嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 二十(重)生活

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1名無しさん@ピンキー
浅いものはツンツンしたり、みたいな可愛いラブコメチックなヤキモチから
深いものは好きな人を独占して寵愛する為に周囲の邪魔者を抹殺する、
みたいなハードな修羅場まで、
醜くも美しい嫉妬を描いた修羅場のあるSS及び、
他様々な展開の修羅場プロット・妄想を扱うスレです。

■前スレ
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 恋は19さなの
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1159710321/
■まとめサイト
2ch 「嫉妬・三角関係・修羅場統合スレ」まとめサイト
http://dorobouneko.web.fc2.com/index.html
2名無しさん@ピンキー:2006/10/21(土) 23:50:45 ID:a6uayvcm
■関連スレ
嫉妬・三角関係・修羅場統合スレ 第14章
http://idol.bbspink.com/test/read.cgi/hgame/1156718368/
■姉妹スレ
嫉妬・三角関係・修羅場統合スレinラ板
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/magazin/1132666398/
嫉妬・三角関係・修羅場統合スレin角煮板
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/ascii2d/1157942116/
誘導用
【男一人】ハーレムな小説を書くスレ【女複数】 3
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1150256162/
ヤンデレの小説を書こう!
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1148704799/
●●寝取り・寝取られ総合スレ3●●
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1156528908/

3名無しさん@ピンキー:2006/10/21(土) 23:56:56 ID:1BwoWXlc
誠くんおつかれ
4名無しさん@ピンキー:2006/10/22(日) 00:07:22 ID:odHqBJ6u
5 ◆tVzTTTyvm. :2006/10/22(日) 00:10:50 ID:GaVNhlod
1乙です
何気に自分のタイトル案が採用されて嬉しかったり

で、早速投下いっても良いですか?
6名無しさん@ピンキー:2006/10/22(日) 00:12:29 ID:chpin9e+
>>5
щ(゚Д゚щ)カモォォォン 
7名無しさん@ピンキー:2006/10/22(日) 00:12:31 ID:1J444JMR
>1


>5
コォ━━━━щ(゚Д゚щ)━━━━イ!!!!  
8Why Can't this be Love?  ◆tVzTTTyvm. :2006/10/22(日) 00:15:25 ID:GaVNhlod


   X    X    X    X


 あの日、結局美嬉は来なかった。
 何より問題なのはその日が終わるまで其の事に俺も夕子も気付かなかった事。
 お陰で家に帰って其の事に気付いた俺は自己嫌悪に陥った。
 何か物凄く悪い事をしでかしてしまったような気分に……。
 その日からだ。 美嬉の態度がなんかよそよそしくなり始めたのは。
 俺も何だか気不味くて声をかけずらくなっちまって……。

 だが夕子の方はと言うと合いも変わらすと言った感じだ。
 ……そう、相も変わらず。
 ある意味不自然だ。
 あれだけ仲良さげにしてたと言うのに、その相手の態度が変わったと言うのに何故?
 何故そんな風に変わらずに笑っていられるんだ。

 でも其の事を夕子に聞く事も出来ず悶々とした思いが晴れぬまま時だけが過ぎていく。
 過ぎ行く時は何も解決してくれない。 いや、むしろ悪化させていってるような気すらある。

 若しこのまま行ったら俺と美嬉との関係はどうなっちまうんだろ。

 ……自然消滅? ふとそんな単語が脳裏をよぎってしまった。
 そして其の言葉に言いようの無いほどの寂しさを感じずに居られなかった。

 寂しい……? 美嬉との繋がりが消えてしまう事にそう感じると言う事は……。
 やっぱり俺にとって美嬉はそれだけ大きい存在に……。
9Why Can't this be Love?  ◆tVzTTTyvm. :2006/10/22(日) 00:17:47 ID:GaVNhlod


   X    X    X    X


 私はここ数日楽しくて仕方なかった。 何故かって? それはあのコ――藤村さんがね――
 ふふっ……、アハッ、アハハハハハハハハハッ!!
 私は声に出さず心の中で高らかに笑う。

 本当長かったわ。 でも辛抱した甲斐があった。 友達の振りを続けた甲斐が。
 正直恋敵と笑顔で仲良くなんて振りだけとは言え気分の良いものではなかった。
 って言うか虫唾が走る! 良くあんな事辛抱できたものだと思う。
 でも、時間がかかったけどやっと解かってもらえた。解からせることが出来た。
 藤村さんにも、紅司にも。


 そう――私達二人の間の空間は、それは幼い頃からずっと共有し続けてきたそこには
誰も入り込む余地なんか、入り込ませたりなんかしちゃいけないんだって事を。


 そしてある日の事。
「今日、放課後良いか?」
 紅司から誘われた。
「うん、勿論OKだよ」
 私は二つ返事でOKする。
「じゃぁ放課後な」
 何だろう? コレは若しかして……告白?
 思わず頬が緩む。 未だ笑うには早すぎるかも、いやそんな事は無い。
 だってココ最近紅司が過ごす時間は藤村さんより私のほうが多いぐらいだ。
 そして藤村さんと紅司は最近よそよそしい。 そう、恋人同士とは思えないほどに……
って元々私はあの二人を恋人同士だなんて認めてなかったけどね。

 そして待ちに待った放課後。 私は紅司に連れられやって来たのはある喫茶店。
 着いた席は少し奥の他の客からは離れた場所。 人目を避けるような位置取り、神妙な表情。
 いよいよ胸の鼓動がが高まってくる。
10Why Can't this be Love?  ◆tVzTTTyvm. :2006/10/22(日) 00:20:03 ID:GaVNhlod

 席につきお互い注文した飲み物も来た後紅司が口を開く。
「なぁ、どう思う? 最近のその……」
「どう、って?」
「最近の俺ってお前と会ってる時間多いよな」
「そうね、でも別に何の不思議も無いでしょ。だって私達幼馴染で誰よりも気心の知れた仲なんだから」
 私はにっこり笑顔で応える。
「でも俺には付き合ってる女の子がいる。
恋人の美嬉とよりもお前と会ってる時間が多いって不自然じゃないか?」
「見ようによっちゃそうとも言えるかもね。でも逆に考えられない?」
「逆?」
「そう、藤村さんと紅司が付き合ってる事の方が不自然だったって考えられない?
だから逆に一緒にいる時間が減ったのならそれは減るべくして減った自然な事なんじゃないの?」
「……何が言いたい?」
 心なしか紅司の声のトーンが少し下がったような気が……? まァ良っか。

 私は間を置かず口を開く。
「自然の流れに身を委ねたら?って事」
「自然な流れ?」
「そ。 藤村さんと過ごす時間が減ってるって言うのなら
それは無理して会う必要は無かったってことなのよ。
だったらこれ以上無理して会おうとせず流れに身を委ねたら?
それで終わる恋ならそこまでのものだったってことなのよ」
「そうだな……確かにこのまま流されたら終わっちまうな」
 其の言葉に私の胸は高鳴る。 そう、終わる。 でもそれは同時に始まりになる。
 私と紅司との!

 でも次に紅司が発した言葉は私の予想もしてないものだった。
「だけど俺はこのまま流されて終わりたくなんか無い。 アイツを……美嬉との繋がりを失いたく無い」
11Why Can't this be Love?  ◆tVzTTTyvm. :2006/10/22(日) 00:20:59 ID:GaVNhlod


   X    X    X    X


 俺の言葉を耳にした夕子の顔に困惑の色が浮かぶ。
「え……? な、何ヨそ……れ」
 そして夕子は振り絞るように震える声で言葉を紡ごうとした。
 胸が痛い……。 分かっていた事とは言え覚悟してたとは言え。
 だけど、覚悟を決めた以上はもう後には引けない。
 思えば俺は今まで逃げていた。 夕子も美嬉もどちらも傷つけたくなくって……。
 でも俺のそんな曖昧な態度が結果美嬉を傷つけた。
 どちらかしか選べないなら、どっちかを傷つけずにさけられないなら……。
 そして俺が選んだ答え。 それは――。

 そして俺は口を開く。
「気付いたんだ。 美嬉と疎遠になって気付いたんだ。 俺はアイツを失いたくない。
その為にこの流れを断ち切る。 だから夕子。 もう……俺のクラスに来ないでくれ……。
俺に会いに来ないでくれ」
「ちょ、ちょっと待ってよ……! なんで……? なんでそうなるの……?」
「分かってるんだろ? 美嬉が俺に対し疎遠な理由。 明らかにお前を意識してってこと。
そしてそれがアイツの誤解――」
「ご、誤解って何よ?!」
 夕子は俺の言葉を遮るように口を開いた。
「俺とお前が幼馴染以上の関係じゃないかって思われてるってことだよ」
「そ、それが誤解だって言うの? 間違ってるって言うの?! 幼馴染以上の関係?!
其の通りじゃないの?! だって私は紅司の事が好き! そして紅司も私の事が好き――」
「だった、だ」
 今度は逆に俺が夕子の言葉を遮るように口を開いた。

「え……? な、何よ……『だった』って」
「言葉どおりの意味さ。 確かにお前に対して女として好意を抱いてた時もあったさ。 だけど……」
「な……何よそれ……。 わ、私のこと好きなんじゃなかったの……?」
「好き、だった……だ。今俺が好きな女の子はお前じゃないんだ。俺が好きなのは、美嬉なんだ……」
「い、意味わかんないわよ? う、嘘でしょ……? ねぇ! 嘘だって言ってよ!
「嘘じゃない。 もう、とっくに終わってたんだよ。 俺の初恋も、お前の初恋も……」
「そ、そんな……! それは勘違いだったって……!」
「確かに切っ掛けは勘違いだったさ。 でもな、もう今更どうにもならない所まできてたんだ。
俺のお前に対する気持の踏ん切りも、そして美嬉に対する気持も……だから――」
 俺は伝票を掴み立ち上がると背を向ける。そしてそのまま振り返らず口を開く。
「じゃぁな」
12Why Can't this be Love?  ◆tVzTTTyvm. :2006/10/22(日) 00:22:21 ID:GaVNhlod


 そして席を立ち去ろうとする俺の背後でガラスの割れる音がした。
 其の音に反射的に振り向いた俺は言葉を呑んだ。
 見れば夕子の手にしていたグラスが割れ、そして夕子は其の割れたガラス片の中でも
一際大きな欠片を握り締めていた。 手からは真っ赤な血がぽたぽたと滴り落ちてる。
 俺は咄嗟に駆けよる。
「お、おい大丈夫か夕子――」
 言いかけた俺の言葉を遮るように夕子はガラス片を握り締めた手を突き出してきた。
 済んでのところで俺は避ける。
「ゆ、夕子……!」
 俺は夕子の顔を見て息を呑んだ。
 夕子の瞳には涙が滲み顔をくしゃくしゃにして泣いていた。

「どうしてよ……。 ねぇ紅司ぃ……」
 其の様子は明らかに尋常じゃなかった。
「お、落ち着け。 兎に角其の手に持ってるのを放せ。 先ず手当てし……」
 何とかなだめようと声をかけよとするが――。
「う、うあぁぁぁぁ!!」
 夕子は益々感情的にガラス片を手にした手を振り回す。
 振り回すたびに手から鮮血が振りまかれる。
 何とか取り上げやめさせたいのだがかわすだけで精一杯だ。
 この騒ぎに店の人たちも駆けつけてきたがどうする事も出来ず脅えたように困惑してる。

 やがて腕の勢いが弱まる。この隙に取り押さえガラス片を取り上げようと近づくが――。
 次の瞬間夕子は顔をあげ、そして其の目が合った瞬間背筋が凍りつく思いがした。
 その貌は泣いてるような笑ってるような、そんな狂気じみたものだった。
 そして夕子はガラス片を握った手を静かに持ち上げ――。
 次の瞬間まるで花が咲くように夕子の首から鮮血がほとばしった。

To be continued...
13 ◆tVzTTTyvm. :2006/10/22(日) 00:25:34 ID:GaVNhlod
ども、今回は白き牙じゃなくて久々にWhy Can't this be Love?でした

久しぶりすぎて自分でもどこまで書いたか忘れかけてました(ォィ
14名無しさん@ピンキー:2006/10/22(日) 00:46:07 ID:chpin9e+
GJであります!

鮮血が首から…((;゚Д゚)ガクガクブルブル  
15 ◆6xSmO/z5xE :2006/10/22(日) 01:03:22 ID:OjwCMoLw
いきなりすごい展開ですね。
とりあえず保管庫いってきます。読み返さないと・・・。


しばらく時間が経ったらブラッドフォースの続きを投下しようと思います。
では、まとめサイトへ行くとしますか・・・。
16 ◆6xSmO/z5xE :2006/10/22(日) 03:25:23 ID:OjwCMoLw
投下します。
17ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE :2006/10/22(日) 03:28:45 ID:OjwCMoLw
 翌日。
 今日こそは智が来ると確信し、藍香は魔法陣の中で待ち構えていた。
 一日置いたためか心も落ち着いており、昨日智が来なかったのはむしろ良かったのかも、とさえ思う。
 どんな形であれ互いに初体験なのだから、先輩である自分がリードしてあげなくてはならない。
 智の方から荒々しく乱暴にされるのも悪くないが、頼れる女性と思われたいという部分もあるのだ。
 待ち遠しいからか、いつもより時間が経つのが長く感じる。
 スカートをギリギリまでめくり、無意味に扇情的なポーズを取ってみたりもした。

 しかし、4時半を回っても智が現れる様子はない。
「・・・・・・・・・」
 試しに智のクラスに足を運んでみたが、数人の生徒がチラホラと残っているだけで、目的の人物の姿はなかった。
 藍香が学校内でまともに話せるのは智と綸音だけであり、人に聞くのもままならない。
 実際、藍香と目が合うと誰もが視線を逸らしてしまう。
 部室に戻り、先程までとは打って変わって寂しげな表情で佇む藍香。

 結局、6時を回って綸音が迎えに来るまで智が姿を現すことは無かった。
「高村先輩、今日もお休みだそうです。大丈夫なんでしょうか・・・」
 智と藍香、両方を気遣って言う綸音。
 そんな彼女に対し、藍香は昨日のように気丈に振舞うことが出来ない。
 2日間会わないくらい、智が吸血鬼になる前は当たり前のことだったのに。

(寂しいです、智くん・・・。早く私に会いに来て・・・)
 溢れそうになる涙を必死に堪えて、その日は帰路に付いた。


18ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE :2006/10/22(日) 03:30:59 ID:OjwCMoLw
 さらに翌日、午後4時。やはり智は姿を見せない。
 いくら何でもおかしいと、藍香も感じ出した。
 これで3日目、今日も血を吸わなければ過去最長の記録に並ぶ。
 智が何の病気かは知らないが、血の補給は彼にとって何にも代えて優先しなければならないことだ。
 今日こそは、病気を押してでも会いに来てくれると思ったのに。

 もしかして智は、自分に飽きてしまったのだろうか。
 それとも・・・・・・彼の事情を知り、喜んで血を提供する女でも現れたのだろうか。
 だからもう、藍香はいらない、と。

「・・・っ!」
 おぞましい、おぞましすぎる推論。
 胸を押さえ、藍香は魔法陣の中でうずくまった。
 喉が痛む。上手く息が出来ない。
 目が霞み、抑えきれない涙がこぼれ出す。

(そんなはず・・・ありません。智くんに限って・・・)
 智は優しい。
 血を吸う行為が藍香にとって、智を変えてしまったことへの贖罪であることも――勿論それは彼女にとって建前でしかないのだが――察している。
 そんな彼が、何も言わず藍香を不要にするなどありえない。
 負い目を利用するようでいい気はしないが、それも間もなく本当の愛に変わるから構わないと思っていたのに。

 結局その日も智が来ないまま綸音の迎えが来て、智の欠席を知らされる。
 それを聞く藍香の表情からは、綸音を以ってしても何も読み取れない。
 生気を失った面持ちの藍香に、綸音はそれ以上声を掛けることが出来なかった。


19ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE :2006/10/22(日) 03:35:02 ID:OjwCMoLw
 しかし、綸音が漏らした何気ない一言が藍香の心境を一変させることになる。


 それは智が現れなくなって4日目のことだった。
 登校した藍香は教室ではなくオカ研部室へ向かい、そこで一日中智を待っていた。

(智くん智くん智くん智くん智くん智くん智くん智くん智くん智くん智くん智くん智くん智くん智くん智くん・・・)

 ただひたすらに、恋焦がれる少年の名前を繰り返す。
 たった4日会っていないだけのことが、途方も無い長さに感じられる。
 実際、その4日が吸血鬼である智にとってどれだけ長いことかは言うに及ばずであり。
 それが分かるからこそ、藍香は自分の心が絶望に塗り潰されていくのを止めることができない。
 

 6時になって、部室に綸音が姿を見せる。
 バッと顔を上げた藍香の顔に一抹の期待がよぎったが、智でないと分かるとすぐに消えた。
 そんな藍香の様子に心を痛めながら、綸音は藍香に近づいていく。
「お嬢様・・・帰りましょう?」
 藍香の手を取り、力を篭めて立たせた。
 されるがまま引っ張られていく藍香に意思の光は見えず、ただ惰性で歩いていることが分かる。
 普段なら気にならない沈黙がやけに重い。
 何か話すことはないかと、綸音は必死で頭を廻らせる。
 そうして思いついた話題が、これだった。




「そういえば、今日2年の教室で聞いてきたんですけど。
 高村先輩と一緒に、幼馴染の折原先輩もずっと休んでいるんだそうです。
 だから、高村先輩がどういう状態なのか誰も分からないと・・・・・・」

 雰囲気に耐えかねて、滑らせてしまった言葉。
 綸音は千早と藍香の確執を知らない。
 互いに敵視しあっているとはいえ、直接的な面識はほぼ無いのだから仕方ないかもしれない。
 更に、綸音が恋愛沙汰には藍香以上に疎いということもあった。



 ――車に乗ってから屋敷の自分の部屋に帰ってくるまで、藍香の記憶はない。
 帰宅し、促されるまま部屋に戻っていった気はするが、はっきりしない。
 ただ、我に返った時には陽は完全に落ちており、周囲は真っ暗闇で。
 部屋は花瓶やら時計やら本やら鞄やら、物が無茶苦茶に散乱していて。
 激しい運動の後のように早鐘を打つ心臓を抱え、荒々しい息に肩をいからせ、藍香は独り立ち尽くしていた。

20ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE :2006/10/22(日) 03:38:15 ID:OjwCMoLw
--------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 次の日、藍香は部屋に閉じこもったまま出て来なかった。
 両親は滅多に家におらず、最も近しい綸音にも姿を見せないのでは、使用人たちもどうすることも出来ない。
 何より、下手に彼女の機嫌を損ねればどんな方法で仕置きされるか分かったものではないのだ。


 怒りの衝動が去ったことで心を守るものがなくなり、藍香は部屋にうずくまって震えていた。
 長すぎる智の病欠と、時を同じくして学校を休んでいる千早。
 この4日間、智がずっと千早と共に居たというのは、最早確信に近い推測だった。
 そもそも、同時に病気など都合が良すぎる。
 どうせあの女のことだ、『智ちゃんを放っておけないよ』などと恩着せがましいことを言って仮病でも使ったのだろう。
 智が動けないのをいいことに、好き放題しでかしているのかもしれない。

『食べさせたげるね? はい、あ〜ん』―――とか。
『眠れるまで手を握っててあげる』―――とか・・・。
『寝ちゃってる・・・よね? ちょっとくらい×××しても・・・』―――とか・・・!

「・・・っ!」
 瞬間的に怒りが臨界を突破し、またも唇を噛み切る。
 しかし、怒りは長く続かなかった。
 智がいつまでも学校に現れないことと、千早の欠席が重なっていること。
 それが、藍香にとって最凶最悪の推論を導き出してしまったから。

(智くんは・・・折原千早に全て話してしまったんですか・・・?)

 そう考えれば辻褄が合う。
 智が藍香を必要としなくなったのは、千早に全て話してしまったから?
 血を吸うなら、千早から吸えばいいと。
21ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE :2006/10/22(日) 03:42:30 ID:OjwCMoLw
「・・・・・・!!」
 衝動的にベッドに突っ伏し、呼吸を止める。
 光と酸素を断つ事で、網膜や脳裏に浮かぶイメージを消し去れるとでもいうように。
 しかし、考えるなと念じるほど鮮明に思い浮かべてしまうのが人の性。
 まして今の藍香の精神状態は、全てがネガティヴのベクトルへ傾いているのだ。
 最悪の想像だけが、加速度的に広がっていく。


(どうして・・・どうしてあんな女がいいんですか?
 女と呼ぶのもおこがましい、子供の身体じゃないですか。
 智くんは私の身体に興奮していたじゃないですか。
 あなたの目がいつも私のおっぱいに釘付けになっていたの、知ってるんですよ?
 あなたが望むなら、どんな風にしてくれてもいいのに。
 あんな貧相な女の何倍も気持ちよくしてあげますし、何倍もいろんなことをしてあげます。
 それでも足りなければ、一生懸命勉強しますから。
 人の身を脱したあなたを満足させられるのは、私の他にいないのに。
 いないのに。いないのに。いないのに。いないのに――――!!)

 そう、いないのに。
 智には藍香しかいない。
 それは、吸血鬼と化した彼自身が一番良く分かっているはず。
 藍香の狂おしいまでの恋しさと同じだけ、智も藍香に恋焦がれているはずなのだ。

 だから、今の状況は間違ってる。
 自然じゃない。おかしい。
 歪められている。


(歪められて、いる・・・? 誰に・・・?)

 ――決まっている。そんなこと、考えるまでも無い。

 藍香に会いに行こうとする智の意思を抑えられるとしたら、近しい幼馴染である千早くらいのものだ。
 彼女に行かないでと泣きつかれたら、智の性格からして断念せざるを得ないだろう。



(そういうこと、だったんですね? ごめんなさい、智くん・・・)

 あなたのことをほんの僅かでも疑った私を許してください。
 その代わり、いっぱいいっぱい尽くしますから。
 もう僅かな隙も見せません。
 あなたを奪おうとする者から、ずっと傍で守りますから。
 だから。


(もう少しの辛抱ですからね、智くん・・・・・・)



22ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE :2006/10/22(日) 03:47:57 ID:OjwCMoLw
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 次の日の朝、藍香の部屋の前には如何にして主に声をかけようかと悩む綸音、そして使用人たちがたむろしていた。
 いくら本人が頑なに拒もうと、神川本家の一人娘である藍香に何かあってはならないからだ。
 そして、いっそ強引に扉をブチ破ろうか、と綸音が考えかけた時。
 何の前触れもなく、扉が開いた。



「お嬢さ・・・ま・・・!?」

 驚きと歓喜の声は、しかし長く続かない。

 多少の憔悴が見えるのはまだいい。
 一日とはいえ食事も取らずずっと部屋に閉じこもっていたのだから、多少顔色が優れないのは仕方ないだろう。
 だがそんな顔色とは裏腹に、乱れた長い髪から覗く瞳はいつになく釣り上がり、獰猛にギラ付いた光を放っていた。
 いつも眠たそうに半開きになっている様子からは想像も付かない。

 ドサッ・・・

 藍香の瘴気にあてられたのか、メイドの1人が気を失って崩れ落ちた。
 霊感の無い者をも震え上がらせるような激しい‘気’に、他の使用人たちも蒼い顔で脂汗を流している。
 そんな彼らに一瞥をくれることもなく、藍香は綸音に一言話すと歩き出した。

「えっ、学校に行く・・・? はっ、はい! すぐに準備を致します!」

 硬直から脱し、綸音は駆け足で主の後を追う。
 特に早く歩いているわけでもないのに、なぜか藍香の背中は遠かった。

23ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE :2006/10/22(日) 03:51:24 ID:OjwCMoLw

 登校するや否や、藍香はすぐさま部室に閉じこもる。
 憎悪に駆られた藍香の精神は、思いのほか冷静だった。
 いや、冷徹と言うべきか。ただ一つの目的を、確実に果たすために。

 力ずくで智を千早から引き離せばいいというものではない。
 千早が傷つく分には一向に構わないが、そんなことになればたとえ自分を縛っていた女だろうと智は気に掛けてしまうだろう。
 下手をすれば、智の心に他の女という名の消えない傷を残すことになる。
 そんなこと、絶対に許せない。

 頼れるのは己の能力のみ。呪術に通じた自分の力だ。
 精神を狂わせてやろうか。そうしたら山奥の精神病院でも紹介して、そこに永遠に押し込めてやろう。
 智には『遠くの地で回復しながら元気にやっている』とでも伝えればいい。
 そうすれば彼も安心して、時間と共に記憶も薄れていくだろうから。
 その跡を、ゆっくりと自分だけの色に塗りつぶしていこう。

(うん、悪くないわ・・・。でも・・・)

 呪いにはリスクが付きまとう。
 単なる失敗ならいいが、最悪術者に効果が跳ね返ってくるかもしれない。
 その危険性は高度な術ほど高く、精神を破壊する術など最たるものだ。



 それに――。

(また、あの時みたいなことになったら・・・)

 千早への呪いのはずが、どういうわけか智を吸血鬼に変えてしまったあの日。
 結果的に智の変貌は藍香にとって喜ばしいこととなったが、それは奇跡的な偶然に過ぎない。
 あの時の轍を踏むわけには、もういかないのだ。

 あらゆる可能性、経過、不安材料、効果、全てを極限まで吟味し。
 確実に、智をこの手に取り戻す。

24ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE :2006/10/22(日) 03:53:45 ID:OjwCMoLw
 ―――その執念が、運命をも手繰り寄せたのかは定かではない。



 翌日、智が姿を現さなくなって1週間。
 時間は9時に差し掛かり、1限目の授業が始まったころ。
 定位置である魔法陣の真ん中に座り、分厚い本を貪るように読んでいた藍香が、人の気配を感じて面を上げた瞬間。

 バァンっ! 

 凄まじい音を立てて、乱暴にオカルト研究会の扉が開け放たれ。
 誰が見てもはっきりと分かるほどの驚愕の表情と共に、藍香は目を見開いた。

「・・・・・・!!」


 痩せこけた頬。
 荒く吐く息。
 ボサボサに乱れた黒い髪。
 ルビーの如く輝く赤い眼。


 見紛うはずもない。
 そこに立っていたのは、高村智。
 人の理を外れてでも、と求めた愛しい少年の姿だった。
25ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE :2006/10/22(日) 03:55:41 ID:OjwCMoLw
 今回はここまで。えらく長くなりましたが、ようやく主人公が再登場しました。
 ここまでの展開は、おそらく大方の予想通りだったのではないかと。
 次回は予想をいい意味で裏切る展開に・・・・・・・・・なるといいなぁ。
26 ◆gPbPvQ478E :2006/10/22(日) 06:24:45 ID:w9gEuq+u
投下します。外伝最終話です。
27怪物妹豊胸記(後編) ◆gPbPvQ478E :2006/10/22(日) 06:26:13 ID:w9gEuq+u

 姉のことが大好きだった。
 綺麗で、優しくて、ちょっぴり抜けてて、とても強い。
 昔から尊敬していたし、姉のようになりたいと思っていた。
 
 でも。
 姉に対して一番強い思いは何かというと。
 
 それは親愛や尊敬などとはかけ離れていた。
 
 罪悪感だった。
 
 
 
 生まれが少々特殊なこともあり、自分たち姉妹はまっとうな生活は期待できなかった。
 でも、私は7つになるまで、普通の女の子と何一つ変わりない生活を送ることができていた。
 それは、姉が犠牲になってくれたから。
 私の分も頑張ると、村の諜報員養成課程に自ら志願していたそうだ。
 親や親戚もいない、助けてくれる者もいない姉妹が、不自由なく生活するできたのは。
 姉が、自らを犠牲にしていたからだった。
 
 私がそれを知ったのは7つのとき。
 生活環境からか、早熟だった私は姉に対して罪悪感を覚えてしまった。
 それは私の心を蝕み、姉と顔を合わせることすら辛くさせた。
 
 そんな罪悪感から逃れるため。
 私は――私も、諜報員養成課程に志願した。
 
 
 
 それから7年。
 血反吐を撒き散らす辛い訓練にも慣れてきて。
 
 でも、姉と顔を合わせるたび。
 罪悪感から、逃れられなかった。
 
 姉が私のために身を削っていたのは過去のこと。
 今は立場も対等だし、私も少なからず姉のことを助けているはず。
 だから、負い目を抱く必要はないし、大好きな姉に堂々と胸を張ればいい。
 なのに。
 
 
 どうして私は。
 心苦しさなんて、覚えているのか。
 
 
 
 
 
28怪物妹豊胸記(後編) ◆gPbPvQ478E :2006/10/22(日) 06:26:49 ID:w9gEuq+u

 夜の海岸にて。
 セツノは、混乱していた。
 
 泥棒猫、と言われた。
 私、猫さん?
 猫耳なんて生えていないのに。
 ごろにゃん、と鳴いたりしないのに。
 
 だいたい、私が、何を盗んだというのか。
 
 いきなり砂浜で出会った女性の手荷物を勝手に拝借するほど落ちぶれてはいない。
 さりとて、以前に目の前の女性と会った記憶もなければ、物を盗んだ記憶もない。
 では、何故、泥棒猫だなんて言われなければならないのか。
 
 話の流れを思い出してみる。
 
 恋愛相談→何故か相手の男の名前を確認される→いきなり泥棒猫。
 
 はて。
 これでは、まるで――
 
「……お姉さん、おに――ユウキさんのこと、知ってるんですか?」
 
 恐る恐る、訊ねてみると。
 
「知ってるも何も、ボクとユウキは5年来の深い仲だよ」
 えへん、と薄い胸を張って答えられた。
 やばい。
 かなりやばい。
 知らない人だと思って色々喋ってしまったが、まさかユウキの知り合いだったとは。
 不幸中の幸いか、重要な情報は漏らしていない。
 が、それでもユウキに対する想いは知られてしまった。
 噂になってしまったらどうしよう。
 ユウキが弁当の蓋を開くたび、同僚が興味深げに覗き込んできたり。
「それって噂の可愛い彼女が作ったんですか」って言われてユウキが慌てたりだとか。
 いつの間にか職場ではセツノが彼女ということが定説になっていたりだとか。
 で、「もう皆を誤魔化すのは無理だ。いっそのことセツノちゃん、僕と(以下自主規制)
 やだ、お兄さんったら……そ、そんなことまで……恥ずかしい!
 でもお兄さんが相手なら、嫌じゃないし……むしろ、私……頑張る……!
 
「……ちょっと、キミ、何ニヤニヤしてるのよ?」
 
 いけない。頬が緩んでしまっていた模様。


29怪物妹豊胸記(後編) ◆gPbPvQ478E :2006/10/22(日) 06:27:35 ID:w9gEuq+u

 頭をぶんぶんと振って、邪な考えを振り払う。
 ……この妄想の続きは、寝る前に布団の中ですることにして。
 とりあえずは、目の前の問題である。
 
「……泥棒猫って、どういうことですか。
 お姉さんは、別にユウキさんと付き合ってたってわけじゃありませんよね?」
「う。……それはー、確かにー、そうだけどー……。
 でもでも、私の方がユウキと長い付き合いなんだから、優先権はこっちにあると思うんだけど!」
「……長い付き合いなのに、一線を越えたことはないんですか?」
「ぐは!? ……なにげにキツイね、キミ」
「人のことを泥棒猫だなんて言う人に言われたくありません」
「ま、まあそれはそれとして!
 横からかっさらわれて黙りっ放しってのは、ボクの性に合わないんだいっ!」
 
 ずびし、とセツノのことを指さして。
 
「ボクと――サラ・フルムーンと勝負しなさい!
 で、ボクが勝ったら、ユウキからは手を引いて!」
 
 そう、言ってきた。
 というか、付き合っているのは自分ではなく姉なのだが。
 
「……ん? サラ?」
 
 どこかで、聞いた覚えがある。
 確か――そうだ、ユウキの同僚で、そんな感じの名前の人がいたはずだ。
 ユウキ的にはそれなりに仲良くしている相手らしく、姉のブラックリストに載っていたはずだ。
 ……そうか、この人だったのか。
 姉ほどではないが、目鼻も整っているし、快活で気さくな美女である。
 こんな人と、一緒に仕事してるんだ……。
 ちくり、と何故か胸の奥が痛んでしまう。
 
「……勝負って、何をするんですか?」
 
 しかし、敢えて痛みを無視し、セツノはそう訊ねることにした。
 武器を用いた格闘や、語学力の勝負だったら自信はあるのだが。
(……って、勝負することを前提に考えてどうするのよ私)
 サラがユウキを賭けて自分と勝負をするのは間違っている。
 勝負するとすれば、その相手は姉のはずだ。
 
(……私は、そもそも、対象外なんだし……)
 
 そう思うと、目の前の女性が羨ましくなる。
 別にユウキと特別な仲ではないのだろうが、
 
 それでも、ユウキを巡って、姉と同じ土俵に立つことができる。
 すごく、羨ましかった。


30怪物妹豊胸記(後編) ◆gPbPvQ478E :2006/10/22(日) 06:28:30 ID:w9gEuq+u

 この人は、姉と対等になれるのだ。
 別に特殊な訓練を受けているわけでもなく、特異な才能があるわけでもないのに。
 私と違って。
 姉と、向き合うことができるのだ。
 
 私とこの人の、何処が違うというのだろうか。
 
 
 
 
 
「勝負方法は……えっと……」
 
 サラは、悩んでいた。
 おもむろに「勝負!」と挑んでみたものの、何で勝負するのかまでは考えていなかった。
 というか、マジでどうしよう。
 
(私が勝てそうなものといったら……何だろう?)
 
 料理はダメだ。あのお弁当を見る限り、逆立ちしたって勝ち目はない。
 学問はどうだろう。自信はあるが、年下の女の子にそれで挑みかかるのはちょっとアレだ。
 ならば喧嘩の基本、徒手格闘は――
 
(……こーゆー荒々しい考え方だから、武闘派とか言われちゃうんだよね……)
 
 ちょっぴり悲しくなってきた。
 まあそれはそれとして。
 徒手格闘は、少し危うい気がする。
 目の前の少女、見た目は可憐な美少女だけど――その立ち居振る舞いが、妙にしっかりしている。
 隙がないのだ。そこに打ち込めば勝てる、という確信が欠片も得られない。
 
 では、どうすればいいのだろうか。
 公平であり、勝つ自信があるもの。
 
(どれだけユウキのことが好きか……これなら、勝てるかも。
 学院にいたころだって、ユウキのことを溺愛してた先輩と、何とか張り合ってたわけだし)
 
 これだ。
 これしかない。
 どうやって比べるのか、とか、そんな細かいことはどうでもいい。
 ユウキのことが好きだという気持ち。
 これだけは、決して、負けてはいけないものなのだから。


31怪物妹豊胸記(後編) ◆gPbPvQ478E :2006/10/22(日) 06:29:28 ID:w9gEuq+u

 だから。
 気付いたときには、こう叫んでいた。
 
「どっちの方が、ユウキのことが好きか、勝負よ!」
 
 冷静に考えてみれば。
 勝負のしようがない、素っ頓狂な提案だったが。
 何故か少女は、はっとしたように顔を上げて、こちらを呆然と見つめていた。
 
 ……あ、あれ?
 その反応は予想外というか……。
 何故に、泣きそうな顔をしているのかな、このお嬢さんは?
 
 
 
 
 
 ――ユウキのことが好きか。
 
 それを聞いたとき、がつん、と頭を殴られたような気がした。
 ……自分は、ユウキのことをどう思っているのか。
 姉の恋人?
 姉の協力者?
 姉の理解者?
 色々なものが浮かんでくる。
 しかしそれらの頭には、全て“姉の”が付いている。
 姉の関係者としてならば、ユウキは非常に貴重な存在だろう。
 それは否定する気など無いし、できればずっと姉と関わっていて欲しいとも思う。
 姉が大事に思っている人なのだから、素敵な人なのは当然だし、悪い人のはずがない。
 そう、思っていた。
 あくまでユウキとの関係は姉あってのものであり、彼のことを姉の関係者としてしか見ていなかった。
 ならば。
 姉のことを考えずに。
 セツノ・ヒトヒラ個人として。
 ユウキ・メイラーのことを、どう思っているのだろうか。
 
 
 ――思い出すのは、昼間の気持ち。
 
 
 素敵いですね、と褒めてくれた。
 とても、嬉しかった。
 顔を合わせられないくらい嬉しくて、海の中でばしゃばしゃと暴れてしまった。
 あの気持ちは、本物だ。
 ユウキに褒めて貰うと、嬉しい。
 もっと褒めてもらいたい。
 褒めてもらうために、色々なことをしてみたい。
 
 これって、“好き”でいいのかな?

32怪物妹豊胸記(後編) ◆gPbPvQ478E :2006/10/22(日) 06:30:08 ID:w9gEuq+u

 だとしたら、自分は間違いなく、ユウキのことが好きである。
 ユウキのために美味しいご飯を作りたいし、それを褒めてもらいたい。
 ユウキに自分の可愛い姿を見て欲しいし、やっぱりそれも褒めてもらいたい。
 この気持ちは紛れもない本物だし、我慢するのもきっと無理。
 
 ――でも、ユウキは姉の恋人。
 
 だから、自分は譲るべき。
 譲る? 何を?
 この気持ちを、我慢する――
 
 ――そんなの、イヤだ。
 
 一度意識してしまえば、もう止めることは不可能だ。
(私は、お兄さんのことが、好き)
 
 きっと、“好き”という気持ちだけなら。
 自分は、姉には負けていない。
 なのに、なんで、譲らなければならないのか。
 
 
 
 それは、姉に対して、罪悪感があるから。
 自分は、姉に負い目があるから、できるだけ、姉に譲らなければ。
 姉は、自分のために頑張っていたのだから、自分も、その分、頑張らないと。
 姉のために。姉のために。姉のために。大好きな、姉のために――
 
 
 
 本当に?
 
 
 
 姉のために諜報員を目指して。
 姉のために好きな人を諦める。
 
 
 嘘だ。


33怪物妹豊胸記(後編) ◆gPbPvQ478E :2006/10/22(日) 06:30:53 ID:w9gEuq+u

“姉のため”?
 なんて都合のいい言葉だろう。
 それをくっつけるだけで、
 
 全部、姉のせいになってしまう。
 
 諜報員になるために、味わう全ての苦痛は、姉のせい。
 好きな人への想いを押さえ込まなければならないのも、姉のせい。
 
 なに、それ。
 姉のことが大好きなくせに。
 全部、姉のせいにしていた。
 
 最低だ。
 責任転嫁も甚だしい。
 
 
 
 諜報員を目指したのは、姉と離れたくなかったから。
 姉が特殊な境遇に身を窶しているのを知った幼い自分。
 そのとき覚えたのは罪悪感なんかじゃない。
 
 ――姉に置いてけぼりにされたような、孤独感。
 
 大好きな姉と、同じ道を歩みたかったから。
 大好きな姉と、ずっと一緒にいたかったから。
 だから、諜報員を目指したのだ。
 
 でも、訓練は辛く苦しくて。
 それを、姉のためと自分に言い聞かせることで、乗り越えてた。
 本当は姉と一緒にいたかったからなのに。
 姉のため、と嘘を吐いて、ただ姉にすがっていただけ。
 
 セツノは、自分が抱き続けてきた罪悪感の正体に、気付いた。
 
 それは、姉が諜報員への道を選んだことに対してではなく。
 自分が、ずっと姉を“言い訳”にしてきたことに対してだった。


34怪物妹豊胸記(後編) ◆gPbPvQ478E :2006/10/22(日) 06:32:58 ID:w9gEuq+u

 ユウキのこともそうだ。
 彼への想いを露わにして、それが原因で避けられるのが怖かった。
 だから、ただ尽くすだけで、彼は姉のものと自分に言い聞かせていた。
 姉のせいで、自分は素直になれないのだと思おうとしていた。
 こんなの、ずるい。
 
 自分は自分。
 姉は姉。
 そんなことにすら気付かずに、ここまで来てしまっていた。
 
 
 ――改めて、自分に問いかけてみる。
 
 ユウキさんのことは、好き?
 ……うん。好き。大好き。優しいし、暖かい。できれば、ずっと一緒にいたい。
 姉さんのことは?
 ……姉さんのことも、好き。でも――
 でも?
 ……姉さんにだって、ユウキさんは、渡したく、ない。
 なら、どうするの?
 ……私も、戦う。私と姉さん、どっちも条件は同じだもん。
 
 私だって、同じ土俵で、戦えるんだから。
 姉さんと、向かい合っていけるんだから。
 
 
 もう、的外れの罪悪感なんて覚えない。
 姉のせいにはしない。
 全部自分で背負う覚悟をして。
 ――今の気持ちを、貫こう。
 
 
 
 私は、ユウキさんのことが、好き。
 この気持ちは、誰にも負けない。
 
 
 
「わかりました。その勝負、受けます」
 
 だから。
 サラの申し出に対し。
 セツノは、決意を秘めた表情で。
 そう、答えていた。


35怪物妹豊胸記(後編) ◆gPbPvQ478E :2006/10/22(日) 06:34:02 ID:w9gEuq+u
 
 
 
 
 
 ユメカとの3回戦も終わり、ユウキは気怠い満足感に身を浸していた。
 と。
「……?」
 何やら、廊下の方が騒がしい。
 どたどたどた、と慌ただしい足音が聞こえてくる。
 それは、だんだんこちらに近付いてくる――と思ったら。
 
 ばん、と勢いよく扉が開け放たれた。
 
 全裸になっていたユウキは慌ててシーツを体に巻き付け、扉の方に視線を向ける。
「せ、セツノちゃん!?」
 そこには、何やら決意した表情の、セツノがいた。
 セツノは、ユウキの鎖骨や首筋を見て少々赤面した後、視線を逸らすようにユメカを見据える。
 
「――姉さん!」
 
 その声は。
 いつものセツノのものとは異なり、強い意志を感じさせた。
 
 それに何か感じるところがあったのか、ユメカは真剣な表情でセツノを見返す。
「どうしたの、セっちゃん」
「姉さんに、言いたいことがあるの」
「……相談事、じゃないよね」
「うん。もう、私、我慢しないことにしたから」
 
 そして、セツノは再びユウキに視線を向ける。
 何故かその頬が赤く染まる。しかし、視線は逸らされない。
 
 
「私――お兄さんのことが、好き!」
 
 
「「……え?」」
 ユウキとユメカの、呆然とした声が同時に響いた。


36怪物妹豊胸記(後編) ◆gPbPvQ478E :2006/10/22(日) 06:34:45 ID:w9gEuq+u

「姉さんがお兄さんのこと好きなのはわかってる!
 でも、私だって、好きなの! 大好きなの! だから――」
「だ、ダメダメダメっ! ユウキさんは私のなんだからね!
 セっちゃんにはあげません! ダメです! 禁漁です!」
 
 慌ててユウキを隠すように間に入るユメカ。
 しかし、セツノは怯まない。
 もう、決めたのだから。姉と、対等になる、と。

「そんなのずるい! ――お兄さんは私のこと、嫌いじゃないですよね……?」
「へ? そ、それは当たり前ですが――痛ッ!?」
「ユ・ウ・キ・さ・ん? ユウキさんは私の方がいいですよねー?」
「痛い! つ、潰れちゃ、あふぅ!?」
「ちょ、姉さん、脅すの禁止! 握りしめるの禁止!」
「禁止じゃありませーん! これは私のー!
 どうすれば気持ちよくなるかも、私が一番知ってるんだから!」
「あ、ちょ、揉まな、いで……」
 
「それじゃーユウキさん! これから4回戦です!
 一緒にいっぱい、気持ちよくなりましょうねー。……ふふ、もう硬くなってきた」
 
 シーツの内側でもぞもぞと蠢くユメカの手。
 その主は、己の勝利を確信して、にまにまと笑みを浮かべていた。
 
「というわけで、これから私たちは愛の営みをするの。
 だから、お子様は席を外して――」
 
 しかし、その笑みは、すぐに驚愕で打ち消されることになる。
 
「ちょ、セツノちゃん!?」
 ユウキが驚きの悲鳴を上げる。
「せ、セっちゃん!?」
 同じくユメカも、信じられないものを見る目で、己の妹を見つめていた。
 
 
 セツノが、服を、脱いでいた。


37怪物妹豊胸記(後編) ◆gPbPvQ478E :2006/10/22(日) 06:36:08 ID:w9gEuq+u

「わ、私だって、私だって!」
 声は震えていて、目は涙がにじみ、頬は紅潮していた。
 下着がはらりと床に落ちる。
 一部を手で隠しただけで、姉とその恋人に相対する。
「お兄さんのこと、きもちよくできるんだから!」
 
 やばい、とユウキは思った。
 セツノは本気だ。下手に刺激したら、取り返しの付かないことになってしまう。
 兎に角この場は無難に収めて、事態の沈静化を図らねば――
 
「わ、わかりました、セツノちゃんの気持ちは伝わりましたから、だから」
 服を着てください、と言おうとしたところで。
 
「ぜっっっっっったいに、ダメーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」
 
 空気を読めない姉が、大絶叫をかましていた。
 
「ダメじゃない! 姉さんこそずるいよ! ずっとお兄さんを独占して!」
「ずるくないもん! ユウキさんは私のだもん! だから、えっちなこといっぱいしてもいいんだもん!」
「姉さんのだなんて決まってない! ――だから、私がしたっていいはずだよ!」
 
 言うなり。
 セツノは、2人の間に飛び込んできた。
 
 その表情に憂いは欠片も含まれておらず。
 姉と対等に張り合える喜びに、溢れていた。
 
 ふよん、と柔らかい感触がユウキの素肌に押しつけられる。
 
「――むー! それならセっちゃん! 勝負よ!」
「望むところ! 姉さん、話がわかる!」
 
「え? ちょっと待ってください。勝負って――」
 
 
「「どっちの方が気持ちよくさせられるか、勝負!」」
 
 
 姉妹の声が重なった。
 後はそのまま雪崩の如く。
 2人の美少女が、ユウキの体に襲いかかる。
 
 
「そんな、こ、これじゃあ、に、2倍ーッ!?」
 
 
 ユウキの悲鳴が、宿に響いた。
 その後どうなったのかは、神のみぞ知る。


38怪物妹豊胸記(後編) ◆gPbPvQ478E :2006/10/22(日) 06:37:08 ID:w9gEuq+u
 
 
 
 
 
 
 
 
「……えーと?」
 
 深夜の砂浜にて。
 わけもわからず呆然としていたサラは、夜風に肩を震わせる。
 先程勝負を挑んだ少女は、もういない。
 おもむろに「決戦を仕掛けてきます!」と宣言し、そのまま走り去ってしまっていた。
 もし彼女が戻ってきたら、どんな勝負方法にすべきだろうか。
 などと考えながら、ぼんやりと夜の海を眺めていた。
 
 重い溜息を吐いて、サラは砂浜に腰を下ろす。
 もう30分待って戻ってこなかったら、部屋に戻ろう。
 波の音が、サラを優しく包んでいた。
 
「――あの子、どこ行ったのかなあ」
 
 
 
 強姦してるだなんて、一体誰が想像しようか。



39 ◆gPbPvQ478E :2006/10/22(日) 06:38:41 ID:w9gEuq+u
胸は胸でも、度胸を付けたというお話でした。
妙な遠慮さえなくなってしまえば、後はやっぱりユメカの妹、奮戦してくれることでしょう。
これにて一区切り、ということで、外伝は完結とさせていただきます。
読んでくださった皆様には、心より感謝申し上げます。
そして、14スレ1氏のリクエストと少しずれてしまったことに、深くお詫び申し上げます。
……ユメカメインのつもりだったんですが……セっちゃんが……セっちゃんが……!

あとは、本編最終話。
明日(今日?)の深夜(25時前後)に投下できると思います。
こちらも楽しんでいただければ幸いです。

>>1
乙!

>>13
久しぶりGJ!
なんだか凄くドキドキしてきたんですが……! これが……恋?

>>25
GJ! 妄想する先輩が素敵です。
でもメイドさんもなにげに好きです。
40名無しさん@ピンキー:2006/10/22(日) 06:50:33 ID:/Sb3PAFj
仕事終わりに来てみればリアルタイム怪物姉妹イェア!!GJ!!
>>39
外伝お疲れ様でした。もう、なんて言ったら良いのか・・・・www

とりあえず本編完結に向けて夜勤休みましたので、お義父さん、白を俺にください。
41名無しさん@ピンキー:2006/10/22(日) 07:32:13 ID:hSgTZ6bk
朝起きたら新スレ立ってて怪物姉妹も投下されててヒャホイ。

>>39
セっちゃん(*´∀`)カワユス。本編では姉の存在感で霞みがちだった分、イイ補完になったかと。
しかしユメカ、出番が最後の方しかないのに言動が目立ちまくり。「禁漁」にワロタ
そして何よりサラの報われなさっぷりが……(ノ∀`)

で、いよいよ本編も完結ですか。ログ漁ってみると開始が6月3日。
優に4ヶ月を越えた連載が終わるとあって、読んでるだけのこちらにも万感の思いが。
ともあれ存分にwktkして待たせてもらいます。
42名無しさん@ピンキー:2006/10/22(日) 09:58:01 ID:chpin9e+
>>25
GJ!藍香先輩の嫉妬心が沸点に達した所で飛び込んでくる主人公もGJw

>>39セッちゃんかわいいよセッちゃん(*´д`*)ハァハァ 
43名無しさん@ピンキー:2006/10/22(日) 10:54:20 ID:eA2ZMesp
いやっほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
44名無しさん@ピンキー:2006/10/22(日) 12:42:54 ID:16SRh0qP
新スレ>>1乙連続投下キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
>>13
GJ!ついに幼馴染みのヤンデレモードが発動するのか!?
>>25
藍香先輩瘴気オーラ可愛いよ瘴気オーラ(*´д`*)ハァハァ
>>39
怪物姉妹の素晴らしさを十分堪能できて幸せすぎるぜ!サラセツナ(´・ω・`)ス
そして本編完結の言葉を見ると切なさと感慨深さが込み上げてくる……
45名無しさん@ピンキー:2006/10/22(日) 12:57:08 ID:XgLayBTe
投下しますよ
46『花束』二本目:2006/10/22(日) 12:58:35 ID:XgLayBTe
 下駄箱を開けると、いつものように大量の手紙が入っていた。中にはプレゼントらしい
紙袋も幾つかある。これも見慣れた光景なので驚きはしない、一年生の頃から殆んど毎日
見ているので既に日常の一部になってしまっているのだ。自慢じゃないけれど、こんなの
は日々の暮らしのスパイスにもなりはしないのだ。
「イッちゃん、今日もモテモテだね」
「そんなに良いもんじゃないよ」
 そう、良いもんじゃない。確かにボクはモテるけれど、それは女の人に対してだけで、
男からは見向きもされないのだ。その証拠とでも言わんばかりに、下駄箱の中の便箋や袋
は殆んどが可愛いらしい色遣いのものばかりだ。数少ない例外もあるけれど、それはお店
の紙袋だったりする程度、袋を開ければ中身は人気のお菓子だったりする。つまり、どこ
までも女の子尽くしなのだ。
「おかしいよね、ここって共学だし男女半々なのに」
「まぁまぁ、気にしないの。イッちゃん格好良いからすぐに恋人出来るよ」
「いいんだよ、女の子らしくないって分かってるから。どうせ一生『デカ女』とか呼ばれ
て暮らすんだ。男も知らないまま、恋人は右手ですって言うんだよ」
 簡単にその光景が想像できて、目頭が熱くなる。
 それもこれも、この身長と凶悪な目付きが悪いのだ。さっき自分で『デカ女』と言った
けれど、実はネタに出来る程には高くない。先日あった身体測定では172という文字を見た
けれど、ちょっと大きいという表現で済ませることが出来る。
47『花束』二本目:2006/10/22(日) 12:59:49 ID:XgLayBTe
 しかしこれにボクの目付きというものが加わってくると、話は変わる。鋭いなんてもの
じゃない。世の中全てに喧嘩を売ってます、その証拠についさっきも人を殺してきました
が何か問題でも? と言っても簡単に信じてもらえる程に悪いのだ。そのせいで威圧的な
外見になっていて、その結果『デカ女』と呼ばれても反論出来ない不憫な娘が出来上がる
のだ。実際、皆と行った温泉旅行の写真を見たときに思わず、「こりゃない」と自分で呟
いてしまった。
 でも本当に結婚も出来なかったら、
「嫁に貰ってくれるよね?」
「え? あー、うん」
 ミズホに言ったら目を反らされた。
 でも取り敢えず了承の返事は貰えたから良いのだろう。
 複雑な気分で手紙やプレゼントをガバンに入れる。好物のクッキーがその中にあること
を喜びながら全てを取り除くと、漸く上履きが見えた。日に日に増してゆくこれらはいつ
か収まりきらなくなるんじゃないだろうか。
 そう考えながら靴を取り出して床に置いたとき、妙なものが見えた。
「……何をしてるんですか?」
 サオリ先輩が床に這いつくばっている。しかも超至近距離、ボクの足元で。
「いや、気にしないで靴を履いてくれ。わたしは靴を履く無防備な瞬間を狙ってスカート
の中を覗こうとしているだけだ、何も問題ない」
 問題ありすぎだ、こんなオープンな変態になるといっそ清々しくさえ思えてくる。
 しかし、
「残念でした、下には短パン穿いてます」
48『花束』二本目:2006/10/22(日) 13:02:04 ID:XgLayBTe
「邪道だ!! 日常の中のパンチラシーンをどこで楽しめば良いんだ!?」
「変態は人間として邪道ですよ!!」
 もう、これはどうすれば良いのだろう。
「ふふふ、しかしこれも想定内だ。こうすれば問題ない!!」
 そう言うとサオリ先輩はスカートの中に頭を突っ込んできた。確かにこうすれば短パン
の隙間からパンツは見えるだろうけれど、人間としての尊厳を捨ててまで見たいものなの
だろうか。周りの生徒たちも変な目でボクらを見てきているし、ミズホに至っては何故か
他人のふりをしている。それでも待ってくれているのは、せめてもの気遣いなのだろうか。
どうせなら助けてほしいけれど、どうやらそんな様子もない。あまりの展開にボクを救う
よりも逃避を選んだらしい。多分、ボクでもそうするだろう。手を出せない、と言うより
も手を出したくない。
 仕方なく諦めることにして、ボクは吐息を一つ。
「もう、好きなだけ見て下さ……太股を掴むなぁ、この、このっ!!」
「あぁっ、イツキ君の足がわたしの頭を踏んでいるっ。もっと激し……ちょっと待つんだ
これ以上は無理無理痛ぁァッ」
 許容範囲外のことに思わずサオリ先輩の頭を踏んだり蹴ったりしてしまったけれども、
大丈夫だろうか。視線を下げてみれば、何故か幸せそうな顔をしてぐったりしているので
大丈夫だろうと判断して踵を返す。
 ミズホの隣に並ぶと、苦笑いを向けてきた。
「大変だったね」
「大変だったよ」
 本当に。
49『花束』二本目:2006/10/22(日) 13:02:53 ID:XgLayBTe
 教室は全て二階以上にあるので、階段を上っていると様々な人と擦れ違う。カップル率
が九割を越えているこの学園では殆んどが男女の組み合わせなので、通り過ぎる度に少し
羨ましいと思ってしまう。こうして歩くことが出来たならどんなに良いだろう、どれだけ
楽しいのだろう。そう思いながら歩いていると、いつの間にか教室に着いていた。
「おはよ、イツキ」
「おは、イッチ」
「おはよう、イツリン」
「うっす、イツ」
 皆が挨拶をくれるけれど、
「女ばっかりかぁ」
 男子が挨拶をくれることはない。意識して気付いた新たな真実に、溜息が出てきた。
 席に着くと、鞄から手紙やプレゼントを取り出す。その中の一つ、クッキーを食べつつ
一つ一つ目を通してゆく。これもいつも通りのこと、せっかくくれたものを捨てて無駄に
することは出来ない、それは失礼だと思う。手紙は相変わらず一年生が多い、中には熱心
に何度も出してくれる娘も居る。ファンのようなものだろうか、こうした娘が居てくれる
のは少し誇らしくもある。
「イッちゃん、クッキー残ってる?」
 前の席に座っているミズホが振り向いた。どうやら予習は終わったらしい。ボクは空に
なった袋を見せた、好物なのでいつもすぐに食べきってしまう。大体、ミズホは三日前に
ダイエットを始めていたような気がするのに、こんなカロリーが高いものを食べても良い
のだろうか。いや、良くない。なのに次の獲物を探そうと紙袋を楽しそうに見ているのは
どういった了見なのだろうか。
50『花束』二本目:2006/10/22(日) 13:04:24 ID:XgLayBTe
 心の中でごめんね、と思いながら、
「太るよ?」
 一言。
 思ったよりキツかったらしい。たった三文字、平仮名にして更に記号まで合わせたとし
ても片手の指で収まってしまう言葉でミズホの動きが止まった。やはり心の奥底では気に
していたんだろうか。気持ちも分からなくもない、ホクだって気にしていることだ。
「だから、ね? 甘いものは控えて、運動を」
「イッちゃん」
 ミズホはそれだけ言うと、黙って手を伸ばしてきた。向かう先は……不味い!!
「タプタプですなぁ? これは乳ですか? いいえ、二の腕です。」
 なんてことを言うんだ、最近ヤバくなってきたのを気にしていたのに!!
 そんなことを思いながらも次の紙袋に延びる手が恨めしい。駄目ぇッ、こんなこと駄目
なのに、手が止まらないのおっ!! この甘い誘惑が、ボクの欲望が、勝手にボクの手指を
動かしちゃうのぉッ!!
 なんて下らないことを考えながら『極楽日記』の新作らしいチョコケーキに手を伸ばす。
もうカロリーなんて知ったことか、今日の体育でその分体を動かせばきっと大丈夫。動け
ばその分痩せるとボクは信じている。
 ほろ苦い味を楽しみながら最後の手紙を開いた。チヨリちゃんからのものなので、後に
回していたものだ。こればかりは見たくないのだが、チヨリちゃんに失礼かなと思い結局
読むことを選んでしまう。多分これは優しさではなくて弱さなんだろう。
 苦笑しながら読むと、いつもの可愛いらしい告白と下品な言葉。そして普段のとは少し
違う、ボクへのプレゼントがある旨が書いてある。何だろうかと思い、紙袋を開いた。
 ……これは。
「どうしたの?」
「……なんでもない」
 どうしよう、ボク双頭バイブなんて初めて見たよ。
51ロボ ◆JypZpjo0ig :2006/10/22(日) 13:07:11 ID:XgLayBTe
今回はこれで終わりです

『甘獄と青』は真面目一辺倒でいくので、こちらはずっと馬鹿話でいきます
下らないのや百合が苦手な人は回避推奨
52名無しさん@ピンキー:2006/10/22(日) 14:57:07 ID:FK8JVUAa
GJGJ
53リボンの剣士 35話 ◆YH6IINt2zM :2006/10/22(日) 18:10:13 ID:SoaNZxyM
投下します。
54リボンの剣士 35話 ◆YH6IINt2zM :2006/10/22(日) 18:13:27 ID:SoaNZxyM
私のパパは、大企業の重役。海外を飛び回って、大忙し。最後に私と顔を合わせてのは、何年前だったかなあ。
私のママは、航空会社に勤めてる、一流のスチュワーデスさんだよ。仕事柄、寝るのもほとんど飛行機の中。
最後に家のベッドで寝たのは、いつだっけ?
二人とも、仕事を一生懸命頑張っている人。お金を沢山稼いで、そのおかげで私は育ってこれた。
でも、二人は滅多に家に帰ってくることがない。朝、私が「行って来ます」って言っても、何も返ってこない。
学校から帰って、「ただいま」って言っても、やっぱり何も返ってこない。
電気の消えた私の家は、まるでお化け屋敷みたいで、入るのが怖いと思ったこともある。
二人は返ってこない代わりに、お金を送ってくる。それで、私は今も生活している。
生活するには十分すぎるくらいのお金を送って、後は放っておいている――。
こんな生活でも、羨ましがる人もいて、「好きに出来ていいじゃん」なんてことも言われた。
わかってない。全然、わかってないよ。
時間があったって、お金があったって、家に一人ぼっちは、寂しいよ……。

だから私は、一緒に居て幸せでいられる、愛しい人を探してるの。
それだけじゃない。両親だって、いつかは離れっぱなしの生活から変わる。
家族と和やかに暮らせる日が、いつか手に入る。
そのとき、家族がもう一人増えてればいいなって。
大事にしてたロケット。その中にある、私と両親が笑顔で写っている写真。
あんな風に、楽しかった時間を、愛しい人と一緒に取り戻したい。
それを。
それを!!
あの女が、新城明日香が邪魔をしている……!!

奴の暴力は、私も存分に味わった。
でも、特に痛かったのは、あれだけ乱暴な生物でも、人志くんにとって、他人より大事な人であるということ。
大事な、私と家族を繋いでいたロケットを、壊されたこと。
『あんたは、ヤる事しか考えてないゲスに腰振ってるのがお似合いよ!』
人を淫乱扱いしておいて、自分も相当に下品な言葉を吐いている。
あなたに何がわかるの。
付き合っている人が、実は身体目当てだったと気付いた時の悔しさ、悲しさが。
そのまま勢い任せに、失望の念しか抱けない男に為すがままにされる苦しさが。
別れた後、私が玩具同然に扱って捨てた、という事にされていた時の怒りが。

どうしてあの女が?
幼馴染を洗脳して、暴力で物事を押し通して、なんで、男の人にも、友達にも恵まれているの!?
人として、女として、新城明日香が憎い、妬ましい。恨めしい。

あの汚い足で踏まれたとき、何かが閃いた。
わからないなら、ワカラセテアゲレバいいんじゃない?
身体目当ての男に滅茶苦茶にされる痛みを、あの女に教えてあげればいいんじゃない?
我ながら、すごい名案だった。思いついたとき、笑いが止まらなかった。
そうだよ。それで行こう。
男を知ることになるから、処女の新城さんも、いい経験になるよね。
あはっ、あはははっ!
これは略奪じゃない。救出だよ。あの女の支配から、人志くんを解放して、私とめでたく結ばれるの。
芝居で見ればB級だけど、自分がやるとなると、なかなか面白いね。

もう私は迷わない。
進め。どんな手を使ってでも、あの女を倒し、人志くんを救い出せ。
卑怯? ありがとう。最高の褒め言葉だよ。
新城さんに言わせてみたいね。あの卑怯者が、私をそれ以上だと認めることになるから。
さて、準備のために、お金下ろして来よっと。私から新城さんに、とっておきのプレゼントをあげる。
一人いくらぐらいで、動いてくれるかな?
あは、あははっ。

あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!
55リボンの剣士 35話 ◆YH6IINt2zM :2006/10/22(日) 18:14:44 ID:SoaNZxyM
*     *     *     *     *

終業式を終えてから二日過ぎた、十二月二十四日。俺は家で暇を持て余していた。
今朝は珍しく、母が先に起きていて、俺は、母の何やらごそごそする物音で目を覚ました。
母は、大きなバッグに服を詰めていた。
ちゃぶ台の上を見れば、中央に一枚の紙。
温泉旅館の、パンフレットだった。
準備を終えた母は、何も言わず、その大きなバッグを担いで、朝早く家を出た。
……別に、こういう事は今回が初めてじゃない。
年に一回くらいのペースで、母は何泊かの旅行をする。未だに父方から養育費が入ってきてるんで、
金はそれなりにあるんだよな……。
今回は、冬の真っ只中に温泉旅行……か。
寒い季節に入る温泉は、また格別なのだろうな。
言うまでもなく、俺は行けない。行きたいという気持ちも無い。
本人の横幅より大きかったバッグから推察すれば、年が明け、正月が終わるまで帰ってこないだろう。
まあ、どうでもいい話か。

あまりにも静かな上、何もすることが無い。
バイトも、昨日から明日までの三日間、休みをもらっている。
「ま、クリスマスだし、色々とあるだろ」と、向こうから言われた。
色々も何も無い訳だが……。
テレビを見ても、ちっとも面白くない。クリスマスの特集を組んでいるワイドショーか、ニュースか、
安っぽいドラマか、囲碁くらいしかやってない。
明日香は、朝から夜まで部活。剣道部に、キリストの入る余地は無いらしい。

……暇すぎる。
せっかくだから、気分だけでも味わうか。
俺はコンビニに行き、食糧を買い込んだ。
七面鳥は高いので、フライドチキン。シャンパンなんか飲めないので、ジュース。
ケーキは……苺はあまり好きではないので、チーズケーキにしておいた。
店員の目から、『うわっ、こいつクリスマスに一人かよだせぇ〜』と言う音声が聞こえたような、
聞こえなかったような。

買い物を終えて家に戻っても、まだ昼前だった。
これらのメニューは、後で食べればいいか。
俺はそのときが来るまで、暇つぶしとして、朝起きたままの布団に潜り込んだ。
56リボンの剣士 35話 ◆YH6IINt2zM :2006/10/22(日) 18:16:12 ID:SoaNZxyM
「う〜……」
丸一日の部活が終わって、あたしも、周りのみんなも、疲れの声を上げている。
せっかくのクリスマスイブに、一日中部活なんて、部長さんも容赦ないわ。
あー、半日でもあれば、人志とデートくらいは出来そうだったのに。
でも……もうあの女は叩き潰したし、そんなに焦る必要はないか。
最後の笑いは、ちょっと気になるけど。

お湯のシャワーを浴びて、身体と髪を拭いている内に、他の人は先に帰っていった。
長い髪を拭くのは、時間掛かるのよね……。
ある程度水気を取ったら、髪を纏めて、リボンで結ぶ。
いつものやつは木場に駄目にされたから、仕方なく代わりの物を使っている。
どうも、これだとしっくり来ないのよね。手にも、髪にも。

あたしが出たのは、一番最後だった。
剣道場から校門までの、細い道を歩く。
家に帰れば、いつもより豪華なごはんが待っている。クリスマスイブだし。
そういえば、お腹も空いてきた。早く帰って、この空腹を満たそう。

なんて考えながら、角を曲がろうとしたときだった。
物陰から、”何か”が出てきた。
”何か”が、あたしの口を塞いだときに、やっとそれが、人であると気付いた。
布で、口と鼻を覆われる。
湿ってる布から……なんか……変な……においが……。


――――!?
急に意識が無くなって、気が付けば、視界が真っ暗だった。
これは、目隠しをされている。
しかも、あたしは仰向けで、両腕が上に伸び、手首が固定されてて……動けない?
空気は埃っぽくて、錆びた金属の臭いがする。
「何よこれ!?」
声は出せる。直後に、足の先のほうから、布ずれの音が聞こえた。
「お。起きたか」
「じゃ、始めようぜ」
それぞれ、違う男の声だった。
始める? 何を?
「ひゃっ!」
今の男らしき手が、あたしの脚に触れる。スカートの裾が、上げられていく。

まさか、嘘、やめて、嫌、嫌っ!
暴れようとしたら、頭と、両足が、押さえつけられた。
な、何人いるの? あああたし、こいつらに……!?
嫌! 触らないで! あたしは、あたしの身体は、人志に……人志に……。

人志…………。


(36話に続く)
57名無しさん@ピンキー:2006/10/22(日) 18:52:57 ID:GaVNhlod
あわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ……………
あ、明日香たんが、明日香たんが、明日香たんがあぁぁぁぁぁ……
58名無しさん@ピンキー:2006/10/22(日) 19:09:59 ID:CZmUaQaV
まさかまさかこのスレ始まって以来のNTRが(((( ;゚Д゚)))
59名無しさん@ピンキー:2006/10/22(日) 19:25:57 ID:dfWujU9A
ヘヴィだなぁ・・・
色々と・・・
60名無しさん@ピンキー:2006/10/22(日) 19:59:47 ID:FHDmq0Xg
凹みそうな展開だ・・・
もしそういった要素があるなら注意入れといてくれると助かります。
彼が何とかしてくれると信じてます!
61名無しさん@ピンキー:2006/10/22(日) 20:54:37 ID:ce1b5z44
修羅場ヒロインが非処女ってのも初めてだよね
62名無しさん@ピンキー:2006/10/22(日) 21:07:02 ID:rNF9b/md
非処女ヒロインはまとめサイトを読んでるとぽつぽつありますよ。
63 ◆zIIME6i97I :2006/10/22(日) 21:52:02 ID:cYuNrLJn
ミスターを投下します。
初めての薫サイドです。
64ミスタープレイボーイ:2006/10/22(日) 21:52:39 ID:cYuNrLJn
紙の束を両手でぐしゃぐしゃに握りつぶす。
その拍子に、クリップで留められていた写真が床に落ちる。
拾う代わりに、思いっきり踏んづけてやった。さらに踏みにじる。
踏みにじる。踏みにじる。
それでも、写真の中の女は、表情を変えることもない。
当たり前だ。
村山洋子、それが女の名だった。
65ミスタープレイボーイ:2006/10/22(日) 21:53:23 ID:cYuNrLJn
大野産婦人科でのあまりに不自然なシゲ君の振る舞い。
わたしが、疑念を抱くには十分だった。
彼のことを探るようなまねはいやだったけれど、ほうっておくことはできなかった。
大野先生に確かめたところ、大野産婦人科に彼の大学を卒業した医師はいない。
先輩の話を聞きにきたという、彼の話は嘘だった。
なぜそんな嘘をついたのか。
彼が出てきた場所、それから、彼が肩を抱いていた女。
状況から推測できるのは、ただひとつだ。早とちりかもしれない。
慎重を期して、探偵に依頼した2週間の調査の結果が、このレポートだった。

大野産婦人科に診察にきた村山洋子という女が妊娠しており、そして父親は長嶋茂雄であるらしいということ。
遺伝学的な確認はなされていないが、少なくとも両人はそのように考えているということ。
カルテによれば、今週で妊娠7週目に達しているということ。
半ば以上覚悟していた事実ではあったが、それが確かめられるとやはりショックを感じた。

そして、村山洋子のプロフィール。
両親は健在。父親は、市役所づとめの公務員。母親は専業主婦。大学生の弟がひとり。
つまり、ごくごく平凡な一家の長女としてある地方都市に生まれる。
ただし、今は実家との折り合いを悪くしており、2年以上帰省していない。
高校を卒業するまで、地元にいたが、ある女子大に通うために上京。
そこで、女子大には珍しい自動車部に所属。関東学生ジムカーナ選手権入賞。
卒業後に、ある教習所に就職。現在は、教官として勤務。
その教習所で、生徒だった長嶋茂雄と知り合い、およそ二ヶ月前から肉体関係を持つ。
高校までさかのぼった調査によれば、長嶋茂男との出会いまで男性経験なし。
ただし、見合いの経験あり。それが、実家との折り合いを悪くした原因である。

村山洋子とは、おおむねそんな女だった。
彼の子供をおなかに宿しているという事実には、はらわたが煮えくり返る思いがした。
けれどそれは、彼に対する憤りのためではない。
こんな年上のチンクシャを、彼が本気で相手にするはずがない。きっと遊びのつもりだったんだろう。
あるいは、だまされてしまったのか。彼のようなひとでもそんなことがあるんだろうか。
かわいそうに。

憎むべきは、この女だった。
こんなつまらない女が、たかが子供宿したというだけで、わたしと彼の未来を汚そうとしている。
そう、つまらない女だ。
わたしに勝っている点なんてひとつもないと感じた。
顔も体もすべて。気品や教養のすべて。
雑種の犬っころに等しい。そんな女に、こんな感情を向けてしまうことすら厭わしい。
せいぜい、哀れんでやりたい。なのに憤りがおさまらない。
66ミスタープレイボーイ:2006/10/22(日) 21:53:58 ID:cYuNrLJn
実のところ、わたしは、まだ彼に体を許していなかった。
破瓜に対する恐怖や、貞操観念だけがその理由ではなかった。
それよりも、実際の肉の交わりをどこか汚いものに感じていたのが、本当の理由だった。
自分が美しい女であることを、わたしは十分知っている。下卑た視線を向けられることもしばしばだった。
そんなときは、いつでも鳥肌が立ち怖気がふるった。でも、彼は違った。

もちろんそれは、彼に下心がないということではない。
彼の視線も肉欲に彩られてはいる。
でも、彼がわたしに向ける視線は、なぜかわたしを熱くさせた。
それは、手の届かないものを汚して貶めてやろうとする、それまでの卑屈な視線ではなかった。
この女に愛されたい、愛されるはずだという思い。
必ず自分のものにできるはずだという、どこか子供じみてみえるほどの自信。
わたしをそんな目で見る男は、彼だけだった。
そんな視線を向けられながら、口説かれたのは初めてだった。
そして、そんな彼をじらしながらもつなぎとめておける、自分の女としての魅力に初めて誇りを持てた。
彼はわたしを求め、その彼をわたしは求める。
その関係に、肉の交わりは必ずしも必要でない。
むしろ、それは関係の純粋さを汚すもののように思われた。

けれど、この女は。
わたしとは正反対の、もっとも汚い女だった。
こんな女に、彼が本気になるはずがなかった。
本来、わたしと彼の間に割り込めるような人間じゃない。

67ミスタープレイボーイ:2006/10/22(日) 21:54:37 ID:cYuNrLJn
そして、わたしは彼がほしいものをあげることができる。病院のことだ。
正直、それを武器にはしたくない。でも、でも必要ならそれも辞さない。
彼は、野心家だった。それは、女のことに向けられていたが、お金と地位にも向けられていた。
それを浅ましいとは思わない。
生まれたときからそうしたものに不自由のなかったわたしには、そんなことを思う資格はない。
先日、彼が両親を幼い頃に失っていたと聞き、その野心をさらに好ましく思った。
彼は、失ったものを、何倍にもして取り戻そうとしているのだ。わたしは、その手伝いがしたい。
幸い、お父さんも彼を気にいってくれた。そもそも、お父さんはわたしの頼みは断れない。
わたしは、彼のものになり、彼のほしいものをあげるのだ。それを邪魔するものはいない。
そのはずだった。

そう、村山洋子は、本来ならばわたしにとって歯牙にもかける必要のない女だ。
それが、おなかに子供を宿したというだけで、ただひとつの障害になっている。
理不尽な現実に、静まりかけていた怒りが、二乗されてよみがえってくる。
犬っころ風情が!
女の写真をさらに踏みにじる。
それでも、女の表情は変わらない。むしろ、こちらをあざけっているかのようにすら見える。
怒りが三乗される。
踏みつけは、すでに高速ストンピングになっている。
それでも、薫の表情は怒りにゆがむなどということはない。
いつものように澄ました顔で、見ようによっては微笑んでいるようにすら見える顔で、ストンピングを加速させる。


やがて狂乱から立ち直ると、仕事に出ている父に連絡をとる。
お金を用意してもらうのだ。多少の金額なら、そんなことはしない。
けれどこれは大金だった。もっといることになるのかもしれない。
いくらでもかまわない。いくらでも吹っかけてくるといい。
こちらはこちらのやり方で、犬っころを追い払ってやる。人間らしいやり方で。

なりふりかまってはいられない。
68 ◆zIIME6i97I :2006/10/22(日) 21:56:46 ID:cYuNrLJn
以上、「薫お嬢様、大いに憤る」の巻でした。
主人公がいないと、どうしてもお話が地味になって困る。
次回「女の戦い」で、やっと最初の激突です。
69名無しさん@ピンキー:2006/10/22(日) 22:10:27 ID:IGDyVpI+
GJ

「男は恋人が浮気をすると恋人を憎悪するが、女は恋人が浮気をすると浮気相手を憎悪する」という話を思い出した。
70名無しさん@ピンキー:2006/10/22(日) 22:16:24 ID:odHqBJ6u
GJ!!

すばらしい!
やはり、ただのお嬢様じゃなかった!
71名無しさん@ピンキー:2006/10/22(日) 22:31:18 ID:XzDH29ai
391:名無しさん@HOME :2006/09/29(金) 13:29:41
旦那とカラオケに行ったら、歌で嫉妬してしまう病的な私。
この歌を前の女にも唄ってたんだろうかと考えてしまう。
なんでこんなに好きかわからん。旦那より男前で優しい人もいたけど嫉妬なんかした事無いのに。
ベタベタしたいとか思わないけど独占欲が異常で、旦那が浮気したら殺してしまいそうな自分が恐いよ。。
72名無しさん@ピンキー:2006/10/22(日) 23:37:42 ID:2vAmGohu
嬉しい悲鳴があがっちゃうよ!!!
作者の皆様最高♪

ただちょっとここで引くのかよという生殺しが多すぎw
73名無しさん@ピンキー:2006/10/22(日) 23:54:59 ID:ok1stTra
いい所で引いてしらしてんのさ。
74名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 00:11:10 ID:Eo9ES34A
来月リアリア買うことと毎日ミスターを読むことが
つらい人生の唯一の糧になっている俺
75名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 00:22:00 ID:z/6eaC94
>74
( ;´・ω・`)人(´・ω・`; ) 
76名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 00:22:52 ID:BY0yucbH
大丈夫!あさっては未来日記二巻発売だ!
77名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 00:29:19 ID:smKmBTf4
ミスターGJ!
78名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 00:30:21 ID:kA2PZfCM
   _____________
   |__/⌒i__________/|
   | '`-イ   ./⌒ 三⌒\     | おやすみユッキー・・・・
   | ヽ ノ  /( ●)三(●)\    |
   |  ,| /::::::⌒(__人__)⌒::::: \  |
79名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 00:54:21 ID:k3ICmmc/
前スレが埋まりつつあるのを見て、ふと思った。

今までにスコップを狂気にしたヒロインっていないよなぁ……って。
80名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 00:57:03 ID:PnuvIvNW
確かに。殴る・掘る・埋めるに使える多機能アイテムなのにね。
81名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 01:02:40 ID:2MmPrxxA
研ぎ澄ませば斬ることだって出来るぜ!w
それはそうとそろそろ血塗れ竜の最終話がそろそろ来る頃だなと
激しくwktkしてる自分ガイル
82 ◆gPbPvQ478E :2006/10/23(月) 01:13:03 ID:GuwjxPCp
血塗れ竜と食人姫、最終話を投下します
鬱展開が苦手な方は、タイトルが元通りになったところは飛ばすのが吉かと。
少女2人の名前はどちらか、好きな方をお選びください
83白とアトリ ◆gPbPvQ478E :2006/10/23(月) 01:14:27 ID:GuwjxPCp

 丘の向こうに、夕日が沈もうとしていた。
 草原が黄金色に染められて、昼と夜の境界を演出する。
 そよ風に前髪が揺らされた。心地よい痒みを手で振り払おうとして――できないことを思い出す。
 膝ほどの高さの草の中。
 大きめの石に腰掛けて。
 ユウキはひとり、夕日を眺めてぼんやりしていた。
 
 
 歩くのに慣れるまで、2ヶ月かかった。
 体重の1割を占める腕が無くなったせいで、面白いくらいバランスが取れず、
 最初は歩くどころか起き上がるのさえ難しかった。
 食事が流動食から固形食に切り替わる頃には、何とか独りで立ち上がることができるようになっていたが、
 周囲がばたばたしていたこともあり、まともな歩行訓練を開始したのは、実は最近だったりする。
 未だに不安定な地面は歩けないし、気を抜くと転んでしまうことだってある。
 また、歩けるようになったといっても、内臓の幾つかは摘出してしまっているため、無茶ができない。
 よって、基本的には安静にしているように言われている。
 まあ、偶に体を動かすことは回復にも良いので、朝と夕方の散歩が、最近の日課になっていた。
 ……今日は少々、ここに長居してしまった気もするが。
 
 腕が無くなってしまったことには、未だに慣れない。
 バランスを崩して、無いはずの手で支えようとして大きく転んでしまったり。
 痒いところを掻こうとして、掻けないことに気付いたり。
 
 幻痛を、感じたり。
 
 
 自分の腕が、最後に成し遂げたこと。
 そのときの感触は、今になっても忘れられない。
 引き千切られた右腕と。
 食い千切られた左腕。
 その瞬間の痛みも、当然覚えてはいるものの。
 一番鮮烈に覚えているのは、その直前。
 
 引き千切るために掴んできた、小さな手。
 食い千切るために触れてきた、硬い歯と柔らかい唇。
 
 それを、今でも感じてしまう。無いはずの腕の先に。
 そして、それを感じることができたからこそ。
 自分は、少女たちを助けようと思ったのだ。
 
 
 一生を、費やして。
 
 
 がさがさ、と近くの草が揺らされる。
 音が大きい。
 これは一人じゃないな、と視線を向けたら。

84白とアトリ ◆gPbPvQ478E :2006/10/23(月) 01:15:13 ID:GuwjxPCp

「ユウキ、やっぱりここにいた」
「ユウキさーん、おなかすいたー」
 
 2人の少女が、そこにいた。
 帰りが遅いのを心配して、探しに来てくれたのだろう。
 ユウキは2人に微笑みを向けて、隣に来るように促した。
 
 
 
 
 
 事件は、アマツ・コミナトの乱心ということで片付けられた。
 ビビス公爵が彼女を呼び出した直後に起きた事件だったのと、
 前日に彼女が囚人といざこざを起こしていたことから、
 情緒不安定になっていたことによる暴挙、というのが大勢の見方である。
 とはいえ、あの日に起きた惨劇は、簡単に片付けられる問題ではなかった。
 
 巨大な領地を任されていた公爵が殺害され、
 その犯人は近衛隊の隊長で、しかも末梢とはいえ中央貴族とも繋がりのある一族だ。
 アマツは、あのとき後頭部を床に強打された影響か、最後までユウキに避けられたショックからか。
 記憶を失い、幼児退行し、責任を被せられる立場ではなくなっていた。
 故に責任問題は、アマツの実家、本家にまで至り、ユウキたちの手に負えるものではなくなっていた。
 当然、政争の大きな種となり、ここ数ヶ月で中央の勢力分布は大きく変わった。
 
 問題があまりにも大きすぎたためだろう。
 事件の中心人物で、本来ならば拘束されてもおかしくない立場のユウキたちは、
 地方への強制転居、並びに地方貴族の監視下で謹慎、だなんて甘すぎる処罰で済んでしまった。
 
 
 白とアトリは、本来であれば帝都監獄に収容されなければいけない立場だが、
 乱心中のアマツ・コミナトを制圧した業績と、
 その身に負った重傷の療養を勘案されて、
 減刑及び地方監獄への移転が認められたのだった。
 しかも、収監による労役ではなく、地方貴族への奉公人としての労役を課されることになった。
 そして、その地方貴族からは“ユウキ・メイラーの身辺介護”を命じられている。
 
 つまり。
 ユウキと白とアトリは、地方の片田舎で、のんびり暮らすことを許されたのだ。
 
 死にかけたユウキが己の全てを賭けて交渉したことも、多少は影響してるかもしれないが、
 やはり、厚遇の意図は“黙っていろ”の一点に尽きるのであろう。
 ユウキたちへこの処遇を与えてくれた中央貴族は、政争の折、己の勢力を一気に広げている。
 結局は、駒でしかないのだ。ユウキも、白やアトリも、アマツやビビスさえも。
 とはいえ、充分すぎるほどの処遇に文句などあるはずもなく。
 ユウキたちは、片田舎の小さな離れで、のんびりと暮らしていた。


85名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 01:15:51 ID:B5fUi0SL
あははっ!
≫80さんはおばかさんですねぇ…
まぁ、そんな所も大好きですけどね?
掘るとか、埋めるとか、あの雌豚には必要ありませんよぉ…
あの雌豚の汚れた体なんか、大地に還る資格すらありませんよ?
なにしろ、その汚れた体で、私の≫80さんに触れたんだからっっ!!
本当なら原子レベルで消滅してほしい所ですけど、
あの汚れた雌豚には、不様にその死に様を晒してもらいましょう…
あはハハハはハハハはハハハは……
どうです?≫80さん…
こちらの方が、可笑しくありませんか?
86白とアトリ ◆gPbPvQ478E :2006/10/23(月) 01:15:57 ID:GuwjxPCp
 
 
 
 
 
「ユウキさーん、まだ帰らないのー?」
 大きめの石に腰掛けているユウキ。その肩に抱きつきながら、アトリが甘えた声を出す。
「おなかすいたよー。おなかぺこぺこー」
 言いながら、すりすりと首筋に鼻先を擦りつける。
「……アトリ、くすぐったいですよ」
「んー。ユウキさんのにおいー」
 アトリの腕がユウキの肩に回される。が、体重はそれほどかかってこない。
 もう片方の腕が、ユウキの隣に立てられた補助具をしっかり握っていた。
 コの字型の柵に車輪が備え付けられている、歩行補助具だ。
 脊椎を破壊されたアトリだが、その生命力は凄まじく、神経を微かに繋ぎ止めていたのだ。
 その体の特殊性から、今後回復するのか悪化するのかは判断できないが、
 それでも、無事だった上半身を上手く活用し、現在の生活にも何とか適応していた。
「……アトリ」
「なにー?」
「別に、体重をかけても構いませんよ」
「……えへへ。大丈夫大丈夫。その言葉だけで、元気出るから」
 嬉しそうに、アトリは微笑む。
 しかし、ユウキは知っている。
 本当は、こちらの癒えきってない体を心配して、できるだけ負担をかけないようにしていることを。
 
 ――と。
 
「……ずるい……」
 アトリの逆側から、恨めしそうな声が響いた。
 見ると、涙目の白が、こちらをじっと見つめていた。
 ユウキの首筋に顔をうずめるアトリを、さも羨ましそうに見つめている。
 許されるのであれば、自分も今すぐスリスリしたいといった様子である。
「ユウキ……」
 切なそうな声を上げる。それを聞き、ついつい声をかけたくなってしまうユウキだが、
 先に、アトリが口を開く。
「ダメ。今は私の番ー。白はお昼に、ユウキさんとお昼寝してたでしょうがコンチクショウ」
「……補助具を引っ張ってあげたのに……」
「両手が必要な仕事、手伝ってあげてるしー」
「……うう。アトリの意地悪……」
「意地悪結構。ユウキさんはいい匂いだなーっと。すんすん」
「…………むー」
 
 仲が良いのか悪いのか。
 ユウキは思わず苦笑してしまう。


87白とアトリ ◆gPbPvQ478E :2006/10/23(月) 01:16:45 ID:GuwjxPCp

 この2人が、あの日、殺し合おうとしていたことなど、まるで夢のようである。
 時折喧嘩はするものの、大抵はどちらかが折れ、すぐに仲直りしてしまう。
 今では仲良しの姉妹のように、互いの欠点を補い合う、良い関係になっていた。
 
 
「――じゃあ、今晩は私の番」
「なに勝手に決めてんのよー。週に一度しかセックスに耐えられない身体のくせに」
「……そういうことにすぐに結びつけるな。私は、ユウキに抱きしめて貰いながら寝られれば、それで、幸せ」
「あーはいはい。お子ちゃまは手軽でいいですねー。じゃあ私とたっぷり愛し合った後のユウキさんと寝るがいいわー」
「……それは、凄く、嫌」
「なーによこの我が侭娘! くすぐるわよ!?」
「……やりたければやればいい。今度は、負けない」
「ほほう。その敏感肌が、私の技術に耐えられるはずもなかろうに……!」
 
 
 何故か、ユウキに関することだけは、しょっちゅういがみ合っていたりするが。
 まあ、小競り合い程度なら可愛いものだろう。
 2人の微笑ましいやりとりは、ユウキの頬を綻ばせる。
 
 
「……アトリのせいでユウキに笑われた」
「む、責任転嫁も甚だしいわ。そんなこと言う娘には、こうだー!」
「……や、やめ……んふ、……っ!」
「ほれほれー、ここがええんかー!?」
 
 
 元気そうには振る舞っているが。
 2人も、元の体に回復できる見込みは、薄い。
 
 アトリは脊椎損傷による下半身一部麻痺。そして出血多量によって、視力がかなり弱まった。
 おそらく、一人で生活するのは、もはや不可能だろう。
 なのに、暗い表情など欠片も見せず、明るく振る舞うその心の強さには驚嘆してしまう。
 
 白も、あの日の代償は大きい。
 腹部を特殊な剣で貫かれたことにより、内臓が修復不可なレベルにまで破壊されてしまった。
 幸いなことに、肝臓や脾臓といった重要な臓器は無事だったが、胃は全摘、腸も半分の長さになってしまった。
 そのせいで、食事制限はとんでもなく、好きなものを食べることはもう無理だろう。
 決められたものを決められた量しか食べられず、いつまで生きられるかもわからない。
 でも、ユウキの隣にいるときは、辛さなんて欠片も見せずに、幸せそうに微笑んでいる。
 
 
 改めて、思う。
 この2人は、強い。


88白とアトリ ◆gPbPvQ478E :2006/10/23(月) 01:17:32 ID:GuwjxPCp

 血塗れ竜と食人姫。
 そんな怪物的な強さのことではない。
 現実と相対し、頑張って生きていくその様が。
 彼女らの、強さなのだろう。
 
 救いようのない現実でも諦めず、己の逃避先を見つけていた。
 そこに安住するために、彼女らは自分たちにできることをしただけなのだ。
 その結果が、血塗れ竜と食人姫、という物々しい名前であり、また、現在でもある。
 
 
 夕日が丘の向こうに沈んでいき、空が夜闇に包まれていく。
 虫の音と、少し冷える風が、ユウキたちを包んでいた。
 
 ふと、白が口を開く。
 
「……夜になっても、殺さなくていいんだよね?」
 
 囚人闘技場は、夜に開かれる催し物。
 故に、白が血塗れ竜であったのも、夜。
「殺さなくても、ユウキは、一緒にいてくれるんだよね?」
 夜闇が過去を思い出させたか、久しぶりに見る不安げな白。
 
「……私も夜は嫌いだな。研究所から逃げ出したのも、夜だったし」
 
 アトリは、偶に過去のことを語ってくれる。
 それは断片的なもので、半ば吐き出すような形だったが、ユウキと白は、真剣に聞いていた。
「人食いってことを思い出しちゃうから、夜は、嫌い」
 人間を食べられるように調整されたアトリ。
 大事な人を二度も食べて、しかし、彼女はここにいる。
 
 
「……家に、帰りましょうか」
 そう言って、立ち上がる。
 少女たちは、夜が嫌い。ならば、長居するのはよろしくない。
 
 ただ。
 2人の少女がこれからも夜に怯えないように。
 これだけは、言っておこう。


89白とアトリ ◆gPbPvQ478E :2006/10/23(月) 01:18:21 ID:GuwjxPCp

「2人は、今ここにいます。
 血塗れ竜と食人姫は、闘技場の選手でした。自分に出来ることを頑張った、選手でした。
 でも、ここは闘技場じゃありません。中央監獄でもありません。 だから、2人とも、もう誰も、殺す必要はないんですよ」
 
 
「ここにいるのは、白とアトリ。
 僕にとってとても大事な、可愛い2人の女の子です」
 
 
 
 ユウキの言葉に。
 白とアトリは呆然とその場に立ち止まり。
 やがて、満面の笑顔を浮かべ。
 ユウキの後を、付いていった。
 
 
 ――ユウキ、今日はいっしょに寝よ。アトリも一緒でいいから。
 ――今日は肌寒いもんね、可哀相だから白も入れてあげるよー。
 ――そうですね、ちょっと狭いかもしれませんけど、たまにはいいですね。
 
 
 片田舎。それぞれ何かを失った3人が、仲良く夜の草原を歩く。
 向かう先は小さな離れ。
 でもそこが、きっと一番幸せな場所。
 
 
 
 たとえ逃れられない現実からの逃避であったとしても。
 夢のような幸せな時間。
 それが、彼女らの望んだものなのだから。
 
 
 きっとこれが、白とアトリの、幸せのかたち。
 
 
 
 
 
90血塗れ竜と食人姫 ◆gPbPvQ478E :2006/10/23(月) 01:19:24 ID:GuwjxPCp
 
 
 
 
 
「――こりゃあ即死ですね。打ち所が悪かったか、頸椎が砕けちゃってます。
 ……ほら、ぶよぶよになってます。後頭部から拙い角度で落とされたんだろうなあ」
 
「マジかよ……。公爵殺しの下手人が、こんなとこで死んでるとはなあ」
 
「やっぱり殺ったのは血塗れ竜ですかね」
 
「だろうな。銀の甲冑殺せる人間なんて、コイツ以外ありえないだろ」
 
「その血塗れ竜も、すぐ近くで……これ死んでますよね?
 実は生きてて襲いかかってくるなんてないですよね?」
 
「馬鹿、恐怖演劇じゃあるまいし、んなことねえだろ。
 内臓こぼしてあの出血じゃ、怪物だって助からねえよ」
 
「こっちには食人姫もいますよ。まあ、こいつの部屋だから当然っちゃあ当然か。
 うわ、凄い出血。こっちも死んでますね。背中とがグロいなあ……」
 
「……これは、誰だ? 知らない奴の生首が転がってるが」
 
「どっかで見たことある気もしますが……うお!?
 こっちにはバラバラ死体!? ここは何処の精肉場かっての……うっぷ」
 
「……いったい、ここで何が起こったんだか……」
 
「しかし、ユウキも可哀相でしたね。あいつ、まだ若いのに」
 
「一応救護隊が運んでいったが……まあ、無理だろうな」
 
「やっぱり、血塗れ竜とかに殺されたんですかね? ――畜生。このやろう!」
 
「やめろ、死体を蹴るんじゃねえよ」
 
「……でも」
 
「まあ、気持ちはわからなくもないがな。だけどよ、多分――」


91血塗れ竜と食人姫 ◆gPbPvQ478E :2006/10/23(月) 01:20:27 ID:GuwjxPCp

「――やったのは、血塗れ竜じゃねえよ」
 
「でも他に、監視員を殺すような奴なんて……」
 
「おそらく、ここでは俺たちには理解できないことが起こったんだよ。
 コイツらにとっては、多分大事なことで、でも俺らにはわからないことがよ」
 
「…………」
 
「ユウキの死に顔、見たか?
 両腕なくして、脇腹刺されて、顔はズタズタで、……だけど、笑ってたじゃねえか。
 きっと、幸せな夢でも見てたんだろうよ。
 そんな夢を見られるようなことが、きっとここであったんだよ」
 
「……血塗れ竜も、苦しそうな顔、してませんよね。
 こいつの顔、いつも無表情だからよくわからないけど……これって、笑ってるんですかね」
 
「見ろよ、食人姫もだ。凄く嬉しそうな顔しやがって……。
 他の連中は、皆が皆、苦しそうな顔で逝ってるってのに、
 ユウキと、血塗れ竜と食人姫だけは、幸せそうな顔、してやがる」
 
「そういえば、ユウキと……血塗れ竜や食人姫が、仲良くしてるって噂。
 あれって本当だったんですかね……?
 だとしたら、ユウキは、こいつらに関わりさえしなければ……!」
 
「んなこたねえだろ。ユウキはお人好しだからな、何があっても自分から関わってただろうよ。
 それにお前、ユウキたちのことを不幸だと思ってるのなら、お門違いだろ」
 
「え?」
 
「ユウキと、血塗れ竜と食人姫。
 この3人は、殺されたとは思えないくらい、幸せそうな顔で逝ってるだろ?
 ――てことはよ、多分、コイツらは勝ったんだよ」
 
「勝った? 誰にですか?」
 
「――さあな。
 そこらに転がる連中か。
 それとも下の階でくたばってる公爵か。
 もしくは、くそったれな現実か。
 何かしらに、勝ったんだろうよ」


92血塗れ竜と食人姫 ◆gPbPvQ478E :2006/10/23(月) 01:21:26 ID:GuwjxPCp

「勝ったっていっても……死んじゃったら意味ないと思いますけど
 それに、勝って死ぬなんて、なんか、現実逃避みたいですし……」
 
「――現実逃避の何がいけないんだよ。
 それで幸せになれるんなら、安いもんじゃねえのか」
 
「え、でも」
 
「いけないのは、現実逃避して不幸になることだ。
 やることやらずに不幸になるのは自業自得。
 ――でもよ、逃れられない現実から逃げ切ったのなら、それはそれで、いいんじゃねえのか?」
 
「…………」
 
「ま、俺は死ぬのはゴメンだけどな。
 コイツらにはコイツらの現実ってもんがあって、俺には俺の現実がある、と
 そういうことだよ。難しく考えすぎるな」
 
「難しくしたのは先輩じゃないですか……」
 
「まあそう言うなって。
 とりあえずさっさと報告書まとめて、ここの掃除しちまおうぜ。
 肉が腐る前にやっておかないと、後で悲惨になるぞ」
 
「はーい……」
 
 
 
「…………。
 血塗れ竜と食人姫、か。
 どう考えても幸せになれないような娘どもだと思ってたが。
 こんな顔で死ねるとはねえ……。
 なあ、おい、ユウキ、お前のおかげなのか?
 だったら凄いよな、お前は。
 
 ――血塗れ竜と食人姫を、幸せにしてやったんだからよ」





93 ◆gPbPvQ478E :2006/10/23(月) 01:22:35 ID:GuwjxPCp
血塗れ竜と食人姫、これにて閉幕です。
無駄に長い拙作にお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
皆様の感想レスがあったからこそ、最後まで書き上げることができました。
心より感謝申し上げます。

ただひとつ心残りがあるとするならば。
白とアトリ、どっちの方が強いのか、それを決めずに終わらせてしまったことですが、
それは読んでくださった皆様が、脳内で戦わせてみてくださいな。
きっと血みどろの殺し合いになるかと思います。

修羅場、というテーマを通してバトル物を書くのは楽しかったです。
やっぱり、修羅場って最高ですよね!

それでは、名無しに戻ります。
今までありがとうございました。
94名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 01:24:24 ID:B5fUi0SL
GJ!!!!!
割り込んでしまった……orz
95名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 01:26:26 ID:k3ICmmc/
GJ!!

長期にわたる連載、お疲れ様でした。
96名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 01:33:17 ID:6fidltP5
数少ない、好感の持てる主人公だった…
97名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 01:33:41 ID:PnuvIvNW
地獄甲子園エンドGJ
98名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 01:35:25 ID:BY0yucbH
(´;ω;`)
99名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 01:36:09 ID:fwBm4R1j
主人公はロボット、ヒロインは主人公を作った博士や主人公に感情を教える少女(女性)
など。それで嫉妬した博士が主人公を自分だけを見るように改造しようとする。
というプロットを思いついたのですが、このスレ的にはどうでしょう?
100名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 01:36:16 ID:+k6qWP+F
作者乙!!!!!!!!このスレにきて一番最初に読んだ作品で修羅場を好きにさせてくれた作品でした。
101名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 01:36:50 ID:ED1uKOW8
竜と食人鬼を一日で読みきったおれは幸せものですね
白とアトリが幸せになってくれてよかったです
102名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 01:37:00 ID:kERP4mTZ
ヤベェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!
覗いてみたらブラッド、花束、リボン、怪物、血塗れ、ヘタレコンドームの神ラッシュ!!!!!!!!!!!!!

感想言いたいが今は、血塗れ竜とその外伝、お疲れ様でした!
長い間素晴らしい作品を提供してくださって本当にありがとう!
両方とも救いのある終わりで良かった!!


アマツさん……俺はアンタ応援してたよ
103名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 01:41:42 ID:u2NnybBJ
>>93
ウワァァァァァン!! ヽ(TДT)ノ シロー、アトリー!! ウッウッウッ……

なんだか長かったようであっという間の四ヶ月、目一杯楽しませてもらいました。
あなたのSSに出会えてよかったです。GJ! ありがとうございました!
またいずれあなたの新作を読む機会が訪れることを粛々と待ちま、

あ……「名無しに戻ります」って、ええ!?
「九十九の想い」は放置ですか!?
104名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 01:47:18 ID:olEx/J0s
>>97
バロスwwwwwwwwww感動が台無しになったじゃねぇかwwwwwwwwwwwwwww
105名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 01:49:11 ID:0xXOWa8b
>>93
お疲れ様でした。
心のどこかで白とアトリが救われなかったらどうしようとか思ってましたが大筋読み通りでした。
今後は名無しに戻るとの事ですが、承知の通り俺含めここの住人はいつでも修羅場分を求めておりますので、しばし休んでまた気力が湧いたらいつでも投下して下さい。
たとえ更にスレを経て、血塗れ竜と食人姫の記憶が風化した頃でも少なくとも俺は必ず居ますので。
毎度の凄まじいwktk本当にありがとう
106名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 02:15:55 ID:2MmPrxxA
GJ長い間お疲れ様でした
とうとう食人姫も死んだか
思えばセッちゃんが喰われた時からこの瞬間だけを待ち望んでた様な気もします
作者さまと食人姫のファンとには申し訳在りませんが
「白とアトリ」のパートで食人姫が幸せそうにしてる場面では腸が煮えくり返る思いでした
だから元のタイトルに戻った時
あぁ、やっぱり食人姫が死んだんだなと確認できたとき溜飲が下がる思いでした
107殺意的な愛情。:2006/10/23(月) 02:24:36 ID:tSugEjrE

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いってえ。

 彰人は、目を覚ました。
 そこは自分の部屋。
 にもかかわらず、1週間前までの眺めとは全く違って見える、寒々とした空間。

―――――1週間?

 壁掛けの時計が叩き割られ、窓のカーテンはテープで固定され、時間の感覚が無くなって大分立つ。あれから何日たつのかも彼にはもはや把握できない。
縛られっぱなしの両手の感覚もそろそろ無くなりつつある。後ろ手だから見えないが、さぞや見るも無残な紫色に変化していることだろう。

「―――――うっ・・・・・・・・・!」

 身体を動かすと全身の骨が軋みを上げる。無理も無い。この体勢に縛り上げられてから一体何十時間経過したのだろう? 
 ふと自分の身体に眼をやると、全身の痣の上から更に新しい痣が腫れあがっているのが見える。昨日受けた『お仕置き』の傷痕だ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・彰美(あけみ)のやつもやってくれるよな・・・・・・・・。

 彰人は、ここにいない妹の、まだ幼さの残る容貌を思い浮かべながら、僅かに苦笑した。
 あの大人しい、未だに初見の人間には人見知りのクセすら残っている妹が、よくもまあ、ここまでの暴力を実の兄に振るえるものだ。
 実際、彼の全身は今、打撲による発熱で燃えるような熱を持っていた。そう思った瞬間に、彰人は自分が焼けつくような喉の渇きに見舞われている事に気付いた。

「・・・・・・・・・おーい、いるのか? いるんだろ?・・・・・・・・・・・・・のど、渇いたんだよ・・・・・・」

 もう声すらまともに出ない。ひゅーひゅーという音とともに、ようやく彰人はそれだけの言葉を硬く閉ざされた扉に向かって放つ。返事は返ってこない。だが油断は出来ない。部屋のカメラで、彼の渇きに苦しむ様を眺めているだけかも知れないからだ。
108殺意的な愛情。:2006/10/23(月) 02:30:24 ID:tSugEjrE

「・・・・・・・・・・・・・・頼むよ・・・・・・・・・いるんだろ・・・・・・・・・・・喉が渇いて死にそうなんだ・・・・・・・・・・・・・・・・・頼むよ・・・・・・・・・」

 この老人のようにひび割れた声が、かつて大学の劇団で看板俳優の座にあった自分の声だとは、監禁以前の彰人なら、例えテープで実際に聞かされても信じなかっただろう。
 彰人は芋虫のように這いずりながらドアに近付く。全身に刻まれた打撲傷が、畳にこすれて激痛を発する。だが、それでも、動くのを止めるわけにはいかない。

――――――――要求は、可能な限り卑屈に。ブザマに。惨めったらしく。

 サディズムの権化のようになった妹を動かす手っ取り早い方法は二つ。して欲しい事を敢えて全身で拒絶する『饅頭怖い』方式。そしてもう一つが、この『土下座外交』方式。
 どちらをチョイスするかは、勿論その場の空気や流れ次第だが、そいつを読み違えると結構ヤバイ。
 しかし彰人には、そこいら辺の自信はまだあった。何と言っても妹をここまで追い込んだのは自分自身だからだ。

 ―――――――数分と待つ事無くドアは開いた。廊下の照明が逆光になって、地べたの彰人には妹の表情を窺うことが出来ない。厳しいのはここからだ。今日のこいつはどっちだ!?

「―――――――全く、ホント辛抱が足りない男ね。そんなだらしないオス豚に、あたしと結婚する資格があると思ってるの?」

・・・・・・・・・・・やばい、『まひる』だ・・・・・・・・・・そろそろ『彰美』に変わる頃のはずなのに!

「彰人、やっぱりお前は、まだまだ鍛え直す必要がありそうね・・・・・・・・!」
 『まひる』は、彰人の髪を掴んで部屋の中央まで引きずると、嬉しそうに呟いた。


・・・・・・・・・・・・・・・・いつの頃からか、妹にもう一人の人格が現れるようになった。

『まひる』・・・・・・・・・・・彰人の幼馴染みと同じ名を持つこの人格は、とんでもなく凶暴で、とんでもなく我儘で、そして、とんでもなく魅力的だった。おそらくは、当の幼馴染み本人以上に。
109名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 02:34:46 ID:k3ICmmc/
パクリ?リメイク?
110殺意的な愛情。:2006/10/23(月) 02:38:09 ID:tSugEjrE

「そんなに飲みたきゃ飲ませてあげる。ただし、こっちの口からね・・・・・・・・・・!」

 そう言いながら『まひる』は、切れるような笑顔を浮かべながら、その手に持った小道具を彰人に見せつけた。――――――浣腸器と1・5Lのコーラのペットボトルを。

「ひいいっ!!」
「喉が渇いたんでしょう? お望みどおりタップリ振舞ってあげるわ」

『まひる』は散らかった部屋から洗面器を拾い上げると、なみなみとコーラを注ぎ込んだ。シュワーっという炭酸の音が、死神の笛のように聞こえる。
「美味しいよぉ・・・・・・・・・ちゃーんと味わってね、だ・ん・な・さ・ま」

 その瞬間、うつ伏せに引っくり返された彰人の肛門から、氷のように冷たい液体が注入された。
「あああああああああああ!!!!!!!」
「ほーら、おかわり、おかわり」
 『まひる』は一気に彰人のアナルにコーラを注ぎ込むと間髪入れずに、洗面器から次弾の装填を完了させ、また彼の体内に送り込む。そうやって、瞬く間に1・5Lのコーラは全て彰人の腹腔内に納まってしまった。ただし、通常の手段とは全く逆の手順で。

「あああああああ・・・・・・・・・・・・・・・いたい・・・・・・・・・おなかいたいよう・・・・・・・・」
「そう・・・・・・・・・・・よかったわね」
 妊婦のように膨らんだ彰人の腹部を見つめながら『まひる』がうっとりと呟く。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これは贖罪だ。彰人は地獄の苦悶の中でそう思う。
 まひるが死んだ事を彰美の所為にし、無言でなじり続けたその罪。当然受けねばならない罰。
111螢火 ◆CWcv3gVh3I :2006/10/23(月) 03:44:26 ID:LETYa637

蚊帳の隙間を縫うように入り込む蛙の鳴き声に混じり、隣の寝床から微かな物音が耳に飛びこんできた。時刻も子の刻を回り、うつ
らうつらと忍び寄る睡魔に屈しようとしていた素女であったが、重かった瞼もその音を聞いた途端に軽くなって、あっというまに睡魔
は吹っ飛んだ。頭はまるで氷につけられたかのように冴え渡り、にわかに心臓が高鳴り始めた。とうとう来たか、と思わずにやけそう
になる顔を引き締めて、ひとつ大きな息をつき気持ちを落ち着かせる。
素女は僅かな音も聞き逃さないように聞耳を立てつつ、うっすらと目を開き京之助の様子を伺う。枕元に置かれたあんどんの火が、
部屋を橙色に染めあげて、その中で京之助は布団から起き上がり、大きな影を背中に従えてそのままジッと動かない。と思ったら、目
玉をギョロリと流し素女の様子を覗きこんできた。
京之助の視線は素女の顔に槍のように突き刺さり、冷たい物が背中を駆け抜ける。その瞳は暖かみのまるでない、興味のない玩具を
見つめる子供のようだった。黒真珠のように光を吸い込んだり、反射したりはするがその瞳が光を放つ事はない。ひたすらに無機質で
、どこか投げやりで冷めた目。まるで素女自体に興味を感じていないかのようだ。
素女の体は判決をまつ罪人のように膠着し、心を押し潰さんとする強大な緊張感に襲われる。その緊張感は喉にまで圧力を加え、ま
るで喉を締め付けられたかのように息苦しい。
しばらくそんな冷めた目で素女を見つめていた京之助であったが、いきなり大きな溜め息をつき素女から視線を離した。途端に素女
の緊張は弛緩し、すーっと背中の汗が引く。喉元を押さえ付けられたかのような息苦しさも霧散した。
京之助はおもむろに立ち上がると、寝床に綺麗に畳まれた上着を着込み、そのまま寝室の襖を開けた。その先は底知れぬ闇が大きく
口を開いていて、京之助は振り返りもせずにその中に吸い込まれて消えていく。
112螢火 ◆CWcv3gVh3I :2006/10/23(月) 03:46:21 ID:LETYa637

素女の耳にミシミシと木造の廊下が軋む音が聞こえた。古くなった廊下の板は所々が限界点に達しており、人が歩くと大きな音を立
てて軋む。こと夜になると、静かな闇にその音は反芻し高らかに響くのである。
次第にその音は小さくなっていき、やがて消えた。するとすぐに立てつけの悪い玄関の戸が鳴き声をあげ、それから大きな音を立て
て戸が閉まる音が聞こえた。どうやら京之助は外に向かったようである。
そこまで聞くと、素女もようやく立ち上がり、京之助の後を追った。軋む廊下を駆け抜け、一目散に玄関に駆け付ける。分かりやす
いように玄関のあがりはなに置いておいた提灯が消えていた。京之助がそれを持っていったのだろう。
素女は履物を履き、玄関の戸に近付くとそこに耳を当てて外の音を聞く。
足音が聞こえた。土を力強く踏みつけ、そこを蹴る。その繰り返しが徐々に音を小さくさせつつも素女の鼓膜に響く。ゆっくりとま
るで雪が溶けるように消えていく足音を確認しつつ、素女は静かに戸を開けた。
玄関の戸を抜けるとそのまま家の垣根まで出る。下弦の月が空気が荒んだ夏の空にゆらゆらと浮かび上がり、かすかな光を地上に振
り撒いていたが、それだけでは足元がおぼつかない。八日前までは満月に近く、夜でも月明かりが明るかったのだが、それだけの光量
はもはや見る陰もなく失せていた。いっそ提灯でも持てば幾分歩きやすいだろうと思うのだが、提灯を持つと闇夜に光で浮き上上がっ
てしまい京之助に気付かれる可能性があるため持つわけにもいかない。
不気味に静まり帰った武家町の家並みはもの言わず立ち尽くし、昼の喧騒とは打って代わりどこまでも静かで、そして暗かった。そ
の暗闇蔓延る町の中、架加勢川に繋がる道の上に人玉のような赤い火が漂っていた。京之助の提灯の火である。火は京之助の背中だけ
を写し出し素女はそれを道標に後を追った。
113螢火 ◆CWcv3gVh3I :2006/10/23(月) 03:48:58 ID:LETYa637

一見平で綺麗に舗装されているように思われる歩道も、雨で刷りへって凸凹していた。昼間は特に気にもならないのだが、目の利か
ない夜となると状況は一変し、幾度となく素女の足を絡めとる。それにあいなって、足首辺りまでのびた着物がいちいち足に絡み、歩
きづらいことこの上ない。自然素女は慎重に歩くしかなくなるのだが、提灯をもつ京之助はそんな素女なぞどこ吹く風でずんずんと大
股で先を行く。
次第に二人の距離は開き提灯の火は小さくなっていき、京之助が架加勢川までたどり着くと、川の上流に進路を変え、物陰の向こう
に消えていった。素女はそれを少しガッカリしながら見つめていた。僅かに信じていた廁の可能性は事実上消失したのだ。廁は川の下流にあるのだから。
さて、いよいよ京之助が怪しくなってきたわけである。こんな時間に何故出歩く必要があるのか、そして何故こんなに頻繁なのか。
それらをひとつの線で結べる理由はひとつしかない。少なくとも素女には一つしか考えられない。
──京之助はやはり妾を囲っている。
114螢火 ◆CWcv3gVh3I :2006/10/23(月) 03:54:50 ID:LETYa637



道を真っ直ぐ進み、素女も架加勢川に突き当たった。水嵩の少ない川は音もなく流れ、川からはいだしたと思われる蛙が声高らかに
合唱している。視線を川に向ければ、土手の境界線に設置された低い柵の上部がかろうじて見えたが、川自体は闇に沈んで何も見えな
かった。
素女はそこからさらに首を回して川の上流に目を向ける。離された提灯の光は既に闇の向こうに見えなくなっていて、深淵な闇が大
きく口を開け素女を誘っていた。
そこは光が入り込む隙のない完全な闇。いつの間にか下弦の月は雲に隠れ見えなくなっていて、空から降り注ぐ僅かな光さえも消え
去っていた。しかし、それでも素女は動じない。弱きの虫がはいずりだす隙間は腹の底にはなく、躊躇なくその闇に飛込んだ。闇も妾
も今だけは怖くない。心の中からふつふつと沸き上がる独占欲は、あらゆる感情を昇華し、ひたすらに京之助だけに向いていた。
ゆっくりと歩きながら考える。仮に京之助が妾を囲っているのならば、どうすればいいのか。その答えは一つである。現場を抑えて泣いてやればいい。そうすれば京之助はきっ
と妾の事なぞすっかり忘れて自分の元に帰ってくる筈である。子供の頃からちっとも変わらない申し訳なさそうな顔で、ひたすらに謝
罪してくることだろう。しかし、今回は許してやらない。とことん京之助をいびり倒し、二度と悪い虫がとりつかないようにお灸を据
えてやるのだ。
這うように足を擦らせ、上流に向かい歩いていると闇の中に蛍のような小さな光が浮かびあがってきた。多分京之助の提灯だと思わ
れるそれは丁度架加勢橋の上辺りにゆらゆらとうごめいている。
一歩づつ橋に近付くにつれ、その光に照らされて見慣れた背中が陽炎のようにぼんやりと浮かびあがってきた。見慣れた京之助の背中である。しかし、浮かびあがってきたのは
京之助の背中だけではなかった。
その背中の向こう、ぽっかりとあいた闇の中に振袖が浮かび上がっていた。闇に紛れて顔は見えないが、その振袖から伸びた腕が細
く雪のように白い。そして何より目を引いたのが、その振袖の鮮やかさだった。
115殺意的な愛情。:2006/10/23(月) 03:55:37 ID:tSugEjrE

「・・・・・・・・・・・お願いです・・・・・・・・・トイレに・・・・・・・・・トイレに・・・・・・・・行かせて下さい・・・・・・・・・・・」
「い〜や」

 歌うようにそう言うと、彼女はガサガサと透明の大型ビニールのゴミ袋を取り出し、凄艶な笑顔を彼に向けた。
「これな〜んだ?」
「・・・・・・・・・・・・なっ、何・・・・・・・・・??」

 彰人の腹腔内は、もはやマグニチュード6クラスの激震が続き、その激痛は彼から尋常な思考力を奪っている。
 当然と言えば当然だ。何しろコーラを直腸に注入されたのだ。

「正解したら、トイレを使わせてあげる」
 それだけ言うと、彼女は彰人の背後から覆い被さり、アナルに中指と人差し指を一気に挿入した。
「ぎあああああああああああ!!!!!!!」
 その激痛にコンマ数秒、彰人は意識を失ったようだ。瞬間、眼球が裏返り、奥歯が舌を噛む。
 排便を堪えようと踏ん張る括約筋の中に、一気に指を二本も突き立てられ、脳に高圧電流のような衝撃が走る。

「あああああああああああああ!!!!!!!!!ああああああああ!!!!!!!!」
 一週間にわたる監禁生活で全身綿のようになっているはずなのに、まだこんな大声を出せる体力が残っていた自分に、彰人自身驚く余裕すらない。そして『まひる』はと言えば、キュッと指を締め付ける眼前の男の括約筋に、残忍な光ををたたえて見下ろす。

「ほ〜ら早く言わないと、この薄汚れた部屋が更に汚れる事になるよ〜。――――オス豚のビチグソでねぇ・・・・・・・・・・!」
 そう言いながら彼女は、彰人の前立腺にまで中指を這わせ、そのまま耳元で囁いた。

「それとも・・・・・・・・・・・・このまま出しちゃうかい・・・・・・・・・・・・?」
「まっ!まひるぅぅ!!!!」
「あたしはいいんだよ・・・・・・・・・・・別にどっちでもさ・・・・・・・・・・・」
116螢火 ◆CWcv3gVh3I :2006/10/23(月) 04:01:27 ID:LETYa637

少なくとも素女が着ていた物より段違いに豪華な色使いで、まるで貴族やお城の姫様が着る振袖のようだ。
正直その振袖が少しうらやましかったがしかし、そんな憧れに似た感情を振りきる。いずれにせよ、やはり京之助は妾を囲い、夜な夜な逢瀬を繰り返していたのである。
──許せない。
ある程度覚悟をしていたとはいえ、現場を生で目撃すると京之助に対する怒りが腹の底からふつふつと沸き上がってくる。素女はすぐにでも爆発しそうなその怒りを押し込めるように唇を噛んだ。唇の端が切れて、そこから生臭い液体が口の中に流れ込んでくる。
それを一息に飲み干したその時、雲の隙間から月の光が地上に降り注いだ。それは雀の涙ほどの僅かな光であるが、その光は橋上の女の顔を写し出した。素女は思わず息を飲み、呆けた顔でそれに見とれる。
その豪華な振袖に似合う、とても綺麗な女だった。
117 ◆CWcv3gVh3I :2006/10/23(月) 04:03:48 ID:LETYa637

投下ペースは遅いですが、地道にコツコツ頑張ります。
118殺意的な愛情の作者:2006/10/23(月) 04:28:48 ID:tSugEjrE
えー、大分以前に投稿したSSの続きを、気が向いたんで書こうと思ったんですが・・・・・・・・・・・スイマセン、SSまとめに収録されてるなんて、迂闊にも知りませんでした。
しかも「贖罪」などというタイトルまで頂いていたなんて(と言うよりむしろ、そのせいで気付かなかったと言えるかもです)光栄の至りです。
こちらも結構、投下ペースは遅いですが、地道に頑張っていきたいと思ってます。
タイトルは当然「贖罪」と言う事で。
119名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 07:37:29 ID:s3FQD3bB
>>93
質問なんですが、白とアトリは結局死んじゃったんですか?白とアトリの部分はユウキ達が最期に見た夢なのでしょうか?好きな作品なのではっきりしておきたいのですが・・・・・
120名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 08:18:50 ID:Eo9ES34A
オワッチャッタ・゚・(ノд`)・゚・
121名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 08:48:44 ID:ED1uKOW8
>>119
助かった場合と助からなかった場合の二つのエンディングなんじゃね?
122名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 10:48:37 ID:80RsvJY7
エンディングは一つだろ。
グッドでもバッドでもない、トゥルーエンドなんだと思う。

ま、読んだ人がどう思ったかが答えでいいんだろうけどね。
123トライデント ◆mxSuEoo52c :2006/10/23(月) 18:38:12 ID:Ztu0dOMJ
では投下致します
124雪桜の舞う時に ◆mxSuEoo52c :2006/10/23(月) 18:40:25 ID:Ztu0dOMJ
 第18話『東大寺瑠依の憂欝』

 剛君が帰ってこない。
 昨日は、終業式だった。すぐに家に帰ってくると思っていたのでずっと待っていた。
あの泥棒猫が学校を休んでいるのは風紀委員の連中に調べさせといたのでその辺のことに関しては抜かりはない。
優しい桧山君のことだから、見舞いに行ったのだろうか?

 それはきっとない。
 だって、剛君は泥棒猫を徹底的に痛め付けてくれた。憎い犯人の娘である泥棒猫に情けをかける必要はない。
思うがまま、憎しみを泥棒猫に叩きつけたらいいのだ。
 そんな風に思っていたのは昨日までだった。

 隣にある剛君の家をずっと窓際から監視するように見ていた。
剛君の部屋の位置と生活行動習慣はすでに暗記済みである。
剛君が一日の内にどんな行動を取るのか、長い付き合いのおかげでわかりきっていた。
 その私が言うのだ。

 剛君は昨夜から家に帰った形跡がない。
 友人宅やどこかに旅行に行くならば、一度学校から家に帰るはずだ。
だが、昨日は家に帰ってきた形跡もなければ、深夜の内に帰ったとも思えない。
私は寝ずに桧山の君の帰りをずっと監視をしているのだから、それはないだろう。

 だとすると。
 剛君は何かの事件に巻き込まれてしまったとしか考えられない。
お母さんに相談しても、男の子なんだから、他の女の子の家でイチャイチャしているかもしれないでしょと。
私が拒否反応を起こしてしまうことをすっきりと言ってくれる。

 女の子の家に泊まる?
 剛君が。
 そんなことになったら、その泥棒猫の家を放火して家族もろとも八つ裂きにしなくちゃいけないでしょ。
 この歳で私を殺人鬼にしないでくれる剛君。
 懲りずに監視を続けていると携帯にメールが入った。
125雪桜の舞う時に ◆mxSuEoo52c :2006/10/23(月) 18:43:05 ID:Ztu0dOMJ
 風紀委員から送られたメールの内容を見ると私は頭の血管がブチキレそうになった。
 雪桜志穂の担任に剛君があの泥棒猫の通知簿をもらっているらしい。
 表向きは風邪で休みをとっている泥棒猫にたくさんのプリントや預かり物を剛君が……。
 もし、あの優しい剛君が泥棒猫の家にそれを届けたまま、帰ってこれない事態に陥るとするならば。

 アレしかない。

 女の子にとって最終兵器『監禁』。

 自分を想ってくれない彼を無理矢理閉じこめて好きになるまで調教や洗脳など繰り返して自分のモノにするという恋愛の最高上級テクニック。

 わたしがあの泥棒猫ならば絶対にやっていることだ。
 油断したよ。
 剛君があの泥棒猫を嫌っていると思っていたから。

 ノーマークだった………………
 あははははっはははっははははっはははっっはははっははは
 あはははっはっははははっはははっはっははっはははははは
 あははははっはははっははははっはははっっはははっははは
 あはははっはっははははっはははっはっははっはははははは

 許さない許さないわ。
 東大寺瑠依が本気になればどうなるのか。徹底的に教えてあげる。
 私は自分の部屋のタンスに閉まっている木刀を取り出して、飛び出すように家を出た。

 泥棒猫の居場所はすでに調査済み!!
 私の足でも20ー30分あれば余裕で追い付ける。
 すでに相手を殺すこだけしか頭に入っていない。
 この凶器はそれだけに特化した木刀。
 泥棒猫の頭をトマトのように簡単に叩きつけてやる!!

 頭に血を登っていた私は全く気が付かなかった。
 横断歩道にある信号の色を無視して突っ走る私は周囲の制止する声は全く聞こえてこなかった。
 猛スピードで突っ込んでくるトラックが私の方に向かってくるなんて。

 あっ。

 飛んだ。

 飛んだよ。

 剛君。

 わたし、飛んでるよ。

 あはははは。

 でも、痛い。痛いよ。

 私は意識が失うまでその痛みと周囲が騒ぐ声に魘されながら。

 ただ、懸命に剛君のことを想っていた。
126トライデント ◆mxSuEoo52c :2006/10/23(月) 18:46:03 ID:Ztu0dOMJ
虎・・合掌

君の犠牲は忘れない

僕らの心に永遠に生き続けます



神作品の完結するのは悲しいことですが
この作品ももうすぐ完結します。

完結するために急いで作品を書いていますが
書いている時間があまりとれませんが
とりあえず、頑張りますね
127名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 18:55:46 ID:8JaR+2Pr
ウオ大オオ大オオ大オオ大オオ大オオ大オオ大
128名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 18:59:31 ID:XHw2zBj2
GJ

完結ラッシュかー
このスレも寂しくなるなあ
129名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 19:20:45 ID:TrIbPLd9
と、虎が死んだ!? 気…気を失っているだけに決まっている…軽い脳震盪さ…ほら…しゃべり出すぞ…
今にきっと目をあける…トライデントさん…そうでしょ? 起きてくれるんでしょう?
130名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 19:25:14 ID:PnuvIvNW
王大人「東大寺瑠依……死亡確認!」
131名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 20:06:58 ID:VsyB9i5+
バ、バカな……簡単すぎる……あっけなさ……すぎる
132『ハーレム!裏の顔は修羅場!』 ◆yjUbNj66VQ :2006/10/23(月) 20:13:01 ID:xbSMLBWE
「急げ急げ!!乗り遅れっぞ!茜!!」
「はぁ、はぁ、ま、まってよぉ………シュンちゃぁーん……」
「ああん、んな甘い声出されたら脱力しちゃう。」
「ば、バカッ!シュンちゃんのバカッ!」
そんな気持ち悪いやり取り(自分でいってちゃお終いだね)をしながら全力で走る俺、倉橋俊太、独身…………17歳。
その後ろを追尾ミサイルのようについて来るのが幼馴染みの美原茜。……そうっ!幼馴染みなのだ。
はい、今うらやまいしなぁなんて思ったあなた。現実はそううまくいきません。
毎朝起こしに来てくれて、美味しいご飯作ってくれて、かいがいしく世話してくれて……なんてのは……夢なんだぁ!!!!
みんな逆!朝の弱い茜のために俺が起こして、料理の下手な茜のために飯を作ってやって………うぅ……
そんな茜が今日、映画を見に行こうと隣り町まで電車で来たのだが、帰り道、茜のやつが寄り道しながら帰ろうといったとたん、道に迷う。
天性的方向音痴の茜に先導させた俺が馬鹿だったのだが。
気付けばもう二つ先の町に。駅に着いたら終電ギリギリ………そんな今の状況。
133『ハーレム!裏の顔は修羅場!』 ◆yjUbNj66VQ :2006/10/23(月) 20:13:51 ID:xbSMLBWE
プルルルルル…………
「やばっ!しまる!はやくいくぞ!!」
「う、うん!」
発車ベルがなり、ドアが閉まる寸前で車内に滑り込む。足が挟まれるのにギリギリだった。よく思うのだが、どうしてこういう時開けてくれないのだろう。
も、もしかして………Sなのか!!
「はぁ〜、危なかったね、シュンちゃん。」
「いや、俺も実はSなんだ。」
「?」
「あっ、いやぁ、なんでもないさぁー。それより、疲れたから座ろうぜい。」
ドカッと座席に腰を下ろす。もう終電だったためか、客は俺達以外にだれもいなかった。だから俺は、今しかできないことをやる!
「……ねぇ、シュンちゃん。」
「ん!なんだ?」
「………なんで荷物を置く網のところで寝てるの?」
「これはな、昔やったゲームで終電にのったとき、ここで寝てる奴がいたんだ。その感覚を自分でも味わいたくてネ。」
「…実際に自分でやってみてどう?」
「HAHAHA!金網が体に食い込んで痛いだけだね…………ごめ、降りるから手伝って。」
鞄を持ってもらい、もそもそと降りる。あー、馬鹿やってたら眠くなってきた。
134『ハーレム!裏の顔は修羅場!』 ◆yjUbNj66VQ :2006/10/23(月) 20:14:59 ID:xbSMLBWE
「茜。駅に着くまで寝るから、近くなったら起こしてくれ。」
「うん。」
茜の返事を聞いた途端、急激な睡魔に襲われた。おかしい程の睡魔に……夜も遅いせいか?さっき走ったからか?………いいや………寝よ……











「ん………」
不意に目が覚める。まだ茜が起こさなかったということは、まだ着いてないのか。
「おい、茜、まだ………」
周りを見て茜を探す。と………俺はそこに、絶望の果てを見つけた。
「うゅ………ん……くぅ……」
「AKANEが寝てルーーーー!!!!!??」
起こしてくれといったのに、返事してくれたのに、座席にうずくまるように爆睡していた。そうだ……こいつは高校受験でも居眠りをこいた奴だった………(受かったのが奇跡だが)
「おい!茜!?起きろ!今どこだよ…」
「ん〜……えへへ……シュンちゃんが百人……シュンちゃんが百一人……ふふふ………」
「キャーーー!」
この様子だとだいぶ前からお眠りになっている様子。現在地を確認しようと、窓を覗いてみたが、真っ暗で分からない。そんな時……
135『ハーレム!裏の顔は修羅場!』 ◆yjUbNj66VQ :2006/10/23(月) 20:15:57 ID:xbSMLBWE
『次は、上坂町、上坂町。お降りのお客様は………』
それは女神の声か。女性のアナウンスが、降りるべき駅の名前を告げてくれた。良かった、なんとか間に合った………
「おい!茜!着いたぞ。起きんしゃい。」
「あん……まだそういうのは……早いよぅ……でへへ……」
「くっ……」
こやつめ。俺が優しく起こしてやっとるというに、涎を垂らしながら幸せそうな顔をしてやがる。こうなったら!秘技!!
「ぐへへへ……こっちの口も涎がタラタラだなぁ。」
セクシャルハラスメント!
「……んぅ…」
最終電車で爆睡中の女の子に言葉責め……ふと窓に写った自分の姿を見て、俺は車両のど真ん中でまだ見ぬ親に土下座をした。生まれてきてメンゴ…
プシュー
そんな誰にも見られたくないイベント発生中、電車のドアが開いた。駅についてしまったのだ。致し方ない。最後の手段だ。
「よっと…」
茜を腕の中に抱き抱える。強制移動させていただきます。しっかし……最近は茜を抱えたことなかったが、相変わらず軽いなぁ。
そのまま電車を出ると、駅には人っ子一人いなかった。
136『ハーレム!裏の顔は修羅場!』 ◆yjUbNj66VQ :2006/10/23(月) 20:17:04 ID:xbSMLBWE
走り去る電車。車内の明かりは、夜の闇へと飲まれ、消えていく。
「はぁ〜〜〜〜〜〜………来世はもっとましな幼馴染みつかまえよ。」
腕の中の茜を見る。こっちの気も知らず、まるで俺の腕をハンモックのようにして寝ている。
ギュ……
居心地がいいのか、しっかりと服につかまり、気持ちよさげな顔をする。まったく……こいつは無防備すぎるんだ。
別に恋人でもない俺をこんなに頼って。あーあ、こいつと付き合う奴は、災難だろうな。面だけはいいからな。
「……こいつは迷惑料としていただいとこう。」
ボフ!
茜の胸にダイビング!ん〜無い乳!!ビバッ無い乳!俺はこの胸の将来性について、二百文字でまとめられるように思考しながら、帰路についた。







翌朝。
「ふぁ…ぁ……」
さすがに昨日遅かったせいか、まだ眠気が取れない。二度寝をかましたかったが、俺の朝は忙しい。まずは手早く着替え、顔を洗う。そして再び二階へ。
そして窓から身を乗りだし……
「とう!」
バン!
アクション俳優がごとく、隣りの茜家のベランダに跳び移る。
137『ハーレム!裏の顔は修羅場!』 ◆yjUbNj66VQ :2006/10/23(月) 20:18:15 ID:xbSMLBWE
茜も俺も一人暮らしなため、俺が起こしてやらないと恐らく永遠の眠り姫となってしまうだろう。
残念かな、まだ合鍵をもらうほど好感度は高くないようだ。……ベランダから侵入させる方がどうかと思うが。
ベランダの窓を開けると、もう茜の部屋。昨日あれから一度も起きてないのか、服がそのままで寝ている。……俺が着替えさせるわけにはいかんですよ?
「おーらー!起きろ!!朝だっぞっ!!!」
ボン!!
毎朝恒例。ベットに向かってバックドロップをぶちかます。
「うくぅ……ふぁ……おはよ……シュンちゃん……」
これぐらいしないと起きないのだ。恐らく俺は、世界一のバックドロッパー(?)になっているだろう。
やっとこさ起きた茜を脇に担ぎ、部屋を出て階段を下りていき、リビングへ。かって知ったるなんとやら。もう茜の家は、俺の家同然だった。
茜をテーブルに座らし、台所へ。ぱっぱと手際よく料理を作る。
「おーら、食らいやがれ家畜ども!俺様の手料理だ。よく味わって食いな!」
今日の朝食はトーストに豚肉のピカタ。料理の盛った皿を、茜の前に置いていく。
138『ハーレム!裏の顔は修羅場!』 ◆yjUbNj66VQ :2006/10/23(月) 20:19:28 ID:xbSMLBWE
「んふ〜♪……ごはん♪ご飯♪シューンちゃんのご飯♪いっただっきまーす♪」
相変わらず美味しそうに、嬉しそうに食べていく。この笑顔を見ると、なんだか作った甲斐があり、報われる。
……が、それとは別に、一つの不安も浮かび上がる。その不安を、今日初めて口に出して伝えてみようと思う。
「おまえさぁ……」
「ん?」
箸を止めず、ばくつきながら顔を向ける。
「……将来、一人になっても大丈夫か?」
「……ふえ?」
急に箸を止め、質問の意味が分からないといったような視線を向けられる。
「俺だってさー、いつまでもこうやって面倒見られるってわけじゃないじゃん?今のうちに料理とか覚えた方がいいんじゃね?」
「…う、ん……あはは、でも私、料理苦手で……」
……一度作らせた時の悪夢が蘇る。うん……封印。
「ははは、そっだったなー。んなら、バリバリのキャリアウーマンにでもなって、家庭に優しい、主夫になる旦那でも探すこったな。」
「うん………ぱく……で、も……シュンちゃんの料理が、一番美味しいよ。うん、毎日食べたくなるぐらい…ぱく…おいひい……」
あーあー、あんなに頬張っちゃって。みっともないですぞ。もっと女の子らしくしないと………本当に将来が心配ですよ、ボカァ。
139名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 21:21:19 ID:smKmBTf4
コメディ風味キタワァ
140名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 21:32:51 ID:2MmPrxxA
GJ!そして新作乙
手のかかる幼馴染モエス

「この子どこの子」と「一掴みの優しさ」も続き期待してまっせ〜
141 ◆zIIME6i97I :2006/10/23(月) 21:32:57 ID:gmNBbzu+
女の子をかわいく書けるひとに嫉妬してしまう。
ミスタープレイボーイを落っことします。
142ミスタープレイボーイ:2006/10/23(月) 21:33:31 ID:gmNBbzu+
電話で呼び出しを受けたときから、どんな話なのかという検討はついていた。
女の声で、長嶋茂雄のことで話があるというのだ。
どんな内容なのかは、当たり前のように分かる。
だから、それなりに腹を決めて来た。
けれど、呼び出した相手を見たとき、一瞬気がなえるのを感じた。
彼女の美しさに。わたしとは違う。
143ミスタープレイボーイ:2006/10/23(月) 21:34:03 ID:gmNBbzu+
「お呼びだてしてもうしわけありません。お電話を差し上げた江夏薫と申します」

こちらに気がつくと、席から立ち上がり、上品な、本当に上品な笑顔を浮かべて頭を下げる。
こちらもあわてて頭を下げた。

「あ、あの、はじめまして、村山洋子です」

そのまま、しばらくたったままで相対する。やがて、こちらが席に着くのを待っているのだと気づく。
あわてて席に着く。
それを確認して、彼女も上品な笑顔を浮かべたまま、席に着く。
さっきから、あわててばかりだ。
それというのも、事前に想像していたのと様子がずいぶんと違うから。
もっと、ぎすぎすしたものだと思っていた。
もちろん、この和やかな雰囲気は最初だけなのかもしれない。いや、きっとそうなのだろう。

「お飲み物は、なんになさいますか?」

ウェイトレスではない。相手の女が聞いてきた。

「コーヒーでよろしいですか?それとも紅茶がよろしいですか?」

「あ、コーヒーで」

彼女がウェイトレスを呼び、二人分のコーヒーを頼む。
そこで気づいた。彼女は、徹頭徹尾、イニシアチブを握ろうとしているのだ。
表面上の和やかさにごまかされてはいけない。

「こちらからお呼びだてして、失礼かもしれませんが、早速用件に入らせていただいてよろしいでしょうか」

「はい」

「お気に触れてしまうかもしれません。初めてお会いしたあなたにこんなことを申し上げるのは、本当に心苦しいんですが」

ウェイトレスがコーヒーを持ってきたので、話がいったん切れる。
彼女が、そのコーヒーを口に運んだ。女の目から見ても、それは本当に美しい所作だった。
それに対して、こちらはコーヒーを「すする」としか言いようのないもので、思わず恥ずかしくなる。
これが、生まれが違うということなんだろうと思った。

「長嶋茂雄さんと、お別れしていただけないでしょうか」

本当に、直球で用件を切り出してきた。

「察していただいているかと存じますが、わたくしも、彼とお付き合いをさせていただいています。結婚を前提としたお付き合いです。
彼もそのつもりです。先日は、こちらの父にも許していただきました。婚約しているといっても差し支えないと存じます」

「ですから」

そこでいったん言葉を切る。こちらをじっと見据えて。

「長嶋茂男さんと、お別れしていただけませんか」
144ミスタープレイボーイ:2006/10/23(月) 21:34:40 ID:gmNBbzu+
そういう話だということは当たり前のように察してはいた。
けれど、婚約しているなどという話は想像していなかった。もちろん、それは嘘かもしれない。
いや、たとえそれが本当だとしても、こちらにも決して引けない事情がある。むしろ、向こうが引かざるをえない事情が。
そのことを伝えようとして口を開く前に、あちらが先に話を継いだ。

「もちろん、あなたにもあなたのご事情がおありなのは存じています。ですからこちらとしても、できる限りのことはさせていただく所存です。
ぶしつけとは思いますが、まずはこちらを受け取っていただけないでしょうか」

そういって、一枚の封筒をこちらに差し出してきた。

「どうか、中をお改めになってください」

封筒の中には、一枚の紙切れが入っている。見るのは初めてだが、いわゆる小切手というものだということはすぐに分かった。
そこには、これまで目にしたこともない金額が書き込まれていた。

「なんですか、これは」

思わず声が震える。

「ですから、こちらからのせめてもの心づくしです。もちろん、これだけで終わらせるつもりはございません。
手術代、あるいは出産費用のつもりでお納めください。もちろん、もしご出産なさるようでしたら、教育費もこちらからお出ししてかまいません」

上品な笑顔を浮かべながら、そんなことを言った。
それで気づく。彼女の謙譲的な態度は、こちらを徹底的に見下していることの裏返しなんだと。
わたしが、お金でかたをつけられる女だと思っている。こちらが妊娠していることを知っていてなお。
一気に感情が高ぶるのを感じる。

「こんなものいりません。しまってください」

小切手入りの封筒を、相手の目の前にたたきつける。

「知っているみたいですけど、わたしのおなかには彼の赤ちゃんがいるんです。手を引くのはあなたなんじゃないんですか」

そういうと、彼女は一瞬顔色を変える。けれど、すぐにそれまでの上品な笑顔を取り戻して言った。

「ええ、ですから、こちらとしてもできる限りのことはさせていただきたいと」

「なら、ほおって置いてください。お願いしたいのはそれだけです。わたしと彼は一緒になりますから」

彼女はまた顔色を変え、今度はそのままでまくし立てた。

「失礼ですけど、あなたなんかと一緒になって、彼が幸せになれるとでも?少しでも彼に対する愛情があるなら、分かれてあげるのが本当じゃないんですか?
わたしを見て、あなたが女として勝っている部分がひとつでもあると思いますか?それなのに、負い目のひとつも感じないのはずうずうしいんじゃないですか。
お金が足りないなら、もっと出してもいいといっているでしょう。こんなのはした金に見えるくらい出してあげるわよ。
うちは大きな病院をやってるからこのくらいたいしたことないの。江夏総合病院なら、あなたも知っているでしょう。わたしはそこの一人娘なの。
結婚すれば、わたしは彼に病院をあげられる。彼のことを考えるなら、その邪魔しないでよ。彼が、内心どう思っているかなんて、すぐに分かるでしょう?
彼はやさしいから自分で言うことはないかもしれないけど、あなたたちが彼にとって邪魔者の重荷なんだってことぐらいすぐにわかるでしょうが。
彼がやさしいからって甘えないでよ。いい気にならないでよ。とっとと別れなさいよ。それが彼のためだってくらいわかるでしょう?
その後で、生むなり、おろすなりすればいいでしょう。なんだったら、うちの病院つかってもいいわよ。ただでやってあげるから」

そこでいったん言葉をきり、のどが渇いたのかコーヒーを口に含む。その所作は、やはり上品なものだった。
生まれから来るものは、なかなか崩れないんだなあなんて考える。

「認知だってしてあげてもいいのよ。太っ腹でしょう?財産分与だって認めてあげる。すごいでしょう?何不自由なく暮らせるわよ。
だから、だからとっとと分かれてよ!」
145ミスタープレイボーイ:2006/10/23(月) 21:35:47 ID:gmNBbzu+
言葉遣いが、まったく変わったものになっている。
相手がヒートアップした分、こちらは冷静になっていた。
けれど、それで彼女を軽んじたかといえば、そうではない。むしろ逆だ。
本当のお嬢様が、これだけ取り乱しているのだ。わたしみたいなつまらない女を相手に。
それだけ、思いの丈が強いということだ。彼のためなら、何だってする気なんだろう。

でも、だからといってこちらが引くことはできない。
わたしはあの時決めたのだ。彼を絶対に手放さないと。
わたしだけのことじゃない。ここで手を引いてしまってはおなかの赤ちゃんにもうしわけがたたない。
わたしたちは、家族にならなければならない。譲ることはできない。
だから、このまま話し続けてもムダだった。どこまでも平行線をたどるだけだろう。
相手が折れることがない限り、交わることはない。そして、相手に折れる様子はなかった。

「お話は、それだけですか。そうなら、帰らせていただきます」

コーヒー代のつもりの千円札を置いて、席を立つ。
向こうは、突然のことに一瞬あっけにとられている。彼女に背を向けた。

「待ちなさいよ!」

乗り出した彼女に、腕を掴まれた。けれどお嬢様らしく、力はない。簡単に振りほどかれる。

「その子だってかわいそうでしょうが。男の気を引くための道具にされて。どうせ、生んだら生んだで、邪険にするんでしょうが!」

その言葉は、無視できなかった。そういう負い目は確かにあったから。
だから、振り返る。彼女に応えるために。それから、自分に言い聞かせるために。

「ご心配どうも。でも大丈夫です。そんなことになったら、きっと彼が怒ってくれますから」

もう話すことはない。わたしは今度こそ、店を出て行った。
146ミスタープレイボーイ:2006/10/23(月) 21:36:51 ID:gmNBbzu+
去っていく犬っころの背を眺めながら、正直わたしは後悔していた。
もっとうまく話すことはできなかったのか。感情的になるのがはやすぎなかったか。
でも、そうならざるを得ないほど、わたしは憤っていた。
最初の対応は、それこそ断腸の思いで、感情を押さえつけていたからこそのものだった。
それを、あの女の聞き分けのなさがはがしてしまった。
いったい何様のつもりなんだろう。あの女は。
自分に出る幕なんかないことがなぜ分からないのか。
落ち着かなければ。落ち着いて、次の行動を起こさなければ。

なんとか怒りを鎮めると、ハンドバッグから携帯電話を取り出し、キーを押して電話をかける。

「わたし、薫」

大丈夫、いつもの自分の声だ。

「この前のホテル覚えてる?うん、そこ。すぐに来てほしいの。大丈夫、今度はお父さんはいないから。
うん、ありがとう。先に行って待ってるから。・・・愛してる」

電話を切って、バッグにしまうと席を立つ。と、その前に、残された小切手を封筒ごとびりびりに引き裂いて、灰皿に捨てる。
いいだろう。自分がだれに喧嘩を売ったのか、思い知らせてやる。
せめて、お金を受け取っていればよかったのに。わたしは彼女を哀れんだ。
147 ◆zIIME6i97I :2006/10/23(月) 21:38:48 ID:gmNBbzu+
以上、「女の戦い」の巻でした。
お話を書くのは面白いです。皆さんもぜひ。
それでは、また明日。
148名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 21:44:32 ID:PnuvIvNW
GJ

ミスターが不在だと、これほど空気が重くなるとは。
どういう結末を迎えるかは、まさにミスター次第ですな。
149名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 21:48:20 ID:nQFFzSLG
ミスターがいると軽くなるかな?

それはともかくGJ
150名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 22:04:32 ID:51D5uxqZ
うわ〜い修羅場だ修羅場だ!ミスターそっちのけでもう修羅場が始まってる!
ところで教育→養育費?
151名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 22:33:21 ID:383bWjBR
>>118
|ω・`) GJ
続き、期待してます
今回のは描写が怖いっすが(((( ;゚д゚)))アワワワワ
152名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 23:10:05 ID:46l9MLtY
投下しますよ
153名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 23:10:44 ID:nQif7PoU
おkです
154『甘獄と青』Take5:2006/10/23(月) 23:11:38 ID:46l9MLtY
 宴もたけなわになってきたところで、リサちゃんが船を漕ぎ始めた。時計を見ると時間
は十一時を越えている。ナナミは機械なので不眠なのは言わずもがな、僕もまだ眠い時間
ではない。屋敷で働いていた頃はもっと遅い時間に寝て早起きだったので、どうということ
はない。それは数百年経った今でも変わらない。そしてサラさんを見てみれば、眠い気配
はなさそうだ。しかしこの辺りが限度だろう。
「今日はもうお開きだね」
「そうね、リサちゃんも眠そうだし」
 こちらの声が聞こえているのか、それとも聞こえていないのか、うつらうつらと僕を見
てきた。手を軽く伸ばしているのは運んでくれという表現だろうか、この辺りが子供だと
思わせる。勿論、悪い意味ではない。このまま真っ直ぐ生きていってほしいと思う。
 僕が抱き上げるとリサちゃんは目を閉じて、胸に頭を預けてきた。体重がかかっている
にも関わらず殆んど圧力を感じないその体は、ここにはふさわしくない。それは僕の腕の
中、という意味も含めてのことだ。
「おにーさん」
「ん、寝てて良いよ」
「ナイフ、貸して」
 ナナミに視線を送ると、僕の腰から鞘ごと外してリサちゃんの腕の中に収めた。抜き身
でも大丈夫らしいし、実際にそうして寝ているのを何度か見たこともあるのだが、こちら
からしてみれば危なっかしいし不安なので念の為だ。快さよりも安全が第一だ、不老だが
不死ではない僕らの考えはそこにある。
155『甘獄と青』Take5:2006/10/23(月) 23:13:08 ID:46l9MLtY
 感触を手指で確かめた後でリサちゃんは少し不満そうにしていたけれど、それでも幾ら
も経たない内に穏やかな寝息をたて始めた。幼女が大型ナイフを抱いて眠っているという、
言葉にすれば妙な光景だけれど不思議と違和感がなかった。それは多分リサちゃんの寝顔
が原因だろう、それは驚く程に優しい顔なのだ。女の子がぬいぐるみや抱き枕を抱いてい
るようなものと言うより、聖母が我が子を抱いているという表現の方がしっくりくる。
 このまま眺めていたいとも思ったけれど、さすがにそれはリサちゃんに悪いので寝室に
向かう。リサちゃんの家の合鍵は僕も持っているけれど、目が覚めたとき一人ぼっちより
はこちらに泊めた方が良いだろう。ナナミは甘やかしすぎと言うけれど、どうにも彼女を
放っておくのは可哀想に思えてくるのだ。
 数分。
 ベットに寝かせて戻ってくると、厳しい視線が二つあった。片方はナナミのもの、もう
片方はサラさんのものだ。第一印象が笑顔だったし、今までずっと笑みを浮かべていたの
で少し意外に思えた。知り合ってまだ半日しか経っていないのに、その表情は酷く違和感
を覚えさせる。そのことに自分自身が一番驚いた。
「ブルー、あなたは少し勘違いをしているわよ」
 冷たい声が突き刺さる。
156名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 23:14:39 ID:AfbOFKDZ
ミスターのいろいろな月とかL並みに隠せてると思ってる思惑が
おもしろいくらい完全にばれてしまってるのがまた
157『甘獄と青』Take5:2006/10/23(月) 23:15:09 ID:46l9MLtY
「あなたは確かに不老だし、リサちゃんもそうよ。それにSSは基本的に無期限に閉じ込め
られるから大丈夫かもしれない、そう思ってない? でも、不死ではないのよ。隣に居る
のが当然と思っていても、死は問答無用で二人を分かつの。それは死ぬことよりも残酷な
ことよ、永遠に生きることが出来るなら尚更」
 ナナミも同じ意見らしい、何も言わずにこちらをじっと見つめてくる。
 沈黙。
 動くことのない空気は固まり、この場に重くのしかかる。
「ごめんなさい、言い過ぎたわね」
 不意に、緊張が解けた。サラさんは再び笑みを浮かべてこちらに歩み寄ってくる、その
動きや表情には先程のような険はない。そこにはこちらを誉めるような、優しい雰囲気が
ある。さっきの今でこれだ、全く意味が分からない。
「気にしないで、軽い嫉妬のようなものよ。わたしはこれでも寂しがりやなのよ」
「……青様」
 全部言わなくても良い、と僕はナナミに手を振った。言いたいことはなんとなく分かる。
「夜道の一人歩きは危険だから送っていくよ」
「ありがとう、優しいのね」
 何を白々しい。
 しかし自主的に送っていきたくなったのも事実だ。決して死ぬこともない、普段の生活
に不自由を覚えることもない、そんな彼女だからこそ覚える弱さや痛みを見てしまった。
見てしまったら、手を出さずにはいられない。少し失礼な言い方になるけれど、今のサラ
さんは先程のリサちゃんと全く同じに見える。手を差し延べてあげると笑みを浮かべるの
などは、誰よりも、それこそリサちゃんよりも幼く見える。
158名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 23:16:40 ID:uPw/xU8c
間に挟まれる子がいないと過激な展開にw
ミスターははたしてどう対処するんだろうか今からwktkして待ってます!!
159『甘獄と青』Take5:2006/10/23(月) 23:17:02 ID:46l9MLtY
 嬉しそうにしているし、今すぐにでも送っていった方が良いだろうか。
 そう思って立ち上がろうとしたとき、大切なことを思い出した。
「サラさん、ちょっと待ってて」
「ええ、待つのは慣れてるから」
 ナナミを連れて廊下に出る。
「どうなさいましたか? 御心配なさらなくても、サラ様に妙なことは言っておりません」
 ということは、言ったんだろう。多分無自覚にしているのだろうが、こういった場合は
相手が誤解をするような発言をしている場合が多い。過去に僕の知らないところで悪評が
たっていたことが何度かあった。分解してやろうかとも思ったが、悪意がないらしい行動
でそこまでするのも大人気ないと自分を戒める。
 それは兎も角、
「ごめん、渡すの忘れていた」
 ポケットから一枚のカードを取り出して、ナナミに渡す。その辺りで安く売っている紙
を長方形に切り、軽いメモをしたものだ。表面はラミネート加工をしてあるので、丁寧に
扱えばかなりの長い時間にも耐えることが出来る。以前にナナミにどう保管しているかを
尋ねたことがあるが、数百年分、枚数にしてみると大量とも言えるものの全てを真空保存
しているらしい。それだけもつものなのだ。
 毎年恒例のそれを素直に受け取るナナミ、僕はそれに安堵する。彼女は人目がある場所
では受け取ろうとしない。それどころか、僕が甘やかしたり世話をしたりするのも拒絶を
してくる。これは嫌われているのではなく、個人的な意見らしい。そもそも、感情がない
ので嫌うも何もないだろうが。そんなナナミがそうする理由は単純なもので、待女として
の誇りのようなものらしい。正確に言うのなら、けじめのようなものになるのだろうか。
プライベートならいざ知らず、人目のある場所では仕事の方が優先らしく、上下の区別を
はっきりとつけてくる。
160『甘獄と青』Take5:2006/10/23(月) 23:17:56 ID:46l9MLtY
 今は二人きりとはいえ壁越しにサラさんが居るので駄目かと思っていたけれど、セーフ
らしい。ナナミはそれを目を細めて眺めると、
「今年は無いものかと思っておりました」
 結構キツいことを言ってきた。
「『奴隷券』もかなり溜まりましたね」
 いつも世話になっているお礼に、誕生日に渡し始めたものだ。名前はどうしようもない
ものだが、これは僕が付けたものではなくナナミが付けたもの。内容を見れば、あながち
間違っているとも言いきれない。『僕こと青は、ナナミの言うことを一度だけ叶えます』
と書いてあり、感謝の気持ちを分かりやすく労働という単位で表現している。本当ならば
ナナミの誕生日に渡すべきものなのだろうが、型式が旧すぎて正確な製造年月日が分から
ないので僕の誕生日に合わせているのだ。
「ありがとうございます」
 感謝の言葉は述べてくるが、実際に使われたことは一度もない。これは、どういう意味
なのだろうか。無能だと思われてなければ良いけれど。
 ともあれ、目的は果たした。
「お待たせ、じゃあ行こうか」 部屋に戻ると、サラさんが視線を向けてきた。
「もう良いの?」
「うん、今日中に渡せて良かったよ」
 不思議そうな表情をしているサラさんを見ながら、僕は上着に袖を通した。
161名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 23:20:23 ID:46l9MLtY
今回は二本立てです
162『半竜の夢』Epilogue-1:2006/10/23(月) 23:22:33 ID:46l9MLtY
「馬鹿ね、そんな情けない顔しないでよ」
 そんなに酷い顔をしているのだろうか、自分では分からない。仮に鏡がここにあったと
してもそれは変わらない、ものを見ることはもう不可能だからだ。しかしササがどんな顔
をしているのかはなんとなく分かった、苦笑しているのだろう。もうかなり長い付き合い
だから、目なんてものを使わなくてもそれくらいは声で分かる。
「あたしは大丈夫よ、優秀な番人も居るし」
 その存在を主張するように、僕の両隣に立っている二人が声を漏らした。右に居るユマ
は泣き声を、左に立っているクリヤは鳴き声を。どちらも表しているのは、これからの事
に対する悲しみだ。どこまでも真っ直ぐな彼女達は、しかし辛さを表す言葉を決して口に
出さない。ただ、しゃくりあげる声がする。
「あなたたちも馬鹿ね、泣かないでよ」
 不意に、ササの気配が近付いてきた。続いてやって来るのは体温を持った圧迫感、ササ
が二人をそれぞれの腕で抱いているのだろう。竜害のせいで上手く力を調節出来ない筈な
のに、不思議と快い強さになっている。隣の二人が堪えてくれているのか、それとも何か
奇跡のような力が働いているのか。
 いや、考えるのはよそう。こうなっているという事実だけで充分だ、それ以上の詮索を
するのは無粋というものだろう。何かあるといつも原因を考えていたから、そんな癖が
付いてしまったのだろう。毎回ササに注意されていたが、今になり、治しておけば良かっ
たと後悔した。どんな気持ちで俺にそう言っていたのか、なんとなく分かった。
163『半竜の夢』Epilogue-1:2006/10/23(月) 23:25:45 ID:46l9MLtY
 だからこそ言える強がりもある。
「馬鹿はお前だ、泣くな馬鹿」「うわ二回も馬鹿って言った、クラウンのくせに」
「そうじゃのう、これだから半端者は」
「亞人のくせに、偉そうにしないでほしいですわ」
 いやお前ら、さりげなくササにも酷いことを言っているぞ。
 それがおかしかったのか、ササは軽く声を漏らして笑った。聞き慣れたその声は、俺の
耳によく馴染む。これから暫く聞くことは出来ないというのに、それがまるで嘘であるか
のように自然なものだ。
 だからつい聞き逃してしまいそうになる。
「ね、クラウン。また、会えるよね?」
 こんな、残酷な一言も。
「会えるさ」
 大丈夫、きっとまた会える。
 それに、ここまで来たら後戻りは出来ない。
 今まで、たくさんのものを犠牲にしてきた。
 今はもう居ない、双娘の魔物の命。
 限りなく誇り、高い竜の娘の翼。
 誰よりも弱い、賢者の娘の涙。
 俺の両眼。
 そして世界で一番優しい、半竜の娘の決意。
 ここで止めようと思ったなら、例え口に出さなくても全てに対して失礼になる。それは、
それだけは絶対に駄目だ。世界の皆が許しても、きっと俺自身が許さない。
 だから、進む。
「そこに居るか?」
「うん、ここに居るよ」
 手を伸ばして、ササの体を抱き締めた。細い髪を鋤くようにして頭を掻き抱けば、指先
に硬質な感触が当たる。彼女の特徴とも言うべき角の触感で誰よりも近い場所に居るのが
分かる。いつもならそれに触れられるのを極端に嫌がる彼女だが、今はそんな気配さえも
ない。不安なのだろう、俺を痛い程に強く抱き締めてくる。
164『半竜の夢』Epilogue-1:2006/10/23(月) 23:27:13 ID:46l9MLtY
 数分。
「もうじき、星が揃いますわ」
「名残惜しいが、時間がもう殆んどない。そろそろ始めるぞ」 もうそんな時間になってしまったのか、気付かなかった。大切な時間程、短く感じる。
それはどんな種族であっても変わらないだろう。刻限が迫ってきているというのに、ユマ
もクリヤも中々離れようとしない。俺も本当なら永遠にこうしていたいと思うのだが、今
頑張らないとそれこそ永遠にこうすることが出来なくなってしまう。
 深呼吸。
 息を吐き出すことでこの場に区切りを付けて、天を仰いだ。何も見えることはないが、
それでも視線を誰にも向けないことで終わりの意思表示をすることは出来る。
「始めよう」
 この言葉を合図に、俺は後退を始めた。転ばないようにユマとクリヤが手を引いてくれ
ている。震えているのは俺の腕か、それとも二人の腕か。いや、多分両方だ。
 轟音。
 鼓膜を貫くような音が体をも震わせ、儀式が展開しているのを伝えてくる。
「上手く、行っているか?」
 誰にともなく語りかけたが、隣の二人が返事を返してきた。言葉ではなく、強く手指を
握ってくることで分かるのは、ササをただ信じていなければいけないという事実。
「頑張れよ」
 相手には聞こえないだろうが、呟いた。
「     」
 周囲に満ちた音のせいで何と言っているのかは分からなかったが、確かに返事が返って
きた。気持ちは通じている、それだけで大丈夫な気がして俺は目を閉じた。
 きっと、長い眠りになる。
 けれど、寂しくなんてない。
 楽しい楽しい夢を見よう、目が覚めたときに彼女に笑って話せるような。


 ――時は、一年前に遡る
165ロボ ◆JypZpjo0ig :2006/10/23(月) 23:28:59 ID:46l9MLtY
今回はこれで終わりです

『甘獄と青』はもうラストまで話が決まっているので、
サクサク進めていきたいと思います
166名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 23:36:44 ID:46l9MLtY
すいません
改行ミスりまくったりしましたが、気にしないで下さい
167名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 23:54:31 ID:XHw2zBj2
GJ
新連載が出て来て安心した・・・・
修羅場スレは死なねー
168名無しさん@ピンキー:2006/10/24(火) 00:11:53 ID:JfB2MydJ
何度でも蘇るさ
169名無しさん@ピンキー:2006/10/24(火) 03:10:26 ID:OIyj7XHE
GJ 安心して寝られるぜ
170螢火 ◆CWcv3gVh3I :2006/10/24(火) 05:00:10 ID:xo678jSS

遠くの空の入道雲が、夕日を浴びて少しづつ茜色に染まる頃、城の中に太鼓の音が響きわたる。下城を促す太鼓である。その音が聞
こえると、仕事に励んでいた者も皆帰り始め、そのせいで二の丸は人がごった返す。
京之助はその込み合いを避け、しばらく仕事場に残る。以前はゆっくりしすぎると、家で素女の尋問にあう羽目になっていたのだが
、最近は素女が妙に優しく問いつめられる事もなくなった。だからこうしてのんびりと人が少なくなるのを待つ事が出来る。
「おーい、京。いるかー?」
一人仕事場でぼんやりと外を見ながら人が少なくなるのを待っていると、背中から自分の名前を呼ぶ声がした。その声に誘われてゆ
っくりと振り返る。その声の主が誰なのか、目星はついていた。京之助を京と呼ぶのは限られた人だけだからである。
「銀次郎、江戸から帰ってきたのか?」
「ああ、五日ほど暇を頂いてな。江戸にいてもしょうがないから帰ってきたのだ」
そう言って立浪銀次郎は笑った。
銀次郎とは今は遠く江戸の藩屋敷に勉めていて疎遠になっているが、剣術道場時代にはよくつるんでうた。銀次郎は石のようにがっ
しりとした体格で、さらに身の丈は六尺を越え、その大きな体を生かした豪剣で藩屈指の剣の使い手とうたわれていた。健康そうな顔
は真っ黒に日焼けし、鼻の頭の皮が向けはじめている。日焼けし黒い顔の中で真っ白な歯だけがキラキラと光っていた。
「それでだ、今日は久々に山崎剣術道場三羽鴉で飲みに行こうと思っての。京を誘いにきた。ほれ、こうして半十郎は捕まえておる

銀次郎はその太い腕でグイっと脇の小男、片山半十郎の首を締め付ける。半十郎の元々青白い顔色がさらに青白くなったような気が
した。
半十郎は銀次郎とはあらゆる面で正反対な男である。背も低く、体ももやしのように細い。痩せこけとがった顎で、具合の悪そうな
青い顔をしている。性格も銀次郎が豪快で強気なのに対し、半十郎は物静かで臆病。だからガキ大将気質の銀次郎に、半十郎は金魚の
糞のようにつきまとい、そして振り回されていた。おそらくは今回も強引に引かれてきたのだろう。
171螢火 ◆CWcv3gVh3I :2006/10/24(火) 05:05:35 ID:xo678jSS

その中は表面通りに狭く、汚い。羽目板も天井もすすけている。狭い店内には帳場にくっついた卓しかなく、椅子も四つしかないが
、幸いにも他の客の姿はなかった。
三人は銀次郎を真ん中に京之助が奥に、半十郎が玄関側に座った。三人が座ると店の奥で狸の置物のように動かなかった小さな老婆
が注文を取りにきた。その老婆は銀次郎の顔を見て目を輝かす。
「あら、銀ちゃん。こっちに帰ってたの? 京ちゃんも半ちゃんもいらっしゃい」
三人は名前を呼ばれた順に頭を下げる。
老婆は京之助が以前見た時より白髪が増え、顔は小さな皺でくしゃくしゃになっているように思えた。しかし、笑顔の明るさと声の
張りは剣術道場時代から全く変わっていない。その姿はまるで剣術時代が遡ったような懐かしさを感じさせる。
「注文はいつもので」
銀次郎が言う。それに京之助と半十郎も続くと、老婆はすぐに三本の酒を持ってきてくれた。そして、おつまみは少し待っててと言
い残し、老婆は店の台所に消えていく。
店内には三人だけになった。静かに酒が喉を下る音が響く。京之助は徳利から銚子に酒を写しつつ、
「時に銀次郎、二の丸で言っていた話とは何だ?」
と言った。
銀次郎は杯の酒をグイッと飲み干し、それから溜め息をつき、おもむろに口を開く。
「京よ。お前、大分出世したらしいな」
銀次郎の前後の脈拍にあわない言葉に多少困惑しつつも、ああ、と頷く。
京之助はまた出世したのである。おととい再び望月家老に呼び出され、その場で御使い番頭領に取り立てられた。御使い番頭領は家
録四百石以上である。僅かの期間の間に、しかも泰平な世には異例の出世だ。
「そんなに早く出世して、おかしいとは思わぬか?」
「思う。甚だ思う。しかしいくら考えても分からぬのだ。この出世を家老は父上への褒録と言うが、では何故父上が存命中に行わな
かったのか、となる。そもそもその父上が一体何をしたかも分からぬ」
京之助は杯の中身を飲み干し、大きく息をつく。あまり酒に強くない頭に、一気酒はがんがん響く。
172螢火 ◆CWcv3gVh3I :2006/10/24(火) 05:09:53 ID:xo678jSS

「そこまで分かっておるなら話は早い。まぁ、本題に入る前にまずは派閥争いについて話しておこうか。実はな、先の派閥争いで敗
れた佐内派が再び動き始めているのだ」
「佐内? 前筆頭家老の佐内か? あの家は望月との派閥争いに破れ、取り潰されたと聞くが」
詳しい事は知らないが京之助も話くらいは聞いている。現筆頭家老望月孫之丞と、前筆頭家老佐内権兵衛の権力争いは壮絶を極め
、お互いが謀略をつくし、泥沼化していった。しかし、その壮絶な争いも終わりは驚くほどあっさりとしていた。
争いの最中、佐内権兵衛が突然病死したのである。当主を失った佐内家には後継ぎがいなく、そのまま取り潰された。十年前の話で
ある。
「確かに取り潰されたのだが、どうも佐内一派は権兵衛の遠縁を後継ぎに立てて再び藩の権力を握ろうと画策しているらしい」
銀次郎は静かに言う。
「しかし、仮に佐内一派が再び動き出したとしても、望月派には何も問題もあるまい。望月は今や藩の七割の藩士をその傘下に置い
ている。もはや佐内派など望月派の敵ではない」
「いや、案外そうとも限らないようだ。佐内派には莫大な金があるからの」
「金? 佐内に?」
「ああ、佐内は米問屋笹塚屋と結びついていたらしくてな。かなりの藩費を横領していたのだ」
京之助は銀次郎の話を聞き、なるほどな、と納得し頷いた。
藩の公費は領内からの年貢米を藩士に支給し、その残りを上方に輸出してその売り上げ金で賄う。他にも収入もあるものの、それが
財政の大半を担う。
この業務を進めるために、御倉方や勘定方などの多数の藩士が働いているわけだが、実際の実務を一手にまかされてるのが笹塚屋な
のである。だからその笹塚屋と組めば公費の横領などたやすい。
173 ◆CWcv3gVh3I :2006/10/24(火) 05:13:10 ID:xo678jSS

長くなるので分けます。中途半端な上に嫉妬は関係ないですが、ここいらは話を完結させる上でどうしても必要なので。
しかし、歴史物は難しいな。携帯じゃ漢字に変換出来ないし。
174名無しさん@ピンキー:2006/10/24(火) 07:46:53 ID:bEN5vsQ6
本格派ですな
朝からGBです
175名無しさん@ピンキー:2006/10/24(火) 09:08:01 ID:k6Sq/V9R
>>173
GJ!
>>174
朝から本格ゲートボール???
176 ◆zIIME6i97I :2006/10/24(火) 11:15:58 ID:4sh+usHC
ミスターを投下します。
誤字の指摘を下さった方、ありがとうございます。
気をつけているつもりではありますが。
177ミスタープレイボーイ:2006/10/24(火) 11:16:52 ID:4sh+usHC
薫からの呼び出しに、僕はいそいそと大学を抜け出す。
彼女とのデートは久しぶりだ。
最近、怪しくなってきた僕の伊達っぷりを改めて発揮するべきときだった。
先日の不本意な邂逅にかんして問い詰められるなどということは考えもしない。
いや、考えたくない。
今日は、薫と楽しく遊んで自分の心を確かめておきたい。
洋子とおなかの「あれ」の重石は、僕の天秤を確かに傾けていたから。
きっちりと、逆側に傾けておこう。
178ミスタープレイボーイ:2006/10/24(火) 11:17:40 ID:4sh+usHC
あれ以来、洋子は沈黙を守っていた。
結婚の「け」の字も出さなければ、認知の「に」の字も出さない。
もちろん、それはありがたいことではあったが、不気味でもあった。
けれど、こちらから、不用意に藪をつつくようなまねはしたくなかった。
もしかすると、産むまで沈黙を保つつもりなのだろうか。
つまり、産んでしまえば、完全にこっちのものだと思っているのだろうか。
あるいは、今のあいまいで心地よい関係を続けることによって、心情的に離れがたくする作戦なんだろうか。
もしそうなら、洋子はなかなかの策士だと言える。

あれから何度か、洋子のうちに呼ばれては手料理を振舞われていた。
そのたびごとに、母さんの幻影と小市民的幸福の甘さに悩まされる。
自分でも馬鹿だと思わずにいられないのだが、彼女に呼び出されるとふらふらと行ってしまう。
確かに、あの部屋が居心地がいいというも理由だが、おなかの「あれ」のことも気になった。
彼女は、妊娠していながら、教習所の教官をするような人だ。他にも無茶をするかもしれない。
だいたい、今は「あれ」にとって大事なときだ。
母体の変化が目立たない分、余計に気遣わなきゃいけないはずだ。
変なものを採ったりすれば、取り返しのつかないことになる。抗生物質もとれないから、病気のないようにしないと。

そんな余計なことを考えてしまい、考えると様子を見に行きたくなってしまう。
これは、遺伝子のわな、父性本能のなせるわざなんだろうか。つまり、子孫を残し、養育しろという。
自然の呼び声に抗ってこその人間だ。そして僕は人間で、しかも医者の卵だ。
そんな生物学的傾向に流されるままになるのはしゃくだ。
流されるのは、性欲だけで十分だ。
だからこれは、医者としての気遣いなんだと思っておこう。いや、きっとそうなんだろう。
僕はきっと「いい医者」になる。間違えても、「いい父親」ではない。
179ミスタープレイボーイ:2006/10/24(火) 11:18:18 ID:4sh+usHC
などと考えながら、例の高級ホテルに到着する。
薫はすでに、ラウンジで座って待っている。近づきながら、最高のスマイルを浮かべる。時価100万ドル。
けれど、彼女の横に座っている男を見つけて、その極上のスマイルを固める。
そこにいたのは、いかにもかたぎではない雰囲気をまとわりつかせた若い男だったからだ。

短く刈り込んだ頭に、黒いサングラス。黒っぽいスーツは、かなり上等なものだろう。
お約束の金のロレックスをのぞかせている。悪趣味だ。
だいたい、屋内でサングラスをかけるんじゃない。意味ないだろう。

そんな男が、なぜ薫の横にいるのか。しかも、なんだか身内のような雰囲気を漂わせて。
まさか、大掛かりな美人局だったんじゃあるまいな。そんなことを思った。
つまり、あの男が突然立ち上がり、こちらの胸倉をつかんでこういうわけだ。

「ひとの女にてぇだしやがって。痛い目みたくなけりゃあ、相応のわびをもってこい!」

だとすれば、この前の父親だという男もぐるだということになるぞ。すいぶんといい役者だ。
いや、彼女を紹介してくれたあの子も、そこに居合わせたあいつらもみんなぐるだということに。
ひょっとすると、江夏総合病院も、大掛かりなセットだったり。それどころか、このホテルがすでにセットだったり。
・・・んなばかな。

凍りついた笑顔を若干解凍させつつ、薫と男の座っている場所に近づく。
それに気付いた薫が、笑顔を浮かべる。
サングラスの男は、微動だにしない。

「またせちゃった?」

「ううん、いまきたとこ」

などという定型の挨拶を交わしながらも、ちらちらと彼女の隣の男を見る。
サングラスのせいで、彼がどこを見ているかはわからない。やっぱり僕だろうな。
こちらの視線に気付いたのか、彼女が男を紹介してくれた。

「これ、わたしの兄なの」

「は?」

もちろん、初耳だ。彼女に兄がいるだなんて。
彼女のセールスポイントは、「大病院の一人娘」ということのはずだ。その確認を怠るはずがない。
みたところ、医者という感じではない。それでも、経営側なら支障はないのか。
もしかしてあの狸親父、こいつを経営のトップにして、僕をその下に置くつもりじゃないだろうな。
だとすれば、すべてを考え直す必要が出てくるかもしれない。
兄だというその男は、苦笑を浮かべながら言った。

「おいおい、兄貴に向かって「これ」はないだろう。いくら勘当されちまっただめな兄貴だからって」
180ミスタープレイボーイ:2006/10/24(火) 11:18:59 ID:4sh+usHC
なるほど。それだけで、大体の事情はつかめた。
簡単な話を聞いて、それを確かめる。
こいつは、家のプレッシャーに耐えられなかったか何かしらないが、若いころに家を飛び出したらしい。
それを拾ってくれた親分のもとで、今では裏ではそれなりに名のしれた存在になってしまったらしい。
つまり、恵まれた環境のぼんぼんがドロップアウト、そのまま裏街道へというやつか。
あまりにステロタイプな転落ぶりに、笑ってしまいそうになる。
僕は、こういう奴が大嫌いだ。ただの、甘ったれにしか思えない。
どうして、早くに両親をなくした僕がぐれることもなく、まあ多少は遊んできたとしても、医者を目指していて、何不自由なかったはずのこいつが道を踏み外しているんだ。
お前は、キン肉アタルか。
いや、最終的に人格者となって、スグルのために自らを犠牲にしたアタル兄さんとこいつを比べることはできない。
ジャギで十分だ。

「お父さんには、ダメだっていわれてるけど、たまに電話で話すこともあるの。そのとき、シゲ君のことを話したらぜひ会いたいって。
迷惑だった?」

迷惑だよ。もちろん、そんなことをこの男を前にして言えるわけがない。

「いやあ、まさか。薫のお兄さんということは、僕のお義兄さんになるわけだからね。あはは」

そうでなきゃ、絶対に近寄りたくない人種だけどね、などと付け加えることなどできるはずもない。

「お昼ごはん、まだでしょう?兄さんがご馳走してくれるって」

たとえその場で満腹だったとしても、うなずく以外の選択肢はなかっただろう。

以前のフレンチレストランではなく、創作和食のお店に入る。
薫の小さいころの話などを聞いた。
会話を交わしているうちに、そのダメ兄貴が、意外にも気さくな人柄であることを知る。
けれど、だまされてはいけない。
こういう人たちは、「意外といいひと」である場合の方が、本当は怖い。
それは、自分が絶対に強いという確信からくる余裕であるし、キレたときとのギャップの効果をよく知っているからだ。
「いいひと」に見えるのは、そう見せているだけで、つまりはフェイクだ。
だから、僕も調子に乗りすぎることなく、さりとて距離を置きすぎることもない、絶妙な距離感を保つ。
こういうこともできなければ、プレイボーイはやっていられない。
181ミスタープレイボーイ:2006/10/24(火) 11:19:36 ID:4sh+usHC
やがて、食事が終わり、薫がいったん席をはずした。
僕とダメ兄貴の二人が残される。
なんとなく空気が変わるのを感じる。それも、いやな方向に。早く戻ってきてくれ薫。
やがて、何を思ったかダメ兄貴がシャツの裾をまくりあげた。ギャランドゥがさらされる。
そして奴は、こういった。

「こいつを見てくれ。どう思う?」

一瞬、血の気が引く。まさか、そっち系だったのか。
典型的なハンサムである僕は、そちら側の人にもそれなりにもてる。
サウナで太ももを触られたことも、一度や二度じゃない。
ゲイの兄とその妹の間にはさまれての修羅場なんて冗談じゃない。ネタとしても斬新すぎる。
けれど、彼がみせようとしたのは例の「おおきいもの」ではなく、右わき腹についた刺し傷だった。
古い傷だが、今でもなお痛々しい。

「いっとくが、盲腸じゃねぇぞ」

僕も医者の卵だ。そのくらいはわかる。

「親父(親分)に突っ込んできた鉄砲玉を受け止めたときのもんだ。俺はこいつで文字通り死にかけたが、それで親父に取り立ててもらった」

聞いてもいないことを、にやり笑みを浮かべながら、教えてくれる。

「俺は親父のためなら死んでもいいと思ってる。恩人だからな。この傷は、その証だ。けどなあ、親父くらい大事なものもある。薫だ。
俺はこのとおり裏側の人間だが、薫には表の世界で幸せになってもらいてえ。そのためだったら、かたぎのあんたに頭を下げたっていい」

そこで言葉を切って、これまで一度もはずさなかったサングラスをはずした。

「うっ」

思わず、固まってしまう。
臆病さの裏返しや、怖くない素顔を隠すためにサングラスをしているやつが大抵だが、こいつは違う。
サングラスなしの方が、はるかに怖い。それなりに整った顔立ちに、ナイフで掘り込んだような鋭い目が光っている。
これは、やるといったら何だってやる人間の目だ。逆らってはいけない。

「だからよお、薫を不幸にするやつはゆるさねえ。たとえ、刺し違えてもなあ。あいつのためなら、命を張る覚悟はできてるんだ」

なるほど、少なくともアタルなみの覚悟はあるといいたいわけだ。しかもどうやら、本気らしい。

「まあ、あんたなら大丈夫だよなあ。そんなことしねえよなあ」

そんなことを言われて、この状況で首を振れる奴がいるわけもない。
だから、神妙な顔をつくり、手をついて頭を下げる。わざわざ、座布団から降りてのサービスつきだ。

「はい。妹さんのことは、任せてください。きっと幸せにします。お義兄さん」

しまった。調子に乗って、期待に応えすぎてしまったかもしれない。
彼が、その鋭い目を不器用ながら和らげ、笑みを浮かべようとしているのを見て思った。
すると、正面に座っていた彼がいきなり席を立って、こちらの横に座った。
何事かとびくびくしていると、給仕に日本酒とおちょこを頼む。
僕の肩に手をまわして言った。

「よし、じゃあ、かための杯といこう。今日から俺たちは兄弟だ」

弟に自分の傷を見せて凄む兄なんているもんかと思いつつ、杯を受け取り、それを空にした。
もし、薫を不幸にするようなことがあれば、この兄はもっとひどいことを弟にするだろう。
裏切りの代償は、何倍にもなって帰ってくる。腕の一本や二本ではすまないだろう。
そのときは、杯の中身が末期の水になるのかもしれない。
心の中で身震いした。
182ミスタープレイボーイ:2006/10/24(火) 11:20:27 ID:4sh+usHC
薫が戻ると、ダメ兄貴は仕事があるといって、帰っていった。どんな仕事なのかは、聞きたくもない。
どうせなら、うんと危険な仕事であってくれ。そしてそのまま、二度と顔を見せないでくれ。
薫が申し訳なさそうにいった。

「ごめんなさい。カズ君に電話した後で、兄さんから急に電話があって。今から会わせろって」

それなら、携帯にでも連絡してほしかったかな。

「またいきなりで、怒った?」

怒ったというより、怖かったかな。

「まさか。でも確かに驚いたかな。お兄さんがいるなんて、聞いたことなかったから」

「うん、うちでは兄さんなんていなかったことになってるから。普段は、病院にも近づかないの。
お父さんは、会うことも許さないし。でも、わたしのことは本当に大切に思ってくれてるから」

うん、それは十分に思い知らされたよ。

「わたしのこと、嫌いになった?」

薫が上目づかいでいう。普段、わがままなお嬢様然としている彼女のこんなしぐさを見ると、何だって許してあげたくなる。
たとえ、彼女が全人類の敵になったとしても、許してあげられるだろう。だから、

「まさか。どうやったら、薫を嫌いになれるのか教えてよ」

ついつい、そんなふうにいってしまうのも仕方がない。


薫を誘って、バーに行きお酒を飲む。
ドライマティーニが、疲れた体を癒す。僕って渋い。
最近は、ヘビーなことが立て続けに起こる。今日のノルマは十分こなしただろう。
まあ、無事にやり過ごすことができた。乾杯だ。
あの兄貴のやったことにしても、ある意味ではこちらを後押ししてくれたともいえるわけで。
背水の陣の背水になってくれたともいえるわけで。
感謝はしたくないが、いいほうに考えることはできる。
ともかくこれで、ますます薫を捨てるわけにはいかなくなった。
洋子とおなかの「あれ」のことは、また明日考えよう。今日はもう何も考えたくない。
そんなふうに、すでに半ばベッドに入ったつもりになっていると、

「今夜、ホテルに部屋を取ってあるの」

などと、薫が言い出したので驚いた。

女の子から誘われたことがないわけじゃない。
でも、薫からそんなふうに誘ってくるなんて、考えていなかった。
もちろん、これに乗らない男なんていない。
だれだってそうする。僕だってそうする。
183 ◆zIIME6i97I :2006/10/24(火) 11:22:13 ID:4sh+usHC
以上、「お兄様はこわいひと」の巻でした。

文中のネタってどうでしょ。兄が、「ストップひばりくん」のひばりくんみたいならいけるかな?
184名無しさん@ピンキー:2006/10/24(火) 11:46:52 ID:JfB2MydJ
さて、唐突にカズ君という謎のライバルが現れたわけだが
185名無しさん@ピンキー:2006/10/24(火) 12:31:12 ID:v9hHqe66
マジレスしていいのか?
186名無しさん@ピンキー:2006/10/24(火) 12:32:46 ID:v9hHqe66
ミスタ
187名無しさん@ピンキー:2006/10/24(火) 13:38:12 ID:fhQr2v8h
兄さんが亀田こうきに思えた
188名無しさん@ピンキー:2006/10/24(火) 15:15:42 ID:95EaaT1f
>>183
ひばりくんなら兄妹丼フラグが立ったかも。
実際立ったのはコンクリ詰め東京湾フラグだが。
189 ◆zIIME6i97I :2006/10/24(火) 17:10:51 ID:QwweTKpF
>>184
シゲ君ですね。いってるそばからもうしわけない。
皆さんには、シゲ君と脳内変換していただきたい。
190名無しさん@ピンキー:2006/10/24(火) 20:48:45 ID:/m1eJ2AN
           _,,,,,--―--x,
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     _,-'"゛,,―''゙二,、、、゙'!   .i_
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`≒------‐''"゛         丿
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   `ヽ、             ,,/
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        //゙゙゙゙″   | |
        //Λ_Λ  | |
        | |( ´Д`)// < 泥棒猫にはキャベツを食らわすぞ
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191名無しさん@ピンキー:2006/10/24(火) 21:45:39 ID:iIBgLAJi
     ::|
     ::|    ____
     ::|.  ./|=|    ヽ.    ≡三< ̄ ̄ ̄>
     ::|. / |=|  o  |=ヽ     .≡ ̄>/
     ::|__〈 ___  ___l   ≡三/ /
     ::|、ヽ|.|┌--、ヽ|/,-┐|    ≡/  <___/|
     ::|.|''''|.\ヽ--イ.|ヽ-イ:|  ≡三|______/
     ::|.ヾ |.::. .. ̄ ̄| ̄ /
     ::|  ';:::::┌===┐./
     ::| _〉ヾ ヾ二ソ./       こ、これは乙じゃなくて泥棒猫を殺す為のスラッガーなんだから
     ::||ロ|ロ|  `---´:|____    変な勘違いしないでよね!
     ::|:|ロ|ロ|_____/ロ|ロ|ロ,|`ヽ
     ::| |ロ|旦旦旦旦旦/ロ/ロ|旦,ヽ
     ::|ロヽ 旦旦旦旦旦./ロ,/|::旦旦)
     ::|ヾ旦旦旦旦旦旦,,,/::::|、 旦旦|
192名無しさん@ピンキー:2006/10/24(火) 21:57:51 ID:G8Yqo0aW
>>190
おまえ・・・エビフライに刺されるぞ
193うふ〜ん:うふ〜ん ID:DELETED
うふ〜ん
194うふ〜ん:うふ〜ん ID:DELETED
うふ〜ん
195うふ〜ん:うふ〜ん ID:DELETED
うふ〜ん
196名無しさん@ピンキー:2006/10/24(火) 22:41:28 ID:IfUO5Fki
ミスタ

アタル兄さんキターw

薫に思わぬ援護射撃にwktkだぜぇ!
197名無しさん@ピンキー:2006/10/24(火) 22:51:57 ID:lF0AMhfq
>>173
携帯からGJ
文才もさることながら
携帯でこれだけの文章を打てる技術がすばらしい
198名無しさん@ピンキー:2006/10/24(火) 23:24:17 ID:d1G1WN5+
199名無しさん@ピンキー:2006/10/24(火) 23:30:21 ID:9xgwb26Y
うーん
200名無しさん@ピンキー:2006/10/24(火) 23:34:38 ID:IfUO5Fki
これでアマツが来ればヒロインイメージイラストフルコンプか
201名無しさん@ピンキー:2006/10/24(火) 23:37:25 ID:G8Yqo0aW
アマツは結局フタナリだったのかそうじゃないのか
202名無しさん@ピンキー:2006/10/24(火) 23:52:38 ID:6lJ3HjYa
さすがへタレプレイボーイミスターだw
とんでもない死亡フラグを内心ビクビクであっさり立ててしまうとは

>>198
俺はもうちょっと大人びたイメージがあったんだが、これも良いな
203 ◆6xSmO/z5xE :2006/10/24(火) 23:56:47 ID:CLEQKT6F
投下します。かなり長いうえエロシーン中心の回なので、苦手な人は回避してください。
最初と最後を読めば、一応話は繋がると思います。
204ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE :2006/10/25(水) 00:01:09 ID:CLEQKT6F
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
 暗い部屋の中に、苦しげに息を吐く音が響く。
 声の主である人影――智は、オカルト研究会の部室にて力なく座り込んでいた。
 瞳は黒く意思の光を取り戻しているが、只事でない様子なのが一目見て伺える。

 まず格好だ。その姿は何と全裸。
 全身に汗を掻いており、周囲には脱ぎ散らかされた服が散乱。
 湯気が出るほど身体を火照らせながら身体は小刻みに震えており、その表情も酷く硬い。



「ちくしょう・・・」
 搾り出すように放たれた声が、今の智の心情の全てを表していた。
 実際、身体は燃えそうに熱いのに、心は恐ろしいほどに凍り付いている。

 そう感じるほどのことを、自分はしてしまった。
 取り返しのつかない罪。
 比喩でなく、本当に死にたい気分だ。


「ちくしょう・・・ちくしょうっ・・・!」 

 不意に、傍らに散らばっている服が目に入る。
 智の服に混じって転がっているそれは、ズタボロに破り散らかされた女子生徒の制服だった。


-----------------------------------------------------------------------------------------------------

205ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE :2006/10/25(水) 00:04:46 ID:03cBLyvN
「・・・!」
 智くん、という藍香の呟きは途中で切れた。
 まばたきした僅かな隙に、入口にあった智の姿が消えていたのだ。
 その驚きは、更にその一瞬後には智が眼前に現れていた、という驚きに上塗りされる。

 何と智は、立っていた場所から溜めも助走もなしに軽々と跳躍して一気に藍香との距離を詰めたのだ。
 尋常でない能力、そして様子だが、いきなり過ぎる展開に付いていくのがやっとの藍香はそこまで思い至らない。
 

「んぅぅっ・・・!?」
 そして、いきなりのキス。
 驚きから立ち直る余裕を与えず、強引に唇を奪う。
「んむぅぅっ!? はぁぅ・・・ちゅば・・・ちゅぶ・・・」
 初めて唇を重ねるという、男女の関係における大きな進展。
 その感慨に耽る暇さえなく、智の舌はすぐさま藍香の歯を割って口腔に侵入した。
 綺麗に並んだ歯を、ピンク色の歯肉を余す所なく嘗めまわす。
 小さな舌先を己の舌先でこねるように弄り回し、唾液を流し込む。
 それは、キスというより蹂躙。

 自分が何をされているか半分も理解できないながらも、藍香は健気に智に応えた。
 口内を襲う未知の感覚に唇が離れそうになるのを耐え、流し込まれる唾液を何とか飲み干す。
(これが、キス・・・恋人同士の、大人のキスなんですね。智くん・・・)
 そう思うと、自然に目がトロンとしてきた。
 段々慣れてきて、自分から智に舌を絡めようとしてみる。

 しかしそう思った矢先、智が顔を引いてしまう。
(あぁ・・・・・・)
 混ざり合った唾液が糸を引き、藍香も名残惜しそうな表情になった。
 しかしすぐに、口を半開きにしたまま智の顔が近づいてくる。
 息継ぎのために離れたのだろうか、と考えたのも一瞬のこと。
 再度のキスを待ち望むように見つめる藍香から、智は逸れるように右手に流れ。

 藍香の首筋に、噛み付いた。

206ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE :2006/10/25(水) 00:07:25 ID:03cBLyvN

「――――――っ!!」
 不意打ち的に訪れた衝撃に、引き攣った音が漏れた。

 毎日の習慣だった、智の吸血行為。
 だが、いつもおっかなびっくりという感じで遠慮がちに牙を立てるのに対し、今日は躊躇いが無い。
 牙を突きたてる深さも、ちゅうちゅうと音を立てて執拗にしゃぶりつく様子も。
 首筋に掛かる熱く荒い息が智の興奮ぶりを伝え、伝染したように藍香をも昂ぶらせる。

(あぁ・・・ひぁぁっ・・・! 何ですかこの感じは・・・? 何かが、いつもと違う・・・)

 何かが染み入ってくる感覚と共に、全身が急速に熱くなってくる。
 かつてない感覚を持て余す藍香に対し、しかし智は攻めの手を緩めない。
 制服の下からでもはっきりと分かるたわわな双丘に、智の指が深くめり込んだ。
「ぁうっ・・・!?」
 身体がビクンと反応したが、智は構うことなく手の力を強めていく。
 グニグニと揉みしだき、すくい上げるように圧迫し、風船を割るかのように押し潰し。
 藍香の乳房は乱暴にもてあそばれ、智が弄るたびにその形を柔らかく変える。
「ぁぁぅ・・・! ふああぁぁっ・・・!」
 優しさの欠片もない愛撫を受けながらも、藍香が上げるのは甘い喘ぎ。

(どうして・・・? 私、こんな・・・・・・んあぁぁっ・・・!) 
 最早、自覚せざるを得ない。持て余していた感覚の正体は快楽だ。
 智に乱暴にされて、感じている。
 確かに智にされることなら何だって受け止められると言ったし、それは嘘ではない。
 しかし、この感じようはそれだけで説明がつくものではない。


 じとっとした感覚に思わず腰が蠢き、藍香は足をすり合わせた。
 それに気づいたのか、智の右手がずっと弄っていた胸から離れる。
 脇、腰を這うようにして下へ滑らせていき、スカートのすその部分で止まった。
(・・・!! そこはダメ・・・!)
 智の意図に気づき、必死に身を捩って逃れようとするが、肩を掴まれて動けない。
 左手でただ肩を掴んでいるだけなのに、その場に固定するような凄まじい力だった。
「いゃぁ・・・」
 藍香は涙ぐんだ目でイヤイヤするように頭を振るが、智の手はそんな藍香をあざ笑うように手をスカートの内部へ侵入させた。

207ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE :2006/10/25(水) 00:10:58 ID:03cBLyvN
 グチュ・・・

「あぁ・・・!」
 藍香が絶望的な囁きを漏らす。
 そこはすでに大洪水になっていた。
 藍香が嫌がったのは智に触れられることではなく、胸を揉まれただけでこうも濡らしてしまった自分を智に知られることだったのだ。

(こんなの、いくら何でもおかしいわ・・・。それに、智くんに淫乱な女だって軽蔑される・・・。そんなのいやぁ・・・)
 そんな藍香の内心をよそに、智は藍香の秘裂を下着越しにグリグリと押す。
 その表情にほんの一瞬、邪悪な微笑が浮かんだ。
 獲物を喰らうことへの満足を込めた、下卑た笑み。
 優しく照れ屋な少年の面影は微塵も無く、男性吸血鬼の本能が全開になっている。
 藍香の異常なまでの性感も、吸血の催淫効果によるものだ。
 今の智が身を任せているのはオスの本能ではなく、吸血鬼の衝動。
 女をただ犯すだけではなく、嗜虐心を満たすために弄ぶことが望み。

 だからなのだろう。
 スカートの中を蠢く手にはキスや胸愛撫のような乱暴さはなく、藍香の反応を伺うようなねちっこい動きだ。
 ぐっしょり濡れた下着を動かしてグチュグチュという粘着音をわざと響かせる。
 藍香に否応なしに自身のいやらしさを聞かせることで、精神の方を犯そうというのだ。
「ふあぁぁぁん・・・!」
 初心な藍香はその目論見に見事に嵌り、増していく愛液に比例するように羞恥の表情を濃くしていく。

 つぅっ、と一筋の雫が藍香の太股を伝って落ち、智は目ざとく気づくと人差し指でそれを拭った。
 首から顔を離してその指をペロリとひと舐めする。
 満足げに嘲笑うと、そのまま指を藍香の口に突っ込んだ。
「んぶっ!? ・・・ちゅ、ちゅる・・・ぁん・・・ちゅるる・・・じゅぶっ・・・」
 いきなりのことに一瞬我に返った藍香だが、すぐに意思の光を霞ませちゅばちゅばと智の指を吸い始める。


 もはや、藍香は完全に智のなすがまま。
 その事実に、最後にもう一度満足げにうなずいて、智は藍香をその場に押し倒した。

「ゃっ・・・!?」
 ドンッ、と尻餅をつき、藍香は今度こそ我に返る。
 そこに間髪入れずに智がのしかかってきて、藍香の制服に手を掛けると――。

 ビリビリビリっ!!

「――――っ!?」
 大きな引き裂き音を立て、力任せに破り捨てる。
 薄手のシャツとはいえ、布自体を引き裂くなど信じられない力だ。
 さらにブラジャーも剥ぎ取られ、ぷるんっ、と大きく形の良い乳房が露わになる。

 そして藍香が胸の露出を認識した時にはすでにスカートが捲り上げられ、秘部が智の目の前に晒されていて。
 最後の砦であるパンティが引き摺り下ろされ、両足が智の手に大きく広げられて。
 赤く染まった瞳を更に血走らせた智が、広げられた足の間に身体を入れて。

 ぐっ・・・と、腰を突き入れた。


208うふ〜ん:うふ〜ん ID:DELETED
うふ〜ん
209うふ〜ん:うふ〜ん ID:DELETED
うふ〜ん
210 ◆6xSmO/z5xE :2006/10/25(水) 00:27:47 ID:03cBLyvN
あれっ、投下できない・・・?
ちゃんと繋がってるのに
211名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 00:27:54 ID:aMK35E62
俺はセンズリの時は必ず六尺を締めてやる。
そのまま発射するから六尺には雄汁がたっぷり染み込む。
それを一回も洗濯しないからチンポが当たる部分は変色し茶ばんで、
臭いもすげぇ雄臭くなっている。
昨夜もその六尺締めてセンズリした。
臭いが逃げないように六尺は密封ケースの中に仕舞ってあり、六尺二丁が生乾き状態で、
蓋を開けただけでムワッと雄臭え臭い立ち昇ってきて俺の性欲を刺激する。
全裸になって素早く六尺を締める。縦褌がケツにギュッと食い込むほどきつく締める。
六尺一丁の姿を全身鏡に映して眺める。週4でトレして日焼けマシンで焼き込んでる
ゴツクて浅黒い肉体が我ながら雄欲をそそる。
既に前袋の中では痛いほどチンポが勃起して盛り上がり先走りの染みがひろがっている。
俺はいろいろポージングして己の肉体美を観賞する。
雄臭ぇ。たまんねぇぜ。
俺は前袋ごとチンポを揉みしだく。
うぉっ!いいぜ。
長く楽しむために発射しそうになると手の動きを止める。
俺は交互に使ってるもう一丁の生乾きの六尺を顔に押し当て臭いを嗅ぐ。
臭ぇ臭ぇ。ギンギンのチンポからさらに先走りが溢れる。
こうやってじっくり楽しみながらいよいよ発射の時が来る。
褌マッチョ野郎!雄臭えぜぇー!と叫びながら六尺に中出しする。
六尺はドロドロベトベトになり部屋中に雄臭が漂う。
六尺を解いてすぐ密封ケースに仕舞う。今夜もまた世話になるぜ。よろしくな。
212うふ〜ん:うふ〜ん ID:DELETED
うふ〜ん
213うふ〜ん:うふ〜ん ID:DELETED
うふ〜ん
214うふ〜ん:うふ〜ん ID:DELETED
うふ〜ん
215名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 00:38:41 ID:x7nIkLz8
はからずとも寸止めか!?
216ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE :2006/10/25(水) 00:40:02 ID:03cBLyvN
 かなり濡れているとはいえ、男を受け入れるのが初めてである藍香のそこはきつく閉じられていた。
 対して智のペニスは、吸血鬼の精力と一週間の禁欲により尋常ではない大きさになっていた。
 藍香の淫らすぎる肢体への興奮もあってか、激しく反り返ったソレは凶器といっても差し支えないほどである。
 性器だけを見れば、大人と幼女ほどの差があると言っても過言ではない。
 しかし智は構うことなく、強引に秘肉を割り裂いて自身を押し進める。

「あぐぅっ・・・! ひぐっ・・・!? うううううぅぅぅぅぅぅ・・・!!」
 膣内の大きさを明らかに超える異物は、押し返そうとする力を強引にねじ伏せて掘り進んでいく。
 女の形を、智のモノの形に変えられているのだ。
 包むとか締めるとか、そんなレベルではない。
 膣洞と智のペニスが完全に一体化し、一部の隙も無く覆い包んでいる。
 その快感は吸血鬼の衝動さえ上回り、智を快楽を貪るだけの完全なオスに変えてしまう。
 獣じみた雄叫びを上げ、更に藍香を貫く力を強めた。
 そして―――。



「ひぎっ!? いたぃっ・・・! うぁ、あぁ・・・・・・っ、あああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 ぶちぶちっ、という音が確かに聞こえた。
 信じられない激痛に、腹の底からの悲鳴が迸る。
 おそらくは、18年間生きてきてこれほどの大声を上げたのは初めてだろう。
 それでも、愛する人と繋がった歓びに比べれば取るに足らない。
 スカートに隠れて見えないが、処女の証が失われ、智との結合部に赤い筋を作っているのが感じられる。
217ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE :2006/10/25(水) 00:40:33 ID:03cBLyvN
 しかし、その感動に浸る間もなく智が更に腰を突き入れる。
 処女の守りも突き破られた今、智の蹂躙を阻むものは何もない。
 ちょうどペニスが全て藍香に飲み込まれたところで、侵攻が止まった。

(あ・・・。子宮・・・口に、いるのを感じる・・・。智くんが、私の一番奥に・・・)

 すぐに前後運動が開始され、智ががむしゃらに腰を振り出した。
 膣壁を擦られ、子宮を突かれ、藍香の身体を激痛が襲う。
 摩擦熱を感じるほどに腹部が熱く、実際擦り切れるほどの痛みを感じる。
 しかし智に組み敷かれた藍香が浮かべているのは、慈愛さえ感じる微笑だった。
(智くん、気持ちいいの? 私の身体気持ちいいの? そんな夢中になるくらい、私がいいの?
 嬉しいです、智くん・・・。もっと、もっと私を求めて・・・!)

 いつの間にか藍香も智に合わせて動き始め、結合部の水音と腰の打ち合う音、2人の男女の荒い息遣いだけが部屋に響く。
 一際大きなストロークを最後に、智は子宮口に思い切りペニスを押し付けた。
 挿れる前から発射寸前といっても過言ではなかったそれは、ここまで保ったのが奇跡と言ってもいいくらいだった。
 ビクビクッ、と一震えして、溜まりに溜まった欲望を吐き出し始める。

「ふあっ、あ、あぁぁ・・・! 私、イクっ・・・・・・!」
 塊と言ってもいいくらい濃く濁った精液が藍香の子宮に撒き散らされ、その熱い感覚に藍香も絶頂を迎えた。
 ジェット噴射のような射精は留まるところを知らず、藍香の最奥を汚し続ける。


(私と智くんの、赤ちゃん・・・・・・出来るかしら・・・?)

 心地よい熱と痛みで薄れた意識の中、藍香が思い浮かべたのはそんなことだった。


-------------------------------------------------------------------------------------------------------

218 ◆6xSmO/z5xE :2006/10/25(水) 00:42:58 ID:03cBLyvN
ずっと試行錯誤してましたが、かなり短く刻めば投下できるようです。
すみません、続きいきます。

なんでいきなりIEのエラー起きたんだろう・・・。
219ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE :2006/10/25(水) 00:44:47 ID:03cBLyvN

 吸血鬼の精力は底なしだった。
 大量の射精にもペニスは全く硬さを失わず、一度目の絶頂にくたっとなった藍香の膣内を更に動く。
 哀願の声を上げる藍香に構わず二度目を放出、同じように3度目も放出。
 『智』としての意識が覚えているのはそこまでだが、その後も赴くままに藍香を犯しまくったのは容易に想像できる。
 事実、意識を取り戻した智が目の当たりにしたのは、見るも無惨な藍香の裸身だった。

 全身を白濁に染め抜かれ、腹部は膣内射精のされ過ぎか心なし膨らんで見える。
 秘裂からは愛液と混ざり合った精液が断続的に垂れ流れ、処女の証の赤い血雫を完全に塗りつぶしてしまっている。
 時計は午後4時を指していた。開け放たれたままの部室のドアからは夕日の光が覗いている。
 性交後の気絶時間を差し引いても、相当長い時間『して』いたのは間違いない。
 オカルト研究室はむせ返るような性臭に包まれていた。
 いくら人が寄り付かない文化部棟の最奥とはいえ、よく誰にもバレなかったものだと智は思う。
 だが、だからといって自身のしでかしたことが変わるわけではない。

(俺・・・・・・。藍香先輩を、無理やり犯しちまったんだ・・・)
 動かし難い現実。目を背けるには重過ぎる罪。
 藍香の恋心を知らない智にはその事実が重く圧し掛かる。
 ――いや、例え知っていたとしても同じ思いを抱いただろう。
 自分がしたのは男として最低の犯罪。藍香の人生を壊しかねない重罪だ。
 まして藍香は名家である神川の一人娘だ。その身体は自分だけのものではないだろうに。
 それさえも、滅茶苦茶に蹂躙してしまった。


220ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE :2006/10/25(水) 00:47:33 ID:03cBLyvN
 今朝方、千早を突き飛ばした時。
 智は何も、本気で藍香を望んだわけではなかった。
 目の前の千早から気を逸らす方便に過ぎないはずだった。

 衝動に意識を乗っ取られた後のことを考える余裕は、確かになかった。
 だが、誰か適当な女性から血を吸ってくれれば元に戻ると思っていた。
 それで血を吸われることになる見知らぬ誰かには申し訳ないが、大切な人間に害を為すことには代えられない。
 その血を吸われる誰かが藍香になるなどとは、考えもせずに。

 より上質な血に執着する吸血鬼の本能を、智は甘く見ていた。
 まして藍香は、智がずっと性欲を抱きながらそれを抑圧してきた相手なのだ。
 身体の主導権が入れ替わった瞬間に思い浮かべていたのがその女性だったら尚更、求めないはずが無かった。


(だからって・・・! そんなの言い訳になるか・・・)
 どうしようもない自己嫌悪が智を苛む。
 衝動に屈した己の弱さが情けない。

 そして、それ以上に許せないのは、強姦同然に藍香と交わった行為の気持ちよさを否定できないこと。
 あられもない姿で気絶している藍香の膣内にもう一度精液をぶちまけたいという、未練がましい欲望が燻っていること。
 藍香を犯しまくったことで、千早の誘惑に耐え限界まで我慢していた時とは比べ物にならないほど吸血鬼の衝動は治まっている。
 だがセックスの快楽を知ってしまった今の身体は、その僅かな衝動で暴走しかねないのだ。


 藍香を置いて立ち去るわけにはいかない。
 とはいえ今の智は、いろんな意味で藍香の顔をまともに見ることが出来ない。

 胡坐をかき唇を噛んで俯く智は、罪悪感の中雑念を消去するのに忙殺されていた。
 いつの間にか意識を取り戻して起き上がった藍香が、じっと自分を見つめていることに気づかずに。

221うふ〜ん:うふ〜ん ID:DELETED
うふ〜ん
222ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE :2006/10/25(水) 00:52:12 ID:03cBLyvN
 唇を噛み締めて項垂れたまま動かない智を、キョトンとした表情の藍香は不思議そうに見つめていた。
 身体の精液は綺麗に拭き取られ、掛けられていたタオルを身に纏っている。
 藍香が気絶している間に、衝動を必死に抑えながら智がしておいたことだ。
 十数分経って、このままでは埒があかないと見た藍香は智に声を掛けてみた。

「・・・・・・」
「―――っ!?」
 智くん、といういつも通りのか細い呼びかけ。
 それに智は滑稽なほどビクついて反応し、恐る恐る顔を上げた。

「せん・・・ぱ、い・・・」
 恐怖、怒り、悲しみ、戸惑い、後悔――。
 数多くの負の感情に翻弄され、智の顔は見ている方が悲しくなるほど苦しげに歪んでいた。
 その表情に驚きながらも藍香は安心させるように微笑んでみせるが、智は悲しみの色を濃くして俯いてしまう。
「ごめっ・・・さい、せんぱい・・・。俺は・・・!」
 掠れ、引き攣った声で、智は言葉を搾り出す。
 それに面食らったのは、むしろ藍香の方だった。

 なぜ智はこんな表情をしているのだろう?
 そもそも、何を謝る必要があるのか分からない。
 自分は智に抱かれることを望み、彼はそれに応えただけだ。
 喜びこそあれ、謝られる道理はない。

(もしかして・・・・・・・・・レイプした、なんて思ってるんですか?)
 だからこんなにすまなさそうにしているのだろうか。
 確かに乱暴で強引ではあった。
 傍目には無理やり犯されたように見えなくもないだろう。
 しかし、形はどうあれ藍香が望んで受け入れた以上、レイプでなどあり得ない。
 むしろ嬉しくて仕方ないくらいなのに。
 なのに、そんな悲しそうな顔を――泣きそうな顔をしないでほしい。


 だから、藍香は手を伸ばした。
 触れれば壊れてしまいそうな智。その頭に手を置くと、ビクッと震えた。
 しかし藍香は構わずに、その手をそっと動かし始める。

 なでなで・・・なでなで・・・

 ――いきなり頭を撫で始めた。
 何をされるかと慄いていた智だが、予想外の藍香の行動に呆気に取られる。
 そうして、されるがままでいること数分。
 藍香の手が伝える思いは、責めるようなものは一切なかった。
 ただ優しく、子供をあやすようにいたわった。
 撫でられる心地の良さに、智は泣きそうになってくる。

(ダメだ・・・泣いちゃダメだ。甘えちゃダメだ。先輩の優しさに縋る資格なんか、俺にはない・・・!)
 
 一層強く唇を噛み、智は全身に力を篭めて耐え忍ぶ。
 噛み切ったのか、唇の端から血が一筋垂れ出した。
 藍香は撫でる手を止めるとゆっくりと顔を近づけ、その血につ・・・っと舌を這わせる。
 その感触に思わず目を開けてしまった智の前に、藍香の笑顔がいっぱいに映った。
 そして藍香はたった一言、言葉を紡ぐ。

 
 ‘泣かないで’

 運命の皮肉なのか。
 それは奇しくも、智がエルの為に紡いだ言葉だった。

223ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE :2006/10/25(水) 00:55:27 ID:03cBLyvN
 誰にも言えず、ずっと独り溜め込んできた吸血鬼の苦しみ。
 その片鱗を少しでも明かせば、人として生きていくことは出来なくなる。
 唯一事実を知る藍香にしても、少し血を吸わせてもらう以上の関わりは持たずにいるつもりだった。

 なのに今、こんなことになってしまって。
 それでも、藍香は認めてくれるのだろうか。自分を許してくれるのだろうか。
 いや、そんなはずはない。もしそうだとしても、それに甘えるわけにはいかない。

 ――でも、今は。
 今だけは、俺の弱さを許してほしい。




「うっ・・・っぅぅっ・・・! うっ・・・うぁっ、うわあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 智は泣いた。
 藍香にしがみつき、幼子のように泣きじゃくった。
 恥も外聞もなく、大声を張り上げた。
 これほど泣き叫んだのは、生まれて初めてのことではないだろうか。
 泣き虫だった幼馴染の少女の手前、智はいつも気を張って生きてきたのだから。

 千早にさえ見せた事のない弱さを曝け出し泣く智を、藍香は愛おしげに抱きしめる。
 髪を優しく梳き、背をそっとさすり、その涙を受け止めた。
 



 そうして、更に十数分後。
 泣き疲れたのか、智は藍香の胸の中で寝息を立て始めた。
 その裸身を掻き抱く藍香は、相変わらずの微笑みを浮かべている。
 部室の中は、智と藍香の2人きり。

 ――だから、気づく者はいなかった。
 藍香のその微笑が、少しずつ歪な形を取り始めたことに。
 感覚の鋭い者が今の藍香を見たならば、きっとこう表現するだろう。


 『獲物を捕らえた女郎蜘蛛のようだ』と。
224うふ〜ん:うふ〜ん ID:DELETED
うふ〜ん
225 ◆6xSmO/z5xE :2006/10/25(水) 01:01:05 ID:03cBLyvN
今回はここまで。エロシーン描写は一度やってみたいと思っていたのですが、正直色々やっちまったという気持ちです。
ともあれ、これでヒロインズの地雷は一通り撒き散らしたわけで。いよいよ物語は急展開に・・・・・・なるかもしれません。
しばらく投下の間が開くかもしれませんが、なるべく早く再開したいと思います。


最後に・・・変な中断をして本当に申し訳ありませんでした。でも、一体何であんな風になったんだろう・・・。
226名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:01:07 ID:QvC14HKG
>>211
ホモ小説を書いている人は荒らしなのか?
ここの住人?
せっかく、神が投稿しているのに妨害するのはやめてほしいって
227名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:03:36 ID:PHF8x/8k
>>225
GJ!
藍香ktkr!

>>226
明らかに嵐
誰かが申請しても削除されなくなるから、アンカー付けたり反応しないほうがいいよ
228名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:05:40 ID:g6tJECvz
>>226
黙って透明あぼーんしろ。
229名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:07:02 ID:QvC14HKG
ついにこの神スレにまで荒らしがやってきたのか
しかも、ただのホモ小説を垂れ流す阿呆は
腐女子ぐらいしかいないんじゃないのかと

ああ・・。
ムキになって投稿する阿呆の自己満足の笑みは
人生の9割終わってもいいぐらいのキモさなんだろうね

>>225
これでヒロインの修羅場フラグが完全に立ちました
次回が楽しみです
230名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:07:31 ID:98Fg84Da
>>225
GJ!藍香エロス━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!

>>226
相手にすんな

■荒らしについて■
削除依頼対象です。反応すると削除人に「荒らしに構っている」と判断されてしまい、
削除されない場合があります。21歳以上なら必ずスルーしましょう。

PINK削除依頼(仮)@bbspink掲示板
http://sakura02.bbspink.com/housekeeping/

書き込む前に。。。
http://info.2ch.net/before.html
231名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:07:35 ID:x7nIkLz8
投下乙です
いいなあ藍香・・・いいなあ!!
でも千早とエルが黙っちゃいなさそうだ・・・
232名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:09:25 ID:K4/vQnp5
一番危険人物はエルだな・・
千早と藍香よりもある意味手強い
233名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:09:27 ID:WFSrqLvP
嫉妬スレでも反応する馬鹿がいるのか
投下の時に現れてくれると支援っぽくなって投下しやすくなるね
阿修羅氏がまとめる時大変だけどw
234名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:10:08 ID:P3l+VnYR
>>229
ホモとヤオイは違うんです!12345
ヤオイ好きとしてはヤオイな嫉妬SSも見てみたいですけど単なるホモ荒らしは迷惑です。
235名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:12:20 ID:9Mvk8KIA
ヤオイ嫉妬SSって・・

このスレのSSって女の子も読むの?
てっきり、男向けのスレだと今まで思っていましたが
236名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:13:12 ID:SycJ53AS
腐は数字板にカエレ
237うふ〜ん:うふ〜ん ID:DELETED
うふ〜ん
238名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:14:34 ID:9Mvk8KIA
また腐女子か
239うふ〜ん:うふ〜ん ID:DELETED
うふ〜ん
240うふ〜ん:うふ〜ん ID:DELETED
うふ〜ん
241うふ〜ん:うふ〜ん ID:DELETED
うふ〜ん
242うふ〜ん:うふ〜ん ID:DELETED
うふ〜ん
243名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:18:08 ID:9Mvk8KIA
だが、忘れるな荒らし
だてに嫉妬好きが集まっているスレで1年以内で20のスレを埋めていたわけじゃない

おれたちの女神
言葉様がいる限り、俺達の結束と嫉妬好きは失われることはない
ゆえに俺も今日は嫉妬スレで心を癒してもらうぜ!!




                 ,. -───ー- 、
               /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ヽ
             /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:,.:.:.:.:.:.;、.:.:.:.:.:.:.:.`ヽ
  ____    //.:.:.:.:.:/:.:/ i.:./'''||ヽ.:.:.:.:.:、.:.:.:.`,
     |      /;/.:.:,:.:.:/.:.:.:/ /.:/  || ヽ.:.:.:.:.ヽ.:.:.:l
     |-, |/  /i:i.:.:./.:||'.:.:./  /;/   ||  i.:.:.:.:.:.i:.:.:.:l
     |-| ヽ、  /,l:|.:.:i.:,/||.:;/  リ    ,||、._l:.:;.:.:.:l.:.:.:.|
          i l.:.|;;;|/,.j.|、l___ / ====、 ,.r ̄l:|.:.:.:.|.:.:.:i
     |     |:.:、ーー、. ,' ̄      ||   |.:|.:.:.:.|、:.:.!
     |,ヘ、_,   ヾ:ヾ、  ||         ||  /:/|.:.:.:.| ヽ:i
     '      ヾ::i    ー---- ァ   // |.:.:.:.|  }ヽ
      | ! !    ,|\    i     i  /  |.:.:.:.|, /| ヽ
      ヽ、__   / ト、 ヽ   ヽ、   /   __,. -|.:.:.:|.:|.:.:! ヽ
      _i_i、  / i.:.:|`lー------t t-- '".:.:.:.l.:.:.:l.:.|.:.:.}  ヽ
        | ' i  l:.:| !.:.:.:.:.:.:,/~lニl``>.:.:.:.:.l.:.:.:l.:.:i.:..:.|  ヽ
     __l___   |  l;.:! |.:.:.:.:.:.:./7 ハ~ハ;.:.:.:.l.:./.:.i!;|.:.:.:|
      ,/     l:;l  l.:.:ハ.:.:l:::\| V:::::i.:.:.:l:/.:./i|ヽ.:.:!
      /^ヽ、,     i|  ヾj i.:.:l;;;:::::::メ::::::::i、.:.リ:.:.:! l| |:/
              i!    ヽl_|;;;;;;;:|;;;;;;;lソ.:.:,/、;|  リ
       ヽ/       /"~メ{___,.ゝ;/
               /,、ケ'`  |::l  |::| ´
              ``''     i:l  i:l

244うふ〜ん:うふ〜ん ID:DELETED
うふ〜ん
245名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:21:30 ID:98Fg84Da
阿修羅さんがまとめる時苦労するかもしれんから誰か19スレのと合わせて削除依頼してきてくれ
246名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:23:31 ID:ePAH5y2e
>>234
家庭教師のお兄さんと気弱なショタといj9めっ子のツンデレショタ:の3角関係とかいいよね!
あくまで3角関係&嫉妬修羅場みたいなシチュスレなわけだし
男の子同士の恋愛関係全然オッケーですよー
247名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:26:56 ID:UCxkaR5q
同じようなネタばかりでいい加減飽きてくるってのはあると思う。
あと馴れ合いが気持ち悪いんで、新しい風として801嫉妬小説というのもありかと。
数字板にもリンク貼っとくんで職人さん投下キボンヌ!
248名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:31:50 ID:CariOzEL
ゲイ小説荒らしが現れたのは
ヤンデレスレにここのリンク張られたのが原因らしいっスよ

>>246
>>247

てめえら痛すぎ
腐女子は自分らでスレを立ち上げろ
神たちが築いていたモノを勝手に汚すな

一体、誰が801嫉妬小説を悦ぶんだよ
アホか?

249名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:32:39 ID:P3l+VnYR
>>235
すみません、当方ヤオイ"も"好きな男です。
でもヤオイとホモは全く違う物なので、この荒らしでヤオイに敵意を持たないで欲しいです。

>>246
数字板住人ゆえ妄想力はありますが文章力がないのでSSはむりぽ・・・orz

>>247
男ならではの嫉妬の仕方ってのもあると思うのですよ。
残念ながら私では文章化できませんが。
250名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:33:57 ID:WFSrqLvP
477 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/10/25(水) 01:23:48 ID:CariOzEL
おい、嫉妬スレ荒らしているのはこのスレのせいか?
せっかく、神が投稿しているときに妨害して
本当に頭大丈夫か? ここの住人は


嫉妬娘とヤンデレ娘を激突させてショタっこが主人公を掻っ攫っていくまで読んだ
251名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:36:30 ID:op4LQfiT
>>248
いやならスルーすればいいじゃん

>一体、誰が801嫉妬小説を悦ぶんだよ
俺は読んでみたいぞw

というわけですので職人さん需要はありますよー
いつでも投下してくださいー
252うふ〜ん:うふ〜ん ID:DELETED
うふ〜ん
253名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:38:23 ID:vihDw8Si
ヤンデレスレのを保管庫に移して
ヤンデレスレを潰して統合して
あと気持ち悪いのは透明あぼんでどうだろう
254うふ〜ん:うふ〜ん ID:DELETED
うふ〜ん
255うふ〜ん:うふ〜ん ID:DELETED
うふ〜ん
256名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:39:37 ID:OsnulfCW
>CariOzEL
ヤンデレスレにわざわざ喧嘩売るようなやつも荒らし扱いされるぞ。

荒らしはほっとけっての。
酷くなったら削除してもらえば良いんだし。
それまではあぼ〜んで我慢。
257名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:40:05 ID:SycJ53AS
ID変えて来やがったかw
258うふ〜ん:うふ〜ん ID:DELETED
うふ〜ん
259名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:44:45 ID:INX/aLAe
男の嫉妬はちょいと本スレの理念と違うかも。
それはそれでスレ立てた方がいいと思うよ。
あと、藍香はもらっていくよ。ん、誰だお前は!?何をする!止め(ry
260名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:47:20 ID:KCEFhRS1
しかし、腐女子の書く作品は駄作だね
性器うんぬんを曝け出しとけばいいってのは素人以下だよ

このスレの神様は目的にある『修羅場』に辿りつく為に
いろいろな伏線を張り、ヒロインの心情を語り、
工夫と創造が行われているのに

そのホモ小説はゴミに等しい評価だ
261名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:49:33 ID:zAiuK298
>>259
2006/10/21(土) 23:48:08 ID:a6uayvcm
名無しさん@ピンキー(sage)

浅いものはツンツンしたり、みたいな可愛いラブコメチックなヤキモチから
深いものは好きな人を独占して寵愛する為に周囲の邪魔者を抹殺する、
みたいなハードな修羅場まで、
醜くも美しい嫉妬を描いた修羅場のあるSS及び、
他様々な展開の修羅場プロット・妄想を扱うスレです。

「男女の間」って指定はないわけだし、スレの趣旨に合致するじゃん
てめぇの趣味に合わないからって排除しようとしてんじゃねぇよ
262名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:54:09 ID:98Fg84Da
>>261
大本のまとめサイトの序文

>このサイトは、エロゲその他での三角関係における、女の
>一挙一動に悶え、 純粋な情念と狂気に身震いしながら堪能する
>2ちゃんねる上の スレッド「嫉妬・三角関係・修羅場統合スレ」
>で取り上げられたタイトルをまとめたサイトです。
263名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:55:31 ID:gvalXwg4
君も知りたいだろ?嫉妬スレの飽くなき欲望の果て。
嫉妬の名の下に凶器の夢を売った愚か者達の話を。
だから挑むのか?それが、夢と知って叶える為に。
嫉妬スレは何を手に入れたのだ??
その手に、その夢の果てに!!知りたがる欲しがる。
やがてそれが何の為だったのかを忘れ、
泥棒猫を大事と言いながら弄び殺しあう。
何を知ったとて、変わらない!
最高だな嫉妬スレは。そして妬み憎み殺し合うのさ!
ならば、存分に殺し合うがいい。
それが、望なら!!私にはあるのだよ!!
この宇宙で唯一嫉妬スレ、全ての嫉妬スレ類を裁く権利がな!
まもなく最後の扉が開く私が開く。そしてこの嫉妬スレは終わる。
この果しなく欲望の世界は、
そこで足掻く思い上がった者達、その望のままにな!貴様等だけで何が出来る?
もう誰にも止められはしないさ。この嫉妬スレを覆う憎しみの渦はな!・・・
264名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 01:56:13 ID:R2FTawYD
>>262
外部のサイトの事なんて知るかよ
265名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 02:02:53 ID:XaZmui8e
嫉妬スレは変な荒らしが取り付いたおかげで完全に終わってしまったね
これが元で神たちがどんどんとスレから離れて行ってしまう
終焉が近付いてきたのかな・・
ちくしょっう。

まだ、完結していない神作品があったのにな
読めないのか

世の中は諦めが肝心ですよ
期待しているとロクな目に遭わないんだから
266名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 02:05:56 ID:Qs7Dh26k
俺はホモは何であれギャグにしか見れんな。

まあ需要があるならそれもいいんじゃない。最近このスレもマンネリ気味だし
267うふ〜ん:うふ〜ん ID:DELETED
うふ〜ん
268名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 02:34:04 ID:fe+x3ynG
荒らしを必死にスルーし…

職人が投下しやすい環境を創るべく…

雑談し…秩序を保ち…雰囲気を盛り上げ…

そうして丹念に整備されたスレに投下されたSSを…蹂躙する…

最高の娯楽だ!!!
269名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 02:39:02 ID:OkPzSJih
ブラッド・フォース
GJでした!!



























ところでエルの出番は?
270名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 02:41:23 ID:aMK35E62
>>269
作者自演乙w


















































271名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 03:34:06 ID:rZkxRA/O
スレのお約束

マターリ仲良く
修羅場はゲームの中で


それはともかくブラッドの人

>>265
荒らしが沸いたの二度目よ
そのときはスルーしたのに・・・
嫉妬のプロたるスレ住人が嫉妬に対して過剰反応しちゃダメよ
272名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 03:35:31 ID:rZkxRA/O
ブラッドの人
のあとに肝心の「GJ」が抜けた
連投スマンです」 ̄l○


嫉妬に狂った子に刺されてきます
273名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 07:17:42 ID:K4QUFQPh
ブラッドの作者さんGJです。
とりあえず、千早タンがかわいそすぎる。
274 ◆zIIME6i97I :2006/10/25(水) 08:04:15 ID:SxB1vlvo
朝っぱらですが、ミスター投下します。
濡れ場がきっちりと書ける方がうらやましい。
嫉妬です。
275ミスタープレイボーイ:2006/10/25(水) 08:04:51 ID:SxB1vlvo
彼女の髪をなでる。
確かに、セックスはすばらしい。当たり前のことだ。
けれど、その後の疲労の中で肩を寄せ合ってじっとしていることも、同じくらいすばらしい。
お互いの湿った体温を交換する。体がひとつになったみたいだ。
こうしていると、世の中すばらしいことだらけなんじゃないかと思えてくる。
もちろん、そんなのは幻想だ。
地球の裏側で飢えて死ぬ子供もいれば、すぐ身近には生まれてくる前から父親に捨てられそうな子供だっている。
ちなみに、その父親というのは僕なんだけれども。
276ミスタープレイボーイ:2006/10/25(水) 08:05:51 ID:SxB1vlvo
薫は身持ちの固い女だ。
この日まで、指一本たりとも体に触れることを許してはくれなかった。
最初は、お嬢様らしいプライドや喪失への恐れだけが理由かとも思った。
だから、バージンキラーの異名をもつ僕は、その恐れが誤解であることを知ってもらおうとした。
けれど、それだけが理由ではないのだと思い始めた。
あえていえば、セックスそのものへの恐れ、あるいは穢れへの恐れか?
ともかく、彼女が僕を熱烈に愛しながら体を許さなかったのには、彼女なりの深い理由がある気がしていた。
その彼女が、自分から誘って体を与えてくれた。

正直、感動した。
薫は、それこそ、すべてを僕に与えようとしてくれている。
彼女のような気位の高いお嬢様が、すべてをだ。そして、彼女がそうするのは、この世で僕にだけだ。
もちろん、精神的な満足を覚えたというだけではない。

端的に言って、彼女はすばらしかった。
触ると、どこまでも滑っていきそうななめらかな肌。
それが、僕の愛撫でピンク色に染まった。
舌をちろちろと出しながら、慎ましやかにあえぐ。
そのあえぎがやがて、一オクターブ高くなる。
それは、さらに高くなって。
のぼりつめて。
墜落する。
まるで、雪の中で事切れる、白い猫を見守る心地だった。

結局、どんなに言葉を尽くしても今夜のことを伝えることなんてできない。
どうしたって、もどかしさが残る。
ともかく、言いたいことは。
彼女はすばらしく、僕は男としてそれを何にも代えがたく思ったということだ。
実際、その瞬間には、洋子のことも「あれ」のことも、すべて忘れてしまっていたほどだ。
277ミスタープレイボーイ:2006/10/25(水) 08:06:33 ID:SxB1vlvo
けれど、及ぶ前に、どうしても彼女たちのことを思い出さずにはいられないことがあった。
薫が、直に、直裁に言えば「生で」してほしい、などと言い出したからだ。
確かに、事実上婚約者同士である僕らには、許されていることなのかもしれない。
けれど、やはり結婚前であるし、何より学生の身分でそれはまずいと、拒絶しはした。
もちろん、そこに最近の失態の記憶が絡んでいたことは否定できない。
あれ以来、僕は以前にまして、避妊に関しては慎重になっていた。
ある種のトラウマだ。

けれど、薫はどうしても直にしてほしいとせがんだ。
少なくとも、初めてはそうしてほしいと。今日は安全な日だからとも言った。
直でなければさせないとも。
彼女にそうまで言われて、拒否し続けるのは不自然な気もした。
だいたい、これでできたとしてもイーブンになるだけじゃないかなどと、わけのわからないことを思いもした。
いったい、誰にとって、何がイーブンなのかは知らないが。

それまで、彼女にさんざっぱら焦らされていたこともあって、僕は半ば浮かれていたのかもしれない。
あるいは、最近の立て続けの事件に、ストレスを感じていたせいかもしれない。
結局、僕は彼女の望みを飲んだ。
いまさら、一人や二人妊娠させたところで変わらないだろうなどと、無責任きわまりないことまで考えた。
今夜の僕は、確かにどこか浮かれていたんだろう。
278ミスタープレイボーイ:2006/10/25(水) 08:07:41 ID:SxB1vlvo
今、僕は後悔しているんだろうか。
確かに、ある意味で後悔している。
でも、それは彼女を抱いてしまったからではない。まして、直にしてしまったからでもない。
あれを後悔することなんて罰当たりなことはできない。男の矜持に賭けてだ。
後悔しているのは、その後のことだ。
いや、これは後悔と呼べるものではないかもしれない。ただ、奇妙な息苦しさがあった。

心地よい疲労に浸りながら、彼女の髪をなでているとき、彼女は突然言ったのだ。

「ごめんね」

いったい、何のことなのかわからなかった。
だから聞き返す。

「何が?」

「今日は、別に安全な日だってわけじゃないの」

特に、驚きはしなかった。
そんなこともあるかもしれないと、なんとなく感じていたから。
けれど、そんなことは別にどうでもいいとも感じていた。
薫は、妊娠したかもしれない。最近の出来事から、その仮定はさほど抵抗のあるものではなくなっていた。
でも、それがどうしたというんだ。

「別にいいさ。僕らはどうせ結婚するんだから。早いか遅いかの違いだよ」

そのとき、僕は本気でそう考えていた。妊娠という事態に対する耐性が出来たのだろうか。
だとすれば、やはり僕も学習しているのか。それが成長なのかどうかはわからないが。
彼女が顔をあげる。その瞳は、ぬれていた。こぼれた涙が頬を伝っておちる。
けれど、それは僕の言葉に感動したからというわけではなかった。こういったからだ。
279ミスタープレイボーイ:2006/10/25(水) 08:08:15 ID:SxB1vlvo
「違うの」

「何が?」

「関係ないの。安全な日か、そうでないかなんて」

わけがわからなかった。

「どういうこと?」

「できないのよ。もとから」

彼女は、笑おうとして失敗した顔をしていった。
それは。つまり。

「生まれつきね、完全に癒着してしまってるんだって、子宮が」

子供ができない?
そういう奇形があることは知っていた。

「手術してもだめなんだって。妊娠するための機能は回復しないんだって。子宮が出来上がる過程でくっついちゃってるから」

言葉が出なかった。
別に、僕は子供がほしくて彼女と結婚するわけじゃない。
特別に、子供がほしいなんて考えてもいなかった。
だから、そのことでショックを感じることなんてないはずだった。

けれど、彼女はつらいだろう、女として。そして、それを彼女は話してくれた。
だから、ショックなんか受けていないはずの僕が、なんでもない様子を見せて慰めてやらなければいけないのに。
でも、何を言えばいいんだろう。
「子供は好きじゃないんだ」か?
「養子をもらえばいいよ」か?
どれもが、的をはずしているように思えた。

だったら、言葉は必要ない。余計なことを言わず、彼女を抱きしめてキスのひとつでもしてやればいい。
けれど、それもできなかった。
それは、きっと頭の中を洋子と彼女のおなかの・・・子供のことがよぎったからだ。
それとこれとは無関係のはずだ。どう考えたってそのはずだ。
でも、なぜ彼女たちのことが頭を掠めるんだろう?
280ミスタープレイボーイ:2006/10/25(水) 08:09:24 ID:SxB1vlvo
薫は、僕の腕の中で眠りについている。
涙にぬれた頬を、人差し指でぬぐってやる。
なんて愛しい。そう、本当に愛しい人だ。

もし。
もしあの一瞬が永続するものであったら、僕と薫はそのまま幸せでいられただろう。
薫は僕だけを、僕は薫だけを考えていた。そこに、何の疑問も挟む余地はなかったはずだ。
けれど、どんな輝かしい一瞬も時間とともに強度と純粋さを失って、異物の侵入を許すことになる。
実際、今僕はこんなことを考えているのだ。本当にばかばかしいことを。

今の自分の気持ちに正直になって、このまま薫を選び、そうして洋子とおなかの子を捨てた場合。
僕が生まれてから捨てたあの親父と、生まれる前に捨てることになる僕は、いったいどっちがひどいんだろうか。

なんだか、吐き気がした。
281 ◆zIIME6i97I :2006/10/25(水) 08:11:02 ID:SxB1vlvo
以上、第八話「薫の告白」の巻でした。
今度は誤字はない、だろう。
282名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 08:14:57 ID:rasDPQ/N
キタ―(゜∀゜)―!!
283名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 08:21:15 ID:K4QUFQPh
ちょwwww朝っぱらから超GJ!!
なんだか、あまりにもヘタレすぎて好感が持ててきた。
284 ◆zIIME6i97I :2006/10/25(水) 08:23:17 ID:SxB1vlvo
ごめんなさい、一部抜けていました。
279の後に、以下の文章を挿入して読んでください。
もうしわけない。
285ミスタープレイボーイ:2006/10/25(水) 08:23:49 ID:SxB1vlvo
少しの沈黙の後、薫がしゃべりだした。

「今日、初めてしてみてね、わたしがこういうのを嫌っていた理由がわかった気がする。きっと、これはわたしにとって無駄なことだから。
気持ちよくなるための手段でしかないから。それ以上のものにはなりえないから。だから嫌だったんだと思う。でも、シゲ君ならよかった。
だから、今は本当にうれしい」

ぬれた瞳のままで、こちらに微笑みかけ、僕の唇にキスをした。
離れてから、今度は一転して不安な表情を浮かべて、僕に伺いを立てる。

「捨てる?」

ギクリとした。もちろん、そんなことで薫を捨てることなんてないはずだった。
それには、病院も、馬鹿兄貴も関係ない。

「あの人のところへ行く?」

どうしてという思いと、やっぱりという思いが交差する。
彼女は洋子のことを知っている。僕と洋子の関係を知っている。洋子のおなかに宿っているものについても。
それでいて、このことを告白してくれたのか。
いや、もしかして、それだからこその告白なのか。

確かに、薫はすべてを僕にゆだねてくれた。
体でも、財産でもなく、重いこの告白によって、彼女は僕にすべてをゆだねてくれた。
正直、彼女のことを恨みたくもなった。卑怯じゃないかとも思えた。
そんな風に自分を投げ出してくる女の子を、支えないわけにはいかないじゃないか。
薫の体を、今度こそ抱きしめて、キスをする。
そのときばかりは本当に、病院のことも、兄貴のことも、洋子のことも、洋子のおなかのことも、親父のことも、母さんのこともすべてを忘れていた。
薫のことだけを考えていた。もしかすると、こんなふうに女の子のことを考えたのって、生まれて初めてかもしれない。
もしかして、僕は初めて恋をしているのか?
286 ◆zIIME6i97I :2006/10/25(水) 08:25:01 ID:SxB1vlvo
こんどこそ、第八話終了です。
287名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 08:58:48 ID:JSytGIVS
媚びない女たちと自分から相手を求める男ってのがいいね
これからもミスターを応援するぜ!
もちろん修羅場スレ的にだけど
288名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 09:14:07 ID:x46LiVv9
電車に揺られながら携帯でGJ
289名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 09:25:33 ID:DNW5toC3
うーむ・・・正直なところ・・・
290名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 10:42:03 ID:oV9bDU7L
ミスターに課せられた命題はかつて無いほど重いな。
明日は我が身かと思うともう胃が・・・・

続きにwktk
291名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 11:52:37 ID:Gb+uenK2
ホモ小説まだぁ?
292名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 12:03:16 ID:Gb+uenK2
早く投下しろよ
マジでこれだけ楽しみにしているんだよホモ小説
293名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 13:02:01 ID:Gb+uenK2
くっそこんなに待っているのに投下しないとは
俺をなめているのかな? かな?
294名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 13:14:25 ID:bz2bphTx
>>286
ミスターGJ!
昼飯食いながら読ませてもらったぜ

ミスター、ノーモア修羅場って言ってたのが昔の事のように思えて来たよ
295名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 14:33:58 ID:LeL6lZzO
得意げに投下してるとこすまんが
どこがおもしろいかさっぱりだ
296名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 14:51:45 ID:q0Z61cqa
ホモ小説こそがこのスレの華だ
だから、さっさと投稿しろっての!!

297名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 15:04:38 ID:ButnIPVX
>>296
ホモと801&BLは違うでしょ
切ない系の男の子同士の嫉妬SSは大歓迎ですけど
オッス連呼の雄臭いガチムチホモSSはちょっと・・・
298名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 15:18:08 ID:q0Z61cqa
面白いSSはないんだ

ホモ小説をさっさと投下するべき
くだらないSSを読むために時間を浪費したくないんだよ
299名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 15:20:27 ID:q0Z61cqa
まだ、投下しないのか?
あーん?

こっちは1日ずっと待っているんだぞ
300名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 16:12:01 ID:iRLIO4/f
301名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 16:14:37 ID:q0Z61cqa
そんなスレは重複だろ!!
ここは別に男同士の嫉妬でもいいんだからな
302名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 16:26:12 ID:1GGrK4NT
純粋に、そういうことしてて楽しいですか?
万が一楽しいと感じていたとして、そんな自分を誇れますか?
まさかとは思いますがもし誇っていたとして、周囲と引き比べて自分はどう映りますか?
開き直ってしまいますか?
周囲の害になることが趣味?

ダサいっすね
人間放棄っすか
我さえ通せればそれでいい、そんな生き方で果たして何が残せるんっすかね
かまってもらえるなら何でも構わない、そこまで人生切羽詰まってるんすね
大変気の毒っす おめでとう
303名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 17:17:07 ID:aM7s0Rxr
純粋な異性同士の絡みが見たいよ。
304名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 18:45:53 ID:wtPcJ5Yg
みんな、逆に考えるんだ
『ここのスレに入り浸りの彼氏に構って貰えないヤンデレな年上彼女が
 「男君をたぶらかそうとするおたく共はみんな死んじゃえ」とか言いながら
 好きじゃないBLをコピぺして「これで男君をおたく共から救ってあげられる
 ……まってて男君。私が助けてあげるからね……」みたいな感じで
 彼氏の見たスレを荒らしてまわってるんだ。』
こう考えるんだ。

http://www.media-k.co.jp/jiten/wiki.cgi?%A1%E3%A4%B3%A1%E4#i92
305名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 18:56:15 ID:THPtMF3Q
剣になってしまった主人公を巡る
二人の少女テンとユウの修羅場
あれも血塗れ竜の神の作品じゃなかったっけ?
物凄く続き楽しみに未だ待ってるのだが
306名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 19:10:53 ID:2aKVQpLt
>>300
オマエは俺かw
307名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 19:28:01 ID:OsnulfCW
>>305
あれは埋めネタだった気がする。
308名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 19:45:48 ID:THPtMF3Q
うん、確かに補完庫にも梅ネタとして収録されてる
だが俺は言いたい

続 き が 読 み た い
309名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 20:15:45 ID:x3yZSD8J
ホモ小説はまだぁ?
女の子なんてキモチワルイ
やっぱり、男じゃないと萌えないよ
310名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 20:24:08 ID:x3yZSD8J
>>302さんもホモ小説が読みたいとおっしゃっておるぞ
311名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 20:27:41 ID:ZXxKk0VA
どこぞの強制スレと似た流れになってきた。
まあ、レズスキーかホモスキーかといった違いはあるが。

釣りで済まされるうちに耐性をつけてスルーすればよろし。
さもなくば前述の某スレと同じ結末に。
312名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 20:48:20 ID:x3yZSD8J
ホモ小説様に逆らおうとするのか・・
それこそが悪だ!!
313名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 20:58:47 ID:x3yZSD8J
ふふふ・・
どうやら、誰も投稿してこない
我ら、ホモ小説様の勝ちだな!!
あはあはっはははははは
314名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 21:21:32 ID:CgylIHJn
あの剣の話は良かったな
自分も出来れば続きが読みたい
315名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 21:26:25 ID:SycJ53AS
俺も読みたいなソレ。
316名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 21:30:50 ID:aM7s0Rxr
異性同士の絡みプリーズ。
317名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 21:54:29 ID:1GGrK4NT
一人相撲がお強いんですね。
318『ハーレム、裏の顔は修羅場!』 ◆yjUbNj66VQ :2006/10/25(水) 22:31:22 ID:7pw41ShX
さて、ことの異変はすでに始まっていたのだ。そう、あの電車から降りた時から。
「ふぅ、やっと洗い物も終わったな。おい、茜。そろそろ学校いくぞ。」
「うん。」
鞄を持ち、二人で玄関を出た瞬間………
「………」
出勤中のOLに出くわした。うむ、だいぶレベルの高い女性だ。ここは一発……
「おはようございます、Mrs。今日も雲一つ無い、いーい天気だ。」
ふぁっさぁと前髪をかき上げながら、ウインクして見る。総命中率五パーセントの必殺技だ。
「…………」
が、彼女は無反応のまま、こちらをじーっと見ている。ガン見ってやつか。……い、いやぁ、冗談なんだから、まじで見られても………
「き………」
なにか言いたげにぼそりと喋り出す。
「ん?木?」
「きゃあああぁ!!!!ば、化け物〜〜!!!」
いきなりそう叫び、走りさってしまった……
「ふう、おまたせ、シュンちゃん。」
ようやく靴を履き終え、表に出てきた茜。
「茜、手鏡持ってる?」
「え、うん。」
渡された鏡で、自分の顔を見てみる。………うん、いつもと変わらない、ハンサムが映っている。
319『ハーレム、裏の顔は修羅場!』 ◆yjUbNj66VQ :2006/10/25(水) 22:32:21 ID:7pw41ShX
「なぁ、茜。俺って、化け物みたいな醜悪面してるか。」
「え?ぅ、ううん、そんなことないと思うよ。………どっちかといえば…………か、かっ、かっこ………」
「そうだよなぁ。いつもと変わらないよなぁ。」
茜の言葉を聞き、一安心。いざ登校開始と思い、茜に振り向くと……
「…………」
「あのー、茜サン?なんでそんなに頬を膨らませてらっしゃるのかな?」
「………知らないっ!」
ああ、出たっ!茜のお得意、知らないっ!攻撃。茜は俺を無視するように、スタスタと歩いて、先に行ってしまった。ああなると機嫌直すのに面倒なんだよなぁ。
トボトボと一人、登校する。茜の機嫌をどう直そうかなぁと考えていると………
ヒソヒソ……
ヒソヒソ……
「ん?」
なにやら囁くような、ヒソヒソ話が聞こえる。なんだなんだ、カレーに混入する気か?
「なんだぁ?」
そう思って回りを見渡して見ると………
「っ!」
「ひ!」
「きゃあ!」
回り中女の子に見られていた。目が合う度、なんだか恐れられているように、悲鳴のような声をあげる。
(おいおい……俺に見惚れられてもこまるぜぇ。)
320『ハーレム、裏の顔は修羅場!』 ◆yjUbNj66VQ :2006/10/25(水) 22:33:29 ID:7pw41ShX
そんな時……
「い、いました、お巡りさん!あそこ、あそこですっ!」
さっきのOLが、こっちを指差しながら叫び、誰かをよんできた。それは………
「まちなさいっ!そこの未確認生命体!!」
拳銃を構えながら走って来る婦警だった。
「ちょ、ま……!」
「問答無用!!」
その言葉どおり、何の言い訳もできずに取り押さえられ、地面に伏せられた。
「な、何しやがる!?さすがの俺も怒っちゃうぞ!?」
カチャ…
こめかみに当てられた銃口………
「ごめんなひゃい。」
こればかりは抵抗できなかった。婦警は荒っぽく俺の手を後ろに回し、手錠をかけた。
「え、いや、まじで?な、なに!!?新手のSMプレイ!?」
「話は交番で聞くっ!いいからとっととついてこい!?」
「ぐはぁ!ちょぉ、まっ!ひっぱんな……」
手錠に縄を付け、ズルズルと引っ張られていく。ああ、町内晒者の刑をうけるなんて………く、くやしい!








交番
「で?」
「で?……っていわれても、ねぇ?」
こっちが聞きたいくらいですよ。いいや訴えたいくらいですな。
321『ハーレム、裏の顔は修羅場!』 ◆yjUbNj66VQ :2006/10/25(水) 22:34:29 ID:7pw41ShX
「とりあえず……何者か答えて。」
婦警は相変わらず厳しい視線を投げ掛け、そう聞いてきた。
「何者って……んー、人間?」
とりあえずボケてみる。
「はぁ?あなたみたいのが人間なわけないでしょ?」
「えっ?」
予想外の答えにびっくり。まさかボケ返されるとは……くっ、この婦警、タダものじゃねぇ!
「そんな低い声にガッチリした体型……どう見たって人間じゃないわ。」
「はぁ?そりゃそうだろ、男なんだから。」
誇らしい息子もついてますよ、ええ。
「男って…………なに?」
「はぁぁ!?男は男だよ!俺が男であんたが女!!」
「ええ、私たちは女よ………ここに住む者みんなは。」
「へ………」
その時、頭の中のコムピュウタがフル作動。あわてて交番のドアを開けて左右を見渡すと……
「えっ!?へっ!?」
右に女の子!!左にも女の子!!どっちを見ても女の子ぉ!!
「男がいねぇ〜〜〜〜!!!!!!」
………世界は女の子だけで満ち溢れていた。
同時に、俺の頭も夢と畏怖に満ち溢れた…………
「はいはい、叫んですっきりした?」
322『ハーレム、裏の顔は修羅場!』 ◆yjUbNj66VQ :2006/10/25(水) 22:35:28 ID:7pw41ShX
「次は泣きたい気分death……」
またぐいぐいと引っ張られて、イスに座らされる。
「ふーん………男、っていう生物なんだ。」
「同じ、人 間だ。とりあえずこの手錠をはずせやい!」
「いや、はずしたらいきなり暴れて………」
「…………」
「あば、れて………」
「………………」
「くぅっ、そんな子犬みたいな目で見つめるなぁっ!」
もうひと押し!
「…………………」
「わ、わかったから、はずすから!」
カチャ
「うわっはーい、ありがとさん……えーと……そういや、なんて名前だっけ?」
「え、ええっ?……えと、宮原エリナ…」
「ふーん、んじゃっ、あんがとさん、エリナちゃん!」
「だ、誰がエリナ『ちゃん』だっ!年上の人には……」
「ノンノン、そんなおかたいこと言わないで。」
そんなエリナちゃんをからかっていたその時……
「シュ、シュンちゃん!おかしいよっ!ここ、女の子しか……」
茜が物凄いパニック状態でやってきた。あー、そういや茜もこの世界に紛れ込んだことになるのか。ま、当然の反応だろうな。
323『ハーレム、裏の顔は修羅場!』 ◆yjUbNj66VQ :2006/10/25(水) 22:36:30 ID:7pw41ShX
それから勝手に交番を出て(エリナちゃんは怒ってたが) 茜ととりあえず帰宅。この世界には女の子しかいないと説明し、なんとか落ち着かせる。
「でもでもっ、昨日まで男の人もいたのに、なんで急に……」
「慌てるでない、茜!俺にはこの世界に来てしまった理由が、三つ、思い浮かんでおる。まず一つ!」
「う、うん。」
「俺達は同じ夢を見ている……」
「……有り得そうだけど、こんなリアルなのを夢と言えない気が……」
「二つ!」
茜の指摘は華麗にスルー。
「ここは元いた世界とは別の世界……いわゆる、パラレルワールドってやつだ。」
「…うん、私もそんな気がする。」
「三つ!……俺は、この可能性が一番正しいんじゃないかと思う!」
「な、なになに?」
茜が興味津津に聞いてる。
「それはな…」
「うん、うん……」
「…ここは俺の脳内世界だっていう可能性だ……」
「…………」
「……………………」
「……………………………」
バキッ!ドカッ!ズドッ!
バタン………
324名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 22:52:01 ID:1GGrK4NT
うわあ…90年代ラノベの臭いがするなりぃ…
325名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 23:00:23 ID:KFR9ZvST
だが、それがいい
326名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 23:09:44 ID:98Fg84Da
ここからタイトルから想像できる様な裏での修羅場にwktkして待っていますね
327名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 23:30:55 ID:WFSrqLvP
GJ

90年代ラノベって辺りに違和感を感じる
328名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 23:34:30 ID:aM7s0Rxr
90年代にラノベってあったんだ。
329名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 23:40:23 ID:KFR9ZvST
角川スニーカー文庫とかコバルト文庫とかいくらでもあろう
330名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 23:44:28 ID:J1GQFbD1
何はともあれGJであります
331名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 00:25:29 ID:GQgGdNne
「狂科学ハンターRei」も「月と貴女に花束を」も一応90年代に始まってるぞ。
332 ◆gPbPvQ478E :2006/10/26(木) 01:09:18 ID:HkoP61j2
ファンタジーの小ネタ投下します
333異世界メイドもの ◆gPbPvQ478E :2006/10/26(木) 01:10:53 ID:HkoP61j2

「新角、お前メイドさん囲え」
 
 突然呼び出されたかと思ったら、こんなことを言われた。
 よって逃げた。
 しかし捕まった。畜生。
 
「……で、隊長。いきなりトチ狂った発言をしたその真意は?」
「簀巻きにされても強気なあたりお前って可愛いよな。
 まあそれはそれとして、任務だよ任務。ちとひとつ請け負って欲しいことがある」
 
 任務。
 俺――新角の所属する傭兵部隊は、様々な機関から特殊な任務を請け負うことで運営されている。
 どれもがきな臭い代物で、無事に済むものなどひとつも無いという始末。
 だが――そんな任務にこそ生き甲斐を見出す変人揃いの部隊なので、
 特に何の問題もなく、今日も今日とて楽しく過ごせているわけだ。
 
「……どんな任務なんですか? 単独? チーム?」
「単独単独。お前一人でやってくれ。他の連中は年末の大仕事の準備があるからな」
「……俺もそっちがいい」
「まあそう言うなって。かなりヤバイ仕事だから、単独で任せられる奴は限られてくるんだよ」
「……へえ」
 
 いかん。目が輝いてしまったかも。足下見られるやもしれぬ。
 
「兎に角ヤバイ任務だ。だから頼むぞ、新角」
「それはいいけど、内容教えてくれよ隊長」
「だからヤバイんだって」
「いや、具体的に」
「ヤバイくらいヤバすぎる」
「……おい」
「ヤバヤバ」
 
 真面目に答える気が皆無の模様。
 そして、先程の台詞を思い出してみる。
『メイドさん囲え』
 
「……まさか」
「あ、わかっちゃった? 勘の良い奴だな。
 ――女の子部隊の訓練頼む。複雑な立場の娘ばかりでな、
 女っ気のない童貞じゃないと難しそうなんだ。だからお前以外に適任が」
 
 逃げた。
 しかし捕まった。畜生。


334異世界メイドもの ◆gPbPvQ478E :2006/10/26(木) 01:11:36 ID:HkoP61j2

 ――まさか本当にメイド服を着ているとは思わなかった。
 目の前には四人の少女。同じ服装――メイド服で統一されている。
 体格や体つきこそ違えど、皆同じデザインで統一されている。
 ……傭兵部隊にこんな制服着せるなよ。
 と、呆れた思考が漏れてしまったか、リーダー格らしき少女がこちらを睨み付けてきた。
 
「何か文句でもあるのですか?」
 
 うお、冷たい声。凍えるかと思ったよ。
 名前は何だっけ。確か……えっと――
 
「――雪乃(ユキノ)でいいんだっけ? 別に文句なんて無いよ。服装に呆れただけ」
「……これは支援者がデザインした制服です。私たちに言われても困ります」
「だから言ってないって。アホの子を見る目で見てただけだってば」
「……喧嘩を売ってるんですか?」
「馬鹿、弱い者虐めする趣味はないっての。
 ただ、こんな連中に色々教えなきゃいけないのか、って切なさ炸裂してたんだよ」
「…………」
 
 急激に周囲の気温が下がっていく。
 うわあ、怒ってる怒ってる。
 ――でもまあ、好都合。
 
「……ゆきのん、やっぱこんな奴に教わることないって。
 誰の紹介だか知らないけど、けちょんけちょんにして追い返しちゃおうよ」
 別のメイドが、リーダー格の少女にそう進言した。
「……でも、ココノ。ここでまた教官を半殺しにしたら、また支援者に迷惑がかかる」
 進言したメイドを窘める別のメイド。名前は翔良(カケラ)といったっけか。
 ……ふむ。部隊内で意見の統一がスムーズに行えないのか。
 少人数でコレじゃあ、ちと致命的でないかい?
 そして、あと一人は……っと。
「…………(じーっ)」
 無言でこちらを見つめている。狙いがいまいち掴めない。
 こちらの思惑でも探ろうとしてるのか、それともただ単にこちらを教官として不審がってるのか。
 
 ん、OKOK。だいたいわかった。
 それじゃ、仕事を始めるとしますか。
 
「あー。誰が誰をけちょんけちょんにするって?
 尻が真っ赤になるまで引っぱたいてやるから、被虐趣味のある奴からかかってきなさい。
 ……いや、ちょっと訂正。時間が勿体ないから全員で一気に宜しく」
 
 とりあえず、教官として為すべきことその1。
 どちらが上でどちらが下か、徹底的に教えておくことにする。


335異世界メイドもの ◆gPbPvQ478E :2006/10/26(木) 01:12:18 ID:HkoP61j2

「え、ご主人様が風邪を!? 全裸で雪山に放置しても問題なさそうな馬鹿なのに!?」
「……最後のが余計じゃないか……げほ、ごほ」
「ホントに弱ってますねー。……チャンス?」
「何のだ。……あー、とりあえずユキノ、今晩は暖かいものを作ってくれると嬉しい」
「はーい。それじゃあゆっくり寝ててね、ご主人様」
「じゃあ、ボクは添い寝するねー」
「ちょっと待ったココノ! なに自然にご主人様のベッドに入ろうとしてるのよ!?」
「えへへー。添い寝ー」
「えへへー、じゃないっ! ほら、ココノも夕餉の支度を手伝いなさい!」
「やだー! めどいー! ご主人様助けてー!」
「指切るなよー……」
 
 
「……風邪は他人に移すと治りが早いと言われている。
 ――だから、ご主人様、……ん」
「いや、あの、カケラさん?
 目を閉じて顔を近づけて一体何をせがんでってちょっと待って近すぎるからマジで」
「ダメダメダメ! ご主人様とキスするなんて許しゃにゃにんだから!」
「そして落ち着けヒトヒラ。噛んでるから」
「……喋ると情けないんだから黙ってて、赤面症姉」
「ううううるしゃい! クール系気取りの妹には言われたくにゃい!」
「……頼む……静かに寝かせてくれ……」



336 ◆gPbPvQ478E :2006/10/26(木) 01:13:50 ID:HkoP61j2
と、こんな感じのネタが唐突に浮かびました。
名無しに戻るとか言ってたのにごめんなさいorz
 
やっぱり私はこのスレが大好きなので、また連載したいかなーとか思ったのですが、
ちとこれからあまり時間を取れなさそうなので、のんびり一作だけ連載したいと思います。
てなわけで、住人の皆さんに訊ねたいのですが、
 
連載されるなら、どれを読んでみたいですか?
A:「九十九の想い」の続き
  先日投下したものの続きで、包丁の付喪神とか出てきます。
B:剣主人公の埋めネタを連載SSに
  ユウとかテンとかその他諸々が主人公を奪い合う話です。
C:今回投下した小ネタの連載版
  メイドさん四人に囲まれるファンタジーどたばたラブコメです。

本当なら全部書きたいところなのですが、時間的に難しいです……。すみませんorz
とういうわけで、ひとつ、選びたいと思います。
ご協力いただけると嬉しいです。

>>198
アトリだ!!!!!!
GJ!!!!!!!!
337名無しさん@ピンキー::2006/10/26(木) 01:15:42 ID:MRJylt9o
この神々がいるスレでこの設定のssって大丈夫でしょうか?

主人公
性格に気弱で控え目。
ただ自分の意見だけはきちんと言う。
過去にヒロイン三人を暴漢から庇った代償に左目を失い、全身に斬り傷を負う(顔は左目以外は幸いにも無傷)。
ヒロイン達に対しては友人以上恋人未満の感情を持っている。
巨乳の年上に弱い。
外見イメージはスクールデイズの伊藤誠。

ヒロイン1
性格は寡黙で無表情。
でも主人公と幼馴染み二人には小声だけど喋るし、表情も変える。
出会った当時は元気で活発な女の子だったが、事件がきっかけで今の性格になった。
起伏のない体型。
その為、巨乳になる努力は毎夜欠かさないが、その結果は思わしくない。
主人公に対しては彼女だと思っている。
ヒロイン2とは仲が良いが、ヒロイン3を敵視している。
事件の原因の一端がヒロイン3の家庭にある為。
外見イメージは涼宮ハルヒの長門有希。

ヒロイン2
性格は天真爛漫。
ヒロインの中では一番スタイルが良く、特に胸は100近くある。
主人公をよく胸の谷間で窒息させる。
事件後に主人公を護れるようにと格闘技(空手と柔道)を習う。
今ではどちらも全国大会で入賞できるだけの実力を持っている。
ヒロインの中で唯一家事能力の持ち主。
ヒロイン二人とは仲は良好。
主人公に対しては恋人だと思っている。
外見イメージは胸の大きなTo Heartの来栖川綾香。

ヒロイン3
性格は典型的なお嬢様(高慢・高飛車・我侭)。
ヒロイン2に次いでスタイルが良い。
主人公が過去の事件で護ったのは自分であり、二人はただその場にいただけと改竄している。
腹黒くて計算高く、常に主人公の意識を自分に向けるように行動している。
ただ現段階ではヒロイン3に危害を加えようとはしていない。
それは主人公に知られるのを恐れているから。
実家は財閥。
ヒロイン1とは険悪だが、ヒロイン2とは何故か仲が良い。
主人公に対しては夫だと思っている。
外見イメージはつよきすの霧夜エリカ。

これでも宜しければ一作品書いてみたいです。
338名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 01:18:22 ID:TU323Hci
この中から選べだと!?
ならば>>334>>335の格差に期待を載せてCを!
339名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 01:20:07 ID:F9/Y6yHC
GJ

ま(ryをモデルにするなら
ヒロインは西園寺世界もモデルとして入れておこうぜww
340名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 01:20:35 ID:JVfkMjDC
新作キタ!!
どれも見てみたいものばかりですが、あえてひとつ選ぶならBで。
新しい連載期待してます、がんばってください。

>>332
期待してますw
341名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 01:26:25 ID:Ck2k9zsi
rァB
勿論他の二つも捨てがたいですが
どれかひとつと言われればBですな
更なる本音を言えば怪物姉妹外伝がもっと読みた(ry

>337
そこまで設定できてるのなら是非書いてくださいな
342名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 01:31:46 ID:XjH4CeVY
|ω・`) Aが読みたいっす
あの刀っ子からは凄くいい匂いがします。そう、いい嫉妬を見せてくれるいい匂いが・・・(*´д`*)
343名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 01:33:05 ID:XjH4CeVY
」 ̄l○上げてしまった
しかも途中で投下・・・
>>337
ここまで細かい設定ができてるってことは作品を投下していただけると
信じております(_ _(--;(_ _(--; ペコペコ
344名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 01:35:12 ID:7WKWVVS0
>337 ぜひともお願いします。
345名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 01:39:52 ID:kgjQDttN
俺もBであの続きが読みたいとですw

>337
がんがって下さい。
346名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 01:40:39 ID:HRf18MzB
>>336
ヒトヒラの名にピーンとキタ俺は迷わず

(゜Д゜)σC!!!!!

>>337
迷うな!GOだッ!!
347名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 01:49:56 ID:95ngrzSm
>>336
rァA
348名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 01:54:34 ID:I/El1e1v
Aが読みたいです!!!11
349名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 02:05:07 ID:SzcKyuBb
包丁の付喪神と剣主人公の関係に嫉妬するユウとテンと館で同棲生活
四人のメイドと湯のみの付喪神も参戦し
人間に戻った剣主人公を巡った壮絶な修羅場を形成する話でお願いします
350名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 02:05:37 ID:nzOOYkj+
Aで。
どんな付喪神が出てくるか、どんな妖怪の解釈をしてくれるのか、どんな嫉妬をしてくれるのかが楽しみですw
351名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 02:08:45 ID:kzyXdNLu
Cを選ばざるを得ない
352名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 02:23:08 ID:eP2wH5sR
せっかくだから俺はこのCを選ぶぜ!!

>>337
来てッ!
353名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 02:38:28 ID:a836SPn0
Bが読みたい。
354名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 02:40:40 ID:t8DU9U3B
cでお願いします
続きが気になって仕方がない
355名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 02:43:06 ID:sHlxUaTK
Aで。
356名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 02:50:05 ID:/kTQ3JB3
Cの続きが読みたい
357名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 03:26:48 ID:KR7Xk+57
Aの続きが気になる
358名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 03:31:11 ID:rOkaNWx1
是非ともBでお願いします!
359名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 04:24:34 ID:9iqag1u9
投下してくれるのは感謝するけど
こういうのマジ勘弁
馴れ合いが心底うざい
360名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 04:42:48 ID:SzcKyuBb
>>359
なら別スレ立てて篭れば?
361名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 05:43:35 ID:kjDsjyqi
>>359
お前が今一番うざい
362名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 06:43:34 ID:qAI9seEu
Aでお願いします。流さんを、流さんをもう一度!
363名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 07:07:51 ID:yMzMHPCZ
Aで
364名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 07:19:34 ID:N7sF2JZ2
Aでお願いします
っていうかこんな可愛い娘(作品)を天秤にかけて、勝った娘と付き合う(連載する)なんて
さすが◆gPbPvQ478E様は修羅場を生む神ですな
365名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 07:22:19 ID:Qup6+Xy1
Bでお願いします。剣主人公を巡る戦いが読みたい。
366名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 07:24:41 ID:zdKDHUGo
できない…!俺にはAからCのどれかを選ぶことなんて…!
367名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 07:39:08 ID:L8N+Fl+3
>>366ナカーマ。全部書いてこそ、この嫉妬スレの住人たる◆gPbPvQ478E様ですよ。
いえ、自分が全部読みたいってわけじゃ……うわやめろ何を(ry
368名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 07:49:40 ID:vYCgHka8
C!C!
369名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 08:02:01 ID:hz3uk8bq
Aがイイ!!
370名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 08:11:30 ID:6mgcoG//
どれも捨てがたいが、メイド好きな自分としてはCを選ばせていただく。

しかしやっぱりどれも読みたい!
371名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 08:45:27 ID:Vj+OOxsf
>>336
Cでお願い


>>337
細かい事は気にせずに書いて投下するんだ
372名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 09:20:44 ID:M0mO9Tr/
なんか盛り上がってきたから
そろそろ神が戻ってくることを祈ろう
373名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 09:47:31 ID:RWPjZgWw
触らぬ神に祟りなし


意味違うか
374名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 11:27:06 ID:jYgQYnzk
>>336
実はメイド属性も大好きな俺はCを選ぶぜ!
>>337
Yes!Yes!Yes!そんなおいしい設定をNOと言えるはず無いじゃないか
375名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 12:10:59 ID:dpjdEfOn
Cがイインダヨ
376名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 12:21:15 ID:Unl9iI9j
劣勢だけどBがみたいかな
どんな話になるのかすごく興味がある
377名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 13:08:37 ID:h8D9inzy
やっぱりAが読みたい。

というのも、続きが投下されるものだと思ってずっと前から待ってたんだよなぁ。
378名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 13:31:04 ID:PSpQRlJx
Aでグリーンダヨー

だが全部読みたい
379名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 13:40:08 ID:1Rpnh5Qz
B!B!B!
380名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 14:20:58 ID:zrunA2B+
つまり、ユウとかテンとかその他もろもろのメイドが包丁の付喪神である主人公を奪いあう、
首チョンパされても次の行ではもう復活しているドタバタ戦慄ラブコメディ作品を書けばいいのでは?
381名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 14:47:54 ID:fb9tnlZC
Aだなぁ
Cは申し訳ないがありがちだし
382名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 15:33:11 ID:GQgGdNne
>>334まで読んだ時、島耕作が女子社員に総スカンくらった話を思い出したw

それにしても、住人が多いとリクエストもすごい事になるな。
ここは混乱を抑える意味も込めて、作者殿には全て書いて(ry
383名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 15:46:20 ID:gSf6kfgq
>>337
ヒロイン3>好きなんですよこういうキャラ
頑張ってください
384名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 16:18:02 ID:D24hBCZe
こっそり、たぬきなべと危険な男の続きを期待しとく…
385トライデント ◆mxSuEoo52c :2006/10/26(木) 18:29:27 ID:Dk3KF4p9
では投下致します
386雪桜の舞う時に ◆mxSuEoo52c :2006/10/26(木) 18:33:10 ID:Dk3KF4p9
  第19話『ヒカリ』
 
 剛です。
 もう、一週間も家に帰っていないです。
 剛です。
 誰も僕のことを探す気配が見えませんっ!
 剛です。
 監禁されてから、ケンタッキーのおじさんとクリスマスにやってくるエセサンタの顔が区別できないようになりました。
 剛です。
 予約していたポ○モンの新作を取りに行けません!!
 剛です。
 雪桜さんは今日も絶好調です。



 という冗談混じりが入った前文は半分フィクションじゃないような気もしつつも。
 雪桜さんに監禁されてから一週間の月日が流れた。
 監禁されているとしても、腕に縄を縛ったり、手錠を付けられたことはされていない。
 雪桜さんいわく、そんな風に束縛して洗脳するよりも自然体のまま、私を好きになって欲しいからだそうだ。
 だから、だろうか。
 俺は監禁されているという実感が沸かない。
 だが、俺の理性の限界はすでに突破しそうになったりする。この一週間は天国というか、地獄に等しかった。

「桧山さん。はい。あ〜ん」
 俺が作った料理のおかずを橋で挟んで、雪桜さんは俺に食べさそうとする。
 このなんてラブコメ的展開に胸を打たれつつ、照れながら俺は大人しく従った。

 ああ。バカップルは政治家の次に信用できねぇ。

「桧山さん。一緒に寝ましょうね」
 ピンク色の猫柄が入ったパジャマを着ている雪桜さんがベットにおいでおいでと誘ってくる。
 彼女が用意したのはお揃いの青色の猫柄の入ったパジャマであった。
 お互いお揃いのペアルックだけでも俺は恥ずかしいのに。
 雪桜さんの潤んでいる瞳が『一緒に寝てくれないの? 優しい桧山さんがそんなこと言うはずないもんねっ?』
 と訴えてくるので俺は逆らうことができずに雪桜さんと同じ布団で彼女の暖かい体温を感じながら就寝。
 寝ている間に雪桜さんが俺に接近してくるので、俺は彼女の頭を優しく撫でた。
 そうすると嬉しそうに顔の頬が綻ぶので、こっちも何か知らない内に癒されてしまう。

 虎以外の女の子からチョコもらったことないのに俺は絶対に死んでも死にきれねぇ。絶対に怨霊になってしまう。

 
387雪桜の舞う時に ◆mxSuEoo52c :2006/10/26(木) 18:35:11 ID:Dk3KF4p9
ここで理性のタガが外れて、雪桜さんを襲ってしまうと彼女の思い通りの展開になるだろう。
 襲った責任としてちゃんとした結婚を前提とした交際を要求するに違いない。
 それはまだ学生である俺からすれば重大な決断と重圧が押し寄せてくるのは精神的にもよろしくないわけだ。
 
実際に雪桜さんと交際しても、俺にとってはマイナスどころかプラス以上のご利益がある。
 よくよく考えてみるとメチャクチャいい話じゃないかっ!!
 でも、できれば皆さんも一緒によく考えてもらいたい。
 こんな監禁されている異常な状況で結ばれたカップルが幸せになれるのか。
 
そう問われると俺は間違いなく、幸せになれるはずがないと断固に公言する。
 これ以上狂ってゆくってゆうか、壊れてゆく雪桜さんとおじいちゃんおばあちゃんになるまで生きてゆく自身はない。
 ならば。この監禁されている状況から抜け出してから、改めて雪桜さんに告白を受ければ、何の問題がないのだ。
 そのためにある人間の協力が必要になる。
 
そう、俺の経験からするとそろそろ虎がこの雪桜宅に侵入し、俺を連れ去ってゆくはずだが。その気配はまだ見えない。
 だが、きっと虎なら。
 虎ならなんとかしてくれる。虎ならなんとかしてくれる。
 そう信じて、俺は不安を憶えることなくゆっくりと眠ろう。
 明日があることを信じて。
388雪桜の舞う時に ◆mxSuEoo52c :2006/10/26(木) 18:37:24 ID:Dk3KF4p9
 だが、その俺の願いをあっさりと無視して時間は緩やかに速く流れてゆく。
また、一週間の月日が流れてしまった。家に一歩出されていないので時間の間隔は微妙にずれている。

「そろそろ、桧山さんと同棲生活をしてから2週間になります」
 知らない間に雪桜さんの頭の中では監禁生活が同棲生活へと変化していった。
朝の朝食が終わり、洗濯や掃除が終わらせてゆっくりと小休憩を入れてから、雪桜さんが何の伏線もなく突如に言い出した。
「桧山さんも私の調教で順応良くなってきましたし。今日は一緒に外に出掛けませんか?」
「外って……。自宅に帰っていいってこと?」
「だ、ダメです。私の傍からぜっっったいに離れてちゃイヤです」
「でもな。家に帰らないと夏休みの宿題が……」
「そんなもの。わたしが書いた物を丸写しにしたらいいんですよ。クラスは違っても、だいたい出されている課題はほとんど一緒です」
 夏休みの宿題が丸写しにする提案の魅力には人間は到底適うことができない。俺はしぶしぶとその条件を呑むしかなかった。
「じゃあ。お外にレッツゴーです」
「いや。ちょっと待った」
「今度は何ですか?」
「宿題はそれでいいんだけど。日記はどうしようか?」

 夏休みの宿題に欠かさない夏休みに起きた出来事を躊躇なく書き記さないといけない課題。
適当な事を書いたすると夏休みの最後辺りにたくさんの矛盾点と嘘を抱えることになり、
自滅に追い込まれてしまう恐怖の課題。
最近では日記を書いていないのに未来の自分が書いた日記が映し出されることもあると言う。
その状況に陥ると後ろにはストーカー少女の影があったりなどの都市伝説はともかく。
俺はこの雪桜家に捕われている間は全くその作業に手を付けることができない。

「とても簡単です。わたしと桧山さんのラブラブ新婚生活を書けば全然問題ないですよ」
 同棲生活から新婚生活にランクアップされているぅ。それはどうでもいい。
「そんなもん書けるかぁぁぁぁぁーーー!!」
 自然に体が反応していた。それは俺が脳内で考えるよりも早く、そのツッコミは完成していた。
今まで流されていた人生を取り戻すかのように俺は悟った。
 思い出した。これが俺だ。
「雪桜さん。こんな生活はもう終わりにしよう」
「えっ?」
389雪桜の舞う時に ◆mxSuEoo52c :2006/10/26(木) 18:40:39 ID:Dk3KF4p9
 思わず雪桜はいきなりの俺の衝撃的な発言に首を傾げた。
狂っている雪桜さんにとっては俺が何を言っているのか脳内で理解するのに時間がかかっているかもしれない。
「俺は自分の家に帰る」
 この2週間の監禁生活で唯一言えなかったことをやっと口にした。
その後の事がどんな騒動に巻き込まれても、こんな堕落した生活を送るぐらいなら、新作ゲームでもプレイしていた方がまだマシだ。
「い、嫌です。帰しませんよ」
「こんなことが犯罪だってわかってるだろ? もう、大人しく帰してくれないか」
「そ、そんな。どうして? 私は桧山さんをいっぱいいっぱい調教したのに」

 調教て。
 最初から最後までラブラブ新婚生活を演じていたような気もする。
特に新妻雪桜さんの破壊力が凄すぎたおかげで今まで監禁されていたわけだが。

「やっぱり、一緒にお風呂入ったりすれば良かったよ。でもでも、そんなことしたら私が恥ずかしいし」
 顔が真っ赤に照れている雪桜さんは脳内妄想に酔っていた。
頬を両手で押さえて、えへへと微笑んでいる姿は春先によく現われる危ない人間のようであった。
「ということで帰ります」
「にゃ。待ってください。行かないでぇ〜〜」
 と、素早い動作で玄関の前に高速移動した雪桜さんは両腕を一杯広げて通せんぼのように立ち塞がる。
「出ていくって言わないでください。私には桧山さんしかいないんだからね」
「雪桜さん」
「桧山さんが悪いんだよ。私に優しくしたから。私を惚れさせたから。
苛められている私にヒカリをくれた桧山さんの優しさで私の胸がいっぱいなんだよ」
「でも、君の想いに応えられないんだよ」
「私が加害者の娘だから? だから、私の想いに応えてくれないの? ヤダよ。桧山さんと一緒にいられないなんて。わたし。わたし」

 泣きだして、玄関の前で蹲るように雪桜さんは座り込んだ。
生気のない顔で目は虚ろになりながらも、俺を見つめて続けていた。

「ネコミミモードに入りますよ。ネコミミモ−ドですよ。もし、その状態になったら桧山さんの生命の保障はしませんからね」

 ネコミミモ−ドって……。
 何?
 と、俺は問い詰めたかったが雪桜さんはネコのように手を丸めて肉球を作り出し、猫のような仕草をする。
ついに人間であることを忘れて、猫のようになってしまった雪桜さんは発情したメス猫のように獲物を細い瞳で睨む。
「雪桜さん。お願いだから落ち着いて。話せばわかるはず?」
「にゃにゃにゃぁぁぁぁぁーーーーー!!」 

 対話する時間もなく暴力を行使しに来た雪桜さんは……。
 玄関の段差のある場所に足を引っ掛けて。
 見事にこけていた。
 ドジっ子属性はネコミミモードというものになっても変わってないようだ。

「あ、あ、あの雪桜さんは大丈夫? なわけないか」

 家政婦は見た。いや、家政婦じゃないが。

 コケた時に勢い良く頭を床にぶつけている。
倒れ伏せている雪桜さんはノックアウトして完全に意識を失っているのだ。
ドジもここまで来たら、俺は雪桜さんのことを可愛く思えて仕方ない。
さてと。
雪桜さんをベットに運んでから、長い監禁生活にピリオド打ちましょうか。

久々に家に出ると暑い日差しが降り注ぐ。解放されたことが嬉しいのか、俺は思い切り背筋を伸ばして、自宅の帰路を歩いた。
 だが、家に帰宅して待っていたのは。またしても束縛された環境であった。
390トライデント ◆mxSuEoo52c :2006/10/26(木) 18:43:13 ID:Dk3KF4p9
雪桜の舞う時に全23話で完結です。
ここまで来るのが長かったような気がするな・・。
391名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 18:57:57 ID:JVfkMjDC
らぶらぶ監禁生活にもついにピリオドがうたれましたな。
だが待ち受けるは更なる修羅w
作者さんGJ
392名無しさん@ピンキー::2006/10/26(木) 20:17:06 ID:fvOsAgFC
追加ヒロインです。

ヒロイン4
主人公とヒロイン三人の姉的存在。
基本的に真面目で自他共に厳しい性格。
生まれながらに持つ優美さ、優雅さで多くの同性異性を惹きつけているが、本人は主人公達を見守れればよいと思っている。
ヒロイン中、唯一人主人公と肉体関係を結んでいる。
実家はヒロイン3と同等の財閥。
ヒロイン三人から信頼されている。
主人公に対しては手のかかる弟&大好きな人と思っている。
外見イメージはマリア様がみてるの小笠原祥子。

皆さんからGO!が出たので書かせていただきます。
皆さんを満足させる作品を書けるよう頑張ります。
393名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 20:19:59 ID:eED2UjYI
  ほ   か   ほ   か

 (   (    ) (    )   )
  (  )   (   )  (   ノ
         _..._      _,,
      _..,,ノ"///ヾ、  _,."彡i
    / :`y'、ソ、)、ソ、y、)',,::彡",ヽ
   / (( ) .iy'ソ ' )'y )、ソ、),,彡'彡|
  r'=、 ,  ::i )/i y )、) 'y k彡,,"」
  `''、._ノ .::ノ/彡f ::ヽ ;Y 、、、,-ー'"
     `ー-'=ー"ニ=ー~"`^"
394名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 20:48:46 ID:1Rpnh5Qz
>>390
GJ・・・・・・です

llllllllllllllllllllllllllllillllllllllllllllllllllllllllllllllllll|[リ ||]゙゙|「゙「”'゚”,゚~””~”゚”~”~ ̄~~ ゚̄「' ̄ ̄ ̄´゙ ̄”゙~~~~~~゙” ~~~~”””゙,,,,゙,]]゙]゙゙゙゙゙゙゚゙l゙゙゙゙゙゙]「|刀'゙゙゙゙゙l言
llllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllll感的ニ〈⊂ l゙l.ゾ"`;``:::..,、、::丶:``` :               : : ..、:、:_,,,k巛l,l,i)||l`丶::、l,lli)i,l゙li゙l゙l|lj|ji|,||}
llllllllllllllllllllllllllllllllll゙ll我川{|ヽミ゚/""'"``_.:,、、丶: ``: :               ._,,,,,,,ぃ‐''""`,,,,l,,l#ll゙゙゙゙゙゙llミi,l゙!l,lllllllili,,,::、.ll|゙ll|l,川, ll雨゙l逝
llllll雨||i|li勿ミ'リ゙l";、"゙`.::、丶丶```               _,.,,,,vr―'',二_>/iル.`:,,iillllllll゙`:`,,,,l゙゙~l)l゙゙゙llllン゙゙゙l!lli,,,: l||lllll゙l゙llll゙ll)|i||l|ト
l斤//゙l゙`""`';,_ン.-ー'`: `: :               ._,,,,v,rッぐレ//i'゙l゙l,';゙lソ':,'`l二゙ll、::、,lllll″:、.`゚lillllllll,,,’゙゙ll,,:.:、,゙゙llll|,l゙l巛lllリl巛ili||
l`,,,,,,,.―'‐:`゙``:                  ._,、,.。-,ー''"゙`='%/リ从,,を川!二ミ彡il゙t|ll,゙l「||::::、``゙ヽ:`lI_, lllllllllllllll, ゙ll,`>'、゙lllllil゙ljlllll゙l,ll|!l|li|ト
l゚~′                ._,,、、-,:‐''i二igヽヽ,ll,,,,,,,,,,,,,,,l,ll,i,ミi,゙l|l巡/川゙l゙lニッ/l|l!'巛' レ:、..::::、:'.l! |llllllllllllllllll, lli、:'i、l゚゙llll.jl「.llii絲|lll|i,!
|         _,,,,,,vrr!ニ"``、:.'y''レ:`゙ll,,_゙lll,,,/゙lllllllllll!lllll,,,lll,レ/l!llZ二i,'iミ|ヽ,_lll":.゙'l久:、:  `: ll、.lllllllllllllllllll| .ll `ヽ'.llfト .ll゙l川l[liレ
lv,、__,,y,,p‐','l匸/,,',!,jilllllZ"ヅヾll,:廴.',,iilllli゙l,,゚ケ,,l,,, llla,,,,゚゙゙lllllllll,,,/l[゙llll二/!$''ミlll゙::丶゙゙l]     'l∇llllllllllll! ll″.ll′ 丶'″ 郎゙lil[ll゙ll゙
l: :'[゙l,l,,lllll"'#,l}/,:/||/リ゙l゙li゙li,"ン"ヽi゙ll,゙lllllll゙゜、″'゙゙l,,,,,,, _.゙゙゙lg,、、.,゙ぁ゙゙lll,,,"''l,'',l": : : : :.゙!      ゙%, `゙゙゙llll!l゙  ,l゙        l|l/i《i,l'i,i´
l : ']:::、風,,l!lll.゙l」(|゚;/'"ヽ',i´'゙ll,,!,;'ハl,゙゙lllll:`` .,lL lllllllllllg, .゙ll,ヽ、、'゙ラi廴:''゙N,解:               ゙'!i,,、   .,,,l゙゜         ll゙,',l/'リ,ケ
l  :i,`:、《i,ll!llll/"゙,,、'ヽ,ヽ‐`',ヾllll,g,',ルllll"、 'l,゚ '''lllllllllllllllll、゙廴: : 丶:゛ : `:`″             `~''''ザ° .,。      l'-llリ,l',l‖
l !``l゙lllill'《゙'"]、"ヽ`:l::'`廴.ll.゙゙゙lllilllllll`  ゙l,、゙llllllllllllllll、 ll、   : :   : :                ..,,,,,,,,,.,vlll゙°     .,l',llり,,i!,l″
l  :、 `[゙ll:ll,l゙,:‐'``‐,、..`l`ヽ廴'li,:`'ヽ'゙!li,、  .゙ll、゚lllllllllllllケ ll                       : `            l,i|ヽ,,illゲ、
l  丶 .|'ll:'ll |::::/:、::`'‖.、、゙ly:゙lli,,::、、.゙llll,,   ゙f,,: ゙゙゙!llll゙゜ .,ll:         .:,、                       爪、,lllたU
l   '、 〔゚l:ll::|:::ll::```、lll:`:`:`:゙l,,゚ll゙lll,,丶゙゙゙ホ、  ゙゙≒.._._,,,,ill゙`        .:lた                      .lレ:',ll!゙、`.:"
I   ゙、 ゙l'変:|:.,l:、、:`l廴:::丶:、ll゙l,巛゙lll,,      、 .゚ ̄ ,,.         :'Ε                       ,l゙‐'.ll"冫:.'、
l、  、 .゙l゙l'l,l゙,ill.:::::`.:l,ll,、:::::::::::'l::'l|i,性゙゙lq     .“'冖''“           `                     : _,,,、ぃ-ァツ'゙~`
l}   '、 〔lllll,illlli、::::::llllllll,: :: : ::│lヒ`径;`゙ll,,、                               : ...: 、:-ヽヽ"``丶: : ``    
|゙l   .丶 .゙l'l゙lllllllll,: :,,lllllllllll,,: ::`"lllヒ`'|l;`、『lll,,、                      : ..、: .、: .: 、′`: : : : :             
!,゙l、、.,、ヽ、、,".゚'゙l゙lll!i、l!lll!l!llll!!″:`: 「゙:′゙°::l゙゙::゙゙%、                、、-…:'""````: :                   、、―ー'''"

395名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 21:03:59 ID:HRf18MzB
雪桜さんのアレが新手の精神攻撃だとようやく気付いた俺ぬこスキー。

>>392
新作投下宣言にwktkしつつ、とりあえず今度からはメール欄に半角でsageと入れてくれるとヒジョーにありがたいです。
396名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 22:11:18 ID:GYTZSEau
最近読み手の顔窺いすぎなSS書きが増えてきたな…
許可が下りたので、とか、〜みたいなの書いたんだけどどうします? とか、いちいちグダグダ言ってる間にとっとと投下してくれて構わないのに
397名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 22:20:27 ID:/cQJ7XY6
特にトライデントの書いている作品はつまらなすぎるんですけど
何がネコミミモードなんだ          



           _,,,,,--―--x,
          ,,,,-‐'"゛_,,,,,,,,,、   .゙li、
     _,-'"゛,,―''゙二,、、、゙'!   .i_
   .,/`,,/,,,,ッメ''>.,,/,-゜ ,,‐` │
 _/ ,‐゙,/.ヘrニニ‐'゙ン'′,,/   |
,,i´  |、 ゙''''''゙゙_,,,-‐'" _,,-'"     .l゙
.|,   `^'''"゙゙` ._,,,-'''″      ,l゙
`≒------‐''"゛         丿
  \               ,,i´
   `ヽ、             ,,/
     `''-、,,,_.∩  _,,,,,-∩´
        //゙゙゙゙″   | |
        //Λ_Λ  | |
        | |( ´Д`)// <パクリじゃねぇかっっ!!
        \      |
          |   /
         /   /
     __  |   |  __
     \   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   \
     ||\            \
     ||\|| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄||
     ||  || ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄||
 
398名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 22:24:39 ID:TEwAWMQH
      _
      /,.ァ、\
     ( ノo o ) )  空
      )ヽ ◎/(.    気
    (/.(・)(・)\ . 嫁
    (/| x |\)
      //\\
   . (/   \)

399名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 22:30:56 ID:oxk1LQdP
>>397
彼の言うとおりだよ
つまらねえよこんな糞作品
400名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 22:39:39 ID:smfgMn5P
>>399
嫌いならば何も言わずスルーしろ。
糞作品と罵るのなら貴兄はもっと素晴らしい作品を書けるのだろうな?
401名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 22:46:49 ID:L8N+Fl+3
マターリ仲良く。修羅場はゲームの中で。
職人さんたちにGJの心を忘れずにスレを盛り上げていこうよ。
とりあえず、これからの修羅場にwktk
402名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 23:37:14 ID:/tzyZ2Cg
>>390
まあ、悪ノリの過ぎるところを感じないわけでないのは確か。
特に表題にモロ『マナマナ』とかは正直やりすぎだと思った。
ただ、雪桜さんの可愛さはそれを補って余りあるし、十分GJだと思う。


>>399
悪意がなければ否定的に言うのもいいけどさ。
ただクソというなら誰でもできるってことを知れ。

403 ◆zIIME6i97I :2006/10/26(木) 23:40:05 ID:eeg08Uca
ミスターを投下します。
修羅場から遠ざかっているようですが、しばらくご辛抱ください。
404ミスタープレイボーイ:2006/10/26(木) 23:40:48 ID:eeg08Uca
薫と過ごしたあの夜のことが、忘れられない。
きっと、結婚した後も、ずっと二人の大事な思い出になるに違いない。
とはいえ、今の僕の姿は、そんな思いの説得力をばかばかしいほどに欠いている。
洋子の家の台所で、エプロンをつけ食事を作っている今の僕の姿は。
トマトの湯剥きをしている。妊婦はトマトが好きらしい。
いったい、これはどこのお父さん予備軍なんだろうか。
405ミスタープレイボーイ:2006/10/26(木) 23:41:22 ID:eeg08Uca
あの夜以来、洋子と会うのは控えていた。あれで、僕の気持ちは完全に決まってしまったと思っていたからだ。
そのはずだった。
だから、今度洋子と会うときは、別れ話を持ち出すときだろうと思っていた。
そのために、どうすればお互いが傷つかずにすむのかを考えていた。
もちろん、妊娠させた相手と別れるなんて初めてのケースだから、新たな創意工夫が必要だ。
もしも下手をうって、洋子を刺激し、薫にばらされるなんてことになったら。
たとえば、薫との結婚式に子連れで乱入してきたり。
そんなことになったら、僕があの兄貴にばらされてしまうだろう。港に浮かぶ僕の背中。
ことは慎重に運ぶ必要があった。

そんなときに、ばったり近所のコンビニで出会ってしまったのは、どういう偶然だったのか。
そこは普段、洋子が来るような場所ではなかったはずなんだけれど。
彼女は、コンビニ弁当を袋に入れて持っていた。
聞けば、つわりがひどくなり、特に料理している間がつらいので、出来合いのコンビニ弁当を食べているという。
そんなものばかり食べて、おなかの子供にいいはずがない。
コンビニ弁当は恐ろしい。何が恐ろしいって、いつまでも腐るようすがないことが恐ろしい。
思わず馬鹿なことを言ってしまった。

「ごはん、作ってあげようか?」

これはお父さん予備軍としての言葉ではない。医者の卵として見過ごせなかっただけだ。
医者が患者のごはんを作ってあげるかどうかは別として。
406ミスタープレイボーイ:2006/10/26(木) 23:42:13 ID:eeg08Uca
いまどきのもてる男なら、おいしい料理の一つや二つできなければならない。
というのは建前で、例の僕の境遇から、自炊しなければやってこれなかっただけだ。
でも多分、女の人に料理をしてあげるなんて初めてなんじゃないか。
僕がこんなことが出来るなんて知っている女は、洋子の他にいるんだろうか。

料理が出来ると、彼女が皿を食卓に運びにやって来る。
すると、テーブルに足を引っ掛けて転びそうになった。
あわてて、体を支えてやる。思わず冷や汗が出た。

「ありがとう」

食事を運ぶ洋子の後姿を、どきどきしながら見送った。
なんだか、目を離すのが怖い。結局それが、薫の目を盗んでここに来てしまっている理由だった。

彼女はまだ仕事を続けていた。さすがに、もう教官ではなく、事務仕事に回っていたが。
どうやら、仕事の間なら、つわりはひどくないらしい。やはり、精神的なものが影響するのだろうか。
教官として運転することはなくなっていたが、郊外の教習所に通うために、車での通勤は続けていた。
そして、そのときシートベルトをしていないというので、仰天した。
おなかを締め付けられるのがよくないと思ったらしい。
すぐに、妊婦の体にあったシートベルト着用の仕方を調べ、絶対に着用するように言いつけた。

付き合いはじめたころは気付かなかったが、彼女はどうも少し抜けているところがある。
「強い母」というイメージにはならない。見守らなければと思わせる「か弱い母」だった。
それがまた、僕の母さんのイメージと重なるので、余計に目が放せない。
それが馬鹿なことだとはわかっていたつもりだった。
けれど、一度重なってしまったイメージを引き剥がすのは難しい。
このときばかりは、母さんを恨んだ。

洋子は、おいしいおいしいといって、ごはんを食べてくれている。
女の人の笑顔が自分に向けられれば、うれしいものだ。
けれど、そうしてほのぼのとしてしまおうとする自分の心を、なんとかして戒める。
薫のことを思い出せ。
あの髪、あの顔、あの体。そしてもちろん、病院と、思い出したくはないがあの兄貴のことを。
そして何より、あの夜、薫が泣きながら話してくれたことを。

僕は薫と一緒になる。そうして、病院をもらい、大きな家と車を買う。かわいい女中を雇い、たまにちょっかいをかける。
多少は女の子と遊ぶこともあるだろう。まさしく、ラヴィアンローズ。
気になるのは。いや、気になるというか、ひっかかるのは。
そこに、僕と薫の子供はいないということだけ。

まさか、僕は洋子に自分の子を生んでほしいんだろうか。それで、22週を待っているのか。
22週が過ぎれば、もう合法的におろすことはできなくなる。それ以降は、母胎の外で生存が可能になるからだ。
つまり、22週を境に人間になったと認められるわけだ。
今は13週。からだはほぼ出来ているはずだ。
魚人間はもうとっくに卒業している。10センチくらいだろうか。キゥイくらいの重さ。
そろそろ動き出したりして。それどころか、快不快の感情なんかも出はじめてたり・・・。
407ミスタープレイボーイ:2006/10/26(木) 23:43:12 ID:eeg08Uca
「だめだ、だめだ」

変に知識があるだけに、どうしても考えてしまう。
考えるな。かといって感じもするな。無になれ。

「え、おいしいですけど」

何を勘違いしたのか、洋子が首をかしげる。

「え、いや、その、これくらいの出来ではとても満足できないんだ、僕は」

「十分おいしいですけど、じゃあ、いつもはもっと?」

「そう。ぜひ本気の一品を食べてもらいたいなあ」

「また、お願いします」

洋子が、間髪いれずにニコニコ笑いながら返してくる。
調子に乗って、余計なことを言ってしまった。
彼女は相変わらず年下の僕にも敬語だが、態度がどこかフランクになってきている。
今みたいな冗談めかしたことも、前はいえなかったのに。僕を信頼して、安心しているのだろうか。
けれど、やっぱり出産後の話は洋子から出てきていない。
ここまで来ると、その沈黙にも何か考えがあるに違いない。僕はそれに便乗してモラトリアムしてしまっているわけだが。
それが狙いなのか。でも、どこかで話をしないわけにはいかないだろう。
多分、転回点は、出産以外の選択肢がなくなる22週以後だ。そこがミッドウェー、スターリングラードになる。

洋子は、まだこちらを見ている。そして、自分のおなかを見て、それに触れた。
おなかは、ふっくらという感じに多少膨らんできていた。
「触ってみます?」なんていわれたらどうしよう。
状況として、触らないわけにはいかない気がする。断るのは難しいだろう。
一度触ってしまったら引き返せなくなるんじゃないか。そんな気がした。
けれど、洋子が口にしたのはそれではなかった。

「昨日の検診で、赤ちゃんを見せてもらいました」

ちなみに、洋子は相変わらず、例の大野産婦人科に通っていた。
あそこが薫のテリトリーだと判明したとはいえ、いまさら代えるのも不自然だった。
なあに、僕が出入りしなければいいだけのことだ。

「へ、へえ」

それしかいえない。

「体も出来て、動いてました。顔は、あまりよくわからなかったけれど」

おなかを見ながらいった。そして、こちらを見る。

「長嶋君に似ていたら、きっとハンサムになるんでしょうね」

「あ、あはは。でも男の子はお母さんに似るっていうし」

「それはいやかな。でも、女の子でも長島君に似たらきっと美人になると思うな」
408ミスタープレイボーイ:2006/10/26(木) 23:43:59 ID:eeg08Uca
このままいけば、「男の子と女の子のどっちがいい?」か「名前はどうする?」なんて話になりそうだ。
耐えられない。

「ごちそうさまでしたあ!」

話を無理やり打ち切って、空の食器を台所まで持っていく。スポンジに洗剤を落とす。

「あ、洗い物はわたしがしますから」

そういって、洋子が追いかけてきた。
その声に体ごと振り返った僕の体と、スポンジを取り上げようと手を伸ばした彼女の体が、ちょうど抱き合う形になった。
足の付け根の辺りに、彼女のおなかのふくらみが触れているのを感じる。なんだか、これまで味わったことのないような感触だ。
う。
息子が立ち上がってしまった。最悪だ。あちらの息子か娘に反応したのか?
妊婦にそんな反応をしてしまったのが、どこか後ろめたい。

「あ、あの。浅くして、短くすれば、大丈夫だって先生もいってたから」

それに気付いた洋子が、顔を赤くしていった。
妊婦とするということに、興味がないわけではない。実際、立ってしまったし。

「いや、安定期になるまでは、危険もあるから」

「じゃあ、それからにしましょ」

そういって洋子は、つま先立ちをして、こちらにキスしてきた。
それに期待してしまう僕は、やはり最低なんだろうか。
409 ◆zIIME6i97I :2006/10/26(木) 23:45:25 ID:eeg08Uca
以上、第9話でした。
妊婦に感じてしまうのは、変態なんでしょうか。
410名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 23:48:51 ID:zdKDHUGo
HR大好きな俺にとってはかなりツボです(*゚∀゚)=3
411名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 23:52:28 ID:jYgQYnzk
へタレと優しさと間の悪さでどんどん深みに嵌っていっているミスターに
今後の展開へのwktkが止まらないぜGJ
412名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 23:58:29 ID:UFk6O5UU
GJ

これは展開が読めない……。
413名無しさん@ピンキー:2006/10/27(金) 00:03:31 ID:fb9tnlZC
洋子が優勢だが、しかし心情的にも薫に思うところができたわけで…
読めないなこれは
414 ◆gPbPvQ478E :2006/10/27(金) 00:15:09 ID:8fxker+F
多数のご意見、ありがとうございました。
というか、ここまで多くの方に意見を頂けるなんて思ってもみなかったのでびっくりしてます。

で、集計してみたところ、
A13 B8 C10
ってな感じでした。

というわけで、「九十九の想い」の続きを書きます。
BCを選んでくれた住人にも楽しめるよう、できる限り頑張りたいと思いますので、宜しくお願いします。
住人の皆さんの声が、やる気の元です。修羅場万歳。


>>390
雪桜さんが可愛すぎる件について
ネコミミモードで悶え死にました
>>409
ヘタレかわいいよヘタレ
妊婦に反応して省みるのも可愛いすぎ
415名無しさん@ピンキー:2006/10/27(金) 00:17:18 ID:UFL3DJV7
漬け物想いきたこれ
416名無しさん@ピンキー:2006/10/27(金) 00:33:51 ID:0xyZIKsy
おお、雪桜さんの最終話が投下されてるじゃないか。
ホントGJだったぜ。
417名無しさん@ピンキー:2006/10/27(金) 01:00:35 ID:YXOif8+l
GJ
薫の活躍に期待してます
418名無しさん@ピンキー:2006/10/27(金) 01:23:33 ID:ikZa6zif
>>416
まて、早漏過ぎだ、このままでは虎が哀れすぎる
それはともかくトライデントさんGJ
雪桜さん可愛いよ雪桜さん(*´д`*)
クッ、きつい監禁も溜まらんがこういうのほのぼのも。。。
>>409
妊娠は嫉妬における重要なファクターだから変態じゃない!?
HRは普通なはずだ、じゃないと俺も変(ry
419名無しさん@ピンキー:2006/10/27(金) 11:38:49 ID:XTzBJbbR
雪桜さん終わるの?
俺はこれから一体何を楽しみすればいいんだ
猫耳最高すぎるっ!!
420名無しさん@ピンキー:2006/10/27(金) 14:27:39 ID:N9b87Muf
投下しますよ
421『甘獄と青』Sideサラ:2006/10/27(金) 14:29:17 ID:N9b87Muf
『オカエリナサイマセ』
 ブルーと別れて家に入ると、電子音声がわたしを出迎えた。見慣れた光景、機会人形が
わたしに向かって頭を下げている。それを見る度に、心の奥底の方に強い痛みが駆け巡る。
不老不死になった今、唯一感じる痛みだ。これを消す方法を、それこそ百年単位で考えた
けれど、未だに見付かっていない。
 そしていつも、最後は一つの結論に辿り着く。
「消さない方が良い、ということかしらね」
 誰にも聞こえないように呟いたのだから、当然答えは返ってこない。もしかしたら隣に
居る機械人形が声を拾っているのかもしれないけれど、気を遣って何も言わないだけなの
かもしれない。敢えて見た目はデッサンに使うデク人形のような外見にしているけれど、
それだけの性能は与えてある。型番は大分古いけれどわたしが度々手を入れていることも
あり、その辺りの汎用品や、もしかしたら人間と比べても何の遜色もないくらいになって
いるのだ。外見と声が機械らしさを残しているだけで、それもいじってしまったらもはや
人間と区別が付かなくなるだろう。実際、わたしは何度もその甘い誘惑に付いて行きそう
になった。常に隣に居てくれる友人が手に入るのだ、まさしく夢のような話だろう。
 迫害もしない。
 怯えた目で見てくることもない。
 わたしを一人の人間として見てくれる。
 そんな存在が居てほしいと思ったことが、どれだけあるだろう。数えたことがないから
分からないけれど、きっと千単位、いや万単位になる筈だ。
422『甘獄と青』Sideサラ:2006/10/27(金) 14:30:33 ID:N9b87Muf
「ねぇ、ユカリ。人間になりたくない?」
 久し振りにこの問掛けをしてみた。しかし今回のものは思い出したというだけで、本当
にそうなってほしいと思った訳ではない。ただ答えが聞きたくなったのだ。
 ユカリはいつも通りに軽く首を振り、
『ソレハ、無理デス。私ハ最後マデ、機械人形デスカラ』
 この言葉を聞きたかった。
 そして何気無く訊きたくなった、ナナミちゃんのことだ。ナナミちゃんは自分に感情は
無いと言っていた、ブルーもそれを当然のように受け入れていた。それはどうなんだろう。
わたしが感情回路を開発したのが約1500年前、乱暴な計算だとブルーの年齢の二倍も前に
存在したことになる。だからそのその存在を知らない訳はないし、50年後には生産ライン
も安定して安くなったから一般にも普及している。そもそも機械人形には標準搭載されて
いるものなので、事故か不良品かは分からないが上手く機能していないのなら、電気屋か
役所に持っていけば少額で取り替えてもらえる筈だ。なのに、そんなことをしていない。
「ユカリは、感情のない機械人形をどう思う?」
『質問ノ意味ハ分カラナイデスガ、不良品カ故障品ダト思イマス』
「それをそのまま使う人は?」
『ソノヨウナ嗜好ナノデショウ。感情抜キノ作業ナラ、人間ノ形ハアマリ効率的デハアリ
マセンカラ。違ウノナラ、ソレハ多分……』
 ユカリはそこで言葉を区切り、歩みを止めてこちらを向いた。
『ソウシテイルコトニ、意味ガ有ルノデショウ』
423『甘獄と青』Sideサラ:2006/10/27(金) 14:32:47 ID:N9b87Muf
 意味、か。
「例えば?」
『コレ以上ノ言葉ハ、相手ノ方ニ失礼デス』
 そう言うとユカリは部屋の奥へと入っていった。つまりそれより上の部分は自分で考え
ろということだろう、厳しいことだ。理由をあまり考えたくなかったから尋ねたというの
に、そうしてしまったら意味がない。敢えて厳しい性格にした過去の自分が、今回ばかり
は少し恨めしかった。望んでしたこととはいえ、辛いときもある。
 吐息を一つ。
 本格的に一人になったことで急に疲れが押し寄せてきた。ドアを開けるのも億劫になり、
すり抜けることで自室に入るとベッドに倒れ込んだ。こんなとき確率システムは便利だ、
煩わしいことは殆んど省いてくれる。思考以外のことは全自動なのがありがたい。しかし
どうせなら、それも出来るようにしておけば良かったとも思った。
 確率システムというのは、簡単に言えば波を当てるものだ。先程のドアのすり抜けや、
昼間のリサちゃんのナイフを防いだのもそれだ。空中にあるナノマシンが放つ弱い音波を
物体に当て、僅かにずらすことで分子間の隙間をくぐり抜けるようにする。ナナミちゃん
の白杭を消したのも同じような原理だ。どんな物体にもある固有振動数と同じ周波の波を
当てて、崩壊させる。シンプルだけれど、一番効果的なもの。
424『甘獄と青』Sideサラ:2006/10/27(金) 14:33:47 ID:N9b87Muf
 わたしの不老不死もそうだ、原理を明かせば単純で下らない。不老の部分はリサちゃん
やブルーと同じ、決まったパターンの波を送ってテロメア配列のコピーを助けるものだ。
不死の部分に至っては、ナノマシンが危険と判断したものを自動的に防いでくれていると
いうものだ。それでも意外と効果的で、現にわたしはこうして2000年以上生きている。
 長生き、と言うよりは、
「無駄に年食ってるって感じね」
 本当に、無駄だ。
 刺激の強いものや、危険なものは全て自分の作ったものに奪われてしまっている。それ
によって人間らしい楽しみは殆んどなくなり、途端に人生の娯楽が減った。以前ならば、
ナノマシンの調整や研究機関からの相談などやることもまだもあったのだけれど、天才児
と呼ばれる子供が多く産まれてきた1000年程前からは、そんなこともすっかりなくなって
しまった。することもなくなり、したいことも出来ない。そんな非人間的な暮らしをして
いれば自分が人間だという自覚さえ薄くなってくる。今や人間らしさが残っているのは、
不定期に訪れる心の痛みだけだ。システムは弱い部分を補ってくれる訳ではないからこそ
残っている部分、しかし弱さが露出しただけでもあるのだ。
 そうして生きていると次第に機械と人間との境界があやふやになってくる。だからなの
だろう、わたしよりユカリの方が余程人間らしく見え、人間にすることが出来ると錯覚を
してしまうのは。してあげたい、ではなく、することが出来ると思ってしまうのだ。
425『甘獄と青』Sideサラ:2006/10/27(金) 14:35:23 ID:N9b87Muf
 勿論、ユカリの意思もある。だから勝手に人間らしくしようなどとは思わない、ユカリ
がデク人形の姿をしているのはわたしの決意の現れなのだ。
 逆に、人間の姿をしているナナミちゃんはどうなのだろう。感情がなく、ユカリよりも
わたしに近い状態の彼女は人間になりたいと思っているのだろうか。
 ここまで考えて、先程ユカリとした話に戻っていることに気が付いた。
「何故、感情がないままなのか」
 言葉にすると、すぐに答えが沸いてくる。頭の回転が早いのも困りものだ。
 要は、ブルーがそう望んでいるからなのだろう。ブルーはそうしたナナミちゃんを受け
入れているのではなく、そうありたいと思っているからだ。だから修理しようともしない
し、ナナミちゃんがあのままであり続けるのだと思う。
 それは何故か。
 理由は分からないけれども、感情が存在しない方が良いからだろう。たった一日接した
だけで分かる程に、ブルーは優しい。最初は怯えていたけれども、すぐにその態度を改め
てわたしに接してきた。怯えた目もせずに、嫌なものを見るような視線もなしに、それが
当たり前であるかのように自然体で接してきたのだ。それは罪を宣告されてからは初めて
のことだった。そのお陰で短い間ではあるけれども、自分の立場を忘れることが出来た。
今までユカリ以外とは不可能だと思っていたことが、簡単に実現されたのだ。
 そんなブルーだから、辛いことも多いのだろう。だから、感情がないナナミちゃんを隣
に置いておきたいのだと思う。頼ることもなく、頼られることもなく、想いを寄せること
もなく、寄せられることもなく、ただ隣に居る関係。多分、それがブルーの望むものだ。
「もし痛みがなくなったら、わたしも隣に立てるのかしら」
 答えは返ってこない。
 思考するのも嫌になり、わたしは眠るべく目を閉じた。
426ロボ ◆JypZpjo0ig :2006/10/27(金) 14:38:19 ID:N9b87Muf
今回はこれで終わりです

また『とらとら』のような長さになりそうで嫌な感じです

書いてて思ったこと
不老不死って言葉自体死亡フラグっぽくね?
427名無しさん@ピンキー:2006/10/27(金) 14:46:47 ID:UJHAqbWM
おっつん
一行目がオレサマオマエマルカジリに見えた
428名無しさん@ピンキー:2006/10/27(金) 16:10:12 ID:k1gxjiuY
不老不死の人って最終的に死ぬ場合が多いねwwww

ロボットの感情でアンドリューっていう映画を思い出したよ
429名無しさん@ピンキー:2006/10/27(金) 16:53:25 ID:0HIopxAl
アンドリューは泣けたなぁ
430名無しさん@ピンキー:2006/10/27(金) 18:54:34 ID:U7FRNxiv
投下乙です。

>不老不死って言葉自体死亡フラグっぽくね?

つ「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」
つ「この写真を見てくれ、先日娘が生まれたんだ」
つ「退役したら田舎で農場を開こうと思っているんだ」

ふと思ったけど、これ使い方によっては嫉妬シチュにならないかな?
431名無しさん@ピンキー:2006/10/27(金) 19:23:44 ID:dOJKYpAx
こんなん?


つ「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」
 「何であたしじゃないの・・・・・・」
つ「この写真を見てくれ、先日娘が生まれたんだ」
 「ふーん。奥さん、居るんだ・・・・・・」
つ「退役したら田舎で農場を開こうと思っているんだ」
 「私を置いて何処かに行っちゃうの」
432名無しさん@ピンキー:2006/10/27(金) 19:36:09 ID:Nf/1z+DE
>>431
でそれぞれ「なら、死んじゃえ!!」でブスッといく死亡フラグ
433名無しさん@ピンキー:2006/10/27(金) 19:38:54 ID:U7FRNxiv
軍板では良く使われる死亡フラグです。(使うと戦死者扱いされるw)
なので適当にプロット考えてみました。


男は新任の少尉殿で初めて持った部下の女とあれこれ親しくなる。
戦線は少しずつ味方に有利に傾くが最後が近づくにつれ戦闘も激化していった。
そんな中、明日はついに敵の首都への総攻撃の日。男は女に>>430のような発言をしてしまう。

嫉妬に荒れ狂う女、そして次の日男は敵がいないはずの後方から撃たれて気を失う。

後をカバーしていたのは女、目覚めたとき女の安否を気遣うが男が目にしたのは
MIA(Missing In Action:戦闘中行方不明、実質戦死)と上層部に報告し、
秘密の隠れ家にて2人だけの(監禁)生活を企んだ女であった。
434名無しさん@ピンキー:2006/10/27(金) 19:52:32 ID:Bl5bA/Ie
いいじゃん?
思えば現代近代の戦争を舞台にした嫉妬モノって無かった希ガス
と言うわけで、さぁ執筆してくださいませ!
がんがれ期待してるぞ
435名無しさん@ピンキー:2006/10/27(金) 20:47:42 ID:Flhz9dBZ
本当にこのスレの皆さんは創造力に優れてらっしゃるな……

てかまとめサイトにこっそりサラとビビス一派の絵が投下されてたんだな。
GJ!!!
436名無しさん@ピンキー:2006/10/27(金) 21:06:31 ID:JzpEOgu4
>まとめサイトににこっそりサラとビビス一派の絵
え、ちょっと待った、どこ?

最近は沃野の(正しくは胡桃の)イラストもスレにあったな
437名無しさん@ピンキー:2006/10/27(金) 21:18:10 ID:NBCKNjUI
永遠の願いの続きを待ってるのは俺だけ??
沃野の胡桃様といい、完璧超神・幼なじみ・陰で男を管理と3拍子揃っているのは、晴海たんだけ!!
438名無しさん@ピンキー:2006/10/27(金) 21:23:27 ID:Iseuazb4
>>436
目安箱BBSとやらに
439名無しさん@ピンキー:2006/10/27(金) 21:36:39 ID:iD8Xji47
まあ、隊内ではよくあるスポース感覚の情事だったはずだった…最初は…
敵国の首都陥落からここ一年、もっぱら僕らの小隊の任務は司令部の行きの嗜好品の輸送の中継地点の護衛で、
これがまた、ゲリラ化した狂信者どもの格好の的だった、とにかく間断なく打ち込まれる迫撃弾やら、車両のチェック、etcetc・・・
擦り切れそうになる神経をかろうじて繋いでくれるのは、懐の恋人の写真ではなく、一時の繋がりであり…あるいはドラッグだった。
それで僕の場合はドラックパーティーもスワッピングクラブも性に合わなくて、
特定の相手を見つけることになった…もちろん一時の関係ってことは双方納得済みだ、相手には家庭もある。
お相手は…故郷のアンには内緒だぜ?
下士官様のキットだ・・・とにかく凄く情熱的で…なんというかすぐに一時しのぎのストレス解消から、多大に溺れる関係になっていった。
実際の所、自分がここまで精神的に誰かに依存するなんて想像もつかなかったし、キットの…アノ鬼にもこんなに、
んーあれだ…キュートな部分に気付かされるとは思ってもみなかった。


440名無しさん@ピンキー:2006/10/27(金) 21:37:20 ID:JzpEOgu4
>>438ありがとう
ハイスピードで確認した

サラ…迎えにいってやれよユウキーーー!
441名無しさん@ピンキー::2006/10/27(金) 21:50:15 ID:CuhKvFhb
短いですが、投下させていただきます。
442サマー・オブ・ラブ:2006/10/27(金) 21:52:01 ID:CuhKvFhb
僕は一人で屋上にあるベンチに座り、青い空を見上げる。
雲一つない青空は、手を伸ばせば届きそうなほど澄んでいる。
自由に空を飛べればどれだけ幸せだろうと考えていると、
「ご飯、一緒に」
か細い声が隣から聞こえる。
振り向くと、幼馴染みの一人である刹那が座っていた。
小学生高学年と間違われる身体と無表情だけど可愛らしい顔。
その白くて小さな手にはお弁当を二人分持っていた。
「今日はみんな用事があるから」
姉様も?って聞くと、こくんと頷く。
「生徒会の仕事」
大変だねって言うと、そうだねって呟いた。
刹那からお弁当を受け取り中を開く。
もう一人の幼馴染みが毎朝早くに作ってくれるお弁当。
美味しいし、健康の事を考えて創意工夫してくれるのは嬉しいんだけど、ご飯にLOVEは止めてほしい。
だってそれを見る刹那の目が毎回怖いから。
「私も料理覚えようかな」
ぼそりと呟いた刹那の言葉に、身体の動きが止まってしまう。
以前、僕の為にと料理を作ってくれた事があった。
出来上がった料理らしき物体は、外道スライム今後ともよろしくってものでした。
だからあれほど注意したんです。
妖神グルメは教科書にはならないと。
僕は人間であって、邪神クトゥルーの眷属ではありません。
本当に勘弁してくださいと土下座しました。
幼い頃に異常者に殺されかかりましたが、この時ほど命が危ういと感じた事はありません。
そう、と刹那の悲しげな声を聞くのは大変心苦しいですが、まだ死にたくないです。

会話らしい会話もなく、僕と刹那はお弁当を食べ終わる。
いつもの様にお弁当を片付けると、刹那は鞄から一冊の本を取り出した。
愛蔵版女神転生。
僕も好きなんですが、小声で「私が礼子だったらいいのに」と呟くのも勘弁してください。
嫉妬深いアマテラスを制御できる自信はありませんから。

本を読む刹那の横顔を見る。
可愛らしい顔。
漆黒の髪と雪のように白い肌。
身長の関係で特注の制服を着ている彼女は百人中百人が認める美少女だ。
僕のような人間と拘るべきではない。
なのに彼女は「貴方と姉様がいればいい」と言う。
それが僕にはとても悲しい。
刹那に友達ができるように姉様に相談しよう。
学園一の才女である姉様ならいいアイディアがあるはずだ。

僕はその時気がつくべきだった。
本を読んでいた刹那の顔がこちらを向いていた事を。
その目に暗い炎が宿っていた事を。
彼女が一番独占欲が強い事を。

続きます。
443名無しさん@ピンキー:2006/10/27(金) 22:34:49 ID:U7FRNxiv
投下乙です。
ところで愛蔵版女神転生ですか…
愛蔵版ではない旧版ですと、最後の後書きに明日香と礼子のその後がちらっと書いてありますが、
そっちは知らないほうが良いかも…
444名無しさん@ピンキー:2006/10/27(金) 22:55:19 ID:kBch6KMx
新作キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
独占欲の強いちみっこい子は俺のストライクゾーンど真ん中だ(*´Д`)ハァハァ
445名無しさん@ピンキー:2006/10/27(金) 23:00:59 ID:N9b87Muf
投下しますよ
446『甘獄と青』Take6:2006/10/27(金) 23:02:23 ID:N9b87Muf
 水音。
 シャワーを浴びている時間は、僕にとって最も大切なものの一つだ。体を洗っていれば
余計なことは考えずに済むし、何よりもお湯が跳ねる音が周りの音を掻き消してくれる。
特に、今日みたいな日はそれがありがたかった。勿論、リサちゃんやサラさん、ナナミと
過ごしたパーティは楽しかった。最高の大罪人があんなにも気さくだとは思わなかったし、
接して話してみると趣味もよく合った。これからも付き合いを続けていこうとも思う。
 しかし、今日起きたことはそれだけではない。
 ほんの一瞬だけれど、思い出したくなかったことを思い出してしまったのだ。血に塗れ
横たわっている中年の男、その側で震えている白いドレスの少女、赤く染まったナイフを
手に持った少年。僕の視点からの光景なのでその少年、僕の姿は見ることが不可能な筈だ
が、しかしはっきりとイメージが出来る。恨めしげにこちらを向いて言葉を漏らす中年の
男、大統領も。怯えた目でこちらを見つめる少女、僕が好きだったお嬢様も。僕が罪人に
なった夜のことは、脳の中で完璧に再現される。
 思い出すな、という命令は聞かずに再生され続ける映像が繰り返される。一度思い出し
たら、これが暫く続くのだ。それはパーティのときもそうだった。無理矢理意識しないよ
うにしていたものの、それでも意識を刈り取ろうとするその悪夢は決して僕を離さない。
他の誰かが居ればまだ何とかなるものの、完全に一人となった今ではこのシャワーの音と
体を洗うという行為だけが僕を支えてくれる。ナナミが居てくれるものの一人になる状況
が少なくないからこそ、僕はこのシャワーを浴びている時間が好きなのだ。
447『甘獄と青』Take6:2006/10/27(金) 23:04:48 ID:N9b87Muf
 そうして思考をそちらに任せているせいなのかもしれない、この状態の僕は極端に外部
からの刺激に鈍感になる。だからはっきりとした足音がしてくるまで、誰かがここに近付
いてくることに気が付かなかった。いや、誰かではないだろう。サラさんを家まで送り、
リサちゃんも寝静まった今、こうして歩いているのは一人しか居ない。
 足音は僕の背後、僅か2mの位置で止まり、続いて衣擦れの音がする。
「失礼します」
 軽音。
 小さいがシャワーの水音を裂くような高い音が響き、ナナミが入ってくるのが雰囲気で
分かった。一歩踏み出す度にタイルの上で水が跳ねる音がしていて、妙な生々しさがある。
僅か数歩の距離だというのに、酷く時間がかかったような気がした。
「皿洗いは終わったの?」
「サラ様を送っている間に終わらせました」
「掃除や洗濯は?」
「洗濯は全自動で、掃除はうるさいので致しません」
 どうやって追い払おうか。
「この時間は入るなと言った筈だけど?」
 直接言ってみた。
 しかしナナミは退く様子がない。それどころか、曇った鏡越しに確認する分には表情を
変えた様子すらない。何と言おうと、自分が満足するまで
ここに居るつもりなのだろう。こういうときのナナミは頑固なので、僕は諦めた。
「好きにしてよ」
「では、お背中を流させて頂きます」
448『甘獄と青』Take6:2006/10/27(金) 23:05:53 ID:N9b87Muf
 鏡に写ったナナミの姿が消えた。多分かかんだのだろう、僕は適当に泡立てたスポンジ
を背後に差し出した。その重さが手からなくなること数秒、背中に少し弱めの圧力が来た。
無言でスポンジを滑らせるナナミは、一体何を考えているのだろうか。
 数秒。
「お頼り下さい、私はここに居ます」
 水音や摩擦音に混ざり、声がした。
「私は決して青様から離れません。なのに何故、頼って下さらないのですか?」
 背中の圧力が消え、代わりにこちらを引く力が加わってくる。勢いのままに後方に体を
崩せば、頭部に柔らかな感触が来た。それが何かは分かる、こちらに来たばかりの頃は、
よくこうした状況になっていた。それには随分と世話になったものだ。
 背後から僕を抱き締めたナナミは首を曲げることでこちらと目を合わせると、
「存分に辛い思いをなさって下さい、それまでは離しません」
「労りの言葉や慰めはないのかな?」
「私には感情や心がありません、そんな言葉を出しても青様には失礼なだけになります。
しかし、そんな私だからこそ可能なこともあります。どうぞ存分にお苦しみ下さいませ、
私には心や感情が存在しないので発した苦しみは跳ね帰ることなく消えてゆきます」
 言って、ナナミは抱く力を強くした。
「ありがとう、でももう大丈夫だ」
 振り向き、ナナミを抱き返す。
「ありがとう」
449『甘獄と青』Take6:2006/10/27(金) 23:08:50 ID:N9b87Muf
 もう一度言い、首筋に舌を這わせた。鎖骨の辺りで切り揃えられた銀髪が頬に当たり、
擽ってくる。懐かしい感覚だ、機械である彼女は外見に変化がないから、より一層思う。
「夜伽をするのも、久し振りですね」
 そう言えば、最後にナナミとしたのはいつだっただろうか。
「約三百年振りのことです。私はてっきり機能不全になったかと思っておりました」
「な、失礼な」
「若しくは、嫌われたのかと」
 その視線が向いているのは、自分の胸元だ。二つの豊かな隆起の間からみぞおちにかけ、
大きく歪な傷跡がある。僕が原因で負ったそれをナナミは
絶対に直そうとしない。見慣れたものではあるけれども、綺麗な体にそうした跡があるの
はあまり良くないと思う。そのことを言っているのだろう。
 しかしそれは勘違いだ。
 良くはないとも思うけれど、
「気に入ってるから」
 首筋から下方へと唇を滑らせ、傷口に口付ける。普段は目に見えないということもあり、
傷口を塞ぐことを優先したせいで滑らかなものではない。表面が熱変形をしているせいでごつごつとしており、独特の固
さが唇を押し返してくる。柔肌と違い吸っても変化がないことを分かりつつも、僕は強く
それを吸いたてた。ナナミにも快感機能はあり、淡い声が漏れてくる。続けて胸を揉むと、
大きく声が漏れてきた。感度を高くしているのか天然なのかは分からないが、普段クール
なナナミがこうした声を出すのは嬉しく思う。
「青様、私ばかり」
「僕がそうしたいんだよ」
450『甘獄と青』Take6:2006/10/27(金) 23:10:26 ID:N9b87Muf
 ナナミは困ったような怒ったような、判断しにくい表情で僕を見ると軽く頷いた。その
振動で肌に付いていた雫が緩い曲線を描いて滑り落ちる。そして湿気で塗れた髪を手櫛で
整えると、膝立ちの姿勢からゆっくりと仰向けに倒れた。膝を折っているせいで、こちら
に腰を突き出すような格好になっている。仰向けでこちらを向いているので自然と伏し目
になり、それがいやらしさを強調していた。
 ナナミ曰く三百年振りということもあり、理性による抑えがきかなくなってくる。
「お好きに、なさって下さいませ」
 ここが我慢の限界だった。
 この姿勢になっても尚、形が崩れない張りのある乳房。それをほぐすように強く揉み、
先端をねぶり、舐め、吸う。空いた手で股間に手指を走らせると、既に濡れほぐれていた
らしい割れ目は簡単に飲み込んだ。手を動かす度に泣き声のような声を出して体を揺らし、
ナナミの肌を幾筋もの雫が走る。
「青様、早く、ナナミのここに」
 自ら割れ目に人指し指と中指を当て、ピースサインをするように開いた。粘着質な音が
僕を誘い、その誘惑に抗うことが出来ずに一気に差し貫いた。とろけるような感触と溶か
してくるような熱さがある。それは昔からずっと変わらない。
 壊してしまいそうな勢いでストロークをすると、風呂場中に水音とナナミの声が響く。
「青様、私は、もう」
「僕もそろそろ、ヤバい」
 ナナミは上体を起こすと、は、とも、あ、とも取れる声を出しながら抱き付いてきた。
唇を合わせ、舌を交わらせ、激しく腰を振ってくる。まるで自分のものだと言うように脚
を僕の腰に絡ませ、腕は強く僕の体を拘束する。
 唇を離し、は、と吐息をしながらこちらを見つめた直後、
「出して、下さいませ」
 言葉に応えるように放出した。
 僕がナナミの背に回した手をほどくと、脱力したらしくタイルの上に崩れ落ちた。お湯
が顔に振りかかるのを煩わしそうにしながら髪を掻き上げ、
「失礼を、致しました」
 僕は気にしないでほしい、と笑みを向けた。過去の光景は、もう見えない。
451ロボ ◆JypZpjo0ig :2006/10/27(金) 23:11:59 ID:N9b87Muf
今回はこれで終わりです

ここで裏設定を一つ

『半竜の夢』

えらく長い時間

『倶楽部シリーズ』(虐殺時代)

二年間

『織濱第二高校シリーズ』

えらく長い時間

『甘獄と青』
452名無しさん@ピンキー:2006/10/27(金) 23:20:37 ID:fYK1KGrs
GJ!!!
更新早くてありがたい!
453 ◆j6xIfCOdTc :2006/10/27(金) 23:33:03 ID:J8RMPsIp
現代風空軍物、投下行きます
454 ◆j6xIfCOdTc :2006/10/27(金) 23:35:03 ID:J8RMPsIp

汚い。
それが私の『彼』に対する第一印象だった。


『新しい僚機のパイロットが来る。』

そう聞いたのは二、三日前。
前の僚機のパイロットが死んだ次の日だった。
もう顔も思い出せない。
私と組んだ相手は大抵すぐ墜ちる。
いままでで一番長かったのは……そう、十日だ。
その理由は、『私の機動』だ。
例えば、目の前に『恐ろしく早い鳥』と『ふつうの早さの鳥』がいて、どちらを猟師は狙うか?、と言うことだ。
もちろん私が前者であって、相方が後者。
稀に私の方を狙ってくる馬鹿もいたが、そいつらには私が『狩る側』だとわからせてやった。
そうしている内に、私には『ガルーダ』なんてアダ名が付いた。
炎の怪鳥、その炎が近付く者も焼き尽くす──、なんて理由で。

455 ◆j6xIfCOdTc :2006/10/27(金) 23:37:11 ID:J8RMPsIp
新しいパートナーを紹介する、と基地司令に呼び出され、司令部で出会った男。
汚い。そうとしか思えなかった。
いつ剃ったのかわからない不精髭、伸ばしっぱなしで手入れも何もしていなさそうな髪の毛、基地司令の前だというのに、着崩した制服。
誰もが私と同じ印象を受けるだろう。
「…ウェッヘン!、えーこちらが今日より君の僚機のパイロットになる──」
「クウヤ・ミカヅキ大尉だ、よろしく」
格好とは裏腹に、明るい口調で話掛けられた。
「…ミッシェル・ルーマン中尉です、よろしくお願いします、大尉」


基地司令から次の任務の命令を受け、司令部を出た。
基地の廊下を『二人で』歩く。
基地の案内をしているのである。
「……驚かないんだな、中尉は。」
司令部をでて、先に口を開いたのは大尉だった。
「…なんで驚く必要が?」
「だって俺みたいな黒髪、見たこと無いだろ?」
そう言われてみればそうだ、黒髪の人種は沢山見てきたが、彼のような深い黒色、俗に言う鴉の濡れ羽色、の黒髪は見たこと無かった。
「ありませんね」
と正直に答える。
「どーでもいいのか……orz」
ひどく落ち込んだ様子の大尉。
「どうでもいいです、それより早く移動しましょう。」
どうせまた、すぐ居なくなるのだから──。


456 ◆j6xIfCOdTc :2006/10/27(金) 23:40:16 ID:J8RMPsIp
次の日、私と大尉に哨戒任務の命令がでていた。
哨戒だけなので、今日はF/A-18、スーパーホーネットで空に上がった。
大尉には私の二番機をやって貰うことにした。
私がそのことを伝えると、
「その方が、ミサ中尉の実力が判るし、僕の力がどうなのかも判るよ、うん、そうしよう」
と、快諾?してくれた。
だが、私の力を試す、って言ったのと、私をミサって呼んだのが気に食わなかった。
実際空に上がって、大尉に仕掛けてみることにした。

哨戒活動開始から五時間、帰投の命令が下った。

『やっとおわったな』
通信での会話
「ええ」
『何も起こらなかったし』
「ええ」
『万万歳だ』
「ええ、…大尉。」
『なんだ?』
「模擬戦、しませんか?」
『……』
「今日何も無かったし…、腕が鈍らないように」
『ああ、それならよろこんで、じゃ、いくよ!』
『はい』



そうして始めた模擬戦に私は……負けた。
背後を取ろうとして、フェイントを巧く使われ、逆に後ろを取られ、
そのまま、引き離す事ができなかった。

大尉は凄かった。
大尉の戦闘機動は、まさに『真のエース』だった。
『ガルーダ』の私を、まるで赤子の様にあつかった。
不思議と負けた事に怒りは感じなかった。
私の中に有ったのは、これからは、私より強い人と飛べることに対する純粋な喜びと───、
奇妙な胸の高鳴り、だった。
457名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 00:50:12 ID:lyxy59cR
新ジャンルktkr
この後どんな登場人物が出てくるかwktk

そう言えば飛行機でガルーダと言えばインドネシアの航空会社にそんな名前が無かったっけ?
458名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 00:52:10 ID:H3b4LQB/
軽いハーレムラブコメ修羅場が読みたいな
ありがちだからといって案外スルーされるし
459名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 00:52:22 ID:uzWpkhqe
>>453
早速プロット原案のss(゚∀゚)キターーーーーー!
どんどん続けてください、応援してますよ!!
460名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 01:03:05 ID:H3b4LQB/
>>456
新作ktkl
これからの展開が楽しみです
461名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 02:08:44 ID:60xAWl1i
軍隊モノか!
どんどん新たなジャンルが開拓されていくなぁ
どう展開されていくのか期待してます!!
462 ◆zIIME6i97I :2006/10/28(土) 10:51:42 ID:KAU9/6tI
ミスターを投下します。
463ミスタープレイボーイ:2006/10/28(土) 10:52:24 ID:KAU9/6tI
妊娠22週目を越して、劇的な状況の変化があったかといえばそんなことはなかった。
妊娠後期に入った洋子のおなかは、一目で妊娠がわかるほどに大きくなっている。
彼女は小柄だから、大きなおなかがとても目立つ。それはもうぼってりと。
薫の目を盗んで様子を見に行くたび、大きくなっている気がする。
どこからどう見ても、立派な妊婦さんだ。
このまま十ヶ月目を迎えるのだろうと、僕は諦めにも似た感情を味わっていた。
結局、そのときを迎えることはなかったのだけれど。
464ミスタープレイボーイ:2006/10/28(土) 10:53:10 ID:KAU9/6tI
薫に呼び出された。指輪を見に行きたいらしい。
正式な結納式をやるのかどうかは知らないが、まだ婚約指輪を送るような段階ではない。
ただ、ペアの指輪がほしいらしい。つまり、結婚指輪のつもりなのか。
もちろん、異存はない。
指輪という物理的な手段で、僕の心に戒めをかけてほしい。

問題は、お金だ。正直、彼女の指にふさわしいような指輪を買うお金なんかない。
それは薫もわかっているはず。やっぱり彼女が出すつもりなんだろうか。
それはなんだかいやだった。
見栄を張るつもりはない。
けれど、ここで潜在的な力関係をおおっぴらにするのはいやだった。
それは、結婚後の二人の関係にも影響する。一言で言って、おいたをしづらくしてしまう。
結婚後のプレイボーイライフに大きな影を落とすことになるだろう。

僕に腕を絡めて歩いている、薫の顔を見る。
相変わらず、きれいな顔をしている。スタイルもいい。
すれ違う男のほとんどが振り返る。無理もない。もちろん、僕を振り返る女の子もいる。
こんなことはいつものことだけれど、やっぱり優越感を感じないわけにはいかない。
この女優顔負けの彼女は僕の女で、しかも切ないほどに一途な気持ちを僕に向けてくれている。
これで得意にならないなんて、男じゃない。

そんな薫の目を盗んで、洋子の様子を見に行ってしまう僕は、大和級の馬鹿に違いない。
しかも、彼女は洋子のことを知っているというのに。
それどころか、僕が洋子に会いにいっているということも知っているに違いなかった。
薫の振る舞いがそれを物語っている。探偵でも使っているのか。
けれど、それを彼女がなじったりすることはまったくなかった。だから、確証は持てない。

あの夜以来、彼女が、洋子の話をすることはなかった。
口にもしたくないということなのか、僕を信頼してくれているのか。
それとも、怖がっているんだろうか。
当たり前だ。好きになって、結婚の約束までした男が、別の女を孕ませている。しかも、自分には子供ができない。
怖くなって、不安になって当たり前だ。
465ミスタープレイボーイ:2006/10/28(土) 10:53:46 ID:KAU9/6tI
怖いのは僕も一緒だ。
なぜって、その不安がっているはずの薫が、表面上あまりに平静を保っているからだ。
確かに、あれ以来、薫の態度に変化はあった。
まず、甘えん坊になった。今みたいに、並んで歩いていると必ず腕を絡めてくる。前はそんなことなかったのに。
彼女のような、クールな美女がそんな風に甘えてくるのはたまらない。
それから、以前にもましてしょっちゅう僕を呼び出すようになった。夏期休暇中の今は、ほぼ毎日だ。
こうして、街を歩いたりすることもあれば、彼女の屋敷でお茶を飲むこともある。

そこで、薫の母親を紹介されもした。思ったとおりの美人だった。
年齢は気にならない。僕のストライクゾーンは、広い。あの母親なら、大根切りホームランコースだ。
とはいえ、そこで母親をくどくほど、僕は無思慮じゃなかったが。

そして、彼女と会った日の締めくくりには、たいてい一緒に寝た。さすがにしんどい。ほぼ毎日だからだ。
けれど、薫に求められて、断ることはできなかった。
それはもちろん、彼女があまりに魅力だからってのはある。彼女におねだりされて立ち上がらないような息子は勘当してやる。
ただ、もし遠まわしにでも断ったりしたら、彼女の仮面が剥がれ落ちてしまうんじゃないかと思ったというのもある。

薫からのお誘いの合間をぬって洋子の様子を見に行った日の翌日には、決まって呼び出された。
そんな日には、暗くなるのも待たずに、真昼間から体を重ねた。
薫のそういう振る舞いが、何を意味しているのかぐらいはわかる。やっぱり、僕がしていることはわかっているんだ。
だとすれば、彼女の不安、ストレスはかなりのものになっているはずだ。
それでも、やはり表面上の平静さを崩すことはないのが怖い。
もしそれがいったん崩れてしまったとき、いったい何が起こるのかなんて想像したくない。
未曾有の修羅場が、展開されてしまうことだろう。もしかしたら、彼女の兄貴も巻き込んで。
それだけは避けたかった。
だから、彼女の不安を和らげるためにも、がんばって彼女を抱く。雨の日も、風の日も。
連続記録を更新中だった。

腎虚で死ぬなら本望だ。
466ミスタープレイボーイ:2006/10/28(土) 10:54:29 ID:KAU9/6tI
小さな宝石店に入る。センスはいいが、高級店ではない。意外だった。

「指輪、受け取りにきました」

彼女が店員にそういうので、驚く。今日は見に来ただけじゃないのか。
というか、もう作ってある?

「ごめんね。内緒で選んじゃったの。メッセージを彫ってもらったから、受け取りは今日になったけど」

やはり、彼女は不意打ちが得意のようだ。

「い、いや、それはいいんだけどね」

だとすれば、もう彼女がお金を出してしまったのか。少しだけ、不機嫌になる。
店員が、指輪を持って来て、こちらに改めさせる。
それがあまりにシンプルなプラチナ製の指輪だったので、店員が間違えて持ってきてしまったのかと思ったほどだ。
けれど、これで間違いはないらしい。
いや、もしかしたらすごく高いものなのか。表からは見えないが、裏側にダイヤが埋まっていたり。
江戸っ子は、着物の裏に凝ったというしな。それが粋ってものなのかもしれない。
見えないところにお金を使うのが、本当の金持ちってものなのか。
などと、したり顔で考えていると、彼女がキャッシャーの前に僕を押し出した。
お金を出せということなのか?
うろたえてしまう。

「え、いや、実は今あんまり持ち合わせが」

「いいから」

彼女は、くすくすと笑っている。
値段を告げられて、さらにうろたえる。高いからじゃない。
彼女が身に着けるものにしては、おもちゃみたいな値段だったからだ。
確かに、これなら僕にも十分払うことが出来る。でも、こんなものでいいのだろうか。
でも、彼女は本当にうれしそうな顔をしている。
そこで、思い至った。僕が彼女に何かものを送る形になったのは、これが初めてだ。
467名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 10:55:25 ID:V0Mj45Nj
スパホキタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━ !!!!!
468ミスタープレイボーイ:2006/10/28(土) 10:55:59 ID:KAU9/6tI
近くの公園まで歩き、ベンチに座る。木陰が、気持ちいい。
彼女が、指輪を取り出していった。

「手、出して」

そこで、右手を出すほど僕は馬鹿じゃない。
思ったとおり、左手の薬指にはめてくれた。結婚はまだ先になるだろうが、かまわない。
ただ、僕が先にはめられる形になったのは、いいんだろうか。

彼女も左手をこちらに差し出す。白い手に、細い指。
それを恭しく左手で支えながら、やはり薬指にはめる。
薫は、指輪のはまった指を見つめて、幸せそうに微笑んでいる。
洋子のことが頭をよぎらなかったとは言わない。腕に何かを抱きながら、悲しそうな顔でこちらを見ている。
けれど、そんな幻像は、薫の笑顔を見ているととすぐに消え去ってしまう。
今思えば、あれは何かの予兆だったのだろうか。

電話の呼び出しのメロディーがなる。
僕ではない。彼女だ。ただし、いつもの音じゃない。「ワルキューレの騎行」。
「地獄の黙示録」のあれだ。
薫は、その音を聞くと一瞬で笑顔を引っ込め、携帯電話を取り出す。

「ち、ちょっとごめんね」

走って僕から距離をとった。
いらだっているようだ。電話の相手を叱っているんじゃないだろうか。
そんな険しい顔も、やっぱりきれいだ。などとのろける。
けれど、急に笑顔を浮かべた。それも、さっきまでの幸せそうな笑顔ではない、どことなく怖い笑顔。
そんな怖い顔も、やっぱりきれいだ。たとえストッキングをかぶせてひっぱたとしても、彼女ならきれいだろう。
やがて、電話を切って、彼女が戻ってくる。
469ミスタープレイボーイ:2006/10/28(土) 10:56:48 ID:KAU9/6tI
「ごめんね。待たせちゃって」

さっきの笑顔はもうない。誰から、何の話だったのだろうか。彼女にあんな顔をさせたのは。
「何があったの?」と尋ねようとすると、今度は僕の電話がなった。
彼女に尋ねるのをやめて、電話に出ようとする。

「出ないで!」

大きな声で止められた。ビクリとして、動きを止めてしまう。

「え、どうして」

「どうしても」

このうえなく真剣な顔だ。この奇行には、生半可ではない事情が絡んでいることを感じさせる。
こちらがとまっている間も、電話はなっている。
このままにしておくわけにもいかない。少なくとも、発信者くらいは確認しておきたい。
電話を取り出そうとポッケに手を伸ばすと、その手に左手を重ねて止められた。
先ほど彼女にはめてあげたばかりの指輪が、銀色に光っている。顔をあげると、薫が真剣なというより、必死な顔をしてこちらを見つめている。
それから、どれくらい経ったのか、電話は鳴り止んでいた。

薫は、重ねた手をつかんだまま言った。

「うちに行きましょ。今日は、お父さんもお母さんもいないから。お願い」

懇願される。
思わず返事してしまう。

「うん」

そして、僕が立ち上がると、そのまま腕を絡めてくる。まるで、電話を手に取らせまいとするように。
もちろん、いろいろと引っかかる。けれど、薫のただならない様子に気おされてしまっていた。

その日の薫は、いつにもまして蟲惑的で、激しかった。
彼女がそんな風になるのは、洋子がらみのときだけだと、僕は知っていたはずなのに。
470 ◆zIIME6i97I :2006/10/28(土) 10:57:56 ID:KAU9/6tI
以上、第10話「電話に出んわ」でした。
471名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 10:59:51 ID:ZfFSFW8z
そのタイトルはねーよwwwwwww
472名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 11:04:15 ID:ZHhyAAER
>>470
本編との落差に噴出したw
473名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 11:36:55 ID:V0Mj45Nj
神さま、割り込みすいません…。

>>470
噴いたwwwwwwww
妊婦(*´Д`)ハァハァ
474名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 12:01:06 ID:UEw/Nfr0
てっかもう10話か。
475名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 15:16:18 ID:F+T4WQqU
ヨーコ!!
ヨーコォーッ!!!
476名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 15:30:21 ID:w4P2dr3l
ロマンの香り漂うブルガリアの首都ソフィアで、15歳から18歳の少女たち23人が学校をサボり、市内のとある公園に集まった。どの少女も、ある1人のハンサムな男子生徒を自分のだけのものにしたがっていた。

彼女らは、“バトルロイヤル”方式でただ1人の勝者を決めることにした。勝者には、その男子生徒と付き合う権利が与えられる。

こうして、少女23人の大乱闘が始まった。素手での戦いではない。メリケンサック(ナックルダスター)、チェーン、ビール瓶などで武装した少女たちのバトルロイヤルだった。野次馬が10人以上集まってきて見物していたが、誰も警察に通報しようとしなかった。

幸い、大怪我を負った少女はいなかった模様である。数人の少女が軽い怪我をした。そのうち1人の少女の父親が警察に通報して初めて、このような大乱闘が繰り広げられたことが明るみになったという。

果たして勝者が決まったのかどうかは定かではない。そもそも“優勝杯”にされてしまった男子生徒がこのことを承知していたのかどうかも定かではない。
ttp://rate.livedoor.biz/archives/50308508.html
477名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 15:36:07 ID:h1NpIEH6
さすがのミスターも、子供を殺されたら黙っちゃいない……のかな?
案外、薫への恐怖でどうしようもなくなったりしそうで……


何はともあれ、GJ!!
478名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 15:36:09 ID:G73higNa
ミスターナイスタイトルw
479名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 16:26:28 ID:sdOsgVCY
この引きたまんねえな。
480名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 17:13:53 ID:fd+CYcnR
>>470
やっちまったかミスター・・・・・
ここまで来るのに幼少期の体験による精神的土台があるとはいえ、まさに修羅場スレ的主人公です。
はやく死ねば良いのに。
481『ハーレム、裏の顔は修羅場!』 ◆yjUbNj66VQ :2006/10/28(土) 17:53:16 ID:TwKFyvkR
「ふぁ……あーあ、寝て起きたら夢だったなんてオチはなしかな………」
翌朝。
あれから茜と家に帰り、いったん休むことにした。茜が憔悴しきっていたからだ。茜は家事ができないくせに(余計か)神経質なのだ。
そのため……
「おーい!アカネェェ!出てこないのかぁ!?…………はぁ、だめか。」
家に引き籠もってしまった。どうやらかなりのショックを受けてしまったらしい。まぁ、無理もないか。俺みたいに楽天的に考えればいいんだけどな。
窓も鍵をしめているため、茜の家に入ることができない。自殺するようなほどのことはないだろうけど、心配だな……
「アカネェェ!俺、一応学校いってくるから、なんかあったらきてくれな!」
茜の家に向かってそう叫んでから、俺は学校に足を向けた。茜の話だと、町の構造や学校の形などは全く同じらしい。
つまり、上坂町であって上坂町でない。……いったいどんな世界なんだろう。パラレル?夢?……んー、難しいなぁ。
そんな考えごとをしているうちに、学校についてしまった。…うん、同じ上坂校だ。一寸の狂いもないな。
482『ハーレム、裏の顔は修羅場!』 ◆yjUbNj66VQ :2006/10/28(土) 17:54:39 ID:TwKFyvkR
校門に突っ立ているせいか、またもや注目の的になってしまっている。それにしても………か、カワイコチャン(死語か)しかいないよなぁ。なんてレベルの高い。
そんな女子どもの群れを突っ切り、校内へ。うむ、中も何一つ変わらんな。とりあえず職員室へ。なんだか転校してきましたって感じでドキドキだ。
ガラッ
思いっきりドアを開ける。すると……
「むっは〜〜〜!!」
大人の女、女、女!!綺麗なおねいさましかいないじゃないか。ああ、やっぱりここは俺の脳内世界だという確率が高くなったかもしれない。
ヒソヒソ…
ヒソヒソ………
よほど幸せそうな顔をしていたのか、教師全員、白い目で俺を見ながら囁き合っている。うぁー、なんだか疎外感。するとそこに……
「ああー!お、おま、おまえ、倉橋じゃないか!!」
聞き覚えのある声が、右側から飛び込んで来た。
「ほへ?」
まさか名前を呼ばれるとは思ってもおらず、変な声をあげてしまう。声のした方を向いてみると、一人の白衣を来た女性がツカツカと歩み寄って来た。そいつは……
「あっ!てめぇ、誰かと思ったら、酒乱教師じゃねえか!」
483名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 17:54:50 ID:F+T4WQqU
てめえ!!!!11
我らがミスターになんつうこと言いやがるんだ!!!!!!1
484『ハーレム、裏の顔は修羅場!』 ◆yjUbNj66VQ :2006/10/28(土) 17:55:36 ID:TwKFyvkR
「誰が酒乱教師だ!天才教師とおよびなさい。」
(自称)天才教師こと、松村礼奈。化学の先生だが、授業以外はほとんど準備室から出てこないアホ教師だ。ちなみに酒乱教師というのは、いつも酒臭いからである。
「ってーこたぁ、なにか?あんたもこっちに『飛ばされた側の』人間か?」
「相変わらず口の悪い餓鬼め……まあいいか、誰も知らない人しかいない世界よりはましか。ああ、一昨日夜遅くに帰って起きたらこれだ。」
「一昨日夜遅くにって……どうせまた居酒屋を飲み歩いてたんだろ。」
「う、うるさいっ!自分の給料をどう使おうとかってだろう!?」
否定しない辺り、悲しいねぇ。
「ゴホン、と、とにかくだ、私は元の世界への帰り道を探す。お前は……とりあえず学校に登校してろ。なにかあったら伝えたいからな。」
「登校つっても……クラスは?」
「ああ、それなら心配ない。どうやらこの世界では、私は二年二組の担任らしいからな。そこに来い。私が話をつけといてやる。」
「ふぅん、わかった。」
「では先に教室に行っててくれ。私は校長に話をしてくるからな。」
485『ハーレム、裏の顔は修羅場!』 ◆yjUbNj66VQ :2006/10/28(土) 17:56:43 ID:TwKFyvkR
そう言うと、くるりと背を向け、颯爽と去って行く。嗚呼……眩しい!眩しすぎるぜ!!礼奈センセ!今この瞬間だけ尊敬するよ!
「はい、尊敬タイム終了。一瞬だけだからね。」
もう礼奈センセの評価は酒乱教師に。さぁて、教室に行こっと。







グルッと遠回りをして教室に向かうが、誰一人としてすれ違わない。たぶん、さっきなったチャイムが朝のHRの開始だったんだろう。
俺もそろそろ教室に向かうかなぁ……
ガタァン!!ドサドサドサ!!
「な、なんだぁ!?」
急に何かが倒れるような、大きな音がした。この目の前の教室……これは図書館だ。音はここから聞こえたと思う。
そーっと中の様子を覗いて見る。まさかとは思うが、ドロボウが入ったなんてこともあるかもしれない。
「……誰かいるんですかー?」
……………返事なし。慎重にゆっくりと中に入る。そういえば図書館なんて初めてかもしれない。ドキドキ初体験だ。
古い紙のような匂いが部屋中に充満している。だが嫌な匂いではない。なんとなく落ち着くような、そんな匂いだ。
486『ハーレム、裏の顔は修羅場!』 ◆yjUbNj66VQ :2006/10/28(土) 17:57:33 ID:TwKFyvkR
中は思ってた以上に広く、普通の教室三部屋分はあるだろうか。高い本棚がずらりとならんでいるせいか、だいぶ薄暗い。
そして一番奥まで来てみると……
「うお!?」
なんと本棚が二つほど倒れ、大量の本が山積みになっていたのだ。他の本棚と比べて低い物だったため、それほど大事にはなっていないようだが……
「一体なんでこんな………あっ!」
本日二度目の驚き!なんと本と本棚の山の下から、手が出ていたのだ。どうやら下敷きになってしまったらしい。急いで上に乗っかっている物をどかす。
二次災害が起こらないように慎重に慎重に……すると、山の下からは小柄な可愛らしい少女が姿を見せた。
恐らく高い所の本を取ろうとして、失敗したのだろう。明らかに本棚の方が彼女よりも高い。
「お、おい………大丈夫か?」
体を起こして、ほっぺたを軽くペチペチと叩く。
「………」
彼女は少し体を揺らすと、ゆっくりと目を開けた。
「……………」
驚いているのか、状況を把握できないのか、無表情のまま俺の目をじーっと見つめる。……見つめる。見つめる!
487『ハーレム、裏の顔は修羅場!』 ◆yjUbNj66VQ :2006/10/28(土) 17:58:38 ID:TwKFyvkR
「えぇっと……だ、大丈夫かぁ?」
なんだか恥ずかしくて、場を誤魔化すようにもう一度聞いてみる。すると彼女は。
コクン
「………」
黙ったまま頷いた。あちゃー、やっぱり俺って未知生物だから恐れられちゃってるのかなぁ。
「あー、いや、別に俺、君を取って食ったりなんてしないよ。オレサマオマエ、マルカジリ、なんてことは……」
スタスタ
「あ、あらら?」
喋ってる途中に彼女は、また無表情のまま歩き、机の上でなにか書き始めた。
ピラ…
そして手渡された紙に書かれていたのは…
『ごめんなさい、私、耳がきこえないの。』
「はいはい、そういうことね……」
そしてまた彼女はなにか書き始め……
『あなたは「男」という人。昨日から噂になってる。』
なんだか事務的な書き方で暖かみが無いなぁ。そう思いながら、自分も紙に書く。
『ああ、そうだよ。「男」の倉橋俊太。よろしくな。』
『私の名前は三井歩。』
よろしく、とは言ってくれないようだ。やっぱりUMAみたいに非人間みたいに見られてるんかなぁ。
そんな彼女の顔は、相変わらず仮面をつけたように無表情だった。
488名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 19:25:41 ID:oHfE3bSS
GJです、これでヒロインは全員出揃ったのかな?
茜が早くも病みだしていて期待してwktk

>>483
君望のキングオブヘタレこと鳴海孝之、SchoolDaysのm(ry
優柔のゆう君に代表される様に修羅場系主人公に対しての死ねはある意味誉め言葉
489名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 21:24:19 ID:bFCJL/Ij
投下しますよ
490『甘獄と青』Sideリサ:2006/10/28(土) 21:25:49 ID:bFCJL/Ij
 なんとなく目が覚めた。以前の仕事を辞めてから随分と経つというのに、どうも体から
はその癖が抜けきっていないらしい。目が覚めた原因を探ろうと視線を回してみるけれど
なにもない。間接証明の照らす薄暗い部屋は、非常に殺風景だ。寝具と僅かな小物以外は
何も置いておらず、ともすれば誰も使用していないようにすら思えてくる。
 では、原因は何だったのか。
 水音。
 そして女の喘ぐ声が聞こえてきた。
 きっとそれのせいだろう。長い軍生活で体に染み付いたもの、僅かな物音でも覚醒して
しまう体質が少し恨めしい。向こう側では何度も助けられたけれど、こちら側に来てから
は無用の長物だ。夜中に誰かが襲ってくることもなければ、急激な戦況の変化もない。
 そもそも、ここは戦争や内乱など関係もないのだ。
 そんな平和な場所に入ったというのにこうなってしまうなんて、あたしは余程そちらの
方に向いているらしい。疲れも取れず、こうして普通の人が寝静まっている時間に起きて
いるというのに、最初に思ったことは不快という感情よりも理由なのだ。それが毒されて
いる最大の証明だろう。人間らしさとは程遠いと思う。
 数分。
 もう一度眠ろうかと布団に潜り目を閉じたけれど、一度去ってしまった眠気はなかなか
戻ってこない。だからと言ってこのまま無為に時間を潰すのも嫌で、これからどうしよう
かと考えている内に時間ばかりが過ぎてゆく。時間を潰す方法を考えることで時間を潰す
のは、人間としてどうなんだろう。無駄、と言うよりも下らなく思えてくる。
491『甘獄と青』Sideリサ:2006/10/28(土) 21:29:20 ID:bFCJL/Ij
「運動でも、しようかな」
 馬鹿らしいことを考えるのを止めて、立ち上がった。時間帯は兎も角として、だらだら
と体を鈍らせるよりも余程健康的に思える。ここに来る前のことを思い出したということ
もあるし、少しだけあの頃に戻っても言いかもしれないと思ったのだ。相手は居ないけれ
ども幸いなことに獲物はあるし、方法については時間が足りなくなるくらいに沢山学んで
きた。時間を潰すのには事欠かない。
 音をたてずにベッドから降り、灯りを点けた。瞬間、目が痛くなる程の光が部屋の中に
満ちて、全体が浮き彫りになった。あたしはこの光があまり好きじゃないけれど、部屋の
中のものを傷付けて青さんに嫌われるよりはずっと良い。落ち着ける場所がなくなるのは
嫌だし、この程度を我慢するのなら安いものだ。
 少し時間をかけて目を慣らすと、鞘からナイフを抜いた。ナナミさんが余程気を遣って
いるのか、刃は眩しいくらいに光を反射している。形さえ違うのなら、鏡だと言われても
うっかり信じてしまうだろう。しかし刃物の形状をしているこれは、紛れもない凶器だ。
 懐かしい、と思いながら水平に構えた。背がやたらと高い第二惑星の人から見ても大型
であるこれは、第四惑星人のあたしから見ればナイフと言うよりも剣に近い感じがする。
程良い重さを感じながら左上へと振り上げ、一閃させる。
492『甘獄と青』Sideリサ:2006/10/28(土) 21:30:45 ID:bFCJL/Ij
 慣性による力を身を回転させることで流して、二撃目に繋げる。ステップを踏みつつ、
斬り上げるような動きだ。リズミカルに足を運び、三、四と連続して刃を振るって空間を
薙いでいく。声を出したり足音をたてたりする訳にはいかないので雰囲気は出ないけれど、
耳に馴染んだ空気を裂く高い音がかつての時間を作り出してくれる。
 ラ、ラ、ララ、ラ。
 頭の中に浮かぶのは、今はもう居ない双子の姉の歌声だ。戦いは強くなかったけれど、
歌や演奏は上手く、軍の中で誰よりも音楽を愛していた。今している演武にしてもそうだ。
こちらは真剣にやっていたというのに、いつの間にか姉の歌声が混じってきて演武という
より演舞のようになってしまっていた。そのことには参っていたし、しょっちゅう怒って
いたけれども、嫌いではなかったのだ。無味乾燥なもの、と言うより殺伐としていたもの
が途端に華やかなものに変わり、死を与えるものから生を振り撒くものに変化する。
 一人で居る今は、そうなっているだろうか。
 大きく腕を伸ばして前方を突き、右足を軸に半回転して背後に斬り下ろす。長く伸びた
あたしの髪がナイフと交わって独特な模様を作り出すのを見ながら飛び上がり、刃を上方
へと滑らせた。
「ララ、ラ、ラララ、ラ、ラ」
 気付けば口ずさんでいた歌に身を任せて着地し、低くしゃがんだ姿勢で脚を回す。
「ララララ、ララ、ラララ」
 回転の勢いはそのままに立ち上がり、螺旋状に斬り上げた。
493『甘獄と青』Sideリサ:2006/10/28(土) 21:32:44 ID:bFCJL/Ij
 ここからは姉さんが気に入っていたフレーズ、もはや演武ではなくソードダンスという
ものへと変わっていく。周囲の人間も自然に巻き込み、皆で踊り、歌っていたことを思い
出した。踊り手は互いに空を游ぐ刃をかいくぐり、謡い手は空に声を響かせる。戦闘以上
のチームワークに、皆が笑っていた。
 快音。
 見えない仲間の体の周囲を斬る度に、高い音がする。良い動き。敵を斬る訳でもなく、
空間を裂く訳でもなく、自分の気持ちを表現する動きだ。
 突き、裂き、身を回し、体を上下に移動する。荒くなる吐息と地を踏みしめる音は剣を
持つ者の楽器や歌声として、空に昇って響き渡る。
 始めの姿勢に戻り、敬意を持って床に剣を納めれば、一先ずの終了だ。
「見事なものですね、リサ様」
 突然の声に振り向くと、ナナミさんが立っていた。
「いつから居たんですか?」
 言い終えた後で、少し後悔した。つい素の状態で喋ってしまった。せっかく今まで頑張
ってきたというのに、それが一瞬で崩れてしまう。
 しかしナナミさんは気にした様子もなくあたしに一歩近寄ると、
「歌い始める少し前からです。これは、ソードダンスと言うのでしょうか?」
 普通に質問してきた。
「驚かないんですか?」
「誰にでも隠したいものはあるものです。青様に弱さがあるように、リサ様にもそうした
部分があるのでしょう。深くはお尋ね致しませんし、口外もするつもりはございません」
 数秒。
「いつものあたしを見て、どう思いますか?」
494『甘獄と青』Sideリサ:2006/10/28(土) 21:33:59 ID:bFCJL/Ij
「明るく、純粋な方だと思います」
 それはそうだろう、皆の中心だった人物だ。いつも明るく優しく純粋で、誰もがその人
を好いていた。それは、モデルにしている幼い頃から変わっていない。愛されている、と
いう言葉は正にその人の為にあったようなものだ。
 吐息を一つ。
「あたしの姉です」
 短い説明だが通じたらしく、ナナミさんは頷いた。感情が本当にないのかは分からない
けれど、こうした対応をしてくれることが嬉しかった。残骸であるあたしのたった一つの
願いが叶ったことによる喜びのせいか、それともナナミさんの独特の雰囲気によるものか
分からないが、つい過去の話がしたくなる。もしその相手が青さんでも、絶対に他人には
話さないという妙な確信があった。逃避の一つかもしれないと思うのに、重荷になるかも
しれないと分かっているのに、それとは逆の気持ちが沸き上がる。
 あたしはナナミさんを見つめ、唾を飲む。
「例え手遅れでも、誰かの代わりに死にたいと思ったことはありますか?」
「ございません」
「もし死ぬことで誰かが救えるとしたら、死にますか?」
「死にません」
 ならば、
「命と引き替えに青さんが助かるとしたら、助けますか?」
 これならどうだろう。
 ナナミさんは少し黙った後でこちらに一歩踏み込み、目を合わせてきた。
「助けます」
 やはり、そうだろう。
 しかしここで言葉を区切ることなく、
「ただし、私は死にません。私ならば、確実に誰もが助かる道を考えます」
 それでは質問の意味が破綻する。
 反論しようとして、しかし言うのを止めた。感情がない筈のその顔には、決して揺るぎ
ない程の想いが見えた。こうした相手には、どんな言葉も通じない。
 あたしは話を終わらせるように笑みを浮かべ、
「今の話は、絶対におにーさんには言わないでね。言ったら、メッ、だよ?」
「かしこまりました」
 そう言って、ナナミさんは深々と頭を下げた。
495ロボ ◆JypZpjo0ig :2006/10/28(土) 21:35:46 ID:bFCJL/Ij
今回はこれで終わりです

やっとプロローグっぽい部分が終わりました
無意味に凝ろうとする俺死ね
496名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 22:20:12 ID:fowDdf2T
    ___            . ’      ’、   ′ ’   . ・ 
   ,;f     ヽ         、′・. ’   ;   ’、 ’、′‘ .・” 
  i:         i             ’、′・  ’、.・”;  ”  ’、 
  |         |        ’、′  ’、  (;;ノ;; (′‘ ・. ’、′”;
  |        |  ///;ト,. ’、′・  ( (´;^`⌒)∴⌒`.・   ” ;  ’、′・
  |   ^   ^ ) ////゙l゙l   、 ’、 ’・ 、´⌒,;y'⌒((´;;;;;ノ、"'人      ヽ
  (.  >ノ(、_, )ヽ、} l   .i .! |       、(⌒ ;;;:;´'从 ;'   ;:;;) ;⌒ ;; :) )、   ヽ
  ,,∧ヽ !-=ニ=- | │   | .|       ( ´;`ヾ,;⌒)´  从⌒ ;) `⌒ )⌒:`.・ ヽ    ,[]
/\..\\`ニニ´ !, {   .ノ.ノ‘: ;゜+° ′、:::::. ::: >>495´⌒(,ゞ、⌒) ;;:::)::ノ ヽ/´
/  \ \ ̄ ̄ ̄../   / .      `:::、 ノ  ...;:;_) 
497名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 22:48:29 ID:h1NpIEH6
ちょw
何、荼毘に伏してんのww
498名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 22:55:45 ID:1C4tTjg2
リサチャンまじカ
499名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 23:05:03 ID:9royEAU3
GJ
こんな風な展開待ってるぜ

        ,. -―-..,,_
      /   _ ヾ
     /   '´  ,、`ヽヽ
___,'   リノソノ )) i ゝ
{l,、,、,、,、l|l=と|l、ワ |l  i ノ
     {!   ヽi允(つリ \
     ` ノノ(,|_ヽ>ヽヾ\
        ヽ    ヽ.)  \
        \ \ \ ヽ、    r、,从,/{
          ヽ 、\ ヽ    } ,.- 、 し'
              \\\   // Z/   ヽ{
                \\ / //,ヘ} |/
                 ヽ、\   |!i| 
            : ∴  /〃\ \.i !        `・  。・
                   从ノ{/  \ヽ\    //; ゚ ,,. -―- 、 
              >>⌒ヽて∴  \、ヽ、 //`。 γ´  、ヽ  ヽ
             (Д li )  }/   `  l| i! \ ノ{ ∴ (rゥ li lヽ__)、_,)
               と と;;;)っ     | i!/ ;;  Zゝ,,_ヽ/\,|
               `ー'       |i! !/ 。・ 、}ノY^ヾ
             / /       / | l!    ;`・; ヽ、\ 、 ヽ、从/{
             /〃    //ヽ、,从/ ・      。\ヽ、\ ヽ、 て
            〃/  ///  ノγ⌒ ∴  `。     \ヽ`、 } (
            〃/ //     ヽ{   _,.Λ ・     // ノ  7
           /〃//     <  c(´_,(li Д )つ   //  ⌒Yヾ
         /{ / //        ∨ (_,.'´     / /
        Z ヽ,                l! !      //
        `'>  ーァ         .  |i !    // 
          Y⌒ヾ           |l i!   //
                       |i! /  }て
                       i/ / (
                      ヽー‐''   7
                       }/ヽ}^Yヽ
500名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 23:31:38 ID:jqnNogHg
ttp://bbs9.fc2.com/bbs/img/_166100/166037/full/166037_1162045717.png
九十九の思いにワクテカしつつ、刀の娘を描いてみた
501名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 23:35:49 ID:YiFsysvi
インプでレクサスLSを見に来ますたwwwwwwwwwwwwww
http://minkara.carview.co.jp/userid/108284/blog/

502Bloody Mary 2nd container ◆XAsJoDwS3o :2006/10/29(日) 00:01:43 ID:SA/eFack

Sequel to Story(6)


 今日は暫く滞っていた日課を再開した。
毎朝の日課―――――"ハーレム"に仕事の依頼が来ていないか、開店前の酒場『横恋慕亭』を訪れたのだ。
準備中の暗い酒場の中で、一人グラスを拭くジュディスさんに近づく。

「…こんにちは、ジュディスさん」

「いらっしゃ……って、まぁ。ここ数日来ないと思ったら。
大丈夫なの?それ」

 いつもの穏やかな笑顔を驚きに変えて俺の頭を指差す。
それもそのはず、俺の頭にはご大層にも包帯がぐるぐるに巻かれていた。

「怪我はそれほど大したことないんですけどね……。
大げさだって言ったんですけど、皆これくらいしとけってうるさくて」
 包帯に手をやりながらカウンターに腰掛けて苦笑。
 怪我というのはコンテストで付いた例の傷だ。
災難が去った後、みんな自分の不注意で怪我をさせてしまったことに負い目を感じたらしく、必要以上の手当てを強制されている。
あ、いや訂正。約一名は故意だったな。うぅ…今思い返しても寒気がする。

「みんなウィルちゃんのことが大事なのよ」
 笑顔でそうのたまうジュディスさんだが。
今朝起こった事を思い出すと、とても彼女のように笑うことは出来なかった。

 心配してくれるのは嬉しいんだけど、あれは…ちょっと。
『ウィル、そろそろ包帯を換えましょう』
『どけ、マリィ。それはわらわの仕事じゃ』
『いえそういう雑務でしたら私が―――――』
……包帯を換えるときに三人が三人とも、自分がやると言い張って喧嘩するのは止めて欲しい。
巻き終える頃には傷口が広がってたりするから。
503Bloody Mary 2nd container ◆XAsJoDwS3o :2006/10/29(日) 00:02:25 ID:uy9Ud26P



「そうそう、ウィルちゃん。依頼が来てるわよ。それも遠方から」
 呆れ顔でため息を吐いていると、ジュディスさんが思い出したようにポケットから手紙を取り出した。
このところ閑古鳥が鳴いてたけど……今日はちゃんと依頼が来ているみたいだな。
「遠方…ですか?」
 受け取った手紙を繁々と見つめながら差出人の名を確認。

―――――"Margaret Roland"

 聞かない名前だな。この辺の人間でないことは間違いなさそうだ。
上質な紙を使ってることから察するにどこかの貴族ないしは富豪の類だろう。
 封蝋には見たことのない紋章印が押されていた。

「街の外からの依頼なんて珍しいな」
 オークニーの外から来た依頼なんてこれまで数える程しか来ていない。
俺たちの存在は街より外にはそうそう広まっていないから今回のようなご指名で依頼が来ることは稀だ。
 不思議に思いながら封を開けて中の便箋に目を通した。

『お初にお目にかかります、ウィリアム様。
わたくしは帝都で帝国議会の末端に席を置いております、ローラン家のマーガレットと申します。
以前よりあなた様のご活躍を帝都で聞いて、とても感銘を受けておりました。
もし宜しければ一度お会いしたく――――――――』

 便箋の上には整った字面がびっしりと埋まっていた。
 貴族特有の遠まわしな文面を要約すると、俺に会ってみたいから帝都に来てくれ、ということらしい。
わざわざ国外の何でも屋に会うために手紙を出すなんて……ずいぶん酔狂な貴族も居たもんだ。
それに帝都に住んでいる貴族が俺たちのことを耳にしたのも驚きだ。
帝国との国境は此処からすぐ近くだが、帝都までとなるとかなりの距離になる。さすがにそこまで俺たちの噂は広まっていないはずだ。
となると、ここを訪れたことがある旅商人か誰かに直接話を聞いたってところだろうか。
……あまり目立ちすぎるのも考え物だな。一応アリマテアから逃亡した身だし。

 いや、それよりこの手紙は仕事の依頼なんじゃないの?
視線を手紙に戻して続きを読んていると。

『ついてはその折、是非ウィリアム様にお願いしたいことが御座います』

 長々と綴られた手紙の中で、その一文だけが仕事の依頼があることを伝えていた。
………詳細については一切触れず、か。
けど貴族からの依頼だ。仕事の内容がどうあれ、報酬はおそらく高額だろう。
ミス・オークニーの件でのギャラだけに頼るのもアレだし、ここでひとつ大きな仕事を受けてみるのも悪くない。
504Bloody Mary 2nd container ◆XAsJoDwS3o :2006/10/29(日) 00:03:11 ID:SA/eFack

「その依頼、どうするの?」
「う〜ん…仕事の内容次第ですね。先ずあり得ないでしょうけど、殺しの依頼とかだったら受けるわけにもいきませんし。
……とりあえず帝都まで行って話だけでも聞いてみようと思います。もし何も問題がなければ引き受けようかと。
それに―――このままじゃ団長のヒモですからね……」
 正味な話、最後の部分は自分で言ってて結構ヘコんだ。


 実を言うと。
ミス・オークニーの座は団長に決まってしまった。全体投票数の八割にも及ぶ圧勝だった。
…だったのだが。
知っての通りミスコンの舞台は途中でコロシアム会場に変わってしまったので、正確な投票による結果ではない。
ミス・オークニーが団長に決まった顛末の裏には、アシュリーの思惑が蠢いているのだ。

 団長と姫様が血も凍るような喧嘩をしている横で、観客たちが即席の賭けを始めたのを覚えているだろうか。
あの賭けの申し込みに使われたのが、皆手元に持っていた投票用紙だった。
皆が賭け事に興じている間にアシュリーは投票用紙を回収しようとしたが、観客の多くが賭けに用紙を使ってしまったため回収率が頗る悪い。
そこで騒ぎが一時沈静化すると、彼女は見計らったように賭博に使われた用紙も無理矢理回収して集計したのだ。

 ここまで言及すれば、聡明な者はすぐに気付くだろう。団長が一位になった理由が。
賭けの用紙の殆どに団長の名が書かれていたのだ。それを投票用紙として回収されれば誰が優勝するかは自明の理だろう。
いくら姫様が武術を会得したところで、たかが半年。数多の実戦を潜り抜けてきた戦姫との実力差は月と鼈だ。
街のみんなも、団長の素性を知らなくても簡単に見抜けたのだろう。賭けは団長の方が圧倒的に人気だった。
 団長の名が書き込まれた用紙が大量に回収されたのはそういう経緯によるものである。
ちなみに団長と姫様以外には殆ど票が入ってない。…当然だが。

 そうして半ば詐欺とも思える集計方法で今期のミス・オークニーは団長に決まったわけだ。
これはどうやらアシュリーが描いたシナリオ通りらしい。最初から団長をミス・オークニーにするつもりであんな騒ぎを起こしたようだ。
だったら最初からミスコンなんてせずに団長に頼めよ……とアシュリーに言ったら。
「それじゃつまらないじゃない」と悪びれもせずに答えていた。……鬼め。

一方の団長は先日からミス・オークニーの準備に掛かりっきりで、アシュリー曰くこれからは更に忙しくなるんだそうだ。
彼女はあの手の仕事は超が付くほど苦手なので、俺としては少し不安だ。振り回す方のアシュリーは楽しそうだったけど。

……これもアシュリー談なのだが、ミス・オークニーのギャラは俺に払った依頼料とはお話にならないくらい巨額らしい。
当の本人はそんなことより"何でも屋"の手伝いができないと嘆いていたけど、こればっかりは仕方ない。


 そういうわけで、餓死という最悪の状態を免れることはできたのだが、
それはつまり団長に食べさせてもらってることを意味する。
やはり一人の男として今の状況は看過できないわけで。少しでも多くの依頼をこなさなければと躍起になってしまう。
 それに遠方からのオファーは依頼料が暴落してない貴重な収入源だ。ちょっと遠いからって断ってたら何でも屋なんてやってられない。
505Bloody Mary 2nd container ◆XAsJoDwS3o :2006/10/29(日) 00:04:15 ID:uy9Ud26P

「ふふふっ……ウィルちゃんも色々心労が絶えないわねぇ」
「ただでさえ肩身が狭いっていうのに…このままだと益々団長に頭が上がらなくなってしまいますから……」
 頭を抱え嘆息。
じゃあ今は彼女らに頭が上がっているのかと問われると回答に窮するところではあるが。

「そういえば今日なんでしょ?アシュリーちゃんが準備した船上ディナー。
今はそっちのことを考える方が先決なんじゃない?」
 からかうように俺に微笑みかけるジュディスさんの表情から、少しだけアシュリーと同じ匂いがした。

「勘弁してください…。せっかく忘れてたのに」
 そう、彼女の言うとおり、今日はアシュリーと約束した"報酬"の支払日だ。
こちらはミスコンの優勝者ではなく『俺に一番気に入られた者』への対価として用意された報酬だった。
つまりコンテストの総合票数の如何は関係なく、俺個人の、審査員としての点数を最も多く得た者に与えられる予定だったのだそうだ。

 査定の仕方が恐ろしく俺の一存に懸かっていたことには身震いを禁じえない。
その辺の事情を俺にだけ詳しく話さなかったあたり、アシュリーの底意地の悪さが窺い知れるだろう。
まぁそれは置いといて、ミスコンは途中であんな状態だったので、俺が出場者に点数を付けることはなかった。
いや、そんな暇さえなかったと付け加えておこう。
 そのせいで危うく報酬の支払いが白紙に戻されそうになったのだが。
アシュリーも身の危険を感じたのだろう。団長らの目つきを見て即座に撤回した。

 報酬は支払われることになったものの、そこで問題になるのが"誰が報酬を譲り受けるか"だ。
……察しの通り、報酬を巡ってまた喧嘩になったのは言うまでもない。
一悶着の末、結局みんなでそのディナーに招待されることに相成ったのだけど。
 もしあの状況で誰か一人を選ぼうものなら、それこそ血を見る結末になっていたことだろう。
だけど団長たちはその結果に不満タラタラだった。他にどないせいっちゅーねん。

 船の上でみたび喧嘩にならなきゃいいけど………。
ともかく、無事平穏に食事が終わることを祈ろう。



「ウィルちゃんがどんな目に合うか見られないのは残念だわ〜」
「不吉なこと言わないでください」
 朗らかに物騒なことを言うジュディスさんをピシャリと否定した。

「―――まぁ、依頼の件についてはその"ディナー"の席で皆に訊いてみます。
受けるか受けないかは明日にでも知らせますね」
 ジュディスさんとの雑談も早々に、手紙をポケットにしまって席を立ったが。

「あぁ。そのことなら。
それはウィルちゃんに直接来た依頼のようだから、私に報告する必要はないわよ」

 去り際、俺にそう告げた。

 開店の準備に追われるジュディスさんをこれ以上邪魔するのも偲びない。
俺は彼女に礼だけ言って、酒場を後にした。


―――みんなには食後の落ち着いたときでも話してみよう。
豪華な食事と貸切の帆船のおかげで皆機嫌がいいだろうしな。
506Bloody Mary 2nd container ◆XAsJoDwS3o :2006/10/29(日) 00:04:51 ID:uy9Ud26P




――――――――・・・・・




 で。
豪華な食事を堪能した後、皆でまったり紅茶を楽しんでるときを見計らって、話を切り出してみたんだけど。


「駄目です」

 団長にバッサリ断られた。
彼女の持ち前である脅威の第六感で何か感じ取ったらしく、俺が全部言い終わるより早く反対の声を上げたのだ。

 いくら皆の機嫌が良かろうが、仕事の話となるとまた別らしい。
俺の姑息な作戦はあっさり失敗した。

「帝都なんて此処からアリマテアくらい離れてるじゃないですか。
そんな遠方からの依頼を受けようだなんて……私には到底容認できません」
 腰に手を当て、俺を咎める。

「でも……」

「でももへちまもありません!
私はミス・オークニーの仕事で此処から動けないんですよ?
ウィルがその仕事を受けたらどれくらい離れ離れになるか分からないんですかっ」

 先日のミスコンで優勝した(…のか?)彼女は南方通商組合に出ずっぱりだ。
そしてこれからもっと忙しくなる。"何でも屋"の方を手伝う余裕がないほどに。
そんな中、もし俺がこの依頼を受ければ仕事が終わるまで会うことは叶わないのが我慢できないらしい。

「だからって団長にばかり苦労させるわけにはいきませんし……」
「そんなの別にいいんですっ!ウィルは私が面倒見てあげますからっ!!」
……いや、駄目でしょ。それは。
 と、思いながらも団長の異様な剣幕に口ごもってしまう。
よもやここまで猛反対されるとは………困った。

 団長をどう説得しようか頭を悩ましているとき。

「……しかし、妙じゃな」
 今まで終始冷静に話を聞いていた姫様が、ここで始めて口を開いた。
「妙って、何がです?」
507Bloody Mary 2nd container ◆XAsJoDwS3o :2006/10/29(日) 00:05:30 ID:uy9Ud26P

「実はそのマーガレットという娘、戦争が起こる前に一度王国を訪れたことがあるのじゃ。
そのとき見た限りでは自信家というか――――他人を小馬鹿にしている節があってな。
とても素性の知れない"何でも屋"にこのような手紙を出す人物とは思えなかったのじゃが…」
 なんだ、やけに静かだと思ったらそんなことを考えていたのか。

話を聞くと、姫様はどうやら手紙の差出人と会ったことがあるようだ。
なんでも新皇帝が即位した際の挨拶で王国を訪れたのだとか。
確か帝国は先代の崩御後、皇帝の座が暫く空位になって、国内情勢が不安定な時期があったな。
それでも前皇帝の甥っ子、シャルルマーニュ帝が即位してからは持ち直したらしいが。
恐らくマーガレット嬢と会ったのはその頃なんだろう。

 その貴族――――マーガレット嬢とは謁見での一度しか会っていなかったらしいが、
その際『田舎王国のボス猿』と馬鹿にされたので今でもよく覚えている、と姫様は奥歯を軋ませていた。
ローラン家というのは帝国の軍事部門を総括している貴族なんだそうで、帝国内でもその地位はかなり高いらしい。
加えて帝国は大陸の三分の一を領有する大国だ。その帝国から見ればアリマテア王国など歯牙にもかからない弱小国だろう。

 大国の大貴族と属国当然の小国の王女。どちらがより力を持っているかは歴然だ。
……姫様の悔しそうな表情が目に浮かぶ。


「戦争前ってことは三年以上も前の話でしょう?
その人も心を入れ替えたんじゃないですか?そんな大貴族なら三年経てば色々あるでしょうし」
 これは私見だが、三年という月日は人が変わるには充分過ぎる時間だと思う。
まぁ、その最たる人物が俺なわけだけど。
「そうかも知れんが………
いや、性根の腐ったあの女に限ってそんなことは絶対にあり得ん!ぜっっっっったいにあり得んわッッッ!!」
 バシッと机を叩いて宣言。……よっぽど悔しかったんですね、姫様……。


「そうだとしても依頼の内容も聞かずに断るのもどうかと思いますし、話を聞くだけならタダですから」

「と・に・か・くっ!この仕事を受けるなんて私は断固反対ですからねっ!」
 こちらも机を叩きながら立ち上がる。姫様の話を聞き終わってもまだ彼女の機嫌は直っていないらしかった。
「やはり…わらわもどちらかと言えば反対じゃな。
あの娘……会ったのはその一度きりじゃが、どうもムシが好かん」

「そんな……姫様まで」
……全然取り合ってくれない。
団長ほどではないにしろ、姫様も受けないほうがいいと言う。
だけど、この機を逃せば次にちゃんとした仕事が入るのはいつになることか。
まだ仕事の詳細も聞いてないのにいきなり突っぱねるのはなんとなく嫌だった。
508Bloody Mary 2nd container ◆XAsJoDwS3o :2006/10/29(日) 00:06:07 ID:uy9Ud26P

「でも…やっぱりなぁ…」

 どうしたものかと件の手紙を眺めながら唸っていると。

「私もマリィ様と同じく、『断固反対』です」
「あ…」
 横合いから誰かの手が伸びてきて手紙を奪われた。
……いつの間に席を立ったのか。視線を辿りながら首を巡らせると背後にシャロンちゃんが立っていた。
奪った手紙を月明かりに晒すように掲げ、目を細めている。

「シャロンちゃんまで駄目だって言うの?」
 結局全員から反対されてしまった。そんな事実に少しだけ不貞腐れた気分でシャロンちゃんを見た。

「そんな顔をされても駄目なものは駄目です。
年頃の女性からの依頼というだけで皆様が反対するには充分な理由だと思いますが」

「いくらなんでも考えすぎだよ」
 そんなことを言っていたら不特定多数から来る依頼の仕事なんてできないじゃないか。
それに『年頃の女性からの依頼』なら、今までだって何度も受けてる。今になってその理由ってのはちょっとおかしくないだろうか?

「それに――――ウィリアム様に"M-A-R"で始まる女性を近づけるとロクなことがありません」
 手紙を指差しながら言う。
団長と姫様に関してはこれまで何度か仕事について反対されたことはあったが、シャロンちゃんがここまで異見するのは今回が初めてだった。
その理由については……無茶苦茶だったが。

「大丈夫だよ。相手は大国のトップに立つ大貴族のお嬢様なんだよ?国外の、それも素性も知らない俺のことなんて相手にしないって。
会ったこともない男にいきなり………って、シャロンちゃん?」
 俺の説得の声が聞こえているのか聞こえていないのか。
シャロンちゃんがずっと微動だにせず手紙を凝視しているのを見て俺は眉を顰めた。

「いったいどうし――――」
 流石におかしいと、席を立とうか迷った瞬間。


「………ハァッ!」
 何の前触れもなくいきなり掛け声―――といっても気合を入れているようには聞こえなかったが―――を上げると、
手紙を丸めて夜の海に投げ捨てた。


「あああああぁぁぁ!!?なんてことを!」
 慌てて海面を覗き込むが、もう遅い。
月明かりだけを頼りに目を皿のようにして手紙を探してみたものの、ついぞ見つけることは出来なかった。

「紹介状とか邸宅の地図とかみんなあそこに入ってたのに!酷いじゃないか!」
「こうでもしなければ、ウィリアム様は依頼をお受けになるつもりでしたでしょう?」


「だからって…」
 落ち着き払った声で返すシャロンちゃんに気圧されながら、何とかそれだけ言う。
509Bloody Mary 2nd container ◆XAsJoDwS3o :2006/10/29(日) 00:06:45 ID:uy9Ud26P

「駄目ですよ!シャロンさん!」
 劣勢だと思ってたら後ろから助け船が。
振り返ると、団長がシャロンちゃんを非難するように睨み付けていた。
ミスコンのときのように彼女の背後から後光が射しているかと錯覚するほど、俺にとっては輝かしい姿だ。
そうです、言ってあげてください。いくらなんでもあれはやりすぎだったと。

「海にゴミを投げ捨てるなんてっ!」

……そっちかよ。
 嗚呼、そうでした。今の俺に味方は一人も居ないんでした。

「……はぁ」
 俺はもう突っ込む気も失せてその場にへなへなとしゃがみ込んだ。



「……というわけで。
今回の依頼は破棄、それでよろしいですね?ウィリアム様」
 そう言って俺を見下ろすシャロンちゃんの顔は。
いつものとおり無表情だったけど、明かりの加減のせいか憂いを含んでいるようにも見えた。

「もう、いいよ……それで」
 甲板の上で胡坐を掻いたまま、俺はがっくり項垂れる。

「それではこの件はおしまいに致しましょう。
……ウィリアム様、お茶のおかわりはいかがですか?」
 その声につられてゆっくり顔を上げると、こちらに見せるようにティーポットを掲げるシャロンちゃんの姿を捉えた。
――――今度は自信を持って言える。今の彼女の声はいつもよりはっきりと弾んでいた。

「…わかった。いただくよ」
 もう今さらジタバタしても仕方ない。
なぜか機嫌のいいシャロンちゃんに苦笑いを浮かべてから、依頼のことはすっぱり諦めて椅子に腰掛けることにした。
510Bloody Mary 2nd container ◆XAsJoDwS3o :2006/10/29(日) 00:07:45 ID:uy9Ud26P

Epilogue


 皆寝静まった夜の甲板で独り佇む女中服の女性。
昏い海の波音と頬を撫でる潮風を、目を閉じながら楽しんでいた。
 今日のような静かな夜は自然と昔を思い出してしまう。
シャロンは表情が顔に出ないように気をつけながらこれまでのことを振り返っていた。

 彼女の二十年に満たない人生に於いて『生』を感じるようになったのは、この女中服に袖を通してからだった。
アリマテアを訪れる前の彼女は単に『死んでいない』だけ。
ただ、『死にたくない』。それだけだった。
 死にたくない一身で殺しの技術を身につけたし、生活に困るからと家事の一切も覚えた。
そうまでして死から逃れたかった理由は――――多分あったのだと思う。
今となっては本人でもよく解らなかった。
 自分の死を誰にも知られず、世界から消えてしまうのが恐くて。
彼女は必死で生きていくための術を頭と身体に叩き込んだのかも知れない。
けれど、自分が生きてて良かったと思うことは何一つなかったのだけは確かだ。
 血反吐の出る日々の末に、そうして生まれたのがシャロンだった。
初めて人を殺めたとき、マリアンヌから無駄だと思ったものを全て削ぎ落とした結果が今の彼女だ。
冷酷で、容赦のない、マリアンヌとは別の人間―――暗殺者シャロン。…マリアンヌではない、違う人間。
誰かをその手にかけるときはいつも自分にそう言い聞かせている。

それからは、たったひとつの、ある小さな目的のために沢山の人を殺してきた。何人も。何人も。
他に生計の立て方を知らなかった彼女は、ただひたすらに殺し続けた。全ては些細な、本当に些細な思いのために。

 やがてシャロンとして振る舞う方が楽になり。いつしかマリアンヌは自分の中から完全に消え去っていた。
それが間違いだと気付いたのは、やはりあの頃か。
二年と半年前。新たに着任した騎士たちの給仕係をしていた頃。
 別段、彼が何かしたわけでもない。ただ、一月ほどの彼との生活を心から楽しんでいることに気付いたのだ。
もう消し飛んだと思っていた、『マリアンヌ』としての感情を再び呼び起こされていた。
あの頃の喜びが忘れられなくて、結局国を出る彼に付いて来てしまったけど。
511Bloody Mary 2nd container ◆XAsJoDwS3o :2006/10/29(日) 00:08:27 ID:uy9Ud26P

「――――はぁ」

 こうしていると、ときどき自分が解らなくなることがある。
マリアンヌがシャロンを演じているのか、シャロンがマリアンヌを演じているのか。
暇さえあれば鏡を、あるいは水面を眺めて目の前にいる人物に問いかける。…お前は誰なのか、と。
習慣―――悪癖にも近いそれは、ウィルと過ごしたあの頃と今までの半年間の期間だけ表に現れることはなかった。
 今日、久々にその悪癖が出たのはさっきの手紙のせいだろうか。疲れているときに、決まってこの癖が出る。

 だが、今の彼女には自問の答えが酷くどうでもいいものに思えるようになった。
たとえ自分がどちらだったとしても、今の思いに偽りはない。この半年間でそれを再確認した。
詰まるところ、彼と共に過ごしている間はそんなことは大した問題ではないのだ。
彼女にとって自身のアイデンティティーよりも彼のことの方が遥かに大事な事柄だった。
今の生活は自分にとってとても掛け替えのないものだと、シャロンはそう思っている。

「ウィリアム……」

 ぼぅっと海面に映る満月を眺めながら呟いた。


「何?シャロンちゃん」

「ひゃあっ!?」
 背後から突然聞こえてきた声に体を竦み上がらせるシャロン。
いつもはフラットに保っていた感情が、不意をつかれたせいで思わず飛び上がってしまった。

「………驚いた。シャロンちゃんでもそんな声出すんだ」
 正面に回りこんで顔を覗かせてきたのは、ウィルその人だった。
ここまで驚かせることになるとは予想していなかったらしく、
「ごめんごめん」と謝りながら淹れたての珈琲をシャロンに手渡す。

「い、いきなり背後から声を掛けられれば誰だって驚きます」
 ドクッドクッと脈打つ心臓を落ち着けて、ウィルからコーヒーカップを受け取った。

「マリィ様と姫様は?」
 ウィル一人だったことを確認してから、姿の見えない二人について尋ねた。
「あー、いや……二人ともよく寝てるよ」
 決まりが悪そうに目を逸らせながら答えるウィル。
恐らくさっきまで三人で情事に耽っていたのだろう。表情に出易いウィルからそのことを予測するのは簡単だった。
その光景を心に浮かべると僅かに心が軋んだが、それを顔に出すことはなかった。
512Bloody Mary 2nd container ◆XAsJoDwS3o :2006/10/29(日) 00:09:02 ID:uy9Ud26P

「……眠れないの?」
「いえ、そういうわけでは……。
ただ…アシュリー様がせっかく用意してくださったのですから、時間が許す限り楽しもうかと」
 風に吹かれる髪を押さえながら再び昏い海に目を落とした。

「そう……」
 ウィルも彼女の隣まで歩み寄ると、手すりに体重を預ける。
すると一瞬だけ、ごうっと強めの風が二人の間を通り抜けた。

「……っ…」
 目を瞬かせ、強風が過ぎるのを待つ二人。
そのせいでお互い話しかけるタイミングを失い、二人揃ってよく見えない海を眺める羽目になってしまった。

「―――――…」

船底にぶつかる波音だけを肴に、同じ景色を黙って眺めているだけの時間が続く。
そして暫くの沈黙ののち。

「この半年、色々あったね…」
 二人して黙りこくってるのが居心地悪くなったのか、それとも単なる気まぐれか。
ウィルが不意にそう呟いて沈黙を破った。

「はい。………本当に」
 視線をウィルに移すことなく答えるシャロン。

「…どう?シャロンちゃんには家事を任せっきりだけど……。
今の生活に不満はない?」
 ウィルは今まで何となく心に引っかかっていたことを口にした。
マリィとマリベルが自分に付いて来た経緯は鈍感ながらも理解していたが、シャロンについては思い当たる節が何もないからだ。
国を出る姫様を心配してのことか、反逆者の俺たちを見張るためなのか。いくつか思い当たる節はあるが、どれも信憑性がない。
いずれにせよ、他の二人とは別のところに理由があるのだろう。ウィルはそう考えていた。
だから、四人での生活の中で自身では気付かない気苦労を彼女に与えているのではないかと、ウィルは心配していたのだ。

「いえ、特には。皆様の旅に同行できるだけでも、私にとっては身に余る光栄です」
「ははっ。そんな大層なもんじゃないよ」

「……それに。今日のようにこんな豪華な船舶で一日過ごせるのですから、不満なんて言ったら罰が当たってしまいます」
 それはシャロンなりの愛嬌なのか、うっすらと笑みを浮かべて珈琲を口に運ぶ。
ウィルの方は、シャロンの笑顔に一瞬呆気に取られたが。
「そっか…。楽しんでもらえてるなら良かった」
 彼もそう微笑んで胸を撫で下ろした。
513Bloody Mary 2nd container ◆XAsJoDwS3o :2006/10/29(日) 00:09:35 ID:uy9Ud26P

「はい……おかげで丁度良い誕生日プレゼントになりました」

「――――え…?
………ちょっと待って。シャロンちゃん、誕生日だったの!?」
 『聞いてないよ』といった顔でシャロンに詰め寄るウィル。一方のシャロンは至って冷静だ。

「といっても一週間前ですが。…何をそんなに慌ててらっしゃるのですか?」
「ちゃんと前もって言ってくれれば準備したのに……」
 悔しそうに唇を噛むウィルを見ながら、シャロンは首を傾げる。
「別にさほど重要なことではありませんし、それに―――――――」

「駄目だよ、それじゃ!こういうのはきっちり皆で祝わないと!」
 シャロンの暢気な発言にウィルは声を荒げた。

 ウィルにとって『誕生日』というのは大事な行事らしい。
これは彼がフォルン村で暮らしていた頃からの持論なのだが。
―――――――誕生日とは、まわりの人間がこれまでを感謝し、そしてこれからもよろしく、と当人を祝うもの…なんだそうだ。
誕生日に関するウィルの思いは彼の幼馴染み、キャスの受売りだった。
「子供っぽいから要らない」と断っていたウィルを、彼女はそう言って毎年欠かさず彼の誕生日パーティーを開いていた。
最初は、病弱だった母親の世話と畑仕事で忙しいウィルを労いたくて発起したキャスが、珍しく頑なに強行したパーティーだったらしい。
だが誕生日パーティーはその年だけに留まらず、半ば意固地になったキャスによって毎年計画されるようになる。
当初口では嫌がっていたウィルも、年々彼女の開くパーティーを心待ちにするようになった。
その思い出が今でも彼の中に根付いているらしい。

「とにかく明日、家に帰ったら準備しよう。
あっと…プレゼントも用意しないとな……シャロンちゃん、何かリクエストとかある?」

「……? リクエスト、でございますか?」
 普段、お祭りごとでは消極的な立場だったウィル。
その彼が突然張り切りだした様子に面食らっていたシャロンは、目をパチクリさせながら聞き返した。

「そうだよ。シャロンちゃんが主賓なんだから当たり前じゃないか」
 ウィルは飲み干したコーヒーカップを手ごろな高さの荷の上に置くと、「何かない?」とシャロンを急かした。

「――――――」
 ウィルの催促に、シャロンは暫し思案。
……そして。
514Bloody Mary 2nd container ◆XAsJoDwS3o :2006/10/29(日) 00:10:39 ID:uy9Ud26P

「そう…ですね。
強いて言えば、プレゼントについて要望があるのですが……よろしいでしょうか…?」
 目を微かに伏せながら答えるシャロンの声は、夜風の寒さのせいなのか少し震えていた。

「もちろん。可能な限り善処するよ。…あまり懐を圧迫するようなものは無理だけど」
 おずおずと尋ねるシャロンの要望を快諾し、大きく頷く。
ウィルの頭の中は『そういえばシャロンちゃんの好みって殆ど知らないな』とこれまでのことを振り返っていた。
そのせいで、反応が一歩遅れた。

「それでしたら―――――お言葉に甘えて…」
 不意の近づくシャロンの顔。
潮の匂いに混じって、ふわりとほのかな柑橘系の香りがウィルの鼻を擽った。
「え…?」
 唇に僅かな温もりと柔らかさを感じ。
あまりに唐突過ぎて、これまで予測していたシャロンの好きそうな物がウィルの頭から吹き飛んだ。
「んむっ……ちゅぅっ………」
 今までに耳にしたことのない侍女の声を聞きながら。
『二度あることは三度ある』……何処かで聞いた東方の諺がウィルの脳裡を過ぎっていた。

「――――んぅ…」
 ゆっくり、目を開きながら唇を離すシャロン。
相変わらずその表情からは何も読み取れない。
が、もし後少し明るかったなら、ウィルでも彼女の頬に少し赤みが差していることに気付いていただろう。
「あ、と………あれ…?」
 未だにウィルの思考力は回復せず。ただ鈍い思考を巡らせ続ける。
だとしてもいずれは発せられるであろう、彼の言葉を待つことなくシャロンは小さく口を開いた。
「それではお休みなさいませ。ウィリアム様」
 ウィルに頭を下げ、甲板を去っていくシャロン。表情は変わらなくともその足取りはやや急ぎ気味だった。
「え……シャ、シャロンちゃんっ!?」
 ようやく復活したウィルが声を上げる。だが、その声は潮風に流されてシャロンの耳まで届くことはなかった。
落ち着いた姿勢は崩さず。でも膝から下の動きは素早い足取りで船内へと逃げていくシャロンの背中。
とても珍しい彼女の慌てた挙動を見送ると、ウィルはぼけっと今更に思った。



―――――俺はキスされると固まる癖でもあるんだろうか、と。






                                        ...to be continued by『last order』
515Bloody Mary 2nd container ◆XAsJoDwS3o :2006/10/29(日) 00:19:16 ID:uy9Ud26P
以上で2nd containerは終了です。
気付けばえらく長い後日談に。…ちょっと遊びすぎたかも。
……でも実はまだ終わってません。
まだやりたいネタが残っているので、結局こういう形で一旦終了することになってしまいました。
次こそはBloody Maryを完結させます。

これからはひらがな編をまったり書きながら、少しの間充電期間に入ろうと思います。
ですので、本編の方はしばらく凍結。

いつ再開できるか分かりませんが、気長に待って頂けるとありがたいです。
516名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 00:39:42 ID:fPsICs0m
GJ!
ひらがなも期待してるよ!
517名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 07:39:23 ID:nJsUz/vc
>>476
いま俺も同じ記事ここに貼ろうとして先越されてるのに気付いた。

全員同じ男××君を好きになった女子高の一クラスが修学旅行先で拉致られ、目を覚ましたら孤島の廃校で
「殺し合いの末、生き残った一人に××君を紹介してあげます」という約束の上、
嬉々としてお互い殺しあう修羅場バトルロワイヤル、という電波を受信した。
518名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 10:27:05 ID:SNxEgDtD
エロゲーというものをまともにやったことがないんで
ここの作品の書き方だとかはライトノベルが元な感じなのか
エロゲーが元な感じの書き方なのかよくわからん。
519名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 10:53:06 ID:hYbX4r+t
実際どっちも大して変わらんねん
520名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 11:51:28 ID:AA41FVbD
エロゲとラノベは、コストと媒体が違うだけでほとんど違いがない。


…………職人さん達が投下する文章にはイラストがない分、ラノベやエロゲよりも表現力が必要になってくるが。
521名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 12:07:19 ID:fNczD/gL
誰かイラストを描けよw
522 ◆zIIME6i97I :2006/10/29(日) 12:22:29 ID:G52XmbDw
ミスターを投下します。
523ミスタープレイボーイ:2006/10/29(日) 12:22:59 ID:G52XmbDw
透明なガラスの向こうで、彼はピクリとも動かない。
出産直後は真っ青だったに違いない体は、今は真っ赤だ。
「赤ん坊」というのは本当だな。ぼんやりとそんなことを思う。
けれど、彼は普通の赤ん坊よりも、ずっと小さく、そして弱弱しい。
こんな小さな体で、生きているというのが信じられない。
それでも確かに、彼は生きていた。
524ミスタープレイボーイ:2006/10/29(日) 12:24:12 ID:G52XmbDw
激しいセックスに疲れたのか、薫は眠り込んでしまっていた。
僕も、ベッドにもぐりこみたい気持ちを抑えて、電話を取る。
胸騒ぎがした。
あれの最中にも何度か電話があったが、薫はやはり、電話に手を触れることさえ許さなかった。
着信履歴を見るが、登録された番号でもないし、見覚えもない番号だ。
まだそれほど遅い時間ではない。かけてみる。
相手は、すぐに出た。こちらから何かを言いかける前に、向こうから声が届く。

「ああ、よかった。長嶋さんですね!」

あせっているようだった。いやな予感がする。

「落ち着いて聞いてください。村山洋子さんが事故にあわれました。通勤途中の交通事故です」

「えっ」

なるほど、いやな予感というのはこれだったのか。大野産婦人科の看護婦だという相手は続けた。

「村山さんは、無事です。命に別状はありませんし、意識もしっかりしています。それで、あなたに連絡してほしいとおっしゃって」

そうか、洋子は無事なのか。よかった。
・・・いや、そうじゃない、馬鹿。洋子は一人じゃないだろうが。
看護婦は言ったぞ。洋子「は」無事だと。もう一人は!

「おなかの子供!おなかの子供はどうなったんです!」

思わず、怒鳴りつける。薫が目を覚ますかもしれないなどと考える余裕はなかった。

「村山さんは、事故の衝撃で胎盤剥離を起こされました」

常位胎盤早期剥離。文字通り、出産前に胎盤が子宮からはがれてしまうことだ。
早く取り上げないと、胎児低酸素症を起こしてしまう危険がある。下手をすれば、死ぬ。

「早く取り上げてください!切って!帝王切開!早くして!」

「落ち着いてください!帝王切開での娩出は成功しています。赤ちゃんもお母さんも、無事ですから」

ああ。
思わず、座り込む。当たり前だ。最初の電話があってからどれくらい経っていると思っているんだ。
手術は、とっくに終わっているはずだった。あそこは、とてもいい病院のはずなんだ。
そうか、二人とも無事か。良かった。
いや、まだ安心じゃない。看護婦の声は、どこかためらいがちじゃなかったか?
525ミスタープレイボーイ:2006/10/29(日) 12:24:51 ID:G52XmbDw
「それで、今はどうなっているんです?そちらには、NICU(新生児特定集中治療室)があるんでしょう?」

そうだ。僕が、あの病院を洋子に勧めた理由のひとつにそれがあった。

「はい。今はNICUで、治療を受けていますが・・・」

向こうの歯切れの悪さが、不吉だった。

「一応、医者の卵なんです。事情は、ある程度はわかるつもりです」

看護婦は、
搬送されてすぐに帝王切開に踏み切ったが、それでも軽い低酸素症は避けられず、仮死状態で取り上げたこと、
すぐに蘇生させたが、まだ予断を許さない状態が続いていることを説明した。

「すぐ行きます!」

向こうがそれ以上続ける前に、そういって電話を切る。パンツを取ってはく。
足がなかなか通らなくて、いらいらする。馬鹿!あわてるな。
シャツを着るのももどかしい。

「どこ行くの?」

ベッドから、薫の声が聞こえた。ぎくりとする。

「病院に行く!」

思わず、馬鹿正直に答えてしまう。

「ねえ、もう放って置こうよ。そのほうがいいよ」

その言葉の意味を理解して、薫の方を振り向く。何が起きているのか知っている?
彼女は、悲しそうな、悔しそうな、ゆがんだ表情をしていた。泣きそうだった。
躊躇は一瞬だった。薫の視線を振り切って、ドアを開け、部屋を出る。

「待ってよ!」

今度は振り向かない。もし振り向いたら、何を言ってしまうかわからなかった。
屋敷を出て、タクシーを止める。

「これで、大野産婦人科まで!とにかく急いで!」

一万円を渡す。こちらの切羽詰った様子から、事情を何となく察したのだろう。
いつもなら、ありえないスピードで病院まで向かってくれる。ありがたい。
それでも、はやる気持ちが抑えられない。
けれど、僕はいったい何を急いでいるんだ?

僕が行ったところで、何かが変わるわけじゃない。
医者は最善のことをしてくれるだろう。こちらとしては、それを信じるしかない。
僕が行こうが行くまいが、急ごうがゆっくりしようが、結果は変わらないはずだ。

それに、いまさら父親面して病院に駆けつけてどうしようというんだ。
これまで、必死に逃避していたのに。
だいたい、僕はこういう事態を予測し、ひそかに望みさえしていたんじゃないか。
いまあわてるくらいなら、どうしてあの時、洋子が車に乗り続けるのを強引にでもとめなかったんだ。
洋子と子供に対して感じている負い目をおろしたいだけじゃないのか。
今急いでいるのは、そのためのデモンストレーションに過ぎないんじゃないのか。
そんな僕が、あそこに行って、いったい何をするつもりなんだ。
526ミスタープレイボーイ:2006/10/29(日) 12:25:36 ID:G52XmbDw
やがて、タクシーが病院に着く。

「ありがとう!」

車を出て、病院に全力疾走する。そのまま、受付へ。
病院では静かになんてマナーは、頭からすっ飛んでいた。

「あの、洋子は、村山、洋子と、子供は、今、どこ」

息が切れて言葉がとぎれとぎれになる。
看護婦が何か答える前に、廊下を歩いていた女医がこちらに早足で向かってくる。

「長嶋さんですね?」

「子供は!どんな様子なんですか!」

詰め寄った。医者になったら相手にしたくないと思っていた、取り乱した患者の家族の姿そのものだった。
女医は、僕を押しとどめるといった。

「お答えする前に、ひとつお聞きしてもよろしいですか」

冷静な声に、思わず腹が立った。
こんなときに、何が聞きたいっていうんだ。あせっている僕を相手に勿体つけて、面白がってでもいるのか。
とっとと教えてくれ!

「あなたが、赤ちゃんの、お父さんなんですね?」

区切りをつけながら、女医がいった。
527ミスタープレイボーイ:2006/10/29(日) 12:26:13 ID:G52XmbDw
それは、質問というよりも確認だった。それも、単なる生物学的な事実以上の何かを確認したがっている。
それがわかって、一瞬躊躇する。けれど。

「はい、僕が父親です」

思ったよりもすっとそんな言葉が出たので、自分にびっくりした。
思えば、こんな風に、洋子を含めて他人から父親であることを確認されたのは初めてだった。
こうして他人に問われて、僕も初めてそのことを確認したかのようだった。
もしかして、僕がここに来たのはそのためだったのだろうか。
なぜか、さっきまでのあせりはなくなっていた。

それを聞いてうなずくと、女医は現状を説明してくれた。結論からすれば、赤ん坊は無事だ。
僕が病院に向かっている間に安定したらしい。それを聞いて、安堵した。
といっても、油断はできない。もう少し、NICUで様子を見る必要がある。
洋子も無事だ。常位胎盤早期剥離にともなう血液凝固症の心配もない。
今は、病室で眠っているそうだ。
最後に、生まれた赤ん坊は男だと教えてくれた。そうして遅ればせの「おめでとうございます」。
こちらも、つられて頭を下げる。なんだか、さっきまでの切迫感が嘘のようだった。何となく恥ずかしい。
そして、安堵のため息をついていると、女医がこんなことをいった。

「会ってみますか?赤ちゃんに」
528ミスタープレイボーイ:2006/10/29(日) 12:26:47 ID:G52XmbDw
スリッパに履き替え、エプロンをして、手を消毒する。
女医は、いろいろなリスクを話してくれた。
低酸素症によって、脳に障害があるかもしれないこと、そもそも30週程度の早産によっていろいろな障害が出やすいこと。
肺機能が弱いので、今は酸素吸入器をつけていなければならないこと。ただし、高濃度酸素によって網膜症になる危険があるということ。

そんなお荷物を背負うつもりなのか。
今なら、逃げられるかもしれないのに。軽蔑されるかもしれないが、それがどうした。
一生を棒に振るかもしれないんだぞ。絶対に楽しくないことになるぞ。きっと後悔することになるぞ。
みんなで不幸になるぞ。
何でそんな重荷を背負おうとしているんだ。

当たり前だ。それは僕が父親だからだ。

ばかばかしいほどナイーブな理由だ。けれど、本能の声がそれを後押しする。
そんなものに流されるのは、ばかばかしいと感じていたけれど。
あの親父が僕を捨てたのは、このばかばかしい理由と本能に逆らったからなんだろうか。
だったら、これはきっといいものだ。
それに従うことは、きっと悪いことじゃない。
僕は自分に言い聞かせる。

透明なケースに覆われたベッドの上の彼は不恰好だった。
そもそも生まれたばかりの赤ん坊は、かわいいもんじゃない。けれど、彼はそれ以上にチンクシャだった。
30センチから40センチくらいの大きさ。女医は、1600グラムだといっていた。
くしゃくしゃの顔に、酸素吸入器が当てられている。呼吸すら満足にできない。
今世界で、もっとも弱弱しい生き物なんじゃないかと、そんなことを思う。
彼は声をあげることさえできない。聞こえるのは、医療器械の音だけ。
それから、僕の心臓の音だけだ。
緊張していた。
529ミスタープレイボーイ:2006/10/29(日) 12:27:20 ID:G52XmbDw
初めてわが子に対面した父親というのは、普通どんな気持ちになるんだろうか。
しかも、こんな姿のわが子に対面した父親は。
うれしいとも、悲しいとも、悔しいともつかない変な気持ちに襲われる。
ただただ、胸が締め付けられた。涙が出そうになるのをこらえる。
みっともないところを見せたくなかった。女医にじゃない。この子にだ。
彼は、目を閉じたままだったが。

そのまましばらく見つめていても、赤ん坊はピクリとも動かない。
だんだん、不安になってきた。
おかしくないか。
本当に生きてるんだろうな?大丈夫なんだろうな?
そばに立っている女医に問い詰めたくなる。
そのときだ。
少しだけ、ほんの少しだけ、彼が口をゆがめたような気がした。

「あ、笑いましたよ」

女医が教えてくれる。
本当だろうか。本当に今のは、笑いだったのか?女医のリップサービスじゃなくて?
もし、それが本当なら。
ひょっとして君は、この世界に生まれて最初の笑顔を僕に見せてくれたのか?

今度はこらえられずに、泣いた。
530 ◆zIIME6i97I :2006/10/29(日) 12:34:20 ID:Bigm8E4M
以上、第11話「バースデー」でした。

薫のために蛇足のフォローをしておくと。
事故そのものに彼女はかかわっていません。
情報をいち早く得ただけです。
少なくとも、今回はそうでした。
531名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 12:48:46 ID:+gWxEdNQ
少なくとも今回は…
ま さ か
532名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 12:51:20 ID:Qrz8WZmd
キター!描写が細かくて畏れ入った
元から医学の知識のある方なのかそれとも執筆に合わせて調べられたのか
ともあれGJ! 主人公の外道な部分と人間味ある部分のバランスがまた良いです
しかしクオリティ高い上に毎日連載と言うのは本当に素晴らしいね
気になる話の続きがたった1日待てば読めるのだから
俺には真似できない所にマジで痺れる憧れる


オイラもエロゲやらないな
でもラノベも読まん、って言うか読みたいが図書館に置いてねぇから読めんだけw
本自体はそれなりに読むかなぁ
イラストは俺の場合自分のイメージを固める為に描くな
あと職人様の文章にビビッとインスピレーション受けた場合描きたくなる
絵も文も両方やってるのは俺だけだから名前出さなくてもバレてそだなw
533名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 12:54:42 ID:hYbX4r+t
薫ーッ! カァーッ! カァーッ!
534名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 13:20:52 ID:cUqeJE9J
ミスターハイパーGJ。惚れそうだ
535名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 13:23:03 ID:4GcAlPVo
作者ひょっとして医学生?
いや凄いペースで恐れ入ります
536名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 14:58:54 ID:nJsUz/vc
ミスター男前過ぎる。
が、あくまで子供>洋子という感じだな。
まだ展開が読めない。
537名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 15:22:44 ID:tBBwKO5I
少なくともミスターはヘタレだが悪人ではないな。

カッコいい。
538名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 15:31:04 ID:d7VgwSQt
ミスター死ぬなよ
539名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 18:11:05 ID:vjNdzxwH
ミスター、GJ

>537
でも一番悪いのは誰かと言えばミスターだよね
540『ハーレム、裏の顔は修羅場!』 ◆yjUbNj66VQ :2006/10/29(日) 18:28:00 ID:EEVI0sdx
「遅い!倉橋俊太!」
「フルネームで呼ばないでくれよ。恥ずかしいじゃないか。」
教室の前につくと、いきらに礼奈センセに怒鳴られた。図書館で時間とられちゃったんだら仕方ないじゃないか。
「…はぁ、まあいい。一時間目はちょうど私の授業だからな。自己紹介だけでも済ましておけ。」
そう言いながら教室に入っていく礼奈センセの後ろをついていく。あー、ドキドキするなぁ。こんなに緊張するの何年ぶりだろ。ただ教室に入るってだけなのに。
ガラッ
ジロジロ……
「ぅぅ……」
予想どうりといった感じか。何十個もの瞳が、一斉に突き刺さる。嗚呼、胃に穴が開きそうだ。
「えー…さっき話したからわかるだろうが、今日からしばらくこのクラスで一緒にやっていく転校生だ。……ま、見た目どうり変な奴だが、危害を加えるような奴じゃない。相手してやってくれ。」
……あんたの言う『変な』と、みんなの『変な』は違う気がするが……
「ほら、自己紹介。」
「え?お、おう。」
礼奈センセに促され、教壇の上にのぼり、一言。
「今日から一緒になる、倉橋俊太です。」
541『ハーレム、裏の顔は修羅場!』 ◆yjUbNj66VQ :2006/10/29(日) 18:28:58 ID:EEVI0sdx
まずは掴みから。無難挨拶をするが、みんなの表情は変わらない。俺を探るような目をしている。
「趣味はエロ本探索、及び鑑賞。あ、そこはあくまでも鑑賞なので実用化はしません。」
いきなりセクハラ。これでだいぶ空気が変わるはず!
「あの〜、エロ本って……なんですか?」
「な、にぃ!?」
エロ本を知らぬだと!?あの妄想を具現化してくれる逸品を知らないだとぉ!!
「ぐっ、な、なぜだ…」
「ふふ、つめが甘いようだな、倉橋。」
「礼奈センセ…」
「この世界は女性のみ……すなわち!男性向け色本など、存在しないのだよ!!」
「なぁっ!!?」
……なんだと…つまり、今家にある本以外、補給することができないだと!
「ど、どうすればいいんだ、隊長!!補給線を絶たれ……どうやって生きていけば…」
「答えは一つ……」
「そ、それは………」
「オ・ナ・禁!」
「………センセ。」
「…………なんだ?」
「乗ってくれたのは感謝するが、さすがに女性がオナ禁とのたまうのは………」
「……う、うるさいっ!さっさと席に着け!窓際の一番後ろだ!」
542『ハーレム、裏の顔は修羅場!』 ◆yjUbNj66VQ :2006/10/29(日) 18:29:55 ID:EEVI0sdx
「へいへ〜い。」
追いやられるように席に向かう。…ここが俺の席。日当たり良好、風通しよし……これは……
「居眠りにうってつけじゃないか!」
昨日はあんまり寝れなかったからな。ここらで爆睡して体力回復といこうか。
イスを引き、座ろうとしたそのとき……
スカッ
「ウェッ!?」
バターン!
なんとも情けない格好で、思いっきり尻を床に打ち付けてしまった。なにが起こったのかわからず、辺りを見回してみると、みんな笑いを堪えるように体を震わしていた。
「ぐふっ……だ、誰だ……こんな今時の小学生もやらないような古いトラップを仕掛けたのは…」
「あっははは!おもしろーい。君、単純だねぇ。」
「なんだ!……と…ぉ…」
真後ろから声がして、振り向いてみた。単純と言われ、ちょっとカチンときてしまったのだが、声を出した張本人を見た途端、言葉を失ってしまった。
なぜなら……
「ちっこいなぁ……」
本当に小学生ぐらいの少女(幼女)が、気持ちいいぐらいの笑顔で立っていたのだ。
「むぅ、小さいって言った!これでも君と同い年なんだよ!」
543『ハーレム、裏の顔は修羅場!』 ◆yjUbNj66VQ :2006/10/29(日) 18:31:32 ID:EEVI0sdx
怒っているのか、頬を膨らましてそっぽをむいてしまった。うむ、こいつは他の奴等とちがって絡みやすいかもしれない。
「いや、失礼。いくら小さくても、レディにあることは変わりない。これはそのお詫びだ。」
彼女の手を取り、手のくぼみにキス………をすると見せかけて、飴玉を握らせる。
「あ!な、なによー!結局子供扱いじゃないよ!」
「ハン!エロ本の『エ』の字も知らない初っ子が、俺さまのキスを頂けるなど、片腹痛い!」
「モゴ……にゃに…モゴ……をー!」
「口いっぱいに飴玉転がしても、説得力無いわい!」
ツン、ツン
ほっぺたの飴玉をつついてみる。あの小さな飴玉でこんなに口が膨れてんだから、本当に小さいんだな、こいつ。
「……この世界には、ロリやペドといった概念も消えるのかな…………ビバ!姓、犯、ざぁびりゃほっ!」
「……授業中に物騒なことをさけぶんじゃない…」
礼奈センセ……教卓のイスを投げないでください。わちきの美顔が傷物になってしまいまする。
ムク
「うわ、もう復活した。」
「まぁいい、お前とはうまくやっていけそうだ。」
544『ハーレム、裏の顔は修羅場!』 ◆yjUbNj66VQ :2006/10/29(日) 18:32:35 ID:EEVI0sdx
「小波。」
「ん?」
「名前だよー。佐伯小波。それが私の名前。」
「おお、そうか、よろしくな、パワプ○君。」
「倉橋、それはコナ○だ。」
「バーロォ、か?」
「それは○ナン……ええい、さっさと授業を始めるぞ!」
そんな礼奈センセが切れ気味の状態で授業は始まった。








キーンコーン……
「あっ!」
という間にお昼休み。寝てたから本当にあっという間だ。一応弁当は作ってきたからな、さっそく食べようかね。
「俊太くん、一緒に食べよ!」
弁当を机の上に用意していると、小波が机をガッと合わせてきた。本当に小学生だな。そんなとき………
ガララ!
勢いよく開かれた教室のドアになんとなく目を向けてみると。
「おろ?」
歩が立っていた。キョロキョロと教室中を見回している。友達でも探しているのだろうか。すると……
「………!」
「んぉ?」
スタスタ……
歩と目が合った途端、こっちに向かい、目の前に立った。
カキカキ
『どうした?歩?』
『今日の朝のお礼に来た』
『お礼って…別に…』
「ねえねえ、なにやってるの?」
545『ハーレム、裏の顔は修羅場!』 ◆yjUbNj66VQ :2006/10/29(日) 18:34:00 ID:EEVI0sdx
「あ、すまん、ちょっと。」
『早く、図書館来て。』
その紙を見せられ、クイクイと袖を引っ張られる。その力についていきそうにフラフラと歩くが……
「ちょ、ちょっと!俊太くん!歩と一緒にお昼食べるんでしょ?」
いや、ちゃんと約束したわけでもなしに。
「……………」
「…な、なによ。」
カキカキ
『あっちいって、貧乳』
「んな!ひ、貧乳………ひ、人が一番気にしてることを……あなただって変わらないくせに!」
「…………」
クイクイ
「こ、こらぁっ!無視して俊太くんを連れていくなぁ!」
「こ、こらこら、ケンカするでない。」
目の前で睨み合い、牙を剥き合う(主に小波が)ロリペド二人。
「と、とりあえず、今日は図書館に行くから、な?また明日もあるんだ。」
「うーぅー……」
まったく、俺は新しいおもちゃじゃないんだから。そんなことで拗ねるんじゃないっつの。
しょうがない。今日の昼飯はお預けになるかもしれんが、お礼をしたいと言うんだ。しっかり受けてやるのがこっちの礼ってもんだな。
俺は歩に引っ張られるように、教室を出ていった。
546名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 18:44:34 ID:tNxoyFcf
修羅場の兆候が見えてきて良い雰囲気になってきたぜGJ!          ……ロリ最高(ぉ
547名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 19:00:24 ID:AA41FVbD
この世界の生殖はどうなっているんだ……。
548名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 19:20:35 ID:sYNVB8il
俺もそれが気になって仕方が無い。
話的にはだんだんと修羅場のにほいがw
ロリ最高(ぁ
549名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 19:38:15 ID:XuXGVW9L
そうゆうのは気にしたら負けだ!
ロリ最高
550名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 21:20:29 ID:tA45QKF+
もしもこの世界唯一の男なら、最大66億人の修羅場が!!
551名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 21:29:09 ID:yZKyTcut
>>550
どう考えても腹上死です。
本当に(ry
552名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 21:31:32 ID:UgEs2aO4
>>550
ヒント:百合修羅場
553名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 22:17:59 ID:sKfwY7Px
きっとコウノトリが赤ちゃんつれて来るんだよ!

先生最高
554名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 23:05:04 ID:tA45QKF+
>>551-552
でもお前、各国の首相とか大統領とかの修羅場って見たくないか?
555名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 23:19:25 ID:1kPtQmgN
投下しますよ
556名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 23:20:48 ID:UgEs2aO4
>>554
そこまで高位だと男の独占欲より国益を優先させそう…
はっ、これはもしや男を理由に、国力で強引にゲットしたアメ○カに
残る国が団結して戦争を起こすという第三次世界大戦フラグ?
ファンタジーの女王とかなら国益より男を優先させそうだが。
557『甘獄と青』Take7:2006/10/29(日) 23:20:53 ID:1kPtQmgN
「おにーさん、起きて」
 体を揺すられて、目が覚めた。
 視線を声の方向へと向けると、膝立ちになったリサちゃんが眠そうな顔をしながら僕の
体を揺すっている。その背後、窓の外では太陽が見えた。壁にかかっている時計で時間を
確認すると、時刻は既に正午を回っている。どうやらかなり寝坊してしまったらしいが、
ナナミは起こしてくれなかったのだろうか。それとも気を遣って敢えて起こさなかったの
だろうか。リサちゃんがわざわざこんな時間に僕を起こしに来たということは恐らく後者
なのだろう。眠そうにしているのは、リサちゃんも寝坊したからか。
 僕はソファから身を起こして、リサちゃんの頭を撫でた。
「おはよう。ナナミはどこに居るか分かる?」
「おはよーございます。ナナミさんはお買い物、牛乳と卵が安いって言ってたよ」
 僕は物音には結構敏感な方だと思っていたのに、出掛けたことに気付かなかった。どう
やらかなり深く眠っていたらしい。その理由を考えて、すぐに答えが出た。ナナミが僕を
安心させてくれたから、深く眠ることが出来たのだ。
 帰ってきたらまずはお礼を言おう、と思いながら立ち上がる。
「あ、忘れてた」
 リサちゃんは腰に下げていた二つの鞘の内、小さな方を不慣れな手付きで外して、僕に
渡してきた。昨日の夜、せがんできたリサちゃんに貸したものだ。腰に下げたままのもう
一つの方は見覚えがないけれど、これもナイフなのだろうか。体格的に見ると、ナイフと
言うよりも剣のように見える。それもリサちゃんの外見にあまり似合わない大きなもの。
僕から見たら小振りな片手剣のようだが、リサちゃんから見たら幅広な両手持ちの大剣だ。
558『甘獄と青』Take7:2006/10/29(日) 23:23:45 ID:1kPtQmgN
 その視線に気が付いたらしく、リサちゃんは大きな鞘を手慣れた様子で外すと僕の眼前
に掲げてみせた。幅は15cmから20cmだろうか。刃渡りは70cm程で、柄の長さを含めると約
1mにもなる。リサちゃんの身長と殆んど同じ長さだ。僕の伸長はリサちゃんの大体二倍
程なので、体感的には幅が30から40cm、長さにして2mにもなるものを想像してみた。
 何だろう、この化け物みたいな剣は。普通に考えて、きちんと扱えるような代物だとは
思えない。振り回して戦うどころか、逆に剣に振り回されるのがオチだ。
 リサちゃんは眠そうなままではあるものの、笑みを僕に向けると、
「ちょっとだけなら、触っても良いよ」
 そう言って僕に鞘ごと渡してきた。触っても良い、ということは、あくまでも自分の物
だということだ。どんな理由でこんな物騒なものを持ち出してきたのかは分からないが、
他人に譲る気はないらしい。使えるかどうか分からないものを持って、リサちゃんは一体
何をどうするつもりなのだろうか。
 そんなことを思いながら、剣を振った。危険なので抜き身にせず、鞘を着けたままだ。
僕には剣術の心得はないのでどのように使うかはさっぱりだ、適当に空間を薙ぐしかない。
その長さによる風斬り音がするだけで、その先はどうなっているのか理解できない。ただ、
見た目に反してやたらと軽いのは分かった。フライパンよりも軽いこの剣なら長さはとも
かく、重さの部分で考えるのならリサちゃんの細い腕でも簡単に扱うことが出来るだろう。
559『甘獄と青』Take7:2006/10/29(日) 23:24:36 ID:1kPtQmgN
 五度程空気を裂き、リサちゃんに返す。感想なんて聞くまでもない、屋敷に居た頃から
剣術の才能がないということが分かっていたから、今の動きがどれ程のものかも分かる。
 僕から剣を受け取ると、リサちゃんはそれを抱いて微笑んだ。僕に向けてではなくて、
剣に向かって。年相応とは思えない穏やかなその表情は、何を意味しているのだろう。
「良いもの、見せてあげる」
 そう言うと、リサちゃんは僕から数歩離れて剣を振った。僕が適当に空間を薙いだのと
は違い、使い慣れた動きだ。腕を精一杯伸ばして振る度に、僕のときとは別物のような音
が部屋に響き渡る。始まりの音から繋ぐように連続で刃を振るい、床を踏むステップの音
と交わればそれは音楽となる。小さな体からは想像も出来ないような大きな動きは、僕の
目を強く引き付ける。一歩間違えれば単に剣に振り回されているようにしか見えないのに、
確かな意思を持ったそれに踊っているのだと確信させられた。
「ララ、ラララ、ラ、ラララ」
 第四惑星特有の音楽なのだろうか、不思議なリズムの旋律がリサちゃんの小さな唇から
流れてくる。長い金髪を音もなく翻し、歌い、踊る様は正にソードダンサーだ。それも、
剣で踊っているのではない。剣と踊っているのだ。
560『甘獄と青』Take7:2006/10/29(日) 23:26:01 ID:1kPtQmgN
 何と言うか、意外だった。普段のリサちゃんは明るく無邪気で、それこそ歌もよく歌う。
しかし今の姿はそんな様子とは遠く駆け離れた、どこか神秘的で、強く、そしてどこか儚
いイメージがある。いつもの姿からは想像もできない、いや、いつもの姿が想像できない。
 どれだけ見とれていたのだろう、時間の感覚がなくなっていた。とても長かったような
気もするし、あっという間だったような気もする。気が付けば、踊りは終わっていた。
「どうだった、おにーさん?」
「いや、本当に凄かった」
 誉められたのが余程嬉しかったのか、きゃははと笑うリサちゃんの頭を撫でる。しかし
それ以上の言葉は口にできなかった。どんな思い付きで僕にこの踊りを見せてくれたのか
は分からないけれども、きっと剣も歌も踊りも、とても大切なものなのだろう。知り合っ
てからまだ一月も経っていない僕が訊いて良いようなものではないと思ったからだ。
 それはきっと、過去に通じるものだから。
 だからいつものように頭を撫で続け、抱えあげた。
「ごはんにしようか」
「うん」
 胸の高さで持つことでリサちゃんの首を視界から外し、台所へ向かう。
 テーブルには多めのホットサンドが置いてあった。昨日の残りを挟んだ手軽なものだが
触ってみればまだ温かく、ナナミの気遣いが感じられた。これは作りたてなのではなく、
確率システムを応用した熱量保存システムだ。もう暫く帰ってこないのが分かったけれど、
何か買い物の他に用事でもあるのだろうか。珍しく書き置きもない。
561『甘獄と青』Take7:2006/10/29(日) 23:27:13 ID:1kPtQmgN
 リビングに戻ると、チャイムが鳴った。
「ごめん、ちょっと出てくるから先に食べてて」
「うん、早くしないと全部食べちゃうよ」
「それじゃ、急がないといけないな」
 誰だろう、と思いながら玄関に向かう。ナナミが帰ってきたのかと思ったけれど、彼女
は普段ノックを使う。他に心辺りもなく、念の為にチェーンをかけてドアを開いた。
「こんにちは、ブルー」
 サラさんだった。
「あら、良い匂いがしているわね」
「今から昼食です。それで、何の用ですか?」
 昨日の今日で遊びに来たのだろうか。今まで彼女が居ることを知らなかったということ
は、リサちゃんと同じで最近こちらに引っ越してきたということだ。近所で知っている店
も少ないだろうし、分かっている数少ない場所として来てもおかしくはない。
 サラさんは少し考えるような表情をして、
「用事は……ええとね。理由を考えるのが面倒だから直接言うけど、お昼ご飯をたかりに
来たのよ。もしかして、迷惑だったかしら?」
 本当だろうか。しかし表情を見ても不自然なところはないし、嘘が吐けるタイプでない
のは昨日なんとなく分かった。だが本当だとしたら、それはそれで嫌な話だ。
 どうしようかと迷ったが、ホットサンドも三人分はあるだろうし、招き入れることにした。
562ロボ ◆JypZpjo0ig :2006/10/29(日) 23:28:41 ID:1kPtQmgN
今回はこれで終わりです

話が進まないにも程がありますね?
563 ◆gPbPvQ478E :2006/10/30(月) 01:12:14 ID:iduVQCcN
投下します
564九十九の想い ◆gPbPvQ478E :2006/10/30(月) 01:13:16 ID:iduVQCcN

 流は正直Sだと思う。サドだ、サド。
 木刀を持って向かい合うや否や、鬼のような勢いで滅多打ち。
 怪我が後に引かないように手加減はしてくれるのだが、それでも痛い。
 おかげで俺は体中アザだらけ。
 こんなんじゃあ初体験のとき誤解を受けちゃうから当分先の方が良いんだよHAHAHA。
 
「……郁夫様?」
 
 心配げな声に、はっとして現実へと立ち返る。
 ここは道場。
 時刻は夕暮れ。
 俺はどうやら倒れているらしく、視界には心配げな流の顔。
 
「……あ、気絶してたのか。さっきの上段、やっぱり防げなかったか」
 ぐわんぐわんと揺れる頭を何とか起こし、痛む全身に顔をしかめる。
「打つ前に、脇に騙しを入れましたからね。
 守る心が散漫になっているところには、すんなり滑り込めるものなのですよ」
「……フェイントにはついつい反応しちゃうんだよなあ」
 
 己の未熟を恥じながら、よっこらせ、と立ち上がる。
 全身は打ち身だらけだが、まだ立ち上がることができるのは、流の加減が上手いからか。
 今だって、脳天に木刀の一撃を喰らったというのにも関わらず、
 せいぜいこぶができたくらいで出血すら見当たらない。
 
 全力で打ち込まれていたら、運が良くても脳挫傷レベルのはずなのに、
 流を怖いと思えないのは、長い付き合いだからか、はたまた流の雰囲気からか。
 
「……? ……!」
 見つめられて不思議そうに首を傾げ、何故か赤くなる刀の付喪神。
 戦うときは鬼のような強さを見せるくせに、普段はどう見ても可愛い女の子。
 しかもその性根は優しく暖かいのを、5年の付き合いからわかってしまっているのだから。
 流を怖いだなんて思うことは、どうやら俺には不可能の模様。
 
「……だから俺は、流がサドでも気にしないぞ……!」
「さ、サド……? ご、ごめんなさい!
 郁夫様が嫌がっているとも知らず、私、酷いことばかり」
「あーいや、ごめん冗談。気にしないで。
 っていうか厳しくしろって言ったの俺だし。流はその通りにしてくれてるだけで。
 むしろ流すごい。偉い。尊敬する。流がいるから俺頑張れる。流最高」
「そ、そんな、最高だなんて……」
 
 真っ赤になって木刀の先端をいじいじしている。ふ、褒め言葉に弱い奴め。
 まあそれはそれとして。
 
「さて、それじゃあ続きだ続き。もう一本やろうぜ、流」
「――はいっ!」


565九十九の想い ◆gPbPvQ478E :2006/10/30(月) 01:14:19 ID:iduVQCcN
 
 
 
 
 
 浦辺流退魔術。
 俺こと浦辺郁夫が生まれ育った浦辺家は、結構古い拝み屋だったりする。
 そのため、幼い頃から修業を受けてきているし、退魔の術はそれなりに身に付いている。
 が。
 うちの流派は体術にそれほど重きを置かない流派のため、実戦的な体術を教えられる師が存在しない。
 よって、どこかの剣術道場や杖術道場などから出張願うしかなかったのだが、
 付喪神研修制度というトンデモ制度により流が我が家に訪れてから。
 浦辺家は、優れた剣術の師を手に入れることと相成ったのである。
 
 流は元々、ある剣術流派の道場に飾られていた奉納刀である。
 道場の上座に長年据え置かれ、門弟の訓練を眺め続けていたそうな。
 流がうちに研修に来たときは、既に人化が為せる程度に変化していたので、
 俺は5年前――11の頃から、流に稽古をつけてもらっている。
 
 つけてもらっているのだが。
 
 
「……だ、大丈夫ですか、郁夫様?」
「そ、その、辛くなったらすぐに仰ってくださいね」
「……もっと手加減しましょうか?」
 
 
 剣術の腕は達人級なのだが、師としては子犬級である。
 可愛いのはいいんだが、もうちょい厳しくして欲しいというか何というか。
 だからといって、件を教えるのが嫌いというわけではなさそうで、
 俺に剣筋を教えたり、木刀で打ち合ったりしている間は、散歩中の犬のようだったりする。
 それに、甘いとはいっても助言は的確だし技術は確かだしで、
 冷静に考えてみれば、これはこれで悪くない気もする。
 
 
「郁夫様、守る場合は線を点で防いではいけません。……痛かったですか? すみません……」
「では、これから中段を攻めますので、先程教えた筋で対応してみてください」
「だ、大丈夫ですか郁夫様!?
 もう少し、脇を締めれば今のは防げますので、次は気を付けていただけると……」
 
 
 でも。
 心配そうにオロオロしながら。
 しかし打ち込むときは鬼のようなこの勢い。しかも楽しそう。
 断言しよう。
 やっぱり流はSだ。サドだ。間違いない。


566九十九の想い ◆gPbPvQ478E :2006/10/30(月) 01:15:17 ID:iduVQCcN
 
 
 
 
 
「お疲れ様でした、郁夫様」
「……おー……ありがとなー……」
 
 最後のストレッチまでじっくりこなし、心地よい疲労感に包まれながら、今日の訓練は終了した。
 閉められていた戸を流が開け放ち、冷たい風が、籠もった熱気を吹き払っていく。
 11月も半ばを過ぎているため、外は既に夜闇に包まれていた。
 
「それでは、湯浴みの準備ができていると思いますので、ゆっくり浸かって――」
 
 と、流が言いかけたところで。
 
 
「――訓練は終わりました? お疲れ様でーす」
 
 
 と、底抜けに明るい声が、道場に響いた。
 顔を向けると、割烹着をかけた女性が、入り口から笑顔で手を振っていた。
 
「……今終わったところです」
 流が何故か仏頂面で応対する。
「そうですかー。それじゃあ郁夫さん、お風呂の準備ができてますので、どうぞお入りくださいな」
「郁夫様はお疲れです。黒間(くろま)様」
「あら、そうだったんですか。それじゃあ私が肩を貸してあげますねー」
 とてとてとて、とこちらに近付いてくる。
 
「郁夫さん、大丈夫ですかー?
 動くのも辛いなら、私が一緒に入って体を洗ってあげますよー?」
「……黒間様! そのような冗談は如何なものと思われますが!」
「やだなー、流さん。冗談なんかじゃありませんよ。
 私の体、隅から隅まで郁夫さんのものなんですから。
 お望みとあらば、胸で背中を洗うことすら辞しません」
 
 と、下ネタ混じりの冗談を言いながら、えへんと胸を張っている。
 その張られた胸は、大人の魅力が詰まってるというか、強力な自己主張が為されてるというか。
 着物と割烹着に遮られながらも、その偉大さを隠し切れていなかったりする。
 
 アレで……背中を……!?
 
「郁夫様っ!」
 
 何故か流サンに怒鳴られましたよ。
 何故だろう。きっと、あの胸がいけないんだな。けしからんおっぱいめ。
 じゃなくて。
 
「……橘音(きつね)さん。お気遣いは嬉しいんだけど、一人で行けますから。
 とりあえず、呼びに来てくれてありがとうございます」
「むー。郁夫さんのいけずー」


567九十九の想い ◆gPbPvQ478E :2006/10/30(月) 01:16:09 ID:iduVQCcN

 浦辺家の使用人、黒間橘音。
 2年前から、とある事情により住み込みで働いている女性である。
 髪を後頭部でまとめ上げていて、うなじの後れ毛が大人っぽい美人だ。
 ノリはどうにもアレだが、まあ俺とは色々あって、この屋敷では一番仲の良い使用人である。
 
 
「まあ、何はともあれ、お風呂の時間ですよー。
 流さんの時間は終了ですよー。郁夫さんは私がいただきでーす」
「い、郁夫様は貴女のものではありません!」
「っていうか誰のものでもないし」
 そうツッコミを入れながら廊下へ出る。
 どうも流は、橘音さんに対して突っかかってしまう傾向にある。
 気が合わないのかなあ、と思いながら、廊下をてぺてぺと歩いていく。
 
 
 
「郁夫さーん!」
 
 廊下を歩いていたら、橘音さんに呼び止められた。
 何だろう。……また一緒に風呂に入るとか言い出したらどうしよう。
 性欲を持て余す青少年に、そんなエッチなネタフリされても、
 本気で取りかねないということをわかってくれないのかこの人は。
 それでもハタチかこんにゃろう!
 ……や、俺が慣れればそれでいいだけの話なんだが……諸事情によりそれは難しかったりする。
 
「伝言があるのを忘れてまし……あら? 何か言いにくそうな表情をしてますけど」
「……何でもありません。それで橘音さん。伝言って、親父から?」
「はい。秋夫(あきお)様から先程お電話がありまして。
 郁夫様に、今日中に伝えておいて欲しいとのことです」
「ふむ、仕事先からわざわざ言ってくるとは、ひょっとして急な仕事の依頼とか?」
「近いです。実は、新しい付喪神研修生を、一体受け入れるとのことで」
「え? こんな時期に?」
「はい。急に決まったことだそうです。秋夫様は仕事の途中なので、
 受け入れ業務は郁夫様に一任するように、とのことです」
「……ん。了解」
 
 まあ、受け入れ業務といっても、そんなに難しいことではない。
 ここで暮らしをする上での説明とか、置き場所の確保とか、その程度のことである。
 万が一付喪神のタマゴが悪さをしたときのために、抑え込む霊能者が一人いれば済む。
 それに、受け入れ業務は始めてではない。
 3年前の研修生は俺が担当したし、そのときの要領でやれば問題ないだろう。


568九十九の想い ◆gPbPvQ478E :2006/10/30(月) 01:17:12 ID:iduVQCcN

「で、そいつはいつ家に来るんですか? 来月?
 それとも、急ってことだから、来週とか?」
 
 準備は1日あれば余裕で終わるが、こちとら健全な男子高校生。
 テストの直前に掃除をするように、できることはギリギリまで引き延ばしたい性質なのである。
 ……いやまあ、訓練だけはちゃんとやるけどね。命に関わるし。
 
「明日だそうです」
 
「――は?」
 えっと?
 聞き間違いかな?
 明日って明日?
 この後、日が昇ったら、来るの?
 
「何せ急に決まったことだそうですから。郁夫さん、ふぁいとっ」
 
 
 とりあえず。
 のんびり風呂に入れる状況ではなくなった模様。
 
 
 
 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
 
 
 
 深夜。
 色無地の少女が、縁側で満月を見上げていた。
 
 郁夫が慌ただしく作業をし、その手伝いを先程まで手伝っていた。
 それも終わり、彼は泥のように眠りについた。
 寝室まで運び、橘音に寝具の支度をしてもらって、そのまま布団の中に寝かせてきた。
 腕の中で、童のように瞳を閉じていた。
 
 ――郁夫が、己の腕の中で。
 
 体に熱が灯る。
 器物の身に有り得ざる暖かさ。
 これはきっと、郁夫がくれたもの。
 そう思うと、熱はますます燃え上がる。
 人間だったら、この熱を冷ます術を持っているのかもしれない。
 しかし、人ならざる身の熱は止まることを知らず、思考力すら奪っていく。


569九十九の想い ◆gPbPvQ478E :2006/10/30(月) 01:18:06 ID:iduVQCcN

 道具の幸せは、使われること。
 持ち主の手に馴染み、信頼されることこそ、道具の至上。
 
 流が望む持ち主は――当然、郁夫。
 その郁夫に信頼されることこそ、流が望む最高の幸せ。
 
 ――そう、自分は、道具なのだから。
 
 
「…………」
 ふと思い立って、元の姿に返ってみることにした。
 郁夫の側にいるときは、基本的に人の姿に変化しているので、
 最近は元の姿に戻っているときの方が少なかった。
 
 イメージは、下腹の力を抜く感じ。
 全身に纏っていた力みを抜き、外の皮をぺりぺりと剥いていく。
 あくまでイメージであり、実際の流の体は人間の姿を保っているが、
 見る者が見れば、その存在が曖昧になっていくのがわかっただろう。
 そして、完全に“変化”という特殊な状態を脱した瞬間。
 
 
 べきり、と。
 流の体が、ねじれた。
 
 
 まるで雑巾を引き絞るかの如く。
 肉が、骨が、髪が、着物が、ばぎん、ごきり、ぐちゃり、みちみち、と纏まっていく。
 やがて、棒状にまで圧縮された流の体は。
 
 
 一本の、打刀に“戻って”いた。
 
 
 刀の姿のまま、満月の光を浴びてみる。
 月光は怪異を育てるというが、特に力を与えられる気配はない。
 郁夫の声の方が、何百倍も力をくれる。
 
 流の一番の願いは。
 郁夫と、ずっと一緒にいること。
 
 それは、道具として、きっと一番幸せなことで。
 そのためには、どんなことでもしてみせる。


570九十九の想い ◆gPbPvQ478E :2006/10/30(月) 01:18:48 ID:iduVQCcN

 郁夫に剣術を教えているのも、そのため。
 刀である自分が、郁夫の道具となるには、郁夫が刀を使えなければならない。
 そのために、郁夫に剣術を教えている。
 正直、郁夫に向かって木刀を振るうのは好きではない。むしろ苦痛だ。
 しかし、郁夫がいつか、自分を使いこなすことを思えば。
 想像する恍惚感だけで、つい力が籠もってしまう。
 それでも、郁夫に怪我させることだけはないように、慎重に慎重を重ねて、教えてきた。
 結果、郁夫は“剣術の方も”年の割には優れた使い手になりつつある。
 
 ――でも。
 
 刀である自分が使われる状況、というのは。
 現代日本では、酷く限られてしまう。
 
 人斬りが許される時世ではない。
 さりとて、床の間に飾られるのは、嫌だ。
 道具として、郁夫に握られて、何かを斬りたい。
 
 そして――郁夫が何かを斬るとすれば、それは、きっと。
 
 
 同胞たる、妖怪だろう。
 
 
 退魔術を受け継ぐ浦辺の一族。
 その道具として、同胞を斬る。
 似たような仲間もいるらしいが、そういった連中は妖怪たちからは裏切り者として扱われている。
 研修制度などができ、人間と妖怪との距離も狭まりつつある昨今だが。
 やはり、同胞斬りは、禁忌だった。
 
 
 でも。
 それが、どうした。


571九十九の想い ◆gPbPvQ478E :2006/10/30(月) 01:19:51 ID:iduVQCcN

 郁夫のためなら。
 自分以外の全ての妖怪を斬り殺しても、構わない。
 同じ刀の付喪神でも、何の痛痒もなく叩き折る。
 
 郁夫にとっての一番になれるのであれば。
 
 
 道具としても。
 ――それ以外でも。
 
 
『……私ってば、何てことを』
 
 思い上がりかけたところを自省し、流は心を落ち着ける。
 自分はあくまで道具である。
 郁夫の側にいるのであれば、きっとそれは道具として。
 でなければ、自分は郁夫とは一緒にいられない。
 郁夫は悪事を働く妖怪を倒す、人間なのだから。
 
 
 
 ……刀の姿に戻っていたから。
 流は、己の抱いている感情に気付いていなかった。
 
 もし、人間の姿を保っていたら。
 きっと、その瞳から、涙をこぼしていただろう。
 
 その胸にある想いは、至って単純。
 
 
『人間に、なりたいなあ』
 
 
 童女のような純粋さで。
 流は、そんな願いを抱いていた。



572 ◆gPbPvQ478E :2006/10/30(月) 01:21:10 ID:iduVQCcN
「九十九の想い」は、短編連作のように、ひとまとまりで完結させる形式にします。
どれくらいの長さになるかは未定ですが、のんびりやっていこうと思います。

まずは、第一部【人斬り】

次回、新しい付喪神が登場します。
修羅場スレには馴染み深い、あの道具の付喪神です。
楽しんでいただければ幸いです。

>>500
流さんだ! GJ!!!
貴方のおかげで、今回の流さんパート、気合い入りました。
ありがとうございます!

>>515
完結乙です&GJ!
思えば、◆XAsJoDwS3o様のブラマリに影響されて、血塗れ竜を始めたのが懐かしいです。
お疲れ様でした。そしてひらがなの方もwktkしてお待ちしております。

573名無しさん@ピンキー:2006/10/30(月) 01:30:20 ID:4vvxu7h5
>>572
キタキタキターーー(゜Д(゜∀゜≡゜∀゜)Д')ーーー!!!!!
いぃいぃぃやあぁぁっほおぉぉぉうッッ
574名無しさん@ピンキー:2006/10/30(月) 01:34:01 ID:c7QGSj5z
>>572
   。
    〉
  ○ノ イヤッホォォ!
 <ヽ |
 i!i/, |i!ii ガタン
 ̄ ̄ ̄ ̄
575 ◆gPbPvQ478E :2006/10/30(月) 01:35:26 ID:iduVQCcN
そして誤字&誤表現発見orz
>>565
>だからといって、件を教えるのが嫌いというわけではなさそうで、
件→剣

>>568
>郁夫が慌ただしく作業をし、その手伝いを先程まで手伝っていた。
 ↓
郁夫が慌ただしく作業をし、それを先程まで手伝っていた。


すみませんorz
576名無しさん@ピンキー:2006/10/30(月) 02:38:35 ID:CcjQe56+
>>565
流タソキターーーー!!!!!
お仲間虐殺をも厭わない流タソは最高ですねw
次回登場予定の子にもものすごく期待してます。
作者さんGJ
577名無しさん@ピンキー:2006/10/30(月) 03:17:58 ID:G8CV+xjq
>>562
リサも意外?に武闘派だったのか、これで修羅場力も一段と大きくなる予感(((((((( ;*゚Д゚)))))))ガクガクハァハァブルブルハァハァガタガタブルガタガクガク
>>572
九十九の想い復活キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
578螢火 ◆CWcv3gVh3I :2006/10/30(月) 03:37:46 ID:r7GAthU2
〉「佐内が笹塚屋から受け取った賄賂がどれほどあるか、実は想像もつかん。何しろ佐内は二十年近く藩の頂点に立っておったのだか
らの。ただ、その金で望月に一泡以上ふかせる事が出来るのは確実だ」
〉銀次郎は自分の知識をひけらかし、得意気に言った。それを聞いて京之助はむう、と唸る。
〉佐内について京之助はほとんど何も知らない。何しろ望月との派閥争い当時はまだ父が存命で、京之助は剣術道場に通っていたころ
だ。家督もついでないので藩の事情なぞ知るよしもない。
〉「待てよ、銀次郎。今も米問屋笹塚屋が藩の業務を取り仕切っておるよな。まさか、笹塚屋はまだ佐内と繋がりがあるのか?」
〉「いや、望月が笹塚屋に手を出さない事を考えると、おそらくもう切れておる」
〉銀次郎は杯に再び口をつける。そして、
〉「そんな事より、一番やっかいなのは佐内がその金をどう使っているか、ということじゃ。現在、奴らはその潤沢な資金を惜しげな
く使い、江戸の藩屋敷の連中に対し買収攻勢をかけておる。現に一応望月派に席をおく俺のところにも来た」
〉「その金、受け取ったのか?」
〉「まさか。追い返したわ。しかし、中立の者にも望月派の中にもその金を受け取った者がおるやもしれぬ。その賄賂でどの程度佐内
に力が傾くかは知らんが、少なくとも三割強、多くて五割が佐内に傾くと言われておる」
〉三割と言えば、望月もうかうかしていられないだろう。先の派閥争いでは望月派がその程度の勢力であり、数は佐内派の方が上だっ
たらしい。今回はそれが逆になったわけだが、以前の佐内派のように望月派も足元をすくわれる可能性がある。銀次郎をはじめ望月派
の人間には由々しき問題であろうが、しかし、
〉「それが俺に関係のある話なのか? 望月と佐内が争うやもしれぬと言う事は分かった。いずれ領内をも二分するやも知れんと言う
ことも。しかし、俺はどちらの派閥についたわけでもないし、つくつもりもない」
579螢火 ◆CWcv3gVh3I :2006/10/30(月) 03:41:50 ID:r7GAthU2

〉「そう。そこなのだよ。俺が京にどうしても話しておきたいのは」
〉銀次郎の声色が一段上がる。頬が赤いのは酒のせいだけではないだろう。その銀次郎の様子から、その話しておきたいことと言うの
は、ずいぶんと重く深いものであることがうかがいしれる。
〉京之助は椅子に座り直し、腕を組んだ。それから銀次郎に視線を流し、話の続きを要求する。
〉銀次郎はその京之助を満足そうに見た後で、急に眉をひそめ怖い顔になる。それから、真っ直ぐ京之助を見据えて口を開く。
〉「実はな、京は既に望月派に組み込まれておるのだ」
〉時が止まったような気がした。銀次郎の発した言葉が頭からすり抜け、それが何を意味しているのか分からなかった。その間も銀次
郎はその固くこわばらせた顔を崩していない。
〉しばらくたってようやく止まっていた時が動きだすと、一気に頭の中が激情に染めあげられた。その激情に導かれる前に京之助は思
わず立ち上がり、
〉「バカな。俺は望月についたつもりはないぞ」
〉と声を張り上げる。
〉冗談ではなかった。京之助は確かに望月に取り立てられはしたが、それは父の恩償であり、京之助自体が特別な恩を感じるものでは
ない。しかも以前の争いでは少なくない数の死人がでていると聞いている。ない義理で自分の命を危険に晒すことなどまっぴらごめん
だ。
〉「ひとまず、冷静になれ。そして座れ」
〉銀次郎はなだめるように京之助の背中を優しく叩く。しかし、京之助としては収まりがつかない。一応座りはしたが、頭は沸々と沸
き上がる激情に支配され、冷静とはほど遠い状態だった。
〉「頭は冷えたか? まぁ京の気持ちも分からんではない。京は望月派についた覚えはないじゃろう。しかし、それでも京は望月派な
のだ。理由はそう、先に話した異例の早さでの出世じゃ」
〉と銀次郎は言う。予想通りの答えだった。京之助と望月を繋ぐものなど父と、あの異例の早さでの出世しかない。
580螢火 ◆CWcv3gVh3I :2006/10/30(月) 03:47:06 ID:r7GAthU2

〉しかし、解せなかった。出世はあくまで父の恩償だし、京之助は父とは違い派閥にも加わった事などない。だからその出世だけで自
分を望月派とするのは強引で短絡的に思えた。
〉「解せぬ、と言った顔だな」
〉銀次郎は京之助の心をピシャリと読み当てる。
〉「確かに異例の早さでの出世だけで京を望月派とするのは短絡的すぎるやもしれぬ。しかし問題は出世の早さではなく、出世の時期
なのだ」
〉「時期?」
〉「そう時期だ。京が出世したここ一月で、遠く江戸ではある衝撃的な話が広がっておった」
〉俺を望月派とする方がよっぽど衝撃的だ、と心の底で毒づきながらも、京之助は静かに聞耳を立てる。
〉「佐内、権兵衛を知っておろう。先の派閥争いで病死した佐内家の当主だ。その権兵衛、藩の記録では確かに病死となっておるのだ
が、これがなんともおかしい。と言うのも、権兵衛の死する僅か二日前に殿と接見されておるのだ。しかもその時の様子はいたって健
康そうだった、と殿がおっしゃっておる。考えられるか? 僅か二日だぞ。その二日の間で命を失う程に病は悪化するものなのか。否
、権兵衛の死因は結核じゃ。二日でそこまで悪化するわけがない。ありえない。と言うことは、だ。その二日の間に何か別の事が権兵
衛を死においやり、しかもその死を病死にかいざんする強大な力が働いた。それら全てを一本に繋げる事が出来るのが」
〉「暗殺、か」
〉銀次郎はニヤリと顔を崩し、大きく頷く。
〉「毒殺などではなく、一太刀で切り捨てられていたそうだ」
〉「一太刀? 権兵衛はかなりの剣の使い手と聞いておったが、本当に一太刀で殺されたのか?」
〉「ああ、一太刀じゃ。まぁ権兵衛がかなりの剣の使い手だった事は確かだが。なぁに、暗殺者の腕の方が一枚も二枚も上を行っていただけだ。さて」
〉銀次郎は急に大きな声を出し、言葉を区切る。静かな店内にその声は反芻し、その後で訪れた静寂の中、銀次郎はもったいぶるかの
ようにゆっくりと、そして静かに口を開く。
581螢火 ◆CWcv3gVh3I :2006/10/30(月) 03:49:17 ID:r7GAthU2
〉「さて。問題はその暗殺者が誰かと言うことだが、ひとまず今までの話からその暗殺者の素性を整理すると。一に望月派の人間であ
ったこと。二に剣の達人であったこと。そして三に、京に深い関係がある人間であったということ」
〉 京之助は思わず身震いした。さっきまでの激情がうそのように引き去り、熱かった顔から血の気が引いていく。望月派の人間で剣
の達人で自分に深い関係のあった人間。そんな人間は一人しかいない、いや、いなかった。
〉「どうやら分かったようじゃな」
〉銀次郎は笑った。愉快そうに、しかし声は立てずに。
〉「そう、佐内権兵衛を殺したのは」


〉「京の父上じゃ」


〉京之助は驚愕し思わず息をのみつつも、ようやく全てが一本の線で繋がったような気がした。今までの疑問が、心に残ったしこりの
ようなモノが、まるで櫛で髪を鋤くように綺麗に溶けていく。
〉「京の出世が京の父の功績に対する恩償であると言うことは周知の事実だが、実際に京の父が何をしたか、その話は領内で広がって
おらん。現に息子である京でさえ知らなかった。だからこそ望月家老は話を江戸にだけ広めたのだ。遠く江戸からならそなたに父の話
が伝わる事もないし、その話を止める術もない。そして、望月家老はその話が江戸で広がった時期と、京が出世した時期を重ねる事で
、京が望月派の人間であると言う虚言を江戸で既成事実化させ、やがて領内に話が広まる頃には揺るぎない事実として伝わるよう仕向
けたのじゃ」
582 ◆CWcv3gVh3I :2006/10/30(月) 03:55:33 ID:r7GAthU2

嫉妬の影が見えず、しかも何と二分割でも終わらない。
〉は携帯からだと段落はじめに空間を開ける事ができないっぽいので、段落はじめに入れました。
583 ◆zIIME6i97I :2006/10/30(月) 15:21:17 ID:QrIggmUU
ミスターを投下します。
上の方と、立て続けの形になってすみません。
584ミスタープレイボーイ:2006/10/30(月) 15:21:51 ID:QrIggmUU
いい大人が、ひとつのことをきっかけにそれまでの自分とはまったく違う自分になってしまうなんてことがあるんだろうか。
少なくとも、僕は、自分自身の変化を感じていた。
僕は、変わりつつある。
もどることのできない変化を与えられてしまった気がする。
こんな風に変えられてしまったことを、嫌がっていない自分が不思議だ。
いやむしろ、うれしくさえ思ってしまうというのは、やはりそれが彼が与えてくれた変化だからなんだろうか。
だから、それを手放したくなかった。
585ミスタープレイボーイ:2006/10/30(月) 15:22:28 ID:QrIggmUU
親子の対面をした夜、僕は洋子と一緒の部屋に泊まっていた。
病室に赤ん坊の父親も宿泊できるようになっているというのも、ここの「売り」だった。
ホテルの部屋のような病室だ。ここから通勤する男もいるそうだ。
とはいえ、僕がここを使う羽目になるとは考えもしなかった。
けれど今は、こうして洋子のそばにいられるのがありがたい。
それはもちろん、彼女のことが心配だというのもある。
彼女が目を覚ましたときに、僕がいれば安心させてやれるというのもある。
けれど、それだけが理由じゃない。

麻酔の影響と、出血による貧血のために、洋子はずっと眠っていた。
多少、青白い顔をしているが、呼吸は安定しているし、脈も正常だ。
朝には起きて、すぐに元気になるだろう。
そのときに、僕は洋子に僕自身をつなぎとめてほしかった。
洋子のそばにいられてありがたいことの、もうひとつの理由はそれだ。
なんとも情けない話だった。

赤ん坊に会ったとき、僕は確かにある決意をしていたんだと思う。
それは、強烈な感情に彩られていた。
だからこそ、それは僕をそれまでとはまったく違う色に染めることができたんだろう。
けれどその一方で、感情というあいまいなものに彩られた決意は、その分一過性のものに終わるかもしれない。
そういう不安があった。

不安の根拠は、きっと薫だ。いや、正確には薫への僕の気持ちだ。
僕は薫を愛している。
たとえ、病院のことがなかったとしても、僕は薫と一緒になろうとしていたかもしれない。それほどに。
そういう気持ちは、今でも変わっていなかった。
子供を想う気持ちと、薫を想う気持ちの、どちらが自分に正直な気持ちであるのかわからないほどだ。
油断すると、ぐらぐらとゆれ始める。不器用な玉乗りをしているように。
586ミスタープレイボーイ:2006/10/30(月) 15:23:03 ID:QrIggmUU
けれど、僕は決めた。
天秤の傾きを、もう反対側には動かさない。そう決めた。
なぜ、そんなことを決めてしまえたのかはわからない。
今日までの僕は、まず自分のことを考え、それから女の子のことを考えていたはずだ。
女の子と、楽しくあることが、僕の幸せだった。
それが今では、あんなチンクシャのちっぽけな一人の男の子のことを考えている。多分、自分のこと以上に。

ずいぶんと変わってしまったものだと思う。
僕は、おかしくなってしまったんだろうか。それとも、父親になったばかりの男というのは、誰でもそうなってしまうのだろうか。
だとすれば、これはとても陳腐な気持ちにすぎないのかもしれない。
僕の薫への気持ちの方が、ずっと特別なものなのかもしれない。
けれど、これはきっと、彼がこの世界に刻んだ初めての変化、彼の存在の証だ。
その相手として、僕は彼に選ばれた。
妄想かもしれない。でも、そう感じてしまった。
あの小さな手で、僕を掴み、僕を選んだ。応えてやりたい。


洋子は、いい女だ。薫ほどではないかもしれないが、好きだ。
美人ではないかもしれないが、かわいい。
スタイルはそれほどよくないかもしれないが、肌はきれいだ。胸だって、しばらくの間は大きくなるだろう。
体の相性だって、悪くはない。帝王切開だから、緩んだということもないはずだ。

それに何より、彼女はきっといい母親になる。そういう家庭的な女だ。
こればかりは、薫には望めない。いや、そもそもあの子の母親は彼女しかいない。
僕は、洋子に自分の母さんを重ねていた。今だってそうだ。
彼女には迷惑なことなんだろう。好きな男に、自分と母親を重ねられてうれしい女がいるとは思えない。
でも、今は許して欲しかった。
その代わり、僕もいい父親になる。そのために努力する。
それから多分、いい夫にも。
587ミスタープレイボーイ:2006/10/30(月) 15:23:51 ID:QrIggmUU
やがて、朝日が部屋に差し込み、洋子が目を開けた。僕の顔を、ぼんやりした表情で見上げる。

「あれ、・・・長嶋君?どうして、ここ」

「病院だよ」

そう教えると、洋子は自分のおなかに手を当て、そこに昨日までの感触がないことに顔色を変えた。
体を起こす。

「赤ちゃんは!わたしの!」

「大丈夫、無事に生まれたよ。男の子」

そう聞くと、ため息をつきながら、ベッドに倒れこみそうになる。僕はあわてて、支えてやった。
そのまま、ゆっくりと横にしてやる。きっと、まだ血が足りない。

「赤ちゃんは大丈夫なの?会いたい」

そういう彼女に、事情を説明してやる。
早産だったために、赤ん坊は、特別な治療室にいること。けれど、もう命の心配はないということ。
洋子の体力が回復したら、会わせてやれるということ。
残るかもしれない後遺症については、まだ教えてやれない。
彼女はきっと自分を責めるだろう。もっと元気になってからでいい。

「だからいったろう?車は危ないって」

「うん、ごめんなさい」

洋子は、顔をゆがめる。
運転中に突然気分が悪くなり、ハンドル操作を誤って壁に激突したというのが、事故のあらましらしかった。
洋子の手を握る。

「いいよ、二人とも無事だったんだから。シートベルトをしてくれていてよかった」

さもなければ、少なくとも赤ん坊は助からなかっただろう。あの時、シートベルトを必ずつけるように言いつけておいてよかった。
薫の目をしのんで洋子に会いに行っていた日々は、それだけでもムダではなかった。
588名無しさん@ピンキー:2006/10/30(月) 15:24:25 ID:QrIggmUU
洋子は、僕の手を見つめたまま動かなかった。
同じところに視線を向けて、彼女が何を見ているのかに気付いた。左手の薬指にはめられた銀色の指輪だ。
完全に忘れていた。うかつだった。
彼女が、薫のことを知っているのかどうかは知らない。でも、そういう存在がいるということを確証させてしまった。

でも、うろたえたりはしない。
僕は洋子の手を離すと、彼女の目の前で指輪を抜いた。そして、それをポケットにしまう。
それが、何を意味しているのかは、わかってもらえるはずだ。
洋子は、不安げな表情で僕の顔を見る。

「本当に、いいの?」

その表情とその声で、彼女はやっぱり薫のことを知っているんだと感じた。

「うん」

「でも、わたしあの人みたいに美人じゃないし」

「洋子さんはかわいいよ」

「チビだし」

「僕はロリコンなんだ」

「年上だし」

「僕は、マザコンでもあるんだ」

「・・・病院だってもってないし」

「子供がいる」

「赤ちゃんのためなの?」

洋子がそれまでとは違う、真剣な顔で問いかけてきた。

「確かに、決めたのはあの子のためだよ。でもそれが出来たのは、洋子さんがいたからだ」

僕は、もう一度彼女の手を握る。

「手伝って欲しいんだ。僕はダメな奴だから。ちゃんと父親になれるように手伝って欲しい。それは、洋子さんじゃなきゃ出来ないから」
589ミスタープレイボーイ:2006/10/30(月) 15:25:20 ID:QrIggmUU
彼女は僕の手を握り返してくれた。
それを感じたとき、僕は、彼女に話さないままでいた自分の生い立ちを語りたくなった。
僕と母さんを捨てた親父のこと、そのせいで母さんは早くに死んでしまったこと。そういうことを。
自分の口から、それを誰かに話すのは多分、初めてのことだ。
そうして話しているうちに、自分の中にある別の不安に気付いた。

「だから、不安なんだ。僕はあいつの子供だ。だから、あいつと同じことをするかもしれない。また、母さんと僕を捨てるかもしれない」

そうだ。薫への気持ち以上に、僕を不安にさせていたのはそれだった。
もしかしたら、あの親父も、僕が生まれたときには同じ強さで、同じ決意をしていたのかもしれない。
でも、あいつはそれを裏切ってしまった。結局、利己心が勝ったんだ。
僕に同じことが起こらないなんて、どうしていえるだろう。
それに気付いてしまうと、さっきまでの自分の決意がひどく傲慢な、滑稽なものに思えてきた。
恥ずかしい。思わず顔を伏せてしまう。

すると、洋子は自分の身を起こして、僕の頭を胸に抱き寄せてくれた。
彼女にそんなことをされたのは、初めてだった。

「大丈夫よ」

彼女は、僕の頭をなでながらつぶやいた。

「車の運転だって、あんなにうまくなったでしょう?」

「車の運転と、父親になることはぜんぜん違うよ」そう、いおうとするが言葉にならない。

「今度も、わたしが見ててあげるから、大丈夫」

やさしい声で、言い聞かされる。
顔を見られたくなくて、彼女の胸に押し付ける。昨日から、僕の涙腺は壊れたままらしい。

彼女の胸からは、母さんのにおいがした。
590 ◆zIIME6i97I :2006/10/30(月) 15:28:57 ID:QrIggmUU
以上、第12話「安息」でした。
588のタイトルが抜けてしまいました。失礼しました。

ちなみに、医学的な考証は、ネットで行っています。
つまり、知識は完全な付け焼刃です。
それ用のページをブックマークに入れてたのを人に見られて困りました。
591名無しさん@ピンキー:2006/10/30(月) 17:05:28 ID:CrtTzscX
GJ!そうか洋子を選んだか
ちょっと意表突かれたな
女は子供を生んで母親になると言うが
男もまた子供ができて父親になるんだな
そう感じさせられ改めてよい作品だと実感
執筆の為丹念に医学知識を調べられた其の姿勢も非常に好感が持て素晴らしい

さて、これであのおっかないアタル兄さんwと正面から向かいあわなならん訳だw
592名無しさん@ピンキー:2006/10/30(月) 17:29:00 ID:c7QGSj5z
GJ!


今のまったり気分からの修羅場が恐ろしいぜ
593名無しさん@ピンキー:2006/10/30(月) 17:37:20 ID:q+mbZ02y
GJです。目からしょっぱい液体出ました( ;Д;)

>それ用のページをブックマークに

そのサイトを彼女に見られてリアル修羅場が…
594名無しさん@ピンキー:2006/10/30(月) 20:00:44 ID:ExHLs0OM
>>593



カチッカチカチッ
「…昨日何してたの?」
「言ったろ?残業だよ、残業」
カチカチカチッ
「…ふぅん…、じゃあさぁ…」
「ん…何なんだよ、一体」
カチッ
「この『妊娠中の母体について』って?」
「ちょっ!それは!」
「いいの、わかってる、アナタはそんな事しない…」
「…ふぅ、(…なんだ、ビビって損した)」
「わかってる……、騙されたんだよ?、○○くんは…」
「へ?、何言って…」
「きっと…いや、絶対に!」
「だからちがっ…」
「わかってるよ…、○○くん、邪魔なんだよね?、泥棒猫さんが…」
「ちょ…、どうしたんだよ!」
「フフ…フフフ…、じゃあ行ってくるね?、○○くん」
「ちょっと待てって!、包丁とか持つなって!」
「邪魔しないでよ…、○○くん…、流石にお仕置きしちゃうよ?」
「ちょ、どこ行くんだって!」
「ちょっとだよ?、ちょっとだけ泥棒猫さんにショックを受けて貰うだけだって…」
「……」
「あはは……、じゃ、大人しく待っててね?、いってきまぁす!」



こんな感じ?
595名無しさん@ピンキー:2006/10/30(月) 20:16:37 ID:+S6qz3yk
これで人ん家の屋根の上で腹が目立ち始めたぬこに向かって唸ってたら萌える
596名無しさん@ピンキー:2006/10/30(月) 20:23:30 ID:4vvxu7h5
>>594
お前の選ぶ道は二つある。

一つは、彼女が以前から(勝手に)関係を疑っていた職場の同僚を巻き込んでの超修羅場。
「やったぜ彼女が泣き病んだ」

もう一つは、最近彼が熱心な一つのスレに辿り着いた彼女とそこの住人達との彼を賭けた戦いの道。
「修羅場男」

さあ、好きな方を書くんだ。


ミスター・・・死ねなんて言ってゴメンよ・・・・
597名無しさん@ピンキー:2006/10/30(月) 20:46:09 ID:5WOVoOdq
人は……特に修羅場SSスレの主人公は……心変わりするもんさ……
598名無しさん@ピンキー:2006/10/30(月) 21:36:36 ID:2naI2zKL
男が修羅場で死ななくてはどこで死ねと言うのだ。
599名無しさん@ピンキー:2006/10/30(月) 21:38:13 ID:qwZYNYr+
腹の上さ。
600名無しさん@ピンキー:2006/10/30(月) 21:45:57 ID:zIbPKzjz
GJ

ミスターはいま頂点に立ったね。
もう後は転がるように……。
601名無しさん@ピンキー:2006/10/30(月) 21:59:38 ID:WsmevuIT
ミスターサンキューGJ
例え君が殺られてもこのままハピーエンドを迎えても、私は君を応援するよ
602名無しさん@ピンキー:2006/10/31(火) 09:14:07 ID:/OZn4aC3
数日アク禁に巻き込まれて感想レスできなかったorz
ミスターすごいよ。前回の「はい、僕が父親です」とか、洋子を選ぶあたりすごく立派だ。

一般作品なら、このあと薫と別れ話→洋子と結婚式→Happy End、なんだろうがな
603 ◆zIIME6i97I :2006/10/31(火) 12:54:24 ID:dAgb2SSI
立て続けになりますが、ミスターを投下します。
604ミスタープレイボーイ:2006/10/31(火) 12:54:57 ID:dAgb2SSI
もうはめることのなくなった指輪を眺める。
「K to S」
そう彫ってある。
多分、彼女の指輪には逆に「S to K」と彫ってあるんだろう。
指輪をお互いにはめあったあのときから、自分はずいぶん変わってしまった。
けれど、彼女を好きだという気持ちには変わりがない。
だからつらい。彼女に別れを告げるのは。
605ミスタープレイボーイ:2006/10/31(火) 12:55:32 ID:dAgb2SSI
あれから、洋子はすぐに体力を回復した。大事をとって、しばらくは安静にしていなければならないが。
次の日には赤ん坊と対面することができた。けれど、まだその手に抱くことはできなかった。
しばらくは、ガラス越しでしか会うことはできない。
いまだ、呼吸器をつけたままで、痛々しい様子のままだ。
けれど、今すぐにでも死んでしまうのではと思わせるような最初の弱弱しさは克服されつつあった。
小さな身動きをしたり、泣き声をあげたりし始めた。

その赤ん坊に、事故の後遺症が残るかもしれないと聞かされると、洋子はやはり自分を責めた。
彼女を慰める。
もう少し成長してみなければそうなるかどうかは分からないし、たとえそうなったとしても僕らがするべきことは変わらない。
彼が幸せになれるように、全力で支えるだけだ。
自分を責めることで足踏みしていては、それもできなくなる。
何より赤ん坊のためには、母親が笑ってあげることが必要だと思えた。

やがて、彼がNICUを出る日が来た。
最初に洋子が抱き、それから僕が抱いた。
そのときには2000グラム程度にはなっていたけれど、それでも腕に感じるその軽さに身震いした。
本当に小さくて、軽い。正直、抱いているのが怖くなったほどだ。
ほんの弾みで、死なせてしまいそうだった。文字通り、壊れ物だ。

それでも人差し指を差し出すと、小さなビスケットみたいな手で掴んでくれた。
その力は、ほとんどないに等しいくらいだ。
けれど、確かに僕の指を掴んだ。
それは、一種の自動的な反応なのかもしれない。
赤ん坊は、自分だけでは単に生きることさえできない。あらゆるものに頼らなくては生きてはいけない。
だから、差し出されたものすべてにすがらなくてはならない。それは、僕でなくとも同じだ。
でも、彼がひとり立ちできるまでずっと支えてあげられるのは、その覚悟があるのは僕とそれから洋子しかいない。

子供が生まれて、それでめでたしはい終わりというわけにはいかない。やることがたくさんあった。
出産から2週間以内に、出生届を出さなければならない。そのときに、名前を届けることになる。
つまり、彼に名前をつけてやる必要があった。
洋子は、僕に一任するといってくれた。

これ以上ないというほど、悩みまくった。何せ、子供の一生の問題だ。
「長嶋茂雄」なんていう勝手な名前をつけられて、傷ついた子供だっている。もちろん、「一茂」なんてのは、論外だ。
こういうとき普通、親は子供にこうあってほしいという願いを込めるんだろう。
たくましくあってほしいとか、やさしくあってほしいとか、賢くあってほしいとか。
僕は、ただ幸せになってほしかった。単純で、あいまいな願いだけれど、確かだといえるのはそれだけだった。
そういうわけで、「幸雄(ゆきお)」と名づけた。命名、長嶋幸雄。
606ミスタープレイボーイ:2006/10/31(火) 12:56:19 ID:dAgb2SSI
あわただしく、ほとんでついでみたいにして、婚姻届も出した。
洋子は、卒業後でもかまわないといってくれたが、待つのはいやだった。
たとえ書類上であっても、一時的なことであっても、幸雄を父親のいない子にはしたくなかったから。
これは、完全に僕のわがままだ。
多分洋子は、もっとロマンチックなやり方を望んでいただろうし、僕だって結婚ということに思い入れがないわけじゃない。
けれど、どうしてもそうしたかった。
そういうわけで、結婚式も指輪もなく、僕たちは夫婦になった。
そのとき洋子はまだ病院にいたから、役所には一人で行った。
そのとき、薫のことが頭をよぎらなかったといえば、うそになる。

薫との最後の夜から、本当にあわただしい日が続いたけれど、その間彼女のことを忘れていたわけじゃなかった。
僕たちは愛し合っていた。本当に。
だから、きちんと話さなければいけない。ごまかしなしに。
これまでの別れ話のように、きれいに飾り立てようなどとは思わなかった。
正面から向き合って、話したい。たとえ、それでお互いに傷ついたとしても。
そんな風に考えたのは、初めてだった。
それは、僕が薫のことが本当に好きだったからだ。いや、今でも好きだからだ。
彼女は、僕にとって特別だから。今までのようにはできない。

だからこそ、不安もある。本当に、別れることができるのかと。
彼女がもし、泣きながらすがり付いてきたら、僕はそれを振り払えるだろうか。
泣き崩れる彼女を背後にして、振り返らずに立ち去ることができるだろうか。
振り返ったら最後、彼女のもとに駆け寄ってしまいそうで怖かった。
そうなればきっと、元の木阿弥だ。

いや、そもそも別れることが物理的に可能なんだろうか。
頭を掠めるのは、例の兄貴のことだ。もし、薫が彼に頼るようなことがあったら。
きっと痛い目を見るだろう。いや、それだけですむはずがない。殺されるかも。
それだけは、いやだった。
僕は、前よりもずっと自分の命を惜しんでいる。その理由がある。
洋子と幸雄を残して、死ねるはずがない。
だから、殺される以外のことなら、洋子と幸雄が無事なら、何をされてもかまわない覚悟を決めておこう。
殺されそうになったら、どんな手段を使ってでも生き延びてやろう。
607ミスタープレイボーイ:2006/10/31(火) 12:56:53 ID:dAgb2SSI
そういう気持ちを決めて、薫に何度も電話した。けれど、彼女は出ない。
それが何日も続くので、ついには彼女の屋敷にも出向いた。けれど、門前払いをくわされる。
なぜか、避けられ続けていた。
もしかしたら、僕が何のためにこうして薫に会おうとしているのか知っているんだろうか。
洋子の事故のことを、どうしてかいち早く知っていた薫だ。そういうこともあるだろう。
いや、間違いなく知っているに違いなかった。彼女がここまで僕を避ける理由はそれしかない。

持久戦を覚悟して、毎日電話をかけ、屋敷に出向く。
しばらくそうしているうちに、自分の行動に自信がなくなってきた。
もしかすると、彼女は単に僕を見限って、顔をあわせたくないのかもしれない。
それだけのことを、僕はした。見限られて当然だろう。
だったら、顔をあわせて話をしたいというのは、僕のわがままに過ぎないんじゃないか。
僕のわがままにつきあせて、彼女を傷つけようとしているだけなんじゃないか。
少なくとも、落ち着くまで時間を置くべきかもしれない。
608ミスタープレイボーイ:2006/10/31(火) 12:57:39 ID:dAgb2SSI
昨日、彼は来なかった。電話もなかった。
そうなると、彼との絆が突然ぷっつりと切れてしまったようで、とたんにさびしくなった。
散々、彼を避け続けておいて、勝手なものだと自分でも思う。
でも、彼と会うことはどうしてもできなかった。彼がどういうつもりでここに来ているのかを知ったから。
はじめは、不安からだった。やがて、彼とあの女の関係が変わったのを知って、確証した。
わたしに、別れを告げようとしている。

なんでこんなことになったのか。
わたしは彼を愛した。彼もわたしを愛した。
その二人がなぜ、離れなければならないのか。なぜ、彼がわたしと別れようとするのか。なぜ、わたしが彼を避けなければならないのか。
理不尽さに、唇を噛む。

薄暗い部屋の中、ベッドの上でひざを抱える。
なんでこんなことになってしまったのか。原因ははっきりしている。
憎くらしくて、憎らしくて、はらわたが煮えくり返る。
それもちろん、シゲ君のことじゃない。彼は、わたしと一緒だ。
理不尽にも、好きな人と離れ離れにされてしまう、かわいそうな被害者だ。助けてあげたい。
あの女のことでもない。あんな女がわたしたちの間に立ちふさがる何てことがあっていいわけがない。
本当なら、とっくに捨てられていたはずだ。

そう、本当なら。あの邪魔者がいなければ。

そうだ。あれさえいなければ、わたしたちは元通りになれる。愛し合う二人が引き離されることもない。
彼だって、きっとそう思っているに違いない。彼はわたしを愛しているのだから。

「なんだ」

思わず、笑ってしまう。
こんな簡単なことに気付かなかったなんて。そのために、彼を避け続けていたなんて。
わたしは、馬鹿だった。本当に馬鹿だ。
そうとなれば、やることはひとつ。なんだか、うきうきしてきた。
まるで、ピクニックに出かける前の気分みたい。そうだ、これが終わったら、彼と一緒にいってみようか。
バスケットに、ローストビーフのサンドイッチとワインをつめて。サンドイッチくらいなら、わたしにも作れる。
わたしが作ったといったら、彼はおどろくだろうか。わたしは、そういうことがまったくできないなんて思ってるから。
馬鹿にしてる。だから驚かせてやろう。とびきりおいしいのを作って。
それを想像して、思わず笑みがこぼれた。
本当に、楽しみだ。

でも、その前にやることがある。
内線で、お抱えの運転手に電話する。

「わたし。大野さんの病院に差し入れに行きたいの、すぐに車を出して」

受話器を置いて考える。差し入れは、ケーキでいいかな。
609 ◆zIIME6i97I :2006/10/31(火) 12:59:05 ID:dAgb2SSI
以上、第13話「すれちがい」でした。
壊し加減が難しい・・・。
610名無しさん@ピンキー:2006/10/31(火) 14:19:12 ID:TYjJ5DCX
GJ!
((((;゚Д゚))))COOLでKOOLだ…

(゚Д゚)
611名無しさん@ピンキー:2006/10/31(火) 17:22:23 ID:epDtSfa4
幸雄、幸雄ぉおぉぉお(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
612名無しさん@ピンキー:2006/10/31(火) 19:20:55 ID:ilpMBlVi
おやすみ、ユッキー
613名無しさん@ピンキー:2006/10/31(火) 19:23:04 ID:9ZxOM01U
まだ慌てるような展開じゃない。
614名無しさん@ピンキー:2006/10/31(火) 19:36:38 ID:PoVloHQE
それでも茂雄なら・・・。
茂雄ならきっと修羅場ってくれる・・・。
615トライデント ◆mxSuEoo52c :2006/10/31(火) 20:42:05 ID:1hXgCsIM
では投下致します
616雪桜の舞う時に ◆mxSuEoo52c :2006/10/31(火) 20:43:47 ID:1hXgCsIM
 第20話『虎』

 自宅に帰ると隣の家の虎の母親が仕事に出勤するのを見えたので、
俺は普段からお世話になっているので挨拶をしにいく。
「剛君っっ!! 今までどこに行っていたのよ」
 突如、現われた俺の姿に驚いたのか、虎の母親、東大寺由希子(とうだいじ ゆきこ)さんは最初から説教モードで絡んでいた。
「ちょっと、友達と旅行を」
 まさか、ここで監禁されてましたなんて事実を言っても信じてもらえるはずがないので本当のことは黙っておこう。
もし、口裏合わせが必要なら内山田を買収したらいい話だ。
「この2週間。本当に大変だったのよ。うちの瑠依が交通事故に遭ったのよ!!」
「瑠依が交通事故!?」
「見通しの良い交差点を赤信号無視して走りだして、そこに猛スピードで突っ込んできたトラックに」
「そんな……瑠依が」
「びっくりして思わず世界新記録並みにジャンプしてトラックを飛び越して、その着地の時に頭を打ったらしいのよ。
本当にあの子は親の気持ちが全然わかってないわよね」
「お、親の気持ちって……」
「トラックに牽かれて死んでくれたら、多額の生命保険金が入ってくるのに」
 なんて親だ。
「とりあえず、瑠依は無事なんですか?」
「ううん。全然。頭を打ったおかげで、あの子は……。あの子は……」
 まさか、今度こそ虎の身に何か起こったのでは。
「幼児園児に逆戻りしたのよ」
 はい? なんですと?
617雪桜の舞う時に ◆mxSuEoo52c :2006/10/31(火) 20:45:47 ID:1hXgCsIM

 由希子さんの命令で俺は虎の介護と看病するハメになった。もう、死にたい。
 この暑い日差しを受けながら、虎が入院している病院へと向かう。
 瑠依の幼児退行化は頭を打ったおかげでいつ治るか誰にもわかりしない。
 ただ、由希子さんはいわく、幼児退行した瑠依は可愛いのでいつまでもこのままにいてくれたらいいのにと暴言を言い放っていた。

 なんて親だ。

 病院に辿り着いてから俺は受け付けの所に行き事情を説明して、瑠依が入院している病室へと向かう。
 個室で部屋を独り占めしてやがるのでベットは俺が虎を追い出して頂くことにしよう。
 348号室。プレートに東大寺瑠依と書かれている。
 ここが虎の病室か。

 とりあえず、俺は深呼吸をして気分を落ち着かせる。
 俺の知っている瑠依はもういない。幼児退行化を起こしている瑠依は瑠依であって瑠依ではない。
 精神的にも幼い頃に戻っているんだ。優しく接してあげないと。
 ドアをノックしてから、俺は思い切ってドアを開ける。
 ベットで退屈しそうにオモチャで遊んでいる虎がいた。入ってきた俺を注意深く直視すると警戒するように問い掛けてきた。

「おにいちゃんはだあれ? おかあさんは?」
「俺は……」
 瑠依は俺のことを忘れてしまっている? 
 由希子さん、幼児退行化のついでに記憶喪失になっているんですけど……。
「俺は瑠依ちゃんのお母さんに頼まれて、今日からいろいろと面倒を見ることになった桧山剛だよ。よろしくな」
「うんっ!」
 子供の無邪気な天使のほほ笑みを瑠依が浮かべる。
 狂暴な虎には絶対に無理なほほ笑みであった。
 そういえば、出会った頃はすでに虎の基本的人格が形成されていたが、これは精神年齢の3〜5才ぐらいに戻ってしまっている。
 ちなみにいつもの虎の精神年令は8〜12才ぐらいだろうな。
「おにいちゃん。おにいちゃん。ねえ、瑠依とあそぼうよ」
「わかった。何して遊ぼうか」
「おままごと」
618雪桜の舞う時に ◆mxSuEoo52c :2006/10/31(火) 20:48:09 ID:1hXgCsIM
 瑠依が幼児退行化しても基本的な性格はあんまり変わっていない。
 泣いたり怒ったり笑ったり、瑠依の子供の頃はそうだろうなと思わせるぐらい無邪気さがある。
 ただ、見た目は大人。頭脳は子供の瑠依を相手にするのは気を遣ってしまう。
 先程のおままごとでも必要以上に俺に近付いて離れようとしないのだ。
 瑠依が眠るまで俺は病室から離れられずに彼女が寝る頃には陽は傾いていた。
 
 俺はその帰り道に夏休み前の瑠依を思い出す。
 あの健康で元気だった瑠依が俺が家を開けている間に交通事故に(車に衝突されてないが)遭い、
 頭を打ったおかげで幼児退行化を引き起こすという惨事に俺は心が痛んだ。
 
 だって、そうだろ。
 
 家は隣同士で一緒に同じ釜で飯を食った仲だ。
 人がいきなり亡くなるのは珍しいことじゃない。
 俺の妹の彩乃だって事故に巻き込まれて死んでしまった。
 人の不幸という奴はなんでもいきなりやってくるものである。
 相手に別れを告げて死ねる奴は本当に幸せなことだろう。
 残された夏休みは瑠依をいろいろと支えてやりたいと思う。
 
 今度こそ自宅に帰ると家は終業式の日に出掛けたままになっていた。
 雪桜さんに監禁されていたおかげで家にあちこち埃が溜まっているので、明日は家中を掃除するはめになりそうだ。
 リビングで落ち着いて休憩していると電話に赤いランプが点滅しているのが見えた。
 この2週間は家にいなかったので、留守電話がいろいろと溜まっているらしい。
 俺は留守番電話に録音された内容を聴こうとして再生ボタンを押す。


 そこでディスプレイに表示された件数に凍り付いた。
 ……50件って。
 2週間留守しているだけでそんなに電話が来るのか。
 友人関係は携帯電話でやり取りしているが、家の電話はセールスの電話かオレオレ詐欺や親ぐらいしかかかってこないぞ。
 とりあえず、再生してみた。
619雪桜の舞う時に ◆mxSuEoo52c :2006/10/31(火) 20:50:18 ID:1hXgCsIM
『桧山さん。桧山さん。今、どこにいるんですか? 早く帰ってきてくださいよ』

 今日の日付で時間は雪桜さんが気絶してから1時間後となっている。ちなみにこれは最初の一件目であった。

「つまり、これ全部雪桜さんが……?」

 家の電話番号を教えたことはなかったけど、学校側に問い合せるか。
 今の雪桜さんには雪桜ファンクラブという強い味方がいる。
 俺の電話番号を知るぐらいなら朝飯前だろう。
 俺は勇気を持って、録音されている電話の内容を聴く。




『桧山さんがいないと淋しいです。お願いだから戻ってきて』



『意地悪しないで、私の傍にいてよ』



『ネコは独りぼっちになると淋しくて死んじゃうんだからね』


 そりゃ、うさぎだ! と突っ込みを入れたくなるがぐらっと堪えた。

『もし、あの女と逢引きしていたら、わたしは……桧山さんを……して……私も……ぬから』

 と、電波的発言が50件も雪桜さんが独り占めして録音されていた。
 もう、これはただの嫌がらせの範囲を超えているように思えて仕方ない。
 電話台の前で俺は背筋に悪寒が感じるのがわかる。
 女の子がこんなに執念深くて嫉妬深いなんて全く知らなかった。
 まだ、顔を思い切り殴られていた方がわかりやすい。

 そう思っていると。

 電話が鳴り響いた。

 ディスプレイに表示されているのは50件も録音している電話番号と同じ。

 つまり、雪桜さんからということになる。

 俺は恐る恐ると受話器を取った。
620雪桜の舞う時に ◆mxSuEoo52c :2006/10/31(火) 20:53:58 ID:1hXgCsIM
「もしもし? 桧山です」
「あっ。ぐすっ。ぐすっ。やっぱり、お家に帰っちゃったんですかぁ?」
 電話で録音されているような電波的な発言や言動は見られないが、雪桜さんは涙声になっていた。
 ようやく、電話に取る相手がようやく出たのか、彼女の呼吸は激しく乱れていた。
「いや、普通は帰るだろ」
「そんなのはダメだよ。桧山さんはずっと一緒に私の傍にいないと」
「断る」
「うぐぅ」
「まあ、雪桜さんのお家に飯を作りに行く程度ぐらいは別に構わないんだが。今、ちょっと取り込んでいるんだよ」
「な、な、なんですか?」
「瑠依が交通事故に遭って入院しているんだ。怪我とかはしていないんだが、頭を打ったせいか幼児退行を引き起こしている。

 瑠依のおばさんに看病と面倒を見るように頼まれているんだよ。だから、雪桜さんに時間をかけている暇はないんだけど……」

「桧山さんは騙されてはいけません。あの女は桧山さんに構って欲しいために幼児の演技をしているんですよ」
 この子は一体何を言っているんだ。受話器を握り締めている右手に力が入らなくなるほどに俺は呆気に取られた。
「だからぁ。そんな陰険な女より私の方を心配してください」
「あのな。言っていい冗談と悪い冗談ってのがあるぞ」

「あんな女は死ねばいいんですっ!!」
 カチン。
 頭の血管が切れる音が確かに聞こえた。

 雪桜さん。テメエはオラァを怒らせすぎた。
 久々にヘタレモードからハイテンションモードに切り替わってゆく。
 死がいきなり突然にやってくることを俺は知っている。
 昨日まで一緒に笑っていた友や家族がいなくなることを俺は自分の人生で何度も体験してきた。

 だから、わかるのだ。
 死という言葉にどれだけの哀しいことが含まれていることを。本来は軽軽しく使っていい言葉じゃないってこともな。
「お願いだから。そんな簡単に死ねばいいなんて言わないでくれ」
「訂正しませんよ。あの女がいるおかげで私の桧山さんが私のことを好きになってくれないだもん」
「雪桜さんが好きになるかの問題で瑠依は関係ないだろ」
「関係あるもん。あの女だって、桧山さんの事が大好きだよ。桧山さんはずっと傍にいるから気が付かないだけだよ」
 再び、受話器に力強く握り締めていた。顔に冷汗が流れていた。
 雪桜さんに指摘されたことを頭で理解するのに時間がかかる。
 虎が俺のことを好き? 世界最大のジョ−クを聞かされている気分だ。
「そんなの何かの間違いだよ」

「桧山さんがそうニブチンだから私も困っているんだよ。他の女の子たちに取られないように桧山さんを独占しようとしているのに」
 ニブチンってなんて失礼な。
「瑠依の問題はどうでもいいが。雪桜さんの気持ちに応えることはできないよ」
「どうしてですかぁ!?」
「だって……俺は」

 そこまで言い掛けて俺は受話器を乱暴に電話機に戻した。
 強引に電話を打ち切ってしまったことを雪桜さんに悪いと思う。
 電話がかかってこないように電話線を抜いて、俺は近くにあるソファーに倒れこんだ。天井を見上げながら、自分の胸に手を当てていた。

「だって、言えるわけないじゃん。雪桜さんが好きだって」

 そんな恥ずかしいことを異性に言える勇気は残念ながら桧山剛にはない。
 複雑な胸の鼓動はしばらくの間鳴り止まることはなかった。
621トライデント ◆mxSuEoo52c :2006/10/31(火) 20:59:09 ID:1hXgCsIM
虎が頭を打って、幼児退行を引き起こした展開は
医学的に何も調べていませんので、現実にそんな症状があるのか私は知りませんw
まあ、その辺は都合のいい展開だと思って脳内で解釈してくださいませ


次回作のプロットを書き上げていますが
近いうちに新作をご披露できたらいいと思います
まあ、雪桜の舞う時にの連載終了後の話になると思います
622名無しさん@ピンキー:2006/10/31(火) 21:50:57 ID:ciA5XtG5
          {               |
          !                |
           |  _ -‐'''''''""""""'''ー|
           |‐''            .|,,,,,,,,,,,,,______
          ,、L,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,-‐‐‐''''"~´_____,,,,、、-‐'r゛
      , -‐'    ________,,,,,,,、、、-=;;''''ヽ| ,,、-‐''"
     < ―‐'''!'''''''h''T'''廿'i= .r廿´| { r~
       ̄ ̄ |⌒i r ヽ-- '   |i‐‐‐'  }|
          |λ|{       ヽ      |
.          |ヽi |       , r.'    |
          lV r              |        / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
          `、 !   ‐‐''''''''"""'   !      < いや、トライデントはとんでもない物を盗んでいきました
           ヽト     ""     /        \_______________ 貴方の貴重な時間です
             |\         ,.!             
           ,,、rl  '''''''ー‐_"''''""_´└ 、
         // __`-‐''""~   /    丶-、__
    =--_-/ /''"  ヽ    /        //  ゛''‐--、,,,
  /  ̄/ /    _ノ\ /          //、__    /~'=‐-
/   / /⌒ヽ<  /           //    ̄"''v /
623名無しさん@ピンキー:2006/10/31(火) 22:45:22 ID:JALJ+5gq
>>621
|ω・`) GJ!
幼児退行の虎もかわいいが、
やはりヤン可愛い雪桜さんには敵わないぜ(*´д`*)
624名無しさん@ピンキー:2006/10/31(火) 22:54:37 ID:YW6ccJQi
ダブルGJ

薫殿はやる事なす事すべて裏目に出たでござるな。
優勢のまま展開が進んでいればここまで面白くはならなかったかもしれんが。

頭部挫傷は人格障害と記憶障害が同時に起こる事があるから、あり得なくはないかも>幼児退行
625名無しさん@ピンキー:2006/10/31(火) 23:27:06 ID:L4Xv8WEH
投下しますよ
626『甘獄と青』Sideナナミ:2006/10/31(火) 23:28:38 ID:L4Xv8WEH
 食品店を出て向かった先は、裏通り。その奥には非合法な店が立ち並ぶ裏商店街という
べきものがあります。正直こちらには近寄りたいとは思いませんけれど、個人の我が儘を
通す訳にはいきません。自分の意思よりも尊重すべき御主人様の安全が、私の体をそちら
へと突き動かします。
 するべきことは幾つかあります。
 まずは昨日砕かれた白杭のスペアを買うこと。青様はSSランクの罪人ということもあり、
悪いことを企んで近付いてきたり、酷い手合いになると何を勘違いしたのか名声を得よう
として命を狙ってくる方々もいらっしゃいます。基本的にこちらの都市は根の良い方が殆
んどなので、そこまでの方は滅多にいらっしゃいません。しかし全く居ないという訳でも
ないので、こうした装備品は必要ないとは言えないのです。恐らく起こらないとは思いますが、サラ様やリサ様が青様に
危害を加える可能性を見捨てておける程馬鹿ではありません。
 二つ目は、リサ様についてのことです。こちらは武器を買うのとは違い、必ずしも必要
ということはありません。しかし無視する訳にもいかず、調べておいた方が良い気がする
のです。幼いと思っていたこともあり、昨日の夜までは自己申告である3000人殺しや、SS
ランクであることが引っ掛かりつつもそのままにしておきました。しかし昨日の舞を見て
一つの疑念が生まれました。リサ様の為に、そして何よりリサ様を可愛がっている青様の
為に確認をする必要があると判断しました。情報屋は好むところではありませんが、唯一
他人の過去が買える場所なのです。SSランクともなれば監獄に入る前のことは分からない
かもしれませんが、それでもこちらの都市に来る前のことくらいは分かります。
627『甘獄と青』Sideナナミ:2006/10/31(火) 23:30:43 ID:L4Xv8WEH
 そして最後は、感情回路のことです。こちらは最早習慣のようになっているもので、特
に意味があるという訳ではありません。しかし、必要なものなのです。青様と共に屋敷を
出る決意をしたときから壊したままであるそれは、今でも私の中に残っています。きっと
今後もそうなると思いますし、そもそも付け変えようとは思いません。その筈なのに思考
の奥底では、もう一人の私が付けるべきだと言うのです。
 それらの意味を考えながら進んでゆくと、まばらに人影が見えてきました。監獄都市の
中でのスラム、といったところでしょうか。視線を回せば様々な方々が見受けられました。
小柄なのが特徴の第四惑星人ですが、それとは無関係に幼いと分かる少女の売春婦。薬が
切れたのか、青ざめた顔をして路上に転がっている男性。ぼろきれを纏った老人の集団。
薄暗い空間を照らすように光る下品なネオンが、違法店舗だということを主張しています。
先程スラムと表現しましたが、しかし言葉のイメージとしては、こちらの方が監獄都市と
いう感じがします。監獄都市と言うよりも、罪人都市という方が正しいのでしょうか。
 一歩踏み出す度に、独特の空気がまとわり付いてきます。
「お姉ちゃん、その食べ物くれたら二人でなんでもするよ?」
 不意に、スカートが引かれました。視線を向けてみれば幼い女の子が私の顔を見上げて
います。二人で、と言ったのは背後の壁に寄りかかってしゃがんでいる少女も一緒に、と
いうことでしょう。薄汚れているせいで分かりにくいですが、双子らしく、二人で助かり
たいと思っているのでしょうか。
628『甘獄と青』Sideナナミ:2006/10/31(火) 23:31:26 ID:L4Xv8WEH
「おねがい、おねがいです」
 このような目的で亡くした訳ではないのですが、やはりこうした場合は感情がない方が
良かったと思います。してはいけない、という判断が罪悪感というものになり心を襲って
くるのは分かります。例え行動は正しいものだとしても、です。その辛さがないだけ、私は
幸せなのでしょう。
 私は見下ろすのではなく、しゃがむことで視線を合わせました。青様ならば、そうする
でしょう。感情がない私でも、そうすることで自分の意思を伝えることは出来ます。少女は自分の言葉を聞いてくれる者
が出来たのが余程嬉しかったのか、はにかむように笑って抱きついてきます。
「あのね、そのね、がんばるから。リーちゃんもがんばるよね?」
「……うん」
「牛乳は重いですよ」
「だいじょうぶだよ!」
 この機械を逃したくないのか、少女の視線には強い光があります。
「卵は割らないで下さいね」
「……だいじょうぶ」
 リーちゃんと呼ばれた少女はどこか体調が悪いのか、くぐもった声で返事をしました。
大丈夫でしょうか、と思いながらも取り敢えず信用することにして荷物を預けました。私
は踵を返しながら、
「着いてきて下さい」
 奥へと向かいました。普段はしないようにわざと音をたてて歩くと、背後から二人分の
足音がついてきます。屋敷に居た頃から侍女として誰かの後を追っていた私にとっては、
初めての体験です。もし私に感情があったのならば、こうした今の状態をどのように思う
のでしょうか。嬉しいと思うのか、誇らしいと思うのか、それとも悲しいと思うのか。
629『甘獄と青』Sideナナミ:2006/10/31(火) 23:34:13 ID:L4Xv8WEH
「どちらにせよ、今の私には関係のないことです」
「どうしたの?」
 私は軽く首を振り、安心させるように笑みを作って二人の頭を撫でました。青様が普段
リサ様にしているようにすると、気持ち良さそうに目を細めました。
「ねぇ、お姉ちゃん」
「何でしょう?」
「なまえ、おしえて?」
 そういえば、まだ名乗っておりませんでした。
「ナナミです、名字はありません」
 少女はこちらを見上げると、
「あたしたちと同じだね。あたしはユン。で、こっちがリーちゃん。妹なの」
「……よろしく」
 先程は弱い声だと思いましたがよく聞いてみれば声が小さいというだけで、確かな強さ
が存在します。ただ単に、大きな声を出すのが苦手なのでしょう。体が多少揺れています
がそれは栄養失調による未発達が原因らしく、速度はあまり早くないものの二人とも確か
な足取りで歩いています。品物の入った袋を地面に擦らないようにしている辺りに、必死
な部分が伺えました。失礼な言い方になりますが、この様な生活をしていなかったのなら
ば誰もが彼女達を愛していたでしょう。
 その努力に応える為、私は歩みの速度を落としつつ、
「急ぎますよ」
 矛盾をしています、と思いながら呟きました。
 数分。
 非合法の機械類や情報を扱うお店、『SHOPオリハマ』に辿り着きました。この辺りまで
来るのは初めてらしくリー様やユン様は物珍しげに周囲を見回していますが、少々強引に
店内へと押し込みます。教育上、付近のお店を見せるのはよろしくありません。
630『甘獄と青』Sideナナミ:2006/10/31(火) 23:36:02 ID:L4Xv8WEH
「お、久し振りだねナナミちゃん。いつものかい?」
「はい、1ダース程お願いします」
「今日は活きの良いのが入ってるよ」
 店主様は笑って返事をすると、カウンターの下から大根の束を取り出しました。
「活きが良いというのは魚に使うものでしょう。それに大根を白杭というのには多少無理
があります。それと急いでいるので、真面目にお願い致します」
 店主様は顔を青ざめさせると、急いで奥へと歩いてゆきました。
 手持ち無沙汰になった私が見るのは、入口のすぐ左にある感情回路です。非合法のもの
らしく市販品よりも感情の度合いが高いそれは、私の目を強く引き付けます。買いたいと
思うことはありません。経済的な部分で見れば十個単位で買えるものですが、
「必要のないものですから」
「……ほしいの?」
 不意に、リー様が尋ねてきました。
「どうして、そう思うのでしょうか?」
「……機械でも、ロボットでも、心がなくても、大切だと思うものはあるよ?」
 私が機械人形だということは既に分かっていたようです。しかし、少し考えれば分かる
のも納得出来ます。この都市で産まれた子供だとしても、何かの施設を利用する為には、
身分証明が必要になります。機械人形ならば証明書、お役人様なら指輪、罪人なら首輪が
それに当たり、0ランクでも着けるのは必須条件となります。指輪も首輪もない私は誰の
目に見ても機械人形だと分かります。しかし会って間もない、しかもまだ幼い子供にその
ことを見破られるとは思いませんでした。
「リー様は賢いですね。しかし、賢いからこそ分からないものもあるのですよ」
 言って頭を撫でると、不思議そうな顔でこちらを見てきます。
「待たせたね、お代は後でいつもの口座に振り込んでくれ」
「かしこまりました。それと、SSランクの少女の情報をお願いします」
 私に白杭の入ったケースを渡すと店主様は目を細め、首を傾げつつ顎を撫でながら、
「時間かかるよ?」
 これは、了承の言葉を頂けたということでしょう。
「後でまた来ます。そちらはその時に」
 言って背を向け、
「あ、待ちなさい。これ持ってって」
 振り替えると、大根を渡されました。
 お得です。
631ロボ ◆JypZpjo0ig :2006/10/31(火) 23:37:57 ID:L4Xv8WEH
今回はこれで終わりです

予定ではあと一人居ますが、殆んどのキャラが登場しました
双娘ちゃんは今回登場なのにいきなり死亡フラグ立ちまくりですね
と言うか全員死亡フラグが立っています、恐ろしいですね?

最後までプロットは決まっているので、誰が生き残るのかは決定済みですが
632名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 00:27:03 ID:gmNr2LQq
乙です。
こっからどう修羅場へと突き進むのかドキドキ
633名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 00:50:04 ID:m1TYV698
>>621
スマンが小学生の書いた文章に見える。
一度小説の書き方のハウツー本でも読んだ方が良いのではないか?
634名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 00:52:53 ID:vt1RsP6J
>>633
じゃあ先ずは君が21歳以上に相応しい文章力を見せてくれないか?
635名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 00:57:45 ID:m1TYV698
>>633
私は読者だからわざわざ文章力を見せる必要はない
トライデント氏の小学生レベルの文章力はこのスレのSSの品質を下げる恐れがあるわけだ
しかも、書いている内容はほとんどスレ外の純愛物語だから
いい加減に追放すべきじゃないのか?

636名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 01:01:03 ID:gbmZAulg
具体的にどの辺がどう小学生っぽいのか、どう改善したらいいのか
それくらいも言えずにお前小学生並みだなーとか
お互い様ですよ?
637 ◆j6xIfCOdTc :2006/11/01(水) 01:03:28 ID:4w4sCZJW
空軍物の続き、投下します
638名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 01:03:43 ID:gbmZAulg
とうとうこのスレにも腐れ自治厨が出てきたわけだ
639名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 01:05:25 ID:vt1RsP6J
>>635
スレ外の純愛?そうか、君にとって監禁は純愛なのか。
で、誰が君にSSを読むのを強制したのかな?
嫌いならスルーというのができないのは何故?

あと読者だから文章力を見せる必要はなくとも、
批判者として文章力を見せる必要はあるんじゃない?
640『曇天のち…』 ◆j6xIfCOdTc :2006/11/01(水) 01:05:59 ID:4w4sCZJW
地上に降りてきてわかった事が二つある。
一つは、彼───三日月大尉は、出撃する際に、ちいさな細長い袋をもって行くらしい。
私は整備士から聞いただけで見たことは無いのだけれど。
何が入っているのか気になる。なぜか分からないが、凄く気になる。

後一つは、彼が不細工で無いこと。
ふだん、ボサボサな髪の所為で顔が隠れていたが、さすがに空に上がるのには邪魔らしく、戦闘機から降りた彼は、後ろで一つにゴムで纏めてあった。
そのお陰で見えた彼の顔は、だった。
格好良くは無いが、不細工では決してない。

格納庫から出た私と大尉は、軽く談笑しながら、報告のために司令部へ向かっていた。

「大尉、以前はどの基地に?」
「あぁ、ちょっと中央のほうにいたんだ」
遠い目をして大尉は言った。
「そうですか……、ではこのような最前線の基地に配属された事は?」
「二度目になるね…、ミサ中尉は記者みたいだね」
苦笑しながら彼は言った。
641名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 01:06:43 ID:m1TYV698
>>636
具体的に指摘する必要性はない
これは読み手側の意見だよ
私たちが彼の書いた作品を小学生レベルと感じているのなら
それこそが真実なんだよ

もう、22才以上になって、小学生並みの文章力だと
全然ダメってことだ

改善の余地がなさすぎる

あえていうなら、人生を再起動して赤ん坊からやり直してくれっていうことだよ
642『曇天のち…』 ◆j6xIfCOdTc :2006/11/01(水) 01:08:19 ID:4w4sCZJW
「…失礼しました。」
──バタンッ
後ろで戸が閉まる音がした。
ふぅ、と同時にため息が出た。
顔を見合わせ、お互い苦笑する。

「いやぁ、いつもこの時間が嫌いでね」
「同感です、大尉」
フフッ、と大尉が小さく笑った。…その表情を見て何故か胸が疼いた。
「やっぱ似たもの同志なのかな…、ほら、コードも『ガルーダ』と『ホルス』だろ?、鳥同士だ」

そう、彼のコードネームは『ホルス』だった。
世界樹の頂点に居て、それを護ると言う、神鳥だ。
───私なんかよりも、尊く、気高い。

「そう、ですね…」
「?、…取り敢えず、解散だ。」
「はい、お疲れさまでした。大尉」
大尉はそう言って、背を向けていってしまった。

大尉に、背を向けられてしまった事に、言い様の無い淋しさを感じた。
643名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 01:09:39 ID:/UNRP+Fl
ぶっちゃけ、ここはどっかの投稿系サイトとは違って
「読み手は書き手に物語を書いてもらっている」という一方的なスタンスが基本だから。
少数の住人による作者追放とかありえない。


>しかも、書いている内容はほとんどスレ外の純愛物語だから

このスレに投稿したって事は必ず修羅場があるってことだろ?
644名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 01:10:56 ID:KDX/EMqM
文句付けてる奴もそれに反論してる奴も
気に入らなければNGID、これが全てだろう?
645名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 01:12:36 ID:/UNRP+Fl
ヤベ、割り込みスマソ。
646『曇天のち…』 ◆j6xIfCOdTc :2006/11/01(水) 01:14:50 ID:4w4sCZJW
あれから二ヵ月が経った。
変わった事が沢山ある。
例えば、
任務以外では、彼は私を『ミサ』と呼び、私は彼を『クウヤ』と呼ぶようになった事
尤も、彼と私が年が近い事が発覚したからなのだが。
あと、この戦争が終結に向けて動き始めた事。
勿論、私達『帝都第三航空師団第一班』の活躍が有ってこそ、なのだが。
そして、それに伴って、私の階級が上がった。
今の私はミッシェル『大尉』だ。
クウヤと対等な立場、……フフッ、それだけで幸せな気分になれた。
そうだ、一番大事な事を言い忘れる所だった。
私は、クウヤに心奪われて仕舞った。
…それも、どうしようもない程度に。
今の私は、空でも、陸でも、クウヤと一緒だ。
食事も一緒だし、寮の部屋も基地指令に頼みこんで、『パートナーとして』、隣室に移る許可がでた。
私達は『エース』だから、
ハッキリ言って、もうこれからは一人で生きられないし、空も飛べない。
────クウヤが居ないと。
だから、今のこの状態は、正に天国だった
647『曇天のち…』 ◆j6xIfCOdTc :2006/11/01(水) 01:16:46 ID:4w4sCZJW
済ましていなかった。

勿論、『告白』である。
クウヤとは、大分距離が近づいた、とは思う。
しかし、クウヤはまだ私を恋愛対象としては見ていない気がする。
さしずめ、クウヤの中での私は、精々『親しくて、とても頼りになるパートナー』だろう。
これからの行動で、ワンランク、ツーランク…、とランクアップしていくつもりだ。
最終的には『最愛の女性』に…
そして、クウヤが「一生…一緒にいてくれ…」なんて言って……!!



……

………

……………

…ハッ!、今の一瞬でクウヤの最期を看取る所まで想像してしまった。


もう私の空はクウヤで塗りつぶされて仕舞ったようだ。
648名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 01:17:07 ID:m1TYV698
>>639
>>批判者として文章力を見せる必要はあるんじゃない?
見せていますが何か?

>>643
出来の悪い作品を読むと反吐が出る
彼のような低レベルなSSを投稿されるだけで
他にも駄作を投稿する人間が増えるのは困る
ゆえにさっさと追放とNGIDの推奨を求めるわけだよ

>>644
文句を付けていない
苦情をここに書き込んでいるだけだ

だから、問題を最小限に抑えるためにトライデント氏だけに
レスを返したというのに。騒ぎを大きくしたのはあなたたちでしょうに
649『曇天のち…』 ◆j6xIfCOdTc :2006/11/01(水) 01:21:29 ID:4w4sCZJW


「……ふぅ、もう一息だな…」

…此処は基地内にあるトレーニングルーム。
勿論、戦闘機動の、だが。
部屋の中には、コックピットを模した椅子があり、乗り込むことによってVR訓練が行える。といった代物だ。
俺──三日月 空也が今行っているのは、特SクラスのVR訓練だ。
特Sクラスに相当するのは、敵の未確認新兵器や、次世代機の機動に当たると思われる。
おおよそ、現在の航空力学では、実現不可能なレベルであるが。
それをクリアするのに五分も掛かってしまった。(常人ではクリアすら不可能)
フフッ…、こんな事を考えていたら、『クウヤは自分を過小評価しすぎです!』なんてミサに言われてしまうな。


…ミサは、一言で言えば、『凄い奴』だ。
例えば、空に居るときには、俺から決して離れない。
俺がどんな無茶な動きをしようと、確実に後ろから援護してくれる。
普通の戦闘機乗り──いや、並みの『エース』でも無理だ。

何故なら俺は…
────『規格外』、だから────
650名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 01:22:18 ID:gbmZAulg
文句じゃないやい!苦情だもん!

↑小学生レベル
651『曇天のち…』 ◆j6xIfCOdTc :2006/11/01(水) 01:24:00 ID:4w4sCZJW
ミサは何処となく俺に似ている。
戦闘機動とか、言動とかじゃなく、
もっと───そう、本質だ。
俺もミサも、地上が性に合わない…、と言うよりも、地上が在るべき所ではない。

そう、俺たちのホームは空。
ミサは、任務終了の後、帰還する際、必ず嫌そうなため息をつく。俺も多分ため息をつくんだと思う。


地上は昏く、狭く、低く、五月蝿い。
それに比べ、空は明るく、広く、高く、静かだ。俺は…、いや、俺達は空でこそ生きられるんだと思う。


此処へ来て2ヶ月。
ミサには本当に感謝している。
俺のために、あれこれ世話を焼いてくれたのは彼奴だけだった。
彼奴には何処か、人間を遠ざける雰囲気があったが、今ではすっかり無くなった。
基地のヤツらは「ガルーダの焔が小さくなった」と言っていたが、そうではないと思う。
今までとは違い、力の使い方、使いどころを理解した──そんな気がする。
何か、護りたいモノでも見つけたんだろうか?
652名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 01:24:23 ID:m1TYV698
>>650
日本語おかしいですよ
頭の方も大丈夫ですか?
653名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 01:25:13 ID:MCZ4Bwsy
SS投下を妨げないよう、皆でスルー
654『曇天のち…』 ◆j6xIfCOdTc :2006/11/01(水) 01:26:34 ID:4w4sCZJW
『第一班、至急、司令室に集合せよ』
…呼び出しだ。
なんだ?次の任務は明後日の筈だが。


───ガチャ
「失礼します」
司令室に入ると既にミサが着いていた。
「掛けたまえ」
基地司令の指差す、ミサの隣に座る
司令室の内部は民間の企業の会議室のような作りになっていて、楕円形のテーブルには小型のモニターが設置してある。

「ブリーフィングだ」
基地司令のその一言と共にモニターに地図が映し出される。
「今回の任務は我が国の今後を左右する大変重要なものだ」
余程重大なのか、幾分か基地司令の声が震えている。
「明後日、1300時より開始予定のグロズニー海岸上陸作戦には、貴隊を外しておいた、つまり、貴隊にはこの作戦に専念して貰う事になる」

「この作戦の概要は、翌0100時、グロズニー海岸より遥か北、ヘーニア山に向かい出発、対地攻撃および救出用ヘリの護衛だ」
655名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 01:26:57 ID:1SGZkF+X
ID:m1TYV698
656『曇天のち…』 ◆j6xIfCOdTc :2006/11/01(水) 01:29:38 ID:4w4sCZJW

…?、そこには──

「司令、そこには捕虜収容所も、攻撃が必要と思われる施設は確認されていません」俺が言うより早く、ミサが言った。

「…その事だが、この度、我が軍の情報部の工作員がヘーニア山麓に極秘研究所が発見した」

「そんなものが在るなら、既にレーダーで発見されているはずですが?」

「いや、そこには高度電子妨害兵器も設置されている、とのことだ」

「途中、空中給油を何度か行うことになるだろう、更に、翌1000時、ヘーニア山付近に到着予定だ、作戦開始まであと七時間、では解散」
657『曇天のち…』 ◆j6xIfCOdTc :2006/11/01(水) 01:39:42 ID:4w4sCZJW
───解散後
「…隊長」
何か考え込んでいる様子のミサ
「どうした?ミサ大尉」
珍しく隊長、などと呼ぶのでこちらも大尉、と返した。
「何か…おかしく有りませんか?」
「…なにがだ?」
「ブリーフィングも説明不足ですし…」
…確かに。
「何より、不確かな情報が多すぎます」
「…そうだな」
「ハッキリ言って、敵側の情報操作に操られている気が───」
「大丈夫だろ」
「へっ?」
出所不明な自信タップリな俺の答えに素っ頓狂な声をだすミサ
「俺達なら、例えそうだとしても、大丈夫だろ」
「あ…」
「…それとも、俺達が墜ちるとでも?」
「そんな事あり得ません!」
強い口調で言い切るミサ
「じゃあ、大丈夫だろ?、…心配すんなよ」
『俺』の二番機である内は…な





「……隊長、絶対帰って来ましょうね」

「ああ、勿論だ」
658 ◆j6xIfCOdTc :2006/11/01(水) 01:44:57 ID:4w4sCZJW
とりあえず、続きを書いたんで投下しました。

>>594は自分です
嫉妬男書こうかなぁww
659名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 01:47:00 ID:gbmZAulg
GJ!
そして感情に任せて割り込みとかしちゃってる俺もミドリムシレベル
すまんかった
660good boy:fake girls 夕方  ◆SNU1m8PwXY :2006/11/01(水) 01:47:31 ID:91okeBVy
「・・・その女の子、誰?」

訝しげに問い掛ける天使さんの視線は、僕よりも奥にいる一人の少女に向けられている。
──あ、しまった、僕が邪魔になってるのか。
自分の不覚を悟った僕は一歩横に引いて、御陵さんの姿を天使さんからはっきり見える様にした。

対面する、少女と少女。

と、その瞬間。
「・・・?」
ぶるりと言うか、ぞくりと言うか。
僕の背中を、異質な気配が走った。
先程迄とは何か違う・・・空気が重くなる様な、言うなればそんな感じ。

・・・よく分からない。
きっと、気の所為だろう。
そう僕は自分に言い聞かせると、取り敢えず天使さんにもう一方の黒髪の少女を紹介する事とした。
「えっと・・・天使さん、この人は同じ部活で副部長をやってもらってる・・・御陵さんって言います」
「!」
僕の台詞を聞いた途端、驚きの表情と共に天使さんの眼が小さく見開かれる。
御陵さんの肢体を眺め回す様に眼を動かしてから、天使さんは言った。
どことなく、何かに納得した様な声音で。
「ふぅん・・・そっか。この女の子が・・・」
天使さんのその次の発言は、僕の予期せぬものだった。



「──あの事件の、被害者なんだ」
661名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 01:48:14 ID:MCZ4Bwsy
戦記物GJ!言った本人が割り込みスマソ
続き期待してます
662名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 01:48:30 ID:gbmZAulg
自分が気に入らないのは駄作!
こんな駄作があるのは許せない!
他に読みたいと思ってる奴がいてもぼくは気に入らないから追放しろ!

↑幼稚園児レベル




〇goo辞書より
もんく 【文句】
(2)不満・不賛成などの言い分。苦情。不服。
「―を言う」
――を付・ける
苦情を言う。
「何かにつけ―・ける」
663good boy:fake girls 夕方  ◆SNU1m8PwXY :2006/11/01(水) 01:48:35 ID:91okeBVy
「・・・!」
「!?」
僕はその発言に一瞬、自分の耳を疑った。
天使さんの酷な言葉を受けて、横で御陵さんが体を凍りつかせる様が分かった。
滅多な事では打ち崩れない彼女の無表情が強張りに歪むのが、傍目から見ても明らかに激しい。
そんな衝撃に震える御陵さんに向けて、天使さんは更に言葉を重ねる。
「本当に、可哀想だね」
「──っ!」
「あ、天使さん! 言葉を慎んで下さい!」
・・・脊髄反射的に、僕は大声で天使さんを咎めてしまっていた。
そうだ、幾ら何だって、本人の前でそんな事を言うべきではない。
たとえそれが、才色無比の天使さんだとしてもだ。

「・・・御免なさい。無遠慮だったかな、私」
天使さんは僕の咎めに少しだけ顰蹙したが、流石に自分の発言が不味かったと自覚したのか、素直に謝ってくれた。
フォローを加える形で、僕も御陵さんに頭を下げる。
「済みません、御陵さん。嫌な事を思い出させてしまったみたいで」
「・・・。いえ・・・大丈夫です・・・」
御陵さんは震える声で何とか呟く様にしたが、耐え切れなかったのか顔を俯けてしまった。

・・・場を、重い空気が支配する。
俯いて押し黙ってしまった御陵さんと、極まり悪そうに立ち竦む天使さん、そしてその二者の間に立つ僕。
これは・・・この雰囲気は何か、不味い。
どうにかして、今の状況を変えなければ。
僕はそう決心すると、上手く動かない口を何とか開いて言の葉を紡ぎ出した。
「あ・・・えっと・・・それじゃあ、御陵さんにも御紹介しますね。こちらの方が、僕のクラスの委員長を務めてらっしゃる──」
「──知っています」

一刀両断。
そんな四字熟語が脳裏に浮かぶ程にすっぱりと、御陵さんの冷たい響きを持った言葉が僕の口上を断ち切った。
まるで僕に、その先を言わせまいとするかの様に。



「天使伊祈さん──でしょう」
664名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 01:49:07 ID:va3str5C
いろんな意味で、大変乙
665good boy:fake girls 夕方  ◆SNU1m8PwXY :2006/11/01(水) 01:49:39 ID:91okeBVy
・・・あれれ。
御陵さん、天使さんの事を知ってたのか。
まあ確かに考えてみれば、天使さんは教師生徒、男女を問わず学校中の耳目を集める存在なのだから、
御陵さんが彼女を知っていると言うのも別に不自然な話ではないだろうが。
いや、しかしこれでは少しでも間を持たせようとした僕が何だか無様である。
「あぁ・・・何だ、御陵さん、もう知っていらしたんですね」
「ええ・・・」
ここに来て項垂れていた顔を上げる御陵さん。
そこにあったのは、全くいつも通りの無表情。

御陵さんは前に一歩進み出て、天使さんと向かい合う。
僕の眼の前で、二人の少女の視線が交錯した。
「初めまして、天使伊祈さん。いつも部長の補佐をさせて頂いている御陵止御と申します」
「・・・そう。こちらこそ初めまして、≪副部長≫さん」
その侭暫し、互いに見詰め合った。
・・・あれ?
何か、何て言うべきか・・・表現し難い違和感がある事に、僕は気づいた。

常日頃は誰に対しても無表情な御陵さんが天使さんを前にして、緊張しているかの様にその顔を強張らせている。
人を役職だけで呼ぶのを嫌っている筈の天使さんが、何故か副部長と言う単語に強勢をつけて話している。
そのどちらも、僕がよく知る彼女らとは異なっている。
いや、そもそもさっきから、二人共何か様子が変だった様な──一体、二人はどうしたと言うのだろう?
666good boy:fake girls 夕方  ◆SNU1m8PwXY :2006/11/01(水) 01:50:52 ID:91okeBVy
しかし僕がそれに対する答えを考え出す前に、どちらからともなく二人の視線は外れた。
御陵さんから眼を逸らした天使さんが、今度は僕の方に向き直る。
その表情は、いつも通りのにこやかな笑顔。
「ところで薙代君、随分来るのが遅かったけど、今迄この人と何かしてたの?」
「・・・いえ、特に何もないですよ。只今日は僕が武道場を出た時に御陵さんが待っていてくれてて・・・、
それで一緒に話をしながら歩いてきたって言うだけです」
──実を言えば、あの渡り廊下での一件があったのだけれど。
しかし女の子に気遣われて肩を揉んでもらっていました、などと素直に露悪をする趣味も僕にはない。
今の状態でも随分天使さんには僕の痛いところを知られているのに、これ以上それを増やしてどうするって言うんだ。

僕の答えに天使さんは少しだけ思惟する様にしてから、そして頷いた。
「ふーん・・・ま、それならいいけど。でも、遅れた分はちゃんと償ってもらうからね?」
・・・あぁ、やっぱり。
内心で溜め息を漏れるものの、しかし確かに、貴重な天使さんの時間を無為にしてしまったのは誰でもない僕の責任であろう。
──天使さんの負担は僕の不始末。
御陵さんではないが、そんなフレーズが僕の頭の中を過ぎった。
「・・・御意ですよ」
「うんうん。それでいいの」
僕の返答が悦に入ったのか、嬉しそうに微笑む天使さん。
その笑顔は陳腐な表現ではあるが、とても魅力的なものだった。
これを見れば、天使さんが校内一の美少女と言う評価も強ち誇張ではないと言う思いが湧いてくる。

「じゃあ、そろそろ行こっか。何を奢ってもらうかは、歩きながら考えればいいんだし」
「そうですね」
下駄箱から自分の靴を取り出し、上履きと履き替える僕。
その間にも天使さんは数歩、先に歩き出していた。
僕もその背中を追い掛けようとして──そこで礑と、先からずっと無言だった少女に気づいた。
「あ、それじゃあ御陵さん、僕はこれで失礼します。帰り道、お気をつけて」
「・・・」
そう僕が言っている間にも天使さんはすたすた歩いて行ってしまう。
意外に歩調の速い彼女に追いつくべく、御陵さんに軽く一礼してから僕は踵を翻した──。



その、瞬間だった。
667good boy:fake girls 夕方  ◆SNU1m8PwXY :2006/11/01(水) 01:51:44 ID:91okeBVy
「へっ?」
そんな間抜けな声を思わず上げる位唐突に、ぐいっと。
強い勢いで、左手が後ろに引っ張られていた。

丁度歩き出そうとした時に発生した突然の出来事に、危うくバランスを失って転倒しそうになる僕。
一体何が・・・そう思いつつ崩れた姿勢から顔を上げて──今の卒爾以上の驚愕を、僕は受ける事となった。
見上げた視線の先にいたのは・・・同じく左手で僕の左手首を握り込む、近しい副部長の少女の姿。
──但し、その表情は、全くいつもと異なるものだった。

例えて表すならば、憤怒──そして憎悪。
僕が見慣れていた御陵さんの無表情は今、それらの感情に塗り潰されていた。
・・・いや、顔の表情筋自体には、殆ど起伏はない。
けれども、彼女の眼が──。
彼女の眼が、無表情の奥にある激情を表すかの様に、真っ赤に充血していた。
平素は穏やかなその双眸は今、僕と天使さんの方向を刺し貫かんばかりの勢いで睨みつけている。

「・・・」
明らかな激昂を内に秘めながらも、御陵さんは何も言わない。
その事が逆に、こちらに言い様のない圧迫感を感じさせる。
そして無言なのは僕も同じだった。
・・・違う、言わないのではなくて、何も言う事ができなかったのだ。
普段とは全く違う少女の様相に、蛇に睨まれた蛙の如く身動き一つできない僕の体。

な・・・何なんだ、これ?
いつもは冷静な御陵さんが、何故こんなに感情を剥き出しにしているんだ?
僕は、一体、どうすれば──。



凍りつく僕に向けて、救いの声は背後から掛けられた。
「──手、放したら? 薙代君が迷惑しているじゃない」
天使さんのその言葉に、正直僕は心の内で安堵の息を漏らした。
もしもこの侭だったら、僕はずっと御陵さんの金縛りに囚われてしまっていただろうから。
「あの、御陵さん・・・何か、言いたい事があるんですか?」
天使さんの発言に乗っかる形で、僕も御陵さんに向けて尋ねた。
何を差し置いても今は、彼女にこの状況を招いた原因を問い質さなければならない。
668good boy:fake girls 夕方  ◆SNU1m8PwXY :2006/11/01(水) 01:52:27 ID:91okeBVy
「・・・」
しかし、御陵さんは黙した侭だった。
いや・・・僕らの言葉に耳を貸すどころか、寧ろ逆にその睥睨の度合いを強めてさえいる。
御陵さんの柔らかな指がまるで絞め殺さんとする様に、僕の左手首に深く深く絡みついてくる。
「・・・ちょっと、聞いてるの? 手を放してって、そう言ってるんだけど?」
流石に見兼ねたのか、天使さんが語調を険しくして御陵さんに近寄った・・・と、その時。

「──して・・・」
呟きにもならない小ささの声──それが御陵さんの口から発せられたと気づくのに、僕は少し時間が掛かった。
「・・・御陵さん?」
「どうして」
「えっ?」
「どうして、貴方が、この人と・・・っ!」
「──っう!?」
御陵さんが言うと同時に、引き千切られんじゃないかと思う位の強さで手首が締めつけられた。
意図せずして、開いた口から呻きが漏れてしまう。
やばい、これは只では済まないかも知れない。
そう僕を震え上がらせる程に、今の御陵さんの逆鱗は深いものだった。

分からない・・・本当に、分からない。
彼女は一体、何に対して怒っているんだ?
恐らく現状から見て、その激怒の対象は僕自身に違いないのだろうが。
けれども、その原因が判然としない。

既に殆どの生徒が下校し、夕闇の濃くなった脱履場。
この場にいるのは、僕と御陵さんと、それから天使さん・・・。
669good boy:fake girls 夕方  ◆SNU1m8PwXY :2006/11/01(水) 01:53:19 ID:91okeBVy
──あ。

閃きが、僕の中を駆け抜けた。
何だ・・・そうか、そう言う事だったのか。
考えてみれば、この状況が何を意味するかの答えと言うものは、一つしか存在しないじゃないか。

確かに、それは俄かには信じ難い可能性かも知れない。
そんなまさか・・・と考えついた僕自身でも疑念を抱く程である。

しかし──しかし、この状況。
天使さんと一緒に下校しようとする僕を引き止める御陵さん。
この構図から導き出される可能性は、唯一。

詰まるところ御陵さんは、天使さんと仲がいい僕を──。



改めて僕は、御陵さんの眼を見据え直した。
彼女の激情を示す充血した瞳の奥──そこには、何かに縋りつく様な弱々しさが秘められていた。
そしてその眼差しは今、誰でもないこの僕に向けられている。

──大丈夫ですよ、御陵さん。
心の中で、眼前の少女に対して呟いた。
貴方のその思いに・・・僕は、応えたいと思います。
670good boy:fake girls 夕方  ◆SNU1m8PwXY :2006/11/01(水) 01:54:02 ID:91okeBVy
僕は声音を優しくして、御陵さんへと告げた。
「・・・安心して下さい、御陵さん」
「「──え?」」
呆けた様な声を同時に口から漏らす、二人の少女。
って、あれ?
何で天使さん迄そんな反応をするのだろう?
御陵さんがそうするのは別に不思議ではないのだけれど・・・。

まあ、それについては取り敢えず今はいいか・・・先ずは、御陵さんを説得する事が第一だ。
そう頭で考えつつ言葉を続ける僕。
「僕と天使さんは、別に、特別な関係と言う訳じゃありませんから」
「・・・!」
僕の一言がスイッチとなったかの様に御陵さんの眼からは一瞬で怒りが消え、代わりに驚きと喜びが半々になって表われた。
その反応に、僕は自分の考えが正しかったと確信を抱く。
「天使さんが僕につき合ってくれているのは、只単に僕が不甲斐ないからですよ。恋人とか、そう言うのとは全く違います」
重ねてそう言い切ると、今迄僕の左手首を千切らんとする程に強かった御陵さんの握力が、嘘の様に霧散して行った。
「本当・・・ですか?」
「ええ。ですから、心配しないで下さい」
御陵さんが安堵の息を漏らしたのが、小さい音ながらもこちらに伝わってくる。
その表情にも明らかな喜びが浮かんでいるのを見る限り、どうやらこれで彼女の誤解を解く事ができた様だった。

と言うか、今迄ずっと把持されていた左手が些か痛いんですが。
「えっと・・・それで、手、放してもらっていいですか?」
「え──あ! も、申し訳ありません、部長」
我を忘れる程の失態を漸く悟ったのか、慌てて左手を解き放す少女。
僕は彼女が握っていたところにちょっと視線を走らせた──そこには、少々青く変色した跡が。
成る程、確かにこれは痛む筈だ・・・これは、帰ったら少し手当てした方がいいかも知れない。
手にできた薄い青の帯を見ると、改めて御陵さんの僕に対する思いがどれ程のものかが読み取れた。
671good boy:fake girls 夕方  ◆SNU1m8PwXY :2006/11/01(水) 01:55:25 ID:91okeBVy
とは言え、これで一件落着・・・かな。
「それじゃあ、御陵さん。今度の部活で、また」
「あ・・・はい。さようなら、部長」
今度こそ僕は御陵さんと別れの挨拶を告げると、今迄随分と時間を取ってしまった横の少女に振り向いた。
「天使さん、お待たせしました。それじゃあ行きましょうか」
「・・・あぁ、うん。そうだね・・・」
・・・?
何で天使さん、不機嫌そうな顔つきをしているんだろう。
別にさっきの御陵さんとの会話にも、特にそんな要因はなかった筈なのに。
そんな事を内心で疑問に思いつつも、僕と天使さんは歩き出した。



御陵さんは僕らが歩き出してからも、動く事なくその場に立ち竦んでいた。
そうして僕の視界から彼女が消える前──僅かに視線を振り向けたその一瞬、僕は確かに見た。
無表情が普通の御陵さんが浮かべていた、とてもとても魅力的な、蕩ける様に素敵な笑顔を。



そうして、その時自分が大きな忘れ事をしていたと言う事に気づかない侭、委員長の少女と共に僕は帰途に就くのであった。
672 ◆SNU1m8PwXY :2006/11/01(水) 02:02:35 ID:91okeBVy
遂に彼は、彼女の想いに気づいてしまった。

と言う事で四話目です。
間が空いた割りには今一盛り上がりに欠ける対立で申し訳ありません。
本当はこれに天使さんとの下校シーンを加えて夕方部分の終わりとしたかったのですが、
量が多くなってしまったので已む無く分割する事にしました。
次の話で夕方は終わりとなります。

気づけばすっかり一スレ一話になってますが、これからも何とか頑張って行きたいと思います。
673名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 02:06:31 ID:vt1RsP6J
>>658
投下乙であります。そして割り込み失礼しました。

この妖しい任務が極秘任務なのかそれとも敵の罠なのか、
もしかして味方の裏切りなのか、続きが待ち遠しいです。

>>672
投下乙であります。
御陵さんの闇(病み)が垣間見えてこれがどう発展するのかとても楽しみです。
674名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 02:12:39 ID:va3str5C
ボガス
割り込んじまった。吊ってきます
それと、GJ
675名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 02:37:34 ID:CBYMrwle
御陵さんの激情をうまく静められたがこれからの天使さんの逆襲にwktk
>>621
雪桜さんの嫉妬はやっぱり和む、そして虎幼女化可愛いよ虎(*´д`*)ハァハァ
>>631
死亡フラグ……確かに全員立っているような気がするが、それが有るからこそ修羅場での破壊力が増すとも言える
>>658
対抗馬が未だ見えずにもかかわらず、主人公の鈍さとミサの妄想力で続きが期待できるぜ
676名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 03:13:33 ID:RUKlSsjR
とってもGJでした。

神作品の投下を待ってる間にSSを頑張って書いてきます
677名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 03:26:37 ID:aPth06DK
>>658
きっついことを言うようだけど、軍隊を少しは調べて書こうぜ。
正直、ちょっと荒すぎるというか、酷すぎる。突っ込みどころが多い。
まず、最低でも空軍の基本的な編成と呼称、戦闘機と攻撃機の区別ぐらいは知っておくべきだと思う。
何も知らない人間が読むだけなら、雰囲気だけあれば良いかも知れないが、
書く側がそれじゃちょっとまずいんじゃないだろうか。
678名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 03:36:08 ID:WODx2UEV
次スレ警報でっせ
679名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 04:02:01 ID:vt1RsP6J
>>677
多少の粗さは架空の国での近未来モノと思えば許容範囲だと思う。
あと空軍編制の呼称なんて時代や国によって違うし、世の中には戦闘機に爆撃(攻撃)能力をつけた
戦闘攻撃機なんてのもある。(一話目で乗っていたF/A-18ホーネットもそれ)
軍事的な部分がメインではないのですから。

軍板のSSスレだとSSの軍事的な突っ込みは住人のみんなで調べたりして補完してるので
一度突込みどころを書き出してみてはどうでしょうか?
680名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 04:26:03 ID:R678QcME
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ
愛シールド21


いや、泥棒猫21匹目とかでどうだろう。
681名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 04:26:28 ID:+KfV7+M3
何の工夫もないタイトルですが次スレです

嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その21
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1162322618/
682 ◆j6xIfCOdTc :2006/11/01(水) 04:33:51 ID:4w4sCZJW
すいません、ハッキリ言って、勉強不足でした。
突っ込みどころは多々あると思います。
例えば

>第三航空師団第一班
本当ならおそらく、○○国第○航空師団第○大隊○○隊
となる筈です
しかし、ここは敢えて第一班にしました。
それによって、二人の特殊性を表したかったんですが…

戦闘機と攻撃機の区別がついてないのは只の勉強不足でした。すいません。

第一班て書いてあるのに、隊長になってる…orz
683名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 07:09:03 ID:be+/xGMc
スレ住人同士がくり広げる修羅場なんて見苦しいだけなんだぜ?
684名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 07:38:59 ID:ndkiLM6c
「……勉強不足ではないですか、と」
少々手厳しかっただろうか。
いや、彼ならきっと反論してくれる。これぐらい論破してくれる。
そのために理屈に穴だって作っておいた。
それに書かない者の批評なんて一蹴してしまうこともできる。それでもいい。
大丈夫。彼なら大丈夫。潰れたりしない。それだけの力はある。
それにこれくらいで満足してもらっては困るのだ。
だって私の愛する人だから。
もっと力を付けてもらわなくては。
そうだ。これは愛の鞭。彼のための愛の鞭だ。
信じてる。彼なら大丈夫と。
「送信」
685名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 10:25:22 ID:vt1RsP6J
>>682
空軍の編制なんですが、人数ではなく戦闘機一機を1つのユニットとして数えるので
○○飛行隊(○には基地名か数字が入る)と呼ぶんです。
○師団○大隊○班ですと陸戦部隊の呼び方に…
(小隊の下に分隊、分隊の下に編制上の最小単位として1~2人で組む"班"が存在するんです)
686名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 11:01:47 ID:fK38QO3w
>>685

この空軍はもともと陸軍の航空隊から独立したモノで、編成名は陸軍時代のままにしているってのでいいじゃないか。
687名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 12:02:35 ID:SlzYhoBT
(´・ω・`)正直そんなのどうでもいいがな
688名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 12:10:42 ID:L6rUCX7i
細かいことは気にするな。それが漢だ。
689名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 14:26:37 ID:6pdLPEkI
正直そんなことはあまり気にならない。嫉妬分があれば無問題。
690名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 14:58:32 ID:8bs4tuLM
どうでもいいが軍モノで修羅場って文字通り修羅場になるな
691名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 15:18:29 ID:QQlmBhSK
誰がうまいこと言えt(ry
692名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 16:17:41 ID:B4u7vWux
はぁ?
693名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 16:47:00 ID:/B6eH+sa
エースコンバットゼロのガルム隊を思い出した
サイファーとピクシー
694名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 18:23:24 ID:0ic9FfW8
細かい設定とかは黙っとけばいいのに
自分がすこしかじってるからでしゃばったり
勝手に評価して変に仕切りたがるやつが増えて困る
695名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 20:09:39 ID:CddW1Zyc
前に投下してた時も下調べの不備にツッコミいれられたことがあったな
何だよ米軍のサバイバルマニュアルって……
696名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 20:16:11 ID:rKoobfh0
軽い指摘だけならともかく、
相手のちょっとした勉強不足をつついて、いかにも相手は無知だと言わんばかりの態度は感じが悪い。

つうか、正直言わせてもらえばそっちがメインじゃないんだからどうでもいいだろ黙ってろって感じだけどね。
697名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 20:17:50 ID:/UNRP+Fl
>かじってる

最近の流行は21世紀型組織モデルとか逆ピラミッドですぞ!!
とか聞きかじった知識を言ってみるテスト。
698名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 20:41:05 ID:8u8tE/LA
ここはあくまでも修羅場を楽しむためのスレだ。
699名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 21:06:48 ID:R678QcME
好意を寄せてくれる女の子が嫉妬に狂い壊れていく様を愛でるスレでもある
700名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 22:19:41 ID:ZZeTjNsM
|ω・`) 幼馴染が依存っ子に進化して嫉妬に狂うのを愛でるのもいいわね
>>672
GJっす
一スレ一話でもいい作品を読ませていただいているのでありがたいっす
ペースは気にせずこれからもいい作品を(*´д`*)
701名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 23:41:12 ID:AdJb9iZg
ちょうど荒れの時期に次スレが経ってくれたので、ここは心機一転!
修羅場はみるだけ、自分は外野で見物客の精神をまた取り戻そうぜ!
702名無しさん@ピンキー:2006/11/03(金) 18:23:48 ID:kS/F7VW7
彼は私がいないと駄目なの
彼の隣は私じゃないと駄目なの

彼に話しかけていいのは私だけなの
彼の声を聞いていいのは私だけなの


だから、あなたはいなくていいの
さよなら
703 ◆pmLYRh7rmU :2006/11/04(土) 01:38:19 ID:RPBCDSvs
埋め代わりに昔ボツらせたものを投下します。
704 ◆pmLYRh7rmU :2006/11/04(土) 01:39:13 ID:RPBCDSvs

俺には奇妙な同居人がいる。

「今日も遅かったな、人間」

神の芸術といっても何ら遜色のない美貌に、宝石をそのまま削りだし、至高のカッティングを施したようなアイスブルーの瞳。
背中に流れるのは腰まで届くほどの青みがかった銀色の河。
部屋の乏しい照明でも信じられないくらい煌き、一点のくすみもないほど気高い。
更には現実世界にはありえないほど膨らんだ胸と、不思議なくらい括れたウエストからヒップにかけてのライン。
そして全女性が嫉妬に駆られてもおかしくないほどの肉体を、セパレート式の黄金の鎧に包んでいる。
この殺風景な部屋に浮かんでいなければ神話や宗教画にでも登場しそうなほど、人を惹きつける媚薬じみたオーラ。
そのアンバランスさが弾けて混ざるほどの魅力と、神々しいまでの存在感に磨きをかけているように見えるが、俺にとっては悪夢でしかなかった。
その圧倒的なまでの美しさ、天地が凍って全世界が傾きそうな色気も、深いため息を更に積み上げるきっかけにしかならない。
なぜなら…

「お前の寿命もあと1000日を切ったのだぞ。大して足しにならん勉強などやめて短い余生を十二分に楽しんだらどうだ?」

鈴の鳴るような聴くものを骨抜きにする美声に乗った言葉のとおり…
そう。
その言葉どおり、まったくを持って信じがたいことだが、こいつは俺の魂を刈り採りにきた天界の戦乙女…
一般に浸透している言い方をすれば、俺専属の死神だからだ。

「それを毎日言うのは止めろ。聞くだけで生きる気力がうせてこのままベッドに飛びつきたくなる」

「ならばそうすればいいだろう?天の理から見たらお前の存在など豆粒以下で埃にも満たない矮小なものなのだよ。
 その一つが神の美徳である勤勉に背いたとしても世のバランスにはまったく影響がないのだから」

妙に清清しい笑顔を浮かべて言うんじゃない。

折れかけた心に更なる亀裂が走るだろうが。
俺はもうひとつため息を吐きつつ、学生鞄から参考書と問題集を取り出す。
受験生の身にはその言葉ひとつを耳に入れる時間すら惜しいのだ。
だから、俺は心と耳と、無駄な欲望に栓をしていつもどおりのストイックな姿勢で机に向かう。
705 ◆pmLYRh7rmU :2006/11/04(土) 01:40:35 ID:RPBCDSvs

「ふぅむ…これを言うのも653回目だが、お前は一生懸命勉強した結果入学した大学の三回生の時、
運悪く飛び降り自殺をしたご老人とヘッドトゥーヘッドの人身事故に巻き込まれて命を落としてしまうのだよ。
だから今のうちに人生を楽しんでおくべきだと私は重々伝えているのだが…」

無、無、無…
俺は何も聞いていない、俺は何も聞いていない。
戦乙女ぇ、天の理ぃ?
いつもいつもいつも思っていることだが、何で俺なのだろうか。
これまで表彰されるようなこともなければ、誰かに後ろ指さされるようなこともしたことがない勤勉潔白な人生を送ってきたというのに。
老い先短いジジィの自殺に巻き込まれて人生終幕なんて笑えなすぎる。
いや、むしろ面白すぎて腹が捩れてそのまま一回転でもしたのだろうか?
それならこんな戦乙女とかいうヤツが俺の人生に闖入してきても疑問じゃない。

「最近はとみに帰りも遅いし…まったく、短い人生をもっと短くしてどうするつもりだい?
 もしかして、人間は皆マゾなのか?うぅむ……」

うるさい、うるさい。
戦乙女ならそんな言葉を使うんじゃありません。
黙ってゲームやら小説やらに登場していればいいものの、何を間違ったか俺の人生に登場しやがって。

「ところで、お前とであってそろそろ730日だな。年数の概念など戦乙女の私にとっては無きに等しいが、それなりに感慨深い」

感心するな、何もないところを見るな。
大体、会いたくなんてなかったんだ!!俺だって。

「今でも思い出されるよ、お前が柄にもなく勇気を振り絞って車に轢かれそうになった子猫を助けてみればただの縫い包み。
 まったくの無駄死にだとは不謹慎とはいえあの時ばかりは大笑いさせてもらった」

それを言うな…
できれば一生この腹に詰め込んで死んだあとも、安らかに埋めるように消したかった思い出を…
706 ◆pmLYRh7rmU :2006/11/04(土) 01:42:13 ID:RPBCDSvs


「まぁ、そこでこの私が現れて人間の寿命を五年ほど延ばしてやったわけだがな」

まだ何かおかしいのか、そいつは噴出しながら言葉を続ける。
そう、人が生まれるときに予め決められるという死の章。
それによると俺は無駄死に事件からちょうど五年後に死ぬ予定だったらしい。
しかし何の因果か死の章の律から逸れてしまった俺は、虚仮の人生を一時的に与えられている。
何でも天界が人間一匹の人生に干渉することなんて某救世主の時以来らしいが、神とやらが定めた運命様から俺は独立してまった。
生きているわけでも死んでいるわけでもない。
要するに、こいつみたいな戦乙女同等、生と死の合間に宙ぶらりんとなったわけだ。

「そう、そこで現れたのが私だな。あの時私が偶然居合わせなかったらお前は今頃魂の宇宙に投げ出されて永久に彷徨っていただろうからな」

そんな俺のところに現れたのがこの戦乙女、ファリス。
何でも神がもっとも信頼する部隊に所属する一員で、その採魂能力は一晩で二万の人間をヴァルハラに導くという。
しかしそんなファリスでも一度、空の存在となった俺を現世につなぎとめるのは一苦労だったようで…

「自分自身の魂を二分割してお前に与えたわけだ。要するに一心同体だな。お前と私はふたつでひとつ。
 どちらかが欠けても存在できない運命共同体ってやつだ」

だからなんでそんなにうれしそうにするんだ?
まぁいいか…と言う何だかどっかのRPGにも出てきそうな設定の中、俺はこうして生きている。
虚仮の生命とはいえ、肉体や精神は人であったころのまま。
毎日大して辛くもないが、刺激に満ち溢れているわけでもない真っ当な人生を送っているわけだ。

「しかし、人間。お前の魂は非常に心地がいいんだ。人の魂というものは思春期を越えれば大体汚れてくるものだが、お前はまだ清廉潔白なままだな」

707 ◆pmLYRh7rmU :2006/11/04(土) 01:43:35 ID:RPBCDSvs

悲しいかな…
女にモテたことのない俺はきっとファリスいわく清廉潔白なまま死ぬんだろう。
それに隠し持っていた青少年の夜の友達は全部お前が処分したしな。
すんげーいい笑顔で。思わずときめいたよ。
手に持った本が大鎌でシュレッダーにされるところを目にしなければ。
ファリスのお陰で?最近は二週間に一回の割合で夢精するようになっちまった。
そのたび下着を洗う俺の身にもなってほしい。

「しかし、何であと三年後なんだ?神が定めた寿命なら別に今日でもいいだろうに」

耳元で散々解説され、いい加減嫌気が差した俺は参考書を閉じてファリスに向き直る。

以外にも恐ろしいほど美しい面が目の前にあって思わず胸が鳴った。

「戦乙女の魂は、気高く大きいのだよ。だからそれを満たすには多くの年月が必要なのだ。
 だから、ちょうど私の魂がいっぱいになるのがその日なのだよ」

なぜだろうか、少しファリスが寂しそうにしている。

「そうだったのか…そこで俺はお前に連れられてヴァルハラってところに行くのか?」

「…残念ながら、お前の魂を運ぶのは別の戦乙女だよ。私はお前の死を見届けた後、新たな生を受けることになっているから…」

「なんだそりゃ、俺一人だけ天に召されて終了かよ」

「私だって、最後までお前を見届けたいが…そういう決まりなんだ。私もようやく人の身に転生できるのだから」

「そうか、お前も早く人間に戻りたいんだな」

そこで、ファリスは黙った。
いつも慇懃な顔つきをしているか、人を食うように笑っているファリスが神妙な顔つきを浮かべている。
気味悪さよりも、なぜか驚きのほうが勝っていた。
本来、戦乙女は穢れのない少女の魂が死の瞬間に神と契約することによって誕生するという。
ひたすら人間の死に際を見つめ、その漆黒の大鎌で魂を刈取る。
元が無垢な少女なのだから、その苦痛は計り知れないものなのだろう。
だからこそ興味が湧いた。そこまでして神と結んだ契約の恩賞というやつを。
708 ◆pmLYRh7rmU :2006/11/04(土) 01:44:32 ID:RPBCDSvs

「理由を教えてくれよ。お前が戦乙女の契約を結んでまで生まれ変わりたい理由をさ」

「……残念ながら“今は”言うことができない」

でも、キミが生まれ変わったら、すぐに理由がわかる。
そう言って、ファリスは再び唇を閉ざした。





******************

私が恐れていること。

それは二つある。
ひとつは神と交わした契約が成されないこと、そしてもうひとつは、転生した後リョウキが私の存在に気がつかないことだ。

私が戦乙女になった理由。
そんなことはリョウキがいつも解いている数学よりも易しい。
ただリョウキの傍で、ずっと彼を見つめていたかった。
ほんとうにそれだけだった。

もう記憶に遠いが、これだけは覚えている。
私がひとりの少女であったころ、確かにリョウキに焦がれていた。
いつもしっかりと前を見つめ、自分に正直なリョウキ。
人間の年齢で言えば10にも満たないほど未熟な魂であったが、この身が火に包まれるほどリョウキを思っていた。
だからあの身が滅びるとき、神に魂をささげたのだろう。


そして彼の『死の章』を書き換えたのも私。
ほんとうは平均以上の時間を生き、家族に看取られながら穏やかに逝くはずだった彼の運命をこの手で書き換えた。
なぜなら、彼の『死の章』をそれ以上見ていられなかったから。
私じゃない女と子を成してうれしそうに微笑むリョウキ。
忌々しい悪魔の子を両手に抱きしめるリョウキ。
鬼母と混ざり合うように体を重ねるリョウキ。
絶対に許せない。
神が創った因果だろうが、なんであろうが、絶対に認められない。
だって、彼の『死の章』は本来私とリンクするはずだった。

709 ◆pmLYRh7rmU :2006/11/04(土) 01:45:30 ID:RPBCDSvs

リョウキには運命から孤立しているといってあるが、それは彼のことではない。
因果から抜けて孤独だったのは私が人として生きていたころ。
数千年に一度あるかないかという神の失敗。
でも、そんな私を感じて優しくしてくれたのがリョウキだった。
他人には見えない私。
他人からは相手にされない私。
それに手を差し伸べてくれた彼は、私にとって救世主、いや神以上の存在だ。

だから何があっても私のものにするしかない。
たとえ彼の運命を弄んだとしても、どうか許してほしい。

キミに死が訪れたとき、私たちはまためぐり合える。
こうやって魂がひとつになっているのもいいけど、肉体同士で触れ合いたい。
そして再びひとつになりたい。
今度は、心も、体も、魂さえも。
そんな福音が訪れるなら神の因果も、運命の理も関係ない。
全部どうでもいい。

“ただお前とひとつになりたい”

だからそのときまで待っててほしい。私が傍にいるから。
キミのすべてを見つめているから。

そして必ず伝えるよ、胸に抱きしめた転生への願い。


“ただお前とひとつになりたい”


―――――――それが私の望みなのだよ、リョウキ。

710 ◆pmLYRh7rmU :2006/11/04(土) 01:46:22 ID:RPBCDSvs

珍しいこともあるようで、通学途中の俺の背中にぷかぷかとファリスが浮かんでいる。


なぜか上機嫌だ。
偉そうに腕を組んだり、こっちをずっと睨んでいることもない。
今日ばかりは戦乙女も休業か?

俺は時々後ろを確認しつつも、笑顔のファリスと視線を合わせていた。
昨日いろいろ世の中の仕組みについて聞いたことがそんなにうれしかったのだろうか。
どうやら戦乙女って説明好きっぽいからきっと役得で喜んでるんだろう。
俺は勝手に納得しつつ学園の目の前の坂を上っていく。

実を言えば、ファリスが学校についてくるのは珍しいことではない。
だが、どうも俺の部屋から離れると魂の純度が下がるといって途中で帰ってしまうのだ。
やはり別の人間が傍にいると魂の共有をし辛くなるらしい。

見知った友人たちに挨拶をしつつ、昇降口にたどり着く。
いつもはここまで見送ってファリスは帰っていくのだが。
俺は振り向いてファリスに声をかけようとして…

「リョウキくん、おはよう」

清清しい女の子の声に心奪われた。

「お、おはよう」

とっさの出来事なのでちゃんと挨拶できなかった自分を殴りたい。
戦乙女の力で時間を戻せるなら是非戻してほしい。
そして全力で自分を殴り飛ばしたい。

「リョウキくん、昨日やったところちゃんと復習した?」

そんな俺を不思議そうに見つめながら、ショートカットの似合う彼女は朝顔みたいに微笑む。
甘い、甘すぎる笑顔だ。


「もちろん、せっかく児島さんに教えてもらったんだから」

俺は照れ隠しで頭をかきむるのに必死だ。
落ち着け、俺。
最近家に帰るのが遅い理由、それは児島さんと居残り勉強をしているから。
あまり頭の出来がよろしくない俺がここまで必死になっているのもクラスのアイドルである彼女と時間を共有できるから、それも理由のひとつになっている。
711 ◆pmLYRh7rmU :2006/11/04(土) 01:47:52 ID:RPBCDSvs

「じゃあ、また放課後に」

児島さんは俺に駆け寄って俺の手を握ると、そのまま春風のように去っていった。
わずかに残る柑橘系の香水の香り。
この余韻に浸っていると残り三年の寿命というヤツが更に恨めしくなる。

「ふぅ…」

うれしさと切なさが入り乱れたため息を吐きながら俺は、

あの女は誰だ」


地獄から這い上がるような声に凍りつくほど大きく体を震わせた。
胸の深い部分を通して伝わる冷気。
丸ごと握りつぶされそうな圧迫感。
すべてに全身が支配され、動くこともままならない。


「リョウキ、あの女は誰だ」


背後から目の前に移動したファリスを見て、固唾が凍りつく。
慇懃にいつもえらそうにしているファリス。
しかし冷たい瞳の奥には穏やかな光がある。
なのに。



「…」



アイスブルーの瞳を剣のように翻し、漆黒の大鎌を担ぐ彼女は…


紛れもなく…


―――――――死神だった。
712 ◆pmLYRh7rmU :2006/11/04(土) 01:50:03 ID:RPBCDSvs

以上です。
あまりにもくだらない話だったのでここでボツらせました。
お暇つぶしにでもなれば幸いです。
スウィッチの最終話は近日中に21スレの方に投下します。
713名無しさん@ピンキー:2006/11/04(土) 02:07:10 ID:5u1s6aym
いや面白いですよ普通に

てかまとめ更新まで埋めてはまずいのかな?
714名無しさん@ピンキー:2006/11/04(土) 02:22:08 ID:sf1nJ9xa
>>712
よくってよ、よくってよ

>>713
埋まったら埋まったで過去ログをロダにうpすればいいんじゃないかい
715名無しさん@ピンキー:2006/11/04(土) 02:24:33 ID:IQ+2xHkU
>>712
GJです
◆pmLYRh7rmU さんの作品は読みきりものも面白くて
いつも楽しみにしてます。スウィッチ期待してます
716名無しさん@ピンキー:2006/11/04(土) 06:10:14 ID:SzIaLCz4
これ読みきりにするには、もったいないんじゃ?
すごい、ツボだったんですけど
717名無しさん@ピンキー:2006/11/04(土) 06:43:55 ID:meKRsXCq
死ぬ程同意
718名無しさん@ピンキー:2006/11/04(土) 19:14:34 ID:iut2h+Ip
なんかあよくわからんかったけどGK
719名無しさん@ピンキー:2006/11/04(土) 20:46:17 ID:PpxwcM8e
>>718
妊娠乙
720名無しさん@ピンキー:2006/11/05(日) 09:54:25 ID:t05Hn29N
阿修羅氏どうしたんだろうか・・・・・・
このスレも19スレももう落ちるぞ・・・・・・(;´∀`)


wikiとか作ったほうがいい?
721名無しさん@ピンキー:2006/11/05(日) 09:56:15 ID:cPo5Bw/U
ぜひ
722名無しさん@ピンキー:2006/11/05(日) 10:06:54 ID:t05Hn29N
今はPCぶっ壊れてるから
来週の日曜ぐらいまで作れない件(´・ω・`)

それまでスレ残ってる?
723名無しさん@ピンキー:2006/11/05(日) 10:20:49 ID:RkQU17Bm
_

スレ住人が過去ログくらいうぷってくれるさ
724名無しさん@ピンキー:2006/11/05(日) 11:25:16 ID:TuJJ3A/i
それではいつもの埋めネタ投下します。
725分裂少女「もう一つの結末」 ◆n6LQPM.CMA :2006/11/05(日) 11:27:51 ID:TuJJ3A/i
これはIFの世界……
もしも「女」がこうしたら……
もしもあの時こうだったら……

それはほんのちょっとしたことで始まるもう一つの可能性……


そして……


「女」が黒いオーラを漂わせて男が住んでいる部屋を睨んでいると、おもむろに男が
出てきた。
何か買い物にでも行くのだろうか、そのまま何処かへ消えていった。

それを見届けた「女」は残忍な笑顔で

「くっくっくっ……チャンスだわ。今あの部屋には泥棒猫只一人。邪魔者が居ないうちに
ちゃっちゃと「処理」しちゃうか」

足音一つ、物音一つ立てずに、静かに男が住んでいる部屋の前まで来て呼び鈴を押そうとした瞬間

待て!!

インターホンを押す寸前で、「女」の動きが止まった。

待て待て待て。確かに今部屋に居るのは泥棒猫一匹だけ。今このインターホンを押せば
のこのことアホ面下げて出てきた泥棒猫の頭を、この手に持っている石で叩き割り
マグロの解体ショーよろしく、生爪を剥ぎ、指を折り、五臓六腑引きずり出してもいいんだけど、

本当にいいの??

その程度じゃ、気が済まないわ。ただ嬲り殺したんじゃだめ。
魂というか……、心までズタズタにしないと、ね。
そうよ、そうだわ。アイツは私に対してここまでしたんだから、私だって
トコトンやってやるわ!!
じわり、じわりと真綿で首を絞めるようにじーっくりと追い詰めてやるわ……
うふふふふふ………

「女」はそこまで考えた所で部屋を後にし、闇に消えてった。
726分裂少女「もう一つの結末」 ◆n6LQPM.CMA :2006/11/05(日) 11:29:20 ID:TuJJ3A/i
翌日、普段どうりの朝を迎えて男は仕事に、泥棒猫は家事に勤しんだ。
家事がひと段落した午後、泥棒猫が買い物に部屋を出て数分後、物陰から見守る影があった。

「よし、買い物に行ったわね。行動開始!!」

ベランダ側から排水溝をスルスルと登り、窓に手を掛けてみる。
すると音も立てずに開き、「女」は無人の部屋に侵入した。

部屋は狭いながらもきちんと整理整頓されてて、部屋の真ん中にテーブルにテレビ。
襖で隔てて隣にはベットが置いてあった。

キョロキョロと周りを見ていた「女」はある物を見つけた。
それは男と泥棒猫の結婚式の写真だった。
幸せそうに微笑みながら写っているその写真を「女」は叩き割ろうとしたが―――

駄目駄目駄目!!!そんなことしたら泥棒猫は警戒するわ。
この怒りは腹に溜めて、泥棒猫に吐き出してやるわ!!

他に何か無いかと探していたら、「女」は見つけてしまった。
テーブルに置いてあった



母子手帳を




「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
727分裂少女「もう一つの結末」 ◆n6LQPM.CMA :2006/11/05(日) 11:33:30 ID:TuJJ3A/i
突然、「女」の頭の中で声が響き渡った。

壊せ!!壊せ!!全てを壊せ!!憤怒の心に身を委ねろ!!
殺せ!!殺せ!!邪魔者は皆殺しだ!
コロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ


「ぐああああああぁぁ!!!!!」
頭の中を駆け巡った破壊、殺人衝動は「女」の自我を奪おうとしたが、「女」は
髪を掻き毟りながらも必死に耐えていた。

壊すことも、殺すことも賛成よ!!でもね、まだ早いわ!「私」が手を下すんだか
ら、「アンタ」じゃないわ!!!!

この手を泥棒猫の血で真っ赤に染め上げるんだから!!


「はあ、はあ……、ふう、やっと収まったわ。……でも何時まで耐えられるか……おっと
余り時間も無いわね。早く用件を済ませなきゃ」

「女」はつい先程秋葉原で買ってきた物をリュックサックから取り出した。
それは数個のピンホールカメラと盗聴器だった。
728分裂少女「もう一つの結末」 ◆n6LQPM.CMA :2006/11/05(日) 11:36:03 ID:TuJJ3A/i
「よし、これを……まずはあそこに設置して、と」

プラスドライバーを慣れた手つきでテレビのカバーを外し、中を覗いた。
するとカバーの裏の端っこに数ミリの穴が開いていて、ある機械が張りついてい
た。

「あ、あったあった。まだ付いてたんだ。これを取り外して、買ってきた最新の
に取り替えてっと。……あれ?」

「女」は自分自身に驚いた。

「何で私、こんなに手際が良いんだろ。まるで初めてじゃないみたい……。それに
テレビにカメラが付いていたのを知っていたような……」

だが今は記憶の引き出しを捜すよりも、機器の設置を急いだ。
暫くして、全ての機器の設置が完了した所で外から階段を上がってくる音が聞こえてきた。

「やば!!」

脱兎の如く入ってきたベランダから外に飛び出し、一気に地面に飛び降りたと思
ったら一目散に走っていった。

「ただいま〜………ん?」

泥棒猫が帰ってきて、部屋に入った瞬間変な違和感に襲われた。

ん……………。何か変ね。何かは分からないけど……。

泥棒猫はふと匂いを嗅いだ。すると

「う!何で血の匂いがするの?」



アパートを離れ、走り疲れた「女」はトボトボと歩き、。やがて、近くの公園に着いた。
その公園のベンチに座り、暫くしたら大声で笑い出し

「くっくっくっ………あ―――――――ははははははははははははははは!!!!ーー……、
全ては終わりそして始まるわ。紅い未来が、ね」

第一話「紅い未来」
729 ◆n6LQPM.CMA :2006/11/05(日) 11:42:41 ID:TuJJ3A/i
あの「女」が帰ってきた!!

あまりにも「起承転結」に拘ったために嫉妬の描写が薄く、物足りないとの
ことでしたが、今回はふんだんに入れます。
暫くはこれと「魔法少女」メインで行きます。

本当は「ハーフ&ハーフ」と「シューティング☆スター」の投下準備も
できてるのですが、データサルベージ中なためもう少し後になります。
730名無しさん@ピンキー:2006/11/05(日) 12:27:21 ID:hhltGV9N
     , --Λ-- 、__
    ( > <    `ヽ、
    ,`= ====、_     )   新スレに移動ですよ〜
   / イ  / | 、 ,   `ヽ_,ノ ヽ,
   レ L_/-,_|」Vヽ-,_ヽi  ヽ, i _
    (`,`(i ,i    i''''-,._ L__iノ i// ̄ ` 〜 ´⌒/
    イ.i"`´   .i、_ノ´ ,イ  //  洒落   /
    (人 i - , _ "" (Y. //─〜 , __ ,─´                 , -- 、_
     Yイヽ 、_ノ_,,, イノ .//| .|.                 , -- 、_   i・,、・ /
   [>ノイ´ヽ人_, イ(イノ// | |           , -- 、._  i・,、・ /   ゝ____ノ
    (イ/イ イ `−[=//」i_」.」  , -- 、._   i・,、・ /  ゝ____ノ   ::::'::::'::::
     /~<,__三__イ(⌒ヽ,     i・,、・ /   ゝ____ノ   ::::'::::'::::
   /⌒))/~ `- 〜(____ノ_)      ゝ____ノ    ::::'::::'::::
   `-´/   /  i i  i      ::::'::::'::::
     /     //ヽ  >:::::::::::
    `ヽ_/、____//_ イ iノ:::::::::::
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    :::::::(`⌒´ノ::::::::::::
731名無しさん@ピンキー:2006/11/05(日) 13:57:14 ID:cPo5Bw/U
>>730
それダウソ板のコピペ?
「洒落」を「嫉妬」か「修羅」にくらいは直して欲しいものだ。
732名無しさん@ピンキー:2006/11/05(日) 15:17:41 ID:bkE+GWkX
>>729
GJっす
「今回はふんだんに入れます」
この一言は堪らない、楽しみにしてます(*´д`*)
魔法少女も期待してます
733名無しさん@ピンキー:2006/11/06(月) 01:47:47 ID:jx6uJALk
まとめサイト更新来た
管理人乙
734名無しさん@ピンキー:2006/11/06(月) 02:23:12 ID:uiBQhfqf
いろはにほへと ちりぬるぽ わかよたれそ
つねならむ うゐのおくやま けふこえて あさきゆめみし ゑひもせすん
735名無しさん@ピンキー:2006/11/08(水) 02:32:35 ID:WiIZF+LH
埋め
736名無しさん@ピンキー:2006/11/09(木) 08:42:48 ID:dGR3nGql
埋め
737名無しさん@ピンキー:2006/11/09(木) 19:55:27 ID:BHuvL6Di
うふ、うふふふ、あはははは、あはははははははははははははは!!!
やった、やったぞ! あの雌豚に、19スレに勝った、勝ったんだ!
あはは、あは、あはは、身体中が痛い? No problem! 19スレに勝つためだ、
半身を闇に食われてもそれだけの価値はある! あはははははは!
はは、さぁて、邪魔な雌豚は消えたことだし愛しいあの人のところに行こうっと♪
あ、あれ? おかしいな、身体が上手く動かないわ。…ぁ、そうか、そうよね。

だって私にはもう左足はないもん。

19スレを消すためだもの、少しくらいは痛いのはガマンしないとね。
でもおかしいな、左足が消えたくらいなのに思った以上に動きが鈍い。

そっか、右足も失ったんだっけ。

もう歩けないのね、なら這って行かなきゃ。
ちょっと服が汚れるのは嫌だけど、あの人なら私を抱き上げてくれるもの。
もしかしてこれからずっとあの人に文字通りおんぶに抱っこな生活が待ってる?w
あ、あれ? おかしいな、一向に前へ進まない。な、なんで?

あ… 両腕も無くしたんだ。

どうしよう、これじゃああの人のところに行けない。
やっと19スレを消したのに。私とあの人の薔薇色の未来はすぐそこまできているのに。
あ、あそこに見えるのは愛しいあの人! やっぱり私たちは運命の赤い糸で結ばれているのね。
きっと私を探しにきてくれたんだ。でも…

隣に居る21スレはなに?

…おかしいよ、なんであの人の隣に21スレが居るの? そこは私の居場所のはずよ?
19スレを消し、ようやく手に入れた場所なの。貴女みたいな女が居ていい場所じゃないの。
なのに、なんで? ナ ン デ ア ノ ヒ ト ト キ ス シ テ ル ノ ?

…もういい、おまえも19スレと同じく消してやるよ。
この身体じゃ殴れないし蹴れないし、道具も使えない。だから、19スレと同じ方法で、
私自身の身体を生け贄にしておまえを地獄に叩き落してやるよ。
生け贄にするのは私の身体で残っている部分、足はもうない、腕ももうない。
なら胴体だ。…ぁ、胴体も、残ッてナイ、ナら、髪のケ、だ。しまた。髪モない。
クチも、ナイ。ミミ、ナイ。ハ、な、ナ、い。め………
738名無しさん@ピンキー
19スレと20スレの対決は途中で19が一時逆転するなど大接戦でしたが、
最後は大きいAAを2つも張られて19が先に500kとなり、20スレの勝利に終わりました。

今度の21スレも次の22スレと壮絶な梅合戦が繰り広げられるのでしょうか。
19、20と梅ネタを書いてきたので21も22もネタがあれば梅ネタを書きたいです。