#9
翌日。ユージから事の顛末を聞いた俺達は、一様にこう反応した。
『あやまっとけ。』
「あ〜やまんなさ〜い」
「あやまった方がいいよ!」
「…まだ、あやまってねえの?(黒)」
「おまぁえが〜あやまれぇ。」
「うう… あやまります。」
…(それから一週間後。)
…だからって、わざわざ道場をその待ち合わせに使うかぁ?
誰かに吐き出せば解消できる類だったユージの悩みに対し、タマの傷は深かった…のだろう。
他の部員に知られてしまった事もあるし、実際タマは全然道場にも姿を見せていなかった。
それが、ようやく話をつけられたと言うので、今日はここ道場にて謝罪の儀式なのだが、肝心のタマが… 来た。
『ほらほら俺達は出てるぞー』
「「「「え〜」」」」
『二人だけにしてやんなきゃ、な?』
渋々ながら全員出払った。じゃあ後は、頼むぞユージ。
「………ユージくん。」
「タマちゃん。 …来てくれてありがとう。」
(ひょっこり、道場裏の格子戸に野次馬5人。)
『(コラッ、お前等、何してんだよ!)』
「(え〜だって、やっぱり気になるじゃないですか〜)」
「(先生こそこんなトコで隠れて見てるのに!ずーるーいー!)」
…教師たるもの、生徒の管理は当然の権利だ(?)
まぁ実際、俺とキリノが撒いた種みたいなもんだしな…当然、気にはなる。
「僕、タマちゃんの気持ち考えずに、自分の事ばっか聞いてもらおうとして。」
「…」
「それどころかすっごい傷付ける様な事まで言っちゃって…」
「……」
「ホントに、どうやって謝っていいのかもわからないけど、ごめん!」
「………いいよ。」
「…許してくれるの?」
「……もともと、許とか、許さない、とかの事じゃ、ないし…
あのね、私… あれから一杯考えて。
わからないけど、この気持ちのホントが知りたいの。」
「えっ、それって…」
「……ユージくん、私と、えっと… キス、してくれる?」
「な、な、なんでそうなるの?」
「宮崎さんが…」
!!!!
『(ミヤ〜お前なぁ〜)』
「(えーっ、だって… 先生はニブいから分からないと思いますけどぉ)」
『(誰がニブいんだよ… ったく! キリノ!お前くっつきすぎだ!見えんだろーが!)』
「(え〜いいじゃないっすかぁ〜〜)」
「「「(それだよ…)」」」
#10
「…ダメ?」
「いや、ええと、ううん… ホントに、僕でいいの?」
「………ユージくんとじゃないと、分からないよ…
ううん、こう言う言い方じゃズルイよね。 ………ユージくんが、いいの。」
「…あ、ありがとう。 …じゃあ、えっと。」
「うん…(目を閉じる)」
「…」
「…ん。」
…長い。ユージはともかくタマは知識もないだろうにこの長さはどうだ。
大人のキス。いやいや大人未満の… ユージの方が知ってたのだろう。
とりあえずおぼつかないながら、ずっと、目は閉じたまま、唇を重ねている。
『(オイあいつ等、長くないか?息、止まってるぞ?)』
「「「「(先生ちょっと黙ってて!)」」」」
やっと終わったらしい。
ゆっくり離れていく二人の唇に銀の橋がかかる。
…ん?なんか様子が変だが。
「…ぷは。 …ん?あれ?」
「………ふぅ。 ………あ。」
「もどっ…てる?」
「………戻ってる。」
「やったよ、タマちゃん!」
「………うん。よかった…! …ありがとう、ユージくん。」
「僕の方こそっ… 一杯迷惑かけちゃったのに、そんな…」
「ユージくん…」
だあぁ、そっから先は流石にご法度だ!ヤング誌じゃあるまいし!
『そこまでっ!お前等、神聖な道場を汚すんじゃねえ!』
「こ、コジロー先生!?見てたんすか?」
「「「ちょ〜、先生、空気読もうよ〜」」」
「!!! ………みんなも、見てたんですか?#」
「いやいやいや、あらら …タマちゃん? …ちょっと、あ、突きは、ダメぇーッ!!」
#11
怒れる大魔神・タマと便乗したユージにフルボッコにされた俺達は
足腰ガクガクのまま自転車で帰ってく二人を見送った。
いや、と言うか、お見送りさせられた。
…その後、下校中のカップルに、このような会話があったかどうかは、定かではない。
「……ねえ、ユージ君。」
「なに、タマちゃん?」
「……私達、サヤ先輩の言ってたお話みたいに、少しは、混ざっちゃったのかなあ。」
「入れ替わって…それから元に戻った事で、記憶が、って言う事?」
「…うん。今、たぶんユージくんと同じ事、考えてると、思うし…… 私ね。」
「待って。」
「…え?」
「それは僕に、先に言わせて?」
「……うん。」
「好きだよ、タマちゃん。」
「……私も、ユージくん。」
「「ふふふっ」」
「じゃあ、またね!」
「…うん、ばいばい!」
[終わり?]
#12 〜「その後」の「その後」の、エピソード〜
「ねぇ〜?だから言ったじゃん!うまくいったでしょ?あっはっはっは」
…キリノ。こいつは。本当に。どこまで分かってるんだか。
全て終わった後の道場。タマに最も念入りにボコられた俺とキリノは二人だけで道場の壁にへたりこんでいた。
「…ところでコジロー先生、不思議じゃなかったですか?」
『ん?何がだ?』
突如、エンジンが再点火したかのように、表情をイキイキとさせるキリノ。
相変わらずこいつの表情からは何を考えているか読めない。
「ほら〜、はじめ、私と先生が入れ替わった時、先生、イヤじゃなかったでしょ? …私も、全然、イヤじゃなかった。」
「サヤの言ってたお話って、ホントなんですよ。意識と意識が入れ替わると、一瞬、お互いの記憶…
記憶、だけじゃなくて、人格やキモチや経験、そんなのが全部、同じになっちゃうの。」
『ちょっと待て、何を言ってるんだお前?』
ついには立ち上がり、手を広げて解説を始めるキリノ。
俺もなんとか、壁を頼りに身体を起こす。
「きっと、タマちゃんとユージくんは、ぶつかった時、どっちか…もしかしたら二人とも、不安だったのかな?
だから、あんなに、離れていきそうになっちゃったんですよ。お互いの、心と心が。
それを直す為には、二人が、ホントに結び付く必要があったんですよ〜」
『…だあああっ、だから、俺にわかる言葉でしゃべってくれ、お願いだから。』
と言いながら、覗き込めばキリノの目は真剣その物だ。一点の曇りも無い。
俺の身体を回り込むように歩きながら、続けて喋り出す。
「…私達が入れ替わった時、コジロー先生の気持ちが私に溶けて、私の気持ちもコジロー先生に溶けたんですよ。
お互いの… その、”好きだ”って気持ちが、ね? 私… ホントに、嬉しかったんですよ?
本当の本当に… 今でも思い出すだけで、跳び上がっちゃいそうなくらい!
コジロー先生も、そうだったはずですよね〜? …だから、私達は見た目は変わっても、全然変わらなかったでしょ?」
「サヤは勘違いしてるみたいだけど、サヤの言ってたあの物語って、本当はハッピーエンドなんですよ。
私たちは、最初から、”もとどおりの二人”、だったって事なんですよ!」
『…つまり?』
俺の正面にキリノの身体が来て、向かい合う。
つまりは。
「私たちぃ、トロットロに、相思相愛!相性抜群!って事ですよ、せーんせっ♪」
カカトを少し上げ、静かに目を閉じて、キスを促すキリノ。
―――ああ、こいつには、一生敵わんな。と、思った。
『しょうがねえなあ…』
[おわりです。]