【涼宮ハルヒ】谷川流 the 31章【学校を出よう!】

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895たとえばこんな世界改変 そのいち:2006/10/11(水) 12:41:44 ID:fsK6uL0q


「呼び出しに快く応じてくださってありがとうございます」
妻を人質にとられて大人しく参勤交代する外様大名のごとく生徒会室にやってきた俺に、喜緑さんは下級生相手では過剰とも思える礼儀正しさで頭を下げた。
結局俺は今回の呼び出しのことを誰にも伝えずにここへ来ちまった。
長門ぐらいには一言相談するべきかとかなり迷ったんだが、ことが喜緑さん関連だけに下手をすると長門自身の立場がどうなるのかわかったもんじゃない。
まあ、喜緑さんの仕事はハルヒの観察じゃあなく、長門のお目付け役らしいからな、朝倉みたいに俺のことをどうこうしようとは思わんだろ。
「一体生徒会が俺になんの用なんです?」
俺はあえて『生徒会が』と言ってみた。この呼び出しが宇宙人関係のもんじゃない可能性だってまったくのゼロってわけじゃない。
ただ、ゼロが9個ほど並んだあげく、申し訳程度に1が付け足されたパーセンテージがどれほどゼロと違うというのかはわからん。
「いえ、お呼びだてしたのはわたし個人がお願いしたいことがあったからです」
そら見ろ。やっぱり宇宙人関係だよ。
よく考えてみりゃ生徒会関係の用事なら伝言係は古泉になるはずだからな。そりゃそうか。
「お願いですか?俺や長門やハルヒがどうにかなるようなものなら、お断りですよ」
そうだな……俺の精神の許容範囲としちゃ、カマドウマ駆除あたりが限界ギリギリかな。
俺のかんばしくない返事に、ある程度予想通りだったのか喜緑さんは表情を崩すこともなかった。
もっとも俺は最近、この喜緑さんの微笑み以外の表情というもんを見てないがな。
表情筋を銀行の貸し金庫に預けちまってるのかね。長門でさえもうちょっと表情の変化があるんだが……
「危ないことはありません。実に簡単なことなんです。
これを見ていただけますか?」
競馬予想士のごとく喜緑さんと長門のパラメーター差異の分析をしていた俺に、喜緑さんは机の上にデンと鎮座している物体を見るよう促した。
オッズの表示もなく、またそもそも高校生である以上馬券の購入資格もない俺は不毛なことをするのはとっととやめ、その言葉に素直に従ったのだった。
「え?」
そこには俺にとって、見覚えがあり過ぎるものが存在していた。
そして、あまりにも見覚えがあり過ぎて、それがここに存在していることがまったく信じられなかった。
「その様子ですと、これがなんなのか正しく理解なさっているみたいですね」
基本的には耳障りのいい喜緑さんの涼やかな声も、このときばかりは魔王の手下の嘲笑のように不快な響きに聴こえたね。
なんせそこには、いつか部室で対面した古めかしいデスクトップパソコンがあったんだからな。
そう、古泉がアンティークものと評し、眼鏡っ娘なアナザー長門がびくびくしながら使っていたパソコンにして、その正体は目茶苦茶になっちまった世界からの緊急脱出プログラムだった、例のアレだ。
「なんで、これが、ここに?」
「正確には形状が同一というだけであなたが知っているものとは別物です。
統合思念体より譲渡されたプログラムを元に、わたしが生成しました」
俺は我知らず呟いてしまっていたらしい。
喜緑さんの補足説明によって、俺はようやく自分が呆然と口を開いていたらしいことに気付かされた。
わざわざ同じ形のものをこしらえただって。
この可愛らしい上級生の偽装をした宇宙人専用通訳係なアンドロイドはなんだってそんな悪趣味なマネをしたんだ。
「もちろんこれがこの形状をしているのにも意味があります。
あなたがキーボードのエンターキーを押す際、どうしても12月18日からの3日間を連想せざるをえないようになっているんです」
だからそれが悪趣味だっていうんだ。
つうか、今この人はなんて言った?俺がエンターキーを押すだって!?
「お願いとはまさしくそれなんです。どうかこのエンターキーを押していただけませんか?」
まるでトレイの上のデザートを薦めるメイドのごとき軽々しさで、喜緑さんは俺の前にキーボードを恭しく掲げながら微笑み成分を3割ほど引き上げた。
896たとえばこんな世界改変 そのいち:2006/10/11(水) 12:42:46 ID:fsK6uL0q


「こいつを押すと………どうなるんです?」
目の前にはキーボード。
用意したのは長門とは別派閥付きのインターフェース、喜緑さん。
しかもスイッチ入力係に俺をご指名だ。
これで警戒すんなってほうが無理ってもんだ。
皿に手を伸ばす12使徒を眺めるような不信感バリバリな俺の顔を見ても喜緑さんには一切動揺するような様子はみられなかった。
さすがは長門の監視係なんてものを務めるだけあって、肝が据わってるな。
「世界改変が実行されます」
サラリととんでもないことを言ってのけた。
「そう言われて俺がそいつを押すとでも思いますか?」
そして俺は当然のように断った。
冗談じゃない。誰があんな厄介な経験をもう一度したいなんて考えるかよ。
「押していただけないんですか?」
セリフこそ困っているような感じだが、表情はいたっていつも通りだ。
もうちょっと残念そうにしてくれないもんかね。こっちも断り甲斐がないったらありゃしない。
「大体、俺の記憶が確かなら、喜緑さんは長門にそれをさせないことが仕事だと思ったんですがね」
「ちょっと違うんですが、大筋ではその通りです。
ですから安心してください。このプログラムによって確かに世界情報の上書きが成されますが、予め崩壊プログラムが組み込まれています。
発動から59時間48分35秒後に自動的にキャンセル、基準情報値の再生が行われるようになっています」
えらく中途半端な数字だ。きっちり60時間とかじゃ駄目なのか?
俺はえらく場違いな疑問を自分の灰色の脳細胞の中に思い浮かべた。
だが、それにも一応理由があるらしく、喜緑さんいわく
「12月18日午前4時23分から、あなたが文芸部室において脱出プログラムを起動させるまでと同一期間ですよ」
ということらしい。
技術的なことはよくわからんが、多分その時間がいろんな意味で限界なんだろう。
しかし、いくら期間限定とはいえ、そんなことをするのはまっぴら御免だ。それが嘘じゃないって保証もないしな。
そもそもなんで俺に核ミサイル発射ボタンよりも厄介なシロモノを押させたがるんだ。自分でやりゃあいいじゃないか。
「あなたでないと正常な起動ができないんです。
解析不能な涼宮さんの能力を用いて可逆性を保持したままで世界改変を行うのは統合思念体といえども困難極まります。
ですから出来る限り前回の改変をトレースするのが望ましいんです。
それには是非とも『あなたがエンターキーを押す』という条件が必要なんです」
どういう理屈なんだか俺にはさっぱりわからんが、ひとつだけ言えるのは自分で出来ないんだったらやらなきゃいいってことだ。
俺だっていきなり自分で弁当つくったり、教師にかわって教壇に立つような分不相応なマネはしないぜ。
喜緑さん、ぜひともあなたの親玉に『自重』って言葉を教えてやってください。
「そんな大それたことがわたしにできるとお思いですか?
……それとも、こういうのはどうでしょうか」
そう言って喜緑さんは俺の右手をとった。
美少女にそんなことをされたんでは普通の男子高生としては狂喜乱舞するのが礼儀というものかもしれんが、俺はちっともそんな気になれなかったね。
なんせ喜緑さんはそのまま俺の人差し指をキーボード上に持っていったんだからな。
「ちょっと!こんな強引なやり方もOKなんですか!?」
「はい。これでもプログラム起動には支障はありません」
そう言いつつ、俺の手をあっさりと離す喜緑さん。ああ、あせった。
「ただわたしとしてもこのような強硬手段は望んでいません。
できることならあなたには自主的に協力していただきたいんですけ」
「ど」と最後に発音したらしき喜緑さんの発言は、突然の破砕音によって掻き消された!
ドアの辺りが爆発し、爆音と爆風に煽られて床を無様に転がる羽目になっちまった俺にはなにが起きたのやらさっぱりだ。
ただ、想像はつくね。
こんなド派手な登場をするヤツは俺の知り合いには一人しかいないからな。
なんとか上下方向だけは正しい位置関係を取り戻した俺の体のすぐ傍に出現したのは俺の予想通り
見た目は地味な文学少女にして、ダイハードに出演してもやっていけるSOS団きっての実力派アクション女優
長門有希、そのひとだった。
897たとえばこんな世界改変 そのいち:2006/10/11(水) 12:43:43 ID:fsK6uL0q


「あの、長門さん」
俺がみっともなく転げまわったのが嘘みたいに、長門乱入前と変わらぬ姿勢で佇む喜緑さんが、これまた変わらぬ表情で口を開いた。
「空間閉鎖していたわけでもないのに、こんな暴力的な突入をする必要はなかったんじゃありません?」
なに?そうなのか?
「長門、そりゃいくらなんでも」
『やり過ぎだ』と繋げようとして、俺は慌てて口を噤んだ。噤まざるをえなかった。
「………」
無言で喜緑さんを睨みつける長門は、無表情に見えてその実、『憤怒』とさえ呼べそうな強烈いら立ちオーラを発していたからだ。
発信先でない俺でさえ息を呑む。はっきり言って、怖い……
しかし、当の怒りの矛先である喜緑さんはまったく気にしていないようだった。
「この事はあなたも承知のことだったはずですが」
「わたしは計画凍結の申請をした」
「でもこれ、長門さんの進退にも大きく関わってるんですよ」
「関係ない。彼を巻き込むのは許さない」
マズイ……これはとにかくマズイ。
シチュエーション的には俺が朝倉に襲われたときに似ているが、内部事情を多少なりとも知っている今、あの時よりもよっぽど危機的状況なのがわかる。
長門と喜緑さんの立場は、言ってみれば保護観察処分を受けている子どもとその監察官みたいなもんだ。
勝負の勝敗いかんに関わらず、喜緑さんに逆らうことそのものが長門の身の危険に直結しているわけだ。
「長門!穏便に!穏便にいこう!」
そう俺が叫んだのと同時か、はたまたコンマ何秒かのタイムラグがあったのかははっきりとしないが、とにかく俺は長門に腕を引かれつつ壁の大穴から脱出させられていた。
いつの間に!?
だが、その程度のことで驚いている場合じゃなかった。
俺の背後でみるみる壁が元の姿を取り戻していくのは長門がやったのか、それとも喜緑さんの手によるものなのか。
これも今更俺のびっくりメーターを上昇させるもんでもない。
俺が驚いたのは、長門が肩に旧型パソコン一式を抱えていたことだ。
これまたいつの間に喜緑さんから掠め取ったんだ!?怪盗ルパンの4代目が襲名できるぞ。
「長門、それをどうするんだ!?」
「プログラムに修正を施し、無力化してからあなたにキーを押してもらう。
エンターキーさえ押せば、喜緑江美里も文句は言えない」
走行スピ−ドを緩めないまま、長門はそう言った。
「そんなんでいいのか?」
「いい。情報にはあらゆる可能性が内包されており、わたしが介入しなくともプログラムが本来の効力を失う可能性はゼロではない。
事後の反証は不可能。問題ない」
俺はさっき『ゼロ』と『限りなくゼロに近い』なんて似たようなもんだと考えていたが、今回の場合はゼロでさえなけりゃいいらしい。
いい加減なもんだな。
「で、今は一体どこに向かってるんだ?」
「部室」
「あそこまで行くのか?喜緑さんが追ってくるだろうし、間に合うのか?」
「部室以外ではプログラムの修正は無理。生徒会室侵入前にトラップを配置した。時間は稼げるはず」
つくづく抜け目がないね。将来は検査院に入ったらどうだ?政治家の不正がなくなりそうだ。
898たとえばこんな世界改変 そのいち:2006/10/11(水) 12:44:52 ID:fsK6uL0q


部室までなんとか無事にやって来た俺達。
長門は到着するなり壁に手を付き、人間の理解領域を遥かに超えた早口呪文を唱えた。
見た目はなんも変わっちゃいないが、これでも密室になっているらしい。
「でも長くはもたない。
喜緑江美里はわたしの能力に対抗するのに特化されたインターフェース。
ただちに世界改変プログラムの修正を開始する」
言うがはやいか、長門はいつも俺と古泉がゲーム盤を置いている長机にパソコンを置くと、またまた右手をそれに添えて呪文の詠唱だ。
どうもソケットにプラグを差し込む必要はないらしい。
どうにも手伝えることがないのがもどかしいね。
せめて邪魔にはならんよう静かにしてるさ。
「押して」
って、もう終わったのかよ!?1分もたっちゃいないぞ!?
「喜緑江美里が侵入してくるまで時間がない。
完全なかたちでの無力化は無理と判断した」
長門がそう言うからには、もう本当に時間がないんだろう。
「でも可能なかぎり、無害化は出来た。
押して」
押すさ。当然だろ。
俺は自分が将来年金を受給できることは信用しちゃいないが、長門のことは誰よりも信用してるんだからな。


俺が迷わずエンターキーを押すのと、部室のドアが開くのはまったくの同時だった。


世界改変プログラムは作動した。
つまり、今この世界は今までのものとはまったくの別物ってことだ。
なにが変わった?
目の前には長門がいる。
その顔には眼鏡が装着されている。
一瞬ギョッとなる俺だったが、いや、表情を見ればわかる。
眼鏡をかけているだけで、他はなんにも変わっちゃいない。いつもの長門だ。
次いで後ろに振り返る。
開け放たれたドアの向こうに喜緑さんがいるはずだからな。
そして、さすがにこれには驚いたね。
「まさかこのようなかたちに世界が改変されてしまうとは思いませんでした」
つぶやく喜緑さん。
ちょっと呆れ成分が混ざったその微笑み顔には、ノーフレームの眼鏡がかかっていた。
899たとえばこんな世界改変 そのいち:2006/10/11(水) 12:45:58 ID:fsK6uL0q


両手でせわしなく眼鏡の位置を微調整をする喜緑さんは言う。
「つまりですね、『女性は人前では眼鏡をかけていなければならない』というのが常識な世界になってしまったんです」
んなアホな。
俺の感想はそのひとことに尽きた。
「前回の世界改変の期間中、長門さんは眼鏡をかけていましたからね。
その残存データがこのようなかたちで作用してしまったんでしょう」
眼鏡業界は今すぐ長門を生き神様として奉るべきだな。
なんなら俺がマネージャーを務めてやってもいい。
ふと見ると、長門と喜緑さんが揃って天井を見上げている。
天井の木目が般若の顔にでも見えるのか、なんて間抜けなことは俺だって考えないぜ。
これは例のアレだ。宇宙にいるボスと連絡をとってるんだろう。
そのあいだも、いまいち眼鏡の位置がしっくりこないのか、しきりに眼鏡を上下させる喜緑さん。
それ、サイズが合ってないんじゃないですか。
「統合思念体は今回の結果に満足している」
「長門さんに対してなんらかの処分がくだされることもないみたいですね」
そりゃよかった。
3日間、世界中が眼鏡っ娘だらけになる程度で収まってくれたんなら、それこそ万々歳だ。
まあ、しばらく素顔の女子を見られないのは残念なんだが、それぐらいは我慢しないとな。


なんだかんだで事態が平穏無事に済んだことで安堵しきっていた俺は、その時の長門の目に妙な色が宿っていたことには気付けずじまいだった。


「………」
「あのー、なぜここにいるんですか?」
「………」
「え?慰めて、ですか?そんな義理はないと思うんですけど。だってわたしは仕事の邪魔をされたんですよ」
「………」
「まあ、愚痴ぐらいなら聞いてあげてもいいですけど。
はあ、つまり長門さんは、全員が眼鏡をかけるようになれば自分が一番似合っているはずだから、自然に彼の好意を独占できると予想したと」
「あの伏兵は予想外」
「結局のところ今回の敗因は、彼の眼鏡属性のなさを過小評価していたことではないかと思いますが」

「まさかクラスメイトの由良に好意を抱くとは想定していなかった」

「それに関しては同感ですね。
つまり、今までは眼鏡をかけているということで敬遠していたけれど、全員が眼鏡をかけるようになったらクラスで唯一のポニーテールである彼女の魅力が際立ってしまったんですね」
「………」
「そんなゴムを用意したって無理ですよ。その髪の長さでどうやってポニーテールなんてしようっていうんですか。
諦めてあと2日間我慢してください」
「………」
900たとえばこんな世界改変 そのいち:2006/10/11(水) 12:48:13 ID:fsK6uL0q
以上
そのいち、でした
ネタに困ったときはとりあえず長門と喜緑さんをからめとけ、というのが自分のやり方
続いて、そのに、いきます
901たとえばこんな世界改変 そのに:2006/10/11(水) 12:49:46 ID:fsK6uL0q
「呼び出しに快く応じてくださってありがとうございます」
妻を人質にとられて大人しく参勤交代する外様大名のごとく生徒会室にやってきた俺に、喜緑さんは下級生相手では過剰とも思える礼儀正しさで頭を下げた。

「どうかこのエンターキーを押していただけませんか?」
まるでトレイの上のデザートを薦めるメイドのごとき軽々しさで、喜緑さんは俺の前にキーボードを恭しく掲げながら微笑み成分を3割ほど引き上げた。

「関係ない。彼を巻き込むのは許さない」
『憤怒』とさえ呼べそうな強烈いら立ちオーラを発しつつ、長門は無言で喜緑さんを睨みつけている。

「喜緑江美里が侵入してくるまで時間がない。
完全なかたちでの無力化は無理と判断した。でも可能なかぎり、無害化は出来た。
押して」


俺が迷わずエンターキーを押すのと、部室のドアが開くのはまったくの同時だった。


世界改変プログラムは作動した。
つまり、今この世界は今までのものとはまったくの別物ってことだ。
なにが変わった?
目の前には長門がいる。
その顔に眼鏡は装着されていない。
一瞬ホッとする俺だったが、いや、なにもかもがいつもの長門だってわけじゃなかった。
長門の、いつもなら短く切り揃えられているはずの髪、その髪型に変化が……
若干の期待と共に後ろに振り返る。
開け放たれたドアの向こうに喜緑さんがいるはずだからな。
そして、希望通りのその姿に、思わず俺の顔はにやけちまったね。
「まさかこのようなかたちに世界が改変されてしまうとは思いませんでした」
つぶやく喜緑さん。
その喜緑さんの、普段であれば肩にかかっているセミロングの柔らかな髪は、後頭部において水色のリボンでくくられていた。
そう、今まさに、俺はポニーテール姿の美少女アンドロイドに前後から挟まれていたのだった!
902たとえばこんな世界改変 そのに:2006/10/11(水) 12:50:48 ID:fsK6uL0q


指で梳ったらさぞかし気持ちがいいであろうポニーテールを揺らしながら喜緑さんは言う。実にいい。
「つまりですね、『女性は人前ではポニーテールをしていなければならない』というのが常識な世界になってしまったんです」
なに、その俺専用ニルヴァーナ。
俺の感想はそのひとことに尽きた。
「前回の世界改変の期間中、涼宮さんはポニーテールをしていましたからね。
その残存データがこのようなかたちで作用してしまったんでしょう」
あのアナザーハルヒは実際にポニーテールを披露して俺を楽しませてくれたうえに、こんなお土産まで用意してくれていたのか。
今すぐ国民栄誉賞を授与したいくらいだ。
ふと見ると、長門と喜緑さんが揃って天井を見上げている。
季節外れの蚊でも飛び回ってるのか、なんて間抜けなことは俺だって考えないぜ。
これは例のアレだ。宇宙にいる親分と連絡をとってるんだろう。
顔を上下させるごとに跳ね回る長門と喜緑さんのポニーテール。
べっかんこう先生、ぜひ次回作のメインヒロインは再びポニーテールにしてくれ!
「統合思念体は今回の結果に満足している」
「長門さんに対してなんらかの処分がくだされることもないみたいですね」
当たり前だ!これが気にいらないなんてトンチキなことを言いやがったら、これからの俺のモノローグの『情報統合思念体』の部分を『精神異常者』に変えてやる!
3日間限定とはいえ、世界中がポニーテールっ娘だらけになるなんて、それこそ極楽浄土だ。
玄奘三蔵さん、すまんな。俺はあんたみたいな辛い旅もしてないのに天竺にたどり着いちまったよ。


これからの天国のような3日間に想いをはせてうっとりとしていた俺は、その時の長門の目に妙な色が宿っていたことには気付けずじまいだった。


「………」
「あのー、なぜここにいるんですか?」
「………」
「え?彼が部室にいなくて暇、ですか?いつもみたいに本でも読んでいたらいいじゃないですか」
「………」
「まあ、愚痴ぐらいなら聞いてあげてもいいですけど。
はあ、つまり長門さんは、ポニーテールのオンオフによって変化が一番激しいのは自分だから、彼の『ギャップ萌え』を期待できると予想したと」
「この結果は予想外」
「結局のところ今回の失敗原因は、彼のポニーテール萌えを過小評価していたことではないかと思いますが」

「まさか世界が元通りになったら寝込んでしまうとは想定していなかった」

「彼にとって、どれだけあの3日間がパラダイスだったのかが窺えますね」
「………」
「はい?『オーガストファンBOX』でも持っていけば元気になるかも、ですか。18歳未満へのお見舞いにそれはマズイのでは?長門さんじゃ購入できませんし」
「………」
903たとえばこんな世界改変 そのに:2006/10/11(水) 12:52:47 ID:fsK6uL0q
以上
そのに、でした
キョンは絶対オーガストファンだと思う
べっかんこうにシンクロニシティを感じてると思う
続いて、そのさん、いきます
904たとえばこんな世界改変 そのさん:2006/10/11(水) 12:54:49 ID:fsK6uL0q
俺が迷わずエンターキーを押すのと、部室のドアが開くのはまったくの同時だった。


世界改変プログラムは作動した。
つまり、今この世界は今までのものとはまったくの別物ってことだ。
なにが変わった?
目の前には長門がいる。
その顔に眼鏡は装着されていない。
つうか、眼鏡がどうこう言ってられる次元じゃなくなってる。
次いで後ろに振り返る。
開け放たれたドアの向こうに喜緑さんがいるはずだからな。
そして、長門と同じ格好、というかコスプレをした喜緑さんを見てさすがに呆れたね。
「まさかこのようなかたちに世界が改変されてしまうとは思いませんでした」
つぶやく喜緑さん。
その喜緑さんの全身は艶やかな白色で埋め尽くされていた。
ウエディングドレス。
普通なら花嫁が結婚式場でのみ着ることを許された衣装。
俺の目の前で宇宙人を親に持つ美人姉妹は揃って花嫁姿を晒していた。
905たとえばこんな世界改変 そのさん:2006/10/11(水) 12:55:39 ID:fsK6uL0q


薄手のヴェールの向こうから口を動かし喜緑さんは言う。
「つまりですね、『女性は人前ではウエディングドレスを着ていなければならない』というのが常識な世界になってしまったんです」
冗談にもほどがあるだろ。
俺の感想はそのひとことに尽きた。
「えー、そのー、誰かさんの結婚願望やらなにやらがいろいろと影響したりしなかったりで、こんなことになっちゃったんじゃないでしょうか」
なんてやる気のない説明なんだ。
もし嫌だってんなら古泉にでも代わってもらえば、5分くらいかけてもっともらしい理由付けをしてくれますよ。
ふと見ると、長門と喜緑さんが揃って天井を見上げている。
飛行機が上空を通過する音でも聴こえたのか、なんて間抜けなことは俺だって考えないぜ。
これは例のアレだ。宇宙にいるゴッドファーザーと連絡をとってるんだろう。
格好が格好だけに、キスでもせがんでるように見えないこともない。
誰かこの2人の花婿に立候補したいって猛者はいないか?
「統合思念体はおおむね今回の結果に満足している」
「ただ意識の一部に激しいノイズも検出されますね」
ノイズ?どういうことだ?
「人間の感情に置き換えるなら『嘆き』『悲しみ』『怒り』が複合した感情らしきもの、といったカンジでしょうか」
「さらに意訳するなら『嫁に行くなど許さん』と言っているように思われる」
親バカなのか?性別不明な2人の親御さんはよ。
3日間ぐらい我慢しろよな、実際に結婚するわけでもなし……
ちょっとアホみたいな光景ではあるものの、華やかでいいじゃないか。


流石のハルヒでも用意できそうもない高価な衣装の乱舞に目がクラクラしていた俺は、その時の長門の目に妙な色が宿っていたことには気付けずじまいだった。


「………」
「あのー、なぜここにいるんですか?」
「………」
「え?3日間なにも起きなくて不満、ですか?そんなことをわたしに言われても」
「………」
「まあ、愚痴ぐらいなら聞いてあげてもいいですけど。
はあ、つまり長門さんは、花嫁衣裳というメタファーによって自分の感情がそこまで高まっていると彼にアピールしたかったと」
「この無反応ぶりは予想外」
「結局のところ今回の失敗原因は、たったひとつのシンプルなもの、だったと思いますが」
「………」
「は?あなたがわたしを怒らせた?違いますよ。わたしは別に怒ってませんし。
長門さん、日本文化に毒され過ぎじゃありません?
そうじゃなくて、理由はこれです」

「日本では18歳未満の男子には婚姻の資格がないので、手を出さなかったのではないかと」

「………」
「今度は法律の改変も視野に入れる?多分、統合思念体の許可がおりないと思いますよ」
「………」
906たとえばこんな世界改変 そのさん:2006/10/11(水) 12:57:10 ID:fsK6uL0q
以上
そのさん、でした
続いてラスト、そのよん、いきます
907たとえばこんな世界改変 そのよん:2006/10/11(水) 12:58:15 ID:fsK6uL0q
世界改変プログラムは作動した。

「まさかこのようなかたちに世界が改変されてしまうとは思いませんでした」
つぶやく喜緑さん。
その喜緑さんの胸のあたりが寂しくなっていた。
ちなみに長門はまったく変化なしだ。喜ぶべきか哀れむべきか……


「つまりですね、『女性は貧乳』というのが常識な世界になってしまったんです」
つまり3日間は女性の胸に夢も希望も詰まっちゃいないってことか。寂しい世の中だな、おい……


「………」
「あのー、なぜここにいるんですか?」
「………」
「え?胸の大きいメンバーと同じ空間にいたくない、ですか?それで生徒会室に来るというのはどういうイヤミなんでしょう」
「………」
「まあ、愚痴ぐらいなら聞いてあげてもいいですけど。
はあ、つまり長門さんは、全員貧乳にすることで自分の欠点を抹消しようと考えたと」
「この変化のなさは予想外」
「もう、ここまでくると、彼は長門さんのことを異性としてはまったく見てないと考えるべきでは」
「………」
「イタ!痛い痛い!攻性情報痛い!」
908名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 13:00:19 ID:fsK6uL0q
以上
4つほど馬鹿な世界改変モノを書かせてもらいました
ああ、やっぱ馬鹿な長門と喜緑さんを書くのは気持ちいいなぁ
909名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 13:20:46 ID:Cr/KYijO
実にお馬鹿だった。
910名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 13:26:26 ID:DLavbXQB
ポニーテールの世界の続きを読んでみたいなぁ。というか、ポニーテール鶴屋さんを読んでみたい。
911名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 13:27:23 ID:Fl/k/pTU
>908
長門と喜緑さんは漫才コンビになりうる、と。
OK、グッジョブ。井上よしひさが嬉しすぎて死にそうな世界をありがとう。
ところでその三日間鶴屋さんと朝比奈さんとあとハルヒはどうしてたんだろうね。
912名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 14:29:48 ID:Q7BBUhO6
実に面白かった。できれば改変中の3日間の様子も読んでみたい。
913名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 15:04:56 ID:f6fIoNKf
もー、じつにばかだなー。すげえよ(誉め言葉
914名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 16:19:05 ID:rv5SEAc7
ニヤニヤした。
ありがとう。
915名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 16:29:20 ID:cXrvRvby
『女性は貧乳』が常識の世界でも朝比奈さんは巨乳ですかそうですか。
に、さん、よん、と徐々に余計な文章を省いていった点も高評価。素晴らしい。
916名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 16:44:16 ID:m42SYM5w
バーカ!(ジュウシマツ和尚の形相で) これはいい素敵面白姉妹ですね。
前振りとかがどんどん適当になっていくのが個人的にツボだった。

あと18歳未満なのにオーガストファンにされてるキョンに乾杯。
どうでもいいけど、シンクロニシティの使い方が間違ってると思った。
917名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 16:55:46 ID:DEAjMnCp
現在475kB。1000と500kB到達どっちが早いかな?
918名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 17:00:36 ID:d/qpW2vy
馬鹿馬鹿しくて最高!!
いいなあこういうの。
919名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 17:00:50 ID:Ya3+VrL2
このまま投下なけりゃ1000いくんじゃね?
920名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 17:22:22 ID:WDHqezRt
一個書き上がってるんだが、21kある……。
素直に次スレにまわすか。
921名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 17:26:00 ID:ruaohn3K
ニヤニヤが止まらない。
922名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 17:30:20 ID:Dt9LsG8V
>>925
920のために次スレを立ててくれ。
923名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 17:32:07 ID:LbTVOwsq
>>3は削除でな。
924名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 18:02:45 ID:Ya3+VrL2
SMスレをテンプレにいれてくれ
925名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 18:07:03 ID:Rp+jGiog
同じくSMスレをテンプレへ
926名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 18:07:57 ID:Rp+jGiog
↑すみません
>>930
頼む
927名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 18:11:55 ID:YVg84lmE
前々から疑問に思っていたんだが、SSスレは幾つもあるだろうに何でSMスレだけテンプレに入れるのはおかしいだろう

なんか見てて宣伝してるようにしか思えない
928名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 18:13:03 ID:LbTVOwsq
実際宣伝だろうな。VIPにも誘導コピペあったし
929名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 18:13:37 ID:YVg84lmE
俺日本語でおk

>前々から疑問に思っていたんだが、何でSMスレだけテンプレに入れたがる?
>SSスレは幾つもあるだろうに、SMスレだけテンプレ入りするのはおかしいだろう
930名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 18:28:29 ID:YVg84lmE
じゃあちょっとスレ立て試みて来るか
>>3を削除、>>2の規制についての部分を削除、宣伝は無視、の三つで
931名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 18:31:49 ID:YVg84lmE
932920:2006/10/11(水) 19:11:04 ID:dBbUcgaB
立ったみたいですね。乙ー。
んじゃ宣言してた21kを12レス予定で。エロなしです。
……間に合ったぁ。
933雄弁な神と寡黙な端末:2006/10/11(水) 19:12:18 ID:dBbUcgaB

 春休みまでのカウントダウンもあと一桁といった週末の放課後。
 珍しく部室一番乗りを果たした俺は、この陽気な風を受けつつ春眠でも貪ろうかと部室の窓を開け放った。

 俺のつかの間の平和はこの二行であっさり終わりを告げる。
 なぜなら突如、何かが窓の外から部室目掛けて突撃してきたからだ。
 あと一歩窓を開けるタイミングが遅かったら、ガラス製の窓はあっさりぶち割られていた事だろう。
 俺の横を通り抜けたソレは部屋の中央でごろんと転がる。二、三回転がった後おもむろに立ち上がると部室を見回し
「ほう、これはなかなかの混沌空間だな。殺伐としていて良い趣向といえよう」
 一般人とはかなりかけ離れた感想を述べた。
 三階にあるこの文芸部室に窓から侵入してくる時点でどう考えても一般人じゃないのだろうが。

「邪魔をする。そなたがこの部屋の主か」
 侵入物がこちらを振り向く。眠たげな表情をした、まだ子供を思わせる顔と体つきをした少女だった。
 ぱっと見た感じ、妹と同年代ぐらいではないだろうか。
 但し雰囲気は大違いで、落ち着いた感を見せる少女は妹はおろか、俺なんかよりも大人びて見えた。

 そして一つ大きな問題がある。それは少女が素っ裸であるという事だった。
 正確に言えば首にぼろ布を纏っているので素っ裸ではないのだが、逆にエロティシズムを増しているだけに過ぎない。
 言葉を失ったまま極力その少女を見ないように努めつつ、冷静になれと俺は心を落ち着かせる。
 どうやら俺はまたふざけた状態に陥ってしまったようだ。
934雄弁な神と寡黙な端末:2006/10/11(水) 19:13:16 ID:dBbUcgaB
 この部屋の主はいったい誰なんだろう。律儀に答えることも無いが、冷静さを取り戻す一環として考えてみる。
 学校側からすればここは文芸部の部室であり、主は当然この学校唯一の文芸部員である長門となる。
 だがここが何であるかを知る者ならば、誰だって迷わずアイツの名をあげるだろう。
 そう、つまりは「涼宮ハルヒ」の名を。

「涼宮ハルヒ……破留妃。流れ留まる現世をうち破る女皇、か。なるほど、それ程の者が主ならこの空間も頷ける」
 少女は訳のわからん納得をみせる。平和主義者の俺としてはあまり打ち破ってもらいたくないものであるが。
 ところで俺からもちょいと訪ねていいか、そこの露出狂少女よ。
「何なりと訪ねるがよい。我の知る範囲なら萌えとエロの違いからクツシタのみの姿に発情するロジックまで答えよう」
 えらい狭義な知識だな。
 口調は大人びているというより古風な感じを受けるが、話す内容はメチャクチャだ。
 何故素っ裸なのか、何故窓から飛んできたのか、謎は多いがとりあえずこれだけはハッキリさせておきたい。
「お前は宇宙人か、未来人か、超能力者か、はたまたそれ以外の存在か。まずはソレを教えてくれ」

 なるたけ裸体を見ないよう目元を手で隠しつつ、俺は少女に尋ねる。
 少女は感心したかのように息を呑み、うんうんと頷きながら俺に近づいてきた。
「ほほう、我がその正体を明かす前に尋ねる最初の質問が『人間』を除外した選択肢とは本当に興味深い。
 流石はこのような混沌が飽和せしめる部屋に於いて何食わぬ顔で存在しえる者か。
 そなたがこの部屋の主で無いという事実に我は驚愕を覚える。
 それともそなたが人間に見えるのは擬態か何かか。そうであるならそなたの擬態は完璧といえよう」
 別に俺は擬態も何もしていない。正真正銘普通の人間だ。宇宙人、未来人、超能力者のお墨付きだから間違いない。

「さてそなたの疑問に答えるならば、我は『それ以外の存在』と言うカテゴリになるな」

935雄弁な神と寡黙な端末:2006/10/11(水) 19:14:08 ID:dBbUcgaB
 ……なんだと。よりにもよって『それ以外の存在』だと?
 息を呑んで現状を把握する。つまりアレか、ついに異世界人までやってきてしまったって事か。

「先の質問のみで我が異世界からの来訪者である事を突き止めるとは、ますます興味深い。気に入った。
 そなたにならこの身体を無償でサービス提供しても良く思えてきた。
 最初の一回に関しては我が欲情とは関係なしに、ロハでそなたの望むプレイに答えてやろう」
 少女があっさりと肯定してくる。俺は目を覆った手をそのまま眉間に当て、小さく首を振った。
 気に入る必要も妙なサービスも必要ないから、とっとと服を着て元の世界へ帰ってもらえないだろうか。

「永劫を生きる我とて暇ではないし仕事もある。我とてできるものならそうしておる。
 まあ、そなたと目くるめく官能を十分に堪能するぐらいの時間は取ってやってもよいと思うがな」
 少女は笑いながら俺の股間をさすりだす。突然何しやがるんだ、俺は思わず後ずさりつつ訴えた。

「良いではないか。我が格好も窓から飛び込むシチュエーションもそなたの熱く滾る獣欲を扇情する為のものである。
 全裸の幼女が窓から飛び込んできて欲情せぬ男はおらぬだろう」
 欲情する前にドン引きするぞ普通。そんなのでいきなり欲情するのはエロゲーの主人公ぐらいだ。
「そう言う割には、そなたのそこは我が肉体に勃起し始めておるようだが」
 言うな。ドン引きしてても見せ付けられれば立ってしまうのが男の悲しい性だ。
「まあそなたのような若い男なら、性欲などそれこそ毎夜毎夜に搾り出すぐらいは持て余しておるのだろう。
 そなたのカチカチになったそれを激しく突き入れられるのなら、我はいくらでもお膳立てしようではないか。
 オプションは何がいい。後ろに尻尾を挿すとか黒クツシタだけだとかポニーテールとかがお望みか。
 そなたの欲望が増加し我を満遍なく満たすのなら我は何ら惜しみなく努力しよう」

 頭が痛くなってくる。こいつのいた世界は一体どういう所なんだ。そこでは誰も彼もが欲情しまくっているのか。
 それともあれか、性行為に関してはオープンで食欲辺りが恥ずべき行為な世界だというのか。
「いや、そのような事は無い。我が世界の人間界もこちらと限りなく近い社会を形成しておる」
 人間界だ? 何たってそんな神の目で語るような……とそこで俺は言葉を止めて考え直した。

936雄弁な神と寡黙な端末:2006/10/11(水) 19:14:56 ID:dBbUcgaB
 思い出せ。まずこいつはこの部室へ空を飛んでやってきた。
 俺の質問に『人間』を除外してとか言っていた。
 そして永劫を生きるだ人間界もうんたらだという発言だ。
 何かおかしくないか。そう、人間としては何かが。

「ところでさっきオプションを語った際、そなたのモノが反応したのが見て取れた。そなたが一体どのオプションに
反応を示したのか、我は気になっておる。後ろに尻尾を挿す行為か、黒クツシタだけか、ポニーテールなのか。
 それともその全てがそなたの望みか。なるほどこれは失念した。
 早速尻尾と黒クツシタを用意し、髪型をポニーテールにしようではないか。
 ところでそなたの望む尻尾は犬派か、それとも猫派か? 意外なところでは兎という選択肢もあるな」
 まぁ妙にエロ思考であるという時点で、こいつが人間として何かがおかしいというのはわかるんだが。

「……すまんが、もう一度尋ねさせてくれ。お前が異世界から来たのはわかった。だが、お前の正体は一体何だ」
 少女が不敵に微笑み、俺へと一歩近づく。部室に流れこむ風にぼろ布をなびかせ、そのほんのりピンク色な肌を何一つ
隠すことなく、両手を腰に置き凹凸の少ない裸体の全てを俺に見せながら告げてきた。



「答えよう。我はそなたが気付いている通り、異世界より来たりし人間非ざる者である。
 我は霊魂加工業者──────つまり『死神』である」



 なるほど、異世界人ではなく異世界神ときたか。
 しかも普通の神様じゃない、よりにもよって死神ときたもんだ。
 俺は死神の言葉に納得し、次にすべき行為を迷うことなく実行する事にした。
「そうか。じゃ死神さんとやら、とりあえずその辺の椅子に適当に座っていてくれ」
 もう少ししたら宇宙人か未来人か超能力者がここへとやってくるはずだ。
 お前がここにいる理由やら何やらは全部そいつらに話すといい。きっと何とかしてくれるはずだ。特に宇宙人あたりが。
「よかろう。我も宇宙人、未来人、超能力者とは面識がない。ところで、そなたはカバンを持って何処へ行くつもりだ」
 もちろん俺のすべき事とはただ一つ、こいつの存在を無かった事にして帰ることだ。だから帰る。
 誰か来たら俺は帰ったと言っておいてくれ。じゃあな。

937雄弁な神と寡黙な端末:2006/10/11(水) 19:16:08 ID:dBbUcgaB
 自称死神はさっと立ち上がると扉を開けて帰ろうとした俺のベルトを掴んで止める。
「待たぬか。そなたがいなくなったら、我のこの欲情溢れる身体はいったい誰と床を共にして治めればいい」
 そこらで勝手に一人で抜いてろ。何で俺が死神の欲求不満解消に付き合わねばならんのだ。
「オナニーで発散できる程度の欲求なら誰も頼まぬ。そうでないからこうして我が一糸纏わぬ姿で扇情しているのであろう」
 ぼろ布を纏っているから一糸纏わぬというのは間違っているがな。
「ならば脱ごう」
 あっさりと言い放ち死神が申し分程度に纏っていたぼろ布を脱ぎ捨てる。
 これで誰かが部室のドアを開けた時には、俺はどう見ても言い逃れできない青少年保護法違反者だ。
 仕方なく俺は扉に鍵をかける。死神なら死神らしく真っ黒いローブにデスサイズの一つでも持ってきやがれ。
 あるいは北高の制服に軍隊用のナイフでも持って襲い掛かってくれば、まだ今のお前より死神に見えん事もない。

「最近の死神は鎌ではなく手帳を手にしているのが流行と聞いていたが間違いか」
 手帳すら持ってないヤツが言う台詞じゃないし、昔も今も裸の死神なんてのはおらん。
「何処からともなく服を出すとか、そういう特技はお前には無いのか」
「そのような事ができるのは天使か悪魔か魔術師ぐらいだ。それともこの世界では死神は奇跡を起こす存在なのか」
 確かに違うな。俺は呟きカバンと共に持っていた袋からジャージを取り出す。
 死神に両手を挙げさせてジャージを頭からかぶせ、チャックを上げて首元をしめる。
 よし、とりあえずこれで隠してほしい部分は隠れた。目線のやり場にも困らない。

「そなたも全裸よりチラリズムや着衣にシチュエーションを求めるタイプか。しかし幼女に丈の合わぬ男物の貫頭衣とは
これはこれでマニアックなシチュエーションだの。だが荒い合成生地が乳首とすれてこれはこれで楽しめる。
 その上このように指先だけを袖から出せば更なる萌えの一環にもなる。なるほど、そなたの萌えが理解できた」
 どこまで曲解するつもりだ。俺は死神にチョップをかまして黙らせた。
938雄弁な神と寡黙な端末:2006/10/11(水) 19:17:20 ID:dBbUcgaB
 いったいこの異世界人ならぬ異世界死神は何なのだろうか。何故ここへやってきたんだ。
 足を曲げてしゃがみこみ、毒づく死神の袖を適当にまくってあわせていると
「涼宮ハルヒが望んだから」
 突如俺の真後ろから声が投げかけられた。正直、今日一番びっくりした。
 頼むから鍵の掛かった部屋にあっさりと、しかも音も立てずにそっと俺の真後ろまで入ってこないでくれ。
 本気で心臓が止まるかと思ったぞ、長門。

「心配するな。我が居る故安心して心臓を止めるがいい。異世界人の魂は初めてだが何とかなるであろう」
 お前はお前で不穏当な事を言うな。

「その必要はない。彼は死なない。殺させない」
「ほう。ただの外星系端末かと思いきや、明確な意思表現があるとは驚愕だ。何がそなたから端末装置の枠組みを外した」
 長門は答えずにただじっと俺のことを見つめる。
「なるほど、そなたがこやつの伴侶か。それなら我が挑発しても獣の如く襲い掛からぬ理由がわかる。
 人間には一つの個体に固執する習性があり、それを美徳とするのが現在の主流らしいからの。
 なら我はこやつからではなく、その界隈を歩く童貞どもから溜り滾る性欲を白濁に変え、我が肉体を白濁に染め上げるまで
浴びせてもらう事によって、我の性欲を満たす事にしよう。それならよいな」
「いい」
 よくねえよ。長門もしれっと答えるな。

「でも、それを汚すのはダメ」
 長門はそう言うとおもむろに死神へと近づき、俺がようやく袖を合わせたジャージをあっさりと剥ぎ取った。
 そして自分のカーディガンを脱ぐと、メガネを注射器に変えた時のように呪文を唱え始める。
 呪文にあわせ、長門の手の中でカーディガンが物質変換されていく。
「物質再構成か。なかなかの手腕、そなたの製作者は情報系に有能と見受ける」
 やがてカーディガンが小さめの真っ白いワンピースに変換されると、長門はそれをすっと俺へと差し出した。
「これを」

 俺が受け取ると、今度はスカートの中へと両手を差し込む。
 白い布切れを太ももから足首まで下ろすとゆっくりと片足ずつあげて抜き取り、先ほどと同じように呪文を唱える。
 自分の下着から白いキャミとパンツを作りあげ俺に渡してくる。仕方なく俺は死神に下着をはかせ、キャミをかぶせ、
最後にワンピースを着せて格好を整えた。こんな事をしていると、昔妹に洋服を着させてやった頃を思い出す。
 さらに長門は自分のスポーツブラから死神用の靴下、部室の隅にあった来客用スリッパから靴を構成する。
 俺が受け取りそれらを履かせる。不承不承ながらも死神は抵抗せず、眠たげな目でじっとみつめてくるだけだ。
 苦労した甲斐もあって、死神はぱっと見た感じでは何処にでもいる少女のように見える所まで化けた。
 正直に言うとかなり似合っている。ワンピースと同じ純粋無垢で真っ白な少女と言ったところだ。

「ふむ、これが人類の萌え文化の三大始祖たる白いワンピースか。初めて纏ってみたが、この貫頭衣の腰布が歩く事で
時々めくれ上がり、白い生地から内股と更なる奥を覗かせる事でチラリズムと称される効果が存在すると……」
 前言撤回、中身の黒さが全てにおいて台無しだった。
939雄弁な神と寡黙な端末:2006/10/11(水) 19:18:19 ID:dBbUcgaB
 さて、どうすればこの死神エロスを元の世界へ召還できるか考えよう。
「召還自体は可能。だが涼宮ハルヒへの対処を行わねば再度召喚される可能性がある」
 長門は本棚から分厚い本を取り出すと、いつもの席に座り本を開く。
 俺は死神を適当に座らせるとオセロを取り出し、死神と対峙する席に着いた。

「ルールは知ってるか」
「挟んだ相手の駒を自駒に変える、最後に駒の多い方が勝ち、負けた方は一枚脱ぐ」
 最後のは余計だ。そもそもこの部室では脱衣オセロは禁則事項だ。何でもかんでもそっちに繋げるな。
 ついでにそこで本を手にしているお嬢さん。そんなやる気を込めた眼差しを向けなくていいぞ。
 大体よく考えたらお前、死神の服を作った時に下着使っただろ。
「スカーフに制服上下、靴下と上履きで五着。問題ない」
 そんなギリギリなオセロはやめなさい。今度賭け無しでいくらでも遊んでやるから。
「………わかった。カレーを作って待っている」
 泊り込みかよ。俺は溜息をつきながら第一手を指した。


 話を戻して、ハルヒへの対処っていったってどうすればいいんだろうかね。
 大体アイツは死神と異世界人、どっちを望んで呼び出したんだ。
「我、つまり死神だろう」
 パチパチと駒を返しつつ死神が答えてきた。
「先ほども言うたが、我は人間ではない。故に厳密には『異世界人』にはならない」
 死神だからな。でもそれなら逆に、異世界の死神を呼ぶ必要だってないはずだ。
「その通り。もしそなたらの世界に死神、ないしそれに準ずる存在があるのなら、その死神を呼べば事足りる」
 つまりこの世界に死神はいない、そういう事か。
「ああ、少なくとも我と我が業者の様な死神はおらぬ。この世界の理に則った死神は何処かに居るやも知れぬが、それは
我を呼び出した召喚主の想像した死神では無いのであろう」
 それでお前の出番ってわけか。全くご苦労な事だ。
940雄弁な神と寡黙な端末:2006/10/11(水) 19:19:38 ID:dBbUcgaB
「全くだ。数百年ぶりに地上にでて任務を行い、ようやく完了したかと思った途端に召喚された。おかげで業務報告書と
上申書の作成に加え、出張報告書と天災遅延証明までもが必要になった。一体誰が遅延証明を発行するというのか」
 駒を手で弄びながら死神がぼやく。確かにそんなものを発行できるようなヤツは

「問題なければサンプリングDD12矩形汎用型で、次元転移証明並びに転移理由証明書を作成する」
 此処に一人いた。

「問題ない、感謝を述べよう。これで査閲官に対し無駄な色仕掛けを行わずに済む」
 何だかわからんが長門の指定したフォーマットでいけるようだ。改めて長門の万能さを思い知る。
 それにしても色仕掛けとは、死神世界もどろどろのようだな。
「うむ。結局のところは死神関係というヤツでな。袖の下から色仕掛けという原始的なモノほど有効な手となる場合が多い。
なに、どうせ担当者に片乳首は吸わせる予定だった。それが両方になったと思えば安いものである」
 遅延証明が片乳首吸引というのが高いのか安いのか全く持ってわからん。

「破格の値段だが、我が欲求にとっては低すぎる行為だな。全く最近の死神には獣欲さが足りぬ。お陰で我はここ数十年と
充足せぬ日々が続いている。蝋を垂らせど鞭を貰えど、攻めても受けても満ち足りぬ。
 どうだ人間、我の欲求を満たすつもりは無いか。今ならどのようなサービスもオプションプレイも認可するとしよう」
「却下。彼への行為は許さない」
 何故か長門が却下してくる。まあ長門が答えるまでもなく却下するのだが。

「適度な間隔における射精は健全な人間の青年男子には必要不可欠な行為だと我は認識しておる」
「処置が必要となる場合はわたしが行う。彼が望むなら手淫や吸茎、生殖行為も辞さない」
「我は三人でも構わぬ。理想はそなたら二人が我を攻めるという形だが、そこまで我を通すのは抑えよう」
「了解した」
 こらそこ、勝手に俺とヤる算段をするな。俺はとどめの一指しで盤上の黒を白に染める。
「何か不満なのか。こやつもインターフェースらしからぬ程のヤるきを見せているというのに」
「………」
 長門も首を傾げてどうしてと聞いてくる。
 俺はその質問には答えず、代わりに一試合遊んでいる間に決定した今後の方針を長門に告げた。
941雄弁な神と寡黙な端末:2006/10/11(水) 19:20:33 ID:dBbUcgaB
「長門、こいつを連れて今すぐ帰ってくれないか」
 この死神をハルヒに会わせるのはまずい。あまりに毒がありすぎて、気に入ってしまう事間違いなしだ。
 オセロを片付けながら長門に告げると、長門は俺を見て、死神に視線を移し、再度俺の方を見つめてきた。
 わかってる。お前にだけ押しつけたりはしない。

「俺はハルヒにどうして死神を呼び出したかさりげなく聞いてみて、部活が終わったらお前の家に行く。後はそれからだ。
 夕飯と、場合によっちゃ一晩やっかいする事になるかもしれんが構わないか」
「いい」
 いつもより数ミリだけ大きく長門が頷く。喜んでいるように感じるのは気のせいではないだろう。
「ふむ、こやつの家が今夜の会場か。何だかんだ言いつつそなたもヤるき満々のようで重畳である」
 会場には違いないが、行うのは乱交パーティじゃなくお前の召還儀式だ。
 俺は片付け終えたオセロを長門に渡すと、携帯を取り出し自宅に電話をかけた。
 長門はオセロをカバンにしまうと死神の手を取る。そして一言、
「待ってる」
 電話中の俺に小さくそう告げてきた。俺が目線と手で了解のポーズをとると長門は頷き、死神と共に部室を後にした。



 さて、そもそも何故ハルヒが死神を呼び寄せたかなんだが───。

「そう、あたしは新世界の神なのよっ!」
 笑うに笑えない冗談を叫びながら、ハルヒが部室の扉をぶち破りそうな勢いで現れた。
 古泉が聞いていたらまず表情が凍りついていただろう。で、何なんだ。
「昨日見た深夜番組が意外に面白くってね。死神から殺人ノート貰った主人公が世界を粛清する話なのよ」
 話し合いをするまでもなく死神を呼び出した理由があっさりとわかってしまった。
 こいつにはこう、物語のワビサビってヤツを教える必要があるのかもしれない。


 とりあえずハルヒの死神渇望は一過性の症状のようだ。
 そうとわかればあの死神はとっとと元の世界へと召還するべきだろう。
 俺はあの生活観希薄な一室で、雄弁な死神を完璧に無視しつつ、寡黙に大量のキャベツを千切りにしているであろう
長門の事を思い浮かべていた。

942雄弁な神と寡黙な端末:2006/10/11(水) 19:21:25 ID:dBbUcgaB
- * -
 部活も滞りなく終了し、俺はみんなに別れを告げると家に帰った。
 私服に着替え、宿泊支度を整えてから長門の家へと向かう。
 万が一泊まる事になって、明日の集合に制服で行ったらどんな事になるかなんて事は考えるまでも無いだろう。

 長門の家を訪れると、死神は隣の部屋で布団を引き眠りについていた。話によるとつい先ほど眠りについたらしい。
 そういえばずっと眠たそうにしていた記憶がある。中身は真っ黒な死神も、静かに眠る姿はただの可愛い少女だった。
 俺は死神の睡眠を邪魔しないよう、静かにフスマを閉じた。

 長門は台所で鍋をかき回している。どうやら今日はレトルトのカレーではないらしい。
 既に千切りにされた大量のキャベツの横で、一人暮らしには似つかわしくない大量炊きの炊飯器が稼動している。
 死神の事はしばし忘れ、俺はつかの間の平和ってやつを十分に堪能していた。


「惰眠を貪った」
 カレーの準備が整い皿にご飯を盛り始めたところで、隣の部屋から死神が姿を現した。
 ぼろ布を纏った全裸姿だった。何でまたその格好に戻っていやがるんだお前は。
「ここには我らしかいない。故に格好を気にする必要は無いと判断した。無為に締め付けられるのは趣にあわん」
 もう何ていうか説得を諦めた俺は、とにかく死神を椅子に座らせると自分も席に着いた。
 後で裸体にカレーを散らせて無意味に熱がればいい。

 相変わらず大盛りという言葉が過小評価に感じる量のカレーとキャベツをよそわれる。
「前に摂取した味覚と比較すれば面白みに欠けるが、これはこれで僥倖である。宇宙端末の作成した人間用料理という
観点においてもしばし話題に事欠かぬ事になるであろう。ところでこの栄養素は何という名か」
「料理名はカレー、その食材はニンジン」
 褒めているのか馬鹿にしているのかわからない発言で、次々とカレーに入っている食材を尋ねる死神。
 そして淡々と答えていく長門。こうしてみると意外とあっているコンビなのかも知れない。
 二人の会話に時々口を挟みながら、俺は長門の手料理を文字通り腹いっぱい味わった。
943雄弁な神と寡黙な端末:2006/10/11(水) 19:22:21 ID:dBbUcgaB
- * -
 食事を終えると、長門はお茶を俺たちに淹れたあとコタツに向かった。
 そのまま何やら呪文を唱え始める。死神召還の準備を始めたのだろう。
「あのモノのしてくれた食事代と衣類の賃貸、提出書類作成に帰還方陣。我はその全てに感謝を込め、一つだけそなたに
死神らしからぬ忠言をしようと思う」
 隣で大人しく長門の様子を伺う死神は、視線もそのままに俺へと語ってきた。
 死神の助言とは一体なんだろうね。できれば実のある事を教えて欲しいものだ。

「あの混沌の部屋で行われた会話には二つの意がある。一つはあのモノが人間としてふるまう為、そしてもう一つは
あの端末がそなたに聞かせたいと思慮し、語った言葉だと言う事を理解せよ」
 ……何だって?
「我とあのモノだけで理解すればよい語りなら、わざわざ人間の、しかもそなたにわかる言語で話すことなど無い。
 人間の言語など、我らが思慮の万が一も伝達できぬ原始的な意思疎通手段であるのは、そなたなら知っておろう。
 実際そなたと別れた後は、我はあのモノと全く別の手段で語り明かしていたのだからな」

 死神は雄弁に語りながらコタツへと向かう。どうやら準備が整ったようだ。
 コタツの上に死神が立つ。全身に淡い光を纏いながらこちらを振り向くと、文字通りの捨て台詞を最後に告げた。
「それを前提とし思い出すが良い。このモノがあそこで何を言うたかを。それがこのモノの意思であると言う事を。
 去らばだ、もう会うことも無いであろう、永劫に触れ合わぬ我が世界の隣人達よ」
 纏わりつく光源の出力が絶頂を迎え激しくはじける。
 部屋が蛍光灯と夜の静寂を取り戻した時には、もうコタツの上に死神の姿は無かった。


「……死神は還ったのか」
「多分」
 そうか。とりあえず死神騒動は一段落したようだ。
「した」
 長門は最後にコタツに何か呪文を唱えると、台所の方へと戻っていく。俺はそんな背中に労いを込め、言葉を投げた。


「やれやれ、宿泊覚悟で来たのにいきなり暇になっちまったな。……仕方ない、持って帰ったオセロでもするか。長門」

 台所で新しいお茶を淹れながら、長門は静かな動作で頷いた。



 ───処置が必要な場合の云々という発言は、今は忘れる事にしておこう。
944雄弁な神と寡黙な端末(完)
- * -
 高崎佳由季が自室に戻ると、室内は思いつく限りの混沌が渦巻いていた。
 窓は打ち破られて風が吹き込む室内で、万年コタツを囲い三人の若者が鎮座している。

「やあ帰ったかね室長殿!見てもらえばすぐにわかるかと思うが珍客万来だ。いやはや君という人物は実に興味深い。
どうしてこう毎度毎度パンドラの箱から大脱走したトラブルが君の元を訪れるのか、その愉快な人生を送れる秘訣を
是非とも私に教えていただきたいものだ」
「十中八九お前みたいのと関わっているからだ。これを機に是正するよ」
 白衣を纏い雄弁に語る珍客一号に佳由季は答える。

「あらあらいきなり怒っちゃって、かーわいいわねユキちゃんは。今度二人きりになったら、今妄想しているような事
いくらでもしちゃってオッケーだからね。何だったら今ここで始めちゃってもわたしは構わないわよ」
「それとこんなのと関わっているからだ。これも是正しよう」
 色情魔としか思えない言葉をつむぐ珍客二号を指差し、佳由季は言葉を付け足した。


「ふむ。これだけの異形の者達にその貫禄とは、そなたがこの超常現象集団の長と言うのも確かに頷けよう」
 そして珍客三号にして正真正銘本物の珍客が最後に語ってくる。ぼろ布一枚まとった素っ裸な女性、いや少女だった。
 佳由季は再度確認した現状に頭を抱えると、ただ一言だけ呟いた。

「それで珍客のお二方に尋ねるが、この珍客は一体誰が生んだどんな化け物なんだい?」
「ほほう、我がその正体を明かす前に尋ねる最初の質問が『人間』を除外した選択肢とは本当に興味深い。我は──」



 かつて幽霊憑きだった一般人が死神と出会った貴重な瞬間であった。
 ───が、それはまた別の話である。


----------------------
以上ですー。

多分コレ以上書き込めないだろから、一応次スレ案内を……
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1160559033/