【女官】チャングムの誓いのエロパロ第二部【女医】

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394名無しさん@ピンキー:2007/04/10(火) 12:01:55 ID:boe1Z70C
>>393さん
え?!そんなのあるんですか!!初めて知りましたw
395名無しさん@ピンキー:2007/04/10(火) 22:44:30 ID:eUYl2E8D
>>394
ttp://jp.ibtimes.com/article/living/070308/4985.html
もうキャンペーンは終わった

雑談以上
396名無しさん@ピンキー:2007/04/22(日) 15:11:02 ID:uVlUUOs+
壱参弐様
お越しをお待ちしております。
397名無しさん@ピンキー:2007/04/23(月) 22:59:37 ID:cU5MCiux
冬心さんや蓮生さんもいらして〜〜ん。続編待ってまーっす(´∀`)/
398前座人:2007/04/24(火) 21:20:06 ID:aufU6Z2v
真打ちの皆様登場までの余暇に駄作を一本投下します。未熟な点やお目汚しは御容赦ください。

◇ハン尚宮×チェ尚宮
◇エロなし
◇携帯参戦、改行多です。
399ハン×チェ「温かな手」:2007/04/24(火) 21:25:28 ID:aufU6Z2v
ある日のこと。

何時ものように最高尚宮様の部屋での会議中、突然それはやってきた。
何でも一昨日到着したばかりの明国からの使者が、旅の疲れからか食欲を無くしているので、料理に何か趣向を凝らせと王様直々のお達しであるとのこと。

当然のことではあるが、献立そのものは随分前から決まっている。
皆で額を突き合わせた結果、香辛料を使った料理二品と菓子を新たに作るということで折り合いがついた。
さて、これは大変。一体どんなものを作ろうか――。

そんなことを考えていると、最高尚宮様からの指示が下された。
料理の献立は自分と他の尚宮で、菓子についてはチェ尚宮とハン尚宮に。

正直驚いた。
尚宮に上がってからこっち、共に一つの事に励んだ記憶などさらさらない。こんなこともあるのね、本当に珍しいこともあるもの。

けれど、不快ではなかった。

そうね、疲れを取るには甘い菓子だけでも随分と違う。
けれども、菓子は料理以上に繊細さが必要とされる。大事な国賓を遇す料理だもの、ここは慎重を期さなければ。
勝手知ったるお前と手を組まざるを得なくなったのは、丁度良かったのかも知れないわね。

そんなわけで今私は、部屋でお前と二人、ああでもないこうでもないと議論の真っ最中。


「他の内人には任せられない事だから。貴女なら、能力も優れているし適任だわ」


書を捲り数多ある菓子の文字を目で追っていきながら、口早にそう言うお前。
僅かに伏せた睫毛の長さにふと、目を奪われる。


「それを言うなら、私よりもクミョンの方が適任でしょう?」


最高尚宮様からの指示がなければ十中八九、私の代わりはクミョンだろう。
まさかあの可愛い姪に能力が無いなんて、言わないでしょうね?


「あの子では経験が足りなさすぎるわ……ねぇ、不満なの?」


「何が?」


「たとえ仕事でも、私の傍に居るのは嫌なの?」


驚いて、顔を上げる。

やっぱり同じ様に顔を上げたお前と、視線がまともに合った。
思わず笑ってしまう。
そうか、そうだったの。
400ハン×チェ「温かな手」:2007/04/24(火) 21:42:48 ID:aufU6Z2v
「何が可笑しいのよ?」

形の良い眉をきゅっと潜めて、お前が問う。
いいえ、可笑しくなど…強いて言えばそうね…嬉しいのかしら。

まるで昔に戻ったみたいで、お前と共に何かに励むということが純粋に嬉しかった。
けれど何よりも嬉しかったのは、この者が私を甚く好いている…ということ。

思えば昔からそうだった。
その強い眼差しで真直ぐに私を見つめる。聡明なお前のこと、いつか心を…私の想いを見透かされてしまうんじゃないかと、ひどく心配したくらいに。
だから私は口を慎み、お前の前では必要以上に己を消して…今まで過ごしてきたというのに。

そうだったのね。
私が傍に居て嬉しいのね?
心配は要らないわ、だって私もそうだから。

「いいえ、別に?」

「…じゃあ何故笑ってるのよ」

「笑ってなんていないわ?」

――ただ、可愛いなあと思って、ね。

「嘘よ。貴女って本当、いつだってそう!お上品ぶって取り澄まして、少しは自分の気持ちとかそういうの見せたらどうなの?」

「見せてるわよ?」

――だから笑顔も惜しみなく向けているじゃない?

そう言うと、益々紅潮する頬。吊り上がる、眉。
怒った顔も、とても綺麗。

「馬鹿にするのも…!」

「ソングム」

「何よ!……?…え、えぇっ?」

お前の顔から、瞬時にして怒りの色が消えていく。
余程驚いたのだろうか、口を小さく震わせ何度も瞬きを繰り返しながら私を凝視して…。

「馬鹿になんてしてないわ、ソングム…」

「やめてよ!何急に名前で呼んで…っ…何考えてるのよ?」

代わりに芽生えてくるのは…羞恥の色。
ただ名前を呼んでるだけじゃない、そこまで赤くならなくたって…。

…可愛いわね。
401ハン×チェ「温かな手」:2007/04/24(火) 21:44:14 ID:aufU6Z2v
「貴女のことを考えてるわ?…ソングム…」

「やめてったら!」

「…どうして…?」

「どうしてって…」

手を伸ばして、優しく頬を撫でる。
熱を帯びた其処は、冷えた指先に心地好い。

「名前で呼ばれるのは嫌い…?」

私は一体、何をしているのだろう。
目の前には仕事が山ほどあるというのに、時間もそれほどないというのに。

でも――。

「昔はお互い、名前で呼び合っていたじゃない…?」

「で、でも…今は…昔とは」

今は…お前しか見えなくて――。

「ソングム…」

「貴女…一体どうしちゃったのよ?変よ、おかしいわ…!」

「でも、気持ちを見せろと言ったのは貴女でしょう…?」

「それは確かに…、でも」

「言う通りにしたのに不満なの?」

――もう、いいでしょう?

襟首を掴んで引き寄せ、躊躇いがちな唇に口付けた。


**********



「ペギョン…」

小さくそう呟いて、私の手を握り締める。
どうやら寝言のようね、可愛い顔して眠っちゃって。
献立は私の方で決めちゃうわよ?異存はないでしょう、お前は眠っているのだから。

しかし…、あれだけ強要したのに頑として名を呼ばず、もう諦めかけていた今になって…しかも寝言では呼んでくれるのね。
素面では徹底的に拒否するつもり?私も割と頑固だけれど、そっちも相当なものね。
402ハン×チェ「温かな手」:2007/04/24(火) 21:46:00 ID:aufU6Z2v
戯れに、指先で鼻を軽く突く。刺激にぴくりと動く仕草が愛らしくて、思わず笑ってしまった。
まあ、そんなお前を好いているのも事実だから…これはもう仕方がない。
甘んじて、受け入れましょう。

それは、私とお前の初めての…そして終わりの見えない未来への、第一歩。
どうか、この手を離さないで。
手探りで共に進んで行くには、お前はあまりにも真直ぐだから。

不器用で、人に慣れてなくて、真直ぐだから簡単に挫折して。
本当は優しいお前。だからこそ自分が傷付かない為に、簡単に他人を傷付けて。騙し、欺き、謀り…弱いから、流されて。元に戻れなくなって、迷って。

だからもう、迷うことがないように、いつもその瞳に私を映しなさい。
傍に居て、離れないで。

――約束よ?

そう呟いて、私は温かな手を握り返した。




(了)
403宮廷商人 パンスルの苦悩(小ネタ):2007/04/29(日) 23:39:27 ID:NJeYPSkq
「旦那様、医女の服が出来上がって参りました」
「うむ、ご苦労」
「それにしても、以前から芸者に医女の服を着せろと……」
「…………あれはオ・ギョモ様が明の使節団から、なんでも琉球(*1)では芸者が
医女の服を着て接待すると聞いたそうだ…………」
「それで…………」
「まぁ、今は医女を宴席に侍らせることが表向き禁じられておるからのう。
料亭の方も医女の服を着た芸者目当ての客が増えているそうだな?」
「はい。芸者達も連日忙しいようで」
「商売の種はどこにあるか分からぬものだ…………まったく」

http://news.ameba.jp/2007/04/4409.php

*1
“明の太祖の時代になると琉球という呼称は沖縄・台湾双方を指す言葉として使われ続けたため
両者の区別に混乱が生じ、沖縄を大琉球、台湾を小琉球と呼ばれるようになるが、その後名称に
混乱が生じ、小東島、小琉球、雞籠、北港、東番のような名称が与えられていた。”
“このような名称の変遷を経て、台湾が台湾と呼称されるようになったのは清朝が台湾を統治し始めてからのことである。”
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%B0%E6%B9%BE#.E5.9C.B0.E5.9F.9F.E7.AF.84.E5.9B.B2
404名無しさん@ピンキー:2007/05/06(日) 18:53:43 ID:ZW+q9XMp
>>398
遅れ馳せながら、

  n              n
 ( ヨ) ヲツ━━━ !! (E )      +
  ヽ、ヽ、∧_∧ / /  *
    ヽ、( ´∀`) /    ┼
     ヽ      /

ヲトメ ンソグム カワユス モヘー


>403
毎度笑かしてくれますな。
オギョモも好きねえ…w
405名無しさん@ピンキー:2007/05/19(土) 00:00:51 ID:DmrT9Lbc
石川島播磨重工保守
406名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 06:17:44 ID:tKVyGKpt
>>壱参弐様

ここ初めて来たのですが…自分女なのですが…はげしく萌えますた!!w
放送時からハン尚宮のファンになり、彼女とは対照的なチェ尚宮の喜怒哀楽を露にして
バンバンバンッと机を叩く姿を毎回楽しみに見ていましたが(つまり女官編の方が圧倒的に好き)
このカプって正直考えたことなかったけど…最高。壱参弐様によってめでたく開眼しました。
最近ちょっと間が開いてるようですが…次の投下をとてもとても楽しみにしています。
冬心さんや蓮生さん、その他皆さまのSSも待っていますよ〜。

っということで、保守さげ。
407名無しさん@ピンキー:2007/06/05(火) 02:30:46 ID:0Thvq72k
緊急保守
408名無しさん@ピンキー:2007/06/08(金) 15:23:41 ID:D2mnZZ0b
東京ドーム保守
409名無しさん@ピンキー:2007/06/08(金) 16:45:16 ID:RdFvtmjT
楽しみにしているので寂しいです(;ω;)
410名無しさん@ピンキー:2007/06/09(土) 16:28:48 ID:1ToOhVHk
もうアゲル。
アゲた上で、伏して伏してお願い申し上げます。
壱参弐様、ぜひぜひ新作を!
411 ◆RRDgBzr.dw :2007/06/15(金) 03:26:25 ID:Kgm5Xvx7
ハン尚宮×チェ尚宮 −属望−
                                 壱参弐 柵
内容:百合 原作改変 エロなし
分量:これを含め、10レス
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
 長らくお待たせしております。励ましていただいた皆様、本当にありがとうございます。

−お知らせ−
1.この作品は、あと3回で完結の予定です(全14回)。
2.保管庫収録分で、設定の一部を修正する予定です。
 宿望 冒頭のチェ尚宮とのやりとり(104中ほど)
 ・クミョンは具体的な悪事に加担する前であることを明確にした。
 渇望 クミョンとの絡み(大幅に)(130終わり〜131初め)
 顧望 渇望修正に伴う修正(372中ほど)
 ・ハン尚宮はクミョンを抱き締める以上の関係は持たなかったことに変えた。
412ハン尚宮×チェ尚宮 −属望−:2007/06/15(金) 03:29:00 ID:Kgm5Xvx7
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あなたは、そっと見ていた。
目の前の、それは王様の母君のために建てようと、国中を探して見つけた一番長く太い木
だとか。ぎーこぎーこ、切り倒すのに十日もかかったわ。
いざ運ぼうと押したけれどもびくともしない。引いても縄がぷつりと切れるだけ。
誰かが女の人の髪の毛は強いから、それで作った縄ならと言いだして、都中の女の人の
髪は、可哀想に、ばっさりと切り取られてしまった。
そして今まさにたくさんの男たちが取り囲んで、黒光りのする太い綱を幾重にもかけて、
えいやえいやと力をこめ引き始めた。
あなたはそれを見て、自分が引いているわけでもないのに手を握り締めていた。周りに
いた皆も同じ、固唾を呑んで見守っている。
確かに綱は切れなかった。けれど、木もごろりとも転がらない。ただ、軋むような音を
立てただけだった。それで引いていた男たちはくたびれて、へたりこんでしまった。
男たちの合間から、太い木が見えた。
あなたは、どういうわけか、なつかしさに引き寄せられるように、その木のそばに
近付いた。そしてそっと幹を撫でてみたの。意外に柔らかい、そうあなたは思った。
すると不思議なことに、あなたが触れた途端、その木が急に"ことり"と動いたから皆
びっくりして、慌ててもう一度引っ張ってみた。すると、するすると動き始めたのよ。
けれどあなたが手を離すとまたぴくりとも動かなくなる。
だからあなたはその木にまたがらされて、そのまま都まで一緒についていくことになった。
あなたはその木が綺麗に削られ、ぴかぴかに磨かれているのを、ずっと見続けていたわね。
今都にある大きなお寺、その棟木を見上げる度に、あなたは気持ちが安らぐでしょう。
見守られているように感じるでしょう。
なぜならあれはね……あなたの……。
  :
  :
  :
413ハン尚宮×チェ尚宮 −属望−:2007/06/15(金) 03:35:33 ID:Kgm5Xvx7
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 チャングムの寝息を聞くと、ハン尚宮は身を起こしてチャングムの方に向き直った。
半分ほどはみ出した背中に布団をかけ直し、肩を軽く抱き締めてみる。それは記憶に
あったより、ずっと大きく硬く感じた。
 この子のことだから、どうにもならぬ気持ちを紛らわそうと率先して力仕事をこなして
きたのだろう。前にここにおられた尚宮様も、お陰で楽をしたと言っておられた。
 柔らかい髪を撫でながら思う。
 身体の疲れや気疲れが、私とこうして一緒にいられて、たぶん一気に吹き出したの
だろう。そうよね。あんなことになって、お前も女官友達ともほとんど話すこともできずに
ここで頑張っていたのだから。

 身体のあちこちに触れても、よほど疲れているのか、気持ちよさげに眠り続けている。

 そんな時。
「柳の木ね」
 チャングムがつぶやいた。
 突然の甘えた口調に、ハン尚宮はどきりとした。柳?
 何のことだろう。しかし寝顔は相変わらずだ。
 寝言か、と思う間もなく、
「最高尚宮になったのです。お母さんの夢を叶えたのです」

 この子は……。
「いつまでも見守ってくださるの」
 また寝言を言う。

 ああ、もしかしたらあれかも知れない。
 ハン尚宮はある昔話を思い出していた。それは彼女も大好きだった話だ。
 その話は、柳の精と杣人(そまびと)の出会いから始まる。やがて二人の間に可愛い
女の子が産まれた。その子が三つのとき、その柳は切り倒されて、大きな寺院の棟木に
なったというものだ。

 ミョンイの尚宮様はお部屋の縁側に腰掛けて、両脇に私たちを置いてお話しをして
くれた。そして物語のさわり、縄を拵え、いざ引こうとする場面が来ると、両方の手で
私たちの髪の毛をぴっぴっと軽く引っ張られた。お話も面白かったけれど、その感触が
妙に楽しく、何度も何度もおねだりしたものだった。
 きっとミョンイもそうしながら、この子に話してやったのだろう。そうしてお前は
眠りについたのだろう。
 ミョンイと別れ……宮に入っても私と一緒では、安らぐ時はなかったでしょうね。
なのにこの子には、一度もそんなことをしてあげなかった。
 では今夜は、私がその話をしてあげる。

「昔々、ある山奥の村にひとりの杣人がいました。その男が行く山に、大きな柳があり
ました。それは女人のような葉をそよそよとなびかせ、心地良い木陰を作って………」

 ひとしきり話し終えても、ハン尚宮は眠りに付くのが惜しかった。
 宮に閉じ込められている間、どれだけこうしてお前と過ごしたかっただろう。温もりを
感じたかっただろう。お前と触れ合えば、わだかまりもやましさも、何もかも消えて
しまうような気がする。
 そう思いながらハン尚宮は、チャングムの髪の毛を撫で続けた。ずっとこうして、
私も太平館の尚宮としてここにいてもいいかもしれない。雑用は多いし忙しい時は
辛くもあるけれど、お前と一緒なら私も頑張れるから。

 夜が白むまで、ハン尚宮は隣で寝入るチャングムを撫で、小声で語りかけた。
 お前が私を求めているのは判っている。言葉はいいから、気持ちを肌で確かめたいと
思っているのでしょう。
 そうすればお前はずっと楽になるのだろう。そうしてあげたいとも思う。
けれど……私は……お前のことが本当に好き。だからこそ求められるままに触れ合っては
……私は、またお前しか見えなくなってしまう。それが怖い。
414ハン尚宮×チェ尚宮 −属望−:2007/06/15(金) 03:36:46 ID:Kgm5Xvx7
 ハン尚宮は、チャングムの手を軽く握った。
 お前は試練に耐えられる子よ。どうか辛さを受け止め乗り越えなさい。そして本当の
安らぎをこの手で掴みなさい。


 朝起きると、布団の中には自分だけがいる。
 チャングムが慌てて身づくろい厨房に向かうと、何事もなかったような顔で、
ハン尚宮は食事の支度をしていた。
 尚宮の食事は内人が作るのが決まりである。けれどハン尚宮は自分の腕を鈍らせない
ようにと、交替で作るようにしていた。
 朝の挨拶を交わした後も、ハン尚宮は無言のままでいた。チャングムも何も言わず、
支度を手伝った。
 そして同じ部屋、尚宮の部屋に運んで食事を取る。やはり無言のままで。

 これからしばらくの予定は、虫干しを終えた食器類の片付けと献立案の仕上げである。
それが終われば、後は食材の搬入に立ち会うぐらいで、数週ほどは、ほとんどすることが
ない。ということはまたたっぷり料理の研究ができるということだ。
 そう思ってチャングムは少しうきうきしながら、倉庫に入っていった。尚宮様の
お言葉が少ないのが気になるけれど、いつものことと言えばいつものことだし。

 ハン尚宮は、部屋で次の宴会の献立やその他一切の段取りをしたためていた。
 せっかくだから、チャングムが取ってきた山菜なども取り入れてみよう。二人で摘んだ
山の息吹を思い出しながら料理をするのも楽しいものだろう。
 もう間もなく完成する献立は、宮に送り最高尚宮に確認してもらうことになる……が、
私の作る料理にチェ尚宮が口出しすることはない。というか、させない。形の上で
報告するだけだ。
 そうね、ヨンセンに取りに来させよう。チャングムも友の顔を見たいだろうし、私も
宮の様子を聞きたい。

 書付けを片付けると、ハン尚宮は食器倉庫に向かった。
「どれぐらいで終わりそう?」
「あと少しかかります」
「じゃあ手伝うわ」
「いいえ、一人でできます」
「夕食を早目に済ませたいの」
 二人はまた黙々と作業に取り掛かった。

 夕食も同じく静かに取る。
 いつもはお話しをしながらなのに。
 その様子にチャングムも、昨夜のことでお怒りなのではないかと心配になり始めた。
「あの、尚宮様。昨日は申し訳ありませんでした」
「……。あとで部屋にいらっしゃい」
415ハン尚宮×チェ尚宮 −属望−:2007/06/15(金) 03:38:27 ID:Kgm5Xvx7
 部屋に戻り、日誌を書き終えたチャングムは、頃合を見計らって尚宮の部屋へと
向かった。
「入らせていただきます」
「そこにお座り」
 ハン尚宮と正対してチャングムは座った。
「お前、昨日はどういうつもり? 礼儀を弁えろと言ったでしょう」
「お身体がお疲れかと思いまして」
「じゃあどうして隣に入ってきたの?」
「それは……どうしてもおそばにいたくなって」
「私たちはどこで見張られているかわからないのよ。ここだって人が少ないとはいえ、
気を付けなくては」
「このようなことを申し上げて、失礼かと思いますが……それだけが理由ではないように
思います。以前なら私が触れると……受け入れてくださったのに……どこかお変わりに
なった気がします」
「そんなことはないわ」
「ミン尚宮様が噂されているって、前にチャンイが来たときに話してくれました。
ハン尚宮様はチェ尚宮様と……夜をお過ごしになっているのではないかと……」
 思わず息を飲み込んだ。
 平静を保とうとするハン尚宮の胸は、けれど痛いほど高鳴った。
「よくお側におられるから……面白おかしく噂しているだけだって、そうは言って
いましたけれど……私は本当のような気がして」

 チェ尚宮に言われた時、正直に告げると言い返したではないか。
 なのに今まで言いそびれていたのよ。
 ハン尚宮は心中呟いた。
 けれど隠し通すなどできない。この子は、こと私に対しては妙に鋭い。
 いずれ宮に戻れば私とチェ尚宮の様子に気付かぬはずはないし、他の者たち、ましてや
チェ尚宮などから聞かされれば、もっと深く傷付けることになる。

 しかしそれにしても……面白おかしくか。ミン尚宮め。
 二人の間では、あれはあれで真剣で、いわば身を刻まれる思いをしていたというのに。
けれど、はたから見ればそのようにしか見えないのか。
 仲が深まるにつれ、他の世界とは切り離され、二人の間でしか通じない言葉を交わして
いるということか……。
 いや、それならそれでいい。それ以上のことを他の者たちに知られる必要はない。ただ
この子だけが判ってくれればそれで。
 ハン尚宮は、深く息を吸った。

「お前に、話しておかなければならないことがあります。
 チェ尚宮とのことは……お前の思う通りよ」
「どうして」
「初めは私も嫌だった。でもそれが、あの時あの状況から免れるための唯一の手段だった」
「けれど……」
「あのまま……自分はいいけれどお前を失いたくない一心で、それでチェ尚宮の言う
とおりに身を委ねた。その内、活路が見出せるかも知れないと思った。そうされて
いても、お前のことを忘れまいと。
 逃げられぬ私にあの者は……好きなように……全く好きなようにしてくれた」
「そんなことが……お辛かったでしょう」
「こうしている間は、私もお前も無事でいられる。私さえ耐えればあの者と対立すること
なく、穏やかに暮らしていける。そう思い続けようとした。お前やミョンイを裏切って
いる訳ではないのだと」
「そのようなご事情でしたら……仕方なかったのですよね」
「けれど、それはどこか心地良いものでもあった。私を守ってくれるという言葉、ずっと
そばにいて欲しいという懇願に、心が痺れることもあった」

 チャングムは黙って、ハン尚宮の話しを聞くことにした。
「そうこうする内、いろんな方に協力いただいて、ようやくあの者の弱みを掴んだ……。 もう私たちを害することはできない。それに、すぐにチェ尚宮を追い払うこともできた
だろう。
 だけれど、私は……そうはしなかった」
416ハン尚宮×チェ尚宮 −属望−:2007/06/15(金) 03:40:48 ID:Kgm5Xvx7
 また言葉が淀む。

「ずいぶん前から拭えず、わだかまっていた感情……お前も、もう大人だから話そうと
思うのだけれど」

 重い口をこじ開ける。
「チェ尚宮はね、かつてはミョンイと、そして私の友達だったのよ」
「ご友人だったのですか?」
 ハン尚宮は軽く頷いた。
「お前のお母様は、とても人気者だった。両班の子だったこともあって憧れの存在
だったわ。多くの者が惹かれ、いつも沢山の子たちが取り巻いていた。
 だけどあの子――私たちはチェ尚宮のことをソングムって呼んでいたけれど――とは、
割と気が合ったようで、よく話していた。
 家の方針でもあっただろうけれど、本人も料理は好きだって言っていた。そして珍しい
食材を手に入れては、ミョンイや私に見せてくれたりして。
 私はあまりソングムとは話しはしなかった。というか、ミョンイ以外とはあまり話しは
しなかったから。いつもミョンイにくっついて、ただ横で他の人と話すのを聞いていた
だけだったけれど」

「そして、ミョンイは魅力的で……何人かと多少の付き合いがあるのは知っていた」

「それであの当時は、はっきりとは判らなかった。けれど、チェ尚宮とああなって確信
した。
 信じられないかも知れないが……ソングムはミョンイとも。それは、つまりそういう
意味でね」

「そして気持ちが抑えられなくなった……それはミョンイや私やお前をひどい目に
合わせたことだけでなくって」

「辱めてやりたいと思っていた……仕返しをしたいと思って……だから何度か抱いた……」

「いや、知りたかった。なぜミョンイはあの者と」

 いいや違う。決してミョンイのせいではない。
 話しながらハン尚宮はそう感じていた。ミョンイがどう思おうと誰と過ごそうと、
当時のペギョンはそれほど気にはしなかった。気にしていてはきりがないということも
あったけれど、むしろ、そんな自由奔放な気性に惹かれていたからだったし、何より深く
想われているのは自分だけだという秘かな自信も、実は未だにある。

 それにいずれにしても、ミョンイのことは昔の話。それが今ソングムを何度も抱くと
いう理由にはならない。
 何より、私の感情は……嫉妬なのか、それとも同情……ありていに言えば欲望? 
未だに自分でも判らない。その全てが当てはまるようで、何かが違うようで。言い表し
ようのない想い。
 それを正直に言うとするなら……。胸の中にもやもやとした、けれど強烈な、つまりは
"関心"があるということ。
 ハン尚宮は言葉を捜した。

「その内、愛おしくすら思うようになって」

 愛しい? ハン尚宮様が、チェ尚宮様のことを?
 チャングムは軽い目眩を覚えた。

「何度も抱かれ、そして抱いている内に……少しずつ判ってきた。あの者は心の中で涙を
流しているのだと。
 元々は真面目な子だった。それはお前だって感じたことはあるでしょ。
 そしてああ見えて、寂しがり屋なのよ。それを知って無下にはできなくなった。
 ミョンイのことにずっと囚われ、けれど苦しさを打ち明ける相手もいない」
417ハン尚宮×チェ尚宮 −属望−:2007/06/15(金) 03:43:54 ID:Kgm5Xvx7
「それを聞いてやれるのは、私だけなの。あの者には私が必要……」
 問い返す言葉を失ったチャングムは、耳の中に言葉が流れ込むのに任せた。
それだけで精一杯だった。

「そもそもは私たち、ミョンイも含めて三人の関係が始まりだった。ミョンイはあなたの
お母様。けれどミョンイとソングムと私のことは、お前には直接関わりは無いのよ」

「あの者は本心から私のことが好きだって判った。歪んだ情けだとは思うけれど。
 哀れでならない。私しか縋るものがないなんて。こんな、気のない私をずっと好きで
いるなんて。
 その一途な心根に、私は溺れて…しまった」

「そして情……のようなものが芽生えたのかも知れない。あるひと時、私があの者に
癒されたことも確かだった」

 しばらく、部屋の中には物音一つしなかった。
 再び、ハン尚宮が口を開く。
「それでね、チャングム。私は私の代で、この縁の始末を付けたいと思っている。たとえ
あの者が許し得ぬ行いをしたとしても」

「私がいなければ、あの者は寂しさに耐え切れないでしょう。あの者は孤独の中で
彷徨っている。そして私しか、それを癒せるものはいない」
「では……もしかして、これからもチェ尚宮様と?」
 それだけは我慢できない。もし再びハン尚宮様が頷いたならば、今すぐに宮に飛んで
帰って、どうにかしてしまうかもしれない。いやそれよりも、ハン尚宮様を連れて
どこかへ逃げてしまおうか。

「いや、それもない」
 チャングムの形相。予想していた反応だけれども……。

「たぶん側にいてやるだけで充分なはず」

「ソングムはミョンイを今も想っている。それは間違いない。
 それでずっと苦しみから逃れられないでいる。お前を極端に怖れるのも、お前を
見る度にあの……時の光景が蘇るから……」

「ミョンイは力があり過ぎた」

「同じ時に、権力を得ることを宿命付けられたソングムが居た」

「そして私はその二人の近くにいた。三人とも料理が好きで、腕も同じくらいに、
そこそこ上手な方だった。
 だから、それぞれがそれぞれを意識してしまって。
 好きになったり自分だけのものにしたかったり。
 愛おし過ぎて憎らし過ぎて。
 その気持ちを未だに私も、どこか引き摺っている」

「これが、私たちが抱えている醜い姿なのよ。その愛憎の渦に、お前まで巻き込み
たくはない」

 と、尚宮様は言われるけれど……。
 チャングムは苛立たしくさえ思った。
 今、尚宮様の前にいるのは母ではなく私なのに。愛しい人を奪われて、どうして
我慢しなくてはならないのか。

「それでね、チャングム。
 これから話すことは、お前にとって納得できないことと思います。
 お前の母親は殺められ、あの者はのうのうと生きている……」
418ハン尚宮×チェ尚宮 −属望−:2007/06/15(金) 03:47:12 ID:Kgm5Xvx7
「けれど、今の私にはチェ尚宮を追放することを決意できない。
 もちろん、かつては何回も考えた。横にいるチェ尚宮をこの手で……とすら。
 けれど罪の意識に苛まれる有り様……。ミョンイの夢に苦しむ哀れな姿……」

「もうあれで充分ではないかと思うようになった」

「ずいぶんひどいこともされた。けれど結果的には、あの者が私たちの命を救ったことも
また間違いない……」

 そこまで言うと、ハン尚宮は大きな溜息を漏らした。もう一つの考えを、言わなくては
ならない。

「私自身、最高尚宮に戻るつもりはないの。ソングムとの勝負に勝ったのだから、少なく
ともミョンイと私の誓いは果たせた。心残りはなくなったわ。
 たぶんミョンイもそう思っていると思う。
 そして私が次にしなくてはならないことは、ミョンイのあなたへの願いを成就させる
こと」

「お前は競い合いで、確かにチェ尚宮に勝った。けれどあれは、言ってみればお母様が
支えてくれたからじゃないかしら」

「これからのお前に必要なのは、もっと懸命に精進して……それは勝ち負けじゃないし、
最高尚宮になれようともなれずとも、どちらであってもそれは問題ではない」

「真の料理人となること。それが、お母様の一番喜びとなるはずよ。そして私は、お前が
そうなるように導きたいと思っている」
「けれど」
「あの者を追い払えば、恨みは晴らせるでしょう。だけれど私はもう一度信じてみたいと
思う。それはいけないことなのかしら?」
「それは、チェ尚宮様とそういう……関係になられて……お心変わりをされたのですか?」
「いいえ違うわ。二つ理由があるの。
 ミョンイの望みは……本当の望みはお前が最高尚宮になることではないと思うから。
 お母様は、あなたが無事に育って楽しく生きることを願っておられたと思う。そして
できれば、あなたの素晴らしい力を発揮する場が見付かればと。
 でも、幼くして一人で生きることになったお前に、ミョンイ自身はもう教えてやること
はできない。それであなたに宮に入るように言われた。宮に入れば自分の歩んだ道を
辿らせることができる。そうやって、ご自分のことを伝えようとされたのだと思うの」

 しかし。幾らなんでも無謀な話しよね。身寄りのない子に、宮に行き最高尚宮になれ
というなんて。それを叶えようとするこの子もこの子だ。というか、あの親にして
この子あり、といったところだろうか。

「ソングムへの無念はあったでしょうけれども、それでもまずはあなたのことを一番
大切に思っておられたはずよ。
 幼いあなたに生きる希望を与えるために、ご自身の夢だった最高尚宮のことをお話し
されたのだと思う」

 それだけ思いの強い子だった……それはこの子も同じ。ひとたびこうと思い込めば、
とことん突っ走ってしまう。

「そうして、宮の中からお前を見守っていこうとされた。あの退膳間の前に立つと、
お母様の息吹が感じられたでしょう?」

 その無謀さが、お前のいいところでもあり、また欠点でもある……。
 そんなお前を、正しい方向に伸ばしてやりたい。

「それとね、もう一つの理由だけれど、これからも長い間水剌間で過ごしていく訳だけど、
お前独りで修行していればいいというものではない。やはり誰か競い合う相手がいないと」
419ハン尚宮×チェ尚宮 −属望−:2007/06/15(金) 03:52:53 ID:Kgm5Xvx7
 そこまで言うと、ハン尚宮は再び口を閉じ、己が心を振り返った。
 私とて……確かに料理は好きだった。上手になりたいと思っていた。けれど本当に
最高尚宮になりたかったのかどうか。ミョンイが言い出さなければ、そう思うこと
などなかっただろう。あるいはチョン尚宮様に言われたから、またチャングムに言われた
から。全て人に言われたからではなかったか。まさにあの者の言うように。
 私は先頭に立つ器ではない。むしろ誰かを支える方がいいのではないだろうか。

 あの当時も、私はミョンイが最高尚宮になるべきだと思っていた。
 あの子は私と違って人当たりがよく、人を束ねる力があった。
 包丁捌きはまだ、と思うこともあったけれど、他の人には無い何かがあった。直感の
素晴らしさというか、今にして思えば味を描く能力なのかも知れない。
 甘酢を埋めた時も、当然あの子が受け取るものだと思っていた。
 だからあのこと以来、封を切ることは無いと思い込んでいた。いつか私も魂となった
暁に、また二人揃って取りに行くしかないと。

 では、私自身が何に執念を燃やしていたかといえば、ソングムに負けたくない、それ
だけではなかっただろうか。たとえ最高尚宮になることは叶わなくても、腕では勝り
たいと。
 再びチャングムを得て一筋の光明が差したけれど、それでもお志を継ぐこと、
ミョンイの願いを叶えること、それは掴みどころの無い祈りに近い。

 勝つことを目標にしてはならぬ。そうチャングムには言ってきた。
 けれど疫病騒ぎの直前に、チャングムが私の言葉尻を捉え、からかうように
『勝ち負けを考えるなと言われていたのに』と言ったことがあった。いみじくも、
あれが私の本意ではなかっただろうか。
 あの時確かに私は、ソングムに勝ちたいと思っていた。

 ハン尚宮は視線を上げ、チャングムをじっと見て語りかけた。
「私はミョンイを失ってからずっと独りでやってきたと思っていた。チェ尚宮なんて
相手にもしていない……いやそんなことすら、考えないようにしていた
 けれど、競い合いをしてみて判ったの。ずっと前から心のどこかで、あの者だけには
負けたくないと思い続けていたってことを。それが私を励ましていたことを。
 もちろんお前のお母様との約束が大きな力になっていたけれど、目の前にある
目標は……やっぱりソングムだった……」

「だからお前にも、修練をする仲間は必要よ」

「私はあなたに、本当に力を発揮できるようにしてやりたい。そのためには、復讐など
行っている暇はないわ」

「チェ尚宮の悪行を明かそうとすれば、役所に告発し、そして証言しなければならない。
たとえ悪人とはいっても、人を追い落とすことは決して気分のいいものではない」

「それは辛いことだし、私はお前にそんな嫌な目にあわせたくない。それより、もっと
懸命に料理の修練を積んで欲しい」

「お前はもうすぐ水剌間に戻る。けれどお前と腕を競えるのはただ一人しかいないと
私は思っている。
 もしチェ尚宮を追い出せば、たぶんあの子だって水剌間にはいられないでしょう。
あの子自身がどう考えているのかは判らないけれど、チェ尚宮とは深い繋がりがある。
そんな子に、大事な御膳を任すことはできないと思われるでしょうから」

「あなたがこれからも精進を怠らなければ、ゆくゆくは尚宮になり、そして最高尚宮にも
なるかも知れない。
 けれど本当にそれでいいの? お前は今まで自分の好きなようにしていて、それが腕を
伸ばしている面はあるけれど、水剌間を仕切るにはそれだけでは足りないわ。もっと
決まり事も含めて、勉強しなくてはならないことが山ほどあるのよ。
 それを本当にひとりでやっていける?」
「でも私はとても許すことはできません。」
「クミョンも、失うには惜しすぎる」
420ハン尚宮×チェ尚宮 −属望−:2007/06/15(金) 04:00:49 ID:Kgm5Xvx7
「けれど……」
「そしてお前とあの子を競い合わせてみたい。これは純粋に尚宮として、料理人として
願うこと」
「無念です」
「思い出して御覧なさい。最初の競い合いの時、お前が誰を意識していたか? 私の
ことなんて途中から忘れてしまったんでしょ。ただあの子に勝ちたいと思っていたでしょ?」

 さすがにチャングムも言い返せなかった。

 遠く、ホッホー、ホッホーとふくろうの鳴き声が響く。

「母の無念が晴らせません……」

 ハン尚宮はチャングムから視線を逸らし、ミョンイの顔を思い浮かべるかのような
眼差しで、つぶやくように言葉を紡いだ。

「ミョンイを殺めたこと、それは」

「もちろん今でも許すつもりはない。けれども、これからの人生で償わせたいと考えて
いる」

「あなたと引き離されてから……チェ尚宮とはね、幾夜も共に過ごしたわ……」

「ふと見ると、涙を流している。そんなことがよくあった……」

「そして夜中に突然目を覚まして、手を痛いほど握り締められたりしたことも……」

「最初は驚いたけれど。でも……」

「もしミョンイが、夜毎の有り様を見ていたとしたら、きっと私の気持ちを判ってくれる
と思う」

「そして私自身、ソングムを信じてやりたい。あの者はミョンイのことで……自分を苛み
ながら生きている」

「その上、私まで失うのが怖かったのでしょうね。私がいなくなれば、更に罪深さを
感じて、心を狂わせてしまっただろうから。
 あるいは空ろな心を癒すために、その代償となるものをやみくもに求め続けただろう
から。きっとその先にあるのは……余りに目立つと、疎ましく思う者は出てくる。分を
弁えなくてはならないのはあの者だって同じ」

「それをチェ尚宮自身も、何となく感じていたのでしょう。だから私に……抑えて
欲しいと願った。……私はあの者に、もう愚かな真似はさせない」
「では、チョン尚宮様のお志はどうなさるのですか」
「私はお志を忘れてはいないわ。それは安心して。
 ……前のように急に変えるのは難しいのかも知れない。だから少しずつ変えていこう
と思うの。その少しの違いが将来、大きな違いとなることを信じて」

 加えて、ハン尚宮は胸中思う。
 現実的な話をするなら、他の誰かが最高尚宮になるぐらいなら、私としてはむしろ
チェ尚宮の方がやり易い……お前はこんなことまで考えなくてもいいけれども。

「私の話しはこれまでよ。今日はもうお休みなさい」
 ハン尚宮はチャングムに出て行くように促した。
                                ―――終―――



注意書き:昔話の部分は、三十三間堂棟由来の再話。
       杣人(そまびと) 山で木を刈ることを仕事とする人。
421名無しさん@ピンキー:2007/06/15(金) 12:50:42 ID:9B/zZfHn
以前、朝鮮王宮での王の交わりがどうだったのか・・・というのがありましたよね。
最近読んだある小説にて、その詳細がわかったので、ここに書いておきます。

王の寝室は、至密 ( チミル ) と呼ばれ、井の字の形をしています。
その真ん中の正方形の部分に、王とその夜の相手の寝床が東枕で設えられ、その他に置いてあるものは便器のみという中で、房事が行なわれるわけです。
周囲の八つの小部屋は、王の寝室と障子や屏風1枚のみで仕切られています。
その小部屋には、護衛と称して、女官長である提調尚宮 ( チェジョサングン ) や、至密付きの尚宮達。
もしもの時のための医女、女史 ( ヨサ ) と呼ばれる王の房事を記録する係りの尚宮 ( もしくは内人 ) が配置されています。
ま、こんな中で、房事は行なわれるわけですね。

ちなみに江戸時代の大奥の場合ですと、将軍が側室と房事をする場合は、その部屋の中央に将軍の床。
右手にお相手の床。
お相手の更に右に、少し離れてお伽坊主と呼ばれる尼さんの床。
将軍の左には、お添寝役と呼ばれる奥女中の床が、それぞれ敷かれてあり、障子一つ隔てた次の間には、当番のお年寄りと呼ばれる奥女中が、寝ずの番をしているそうです。
そして翌朝になると、お相手とお添い寝役、尼さんは、それぞれ昨夜の房事の様子を、寝ずの番をしていたお年寄りに報告しなければならなかったとか。

古今東西、どこの後宮も、奇妙な習慣があるものですね。
422名無しさん@ピンキー:2007/06/15(金) 17:24:53 ID:olgLmeBj
壱参弐様
あと三回。お疲れ様です。
これから暑い季節なので体調を崩されぬよう。

>>421
>その小部屋には、護衛と称して、女官長である提調尚宮 ( チェジョサングン ) や、至密付きの尚宮達。
ヨンシンたんもソングムたんも王様のギシアンに付き合うお役目があったのか
423名無しさん@ピンキー:2007/06/17(日) 13:27:54 ID:Xgyi+nWX
壱参弐様

新作ありがとうございました。
 
あと3回ということで、今後の展開にドキドキしております。
424名無しさん@ピンキー:2007/06/29(金) 00:35:23 ID:uluVwfv5
良いお話だったからプリントして何度も読んでる人です。

お体を大切に☆彡

今回もGJですた。
425名無しさん@ピンキー:2007/07/13(金) 15:30:09 ID:t1iSqQto
待ちきれないよ・・・机たたいて待ってまつ。
426宮廷商人 パンスルの苦悩(番外編):2007/07/14(土) 20:04:36 ID:Fjt8YyMw
≪パンスル邸≫

「………おかしい、医女の服が二着も足りない。
汚したから洗っているとは聞いていないし……」
「チャン執事、チャン執事はおるかー?」
「はい旦那様只今」

――――――――――
≪宮中≫

「叔母様、その格好は……」
「あ、オギョモ様が兄上に医女の服を作らせたの。それを借りてきたのよ。
さ、お前の分もあるから着てみなさい」
「………………嫌でございます」
427名無しさん@ピンキー:2007/07/15(日) 00:51:35 ID:U9gldFXj
チェ尚宮とクミョンで医女服コス

「あ、オギョモ様が兄上に医女の服を作らせたの。それを借りてきたのよ。
さ、お前の分もあるから着てみなさい」
「………………嫌でございます」

チェ尚宮とクミョンで医女服コス
チェ尚宮とクミョンで医女服コス

(;´Д`)ハァハァ八ァ八ァノヽァノヽァノヽァノ \ア / \ア/ \ア




428クミョン:2007/07/15(日) 01:05:49 ID:3AMIDsNc
着ないわよ!それが私

 _______  
 || __  ||  | 
 || .|    | ||  |                 ∧_∧ ゴフッ! >>427
 ||  ̄ ̄  ||  |   _ _    .' , ..(#.)゚Д゚) ・,∵
 ||     ◎||- ― .= ̄  ̄`:, .∴     と と )  ’
 ||       ||  __――=', ・,‘    と__と_ノ
 || |三三| .|| ̄ ̄    ̄"'".    ’
 ||_____||_|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
429名無しさん@ピンキー:2007/07/15(日) 08:11:24 ID:szg4nsGf
医女服コスで「私の命、お前に預けよう」と>>427に迫るチェ尚宮

医女服コスで「最後にひとつだけお願いがございます……私の治療をry」と>>427に迫るクミョン
430名無しさん@ピンキー:2007/07/16(月) 05:21:40 ID:ypci1+Hx
>>429
どちらも広い心で慈しみなさい。

医女コスハーレム!(*゚∀゚)=3
431名無しさん@ピンキー:2007/07/16(月) 14:33:44 ID:IeLTZ3ET
432名無しさん@ピンキー:2007/07/17(火) 23:50:53 ID:EulCZ7Ao
>>431
やめろ
433 ◆RRDgBzr.dw :2007/07/19(木) 01:53:44 ID:z7Eq3eLF
ハン尚宮×チェ尚宮 −競望−
                                 壱参弐 柵
内容:百合 原作改変 エロい
分量:これを含め、10レス予定ですが、途中でスレが埋まるので、次スレで継続します。
434名無しさん@ピンキー:2007/07/19(木) 03:06:55 ID:ebgu+xKi
わ、わ、わ 神に投下待ちさせてるw

誰か〜 スレ立てておくれ〜
自分でしたいけど、なぜか出来ない〜〜
435名無しさん@ピンキー:2007/07/19(木) 03:11:40 ID:z7Eq3eLF
いえ違います。ここで途中まで書いて、自分でスレ立てして、続きを書きます。
436434:2007/07/19(木) 03:17:48 ID:ebgu+xKi
あ、よかつた…

そうですか、ではお待ちしております。m(_ _)m
437ハン尚宮×チェ尚宮 −競望−:2007/07/19(木) 03:42:11 ID:z7Eq3eLF
 けれどチャングムの気持ちは収まらない。
 母の恨みを晴らすこともできず、尚宮様が勝ち取った座を取り戻すこともできず。
その上尚宮様とも以前のように接することができないなんて。
 やはり尚宮様はお心変わりをされたのだ。心までもチェ尚宮様に傾けてしまったのだ。
 そう思うとたまらなく切なくなった。

 ガタッ

 文机を押しのけ抱き締めた。
 私のことだけを考えて欲しい。チェ尚宮様のことなどいい、何でもいいから今はただ
そばにいたい。いろいろあっても、今までは許してくれたではないか。
 そう思いハン尚宮に体重を預けていくと、斜めから押し倒すような形になった。
 失礼極まりないのは判っている……でも。
 両手をハン尚宮の肩の脇に突いて、チャングムはハン尚宮の顔を見下ろした。
「およしなさい」
 静かな声で制する。
「尚宮様を抱き締めたいのです」
「それなら抱き締めるだけにしなさい。でもそれで終われるの?」
「もっと、全部が欲しいのです」
 チャングムの目から涙が溢れだしていく。
「お心も全てを」
「だから駄目なの」
 雫は、真下にあるハン尚宮の目の中にぽたぽたと滴った。
 ―――熱い。
 涙と、思いに耐えられなくなり、ハン尚宮は顔を横に背けた。

「忘れられないなら私が忘れさせて差し上げます」
 そう言うとチャングムは、ハン尚宮の首筋に唇を近付けていく。襟元から立ち上る肌の
匂いに堪らなくなり、合わせ目に指を入れ、上着をずらしにかかった。
「よけいなことはしないていい」
 ハン尚宮はチャングムの手首を握り締めて動きを止めた。その手首から、激しい脈動が
伝わった。
「母の時には、あの時はいいと、私を見てくださるとおっしゃったではないですか」
 段々と力が強くなった。歳若く、そして激情にたぎったチャングムの力に叶うわけも
ない。握った手首が振り解かれると同時に、ハン尚宮の身体はチャングムの腕の中に
包まれた。
 抱き締められながらハン尚宮は思った。
 今私を抱いているのはこの子ではない。いくら思いが募ったとて、この子がこんな
力ずくでしようとするはずはないもの。
 ―――ひょっとしてミョンイ、あなたなの?

 この前あなたのお墓に行ったときのチャングムは、本当にあなたそっくりだった。
きっとあなたがこの子に乗り移っていたに違いない。今もそうなのね。あなたがこの子の
身体を借りて、私を取り返そうと……。
 けれど……ミョンイ。この子には真っ直ぐに生きて欲しい。料理の道を真っ直ぐに
歩いていって欲しい。そのためには、これ以上の重荷を背負わせてはいけないのよ。
今は余計なことを頭に入れず、ただ無心に学ばせてやらなければ。
 そう考えた末の、これが私の決断なの。責めるなら私を責めて。けれど、できること
なら判ってちょうだい。

「私のことを必要として欲しいのです。もう一度そうおっしゃっていただきたいのです」
 チャングムは更に身を寄せ襟元に手を差し入れ、柔らかな胸を愛おしそうに手のひらで
なぞる。宛がわれた手は徐々に下に向かい、結び紐に邪魔されるとそれを解いていく。
いつしか上の衣類は開(はだ)けられ、片肌脱ぎの格好でもう片方の腕に、名残を留める
だけになった。
「尚宮様のお気持ちを乱すような方は、私が追いやりますから……」
 囁きと共に顕わになった胸を、指先で撫でられる。瞬間、身体がじゅんと痺れた。
 ハン尚宮は耐えた。感じてはいけない。
「やめて」
 少しづつ胸の鼓動が……高まっていく……身体は勝手に熱を帯び、汗ばんでいく。
438ハン尚宮×チェ尚宮 −競望−:2007/07/19(木) 03:50:11 ID:z7Eq3eLF
ゆっくり息をして、気持ちを落ち着かせた。
「尚宮様はもう、私のことなんて」
「馬鹿なことを言わないで」
 ごめんなさいチャングム。でもあなたの思うようにさせてはならない。それでは
あなたのためにならないから。あなた自身が、自分というものを形作っていかなくては
ならないのよ。
 そして私とは少し距離を置いて欲しいの。
 そう思い、チマの巻き紐に手をかけようとするチャングムを拒み続けた。

 ハン尚宮の言葉が耳に入らぬかのように、チャングムは胸をまさぐりながら身体を
預けていく。そして閉じられたままの脚に自分の足先を差し入れて開き、絡めた。その
動きにつれチマがずり上がり、それをいいことに手で更にたくし上げる。自分の脚も同じ
ように剥き出しにして、内腿を触れ合わせていく。
 その蕩けるような感触に、チャングムは動きを止めて大きく溜息をついた。
 しばらくそのまま。
 少しして更に深く絡め、またじっと密着させる。この肌触りに、自分とのことを思い
出して欲しかった。
 脚はそのままの状態で、片耳をハン尚宮の胸に押し当て鼓動を聞く。今は落ち着いて
脈打っているけれど、すぐに激しく高鳴っていくはず……。
 顔を上げてもう一度しみじみと、尚宮の身体を眺めた。
 そうなれば全てが私のものに……。

 白磁の肌に、吸い込まれるように唇を近付けていった。

 ハン尚宮の胸は、チャングムの頬を乗せたまま静かに上下していた。
 一時我を忘れていようとも――今までのこの子なら――そろそろ落ち着くはずだ。
それを待っていた。
 しかし一向動きは止まない。ついに顔を埋められその胸の頂に舌が触れた時、たまらず
強い力で跳ね除けた。
「やめなさいって言っているでしょ! お前にまで無理強いされたくない!」
「申し訳ありません」
 剣幕に、さすがのチャングムも目が覚めた。慌てて後ずさりをし、平伏する。
「早く戻りなさい。今後私がいいと言うまで、この部屋に来ることも罷り成らん!」
 そう言うとハン尚宮は着衣を整え文机を元に戻し、横を向いてしまった。

 こうなると取り付く島がないのはチャングムも判っている。一晩中頭を下げ続けても
無駄だろう。いや、このまま居座ったところで、ハン尚宮様は顔も見たくないとばかりに
立ち去られ、どこかの空き部屋でお休みになられるに違いない。
 しでかした過ちに、足が竦んで思うように動かないけれど、ようやく腰を上げ深く
一礼をすると、静かに部屋を出て行った。


 その頃、宮。
  :
  :
  :
「チェ尚宮様、やはりあなたを許すことはできません。けれど私はもうあなたをこの手で
掴むこともできない……」

「だからお前を恨んで恨んで……」

「お前も、クミョンも、お前の家も、全て……」
  :
  :
  :
 クミョンは朝当番の報告のために、チェ尚宮の部屋に向かっていた。中庭を通った時に
郭公の声が聞こえ、それは爽やかな一日を予感させた。
 報告といっても無事に終わったことを伝える程度のもので、基本的には尚宮の仕事なの
だが、最近のチェ尚宮の様相、頬はこけ、少しのことで不機嫌顔――特に起き掛けは――
になるのを恐れをなして、みな部屋に入りたがらない。
439ハン尚宮×チェ尚宮 −競望−:2007/07/19(木) 04:02:41 ID:z7Eq3eLF
 だから尚宮たちに懇願されるまま、専らクミョンの役割となっていた。
  :
  :
  :
「ああ恨まないで」
「許してちょうだい、私……」
  :
  :
  :
 今日は王様が早朝から打ち合わせとのことで、まだ夜が明けきらぬ時刻に御膳を拵え
なくてはならなかった。報告に行くのはもう少し後でも良かったのだが、チェ尚宮様は
時間を置くのがお嫌いな方だ。私も次の仕事が立て込んでいて早目に終わらせたい。
空も白み、日差しが見え始めた。この時間ならお目覚めのはず。

 ぅぅ ぅう ゃめて!

 うー ねぇ うぅ うーうー おねがぃ

 部屋の中扉の前まで進むと、呻き声がクミョンの耳にも届いた。
 また……。
「チェ尚宮様! 叔母様! 大丈夫ですか」
 慌てて部屋に入り、布団の中で丸まっている叔母様を揺り動かした。
「う、うぅ〜ん」
「チェ尚宮様!」
「はっ ああクミョン」
 寝言を聞いていたことなどおくびにも出さず、白い寝巻き姿の尚宮の前に座る。
「叔母様、しっかりしてください」
 チェ尚宮はかつては朝が早かった。けれどこの頃、大変疲れた様子で、こうして
クミョンに、やっと起こされることも度々だった。
「夢なの? 夢なのね。今までのことは全部……隣には……私独りここにいる……
やっぱりそうよね」
 クミョンの方を見もせず、チェ尚宮はうつむいて独り言ちている。クミョンは黙って、
落ち着くまでその様子を眺めていた。
「ねえ、ペギョンはもういないのよねぇ」
 ふと、クミョンの心に魔が差した。
「そうです。叔母様がそうなさったのです……」
 低い声で囁く。
「うわーん。どうしてあんなことを……。あの人が生きてさえいれば。
 それにせめて夢の中だけでもいいから、あの人と抱き合いたかったのに」

 ふぅ
 声には出さず、クミョンは心の中で溜息をついた。まだ夢の中に遊んでおいでだ……。
ちゃんとお目覚め戴かなくては。がらりと声色を変えて言う。
「尚宮様。ハン尚宮様でしたら、先だって太平館に行かれ、お元気にお過ごしです」
「そうだったっけ? あ、そうだったわね」
 やっと正気にお戻りになった……。しかしひどい寝汗。

 下働きに言い付けて、湯を持ってこさせる。手拭いを絞って差し出すと、クミョンは
箪笥から着替えを取り出した。こうやって、もう何度起き掛けに着替えを手伝っただろう。
 チェ尚宮はクミョンに背中を向け、諸肌脱ぎになって首筋や胸元の汗を拭いていく。
一通り拭き終えても、まだ所々汗が吹き出し、背に二筋ほど流れ光っている。
 クミョンはまた手拭いを絞って渡した。
 今日は、ハン尚宮様がいなくなられた夢か……。この前は、「私が負けるなんて」の
繰り返し。その前は、「ああ素敵、あなたともっとこうしていたい……ペギョン」
 あほらしい。
 もう一度絞ると、今度はクミョンがチェ尚宮の背中の汗を拭いながら、やはり声に
出さずに呟く。
 心の中までハン尚宮様に取り付かれておられる。それ以外は考えられないのだろうか。
そしてますますやつれて見える。水剌間の体制は整ってきたのに、叔母様の心労は募る
一方のようだ。
440ハン尚宮×チェ尚宮 −競望−:2007/07/19(木) 04:11:23 ID:z7Eq3eLF
 特に楽しげな夢を見られたような後は、がっくりと肩を落とされているように感じる。
夢から現(うつつ)に引き戻された衝撃が、そうさせるのか。
 寝汗を拭われ、気持ちよさげな背中に尋ねた。
「私で良かったものの、他の方に聞かれたらどうなさるおつもりですか?」
 私が寝言を聞いたのは両の手の指で足りないくらいの数だ。けれど尚宮たちに
それとなく聞いても、知らないと言う。遠慮しているのではなくて、どうやら本当のようだ。
 ということは、私が来ると判っている朝だけ、夢を見られるのだろうか。それとも私
の来る気配が、叔母様に夢を見させるのだろうか。

 しかしそれはどちらでも変わりは無い。私は人に怪しまれないかと気を配り、そして
叔母様のことがますます心配になるだけだ。
「叔母様、だから私があれほど申し上げたのです。隣でお休みになるなんて不適切だと」
 さすがにクミョンの口調も尖った。
「そうよね……ねえクミョン、あなた今晩からこの部屋で休みなさい」
「どうしてでしょうか?」
 なぜ私が、叔母様のお守をしなくてはならないのでしょう?
「一族の後継者として、料理やら何やらいろいろ教えなくてはならないことも多いし。
一々呼び出すよりは、ずっとそばに居たほうが都合がいいじゃない」
 ―――けれど本当はね、もう私に時間はなさそうなのよ。
    あなたにこうして接していられるのも、後ひと月足らずかもしれない。でも今
   どうなるか判らない時に、お前を不安にさせたくない。だから言えないのよ。
「お断りいたします」
 どうせハン尚宮様の代わりに背中を撫でさせたり、眠るまで見守って欲しいのでしょう? 
隣に誰かがいれば、怖い夢も見なくて済むと思っておられるのじゃないでしょうか?
 そんなことはない、と断言できます。私がいれば、今以上に安心して夢を見られると
思います。
 そして私だって女官たちの部屋で、それなりに気楽に過ごせているのです。
 やっとチャングムを追い払って、仕事も充実しているのです。なのにこの部屋に戻って
きたら、夜な夜なハン尚宮様のお名前をお呼びになるであろう叔母様とご一緒。これでは
申し訳ございませんが、こちらの神経が持ちそうにありません。

 だいたいハン尚宮様が甘やかし過ぎたのよ。叔母様ばっかり。ハン尚宮様はどうも
前から、この人って決めたら全てを注ぎ込むような気がしてならない。私にも、
もうちょっと目をかけてくれてもいいはずよ。
 そう思いながらクミョンは淡々と報告を終え、すがる目を向けるチェ尚宮をなるべく
見ないようにして、盥を抱えて部屋を去った。

 残されたチェ尚宮は一人思い巡る。
 あれだけ私と深く接し、身体を震わせて応えていたのに。ここを出たっきり仕事以外の
何の連絡もくれない。
 この前送ってきた献立の案だって、中身なんてろくに見ないでひょっとして何か他にも
書いてきているんじゃないかって、たとえばいい季節になったわねとか、こんな料理を
考えたんだけどとか、いっそ楽しく過ごしているというのでも構わないからと封筒を
透かしてまで見たけれど。何にもなかった。
 きっと……私のことなんてすっかり忘れているんだわ。

 今この間にも、朝も昼もペギョンはチャングムと笑いあっているのよ。そしてあの子に
……毎晩のように。あの物静かな表情を剥ぎ取られ生身をさらけ出し、心を奪われる
悦びにむせび泣いているのよ。

 そして……あなたがいないことも寂しいけれど、あなたがどうしようとしているのか
全く判らない、それが更に私を苦しめる。
 ああ、会いに行きたい。会って確かめたい……。
 けれど絶対来るなと言われたし。自分が指名する以外の子は寄越すなと言っていたし。
 何かあそこに行く、適当な名目はないだろうか。

 それにしても、せっかく夢に出てくるのなら一度くらい笑ってくれてもいいのに。私は
あの子の笑顔を、もう何年も見たことが無い。

441ハン尚宮×チェ尚宮 −競望−:2007/07/19(木) 04:20:59 ID:z7Eq3eLF
 次の日。
 太平館ではまた黙々と、それぞれの作業に取り掛かっていた。
 チャングムとすれ違っても、ハン尚宮はそ知らぬ顔。宮から打ち合わせの官員が来ても
同席は無用と。
 そして食事時もチャングムはただ運び入れるだけで、側に呼ばれなかった。仕方なく
チャングムは、台所の隅で一人で食事を取った。そのあしらいに、さすがのチャングムも
近寄りがたく感じていた。せっかく二人きりでいられるというのに、一旦気まずくなって
しまうと逆に修復の糸口が見えない。
 できれば気晴らしに山に出かけたいとも思ったが、とても許してもらえそうな雰囲気
ではない。それどころか、二度と帰ってくるなと言われるかもしれない。
 こんな時に客人でもあれば、嫌でも顔を合わせることができるのに……その予定も全然
ない。だからただ、一人で本を読んだり一人で料理を研究したり、それを書き付けたり
して時を過ごすしかなかった。

 次の日も、その次の日も。ほとんど顔を見ることもなく、こうして一週間が過ぎた。

 ある昼下がり、チャングムはハン尚宮に外に誘われた。たまには市場の様子を見に
行こうと言う。久しぶりにハン尚宮に声を掛けてもらい、着替えるのももどかしく外に
飛び出した。
 待ち合わせ場所の太平館の門でチャングムの姿を認めると、ハン尚宮はさっさと歩き
出した。チャングムもやや遅れてハン尚宮についていく。

 その後姿を見ながらチャングムは思う。
 思えば初めて尚宮様について歩いたのは、宮に入って間もない頃だった。部屋子に
迎えられて中庭を、尚宮様の大人の足取りに負けないようにせっせと大股で歩いた。
あの時から、こうして後姿を眺めながら歩くのが大好きだった。一生この人につき
従いたいと願っていた。
 最初は振り向きもしてくださらなかった尚宮様。怖くて仕方なかったけれど、少しずつ
教えていただけるようになって。それから、少しずつお話しも聞いていただけるように
なった。いつもこの方は私の師匠で、私など及びもつかないと思っていたのに。
 でも今の自分は何なのだろう。競い合いの頃から、自分が一歩前に出てしまっている
のではないだろうか。
 もちろんあの時にはそれが必要だと思っていた。尚宮様はすっかり自信を無くして
おいでだったから。けれどいつの間にか、この背中を追い越していたような驕りは
なかっただろうか。

 道の途中、丘を越えたあたりから、空が鈍く曇ってきた。
 昨日も陽が傾くと、冷たい風が台所に時折流れ込んでいた。今日はそれにも増して、
ひやりとした風が吹き抜ける。指先が少しかじかむ気がして、チャングムは時々両手を
擦り合わせた。

 半刻ほど歩くと、二人は市場に入る手前の、見晴らしの良い場所にたどり着いた。
 ハン尚宮は歩みを止め、振り返って言った。
「チャングム。お前が最高尚宮になったら、お母様の手紙を渡すわ」
「あの手紙をお持ちなのですか?」
 頷くハン尚宮。
 早く教えてあげたかった。けれどこの子の怒りに任せれば、すぐにでも告発しようと
しただろう。それだけは避けなければ。
「私がそれまで宮にいればそうするし、万一のことがあっても、そうしていただける
ようにある方にお願いしておいたの」

 遠くに小山が見える他は田畑が広がり、視界を遮るものはない。ここなら誰かの耳に
入ることはないだろう。この話しを聞いているのはお前、それとこの曇り空の彼方、
たぶん晴れ渡った高い空の上から……見守っているであろうミョンイだけ。
 ハン尚宮は、雲を見上げながら続けた。
「お母様は、お前が最高尚宮になってから手紙を見なさいと言われたそうね。
 私はあの手紙を読んで、何度もその意味を考えた。なぜそんなことを言われた
のかって。
 あるいはなぜ私に、お前のことを知らせようとしなかったのだろう。そうすれば
ひょっとして、もっと早くにチェ尚宮をどうにかできたのではなかっただろうかって」
442名無しさん@ピンキー:2007/07/19(木) 04:34:56 ID:z7Eq3eLF
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【女官】チャングムの誓いのエロパロ第三部【女医】
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443名無しさん@ピンキー
競望は、ここで次スレに移行します。