【201号室 榛原 春菜(はいばら はるな)】
三郎が彼女の病室を見つけて足を向けると、ちょうど入れ替わりに一人の老人が部屋から出てきた。
その男性は、使い慣れない風の杖を突き、よぼよぼといかにも力無いご老体といった風情だった。
「ああ、それ、わたしのおじいちゃんですよ」
彼女、埴原春菜は子供らしいセミロングの髪を緩やかにカールさせた、上品な可愛らしさを持つ少女だ。昨日の収録時には、この髪をお団子にまとめ、二つのシニョンでくるんでいた。
ハタチとは聞いていたが実のところ中学1年生であった。年齢詐称にも程がある。
ベッドに横たわってはいるが、状態はそれほど悪いわけではなく、三郎は胸をなで下ろしたものだ。
三郎は彼女の言葉を聞いて、腹に重い物が溜まるような心苦しさを覚えた。
「はい、そうですよ。あの人が、わたしのいつものエッチのお相手だったんです」
三郎は複雑な思いである。
あえて『穴兄弟』などという言葉から目を背けつつ、先ほどの姿を思い出してみる。
どう見ても、こんな少女とセックスをする色欲を保っているようには思えなかったからだ。
それとも、いざというときには立派なエロじじいに変身できるのだろうか?
などとそんな風なことを考えているのを春菜は聡く気付いたらしく。
「きのうまでは元気だったんですけど、収録を見てからは一気に年を取っちゃったみたいで」
ああ、なるほど、と三郎は納得した。
昨日の収録で、この少女、春菜が叫んだ「おじいちゃんの何万倍もイイ」というようなアヘ声を聞いてしまったのだろう。
彼がもう少し若ければ、この手のショックから立ち直ることも出来よう。しかし三郎が見た限りの老体ぶりでは、それも難しいだろう。
むしろ、あの老人が少し前まで元気に少女と性交していたという事の方が不思議なことなのだ。
「さっきもすっかりボケちゃって、わたしのことを『フユコ、フユコ』って、おばあちゃんと間違えちゃってるんです」
少女とのセックスが、彼にとってはボケ防止として効能を発揮していたのだろう。
そして、そんなことを穏やかに話した後、その少女は、
「でも、ちょっと可哀想だったかも・・・」
そう、小さく呟いた。
【春菜エピローグフラグ】