播磨の手の中にあったのは、驚きと、昂ぶりと、期待に潤んだ瞳。
薔薇色に染まった頬。
声を出しかけて止まった唇。
上目遣いの瞳。
透き通った深い色をした愛理の瞳が何かを期待するかのように播磨を見つめている。
殺人的な可愛らしさ。破壊力を持ったそれは播磨拳児の脳をショートさせる。
離したくない。この少女が欲しい。
暴力的なキスが愛理の唇を襲う。
播磨の唇が愛理を蹂躙する。
インターホンのボタンを押す前、愛理がマンションの部屋のドアの前で
丹念に塗りなおしていたリップクリーム。可憐な薄い唇に塗られたそのリップクリームは、
播磨の唇でたちまちのうちにこそぎ取られてしまう。
播磨の胸に当てられた細い腕はこの不良の身体を押し返そうともせず、ただ播磨の
寝巻き代わりのTシャツの胸元を力なく握り締めている。
呼吸が止まるような激しいキスを受けると、愛理は背筋を駆け上ってくる快楽に脳裏を
炙られてしまう。
チリチリと胸の奥が焦げそうなほどの熱くて痛い想いが全身から力を奪っていく。
「ん……くっ……」
鼻から漏らす声。その喘ぎの色っぽさに播磨は身体の芯がジンジンと熱を帯びてしまう。
「……だ、だめ……」
女の子らしく抗ってみる愛理だが、播磨の大きな手のひらで手首を軽く掴まれただけで
たやすく屈してしまう。全身を骨抜きにされたようにされるがままになってしまう。
心臓は胸の中で激しく暴れ回り、どんなに呼吸をしても息が苦しい。
掴まれた手から力が吸い取られるみたいに、愛理の身体は播磨に抵抗できない。
いつもは播磨を睨み殺せそうな激しい視線を発する瞳も、今は弱々しく
播磨の顔を見つめることしかできない。
「お嬢…」
播磨のそんな声が耳に入るだけで、愛理は腰の奥が熱くなるのを止められない。
「だめ…火、止めなきゃ…焦げちゃう」
愛理のか細い声も播磨の耳には届かない。
播磨の頭にはより深くキスをすること以外何も考えられない。
両手で愛理の頬を掴み、少しだけ傾けると唇を押し当てる。
金髪のお嬢さまの小さくて柔らかい唇の感触を粘膜で確かめる。
舌で唇を押し割ると、愛理の歯列を舌先でなぞる。
歯茎と唇の裏を舌で撫でる。
うなじから耳の裏あたりを指先で触れながら荒い鼻息を浴びせかける。
無意識のうちに愛理の弱点を攻める播磨。
播磨の心には「いじめてみよう」とか「感じさせて無理矢理にしてしまおう」
といった感情は全くない。
これまで何度かしたキスのうち、愛理が反応してしまったときの責め方を
無意識になぞっているだけだったりする。
キッチンのステンレスの調理台を背に、愛理は播磨に半ばのしかかられるように
されながら激しいキスを受けている。後ろ手に調理台に手を突きながら、上からキスを
してくる播磨の唇に抗うことができない。
播磨の舌先が愛理の舌を捉える。
唇の間で押し合う舌。
押しとどめようとする愛理の小さな舌は播磨に簡単に押し込まれてしまう。
そして播磨の舌が愛理の舌の裏をくすぐる。
上唇を軽く唇で咥えられ、歯列を舐められ、唇全体を吸い取られる。
そのたびに視界がぼやけそうなほど愛理の興奮は高まる。
「ん………くっ…うぅんっ」
播磨のキスを受けながら、必死にコンロのスイッチに手を伸ばし火を止めようとする愛理。
そうしている間にも播磨の舌が愛理の口の中を這いまわり、舌先が愛理の歯列をこじ開ける。
歯茎の内側を舐められる。
「タマネ……ギ、焦げ、ちゃ……」
愛理は首を振って一瞬だけ播磨の唇から逃れると懇願するような声を上げるが、また
一瞬後には播磨の唇に塞がれてしまう。
「火、止めて…から…ちょっ……待っ……」
愛理が必死に伸ばした指先がコンロの「消火」ボタンに掛かる。
白くて細いその指はそのボタンを押しかけるが、その瞬間播磨の舌が愛理の上あごの
裏側を這った。ゾクゾクという怪しい感覚が愛理の背筋を駆け上ってくる。
腰が蕩けてしまう。ひざが力を失う。
その感触に愛理はまた全感覚を奪われ、何も考えられなくなる。
「んふっ」
自分の漏らしてしまった声のイヤらしさに愛理は呆然とする。
雌猫が盛っているような声。
自分がコイツの前では一匹のメスに過ぎないのだ、という冷たくも恐ろしい、
それでいてそう考えるだけで身体の芯がジンジンしてくるような熱い想像が脳裏に浮かんでくる。
「タ……ネギ……焦げ……ちゃ……」
必死にそんな声を絞り出す愛理だが、播磨はそんなものには聞く耳も持たないかのように
キスの雨を降らせてくる。額。頬。耳。鼻梁。眉。
播磨の荒れた唇が触れた皮膚。愛理はその裏側に熱を感じている。
播磨の唇の爆撃を受けた肌が、焼けるように心地いい。
唾液で塗れたところからビリビリするような快感が生まれてくる。
播磨の体臭を鼻どうしがぶつかりそうなほどの距離で嗅ぐたびに、愛理の鼓動は
熱く激しくなっていく。
そして播磨の掌がエプロンの胸当ての上に乗せられ、エプロンとワンピースを内側から
持ち上げている乳房を握り締める。
調理台の縁に後ろ手をついていた腕から力が抜ける。
さらに不利な体勢に追い込まれながら、愛理は眼前の不良の愛撫に陶酔するように頭を振る。
「ふぅっ……」
愛理は涙で縁取られた目を見開き、荒々しい掌の感触に酔いしれる。
エプロンと、ワンピースと、ブラジャー越しなのに、それでも脳天を
破裂させてしまいそうな感覚。
全身の骨の芯が溶けそうな感覚が愛理を襲う。
たとえば自分で強く揉んでみても痛いだけなのに、播磨にそうされるときには
その痛みの中に甘く切ない熱さがあるのを愛理は知っている。
――ふ、服の……上からなのに……こんなに……もし、裸の胸を……されたら。
――されちゃったら……
――コイツに、揉まれちゃったら。
一瞬で生まれたその妄想は愛理の心の中で期待と興奮を煽る。
身体の芯に生まれた小さな火に油が注がれたように、熱と白い興奮が全身にあふれてくる。
キスをされるたびに上半身に震えが走り、下半身からは力が奪われてしまう。
調理台から滑り落ちそうになった愛理の腰を播磨が抱きとめる。
「……っ……」
ただそれだけで甘い声が漏れそうになる。
愛理はそれを必死にこらえる。
無駄なあがきだとはわかってはいても。
もはや自分でも自覚してしまっている、好きな男。その前ではしたない姿を晒したくない。
その一心で、声を出さないように愛理は必死に歯を食いしばる。
播磨は愛理の腰を左手一本で抱きとめると、右手でコンロの火を止める。
ジュージューと音を立てて焦げ始めていたタマネギの匂いが弱くなる。
愛理が安堵する間もなく、播磨の唇は本格的にこの金髪のお嬢さまを貪ろうとしてくる。
愛理の背中にあったまな板が流しに投げ捨てられ、愛理の上半身は調理台の上に
仰向けにされてしまう。かろうじて足だけは床についているが、度重なる播磨のキスで
膝が萎えてしまっている。抵抗することも逃げ出すこともできない。甘い絶望が愛理の
胸の中に充満する。もう、この不良にされるがままにされるしかない。そして愛理はそれを
心の底から望んでいた。
唇が軽く合わされると、息が吹き込まれる。
唇が甘噛みされ、愛理の背中に廻された掌が背筋を這い回る。
その掌の甘い感触に酔いしれる間もなく、背骨が痛くなるくらい固く抱きしめられる。
されるがままの愛理は、ただひたすらに口の中に差し込まれる播磨の舌を
夢中で吸い上げることしかできない。
力が抜けそうになる愛理の腰に播磨の身体が押し付けられる。
ステンレスの調理台と播磨の身体に挟まれた愛理は身動きができない。
いや、そもそも興奮しきっている愛理にはされるがままになるしか
選択肢はなかった。
そして押し付けられた播磨のジーンズの中の肉体は、驚くほど熱く固くなっている。
その固さを押し付けられるだけで、その部分の温度を感じてしまうだけで、
愛理の下着の中に熱い泉が生まれてしまう。
播磨が唇を離しても愛理が唇を閉じられないでいるのは、息が荒くなっているから
だけではなかった。
ねっとりと口の中を蹂躙しつくしたこの不良の舌が愛しい。
まだやめないでほしい。
またさっきみたいに、荒く激しくキスしてほしい。
その想いが愛理の胸の中でぐるぐると渦を巻いている。
もちろん愛理には恥ずかしすぎてそんなおねだりができるわけがない。
だから、潤んだ瞳と赤く染まった頬のままで熱く見つめることしかできない。
熱い視線で見つめれば、サングラスの内側の播磨の目が見えるかもしれない。
呆けた愛理は懇願するような目つきでこのサングラスの不良少年の目を射るように見つめ続ける。
形のいい唇。
愛理の半開きになったままのその唇の中に赤い舌が覗く。
さっきまで舐めまわし、舌でなぞり、吸っていたこのお嬢さまの唇。
そんな愛理の口元を見ているだけで、播磨は腰が重くなりそうなほど
ズボンの下の自分自身が固くなってくる。
「お嬢……」
「………」
ステンレスのキッチンに半ば押し倒されながら、愛理は目の前の男に
何も言うことができない。
再び襲ってきた衝撃。
播磨の舌。播磨の唾液。播磨の匂い。播磨の体温。
すべては暴力的に愛理の理性に襲い掛かる。
播磨の腕が背中に廻される。
――しっかし、腰、細えな。
愛理の腰を抱きながら播磨は思う。
壊れちまいそうで。
壊してしまいそうで。
いつもそっと抱いているのだが、愛理が漏らす甘い喘ぎやら見つめてくる無垢な瞳の色
なんかに興奮しすぎていつのまにか折れそうなほど強く抱きしめている。
播磨の腕が愛理のエプロンの胸当てをまさぐる。
こんもりと盛り上がったそこを這い回る播磨の掌は、エプロンの下に入り込むと
ワンピースの胸元を探り出す。
掌に感じる手触り。
この世のどんなものよりも柔らかいような、愛理の胸の二つの小山。
それを覆う布地は、既製品ではありえない精緻さで金髪のお嬢さまのバストを包んでいる。
婦人服職人が数週間かけて縫製した高級オーダーメードのワンピースは
誂えたように……というか実際に誂えたのだが、この神秘の双丘を自然の形そのままに
覆っている。
沢近愛理が播磨拳児に抱かれてから三ヶ月。
その間、まったくもって不器用な播磨は数回しかこのお嬢さまとそういう行為に
至ってはいない。
それでも、播磨拳児の掌によって生み出された刺激は愛理のブラジャーのサイズを
一つ大きなものにしてしまっていた。
これまでの体験が愛理の脳裏にフラッシュバックする。
播磨の掌が愛理の胸をこねる度に、先端を摘む度に、唇で甘噛みする度に、自分の
胸の内側に興奮と快美の嵐が吹き荒れてしまったときのことを思い出す。
半泣きで播磨の首筋に抱きついたこと。
幼児のような叫びを上げながら、はしたなくも乱れてしまったときのこと。
ヒゲのアレを口でしてあげたときのこと。
制服のまま押し倒されるようにエッチしてしまったときのこと。
また、そうされてしまう。
また、そうなってしまう。
胸の中に生まれるそんな予感。そんな不安。そんな期待。
それはとても心細くて、情けなくて、それでも甘く愛理の胸をさいなんでいく。
……そんな心境の愛理の胸を高級オートクチュールのワンピの上から揉んでいる播磨。
きつくないのに身体の曲線は余すところなく表現している、そんなすばらしい服なのだが
播磨はそんなことに気づくようなタマではない。
気づいていないから当然なのだが、播磨はその服の価格や価値なんかはまったく歯牙にも
掛けずに無造作に愛理の胸元のボタンを外していく。
愛理は前ボタンのこのワンピースを選んだときに、播磨にこうされることを
考えていないわけではなかった。
愛理が今朝、播磨の家に押しかける前にたっぷり二時間は服選びに迷っていた訳は
「どの服ならばあの男が喜ぶだろうか?」ということだけではなく、
「この服を着たら、アイツは脱がしにくくないだろうか?」ということでもあった。
愛理にはもう一着、お気に入りのAラインのワンピースがあったのだが、
最終的にこのノースリーブのほうを選んだのは、もう片方のそれを着たら
女の服に慣れてないあの朴念仁が脱がしにくいかもしれない、とかすかに
心のどこかで思ってしまったから。
数時間前に自室の姿見の前で動悸を抑えるかのようにワンピースを抱きしめていた愛理。
頬を期待に染めながら身体の前にワンピースをあてがい、播磨の言葉と行動を
想像する。
そのとき愛理が脳内に想い描いていた光景。それがいま現実のものとなろうとしていた。
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と、今日のところはここまで。感想レスお待ちしてます。