☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第十話☆

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362Bye, good-bye our mother 1/3

「―――ここから出るよ、バルディッシュ」
 その声に迷いの色はない。
 かつて渇望していたしあわせから背を向けて、フェイトは私という戦斧を執る。
「ザンバーフォーム、いける?」
 私を掲げ、ささやくように問うた。
 是非もない。この身は、彼女の信頼に応える刃である。
《Yes、Sir》
「いい子だ」
 フェイトの衣服が弾ける。新たに黒色のバリアジャケットが展開される。
 両手に柄を握り、右足を踏みだす。身体を捻り、斧の刀身を左後方に置く。

 変形開始。トリガーワード、『Zamber form』。
《Zamber―――》

「どこに行くんですか? フェイト」

《―――》
 主人の力になるためのデバイスとして、それはあってはならないことだったが。
 コマンドは、私の狼狽によって中断された。

 女性の声だった。
 かつて静かに姿を消した、プレシア・テスタロッサの使い魔。
 フェイトの育ての母であり、私をこの世に生み出した母である彼女の姿がそこに在った。
363Bye, good-bye our mother 2/3:2006/07/27(木) 00:57:22 ID:tO9jCiJ4

「みんなが、待っているところに」
 構えを解いて、フェイトはリニスと対峙する。
 迷うことのない即答。リニスの姿を前にしても、彼女の決意は揺らがない。
 夢を踏み越える覚悟をもって、ただ、現をまっすぐに見据えている。
 だからこそ、この不可解を前に、私は迷っていた。

 ―――なぜ、あなたがここにいる?

「フェイト。ここには、私たちがいます」
「わたしは、ここにはいられないんだ、リニス」
 リニスの言葉を、フェイトはまっすぐに斬り捨てる。
 この世界(ユメ)は既に、ユメの主たるフェイトに否定されている。
 アリシアが消えてしまったように、プレシアももう消えてしまっているはず。当然、リニスもそうでなければいけない。

 なぜ、リニスの姿はここにあるままなのか。リニスの存在をここに留めている要因は何なのか。
 リニスが口を開く。悲しげに眉根をよせた表情で。

「プレシアは、あなたを愛しています」
「―――うん」
「わたしも、あなたと一緒にいたいです」
「―――うん」
「それでも、フェイトは行くんですか」
「――――――うん」

 フェイトは、リニスをしっかり見据えた。
 答えを、返す。

「―――もう、前から決めていることなんだ」

「わたしを愛してくれているひとがいる」

「わたしと一緒にいたいって言ってくれているひとがいる」

「母さんから受け継いで。あなたから教わった魔法の力を」

「その人たちのために使いながら、わたしはこの世界で生きていくんだって―――」

 目尻に涙をためながら、大きく息を吸い込んで。

「―――リニスなら、わたしがそう誓ったことを、きっとほめてくれるよね?」

「――――」

 一瞬、言葉をつまらせた後。

「―――はい。誇らしいです」

 リニスは花咲くような笑みを浮かべた。
 よろこびの、微笑みだった。
364Bye, good-bye our mother 3/3:2006/07/27(木) 00:58:16 ID:tO9jCiJ4

 ―――ああ、そうか。
 リニスの笑顔が私を満たした。迷いが晴れた。
 いま、わかった。誰がリニスをここに繋ぎ止めていたのか。

 私が彼女を繋ぎ止めていた。

 あなたに、フェイトを会わせたかった。
 たしかにフェイトは、母親に愛されることはなかったけれど。
 母に捨てられた孤独も、存在を否定された絶望も乗り越えて。しあわせを待つのではなく、しあわせを目指しながら生きている。
 あなたにとって娘にも等しい愛弟子は、私の主人は、こんなにも強くなったのだと自慢してやりたかったのだ。

 そしてもうひとつ。

 ―――たとえ、ここにいるあなたが、夢の中の虚構であるのだとしても。

「リニス、わたしは行くね」
《Zamber form》
「はい、いってらっしゃい」

 あなたに託されたあの想い。

『道に迷ったとき、願いを貫くための力。
 道が暗闇に閉ざされたとき、ひとすじの閃光となってフェイトの手にあり、闇を切り裂く刃であること』

 それはいまもここにあるのだと。
 いまもここに、変わらず在るのだと。

 カートリッジ、ロード。変形完了、出力リミッター解除。魔力刃生成。
 ―――フルドライブモード、起動。

「それがあなたのあたらしい力なのね、バルディッシュ」

 私は、生みの母たるあなたに、私自身を誇りたかったのだ―――


 フェイトが大剣を構えると同時に、リニスの身体が光となって透けていく。

「お元気で」

 魔法陣を展開。雷光の煌めきが聖堂を満たした。
「―――疾風、迅雷!」
 主の叫びに呼応する。紫電が刀身を駆けめぐる。

 大剣を担ぐように振りかぶり、フェイトはそっと、瞑目した。
 過去の痛みは、心の中に静かに融かして。

《Sprite Zamber》
「スプライトザンバー!」
 
 強くなったフェイト。強くなった私。
 フェイトのみちしるべであり続けたかった、あなたが果たすことが出来なかった、その悔いが。
 せめて、私たちの姿で晴れますように。


 ―――Bye, good-bye our mother―――

 光刃が、世界を斬り裂いた。
365名無しさん@ピンキー:2006/07/27(木) 00:59:19 ID:tO9jCiJ4
【Inspired by】
 761 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2006/07/26(水) 10:55:16 ID:y4riPL6Q
 既出かもしれないが、泣いた
 ttp://web1.nazca.co.jp/mpuflare/cg/013.jpg


以前、>>45-47でSSを投下させてもらった者です。意外なほどに過分な好評をいただき、うれしく思います。どうもありがとうございました。
前作に続いて今作も衝動的に書いたSSです。上記のデバイススレ>>761の絵が元ネタです。

では改めて、>>45-47共々、最後まで目を通して頂き、ありがとうございました。