そう言われたら、愛理は言うままにするしかない。
――――――――――――――――――――――――――
そして今、愛理は播磨のバイクの後ろにまたがっている。
播磨のバイクは国道を飛ばして郊外へと走っていく。
愛理は自分がとても弱くなったと感じるときがある。
播磨がそばに居ないときや、播磨と触れ合ったあと。
突然、一人では立っていられないくらいの不安感に襲われることがある。
以前だったら、誰かに依存することなんて考えられなかった。
自分にはできないことなんか無い。
昔はそう思っていた。
どんなことだって自分にはできないことは無い。そう信じていた。
今は違う。
絶対にできないことがある。
播磨と離れ離れになることなんか愛理にはとてもできない。
――このバカと会わないでいることなんか、絶対にできやしない。
――コイツに撫でられたり、触られたりしないで生きていくことなんか……
絶対、絶対できっこない。
沢近愛理という少女が持っていた、誰にも弱みを見せないという強さ。
そんな強さには逆に脆いところがあるのかも知れない。
このお嬢さまは今や「弱さ」を知った。
誰かを好きになる、という弱みを知ってしまった今では
それなしで生きていくことができない。
そんな沢近愛理という少女は、こうして好きな男の背中に身体を押し付けながら、
強い風の中でその名を呼ぶことしかできない。
そんな風にくっついていても、愛理の心にはどこかしら不安が生じてしまう。
好きで、大好きで、何よりも大切な男。その播磨が、いつか自分のそばから
いなくなってしまうかもしれないという不安。
その不安を薄れさせようと愛理は播磨の背中によりいっそう強くしがみつく。
体を押し付け、革ジャンの背中に密着すればその不安が消えるかのように。
……消えはしない。
愛理は知っている。その不安が消える魔法の言葉を。
しかし、愛理が大好きなこの男はそんな言葉を口にしたりはしない。
「好きだ」「愛してる」
たったそれだけの言葉で、この気の強いお嬢さまは心の底からの平安を
得ることができる。でも、この頭の悪い不良はそんな言葉を口にしたりはしない。
だから愛理にできるのは、こうして少しでも強く播磨の身体と触れ合うことだけだった。
播磨は困惑していた。
どうにも、さっきから自分は自分らしくないことばかりしている。
バイクの後ろに女を乗せて走るだなんて軟派極まりないマネをしている。
今までだったら馬鹿にしていた行動。それを今、自分がしている。
いったいどうしたのか、なんでお嬢をこんな風に誘ってしまったのか、
播磨にはわからない。
強いて言うならば、朝飯を食った後で愛理が一瞬見せた寂しそうな表情が原因
かもしれない。気が強くていつも自信満々なこのお嬢さまが一瞬だけ見せた、
切なそうな表情。
それは実のところ「帰らなくちゃいけないのかな」という愛理の内心の不安が
取らせた表情だったのだが、普段まったく鈍いこの播磨拳児という男は
不思議にその表情に反応してしまった。
播磨拳児が知っている沢近愛理というのは、いつだって自信に満ちていて
世界の中心が自分だ、みたいな顔をしている女だった。
そんな女の不安そうな表情を播磨は見てしまった。
播磨は愛理の怒ってたり、バカにしてたり、不機嫌にしてたり、笑ってたりしてる顔は
何度も見たことがある。
なにかに酔ったようなエロい顔だって、わけのわからない言葉をわめきながら
喜んでいる顔だって、播磨は見たことはある。
でも、その顔が、どこか不安そうに歪むのは、播磨には耐えられなかった。
バカにされても、嘲笑されてもいい。
コイツに何か言って、そんな顔をさせないようにしなければいけない。
気がついたら、播磨は愛理をデートに誘ってしまっていた。
計算でもなんでもない、ただの反射的な行動で。
そんなことを考えながら播磨はバイクを走らせる。
国道を快調に走りながら、播磨は自分の腰に廻された愛理の手が震えていることに気づいた。
播磨は急にバイクを路肩に寄せて止めた。
「…ど、どうしたの?」
尋ねる愛理に、播磨は黙って着ている皮ジャンを脱いで差し出す。
「え……」
「寒ぃだろ。コレ着てろ」
そう言う播磨は白いTシャツしか着ていない。
「あ…あんたこそ寒いんじゃないの」
「いいから着ろっての。俺はお嬢なんかよりは頑丈なんだからよ」
そう言って播磨は皮ジャンを愛理に押し付けてさっさとバイクにまたがる。
「ほら、早く着ろって」
「…うん」
播磨の皮ジャンに袖を通す愛理だが、袖は余りまくり、裾は腰にまで達している。
古びた皮とコイツの汗の匂い。
深く息を吸い込むと体中が好きな男の匂いに包まれるみたいで、愛理の胸の奥は苦しくなる。
――コイツは……好きだとか…言ってくれないけど……
――愛してるとか、言ってくれたりしないけど……
――私のこと、大事に思ってくれてる…
――心配して、気にかけて、女の子だって扱ってくれてる……
播磨のほんのささいな気遣いだけで、愛理は頭の芯がクラクラするくらいの喜びを感じている。
バイクの後ろにまたがると、愛理は播磨の腰に腕を廻す。
全身を播磨の匂いで包まれて、胸には体温を感じる。
走り出すバイク。
愛理は播磨と一緒に風の壁に包まれている。
まるで二人の他には世界など存在しないかのよう。
身体の芯から、愛理は幸福を感じていた。
――やめときゃよかった
革ジャンを着た愛理がまたバイクに乗ってきた瞬間、播磨はすぐにそう思った。
――プルプル震えてたから、てっきり寒がってるのかと思って渡したのによ
このお嬢さまは前よりもっときつくしがみついて来ている上に、革ジャン越しだった
お嬢さま胸の膨らみが、今はもうお互いのTシャツ越しだけで触れ合っている。
播磨は背中がくすぐったく感じる。
柔らかい、お嬢さまのふくよかな胸の小山が背中に押し付けられている。
それは痒いような、なんとなく不安で不安定な感じがする。
すごくか弱くて、守ってやらなきゃならないような弱々しい女の子。
自分の背中にいるのはそんなモノのような気がする。
しかし同時に、とても暖かくて優しいような感触を感じてもいる。
ふっくらとした、柔らかな体が播磨の背中に押し当てられている。
その触れあう身体から、じんわりと熱が伝わってくる。
優しくて。柔らかくて。暖かくて。
その熱は、播磨の身体の芯を甘く痒くさせる。
この頭の悪い不良少年の芯の部分を少しづつ、ほんの少しづつ変質させていった。
今日だけではない。
播磨拳児は、初めて愛理の身体を抱いたその日から変わりはじめていたのかもしれない。
カン、カンとバイクのエンジンの冷える音がする。
鳥の声。風の音。波が砕ける音。
それ以外の人工の音は全然しない。
そこは、海を見下ろす岬の一角にあった。
国道から分かれた曲がりくねった山道。
そこから少しだけ外れた、草の生い茂った空き地の隅。
大きな倒木がベンチのように転がっている。
そこから見下ろす海は遅い春の太陽の輝きを受けてキラキラと光っている。
どこまでも青い空。夏を予感させる白い雲。山並みの間から覗くそんな見事な光景が
愛理の前に広がっていた。
「俺はバカだし、ビンボー人だからお嬢がナニをしたら喜ぶのかわかんねえ」
「……」
「だけどな、俺は落ち着きたいときとか、一人で考えたりしたいときはココに来んだ」
「……」
「……誰にも教えたことはねぇけどな」
愛理は黙ったまま播磨のすぐ横に腰掛けている。
二人きり。
愛理はまるで、この世界にコイツと二人きりでいるかのような気分になる。
風の音。木々の揺れる音。遠くに山鳥の鳴く声。
それ以外の音はまるでしない。人工の音がまるでない世界。
人類が滅んでしまって、たった二人だけ生き残ったかのような静けさ。
愛理はそんな世界にいるかのような妄想に囚われる。
愛理の沈黙を「呆れられている証拠」だと取った播磨がつぶやくように言う。
「……つまんねえトコに連れてきちまったかも知れねえな。……悪ぃお嬢」
「ヒゲ」
「…なんだよ」
「次は、お弁当作って来るから」
「……」
この風景が好きな播磨は、胸を突き上げるような奇妙な気分に浸っていた。
自分が好きなものを、コイツは嫌いなわけじゃないみたいだ。
そんな気分は播磨をなんとなく暖かい気持ちにさせる。
「……」
それきり黙っているお嬢さま。
そしてその女の子は、こてんと播磨の肩に頭を預けてくる。
気が強くて、暴力的で、凶悪で、なにかってーと噛み付いてくる金髪のお嬢さま。
それが、今はまったく無警戒に身体を預けてきている。
「……ありがとよ」
不器用な不良少年にはそう言うことしかできなかった。
もしもこの播磨拳児という男が多少なりと女心がわかる奴だったなら、もう少し
気の利いた台詞を口にできていただろう。
もっとも、播磨がそんな器用な男だったならばこのお嬢さまもここまで惚れることは
なかっただろうが。
とにかく、そんな朴訥な言葉が愛理の胸の中を温かくしていく。
愛理の心の中を暖かくしていく。
全身の骨が幸せで、嬉しさで、悲鳴をあげている。
骨の芯が蕩けてしまいそうなくらいの嬉しい気持ちが愛理を高揚させる。
ドキドキしている音が聞こえるんじゃないかと心配な愛理は
どうでもいいことを口にする。
「……ヒゲ。アンタ、好き嫌いとかある?」
「いや。オメエが作ってくれるならなんでもいいぜ」
――ヒゲの言葉は、ズルい。
愛理はいつもそう思う。
――こっちが、なんの警戒もしてないときに、急に、そんなこと、言うなんて……
愛理にはもう、我慢も抑制も効かなかった。
急に抱きついてきた金髪のお嬢さま。
ぎゅうう、と自分の胸に抱きついてくる金色を見ているうちに播磨は、
不思議に嬉しい気持ちになってしまう。
この気持ちがなんという気持ちなのか、致命的に鈍くてバカなこの不良少年には
わからない。
それが判るまでには、もう少しの時間が必要だった。
あと一年。それくらいの間、このお嬢さまと何度も何度も抱き合い、キスをし、
深く繋がり、優しい気持ちに浸った後なら播磨にもそれが判るだろう。
それが「好き」という気持ちなのだと。
いつしか播磨の掌は愛理の金髪を優しく撫でている。
暖かい、大きな手のひらに包まれる快感。
優しい不良の手で撫でられながら、愛理は心の底から暖かさを感じていた。
昨日の夜遅くまでの運動に疲労してたのか、それとも朝起きぬけの播磨とのスポーツで
疲れていたのか、愛理は瞼の裏の色のまどろみに漂いながら、恍惚とした表情のまま
播磨の膝の上で眠りに落ちていった。
今日はここまでー
つか、本編はここまで。次回のラストはたぶん後日談かな。
あ、あとバイクの件だが本編の八雲を乗せたシチュはなかったことに。
……いいんだよ二次なんだから!
つーわけで感想ください。クレクレー
なんかイイね こうゆうのも
乱れまくったセクロスの後の シットリした後戯って感じ
後日談、楽しみにしてるけど…これで終わりかと思うと寂しい気もするな
エロの無いラストを小刻みに投下し続ける必要がエロパロに於いてあるだろうか?
こういうのはエロ有り投稿の時にまとめておいて欲しい。
そうだな エロパロなんだから…
後日談はぶっちゃけ他スレ池と言いたくなってしまう
いやいい話なんだけどさ
>>931 GJっす
甘甘だなーw
最近は他のスクラン系SSサイトの勢いが出てきたんで
ここもこの調子で流れに乗れるといいんですが
最終回は特に期待して待ってます
ついでなんですが文法に微妙な個性がありますよね
改行するところや文頭の1字空けをしない時の法則とか
別に大した問題でもないですし、細かなミスや狙ってやってるんなら構わないんですが
俺としてはそこが妙に気になりました
カレーさん乙
楽しませていただいた
その後日談とやらを、エロに絡めてシリーズ化してはどうだい?
あくまで要望だけど、これで終わりってのももったいない気がするし
自演乙
マジでアホだな、お前
hauntedの中の人、今回もGJ。
エロがあったからこそ、事後の甘々シーンが更に引き立つ訳で
これからもエロ甘なのお願いします。<_>
見苦しい自演は勘弁してくれ。
今度からは別スレ立ててやってくれ。
他の人の迷惑だからさ。
自演自演ってうるせーよ。
お前が一番迷惑だからさ、もしかして気付いてない?
こりゃ痛い・・・・
これって、またどこかにまとめられるのか?いま保管庫の更新止まってるよな?
てか後日談はいらんよ
ここでエロなしは求められてない
もう訓名かれー
944 :
名無しさん@ピンキー:2007/02/07(水) 22:41:59 ID:gg9LuvR3
カレーさん、大好き!
いよいよ次でラストか…
エロパロとはいえ感慨深いな
本編がアレだから ほのぼのとしたシーンあるといいな
完結するまで読まない!
……と、決めてから早数ヶ月。長かった。
カレーが来なくなったら荒れなくなるからうれしい
作品も好きじゃなかったし
>>945 だな。俺はそ―ゆう雰囲気も好きだから楽しみ
自己レスって空しいよね。
>>949 そうなんだよ
自演する信者が多いから荒れるんだよな
でも次でラストだから
そしてこのスレもラストになるといいな
952 :
名無しさん@ピンキー:2007/02/09(金) 08:30:26 ID:w1Pmrwyz
まだまだ続いてほしいよ
いやいや普通に続くだろ
次スレでは他の職人さん達にも戻ってきて欲しいよな
個人的には屋上の人とか石動さん希望
しかし心配だ 職人さんほんと減ったよなぁ…(泣)カムバック
原因はウンコマンの自演だろ。
あいつが消えれば戻ってきてくれるんじゃないかな。
カレーがまた書くつもりなら
専用スレを作ってくれ・・・
もうここでオナニーしないでくれ
カレーのせいで酷い事になった・・・
カレー好きな俺だが
ここのカレーは不味くて食えません
事実上カレーしか居ないんだから、カレー嫌いがどっか行けば良いんだよ。
>>958 本人乙w
カレーのせいで書くのを途中で止めたやつに謝れカス
気にせずマターリするのが吉。
ミコちんマダー?(AA略
>947
次はおにぎり書く約束ですんで。まだ当分来ますよ。慣れてねw
>956
重複スレはダメでしょ。
>958
みんな仲良くやろうぜー
>960
えーそんな人いないよー
>961
だれか今×一で書いてくれないかなー
ま、とりあえず日曜のうちに(注:オレ時間)ラス1を投下できるような気がする。
気がするだけなのだが、まあ交互期待。
つか、次スレの季節。
いつぞやみたいに荒しに流される前にさっさと移行するが吉。
おにぎり(純愛)はカレーさんにお任せします。
正座して待っております。
そんな訳で。
近日中に「播磨×冴子・梢」の設定を引き継いだまま、播磨が否応無くハーレム地獄に陥るSSを投下するつもりです。
候補設定
妙――冴子から播磨とのことを自慢される。対抗心が芽生え……。
美琴――屋上での行為を目撃してしまって悶々と。
愛理――目の前で冴子に煽られて嫉妬のあまり。
絃子――学校での噂(冴子・梢)を問いただした後に。
円――冴子に誘われ、好奇心で。
八雲――巻き込むの難しい。設定が浮かばない。
屋上の人キタコレ!
円か絃子が猛烈に読みたい…が、敢えてアウトオブ候補の嵯峨野でw
>>967いや、噂好きってトコから円よか嵯峨野かな…と。
単なる趣味なんだけどさw
>>969 職人に「何様のつもり?」とか言ってるお前こそ何様だよw
972 :
名無しさん@ピンキー:2007/02/10(土) 21:52:58 ID:u26TNVQ/
誰かイマイチを頼む。
あと一条のエロパロがある板知ってる人がいれば
何話か教えてくれ。
正直、ウンコマンは次スレに来て欲しくない。
糞を垂流して得意気になってる辺り、相当に痛い人だし。
とりあえず、自演と全レスは辞めろと。あ、自演予告もね。
何度も言われてるのに未だに理解できないのだろうか、あの馬鹿は。
974 :
名無しさん@ピンキー:2007/02/11(日) 01:06:35 ID:jAIfqRSD
おにぎりも期待して待っとります。
全レスはウザいが、自演については、本人がやめたところで
誰かのマンセーレスが付けば「自演だ」と騒ぐ奴がいるからなあ。
全レスうざいというより、明らかな荒しにアンカ付けるのが迷惑。
あれだけは本当に止めて欲しい。