ここは人間の住む世界とはちょっと違う、ケモノ達の住む世界です。
周りを見渡せば、そこらじゅうに猫耳・犬耳・etc。
一方人間はというと、時々人間界から迷い込んで(落ちて)来る程度で数も少なく、
希少価値も高い事から、貴族の召使いとして重宝がられる事が多かったり少なかったりします。
けど、微妙にヒエラルキーの下の方にいるヒトの中にも、例えば猫耳のお姫様に拾われて
『元の世界に帰る方法は知らないにゃ。知っていても絶対帰さないにゃあ……』
なんて言われて押し倒され、エロエロどろどろ、けっこうラブラブ、
時折ハートフルな毎日を過ごすことを強要される者もいるわけで……。
このスレッドは、こんな感じのヒト召使いと、こんな感じのケモノ耳のご主人様との、
あんな毎日やそんな毎日を描いたオリジナルSSを投下するスレです。
このスレッドを御覧のヒト召使い予備軍の皆様、このスレッドはこちらの世界との境界が、
薄くなっている場所に立てられていますので、閲覧の際には充分ご注意ください。
もしかしたら、ご主人様達の明日の御相手は、あなたかもしれませんよ?
それではまず
>>2-4を見てください
NO: 作品タイトル 経過 <作者様名(敬称略) 初出 >
01: こっちをむいてよ!! ご主人様 全10+1話完結! <こちむい 1st-29>
02: IBYD 停滞中… <180 2nd-189>
03: 華蝶楓月 停滞中… <狐耳の者 2nd-217>
04: こちむいII あしたあえたら 只今連載中! <あしたら(=こちむい) 2nd-465>
05: 火蓮と悠希 停滞中… <(´・ω・`)へたれ猫 2nd-492>
06: 十六夜賛歌 停滞中… <兎の人 2nd-504>
07: ソラとケン 停滞中… <◆rzHf2cUsLc 2nd-645>
08: ご主人様とぼく 停滞中… <65 2nd-738>
09: 狼耳モノ@辺境(仮題) 全1話完結? <狼耳モノ@辺境(仮題) 3rd-78>
10: Silver Tail Story(仮題) 停滞中… <狼を書く者 ◆WINGTr7hLQ 3rd-103>
11: 薄御伽草子 停滞中… <161 3rd-171>
12: 放浪女王と銀輪の従者 只今連載中! <蛇担当 3rd-262>
13: 黄金の風 停滞中… <一等星 3rd-348>
14: 最高で最低の奴隷 只今連載中! <虎の子 3rd-476>
15: From A to B... 全1話完結? <エビの人……もとい兎の人 3rd-543>
16: 魚(・ω・)ヒト 停滞中… <魚(・ω・)ヒト 3rd-739>
17: 狗国見聞録 一応完結? <692 3rd-754>
18: 草原の潮風 停滞中… <63 4th-63>
19: 岩と森の国の物語 只今連載中! <カモシカの人 4th-82>
20: scorpionfish 只今連載中! <scorpionfish 4th-125>
21: 猫の国 停滞中… <◆ozOtJW9BFA 4th-522>
22: 不眠猫のお嬢様 停滞中… <不眠症 5th-215>
23: 木登りと朱いピューマ 一応完結! <ピューマ担当 5th-566>
24: こたつでみかん 完結! <5th-16>
25: ネコとまたたび 完結? <5th-647>
26: リレー スレ埋め連載中? <5th-666〜>
27: 狐耳っ子と剣術少女 完結待ち? <6th-21>
28: 蛇短編 連載中? <6th-42>
29: 白熊の国 連載中? <6th-367>
30: 夜明けのジャガー 只今連載中! <ピューマ担当 6th-554>
31: 獅子の国 新作開始! <カモシカの人 7th-25>
32: タイトル不明 新規参入! <◆vq263Gr.hw 7th-388>
33: ペンギンの国 新規参入! <ぺん 7th-459>
34: こちむい番外 なぜなにこちむい 新作開始! <なぜこち(=あしたら=こちむい) 7th-499>
35: 猪短編 <7th-523>
36: 金剛樹の梢の下 新規参入! <◆/oj0AhRKAw 7th-633>
36: 白 新規参入! <8th-67>
37: 熊の国 新規参入! <熊の人 8th-92>
38: ハイエナの国 新規参入! <274 8th-282>
39: 鳥? 新規参入! <8th-308>
40: 無垢と未熟と計画と? 新規参入! <8th-402>
41: 蛇足〜はみ出しモノ〜 新規参入! <623 ◆Jyj5OiZTN 8th-623>
4 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/17(日) 11:03:56 ID:oXbJK14w
はじめて来た人のための(超暫定版)作品別登場属性リスト
幼女・ロリ/「こちむい」「あしたら」「放浪女王と銀輪の従者」「ペンギンの国」「無垢と未熟と計画と?」
おねーさま/「scorpionfish」
妹・姉妹丼/「こちむい」「あしたら」「岩と森の国ものがたり」「無垢と未熟と計画と?」
ツンデレ/「狗国見聞録」「放浪女王と銀輪の従者」「最高で最低の奴隷」
くーでれ/
素ヒート?/「獅子の国」
無感情っ娘/「獅子の国」
奥手っ娘・恥ずかしがり屋/「放浪女王と銀輪の従者」「最高で最低の奴隷」「岩と森の国ものがたり」
積極系/「こちむい」「あしたら」「scorpionfish」「獅子の国」「無垢と未熟と計画と?」
巨乳/「scorpionfish」「獅子の国」
貧乳/「こちむい」「あしたら」「岩と森の国ものがたり」「放浪女王と銀輪の従者」
らぶらぶでれでれ/「狗国見聞録」「放浪女王と銀輪の従者」「木登りと朱いピューマ」
えろえろどろどろ/「こちむい」「あしたら」「最高で最低の奴隷」「scorpionfish」「放浪女王と銀輪の従者」
ぷらとにっく・・・?/「岩と森の国ものがたり」
三角関係?/「あしたら」「岩と森の国ものがたり」「獅子の国」「無垢と未熟と計画と?」
燃えとか戦闘とか/「狗国見聞録」「放浪女王と銀輪の従者」「岩と森の国ものがたり」「夜明けのジャガー」
ショタ/「こちむい」「あしたら」「最高で最低の奴隷」
以上テンプレ。
それでは、ごゆっくりお楽しみください。
>>1 乙でございます。
そして前スレ
>>623氏も乙です。
そういえば
>>4で書き忘れた属性をいくつか思い出しましたので追加を。
ボクっ娘/「獅子の国」
眼鏡っ娘/「放浪女王と銀輪の従者」「最高で最低の奴隷」「草原の潮風」
小悪魔/「こちむい」「獅子の国」「無垢と未熟と計画と?」
新スレ設置乙であります。
新スレを立てられた方にはフローラ女王猊下より次元転移装置による次元転移か
ザッハーク帝による無間暗黒世界への招待が行われるものと予測いたします。
身辺整理などを行われた方が宜しいかとw
あと、前スレの最後を飾った623氏、乙でした。
今後の展開に期待いたします!
と言うわけで、このスレでこそデビューするぞ!と意気込んで・・・・・
>>7 作品紹介に気を取られて前スレ追加するの忘れてました。
前スレ
>>623氏の続きも期待してます。
こっそり、前スレ
>>605氏も期待。
有難うございます。
とろとろペースになると思いますが、
書きあがり次第投下して行こうと思いますんで。
新スレおめ!
アンド前スレ623氏ようこそ!
けも顔の女性は新鮮で先が非常に楽しみです。
すいません。避難所用のを誤爆りました。
>>1 とにかく新スレ乙です。
13 :
鼠担当?:2006/09/17(日) 22:11:38 ID:oXbJK14w
近日中とか言ったけど、即死回避に投下していいかな……?
16 :
鼠担当?:2006/09/17(日) 23:00:39 ID:oXbJK14w
では『無垢と未熟と計画と? そのに 上』を投下します。
誤字脱字、文法がおかしい所があったらごめんなさい。
ねーさんの横に立っている大きなオスヒト。
初めて見たときはちょっと怖かった。
「えっと、初めまして……藤見 良です」
意識しているのか無意識なのか分からないけど腰を曲げて、わたしの目線を合わせてくれる。
そして微かな笑み。それだけで私の恐怖は溶けたと言ってもいい。
「うん、よろしく。りょーにーさん」
「よろしく、えっと?」
わたしの名前を言おうとして困ってる。この困ったような表情で心がなぜかぐらつく。
「ロレッタ、ロレッタ・ヒュッケルバイト、ねーさんの妹だけど別に『様』とかつけなくていいよ」
「改めてよろしく、ロレッタ」
また微かな笑み。……なんかゆらゆら揺れて、わたしじゃない感じ。
§ § 1 § §
わたしが名づけて"ねーさん、愛情暴走の果てに"事件から3日。
まだあの2人はぎこちない。
1階から2階に上る階段の踊り場からロビーを見下ろせば、
「…――!」
「……」
馬鹿のように見つめ合って、しばらくするとねーさんが私の後ろを走っていく。
不器用というか、なんというか……。しかも、3日間、同じことの繰り返しだ。
会食も最近は少なくなってねーさんは逃げ場無し。
ねーさんの奴隷である以上、ねーさんに奉仕しなければならないにーさん。
悪循環でしかないのを見ることしかできないわたし。
そのうち、わたしの輝かしい病歴に胃潰瘍が付きそうな気がする。
さて、ねーさんに夕飯もって行きますか。はぁ……。
「いってきまーすっ!」
「いってらっしゃい〜」
ロレッタの元気な"いってきます"に重なって聞こえるご主人様の声が聞けなくなってから既に4日。
俺はまだ、仲直りのタイミングが掴めず悩んでいる。
やったことに関しては俺がちゃんと止めていればあんな事にはならなかったし、問題にもならなかっただろう。
「はぁ」
ため息を一つ。
いざ、面と向かって謝ろうとしても何を言えばいいのかさっぱりな上に、逃げられる。
これではどうしようもあるまい。
「いや、違う」
そこで諦めたら、バッカスさんにで啖呵をきった意味が無い。
ロレッタは『取りあえず時間を置いて』と言われたが、俺にはあまり時間が無い。
「……」
さて、どうしようか。
この状態では埒があかないどころか、悪化する可能性すらある。
頼る相手を考えてみるが、ロレッタはもう十分頼ったからこれ以上は、頼れない。
とすれば――
「あの人かな」
金髪碧眼のあのネコ――リゼットさんに。
少なくとも俺よりは長生きしているはずだし、ご主人様も親友とも言っていたはず。
「よし」
そうと決まったら行動あるのみ。の前に掃除や片付け位はしておこう。腐っても俺は奴隷だからね。
「はい、どうぞ」
陶器のカップとソーサーががぶつかって軽い音を立てる。その中身はいい香りのする紅茶。入れたのはリゼットさんだ。
「あ、すみません」
「いいのいいの、貴方に用事あったしね」
「はぁ」
ここは財務局の局長室。リゼットさんに会いにきたら素直に通されたが、素直すぎてちょっと怖い。
かというのも、俺はリゼットさんが苦手だからだ。
「あ、おいしい」
「そりゃそうよ、高い葉っぱだもの」
金髪碧眼でセミロングの綺麗な髪を一房赤い紐で纏め、脇に垂らしているのが特徴的で、ネコらしく青い瞳は縦に裂けている
のが見える。
仕事中だからか、黒いシックな感じドレスを着こなして、かなり大人っぽく見える。……事実、年上だけど。
「先に貴方の用事からどうぞ。アタシのは特に急がないしね」
「えぇと、それじゃあ……」
俺は事件の顛末を事細かに説明した。
恥ずかしい気持ちが無い訳ではないけど、細かく説明すればそれだけ的確なアドバイスしてもらえるのではと予想したからだ。
「なるほど、それであの子の様子が変だったわけだ。書類渡しても上の空だったし」
ご主人様も似たような状況だったようようでちょっと安心した。いつもと変わらずバリバリ仕事していたら尊敬するけど。
「その事に関して、なにかアドバイスもらえないかなと、思って来たんです」
うーんと唸るリゼットさん。その思考に連動してか綺麗な金色の尻尾がふらふら揺れる。
「んーロレッタにはもう謝った?」
「……いえ、まだです」
そういえば仲介を頼んだ事はあっても謝ってない。
「部外者であるアタシの知恵を借りるより当事者の知恵を借りるほうが効率的よ」
確かにそうだろうけど……ちょっと気恥ずかしい。
「そういうわけでロレッタに謝って知恵を借りなさい。それにあの子を敵に回すと後が怖すぎるしね」
何があった知らないが遠い目をしている。本当に何があったのだろうか。
「それは置いとくとしても、逃げたほうだけ謝るのは逃げなかった方にとっては損しかないしね」
「はい……」
泣きながら逃げたご主人様ばかり気にして、同じ状況だったはずのロレッタをほったらかしにしてしまった。
いくら目の前で泣いていなかったとはいえ、こうも放置したら怒るだろう。
全く、自分の要領の悪さを嘆きたくなる。
「ありがとうございました、何とかできる気がしてきました」
「そう?」
当たり前の事を言ってみただけと言わんばかりの顔をされる。
それすら、考え付かなかった己が恨めしい。
「じゃあ、お礼として――」
「では、失礼しましたー」
「待ちなさい」
椅子を蹴飛ばすような勢いで逃げたはずなのだが、両肩を掴まれて動けない。
リゼットさんが座っていた立派な椅子から出口まで距離は、俺が逃げるくらいはあったはず。だが、既に俺の後ろに立って
いるとはネコの運動能力は恐ろしい。
「ん〜〜」
「うぉっ……」
リゼットさんは、肩を掴んだ手を俺の首に回して後ろからぎゅうっと抱きすくめる。
抜群の力の入れ具合で抜け出せないだけではなく、背中に形容しがたい柔らかな物が押し付けられて抜け出す方策が
まとまらない。
「は、離してー!?」
「ふふ〜っと」
強情にもずっと抱きつかれると思ったが手からすっと力が抜けて解放されたが、俺は思わずその場に座り込んでしまう。
毎度毎度、派手な対応されると嫌でも苦手意識が芽生えてくるものだ。にしても妙に体が重くて動かせない。
「と、冗談はここまでにして」
「……本当に冗談なんですか」
俺は警戒心を折り込んで、座り込んだ体勢で振り向く。
初対面の時は息も出来ないくらいきつく抱きしめられて以来、俺はこの人が苦手だ。
……その後のご主人様とロレッタに冷たい視線が非常にとっても痛かったなぁ……。
「当たり前よ、アタシは他人の物にまで欲しがるほど性根が寂しくありません」
「……すいません、勘違いしてました」
「分かればよろしい」
ちょっと気取った感じが、大人っぽいリゼットさんには良く似合ってる。
それにいろいろおかしな所はあるけど、議会の一角を担う一人なのだから分別はしっかりしているのだろう。
「で、さっきの説明じゃ事務的過ぎるから今度は情感たっぷりで事情語ってくれないかな?」
「なっ……!」
じ、情感たっぷりって……。
前言撤回。ちょっとおかしい人です。
「赤くなってかわいー」
「赤くなってませんから!」
そういいながら、また顔が火照るような感覚がする。
あぁもう、なんだか疲れてきた。
「擬音もつけてもいいわよー」
「リゼットさん!」
「はは、冗談よ、冗談」
なんだか俺が悩んでいる事が小さく思えてくる。……感謝すべき、なのだろうか?
「真面目に話すから、ね?」
「……はぁ、わかりました。よいしょっと」
苦手意識と強引さの押し負けた俺は、なんとか立ち上がり椅子へ座る。
抱きつかれて腰を抜かして、動けなくなるなんて鍛え方がたりないのな俺。
「さて、本命の頼みがあるのよ」
「……なんですか?」
あらかじめ準備していたのか温くなった紅茶を入れ替えながら喋るリゼットさん。
それに答える俺の声がちょっと平坦なのは苦手意識のなせる技だ。
「落ち物を鑑定して欲しいのよ」
「はぁ」
落ち物って俺みたいに"あちら"から"こちら"に落っこちた物の総称だったっけ?
「おねがいできる?」
「えぇ、俺でよければ」
この程度ならお安い御用だ。……もっとすごい事を予想していたのだがよかったよかった。
「町のど真ん中に、落ち物の保管庫を置くわけにもいけないから町壁の外にあるんだけど大丈夫?」
町壁は周囲を囲む石作りの壁だが、結構高い壁だ。
ご主人様によると昔はセットで堀まで作る予定だったらしいが、予算の関係上断念したらしく、その堀は今でも出来ていない
との事。
それはともかく、えーと仕事は何かあったっけ……?
「えーと、用事ありませんから大丈夫ですよ。えっと何処の辺りですか?」
「アタシがそこの責任者で鍵も持ってるから、アタシが案内するわ……鍵何処にやったかしら?」
音も無くリゼットさんは立ち上がり、高級感の漂う机の引き出しをガサゴソと荒らし始める。
そんな光景に苦笑しながら俺は外へ出るための準備を始めた……。
「意外と涼しいですね」
町壁を門から抜けて森の中へ入ると意外に涼しくてビックリ。
森と聞くと湿度が高くてジメジメと想像するがここはそうではないらしい。
「山脈が近いからねー、この時期は山風が吹いて涼しいのよ」
「へえ」
下草が多くて歩きにくい事を除けばそこそこ快適だ。
ん……なにか音がしたような……?
「あ」
と、リゼットさんが声を上げると小走りで奥へと行ってしまう。
流石に森でドレスは無理だったのかズボンに着替えているのでかなり動きが速い。
「ごめんねー」
いまさら付いて行く訳にもいかず、仕方なく待っていると行きと同じようなスピードで帰ってくる。
……なにか抱えているような……?。
「これ、何か分かる?」
俺の近くまでリゼットさんは近寄ると抱えていた物を俺によく見えるように持ち上げる。
黒塗りされ、所々壊れてる部分はあるが紛れも無く――銃だ。
未来から来たロボットの映画で使われている物にそっくりな様な気がする。
「銃です、かなり危ない武器ですから壊した方がいいと思いますけど……って銃って分かります?」
「えぇ、似たような代物なら実家で見たことあるわ。でも銃、ねぇ?」
拾ってきたと思わしきこれを不思議そうに見つめている。
「ま、倉庫にでも入れておきましょうか」
「壊れているならいいんですけど……」
そんな会話をしつつ、保管庫へ向けて歩く俺たち。
「落ち物って、よく落ちてくるんですか」
ふとそんなことに思い当たる。さっきだって落ちてきた訳で。
「んー確かに多いわね。理由は適当に言われてるけど、キツネの降神術でヒトの世界に干渉することが多々ある所為だとか、
大昔のトラの古代魔法の残滓とか、ネコの秘密の実験とかイヌの陰謀だとか言われてるけどね」
「はぁ……」
要はいろいろあるらしいけど、詳しいことは分からないって事らしい。
「んじゃよくヒトは落ちて来るんですか」
何気なくを装ってそんな事を訊いてみる。
「記録上はあなたが初めてよ、バッカス老が管理している資料だから結構信用性は高いわ」
「なるほど」
居たらその行く末を聞いてみたかったのだが、居ないのなら仕方ないね
「っと、アレがそうね」
リゼットさんが指差した方向には、森に溶け込むように全部を緑色で塗られた石でできた平屋建ての建物。
緑色で塗られているのは恐らく保護色のつもりなのだろう。
リゼットさんは早歩きでその建物に向かうと俺も早歩きで追従する。……近寄ってみると結構不気味だ。
「空けるわよ」
扉の前でカチャカチャやっていたリゼットさんから声が上がる。
重たげな音を立てて両開きの金属製の扉が開く。鍵が三つ付いてるあたり警戒の具合が分かるというものだ。
「意外とホコリっぽくないですね」
「そりゃそうよ、一ヶ月に一回は掃除してるしね」
中は窓が無い所為で奥まで見通せないほど真っ暗。入り口から入る光でかろうじて近くだけは見える状況だ。
リゼットさんは行きがけに拾った銃を持ってすたすた奥の方へ消える。そういや、ネコは夜目が利くんだっけ……。
鑑定を頼まれた身としては彼女の指示がないと動けなくて、俺は手持ち無沙汰気味に入り口の周りに置いてある物を見回す。
「あ」
「どうしたの?」
「あ、いえ、なんでもないです。銃仕舞ったんですか?」
一瞬、視界の端に見慣れた物が有ったような気がするがリゼットさんに声を掛けられて見失う。
「危険な物みたいだから奥の金庫に入れてきたわ……で、それなんだけど」
日の入り具合が変わったのかリゼットさんの視線の先の暗闇が剥がれて晒される。奇しくもそこは俺がアレを一瞬見かけた所。
「――」
そこにあったのは、皮製のグローブと硬式野球ボール。
ボールの方はカゴにどっさりと入っているから、何処かのチームから落ちてきたんだろう。
「……大丈夫?、顔色悪いわよ?」
心配げなリゼットさんに声を掛けられるが、大丈夫。とごまかす。
ちょっと雑なごまかし方だが、胸が苦しくてあんまり余裕が無い。
「……スポーツの道具ですよ。野球って言うんですが」
「へぇ」
感心するリゼットさんの声が聞こえるがそちらまで意識が回らない。
懐かしい。
グローブに手を通さなくなって何ヶ月だろうか。
ボールを投げなくなって何ヶ月だろうか。
「――…!」
寂しい。
そんな思いで胸が詰まり、奥歯が軋む。
――俺はこっちで生きていくと決めたはず。現代に未練あっても、養ってもらっている恩でここにいると決めたはず。
……ましてや――帰れない。
「っ」
思わず俺は、グローブを強く抱きしめて膝をつく。
そうでもしなければ、何かに潰されそうになったから。
「……アタシ、外で待ってるわね」
リゼットさんが気を利かせてくれているのか、そう声をかけてくれた。
多分、最初から見抜かれていたのかその声には驚きの成分はない。
「その前に、一つ言わせてね」
「……はい」
正直、俺の声が震えていたと思う。
「貴方の居場所はちゃんとある。その事忘れちゃ駄目よ」
「はい……」
そういって足音が遠のく。
リゼットさんの言う通り俺の居場所はここにあるのだろう。しかし、あっちに残したねえさんや友だち。先生、知り合い。
そして、とうさんとかあさん。
皆どうしているだろうと考えてしまう。
俺のことを探しているのだろうか?
こっちには現代の残滓はあっても、あちらには俺の残滓は無い。
「帰りたい……」
それができなくても、せめて、俺が無事ということを知らせたい。
俺は、どうしたらいい。
どうにもならないのだろうか。
『帰る手段は皆無』
そう最初に言われたはず。
なのに今更になってなぜ寂しくなるのだろうか。
逃げたいのか俺は?
「…――ここで逃げたらねえさんに叱られる」
逃げ道は無い。
俺は宣言したはず。議会の人に俺がご主人様の奴隷として相応しいということを認めさせると。
逃げたりしたら、あの世でねえさんにしこたま怒られる事だろう。その辺厳しい人だったから。
それにロレッタやご主人様まで居てくれる。
言葉が通じる。病気もしていない。それなりの生活ができる。
落ちてきた大多数のヒトに比べればずいぶんとマシな事だろう。
たかが、ホームシックで――
「泣いていられるか」
男は泣くときは、生涯の相手の死に目と、友の死に目と、家族の死に目にしか泣かないって言われてたっけ。
生涯の相手は見つけられないかもしれないけど、家族や友はこの世界にも居る。
この程度で泣いてたまるか。
「よし」
とりあえず、息と整える。
どのくらい息を止めていたのか、胸が苦しい。
「リゼットさん、コレ、もらっていいですかぁー?」
ねえさん、コレくらいの感傷はいいよね?
§ § 2 § §
「ごめん!」
学校から帰ってきたらりょーにーさんにいきなり頭を下げられた。ちょっとびっくり。
「えぇと、頭上げていいから」
あの事をできるだけ思い出さないように話題を逸らしていたけど、こう、真正面にこられると困る。
でもこーいう所は美点だと思う。
「怒ってない?」
「わたしは、怒ってないよ」
……あぁ、私も混じったクチだけど、ねーさんの気持ちがよく分かる。
上目遣いは強力極まりない。しかも自分より背の高いにーさんがわざわざ私より視線を低くしている様は、なんともいえない
気持ちになる。
自制心、自制心。
「本当にごめんな、あんなことして」
「にーさんだけが悪いわけじゃない、抑えなかった私も悪い。だから両成敗、ね?」
もっともらしい事を言っている様だけど、一番罪が重いのはわたし。
一番騒動の外に居たのに、わざわざ騒動の渦中に突っ込む愚をした事。これがわたしの罪だ。
止めようと思えば止めれたはず。
それをしなかった理由は自分じゃ分からない……つもりをしてる。
分かってしまったら、ねーさん見かけによらず繊細だから酷く傷付くだろう。
「本当にすまない」
「だから、もう謝らなくていいよ。それ以上謝るならわたし、怒るよ?」
ちょっと、怒ったように言ってみる。にーさん、真面目だからこれで謝るのを終わってくれると思う。
それに謝られると、罪悪感がざわざわして痛い。
「……分かった、じゃあなにかお詫びをさせてくれないか」
いつものように腰を曲げて背の低いわたしに、目線を合わせてくれる。
にーさんのこういう生真面目なところは好きだが……お詫びかぁ……
「うーん」
わたしは口元に手を当てて考え込む仕草をするが、正直、考え付かない。
ちらっとにーさんの方を見てみればじっと期待に満ちた色で見つめてくる。
そういえば……にーさんは姿勢がいいのか背筋を伸ばせば、わたしから見てかなり高く見える。
でも、わたしと話すときは、今のように腰を曲げて目線を合わせてくれるからそうなることはまずない。
背だけじゃなくて肩幅だって背中だって手だってわたしより大きい。だけど、どのくらい大きいのかは確かめたことは
無かったような気がする。
この際だから、確かめてみよう。
「にーさん、後ろ向いて」
「?、分かった」
不思議そうな表情を一瞬したけど、素直に背中をわたしに向けて直立不動のにーさん。
背は天井を見るくらい首を上げないと見えないくらいだ。……やっぱり大きい。
「動かないでね」
にーさんの片手を取って、わたしの手を合わせてみれば一回り大きい。
マメがいっぱいできててごつごつしているから、さわり心地がちょっと硬い。けれど、あったかい。
「にーさん、マメだらけで硬いねー」
「ボール投げてたし、握力鍛えるのに色々やったからね。気持ち悪いだろ?」
「そんなことない」
気持ち悪いなんて事は無い。
ねーさんやリゼットねーさんの手だってペンだこがいっぱいできている。無いのはわたしぐらいのものだ。
そういえば、とーさんの手もタコがが出来ていてにーさんのように硬かったような気がする。
わたしは懐かしくて掴んだにーさんの手を自分の頬に押し付けた。
「―――……」
ちょっと驚いたような気配はあったけど、にーさんは優しく撫でてくれた。
顔は見えなかったけど耳が真っ赤になっていたのがしっかり見えいる。
……甘えるのも甘えられるのも苦手なにーさんらしい。
ちょっと名残惜しいけど、わたしは手を離す。目的は手だけじゃないからね。
「ん……」
「いっ――ロ、ロレッタ?!」
わたしは背中から手を回してにーさんの背中に抱きつく。ちょっと身長足りないからつま先立ちだけど。
「うわ、手がすこししか余らないよ」
ちょっと感動。もうちょっと、頑張ってみよう。
「ん、んー」
一生懸命手を伸ばそうとしても胸がつっかえてあんまり変わらない。
これでもわたしは結構ある方で、正直、重い、疲れる、恥ずかしいの三拍子だ。
いつもは分かりにくいように余裕のある服装とか一回り小さい下着で隠しているけど、ここまで密着したらよく分かるだろう。
にーさんだから別にいいけど。
「ロ、ロレッタ、は、離れて!」
逃げようとするにーさん。こんな機会は滅多にないから、逃がすか!
「やーだ! お詫びでしょ? 動かないのっ」
「うぅ――うげ」
しょぼくれたように大人しくなったかと思えばバランスを前に崩すにーさん。
わたしは、にーさんの体がクッションになったからびっくりしただけだけど。
「っ、大丈夫か、ロレッタ?」
「うん、大丈夫。びっくりしただけ」
「そうか、ならどいてくれ」
「や〜だ♪」
これなら背中の上当たりまで堪能できるだろう。
ここで立ち上がって移動したならにーさん逃げるだろうから、後ろから抱きついた体勢まま上に移動。
年頃の女の子がやる体勢じゃなけど、誰もいないからよし。
それにしても、胸が邪魔で仕方ない。平たいならスイスイと上れるんだけどなぁ。
「んっと……んっと……」
掛け声を掛けつつにーさんによじ登るわたし。
にーさんの方から変な声が聞こえるが気にしない。今はこの広くて大きい背中の感触も楽しんでおこう。
「んーんー」
にーさんの背中はとっても広くてよく鍛えられているのか服越しでも筋肉が盛り上がっているのが分かる。
その起伏が気持ちよくて何度頬擦りしても飽きない。
右の肩甲骨にすりすり。
左の肩甲骨もすりすり。
真ん中の背骨の辺りもすりすり。
「に〜さんっ!、んふ〜〜♪」
服越しであっても大きな背中を頬擦りするだけでとっても安心する。
わたしにこんな趣味あったのだろうか?
「――――」
玄関のドアが軋み開く音がロビーに響いた。……そういや、わたしが帰ってきたらりょーにーさんに謝られたから、
ここはロビーだったっけ?
「っ――――!」
玄関が開いて外からの光がわたしとにーさんの背中に当たる。
大抵、知り合いはチャイムなり鳴らすから、鳴らさず入る人は現在3人しかいない。
内2人はわたしとにーさん。
今、鳴ってないから入ってくるのは――
「ねーさん!?」
慌てて自分でもびっくりするくらいのスピードでにーさんから飛びのく。
そこに居たのは、わたしの好物のケーキの箱を持って、大きな目に涙をいっぱい溜め込んだねーさん。
マズイ、この状況はマズすぎる。
「えぇとね、ねーさ――」
「うわぁぁぁぁん!」
パタンと玄関の扉が閉まる音。その音が寂しげに聞こえたのは気のせいなのだろうか。
時間を見ればまだ、5時半。ねーさんが帰ってくるには早すぎる。
多分、勇気をだして仲直りに来たのだろう。それをわたしが完全粉砕したのだから最悪だ。
これも予測だけど、わたしにその仲介を頼もうとしたんじゃないだろうか? ケーキの袋もってたし。
それならもっと最悪だ。
「うわ――」
今の自分自身の格好をみて思わず呻くわたし。
綺麗だったブラウスは皺だらけに、ご丁寧にも胸の辺りのボタンが飛んで下着が見えている。
最悪を通り越した物はなんと言えばいいのだろうか?
とりあえずブラウスに応急処置をして、にーさんを起こそうと揺らす。が、反応が無い。
「にーさん!にーさ……あー」
……気絶してる。
そういや、この2、3日、りょーにーさんあんまり寝てなかったように見えた気が。
つまりわたしは、ねーさんの度胸と勇気、にーさんの緊張の糸、そして2人の仲直りのタイミングを完全破壊したわけか。
「はははは……」
かなりマズイ事態になった。こんな事態になっても笑えるわたしを再確認。
「よし」
こうなったら、否が応でもこの2人には仲直り、否、仲良くなってもらう。
わたしの策略、陰謀、奸計、謀略術数のすべてを賭けてなってもらう。
もともとの責任はわたしにある。その責任が増えただけ。だからわたしは全力で何とかする。
わたしは自分を"二番手"と誓っている。
だからねーさんを助けるためなら、この"二番手"はいくらでも頑張れるはず。
「……」
まずはにーさんを介抱しないと。わたしじゃ運べないからここでやるしかないけど。
ねーさんは、帰ってくるか?――帰ってくるにしてもかなり遅いはず。リゼットねーさんの所に行く可能性があるから
先に手を打つ。
時間的余裕は――ねーさんはしょぼくれると徘徊する癖があるから余裕はあるはず。
「よーし」
わたしは"二番手"。一番の相手以外なら負けるつもりは無い――。
「にーさん起きた?」
あまり爽快な目覚めではなかったが、頭の辺りに柔らかな感触で少しはマシになったと思う。
……なんというか光景とか感触にデシャブを感じるのはどうしてだろう。
「あ、あぁ」
そうか、ご主人様に拾われた時も同じだったか。同じ膝枕――!?
「動かないの!」
見事なタイミングで頭を押さえつけられて動けない。仕方ないので現状維持だが、正直恥ずかしい。
「ねーさんが、帰ってきたのは覚えてる?」
「扉が開いたような音を聞いたような気はするが……」
正直、それどころじゃなかった。
頬擦りだけならまだしも、予想外に大きいふくらみを押し付けられた上に動かれたのだからたまらない。
あの見た目であの大きさは詐欺だ。
「にーさん、ごめんね」
「……済んでしまったしかたないし、俺だって本気で止めればよかったんだし、ね」
「そう言ってもらうと助かる……」
ロレッタの心を表すように小さい白い耳が元気なく垂れる。器用だねぇ。
「?」
俺は無意識的に彼女の頭を撫でていた。もちろん耳も触るが。
ご主人様の髪に一度触った事はあるがやっぱり姉妹でも髪質が違うものらしい。
「ひゃ……な、何をしてるの? にーさんっ!」
なぜか身を捩じらせて、顔を真っ赤に染めるロレッタ。妙な気分になるのはなぜだろうか?
「はい、お仕置き終了っと」
「ふぇ……?」
「これで、おあいこ。だから自分を責めない、ね?」
「う、うん、分かった」
撫でた理由をでっち上げる俺。まぁ半分くらいは本気だけど。
「話は変わるけど、にーさん、この3、4日何時間寝たの?」
……俺、何時間寝たっけ?
「すまん、覚えてない」
「……にーさん、さっさと寝る。いくらなんでも気絶するくらい寝てないのは危ない」
「えっと、今日はバッカスさんの授業ないけど、ご飯の準備とか――」
「寝てください。倒れたら洒落にならないです」
「はい、でもご飯とか――」
「わたしがやるから大丈夫、にーさんにもねーさんにも持っていくから、ね」
なぜかいつも無い迫力があるような気がして頷くしかない。逆らったらなにをされるのだろうか……
ロレッタの膝枕は心地いいが、ずっとこうしてる訳にはいかないから、俺は気合を込めて起き上がる
「っと、わかったよ。大人しく寝てるよ」
立って分かったが、微妙にバランスを取れない。やれやれ、ここまで疲れているのに気づかないとは。
「うん、おやすみなさい」
「おやすみ」
寝るのにはまだまだ早いが、好意に甘えて疲れをゆっくり取るとしよう。
今はご主人様のことを考えても仕方ない。こんな状態ではなにもできないだろうし。
でも、なんとかしないとな。
そんなことを考えつつ、俺は転ばないように気をつけつつ自分の寝室に足を向けた。
「やば――」
俺は慌しげに着替えて階段を勢いよく降りる。よく寝たから気分爽快だが、状況が許さない。
理由は簡単。時計が既に10時過ぎていた。
あの後軽く寝て、ロレッタの作った夕飯を食べ終わったのが確か8時ですぐ寝たはず。
しめて睡眠時間13時間オーバー。俺の新記録が達成していた。
「にーさん、おはよー」
慌ててテラスに入るとロレッタは優雅に紅茶を啜って……あれ?
「どもー、おじゃましてますー」
「……どうも」
えっと、妙に元気な方がネリー、妙に落ち着いてる方がクリスだったっけ?
「あー、うん、おはよう、ロレッタ、ネリー、クリス」
出鼻を挫かれて頭が落ち着いてくる。
「買い物頼みたいんだけどいいかな? にーさん」
「何買ってくればいいの?」
はい、と手渡されたのは小さなメモ用紙。
読めるのを読むと食べ物ばかり。一部読めない物もあるが、おそらく食べ物だろう。……どっかで見たことあるばかりだが。
「これでなにつくるの?」
「作るのはわたしじゃないよ、にーさんが作るの」
「へ?」
突拍子もない台詞に疑問詞を上げる俺。なぜ、どうして、誰にと疑問が脳裏をよぎるががそれを読んだように、ロレッタが答
える。
「ねーさんにお弁当作って持っていくの」
『仲直りの印』としては古い手だろうけど、それだけに有効だ。問題はいくつかあるけど。
「ご主人様、昼は買って食べてなかったけ?」
「大丈夫、ほら」
と、ロレッタは何処から出したのか、色気もそっけもない青い財布を見せる。
「ねーさん、財布忘れたから、お昼は抜きでいると思う。それに、お金借りるなんて真似はしないと思うしね」
なるほど、妙なところで意地を張ったりするからそうかもしれない。
それにこれはチャンスだ。使わない手はない。
「分かった、買って作るよ」
これでメモの内容の既視感が解けた。ご主人様の好物十選から出たものだ。
「……ロレッタ、わたしたちも一緒につくっていい?」
意外にも、おずおず手を上げて、そう言ったのは黙って聞いたいたクリスだ。ネリーは口を開いてはいないが、耳が期待に満
ちるように僅かに動いている。
この世界の人達は感情表現する方法が多くて本当に楽しい。
「んーと、なんで?」
面を食らったような表情でロレッタは訊いた。
「お姉さまに、作ってあげたいから」
「おもしろそうだし」
ネリーとクリスが答える。
確かに手伝ってもらえるならかなり楽だろう。ところでおねーさまとは?
「んー、あんたたちねーさんに、おいしいって言わせることできる?」
……普通のご飯を『おいしい、おいしい』と言って食べる人だから、結構アバウトだと思うのだが。
どのくらいアバウトかと言えば人の名前を面倒の一言で短くするくらいアバウト(適当)だ。
「で、自信ある?」
しぶじぶといった感じでクリスは手を下ろす。勝負ありらしい。
「……せめて一緒に来る? 2人とも」
2人のしょぼくれ具合が妙に可哀想で思わずそんな提案してしまう。
「「いいんですかっ!」」
「うわっとっとっと……」
嬉しいのは分かるんだが二人セットで飛びつかないでくれ。
「んじゃ、ロレッタ行って来るよ」
「ん、わたしは準備しておくから2人のお守りよろしく〜」
ロレッタはそう言うとエプロンを付けて台所へ引っ込む。あのなりで、料理も裁縫もできるから恐ろしい。
「ほらほら〜いきましょ?」
「急いで急いでっ」
ネリーとクリスがそれぞれ、俺の袖をぐいぐいと引く。
「分かった、分かったから、袖引っ張らないっ。このワイシャツ、伸びたら代わりがないからっ!」
「ネリー、これ何処かな?」
「はい、そこの店のが美味しいです」
2人に引っ張られて、メモ片手に来たのはいつもの食料品通り。
忙しくなる時間寸前の妙な緊張感とざわつきはある上に、かなり人が多い。
「……うあっ」
「んっ」
クリスが石畳の出っ張りに突っかかり、転びそうになるが俺は腕を引っ張るだけで簡単に止める。
それもそのはず、2人して俺の両側に腕を組んでくっ付いているから。
歩きづらい事この上ない。
「あ、ありがとうございます……」
「どういたしまして……離れた方が安全だと思うんだが」
2人ならまだしも、3人もいると歩幅がバラバラで合わせる事が難しい。
「真ん中のりょーさんが、普通に歩けばいいんですよ。それに私達も合わせますから」
ネリーのアドバイスに自分の要領の悪さを再確認しながら、いつもより遅めに歩いてみる。
……確かに歩きやすい。が、
「離して歩くって方法はないの?」
女の子2人を侍らせて歩くヒト奴隷。……あんまりいい目では見られないこと請け合いだ。
「ヒトと歩く機会ってのは一般人には絶対ないんですよ。これも私達の為だと思ってっ♪」
「まぁ、見るだけでもお金取られたりしますから」
両側から答えが返ってくるが、そんな珍しいのかヒトは。
確かに珍しいって話は最初にされたが、見るだけで金取られるくらい珍しいとは思わなかった。
「参考までにヒト奴隷って幾らぐらいするの?」
好奇心……というか訊かなきゃいけないような気がして、クリスに質問してみる。
「えっと、高いのになると10万セパタとか15万セパタとか天井知らずですね」
クリスが出してくれた数字を元に俺の頭は回る。
えーと1セパタ=銀貨10枚くらいだから……銀貨に換算すると100万枚以上の銀貨。つまり、ちいさな町の予算クラスは
ある事になる。
俺がその計算結果に顔をしかめているのに気づいていないのか、熱っぽくクリスは話を続ける。
「下を見ても、6千セパタはありますから……」
「クリスっ!」
そんな俺の表情に心配したのか、ネリーが止める。
っと、フォローフォロー。
「はは、俺が訊いたんだから謝る必要なし、ね?」
「あ……はい……」
謝る機先を制された所為か、困ったような表情を浮かべ頷くクリス。あとで2人に穴埋めしておこう。
「んじゃ……すまん、読めない。クリス頼む」
「はい……戻ってそこの3軒前のが新鮮です」
「えー、あっちの方が安いよー」
「お姉さまに食べさせる物なのに、古い物食べさせてどうする気ですか」
「いや、そうだけどさー」
とか、やっている内に買い物袋は重くなり、だんだんと人が増え騒がしくなってくる。
「これでオシマイかな?」
メモにしるしを付けているネリーが呟くと一息つく俺。
まさか女の子に荷物持たせるわけにはいかないので俺が持ったが、組まれている腕を動かさず荷物を持つのは至難の技だと思
い知った一時間だった。
「りょーさん、あそこで休みましょうか?」
と、クリスの指した指の先には小さな公園とベンチ。こういうスペースが多いのは、本当に助かる。
ベンチに座る時にも両脇にクリスとネリーがセットなのはもはや、突っ込む事すら野暮だ。
「ほれっ」
大きく膨らんだ買い物袋からおまけで貰った青いリンゴのような物を2人に渡す。
見た目毒リンゴ、味はキウイなこれはご主人様の好物らしいが、異世界って恐ろしい。
「えーと、もらっていいんですか、これ?」
「買い物付き合ってもらったお礼だからいいの。それにおまけだしね」
そう俺がいうと、彼女らはお礼を言って二人は食べ始める。流石に俺は色的に食べたくない。
「……そういえば、クリスはご主人様を"お姉さま"なんて呼ぶんだ?」
流石に他の食材に手をつけるわけにいかず、手持ち無沙汰。
そこでふとした疑問をぶつけてみたんだけど、
「げほっ、げほっ!」
微妙に、急所だったらしい。
「……えーと、喋っていいかな。ネリー?」
「いいよー、いまさら隠す事じゃないしね」
クリスの事を聞いたのになぜネリーに許可を?……そんな疑問はすぐに氷解した。
「昔、私とネリーでロレッタをいじめていたんです」
「……」
若気の至りを話すような口調に静かに耳を傾ける。が、これには驚いた。
「あの子、今でもですけど背が低いのでちょっと高いところに物を置いてやると届かないです」
「で、適当な物を届かないような場所に置いておくっていう、今から考えると昔の自分を首絞めて教育したいくらい低レベルな
ことしてたんですよ」
ねえさんが似たような事されたって話を一度だけ聞いたような気がする。見つけ出して吊し上げたらしいが。
「理由なんて簡単な物で、あの子が特別扱いされて悔しいとか周りに比べて小さいとかなんでも良かったんだと思います」
「実際は、特別扱いをロレッタ自身が異様に嫌ったらしくて、職員室に殴りこみかけたってのもあったなぁ」
「おいおい……」
ロレッタも無茶するよ、全く。
「ある日、学校にラヴィニアお姉さままが一緒に来てたんです。私達は上履き入れの天板に上履きを置くっていう単純な事をし
たんです」
「それを現女王様……つまりはラヴィニアさんに見つかったと言う訳で」
「……で? あ、すまん」
思わず急かしてしまい、謝る。彼女らにはちょっと言いづらい事だというのに俺は……はぁ。
「ははっ、いいですよ別に。えーと話を戻すと、どんな手を使ったかわかりませんけど、その日の内に私達は呼び出されてロレ
ッタの前に出されたんです」
「ロレッタは別に気にしてないとか言ってたんですけど、ケジメだからとか言ってラヴィニアさんに頬一発づつ叩かれて、2人
セットで抱きしめられたんですよー」
「で、『私はロレッタの側にいつも居る事が出来ないダメな姉だから、あなた達、家の妹をお願いね』って言われたんです」
なんというか、ご主人様らしい。
「それ以来、私はラヴィニア様をお姉さまと呼んでいる次第で」
「そう思ったのはアンタだけだと思うよ、クリス」
俺をを挟んでいつも通り騒がしい二人。
全くご主人様は何処までいい人なのやら。ま、そこがいい所なんだけどね。
2人と別れ、屋敷へ買い物を終えて帰ってくると、俺とロレッタは急いでお弁当を作り始める。
ロレッタが先に準備してくれたおかげで俺一人でやるよりかなり効率がいい、というかほとんどロレッタ任せだ。
……にしても、小さいけど良く働くねぇ……見習わないと。
「ほらほら、にーさん手が止まってるっ」
「あ、すまんすまん」
この台所は、かなり広くスペースが取ってあるので2人で動き回ってもさほど問題にならない。むしろ4人くらいでも十分な
位だ。
しかもし、なぁ……?
「あーやっぱり2人に手伝って貰った方が……」
「にーさん、なんか弱気過ぎっ」
「いやだって、俺、そんなに料理は上手じゃないぞ」
「ふぇ……?」
考え込んでいるのか包丁がまな板を叩く音が途切れる。
俺がある程度食べれる物を出せるのは、『料理くらいできなきゃ、婿に出せない』と、ねえさんに言われて無理矢理やらされ
たお陰だ。――ねえさんありがとう。と心の中で祈っておく。
それはともかく、ここに来てからレパートリーは増えたがいまいち手際よく出来ないのが現状だ。
「……もしかして、2人に言った事気にしてるの?」
「まぁ、一応」
一応、とは言ったけれど気になって仕方ない。
不味いと言ってくれれば勉強したのだが……味見した限りだと素材がいいのか美味しかったんだけどなぁ
「えーと、嘘です。ごめんなさい」
"ごめんなさい"がちょっと悪戯っぽく聞こえたのは、気のせいではないだろう。
「2人に嘘ついたのは悪いと思ってるけど、私達で作らなきゃ意味ないでしょ?」
「……そうだな」
確かに今まで謝れなかった。
「んで実際、ご主人様の舌ってどれ位肥えてるんだ?」
「それなら大丈夫、ねーさん、『ベラドンナとトリカブト、どっちがまだ食べれるかな?』とか言ってたし」
おいおい、確かどっちも毒草じゃないか。
「参考まで、どっち食べたの?」
「結局ワラビを見つけて煮て食べたらしいよ」
なんというか"らしい"オチだ……ん?
「なんでそんな事してたんだ?」
「ん、……『王に相応しく』とかでかなり大変だったみたい」
そういうと、包丁とまな板のぶつかり合う音が再スタートしたが、ロレッタの声音は聞きなれていないと分からないほど、微
かに沈みこむ。
ここは深く踏み込むべきか、避けるべきか……迷ってる暇、無いか。
「かなり大変って?」
「わたしだってそんなに知ってる訳じゃないけど、っと」
切った食材を煮え立つ鍋に放り込みならがらロレッタは話を続ける。……背が低いから大変そうだ。
「手伝おうか?」
「大丈夫……んと、ねーさんごまかそうとしてたけど、次の日足腰立たないぐらい走らされたり、一週間くらい野宿とかしたら
しいよ」
それはまた体育会系な。でも、疑問が残る。
「それってさ、『王に相応しく』となんの関係があるの?」
「50年くらい前に"王"の権力濫用でゴタゴタがあってね、その反省から心身ともに鍛える事になったらしいよ、ってにーさん、
手が止まってるよっ」
「はいはい」
権力濫用、こういう話は何処にでもあるらしい。
「……まぁ、わたしが勝手にねーさんの話から想像しただけなんだけどね」
鍋をかき混ぜつつロレッタはしみじみ語るが、妙に空気が重くなる。
これ以上追求すると余計重くなると思うが、もっとご主人様のことを知りたいと思う。
奴隷としての領分を越える事だとしても、だ。
だから、敢えて踏み込む。
「想像って事は、ちゃんと話してなかったの?」
「うん、ハイキングとかキャンプとか楽しそうに言ってたの。……そんな気、使わなくてもいいのに」
最後の方は不貞腐れるように吐き捨てるロレッタ。確かに頼られないってのは悲しい。
「ご主人様なら、嫌なら嫌と言うんじゃないかな?」
「え?」
驚いた声を上げて一瞬音が止まるが、すぐに復帰。テンポがずれないのは流石だ。
「意地なのかプライドなのかわからないけど、辛いと思った事は決して言わない人だしさ」
ロレッタは話を聞くつもりなのか口を挟まず、淡々と材料を切る音を響かせる。
その音をを心地よく思いながら俺は続ける。
「ロレッタに話したって事は、辛いと思っちゃいないって事、ね?」
「……でも絶対辛いよ」
俺も、体育会系の部活していたから辛いと思ったことは腐るほどある。でも人にそれを愚痴ったことはない。
理由は簡単。愚痴る相手も辛いからだ。
あの頭脳明晰のねーさんだって見えない努力を重ねているのに、俺一人が愚痴を言うわけにはいかない。
だから、俺はご主人様の気持ちが分かる気がする。
「辛かった、面倒、やりたくない。そう愚痴られたかった?」
「……うん、ねーさんがそんな事してるのに、わたしはベットの上。わたしは……やりきれないよ」
動けなかった彼女ならではの意見だが、例え虚勢であっても愚痴を妹に言う人ではないだろう。
「ご主人様は、『ロレッタがベットの上で一生懸命病気を治しているのに、私は外で動き回るだけ』とかって思ってるよ、多分
ね」
「…――痛っ」
「ロ、ロレッタっ?」
短い悲鳴を上げたロレッタへ慌てて俺は駆け寄って上から覗くと、人差し指に赤い小さな珠が出来ていた。
おそらく、というか確実に包丁で切ったものだろう。……器用なロレッタには珍しい事だ。
「あはは、ドジっちゃった……」
苦笑いするロレッタだが、悩みやなにやらが透けて見えるのは気のせいだろうか……っと手当て、手当て。
「んー?」
絆創膏……なんてのを探そうと見回すが、そんな便利なものはない事に気づく。
せめて、血を止めなきゃならんのだが……仕方ない。
「ロレッタ、指出して」
「はい、って――にーさんっ! ひゃあっぁ!?」
出された指を止血の為、口に咥えて舌で小さな傷口を舐めとる。多少鉄の味はするが、すぐに薄まり消える。
口に物を入れたからか唾液がどっと量が増えて、ロレッタの指が半分くらい浸る量になる。
その溜まった唾を舌先で掬い上げ、傷口にちょっとずつすり込んでいく。
「〜〜〜……っ」
ロレッタが悶えてる様だが多分傷口に唾がしみているのだろう。
唾には殺菌作用だけでなく、治癒効果増強もあるらしいから、我慢してねーロレッタ。
「ん、ん……も、もう大丈夫だよ、にーさん」
そういわれて俺は、咥えていたロレッタの指を離してハンカチで指を拭き取る。
この世界の人達は傷の治りが早いのか、もうハンカチに血が付かない事に驚くが、荒い息をしてへたり込むロレッタ。
「……大丈夫?」
「う、うん、腰が抜けただけだから……ちょっとこのままにしておいて」
「そうか?」
本人がそう言うのだから仕方ない。
締めにちょっとカッコつけてみようかな……柄でもないけどね。
「過去がどうであれ、今を、いつかを楽しく過ごさせてやろう」
「?」
「俺のねえさんにそう言われた。だから、弁当作って笑わせよう、な?」
「うんっ!」
満面の笑みで頷くとロレッタは「よいしょ」と掛け声を掛けて立ち上がる。
確か言われたのは、あっちで飼ってた犬を拾った時だっただろうか。
気の利いた台詞すらねえさん頼り。全く、ねえさんには敵わない。
その代わりって訳じゃないけど美味しい物作って、笑ってもらおうじゃないか。
35 :
鼠担当?:2006/09/17(日) 23:12:01 ID:oXbJK14w
これで一区切り。『無垢と未熟と計画と? そのに 上』でした。
続きは近日中に。
乙!
萌えますた!ロレッタちゃん可愛いです
トリカブト…
ベラドンナ…
物騒だなぁww
とりあえず水仙もやばいぞ!って事で…
う〜ん、萌えス…
乙です!
>>1乙!そしてそれぞれ投下して下さった作者様方乙!
GJ〜!
ロレッタ萌ロス。にじにじ。
SS保管庫が落ちてますね…
>>40 保管庫が落ちてるんじゃなくて、鯖が飛んでいるのさ
// 茶化してすまん。x-beatのs9鯖が0:30から飛んでいるそうな。
せっかく連休だから過去ログ読もうと思ってたところなのに、
ついてないなあ>鯖落ち
ところでこのスレ的に絵板とかはあんま需要ないかな?
(あっても投稿する人が少ないと意味ないが)
>>42 絵は板違いスレスレだからかもしれんが少ないな。描ける人間が少ないってのもあるかもしれん。
ついでに過去作品なら、wikiの過去ログ使えばいいんじゃないか?
>>42 個人的な話、絵が描けないから文章に走ったものですから・・・。
ついでにいうと、絵板があっても特定キャラしか描かれないなんてことになるなら、いっそのことないほうがマシだと思う。
露骨な話、マナ様もいればジークきゅんもいる、セリスくんもいればサーラ様にアンシェル様にロレッタもいるっていう、バリエーションのある絵板ならまだしも、
どれを見ても見聞録キャラしか描かれてないような絵板ならはっきり言っていらないと思うです。
個人的な意見としては絵板の導入はちょっと反対です…
文章を読んで浮かんだ自分のイメージみたいなのを特定されちゃったりする事もあるので。たまに挿し絵程度で絵があるのもいいものなんですけどね。
そういった理由で自分は例えばハリポタとか指輪物語とか最近で言えばゲド戦記やブレイブストーリーの映画を見なかったり…
またも短くてスミマセンが、第2話投下よろしいですか?
>>42 個人的に絵板は萌えですが、全体の意見が分かんないので微妙。
>>46 控え室スレの受け売りだけど、直前に投下されたSSから一日以上開くか、直前に投下されたSSに三つ以上のレスがついていれば投下しても構わない、と思うです。
……って。
……何か大事なことを忘れてるような気が……
しまった、鼠担当さんにまだGJを言ってねえorz
えーと、遅くなりましたが
>>17-34、超GJでした。
こういう話、大好きです。文体も好き。つーか鼠担当さんの文才に激しく嫉妬しそうです。どろどろ。
続きも期待してます。
あ、では投下させて頂きますね。
文才が無くごめんなさいですが。
達哉を拾ったレナは、仕事を終えたその足で、
達哉を連れたまま、犬国の南東にあるスラム街に来ている。
この場所は犬国のブラックマーケットにおいて重要なウェイトを占める場所で、
麻薬・武器の密売、盗品販売は当然で、そこら中にある露店には、達哉には意味不明の物が数多く売ら
れている。
まだ5歳ほどにしか見えない、達哉と同じヒトの少女が売られていたときなど、目を背けずにはいられ
なかった。
そしてここは、レナと同じ“蛇足”のメンバーの一人との待ち合わせ場所に指定されていた。
“蛇足”の中でもレナのように戦いを専門とするのも居れば、中継を担当する者もいるらしい。
よく考えれば、それも当然だ。全員がバラバラに行動していれば、いくら人数が少なくとも、
傭兵の集団として成り立つ筈が無い。
そして、ここに来たのにはもう1つの理由がある。
蛇足〜はみ出しモノ〜第2話
「僕のために…買い物してもらってもいいんですか?」
「ええ、気にしないで。タチヤの武器も用意しておきたいし、服も必要だわ。
その格好じゃいくら首輪を付けてても、落ちてきたばかりと勘違いされかねない」
それはつまり、1人で行動する事を前提にした話しのようだ。
そのような事をしなくてはいけない事になるのはずっと先だと思うが、
人生に何が起こるか分からない事は、身を持って知っている。油断は出来ない。
つい此間までただの医学生だった自分が、
今では傭兵集団付きの医者になり掛けているんだから、タモリも真っ青の世にも奇妙な物語だ。
「余所見はしない方がいいわよ。油断してると攫われるわ」
「は…ハイッ…」
こちらに来てからの悪い癖で、事ある毎に深く考え込んでしまう。
達哉は自分の首にはめてある首輪を触りながら、例によって考えていると、
レナは達哉の頭を軽く小突いて現実に引き戻させた。
達哉は『攫われる』という一言が利いたらしく、直ぐに顔を上げてシャキッとする。
さっきとは対照的に辺りを警戒しながら恐る恐る歩く達哉に、レナは苦笑した。
『タチヤにも自分の腕前は見せた筈だ。自分が横に居るのに安心しないなんて、返って失礼だ』
そう言ってやりたい衝動に駆られながらも、それを我慢して目的の場所へ行く。
「あの寂れた酒場が待ち合わせの場所よ。
買い物は、とりあえず合流して腹ごしらえを済ませてからだわ」
「分かりました。…1週間ぐらい、まともなモノは食べてませんでしたしね…」
達哉とレナが出会った場所からこの街まで、1週間ほどかけて歩いてきた。
レナが犬国の用心を暗殺してしまったため、あの周辺には相当の警戒網が張られており、
迂回して大幅に遠回りをせず得なかったのだ。
いくら犬国さえも御用達の“蛇足”のリーダーでも、一介の兵隊は知る筈がない。
疑いを掛けられれば、取り調べが終わるのに最低でも3週間は掛かっていただろう。
加えて、珍しい半獣の容姿をもった女性であるレナ、
同じく絶対数の圧倒的に少ないヒトである達哉。
この2人のコンビは、とても目立つ存在であった。大勢の視線に耐えられないと言うのも、迂回した理
由の一つだ。
これらの理由があり、達哉もレナも遠回りの道を進み、その間はずっと保存食&野宿だったワケだ。
慣れているレナはまだ平気だったが、平和な国の裕福な家庭でヌクヌクと生きてきた、
根っからのお坊ちゃんである達哉には、流石に堪えたらしい。
しかも足が付けないために一般の街での買い物はレナから禁じられ、
自分の寝袋すら野生動物の毛皮から作らなくてはならなかったのだ。
この1週間の旅は、達哉の一生の思い出になること請け合いだ。
達哉は、これからどんな料理が食べられるのか思いをはせつつ、
レナの直ぐ後ろを追従して酒場の中に入って行く。
そして入った直後、素っ頓狂に男の声が聞こえてきた。
「姐(あね)さんじゃないっスか!!仕事は成功したようっスね!
犬国の奴等が慌てて影武者を立ててましたぜ!
こっちも報酬をたっぷりもらって、もうウッハウハですよ!!
いや、さすが姐さんは強いっすね!1%でもその強さを分けて下さいな!」
薄暗く埃にまみれた酒場に響く、妙に明るい若々しい声。
達哉は慌てて声の方を向いた。レナは頭を抱えて呆れた表情をしている。
声の正体はラフな格好をしたヘビの青年で、
テーブルをバンバン叩いてレナを手招きしている。
もうすでにかなりの量の酒を飲んだ後のようで、青白い鱗が赤みを帯びていた。
傭兵がこんな場所で秘密を大暴露するような話をするのはどうかと、
達哉は非常に気になってしまうが、辺りを見回すと客が一人も居ない事に気付く。
「レナさん、あの人が仲……「あれ!!そいつどうしたんスか姐さん!
色恋沙汰に縁が無いと思ってたら、意外や意外…姐さんがヒト奴隷を連れてるなんて!!
つーかおまえも幸運っスね!姐さんに拾ってもらえるなんて、
きっと今度ので一生分の幸運を使い切ってるっすよ!
あぁ〜、それと姐さんの身体がどんな具合か、今度教えてくれないっスか?
いやもう、初めて会ったときから気になってるのに、
姐さんてばまだヤらせてくれないんスよ。色目使っても無視されちゃって。
あぁ〜、俺もヒトに生まれたかったっス。
そしたら一生エロエロどろどろウッハウハなのに!
それにしても姐さんがそういう趣味の持ち主だったなんて…俺知らなかったyo!
…あ、それはそうと君なんて名前ー?俺はガルナ・ガルバっていうんスけど!」
達哉は、ヘビ男のマシンガントークに呆気に取られてしまう。
途中で反論しようと思っても、口を開き掛けたときにはもう次の言葉を喋られていた。
しかも妙なハイテンションの所為でこちらの調子も狂い、反論する気すら削がれてしまう。
しかし黙ったままでも要られないので「達哉…です」とだけ返して目を逸らした。
その行動をガルナは勘違いしたらしく、更にハイテンションになって語り出す。
「あ、そんな謙遜する必要なんてないっスよ!敬語なんてノンノン!
むず痒くっていけないっスよ!もっとこう友愛を込めて、フレンドリーに!
他の奴等はみんな無愛想で、仲良く話せる相手がいなくて困ってたんスよ。
いや〜、ただでさえ傭兵なんて女ッ気の薄い仕事してんのに、
話し相手までいないんじゃ俺息が詰まって死ぬとこだったスよもう!
さあ、今日から俺等は友達っスね!
だから、姐さんとヤれるよう口添えまでしてくれないッスか!?
なんなら3Pに誘ってくれるのもア「少し黙りなさいガルナ」
達哉にはレナの動きが見えなかった。さっきまで隣に要ると思ってたレナが、
気が付けばガルナの真ん前に移動していて、威圧的な視線をガルナに向けていた。
ガルナの様子は、ライオンに睨まれたヘビそのもので、さっきまでのハイテンションがどうしたのか、
ブルブル震えてレナに許しを請っている。
「タチヤは仕事の途中に私が見付けたのよ。
元の世界で医者を志していたそうだから、“蛇足”にも医者は必要だと思ってね」
「そうっすよね!姐さんはそんな趣味は持ち合わせてないっスよね!
うんうん。タチヤは医者なんすか、確かに医者が必要になった事も何度かあったんスよね。
…いつか護衛を依頼されていたヘビの国の金持ちのご令嬢を、
俺がうっかり孕ませちゃったときとか、医者を探し「少し黙りなさいと言ったでしょ」
ガルナに学習能力はないのだろうか?達哉はそう疑問に感じてしまう。
ブルブル震えていた一瞬後には、ハイテンションを取り戻し、そしてまたレナに睨まれる。
達哉はどうして良いか分からずに、ただ事態を傍観し続ける。
結局ガルナの誤解を全て解くのには、それから30分以上を要した。
× × ×
「ああ、じゃあタチヤの護身用の武器を買わないとイケナイっスね。」
「ええ、そう。いくらなんでも丸腰だと舐められるわ。
タチヤに戦う必要はないし、ハッタリでもいいのよ」
「………」
ガルナとレナが話している横で、達哉は久しぶりのまともな食事を取っている。
掻き込むように次ぎから次へと口に入れ、1週間分の渇きを癒そうとする。
達哉としては、何の肉かは分からないが、甘く煮た角煮のようなモノが気に入った。
他にも魚介類や果物など色々とあり、元の世界で食べた事のあるモノも結構有った。
「それで…達哉はどんな武器が欲しい?
報酬を受け取ったばかりだし、大概のモノは買えるわ」
「ん…ッ…むがッ…ゲホッケホッ!!!」
急に話しを振られて、食べ物で口をいっぱいにしていた達哉は、力いっぱい噎せ返る。
レナはそれを見て、本日何度目か分からない溜め息を漏らし、
ガルナは達哉を指差して、盛大に笑い声を上げた。
そろそろ顔色が紫になってる達哉にレナが水を差し出すと、達哉はその水を一気飲みする。
そのテンプレートな食事風景に、ガルナは更に笑い声を上げた。
達哉は水を飲み終わると、顔を赤くしながらレナの問いに答えた。
「僕なんかに扱える武器なんてあるんですか…?
元の世界にいた時だって…中学のときにやってた弓道ぐらいしか経験ないですよ」
「だから、ハッタリでいいって言ってるでしょ。
最初からタチヤに戦闘力は期待してないわ。
最低限自分を危険から遠ざけられればいいの」
レナの言葉に達哉は考え込む。自分に使える武器なんて思い付かないし、
ブラック・ジャック宜しくメスを投げるなんて事が出来るわけもないし、やはり弓道しか思い付かない
。
だが、それも中学三年間やっていただけで、高校に入ってからは勉強に力を入れていた所為でご無沙汰
だ。
…いまさらだがシミジミ思う。あの頃は良かったと。
女の子には結構モテたし、勉強もスポーツも出来たし、友達もたくさん居た。
それが今じゃ、ライオンとヘビに囲まれて昼食を食べている、幸薄い奴隷の青年だ。
達哉は昔の事を色々と思い返しながら、「弓矢にしときます」と投げやりに言った。
「あ、弓矢っスか。確かに姐さんたちが戦ってるのを、後ろから助けるだけで良さそうっスね。
まあ、敵に矢が届く前に、姐さんが倒しちゃうと思うっスけど」
「アハハ…レナさんならやりかねないよね。シャレにならないくらい強いし」
レナは、達哉とガルナの言葉を無視して「じゃあ決まったわね」と言って席を立つ。
達哉もガルナは、見事にハモりながら「「あ、まだ食べ掛け…」」と反論するが、
レナは2人の服の襟首を掴むと、強引に引っ張って立ち上がらせる。
そしてそのまま2人を引きずって酒場から出て行く。
達哉はレナに引きずられながら、お代を払っていない事に気が付いた。
どうしても気になってしまい、一緒に引きずられているガルナにそれを尋ねた。
「ガルナ、さっきのお店の代金は払わなくてもいいのかい?」
「ああ、それなら問題ないっスよ。あの店は“蛇足”の隠れ家みたいなもんスから。
あの店の主人と契約してるんスよ。あの店を維持してやる代わりに、
俺らがこの街に居る間は、貸し切りにしてくれるんス」
「ふ〜ん…そうなのか…」
達哉は、ふとあの店の主人の顔を思い返す。
厳つい犬人と、その母親と思しき犬人の老婆だった。
恐らく2人だけではあの店を切り盛りしていく事が出来ないのだろう。
味は確かのなだが、あの古びた店で客足は期待できる筈も無い。
達哉は、筋違いであろうがその2人を心配する。
心配するだけで何もしないところは、突っ込まないでくれると有り難い。
今の達哉に出来る事など何も無いし、
心配性は生まれ持った性分なので仕方が無いだろう。
「凄いんだね…君達は…」
「俺なんか大した事ないっスよ。姐さんたちに比べれば赤んぼみたいなもんス。
タチヤみたいに医学の知識も無ければ、姐さんみたいに強くもないっス。
……ちょいと人間を騙すのが得意なだけの、賢しい蛇っスよ。
昔は蛇国で諜報部隊の隊長してた事だってあるんスけどねぇ……。
嘘吐き過ぎて、女遊びが度を越して、気が付いたら故郷を追い出されて流れてたんスよ。
姐さんに拾ってもらえたからいいものを、
“蛇足”に入ってなかったらどうなってたか、考えただけでゾッとするっス」
ガルナは達哉の前で始めて見せる、切な気な表情をして青空を眺めた。
達哉もそれに習って青空を眺める。そういえば、空を眺めるなんて久しぶりだ。
この世界は月が2つあると聞いて夜に一度眺めたのだが、それ以来だ。
ズザザザと言う、レナが達哉とガルナを地面に引き摺る音はジャマだが、
それを差し引いてもこれまでに無く落ち着いた気分になった。
同性の気を許せる相手と言うのは、思った以上に重要らしい。
この世界に来てから、初めて“トモダチ”と言う言葉を強く意識したと思う。
心が和むのを感じる。今なら、父親を殺してしまったと言う事も、話せそうな感じだ。
だが、話すつもりはない。必要になれば話すし、必要なければ極力思い出したくない事だから。
達哉はガルナに向かって笑い掛ける。そしてまた空を仰いだ。
「もうすぐ店に着くわよ。そろそろ自分の足で歩きなさい」
レナに言われてやっと気が付いた。自分達がどれだけ多くの視線を集めていたか。
珍しい半獣の容姿を持った獅子人の女性が、ヒト奴隷と蛇人を引きずって歩いている。
しかも、ヒト奴隷も蛇人も信じられないほどくつろいでいる。
人々の奇異の視線を集めるには、充分過ぎる材料が揃っている。
居心地の悪くなった達哉とガルナは、慌てて自分の足で歩き出す。
しかし時すでに遅く、人々の視線は自分達から離れて行く事はない。
結局その視線は、3人が武器を買いに建物の中に入るまで離れる事は無かった。
「さあ着いたわ。タチヤ、早く選びなさい」
「あ、はい。……僕が使えるのとかあんのかな…」
店に入り、陳列されている武器を物色しながら、腕を組んで考える。
弓と矢は結構な数が売ってるのだが、ヒトの腕力で扱えそうな弓が見付からない。
こちらの住人が使う事を前提に作られた弓は、ヒトが扱うには弦が強すぎる。
店主の猫人のおじさんも、達哉が精一杯弓を引く仕草を、呆れた様子で見ている。
待ちくたびれたレナは、弓を店主に返すと別の注文をした。
「思った以上に体力がないのね。…仕方ないわね…。
オジサン、ボウガンは有るかしら?鼠人が使えるようなちゃちなモノでいいから」
「ああ、あるよ。ただし当たっても大したダメージは期待できないね。
実戦で使うなら、こっちの毒薬もセットで買うといいよ。
痺れ薬と、致死性の猛毒と、一定時間仮死状態にさせる変わりダネもあるよ」
店主の男は、待ってましたとばかりに饒舌に語り出した。
どうやら、達哉の武器を買うと分かった時点で、そのボウガンを出す事を想定していたようだ。
猫人は商売上手だと聞いたが、それが本当だった事に達哉は苦笑する。
達哉は店主からボウガンを受け取り、矢をはめずに試し撃ちの動作をする。
滑車を使って弦を引く手法を使っているので、確かに力が無くても扱う事が出来る。
また、反動も少なく確かに使いやすい。これならヒトの腕力で十分だ。
それに殺傷力が低いと言うのも気に入った。
仮にも達哉は医者なのだから、人殺しの道具を持っていたくない。
どうしても相手を殺さなくてはいけないときにだけ、さっきの毒を使えばいいのだし。
「おうっ、中々サマになってるっスね!格好良いっスよ!」
「有り難う。後は、実戦でちゃんと狙いが付けられるかだよね…」
それを考えると、達哉は不安になってしまう。
実戦と言われて想像するのは、初めてここに来た時に出くわした、レナと狼のリーダーの戦い。
あんな戦いの中で、自分が敵に狙いを定めて引き金を引けるだろうか…?
そう聞かれたら答えはNOに決まっている。
無理だ。絶対に無理だ。引き金を引く前にチビらないか心配だ。
つか仲間に向かって誤射しないか非常に心配だ。
あんなにしなやかに素早く動き回る戦いの中、達哉の動体視力で射撃など、無理だ。
だがレナは、そんな事はお見通しとでも言わんばかりの尊大な目で達哉を眺め、
その後に達哉の腕からボウガンを引っ手繰ると、レジに渡す。
「これを買うわ。さっきの毒薬も3つセットで頂戴。それから矢の束も200本くらいね。
それとそこの服を、尻尾の穴を塞いでお願いできるかしら。
……これだけセットで買ってあげるんだから、少しはお得になるわよね?」
「ハハハ、面白い漫才も見せてもらったし、ボウガンの値段は20%オフにしとくよ。
普通のお客さんじゃこんなちゃちなものは買わないし、
かと言って鼠人のお客さんは、店主が猫ってだけで出て行っちゃうからね。
在庫処理に困ってたんだよ。ありがとう。
ほら、オマエさんも良いご主人に恵まれたな」
レナから武器の代金を受け取りつつ、店主が達哉を見て言った。
その表情は、ヒトだからと言って馬鹿にした様子は見受けられず、素直に好感が持てる。
こちらに来てからほんの1週間ほどだが、レナとガルナ以外からは、常に見下されていたと思う。
中にはこんな相手もいるのだと、達哉は感心した。
「まったくですね。レナさんに拾ってもらえて幸せですよ」
「あ〜っ、またまたノロケちゃって!なんスか?やっぱり実は姐さんに気があるんスか?
達哉もスミに置けないっスね!…ハッ!?…もしや姐さんに一目惚れしてついてく事を決めたんスか?
いや、奇遇っスね〜♪俺もそうな「じゃあそろそろ行くわよ。タチヤ、その馬鹿は置いて行ってもいい
から」
また何か語り出そうとするガルナの言葉を強引に遮り、レナが店の扉を開ける。
ガルナは『馬鹿』と言われた事に落ち込んでいるようだが、レナが先に行ってしまったため、達哉は慌
ててレナを追い掛ける。
ガルナは、期待していたのに達哉が慰めてくれなかった事に、さらに気を落としつつ2人を追い掛けた
。
達哉も慰めてやりたいのはやまやまだが、レナの命令に逆らってまでする勇気も無い。
とりあえずこの1週間で学んだ事は、レナが絶対の存在であり、彼女の命令には絶対服従と言う事だ。
とやかく指図される事はないが、重要な場面では達哉に的確な指示を送ってくれる。
その通りに行動すれば万事が上手く運ぶ。これが本当の、リーダーの資質なのだろうと思う。
「ヒドイじゃないっスか姐さ〜ん…。馬鹿呼ばわりして〜……
これでも一応、頭脳には自信があるんすよ。小さい頃は地元の暗算大会でも1位を取ったんスよ!」
「おまえは人間性からバカなのよ。おつむとは別次元ね。
……同じ事がタチヤにも言えるかも知れない。おまえ達は案外、似た者同士だわ。」
レナに言われて、ガルナと達哉は顔を見合わせた。
そして、お互いに今日出会ったばかりの、新しい仲間への考えをまとめてみる。
まず達哉は、ガルナを歩く性欲の固まりだと意識している。
食事の途中にも余裕で下ネタを語り出すし、『もう女ならなんでもいい』とか堂々と言っていた。
昼食の風景が、達哉の頭の中に蘇る。
『そんなに溜まってるのなら、ここならそこら辺にいくらでも娼婦がいるでしょ』
これはレナのツッコミだ。
『駄目なんスよ。尻軽DQN女は守備範囲外っス。
まあ、無理矢理に娼婦として働かされてる人奴隷のカワイコちゃんを俺が助けて、
徐々に愛を育んで行くなんて展開は、バッチ☆コイ!!なんスけどね〜』
これがガルナの答えだ。
達哉は、つい苦笑してしまった。今日出会ったばかりだと言うのに、もう気の置けない友人と認識し
てしまってる。
それはガルナの方も同じようで、同じように笑っていた。
不思議な事に、達哉はガルナの言動に不快感を覚えない。
元いた世界で、同じような事を口にする相手がいれば、確実に嫌いになっている筈だ。
だが、ガルナにはそういう発言をしても平気な、場を和ませる雰囲気が有った。
なんで『僕達って似た者同士だよね』な話題が『彼女が欲しい。もう溜まりまくり』な話題に摩り替
わるんだか。
達哉は苦笑と失笑を足して2で割らないような表情で、ガルナに返す。
一方のガルナは、またもオーバーリアクションでそれに返した。
「あーーッ!実はそれ気にしてる所なのに!
ヒドイじゃないっスか!タチヤだけは信じてたのに!
男の熱い友情が結ばれてると思ってたのに!!」
「気にしてるのなら直す努力をなさい。
それが出来なければ、よほどの幸運が無い限り彼女は出来ないと思うわよ」
レナの言葉に、とうとうガルナは心が折れてしまったのか、がっくりと項垂れて達哉に寄り掛かった
。
流石に可哀相になってきた達哉は、話しを別の話題に移す事にする。
「あ、レナさん。次はどうするんですか?
ガルナとも合流したし、僕の武器と服も買いましたし、もうこの街に用はないんですよね」
これは、今日ずっと気になっていた事だ。ようやく聞く事が出来てホッとする。
今日一日中(というかガルナと合流してから)、ずっとガルナのマシンガントークのせいで
達哉から発言する事が出来ず、タイミングを見失っていた。
レナは、振り替えって達哉の方を向くと、すぐに答えてくれた。
「とりあえず、当面の生活費は受け取ったし、一先ずアジトへ戻るわ。
タチヤを正式に“蛇足”のメンバーに迎え入れるためにも、
他のメンバーに挨拶をしてもらわないといけないしね。
それと…アジトは狼国のある荒れ地に隠してあるの。
そっち方面へ行く輸送車かなんかを買収して連れて行ってもらうわ」
「はい。分かりました」
他の“蛇足”のメンバーと会わなければならない。
そう思うと達哉は微かに緊張した。ガルナの話しでは曲者ばかりらしいし、
果たして非力なヒトの自分を受け入れてもらえるかどうか、非常に不安だ。
達哉のそんな気持ちが表情に表れていたのか、レナが声を掛けてくれた。
「そう今から緊張する事も無いわ。どうせ私の紹介なんだから平気よ。リラックスして。
輸送車の下調べもガルナが終わらせといてくれたし、出発は明後日よ。
今日はもう宿を取って寝る事にしましょう」
日はそろそろ傾き掛けていた。レナの薄く茶色を帯びた黄色っぽい橙色の毛並みは、
夕日によく映えて美しいなと、達哉は思った。
だが、そんな考えはすぐに達哉の頭の中から吹き飛ぶ。
(久々にちゃんとした布団で眠れる!!)
そう思っただけで、達哉は飛び上がりそうな気分になってしまう。
元の世界にいたときは意識した事も無い幸せだ。
こういうのも良いかも知れないと、そろそろ思い始めてきた。
第2話完
新キャラ補足
ガルナ・ガルバ
ラフな格好をした、青白いウロコの蛇人の青年。
ヒトの年齢に換算すれば、達哉とは同年代。
交渉や相手を騙すことに長けるのだが、それ以外の場では激しくハイテンション&性欲の塊。
元は蛇の国のある王家の元で諜報部隊の隊長をやってたらしいが、
ウソの報告と、あまりの女遊びの酷さに追い出されてしまう。
下ネタトークしながらご飯を食べれるヤツ。
次の投下は、週末ぐらいになると思います。
お目汚し失礼しました。
GJ。
だけどちょっとアドバイス。
専ブラだからかも知れないけど、"。"が遠い所についてたり、変な空白が入ってたりして読みにくい。
行間も多いくて目が疲れる。
私見で悪いけど、長い台詞は切った方がいいかも。
結構辛口に言ったけどアイディアはかなりいい感じなので頑張って。
>623氏
設定、キャラ造形についてはよくできてると思うです。続きも気になりますし。
気になったのは、ときどき不自然なところで改行されたり、一行開きになってることですね。
でもそれは、メモ帳に書いたり、ギコナビとかの長文書き込みに向いた専用ブラウザを使うとすぐに直せると思います。
IEとか禁断の壷なんかは、意外とSSには向かないですね。
あと、これは余計なお世話かもしれませんが、このスレでもよく使われている、SSの見た目を少しだけ良くするテクニックです。
もしよければ参考にしてください。
・三点リーダー【…】は二つ使って【……】とやれば読みやすいです。
・! や? の後ろは一文字開けると見やすくなります。
・文頭は一文字分スペースを開けるといいかも。
了解しました。アドバイス有難うございます。
なんつーか、まだ初心者の方なので及ばないところがありまくりですが、
指摘してくださってくれて嬉しいです。
他の方々がレベル高すぎですが、
自分なりに頑張るんで、どうか才能無しと見捨てないでやって下さいね。
携帯からの人なのかな。
いーえ。単なるパソコン初心者です。
それにしても、
>>62の文がヤバイなぁ…
テンパっちゃったよ…
お、続きが投下されてますね!乙です!
パソコンの技術なんかどうでもいいんですよ。お話として楽しければ無問題!
何とか週1ペースがキープ出来るように頑張って下さいね!応援してます!
獣人の人が、『落ちてきたばかりのヒト』と出会って、
そのヒトを奴隷にしなかった場合、
やっぱり大抵はどこかに売っちゃいますよね?
一般の人でも、難なく相当な大金が手に入る訳だし・・・。
>>66 一般人が拾ったら売っちゃう場合が多いだろうなあ…。
右も左もわからない世界で、
売られそうになる度、したたかに逃げ続けてるヒトとかもいるんだろうか…。
>>66 常識的に考えて、まず間違いなく売り払うでしょうね
逆に言うとそう言う類のビジネスとして、現実世界でも「人買い」が存在し
色町へ沈める為だけに組織された女衒の業界もあったわけですからねぇ
落ちてきた人権の無い存在などといえば動く現金位の感覚が正しいと思います
異世界の人間は必然的に心が荒むだろうな…ま、それくらいの絶望的な状況下だからこそ、ご主人様の善良さが栄える訳だが
それにしても保管庫の鯖落ちが殺人的だなコレ。復活はいつになるんだろ。
71 :
鼠担当?:2006/09/19(火) 22:19:11 ID:4TUtEcpI
好評なようで幸いです。
そのに 下 は明日にでも。
>>68 ……ごく稀なケースだろうけど、
年端もいかない少女だと、親に内緒で飼ってたりすることもあるのかも。ペット気分で。
>>71 wktk
アイデアとかは割と出て来るのだが詳しく設定したりいざ文章に起こすと書けないもんだよなぁ…
やっぱりここに限らず作品投下して下さる作家様方はいろいろ勉強してたり人一倍本を読んでたりしてるのだろうか…
ふと俺達のような普通人じゃなくてカズマさんみたいなのが落ちてきたらどうなるのかとか考えた。
……いかんぞ俺、世界観とか前提を無視したクロスだけは鬼門だ。
>>73 アイディアが出てきても文章が書けなくて苦しむ。
その苦しみに耐えて耐えて耐えきって、文章にする。
勉強していても、本を人一倍読んでいても、頭の中の情報と文章化のズレには誰だって苦しむ。
SSを書くときには、もちろん楽しさもあるけど、そういった苦しみがあって、
その作品が完成するかどうかはその苦しみを乗り越えられるかどうかにかかっている。
最初のころはその苦しみが大きく感じられるかもしれない。
でもある程度慣れるとあんまり感じなくなる。
慣れすぎると逆に更に大きく感じたりするけど。
勉強がしたいなら控え室スレとか覗いてみるといいよ。
最近は、なんか愚痴の言い合いみたいな流れになってるけど、書くにあたって参考になる話も聞ける。
最初はみんなレベル1なんだよ、処女作なんか後で読み返すと赤面するね
アイデアが出るならそれを箇条書きにしてみると良いよ
次はそれぞれの間を補完する部分を考えれば良い
そして、最終的に文章としてまとまった形になれば良いだけ
何回か作品つくる内に慣れるはずだし、逆に慣れないならセンスじゃ無い部分で努力が足りてない
箇条書きストーリーが作れる位の日本語力があれば本格長編でも手掛けない限り
必ず書ききれるよ、ガンバ!
この世界って獣人じゃない、普通の動物生態系はどんな感じなんだろ?
こちらの世界でいう猫とか犬とかはいないんだろうか?
牛とかは家畜としているんだよな。
>>77 「獣人」とは別の「動物」はいます。
こっちの世界で、人間と猿がいるようなものです。
79 :
鼠担当?:2006/09/20(水) 19:42:15 ID:UFIgWaGJ
もしかしたら、牛とか豚が落ちてるかも。
私は似たような動物がいるんじゃないか。と、解釈してますが。
それでは、『無垢と未熟と計画と? そのに 下』を投下します。
誤字脱字、文法がおかしい所があったらごめんなさい。
§ § 3 § §
死にそう。
「大丈夫ー? ラヴィニアー」
いつもの仕事場――行政局の執務室で私は死に掛かっていた。死因は餓死で。
朝ごはんも満足に食べれなかった、財布を忘れてきたのコンビネーションで死ぬなんて嫌だわ。
「おーい」
"りょー"のご飯がおいしくて食べすぎなのか、最近服がちょびっときつくなったような気がするが、運動すればいいしね。
それにしても、さて、どうしたものか。
「……リョウくん、着たわよ」
「――っ!」
"りょー"という単語が聞こえた瞬間、私は執務机の下に最近じゃ最速の動きで隠れる。
「……あれ?」
おかしい、声がしない。それ以前に、誰?
恐る恐る机から顔を出してみれば、頬杖をつきながらにやにや笑っているリゼット。縦に裂けた目から面白がるような物を
感じるのは気のせいではないと思う。
「にゃはー、いいネタ貰いっ!」
「リゼット!」
似たような手でからかわれるのはいつもの事だが、これはちょっと致命的。
親友と言ってもいい間柄ではあるけど、油断は禁物。イジられた方はたまったもんじゃない。
不平不満はあるが、とりあえず私は椅子に座りなおす。この椅子大きくて体が余るから好きじゃないんだけどね。
「そんなに、怒らなくてもいいでしょー?」
「やっていい冗談と悪い冗談の区別もつけれないの、アンタは?」
「その時楽しければいいのよ」
「流石ネコ、日和見っぷりは尊敬に値するわ」
「恐悦至極」
リゼットと私はいつもこんな感じだ。
私と初めて会ったとき、息が出来ないくらいきつく抱きしめる位だからまともじゃないのは分かる。……この抱き癖と、
なんでも茶化す態度さえなければ完璧なんだけどなー。
本当に大切な親友だから許せるけどね。
「で、何の用?」
「元気ないそうだから慰めにきたのよ」
脇に垂らした房を揺らしながら聞いてくる。そういえばリゼットも綺麗な髪してるから後で聞いておこうかな。
「私、そんなに元気なかった?」
そんな覚えはないのだけれど。
「昨日、夜中にいきなり来て、泣きながら『泊めて頂戴』って何処が元気あるように見える?」
「う゛」
今の今まで記憶の底に抑えてたのに、溢れてくる。
私、なにしてんだろうな。
「リョウ君絡み?」
「……ひぅ」
相変わらず鋭い。
ロレッタと"りょー"の……衝撃的瞬間を見て逃げたのは覚えてるだけど、気が付いたら秘密の路地裏で夜中だった。
その後、リゼットの家に行ったのは覚えているんだけど間は思い出せない。
「ケーキ置いていったのはいいけど、中身ぐちゃぐちゃだったわよ。勿体無い」
「あう」
ロレッタに謝って仲介頼もうかなと、ケーキ買ったんだっけか。ははは、私バカだなぁ……
「挙句の果てには財布忘れて昼ごはん抜き、ねぇ?」
「ひでぶ」
ものすごく惨め。泣きたくなるけど"ぐっ"と堪える。
言われてふと気が付く。
「あれ?なんで私が財布忘れたこと知ってるのよ」
「この時間になったらご飯食べにいくのに、今日に限って唸ってるなんてダイエットか財布忘れに決まってるじゃない」
さもあらんというように推理される。正直そこまで読まれてると悔しい気分すらおきない。
「ほれほれ、おねーさんに話してみなさい?」
「いや、いい」
あんなこと喋ったら、死ぬまでイジられなねない。
「リョウくんで遊んでる内に我慢できなくなって、フェラまでして射精させた上に続きをやろうとして怒鳴られて逃げた、
しかもロレッタまで巻き込んで。これで合ってる?」
「――どっから聞いたのよ!」
非常にマズイ。何処かに隠れる穴ないかしら?
「リョウくんよ、ホントにどうしていいかかなり迷ってたわよ」
「でも、私、主人の資格ないよ……」
名目上とはいえ奴隷に怒鳴られ逃げたのを1度目、妹と怪しげな状態を見て逃げたのを2度目とするなら、計2回奴隷から
逃げ出した事になる。
自分で飼うと言い出した割には私は、度胸がない。
そんなことを考えるとますます気が滅入ってくる。
「少しは私を頼りなさいよ」
「へ? またイジるつもり?」
私は疑いの目をリゼットに向ける。
過去から考えてもあんまりシリアスな場面では茶化されてしまうだろうし。
「ラヴィニア、あなたは謝る気ある?」
「そりゃもちろん」
謝る気がないならここまで悩まない。
「なら、分かりきってるわよね?ちゃんと面と向かって謝る、ね?」
確かにそうだ。気まずいのならちゃんと謝ればいいし、"りょう"だってリゼットの所へ相談しに行く位だからその気はあるの
だろう。
つまり問題は、私の決意しだい。……なんだけどねぇ。
「うぅ」
「何を悩む事があるのよ?」
「どう謝っていいか、わかんない」
「はぁ!?」
もう訳が分からないと言わんばかりに目を丸くするリゼット。
ごめんなさいと謝るには恥ずかしすぎて。
忘れてと言うには印象が強すぎて。
何気なく振舞うには近すぎて。……どうしようもない。
リゼットから見れば取るに足らない事であっても、私にはどんな難問よりも高度だ。
「あぁもう、何でネズミって妙な意地張る癖に、普通の事に臆病なのかしら?!」
「あのー私の性格を、種族全体の傾向としないでー」
『妙な意地』には修正を要求したいけど『臆病』なのは否定しきれないので黙っておく。
謝れない理由が恥ずかしいでは、臆病極まりない。
「でも、まさかフェラチオの事、事細かに教えたその日にやるとはその行動力はびっくりね」
「教えたんじゃなくて、嫌がる私の耳掴んで心構えからやり方を懇切丁寧に聞かせただけじゃないのっ!」
「でも、役に立ったでしょ? 奴隷とのスキンシップにっ♪」
「〜〜〜〜っ」
にやにやとリゼットは笑うが、私は逃げ出したい気分だ。スキンシップとは聞こえがいいが、やった事は半ば強姦の類だ。
しかもロレッタまで巻き込んだのだから手に負えない。
「にゃははー、もっと凄いこと教えようか?」
「…リ、リゼット〜〜!」
一瞬、いいかもと考えたが、かぶりふって考えを打ち消す。これを聞いたら前以上の段階の事をするんだろうなぁ、私。
「さて、別視点からアプローチしてみようか」
「別視点?」
険悪な私の口調を聞き流して、何処までも能天気なリゼットの声は明るい。
この能天気さは私も見習うべきなのかもしれない。
「そう、リョウ君はどこからどう見てもオスのヒトね?」
「そりゃそうよ」
あれでメスだったら、リゼットと同じように最高の親友になっていただろう。
「ヒトって事は、身分階級としたら最底辺。そしてあんたは、最上級の王」
「うん……」
言わんとすることが分かってくる、つまり……
「つまり、リョウ君をどうしようがあんたの自由。即ち、あんたが何しようが奴隷に謝る必要は――」
「それだけはないよ」
私はきっぱりとリゼットの意見を却下。リゼットも本気ではないんだろうけど、私はこの意見だけは賛成できない。
私たちネズミはこの大陸では最低クラスの身体能力で、せいぜいヒトよりある程度マシでしかない。
魔法だって使えるのは私くらいで、しかも大した能力じゃない。
だから、私はヒトである"りょー"に共感して同じように見ている。例えそれが感傷や見下しの類と言われようが、この考えを
放棄するつもりかは欠片もない。
それに王だからって、なんでも出来る訳じゃない。むしろ出来ない事の方が多いかもしれない。
この程度なのに生きているヒトを好き勝手に出来る訳がない。――それが私の偽らざる本心だ。
「ったく、頭固いなー」
呆れたように苦笑いするリゼットだけど視線に優しさを感じる。
本当にありがとう……と言うと調子乗るので心の中に留めて置く。
「まぁ、3年前とみたいに血を吐かなきゃいいけどね」
「……古い事持ち出すわね、3年も前の事よ」
「アタシにとっちゃ、3年しか立ってない事」
ネズミとネコ、その寿命差による時間感覚にはかなりの開きがあるらしい。
じっと視線を通わせて見つめ合うが、何故か後ろめたくてリゼットの目を見ることが出来なくて私は目を逸らす。
「あれは、私の自己管理がなってなかった所為で別にリゼットには責任ないじゃないの」
とーさんとかーさんが死んで、私がこの仕事を引き継ぎ始めの頃の事だ。
単純に過労と心労がたたって潰瘍で血を吐くなど、我ながらひ弱だったと思う。
「自分を追い詰めちゃダメよ。下手に頭が回るから限界を読みきれないなんて笑えないわよ?」
そんなことは分かってる。
私が自分自身の限界を読みきれない事も、多少の不調は意地やら根性で無理矢理押さえ込む事も。
「それはともかく仲直りの事だけど、思うままに頑張りなさい。でも出来るだけ早めにね?」
「はい〜」
考えるのに疲れて溜息を吐くと、今まで何処にあったのか疲れがどっと溢れ出して私はへたり込む。
「ま、リョウ君絡みだとしてもラヴィニアなら何とかできるでしょ? 手紙で謝るって手もあるしね」
「そ、そうね。あはは……」
書こうと思って何書けば分からなくてやめた……なんて言えない。
さて、本題とリゼットは居住まいを正す。私もだらしなくへたり込んだ体を持ち上げて姿勢を正す。
「最近ウチのコ、女の子3人ほどが行方不明になってるの」
「財務局? 商会の方?」
「その中間の連絡役かな」
リゼットはこの集落の財務の長だけでなく、商売まで手がけておりその収入の一部はこっちの懐にも入る。
ちょっと後ろ暗いお仕事もやっているんだけどそこは割愛。
「連絡役で町まで出てもらったんだけど帰ってこないらしいの、足取りとしちゃ商会に顔は出しているんだけどね」
「むぅ、種族とかは?」
「全部ネズミ、20歳前後ね。まぁ連絡ってもフード被せて正体ばれない様にって細工ぐらいしてるわよ?」
ちょっと由々しき事態かも。
これが続くようならリゼットの仕事が格段に増えてしまう。そうなれば、いろいろ面倒になる。
「とりあえず、今はどうしてる?」
「軍の方に護衛とか頼んでるだけど、やっぱ優秀なコが抜けるとかなり痛いわ。手間も掛かるし」
「そっか、親御さんには?」
狭い集落だから居なくなれば噂にもなって、余りいい影響にはならないだろうし、何しろリゼットはネコだ。最悪責任問題にも
なりかねない。
「アタシ自ら謝りに行ったわ、あんまりいい顔されなかったけど」
「だろうね、一体なにがあったのやら。取り合えず軍に警戒と捜査を要請、その上で公式発表。それでいい?」
「ん、軍には言ったけど王の影響は大きいわね……ったく、死んでなきゃいいけど」
不機嫌そうにリゼットの耳と尻尾が揺れる。これはかなり苛立ってるわね。
ふっとリゼットの昨日の言動とこの事件が繋がる。
「……昨日、泊めてくれなかったのは……?」
「ご明察、コレの所為よ…………まぁ、ロレッタからも言われたんだけどね」
「?、なんか言った?」
最後の方が声が小さくて聞こえなくて聞き返す。
「なんでもないっ、この事件に伴う軍への要請、資金の調達の目処、ならびに残された人への賠償金の書類を出しにきた訳よ」
はい、と何処にあったのかファイルケースからいくつかの書類を取り出し渡された。
さらっと目を通すがなんら問題はない。しかし、こういう書類は出来るだけ見たくないのが人情だ。
いつも書類の提出がおそいリゼットだが、問題があれば即対応する行動力は私の憧れでもある。
さらさらっと書類にサインをして印を押すいつもの作業が、ちょっと重く感じるのは命が掛かっている所為なのか。
「財布無いならコレ食べる?」
ひょいっと小脇に挟んでいた袋を取り出し中身を見せる。
小麦の焼けたいい匂いが食欲をそそるパン。空腹には非常に有難い代物だ。
「どうしたのよコレ?」
「この前出来た共同かまどの初物よ、財務局特権でちょろまかしたの」
「……よく反論来なかったわね」
「かまどを作ったのは財務局よ、使用料も赤字スレスレにしてるからこれ位いいじゃない」
そりゃそうなんでしょうけど。
お腹が空いて欲しいんだけど、王がコロコロと物を貰うと賄賂になるような気がする。
「……失礼します、お嬢様」
うーうーと懊悩としてる中にノック音の僅かな後に入ってきたのはロジェ将軍。
だらけていては示しがつかないので姿勢を正すが、私の変り身っぷりをニヤニヤ笑っているリゼットにちょっと腹が立つ。
「ずいぶん早いですね、確か予定だと明日では?」
確か私の記憶だと"迷宮"の方の改造工事で居ないと思ったけど。
「えぇ、思ったより早く終わりそうでしたので、走って参りました」
「馬車で2日は掛かる日程を走るのね……」
私も体力に自信はあるが幾らなんでも無理だ。3日あるならできるけど。
「これが報告書です。……リゼっち久しぶりー」
「リゼっち言うなっ! てか、4日しか経ってないっ」
この2人は仲がいいのか分からないが、将軍はリゼットの事を"リゼっち"と呼ぶ。それをリゼットが止めさせようとするのが
いつものパターン。この2人の挨拶みたいなものかもしれない。
リゼットが妙に嬉しそうに反論してるから本当は呼ばれるのが好きなのかもと推測してみる。
……などと考えているうちに、簡潔な報告書を読み終える。
「うん、問題ないです。では、一つ、軍に要請があります」
「はい、何でしょう」
すっ、と背筋に鉄心を入れたような姿勢を整える将軍。
こういうしっかりした人は個人的に好感が持てる……"りょう"もそんな感じだった気がする。
「財務局の職員が3名ほど行方不明なのは知っていますね? 王命において捜査、協力を指示します」
「はっ」
将軍は歯切れのいい返事をすると、ドアの方へ顔を向けて口を開いた。
「どうぞ、ロレッタお嬢様」
――へ?
「あは、ねーさんお弁当食べよー、にーさんと一緒にね」
将軍の手前、逃げることも隠れることも出来ない私はロレッタの言う事をどこか遠くの事のように感じた――。
お弁当抱えて待つこと数十分。俺は行政局の近くの公園に居た。
ロレッタが意外に凝り性だったため、お弁当が非常に大きくなってなおかつ重い。だが時間を掛けた分ボリューム
は凄まじく、運動会で家族で食べた弁当以上になっている。
「……」
周りをみると木が敷地を囲い、中央は校庭のように何もない。遊具も一つも無いので寂しい限りだが、いくつかベンチが置い
てあり俺はその一つに座っている。
俺はご主人様にどういう顔をして会えばいいか、弁当箱の暖かさを膝で感じながら置いて考えていた。
いろいろ考えているが、本心のあるままに――それしかないだろう。
「にーさんー」
呼ばれた方向を見てみると、公園の入り口に元気に手を振るロレッタと妙にギクシャクとした歩き方をしているご主人様。
そのギャップが妙におかしくて思わず頬が緩む。
「えと、えーと、んーと……」
ロレッタがご主人様を強引に引っ張ってくるが、かなり挙動不審だ。それはまともにご主人様の顔を見れない俺も同じだが。
「ねーさん? にーさん?」
「「はいっ?!」」
苦笑いしているロレッタに声を掛けられただけで俺とご主人様は、裏返った返事をしてしまう。
……もうちょっと落ち着け俺、相手はもう逃げないし、ゆっくりやればいい。試合の前の様に落ち着けばなんとかなる。
静かに深呼吸をしていると、ご主人様も同じ様に深呼吸をしているのが見えて、焦りが落ち着く。
「えっとね、んと、その……」
「ご主人様、ストップ」
「い?」
気合を入れて謝ろうとしているのは見えるんだけど、流石にお弁当が冷えるのはちょっと寂しい。
「取り合えず、座って食べよ? 冷めちゃうしね」
「あ、うん……」
俺は持ってきたブルーシートを一番大きな木の下に敷いて四隅を適当な石で押さえる。それだけで即席食堂の出来上がりだ。
「ねーさん」
「な、なに?」
「謝るのは後。朝ご飯食べてないんだからさっさと食べよ?」
「あ、うんっ」
……ブルーシートを敷く前に石を取ればいいのに、取り忘れてわたふたと石を取っているとそんな会話が聞こえてくる。
いいところをロレッタに持ってかれてしまったが……俺が言ってたんじゃいつまで掛かるかわかったもんじゃない。
「御二人とも、こちらへどうぞ」
「にーさん、似合わないよー」
「燕尾服でも着てみる?」
シート下の石をなんとか全部取って、ちょっと気取った感じで誘ってみたが散々な結果。ひどいよ2人とも。
まぁ……似合ってないのは分かりきっているけど。
「り、りょー、早くー」
目を合わせてはくれないけれど、ちゃんと名前を名前を呼んでくれる。それだけで俺は小躍りしそうなくらい嬉しい。
と、ちょっと感慨に浸っているうちに早くも2人はシートの上に陣取り、色とりどりの弁当を広げている。
その手の早さに溜息をつきつつ、シートへ俺も座る。
「ロレッタ、その入れ物をご主人様にも渡して」
「これ?」
配られるのはスチールと思われる金属製の入れ物。微妙に暖かい。
「開けてみて?」
「……!」
蓋を開けると湯気が飛び出て中身が露わになる。
その中身はたけのこ、油揚げが入った簡単な炊き込みご飯。まさかこの世界に圧力鍋があるとは思わなかったが、これのおかげで
これが出来たと言っても過言じゃない。
「これ?」
「ご飯に具を一緒に入れて炊いたものなんだけど、美味しいから一口食べてごらん」
「ん」
たけのこを一緒にスプーンで掬い上げ、口の中へ消える。
「ん〜〜〜♪」
美味しくて嬉しそうな顔をされると苦労した甲斐もあるし、奴隷冥利に尽きるというものだ。
「んじゃ『いただきますっ』」
そこからはもう、戦場というか取り合いというか……
「ねーさん、それ食べすぎっ! わたしにも一個〜」
「早い者勝ちよ、ロレッタ……って、りょー! それはダメっ」
「……はい」
「っと、これは私のー」
「それだけは渡せないよっ! にーさんの手作りなんだからっ!」
「いや、こっちにも同じもの……」
『これがいいのっ!』
「はい……」
醜い争いになってもうしっちゃかめっちゃか。これほど周りに誰も居なくていいと思ったのは初めてだ。
「うー、おなか一杯」
「わたしもー」
2人が取り合ったというか奪い合った所為で俺はあまり食べれなかったが、二人が美味しそうに食べてる姿だけでおなか一杯だ。
「んじゃ、デザートにしますか」
横にある袋から取り出すのは、毒リンゴモドキ。それをナイフで丁寧に皮を剥く。
皮が途切れずに剥く事が不器用な俺が唯一自慢できる事だ。
「はい、ご主人様、ロレッタ」
「ん」
「どうもー」
切った物を二人に渡して上を見上げる。
木が視界の半分を遮っているが、残り半分は雲ひとつ無い青空。
風は弱くても、木陰で涼しくて気持ちがいい。
こういう所はあちらと変わらない。生き物、食べ物、習慣の全てが違う世界だけど、空の色だけは変わらない。
「……りょー?」
「はい、なんですか?」
ご主人様に呼ばれ視線を向ける。
微妙に泣きそうに見えるは気のせいか。
「なんかどっか行きそうだったから呼んだだけ……」
「大丈夫ですよ」
「あ……そう」
そう言うと水筒に入っていた紅茶をコップへ注ぎ、口をつける。
まだ、目を合わせてくれないけどかなり雰囲気は和らいだと思う。
「うぅ、やっぱ……コーヒーがいい……」
と、顔をしかめ行儀悪く舌を出すご主人様。そういや、紅茶を飲んでいる姿を見たことがない。
「ねーさん、あんな苦くて、不味くて、胃に悪いもの、良く飲めるね……」
「だってー」
子供みたいに不満気な声音と耳が力なく垂れ下げて、駄々をこねるご主人様。
「はいはい、今度、コーヒー入れますから今はこれで我慢を、ご主人様?」
「はーい♪」
『コーヒー入れる』なんて言ったのは、決してだだこねる姿が可愛かったから……なんて理由じゃない。
気まぐれ、ですよね……俺?
「……んじゃ、にーさん、ねーさん。わたしこれ持ってくから」
そんな優雅な(?)食後を満喫していると、いつの間にか弁当箱の山を片付けて纏めているロレッタ。
「ロレッタ、もうちょっといて欲しいなぁ……ダメ?」
「ダーメっ、リゼットねーさんに呼ばれてるし」
懐中時計をみると既に1時半を過ぎている。バッカスさんの授業は3時からだし、余裕はあるかな。
「それじゃ、後は若い二人に任せて……2人とも頑張ってねー」
「ロ、ロレッタ?! 大体、あなた同じ歳でしょうにっ!」
ご主人様の突っ込みは空を切り、うなだれている。
さ、ここからが本番だ。
「ご主人様」
「は、はい?」
ちょっと声を掛けただけでさっきまでの雰囲気は一転して、ガチガチに固まっている。
……そうだ。
「ご主人様、ここ、ここ」
俺は正座に座りなおし自分の太ももを叩く。要は膝枕だ。
「え? えっ?」
混乱した様子で目をぐるぐる回しているご主人様。
さてさて、どうするのかな?
「面と向かってじゃ話しにくいでしょ? だからって目をそらして話すのは嫌だけど、ここに頭乗せれば顔見なくても話せるよ?」
我ながら完璧な理論武装。とまでは行かないが、パニックってるご主人様にはこれで十分。
「えぇっと、失礼します……」
ご主人様はおずおずと擦り寄って、俺のひざの上に頭を乗せた。
最初は固まっていたが、流石にそのままだと居心地が悪いのかもぞもぞを頭をずらす。
しばらくすると、気に入った場所でも見つけたのか動かなくなる
「ん……」
長い髪に手櫛を入れてみると、するすると抵抗なく手が通り糸か何かと間違えそうになる。
ご主人様をそれが気に入ったのか気持ちよさげに小さく身を捩る。
よくよくみるとお化粧で隠れているがクマが見える。
……眠れなかったのはお互い様らしい。
「髪、綺麗だね」
「そう?」
そっけなく答えているが、嬉しくて動きたいのを我慢しているのか耳が微かに震える。
「手で梳いても、引っかからないしすごいね」
「……一応、自慢だから。最初は『髪を伸ばすと見た目的に映えるかから』って理由だったけどね」
目をつぶったままのご主人様は、淡々と語る。
多分これが『王に相応しく』なのだろう。
俺は、ロレッタからほんのちょっとしか聞いていない。けれどその苦労の欠片を読み取るには十分すぎる。
「……大変だったね」
一瞬の沈黙。
「そうでもない……って言えば大嘘。結構辛かったけどね」
「そっか」
俺の一言で何なのか分かったのか、歯切れのいい答え方だった。
そういう所は嫌いじゃないが、妙に言葉端が引っかかる。
ご主人様は、自分自身の事を使い捨ての物か何かのように語ることがある。
見方によっては死にたがりともと取れるけど、その癖、弱みを見せることを嫌う。
誇り高い死にたがり……あんまり、いい生き方じゃないと思う。だから、
「……ごめんね、ご主人様」
「……っ」
「俺があそこで断ってれば、ご主人様が寝不足になることも、悩むこともなかったのにね」
「私がっ」
「ストップ」
ご主人様が口を開こうとする瞬間を見計らって人差し指で唇を抑える。
「謝る必要はないですよ、俺は奴隷ですから」
「でもっ」
勢いのいい声とともにご主人様は起き上がる。
起き上がれば当然俺と目が合うわけだが、多少涙目ではあるけれどしっかりと見返している。
あちらも覚悟を決めたならこちらも腹を括らなきゃならない。
「私が、最初に耳なんか齧らなきゃ――」
「それが何が悪いの?」
「……え?」
ぽかんと口を開けたまま呆けるご主人様にかまわず、俺は続ける。
「俺は奴隷。いかなる主人、命令であっても従う……それが奴隷だと思う」
「……」
「いわば、主人の道具。道具を折ろうが壊そうが齧ろうが道具は文句を言わない」
「……」
なにか言わんとすることがあるのか、黙って見つめてくるご主人様。
しかし、その目からは何を考えているのかはまったく分からない。
「だから、謝る必要なし、ね?」
「間違ってるよ」
気持ちいいほどの即答の否定。
歯切れにいい所は結構好みだが、この立場だけは譲れない。
「でも、ね」
「でもも、けども無し。りょーは生きているんだよ? 喋るし、食べるし、ちゃんと息もしてるのに、『謝る必要なし』?」
すぅっと一息。
「バカにするならそこまでにして頂戴っ!! 私はそこまで弱った覚えも腐った覚えもないわっ!」
思いがけない大声に思わず片目を閉じてしまう俺。しかし、ご主人様はまだまくし立てる。
「黙って聞いていれば『道具は文句いわない』『謝る必要なし』とかふざけた事言ってるけどね、私がそう思っているなら
こんなに悩まないわよっ! またおかしな事言ったら反省するまで井戸の中に吊らすわよっ!!」
「っ、はいっ!」
反射的に、はいと答えてしまって後悔。
まだちょっと言い足りない。仕方ないので恐る恐る声を掛ける。
「……えーとご主人様」
「なに?」
大きく頬を膨らませて怒ってるつもり……なのだろうが餌を頬張るリスかなにかを連想させて可愛らしい。
……可愛いけど、譲れないものがある。
「やっぱり奴隷って立場だけは譲れませんよ」
「む」
「何も奴隷相手なのに腰が低い人が王様なんていやでしょ?」
「それは、そうだけど」
口を尖らせ、かなり不満そうなご主人様。
ちょっと卑怯だが、強引にでも納得してもらう。
「謝ることが悪いとは言ってませんよ。要はあの事に関してはご主人様が謝る必要はなしって事です」
やると言ったらやる性格だから、"未来永劫俺に謝る必要なし"とか言ったら本気で井戸の中に吊るされるだろう。流石に
それは勘弁してほしいから軌道修正したが、やっぱり奴隷に謝ろうとするご主人様は変な気がする。
ま、バッカスさんに宣言したことと矛盾するけどね。
「だから、ごめんなさい」
頭を下げて座礼のような格好だが、この際仕方ない。
「むー……もう、そんな顔で言われたら私が怒鳴ったのがバカみたいじゃないの」
頭を上げてみると、ご主人様は諦めたようにため息を吐くと、頭を俺の膝へ置いて目をつぶった。
不満気な雰囲気を醸し出してはいるが一応納得してもらえたらしい。
「別に納得した訳じゃないわ、りょーの真面目な顔に免じてここは引いてあげる。……あとでキッチリ決めましょう」
「はいはい」
……納得したわけではないらしいが、とりあえずは何とかなったかな?
「それはともかく、あんまりしかめっ面してると皺増えるよ、ご主人様?」
「まだ、そんな歳じゃないですっ」
しまった。思わず正直に言っちゃった。
「〜」
妙な緊張感からお互い沈黙だが、今までの気まずい沈黙ではなくむしろ心地いいといえる沈黙だ。
俺は無意識の内にご主人様の髪を手櫛し、毛先までたいした抵抗無く通る。
「俺さ、獣医になりたかったんだ」
「……獣医? えーと確かペットのお医者さんの事だったっけ?」
動物が好きだから獣医とは我ながら単純だが、夢なんてのは単純なのが一番いい。
「うん、その獣医。まぁ、ここに落ちちゃったからその夢は叶わないけどね」
「……」
妙に空気が重くなってしまった。えぇと、何とかしないと。
「それでさ、獣医さんの気持ちになって今の状況考えてたんだ」
「ふーん」
ご主人様は興味なさそう口調だが、体を揺すったり、毛先を指でいじったりして妙に落ち着きが無い。
そんな様子がおかしくていつにもまして気分がいい。
「で、答え出たんだけど、言っていいかなご主人様?」
「べ、別に勝手にすれば」
息と一緒に勇気も一息で吸い込む。
「俺なら……『本当に、いいご主人様に会えたと思いますよ』って言うよ」
「〜〜〜〜〜っ! 知らないっ! 3時まで寝るから起こしなさいっ!」
「ん」
俺の返事を確認するかしないうちに、さっさとハンカチで顔を隠してしまった。
顔を隠しても耳を隠さないのは抜けてると言うかなんと言うか……。
「……りょー?」
ハンカチ越しのためちょっとくぐもったご主人様の声。眠気分もちょっと入ってるのか気だるげだ。
「はい、何でしょうご主人様」
「なんで、ずっと耳いじってるの?」
髪の毛の感触もいいが、耳の感触もいいのでいつの間にかそこばかりいじってしまった。
紙のように薄いのにちゃんと血が通っていて、毛が羽毛か何かと間違えそうなくらいさらさらとして心地いい。
「えっと、嫌ですか?」
「ん、嫌じゃないけど……女の子の耳触るってちゃんとした意味あるんだよ。知ってた?」
「い、いえ、知らないです」
……嫌な予感をひしひしと感じるお言葉。冷や汗の出る寸前の嫌な悪寒が沸々と湧き出て来る。
「『結婚してください』だって……りょー、責任取れる?」
「いや、あの……」
俺の反応を確かめる為か、わざわざハンカチをずらして悪戯っぽい視線を向けてくるご主人様。
……もしかして、
「嘘、ですか?」
「さー、どーでしょー♪」
そう言うとまたハンカチ顔を隠してしまう。
いまさら、やめても遅いので思う存分堪能しようかな……。
「〜〜♪」
「……♪」
俺は空を見ながら、鼻歌を歌う。メロディはご主人様の暇さえあれば歌っている、歌詞は分からないあの歌。
無意識かどうか分からないけどそれに乗せられるように動く耳を、俺は飽きることなくずっと弄っていた。
『6時に行政局の前で待っててね』
と、そうご主人様に言われて大人しく待つ俺。なんだか今日は人を待つ事が多かった気がする。
バッカスさんの授業が早めに切り上げられたので俺の時間は大丈夫だがご主人様の時間の方は大丈夫なのだろうか?
と、そうこうしている内にパタパタと靴がなる音が入り口の方から聞こえてくる。多分ご主人様かな。
「……りょー、待った?」
「今来た、所ですよ。はははは……」
「へんなの」
俺のぎこちない応対に不思議そうな顔をしたが、すぐに長い髪を翻し俺の前へ歩いて言ってしまうご主人様。
……まるでデートの待ち合わせみたい。と意識してしまったら思わずぎこちなくなってしまった。
落ち着け俺、相手は獣畜生、もとい獣人だ。いやしかし、耳以外は見た目女の子だし……いやいやいや……
「りょー、聞いてる?」
「え?」
「やっぱり、聞いてないー」
いつの間にか真近に顔を寄せて、ぷくぅと頬を膨らませてお怒りの様子。
その距離にどぎまぎしながらも煮詰まりそうな頭が徐々に冷えてゆく。
……変な事で悩みすぎだ俺。俺は奴隷、彼女はご主人様。それだけの事。――よしっ。
「ごめんごめん、えっとなに?」
「ちゃんと聞いてよ? ……おいしいヒト料理屋があるんだけど、そこで晩御飯食べよ、って事よ」
「ロレッタの分はどうするの」
「リゼットに呼ばれたみたいで、晩御飯あっちで食べるって」
ありゃりゃ残念。3人で食べればもっとおいしくなると思ったんだけど仕方ないか。
「ロレッタと二人で食べに行ってもいいんだけど、りょーが居るとメニューの内容が分かるしね」
「確かにそうでしょうけど」
「美味しかったら、いつかロレッタも混ぜて一緒に食べに行こうね」
言うこと言ったからかくるっと背中を向けるご主人様。
その声には迷いが一切含まれてなくてビックリするほど真っ直ぐだ。これなら安心して軽口を叩けるかな。
「財布を忘れたなんていわれても俺、お金ありませんからね」
「二度も同じ失敗はしないわよっ。……まあ、朝のゴタゴタの所為なんだけね……」
「朝のゴタゴタ?」
おそらく、朝飯を食べ損ねた事を思い出しているのだろう。心なしかご主人様の声がちょっと暗い。
「ロレッタに昨日の事謝られてね。それでいろいろあって財布忘れたのよ……持ったとはずだったんだけどなー」
「そんな時もありますよ」
「そだねー」
それっきり会話は途絶えてご主人様の右後ろに俺は付いて歩く。
会話が途絶えたとは言っても、気まずい感じではなくむしろ心地良いともいえる種類だ。
虫の音や周りの家からの笑い声に耳を傾けながら夜道をゆったりと歩く。
そんな状態を数十メートル続けてると、ふと思いついたような唐突さでご主人様は口を開く。
「最近、誘拐が多いの。リゼットの所の職員が3人居なくなっちゃったのよ」
「へぇ、物騒だね」
ヒトみたいなものが一杯いるって事は、良からぬ考えを持つ人もいるだろうから当然といえば当然の事だろう。とはいえ、
こうも身近で起こると結構怖いものがある。
「だから……ん」
ひょいっとリレーのバトンを受け取る形で出されたのは手。えーともしかして?
「ほら、夜道ってヒトだとかなり危ないでしょ? だから、手つなごっ?」
俺の前を歩くご主人様の表情は伺えないが、耳が竹串でも入れたかのように垂直に立っている。
……分かりやすくて、頬が緩む。
「はいはい」
差し出された手を握ると、柔らかさと暖かさが心地いい。
「りょーっ! 『はいはい』なんておざなりな返事しないのっ! これは、夜道をヒトが歩くと危ないから握ってるだけなんだからっ!」
「分かった、分かったから早くご飯食べにいこ?」
「あーもう、絶対笑ってるっ! 別に私が握りたくて握らせたみたいな事じゃなくて……」
店に着くまで俺達はずっと手を握ったまま、夜道を騒ぎながら歩いた。
その間、ご主人様は一度も振り返ってくれなかったけど気まずさは無く、いつも以上にご主人様の事が分かるような気がした。
§ § EXTRA? § §
なんでわたしはここにいるの……?
リゼットねーさんの用事を済ませてねーさんの所へ行こうとしたら、バッカスさんからの呼び出し。
それで議会の椅子――ねーさんの席へ座っている今の状況。
「訳わかんない」
まさにその一言に表される。
わたしは王妹で権力があると誤解された事もあったが、わたし自身には権力のような力はほとんど無い。
それなのに権力の象徴である議会の椅子に座る意味が全く分からない。……いや、一つだけわたしがこの椅子に座る意味がある。
「ロレッタ、指に包帯巻いてるけどなんかあったの?」
リゼットねーさんには何気ない質問なのだろうけど、わたしの心臓が跳ね上がるほど鼓動が早くなる。
「え、えっと包丁で指切っちゃって……あははは」
「珍しいわね、ロレッタが包丁で指切るなんて」
「わたしでもたまにはあるわよ」
何とかリゼットねーさんの質問を回避し、人差し指に巻いた包帯にに触れる。ケガの割には包帯巻きすぎだけど。
にーさんが、『ばい菌入ったら大変』とか言ってかなり巻いた所為だけど、心配してくれていいヒトだ。
それにしても、いきなり指を舐められるなんてにーさん大胆過ぎ。思わず腰ぬけちゃったし……でも、まぁちょっとだけ
気持ちよかったというか……
って、感じてなんかいませんよっ!? わたしの名を懸けても感じてませんっ! てか今そういう場合じゃないよっ、わた
し!
邪念のような物を振り払うように頭を思いっきり振る。
議会へ目をやると、私の席を12時として時計回りに『財務』リゼットねーさん、『軍』ロジェ将軍、『外務』フランツおじさん、
『教育』フランシス卿、『移民』マリーさん、そして『行政』バッカス老。
これにねーさんを加え7名で政治を動かしている。
わたしとリゼットねーさんは、バッカス老の使いに呼ばれてここに居る訳だけどバッカス老だけが来ていない。
「遅れてすまんね」
と、扉が開き入ってくるバッカス老。
今年で75歳だからいつ寿命が来てもおかしくないのにボケすらしていないのは流石だ。
「バッカス老、わたしが呼ばれたということは、ねー、ごほん、『王』の罷免に関する事態ですか?」
指定の席に座ったバッカス老に、わたしは早速問いただす。
『王』の罷免には半数以上の議会の賛成が必要だが、まさか王に選挙権を与える訳にもいかないので苦肉の策で王の血縁者を
入れる事になっている。
つまり、わたしがここに座る=ねーさんの罷免を意味する。
しかもこの議会じゃ、長く在任しているイヌのフランツおじさんならともかく、異種族で一番新しく入ったネコのリゼット
ねーさんの発言力は極めて弱いから助けは望めない。
「ロレッタ姫様」
「はい」
……"姫様"なんてよばれると背筋に寒気が走る。わたしはそんな柄じゃない。
「この召集はあくまで皆の意見を聞くためであり、すぐに実効性のある物ではありませんし、議題は罷免をは無関係
……とはいえませんが遠いものです」
……え?
わたしの思考停止に間髪入れずにバッカス老は語る。
「議題は、『王』の奴隷であるヒトの処遇です」
語った内容は、わたしを思考停止から掬い上げるほどの内容だ。
その議題を聞いても表面上は全く表情の変化しない議員さん達には羨ましさすら感じる。
そんなわたしの心の内などしらないバッカス老は続ける。
「彼は5日前、『一ヶ月欲しい、その後で処遇を議会で決めろ』と言いました」
な、なんですってー!? と、思わず言いそうになるが渾身の気合でそれを止める。
それでもわたしの表情は引き攣ってたと思う。
「わしとしては、"あのヒトに王が悪影響を及ぼすか"で決めたいと思うが、各々の各自の基準でかまわない」
悪影響……確かに、りょーにーさんが来てからねーさん注意力散漫になってる事が多い。だけど、わたし自身の気持ちを抜き
にしても、追い出すことは無い。
「それを伝える事が今回の議題か?」
もこもこの毛皮のイヌのフランツさんが口を開く。喋るときに歯が見えてちょっと怖い。
血統はかなりいいらしいが、なぜここに来たのかは一切不明。歳だってもう200歳は超えているので誰も知らない。
「それもあるが、現状で"王にヒトが必要か?"その決議を挙手で取りたい。よろしいかな?」
わたしを含む6名が同時に頷く。
バッカス老は厳しい人だが公平だ。発言力が弱いリゼットねーさんでも決の取れる挙手の方法はいいが、これは結果が
分かりやすくてかなりマズイ。
「では、挙手を――」
結果は5:2。5が『必要』ならどれだけ嬉しいことか……と思わず現実逃避するわたし。
全くにーさん無謀だよっ!
にーさんの、バカッ! バカッ!! 大バカー!!! 何で勝手に決めるかなっ!?
挙手の結果を絶望しつつ、心の中でにーさんを罵倒。そしてどうにもならない状況に、わたしはため息を一つ。
こうなったら、行くとこまで行ってもらうしかない。ねーさんには昔みたいな荒れた目をさせちゃいけないから――!
94 :
鼠担当?:2006/09/20(水) 19:50:48 ID:UFIgWaGJ
『無垢と未熟と計画と? そのに 下』は、これにて終了です。
次は結構早くお届けできるかも。内容は……ちょっとノスタルジックで甘い短編かもしれません。
>>94 GJです。
かわいいなぁ、ラヴィニア様。
……なんて書きながら、実は俺、リゼットさんに惚れたかもしれないw
おにゃのこ視点の文章を書ける人って、正直うらやましいです。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
……さて、こっちもやっと欝モードから抜けて投下の目処が付きましたので、自分の方の近況報告を。
「岩と森〜」の舞台はフロミアのヒト居住区。秋祭りネタ。休日のシゲルとエルシア。
萌えあり戦闘あり、ただしえち無しなので、景佳くんの話を同時に投下してエロ分を補完します。
月末までには 今 度 こ そ 推敲まで終わって投下できそう。
「獅子国」はミコトの話。これ、実は鼠担当さんのSSからインスパイアした話です。……俺にプライドはないのかとw
完璧超人なミコトがある日突然、ミスを連発したり、仕事中にぼーっとなったり。
心配したキョータが「大丈夫か?」なんて聞いても生返事ばかり。
「恋の病だ〜♪」なんて茶化すファリィとサーシャ、必死に原因究明に走り回るキョータ。
果たして原因は……? みたいな話。
来月前半完成予定。
>77>78>79
ウシの国執筆中ですが、ウシにとって牛は人間にとって猿と同じ様な位置づけです。
それはそうと鼠書き氏GJです!
ラヴィニア可愛いよラヴィニア。でも自分の中で最萌なのはロジェ将軍とバッカス老です。
>>75-76励ましホントにdクス ちょっとずつ色々勉強していつかみんなの燃料になる作品をかけるように日々邁進して参ります(`・ω・´)
>鼠の人 投下乙です!いやぁ…ラヴィニア様とリゼットさんの絡みがイイ!
話は変わりますが質問。
ピューマの話の『約束はいらない』のエピローグ、シュナが何故あんなにキレてるのか…ちょっと未だにもやもやしてます…よろしければどなたかご教授を…。
>>97 冷たい言い方ですが…妻帯者なら分かると思いますし、経験してると思います
変な話ですが、意味が分かるようになるって事は修羅場の一つや二つ経験してると言う事なわけで…
えぇ、そんなもんです
…どうせ彼女なし歴=年齢ですよっ
恋愛沙汰の経験に乏しい人間だという事が露呈しただけでしたorz
ど、どうせ俺は甲斐性なしだよウワァアアアン。・゚・(ノД`)・゚・。 ←わからなかった人
と思ったけどわかった気がする。
要するに手紙の内容じゃなくてダンナの行動それ自体にキレたわけか。
102 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/21(木) 13:51:58 ID:PLDQF8gP
俺はそう解釈したけど
亭主の隠し事的行動でブチキレ
よくある事です…orz
ところで、ここの職人の皆さんは最終回のプロットって先にできてるものなのですか?
>>103 最終回は出来てるけど最終回の一話前がさっぱりまとまりませんorz
>>103 思いつきでSSを書き始めるときは必ず最終回からプロットを作っていく
そうすると間違って長編になっても整合性が取れると自分では思ってるからw
でも、大概は大まかなストーリーを決めて間を埋めていくように書いてるんで
実際は余り気にしてない・・・・かなww
初めはさっくりエロが書きたかったので設定とか全然ありませんでした。
続くと思われたので書いていったら、徐々に設定が出来上がってきました。
今は一応オチは見えてます。
でも萌えが先行しますw
ウモァー。初っ端からエロねぇ。見聞録氏並みにエロが後にきそう。
ってか獣人×ヒトが大前提なわけなんだけれど、獣人同士のセクースは駄目?
>>103 最終回と第2部は決まってるけど、その前はさっぱり。
3話ぐらい先までしか考えてないな…
>>107 獣人同士のえちなら、scorpionfishとか岩と森の国物語とか草原の潮風とかで出てますね。
でも、スレタイがスレタイですから、メインはケモノなご主人様×ヒト召使な方がいいかと。
>>103 決まってる。
あざとくやるつもりです。
ちょっと確認したいことがあって、まとめwikiの「こちむい」のページを開けたら……
……男マダラの割合はわずか0.2%だと明記してあったorz
まずいのは、すでに投下済みの部分でマダラだと明記しちまったこと。
種族の0.2%しかいない奴が外を歩き回ってたら、それだけで目立つよなぁ……どうしよう。
とりあえず【ネコだけは男マダラが極端に少ないけど、ネコ族じゃないから男マダラも多い】ってことにして力づくで押し切るかw
教訓。
投下する前にもういちどwikiを確認しましょう。
地域によって、差があるかもしれないね。
あと、男マダラは外見では女性と区別つかないから、歩き回っていても気づかれないかも。
マダラはヒト奴隷並みにとまではいかないが、世間一般の獣人とは
違う訳だから結構なんか扱いは酷そうだ。それに身体能力でも獣人タイプの
平均的な男性よりも劣っている訳だし……
見聞録でモデルとかやってるみたいだから、結構いい仕事あるのかもしれない。
>113
身体能力が劣っていても、魔法に優れてるかもしれないよ。
それにしても保管庫が復旧してよかった。
過去スレをずっと追っていくのも臨場感があってよかったけど、
人に薦めるときは作品別になってるほうが教えやすいからなー
116 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/21(木) 23:00:29 ID:HNGnvvwF
マダラは0.2%かもしれないけど分母数が明記されてないからw
同じネコの国でもマダラの多く住む地域とか有るかもしれないし
ドンマイ!
マダラ種は女性的な外見から獣人種より知能が発達してるんじゃないか…って設定とかは特に無いんですよね。今までに登場したマダラ種の中に特別頭が悪そうな人物がいないから暗黙の了解的にそうなっているのかと思ってました。
…「男は女より頭が悪い」という先入観に葛藤するマダラの青年……ってのもやってみたいんですがね。
狗国見聞録の彼の印象が強かったせいで、
漠然とだけどマダラって魔法に長けてるものだと思ってた。
>>103 最終回とそこへと向かう流れは決めているんだけれど。
決めているからといって、物語がそっちに行くとは限らないのが難しいところ。
むしろ俺の場合個々の部分部分だけ思い浮かんで
最初と最後が思いつかないなんてことがザラにあるから困るorz
まあそのパーツを組み合わせたり捨拾選択するのも物書きの技術なんだろうけど
ディンスレイフの言葉に一抹のアリプロっぽさを感じた。
…わかんない人スマソ
トリックスターズってのは何人くらいいるもんなのかねえ…
天才は割と社会貢献するのか、それとも天才は犯罪者が多いのか…
きっとそれぞれのトリックスターズには全員何かしら二つ名が存在したりして。
そういえば狗国の最初でジークの「つわり?」発言の後のあたしの中で流れた歌?に元ネタとかあるんだろうか……
123 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/23(土) 08:46:38 ID:bDZSC+7L
まぁ、バカと天才は紙一重って奴で、普通の人間には発想すらしないことをするのが天才なんだとしたら
ザラキエル・イナバ魔導博士などは超が付く天才なのかもしれんw
犯罪の捉え方も普通のヒトとは違うでしょうし、とんでも無い事しでかしても「俺ってば役に立ってる?」とか
喜んでたりして
話が盛り上がるかもしれない時に申し訳ありませんです。
ちょっと長目の上にエロ無しだったりしますが「岩と森の国ものがたり13」を投下します。
えっと、季節ネタです。
フロミアのヒト居住区は、この時期大いに活気づいている。
この中で生活しているヒトの数は約八百人。かき集められた「落ちもの」たちに加え、この街で「落ちもの」どうしを交配させられて生まれた二世世代もいる。
もともと、この街はヒトを「養殖」し、商品として売るために作られた。
十分な教育と衣食住を与えられてはいるものの、所詮、この街のヒトは「ヒト牧場の家畜」に過ぎない。
監視は厳重であり、自由も制限されている。
けっして、そこは「ヒトの楽園」ではない。
だが、この時期は別だ。
年に何度か開かれる、フロミアを挙げての祭り。
いまはフロミアの秋祭り、通称フロミアフェスタが盛大に開かれている。
もともとは、交配させ、妊娠させたヒトの女性が、圧迫感による精神的不安定のため欝状態となり、胎児に影響を与えることへの対策としてはじまったのがこの街の祭りの由来だった。
が、回を重ねるたびに、落ちものたちの世界の文化を取り入れるようになり、いつの間にか監視していたはずのカモシカの兵士までもが一体となって祭りに参加するようになってしまう。
そしていまでは、このような街を挙げての一大イベントとなっていた。
「……すごいな」
場違いな軍服姿のイヌのマダラが、街中に張り巡らされた万国旗を見上げて口にする。
(シゲルの世界の国家の旗ね)
そう、語りかけてくるエルシア。
──ああ。まさか、この世界で万国旗を見るなんて想像もしなかった。
(感動してる?)
──ああ。
シゲルが、この世界に落ちてからもう五年近くになる。
その間、色々なことがあったが、まさかこの世界で万国旗を見る日が来るとは思わなかった。
(嬉しそうね、シゲル)
──そりゃあ……な。
(中に入りましょう。懐かしいものがあるかもしれないわよ)
──そうだな。
花火が上がり、どこからか音楽が聞こえる。
妙に浮き足立つような気分で、街の門をくぐった。
──すごいな……
きょろきょろと、まるで子供のように周囲を見回すシゲル。
屋台、縁日、幟。
かつてシゲルがいた世界の祭りが、そっくりそのまま目の前にある。
(ふふっ。シゲル、子供みたいよ)
──い、いいじゃないかっ。
そういいながら、きょろきょろと周りを見回しながら歩く。
……が、そんな中で否応なく気づかされること。
それまで楽しそうに祭りを楽しんでいたヒトたちが、シゲルがくるのを見ると、どこか動きが硬くなる。
カモシカの兵士たちも、それまでは楽しそうにしていたのが、シゲルを見るなり、その場で直立し、敬礼をして「警備、異常ありませんっ!」と、言ってくる。
「……そうか。うん、ならいいんだ。みんなも楽しんでくれ」
「わかりました」
祭りに入れない疎外感のような気持ち。こればかりは、いまさらどうにもならないのかもしれない。
(寂しい?)
──いや。祭りが平穏に行われるなら、それでいいじゃないか。
そういいながらも、やはり寂しいのは寂しい。
そんな時、ふと子供たちが屋台の一つに群がっているのを見た。
「何をしてるんだい?」
そう、声をかけてみる。
「っ……」
突然現れたイヌの軍人に、驚き、怖れを含んだ目を向ける。
「いや、怖がらなくてもいい。ちょっと興味を持っただけだから」
そういいながら、子供たちが集まっていた水槽を見る。
小さな金魚が、たくさん泳いでいた。
「金魚すくいか。……こっちでも、金魚っているんだな」
「その、正式のルートで輸入してきたもので、私はなんら……」
言い訳を始める店主。
「いや、そういう意味で言ったんじゃないんだ。子供の頃、よく遊んだんだよ」
そういいながら、出来るだけ柔らかく笑う。
「少し遊びたいけど、一回いくらだい?」
「ひ、100センタです」
「そうか。じゃあ、ひさしぶりにやってみようかな」
そういいながら、モナカの網を受け取る。
(シゲル、大丈夫なの?)
──なーに、こう見えて、金魚すくいは昔から……
ぽちゃ。
「…………」
「…………」
「わ、わるい、もう一回だ! ええと、100センタだったよな!」
(シゲル……)
──い、今のは練習だっ! 今度は本気で……
(練習以前のレベルだと思うけど……)
──こ、弘法も木から落ちるって言うだろ!
(どんなお坊さんよ……)
五分後。
「…………」
「…………」
(シゲル……もう八枚目よ)
「お、おかしいな、腕がなまったかな……」
(腕とか言うレベルの下手さじゃないと思うけど……)
──ら、ライズアップすればなんとか……
(やめてよ、みっともない!)
「ぷっ」
後ろから、笑い声が聞こえた。
「お兄ちゃん、下手すぎ〜」
「かっこわるぅ」
「かしてよ、ほらぁ」
「こ、こら、おまえたちっ!」
店の主人が、あわてて子供たちを叱る。
「いや、いいんだ。それより……」
子供たちに取り囲まれて、ふっと笑う。
「ごめん、教えてくれる?」
「ん〜。タダじゃ教えられないなぁ」
腕組みして、得意満面の子供たち。
「じゃあ、なにか買ってあげるから、どう?」
「ほんと?」
「じゃあオレ、あそこのたこ焼き!」
「ぼく、とうもろこし!」
「アイスクリーム、三つ乗ってるやつ!」
「よーしわかった、まとめて買ってやる!」
いいながら、三人の子供をまとめて抱え上げる。
「うっわー、お兄ちゃん力持ち!」
「すごいすごい〜っ!」
肩の上ではしゃぐ子供たち。
「さあ、約束だぞ。あとでじっくり教えてもらうからなっ!」
「うんっ!」
(ふふっ。シゲル、楽しそうね)
──そうだな。子供はいいな。
リクエスト通りのたこ焼きとアイスクリームととうもろこしを買ってやってから、金魚すくいの屋台に戻る。
「……ちがうちがう、網は横から入れるんだよ」
「動きがめちゃくちゃだよぉ。もっと丁寧にしなきゃすぐ破れちゃうよ」
「大きいの狙わないで、小さいのを狙うんだよ」
「よ、よし、こうか……」
全身全霊で集中して、網をうごかす。
ひょい。
小さい金魚が、最中の上で跳ねていた。
「いよっしゃあっ!」
子供のように、左手でガッツポーズするシゲル。
「そーだよ、それでいいんだよ!」
後ろで子供たちがはしゃいでいる。
「よおし、コツはつかめてきたぞぉ!」
軍服姿のまま、水槽とにらめっこするシゲル。かなり大人気ない……と言うよりは恥ずかしい光景かもしれないが、気にならない。
すっ。
少し大きな金魚が二匹。
「やったあっ!」
自分のことのように喜ぶ子供たち。
「よおし、この調子でガンガンいくぞおっ!」
結局、20匹くらい掬った。
「よし、こんなものかな」
「お兄ちゃん、頑張ったじゃない」
「よくできましただねっ」
「はは……君たちのおかげだな。ありがとう」
「うんっ」
「じゃあ、俺はもう少しあちこち見てるから、君たちも元気でな」
そういいながら、立ち上がる。
「ばいばーい!」
笑顔で手を振る子供たち。
いつの間にか、シゲルも笑っていた。
──いろんなものがあるな。
(イカ焼きにたこ焼き、りんごあめ……)
──たいしたものだ。全部、この国じゃあ手に入らないものだろう?
(そうね。イカとタコは透河を通しての魚の国との交易で手に入れたものね。りんごはネコの国から手に入れたのかな)
万国旗と楽しい音楽の流れる中に並ぶたくさんの屋台を見ながら、エルシアと話す。
──シュバルツカッツェのバザーならともかく、この山の上でこれだけのものを揃えるとなると相当な労力が必要だろうに。
(リュナ・ルークス卿の力よ。年齢だけならシゲルと大して変わらないのに、たいしたものね)
──そういう方面で俺とくらべないでくれ。
(あら、もしかして拗ねちゃってる?)
からかうように、そう尋ねてくるエルシア。
──ぅるさぃ。
(ふふっ、シゲルのそーいうとこ、可愛い)
──と、とにかく、今日は休日なんだからそういう話はやめよう。
(くすっ、それもそうね)
カモシカとヒトばかりかと思っていたが、歩いていると意外といろんな種族がいる。
──金のあるところ、ネコはいるんだな。
向こうの屋台。ボードゲームらしきものやカードゲームらしきもの、パズルのようなもの、精巧な人形やら玩具が所狭しと並べられている。
(玩具産業はさすがにネコの独壇場ね。他の国はそんなものに生産活動を費やす余力はないわ)
──生活に直接の役に立たないものほど、よく売れるものなんだな。
(それもそうね。この国じゃ、あんなのは売ってないから、みんな目を輝かせてる)
目を輝かせていた子供たちのうちの何人かが、集まって相談している。
やがて、お小遣いをかき集めて、何かボードゲームのようなものを買っていた。
そして、みんなではしゃぎながら人ごみに消えていった。
──どこの世界も、ああいうのは変わらないな。
(シゲルも、ああだったの?)
──そうだな。正直、ルーレットで駒を進めながらお金を貯めるだけの単純なゲームだし、しかもそのとき売ってたのは最新版ですらなかったんだけど、みんなで買った時は楽しくて。遊びすぎて壊れるまで、何年も遊んだものさ。
(いい商売かもね)
──まあ、在庫処分みたいな代物でも結構な値で売れるからな。長旅をするくらいの価値はあるんじゃないのか。
そう話しながら、露店の前を通り過ぎようとして気付いた。
「NECO……って、これ偽物じゃねえよな?」
いいながら、玩具の一個を手に取り、マークとシリアルナンバーを確認する。
「どうにゃ?」
自信満々のネコ女性。
「正真正銘、シュバルツカッツェから持ち込んできた、最新版の本物ばかりにゃ」
「……って、何で天下のネコイの人間がこんな場末の街で行商してるんだよ!」
猫井エンターテイメントカンパニー・オフィシャル、略してNECOマーク。
擬装防止のために幾多の魔洸技術が施され、偽造不可能、世界で最も無駄な最先端技術と呼ばれていたり。
それがついている物を売れるのは限られている。
「場末とは失礼にゃ。この街はまだまだ伸びるにゃよ」
「伸びるも何も、祭りが終われば人間牧場じゃねえか」
シゲルがわざとそう言うと、ネコ女はちっちっと指を横に振る。
「だからイヌは駄目なんだにゃ」
「駄目……って、何が駄目なんだよ」
「それは企業秘密にゃ」
「…………」
(シゲル)
──何だ?
(猫井総研は案外見る目があるわ。ここは、ある意味宝の山よ)
──どういうことだ?
(秘密。急がないから、ゆっくり考えてみることね)
「そういうことにゃ」
うんうんとうなづくネコ女性。
「まあ、急がないからゆっくり考えてみるにゃ」
「……ってお前、その……何かこう、見えないものが見えたりするのか?」
「うんにゃ、見えにゃいにゃ。でもおまえは考えてることが顔に出るにゃ」
「…………」
「商売人から見れば、まだまだ甘いにゃ。そんなことじゃ、すぐに食い物にされるにゃよ」
「……余計なお世話だ……って、なんでこんなモノまで並べてるんだよ!」
振動しながらぐねぐねと蠢く、黒光りするゴムの棒。しっかりとNECOマークも入っている。
「ん? それも立派なおもちゃにゃ」
「子供に売るオモチャじゃないだろう!」
「じゃあ、お前が買うかにゃ?」
「買うかっ!」
(シゲル……そういう趣味があったの?)
「あるかっ!」
思わず、口に出して怒鳴る。
「いま、誰に言ったにゃ?」
「あ……」
組んだ両手の上にあごを乗せて、上目遣いにシゲルを見るネコ女。
「だ・か・ら、イヌは甘いにゃ」
(シゲル……ごめん)
──いや、こっちも脇が甘かった……
「さあ、無駄話はここまでにゃ。商売の邪魔にゃよ」
「安心しろ、二度と近づかねえよっ!」
(シゲル……それじゃ三流チンピラの負け惜しみよ)
──う、うるさいっ……
少し離れた広場で、シルクハットにタキシード姿の兎の大道芸人がさまざまなショーを見せている。
魔法を使っているらしく、沢山の玉とナイフが物理的にありえない動きをしている。
その向こうでは、ネコの楽団がストリートライブを行い、曲に合わせて蛇の女性が露出の高い衣装でダンスを踊っている。
──こんな山の中の、さほど大きくもない街の祭りにこんなにいろいろな種族が来るなんて。
正直、驚くしかない。
(フロミアフェスタも、十年を超えて行われているうちに少しづつ規模も大きくなってきたけど、やっぱり先立つものがないと人は来ないわ)
──金、か。
(そう。この祭りを、本気で楽しく華やかなものにしようとしている証拠ね)
──確かに、歩くだけで気分が浮いてくるみたいだ。
(でも、そのために必要なお金を工面したのが誰かはわかる?)
エルシアの問い。少し考えてから、答える。
──リュナ・ルークス……か?
(正解。フロミアに対しては、彼が少なからぬ尽力をしているわ)
──なぜ……だ?
(わからない。たんなるお人よしのボランティアかもしれないけど、そうじゃないかもしれない)
──そうじゃない、というと……
(ヒトの文化。異世界の文化というものは、やり方しだいで立派な観光資源になるわ。ああやって、他国の商人や芸人を呼び寄せることで、口コミで広がることも考えているはず)
──なるほどな。
ヒトとして生まれ育ったシゲルには懐かしさが先立つが、この世界の住人からすれば、紛れもなく新鮮な異文化なのだろう。
(ヒトを、奴隷とか愛玩動物とか、自分たちより下の存在とみなしている限りは出てこない発想ね。ヒトを、独自の文化を持つ対等の存在と認識していないと、その文化を理解することも、利用することも思いつかない。……そもそも、文化の存在自体を認めない)
他民族を征圧することは、まずその文化を破壊することからはじまる。被制服民の文化を破壊し、新たな自らの文化を強要する。そうすることで、被征服民は心のアイデンティティーを失い、反抗の意欲を喪失する。
征服、あるいは抑圧の手段は、どんな世界でも古今を問わず良く似ている。
(特に、お祭りなんてのは、数がいないと行えないから。その点において、ヒトだけで800人が住むこのフロミアは大きいわ。……こればかりは、ネコの国がいくらお金と技術をつぎ込んでもすぐには追いつけない)
──集めるだけじゃどうにもならないからな。住人に一体感、連帯感がないとどんなイベントも、所詮は見せ掛けだけで終わる。
(そういうこと)
──だが問題は、交通の便だな。
(そうね)
通りを埋め尽くすヒト。
ふと、ここが異世界であることを忘れそうになる。
「……祭りっていいな」
おもわず、思いが声に出る。
(そうね。特にここの場合、ふだん抑圧されているエネルギーが、この時に一気に爆発する。普段は、不自由な生活を強いられているけど、年に数度、その鬱屈を晴らす場があれば、溜め込まれたエネルギーはそこに集中する)
──そうだな。エネルギーと活気。祭りってそういうものだから。
(……だけど)
ふと、暗い声になるエルシア。
──なんだ?
(そのエネルギーが別の方向に向けられる危険性とも隣り合わせなのよ)
──別の方向?
(知ってると思うけど、リュナ・ルークス卿は、ヒトの歴史を学んだことがあるわ)
──そうだったな。
王弟派の有力者にして、エグゼクターズ屈指の戦士。そして、シゲルにとってはその任務上、決して避けては通れない相手──リュナ・ルークス。
その行動パターンや発言の記録を分析したとき、ヒトの世界の知識が少なからず反映されていることに気付かされる。
(シゲルには言うまでもないことだと思うけど、ヒトの歴史上、きわめて少数の侵略者が圧倒的多数の先住民を打ち破って支配下に納めたことは何度もある)
──まあな。だけどそれは魔法がない世界の話だろう。
インカとスペイン。モンゴルと中華帝国。源氏と平家。市民革命。
侵略者と一口にはまとめられないが、少数勢力や弱小勢力が多数派、強者を打ち破った例は何度もある。
しかしそれは、同じヒト同士で戦った場合のこと。
魔法と言う絶対的な存在がある場合において、それは通用しない。
──いや。
カモシカの民は、魔法を使えない。
その点において、他の獣人よりも劣る。
(リュナ・ルークス卿はヒトに対してかなりの優遇を見せているけど、その半面でヒトを怖れていると思うわ)
──ヒトを……怖れる?
この世界で五年近く過ごしてきたシゲルにとって、とても信じられない言葉。
(ヒトを、物とか家畜と言う概念から切り離し、一つの知的生命体として見た時に、そしてヒトの歴史を学んだとき、ルークス卿はヒトの底力に気付いたはず)
──ヒトの、底力……
(文化を知ることで、さらにヒトというものを知ろうとしているのかもしれない。……いつか、ヒトが刃を向ける時を見越して)
──そうはいってもな。コルテスとかチンギスハーンならともかく、落ちてきたのはぬくぬくと育った現代日本の奴らだぜ。
(ぬくぬくと育ったゲンダイニホンの子供が、いつのまにかGARMの第一線で働いているわね)
──いや、そうは言ってもな……
正直、シゲルには過大評価としか思えない。
(ふふ、重い話しちゃったわね。確かに、今のフロミアのように、こうして平和で、一定以上の衣食住を確実に保障された生活があることの方が幸せと思うのが普通かもしれないわね)
──いや、重いというか……
(せっかくの休日、楽しまなきゃ損よね。今のはそんなに真剣に考えないで)
──ああ……そうだな。
考えてみたところで、だからどうなるというものでもない。
現実として、この世界で生きているヒトはただの最下層民。
どう算盤を弾いたところで、ヒトがコンキスタドールになる可能性はない。
「…………」
いや。
本当にそうだろうか。
──この街の住人は。
(何?)
──確か、一定年齢になると各地に売られて行くんだったな。
(能力、容姿、忠誠心などを考えて選抜はされるけどね。闇ルートを通じて、全世界に運ばれる。中には、かなりの有力者や名士に売られることもあるわ)
──うまくすれば、一兵も使わずに国を操れる。
(そうね。有力者の寵愛を利用すれば、一兵も使わずに他国の政治や経済を自在に壟断できるわ。圧倒的に無力な存在は、それゆえに他者を無防備にする。そして、無防備な相手ほどくみし易いものはないわ)
──ネコの国のような圧倒的な経済力。あるいはGARMのような強大な工作機関。そういった強大な力を持たずとも、他国を内部から操ることが出来るのならば、戦わずして力を持つことが出来る。
(ええ。この国の前の王様は、それを本気で考えていたみたい。……いつの間にか、国境をフリーパスで越えられる正規軍を手に入れた。銃火器をかき集め、軍の急速な近代化を推し進めた)
──だから、五局が動いたのか。
数年前。国王の突然の死。その陰で誰が動いたか、シゲルは知っている。
(そうよ)
──なんというか、考えると気が滅入るな。
(だから、真剣に考えないでって言ったのよ。せっかくのお祭りを楽しめないなんてもったいないじゃない)
──そうだな。
無理に、笑顔を作る。
「よし、もう少し縁日を見て回るか」
(賛成)
少し弾んだような声で、エルシアが同意した。
露店が立ち並ぶ大通りの中で、遠くから掛け声が聞こえてくる。
前方に目をやると、遠くに山車のようなものが見えた。
──こんなものまで作ったのか。
(あれ、何……?)
──山車って言って、御神輿の大きな奴。祭りになると太鼓を叩きながら大通りでアレを引き回すんだ。
(おみこしって?)
──ああ、おみこしってのは……ええと、とにかくアレを見ればわかるな。見に行こうか。
(いいわよ)
太鼓と鐘が鳴り響き、掛け声が轟く。
高さ10メートルはありそうな大きな山車が、3台並んで近づいてくる。
山車の上では、鉢巻に法被姿のヒトの男が数人、汗を散らせながら太鼓を叩いている。
下で山車を動かしているのは30人以上。ヒトだけでなく、カモシカの男も一緒になって、あまり似合わない法被姿で山車を練りまわしている。
「ぃやっせー、さーこぃ!」
奇妙な掛け声の中、純和風の山車が眼前を通り過ぎる。
次の山車との間を、花笠に和服のヒトの女性が、笛と三味線の音色に合わせて踊る。
有名な踊りだったと思うが、シゲルはそれがどこの祭りだったのか思い出せない。
──向こうにいた頃は、伝統芸能とか無頓着だったからなぁ……
(駄目よ、そんなの。ちゃんと受け継がれてきたものは次代に伝えなきゃ)
エルシアが叱る。
──悪い。
外部から眺める立場にならないと、案外、自分たちの中の大切なものは見つからないのかもしれない。
鐘、三味線、唄、鼓。
どの音色も、もうずいぶん長く聴いていない。
(どう、シゲル? 感動して泣きそうなんじゃないの?)
──どうかな。むしろ……
(むしろ?)
──心が浮いてくる。これだけのヒトが、この地にいて、そしてこれだけの観衆の中でこれだけのエネルギーを発散している。泣くどころか、正直むちゃくちゃ嬉しいんだ。
(ふふ……シゲルは、一人じゃないものね)
──そうだな。俺には、エルシアもいるし、みんなもいる。そして、この世界にもこれだけのヒトがいるんだ。
踊りの連が終わり、二台目の山車が通る。
(これ……さっきのよりも大きいわね)
一台目の山車と異なり、武者姿の大きな人形がいくつも乗っている。
鐘と太鼓の音色も、一台目よりさらに勇壮なものになっている。
(ダイナミックね……)
──人間牧場と言う認識は改めなきゃならないかもしれないな。これだけのものを作らせ、一体となって動かすというのは、ヒトとカモシカにそれなりの信頼関係がないとできない。
(私たちがフロミアのような場所を作ったとして、これだけの一体感をもつまでにどれだけの時間がかかるかしら……)
──イヌの国の場合……まず予算的に無理な気もするが……
(もうっ、夢のないこと言わない!)
──わ、悪い……
二台目の山車が抜けた後には、豆絞りを巻いた男衆のやはり勇壮な踊りが続く。
(舞踊は各地の伝統を色濃く示すの。衣装などは狐の国が近いけど、狐の国の舞踊には、こんな勇壮な男だけの踊りはないわね。むしろ、草原の遊牧国家郡のダンスに近い)
──よく知ってるな。
(これでも、民俗学も勉強してたのよ)
──へぇ。
(他国のことを知るには、とりあえずその国の歌と祭りを知るの。それは少なからず、民族性を反映させているから)
──そうなんだ。これなんかどう?
(……そんなに急に聞かれても、まだわからないわ。歌や踊りは民族性を反映するけど、全てが反映されているとは限らないもの)
──まあ、そりゃそうか。
(それに、さっきも言ったでしょう。いま、そんなことを考えるのは野暮よ)
──だな。
周囲の観客たちは、我を忘れて踊りと山車に魅入っている。
ヒトの文化と言うものに対する新鮮な興味と、やはり祭り自体の持つエネルギーのせいだろう。
確かに、目の前で繰り広げられるものを素直に楽しまないのは、野暮と言うものかもしれなかった。
(もうすぐ三台目が来るね)
──アレ……だな。なるほど、一台一台趣向を変えてあるんだ。
三代目の山車は、金銀に花を贅沢に使った絢爛な山車。
大陸随一の金銀産出国の強みというべきだろうか。
もちろん、金銀の価値と言うものは錬金術の完成以来、大暴落している。
しかしそれでも、金銀のちりばめられた山車は見ていて華やかで、輝きには見るものを圧倒する力がある。
(贅沢な山車ね。あの山車一台で、ル・ガルの貧民街の人たちが何人ちゃんとした食事を取れるかしら)
少し怒ったような口調。
──そいつは政治家が悪いだろう。国民が食うや食わずの生活をしている時に、軍事費だけ湯水のごとく使ってる奴が人の上に立つなんて、なにかが根本的に間違ってる。
(……反論は出来ないけど、それをはっきりと口にできるのはシゲルがイヌじゃないからよ)
少しだけ辛そうな声。
──あ、いや……悪かった。
(生きていくためには、力は必要なの。そうでなかったら、私たちは今の生活さえ出来なくなるから)
──世知辛いものだな。
話しているうちに、眼前を絢爛な山車が通る。
乗っているヒトも、派手な着物を着て、観客に花を投げている。
(華やかで大掛かりなお祭りを行うことで、この街のヒトは抑圧から解放されているけど、イヌの貧民層は、お祭りなんて一度も知らないまま、何の幸せも知らないまま死ぬのも少なくないのよ)
──ヒトは、こんな状況下でもまだ恵まれてる、と言うべきなのかな。
(すべてがそうだ、とは言い切れないけどね。やっぱり、人間以下の存在、奴隷としてひどい目に合っているヒトがいるのは事実。こんなお祭りを知らないまま死んでしまうヒトもいるはず)
エルシアは話し続ける。
(フロミアのヒトは商品だから、売り物だから丁寧に扱われているという側面も確かにあるわ。だけど、それだけならどんなに丁寧に扱われていてもきっと気付く)
──そうだな。心のない丁寧さはやっぱり気付く。
(この活気は作られたものじゃないわ。普段はどうあれ、確かに、今のこの祭りの瞬間だけは、確かに、ヒトとカモシカの民は公平な存在になっている)
──いや、それだけじゃないな。
(え?)
シゲルの言葉に、驚いたような感情を見せるエルシア。
──この瞬間だけは、全ての種族が公平な存在になっている。観客も踊り手も、関係なく一つになっていると思う。
(……そうね)
──ヒトの世界では、祭りって、もともとは神とヒトが一つになるための儀式だったんだ。その名残かもしれないな。
(そう……かもね)
──俺の故郷だと、祭りの最後には総踊りがあるはずなんだが。
(総踊り?)
──祭りの参加者全員が、観客も踊り子も巫女さんも坊さんも、みんな関係なく一緒に踊り狂う。最後の最後に、みんなが一つになって夜の夜中まで踊り明かすんだ。
(へぇ……素敵ね)
──この祭りにも、それがあればいいんだがな。
そう、話していたとき。
「うわあああああああっ!!」
とつぜん、離れた場所から悲鳴が聞こえた。
──何だっ!?
(これって……?)
一瞬感じた、奇妙な違和感。
──見に行くぞ、エルシア!
(うんっ!)
人ごみを抜け、声の方角に走る。
絶え間のない悲鳴、そして逃げ惑う人々。
やがて、声の聞こえる場所に来たとき、シゲルは息を呑んだ。
──これはっ!?
(まさか……)
黒い、虚無。
辺りのものを手当たり次第に飲み込む、時空の裂け目。
──なぜ、こんなところに!
驚きを隠せないシゲルとは対照的に、小さくつぶやくエルシア。
(……ヒトが、呼んだの?)
──どういうことだ?
(ヒトは、この世界にはいなかった存在。それが、これだけ大量に集まり、これだけのエネルギーを放出している。ベリルの言った仮設で言えば……世界の許容量を超えたのかも)
──冗談じゃない!
(シゲル?)
──それじゃあ、俺たちはこの世界で、ただ集まることさえ出来ないのか? 笑ったり喜んだり、活気を持ったりしちゃいけないのか?
(シゲル……)
──ここまできて……
すぅと、無言で腰の剣を抜く。
──俺は認めない。認めてたまるか……
「エルシア……やるぞ」
声に出して、そう呼びかける。
(戦うの?)
「ああ。世界のひずみだかなんだか知らないけど、そんな手前勝手な理由で、この街をぶち壊されてたまるか」
(俺たち?)
「ああ。ヒトも獣人もない、みんなが一つになったときに……あんなワケの分からないやつにしゃしゃり出てこられてたまるかっ!」
言いながら、身体は駆け出している。
魔剣を、身体の前面に構え、そして叫ぶ。
「ライズアップ!」
腕にから全身へと絡みつき、広がる魔法文字の螺旋。
全身を覆う蒼白い炎。
具現化する“魔犬”の本来の姿。
手にした黒い刃に輝く、銀色の魔法文字。
全てが、一瞬の出来事。
虚無の真横を駆け抜けながら、剣を薙いだ。
袈裟斬りに一閃。
振り向きざま、燕返しにもう一閃。
そして、横薙ぎにもう一閃して抜ける。
駆け抜けた後に、虚無に振り向く。
六つに割られた虚無が、小さくなりながら再生する。
それが、つながりきるよりさらに早く。
背後から一気に近づき、さらに一閃。
衛兵たちが、近くの人たちを避難させている。
ここで食い止めれば、被害は最小化させられるだろう。
魔素が、接近するたびに吸い取られる。
──かまわない。
あらゆる攻撃を吸収し、無力化する“虚無”を崩壊させるには、方法は二つ。
吸収しきれないほどの圧倒的なエネルギーを叩き込み、自壊させるか、そうでなければ『消除』のエンチャントでひたすら削るしかない。
以前、戦場跡でであった“虚無”よりも、一回り大きい。
そして、あのときのようにそれを自壊させるほど膨大なエネルギーは、見当たりそうにない。
そうなると、戦い方はどうしても限られる。
接近し、すばやく剣を奮い、そして離れる。
距離をとり、魔素を急速吸収して、再び近づいて斬る。
とはいえ、不利な戦法であることに違いはない。
接近することで吸収される魔素の多さに比べ『消除』のエンチャントで削れる量はあまりに少ない。
──このままだとマズいな。
(そうね。近づけるのも、あと数回が限度よ。最悪の場合、シゲル自身が飲み込まれる)
──どうすればいい……?
(……ごめん。方法が思いつかない)
──仕方ないか。地道に削るしかなさそうだ。
再び、剣を構えなおしたとき。
「……たす……けて」
小さな声。
虚無の中から、声が聞こえた。
そして、小さな手と恐怖に引きつったヒトの顔。
──まさかっ!
考えるより早く、身体が動いていた。
左手に魔剣を持ち替え、逆手に握って地面に突き立てる。
それを支えに、右手を伸ばす。
虚無の中に微かに見える小さな手をつかもうと、シゲルは右手を虚無の中に突っ込む。
(シゲルっ!)
「今、助けてやるっ!」
虚無の中に肩近くまで右手を突っ込み、そして小さな手首を掴む。
「くっ……!」
虚無の中に突っ込んだ手から、全身の力を吸い取られるような感触。そればかりか、全身が引きずり込まれそうな途方もない吸引力も。
(無茶よ! このままじゃ、あなたも!)
「関係ない!」
力任せに、身体をひねり、腕を引き抜く。
虚無の中から、ヒトの子供が現れる。
少し離れた視界の先に、こちらを見ている衛兵がひとりいる。
「受け取れっ!」
叫びながら、全力で、その方向に子供を投げる。
空中を舞い、衛兵の手の中に落ちるヒトの子供。
腕の中でようやく我に返ったのか、衛兵にしがみついて泣いている。
──あとは、こっちだ……
振り返り、再び剣を構えなおす。
が。
「っ……」
全身を包み込む疲労感。魔力の消耗による疲労が、重く全身にのしかかる。
(シゲル。さっきので、魔力を相当消費したわ。このままだと、一分もつかどうか……)
──って……一分で、こいつを消せるのか……?
(そんなの……不可能に近いわよ)
エルシアの重苦しい声。
眼前の敵は、ようやく、以前に戦った虚無と同じ大きさになった程度。
だが、こちらの疲労感は桁違いに大きい。
そんな中。
虚無は、魔力をほとんど消費したステイプルトンを無視して、どこかに移動しようとする。
──なにを……いや、まさかっ!
その方向は、大通りに通じる道。
ヒトも、観客も、今なお多くの群集が集まっている場所。
──まずい……大通りに出られたら犠牲がいくら出るか!
止めようとする。
が、疲労のせいで身体が思うように動かない。
「くそっ……行かせるかっ!」
銃を抜く。
虚無の背後から弾丸を連射する。
が。
それはあっけなく虚無に飲み込まれ、虚無は何事もないかのように大通りへと向かう。
──まだだっ……勝手に逃げんじゃねえっ……
追いかけようとするステイプルトン。
だが。
魔力を使い果たし、ライズアップが強制的に解除される。
「……っ……」
それと同時に、その場に倒れかけるシゲル。
ふと、遠くで何か聞こえたような気がした。
悲鳴。
逃げ惑う人々の足音。
何かが崩れるような音。
動けないなかで、そんな音だけが聞こえてくる。
──くそッ……
あまりに明白な戦術ミス。
ヒト一人を助けようとして、肝心な時に動くエネルギーまで使い果たすという、最低最悪のパターン。
「まだ……動、ける……」
無理に立ち上がり、悲鳴の方向へと向かおうとする。
(無茶よ! 当分はライズアップは使えない! 飲み込まれるのが関の山よ!)
──それでも……俺には……
守りたいという思いがある。
──誰を?
全てを。
熱狂の中で、一つになっていた彼らを。
(そんなこと言って、今のシゲルに何ができるのよ!)
──それは……でも。
(でもじゃないよ! シゲルの命は、シゲルだけのものじゃないのに!)
泣きそうな声のエルシア。
(今は、体力を回復させるのが先。体力さえ回復すれば、あいつにだって勝てる)
「…………」
悔しい。
だけど、どうすることもできない。
それだけに、余計悔しい。
その時。
どぼどぼどぼどぼ。
「? ……うぁ熱いぃぃぃぃぃっ!」
頭の上から、いきなり熱湯のようなものが注がれる。
「ほらほら、なにへたってるにゃ」
──にゃ?
「イヌはイヌらしくキリキリ働くにゃ」
げしっ。
「お、お前なあっ! 人がドン凹みに凹んでるとき……に?」
勢い良く立ち上がった自分に気付く。
「猫ひげ薬局謹製にゃ。高いにゃよ」
「って、おまえ……」
腕組みをして薄い胸をそらし、自慢げに微笑むのは、あの、NECOマークの付いてた露店にいたネコ女。
「まったく、イヌは頭が悪いからすぐ後先考えずに突っ走るにゃ」
「……って」
「それでへたって肝心な時に動けないなんて情けないにも程があるにゃ」
さりげなく、重大な秘密を言われた気がする。
「って、ちょっと待て! おまえ、まさか俺がライズ……いや、その、もしかして……」
指をちっちっと横に振って笑うネコ女。
「あれだけ派手に変身してたらバレバレにゃ」
あっさりと言われる。
「……と、特A級の国家機密が、よりによってネコに……それも、よりによってこんな奴に……」
追い討ちをかけるような言葉に、がくんと心の糸が切れそうになる。
「アレでバレないと思ってるほうがおかしいにゃ」
「…………」
(正直、それだけはこのネコ女と同感ね)
──え、エルシアまで……
「口封じとか、考えるだけ無駄にゃよ」
「誰もそんなことは言ってねえっ!」
(……それより、シゲル。魔力は回復したわよ。いつでもライズアップできるわ)
──そ、そうか……
「さあ、わかったらさっさと走るにゃ。あんなのをいつまでものさばらせておいたら儲けが減るにゃ」
「も、儲けって……人命がかかってる時にそれかよ……」
「人命も大事だけど金も大事にゃ。さあ、一時間以内にあの化け物を消したら薬代はタダにゃ。それを超えたら10分で一割の利息を取るにゃ。ただし口止め料は別途いただくにゃ」
「こ、この守銭奴がっ!」
(シゲル、時間がないわよ)
──あ、ああ、わかってる……
「頑張るにゃよ〜っ!」
「お前以外の全世界の人々の未来と幸せのために頑張ってやるよ!」
気を取り直しながら、大通りへと走る。
「ライズアップ!」
走りながら、ライズアップする。
魔法文字、そして蒼白い炎が全身を包む。
そのうしろ姿を見るネコ女性。
「面白いオトコにゃ」
そして、周りに誰もいないのを確認してから、小さな端末機器のようなものを取り出す。
「……さて、こっちもやることやっておくかにゃ」
眼鏡をかけ、裾の長い白衣をまとうと、その端末のようなものを起動させる。
「まったく、人使いの荒い上司を持つと大変にゃ」
肉球のついた手で、器用にトラックボールを動かす。
液晶画面に、無数のデータが並ぶ。そこに表示されているのは、現れた“虚無”のデータ。
大きさ、吸収速度、移動速度、その他もろもろ。
「んにゃ……あいつは確かに面白いオトコにゃけど、これじゃあ誰か力を貸さないと荷が重いかにゃ……?」
大通り。
──あれは……?
虚無の行く手を塞ぐように立ちはだかる、巨大な石兵。
「ニュスタ!」
それを操る小柄なネコに、声をかける。
「遅いでしょ! この肝心な時にどこで油売ってたのよっ!」
頭ごなしに叱られる。
「い、いや、こっちにも事情があってだな……」
「そんなのどーだっていいの! 世のため人のため私のため、今すぐキリキリ働くっ!」
「…………」
(シゲル、もしかして落ち込んでる?)
──ど、どいつもこいつも人をなんだと……
どうも、昔からネコとは相性が悪い。
(シゲル)
──なんだ?
(中に吸い込まれた人たちもまだいるはずよ。このまま消除させてもいいの?)
──そうだな……だけど、ここで消さないとキリがない……
(私は、シゲルの意思に従うわ。あなたが、ここで虚無を消すことを選ぶなら、それでいいと思う)
エルシアの言葉。その言葉に少し悲しげな感情が混じっているのがわかる。
それは、虚無に飲み込まれた人たちを見殺しにするという選択肢の重さを共に背負うという意思なのだろう。
──いや。
シゲルは、その感情を静かに否定する。
(シゲル?)
──中の人たちを助けて、かつ虚無を消除する方法は……あるかもしれない。
(どうやって?)
──一人じゃ出来ない。だけど、ニュスタの力を借りれば可能性はある。
(だから、どうやって!?)
──こいつだ。
銃を抜き、弾丸を入れ替える。
(そのエンチャント……【全方位結界】?)
ステイプルトンの愛銃“グローリーブリンガー”には、中位魔法をエンチャントした専用の魔弾が数種類ある。
それを生み出すのは、虎国ミリア公領の秘密研究所。裏社会向けに、少々……と言うよりはかなり危険な代物を日々研究している。
そことのつながりを利用することで、グローリーブリンガーは多種多様な種類の魔弾を使用することが出来た。
シゲルが取り出したのは、そのうちの一つ。
発射して一秒後に、弾丸を中心に半径50メートルの球状の強固な魔法結界を作り出す。
全部で六発しかない。そしてそのうちの二発は過去に使っており、残るは4発。
そのうちの一発を、装填する。
──こっちの世界の持つエネルギーが“虚無”を通じてつながるもう一つの世界より大きいために、エネルギー総量を均等化しようとして、向こうの世界に虚無を通じて吸い込まれる……だったら、一時的にでもそのエネルギー量を逆にすれば……
ベリルの仮説が、もし正しいのだとすれば。
──結界で、一時的にでも“虚無”の向こうの世界を閉じ込め、その空間内のエネルギーをこっちの世界より巨大化させればどうなる?
理論上は、向こうの世界からこちらの世界に人が逆流し、そしてエネルギーの量が均等になった瞬間に“虚無”は消滅する。
(それは……でも、そんなことしたら向こうに飛ばされた人たちの命も!)
──わかってる。わかっていて、それでも言っているんだ。他人ならいざしらず、ニュスタの魔法ならば、エネルギーは膨大でも、爆発するような破壊力はないはずだ……
(……わかった。私はシゲルを信じる)
──じゃあ、あとはニュスタと話をつけるだけだ。
シゲルは、石兵を次々と呼び出して虚無を押しとどめているニュスタに向かって走り出した。
「ああもおっ! いつになったら消えるのよ、この真っ黒!」
苛立ちを隠しきれない様子のニュスタ。石兵で殴ろうが魔法を使おうが、全て吸収する敵を相手に、さすがに苦戦しているらしい。
「ニュスタっ!」
石兵の殴りつけてきた拳を闇の中に飲み込みながらニュスタに近づこうとする虚無に、その背後から一太刀くれてやり、そのまま近づくシゲル。
「ステイプルトン……って、まったく、この肝心な時に何やってたのよ! か弱い乙女が一人で頑張ってるのに!」
「……いや、そのか弱い乙女サマに頼みがあって来たんだが」
「何よ! こんな時におかしなこといったら石兵で殴るよ!」
「……とりあえず、話を聞いてくれ」
(シゲルって、ほんと女の子が相手だと形無しね)
──前世のトラウマだろうな……。
気を取り直し、ニュスタに説明する。
「……半径50メートルって、大きいよ?」
「無理か?」
その言葉に、むっとするニュスタ。
「……無理かって、そう言われたらやるって言うしかないじゃない!」
「できるんだな」
「…………ああもうっ! やるわよ、やればいいんでしょ!」
「頼む」
言いながら、銃を持ち直す。
「発動までに一秒。ギリギリまで接近してから撃つから、後ろから俺を巻き込む気で全力で叩き込んでくれ」
「……いいの? 私、本気で全力出すよ。巻き込んでも責任取らないよ」
「大丈夫だ。撃った瞬間に跳ぶ」
「じゃあ……今から魔力溜めるからね。五分だけこっちに来させないでよ」
「わかった」
魔法薬の力で、限界まで魔力を回復させたステイプルトン。石兵やニュスタよりも、さらに大きいエネルギーに気付いた虚無が、ステイプルトンに近づく。
──今度は、さっきとは違う。
冷静さを失って自滅したさっきの戦いとは違う。
今のシゲルには、勝利までのシミュレートが全て完成している。
あとは、そのシミュレートを行動に移すだけ。
虚無の接近を、ギリギリでかわし続ける。
近づくだけであらゆるエネルギーを吸い取る恐るべき敵とはいえ、知能があるわけではない。
ただ、エネルギーに対して本能的に近寄るだけ。そうとわかっていれば、逃げるだけならば困難ではない。
「た……けて……」
「たす……て……」
虚無の中から聞こえてくる、小さくか弱い声。
だがもう、間違いは繰り返さない。
「聞こえるかっ!できるだけ、出口の近くに近づけ! 足を踏ん張って、少しでも近づけ!」
声を限りに、虚無の中に呼びかけながら、ひたすら時を待つ。
二分。
一分。
三十秒。
十秒。
「大丈夫か、ニュスタ!」
振り返らずに、そう叫ぶ。
返事の代わりに、小さな声が聞こえる。
「サパン・アクリャのニュスタが、我が名の許に汝を望む……」
魔力が、急速にニュスタの付近で高まるのが分かる。
「我は古の契りの故に……」
──来る。
シゲルは、走る。
走りながら、銃を構えなおす。
近づく黒い闇。
両脚で大地を踏みしめ、腰を落として両手で銃を構え、狙いを定める。
「その偉大なる力を求む……」
シゲルを飲み込もうと、腕らしきものを大きく広げる虚無。その奥に、荒野と、必死に助けを求め、こちらに腕を伸ばす人の姿が見える。
──今だ!
絶対に外しようのない超至近距離から、魔弾を撃つ。
「パリアカカの嵐」
ほぼ同時に、ニュスタの詠唱が終わる。
背後から、巨大な魔力が迫ってくる中、ステイプルトンは跳んだ。
テレポートして、ニュスタの真横に立つ。
巨大な竜巻のような魔力の塊が、虚無の中に吸い込まれる。
「あれは……?」
「一応、私が使える魔法の中では一番強い魔法よ。アレでステイプルトンの言うとおりにならなかったなら、もう諦めてもらうしかないわね」
「……いや、上手くいきそうだ」
突然、つながっている二つの世界のエネルギーが逆転したことで、もがき苦しむ虚無。
その中から、吸い込まれた人々が吐き出されている。
……もっとも、ぽとりと落ちるような生易しいものではなく、多くは猛スピードで数メートル吹き飛ばされて、地面や壁に叩きつけられているが。
ただ、打撲や骨折なら、そのうち治るだろう。
虚無が人を、そして吸い込んださまざまなものを次々と吐き出すと、ようやく繋がっている二つの世界のエネルギーが均等になったのだろう。
溶けるように、虚無は消えた。
「……お、終わったか……」
疲れきった様子で言う。出来れば、一刻も早くライズアップを解除したいが、ニュスタの前ではそういうわけにもいかない。
「終わったみたいね。全く、一時はどうなることかと思ったけど」
「だいたい、こんなものが二度も三度も出てくるなんて、世界はどうなってるんだ」
「二度も三度も?」
問い返すニュスタ。
「……いや、なんでもない」
「とりあえず、お祭りはどうなるのかな……」
「避難誘導は上手くできてるみたいだし、思ったほど街の被害は大きくないが……こんなのが出た後で祭りを再開できるほど図太い神経はないだろうな……」
「……そっか。踊りたかったなぁ……」
がっかりした様子のニュスタ。
「そいつは同感だ」
「ん? ステイプルトンも踊るの?」
「悪いか」
「いや、似合わないなぁと思って」
「うるさい」
「ん? 終わったかにゃ?」
後ろから、メガネに白衣に、なにやら端末みたいなものと大きなカバンを持ったネコ女。
「なんとか……って、おい、何だよその格好!」
「ん? これが本当の姿にゃ」
「…………」
どう見ても、子供が無理に大人びた格好をしているようにしか見えないが、口にはしないでおく。
「うん、一時間以内にカタつけてくれたにゃ。じゃあ、約束どおり薬代はオマケしておくにゃ」
「そいつは助かる。何せ、薬代払えといわれても金がない」
「ああ、だったら身体で払ってもらっても良かったにゃけど」
「払えるかっ!!」
横から、ニュスタが口を挟む。
「ねえ、この女だれ?」
「だれ……と、言われると誰なんだろうな。一応、恩人……」
「ふっふ〜んっ♪」
腕を腰に当てて、メガネをかけたまま自慢げに薄い胸を反らすネコ女。
「そう、私はこいつの恩人なのにゃ。ついでに、こいつの恥ずかしい秘密も知ってたりするにゃ」
「恥ずかしい秘密?」
ニュスタが、興味津々の目でシゲルを見る。
「別に恥ずかしくはねえっ! ただ、ちょっとばかり他の奴にバレたら命の危険があるだけだ!」
(シゲル……それ、余計タチが悪い)
「まあ、口止め料は後でいただくにゃ。それまでしっかり貯金しとくんだにゃ」
「……と、取るのかよやっぱり……」
「商売はチャンスを逃さないことが命にゃ。ついでに、カモは太らせてから生肝をえぐり取って食うのが一番にゃ」
「……こ、この腐れ外道っ!!!」
(シゲル……ここは退散したほうがいいわよ。どう考えても、この二人相手にシゲルじゃあやり込められるのがオチだから)
──そ、そうだな……
後ろに、じりじりと下がる。
「ん? どこに行くの?」
「どっか行くのかにゃ?」
「とりあえず、そのネコ女がいないところに行くんだよ!」
言いながら、背を向けて逃げるように路地に消えた。
「……ほんとに、あいつは格好いいんだか悪いんだか」
ニュスタが、ぽつりという。
「そーいうところが、憎めないオトコにゃ。ただ単にかっこよくて強いだけなんて奴、面白くもなんともないにゃ」
「それは、その通りね」
「さて、じゃあ私も商売の支度があるからここでお別れにゃ」
「商売?」
問い返すニュスタに、ちっちっと指を振る。
「この程度じゃ、この祭りは終わらないにゃ。総踊りに向けて、大急ぎで新装開店にゃ」
歩き出すネコ女に、後ろから追いかけてきたヒトの子供。両手に一杯、何かを抱えてふらふら歩いて来る。
「ご主人様〜っ! どこに建てるんですか〜っ!!」
「あ、うっかりしてたにゃ……」
バツの悪そうな声のネコ女。
「それじゃあ、失礼するにゃっ!」
ダッシュで、彼女のものらしいヒト召使の方へと白衣をはためかせながら駆けて行った。
「…………」
あとには、一人取り残されたニュスタ。
「総踊り、あるんだ……ふふ、ちょっとだけ休んでから待っちゃおうかな」
夜。
──すごいな。
アレから三時間。とっぷりと日が暮れた夜のフロミアを照らす、無数の吊り提灯の光。その下で、鐘や三味線、笛太鼓が鳴り響き、唄が聞こえる。
そして、だれかれ構わず、その音色にあわせて踊っている。
(これが、総踊りってやつ?)
──ああ。まさか、最後にこれが見られるとは思わなかったが。
(祭りの底力ね。ほんの数時間前には街が滅びるかもって騒ぎだったのに)
──ま、頑張った甲斐はあったんじゃないか。
(そうね)
「こらぁ、そこの無粋なイヌ! せっかくの雰囲気をぶち壊すような格好しないにゃ!」
「……に、にゃって……まさか……」
恐る恐る、後ろを見る。
ぼふっ。
顔面に、浴衣と帯と鉢巻をまとめたものが投げつけられた。
「…………」
「さあさあ、とっとと着替えるにゃ。代金は後払いでいいにゃ」
「……って、お前は何をやってんだよっ!」
立ち並ぶ露店の一つ。浴衣に下駄に鉢巻や花笠。印籠に扇子に煙管に手ぬぐい、鳴り物も笛、鐘、鼓。
純和風の衣装一式を売っている、いつの間にか和服姿の、あのネコ女。
「ん? 夜は夜の商売があるにゃ。商売は取捨選択にゃ」
「……商魂たくましいというかなんというか……」
「さあさあ、いいからとっとと着替えるにゃ。店の前で軍服来たイヌがうろつかれたら迷惑にゃ」
「……わ、わかった……」
(シゲル……ホントに女の子には弱いね)
──言わないでくれ。
軍服の上から、浴衣を羽織り、帯を巻く。おかしな格好だとは自分でも思うが、仕方ない。
「さあ、着替えたらさっさと踊りに行くにゃ。何のために祭りに来たにゃ」
「く、口うるさい女……」
「いいから、さっさとこの場から離れるにゃ。商売の邪魔にゃよ」
「うるせえ、二度と近づかないから安心しろ!」
(シゲル……それ、さっきと同じパターン)
──そうは言うがな、大佐……。
(誰が大佐よっ!)
踊りの輪の中に加わるシゲル。
ヒトも、カモシカも、その他色々な種族が一緒になって踊っているのが分かる。
(ふふっ、気持ちいいわね)
──そうだな。たまにはこういうのもないと、身がもたない。
(シゲルのそれ、やっぱり向こうの世界の踊り?)
──ああ。何年ぶりかにしては、案外覚えてるものだ。
腰を落とし、手を高く差し上げ、足は前に蹴りだし、地面を爪で掴むようにして歩を進める。
向こうの世界にいた頃は盆踊りなんかで良く踊っていたが、こちらに着てからは初めてとなる。
それにしては、良く出来ているんじゃないかとは思うが。
ふと、鳴り物の旋律が懐かしいものに変わった。
──へえっ……
向こうの世界の代表的な踊りの旋律を、メドレーで流しているらしい。
──これは……なんていうか……まずいな。
(どうしたの?)
──その、一生の頼みなんだが……
(なに?)
──その……もし、泣いたりしても笑わないでくれよ。
(わかってるよ)
優しい声。
(きょう一日ぐらい、いいじゃない。シゲルだって、ずっと頑張ってきたんだし)
「……ありがとう」
(あら、もう泣いてるの?)
──ま、まだ泣いてないっ! これは汗だ、そう汗!
(ふふ、そういうことにしといてあげる)
踊り狂う人々。
鳴り響く踊りのリズム。
人の集まる熱気。
秋の涼しい空気が、気持ちよく感じられる。
少し離れた露店。扇子やら手ぬぐいやらが飛ぶように売れている。
「すっごーい、大繁盛にゃ! ほらほら、左舷弾幕薄いにゃ、何やってんにゃ!」
「って、まってくださいよ〜っ!!」
ヒト召使の少年が、ダンボールの梱包を外している。
その横では。
さっきネコ女が持っていた端末から、データが次々とどこかへ転送されていた。
(14につづく)
とりあえず、今日はここまでです。
フロミアのヒト居住区の話とか、ネコ商人とイヌ軍人の掛け合い漫才というのは、一度書いてみたいなあと思いながらずーっとお蔵入りになってたのを引っ張り出してきました。
見たとおり、徹頭徹尾エロの無い話なんで、明日にでも投下できる狐後編でエロ方面は補完します。
相変わらずいいテンポですね、GJ!です
ヒト文化の流入と定着は同じテーマで書き始めていただけに、ちょっとショック大きいなぁ…
頑張るぞ!っと・・・・・・ orz
>カモシカ氏
GJです! 獣人とヒトの文化の相違点とかに着目するのも面白いですねぇ。
ところでマダラは獣人型よりも魔力が高いようだけど、魔術を学べる環境がなければやっぱ
悲惨な境遇になりそうだな。たとえば大家族の貧農の子として生まれたイヌのマダラとか。
獣人型よりも身体能力に劣りそうなマダラは大した働き手にもならなさそうだし、それにマダラは女性と
非常に良く似た容姿=美少年・美青年が多そうだし。口減らしとして男娼として売られたりしそうなんだが。
イヌの軍人、といってもジーキュンやシゲルキュンみたいに特別な能力を持っていない一般イヌを主人公にした
話(といっても主人公は複数)を書いているのだが、初っ端からエロがとんでもねぇものになりそうで困る。
イヌのマダラ美少年×イヌの主人公 なんだもの。アレだったらその部分だけtxtにして投下するかも。
相変わらず面白いです。激しくGJ!
どうすればこんなテンポ良く話を進められるのか…
その文才を見習いたいですホントに。
>>144 こっちは、エロ書く見通しが全く付かなくて困ってます。
今のままで言ったら、新キャラに襲わせるか、
アダルトなんちゃらを実ながら、蛇の男と連れオナぐらいしか思いつかない……
146 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/24(日) 01:22:07 ID:tcRl3QCv
ホモがメインなのはやめてー
ホモに耐性のある人なら、ここに来る前にケモホモ方面へ言ってるさ。
それいったらこちむい氏のアレはどうなるんだ…
サイアスの頭×ジーキュン みたいなガチケモは範疇外だが、
ショタは範疇なんじゃないのか?ここは?
こちむい氏のアレは事前に注意有ったし、なりより読み飛ばせば済む程度だったけど、
ケモホモ方面に完全に傾いた代物だとそうもいかないだろ?
150 :
前スレ629:2006/09/24(日) 10:02:49 ID:i82y1mhg
>>150 避難所の時から読んでたよー
これまでの作品と全然違う!w でもそこがいい!
おバカかつ熱血なノリが好きなのでこれからもがんばってください
>>148 さり気なくジーキュン受けw
よく分かってらっしゃる
154 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/24(日) 21:04:47 ID:NCBwBppf
べすぺさんは、まほうしょうじょを、なにかべつのものとかんちがいしているとおもいました。
>>148 こちむい氏は、それまでの実績もあったしな。
たとえ、どんなシチュエーションでも、どんなカップリングでも、
ガチケモでも性欲をもてあます。
ゴメン!虫ネタは生理的に受け付けられなかった
ベタ投下しなかった作者さまにせめてもの感謝です
作品執筆GJ!
べすぺさんのアレは中から生えてきてるのだろうか
とか
生えてる間はおしっこできないんだろうか
とか
教えておじいさん
苦し紛れ小ネタ
鳥の隠れ里の食糧事情
「なぁ。畑とか見当たらないけど、このパンとかはどうやって作ってるんだ?」
「え? 確か他の国から買ってるんじゃ無かったかな? アタシは良く知らないけど」
「ひょっとして、また授業中に居眠りでもなさってましたか?」
「ね、寝てない! 寝てないってば! ちょっとボーっとしてただけ!」
「・・・・あんたも大変だな」
「これも、一応仕事のうちですから」
「で、畑が無いなら、どうやって野菜や穀物を手に入れてるんだ?」
「基本的には、交易ですかね。海に沈んだ落ちモノを拾って、他国に売って、食料を買うのがメインで」
「あー、良く神楽とかと一緒に出かけてるの、それ?」
「成人したら、姫様が全部やるんですよ?」
「えー、めんどくさい・・・・」
「orz」
売る方のお得意先は、フローラ女王あたりかと。
―――――
本編難航中。
「手と口と足と、どれがお好みですか?」
「何の話だ!」
「・・・・ナニ」
半月費やしてようやく過去ログ読み終え、現スレに追い付けた。
名作力作ぞろいで非常に濃かった。すごいスレだ。
『放浪女王と銀輪の従者』が一番好きだ。
エロくて萌えて燃える上に笑いの要素が濃いのがすげーツボ。
どんな結末に落ち着くのか早く知りたい気持ちもあり、
逆にいつまでも末長くこの主従のどたばたを読み続けたい気持ちもあり。
登場人物(ヘビもカモシカもイヌも精霊も)みんな愛しい。
ところで向こうの世界でパッと見、最もヒトに似てるのって、ヘビのマダラ
になるんだろーか。耳がないが。
時間が結構かかっちゃいましたが、ようやく書きあがりました。
投下させて頂きますが、またしてもEROが無くてすみません。
「ん〜……“つ” で始まる言葉……、そろそろ出尽くしてきたっスね……」
ガタゴトと揺れながら荒れ道を進む、狼国へ行く輸送車の中で、達哉たち三人
はしりとりをしていた。運転手を買収して乗せてもらったはいいが、輸送物資の
中身の主な内容は食料で、暇潰しに使えるものは何も無い。3人はとにかく時間
を持て余していた。
最初の内は、達哉がこれまでの道程で不思議に思った事や、達哉のまだ知らな
いこの世界の常識について話したり、そんな事をすればすぐに潰れた。例えば、
いくらそれなりの代金を払ったとはいえ、なんでこの輸送車が二つ返事で密入国
の手助けをしてくれたかとか。そんな話しだ。
それについての答えは、レナ曰く、先日まで滞在していたスラム街を経由する
輸送車は、かなりの高確立で副業を行っているそうなのだ。色々とワケありの客
を、代金と引き換えに外国まで乗せてやるという副業を。まあ、それはかなりの
お金を持っている人限定だが、この商売が犬国とそれに隣接する国の間で暗黙の
了解を得ているのだそうで、それがまた薄ら恐ろしいと達哉は思う。
「つ……つ……、そうだ!! 『つわり』 が残ってたっスね!」
「つわり? おまえはすぐ下ネタに走るわね。……り…、り……」
はじめの方はそうでもなかったが、回数を重ねて残りの語句が少なくなるに連
れて、ガルナの下ネタが際立ってきた。もうすでにあらかたの放送禁止用語は使
い切り、今のはまだ卑猥ではない分マシな方だ。ガルナ曰く、その手の単語の方
が直ぐに思い浮かぶらしいのだが、口に出せるのには達哉も脱帽だ。
レナも達哉と同じように感じているらしく、呆れた表情でガルナに返事をして
いる(ガルナと合流してから、レナの呆れた表情を見る機会が5割り増しぐらい
した)。次は“り”で始まる言葉だが、ガルナのように下ネタに走ってまで言葉
を繋ぐ事は、レナのプライドが許さない。しかし、自分が連れてきたばかりの新
人である達哉の手前、あっさりと負けてしまうのもやはりリーダーとしてのプラ
イドが許さない。
“蛇足” のリーダーとしてのプライドに掛けて、レナは必死に『り』 で始ま
る言葉を脳内の辞書から探す。その辞書の中身も結構な割合で×印が付けてあり、
×印の付いていない単語となると、なかなか検索に引っかかってくれない。
「ほらぁ〜、レナさん頑張って下さいよ〜。 僕も応援してますよ?」
「おまえがガルナを『り』攻めしてた所為で、今私が苦労してるのよ」
ニヤニヤした表情でワザとらしく自分を応援する達哉に、レナはピシャリと返
した。さっきまで達哉はガルナに対して、最後が『り』 で終わる言葉を使って
攻めていた。だが、しりとりも終盤に近付いて残りの単語が少なくなると、流石
に選んでいる余裕も無くなる。しかしもう『り』 で始まる単語などほとんど残っ
ておらず、レナは内心での焦りを表面に出さないように努力するだけで精一杯だ。
「ほらほら姐さ〜ん。 いい加減に負けを認めちゃった方が楽っスよ?」
「五月蝿いわね! ……いま考えているところよ。 邪魔をしないで」
達哉に続いて自分を煽り立ててきたガルナに、とうとうレナは感嘆符を付けて返
した。普段はポーカーフェイスを貫いているのだが、今は露骨に怒りの表情を露わ
にしてガルナを睨み付ける。達哉は『たかがしりとりで何をそんなに……』 と考
えてしまうが、レナの真剣な表情と、ガルナの真剣に脅える表情を見てると、なん
となくだがそれもアリかと思えてくる。要するに、負けん気の強い人間なのだレナ
は。
会ってからまだ1ヶ月ほどしか経っていないが、レナやガルナの人柄はある程度
把握できた。レナなど、最初の内は人間性が捉えられずに苦労した。ガルナの場合
は初対面から自分を曝け出して喋っていたから全然平気だったんだが。…これから
他のメンバーに会いに行くかと思うと気が重くなって仕方ない。どんな曲者が待っ
ているのやら。
「レナさん、あんまり待たせてるとタイムオーバーですよ」
「クッ……!!」
達哉は吹き出してしまいそうになるのを、必死に耐えつつレナを急かす。まさか
これほどの効果が得られるとは思っても見なかった。ガルナも気持ちは達哉と同様
のようで、レナがそちらを向いていないのを良い事に、指を差して声を出さずに笑
っている。まあ、モーションが大きすぎる所為でバレてしまい、レナに拳骨で殴ら
れていたのだが。
それで、とうとうガルナが『つわり』と答えてから、5分ほどが経過しようとし
ている。レナもそろそろ諦めればいいと思うのだが、それを言ってしまえばレナの
攻撃対象になりかねない。だからまあ、ガルナと協力してレナを急かしているワケ
だ。中々スリリングで、案外しりとりよりも面白いかも知れない。
だが、そんな遊びもとうとう終わりを迎えた。
「…………参ったわ」
「ハハハ、やっと認めましたねレナさん」
達哉には自分の声が、ゲームに出てくるような美形の残酷なボスキャラみたいに
なってると思えた。レナと出会ってから、自分が優位に立てる場面など一度だって
無く、妙にハイテンションになってしまう。
ここれまで、レナの後ろに付いて行くだけで精一杯だったのが、今はガルナも加
えての、車に揺られながらの旅。退屈を感じもするが、同時にこの世界に来てから
最も落ち着いた時間を過ごせていると思う。……落ち着き過ぎて、余計な事を考え
てしまうのが、難点なのだが。これまでは他の事を考える余裕など無かったお陰で
元の世界の事をあまり考えずに済んだ。だが、こうやって落ち着いていると、考え
ずにはいられない。
「タチヤ、勝った割には随分と暗い表情ね」
「えっ……あ、すみません。元の世界の事、考えてて……」
達哉が苦笑いしながらそう返した。今頃、元の世界では大騒ぎになっているだろ
う。大学院の院長が自室で刺殺され、その一人息子も行方不明。目下、重要参考人
を警察が捜索中と言うところだろう。華のキャンパスライフをエンジョイしてた筈
が、何処で人生を踏み誤ったんだろう。じっとしていると、今でもペーパーナイフ
が肉に食い込む感覚を思い出してしまう。
達哉は深刻な表情をして、無意識の内に右手の親指の爪を噛んだ。いきなり達哉
から溢れ出した深刻なムードのオーラに、レナはともかくガルナは反応しきれずに
いる。ガルナは達哉の言葉だけを聞いて場の雰囲気を理解する事も無く、達哉に向
けて慰めの言葉を言った。
「あぁ〜、ホームシックってやつっスね。分かるっスよ。
かく言う俺も、よくあるんスよそんなの。
元の国の料理の味とか、忘れられないっスよね。
タチヤの場合はいきなり落ちてきちゃったから、
向こうでも家族が心配してるんスよね……」
珍しくハイテンションではなく、本当に達哉を心配しているような声質でガルナ
が言った。だが、“家族” という言葉は、達哉の中に深く突き刺さる。
「……家族とかそんなの……、僕には残ってなかったから」
そう言って力無く項垂れる達哉に向かって、レナは初めて露骨に嫌悪の表情を浮
かべた。だが、それは達哉にもガルナにも見られる事はなく、すぐに消えた。レナ
は作り笑いをして、タチヤに言い放った。
「そう……、なら心配は要らないわね。
タチヤがこちらでどんなムチャをしようと、
元の世界に身寄りが無かったら、心配を掛ける事がないわ。
おまえも後腐れ無くこちらの世界で生きれる。良い事尽くしじゃない」
「ッ! 」
レナの言葉に、達哉は顔を上げた。目の前に有るのは、いつのも表情のレナだ。
人をくったような笑みを浮かべ、とても落ち着いた声音で淡々と喋る、いつもの
レナ。しかし、達哉にはその表情や態度がなんとなく作り物っぽく感じた。
「……それに、家族が居ないとかそんな問題は、
私達のような仕事をしてる輩には、普通の事よ。
そんな問題で、一々深刻な表情をしていたらきりがないわ。
あなたも“蛇足”に来るのなら、それなりの覚悟をなさい」
今さらだが、達哉は付いて行く相手を間違えたかもと、思案を巡らす。普通この
世界に落ちてきたヒトがどんな扱いを受けるか、それはレナやガルナから話しを聞
いた。街の中で、ヒトが檻に入れられて売られているのも見た。…だが、自分が安
易に選んでしまった道は、思ったよりも大変な世界かも知れない。
しかし……
「覚悟なら、多分ですが出来てると思いますよ。
それに、レナさんに拾われなきゃ僕は
この世界で医者になる事が出来なかった筈だ。
レナさんじゃなきゃ、問答無用で僕を売って、
そんでもって売られた先で奴隷にされて、
医者だったなんて誰も気付かないまま、
寂しい一生を終えてると思います。そんなの嫌ですし」
腐っても、自分は医者を志していた者だ。そう簡単に夢を諦め切れるほど達観し
ちゃいないし、21歳の若造にそう簡単に諦めが付く筈も無い。寧ろよく考えれば、
元の世界に居たところで、自分は逮捕されて、一生罪人のレッテルを貼られて生き
るしかないだろうし、医者になるのだってダメになるっぽいと思う。
それに比べれば、傭兵集団付きの医者でもかまわない。自分の実力をいかせる立
場に就く事が出来たのだから、文句を言える筋合いはない筈だ。
「おぉ!タチヤってば流石っスね!それでこそ俺の親友っスよ!
うんうん……、感動っスね。
まだこちらに来たばかりで、そんなに覚悟できるって凄いと思うっスよ。
ミリーの野郎なんざ行く場所が無いってんで俺たちが拾ってやったのに、
最初の頃はびーびー泣いてたっス。もう五月蝿かった五月蝿かった……」
166 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/26(火) 18:08:23 ID:Ft4qeQU0
そのミリーと言うのが誰なのか達哉には分からないので意味は無いが、一応ガル
ナは達哉を元気付けようとしているらしい。その期待に応えて、今出来る精一杯の
笑顔を浮かべてやろうと、なんとか笑っている顔を作ろうと達哉は努力する。だが、
思ったよりも気分の切り替えは難しく、達哉が笑顔を浮かべるよりも早く、レナが
ガルナの言葉に返した。
「ミリアルドみたいなガキンチョと比べたら、誰だって覚悟のある人間よ。
タチヤはミリアルドと違って大人なんだから、
これくらいの覚悟はしてて貰わないと困るわ」
そんな話しをされては、そのミリアルドとか言うのが誰なのか、気になってしま
うではないか、と達哉は思ってしまう。まだ“蛇足” の他のメンバーについての
話しは聞かせてもらってない。レナとガルナから話してこなかったし、聞くタイミ
ングも何となく逃してしまい、結局今まで聞かずにいた。だが目の前でそんな話し
をされてしまっては、達哉の野次馬根性が黙ってはいない。それに、何か関係の無
い事に話題を移した方が、達哉自身の気分も切り替わって良いと思った。
「その、ミリアルドって言うのは誰なんです?
レナさんとガルナ以外の“蛇足” のメンバーですか?」
「ええ、そうよ。うちで一番の甘ったれ」
達哉がそう聞いてすぐ、レナは間髪入れずに即答する。そのあまりの即答に、達
哉は驚いてビクンとした。心なしかレナは不機嫌そうな表情をしている。よっぽど
問題のある相手なのだろうか。達哉はその疑問を口に出さずにいたが、表情には出
ていたようで、ガルナがレナの代わりに答えてくれた。
「鳥人の男の子っスよ。これが中々ナマイキなんスよね。
元々は良いトコのお坊ちゃんで、未だにその時の気分を引きずってて、
無駄にプライドが高くって、悪戯が過ぎるし、
そのクセ案外脆くって、すぐびーびー泣き始めるんスよ。
まあ、慣れちまえば可愛いもんスけど。
それにまあ、こっちがそれを我慢してやるのに見合うだけの能力は、
一応ながら持ち合わせてると思うっスよ」
「ふ〜ん…なるほど…」
何となくだがイメージが湧いてくる。中々どうして、ナマイキそうなガキンチョ
だ。自分のイメージが本物とどれだけ違うかを楽しみにしつつ、何となく肩の荷が
下りたと思う。自分よりも情けないヤツが居ると思うと、人間やる気が出てくるモ
ノだ。
「オルスのオッサンと一緒に仕事に行ってっスけど、
それもそろそろ終わる頃っスし、
案外狼国で鉢合わせできるかも知れないっスね。
それとあぁあ〜!! クユラのババァに会いたくない!!
でもさっき検問所で、運転手が憲兵にワイロ渡してるところだったっスし、
あと2,3日すればアジトの一番近くにある街に着いちまうっス!!!」
「へえ、そうなん……」
達哉の言葉は、天井に突き刺さったスコッ! と言う音に遮られた。達哉が何事
と慌てている横で、酷く冷静なまま神経を研ぎ澄ませるレナとガルナが居た。そこ
ら辺はさすが傭兵だと、達哉は感心する。…で、結局なんの音だったのかと耳を澄
ましていると、さっきの音が雨あられの如く天井に突き刺さる。クユラと言う女性
の話しはまだ聞いてなかったのだが、会話が遮られて未練が残ってしまう。
「ちょ、なんなのコレ!?」
「聞いて分からない?矢が刺さる音だと思うわよ。
ここら辺は小競り合いが続いてて治安が悪いし……、出たようね」
出たって何がさ!と言ってしまいそうにんるのを、達哉は咄嗟に抑え込んだ。も
ういつまでもあちらの世界の常識では考えない。出たと言えば…盗賊や何かだろう
か。レナと2人旅の時に、一回襲われてたと。その時は相手が数人だったのでレナ
が瞬殺してたが、今回は矢の音から察して、かなり大勢がいいそうだ。激しく不安
だ。
「ぐわぁあ!!」
とか思っていると、前の方から悲鳴が聞こえる。そしてその直後、輸送車は両手
に広がる森に突っ込み、ものの見事に横転する。達哉はなんとか頭を庇うような姿
勢を取るが、山積みにされた木箱がこちらに倒れ掛かってくる。だが、とっさに動
いてそれを避ける事など出来る筈も無く、達哉は硬直している。
「ちっ、タチヤのノロマ!」
聞き捨てなら無い言葉と共に、自分の体が強く引っ張られた。口調は違うがレナ
の声だ。達哉はレナが怒っているのかと思って不安になってしまう。
達哉が恐怖の所為で閉じてしまった眼を開けるのには、しばらくの時間を必要と
した。しかし、目を開けてみると自分は無傷。ガルナは荒い息をしてるが全部避け
たようで無傷だ。レナはと言うと…、達哉に降り掛かる木箱を全部叩き飛ばしてく
れていたようで、片腕で達哉の服を掴み、もう片方の腕で拳を握って突き出してい
た。
だが、それを見た次の瞬間には、達哉の思考は別の事へリープしていた。達哉は
直ぐに立ち上がるとレナの腕を振り払って運転席の方向へ向かおうとする。荷台と
運転席は直結してはいないので、一旦外へ出てからでないといけない。
しかし、外へ出るドアを開けようとする達哉の腕を、ガルナが掴む。
「どうしたんスか。今外に出たら危険スよ!!」
「離してくれ!今の内に応急処置をすれば、
運転手も助かるかも知れない!!早く行かないと!!!」
達哉が初めて激しい剣幕で声を発したのに驚いて、ガルナは手を離してしまう。
その隙に達哉は扉の取っ手を掴んで開けようとする。だが、取っ手が回らない。
(違う……。身体が……、動かない……?)
その事実に達哉は愕然とする。どんなに腕に力を込めても、ピクリとも動かない。
腕どころか、指一本、瞼さえもロクに動かせない。何かの威圧感に身体全体を握ら
れてしまっているかのような、そんな感覚。
「もうすでに死んでる確立の方が高いわ。
それに、赤の他人を助けて私達に何かメリットがあるの?
少なくとも、タチヤが自分の命を掛けるようなメリットは無いわ」
それだけ言って、レナは達哉に意見でも求めるかのように、「ん?」と顎をくい
っとやった。しかし、それは達哉が動けない事、声すらも出せない事を見越しての
行動のようで、意地悪な笑みを浮かべている。そんなレナの態度を肌で感じて、達
哉は瞬間的に怒り狂った。誰かの命を左右されるような状況で、こんな風に笑って
られるのが信じられない。
頭の中が、怒りでいっぱいになった時、不意に身体が動いた。
「――ッ!! 」
達哉は、レナの問いに答える時間も惜しく感じ、そのままガチャリと音を立てて
扉を開け、外へと飛び出す。ガルナはさっきの動揺からまだ抜け出しておらず、レ
ナもまた、達哉が動くとは思っていなかった所為で、反応が遅れてしまう。慌てて
レナも車両の外へ飛び出した頃には、達哉の鼻先数センチを矢が掠めているところ
だった。
「ちッ、限度を超えたお人好しめ!」
レナは舌打ちを一つすると、矢の飛んできた方向からの逆算と、辺りから感じる
気配を読む事によって、矢を放った相手の場所を探ろうとする。目を瞑り、耳と髭
で空気の流れ、そして人間の発する気の流れを感じようとする。
すぐに分かった。微かながら呼吸音も聞こえた。レナは腰に下げたホルスターか
ら大口径の銃を抜き放つと、そのまま間髪入れずに引き金を引く。薬莢の弾ける音
が辺りに響き、続いて悲鳴が上がる。銃弾で致命傷が与えられるかは微妙だが、そ
れなりのダメージを与える事の出来る威力は、十分に持っていた。少なくとも、弓
を引いて矢を放つような事は出来ない筈だ。
レナは依然として辺りを警戒しつつ、すぐに達哉の後を追う。運転席の方へ周る
と、レナの予想通りそこには達哉が呆然と立ち尽くしていた。
「やはりね。…ヒトでなくても、人間は脆いのよ。
だから簡単に死ぬし、タチヤのような医者が必要なの。」
「けど……、こんなに簡単に死ぬんじゃ、虚しくて堪りませんよ……」
運転手をしていた犬人の男性は、輸送車が横転した衝撃で生き絶えていた。いく
らヒトより頑丈だと言ってもこの程度でしかないのかと、達哉は少しがっかりした
感覚を覚える。だが、すぐにその考えを改めた。レナの言う通りだ。そもそも、脆
いからこそ医者と言う職業が成り立つ。命のあっけなさに虚しさを覚えたとして、
それは単なる達哉の自己満足に過ぎない。
「さ、ガルナを連れてこのまま逃げましょう。
森の中に隠れた盗賊を探しながら戦うのも面倒だし、
輸送車を置いて逃げてしまえば、とりあえず満足する筈よ。
ただの密入国者よりも、積み荷の方があいつ等には大事でしょう?」
「…………うゎッ!? 」
達哉が頭の整理を終わらせて、レナの言葉に答えるよりも早く、達哉はレナに持ち
上げられた。抗議の声を出そうかと達哉はレナの方を向いたが、その声は出さないま
まに終わる。何故なら、そのままレナが走り出した事と、さっきまで自分がいたとこ
ろに矢が飛んできた事の2つだ。
(思ったよりも立て直しが早いわね。
割と場慣れした盗賊団のようだわ。
……ガルナはともかくとして、達哉がヤバイかも)
ガルナにも、自分の身を自分で守るぐらいの技量はある。だが、達哉はそうもいか
ないし、だからといってレナが達哉を守りながら戦っていては、相手の数を減らすの
にも時間を食ってしまう。達哉にも、必要最低限の実力は持っておいて貰わなくては
困るな、と溜め息を吐いた。
「さて、どうす…… 」
――レナさん、足手纏いが居て大変ですわね。
とりあえず3秒後に盗賊さん達に魔法が飛びますわ。
細かな設定が追い付かなくてそこのヒト君もターゲットに入ってしまいますが、
どうか防いであげてくださいまし。――
言葉を紡ぎ掛けたところで、レナの頭の中に、聞き慣れた声が届いた。しかし、そ
の声の主はこの場には居ない筈の人間。“蛇足” に所属する魔術師、クユラの声だ。
コネクト(通信呪文)の類いであろうクユラの声は、レナ意外には聞こえていないら
しく、達哉にも声に気付いた素振りは見られない。
レナはクユラの声に従い、動きを止めて達哉を自分の後ろに隠すような位置で、拳
を握って構える。クユラがどの呪文を使おうとしているかは、大体の察しをつけるこ
とは出来た。そしてその呪文は何回も使っているところを見たし、完全に防ぐ自身を
持っていた。
「タチヤ、少しビックリするかも知れないわ……」
「……どういう意味でですか?」
『もうとっくにハプニング慣れしてます』 と続けたかった達哉だが、そのつづき
を言う事は出来なかった。レナが人差し指で天を指しており、その指差す方向へ達哉
が顔を上げると、言葉を失うような光景が待っていた。
「……メラゾーマ?」
達哉の思い付く言葉の中で、それが一番しっくり来るモノだった。レナの指差す先
に見えるのは、そうとしか言い様の無い巨大な炎の塊だったからだ。しかし、達哉は
すぐに見解を改める事となった。今度はその炎の塊が弾けたと思えば、無数の小さな
炎となって、バラバラの方向へ飛んでいく。
「えぇと……寧ろヒャダインを炎で実践した感じ?」
などと余裕ある言葉を発する達哉だが、そろそろ自身の身の危険に気付いた。バラ
けた炎の内の一つが、達哉とレナの居る場所に向かって真っ直ぐ飛んでくる。スピー
ドは矢よりも少し遅く、目立つ光を放っている事もあり、ヒトの動体視力でも捉える
事が出来た。だが、それに体が反応できるかと言うと話しは別で、達哉は一歩も動け
ないまま、レナの後ろに隠れている。
しかし、レナも動かないのは何故だろうかと、達哉は疑問に思った。レナは素手で
拳を握って、達哉の前に立ち尽くしている。『逃げろ』 と達哉が口にするよりも早
く、レナは達哉を狙う炎の玉に向かってジャンプした。
「はぁッ!」
レナは炎の玉に右ストレートを決める。実体のない魔法である炎の玉にそんなモノ
が聞く筈も無いのだが、レナの拳から同時に発せられた、気合のようなものに炎は掻
き消された。レナはストレートの慣性と空中での体重移動を組み合わせ、新体操のよ
うな動きをして着地した。
それと同時に、あちこちで苦悶の叫びが聞こえてくる。恐らく、盗賊団たちはこの
炎を避ける事ができずに、まともに喰らってしまったのだろう。達哉は今さっきの炎
に自分が当たっていたらと想像して、冷や汗を流した。
「ガルナ。もういいわ。そろそろ出てきなさい。
それにクユラも。何故ここに来てたかは知らないけど、
来てくれたなら姿くらい見せないと、リーダーに対して失礼じゃない?」
レナは輸送車の貨物庫をドンドンと叩いてガルナを呼び、その後さっきの魔法の主
を呼んだ。確かアジトに待機してた筈なのだが、何故ここまで来ていたのか聞かなく
てはならない。
ガルナが未だにビクビクしながら貨物庫から顔を出し、辺りを見回しながらレナと
達哉の方向へ歩いてくる。達哉はその姿がおかしくて、少し吹き出してしまった。そ
れにガルナは『プンスカ』と言う擬音を背後に浮かべつつ、酷いじゃないかと目で訴
えかけている。達哉がそれにゴメンと返していると、いきなりガルナの表情が凍り付
いた。
「…ガルナ、どうしたの?」
「タチヤ、後ろ!!後ろを見るっスよ!!! 」
達哉はガルナの脅えかたを不審に思いつつも、言われた通りに振り返った。
「まあ、なんですかその脅えかたは。
貴方にはわたくしがそんなに恐ろしく見えまして?
……こちらの貴方は、そうは思いませんわよね……?」
「だだだだ、誰ですか君はーーー!!? 」
達哉は、ただひたすらに驚いた。いつの間に近寄られたかも分からないし、ガルナに
言われて振り返るまで、その存在に気付く事も出来なかった。見ず知らずの女性が唐突
に登場した事に、防衛本能が作用した達哉は慌てて後ずさりする。
荒れた息を落ち着かせて初めて気が付いたが、目の前の女性はとんでもない美女だっ
た。ブロンドの金髪は肩まで伸び、その金髪から突き出たネコミミが愛らしい。そして
その外見年齢は15,6歳ほど。レナとは違う、この世界ではマダラと呼ばれる形態の
持ち主で、ヒトでも羨むような艶やかな肌の持ち主だ。
「あら、レナさんから聞いてません事?
わたくしはクユラと言いますの。
“蛇足” に所属する魔術師ですわ。以後お見知りお気を」
達哉は自分の耳を疑いたくなった。こんなに可憐な印象を受ける相手が、レナやガル
ナと同じく傭兵だと言うのだから信じられない。レナのような女傑の雰囲気は持ち合わ
せず、ただただ女性としての美しさや気品が際立っている。
だが、魔術師と言う言葉を聞いて、達哉は先ほどの炎を思い出した。
「魔術師なら、さっきの炎は君が……?」
「ええ、そうでしてよ。怖い思いをさせてすみません。
貴方の波長はまだ知りませんので、
追尾するターゲットから外せませんでしたの。
でも、山火事を起こすわけにも行かなくて威力は抑えていましたし、
レナさんなら簡単に掻き消す事が出来ると思っていましたわ」
クユラにそう言われて、ようやく達哉は謎が解けた気がした。だが、一つ腑に落ちな
い事がある。レナは炎の塊が現われるよりも早く、達哉を自分の後ろに隠して炎が向か
ってくるのを待っていた。その理由が分からずに、達哉は考え込む。
だが、それもクユラの助けですぐに解けた。
――理由はこれですわ。簡単なコネクトの呪文ですの。
「え……、コネクト?」
頭の中に直接響いてくるクユラの言葉に、達哉は多少途惑いながら返す。
「簡単な通信呪文ですわ。
こちらの伝えたい事を相手に伝える呪文ですの。
わたくしの方から出来るのは発信だけで、
貴方にできるのも受信だけですが、
それ以外の方には分かりませんし、中々役に立つ呪文でしてよ
まあ、遠くから呼び掛けて成功させるには、
その相手の波長を知っていなくてはいけないのですが」
「……あ、説明ありがとう」
実は、クユラの説明を達哉は半分も聞いていない。話す度にピクピク動く耳とか、ゆら
ゆら動いている尻尾とか、時折見せる笑顔とか、その時に見える白い歯とか、クユラの姿
に見とれてしまい、説明を聞くどころの話しではない。
達哉がポヤンとした目でクユラを見続けていると、レナが割って入ってくる。
「それで、何でおまえがここに居たのか、まだ聞いてなかったわね。
クユラ、そこを教えてくれないかしら」
「レナさんとガルナさんの帰りが予定より後れてましたので、
わたくしが様子を見てくる事になりましたの。
でも、その理由が今分かりましたわ。そのヒトですね。
それにしてもレナさん、私が話しているところに割ってはいるとは、
レナさんは自分の奴隷が私に見とれてるものですから、
嫉妬をしてらしたのですか?
平気でしてよ。レナさんの所有物に手を出すほど飢えていません」
この会話で、達哉の中の可憐なクユラ像が吹き飛んだ。耳を塞いでしまいたい衝動に駆
られるが、それはただの現実逃避であって、今後の為にも今ショックを受けておいた方が
良さそうだと思う。
「いえ、タチヤは医者なの。だから奴隷ではないわ。
首輪をつけてるのも、あくまで表面上の問題よ。
クユラのように五百歳を過ぎてれば、
テンプレートな事しか思い浮かばないのね」
達哉のショックは更に深いモノとなる。あのクユラが五百歳過ぎだとは、誰が予想しえ
るだろうか、少なくとも達哉にはこれっぽっちも分からなかった。
更なるショックを受けたくないと言う自分の気持ちに逆らう事が出来ずに、女性2人か
ら目を背ければ、ガルナが思いやりに満ちた目で達哉を見ていた。それは、自分と同じ苦
しみを味わった相手への同族意識からくるものだった。
「ガルナ……、僕は、まだ信じられないよ……」
「気にする事ないっスよ、タチヤ……。
俺だって最初は信じられなかったっス。
でも、この苦しみを乗り越えてこそ、“蛇足” の一員っスよ」
「分かってる。この経験はこれからに役立てて行くよ……」
女性同士の醜いトークをBGMに、ガルナと達哉の友情は更に根深いモノになった。そ
んな場違いのコメディを繰り広げる4人だが、次の街への道のりはまだ長い。輸送車のエ
ンジンが完全に壊れてしまっている事を知った時の4人の表情は、随分と暗いモノだった。
第3話 完
一週間以上掛かってしまいすみませんでした。
次はなんとか早めに投下したいと思っとります。
次の話で、新キャラのミリー君とオルスのオッサンも出せると思いますんで。
それと、
新キャラ補足
クユラ
“蛇足”に所属する魔術師。
実年齢は5百歳を超えるのだが、
魔法・霊薬・薬草・マッサージ・その他諸々を使い、
ヒトで言う15,6歳程度の外見を保っている。
元々は猫国で魔法の研究をしていたのだが、
永遠の命に固執するあまり、
非人道的な実験を繰り返した事により追放された。
若々しい体を維持する事に異常な情熱を注いでおり、
持ちうる全ての力を出し切って老化と戦っている。
自分よりも若いレナが“蛇足”のリーダーをしてるのがあまり気に入らないらしく、
事あるごとに突っかかったりしている。
だが、年の功もあり節度は弁えているので、大きな問題にはならない。
最近スレ速度が速くてうれしいやらあせるやら。いやさ、にぎやか。それでよし、それがよし。
>>161 お褒めに預かり光栄の至り。パソコン故障中でネカフェからレスできない蛇担当です。
頭の中にあるプロットでは全体の物語はすでに折り返しを越えております。
ネタがあれば増えるかもしれませんが、実際どうなるんだろー。
パソコンが直ったらバリバリ書きたいと思ってますので。目標は年末年始。がんばれ、俺。
>>623 ◆Jyj5OiZTN. 氏
乙です。
いいですよね、気持ちのいいアウトロウども。そーゆーの大好き。
特攻野郎とかルパン三世とかガンスミスキャッツとか呼んでて心沸き立ちます。
それはそれとして、エロも待ってマース。
>>173 いい感じだと思います。乙です。
キャラクターもみんな立ってるし、いったい次はどんな奴が出て来るんだろうとwktkしてます。
あと、投下速度に関して言うと、623 ◆Jyj5OiZTNさんはこのスレでは間違いなく最速クラスです。
>173
乙! ネコミミ美女とレナさんの女バトル、これからも楽しみwktk
オッサンも楽しみ(オヤジキャラ好きなんで)wktk
ところでちょっと気になったんだけど >170で
>この世界ではマダラと呼ばれる形態の持ち主で〜
とあるけど、「マダラ」って男性に対してのみ使われる
呼称じゃなかったかなと。
お褒めに預かり光栄です。まだ慣れないことばかりですが、よろしくおねがいしますね。
オッサンは、さり気に種族をどれにするかまだ悩んでたり。
虎人にしたかったんですが、それだと主力メンバーが猫科に偏りすぎて……。
>特攻野郎とかルパン三世とかガンスミスキャッツ
“蛇足” の設定を考えているときは
公安9課を目指してたんですが、もうすでに見る影も無い……
>「マダラ」って男性に対してのみ使われる 呼称じゃなかったかなと。
ま、マジっすか!?
………達哉がそこら辺をわきまえてなかった事にしといてください。
>>177 >オッサンは、さり気に種族をどれにするかまだ悩んでたり。
新種族をつくるのも面白いものですよ(←悪魔の囁きw)
まだまだ出てない動物はいろいろいますから。
し、新種族……!
無難に行くなら、犬とか狼とか熊とかカモシカとかなんでしょうがね……
出てないので今考えてるオッサンの設定に当て嵌まるとすれば、
・牛
・サメ
・シャチ
・サイ
とかはまだ出てませんでしたよね…。
…………いっその事ドラゴンもアリかな?
ドラゴンのオッサンとかいいね。
>>179 象はどうだろうか。
片牙で隻眼だったりしたらいかにも歴戦の傭兵っぽいと思うのだが。
隻眼&脱ぐと全身傷だらけはデフォルト。
犬とか虎だったら、片耳もイイかもとか。象で片牙とかもイイね。
ドラゴンなら、羽が片方ボロボロとかもイイかな。
このキャラだけは、“蛇足”で唯一(?)の正統派傭兵でいくつもり。
>183
>脱ぐと全身傷だらけ
ってことはオッサン脱ぐの?……イイ。スゴクイイ。
ネタバレはどうかと思うけど、
今やってるヤツの外伝みたいな感じで
オッサン×人間のおにゃのこの話を構想してるだけ。
それでなくても、脱がせる機会はいくらでもあるし。
あっちの♂×ヒト♀のカップル、もっと出てほしいと思ってた。
楽しみ〜
傷は男の勲章だね
獣♂×人♀だと、なんか読んでて気の毒になっちゃうんだよなぁ
俺はここに居ては行けないのかなぁ…とか思う
そうかな…、俺は獣♂×人♀も結構好きだけど。
モフモフ毛皮の獣人が華奢な人の女の子を抱いてたりすると萌えない?
>>187 気持ちはわかる。確かになんとはないモヤモヤ感がある部分は否定できない。
だけどそういうのはシチュに萌えるもんだと割りきれば結構いける。
自分も最初そう思ってたが、狗国見聞録見てからは変わりましたなぁ
あっちの♂×ヒト♀のお話の草案が無いこともないのですが…自分の力では持て余してしまいそうで…何ヶ月後になるかわからないですが投下出来たら幸いです…
まだ勉強中の未熟者なんですけどね(´・ω・`)
……ひそかに獣♂×人♀執筆中なんだけど、このふいんきで投下するのはすげえプレッシャーかかるなぁw
ちなみに、人♀が人♂に比べてかわいそうに思うのは、落ちた後の孤独感と疎外感に起因することが大きい気がする。
だから、人♀にキョータくんやリテアナさんのような、ご主人様以外の友達を配置すれば、そのへんを解消できるんじゃないかと。
>>190-191 いやー、楽しみにしてるから是非がんばってくらさい。
ってこんな書き方するとよけいプレッシャーか…w
ごめん
自分はもともと獣頭&毛皮萌えだから、マダラの男性だと
いまいち「獣人」って受け止められないんよ。
コスプレみたいだなって思っちゃう。
(”人間”として描きやすいのはマダラの方かもしれないが)
ヘビのご主人様とメイドちゃんの話とか大好き。
この世界の国境って、一般人だと越えるのにどれくらいの手間がかかるものなんだろう?
国によって違うんじゃないですかね。関所らしい関所も今まで出てこなかったと思いますし…
考えてみれば、今まで国から国へ移るシーンがきちんとあった作品って無いですよね?
>>194 そもそも、ちゃんとした国境線が決められてるのかと言う問題もありますし。
ネコの国やイヌの国、虎の国に狐の国みたいな東方諸国は割合きっちりと決まってるかもしれないけど、
西方の蛇とかカモシカとか獅子とかピューマとかは案外、「だいたいこの辺はうちの国」「じゃあこの河からこっちはうちの国」「砂漠は全部もらっちゃうけどいい?」
……みたいな感じで、だだっ広い緩衝地帯があって、その中で「人が住んで畑があって獲物が狩れる範囲が縄張り」みたいな感じなんじゃないかと。
西方の四国家は「山にカモシカ、砂漠に蛇、草原を獅子、密林をピューマ三国」で生活範囲が見事にバラけてますし、領土争いもなさそう。
入国管理が厳しそうなのは狐とイヌかなあ。
>>192 >自分はもともと獣頭&毛皮萌えだから
つ【金毛で獣頭で兄貴分な狐のお侍さん】
>>188 わたしも
>>187と同じような感じだね、見聞録に出てくるオオカミの盗人が一番印象悪くしてる様に思う
愛があれば・・・・みたいな部分でジークとあたしの関係は萌え萌え間違いなしなんだけど
そうでなくて、ごく普通の獣♂がヒトの♀を扱う時は有り余る力でねじ伏せて、それでも言う事聞かないと
今度は捻り殺す位は平気でやりそうなんで、そんなのもイメージするとちょっと鬱になる・・・・
だからほのぼの系で愛がある環境であれば激萌えなんだけどねぇ・・・・・・
あの盗賊団のおかしらみたいに指を一本ずつねじり折るような事をされると、本当に嫌だなぁって思っちゃう
>>196 あれはある意味あとのラブエロとの対比に良かったと思っています。
サイアスのお頭は相手がヒトでなくてもああいう事する人なんだから
一般的と見るのはどうかと。
強烈なイメージではあったけどね。
そうだ!人♀が獣♂をレイプすればいいんだ!!
むしろサイアスのアレはあって良かったって思った自分。アレがあったからもうジークとの時のは悶絶モノ。
…もしあそこでサイアスが初めてを奪ってたらちょっと(´・ω・`)だっただけに見聞録の人は話の作り方が巧いなぁと本当に思う。
余談だけどディンスレイフが唱えた大魔法とかって…ヘブライ語?
でも、アレは見聞録の人にしか書けないだろうな。
見聞録の人に限らず、このスレで良作を投下してる人の作品ってのは「これはこの人しか書けないな」って部分が何かしらあるけど。
駆け落ちした地方領主の犬の娘と狼との間に生まれた、いわゆる狼犬の♂(庶民派)が主人公で、両親も他界して一匹山の中暮らしてたのがそこの跡継ぎ問題で急に担ぎ出されて領主におさまる。
だけどそれは悪辣な家臣たちが、何も分からない彼を傀儡にして自分達が甘い汁をすするための計画で…
とかそういう妄想はしたことあります。あとはベタに彼に警告する亡霊とか『ちょっと贅沢なエサと女与えときゃ言うこと聞くだろ』と人♀をあてがうとか…形にはならないんですけどねorz
ちょっと思ったんだが、シゲルって戦闘の時はマダラから獣人に変身してるイメージでいいんだろうか。
もし、そういうのもアリなら、男性は子供の頃はマダラだけど、大人になると獣人に成長するような種族も面白いかも。
で、いつまでもマダラのままだったら、人間界で言う包茎と同じくらい馬鹿にされるとかw
205 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/28(木) 08:17:54 ID:hcOu+gah
そんなの言い出したら落ちたときに精神的に壊れたが
知識とちんちんあるから山賊村で落ちモノ判定と夜のおもちゃしてる
なんて話書いてる俺はどうすればいいんだ
sage忘れた。すまん
>>204 幼少期はみんなマダラ、成長にしたがって
男性のみ獣人化というと、ピューマ担当さんの
三種族がそうだね。あの設定は面白いと思った。
それこそいつまでも大人の毛が生えなくて
仲間にからかわれるやつとかいそう。
俺は夜明けのジャガーの続きをいつまでも待っている。
>>207 同様一通
あと、シュナとフユキの話、あれにでてくる孤児院(?)みたいなのに人の子供、
それも人奴隷の生んだ子供が交じってシュナとフユキが育てるってサイドストーリー思いついて
かなり鬱になったことがある・・・・・ orz
>>204興味深い設定だな
ちょっと別の話だが獣人タイプの女性は「女のくせに肌がキレイじゃない」とか「まるで男みたいだ」とか言われて差別視されてるって設定を考えたりした。
マナさまが獣のカラダを嫌がってたからね。
んじゃあ、レナさんはそんな感じの理由で傭兵になってたんだろうか。
やっぱ獣人タイプの女性は普通の女性より力がありそうだよね。
皆さんには悪いんですけど、猫耳+尻尾よか
獣人の方が好きなんです。
と思いつつ、自分の物語を書き書き。
>>211何を言うか。俺は獣人タイプの方も好きだったりしちゃうぞ。
つまり両刀
>>212 ときどき、そっちのスレへの誘導があるけど、正直な話、獣人ならなんでもいいというんじゃなくて、
こちむい世界を舞台にした獣人×ヒトであるということがこのスレの大きなみりき(なぜかry)なんじゃないかと思ったり。
確かに。獣人×ヒトだからこそ萌える。
獣人×獣人も、そこまで萌えるワケじゃないな。
『ヒト×ヒトよりはマシかな…』程度。
獣人×ヒトの萌えに比べたら足元にも及ばない。
………あくまで個人の嗜好だけどね。
ぶっちゃけここはもうある一つの世界観に沿っていれば大体は問題なさそうな気がする。
>>216 まあね、実はね。ちゃんと事前に注意すればね。
禁じ手はほかの作品の主役クラスを登場させるとかかな。
アイデアは思いつくのに、どれもエロに結びつかない。しょぼんぬ。
なんかイヌが悪者扱いされている作品が多くて個人的には(´;ω;`)
確かにあの大戦で大勢の犠牲者が出たかもしれないけど、だからといって
二千年の長きに渡ってああまで一つの民族を苛め抜くのは如何かと。
まぁ、現実でもユダヤ人は流浪の民と呼ばれているぐらいだけど、イヌは
ユダヤ人と違って商才に長けているわけでもないし…イヌの国の一般の
軍人さんはきっとやりきれないだろうなぁ。愛する祖国の為に豊かな土地を
得る為の戦争を仕掛けたいけど、クレイプニルがあったんじゃ領土回復なんか
できっこないし。でも今此処で仮に戦争を起こしたとしても、そんなに他国は
戦力を割けれるのかね?内乱で忙しいカモシカとヘビは問題外だし、少なくとも
条約加盟国はこの戦争で勝っても得る物は何もないと思う。あるとしたら真銀の
鉱脈の利権ぐらいだけど。トラはセリス君がいれば何の心配もないし、ネコは
興味ないっつーかやる気ないっつーか。ってか何処の国も自国で手一杯じゃない?
一つ疑問があるのだが、イヌとネコの国境の小競り合いって他国は介入しないの?
イヌは軍事行動起こすとクレイプニルが発動して大陸中の国家を相手にしなければ
ならないのだから、明らかに南部国境線での小競り合いは小規模ながらも軍事行動では?
それに草原の潮風氏の作品を読む限りではイヌは積極的な軍事行動を起こしているみたいだし。
ネコ側の領土内に堅固な塹壕陣地とか構築しちゃっていいの?
>トラはセリス君がいれば何の心配もないし
世界中で全面戦争でも起きようものなら、
勝つのは絶対に虎の国なんだろうな。
セリス君にはホント底が見えない。
なんかもう、素敵に無敵すぎるよね。そこが激しく大好きだけど!
>>219 仮説その一:パラレルワールド
仮説その二:公式には国家に所属していない武装集団の戦闘行為
仮説その三:時代が違う
こちむい氏の発言の中での「小競り合い」は地方領主同士の死人がでない程度の抗争だったんじゃないでしょうか。
まあGARMがちょいと動けば小競り合い程度は誤魔化せそうだけどね。
詰まるところ、戦争って物はそんなに簡単に始めたり終わらせたり出来ないって事だろうね。
トラの国だってセリスは一地方領主のお抱えだし、極論すればトラが滅びようとどうしようと
本人に興味がなければ動かないと思う。
仮に全面戦争と言う事態になった場合、48万の兵を擁するイヌの国と小競り合いを続けた
オオカミの国の場合はゲリラ戦とかで戦うだろうし、豊かなネコの国は兵器をトラから買ったり
用兵を編成したりでいくらでも闘い方がある
ついでに言うとネコの国の女王はそんな物に興味が無いのかもしれない。
だからイヌの国はある意味で、まったく蚊帳の外に置かれていながらも自分達の知る絹糸同盟で
自縄自縛に陥っているだけなんだろうかと思う・・・・
言いつけをキチンと守るイヌの健気さがよく出てるエピソードに見えて仕方が無いんだよね
俺もイヌ好きだから・・・・・ orz
もし戦争になったら、狐の国はやばいだろうなー、と
同国の話を考えつつ思いました。
お願いですから、仕掛けてこないでください。
獣人♂×ヒト♀なら考えたことはあるがその舞台が兎だったので
必然的に獣人はマダラということになった
だってウサギ顔ってなんか微妙じゃね?(´・ω・`)
あとセリスキュンはパラレルワールドとか過去スレで言われてた記憶が。気のせいかな
犬の国が戦争を行えないのは、何よりもまず兵站に問題がありすぎるからのような気が。
食糧備蓄と燃料備蓄が壊滅的な状況下では絹糸盟約がなくても動けないと思うし。
シゲルがやってるように、軍事力に頼らない工作で親犬派政権や親犬派領主を作ろうという動きはあるのかもしれない。
そういう国や地域があれば、少なくとも生活必需品の輸入に関してはかなり改善されるだろうから。
>>225>>226 >>137で使ってますね。
まあ、弾丸くらいなら使ってもいいんじゃないかと。
さすがに、いきなり核爆弾とか戦闘機とか出てこられたらちょっと待てといいたくなりますけどw
とりあえず、セリス君もパラレルワールド扱いしなくてもいいんじゃないでしょうか。
・・・・・・デウスエクスマキナが一人いると何かと便利ですしw
便乗で質問。
過去作品を一通り読んだけど、この世界でのクマの寿命って
まだ言及されてないよね?
>>228 う〜ん…、なんか想像していたのと違うような感じが。
僕の方が間違っているのかもしれませんけど…。
>>228 条件提示はあってるけど大陸の大きさとか領土面積概念とか、
その辺の煮詰めが甘い気がします
で、酷な話ですが、逆にそういった地図類が無い方が楽しいかも…
せっかく書いたのにスイマセンです、どうかお気を悪くされませんよう
>>231 前スレにこんなのがあったな。
164 名前:名無しさん@ピンキー[sage] :2006/02/11(土) 18:45:07 ID:KTCmbzI7
ごめん。兎→狼→犬→猫→魚はほぼ一直線に並んでたような記憶がある。
兎
熊
狼
豹
犬
ピ 鹿 狐
猫 虎
獅
蛇
魚
で、鼠が犬と猫と虎と狐の間か。
……ペンギンはどこだ?
もっと言えば国境線、川とか山脈とかそういったものに隔てられることが多い、そこから更に戦争とかで移動する。
直線の国境は植民地支配で切り分けられた名残とか
狼の国から犬・猫の国と国境線が一本の大きな川になってるのを想像してました。日本の川と違って大陸の川は大型船舶とか通って交通・流通の要だったりしますし。
犬の国で少しだけ川に面してるとこがあってそこを押さえられると貿易なんかができなくなるとかそういうの妄想してました。
話自体が序盤で止まっていて、他の人の作品にも出てこない種族まで含めると
設定すり合わせは正直難しくなる気がするんだが
確かに作品どうしを深く干渉させて国境とかを定義付ける必要はそんなに無いかと思います。想像する楽しさと自分の中での解釈というものを大切にした方が良いかと個人的には思う次第です。
でも
>>228殿の地図は新しいイメージを浮かべる手助けになりました!投下感謝します!
もっと言うなら、厳密に国境が存在するわけでなくて、それぞれの種族の王都があって、
そこから派遣されるなり任命されるなりした領主とか知事とかがいる地はその種族の領土
巣穴的考え方見たいな物をイメージしてました
だから中の悪い国同士で国境の小競り合いが起きて、領主同士とか、或いは国同士で
ガチのドンパチやらかすんじゃないかと
そう言う意味でイヌとネコ、イヌとオオカミの国境は凄くアバウトで、国境付近を領地に持つ貴族は
実際はやたら苦労してるのが現状なんじゃないかと・・・・
地図を絵にしたっていうのは便利だね。
現段階の設定を乗せたもので、未来には絶対改変されるものなんだろうけど、
既存の国の位置が一目でわかって便利だよ。
シェアードワールドノベルスって、敷居がものっそいたかいし、
既存の設定を掴むのも中々難しい。
新しい書き手を獲得するためには、こういった地図の存在があった方がいいね。
まあ、作品が増えたら地図の更新もあるんだろうけど。
「ねぇ……きつねさん」
女の子……かなえが、潤んだ目で、ボクを見つめる。
「え、それは、その……」
あわてて、何か言おうとするんだけど言葉がうまく出てこない。
「……ずるい」
「え?」
かなえの言葉に、ちょっとどきっとする。
「きつねさん……ずるい」
「ず、ずるいって……」
「わたしのこと……こんなにしたのに」
「こ、こんなにって……」
「せきにん、とってよ」
「せ、責任って……」
そう、言っている間にも。
香木の煙が部屋を満たしていて。
「……くす」
急に、かなえが笑った。
「?」
「きつねさん……こんなになってる」
つん。
「ひゃあっ!」
急に、ボクの股間に左手を伸ばしてくる。
「かたくなってる」
そういって、また笑う。
「あ、いや、その、これは……」
わたふたと焦っているボクをみて、とうとうこらえきれないように笑いだす。
「きつねさん、かわいい」
「か、かわいい……?」
「ねえ、きつねさん」
「え、えっ……?」
「わたしのここ……さわって」
そういって、ボクの手首をつかむ。
そして、かなえの左胸の上に。
くにゅっとした、やわらかい感触が伝わる。
「っ……」
「ね、こんなにどきどきしてる……」
「…………」
「こんなきもちになったの、はじめてなんだよ」
「………………」
「わたし、きつねさんにきもちよくしてほしいな」
……煙が、ボクの鼻腔をくすぐる。
なんだか、この匂いを嗅いでると、他のことはどうでもよくなってくる。
ボクも。
この子と、気持ちよくなりたい。
そんな時に。
「景佳くん、いるかい?」
がらっ。
「うわあああっ!」
扉の方から、突然声がした。
驚いて、つい声を上げたのが……思いっきり裏目に出たみたい。
「なんだっ!? 景佳くん、大丈夫か? 今行くっ!」
「え、あ、ちょっ……」
止める間もなくて。
「大丈夫か、景佳く……」
こっちの部屋を見た声の主が、言葉を失って立ち尽くす。
「……いや、その、これは……」
囲炉裏端に、服を切り裂かれた裸の女の子が寝ていて、その部屋にいたのはボクとその女の子だけ。
で、囲炉裏からは香木の甘い匂いが流れてたりして。
どう考えても、この状況は……その、非常に見られたらまずい状況なわけで。
「……景佳くん」
声の主が、頭を押さえながらかぶりを振って言う。
年のころはボクより一回り上。素襖を着て太刀を差している。さむらい、っていうか、僕らよりちょっとだけ立場が上。
全体的に、ボクよりもケモノっぽい姿をしていて、黄金色の毛皮がかっこいい。
左近衛少将頼延(さこのえのちゅうじょうらいえん)さま。
ボクにとっては、巫女連からいろいろ注文をとってくれるお得意様……なんだけど。
「拙者は、別に人の性癖をどうこう言うつもりはない」
ああっ、いきなり誤解してるし!
「景佳くんもいつまでも子供じゃないし、年頃の女人をたらしこむのも、別にかまわないだろう」
いや、だから、誤解ですってばぁ!
「しかし、香木などに頼るというのは感心できないし、ましてや刃物で脅すなどと言うのは言語道断だ」
「は、刃物なんてボクは……」
「そこに転がってるものは何だね? そして、服がずいぶん不自然に切り裂かれているが」
「そ、それは……」
「いくら都合が悪いからといって、すぐにばれる嘘をつくのはよくない」
ち、違うんですってば〜!!
「きつねさん……このひと……だれ?」
かなえが、ボクに声をかけてくる。
「あ、ああ、この人は……」
「巫女連に使える、頼延と申す」
「……こわい」
そう言って、きゅっとボクの袖をつかんでくる。
「あ、ああ、その、いつもは怖い人じゃないんだけど……」
「とりあえず、何か着たほうがいいだろう」
そう言って、部屋の端にあったつづらを開けて、無造作にボクの服を取り出す。
……悪い人じゃないんだけど、ボクのものを勝手に……
「景佳くん。こういうものを隠しておくのはよくない」
つづらの奥から、何かを取り出してそう一言。
「ああぁぁぁっ! それ、その、ちょっと……」
「べつに持つことまで悪いとは言わない。君ももう年頃だし、こういうものも時には必要だろう。ただし、持つなら堂々と持ちたまえ。後ろめたい気持ちがあると、姿勢が曲がるぞ」
ぽいっ。
「……あ、ちょっ、こっちに投げないでっ!」
少し前、山に落ちてるのを見つけた艶本を、無造作にこっちに投げてくる頼延さま。
その、ヒトのハダカとか、そういうのがいっぱい載ってる本。
本物のような綺麗な絵で、ついつい拾っちゃったんだけど……
あわてて、かなえに見えないように隠す。
「だから、隠さないで堂々としたまえ。そういうのを見たくなる年頃なんだから、堂々と見ればいい」
「堂々とできるわけないじゃないですか〜っ!」
「きつねさん……それ、なに?」
「あ、いや、なんでもな……」
「艶本だ」
つづらを探りながら、あっさりと言う頼延さま。
「つやほん……?」
「女人の裸を描いた錦絵ばかり入れてある書物だ。彼くらいの年頃ならば、見ていても何の不思議もない」
「……きつねさん」
「う゛っ……」
かなえの目が冷たい。
「ら、頼延さまぁ……」
「恥ずかしがることでもなかろう。当然の欲望だ」
「すこしはボクのことも考えてください〜っ!」
無頓着と言うか、ある意味男らしいと言うか……
「さあ、これを着ていたまえ」
「…………」
小袖を手に戻ってきた頼延さま。かなえの腕と脚に巻かれた包帯を見て言う。
「……これは?」
「あ、その、山で崖から落ちちゃって……」
「なるほど。それで動けないのをいいことにここに連れ込み、香木でたらしこんで裸に剥いたわけか」
「ち、ちがいますよぉ!」
必死に弁解しようとするボク。
「冗談だ。どうせ、捨て置くのも気の毒とか思ったのだろう」
「え、ええ……」
「ふむ……応急処置に関しては問題ない。が、明日には町に出て医者に見てもらったほうが良いだろう」
「そのつもりです」
「……ところで」
「はい」
「景佳くんは、このヒトを養うつもりがあるのだろうね?」
「や、養う?」
急に言われて、たじろいでしまう。
「怪我が言えた後のことは考えているのだろうね、ということだ」
「そ、それは……」
じつは、そこまで考えていない。
「……なるほど、まだそこまで考えていないか……じゃあ、少しだけ話しておくか」
そう言って、頼延さまは話し始めた。
「われわれも治安には気を配っているつもりだが、無念なことに、まだまだわが国はヒトが一人で生きてゆけるほどには安定していない」
「……はい」
街道を離れれば、獣もいるし、山奥にはこわい鬼も物の怪もいる。
「ましてや女人だ。一人で生きてゆくといっても辛かろう。そこで、取りうる手は二つだ」
「はい」
「巫女連で引き取るか、君が責任を持って養うかだ」
「み、巫女連で……って」
「巫女連に引き渡すというのであれば、拙者が責任を持って何とかしよう。……なにかと窮屈な場所ではあるが、つまらぬ人売りの手に渡すよりはマシだろうし、多少の金も君には入る」
「……でも、それは」
「もう一つは、君が責任を持って養うということだな」
「……ボクが」
「拙者としては、そうすべきだと考える。拾ったものが責任を持って養うべきだろう。無論、食い扶持は増えるが、じつは君の作品はなかなか評判が良い。これから仕事が増えるだろうし、人手が必要になるだろう」
「…………」
「まあ、急ぎはしない。ゆっくり考えることだ。……ただし」
「……?」
「香木でかどわかしたり、刃物で脅すなどと言うのは論外だ。養う以上は、きちんと愛情を持って、心で繋ぎ止めなくてはならない」
「で、ですから誤解ですってばぁ!」
必死になって抗弁する。
「……くすっ」
横で、かなえが笑った。
「きつねさん、おかしい」
「…………」
「まあ、今夜一晩、ゆっくり考えたまえ。ついでに言うと、伽をさせるならきちんと布団の上でさせたまえ」
そういって、板間に横になっているかなえを見る頼延さま。
「男と女が一つ屋根の下で夜を明かすともなれば、やることも限られようが、畳どころか板間の上で伽を行わせるなど、いくらなんでも無粋の極みだ」
「で、ですから、それはそのっ……」
慌てふためくボクをみて、かなえがくすくす笑っている。
「じゃあ、あまり邪魔をするわけにもいかないから失礼しよう。今日は、この前作ってもらった拵えの礼が言いたくて来たのだが、それどころではないようだ」
「ああ、アレ、うまく合いましたか?」
「うむ。見事な出来だ。国雅さまもお喜びになられていた」
「そうですか」
「あのような仕事をしておれば、これから先、君のつくる拵えを求めるものも増えるだろう。しっかりしたまえ」
「は、はいっ!」
「それじゃあ、拙者はこれで失礼しよう」
頼延さまは、そう言って去っていった。
のこされたのは、ボクとかなえだけ。
「……ね、ねえ……」
「……ん?」
「どうする?」
なんだか、すごく変なことを聞いてる気がする。
「……きつねさん」
「えっ?」
「おふとん、どこ?」
「えっ? ああ、ちょっと待って……って」
「わたし、きつねさんがほしいな」
「…………」
とりあえず、布団を敷くことにした。
そしてその上に、かなえを寝かせて、さっきせっかく着せた小袖を、また脱がせて裸にする。
「……きつねさん」
「ん?」
「わたし……どうなるの?」
「えっ?」
「わたし、もとのせかいにもどれない?」
「……ごめん」
ボクも、あまり詳しくは知らない。
そして、この子がどういう理屈で落ちてきたのか、どうやれば帰れるのかは知らない。
「……いいの」
そういって、かなえは笑う。
「きつねさんがやさしくしてくれたら、ずっと、そばにいてもいい」
そうは言ってるけど、やっぱり、すこし寂しそう。
「……その」
「なに?」
「……ううん、なんでもない」
そういいながら、ボクはかなえの上に覆いかぶさる。
「いたっ……」
「あっ……ごめん」
「ううん、きにしなくていいから」
そう言って、微笑んでくれる。
「あっ……」
かるく、舌先で胸の先をつつくと、ぴくんと、女の子の身体が動く。
ちゅっと、口に含んで軽く吸う。
「ゃんっ」
気持ち良さそうな声を上げて、身体をこわばらせる。
背中と首に手を回して、離れないようにしてから胸を吸うと、そのたびに気持ち良さそうな反応が返ってくる。
「きもちいい?」
「……うん」
背中に回していた腕をほどいて、ボクはかなえの、まだ毛の生え添っていない、大事な場所に右手を伸ばす。
「あ……」
驚いたような小さな声を上げて、足を閉じようとする。
だけど、怪我をしているから、足を動かそうとするとそのたびに痛みが走る。
「っ……」
「うごかないで」
胸から口を離して、そう言ってから、大事なところを指で触る。
「いっ……ひ……ひうっ……」
あまり経験がないのか、指でかるく触られるだけで、悲鳴のような嬌声を挙げて身体をくねらせる。
「ほら、濡れてきたよ」
それでも、半ば無理やり指をこすりつけていると、次第に気持ちよさが勝ってきたのか、女の子はくったりとなって、目を閉じてされるがまになっている。
両足の付け根からは、そろそろ蜜がこぼれかけているみたい。
「はぁ……はふぅ……ん……」
気持ち良さそうなかなえ。ボクも、すこしは自信もっていいのかな。
「ちょっと待っててね」
そう言ってから、棚からあるものを取り出す。……これが頼延さんに見つからなかったのは不幸中の幸いかもしれない。
ボクが戸棚からもって来たのは、香木で作った、ちょっと大き目の張型。
いま、囲炉裏で(間違って)焼いてるのと同じ、催淫の香木で作ったもの。
……じつは、巫女連からひそかに依頼があって作ったんだけど、後から急に依頼の取り消しが来て、それ以来ずーっと戸棚に眠ってた代物。
どうして巫女連がこんなものをほしがったのか、よくわかんない。……いや、わかるといえばわかるけど、わかりたくない。
作ってるとき、妙に細かい指示があったのは覚えてるんだけど。
「……それ……なに?」
かなえが、おどろおどろしいそれをみてちょっと不安そうに尋ねてくる。
「入れた時に、痛くならないようにする道具だよ」
「……おっきい」
かなえが、少し頬を染めて横をむく。
「大丈夫、ちゃんと入るから」
「……きつねさんのは、いれてくれないの?」
少し、恨めしそうな声。
「後から。これで、先に準備しておかないと痛いから」
「……やくそくだよ。こんなのだけなんていやなんだから」
「うん。約束」
そう言いながら、香木の張型で濡れた秘所をかるくなぞってみる。
「んっ……」
かなえが、もじもじと身体をよじらせる。
「動いちゃだめ」
そういいながら、張型をこすり付けるようにして愛撫すると、かなえが、無意識のうちに脚を閉じようとする。
だから、両脚を広げさせて、その間にボクが座る。これでもう、かなえは脚を閉じることは出来ないはず。
「……きつねさん……はずかしい」
かなえが、小さな声で抗議する。
「でも、いっぱいあふれてるよ」
そういいながら、また左手に持った張型でかなえの大切な場所をなぞった。
「んっ……」
大きく身体をのけぞらせて、かすかに震えている。
かなえが、唯一動かせる左手で大事な場所を隠そうとしたから、その手首を掴んで無理やり引き離した。
そして、無防備なかなえの秘所を張型でゆっくりと愛撫し続ける。
「はぁ……あぁん……あぁ……」
かなえの口から、かわいい喘ぎ声が聞こえてくる。
後から後からあふれてくる蜜を、張型で絡め取って、かなえに見せる。
「ほら、こんなにいっぱい出てる」
「……やだ……みせないでぇ……」
恥ずかしそうなかなえ。やっぱり、あんまり経験はないみたい。
「じゃあ、そろそろ入れるよ」
「……うん」
かなえの返事を聞いてから、それをゆっくりと入れる。
「んっ……」
必死に、なにかを我慢している様な表情のかなえ。
張型を奥まで入れると、それをゆっくりとこねくり回しながら上下に抜き差しする。
「あぁっ……」
耐え切れなくなって、切なげな喘ぎ声を上げてる。
「そんなに……うごかさないで……っ……」
かなえの抗議を無視して、ボクは張型を動かす。
ボクが抜いたり挿したり、こねくり回したりするたびに、ちいさく声を上げて乱れる。
「ほら、こんなにいっぱい出てる」
「いやぁ……」
「きもちいい?」
「……きつねさん……ずるいよ……」
「どうして?」
「ちからが……はいんないよぉ……うごけないよぉ……」
甘えるような声で、そう言ってくる。
部屋中に立ちこもる香木の煙と、張型の木から溶け出してくる催淫成分で、内と外から気持ちよくなってるみたい。
前後に張型を動かすたびに、かなえが気持ち良さそうな声をあげて身をよじる。だけど、すっかり力が抜けちゃってるせいで、それ以上は何も出来ないでいる。
ボクが張型を動かすたびに、敏感に乱れるのがすごくかわいくて、そんなかなえの姿をみてると、ついつい意地悪したくなっちゃう。
ねじったり、つついたり、回してみたり、張型を少し乱暴に使うと、かなえがもっとかわいく乱れる。
この子は、ボクのもの。
ボクだけのおもちゃ。
もっともっと、かなえの乱れるところが見てみたい。
囲炉裏端から、甘い香りが流れてくる。
それを嗅いでると、他のことはどうでもよくなってくる。
「あっ……あん……いやぁ……だめ……」
か弱い拒絶の言葉。だけど、ボクは聞こえないフリをする。
張型を動かすたびに、動けないかなえは全身を震わせて乱れる。
これからずっとでも見ていたいくらいに、かわいい。
「だめぇ……おねがい……もう……ゆるしてぇ……」
「気持ちいいでしょ?」
かなえの言葉に、わざと意地悪にそう言って、また張型を蠢かす。
「あひぃ……ひぃ……」
涙を浮かべて、泣きそうな声をだすかなえ。
そろそろ、いっちゃうかな。
「あっ、ひぃ、くひぃ、ひあぁんっ……」
張型を動かすたびに、かすれた様なあえぎ声を漏らすかなえ。
「いっ、いぁ、いやあぁぁぁ……」
そして、泣きそうな声を上げて果てちゃう。
もう、張型も床もおもらししたみたいにぐちょぐちょ。
かなえは、指一本動かせないくらいに疲れ果ててるみたいで、ぐったりとなっている。
そろそろ、いいかな。
ボクが、入れようとした時に。
「景佳くん、すまない」
「うわあぁぁぁっ!?」
玄関から何の前触れもなく、頼延さまの声が。
「ひとつ忘れていたことがあってね。入るよ」
「え、あ、そのっ……」
「…………」
部屋の中を見て、言葉を失う頼延さま。
「いや、あの、これは……」
「……景佳くん。とりあえずそこに直りたまえ」
こめかみを押ささえて首を振る頼延さま。あきれてるんだろうな。
「……はい」
「いいかい。男と女がまぐわうと言うのは、なによりも愛情をもって行うものだ。このような代物でむやみやたらに突けばいいというものではない」
張型を手にとって、布切れで蜜をふき取りながら言う。
「……はい」
「そもそも、張型というものは、本来女人が女人を責めさいなむためのものであって、およそ愛情などとは程遠いものだ。このようなものを使うというのは、人としてやるべきではない」
こういうところ、頼延さまは潔癖だからなぁ……。
その後も、頼延さまのお説教は半時間くらい続いた。
「……まあ、そういうことだ。君も、この子を養う以上はきちんと愛情を持って接すること。そうやっているうちに、しぜんと心を開くものだ」
「…………はい」
「そろそろ、痺れも取れただろう。じゃあ、今度こそ帰るからきちんとやること」
そう言って、立ち上がりかける頼延さま。
「ああそうだ、本題を忘れていた。巫女連から仕事が一件ある。新しく建てるお社の飾りなんだけど、図面はあとで持ってくるから、材料だけでも見繕っておいてほしい」
「あっ、はい……」
「それじゃあ」
ようやく、頼延さまは帰っていった。
「きつね……さん」
「あっ……ごめん」
その声にふりむいたボクと、かなえの目が合ってしまう。
「……いれて」
「えっ?」
「きつねさんがほしい」
「いいの?」
「……うん」
ゆっくりと、ボクのそれを入れる。
自分から入れるのは、じつはあんまり経験がないんだけど。
……その、巫女連に納品に行った時に、いろんな人に押し倒されたり食べられたりすることはあった……から。
「……う……んっ……」
小さく声をあげるかなえ。
ゆっくりと、腰を動かしてみる。
「ぃっ……」
ぞくっとなるような刺激が、ボクを包み込んでくる。
かなえは、半分気を失ったようになっていて、ほとんど反応しない。
だけど、ときどき表情が変わる。
気持ち良さそうになったり、何かを我慢してるような顔になったり。
でも、嫌がってるようなそぶりは見せない。
ボクもそんなに捨てたものじゃないのかな。
とろとろに溶けた蜜と、肉の締め付けてくる感触がすごく気持ちいい。
上から倒れこむようにして、かなえを抱いてみる。
「……きつね……さん」
「きもちいい?」
「うん……あっ、だめ……」
ボクが腰を浮かすと、口では拒絶してるけど、何かをおねだりするような表情でこっちを見る。
「今日から、かなえはボクのものだから」
そういって、ボクはかなえの胸の突起を吸う。
「あっ……だ、だめ、いやぁ……」
口では嫌がってるけど、体の方は正直に反応してくれる。
かなえの大事な場所からは蜜があふれてるし、腰を動かすたびにひくひくと締め付けてくる。
ぞくぞくして、もう何も考えられなくなりそう。
「かなえは、ボクが責任を持って大事にしてあげるからね」
そういいながら、かなえを何度も貫く。
「あっ……あぁ、ひぃん……ひゃう……んっ……」
ボクに貫かれるたびに、ちいさく、だけどすごく色っぽい声を上げて乱れるかなえ。
その夜、ボクは、何度も何度もかなえを抱き続けた。
翌朝。
催淫の香木は、もうすっかり焼けて、煙もかなり薄くなっている。
「……狐さん」
少し恥ずかしそうな表情のかなえ。
「昨日のは、本当の私じゃないから」
頬を染め、目をそらすようにボクに言う。
「その、狐さんが変な木を焼いたせいであんなになったんだから」
「うん」
ボクは、少しだけ罪悪感を感じながら答える。
その、ボクもちょっと昨日はヘンになってたような気がするけど、あまり覚えてない。
「……でも」
「何?」
「特別に、これから狐さんのそばにいてあげてもいいから」
目をそらしたまま、そう小声でいうかなえ。
「本当?」
少しだけ、嬉しくなる。
「……その、本当に特別なんだからね」
「うん。これからよろしく、かなえ」
そう言って、怪我していないほうの手を握る。
「……その……狐さん」
「何?」
「狐さんの名前、もういちど教えて」
「ボクは……景佳」
「けいか?」
「うん。これからよろしく、かなえ」
「……よろしく」
「おはよう、景佳くん」
「あ、頼延さま」
朝早くから、頼延さまが誰かを連れてやってきた。
「街まで運んでもいいかと思ったんだけど、怪我人を動かすのもアレだし、医師と祈祷師を連れてきたよ」
「あ……ありがとうございます」
時々、悪意なく困ったこともする人だけど、本当に頼延さまは面倒見のいい人だと思う。
「とりあえず、この毒煙は換気しておこう。あまり良くない」
そういいながら、窓と言う窓を片っ端から開ける。
「頼延さま、こちらでよろしいでしょうか」
「ああ。そこのヒトの女人だ。落ちてきた時に骨を負ったらしい」
「頼延様の持ち物なのですか?」
「いや、そこの彼、景佳くんのものだ」
「はぁ、この子の……」
「しっかり頼むよ」
「はい」
医者と祈祷師らしい二人が、かなえに近づく。
「景佳くん」
窓際で、頼延さまがボクを呼んだ。
「はい」
「ヒト一人養うとなれば案外大変だぞ。拙者もできるだけ君に仕事を回すようにするから、君も一家の主として頑張ること」
「は、はいっ」
「それから」
少し険しい表情の頼延さま。
「はい」
ボクも、真剣な表情で返事をする。
「今後はあんな小道具に頼らず、自分の肉体で悦ばせてあげなきゃダメだよ」
そう言って、悪戯っぽく笑うと、ボクの肩をばんと叩いた。
「……は、はい……」
「たまには、巫女連まで遊びに来たまえ。夜になれば何かと要求不満な巫女たちがいるんだし、修行相手には事欠かないぞ」
「………………」
耳まで真っ赤になってるのが自分でもわかる。
なにも、そんな言い方しなくてもいいじゃないか。
「まあ、いろんな意味で頑張るんだよ」
そう言って笑う頼延様の横で、ボクはまだ顔を赤くしてうつむいてた。
えーと……一年ぶりですかw
久しぶりに書こうとすると、一年前はこの二人で何を書こうとしてたのかすっかり忘れてて、ほとんど一から書き直してましたw
で、一度は書き上げたけど、読み終えるとどうにも面白くなくて、急に頼延さまを出したり。
たぶん、侍キャラってのは初登場なんじゃないかなと思います。
とりあえず、出来はともかくとして月に二本投下するという目標は何とか間に合ったかなと。
次は獅子国を投下できると思います。
GJです。やっぱり上手いな〜。
景佳くんが行ってる巫女連って、『巫女連の支部』なんでしょうか?
地方の町にある市役所みたいな感じの。
>>249 お褒め頂きありがとうございます。
えーと、頼延さまは左近衛少将という中央の役人で、都とか巫女連の警護を担当している人……なんですが、まあ最近は中央では事件もないし平和なので、こうやって良く外に出てますw
景佳くんは都からはちょっと離れた山の中(日本で言えば、京都から見た伊賀あたり)に住んでいて、普段の仕事は巫女連の地方支部、それっぽく言うと国司に納品したり、商人から依頼を受けて作ったりしてます。
例の張型も、たぶん巫女連でも支部の方からの依頼だったんでしょうw
普段はそうなんですが、頼延さまはあれでもいちおう、中央でそれなりの地位にいる役人なので、頼延様からの依頼は中央からみの仕事ということになります。
まあ、普通はお社の新造とか、飾りの発注なんかは治部か式部の仕事なんでしょうけど、なにかの理由で職人の集まりが悪くて、「すまんが誰か腕のいい職人知らないか?」みたいに言われたのかも。
……それと、この作品では官職を律令制度ベースにしたんですけど、はたして「華蝶楓月」を書かれた狐耳の人がそういうイメージだったのかはわからないんで、そのことはお断りしておきます。
中世のヨーロッパをイメージした作品が多い中、中世日本のイメージて凄いっすね
今日の都から見た伊賀の辺りってのもなんかリアルな距離感です、職人さんは関西圏かな?
いやいや、GJ!です、うん、素晴らしい
頼延さまは盗聴器仕掛けてると思いました。
GJです。いわゆる「中世日本」ってなんか新鮮な気がする〜。
そういえば、獣人視点からの一人称って意外と珍しいような気が。
>>253 > そういえば、獣人視点からの一人称って意外と珍しいような気が。
獣人(男)視点は確かに少ないかな。
獣人(女)視点は割とあるけど。
>>254 ああ、そういえば確かに。
ところで、狐書いてる人、他にも何人かいたよね?
>>255 ここに一人おります。
和が好きなので、狐の国を選んでみました。
まだ全然できていませんけど…。
なんか次の話が中々進まない……。
気分転換に狗国見聞録読んでたら、文才の差を見せつけられて意気消沈……
面白すぎて、引き込まれすぎて、力の差を実感させられるな…………
>>258 書くもののベクトルを変えるというのも一つの方法かも。
何も、誰もが「見聞録的なもの」を書かなくても、極端な話、獣人とヒト召使が出ていて、こちむい世界が舞台でさえあれば、あとはホームドラマでも萌えパロでも何でもできるのがこのスレの魅力なんだから。
一つの方面で詰まったのなら別の方面に突破口を見出すというのもありかと。
ついでに言うと、文才なんて自分で思ってるほど読んでる側は差を感じないですよ。
だからガンガレ。
なんかふと思ったんだけど、書き手の愚痴やら投下予告やらがこのスレ結構多いね。
だからどうとは言わないけどさ。
大半はSS書きの控え室スレとか誤爆スレあたりでできそうなものでもある。
>>258アレだ、見聞録の人は良い意味で『異質』だからw
むしろ貴方の個性を活かして欲しいな!頑張って!
>>260 ちょっとまて、控え室で投下予告なんてデンジャラスな真似をしろと言うのかw
まあ、それはともかくとして、控え室はあくまで一般論や一般知識を語る場所だからなぁ。
スレにはスレごとに特性も歴史もあるわけで、正直、何でもかんでも控え室に持ち込まれてもこっちもレスに困るし。
そのスレ内で解決できそうな悩みとか、そのスレの住人でないと共有できないような悩みはスレ内で書いてもらったほうが、控え室スレがgdgdにならないですむと、控え室住人の意見。
愚痴っぽいことを書き込む際には共通トリップ「#愚痴」とでも
入れて書き込めばみんなが幸せになれると思った俺天才。
あともっと避難所も活用すればいいんじゃね?
せっかくあるんだし。
>>260だけど、言葉が足らなかったようでスマソ。
まあ、「大半ができそうなもの」とは書いたが、「書き手の愚痴やら投下予告やら」と前もって書いているわけで、
それら雑多なものの大半ができる、て書いたけど、投下予告はそれに含まれていないつもりで書いた。
書き方が悪かった。というか俺が悪かった。
>>262 そーゆーんじゃなくて、ここでしか語れないことについて語るレスについてはここに書けばいいし、
それだけが書かれているんだったらわざわざ言い出したりはしない。
控え室でも語れる話題ばっかりのように見えたから言い出したんだが。
スレの空気もあるだろうから、向こう行け、という尊大なこと言い出すわけじゃないけど、
書き手が雑談しまくってるスレってなんだかなあ、と思ったわけで。
これ以上続けても果てしなく不毛になるので、俺はこれ以降レスつけない。
お騒がせスマソ。
愚痴に他の人の作品挙げるのはやめれ
ならば私のアナルに挿入するのはどうだ?
)避難所(
投下予告ってのはスレ初期の方でスレスト防止&種族がかぶらないように自然発生したこのスレの風習だからねえ。
原作があるわけでなし、さりとて勝手に書けるわけでなし、な奇妙なスレだよなここ。
いや、そこが好きなんだが。
確かに、投下予告には設定衝突の調停って云う役割もあるんだよな
純粋な一次創作でもなく、かといって二次創作でもない1.5次創作wな部分が、書き手としては魅力的なんだろうなぁ。
創作にあたって高い志を持つのはいいことだが
「俺はこんなにストイックな姿勢でやっているのだから
お前らも見習ってそうしろ」と口に出した瞬間にもう
かっこよくはなくなってしまう。
皮肉なものだ。
いつもロムっていてスマヌな、このスレを愛好してやまぬ者ですが
楽屋裏、ひいては創作の裏を見ているようで
これはこれで興味深く読ませてもらっていますです。
でもなかよくしてー。
別に喧嘩してるわけでもないし、他人に主義主張を押しつけてるわけじゃないだろ。
提言なんだから、受け入れられないものに対しては、大人な作者は喧嘩なんてせずに、
スルーするだけなはずだから、別に今の状態を荒れと見なくてもいいんじゃない?
まあ、新作が投下されたらきっとまたスレのふいんきもよくなるさ。
……それにしても、このスレが立ってからたった二週間なのに、前スレからは想像もつかないくらいSS投下量が多いなぁ。
しあわせ。
274 :
鼠担当?:2006/10/04(水) 23:15:23 ID:D7JlADdj
『無垢と未熟と計画と? ラヴィニアの一日』 を投下します。
短編だったはずが、何故か膨らんで結構長くなってしまいごめんなさい。
誤字脱字、文法がおかしい所があったらごめんなさい。
今日のばんご飯はハンバーグ。
「りょう、それだと焼いたときに崩れちゃうよ?」
「やってみなきゃわからないじゃないかー」
いいごたえすると、ねえさんは、ぼくの頭をはたく。
いたくはないけどなんだかなぁ?
「ほーら、仲良くしなさいっ」
「「はーい」」
がんばってみるけど、かあさん や ねえさんみたいに、上手にできない。
「俺やることないなー」
お酒をのんで楽しそうな、とうさんのこえ。
「あなた、手伝わないとプロポーズの言葉、言いますよ?」
「すいません、手伝わせて頂きます」
いっつもこんなかんじのとうさん と かあさん。
「やってらんない」
それを見てあきれるねえさん。そして、まだがんばるぼく。
……俺はその日、そんな夢を見た。
「あ、おいしい」
「そりゃどうも」
今日は年に数回しかない私の貴重なお休み。
いつもはのんびり寝て過ごしていたんだけど今は"りょー"がいる。そのお陰で退屈せずに過ごせる訳で。
「ほんと、りょーって多才だねー」
ロレッタも、多才だが"りょー"もそれに近いレベルで多才だ。それに比べて私は、書類仕事と殴り合いくらいしか能が無い。
「ねえさんに『コーヒーも淹れられないような弟は婿に出せない』とか言われて練習しましたし」
「ははは……」
おねーさん……か。どんな心境でそんな事言ったのか今の私には分からないけど、気まぐれって事はないんじゃないかな?
「あ」
と、小さく声を上げる"りょー"。
私は首だけ後ろに回すと、コーヒーの追加が置いてあるテラス端の小さなテーブルで固まっているのが見える。
「あー、ご主人様、紅茶の葉っぱ買ってきますね」
「ん、えっと、無くなっちゃったの?」
「えぇ、ロレッタが帰ってくるまでに買ってこないと……」
エプロンの紐を解きながら"りょー"はぶつぶつと何か言っている。
ネズミの耳はウサギほどではないけど結構いいから、何を言っているのかくらい分かる……ついでにお昼ご飯の材料も買って
くるつもりみたい。
ん〜よしっ!
「りょー、私も行くよ」
「えっ!」
かなり驚いたような顔。……私、嫌われてる?
「いや、えっと、嫌なら別にいいわよ!?」
慌ててる所為か私の声のトーンが跳ね上がるが、心はズドンと沈みこむ私。
「い、嫌じゃないですよ。ただ今日お休みなんですから、休んでてくださいな」
「本当にそれだけ……?」
「それだけです」
"りょー"に疑いの目を向けて問うが、ちゃんと見返して答えてくれる。
嘘じゃないみたいだけど、ロレッタなら『んじゃ行こうか』で言って終わりそうな事なのに私だとワンステップ必要らしい。
「ご主人様が嫌なら、俺逃げ出してますよ」
ぶーたれる私に"りょー"は冗談めかしてそんな事を言ってくれる。くよくよ考えても仕方ない。
「それは分かったけど、私も行ってもいい?」
「えぇ、もちろん。お昼は外って事ですか?」
「そだねー」
リゼットからいくつか美味しいと言われる店を聞いておいてよかったー、と心の中で大喜びの私だが、ふと自分の服装見てみる。
厚めの生地の白いブラウスに、黒のロングスカートな地味な格好に一応おしゃれのつもりで首元に赤い紐でリボンのように
締めてるが、あんまり意味が無い。
まぁ、私服自体あんまり着ないからよくわからないけどね……。
「ちょっと、出かける準備してくるね」
「分かりました、玄関で待ってますね」
すたすたと、玄関へ向かう"りょー"の姿を見ながら私は自分の部屋に入ってドレッサーから髪留めを取り出す。
私のくすんだ金色に白のメッシュが入った髪色は、ほとんどこの集落には居ないので、この色=私になのでいろいろ面倒
なので、いろいろ小細工をする必要がある。
「ん……」
その一つが、長い髪を纏めてアップにする事。こうすることで目立つ長い髪を隠せるので大抵は便利だが、これだけじゃ
ちょっと足りない。っと、仕上げに髪留めを付けてっと。
かーさんから初めて買ってもらった髪留めだが、ちょっと古くなってきたけどまだまだ現役だ。
「よしっ」
私は自分の部屋をきょろきょろとお目当ての代物を探す。……と、あったあった。
急がないと、りょーが待ちくたびれてしまう。
はしたなく階段を鳴らして降りるとすぐそこに玄関。そこに居るだけで絵になる……それは主人としての欲目かしら?
「……なんで麦わら帽子なんか持ってるんです?」
私の手の中にあるそれを視線で指す"りょー"……その正体は麦わら帽子、しかもかなり大き目の奴だ。
「ん、これはね……」
「あぁ、なるほど」
私が麦わら帽子を被って見せると納得したように"りょー"が頷く。
これをかぶるとアップにした髪が隠れるだけでなく、耳の毛色まで隠せるので私だとバレにくいのだ。
ちなみに大きめなのは、耳まで入れる為だ。
「じゃ、いこっかっ!」
私は自然を装って"りょー"の手を握る。そして、顔をちらっと見るとちょっとだけ笑っていたので私はすぐに目を逸らす。
手を握るたびにあーだこーだ言い訳しても『はいはい』でかわされるのでもう言い訳はやめた。
見透かされているならそれでいい。
そう最近は思えてきた。だから、もうちょっとだけ素直になろう、かな?
「ん〜どれがいいのかな?」
「ロレッタ、葉っぱ変わると怒るから同じの買わないといけないのよ……私は何でもいいんだけどね」
紅茶の葉っぱ専門店へ早速来た私たちは、いつもの銘柄を探す。
店の中にはお客が数人と店員さんしか居ないけど、恥ずかしくて手は離している。
「ご主人様、アレかな? 字がそれっぽいんだけど」
「ん……そうだね」
ひょいっと指差したのはまさにいつも飲まされてる、もとい飲んでいる葉っぱ。
取ろうと思ったけど私の背じゃちょっと届かない。えーと踏み台、踏み台……。
「はい」
「うわっ」
私の後ろから"りょー"の両手が伸びて軽々と葉の入った袋を掴んで私の目の前まで降ろしてくれる。
それは非常に助かるんだけど……私の首に"りょー"が手を回し、見方によれば私が後ろから抱きつかれているような格好だ。
たった、たったそれだけのことで私は、口の中が乾いてくる。
(落ち着きなさいっ! 私、この程度のことでうろたえてどうするのよっ!)
「うん、ありがと」
表面上はなんでもないように装うのは得意だけどここまで苦労したのは久しぶりだ。
大きい袋に入っているお茶の葉を備え付けの小さな袋へ入れて作業終了。
「これ、戻して頂戴」
「はい」
軽々と"りょー"が袋を戻して終了。……たった5分かそこらの事なのに、かなり精神力を消耗した気がする。
「この分でいいんですか?」
「足りなくなったらロレッタが買い足すでしょ、多分」
そういいながら、私達はカウンターへ向かい店員さんへと小さな袋を差し出すと重さを量りだす。
あ、そうだ。
「すみません、帰りに取りにこれます?」
「えぇ、できますよ。何時くらいにお取りに来られますか?」
「んー4時くらいで」
「承りしました……この重さなら銀貨20枚です」
銀貨20枚を私の財布から取り出し、店員さんへ手渡す。それにしても随分高価な代物だ。
「はい……お名前は?」
んー、どうしようか。本名そのまま使うと面倒だしなぁ。
「ラヴィニア・アスペルマイヤーです」
「え?」
「はい……ありがとうございましたー」
後ろにいる"りょー"が声を上げるが、後回し。私は何か言われないうちにそそくさと店を出る。
「えーと、ご主人様?」
「んー?」
店を出るといろいろ言いたそうな顔でたずねて来る"りょー"。
「なんで――」
「はい、ストップ〜」
人差し指を立てて、"りょー"の真似をして見たが効果は絶大。
"りょー"はイヌみたいに素直に押し黙ってこっちを見つめてくる。
あぁもう可愛いなぁ……ごほん、さて本題に行こうな。
「アスペルマイヤーってのはとーさんの姓なの。ヒュッケルバイト使うと、私が王家の人間ってばれちゃうし、ね?」
「あ、なるほど……って事はご主人様の、おとうさんは入り婿って事なのか」
「そう言う事よ」
なぜか"りょー"は『おとうさん』の所で一瞬詰まった気がしたが、私は気にせずくるっと反転して石畳の道を歩く。
その後ろから遠慮がちに付いて来る気配が感じ取れて思わず 顔が綻ぶ感触がする。
「それと、私のシャンプーとか細々とした物も買わなきゃいけないし……」
続きを言うのはちょっとだけ勇気が必要だった。
「買い物、付き合って……くれる?」
時間にして一瞬。けれど私にとっての数時間。
「いいですよ、ご主人様」
「ほ、本当?」
私は天邪鬼だから彼の顔は見ない。というか見れない。
だから、あっちには私の声だけ。こっちも彼の声だけ。だから嘘は吐き放題じゃないかな……?
「こんな事で嘘吐いてどうするんですか……細かいところに気がつかなくてごめんなさい、ご主人様」
逆に謝られてしまった。
「次から気をつければいいんじゃないかな?」
「それもそうですね」
ああもう私は何処まで不器用なんだ。『ごめん、言わなかった私も悪かった』と、たったそれだけなのに。
だから――
「ほら、急ぐよ。りょー!」
「おわっ」
私は"りょー"の手を取って走り出す。
言葉は不器用でも態度や動きなら素直になれる。
……この時の私は、意識せずに、自然に、"りょー"の手を取れたと思う。
ラッキーな事にお気に入りのシャンプーが半額で入手。
美味しいコーヒーが飲めた上に"りょー"と一緒に買い物までできるなんて、今日の私はかなり幸運だ。
「〜♪」
思わず鼻歌まで出てしまうのは仕方のない事。うんうん。
「ご主人様、そろそろお昼時ですけど……?」
「え、もうそんな時間?」
振り向くといろいろ荷物を持った"りょー"。
私は自分の物は自分で持つと言ったんだけど、どうしても持つを聞かないので仕方なく持たせている。
「あ」
と私が声を上げると、お腹の底に響く鐘の音。
この集落の中心にある時計台から鳴っているこの鐘は三時間ごと(夜中は無し)に鳴っているので便利な事この上ない。
……最近老朽化が激しくて、補修費用が掛かって仕方ないからなんとかしないとなー。と、今日はとりあえず後回し。
「んじゃ、行こうか、りょー」
「えぇ」
ここからだと通りを何本か越えないと外食街に入らないから結構遠い。しかし、何も持っていない私はかなり手持ち無沙汰だ。
「そういえばご主人様。王族なのに、なんでロレッタは髪伸ばさないんですか?」
と、"りょー"からの突然の質問。あっちも持ってるだけじゃ暇らしい。
「んー、一つはあの子、病気がちだったから髪の毛を短くして病気のリスクを少しでも回避するため」
手を繋いでない方の手を後ろにいる"りょー"に見せるように出して親指を指を折り曲げ、『1』を示す。
「二つ、あの子の髪質がちょっと癖っけが強くて、長くすると外ハネするのよ」
人差し指を折り曲げて『2』。
「三つ、『髪長くするとねーさんと比べられて嫌』……これが髪を伸ばさない理由よ」
中指を折り曲げて『3』を表してぶらんと腕を伸ばす。
「なるほど、髪伸ばすのって大変ですねー」
「男の子には分からないお話だけどね」
私の髪質は『かなり癖がない分面白くない』とかーさんに言われたくらい癖が無い。
ポニーテールとか、ツインテールとかに弄ったがイマイチしっくりこなくて結局ストレート。
私自身も髪型も服装も地味だなぁ……かといって派手なのもあんまり好きじゃないけど。
「りょーは、どんな髪型の女の人が好き?」
「…――げほっ! げほっ!」
……違うっ!
「ごめん、どんな髪型が好きなのっ?」
「え、えーと……ははは……」
私、いくらなんでも直球すぎよ。でも笑って誤魔化す"りょー"もちょっとアレじゃないかな……?
「ほ、ほら、外食街ですよご主人様」
「ん、そうだね。でどうなの」
「いや、ははは……」
私がしつこく食い下がっても、"りょー"は困ったような顔と微笑みで結局ここまで誤魔化された。
意外と手ごわく、これ以上追求しても答えないだろうから無言で小走り。もちろん手を引いてだけど。
「おしゃれですねー」
赤を基調としたカフェテラス付きで確かにおしゃれだ。
せっかくなので、空いている外の席に二人で座る。
「いらっしゃいませ、ご注文をお決まりでしょうか?」
「ん〜」
ウェイターさんが出てきて注文を取りに来るが、初めて来たので何が美味しいか分からない……定番でいくしかないか。
「パスタのミートソースでお願いします」
「はい、デザートは……」
「レアチーズケーキでっ!」
「はい、畏まりました」
思わず即答してしまう。いくらなんでも好物だからって気張りすぎよ。
「りょーは?」
「……同じもので」
「はい……では少々お待ちください」
そういってウェイターさんは奥へ引っ込み、消える。
「りょー、なんで同じもの頼むの?」
"りょー"が何を食べるのかのもちょっと興味あったんだけどなー。
「いや、メニューの字読めないので」
あー、"りょー"ってばまだ2週間ちょっと程度しかいないんだっけ。字を覚えるのが早かったから忘れてた。
それにずっと前から居たような感じがしてたしなぁ……。
「今度から、そーいうこと言わなきゃだめだよ?」
「はい」
ちょっとだけ照れの混じった苦笑いをうかべる"りょー"。
私、素直にまた『ごめん』っていえなかったなぁ。……次こそはちゃんと言うぞ私っ!
そんな事を私が決意した頃に皿を持ったウェイターが料理を運んでくる。
「お待たせしました、ご注文のパスタ二つ、お持ちしました」
そこに並ぶのは中くらいの二つの平皿にちょっと多めに盛り付けられたミートソースのかかったパスタ。
美味しそうな芳しい香りが食欲をそそって、口の中に唾が溢れてくる。
「えっとじゃ、ご主人様」
「うん」
一息。
「「いただきます」」
そう言って私たちはパスタを勢いよく食べ始める。
んー、確かに美味しいけどイマイチ味が濃いような気がする……まぁ十分美味しいけど。
「……大きな声じゃ言えませんけど、俺、味が濃くてちょっと苦手です」
「実は私も」
茶目っ気たっぷりに笑う"りょー"に私も似たような表情でお返し。同じ感想でちょっと嬉しい、ううん、かなり嬉しい。
「っはは」
「あはっ」
互いの表情が面白くて吹き出してしまう私達。
こんなに楽しい昼食は何年ぶりだろうか。自分のの記憶を探ってみると、多分リゼットとの初対面の時の昼食じゃないかな?
そんな感じで楽しく会話し平皿の上の麺はなくなる頃を計った様に、デザートのレアチーズケーキがやってくる。……サー
ビスなのか紅茶まで付けるのは流石。
それはともかく、私はレアチーズケーキには大好物なのでちょっとうるさい。
そういうわけで一口。ぱくっとな。
「ん〜〜♪」
パスタはちょっと微妙かなー、と思ったけどこのレアチーズケーキは絶品!
何処も柔らかめなのが多いけど、ここのは程よい固さで私好み。その上、ちょうどいい酸味が効いて甘さが上手に引き立ってる
から侮れない。
さらにビックリなのはサービスの紅茶。苦手な私でも楽に飲めるのだからかなり気を使っているのだろう。
「ご主人様、俺の分も食べる?」
「いいの?!」
言ってからちょっと女の子らしくないなぁ、と後悔。……この程度の事で幻滅されなきゃいいけど。
「俺、ケーキ苦手なので……簡単なのは作れるんですけど食べるのはちょっと」
すっと差し出されたのはお皿に乗ったケーキ。
「……う、うん。貰うね?」
「どうぞ」
微笑と共に差し出された誘惑には勝てず、私は大人しくもらってしまう。
確かに美味しいけど、二人で一緒に食べればもっと美味しいとおもうんだけどなぁ……?
――ん……一緒? そうだっ!
「ね、りょー。あーん……」
「い゙っ!」
フォークでケーキを一切れ刺して、それを"りょー"の前に持っていくと案の定硬直して目がぐるぐると回している。
「一人で食べても、楽しくないでしょ?」
「そ、そりゃそうですけど、周りの目もありますから……」
「大丈夫、周りカップルだらけだし、ね?」
慌てて周りを見回す"りょー"。私の言ったとおりカップルだらけなのを確認するとがっくり肩を落とす。
「りょー、なんならここで"私とりょーの関係"をしっかりと定義する?」
「それは勘弁してください〜!」
「なら、はいっ」
ぐぐいっとさらに身を乗り出して、"りょー"へケーキ一切れを差し出す。
気恥ずかしさが無い訳じゃないけど、木を隠すなら森だし、変装をしているから誰も私と気づかないだろう。
なにより、本気で困っている"りょー"の表情は最高だ。
「あ、あーん……ん、意外と甘くない……」
「でしょー? だからはいっ」
「え、でも……」
フォークと手付かずのケーキを"りょー"へ返す。が、一度差し出した物を受け取るのは引っかかる物があるらしく歯切れが悪い。
「りょー、こうしようか。自分のケーキを互いに食べさせあえばいいでしょ?」
「それは――」
「"関係の定義"」
「……………………はい、分かりました」
『はい』というまで、しばらくの"困った表情"成分を取れたので大満足。
最近、軽い我侭じゃ『はいはい』で流すようになってきたからちょっと不足気味だったんだけど、これでお腹いっぱい。
「ご、ご主人様。あ、あーん……」
「あ〜ん♪」
やっぱりご飯は、楽しく、美味しく食べないと、ね?
カフェテリアで食べさせ合いが終わったら"りょー"が、
『休ませてください』
と、言ったので少し休ませた後、違うデザートでまた同じ事をさせて"りょー"は精根尽き果てたようにぐったりとしいる。
「ご主人様、恨みますよ……」
「何なら、拒否すればいいのに」
「俺は奴隷ですから、ね」
むー、こっち方面から改心させようと、思ったのだけれど意外と頑固で効果は薄い。
流石にずっとここに居るわけにも行かないので、グロッキーな"りょー"を強引に引きずりつつ食料品街へやってくる。
「……えぇと、今日の晩御飯……」
ここに来てなんとか、活力が増え始めたのか目に力強い光が戻り始めるが、まだまだ体はふらふらしている。
ちょっと、遊びすぎたかしら……?
「今日は何を作るの、りょー?」
「んー、ハンバーグかな?」
「ハンバーグ?」
このあたりじゃ、小麦や野菜を使った料理は多いけど肉類のバリエーションは少ない。
ネズミ自体あんまり食べないし、入手できる肉も少なめだからだ。そういうわけでハンバーグという料理は知ってても、
私は実際には食べた事が無かったりする。
ちょっと、楽しみ。
「懐かしい夢見たんで、作ってみたいなぁと思ったんですけど……」
「材料は何使うの?」
「玉葱、卵、塩、コショウ……」
と、言った物を一つ一つ買い揃えていく私達。
荷物がどんどん増えて、可哀相なので『私も持つ』とは言ったのけれど、強情にも決して"りょー"は持たせてくれない。
「肉が見つからないなぁ……」
「仕方ないよ、ネズミって肉食べないからそういうお店少ないし」
んー、と眉間に皺をたっぷり寄せて悩む"りょー"。こっそり私が手を繋いで隣にいる事に気づかないほど悩んでいる。
路地裏なら完璧に覚えてるんだけど、お店の種類までは記憶外。そっち方面のはロレッタの方が上だ。
「ちょっと、諦めきれないなぁ」
それを言う目はとても遠い所を見ているような感じがして、私は握った手により力を入れる。……絶対に離さない様に。
"りょー"は、たまにこんな目をしている事がある。
何を考えているか分からないけど、ふらっと居なくなる様な感覚に囚われる。
奴隷の本人の意思を尊重するとか言っていながら、逃がさないように手を握り、言葉で縛る私。
……ダブルスタンダードは大ッ嫌いだけど、この問題だけはどうしても解けない。
「ん、ご主人様、あれは肉屋さん?」
「え?」
考え事に没頭していたから、声を掛けられて急停止した思考がばらばらになる。
「あれ、あの店」
指差されたお店の看板を見れば確かに『お肉屋さん』。何故か人が群がっているけど。
「行ってみましょうっ」
「え、えぇっ?」
私が手を引いてそちらへ引っ張ると、――多分、私が手を繋いで隣に居る事に気づかなかったのだろう――ちょっと
慌てたような声を上げる"りょー"。ちょっと可愛いかも。
「どんな肉使うの?」
「え、えぇと合びき肉って言って、豚肉と牛肉を混ぜた代物なんですけど」
「豚肉? 牛肉?」
「んーと……」
どんな動物の肉なのか説明してくれたけど……多分シュバインとリントかしら?
「おじさん、シュバインとリントの肉を混ぜた物あるかしら?」
「お客さん、お目が高い! 今日は、合びき肉がセールでして安いんですよ、いかがですかっ!」
勢いはあるけどどこか腰が低いような気がする対応だけど、安いならいいかな?
「どれぐらい必要かな、りょー?」
「3人分ですから350gくらいあればいいかと」
「はい、お包みいたします」
そそくさと店の主人は包んで、私は銀貨と品物を交換する。
受け取った肉は、包み紙で覆われて当然中が見えない。
触れてるとわかるが温度が冷たい上に、ちょっと力を入れると形が変わって面白い。
「ご主人様、合びき肉って痛みやすいですからさっさと帰りましょうか」
「え、そうなの?」
肉の神秘を楽しんでいると"りょー"そんな事を言われた。
というか、合いびき肉って見た事ないなぁ。
「えぇ、結構簡単に痛んじゃうんです。……それに食べ物で遊んじゃいけません、ご主人様」
ひょいっと私の手の中にあった肉を取り上げて、"りょー"は袋へ仕舞う。
もうちょっと遊んでいたかったが、すぐ痛んじゃうとの事なので仕方なく大人しく従う私。
「あー、あっついー」
通りに出て歩いてみると、ちょうど日が一番強い時間帯らしく、じりじりと日差しが突き刺さる。
私は帽子を被ってるからいいけど、"りょー"はそんな事を一言呟いて大人しくなる。
……両手が重い荷物で塞がっている上、こうも日差しが強いとそりゃ誰でも静かになるわね。
「あそこで、休みましょう」
「……え?」
「ほらほらっ」
「あ……はい」
暑さと疲れのあまり反応が遅い"りょー"を引っ引っ張って、小さな公園のベンチに座らせる。
もちろん、日差しの入らない涼しい木陰のベンチだ。
「あーでも、肉が悪くなるんで早くいかないと……」
「そんなふらふらでどうするのよ、お肉は換えがきいてもりょー本人は換えきかないだから、休んでる! いいね?」
「ぁう、はい」
流石に正論だったからかベンチで"りょー"はぐったりとへたり込む。
んー、水分取らせないとマズイかな? ちょうど奥でで飲み物売ってるみたいだし。
「ちょっと飲み物買って来るね。動いちゃダメよ」
「す、すいません……あー」
なんか危なそうなので小走りで奥の飲み物売り屋へ向かう。
そういえば昼食の時、紅茶に一切手を付けてなかったなぁ……全く。
「はい、落とさないようにお気をつけて」
「ん、ありがとう」
中身がなみなみと入った大き目の紙コップを二つを片手に一つづつ持って、"りょー"の元へゆっくりと歩く。
「あれ?」
戻ってきてみると、小さな女の子が"りょー"の隣に座って楽しそうに話をしてるのが見えた。
私の心に何か黒いものが纏わり付いた気がして、かぶりふってそれを振り払う。
……あーよしなさい私。あんなに小さな女の子に嫉妬してどうするのよ。
「りょー、おまたせ。……その子どうしたの?」
しまった。ちょっと平坦すぎ。
「迷子みたいだったから座らせたんだけどまずかった?」
「んー、そのうち親御さんが探しにくるでしょ……はい、りょー」
「どうも、ご主人様」
紙コップを受け取った"りょー"は、一気にコップを傾け、喉を鳴らしながらジュースを飲んでいる。本当に喉が渇いていた
らしい。
私は、女の子を挟むようにベンチに座る。……ん?
子供特有の無垢でいながら何でも見通すような瞳で見上げられると、思わず目を合わせてしまう私。
「おねーちゃん……女王様?」
「い゙っ」
一発で見抜かれるなんてちょっと洒落になってない。
嘘ついても無駄だろうし、何よりバレてしまったのなら仕方ない。
「うん、そうよ。女王様のラヴィニア・ヒュッケルバイトよ。なんでわかったの?」
「写真で見たとき、すごいきれーだったから」
「ご主人様、よかったですね」
「り、りょー、変な事言わない。……飲む?」
「うん、ありがとうございます」
"りょー"の冷やかしが気恥ずかしくて、つい勢いで飲み物を女の子にあげてしまう私。
渡した飲み物の末路を見てみると、女の子はストロー使って飲んでるけど、結構飲むスピードが速い。
やっぱり、この子も喉が渇いていたらしい。
「ふふ」
一生懸命、飲んでは休み、飲んでは休みを繰り返すこの子を見てると微笑ましくて思わず表情が緩む。っていけない。
私だと分かっているんだからふやけた表情はマズイよね。
「おいしい?」
「うんっ」
あー可愛いなぁ。
と、頭でも撫でるつもりなのか"りょー"の手が伸びる。
「いてっ、ご、ご主人様……?」
伸びた手を抓る私。
「前も言ったけど、女の子の耳に触れる事には意味があるのよ」
一応、あれはホント。とは言っても、もう古い言い伝えみたいなものだから実効性はないけど、"りょー"には私以外の人の
には触れてほしくない。
「あれは、冗談だったんじゃ……」
「さーどうでしょー?」
ちょっと悪戯っぽい表情を私はしているはず。
"りょー"の顔がちょっと引き攣ってて面白い。しばらくこのネタで遊べそうかな?
「えと、女王様」
「ん、おねーちゃんでもいいわよ。で、なにかな?」
あー、意識して威厳を出すのは難しい……
「これっ」
「あ゙!」
「え?」
女の子が出したのは私の写真……の小さいヤツ。
青と白を基調としたドレスを着て椅子に座って微笑んでる写真だがかなり恥ずかしい。
「きれーでしょ?」
「……うわ」
まさか取り上げる訳にもいかず、私は顔を手で隠して、ただただちっちゃな嵐が通り過ぎるのを待つしかない。
「うん、ありがとね」
お、おわった……?
「ご主人様、綺麗ですねー」
「っ」
――ハメられた。
終わったと思ったらそれは"りょー"のフェイントで、私は目を輝かせて持っている写真を見つめる小さな姿を直視してしまう。
さらに、ふっとこちらを見つめられては全く動けない。
「……ドレス着てみたい?」
硬直した思考でやっとの事で捻り出した言葉はそれだった。
「うんっ!」
大きく頷いた姿に思わずデシャブを感じてしまう。
私も小さいとき、かーさんの着ていたドレスに憧れていた時期があった。
確か、あの時は――
「それじゃ、あなたが私くらいの歳になったら家に来なさい。あげるから、ね?」
ちらっと主人を騙す不届き者を見ると、少し驚いたような顔をしている。その表情に内心満足しながら私は続ける。
「ほんと?」
「えぇ、ほんとよ」
私のドレスはほとんどかーさんやお婆様の物を直した物ばかりで私が作らせた物はない。着る機会もないしね。
ここからは、女王として言ってあげようかな?
「一人で着ても楽しくないでしょ? 王子様とか欲しくない?」
「うーん」
可愛らしく頭を抱える姿に緩みそうになる表情を自制しつつ、頭を撫でる。
「今は分からなくてもいいわ、でもドレスを着るだけじゃ満足できなくなって誰かにも見せたくなる時が絶対来る」
「……うん」
私の声に真剣な物を感じ取ったのか、子供なのに大人しく聞いている。
「だから、勉強して偉くなりなさい。そうすればドレスだって好きなの買えるし、見せる事だって出来る」
「んー」
「もちろん、勉強だけじゃだめよ。目標を決めて頑張るの」
「よくわかんない」
ちょっと、早過ぎたかしら?
「さっきも言ったけど、今は分からなくてもいいわ。頑張るなら財務局に行ける様にするのがいいわよ」
リゼットの所はいつも人手不足らしいのに試験の質落とさないもんだから忙しいこと極まりない。……その代わり給料は
いいのだけれど。
「リゼット様、怖い。ネコだし」
「いいネコもいれば、悪いネコもいる。それなのに、『怖い』からって全部を捨てちゃうのは勿体無いよ」
「んーんー」
もう混乱してちょっと泣きそうな女の子。調子にのって言い過ぎたかな?
「ま、大きくなったら私のところに着なさい。この写真に載ってるドレスあげるからね」
「うんっ! お返しに、アヤトリ見せてあげる!」
「「アヤトリ?」」
私と"りょー"でイントネーションの違う同じ言葉を口にしたにも関わらず、女の子満面の笑みでポケットから赤い紐――端
と端が繋がっているやつを取り出して手に絡ませ始めた。
子供とは思えないほど正確で早い動きで紐を弄ってできるのは……
「とうきょうタワーっ!」
「え?」
すっとんきょんな声を上げたのは"りょー"。目を丸くしてかなり驚いているみたいだけど?
「これ、あっちの世界の建物です……」
「……なんですって?」
つまり、この子はヒトの世界にある物を糸で作り上げたと言う訳で。
少なくともヒトが関わっていないと分からない事実だ。……ていうかコレっ!
「貸してもらっていい?」
「うん」
紐を借りて、僅かな記憶の糸を手繰り寄せる。
確か、うん……これを、こうして……!
「時計塔……」
お婆様に同じものを習ったらそんな事を言っていたはず。
「女王様、知ってるの?」
「お婆様から習ったの。あなたは?」
「死んじゃったおばあちゃんからー」
……同じ物を作っていながら名前が違うってどういう事? お婆様の世代というと大体50年前位からかしら?
「考えるのはよしましょう、ご主人様。ここで考えても答えは出ませんし、何より意味がないです」
「あ……」
おもわず思考の堂々巡りに入りかかったのを"りょー"の声で止まる。
「それに、ほら」
視線で指した先には、母親らしい姿がなにやら――たぶんこの子を探しているのが見える。
「おかーさんっ!」
手を振って答える女の子。一応釘刺しておこうかな。
「私が、女王様って他の人に言っちゃ駄目だよいいね? 秘密だよ?」
「うん、秘密っ♪」
そう言うと女の子は飛び出す様にベンチを降りて母親の元へ走っていく。
「ばいばーいっ! ヒトのおにちゃーんっ、おねーちゃん!」
女の子は片手をを母親に繋がれながら、私達から見えなくなるまで元気に手を振っていた。
私にもあんな時期があったかしら……それはともかく、
「で、りょー聞きたい事あるんだけど」
「えぇ、どうぞ」
そう答えながら"りょー"は、残り少なくなった飲み物を名残惜しむようにちびちび飲んでいる。たまに混じる何かを
噛み砕く音は氷かな。
一応確かめておきたい事がある。
「もしかして、小さな女の子って好き?」
「ゲホッ! ゲホッ!!……な、何を……?」
すごく慌てた感じので咳き込む"りょー"。やっぱり小さい子がいいのかな?
「だって、さっきの子にも妙に優しかったし、ロレッタにもフランクに話してるし……やっぱり小さい方がいいのかな?」
「誤解ですっ! さっきのは子供だから! ロレッタは危なっかしいからっ! それ以下でもそれ以上でもありません!!」
大声で、それはもう慌てて反論している姿を見てると、ますます怪しく見える。
「ふーん」
「あー、だからっ……もう、どうにでもしてください」
泥沼の雰囲気を嗅ぎ取ったのか、"りょー"は諦めたように背もたれが軋むほどもたれかかる。
フェイントの仕返しだったけど、ちょっとやりすぎかな……でも、本当だったら……イヤ、かな。
「りょーが、好きなタイプを言えば解決するじゃないの」
「ゔ……そういうの苦手なんですよ……」
嘘を言っているようには見えないから、本当に苦手なのかな。
ま、いろいろ言いたいけど及第点って事で。
「それにしても、あの写真綺麗でしたねー」
「――っ!!」
あー、その事は言わないでー言わないでー。
「うー、面倒な問題をもってくるなわねー」
「ねーさん、うるさい」
ロレッタが帰ってきて、日も沈んで"りょー"が料理中の休日の夜。
いくら休日と言っても、完璧に仕事がない訳じゃなくて量が制限しているだけのお話。案の定、家に帰ると急ぎの書類が
届けられる。
……急ぎの書類ほど難しい判断が多い気がする。
「ねぇ、ねーさん。今日の晩御飯何か知ってる?」
机に向かってなにやら書いているロレッタが、思い出したように頭を上げる。
「ハンバーグって聞いたわよ」
「へー、わたし食べた事ないや」
「私も無いわよ」
「……ご主人様ー、ロレッター」
そんな事を話していると、台所で料理しているはずの"りょー"に私たちは呼ばれて台所へ入る。
「あぁ来たね、二人とも」
入ると、肉の生臭さが微かに鼻についてちょっとキツイ。ロレッタの方も眉間を僅かに歪ませている。
その発生源は恐らく、"りょー"の持っている銀色のボウル。多分買った合いびき肉と材料が入っているのだろう。
「でさ、手伝ってもらいたいことあるんだけど、いいかな?」
そのボウルの中身を捏ね繰り回しながら、妙に歯切れの悪い"りょー"。
「呼ばれてきたんだから、今更イヤって言わないよ。にーさんは妙によそよそし過ぎるのっ」
「ははは……それはともかく、さ」
ロレッタにボコボコに言われて、ごまかし笑いをしながら話を続ける。
「ハンバーグを食べやすい形にしなきゃならないんだけど、手伝ってよ」
『手伝ってよ』の前に一瞬の空白はあったけど、今度は語尾を濁さずにしっかりと言い切る"りょー"。
ロレッタじゃないけど、一緒に暮らしているんだからもうちょっと私達を頼って欲しいかな?
「ほら、ねーさんっ!」
「え? あ、うんっ」
いつのまにかロレッタはエプロンを付けて既に準備完了。こういう手際は台所に入りなれている彼女の方が格段に上だ。
えーとエプロンどこやったかしら……?
「……んで、肉を丸めて……」
「うんうん」
手を洗って、私がようやくエプロンを見つけて着た時には、二人は薄情な事に説明を始めていた。
途中から入ると、どうやら肉をある程度の大きさの楕円にする所らしい。
「で、このまま焼くと空気入って上手に焼けないんだ」
「にーさん、具体的にはどんな風になるの?」
「焼いてる途中にバラバラになったり、食べたときの感触がかなり悪くなる」
「ふむふむ」
どこからかメモを用意して書き込むロレッタ。……あれ、家の妹、こんなに身長あったかしら?
「あぁ、なるほど」
足元を見てみると、踏み台が置いてあってその上に立っていた。その踏み台にはご丁寧にも『本気でわたし専用!?』とか
書いてある。
(たまには、この踏み台使ってあげようかしら……?)
「ご主人様、聞いてた?」
「え、あ、ごめん。聞いてなかった」
ついつい、興味の方に意識が向いてしまった。
一度気になるとトコトン調べたくなって、周りが見えなくなるのは私の大きな欠点だ。
「教えたから出来る?」
「もちろんっ、わたしははねえさんの妹だよ?」
「はは、それもそうだね」
"りょー"、それ褒めてない。
「じゃ、一緒にやろうか。ご主人様」
「あ、うん」
そう言うと"りょー"は私の横に寄ってきて、ボウルから私の分だと思われるお肉の塊を千切る。
どうも肉の色は見慣れない所為か嫌悪感が背筋を這い上がる。
……血の赤色なんて二度と、見たくはない。
「まず、油を手に塗って」
言われた通りに油を手に垂らすと、冷たくて思わず手を引きそうになる、が堪える。後片付けが倍増したら大変だ。
「で、均等に火を通りやすいように楕円にする」
「はーい」
爪の間に肉片が入らないようにしながら地道に形を整える私。
こういう地道な作業は嫌いじゃないが、遊びが無いとちょっと退屈だ。
「にーさん、できたよー」
「ん、上手、上手。で空気を抜くわけだけど、ちょっと見てて二人とも」
そういうと"りょー"は自分のを片手に持って、もう片方を拍手でもするかのように近づける。
「っと!」
一拍気合を入れたかと思うと、両手の間で肉塊が魚か何かのように跳ねて軽快なリズムで音を立てる。
ただ音を立てて跳ねさせているだけじゃなくて、指先や手の形を微妙に変えて形や厚さまで揃えているので驚きだ。
「こんなもんかな」
時間にして数10秒程度の事なのに数倍にも感じるほど、その動作には迫力があった。
「すごいねぇ、にーさん」
私はまだ声が出せなくてロレッタの言葉に何度も頷く。
「ほ、褒めても何も出せないよ?」
"りょー"は照れてるのか頬をかきながら、トレイに空気を抜いたハンバーグの素を置く。
やっぱり、褒め慣れてないのかな? まぁ私も人の事言えないけどさ。
「ほら、二人ともやってみて」
そう促されて私達もさっきの真似をして、空気抜きをしてみる。
物を投げる時と同じ要領で出来るので私は楽だが、ロレッタはよく料理はしていても慣れない動きの為かかなり危なっかしい。
「ロレッタ、私がやろうか?」
「……自分でやる」
そういやこの子、変なところで負けず嫌いだから逆効果だったかしら?
「んじゃ、焼く準備するんでご主人様は、ロレッタの方を見てやってください」
「そうするわ」
あっちは焼くだけみたいだし、私は横で見るだけにしておこう。
「うぅ〜」
「手首効かせれば、やりやすいわよ」
「あ、ほんとだ」
「んで、後は勢いよ」
適当な説明だが、この子ならちゃんと分かってくれるだろう。
しばらく見ているとコツを掴んだのかパンパンと軽快な音を立てて形が整えられていくのが見える。
「できたよー、にーさん」
「ん、そこのトレイに置いて。今焼くからさ」
「はーい」
台所の端の椅子に座って、そんなやり取りを私は見てると料理するかーさんとロレッタを思い出す。
"りょー"はかーさんとは似ても似つかないし種族も性別も違う。けど、料理してるときの楽しそうな背中がそっくりだ。
私はいろいろあって、とーさんと勉強したりしてあんまり見る機会は無かったけど、あの時の光景は今でも脳裏に
焼きついている。
ふと、ぼけーっと二人の動く様を見ててふと気が付く。
「あ、片付け」
いくら"りょー"が片付けるとはいえ、私もここにいるのだからそれくらいはしないと示しが付かない。
というわけで、立ち上がろうとするとロレッタに止められる。
「ねーさんは、そこで座っててよ」
「私も何か手伝わないと」
ほとんど何もしてないんだからそれ位はやらないとね。
「それじゃあ、ねーさん。この皿の置き場所は知ってる?」
「……えーと、分からないです」
「んじゃ、このトレイ」
「ごめんなさい、分かんない、ねーさんよろしくー」
「はいっ」
今日初めて分かった事だが、台所じゃ私は役立たずというか邪魔者、という事だ。
……全く、路地裏の道とか知っていても商店街の店並びどころか、台所の物の配置すらしらないのね私は。
仕方ないので、ロレッタの動き回る様子や"りょー"の後姿を見て我慢。
「〜♪」
"りょー"の方を最初に見てみると私お気に入りのフレーズを鼻歌で歌っている。
どうやらヒトの方の歌らしいけど、"りょー"に歌詞を聞いても分からないそうだがテンポがいいから好きかな。
「うぅ」
それにしても、焼けた肉の香りが芳しく、油の跳ねる音も相まって思わずお腹がなりそうになる。
肉を見るのはあまり好きじゃないが、こういう匂いなら好きかな?
えーと、ロレッタの方は……例の踏み台に乗って、鍋を上の棚に入れようとしてるけど鍋が大きすぎてひっくり返るところ
だった。
…………ちょっと、まてぇ――!
『危ないっ!』
"りょー"と私はほぼ同時に動くが、距離的に近いあちらが近い。
(それなら私はサポートに回る)
そう結論付けて、私は台所の端から端まで一気に踏破する。
「――っと」
「はぁ……危なかった」
「あ、はははは……」
ロレッタの乾いた笑いを聞いて、私は深い深い溜息を吐いた。……鍋抱えながら笑う姿はとってもシュールだ。
そうやって、"りょー"が大きい鍋を抱えたロレッタを抱き上げるような格好で、私がそれを支えている。何故か動きづらくて
そんな状況を数分くらい続けていただろうか、奥のほうから妙な臭いがしてくる。
「……りょー、フライパン大丈夫かしら……?」
「――っ! ごめん、ロレッタ頼むっ」
そう言うとロレッタを私に任せてコンロの方へ慌てて走っていく。
「ん、と、ロレッタ、無茶しちゃダメよ?」
「あーうん、分かったねーさん」
ロレッタ下ろして一息吐いて、叱る私。
にこにこ笑っていて、イマイチ効果が薄い気がするけどまぁいいかな。
「ん、二人とも出来たよ。お皿だしてー」
「「はーい」」
危なかったとはいえ"りょー"に抱きとめてもらって羨ましかった……なんて思ったのは絶対秘密だ。
夕飯を食べ終え、ロレッタは部屋で引っ込み、"りょー"は台所でカチャカチャと音を立てながら食器洗いしている。
私といえば、"りょー"の淹れてくれたコーヒーを飲みながら一応仕事中。なのだが、どうも煮詰まって頭が回らない。
「うー」
王の権力自体は50年前のゴタゴタで大きく制限され、その代わりに仕事の量が激減してかなり楽にはなったはずなんだけ
ど、私がリゼットを『財務』に置いた為、その質が劇的に上昇してもう大変なわけで。
私、この先やっていけるのかしら……?
「って、ダメダメっ。ネガティブ方面に偏ってる」
できるできないの問題ではなく、やるしかないのだから選択の余地はない。……と結論付けて考えを切り替える。
(とりあえず、夕飯の事にしようかな。)
夕飯のハンバーグはちょっと焦げてたけど頬が落ちそうなくらい美味しくて、ソースも"りょー"が準備したのだからビック
リだ。
でも後片付けでロレッタも手伝えるのに、私は台所で役立たず。これでいいのだろうか?
……もしかして、私要らない?
「あぁ〜! もう、ネガティブに考えすぎよ私」
髪の毛先が見えるくらい頭を振って変な考えを吹き飛ばす。
(時間が早いけどいつもの散歩に出て気分転換しようかな。ぐるぐる考えてもネガティブに傾いた挙句、仕事が進まないん
じゃ意味がないし。)
そう結論を出して、私は急いで部屋に戻り着替える。とは言っても、汗をよく吸うズボンや下着、上着に着替えるだけで
あんまり色気がない。あっても使い道ないけど。
「あ、ご主人様お出かけですか……?」
ちょうど外に出ようとドアノブに手を掛けると、ちょうど"りょー"が台所から出て声を掛けられた。
エプロンはもう何処かに置いたのか着てないし持ってない。いつもの格好だ。
そういや、いつも外に出ていること教えてなかったっけ?
「ちょっと気分転換にね、一緒にくる?」
「えぇ、行きましょうか」
なんの気負いもなく言った自分にビックリ。弱気すぎて少しでも明るい話題が欲しかったのかも。
それに即答する"りょー"にもビックリだけどね。
「ん〜〜〜っ」
背伸びをして深呼吸すると、夜特有の冷ややか空気が体に染み渡って気持ちいい。
空も昼と同じく、雲ひとつ無く星と双月がくっきりと見える。
「気分よさそうですね、ご主人様」
「そう?」
確かに、外に出るだけで気分が軽くなった気がする。
それじゃぼちぼち、準備運動しようかな。
「……散歩じゃないんですか?」
屈伸や足首を捻ったりと準備運動に勤しんでいると、"りょー"がおずおずと声を掛けてくる。
「散歩というか、この町壁を一回り走るのが私の日課……って、知らなかったの?」
「初耳ですよ」
必要ないから喋らなくてもいいかな、と思ったけど、言わなかった所為か"りょー"は珍しくちょっと怒ったような顔。
あんまり見慣れないから妙に迫力があるように感じる。……と、一つ大きな溜息を吐いた。
「終わった事を今更言って仕方ないです……一緒に走って勝負してからご主人様への罰を考えます」
「ふふ、仮にもこっちの世界の住人だよ私は」
予想の斜め上の答えに私は戸惑いながら、挑発してみる。
"りょー"ならのってくる……そんな根拠の無い自信が私にはあった。
「言いましたね、ご主人様ッ――」
と、いきなりスタートダッシュでどんどん小さくなる"りょー"って、
「うあ、卑怯だー!」
ヒトとはいえ、流石に男の子。体力はそこそこあるらしく私が走っても相対距離はなかなか縮まらない。
持久戦という手も無きにしも有らずだが、相手の体力がどれくらいか分からない以上危険だ。
「ん……よし」
卑怯だが、路地裏のショートカットを全速力で抜ける事を私は選択。これならフライングはちょうどいいハンデだ。
っと、パン屋を右に曲がらないと。
そんなこんなで、細い路地、物が一杯置いてある路地、広場のような路地すべてを全速力で走りぬく。
台所や買い物じゃ私は役立たずだけど、この町の道は全て知っているし、彼の考えている事もある程度分かる。
……だから、勘だけで"りょー"のいる予測地点へ迷い無く走りきれる――
「フライングは卑怯だよっ!」
「う、うそ……ご主人様、速過ぎ!」
私が横道から飛び出すと、丁度"りょー"同じ場所。全力で走った甲斐があるというものだ。
驚いた拍子にちょっとスピードダウンしたようで正しくは若干私が先だ。
『…――!』
ショートカットをして僅かに私が前だが、全力で走った私の体力は大きく削られておよそ残り5割。
一方、"りょー"の方はまだ余裕のある風に見えるが所詮ヒト。幾らネズミの身体能力が最低ランクとはいえ勝てなきゃ、
この世界で生き残れない。
むしろ、勝って主人に勝負を仕掛けた事の罰をしなきゃね、ふふふ……。
「……負け、るかぁ」
そんな声が聞こえたかと思うと追い越して先へ行く"りょー"だがとたんにバテるような兆候が見える。
私は大人しく先行する"りょー"の真後ろにつく。これやられると精神的にかなり追い詰める事が出来る。
「ほらほらー、ゆっくり走ってると追い越しちゃうぞー」
「ぐ、う」
ちょっと声掛けるだけで必死な顔してスピードアップ。だが、すぐに力尽きて遅くなる。
じわじわと体力を削る陰険な真似だとは思うけど、勝つ為だからごめんね。
「お先に〜♪」
そんな事を何回も繰り返すと流石にへこたれて加速しなくなったので、私は"りょー"の脇を抜ける。
"りょー"はペース配分が苦手な所を見ると、体力づくりに走る事はあっても競技として走る経験は少なめなのだろう。
が、しかし気合とか根性とか精神面は侮れない。その証拠に……
「絶対、勝、つ……」
「うわわわっ」
残り体力と意地を全部をつぎ込んだようなダッシュする"りょー"。
追い越される時の鬼気迫る横顔に慄きつつも、私は何故かワクワクしてくる。
久しぶりに本気を出せる……そう思ったからかもしれない。
それなら、さっさと決めてしまおう。
「二人で座った公園が、この真っ直ぐ先にあるんだけど、そこがゴールよ。ヒトには丁度いい、ハンデでしょ?」
「上、等ッ!」
ちょっと悪戯っぽく言ったつもりだったのだが、私と併走している"りょー"の顔からバテた表情が一切消えて無表情……というか
微かに笑っている。
それはいつもの優しい物ではく、将軍がたまに見せるような刃物の様な笑みだ。
――後、500メートル。
「ヒトに……負けるかー!」
私は温存した体力を全開放。ラストスパートへ一気に体を傾ける。
と、"りょー"もそれにあわせるようにスピードを更に引き上げる――ってまだ上がるのっ!?
――後400メートル。
「……っは……っは……」
そこからは私も"りょー"も僅かな体力の消耗さえ恐れて無言。
ただただ、前へ前へと靴裏を石畳へと叩きつけ、走る。
――後300メートル
と、私は自分の靴に微かな違和感。
ちらっと見ると、紐が解けかかっているのが見えてもっと丈夫に結ぶんだったと今更後悔。
今はいいけど、もしかしたらもうちょっと先で解けるかもしれない。
ここで止まる?……否、私の矜持が、自信がそれを許可しない。
今は、この勝負を全力全開で勝つ!
――後200メートル。
「ち……」
しかし、どう思考しても足の感覚は紐の緩みを欠かさず伝達し、集中力を薄めて負けを勧めてくる。
全く冗談じゃない。
そうこうしてる間に、最初は併走していたはずがじりじりと私は離されていく。
歯を食いしばって体を動かしても紐が脳裏にちらつき、残り少ない体力とスピードをロスさせる。
――後100メートル。
なんとか付いていってるが、それが限界で越すは夢のまた夢。
負けたら悔しくないの、私?
ヒトにかけっこで勝負して負ける王に人に従うと思う? 力関係で負ける主人に従う奴隷は居る?
……悔しいし、そんな人に従う民も奴隷も居ない。たとえ従っても所詮"お情け"だ。
少なくとも私は、そんなのは耐えられない。だから――
――後50メートル。
「私は、負けられないのッ!」
紐の解けかかった靴を脱ぎ蹴り、もう片方も脱ぎ捨てる。石畳が多少痛いが四の五の言ってられない。
無論その効果はすぐに現れる。
解けかかってた所為でフラストレーションの溜まっていた足はいつも以上にスムーズに反応、行動する。
「うぁ……!」
ちらっと後ろの私を見た"りょー"の、顔が引き攣ってかなり失礼な反応した。……後で説教だ。
――後10メートル。
ラストスパートする"りょー"だが、今になってばてたのか一気に遅くなる。
一生懸命、走ろうとする素振りは見えるがペース配分をミスったツケがたった今、来たのだろう。
これで――
「私のッ! 勝ちぃ〜!」
その公園への第一歩は、私の右足だった。
「ははっ、私の勝ちぃー」
「……はぁ、はぁ、はぁ……」
ゴールしたらもうくたくたで地べたに二人揃って背中合わせに座り込む。
誰も見てないだろうし、なにより、こんなに気持ちよく走った感覚を忘れたくない。
「なんでっ、息……はぁ、切れてないんですか?」
「あは、まだ余裕あるからねー」
思いっきり嘘をつく私。
息が切れたように見えない呼吸法なだけで、正直倒れそう。……背中合わせだからバレていそうな気もするけど。
「……あの遠くに見えるのは、誰の靴ですか?」
私が切れてない様に見えるからか強引に呼吸を整えて、そんな事を訊いて来る"りょー"。
予想はしているのか呆れるような声音が強い。
「ふふ、勝つためには仕方ない犠牲よ」
「物は言い様ですね」
まぁ靴は帰りにも拾うとして……背中合わせに座っているから当然だが、"りょー"の体温がじわじわと私の背中に感じる。
それが妙に嬉しくてもっと背中を預けてみる。
「〜♪」
2週間ちょっと前くらいに始めて出会った筈なのに、昔からの知り合いの様に感じている私が心のどこかに居る。
まるで――
「……ありがと、そしてごめんね、ご主人様」
「感謝される謂れも謝られる理由も、今の私にはないわ」
折角のいい気分に水を挿されて険を声に混じらせる。
いつもは前置きがあるから分かるのだけれど、今度ばかりは推測しかねる。
「ハンバーグなんて食べなれない物を食べてくれた、感謝と謝罪をしようと思って」
……本気? "りょー"は鈍いと思ってたがここまでとは流石に参った。
関係の定義以上にこっちに関しては厳重に説教しておく必要がある。
「私もロレッタも食べたくない物は食べないし、作るのも手伝わない。それなのに、謝ったり、感謝するなんておかしいわよ」
「でも」
「いーい? 一緒に暮らし、同じものを食べて、共通の話題で会話する。これはヒトの世界ではなんて言うのかしら?」
ちょっと意地悪な質問だったかなと後悔するが、喋ったのだから撤回は不可能。
「……家族?」
「そう、家族よ」
言葉にしてかみ締めるとよく分かる。
血や種族が違っても、今、こうして仲良く暮らしている。
まるで寄せ集めの様に脆い、そして弱いけれど私達はれっきとした家族だ。
少なくとも、私は考えている……今、気づいたけどね。
「でも、俺とご主人様、ロレッタとはヒトとネズミ。そもそも人種が合いませんよ」
「だから? ヒトの世界にはペットは居ないの? 血が繋がらない家族は居ないの? そんな訳ないでしょ」
「……」
考え込むように"りょー"は静かになるが、私は更に後ろへ背中を預けながら続ける。
「だから、気を使うのはやめなさい。他人にならともかく、私達に使っても寂しくなるだけよ、私も貴方もね」
言いたい事を言い切ると、偶然にも冷たい風が吹き付けて、熱くなった頭が冷えてくる。
今喋った事を思い返すと……ちょっと恥ずかしいかも。
「家族って思っても偽物の家族……とか思ってしまうんですよ、俺は」
多分、かなりいい環境と家庭で育ったのだろう。羨ましいほど真っ直ぐだ。
だから、こうして気を使うし正直に言ってくれる。
「それじゃ、一つ御伽噺をしてあげる」
「え?」
いきなり御伽噺と家族という言葉が繋がらなかったのか混乱するような気配を感じるが、"りょー"なら分かってくれるだろう。
あるところに男がいました。
その男はお金持ちのおじさんに取り入って遺産を貰う為に善人の仮面をつけました。
そして、おじさんが死んだ後、遺言書にその男へすべての遺産が渡ったのです。
しかし、その男は喜びませんでした。
なぜなら、その男が自分の顔を鏡で見たとき、顔には仮面なはずの善人の顔が張り付いていたからです。
「っと、こんな感じの御伽噺よ。私の言いたい事分かるわよね?」
「……えぇ」
分かってくれたならそれで結構。これ以上私は言うつもりはないし、ここより先は"りょー"の心次第。私が踏み込める
段階じゃない。
……さて、帰ろうかな。
夏も近いとはいえ流石に肌寒くなってくる。靴も履いてないしね。
「あぁ、そうだご主人様。いくつか聞きたい事あるんですけどいいですか?」
「構わないわ」
多分、日中のこの公園での出来事かな?
「ヒトって、この辺りには俺しか居ないんですよね?」
「そのはずよ、もしも誰かが拾って売ったりしようにも独自のルートが必要になるしね。なにせ、ネズミは今のところ
存在自体隠蔽してるしね」
私個人の考えを置いとくとしても、公表しても得はないし、国を作ろうにも人数、土地、インフラの全てが足りない。
つまるところデメリットが多すぎるのだ。
「という事は、ご主人様だけがヒト……つまり俺を持っているんですよね?」
「ん、うん。そういうことになるわね」
……昼間の話題じゃないの?
そんあ疑問が浮かぶが大人しく聞くことしか、今の私には出来ない。嫌な予感もセットだが。
「逆説的に、俺の隣に居る人はご主人様という事ですよね……?」
「え、えぇ。ロレッタやリゼットの可能性は有るけどあの二人なら顔知ってる人多いから分かるでしょうね」
リゼットは『財務』担当、ロレッタは学業優秀者のそれぞれでよく知られている。
私といえばあんまり前に出ずに、精々写真でちょろっと出るくらいで知名度はそんなにない。
「……俺と一緒に買い物行ったんじゃ変装してもばれてると思うんですけど、どう思います?」
「え゛」
ち、ちょっと待ちなさい私。
シャンプーが半額だったのも、ケーキに紅茶が付いてたのも、肉が安かったのも、全部私が女王というのがばれてたって事?
……いえ、四六時中手を繋いで歩いたり、あまつさえ『あ〜ん♪』をしていたのも回りに完全公開……?
「あ、れ……?」
「ご、ご主人様っ、大丈夫!?」
『最悪……』と言おうとしても舌回らない。
そして、最後の感覚は石畳の冷たい感触だった。
「ん、あ……」
「起きましたか?」
ゆらゆらと揺られて、宙に浮いているような感触で私は目を覚ました。しかし、どうも視界や思考にも靄がかかったようで
何が起こっているか良く分からない。
「あれ、私……?」
確か、恥ずかしさの余りぶっ倒れたのは覚えているんだけど……。
「って、え、え〜〜!」
何で私"お姫様だっこ"されてるの!?
かなり嬉しいけど、高さがあってちょっと、いえ、かなり怖い。
「ご、ご主人様?」
"りょー"の慌てる声を聞き流して、私は彼の首に手を回して更に密着する。
「た、高い所と水はダメなのよ……ぜ、絶対に手離さないでよっ!」
「わわっ」
正確には高い所というか、地に足着いてないと怖くて怖くてかなりダメ。水もシャワーやお風呂程度ならともかく、池で
溺れた事あるからはかなりダメ。
『王』なのにこの程度の事出来ないでどうする……とか言われたけど、ダメな物はダメだ。
「ともかく落ち着いて、落としませんから。ね?」
「う、うん」
正直な事言うと、宙に浮いてると分かった時腰が抜けて立てない。
時間を掛ければ何とかなるが、"りょー"に知られたら今以上の弱みを見せる事になる――絶対にばれないようにしないと。
「……俺、ここに居ていいんでしょうか?」
出来るだけ下を見ないようにすれば、自然と視線は至近距離の"りょー"の横顔に向かってしまう。
私は、唇の動きから会話の内容は読めるが横顔だけじゃ心の内は読めない。……読めないけど、最善は尽くす。
「もちろん、リゼットやロレッタもそう思っているだろうし、なによりも……」
「なによりも……?」
"りょー"は目の動きだけで私の顔を見つめ、首を傾げる。
視線を合わせながら言うのは結構な勇気は必要だったが、ここまで言ったら引けないと無理矢理自分を鼓舞する私。
「……あなたには、私がいるわ」
「……――っ」
顔を背けて表情が見えないようにしようとしているのだろうが、耳まで真っ赤にしていれば意味無いと思う。
「ふふ、りょー♪」
「……あぁもうっ、く、苦しい……」
そんな態度が面白くて、楽しくて、愛しくて、ぎゅーっと抱きしめる。
未だ"りょー"との距離の取り方が分からないけど、今はこれで正しいと思いたい。
いろいろ大変な日だったけど、今まで最高の休日……いえ、今のところ最高の休日だ。
だってこれから何度も休日はあるのだから……ね?
298 :
鼠担当?:2006/10/04(水) 23:31:08 ID:D7JlADdj
これにて『無垢と未熟と計画と? ラヴィニアの一日』 は終了。
時間軸的には次の話と前の話の繋ぎになります。
次のお話はちょっとアレなので、txt投下する予定です。
あぁもう何で二週間でそんなにふれんどりぃでらぶらぶなんだちくしょー!うらやましー!!
こういうノロケ話大好きだ自分w 幸せな気持ちをありがとうです。GJ!
やばい!
読んだだけで血糖値上がりそうなほど甘ーい!
GJ!!
伏線っぽいものがいろいろ気になりつつ激しくGJ。
ラヴィニアさまかわいいよラヴィニアさま。
いや、微笑ましい、実に微笑ましい。
アレだ、実は女王様だってばれていたってところが実にツボだ!
この二人の交歓シーン、動悸が起きるほど興奮しそうだ。
今まさにオオカミが書きあがりそうなんだけど、何かロボでてきちゃった…
ヤベェェェェェェ!!!!いいのかロボはいいのかぁぁぁぁぁぁ!!!!
ロボってロボロフスキーハムスターの方じゃなくて鉄人とかの方?
シートンの方のロボじゃね?
オオカミの群れの、気高いボスで、人間を何度も欺いていたんだけど、
自分の妻のブランカがとらわれ、妻のために人間に殺されたオオカミの名前が確かロボだった。
>>304 指定した名前だけを別の名前に変換できるツールがある。
本来は同人用のものだけど、それを使ってオオカミの名前だけ変換すればいい。
草原の潮風で既にロボット出てるから世界観をハチャハチャにしなきゃいいんじゃないかしら
そういや魔法ロボ成分って未出ね。必要とも思わんけど。
いや、15歳未満の男の精でなきゃ動かないとかはありか。
……このスレである必要がないな、うん。
ネコの魔法科学者が魔法エンジン内蔵の魔法パワードスーツを人間に着せて
魔法マシンガンぶっ放したり魔法ビームサーベル振り回させたりする話なら書いたことが
ロボが出なきゃ話が進まないなら世界観を壊さない範囲でならいいんじゃない?
ロボである必要もなく、世界観を壊しかねないなら修正をオススメする。
個人的には、ロボは出た時点で機械技術のインフレが高騰する可能性があるのであまり出さないで欲しいが、
まあ、強制はできないしね。
軍事力に圧倒的力差ができる機械兵器が量産されるとしらける。
出自が古代文明の遺産とか、そういう量産がきかないただ一体のみとかだったらおkだけど。
そういやこの世界に古代文明ってあるのかな?
狗国見聞録のプロビデンスの説明でそれとなくほのめかされてたっぽいが、
まあどうなんだろうというレベルでもあったし。
直近の古代文明と言えばザッハーク帝の色々という事になるか。
昨夜は満月のお月様がすごい綺麗だったけど、
兎の国ではこういう夜に教会に集まってお祈りしたりするんかな?
>>315 ああ、なんかやってそうな気がする……
……関東は雨降ってたけどな(;´Д`)
>>314 あるとも言えるし、ないとも言える。
存在することが言及される作品が投下された場合、古代文明は存在するんじゃない?
存在しないということを証明するのは悪魔の証明だし、現状は「わからない」だな。
>>315 素晴らしいヒントをありがとう!なんか突然ウサギの国の話を思いついた・・・・・
でも文章力がないので頭の中だけで満足するよ・・・・・・ orz
>>318 プロットだけ避難所に落としたら?
だれか拾うかも。
いきなり間が空いちゃってゴメンなさい。
じゃあ投下しますね。
「へぇ……、じゃあその“波長” っていうのは、一人一人違うわけだ」
「ええ、そうでしてよ。無機物と有機物、動物と植物。
動物の中でも、私たち人間と四つ足の獣や魚などで大きく違います。
更にその中でも、種族によって違いは有りますし、一人として同じ波長の方はいません」
クユラの説明に、達哉は感心した様子で相づちを打っている。達哉
とクユラの初対面の時、波長がどうとかの話しを少し聞いた。その
波長なるものが達哉には良く分からず、こうしてクユラに尋ねてい
るわけだ。
幸い(?)にも時間はたっぷりあった。輸送車でも2,3日掛かる
と言う距離を徒歩で進んでいるのだから。このまえの盗賊の襲撃で、
輸送車の運転手が命を落とし、輸送車そのもののエンジンも壊れた。
ガルナが直そうと試していたが、部品が大破していてそれも無理だ
と言っていた。
車に乗っても時間がかかる距離を歩きと言うのだから、達哉も目の
前が暗くなってしまう。まあ最初の、レナとの2人旅のおかげで、
達哉の体力も随分と底上げされたらしく、思ったよりも体力がアッ
プしてるのはせめてもの救いだ。あちらの世界にいた頃は大学のサ
ークルも運動系ではなかったし、ここに来たばかりの時は、あっと
いう間に限界が来てレナにおんぶされていた記憶がある。しかし、
もう違う筈だ。もう運動不足で体力の無い達哉は過去のものだ。そ
の証拠に、もう朝から4時間ほど休憩無しに歩いているが、割とい
い調子で歩けている。
「じゃあ、この前の魔法はどうやったんだい?
なんか僕の方まで襲ってきたけど。
僕の波長を知らないとか、そんなのに関係があるの?」
「ええ、重要でしてよ。
先ずは、わたくしが魔法にどんな命令を出していたか説明しなくてはなりませんね」
クユラは達哉の問いに答えようと、どこからかホワイトボードを取
り出す。マジックでそのホワイトボードに図式を書きながら説明す
る。そこには、デフォルメされたクユラと達哉、その他に輸送車の
中で震えるガルナとワザと汚く描かれたレナ、そしてその他大勢の
盗賊たちと、クユラの出した魔法である巨大な火の玉。
「まずわたくしはこの魔法に大して、
5秒待った後で分裂するように命令しましたわ。
そして分裂した後、
近くにある人間の波長を発する者に向かっていくように命じましたの」
クユラが指差し棒を使って、ホワイトボードの中の火の玉を叩くと、
その火の玉があっと言うまに無数の火球へと変化した。絵でもこん
な風に動かせるなんて、正真正銘の魔法だ。達哉は小説やマンガの
中でしか見たこのと無い世界にいるのだと、改めてシミジミと思う。
「そして、その追尾の対象からわたくしとレナさんとガルナの波長を除外しました。
しかし、相手の波長を知るには近くに寄って、心の目で感じ取る必要がありまして、
あなたの波長を調べるほどの時間の余裕はありませんでしたの。
そのせいで、あなたの方にも火球が飛んでいってしまったのです」
「成る程……。そういう風になってたのか……」
口では色々と感心した様子の達哉だが、心の中は割とピンク色だ。
やはりクユラの容姿は達哉が今までに見た誰よりも美人で、元の
世界のアイドルや芸能人でも叶わないと思える。どうしたらこん
な美人になるのかと思うが、生まれつきなのだろうか。15歳ほ
どの外見で、ホワイトボードを使って説明する姿も可愛く、こっ
ちを見ながら“お兄ちゃん”なんて言ってくれたら、どんなに幸
せだろう。
だが、達哉のそんな思考を邪魔するものが現われた。ガルナが達
哉の耳元に囁いたのだ。その悪魔の言葉はあっという間に達哉の
頭の中を書けぬけ、一気に意気消沈させる。
「五百歳五百歳、若作り若作り。あの口調も実は意識して言ってるんスよ。
前に一度、素の状態で話してるとこを見たんスけど、凄かったス」
そう。クユラ本人も隠していないが、相手は五百歳を超える年齢
だと言う。猫人の平均寿命が六百五十歳だと聞いているし、猫人
の六百五十歳をヒトの80歳として計算すると、なんとクユラの
年齢は61.53846152……以後延々と続く少数は省略す
る。まあ要するに、還暦を超えているわけだ。『詐欺も良いとこ
ろではないか』 と言う言葉を飲み込んで、達哉は歯を食い縛る。
10歳サバを読むとか、そんな可愛らしいレベルではない。四捨
五入で60−15=45。ヒトで言うと45歳もサバ読んでる上
に、外見がそのまんまサバ読んだ状態の年齢に合致する。
もうありえないだろ。なんで60のババァがこんなに艶やかでス
ベスベの肌をしてんの。なんで白髪が一本も無い純正のパツキン
してんの。なんでいつまでも15の外見でいれんの。その達哉の
疑問は顔に出てたようで、意外にもレナがその答えをくれた。
「クユラはね、魔法を使って若作りしているのよ。
強大な魔力を持った魔法使いは老化が止まるって言い伝えに聞くけど、
クユラの場合は体の中の魔素の濃度を調整して、老化を抑えてるの。
まあ他にも、魔法だけじゃなくて薬草に怪しいクスリやらのオンパレードだわ」
「どうもレナさん、説明ありがとうございますわ。
でもレナさんでは、わたしくしのような肌は望めませんし、知ってても得はないと思いますが。
それにレナさんの場合は、魔法の素養も大した事ありませんし、真似できませんよ」
ああ、また始まった。何度目かも分からない女性同士の対決に、
達哉もガルナも呆れた表情を隠さない。だいたいの場合、先に
つっかかるのはクユラの方で、レナはそれをスルーせずに買う
形だ。レナのスルースキルは達哉も脱帽していたが、クユラの
挑発だけは絶対に買うのだから分からない。
まあ女同士の情念と言うのは、元から男に理解出来るものでは
ないのだろう。クユラの場合は年長者としてプライドや威厳と
言ったものもあるのだろうし、レナにしてもリーダーとしての
威厳とかそんなのもあるのだろう。まあ、若輩者の上にリーダ
ーの気質も持ち合わせていない達哉には、どちらも理解する事
が出来ないのだが。それはガルナも同じようで、達哉と同じく
頭上に疑問詞を量産している。ああ、彼とはホントに気が合う
みたいだな。元の世界でもこれほど気の合う友人は居なかった
よ。
「そういえばさ、もう4日くらいは歩いてるよね。そろそろ街には着かないの?」
「んー…、今のペースで行ったらあと1週間てトコじゃないスか?
車でも時間がかかるとこを歩いていってるんスし。
まあ、合流場所をここからもっと近い街にするって、
クユラさんがオッサンにコネクトで伝えたとか言ってたし、
そこへなら今日中に突くと思うっスよ」
ガルナの返事に相づちを打ちつつも、達哉は一つの疑問が生ま
れる。早いところ女性陣の言い争いに終止符を打ちたかった事
も有り、それをクユラに尋ねた。
「あれ、クユラさん。そのコネクトって、相手から遠く離れてても使えるんですか?」
「ええ、大体の座標と相手の正確な波長と、十分な経験が必要とされますが。
加えて、距離が離れる場合は相手にもある程度の魔法の素養が必要になりましてよ。
色々とハードルの多い魔法ですから、ワザワザ覚えようと言う奇特な人間もあまり居ません。
わたくしたちのように、少数の集団でなければ、実用性は限りなく低い魔法ですので」
上手い具合にレナとクユラの言い争いも治まった。我ながらナ
イスな采配だと達哉は自分自身に心の中で拍手を送る。ぶっち
ゃけた話しをすれば、別にそこまで気になったわけでもないし、
ほっといたらすぐ忘れてしまったような疑問だろう。
「じゃあ、今晩はベッドで眠れるんですね。うわぁ、楽しみだよ」
「タチヤ、あなたも“蛇足”の一員になるなら、どこでも寝られるようになりなさい。
おまえみたいにベッドじゃないと寝付きの悪い奴は、苦労するわよ」
「………もう十分苦労してると思いますよ。それに、疲労のお陰ですぐ寝ちゃいますし」
街に行けばベッドで眠る事が出来る。そう思うと達哉の足取り
も無意識の内に軽くなった。自分自身でも、現金な性格をして
いると思ったが、人間として当然の感情だと達哉の中で結論づ
けた。レナの言葉で一気に現実に引き戻された感じだが、そも
そもこの世界が達哉の常識を打ち壊してくれてるので、現実感
がどうとかはもう関係ない。
「まあ、レナさん。タチヤをレナさんと一緒にしてはいけませんわ。
立ったままでも眠る事が出来るレナさんと違って、タチヤは繊細でしてよ。
ホントに、わたくしの奴隷になって欲しかったぐらいですわ。
タチヤ、今からでも遅くありませんわ。わたくしの奴隷になりませんこと?」
さっきのレナの言葉の揚げ足を取って、クユラがレナに突っかか
っていく。達哉はもう仲裁するのも面倒になってしまい無視しよ
うと心に決めたが、クユラの言葉が達哉にも向けられているので
、そういうワケにもいかない。そして、同時に達哉の中でピンク
色の思考がスタートする。この世界でのヒト奴隷は、大体の場合
は主への性奉仕を強要される。そして、クユラが達哉を自分の奴
隷にしたいと言っている。これは、断る理由が無いかもしれない。
達哉は、クユラのピクピクと動く猫耳を眺めながら思った。
(だけど……、ヒトの年齢で言うともう61歳……!!)
これは非常にダメージが大きい。外見上は全くそれを感じさせな
いが、本当の事を知ってしまうとどうしても気になってしまう。
真実はときとしてウソよりも人を傷付けると言うが、その話しは
本当だと言う良い見本だ。
達哉が真剣な表情で悩んでいるのを見て、レナはムッとした表情
をする。自分が見付けたモノを取られそうになる事に、怒りを覚
えた。しかもその理由がクユラの外見なのだから尚更気に入らな
い。レナとて、女性なのに半獣の外見だと言う事には、相応のコ
ンプレックスを抱いている。確かに普通の女性よりも身体能力が
優れていると言う利点はあるが、それでも美しい肌が欲しいと思
う事もあった。
「タチヤは奴隷じゃないと何度も言っているわ。
首輪を付けているのも、無いと不便だからというだけよ。
少なくとも私の目の届く範囲に居る内は、対等な立場で接しなさい。
タチヤは、あちらの世界の医療って言う、
私たちの誰も真似の出来ない技術を持ってるんだから」
レナの珍しく達哉を褒める内容の言葉に、達哉はハッと顔を上げた。
そして頭の中で先ほどのレナの台詞をリフレインさせる。ヒトとい
う相手を対等に見る言葉。達哉にはそう接してもらえるのが普通に
なってしまっていたが、この世界においてそれは滅多にない事なの
だろう。ヒトは人権すら認められない、所謂“所有物”だ。それを
対等の立場で見てくれる相手なんて、この世界にどれほど居るのだ
か分からない。レナに拾ってもらえたのは、やっぱり幸運だったの
だなと深く感謝しなくては。
「そう言ってもらえると嬉しいですよ。
レナさん、これからもあなたについて行きます!」
「現金な性格をしてるわねおまえも。まあ、順応力が高いのは良い事だわ」
手の平返したような態度を取る達哉に、レナは苦笑しながら返した。
最初の内は達哉もどこか遠慮したところがあったが、根がおっとり
している方のようで、しばらく一緒に居るだけですぐに化けの皮が
剥がれ、本性が出てきた。出会ったばかりの頃の、相手の顔色を伺
ってばかりの達哉が懐かしい。無理して自分以外の人間を演じよう
としても、そう長続きする筈も無い。達哉を見ているとそれがよく
分かる。
(でも正直な話し、誰かにとられるのも悔しいわ。……バカみたい)
レナは、自分の考えに自嘲の笑みを浮かべた。達哉を対等な立場で
見ようと心がけながらも、どこかで達哉を自分の所有物のように思
ってたようだ。自分が見付けたのだから、それでもいいじゃないか
と。
「タチヤ。これから少し急ぐわよ」
「え…?」
レナは、自分が達哉に対して独占欲を抱いている事に、軽い焦りを
覚えた。今まではこんな事は一度も無かったし、これからもあると
は思っていなかった。その焦りを振り払うために、レナは体を動か
す事を選んだ。単純だが、悩みを忘れるにはこれがよく効く。
「ま、待ってくださいよ。ヒトの僕じゃ、レナさん達が急いだらついてけませんよ」
達哉は慌ててレナの提案を止めさせようとする。歩くだけでもつい
ていくのが精一杯なのに、このうえ更に急ぐなんて絶対に無理だ。
だいたい、もう4日間ほどは歩き尽くめなのだし、先を急ぐ体力が
達哉に残っている筈も無い。
「いいのよ。私が担いでいってあげるわ。
基礎体力を付けて欲しかったから、ここまでは歩かせたけど、
あなたのペースに合わせてたら、時間がいくらあっても足りないわ。
ガルナとレナはまあ、一人でなら割と早く走れるし、
私はヒト一人くらいなら簡単に担いで走れるのよ」
「え、担ぐって……、えぇ!?」
驚きをそのまま表面に表す達哉が面白く、レナは不敵な笑みを浮か
べながら達哉に歩み寄って行く。達哉は助けを求めるようにガルナ
やクユラに視線を送るものの、ガルナは無言で視線を逸らすだけだ
し、クユラは楽しそうに達哉を見るだけだ。
「うわっ、ちょっ、レナさ……がむッ!?」
「暴れてたら舌噛むわよ?」
言われなくてももう噛んでます。そう言いたかったが舌が痛んで言
えない。達哉はレナのなすがままに片腕で捕まえられ、荷物を持つ
時のように担がれる。実は達哉よりレナの方が、微妙に背が高い。
達哉から見れば背が高いのは、モデル体形で大いに結構だと思うが、
肝心の胸の大きさがクユラに負けてしまってるのが痛い。しかし、
それを差し引いてもレナの胸は中々の大きさだ。
(でもな……)
達哉はレナに担がれつつ、また舌を噛まないように気を付けながら
レナの顔を見る。そこにあるのは奇麗な毛並みの雌獅子の顔。“奇
麗” だとは思える。特有の気品も持ち合わせて中々の美人なのだろ
うとは想像できる。だが、全身を包む毛皮と合わせてそこまで魅力
的に感じる事は出来ない。まあ、仮にもヒトなんだし動物相手に欲
情はしない。猫耳とかそんな可愛いモノじゃなくて、丸っきりの全
身毛皮のマズルが飛び出た獣人相手なのだから。
「タチヤ」
「はい?」
「今、失礼な事を考えなかった?」
達哉は冷や汗を流しながら、挙動不審気味にその言葉を否定しよう
とする。だが、さっき舌を噛んでしまった所為で上手く言葉が喋れ
ない。とりあえず身振り手振りで否定の仕草を見せるが、レナが走
り出してしまった所為でそれさえも難しい。やはり仕事柄、相手の
心の動きには敏感な方なのだろうか。これじゃ迂闊に表情の変化を
見せる事も出来ない。しかし、無表情に生活する事など達哉には出
来る自信が無い。だからと言ってレナを避ける事も出来ない。それ
が分かっていて達哉に質問したのか、レナはニヤニヤと意地の悪い
笑みを浮かべている。口の端が吊り上っていて、なんともネコ科の
猛獣が持つ雰囲気を醸し出していた。助けを求めるように後ろを走
る2人に目をやったが、ガルナが決してこちらを見ようとしないの
は最初から分かりきっていた事だ。今さら傷付きはしない。彼にレ
ナに逆らう事を強要するほど、達哉も世間知らずではない。
そしてクユラに至っては、何処から取り出したのかも分からない、
一人用のスクーターのような乗り物に乗りながら、両手話でこちら
に手を振っている。しかも満面の笑顔で。ここへ来てクユラはかな
り腹黒い正確なのではと思い始める。言動の端々に隠し切れないS
の気質が滲み出ているような気がするのは気の所為だろうか。
(うぅ…なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだ。
というかレナさん、担ぐならせめてこんな荷物の持ち方じゃなくて、おぶるなりして下さい。
この体勢で走られたらモノスゴク揺れて気持ち悪いです)
達哉は再度クユラの方を見た。彼女ならばレナにも対抗できる筈だ
と言う願いを込めて。だがクユラは相変わらずの笑みを浮かべなが
ら、苦しむ達哉をサカナに何処からか取り出したお茶菓子を口にし
ている。達哉はまだ、クユラが何かを取り出す瞬間は目撃していな
いが、どこかに四次元ポケットでも隠し持っているのではとしか思
えない事象が連続している。
(ああ無情だ……)
自分を抱えて走る女性に目を戻して、達哉は目を瞑った。揺れる景
色を眺めていると気分が悪くなってしまう。幼い頃から割と乗り物
酔いし易い体質で、小学校の遠足など、地獄の思いをした記憶があ
る。達哉はそのまま何も考えずに時間が過ぎるのを待つ事にした。
早く次の街に着けば良いのに。
× × × ×
それからいくらかの時間が経った後、場所はレナたち一行の目指す街
の中にある宿屋だ。そこのテラスにある大き目の喫茶店で、2人の男
が苛立たしそうな表情で飲み物を啜っていた。待ち合わせに遅刻され
た挙げ句、こちらから出向いて別の街までやってくる羽目になったの
だから、苛立たしい気持ちを表に出すのも仕方が無い。しかもだ。ど
う考えても許せないのが、こちらから出向いたにも関わらず、それで
もなお遅刻されている事だ。乗っていた輸送車が壊れてしまったとい
う連絡は受けた。それでも、自分の知るレナたちならもっと早く着い
ても良い筈だ。
「なあオルスぅ〜……、俺もう退屈すぎて死にそうだよ。
だから言ったじゃんか。露店で売ってた落ち物のマンガ。
あれ前から欲しかった奴だから買ってくれって。
あれがあったら暇死になんてしなかったんだけどな」
最初に口を開いたのは、2人組の片方の鳥人の少年だ。外見年齢は15
歳ほどで、言葉の内容からもまだ中身が子どもである事が分かる。少
年は言い終わった後、自分が飲んでいたジュースを、ストローで最後
まで一気に飲む。ジュースはすぐに無くなって、辺りに響くのは残り
少ない飲み物をストローで無理矢理吸った時に出る、ズズズと言う下
品な音。少年の目の前に座っている、オルスと呼ばれた犬人の男はそ
の音を聞いて、レナたちの遅刻によって不機嫌になっていた表情を、
更に不機嫌に変化させる。不自然に切れ込みの入った左の耳をピク
ピクと不機嫌そうに動かし、唯一モノを見る事の出来る左の目で鳥
人の少年を睨み付けた。右目を潰して頬まで伸びる顔の傷がそれを
引き立て、普通ならば近寄る事も出来ない雰囲気が2人の半径5メー
トルほどに漂っていた。オルスと言われた男は、不機嫌を隠しもし
ない声色で少年に言った。
「男なら我慢しろ。そんな事を言ってるから、
いつまでもガルナにミリーだなんて女の名前で呼ばれるんだ。
……たくっ、愚痴なら後でレナ達にでも聞かせてやれ。俺は御免だ」
「お、俺はミリアルドって名前があるんだ!
ガルナが口ばっか達者なんだよ! 俺はもう子どもじゃないかんな!!」
オルスの口から発せられた“ミリー” と言うあだ名が気に入らなかっ
たようで、ミリアルドと呼ばれた鳥人の少年は、オルスにも負けない
ほど不機嫌そうな表情で言った。自分では『子どもではない』 と言い
つつも、言葉の端々に子どもっぽさが浮き出ている。オルスはそんな
ミリアルドの態度に呆れ果てて遠い目をした。
ミリアルドとは戦闘と言う一つの局面に置いてのみ、激しく相性が良
い。だが、その他の免に関してはハッキリ言って相性が悪すぎるにも
程があるだろうと言った感じだ。ミリアルドは気にならないだろうが、
彼の子どもっぽい見栄や意地を笑って看過できるほど、オルスは子ど
も好きではない。だいたい何でこんなガキが“蛇足” のメンバーとし
てやっていけるのかが疑問だ。実力と言う面で見ればオルスの目から
見ても感嘆するに相応しいものがあると思うが、メンタル面が地に付
いている。見たように直ぐ熱くなる子どもの上に、変なところで意外
と脆く、あっさりと泣き出してしまった事もあった。正直言って、扱
い難すぎる。
「あいつ等もあいつ等だ。いったい俺たちをどれだけ待たせれば気が済むんだか。
……ミリアルド、少し飛んで行って、レナたちが近くまで来ていないか確かめてくれないか?」
オルスは右手を額に当てて、ワザとらしく溜め息を吐きながらミリア
ルドにそう頼んだ。ミリアルドの最も優れた能力は、鳥人の中でも特
に飛び抜けたその視力だ。オルスたちが望遠鏡などを使うよりも遥か
に高い精度で、遠くの物事を見る事が出来る。それは生まれ付きのモ
ノなので、誰かが真似をしようとしたところで真似を出来るモノでは
ない。加えて鳥人の特権、その身一つで空を飛ぶ事が出来るのだから、
遠くから敵情視察する時などに役に立つ。今回も、レナたちが何処ま
で近付いているのかミリアルドに確かめてもらおうと思ったのだ。ミ
リアルドが見ることの出来る範囲にいないのならば、着くのは当分先
と言うわけだ。しかし、ミリアルドはオルスの期待通りの反応はして
くれなかった。いつも通りの生意気さを見事に発揮してくれた解答を
オルスに返す。
「やだね。傭兵はタダ働きするなって、いつもオルスだって言ってるだろ。
だから俺もタダ働きはしないって決めてるんだぜー」
(こんガキャァ………!!!)
ミリアルドの言葉に、オルスは今にも相手を殴り出しそうになる拳を
必死で押え込む。相手はただ態度がデカイだけの子どもだ。そう自分
に言い聞かせて必死に妥協の点を探す。尻尾が不機嫌さを丸出しにし
て縦に振れているが、それさえも今のオルスは気づいていない。ミリ
アルドにとってもこれは日常的な光景なので危機感の欠片も抱いてい
ない。
「……何が欲しいんだ?」
苦虫を噛み潰したような表情で、オルスが捻り出すようにして言った。
目の前の生意気な少年の首を刎ねてやりたい衝動に駆られるが、こん
な公共の場でそんな事は出来る筈も無い。ただでさえ妙な組み合わせ
の2人組みで浮いているというのに、そんな事をすれば更に目立って
しまう事間違いない。
ミリアルドはそんなオルスの様子を楽しんでいるかのように、満面の
笑みを浮かべながら店のメニューを眺めている。そしてしばらく時間
を掛けてどれにするかを考えた後、ニシシとよくあるパターンの笑い
声を漏らしながらメニューのリストの内の一つを指差した。
「これな。ここで一番高いヤツ。
あと添え物の野菜は俺の変わりにオルスが食べて。
それと新しい銃も買ってくれよ。
今の銃はもう飽きたし、次はもっとカッコイイのが欲しいんだけどさ」
「それじゃ釣り合わ……「決まりだかんな!!じゃ、ちょっと見てくる!!」
ミリアルドはオルスの返事もロクに聞く事なく、椅子から立ち上がる
とテーブルを踏み台にジャンプする。そして両方の翼を広げて羽ばた
くと、晴天の空へと上っていく。その際に、テーブルの上に置いてあ
った、オルスの飲んでいたお酒が零れて、着ているコートに零れた。
もともと暗い色をしたコートなので汚れが目立つ事はなかったが、イ
ヌの彼には割と臭いが気になる。ましてオルスの場合は、半分オオカ
ミの混じったイヌなので、普通の犬よりもそういう部分での感度は高
い。鼻が利くのは戦場においては有利な能力だが、日常では案外と面
倒だったりする。
「いつかあのガキをしばいてやる。それまで覚悟してやがれ」
頭上に見える、どんどん小さくなってゆくミリアルドを眺めながら、
オルスは呟くように言った。酒の臭いが付着したコートを脱いで椅子
の背もたれに掛けると、傷だらけのオルスの二の腕が露わになる。コ
ートの下は半袖のシャツで、酒の汚れはコートに遮られ、そのシャツ
までは届いていなかった。『ふぅ』と安堵の溜め息を吐きつつ、足元
に置いてある愛用の鞄からタオルを取り出すと、その端っこを口に含
んで軽く湿らせる。そしてそのタオルで、コートの酒で汚れてしまっ
た部分を拭き始めた。
しかし、オルスがそうやっていると、不意に後ろの方から声がかけら
れた。何事かとふりむくと、そこにいたのは見ず知らずのオオカミの
女性。
「お宅の連れはなんて非常識な子どもなんですか!!
こんな公共の場でいきなり飛び上がるなんて、いったいどんな躾をしているか。
もう少し周りの迷惑を考えて行動して……」
「黙れ。失せろ」
オルスはドスを利かせた低音ボイスで言い放った。ついでに睨み付け
たうえで歯茎を剥き出しにして唸り声を上げれば、相手の女性はいと
も簡単に逃げていく。それを見て、オルスは堪っていたストレスが少
しだけ発散された気がした。
弱いヤツを甚振るのは好きではないが、ああいう手合いならば話しは
別だ。他人の問題に首を突っ込みたがるヤツは好きではない。
「さて、ガキは居なくなったしもう一飲みするか……」
オルスは、ミリアルドへの復讐も兼ねてここから場所を移すことにし
た。ミリアルドは、戻ってきたあとで誰も居ない喫茶店を見て泣いて
しまえばいい。帰ってきた後で誰も居なかったりしたら、ミリアルド
は確実に泣く。その様子を想像して、オルスはフッと鼻で笑った。
「お子様に付き合ってる暇は、生憎と無いんだよ。
泣いてるところをレナたちに慰めてもらえ」
オルスが浮かべる意地の悪い笑顔は、間違いなく彼にオオカミの血が
混じっている事を示している。基本的に真面目なイヌの特性を残しつ
つも、色んな所でオオカミらしさが醸し出されている事がある。
オルスはさっき脱いだコートをもう一度はおると、タオルを鞄の中に
片付け、テーブルに立て掛けていた槍を手に取る。もっとも、槍は布
で包まれており、傍目からはただの長い棒にしか見えないのだが。
「しかし、何か足手纏いになるようなのを、
また拾って来たんじゃないだろうな」
オルスが達哉と出くわすのは、これからもう1時間ほど経った後の事
だった。達哉がオルスにとって、ミリアルドほど苦手な相手ではなか
った事は、双方にとって幸運な事だっただろう。
第4話 終。
時間が掛かった割りに、前と同じくらいの長さですみません。
次はなんとか濡れ場にも行けそうだと思いますんで、よろしくお願いします。
新キャラ補足
ミリアルド
鳥人の少年。外見年齢は15歳ほどで、行動全体に子供っぽさが滲み出ている。
ただひたすら“生意気なガキ” を体現してる感じ。
元々は金持ちの家に生まれたのだが、金銭がらみのトラブルで両親を亡くしている。
視力が非常に良く、鳥人の中でも特出している。
そのため、離れた場所からの銃による狙撃が主な戦法。
仮にも傭兵で食っていけるくらいなので、狙撃はゴ○ゴ13も真っ青な腕前。
しかしまだ子どもなので、素手で戦うとガルナよりも弱い。
中〜近距離での戦闘が得意なオルスを援護する形で任務に就く事が多く、
戦いのみではかなり良い相性。
だが我の強い性格なので、あまり仲は良くない。
根は寂しがり屋で、一人になると途端に弱気になる傾向が有る。
オルス
イヌとオオカミのハーフ。年齢は90(ヒトでの30代半ば)に届くか届かないか。
自分の境遇のため、純粋なオオカミもしくはイヌを毛嫌いしているところがある。
暗い色のコートを常に着用していて、脱ぐと全身が傷だらけの歴戦の傭兵。
また、右目から頬にかけて一筋の切り傷が有り、右目は完全に視力が失われている。
左の耳も戦闘の途中に傷付けていて、虫食い状になっている。
愛用の槍は形状維持と対血対脂耐性の恩恵を買った魔剣で、その槍術は相当のモノ。
また、魔法もある程度こなすオールラウンダー。中〜近距離での戦闘が得意。
しかし、格闘と魔法がどっちつかずなところが有り、実力はレナとクユラに次ぐ3番手。
“蛇足” の中で最も『それっぽい』傭兵。
なんか「萌え」シーンも「燃え」シーンも期待出来そうでいいわぁ。そして幼女ばーちゃんは個人的ツボw
投下乙です!
332 :
318:2006/10/07(土) 21:49:28 ID:mub0wU5D
>>319 そうさせてもらう事にする、ウサギの国の話を書いた人にぜひお願いしたいんだけど・・・・・
投下する作品の容量って、どれくらいあればいいでしょうか?
とりあえずワードとメモ帳で書いているんですけど…。
まずどんな話を貼るのか教えてくれないと
大体、20KBで10レスくらいになるから、それを基準に自分で考えてみればいいかと。
ここ数日にしてはスレの流れが滞ってるな
投下の予兆か、それとも・・・
単純に話題の谷間なだけかと。
谷間って文字を見た瞬間に興奮してしまった…
ウェディングピーチにそんな名前のやついなかったっけ
皆さんに質問ですが
一番王族が滅んでいそうなところってどこでしょうか
猫はフローラ様が、蛇はザッハーク帝が好き勝手してそうですがどうでしょう
ザッハーク帝って故人じゃなかったっけ…最近読んでないから記憶が曖昧…
故人だったような希ガス
ザッハーク帝が亡くなり、小国に分裂した後ならば、滅んだ王家があるかも知れないっスね
それから、オオカミのあたりの部族にも、滅んだ血筋が少なくないのでは、と思っていたり。
343 :
蟲:2006/10/10(火) 00:02:27 ID:PcozoSLw
>342
如何やらオオカミは一応王制のようですね。> 白様(8-67th):狼の国
部族とか氏族が沢山いるようですけど、私は小国家連合体であった中世ドイツの
ようなものだと考えていますが。
一応自分のはオオカミの話なんですけど、そういった国家や部族、氏族の柵とかは
あんまり関係ないストーリーです。主人公は嘗て古き良き時代以前に存在していた
とされる、偉大なるオオカミの王が創設した宗教騎士団に所属するオオカミの修道騎士です。
基本的に主人公が大陸各地で悪を断罪する、というものですが…
落ちモノのヒトがヒトじゃなかったりするのでちょっとびくびくです。
でも虎氏のセリス君の様な魔王じゃないので。純粋な『ヒト』ではないヒトの女の子が、
主人公に拾われて色々とヤッちまう訳です。
>>343 キタワァ*・゚゚・*:.。..。.:*・゚(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゚゚・*!!!!!
とちゅう、どっちがどっちだかわかんなくなっちゃったですが(*ノ∀`)
べすぺかっこいいよかっこいいよべすぺ
wiki は、自由に使っちゃっていいみたいですよー
殺虫剤が効かないときいて、
黒いアイツが頭の隅をよぎってしまって困りました。
…そのうち敵として登場したりするんでしょうか。黒いの。
>>314 たしか、カナリアじゃない方の鳥の人が
古代文明がらみみたいなことを書いてなかったっけ?
348 :
オオカミ書き:2006/10/11(水) 04:31:40 ID:fftIMgHH
出来たので投下します。初っ端から色気も何もなくて申し訳ありません。
題名は『オオカミの騎士〜第一章 銀牙のテンプルナイト〜』です。
我ら誇り高き狼王ロボの子供なり
我ら同胞を愛し慈しみ護る者なり
我ら贅沢を憎み清貧を尊ぶ者なり
我ら淫行を排し貞潔を守る者なり
我ら主神に忠を誓いし従順者なり
―ウォーダン教徒の宣誓の言葉―
*****************************************
地平線の向こうに日が落ちれば、世界は闇に包まれる。
これは古より続きし変る事のない世界の営みそのものである。
だが朝が来れば闇は退き、再び人の住まう世界に相応しい姿を取り戻す。
それらは何ら疑念の予知を差し挟む隙間が存在しない、当然の光景。
だが、果たして本当にそうなのだろうか?
永久不変の宇宙の真理とも言える表裏一体の法則。
即ち光あるところには必ず影が生まれ、正義あるところには邪悪がある。
陽光が生み出した影の中に潜みし人ならざる者の息吹。
夜の闇が世界を閉ざす度に舞い踊る黒いの影。
光さえ届かぬ深淵の世界で怪しく蠢く怪異の気配。
恐らく、誰も気付いてはいまい。ただ、この者達を除いては…
*****************************************
<第一章〜銀牙のテンプルナイト〜>
寂れた墓地を陰鬱な雨が黒く染めていく。既に時刻は深夜を過ぎていた。真夜中の墓地に
生者の気配はなく、地下に眠る死者が此処の静寂を支配しているかの様であった。
冷たい雨が降り頻る寂れた墓地に大柄な人影があった。オオカミの男性である。暗闇の中
にありながらも光り輝く様な白銀の毛並みに目深に被ったフードから僅かに覗く凛々しい狼
貌、深い海を彷彿とさせる碧い瞳が特徴的な若いオオカミである。白い聖印の刺繍が施され
た黒い神父服から察するに、如何やら彼は聖職者の様だ。しかし神父服の上からでも判るほ
ど鍛え込まれたしなやかにして強靭な肉体、背にはウォーダン教の聖印を模した、自身の身
の丈ほどもある大剣を背負い、両脇と腰のベルトには獣人にしか扱えない様な、大型自動式
拳銃が一挺ずつ収まった計四つのホルスターが括り付けられていた。加えて彼からは何処か
冒し難い神聖な雰囲気が漂っており、それらからして尋常ならざる者である事が窺えた。
彼は荒れ果てた墓地の通路を歩き、墓碑の幾つかが倒れた墓を具に見て回っていたが、や
がて比較的新しい墓碑の前で立ち止まっていた。
『ヘルマン・カーンビイ』とその墓碑には刻まれていた。名前の下には大陸暦で生没年月
日が記されており、この墓にカーンビイが埋葬されたのは十日前の事となっていた。しかし
墓は誰かに暴かれた後の様であり、墓碑の前の地面に掘り返された痕跡が見受けられた。
彼はカーンビイの墓碑の前にしゃがむと、土を掬い上げ、そのオオカミの鋭敏な嗅覚で匂
いを嗅ぎ取った。土の匂いの中に微かだが別の匂いが混じっている。死肉の腐敗臭とは明ら
かに違う、邪悪な者が纏う魔力の匂いであった。
「情報通りの様だ」
彼は徐に立ち上がると、背後の古木に向き直って言った。
「やはりこれは擬装か」
不意に空気の流れが変った。ただの静寂が、言い表し難い敵意を孕んでいると言うべきか。
命の遣り取りを日常的に行っている者だけが感じる本能的な危険の予感。気を抜いたらその
場で命を絶たれそうな、冷たい緊張感と瘴気を孕んだ空気が場を支配していた。
「出て来い。ただのオオカミは騙せても私は騙せない」
彼がそう言うと、古木の陰から闇よりも黒い人影が現れた。彼には大気中の瘴気の濃度が
増した様に思えた。否、実際にその人影からは瘴気が放出されていたのだ。まるで世界が一
変してしまったかの様である。その人影を中心に世界の輪郭は曖昧に薄れ、あたかも生命を
与えられたかのように脈打ち、胎動していた。錯覚ではない。確かに足元に大地の脈動が伝
わっていたのだ。何処からともなく生温い風が吹き、死と退廃の匂いを運び込んできた。
「小ざかしい真似ならやめておけ。瘴気程度が私に通用すると思うな」
生ある存在を狂わす高濃度の瘴気の真っ只中にあっても、彼は平然としていた。気高き高
潔なる魂の炎を宿した碧い双眸が、闇より濃い黒い人影を凝視する。
「い、いぐないヰ……いぐないヰ、とぅふるとぅんぐぁ………」
しかし黒い人影が呟いた言葉は、果たして人語ではなかった。獣人の声帯では発声不可能
と思われるその声は、声帯が退化したのか、それとも別の器官を使ったものかの判断はつか
ないが、辛うじて聞き取れるその音が何かの言語を話しているかの様に聞こえたに過ぎない。
喩えるならば異界の言語、とでも言ったところだろうか。およそ獣人のコモンとも似ても
似つかなぬ、穢らわしい事この上ない言語である。
「<暗きものども>と深く通じていたのか…面倒だな」
彼は肩を竦めて溜息をつくと、脇のホルスターから一挺の自動式拳銃を引き抜く。通常の
ものより倍以上の装弾数を持つ長い弾倉が装着された、全体的に肉厚に作られたその拳銃は
大人の獣人でさえ片手で保持し切れないほどの大きさと重量に達していたが、彼はまるで気
にもせずにぴたりと照準を、黒い人影の頭部にしっかりと定めていた。
そして躊躇う事無く引き金を引いていた。墓場を支配していた静寂を破って轟く銃声から
察するに、それは普通の拳銃弾とは何から何まで異なっていた。
それは弾殻、弾芯、発射薬、炸薬量、雷管の細部に渡ってまで吟味され尽くしていた。排
莢口から弾き出され硝煙を纏って宙を舞う薬莢と、派手な銃火をマグナポートより迸らせて
放たれた一弾は、法術儀礼済みの神銀鋼合金製。そして硝煙の匂いからは微かに聖なる魔力
を嗅ぎ取れた。法術儀礼済みの霊薬を混ぜた特殊な発射薬なのだろう。
しかし放った銃弾は何事も無かったかの様に黒い人影の頭部を精確に通り抜け、その後方に
ある墓石を撃ち砕いたに過ぎなかった。影は依然として揺らぐ事なくその場に佇んでいた。
「成程。そういう事か」
別に彼は大して動じる事も無く、何かに得心のいった顔をすると、黒い人影は暗闇に溶け
込むかの様に掻き消えてしまった。そして異変は直ぐに起こった。
今まで静寂そのものであった墓場の其処彼処で、不意に墓石の倒れる音が聞こえた。直ぐ
横の墓を見ると、墓碑の下より、腐敗の進んだ手が雨を降らす夜空へ向って伸びていた。
腐りかけた手指は所々が欠け、肉と毛皮は融け落ちる寸前であり、蟲が涌いていた。胸焼
けのする腐敗臭が鼻を突いた。墓石の下に埋まっているのは無論の事ながら此処に埋葬され
た死者である。本来なら永眠した筈のそれが、信じ難い事に、土中より現れ出でたのだ。
しかし彼は目の前で起こる、死者が蘇るという常識の遥かに及ばぬ光景に全く身動ぎもし
なかった。ただ『やれやれ』といった表情をし、眉を顰めるだけであった。
「埋葬のやり直しだな」
彼が溜息をついてもう一挺の自動式拳銃を脇のホルスターより抜くと同時に、蘇った死者
達は一斉に襲い掛かって来た。だが、彼は極めて冷静そのものであった。
前方から迫り来る死者に向って三発、身体を左右対称に分ける正中線上に撃ち込む。一発
目は頭部、二発目は胸部、三発目は腰部。一撃で獣人を葬るだけの威力を備えた大口径弾が、
しかもそれは法術儀礼済みの特殊なものであり、通常の同口径弾よりも遥かに威力は高く、
そして外道の知識の集大成である秘術に関する事物に対して絶大な効果を秘めていた。
瞬時に死者はただの腐肉の欠片となって吹き飛び周囲に散らばる。それが、並みの拳銃な
ら耐え切れないほどの速度で引き金が引き絞られ、機関銃をも凌駕し兼ねない勢いの速射で
行われていた。一瞬たりとも休む事無く引き続けられる引き金、轟く銃声、硝煙の匂い。前
へ横へ後へと無造作に向けられる銃口は、正確な三撃を死者へと撃ち込み続けていた。
目まぐるしい変幻自在な銃捌き。目の前から迫り来る死者に向って両腕を交錯させて鉛の
シャワーを浴びせていると思えば、いきなり地面に転がって横より襲い掛かってきた死者の
一撃を躱わしながら凄まじい反撃を披露し、素早く起き上がるや否や背後の敵を振り返る事
無く、そのまま無造作に銃口を後方に向け速射する。
流れる様に滑らかな動作で、一瞬たりとも留まる事無く、千変万化な狙いをつける二つの
銃口。そしてそれを操る彼は息を少しも乱してはいない。まるでその全てが華麗なワルツを
踊るかの様に、軽やかで繊細なステップから繰り出されていた。
嵐の様な怒涛の速射の前に、次々と死者の腐りかけた肉体はまるで大砲によって吹き飛ば
されたかの様にバラバラに砕け散り、腐肉と汚水の様な血が雨に混じって墓場に降り注いだ。
しかし直ぐに弾薬は尽きる。通常のものより倍以上の装弾数を誇るとはいえ、流石に人外
の速度で速射されては無理もない。遊底が後退したままとなるが弾倉止めを押し、空の弾倉
が重力に引かれて落下するに任せ、小さく術式を唱える。すると身に付けていた弾薬盒から
弾倉が独りでに飛び出し、寸分違う事無く銃把の下から正確に装填された。そしてデコッキ
ングレバーを引き、装填を完了する。
ほんの刹那の瞬間にて一連の再装填を完了していたが、その間にも死者達は襲い掛かって
来た。だが動じる事無く薙ぎ払う様な足技で死者を蹴散らし、装填の済んだ拳銃による速射
で一瞬にして屠る。
弾倉が再度尽きると、墓場中に溢れ返っていた死者の数は半数にまで減っていた。しかし
それでも尚余りある。彼は触れる事すらかなわないほどの熱を持った二挺を脇のホルスターに
叩き込むと、背負っていた大剣を鞘から抜き放っていた。
それは闇にあっても少しも損なわれる事のない神性の輝きを秘めた白銀の大剣であった。
幅広で肉厚の刀身には、びっしりとウォーダン教の聖なる文字が刻み込まれており、一太刀
振るえば邪悪な存在を一刀の元に葬り去る威力を秘めているのが容易に知れた。
かなりの重量があると思われるその大剣を、彼は軽々と片手で構える。瞬間、彼は一変し
た。別に彼の外見が変ったのではない。発散される雰囲気が変ったとでもいうべきか。
だが死者達はそれを感じる事は無い。強制的に冥界より呼び戻された彼らの魂は既に壊れ
ているのだ。壊れた魂が正常な思考活動など行える筈も無く、彼らを呼び戻した張本人であ
る術者の命令に従うのみの存在に成り下がっていた。自律行動を求める方が無理であった。
だから死者達は恐怖を感じる事無く、目の前の目標に蟻の如く群がる。
故に彼にとっては容易い事この上ない相手である。緩慢な動作で歩み寄る死者達は盲人の
それ以下であった。疾風の如き踏み込みと共に彼の身体は死者の群れの中に飲み込まれる。
剣の重さも己の存在さえ欠片も感じさせる事のない速度。銀色に輝く横一閃が、轟、と疾走
し、死者達が纏めて数体ほど、上半身と下半身に分断されて吹き飛ばされる。そして返す刀
で更に数体を一振りで斬り伏せた。
次々に繰り出されるのは、大剣にあるまじき神速の技の冴え。軽々と斬り返される刃が、
死者の頭を刎ね飛ばし、胴を掻っ捌いて腐った臓腑が零れ落ちさせる。淀みなき流れる清水
の如くの剣捌き。まさに流麗とはこの事をいうのではないだろうか。たっぷりと体重を乗せ
て振り切られた大剣は、その場で一瞬たりとも留まる事無く次の獲物目掛けて襲い掛かり、
鋭い振りとは裏腹に鈍重な一撃によってばらばらに粉砕する。
大剣を振るう彼の呼吸は一つも乱れていない。まるで紙切り小刀でも扱うかの様な軽さで、
楽々と振るっている。だがその一振りごとに確実に、一切の無駄なく、彼の周囲に立ち塞が
る死者達が為す術もなく斬り砕かれ、崩れ去って逝く。
それはまるで剣による優雅な舞踏を踊っているかの様であった。軽やか且つ華麗な足取り
に乗せた体重移動、小さく鋭く振るわれる剣の技は何処までも冴え渡り、次々と骸が積み重
なっていく。
それは完成された死の舞踏。魂に訴えかける様な旋律が特徴的なウルフィッシュ音楽を流
せば、ぴったりと当て嵌まりそうな、非日常的な静かな殺戮の舞踏。オオカミのあの豊かな
自然と湖に恵まれた国が脳裏に浮かぶ。優しく穏やかな響きに合わせて流れる様に踊るオオ
カミの伝統舞踊。彼が死神を彷彿とさせる黒衣の神父服ではなく、オオカミの民族衣装を着
ていれば、踊っている様にしか見えなかった
腐敗し切った肉と血、臓腑が静かな夜の雨に混じって降り注ぐ。そしてその中で銀の輝き
となって、一人で踊り続ける一人のオオカミの聖職者。数で圧倒的優位に立っていた死者達
は、何時の間にか一人残らず消え失せていた。
血が降り、肉が降り、骨が降り、そして遂には彼だけが小雨に打たれながら佇んでいた。
動くものは何もない。墓場に溢れていた死者達は、全て文字通り動かぬ肉塊と化していた。
「この程度か…いや」
彼は大剣を振り、刀身にべっとりと付着した死者の腐肉を払い落とし、背中の鞘に収めた。
「今度はゴーレムか」
背後で瘴気を孕んで生まれ出でた新たな気配に、彼は大胆不敵に振り返る。果たしてそこ
では土塊の山が生命を与えられたかの様に蠢いていた。
やがて土塊の山が更に大きく蠢くと、それは徐々に人の形へと形作られていった。だがそ
の大きさは優に5mはあるのではないだろうか。まさしく土塊で作られた巨人である。それ
が明確な殺意と敵意を持って彼の眼前に聳え立っていた。
しかも眼前の一体だけでは無い。その一体が現れるや否や、それを合図に墓場の彼方此方
でゴーレムが幾体も出現し始める。そしてゴーレムの身体はただの土塊から強固な岩石へと
変貌していた。恐らく、錬金の魔術だろう。それなりに高位の魔術師にかかれば土塊を岩石
に変える事など造作もない。
「そうくるか。まぁいい。ならば此方も遠慮はしない」
彼はそう言って腰の二挺の拳銃をゆるりと抜いた。それらは先程の二挺よりも遥かに圧倒
的な威圧感と暴力を予感させた。
右手に握るのは白銀に輝く鉄塊である。弾倉が銃把の前にあるという独特の配置は、従来
の銃把内に弾倉を装填する形式では扱えない様な大口径弾を発射する為であった。獣人でさ
え両手で保持するのが難しいほど全体が重厚に作られ、発射される銃弾の反動の凄まじさを
物語っていた。そしてただの大口径自動式拳銃ではないのだろう。聖なる文字が隙間無く刻
み込まれており、何とも言えない神々しさを纏っていた。
『法術儀礼済み20mm高性能榴弾弾専用拳銃 フリムファクシ』と魔導金属から削り出
しで謹製された銀色に輝く肉厚の無骨な遊底には、そう黒い文字で刻み込まれていた。
左手に握るのは、白銀の巨銃とは対照的に血の様にどす黒い魔導金属からの削り出しで謹
製された巨銃である。此方は標準的な自動式拳銃の形態をとっていたが、そのサイズはやは
り常識を逸脱しており、ずしりと重そうな外見通り、大の大人の獣人でさえ両手で構えるの
が困難なほどの重量に達していた。
『法術儀礼済み14.5mm装弾筒付き安定翼徹甲弾専用拳銃 スキムファクシ』と白い
文字で刻印されていたが、此方からは神々しさよりも悪魔の様な禍々しさが発せられていた。
彼は両手に握る二挺の常軌を逸脱した大型自動式拳銃の銃口を眼前に聳え立つゴーレムに
翳した。折しもゴーレムは足元の彼を叩き潰すべく、拳を振り上げている最中であった。
別に彼は動じる事なく静かに、左手の拳銃・スキムファクシの引き金を引くだけであった。
轟いたのは、既に拳銃のものとは思えぬ凄まじい銃声であった。閃光にも似た強烈な黒い
銃火が銃口から迸り、野獣にも似た咆哮が漏れ聞こえた。大気を震わし、地面を揺らし、空
間さえも歪めて飛翔する弾丸は、それ自体が絶対的な破壊の化身である。
永久の暗黒より黒い軌跡を残すは闇夜の曳き手・スキムファクシ。
ウォーダン教に於いては高位の神として崇拝されている。その神の名を翳したこの拳銃は
まさしく闇よりも黒い鮮烈なる一弾を撃ち出していた。
スキムファクシの一弾が放たれると同時にゴーレムの巨大な拳がそこに振り降ろされ、両
者は鬩ぎ合う。だが敢え無く決着は付いた。銃口から出た途端に空気抵抗と銃弾の旋動によ
り装弾筒は外れ、輝黒鋼製の凄まじい高硬度を誇る徹甲弾芯だけが驚異的初速によって一瞬
で最高速度にまで達していたのであった。
瞬間的ではあるが、その運動エネルギーは『ネコの赤』、『無双のリナ』、『大陸無双』
と数々の字によって謳われる武勇名高いネコの国の三十の王女が一人、リナが投擲する彼女
の愛槍・方天戟の一撃にも勝るとも劣らないものであった。一瞬だけ硬度の高い物体同士が
ぶつかり合う甲高い音が響いたが、次の瞬間には爆砕音と共に頑強な岩石の腕が、文字通り
粉々となって跡形もなく砕け散り、その衝撃によってゴーレムは踏鞴を踏んで後退していた。
そこへ右手に握る白銀の巨銃・フリムファクシを向け、引き金をゆっくりと引き絞る。
闇にあって光り輝く軌跡を残すは太陽の曳き手・フリムファクシ。
スキムファクシと同じく、ウォーダン教に於いては高位の神として崇拝されている。その
名を翳したこの拳銃はまさしく光よりも眩い一弾を撃ち出していた。
スキムファクシの銃声が雷鳴の様に鋭く轟くのであれば、フリムファクシの銃声は、否、
『砲声』は腹に響く火山の噴火の様に鈍重なものであった。『砲口』より放たれた20mm
高性能榴弾はゴーレムの分厚い岩石の胸板に命中すると、法術式によって強化された炸薬が
炸裂して膨大な熱量と衝撃波が発生し、ゴーレムの上半身が爆発四散する。
下半身のみとなったゴーレムはその場で直ぐ瓦解し、土塊の山となった。だがゴーレムは
まだ他にも残っている。
ゴーレムは動作こそ死者よりも鈍いが、その破壊力と防御力は桁違いである。その剛腕か
ら繰り出される一撃を一度足りとも受けるわけにはいかない。しかし、彼にとっては死者も
ゴーレムも容易い相手であった。
新たなゴーレムが四方から同時に迫り来る。蟻が這い出る隙間さえないほど極端に密着し
たの陣形での囲み込む様な挟撃は、先程彼が見せた軽やかな足業を封じる為だろう。土塊の
操り人形に過ぎない彼らだが、多少なりとも考えて行動できる様に術式が組まれている様だ。
しかし彼は絶大な威力を誇る二挺を構える事なく、その場で瞑想するかの様に目を閉じ佇
んでいた。その間にもゴーレムの包囲の輪は狭まる。だが彼は動かない。ゴーレムの地を震
わす足音が間近に聞こえる。だが微動だにしない。
ゴーレム達が、もう、前から横から後から、その巨腕を一斉に振り降ろしていた。
だがそこまでだった。ゴーレム達の腕は、虚しく大地に減り込んでいただけであった。
彼の姿はゴーレム達の腕の下には無い。
彼は空高く舞っていた。
何も無い筈の空間を足掛かりにして、鳥の様に高く高く虚空へと舞い上がっていた。
ゴーレム達は、ただ、手が届かぬほどの高さにある彼を見上げるしかなかった。
「前菜にしては上出来だ」
両手の二挺を眼下のゴーレム達に向け、あの神速の引き絞りによって生み出される驚異的
な速射で破壊の権化の雨を容赦なく降らす。大地を抉って土砂を巻き上げ、撃ち抜き砕かれ
爆砕されたゴーレム達が為す術もなく地に沈む。
ふわりと身軽に地面に降り立ち、背後を振り返れば、そこには既に動かぬ土塊の山と化し
たゴーレム達の残骸が見て取れた。そこだけがまるで隕石が落下したかの様な惨状を呈して
おり、何も動くものはなかった。
今度こそ彼以外に動くものは何も無い。だがまだ終わりではない。今のこの静寂は次なる
死闘の前触れに過ぎない。言うなればほんの小休止といったところだろうか。
不意に瘴気を孕んだ墓場の空気が更なる変貌を遂げる。それは少しでも吸い込めば体調ば
かりか精神にさえ崩壊し兼ねないほど濃密な邪気であった。
「真打ちの登場、といったところか」
彼が振り向いた先には闇が広がっていた。だが、言い表し難い圧倒的な質量を持った気配
が、確かに存在してる。巨大な物体が地面を引き摺って移動する様な音が聞こえた。場所は、
近い。この墓場は小高い丘の上にあるのだが、その地面を引き摺って移動する様な音は丘の
麓から聞こえる様だ。
圧倒的質量を持った物体が、ゆっくりだが丘を登ってくる気配がする。彼は闇に目を凝ら
して見たが、やはり何も見えない。虚無が何処までも続いているだけである。
彼は二挺を腰のホルスターに収めると、法術文字が刻まれた白い手袋に覆われた両手に魔
力を奔らせ、剣指を折り、目の前の空間に両手で聖なる印である五芒星を描き、音吐朗々と
闇の中でもよく透る声で法術式を詠唱した。
「魂よ帰り来りて修門に入れ! 工祝君を招いて背行して先立つ! 秦の箒、斉の絹、鄭の
錦絡へり! 招具該ね備はりて永く唱呼す! 魂よ帰り来りて故居に反れ!」
詠唱に合わせて中空の五芒星が眩い光を発し、やがて闇に溶け込む様に掻き消えた。
そしてそれは姿を現した。
十数階建ての建物に相当するその巨躯は、この世の全ての退廃と邪悪を具象化した様な悍
しく冒涜的な姿をしていた。全身は腐ったゴムの様な軟体質の黄色い物質で構成されており、
耐え難い腐臭を放つゼリー状の透明な皮膜に覆われていた。だぶついた境目からは幾つもの
巨大な血走った瞳が様々な方向へと向けられており、二、三十ほどの口状の突起物が何かを
求めてこの世界ならざる者の言語で呟く様は、正気ではいられなくなるほど凶悪な姿である。
怪異の瞳が一斉に彼の姿を捕捉した。強烈な悪意の塊が噴出する。その邪悪な視線に晒さ
れるだけで魂は犯され穢され陵辱され、肉体を流れる血液は毒素と化す様であった。
しかし彼はその表情を少しも揺るがせる事はなかった。より一層その碧眼の眼光の鋭さは
増し、全身から放出される闘気が目に見えるかの様であった。
「グラニ! 来い! オォ――――――――ンッ!」
そう言って彼は闇夜を切り裂く遠吠えを上げた。すると彼の遠吠えに呼応するかの様に、
一頭のスレイプニルが闇の中から疾風の如く颯爽と躍り出てきた。そのスレイプニルは主と
は対照的に鬣も毛並みも全て艶やかな漆黒であり、瞳だけが紅玉の様に鮮やかな赤であった。
そして特筆すべきは、通常のスレイプニルが六本の脚を持っているのに対し、彼は八本の脚
を持つ、スレイプニルの中でも最上位種の『アンザス種』であった。
彼は素早く愛馬に跨ると手綱を取って疾駆させた。グラニは主に応え、その強靭な八本脚
を以って墓場を一陣の風となって駆け抜けた。鉄柵を軽々と飛び越え、丘の斜面を怒涛の勢
いで駆け下り、ぐんぐんと夜景は後方に流れていく。だが振り返れば、あの悍ましい怪異が
丘の上の墓場にしっかりと鎮座しているのが見えた。
「いあ! いあ! ろいがあ! うぐう! しゅぶ・にぐらす!……ろいがあ ふたぐん!
くとぅるう ふたぐん! いたか! いたか!……いあ! いあ! ろいがあ なふる
ふたぐん! ろいがあ くふあやく ぶるぐとむ ぶるぐとらぐるん ぶるぐとむ あい!
あい! あい! あい! あい! あい! あい!」
背後の怪異の何十もの口が一斉に、生者の魂を犯し尽くし肉体を腐らせる様な悍しい声で
そう吠え立て、全てを薙ぎ倒す蠕動運動で背後から徐々に迫り来る。グラニは他のスレイプ
ニルよりも脚が二本多い駿馬だが、怪異は巨躯とは裏腹にかなりの速度で距離を詰めていた。
墓場のある丘の麓に広がる不気味な森を、黒い風となって駆け抜けるグラニに追い縋る様
にして怪異が木々を薙ぎ倒しながら突き進む。
森を抜ける途中、馬上の彼は振り返り、怪異に向ってフリムファクシの鈍重な一弾を放つ
が、その榴弾の炸裂は怪異の体表を覆うゼリー状の物質を少し蒸発させただけだった。ぶる
ん、と怪異はむず痒がるかの様に全身を僅かに震わせていた。
やがて森を抜けると、青草の清々しい匂いに満たされた草原に出た。しかし、直ぐにその
オオカミの嗅覚に心地良い匂いも、不浄な臭気に取って代わられる。依然として八つの蹄が
奏でる闊達なスレイプニルの足音に、ずるずると引き摺るような音が続いていた。
前方に小屋が見えるとその前でグラニから飛び降り、彼はそのままの勢いで粗末な木製の
扉を蹴破って中に転がり込む。長らく使われていなかった小屋の中は埃が分厚い層を成して
いたが、埃が積もった床には幾つかの足跡が見て取れた。それは彼のものであった。彼はあ
の丘の上の墓場に行く前に、この小屋に荷物を置いて行ったのだ。
壁に立て掛けてあった、白い布によってぐるぐる巻きにされた、彼の身長よりも長い棒の
様なものを掴むと、小屋の外に飛び出していた。
怪異は目前にまで迫っていた。既にその天辺は見えないほどの近距離である。だが彼は落
ち着き払っており、悠然と白い包みを解いていた。
「見ろ。これが我々の武力だ!」
包みの中から現れたのは槍――ではなく、長大な巨銃だった。既に口径は大砲並みはある
のではないだろうか。厳しい大型の砲口制退器が装着された長大なそれは、既に獣人の力で
は如何こう出来る様な代物とは思えなかったが、彼はそれを両手で軽々と抱え上げていた。
神銀鋼合金とは格が違う神性の金属で謹製された事が一目で判る、絶対的な神気を纏うそれ
は、既に人の手によって作られた神器であった。
表面に刻まれた聖なる言葉は<laputeiwaz aujaalu>。ウォーダン教に於いては主神さえ
も凌ぐ武力の持ち主として崇拝されている、軍神テュールの力を借りる為の文字である。
『法術儀礼済み35mm徹甲焼夷弾専用単発小銃 グングニル』と血の様に赤い文字でも
刻印されていた。
法術儀礼済み35×228mm徹甲焼夷弾を後腰に装着していたバットパックから取り出
し、中折れ式の構造を持つグングニルをヒンジを軸に砲身を二つに中折れさせ、その薬室内
に巨大な弾薬をゆっくりと押し込んで装填する。それは無機質に生命を吹き込むかの様に神
聖な行為であった。
両手でしっかりと保持し、緩衝剤入りの銃床を肩に押し当て、立射の姿勢を取り、迫り来
る怪異にその砲口を向ける。しかし怪異は意に介する事なく彼に迫っていった。
人造の神の槍を構える彼には、砲口から溢れ出る神気をしっかりと感じ取れていた。
我ら誇り高き狼王ロボの子供なり
我ら同胞を愛し慈しみ護る者なり
我ら贅沢を憎み清貧を尊ぶ者なり
我ら淫行を排し貞潔を守る者なり
我ら主神に忠を誓いし従順者なり
引き金にそっと指を掛けながら、彼は宣誓の言葉を呟いていた。更に続ける。
我ら主神の忠実なるエインヘルヤ
我ら現世に下されし神罰の代行者
我ら法術を以て外道を駆逐せし者
我ら陰世に昇る神の黄昏の加勢者
我ら古より外なる神と闘争せし者
修道騎士にのみ口をする事が許される宣誓の言葉を唱えると、力が身体の奥底から沸き出
てくる様な気がした。魔力が全身を駆け巡り、腕から指へ、指からグングニルへと流入する。
暴発寸前にまで昂ぶった魔力が、グングニルの中で奔流となって暴れた。それは一瞬でも気
を抜けば振り落とされ兼ねない荒馬の様であった。
彼は愛馬のグラニと初めて出会った時の事を思い浮かべていた。彼は荒馬だった。全く手
が付けられないほど闘争心の塊であり、理性も何も無い、野生そのものであった。そんな彼
を今は手懐け、心から認めた親友として共に戦っている。
それと比べれば、腕の中のグングニルは可愛いものである。彼は次々と法術式を体内で編
纂すると、グングニルに集束した魔力を制御し、その暴力の指向性を目の前の怪異に定めた。
「主神ウォーダンの名の下に、貴様には神罰が下される! 謹んで受け取れぇ!」
ぐっと引き金を一気に引き絞る。瞬間、砲口制退器から凄まじい砲火と砲煙が迸り、荒ぶ
る獣の唸り声にも似た砲声が轟いた。
「ぐっ!」
余りにの反動に、彼はしっかりと地面に両足を着けたまま地面を削って数mほど後退した。
だが放たれた砲弾は怪異に向ってしっかりと一直線に飛翔していた。
「ええ や やぁ やはぁぁぁぁ―――ああああああああああああああああああああ!!!」
魂を冒し兼ねないほどの悍しい絶叫が辺りに響き渡り、それと同時に怪異は苦悶に身を捩
じらせていた。聖なる一弾は怪異のゼリー状の物質に覆われた体表に着弾すると同時に、そ
の内部に封じ込められていた法術式を展開。怪異の体表には、彼らにとっては忌まわしい存
在そのものである、巨大な五芒星の刻印が眩い光を発して浮かび上がっていた。
彼はグングニルをその場の地面に突き立てると、背中の大剣の柄を握り、抜き放った。大
剣の刀身からは目を焼き潰し兼ねないほどの凄まじい閃光が迸っていた。
柄の根元に備え付けられていた引き金を引くと、更に凄まじい光が刀身を奔り、放出され、
大剣に組み込まれていた法術機関が起動する。刀身に刻印された聖なる文字と法術式に真紅
の光が駆け巡り、複雑な紋様を描き出していく。それはまるで熱い血潮が巡っているかの様
であった。腹に響く様な重低音が大剣から起こり、周囲の大気を震わせていた。
であった。腹に響く様な重低音が大剣から起こり、周囲の大気を震わせていた。
「唸れ!」
彼の言葉に呼応するかの様に、大剣は低い駆動音を発生させた。
そして劇的変化が訪れる。
他よりも太い真紅の線が刃区から切っ先に向って一直線に走ると、それを境に刀身が二つ
に裂け、内部の法術機関が顕になった。現れた機関が甲高い咆哮を上げると、無限とも思え
るエネルギーを汲み上げ始めていた。それは熱量となって刀身に集約されていった。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
超高密度に圧縮変換された法術式が彼の脳内を駆け巡る。その膨大な情報量は、彼の意思
とは関係なく脳に刻み込まれていく。圧縮変換された法術式が脳内で次々に展開され、一つ
の術式が十、百、千と無限に膨張していく。脳細胞に激しい電流が走り、意識が焼き切れる
様な凄まじい苦痛に、初めて彼の顔が歪む。
彼の脳内を駆け巡っていた法術式が、やがて彼の全身に刻まれた法術式回路を疾走する。
剣と精神、肉体を流れる術式が三者を繋いだ。その瞬間、彼の脳内で暴れ回っていた法術式
の洪水はぴたりと収まった。
視界が、感覚が、己の世界が急速に拡大していく。広大に、無限に、果てし無く、無尽蔵
に、宇宙の全てさえ見通す様な研ぎ澄まされた感覚が彼を包み込む。
魂魄が肉体から遊離し、個であった己の存在が世界へと浸透し始める。意識は鉄の様に熱
くなっていたが、その中心は氷の様に酷く冷え切っており、冷静そのものであった。
「オオオォォ――――――――――――ンッッッッ!!!!!」
彼の気高い咆哮に呼応し、大剣も一段と甲高い駆動音を上げて吠え立てた。
大剣を天高く掲げ、振り下ろし、地面に両脚を食い込ませて踏ん張る。周囲の地面が不可視
の力によって窪み、抉れた。彼の体が、大剣をも凌ぐほどの眩い光に包まれる。その背後には、
後光の如く光り輝く、邪悪を討ち祓う五芒星の聖印が浮かび上がっていた。
「貴様らがこの世界に居て良い道理は無いっ!」
超過荷重となった魔力が荒れ狂うが、彼は集中力を途切れさせる事なく冷静にそれを捌いて
いく。彼は大剣を肩に担いだ。
「今此処に主神の裁きは下された!」
大剣に組み込まれた機関に、高密度の法術式が駆け抜けていく。邪悪に対する必殺の威力を
秘めた、法術機関が神の獣の咆哮を上げて覚醒した。
「貴様はニブルヘイム逝きだっっ!!!!」
彼は地を蹴り疾駆した。刀身から溢れ出る閃光が彼を、怪異を、世界を白い闇に包み込む。
「んぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁおおおあおぁおおぉぉぉぉぉおぉぉぉぉ――っ!」
怪異は一際悍しい苦悶に満ち満ちた悲鳴を上げた。
彼は一瞬にして怪異との距離を詰めると地に足が減り込む勢いで蹴り、空高く舞い上がって
いた。ぐんぐんと高度は上昇し、遂には十数階建ての建物にも匹敵するほどの巨躯を誇る怪異
の頭上にまで達していた。そして肩に担いでいた大剣を振りかぶり、怪異目掛けて振り下ろす。
大剣が獣の如くの咆哮を上げる。それを心地良く感じながら、彼は邪悪を討ち祓う言葉を唱えた。
「アスキ=カタスキ=ハイクス=テトラクス=ダムナメネウス=アイシオン!!!!!」
大剣が爆発的な閃光に包まれ、導かれるかの様に刀身が怪異に吸い込まれていく。同時に、
刀身が触れた途端に絶大な破壊力を秘めた術式が怪異の体内に浸透していく。
「あぁああぁああああアアアアァアァァァァッァァァッァァァAAAAAaaaaaaAaAaaa!!!!!」
怪異が断末魔の叫び声を上げ、稲妻の如く落下する彼の大剣によって一瞬にして頭頂部から
縦に両断された。
「断罪!」
彼の朗々と響く声が白い世界を斬り裂く。世界は白い暗闇に飲み込まれた。
367 :
オオカミ書き:2006/10/11(水) 05:08:34 ID:fftIMgHH
此処で一旦投下は終了です。第二章の投下は今夜になりそうです。
第二章で女の子が落ちてきて、主人公の名前も明らかになります。
なんか色々と駄文ですいません…では。
368 :
オオカミ書き:2006/10/11(水) 05:34:33 ID:fftIMgHH
捕捉説明を忘れていました……今度こそ、では。
『偉大なる狼王ロボ』
<古き良き時代>以前に実在したとされる、偉大なるオオカミの王。ウォーダン教の創始者
にして全てのオオカミの男性の理想像とされている。彼に関しては様々な伝説が諸説残され
ており、その一端は御伽噺でも語られている。特に王妃フランカに生涯を通して絶対の愛を
捧げた逸話は有名。それに影響されてか、<古き良き時代>前後のオオカミの男女は貞潔
が固かったとされている。
『ウォーダン教』
戦争と死の神にして魔術の達人とされる主神ウォーダンと彼に仕える神々を崇拝する宗教。
愛徳、清貧、貞潔、謙遜、従順を旨とし、宗教的に優れた人格の持ち主の育成を目標としており、
同教の聖職者には神父や修道士以外に、邪悪な存在と戦う事を専門とする修道騎士や聖堂
騎士を始めとした宗教騎士がいる。ちなみにウォーダン教の聖職者は妻帯を許されている
という非常に珍しい宗教であるが、妻帯を許されるにはそれ相応の位階にならなければな
らず、それ以外の者は不必要に異性と触れ合ってはならないとされている。
『アンザス種』
通常のスレイプニルが六本の脚を持つのと比べて、アンザス種は八本の脚を持っている。
その為、通常のスレイプニルよりも全てに於いて優れており、身体も一回りほど大きい。
艶やかな漆黒の鬣と体毛、血の様に赤い紅玉の瞳が特徴的。しかし性格は非常に荒々しく、
中々手懐ける事が出来ないが、一旦主と認められれば、たとえ地獄の中まで付き合ってくれる
という友情深い一面を持つ。基本的に何者も恐れない大胆不敵な個体が多い。
369 :
オオカミ書き:2006/10/11(水) 05:40:27 ID:fftIMgHH
ミスってた…orz
>364
>であった。腹に響く様な重低音が大剣から起こり、周囲の大気を震わせていた。
>であった。腹に響く様な重低音が大剣から起こり、周囲の大気を震わせていた。
下一つが余分でした。各自脳内で削っておいて下さい……長々とすみません。
なんちゅうか、やりすぎ感漂ってる感じ。
聖句は出てくるわ、剣と魔法とちょっと科学の世界にヘルシングとロックマンみたいな銃器出てくるわ、
元々スレイプニルっていう種がいるのに、それよりも突出した性能を持つ馬出てくるわ、
クトゥルフ神話ちっくにくどくど文を書いているわ……。
どれも度を超した不要なものに見える。
一話目は読者を引き込むために重要なところであるにも関わらず、戦闘シーンだけ。
それもまた手段だと思うが、戦闘シーンから、
作者が「主人公テラツヨス」と思わせたがってるということが見え見え。
その主人公もやたら独り言を言ってるし、一々台詞ごとに笑える。
むずかしい単語を使いたがるお年頃なのか、文は漢字だらけで、
読めるかどうかはまた別として単純に読みにくいし、つかみとしては失敗しているかな、と。
>彼は愛馬のグラニと初めて出会った時の事を思い浮かべていた。彼は荒馬だった。
主人公を『彼』と統一しているにもかかわらず、馬を彼って書いたら間違いなく混乱するよ。
その後の『彼』はまた主人公に戻ってるし。
もう少し落ち着いて自分の作品を読み直してから投稿することをおすすめしたい。
これだけだと、ヤマなしオチなし意味なしにしか見えない。
まだ一話目だから、まあ、なんとか、多分、きっと、できる可能性はなくはないと思うので、頑張って。
うーん、あんまり難しい指摘は出来ないけど、世界観を変えすぎじゃね?
.-、 _
ヽ、メ、〉 r〜〜ー-、__ ________________
∠イ\) ムヘ._ ノ |
⊥_ ┣=レヘ、_ 了 | え−−い、戦闘シーンはいいっ!
-‐''「 _  ̄`' ┐ ム _..-┴へ <
| |r、  ̄ ̄`l Uヽ レ⌒', ヽ. | エロをだせっ! ご主人様と召使いのエロをっ!!
(三 |`iー、 | ト、_ソ } ヽ |
| |`'ー、_ `'ー-‐' .イ `、  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| | `ー、 ∠.-ヽ ',
__l___l____ l`lー‐'´____l. |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|| .| |
|| |__.. -‐イ
|| | ノ/
二話期待してます
う〜ん・・・・努力は認めるけど・・・・って感じが強い
txtアップで様子見の方が良かったかもね
何を作りたいのか?何をやりたいのか?
と
ここがそれにふさわしいのか?
を、もうちょっとよく考えるべき
戦闘シーンを完全に取り除いて物語を書いてみると良いんジャマイカ?
もうちょっと話変えるとヘルスレ辺りで2次創作の範疇に入りそうだね
もっとも、ヘルスレ関連のスレにいる住人は途轍もないヲタク揃いだから
生半可な知識で挑むと一蹴されるけどね
ちょっと気になったので一つだけ。
機種依存文字(@〜Q)は、環境によって表示されない場合がある。
読む人の利便を考えてのナンバリングなんだろうけど、
環境によっては、逆に不親切になりかねない。
ここでこんなに酷評されるのって珍しいなあ。
そうだねー。
自分はもっと続き読みたいな。一話目だから今後どうなるか分からないし、楽しみにしてますよ。
この世界の物語を綴ってきた作者さん達には受けが悪いかもね
読者サイドには興味を持つ人も居ると思うけど
酷評は期待の裏返しでもあるから、頑張ってほしいなぁ
…スレ違い?
ロボの名前はさすがにやめたほうがよかったんじゃ…。
一読み手だからこそ逸脱設定は気になるが
完全オリジナルで別のオリシチュスレでやったのなら構わないけど
投下する前に、小声でいいから一度自分のSSを音読するのは、かなり有効な推敲の手段。
音読して違和感のある部分、舌を噛みそうな部分を手直しするだけでかなり文章が良くなる。
音読すれば、息継ぎの中で段落の切り方もわかってくる。
とくに濡れ場はな
今ちょうど濡れ場を書いてるところ。
>>380読んでちょっと音読してみたけど、もう諦めた。
誰も聞いてないと分かってても無理。
ロボは別によかろう
確か狗国見聞録にもパプロフっていうイヌの学者いたべ?そんな感じで
論点が絶妙に違うんだな、これが・・・・
「設定を逸脱したかなー?」というギリギリのモノはtxt投下は基本マナー。
読んでるだけの人間が偉そうにと思うかもしれないけど、こればっかりはやってもらわんと困る。
とりあえずただの読み手だけど、
>>370のいうとおりやりすぎ感が。
何よりも世界観の違いっぷりがアレで、内容も内容なのでこの板に出さなくても他の場所でいいんじゃね?とか思える。
これからどうにかするんだよ!とかいわれるとアレだけど。
>>373のいうとおり、「ここがそれにふさわしいのか」を考えてくれたらいいな。
ついでに個人的には文章構成好きですよ。戦闘シーンも嫌いじゃないのでそこは好感もてたり。
ただ、主人公最強っぷりがかなり出てるとことか、
あまりに難しいのや専門的な言葉を並べすぎてアレな部分も多いですが。
いや、主人公最強とかの、『完全無欠』が嫌いなのは自分だけの仕様ですので悪しからず。
…クトゥルフが出てきたせいか、なぜか某スパロボ物なノベルゲーム思い出してしまう文章体だが。
個人的に一番困るのは「途中放棄」
いや完結とか無い作品形式ならわかるけど
>>389 よくわかる、わかるよ。
作品に対しても失礼だしなぁ。
いや、決してリアル諸事情でここにこれてなさそうな人を非難しているわけでは!
むしろそういう系は今でも待ちますとも。
自分が書きたい種族に手をつけたままほっぽりだされてると非常にやきもきする
書かないんなら書いちゃうぞ! もう!
YOU 書いちゃえよ
>>389 いや、途中放棄自体はそんな責められることじゃないと思うんだ
ていうかそんなこといったらこのスレ(ry
1年くらい音沙汰無しだった人がひょっこり現れるとかそういうの多s(ry
そんなスパンの長いこのスレが好きなんやで
とりあえずペンギンの人はどこに消えたのかと。
ネタはともかくギブアップの旨を伝えてくれるのはありがたい限り。
続きを受け取れるからね。
どこまで投下したっけ? とスレを見直したりしている自分が居る。
‥‥問題は、えちぃシーンが予定していた場面に上手く軟着陸してくれない件(´Д`;)
とりあえず、何とか形になったので投下させていただきます。
‥‥ずいぶんと時間が掛かった気が。
―――――
「だって、神楽先生も心配じゃない? イーシャ先生ってば、『赤い足』の大元締めみたいなもんなのよ?」
拾った落ち物を迎えに、地上階の診療所へ向かう途中。
普段、あたしに勉強とか歌とか教えてくれてる神楽先生が引き止めに来た。話がある、って。
・・・・話の内容、聞かなくても判るけどね。勉強ほっぽりだして外へ出たから、お説教でしょ?
まぁ、アタシの言葉を聞いて、あっさり診療所へ付いていく事になったんだけど。
どーも、『アタシの許婚』ってよりも『白羽の追っかけ』って感じなのよね、この人。
授業中とか、気が付いたら白羽の方を見てる。白羽の方は、神楽先生の視線を無視してる事の方が多いけどね。
ちょっと会話すれば、角突き合いのいがみ合い。まさに天敵、って感じ。
里の地上階にあるのは、それなりに大きな港と発着場。それと形だけ作ってある迎賓館と、それなりに良く使われてる診療所。
迎賓館はスッカスカで、診療所にはそれなりに人が詰めている。
診療所は、里の南側だったっけ? 今居る港の方からだと、ぐるっと回っていかなきゃならない。
里の中央にそびえる・・・・、というか、里の面積の殆どを占める金剛樹。
里や里を治める王の姓の由来にもなった大木の、幹の中央を貫く大空洞の東側。
ぽっかりと口を開けた洞の中に、ちらっとコウモリのような翼が見えた。
アレは、大空洞の中で荷物を運んだりするのに使う、竜の翼。
アタシは、アレがあんまり好きじゃない。
金剛樹の内部、大空洞を外と隔てる壁の中をくりぬいて部屋を作って、
アタシ達、金剛樹の一族は暮らしている。
ずっと昔に、何かのきっかけで逃げ延びてきた先祖が、金剛石で出来た木を見つけて、
その木が生えた浮島に住み着いたのが、この里の始まり。
・・・・大陸から逃げ出すきっかけが何だったのか、それについてはアタシは覚えてない。
こう言ったら、白羽や神楽先生は怒るだろうけど。
そんな事をつらつら考えながら歩いても、診療所までは結構遠い。
大空洞、突っ切ったら良かったかな。そんな事を思ったり思わなかったり。
ふと。押し殺した悲鳴のような声が聞こえた。診療所の方かな。
聞き覚えのあるような声・・・・、って、白羽?!
小言を言いながら隣を歩いていた神楽も、その声に気付いたみたい。
走っていく神楽の、伸ばし気味の黒髪と緑の翼が揺れる。
アタシは翼を広げてひとっ飛び。神楽を追い越して、
ストレッチャーを押したまま入るのに丁度良い広いスロープを飛び越えて、
イーシャ先生の診察室の引き戸を開けた。
・・・・その途端に飛んできたのは、思いもよらない物だったけど。
はて、どうしたものでしょう。
なりいき、とは恐ろしい物で。
「シロちゃん、見てるだけって退屈じゃない?」
いえ、ちっとも。それよりも、服をいい加減返して下さいませんか?
さすがに、この姿では帰れないのですが。
「検査があるから待ってて」と言われ、ネコの様式の寝巻きに着替えたまでは宜しいのですが。
・・・・翼のおかげで、襟ぐりを大きく開けなくてはならず、落ち着かない事この上も無く。
ほ、殆ど着てないのと一緒ですよ?! コレ。
「遠慮しなくて良いってば!」
いえ、遠慮では無くて、ですね。この後もまだ、仕事があるのですが。
「シロちゃんも、一応『赤い足』でしょ?」
いや、それはまぁ、そうなのですが。まだ、ほとんどそっちの仕事はしてないですが。
「だから、コレも勉強だと思ってぇ」
ソレとコレとは話が違・・・・。
って、何か、妖しげな色の薬をあおってらっしゃるのは何故ですか?
含み笑いをしながら近づいてくるのは何故でっ・・・・。
んうっ・・・・。
そして後は、桃色の、闇。
目の前でいきなり繰り広げられる濃厚なキスシーンに、俺はただただ目を奪われるばかりだった。
繰り返されるキスの合い間に、猫耳の医者らしい女性が、肩に付くか付かないかくらいの銀髪の少女を、手際良く脱がせていく。
たけの短いバスローブのような服の腰紐を解くと、それだけで、おざなりにしか体を隠していなかった布地が、するりと滑り落ちる。
白い翼を背負った少女の、片手ですっぽり覆えそうな、小振りだけどそれなりに形の良い胸に、真っ赤な花が張り付いているのが見えた。
「この痕、ちゃんと消せば良いのにぃ。綺麗な肌なのに、もったいないよぉ?」
ぷはっと音を立てて唇を離した猫耳が、少女に話しかけた。
対する少女は、話を聞いているのか居ないのか。
目元を桜色に染めて、ぽーっとした表情で医者にもたれるように座っている。
乱れた前髪が、顔の半分を覆い隠しているのがちょっと残念だ。
つつっと、胸元の『花』を医者の指がなぞった。周りの肌よりも敏感なのか、少女の肩がピクリと震えた。
「け〜っこう、この子もビンカンなのよね〜」
そんな事を呟く猫耳の手が、縦横無尽に白い肌と赤い『花』の上を這い回る。首筋、脇腹、二の腕、腰。
そのたびに、翼のはえた少女は体をよじって悩ましげな吐息をつく。とっ、やべっ!
股間に不穏な気配を感じた俺は、座り込んで後ろ手にまわして体を支えていた手を、慌てて前に回して、隠す。
「あはぁ」
猫耳が俺のほうにちらりと目をやり、嬉しそうな声を上げた。・・・・そんなにじっくり見ないで下さい、お願いします。
「けっこう立派じゃなーい」
そんな事を言いながら伸ばしてきた手が、立ち上がったナニを下からすすっと撫で上げる。
・・・・伝わってきた感触に、なんか変な声出たけど、それどころじゃ無い。
目の前で、微妙に尖った耳と青味がかって見えるほど白い羽根が、フルフルと震えている。
当然ながら、それらにくっついた華奢な体も。
手をちょっと伸ばせば届きそうな位置で小刻みに揺れる、
ピンク色に染まった大きくは無いがやわらかそうなバストに、自然と視線が釘付けになる。
そっと手を伸ばしたその時。
「シロちゃん? 自分ばっかり楽しんでちゃダメよ?」
ぐいっと、勢い良く翼のはえた少女の体が押し出される。少女の頬が、モノに擦れて、ざらっとした感触を伝えてきた。
ん? ざらざら?
良く見ると、顔の右半分・・・・右目の辺りを覆うように白い包帯が巻かれている。
日焼けとかが見当たらない真っ白な肌を背景に、溶け込むように馴染んでいて気が付かなかった。
「は〜い、それつかんでぇ・・・・。あ、力入れすぎちゃダメよ? 痛がるから」
白い、ほっそりとした、だけど所々に硬い感触のある指が、痛いくらいに立ち上がったソレに絡む。
少しひんやりとした手が、すぐに俺の体温が移って暖かくなった。
ふわふわとした、現実感の希薄な感覚。
目の前に立つ棒状の物をつかむと、びくびくと手の中で震えるのが面白い。
思っていたより熱を持っているようで、少し驚いた。
「‥‥‥‥力入れすぎちゃダメよ? 痛が‥‥‥‥」
遠くの方から、断片的に言葉が流れてくる。
良く判らないけど、とりあえず少しだけ力を緩めた。
もっと良くソレを見ようと体を起こしかけて、後ろから伸びてきた誰かの手に止められる。
両膝と両手で体を支える体勢を取らされて、抗おうにも抗えない自分が居る。
体に、思うように力が入らない。
触らなくても、時折思い出したようにビクビクと震えるソレを、とりあえず片手でいじってみる。
先の方から、なにやらぬらぬらとした液体が垂れてきて、ソレ自体と私の手を濡らした。
その液体が滑りを増して、手の動きがスムーズになる。
見上げると、眉をしかめて、気持ちいいんだかその逆なんだか、
一見わからないような表情をしているヒトの顔が見えた。
‥‥なんだか、かわいい。
すこし、手の動きを早くしてみた。
うめき声を上げて身をよじるヒトの少年を眺めているうちに、
ますます頭がぼーっとしてきて、だんだんワケがわからなくなってくる。
「よ〜く、回ってるみたいねぇ?」
へたり込んだ俺の、広げた足の間に這う少女の姿を見ながらだろう。
猫のおねーさんが呟いた。‥‥俺には、何の事だかさっぱりだが。
少女の体を撫で回していた手を休めて、俺達の様子を観察しているらしい。
少女の動きは、はっきり言って下手クソだ。
じーっとモノを見つめたり、俺の反応を見るのに忙しくて、度々手が止まる。
その度に、俺のボルテージは多少下がる訳だが。
イケそうでイケない、そんな生殺しが続く。
「しばらく、そうやって練習相手になってあげてて?
その子、『赤い足』なのにあんまり経験積んでないから」
耳慣れない言葉に少女の体を良く見ると、薄黄色の鳥の足の足首に、
赤い染料だか塗料だかで描かれた蔦の模様が巻き付いているのが見えた。
色の薄い鱗の上に、複雑に絡み合った毒々しい赤の線は良く目立つ。
『赤い足』ってのは、この線を指しているらしい。
猫のおねーさんの白衣の裾のすぐ下にも、似たような模様が見えた。
彼女の方は足首だけじゃなくて、ふくらはぎや白衣に隠れた太ももの方まで続いている。
ただし、模様のパターンはずっと単純に見える。
立ち上がってくるりと背を向けた拍子に、猫のおねーさんの足の裏まで、
真っ赤に塗られているのが見えた。
俺のモノを間近で覗き込む体勢を取った翼の少女の鈎爪が付いた足の裏は、
何も塗られてない、まっさらに見えるけど。
猫のおねーさんが椅子に座ってこっちを見ている。
少女は、片手だけでしごくのがもどかしくなったのか、体を起こして本格的に両手を使い始めた。
指の所々にタコが出来た手が、先走りを纏わりつかせて微妙な刺激を与えてくる。
やっぱり、微妙にイケそうでいけない感じがもどかしい。
そんな俺の気持ちが顔に出ていたのか、
猫のおねーさんが面白がっているとしか思えない調子であれこれと指示を出す。
「ほらほらぁ、手だけじゃイケないってよ? もっとこう、舐めるとか咥えるとかぁ」
その指示に、また何も考えて居ないみたいに素直に従うのが、また困りモノだ。
モノの先、割れ目がある辺りにちろちろっと、今までとは違う感触がはしる。
「んっ‥‥」
と、思っていたら、いきなりぱっくり咥えられた。
小さな声と共に、カリの部分が少女の口の中に消える。手とは違って、口の中は暖かい。
‥‥さんざん生殺し状態が続いて、敏感になっているだけかも知れないが。
「もっと、こう!」
いつの間にか近づいてきていたおねーさんが、俺のモノを咥えた少女の頭をぐっと押し下げた。
口の奥だか咽喉の奥だか知らないが、歯茎とはまた違う感触がカリを包み込む。
当然、それだけ奥に一気に押し込めば、むせて吐き出されるわけで。
床に手を突っ張って何とか逃れた少女が、けほけほと盛大に咳き込んだ。
「おい、大丈夫なのか?」
話しかけてみるが、落ち着いたらしい少女はとろんとした視線をこちらに向けるだけで、
意味が取れるような返事を返さない。
「今の所、話しかけてもムダよ? 理性すっとばしてあるから」
けらけらと笑いながら言う猫と、やっぱり意味が良く判らない俺の視線の中で、
少女が上気した顔で体をくねらせる。ちょっと顔をしかめて、泣き出しそうな表情だ。
「そろそろ、イカせてあげないと辛そーね。シロちゃんもあんたも」
はいはいこっち、とばかりに少女を俺の方へ誘導する。
今度はぺたんと腰を下ろした姿勢で、俺のモノに触らせる。
猫自身は、少女の後ろから手を体に回して傍若無人に撫で回している。
猫の手にあちこち触られるたびに、モノに伸ばした少女の手の力加減が変わる。
手の動きに反応して、一々声を上げるのが騒がしい。
「ここはどーかなー?」
「あんっ‥‥」
「下はー?」
「ひゃぁっ!」
‥‥訂正、耳の毒だ。
コンコン。
「イーシャ先生? 入るわよ?」
部屋のドアを誰かが叩いた。中の人間の返事を待たず、大きくドアが開け放たれる。
問題は、ちょうどソレがクライマックスと同時だったあたりだ。
「そろそろ、いっちゃえ!」
だんだん前のめりになって、結局四つんばい状態に戻った少女に覆いかぶさるようにして、猫が指を動かす。
と言うか、動かした、らしい。俺の位置からじゃ、少女の体や翼自体が邪魔になって良く見えない。
それがトドメになったのか、少女が一瞬だけ体を強張らせた。
次の瞬間には、ぐったりと体から力が抜けていく。
‥‥俺自身も、その瞬間にぎゅっと握り締められて、限界を迎えたわけ、だが。
問題は、その時にモノの先がドアの方を向いてたって事だ。
入ってきた人物――俺が落ちてた時に見つけたって言うあの黄色い羽根の少女だ――の顔に、
ぺしゃりと音を立てて着地する。そして、白い筋を描いてどろりと流れた。
「いやー、良く飛んだねぇ!」
猫のおねーさんのそんな声を聞きながら、俺は部屋の雰囲気が凍り付いていくのを確かに感じた、気がする。
今回の投下終了。
とりあえず姫様にぶっかけたかった。
推敲を殆どして居ない事以外は後悔していない。
シロちゃんハァハァ。
イーシャ先生、ぶっ飛びすぎ。
姫様、頑張れw
かなり激しくGJ。続きも期待してます。
シロちゃんはエロくて気立ての善い子ですね。
GJ!!
とりあえず保守
もう400kbかあ。早いな!
>>405 シロちゃんかわいいよシロちゃん。GJです。
……初めて読んだとき、シロちゃんの乳輪が花のようにぎざぎざした形なんだと思った俺は大バカですねorz
>>409 最近、みんな投下速度が鬼のように早いからなぁ。
昔は隔月で投下してても手が早いほうだと思ってたけど、最近だと月一で投下しても遅いほうだし。
まだスレが立ってから一ヶ月なのにすでに400kか。
いつになく消費が早いな。
新規の参入が増えて、早くうpしなきゃとみんなが思う。
どんどんうpられて、新規の人たちも気合いが入る。
気合いが入ってどんどんうpしてって、の繰り返しかな。
なんか流れが早すぎて参入できないチキンもここに居ます…
高速道路の流入部加速車線で加速するのが怖い初心者状態w
よし、次のスレを待とう!と思って2スレ越えてるんだよなぁ
停滞してる時のほうが投下しにくくない?
自分はただの読み手だけど
ごめんなさい。
執筆が遅い上に修正を連発しているので、
未だに第一話もできていません。
いかに自分に文才が無いのかが思い知らされますね…。
>>414 停滞加減にもよるかも
適度な流れの時が良いですね
今はちょっと早すぎ
いっぱい読めるのは嬉しいな
激しく同意(…死語?)
アレコレ注文付ける人は多いけど、色んな作品読めるのは嬉しいし面白い
その上で好みが合うかどうかの話しな訳であって
中身の優劣でアップが左右されるのはどうかと思う
そういえば、今月まだ一本も投下できてない……orz
頑張れ、自分。
面白い面白くないとか、そういう問題でもないんだがな。
仮にもモノ書きなら主張は作品で
ネコの錬金術により金銀の価値が暴落し、いわゆる金本位制度が
崩壊したってあるけど、つまりセパタって現在の管理通貨制度と似たようなもの?
セパタって貨幣じゃないの?
400k越えたんでスレの皆様に提案
単発質問とかSS製作に当たっての細かい質問等は避難所で一本化するか、この板内に別スレ立てませんか?
本スレはあくまでSSを読む場にしたほうがスマートだと思うんですよ、SSと感想のスレに特化して職人様方様の
スレを別立てにしてはいかがでしょうか?
>>424 エロパロ板内に別スレ立てるのは、「スレ乱立」と受け取られる可能性があるとおもう。
と言う訳で、質問等は避難所スレを使う、と言うのに一票。
>>424 なんというか、スレの雰囲気ってのはSS投下の為に案外大切なもので、
雑談とか質問とかアドバイスなんかとSS本体って簡単に切り離せないものだと思うんですよ。
ついでに言うなら、スマートさを追い求めるならこのスレこそ質問雑談用にして、
SSはみんなアップローダーとかWikiに貼るほうがずっとスマートかと。
携帯で読む人の事も少しで良いから思い出してくださ…
アップローダだと読みにくい事この上ないんです、わがままスマソ
>>428 なんかよくわからんが、SSはアップローダーに張った方がスマート、なんて言い出すのにビックリした。
おいおい、ここはエロパロ板なんだぜ。
雑談や質問やアドバイスすることをメインにしたら、軒先貸して母屋を取られるようなもんじゃないか。
もう少し考えてから発言しろよ。
別に雑談や質問やアドバイスなんかを向こうで全部やれ、とは言わないよ。
ただそれらが延々と続くと、空気というものが作られる。
それをぶった切って投下することに気が引ける人がいるんだ。
次回予告とか近況報告とか単発質問くらいなら向こうだけでやった方がいい。
感想とか投下直後の作品に対するアドバイスとかはこっちでやった方がいいけど。
>>430 俺 428 じゃないけど、uploader を使って運営しているスレがあるのは知ってる。
板趣旨の 『萌え談義』 をメインにして、SSまたはイラストは外部に上げるっていう運営だった。
まー、確かに
>>429 みたいな意見もあるから、前例はあっても俺は反対かな。
スレをわけるとか、雑談を禁止したりするのって
そんなにすんなり行くことなのか?
なんというか、スレの雰囲気を悪くするだけになりそうで怖い。
いや、スレを別けようとして成功したためしを知らないだけなんだが。
えーとですね。
一時期、このスレ半端なく過疎ってた時期があるんです。
今はまあ、それなりに職人さんも増えたしスレの展開も早いけど、
過去の経験からいって、いつ何時過疎っても不思議はないわけです。
そういう可能性を考えた時、別スレを建てたりSSをうpろだに隔離するという意見は非常に危険な気がします。
いざ過疎った時に、そういうやり方で本当に圧縮落ちを回避できるのか。
スレというのは、常に書き込みがあるとは限らないものですから、
間口は広くしておくに越したことはないと思います。
書き手にしろ読み手にしろ、レスするときは一呼吸置いて落ち着いて、
自分のレスがいいのか考えてやれば問題ない気がする。
なんていうかな、
>>434がものすごく綺麗にまとめちゃったのがな
憎い。でも愛してる
ところで、避難所のぞいたついでに虫ってんで今まで敬遠してたハチの話呼んだんだが
なんていうか 大 爆 笑
産卵とか百合とか女王蜂ハーレムとかそういうの予想してただけにコーヒー吹きました
ノリ良すぎ
>>433 あの過疎の雰囲気を知るものとしては住人発狂の流れを懐かしくも思ったり。
>>435 反則だよな、大和田秀樹理論w。
ある暗闇に、物憂げな表情の奴隷が1人、それはそれは立派な執事服を身に纏い佇んでおりました。
男はハスキーな声で呟きました。
ああ…ご主人様……。
今日も行かれたのですね……。
私の知らない場所に……。
アナタは私の全てを知り私の世界の全てを創り、私の心をここまで縛るのに、私はご主人様の気をほんの少し惹きつけることすらできないのですね………。
その艶やかな髪、まっさらな筆のような尻尾を優雅になびかせ、私を見つめてはくれないのですね………。
大概のご主人様(♀)に買われた“一般的な”奴隷ってこんな気持ちだと思う
ちなみにご主人様はイタチです
>>437 そのイタチっていうのは公式設定にするのか?
されると一つ没にしなきゃならんし、とはいえやめろなんていう権限はないし。
そこらへんをはっきりして欲しい。
なーんか最近物言いが厳しいっていうか
もうちょっと言い方があるだろうにっていうレスが多いね。
携帯しか持ってなく避難所とかちゃんと見れないので、携帯で把握できる範囲の事情しか分からないんです
すいません
イタチを公式設定にすると一つ没って何があるんですか?
他の方とかぶり不都合があるのなら公式設定にはしません
暗闇=イタチの巣という発想だけなので
いやいや現在作成段階中のSSでイタチ出すつもりだったから、
現段階ではまだイタチの設定が出てきてはいないはず。
言葉遣いが荒くなってしまったようで失礼。
自分も携帯しか持ってない人間だけど、色々な事は分かることはできるよ。
まず↓を使う事をお勧めする
http://i.i2ch.net/x/-7/i んでこれを使ったら次にこのスレの頭にある保管庫のオリジナルシチュエーションの部屋3にある作品庫の作品とかまとめwikiとかを一通り読むことをお勧めする。
ここはシェアリングワールドの小説だから、迂闊に作品を出すとほかの人の作品に絡み兼ねないんで、もうちょっとここの事を知って欲しい……って言ったら反感を買ってしまうだろうか。
兎に角、貴方にはここの良さをもっと知って欲しい、様々な作品を読んで欲しいな。うざったいかも知れないけれど、自分の意図を解釈頂ければ幸いです。
駄文スマソ
>>441 なるほど、そうでしたか
私はただ奴隷の気持ちを書いてみたかっただけなので、今後イタチで本格的なSSを書くつもりはありません
のでもしこれから私がイタチの小ネタを書く場合、その作品の設定を拝借させてください
wktkしてます
>>442 ファイルシークを使うなどしてみても『このページは機種に対応してない』と表示されのがあるんです
そういうの以外は全部読んだと思います
でももう一度試してみます
気遣いありがとうございます
パソコンがあればなぁ…。
つーか普通に読んで
>>437は目が滑った。
どこの劇場だww
目が滑る…とは……?
辞書に乗ってない言葉なので意味を知りたいです、ネット用語ですか?
教えて、エロい人!
>>446 目が滑るってのは、文章を読んでいるのではなく見ているだけの事。つまり褒め言葉ではありません。
……こんな事言いたくないのですが、もう少し場に合った発言をして欲しいです。
>>469 説明ありがとうございます
それとすみませんでした
ROMります
>>437 ま、それはそれとして『一般的な』奴隷がこんな気持ちかどうかの話だけど。
確かに作品では主人を愛しているヒトが多いが、ほとんどの買われたヒトが主人を愛しているかどうかは疑問に思う。
第一、世を儚んで自殺したり、乱暴に扱われたり、ヒトを大量買い付けしてるフローラ様のところに買われたヒトの方が、
厚遇してくれる主人に拾われるヒトよりも圧倒的に多いと思うな。
厚遇してくれる主人に拾われたからって、ヒトがその主人のことを好きになるかどうかはまた別問題だし。
だから一般的とは言い難いと思う。
人が死んだり大怪我をしたりしない話が読みたい。
えぇと、早い気もするけど、テンプレの
>>4は次も入れるの?
ところで新スレは何時になったら立てる?投下したいんだが容量が微妙らしいし。
まだあと80KBくらいあるから、
40スレくらい落としてもまだ平気だと思われ。
スレ→レスな。
……gdgd。
>>452 ネズミさんとカナリアさんを正座して待とうや
>>454 さすがに容量450kb未満で次スレ立てするのはアレかと思う
というわけでばっちこーい
秋晴れの空が気持ちいい。
「んっ……」
大きく、両肩を回してから深呼吸をする。
道場の大屋根から見晴らす景色は絶景で、ずっと遠くの山々まで見える。
遠くの方に蒼く見える山々の向こうにも、いろんな世界があるらしい。
澄み切った空気と、眼前に広がる大自然。いつまでもそうやって景色を眺めていたいけど、残念ながら世の中ってのはそう甘くない。
「……ふぅ」
組み台の上に置かれた瓦を、げんなりした気持ちで見る。
今は、大道場の雨漏りを修理している途中。
瓦を外して、割れて腐っていた下板を取り替え、そしてこれから瓦の葺きなおし。
もちろん、瓦葺きなんて生まれて初めて。……なんというか、俺も色々やってるよなぁ……。
汗をぬぐいながら、黙々と瓦を葺いていく俺。
初めてにしては、案外上手くやれてるんじゃないだろうか。
この世界に落ちてきて、始めてやるようなこともまだまだいろいろあるけど、そういうのも案外、やってみるとつらいばかりとは限らない。
最近、自分がこうやって生きているっていう、実感がわいてるような気がする。
「よっ……と」
最後の一枚を葺き終える。
ちょっと時間はかかったかもしれないけど、しっかりと葺けたと思う。
道具を片付け、とんとんと確認してから、はしごを降りる。
「あ、終わった?」
「何とか」
下にいたサーシャさんが話しかけてくる。
「さっすがキョータくん。何でも出来ちゃうね」
「はは……」
褒められて、悪い気はしない……けど。
「じゃあ、これもお願い」
……やっぱり。
サーシャさんって人は、笑顔で褒めておだてながら、実に上手い具合に仕事を押し付けてくる。
「……えーと、これって……?」
大きなカゴの中に詰め込まれた大量の草花を見て、サーシャさんに尋ねる。
「ん? それ、ぜんぶ薬草。薬にするから、向こうの方に広げて干しといてほしいの」
「薬草……ですか」
この道場で……というか、この国で薬といえば100%漢方薬。
草花は言うに及ばず、薬効があるといえば動物だろうが鉱石だろうが、もう何でも使う。
……個人的には、蚕をすり鉢で潰す仕事だけはもう許してほしいけど。
「ミコトちゃんにも手伝ってもらえば早いわよ」
「そう、ですね」
最近は、ミコトちゃんも時々だけど笑顔を見せたり、女の子らしい反応を見せたりする。
やっぱり、そういう仕草を見せてくれるとこっちとしても少し嬉しかったりする。
「向こうで、お洗濯干してたはずだから、後でお願いしたら?」
「そうですね」
「じゃ、あとはお願いね」
そう言って、サーシャさんは調理場の方へと歩いていった。
干し場では、ミコトちゃんが黙々と洗濯物を干している。
「…………」
こっちを見ようともしない。
いくら、少しは笑ってくれるようになったとは言っても、普段はずっとこの調子。
……だけど。
「あれ?」
ふと、違和感に気付く。
「ねえ、ミコトちゃん」
「……何ですか?」
一拍遅れての返事。
「それ、表裏逆じゃない?」
「……あっ……」
その言葉で、あわてて干してあった胴着をはずしてる。
まあ、大して変わらないとは言っても、几帳面なミコトちゃんらしくない。
「珍しいな、ミコトちゃんが間違えるなんて」
「……すみません」
「別に俺に謝らなくったっていいよ。たまにはそんなこともあるって」
「……すみません」
それでも、小声で謝りながら胴着を干しなおす。
「俺、向こうで薬草干してるから、後で手伝ってもらえないかな?」
「…………」
返事が重い。
「だ、だめならいいんだ」
「……いえ……後でそちらに向かいます」
「ごめん」
「いえ……」
何か、普段と違うような気がする。
だけど、いつものことといえばいつものことかもしれない。喜怒哀楽をそんなに出さないし、外からは感情の起伏が分かりにくい。
……考えたって、答えが出るわけじゃない。
「じゃあ、向こうにいるから」
そう言って、俺はその場を離れた。
「…………」
ミコトちゃんは、また黙々と洗濯物を干していた。
道場からは少し離れた場所に、干し場はある。
「よっこら……せっと」
大きなカゴを床に置き、薬草をそれなりに分けながら干す。
吊るしたほうがいいもの、網に載せて干すもの、陰干しがいいもの、日に当てたほうがいいもの、いろいろとある。
……ってのは、フェイレンさんの受け売り。
ここでしか取れない薬草なんてのもあるらしくて、そういうのはけっこう高いらしい。
道場にとっては、結構大きな収入だと言っていた。
「……ん?」
ふっと、強い芳香が風に乗って流れてきた。
「なんだろ……この匂い」
「キンモクセイです」
後ろから、ミコトちゃんが答えた。
「えっ……?」
「キンモクセイの花はこの季節に咲きます。きっとこの近くに、キンモクセイの木があるんでしょう」
そう言いながら、俺のそばに来る。
「ミコトちゃん、洗濯終わったの?」
「はい」
「じゃあ、手伝ってくれるんだ」
「はい」
「ごめん、いつも手伝わせてばかりで」
「いえ、そのほうが効率的ですから」
「そっか」
「…………」
黙々と、かごの中の薬草を仕分けていくミコトちゃん。
俺より、ずっと手が早い。
俺が薬草を手にとって、これはどこかって考えてる間に、ミコトちゃんは三つか四つ、分け終わってたりする。
そんなわけだから、自然と分担が分かれてしまって、ミコトちゃんがかごの中の薬草を仕分けて、俺がそれぞれの場所に干すような形になってしまう。
で、そうやって二人で手分けして干してた時。
「……あれ、ミコトちゃん」
「……はい」
「これって、日干しでよかったっけ?」
そう言って、一つの薬草を見せる。
はっきりと断言できるほど記憶しては無いけど、何か違ってたような気がする。
「あっ……」
驚いて、そして目を伏せるミコトちゃん。
「すみません……」
「これって、陰干しだよね?」
「……はい」
「じゃあ、干しなおしておくから」
「……すみません」
目を落とすミコトちゃん。なんか気の毒になって、それ以上は何もいえなくなる。
「……わたし、どうかしてますね」
「いや、たまにはそんな時もあるって。今日は早めに寝たらいいよ。きっと疲れてるんだし」
「…………」
ミコトちゃんは返事を返すかわりに、また黙々と薬草を区分け始める。
「…………」
俺も、それ以上なにか言える雰囲気でもなく、黙って黙々と薬草を干していった。
夕方。
「ほらほら〜っ、ごはんできてるわよぉ!」
サーシャさんが、お玉をぶんぶんと振り回しながら俺達を呼んでいる。
「はいはいっ、いま行きまーすっ!」
駆け出す俺。数歩走ってから、ミコトちゃんが付いてきていないことに気づいて振り向く。
「…………」
「ミコトちゃん?」
「……あ」
まるで、いま気付いたかのように、顔を上げてこっちを見る。
「その、大丈夫ですから、先に行ってください」
「大丈夫?」
「大丈夫です」
いつもと変わらない、あまり感情のない声。
だけどそれが、今日だけは変に気になった。
「一緒に行こうか」
「……わかりました」
横に付き添うようにして、サーシャさんの待っている厨房に向かう。
「あらあら、仲いいわねぇ」
「からかわないでください。それより、今日は何ですか?」
その言葉に、お玉を持った手を組んでにまっと笑うサーシャさん。
「じゃーんっ」
その言葉とともに現れた、テーブルいっぱいの料理。
きのこの炒飯、鮭のきのこあんかけ、きのこの揚げ物にきのこのスープ。栗のデザート。
秋の幸をふんだんに使った、サーシャさんの力作が綺麗に並べられている。
「うわぁ……」
「道場の人たちには秘密よ」
そういっ、おどけたように人差し指を口の前に立てるサーシャさん。
「やっぱり、修行中の人は贅沢しちゃダメよねぇ」
……つまり、この美味しそうなきのこ尽くしを相伴できるのは俺達だけらしい。
「そ、そうですよねっ」
「そうそう。そういうわけだから、みんな遠慮しないで食べてね」
「……いただきます」
目の前にある秋の幸を、俺達はたっぷりと味わいながら食べる。
「ん〜っ、やっぱり美味しい」
「とーぜん。このサーシャお姉さんが腕によりをかけて作ったんだから」
「あんまり食べたら、太らないかな」
「もおっ! そういうこと言う子はこーだっ!」
ぱこん。
「あたっ……お、お玉で叩かないでくださいよぉ……」
「反省しなさいっ」
「はぁい……」
俺とサーシャさんは、そんな感じでがやがやと騒ぎながら食べていたんだけど、ふと隣に座ったミコトちゃんの様子が気になる。
「…………」
箸を運びながらも、どこか心ここにあらずといった雰囲気。
「ミコトちゃん」
「……えっ!? はい、何でしょうか……」
「大丈夫? おいしいよ、これ」
「はい……美味しくいただかせてもらってます」
「なんか、ちょっと様子が変だよ。大丈夫?」
「……はい。心配かけて申し訳ありません」
「キョータくん、食べさせてあげたら?」
からかうような目つきで俺を見ながら、そんなことをいうサーシャさん。
「え、ええぇぇっ!?」
「あら、男ならたまにはそのくらいしてもいいんじゃない? スキンシップって大事よ」
「す、すきんしっぷったって……」
あたふたしている俺を上目遣いで見ながら悪魔の微笑を浮かべるサーシャさん。
……おれが、そういうの苦手なの知ってるくせに。
「その、大丈夫です……ひとりで」
そんな俺を見かねたのか、それとも他の理由があるのか、ミコトちゃんはそう言って俺をそっと手で制すと、目の前のご飯に箸を伸ばした。
「……おいしいです」
そう言って、サーシャさんに少し笑顔を見せる。
「よかったぁ。栄養あるから、無理しない程度にたっぷり食べてね。この時期、体調崩すことも多いから栄養は大切よ」
「……はい」
そして、ゆっくりとだけど料理を食べるミコトちゃん。
「…………」
ちょっとだけ、何かが気になるんだけど、その気になる「何か」が何なのか、自分でもよくわからない。
とりあえず、考えるのはそこまでにして、俺も目の前の料理に集中することにした。
「むぅ〜〜〜」
その夜。
「何だよ、その不機嫌そうな顔」
ご主人様が、露骨に不機嫌そうな顔で俺を見ている。
「きのこご飯、食べたかったなぁ〜」
「なんだ、そんなことか」
思わず笑ってしまったのを見て、ご主人様が怒りもあらわに言う。
「そんなことって、ボクにとっては大事件なんだぞっ! いつもいつも、道場の食事っておいしくないのに!」
「来たらよかったのに」
「知らなかったんだもんっ!」
「まあ、たまにはいいじゃないか」
「よくないっ! キョータくんのいじわる! バカ! 人でなし!」
「……って、うわっ、目が本気じゃないか!」
「本気だもんっ!」
「ちょっとまて、その、話せばわかる!」
跳びかかってきたご主人様に、あっという間に組み敷かれる。
「だから、その、話せば分かる!」
「わかりたくないっ!」
「うわっ、ちょっ、だから待てって!」
「やだ! キョータくんのばかーっ!」
……で。
気が付くと、どーしていつもこうなってるんだか。
「キョータくん……」
「……ん……?」
いつの間にか寝台の上にいる俺とご主人様。
正直、いまはもう返事をする余力もない。
「もー二度と、ボクに秘密でおいしいもの食べたりしちゃだめだからね?」
手足を俺に絡み付けたまま、まだ絶頂の余韻の残る表情でご主人様が言う。
「わーってる」
「ホントだよ? ボクが、キョータ君のご主人様なんだからね」
そういいながら、力の入らない身体で抱きついてくる。
「わーってるって」
「ホントにホントだよ……すぅ」
「……って、おい……」
言いたいことだけ言って、やりたいことだけやって、そのまま勝手に寝てしまうご主人様。
「……ったく」
仕方がないから、俺も寝ることにした。
翌日。
「おはよう、ミコトちゃん」
「……おはようございます」
俺の方を見て、ぺこりと頭を下げる。
「よく眠れた?」
「……大丈夫です」
「そっか。でも、つらかったらいつでも言ってくれたらいいから」
「……わかりました」
そう言って、ミコトちゃんは向こうに歩いていく。
「…………」
本当に、大丈夫なんだろうか。
ミコトちゃんはああいう子だから、滅多に感情を見せない。
嬉しい時も、悲しいときも、あまり態度が変わらない。
だから、そばにいるほうは結構やきもきするわけで。
「きょ〜うったクン♪」
「うわっ!」
後ろから、急に目隠ししてくる手。
「な、なんですかサーシャさんっ!?」
「あら、わかっちゃった?」
「そんな子供じみたことする人、サーシャさんしかいませんっ!」
「あら」
ちょっと、怒ったような声。
「それじゃ、私がまるで子供みたいじゃない」
「こんなことする大人はいません」
「じゃ、こんなことしちゃったらどう?」
むに。
目隠ししたまま、背中にしなだれかかってくる。
「って、サーシャさんっっ!」
「んふふ〜♪ こんなことしてるのを誰かに見つかっちゃったら、どーなるかな〜」
「だからっ、やめてくださ……あっ」
むりやり、目隠ししている手をほどいた時に、向こうの方にいたミコトちゃんと目が合う。
「…………」
何も見てないみたいに、そのまま向こうを向いて歩いていくミコトちゃん。
「あ……」
「あーあ、嫌われちゃった」
「誰のせいですかっ!」
そういうことがあると、やっぱり何かと気まずいわけで。
ミコトちゃんは何も気にしてないみたいだけど、こっちが気になる。
「あ、あのっ……」
何どもってんだよ俺。
「なんでしょうか……」
「手伝えることってなにかある?」
「……今のところはありません」
「そ、そっか……」
「キョータさんは」
「なに?」
「……あっ、いえ……」
あわてて、目をそらすミコトちゃん。
「なに?」
「……なんでもありません。その、二人いると手狭なので、少し一人にさせてください」
「……あ、ああ、わかった……」
「…………」
……考えすぎなのはわかってるんだ。
わかってるんだけどなぁ……
それがきっかけと言うわけでもないんだろうけど。
最近、ミコトちゃんのようすがやっぱり少し違う。
話をしていても、うわの空だったりすることもあるし、前じゃ考えられないような簡単なミスをしたりもする。
たとえば、ご飯がおこげになったり、お砂糖や塩を切らしたり。
あきらかに、何かが前とは違う。
「ねえ、ミコトちゃん」
「……なんでしょうか」
「ほんと、疲れてるなら無理しなくていいから。俺が代わるから」
「……いえ、大丈夫です」
「大丈夫ったって……最近、どっか調子悪いんじゃないのか?」
「……だいじょうぶです」
強い口調でそういわれると、引くしかないわけで。
「……わかった。だけど、本当にもし、なにかあるんなら……その、頼むから俺に言ってくれ」
「……何もありませんから」
すっと、そう言って歩き出すミコトちゃん。
「あ……」
取り残される俺。
「……ふぅ」
小さく、ため息を付く。
「キョータくんキョータくん、こっちこっち」
物陰から、サーシャさんが手招きしている。
「はいはい、なんですか……?」
歩いていくと、サーシャさんが笑顔で待っていた。
「ミコトちゃん、最近様子がヘンよね」
「ですね」
「何でだとおもう?」
「……わかりません」
正直に答える。
「ふふっ」
俺の答えに、くすくすと意味深な微笑を見せるサーシャさん。
「知ってるんですか?」
「知ってるもなにも、原因はキョータくんよ」
「お、俺?」
「きまってるじゃない。几帳面で真面目な女の子が、ある日を境に急にぼーっとしたり小さなミスをしたり。何か頭の中で考え事をしてるから集中できないんでしょ?」
「ええ、まあ……」
「だったらそんなの、恋の病に決まってるじゃない」
「!?」
「今更、シラを切るつもりじゃないでしょ?」
「……い、いやまあ、そりゃあたしかに……」
まあ、その……そりゃあ確かに、あんなこともしてるし。
「未来の夫が、毎晩毎晩自分以外の女性とあんなことやこんなことしてたら、心中穏やかじゃないわよね〜」
「い、いやだって、そりゃあ……」
一応、俺もご主人様に使える召使なわけで。
困惑してる俺を見ながら、つんと指で俺の額をつつくサーシャさん。
「そーよねぇ〜……仕方ないことだから、じーっと我慢するしかないのよねぇ〜……で、そーやって心の中にもやもやしたものがいっぱい溜まってきて、最後には……」
「な、なんですかその怖そうな言い方は」
「グサっ! とかなっちゃうかもしれないぞぉ」
そう言いながら、右手でナイフを突き刺す仕草をする。
「……恐ろしいこと言わないでください」
「あら、よくある話じゃない。男と女がどろどろの三角関係の果てに……とか」
「勘弁してください……」
肩をすくめる俺を見て、サーシャさんが笑う。
「ほんと、キョータくんってまだまだお子様ね」
「ほっといてください」
「……ふふ」
なにか微笑ましいものでも見るようなサーシャさんの視線。
「ま、それがキョータくんのいいところか」
そう言って、ぐいっと肩に手を回してくる。
「おねーさんは味方だからね、キョータくん♪」
「……はいはい」
人の胃が痛くなるような話をしておいて、味方とか言われても困ります。
そんなこんなで、時間だけが流れていく。
ミコトちゃんも、やっぱり昔に比べたら危なっかしくはあるけど、まあ致命的なミスとかはしてないし、俺は俺で目の前の仕事に振り回されている。
そんなある日のこと。
俺が炭小屋で炭俵を運び出していると、扉のところにミコトちゃんがいた。
「…………」
「あれ、どうしたの?」
「……その……」
少しだけ口ごもるミコトちゃん。しばらくして、ぽつりと言った。
「キョータさんを、少しだけ見ていてもいいですか?」
「え?」
「……その、邪魔はしませんから。少しの間だけ、キョータさんを……見ていてもいいですか」
「あ、ああ、こんなのでよければ……」
よくわからないけど、断る理由もないし。
そうでなくてもこんな時だから、なるべくミコトちゃんのしたいようにさせたほうがいいような気がする。
「ありがとうございます」
……まあ、そんなわけで。
お世辞にも広いとはいえない炭小屋の中で、炭俵を引っ張り出しては台車に積み込んでる俺と、それを少しはなれたところからじーっと見ているミコトちゃん。
何と言うか、奇妙な光景なんだろうな……と思いながら入り口を見ると。
「そこ、覗き見しない」
じーっと、そんな奇妙な二人を見ている四つの視線が。
「あははっ……お邪魔しました〜」
「あーっ、ちょっと、これからいいとこなのにーっ!! こらっ、引っ張るなぁ、サーシャ〜っ!!」
「それじゃあ、あとは若い二人に任せて、お邪魔虫は消えまーす」
「…………」
「……気にしていませんから、続けてください」
「あ、ああ……」
そんなこんなで、炭俵を積み込んで、下に降りるまで、ずーっとミコトちゃんに見られながら坂道を降りた。
坂道を降り、厨房の炭置き場まで来たところで、ミコトちゃんが話しかけてきた。
「……キョータさん」
「何?」
「……その、ありがとうございました」
「あ、ああ……まあ、こんなことでよければいつでも言ってくれれば」
そう言うと、一瞬だけミコトちゃんが寂しそうな表情を見せた気がした。
「……その、キョータさん……」
「ん?」
「明日……一緒に、買い物に行きませんか」
ミコトちゃんには珍しく、何を思いつめたような瞳。
「え? ああ、いいけど……」
「じゃあ……明日、お昼から一緒に」
「わかった」
「それじゃ、私、まだお仕事がありますのでこれで……」
「うん。それじゃ」
その夜。
「キョータくんも、意外と隅に置けないよねぇ」
寝台の上でいつものように俺を押し倒したまま、そう言って笑うご主人様。
「隅に置けないって、何がだよ」
「ん〜? わかってるくせに〜」
ぐりぐり。
「ミコトちゃん、もうキョータくんしか見えてないって感じだったじゃない」
「……それなんだけどなぁ……」
どうも、気になることがある。
どこがどう気になる、と言われるとはっきりとは答えられないんだけど。
「ん〜? どうしたの、一人前に悩んだフリなんかしちゃって」
人の気も知らないで、そんなことを言うご主人様。
「悩んでるんだよ」
「悩んでるって、何を?」
「何を……って」
「あ、そうか。ボクとミコトちゃん、どっちを取るかって悩んでるんだ」
「……あのなぁ……」
「うんうん、キョータくんにとってはゼイタクな悩みだよねぇ……こんな美人でカワイイご主人様と、かいがいしくて健気なミコトちゃん。どっちもキョータ君なんかにはもったいないよねぇ……」
勝手に自分だけの世界に入り込むご主人様。
「……話を聞け」
「ん? 何の話?」
「あ、いや……」
いざ、何の話? と言われると、頭の中をぐるぐるとよぎる奇妙な違和感を、どうも上手く言葉に出来ない。
「……なんていうか、気になるんだよ」
「何が?」
「……わからない。わからないんだけど、何かが頭の中でおかしいぞって言っている。だけどそれが何なのか、まだわからない」
「ふーん……」
「だから、いまはあまりミコトちゃんを困らせたくないんだ」
「へぇ〜……」
意味深な笑顔を浮かべて俺を見るご主人様。
「ミコトちゃんのこと、心配してるんだ」
「そりゃあ……な」
心配していないといえば嘘になる。
「あのニブくて鈍感で乙女心に疎いキョータくんでも、相手が未来のお嫁さんとなると目の色変えるんだ」
そう言って、おかしそうに笑うご主人様。
「……悪かったな」
「いやいやぁ〜。キョータくんも成長したんだなあ、うんうん」
「……っていいながら、この手は何ですか」
「ん? だって、ゴシュジンサマであるボクよりもミコトちゃんを心配するようなキョータくんには、ちゃーんとオシオキしないといけないし」
とかいいながら、俺の両手首を重ねて、頭の上で押さえつける。
「オシオキ……ってなぁ」
「ほらほら、口答え禁止だよ」
「って……んむっ」
無理やり、唇を重ねてくるご主人様。
開いている左腕を首に巻きつけ、両足も俺に絡みつけてくる。
そして、乱暴に舌を絡めながら抱きしめてくる。
「んむっ……んっ、く……」
本気でご主人様が押さえつけてくると、正直身動き一つできない。
無理やり押し倒された状態で、ご主人様と目が合う。
少しだけ、潤んだような目つきで俺を見ている。
「……キョータくんのくせに」
唇を離し、怒ったような声で言う。
「ボク以外の女の子を心配するなんて生意気だ」
少し、泣きそうな声。
「キョータ君が心配していいのはボクだけだ」
「……悪い」
「今日と言う今日は、絶対に許さないんだから」
そういいながら、俺の腕を押さえてた手を離して、両手で俺を抱きしめてくる。
「キョータくんのばか」
「ごめん」
かろうじて動く手で、ご主人様の髪の毛を撫でる。
「キョータくんなんて、ボクのドレイのくせに」
そういいながら、ご主人様は俺に抱きついて頬を寄せてくる。
「ボク以外の女の子の心配するキョータくんなんて、だいっ嫌いなんだから」
「だから、ごめん」
頭を撫でながら、もう一方の手で尻尾を軽く握る。
尻尾を握って、前後にさわさわと愛撫されるのが、ご主人様の弱点。
「ん……」
俺を抱きしるご主人様の腕の力が、ちょっと弱くなる。
それから、耳の付け根を軽くくすぐる。
「くふぅ……」
気持ち良さそうな声。
「ねえ、ご主人様」
「きょーたくん……」
「ごめんなさい、ご主人様」
そう言って、今度はこっちから手を回してご主人様を抱く。
「……だめ。ゆるさないんだから……」
そういいながら、首に手を回してくる。
「きょーたくんなんて、だいっきらいなんだから……」
そういいながら、また手足を絡み付けてくる。
「ぜったいにはなさないんだから……」
大嫌いとか言いながら、必死にしがみついてくる。
こういうのって、ご主人様が寂しがってるときの態度。
わざとわがままを言ったり、困らせることをしたりして、振り向いてもらおうとしてるみたい。
こういうところが、やっぱり子供っぽいんだけど、ご主人様がやるとちょっとかわいい。
で、まあ。
こういうときに、俺とご主人様が仲直りするためにやることは一つしかないわけで。
さわさわと背中をなでつけながら、尻尾をにぎにぎ。
「ん……」
ご主人様の、抱きついてくる力が少し弱くなる。
「どうやったら、機嫌を直してくれますか?」
そういいながら、ご主人様のお尻をなでなで。
「……だめ……ゆるさないんだもん……」
甘えるような声で、ぺたんと俺の上に寄りかかってくる。
「困ったな」
そういいながら、頭をなでる。
「きょーたくんがわるいんだから……」
ふにゃりとした表情で、俺に身を預けてくるご主人様。
肌と肌の触れ合う部分が、互いの汗でぬるりとする。
「じゃあ、もっと悪い召使になっちゃいましょうか」
そう言って、ご主人様と唇を重ねる。
そして、ご主人様の尻尾をもう一度にぎにぎ。
尻尾を握られるたびに、ご主人様の力が抜けていく。
片方の手で尻尾をいじりながら、もう一方の手でご主人様の大切な部分を愛撫する。
「やっ……」
おもわず唇を離し、声を上げるご主人様。
だけど、力が入らないのか、また俺の上に倒れこんでくる。
「ゃあん……きょーたくん……ひどいよぉ……」
「なにがですか?」
「しっぽはだめぇ……ちからがはいんないよぉ……」
「だから、やってるんですよ」
にぎにぎ、さわさわ、くちゅくちゅ。
力が入らないのをいいことに、ご主人様の前と後ろの弱点を左右の手でいじめる。
「きょーたくん……ずるいよぉ……」
「そんなこといって、気持ち良さそうな声ですよ」
「はぅ……そんなこと……ないもん……」
物欲しげにひくつくご主人様の下の口に人差し指と中指を挿入して、なるべくやさしくこね回す。
「くふぅ……んにぃ……」
甘い喘ぎ声を上げながら、俺の首に腕を回してしがみついてくる。
「はぁん……ボク……へんになっちゃうよぉ……」
「これでも、俺のことが嫌いですか?」
わざと、そんなことを聞いてみる。
「そんなこと……いわないでよぉ……んくぅ……」
無意識のうちに、やわらかな胸を俺の胸板に押し付けてくるご主人様。
甘えて、もっと気持ちよくしてもらいたいときのご主人様の癖。
とりあえず、ご主人様と唇を重ねながら、一度イかせてあげることにする。
ぬるりとしたものがあふれ出すご主人様の大切な部分に、何度も何度も指を這わせ、前後に動かす。
別の生き物のように俺の指を飲み込もうとするそこを刺激するたびに、しがみつくご主人様の身体がぴくんと波打つ。
力が抜けて、ふにゃりとなった尻尾を軽く握って、それをつかってご主人様の背中や横腹をくすぐる。
「にゃぅ……」
重ねた唇の隙間から、甘い声が漏れる。
もう、何をされても、されるがままのご主人様。
あとは、絶頂を迎えさせてあげるだけ。
くったりとしたご主人様がイってしまうのに、それからそんなに時間はかからなかった。
「よっ……と」
汗を拭いて、服を着る俺。
ご主人様は、まだ寝台の上でくったりしている。
「……きょーたくん……」
「何?」
「もう……やめちゃうの……?」
あんなに気持ち良さそうなのに、まだ物足りなさそうなご主人様。
もちろん、俺もまだやめる気もないし。
こういうときでもないと、できないこともあるし。
「じゃ、いきますか」
服を着替え、裸のご主人様の背中に手を回して起こす。
「いくって……?」
「外ですよ」
そう言って、扉の方へ連れ出そうとする。
「え、だって、ボク……」
裸のままのご主人様はあわてて服を着ようと手を伸ばす。
「ダメです」
尻尾を強く握る。
「はぅ……」
力が抜けるご主人様。
「このまま、外に行くんです」
「え……そんな、ボク……」
恥ずかしそうなご主人様。
だけど、すでに一回イかされ、しかも尻尾を握られているご主人様に、抵抗する力は残ってない。
だけど、まあ念のために。
「キョータくん……なに、それ……」
「これで、縛っちゃうんです」
ご主人様の服の帯で、後ろ手に縛る。
「いやぁ……キョータくん、ヒドイよぉ……」
「悪い召使になるって言ったでしょう?」
そう言って、ご主人様の手を背中に回すと、くるくると帯で縛る。
そして、しっぽをつかんだまま無理やり立たせる。
「さあ、いきますよ」
「いやぁ……キョータくんのばかぁ……」
恥ずかしがるご主人様を無理やり立たせて、俺は夜の散歩に出かけることにした。
「……ぜったい……だれかに見られてるよぉ……」
小さな声で俺に言ってくるご主人様。
「いいじゃないですか、ご主人様の裸、綺麗なんだし」
「だって……ボクだって、はずかしいよぉ……」
「恥ずかしい目にあわせてるんですよ」
そういいながら、廊下を抜け、外に。
ご主人様の裸身を、月明かりが照らす。
「どうして……こんなヒドイことするのよぉ……」
「かわいいから」
そう言って、ご主人様を俺の側に引き寄せる。
「あっ……」
「声を上げたら、誰かに聞こえて見つかっちゃいますよ」
「……キョータくんのばかぁ……こんなことするキョータくんなんて、キライなんだから……」
「キライでいいですよ」
そう言って、頬にキスをする。
「いつもワガママいってる罰です」
そういいながら、玄関でご主人様に靴を履かせ、外に出た。
「さむいっ……」
秋になって、少しだけひんやりしてきた。
裸のご主人様には、確かにちょっと寒いだろう。
「歩いてるうちに、あったまりますよ」
尻尾を握られ、後ろ手に縛られ、どうすることもできないご主人様を連れて夜の道場から外に出る。
つんと立った胸の先端が月明かりに照らされ、白い乳房に影を落とす。
恥ずかしいという感覚で、ちょっと敏感になっているんだろう。
冷たい風が、ひゅっと鳴って俺達を包み、抜ける。
「ひゃんっ……」
しゃがみこむご主人様。
「ほら、こんなところで座っちゃダメです」
無理やり起こす俺。
「…………」
恥ずかしそうな表情のご主人様。
風が触れただけでも感じてしまうくらい、敏感になっているみたい。
そういえば、ほとんど満月に近い。
今の時期だと、何をされても感じてしまうんだろう。
「…………」
おしだまったままのご主人様。
真夜中とはいえ、いつも通っている道を裸で歩かされていることが、たまらなく恥ずかしいんだろう。
しかも、空は晴れて月は大きく出て、ご主人様の裸体は嫌でも月光に照らされているし。
それを隠す両腕は、俺に縛られ、小さなお尻が、歩くたびに振れる。胸のふくらみがゆさゆさと揺れ、寒いはずなのにご主人様の肌はうっすらと汗ばんでいて、太股の内側も少し濡れている。
実は、ご主人様はこういうのに弱い。
なにしろ、道場主の娘で、腕っ節はめっぽう強いし、ちゃんとした立場にもいる反動で、被虐に対して極端に弱かったりする。
「誰か、見てるかもしれませんね」
そんなことを言って、ご主人様の恥ずかしがる反応を楽しむ。
実は、俺はあまり、ご主人様に敬語とか使わない。
というか、理由はわからないのだが、ついついタメ口になってしまう。……いちおう、これでも召使だから、言葉遣いにも気をつけたほうがいいとは言われてるんだけど。
それが、こういう風に、俺が上位にいる時はなぜか敬語になる。
……自分でもよくわからない。
「……も、もういいよね……もう帰ろうよぉ」
本当に恥ずかしそうなご主人様。まあ、全裸で野外散歩なんてアブノーマルなことは初めてなんだろう。……いや、俺も実際にやったのは初めてだけど。
「じゃあ、帰る前にこっち」
そういって、石畳の道から少しそれた小道に入る。
「ゃん……くすぐったいよぉ……」
道端から生えるススキや雑草が、裸のご主人様をくすぐる。
だけど、無理やりその中を立たせて歩かせる。
「あんっ……だめ、そこぉ……んくぅ……」
過敏になった肌を雑草にいじめられながら、それでも小道を歩かされる。
やがて、道を少し離れた場所にある、小さな広場に出た。
「ここ……」
綺麗な秋の花が、たくさん咲いている。
「かわいかったですよ、ご主人様」
そういって、ようやくご主人様を座らせる。
「……キョータくんのばかぁ……はずかしかったんだから……」
「でも、そんなご主人様も良かったですよ」
そういいながら、抱き寄せる。
「あっ……」
「綺麗な場所でしょ」
「うん……」
「ここなら、誰にも見つかりませんよ」
「……ここで……するの?」
「したいですか?」
「……うん」
はずかしそうにうなづくご主人様。
「わかりました」
ご主人様の手を縛っていた帯を解く。
すっかり火照りきった肌に浮かぶ汗が月光に照らされてきらきらと光る。
「じゃあ、恥ずかしいことを我慢したご褒美に」
そう言って、俺はご主人様を抱いた。
翌朝。
「……見られてなかったよね」
何度も何度も、俺に確認してくるご主人様。
「あの道順で、誰が見るんですか」
「……それはそうだけど」
いちおう、これでも考えている。
居住棟からは一番遠い通路を歩いたし、歩いた山道だって、奥山に向かうほうの道で、絶対に人なんか通らない。
ご主人様のことだから、裸で縛られて野外を歩かされるというだけで、あとは時々、恥ずかしくなるような言葉をかけるだけで、羞恥心で頭が一杯になって、冷静ではいられないだろうという読み。
案の定と言うか、昨日はそんな安全パイのルートなのに、羞恥心でいっぱいになっていた。
まあ、万が一にも昨日の散歩を見ていた人がいたりしたら、たぶん今日中、それも午前中には不幸な事故が起きて、裏山に墓石が増えることだろう……いや、マジで。
とりあえず、今日は今日の一日が始まる。
そして、俺は。
──ミコトちゃん……だいじょうぶなのかな。
昨日の約束のことを思いながら、とりあえず朝の仕事に向かうことにした。
(後編に続く)
……えーと。
獅子国は基本的に一話完結なんだけど、容量の問題も気になるんで、とりあえず前半部にエロ分を追加して投下しました。
もともとは、ミコトとキョータのお話だったんですけど、そっちは後編で。
最近、ちょっと殺伐としたレスもあったんで、どうしたものかなとは思いましたが、まあ、その、世界の危機も銃火器も壮大な設定もない、ただひたすらにエロだけのSSを投下するというのも、たまにはいいんじゃないかとw
最近、避難所でも本スレでもいろんな議論が出る中で、じゃあ俺の持ち味ってなんなんだろう、この多士済々のこちむいスレの中での、俺の存在価値って何だろう、とか考えたりするわけです。
執筆速度じゃ鼠担当さんや蛇足さんや蜂の人など最近の職人さんにはかなわないし、戦闘は見聞録の人や蛇の人にかなわないし、かといって意表をつく設定は諸刃の剣だし……
……そうだ、俺にはエロがある!(゚∀゚)
……それしかないのかよorz
まあ、それはそれとして。
獅子国後半部は来月になりそうです。そのあと、岩と森も。
乙ですともウヒョー
相変わらずファリィたんが破壊力満点すぎて困ります
>>471 いい加減、自分語りで他の方を引き合いに出すのは、やめていただけないでしょうか。
ウホッ、いい野外!
キョータ君め、このスレのヒト奴隷の中でも力量最底辺のくせに生意気な
自治云々以前にマナーの問題だからなぁ。
褒める意味合いなんだから他の書き手の名前をいくらでも出してもいい、と考えているだろう行動は流石に目に余る。
その名前出した書き手さんが気分を害するんじゃないか、とか思わずに、
勝手に名前を出すその神経が信じられない。
連絡することがあったりとか、打ち合わせをしなくちゃならないから名前を出すわけでもなく、
自分の作品と比較するために人の名前を出すなんて……。
匿名の書き込みで言うのもなんだが、
コテハンでしゃべっているという自覚を少しは持って欲しいな。
激しくGJ!!(でも実はミコトちゃんはフェイレンさんとくっついて欲しかったり)
まあ、個人的な萌えの問題だし、この展開も萌えるからいいんだけど!!
そういえばヒト奴隷の力量って、表にするとどんな感じなんだろ。少し気になる。
>>476 言いたい事は理解できるけどもう少しスマートにやろうよ
同感だね。匿名とは言え公衆の面前で公然と人間性を疑う事は書き込むべきで無い。
憤る気持ちはまぁ何とか理解しても、この場において公然と神経を疑うなどと書き込める面の皮の厚さは大したものだ…と思う人間もいると思った方が良いよ。
ミコトちゃんはもしかしてあれが止まってない?つk(ry
今やっと話が書き終わりそうなんだけど、
エロまで行こうとしてたら50KB突破しちった。
しかもこのままだと全部書き終わったら60KBまで行きそう。
要領が微妙で・・・どうしましょ・・・・
2つか3つにわけてupすればいいんじゃね?
ちなみに今のスレ容量は450弱。
後一個投下したら次スレというところか。
つうか、残り50KBなんだから、どっか適当なロダにあげて
それの感想とかコメントとかで軽く50KB行きそうな悪寒・・・
流れぶったぎってキョータくんとご主人さまとミコトちゃんの3P希望。
つまりそれぐらいGJ。
486 :
名無しさん@ピンキー:2006/10/24(火) 15:02:22 ID:i2MY5VIk
ROMしてにやけてる俺が通りますよ
>474 >476 >479 もっともな意見なので禿同
今まで黙って生暖かく見てきたが
避難所といい>471といい、勝手に他人のコテや作品を論いまるでこのスレは自分が管理してるといわんばかりの横柄な態度w
はっきり言わせてもらえば執筆速度や戦闘以前にSS自体がつまらないと自覚したまいw
カモシカ担当って自己語りと他人晒しが好きな奴だなと言われないとわからないか?
いい加減過去の自己語りをよく振り返って見ることをお勧めする
>……そうだ、俺にはエロがある!(゚∀゚)
ねーよ!w
少しは先人や他の書き手を見習え
オマエ以外に他人を一見誉めてる様に見えるが実際は晒し叩いている書き手は他におるまい
本当に成人してるのか?文章作法以前に接遇応対マナーを学ぶことをお勧めする
age荒らしが寄り付くようになったらこのスレの人気も本物だなw
とりあえずカモシカ氏には変に相手にせずに放置しておく事を強く推奨します。
……ageたり、言葉遣いは荒いが言ってることの半分は当たってると思うぞ。
文句を言うのは自由だが、所詮そこまでだからなぁ……
――誰かに一度はっきり言われなきゃわからないこともあるでしょうね
ageや言葉遣いは感心しないけど、内心ではこのレスに拍手を送ってる人は多いと思います
自分を含めてです
491 :
名無しさん@ピンキー:2006/10/24(火) 16:36:13 ID:FXQK3gia
言葉足らずだったので補足です。
このレス=
>>486です。
でもageない事と言葉使いはもう少し選んで頂きたいものとは思います。
…こんな事で揚げ足とっても仕方無いがオマエモn(ry
挫折を味わずに大成する人はいないと思う。個人的には作品は好きなんでこれからもカモシカ氏には精進して欲しいです。
>>492 >これからもカモシカ氏には精進して欲しいです。
「ヒト」としての人間性を、って意味?
自作自演擁護はやめなよ>カモシカ氏
デモシカ氏と呼んだほうがいい?
そんなことよりサメの話しようぜ
>個人的には<<作品は>>好きなんで
>デモシカ氏と呼んだほうがいい?
ワロス。GJ!
電波受信
「昔、サカナの女とヤッタことあるんだよ」
「で、どうだった?」
「いやそれがサメ肌で」
>>479 今更だが、
面の皮の厚さは大したものだ…云々て言ってるけど、
おまいさんも『匿名とはいえ公衆の面前で公然と人間性を疑うこと』を書き込んでるじゃねーか。
図星突かれて顔を真っ赤にしてるのはわかるが、もうちょっと落ち着いてから書き込めよ。
>>490って本当に成人してんの?自分に酔ったような言葉遣いやめれwww
この流れの中で>498->499w
餓鬼の口喧嘩じゃないんだからさ……
「ば〜か!」 と言われて「オマエの方が馬鹿だ!」と言い返してるのと同じレベルだと理解しろよ、恥ずかしい
かの人の自演カキコと疑われても仕方ないぞ
人のSSに文句つけるんだったら自分で他の人を満足させられるものでも書いてみろよww
書けないやつが文句言っちゃいけないよ
自己主張の激しいコテはどんなにSSが良くてもイラネ
>>502 だから自演はよせと……(ry
今回問題とされているのは「某氏」の『自己語りと他人晒し』であって『SSの文句』じゃないだろ
文章と流れをよく読もうな?
それとそのよく見かける定型分のようなレス、頭悪そうに見えるから使わない方がいい
怒りで顔が真っ赤なのはわかるんだけどさ
ところで、次スレのテンプレどうする?
新規参入は1つだけみたいだが。
個人的には属性リストはもうちょっと大ざっぱでもいいと思う。
ほんとに要注意な属性が抜けてたりするし。
>>505 まず自分で試しに作らないと、誰も動かないと思うよ。
まぁそのへんは適当に
そうか。
じゃあ試しに。
属性はよくわからんから他の人に頼む。
509 :
テンプレ:2006/10/24(火) 21:41:18 ID:f4u7lSzk
ここは人間の住む世界とはちょっと違う、ケモノ達の住む世界です。
周りを見渡せば、そこらじゅうに猫耳・犬耳・etc。
一方人間はというと、時々人間界から迷い込んで(落ちて)来る程度で数も少なく、
希少価値も高い事から、貴族の召使いとして重宝がられる事が多かったり少なかったりします。
けど、微妙にヒエラルキーの下の方にいるヒトの中にも、例えば猫耳のお姫様に拾われて
『元の世界に帰る方法は知らないにゃ。知っていても絶対帰さないにゃあ……』
なんて言われて押し倒され、エロエロどろどろ、けっこうラブラブ、
時折ハートフルな毎日を過ごすことを強要される者もいるわけで……。
このスレッドは、こんな感じのヒト召使いと、こんな感じのケモノ耳のご主人様との、
あんな毎日やそんな毎日を描いたオリジナルSSを投下するスレです。
このスレッドを御覧のヒト召使い予備軍の皆様、このスレッドはこちらの世界との境界が、
薄くなっている場所に立てられていますので、閲覧の際には充分ご注意ください。
もしかしたら、ご主人様達の明日の御相手は、あなたかもしれませんよ?
それではまず
>>2-4を見てください
510 :
テンプレ:2006/10/24(火) 21:41:55 ID:f4u7lSzk
511 :
テンプレ:2006/10/24(火) 21:43:24 ID:f4u7lSzk
NO: 作品タイトル 経過 <作者様名(敬称略) 初出 >
01: こっちをむいてよ!! ご主人様 全10+1話完結! <こちむい 1st-29>
02: IBYD 停滞中… <180 2nd-189>
03: 華蝶楓月 停滞中… <狐耳の者 2nd-217>
04: こちむいII あしたあえたら 只今連載中! <あしたら(=こちむい) 2nd-465>
05: 火蓮と悠希 停滞中… <(´・ω・`)へたれ猫 2nd-492>
06: 十六夜賛歌 停滞中… <兎の人 2nd-504>
07: ソラとケン 停滞中… <◆rzHf2cUsLc 2nd-645>
08: ご主人様とぼく 停滞中… <65 2nd-738>
09: 狼耳モノ@辺境(仮題) 全1話完結? <狼耳モノ@辺境(仮題) 3rd-78>
10: Silver Tail Story(仮題) 停滞中… <狼を書く者 ◆WINGTr7hLQ 3rd-103>
11: 薄御伽草子 停滞中… <161 3rd-171>
12: 放浪女王と銀輪の従者 只今連載中! <蛇担当 3rd-262>
13: 黄金の風 停滞中… <一等星 3rd-348>
14: 最高で最低の奴隷 只今連載中! <虎の子 3rd-476>
15: From A to B... 全1話完結? <エビの人……もとい兎の人 3rd-543>
16: 魚(・ω・)ヒト 停滞中… <魚(・ω・)ヒト 3rd-739>
17: 狗国見聞録 一応完結? <692 3rd-754>
18: 草原の潮風 停滞中… <63 4th-63>
19: 岩と森の国の物語 只今連載中! <カモシカの人 4th-82>
20: scorpionfish 只今連載中! <scorpionfish 4th-125>
21: 猫の国 停滞中… <◆ozOtJW9BFA 4th-522>
22: 不眠猫のお嬢様 停滞中… <不眠症 5th-215>
23: 木登りと朱いピューマ 一応完結! <ピューマ担当 5th-566>
24: こたつでみかん 完結! <5th-16>
25: ネコとまたたび 完結? <5th-647>
26: リレー スレ埋め連載中? <5th-666〜>
27: 狐耳っ子と剣術少女 只今連載中! <6th-21>
28: 蛇短編 連載中? <6th-42>
29: 白熊の国 連載中? <6th-367>
30: 夜明けのジャガー 只今連載中! <ピューマ担当 6th-554>
31: 獅子の国 只今連載中! <カモシカの人 7th-25>
32: タイトル不明 新規参入! <◆vq263Gr.hw 7th-388>
33: ペンギンの国 新規参入! <ぺん 7th-459>
34: こちむい番外 なぜなにこちむい 新作開始! <なぜこち(=あしたら=こちむい) 7th-499>
35: 猪短編 <7th-523>
36: 金剛樹の梢の下 只今連載中! <◆/oj0AhRKAw 7th-633>
36: 白 新規参入! <8th-67>
37: 熊の国 新規参入! <熊の人 8th-92>
38: ハイエナの国 新規参入! <274 8th-282>
39: 鳥? 新規参入! <8th-308>
40: 無垢と未熟と計画と? 只今連載中! <8th-402>
41: 蛇足〜はみ出しモノ〜 只今連載中! <623 ◆Jyj5OiZTN 8th-623>
42: 魔法少女ホーネットべすぺ 新規参入! <9th-150>
43:オオカミの騎士 新規参入! <オオカミ書き 9th-349>
こんなところかな。
修正あったらよろ。
新規参入が多いような気がするのは俺の目の錯覚かな?w
新規参入多すぎないか?w
あと、停滞中多いから分けたりした方がいいのかな……?
>>508 乙。
でも頼むから属性リストから抜けてる「ほんとに要注意な属性」が何かだけでも教えて。
>>514 ・とりあえず数が増えたので、小ネタ&一発ネタのは除いてみた
・明らかに導入部、それも100行未満で途中かけ、ご主人様の名前すら出てないのは除いてみた
・もう長いこと放置されっぱなしの停滞中は別に分けた
01:【こっちをむいてよ!! ご主人様】 一応完結! <こちむい 1st-29>
02:【こちむいII あしたあえたら】 只今連載中! <あしたら(=こちむい) 2nd-465>
03:【狼耳モノ@辺境(仮題)】 全1話完結? <狼耳モノ@辺境(仮題) 3rd-78>
04:【放浪女王と銀輪の従者】 只今連載中! <蛇担当 3rd-262>
05:【最高で最低の奴隷】 只今連載中! <虎の子 3rd-476>
06:【From A to B...】 全1話完結? <エビの人…もとい兎の人 3rd-543>
07:【狗国見聞録】 一応完結? <692 3rd-754>
08:【岩と森の国の物語】 只今連載中! <カモシカの人 4th-82>
09:【scorpionfish】 只今連載中! <scorpionfish 4th-125>
10:【木登りと朱いピューマ】 一応完結! <ピューマ担当 5th-566>
11:【こたつでみかん】 完結! <5th-16>
12:【ネコとまたたび】 (+リレー)完結? <5th-647>
13:【狐耳っ子と剣術少女】 只今連載中! <6th-21>
14:【白熊の国】 連載中? <6th-367>
15:【夜明けのジャガー】 只今連載中! <ピューマ担当 6th-554>
16:【獅子国伝奇&外伝】 只今連載中! <カモシカの人 7th-25>
17:【俺とクゥ】 新規参入! <◆vq263Gr.hw 7th-388>
18:【ペンギンの国】 新規参入! <ぺん 7th-459>
19:【金剛樹の梢の下】 只今連載中! <◆/oj0AhRKAw 7th-633>
20:【狼の国】 新規参入! <白 8th-67>
21:【熊の国】 新規参入! <熊の人 8th-92>
22:【無垢と未熟と計画と?】 只今連載中! <8th-402>
23:【蛇足〜はみ出しモノ〜】 只今連載中! <623 ◆Jyj5OiZTN 8th-623>
24:【魔法少女ホーネットべすぺ】 只今連載中! <9th-150>
25:【オオカミの騎士】 新規参入! <オオカミ書き 9th-349>
ざんねんですが そのぼうけんしょは すでに きえてしまっています
【IBYD】 <180 2nd-189>
【華蝶楓月】 <狐耳の者 2nd-217>
【火蓮と悠希】 <(´・ω・`)へたれ猫 2nd-492>
【十六夜賛歌】 <兎の人 2nd-504>
【ソラとケン】 <◆rzHf2cUsLc 2nd-645>
【ご主人様とぼく】 <65 2nd-738>
【黄金の風】 <一等星 3rd-348>
【魚(・ω・)ヒト】 <魚(・ω・)ヒト 3rd-739>
【草原の潮風】 <63 4th-63>
【不眠猫のお嬢様】 <不眠症 5th-215>
>>515 グロ・残虐描写
SM・スカトロ系(軽め)
ふたなり
アナル
獣人同士
ヒト同士
あたり。
属性リストは萌え属性多めで回避属性が抜けてる。
個人的には性格系の属性は読んでのお楽しみの方が楽しいかとw
ちなみにその後続きが投下されてるか調べてないので新規参入マークはそのままになってる。
>>517 特に文句は無いんだけど……こういう風にリストアップされると、何か悲しくなってくるっスね (´・ω・`)
>>519 逆に考えるんだ
この辺のはもう誰か他の人が勝手に続きを描いちゃったり、
あるいは自分が新しく書く話の中でキャラをリサイクルしちゃっても怒られない、
そう考えるんだ
草原の潮風や十六夜賛歌は流石にまずいだろうけど
IBYDや華蝶楓月、ご主人様と僕あたりはマジ時効だと思うんよ、うん
正直書いた当人いないからって了解無しに続きを書くのはどうかと思う
別段世界が狭い(書くネタが無い)わけでもなし
テンプレに加筆すべき
「ヒト」としての節度を守り、自己語りと他の書き手コテ晒しはやめましょう
やってるのは一部の誰かだけだけどな
>>523 あえて煽るべきものでもないかと
そもそも、本物の荒らしはそういうの見ても無視するし
こういう事こそ避難所を活用するべきかと。
>>523 度をすぎて粘着質なコテ叩きは逆にキモイな。
あれ?
・・・・・ごめん。逆だった。全く読めてなかった・・・・・すまねえ orz
まあ、アレだ。
煽りに弱そうなコテを見つけて口汚く罵倒→擁護派を誰彼構わず自演認定ってのは、典型的なコテ叩き荒らしの手口。
そういうのに耐性がなくて放置できないとかえって荒らしの思う壺なんだよな。
このコメント以降、奴を完全に黙殺するという進行を希望する
どうみても荒らしが図星指されて逆ギレしたようにしか見えませんw
何も朝の五時から必死にならなくてもいいと思うんだが。
>>531 OK。以後黙殺。
まだやってたのか……。
一晩中乙。
せっかく
>>526が提案してるのに、無視して真夜中の3時にレスしてる
>>527 >>529もどうかと思うが。
>531 - >532
スルーできなきゃ避難所か、目につかない所でやってくれ。逐一見たくねー
もう痛々しさを通り越して悲壮な負け犬の遠吠えにしか見えな(ry
=にちゃんねるの名言=
「煙の無い所に火は立たず」=「晒される理由もなく晒しは行われない」
私怨だろうがなんだろうが人様に恨まれるような行動をとると晒される
その晒された香具師が潔白なら周囲の反応はすぐ止まる(もしくは反応がない)
潔白ではないなら周囲も反応し「晒された内容」が「事実と認知」されうる
晒されている者は大なり小なり無意識であっても他人(申告者に)に害を与えた事になる
その他人が池沼であっても、晒された以上はなんらかの非があると思わねばならない
いわれなき事や根も葉もない噂であっても、晒された本人の無自覚さが問題である事も確か
他人はいつも自分を見てる、自己の行動・言動に注意してないと晒される可能性は高くなる
いつだって俺様が絶対正しい・・・・・
まで読んだ
そうだね>>いつだって俺様が絶対正しい
某氏って確かにいつもいつもそういう語り口するよなー
一連の流れを見ているとスルー汁といわれてるのに、堪え性のなさがありありとわかる
かなり池沼な負けず嫌いだというのは露呈してるね‥‥
いつものようにコテ使って、お得意な[煙に巻くような表現〕で反論すればいいのに。
今後の活躍と奮戦に期待してるよ
SSより、特に自己語りねW
>531-532
本当に痛々しくて笑ってしまったW
>>529 「煽りに弱そうなコテ」は多大なる自己語りや他人のコテを晒したりしない。
限りなく自分だけがジャスティスと信じる毛の生えた心臓を持っている
痛いところを突かれて必死に全部を荒らしと思っているならおめでたい
そんなことよりサメの話しようぜ
サメって脇腹が弱いらしいから
牙剥き出して怒ってるサメ娘の脇腹をくすぐってやると
それはそれは素晴らしい世界が広がるかもわからんね
でも鮫肌だしな。服着てないと悲劇だな。
甘えんぼの鮫子ちゃんはヒト奴隷が大のお気に入り。ついついスキンシップしちゃいます。
「すりすり〜♪えへへ〜♪」
「亜qwせdrftgyふじこlp!!!」
>>540 そう言えば、サメの皮を張ったおろし金とかあるもんなぁ(((( ;゚д゚)))
ワニのアゴの力は凄まじいがそれは閉じるときだけの話で
上あごを上から押さえられると人間の片手程度の力でも
口をあけられなくなってしまうと聞いた
そこで、ふだんは積極的でいけいけゴーゴー騎乗位大好きの
ワニ子ご主人様が、スキを突かれて上に乗っかられると
ヒト奴隷相手に手も足も出なくなってデロデロ… を想像したよ
誰にも何かしらの弱点は有るもんだ
そして弱点が有るから愛らしい(*´д`)
とりあえずスレ立てようと思うんだが、
>>511か
>>516のどっちがいいかな?
あと修正するものとかあるかな?
>>544 どっちでも好きなほうでいいんじゃない?
あと、属性リストをどうするかだな。
>>516と
>>517をとりあえず採用してみる。
属性リストは……他の方に任せます。
それじゃ立ててきます。
こっちもまだ書けますよね、と言う事で、穴埋め小ネタ
【ビスケット一枚あったら】
*あくまで、「こんな状況ではこんな事をしそう」と言うお遊びであり、
本編の彼らとはあまり関係が無い、とは言い切れない事をお断りしておきます。
<姫様の場合>
白羽と二人ではんぶんこ・・・・しようとして。
ぱりーん。
「砕けちゃった・・・・」
「お掃除の人、呼びますね」
<白羽の場合>
お茶の準備をして持っていく。
「姫様、お茶でもいかがですか?」
「ちょうど咽喉がかわいてたんだぁ、ありがと。あれ? 神楽の分は?」
「ありません(にっこり)」
<『俺』の場合>
「コレ、貰っていいか?」
「ソレ、アタシの!」
周りに聞いて、姫様に取られる。
<女官長・穂積の場合>
作り足して、お茶請けに配る。
「お茶の時間ですよ〜」
<神楽の場合>
「なんか、かび臭くなーい?」
戸棚にしまって、忘れていたらしい。
「鳥頭?」
<イーシャの場合>
ひょいぱくっ。
「こー言うのは見つけた者勝ちよねぇ」
【貴方の特技は何ですか?】
<姫様の場合>
「歌、とか音律魔法とか?」
「練習、サボりがちですけどね」
「一日休むと、取り戻すのに三日くらいかからないか?」
「いつも、そう申し上げているのですけどね・・・・」
<白羽の場合>
「長刀とか槍とか騎竜戦闘術とか、でしょうか」
「この間、市場で値切り倒してたな」
「また、荷物持ちよろしくお願いしますね」
<『俺』の場合>
「やっぱりフルート、かな」
「アッチの方も、結構スゴイと思うけど?」
「な、なにいきなり・・・・」
「私は何も聞いてませんし、知りませんからね!」
<イーシャの場合>
「ん〜、オトコノコ脱がしたりとかぁ、オンナノコイかせたりとかぁ」
「わかったから、帰れ」
「えぇ〜? 実演がまだよ?」
「あ、そろそろ見回りの時間ですので・・・・」
「ちょ、おま、逃げるなって!」
「ソレはアタシのなんだってば!」
>>518 こっちの世界に来たヒト同士のカップリングとかダメなのかな?
ご主人様公認で進行する話を作りたいんだけど…
>>550 これは職人の方が必ず投下前に警告するたぐいのことであって、
別に禁止事項じゃない。
すでに前例がちらほらあるし、いいんじゃない?
ご主人様が絡んでるなら。
>>551 「ぼく」×ソラヤとかな。(よりによってそれかい)
気づけば次スレがたってる!
554 :
550:2006/10/26(木) 21:58:00 ID:BrHQwOX2
よかった…
安心して投下できそうだ
よく見たら新スレ立ってるし、時期を見て参入させていただきます。
所で別スレでハンドル使ってたけど、こっちに流用もありなの?
こっちも埋めたほうがいいのかな
容量使い切らなくても29ちゃんに収納される?
自分の物語を書きつつ、こんなんで本当に通用するんかな、と
不安になりつつあります。
誰でも最初はそんな感じだと思います。
通用しないなら通用しないで、アドバイスを聞いてれば、僕もある程度はできましたし。
悪いところはしっかり指摘してくれる方が多いですし、
それを意識した上で、続きを書いていけばいいんじゃないですか?
書くだけ書いてお蔵入りさせたのが有るんですけど、埋め用に投下していいですかね?
>>559 お構いなく。完全なネタ話ならネタ話って書けばOKなだけよん。
でも残り容量20KB前後だよ? 足りる?
方向感覚をロストして流れる潮に身を任せていた。
一瞬で全ての感覚が失われ、体がどこか遠くへ飛ばされたような気がして・・・・
そこから先の記憶はない。
ただ、ふと気が付くと俺はまだそこで漂っていた・・・・
酸素ボンベの残量が1時間を切ったようだ。
どっちが海面かですら解らなくなっている。
そもそも、バラストを外したはずなのに浮力が効かないのは理解できない。
もしかして既に死んでいるのか?
答えの出ない問を延々と繰り返していたら、どこからともなく声が聞こえた。
水中で声が聞こえるというのも不思議なのだが・・・・
「あなたはだれ?」
どこから声がする?左右を見回すけど誰もいない。
それどころか、あれほど泳いでいたはずの熱帯魚も鮫もイルカもいない。
海底も水面も無い水中の空間。
「あなたはどこからきたの?」
声の主は誰だ?
俺は体を動かして背後や頭上や足元を見た。
きっと宇宙空間で船外作業をする宇宙飛行士はこういう感覚なんだろうな・・・・
「どこをみているの?」
あちこちキョロキョロしていたのだけど声の主は見つからない。
迂闊にもくわえていたレギュレーターを無意識に外してしまった俺は信じられない光景
を見た。水上に向かって浮き上がるはずの空気が大きな玉になって、俺はそこへ顔を突っ
込んでしまった。
「俺を呼ぶ声の主はどこに居るんだ?」
表面張力で球体になった空気玉の中で俺は大声を上げた・・・・
「あまりおおきなこえをださないで、わたしもこえをだすのはひさしぶりだから・・・・」
仄暗く薄明るい水中のその世界に現れたのは・・・・・・
−良いですか?この辺は水流が早いですから気を付けて下さい!
船上でイントラの若いアンちゃんが大声を張り上げている。
−昨日のクリスマスダイブでは3人が行方不明になり、後で救助されてます、実費徴収
されますので気を付けて下さいね、洒落にならない金額ですから!
ウェットスーツの上からバラストを腰に巻き、アクアラング一式を背負うと自分の体重
が倍になったような気がする・・・・。が、それも船の上の話だ、水中で有れば重さを忘れら
れる。
−皆さん準備できましたか?では行きますよ!
皆で船縁に腰を掛け一斉に潜ろうとしたとき、船は急に下から突き上げられるような衝
撃を受けた。バランスを崩し海に投げ出された俺は咄嗟にレギュレーターを口に突っ込ん
だのだが、すぐ隣にいた埼玉から来たというオヤジはそのまま海に投げ出され沈んでいく
のが見えた・・・・
何が起こったのか?
それは未だに解らない。
ただ、今自分の目の前にいる、その・・・・・・その・・・・・・
「あなたはかわったすがたをしているのね、うごきにくいでしょ」
澄んだ声で俺に話しかけるその生き物は子供の頃、童話の本で見たあの生き物の姿。
海に憧れる人間にとって、この存在と遭遇すること神に出会うことにも等しい・・・・
マーメイド
そう、人魚だ、どうで見ても、その姿は・・・・人魚だ、それも女性の。
「あなたはどこからきたの?どうやってここへきたの?」
不思議そうな顔をして話しかけてくる人魚はジッと俺を見ている。
「ここはどこなんだい?」
「ここ?ここは・・・・ときのさいはて」
人魚はそう言って俺の周りを泳ぎ始める。
音もなくスーッと流れるように尾ひれをはためかせて。
「あなたの名前を知りたい、あと、地上へ帰りたいんだけど」
俺の周りを泳ぐ人魚は不思議そうな顔でこっちを見ていた。
「ちじょう?ちじょうってなに?、あと、なまえってなに?」
人魚は体をくねらせて俺の周りを横ではなく縦に回転し始めた。
本当に綺麗な泳ぎ方だ。イルカと泳いだときもそう感じたのだけど。
「俺は空気がないと死んでしまうんだ、水の中では息が出来ない」
「しぬってなに?みずってなに?」
なんか馬鹿馬鹿しくなってきた。
マーメイドじゃなくてエイリアンとでも話をしてるような気がする。
いや、エイリアンならもっと楽なのかも知れないけど・・・・
「君は一体なんなの?」
「わたしはときのばんにん、はるかなかこからこのさいはてまでをみつめるもの」
「時の番人?」
「そう」
「遙かな過去から最果てって」
「うけつがれるきおくはそういってる」
「受け継がれる?」
人魚はアクロバティックな動きを見せて足元方向へスーッと泳いで消えていった。
「こっちへきて」
俺は慌ててレギュレーターを口にくわえて人魚の後を追った。
空気を放出しすぎたのか、残量がレッドゾーンに入り10分を切っている。
夢中になって俺は人魚の後を追ったのだけどいつの間にか見失ってしまった。
酸素の残量は残り5分・・・・
俺の人生はこの最果てで終わるのか・・・・
圧が下がってきたのか、段々と息苦しくなってきた。
水圧に負けてる訳じゃないけど、何となく苦しい。
ちょっと朦朧とし始めたとき、人魚が俺の首に抱きついた。
「こっちよ」
強烈な力でグッと引っぱられておれはされるがままに人魚と泳いだ。
ウェットスーツ越しに触れた人魚の胸は弾力があった。
しばらく身を任せていたら突然水から下に落ちた。
何とも不思議な経験をしたのだが・・・・
「それをとってみて、ここならいきができるでしょ?」
言われるがままに俺はレギュレーターを外してみた。
ちょっと生臭い臭いのする浜辺の空気がそこにあった。
「ここは?」
「ここはきおくのこうさてん、みずのしょうがあつまってきおくをうけついでいくの」
直径にして10mほどの大きな泡のような部屋、そこは重力を感じず俺は空気の中をふわ
ふわと漂った。宇宙船の中ってこんな感じなんだろうなぁ・・・・
「君はここでも息が出来るの?」
人魚は無言で頷いた。
「わたしはときのばんにん、わたしはおいず、わたしはやまず、わたしはほろびない」
「え?」
「わたしはえいえんなの」
無重力の空間を漂う人魚はトップレスの豊満な胸を震わせて俺の周りを漂い続ける。
まるで水の中を泳ぐようにスーッと周りを泳ぎながら。
「君は一体ここで何をしているの?」
人魚は首元に掛けた水晶の様なネックレスの玉を指で弾くと美しい声で歌を歌い始めた。
すると空気の玉の水面に沢山の画像が現れ始めた。
−始まりは暗闇だった
−やがてそれは光と陰に別れた
−塵が集まり陸が出来た
−陸に水が貯まり海が出来た
−海に生命が生まれそだった
−生命は海を飛び出し陸へ上がった
−陸へ上がった生命は塵の玉をとびだした
−生命は光の速さを越えて塵の玉へ戻ってきた
−生命は少しずつ輝きを失った
−生命が滅び始め沢山の痕跡が残った
−ほんの少しだけ滅び残った生命が再び輝いた
−やがてまた滅びた
−それを4回繰り返した
−5回目の輝きの時代にそれはおきた
−時間の流れをエネルギーに変えた生命は再び光り輝いた
−でも長くは続かなかった
−生命は自分の力を過信してまた滅び始めた
−使う者の減ったエネルギーは暴走し始めた
−暴走し始めたエネルギーは時間の流れを乱し始めた
−そして時の崩壊が始まった
「わたしはここでときのすきまにおちたひとをすくうのがやくめ」
人魚は違う玉を指で弾いてまた歌い始めた、すると違う映像が沢山浮かび始めた。
−崩壊が始まると残された生命はそれを止めようと必死に頑張った
−時の流れを整えるために時の隙間へと沢山の生命がそそぎ込まれた
−沢山の生命が時の隙間を埋めようとそこへ入っていった
−時の隙間の大きさと生命のエネルギーが釣り合って時の崩壊は止まった
−そそぎ込まれた生命は帰ってこなかった
−やがてその隙間を埋めた生命が沢山の玉になった
−それは隙間を埋めていきながら違う玉と合体したり分離したりした
−最初の暗闇の世界を中心に幾つも玉の世界が生まれた
−その玉の世界を境目を飛び越えてしまう生命が現れ始めた
−その玉同士が喧嘩して壊れてしまうことも度々おきた
−やがて沢山あった世界はいくつかの大きな世界にまとまっていった
−最初の世界とは違う時間の流れる世界が幾つも生まれた
−その新しい世界はヒトを忌み嫌う世界になった
−最初の世界を滅ぼした忌まわしい記憶だけが受け継がれた
−いくつかの新しい世界が突然くっつき始めた
−その中で果てしない闘いが生まれ膨大な生命が再び世界を壊し始めた
−最初の世界に残っていた者は残された英知を集め世界を管理し始めた
−幾つもの世代に渡って記憶を受け継いで世界を整える役目を負った
−いつの間にかその役目を負った者だけが生き残った
「のこされたさいごのひとりがわたし・・・・」
とても悲しそうな表情を浮かべた人魚は首に掛けたネックレスの中から緑の玉を選び指
で弾いた。すると船の上で今まさに飛び込もうとする俺の姿が映った。
人魚は物悲しい声で歌い始めた、そして何が起こったのかを俺は理解した。
突然海面が盛り上がったかと思うと、それは大きな波となり陸に向かって押し寄せ始め
た。俺の乗っていた船は波に乗りきれずズドンと下へ突き落とされ、その勢いで俺は海に
沈んでしまった、やがて盛り上がっていた波が上から落ちてきて、俺は海の底深く深く押
し込まれてしまった。それは巨大な地震だった。
憧れのライセンスをようやく取得してやってきたインドネシアで、俺は人類史上でも5
本の指に入る大災害に遭遇した・・・・
愕然とした表情で映像を見ていた俺の前に人魚がやってきて俺の顔を両手で押さえた。
「らくにして」
そう言って人魚は突然俺の顔に自分の顔を寄せた。瞳を閉じた人魚は何かをブツブツと
唱えた後で俺にキスした。チュッと言う吸い込み音が聞こえて、そのままディープキスに
なったのだが、驚いたのは俺の口の中へ人魚の舌が入ってきた事だ。
その下はザラついて長く伸び俺の喉を越えて奥へ奥へと入っていった。
しかし、その舌先が目指したのは食堂ではなく鼻の側のほう、そしてその舌先は鼻の穴
の奥から脳幹の方へ強引に押し込まれて行って、猛烈な吐き気と痛みが襲い掛かった。
グチョッ・・・・・
「はぁはぁ・・・・・あなたの名前はヒロシね・・・・時の最果てにようこそ・・・・」
「君は・・・・」
「私はサーシャ、多分18番目のタイムキーパー」
「タイムキーパー?」
「そう、そしてあなたは私を救ってくれる人」
「一体いま何をしたんだ?」
「あなたの脳幹からデータを貰ったの、言語野もスキャンしたから言葉遣いはこれで問
題ないでしょ?」
「で、俺がなんで君を救うんだ?」
「聞きたいのはそっちなの?」
「いや、世界の終わりも詳しく知りたい」
サーシャはちょっと俯いてからまたその辺を漂いだした。
・・・・遠い遠い昔のお話、あらゆるエネルギーを使い果たした人類は汲めども尽きぬ無尽
蔵のエネルギーとして光と時間を使うことにしたの。細かい仕組みは省略するけど、って
言うか私もそれはもう忘れたんだけど、その時間をエネルギー源にする永久機関は膨大な
電力を生み出したの。世界中を照らしてもまだ余る位。でもね、エネルギー保存の法則っ
てのがあって、それだけエネルギー変換し始めたら時間の流れが遅くなったの。
そして、その遅れて行く時間の進み具合が段々と世界に見えない歪を溜めて、そして世
界はゆがんで行ったのよ。
その結果、ある時から世界のバランスが崩れて、そして大災害が続いたの。
バランスがどう崩れたか?ってのも私の受け継いだ記憶には既に無かったわ。でも、そ
う言う知識だけがあるの。
そしてね、世界に残された人類はその遅れてしまった時間のエネルギーを生めるために
多くの人間を捕まえて霊魂のエネルギーを取り出したの。これも仕組みは聞かないでね、
私も知らないから。
ただ、霊魂って言うのは肉体が滅んでも存在し続ける非常に高エネルギーを秘めた存在
だったのね。だから霊子炉ってのが作られて、そこの中へ生きた人間が大量に投げ込まれ
たのよ。霊魂のエネルギーを抜き取って魂の炎って形に作り変えられたそのエネルギーは
時の狭間に大量に注がれたの。
その結果、時間の流れは正常になったわ。しかし、今度はその注ぎ込まれた霊子力の中
にある恨み辛みといった負の情念が大きな黒いウネリになって世界を襲った。
今度はそのウネリを補正する為に時間エネルギーを生み出す永久機関のエネルギーを使
って封じ込んだの。
狭い部屋で火を焚いて、それで暑いからってクーラーも入れる状態なのよ。火を焚かな
ければ何も出来ないから、火を焚いてクーラーを入れたのね。
そしてある時、霊子力を生み出す霊子炉に投げ込むべき人が尽きてしまったの。
だから、そのときのタイムキーパーはやむを得ず人以外の生物を投げ込んだの。
膨大な量を投げ込み続けて、ふと気が付いたら世界に居るのはタイムキーパーだけにな
ったのよ・・・・・・
「酷い話だな」
「そうでしょ」
「で、最終的にはどうなった?」
・・・・・・投げ込まれ続けた人の負の情念が少しずつ落ち着き始めたのね、随分と時間が掛
かったみたいだけど。そして、形を持たない群体生命になった人類は時間の隙間にコロ
ニーを作り始めたの。実体を持たない生命の空想の産物。
そこへ他の生き物の生命が入り込み始めて、やがてそれらの空想の世界で受肉が始まっ
たのよ。その小さな世界が現実になり始めたの。
その小さな世界同士が重なったり闘ったりして、少しずつ大きな世界になって行って、
そして今は私の見ている世界だけでも20はあるわ。全部違う独立した世界。でも、その境
目は非常にあいまいで脆弱で、そしていい加減なの。
だからヒロシ、あなたのようにそれらの世界のどこかから飛び出してしまう生命が出だ
したのね、色んな理由で飛び出すのよ。運が良いとあなたのようにこの最果ての地へ流れ
着くんだけどね。運が悪いと・・・・・・
「運が悪いと?」
「別の世界へと飛ばされてしまうの、私達はゲートと呼んでるわ」
「そうなるとどうなる?」
「ほら、これを見て」
サーシャが指差した先には大きな水の玉が水中にあった。その球体状の水はほかの水と
明らかに組成が違うようで、屈折率の違いからか光って見えた。
「ヒロシ、中が見える?」
「あぁ、見えた・・・・マジかよ・・・・」
そこには猫耳や犬耳や蛇や虎やそんな多くの生き物が知性化された姿で歩き回る世界だ
った。そしてそこへ普通の人間が落ちて行って、そして奴隷になっていた。
「これもね最初の次元反応炉の暴走から始まったの、それを埋め合わせる為の霊子炉エ
ネルギーに使われた動物達が人の姿に受肉したんでしょうね。理由は私にも分からないわ
よ。でもね、人の姿に受肉したとき、もとになった人の性格とかがそのまま受け継がれた
みたいなの。だからヒトを大事にする生き物がいれば、ヒトを消耗品扱いする生き物もい
るのよね。そして、この世界でヒトは試される。その生き方とか、魂の強さとか」
「それじゃぁ余りにも・・・・」
「ヒロシは自分の居た世界で、他の生き物を殺して食べる事で生きてきた筈。そのとき
死んだ生き物に感謝していた?してないでしょ。命を頂くって事への感謝を忘れたらこう
なるのよ・・・・きっとね」
俺はガックリとうな垂れ言葉を失った。しかし、そのときある事に気が付いた。
この直径10mほどの球体が明らかに小さくなっていた。
「サーシャって言ったよね、この空気の玉はどうなるの?」
「ヒロシが吸った分だけ小さくなるわよ」
「じゃぁ全部吸い尽くしたら?」
「あなたは死ぬでしょ」
「サーシャは?」
「私は滅びないの、永遠なの」
「サーシャ、お願いがある」
「なに」
「俺を殺して欲しい、空気が切れて死ぬのは本当に苦しいんだ、だから」
「じゃぁそうしてあげるから、その代わり私の願いも聞いて」
「あぁ、分かった俺に出来る事なら」
「本当に?」
「あぁ、約束は守る」
サーシャは無表情で頷いた。
「じゃぁ、私の願いを聞いて」
そういってサーシャはスーッと寄ってくると、俺のアクアラング装備を全部剥ぎ取った
上にウェットスーツを脱がせてしまった。水着姿の俺を見たサーシャはさらに水着まで脱
がせてしまうと、俺の股間に手を伸ばした。
「あなたのこれが欲しいの」
そう言うが早いか手が早いか。水かきの付いた手が俺のペニスをしごき始めた。
途端にムクリと起き上がる俺の息子をサーシャは口で咥えて舐め始めた。
ザラザラとした舌先に擦られてたまらない・・・・
「サーシャ!」
「ダメ、動いちゃダメ。私の願いも聞いて」
「でも…」
「私はあなたの子種が欲しいの」
「え?」
パンパンに起き上がった俺のペニスをサーシャはひとしきり舐めると自分の卵管辺りを
いじり始めた。ヒトの女なら割れ目になるあたりの鱗を左右に押し広げると人魚の女性器
が姿を現した。
「ヒロシ、動かないでね・・・・」
サーシャの秘裂に俺のペニスが飲み込まれメリメリと言う感触が伝わってくる。
「あぁいぁいぁいぁぁぁぁアああっぁっぁぁぁぁぁぁああああ・・・・・」
グチョッグチョッっと言う水音と共にサーシャの尾びれが揺れて俺のペニスをサーシャ
のヴァキナが締め上げた。無重力でセックスするって感覚はきっとこうなんだろう。
「アァァァ!ヒロシ!アァ!イッイイ!」
長い髪を振り乱してサーシャはよがっている。その姿に俺は軽く引いていた。
「ヒロシ・・・・お願い・・・・私に・・・・私に注いで!」
悲しそうな瞳で見つめられたとき、おれはサーシャの孤独感を思った。
随分長い事一人でここに居たんだろう。孤独な思いが女を狂わせるのかもしれない。
「サーシャ、これで良いかい!」
おれはサーシャの腰が一番くびれている所に手を回して大きく腰を振った。
無重力の世界とは言え慣性の法則は働くようで、それなりに重量のあるサーシャを上半
身の力だけで振り回すのは疲れる行為だった。
「ヒロシ!アァッアアァ!イイ!凄くイイ!」
「サーシャ、ごめん!行くよ、行くよ!、行くよ!」
「うん!アー!」
熱い波が俺のペニスを駆け抜けサーシャの内側へ大量にザーメンを注ぎ込んだ。
「ウッ!ア゙ァァ!」
全部注ぎ込んでちょっと放心状態になった俺の横にサーシャがぴたりと寄り添った。
「ヒロシ、ありがとう・・・・私の旦那様・・・・」
「え?」
「ちょっとまって・・・・・」
サーシャの腹がボコ!ボコ!っと膨れ上がり始めると同時にサーシャは見る見る干から
びて老いさらばえていった。
「お!おい!どうした!」
サーシャは口をパクパクとさせているが声にならないようだ。
しかし、腹はどんどん膨れて行って、やがてポリタンク一個分近くも膨らんだ。
「ヒ・・・・ロ・・・・シ・・・・ 」
「サーシャ!」
大きく膨らんだ腹が突然スバッと裂けて、中から小さな人魚が飛び出した。
ビクビクと震えている小さな人魚は程なくして痙攣を止めると口の中から大量の血と白
濁液を吐き出して、そしてヒューヒューと喉を鳴らして息をし始めた。
「あなたが私の父ですか?」
「え?」
「あなたが私の父ですか?」
「あぁ、多分そうだ」
「ではこちらが母ですね」
その小さな人魚は干からびきったサーシャの体に噛み付くと、鋭い牙を立てメリメリと
音を立てて食べ始めた。豊満だった胸は干からびてシワシワになり、そこへ牙を突き立て
て小さな人魚は食べていった、呆気にとられて見ていた俺が呆然としているそばで小さな
人魚はサーシャの頭部分を残してほぼ全部食べてしまった。
「お父様、私に名前をつけてください」
「え?」
「私の名前はあなたが付けるのよ、ヒロシ」
「じゃぁ、君は」
「私はもうサーシャじゃないの、まったく新しい命よ。ただ、サーシャの記憶を受け継
いでるだけなのよ」
「そうか・・・・じゃぁ・・・・」
「じゃぁ?」
「君の名前は・・・・スターシァ」
「スターシャ・・・・私はスターシャ、19人目のタイムキーパー」
食べ残していたサーシャの首にはネックレスが掛かっていたのだけど、首から下が無い
状態では簡単に抜き取る事が出来た。まだ小魚程度のスターシャがその首にネックレスを
通し赤い玉をキスをした。
するとスターシャの体がムクムクと膨らんで行ってサーシャと同じサイズになってしま
った。自動的にネックレスは抜けなくなったのだが・・・・
「今度は私が約束を果たす番です、お父様」
スターシャは俺の周りをグルグルと泳ぎながら大事そうにサーシャの首を抱えていた。
「私はお父様を殺して差し上げる事が出来ません。でも、タイムキーパーの力を使えば、
この時の最果てからあらゆる場所へお父様を送り込めます。どこへ行きますか?」
そうだな・・・・
「じゃぁ、この時限反応炉が暴走する直前の世界へ飛ばして欲しい」
「え?お父様?そこに行っては死んで・・・・」
「良いんだ、どっちにしろ俺は泳ぎではなく死ぬ為に行ってたんだから」
「分かりました、では・・・・」
スターシャは俺の手にサーシャの首を渡した、その首を見て俺は腰を抜かさんばかりに
驚いた。
「さぁ、旦那様、私の大事な旦那様、あなたの望む世界へ行きましょう。私も連れて行
ってね・・・・」
スターシャがネックレスの黄色い玉を指で弾き低い声で何かを歌い始めた。
すると俺の周りの光が急に色を失い始め、おれは暗闇に閉ざされ始めた。
「ヒロシ、私を放さないで。お願い。あなたのそばに居させて。私を無限の時間から救
ってくれた愛しい人・・・・・」
「サーシャ・・・・君は全部分かっていて」
「えぇ、私は私の母を同じように父の望む世界へ送りました。そして今は私が娘に飛ば
してもらう番なのです。あなたの事をさっき全部理解しましたから心配しないで。あなた
の願うような女になってあなたのそばに居るから」
「サーシャ、君はたいした存在だよ、いい女だ」
「ありがとう」
フッと世界が明るくなった瞬間、俺は見知らぬ家のベットの上に居た。
人の姿になった裸のサーシャと抱き合ったまま、裸で寝転んでいた。
「ここは?」
「きっと私達の家」
「世界崩壊は何時なんだろう?」
「それはスターシャにしか分からないわ」
「そうか・・・・」
「ねぇ旦那様」
「ん?サーシャ、どうした?」
「私を抱いてください・・・・世界が滅びるまで」
「あぁ、そうするよ」
おれはサーシャを抱き寄せてキスをした、俺の口の中にサーシャの舌が入ってくる。
でも今度は滑らかで柔軟で、そしてちょっと甘い女の舌だった。
サーシャの舌裏をくすぐって前歯の裏側もくすぐって、そしてサーシャの口内につばを
たらして啜ってやった。それだけでサーシャがイキそうになっている。
「あなた・・・・愛してます。愛しいあなた」
すっかり空気の玉が小さくなった時の最果て。
ヒロシの脱ぎ落としたアクアラングが漂うそこでスターシャはネックレスの玉越しに二
人を見ていた。
「お父様お母様、世界が滅びるまで1年ありますわ。どうかお幸せに」
スターシャは最果ての空気の玉を抜け出してどこかへ泳いでいった。
受け継いだ記憶を整理しながら、自分の重荷を解き放ってくれる時の旅人が流れ着くの
を待ちわびて・・・・・
・・・・スターシャ、私の愛しい人がここへ来るまで70億時間掛かりました
・・・・辛い旅ですが頑張ってね・・・・・
−了−