅が続行できる。ハルヒが加わってくれれば百人力だろうよ。な?
 俺は後ろで三者三様驚きの表情(驚いているのか怪しい奴もいるが)を浮かべるメンバーにサムズアップを見せ、
「じゃ、じゃあまずはオルド……よね。……キョン、は、早くこっちにきなさい! こういう時リードするのが男でしょう!」
ハルヒに襟首を捕まえて何処かへ連行されるというフラッシュバックを体験した。

 その後御休憩四時間どころか御宿泊コースとなり、翌朝
「それじゃ天竺に向かいましょ! ほらキョン、いつまでヘタレてるの! しゃんとしなさい!」
少しだけ股を開いた歩き方を見せつつ何だかつややかなハルヒにやっぱり襟首をつかまれつつ引きずられて仲間の元に集う。
 精魂ギリギリまで色々と搾り取られた俺は黄色い太陽を眩しく思いながら何とか馬に乗った。
 せっかく一晩経ったはずなのにHPMP共に0に近い状態だ。全くどういうことかね。
「天竺で経文とっておしまいじゃつまらないわよね。どうせだったら世界を巡って地図でも作っちゃいましょうよ!」
 西遊記のはずがジンギスカンになり今度はアトラスかよ。マルコポーロもびっくりだぞそれは。
「さあ出発ーっ!!」

 ハルヒの声にみんな(俺を除く)が威勢良く答え、俺たちの旅は再開されたのだった。