練習用殴り書きスレッド2

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654名無しさん@ピンキー
【202号室 相澤 亜璃栖(あいざわ ありす)】



三郎が病室に入ると、すん、と少女が啜り泣いていた。

「だっ! 大丈夫!?」

挨拶も忘れて彼が駆け寄ると、その病室にいた少女、亜璃栖(ありす)は慌てて涙を拭った。




「ごめんなさい、変なところ見られちゃった」

病室のベッドに横になっている彼女は、そう言ってから、儚い笑みを浮かべた。
こうして療養するパジャマ姿の彼女は、当たり前の話だが子供だった。20才などといわれて信用する
者もいるはずがない。
きりりとした眦(まなじり)は、普段ならば彼女を気の強い女の子に見せる効果があるだろう。
それでも、先ほどの涙を見てしまった後では、儚い子供であることをアンバランスに強調しているに
過ぎなかった。

「やっぱり、痛むの?」

三郎がそう聞くのを、首を振って否定してから、彼女は言った。

「アソコも、痛いことは痛いけど、でも泣くほどじゃないよ」



意味ありげな言葉の返しに、三郎は戸惑った。
正直、子供とはいえ、女の子が泣いている理由をあれこれ詮索するというのは、無粋であることは
重々承知。
それでも、放っておけない性分を持っている。
三郎がぼりぼりと頭を掻きながら、事情を聞こうか、聞くまいか、ちょっとした葛藤をしていると、
向こうの方から話し出してきた。

「私ね、さっき、フラれちゃった」

彼女が途切れ途切れに、話し始めるのを、三郎は相づちを打つこともせずに黙って聞いていた。

「付き合ってた人、年上の社会人なんだけどね」

ぽつり、ぽつりと紡がれる彼女の言葉をつなげて、三郎は彼女の事情を少しずつ察していく。
彼女と付き合っていた男性は、12才である彼女よりも10も離れた社会人で、
半年前に街で知り合ったのだという。
他愛のない、ちょっとしたハプニングで知り合った彼に惹かれ、つきあい始めた。
まだ小学生の彼女からすれば、大人の男、その仕草言動すべてが新鮮で、あこがれであった。
そうして彼女は、しばらくの交際の後、身体を許した。

子供だと扱われるのを嫌い、彼の欲望に応じるまま身体を重ね少しの時間が過ぎたとき、少女は彼の秘密を知った。

「借金があったの」
655名無しさん@ピンキー:2007/06/30(土) 23:00:21 ID:3vfiJomJ

12才の彼女の日常からは懸け離れた金額。実際のところ、その男に返済不可能な額ではないと
三郎は思った。
それでもこの少女は、その金額を聞いて、彼を助けたい、と思ったのだという。
そして決意し、この番組に出場した。

「この番組でもらえるお金があったら、けっこう楽になるみたいだったから」

そして彼女は番組に出場し、三郎に抱かれた。
そこまで話を聞いて、三郎は、ようやく彼女に最初の疑問を尋ねることが出来た。

「それが、どうして振られたの?」

その問いに、彼女は、笑って答えた。

「私が彼を、コケにしたから、・・・みたい」

その笑みは、気持ちを押さえつけ、心に無理を強いた、寂しい笑みだった。

番組収録のセックスに於いて、彼女は、自分の恋人の名前を出し、その男よりも三郎の方が
凄いセックスをする、というような言葉を叫んだ。
それをスタジオの片隅で見ていた彼はショックを受けたのだ。


お前は淫売だ。
恋人以外の男に媚びるスベタなんだ。
誰にでも股を開いて、セックスできれば満足のメス豚だ。


それが数分前、病室に来た男の言った、すべての言葉だった。
656名無しさん@ピンキー:2007/06/30(土) 23:01:38 ID:3vfiJomJ

いくら何でもそれはないだろう、と三郎は思った。
男のために尽くして身を売った恋人に、その言葉はないだろう、と。

しかし、その少女と恋人は、三郎にとっては深い知己でもない。
二人の関係に口出しする義理もない。
しかも、その原因の片棒を担ぎ、少女にあられもない言葉を叫ばせたのは、他ならぬ三郎である。
端で聞くだけの彼女の恋人の言葉に憤っても、彼にはそれ以上、どうすることも出来ない。

だが、そんなポーカーフェイスに向かない三郎を見て、亜璃栖はクスリと笑った。
そして、気にしないで下さい、と言ったあと、

「私が、まだまだ子供だったんだ」

そう言って、今度は晴れ晴れと、笑った。

出演報酬はすでに男の口座に振り込まれた。だが亜璃栖は、それでいいのだという。

子供だった自分の、初めての恋。
過ぎ去ってみて初めて分かったこともある。
自嘲も、後悔も、恨みも失望も、そんな物すべて飲み込んだ晴れ晴れとした笑顔で。

「ちょっと私、背伸びしてたみたいだね」

その笑顔を、空元気のように感じた三郎が声を掛けようとするのを制して、彼女は言葉を続けた。

「だいじょうぶ、心配しないで。
 こうみえて、けっこう強い女の子なんだから、私」

そうして彼女は、見る者の心を蕩けさせる少女の笑みで。



「また新しい恋、探してみようかな?」

最後は自分に語りかけるように、そう言った。




【亜璃栖エンディングフラグ】