【涼宮ハルヒ】谷川流 the 16章【学校を出よう!】
130 :
名無しさん@ピンキー:
時空跳躍による目眩と悪寒はすでにひいていた。底冷えのする寒気の中、肩に置かれた
朝比奈さん(大)の手の暖かみがこの上もなく頼もしい。影になった北高校舎を見上げ、
星明かりに目をならす。
冬の星座ばかりが無言劇を見下ろす観客だった。役者は3人。俺と朝比奈さん(大)、
そして全ての元凶となったそいつだ。
コツコツと靴音をたて、時空改変者が暗がりから姿をあらわす。
すべて彼女から聞いていた通りだった。涼宮ハルヒの力を奪い、SOS団をバラバラに
したそいつが、北高の制服を風に揺らして街灯の下へ歩みでる。
「すごい‥‥こんなにも強力な時空震なんて‥‥」
朝比奈さん(大)が感嘆を洩らす。
それがどれほどの行為であれ、夜空に手をかざしたそいつはあっさりと手を下ろした。
これで時空改変が終了したのだろう。ふと不思議そうな顔になり、ついで淡くほほえんだ
そいつの様子を、憂鬱を胸に抱いたまま俺は見つめつづけていた。
「キョン君。今度は私たちの出番です」
朝比奈さんの硬い声が合図だ。短針銃を握りなおして校門へと踏みだす。
「よう」
久しぶりに会う友人にあいさつするかのように声をかける。
漠然と感づいてはいた。考えてもみろ。あの日以降、秘密のプロフィールを奪われたS
OS団のなかでただ1人だけ、今までにない仕草や行動をみせる奴がいたのだ。
「お前なのか‥‥やはり」
‥‥やはり?
声をかけた瞬間、ずきりと、こめかみが鈍く痛んだ。デジャブとも、長患いが本復した
あとの気怠さともつかぬ、とらえどころのない決定的な違和感が脳裏に刺さる。だがその
原因を暴くまえに頭痛は消えさり、俺は一瞬の妙な感触をふりはらった。
ここで止まるわけにはいかない。
「あ、あれ‥‥どうして、あなた、が」
目覚めたばかりの夢遊病者のように立ちすくみ、それでも俺の姿に安堵しかけた彼女に、
いっさいの力を失った時空改変者に、現実をつきつける。
「すべて、お前のしわざだったんだな‥‥朝倉」
朝倉は腰まで届くストレートヘアだった。これはあの朝倉だ。18日以降の、世話焼きな
委員長の朝倉涼子。宇宙人でもなんでもない、溌剌とした彼女だ。こちらの世界で始めて
知った、ハルヒに気兼ねなく浮かべる本当の笑顔を前にして、ひどく無機質な冷気が腹の
あたりから広がっていった‥‥
131 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/28(水) 14:46:47 ID:fOv349NB
俺がハルヒという名の災厄に遭遇し、トルネードじみた傍若無人な蛮行に巻き込まれる
形でSOS団が結成され、朝倉の正体を知ってから8ヶ月あまり。思いおこせば朝倉涼子
はいつだって委員長的な笑顔の裏に豊かな感情を伏せていた。
同じ笑みでも古泉一樹のポーカーフェイスとは違う、感情を秘めるための優等生の仮面
だと気づいたのは、たしかそう、野球大会での会話が初めてだったはずだ。
「そういや朝倉、お前最近ポニーテールやめたんだな」
「え?」
北高のジャージ姿で球場前にあらわれた朝倉は、春先の腰まで届くストレートロングを
止め、肩より長いくらいに切りそろえていた。その姿を見ておやと思ったのだ。たしか、
体育の時間はつねにポニーテールでまとめていたはずなのだが。
「あっちの方が動きやすいんじゃないか?」
「‥‥そんなこと言わないで。涼宮さんに聞かれたら大変だもの」
思ったままを告げたのに、朝倉は申し訳なさそうにうつむく。それが不可解で、本部テ
ント前でなにやらごねているハルヒを確認した俺は語気を強めた。
「なぜだよ。あいつは関係ない。似合ってるんだしポニーテールにすればいいじゃないか。
その方が動きやすいんだろ? 髪型ごときでハルヒに文句は」
「だめ、それ以上は」
にべもない反射的な拒絶だった。残像も見せずに朝倉の手が伸び、口をつかまれて球場
の壁に背を打ちつける。痛みはなかった。怪我しないよう加減してくれたらしい‥‥が、
いきなりどうしたというのか。唖然とした俺を鋭い目で朝倉が睨む。
「‥‥もう、どうしてそんな鈍感なの、あなたは」
手を離した朝倉の笑みに俺は息を呑んだ。なぜだろう。見慣れた笑顔なのに、まるで、
叱られているような妙な罪悪感を覚える。一体なぜ?
「あっちの世界であなたが涼宮さんに何を告げたか、もう忘れたの?」
「あ‥‥」
「女の子はね、小さな一言でも喜んだり傷ついたりするの。もっと気を配ってあげて‥‥
涼宮さんのためにも、私のためにも」
だから駄目よ、そう告げて背を向けた彼女に、そのときの俺は言葉をかけられなかった。
涼宮ハルヒの観測のみを目的とする対有機なんとか用ヒューマノイドだと、感情は偽りの
ものだとあの日マンションで語ってくれた朝倉涼子の、その『彼女らしからぬ』人間的な
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)