フラグは、赤だった。
つまり、彼は失格したのだ。
「残念だったわね、三郎クン」
収録を終えた控え室、疲弊しきった三郎がただ一人椅子に腰を掛け、呆然としていたところに、一人の女性が訪れた。
番組の解説としても名が知れた、岩波文子(いわなみ ふみこ)である。
「さて、お疲れのところ悪いけど、事務処理をさっさと終わらせたいの。いい?」
三郎は、力無く頷いた。
「参加規定にあるとおり、途中棄権または審査の上失格となった場合のペナルティだけど、覚えてるわね?」
「・・・スポンサー指定の社会奉仕活動に3ヶ月間従事すること、ですよね」
「はい、オッケー。じゃあ、こちらの承諾書、参加前に署名したものに加えて、失格を了承したサインをここに・・・」
彼女が差し出す書面には見覚えがある。自分が番組に出演する前に署名した書面だ。悔しさがこみ上げてくるのをぐ、っと押さえ、出来る限り平静を保とうと努力する。
失格して、取り乱して泣いたり、暴れたりなど、そんなみっともない自分を晒したくはなかった。
少なくとも人の目がある今は、我慢するのだ。
「はい、確かに」
彼女は書面をさらりと一瞥し、正しく署名されているかを確認した後、元の鞄に仕舞った。
「ところで、『社会奉仕』って、どんなことをするか、ご存じ?」
「・・・? いや、わかりません」
岩波は、控え室に置いてあった缶コーヒーを開け、一口唇をあてがった後、そんな会話を仕向けてきた。
三郎は、自分の前に差し出された缶コーヒーを、プルタブも開けぬまま両手で弄び、その会話に続いた。
「とある老人ホームに、慰問にいくのよ」
「老人ホーム、ですか」
「そう、老人ホームよ。この番組のスポンサーの一部の人たちが出資して出来た、高級な老人ホーム」
スポンサー、といわれて三郎は、番組の中に挟まれるコマーシャルを思い出した。
あのソープランドや薬屋のことか、と三郎が思い返したのを岩波は悟ったのか、意味ありげな笑みを浮かべて首を振った。
彼女曰く、番組には別のスポンサーが付いているらしい。
「そこで、何をするんですか、俺は」
「慰問、って、いったでしょ? そこの老婆達を喜ばせるのよ、あなたの身体で」
ぞくり、と悪寒が走る。三郎は、背骨の奥から、じわりと震えがわき出してくるのが分かった。
「3ヶ月間、保つかしら? あの妖怪どもを相手に・・・フフ」
不安に言葉を失う三郎をからかうように、意地悪く笑う岩波。
そして不意に彼女は、立ち上がって服を脱ぎ始めた。
「さぁ、使い物にならなくなる前に、私も味見しちゃおうかしら」
そして全裸になり、豊満な肉体を三郎に見せつけた彼女は、すでに潤い始めた秘唇を自ら拡げて見せた。
「あなたも、じっくり味わってね。早くその自慢のデカマラを立てなさい?」
三郎は、先ほど必至に堪えた涙が溢れてくるのを、もうとどめることが出来なかった。
バッドエンドです。