ベットには彼女の苦しそうな吐息だけが響いている。
彼女の白い顔は時折苦しげに眉をゆがめるが
それ以外は至って静穏なものだ。
とても、もう使えない様には見えない。
なんで、彼女なんだ。まだまだ使えるはずじゃないか。あんまりだ。
「ご主人様……」
いつもの祈りとも呪詛ともつかない思いが終わる前に、
彼女が静に口を開いた。
「……なんだ?」
「わたし、幸せな家庭を築いてみたかったです。」
家庭どころか、ここ数年外にだって出られていないのに。
「幸せな家庭か。……どんなのだ?」
「はい。」
ちょっと考え込んだ彼女は、儚げに笑ってこう答えた。
「…ゆっくりと抱き締めてください。それで満足ですから」
「…これでいいのか?」
ゆっくりと抱き締める。柔らかく心地よかった。
「はい。ご主人様、ありがとうございます。これでやっと悔いが無くなりました」
ぼろぼろになりながらも笑う彼女の顔が微かに
しかし確実に穏やかな笑みを浮かべたように見えた。
「縁起でも無い。必ず直って、幸せになるんだろう?」
笑い混じりにそう言い返したが、返事が来ない。
「おい!?冗談だろ!!」
もう決して返事を返す事の無いぼろぼろになった少女の頬は濡れていた。
「…おやすみ。今度こそ幸せになれよ」
震える声ではこれを言うのが精一杯で
彼女を置いてきた時こんな声が聞こえた気がした。
―――ご主人様。最後まで迷惑かけちゃってすみません。
あんなに大切そうに私を抱いてくださって…私はとっても幸せでしたよ。
抱き枕でした