投下しますよ
約束の時間の大分前に着いたつもりだったのだが、青海はもう僕を待っていた。多分、
結構な時間そうしていたんだろう、差し出されたペットボトルの温度は少し温い。そう考
えると申し訳ない気持ちになり、炭酸系は苦手だが黙って飲むことにした。
一瞬。
ペットボトルの蓋を開こうとして、妙なことに気が付いた。疲れているからかもしれな
いし、もしかしたら只の錯覚や勘違いかもしれない。だから再確認をしようと蓋を見て、
「……青海?」
「何だ、虎徹君。あ、もしかして炭酸は苦手だったか?」
そんな問題じゃない。
「何でキャップに僕の似顔絵が描いてあるの?」
「偶然の一致だろう、そう見える模様が描いてあるんだ。少し見せてく……おお何だこれ
は素晴らしい!!」
嘘だ、と直感的に思った。
言われるまで気が付いていない様子を装っていたが、僕に言われてそれを覗き込んだ後
の青海の表情は驚きよりも喜びの割合の方が遥かに多く見えた。僕に向けられた視線は誇
らしい色を浮かべ、誉めてくれと言っている。この場合、僕はどんな反応をしたら良いの
だろうか。
取り敢えず僕はこの謎ジュースと青海の間で視線を行き来させ、笑みを浮かべた。青海
は安心したのか、心の底から嬉しそうな笑顔を向けてくる。
「ところで、これを飲まないのかな? 虎徹君」
「飲むけど、その前にこのジュースの説明をしてくれないかな?」
>>1乙〜
気が早いけど次スレは『私の中で19のよ』がいいです。
青海の前に突き出したことでもう一つ気が付いた、この飲み物の商品名だ。胴体部分を
パックしている薄いビニールには、『コテツミン8000』という文字がプリントされていた。
多分まだ市販されていないだろうが、キャップに描かれた絵といいラベルに書かれた商品
名といい、もし流通していたらと考えると恐ろしくなる。
そんな僕の考えをよそに青海は堂々と、
「祖父が経営する織濱グループの系列に織濱食品というものがあるのは知っているな?」
嫌な予感がしてきた。
「そこの清涼飲料水の試作品だ、と言ってもほぼ完成したものだが」
的中し、片膝を着いた。一ヶ月後、僕は正気を保っていられるだろうか。流石に全国は
無いとしてもこの市内には絶対に、下手をしたら県内全土にこの妙なジュースが広がって
しまうだろう。そうなってしまったら僕は表を歩く度に子供に指を差され、それを母親が
たしなめるという光景がそこかしこに溢れるに違いない。家族にも、何て説明をしよう。
尊敬する殺虎さんにも申し訳が立たない。
「虎徹君、安心してくれ。これを他人などに飲ませる訳がないだろう。これは二人専用だ」
僕の心情を察してくれたのか、青海が穏やかな目で言った。しかしもう少し贅沢を言う
ならば、出来るのならこれ自体を作ってほしくなかった。こんな製品を作ってしまう程に
僕を好きだというのは嬉しいけれども、方向性が間違っていると思う。
「念の為に訊くけど、こんな具合いのやつを他にも作ってる?」
「何を言ってるんだ、虎徹君」
確かに、こんな色物を幾つも作る程青海も身内の会社も暇ではないだろう。いくら会長
の孫娘だとはいえ、そうそう簡単に作っていたらすぐに倒産する。世の中そんなに甘い訳
がない、そう考えると幾らか気分が落ち着いてきた。
これも飲んでも良いかもしれない、と思いなるべく絵を見ないようにしながらキャップ
を捻った。ボトルの口から漏れてくる柑橘系の香りや、泡の弾ける音が快い。
「あ、虎徹君。拭かなくて良いのか?」
昨日は直接キスをしたから今更口を付けたからといって気にすることはない、そもそも
僕はあまりそんなことを気にするタイプの人間でもない。青海の飲みかけというので少し
気恥ずかしい部分はあるけれども、一々気にして拭くのも失礼だ。
だから大丈夫だ、と言おうとしたが思考が止まった。
「何ですか、そのハンカチは?」
思わず倒置法と丁寧語を併用して使ってしまったが、そんなことはどうでも良い。拭う
為だろうか、青海がポケットから取り出したハンカチは四つ折り状態になっていて、何か
文字がプリントされているのが分かった。落ち着いた薄い緑色の生地の上に黄色く染め抜
かれたものはアルファベットの大文字で、見える範囲で確認できたのは、左側から『K』
『O』『T』。多分この後には『E』『T』『S』『U』と続くのだろう。
青海は胸を張り、恥ずかしいハンカチを広げると、
「格好良いだろう、特注だ」
格好良くはない。もしかしたら昨日のキスで青海の人としての何かが興奮したまま落ち
着いていないのかもしれない、だからこんなに面白いことをしているんだろう。
それと、疑問が一つ沸いてきた。
「青海、もうグッズはないって言ったよね?」
「何を言ってるんだ、虎徹君。まだまだ、わたしの部屋に限っても50点以上ある」
青海は先程僕が聞いたのと同じ答えに、更に補足するように言葉を足してきた。日本語
はとても難しい。意味をしっかりと確認しておかないと、今の僕のように誤解して更なる
悲劇を呼び起こすことになる。はっきりと確認をしなかった僕が悪いのかもしれないけれ
ど、普通の人間の予想を間違ったベクトルで裏切った現実も悪い。
しかしここで青海を責めるのも酷な話だ、良かれと思って作ってくれたのだから悪気は
ない筈だと思い一口飲んだ。少し妙な感じもするが普通に美味い、どこかで飲んだ気がす
るが思い出せない味が口の中に広がった。強い酸味と炭酸の組み合わせは人を選ぶが、僕
は結構気に入った。
青海は小首を傾げ、
「どうだろう?」
瞳に力を込めて訪ねてくる。
「うん、好きな味」
僕の言葉を聞いて嬉しそうな色を浮かべた。今日は会ってから様々な青海の表情を見て
いるけれども、それの全てが良い感情のものだ。普段は意外と考え込み、落ち込みやすい
青海がそうしてくれているのを見ると僕も嬉しくなってくる。
「この味の秘密は何だろう、やっぱり8000の部分かな?」
「多分そうだと思うが、開発スタッフに尋ねても教えてくれなかった。これは何かの分量
だと思うが、何が8000mg入っているんだろうな」
青海も飲むものだから妙なものは入っていないとは思うけれど、少し気になった。側面
を見てもラベルには親近感を覚える名前が書いてあるだけなので、さっぱり分からない。
この味もどこかで飲んだことがある筈なのに思い出せないので、思考を放棄した。
話題を変えようと青海を見ると、じっと僕の手にあるボトルを見つめている。
「青海も飲む?」
これは元々青海のものだけれども。
差し出すと、青海は小さな子供のようにあどけない表情で受け取った。そして意外にも
普通に飲み始める。僕が飲もうとしたときはハンカチを出したのに自分では平気らしい、
これが微妙な乙女心というものなのだろうか。
「ところで青海はどこに行きたい?」
「どこでも良い」
どこに行くのか決めていなかった、と思いながら訊くと、アバウトな答えが返ってきた。
当然、疑問が湧く。
昨日の約束のときに青海は軽い予定を立てているようなことを言っていたし、ホームや
時間の指定もあったから目的地も決まっていると思っていた。それなのに、どこでも良い
とはどういうことだろう。
視線で尋ねると、
「待ち合わせがここなのは丁度二人の家の中間くらいだからで、時間が10時なのはこれが
普通だと姉様が教えてくれたからだ」
なら、目的は何なのだろう。
青海は少し寂しそうな表情を浮かべ、
「恥ずかしい話だが、この町の外のことはあまり知らない。プライベートで友達と遊びに
出ることも少しはあったが、それ以外は家族の仕事に着いて行くのが殆んどでな。だから
虎徹君と二人でどこか遠くをぶらぶらしたいと思ったんだ」
僕は聞いているだけで当事者ではないのに、心が痛む。特に何をしてあげられる訳でも
ない、それでも出来ることは精一杯してあげたいと思った。家のことが大変で逃げること
が出来ないのなら、せめて休みを大切にしてあげたい。
ふと、思い浮かんだ。
「海、行こう」
目的地は、僕の大切な人と同じ名前の場所。少し時期が早いかもしれないけれど、逆に
考えてみれば人が少なくて落ち着けるということだ。それに、この町には海がないから、
町の外で楽しみたいという青海にも満足してもらえる筈だ。
数秒。
「ありがとう」
言葉と、
笑みと、
絡めた手指の体温と。
三つ重なって答えが来た。
今回はこれで終わりです
>>1乙
スレ立てGJです!!
>>14こそ乙 !
新スレの初っ端からこれとは、幸先がいいぜ!
青海タン(*´Д`)ハァハァ
このスレッドは私の物よ・・・ ・・・
www.vipper.org/vip338316.jpg
投下します。今回は番外編を……。
あの……もういいですか? あ、はい……。
日野山です……ありのまま、起こったことを話します……。
『彼氏を他の女に盗られたかと思ったら、もう捨てられていた』
何を言っているのか分からないと思いますが、私も何があったのかわかりませんでした……。
頭がどうにかなりそうでした……。
寝取られとか、超スピード破局だとか、そんな半端なものでは断じてない、もっと恐ろしいものの片鱗を味わいました……。
さて……、捨てられた彼は、現在フリーになったわけです。
私とは、別れる頃と変わらず、口をあまり聞かない状態なんですが……私、少し考えを変えました。
新城さんと会って、そうなったんだと思います……。
今なら、頑張れば、彼を取り戻せるんじゃないかって……。
塞ぎ込んだ状態じゃない、明るい、優しい彼とまた、やり直せるんじゃないかって……。
少しだけ、勇気を出します。
ミッション、スタートです……。
話をするのは少々難しいので、まずは観察から始めます。
彼の通学路の途中に、計十個の、カメラを設置……。
これで、彼の行き帰りの行動を、チェックします……。
次のカメラまでの時間の長さで、寄り道してるとかが、解るんです……。
学校では、自分の目で観察……。今日は、一人で屋上でお弁当ですね……。
パンだけ……。すごく、質素です……。私なら、もっとしっかりしたのを作るのに……。
「先ぱいっ」
私のデータに無い、女の声……。
「またパンだけですかぁ? 良かったら、こっちにしませんか?」
……!!
この女、弁当箱を二つ持っていて、そのうち一つを彼に渡しています……。
危険度、特Aレベルです……。
その声と顔、しっかり憶えました……。
その日以来、彼の登下校中の映像に、その女が時々映っています。
間違いなく、彼に接近しようとしています……。
何とかしないと、でも、臆病な私では、面と向かって言えません……。
ですから……手紙にします。
私とやり直して欲しいという思いと、その女は見ないで、という思いを乗せて……。
彼の下駄箱と、机の中に、こっそり入れておきました。
読んでくれれば、きっと考え直しますよね……?
次の日、彼の様子が変化しました。
カメラの映像を見ると、歩いているとき、周囲を警戒しているみたいです。
まぁ、ちょっとキョロキョロしたくらいでは、カメラは見つかりませんけど……。
問題は、例の女への態度です。
塞ぎこみがちだった彼が、その女に微笑んでいるのを、はっきり見ました……。
私がどこからそれを見ていたかなんて、どうでもいいんです。
とにかく、頑張らなければいけません。
手紙の量を増やしました。直接は恥ずかしいので、留守電に伝言を入れておきました。
『私とやり直してください。私とやり直してください。あの女には近付かないでください。貴方のためなら、どんなことでもしますから……』
これで……OKです。人事を尽くして、天命を待つ、です……。
少しだけですが、彼は痩せたようです。
元々細身の彼が、さらに体重を落としたので、ただ立っている姿でさえ、儚げに見えます……。
これはこれで素敵です……。
でも、彼とやり直せたら、私は精一杯、おいしいご飯をたくさん作るから……体重もまた、元に戻るでしょう。
ちょっと、ジレンマです。
昼休み、彼はあの女に、自分から話し出しました。
「なんか最近、ストーカーされてんだよ、元カノに」
ストーカー……?
彼を狙う女が、他にもいるのですか……?
非常に、状況が悪くなりました。これで敵が二人になったのですから。
近頃仲が良くなりつつある女に、姿のはっきりしないストーカー。
私は……どうしたらいいのでしょうか……。
恵さんに、相談してみました。
「もうそうなったら、一発ガツンとやって、目ぇ覚ましてやらないと駄目かもね」
参考に、なります……。
早速私は、彼に『ガツン』とやるための道具を準備します。
ホー○センターにに行ってみると……いいものがありました……。
金属バット……。
これで彼をガツンとやって……あの女には、もっと強く……。
外に追い出す……場外ホームラン……なんちゃって……。
彼が帰る道の途中、電柱の陰で、バットを持ち、じっと待ちます。
ここ数日の観察データから割り出すと……今日、彼は七時三十八分二十六秒に、ここを通過するはずです……。
さすがに、緊張します……。
以前付き合っていたとはいえ、別れて以来、初めて直接対面するのですから……。
でも……私、やります……。
日野山緑は……愛しい人を、取り戻します……。
いよいよ彼の姿が見えました。いつも付き纏っている女も一緒のようです……。
彼にはガツンと……あの女にはぐしゃっと……。
バットを握り締めて、二人の正面に。
「あ……み、緑……」
二人は半歩下がります。私は、勇気を出して前へ……。
「目を、覚ましてください……」
バットを上段に構えながら、慎重かつ大胆に接近……。
「あっ、あなたがストーカーね!」
隣にいる女が、下がるのを踏みとどまって、私を指差しました。
私が、ストーカー……?
「違いますよ……」
ストーカーは、今も何処か見えない場所で、何かやっているのでしょう。
彼を安全に取り戻すには……そっちも何とかしないといけないのですが……。
この人、私をストーカー扱いするなんて……失礼です。
私は、これでも彼と付き合っていたんですよ? 彼と愛し合ったこともあるんですよ?
あなたなんかより、ずっと彼のことを解っているんですよ……?
先に、この女を仕留めてやりましょうか……。
狙いを、彼から邪魔者の方へ。
「なっ、やる気!?」
「バカ、逃げるぞ!」
ぶん。
力を込めた一撃は……空振りでした……。
ああ、彼が、私以外の女の手を握って、背中を向けるなんて……そのまま、走って行くなんて……。
でも――。
ちらりちらりと、後ろ、私のほうを振り返って見ています……。
わかってますよ……。ちゃんと追いかけて、あげますから……。
今日の私は、好調です。
彼との距離が、少しずつ、縮まっています……。心の距離も、こんな風に……ふふ……。
もっと近くに……早く……。
早く……早く……早く……早く……早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、
早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く
早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く
早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く。
「先輩、危な――!」
横からの強い光が当てられた瞬間、邪魔女が声を上げました。
彼の右半身が明るくなって……そこに……光を発していたもの……自動車が……。
あ、
あ、
あ、
あ――。
ブレーキの音が耳を打ちます。目は、彼が宙を舞う姿に釘付けでした……。
「先輩! 先輩……!」
少し前に、倒れている彼と、それにすがりつく女……。
眺めている場合ではありません……救急車は、119番……。
電話を終え、私も彼の元へ行きます。
「あ、あ、あ、あんたが……」
邪魔者が何か言ってますが……聞いてなどいられません……。
彼は、右半身を撥ねられたから……左半身を下にした、横向きに……。
右腕は、折れているかもしれないので、胴の上に真っ直ぐ……。
鞄を枕代わりにして、血は……私のハンカチで……。
「あ……う……」
隣の女は……おろおろしてるだけ……。
彼が危険だというのに、駄目ですね……。
いざという時に、どれだけ適切な処置が出来るかどうかは……愛の量に比例するんですよ……。
救急車の人の話では、命に関わるような大怪我では無いそうなんですが……状況は変わったようです。
面会謝絶、しかも、退院の日まで――。
突然のことでした。前の日に続き、今日もお見舞いに行った私に、主治医の人は、そう突きつけてきたのです。
彼に会えない日が何日も続きます……。寂しいです……。
思いを綴った手紙が、机の上に山積みです……。
つい、彼の家に留守電の伝言を入れてしまった日もありました……。
せめて、退院するときは、一番に会って、もう一度、私の思いを……。
いよいよ退院の日、私はバットを持って、病院の前で彼を待ちます。
あの邪魔者も密かに成敗しましたし……彼の家族には、少しずらして時間を教えましたし……後一人、謎のスト
ーカーが残っていますが、まだ一回も姿を見せませんし……。
諦めたのかもしれませんね……。
ともあれ、もう、障害はありません……。
病院の自動ドアが開き、彼が出てきました。
私は、付き合っていた頃彼が好きだった、精一杯の笑顔を向けます。
「お帰りなさい……!」
すると彼は膝を折り、両手を地面につきました。
その身体は微かに震え……涙を流して……喜んでくれています……。
「もう。許してくれ……」
許してくれ……?
入院して、心配させ迷惑を掛けてしまった、と言っているのでしょうか……?
それくらい、迷惑の内にも入りません……。許す、許さない以前の問題です……。
そっと抱きしめたら、彼はとうとう号泣してしまいました。
今、私の気持ちを、彼は受け取ってくれました……。
彼を取り戻すことに……成功しました。
ふふっ……。
ハッピー・エンド……。
(終わる)
GJ
それにしてもカラオケの歌の伏線がこんな所で活きてくるとはw
━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
前スレ
642 :名無しさん@ピンキー:2006/09/15(金) 22:33:29 ID:Nn3+/B8I
と思ったらつまらないので立てられたな。
文句言うなら自分で立てろ
>>1乙
642の言う通りな件について。
>>1=
>>28 本人様ですか。そうですか。本当にありがとうございました。
今度から、スレタイいいの思いつかなかったら、監禁○○日とか
何か固定化させたほうがいいんじゃないの?
毎回ぐだぐだになっていて、職人さんのupを妨げている気がするし…
「18スレ目のスレタイを決めていいのは私だけなの!」
「ふん、あなたに18スレの何が分かるって言うのよ!」
お前らの空気の読めなささに嫉妬
前スレでやりなさい
前すれ625がせっかくテンプレをまとめてくれたのに…
固定はちょっとなぁ、とも思う。
せっかく面白いスレタイの流れがあるから。
流石に18禁はないとオモタ。
エロパロ板が21禁というネタがこれで使えなくなった。
>>25 まさに純愛だ、( ;∀;) イイハナシダナー
それでは投下します。今回からタイトルを若干変更し、平仮名にしました。
3話「千晴の優越」
千晴は学校の授業が大好きである。しかし、勉強が好きというわけでは無くてむしろ嫌いな方である。
それでも大智にみっともない所は見せたくないのか、何とか成績は真ん中をキープしている。
しかし勉強は嫌いでも体育と家庭科の成績は良く、特に弓道部での成績は県大会に出場するほどである。
さて、勉強嫌いの千晴が授業を好きな理由……それはただ一言。
「大智の隣にいられる」からである。
大智と千晴は机が隣同士なため、邪魔が入ることなく大智の存在、空気、匂いを堪能することができたのだ。
そして今日も千晴は大智を人知れず見入っていた。
大智ったら随分眠そうね……。天気の良い窓際ってのは気持ちいいからね。あ、もしかして
昨夜ゲームをやりすぎたんでしょー。んもうだめよ!!ゲームのやりすぎは目に悪いし
寝不足は体調不良の原因よ!!
……そういえば優那お姉ちゃんは三日徹夜でネットゲーしたことがあるって言ってたわね。
あ〜〜だから頭がアレなのね。
あっあっそんなに欠伸していたら先生に見つかるわよ!!
でも静かだわ。いつもなら大智の周りには騒がしい連中が多いけど、この授業中だけは静かに、
私だけが大智を独り占めできるわ。
おっとそうだわ!例の作戦を発動しなくちゃ
「ねえねえ大智」
「ふああ……ん?何?」
欠伸をしつつ気だるそうに大智が振り向くと
「ごめ〜ん、教科書忘れてきちゃったんだ。ちょっと見せて」
「え〜、しょうがないな。じゃあ机をくっ付けちゃって」
千晴は必死に嬉しさを隠しつつ済まなそうに机をくっつけた。
二人の机の真ん中にノートを置いて、眠気を堪えつつ何とか勉強する大智を千晴は堪能していた。
こうして大智に密着しながら勉強するなんて……うふふ。これだけは他の二人には無い私だけのアドバンテージ……。
でもこんな姿を見られたらあのアホな優那お姉ちゃんは
「優那もくっつくーーー!!」って騒ぐだろうし、堅物の友紀は
「乱りに大智お兄ちゃんに触るのはあらぬ疑いが掛かるよ?」なんて言って脅迫するんだろうなー。
―――お昼―――
この学校は食堂があり、結構格安で美味しいと評判のため昼時となると大部分の生徒が
食堂にあつまって食べていた。
ただ大智は食堂を利用した事は無く、もっぱら弁当だった。
というのも三人とも必ず弁当を、今日の食事当番が用意し大智の教室で食べると言い張るので
教室で食べているのだが、その弁当に問題が……
優那の弁当は生の魚を挟んだりしたゲテモノサンドイッチ限定で、友紀はこげこげの弁当と
およそ人の食べる代物ではない。
唯一千晴の弁当だけが美味しく食べられる弁当だった。
「はい、大智の分の弁当よ」
「お、いつも悪いな……ありがとう」
「べ、別に昨夜のおかずの残り物だし、大した手間じゃないからいいわよ」
しかし、大智の弁当のおかずには明らかに昨夜出たおかずとは違うのが入っていた。
そんな千晴に感謝しつつ弁当を食べようとしたら
「あっ!ダメダメ!!まだ二人来てないんだから!!もうちょっと待ってみよ!」
案の定、残り二人もこのお昼は大智と弁当を食べるのを楽しみにしているので、すぐにやってきた。
優那と友紀は教室に入るなり猛ダッシュで大智がいる机まで走り、二人して大智の席の前の椅子を掴んで離さなかった!
「友紀!!優那が先に椅子を掴んだんだから離せーーー!!」
「うそ!!私が先よ!!優那お姉ちゃんが離してよ!!」
二人してまったく譲る気が無く、力の限り引っ張り合っているので椅子がギギギ…と軋み始めた
このままじゃお互いが譲る前に椅子が真っ二つになりかねないので大智は千春に
「千春、席替わって」
「え?う、うん」
窓側が千春、その隣が大智になりまだ椅子取りをしている二人に
「優那お姉ちゃん、友紀、ほら喧嘩しないで俺の隣か前に座ったら?」
一旦椅子取りを中断した二人はそれを見て、何やらヒソヒソ話をしたと思ったら
友紀が正面、優那が隣に座った。
「やっと食べれる。んじゃいただきます」
しかし戦いはこれで終わりではなかった
「はい大智、大好物の卵焼きだよ。あーーーん」
「あーーーん……んん!!美味い!!やっぱり千春の卵焼きは絶品だな!!」
「とーーーぜんよ!!私が作ったんだから!!」
このお昼という場において、千春は無敵の強さを誇った。というか優那と友紀が料理においては
からきしダメダメすぎるのた。
料理ということにおいては大智の信頼も厚いし、優那も友紀も千春の料理が好きだったのだ。
そんな不利な条件でも、友紀は
「大智お兄ちゃん、お兄ちゃんの唐揚げ頂戴」
「ん?良いよ。はい」
大智が箸に摘んだ唐揚げを持ち上げた瞬間、友紀は大智の箸ごと食らい付いた
「「あーーーー!!」」
「モグモグ……ん。「大智お兄ちゃんがくれた」唐揚げは美味しい♪」
「ちょっと友紀!!あんた何やってんのよ!!」
「う〜〜〜優那もやる!!大智口開けて!!」
その後、大智の口には三人分のおかずが詰め込まれるハメになったのは言うまでもなかった。
放課後、友紀と千晴は部活のため、大智は優那と二人で帰路についた。
夕日に照らされた町並みにちょっとしんみりしつつ、ゆっくり歩いていたら優那が
何か思いついたのか笑顔で
「ねえねえ大智、今から遊びに行かない?」
腕をがっちり掴まれ、体をぐいぐいくっ付ける優那に大智は赤面しつつ
「え?駄目だよ!!道草くっちゃ!!早く帰って家のことしなくちゃ」
友紀や千晴にも色々都合があったりするので、いくら家事をみんなに任せきりでも大智はせめて
早く帰った時ぐらいは洗濯物の取り込みや掃除をしたりしていた。ただ、優那はそれが面白く無いのか
頬を膨らませて
「え〜〜〜〜!!やだ!!せっかく二人きりなんだから遊ぶの!!ねえねえ買い物いこ!!」
大智の腕を掴んで商店街へ向かう優那に、抵抗は無意味と悟った大智は観念して
「わかった!!わかったから引きずらないで!!……それじゃ買い物いこうか」
「わ〜〜〜〜い、やった〜〜!!早く早く!!」
嬉しさのあまりぴょんぴょん跳ね回る優那を見て「しょうがないな」と苦笑しつつ大智は商店街へ
向かおうとした次の瞬間、二人の進路を塞ぐように猛スピードで一台のベンツが止まった。
何事かなと思っていたら勢いよくドアが開き、黒服の屈強な男が飛び出してきて
二人を取り囲み、その中の一人が
「笹本大智だな?我々と一緒に来て貰おう」
「へ?」
大智は何が何だかさっぱりだったが、身の危険を感じて一瞬抵抗しようと考えたが、
男たちの動きは素早く、大智の口と鼻をハンカチで塞ぎ、眠らせてしまった。そして大智を抱えて
「よし、撤収だ」
「ちょっとちょっと!!あんた達だれよ!!私の大智を離せ!!!」
男の一人に優那が掴みかかっていたが、所詮女性一人の力ではどうすることもできず、
逆に男の拳を腹にくらってしまった。
衝撃でアスファルト上に転がった優那は息が出来ず、お腹に穴でも開いたような感覚に苦しみ、
嘔吐しながらその場に蹲ってしまった。
男は懐から写真を取り出し、写真と優那を見比べて
「お前が氏本優那か。お嬢様はお前を見つけたら「生きたまま海に沈めろ!!!」と仰っていたが、
我々はそこまでしたくない。この男のことは金輪際忘れろ。それがお前のためだ」
そう言い残し、男たちは去っていった。
「うう……、ケホッケホッ……、痛いよ大智……、大智……行っちゃやだ……」
優那は苦しみながらも大智の名を呟き続けて手をのばしたが、
ほどなく意識が途切れ倒れてしまった
次回ついに4人目登場
GJ4人目のポストは董卓?
ところで貴方掛け持ち大杉w
纏めサイト見てビビリましたわ
自分も三つ掛け持ってるから人のこと言えんが
個人的に分裂少女がそろそろ17スレに投下されないかとwktkしてる
投下します。
朝日がまぶしい……夏特有の日差しの強さで目が覚める。
そろそろ、夏休みにでも入ろうかという季節、窓からの日の光を直接浴びるのは正直つらい。
気だるい体を起こし、そのまま台所へと階段を降りていく。眠いのでいつもと違い動きはどこか緩慢な調子だ。
「空也、今日は早いのね」
「ちょっとね、用があるから今日は早めに出るよ」
「今から?」
「ああ。昼は食堂で食べる。弁当はそのまま置いといていいよ。跡で食べるから」
台所に少し乱雑に置かれている弁当のおかずの残りをつまみ食いして、
洗面台でいい加減な身だしなみを整えてから外に出る。
家に出てからほんの数メートル、伶奈の家の前にたどり着く。
さすがに、朝とはいえ夏は正直暑いので近くにある木陰に入って伶奈が出てくるのを待つ。
しばらくすると、玄関が開いたのがわかるようなドアのきしむ音。
続いて人影が出てくるのを確認したが、伶奈ではなかった。伶奈の父親だ。
彼は一瞬こちらと目が合ったが、軽く一瞥してすぐにこっちとすれ違った。
向こうは平静を装ってるつもりなのかもしれないが、見てて僅かに……けど一瞬だけ表情が歪むのがわかった。
伶奈の両親はそこまで俺のことを快く思ってはいない。出来れば、俺みたいな奴とは縁を切って欲しいと思っているんだろう。
もちろん、実際に面と向かって言われたわけでもないし、伶奈だってそのことを表には出さない。
けど、人の悪意ってのは言葉にしなくても何故か自然と伝わってくるものだ。
伶奈も多分それを知ってるんだろう。だから、わざわざ手間をかけてまで家まで迎えに来てくれる。
本当、伶奈にはいくら感謝しても足りないよな。
少しすると伶奈が家から出てきた。出てきたんだが、中々家の方角のほうへと歩き出さない。
昨日のことを気にしてるんじゃないかなと思ってきてみたけどどうやら当たってたようだ。
「おはよ、伶奈」
自分でもわかるくらいに明るい調子で伶奈に声を掛ける。
とはいえ、俺の明るいが一般的な基準も満たせているかどうかは疑問だが。
「お、おはよう。今日は早いね」
伶奈も挨拶を返してくる。どこか、雰囲気的にぎこちないような気がした。
「昨日はごめんな……」
「え?」
「いや、昨日なんか怒らせちゃったからさ……その……なんか悪いことしたかな……ってさ」
学校に通う途中に言おうと思っていたことをなんとか切り出す。
途切れ途切れになんとか話すけどやっぱり落ち着かない。
伶奈がいつもと感じが違うとこうまでこっちの調子が狂ってしまう。
バツが悪そうに小さくうなりながら四苦八苦していたら可笑しいのを我慢して押し殺したような笑い声が聞こえてきた。
声を聞いて伶奈のほうを見ると微笑んでいるような微笑を浮かべている。
さっきまでのとは全然違い、場の空気がなんだか軽くなったような気がした。
「ううん、私のほうこそ昨日はゴメンね。急に怒っちゃったりして」
伶奈の言葉に何でもないように「気にしてないよ」と話すと、
伶奈は安心したのか子供っぽい笑顔を見せながら自然と比較的足取りも軽くなっていた。
「ふ〜ん、そんなことがあったんだ。へぇ〜」
「尚美ちゃん。もしかして、真面目に聞いてない?」
「いや、大好きな幼馴染みのノロケ話を聞かされてもね。アタシにどうしろと……」
学校の昼休み屋上で私と一緒にお弁当を食べているのは親友である尚美ちゃん。
私と同じバレー部で一年の頃からの付き合いだ。私は背もあまり高くないけど、
尚美ちゃんはそれとは逆で180cmを越すほど背が高くてスタイルもとても良く、出るところは出ててしまるところはしまっているモデルのような人で、加えて運動面でもスポーツ万能。
バレー部の名物アタッカーとして全国でも名をはせた実力者で今年の秋からの新キャプテンのポストは既に彼女に収まっている。
竹を割ったようなさっぱりした性格で男性にも人気があるけど、女性にも人気があるらしい。
いかにも、もてそうなんだけど今のところ浮いた噂は耳にしない。
尚美ちゃんには私がクーちゃんのことを好きだってことを知っている。
そもそも、私とクーちゃんが幼馴染みだってこと自体知ってる人はそんなにいない。
朝だって部活の朝練のために結構早めに登校するのでそこまで人目につかないし、帰りは一緒に帰らないし、
何よりもクーちゃん自身が私や亮ちゃんとの関係をひたすらに隠したがっている。
クーちゃんに聞くと私達に迷惑がかからないようにと……きっと、あの事件のことを気にしてるんだと思う。
「ノロケなんて……そんなんじゃないよ。」
「ニヤニヤしながらご満悦に語るあれのどこがノロケじゃないと。
そんなに好きならいっそのこと告白しちゃえば……向こうだって案外素直にOK出してくれるかもよ」
「こ、告白ッ……!!」
尚美ちゃんの言葉に私は顔を真っ赤にさせたまま数秒間固まってしまった。
向こうはそれを見て呆れたようなため息をはいている。
「だってさ、少なくとも嫌われてはないんだし、充分勝算はあると思うよ。
今んとこそのクーちゃんと仲良い女の子っていったらあんたくらいなんでしょ?」
「だって……」
私も尚美ちゃんの言うことは一理あるとは思うけど、だから即告白できるほど度胸はさすがにない。
それに、私は甘いとは思いながらも向こうから告白してくれないかな、などという淡い期待を持っていたりする。
こっちから、告白すると告白されたからOKした、みたいな気がしないでもないから。
もちろん、これは私の考えすぎなんだけど……それでも夢を見たいと思ってしまったりする。
「そんなに、不安ならいっそのこと押し倒しちゃえば。
こっちから誘えば向こうから襲ってくれるって。既成事実作ったら向こうも責任とるでしょ」
「く、クーちゃんはそんなにエッチじゃないよ!!」
「甘いわね」
やけに真剣に、しかも芝居ががったような堂々とした態度でさっきまで弁当をつついていた箸を伶奈に向けて尚美は話を進める。
「男! しかも、思春期真っ盛りの高校生ってのは十中八九スケベなもんなのよ。
いくら、紳士ぶってても所詮は羊の皮をかぶった狼。あんたの、クーちゃんも家を探せば絶対にエロ本の一つや二つは出てくるよ。
まあ、それが全てとは言わないけどね。けど、そういう気持ちがある以上嫌ってない女の子から誘いを受けたら意外とすんなりいくかもよ。
あんたは可愛いんだからさ。もっと、自身を持っていけばいいのよ。あたしが保障する」
「彼氏いない尚美ちゃんに保障されてもなあ……」
「なんか、いったぁ〜」
「い、痛いって! ごめんなさい! さっきのは謝るから許してぇ〜!!」
「ま、アタシもこれは姉貴の受け売りなんだけどね」
そう言って尚美ちゃんは私の頬をつねっていた手を離してくれた。
手加減してないんじゃないかってくらい強くやられてまたつねられたところがジンジンと痛んでいる。
つねる手を離した尚美ちゃんはいつものように食事の続きを始めていた。
こういう、切り替えの早さが彼女の彼女たる所以だろう。
「けどさあ……」
尚美ちゃんは口の食べ物をもぐもぐと咀嚼しながら話す。
食べながら話すのは行儀が悪いと思うんだけどいつもやってるわけじゃないし、
あえて注意するのもおせっかいかと思って言わずにおいた。
「あれのどこがいいわけ? 学校でもろくな噂だってないし、見た感じ暗いし何考えてんのかわかんないし。
アンタだったらもっと良い男を見つけてもいいもんだと思うんだけど……」
「そんなことないよ」
私はいたって平静に尚美ちゃんの言うことに受け答えする。
単純な疑問として彼女は私に聞いているのだろうと思ってそこまで腹が立ちはしなかった。
尚美ちゃんはあからさまに人を中傷する人ではないのは知ってるし、
性格上回りくどい言い回しを避けてストレートに聞いてくれるのは彼女の長所の一つでもあるから。
「クーちゃんは本当はすごく優しいんだよ」
確かにクーちゃんは人と打ち解けるのはお世辞にも上手とはいえない。
無口で無表情、確かに尚美ちゃんの言うとおりそれは本当のことだと思う。
けど、それを怖いとか不気味だとかいうのは大きな間違いだと思う。クーちゃんは本当はすごく優しくて誠実な人柄を持ってる。
今日だってそうだ。私が昨日あんなふうに怒鳴って気まずくなったことを気づかってわざわざ迎えに来てくれた。
クーちゃんの言ってたことは、はたから見ればそんなに悪いことじゃない。
たまたま、出会った女の子と知り合いになった……それだけのことだ。
なのに、私はそれに嫉妬して八つ当たりしてしまった。本当に悪いのは私のほうなのに。
他にもクーちゃんの優しいところは数えればきりがない。
私をからかう男の子から守ってくれたこともあったし、お父さんと喧嘩して家出したときとかも、
クーちゃんは何も言わずに自分の親にも内緒でかくまってくれたりした。
それで、見つかったときに二人そろってこっぴどくしかられたりしたのも今となっては良い思い出だ。
クーちゃんのことを一番良く知ってるのは私だし、クーちゃんも誰よりも私のことを理解している。
だから、私達はお互いに通じ合ってるの。そして、通じ合ってる二人は結ばれるはずなの。
きっと、私たち結婚すればお似合いだと思うの。だって、誰よりもお互いを理解した仲なんだよ?
待ってるんだよ? クーちゃんが私に告白してくれるのを? 私と一緒になってくれるのを……
なのに……なんで、他の女の子との話しなんかを私の前でするのかなあ?
私の知ってるクーちゃんは積極的に女の子と親しくなれるような人じゃなかったんだけど。
…………………………わかった
あの女のせいだね。きっと、クーちゃんをあの女がたぶらかしたんだ、きっと……
クーちゃんは優しくてお人よしだから人から受けた厚意は、きちんと厚意で返す人だから。
けど、クーちゃん? その子の厚意が本当に善意から来るものとは限らないんだよ。
汚らわしい体と心で誘惑してクーちゃんをたぶらかそうとしてる泥棒猫かもしれないんだよ?
私たちの仲を裂こうとしているかもしれないんだよ?
あの泥棒猫は名前を雪乃とかいった。
あの女が、私からクーちゃんを奪ってゆく――――
ぶっきらぼうなんだけど、時折見せるクーちゃんのあの笑顔を奪っていく。
想像するだけで吐き気がする。憎悪が沸く。殺意が芽生える。どろどろとしたこの気持ちが際限なく溢れてくる。
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
――……な……伶奈!!――
尚美ちゃんの言葉で私は現実に呼び戻された。
やけに心配そうに顔を覗き込んでいる。どうしたのかと私はしばらく彼女の顔を眺めていたが、
彼女の視線を追って目線を下に向けてみると理由がわかった。
私のお弁当がぐちゃぐちゃになってきた。右手には片方だけ先っぽが折れたお箸が……
おかずの出汁巻き卵なんかはまるでミキサーで粉々にすりつぶしたみたいになって、
もはや固形物というよりもどろどろしていてゲル状の物質みたいになっていた。
折れたお箸を見て察するに私がつぶしてしまったみたいだ。
「びっくりしたよ。急に黙り込んだと思ったら急にこれなんだもん」
「ご、ごめんね……ちょっと、やなこと思い出しちゃって……け、けどもう大丈夫だから……」
「ホントに〜!? なんか、あるんだったら相談に乗るよ?」
「本当に大丈夫だから。 けど、ありがと。もし、悩み事が出来たりしたら尚美ちゃんに真っ先に相談するね」
「それは、随分と友達冥利につきるわね。まあ、今日みたいなノロケ話しはご辞退させていただきますけど……」
私はそれに軽く苦笑しながら、弁当箱を片付ける。
さすがに、こんなのを食べる気にはなれないし。中身はほとんど食べちゃって残ってないわけだし。
また、やっちゃった。最近はうまく押さえてたつもりなんだけど。
私のやったさっきの奇行を尚美ちゃんがさほど気にしていなくて正直ほっとしている。
クーちゃんのことになるといつも感情のブレーキが利かなくなる。
今まではクーちゃんに嫉妬する機会なんてほとんどなかった。
クーちゃんは他の女の子と話すことなんて滅多になかったし、したとしても事務的な内容程度で意にも介さないものだった。
だから、今まではなんとか家に帰るまでなんとかこの衝動を我慢して耐えることができた。
なのに、昨日、今日とこの姿を誰かに見せるという失敗を二度も続けて繰り返している。
いつからこうなったのかはわからない。最近だった気もするし、ずっと昔からだった気もする。
けど、とにかく言えることはこんな姿クーちゃんはもちろん、尚美ちゃんにも亮ちゃんにも部活の友達にも出来るだけ見られたくはない。
自分でもこんなのは異常だってわかってるから。だって、酷いときは亮ちゃんにまで嫉妬してしまう。
亮ちゃんはクーちゃんの大事な親友のはずなのに。
やっぱり、あの女がクーちゃんの周りにいるのは良くないよね。
雪乃って泥棒猫がクーちゃんの近くに居るってだけで気が狂っちゃいそうだよ。
私だってつらいし、クーちゃんにも良くないと思うし…………なんとかしないと。
けど、私だって部活があるし四六時中一緒にはいられないし……
あの玉子焼きみたいにぐちゃぐちゃにつぶせたら楽なのになあ……
以上です。普通の女の子として書こうと思ってたのに。
なんで、こんな歪んだ子に育ってしまったんだか……
もうこれ以上は限界だった。ハルがあの女の前で幸せそうな顔をするのが。いつものノリで今日も騒いで、平気なふりをしてたけど、もうダメだ。
私があれだけハルにアプローチをかけていたのに………葵はそんなハルを一瞬で奪っていった。
幸せそうに笑い合う二人。
幸せそうに話す二人。
幸せそうに手をつなぐ二人。
そして………夜もきっと……
「うぅ……あぁ…うえぇ……」
もう誰もいないロッカールームで一人佇む私。ここ最近はずっとこうだ。家では泣けないし、ハルの前でもこんな姿を見せられない。
私の身も心ももらって欲しかったハルが……もう今じゃ手の届かないところに居る。ただの『お友達』。そんな関係でストップ。これ以上は葵という邪魔が入る。
ただ一人ここで……二人が引き離されることを願う。願う。願う。私にできるのはそれだけ………
でも……もしかしたら、神様はいるのかもしれない。私の願いは、願いに願い続け、冬にやっと叶ったのだ。でもその願いは、悪魔も聞いていたのかもしれない。
最高と最悪な。二つの結果を私に与えてくれたのだから……
冬……
降り積もった雪が光を反射し、商店街を彩っている。……とはいえ、ラストまでバイトをしていたため、時間は遅く、通りには誰もいない。
そんな無人の雪の中を、葵と二人、肩を並べて歩いている。二人の間には、一つの赤いマフラー。互いをしっかりと繋いでいる。……つくづく俺も変わったなぁと思う。
「晴也さん、晴也さん。」
「ん?なんだ?」
相変わらず葵は俺をさん付けで呼ぶ。どうも呼び捨ては恥ずかしいらしい。……一度でいいから聞いてみたいものだが。
「来週のクリスマス、どうしますか?」
「あー……」
しまった。なにも考えてなかった。
「ふふっ、その様子だと、忘れてたみたいですね。」
「…すまん。」
「いえ、いいんですよ。……それで、一つ提案があるんです。」
そう言って葵は、コートのポケットから紙を取り出す。それは、遊園地のパンフレットだった。
「ここの遊園地、クリスマスにパレードをやるんです……ですから……見に、行きません?」
断られるんじゃないかと心配そうな顔で、上目遣いで俺を見る。……相変わらず卑怯だよなぁ。
「ああ、もちろん大丈夫だ。楽しみにしてるぜ。」
それをきくと、花を咲かせたように嬉しそうな顔をする。付き合ってだいぶ経つが、葵は未だに、俺のやること言うことに大きな反応を示してくれる。それがまた愛しい。
「良かった……私も楽しみです……」
また互いに体を寄せ合う。ああ、この幸せが怖い。いつかこの足場が崩れ、奈落のそこに落ちてしまうのではないか、という不安にかられる。
……馬鹿だよな。葵はここにいるんだから……そんなはずはない…
だが、この世に悪魔はいるのだろうか。この瞬間ばかりは、俺は世界を呪った。
商店街を通り抜け、大通りに出た途端。眩しいほどの光が俺達を照らした。その光はこっちに迫ってくる。
……雪と、逆光のせいでその正体が分からなかったが……気付いた時には遅かった。
迫りくるトラック。ホーンに消されかかる葵の悲鳴。俺はそれを理解し、ただ握っていた葵の手を強くにぎることしかできなかった……もう逃げるには間に合わなかったからだ。
そして……世界が回転した。自分の体がゴミのように宙に舞った。……二人を繋ぐマフラーは、無残にも引き千切られていた……
ドサッ!
「……あ、……く……」
地面に叩き付けられ、全身に衝撃が走る。寒さのせいか、もはや痛みも感じられなかった。全員がバラバラになったような感覚だったが、どうやら肢体は付いている。
……意識だけが消えかかる………そうだ…葵…葵………
「……………」
葵はぐったりとし、壁にもたれかかっていた。地面には、白い映える真っ赤な血。…葵の……綺麗とも言える真っ赤な血………
「あ………ぉ…い………」
自分の体がどのように動いているのかも解らないが、少しずつ……少しずつ…葵に近付いていく。
そんなに血を流して…………痛かっただろ?…………心配……すんなって……俺がいてやるから……すぐに……助かるさ……
消えそうになる意識……まだもってくれよ………葵が…葵が待ってるんだ……
視界が赤く染まる。…俺も流血してんのかな……わかんねぇや……葵………………葵…………
葵の手まで………あと少し…………なんとか自分の手を伸ばし、葵に近付く。……あと……ほんの数cm…………
「…………は…は…」
葵の手を軽く握った瞬間、俺の意識は闇へと落ちた。
「………」
病院へ向かう途中で、思い出した過去のことを振り返っていた。
あれから急いで救急車を呼び、セレナを病院へ運んだ。血は出ていたものの、傷は浅く、命に別状は無かった。
……たた、何故か意識を取り戻さないらしい。医者が言うには、体調はもう大丈夫なのだそうだが………精神的なものなのか。
「……セレナ………葵……」
あれから葵を何日も探したが、全然見つからない。マスターも事情を理解し、店はしばらく休みになった。その合間に探し続けているのだが……
手掛かりさえも見つからない……まさかもう消えた……
「……いや、あいつか何も言わずに消えるかよ……」
セレナから流れた血のおかげで、記憶を取り戻した。それから部屋を片っ端から探したところ、新聞の切り抜きが出てきた……俺と葵の事故の新聞だ。
そこには、意識不明が一名、死亡者が一名と記されていた………事故があってからの事は思い出せないが、俺がこうやって生きてるんだ。死亡者は……葵のことだろう。
「……ちくしょう……」
取り戻しても、変えられない過去を呪いたくなる。
そうこう悩んでいるうちに、セレナのいる病院についた。俺の住んでいる街にも、郊外に病院はあるのだが、大量殺人が起こり、しばらく使えないため、隣り街まで来ている。
……ちなみにその犯人は手掛かりさえ掴めないらしい。恐ろしい話だ。
「……まだ早いな……」
時計を見ると、面会時間までは十五分ほど余裕があった。
午前中は葵を探し、セレナの見舞いは毎日午後の面会時間に来ている。だが、今日に限って少し早めに来てしまった。
………どうするか。別に行っても大丈夫だろうが、なんだか文句を言われそうだし。……かといって、どこか近くの店で時間を潰すほどの余裕があるわけでもない。
はて………
A:「まぁ、もう大丈夫だろう。病室に行こう。」
B:「そうだな………少し院内を歩いて時間潰すか。」
ここで分岐です。多数決で決めたいかと。
セレナルートor葵ルートとなります。
58 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/17(日) 00:33:38 ID:GX8Fzimq
歪んでいる子がいいんだよ
>>51 待っておりました。
もう少し控えめだと思っていた伶奈が、ここまで嫉妬に狂うキャラだったとは…
…実にいい!
>>51 歪んでないよ?
ものすごくまっすぐで、とても良い娘じゃないか
遂に回想から戻ってキター!!
両方読みたいと願うのは贅沢なのでしょうか?
とりあえずrアB
さてとオイラも投下するかな……?
とりあえず、A希望。
だけど、浮気性な奴なんでBも捨てがた(ry
>>61 どんとコーイ!!
「姉さん機嫌悪そうですね」
「まぁね……って私顔に出てた?」
「ハイ。 でもリオにいさんは気付いてないみたい」
「そう……」
私はほっと胸をなでおろす。
「ゴメンねクリス。 アンタにまで気を使わせちゃって」
「いえ。 ボクも分かりますから其の気持」
そして視線を送った先には一台の装飾つきの豪華な馬車。
馬車の周りには数人の従者と、そして真横にはリオ。
そして馬車から身を乗り出しリオに向かって話し掛けてるのは一人の小娘、もといナタリー。
事の発端は数日前。モンスターに襲われていたこの馬車を助けたのが事の始まり。
助けた直後の感想としてはもうね、嘗めてるのかと問い詰めてやりたい気分だったわ。
こんなご時世この程度のお供と、しかもお供の武装も見た目ばっか派手で全然実戦向きじゃなくて。
モンスターから見れば鴨がネギ背負って歩いてるようなもの。
まァ相手が何者だろうと困ってる人を助けるのは当然のこと。
で、この連中、聞けば保養地――別荘からの帰り道だとか。
それも素直に来た時と同じ道通れば良いものをたまには別の道を通りたいだの……。
温室育ちのお嬢サマがこんな所にのこのこと出てくるなっての!
まぁ、そこまでは良いとして、問題は其の後。
私達の腕前を見込んで護衛をしてくれと――。
冗談じゃない! 世間知らずのお嬢様の火遊びになんかつきあってられるかっての!
だから私はそんな頼みうけるつもりは毛頭無かった。
でもリオは人が良いから、優しいから。 困ってる人がいるのなら助けてあげましょうって……。
リオにそんな風に言われたら私が反対できるわけ無いじゃない。
そして私が受けたくなかった、そして今現在苛立ってる何よりの理由。
それはナタリーが明らかにリオに惚れてるってこと。
当然リオはあんな小娘なんかになびきやしない。
仮とは言え婚約者がいるのだから。 それはそれでまた私を苛立たせる。
例えその婚約が幼馴染としての付き合いの深さと親への義理立てから来てるのだとしても。
それでもやっぱり面白くない。
リオもあんな小娘――ナタリーなんか無視すればいいのに。――って言うか無視して欲しい。
でも従者の人達に『お嬢様のお相手して差し上げてください』って半ば強引に拝み倒されて。
それで律儀にもお喋りとかに付き合って。
そりゃリオのそう言う優しいところや頼まれて断われない所とか私も好きだけどさぁ……。
でもやっぱり面白くない!
そんなんでも未だどうにかやってられるのはクリスのお陰が大きい。
やっぱりこういう時不満や愚痴を吐ける気の置けない相手がいるのはありがたい。
今ではすっかり私の可愛い妹分。
それに比べてナタリーの――あの小娘のうざったい事と言ったら!
あぁもう! さっさと目的地まで送り届けておさらばしたいわよ全く。
そして旅は続く。その後も道中モンスターの襲撃も度々起こったが何れも私達の敵じゃなかった。
お供の兵士は予想はしてたけどまるで役に立たなかった。
恐怖に耐え切れず逃げ出したものもいた。 まァ居ても足手まといだから別に良いけどね。
そして其の戦闘のたびにナタリーは馬車から顔を覗かせて歓声を上げてる。
挙句戦闘が終わるたびにリオに抱きついたりして! 本当いい加減にして欲しい!
でもこの腹立だしい道中もやっともう直ぐ終りという所まで来た。
途中戦闘も何回かあったが被害らしい被害も出なかった。
だけどすんなり事が終わると言う訳には行かなかった。
「姉さん……」
「どうしたのクリス。 怖い顔しちゃ……」
言いかけて私は腰のものに手をやる。 そしてクリスの視線の先に注意を払いながら小声で訪ねる。
「……モンスター?」
「はい……」
次の瞬間近くの茂みから踊りで出る複数の影。 すぐさま私は鞘から刃を抜き放ち応戦する。
現れたのは血のように真っ赤な体毛と狼に似た姿、そして額に角のような突起が生えた獣。
其の姿から赤鬼狼、或いはクヴァルフと呼ばれるモンスター。
群を組んで現れたのは姿かたちが狼に似てるだけあって習性も似通ってると言う事か。
しかもかなりの数で動きに統率が取れててなんともやりにくい。
円陣を組んでコチラを包囲し牽制してる。
ギリギリコチラの刃が届かない間合いを保ってきてる。 代わりに向こうの爪牙も届かないが。
おかげでリオも魔力を集中させられず魔法を発動できない。
コチラの披露消耗を狙ってる? それにしても――。
「うざったいわねコイツラ……!」
「まともに相手すると埒があかない相手です」
そう言うとクリスは私とリオに視線を送り言葉を続ける。
「リオにいさん! 魔法攻撃でコイツラの機動力をそいでください。
姉さんは詠唱中のリオにいさんの集中の為のサポートをお願いします」
私は頷いて直ぐにリオの元へと駆ける。 そしてリオも直ぐに詠唱に入った。
やがてリオの詠唱が終わると複数の火球が現れそれぞれ正確にクヴァルフどもへと命中する。
命中率と数を重視した為威力は弱め。 だがその機動力を殺ぐには十分だった。
動きが止まり、或いは鈍ったクヴァルフのその隙を衝き私は斬りかかる。
同様にクリスのグレイブも次々とクヴァルフを蹴散らしていく。
形勢が一気にコチラに傾くやクヴァルフどもは逃げ出していった。
逃げ去る赤鬼狼――クヴァルフの背を眺めながら私は刃を下ろ――。
「未だです!」
クリスの声に私は刃を構えなおす。 瞬間赤い影が襲い掛かってきた。
「な……?!」
危なかった。 クリスの声が無ければ油断を突かれていたかも。
影の正体――それは先ほどまでと同じ、いや種類は同じクヴァルフなのだろう。
だが其の体躯は二周りは大きい。
体が大きい分さっきのほど素早くは無さそうだが攻撃力ははるかに高そうだ。
「クリス。 これって?」
「コレがコイツラ赤鬼狼――クヴァルフのやり方です。
最初小回りの利く脚の速い小型の亜成体が獲物の足止めや牽制を。そしてその後大型の成体が――」
「止どめを刺さしに襲い掛かってくるって訳ね」
クリスはコクリと頷いた。
次の瞬間クヴァルフは雄叫けびを上げた。 大気を震わせ相手の気力をも削ぐような凄まじい咆哮。
だがそんな凄まじい雄叫びにもリオもクリスも全く動じてない。流石は私の愛しい想い人と妹分。
それに引き換え馬車の周りのお供連中は皆腰を抜かしてる。
ま、別に最初ッから連中のことなんか期待しちゃいないけどね。
ナタリーも今の咆哮にはビビッたのか顔を引っ込める。
流石に今回はいつもみたいに馬車から身を乗り出すような命知らずな真似する気になれないってか。
賢明な判断ね。
目の前の赤鬼狼――クヴァルフは先ほどまでの亜成体と違い虎やライオンに迫る大きさと迫力。
決して油断など出来ない手強そうな相手。
数は三。 私とクリスで一匹づつ――二匹までは相手に出来るが残り一体は――。
そう思いリオのほうに視線を送るとリオの傍らに炎の竜が出現してた。
火精竜召喚――リオが一対一で強力なモンスターに対処しなきゃいけない時の為習得してた術。
強力な反面使用中は他の術が使えないと言うデメリットもあるので今まで使った事無かったけど。
どうやら丁度一人につき一匹づつ相手って事みたいね。
じゃ、気を引き締めていきますか。
そして一対一×三の形で戦闘は進行する。
実際向かい合うと其の圧力といい並みのデーモン系等よりずっと手強いが勝てない相手じゃない。
いくらか手傷も負わせ、焦らず油断しなければもう少しで仕留められそう。
目の前の相手に注意を向けつつも二人の方へちらりと視線を送る。
リオの方は発現させた炎の竜を操りその炎の爪と牙を持って圧倒してた。
そっちも仕留めるのは時間の問題みたいね。
そしてクリスの方は――え?
「クリス?!」
クリスが相手をしてたクヴァルフがクリスの隙を突いて馬車に向かって走り出してた。
嘘?! あのコがこんな隙を突かれるようなヘマをするなんて――。
でもクリスも直ぐに追い駆ける。 グレイブを放り投げ矢のように飛び出し馬車に向かう。
成る程、重たいグレイブを持ったままでは追いつけず手遅れになりうる。
そして馬車に入り込まれたらあの長さは逆にデメリットになる。
それにこのコの強さの源はあの重い武器を振り回すだけの豪力とそしてブーストアップ。
グレイブが無くともどうにかするだろう。 あの鉈のような短剣もあるし。
でも――。
「――!!」
咄嗟に私は後ろへ飛び退く。そしてさっきまで私がいたその空間をクヴァルフの爪が切り裂く。
危なかった。 クリスも気になるが先ずは目の前のコイツを片付けないと。
クヴァルフは私の隙を付いたつもりだったのだろう。
実際ヤバかったし肝も冷えた。 ヤツにとっては起死回生の一撃のつもりだったのだろう。
だが其の一撃も私に寸前でかわされ逆に今度はヤツが隙を晒す形に。
当然私が其の隙を見逃すはずが無い。
「ハアァッ!!」
私は渾身の力を込めて刃を打ち下ろした。
純白の刃を受けクヴァルフの頭部は真っ二つに割れ、脳味噌と血を撒き散らしそのまま崩れ落ちる。
目の前のクヴァルフを仕留めた私はすぐさま踵を返しクリスの元へ駆ける。
同じ頃リオもまた相手にしてたクヴァルフを火達磨にし馬車に向かってた。
そして私が馬車に辿り着く直前。
馬車から断末魔の如き凄まじい叫び声と、絹を引き裂くような悲鳴が響く。
おそらくはクリスがクヴァルフを仕留め、そしてそれを目の当たりにしたナタリーの悲鳴。
心配するまでも無かったか。
そして目の前に馬車から下りたクリスが現れる。 其の姿は全身血に塗れてた。
「クリス! 大丈夫なの?! 血塗れじゃない」
「平気です全部モンスターの返り血ですから」
「じゃぁアンタ自身は怪我してないのね?」
私が問い掛けるとクリスはコクリと頷く。
「良かったぁ……」
安堵した私はクリスを其の身に抱きしめた。
このコの強さは十分すぎるほど知ってる。
でも今回はグレイブも無しでしかも目の届かない所での戦闘。
それもあんな強力で獰猛なモンスター相手に。
だからこうして目の前で無事を確認してからやっと心から安心できた。
「ナタリー!」
その時リオの声が耳に飛び込んできた。 そうだナタリーは?
本音を言えばクリスが無事だった今あの小娘なんか知った事ではないがそうも言ってられない。
でも多分大丈夫だろう。 何せクリスが護ったのだから。
そう思いながら馬車の中に入ろうとして思わず私は口元に手を当てた。
「うぷっ……!」
鼻をつくは凄まじい血の臭い。 それは常人なら卒倒するか吐き戻してしまいそうなほどの。
私だってコレまで数多の修羅場を、死線をくぐりぬけてきた。
戦場で付いて回る血の臭いにも臓腑が放つ死臭にも慣れてるつもりだった。
だが今私の鼻を付く其の悪臭はそうした今までの経験したそれらすら比較にならないほど。
密閉空間と言うのも手伝ってか立ち込める血の臭気、臓腑の発する死臭の濃度は半端ではない。
そう、人の正気を失わせそうなほどに。
血生臭いのを堪えつつ見渡して絶句した。
以前見せてもらった時この馬車の内装は華麗に彩られ贅を尽くした豪華絢爛なものだった。
壁紙、カーテン、中の調度品。 何れも贅沢な逸品で占められてた。
尤も正直私はこういうまるで成金みたいに派手なのは悪趣味で嫌だったけど。
しかしそれも今や見る影も無い。
視界に飛び込んできたのは目を疑うほどの惨劇。一面を染める赤――すなわちおびただしい血の量。
それはまるで阿鼻叫喚の地獄絵図をそこに凝縮したかのようだった。
壁も、床も、天井も、其の全てが飛散した血と臓腑で真っ赤に染まってた。
そして其の惨状の中心にある肉塊と化したモンスターの死骸に私は自分の目を疑った。
屈強な体躯を誇るクヴァルフ――それも狼ほどの亜成体じゃない。
獅子や虎にも迫るほどの体躯に成長し重武装の戦士ですら屠るほどの堂々たる成体。
それが上顎と下顎から引き千切られ無残な屍を晒してた。 まるでボロ雑巾のような。
そして無残に引き裂かれた断面からは臓腑が四散し床一面、そして壁や天井までぶち撒けられてた。
その広がり様はそれが元はモンスターの体内に納まってたとは思えないほどに。
とても人間業とは思えない。 コレをクリスがやったと言うの? あ、ブーストアップか。
確かにクリスは超重量のあの長柄武器を自在に振り回す程の豪力を持ってる。
その豪力をブーストアップによって更なる超パワーに増幅できる事も知ってる。
――そう、頭ではそう推察できる。 が、それでも目の前の光景は信じ難い程のものだった。
そしてこの血で染まった室内の隅にナタリーは居た。
彼女のその良く手入れされた髪も、透けるような素肌も、きらびやかなドレスも、
其の全てが見る影も無く血で穢れてしまったナタリーはうずくまりガタガタと震えていた。
そして室内に充満する咽返るような血の臭いの酷さに気付かなかったが、良く見れば失禁もしてる。
其の姿はまるで捕食者を前に最早逃げる事すら叶わずパニックを起こし脅える哀れな小動物の様。
「大丈夫ですかナタリ……」
心配したリオがそっと語り掛け近づくが――。
「イヤアアアアアァァァァァ!!!!」
すっかり脅え錯乱して取り付く島も無い。
この惨状だ。 無理もないか。
脅え震えるナタリーにどう接していいか困惑してるリオに向かって私はそっと耳打ちする。
「スリープの呪文で眠らしちゃったら? 取り乱してて普通になだめるの無理そうよ?」
「そ、そうですね。 では……」
そしてリオは呪文の詠唱を始める。 やがてナタリーの口から悲鳴は消え瞼も下り眠りに付いた。
ナタリーが眠りに付くとリオはホっと一息つく。
そして今度はクリスに向き直り少々厳しい口調で口を開く。
「クリス。 もう少しほかにやり方が無かったのですか? 何もこんな惨い殺し方目の前で……」
「リオ!」
私はリオの言葉を遮るように叫んだ。 幾らリオでも今の言い方はカチンと来た。
「そんな言い方無いんじゃないの? クリスだって頑張ってくれたし危なかったのよ?!
こんな狭い空間でちゃんとモンスターを仕留めナタリーも其のお陰で怪我せずに済んだんじゃない!
それになんでグレイブも無しで素手でモンスターを仕留めなきゃならなかったか分かる?!
重たいグレイブを持って追いかけたんじゃ手遅れになるかもしれなかったからなのよ?!
その為に武器を手放すなんて危ない真似してまで!!」
思わず私はまくし立てた。
「い、良いんです姉さん……。 リオにいさんの言う事も尤もな事ですから……」
クリスは私とリオ、二人に気遣うように申し訳無さそうに口を開いた。
「いえ、セツナの言うとおりです。 スミマセン、危険な状況でよくナタリーを護ってくれました。
ご苦労様でした」
そしてリオもまたすまなさそうにクリスに向かって頭を下げた。
私も次いで口を開く。
「私もちょっとキツイ言い方しちゃったかな。ごめんねリオ。
クリスもそう言うことだからあまり気にしないでね。 じゃぁさっさと行きましょうか。
モンスターも片付いた事だし。 ナタリーが起きる前に到着できるように、ね」
そして私達は移動を始める。
ナタリーはお供の一人に負ぶってもらうことにした。
流石にこの血と臓腑の臭いが充満する馬車に乗せておくのは可哀相なので。
その時私の袖を引く手があった。 クリスだった。
「あの……姉さん。さっきはありがとう……」
私はクリスの頭を撫でながら笑顔で応える。
「イイのよ気にしなくって。 さ、行きましょ。 着いたら血も洗い流して綺麗にしようね」
町に着くと直ぐにナタリーを両親の家に向かい引き渡す。
リオはナタリーの両親の前で始終謝り頭を下げ恐縮しっぱなしだった。
だがナタリーの両親は状況を察し逆に良く護ってくれたと礼を尽くしてくれた。
世間知らずで考え足らずな小娘とは正反対な良く出来たご両親だった。
まぁ何はともあれコレで本当にやっと一段落。
もう二度と世間知らずなお嬢サマのおもりなんかゴメンだからね。
――そして夜。
「何て言うか今日は本当に疲れる一日だったわね。 クリスもお疲れ様」
「いえ、姉さんの方こそお疲れ様でした」
私とクリスは二人で湯に浸ってた。
あの日以来時々こうしてリオが寝静まった後二人っきりで風呂場等でのお喋りが恒例になってた。
クリスが『女』に戻る数少ない時間。 そしてリオにも話せない本音の会話が出来る時間。
「しっかし凄かったわね、あのモンスターの死体。あれってヤッパ素手で真っ二つに引き裂いたの?」
「ええ、まぁ……。 素手とは言ってもブーストアップも使いましたが」
「それでも凄いわよ。 だってブーストアップ後の強さって基本筋力が左右するんでしょ?
そう言う意味ではやっぱクリスの豪力あってのものよね」
私の言葉にクリスは黙ったまま照れ臭そうにしてる。
そんなクリスの頭を私は撫でた。
どうにも最近クリスの仕草の一つ一つまでもが愛しくて可愛くてたまらない。
「でもさぁ、リオの言ってたことじゃないけど他にやりよう無かったの?」
言った瞬間クリスの顔がこわばる。
「わざと、でしょ?」
「あ、あうぅ……。 だ、だってあの女リオにいさんに馴れ馴れしくして、
其のお陰で姉さんも嫌な思いして……」
私は戸惑いを隠せない口調で話すクリスの頭を撫でながら口を開く。
「良いのよ、別に責めてるわけじゃないの。
世間知らずで調子に乗ったお嬢サマにチョットお急据えてやろうと思ったんだよね。でしょ?」
私がそう言うとクリスは少しバツが悪そうに頷く。
「それにね、むしろ私としてはスカッとしたかな」
私がそう言って笑うとクリスもつられて笑顔になった。
「だからね、全然気にしなくていいから。 逆によくやってくれたって気分。 ありがとねクリス」
「いえ……」
そう答えたクリスの頬が赤く染まって見えたのは湯の温度のせいだけじゃないかも。
其の姿に私は思わずクリスを抱きしめる。
「それにしても……」
「何?」
ぼそりと呟いたクリスの声に私は問い返す。
「いえ、姉さんがかばってくれた時嬉しかった反面チョットビックリしたかな、って」
「そう?」
「うん。 だって姉さんってリオにいさんにベタ惚れでしょ?」
「エヘヘ。 まぁね」
「それがあんな風にリオにいさんを咎めボクをかばってくれるなんて思いもしなかったから」
「そりゃね、好きなヒトだって……、ううん好きな人だからこそ許せない事だってあるの。
だってリオのこと大好きだけどクリス、アンタだって私の可愛い妹分なんだもの」
私がそう言うとクリスは私の肩に頭を乗せてきた。
そして私は其の頭をそっと手繰り寄せ抱きしめた。
To be continued...
クリスかわいいな
>>52 待ってました!
鬼ごっこと両立させるの大変でしょうが頑張ってください
とにかく自分はrア B
百合っぽいのは苦手なはずだったんだがこれはいい…
>>57 作者様、毎度GJであります!
とりあえず俺はA希望
百合っぽい展開だが最高に萌えた!!
クリスかわえぇ!!
作者様GJ!!
【壱】
夢の舞台は、火の手が上がる日本家屋だった。
またこの夢か…思わず呟いた。
火、火、火、火、火、火…
赤が頭を焦がしていく。
燃え盛る赤。灼熱の顎に食われていく屋敷。逃げ惑う人々…
その中に、何故か俺に似た男がいる。
長い髪を立派な兜の中に納め、見るからに重そうな鎧を着ている。
手には大弓、こいつ、俺に似てるくせに武士なのかよ…
『時春様…この誓いは炎に焼かれようとも、決して消えることはありませぬ…千歳過ぎ去りた後、再びこの場所で…』
少女だった。年の頃は16、17だろうか?
見事な十二単に絹のような御髪。
白く抜ける肌に芸術品ともいえるほどに整った面は、儚げな色気すら漂わせている。
その少女が、悲しみに顔を曇らせていた。
『安心するがいい、鬼灯姫…君は必ず私が守り通す』
俺に似た男は、耳を塞ぎたくなるくらいの臭いセリフを鬼灯姫の細くて華奢な指を握り締めながら高らかに言った。
俺は夢の中なのに頭痛がした。頼むから、俺と同じ顔でそんなこと言うなよ…
『誓ってくださいまし!!!必ずや、必ずや、お傍に…』
『うむ…』
見詰め合って抱擁する二人。
激しく炎が燃え上がった。まるで映画のワンシーンにでもありそうな光景だ。
舞台は日本で、役者の一人は俺みたいだけど。
逃げ場はもうなかった。この二人は気づけば清水の舞台のようなところに追い詰められている。
飛び降りるか、このまま炎に巻かれて死ぬか。
二つに一つだった。
『姫―――――危ない!!』
大きな柱が灼熱の凶器になって姫に倒れこんだ。このタイミングではよけきれない。
そこで俺にそっくりな男は、自らの身を挺して姫を庇った。
おそらく屋敷を支える大きな柱の一つ。男は胸と両足を潰されて虫の息だった。
『時春様っ―――――』
『構わない…私はもう助からない。だから君だけは…』
『そんな、添い遂げると誓いましたのに!!』
『…君にはまだ逃げ場所がある…敵の兵がやってくる前に、お逃げなさい…』
大きくて宝石みたいな瞳に、大粒の涙を浮かべる鬼灯姫。
長い髪を振り乱して男の体にすがり付いている。
『わた、しの、かわ、いい、ほおずき…約束する…必ず、生まれ変わりた後は永久にきみを、あいすると…だ、から…いまは…逃げなさい…』
俺似の男は、いよいよ細くなってきた呼吸でも笑顔を崩さなかった。
煤と血に塗れた指先で、鬼灯姫の涙をぬぐってやっている。
ちくしょう…なんか、これは俺じゃないのに…死んでしまうくらいに胸が熱い。
悔しさと、愛しさ…全部が混ざり合ってとんでもないことになっている。
あぁ、起きたらまた泣いてるんだろうな…
俺がそんなくだらないことを考えているうちに、男は息絶えた。
それでもいい死に顔だった。やっぱり、好きな女の腕の中で死ぬのは本懐なんだろうな。
『と、きはる…様ぁ!!!!』
鬼灯姫の背中に広がる谷。
いよいよそこを残して逃げ場はなくなった。
時春の亡骸を前に、
絶望に打ちひしがれた姫はゆらり…と立ち上がると、目前に広がる谷底を虚ろな目で見つめていた。
『時春様がいない毎日など…考えられませぬ…必ずや、お傍に…貴方様の…お傍に…だから…
貴方のお傍に参るまで…他の女子に靡かず、ずっと鬼灯のことだけを見てくださいまし…』
―――――何度も、何度も見た光景だ。
でも、慣れなかった。
夢であっても、物語がこの場面にたどり着くたび、俺は胸が壊れそうなほどの悲哀を感じる。
安っぽい恋愛映画や、小説なんかでは味わうことのできない気持ち。
本当に、本当に大切な人が亡くなってしまうような悲しみ。
俺は闇に散っていく姫の姿を見るたびに、枕を濡らしていた。
心地よい風が吹き込んで、なんとも悪い夢見を少しやわらげてくれた。
指先で頬をなぞると、やはり乾いた涙の後があった。
何度も、姫を助けようとした。でも体が動かない。
なんだか武士の気持ちがダイレクトに伝わって、胸にぽっかり穴が開いたみたいだ。
「あれっ、もう起きてるの??」
俺が感傷に耽っていると、素っ頓狂に響き渡る幼馴染の声。
習慣みたいに俺を起こしに来るのは隣に住んでいる葉山瑠璃。
十年来の幼馴染であると同時に、見事高校二年の始まりと同時に俺の彼女に昇格された少女だ。
快活そうな大きな瞳に、形の整った鼻。小さな唇は驚きで半開きになっている。
元気なツインテールが部活少女である瑠璃にはよく似合っていた。
夢の中の姫と較べると、正に対極に位置する美少女だ。
「あぁ…最近目覚めがよくて」
苦笑いで誤魔化してみる。しかし瑠璃の綺麗な眉が、どんどんつりあがっていく。
「また…あの夢を見たの?」
有無を言わせない口ぶり。気づけば可愛い幼馴染は鬼に変わっていた。
「あ、あぁ…」
「何度目?」
腕組みをして、にじり寄る。女の子特有のシャンプーの甘い香りと、僅かにのった化粧とフレグランスの匂い。
男の本能をダイレクトに刺激する。
「うぅん…?十二回目…かな?」
「同じ夢を何回も見るなんて、おかしいよ。しかもそれが原因で毎回泣くなんて」
「平気だろ…たかが夢だぜ?実際俺が死ぬわけじゃないんだし」
瑠璃が俺の異常に気がついたのは何度目のことだっただろうか。
この夢を見始めるまで朝が弱かった俺を起こすのが役目だった瑠璃は、すぐさま俺を問い詰めた。
そこで夢の内容を、細かに話たのだけれど…
「だって、おかしいよっ!!何で“時春”が鬼灯姫を助けて死ななきゃいけないのさっ。
時春は鬼灯姫の付き人で、姫の許婚の弟なんだから。大人しく鬼灯姫の婚約者である清春に譲ればいいのに…
時春には“瑠璃姫”っていう婚約者が別にいたんでしょ…」
そう…
こいつがたかが夢の話に躍起になる原因は、登場人物の名前にあった。
俺の名前は藤原時春。なんと夢の“時春”とまったく同姓同名なのだ。
いったいどんな因果があるのか知らないが、夢の“時春”には照らし合わせたみたいに“瑠璃姫”という婚約者がいたのだ。しかも鬼灯姫の妹で。
夢の物語の筋書きはこうだ。
―――――時は平安。
生まれながらにして藤原清春(ふじわらのきよはる)の許婚であった鬼灯姫はある日、清春の弟でありながら家督争いから脱落し、
鬼灯姫の付き人としてやってきた時春と出会ってしまう。
お互い一目で恋に落ちた二人は、しばし逢瀬を重ねるのちに、いけないと思いながらも将来を誓い合う。
しかしそれを知った時春の婚約者であり、鬼灯姫の妹“瑠璃姫”は嫉妬に狂って鬼灯姫を暗殺しようとする。
時春の兄であり、正当な鬼灯姫の婚約者であった清春は瑠璃姫と協力して二人の仲を裂こうとするが、屋敷に乗り込んだ兵士は誤って火を放ってしまう。
計画の失敗により、後がなくなった清春は二人を消そうとそのまま兵士に殺害命令を下すのだが…清春が訪れたころには、二人は既に去ったあとだった。
瑠璃姫は尚も怒り狂い、清春を利用して更に追っ手を掛けた。
そしてなんとか別邸に逃れるも、そこにも火をかけられた二人は、“大蛇の谷”を背に今生の別れを期する――――――――――と言うなんともベタな恋愛絵巻である。
とまぁ著しく俺の妄想の産物であるが、これを話したとき“幼馴染の瑠璃”はとんでもなく怖い顔をしていた。
なんていうか、感情がごっそりぬけおちた死人みたいな顔だった。
そんなヤバイ顔で『もう…その夢は、見ちゃ駄目だよ…』という瑠璃が更にヤバくてこの夢って実は現実にあった話で、
俺は“藤原時春”で瑠璃は“瑠璃姫”の生まれ変わりなんじゃねぇか?
って疑ったときもあったけど、実際俺には清春なんてアニキもいないし、鬼灯っていう知り合いもいない。
だから瑠璃を一端沈静化するのには成功したんだが…
「へぇ…“時春”は“瑠璃姫”を裏切って鬼灯姫をかばって死んじゃうんだよねぇ…?」
うぅん…どうやら現実の瑠璃姫は著しくご機嫌斜めのようだ。
元から嫉妬深いヤツだったが、ちゃんと付き合うようになってからそれは危険なレベルまで上昇した。
普通、夢の中の架空事物にまで焼餅妬きますか??
「でもさでもさ…平成の時春ちゃんはまさか幼馴染であり最愛の彼女であるこのあたしをま・さ・か裏切らないよねぇ…?」
なんとも殺気の篭った黒上目遣いだ。ツインテールが鬼の角に見える。
思わずチビりそうになった。朝から悪夢とのコンヴォは本当に勘弁してもらいたい。
「だから、夢の話だって言ってるだろう!!それに鬼灯なんていないし、清春だっていないんだから」
眼前五センチで死なす線と書いて死線を送っている瑠璃は、口を尖らせながらもしぶしぶ納得したみたいだ。
「ふぅん…まぁいいけどぉ。そのかわりぃ、あたしと約束して」
俺の手を握ると、瑠璃は急にマジメな顔をした。
そのまま俺に顔を再び寄せると、深く唇を奪われる。
「んん…っ、る…りぃ…んぐっ…あ、さ…からは…っ」
歯列、頬の裏、上顎、下顎、下の表裏。丁寧に余すことなく瑠璃の舌で唾液を塗りつけられる。
まるでマーキング。瑠璃の味しかしない。
彼女は止まらなかった。猛る熱にうなされるみたいに小柄だが歳不相応に発達した胸を俺に押し付け、悩ましげに腰をくねらせる。
「ん………ちゅぱ……んふぅ♪」
そのまま俺の膝の上に跨ると、赤らめた頬で俺を見つめながら指先を股間に滑らせてくる。
瑠璃の匂いだけで生理現象は絶好調だ。しかも不意のディープキス。
息子は気分とは裏腹に元気なテントを張っていた。
「ねぇ…時春ちゃん。あたしと約束、する?」
腕を俺の首でクロスさせ、誘うように頬を舐めあげる。
「…約束してくれたら…続き、シテあげるっ」
愛しげに股間のモノをなで上げ、熱い息を首筋に吹きかける。
なんつー色気だよ。こいつ。我が彼女ながら信じられん。幾度これに誑かされたか。
しかし断れないのが男のSAGA。
熱でぼーっとした頭で、俺はかくかく頷いていた。
「は、はい…藤原時春…約束いたします」
夢の“時春”が見たら泣くだろうな。こんな無様な姿見たら。
きっと鬼灯姫も愛想を尽かすだろう。
「よろしい♪じゃあ……………“藤原時春”は“瑠璃姫”を永久に愛し続け、その身が果てるまで添い遂げる…って誓って?」
「…?瑠璃姫?お前は葉山瑠璃だろうが」
「…いいから」
疑問を投げた俺に帰ってきたのは地獄の底から響くような声だった。
髪が垂れて表情が隠れて、膨張するオーラが尋常じゃない。
「わ、わかったよ…。えぇ、わたくしこと、藤原時春はぁ〜瑠璃姫ぉ〜永久に愛し続け、この身が果てるまで添い遂げることをぉ〜誓います〜」
どこか間の抜けた声で宣言する。
瑠璃は顔を隠したまま。
しかし、口元をありえないほど愉悦に歪めている。
瞬間、ぴくりと首筋が痛んだ。
だが気のせいだったのか、すぐに痛みは引いた。
なんか怖い…けど、それはいつものことかぁ…
なんて妙に納得しながら。
悲しいかな、何時もどおり瑠璃のマウントポジションで朝食前の運動が始まった。
マジでごめんなさい“時春”さん、現代の時春は女性上位じゃないとイけない身になってしまいました…
・
・
・
・
・
・
・
・
「もう、時春ちゃんががんばりすぎるのがいけないんだからっ!!」
通学路に響き渡るのは、瑠璃の元気な怒鳴り声。
そして朝から七発も吸い取られた僕は、荷物みたいに彼女に引っ張られてます。
「だってぇ…るりがぁ…はなしてぇ…くれないんだもぉん…」
真っ白になった俺は、情けなくも腰が立たず朝のホームルームに間に合わせるために彼女の瑠璃に腕を引かれている。
あの約束をした後、瑠璃は変わったみたいに俺を貪った。
普段も人並み以上の激しさで俺を求めるが、今日は群を抜いて異常だった。
なんだか憑物が落ちたみたいっていうと下品だが、とにかく妙に元気なのだ。
起こしにきたときはこれ以上ないほどに低気圧だったのに。
まぁとにかく…
無事に学校へたどり着いた俺たちは、仲良く同じ二年五組の隣同士の席に、肩が触れるほど密着して着席した。
口からエクトプラズムを発する俺と対照にツヤツヤした肌をした瑠璃。
クラスメイトはまたか…なんて溜息をついている。
「おい、時春。今日は転校生が来るらしいぜ?」
残念だったな、信長よ。
俺はもう死んでいる。そこにいるのは時春じゃない。瑠璃の使い魔に成り下がった狗だ。
「なにおかしなこといってんだよ?まぁとにかく、聞けよ。その転校生はなぁ…なんと、財界に名を轟かすほどの超お嬢様だとか!!しかも美少女!!……」
無駄に大声で力説する信長。
別に転校生の話題はいいんだが…
できれば瑠璃の目の前でするのは止めて欲しいな…なんて。
ほら、鬼が目覚めるよっ…
「へへへ、へ、へぇ〜」
必死に流そうとする俺だが、さっきから空気が痛いです。ヤバいですっ!!
「なっ、時春、すげーだろ!!この信長さまにかかれば、殺してしまえホトトギスなわけですよ。
まさか美少女マニアの時春が食いつかないわけないよな?」
信長、お前空気読め。
だから本能寺で森蘭丸でホトトギスなんだよ!!
あぁ、やばいです。
さっき約束したばっかなのに…また瑠璃にお仕置きというセック、いや、折檻を喰らうのか…
「………」
だが、俺の予想の裏の裏の裏で、瑠璃はまったくの無関心だった。
何故か覚悟を決めたような表情をしている。
いつもは柔らかな微笑を浮かべている口元は、一文字に結ばれ、
零れそうなほど潤んだ瞳は沼のように濁り、ひたすら教壇を見据えて教師の登場を待っている。
「あれ…どしたの。今日の瑠璃ちゃん」
お前がゆーなよ。やっぱ狙ってたかこの魔王は。
「さ、さぁな…」
とにかく嫌な予感がした。
それはもう浮気などしたら地球の裏まで追いかけて無理心中しそうな瑠璃が、水を打ったように一点を見据えている。
夢、約束…現実には存在しない二つの名前…
とにかく嫌なもやもやが胸の奥で渦巻いている。
「――――――――――おはよう」
しかしその沈黙を破るように、担任の明智が元気よく入場してくる。
ホントに空気を読まないやつばっかりだ。
教壇に名簿を置いて息を吸い込むと、
明智は俺のもやもやに油を注ぎ込む一言を言い放った。
「今日は、転校生を紹介する!!それでは“藤原”さん。入ってきて」
ガラッ…と扉の開く音。
時が、止まった。
見事なまでに洗練された歩調。
行儀よく前で組まれた両手。
見るものを惹きつける仕草で現れた転校生は、信長の言うとおり美少女だった。
絹みたいに白くて綺麗な肌。
腰まで届く長い黒髪は艶々と見事なキューティクルを作っているものの、その重さを感じさせないほど優美。
そして、人形のように整った完璧な顔立ち。
それは…
夢の中で見た―――に似ていた。
糸を張ったような沈黙が舞い降りる。
普通転校生が女の子で、それも美少女とあれば多少クラスはざわめくはずなのだが…
表情を失った俺と、泥のようなじっとりとした視線を転校生と交わす瑠璃の尋常じゃないオーラによって蓋をされていた。
いったいどれくらいのときが過ぎ去ったか…五分、十分、いや一時間か…
長い沈黙を、明智が咳払いでかき消した。
ずっと据えたように睨み合っていた二人が、不意に視線を外す。
安堵の声が漏れると、教室に張り詰めた冷気は引いていった。
「そ、それでは転校生を紹介するぞ。藤原さん。おねがいします」
瑠璃は俺のほうを向いて、底冷えのする笑みを浮かべた。
元気で向日葵みたいないつも瑠璃の、笑顔じゃない…
いったいどうしちまったんだよ…
瑠璃は俺の腕をとり身を寄せようとして――――
「――――藤原…“ほおずき”です。皆さんよろしくおねがいします」
機を見計らったような転校生の声によって、絡めとられた。
俺は首筋に突き刺すような痛みを感じ、瑠璃は般若のような形相で向き直る。
細身の体を蛇のように大きく見せる、“ほおずき”さんの笑顔だけが印象的だった。
そして…
瑠璃に向けた視線が嘘みたいに優しい瞳になった藤原ほおずきと目が合うと。
――――熱く滾る気持ちが涙となって溢れていた。
スウィッチが煮つまらないので、過去の没ネタを焼きなおしてみました。
設定その他はすべて捏造なので軽い気持ちで見ていただけると嬉しいです。
明らかに他の作者さまと較べると文才というものに欠けていますが、
生暖かく見守っていただければ幸いです…
四回で終ると思います。
好きになりそうです。
信長がw
瑠璃の嫉妬がものすごく(・∀・)イイ!!な
>>57 セレナルートであると信じて俺はAを選ぶぜ!
瑠璃に見える、あまりの不利っぽいオーラに涙。やっぱ幼馴染は・・・。
でも既に肉体関係ありの恋人だし、これからどうなるのかwktkですな。
長くなってしまったので二話に分けて投下します。
阿修羅様、後で編集よろしくお願いします。
折原千早の朝は早い。幼馴染の高村智の弁当を作らなければならないからだ。
基本的に昨晩の夕食の残りを活用して作るため手間は掛からないのだが、飽きさせないよう毎日趣向を凝らすので、どうしても時間が掛かってしまう。
智は別にそういうことを気にしないのだが、彼の顔を思い浮かべながら色々と考えを廻らせるのが千早は好きだった。
高校入学以来、千早は一日たりとも弁当を作るのを怠ったことは無い。
智が自分が作った以外の物を食べることに、言いようのない息苦しさを感じるからだ。
実際、中学の頃から千早は毎日の昼食――といっても給食だが――を邪魔に思うようになっていた。
既に智の食事は朝も晩も千早が管理するようになっていたが、昼ばかりは仕方なかったのだ。
休み時間や帰り道に智がその日の給食のメニューを褒めると、夕食は必ず同じメニューが再現された。
そして、その日に限って千早が一人で先に帰ってしまったり、妙に強い威圧感を伴って『美味しい?』と聞いてきたりするのが、当時の智にとって不思議だった。
(智ちゃんは私が作った物以外食べちゃいけないの。
私無しじゃ満足できないように、生きていけないようにならなきゃいけないの)
デートでお店に入ってケーキを食べたり、一緒にテレビを見ながらお菓子を食べたりする、とかならいいけれど、それも『自分と一緒』でなければ絶対に駄目。
夜に小腹が空いた時などのために簡単な夜食やデザートを冷蔵庫に常備するのも、今では慣れたものだ。
そして実際、智がここ一年以上で千早が作った以外のものを口にした割合は9割9分以下、それも突発的な偶然を除けば存在しないのである。
執念にも似た、千早の努力の賜物だった。
千早の朝の仕事は、最近になって一つ増えた。
(智ちゃんったらどうしたのかな。夜に遅くまで勉強してるのかな。朝自分で起きられないなんて)
受験に備えてそろそろ真面目に勉強を始める生徒はいるが、智もそうなのだろうか。
それは、誰より彼を知る千早にとっても以外だった。
智のことを知り尽くしているつもりだったが、まだまだ未熟だ。まだまだ足りない。
(もっと智ちゃんのことを知らなくちゃダメだよね。もっともっと。
誰も知らない、智ちゃん自身も知らないような所まで、智ちゃんのことを知り尽くさなきゃ)
勉強しているなら一緒したいところが、そうなると翌日に差し支え、弁当作りに支障が出るかもしれない。それはダメだ。
日中智が眠そうにしているのなら、それを支えるのは自分の役目だ。
パートナーである自分まで一緒に眠そうにしているわけにはいかない。智の世話をするのは自分だけの役目なのだから。
それに、寝ている智を起こすというのも悪くないのだ。
(まどろんでる智ちゃんって可愛い・・・。
いつも格好いいって感じだけど、こうして見ると昔とあんまり変わってないのかも)
気持ちよさそうに眠る智を見ていると、起こすことに罪悪感を感じてしまう。
それどころか、いっそ自分もベッドの中に潜り込んでしまいたいと思うほどだ。
日を追うごとに強くなるその誘惑を抑え込むのに、毎朝千早は結構な労力を消費している。
特に最近――智のオカ研通いの回数が増えるようになって、その誘惑は半ば衝動となって千早に襲いかかるのだ。
智を外に出したくない。出来るなら、学校にだって行きたくない。
ベッドの中で一日中、笑い合って、じゃれあって、抱き合って、愛し合って。
私たちは、ただ二人だけで居られたらいいのに。
この世界にはいらないものが多すぎる。
智の優しさや好奇心旺盛なところは愛すべきものだけど、それはいらないものまでも引き寄せてしまう。
――あの女のように。
でも、もう心配はいらない。
昨夜、智は約束してくれたのだ。もう藍香には会わないと。
それはつまり、自分を選んでくれたということ。
唯一離れ離れになっていた時間が消える、それが意味するのはずっと一緒に居てくれるということなのだから。
そう思うと自然に足取りも軽くなり、ご機嫌なまま千早は智の家に辿り着いた。
時間は7時5分前、30分は智の寝顔を見ていられる。
いそいそと合鍵を取り出すと、ドアに差し込んだ。
自分の家より見慣れた場所。
目を瞑っていても歩けるほど慣れ親しんだ家に上がり、千早は真っ直ぐに階段を登る。
(えへへへ、今日こそベッドに潜り込んでみようかな?
だって、今日からは片時も離れずに一緒に居られるんだもん。もう我慢しなくていいだもん。
智ちゃんも、もう照れたり我慢しなくていいんだからね?)
頬が緩むのが止められない。
素早く、しかし智を起こさないよう静かに廊下を進み、智の部屋のドアをそうっと開いた。
「智ちゃんおはよ〜・・・・・・・・・あれ?」
おはようの囁き声が戸惑いに変わる。
目的の人物はベッドにいなかった。
「あれ? 智ちゃ〜〜ん?」
今度は大きな声で呼んでみる。返事はない。
もしかしたら、寝ぼけてベッドの向こう側に落ちてしまったのだろうか。
クスリと微笑みながら部屋に入ってみると、千早はあることに気づいた。
智のベッドが乱れていない。
起きてから畳んだというものではなく、寝入る前の皺一つ無いシーツ。
掛け布団がベッドの面積と等間隔になるように敷かれた、ホテルの部屋のような状態。
それは、昨夜帰る前に千早がしたベッドメイキングそのままだった。
当然、ベッド脇に智が落ちていることもない。
一体何処にいるのかと考えていると、もしかしたら下のリビングで寝ていたりするのかも、と思い当たった。
風呂上がりにソファで寝転がっている内に寝てしまったとか、結構ありえそうだ。
(もう、智ちゃんったら。せっかく私がベッドを整えてあげたのに。やっぱり私がいないとダメだね)
下で寝ていたとしたら、風邪をひいているかもしれない。
もしそうだったら、一緒に学校を休んで付きっきりで看病してあげなくちゃ。
病気になると気が弱くなるっていうし、だったらずっと手を握っていてあげよう。
それでも寂しかったら、添い寝だって何だってしてあげるよ。
それ以上のことだって、智ちゃんが望むのなら――。
先走った想像に顔を赤らめながら、千早は軽快に階段を駆け下りた。
「智ちゃん、おはよう! こんな所で寝てたら風邪ひいちゃうよ?」
元気に言ってリビングに入った千早だが、そこに幼馴染の姿はなく。
彼女の声は誰もいない空間に消えていった。
「智ちゃん・・・?」
流石に不安になってくる。
トイレ、風呂、庭、押入れ、もう一度二階と片っ端から探し回るが、やはり智は見つからない。
制服はあるから学校に行ったというわけでもない。第一、智が自分を置いて、しかも伝言も無く行くはずがない。
再び階段を降りたところでふと玄関に目をやった千早は、智の靴が無いことに今更のように気づいた。
最初に入ってきたときは意識が二階に飛んでいて、足元に気づかなかったのだ。
千早の中で断片的な情報が組み合わさって、少しずつ形を成していく。
智は昨夜一度もベッドに入ってなくて。
朝7時という時間に家におらず、出かけている。
つまり、智は。
(夜通しずっと外に出てた? でもどうして? どうして??)
理由が分からない。思い付きもしない。
智に関して『見当も付かない』ことなど、自分にはあり得ないのに。あってはならないことなのに。
寝もせず夜通し外に出るなど、『ちょっと出てた』ではあり得ない。
明確な理由、それも決して軽くないものがあるはずだ。
なのに、どうして何も言ってくれない?
自分たちは互いの全てを共有する対の存在なのに。互いの全てを知り尽くしていなければならないのに。
そう、智が自分に隠し事をするはずが無い。もっと他の可能性もあるはずだ。
例えば、寝る前にちょっと外に出て、そこで何かに巻き込まれたとか―――。
「・・・!!!」
上っていた血の気が一瞬にして急落する。
自分で考えておきながら、千早は心臓が止まるほどの衝撃を受けていた。
しかし、それは十分に考えられることだ。
何かに巻き込まれたとしても、無事ならば智は必ず千早に連絡を取ろうとするはず。
それさえも出来ないということは・・・。
一度思い立ったその考えは、螺旋を描いて最悪の可能性までたどり着いてしまう。
(やだ、やだ、やだよぅ・・・! どうしてそんなこと考え付くのよ・・・!
もし智ちゃんに何かあったら、私も生きていられないよぉ・・・)
歯が噛み鳴る音が響き出す。しかしそれは、いつもの癖とは違うもの。
身体の震えが止まらない。まるで寒さに震える子供のように。
智が傍にいない。それが心の中をどこまでも凍えさせて埋め尽くしてしまう。
だから、玄関を開けて勢いよく入ってきた人影に気づいて顔を上げた時。
玄関先にうずくまって泣いていた千早は、一も二も無くその人物に飛びついていた。
中途半端ですが、ここで一旦切ります。
では引き続き、二話目です。
「智ちゃんっ!!」
「うわっ、千早!?」
いきなり激しく飛びつかれ、智の背中が玄関扉にドンとぶつかる。
もし扉が無かったら、疲れがピークに達していた智は千早に押し倒されていたことだろう。
「智ちゃん、智ちゃん、智ちゃん、智ちゃん、智ちゃん、智ちゃん、智ちゃん・・・!」
胸に顔を押し付けて泣きじゃくる千早に、自分が彼女を心配させたことを悟った智は、優しくその背中を叩いてなだめる。
しかし、ただ千早を慰めてばかりもいられないのが今の少年の現状だ。
千早を抱きとめながら、智はどうすべきか必死に頭を廻していた。
起床時間の10分前には帰ってきたのに、千早がもう来ているとは思わなかったのだ。
『朝来て一番にするのは智ちゃんを起こすことだよ』と言っていたから、いつも7時30分直前に来ていると思っていたのに。今日が偶然早かったのだろうか。
ともかく、いくら千早でも――いや、千早だからこそ、本当のことを話すわけにはいかない。
だが心身とも疲労しきった状態で突発的にいいアイデアが浮かぶはずも無く。
智が途方に暮れかけていると、腕の中で千早が身じろぎした。
ビクンッ、とショックを受けたように大きく震えると、いきなり智の腕を振り払って大きく後ずさる。
「千早?」
あっけに取られる智。状況に付いていけないようで、間の抜けた疑問符しか出てこない。
しかし、千早は感じ取ってしまったのだ。
一晩中留守にしていた幼馴染の身に、何かあったことを。
「知らない女の匂いがする・・・」
「え・・・?」
俯いたまま、ボソリと呟かれた言葉。聞き取れなかった智は身を乗り出そうとしたが――。
「智ちゃんからっ! 知らない女の匂いがするよっ!」
突然の凄まじい剣幕に押され、それ以上進めなくなる。
キッ、と顔を上げた千早の顔は、智でさえ見た事の無い凄惨なものだった。
大きく見開いた目は血走り、明らかに怒りの色を湛えている。
なのに口元は笑っており、鮮やかな三日月を描いているのだ。
吊り上ったそこは、何故か鋭いナイフを連想させた。
そして、壊れた人形のようにガタガタと歯を噛み鳴らしながら、幽鬼のようにユラリと智に近づいていく。
「ねえ、昨日の夜何処に行ってたの? 私が帰ってからどうしてたの? 私が整えたベッドにも入らず何してたの?
何処行ってたの? ねえ何処行ってたの? 答えてよ、何処行ってたの? 私の知らない所に行ってたの? 私の知らない人の所に行ってたの?
私に隠し事をしたの? 私分からないんだよ、智ちゃんが何処行ってたか。そんなのおかしいでしょ? ありえないことでしょ?
私が智ちゃんのこと分からないなんて、そんなのあっちゃいけないことでしょ?
昨日、誰と会ってたの? 誰と? ねえ、誰と会ってたの? 答えてよ。誰と? ねえ誰と?
ねえ、誰となのよっ! 黙ってちゃ分からないじゃないっ! 智ちゃん、答えてよっ!」
矢継ぎ早に繰り出される言葉にただ圧倒され、智は口を挟むことも出来ない。
言葉と共ににじり寄る千早に気圧され反射的に後退していた身体は、再び玄関の扉まで追い詰められていた。
最後の叫びと共に千早が智の胸に掴みかかり――そこで千早は気が付いてしまった。
土気色をした智の顔に、赤々と映える香料。
彼の唇にべったりと付いた、ルージュの痕に。
――これは、智が迂闊だったとしか言いようが無い。
ホテルの部屋を出る際、絞殺されかけ紫に変色している首を隠すため、智はシャツの襟を立てて第一ボタンまで掛けた。
長袖と長ズボンのお陰で、身体中に付けられた牙の痕も隠れてくれた。
しかし、これで安心しきってしまった智は顔の変化を隠すことを忘れてしまったのだ。
実は智が気絶した後、エルは何度も何度も、それこそ彼女自身が眠りに落ちるまで何時間も、ずっと智にキスしていた。
所有の証を付けるかの如く傍らの少年に口付け、唇を割って口腔に侵入し、互いの舌を擦り合わせ、また唇をついばんだ。
その間気づくことなく眠っていた智は、自身が顔にまでエルの痕を付けられているとは夢にも思わなかった。
家へ帰る途中、すれ違う人たちが驚いた表情で自分を見ているのには気づかないでもなかった。
しかし、その理由が顔にべったりと付いた口紅の痕とまでは思いつかなかったのだ。
そんなことにまで気づけというのは、文字通り死ぬほどの目に遭ってきた17歳の少年には酷かもしれない。
しかし理由はどうあれ、そんな姿を千早に晒してしまったことは事実。
迂闊以外の何物でもない。
そして――昨夜の智にあった出来事は、口紅という証拠を伴い最悪の形となって千早の脳内で帰結し。
「イヤアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
破滅の絶叫を喉から――いや、心の底から迸らせた。
「千早っ!?」
千早の視界の智が歪み、さらに斜めに倒れていく。
焦った表情で駆け寄ってくる智の姿を最後に、絶望に塗りつぶされた千早の心は、これ以上意識を保ち続けることを放棄した。
――それでも、死んだわけでない以上目覚めの時は訪れるわけで。
「ん・・・・・・」
千早が目を覚ますと、智の部屋の天井が映った。
ベッドに寝かされており、傍らにはベッドにもたれてうつ伏せになっている智が見える。
顔色は悪く、寝息さえも立てず。深い眠りに落ちているのが分かった。
ベッドの上を転がってみる。
多少転がっても落ちる心配がないほど大きいそれは、智が小学一年の時に買ったものだ。
当時6歳の少年には広すぎる物だったが、しょっちゅう泊まりに来ては一緒の布団にくるまって寝る千早のことを考えて、両親が選んだのだ。
広く温かい空間で、一緒の夜を何度も過ごした。本を読んだり、怖い話をして智が千早を泣かせたり、将来の夢を語り合ったり。
一緒に寝なくなったのはいつからだろう。
『お互いもうガキじゃないんだぞ』という智に、半ベソをかいて愚図る千早が押し切られてしまったのは。
(寂しいよ智ちゃん。一人で寝るのは寂しいよ。何年経っても慣れないよ。今だって、切なくて時々泣いちゃうんだよ?)
そんな時は、自分の身体を慰めることで無理矢理眠るようにしている。
本当なら今頃こうして自分に触れているのは智ちゃんなのに、と思いながら。
(だって、あの日語った私の夢・・・ずぅっと変わってないんだよ? 智ちゃんは笑ったけれど)
幼くとも、真実を込めて。
『智ちゃんのお嫁さんになりたい』、そう言ったのに。
なのに今、目の前にいる智は。
シーツに赤い汚れが見える。智の唇から付いたであろうルージュ。
――汚らわしい。
衝動的に千早はシーツに自分の唾液を付け、智の唇を乱暴に拭く。
殆ど落ちたが擦った痕が僅かに残ったので、そこは指に唾液を付けて丁寧に拭った。
(それにしても・・・・・・)
こうして近くで見ると、何と酷い顔色なのか。まさに半死人というのが相応しい状態。
こんなになるまで、智は一体何をして―――されているのだろうか。
その時、千早は気づいた。上から覗き込むように見ていたためだろう。
智の首に、痣のようなものが見える。
怪訝に思いシャツのボタンを外して首を露出させてみて、千早は言葉を失った。
「・・・・・・!!」
紫に変色した首。どう見ても締められたものにしか見えない。
移った痕は、人の手の形をしている。
(どうしてこんなものが・・・!?)
決まっている。誰かにやられたのだ。それも、悪意を持った誰かに。
思い出すのは昨夜の約束。
智は大丈夫では全くなかった。こちらの心配を見越して、それを欺くまでおかしくなっていた。
あの女、神川藍香はそこまで智を狂わせていたのだ。
先程感じた匂いにあれほど拒否反応を示してしまったのも、これで説明が付く。
昨日感じたのと同じもの。
人の理解を超えた領域に対する本能的な恐怖。それに智が連れ去られてしまうことへの恐怖。
そして、智を連れ去ろうとするものへの嫌悪。
溢れそうになる涙と憎悪を、千早は必死に抑え付ける。
自分がしっかりしなければ。今何より優先すべきことは何だ。
悪魔祓いか? そんなものは後だ。今しなければいけないのは――。
「守らなきゃ・・・。智ちゃんを守らなきゃ。私が智ちゃんを守らなきゃ。私だけしか守れない。
守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ」
ブツブツとひたすら同じ台詞を連呼しながら、千早は智を起こさないようそっとベッドから出た。
虚ろな瞳で部屋を見渡し、ある物に当たりをつける。
部屋の隅に立てかけられた金属バット。
小学生の頃に草野球で智が使っていたものだが、150センチ弱と小柄な千早にはちょうどいい大きさだ。
何にちょうどいいというのか? ――決まっている。
智ちゃん、ゴメンね。痛いのはヤだろうけど、ちょっとだけ我慢して?
もうこうでもしないと智ちゃんを守れないの。
でも大丈夫だよ。私がずっと、ずっとずっと、ずっとずっとずっとずっとずぅーーーっと!
傍にいてあげるからね。
――それと、ちょっとだけおしおき。いくら操られていたとはいえ、私を騙して裏切ったんだから。
もう、私以外の女を見ちゃダメだからね?
瞳に光がないことを除けば、それは一点の曇りも無い無邪気な笑み。
千早は無骨に黒光りする鉄槌を大上段に振りかぶって。
――まっすぐに、振り下ろした。
取り敢えずここまで。
千早の可愛さが上手く出ているといいなあと思いつつ、サイ娘を書く難しさを思い知った今回でした。
今のところ、千早はごく普通の人間で行くつもりですが・・・どこまで食いついていけるだろう。
書いてる本人も正直不安です。
>千早はごく普通の人間
ってサイ娘な時点で普通じゃないでしょwwww
まあ、このスレ的にはデフォなのかもしれんが。
ともかく、激しくGJです。
いやいや、凄くかわいいと思うよ
バットとか
>「智ちゃんからっ! 知らない女の匂いがするよっ!」
キモウトキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
ブラッド・フォースの千早はキモコワカワイイ
いやしかし、吸血鬼の智ちゃんはバットの一撃ぐらいで動けなくなるんだろうか…
>>101 動けなくなるまでやるに決まってるじゃない
「ごめんね、ごめんね」て繰り返して何度も殴るのか
うひゃ、すげえ萌えた。
そういえば俺の三歳になる姪が「ごめんね、ごめんね」って言いながら俺が食ってるアイスや
食べ物を強引に取っていく。別に全然かまわないけど幼児と変わらんなw
追い込まれて思考が立ち行かなくなって愛情が暴力に転化しちゃうわけだから、
幼児みたいな行動になるのは必然。
なんて素晴らしいんだ
>>105 同じ台詞を言いながらお前を縛ったりしたらノンフィクション作家になれ
「あはは、ねえ、恥ずかしくないの?
私みたいな年下の女の子の前で、みっともない姿晒しちゃって。
汚らわしいのをガチガチに硬くしちゃって、変態ね変態!
貴方みたいな変態、足で充分よ! ほら! ほら! ほらぁ!」
「くっさぁい……。こんなにいっぱい出しちゃって。そんなに興奮したの?
私みたいな小さな女の子に虐められて、気持ちよかったの?
くっさいミルク撒き散らして、貴方みたいな変態、誰も近寄らないでしょうね。
相手できるのは私くらいよ。そうよ、貴方には私しかいないの。
だから、懇願しなさい、私に構ってくださいと床に額を擦りつけなさい。私を求めなさい!」
「これは、お仕置きなんだから。そうよ、お仕置きよ。
私以外の女に色目使ったりなんかして。貴方には私しかいないの。
みんなにバラすわよ? 貴方が変態だって。どうしようもない変態だって。
小さな女の子に口汚く罵られて勃起する変態だって! バラすわよ!?
あの女にも言わなくちゃ。……ううん。貴方の本当の姿を見せつけてやるわ。
あの女の前で、たっぷりミルクを吐き出させてあげる。くさいのいっぱい出させてあげる。
そしたら幻滅するでしょうね、あの女。嫌われるでしょうね、貴方。
なに? やめてほしい? ……お願いの仕方も忘れちゃったの?
……そう。そうよ、わかってるじゃない、もっと強く……!
いい? 貴方には私だけなの……んっ……それを、忘れたら、駄目なんだからぁ……っ!」
と、主人公を拘束するロリ系ヒロインが唐突に浮かんだ。
想像したらちんこがエラいことになった
(;´Д`)ハァハァ
あれ?パンツが濡れてる…
葵ちゃんエンドがいいです
うわパンツ冷たい…
ここはやっぱりドMの多いインターネットですね
(;´Д`)ハァハァ・・・ウッ
女子供に刺されたいスレだからな。
必然的にMも多くなる。
それもかなりのハードMが。
俺達は命を賭けたMだ。
求められるのなら愛故に殺されたいのさ。
俺はこういうモロMなのはあんまし受け付けない
俺は可愛い女の子が壊れちゃうところが好きなんだ
もちろん幸せにもなってほしい
投下します
付喪神。
もとは老女の白髪を意味する言葉だが、転じて、年月を経た器物の妖怪を指す。
要は、長年形を保つことで、尋常ならざるモノへ変化する、ということだ。
悪戯好きなモノが多い傾向にはあるが、さりとて派手な悪事を働くことも少ない、良心的な妖怪である。
さて。
そんな付喪神だが。
使い捨てという概念が定着して久しい昨今、その数は激減していたりする。
出生率も1を割ってしまい、後進の育成が叫ばれている時代である。
そこで生まれたのが、“付喪神研修制度”。
あと数年で付喪神になれるであろう器物を、高名な霊能者の元へ派遣させ、
そこで付喪神としての教養を学ばせ、これからの厳しい時代を乗り越えられる人材を育てようという制度である。
幸いなことに(あるいは不幸なことに)、もうすぐ付喪神になれそうな器物は、
大抵の家庭では不要とされ、物置や押入の奥に眠っているのが現状である。
故に、無くなっても誰も騒いだりせず、研修制度は恙なく行われていた。
で。
俺の家が、その、付喪神研修制度で定められた、霊能者の家のひとつだったりするわけで。
今日も今日とて、研修のため住み込んでいるモノどもが、それはもう、本っっっ当に騒がしくしていた。
『いくおー、いくおー、遊ぼうよー』
『まーたつまらねえ勉強してるのか? 無駄な努力を』
『外に出て遊ぼうぜー。そんなんだからドーテーなんだよ郁夫は』
『はーるがきーたー、はーるがきーたー、どーてーにーはこなーい』
『おいおいお嬢、それは違うぜ。春は来てるけど花見できないだけなんだよ』
『かがみんエロっ! でも確かに花は見てないよね、花びらは! きゃはははははは!』
『おまえらひでえよ。郁夫にだって恋人くらいいるよ。長年付き合ってきた恋人が、さ』
『右手か』『右手だね』『いいや左手かも』『両手が花か』『足とか高等技術だよな』
『ぎゃはははははははははははははははははははははははははは!っ!!』
「あああてめえらうるせええええええええええええええええっっっ!!!
あと童貞言うなコンチクショウッッッッッ!!!!!」
こちとら試験勉強中だというのに、情け容赦なく邪魔してくる“研修生”たち。
思いっきり怒鳴って黙らせようとするも、蛙の面に小便だった。
むしろ、構ってあげたことになるから火に油?
来週の中間テストは天高く燃え上がりそうな予感がする。そして俺は灰に。泣ける。
『(赤点)容疑者に告ぐー。お前は我々によって包囲されているー』
『お前はもう(補習から)逃げられないぞー。観念しろー』
『あそべー。あそべー』
あくまで徹底抗戦か。よかろう。
ここでひとつ、貴様らが研修中の身であることを、教え込んでやろうじゃないか――
と、腰を上げかけたそのとき。
「郁夫様の邪魔をするのも程々にしなさい。
遊びたいのであれば、私が存分に、お相手しますよ?」
凛とした声が部屋に通った。
声のした方に目を向けると、そこには色無地を着付けた少女が、盆を持って立っていた。
薄緑の和服に、流れるような黒髪が映える。
背筋はぴんと伸ばされていて、つい見とれてしまう格好良さだ。
盆の上には湯飲みと羊羹。ああ、差し入れを持ってきてくれたのかな。
刀の付喪神、流(ながれ)。
5年前に我が家に研修に来て以来の仲だ。
研修が終了してからも、何故かこの家に居座っている変わり者である。
『げー。鬼刀がきたぞー』
『斬られるー。斬られるー』
『郁夫の皮も切られちゃうー』
「手術が必要なほど余ってねえ! ……ちょっとだけだ」
「郁夫様、相手をしたら喜ぶだけです。無視するのが賢明かと」
「う……そうだな。ごめん」
「それより、試験勉強の方は捗ってますか?
差し入れをお持ちしました。今日の水羊羹は会心の出来ですので、よろしければ」
「おお、ありがとなー。流の羊羹は大好きだから嬉しいぞ」
「……だ、大好き……」
「ん? どした? ぽーっとして」
「いいいいえ、ななななんでもありません!
し、試験勉強頑張ってください! 邪魔者どもは連れて行きますのでっ!」
言うなり少女は俺から距離を取り、喧しく騒いでいた人形やら孫の手やら鏡やらを、
ひょいひょいと回収して、駆けるように部屋から出て行った。
「……むう。どしたんだろ、流のやつ」
熱いお茶をひとすすり、はてなと首を傾げるのみ。
と、そこへ。
『やれやれ。刀心のわからない奴だねえ』
口を付けていた湯呑み茶碗から、呆れたような思念が伝わってきた。
「む、なんだよ、千茶(ちさ)」
『別にー。それより勉強頑張りなさいよー。私はお目付役としてしばらくいるから』
「……退屈だからって邪魔するなよ」
『しないわよ。見てるだけで楽しいしね』
「? まあ、それならいいや。よーし、目指すは50点!」
『もう少し高い目標を持ちなさいよ……』
「うるせい」
『ふふ……。――あ、始める前に、お茶は全部飲んでおいてちょうだい。
ぬるいの入れられっぱなしは好きじゃないの』
「ん? ああ、了解」
『……んぁっ……』
「あれ、何か言ったか?」
『なんでもなーい。それより、歯を立てたりしないでよねー』
「へいへい。……ん、流の淹れたお茶は美味いなあ」
『…………(湯呑心もわからない奴よねえ)』
その後、千茶に近代史のわからない所などを訊ねたりして、試験勉強は恙なく終了した。
「……さて、試験勉強も終わったことだし、流と訓練でも――」
『あ、ちょっと、郁夫!』
「ん? 何だよ千茶。ああ、ちゃんと台所に連れてってやるから安心しろ。
このまま置きっぱなしじゃ茶渋が付いちゃうもんな」
『あ、いや、そうじゃなくて……。
勉強して疲れてるでしょ。もう一杯お茶飲んで、ゆっくりしてから訓練すれば?』
「ふむ、確かにちょっと疲れてはいるけど……」
と、少し悩んだ素振りを見せた、次の瞬間。
「郁夫様! 訓練ですね! 行きましょう! さあ行きましょう!」
すぱん、と襖が開け放たれ、練習用の木刀を持った流が突入してきた。
迫ってくるその様は、何というか、散歩を前にして尻尾を振りたくる犬のようで。
あまりに微笑ましいので、つい苦笑が漏れてしまう。
「あー、わかったわかった。んじゃ行くか、流。
あ、とりあえず千茶を洗うから、先に道場の方へ――」
「ご心配なく郁夫様。千茶は私が洗っておきます。ささ、郁夫様は準備の方を」
『あ、こら、流! 私は郁夫に洗ってもらいたいのにーっ!』
目にも留まらぬ素早さで千茶をひったくった流は、
そのまま全速力でだだだーっと台所の方へ駆けていった。
千茶が何やら言っていたが、うまく思念を聞き取れなかった。
そして、代わりに押しつけられた木刀2本。
「……ま、片付けてくれるってならそれでいいや。んじゃ俺は準備しよっと」
勉強道具を片付けて、そのまま道場へ向かうことにした。
ふと話の流れを思いついてしまい、形にしておきたかったので書いてみました。
私はどうも、人間以外の修羅場が好きなのかもしれません。
そして血塗れ竜はもうちょっぴり待っていただけると幸いです。
忘れられないうちに完結させたいところです。ちょっぴり忙しいので完結は10月上旬になりそうです。
申し訳ありませんorz
短編も長編もきらりと光る、あなたにGJ!!
>>124 GJ
いやいや何の問題もありませんて
人外とか好きだからー!!
付喪神とかねぇよ・・・
な〜んて思いながら読んでたんだけどね〜
ほ〜んとGJ!!
いやっほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
Gj!なんかもうこのスレ来てから好きな属性がどんどん増えているぜ(*´д`*)ハァハァ
いいですね〜!流さんは坪ですね。
ところで質問ですが、流さん以外の付喪神は人間の姿になれないのですか?
付喪神がヒロインでもOKのようでほっとしました。
続きとか書いた方がいいですかね?
>>130 設定としては、研修を終えたモノは他の姿にも変化できる、てな感じで。
人の姿だったり獣の姿だったり異形だったり。
研修中は中途半端に変化できるのもいますが、殆どは変化できないかな、と。
>>131なるほど、質問に丁寧に御答えいただきありがとうございます。
ああ、流さんに稽古してもらいたい・・・。そして稽古が終わったら・・・・・・んんっ!!
>>132 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::。:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
:::::::::::::::::::::::::::::::::。::::::...... ... --─- :::::::::::::::::::: ..::::: . ..::::::::
:::::::::::::::::...... ....:::::::゜::::::::::.. (___ )(___ ) ::::。::::::::::::::::: ゜.::::::::::::
:. .:::::。:::........ . .::::::::::::::::: _ i/ = =ヽi :::::::::::::。::::::::::: . . . ..::::
:::: :::::::::.....:☆彡:::: //[|| 」 ||] ::::::::::゜:::::::::: ...:: :::::
:::::::::::::::::: . . . ..: :::: / ヘ | | ____,ヽ | | :::::::::::.... .... .. .::::::::::::::
::::::...゜ . .::::::::: /ヽ ノ ヽ__/ ....... . .::::::::::::........ ..::::
:.... .... .. . く / 三三三∠⌒>:.... .... .. .:.... .... ..
:.... .... ..:.... .... ..... .... .. .:.... .... .. ..... .... .. ..... ............. .. . ........ ......
:.... . ∧∧ ∧∧ ∧∧ ∧∧ .... .... .. .:.... .... ..... .... .. .
... ..:( )ゝ ( )ゝ( )ゝ( )ゝ無茶しやがって… ..........
.... i⌒ / i⌒ / i⌒ / i⌒ / .. ..... ................... .. . ...
.. 三 | 三 | 三 | 三 | ... ............. ........... . .....
... ∪ ∪ ∪ ∪ ∪ ∪ ∪ ∪ ............. ............. .. ........ ...
三三 三三 三三 三三
三三 三三 三三 三三
良く切れる刃物って、刃の部分を手で触れると吸い付くような感触がするよな……。
やっぱ、流さんも……? (;´Д`)ハァハァ
もてない男に付く神みたいでちょっと・・・
切ないな
【弐】
止まらない。
止めたくない。
この雫…ひたすら頬を熱く濡らした。
「時春、時春!!」
信長が後ろから俺の肩を揺らす。
それでも、感情の洪水は止まらなかった。
“ほおずき”その名を転校生の口から聞いただけで、覚えのない気持ちが、心臓を熱く揺らして締め付ける。
なんだよ…この気持ち…
“ほおずき”って…
「いつぅ…」
しかし考えれば考えるほど、渦巻く不快感が上半身を中心に発生した。
ズキン…
首筋が痛い。
燃えるように引きつる箇所に手を当ててみると、じんわりと血がにじんでいた。
「時春ちゃん!!」
「大丈夫だ、瑠璃。ちょっと眩暈がしただけだから」
心配そうに覗き込んでくる瑠璃。
しかし、表情には不安とは違う、別の危うさが潜んでいた。
今朝のこと、同じ場所に走った痛みを一瞬思い出す――――が、すぐに打ち消した。
まさか、ありえない。
そんなはずが、夢だろ…
夢なんだよ!!
「時春ちゃん…」
「平気だ。ほら、お前も転校生の話を聞けよ」
指先で流れたものをぬぐう。そうだ…
…ちょっと夢の内容と重なっただけだろ。
俺はあの“時春”なんかじゃないし、転校生も“鬼灯姫”なんかじゃない…
突如涙を流した俺をずっと見つめていた転校生のほおずきさんが、話を再開した。
大きな瞳には、悲しみにも似た色と、深い悔恨のようなものが潜んでいる。
何故だか、危険な感じがした。
本能が、彼女に関わるなと告げている。
「共学の学校で学ぶのは初めてですが、どうぞ仲良くしてください」
しん――――となった空気を払いのけるように響く声。
まるで鈴が鳴ったみたいに美しく、儚い。
やはり胸の奥がずきりと痛む。
ほおずきさんは深くお辞儀をすると、明智に案内されて窓側の席に向った。
―――視線を俺に固定しままに。
一瞥してみると、今にも泣き出しそうな顔でこっちを見ている。
胸の痛みが増した。
「ちょっと時春ちゃん?さっきからどっち見てるの?」
不意に脇腹を抓られる。
物凄く手加減のない一撃だが、いつもの瑠璃に戻ってくれたようだ。
相変わらずの濁った黒上目遣い。
キタコレ、足元から冷えていくような感じですよ。
「安心していいよ。時春ちゃんは、いつもの通りにしてればいいから。時春ちゃんは、必ずあたしが護るから」
口元を三日月に吊り上げ、空空と笑う。
なにかが、狂い始めた瞬間だった。
・
・
・
・
・
「おう時春!!」
放課後、窓側にできた人だかりをぼーっと見つめていた俺は信長に呼びかけられた。
振り返れば逆立てた金髪をいじりながら、信長が満面の笑みを浮かべていた。
「なぁなぁ…転校生、すげぇ人気だよな」
「そうだな」
横目でちらりとほおずきさんを伺ってみる。
どうやら男子から質問攻めにあっているようだ。
それもそうだろう。夏を前に突如公立校に現れた超美少女。性欲と女に飢えた男どもが放っておくはずないのだ。
ほおずきさんは困ったようにしているが、質問には丁寧に答えているようだ。
何故か、気分が悪くなった。
「ははぁ…時春君…君は瑠璃ちゃんという素敵な彼女がいながらも、転校生に興味津々でございますか?」
黙れ。瑠璃が部活に行っているからいいものの、本人の目の前でそんなこと言ったらマジで焼き討ちするからな。
「ぐへへ…まぁそれはそれとしてなぁ。今日は美少女マニアの時春君にとってもいいものを持ってきたにょろ!」
俺の肩に体重を乗せながら、下卑た笑いを浮かべる信長。
なんつーか、本当に名前負けしているよな、お前って。謝れっ、本家織田さんに謝れ!!
鞄から神速の動きでなにかを取り出すと、これもまたありえないほどのスピードで机の上に並べた。
ケバケバしい装飾と、現実世界では絶対に聞くことができないだろう破廉恥なアオリが踊る表紙。
『脱ぐと凄いいけないメイドさんを緊縛調教。夜の厨房に響く嬌声vol.2』
やたら露出のおおいメイド服を身に纏った16、17歳程度の少女。
黒髪に素朴な可愛い面で、かすかなそばかすが清楚さを演出している。
白い肌と荒縄で、究極のギャップを表現ってか…
またまたマニアックではあるが。間違いなく、エロ本の類だ。
「かっかっか…どうだね、時春君。今日はしっかり君の趣向を抑えてきてやったぞ。この第六天魔王信長様に感謝するがいい!!」
タイトルからして願い下げです。先ず人間性を疑われるぞ、こんなもん。
正直、性欲をもてあましていない俺には不要の品だ。
てかなんでお前もこんなもの持ってんだよ…お前には…
「黙って受け取ってくれ、時春殿!!」
急に態度を改めるな。
「拙者は最近お上の詮索がキツくて非常に困り果てているのでござる。そこで頼りになる友人といえば、時春殿しかおらんので候!!」
微妙に間違った侍言葉と謙譲語。お前、一回人生やり直せ。白亜紀から。
「あぁ…その気持ちはよくわかるんだがな…」
俺は視界の端に一つの影を確認。完全に気配を消しているため、背後を取られた信長は気づくことができない。
――――合掌。
今度は部下じゃなくて愛妾に殺られるがいいわ。
「まぁなんだ…後ろ、見てみ?」
瞬間、ありえないほどの殺気が膨れ上がる。間違いなくSS級の霊力。
戸○呂もB級でびっくりなインフレだ。
「ああああああ、あれ…?」
信長はその妖気に当てられ、下級妖怪のごとく消滅すると思われたが…
「……………………………………………………ううっ、ひぐっ…ノブくん…」
そこには、
信長のシャツの裾をちょこんと摘んだ――――
侍風ポニーテールが特徴的な美少女が、大きな瞳を潤ませて泣きじゃくっていた。
「ららららららら、蘭?どどどどどうして…こここここにいらっしゃるのですか?」
そう、この小動物を思わせる愛らしさの美少女は何を隠そう信長の彼女。
森蘭(もり らん)ちゃんである。信長の名誉のために言っておくが、正真正銘の女の子だぞ?
そしての彼女、可愛らしいが…実は瑠璃以上の…
「……………きのうだって、さんざん、ボクをだきしめて、あいしてるって、いってくれたのに…
ひどいよっ…ボクにはもうノブくんしかいないのにっ。ノブくんしかいないのにっ!!」
ほおずきさんのところに集中していた男子の視線が、いっせいにこちらに向く。
それほどまでの絶叫だった。
面白いくらいに慌てる魔王様。
「バババッバ、バーロー。ここ、これはだな、とと時春が預かってくれって…」
「うそだもん…藤原くんにわたすところ、みたもん…ひどいよ。ノブくん………ボクというものがありながら……
いつもいつも…二人だけのときはあんなに優しくて、激しいのに…もうボクには飽きちゃったの?
もうボクじゃなくていいの?ボクみたいな貧弱な体じゃ満足できなくなっちゃったのっ??」
悲痛な叫び。シャツの裾に込められた力が増してます。
あとちょっとで破けるんじゃないかな?それに無意識でやってるんだろうけど…
反対の手が、信長の頸に極まってますよ?
「やっぱり……『脱ぐと凄いいけないメイドさんを緊縛調教。夜の厨房に響く嬌声vol.2』
って……
…おおきいおっぱいのほうがいいんだっ…!!!男の子みたいな体が好きだっていってたのにっ!!
だからいつも前じゃなくて後ろの穴でやるんでしょっ!!ねぇ、違うのっ!!なんとかいってよ!!」
なんていうか、お前…ドンマイ。
大声で性癖を暴露された上に、女子にはありえないほどの怪力で頸を絞められている信長。
二重の意味で顔が真っ青になっている。
そもそも蘭ちゃんは隣のクラスなのにどうやって察知したんだろうか。
愛のなせる業かな?
「ふええええええん!!!ノブくんの浮気者、スケベ、ド変態!!諸刃使い!!!
どうせ藤原くんのこともいやらしい目でみてるんでしょ!!
女の子の中で噂になってるもんっ!!ノブくんが○○で、藤原くんが○○だって!!
でも、でも…ボクにはそんなノブくんしかいないのにぃ!!こんな体にされちゃってから、いくら手で慰めても、
ノブくんのじゃないと満足できなくなっちゃったのに!!!
ノブくんノブくんノブくん!!おねがい、なんでもしますから!!奴隷でもいいからっ!!
ボクを棄てないでよ!!!!!!」
ぎりぎりと締め上げながら、信長の公開処刑は続行される。ストリート育ちのヤツァ手ぇたたけ。
もう、なんていうか。異次元だな。このクラスは。
「蘭ちゃん?そろそろ離さないと、ほんとに信長死んじゃうよ?」
「えっ?」
俺にいわれてようやく気づいたのか、片手で宙に持ち上げていた信長を放すと、更に涙を流して喚いた。
「うわああああん!!ノブくんが、ノブくんが死んじゃうよぉぉぉっ!!
ノブくんがいないと、ボクだめなのに、生きていけないのにぃ〜」
あぁ、もう、一生やっててください。
俺は思いっきり溜息をつくと、早々に荷物をまとめた。
こんな超時空にいたら命がもたん。
それに…
窓側を盗み見るたびに。
切ない顔をしたほおずきさんが居て…
胸の痛みは、増すばかりだから。
――――――
―――――――――
――――――――――――
どうして、お姉さまがこの世界にいるの?
やっぱり、時春ちゃんの夢は、予兆だったの?…
千年前、あたしから全部を奪っていったお姉さま…
地位も、才能も、器量も、そして婚約者さえも…
愛しい愛しいわたしだけの、“時春”様。
幼いころからずっと運命の人だと教えられて、朝昼晩寝ても醒めても彼のことを考えていたのに…
あの女は…
清春様という婚約者がいながらわたしだけの“時春”様を…横から掠め取るような真似をして…
歯軋りが止まらない。
目の前が真っ暗になってこの世のものとは思えない吐き気が押し寄せる。
せっかく、鬼に魂を売り渡してまで、“時春”様が転生する時代に蘇ったのに…
せっかく、この世界の“時春”ちゃんと、恋人同士になれたのに…
せっかく、二人だけの甘い世界がずっと続くと思ったのに…
どうして、あの泥棒猫は、我が物顔でやってくるの…?
あの時代では叶わなかった時春ちゃんの大きな腕、暖かい胸。
全部、全部あたしのものになったのに。
全部、永久に、すべてあたしと一つになれるはずだったのに…!!!
髪の毛の一本も、血の一滴も、吐いた息も、その視線の行方も、全部あたしだけのものじゃなきゃいけないのに…!!!
――――――ダン、ダンッ…
気づけばトマトがぐちゃぐちゃのバラバラに切り刻まれていた。
あはっ♪
せっかく時春ちゃんにサラダとして出してあげようと思ったのに、台無しだよ。
そうだ…キャットフードだけじゃ寂しいから“猫”の“清春”ちゃんの晩御飯にしちゃおうかしら…
誰からも愛されず、愚かな操り人形だった清春様。
せめて可愛い子猫ちゃんに生まれ変われてよかったですね?
あの時代にトマトはなかったけど、汚い泥棒猫はこんな風にしちゃおうかしら。
だとしたら清春ちゃん。ちゃんとお姉さまのトマトも食べなきゃだめだよ?
お残しは許しません。ほら、あなたの昔の婚約者なんだから、しっかり味わってね。
・
・
・
・
またあたしの時春ちゃんを連れて行っちゃうなら、もう手ぬるい真似なんてしないから。
今度はあたしが、この手で、この脚で、この爪で…
■■■にしてやるッ――――――――
…もう“鬼の聖痕”は付けたし…
貴女のほうから時春ちゃんにはもう触れないわ…
時春ちゃんに拒絶されたお姉さまの顔…
どんなに醜く歪むのかしら…
楽しみ、たのしみぃ…
すぐにでも…
その薄汚い面、剥がして差し上げますわ―――お姉さま?
こみ上げてくる黒い笑い、背徳の愉しみにココロオドル。
明かりのない台所に、あたしの身長とは不釣合いな大きな影が伸びる。
いけないいけない。
普段は押さえてるのに。
やっぱり、十七の齢に近づくと暴れだすんだね…
「うふふ…とーきはーるちゃーーん!!!ご飯できましたよーーっ!!!」
だから今は、この微笑。
愛する人への、輪廻を超えた花束に変えて――――――嘔吐くくらいに笑うわ。
神作品の後にこんなんでごめんなさい。
>>82 さまのために信長の出番を増やしました。
そしたら嫉妬した蘭丸も転生してしまいましたww
GJ!!
信長が第六天魔王というより大うつけw
しかし信長と蘭丸がくっつくとなると濃姫はどこにいったんだろう?
蝮の娘というところからして執念は凄まじいものがありそうなのに
>>143 意外と信長の母親とか姉貴が濃姫の転生体だったりして。
関係ないけど三国志のエロゲーとかあったよな
投下致します
第12話『ただ一つ確かなモノ』
○月○日
楽しみにしていた夏休みの計画はあっさりと破綻してしまった。
あの桧山さんがついに私が苛められている理由を知ってしまったのだ。
汚れている男の血を引いている。
それだけで私はずっと苛められ続けられていた。
悲劇の連鎖を断ち切ってくれたのは桧山さんだったのに。
桧山さんのご家族が私の父親のせいで亡くなっていたなんて。
なんていう運命だろうか。
桧山さんが私に離れてゆくのも無理はない。私は桧山さんから憎まれるべき存在なのだ。
苛めグループと同じように私の体を好きなだけ痛め付けられても仕方はない。
むしろ、望むべきことだよ。
桧山さんの憎悪を私の体で全てを受け止めてあげる。
他の連中はいざ知らず、桧山さんは私にとって特別な存在なんです。
彼を心の傷を癒すことができるのはこの世界でただ私だけなんですっっ!!
でも、絶対に許せない人間がいます。
桧山さんの彼女と名乗った、東大寺瑠依。
勝ち誇った笑みと見下した視線で私を見ていた。
まるであなたなんかに桧山さんは本気で相手にしてないわと。
言っているように思いました。
打たれた頬がまだ腫れている。]
もし、桧山さんが見ていなければ、一体何をされるのか恐くて想像することができません。
何の関係もないあの女に身体を傷つけられたことでさえ許せないことなのに。
嘘だとはいえ、桧山さんが恋人同士の役を演じるのは絶対に許せない。
死あるのみです。
もう二度と太陽を拝めないようにしてあげたいくらいです。
穢れた血を引く私ならきっとできる。
桧山さんを救って、東大寺瑠依を地獄に突き落とすことが。
私は日記を書き終えると机から離れて、ベットでぐっすりと横になった。
日記を書き続けることは私の趣味の一つです。
貧乏な家で私が楽しめるのはノ−トに書き込んだ事を読み返すぐらいしかありません。
貧乏な家ですが、一応住まいはマンションを借りています。
お母さんは朝から晩まで働いて帰ってくることはありません。
女性一人で子供を養うのにはお金が一杯かかるんです。
幸いにもお母さんはあの事件直後に父親とは呼べない男とすぐに離婚して、姓が変わったおかげで職場では知られていません。
バレたとしても、転々と職を変えればいい話ですし、私よりは苦にはなりません。
私は小中高と事件のことを知っている人間が煽っているおかげでとことん苛められます。
疲れた体を癒しながらも、さっき書いた日記帳を読み返すと胸が締め付けるぐらいに痛くなる。
あの桧山さんが絶縁宣言を受けた後に、桧山さんの恋人らしき女に頬を打たれる。
怒涛の一日の終わりに残ったものは『喪失』だけ。
もう、桧山さんと一緒に放課後に遊びに行くことも。
昼休みに桧山さんの手作りのお弁当を食べることも。
今まであった楽しいことが全て消えてしまった。
あの女のせいで。
桧山さんから憎まれていることは仕方ない。
でも、憎まれていようが、私は彼の憎しみを発散するための道具として一緒にいられる。
桧山さんが否定しても、私は彼の元を離れるつもりはない。
好きになってしまったら、女の子は一直線に直進するのみ。
今まで私は内気で引っ込み思案だったと思う。
桧山さんが好きなのに、何も行動しないで、ただ傍で守られているだけで安心していた臆病な自分。
内心、秘密を暴かれるのを恐れていた毎日。
全てを失って、ようやくわかった。
桧山さんが私にどれだけ大切な人なのかを。
あの女なんかに負けない。負けたくないよ。
これからは積極的にアプローチするよ。どれだけ憎まれていても、私の想いが桧山さんに届くと信じて頑張るよ。
さて、明日からどうやって仕掛けようかな
覚悟をしてね。桧山さん。
次こそは雪桜さんの逆襲が始まる予定
さあ、頑張って書き上げるとするかw
リアルタイム更新キタコレ
雪王の卑屈さが素晴らs(ry
ヒロインが積極的な展開(*´д`*)
これからどういう攻めを見せるのか今から考えただけで・・・(;´Д`)スバラスィ ...ハァハァ
>>131続き書いて欲しいですね。こういう明るい修羅場みたいなのも好きですね
>>142転校生との絡みがもっと見たかったですね。次回本格的に修羅場勃発か!清春は猫になってるんですね。少しうらやましいかも
もう、18スレか・・
今まで凄い勢いで来たもんだ
ここらで休憩
つ旦旦旦旦旦旦 ドゾー
投下しますよ
潮の音が響く。
押し寄せては引くのを繰り返しながら、波は浜辺を洗っていく。その度に不規則な音が
空間を埋め尽くし、透明な世界を彩ってゆく。春先という季節のせいか青海と僕の他には
誰も居らず、それはより顕著に表れていた。
「虎徹君」
まだ海水は凍える程冷たいのにも関わらず、裸足を波間に遊ばせていた青海が振り向く。
水面が輪郭をなぞっているのが擽ったいのか、顔に浮かべているのは子供のような笑み。
しかし潮風に翻る長い黒髪や薄緑のワンピース、白いカーディガンが海の青に映えていて
大人のように見え、絶妙なバランスが青海をやけに綺麗に見せていた。名前は関係ないと
思うが、それでも青海には海がよく似合うと思った。
「虎徹君」
もう一度、今度は悪戯が成功した悪童の笑みで呼び掛けてくる。
「どうしたの?」
訊くと、青海は喉を鳴らして笑った。
「ここはよく言葉が届くから、なんとなく呼びたくなったんだ」
そう言うと踊るように身を回しながら、何度も僕の名前を呼んでくる。その一言一言に
合わせるように水が跳ね、手指が空を撫で、黒髪が舞い、スカートの長い裾が翻る。劇の
一場面と言うよりも自然風景の一部と表現した方がしっくりくる、伸びやかで見る者の目
を惹き付けるような動きは、本当に美しい。
暫くそうしていたが、疲れたのか青海はゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
「もう良いの?」
「あぁ、流石に足が痛くてね」
隣に腰掛けた青海の足先を見てみれば、冷たさのせいで赤く染まっていた。綺麗な白い
肌が痛々しく色付いているのを見ると、辛そうという感情よりも、色っぽいという気持ち
が先に立つ。人間にしか存在しない形に付いたグラデーションは、それだけで価値物だと
思えてしまうから不思議なものだ。
ずっと見ていたいと思うけれど、自分の鞄からタオルを取り出して、それを隠すように
足に当てた。そして肌を傷付けないように丁寧に先端まで拭っていく。時折青海が擽った
そうに声を漏らして身を小さく震わせるけれども、寧ろそれが可愛らしく思えて揉むよう
に擦った。これは冷たさも取れる実用的なもの、幼い頃雪遊びをした後に母さんがやって
くれたものだ。どんな表情をしているかと青海の顔に視線を向けてみれば、穏やかな表情
がそこにあった。
「暖かいな」
一言告げ、足を拭く為にやや前傾姿勢になった僕の頭を掻き抱くように、自分の体を僕
の背に預けてくる。磯の香りと青海の薫りとが混じった不思議な匂いが、心臓のペースを
跳ね上げてゆく。鼓動は早くなっている筈なのに、伝わってくる体温が心を静めている。
不思議な感覚だ。
「虎徹君」
今日だけで何度目か分からないが、青海が僕の名前を呼んだ。肩に押し付けられて形を
柔らかく変化させた胸が、声の振動によって僅かに震える。官能的な筈なのに少しもいや
らしく思えず、ひたすら心が落ち着いてくる。
「寒いな、それに疲れた」
「じゃあ、移動する?」
僕を抱く力が強くなる。
「潮風のせいで髪もベタベタだ、シャワーが浴びたい」
青海が言いたいことは、なんとなく分かった。しかし、行動してしまって良いのだろう
かという気持ちが浮かんでくる。付き合い始めてからまだ二周間しか経っていない、すぐ
にそんな風にする恋人も居るのだろうけれど、どうしても迷ってしまう。手を繋いだのも
ごく最近、キスに至っては昨日が初めての状態だ。それなのにペースを崩すような真似を
してしまっても良いのだろうか。
自問する僕の心を見透かしたように、青海が目を合わせてきた。刃物のような真剣さを
帯びたその瞳はどこまでも透明で、誤魔化しの言葉は通用しないことを物語っていた。
「これ以上恥をかかせるつもりか?」
青海はもう覚悟は出来ているらしい。ならば後はもう、僕が覚悟を決めるかどうかだ。
十数分後。
「これは、その、何て言うか」
僕と青海はホテルの一室に居た。お互いに衣服を脱いだ状態でシャワー室のマットの上
に座り込み、僕は垂れ流したシャワーが放つ湯気の暖かさに身を任せている。しかし青海
はかなり緊張しているようで、顔を赤く染めながら僕の股間のものを見つめていた。言葉
を選んでいるようだが、何を言いたいのかはぼんやりと分かる。僕も自分自身の物を見た
ときは何とも思わないが、他人の物を見ると少しグロいと思ってしまう。
不意に、青海が僕の目を見つめてきた。
「触っても、良いか?」
答える前に、細い手指が伸びてきた。冷たくなっていた表面が先端を軽く撫でる。きめ
の細かいそれが滑らかに移動するだけで強い快感が背筋を走り、思わず声が漏れた。多分
大きくなったものを初めて見たせいだろう、好奇心に任せてたどたどしい動きで先端や竿
を、更には袋までもを手指の先で突き、揉み、擦り上げて刺激してくる。本人には悪気は
ないのだろうが、このままだと色々と危ないので取り敢えず腰を引いた。
「すまん、虎徹君。痛かったか?」
いや、寧ろ気持ちが良かった。だからこそ腰を引いたのだ。僕は早漏ではないが弾数が
あまり多い訳ではなく、二発で膝が震え、三発もすると腰が砕け、四発目は動けなくなる。
それでなくても無駄弾は撃たないに越したことはない、男の体とはそのようなものだ。
「しかし熱くて、それに固いな」
一度手は引っ込めたものの、すぐに再び伸ばしてきた。
「これが、わたしの股間をぶち抜くのか」
直接的な発言は控えて欲しかった。
だがそれは僕の勘違いだったらしい、顔を見てみると赤く染まっている。絶間なく湯が
流されているせいで室温が高くなっているが、それだけが原因でないのは簡単に分かる。
今のふざけた発言も、照れ隠しなのだろう。
「青海」
一言呼び掛けると、青海は身を小さく震わせた。だからまずはその緊張をほぐそうと、
軽い笑みを浮かべる。今からすることを考えれば多少の雰囲気は崩れてしまうかもしれな
いが、寧ろその方が僕達らしい。言い訳とも取れることを考えながら青海の胸へと手指を
伸ばし、
「乳、大きいね」
揉みしだいた。
数秒。
失敗したかと思ったが、杞憂だったらしい。青海は強張った笑みを自然なものへと変え、
僕の手の上に掌を重ねてきた。強く押し付けるようにしているせいか、左の胸からは強い
鼓動が感じられる。それとは全く違う方向性で分かるのは、掌の中心に擦れている二つの
固くなった突起。それの感触を確かめるように擦りながら掌をずらし、双丘全体を揉んだ。
少し力を加えると簡単に手指が沈み、弾力を持つ肌は指の間から溢れるように浮き上がる。
姉さんのものも大きく柔らかかったが、大きさは敵わないもののそれ以上に柔らかな感触
が気持ち良い。面白い程に形が変わるのを楽しみつつ指先で突起をつねると、普段の冷静
なものや僕と二人きりのときに見せるおどけたものとはまた違う声が漏れてきた。どちら
にも共通している低く落ち着いた声とは異なる高い声に、興奮が高まってゆく。
「虎徹君、その、すまんな」
謝るなんてとんでもない。
僕は青海に追い討ちをかけるようにまだ僅かに赤みが残る足に舌を這わせ、ねぶり、上
へと舐めずらしてゆく。少し片寄っているな、と思いながらもその動きは止まらない。舌
触りが良いふくらはぎを抜け、肉感的な太股を通過し、辿り着いた先は綺麗な桃色の青海
の割れ目。既に湿っているそこを舐めると、青海の蜜とにじんだ汗の混じった味がした。
舌で掬うようにして拭うけれども、青海が身をよじらせて舐め辛い上にとめどなく溢れて
きているので、なくなる気配は全くない。今や尻まで垂れて股間全体を濡らしているそこ
は、いつでも男を迎え入れても大丈夫なようになっていた。
もう大丈夫だろうと軽くキスをして顔を離すと、
「マグロですまんな」 上から声が降ってきた。
謝らなくても良いのに。それと、冗談でもそんな言葉は少し嫌だった。
「でも、充分に反応してる」
フォローになっているかは分からないが、取り敢えず言葉を返す。
「エロい娘ですまん」
「いや、寧ろ大歓迎」
言って顔を上へと向けると、嬉しそうな表情があった。
「本気を出せばもっとエロいぞ?」
それは後で楽しませてもらおう。
気分もほぐれているようだし、もう大丈夫だろう。そう判断し、割れ目に先端を当てが
った。いきなり侵入させても危険なので、馴染ませるように何度か表面をなぞり、
「入れるよ」
一息に侵入させた。
苦痛を漏らすような声と僅かな抵抗感が来て、視線を下へと向けると結合部から鮮血が
幾筋の線を描いている。湯と一緒に排水江に流れていくのをもったいないと思いつつ青海
の顔を覗き込んだ。少し眉を寄せているけれども、浮かんでいるのはまぎれもない歓喜の
表情、嬉しそうな目で結合部を眺めていた。まぁ、嬉しいのは僕も同じだ。
「青海、これで」
青海は軽く頷き、
「双子だと良いな」
「いきなり飛躍しすぎじゃない!?」
それに昨日は周期が合っていないと言っていた筈だ。この場合はどちらなのか、告白は
子供云々だったからもしかしたら今日は危険日なのだろうか。
「冗談だ、少し驚いただろう」
少しどころじゃない、本気で肝を冷やした。
「だから安心してガッツンガッツン突っ込んでダバダバ出して子宮を水風船のように虎徹
君のミラクルエナジーつまりコテツミンで満たしてくれ」
何とまぁはしたない。
「因みに今日が危険日だったらどうしてた?」
「だから安心してガッツンガッツン突っ込んでダバダバ出して子宮を水風船のように虎徹
君のミラクルエナジーつまりコテツミンで満たしてくれ」
さっきと一字一句違わない言葉で返された。でもそれは青海がその分本気だと言うこと
なので、僕はゆっくりと腰を動かし始める。体の作りもあるのだろうが、流石に初めての
せいもあって中はかなり狭い。僕でもそう思うのだから当事者である青海は言わずもがな、
強く目を閉じ、眉を寄せ、口からは苦しそうな吐息を漏らしている。肌に浮いた大粒の汗
は多分熱気のせいではない、物理的な苦しさが殆んどだろう。姉さんやサクラはこんなに
苦しそうではなかったが、どちらも初めては異常な状態でのものだし、更に言うのならば
個人差というものもあるのだろう。
「虎徹君、続けて、くれ」
どうやら動きが止まっていたらしい。しかし苦しい状態を長く続けるのも、青海に悪い。
今回もゆっくりとではあるが、僕は再び腰を動かし始めた。青海も苦しい筈なのに、僕を
助けるように腰に足を絡め、自身の腰も動かし始めている。
気持ち良い。
よくほぐれていないせいか、まだきつく締め付けてくるだけだけれども、それでも膣内
の突起が亀頭を擦って刺激してくる感触が何とも言えない。青海の肌を珠になった汗が滑
る光景がいやらしくて、射精感は幾らも待たずにやってきた。
一瞬。
思考が飛び、青海の膣内に放出している感覚だけがある。続いて大きな疲労が体を襲い、
思わず青海の上に倒れ込んだ。重いだろうな、と思うが体が上手く動かない。幸運なのか
どうなのか谷間に顔が落ちたらしく、頭部を挟む乳の感触が気持ちが良い。
「これで、名実共に虎徹君の女だな」
僕を抱き締めてきたせいで、顔を挟む乳の圧力が強くなる。少し惜しいと思いながら、
僕は顔を引き剥がし、
「そんなの、ずっと前からだよ」
青海と唇を重ねた。
今回はこれで終わりです
久しぶりのエロ話
これを書いていると文字数がガツンと伸びてしまいます
_ ∩
( ゚∀゚)彡 コテツミン! コテツミン!
⊂彡
なんとなく清春がかわいそうな気が
男の子っぽいからだが好きな信長にいろんな意味で勘違いしそうなボクっ子の森蘭に
極め付けはバーロー もうねなんというかねいろんな意味でねGJ
青海言葉が卑猥すぎ(*´д`*)
|ω・`) うーんエロって素晴らしい、作者様本当にGJっす
「う………ん……」
頭がぼんやりする。眠ってしまったのだろうか。全身が気怠く、ひどい吐き気がする………なにがあったんだっけ…
ゆっくりと目を開くと、そこは知らない部屋だった。僕の部屋でも……沙恵ちゃんの部屋でも……そうだ、沙恵ちゃんは!?
「沙恵ちゃん!?…っ!」
慌てて立ち上がろうとしたが、何かに引っ張られてしまった。落ち着いて見てみると、両手が縛られ、後ろでつながれていた。
僕がいるのはベットの上だ。体を起こそうとしても、壁に背も垂れるのが精一杯だ。まだ記憶がハッキリしない。どうしてこんなことになったんだっけ……
「さ、沙恵ちゃん!」
改めて部屋を見回すと、自分と反対側の床に、同じく手足を縛られている沙恵ちゃんを見つけた。
「沙恵ちゃん!起きて!大丈夫!?」
なんども声をかけるが、起きる気配が無い。僕と同じように、薬で眠らされているのだろうか。
「ちょっとまて……僕は確か………」
なにがあったか思い出してみる。麻理が刺されて……病院で……鬼ごっこ……
「そうだ…秋乃葉センパイが!?」
やっぱりあの人が鬼だったのか。それに……麻理………麻理が、秋乃葉センパイをお姉ちゃんといって、センパイが麻理を妹って……
おかしいよ。麻理は僕の妹なのに………妹?あれ、僕に妹なんていたっけ……高校一年からは一人暮らしだったよね?
「は?…え?」
混乱のあまり、考えもろくにまとまらない。と、そのとき……
ガチャ
部屋のドアが開いた。ここに入ってくる人なんてもちろん……
「あ、ほらお姉ちゃん。起きてるよ。」
「本当?……おはよう、海斗君。」
なんの異変もなしに、朝起こしに来たような光景が繰り広げられる。僕は縛られているのに………彼女達はそれを自然と流す。
「麻理………それに、秋乃葉センパイ……いったい……なにがどうなって!?」
「…ふふふ、海斗センパイって、本当に騙されやすいんですね。」
「は?」
麻理が……僕をセンパイと呼んだ。本当に麻理は妹じゃないのか?秋乃葉センパイの……妹なのか?
「……最初は私達、仲のいいセンパイ、後輩の関係だったんですよ?……同じ委員会で、仲良くなったんです。」
今までと一転し、敬語を使う。
委員会?………そうだ、二年の前期、僕は委員会に入っていて……その後輩…
「秋乃葉………麻理…ちゃん…」
「あはは、思い出してくれましたかぁ?」
「な、んで………なんで麻理ちゃんが……ぼ、僕の妹に!?」
本当の麻理ちゃんを思い出した瞬間、混乱は最高潮に達した。だって……いままで妹として当たり前に生活してたのに…
「ずっと先輩、後輩として仲良くしてきました。………私は優しい先輩を好きになって……いえ、実際は中学の時から先輩を見てたんです。
それで、高校に入って、本格的に先輩のこと、知りたくなったんです。」
中学って……そんな前から……
「水瀬海斗さん……身長175cm、体重65kg…クラスでは平均的な交友関係。優しいけれど、時に優柔不断。特定の恋人は……」
そう言って沙恵ちゃんを見て………
「特になし。好きな教科は美術と体育。嫌いな教科は古文。でも漢文は好き。食べ物に関しては好き嫌いはなし。
趣味は絵を描くこと。映画はアクションかホラーを好む。あ、以外と授業さぼったりしますよね?お昼食べ終わったら、ふらふらーって帰っちゃいますし。」
「や、やめてくれ!」
今麻理ちゃんがいったことは……恐ろしいほどに合っている。
「うふふふ……先輩、後輩の関係だと、ここまで知ることもできません。恋人になったとしても、限界があります。だから……家族になっちゃったんです♪」
なんの悪びれた様子も無く、最高の笑みを投げてくる。
「どう…やって?」
「うーん、先輩の体って単純なんですかね?たまに作ってきて先輩に渡したお弁当に、薬をいれてみたんです。それで私が妹だって吹き込んで、先輩の家にいったら……
『おかえり、麻理。』って言ってくれたんですよ?覚えてませんか?」
……後輩の麻理ちゃんがお弁当を作ってくれたのはお弁当ているが……『妹』となったあたりはあいまいだ……
「それはもう幸せすぎました。先輩と一つ屋根の下で暮らせるんですから。……でも、私ってわがままですね。今度は、妹としてじゃなく、愛する人として、先輩に見てもらいたかったんです。」
ああ、だから最近麻理の態度が変わったのか。
「それでお姉ちゃんに相談したら……なんとも運命って怖いです。先輩はお姉ちゃんが探していた人だったんですから。」
探していた?やっぱり秋乃葉センパイとは昔合ったことがあったのか?
「そう…本当にびっくりしちゃったよ……あの海斗君が、こんな身近にいただなんて……麻理の話を聞いたら気絶しそうになっちゃった。」
「私とお姉ちゃんは仲がいいですから、取り合いはしません。だから……ストーカーをお姉ちゃんにやってもらうことにしました。よくわからないけど、鬼ごっこがしたいって、言ってましたから。最適でしょ?」
ああ、もう彼女たちは狂っている。僕が理解できないほどに。いや、それとも僕が狂っているのか?
………今までの生活が薬によるまやかしだって?なら……沙恵ちゃんは?沙恵ちゃんも薬によって作った、妄想の幼馴染みなのか?
「うぅ……あああああ!!!!」
頭が爆発しそうなほど、考えが膨れ上がる。このままなら僕は廃人になってしまう。
「ふふふ……もうなんの心配もいらないんですよ?センパイ。これからは……お姉ちゃんと二人で愛してあげますから……」
「うん、海斗君はすべてを私にゆだねてくれればいいの。」
そう言って近寄る二人……
寄るな寄るな寄るな!!!
「うあああああああ!!!!!」
既に薬漬けだったのか(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
そしてこれから本格的に洗脳されてしまうんですね(*゚∀゚)=3ハァハァ
麻理タン・・・恐ろしい子(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
二人だなんて・・・
素晴らしいじゃないか(*´д`*)
>171
>後輩の麻理ちゃんがお弁当を作ってくれたのはお弁当ているが
センパイ、お弁当大好きなんですねw
大学の夏休み中に書き溜めといたssを投稿していいですかね?
>>177 この夏の努力を是非見せていただきたいm( __ __ )m
それがいずれ卒業論文に(*´д`*)
クスリ(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル想像外の展開!
>>177 どぞーというか見たい
orz
指摘サンクス
お弁当て→覚えて、ですね。
クスリ漬け…………(*´д`*) ハァハァ
自分の記憶が不確かなモノだと思い知らされた海斗。
このまま飼われちゃう?
思いついたプロットを投下してみる。使えるなら誰か使ってくれ。
・ヤンデレを演じるヤンデレ姉
名家に生まれた姉弟は、生まれた時から婚約者が定められていた。一足先に結婚する姉を、幸せを願って弟は笑顔で送り出す。
嫁入りしてまもなく、嫁ぎ先の人々が姉を残して惨殺される事件が起こる。血の海の中、助けを求めて壊れたように弟の名を呼ぶ姉を弟は引き取る。
その後、とにかく弟に依存するようになる姉。過剰な愛と拘束に苦しみながらも、壊れかけている姉の精神を守るためと思い、なすがままになる弟。
しかし弟の婚約者だけは、姉の姿こそがずっと隠してきた彼女の本性だと見抜いていた。そして、惨殺事件の真相は・・・。
はぁ
ひぃ
ふふふ……
>>182ちゃんはやっぱり一途ね、そのプロットにはいやらしい泥棒猫がいないじゃない
それなら私だけを見られるようにしてあげるね。そう、ずっと……ね
へぇ、
>>185さんは泥棒猫が居ないって言うけど、あなた彼の姉でしょ?
婚約者から見ればあなたは立派な泥棒猫よ?
小さい頃から愛していた結婚相手をそう簡単に私が奪われると思うのかしら?
ふふ、甘いわね。あなたのような人に奪われたりはしないわ、絶対!
たとえあなたたち姉弟の関係が崩れようと、私の手が汚れたとしても・・・ね
しっかしヒロインにとって恋敵に姉妹がいると途端に手強くなるな
裏を返せばヒロインが自分の姉妹を味方に出来れば状況はとてつもなく有利に
>>185と
>>186・・・か。
フフ、甘い、甘いよ。
>>182君を愛しているのが自分達だけだと思ってい
るのかな?とんだ「おバカさん」ね・・・。
>>182君のお部屋には
もう既に監視カメラと盗聴機だらけ。私が彼の事を一番知っている
。愛している。あぁ、早く彼を手に入れて誰にも見せないように監
禁してしまいたい。それにはあの二人が邪魔。でも、大丈夫だよ
>>182君。
私達を邪魔するあの二人は「絶対、殺して、あげる、から。」
自室で愛しい人の寝顔をモニター越しに見ながら、彼女はそう誓った。
では投下致します
雪桜さんとの別れる時に笑い声が頭のなかに離れることがなかった。
一夜を過ごしても、彼女を裏切った罪悪感で一杯である。
すでに憎しみよりも雪桜さんの哀れみに似た同情心へと変化していっている。
そんなことを考えながら、フライパンを動かして具を炒めている。
朝食の準備で体を動かしていれば少しは気が晴れると思っていたが、昨日の事が気になって集中力を欠いてしまっていた。
「おはよ−」
元気よく透き通ったうるさい声が聞こえてきた。虎が食料を食い散らしにやってきたので、俺は急いで手元を動かす。
「私、剛君の彼女になったんだよね?」
「はい?」
「そういうことにしておかないと雪桜さんは又しつこく迫ってくるよ。本当にああいう陰気な女の子がストーカーとかになるんだよ」
「猛獣よりはマシだと思うけどな」
「なんだってっっ!!」
ぼそりと呟いた声に敏感に虎は反応していた。文句を言われる前に俺は炒め上がったおかずを皿に盛り付けると、俺は椅子に座った。
「じゃあ、今日の打ち合せは……」
「そんなもんはなしっっ!!」
「なんだってっっ!」
「当たり前だろう。クラスの連中が勘違いして賭けの対象になったらどうすんだ?
黒岩先生以上の市場の出来上がりだ。俺の行動一つで奴らの株が上がったり下がったりで憎まれるのはごめんだよ」
「いいじゃない。恋人同士を演じているんだから。その辺は市場の操作ぐらい簡単に出来上がるわよ」
「あの内山田を敵に回すつもりはないぞ」
「うぐぅぅぅ……そんなに私と恋人同士に見られるのはイヤ?」
「イヤ」
即答である。
虎のお守りするなら、プロ野球選手がもらう年棒ぐらいは欲しいもんだ。
更に猛獣を仕留めるための麻酔銃があれば文句はない。
「ふぅーん。そうなんだ」
意味ありげに瑠依はにこやかに笑った。
何かを企んでいる卑しい顔しながら、テーブルの上に置いてある朝食を食べ始めた。
朝食を食べている時だけ、本来の虎を取り戻すのか無口になる。
動かしている箸を素早く口の中に入れて、食べ終わると食器を片付けることもなく席を立つ。
「じゃあ。先に学校行ってくるね」
「もう少しぐらい余裕があるんだが」
「ううん。いいのよ。早く行って、今日の授業の予習をしなくちゃいけないし」
「予習っっ!?」
ああ。神様。
ついに地球が滅ぶ時がやってきました。
あの瑠依が、食べることに人生の99%を費やしている女の子が。
もう、期末テストが終わっているのに……。
「なによ。わたしがやったら文句あるわけ」
「な、ないけど」
「剛君。そんなことを言っていると後で後悔することになるよ」
「はいっ?」
「じゃあ、もう行っていきます」
虎の言い残した言葉の意味を知るのは俺が学校に登校した時に思い知らせるのであった。
黒板に大きく書かれている文字は現実か幻か……。
白いチョークででかでかと書かれているのは。
祝桧山と東大寺交際宣言。長い付き合い果てについにゴールイン。
と、書いているのだ。
登校してきたばかりの俺は一体何の事なのかさっぱりとわからずにいたが、
クラスメイト達が祝福の言葉をかけにやってくる。ついでに大きな花束を贈呈されている。
「こ、これは一体……?」
「つよちゃんと東大寺さんが無事に交際した記念にクラス全員で打ち上げ大会をしているんだよ。
いやぁ。僕だってつよちゃんの事が好きだったけど、東大寺さんならちゃんとつよちゃんの事を任せることができるよ」
内山田が大げさに俺の手を握って、ぶんぶんと振り始めた。他のクラスメイトたちはお酒を持ち込んで、
クラッカーをあちこちに鳴らしている。後で掃除が大変だと思うわけだが、今はそうじゃない。
「俺は瑠依とは付き合ってもないし、どこからそんなデマが流れているんだよ」
「デマも何も東大寺さんが早朝に来て、黒板に交際宣言の書き込みしてから。大声で私たちは付き合ってますって言っていたよ」
「あ、あ、あのアホタン娘は……」
雪桜さんが付き纏うことを防ぐために形だけの恋人同士を演じる必要があったが、クラスメイトの前で交際宣言をするなんて。
どういう神経しているんだ、あの虎は。
その虎は女子や男子生徒達に囲まれて、あれこれと質問を嬉しそうに受けている。
もう、勝手にしてくれ。
廊下側にある窓際の自分の席に座ると俺はこの騒動をどうやって鎮圧しようかと考えている最中に今度は廊下側から騒動しい声が聞こえる。
興味がなかったもんで、俺は顔に肘をついてぼんやりしていた。
「ひ、桧山さん……」
聞き慣れた透き通ったのんびりな声が聞こえてきた。俺は聞こえた方向に振り返ると思わず心臓が止まりそうになるぐらいに硬直する。
「に、に、にゃお?」
顔を全身真っ赤に染めている雪桜さんがそこにいた。
俺が驚愕するべきなのは、昨日あんなに酷い別れ方をしたという理由じゃない。
雪桜さんは何を血迷ったか知らないが、頭にネコ耳をつけていた。
更にスカ−トから猫のしっぽがゆらゆら揺れており。極付けは、手にはネコの肉球の形をしたグロープを身に付けていた。
なんと、制服以外は猫のコスプレをしているのだ。
こんな姿をしているとクラス中からじゃなく、学年中から注目を浴びるのは間違いない。
ただでさえ、雪桜さんの容姿はこの学校の女子のトップに立つ程の素質を持つぐらいに可愛いのだ。
苛められていたおかげで陰気なイメ−ジを漂わせる地味な女の子に過ぎなかった。
誰も注目なんてすることはなかった。
だが、今は違う。
あのネコ耳ともじもじと恥ずかしがっている姿を見ると男の保護欲を引き寄せる。
ぜひ、すぐにお持ち帰りになりたい気分になってゆく。
いつの間にか、クラスの男子生徒たちも雪桜さんに注目し始めていた。
「昨日、家に帰ってからよく考えたニャー」
雪桜さんが上目遣いで俺を見る。変貌した雪桜さんに動揺している俺は昨日の出来事を思い出すのに時間が少しかかる。
「桧山さんが妹を失ったのは私の父親のせいにょ。それで私が憎まれるのは仕方ないことだと思うのよにゃ−」
猫言葉で必死に話をかけようとしている雪桜さんが健気すぎて、俺は何度も胸が打たれそうになる。
「でも、桧山さんならいいのにゃ−。いくらでも、憎んでくれても構わないにゃー。好きなように私を痛め付けてくださいにゅ。それであなたの心が癒されるならにゃ−」
その言葉に周囲が沈黙した。
さっきまでの虎と俺の交際宣言もどきで盛り上がっていた雰囲気はすでに消え去っていた。
廊下側の騒動しい声も消えた。
そりゃ、そうである。
雪桜さんが言ったことを事情も知らない奴らから見れば、俺は嫌がる雪桜さんにSMプレイを要求している変態ヤローに見えるだろう。
この猫耳コスプレも俺が無理矢理強要している風に見えても仕方ないのだ。
だが、俺でさえ忘れていた。
このクラスの異常性を。クラスの担任の見合いを賭事に使うような真面目に勤勉する生徒とは逆方向に位置する奴ばかりが集まっているのだ。
次に沈黙が解けた時はやはり常識事では考えられない歓声が上がった。
「桧山の奴、東大寺さんとその女の子の三角関係かよっっ!!」
「ううん、なんかもつれ話をしているみたいだし。修羅場だ。修羅場だよこれ」
「じゃあ、今度はこの3人に賭けの対象にしましょう。桧山君がどちらかと付き合うのか、それとも二人とも振られるのかで」
「んふふふふ。つよちゃんを賭けの対象にするならこの僕から通してもらわないとと困るよ」
何か先程の交際宣言の時よりも盛り上がっているように見える。
もう、どうにでもしてくれ……。
もじもじと困っている雪桜さんが真っ赤に照れながらも、俺の返事を待っていた。
そう、俺はまだ雪桜さんに何も話をかけようとしていなかった。
なら、俺は正直に返答しなければならなかったはずだったが、強い力で腕を掴まれた。
「なんだ?」
「僕達は雪桜志穂ファンクラブのものだ。親しい人間である君を拘束させてもらうよ」
「はい?」
「とりあえず、僕達は雪桜ちゃんに近寄ってくるふしだらな男を排除することにした。彼女の安全のためだ。覚悟してもらうよ」
「いや、ちょっと待て」
「君はあの東大寺さんとも関係を持っているらしいね。叩けば、さぞたくさん埃が出てくることだろうね。さあ、連れてゆけ」
突如、出来た雪桜志穂ファンクラブに拘束されて、俺はどこか知らない場所に連れてゆかれる。
これから、どうなるんだろう俺?
第13話『絶望にようこそ』
雪桜さんの猫耳コスプレで逆襲するという相変わらずわけのわからん展開へ
虎に勝てるのか
次回はお楽しみにw
>>182 その惨殺殺人事件の犯人はどう考えても姉だろwwww
ネタ的に姉妹ネタを書いてみたいのだが
雪桜の舞う時にの完結した次の作品にぜひ書いてみたいですね
とはいえ。姉妹ネタは神達の投稿しているのでお腹一杯になりそうな予感w
>>187 俺の中のキモ姉思考シミュレータが、
「実は懐柔させられたと見せかけて嘘八百を仕込んで好感度ダウン作戦」
「牝犬同士がケンカしてドン引きの中優しく包み込んであげる」
の二つを提案しています
むぅ猫耳コスとは一本とられたわ
そういやモカタン、いやモカにゃんと呼ぶべきか、もやってたな
俺は読みたいぞトライデント氏の姉妹もの!
貴殿がお書きになればそりゃぁどんな凄まじいのが出来上がるやら
想像しただけでwktkですよ?
>>194 先回りしての交際宣言とは!!GJ(*´д`*)
姉妹物にお腹いっぱいなどありませんよ
いくらでも入ります、まして一流料理人の調理した一品となれば
土下座してでも食べたいっすm( __ __ )m
雪桜さんが俺の好きなほうに進んでいってくれたのがうれしい
鮮血の殺伐さよりこっちのが好きです
>ぬこみみ
その発想はなかったわ
ヤンデレ化すると思ったら猫耳とは…
いい意味で斜め上逝ってくれやがりましたね
──向こうを見据え、背筋を伸ばし、気を張り詰めて。
僕は左手に構えたそれから、右手で掴んでいるものを撃ち出す。
この一瞬だけは、何もかもを忘れられる。
明日の糧とか、自分の現状とか、劣等感、失意、絶望・・・そう、何もかもを。
そうしてゆっくりと、しかし鋭く右手を放す──。
「ふぅ・・・」
「お疲れ様です、部長」
稽古の間の休息、掛けられた声に顔を上げると、一人の少女が僕のタオルを片手にして立っていた。
「あ、御陵さん・・・有り難う御座います」
自分でも思っていた以上に掻いていた汗を、少女から受け取ったタオルで拭う。
今労いを掛けてくれたこの少女は、御陵 止御(みささぎ しおん)さん。
現在、僕が属する弓道部の副部長。
綺麗な黒の長髪を結ぶ事なく伸ばしていて、顔立ち、性格共に風雅が漂うと言う、まるで深窓の令嬢の如き人だ。
その凛とした立ち居振る舞いは、僕の短い人生の中でも彼女をして袴の似合う女性ランキングの一位にせしめている。
まさに彼女こそ上流階級、お嬢様と呼ばれる類に違いあるまい──。
・・・と、そんな事を僕は思うのだがそれはどうやら勝手な偏見の様で、本人曰く、極々平凡な一家庭の出身らしいが。
「はぁ・・・今日は暑いですね」
汗を拭く間に、僕は素直な呟きを漏らした。
弓道部の活動場所であるこの武道場は窓を開けても風通しが悪く、しかも七月も上旬を過ぎた今日となっては湿度が高く非常に不快だ。
見れば御陵さんも僕同様、首筋に相当の量の汗の粒を浮かべている。
・・・何と言うか・・・ちょっと不安になった。
「御陵さんの方は大丈夫ですか? 気分が悪いとか、喉が渇いたとか・・・」
しかしそんな僕の心配を、彼女はきっぱりと否定する。
「いいえ、私は全く平気です。お気遣い有り難う御座います、部長」
「そう・・・ならいいんですけれど」
僕の汗をたっぷり吸ったタオルを受け取りつつ、それより、と御陵さんは言う。
「部長、また私の動きを見て頂けませんか? そろそろ大会も近いですので」
「あ、そうですか。別に構いませんよ。僕でいいのなら」
僕や彼女が属する弓道部は、部長の僕が言うのもあれだが、余り校内で目立った存在ではない。
御陵さんと僕を含めて考えても、部員は片手で容易く数えられる程の人数しかいない。
これでもまだ去年・・・僕が一年生の頃は三年の先輩も多かったのだが、最早今ではこの様な有り様になってしまっている。
──まあ、仕方のない話でもある。
この学校は進学校としてその名を売っている割に、野球部、テニス部が共に全国クラスと言う実績も抱えている。
となれば当然それ目当てに集まってくる少年少女も多い訳で、
只でさえ地味な弓道と言うスポーツはそれら二つの球技の前に霞まざるを得ないのが現状なのだ。
おまけに活動場所が、選りにも選って、校舎裏の目立たない武道場と来ていると言う始末。
因みにここを活動場所として登録している部活は他に卓球部と柔道部しかなく、更につけ加えるならば、両方とも現在休部中である。
・・・しかし、別に悪い事尽くめと言う訳でもない。
いい意味で部自体はアットホームな雰囲気だし、部員同士の仲も頗る良好だし。
先程御陵さんが僕に頼んできた様に、皆で互いに教え合い、また教えられ合う。
それに何より──校舎裏のこの建物には、殆ど音が届かない・・・要するに精神統一には持って来いの場と言う事。
多分、もしこの条件がなかったなら、僕は弓道部に入っていなかったかも知れない──今だと、そう思う。
閑話休題。
そんな訳で、御陵さんの稽古を注視する事となった僕。
僕に指南を頼んだ少女は凛として弓を構え、遥か前方の的を見詰めている。
そして徐に矢を番えると、一発。
御陵さんの放ったそれはほぼ直線に近い放物線を描いて的に突き刺さった。
当たったのは・・・ふむ・・・的の中心からやや下方の位置、か。
黒髪を靡かせつつ振り返ると、御陵さんは僕に意見を仰ぐ。
「どうですか、部長」
「うーん・・・力がちょっと足りないですね。前よりも正確性が向上したのはいい事ですけれど、
矢に込める力が足りないと一回一回の結果が安定しませんから。次はその事を頭に入れてやってみて下さい」
僕の発言に、分かりました、と頷いて、再び的に向かう道半ばの少女。
しかし偉そうな事を言ったものの、実際のところ、御陵さんは今年四月から──入部してからの数ヵ月間で、
めきめきとその頭角を現してきている。
今こそまだ段位には達していないけれど、この侭順調に成長して行けば、僕の所有する弓道一段を追い越す日もそれ程遠くはないだろう。
・・・とは言え、その事で別に御陵さんに対して劣等感を感じている訳ではない。
寧ろ僕としては出藍の誉れの故事を地で行っている彼女に祝福を送りたい位である。
うん──祝福。
先程よりも鋭さに磨きが掛かった矢が的を射抜くのを眺めながら。
自分にはその言葉がお似合いだと、僕はちょっとだけ思いを馳せた。
さて──そうして、弓道部の活動も終わる。
自分の使い慣れた長弓をロッカーに仕舞い込むと、弓道衣を突っ込んだ鞄を肩に背負って外へ出た。
汗に塗れた体に、追い打ちの様に襲い掛かるじめっとした蒸し暑い空気。
これだと、家に帰ったらシャワーでも浴びないときつ過ぎるかもな──と部長の務めとして武道場の鍵を閉めながら思う。
そう言えば、まだ御陵さんに、僕が預けたタオルを返してもらってないな・・・。
とは言え御陵さんは既に僕より先に武道場を後にしているので、今更どうする事もできない。
どうする事もできないのだが・・・しかし、やっぱり、それは余り気分のいいものではなかった。
僕の汗なんかが染み込んだタオルなんて、御陵さんも持って帰ってたら迷惑するに違いないし。
明日、部活の時に彼女に謝ろう・・・うん、そうだ、そうしよう。
と思い、鍵を返すべく職員室への道を歩き出そうとした、その矢先。
「あ、部長。待っていました」
今迄僕が思考を巡らせていた当の本人、御陵さんが武道場を出た直ぐところに立っていた。
・・・一瞬、思考が固まる。
あれ?
何でまだここに御陵さんがいるんだろう?
「御陵さん、帰ったんじゃなかったんですか?」
「いえ・・・前から思っていましたが、いつも部長に施錠などのお仕事を任せるのは申し訳ないと感じまして」
殊勝な事を告げる御陵さん。
それに対して僕の口からは反射的に、否定の言葉が漏れた。
「いや、これは部長の務めですから・・・御陵さんのお手を煩わせる事もありませんよ」
そう、この一連の作業は僕の仕事なのだから、彼女が申し訳ないと感じる必要なんて微塵もないのだ。
寧ろ・・・部活が終わって更衣、それから逐一施錠の確認をして僕が武道場を出る迄に二十分以上が優に掛かるのだから、
こうして炎天下の下で延々待ち続けていた少女の方がいい迷惑だろう。
「それより、僕の方こそ済みません。態々こんな暑い中で待っててもらったなんて・・・」
しかし、僕の謝罪に御陵さんは首を横に振る。
「いいえ──部長。最後の始末が部長の仕事であると言うのなら、部長の補佐は私のするべき務めです。
ですから、この程度の暑さなどは部長の労苦を比較すれば些事にすらなりません」
「・・・」
淀みなく理路整然と語る少女に沈黙する僕、弱冠十七歳。
何て言うか・・・僕と彼女が同い年なんて全くの冗談にしか思えない。
前から思ってたけれど、部長の肩書きは僕などではなく御陵さんにこそ相応しいのではなかろうか。
まあ、そんな事を言えばほぼ確実に謙遜が返ってくるだろうので黙る事にしているが。
しかし兎に角、こうして待ってくれていたのは感謝すべき事に違いない。
取り敢えず頭を下げて、有り難う御座います、と僕はお礼を言った。
「・・・それじゃあ、行きますか。随分お待たせしてしまったみたいですけど」
「はい。お供させて頂きます」
──こうして、部長になり切れない部長の僕と、副部長になり切っている副部長の少女は。
二人、並んで歩き始めた。
取り敢えず二話目です。
書いていると意外に文字数が多くなってしまったので、夕方の部分は三つに区切ります。
まあまだ嫉妬のしの字も出てこない様な状況ですが、次からはそう言ったシーンも出して行こうかと。
しかし、本当、読むのと書くのとは全く違うと実際やって思います。
そう言った意味でも神々には尊敬の念を禁じ得ません・・・。
…いつも、意地悪ばかりしていたあの子は
どこへ行ってしまったのだろう?
部活の先輩から告白されて、
有頂天だった僕は幼馴染みにそれを報告した。
なんだかんだで長く一緒にいた友達だったから、
きっと目一杯からかいながらも祝辞の一つでもくれるだろう。
そう思っていた僕の目には
寂しく微笑んだ一人の女の子が写っていた。
今にも泣きだしそうな笑顔で「おめでとう」、
そう一言だけ言って走り去っていった幼馴染み。
どうでもいいような理由でいつも僕の部屋に上がり込んでいた彼女、
自分にしか渡されない義理のチョコレート、
恥ずかしいからやめてほしいのに、いつまでも握られていた手の熱さ―――。
もっと早くに気付いていたら僕はきっと…。
ごめん、心の中で呟いた言葉。
それでもおめでとうと言ってくれた女の子に感謝を。
「…ありがとう。」
明日は先輩と生まれて初めてのデートに行く―――。
…一週間後。
僕はこの恋が死に至る病だと気付いた。
>>205 GJ!長くなっても読みやすい文章なので全然OKです。
>>206 先輩と幼馴染の今後の動きにwktk!
>>206 短い文でここまで、wktkさせるなんて
GJだ!!
>205
知らないことを書こうとするから余計難しいんだと思われ
前スレのと比べてそう思う
でも、続きがんがってください
武道系は特にボロが出やすいからな
>205
武道では、一段とはいわず初段と言う。
そのくらいわ、知ってろ
おまいら珍しくなかなか酷評だな
789 :休憩所788:2006/09/18(月) 00:23:06
ちょっと投下してみます。
以前、友人の修羅場に巻き込まれた時の話。
登場人物(仮名)
友人(奈央)、彼氏(健太)、浮気相手(亜季)
私は、途中参加だったため発覚の段階は、友人から聞いた部分。
もう2,3年前の話になります。当時、友人と付き合って1年くらいになる
健太という彼氏がいた。
ある時、ふと健太に会いに行こうとした友人はメールで「いま何してる?」
と確認したところ「家にいるよ〜」と返事が来たらしい。
ちょくちょく健太の家(一人暮らし)には遊びには遊びに行っていたので
驚かそうと思って内緒で家へと向かったとか。
しばらくして健太の部屋の前まで行き、インターホンを鳴らそうとすると
女の声が聞こえてきた。しかも、なんか怪しい声が・・・
ん?? なんかおかしくないか?と思い、インターホンを鳴らしてみると
(ちなみに、カメラ付き)何故か出てこない。
明らかに家にいるのに。。。これは、浮気に違いないと確信した友人は何度も
インターホンを鳴らすがやっぱり出てこない。
790 :休憩所788:2006/09/18(月) 00:25:35
その後も、携帯にメール&電話しても無視。ドアも叩いてみるけど
無視。
どうやら友人もかなり頭にきたようで、どうにか現場を押さえてやれないか
ということだけしか思いつかなかったようだ。
そして友人が電話をかけた先は『警察』であった。
どんな理由でかけたのかというと
「友達が自殺するって家から電話してきて、家に来てみたんですけど
全然出てこなくて・・・。もう、どうしていいか分からない。
お願いだから来てください!!!!」
と、言ったらしい。しかも半泣きで。
自殺サイトとか結構騒がれてた時期もあったせいか、暇だったのか
「わかりました、いまから行きますから」と言ってくれ
しばらくして警官到着。もちろん部屋からは出てきていない。
警官「健太さーん!!! 警察です! 大丈夫ですかー!!」
(その間、ドンドンとドアを叩きながら)
友人「大丈夫なのーーー?! ねえ!!」
警官「お友達も心配してますから、いらっしゃるんでしたら開けてください!」
と、しばらくやっていると観念したのかガチャっとドアが開いた。
791 :休憩所788:2006/09/18(月) 00:27:38
そこには、気まずそうな健太が立っていて友人はそれと同時に
健太を突き飛ばすようにして部屋の中へ入って確認。
案の定、女・亜季が同じく気まずい感じで座っていたとか。
(警察には、ドアが開いた段階で帰ってもらったとか言ってた)
で、私の家が近かったせいかここらで友人からメールが来た。
「ちょっと○○まで来れない? 彼氏が浮気してた」と。
何度か一緒に飲みに行ったりもしてたし、そりゃ大変だと思って
急いで行くことに。まさか、現場に踏み込んでるとは思ってなかった
わけだが。
タクシー飛ばして30分もしないうちに健太宅へ到着。
友人が、部屋に入れてくれたのだが玄関の女物の靴の数が
おかしい。。。入ってみるとどんよりとした空気に満ちていた。
私「えっ?? どういうこと??」
友人「見たまんまだよ。 家に来てみたら二人でいたの。しかも
やってたっぽい・・・・」
健太&亜季「・・・・・・・・・」
私「なんでそうなってるのよ? おかしくない? ちゃんと説明して欲しいんだけど・・・」
792 :休憩所788:2006/09/18(月) 00:29:41
友人もはっきり浮気と分かったら凹んじゃって無言だったので私が聞いてみることに。
話を要約するとこんな感じだった。
どうやら仕事の関係で知り合った。最初は、みんなで飲みに行ったり
していたが話しているうちに意気投合。
友人も仕事が遅く休みもバラバラで会えないことが多かったため
メールや電話を繰り返すうちに二人で会う機会が増えた。
亜季の方も健太が気になっていて彼女には悪いと思いながらもやめられなかった。
そうこうしているうちに深い関係になってしまったと。
それを聞き終わると友人がキレた!!
友人「アンタがしょっちゅう会わない方がいつも新鮮な気持ちでいられる。
会えなくてもずっと好きだって言ってたんじゃない!!私だって会いたいの
我慢してたのよ!!!!!!」
健太「ごめん。でも、やっぱり寂しかった」
友人「じゃあ、なんで最初に言ってくれなかったの? こんな風になってから
そんなこと言われたってどうしようもないし、取り返しつかないこと
ぐらい分かってるでしょ!」
もう泣きながらずっとこんなことを叫んでた。そして、健太に向かって
思いっきりパーーーーンッと平手打ちをかました。
その瞬間、黙りこくっていた亜季が「やめてよ!!」
と健太を庇うように叫んだ。友人は、すごい怖い顔で亜季を睨みつけてた。
793 :恋人は名無しさん :2006/09/18(月) 00:31:12
@@@@
794 :休憩所788:2006/09/18(月) 00:31:41
友人「なんなのよ! 大体、なんで彼女いるってわかっててこういうことするの?
家にまできてどういうつもりなのよ」
亜季「だって、寂しいってすごく言ってたんですよ。私も健太さんのこと好きに
なったんです。私が健太さんの寂しさを埋めてあげたかった」
友人「なんでそこで貴方が出てくるの?私たちの問題でしょ?」
亜季「でも、一緒にいると楽しいとか言ってくれてました。本当に健太さんの
こと好きだったんですか?? 他に誰かいたんじゃないんですか?」
だまって聞いてた私も友人も「ほえっ??」って顔になっていたかも。
亜季「なんか男の人と連絡とってるとか健太さんから聞きましたよ。
信用できないのは奈央さんだと思います」
健太「え・・・?ちょ・・・な、何を言ってんだよ・・・」
私「奈央がアンタたちみたいなことするわけないでしょ!!」
友人「それ仕事上の連絡でしょ。意味わかんない。」
健太「別にそういう意味で言ったわけじゃないんだよ・・・・」
と、ヘタレ状態な健太。
そこへ亜季が「奈央さんよりも私の方が健太さんのこと愛してますから、私に下さい!」
健太「や・・・俺は、そんなつもりじゃ・・・・」
などとさらにオロオロしている。
>>218 「そのくらいわ」口語上では確かにそう発音するものの
文字として表すときは「そのくらいは」とする
そのくらいわ知ってろ
一段だろうが初段だろうが、知らない奴には些細な違いに違いない
いっそ、免許皆伝とかでも一向に構わん
というかSSスレでなく貼るんだったら本スレに貼るべき
>>219 まったくだ
そんな関係の無いところまで指摘してなにが楽しいのだろうか
何でそんな関係ないことを話題にするのよ!
私のこととか私のこととか私のこととかほかにも一杯あるじゃない!
彼貴方の事嫌いとか言ってましたよ
自覚のない子って本当に迷惑ですよね
しめしめ。二人は喧嘩に夢中みたいだし、今のうちに彼の所へ。うふふ。
>211の発言はとにかくとして、その前の人達は普通の発言でしょ?
言葉使いの間違い何だから、テンプレの誤字脱字の範囲内だろ?
作者殿の為にもなるし、これくらいすらどうでもいいと言われたら…。
スレが賑わってくると共に、偏った人達が増えてきてるね…。
>>227 |ω・`) 要は指摘するときの口調だと思うよ
誤字脱字を指摘することは結構あるからね
言い方がきつすぎると雰囲気が怖い((;゚Д゚)ガクガクブルブル
鏡を見る。
随分とまともに戻った自分の顔面をぼんやり眺めながら、頬を指先で撫でる。
ひさしぶりに動かした、本当に、ひさしぶり。
何日経過したんだろう。
「どうでもいいや」
うん。
どうせ父親はまだ帰っていないし。
「エーちゃん、朝ごはんできましたよ――っ?」
「あ、はいっ。今行きますっ」
いたりさんが呼んでいる。
さあ、顔を洗って、いたりさんと一緒の朝食だ。
今日で、十日は経過しただろうか。
エー兄は、帰っていない。
携帯にも連絡はとれず、玄関で待っても、現れない。
(エー兄、ほんと、どうしたんだろう……っ)
苛々する。
登校の途中、俯いて、爪をかんだ。
もうあたしの彼氏なんだから……、こんな、ふらふらとされると、困る。
戻ってきたら、そのあたりのところを、しっかりと教育させないと――。
(ちゃんと理由は説明させないとね……、うん)
そして大事なのは、あたしに心配させた、それにたいするペナルティだ。
がり、がり、痛い、肉までかんだ。
噛む……そうだなあ、噛むってお仕置きも、ありかな……っ?
(ふ、ふふ、ぅ、ふ、……、ぁれっ?)
出血している親指を撫でながら、前を、見る。
――あの背中には、見覚えが、あった。
「エー兄っ!」
罵声とも疑うほど巨大な音量で、呼びかけられる。
その呼称は、とても懐かしく感じる。
同時に、その呼称は、とても不愉快だった。
振り返る。
「ああ……、よう、有華、ちょうどよかった」
走ってきたのか、有華の呼吸は荒かった。
「よかったって……っ!? ねえ、そのとなりの女、なんなのっ!?」
有華が指差す。
「なんなのって、いたりさんだろ」
「どうしたんですか有華さん……っ? そんな、慌てちゃって」
いたりさんが、笑顔で、不思議そうに首を傾げる。
それだけの仕草も、愛おしかった。
「はあっ……!? ば、馬鹿じゃないのっ!? 普通慌てるわよ、自分の彼氏が、そんないかれた女と一緒に登校してたら――」
「いかれたっ……? なに、言ってんだっ?」
ほんと、わからないなあ。
いたりさんは。
俺のためにって、わざわざ早朝に家に来て、黙って朝食を用意してくれたり。
何度も電話で話そうとしてくれたし。
一途な、だけじゃないか。
俺が、誤解してただけで……はは、ははは。
「有華がなに言ってるのか、俺にはよくわからないけど……その、俺もお前に言うことがあるんだけど」
「エーちゃん、いっぱい練習しましたから、ちゃんといえますよねっ?」
俺の腕に自分の腕を絡めながら、弾む声でいたりさんが聞いてくる。
「はい。もちろんです」
「……、エー兄、ちょっと、ちょ、なに、そんな女と、くっついてるの、ね、ぇ……っ?」
有華が困惑しているみたいだが、無視する。
俺は、ようやく気付けたいたりさんの数々の愛情を胸中で思い出しながら。
「俺、本当はいたりさんが好きだから。お前がすきだって言ったの、あれ、ごめん、なにかの間違いみたい」
ほんと、あの時の俺はどうかしてたなあと反省しつつ。
笑顔で言った。
「……ついに、キタコレ。」
今俺の部屋にあるゲーム機………バーチャルオンラインゲーム『Q』
今世紀の日本のゲーム会は、頂点を極めている。もはやマウスでクリックなんていうパソゲーは時代遅れだ!そのすべてを過去にしたゲームが、今目の前にある。
「……しかしでかい……」
ぶっちゃけゲーセンのプリクラぐらいデカい。……余談だが値段もデカかった……バイトをして一年。やっと買えたのだ。去年入学したと思ったらもう後輩ができましたよ。
「……ふっ、だがその辛かった日々も、今報われる。」
一人部屋でつぶやきながら、ゲームの中に入る。すべてセットしてあるので、電源を入れる。……まずはキャラの作成。名前は…
「んー………キリィ……でいいや。」
ええ、目を瞑って適当に入力しただけです。次に職業。変えられないが、クラスアップがあるらしい。ここは慎重に……
「えぇっと〜〜……んー……忍者……かな。」
理由、むさ苦しくないから。まあ、やだったらキャラリセすればいいでしょ。次、特徴決め。
「なになに?次の質問に答えてください?」
1『忍者として、使う武器はどれ?A:短刀B:手裏剣C:鎖鎌』
まぁ、無難に……Aで。
2『忍者として、どのような任務に就きますか?A:暗殺B:諜報C:盗み』
……Aか。少し物騒だけど。
3『仕える主に、求めるものは?A:信頼B:野望C:金』
これはCで。ま、ゲームだしね。
『あなたのキャラクターがきまりました。どうぞ、Qをお楽しみください。』
そのメッセージの表示とともに、視界が光で包まれていく………
「ん……おおぉ!」
目を開ければ、そこは自分の部屋でなく、ゲームのなかだった。
目で町並みを見て、風の流れを受け、匂いを鼻で嗅ぎ、太陽の光を浴びる……これぞまさにバーチャル世界。もう一つの世界だ。
「おろ?…これは……」
近くの店の窓ガラスで、自分の姿を確認する。忍者……といえばそれらしい格好だ。それにしても、忍者=マフラーの定義はいつから始まったのだろうか?
顔も、自分のリアルの顔とそう大差は無い。違うといえば、目の色ぐらいだ。真っ赤な……血に染まったように真っ赤な目だ。
そして腰には、一本の短刀が挿さっていた。
この武器もまたリアルに作られており、これまた社会問題へと発展しているが、俺は大丈夫さ。
「では……さっそく歩いてみるか!」
町の探索を始めようと、駆け出した瞬間……
「うおぁぁ!はええ!」
……驚くぐらい、自分の足が速かった。まるで陸上の選手並みだ。そういえば忘れていた。ゲーム内のキャラの身体能力は、ステータスに比例する。だから忍者は素早さが高いため、足も速くなるのだ。
「ふぅはっはぁっ!こりゃおもしれぇ〜〜!!!」
ゲーム開始から数分……もうドップリとこの世界にはまっていた………
・
・
・
・
・
・
・
・
・
「……ちゃ……ちゃん……」
「ううぅ……もうゴブリンはいいよぅ……」
「…い…ちゃん………いっちゃん!もう、寝ぼけないで!」
「おぉぅ……」
ゆっくりと目を開ける。そこにいたのは……道具屋のお姉さん………じゃない。
「ああ……おはよ、二葉………」
隣りに住んでいる幼馴染み、宮内二葉だった。
「もう、おはよ、じゃないよ。また制服のまま寝ちゃって、シワになっちゃうよ?」
まあ、このようにおせっかいなわけで。
「仕方ないだろ?昨日はいそがしかったんだから。」
レベル上げで。
「あ……そうなの?」
うーん、相変わらず人を疑わないやつだ。いつか変な人に騙されるような気がするね。「まぁ、大丈夫だ。それより、学校にいくか。」
「うん!」
わしわしと頭を撫でると、まるで飼い主に褒められた犬のように嬉しがる二葉。いや、決してあの髪型が犬耳に見えるんじゃないよ?
登校途中………
「よう!ワンツーコンビ!」
「おはようさん!ワンツーコンビ!」
「今日仲いいな!ワンツーコンビ!」
「うわぁぁん!お前らなんか退学しちまえぇ!」
今日も相変わらずいじめ(!?)られながら登校する。…ワンツーコンビ、それが俺と二葉の愛称。俺の名前が霧島一哉。で、隣りのこいつが宮内二葉。ましてや二葉は俺を「一」からとって「いっちゃん」とよぶ。
この二人の間に入れば、ただじゃすまない。これは全校での暗黙の了解だ。その理由は………
「もう、みんなそんなにからかわなくても………」
こいつの嫉妬深さだ。女だけでなく、男相手にもだ。いくら俺の親に世話を任せると言われたとはいえ……
初めてワンツーコンビとクラスの全男子からかわれ、ぼこぼこなされた次の日、家庭科で調理実習があった。
この時、二葉がお題のクッキーをクラスの全男子に配っていた。
「いっちゃんにはこれね。」
と、別の包みに渡されたクッキーを食べながら、二葉のクッキーに群がる男子を見ていたのだが……次の授業、男子はトイレに列を作っていた。
男子は俺だけが出席。あとはみな欠席だ。それから三日間、男子トイレの周辺が汚臭で包まれたという歴史が……
後で二葉に理由を聞いたところ……
「だって、いっちゃんにさわったから……」
さわっただけでその仕打ちですか。それ以降、女子はもちろん、男子からもスキンシップが無くなった。
………その反動が、『Q』を始めるきっかけになったのかもしれない。別に二葉がウザイというわけじゃないが、やっぱり他の人とも触れ合いたい。
だから俺がバーチャルネトゲをやってるのは誰にも教えないのだ。知られたらきっと二葉に止められるからだ。あの世界……よいではないか!
ちなみに昨日、5回もナンパに失敗したのは忘れておこう…………
GJ!ネトゲと嫉妬深いヒロインか、今後が楽しみだ
これは久しぶりに全裸でwktkする時が来た様だな
>>231 疾走キタY⌒Y⌒(゚∀゚)⌒Y⌒(。A。)⌒Y⌒(゚∀゚)⌒Y⌒Y !!
そしてエー兄調教済みに(*´д`*)ハァハァ
Wktkr!
エー兄が彼岸の彼方にwww
うわあああああエー兄があああ
いたり先輩テラオソロシス
エー兄洗脳完了。ミッションコンプリート。
遂に疾走キタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η *・゜(n‘∀)゚・*( n‘) :*・゜ ( ) *・゜(‘n ) ゚・* (∀‘n) ゚・*η(‘∀‘n) ゚・*:.。. .。.:*・゜゚・* !!!!!!!
相変わらずいたり先輩は最高です(;´Д`)ハァハァ
いたり先輩ktkr!
洗脳済みgkbr!
だがそれがいい
エー兄!!!
戻って来いエー兄!!
>>236 GJ!!
二葉の嫉妬深さに今から期待(*´д`*)
|ω・`) そしてネットとの絡みもどうなるのやら・・・
エー兄の洗脳されっぷりは異常
エロゲなら普通ここで終わるところを続きが見れるんだなぁ(*゚∀゚)=3
とりあえずあんな便利なゲームがあるのなら
俺はエロゲないしギャルゲが発売されるのを待って一生そこで暮らします
キリィってもしかして、重力子放射線射出装置の?
なら、ヒロインはシホだな
どうでもいいことなんだがね・・・
全力疾走を噛んだら全力失笑になるので注意が必要なわけだ。
おやすみなさい。
ネット端末遺伝子ホシス
ネトゲか……それはともかく二葉嫉妬可愛いよ二葉(*´д`*)ハァハァ
別名は第一種臨界不測兵器
こんな日もあるよね〜
諦めない!
現実逃避にSSを書くか、
現実を見つめて履歴書を書くか、
それが問題だ。
…どっちを選ぶのっ!?
俺は君しか見てないさ
嘘つき!!!!
そんな事言って本当はあの子(仕事)なんでしょ!?
あなたってばいつもそう!!
気のある素振りででアタシを惑わせて…何が楽しいの!?
258 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/22(金) 02:52:45 ID:D4eiDT7a
ここの住人を楽しませるためさ
sageろ
この猫泥棒!
キャッツアイと申したか
彼のハートを盗みにきますた
ルッパ〜ン
>>260 猫を拾ってくる
猫かわいがりしすぎて彼女が嫉妬
彼女が猫系完全武装でお出迎え「わたしのほうがかわいいにゃー」
そして彼を取り合ってキャットファイト。
そんな修羅場に巻き込まれた彼を、優しく癒す猫被りな妹。
ひろゆき失踪で掲示板が閉鎖したら
SSはもう読めないな
運営陣が権力争い始めそうだな
手段選ばずに物凄く泥沼化しそうだが
まあ早々店仕舞いって事はないだろうけどな。
>>260 ほら、この子、こんなに喉鳴らして喜んでる。
あなたより私の方が好きなんだわ。
以下妄想がバーストしそうになったが明日も仕事なので早く寝る
おお、寝ろ
今日も今日とてモンスターとの戦闘中。 ある意味日常とも化した光景。
対峙するは上半身は人間の女性の姿、下半身は大蛇のモンスター。
所謂ラミアとかエキドナとか呼ばれる蛇女と同型なのだが……。
其の蛇の部分が恐ろしく長い!
そしてそれに付き従うは二匹の蜥蜴人間――リザードマン。
現在戦況は私が蛇女を、クリスとリオが二匹のリザードマンを相手にしてる。
リザードマンも決して弱いモンスターではないが二人の敵ではないだろう。
そして私の相手――蛇女の本体は数メートル先で不敵な笑みを浮かべ、
目の前では蛇の胴体と尾が畝っている。
モンスターの丸太のように太い尻尾が畝りを上げて迫り来る。
其の動きはまるで鞭のようにしなやか。 大木だろうとへし折りそうな威力を持っていそう。
そして巻きつけばそれこそ熊であれ牛であれ絞め殺せるのだろう。
だが――。
「ハァッ!!」
縦一文字に打ち下ろした一撃はモンスターの長い尾を一刀両断した。
相変らず恐ろしいまでの切れ味を発揮してくれるアルビオンファング。
だが、後にして思えば私はこの純白の刃の威力に依存し過ぎ慢心してたのかも。
そして其の慢心がかってない危険を招く事になろうとは――。
「キサマァァァ!! ヨクモ妾ノ尾ヲォォォ!!」
「ふん! 次は尾じゃなくって其の首を刎ねてくれるわ!」
襲い掛かってきた尾の一撃を両断した私はそのまま本体に向かって斬りかかろうとした。
逆上し鬼のような形相で吠えるモンスターに向かって私は真っ直ぐに突き進……。
その時背後から凄まじい力で巻きつかれ締め上げられた。
「な――?!」
「姉さん?!」
「セツナ?!」
私の体を締め上げたもの。 それはさっき切り落とした長大な尾だった。
「フハハハハ! 油断シオッテコノ愚カ者メガ!」
本体から切り離されたと言うのにその尾はまるで意思を持ってるかの如く私の体を締め上げる。
「――!!」
凄まじい力に胸を締め上げられ肋骨が悲鳴をあげ、口からは声にならない悲鳴が漏れ――!
や、やばい!! こ、コレってマジで洒落になってな――!!
痛みだけじゃない。 強烈な締め付けは肺を圧迫し呼吸を困難足らしめる。
卒倒しそうになる激痛と息苦しさを堪えながら私は腕を振り上げる。
そして締め付ける尾に刃を付きたてようとするが、
其の瞬間私の考えを見透かしたかのように締め上げる力が更に強まる。
更に強まる傷みと苦しみに頭が真っ白になる。そして畝る尾は更に振り上げた腕にも巻きつき――。
「いゃああぁぁぁーーーー!!!」
次の瞬間私の右腕は凄まじい力によって折られ私は激痛のあまり悲鳴を上げた。
「貴様ァ! よくも姉さんをっ!!」
「セツナ!!」
激痛で気が遠くなりそうな私の耳にリオとクリスの声が届く。 だが――。
「動クナァ! 動ケバコノ娘ノ首ヲ圧シ折ルゾ!」
そして次の瞬間私の視界に飛び込んできたのは蛇女の長大な尾に絡みとられた二人の姿……。
おそらくは蛇女の声に一瞬動きを止めた所を隙を衝かれ……。
そんな光景を目の当たりにした私の心を絶望と自責の念が塗りつぶしていく。
そ、そんな……。 わ、私のせいでリオとクリスが――大切な仲間までもが危険に……。
「うあああぁぁぁっっ!!!」
更なる激痛が疾る。 右腕に続き脚まで折られた。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い――――。
自由を奪われた絶望とあまりの激痛に私は泣いていた。
こんな所で……、こんな所で終わってしまうの……?
折角……折角心の底から大切と……愛しいと思える人達に出会えたと言うのに……。
イヤ……だ……。
そんなの、絶……対……に……。
・
・
・
・
・
コ……コは? わた……しは……?
「セツナ!」
「リ……オ……?」
「あぁ、良かった。 意識が戻られて……」
気が付くと私の目の前には心配そうな、そして安堵した表情を見せるリオの顔が。
生きている……と言う事は助かったの?
多分体の感触からすると私はベッドに横たわっているのだろう。 体中が痛い。
思うように動かない体。 ギブスや包帯が巻きつけられてる感触がある。
私は記憶の糸を手繰るが上手く思い出せない。
あの時、自由を奪われ手足を折られ絶望的ともいえる状況。
激痛と恐怖と絶望で、情けない話だが多分あの時私は其の激痛で気を失ってたんだろう。
こうして助かるまでの記憶が抜け落ちてるのが何よりの証拠だと思う。
命の、それも私だけでなく大切な仲間の危険な状況で気を失ってたなんて……。
「ううっ……、ぐすっ、ひぐっ……」
涙が溢れてくる。 自分の不甲斐なさが悔しくて思わず泣いていた。
その時涙で濡れる私の頬に柔らかく優しい感触があった。
見ればリオが涙を拭ってくれてた。
「ゴメン……ナサイ……」
そんな私にリオは優しく微笑みながら頭を振る。 そして――。
「良いんですよ」
優しく慰めてくれた。
そうだ。 クリスは? 私は首を廻らしクリスの姿を探すが見当たらない。
「ねぇリオ。 クリスはどこなの? 無事なの?」
私の問いにリオの表情が曇る。
「セツナ。 今は先ず自分の体を癒しましょ……」
何? 何なのその表情は?
胸の中にたまらないほどの不安が広がる。
「応えて! クリスは? ねぇクリスは……うあぁぁっ?!」
リオに問い掛け起きあがろうとした私の体に激痛が走った。
「だから落ち着いてくださいってば。
貴方は手足を折られ全身の骨にもひびが入るような大怪我を負ったんですよ。
回復魔法である程度直りましたが、それでも完治しきれないほどの大怪我なんですよ?!」
リオは心配そうな顔で覗き込みながら私を諭す。
だが――。
「お願いよ、応えて。 クリスは?! ねぇクリスは?!」
私は尚も懇願しつづけた。
「……分かりました。 では順を追って話します」
そしてリオは話してくれた。 あの後どうやって私達が助かったのかを。
To be continued...
>274は補完庫収録時には
<div align="center">・<br><br>・<br><br>・<br><br>・<br><br>・<br><div align="left">
とお願いしますm(_ _)m
投下キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
泥棒猫勇者と百合の空気を醸し出してきたクリスとの展開は早くも潰えるのか(ノД`)
278 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/22(金) 23:33:11 ID:OmuWBRgK
そりゃあリオとのラブラブの方が
>>276 続きにwktk
centerタグじゃなくてalign要素で指定するんなら、
いっそbrじゃなくてp使ったほうがよくね?
投下します。
wktk支援
午後七時。もう空は暗く、冷たい風が時々強く吹いてくる。
今日は木場の誕生日ということで、一週間前に約束した通り、俺と、屋聞、もうすぐ部活を終えて来るであろう
明日香が、誕生日パーティーに出る事となった。
実は、俺は木場のパーティーに出席することを承諾していない。どうしようか考えているところに、
明日香と屋聞が、あたしも自分も、と参加の意思を表し、暗黙のうちに俺も出ることになったのだ。
別に、今になって文句を言いたいのではない。しかし、気になる点がある。
前に、俺が風邪をこじらせたとき、明日香、木場、屋聞が俺の家に来た。
今回もそうだ。
この三人、やけに都合良く揃ってはいないだろうか。
もう一つ。明日香は俺に、木場には近づくなと言った。
となれば、俺が木場の誕生日パーティーに参加するなど、反対であろう。
それなのに、自分も参加したいとまで言った。
さすがに行き過ぎた物言いだと思い、改めたのだろうか。それとも……。
「あ、来ましたね」
そう言った屋聞の目線と同じ方向を見ると、明日香が、竹刀を腕のように振り回して、こちらに駆け寄ってくる
のが見えた。
「お待たせ」
明日香の荷物が、明らかに大きくなっていた。その中身は、紙に包まれていて何なのかは解らないが、まあ、誕
生日プレゼントで間違いないだろう。
「それじゃあ行こっか。伊星くん、私のうし――」
「あ・た・し・が、乗るわ」
俺と明日香は歩きだが、木場と屋聞は自転車である。
自転車に跨った木場の後ろに、明日香が素早く座り込んだ。
と、三人は急にキョロキョロし始め、互いに目線を合わせたり逸らしたりした。
視線が、三角形を作り、辺がコードとなって光を送ったり受け取ったりする錯覚。
微妙に疎外感を覚える。三人はそれぞれ、何を思ったのか。
「伊星先輩。こちらをどうぞ」
屋聞が、自分の自転車の後部を指差した。俺だけ足で走るのも嫌なので、それに従う。
「ちゃんと掴まって下さいよ。落ちたら後が怖いですから」
何やら意味深なことを言う。両肩に掴まると、少し震えていた。
いい加減、動き出さないと寒さで堪らないからだろうな。
二台の自転車が、木場の家へ向け発進した。
俺が歩く、いつもの通学路とは全く違う道をおよそ二十分。自転車は、十階以上はあるマンションの前で止まっ
た。
木場は自転車を降り、押してマンションの敷地内に入る。俺たちもその後に続く。
自転車を置いたら、エレベータで七階へ。
「準備するから、ちょっとだけ待ってて」
木場は手を合わせて頭を下げた後、鍵を使ってドアを開け、一人だけ入ってドアを閉め、鍵を掛けた。
鍵が掛かった直後、明日香が携帯電話を取り出した。
ボタンをいくつか押して、耳に当てる。
「あ、着いたよ。……うん、そうそう……うん、じゃあね」
ほんの十秒程度で電話は終わった。
「どうしたんだ?」
「うん、ちょっとね」
明日香は、曖昧な答えを返した。大体において明日香は、聞けば電話の内容を喋るんだが、今回はプライベート
のことかもしれない。
それから、数分経った後であった。
チャイム、そしてウイィンというあの音。ここまで来るのに使ったエレベーターの扉が、再び開く。
出てきた者……たち、は、見覚えのある顔だった。
そう。明日香の友達だ。名前は……何だっけ。
背の高いショートカットの女。茶髪パーマの奴、あと眼鏡。
いくつかのビニール袋をぶら下げながら、俺たちの、いや、明日香の前に来た。
「な……何ですか貴方たちは!」
「木場さんの誕生日と聞いて歩いてきました」
指をさす屋聞に、眼鏡が答えた。
どうも屋聞には、驚いたとき、その対象を指差す悪癖があるらしい。
新聞部をやっていれば、驚くべき出来事に遭遇することもあるだろう。その度に指を差したら、色々とまずいの
では?
「いや……流石にそれは……」
俺は、明日香が友達を呼ぶなど、全く知らなかった。さっきの電話がそうなのだろうが、来るのが早すぎる。
驚いている屋聞も、間違いなく知らなかっただろう。
多分、木場も……。
「明日香……」
「ん? なに?」
明日香は、何故友達を呼んだのか。何故それを隠したのか。
急に人を呼んで、びっくりさせてやろうと思ったのかもしれない。だが、それは飛び入り参加ということだ。
パーティーでそれをやったら、不都合が生じる。
よく見れば、明日香の友達らの荷物は、食べ物飲み物らしきもので一杯だ。
「いや、何でもない」
その辺は、ちゃんと補正できている……のか?
まだ驚きの余韻が残っている内に、ドアが開き、木場が現れた。
やはり明日香の友達まで来るとは知らなかったようで、面食らっている。
「じゃ、お邪魔しまーす」
明日香が我先にと、竹刀を突っ込み身体を押し込む。友達らも続いている。
お邪魔というか、突入というか……。
俺は、さらにその後に続いた。すぐ側にいた屋聞は、溜息をついていた。
廊下をまっすぐ進んだ、突き当りのドアの先に、リビングがあった。
俺の家とは違い、きちんと整理整頓され、足の短いテーブルの上には、ケーキの箱を中心に菓子が並んでいた。
そのテーブルを、大きなソファーと一人用のソファー、それぞれ二つずつで囲っている。
木場の家……結構金持ちなのか?
「ふぅ〜」
明日香が、一人用のソファーに一番に座っていた。
……。
「明日香」
「ん?」
「立て」
家の者を無視して、一番に座るなど失礼だ。
明日香は、木場のことを良く思ってないみたいだが……だからといって、そんな横柄な態度でいい訳が無い。
礼儀の悪さなんて、むしろ俺がいつも明日香に言われるくらいなのに……。
明日香は、渋々といった感じで腰を上げた。
「そうです。席は一つ、くじで決めるのは如何ですか?」
どこからかトランプを取り出した屋聞。
「うん、そうしよ」
木場の同意を受け、屋聞はトランプをソファーの上に置いた。
一人用の席に一枚ずつ。大きいソファーのうち一つに三枚。残りに二枚。計七枚。
さらに、手元にあるトランプのうちの大半を、鞄にしまいこんだ。
今、屋聞の手元に残るトランプは、多分七枚。席に対応した数字の分だろう。
「じゃ、配ってくれる?」
「畏まりました」
屋聞はカードを切って、一枚ずつ配った。
俺に回ってきたカードの数字と同じものは……二人で並んで座るソファーにあった。
「よっと」
その隣、同じソファーに木場。
「よっこいしょ」
「よっこいしょって。オヤジかよ」
向かいの大きいソファーには、明日香の友達三人。
「一人用とは、ラッキーですねえ」
俺に近いほうの一人掛けの席に屋聞。木場に近いほうが明日香。
「それでは始めましょう」
カードを回収した屋聞が、一人立ち上がる。……って、こいつが司会か?
「まずは……食べ物から行きますか」
屋聞がケーキの箱を開けた。
「おいおい、ちょっと小さいんじゃねーの?」
ケーキが姿を見せたとたん、茶髪パーマは言った。
それは……元々四人であるのを想定してたから、仕方ないのでは……。
「ま、ちゃんと用意はしてあるけどね」
黒髪ショートが、袋から箱を出し、木場の用意したケーキの箱の隣に置く。
出てきたケーキは、隣のものより一回り大きい。
「ローソク、ローソク」
明日香たち四人が、大きいケーキに、蝋燭を十五,六本立てている。俺と木場は、何もしない。
ライターで火をつけた後、一度部屋の電気を消した。
「木場先輩……どうぞ」
「うん……きょ、今日は……み、みん、な、来てくれて、あ、ありがとね!」
なんか投げやりに聞こえた。蝋燭の火の光しかないので、木場の顔もはっきり見えない。
しかしながら、巻き起こる拍手。そしてバースデーソングの大合唱。
俺も声だけ出していると、左肩をトントンと叩かれた。位置的に、屋聞しかいない。
「先輩。渡すものはちゃんと用意してますよね?」
耳元で囁いて来たのは、やはり屋聞である。
「当たり前だ」
「なら、今こっそり、木場先輩に渡しちゃって下さい」
「今?」
今は、電気が消え、蝋燭の明かりしかなく、薄暗い。
「まず手を握って、その手にそっと渡すんです。どうせ大した物じゃないんでしょう? だったら、周りに見ら
れない今の内ですよ」
嘗めるのにも程がある。
俺が持ってきたのは、白のハンカチ、千五十円也。
高価ではないことは認める。だが、安価なのを演出で誤魔化せというのか?
そういう屋聞こそ、ちゃんとしたのを用意してるんだろうな?
……。
まず、木場の手を握って。
「えっ……?」
で、その手に、ハンカチの包みを押し付けて! ほら屋聞、これでいいんだろ。
「62点ですね」
なんだその微妙な点数は。
「早くローソク消しなさいよ」
「え? あ、うん……」
バースデーソングが終わって、少し間が空いていた。木場がすぐに火を吹き消すと、再び拍手。そして電気がつ
く。
木場は一度席を立ち、包丁を手にして戻ってきた。
「七人いるけど、とりあえず八等分にしようぜ」
「一個残るけど」
「食べたいやつが食べりゃいいのよ」
周りがあれこれ言う中、木場はケーキに包丁を入れる。
その腕が、幾らか震えているような気がした。
(32話に続く)
木場さんカワイソス…(´・ω・`)
俺明日香派だったけど…
最初明日香派だったけど完全に今は木場さん派
では屋聞タンは俺が頂く。
投下します。
低く鈍い音が響いた。野球の球を打つ時はあんな甲高い音なのに、人の頭を叩くと音が全く違う。
そんなどうでもいいことに、バットを振り下ろした千早は感心していた。
「がっ・・・!?」
後頭部を叩かれ、死んだように眠っていた智も流石に目を覚ました。
キーンと響くような鈍痛に振り返ると、再びバットを振り上げた千早が目に映った。
汗で額に張り付いた前髪と、ガタガタ鳴り響くナイフのような口元が『鬼女』という言葉を連想させる。
驚愕に歪んでいるであろう智を愛しげに見つめながら、千早は再び勢いよくバットを振り下ろした。
「うわっ!? 千早、やめろ!」
ブオンっ、という風切り音が耳を掠めた。
先の一撃で頭がふらつくものの、致命的なダメージは受けていなかったらしく、智は間一髪で避ける。
千早の腕では脳天直撃で一発昏倒とはいかなかったこと、ベッドにめりこんだことで衝撃が拡散されたためだ。
そうでなければ吸血鬼とはいえ力の出ない昼、しかも疲労困憊の智が、頭部を強打されて動くことは出来なかっただろう。
しかし逃げても所詮は狭い部屋、すぐに隅に追い詰められる。
「いけない子だよ、智ちゃん。そんなに逃げ回るなんて、私悲しいな・・・」
虚ろな笑みに困ったような色をのせて千早は言う。
それは『今日は何が食べたい?』と聞いて『何でもいい』と返された時のような、いつも通りの微苦笑。
「でももう大丈夫だよ、私が守るから。悪い智ちゃんは、私が全部追い出しちゃうからね?
そうしたら、またいつも通りの智ちゃんに戻ってくれるよね?」
「悪い・・・俺? 千早、何言ってるんだよ!? そりゃ確かに心配掛けたけど、だからってこんなの、お前おかしいぞ!?
それに、守るってお前・・・!」
それは、そんな風に金属バットを振り回して言う台詞ではない。少なくとも智はそう思う。
何の躊躇いも手加減も無く振り下ろされる鉄塊は、当たり所が悪ければ死にさえ至るだろう。
それでも、千早の悪意無き笑顔には僅かな揺るぎも無い。
おかしいのはむしろそちらだと言わんばかりに。
「大丈夫だよ、もう誤魔化されない。もう迷わないよ。
あの女の呪縛、私が解き放ってあげる。もう二度と近づかせない。
智ちゃんが元に戻るまで・・・ううん、戻ってからもずっと傍にいるから。
だから、もう無理しなくていいの。何も心配しなくても、智ちゃんのことは全部私がしてあげるから」
あの女と言われて、咄嗟に智は昨日のエルを思い浮かべたが――それもすぐに霧散した。
ブォンと轟音を鳴らして、千早がバットを振り下ろしたからだ。
部屋の隅に追い詰められた智に最早為す術はなく、両腕で頭部をガードするくらいしかできない。
腕が打ち据えられ、鈍痛が走る。
「っぅ・・・! 千早、やめろっ!」
「まだだよ、まだ。私に嘘を付く悪い智ちゃんは消えなきゃいけないの。
もっと痛めつけなきゃ。智ちゃんを乗っ取ろうなんて二度と思わないように、もっと。もっと、もっともっともっと。
消えろ、消えろ消えろ、消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ!」
垂直振り下ろし、袈裟懸け、逆袈裟、横殴り・・・。
縦横無尽にひたすら殴りつけられ、智の腕が赤紫に変色していく。
千早は疲れるどころか興奮に力を増しているようで、バットを振るう勢いをヒートアップさせていく。
「あははははははははははははははははっ! 出てけ、出てけっ、出て行けっ! 智ちゃんから出ていけぇっ!」
そして――。
「くっ・・・」
鈍痛による痺れが極限に達していた智の腕が、ついに力を失いダラリと下がる。
断続的にバットを振るっていた千早はその動きを一瞬止め、溜めを作って思い切りバットを振りかぶった。
まさに止めを刺そうというその行動とは裏腹に、千早の優しい微笑は智を慈しむように柔らかい。
身構えることさえ忘れて見惚れた智は、無防備な己を晒してしまった。
致命的な、隙だった。
「さよなら、悪い智ちゃん」
ガコンっ、という大きな音が頭の中で反響し、ピンボールのように暴れ狂う。
感じたのは、痛みよりむしろ痺れだった。
それでも側頭部を直撃されたのに間違いはなく。
目を閉じる寸前、身体に感じたのは柔らかい人肌の重さ。
『おかえり、だね・・・』という呟きを耳に、智はまたも意識を落とした。
---------------------------------------------------------------------------
智が目を覚ましたのは、結局夜の9時のことだった。
吸血鬼でも脳を揺さぶられるダメージは避けられないらしく、未だに頭がグラグラと揺れているのを感じる。
しかし記憶や身体に異常はないらしく、智は自らの無事と幸運に胸を撫で下ろした。
もっとも、吸血鬼だからこそこの程度で済んだのが真相なのだが。
部屋の隅にもたれるように座り込んでいた智に、正面から千早が抱きついていた。
身体をぴったりと密着させ、腕を智の首に巻きつけて、ぐっすりと眠っている。
その幼い寝顔に、智の顔が思わず綻ぶ。
(でも・・・・・・夢なんかじゃないんだよな、さっきの)
傍らに転がるバットと、頭と腕に未だ残る鈍痛が何よりの証拠だ。
「んん・・・智ちゃん、行っちゃダメだよぅ・・・行っちゃやだぁ・・・」
はっとして視線を落とすが、千早の目が覚めた様子はない。寝言のようだ。
その頬を伝う一筋の涙に気づき、智は指先で拭ってやる。
夢の中でも自分を追う千早に、智は面映いような、悲しいような、複雑な気持ちになった。
一点の曇りもない笑顔で凶器を振るう千早。
そんな歪んだ形で発露した以上、もう気づかないわけには――いや、気づかないふりをするわけにはいかないだろう。
千早が自分に抱く気持ち。恋心に。
そんなことは、クラスの連中に冷やかされるまでもなく分かっていた。
ずっとトコトコと自分の後ろを追いかけてきた千早。
その瞳が映す絶対的な――盲目的と言ってもいい――信頼が、いくら年を重ねても一向に翳ることはなかったからだ。
人間は年を重ねれば世界が広がり、外へ向ける感情は様々な方向へ広がる。
友人が増え、興味を持つことが増えれば、相対的にこれまで近しかったものへの関わりが薄れてしまう。
そうやって疎遠になってしまった友人が多くいた中で、ずっと互いの距離が変わらなかった唯一の存在が千早だ。
だが、距離感が変わらないからといって、抱く思いまでも変わらないということはない。
千早は成長と共に智への想いも大きく育んできたのに、智は現状の居心地の良さに甘えて、頭がその現実を認識することを拒否してきたのだ。
結局のところ、これは智と千早の感覚、或いは価値観の相違が生み出した齟齬である。
智は恋愛によって結ばれた関係にそれほどの絶対性を見出さず、千早に『何年経っても気安い関係の幼馴染』のままでいることを求めた。
対して千早は、智のあらゆる面において自身が最も近い位置にいること――幼馴染としても恋人としても、他の誰も割り込む余地がない関係を求めた。
これが男女の違いによるものなのか、純粋な個人的傾向なのかは分からない。
互いが互いを誰より大切に考えているのにすれ違ってしまうのは、傍からみれば皮肉な喜劇に映るだろう。
ただ一ついえるのは、智の恋愛への認識が幼すぎたということ。
幼さゆえに恋愛を自分にとって遠いものと考えてしまう智は、恋愛と聞くとどうしても自分に遠い存在を思い浮かべてしまう。
具体的には藍香やエルだ。
エルに関しては訳も分からないまま身体を重ねただけ――少なくとも本人はそう思っている――だが、セックスしたという事実とあの泣き顔は、智が彼女に情を移すには十分だった。
千早の肩を抱きながら、智はこれからどうするべきかに思いを廻らす。
殺意に近い暴力を持ち出してまで自分を繋ぎとめようとする千早の想い。
その発現による被害を受けても、智の千早を大切に思う気持ちは変わっていない。
千早の気持ちからずっと目を逸らしてきたことへの引け目もあるが、何より大切な幼馴染の異常を放っておけないと思っているからだ。
だが同時に、彼はこの期に及んでなお、千早の望む形で答えてあげられなくとも、彼女の異常性を収められると――自身の望む幼馴染の関係に戻れると信じていた。
(今日は・・・もう寝よう。まだ昨日の疲れが尾を引いてるし、疲れた。
とにかく明日だ。明日になれば何とかなる。きっと)
そういえば、今日は学校を休んでしまった。エルとの連絡も取り損ねてしまった。
さらに、一晩くらいは平気とはいえ血も吸っていない。
全ては明日だ。一晩経てば、お互い少しは落ち着いて話をすることもできるだろう。
きっと、大丈夫。
それは、自分の考えがあまりに甘いと思い知らされるまでの、智の最後の安息の時。
思えばこんな早く眠るのなんて数ヶ月ぶりだよなと思いながら、千早の温もりを布団代わりに瞼を閉じた――。
今回はここまで。
サイコな愛だけでなく、普通にシリアスな恋愛感情も書こうと思ったのですが、何だかグダグダした文章に・・・。
やはり慣れないことはするものじゃないのか。
次回はスレ的にグッドな話になるよう頑張ります。
GJ!!
エル派な俺はエルとのラブラブっぷりがでるのを期待。
いやもちろん他のヒロインも楽しみ
イイヨイイヨー
直接対決も間近か!?
続きが気になる(;´д`)ハァハァ
屋聞君って実は女の子?それとも人志と衆道END?
吸血鬼じゃなきゃ危なかったなw
これで次がどうなるか楽しみだ、エルの反撃かそれとも千早の猛攻は続くのか。
藍香の動向も気になる。やばい、ものすごく楽しみだw
無断で学校休む智と千早。これは藍香先輩が黙っていないよね?
なんか最近スレに勢いがないな・・・
ハーレムスレにでもいってるのかな〜
修羅場属性+ハーレム属性も持ってる人多いと思うし
ついにこのスレの終焉がやってきた
マジで冬までモタたないなこのスレ
逆に考えるんだ。
『今までのペースが異常だった。むしろこの位が普通だ。』
こう考えるんだ。
一日に一本でもSSの投下があれば普通のスレでは賑わってると認識する
ものだが怒濤の投下ラッシュに慣れ過ぎて住人が贅沢になってるな。
>>302 投下してくれてる神に失礼だとは思わないのか?
お兄ちゃんの隣に!! あんなもの残していくわけにはいかないのよ!
何が淫猥なつばさよ…!
死んでからでもお兄ちゃんを誘惑し続けるこのとんでもない幽霊の方が
はるかに淫猥じゃない!!
そしてもう、いつ二人が結ばれちゃうかわからないんだよ!
SEXしてからじゃ遅い…!
奴に成仏しない時間を与えたのはたまちゃん、あなたなんだからね!
無茶でも何でも絶対に成仏させてもらう!!
あれと厄病神を…!
お兄ちゃんが取られる前に!!!!
で、でも…やっぱあかんて、つばさ
何をしてるのよ!
とっとと邪魔者を切り捨てて成仏させるの!
刀が折れたのならこの出刃包丁で奴らを直接斬るの!
うち…そんなん出来へん!
ああ、もう!
どーしてそう一々うるさいのよ、たまちゃんは!
さあ、わたしの言うとおりにして!
次は罵声ではすまさないよ!
つばさに嫌われるんはいややけど…うちの知ってるつばさはそんな真似せーへんかったで
そんな真似も何も命令しているのは最初からわたしなの!
たまちゃんはそれに従うのが仕事でしょう!
なのに、なんでたまちゃんは一々逆らうのよ!
いくら幽霊や神様だろうと、成仏させれば戦いは終わる
だいたいあいつ等がお兄ちゃんとわたしに対する脅威なんだよ!
わたし達はそれを撃ちに来てるの!
自分の被害は最小限に! そして敵には最大の被害…
恋愛ってのはそうやるもんでしょ!
さあ! わかったらたまちゃんもちゃんと自分の仕事をしてよ!
あの化け物供を…今度こそ成仏させるの!
(黙って刀をつばさに向ける珠美)
もーなんなのよー!?
たまちゃん!!
わたしにこんなことをしてどうなるかわかってるんでしょうねーっ!!
つばさはここで、死すべき人や…うちと共に!
何だと!!
ふざけるんじゃないわよ…刀を下ろせーっ!!
もーっ、こんなところで!!
わたしは勝つんだよ…そうよ…いつだって!!
あはははははっはは…
あはははははははははははははははは…
(つばさの腹に食い込む刀)
あ…ああ! お前ーっ!!!! もーっなんなのよー!!
いやああああああああああああああああああああああ!!!
投下しますよ
風が冷たい、物陰に隠れている私がそうなのだから兄さんはもっと寒いだろう。いくら
寒さに強い兄さんだとしても、この季節に海に行くなんてどうかしているんじゃないだろ
うか。あの雌猫、いやもう猫なんて呼び方も生温いのかもしれない。はっきりとこちらに
敵意を持った青海さんはもはや雌虎と言っても過言じゃない。その雌虎は、一体何を考え
てここまで来たのだろうか。兄さんは優しい人だから寒い思いをしているのは隠している
し、それはまだ我慢が出来るからまだ良い。けれども、もしこれのせいで風邪などを引い
てしまったらどう責任をとるつもりなのだろうか。さっき電車に乗る前もそうだった、妙
な飲み物を、しかも飲みかけらしいものを飲ませて青海さんの中の変な病原菌が兄さんに
伝染ってしまったら私はもうどうなってしまうのか分からない。
絞殺。
刺殺。
轢死。
圧死。
他にも色々と思い付くが、どれが一番あの泥棒虎にふさわしいだろうか。少しくらいは
慈悲の心を持って、溺死なんかも良いかもしれない。楽しそうに水辺で踊り回っているし、
海が好きなんだろう。だから、名前の示す通りに青い海に沈めてしまうのも一興だ。青海
さんもそうされるのなら本望だろう、海と思い出に溺れて死ねるなんて幸せの至りという
ものだ。ひっそりと海底で私を見ていれば良い、青海さんの分まで兄さんと幸せになって
いるだろうから。
数秒。
いけない、ついその光景を想像していたら見失なってしまった。どこに居るかと視線を
回せば、すぐに見付かった。忌々しくも兄さんの隣に座り、肩を寄せあっている。
離れて下さい!!
思わず声を出しそうになったが、危ういところで押し留めた。実際に言えたのならば楽
になれるだろうし、そうして離れてくれたのならば最高に幸せだろう。しかし見付かって
しまえば兄さんは多分悲しむだろうし、そんな表情は見たくはない。そんな葛藤が、私の
心を万力のような力で残酷に締め付けてくる。
どうしたら、良いんでしょう。
口には出さずに心の中で問いかけてみるが、しかし答えは返ってこない。それこそ、私
の問いにいつでもどこでも何度でも応えてくれた人は、今は別の人
の隣で微笑んでいる。ここ最近は何度も目にした光景だが、それでも慣れることはない。
寧ろ、日を追う度に胸の痛みが強くなっていく。
止めて下さい。
再び心で呟くが、二人は私のことは気にせずに談笑を続けている。
不意に、兄さんが鞄から布を出した。それは私も見慣れたもの。物を大事に扱う兄さん
だがその中でも特に気に入っているらしく、長年大事に使ってきた肉厚のタオルだ。私も
何かがある度にそれで傷口を拭われたり、汚れや汗を拭き取ってもらってきたから、それ
がどれだけ大事な意味を持つのかを知っている。
いや、兄さん自身はそれを使うのが既に日常と化しているので、もしかしたら分かって
いないのかもしれない、だが少なくとも私にとっては、非常に大きな意味を持ってくる。
つまりそれは、ある意味で兄さん自身のようなものなのだ。
兄さんはそれを青海さんの足に当てがうと、揉むように拭い始めた。その光景に、胸の
痛みが益々酷くなる。それは多分心がえぐられ、削られ、擦り減っていく痛みなのだろう。
これは何も、私だけのものだ、などと贅沢は言わない。しかし、それでも耐えきれるもの
ではない。今までは家族にしかしてこなかったこと、逆に言えば家族意外にしてこなかっ
た、家族だけのものが奪われていく感覚がそこにある。
例えば、兄さんの体温。
例えば、今の揉むように拭うこと。
恋人同士だから寄り添いあって歩いている、凍えて赤く染まっているから揉んでいる、
などと言われても到底納得出来るものではない。兄さんは優しいから、誰かの辛い部分を
黙って見過ごすことが出来ない人だから、と言われても我慢が出来ない。それが可能なら
とっくの昔にしているし、今だってこうして付け回してなどいない。
悔しいです。
何故青海さんなんですか。
早く戻ってきて下さい。
幾つもの言葉が浮かび、しかし空気を震わせることなく私の心の中に沈んでいく。堪え
る為に噛んだ唇は力を込め過ぎていたせいなのか鋭い痛みが走り、口の中に鉄のような味
がにじんで嘔吐感を沸き上がらせた。自分の耳でも分かる程に呼吸は荒くなってきていて、
血の味と相混じって酷い不快感が身体中を満たしていく。心と体の両側から責められ限界
に近い状態だったが、それでもめげずに二人を見た。辛いけれども、目を離さない。いや、
辛いのに体が視線を外してくれない。
兄さんが前屈みになり足を世話してくれているのに、それだけでは満足できないのか、
青海さんは体を擦り付けるように兄さんを抱き締めた。顔を赤くしているが表情は真剣な
ものに見える、一体何を話しているのだろうか。兄さんの顔を見ようとしても青海さんの
体が邪魔で確認出来ないし、読唇術などが出来る訳でもないので内容は分からない。私の
数少ない長所である視力だが、こんなときばかりは少し嫌いになる。中身が分からないの
になまじ行動が分かるので、余計に辛くなってくるからだ。
約数分。
どれだけの時間が経過したのか正確には分からないが、漸く兄さんは体を起こした。顔
には真剣な、何かを覚悟したかのような表情が浮かんでいて、その視線は一途に青海さん
の顔を見つめている。口を開くと何かの言葉を短く発し、続いて青海さんの表情が喜びの
色に染まった。赤い顔のままで、兄さんに抱き付いている。
嫌な、予感がした。
立ち上がった兄さん達を追い掛けて数分、私の足は止まってしまった。場所はホテルの
入口前、横を見れば磨き抜かれた金属坂に休憩や宿泊の文字、簡単な料金の額などが彫り
込んである。つまりは、恋人同士が愛を確かめあう場所の玄関の前に居るということだ。
何故私がこんな場所に居るかと言えば理由は簡単。
兄さんと青海さんがここに入っていったから。
駄目です、とは言えなかった。
黙って、適当な部屋を見上げてみた。今頃は、二人で裸にでもなっているのだろうか、
そう考えると不意に声が漏れてきた。ひ、とも、い、とも聞こえる声が他人事のように耳
に入り込んでくる。それは最初は途切れ途切れに連続していたが、すぐに一つの大きく長
い声になる。目頭が熱くなり、感情を表す雫が熱を持って頬を伝い、泣いているのだなと
そこで自覚した。
それに引きずられるように、何故、という言葉が幾つも思考に浮かんでくる。
何故、兄さんはここに入っていったのだろう。
何故、私は泣いているんだろう。
何故、私はこんな惨めな思いをしているのだろう。
こそこそと隠れて兄さんの後を付け回し、嫉妬をして、その結果最も見たくないものを
見てしまい、更には最悪なことにその後のことを考えて絶望をしてしまっている。この上
なく惨めで、フォローの仕様がない程にどうしようもない。
辛い、です、兄さん。
今言葉を投げ掛けても、その相手は薄いガラスの更に向こう側に居る。それが更に辛い。
体に力が入らずに、膝から崩れ落ちた。敷き詰めてある砂利が食い込んだせいか、膝に
鋭い痛みが走る。切ってしまったのかそこは熱を持って脳に危険と伝えてくるが、それも
どうでも良い。今の滑稽な自分の状況を彩るだけの、嫌味な飾りにしか思えなかった。
「兄さん」
漸く声が絞り出せたが、それは細く低く、しかも泣き声にすぐに塗り潰されてしまう。
伝えたい相手には、絶対に届かない。
今回はこれで終わりです
こっちでもサクラには悲しい思いをさせていますが
最後は皆幸せにしたいですね
GJ!サクラタン切なすぎるぜ(ノД`)シクシク
Aルートの輝きっぷりも大好きだが、ぜひ幸せになって欲しいとも思う
「あの時私達は全員モンスターに絡めとられ絶体絶命ともいえる状況でした。
とくにセツナ、貴方への攻撃はことさら執拗なものでした。 モンスターからすれば当然でしょう。
貴方の持つ其のアルビオンファングはあらゆる魔族を斬り伏せる最大の脅威なのですから」
確かに。 実際この純白の刃は今までに多くのモンスターを屠ってきた。
「逆に言えばそれ故私とクリスへの攻めはいくらか緩かったのでしょう。
それでも私も締め上げにより声も出せず激痛により集中力をそがれ呪文を発動できませんでした」
そう言ったリオの顔はとても済まなさそうにしょげていた。
「ですがクリスは私と違い其の締め付けにも耐えてました」
確かに純粋な身体能力、戦闘能力の強さで言えばクリスのそれは私なんかよりはるかに上だった。
「蛇の胴と体の間にグレイブを挟めてたのも耐えられた要因の一つかもしれません。
そしてモンスターはそんなクリス相手に締め上げる力を徐々に徐々に上げていきました。
やがて其の締め上げる力が最高潮に達しグレイブも軋みを上げ曲がり……」
あの強固なグレイブの柄が軋み曲がるなんて……。 そんな力で締めつけられたら……!
瞬間嫌なイメージが浮かびそうになる。
そんな……ま、まさかクリスは……?!
「軋み曲がり始めたグレイブを目の当たりにし私は其の光景に絶望的なものを感じ、
逆にモンスターは其の様子に残忍な笑みを浮かべました。
そして次の瞬間目の前に起こった事に私は一瞬自分の目を疑いました」
何? い、一体……。
「爆ぜたのです。 クリスを締め上げてた蛇の胴が。 其の光景は私にとってだけでなく
モンスターにとっても信じがたい事だったのでしょう。 今なら分かります。
あれはブーストアップによって強化された豪力によって内側から引き裂いたのでしょう。
そして――」
そして?
「次の瞬間クリスの体が消え、気が付いた時にはモンスターの首が血飛沫と共に宙を舞ってました。
おそらくブーストアップの力を脚部に発動させ消えたと錯覚させるほど超スピードで駆け
モンスターの首を刎ねたのでしょう。 そしてその後直ぐセツナと私に巻きついてた胴を――」
「解いてくれたわけね?」
リオは首を縦に振る。
「そうか。 こうして助かったのは全てはクリスのお陰なのね。
だったら尚の事お礼を言わなくちゃ」
「それが……」
え? 何? 何でそんな風に顔を曇らせるの?
「確かに蛇女は倒せました。 ですがそれで危機が去った訳では無かったのです。
後から後からモンスターが襲ってきたのです。 おそらくは遠くで静観でもしてたのでしょうか。
手負いとなった我々を仕留める好期だとでも思ったのかもしれません」
「で、でも撃退は出来たんでしょ……? そうじゃなきゃ私達がここに生きていないわよね?」
「ハイ。 ですがその為の代償は大きすぎました。
あの時クリスが発動したブーストアップは限界を超えたもの。
結果負荷を掛けすぎたクリスの手足の筋肉をズタズタに痛めてしまいました。
そしてそんな傷ついた体でクリスは必死で戦ってくれました。勿論私も応戦しましたが……」
分かってしまった。 激痛で意識を失ってる間、夢現の中私は背負われていた。
決して大きくは無い――けど優しくて暖かな背中の感触。
あれは夢なんかじゃなく――そう、リオが負ぶってくれてたんだ。
勿論そんな状態でまともに戦えるわけなど無い。
だから其の分までクリスが戦ってくれてたのだろう。
きっとどちらが言うともなしにそうなったのだろう。
そんな無茶をしてまでクリスは私を……!
そこまで聞いて思い浮かんだのはさっきリオが見せた重い表情。
まさか――最悪の考えがよぎる。
「ね、ねぇ! どうなったの?! クリスは無事なの?!」
私を姉さんと呼んでくれたクリス。
戦闘では何時も矢表にたって私と共に戦ってくれたクリス。
リオにも話せないような話や愚痴を聞いてくれたり、また、私にも話してくれたクリス。
かけがえの無い私の大切な妹分……。
そんなクリスがまさか、嫌……、そんな……。
「大丈夫、生きていますよ……」
リオの言葉に私は胸をなでおろす。 ……生きていてくれた。
ホッとした瞬間再び私の瞳から涙が溢れ出す。
そしてリオは再び私の涙で濡れた頬を優しく拭ってくれる。
「さぁ、もう休んでください。怪我を治すためには何よりしっかり寝て休養するのが大切ですから」
「そうね。 でも其の前にクリスに会わせて」
私がそう言った瞬間リオの顔がこわばる。 それはほんの一瞬だった。
直ぐに笑顔に戻ったが其の一瞬を私は見逃さなかった。 な、何? 其の表情は?
そう言えば私が最初クリスの事を聞いたとき何だか話したくないみたいだった。
確かに『生きている』とは言った。 でも何故無事だと言わずそんな遠まわしな?
「今日はもう休みましょ……」
「ま、待ってよリオ! クリスに、会わせ……」
言いかけた私は突然強烈な眠気に襲われる。 瞼が重い。 意識が朦朧とする。
突如襲われた眠気に薄れ行く意識の中聞こえた唄とも旋律とも……これは――。
リオの顔を見れば申し訳なさそうな、心配そうな表情。 そして口元が静かに動いてる。
これ……はスリープ……の呪……文?
「ク……リ……ス……」
・
・
・
・
・
「体の方は如何ですかセツナ?」
「えぇ、そりゃあもう……、十分過ギル程睡眠時間取リマシタカラネ?」
そう言って私はリオを睨んだ。
私の視線にリオは済まなさそうな表情になる。 其の表情に胸がチクリと痛む。
本当は大好きな人をこんな風に問い詰めたりなんかしたくないけど……。
「今日はスリープの呪文なんかでごまかさないで。 クリスに会わせて」
私の問いに尚も口をつぐむリオ。 ……うぅ、だからそんな貌しないでよぅ……。
リオが訳も無く私の意に沿わない事をするわけが無い。だからいつもの私なら素直に従ってたろう。
でも今回ばかりは譲れない。
私は黙って身を起こす。
痛ぅっっ……! やっぱり体中が痛い……。
「セ、セツナ……!」
無理に体を起こそうとする私をリオは押しとどめようとするが――。
「お願い……、クリスに会わせて……」
リオが会わせたがらないと言う事はそれなりの理由があるのだろう。
そこまでして会うのを阻もうとしてると言う事はそれだけ怪我が酷いと言う事なのかもしれない。
其の姿に私がショックを受けないようにと配慮してくれての事なのかもしれない。
でも――それでも無性に逢いたくて仕方なかった。
あのコは――クリスは私のために酷い怪我を負ったようなもの。
だから、だから――。
「分かりました。 これ以上押し留めてもあなたは這ってでも行くでしょう。
そんな事されて怪我が悪化したら、その様な事は私も望みませんから」
そして私はリオに肩を貸してもらいながら進む。
やがてある部屋の前にきた。
「ココにクリスがいるの?」
私がそう問うとリオは頷く。 そして口を開く。
「ココまで来たら隠してもしょうがないから言いますね。
クリスはあれから未だ意識が戻らないんです。 目を……覚ましてないんです」
「……!」
「顔を見るだけですよ? 絶対安静の身なんですから。 クリスも、そしてあなたも……」
そして扉が開かれ足を踏み入れるとそこにクリスはいた。 全身包帯に包まれ痛々しい姿で……。
「クリス……」
私はそっと手を伸ばし触れる。 ――熱い。 筋肉が酷い炎症を起こしているんだ……。
私の両目から涙が溢れ出す。
「ゴメンね……ゴメンね……私のせいで……」
「……泣かないで、姉さん」
「クリス!?」
「意識が戻ったのですか?!」
私とリオが問い掛けるとクリスは微笑を浮かべる。 でも僅かに寄せた眉根から
本当は体が痛いのに私達に心配掛けまいと無理に作った笑顔である事が分かる。
「う、うわあぁぁ〜〜ん!! クリス! クリス! 私……、私、あんたにもしもの事があったら……」
「ゴメンね……姉さん。 ボクのせいで心配掛けさせちゃって……」
「ううん……! 悪いのは全て私……。 私が不甲斐なかったばかりに……」
その時そっと私の肩に置かれた手があった。
「リオ……」
「意識が戻ったので峠は越えたようです。 未だ予断は許しませんが、もう大丈夫でしょう。
さあセツナ。 あなたも酷い怪我なんだから戻って休みましょう」
「うん……。 じゃぁクリス……しっかり養生して良くなってね」
「ありがとう。 姉さんもお大事に……」
To be continued...
<チラシの裏>
,,,,,,,,,, | 体験したというよりはまったく理解を超えていたのだが……
|!| :|i| |
i!iYi!i. | あ…ありのまま 起こった事を話すぜ!
rァ゚A゚;).<
ヽ! ポ |> | 『おれは泥棒猫勇者を書いていたと思っていたら
| 何時の間にか百合っぽいのを書いていた』
……最近嫉妬修羅場成分が足りない展開で心苦しいですが遅くなっても必ず出します
えぇその為にコレットが居るわけですから
今のところ全然出番ないですがorz
</チラシの裏>
投下乙
百合百合しいのも微笑ましくていいなぁ。ええ話や
……でも、たとえば物語の最後で、この百合ん百合んな二人がコレット
なり誰なりの姦計にハマって疑心暗鬼のすえに憎しみ殺しあうことになっ
たりしたら、なんてことを想像するとたまりませんな〜。
それじゃ、投下します。
第2話「押しかけ女房」
西暦2001年8月30日 PM23:30 トーキョー都
吉倉徹(よしくらとおる)は溜息混じりにトボトボと歩き、帰路についていた。
あ゛〜〜疲れた……。さすがに合コンを三日連続したのは無茶だったかな?でも
それで何か成果があれば気持ちいい疲れって言えたんだけど……。なんで!!
なんでなんだ!!成果無しってなんなんだーーー!!
お持ち帰り、とは言わないけどせめて携帯の番号かメルアドぐらいは欲しかった
のに、それすら無いなんて!!!
結局おいしい所は他のやつらに持っていかれたし俺は元すら取れなかったよ………。
これを綾香が聞いたら
「だから言ったじゃない!!徹がモテるわけないのよ。もういい加減
合コンなんて止めたら?無駄な努力よ」
なんて言って喜ぶんだろうな……。
だが!!俺様はこの程度で諦めたりはしないぜ!!!いつか必ず運命の赤い糸が
導く女性を見つけだすんだ!!
おぼつかない足取りで何とかアパートまで帰ってくると、二階に上がる階段の所
に誰かが座っているのが見えた。
暗くてよく見えないが、近付いて見るとそれはよく見知った、幼馴染の山名綾香(やまなあやか)
だった。
「綾香?こんな所で何してんだ?」
綾香は一瞬不安そうな顔をしていたが、徹が一人なのを確認したら勝ち誇った顔をして
「ほ、ほ〜〜ら、だから言ったじゃない!!徹がモテるわけないのよ。もういい
加減合コンなんて止めたら?無駄な努力よ」
俺が予想した通り一字一句間違わないで言いやがって……。しかも笑顔でそう言われた
らムラムラと反抗心が湧くんですけど。
「うむ、確かに今回は成果無しだった。だかしかーーし!!「失敗は成功の母」
という言葉があるように今日の失敗を明日に繋げるんだ!」
「はあ…………。あのさ、失敗を繋いだらまた失敗しちゃうよ。そ、それよりさ……、
合コンで女の子見つけるよりさ、もっと身近な所から探してみたら?」
「うーん、身近ね……」
そうは言ってもな……。うちの大学にはロクな女はいないし、アルバイト先は男
だけだしな。
後は……ん?綾香の奴、何モジモジしてんだ?チラチラと俺の顔を上目遣いで
見やがって。トイレでも我慢してんのか?
「うん、いないな」
徹は自信満々に言うと、綾香は期待から落胆、激怒へと表情を変え、手に持っ
ていた荷物を投げ付けて
「バカ!バカバカ!!この唐変木が!!あんたなんか私が居なきゃ何も出
来ないくせに!一生独り身でいちゃえー!!」
言いたいだけ言って、泣きながら走り去った綾香の後ろ姿をボーゼンと見ていた徹
だったが、投げ付けられた包みを開けると徹の大好物のグラタンがタッパに入っていた。
「あいつ、また俺で人体実験しようとしたな?」
まったく……、幼馴染だからって俺に構い過ぎだって。いい加減彼氏でも作り
ゃいいものを。俺から見ても綾香はいい線いってそうだし、ショートカットが良く似合う
可愛い女の子だからモテると思うんだけどな……
綾香の気持ちを全く分かっていない徹は投げ付けられたタッパを拾い、二階
の自分の部屋に向かった……のだが、部屋の前まで来てある異変に気付いた。
「あれ?おかしいな」
自分の部屋の窓が明るい様子から、どうやら中の照明が点いてるようた
おかしいな……確かに消して部屋を出たと思ったけど、点けっぱなしだったかな?いや、確かに
間違いなく消した!!ということは……泥棒?ってそれもないか。大体電気を点ける泥棒もいないし
お金も無いしな。じゃあ……一体……
徹は恐る恐るドアノブを回してみると
「鍵は掛かってる?ますますわからん」
とりあえず鍵を入れて、鍵を外しドアノブをそ〜〜〜っと開けてみると
「あ、徹様!!お帰りなさい」
パタン
「ちょっと!!何で閉めるんですか?」
部屋で何か騒いでいる侵入者は置いといて、状況を整理しようとした。
え〜〜っと、ここは間違いなく俺の部屋だ。それは間違いない。そしてその部屋には何者かが
侵入していた。しかもメイドの格好で。う〜〜〜ん、よし!とりあえずコミュニケーションを
とってみよう!話してみないと判らないし、もしかしたら彼女が部屋を間違えているのかもな。
意を決した徹は今度は部屋に思いっきり飛び込んだ!
「お帰りなさい。どうしたんですか?」
「え、え〜〜っと、君は誰?……ってなんじゃこりゃーーー!!」
場違いなメイド姿に気を取られて気が付かなかったが、部屋の窓と周りの壁が粉々に砕けて辺り一面
ガラスと壁の破片だらけだった
「あ、これですか?「こっち」に来た時に勢い余って……てへ♪」
「てへ♪じゃなーーーい!!どうしてくれるんだよ!!こんなにぶっ壊して……いや、
今はそれは置いといて、君は誰??」
「あ、申し遅れました。私の名は瀬峰深海。貴方の奥さんです♪」
「システム、まもなく復帰します。」
「プログラムに問題ありません。ただ……」
「判ってるわ。後は向こうで対処するわ」
くそ……。結局姉さんが「跳んだ」正確なデータが分からないなんて……
ある程度予想していたけど、考えてみたら先手を取られっぱなしだわ!!
まあおおよその場所と時間は割り出したから、後は向こうで発見し即始末つければいいわ。
しかし、こうなることが分かっていたら生前に徹さんの詳しいデータを集めておいとけば
こんなことには……
まさか姉さんが徹さんに関する個人データの全てを消去していたなんて、準備が良過ぎるわ!!
まさに用意周到だったわね……。でも、こんなことで諦めないわ!!
必ず殺して、首を持って徹さんの墓前に報告するんだから!
他の誰でもない、私だけが姉さんを裁けるのよ。
積年の恨み……必ず果たす!!
でも……徹さんに会えるのは嬉しいな。
「部長!!データ入力完了致しました!!」
「システム復帰完了!!起動します!!」
電源が入り、モニターや計器盤が動き出し、スイッチパネルが点灯し晴海の座ってる椅子に
スポットライトが当たり目の前にモニターが現れた。
「マスター代理、こんにちは」
「早速だけど、一応確認するわ。瀬峰深海の入力したデータは残ってる?」
「いいえ。既に消去されています」
やっぱりね……分かっていたけど
「それじゃ、既にデータは入力してあるから始めて頂戴」
「了解致しました。それでは最終確認致します。目的地は「西暦2006年8月15日
国家不明 座標@#$、194、090」で間違いないでしょうか。」
「多分間違ってるんだろうけど、そこまでしか分からなかったからしょうがないわ」
「了解致しました。尚、持っていきたい物が有りましたら身につけておいて下さい。5分後
に「シューティングスター」発動します」
装備品を一通り確認し、深呼吸をして気持ちを落ち着かせて覚悟を決めた。
姉さん!首根っこ洗って待ってらっしゃい!!
そして、椅子の周りにエネルギーが集まりだして光り、晴海は消えていった。
「時間跳躍完了致しました。」
西暦2006年8月15日 PM22:00
「ここは……どこ?」
晴海が「跳んだ」先……そこは何やら薄暗い世界のようだ。一定間隔に蛍光灯が点いていて
地面にはレールとおぼしき物が……
「ここは……どうやら鉄道のトンネルか地下鉄なのかしら」
周りを見渡していたその時、遠くから警笛の音と2つのライトが迫ってきた。
「ん?……あ、きゃああああああああ!!!!」
気づいた時には電車の先頭車両が目の前にあった
GJッス
>>301 を見て
頭の悪いSSを思いついた
修羅場「彼は私だけのモノなんだからね、後から現れたあんた達が掠め取っていくようなマネしないでよこの薄汚い泥棒猫姉妹ッ!!」
ハーレム姉「あら?アナタこそ、幼馴染ってだけで、あの人を束縛する傲慢な女じゃない。
それに、掠め取って行く〜だなんて、人聞きが悪いわね」
ハーレム妹「私は・・・・あの人が私の事を・・・・少しでも・・・・・・
少しでも見てくれるのなら・・・・・・・あの人に他に好きな子が―――居たとしても・・・・べ、別に、構いません・・・」
ハーレム姉「アタシも妹と同じ考えだわ、彼の事は好きよ。だからこそ、拘束なんてしたくないの。
彼に重荷を背負わせたくないもの、恋人なら当然の配慮よねぇ・・・?」
修羅場「ッ・・!!どういう意味よッ!!私が彼にとって重荷とでも言うの!?」
ハーレム妹「・・・・そうですよ。・・・・そのとおりです。・・・貴方の・・・・あの人に対する・・・猜疑心は異常です・・・
クラスの女の子と喋っただけでビンタだなんて・・・・・・・ありえません」
ハーレム姉「アナタって自分の事ばかりで彼の気持ちなんて考えた事も無いでしょう?」
ハーレム妹「・・・・・・最低です(ボソッ」
ハーレム姉「最低ね!!」
修羅場「・・・そ・・・・・・こと・・・・・・・・いもん」
ハーレム妹「・・・・・・・・・何ですか?・・・・・」
ハーレム姉「聞こえないんだけど、言いたい事があるならはっきり言ったら?」
修羅場「・・・・・・・・・・・・グスッ・・うっ・・・ううっ・・・・、そんな事ないもん、わたしOOちゃんの事考えてるもん
OOちゃんだけがわたしの白い髪綺麗だねって言ってくれた時から、ずっと、ずッッーーとOOちゃんの事だけ考えてるもん
皆、子供なのに『シラガ』だって、不気味だって!・・・ううッ・・・。でも、でもっ」
リクエストのあった「分裂少女」ですが、最終回の「結」は完成しました
ので、このスレが470Kぐらいになったら投下します
>>325 やべぇ、何か分からないけど俺の中でこの作品には
神が宿っているという電波が着てる(*´д`*)
続き、楽しみにしてます
>>325 姉妹だけかと思ったら幼馴染まで。GJです
とりあえず徹がモテないのは空気読めな…くぁwせdrftgyふじこlp;
姉の策略によって妹が早くも脱落か(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
投下しますよ
軽音。
場所は虎徹ちゃんの部屋の前、ノックをしても返事は返ってこない。それも当然だろう、
今日は青海ちゃんとデートだと言っていた。先程時計を見たときは針は三時を指していた、
今頃は二人で仲良く軽食でも食べているのだろうか。駅のホームで待ち合わせと言ってい
たから、どこかあたしの知らない遠くの場所で、あたしの知らない店で、あたしの知らな
いものを食べているのだろう。
軽く吐息をする。
最近、知らないことが増えてきた。少し前までは虎徹ちゃんのことで知らないことは、
全くと言っても良い程になかった。あたし自身が色々と訊くこともあれば、虎徹ちゃんが
自分から話すことも多かったからだ。時には嬉しそうに、時には悲しそうに、様々な表情
を浮かべてたくさん話をした。しかし、その量が減ってきている。
気遣いなのかな?
目の前の部屋の主は今はここに居らず、言葉を吐くのは無意味だと思ったから、口には
出さなかった。だから正しい答えがどんなものなのかは分からないが、どんな答えが来る
のかはなんとなく分かる。多分虎徹ちゃんは、苦笑して首を振るだろう。これはあたし達
家族に共通することで、本当のことを伝えないようにすることで本心が相手に分かる言動
をしてしまう。矛盾で意思を汲み取るなんて、それこそ矛盾していると思う。
おかしいね?
足下にじゃれついてきている呑助ちゃんに視線で問掛けると、欠伸を返された。呑気に
目を細めながらもしっかりとこちらを向いているその行動は、本当に虎徹ちゃんに似てい
ると思う。この仔は本能で動いているだけなのだろうけれど、それでも姿が重なって見え
てくるから不思議なものだ。
喉を軽く撫でた後、戸を開く。視界に入ってくるのは見慣れた、それこそ何年間も見た
部屋の風景。改めて視界を回してみても、いつもと何も変化がない。虎徹ちゃんが中学に
入り、この部屋を手に入れてから使い続けているものが多く、更にあまり物を置いている
訳でもないので余計にその印象が強くなってくる。一歩踏み込んでみれば、尚更顕著だ。
箪笥を開き、手元の籠から洗濯物をしまい込む。虎徹ちゃんは物持ちが良いから衣服の
枚数がとても多く、しかもそれは見慣れたものばかりだ。その中の一枚を手に取って鼻に
押し当てると、洗剤の薫りに混じって僅かにあたしと虎徹ちゃんの匂いがする。普段なら
ここで多少妙な気分になるのだが、今は不思議とそうならなかった。あたしはシャツを顔
から離してしまい込むと、引き出しを閉じて立ち上がった。
不意に、違和感。
少し考えてみて、どこがおかしいのかがすぐに分かった。あたしの胸の高さ程、棚の上
にコンポが置いてある。更にその上、写真立ての役割をしているコルクボードの右上に、
見慣れない写真があった。
殆んどの写真が虎徹ちゃんとあたしとサクラちゃん、その三人が写っているものだが、
その中で毛色が少し違うもの。写っているのは、虎徹ちゃんと、
青海ちゃんだね。
『極楽日記』で撮ったのだろう、見慣れた椅子やテーブルの上、少しぎこちない笑みを
浮かべた青海ちゃんとはにかんだような笑みの虎徹ちゃんが居る。仲睦まじく肩を寄せて
いるのはあたし達の写真と同じだけれど、意味は全然違うものだ。
こんな写真があったのに、何で気が付かなかったんだろ。
数秒。
コルクボードを手に取り、ベッドに腰掛けたところで気が付いた。初めて虎徹ちゃんと
セックスをした日から、洗濯物をしまいにくるとき以外は全て夜だった。罪悪感からなの
か洗濯物を箪笥に入れた後はすぐに部屋を出ていたし、夜は行為が終わった後は部屋へと
戻っていたからだ。灯りも点けず、行為に集中して、今までは朝まで添い寝をしていたの
も止めた。そんな状況だったから、気が付かなかったのは当然のことだろう。こんな些細
なことだけれども、気が付かなかったのは心に大きな波紋が広がった。
気が、付かなかったんだね。
そこで、先程部屋に入る前に思い浮かんだことが蘇ってきた。
今のこの写真も含めて、知らないことばかりになった。近付こうとして、一番近い、隣
に立とうと思って、計画を立てて、実行して、それなのに離れていっている気がする。
夜にすることだっていつの頃からか虎徹ちゃんは怯えたりすることは少なくなってきた
けれども、逆に昼に話をすることは少なくなってきてしまった。最近はあたし達に対する
態度も以前と変わらないものになっているし、それはそれで嬉しいと思う。けれども、気
を遣っているのか青海ちゃんのことは口にしないし、そうなれば必然的に会話の量も減っ
てくる。認めるのは少し悔しいけれども、実際に放課後は虎徹ちゃんの隣に青海ちゃんが
居て、それが日常になってきているからだ。責めはしない、けれども寂しい気持ちがある。
どうなるんだろうね?
呑助ちゃんを拾いあげてベッドに乗せ、音をたてないようにコルクボードをコンポの上
へと戻す。振り返れば、気に入っているのか呑助ちゃんは虎徹ちゃんの枕の上に頭を乗せ、
目を細めて窓の外を眺めていた。
添い寝するようにベッドに寝そべり、軽く目を閉じる。思い浮かんでくるのは、今まで
の日常、そしてここ二周間の経験だ。虎徹ちゃんの添い寝をしていたことも、セックスを
していたことも、あたしの中に確かな経験として存在する。そしてどちらの方が気持ちが
良かったのかと訊かれれば、多分あたしは前者と答えてしまうだろう。体の快楽よりも、
側に居る心地良さの方が圧倒的に比重を占めている。
どうなのかな。
頭を撫でると、身を回して呑助ちゃんが擦り寄ってきた。密着状態になると体温が直に
伝わり、手指で触れるよりも遥かに強く存在を感じることが出来る。今までもそうだった、
虎徹ちゃんを抱くと安心して眠ることが出来たし、目が覚めた後も隣に居るということが
感触よりも体温で伝わってきて気持ちが良かった。
なのに、どうしてこうなったんだろうね。
今は家に誰も居ないので、答える人も当然居ない。しかし、答えはやってきた。
あたしの、せいだ。
個人の勝手な独占欲で周りを動かして、今は独りでこうしている。呑助ちゃんには申し
訳ないけれど、久し振りに日の出ているときに虎徹ちゃんのベッドに横になっている今、
隣にはやはり虎徹ちゃんが居てほしいと思ってしまう。
自業自得だよ、とあたしの心の冷静な部分が呼び掛けてくる。その言葉はきっと正しい、
今になってやっと後悔をし始めたのだから、遅すぎたくらいだ。少し前からその気持ちが
あった、というのも多分言い訳にならない。最近はサクラちゃんが青海ちゃんに対して、
少し攻撃的になりすぎていて、それを抑えているのはあたしの役割になってきていたけれ
ども、それを招いたのは自分の責任だから寧ろ当然だ。今になって自分の気持ちを理解し、
やっと追い付いてきたから自分は心底馬鹿だと思う。
ダメダメだね、本当に。
自嘲するように考えて、枕に顔を埋めた。鼻先に虎徹ちゃんの使っているシャンプーの
匂いが漂い、改めて失いたくないと思った。しかしそれは男の人ではなく、家族としての、
大切な繋がりを失いたくないという気持ち。
「ありがとう」
そしてごめんなさい。
あたしの初恋は漸く終わった。
残るのはサクラちゃん、あたしの責任だからあたしが仕切らなければいけない。
今回はこれで終わりです
姉虎改心っぽいです
お姉ちゃん…いい子だね。・゚・(ノД`)・゚・。
これで青海タンと妹との勝負になるのか
虎百合さん……あんた素晴らしい人だ(つД`)
「まぁ……もう大丈夫だろ。早めにいくか。」
別にやることもないので、早めにセレナの病室に行くことにした。見舞いの花束は持ったし……
エレベーターに乗り、セレナの病室の階まで行く。どうもこの病院特有の匂いは好きじゃない。まあ好きな奴なんていないか。
意味も無いことを考えていると、すぐにセレナのいる病室までたどり着く。もう何度も足を運んでいるのだが、どうしてかここで緊張してしまう。
ガチャ
開けたドアの奥に広がるのは、殺風景な病室。いかにも綺麗にしてありますっ、てぐらいに白い壁や天井。そしてベットの上には……
「来たぞ、セレナ……」
呼び掛けるが、相変わらず返事はない。腹の傷は浅いものだったため、それほど大袈裟なことにはならなかったのだが、何故か意識だけが回復しない。
医者が言うには精神的なものだと言うのだが………きっと原因は俺にあるんだろう。ほとんどの記憶を取り戻した俺は、もうセレナを愛することは無理かもしれない。ただでさえ記憶を失ってた時もギクシャクしていたんだから。
でも……葵はもう死んでいるんだ……
「……ごめんな、セレナ。」
罪悪感にかられ、セレナの綺麗な髪をそっと撫でる。外国の血が混じった、天然の茶色だ。眠っていてもなおその整った顔は崩れない。
「……はぁ。」
無意味な溜め息をし、立ち上がろうとする。意識の無い人間相手に、いつまでもこうしていたって意味が無い。
「じゃあな、また来るよ、セレナ。」
そして立ち上がった時……
ガシッ!
「うおっと!?」
いきなり腕をつかまれ、思い切り引っ張られた。こんなことするのは一人しかいない!
「せ、セレナ!?」
セレナが薄目を開けたまま、物凄い力で俺の腕を引っ張っていた。さっきまで意識を失ってたというのに、いったいどこにこれほどの力が……
「セ、セレナ、ちょ、痛いからはなせって!」
そう言ってふりほどこうとするも、相変わらず力は込められたままだ。
「…や…」
「は?」
そんな俺をみて、セレナは何か小さくつぶやく。下をうつむきながら言ったため、よく聞こえない。
「やだ!やだ!絶対に放さないもん!」
そう叫んで顔を上げたセレナの目には、溢れるほどの涙を溜めていた。
俺の腕を振り回すように、ヤダヤダとだだをこねるセレナ。その姿はまるで子供そのもの……幼稚化したようなものだった。
「お、おい!落ち着けって!セレナ!」
「じゃあ、ずっと私と一緒にいてくれる?もうどこにも行かないって約束してくれる?」
「あ、ああ……ここにいるから、な?」
「うん!」
本当に子供のような笑みを浮かべ、今度は体に抱き付いてくる。そんなセレナの背中を擦りながら、片方の手でナースコールを押す。
『どうかしましたか?』
「あ、セレナの意識が……いででで!」
コールに出た看護師さんに状況を伝えようとすると、セレナが怒った顔をしてほっぺたを抓ってくる。それがまた目茶苦茶痛い。
「ねえっ!誰と話してるの!?女の人の声聞こえたよね!?私がここにいるのに、ハルちゃんのばかっ!」
ぎゅううう!
「いでーー!は、ハルひゃん?」
『だ、大丈夫ですか!?』
「は、はひ、大丈夫でふけどはやくきてくらはい。」
『は、はい!わかりました!』
それからすぐに担当医と看護師がきて、やっとセレナをはがしてくれた。
それでもまだセレナは嫌がって、必死に俺を掴もうとしていた。それはまるで子供が大切なおもちゃを取り上げられた様子そのものだった。
それからしばらくし、やっとのことでセレナが落ち着いた。俺は病室から出され、診察が終わるのを待っている。……さっきのセレナ、なにか嫌な予感がする……
ガチャ
「ああ、ここにいたか……」
「先生…」
先生は俺をみるなり、深刻そうな顔をする。どうやら俺に話したいことがあるというので、場所を変えることにした。
「それで…セレナは?」
「うむ……まぁ、知り合いの君ならわかるかもしれんが……あの娘は前からあのような性格だったのかね?」
「いえ、……あんなに子供っぽくは……」
確かに騒がしいほうだが、今のセレナは前と比べて何か違う。
「やっぱり……か………彼女は恐らく、幼稚化している。小学生と同じぐらいの精神になっているだろう。」
「やっぱり……」
なんとなくそんな気はしたんだ。だが、先生の暗い声はまだ続く。
「そのせいかもしれないがな……彼女、記憶喪失になっているな。なにも覚えて無いらしい。」
「そんな……」
記憶喪失だって?俺が戻ったと思ったら、セレナが?
「だが、何故だかはわからんが、……晴也君、だったかね?君のことだけは鮮明に覚えているんだよ。」
「俺……だけ……どうして俺だけなんです?」
「うーん……それは……医者の私が深入りしていいかもわからんが………君とセレナさんの仲というのは………」
ああ、そうか。いくら先生でも患者のプライベートに立ち入るのは気が引けるか。でも……なんて答える?恋人?でもそれは記憶喪失だった俺に吹き込んだ嘘だったんだ。
でも…ただのバイト仲間なんかじゃ怪しすぎる。俺以外を忘れるぐらいなんだから。
「……俺と…セレナは…付き合ってます……」
それを聞くと、先生はふぅ、と溜め息をつく。
「まぁ…そうとは思っていたが………なんだな、記憶喪失になっても、あれだけ君のことを思ってくれてるなんて、よほど君を好いてるんだね。さっきの診察も、君のことしか話してくれなかったよ。」
ハハハと笑いをこぼす先生。俺はそれに愛想笑いで答えるしかなかった。……そのときは、葵への罪悪感でいっぱいだったからだ……
先生が言うには、セレナは精神的に非常に不安定らしい。そのため、常に俺にそばにいて欲しいと、すまなそうに頼んできた。
……今回のことはすべて俺に原因があるんだし、当然その頼みを受け入れた。でもそうなると葵を探す時間が極端に減る。もしこのまま消えてしまったら……
それだけは嫌だ。こんな後味の悪いまま終わるだなんて。でも………セレナはそんなにも俺を……
「………」
結局考えもまとまらないまま、病室の前まで来てしまった。先生からは二十四時間いつでも来て良いと言われたので、遠慮なしに入れるのだが………
悩んでも仕方ない、入るか。
ガチャ
「あ、ハル!」
「っとと……セレナ、大丈夫なのか?」
入るなりいきなり飛び付いて来るセレナ。
「え?なにが?」
「いや、傷……」
「ううん、別に体におかしいところなんてないよ?」
「そっか……」
自分で体を刺したことも忘れたのだろうか。
「ねぇ、今日はもうどこにもいかないよね?ずっと一緒にいてくれるよね?」
必死になって、服を掴んで聞いてくるセレナ。
「ああ…一緒にいるよ。」
そんなセレナを拒否することは出来なかった………
というわけでAルートから。頑張ってBも書きたいかと。あと訂正で、Aルートのサブタイトルの『愛しき過去よ、さようなら』を、『愛しき過去よ、さよなら』にお願いします。
葵と付き合ってた過去をさようならになんかできないよ!
でもセレナも好きだ!幼児化(*´Д`)ハァハァ…
セレナの依存振りに萌えた
まとめサイトの更新は?
よくみると20日も更新してないな
阿修羅氏も新婚で色々忙しいんだろ。
しょうがない気楽にまとうぜ。
阿修羅氏をたぶらかす新妻に嫉妬
捨てられた事に気づかないなんて可哀想な子ね。フフフ…
>>347 作者様GJっす
依存って素敵(*´д`*)
>>353 捨てられたわけじゃないもん、今は新妻に貸してるだけだもん
阿修羅さんはいずれ私の元に帰ってくるわ
このスレもようやく終焉を迎えようとしているのか・・
いい思い出をありがとう
そんなはず無い!私を見捨てるなんてそんなはず無いもん!!
ちょっと待って。
どうやら私たちはとんでもない思い違いをしていたようだわ。これを見て。
『阿修羅は妻である私の物よ!!
他の女なんかに誑かされない様にしっかりと繋ぎとめておかなきゃダメなんだから。』
つまり・・・まとめサイトが更新されないのは、阿修羅さんが新妻に監禁されているからなのよ!!
だから今までのスピードが異常すぎたんだと何度も(ry
お前ら贅沢なんだよまったく
>>341 作者様GJです!
セレナの嫉妬と壊れっぷりにハァハァしちゃいました
とても好きですこの作品
>>358 まあまあ、そうカリカリすんなよ。
俺たちは黙って神を待とうぜ。どうしても、我慢できんのなら
自分が神になるんだ。
終焉終焉いってるやつは同一人物だろ
まぁ、こういう輩は無視って事で。
つーか、ブラマリ読みたい
SSまとめ読むと続きが気になり過ぎて身悶えするよなー。
まとめ読んでたら朔さん分とモカにゃん分が不足してきた・・・
俺なんて姉分を補充しようと自家発電を試みたが五分で挫折したぜ
SS職人は偉大だわ
| l l .| | |.l | l | .l | ヽ. \. \. \ \丶.\ ヽ ヽ ヽ ヽl /l
| | | | l .| .| l .| l .l ,,,,,、ヽ‐''"~"''‐ \. \ '"~~~~""'''‐- ,_ ヽ. ヽ ヽ l //
. l.|. l l l l l l | .l._!、-''"'~ \ ヽ ヽ \ ~' -、"'‐ ,_ ‐-、~"'‐\ ヽ i.ヽ _,i//
. | l l l .l l l. l l/ヽ _,,、-‐‐\ \ 、 ヽ、_ ~"''‐‐‐--,,,___________!___!_,、-''_. イ
l l i. l .l. ヽl. l ヽl l ._,、.'",、-‐'''、~iヽ.、 \~"'‐- /~''-イ~~,"''''‐-、 __________,,,,,,、-‐''~ .|
! ヽヽ .ヽ ヽ ヽ ヽ .l./ /-,{:::。::::} .|' \ \ ./ l~"{:::。:::} \""'トヽ/. | l. l
ヽ\ヽ. \ヽ ヽi /,ヘ-' ヾ;;;;;ツ / l\. \l _l_ ヾ;;;;;ツ /ヽ\l 〉ヽ |.l l. |
. | | ヽ、 \ヽヽ、|  ̄ヽ,_,、-‐''"~" .l_,、--、,|\ ~"'''‐-,ノ  ̄ |/i. ヽ l .l .l .|
. | | |. \_ヽ\、| /-‐''''‐-lヽ、ヽ /ノ| i / | l .|
l l .l | .|~''-|,,_ヽ / /| ヽ `~"''‐‐' /i/|. l | l / .|
l .l .l l |.l l\~ヽ , /. ヽl \ ,,/ ./~/l l | |.l/ ./
l .l l l |ヽ .| iヽ,ヽ ~"''''‐‐‐‐''~ ~"''‐‐‐-''~ /-' l .// l/ /
ヽヽ l.ヽヽ.l .l /.ヽ ,____,,,,____, / l l / / /./
ヽ ヽ \、.|./ /. ヽ ... / ヽ l/ /i /.//
/ヽ ヽヽ\ // / \ /\ ヽ/// /ヽ
// l.ヽ ヽヽ/\/ / \ ./、 ヽ/ / /l l. iヽ
// |l lヽ.ヽ// /\/ / | ヽ、 , - ~ |ヽ ヽ、 /ヽヽ/ / l l l \
私が怖い?
そんなことを言う人にはおしおきです
帰って!帰って帰って!!
このスレにまで来ないで!!!
>>369 まぁちょっとショックが大きかったからね・・・
途中までは良かったけど主人公が○○しちゃってからはちょっと・・・
|ω・`) そろそろ涼しくなってきたし、山本君の姉は帰ってくるかしら・・・
|: : | _,, --―― - - 、
|: : | ,. -''" : . :: . : . : . : . : . : .`゙ヽ、
|: : |/.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:... \
|: : |:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ヽ ヽ
|: : |:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/:.:.:.:.:.:./:.:.,イ:.:.ヘ:.:.:.::.:ヽ:.:\
|: : |:.:.:.:.:.:.:.:.::/:.:./:.:.:/:.:.:.ノ'/:/''''ヽ::.:.:.:.:ヽ:.:ヽ
|: : |:.:.:.:/:.:.:./:.:/:.:,ィ:.:.:.:/ /:/ |:ト、:.:.:.:.:ヽ:.:ヽ
|: : |:.:..:i:.:..::/:/レTナ:/ //-- 、|:| i:.:.:.::.::.:iヾ:゙i
|: : |:.:::i:.:.:,イ/ レ'|/ // _ !ト、i:.:.::.i:.::|!:!
|: : |:.:.i:.:..i レシン夭゙` /' r=ニメ }:.:.:.:i:.:.| i!'
|: : |:.:.i:.:.:k;//;;;;;;;:i : / :.;;;,;;ハヾ; i:.:.:.i !:.:! !
|: : |:.:.:!.:.:i ゙、;;;;;;;;::ノ; :;;;;;;:},.' ノ:.:.ノ !:ノ /
|: : |:.:.:.!:.! ゞ''⌒ ゞ< イ:.ノ! ノ >>だって、ま(ry君の
|: : |:!:.:.:゙、.ヽ r、_ ' ヽ /:.:.:.ト、 彼女は私ですから…
|: : |!:.:.:.:.! \ ヽ ̄ ̄/' /:.:.:.:.|i ゙、
|: : |:.:ヽ:.:.:.! \ 丶--', イ!:.:.:.:.:.:.: !i ヽ
|: : |:.:.:.゙、:.:.:.:i ` ー-, イ:::::.:!.:.:.::.::.:.: |:i ゙、
|: : ト、:.:.:.::.ヽ:.i |:::::!:::::::.!:.:.:.:.:.:.::.|::i ヽ.
|: : |弋:.:.:.:: \i、 !ヾ、!__::::.!:.:.:.:.:.:i |:.:i ヽ
|: : | ヽ:.:.:.:.: ヽヽ、___ ヽ \ヽ!:.:.:.:.::.i |:.:ヽ. ヽ
|: : | ヽ:.:.:.:.:.:.:.ヽ \_ } }:.:.:.:.::.:i:ト、:..ヽ ヽ
|: : |、 ヽ:.:.:.:.:.:.:.:ヽ`ー、`ー、ノ ハ:.:.:.:.:..:i \:.:゙、 ヾ、
|: : | ヽ ヽ:.:.:.:.:.:.:.:\ ヽ \/ ヽ:.:.:.:.:V }:.:.i i::i
|: : | ヽ ヽ:.:.:.:.:.:.:.:.ヽ ノo人 \:.:.:.V |:.:.:i i::i
こんな彼女が欲しいと思っていた時期は
今もそう思ってます
ねえ……田中くん……駒大に進学、するんだよね?
希望枠で日ハムに来てくれるんだよ、ね……。
黙ってないで何か言ってよ!!!!!
>>367 >>371 おまけ
. / '´, ' / , ,...:.:.':.´:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:`:.:.:.ヽ ヽ 冫:;ィ::::;' __
'′/ ,/ /':.:.:.:.;:. -―¬¬¬―- 、:.:ヽ ヽ/:/,.l:::::l':´_ハ
/ .,.,'' , /:,: '´ ` ', ',//;:l::::;'´ /:::/
,' // / ,'´ i l ! . | ! , r '´ l::〈 /::::ノ
i /.,' / l i l __tハ l ! .| t T¬ ト l、 ! ト、 !:::l /:; '
l./ .l ,'! l ,レ'T´ ll! !.l, l li. |', ト, _!_l `! lヾ':.l::::!l::::l
l,' l ! ! ! l', l ,ゝェ 、',|',l',. ! !.l >' ,r 、 ヽ,,'l l::ヾ:!:::|.l::::!
! l ! ', . l ' / /.n.',` .'|',| '! l 0 l '' ! .l;:::l::ー':;'::/
', !. l '., ',::''::.ヽニ.ノ, .: ::... ミニ'r l. ! ll::::ト:ヾー'
', ! ! ヽ':;:::.` ̄ ..::. ,' . l. !l::::! ';::':,
', l l ';`::::.. .::::::' ,' l !.';:::', ':;:::':,
'.,! ! ';::::::::...:::::::::r--ァ ..;' .l l! l ';:::', l';::::',
. ! l lヽ:::::::::::::::::ー.′ ..::;:;' l .l! ! ';:::':!,';::::',
! l !. ! ` 、::::::::::: ...::;:::'::/ ! ,'!. / ヽ::::':,!::::!
! l .l .l ! `ヽ:、:;::::':::::::/ ! ,','./ l ヽ:::';:::l
このスレの住人じゃなきゃトラウマ復活だなこのAAの羅列
泥棒猫とか殺しちゃうまでは行かないSSですが投下させてください。
ご迷惑とかタイミングが悪いようなら控えます。
題は 「押しかけ三角、また来て修羅場」
〜嫉妬と喧嘩は女の華?〜
を予定しています。 いかがでしょうか?
どんどんよろ
かもーん
嫉妬ブームの終焉が始まりました!!
プロローグ
「ユウ、私は神様の前でユウを助けるって誓ったんだよ」
ああ、これは夢だ、昔の夢。サンフランシスコのあの家の庭。今は他人の家になったあの家。
「だから、話して? なんでもいいんだよ。……私のことを好き……でもね」
エレメンタリースクールで一番チビだった俺。さえない東洋人の少年であったあの頃の俺は、毎日学校に行きたくないって泣いていた。イジメもあったし、孤立もしていた。
クラスが同じだったクーは日常の挨拶を交わす間柄だった。ただし初めは顔見知り以上でも以下でもなかった。
「ユウ、私はユウの側にいるよ。ずっとずっといるよ。それが約束だから」
寄り添ってくる金髪美少女をみながら、そのとき俺は別のことを考えていた。
彼女との関係が変化したのは、スクールに入り込んだ犯罪者が原因だった。
銃を乱射しながら教室に立て籠もったヘロイン中毒の犯人は、女子達を裸にして盾とした。
男子達はだれも抵抗できなかった。それはそうだ、7歳の俺達から見れば犯人は巨人のように獰猛で恐ろしかったからだ。
ただ、俺だけが別だった。強盗が来たその日もこっぴどくやられていた。
だからどす黒い絶望に心を染めて、死んでもいいや、銃で撃たれたら楽に死ねるかななどと考えていた。いや毎日死ぬことを考えていたが、自殺する勇気が無かっただけだった。
それゆえこの事件が、絶好の機会なんだと俺は思いこんだのだった。死ぬにしても何か良いことをしてから死のう、そう考えたのだ。
今いったいどれくらい人がいるのだろう?点呼でもするか、修羅場台詞を言いながら。
「貴方なんかに・・・・・・・貴方なんかに彼は絶対渡さない!」て具合に1です。
おのずから行動は無謀きわまりないものになった。盾となった女子以外、全員が床に伏せている中、俺だけは犯人の後ろにそっと這っていった。教師が目をむいて身振りで制止したが、見えない振りをした。
そして、静かに立ち上がり、倒れている椅子を持ち上げて、全力で振り下ろした。
その後の事は思い出したくもない。
犯人は気絶するどころか痛みで逆上し、俺を持ち上げると口に銃を押し入れた。
そして口汚い訛りだらけの言葉で、殺してやるこのクソ餓鬼みたいな事を口走った。
俺はといえば、ようやく本当の死の恐怖を思い知り、体の震えが止まらなくなっていた。
目の前の黒いガンサイト、その向こうの犯人の血走った目、舌がしびれるほどの冷たさ、上あごにあたるごつごつした痛み。
いまでもそれを思い出すと体が震える。「死」。そのとき俺の脳裏をその単語だけがぐるぐる駆けめぐっていた。
そして気がついたとき、頭から血を出して犯人は倒れていた。
警官が、教師が、親が、マスコミが、何か口々にわめいていた。手と顔に白っぽい灰色の何かがついていたのを覚えている。
クーは彼女の両親にすがって泣いていた。それが一連の事件で俺が最後に覚えている光景だ。
その後俺はしばらく入院していた。退院すると学校での俺の扱いは一変していた。
なんだ、こんなものかと思いながらも、俺は彼らに合わせていき、いじめは終わった。
彼女が俺にまとわりつきだしたのもそれからだった。
だけど母は俺の変化を察していたらしい。そして父もしばらくしてそれを理解したようだった。半年ほどカウンセラーに通った後、両親は俺を日本に帰すことを選択した。
どこかでベルが鳴っている。
「ごめん、クー。僕、日本に帰ることになったんだ。だって目覚まし時計が鳴っているから」
そんな事は言っていないぞと頭の片隅で否定して、目が開いた。
ここは日本。関西の港町にある祖父の家、その俺の部屋。今はもう10年もたつ。鳴り響く目覚まし時計を止め、俺は起きた。
反芻するほど甘美な思い出ではない。だから夢のことはすぐに忘れて登校した。
プロローグ終
第1話 「押しかけ金髪!」
「というわけで、交換留学生が、我がクラスにやってくるのです」
明るく美人で眼鏡をかけた、我らがいいんちょ、高村文華(あやか)が楽しげに朝のHRで報告をする。
「で、柴崎君、男、女、どっちなの?」
「詳細不明」
俺に振られるが、学年主任教諭から口頭での伝達、しかもこのクラスに来るからよろしく程度しか聞かされないので、詳細情報は不明。
留学生に興味がないのでつっこんで聞くつもりも無かった。
ざわついていたクラスからブーイングが巻き起こる。
「情報収集がたんねーぞ」「空気よめないわね!」
抗議の声に耳を貸さずに俺は答える。
「どうせ来たらわかる。それに知りたければ自分で聞きに行ってくれ」
「まあまあまあまあ、柴崎君。……みんなも、もうすぐ留学生が来るそうだし、ちょっと待ってね」
「いいんちょが言うならしょーがねーな」「だけどね〜」
高村さんのカリスマが皆の不満を沈めた。つくづく俺がクラス委員なのは間違いだと思う。
だが高村さんは違う。身長は160ぐらい。さらさらした長い黒髪、まるっこいフレームの大きな眼鏡、その奥のきれいで大きな瞳、暖かみを感じるきれいな顔立ちと、それを彩る明るい表情。
もちろん学業の方も優秀。そしてクラスをまとめる手腕、リーダシップ、真面目さで、俗に言う委員長をイメージさせる。
同じクラス委員と思えないくらい、男女問わず人気ものである。
だからこそ親しみをこめていいんちょと呼ばれている。まあ、クラス委員の呼び方で、俺とごっちゃにされれば、彼女が可愛そうというものだ。
そんなことを考えていると扉が音をたてて開いた。担任の熊五郎が入ってきたのだ。
熊五郎は、大野吾郎というのだが、体が大きくひげもじゃなのに表情が柔和なので、熊という感じがするそうだ。
そこから誰とも無く熊五郎というあだなになっている。
「おはよう、みんな。クラス委員、伝達事項は終わったかぁ?」
「今、終わりました」
高村さんが艶のあるソプラノで答える。
「よーし、君、入ってこい」
熊五郎の声とともに、人影が教室に現れ、……男子のどよめきがわき上がった。女ということらしい。
「じゃあ、まもなく授業だし、簡単に自己紹介をしてくれ」
教壇にたった金髪女生徒に熊五郎はそれだけを言うと、椅子にどっかりと座り、自己紹介に目もくれずノートを取り出した。
「こんにちわ、クロエ・ヴェレンタイン・マクフライです。サンフランシスコから交換留学にきました。友達には日本の人が多かったので、日本にはとても興味がありました。
ですので、こうやって来ることが出来てとてもうれしいです。仲良くしてください」
ゲルマンではなくどことなく優しいケルト系な顔立ちながら、豊かなハニーブロンドと知性をたたえたブルーの瞳を備えたアメリカ人は、モデルでも通用するようなたたずまいだった。
それが流暢に日本語を操る様は強烈な違和感を感じさせるが、それもまた魅力だった。
「ということで、みんな、彼女をよろしくな。じゃあ、マクフライ君は空いている席に座ってくれ。さて、それでは授業を始めるぞ」
熊五郎が立ち上がって教卓の前に陣取った。いつもと変わらない時間の始まり、そのはずだった。
休み時間はお約束のようにクラスメイトが、彼女を囲んだ。
俺はというと興味がなかった。美人だから俺が相手しなくても、男子生徒達が勝手に相手するのは間違いない。
仕事が一つ減ってラッキーということで、俺は地図と時刻表をかばんから引っ張り出し、調べ物を開始した。休みには自転車で一人旅をすると決めたのだ。
資金はすでに準備して、装備もかなり整っている。今は楽しく計画をたてるときなのだ。
そういう調子で昼休みになり、用意していたパンとコーヒーを、資料とともに取り出して、計画の続きを行おうとしたとき、邪魔が入った。
「柴崎君〜。きみはいったいさっきから何をしてるのかなぁ?」
ひろげた地図の上に覆い被さってきたのは、高村さんだった。
「クラス委員ってことを忘れていない? マクフライさんをいろいろと案内してあげなきゃだめでしょう?」
俺は一つため息をついた。
「いいんちょ。俺は女は苦手。留学生は男連中に任せりゃ適当にやってくれるって」
と答えていると、高村さんが微妙な表情をして俺の後ろを見た。同時に背後から声がかかる。
「ユウ?」
「え?」
その独特の発音で俺を呼ぶ人は日本にはいない。
振り返ると、留学生がすぐ後ろにたっていた。青い瞳に何かに耐えているような色をたたえている。
「……あなたがクラス委員のユウ・シバザキですか? できればあなたに案内をお願いしたいのですが?」
「……あー、確かに俺はクラス委員だけど……俺は事務担当ということで……高村さんに頼んで……」
「ユウ! ……酷い。どうしてユウはそんなに薄情なんだ。10年ぶりに会えたのに!」
突然の留学生の叫びに驚愕しつつ、俺は必死に過去を検索した。だが目の前の金髪超絶モデル美人と、俺の過去はつながらない。……いや本当は一人いる。いるが……
「……いや、まさか」
金髪美人の顔がぱっと輝く
「……まさか、クー?」
その言葉で、クロエが輝くように笑みを浮かべた。
「ユウ、……やっと会えた」
ドンと柔らかな衝撃が走り、俺の胸に金髪頭が入り込んでいた。ついでに弾力のある丸みも二つ感じる。
金髪から甘くかぐわしい臭いがした。
教室が沸いてざわめきが満ちる。ついあたりを見回すと、高村さんがにらんでいたが、俺の視線に気付くとなぜかあわてていた。
周囲の好奇の目が容赦なく俺達をなめ回すのを知って、俺は居心地の悪さを感じ、抱きつくことをやめないクロエに声をかけた。
「ちょっと待った、クー、ここじゃ都合が悪いから……場所をかえよう」
十数分後、俺達は裏庭の芝生に座っていた。
「そっか、ダニーは軍にねぇ」
「ダニーはユウのようになりたい、誰かを守りたいから軍に行く、そう言っていた」
「……それは買いかぶりだよ」
俺はクロエの言葉を振り払いたくて首を何度も振った。誰かを守るなんてそんな上等な事はしていない。
「だから、私もやるべき事を果たすために日本に来た」
「ふーん、なんで日本なんだ。アメリカじゃだめか?」
「アメリカではだめだ。なぜならユウは日本にいるから」
「はあっ?」
「私は誓った。ユウの側にいて、ユウを助けると。なのに出来なかった」
クロエが声を落とした。
「……あのことか。だけど俺は親の都合で帰国したんだ。仕方がないだろ」
「でも、ユウはここでもまた一人だった。また誰にも心を閉ざしていた! 私だとわからなければ私にまで心を閉ざしていた」
ブルーの瞳が見通すように俺をのぞき込み、思わず俺は目をそらした。
「……俺は孤独が好きなんだよ。干渉されるのが嫌いでね。これでも結構楽しく……」
「ユウ、私は約束を果たす」
「……10年前に縛られることはない。再会できてうれしいけど、俺はもう大丈夫。だからさ、自分で自分を縛るのは……」
彼女は俺の目を見続けた。いや、目をそらすのを許さなかった
「ユウ、今度は私が助ける番なんだ」
そういうとクロエは俺の頭をつかむと自分の胸に抱き込んだ。
当然、俺の顔が柔らかいものの中に埋まる
「ちょっと、ちょっとクー!」
その心地良さが恐ろしくて……いやそれにおぼれてのうのうと生きてしまいそうな自分が恐ろしくて、俺はクーから離れた。
「ユウ!」
傷ついた様な顔をするクロエからあえて顔をそらして、俺は言った。
「俺の事はもういいんだ。忘れてくれ。……日本で友達を作って、アメリカに帰るんだ。……過去のことはもう取り返しがつかない。だからそれに縛られる必要もない」
立ち上がると俺はクロエを振り返ることなく、そこから立ち去った。
ガキの約束に10年も思い詰めるなよ。でもこれでふんぎれるよな、クー。
「で、柴崎君、マクフライさんとはどういう仲?」
「いきなり直球勝負だな。幼なじみ、サンフランシスコでの」
「へぇ、アメリカ人の幼なじみって、意外」
となんか人の悪い笑みを浮かべたのは、何を隠そう高村さんである。
ここは生徒会室。留学生が来たため、歓迎会や行事の案内などの雑用が増え、クラス委員はこうして働いているわけである。
「それにしても美人だよね。ねぇ、どうして振ったの?」
「はぁ?」
「告られたのを、あっさり振ったんでしょ? 彼女、午後から元気がなかったし」
頭痛がして、キーボードの手が止まった。高村さんはPCを苦手にしている。だから印刷物の作成は俺の仕事だ。
「誰だよ、そんなでたらめ言ったの」
「みんな噂してるよ〜」
「まったく、すぐに好きだの告白だの……。俺は、そんなのが似合う上等な人間じゃないよ」
「よくわかんないなぁ。なんで恋愛に上等とか似合うとかっていうのかな?」
「……世の中には他人を愛する資格なんて無い人間もいるのさ」
この俺のように。
「……それは自意識過剰だと思うな」
高村さんのその言葉で脳裏にあのときの光景が浮かび上がり、不条理な怒りが俺を煮えたぎらせた。
「……ご、ごめんね、そんな怒らないで」
気付くと高村さんをにらみつけていたらしい。彼女の顔におびえの色が広がっていた。
表情を消して、プリントアウト。
「出来ました」
「う、うん。これでいいんじゃないかな」
受け取るとそそくさと高村さんは出て行き、俺は一人取り残された。
「……どうせ、誰にもわかりはしない」
セーブしてPCの電源を切り、部屋を出た。愚痴っても仕方がない。いや、愚痴る資格も無い。
高二になって高村さんとしゃべるようになって、俺は軟弱になったのかもしれない。
俺ははみだした人間だ。だから孤独なのは運命で、そこから逃げ出すことは出来ない。
「帰るか」
そう独りごちて廊下から窓の外を覗いたとき、視線があった。
夕日の中で金髪が燃えるように輝き、風にそよいでいた。そうこの光景を俺は覚えている。
クロエが校門のところで、寄りかかりもせず立っている。
玄関を出た俺に、彼女は歩み寄った
「まさか、ずっと待っていた?」
「そんなことはいいんだ」
首を振り、彼女は俺をじっと見つめる
「10年待った。待つのには慣れている」
「馬鹿。俺の言ったこと、聞いてなかったのか?」
「10年待って、海を越えたのに、ちょっと冷たくされたくらいどうってことはない」
「いや、あのな」
「それにユウはあのとき私の目を見ずに言った。それで思い出したんだ。昔からユウは、強がりを言うときは目をそらす」
そうやってクロエはにっこり笑った。
俺の顔がほてった。見透かされた恥ずかしさで逆上していた。
「ユウ、私は今日からユウのうちに泊まる。だから一緒に帰ろう」
さらなる追い打ちに俺はひどく混乱して、言葉が出なかった。
ただ口をパクパクさせる俺に、クロエは微笑みながら俺の左腕をとり、寄り添った。
「行こう。……一緒に帰ろう。10年ぶりに」
その言葉に俺の疑問も混乱も溶けた。夕日はあのサンフランシスコと変わらない。
だからあのときと同じようにクロエと連れだって歩いた。
おれもクロエも変わってしまった。でもこの懐かしさにだけは、たぶん幻想でも、今だけは浸っていたかった。
インテルメッツォ(幕間劇) その1
言わなくて良い一言を言って、関係をぶちこわしてしまうのは最悪だ。
誰にも心を開かないと思っていた人が、いきなりやってきた金髪美人になびいてしまうのはもっと最悪。
そして、あのアメリカ人が超がつくほどの美人で、しかも幼なじみで、おまけに彼をすごく愛しているみたいだってのは、冗談はやめてってくらい最悪。
今日は、最悪の日。
「……わたしだって2年間好きだったんだから」
勉強が手につかない。でも勉強をしないと彼と一緒にいられない。
彼がクラスから浮いてても先生も友達も何も言わないのは、彼の成績がトップクラスで、しかも中学時代に流血沙汰を起こしたからだ。
というか、少年院に行ったような不良を3人病院送りにして停学になっても、この高校に入れたというのは、成績のたまものだ。
だから私は彼と一緒にいるためには、よほど努力しないとだめなのだ。
やっかいな人を好きになったと思う。だけど……だけど、
「やだ、あきらめるなんて……」
泣いて汚い顔になっているけど、涙が止まらない。
あの日、私は助けられた。そのことを彼は忘れていて、他の人は誰も知らない。
あの子はアメリカ人なのに、美人なのに、どうして好きな人が彼なんだろう。
私には彼しかいないのに……。
そうやって汚らしくうじうじ泣いて、眠たくなってきて、ようやく思いついた。
でもまだ恋人同士じゃないよね
第1話 終
イイヨーイイヨー
イイネーイイネー
395 :
376:2006/09/25(月) 22:46:47 ID:kFdkBgOx
今日はここまでということで。 お粗末様でした。
>>395 これからどう怪しからん展開になるかwktk
読みやすくていい文章でした、金髪美人の幼なじみに期待と(*´Д`)ハァハァ
わーよくあるものとちがって血生臭いのは主人公なんだ、斬新だ!
ちょー楽しみ♪
これは良いな、やさぐれ系の主人公は久しぶりだ
続きが気になるよ
俺はいいんちょに期待するぜ!
俺のもとへ金髪美人の幼なじみが尋ねてこないだろうか
もしかしたら知らないところで幼い頃の俺がフラグたててるんじゃなかろうか
>>395 イイネーイイネーイイネー
続きに期待っ
>>401 .i;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;i ;,,_,,;;;;;;;;,,..;_ 、 ,.__..,;_,,,;;;,,;;;;;;;;__,,___ ....;;;;;;;;;;;;;;;;;
:!;;;;;;;;;;;;;;;;;;フ;'"゙゙゙゙゙゙゙゙゙~~ ̄゛ `!i、  ̄´  ̄ .`''‐ i;;;;;;;;;;;;;;;;
. l;;;;;;;;;彡;;;;;ゝ .if'=====ー゙ :: ,.========r ゙i;|.l;;;;;;;;;;
ヽ;;ノ;;;;;;;;;;;;;;; .`''`-ヽ--''゙゙゙ ;; '゙ゝヽ-ノ-‐'゙´ ;.i;;;;;;i.フ;;;;;;l′
゙l;;;;;;;;;;;;`、 ,! : ,、|ll/ ;;;;;;;;r" そんなふうに考えていた時期が
i;;;;;;;;;;;;;;l、 / ;:;: :.゛゛:l ;;;;;;;;./
'';;;;;;;;;;;;;i i;;;;;;.;:;:;;;;;;;: .i;;;;;;;;;;;;;;; 俺にもありました
/;;;ゝ ./´:::: ´;:;:;;;;;; ,!;;;;;;;;;;;;;;;;;i
ミ;;;;'! .ヽ;;、_;.::__::::;;:: /;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;!
: 、.-、/;;;|l `;:;:;: ,.ノ.::: :lく;;;;;;;;l゙゙′
''";;;;;;;;;;;;;'l、 .,, :::::::::___ ・ ,'" :::::: .ヽ;;;;;丶;
;:;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ, ゙゙--= ゙̄~゛`''>,,._,..,r;" ,,l゙ :::::::::::: i;;;;;;
.`";'"゙;;;;;;;;;;;;;i、 ヽ_ ゙̄ ̄゛_、 __r::::::::::::::::: ヽ
;;.'ミ;;;;;;;;;:'.、 ゙゙゙゙"'''"~ ‐"":::::::::::::::::::: i
いや、ここはダニーに期待だな!
>幼い頃の俺がフラグ
『小学校の同窓会で、同級女子から聞かされた驚愕の事実!!』
とかいうネタないかなぁ。
>>405 昔王ロバで似たような話があった希ガス。
幼稚園の頃告白してきた女の子がアイドルになってしかも今も好いてる。
んで当時幼なじみを選んで振り倒した自分に激しく後悔するという…
「ふふふ……海斗君の唇…んむ……」
秋乃葉先輩は、近付くといきなり唇を重ねてきた。それは今までに体験したことのない、とても激しいものだった。
「んむ……ちゅ……はむ………んんん!」
すると、キスをしていた先輩の体が、まるで痙攣するような震えた。口の間からは、すくえきれなかった唾液が大量に溢れる。
「はぁ…はぁ……あはは、初めてのキスでいっちゃった。」
「な……」
いくらなんでもキスだけでイクだなんて……おかしいよ!
「ああ…夢みたい……海斗君とこんなことできるなんて、もう他になにもいらないよ〜。」
「じゃあ次は私…よろしくね、海斗先輩。……んむ…」
そう言って次は麻理ちゃんが近寄り、キスをしてきた。それは秋乃葉先輩より優しいものだが、大量の唾液を口の中に流し込まれた。
「んー!んん!」
「んく…んぅ……ぷぁ……ふふふぅ……海斗先輩に唾液飲ませちゃったぁ……あはは、ぞくぞくしちゃう。」
その麻理ちゃんの顔は本当に幸せそうだったが、唾液を相手に飲ませてよろこぶだなんて、変態以外の何者でもない。
「あー…海斗君ったら、興奮しちゃってぇ……もうガチガチだよ?」
「あっ!」
とはいえ、僕も所詮は男。激しいキスの連続で、股間は物凄くそそり立っていた。二人は、物珍しそうに、それでいて珍しそうに僕の股間をのぞいていた。
「だめだよ、海斗君。まーだまだ時間はあるんだから、今日はもうお終い。」
「えっ!?」
「あはは、海斗先輩ったら、そんな悲しそうな顔しちゃてぇ……こんなことされながら、期待してたんですかぁ?」
……僕はそんな顔をしていたのだろうか。まったく……自分でも情けなくなる。でももう理性が半分壊れかけていた。
「じゃあ、今日はこれで終わりね、ばいばい。」
そう言うと、秋乃葉先輩は沙恵ちゃんを引きずるようにして部屋をでていった。いっぽうの麻理ちゃんは……
スルスル…
「え?……へ?」
麻理ちゃんのしている行動がまったく理解できなかった。なんと僕の体を縛っていた紐をほどき始めたのだ。こんなことをすれば当然逃げだすのに………
「逃げようと思っても、無駄ですよ、先輩。」
釘をさすように笑顔で先に言われてしまった。
「もし先輩が暴れたり逃げようとしたら、あの女がどうなるか……わかりますよね?頭の良い先輩なら。」
あの女…つまり沙恵ちゃんのことだ。
「さ、沙恵ちゃんを人質にするつもり?」
「嫌だなぁ、あんなの人質にもなりません。先輩に言うことを聞かせるための餌にすぎません。」
笑顔のまま、相変わらず毒のある言い方をする。呆然としている僕を、麻理は腕を引っ張って玄関まで連れていく。
「大丈夫ですよ。あの女も死んじゃったら利用価値ないですから。ギリギリ生かしておきますよ。それじゃあ、先輩。また明日〜。」
「ばいはーい、海斗くーん。」
奥の部屋から出て来た先輩も、麻理ちゃんに続いて挨拶をする。そして玄関は閉められてしまった。まるで友達が遊びに来て帰った……そんな光景だった。
「………」
僕は状況を理解できず、ただ立ち尽くしていた。体を縛って、監禁しておいて、すぐに帰す?予測していた事態とは180度違う展開に……
「あはは……はっはは……は……」
ただただ虚しい笑い声を出すしかなかった。こんなの半殺しだ。体には抑えきれない欲望が疼いたままだった。
あのまま最後まで犯される。そんなことを期待していたのかもしれない。……最悪だな、僕は。
「明日から……どう、すれば……」
無理やり彼女達に反抗してみる?いや、そんなことをすれば沙恵ちゃんが無事なわけない。ためらいも無く殺すだろう。
「……なにも…できないじゃないか。」
先輩達は僕がこう考えることを予測して放ったのだろうか。………だとしたら、見事的中だ。でも……最後までいいなりになるなんて嫌だ。そう考えながら、先輩達の家を後にして家に帰った。
「ただい……」
いつもの癖で言ってしまう。妹なんて、麻理なんて初めから幻だったというのに、いないとなると寂しくなる。
「……あはは、僕も馬鹿だな。あんな異常者がいなくなって寂しいだなんて。」
たとえ偽りだったとしても、僕の中では兄妹としてこの家で一緒に暮らしていたのは事実だったんだ。
「…麻理……ま、り……」
僕は心の中で、後輩ではない、『妹』の麻理を渇望していた。沙恵ちゃんには悪いけど、麻理がいなくなって寂しいのは紛れもない感情だ。
僕はこの日、恐怖と悲しみで一睡もできなかった。
登校
なにごともなかったかのように、学校へ向かう。違うことと言えば、僕を引きずり回す沙恵ちゃんがいないことだけだ。
あの日、先輩達が僕を家に帰したということは、こうやって普段どおりの生活をしろということかもしれない。だけど………怖い。
監禁され、彼女達の本性を知った今、普段どおりに登校できるはずがない。なにかしらの変化が待ち構えてるはずだ。
「かーいーとーくん♪」
「!……あきの、は、先輩……」
ほら……きた……
振り替えると同時に、先輩は僕の胸に抱き付いてきた。周りからは羨ましそうな視線が突き刺さる。
……違うんだ、そんないいものじゃない!みんなが思ってるようなことじゃないんだ……
今すぐ大声で、『助けて!』と叫びたい。でも、そんなことは絶対に無理だ。先輩の瞳は、前みたいに純粋なものではなく、監禁していた時に見せた、闇に飲まれたような色をしていたからだ。
『わかってるよね?』
そんな心の声がバシバシ伝わる。
「ほーらぁ、早く行かないと遅刻しちゃうよ?」
そう言って腕を引っ張っていく先輩。僕はただ、流されるしかなかった。
412 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/26(火) 20:41:27 ID:pBku5r4V
キャッチアンドリリース(ただし鎖付き)でゆっくり調教をする
秋乃葉先輩に(((((((( ;*゚Д゚)))))))ガクガクブルブルハァハァガタガクハァハァガクガク
GJ!しかし二人が邪悪さが怖い…
確かに物理的に監禁するより、こっちのほうが効果的かもしれない
監禁したい相手を傷付けないならだけど
投下します。
「木場さん。あたし”たち”からプレゼントがあるの」
ケーキが配られ、ジュースも注がれた後、明日香が切り出した。
友達ら三人も、それぞれブツを手に持つ。
はじめに、明日香の包み紙が取り除かれる。
そこにあったのは――――。
花束だ。
眩しいくらい明るい黄色の、菊。毒々しいくらい赤い色をした、椿。
そして、花束の中から上半分だけ出ている、黒い額縁。左右斜めに、黒いリボンが掛かっている。
これは……。
部屋が静まり返っている。木場は受け取る動作をしない。膝の上に、花束がどさっと放られた。
「まだあるよ」
黒髪ショートが取り出したのは、一冊の本。
カバーが掛かっていて、どんな本なのか分からない。
さらにメガネが、二つの物を手渡しした。
一つは、青い錠剤の詰まった瓶。もう一つは、手の平サイズの箱。何の箱なのか、よく見えなかった。
「ほらよ」
茶髪パーマが、小さい紙袋を投げ渡す。
木場は袋の口から中を覗いて、すぐ閉じた。その動きに、茶髪が、明日香が、ニヤニヤしている。
何が入っていたんだろうか……。
「自分は、これを贈ります」
最後に屋聞が出したのは、片手では収まらない程度の大きさの置物。時計盤がくっ付いている。
「カメラ機能付き置時計です」
カメラ機能付き置時計!? 高価っぽいが、なんか、役に立たないような。
「うん……ありがと」
明日香たちのときはずっと黙っていた木場が、やっと穏やかな笑みを返していた。
食べ始めてからしばらくして、茶髪パーマの提案で、UNO大会が始まった。
唐突だが、パーティーらしくなってきた感じがする。
席はそのまま、空になったケーキの箱は捨て、そこに山札が置かれる。
主催の木場からスタートした。
「……ウノ」
俺の手札は順調に減り、他より早く残り一枚となった。
今出ている色が変わらなければ……いける。
木場が出す。色変わらず。
明日香も、三人も色を変えず、屋聞。
「先輩。そんなに都合良く行くとでも思っているのですか?」
一枚のカードが出る。
「青で」
「……この野郎」
俺の手札は五枚になった。
「ウノだ」
攻撃にもめげず、もう一度手札を残り一枚まで減らした。
しかし、屋聞は余裕の笑み。
「もうあと一枚ですか。ならこれで」
出されたカード。それは……。
「 ま た ド ロ ー 4 か 」
俺の手札は無くならない。
あと一枚、という所で屋聞に邪魔をされて、結局他の人が上がり、ということばかりだった。
「よーし次は王様ゲームだはははは!!」
屋聞からトランプを分捕った黒髪ショートが、馬鹿笑いと共に宣言した。
テーブルの上に出ている飲み物は、いつの間にかアルコール類に変わっている。
それを平気で飲んでいる明日香。と、他三名。
……部長さんにバレたらどうする気だ?
顔を赤くしながらゲラゲラ笑っているその姿に、胸が少し痛んだ。
裏返しに散らばった七枚のカードを、一枚ずつ取る。
俺が取ったのはキング。なるほど、王様か。
「王様だーれだ!」
カードを見せてやると、おぉ〜っ、と声が上がる。
「よし伊星、王様一世だ。命令しろ!」
茶髪パーマが囃し立ててきた。どうでもいいが、命令しろ、ってのも命令だよな。
が、このゲームの命令って、どういうものを出せばいいんだ?
「じゃあ、1番が、いや、1番を……」
「1番を?」
「……大臣に任命する!」
「なんじゃそりゃー!!」
「ありえねー!!」
「命令でもないよー」
「それはひょっとしてギャグで言っているのですか?」
突っ込まれまくりだった。
王様ゲームなんてのは初めてだから、盛り上げ方が今イチ分からないのだが……。
「あー駄目だ駄目だ。次!」
キングのカードは、あっけなく取り上げられてしまった。
今度こそは上手くやろうと思っているが、中々キングを引くことが出来ない。
王様の出す命令は、酒の一気飲みとかモノマネといった軽いものから、下ネタ一発ギャグや『服を一枚脱ぐ』等
の怪しいものに変わってきた。
「よっしゃ来たああぁぁっ!」
次の王様は、茶髪パーマ。
この腹からの大声は、凄まじいものがある。
酒が入ってクラクラしている俺の頭にはきつい。
「よっしそれじゃあ……5番が、6番の、乳を揉めーっ!」
げえっ! 5番!!
「えええぇぇぇっ!!」
屋聞が手から落としたカードは6。 6!?
ご……5番が俺で、屋聞が6で?
「なんだよーつまんねーはやくしろー」
不満垂れ流しの茶髪パーマに、『お前が指定したんだろうが』と言いたいのを堪え、屋聞と向かい合う。
ちなみに、屋聞は『服を一枚脱ぐ』の命令を一度受けて、上がシャツ姿になっている。
……何が悲しくて、こいつの乳を揉まなくてはならんのか。
「や……やるなら、早くしたらどうですか……」
正座した屋聞が、酒の入った赤い顔を、俯きがちにしている。
こいつもヤケっぱちになっているのだろうか。
しかし考えてみれば、こいつで良かったかもしれない。他は全員女だし……。
両手を、屋聞の胸に当てる。
ちょっと柔らかい層のすぐ下に、胸筋らしきものがあるのが分かった。
仕方無しに、指を動かして揉む。
「……あっ……」
変な声出すな。こっち見んな。
この命令一つで、部屋の空気が一気に冷めていく。ものすごい勢いで盛り下がっていった。
空気どころか酔いまで醒めてしまったらしく、王様ゲームは宣言も無く終わり、好き勝手に喋りあうグダグダな
会になった。
誰かが言い出したお開きの言葉に、反対する者はいなかった。
黙々と後片付けをして、帰る。
俺は、ふと思った。
木場の誕生日パーティー。俺が、明日香が、その友達が、屋聞がいた。
だが――。
木場の家族は、どこにいた?
* * * * *
ここまで、人を憎いと思ったことは無かった。
仲間、じゃなくて、仲魔を引き連れて、パーティーの主導権を奪い取った。
侮辱と、軽蔑と、嘲笑で一杯の、プレゼントと称した害物を押し付けた。
渡されたときから、胃が沸騰しそうだったよ。
みんなが帰った今、ついにそれは限界に達した。
花は花でも、よりによって、菊と椿。
「糞ッ!」
花束をゴミ箱に突っ込む。力の限り押し込んでも、花が顔を見せている。
あの女が、嫌な笑みで私を見ている!
「……!!」
私は台所からサラダオイルを出し、ゴミ箱の中に流し込んだ。
ベランダに中身をぶちまけて火を点けると、それはもう勢い良く燃えた。
ついでに、一緒に渡された本――『性病と向き合おう』というタイトル――を、火の中に放り込む。
火はさらに強くなり、花も、本も黒い灰になった。
黒い、灰になった。
黒……黒。黒、黒黒黒!!
黒といえば、あの額縁! 葬式用の、あの額縁!!
こんなものをよこして……!
「糞がっ!」
拳を叩きつけると、中のガラスが割れた。木の枠は、壁にぶつけて、バラバラにしてやった。
後は……。
小さい紙袋の口を、ガムテープで塞ぐ。中身は、いわゆる大人の玩具。
別に渡された、精力剤と避妊具も一緒に入れた。
これでもう見ないで済む。砕けた額縁と合わせて大きいゴミ袋の中に入れて、玄関の隅に置いた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
邪魔なものは、全て視界の外に追いやった。最後に残ったハンカチ、伊星くんから貰ったこれだけは、大事に、
大事にしたい。
伊星くんは、みんなで渡すタイミングからずらして、一人だけ先に渡してくれた。
みんなと一緒じゃなく、薄暗い中でこっそり渡す……照れてたのかな?
照れてるのに、いきなり手を握って来るんだから、変だよね。ふふっ。
これで一つ分かった。実は初めから分かってたんだけど。
伊星くんは、私のこと、ちゃんと見てるの。噂なんて本気にしてない。伊星くんとの仲は、着実に縮まってる。
だからこそ……。
あの女が憎い。
邪魔ばかりして、伊星くんを独り占めして、馬鹿の癖にちゃっかり守りを固めている、新城明日香が、憎い。
私はパソコンを使って、前に屋聞くんから貰った、新城さんの顔写真を取り込んで、印刷することにした。
プリンターの出口に、カッターの刃を縦に当てて待ち構える。
やがて、ほぼ実物大の新城さんの顔が出てくるけど、カッターの刃に当たって、自分から切られて行く。
「ぷっ……うふっ……あははっ……」
やだなあ。下らないのに、何か面白いよ。
真っ二つになった新城さんの顔が増えていく。
「あはっ、あはははっ!」
面白い、面白いよ〜。
最後に一枚だけは、カッターで切らずに、壁に四隅を画鋲で留める。
この顔に、画鋲をびっしり刺してやるのもいいけど……敢て私はそれをしない。
雑貨用の引き出しから、”これ”を何本か取り出した。
私は、新城さんみたいに剣道が出来るわけじゃない。でも……こういうことなら、出来るよ。
右手から、一本、ダーツを投げる。右目の瞳に突き刺さった。
竹刀ばっかり振り回すあなたに、こういうのは出来ないでしょ?
もう一本投げる。左目に、まっすぐ刺さった。
このダーツに、あの女の血を付けるのも、悪くないかもね。
両手の指の間に三本ずつ、六本を同時に投げる。全部、新城さんの顔に命中。
連続して刺さる、ダダダッ、って音が、最高に気持ちよかった。
(33話に続く)
>>418 木場さんカワイソス…
ちょっとしたいじめやん(´・ω・`)
と思ったらちょっとずつ病んでいってるガクガク(((( ;´Д`))))ブルブル
木場さん恐いよ木場さん((( ;゚Д゚)))ガクブル
胸を揉んでも気付かれない屋聞かわいそう
クリスのダメージは確かに酷いものだった。
モンスターに受けた傷もそうだがそれ以上に深刻だったのは酷使しすぎた筋肉の損傷。
限界を超えたブーストアップによりズタズタに傷ついていた。
最悪、戦士としての再起は不可能かも知れないほどに――。 聞いた瞬間目の前が暗くなりかけた。
クリスが戦士で無くなったら、そしたらこのコはこれからどうすれば良いの?
今まで戦士として生きてきて、戦士としての生き方しか知らない。そんなクリスが私のせいで――。
そして何より、もう一緒に旅を続けられなく――そんなのイヤ!
初めて出来た同性の頼りになる、そして心を通わせられる仲間であり親友であり、そして――。
かけがえの無い妹分。
そんな私にとって大切なこのコと旅が続けられなくなったら――。
だがそれは杞憂だった。 多少時間はかかったがクリスは全快した。
酷く痛めた筋肉も無事回復し元通り、いやむしろより強靭になったみたい。
正に文字通りの超回復。
良かった―― 一時は全滅も覚悟しかけた事態だったがこうして全て何事も無く済んでくれて。
そう思ってた。
だけど――。
それはある日のモンスターとの戦闘。
「うあああぁぁぁーーーーーー!!」
「姉さん落ち着いて!」
「其のモンスターはもう死んでますから!」
二人に後ろから抱きすくめられて私は我に帰った。
目の前にはモンスターの屍骸。
其の屍骸には幾つもの刺し傷が刻まれあたりは血の海と化していたてた。
その刺し傷はモンスターが絶命後も幾度も――そう、私が……。
あの日以来――蛇女との戦闘で死の淵を彷徨って以来時折私はこうなってしまう時がある。
あの時の死の恐怖がよみがえり我を失い錯乱してしまう。
我ながら情けない。 もう過ぎ去った事なのに。 それなのに未だ引き摺って……。
「大丈夫? 姉さん」
「セツナ……」
見れば心配そうに私の顔を覗き込む二人の顔があった。
「あ……、ゴ、ゴメンね。 心配させちゃって……」
私は笑顔を取り繕って応えるが、だが二人の顔から心配の色が消えない。
二人に心配かけささせないための作り笑いすら出来ないなんて……。
自分の弱さが腹ただしく、不甲斐なく情けなかった……!
そしてそれは戦闘の時だけじゃなく――。
「いやぁぁぁっ……!!」
夜中、私はベッドから跳ね起き口に手を当て叫びそうになった悲鳴を飲み込む。
「……っっんぐっ。 ……ハァッ、ハァッ」
まただ。 夜中、時折こうしてあの時の死の恐怖を夢に見てしまう。
その時そっと扉を叩く音が聞こえた。
「誰?」
「ボクです」
「クリス?!」
私は駆け寄り扉を開ける。
身体能力、五感に優れたクリスは何時も、そう、寝ている時でさえ異変にいち早く気付いてくれる。
それはモンスターの奇襲とかだけではなく、今みたいに私の辛い時とかも。
「姉さん大丈……って姉さん?!」
クリスの顔を目にした途端涙が溢れ出した私はそのままクリスに抱きついてた。
「また、悪い夢を見たの? 姉さん」
「うん……」
私は抱きついたまま答える。
「大丈夫……。 ボクがついてるから」
そう言ってクリスは抱き返してくれた。
「ゴメンね。 ありがとうクリス……」
「ううん、気にしないで姉さん。でもこういうのってボクよりリオにいさんの方が適任なんじゃない?」
「そりゃ、確かにリオに慰めてもらいたいけど……、でも駄目なの。
リオの前で弱い所は見せたくないの。 私は……リオにとって救世の勇者だから……。
だからリオの前では虚勢だろうと何だろうと強くなければいけないの……」
そう、あの日死ぬかもしれない恐怖に晒されて以来本当は冒険なんか――。
魔王討伐なんか放り投げ出したいぐらい怖い。 でも出来ない。
『勇者』をやめてしまったら私がリオと共にいられる理由がなくなってしまう。
だから弱さを晒すわけにはいかない。
「うん、分かった。 姉さんがそう言うのなら。 でも無理しすぎないでね?」
「ありがとうクリス……」
そして私は暫らくの間クリスの体を抱きしめて――ううん、私のほうが抱きしめられていた。
心が苦しくて辛くて、そんな時人肌の温もりってこんなにも優しいんだ……。
暫らく後私はそっと抱きしめ絡めていた腕を解く。
「もう大丈夫なの? 姉さん」
「うん、ありがとう。 もう大丈夫よクリス」
私が微笑むとクリスも笑顔で応える。
「じゃぁ、もう部屋に戻るね。 オヤスミ姉さん」
「うんオヤスミ……」
クリスのお陰で苦しかった胸のうちも楽になれた。 だけど……。
「姉さん?」
無意識のうちに私は部屋を後にしようとするクリスの服の裾を掴んでいた。
そんな私に行動にクリスは一瞬驚いた表所を見せ、そしてはにかんで口を開く。
「一緒に寝よっか? 姉さん」
私は応える代わりにクリスを抱きしめた。
心の底から思える。 このコと逢えてよかった。 こんな良いコが私の妹分になってくれて。
「ありがとう……」
To be continued...
>>418 (´;ω;`)木場さんカワイソス
俺はついに明日香派から木場さん派に変わってしまった
>>422 百合っぽいのキタ━(゚∀゚)━!!
>>418 >仲間、じゃなくて、仲魔
メ、メガテン?
百合ktkr!トラウマを嫉妬パワーに変えて泥棒猫勇者よ、魔王(恋敵)を倒すんだ!
>>418 木場タソテラカワイソス。・゚・(ノД`)・゚・。
そして密かに期待していたダークホースの屋聞は胸を揉まれても気づかれず(´・ω・`)
>>418 もしかして剣道VSダーツのちみどろ来る?(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
>>422 楽しすぎる♪こんなに明るい作品は久方ぶりだw
明日香と木場さんの構図って、なんだか言葉様と世界に似てるな
ちょっと前までは明日香が虎眼先生化して「やってくれた喃 木場!」って感じで
神社に呼び出して伊星ともども仕置きしそうな感じだったが、違う展開になってきたな。
美人のメイドさんが突然家に押しかけてきて色々なお世話をしてくれる
助けた猫がネコ耳少女となって突然恩返しに来る
突然美少女ばっかのアパートの管理人になる
昔結婚の約束をした少女と突然の再会
突然12人の妹が出来る突然異世界に召還されてロリ魔女の犬になる突然空から女
の子が降ってくる突然双子に告白される(複数組)突然美人のお義母さんができる突
然エッチなお姉さんは好きですかエトセトラエトセトラ
もちろん、女の子たちは皆自分に無条件の愛情を注いでくれることは言わずもがな
そんなシチュエーション、男なら一度は夢見た事があるはずだ。…あるはずだ
…あるよね?少なくとも、みんなは
しかし、そんな事を夢想しながらも、同時に俺たちは理解している
んなこたねぇ
ありえねぇ
所詮それは妄想の産物
脳内や紙の上、モニターの中でこそ許される世界なのだということを
そう、そんな事現実に起こるはずがねぇ。
○車男もどうせ作り話だろ、とか斜に構えていた俺ですから
痴○男なんてそれこそありえネェよと笑い飛ばしてた俺ですから
鍋○に胸を打たれ、溢れる涙をこらえられなかった、そんな俺ですから
(○波男にはちょい引いた俺でしたが)
だから
美人で、それでいていやみは無くて、可愛いと言う表現も良く似合って、
上級生下級生とわず男女ともに人気が有り、運動勉強言わずもがな、料理裁縫そつなく
こなす、誰からも愛されるような彼女が
ろくに話した事もない、意識しつつも所詮俺には高嶺の花、と
葡萄が取れなかった狐ではないがひねた思いで見ていた彼女が
「高畠幸彦(たかはた ゆきひこ)さん―」
放課後突然俺を校舎裏に呼び出して
「私は―」
頬を赤らめ、潤んだ瞳を恥ずかしそうにそらし
「ずっと、ずっと前から―」
控えめでもなく、さりとて主張しすぎるでもない胸にそっと手を沿え
「貴方の事を、見ていました」
烏の濡れ羽色の髪を風になびかせ
「貴方の事を、想っていました」
おもいを紡ぎ合わせるように、ゆっくりと言葉をつなげながら
「どうか、どうか私と―」
そらしていた目を硬く瞑り、再び開くと同時にただまっすぐに自分を見つめ
「―お付き合い、してください」
なんて、夢みたいな事いってきた日にゃ
喜びよりも猜疑心やらが先立つのは自然な流れであるはずだ
「ごめんなさい」
軽くパニくって即行で頭を下げた俺を
そのまま話も聴かず振り返る事も無く全力でその場から逃げ出したこの俺を
果たして、誰が責められようか
駆け出した俺の背中に彼女が何か叫んでいるらしい事はわかったが、金髪でピアスとか
してるような連中がどこか物陰に潜んでいるんじゃいかとか気が気でなかった自分の耳には
当然そんなもの一つとして届くはずも無く、鞄の事を記憶のかなたに置き去りにしたまま全
速力で家を目指した
皆様の作品をよみ、自分もやってみたくなってしまい投下しました
好きなもんを詰め込んでみようとか思ってみたものの、やはり見る
とやるでは違うようで
改めて神々のすごさを思い知った次第です
とりあえず修羅場になるまではやってみたいと思っています
お目汚し、失礼しました
ココは何時だって新しい職人さんはウェルカムだ
がんがれ この上ないヘタレな主人公に期待してる
冒頭は思わず
コレなんてオタ度チェック?と思てしまたw
あとトリップ付けること奨める
>>423 もしかしてクリスが主人公に対して独占欲を丸出しにするという展開か?
>>435 二人で力を合わせて前座の魔王とラスボスをぬっ殺してハーレムハッピーエンド。
萌える展開としては・・
親友の女の子が自分の幼馴染を寝取ったような展開がイイw
ここはもう終わりだな
伝説のスレも終焉近し
ありがとうございました!!
439 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/27(水) 22:31:22 ID:Iessqx+o
無視
/:./.::: .:: .:::::: :ハ::: :..:.. . : .:i:.:ヽ:ヽ :. : :.: \ -‐''´
/:./.::: .:: .::::,ィ:: ::i .|:::i:..:..:.:.:. :..:.:i:.:.:i.: :.i ::, -‐'''´
/:./.:::. :.:i.: :.:.:ハ:.:.:| !:.ト、:ヽ:.:.:. __,.. -‐'''´ / /
i:.:|.:.:i.:. :.:i:.:.:.:.:i ';::.| ';.γ--'´ ̄ / // / /r
|:.|:.:ハ:.::.:.i:.:.:.:.i_,.-弋ミ V / //i | __/i
|::| l ::!:.:.:i:.:.:.:.|r'''゙,ニミ' ) ,' l l | | ⌒( はあ? 聞こえないな?
| iヽ ::ト.├、:.:.i ト-(、◎i l | | l |
// ::{入Y:\{. !ゞ ノ"} ! l | 丶 丶 いい加減に終焉がやってきたことを身を持って知りな!!
//:: ::\ヾっ ヽ r ' | 丶 丶'
//!: :.:.:i::.:`ー弋 丶 } \'
// | : ::.:i:.:.:.:i:.:.:.::ヽ '-ミY ,. -'´ ∠ミーニ丶、
// | :::.:.:.i:.:.:.:i:.:.::.:.:.|\ // ) / r;┬':
// |:.:.:.:.:i.::..:.:i:.:.:.:.::.| ` 丶、_ _/ ̄>-'⌒ー‐'´
なにをそんなにひっしになっちゃってるの
>>440 あなたはそうやって彼を自分だけのものにしようとしてるんでしょ
ボクは騙されないよ!
ボクはずっとずーっと彼と一緒に居たんだもの
新しく着たあなたなんかに何が分かるっていうのよ!?
>>432 いや、謙遜しなくても普通に面白い。
この時点で既にヤンデレの気配がする。
何より、主人公のヘタレっぽいけどある意味当然の反応がイイ!
殴られてるのが世界な辺りに修羅場を愛する心が見えるな。
素直になろうぜ。
>>442 ふふ…やっぱり小娘は駄目ね…。
もう負け犬の臭いがしているわよ?
くさいくさい…。
>>440 あなた…あの子の何を分かってるつもり?
いい?
あの子のはにかむ時の仕草や微笑みの柔らかさ、
例えばあの子は授業中よくノートの隅に落書きをしているわ、
本当は止めさせた方がいいんでしょうけど…。
私は黙って許してあげているわ。
部屋にいる時は寂しさを紛らわすために
よくお気に入りの音楽を聴いている。
特にJ-popなんかは好みみたいね。
そうそう、よく深夜番組で大笑いしては
お母様に怒られる事もしばしばね…。
ふふ…慌てちゃって可愛いのよ?
その何もかもを知らないあなたが!
あの子の事を語るべきじゃないわ!!失せなさい!
/:./.::: .:: .:::::: :ハ::: :..:.. . : .:i:.:ヽ:ヽ :. : :.: \ -‐''´
/:./.::: .:: .::::,ィ:: ::i .|:::i:..:..:.:.:. :..:.:i:.:.:i.: :.i ::, -‐'''´
/:./.:::. :.:i.: :.:.:ハ:.:.:| !:.ト、:ヽ:.:.:. __,.. -‐'''´ / /
i:.:|.:.:i.:. :.:i:.:.:.:.:i ';::.| ';.γ--'´ ̄ / // / /r
|:.|:.:ハ:.::.:.i:.:.:.:.i_,.-弋ミ V / //i | __/i
|::| l ::!:.:.:i:.:.:.:.|r'''゙,ニミ' ) ,' l l | | ⌒( 泥棒猫にはこのパンチはよく効くだろ?
| iヽ ::ト.├、:.:.i ト-(、◎i l | | l |
// ::{入Y:\{. !ゞ ノ"} ! l | 丶 丶
//:: ::\ヾっ ヽ r ' | 丶 丶'
//!: :.:.:i::.:`ー弋 丶 } \'
// | : ::.:i:.:.:.:i:.:.:.::ヽ '-ミY ,. -'´ ∠ミーニ丶、
// | :::.:.:.i:.:.:.:i:.:.::.:.:.|\ // ) / r;┬':
// |:.:.:.:.:i.::..:.:i:.:.:.:.::.| ` 丶、_ _/ ̄>-'⌒ー‐'´
男×男×女の修羅場?
白分が足りなくなってきました
セツノ分も足りなくなってきました
アトリ分は余ってるのなら欲しいです
ユメカ分はどうしてもと言うのならもらってあげます
ユウキ分はいりません
キサマァァーッ!アマツ分はどうしたああああぁぁぁぁ!!!!
3:可愛い奥様 :2006/09/25(月) 17:12:42 ID:RcN4t/Wn
私は幼少期、父親と仲良くて、それが原因で母親に虐待されてました。
般若のような顔、今も忘れられない・・・
>>449 忘れてた・・・
アマツ分も欲しいです。アトリ分よりは
投下致します
第14話『大喝采。修羅場の道』
数時間の拷問の最中、俺は雪桜さんの関係の隅々まで吐かされた。
雪桜さんが苛められている時に助けたことが出会いの始まりだったとファンクラブに言い放つと、彼らは恐い顔をしてこう言った。
『我らが愛する女神を苛めた奴はどいつだ?』
当然、俺は庇う必要もなかったので同クラスの雨霧雫を始めとした苛めグループが存在することを彼らに告げた。
チクったとも言うが。慌てて蓋めいたファンクラブ会長が出動命令を出すとこの場所から全員いなくなった。
その隙に俺は監禁されていた場所を逃げ出す。
唯一の機会を見逃さずに俺は表の空気を吸えたのは、すでに最後の授業が終わるチャイムが鳴り響いたことであった。
自分のクラスに鞄を取りにやってくるとクラスメイト達は遅れたパーティの主役を盛大に歓迎するようにクラッカーを鳴らし始めた。
黒板には朝来たときの交際宣言は見事に消されて、
代わりに、桧山剛と東大寺瑠依と雪桜志穂の三角関係による相場市場と株価みたいなものが書かれていた。
「つよちゃんが二股をかけるなんて。モテモテだね」
内山田が嬉しそうにこちらへと寄ってきた。こいつにとっては、今回の騒動は自分が得るためのいい賭け対象ぐらいにしか思っていないだろう。
「二股もクソもない。全て誤解だっていうのに」
「へぇ。全て誤解だというの? 剛君は私の彼氏でしょう」
話を盗み聞きしていた虎が牙を剥き出して、こっちを見ていた。
ここで否定の言葉を唱えると問答無用に噛み付きますよと言わないばかりの威圧感を背中から発っしていた。
「まぁまぁ。瑠依ちゃんも。つよちゃんは単に普通の男の子よりも女の子に飢えているんだよ。
だから、僕以外の子に手を出して……。もう、涙が出ちゃうわ」
「いや、果てしなく違うから。内山田よ」
これ以上虎を刺激することを言うな。
狂暴になった虎を止められるのは、我らが愛すべき動物愛護団体に限られるんだよ。
「大丈夫。剛君のベットの下にあるエッチな本は毎週踊る捜査線張りの捜索で全て捨ててるから、私以外の女の子に興味を持つはずがないわ」
「ってか、それはお前の仕業だったのか? 瑠依」
「ふ・け・つ・よ。18才未満の男の子は読んだらダメなんだから。もう、剛君が捕まらないように私が責任を持ってあげるからねっ?」
色っぽいウインクする虎に少しは吐き気を感じながらも。
俺はエロ本に注ぎ込んだ金額に涙と後悔を覚えられずにはいられなかった。
「お〜い、桧山。お前のもう一人の彼女が呼んでるぞ」
物凄く嫌な予感がした。
それは、俺が何よりも恐れていたこと。
今から起こるのはれっきとした『修羅場』という奴だろう。
映画に出てくる西南時代におけるガンマンと呼ばれる人間がタイマンで5を数えたら、早撃ちをするあの雰囲気に似ている。
廊下に出て、雪桜さんと距離を少し離しながら見つめ合うように対面する。
当然、俺の隣には虎が必死に占有権を主張するようにべったり俺の腕にくっついた。
その事に雪桜さんはいい表情を見せず、静かに怒っているように見えた。
ただ、猫耳と尻尾をまだ身に付けているのだから、俺以外の人間にとってはこの緊張感を感じることはまず不可能だろう。
「雪桜さん。わ・た・し・の彼氏に何か御用かしら?」
「ええ。私は桧山さんに用があるにゃー。関係のない人はさがってもらえませんかにゅ?」
二人の口調はトゲトげしく挑発じみていた。二人とも余裕の笑みは消え、牽制し合うように睨み合っている。
もし、ここにリングがあれば流血沙汰になってもおかしくないぐらいの険悪振りである。
「二人とも。少しは落ち着いたら……?」
「剛君は黙ってっ!!」
「桧山さんは黙ってくださいっっ!!」
見事にハモった二人の罵声が俺を黙らされる。
おそるべしっ!
クラス中にこの修羅場は生放送のごとく放映されているわけではないが、
まだ残っている他のクラスの連中が何事だと窓から覗くようにこちらに視線を向けている。
うちのクラスに至っては全員が面白そうに事態を眺めてやがる。
二人の邂逅は昨日の絶縁宣言の時だが、すでに長年殺し合っている宿敵のように睨み付ける視線には殺意がずっしりと篭もっていた。
しばらく、沈黙は続く。
雪桜さんと瑠依はお互い睨み合って牽制している。
どちらが先手を打つのか探っているように思えた
。まるでどのようにして、相手の首を噛むのか脳内コンピュ−タに算出して戦略を決めているかのように。
先手は虎だ。
虎が考えもなしに真っ先に吠えた。
「雪桜さんあなたねぇ!! もう、わたしたちに付き纏うのはやめてよ!! 前にも言ったでしょう? あなたがいるだけで剛君は苦しめる原因になっているのよ?」
「だから、何ですかにゃ?」
雪桜さんは虎の猛攻を見事に受け流す。
誰よりも冷たい声で虎を否定する。
それは俺以外の人間には関心がないような感じであった。
「桧山さんの憎しみは私が全てを受け止めるって決めましたにゃ−。誰が相手でも関係ないんですにゃー。傷ついた桧山さんの心を癒せるのは私だけにゃー」
「にゃーにゃーにゃー。うるさいわよ!!」
「だって、桧山さんが喜ばせるためにこの格好しているんですよにゃ」
「大体、その格好。とても、痛いわよ!」
「あぅあぅあぅあぅ」
それは言ってはいけない禁句であった。
猫耳姿の雪桜さんが男性の保護欲を漂わせる魅力的な物があるとしても
同性から見ると盛りのついたメス猫が男漁りしている風にしか見えない。
俺は妙に変貌してしまった雪桜さんに何が起こったのか納得した。
単に雪桜さんはメス猫風に言うと、今は発情期なのだ。
誰かと交尾したくてたまらないんだろう。ああやって、目立つような格好して男を誑かせているだけなのでは?
雪桜さんはそういう女の子じゃないとわかっていても、疑念が次々と生まれてゆく。
猫耳姿の格好することでわけわからんファンクラブが出来たり、男性の人気を得たこともすでに雪桜さんの計算済みなのでは?
護られる存在が出来た今は俺という存在はもう彼女にとって利用価値がない。
周囲の注目を浴びるための道具として利用されるのはごめんだ。
そう考えると胸の奥深くから悲しみが溢れてゆく。
息苦しい首を抑えながら、俺は覚悟を決めた。
「もう。やめようよ」
言い争っている二人の間に割るように俺は静かな声で言った。
「雪桜さんはこんなことをして何が楽しいの? 騒ぎが大きくして何が嬉しいんだ? あの屋上で言ったよな。もう、俺に近付くなって」
「ひ、ひ、桧山さん?」
「猫耳姿で他の男達の気を引くために騒動を起こして。本当に見損なったよ」
「ち、ち、違うにゃーー!! 私はただ純粋に桧山さんのためを思ってぇぇ!」
「だから、君は何をやってもいいと言いたいのか?」
雪桜さんは真っ青な顔をして、怯えるように震えていた。
これで雪桜さんを傷つけてしまったのは何回目だろうか。
俺は彼女を救うつもりが、結局はただ傷つけるために近付いてしまったのか。
「ふふ−ん。だから、あなたは剛君に嫌われるのよ。泥棒猫」
ついでに調子に乗っている虎にデコピンを喰らわせておくか。猛獣を飼い馴らすためにはちゃんときついしつけが必要なのだ。
「痛い……」
「瑠依が彼女宣言をするからこうなったんだろう? 誰のせいでこんな大事になったかな? 罰として1週間自分で自炊すること」
「ええっっ!? 待ってよ。泥棒猫を追い払うために協力してあげたじゃない。どうして、私が怒られなくきゃいけないの?」
「いや、暴走して先走った瑠依が元々原因だし」
雪桜さんとは比べものにならない程の罪状を抱えていることに気付いてくれ虎。
クラスの連中を大いに煽った罪はマリアナ海溝よりも深い。
ここで騒動を沈静しておかないと俺の学校に通うことができなくなってしまう。
2学期から他の学校に転校するのは正直ごめんだ。
「でも。でも。でも。悪いのはあの泥棒猫さんでしょう?」
「そもそも。雪桜さんと俺の関係に瑠依は全然無関係じゃん」
「はうっっ!!」
冷静になってみると何でこいつはこの件に突っ込んでいるんだろうか?
正直、謎である。虎は俺に指摘された事に反論できぬまま、顔を真っ赤にしてモジモジと大人しい買い虎に戻ってゆく。
値段で例えるなら、狂暴な虎は保健所に連れて行かれる寸前に優しいご主人様に引き取られる程に値打ちはない。
恐らく、そのご主人さまとやらは世界一優しい人コンテストで17年連続優勝する程の強者だろう。
さて、学年の生徒達が見守る中で俺が雪桜さんを否定する言葉を言い放つだけで騒ぎは沈静してゆくのがわかる。
正直、こういう風に注目されるのはとても苦手だ。
よって、さっさと皆がこの騒動に飽きてくれていることを心から祈る。
だが、俺のささやかな願いはあっさりと裏切られてしまう。
雪桜さんが取り乱してしまったからだ。
思っていた以上に日が開いてしまいました
ごめんなさい・・。
とりあえず、現在19話まで書き終えて今から終盤に着手する予定
更に姉妹ネタプロットをゆっくりと構築中です
何か姉妹ネタで参考になりそうな修羅場ゲーとかあったら教えてくださいw
それでも、公開するまで時間がかかりそう・・(泣き)
458 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/28(木) 23:18:54 ID:tw2/Umrx
できれば異性同士の絡みでお願いします。
修羅場に一時は黙らさせられるものの、一気に主導権を取り戻すつよちゃんの非道さに感服
でもやっぱりねこ可愛いよねこ(*´д`*)ハァハァ
応援いただきました皆様、ありがとうございました。
励みにいたしまして、第2話を完成させましたので、
投下させていただきます。
第2話 「約束のち告白、ところにより修羅場」
翌早朝、自室。
夢の中で俺は自転車に乗っていた。旅行用のやつでキャンプ用品などの荷物も積んでいる。
青い空の下で綺麗な海辺を走っている。海の反対側には緑の草原が広がっていた。
突然、道の真ん中に人が現れ、俺になにかを話し出した。
「通行禁止? どうして」
「それはね、柴崎君がマクフライさんと結婚するからだよ」
人影はいきなり高村さんになって、高村さんは俺の自転車を押しとどめた。
「なんで俺とクーが結婚するんだ? 俺はじいちゃんにあって、生徒会のパンフレットをもらうんだ」
だけど、高村さんは突然俺の後ろに飛び乗って、彼方をさした。そこには学校があった。
「学校に行って高村さんとの結婚許可証を生徒会長にもらえばいいんだね?」
こっくりと高村さんがうなずく。
仕方がないかと自転車をこぎ始めると、海が金色に光って、クロエが現れた。
クロエは俺を睨むと、銃を構えて、薄情者と叫んで俺を撃った。
撃たれた俺は崖から落ちて叫び声をあげて……、目が覚めた。
目が覚めるとすぐ前にクロエがいた。撃たれると思ってビックリして飛び起きて、間抜けにも頭から本棚に突っ込んだ。
漫画や参考書、でかくて重い辞典まで、本の雨が俺の頭に降り注ぎ、たっぷり五分は痛みにうめく。
「何をしているんだ? ユウ」
あきれた声が痛みにうめく俺の背中をうった。
「……、高村さんとの結婚許可証をもらおうとしたらクーが薄情者と言って俺を射殺した」
「? なんだかわからないが、人の顔をみて逃げられるのは、かなり気分が悪い。それになぜ私がユウを射殺する?」
「夢の話。そういう夢をみて、寝ぼけてびっくりしただけ。……ところで、クー。なぜ、俺の部屋にいる?」
「……。おはよう、ユウ。今日は晴れて気持ちの良い朝だ」
クロエはなぜかついと目線をそらしてから挨拶をした。疑問への回答は無し。
理由を追求しようとした途端、目覚ましが鳴り響いて、俺の疑問を彼方に追いやった。
慌ててジャージに着替えて靴下をはいたところで、クロエの異変に気がつく。
顔が真っ赤で、目が一点を凝視していた。
「どうしたんだ?」
「……そ、それはその、女性を欲しているのか? あ、いや、その、わ、私にも、心の、準備が……。できれば、せ、正式に、婚約を交わしてだな……」
クロエの視線の先をたどる。俺の下半身。別に特に変わりはない。朝だから膨張して……!?
「だぁぁ! なんでまだいるんだ!」
「す、すまない! いきなり着替えだしたから……。でも、や、やはりシャワーは浴びさせて欲しい……」
「これは生理現象だから! 別にエロいこと考えてないから! ……うわぁっ!」
片足立ちで靴下をはいていた俺は、焦って股間を隠そうとして、散らかった本を踏んづけ転倒した。ご丁寧にちょうど良いところにあった固い辞書が倒れる俺の後頭部を再ヒット。
結局、今朝の稽古は散々な出来で、じいさんに雑念を捨ててこいと怒鳴られ、ランニングをし直す羽目になった。
登校中、俺とクロエには少し微妙な緊張があった。というか、クロエが俺を見て恥ずかしそうな顔をするため、俺も照れてしまっていた。
そういう雰囲気で学校に到着すると、校門で高村さんが俺達をまってたかのようなタイミングで現れ、微笑みを浮かべて寄ってきた。
けれど、その笑みはどこか作り物めいている。
「おはよー、柴崎君。……あの、昨日はごめん」
「え? なにが?」
高村さんは一瞬拍子抜けという顔をした。
「ほら、私が自意識過剰って」
そういえば、そんな会話をした。それを思い出すと今更ながら高村さんに申し訳ない感じがしてきた。些細な事で怒ったくせに勝手に忘れていたからだ。
「ああ、いや高村さんは悪くないよ。つまんないことで腹を立てる俺が悪いんだよ。……あれは俺の病気。だめなんだよなぁ」
「そんなことないよ。私もいらないこと言っちゃったし、ほんとごめんね」
「俺の方こそ、高村さんにそこまで気をつかわせて、悪かった」
「お互いに悪いところがあったで良いのではないか?」
俺達の謝り合戦に割り込んだのはクロエだった。
「お互い、もう充分に謝っている。早くしないと授業が始まるぞ」
とクロエがせかすと慌てだしたのはなぜか高村さんだった。
「あああ、あのね、あのね……。コンピューターの事でわからないことがあるの。土曜日、空いてる?」
なぜか高村さんは少しおどおどして上目遣いだった。いつもと違う仕草にかわいいものを感じる。
「予定は空いてるけど、俺、あんまり詳しくないよ? 谷澤とかの方がいいんじゃない?」
「いいの。谷澤君、詳しいのはわかるけど説明されてもさっぱりわかんないし、柴崎君なら一緒に仕事しているから、安心できるし」
むうっと高村さんが顔をしかめた。確かに谷澤のPC専門用語は俺でもわからないときが多々ある。
やつの技能は一流だと思うが、まるきりのPCオンチに対する指導者としては役不足かもしれない。
「まあ、高村さんがそれで良いって言うなら良いけど。で、学校でやるの?」
「ううん、うちのコンピューターなの。ごめんね、私の家に来てくれる?」
「……、なんか女の子の家に上がるのは緊張するなぁ」
「えー、全然大丈夫だよ。その日はお父さんもお母さんもいないから。ね、お願い!」
「うん、まあ昨日のこともあるし、がんばってみるよ。でも俺、高村さんの家、どこにあるかわからないよ?」
「ありがと! じゃあ、11時に、柴崎君の家に迎えにいくから。おいしい紅茶もごちそうするよ」
それだけのことで高村さんは、なにかとてもうれしそうだった。
「さあ、もういい加減にしないか。授業が始まってしまうではないか」
「おい、クー、そんなに押すなって」
なぜか機嫌の悪くなったクロエに俺はグイグイと背中を押されて校舎に入る。
ついてくる高村さんの顔が、もういつもと同じ笑顔を浮かべていて、俺はほっとした。
今日の昼休みこそ、自転車旅行の計画を煮詰めようとして、やっぱり邪魔された。
「ユウ、私はスシが食べたい」
購買部で買ってきたサンドイッチとコーヒーを自分の机で食べていると、クラスの女子をまねしてクロエが机を寄せてきた。
そして、何か考え込んだあげく突如そんなことを言い出した。
「サンフランシスコにだって寿司店ぐらいあるだろうに」
「本場のスシがいいんだ」
「本場のって、回らない寿司のことか? あれは高いんだぞ」
「回る? よくわからないが……高いのか……やっぱり高級料理か。日本に来れば少しは安いと思ったんだが」
とため息をついたクーは、気の毒なほどしおたれる。
「安くてうまい回転寿司屋なら知っているが、それで良いなら食べに行こうか?」
「む、ローリングスシでもおいしいのか。うん、行こう。土曜日だ」
「おいおい、土曜は高村さんと約束があるの知っているだろ」
「わかっている。それが終わったら、私とローリングスシだ」
「日曜日でいいだろ?」
「だめ、土曜日。早く帰ってきてローリングスシ」
「おい、クー、いったいどうしたんだ?」
なぜか、クロエは目をそらした。そのそらした先に高村さんがいる。
「やっぱり日本人は、日本人を好きになるものか?」
「……単に周囲に外国人が少ないだけだろ。東京なんかは外国人しか愛せないっておねーさんもいっぱいいるらしいし。
だいたいそれを言うならクーこそ、あっちでステディは出来なかったのか?」
帰ってきたのは沈黙だった。昼休みの喧噪が遠くなるような重い沈黙。それは息が詰まるかと思うほど続いて、クロエのため息で終わった。
「怖いんだ、男が。私を好きだと言ってくれた人がいて、受け入れようと思ったこともあったけど、だめだった。
……でもユウは違う。怖くなくて、解放される。私の体が、心が、魂が、ユウとともにあることを欲しているんだ」
「わかったわかった。なんか愛の告白みたいに聞こえるからそのへんでやめとけって」
「ユウ、私は真剣だ」
クロエの声が低くなった。アイスブルーの瞳が、強い光をたたえて、俺を見つめた。
「ユウ、私はユウが私のことを忘れていたのは赦す。十年経って、事前に連絡もなければ、わからないのは仕方がないかもしれない。
……でも私は、ユウのことがすぐにわかったのだがな」
なにか自分の席が、被告席になった気分がした。サンドイッチの味がわからなくなる。
「そしてその後の冷たい態度も、私は赦す。ユウは皆に心を閉ざしているのだから仕方がない。それに家に帰るときには私に少し心を開いてくれたしな」
喉が無性に渇いて、コーヒーを飲み干した。しかしなぜか渇きは収まらなかった。
「だけど、今朝の校門の事は赦せない」
「どれのことだ?」
「高村サンの家に行くことだ」
なーんだと思って笑おうとして、クロエの目が全然笑ってないのに気付いた。
「ユウ、家族がいない時の女性の家に行くことをどう考えている?」
「……、べつに高村さんは俺の恋人でもなんでもない。単にコンピューターを治すだけなんだけど?」
「だめだ。その話は断って欲しい。ユウは別にPCのエキスパートってわけじゃないのだろう? じゃあ、ユウでなければならない必然性は無い」
「そうだけど、もう約束しちゃったんだよ」
「私は、ユウを束縛したくない。でもユウには誤解を招きそうな行動を避けて欲しい」
「誤解も何もないだろ。だいたい彼女には彼氏がいるかもしれないし。それに俺達はクラス委員なんだぜ。それはクーの考えすぎ」
「……わかった。じゃあ、私と一緒に断りに行こう。ちゃんと私がユウを助けるから、心配はいらない」
そういってクロエは笑ったが、やはり目は全然笑ってなかった。
「はいはい、わかった、わかった。別にどっちでもいいし、断って……」
「その必要はないわ」
俺が腰を浮かせかけたとき、高村さんの声がした。
いつの間にか俺の後ろにたっていた彼女は、俺に並んで側の椅子に腰掛けた。
「マクフライさん、あんまり柴崎君を困らせないでくれない?」
クロエの顔から瞬時に笑みが消えて、無表情になった。親しみやすさが完全に消え、氷のようなという形容詞がぴったりになる。、
「ちょっと、いいんちょ」
「柴崎君、すこし黙ってて」
高村さんの返答は口調は柔らかいのに、妙に迫力があり、俺は思わず気圧されて黙ってしまった。
「マクフライさん、どうして、柴崎君が私の家に遊びに来ることが誤解を招くかな? それに柴崎君を束縛したくないってそれはどういう意味?」
「高村サン、不愉快な思いをさせてしまったらすまない。ただ私達には絆がある。それを大事にしたいだけ」
「でも十年間、何も無かったんでしょう? それでいきなりやってきて、絆と言われても、柴崎君が困ると思うわ」
そういう高村さんはにこやかな顔をしている。だけど、やっぱり目は笑っていなかった。
「高村サンには絆の大切さはわからない」
「そうやって絆とかいって、柴崎君を束縛したいだけでしょう。柴崎君はマクフライさんのモノじゃないわ。それに……」
そういうと、高村さんが俺の方を向く。
「ねえ、柴崎君。マクフライさんと恋人同士なの? キスとかした?」
その真っ向勝負な質問におれは思わずクロエと高村さんを見比べた。いつのまにか教室が静まりかえり、全員が俺達に注目していた。
緊張をはらんだ沈黙が流れる。他のクラスの喧噪がやけに遠くに聞こえた。
「……いや、そういう訳じゃないけど……」
クロエがうなだれ、高村さんが勝ち誇った様な顔をした。
「やっぱりね。……柴崎君も柴崎君だよ。どうしてそんなに流されるのかなぁ? いくら幼馴染みだからって、そこまで許しちゃだめだよ」
高村さんがまるで女教師のようにお説教を続けた。
「親しき仲にも礼儀あり。酷すぎる干渉を許すと、柴崎君にもマクフライさんにも良くないんだから。せっかくの仲の良い幼馴染みの仲が……」
「ユウ、すまなかった」
いつのまにか至近距離にクロエが来ていた。
「……え? な、なにが?」
「私は、ユウに会えて喜びすぎていたようだ。だから大事なことを言い忘れていた」
その顔には怒りも冷たさもなかった。あったのは、祈りにもにた真摯な目の光と若干の不安の影。
なにかを抱くように両手が胸の前で組まれた。
「ユウ……好きだ。愛している」
音のない爆弾が炸裂したように、教室が静寂に包まれ、そして次の瞬間歓声が満ちた
「私だけを見て欲しかった。……思いを伝えずにユウを縛ろうとして、すまなかった」
そうやって優しく微笑むクロエを見ながら、俺は混乱していた。
言葉の意味は理解している。クロエは愛している。誰を? 俺を。アイシテイル? なぜ? どうして?
「ユウ、あなたの返事を……」
「ちょっと待ちなさい!」
高村さんの鋭い声が、歓声と俺の混乱を断ち切った。
「……高村サン、なぜ邪魔をする? 確かにユウと私はさっきの時点では恋人同士ではなかった。だが、私はユウを愛している。だから貴女の家に行って欲しくないのだ」
「問題はそういうことじゃないわ」
彼女の表情にいつものにこよかさが消えていた。あったのは焦りとか怒り、彼女には似合わない色。
「十年前からの幼馴染みか何か知らないけど、昨日突然やってきてべたべたくっついて今日いきなり告白してって、そんなのおかしいわ」
「高村サンの言うことはわからない。ユウへの愛は突然ではない。昔から心にずっとあった。ただ昨日やっと会えたというだけだ。
……ところで、なぜ貴女は私とユウの事に干渉する? それこそ、貴女はユウの恋人ではないはずだ」
「それは、その……」
もごもごと口ごもる高村さんをクロエは氷点下の目でみつめた。
「はっきりいうが、高村サンにユウと私のことを言う権利は無い。そして土曜日もキャンセルにしてもらう。ユウには必要以上には近づかないで欲しい」
だが俺は嫌な予感がしていた。というか、この会話の流れで、ここで終わるはずはないからだ。できればこの席を立って逃げてしまいたかった。
案の定というべきか、高村さんが顔をあげた。そこにはもうごまかしの笑顔は無い。決意を秘めた顔だった。こういう顔を俺は先ほどクロエで見た。
「……権利はあるわ。キャンセルもしない。……柴崎君から離れない!」
宣戦布告をクロエに。そして彼女は俺を見つめる。
「……わたし、柴崎君が好きだから。二年間、ずっと好きだったから。今さら出てきた人に渡さない!」
教室は前以上に沸いて、治まらなかった。
その中で二人はにらみ合い、俺はひたすら混乱していた。
くだらない、あまりにもくだらない。俺は一人でいなくちゃならない。誰かに愛されて良い人間じゃない。馬鹿だった。俺はあまりにもうかつだった。楽しさと快さに浸ってしまった。だからこんなことになる。
俺は人殺しなんだ。殺した。そう殺した!
頭が割れるまで椅子を振り下ろした。肉と骨にめりこむ手応え。やめてくれと訴えるあの目、手についた白い脳髄、紅く染まった俺の手。
昔もこうだった。俺のことでみんなが対立した。学校でも町でも家でもみんなが言い争った。
俺をヒーローなどど持ち上げながら、目で俺を人殺しと罵った。また、みんなが争っている。なぜ俺を放って置いてくれないんだ。
頭痛がする。鼻の奥であの臭いがする。周りの声が頭中を駆けめぐる。ああ、これは発作だ。もう、とまら……。
------インテルメッツォ 発作
私がマクフライさんとにらみ合っていると、突然、側の椅子が音を立て始めた。柴崎君が震えていたのだ。何が起こったのかわからない私たちを尻目にマクフライさんだけが柴崎君に素早く駆け寄っていた。
「まずい、発作だ!」
マクフライさんに抱きかかえられた柴崎君をおそるおそるのぞき込むと、彼の目はどんよりとした光しかなく、焦点を結んでいなかった。
「殺した……俺が殺した……」
そんなことをつぶやきながら、彼は机を血だらけの拳で叩き続けた。それが無性に痛々しく恐ろしかった。
「ユウ、大丈夫だ。ユウ」
だからそれらに一切動揺せず、涙を流しながら柴崎君を抱きしめるマクフライさんの姿は、悔しいけれど聖母のようだった。
柴崎君がマクフライさんの左肩に嘔吐しても、彼女はぴくりとも動かず彼女は背中をさすっていた。
誰かが先生を呼び、先生が救急車を呼んだらしく、毒気が抜かれた教室に、サイレンの音が響きだした。
それでも教室にいた私達は、誰も二人に近寄れなかった。
柴崎君の抱えているものの禍々しさとマクフライさんの崇高さが、私達を金縛りしていた。
「……絆……」
誰かがもらしたその言葉に、私は……マクフライさんに……叫びだしたいほどの嫉妬と羨望をかき立てられていた。
------インテルメッツォ 港南精神神経科病院 2階215号室
私は馬鹿だ。エゴイストだ。ユウを発作に追い込んでしまった。罪深い女だ。
病院のベッドで眠り続けるユウを見ながら、私は自己嫌悪に落ち込んでいた。
ユウを救いたいなんてよく言ったものだ。現実はユウを傷つけている。
ユウは私たちを助けて、自分の心を壊してしまった。
一度目は、助けたそのときに。二度目はそれから半年間かけて。、
ユウが好きだったミセス・クライン。私は彼女を何回呪ったことだろう。
町の大人達、上級生達、無邪気な他のクラスの生徒達。地元マスコミ、教育委員会、そして彼を助けるべき医療者達。
ミセス・クラインが致命傷の一撃を、そして彼ら達が無数のとどめを。そうやって、彼は壊れた。私達も少なからず壊れた。
PTSDと医者は言う。ならば壊れた心のかけらはどこにいくのだろうか?
だけど、誰も悪くはない。悪いのは死んだジャンキー、あのブタのようなクズだけ。
ユウを救いたい。そしてユウに救ってほしい。神様、こんなに毎日祈っているのにどうして助けてくれないのです!
第2話 終
拙文をお読みいただいた方、ありがとうございました。
レスに一つ一つ御礼を申し上げると邪魔になりますので
いたしませんが、読んでいただき、さらに感想をいただける
ことには、心からありがたく思っております。
他のSS制作者の皆様にもいろいろと参考にさせていただき
篤く御礼を申し上げます。
>>468 乙
銃でぬっころしたんじゃなくて椅子でやったんだな
いきなり修羅場激突キタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*・゜゚・* !!!!!
PTSDになってもいいから俺も金髪の幼なじみが欲s(ry
>>468 最初の4行でかったるくなって読むのやめたよ
>>468 乙
過去のトラウマをどうやって活かすか今後に期待!!
ただもう俺はクー派だ!!
>>468 乙
凶器はイスか
俺はやはりいいんちょでいくぜ!!
とりあえず、クーがこのまま優勢になることを願いつつGJ!!
>>457 駄文だな
おまえはSSスレの面汚しだ
もう、ここに書き込まなくていいよ
最近このスレ終了とか神に文句つける香具師が一名いるけど
スルーでお願いします。
阿修羅さん、サイトの更新は無理でもせめて一言スレに書き込んでくれないかなあ・・・。
さすがに心配だ
>>468 作者様GJ
ジェットコースター張りの展開に興奮!とりあえず何より
|ω・`) クロエ可愛いよクロエ・・・
>>478 だって、そうだろ
この作品は面白いのか? あん?
間違ったことは言ってません
雪桜ちゃんは貧乏カワイイ
>>457 |ω・`) 取り乱して一体何が起こるのか・・・
つよちゃんが何処に向かっていくのかまったく分からないわ・・・
姉妹ものの修羅場ゲーはやったことないので力になれないっす」 ̄l○
妹だけならデュアルセイバーのキモウトとかぐらいしか・・・
相変わらずここは神の集まる場所ですね
無能者のヒガミも多いと思いますが、気にせず行きましょう
煽るな。
>>468 もうちょっと改行うまく使うと読みやすくなっていいかも
>>468 クーテラモエスw
次も期待しております
>>481 十分面白いと思うが。
わざわざ不快になる様なことを書くなよ・・・
荒らしはスルーで
一週間も経っていない筈なのに、コテツミンが不足してきた気がする
むしろ、今までいなかったのが不思議なくらい
二等辺が大変気になるところで切れてて毎日辛抱堪らんです
ホントに、あいつはどうしようもないヤツだ。
人に強く言われればへこたれ、不良に絡まれれば米搗きバッタのように頭を下げる。
細長い顔に、目つきの悪い一重瞼、長くてサラサラした髪は女々しくて腹が立つ。
身長ばかり高くて体の線は蹴れば折れてしまいそうなほど細い。
スポーツは苦手で、外に出るより家でピアノを弾いている時間のほうが長い。
だから夏でも肌が白くて、体も薄っぺらい。
しかも、そんな姿でいつもへらへら笑っているから気に喰わない。
そう。
あいつがあたしみたいにいい女と付き合っているのは一つの僥倖だ。
神が何のとりえもないあいつに与えた唯一の機会。
あたしとあいつは古くからの知り合いで、所謂幼馴染。
だからもっとあたしに感謝して、その気持ちをもっと体で表現して欲しい。
毎日一度は必ず抱きしめて、一時間おきに『愛してる』って囁く。
当然他の女なんかに目を向けず、ずっとあたしだけを見て、あたしのことだけを考えていればいい。
なのにあいつときたら…
困っている人を見つけては声をかけ、必要以上に干渉する。
それも女ばかり。
気に喰わない。
あたし以外の女に優しい目をするな。
あたし以外の女に興味を向けるな。
そのたび、あたしはあいつに辛く当たる。
この間は思いっきり蹴り飛ばして、腹と脚に痣を作ってやった。
本当はもう二度とあたし以外の存在を気にかけないように一生部屋に飼ってやりたいのだが、その程度で済ませてやったのだからもっといい顔をしてればいいのだ。
それなのに、あいつは反抗的に眉を顰めて歯を食いしばっていた。
何よりもこのあたしの気持ちに背いたことが許せない。
昔から告白された回数は数え切れないほどのあたしが、わざわざあいつの彼女に甘んじているのだ。
だからあいつはあたしの言いなりになって当然なのに…
すぐさま頬をひっぱたいて連れ去り、学生が入るにしては高すぎるレストランでディナーを奢らせた。
音大で学費がかかるあいつはアルバイトで賄っているが、そのほとんどを食事とあたしの洋服に使わせた。
感謝して欲しい。
あんたの大切なひとがそれで機嫌を直して、より美しくなるのだから。
でも、あいつは少しも笑顔を見せなかった。
捨て猫みたいな悲しい目をして、まるでモノでも見るようにあたしを射抜いていた。
あまりにも腹が立ったあたしは、そのままあいつを置いて家に帰った。
何で嫌そうな顔をするのだろうか。
付き合い始めのころはとても優しい目をしていたのに。
全然タイプの顔じゃないけど、ドキッとするくらいの笑顔を浮かべていたのに。
気づけば柔らかな表情は消えうせ、連絡の回数は減っていた。
この間だって二週間ぶりに会ってやったというのに、課題の練習があるといって初めは嫌そうにしていた。
勿論無理矢理連れてきたけど、結局あたしが腹を立てて帰ってしまった。
もしかしたら、あたしに興味を失ったのだろうか?
まさか、そんなはずはない。
昔からずっと一緒でなにをするにでもあいつだった。
だからあいつがあたしを好きじゃないはずがない。
たとえ太陽が燃え尽きても、地球が滅んだとしてもありえない。
そうよ、あいつみたいな冴えない男があたしを逃したら他の誰があいつを気にかけてやるのよ。
あたししかいないじゃない。
だから、あいつがあたしを必要としない道理なんてあるはずがないのだ。
そう考えていると、何故か胸が弾んでくる。
まぁ、付き合って“あげてる”んだけど必要とされるのは悪い気持ちがしない。
それにあたしだってあいつのことはほんの、ほーんの少しだけど大切に思っているから。
感謝しなさいよね。
あんたはあたしから離れたら、何もできないんだから!!
翌日、妙にテンションが高いあたしはあいつの学校で待ち伏せをすることにした。
今日は特別講習で遅くなるらしいが、待っててやることにした。
ほんっと、あたしには返しても返しきれないくらいの借りがあるわね。
真冬で思わず震えるくらいに寒かったけど、昨日あいつに買わせた革のコートの襟を立てて風をしのいだ。
授業が終った。
生徒達がおのおの雑談に花を咲かせて校門から出てくる。
金曜の夜だからだろうか、カップルが多い。
これからデートなのだろう。
あいつの姿はない。
一時間が過ぎた。
出てくる生徒もまばら。
居残りで勉強していた連中も空腹に耐え切れなくなったか、少しやつれた表情で家路についていく。
あいつの姿はない。
二時間が過ぎた。
校舎からは明かりがぽつぽつと消えていく。
大きな楽器を抱えた一団が去っていく。
あいつの姿はない。
三時間が過ぎた。
いよいよ人の姿は見えなくなってくる。
清掃員が時々あたしを怪訝な目で見つめ、手際よくゴミを片付けている。
あいつの姿はない。
四時間…
立ちっぱなしのせいか、高いヒールを履いたつま先は凍え、ふくらはぎが鉛でも詰まっているように重い。
ポケットに突っ込んだ指はかじかみ、ぬくもりを求めている。
あいつが買ってくれた新作のコスメでおめかししたというのに、北風のお陰で台無しだ。
きっとグロスも剥げてアイラインも歪んでいる。
どうして、どうして出てこないの?
あたしのために早く出てきなさいよ、今日は特別長く抱きしめさせてあげる。
キスだって滅多にさせないけど、今日だけは好きなだけしていいから。
人前で手だって繋がせてあげる。
だから、だから…
早く、あたしに気づいてよ…
心を読んでよ…
暗い闇の底に一人取り残されたように、ぽつりと立ち尽くす。
周囲を夜の静寂だけが支配し、物音一つしない。
そんな中、あたしは一人…
胸が冷え行くのを感じていると、ふと遠くから人の声がする。
男の声と、小さくてよくわからないけど、とにかく声がする。
あいつだ…!!
何故か心が躍った。
本当はあいつが感謝してその悦びを全身で表現しなきゃいけないんだから!!
さぁ、今日はどんな仕置きをしてやろうかしら…と考えていると。
小さくてよくわからなかったもう一つの声が、顔の周りをうろつく子蝿のようなわずらわしさを以ってあたしに耳朶を打った。
一つは、聴きなれたあいつの声。
低くて滑舌が悪いけど、胸に染み渡るような穏やかな声。
そして…
あたしの胸を吐き気を催すくらいに乱してくれるもう一つは。
控えめで、自分の可愛らしさを媚び諂うように強調させた――――――
女の声だった。
瞬間、胸が発火していた。
「誰よっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
鋼の円筒から灼熱の弾丸が吐き出されるように激しく、乾いた火花を散らすように狂おしく。
あたしの喉は大声を上げていた。
そのまま取り憑かれたように声のするほうへ歩いていく。
どんなに足の裏が傷もうが、新品の靴で皮が破れて出血していようが関係なしだった。
体はこんなにも寒いのに、どす黒い太陽を燃やすあたしは、吸い寄せられるように進む。
何故か滲んでいく視界に映ったのは、
何故か見知らぬ女と腕を組んだ、
何故かとても幸せそうで、
何故かあたしを見て、
何故か色を失う、
あいつだった。
「誰、その女????」
飛びつくように女とあいつを引き剥がし、襟元を掴んで詰め寄る。
強い態度で出ているのにもかかわらず声が震えていて、とても不快だった。
「……」
あたしがあいつの瞳を覗き込んでも、ばつの悪そうな顔で視線をそらすだけ。
気に入らない。
あんたはあたしを見ていなきゃだめでしょ?
あんたはあたしのことだけを考えていなきゃだめなのよ。
それにせっかく付き合って『やってる』あたしに対して失礼たと思わないの?
ねぇ!!!
「手を離して下さい」
感情に任せて怒鳴り散らすあたしを見かねてか、図々しくも“あたしのあいつ”に触れていた女が割って入った。
暗闇でもわかるくらいに整った容姿。
どこか護ってあげたくなるような細い声。
あいつが気にかけそうな人種だった。
だからきっとこいつに対してもそういった情けみたいなものをかけているんだ。
そうに違いない。
「五月蝿いわね、汚い手で触らないで!!この泥棒猫!!」
あたしの手首を掴んだ指を払う。
嫌味なくらいに細くて華奢な指先だ。
思わずあいつがピアノを弾く姿を重なる。
――――――あわててかき消す。
「…泥棒猫はどっちですか?いきなり出てきて、彼は私の恋人なんです!!手を離してください」
その清楚なイメージからは想像もつかないくらいに強い口調。
突き飛ばされてあたしは尻餅をついた。
痛い。
「こい、びと…?違う違う!!こいつはあたしのもんなの!!だから勝手に手を出さないで!!」
「違います…彼はほかに付き合ってる人なんていないって言ってました!!腐れ縁で煩わしい
遊び人の幼馴染はいるけど何の関係もないって!!」
荒い息を吐きながら女が大声を上げる。
でもそれ以上に、あたしはその言葉の内容に深く傷ついた。
「なんの、かんけいも、ない?…ちがうでしょ?あんたはあたしのかれしで、あたしはあんたのかのじょでしょ?…」
「……」
どうして目をそむけるの?それにどうしていつも他の女にするみたいに手を差し伸べないの?
ほら、早く。
地面、冷たいんだから、腰冷やしちゃうよ?
あたし、風邪引いちゃうよ?
痛いんだよ。
風邪こじらせて肺炎になっちゃうよ?
肺炎になって、もしかしたら死んじゃうかもしれないよ?
ねぇ、あたしが死んでもいいの?
だめでしょ?あんたにはあたししかいないんだもの。
だから早くあたしの手を取って、あたしたちの関係を説明しなさいよ!!
僕は彼女に付き合って“いただいて”ます。って!!
「ほら、やっぱり関係ないじゃないですか。そういうの、困ります。幼馴染だかって大事な彼に付きまとうのは止めてください。
不快です。それに彼に無理矢理お金を使わせないでください。学費もあるし、卒業したら一緒に海外に留学するんですから」
?????
ねぇ、どうして何もいわないの?
早く、早くして!!
その女が妄言を吐き続けるから。
卒業したら留学するって、嘘でしょ?
あたしを置いてどこかいくわけないよね?
ずっと傍であたしのことを考えていけなきゃいけないんだから、どこにもいかないよね?
ねぇ???
ここに来て、ようやくあいつが重い口を開いた。
「…そうだよ。これまでずっと我慢してきたけど、もう限界なんだよ。付き合ってやってるっていうくせに、手も繋がない、キスもしない。もう五年も経つんだ。
それなのに毎週毎週俺を引きずりまわして好き勝手やった挙句、一人で帰っちまう。それでいまさら“彼氏”かよ!!」
「え?…だって、あんたみたいな男には、あたししか…」
「大きなお世話なんだよ!!!それに今の俺には“彼女”がいる。もうお前のままごとに付き合うのは限界だよ」
その手で、薄汚い猫を抱き寄せないで。
病原菌が移るでしょ、だめ、だよ…
「前から知ってるんだよ。お前が中三の時付き合ってた先輩に無理矢理犯されて男性恐怖症になってたこと。
それで昔からの知り合いで無害そうな俺を選んで好き勝手弄んでたんだろ??俺がお前に何もできないことを知っててさ!!」
その、女の顔、殴りつけたい。
ナイフでズタズタに引き裂きたい。
満足そうにほほエんデいる、そのメに、ふぉークをつッこミたい…
「おい、なんとかいえよ!!それで今更これかよ?もうお前には本当にうんざりだよ。それで…楽しかったか?“恋人ごっこ”はよぉ!!!」
普段は出さない音量で、細い目を激情に滾らせて…
ぁぁぁあ…
あ…
焼ききれそうな喉を押さえて、あいつは女と去っていく。
伸ばしたあたしの指先を、手の甲で殴りつけて。
そのまま、あたしは取り残される。
もう…
なにも、かんじない…
巡る――――――あいつとの思い出。
あれだけさむかったのに、なにもかんじない…
こんなさむいのは、はじめて…
巡る――――――時にはあたしを包み込んでくれた腕が。
もうさしのべてくれるゆびさきは、ない。
ずっと、ひとり。
巡る――――――本当は、好きなのに。そばにいて欲しいのに。
このさむぞらで、ひとりいきてゆく。
ずっとこのばしょで。
巡る――――――素直に、なれなかった…あいつを、傷つけてしまった…
「さようなら、捨て猫さん」
つめたくひびく、おんなのこえをさいごに。
あたしのこころはコナゴナにこわれた。
埋めネタ用に考えた読みきりですが…
他の連載を書く時間がないのでこれで勘弁してください。
興味なかったらスルーしてくださいませ。
お目汚し失礼しました。
GJ!初めは何この最低女と思ったが、最後にはテラ(´・ω・`)セツナス&カワイソスになったぜ……
>埋めネタ用に考えた読みきりですが…
ヤンデレになり続いていくと思った俺は毒されているかも試練
>>501 ヤンデレスレから帰ってきたら、新しいの投下されてるし(*´д`*)
とりあえず、超GJ。できれば続きが読みたいです。
やべぇ、めっちゃツボにストライクったわw!!!
惚れた弱みに付け込んで好き勝手我儘高慢最低女をスパッと振る!!
いやぁ最高にスカッとしたわw
超GJ!!!
最後の方では彼が幼馴染に刺されやしないかガクブルしてたのだが
そうならずに済んで少しホッとした
こういうの読みたかったんだよね!
反面実は自分でも書こうと思ってたのを先越されちゃったかなw
なーんて
>>504 今からでも遅くは無い。君ならできるはずだ!!
イヤッホオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
イヤッフゥーーーーーーーーーーー!!!
新感覚ヒロイン萌エス
GJ!!
ゼロの使い魔のルイズが現実にいたら
こんな感じだろうなと一瞬思ってしまった
なんだか凄く気分爽快だった!ありがとう!
思わず同情してしまったが考えてみれば自業自得なんだよなぁw
これ続くとしたら壊れた高慢女の復讐劇にしかならんような気がする。
東海道を埋め尽くす大軍が列を成して進む
その行軍する兵士たちの顔には若干の疲労が見えるがその表情は明るい
家族の元に戻れる
褒美がもらえる
その理由は様々だが共通するのは生きて帰ってこれたということであろう
そんな凱旋行列の中に1人の騎馬武者がいた
真島半次郎久信
数え年16歳
時の天下人豊臣秀吉の直属の荒小姓の一人であり真島家の現当主である
天正12年(1584年)半次郎が10歳の時、父・真島久時が小牧・長久手の役で討ち死した
父は当時秀吉の甥である三好信吉(後の関白・豊臣秀次)旗下の一部将だった
この戦で信吉は徳川家康の挑発に乗り軍を進めて散々に打ち破られ多くの将兵が戦場に骸を晒した。久時もその一人に過ぎない
その後色々あったが秀吉の小姓として召抱えられ今に至る
半次郎はこの戦が初陣であった
敵は関東の雄・北条家
どのような激しい戦になるかと出陣前は武者震いに戦慄いていたが蓋を開けてみれば
(半次郎本人にとっては)なんと言うことも無い戦であった
3月に秀吉に従して京都を出発して4月には敵の本拠地・小田原の目と鼻の先に陣を敷きここからさぁ城攻めかと思いきや
陣中では和歌や舞,果ては宴会まで催すという有様であった。挙句の果てに秀吉は5月に入って側室の茶々姫を小田原に招き、
これが戦かと半次郎は同僚の荒小姓たちと隔靴掻痒の日々を過ごしていた
6月に入り半次郎は小姓達と夕餉を供していた秀吉に直談判という暴挙に出る
初陣の戦に弓も比べず槍も交えずは生涯の障りであるとその場での打ち首覚悟で秀吉に直訴した
だが秀吉は半次郎を咎めず、むしろ笑いながら半次郎を褒めた
「武士の本分を忘れぬ半次郎の気概至極天晴れ也」
そういって秀吉は半次郎に直々に杯を取らせた。小姓の身分であるということを鑑みれば分限に過ぎた扱いであった
その後は何事もなく7月に入り北条家は降伏した
結局半次郎の初陣は弓も比べず槍も交えずに終わった。しかしその胸中に不満の火種が燻ることは無かった
8月に京都に入り半次郎は約半年ぶりに自分の屋敷に戻った
半年振りに戻る我が家である。その感慨も一塩であったが半次郎にはもう一つ胸に来る要因があった
「お帰りなさいませ半次郎さま」
門をくぐった半次郎を鈴音のような涼気を纏わせた声が出迎える
腰まで届く艶やかな黒髪を夏の風にそよがせ夏の太陽にも焼けない白い陶磁器のような白い
しかし暖かな笑顔を乗せた少女が半次郎を出迎えた
「いま戻ったよ、沙夜」
「はい」
そう応えて沙夜は半次郎の胸に飛び込んできた
「さ、沙夜?」
「半次郎さま、もう少しこのまま…」
「う、うむ…苦しゅうない…ぞ」
そう応えた半次郎であったが内心は嵐が巻き起こっていた
心臓は早鐘のように動悸を繰り返し頭の芯から熱気を纏った何かが染み出してくる
「半次郎さまの匂いがします…」
「じ、陣中であったからふ、風呂にはいれなんだから臭うであろう?」
「いいえ、沙夜の好きなお日様のような暖かなです…とっても居心地のいい…」
「ま、まず屋敷に入ってから風呂に入る故、な…沙夜…」
「はい、準備はできておりますので参りましょう」
若干名残惜しそうに半二郎から離れるとその腕をとって屋敷に入っていった
「ふう…」
余り広くは無いが十分に体を伸ばせる湯船に体を浸らせながら半次郎は一息ついた
「帰ってきた…」
屋敷の門の前に立ったときよりもあの春の温かさを纏わせた少女――沙夜――の顔を見た瞬間こそ
半次郎は自分は帰ってきたのだという実感を感じた
「初陣も無事に凱旋した…真島家の当主としての、武士としての責を一つ背負った…ならば…」
沙夜を、あの少女を正室として迎えるといっても問題は無いのではないか?
確かに沙夜は真島家の侍女に過ぎない。だが我が家はそれほど家格のある家ということでもない
ならば侍女上がりの奥といってもさほど波風は立たぬはず…
実際侍女上がりの正室などいくらでもいる。ならば自分がそうであっても何ら問題は無い
「そうだ、何も問題はない」
次の登城で殿下に、秀吉様に願い出よう。
「よし」
半次郎が心を固めて湯船から出ると戸の向こうからその意中の少女が声をかけてきた
「半次郎さま、お背中をお流しします」
大坂城
現在この国の最高権力者――農民から関白にまで駆け上った稀代の出世人――
豊臣秀吉は今回の戦の論功行賞の試案を頭の中で纏めつつあった
「これで権大納言(家康)は関東に置き、後は東海道を固めればまずは安泰じゃ」
秀吉にとっての最大の懸案事項はこの一点に尽きる。北条家の残党などは折を見て自分の懐を覗かせてやればそれで済む
東海道の諸国を自分の腹心で固め北陸に上杉、東北に伊達、蒲生を据え置き、信州にあの真田を置いておけば
家康といえども其方への備えに注意せざるを得ない
後の余力で精々関東の地を豊かに栄ることに力を注いでくれれば秀吉にしてみれば何も言うことは無い
「さて、後は家臣に配る飴の思案じゃて」
こちらは秀吉にとっては楽しい企みである
家臣が自分が与える飴に対して見せる喜びや平伏する様は秀吉の心を大いに満たす瞬間である
さながら犬が餌に尻尾を振りながら飛びつく様を眺める飼い主の心境に近い
「まずは些事から練っていくかのう…」
従軍した兵卒には一律に銀をばら撒けば事足りる。少しばかりの功を立てた者には金を与えれば尻尾を振る
将士連中には幾許の加増
後はなにか手落ちは無いか…そのとき自分の周りに付き従う小姓連中にも心が向いた
「小姓共にも何ぞ飴をしゃぶらせるとするか。さて何が良いか…」
名刀か茶器か…その辺りに思案が行ったとき秀吉は自分に直訴してきたあの子倅に思い至った
「そうじゃそうじゃ陣中でこのワシに直言しおったあの子倅には懐を存分に見せてやるとしよう」
子供に新しい着物を与えてみせる心境で秀吉は思案を張り巡らせる
「何ぞ適当な役に取り立ててやるか…いっそ1万石程度の大名というのも面白いかもしれん」
「いやいやそれは流石に妬む輩が出てくるとも限らん、さて何が良いか…」
あの子倅はどのようなもので肝を潰すか、自分があの位の年のときに何に心を巡らせたか…
そのとき秀吉の脳裏に天啓とも言うべき舞い降りた
「そうじゃ女子じゃ娘じゃ、あの時分の子倅なら女子のうなじを見ただけでも胸が波立つっ!こりゃ妙案じゃ!」
ただ市井の娘を宛がうのでは芸が無い、どこぞの良家の年頃の娘を八位程度の官位を添えてあの子倅にくれてやろう
「こりゃ我ながら見事な妙案が練れたものだハッハッハッ…」
秀吉は上機嫌で側人を呼びつけた
以上です
時代劇で修羅場というのがなかったようなのでついで気心で作ってみました
まだ修羅場要素がほとんど出てきていませんが次からじわじわと修羅場って
行きたいと思いますので広い心でお付き合いいただければ幸いです
こんな時間に駄文投下で失礼いたしました
新作キター!!
身分に差のある修羅場もおもしろそうだな。まだみぬヒロインにもwktkがとまりませんw
作者さんGJ
>>509 成る程言いえて妙だ
って言うか瞬時に脳内イメージがルイズ、才人、シェスタに変換されちまったヨw
全員男ですが
つまり女が居るから修羅場になる、と。暗示的ですな
>518
GJ
姫vs侍女は大好物です
投下しますよ
「よぅ、お二人さん。楽しかったかい?」
ホテルから出ると唐突に声をかけられた。先程の痛みがまだ残っているのか、僕に寄り
添うように掴まり歩いている青海の頭の向こうに視線を向けると、メイド服を着た少女が
立っていた。年齢は十代前半だろうか、いや下手をしたらもう少し低い年に見える。年齢
にも場所にもふさわしくないその格好をした少女は、顔には笑みを浮かべていた。しかし
ユキさんがいつも浮かべているようなものとは違い、性格が悪そうに口の端を吊り上げ、
頬を歪めたものだ。これ程外見にそぐわない表情を浮かべる人も、そうは居ないだろう。
どのような反応をしたら良いのか困っていたが、青海が反応した。
「あぁ、セツか。どうした、こんな所で?」
どうやら知り合いだったらしい、と言うか服装を見て大体予想はついていたが。多分、今セツと呼ばれたこの
少女も青海の家に居るメイドさんの一人なのだろう。もしかしたら労働基準法に触れてい
るのではないのかとも思ったが、ユキさんという弩級の前例を見たことがある以上は簡単
に外見で判断してはいけないと分かっている。
青海はセツさんに向けていた視線を僕に向けると、
「虎徹君はまだ会ったことはなかったな、メイド長のセツだ」
「……どうも、初めまして」
控え目に挨拶をすると、セツさんは愉快そうに笑い声を漏らした。どうでも良い話だけ
れど、この人は本当にメイド長なのだろうか。青海の話を疑うつもりはないけれど、長の
ポジションどころか普通の仕事も出来ないような気がする。口には出さなかったけれども
表情に出てしまっていたのか、声を出すのを止めてこちらを見つめてきた。
「疑ってるな? あたしゃこれでも結構有能なんだぜ?」
「それはわたしが保証する」
まだ二人しか見ていないので今判断するのは早計だと思うが、青海の家のメイドさんは
全員変人なのだろうかと疑ってしまった。しかしユキさんもそうだったし、青海が言うの
ならばセツさんもきっと普段は大丈夫なのだろう。
「しっかし、旦那から評判は色々きいてたけど良い男だねぇ、昔の大旦那様にそっくりだ」
婆さん喋りや今の態度など色々と突っ込みたい部分はあったが、一番気にかかったのは
僕のことを知っているということだ。青海が言っていたのならまだ分かるが、それ以外の
人が知る程に青海の家で有名になっているのだろうか。いや、なっているんだろう。何せ
変態僕グッズが部屋に溢れているようなことを青海は言っていたし。
「勘違いするんじゃないよ、お嬢もあたしも馬鹿じゃない。ただあたしゃ自分の旦那に聞
いただけだからさ。落ち込むこたぁないさね」
「言い忘れたが、セツはユキの妻だ。色物夫婦で通っている」
やはり青海もおかしいということは分かっているのか。もしかしたら二人の間に価値観
の違いがあるかもしれないと思っていたので、少し安心した。
そして、一つの疑問が沸いてきた。
「青海、これは犯罪じゃないの?」
ロリコン、と言わないのは精一杯の気遣いだ。最初に妻子持ちだと聞かされたときの、
誇らしいような照れ臭いような、いつもの穏やかな笑みの下に隠されたそんな大切ものを
妙な言葉で汚してはいけないと思ったからだ。
しかしセツさんはげらげらと笑いながら、
「何言ってんだい、あたしゃもう三十路だよ。肌はまだまだ水を弾くがね」
驚いた、この世の中は不思議なことが多いがこれは許容範囲の外側だった。外見年齢が
実年齢の半分以下なのは、正直なしだと思う。しかも、よく考えてみればセツさんはユキ
さんよりも年上。こんな外見で姉さん女房なんて、神は何を考えているのだろうか。
「ところで、何かあったのか?」
思考の海を漂っていた僕の意識を引き戻したのは、青海の声だった。話がずれていたせ
いでうっかり失念してしまっていたが、確かにメイドさんがこんな場所にいるのは妙だ。
メイド長ともあろう人が直々に来たのだからもしかしたら何かあったのかもしれないと思
ったが、もしそうなら愉快そうに話をしている訳がない。本当に理由が思い当たらず青海
と同様に疑問の視線を向けると、口の端が更に吊り上がった。
「旦那の頼みでさ、お嬢が膜をブチ抜かれてたら車で送ってくれと。軽くストーキングを
してたのは悪いと思っちゃいるけどね。あれで結構心配性なんだよ」
兄ちゃんも乗りな、と言いながら駐車場の角に向かって歩いて行く。はすっぱ、と言う
よりも破天慌なタイプだ。全く性格の違う二人の間にどんな経緯があったのかは分からな
いが、きっと一番組み合わせが良いんだろうと思った。いつもゆったりとしているユキさ
んと、はすっぱなセツさんは、しっかりとバランスが取れているような気がする。
「ん、どうした?」
青海が尋ねてくる。
「いや、ユキさんもセツさんも幸せそうだと思ってね」
「そうだな、あれも理想系の一つだ」
三人でメルセデスに乗り、セツさんの気合いの一言と共に荒っぽく発進した。ユキさん
の場合リムジンしか運転しているのしか見たことがないが、それでも他の車を運転したと
きこうならないのは分かる。確かに早いのはこちらの方だと思うけれど、早さ以前の大切
なものが足りないと思ってしまう。
カーブに差し掛かったが、スピードは落ちない。寧ろ加速して、ドリフトで曲がった。
「あの、セツさん?」
「ん、何さね? あぁ、すまんね。スピードを出すのは揺れて股に響くか、あたしも初め
ての後はそうだった。お嬢、大丈夫かい?」
「大丈夫だ、虎徹君が隣に居る」
愛されてるねぇ、兄ちゃん。と言いながら、セツさんは軽快にハンドルを回した。ふと
気付いたのだが、前方を殆んど見ることが出来ないような身長と、力の弱そうな細い手足
で、まともな運転が出来るのだろうか。
運転席を覗いてみると幾らか、いやかなり小造りになっているハンドルやシフトレバー、
ペダルが見えた。特注品なのだろうか。
「いや、しかしお嬢は幸せ者だねぇ。こんなに気遣ってもらえて」
「普通ですよ」
言うと、セツさんはおかしそうに身をよじらせた。
「気に入った、兄ちゃん泊まっていきなよ」
それは、どうだろうか。
「あまり強引に話を進めるな、虎徹君が困るだろう」
「でも、お嬢はそっちの方が嬉しいだろ?」
「それは、そうだが」
視線を横に向ければ、青海の複雑そうな顔があった。こちらに何かを訴えかけるような
表情と目が合い、どうしようかと一瞬悩む。普段は堂々としていて意見もはっきりと言う
タイプなのに、その中には今のような弱さがある。だからこそ隣に居たいと僕は思って、
気が付いたら手の中には携帯が握られていた。
家の番号を呼び出して数秒、幾らもしない内に繋がった。
「もしもし」
『あ、虎徹ちゃん? どうしたの?』
姉さんの声には、いつもの張りがない。しかし弱いというわけではなく、どこか憑き物
が落ちたと言うか、落ち着いたものという感じがする。何かがあったのだろうかと思い、
聞こうと僅かに思ったが、止めた。本当に大切なことなら相手の方から言ってくれるだろ
う、昔からそうだった。最近は話も少なくなってきたけれども、それでも言うべきことは
お互いにしっかりと言う仲だ。多分それは、ずっと変わらない。
吐息を一つ。
「今日、青海の家に泊まるけど、良い?」
数秒、反対されるだろうなと思っていたが、
『あんまり迷惑かけちゃ駄目だよ? サクラちゃんにはあたしから言っておくね』
意外にも許可が出た。隣の青海も、珍しいものを見たような表情で携帯を眺めている。
父さんや母さんなら兎も角、姉さんが許可を出すとは思っていなかったらしい。しかし僕
は意外と言う程に意外とは思わなかった、最近の姉さんはかなり落ち着いている。
もう、問題解決も近いかもしれない。
そう思うと、自然と笑みが溢れてきた。
「許可は貰ったね? それじゃあ急ぐよ」
今度は静かな運転で、しかし先程よりも加速した。
今回はこれで終わりです
セツさんは一発キャラですが、少しもったいないと思いました
>>529 乙です!
青海タンが幸せそうでよかったw
ロボさん『ぶち抜く』って言い回し好きだねぇw
俺 も 大 好 き だ ぜ G J
「\ __ __
│ト、l、 /´, '`⌒'´ `ヽ
ヾヽ!lV/ / ,/ / ,' ハ、 いいぞ職人様GJベイベー!
,ィニ≧ゝレ' / / ,./ / , ハ 男を思って刺すのはヤンデレだ!
く<-‐7´ _」] l l/_,∠/ / / / い 女を嫉妬して刺すのはよく訓練されたヤンデレだ!
 ̄ノ/: :f r'l l /レ'/、_/‐ト'、/l| li l ホント、修羅場は地獄だぜ! フゥハハハーハァー!
{ハ : :|{(l|y==ミ _ノ、/ソリ ll |
ヽヽ: :|、lハl、゙ ⌒ヾlノリ ll l jl //
V\ヽ、 `ー ゛ノルんイリノ l || ヽ \/
,.--、_ハ`−r=ニ--、′ノ | || ゝ /
,,,-彡_,r''" ̄ 「/ ̄/ ̄/;二"二"二((二((三三C≡=─
_,-| r'" 二 ==i ニニ二/\/ccccccc//_ヽ ) ヽ
<、、゙l - ̄ ̄C=] ノ;ヾ / ⊂ニニニ二二ソニニニソノ/⌒ヽ\
,l゙゙'l、 」ニニ二二〈ー;; \/二L_」 j
/ l /;:: /{ ̄`)ノ ーーー \ /
投下します
「海老だー!」
むしゃむしゃ。
「蟹だー!」
はむはむ。
「海胆だー!」
うまうま。
食っていた。
否。現在繰り広げられている光景は、そんな生易しいものではない。
貪っていた。
海の幸を。
これでもかというほど。
ユメカが。
「アレは他人アレは他人アレは他人アレは他人アレは他人……」
セツノは宅の対角線上、まあ要するに一番離れたところに座り、
小鉢に収まる蛸の刺身を箸でいじくりぶつぶつと呟いていた。
貪欲なユメカの身内だということを認めたくないのか、その瞳は虚ろである。
「え、えーと、セツノちゃん? 別にたくさん食べても大丈夫だから」
セツノの隣に座るユウキは、フォローしながら刺身を一口。
しかしセツノの表情は変わらず、まるで親の敵のように蛸の刺身を箸でぐりぐり。
「……いえ、別にアレが大食いだということはどうでもいいんです。
よくないけど。
問題なのはあれだけ暴食しても体型が変わらないというありえない現実が――」
と、そこまで虚ろな瞳で言ったところで、ふと我に返り、
「――べべべ別に私は体重なんて気にしてませんよ!?」
そんなことを心配した覚えはないのだが。
そういえば、最近作ってくれる食事のメニューがあっさり気味だったのを思い出した。
「セツノちゃんは今でも充分可愛いから、そんなに気にしなくても大丈夫ですよ」
「か、可愛い……!
じゃなくて、えっと、その、ホントに気にしてませんから!」
そう言うなり、セツノはがつがつと料理を食べ始めた。
やはり姉妹というべきか。その食べっぷりはユメカによく似ていた。
しかしユウキは、何となくそれが言ってはならないことだと理解できたので、
特に指摘はせず、自分ものんびり海の幸を味わうことにした。
まあ。
ユメカがあれだけ暴食しているにもかかわらず、
その理想的な体型を維持できているのは、
哀れな子羊が毎晩毎晩搾り取られることで、
見事に運動量を確保できているからなのかもしれない。
「……ったく、姉さんってば、毎晩毎晩ユウキさんを占有しちゃって……!
気を遣う方の身にもなって欲しいんだから……!」
ぷりぷりと怒りながら、セツノは夜の砂浜をひとり歩いていた。
ざすざすざす、と足音もつい荒くなってしまう。
食事も終わり湯浴みも済んでいた。
あとはのんびり3人で語らいつつ就寝する――はずだったのに。
湯上がりで上気した浴衣姿のユウキに、エロ姉が発情してしまったため。
半ば追い出されるような形で席を外すことになったセツノだった。
「……ふんだ! 喘ぎ声を隣の客に聞かれて、変な目で見られろってのよ!」
変な目で見られる中に自分も含まれるであろうことには、敢えて気付かないふりをする。
「……1回目が終わるまで20分。収まらずに2回でもう25分。
場所的な新鮮さもあって激しくなるだろう3回目は15分くらいかな……」
そのあたりで大体発情は治まっているだろう。
一時間後くらいに部屋に戻り、無理矢理終わらせるのが良策か。
そしてそんな時間計算ができるようになってしまった自分に、思わず涙してしまう。
「……姉さんばっかり、ずるいんだから……。
私だって……ユウキさんのことが……」
無意識のうちにこぼれた呟きは、波音に紛れて夜に消えた。
同じ頃。
サラ・フルムーンは、宿のベランダから上半身を乗り出して、波の音を聞いていた。
月明かりの下の黒い海、そこから響く静かな音に、耳を傾ける。
優しく響く夜の音が、一人旅の切ない心を、ゆっくりと癒していく。
はずなのに。
『……んっ……もっと……もっと突いてっ……』
『……やぁ……いいのぉ…………さん……だいすきぃ……』
隣の部屋から微かに漏れてくる嬌声のせいで。
サラの心は癒されるどころか、イライラ爆発五秒前。
「……ああああああああっ! もうちょっと声を控えなさいよバカップルめ!
ボクだって、ボクだって、うまくいけばあんたらみたいにできたのにっっっ!!!」
もっとも、頭の中で思い浮かべる相手とは、口づけすら交わしたこともないのだが。
がんがんがん、と部屋の壁を蹴る。
これで嬌声が収まれば、少しはサラの溜飲が下ったかもしれないが、
隣の女性は全く気にする風もなく、嬌声は微かに、だが確実に続いていた。
「隣に気付かれても改めないって、どんな変態よ!?
ああもう、世の中のカップルなんて全員不能になっちゃえばいいのに!」
イライラ最高潮で、心の闇を吐き出すサラ。
その矛先は、唐突に同僚へ向くことになる。
「だいたい、ユウキのアホがいけないのよ。
長い付き合いのボクが折角誘ってあげたってのに、断るなんて何考えてるのよ!」
うがー、と拳を天に突き出す。
拳の先に同僚の顎があったら、確実に打ち抜いていただろう。
「あーもう、部屋に一人でいたらダメだ。
――ちょっと、砂浜の散歩でもしよっと!」
部屋を出てから30分。2回戦も盛り上がってきた頃か。
「……入るタイミングはどうしようかなあ。
出してから時間が経ったら姉さんが4回戦を始めちゃいそうだし……。
だからといって最中に行くのも気まずいよね……。
ユウキさんの達する顔も見たくないしなあ……。なんかこう、胸の奥がざわざわするし」
どのタイミングで部屋に入って中断させるか、セツノは一人悩んでいた。
「……そもそも、ユウキさんもユウキさんよ。
嫌なら嫌ってはっきり断ればいいのに……。
毎晩毎晩搾り取られちゃって、見てるこっちの方が辛いんだから……」
そこでふと、立ち止まる。
「でも……断らないってことは……。
……やっぱりユウキさんも……姉さんのことが――」
ぶんぶんぶん、と頭を振る。
何故か、その先を考えたくなかった。
「ユウキさんは優しいから、姉さんを傷つけないようにしているだけ。
ひょっとしたら嫌じゃないのかもしれないけど、でもユウキさんから求めてるわけじゃない。
ユウキさんは悪くない。ユウキさんは悪くない。ユウキさんは悪くない……」
じゃあ、悪いのは?
「姉さん……」
ぽつり、と。
いつもは親しみを込めて発せられる単語が。
今は、何故か暗く沈んでいた。
「……そうだ。悪いのは姉さんだ。
私が体に良い料理でユウキさんが倒れちゃうのを防いでるけど、
このまま姉さんが搾り取り続けたら、ユウキさん絶対に倒れちゃう。
今まで倒れなかったのが奇跡なんだ。
……ううん、奇跡なんかじゃなくて、私が、ユウキさんを守ってきたんだ」
口に出してみると。
何故か、その言葉は、すとんと胸のうちに収まった。
「だから、これからも、私がユウキさんを守るんだ。
いっぱい美味しいご飯を作って。
無理は絶対させないようにして。
ユウキさんを幸せにしてあげるんだ」
そのために、邪魔なのは?
「姉さん」
セツノの瞳は、暗い海を見据えていた。
その目は、海の向こうに何を見ているのか。
それは、本人にも、わからなかった。
「姉さんがいなければ。
姉さんさえいなければ。
ユウキさんは――私と――」
その瞬間。
セツノは、自分が、とても嫌な思考に染まっていたことに、気付いた。
「――ッ!」
がつん、と側頭部を殴りつける。
衝撃で視界が揺れ、そのまま砂浜にへたり込んだ。
「……わたしの、ばか。
なに、へんなこと、かんがえてるんだろ」
姉は自分にとって一番大事な人なのに。
まるで、邪魔者みたいに考えるなんて。
砂の上で力無く。
セツノは、少しだけ、泣いた。
夜の海辺には、先客がいた。
砂の上に膝を抱えて座り込み、夜の海を眺めている。
流れる黒髪は夜風に揺れ、夜の闇に溶け込んでいた。
――綺麗だな、とサラは思った。
少女の横顔の美しさもあるが、何より、憂いに沈んだその瞳。
何故かそこに、サラは妙な親しみを覚え、気付けば少女の側に向かっていた。
「こんばんわ。良い夜ね」
「……?」
いきなり声をかけられた少女は、何故自分に声がかかったのかわからずに、
しかし全く動じることはなく、サラに顔を向けて会釈した。
「いやー、ちょっと部屋にいずらくてさ、散歩がてらに砂浜を歩いてたのよ」
「……そうですか。奇遇ですね、私もです」
あはは、と笑いながら話すサラに、少女も微かに笑顔を浮かべて言葉を返した。
しっかし、見れば見るほど美少女だなあ、とサラは思った。
自分がこの子くらいの歳だった頃は、こんなに可愛くはなかっただろう。
顔の造形もそうだが、何より纏う雰囲気が、凄い。
儚く、弱々しそうで――でも、その裡には、何故かとても強そうな気配がある。
膝を抱えて座り込んでいるのに、それがまるで戦闘態勢であるかのように隙がない。
しかし、怖いという印象はなく、不思議と吸い寄せられる柔らかさもあった。
こんな女の子だったら、どんな男もイチコロだろうなあ、とサラは思った。
砂浜に一人でいさせるのは、少し危ないかもしれない。
だから、気付いたときには、提案していた。
「ねえ、少し話さない?」
「え? ええ、別にいいですけど。30分くらいなら……」
少女の了承を得ることができた。
さて、何を話そうか。
まあ、愚痴といえば特大のものがひとつある。
どうせ旅先に会った少女だ。何を話しても構うまい。
「そう? んじゃ、愚痴で悪いんだけど、ちょっと同僚の話をね」
「はい」
「学院生の頃からの付き合いなんだけど、ちょっとむかつく奴がいてね」
本当にむかつく奴である。
学院生時代から、ずっと彼のことばかり考えていた気がする。
でも――
「――嫌いなんですか?」
「あー……そういうわけじゃないんだけど、まあ、嫌味な奴なのよ。
成績はいつも私の少し上だし、人当たりは良いから人気はあるし。
私が勝てたのは護身術の授業くらいかなあ。一応武闘派で通ってたから」
ひとつ上の学年に、伝説級の女剣士がいたから霞んでいたが、
サラもそれなりに腕の立つ、格闘倶楽部の女主将だった。
故に護身術の授業は独壇場で、好き勝手やっていた記憶がある。
模擬戦でユウキを転ばせて馬乗りになるたび、ゾクゾクと身体の芯を震わせていたのが懐かしい。
「そうなんですか。お姉さん、綺麗だからそういう風には見えませんね」
「あはは。お世辞でも嬉しいなあ。
ま、そんな奴と長い付き合いだったんだけどさ。最近そいつの付き合いが悪くて。
……ちょっと、イライラしてるんだ」
「あ……わかります。少し違うかもしれませんけど……私も」
「ん?」
「大好きな姉がいるんですけど、最近その姉に恋び――男友達ができまして。
その相手の方が、とてもいい人で。……嫌なことばっかり、考えちゃうんです」
「……三角関係か。やるねえ」
「そ、そんなんじゃないです! ……たぶん」
「でも、キミみたいな可愛い子にそう思われるなんて、その男の人は幸せ者かもね」
「か、可愛いだなんて、そんな……」
お世辞なんかじゃない。
照れて赤い顔を見せる少女は、同性から見てもとんでもなく可愛いと思った。
「しっかし、お姉さんの相手とはまた大変ね。
寝取っちゃったら後が怖いし」
「ねねね、寝取るだなんて! だいたい、ユウキさんは――」
「ん?」
まて。
ちょっとまて。
今、なにか、聞き覚えのある名前が――
3回戦もそろそろ佳境に達した頃。
ユメカはユウキの上で腰を振りながら、ふと思い立ったようにユウキの手を己の胸に導いた。
流石に4ヶ月も身体を合わせてきた関係だからか、ユウキも察してユメカの胸を揉みしだく。
嬉しそうな嬌声を上げるユメカ。
と、そのとき。
ユメカの中で、天啓が閃いた。
そうだ!
セっちゃんの胸、揉んで大きくしてあげよう!
胸は揉まれたら大きくなる、と言われている。
適度な栄養と刺激により、成長させるのだ。
栄養は美味しいものをたくさん食べさせられれば問題ないだろう。
大量のシチューと漏斗が必要だとユメカは思った。
あとは刺激。これは揉む。とにかく揉む。
これなら一ヶ月後には、セツノは胸で悩まなくなっているに違いない!
ああ、自分はなんて妹思いなんだろう、と。
本気でそう思いながら、ユメカはぐいぐいと腰を動かし続けていた。
「――ちょっと待って」
あわあわと、何やら姉と男と自分の関係についてまくしたてていた少女を遮り、
サラは、あることを訊ねてみた。
「そういえば、聞き忘れてたんだけど。
……キミの、名前を教えてくれないかな?」
頭の中に、ひとつの疑念が浮かび上がっていた。
それは、ずっと前から渦巻いていたもの。
ユウキが職場でお弁当を食べていて、それを問い質したとき。
そのときの記憶を必死に掘り返す。
きっと勘違い。気のせい。思い過ごし。考えすぎ。
そう自分に言い聞かせるが、サラの頭は、ひとつの名前を記憶の中から掘り起こしていた。
少女は何故か少しだけ悩んだ後、
別にいいか、という表情で、己の名前を口にした。
「――セツノっていいます」
かちり、と。頭の中で、歯車の合う音がした。
ユウキが食べていたお弁当。
とても気合いが入っていた。
自分で作ったのか、と訊ねたら。
彼はそのとき、こう答えた。
『いえ、これはセツノちゃんが作ってくれ――』
『――セツノちゃんって誰よ?』
その後、ユウキが何やら適当な弁解を並べていたが。
サラは欠片たりとて信じなかった。
何故ならその弁当は、誰がどう見ても、愛情たっぷり気合い一杯の、豪勢なものだったから。
泥棒猫がユウキに近付き、ごろにゃんと彼を籠絡しているかもしれない。そう思った。
しかし、泥棒猫の尻尾は掴めずに、結局うやむやになってしまっていた。
目の前にいる少女から出た、ユウキという単語。
ユウキ以前こぼしたものと、一致する少女の名前。
サラは、確信した。
「キミが――泥棒猫だったんだね!」
……先程のセツノの話は、綺麗に頭の中からすっぽ抜けていたサラだった。
お久しぶりです。中編です。
忘れられていないことを祈る今日この頃……orz
投下ペースが滅茶苦茶遅くてゴメンナサイ
>>468 GJ! 続きが凄く楽しみです!
こういうの大好き。
>>501 これはいいツンデレですね
>>516 戦国物の新作!
先がとても気になります。
>>543 ここのところセツノ分欠如でしたが一気にmaxまで補給されました
健気なせっちゃん可愛いよ!!111!
よっしゃぁぁぁ怪物姉妹来たぁぁぁぁぁッ!!
相変わらずGJ、本編もいいけどこっちのコメディ色のある修羅場も大好きなんだ
>>529 一発キャラにしなければいいじゃない!というかしないで下さいお願いしますm( __ __ )m
>>543 サラの部屋での愚痴が可愛いよ(*´д`*)
そして姉エロイよ姉、でもヒロインなのに妹に食われてる気がウワナニヲスルヤメヒギィ
>>543 忘れてませんともGJ!
次はいよいよ本格的な修羅場?…ハァハァ(*゚∀゚)=3
投下します
「三成」
「はっ」
「飴の配分に手落ちは無かろうな?」
「委細殿下の御意に沿っておりまする」
「三成、ここは大阪じゃ、聚楽第ではない」
言外にこれは表の場ではないと三成に仄めかす
「殿?」
公式の話ではないと悟り三成は殿下からあくまで自分の主君としての秀吉を表す殿という呼び方に変えた
「ワシに直言しくさった子倅への飴のことじゃ」
「は…娘の方は目星は付いておりますが官位に関しては…」
「まずいか?」
「殿の小姓とは申されども小姓はあくまで小姓でございますれば…」
外に対する名分が立たぬ…という言葉を飲み込み三成は淹れられた茶碗を覗き込んだ
「ふん…あの子倅…真島半次郎であったの…あの家にはどれほど与えておったか?」
「されば…真島家は現在100石の禄を食んでおります」
「100石?」
そんな低い禄高のはずは無い。天下の太政大臣・関白豊臣秀吉の小姓はどれも家格の知れた家の次男三男を取り立てていたはずだ
「真島家は先の小牧・長久手の役にて前当主・真島大膳久時が討ち死、当時10歳の嫡子・半次郎が家督継承を赦されており、
その折に秀次様の与力を外され本来の禄高100石にて殿に奉公に上がっております」
「ほう…いかなる経緯でワシの小姓に取り立てたのであったかの?」
「前野長康殿の推挙となってござります」
「長康か…」
前野長康は秀吉の命で秀次の補佐についていたからその絡みかと秀吉は見当をつける
「ならば話は早い、子倅をワシの小姓から外す」
「はっ」
「変わってそうじゃな…京都所司代に与力として遣わすか」
「御意のままに」
「秀次の元ではどれほど与えていたか?」
「2千石の目付部将格にて」
秀吉の問いによどみなく応える三成
「なればそれを以後真島家の本録とし少初位下の官位を与えるが散位とする」
「は…」
「代々の忠勤の褒美とでもしておけ。それで名分は立つであろう?」
「仰せのままに」
「ならば子倅を呼び出せ。関白直々に飴を与えてやろうにの…もう一つの飴は?」
「こちらも1両日中には」
「ウム…そういばどこの家の娘かの?」
「上意!」
「ははっ」
「真島半次郎久信、右に関白殿下直々のお言葉を下される儀に寄り本日早々に登城せし事を命ずる
返答や如何に?」
「御下命しかと承り候と殿下にお伝え願いたく存じ上げまする」
「沙夜、登城する」
「はい半次郎さま」
「沙夜」
「はい?」
「城から戻ったらそなたに話がある故…」
「お話?」
訝しむ沙夜に半次郎は床几から取り出した硯箱の蓋を開けてみせる
「半次郎さま?」
「これは母上が父上から贈られた櫛じゃ」
それは柘植造りの質素なりに細工の施された櫛であった
「まぁ…」
「これで髪を梳いて待っていて欲しい」
「え…?」
沙夜の手を取り形見の櫛を握らせる
「あの…半二郎…さま?」
「は、話はその時に…な?」
耳朶を赤くしてそう話す半次郎の様子に沙夜はハッとしたが胸が一杯にになり段々と視界が滲んでいく
主人として以上の想いは自覚していた
でもそれは報われることは無い、そう覚悟もしていた
だがそうではない
自分の半二郎への思いは報われることを赦された!
「半次郎さまぁ!!」
そこに思い至った沙夜は半次郎の胸に縋りつき滂沱の涙を流した
涙で胸元に染みができる様を半次郎は沙夜の身体から立ち上る匂いに耽りながらジッと見ていた
「沙夜、沙夜、泣くでない…な…沙夜」
ひとしきり泣いて落ち着いた沙夜は半次郎の胸元から離れ佇まいを正して半二郎に頭を下げた
「お帰りをお待ち申し上げます…旦那さま」
恥じらいに頬を朱に染めながらもハッキリとそう口上した
半次郎、では無く旦那様、と
以上です
今回でお姫様出したかったんですけど力尽きました
次回こそお姫様登場ですのでお待ちいただければ幸いです
駄文投下失礼いたしました
>553
GJ
しのぶれど色にいでにけり・・・と。しかし改行多くないか。いいけど
早くも二話目投下か!
素早い仕事GJ!
まとめサイトどうなってんだ
557 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/30(土) 21:24:40 ID:+GMNfPqc
っていうかもうすぐ次スレの話じゃないか
450KBまでいってからでいいだろ
只スレタイぐらいは今のうちから決めてもいいかも
そう言えば19(イク)とか何とかいうスレタイ案があったな
「ねえ、ハル。ほら、早く来て?」
体をずらして開いた隙間のベットをポンポンと叩く。その笑顔は本当に無邪気な子供のようだった。
「来てって…。」
一緒に寝ようということなのだろう。とはいえここは病院。いくら面会に制限がないとはいえ、それはまずいだろう。
「ダメだ。セレナは一応怪我人なんだから、一人で寝ないと。」
心を鬼にして、セレナに説教するように言ってみたものの…
「うぅー…うー!」
「げ!」
何かうなっていると思ったら、セレナの目にはたくさんの涙がたまっていた。そしてその涙は頬へと流れてきて……
「うぅ……うぁぁん!は、ハルはぁ……うえぇ……わた、私なんかと寝たくないんだぁぁ!」
夜の病院でギャアギャアと泣き始めるセレナ。本当に幼児化している。
「お、おい、泣くなって。いくら個室だからって周りに迷惑かかるだろ?」
「た、だ、だっで……ハルがわた、わたひと……うぐ…ねて…くれ、ない……」
「わかった、わかったから。寝るよ。一緒に寝ればいいんだろ?」
仕方ない。このままだとこうでも言わない限り泣きやまないだろう。
「ほん、とぉ?」
「ああ、本当だ。」
「じゃあ、ここ。」
そう言ってまたベットをポンポンと叩く。靴と上着を脱ぎ、セレナの隣りに寝る。別にセレナと同じベットで寝るのは初めてではないのだが、何故か罪悪感を感じる。
それが病院だからなのか、葵に対してなのかはわからないが。
「うふふ、ハールー……」
一緒に横になるやいなや、体をすり寄せるように近付いてくるセレナ。その笑顔を見ると、罪悪感も薄れてくる。……やっぱり俺はセレナも好きなんだな。はは、自分でも気が多いのに嫌になる。
「ハルの……匂い……良い匂い……それに暖かい……」
胸に顔をうずめ、幸せそうに呟く。ああっと……そんなに近寄られると…いくら精神が幼児化しているとはいえ、体は元のまま…外国の血が混じった、グラマーな肉付なのだ。
「う…」
胸を押しつけられるだけでなく、足も絡み付けてきた。そ、そんなにされたら…さすがにやばい…
「あれ?ハル…」
「あ、ああ…これは…その…」
我慢できずに立ち上がったモノが、ちょうどセレナの股間をおしつけていた。
「あはは、すっごい硬いよ?これ……なんか……ん…これに触られるの、気持ちいいよぉ……」
スリスリ……
「ぅぁ…」
限界まで大きくなったペニスを、物珍しそうに擦る。前にもセレナに言われたように、しばらくヌいてなかったため、だいぶ溜まっている。そのため、少し擦られるだけでもやばい。
「はっ……ぁ…はぁ……は、ハル、気持ちよさそうだよ?これがいいの?」
「ああ、いいよ……」
こういった行為事態も忘れてしまったのか、初々しい反応のセレナ。
「あは……ん、なんだか思い出してきたよ……ハル、たしかこういうの好きだったよね?」
「え?…おい!」
妖艶な笑みを浮かべたかと思うと、いきなり布団の中に潜り、俺のズボンを脱がし始める。抵抗すればできたのだが、このときは欲望が勝っていた。
そして……
「えい♪」
フニ
「おぁ!?」
股間にとても柔らかな感触。驚いて布団を捲ってみると……
「んむ……ぷぁ…」
セレナはその豊満な胸で俺のモノを扱きながら、亀頭部分を咥えていた。
「はぁははぁ……は、はるぅ……気持ちいい?」
上気した顔、色っぽい声、潤んだ瞳の上目遣い……当然俺は絶えることができなかった。
「ああ…いいよ。もう少し強く……」
「あはぁ……うれしい……んぶ…ふぅ…」
喜びの笑みを浮かべると、セレナは更に奉仕を強くする。硬くなった乳首が竿を擦り、亀頭を甘噛みする。急激に強くなった刺激に耐えられなくなり……
「くっ、い、くぞ……飲め……」
「んんー!んぅ…ふぁ…ぷぁ……んぐぅ。」
思わずセレナの頭をおさえつけ……
ドクン!ドクン!
「んぅー!……んぶぅ……あぅ…んく、んく……んん!ぷぁ……はぁ、はぁ…」
相当溜まっていたのか、大量の精液はセレナの口絡み付けて溢れ、髪、顔、胸と汚していった。
「けふっ…えほ……もう、ハルったら……たくさん出し過ぎだよー?ゼリーみたいで飲みにくいし……でも、嫌いじゃないよ、ハルのだか、ら。……むぅ〜…ふぁ…眠くなっちゃったぁ……うん……」
そう言って早々とティッシュで精液を拭き取り、服を着てベットに横になってしまった。……ほんとに子供かよ!?
「おやすみぃ……はるぅ…」
「お、おい!セレナ!」
……俺の止まらない欲望はどうすれば……
いく…いく……。
あの女の所には行く(いく)な
幾重(いく え)にも積もる想い
恋は戦場(いく さば)
すいません。
吊って来ます。
俺の止まらない欲望もどうすればいいんだYO!
>>553 早くも2話キタ!!
次話で泥棒猫が颯爽と奪っていくわけですねw
次も期待してます
>>562 幼児化した外人にナニされるとか超うらやましい・・・
そして寸止めw
作者さんGJ
投下します。
――求めよ。さすれば与えられん。情報求める貴方の為に――屋聞がお送りします。
いや〜疲れました。厳しい一日になるのは予想していましたが、実際はそれを上回っていましたね。
あれは、誕生日パーティーという名の、女の合戦場でした。新城先輩と木場先輩を大将とする戦です。
で、結果は――。
はい、滅茶苦茶な敗北でした。
新城先輩一人なら、何とかなったでしょう。しかし、新城先輩は援軍を手配していたのです。
数の上では二対四。しかも、失礼ながら申し上げれば、彼女たちは、話を聞かずに突っ走る、大人しいとは対極
の位置にいる面々でした。
すみません木場先輩。全然力になれませんでした。
大体、何ですかあのプレゼント類は。墓前に捧げるような花束に、遺影用の額縁なんて、明らかに嫌がらせでは
ないですか。
伊星先輩も伊星先輩です。何故そこで口を挟めないのですか。だからあなたはヘタレなんです。引きこもり予備
軍なんです。
……まあ、自分もあそこで絶句してしまったので、人のことは強く言えないのですが。
他には、精力剤とコンドームがありましたね。
入手するときは、かなり恥ずかしいような気がしますが……ましてそれを、木場先輩への嫌がらせのためだけに
実行するとは、友達思いも度が過ぎてます。
類は友を呼ぶ、と言えますが、それくらい木場先輩が嫌われている、とも言えます。
しかし、新城先輩もずいぶん陰惨な手を使ったものです。数を集めて精神的な攻撃なんて、剣道部の人がするこ
とですか?
いえ、ここはむしろ、そのくらいの知恵がある、と考えたほうがいいでしょう。
つまり、新城先輩は、かつて自分が思っていたような、感情表現が常に直球、というタイプではなく、実はかな
りしたたかな面を持っている人、という訳です。
木場先輩と競り合っている内に、そういう性質が芽生えたのですかね。
二面性……ですか。
裏の面を持っていない人なんて、いないですよね。
私も、その一人ですから。
「おにーちゃん」
部屋に、妹の夢月(むつき)が入ってきたようです。
私とは、十も歳が離れています。
「もうすぐ、クリスマスだよね〜」
ベッドに仰向けになっている私の顔を、何の淀みもない瞳で覗いています。
「そうだね」
「しんぶんぶは、おやすみ?」
まだ幼い夢月は、少し不安げな表情になりました。
私は、部活など諸々の理由で、妹と一緒に遊んだり、ということを、おそらく平均よりしていません。
「大丈夫、休みだよ」
そう言ってやると、夢月の顔は、雲が去っていった太陽のように明るくなります。
「じゃあ、いーっぱい、あそぼうね!」
「遊ぼうねー」
頭を撫でてやれば、こっちまで笑いそうなくらい、子供らしい満面の笑み。
「えへヘ……おにーちゃん、だいすき〜」
私に抱きついて、頬まで擦り付けてきました。
お兄ちゃん……。
心のわだかまりを抑えつつ、この甘えん坊の妹と、しばしじゃれ合うことに。
「おにーちゃん、いきくさーい」
そりゃあ、お酒飲んじゃいましたし。
妹が部屋から出て行った後、決まって嫌な気分になってしまいます。
兄として、妹に接する。私がそれをするのは、酷く歪んでいるからです。
……。
私の本当の名前は、屋聞菫(すみれ)といいます。正真正銘、女です。
新一というのは、私の一つ上の兄の名前です。
兄は、少々小柄で幼い顔立ちではありましたが、成績優秀、明るく礼儀正しい、という人物でした。当然、親か
らも大変可愛がられました。
そんな兄は、三年半くらい前、私が中学に入る前の春休みに、交通事故で亡くなりました。
その事故で、両親はショックのあまり、頭のネジがいくつか外れてしまったようです。
妹である私を、屋聞新一にしたのです。
私がそれを拒んだら、ヒステリーを起こし、手を上げたり物を壊したり……。
さすがに大人の力には敵いませんでした。こうして私は、屋聞菫であることを捨てさせられ、屋聞新一として蘇
ったのです。
私のことを新一と呼び、まだ、当時物心が付くか付かないかという年頃の夢月に、私を指して兄の新一だ、と教
えたのです。
全くもって抜け目がないと感じたのは、その後でした。両親は、春休みのうちに引越しを敢行し、地域との関係
をリセットしました。
兄・新一が死んだことを認めず、自我を保つために、ここまでやったのです。
それだけ、新一という息子が大事だったのでしょう。菫という娘より……。
そうそう、私には一つ、やっておくことがありました。
自分の携帯で、伊星先輩に電話を掛けます。
『はい、こちら伊星』
先輩本人が出ましたね。
「はいどうも、屋聞です。今日は大変にお疲れ様でした」
『……』
「ちゃんと返してくださいよ」
『お前、疲れてないだろ』
あらっ、そう来ますか。
「ほんの挨拶ですよ。細かいことは気にしないで下さい」
『早く用件を言え』
……何でしょう、今は機嫌が悪いんでしょうか。それとも、元々こういう人でしたっけ?
「はい、用件はですね、しばらく前の、木場先輩の噂についてです」
『……』
「先輩?」
『……ああ、その話か』
「もしかして、忘れてました?」
『そんなことは無い』
超が付くほど怪しいです。絶対心の中で”あれ、何だったっけ”って思ってましたよ。
ある意味、木場先輩の読みは当たっていたのでしょうか。ご本人、忘れるくらいだから、重要度はさして高くな
い……と。
「えーと、いいですか?まず、木場先輩が前に付き合っていた、という人についてですが」
まだまだ木場先輩は苦しい状況。伊星先輩。貴方には、もっと木場先輩に優しくなって貰わないといけません。
「その人、学校では有名な女たらしだそうです。あ、我々とは違う学校ですよ?」
『そうなのか?』
「そうなんです。それよりずっと前に捨てられた女性の話もありますが、聞きますか?」
『いや、いい』
「了解です。後一つ。木場先輩は、あれだけの容姿をしていらっしゃるので、まあ色々な男性が言い寄っている
そうです」
『……』
「交際経験が多いというのは、事実でしょう。先輩が聞いた噂が偽りだという、決定的な証拠は得られませんで
した。しかし、捨てたり捨てられたりの比率は、半々くらいではないでしょうか?」
『はー』
「自分が得た情報はそのくらいですが、宜しいでしょうか」
『大体それでいい』
「分かりました。それでは失礼します」
全く、伊星先輩も腐抜けたものです。私のでっち上げた話を、こうも簡単に信じてしまうとは。
――と、馬鹿にするのは容易いですが、私が敢えて、信じ込みやすいタイミングを狙っていたことも、その要因
であると自慢しておきます。
本日の誕生日パーティーで、新城先輩らが渡した異常なプレゼント。あれに、伊星先輩が疑問を抱かないはずが
ありません。
少なくとも私には、木場先輩が、多人数からの悪質な嫌がらせを受けたように見えました。
そうなると、木場先輩の肩を持ちたくなるってもんです。
伊星先輩も、それに近い考えであるとすれば、ここで肯定的な話を吹き込むと、信じてしまいやすい、という仕
掛けです。
私は、先輩に失礼なことばかりしていますが、これでもかなり信用しているんですよ?
私とて、いつまでも兄の振りをして生きていくのは嫌です。
伊星先輩は、交友関係の非常に狭い人ですから、私の正体を知っても、周囲に言い触らす可能性は低いです。
そう。先輩は、私が屋聞菫として生きていく為の最初のステップ。
ステップとは、日本語で言えば”踏み台”です。
事の成り行きとはいえ、先輩は私の身体を触ったのですから、責任を請求します。
責任と言っても、昭和初期のような、『お嫁にして下さい』ではありません。伊星先輩の嫁になんてなりたくな
いです。
私が、女であることを認める存在。
屋聞菫であるというアイデンティティを確保するための足掛かりをやって貰うのです。
……なにやらノイズが聞こえますね。
先輩を利用している?
黙って下さい。
それの何が悪いのですか。
親はおろか、妹にさえ! 自分の存在を掻き消されて! 周囲の友人全て奪われて!
代わりに与えられたのが、別の人間として生きる道ですよ!?
これに不満で、何が悪いのですか!?
自分の、本当の姿を受け入れられる人を求めて、何が悪いと言うのですか!!
……すみません。感情的になってしまいました。お酒の所為です。
ともあれ、いい加減、兄の振りをするのには疲れました。
ちょっとした嘘ならともかく、存在自体を偽るなど、人間として苦痛です。
新聞部に入ったのだって、真と偽を見極めるため、その力を得るためです。
未来図としては、まず、伊星先輩から、私が屋聞菫であると認めてもらい、卒業と同時に家を出て、あとは自分
のやりたい様にする、といった所でしょうか。
そうなると、新城先輩と木場先輩は、少し邪魔です。私が女だと知られれば、伊星先輩に近付く女と見なされ、
どんな目に遭うか分かったもんじゃありません。
理想的なのは、二人の共倒れですね。相討ち、と言ったほうが良いでしょうか。
……まあ、御二方には、さらに頑張ってもらいましょう。
そうすれば、私は個人的な目的と、新聞のネタ、どちらも手に入れられますからね。
一石二鳥、というやつです。
(34話に続く)
GJ! とうとう屋聞の性別がハッキリと判明!
ところで一つ質問なのですが、あ、スルーして下さって構いません
屋聞と言うキャラ最初からココまで大きな存在にする予定だったのでしょうか?
名前は伏せますが自分も壱書き手としてこう言うの微妙に気になり興味あります
最初からこういうキャラにする予定だったのか
それとも予想を越えて動き出したのか
GJ!
俺は木場さん派から屋聞派にシフトチェンジ
573 :
名無しさん@ピンキー:2006/10/01(日) 00:13:42 ID:g0sfn1gV
でも屋聞は利用しようとしているだけでそこに愛は無いからなぁ。
>>570 GJです。とりあえず性別が分かった屋聞の、伊星に対する感情が
踏み台からどうやって恋心に発展していくのか全裸でwktkしてますね!!
バカめ!利用しようとして愛が芽生える王道を行くに決まっておろう!
>>571 初登場の頃は、木場と同盟など組まず新聞をがんがん作り、
後に、発狂した木場に消される、というのを考えてました。
性別も、どっちでもストーリーには影響しないはずだったのですが、
最後のどんでん返しを思いつき、女でいくことになりました。
なので、予定とは大幅に違っています。
ちなみに、予定通り動いているのは部長さんだけです。
部長さんは完全に脇役で、フラグはありません。好きな人、ごめんなさい。
投下します
沙夜の描写が殆ど無いことに気づいて急遽書き足しました
散々じらさせて申し訳まりません
大坂城 謁見の間
秀吉からの呼び出されていつもの小姓連中の詰所ではなく謁見の間に通された半次郎は瞑目していた
謁見の間に通されるということは小姓としてではなく真島半次郎としての用向きという事であるが――
誰もいない謁見の間の静けさが半次郎の思考に若干の鉛を乗せた
(やはり陣中での直言による処罰か)
杯を頂いた以上切腹ということは無いであろうが謹慎乃至は御役御免はありうる
「関白殿下のおなり」
半次郎はいつも道理の所作で平伏した
「おお、半次郎そう畏まるでない」
普段太刀持ちの時と同じような気軽さで秀吉が声をかけて来た
「真島半次郎久信。関白殿下のお召しにより参上仕りました」
「ウム、平伏したままではそちも肩が凝るであろうが、苦しゅうない故まずは表をあげい」
「ハハッ」
「よしよし。さて半二郎」
「はっ」
「本日お許を呼び出したのはのう、小田原の陣中での振舞いにも関係があるがそれだけというわけでもないのじゃ」
やはり処罰か―
(しかしあの直言以外とは?)
「真島家はお許の父の代の前から織田家に忠勤を尽くしてきた家柄じゃがその忠勤に報いる所がワシの見る所些か薄かったようじゃ。
だがこれは決して総見公(信長)の手落ちというわけではないぞ」
「決してそのような…」
「よいよいお許がそのような異心を膿むような輩ではないことはワシがよう判っておる。判っておる故此度の褒美はお許のみに与える
ものではなく、真島家代々の忠孝に対する報いとして総見公の名代としてワシが賜すものと思わっしゃい」
「あのう…此度は小田原での分限を違えた戒めでは…」
「ハッハッハッ…こりゃ半次郎が面白い事を言うたぞ…よいか半次郎、関白はな、小姓連中の囀りにイチイチ角を立てるようなケチな
器では勤まらんものじゃ。帝に成り代り天下の大事を預かる関白の目にはの、お許などはつむりを撫でて伸ばしてやるべき苗木のような
者なのじゃ。その苗木の枝が関白の裾に引っかかったというて何程の戒めが必要だというのじゃ」
「恐れ…恐れ入りましてござりまする」
半次郎は自分でもわからぬ内に平伏していた
半次郎の屋敷では沙夜が鏡の前で髪を梳いていた
髪の中を櫛がスルリと通る
丁寧に丁寧に
髪を梳く毎に自分の髪に半次郎の匂いが篭るような陶酔感がゆたう
半次郎様は梳いた髪を褒めてくださるだろうか?
綺麗だと言ってくれるだろうか?
私を見て喜んでくださるだろうか?
褒められたい
綺麗だと喜んでもらいたい
梳いた髪に触れてもらいたい
私に…触れてもらいたい
私からではなく半二郎様から
優しく抱きしめて欲しい
掻き抱くようにこの身体を捕まえて欲しい
どっちが本当の私の望みなのだろう…
わからない
嘘だ
本当はわかっている
どちらも私の望み
どちらのようにされても私は喜んでしまうだろう
乱暴にこの身を掻き抱かれて優しく髪に触れられて
そのままこの身体を貫かれてしまっても
きっと私は泣きながら歓喜の声を上げるだろう
どのような痛みなのかはわからないけれども
きっとその痛みすらも私は喜びにしてしまうだろう
それは私が半次郎様のモノになったという証なのだから
それを私が喜ばないはずが無い
半次郎さま
はんじろうさま
ハンジロウサマ
はやく帰ってきてくださいませ
沙夜は髪を梳いて待っております
半次郎様を待っております
半次郎様だけを待っております
私の身体に私でない私を持て余し半次郎様の帰りを待っております
半次郎様……
沙夜の心理描写がないと修羅場に持っていく説得力がないという指摘がありましたので
急遽書き足しました
お姫様の方ももう少し練り直して投下しますので
もう少しお待ちくださいませ
駄文投下失礼いたしました
何だこの投下ラッシュは・・・・
萌え死ぬ…
>>580 不躾な質問なので、先に謝っておきます。
どうも慣れないので思わず違和感を覚えてしまうのですが、
文末に句点(「。」)が付かないのは仕様なのでしょうか?
何かポリシーがあってのことなら、こんな質問はどうか無視してください。
>>576 その結末も見たかった…
でも今は尾聞個別エンドになるよりかは尾聞単体で幸せになってほしい俺ガイル
いや、久しぶりの大量投下ですな。
ありがたや、ありがたや・・・
このラッシュに乗らせてもらって・・・投下します。
いつもより早い朝7時、智はパチリと目を覚ました。
十分な睡眠を取った身体は快調そのもので、頭もすっきりしている。
数ヶ月ぶりとなる、爽やかな目覚め。
千早を抱えたまま絨毯の上に雑魚寝だったためか身体の節々が痛むが、それも些細なことだ。
腕の中を見ると、智の目覚めに呼応したかのように千早もちょうど目を覚ましたところだった。
目ぼけ眼から一転、智を見上げると嬉しそうに身を捩る。
「おはよう千早。久しぶりだな、俺の方が早く起きたのは」
「あはっ、そうだね。おはよう智ちゃん」
そう言って、猫のように智の胸板に顔を擦り付ける。
撫でるように千早の髪を梳きながら、智は内心で安堵していた。
(いつも通り・・・無邪気で可愛い千早だ。やっぱり、昨日はちょっと錯乱していただけなんだ)
昨日のことは確かに現実だが、それを引きずりたくはない。今日はちゃんと話せるだろう。
吸血のことは何とか誤魔化すしかないが、そこは長年の付き合いで、訳ありであることを察してもらうしかない。
千早が相手なのだから、下手な嘘をつくよりはその方がいいと智には思えた。
方針が纏まると、スリスリし続けていた千早を引っぺがして階段を降り、顔を洗って食事の準備をする。
「うううぅぅ〜・・・もうちょっとスリスリしてたかったのに・・・」
「ははは・・・まあ、それは後でな。それより腹減ったし、朝飯を作ってくれよ」
「うんっ、任せて! 今朝も張り切って作っちゃうからね!」
不満そうな顔から一転、満面の笑顔が咲く。
智の食事を作るのは、千早にとって最も幸せな時間の一つだからだ。
千早がサラダなどを準備している間にパンを焼くのが毎朝の智の役目である。
そして、今日もいつも通り食パンの袋を手に取ろうとしたのだが、そこに千早が声を掛けた。
「智ちゃん、いいから座ってて。朝ご飯の準備は全部私がやってあげるから」
「えっ? どうしたんだいきなり?」
「いいから! 智ちゃんは座って待ってて。すぐ終わるから、どこにも行っちゃダメだよ?」
笑顔と、そう強いわけではない口調。なのに何処か有無を言わせぬようなものを感じ、智は言われるままにパンの袋を元の場所に戻す。
(どうしたんだ、千早の奴? ま、そんな気分の日もあるか。今日は時間も余裕あるし。話すことを纏めるのにちょうどいい)
違和感は僅かすぎて、智はそれを見逃してしまう。
ふとエプロンをした千早の後ろ姿――制服姿を見た智は、自分が二日前の服のままだったのを思い出した。
(着替えてくるか。ついでにシャワーを浴びるのも悪くないな)
千早が準備している間に着替えを済ませようと、智はリビングを出る。
声を掛けず、音も立てずにそっと出たのに他意はない。千早の集中を妨げないように、と思っただけだ。
しかし、階段を数段上ったところで耳に入った音が、その足を止めることになった。
ガシャーーンッ!
鋭い破砕音が耳を打った。
甲高いそれは、おそらく皿が割れた音だろう。
「千早?」
皿を落としたのだろうか。千早がこんなミスをするのは珍しい。ここ数年はなかったことだ。
(まあ、こんなこともあるか。皿くらいは別にいいけど、ケガとかしてないだろうな・・・?)
心配になって階段を降りようした智の耳に――。
ガシャーーーーンッ!!
「!!」
再び聞こえる破砕音。
先程のより一回り大きいその音は、智の耳と心臓に大きな衝撃を与えた。
キッチンに立った千早は日頃の甘えん坊とは一線を画したしっかり者であり、立て続けに皿を落とすようなミスはしない。
ゴキブリが出ようがムカデが出ようが、慌てず落ち着いて処理してしまう。
実際、小学生の家庭科の調理実習で突如湧いた数匹のゴキブリに女子たちが大混乱に陥った際。
キッチンペーパーでひょいと手づかみにして、コンロで焼き討ちにした勇姿は、向こう数ヶ月の語り草になったほどだ。
何かあったと考えるのが自然。
何より今の破砕音が、只事ではないと智の心を急き立てる。
(まさか、泥棒か何かか!? くそっ!)
一足飛びに階段を降り、リビングへ走った。
その僅か数秒の間も皿やガラスの割れる音が絶えることはなく、智を殊更に焦らせる。
「千早っ、大丈夫か!?」
そして、リビングに飛び込んだ智が見たのは――。
「うわあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
いない! いないいないいないいないいないいないいないっ! 智ちゃんがいないっ!
智ちゃんが何処にもいないよっ!
ずっと一緒って言ったのに! もう離れないって言ったのに!
何処にいるの!? 何処にいるのよおっ!?」
――皿やガラスの破片で足の踏み場がないほど散乱したリビングだった。
食器棚のガラスは千早の投げたコップに貫かれて無残に散り、テーブルクロスは卓上の調味料などを巻き込んで地面に丸まっている。
壁を伝って垂れ落ちるのは卵の白身で、周囲には朝食になっていたはずのベーコンやレタスも打ち捨てられていた。
そしてその中心にいるのは、半狂乱になって手に付く物を手当たり次第滅茶苦茶に振り回す千早。
当然だが、泥棒の類などは見当たらない。
一瞬呆然とした智だが、すぐに千早へ大声を張り上げた。
「千早、止めろ! 一体どうしたってんだ!」
しかし声は届かず、悲鳴と騒音に掻き消される。何とか近づこうとしても、破片によって足元もおぼつかない。
そんな智の頭部に、千早の投げた急須がクリーンヒットした。
「いだっ!? ・・・いてっ!?」
衝撃によろめいた一歩がガラスの破片を踏んだ。後者の悲鳴はそれだ。
足の裏の一点に集中する痛みは思いのほか大きい。目に涙が浮かぶが、ぐっと堪える。
このままでは埒があかないと踏み、智は態勢を低くすると足元を気にせず強引に千早に近づくことにした。
一度ケガしたことで吹っ切った部分もあるのだろう、破片を踏む痛みに顔を顰めながらもスピードは緩まない。
あさっての方向に飛んでいく包丁に冷や汗を流しながらも、何とか千早の元にたどり着いた。
暴れる腕を封じるために大きく手を広げ、巻き付くように千早を抱きしめる。
「千早、止めろ! 落ち着け、俺はここにいる!」
「あああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!
うわああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
智の腕の中で千早が暴れる。華奢な身体のどこにこんな力があるのか、智はあわや振り払われそうになった。
吸血鬼の力を意識して、懸命に千早を抱きしめる。
「ああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・」
智にとっては一分とも一時間とも付かない時間が流れ、千早がようやく沈静化する。
ゼンマイが切れたオモチャのように叫びもトーンダウンしていき、そのまま糸が切れたように智の胸に倒れこんだ。
「さ・・・しちゃ・・・」
掠れた声で智の名を呼び、千早は意識を失う。
「・・・・・・・・・・・・」
何がいつも通りだ。何が『昨日はちょっと錯乱していただけ』だ。
10年来の千早の想いは、もはや時間が解決してくれる段階をとうに過ぎていたというのに。
小さな身体を抱きとめながら、智はようやく自らの過ぎた楽観を悟るのだった。
ちょっと短いですがここまで。
一話分にまとめたかったですが、長くなるので一旦切りました。
続きはほぼ出来ているので、次は早めに投下したいと思います。
これだけ狂っちゃうともう千早の圧倒的な一人勝ちのような予感。
どうやって他のヒロインが巻き返すかドキドキだわ
千早病み覚醒キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
ヤンデレパワーなら吸血鬼だろうが、黒魔術師だろうが互角に戦えるはず!
「おつかれ、姉さん」
「お疲れ様です。 セツナ」
「ありがとう。 クリスもリオもお疲れ様」
目の前の敵を全滅させた私達は互いにねぎらいの言葉をかける。
クリスのお陰であの日の恐怖も最近になってだがやっと乗り越える事が出来た。
お陰でこうして戦闘中も取り乱す事無く終わらせられた。
最近つくづく思う。 仲間の存在のありがたさを。
「チョット見せてください。 セツナ、怪我してるじゃないですか」
「え?」
言われて私はリオの指差す所を見てみる。 成る程、確かに血が出てる。
「直ぐに回復魔法かけますね」
でも大して深くもないし出血もそれほどじゃない。
だからわざわざ回復魔法使うまでも無いと思い断りを入れようと口を開く。魔力も勿体無いしね。
「平気よコレぐらい……」
「駄目です! あなたは大切な使命を帯びた身なんですから!
もっと救世の勇者としての自覚をもってください」
そう言ってリオは私の返事も聞かず傷に向かって回復魔法を掛けてくれた。
私の心中は少々複雑だった。
私の身を案じてくれるのは嬉しいのだが、でもそれはやっぱり私が『勇者』だから……。
やっぱり私はリオにとって女である前に『勇者』なのかな。
分かってはいるけどなんか切ない……。
やがて傷もふさがりそれを確認すると私は口を開く。
「ありがとうリオ。 じゃぁ次はクリスにも……」
クリスにも回復魔法を掛けてあげてと言おうとした所リオが口を開く。
まるで私の声が聞こえたいないかのように。
「もっと自分の体をいたわってくださいね。 じゃぁ行きますよ」
え? ちょ、ちょっと? クリスには掛けてあげないの?
少なくともクリスのは私のよりよっぽどダメージが深そうに見えたのだから。
「何してるんです? 行きますよ?」
「ちょ、ちょっとリオ? 回復魔法だったらクリスにも……」
言いかけた私の肩をクリスが掴んだ。
「良いですよ姉さん……」
「良くないわよ。 クリスだっておん……」
『女の子』と口走りそうになった私は口に手をあてた。
いけない、クリスが女の子だってことはクリス本人から口止めを頼まれてたんだった。
危うく口を滑らす所だった。
クリスは自分が女の子だとリオに知られる事で関係が、態度が変わってしまうのではと恐れて。
「大丈夫だよ姉さん。こんな傷ボクに取っちゃ擦り傷みたいなものだからサ。 応急処置で十分だよ」
そう言ってクリスは微笑んで見せた。
「そう? うん……アンタがそう言うのなら。 でも……なんかリオの様子変じゃない?」
リオが私を気遣ってくれるのは嬉しいけど、でも気のせいかなんかクリスに対し冷たいような……。
「若しかしてリオにいさんサ……妬いてるのかな……?」
「…………え? えぇ?!」
妬いてるって私とクリスのこと?! 私達があんまり仲良くしてるから?!
で、でもそれは姉妹みたいな……って、でもクリスが女の子だってことはリオに伏せてあるわけで。
でもそれなら姉弟みたいな……。
そ、それよりも妬いてくれてるんだとしたらつまりはそれはリオも私の事がす、す、好……。
「ね、姉さん? 大丈夫?」
「どうかしたんですか? セツナ?」
気が付けば直ぐ側に心配そうに覗き込むクリスと、そしてリオの顔が……!
自分でも分かるほどどんどん顔が熱くなっていく……!
「だ、だ、だいじょうぶ! な、な、なんでも無ひきゃらっ……!!」
……し、舌噛んだ……。
「ら、らいひょうふらから……」
あうぅ……、し、舌が痛いせいで上手く喋れない。
それはともかく、妬いてくれてるってことは私のことを女として意識し始めてくれたってこと?
そ、それってそれって……つまりは私の望みが通じて……?
ずっと望んでた。 リオも私を好きになってくれるようにと……。
い、いや待て、落ち着くのよ。
若し早とちりや勘違い思い込みだったら……。
<br>
<br>
<br><div align="center">・<div align="left">
<br>
<br>
「うぅ……、私のヘタレ……」
あれから数日、何も変わってない。
リオの気持に脈があるかもと希望を見出せたのに、でもあれから何も変わってない……。
あぁっ! もう私のバカバカ! 根性なし!
「……さん。 ……さん。 姉さん」
は?!
「大丈夫? 姉さん。 若しかしてのぼせた? それとも湯当りでも?」
「あ、ううん。 大丈夫全然平気だから。 ありがとう心配してくれて」
私は首を振り笑って見せた。
時間は深夜、ここは入浴場。 すっかり恒例になった女二人裸の付き合いのお喋りタイム。
「若しかしてボクがこの間言ったこと気になってる?」
「え? う〜ん、まァ気になってるっちゃぁ確かに其の通りなんだけど……。
あ、でもクリスが気にする必要なんか何も無いんだからね?」
「そう? うん、姉さんがそう言うのなら。 ボク、姉さんもリオにいさんも二人共好きだから。
だから二人が一緒になってくれたらいいなって思ってるんだ」
「ありがとう、私がんばるね。
うん、折角大好きなリオに気持が通じてるかも、って光明が見出せたんだモノ。あ、それと……」
「何?」
私はクリスをギュっと抱きしめて語りかける。
「応援は嬉しいけど私に気遣って距離を置いたりなんて真似はしないでね?
何度も言ってて今更だけどリオも大好きだけどアンタだって私の可愛い妹分なんだから、ね?」
「うん、ありがとう姉さん」
To be continued...
蛾が一匹蚊帳の中まで入ってきた。はたはたとりんぷんを舞い散らせながら宙を舞っていたが、
やがてあんどんの中におのずから侵入していき、一際大きく瞬いた後、はらはらと落ちていく。
東条京之助はその様をじっくりと見ていた。
──飛んで火にいる夏の虫とはこのことだな。
時刻はもう子の刻(午後11時すぎくらい)をまわり、昼間はあれほど盛んだったセミの声も今は聞こえない。
代わりに蛙の泣き声が静かな闇を裂き、蚊帳の中に響いていた。
とても蒸す夜なので、布団の中でじっとしているだけでも体から汗が次々と吹き出す。
汗が肌を伝う感触と、それが着物に染み込み、水っぽくなるのが気持悪かった。
夜はすっかり深くなったというのに京之助の目は冴えていた。どうにもこうにも眠れないのだ。体を蒸すような暑さのためかとも思ったが、それ以上に体は疲れている筈である。
京之助は最近になって、御所院目付から近習頭主に挙げられたばかりで、仕事で覚えなければならない事が大量にあり、
家につく頃には心も体もぐったりになる。もちろん俸録は格段に増えたが、それでもなお、仕事の辛さに割のあわなさを感じていた。
だからこそ仕事で失った体力を回復させるためにも、無理にでも寝ておかねばならないのに、眠れないのである。
京之助は起き上がり、ふーっと溜め息をついた。ただでさえきつい仕事に、寝不足の状態で明日を乗り切れるだろうかと、
少し不安になると同時に、刻一刻と流れる時間に焦りを感じてる。
やがてその焦りは、眠れない自分に対する怒りへと変化していく。
しかし焦ったり、怒ったりしたところで何の得があるわけでもなく、むしろ余計に目が冴えてしまうだけである。
京之助は胸に手を当て再び息をつき、はやる心を静めた。
ふと隣に視線を移すと、妻の素女(もとめ)がすやすやと気持ちの良さそうな寝息を立てていた。
頬の辺り、普段目にする白い肌が熱さに火照って僅かに赤く染まるのが、何とも言い難い色気を放っている。
右手で頬の辺りに触れてみると、汗の水っぽい感触と、彼女の餅肌でペタリと張り付いた。張り付いた先の素女の肌は、京之助のそれよりもずっと熱かった。
う〜ん、と素女が唸る。驚いて慌てて手を引くと、パリパリと乾いた音がして彼女の頬から右手が離れた。
幸いにも彼女を起こすにはいたらなかったようで、京之助が手を離すと寝返りをうち、再び穏やかな寝息をかきはじめた。
彼女も彼女で疲れているはずだから、自分のせいでそれを起こすのは忍びない、と思っていたので、
ひとまず京之助は胸を撫で下ろす。それからゆっくりと立ち上がり廁へと向かった。特に尿意をもよおした訳ではなかったが、蚊帳の中は京之助と素女の二人の熱で、
外より暑くなっているような気がして、中より冷たいと思われる外の空気が吸いたいと思ったのだ。
外はやはり涼しく、肺に入った熱い空気が体の外にはきだされ、そして体が冷えていく感覚があまりに新鮮で気持ち良かったので、少々驚いた。
しかし、それ以上に驚いたのは外がやけに明るかった事である。京之助の家はもちろん近所の家々にも灯りは見えないし、燈籠がともしてあるわけでもない。しかし。
京之助は空を仰いだ。西の空に真ん丸で大きな月が、まるで太陽のように強く明るく瞬いていた。
月は思った以上に美しく、空を埋めるように散らばる満点の星の下にいるだけで、鎖から解き放たれたような開放感を感じる。
この空を見ているといつのまにか廁の事など、どうでもいいことのような気がしてきて、
京之助は月に誘われるようにゆっくりと道を歩きだした。特に意味も理由もなく、散歩をしてみたくなったのだ。明るい月夜に提灯は必要なかった。
夜の帳がおりた辺りはびっくりするほど静かで、昼間、ところ狭しと歩き回る人影も、楽しげな話し声も一切なく、ただ蛙の鳴き声だけが音の世界を支配している。
産まれて二十四年、この町で暮らしてきた京之助だが、こうして静まりかえった町を眺めるのは初めてだった。
夜の町は新鮮で、そこを歩くのは、見知らぬ土地を探検しているような、それはまるで童心に帰ったような気持ちで心踊る。
見慣れた家の形も見え方が昼間見るのとは違く、まるで別の国のように印象が変わってくる、それが楽しかった。
武家町をゆっくりと闊歩し、町を二つに分ける架加勢(かかせ)川に突き当たる。
架加勢川は隣の藩から流れ込み、そして海へと流れつく大きな川である。冬場は水嵩も高く激しい水の流れなのだが、
夏になると水嵩が低くなり流れも格段に穏やかになる。そのため日中は子供が水浴びを楽しむ声でにぎわうのであるが、
やはり今の時間に子供はいなく、音も立てずに川は流れていた。蛙の鳴き声が一段と大きくなったような気がした。
架加勢川に沿って上流に歩くと、架加勢橋がある。木造の大きな橋で、武家町と商人町を二分している架加勢川を繋ぐ唯一の橋である。
そのためか橋の幅はとても広く、その広さに比例するように日中は多くの人が行き交う。
京之助は夜の散歩は架加勢橋までだと、歩き始めた時には決めていた。行くだけならまだしも帰りもあり、あまり遠くにいくのは得策ではないと思ったからである。
月明かりに照らされぼんやりと浮かび上がる架加勢橋。そのすぐ側まできた時、京之助は思わず息を呑み立ち止まった。
女がいたのである。
架加勢橋と共に月明かりに写し出されている女は、橋の淵に右手を沿えぼんやりと流れる川を眺めていた。
月明かりだけでは顔はよく見えないが、絹のようにしなやかで長い髪が、時折の風に揺られて舞うのが綺麗だった。着物も今まで見たこともないような上等なもののようである。
その姿を見ているうちに、色々な疑問が頭をよぎってきて、京之助は思わず首をかしげた。女は何者なのか、自分も言えた義理ではないが何故こんな時間に外にいるのか、
そして何をしているのか。疑問は腹の底に徐々にたまり、やがてそれはその女に対する好奇心へと変わる。
その好奇心に圧されたのか、気が付くと京之助は女の方に歩き始めていた。女は京之助に気が付く様子もなく相変わらず川を眺めている。
月明かりだけでは顔はよく見えないが、絹のようにしなやかで長い髪が、時折の風に揺られて舞うのが綺麗だった。着物も今まで見たこともないような上等なもののようである。
その姿を見ているうちに、色々な疑問が頭をよぎってきて、京之助は思わず首をかしげた。
女は何者なのか、自分も言えた義理ではないが何故こんな時間に外にいるのか、そして何をしているのか。疑問は腹の底に徐々にたまり、やがてそれはその女に対する好奇心へと変わる。
その好奇心に圧されたのか、気が付くと京之助は女の方に歩き始めていた。女は京之助に気が付く様子もなく相変わらず川を眺めている。
京之助が一歩づつ歩を進める毎に、おぼろげだった女の顔が鮮明になってくる。月の光を浴びて青さをもつが本来は雪のように白いのだろうと思わせる肌。
細い目元は涼しげで、どこか気品のようなものを感じさせる。その目元を引き立てるように高い鼻、そして小さい唇。
しかし、その女は京之助が思っていた以上に若かった。二十歳そこそこだろうと思われるその顔には、まだ少女の面影が残っている。
それでもなお、女は京之助が今まで見た女の中で、間違いなく一番の美人だった。
ゆっくりと歩を進めていた京之助は、いつの間にか女のすぐ近くまで来ていた。
右手を伸ばせば女に手が届く距離である。しかし、未だに女は京之助に気付いていないようで、全く姿勢を崩さない。
「こんな時間に何をしているのだ?」
京之助は勇気を出して声をかける。女は一度大きく体を震わせ、慌てて振り返った。
月に青く照らされる女の瞳からは脅えたような、それでいて探るような色が伺えた。
「いや、俺は怪しい者ではない。この先の武家町に住む者だ」
そう言って京之助は自分の家の方角を指差した。女は顔をあげ、その指の先を見つめたがすぐに顔を落とす。そして、
「川を、眺めてました」
女が言う。小鳥が鳴いたような高く美しい声だった。女は首を回して、川に目を向ける。
「この川はどこからどこに流れて行くのか。もしかしたら、この川は京に繋がっているのではないか、と」
「京に?」
女はどこか寂しげに頷いた。
女の故郷は京なのかもしれない、京之助はふと思った。だからこそ、故郷から遠く離れたこの土地で、故郷との繋がりを見付けたかったのだろう。
そう思うと、女にこの川が京に続いていないという事を教える気にはなれなかった。それをすると彼女の故郷への繋がりを断つことになる。
「そうか、京か」
京之助が適当に相槌を打つと、二人の会話は完全に途切れてしまい、その間には重い空気が流れた。京之助は必死で話の種を探すが、どうにもこうにも見つからない。
「帰ります」
しばらくの沈黙が続いた後、女が京之助に再び顔を向けて言った。京之助は少し残念に思いながらも、
「そうか。よかったら送って行こうか?」
「いえ、家はすぐ近くなので一人でも大丈夫です。お心使いありがとうございます」
女は律儀に頭を頭を下げ、それから京之助を真っ直ぐ見つめ笑った。その顔があまりに美しかったので、心の臓がひときわ強く脈うつ。
「それでは」
女は再び下げると、踵を返し京之助の家がある武家町とは反対側の商人町に向かい歩き出した。京之助は黙ってその後ろ姿を見送った。
女はゆっくりと闇の中に消えていく。その闇の先、商人町の方から酔っぱらいの笑う声が聞こえた。
夜はゆっくりとふけていく。
見事に前作は挫折しましたが、恥ずかしながらこのスレに戻って参りました。
前作は意地でも完成させます。時間はかかるかも知れませんが。
携帯からの投下ですので改行とかうまくできているか激しく心配です。うまくできているでしょうか?
あと、りんぷんとかあんどん、ふいんき等、漢字の変換がわたしのくそ携帯だと出来ない場合がありますので、その辺はスルーしてください。
603 :
名無しさん@ピンキー:2006/10/01(日) 03:30:07 ID:g0sfn1gV
それじゃあスレの主旨と違うような。
とりあえずだが・・・・・
『ふいんき』ではなく『ふんいき』で変換しようか。
鱗 粉
りんぷん
あんどんっていうのが何かわからないが行燈?行灯?
まぁ、頑張ってくださいな
>>594 途中で書き込んでしまったorz
セツナの一人称が良い味出してると思いました。
リオとクリスが本当は何を考えているのか、かなり気になります。
ともあれGJ
投下しますよ
注意書き
・これは『とらとらシスター』の外伝ですが、本編とは何の関係もありません
・舞台は本編の五年前の話になります
・本編のユキさんのイメージを大切にしたい方は読まないで下さい・こんな妙な馬鹿話を書くなんて、酔っ払いのテンションは恐ろしいですね?
織濱邸、市内でも指折りの大きさを誇るこの邸宅は、それに比例をするように使用人の
数も多い。通いの者が殆んどだが、基本的に四六時中対応に追われる為にメイド長などの
管理職の人間は敷地内の宿舎に住み込みで働いている。
そしてその中の一室、一人眉根を寄せている者が居た。
「これは、どういうことなんでしょうか」
霧山・雪信(ゆきのぶ)、殆んどの知人からはユキと呼ばれている青年だ。その理由は、
本人は言われることを少し気にしている女性的な外見にある。母方の遺伝子が濃いらしく、
細く優しい顔立ちに黒くしなやかな長髪。腕力や体力は男のそれだが、衣服に包まれた体
は華奢で男性的な強さは想像すら出来ない。今とて、こうして執事服を着ていなければ、
いやもしかしたら来ていたとしても女性に間違えられるだろう。そんな外見に加え、穏和
な性格がどうしても雪信という男の名前よりも、ユキと女性に対するような呼び方をさせ
てしまうのだ。
だが幾ら外見が女性的でも、男性なのには変わりはない。だからこそ、今こうして目の
前にあるものに対して悩んでいるのだ。
「これは、一体?」
いや、問わなくてもこれが何なのかは分かる。何しろ立場上ほぼ毎日目にしているのだ、
正確にはこれを身に付けている者を毎日見ているのだが些細な違いなど今はどうでも良い。
今、ユキの目の前には幾つかの衣類がある。ホワイトブリム、簡単に説明すればフリルがあしらわれたカチューシャだ。カフスや襟
の白地が眩しい濃紺のワンピース、オーダーメイドなのかよく見てみれば長い裾に豪奢な
刺繍が縫われていて、これが他の物とは一線を引いていることが分かる。更には糊がよく
効き皺一つない、目も眩むような純白の長エプロンもある。それらを一つにまとめてしま
えば、メイド服というものになる。丁寧にも白のガーターストッキングや膝丈の編み上げ
ブーツまで揃っていた。どれも新品なのは、傍らにある箱や袋で分かる。
何故だろう、と、この数分で何度目になるかも分からない疑問を心に浮かべ、ユキは目
を細めた。これらが手違いで届いたもので、他に届け直すのならば簡単に出来る。もしも、
仮定の話になるが、自分で注文してしまったのなら返品も出来る。しかしこれは自分当て
に送られてきていて、尚且つ自分は注文した覚えがないのだ。
これはどうしたことだろう、首を捻って考える。幾つか心辺りがあるが、
「違いますね、ん?」
一つ、思い出した。
数日後には、織濱家の末娘である青海の誕生会が開かれる。今年中学校に入学したこと
もあり、使用人の家の幾人かが芸を披露することになっていた。半年程前に青海の祖父で
あり、織濱グループの会長でもある織濱・剛造の誕生会で披露した、メイド達のモノマネ
百連発(ほぼ全員分)が異常に評判が良かった、当人であるメイド達にもだ。だから、再び
それをやれとでも言うのだろうか。
数秒。
考えて、ユキは首を振った。有り得ない。
「皆、二度ネタには厳しいですからね」
それに、今回は一発屋ミュージシャンのヒットソングメドレーで申請してある。一発屋
ピン芸人のモノマネ十連発とどちらにしようか迷ったが、音楽好きな青海の為に、そちら
を選んだ。受け取った事務担当のメイドが妙な顔をしていたが、後悔はない。
しかし、これも違うとすれば理由は何なのだろうか。
「考えても仕方ないですね」
取り敢えず元に戻そう、と適当に手に取った。
直後。
「あの、すみません。ちょっと聞きた……」
部屋の空気が見事に固まった。ドアを開いた新人のメイドは、無言で一歩下がりドアを
閉じようとする。せめてもの心遣いなのか笑みを浮かべようとしているのだろうが、それ
は引きつったものであり余計にユキを焦らせた。
「ちょっと待って下さい!!」
これはいかん、とドアが閉まりきる直前に足を挟んで止めた。以外に腕力があるのか、
皮靴越しでも尚痛みが伝わる万力のような力でギリギリと締め付けてくるが、ユキは歯を
食い縛って何とか堪えた。このまま逃げられてしまったら自分は変態確定だ、自分自身が
意味も分からないのに変態扱いをされては困る。
しかし当の新人メイドからしてみればそんなユキの事情など知ったことではない、ただ
単に仕事の話を訊きに来たら衝撃的な光景を目撃してしまって冷静に話をしようなどとい
う余裕などないのだ。尊敬できる先輩であり密かに憧れの人でもあったユキが女性ものの
衣類を手に持っていただけでもキツいものがあったのに、見なかったことにしようと部屋
を退出しようとしたら必死の形相で追い掛けてきたのだ。それも豪華な刺繍も美しい高価
だと一目で分かるような純白のガーターベルトを片手に持って。ホラーに近いその現実は
新人メイドの恐怖を充分に掻き立て、結果現状に陥らせた。だから、逃げ出そうとせずに
はいられなかった彼女を責めるというのはあまりにも酷だろう。
足の痛みの為か上手く力が入らずに、少しずつユキは力敗けをしてゆく。身体中に脂汗
がにじみ、特に手汗のせいでドアが滑り、今にも閉じてしまいそうだ。
このままでは本当に不味い、と判断したユキは別の方法を取ることにした。このメイド
は焦ってこんな状況になっているのだから、まずは落ち着かせようと笑みを浮かべ、
「大丈夫、ほら、怖くないですよー」
一瞬。
「嫌あぁァーッ!!」
「あ痛たただだっ!!」
閉める力が強くなった。
無理もない、新人メイドの視点から見てみると理由は簡単だ。笑みは浮かんだには浮か
んだのだが、痛みのあまり歪み、脂汗にまみれたその表情は変質者のそれに近いものにな
っていた。痛みを堪えるため、荒くなっていた呼吸も問題だろう。
「ん、アンナちゃん。ユキの部屋の前で何しとるかね」
力の拮抗を破ったのはメイド長であり、ユキの恋人でもあるセツの声だった。助けが現
れたのだと知るや否や、新人メイドはドアから手を放しセツの体にすがりつく。約30cmも
身長が低い相手に抱きつく光景はシュールなものがあるし、頼りになるようには見えない
のだが、しかし新人メイドは安堵の表情を浮かべた。
セツは尻餅をついてこちらを見上げているユキを見下ろすと、
「何しとるがね?」
「私も分かりません」
セツは吐息を一つ、そして泣きじゃくっている新人メイドの背中をなだめるように軽く
数度叩くと頭を撫でた。
「ほらほら、もう大丈夫だから今日は休みな。アンナちゃんの仕事はあたしがやっといて
あげるから、しっかり心を落ち着けて明日からまた頑張るんだよ」
「ありがとうございます」
新人メイドはセツに深く礼をすると、自分の部屋に向かって小走りで駆けていった。
「で、アンタ何しとるがね?」
「それがさっぱり」
両手を上げて肩をすくめたところで、セツの視線が自分の顔から僅かにずれたことに気
が付いた。目の向く方向に自分も視線をずらしてみれば、ガーターベルトが視界に入る。
「そう言えば、これが誰のだか分かりますか?」
「そりゃあたしが送ったものだがね。着てみたかい?」
当然着る訳がない、とユキは首を横に振った。
「何でこんなものを送ってきたんですか?」
「そりゃ、その」
セツは顔を赤らめて床を向いた。
「あたしゃ、心配で。アンタはモテるから、その、女避けにさ。あたしゃオバサンだし、
言葉遣いも妙だし、性格も悪いし。だから、女の滑降をさせとけば屋敷の女の子は引くし、
街の中でも泥棒猫が寄ってこないと思って」
そんなことか、とユキは溜息を吐いた。
「心配しなくても、浮気はしませんよ」
「じゃあ、着てくれるかい?」
「……今だけですよ」
それから色々あってユキはメイド服を常着することになるのだが、それはまた別の話。
今回はこれで終わりです
うん、少し後悔してるっぽいんだ
墓場まで持っていこうと思っていた裏設定の一つなのに出してしまって
全く、駄目な子! 駄目な子!!
それと早く本編を完結させろ俺
〈 ̄ヽ
,、____| |____,、
〈 _________ ヽ,
| | | |
ヽ' 〈^ー―――^ 〉 |/
,、二二二二二_、
〈__ _ __〉
| | | |
/ / | | |\
___/ / | |___| ヽ
\__/ ヽ_____)
>>614 GJです
毎度安定して量を供給できる文章力には感服
>>614 |ω・`) さすがロボ先生、相変わらずレベルの高い作品を連発で凄い・・・
そしてユキさん、なかなかハードな生活を送っていらっしゃいますね
受け入れられるまでが大変だったろうなぁ、でもその行程も含め(*´д`*)
「ふふ、いい様ね――――」
まるで抜け殻のような女を見下し私は微笑した
口の端から唾が垂れ、床にはいたる所に彼女の憎悪の証のサインが残されている
目は色を失い、生気はなく『生ける死人』の状態だ
最初の方は私や冬香を見るなり憎悪の眼光を刺すように向けてきたけど――――
今は死人、私を見ても何の反応も示さずにゆらゆらと揺らめく瞳は天を見つめ動かない
口にしてあった声を出せないようにしていたモノは既に取ってある
なぜか、それは・・・・声すら発することの出来ない程に見せ付けたやった
私と涼ちゃんが愛し合う姿を・・・・
冬香と涼ちゃんが愛し合う姿を・・・・
「どうしたの?言い返さないの?南・条・秋・乃――――さん?」
遥か高みから言い放ってやる
薄汚れた売女のくせに私の涼ちゃんに恋慕するだなんて許せなかった
心が自分のモノにならなかったからって監禁し、陵辱するだなんて――――
私は思った――――
この女には死よりも遥か大きな苦しみ・・・・そして醜い死を――――
その身に刻み付けてやると――――
死以上の苦しみ与え、廃人にした―――――
あと、は――――
私は隣に居る冬香と頷き合うと廃人と化した南条秋乃の拘束から解いた
何の反応もない、くふふ――――ふはははは!
やった!やったわ!まさかここまで出来るなんて思ってもなかった
人間をここまでどん底に落とすことが出来るなんて思ってもなかった
落ちなさい、もっとよ!もっと!もっと奈落に落ちるの!
これは――――最後の工程よ
生ける死人を崖まで連れて行って冬香と一緒に突き落とす
まるで腕が天空へと伸ばされる、生きることにまだ執着しているの?
許さないわ、死になさい・・・・このまま
幸いなことに南条秋乃は失踪扱いになっている
警察の人は事件性はなし、ただの家出と判断したからだ
あの時といい、今回といい――――ほんとバカみたい
それにこの辺りは自殺の名所
入ってくるのは自殺志願者だけ、地元の人も年に一人か二人程度が入ってきて山菜を採るのみ
まず見つかる可能性はない
「バイバイ、負け犬さん――――」
「あは、やったね、お姉ちゃん♪」
「ええ、やったわ!やっとよ!」
人を殺した罪悪感などはまるでなかった
あるのは南条秋乃を殺せた喜びと涼ちゃんをこの手にした至福のみ
身を震わせ歓喜する、『ついにやってやった』と――――
「涼ちゃん!聞いて♪」
帰るなり私と冬香は涼ちゃんに抱きついてこの喜びを伝えた
「南条秋乃がね!消えたんだよ!お兄ちゃん!」
「そうなの!だから、もうなにも怖がることはないのよ♪」
「ほ、ほんと?」
信じられないとばかりに涼ちゃんが不安げに聞いてきた
安心して、これからはずっと一緒よ・・・・
涼ちゃん――――
「あ、ああ――――」
恐怖、憎しみ、愛憎、悲しみ――――
その全てを喰らって『彼女』は戻って来た
愛する『彼』の元に・・・・
「な、南条・・・・秋乃・・・・」
『彼』の恐怖が木霊した
「ダメじゃない、殺すんなら――――徹底的にやらないと!」
冷たい手が夏美の頬を這って行く
振り返る夏美の視界が微笑む青ざめた肌の『彼女』でいっぱいになった
右手は優しく夏美の頬を愛撫し、左腕はあらぬ方向へ折れ曲がりその機能を失っている
全身が水に濡れ、白い服に赤い点が浮かぶ
後ろに広がる死の世界を前に夏美は死の恐怖を身近に感じた
自分は死ぬのだ、そう思った瞬間――――
夏美の喉が裂かれ『彼』に夏美の血が降り注いだ
「きゃはははぁ!!!!」
死神が嗤った、この世のものとは思えぬ声で――――
「嫌!嫌ぁぁぁぁぁ!!!!!!」
生にすがり逃げ出すとする冬香
「あら、逃げちゃだめよ――――」
冷たい手が冬香の脚を掴んだ
「――――ッ!」
冬香の身体が一瞬宙に浮かび倒れた
「なにが愛してるよ、結局逃げるんじゃない――――」
『彼女』は微笑し倒れた背中の上に馬乗りになった
「やっぱり涼さんには私しか居ないの、これでわかったでしょ?」
『彼女』が振り返り返り血を浴び呆然とする『彼』に笑って見せた
あまりに美しいその笑みに『彼』は蛇に睨まれた蛙のように硬直する
「死ね、カスが――――!!!!!」
「嫌ぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!!」
死が互いを別つ時までずっと一緒ですよ、いえ――――
死を迎えても二人はずっと一緒です――――
そう、二人はず〜っと、ず〜っと――――
一緒です――――
涼さん、愛してます――――
私はずっと、あなたの私でいます――――
だから、これからもずっと――――
私だけの涼さんで居てください――――
私はようやく手に入れた、私の世界を――――
涼さん、あなたと私が作る美しい世界で、いつまでも一緒にいましょう――――
もう、誰にも邪魔させない、私と涼さんの愛を――――
ずっと、ずっと一緒だよ、涼さん――――
FIN『キミ想う』
ここまで読んでくださった方、お疲れ様です
秋乃が死んで幽霊になってやってきたのか?
それとも実体なのか?
は、皆さんのご想像にお任せします
もう、何時から投下してないのか思い出せないほど前から投下していませね
リアルがアホみたいに忙しくて、続きが書けませんでした、すいません
加えて救いようのないBADENDにしてすいません
他の二ルートは最初の宣言通りにハーレムENDにしますので
と、言っても次の投下はいつになるかわかりませんが、ほんと申し訳ありません
ついに姉妹日記がキ…(-_-)キ(_- )キ!(- )キッ!( )キタ(. ゚)キタ!( ゚∀)キタ!!( ゚∀゚ )キタ━━━・・・( ゚д゚)
(( ;゚д゚))アワワワワ
(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
(((((((( ;*´Д`)))))))ハァハァガクガクガタガタブルガタハァハァガクガクガク
話は面白いんだけど、
・句点(。)が無い
・ダッシュ(――――)を使いすぎ
・いちいち文末ごとに改行しているのでテンポが悪い
この辺がどうしても気になる
>>576 お答えありがとうございます
成る程、初期プロットを越えて大化けしたんですね
作者の思惑も越えるんですから面白いわけですな
GJ引き続き楽しみにしてます
>>622 夏冬姉妹がぁぁ……
まさかのどんでん返しにやられましたGJ
姉妹救済エンドも楽しみにしてます
さて気付けば465KBそろそろ次スレの時期
今のところ出てるスレタイ案は
>>8 私の中で19のよ
>>563あの女の所には行く(いく)な
幾重(いく え)にも積もる想い
恋は戦場(いく さば)
19と『いく』を掛けてるわけやね
ほかに良い案ある?
さ19(細工)は流々
19(一球)入魂
貴方に抱かれて19ぅっ!
某ヴァルキリーのようにw
次のスレタイは
19回忌
>>576 えぇ〜〜〜〜!無いのか・・・・(泣)でも後悔しない。貴方のおかげで部長さんに会えたから・・・・・
>>627 堕ちて19
貴方を想って19星霜、なんつって
19ら待っても貴方が来ない
流れ豚桐すいません。
投下準備完了なんですが、次スレまで待った方がいいですかね?
批評と感想ありがとうございました。改行ツユダクにしてみました。
行っていいと思うよ
376さんが投稿し終わったらスレ立てモードでOKかと。
第3話 「キス+キス=修羅場」
ミセス・クラインの悲痛な叫びが教室に響いていた。レイプされていたのだ。
それでも彼女は大丈夫だからと僕達に言い続けた。
犯人の周りに全裸で立たされた女生徒達は皆泣いていた。
誰もが恐怖と悔しさで顔を伏せていた。
僕はミセス・クラインが好きだった。くじけそうな僕を助けてくれた。
優しくて綺麗で、たぶん僕の初恋だったのだろう。
僕はミセス・クラインの授業だけを心の拠り所に登校していた。
しかしいじめは続き、死にたいと思う心が弱まることは無かった。ただ臆病ゆえに死ねなかった。
死ぬのは怖い。……でもミセス・クラインを助けて死ぬなら……。
校長先生は勇気が必要だと言っていた。
不正と戦う勇気、悪を止める勇気。
そしてチャンス。あいつはミセス・クラインに夢中だ。今しかない。
震えて力が入らない手足を出来るだけ静かに出来るだけ急いで動かして、犯人の後ろまで這った。
靴を脱いで立ち上がる。鬼ごっこでこれをやると気付かれずに捕まえられるから。
転がった椅子をそっと持ち上げる。手が震えて落としそうだった。
おびえる女の子に笑顔を作る。
ミセス・クラインが、声を殺して懸命に制止のジェスチャーをしたけど無視した。
僕は渾身の力を込めて椅子を持ち上げると、目の前の揺れる頭に振り下ろした。
そこで目が覚めた。
白い天井はおなじみの精神病院。そしておなじみの頭痛とめまい、両手の痛み。
「また発作か」
高校生になってから初めてだから、実に久しぶりだった。
治ったのかもと期待していたが治ってなかったらしい。
体を起こして部屋を見回すと、クロエがいるのに気がついた。
さらさらの金髪が、俺の掛布団の上に広がっている。
付き添いながら寝てしまったようだ。
それを見ていて、発作前の事を思い出す。
「情けないな」
体に傷跡はなく、日常生活だって対人関係以外は問題無くおくれる。
なのに、発作を起こす俺の壊れた頭と心。
……ただ救いは、彼女たちの争いが消失するだろうということだ。
普通の人達は、心を病んだ俺を本気で愛したりはしない。
だから高村さんも好意が消えて元通りになるだろう。
もしかしたら敬遠されるかも知れないが、それは仕方がない。
……何が幸いするかわからないな、そう考えると自嘲の笑いがでた。
小さく短い笑いだったのにクロエがみじろぎをした。目が覚めたらしい。
体が起きると、真っ赤に腫れたクロエの目が俺を捉えた。
その瞳にみるみるうちに涙が盛り上がる。
「泣くなよ、クー。たまたま体調が悪くて起こしてしまったんだ。
薬を飲めば抑えられる。心配ない」
だがクロエは泣きじゃくっていた。
最初に発作をおこした時もこうだった。
泣き顔は昔と変わらない、そう感じながら昔のように頭をなでてやった。
……けれども泣きやまない。やはり昔とは違う。
「ワタシが、私が……ユウに……発作を……起こさせた」
背中に腕を回して抱きしめてやる。
それでも嗚咽はとぎれない。
しゃくりあげる背中が、なぜかとてもか細く見えた。
昔はクロエとともに彼女の姉や母親がついていた。
彼女らが俺とともにクロエを慰めていたのを思い出す。
「孤独はお互い様か……」
彼女もこの国では孤独だということを俺は忘れていた。
「絆」と彼女は言う。あの事件の後、俺達のクラスは団結力が高まった。
俺でさえ、いじめられることが無くなり、仲間扱いされた。
そのときは俺は自分のことで精一杯だった。
けれども考えてみればあの事件で苦しんでいるのは俺だけじゃない。
男が怖いと彼女は言う。
普段はそんなそぶりが無くても、愛してくれた人を受け入れられなかったという。
そして彼女は一人で日本に渡ってきた。
俺が彼女を忘れていても、彼女は俺を忘れずに、絆だけを信じて。
ならば……。
俺に出来ることを。壊れかかった俺に、今できることを。クロエにしてやれることを。
「クー」
泣きじゃくるクロエの顔を俺は両手でやさしく挟んだ。
「今の俺には、これしか出来ないけど……」
そうっと唇を重ねる。右手で背中を静かにやわらかくさすった。
壊さないように、傷めないように、だけど氷を溶かす温かさを伝えたくて左手で抱きしめた。
遠くの喧噪しか聞こえない白い静かな部屋で、時間を忘れて、彼女を腕と唇で抱きしめてやる。
やがてしゃくり上げる息づかいが、ゆっくりとゆっくりと落ち着いてくる。
もう自分を責める言葉は聞こえない。
その唇はもっと楽しいことを紡ぎ出すべきだから、今だけふさいでしまう。
涙を流していた瞳が、閉じられる。すでに悲しみの色は無い。
どれだけの時間がたったのかわからなくなった頃、ようやく唇を離した。
「落ち着いたか?」
目を開けた彼女は無表情で無言。
ひどくばつの悪い沈黙が続いた。
……キスはやりすぎだったかも。そんな後悔がよぎり始めたとき、クロエの唇が開いた。
「ユウ……」
返事を返す間もなく、俺はベッドに押さえつけられる。
そして胸の上にはクロエ。
「……足りない」
そういうと彼女は俺に唇を重ねた。
その後金髪の雌は、俺の口を思う存分むさぼり、入ってきた看護婦が回れ右して出て行ってもなお続けた。
「む、まさかこれで済んだと思ってないか?」
口から体中の全てが吸われた気になって、惚けてため息をついてると、彼女が少し怒った顔で言った。
「これは昨日冷たかった分だ。まだ私を忘れていた分と十年分が残っている」
「……」
「楽しみだ。とっても楽しみだ。……ああ、日本に来て良かった」
幸せにひたるクロエを見ながら、俺は何かとんでもないことをしてしまった気分だった。
入院して一日たった。俺はすでに入院生活に退屈していた。
クロエもいつまでも付き添うというわけにはいかず、家に帰った。
いや付き添う気は満々だったのだが、病院の規則で渋々帰って行った。
何もやることが無かったので俺は勉強していた。……自慢というわけじゃない。
俺は自分の病気を自分ではどうにもならないと考えていた。
けれどもある時、俺の祖父に言われた。
「どうにもならないのは、おまえが阿呆だからよ。病の理も知らず、ただ忌み嫌うだけで治るかよ」
「じゃあ、どうすればいいんだよ?」
「病の理を知るのは医者だな。医者になってみれば治す方法が見つかるかもしれん。もっとも治らん病も山ほどあるがな」
「医者になる?」
「それも一つの方法よ。なにもせず治らんとあきらめるよりはましだな」
以来、俺は勉強をしている。医師を目指しているというわけではない。
ただ、少しでも自分の病気を理解する助けになればと考えているだけだ。
数学を片付けて、茶を飲んでいると扉からノックの音がした。
どうぞと返事をして、顔をのぞかせた人物をみて、俺は少なからず驚いた。
「元気そうだね、よかった」
「高村さん!」
どこか恥ずかしそうに、彼女は入ってきて、椅子に座る。そして部屋を見回した。
「マクフライさんは?」
「……、あ、うん、今日はまだ来てない」
「そうなんだ……」
それだけをいうと彼女は黙った。妙に気まずいものが漂う。
しかしいつまで黙っているわけにもいかない。
何回か脳内でシミュレートして、覚悟を決め、俺は本題に触れた
「……高村さんの言ったこと、忘れてはいないよ」
俺の言葉に、彼女はうつむいていた顔をはじかれたようにあげた。
「その、好きだって思ってもらうことはありがたいと思う……」
照れる。ありえないほど照れる。
クロエとキスしたくせに現金に出来ていると思ったが、照れるものは照れる。
しかし二股は良くない。というか、この二人を手玉にとって同時進行できる能力は、俺には無い。
クロエだけでも充分に振り回されている。俗に言うオナカイッパイってやつだ。
だからここでけじめはしっかりつけておこうと思った。そもそも、俺ごときがそうそう好かれる理由もない。
「でも、俺は高村さんに好意を持たれるような事はしていない。なにかたぶん誤解…」
「違う! 違うわ。柴崎君が忘れているだけ」
そういうと彼女は眼鏡をはずし、鞄から取り出した黄色いリボンで髪をくくった。
「2年前の私……思い出さない?」
それだけで彼女は大人びた印象が消え、むしろ闊達な雰囲気になった。
俺はそのリボンで、二年前の夏の記憶を唐突に呼び覚ましていた。
蒸し暑いうっとおしい夏の夜だった。公園を横切ったのはうっとおしいから単に近道したかっただけだ。
ただその頃は、夜になるとたちの悪い学生がたむろしているということで、誰も近づかなかった。
俺はそれを知っていたが、通るだけならどうってことはないと思っていた。
公園を少し入ったところで頭の悪そうな不良に道を遮られた。
普段なら、素直に引き返していただろう。
だが、その日のカウンセリングは最悪だった。
徒労と怒りをため込んで、耐えきれなくてカウンセリングを途中で切り上げた。
そのまま家に帰ればいいのに、鬱憤晴らしとか言ってゲームセンターに寄って、負け続けた。
夜なのに外は不愉快に暑かった。
だから俺を遮る不良の口調にも無性に腹が立った。
それでも引き返そうとしたが、目つきが気に入らないと絡まれた。
「それで、なにがいいたい? 日本語をしゃべろうぜ」
惚けた顔の不良をみると少しすっとした。そして湯気を噴いて怒るそいつをさらに挑発した。
簡単に激発して、殴りかかってきた不良のみぞおちに抜き手を深々とたたき込む。
そいつは動きをとめて顔色を変えると、吐いた。吐瀉物が腕にかかる
汚さが嫌でけり倒すと、無様に転がって動かなくなった。
しかし不良を殴りとばしても気が晴れることは無く、後味の悪さだけが残っただけだった。
つまらないことをしてしまったと思いながら、公園の奥に進んだ。
、外灯の光が差し込まない暗がりに絡まり合う人影があった。
男達が誰かを組み敷いていた。男三人、犠牲者一人、りぼん付き。
助けてくださいっと悲鳴があがって、すぐ口を塞がれるような物音がした。
何みてんだよとか向こう行けとか言われたはずだが、はっきり覚えていない。
ただ哀れな犠牲者が、あのときのミセス・クラインの姿にダブっていた。
目の前が真っ赤になったと思う。
奴らのうちの一人と目があった。後で聞くとシンナーをやっていたという。
俺には、焦点の合わない麻薬中毒患者のような目だと思った。
気に入らない目だった。俺達をむちゃくちゃにしたあいつを思い出させて不快だった。
それは怒りというべきだろうか? 殺意と言われても仕方が無いと思う。
少なくとも女を救うという意識では無かった。
ただ奴らがどうしようもなく気に入らなかっただけだ。
そうでなければ、3対1で戦ったりなどしない。
俺は無言で奴らに殴りかかり、ぼろぼろになりながらも勝った。
勝負が付いたところで俺達全員が補導された。ただすでに被害者は逃げてしまっていた。
結局、服や下着の切れ端から婦女暴行の疑いが彼らにかかり、余罪が明らかになって、彼らは少年院にいったという。
「まあ、女の子を救うのはいいんだけどな、入院になるほどはやりすぎだと思うよ」
それが俺を取り調べた刑事の言葉だ。
その後、当たり前だが暴力行為で停学となった。幸いながら事情を斟酌されて停学は短めだった。
そしてその停学があけると、札付きの不良を病院送りにした男というレッテルが張られていた。
間違ってはいないので俺は黙った。ヒーローよりは悪名の方が俺にとっては都合良い事が多かったからもある。
事実、余計なことで話しかけてくる人間は減り、不良グループも目つきとかで因縁をつけることが無くなった。
だけど最大の理由は、女を救うために戦ったのではないことを、俺自身が一番知っているからだった。
「そうだったのか。暗かったし、リボンしか覚えていなかったから」
「私ね、あいつらが少年院に行ったって聞くまで怖くてね。仕方がないから変装することにしたの。
眼鏡かけて、りぼんはずして、髪の毛短くして。それを続けてたら結構気にいっちゃってね」
高村さんは髪をいじりながら続けた。
「で、私は別の中学校でしょう? 助けてくれた人のことわからなくて、会いたいなって思ってたんだ。
そしたら塾で友達になった子がね、柴崎君の事を教えてくれたんだ。
『暗くて協調性無くて、成績だけいいガリベン君だと思ってたら、女の子をマワしまくってたやつらを三人全員病院送りにしちゃったっていうでしょう?
みんなびっくりしてさ。1年の生意気なやつでも、ソイツには道をあけるんだよ。もうおかしくて』ってね。
それでね私、時々柴崎君の事、見に行ってたんだけど、気付いてた?」
俺は首を振る。
「周囲なんかどうでもいいから」
その言葉で高村さんは、けらけら笑い出した。
「全然変わらないよねー、ほんと。気付いてくれないかなーって、結構うろちょろしてたんだよ」
そう言われても困る。中学の頃はもっと女が苦手だった。
根暗と言って俺を敬遠する割には、どうでも良いことで絡んでくる訳のわからない存在だったからだ。
「でも高校は一緒になってうれしかったよ。初めは話するの怖かったけど、しゃべってみたら結構フツーだったし」
「そりゃ、ツッパったり族やチーマーってわけじゃないから」
「それでも柴崎君は冷たいから苦労したんだよ。好きな子がいないってのは安心したけど、彼女作ろうって雰囲気もなかったし」
「別に今でも無いよ」
傲慢な言葉と言われるかも知れない。
だけど三日前まで、俺は教室の隅にいる目立たない男子生徒で、それが恋愛に非積極的であろうと無問題のはずだった。
高村さんが微苦笑のような表情を浮かべる。
「ほんと柴崎君って冷めてるね。……だから、クラス委員にしちゃったんだよ」
「えっ?」
思わず俺は高村さんの顔をみた。
彼女の目はいたずらっぽい雰囲気を漂わせている。
「友達にお願いしてね、柴崎君を推薦するようにしたんだよ。クラス委員になると、二人で話す機会、増えるでしょ?」
「嘘だろ?」
「えへへ……」
しかし彼女はごまかし笑いをしながらも一切否定をしなかった。
「……でね、あとは告白するだけって思ってたんだけどね〜」
クロエの顔がちらついた。何も言えなくなり、俺は下を向く。
一つため息が聞こえて、そして高村さんの声がすこし翳りを帯びて低くなった。
「……ねぇ、レイプされそうになった女の子の気持ち、わかる?」
その内容と声の暗さに俺はふと顔をあげた。
高村さんの顔からいつもの明るさも強さもすっぽりと抜け落ちていた。
いたのは、俺の知らないもろさを抱えた少女。
「……おぞましくて悔しくて悲しくて怖くて、今でも夢に見るんだよ。レイプされちゃった夢まで見るときあるよ。
すごく落ち込むし、男なんて大嫌いになる」
己をむしばむ毒をはき出しながら、彼女は薄笑いを張り付かせていた。
「だけどね、柴崎君がいるから」
唐突なその一言で、もろそうな少女が消えて、あの高村さんが帰ってきた。
「柴崎君がいるから私、生きていける。私を守ってくれた時のことを思うとね、許せるんだ。
世界は悪いことばかりじゃないってね」
けれども瞳にだけは、いままで見たことのない、どこかすがりつくような色が揺れている、
「買いかぶり過ぎだよ。それは俺を見誤って……」
俺の反論はあっさり遮られた。
「柴崎君は自分にも冷たすぎると思う。自分を否定しすぎ。それってマイナスの自意識過剰だから。
それで私やマクフライさんを傷つけているんだから。わかってないでしょ?」
「……」
その言葉は頭を殴られるような衝撃をもたらした。痛い真実だったからだ。
黙り込んだ俺を見ながら彼女は椅子から俺のベッドに座り直した。
「それに、柴崎君は私を勘違いしている。私、そんなに立派じゃない。やらしいんだよ。知ってる?」
彼女が俺の手をとり、両手で俺の手を握り込んで胸に抱く。
「私ね、柴崎君を想像して、自分をさわっちゃうの。……オナニーしてるんだよ」
「!?」
俺の手が制服の上から彼女の左胸に埋め込まれていった。
「エロくて嫌いになった? でもこうして柴崎君に胸を触って欲しかった……指、動かしてもいいよ」
手に感じる心地よい柔らかさゆえに、俺は緊張していた。指が硬直したように動かせない。
いつのまにか、高村さんがにじり寄ってきていた。
「私、柴崎君がどんなに悪い人か知らない。……でも私もやらしいから、お似合いだよ?
マクフライさんはまっすぐで純情だからもてあそんじゃ駄目だけどね」
あっという間に至近距離に顔がやってきて、そして唇が重なる。
高村さんが痛いほどに俺を抱きしめている。歯が当たってキスに慣れていないのがわかる。
それでも舌が俺を食べ尽くすかのように俺の口腔で動きまくり、舌に絡まり歯をなぶって、唇が俺の唇を優しく挟む。
そして彼女の胸に当たっている俺の手に、乳房全てをこすりつけ埋め込むかのように体をゆっくりと揺らした
長いようで短い時間が過ぎて、唾液の糸を引いて唇が離れた。
俺の手も胸から離れる。見ていると何かを飲み下すように高村さんの喉が動いていた。
「……柴崎君のつば、おいしい。……私の中で柴崎君が混ざってるんだね」
上気した頬、うるむ瞳、なにか言葉に出来ない淫靡なものが彼女を彩っていた。
それはなぜか俺に鳥肌をたたせていた。
不意に扉が開いた。
「ユウ! 着替えもって……、高村サン」
「……あら、マクフライさん」
クロエが部屋の中の高村さんを認めたとたんに、淫靡な雰囲気が消し飛び、微妙な緊張が部屋に張り詰めた。
「高村サンは、どうしてここに?」
「御見舞いだよ。私のせいで具合悪くなったんだしね」
勢いよく入ってきたクロエの表情が氷の冷たさを帯びる。対照的に高村さんの表情に蛇の悪意が宿った。
「ありがとう。でもユウは私が世話するから、高村サンは安心して待ってて欲しい」
「待てないの。好きな人のことは早く知りたいから」
クロエのブルーの瞳が細められ、高村さんの口がゆがんだ笑みを結んだ。
「……、ユウの病気のことは、私が良く知っている。今のユウには心の安静が必要なんだ。
高村サンの気持ちはわかるけど、ユウの病気にはよくないから、高村サンは来ない方が良い」
「そうかな? 私はマクフライさんがいたほうがよくないと思うな」
突然、氷にひびが入ったように、クロエは動揺した。それを高村さんは見逃さなかった。
「マクフライさんは、一途で健気で、いい人だと思うよ。でもね、柴崎君の心の細かいところをわかっていないな。
普通の男の人ならマクフライさんは良い恋人だけど、柴崎君にとってはよくないよ」
言い負かされたかのようにクロエが黙ってしまったが、帯電したような緊張は解けなかった。
そして、ひびが入ったガラスだったクロエの目が、青く燃えだしていた。
高村さんも一切弛緩していなかった。
「なんと言われようと私とユウは愛し合っている。ユウは私にキスしてくれた。もう貴女が割り込むところは無い」
「……そう、早速掠め取ってくれたんだ。……キスなら今さっき私もしたわよ。胸だって触らせてあげたし」
「ビッチ! ……ユウを汚したな。二度と私のユウに触れるな!」
「はん、突然やってきて、勝手にキスする泥棒猫が! 柴崎君のキスを返しなさいよ!」
パンと肉をはたく音がして、クロエが頬を押さえた。
瞬間呆然としていた表情が怒りに燃え、右手が走った。
さらに大きな音がして、高村さんが頬を押さえて倒れた
「もうやめろ! 二人ともいい加減にしろ!」
クロエを引っ張って高村さんから引き離した
「だって、ユウ! あいつはユウを……」
「柴崎君! その女のいうことなんて無視してよ!」
引きはがされてもなお睨み合う二人に俺は耐えきれないものを感じた。
「ユウ! ユウは私を選ぶよね」
「ダメぇ! 柴崎君」
突っかかって来る高村さんをもう一度引き離したとき、俺は限界に来ていた
「もういい。出て行ってくれ。二人とも出て行ってくれ」
「ユウ!」「柴崎君!」
「出て行け! いいから出て行け! 出て行かないなら、看護婦さん呼んで出て行ってもらうぞ!」
俺の剣幕に二人は驚き、そして肩を落として病室を去った。
病室に静寂が戻る。扉のむこうがわで二人の気配が残っていたが俺は無視した。
クロエが持ってきた着替えを片付けているうちに、苦い自己嫌悪がにじみ出てくる。
流されるままで、毅然とした態度をとらない男が、修羅場に出くわして切れて女を追い払う。
「俺、最低だ……」
……だけど、拒んで傷つけるには、クロエの背中は細すぎて、高村さんの顔は不安だらけだった。
俺は、いつも大事な人達を傷つけてしまう。
病室の窓に水滴がつきはじめる。空を黒雲が覆っていた。
降り出した雨は、まるで彼女たちの涙のようだ、俺はぼんやりとそんな事を考えた。
数日後、俺は退院した。
第3話終
ということで投下終了です。 スレ立ての方、ご苦労様です。
乙。
良い感じですな!
さて投下を進めただけあって残りが14KBになってしまったw
スレタテしてくるか。
正直テンプレ見栄え悪いから過去スレは前スレのみにします。
タイトルは
>>631さんで。
スレ立て一号言葉様いってきます
>646
GJ!
全員がトラウマ持ちだと言う所がまたこの作品の修羅場さを引き立てて良い感じです
個人的にはクー応援してます がんがれクー
ところで一つ提案なんだが補完庫への収録が確認出来るまで
スレを完全に埋め立ててしまうのは避けた方が良い気がするのだが
>>646 引き込まれますなー、純粋に小説として面白い。
そしてこの凍てつくような修羅場の序曲!
次回以降に大いに期待します。
ところで分裂少女の『結』は来ないのかな?
それとも残り12KBでは容量不足なのでしょうか?
|ω・`)おいらも埋めネタの分裂少女の『結』と小恋に期待してたり・・・
よし、だれもいないな。今の内にこっそり投下します。
それとちょっとグロいので注意して下さい
「結」
もう間もなく日付が変わろうかという時間、「女」はついに目的地のモアイ像までやって来た。
既に深夜という時間帯にも関わらず、駅周辺や目的地のモアイ像辺りは人で溢れ返っているそんな中、
「女」は改札口から出てきたが、格好が格好なだけにすれ違う人は皆好奇の目や
怪訝な表情をしていた。
これじゃ目立ちすぎるか……とりあえず場所を移そう
「女」はとりあえず、くる途中で車窓から見えた公園に走っていった
しかし、公園に着いても人はそれなりにいたが、諦めて近くのベンチに座り休んだ
何だか……初めて来たって感覚は無いわね。記憶を無くす以前に来たことがあるかもしれないわ。
まあこんな大きな街だったら来ててもおかしくはないし……
さて、どうしようかしら。とりあえず駅で聞き出した電話番号を掛けてみようかしら……
でもいきなり呼び出して会うってのも何か……。そもそも相手のことをよく思い出せないのよね
う〜〜〜ん、よし!この作戦で行こう!!!
何か良い案が浮かんだのか、「女」は近くの公衆電話まで行って駅で教えてもらった番号
に掛けた
プルルル……プルルル……、ガチャ
「あ……、もしもし、えー、詳しいことは話せませんが、駅での飛び込み自殺のことについて
話したいことがあります。……いえ、電話口ではちょっと……、今からすぐ「モアイ像」
までジャージ姿で来て下さい。……では、また」ガチャ
ふ〜〜〜ん、向こうは随分慌ててたわね。やっぱり気になるのかしら
まあいいわ。とにかく向こうから来るってんだから、どんな男なのか見させてもらいましょ
「女」は公園を出て、モアイ像の近くまで来たが、なぜか物陰に隠れて男を待った
とにかくいきなり会うのは危険だわ!まず男の人となりを見て、話はそれからだわ
暫くして、人も疎らになった頃、丁度「女」のいる場所の反対側から赤いジャージ姿の男性が現れた
年はまだ若そうで、20代といった所だろうか。顔は確かにあの手帳にあった写真と同じに見える。
男を見ていた「女」は見ている内に何か胸の奥が熱くなるのを感じていた。この胸を焦がす思いを
「女」は感じ、涙を流し
グス……そう、そうだったの……、事故の前の私はあなたを愛していたのね……
この胸一杯に広がる熱い想いがそれを物語ってるわ。
ああ……、またこの目で見れて良かったわ
で、でも事故で死んだと思っていた人がいきなり現れたらどう思うだろう。たぶん
信じてもらえないわよね……。
よし!せめて何処に住んでるのか、それだけでも知りたいわ。
「女」はそのまま物陰に隠れ、待ちつづけた。
暫くして、男は諦めたのか来た道をまた戻っていき、こっそりと「女」もその男の後ろに着いて行った。
ホテル街を抜け、ちょっとした住宅街に入り、とある一軒のアパートに着き二階に上がって行った。
その様子を見ていた「女」は確かに見えた。幸せだった頃の記憶を……
(へ〜〜、ここに住んでるんだ。……ちょっとボロくない?)
(しょうがないよ、お金もないし。……ゴメン)
(べ、別に謝らなくてもいいわよ。建物がボロいのはちょっとアレだけど、もう少し経てば愛の巣
になるんだから……ちょっと!何笑ってんのよ!!もう知らない!!!)
あの時、アパートはボロかったけど此処で早く同棲したくてウズウズしていたわね……
もう少し近くで見ようとアパートに近づいた時、おもむろに男が住んでいる部屋のドアが開き、
男を迎え入れていた
「あ、お帰りなさい。どうだった?」
「いや、来なかった。悪戯だったかもな……」
「きっとそうよ。ささ、早く入って」
その光景を見ていた「女」は点と点が線で繋がっていくのを感じた
そういうことなの……。私を殺してその男と一緒になったということか。
あの時、電車に撥ね飛ばされている瞬間に見たあなたの醜悪な面は良く覚えているわ。
なかなかやってくれるわ。男を手に入れるためにそこまでやるなんて……
あなたは幸せを手に入れたようだけど、私はご覧の通り悲惨な物よ。
でもね……そこには本来私がいるはずなのよ
そう、そうだわ……「目には目を、歯には歯を」って言葉通り私も
あなたにやられたことを利子付きで返してやるわ!!!
あ、あは、あはは、あははははははははーーーーーー!!!!!!!
この瞬間、「女」の中にあった暖かい思い出は、ドス黒い嫉妬と憎悪の炎によって失ってしまった
本当は全部投下したかったのですが、容量が足りなくなりそうなのでここまでにします。
続きは19スレの埋めネタにします。
|ω・`) 楽しみにしてます
久しぶりに18スレを見たら分裂少女キテルワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*・゜゚・* !!!!!
ヒロインの覚醒にwktk
おお、続きを見れてよかったよ!
乙です。ついでに出来ればどれくらい容量があるのか教えてください。
次も容量が足りないとかなったら悶死しそうです。
誰もいないと思っていたのに、こんなにレスして下さって有難うございます。
「分裂少女」の「結」は全部で12Kぐらいでしたが、今回の半分投下で
残りは6〜7Kぐらいでしょうか。ただ、今も推敲や付け足しなどしている
のでもう少し増えるかも……。ENDは変わりませんが。
ちなみに「分裂少女」の次の埋めネタのタイトルは「塵少女」でいきます。
|ω・`) 少女シリーズ期待してます!