http://www.geocities.jp/seki_ken44/ の中の"haunted"シリーズを読んでおくと更に楽しめるかもしれません。
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どうしてこんなことになってるんだ?
播磨拳児は頭の上に巨大な?を浮かべながら呆然としていた。
時間は数十分前に遡る。
『haunted カレー』
――コン♪
ん?どこかで何か…鳴って……る?
――キン コン♪
あ?あれは…
ドアホンの音か?
寝ぼけ眼のまま、播磨拳児は玄関に足を向ける。
今日は土曜日。昨日の夜から投稿作品のネーム作りに入っていた播磨は
明け方に机に突っ伏して今の今、土曜日の午後まで寝こけていたわけである。
そんなレム睡眠の奴隷状態の時ですら、播磨がチャイムの音に敏感なのにはわけがある。
しばらく前にたまたま鍵を忘れた絃子のチャイム連打に気づかずに寝こけていて
あとでエアガンのBB弾1マガジン連射を喰らったというトラウマのせいでチャイムには
半覚醒のまま対応してしまうという習性が身についてしまった播磨だった。
そんな播磨が無意識のうちにドアを開けると。
お嬢がそこに立っていた。
いつもの金色の髪。薄く淹れた紅茶の色の瞳。勝気で自信満々の表情の日英クォーターの
お嬢さま。今日は黒いノースリーブのワンピースを着ている。白い肌とのコントラストが
目に痛い。
播磨が開いたドアの前に屹立していたのはそんな人物だった。
なぜ?と考える間もなく、愛理はドアの隙間に飛び込んでくる。
「遅いわよ! さっさと開けなさい」
「遅いわよ! さっさと開けなさい」
なぜ怒鳴られるのかわからないまま播磨はとっさに鉄のドアを閉めようとしたが、
不躾にもドアの内側にちゃっかり入り込んでいる小柄な身体を挟むわけにはいかないと
瞬時に手を止める。どこまでも漢である。
「……」
「チャイム鳴らしたらすぐ出なさいよ」
ドアの隙間からするりと室内に入り込んできた愛理はどういうわけか怒っている。
見ると片手にはスーパーのレジ袋。もう片手にはスポーツバッグ。
愛理は播磨の状態なんか全然気遣う風も見せずにづかづかと家の中に上がり込む。
「刑部先生、今日はいないんでしょ」
「なんで知ってんだ…?」
播磨の疑問を完全に無視して愛理はキッチンへと廊下を歩く。勝手に。
愛理は持参したエプロンを身に付けながらテキパキとレジ袋の中から野菜を取り出す。
そして振り返りながら
「どうせろくな食事してないと思って。……カレー作ってあげるわ。好きでしょ?」
と言った。
あまりにも勝手な物言いに、反論しようにも播磨は何も言い返せなかった。
愛理のその自信満々の笑みが播磨の心臓に突き刺さったからである。
かろうじて視線を逸らしながら
「ああ……」
とだけ口にすることが出来たのは幾分この殺人的な笑みに耐性が出来ていたからだろう。
「…いやたしかにカレーは好きだけどよ」
「じゃあいいじゃない」
――そういえば、カレーと肉じゃが、どっちが好きか昔尋ねられたことがあったっけ。
播磨はまだ寝ぼけた脳でそれだけを思い出すことが出来た。
そのあとの記憶が定かではないのは……きっとなにか……強い衝撃?
を頭部に受けたから、のような気がする。
あれ?なんで記憶がボケてんだっけ?強い衝撃?膝……真っ白かったな。
アレは誰の膝だったんだろう?
そんな上手く廻らない脳のまま、、台所でなにかきびきびと動いている愛理を呆然と
見つめることしかできない播磨だった。
――それにしても……どうしてこんなことになってるんだ?
そんなわけで、播磨拳児は頭の上に巨大な?を浮かべながら呆然としていた。
愛理が今日着ているのは黒のノースリーブのワンピース。
肩をちょっと大胆に露出している感じで、そして下半身はと言うとくびれた細い
ウエストのラインをきっちりと出しながら腰をタイト気味に覆い、太股の半ばから
すこしだけ下で終わっている。
愛理はその上に白いエプロンをつけてキッチンに向かっているわけで、
それをなにをするとでもなくぼんやりと見つめている播磨だったりする。
――まあいいか。
そんな姿を見るともなしに眺めていると、自分の胸の中にぐるぐるとわだかまる疑問なんて
どうでもいいもののように思えてくる。
単純なこの不良はそんな風に考えていた。
複雑な家庭環境の中で育ったせいで播磨拳児にはあまり母親の記憶というものが無い。
同居人である刑部絃子は酒のつまみを作るときくらいしか料理をしない。
だから播磨にとっては女性がキッチンに立っている姿というのは新鮮なものなのである。
何が楽しいのか、この金髪の同級生のお嬢さまは鼻歌でも歌いだしそうな上機嫌で
播磨のマンションのキッチンでジャガイモの皮を剥いている。
愛理は決して手早いとは言えないが、それでも丁寧な手つきで包丁を動かしていく。
ジャガイモの皮を剥き芽を取る。タマネギを剥き、慎重に千切りにしていく。
ザク、ザク、というリズミカルではないがしっかりとした包丁の音は
播磨に郷愁のような何かを感じさせる。
後ろから見て露出しているのは柔らかそうな白い肩。すべすべしている膝裏。
思わず触りたくなるようなうなじ。
両側で結んだ金髪の房からこぼれた後れ毛が数本、襟足を飾っている。
ワンピースの開いた背中から覗くのはホントに白い肌。
エプロンの白い紐が溶け込みそうなほど白い肌は抜けるような透明感があって。
肌触りがよさそうで。
突然振り返った愛理が驚いたように言う。
「…! な、なによ? まだできないんだから待ってなさい!」
播磨は無意識のうちに自分が愛理のすぐ側まで忍び寄っていたことに気が付いた。
――俺。いつの間に。
「あ、いや、その、…いい匂いがしたんでつい……」
「そう? 玉葱たくさん使うからきっと美味しいわよ」
そう言って微笑む愛理。
そして目じりにたまっている涙がほろりとこぼれる。
播磨は心臓が止まったかと思った。
タマネギを刻んだために涙が出ただけなのだ、ということに気づくまでたぶん播磨の
心臓は止まったままだった。
「……ふふ」
涙を見られたことに照れたように笑みを浮かべる愛理。
それはいつも学校で見せている「美人の微笑み」ではなく。
素のままの沢近愛理という少女が見せる極上の微笑みだった。
油を引いた鍋にタマネギを入れながら、愛理は幸せそうな笑みを見せる。
作った笑顔ではなく、内側からあふれてくる微笑。
――やべえ。なんでコイツこんなに………
播磨は言葉を失った。なんだ。これはなんて言えばいいんだ?
困惑する播磨をよそに愛理は微笑んだまま涙をぬぐった。
――か、可愛い……んだよ……? いつものすまし顔よか全然……キレイじゃねえか…
そう思った播磨は愛理の顔をさらに観察する。
驚いたような愛理の顔。柔らかな肩。つるつるの肌。
ミルクを溶かし込んだような透明感のある肌。その肌の手触りは――
肌?
播磨は愛理の両肩をしっかりと掴んでその顔を覗き込んでいる自分を発見した。
――い、いつの間に。ナニやってんだ俺は!
慌てて愛理から離れようとする播磨だが、愛理の顔に浮かんだ表情を見た瞬間、
また思考回路のブレーカーが吹き飛んだ。
播磨の手の中にあったのは、驚きと、昂ぶりと、期待に潤んだ瞳。
薔薇色に染まった頬。
声を出しかけて止まった唇。
上目遣いの瞳。
透き通った深い色をした愛理の瞳が何かを期待するかのように播磨を見つめている。
殺人的な可愛らしさ。破壊力を持ったそれは播磨拳児の脳をショートさせる。
離したくない。この少女が欲しい。
暴力的なキスが愛理の唇を襲う。
播磨の唇が愛理を蹂躙する。
インターホンのボタンを押す前、愛理がマンションの部屋のドアの前で
丹念に塗りなおしていたリップクリーム。可憐な薄い唇に塗られたそのリップクリームは、
播磨の唇でたちまちのうちにこそぎ取られてしまう。
播磨の胸に当てられた細い腕はこの不良の身体を押し返そうともせず、ただ播磨の
寝巻き代わりのTシャツの胸元を力なく握り締めている。
呼吸が止まるような激しいキスを受けると、愛理は背筋を駆け上ってくる快楽に脳裏を
炙られてしまう。
チリチリと胸の奥が焦げそうなほどの熱くて痛い想いが全身から力を奪っていく。
「ん……くっ……」
鼻から漏らす声。その喘ぎの色っぽさに播磨は身体の芯がジンジンと熱を帯びてしまう。
「……だ、だめ……」
女の子らしく抗ってみる愛理だが、播磨の大きな手のひらで手首を軽く掴まれただけで
たやすく屈してしまう。全身を骨抜きにされたようにされるがままになってしまう。
心臓は胸の中で激しく暴れ回り、どんなに呼吸をしても息が苦しい。
掴まれた手から力が吸い取られるみたいに、愛理の身体は播磨に抵抗できない。
いつもは播磨を睨み殺せそうな激しい視線を発する瞳も、今は弱々しく
播磨の顔を見つめることしかできない。
「お嬢…」
播磨のそんな声が耳に入るだけで、愛理は腰の奥が熱くなるのを止められない。
「だめ…火、止めなきゃ…焦げちゃう」
愛理のか細い声も播磨の耳には届かない。
播磨の頭にはより深くキスをすること以外何も考えられない。
両手で愛理の頬を掴み、少しだけ傾けると唇を押し当てる。
金髪のお嬢さまの小さくて柔らかい唇の感触を粘膜で確かめる。
舌で唇を押し割ると、愛理の歯列を舌先でなぞる。
歯茎と唇の裏を舌で撫でる。
うなじから耳の裏あたりを指先で触れながら荒い鼻息を浴びせかける。
無意識のうちに愛理の弱点を攻める播磨。
播磨の心には「いじめてみよう」とか「感じさせて無理矢理にしてしまおう」
といった感情は全くない。
これまで何度かしたキスのうち、愛理が反応してしまったときの責め方を
無意識になぞっているだけだったりする。
キッチンのステンレスの調理台を背に、愛理は播磨に半ばのしかかられるように
されながら激しいキスを受けている。後ろ手に調理台に手を突きながら、上からキスを
してくる播磨の唇に抗うことができない。