【305号室 楽市 蘭名(らくいち らんな) 綿貫 若葉(わたぬき わかば)】
奇妙な取り合わせ。
その病室に、神父と、巫女が入っていった。
しかも、三郎がこれから向かおうとしている部屋に、だ。
三郎は、あまり行儀よろしくないとは承知しながらも、入り口外側の壁にもたれかかり、中の様子を聞き耳そばだててうかがってみた。
「汚らわしい!」
まず聞こえてきた言葉はそれ。
「この恥知らずめ!」
そして間をおかずにこの言葉。
最初の声は高校生くらいの女の子、そして次は初老の男の声。
部屋の中にいる、三郎が見舞うべき相手は二人の少女であり、この声の主とは違う。
つまり、責められているのは、この病室に収容された二人、楽市 蘭名(らくいち らんな)と綿貫 若葉(わたぬき わかば)ということになる。
蘭名は孤児で、教会に引き取られてそこで暮らしている。
経済状況が逼迫した教会に金銭的援助をするために働くことを決意。
しかし子供ではまともに働けないため、やむなく身体を売ることに。
若葉も孤児で、昔神社に引き取られそこで暮らしている。
神主が入院して、経済状況の悪くなった神社を建て直すために働くことを決意。
当然、子供ではまともに働けないため、やむなく身体を売ることに。
そして二人は、あの番組に出て三郎に抱かれることになった。
部屋の外で、その顛末を聞いていた三郎は、次第に自分の、腹の底がぐつぐつと熱くなってくるのが自覚できた。
つまり、腹が立ってきた、わけだ。
自分と同じ境遇の、教会に引き取られた孤児達の生活のために身体を売ってがんばった子供に対して、「恥知らず」だと?
自分を引き取ってくれた神社の経済的危機を、やむを得ず身体を売ることでしか救えなかった子供に対して、「汚らわしい」だと?
三郎が腹を立てるのも、単純に二人の少女達の身の上に同情し、その健気さを庇っているだけなのだろう。
たかだか一度、肌を合わせた相手のことにこれほど肩入れするのも、単に三郎が惚れっぽいだけなのだろう。
偽善者だ、とは三郎も自覚している。
だが、自分の情が移った、そう感じる相手の不幸な身の上を、簡単に割り切るつもりはない。
出過ぎたお節介であり、相手からすれば迷惑であるかもしれない。
だがそれでも三郎は、この二人の身の上に「首を突っ込む」と決めた。
独りよがりのエゴであっても、せめて二人の少女が少しでも幸せになれるようにしてやりたい、と思うのだ。
【楽市蘭名&綿貫若葉エンディングフラグ】