ここは人間の住む世界とはちょっと違う、ケモノ達の住む世界です。
周りを見渡せば、そこらじゅうに猫耳・犬耳・狐耳・etc。
一方人間はというと、時々人間界から迷い込んで(落ちて)来る程度で数も少なく、
希少価値も高い事から、貴族の召使いとして重宝がられる事が多かったり少なかったりします。
けど、微妙にヒエラルキーの下の方にいるヒトの中にも、例えば猫耳のお姫様に拾われて
『元の世界に帰る方法は知らないにゃ。知っていても絶対帰さないにゃあ……』
なんて言われて押し倒され、エロエロどろどろ、けっこうラブラブ、
時折ハートフルな毎日を過ごすことを強要される者もいるわけで……。
このスレッドは、こんな感じのヒト召使いと、こんな感じのケモノ耳のご主人様との、
あんな毎日やそんな毎日を描いたオリジナルSSを投下するスレです。
このスレッドを御覧のヒト召使い予備軍の皆様、このスレッドはこちらの世界との境界が、
薄くなっている場所に立てられていますので、閲覧の際には充分ご注意ください。
もしかしたら、ご主人様達の明日の御相手は、あなたかもしれませんよ?
それではまず
>>2-4を見てください。
NO: 作品タイトル 経過 <作者様名(敬称略) 初出 >
01: こっちをむいてよ!! ご主人様 全10+1話完結! <こちむい 1st-29>
02: IBYD 停滞中… <180 2nd-189>
03: 華蝶楓月 停滞中… <狐耳の者 2nd-217>
04: こちむいII あしたあえたら 只今連載中! <あしたら(=こちむい) 2nd-465>
05: 火蓮と悠希 停滞中… <(´・ω・`)へたれ猫 2nd-492>
06: 十六夜賛歌 停滞中… <兎の人 2nd-504>
07: ソラとケン 停滞中… <◆rzHf2cUsLc 2nd-645>
08: ご主人様とぼく 停滞中… <65 2nd-738>
09: 狼耳モノ@辺境(仮題) 全1話完結? <狼耳モノ@辺境(仮題) 3rd-78>
10: Silver Tail Story(仮題) 停滞中… <狼を書く者 ◆WINGTr7hLQ 3rd-103>
11: 薄御伽草子 停滞中… <161 3rd-171>
12: 放浪女王と銀輪の従者 只今連載中! <蛇担当 3rd-262>
13: 黄金の風 停滞中… <一等星 3rd-348>
14: 最高で最低の奴隷 停滞中… <虎の子 3rd-476>
15: From A to B... 全1話完結? <エビの人……もとい兎の人 3rd-543>
16: 魚(・ω・)ヒト 停滞中… <魚(・ω・)ヒト 3rd-739>
17: 狗国見聞録 一応完結? <692 3rd-754>
18: 草原の潮風 只今連載中! <63 4th-63>
19: 岩と森の国の物語 只今連載中! <カモシカの人 4th-82>
20: scorpionfish 只今連載中! <scorpionfish 4th-125>
21: 猫の国 停滞中… <◆ozOtJW9BFA 4th-522>
22: 不眠猫のお嬢様 停滞中… <不眠症 5th-215>
23: 木登りと朱いピューマ 一応完結! <ピューマ担当 5th-566>
24: こたつでみかん 完結! <5th-16>
25: ネコとまたたび 完結? <5th-647>
26: リレー スレ埋め連載中? <5th-666〜>
27: 狐耳っ子と剣術少女 完結待ち? <6th-21>
28: 蛇短編 連載中? <6th-42>
29: 白熊の国 連載中? <6th-367>
30: 夜明けのジャガー 只今連載中! <ピューマ担当 6th-554>
31: 獅子の国 新作開始! <カモシカの人 7th-25>
32: タイトル不明 新規参入! <◆vq263Gr.hw 7th-388>
33: ペンギンの国 新規参入! <ぺん 7th-459>
34: こちむい番外 なぜなにこちむい 新作開始! <なぜこち(=あしたら=こちむい) 7th-499>
35: タイトル未定・カナリア他 新規参入! <◆/oj0AhRKAw 7th-633>
以上テンプレ。
それでは、ごゆっくりお楽しみください。
携帯から>1乙
1乙なのである
乙!
あと前スレでコメント本当にありがとうでした、しがない絵描きです。
次ザッハークさんかフローラさんを無謀にも挑戦してみたいんだけど、
何か外見設定ってしっかりあったっけ?まだ全部のシリーズよみきれてないんだけど。
>>11 フローラ陛下は「あしたら」のなかでえちぃシーンがあるのでそれを参照すればいいのでは。
ザッハーク陛下は「双頭」なんて異名がありますが、外見描写はないです。
つーか、作中ではとっくに故人、且つ死体も残ってねえ、且つ友人知人から城の使用人まで
消滅した状態なので、放浪女王〜の「現在」に於いてはどのような外見だったのか誰も知らないという有様。
>>12 感謝!「あしたら」はまだよんでないんでもっそりよんでいこう。
ザッハーク陛下は放浪女王ででるかなぁ。こっちはまた別のときにかこう。
とりあえずマダラ以外の男性描けるよう資料集めでもしときますね。
>>11にwktk
あと近況報告。
日曜日に獅子国の話を投下できるかも。
えちしーんはキョータくん×ミコトちゃんで。
……気になるのは、こちむい界で年ごろのヒトの男女が出会える確率はどれくらいなのかってこと。
それこそ奇跡に近いことなのか、大都市ならそれなりに出会えるのか。
猫100人にヒト一人くらいなら出会いもあるだろうけど、猫一万人にヒト一人とかならまずヒト同士は出会わないだろうし。
で、あとは「岩と森〜」の外伝ぽいのがひとつ書きかけ。
ステイプルトンの話。
……まあ、一応ラスボスだし、やっぱり多少は強いとこ見せとかないとサマにならないしw
>>14 キターヽ(∀゚)人(゚∀)ノ!! wktkして待ってます
>>1乙様です
前スレに引き続きアタマはキョータ君ぽいなー
え?マジ?浮気?と思いつつンガング
即死回避はおまかせしてこっちもがんばろっと
今スレの目標「シリアス書いてもビビラズ投下する」
今スレの目標:エロエロドロドロを目指す
>14
ん?ヒトの立場って基本的に奴隷でしょ?
奴隷ってことはペットも同然ですよ?
…つうことは、だ。如何に数が少なかろうと
御主人様が交配相手をぼしゅ(ry
>>18 それはまああり得るかもしれんが……
ペットとはいえ、えっちのお相手なのが大半な訳で殆どのご主人様は嫉妬からやらせないだろうな。
奴隷商人なんかはやるかもしれないけど、あんまり衛生的とは言い難いし、ただでさえ、他の人間に比べて劣るヒトの、さらに新生児に対する医療に対する認識はほとんど無いかと。
死ぬことも多いほどの落ちた時のストレスに、強制妊娠なんかで追い打ちかけたら、まずうまくいかないと思われ。
って、すでに誰かが言及していたような気がしますが、なんとなくカキコ
今スレの目標:六話目の投下を間に合わせる。
22 :
18:2006/05/21(日) 02:14:10 ID:VaeNPC1o
>19
いやまあ、交配は冗談半分として、同好の士がするように
ヒト奴隷所有者同士で集まって自慢しあうとか、
健康面での注意事項その他情報共有するとか、
そういった繋がりがあってもおかしくないかな?と。
ヒト奴隷所有って、わざわざ隠さなければ元が無名でも
それだけでちょっとした有名人程度にはなりそうだし、
「作為的に会いに行く」方向なら、ご主人様の
性格次第とはいえそれなりにありそうな気が。
あとはほら、上流階級の集まりにお供として連れて行かれるとか…
結局、奴隷商人経由で金持ちの下に集まるなら、
人数比の割には出会いの可能性はあるかも?とか
そんな事を考えて見たり。
…つうかまあ、縁あって落ちた「ヒト」達は
確率なんぞ全て無視して会うべきものと
出会うのではないかと。
そんな事を思いつつこちむい再読中。
長々と駄文スマソ
23 :
獅子国短編:2006/05/21(日) 15:34:44 ID:GAiritOl
ある昼下がりの事。
「キョータさんの女性経験はどれくらいだったのですか」
「は??」
唐突に、ミコトちゃんが俺にそう尋ねてきた。
「つまり、人間界にいた頃、何人の女性と性行為を重ねたのかということです」
「ち、ちょっとまてっっ!!」
そんなもの、聞かれたって言える訳がないだろう。
「……なるほど、つまりはゼロですか……」
「俺は何も言ってない!!」
「それだけ動揺していたら、誰でもわかります」
「いや、けどさ、経験が多すぎてすぐには答えられないくらいたくさん……」
言い終わるより早く、ミコトちゃんの容赦ない一言。
「キョータさんにそんな甲斐性はありません」
ぐさっ。
「だ、断言するなよ……」
「事実ですから」
「…………」
けっこう凹む。
「そ、そういうミコトちゃんはどうだったんだよ!」
つい、そう言い返してしまう。
「……私は」
言葉が途切れる。
「私は?」
「…………」
沈黙が流れる。
少し気まずい雰囲気。
「……キョータさんに答える理由はありません」
「あ、おい!」
こっちが何か言おうとする前に、ミコトちゃんは背を向けて向こうに駆けていった。
「…………」
まずいこと聞いたかな。
少し、後悔が残った。
その夜。
「今日のキョータくん、な〜んか元気ないぞぉ」
ご主人様に組み敷かれながら、昼の出来事を問い詰められる。
「ほらほら〜、ゴシュジンサマに全部白状しなさい」
そう言いながら、上からのしかかってくるご主人様。
「い、いやその、なんていうか……」
押し付けてくる胸のふくらみが気になって、それどころじゃない。
「ん〜? ほらほら、言わないと離れないぞぉ」
密着した体勢のまま、頬が触れるくらいの至近距離で聞いてくるご主人様。
「い、いやその、ミコトちゃんの事……」
やっとのことで、それだけ言う。
「ミコトちゃん?」
「うん……」
とりあえず、昼の出来事を話した。
「……つまり、それでミコトちゃんが怒ったんじゃないか、ってことね」
「まあ、そう言う事」
「……ん〜……気にしすぎじゃないかな。ミコトちゃん、ここに来てから怒ったりしたの見たことないよ」
「……それもそうだけど」
「ただ、デリカシーには欠けるぞ、キョータくん」
「う゛……」
「そういうのは女の子に言っていいことじゃないぞ」
「……反省してる」
「そうでなくても、いずれはキョータくんも結婚して、ミコトちゃんと家庭を築く事になるんだし」
あっさりととんでもないことを言うご主人様。
「な、なんだってぇ?」
「ん? だってそうでしょ。この近辺、ヒトの女の子なんてミコトちゃんしかいないんだし」
「い、いやまあ、そりゃあそうだろうけど……」
結婚、なんて話を唐突にされても困る。
「だいたい、相手がいなくて一生独身で死んじゃうヒトって少なくないんだよ」
「う゛っ」
「それに比べたら、ミコトちゃんみたいなかわいい年頃の女の子がこんな近くにいるなんて、ほんとキョータくんは恵まれてるんだよ」
「…………」
「そのうえ、ボクみたいな美人でかわいいご主人様がいるなんて、ほんとにもう、この幸せ者ぉ」
ぐりぐりぐり。
「ち、ちよっとまて、肘は禁止……」
「でもね」
真面目な顔のご主人様。
「ダンナサマになるってのは、責任重大なんだぞ」
「…………うん」
「そういうわけだから」
ばたん。
「ちょっとまて、何でこうなる?」
「ん? そんな責任重大なキョータくんに、ボクが「ぼうちゅうじゅつ」ってのをいろいろ教えてあげるんだよ。やっぱり夫婦の営みって大事だし」
にっこりと笑顔で答えるご主人様。
「……結婚以前に、俺の身が持つのか……?」
「だから、これから特訓するんだよ」
……明日も、朝からやる事はあるんですが。
翌日。
「……あうぅ……」
全身が重い。
「ほらほら、しゃきっとしなさい」
ばん。
いつも笑顔のサーシャさんが背中を叩く。
「ふ、ふぁいぃ……」
「その様子だと、こってり絞られたみたいね」
「……ほとんど寝てないです」
「ファリィって、ほんっとにいつも元気よねぇ。キョータくんも大変じゃない?」
「……見ての通りです」
俺がそう言うと、なぜか意味深な笑みを浮かべるサーシャさん。
「なるほど、役得ってことか」
「なんでそうなるんですかっっ!!」
思わず声が大きくなる。
「よし、それだけ声が出たら大丈夫ね。よおし、今日も頑張りましょお」
そう言って、笑顔で俺の肩に手を回してくるサーシャさん。
まんまと一杯食わされたらしい。
「おはようございます」
「うわっ」
いつの間にか、俺の後ろにミコトちゃんが立っていた。
「今日は天気も良いので、朝のうちにお布団を干してしまおうと思います。それから、少し買出しがあるのでキョータさんも荷物運びを手伝ってください」
「あ、ああ……」
いつもと変わらない、淡々とした事務口調。
──結婚……か。
昨日の晩、ご主人様が口にした言葉がふと脳裏をよぎる。
──俺と、ミコトちゃんが……か。
向こうにいた頃は、こんな早くからそんなことを考えることになるとは思ってもいなかった。
正直、今でもピンとこない。
「どうしたのですか」
「え? いや、なんでも……」
「量がありますから、できればぼーっとしないで、急いで干してしまいたいのですが」
「あ、ああ、わかった……」
ミコトちゃんの後ろ姿を負いながら、居住棟へと向かう。
今まで意識したこともなかったのに、急にその後ろ姿が女の子っぽく見えた。
どすん。
全部あわせて200枚はある布団を、二人で手分けして物干し竿にかけてゆく。
干し終わったら、片っ端から棒で叩いて埃を落とす。
正直、かなり辛い。
「もう少しペースをあげないと、買出しが遅れます」
「わかってる」
昨日の出来事なんか心の隅にもないといった様子で、淡々と仕事をこなすミコトちゃん。
けど、こっちはそうはいかない。
重い体を引きずりながら、なんとか午前中に布団を干し終わった。
お昼。
台所でご飯を食べ終わると、すぐに出発の準備をする。
下の町までは片道一時間。帰ってからも仕事があるし、買い物の時間を考えると自然とそうなる。
「では、一緒に来てください」
「わかった」
ミコトちゃんについて、石畳の道を下っていった。
「…………」
「…………」
さっきから、お互い口をきいていない。
ミコトちゃんはもともとそういう子だし、俺は俺で、何かを言い出せる雰囲気でもない。
そもそも、山道で女の子と二人きりとか、そう言うのはどうも苦手だったりする。
「……で、何を買うんだ?」
……なにを言い出すんだ俺。
「衣服の修繕に使う布と、食器類の補充です。陶器類は重いのでキョータさんに運んでもらいます」
「……そ、そうか」
「…………」
……俺の馬鹿。
五秒で終わる会話を振ってどうすんだよ。
「……キョータさんは」
「何?」
もやもやしてると、ミコトちゃんの方から話しかけてきた。
「この世界には慣れましたか」
「……慣れた、のかなぁ」
「昔のこととか、夢に見たりしますか」
「ん〜……寝たらそのまま熟睡するから、夢とか見ないっていうか……」
「人間にはレム睡眠とノンレム睡眠があり、誰でも夢は見ると言われています。見ていないというのは覚えていないだけだということです」
「……つまり、覚えてないくらいたいしたことない世界だったってことかな、俺の場合」
そう言って、笑って見せる。
「そうは思いません」
「え?」
いつになく、はっきりした口調で否定するミコトちゃん。
「思いだすと悲しくなるから、思い出を封じることもあります」
「……俺の場合は、どうなんだろう」
まあ、少し前には軽いホームシックにかかったことがあるのは事実だし。
かといって、悲しくなるから思い出したくもないって言うのとも少し違う様な気がする。
よくわからない。
「ミコトちゃんの場合は、そうなのか?」
「……私は」
そう言って、また言葉を途切れさせる。
「あ……いや、ごめん」
昨日と同じ展開になる前に、あわてて遮る。
「まあ、その何だ、俺は……」
「私は」
何とかその場を取り繕おうとした俺に、ミコトちゃんがぽつりと言った。
「私は、もう自分は死んでると思ってます」
「…………」
「だから、悲しくもないし過去を思い出したりもしません」
「…………」
言葉が出ない。
「キョータさんは」
戸惑う俺に、ミコトちゃんが語りかける。
「そうじゃないのですね」
「まあ、まだ生きてるからなぁ……死んだといわれても、正直ピンとこない。……浮遊霊みたいなものか」
そういって、少し無理に笑顔を見せる。
「……そう……かもしれませんね」
そう言って、俺を見るミコトちゃん。綺麗な瞳だけど、その瞳から感情を読めるほど俺は経験豊かじゃない。
「さっきの話だけど」
「ん?」
「その、忘れてください」
「え?」
「つまらないお話をしました」
そう言って、先に歩き始めるミコトちゃん。
「あ、おいっ!」
あわてて、その後を追いかける。
……俺の大馬鹿。
さっきから何やってるんだよ。
結局、それから話らしい話もしないまま、ふもとの街まで来てしまった。
市場に入ると、ミコトちゃんは案外顔を知られてるらしくて、あちこちの店から声をかけられてる。
「やあ、みこちゃん。今日はいい魚が入ったんだよ」
「新酒が届いたんだけど、どうだい?」
そんな声に一つ一つこたえて、店の主人と話すミコトちゃん。
その後ろでかなり手持ち無沙汰な俺。
いや、荷物は結構あるし、本当に手持ち無沙汰ってワケでもないんだが。
「今日はお連れさんがいるんだね」
店主の一人が、そう声をかけてきた。
「道場で一緒に働いてるキョータさんです」
「へぇ〜、そうかい」
「時々、私の代わりに買出しに来るかもしれないのでよろしくお願いします」
「あ、その……榊京太です」
後ろから、顔を出して挨拶する。
「へえー、いい男じゃないか」
「え、あ、その……ありがとうございます」
営業とはわかってるけど、正面きっていい男とか言われるのは初めてだったりする。
「で、ミコトちゃんとはどうなんだい?」
「え?」
にこにこしながら聞いてくる店主。
「仲いいの?」
「え、えっとまあ、その……」
まごついてると、横からミコトちゃんが口を挟んできた。
「悪くはないと思います」
「そうかいそうかい。いやあ、だったらおじさんも嬉しいよ。ミコトちゃん、いつも一人でさびしそうだったしねえ。連れ合いができたのならめでたいことじゃないか」
「そ、そうですね……」
「キョータくんだったっけ? しっかりしなきゃダメだよ、やっぱりどっしりした男についていくものなんだから」
ハイテンションな店主のおじさんに矢継ぎ早に言われる。
「は、はい……」
「それじゃあ、今日はこれとこれを……」
その横で、てきぱきと買い物を済ませるミコトちゃん。
「わかった。じゃあ今日はちょっとおまけしておくよ。連れ合いが出来たお祝いだ」
「ありがとうございます」
それからも、市場のあちこちから声をかけられ、そのたびに俺も声をかけられた。
今日の買出しに付き合ったのは、たぶん俺の顔見せというのもあったのかもしれない。
……に、しても。
どの店でも、当然のように俺とミコトちゃんの仲を聞いてくるのにはちょっとだけ閉口する。
ミコトちゃんは手馴れたものというか、軽くあしらってるけど、こっちはそうはいかない。
そうでなくても、昨日あんなことを聞かされてるというのに。
まあ、そんなこんなの中で買い物を済ました俺とミコトちゃん。
なんだかんだで二人とも両手に一杯になった荷物を持って、これから帰りの坂道を登ることになる。
げんなりした気分になっていると、ミコトちゃんが声をかけてきた。
「向こうの小料理店で、何か食べていきましょう」
「いいのか?」
「適度な休息は仕事の効率化には必要です」
「そう言ってくれるなら喜んで」
ミコトちゃんが連れて行ってくれたのは、小さな点心の店。
こざっぱりとしてなかなかいい感じがする。
「キョータさんは初めてですから、注文は私が出しておきます」
「わかった」
……それにしても。
何から何までミコトちゃん任せってのはなんていうか、なんともサマにならないよなあ、俺……
注文していた点心が次々とテーブルの上に並ぶ。
それをつまみながら、ふと向かいのミコトちゃんをみる。
こうしてみると、素直にかわいいと思う。
笑ってくれたりしたら、たぶん一撃で轟沈する自信はある。
……いや、それは自信とは違うんだろうけど。
そんなことを思ってると、ふとミコトちゃんと目が合う。
「あ……」
気まずい気持ちになり、無意識に目をそらす。
「どうしたのですか」
ミコトちゃんが、追い討ちをかけるように聞いてくる。
「あ、いや……うん、おいしいなって思って」
「そうですね。ここは栄養と味のバランスが絶妙です」
「こういうの食べると、どこにいても同じだなって思う」
「え?」
「ここは日本じゃないし、住んでる人も俺たちとは違うけど、そこで生きてる人の営みは同じだし、まあ、生きてく分には問題はないかなあって」
「…………」
「別に、死んだとか思わなくても、ここでそれなりに生きていける気がしてきた」
「……人間いたるところ青山あり、と言います。青山とは墓地のこと。住めば都、のような意味でしょうか」
「そうかもな」
「……たぶん、キョータさんは幸せなんだと思います」
「幸せ?」
「キョータさんが落ちてきて、初めてであったのがお嬢様だったから、そう思えるんだと思います」
「……かもな」
ミコトちゃんの過去は、よく知らない。
本人も語りたがらないし、フェイレンさんも聞かないようにといってきている。
「……悪いこと言ったかな」
「いえ、別に……」
「ミコトちゃんにとって、この世界は怖い?」
「……否定はしません」
「そっか」
「でも、いつまでも怖がってちゃダメだとわかってますから」
「そうだな」
「だから、私はもう死んだと思うことにしました。死んでいるのならば、もう何も怖くないですから」
「…………」
何かが違うような気もするけど、それをうまく言える自信はなかった。
その夜。
とりあえず、買出しは終わったし、一日の仕事も一通り片付けた。
風呂に入って、一日の疲れを癒していると。
風呂の扉が、ゆっくりと開く。
「……よろしいですか」
後ろから、聞きなれた声。
「え……」
振り向いた俺は、その体勢のまま凍りつく。
一糸まとわぬ姿のミコトちゃんが、そこに立っていた。
白い肌と、華奢な肉付きの裸身が、いやでも目に入る。
「ち、ちょっと、ほら、なにやってるんだよっ!!」
あわてて目をそらして、怒鳴るように言う。
「お風呂に、入りに来ました」
「いや、だからって何も俺がいる時に来なくてもいいだろ!」
「だから、よろしいですかとたずねました」
「いや、そういう意味じゃなくて……」
足音が近づいてくる。
床に貼り付いたように動けない俺の横に、ミコトちゃんが湯船に入ってきた。
「…………」
固まって動けない俺。
「キョータさん」
「な、何……?」
「市場での話、覚えていますか?」
「あ、ああ……」
「みんな、私たちがいずれは夫婦となり、二人でこの道場で暮らしていくと思っていたでしょう」
「そ、そうだったな……」
「そして、きっとそうなります」
「…………」
昨日、ご主人様が口にした言葉が脳裏をよぎる。
「この近辺に、私とキョータさん以外のヒトはいません」
「……みたいだな」
「他に、選択肢はないんです」
そういいながら、体を近づけてくる。
「だから、こうして……」
ミコトちゃんのひんやりとした肌の感触が、暖かい湯船の中で肩越しに伝わってくる。
「キョータさんと、そういう関係にならなきゃいけないんです」
「いけないってことはないだろう」
「……いけないんです」
はっきりとした口調でいうミコトちゃん。
「……だって」
「ん?」
「そうしなきゃ、私たちこれからどうなるんですか」
「どうなる……って」
「この世界で、あと十年、二十年生きなきゃいけないかもしれないのに、一人きりで生きていける自信があるのですか?」
「……ない」
それを言われるとつらい。確かに、この世界で俺はよるべき何も持ち合わせていない。
「いずれは、お嬢様も道場を継ぎ、その頃にはおそらくしかるべき方を婿に迎えることになるでしょう」
「……だな」
「おそらくは私のご主人様か、あるいは他の道場の使い手か。その後、私たちはどうなるんですか」
「…………難しい質問だな」
「だから……」
ミコトちゃんの声が震えている。
「私には、キョータさんが必要なんです」
「…………」
「私もキョータさんも、この世界で一人きりで生きていけるとは思えません」
だから……か。
まあ、理屈としてはその通りだと思うし。実際、そうしなきゃ将来悲惨なことになるのは目に見えている。
しかし……だ。
「ミコトちゃん、何か焦ってない?」
「えっ?」
「昨日から、なにか急すぎないか?」
そう。
それが俺の中で何か引っかかっていた。
ようやく、頭の中の混乱が収まってきた。
「たしかに、いつかはそういう日が来るかもしれないけど、今すぐってことでもないんじゃないか?」
「……それは」
「何か、他の理由とかあるんじゃない?」
「……ありません」
一瞬だけ、躊躇してから返事したのがわかった。
「そっか」
「…………」
何かを言おうとしてためらっているように見える。
少し、話をそらすことにした。
「こんなときに言うのもなんだけど」
「え?」
「裸、見てもいい?」
「え……」
戸惑ったような表情と声。
「ダメ?」
「…………」
返事はない。
だけど、ゆっくりと立ち上がり、俺の前に来る。
「…………」
少しだけ恥ずかしそうに、目をそらすミコトちゃん。
色白の肌と、まだ幼い肉付き。
水滴がまとわりつき、かすかな茂みも濡れて下腹部に張り付いている。
小ぶりな乳房は、崩れることなく上を向いている。
そんな華奢な体に残る、いくつかの傷跡のようなもの。
かつて、俺の知らないどこかで鞭打たれた跡だろうか。
「……どう……ですか?」
小さな声。
「…………」
正直、少しみとれていた。
返事の代わりに、俺も立ちあがる。
「抱いてもいい?」
「え? ……はい……」
一瞬の躊躇のあとで、俺の要望を受け入れる。
そっと、ミコトちゃんを抱いてみた。
壊れそうな体を、ぎりぎりの力加減で引き寄せる。
ミコトちゃんは、俺の腕の中でなすがままに身を任せている。
肌が触れ、柔らかな感触が伝わってくる。
抱いているだけで、なにやら体の中の余計なものが消えていくような気分。
そっと、頤を持ち上げて唇を重ねてみた。
柔らかな唇。
すこし罪悪感を感じながら、その体を堪能する。
どれくらい、そうしていたかわからない。
やがて、どちらからともなく体を離し、再び湯船に身を浸す。
「……キョータさん」
「ん?」
「私は、こうやって今まで生きてたんです」
「え?」
「落ちてから二年間は、そのときそのときで力のありそうな人に身体を売って生きてきました」
「…………」
さっきの、俺のなすがままに身をゆだねるミコトちゃんの姿。
そういうことだったのかと思った。
「そうするしかなかったですから」
「フェイレンさんも?」
そう言うと、ミコトちゃんはかぶりを振る。
「旦那様は別です。旦那様は……たぶん始めて、この世界で私を人として認めてくれましたから」
「……それなら良かった。フェイレンさんは俺の恩人だし」
「私にとっても……です」
まあ、フェイレンさんは権力者とか有力者とか、およそその手の品のない欲望とは程遠い人だしな。
……たしかに、強いといえばめっぽう強いけど。
「……ごめん」
「え?」
「俺、やな奴かもしれない」
「どうしてですか」
「いや、その……さっきのこと」
「あれは……いいんです」
「いいって?」
「その……お風呂あがったら……私の部屋に来てください」
そう言って、俺を見る。
「ミコトちゃんの部屋に?」
「……待ってます」
そう言って、ミコトちゃんは風呂を出て行った。
しばらくして、風呂から出た俺をご主人様が待っていた。
「さっそくだね、キョータくん」
「う……」
「特訓の成果を見せるときだぞ」
「……そうですね」
って、いいのか、俺?
「ボクが見守ってるんだから、怖がっちゃだめだよ」
……見守ってる?
「ボクとフェイレンがのぞき穴から逐一監視してるからね。へんなことしたら後でオシオキだぞ」
「って、覗くな!」
思わず声を上げた俺に、笑い出すご主人様。
「嘘だよ、ウ、ソ。ボクだってそこまでヤボじゃないんだから」
「……心臓に悪い」
「言っとくけど、今日は特別なんだからね。キョータくんはあくまでボクのものなんだぞ」
腕組みをして俺を見るご主人様。ちょっとだけ目が怖い。
「わーってる」
「それじゃ、明日の朝報告してね」
「報告って?」
「ミコトちゃんと、どんなことを何回したか、全部ボクに報告すること。わかった?」
「ほ、報告するのかよ……」
「とーぜんでしょ。だってキョータくんはボクのものなんだから」
「…………」
覗かれるのもイヤだが、えっちの事後報告ってのは何の拷問ですか。
「ああ、そうそう」
「こんどは何ですか?」
「この道場、避妊具なんて便利なものはないから。子供できちゃったらしっかりと責任取ること」
「…………」
そういや、ミコトちゃんと俺だったら、ヒト同士なんだよな……
「さー、ファイトだしていこーっ!」
「…………」
何か、背中がものすごく重くなったんですが。
ミコトちゃんの部屋。
入るのは初めてになる。
「入るよ」
「どうぞ」
扉を開けると、寝間着姿のミコトちゃんがいた。
白い寝間着を来て寝台に腰掛けた姿が、燭台の明かりに照らされている。
「えっと」
「……キョータさん」
「あ、ああ……」
「たいしたものはありませんけど、おつまみとお酒を用意しました」
小さな机の上。饅頭と酒瓶がある。
「ミコトちゃん、お酒飲めるの?」
その言葉に、かすかに微笑む。
「わたし、悪い子でしたから」
「世の中って、思い通りにいかないものです」
机を挟んで俺の向かい側に座ったミコトちゃんが話す。
「……かもね」
「口では何とでも言えます。死んだと思ってるとか、悲しくないとか怖くないとか」
「……本心は違うと」
「はい。そんな理屈で怖くなくなるのなら苦労はしませんし、悲しくならないのなら世話はありません」
「だな」
「旦那様は、わかってるんです」
「フェイレンさんか」
「はい。だから、何かと気をつかってくれるんです」
「ご主人様が言うには、あの人も苦労人だったそうだし」
「はい。それで、やっぱり気を使わせてしまうんです」
そういいながら、少しお酒を飲む。
「キョータさんは」
「何?」
「元の世界にいた頃、彼女とかはいませんでしたね」
「……ふつう、いたのかって聞くものじゃないか?」
「ですが、いなかったのでしょう」
「……いや、まあそれはそうだけど」
こういうところ、ミコトちゃんは容赦がない。
「だったら、私がそばにいてもいいですよね」
「……たぶん」
俺がそう言うと、ミコトちゃんがかすかに微笑んでうなずいたように見えた。
そして、席を立つと、俺のほうに歩み寄ってくる。
「さっきの続きを、行いませんか」
そういいながら、帯を解く。
「きっと、何かが変わると思います」
服を脱ぎ、そっと肌を重ねる。
ご主人様とは違って、ずいぶん華奢に感じられる。
「私にとって」
ミコトちゃんが、重ねていた唇を離して話しかけてくる。
「キョータさんがそばにいるというのが、どれほどの励みになったかわかりません」
「あんまり、頼りにならなかったんじゃない?」
「頼りにならなくても、同じヒトが側にいるってだけで十分だったんです」
「そういえば、それまで一人だったんだもんな」
「最初は、それだけで十分だったんですが」
「ですが?」
「いちど、そういう人を知ってしまうと、こんどは離れてしまうのが怖くなります」
「だな。ミコトちゃんがいなくなるとか考えたらぞっとする」
「本当ですか?」
「ほんと」
そういいながら、そっと唇を重ねる。
「あ……」
ミコトちゃんが、小さな声を上げて軽くのけぞる。
「ごめん、痛かった?」
「だいじょうぶです。その……胸が触って。その、弱いんです、胸……」
「そうなんだ」
「だから……その」
「何?」
「へんなこと、しないでください」
「へんなことって?」
「それは……その……」
「たとえば、こんなこと?」
そう言いながら、指先で胸の先端をつまむ。
「ゃんっ……」
大きく身体をのけぞらせ、何度か痙攣させて喘ぐ。
「こういうの、苦手?」
「に、苦手です……だから、そういうの……んっ」
いい終わるより早く、小ぶりな乳房を口に含む。
「あっ、だ、だめっ……」
暴れかけるミコトちゃんの腕を外から抱え込むようにして抱きしめ、抵抗できないようにしてから少しいたずらをする。
唾液を絡め、舌で先端の突起を転がしたり、時々つよく吸ったりする。
「あっ、そこ、だから、だめ……」
抵抗する力が、少しづつ弱くなってゆく。
口を離すと、小さな胸の先端にある突起は充血してつんと尖っている。
「ミコトちゃんって、えっちなんだ」
「ち、違います……」
「じゃあ、どうしてこんなになってるの?」
ちろりと、また舌で先端をこする。
「あっ……あっ、だ、だって……そこは弱いって……」
「ここが弱点の子は、生まれつきえっちなんだって」
「ち、違います……」
そういいながら身悶えるミコトちゃん。
いつものクールな姿からは想像もつかないかわいらしい抗議の声がすごく艶っぽい。
やがて、ミコトちゃんがぐったりして動けなくなってから、俺は責めるのをやめた。
「……キョータさんの意地悪」
「ごめん」
うっすらと涙を浮かべたミコトちゃんがこっちを見ている。
「こんなの、卑怯です」
「ごめん」
「……謝らなくていいから、次からはもっとやさしくしてください」
「……う、うん……」
「こんな姿を見られるの、恥ずかしいです」
そう言って、ぷいと顔を横に向けるミコトちゃん。
拗ねたように口を尖らせているのがかわいい。
「じゃあ、そろそろ挿れるよ」
「……好きにしてください」
怒ったような声。だけど、本気で怒っているわけじゃないらしい。
そっぽを向きながら、横目でちらちろとこっちを見ていたりする。
そうやってこっちを見るミコトちゃんと、つい目が合ってしまう。
「いいの?」
「い、いいんですっ」
そう言って、今度は本当に向こうを向いた。
痛くないように、ゆっくりと挿入する。
「んっ……」
小さなうめき声。
「大丈夫?」
「だいじょうぶです」
苦しそうな返事が帰ってくる。
「痛かったら言っていいから」
「……だいじょうぶです」
締め付けがすごい。
というか、よくこんな小さな身体で獣人相手の性交がつとまったものだと思う。
下手したら死ぬぞ、ミコトちゃん。
てそれとも、もしかしたら自暴自棄になってて死んでもいいとか思ってたのかもしれない。
……だとすると、本当に壊れる前にフェイレンさんに見つけられたのは不幸中の幸いというべきなのかもしれない。
そんなことを考えながら、ゆっくりと腰を動かす。
自分が気持ちいいとかそう言うのを後に回して、どうしてもミコトちゃんの身体の方を考えてしまう。
「キョータさん」
「あ、痛い?」
「……だいじょうぶです。それより……キョータさんこそ、遠慮しなくても結構です……っ」
やっぱり、無理をしてる気がする。
「……無理しなくていいから」
「無理なんかしてません」
「苦しそうだけど」
「だ、だいじようぶです」
「……」
そんなことを話している間も、肉壁がぎゅっと締め付けてくる。
確かに、ぞくぞくとくるほど気持ちいいのは確かだけど、なんていうか、やっぱり罪悪感が先にたつ。
こんなことしていいのか、俺。
「っ、あぁ……」
小さな喘ぎ声。
「きょーたさん……」
「何?」
「その……っ、んくっ……」
「大丈夫?」
「そ、その……もっと、乱暴でもいいんです」
「って、言われたって……」
「その……もっと……気持ちよくなりたいです」
そう言って、また顔を横に背ける。
「……わかった。でも、痛かったら言ってね」
そう言って、少し動きを早くする。
……こっちの方が持ちそうにない。
「……きょーたさん……?」
「悪い、こっちが限界かも」
「……じゃあ」
「何?」
「一緒に、いっちゃってもいいですか」
「……そ、それは是非……」
なんか不恰好な会話をしている気がする。
こんな会話してるのを覗かれてたら、恥ずかしくて死ぬかもしれない。
「っ、くふぅ……ぅん……あうっ……」
俺の手をつかんで喘ぐミコトちゃん。
「っ、くぅ……」
こっちは俺。
ミコトちゃんと俺が仲良く果てるまでに、それから三十秒とかからなかった。
「……キョータさん」
「え?」
「遠慮してましたよね」
小浴場の湯船の中。
ミコトちゃんが肌を寄せながら俺に聞いてくる。
「……まあ、それはその……」
正直、遠慮というか罪悪感が先に立ったのは事実だったりする。というか、ミコトちゃんに関しては汚すことにちょっと抵抗がある。
「そういうところ、キョータさんらしいと思います」
そう言って、肩に寄り添ってくる。
「私の側にいる人がキョータさんで、本当に良かったと思います」
翌朝。
「そろそろ炭の補充が必要ですね」
昨日の昼と変わらない、仕事モードのミコトちゃん。俺の方を見る表情も、昨日の昼前とまったく変わらない。
「あとで炭小屋から炭を運び出してきてください」
「わかった」
「あらあら、二人とも朝からがんばってるわねぇ」
サーシャさんの声が聞こえる。
「あ、おはようございます」
「おはよ〜。ねえねえミコトちゃん、ちょっとこっち見てくれる?」
「はい」
そう言って振り向いたミコトちゃんの目の前にいるのは。
どこで見つけてきたのかと思うような、青と黄色の毒々しいまだら模様の蛇。サーシャさんの手に絡みついたまま、ミコトちゃんの目の前にひょいと突き出される。
「〜〜〜〜〜っっ」
「!?」
目の前の事態が飲み込めないまま、俺にしがみついてくるミコトちゃん。
「あははっ、驚いた驚いた〜」
そんな様子を見て大喜びのサーシャさん。
「どう? 面白い色でしょ? 昨日の夜見つけたのよ」
「そんなもの朝から見せないでくださいっ!!」
怒った俺に、サーシャさんが笑顔で言う。
「あら、朝から美少女に抱きつかれたんだから役得じゃない。むしろ感謝してもらいたいものだけど」
「あ……」
「…………」
至近距離で顔を見合わせる俺とミコトちゃん。あわてて身体を離し、お互いが視線をそらす。
「…………」
「…………」
なんとも気まずい沈黙が流れる。
「それじゃ、おねーさんは向こうでお料理してるから、あとは仲良くね〜」
無責任に手を振って向こうに行くサーシャさん。
「……そ、その」
何か言おうとする俺に、ミコトちゃんが先に言う。
「そんなところに不用意に立たないでください」
「ふ、不用意って……」
「その、キョータさんがそんなところにぼーっと突っ立ってるから、こういうことに……」
「あ、ああ。そういうことにしとこう」
「しとこう、じゃなくてそうなんですっ」
ミコトちゃんの声が妙に上ずっている。
「それから」
びしっと、指をつきつけるミコトちゃん。
「私は、別に蛇なんか怖くありませんからっ」
「…………ぷっ」
笑っちゃいけないと思いつつ、ついつい吹いてしまう。
「何がおかしいんですかっ」
「いや、だって……」
「その、蛇なんか怖くないし、全然平気なんですっ」
「……はいはい」
「笑わないでくださいっっ!!」
怒れば怒るほど、しぐさが子供っぽくなってゆく。
ミコトちゃんといる時が、これからは少し楽しい時間になるかもしれない。
ぬるぽ
えーと。
まあ、
>>18-22当たりの会話を読んで、今回のをこのまま投下するのはヤバスかなあとか思ったんですけど、まあ所詮は獅子国ですしw
基本は一話完結のお話ですから、ここからどろどろの三角関係とかにはならないはずです。
二人の行動をちょっと幼くしすぎたかなあとか、まあいろいろと反省も残りますけど、とりあえず即死回避だからってことで逃げますノシ
トップバッター乙です
避妊具がなかったらそのうち子供が。
40 :
虎の子:2006/05/21(日) 21:18:43 ID:a/O/vHBr
>>23 面白かったです。
このレスでの人間対人間は新鮮に思えました。
果たして二人に子供は出来るのか?
これからも楽しみにしています。
それと質問なんですが、この大陸で名字とかの扱いってどうなってるんでしょうか?
今までそんなに気を付けてこなかったんですが、唐突に気付いて―――
国によってまちまち
猫、戌とかは名前だけだし
狐や鳥は名前漢字みたい
蛇、ペンギンは横文字で姓も入ってるし
イヌもネコも名字有り。
>>22 > 結局、奴隷商人経由で金持ちの下に集まるなら、
> 人数比の割には出会いの可能性はあるかも?とか
獅子の国、狗国のお話とカモシカの国の「施設」なんかの例外をのぞけば、人間の女性の生存率ってかなり低いんじゃ?
…ぼく×ソラヤ君みたいなパターンがメイン!?orz(w
ここまできたらキョータにはがんばってもらってぜひ3PでもしてもらいたいGJ
どろどろの三角関係じゃないならきっといいはずだよね
むしろいっぱいまぜ
>>43 ヒト奴隷が高価な商品であることを考えると、物理的脅威で死ぬ可能性よりも
衛生的な問題で死ぬ可能性の方が高い。
こっちの病原体は向こうに落ちるけどその逆はないため、免疫もないからだ。
そのことを考えるに、生態的に安定な女性の方が生き残るとも言える。
たあいえ、サンプル母集団が少なすぎて統計的に語れそうにはない。
ケースバイケースとしか言えないと思うが。
>>44 「ミコトちゃんにしたこと実演突きで報告してよね」とかの展開は非常にありそうでヤンス。
>>40 姓は部族全員同じで、地位や出身地で名前の後ろにつく称号が異なるってのもありそう。
ピューマさんところとか。
ところで、ヒト召使だけで買い物に出掛けて、普通に店の獣人と買い物をして話をしてるる光景ってちょっと珍しいかも。
実は獅子の国って、治安がよかったりするのかも。
……これが狗国なんかじゃ、間違っても一人きりにとかできそうにないしw
>>46 いや、蛇とかもそうか。
一人でラーメン食いに出かけてるし。
サトルやキオなら一人歩きしても問題無いわな。
>>49 まあ、その辺は下手な獣人より強いからなあw
ソラヤきゅんとかも。
そう考えると、自分がご主人様だと考えた時に、おにゃのこのヒト召使を一人で外に出しても安全そうなのは、やっぱり猫の国かなあ。
狗国と魚の国は現実に襲われてるし、狼も怖いし。
兎狐ペンギンは未知数
>>51 狐は……続き書いてくれないとどうしようもないよなぁ。
>>50 魚の国は未知数です。
襲われてるほうの舞台設定は、魚の国ではないので…。
毎度スレの終わりに来ておりましたが、まだまだかかりそうです。
今スレの目標「スレの終りになる前に投下」
>>46 どこの持ち物か判っているので手を出そうとしないだけかも。
昔、読んだマンガで、他人のアンドロイドに手を出したら器物破損で訴えられるから手を出せない、
というのがあったけど、そんな感じでしょうねぇ。
確かに、武術道場のヒト召使に手を出すというのは自殺行為だよなぁw
>>53 えっと、とりあえずwktkしてていいのでしょうか。
熊の国とかって、もう出てますか?
一応、書こうと思ってるのですが
>>57 すでに二人ほど出てるんだけど、二人とも超序盤だけ書いてそのまま消えたorz
そうか。
なら、五日ほど待ってくれ。全速力で書き上げるから……。
……それでも五日掛かるんだな、俺orz
>>59 安心しろ、五日で一本なら十分早い。
ここの職人でそんなに早く書ける人はほとんどいないw
月イチ、隔月、場合によっては季刊年刊がデフォだから。
orz
消えた訳ではないクマー
忙しいだけだクマー
いま話を考えているんですが、虎の子様にお願いがあります。いやまじで何言ってんのこいつみたいに思われるのは重々承知なんですが、乱林 鈴の名前を出してはだめでしょうか?
名前を出すというか落ちてきた主人公と会ったみたいな感じにしたいんです。台詞人物描写などはいっさいなしです。どういうことかはみればわかると思うんですが、暗部ならいろんなところを飛び回ってるから大丈夫かなと勝手に妄想しております。
無理だとは思うんですが一応お願いします。夜中なんで多少日本語になってないのも許してください。
かしこ
63 :
62:2006/05/28(日) 13:10:53 ID:XXvxvEWy
すいません。やっぱいいです。ごちゃごちゃになってきたんで一回整理してから投稿します。意味わかんないことばっかいってごめんなさい吊ってきます。
64 :
虎の子:2006/05/28(日) 13:54:09 ID:+7YDKvL1
>>63 いえいえ、構いませんよ。
また必要になった時は遠慮無く言ってください。
ある程度の融通は利きますから、一言声を掛けてもらえればその度にお返事させてもらいます。
65 :
名無しさん@ピンキー:2006/05/28(日) 20:46:04 ID:gDNK1j0Y
ネズミの姫様の設定書いていたら何故か
「口でクソたれる前と後に『サー』と言え!分かったかウジ虫!」
と言う姫様が出来てしまった。かなり病んでるがどうかな?w
67 :
白:2006/05/28(日) 22:37:01 ID:XXvxvEWy
狼の国。その地域を収めるもののすむ城。
それは本当に童話に出てくるような、城らしい城。ディズニー城というかホロウバスティオンを想像して欲しい感じだ。
広大なその城の日等の廊下を女性、いや少女と呼ぶべき位の外見の二人が歩いている。
一人は背が高く、誰もが目を見張るような美しい銀髪でもう一人は中背で蒼のショートカットだ。
何かを話しながら歩いている。やがて廊下の突き当たりにある部屋の前で足を止め、青い髪のほうが鍵を取り出しその扉を開ける。ギイと音をたてて扉が開く
「!?」
しかし、中には誰もいなかった。よく見ると奥にある窓が開いている。青い髪が早足でその窓に近づき、顔を出し、下を見下ろす。
「まさか・・!ここから逃げた・・・!?」
城の外の庭。そこでは城に使えている者の子供たちがボールを蹴って遊んでいた。どうやらサッカーをしているらしい。しかしこの世界にはそんな遊びはないはずだ。
その中に一人、明らかに背の高い、綺麗な白い髪をした少年が少年がいた。長く伸びたその髪は後ろで結ばれている。しかし彼には、耳がない。いやあることにはあるが、それは上ではなく横についている。
「よっ、と」
小さな子供たちを華麗なフェイントで抜かして行き、ゴールにボールをけりいれる。
「やりー」
ニヤッと笑う少年。
「ズルーイ」「卑怯だよ」
周りからはブーイングが飛び交う。
「わかったわかった、次はお前らだけでやってみな」
そういうと少年は、一応作ってあるコートから外れる。と、そこに先ほどの青い髪の少女がやってきた。
走ってきたようで息が切れているが休むまもなくサッカーをしている子供たちに問いかける。
「ねえあなたたち、このあたりでヒトを見かけなかった?」
「えー?しらなーい」
と子供たちは返す。妙にニヤニヤしているのだが。
「・・・そう」
肩をおとす少女。
そこで遊びから外れて、芝生に寝っころがり生垣を枕代わりにしているいる少年に気づく
「あなたは?」
少年はそ知らぬ顔で、
「いや、見てないなぁ」
と返す
「・・・・・・そう」
少女は振り返りまたどこかに探しにいこうと一歩足を踏み出したところでフリーズする。一瞬おいた後、ものすごいスピードで振り返る。
「あ、やべっ」
再びあの部屋、少年は部屋の真ん中に位置する机の椅子に座り、机の向こう側には先程の二人が立っている。
少年は顔にニヤニヤした笑みを浮かべ、青い髪の少女はどこからどう見ても三百六十パーセント怒っており、銀髪の方は無表情。
「正直スマンかった」
少年が謝る。
「・・・全然反省していないでしょう。」
「ばれた?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「ふざけないでください!!」
激怒する蒼髪。
「いやだって、暇だったんだよ、うん。昨日丸一日放置されっぱなしだったじゃんか」
「あなた、落ちてきたヒトでしょう?まだ落ちてきて一週間もたっていないのに良くそんな緊張感のない態度が取れますね!!」
「うーん、一週間て言うか三日もたってないんだけどな」
「なおさらです!」
「・・・・・・・・・・・・・」
ちなみに銀髪は終止無表情だ。
「・・・・まあいいです。本題に入りましょう」
「そうしてください」
蒼髪の少女がチェックボードを取り出す。
「あなたの名前は?」
「・・・ドラ○モン」
ボキッ
少女の手にした鉛筆らしきものが折れる。
「冗談だよ、「零」だ」
「れい?」
「うん」
「・・変わった名前ですね」
「よく言われる」
「それでは零、あなたはこの世界に落ちてきたわけですが」
「ああ」
「簡単な説明はもう受けましたね?」
「ああ、あの意味わかんないくらいハイテンションかつバイオレンスなねーちゃんからな」
「あなたが王女様の奴隷となっていることも?」
「ああ・・聞いたよ」
「そうですか。では話が早いです。私たちはその王女の命であなたの教育係となりました。レミとカノです。」
「教育係ね、そんなこったろうと思ったよ」
椅子に深く寄りかかる零。
「そっちの人も?」
「ええ、そうですけど」
口のニヤニヤ笑いはそのままだが、一瞬、カノを見るその目が鋭くなる
「なんだ、てっきりあんたの護衛かなんかと思った」
「!」
図星だった。当初、教育係に命じられたのはレミだけだが、もしあのヒトが何か危険なことをしたら、
という危険を考慮した王女が、実はかなりのてだれである彼女、カノをつけてくれたのだ。
69 :
名無しさん@ピンキー:2006/05/28(日) 22:39:44 ID:sKEgXZIY
>>65 良いと思いますさらにツンデレだったら(*´∀`)=3
「・・・・」
そう、この少年には、何か得体の知れないところがある。
まずこの少年が発見された場所、
それは城下町のはずれにある危険な生物がぞろめく洞窟だった。といってもそれは入り口で、危険な生物などは出てこない場所だ。
この少年は自力でそこまで出てきて、入り口にいた衛兵に発見されたのだった。
「・・・・そういえば」
「ん?」
「われわれに発見されたとき、あなたが持っていた刃物ですが、」
「ああ、それ早く返してくんない?」
「・・・たしかナイフが三本、短刀と長刀が一本ずつでしたね」
「脇差と日本刀って言うんだけどな」
「あれについていた血はいったいなんです?洞窟の中の生物の血とは思えないのですが・・」
「違うよ。あれは・・」
あれは。あいつの。血だ。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・まあ、答えたくないのならいいです。」
「なあ」
「なんです?」
「『落ちる』っていうこと自体は、まあまあ理解できたんだよ。
こっちからあっちにもどった前例がないことも含めて。」
「はい」
「でもさ、その現象は、あー、なんていうか、どういうものなの?」
「?どういうことです?」
「その物質限定で起きることなのか、それともその空間に起きることなのかってこと。」
「・・一応、その空間に起きるというのが一般的な解釈ですね」
「つまり俺の周りにあったものもこちらに来ていると?」
「はい、そういうことになるかと」
・・・・・なら、あいつもきてるのか?・・・でも、俺の落ちた場所にはいなかった。
「まさか、こんな手まで使ってくるとはな・・・」
自嘲気味につぶやく
「何か言いましたか?」
「いやなんでもない」
「それでは、これから教育の一環として城下町、中央地区に行きたいと思います。
「まじで?」
「何か問題でも?」
「いや。ない」
昨日の内に一通り周ってしまったなんて言えなかった。
こんな感じで書いています。おかしいところなどビシバシ言ってクダサイ。薄識なので。
割り込む形になってしまってすいません
一応書けたところまで投下します
携帯の調子が変なので、途中で止まったら携帯がいよいよ本格的に壊れたと思ってください
あれからクゥに色々教えてもらった。
最初に教わったのは自分の置かれている状況についてだ。
……魔力だとか時空の歪みだとかかなり詳しく教えてくれたのだが、とりあえず俺は平行世界に“落ちて”しまい、元いた世界には戻れないそうだ。
これは別にショックでもなんでもなかった。どうでもいい。
問題は“ヒト”=“奴隷”だということ。
クゥは俺を奴隷商だかなんだかに売り飛ばす気はないらしいしヒトを虐げるつもりもないと言っている。
この森にいる限り拉致られる心配もなさそうだ。
今俺がいるこの場所は普通ではない、ある種の結界、言わば聖域らしいのだ。
この世界には“魔法”というものがあり、この森はその魔法で守られている……らしい。
罪の意識を持って行動しようとすると動けなくなり、しかも1日この森で過ごせば全ての悪意が消え去ると言っていた。
それならばと俺はクゥの額にでこピンをしてみた。
魔法が本当なら不可能なはず…なのだが、なんと成功してしまった。
クゥが言うには悪意や罪の意識がなくたんなる好奇心からくる行動だからだそうで、その後でこピンを仕返された。(無口っぽいイメージだったが、意外によくしゃべるし茶目っ気がある)
次に森や魔法、種族について。
この世界には様々な種族が存在し、各種族ごとに文明のレベルから得意とする魔法まで全く違うそうだ。
クゥ達の種族についても教えてもらった。
クゥ達はこの森に1000年近く前からすんでいる種族で人口は2000人程度。
種族名は特に無い。
(ちなみにこの森の直径は200kmでいたるところに泉がある)
男女共にマダラと呼ばれる形態らしい。(他の種族のオスは基本的に半獣だそうだ。見てみたい)
文明レベルは低いが、これは今の生活が好きだからで別に知能が低い訳ではないそうだ。
クゥ達が得意な魔法は生物の感情の強さを増減させたりするマインドコントロールと、知恵の書と呼ばれるもの。
このマインドコントロールは細胞レベルで働きかけることができるため、生態系を操作することも可能らしい。(種族がマダラだらけなのもこれの作用)
クゥ達はこの魔法でこの森全体を操作している。
まず肉食の生き物はいない。蚊の1匹もだ。
そして木はことごとく大樹。最低でも直径が2mはある。
さらに全ての木がなんらかの実を実らせている。
多様な果物から服の材料になる繊維質の毛玉みたいなものまで。
次に知恵の書
クゥがいつも肌身離さず持っている赤い表紙に金縁の本で、ここの森に住む人間やヒト全員が持っている。(すぐに俺にも作ってくれるらしい)
本は自分が後世に伝えたいと思ったことを魔法で書き込み、必要に応じてその知恵を引き出すという仕組み。
例えば、俺が果物の保存に役立つことを考えつきそれを本に書き込んだとする。
その後クゥが果物を保存する方法を知りたいと念じなながら本を開くと、俺が書き込んだ内容が頭に流れ込んでくるというわけだ。
色々新人多くてうれしいのぉ。(よぼよぼ)
>白
ええのではないでしょうか。辺境ではなくあえて首都を持ってくるあたり。
以前のと設定矛盾しそうでも色々ごまかし効くと思うし。
>俺とクゥ
悪意のないインターネッツか・・・・・・。
2chが存在できんな(心配する所はそこかい)。
そんな御老体、お気を確かに!(?)
それはさておき、暇じゃないのに暇ぶるたちの悪い絵描きです。
いつぞやフローラ様をかくといって作品をよんだのですが、
体の肉つきなどの描写がされていたけれど髪型について描写がなかったような・・・
もし「こちむい」の作者様がご覧になられていて、明確な髪形設定があるのなら
教えていただきたくおもったりします。
なんとなくイメージはあってかいたりしてるのだけれど。
76 :
こちむい:2006/06/03(土) 01:50:20 ID:7S8yZhn6
とりあえず、参考部分を抜き出せば・・・
『こちむい0より』
・・・フローラ女王は玉座に浅く腰掛け、肘掛に乗せた腕で頬杖をつくお決まりの
ポーズ。よく見れば髪は黒、レンガ色、金色と3色のグラデーションになっている。
薄く微笑んでいるにもかかわらず、耳は毛足が短く、ピンと立っているせいでネコよりも
キツネに似た獰猛な印象がある。その容姿はすでに400歳を超えているというのに
目の前に立っている自分の娘の片割れと変わらぬ程若々しい。ヒトで言えば厳しく
見ても30台の前半と言ったところ。酷薄そうな薄い唇にはどぎついほどの赤い
ルージュ。その唇からは意外なほど優しい声が漏れる。言葉を紡ぐ赤い唇の
動きはひどく妖艶に見えた。
《髪はコーディネイトの悪い3色で描写していますが、実は、CDの表面みたいに
様々な色に見えます。この遺伝で娘たちが様々な髪色を持っているのです》
《キャラクターには得意なポーズがあり、フローラ様は上記のポーズ。マナ様は
人を挑発するようなあくびが得意。ミルフィ姫は腰に手を当て、胸を突き出すポーズ・・・》
『あしたらTより』
・・・ドレスはモスグリーンの地味な物だが、その上からなぜか白衣を
羽織っていてそれが不思議と似合っていた。とんがったネコ耳はくせっ毛なのか、
ほつれたようになっている。
《この時にはすでに10年前にフローラが入れ替わっているので10年分だけフローラの
髪質が僅かだけ妹たちより荒れています。》
『あしたらUより』
・・・違和感を感じる方、自分の横の壁に手の甲を突き出す。指につけているたくさんの
指輪の中から青の輝石を壁に触れるか触れないかの所でかざすようにし、
手を探るように動かす・・・
《マナと比べ魔法は苦手です。大仕掛けは魔道式に頼ったり、指輪などのマジックアイテムに
頼っています。得意な魔法は『軽い念視、念動』です。ただ、異様に精密で遺伝子の配列さえ
いじる事が出来ます。》
《あと、細かな設定を拾いますと、切れ長の瞳、色はグリーン。髪の長さはマナと同じ、結ったり
結んだりすることはなく、実験中にポニーテールにするぐらい。》
などとつらつらと書きましたが・・・
『絵なんて絵師の想像力の爆発が大事なんですよ!エロい人にはそれが判らんのですよ!』
・・・がんばってくださいね。
・・・・・・いまさらっとネタバレがはいってた様な。
>>76 期待してます!
そろそろ、このスレのエロ分が枯渇してきていると思うんだ。
よし、誰か見聞録の後半並みのラブいエロスを提供してくれ!
【馬鹿は他力本願ゆえに馬鹿だった】
湖の中には悪意が沸かなくなる魔法の力が届かないのを利用してクゥが主人公の性欲を増大させて自分を犯させるか、クゥがヒトカケラの悪意もかんじることなくクゥを犯すか、どっちが良いですか?
エロ描写無理ポなんで執筆が超遅いです orz
>>81 とりあえず落ち着いて自分の文章を読み返してみて。
クゥがクゥを襲ってどうするんだよ orz
クゥが主人公を…です
激しく流れぶった切る上にいまさらだがたった今見聞録読み終えたぜー。
なにこの超むかつく敵役。超大好き。愛してる。
SRCでシナリオ組んだら間違いなくこいつがラスボスだろうが
ストーリー考えるのを激しく挫折したためその野望は5分で潰えました。
ってこれ未完なのか!
終わりが無いのが終わり、それが狗国見聞録レクイエム!
87 :
熊の人:2006/06/05(月) 11:04:08 ID:O6sE+I2e
すまん。思ったより長くなってる。
とりあえず、今日の夜くらいには前半部分を書き下ろす予定です。
まあ、神職人の前座程度だと思って、気抜いて待っててください。
書くのであれば「非難される行為」とか逃げをうつより
事前に一言聞けば良かったと思うんだが…
む、すまん。
92 :
熊の人:2006/06/05(月) 22:13:54 ID:O6sE+I2e
練習の帰り道。いつもの、歩きなれた公園の石段を袴姿で降りていた。時々、旧友が公園で遊んでいたりするので、何気ない会話でもして行こうかと、そう思っていた。
背中にはいつも背負っている弓道具が一式。ずしりと微妙な重みが感じられる。
橙色に染まっていく空は、火の手の上がる火事現場のようで。あまり、綺麗とは思えなかった。
かつ、かつ、と。自分の履いた下駄の鳴る音が、規則正しく耳へと通っていく。
不思議と周りの雑音が無くなっていき、まるで水の中にでも押し込められたような感覚に襲われる。
下の方から、口を忙しく動かしながら子供達が駆け上がってくる。会話がまるで聞こえない。頭の奥が熱っぽくなり、ゆっくりと前に倒れていく感じがした。
水の味が口を覆った。まだ俺は死んで居ないらしい、自分で言うのも何だが、頑丈なものだ。
重く落ちた瞼は意思に従い、ゆっくりと開き始める。透き通った緑色の光が、網膜を通過する。
身体が冷たい……氷の毛布に包まれているような感じがする。
腕を動かすと、目の前が乱れて揺れた。そして、ようやく水に沈んでいる事を理解できた。
――何故? 自分は石段から落ちたはずである。その先に池なんてモノはなかった。
外の空気を掴むように、必死に上へと両手を伸ばす。だが、触れたのは暖かな空気ではなく、獣の様な柔らかい毛の感触。
だが、今は如何でも良い。それを頼りに、一気に水面へと顔を上げた。
「ひゃん!?」
短い悲鳴が頭上から聞こえ、隣で水飛沫をあげる。
獣の類だと思っていたのだが、どうやら人間――それも女性だったらしい。
謝ろうと手を伸ばした瞬間、脇腹に岩で殴りつけられた様な衝撃が走る。
ヒビが入ったのでは無いかという位の痛さに顔を歪めながら、先ほど派手な水飛沫を立てた女性を見る。
93 :
熊の人:2006/06/05(月) 22:15:07 ID:O6sE+I2e
大学に入ったばかりの自分よりも、何歳か年下のようだ。
スタイルは、胸以外は良し。背は高い方、悪友が居れば『惜しい90点!』とでも言うだろうか。
いや、それよりも。
「キサマ! 何をするか。人間奴隷風情の癖に私の腹を掴むとは、どういう――」
「ほお。これよく出来てんな。今時のコスプレイヤーは結構金掛けるのな」
頭に付いていたヒョコヒョコと動く、丸みを帯びた耳を摘む。
彼女の身体がびくりと震えた。それにしても、まるで本物のようである。
両手にも獣の様な肉球が付いているし、尻からは小さな尻尾がふよふよと揺れている。
……うん。なんかホンモノらしいな。
「気は済んだか。まあ、私は心が広いからな。最後の言葉くらいは聴いといてやろう」
「まあ、胸はともかくスタイルは最高だな」
コンクリートを砕くような音と共に、横の水面が弾け飛ぶ。
「避けるな!」
「避けなきゃ死ぬだろが」
「殺すつもりで殴ったんだから、当たり前でしょう」
避けたはずなのだが、肩から脇腹にかけて、やたら痺れている。こんなのを直接食らっては、骨折れるくらいでは……済んだんだっけか。
いや、案外丈夫なもんだな。人間の体って言うのは。と、いうか殺す気だったのか……出来るなら、状況説明くらいはしてほしい。
あ、三発目来ますか。いや、さすがにボディに直接は避けきれませんて。つ、か――水に落ちたりボディブロー喰らったり……変な日だ。
仕方ない。この場は男として、痛みを堪えながら仁王立ちでやり過ごす。さあ、何発でも打ってくるが良いさ。
「ふふふ。まだ立っていられる余裕はあるようだな。さあ倒れるまで、相手をしてや――」
ああ、修羅の目ですか。すんません。無理です。
「シャル。何をやってるの? 無闇に人を殴るな、とあれほど言ったでしょうに」
四度目は無かった。代わりに、今度は張りのある大きな胸を携えた、おっとりとした美女が現れる。やっぱり、獣みたいな耳があるけれど。
泉のほとりに立つ姿は、まさに女神と言ったところだろうか……尻尾もあるけど。
「リア姉。人間の肉は柔らかいと聞く。奴隷にしても、どうせウサギほどの価値もないのだから、食ってしまった方が良いに決まっているだろう」
俺、餌ですか。ウサギと同等の価値なんでしょうか、弓道習って六年間。後輩からは県内一とまで言われていたというのに。
たかだか、女子高校生くらいの年の女にここまで言われるとは、腹立たしい事この上ない。
94 :
熊の人:2006/06/05(月) 22:16:08 ID:O6sE+I2e
――あ、コブシに力入れんでください。痛いです、折れてるとこが痛いです。すいませんでした、ねずみ以下で良いです。
帰りたい。今すぐ、帰りたい。お節介焼きの母の手料理が、懐かしいったらない。あーあ、夢ならとっとと覚めないだろうか。
「そ、それなら私が愛玩用として家に住まわせます」
前言撤回。この世界は最高ですよね。姉さんのためなら、例え火の海だろうが硫酸の滝だろうが潜って見せましょう。
「何を言ってるの。リア姉の子供、もう三歳になるんでしょう? 手間掛かるときなんだし、人間なんて養えないぞ」
あれ俺、もしかして踏んではいけない地雷を踏んでます?
ははは、まさか俺と同じくらいの人が、子供なんて産んでる訳無いでしょうに。
え、と。嘘ですよね。人妻系は守備範囲外だと思ってたんですけど、ああでも未亡人なら十分いけるかもしれない。
……とうとう壊れたかな、俺。殴られすぎで、頭が変になったんではなかろうか。もともと変だから、気にならんけど。
「で、でも。やっぱり殺すのは……きゃ!?」
「まったくだな。俺もどうせ死ぬなら、ふくよかな胸に抱かれてだな」
ってことで抱きついてみました。やはり、気持ちが良いものだ。弾力といい、柔らかさといい、最高の胸と言えるだろう。
我が生涯に一片の悔い無し。
「今ここで殺す。何を叫ぼうが、如何喚こうが、何を出そうが問答無用で」
出すって何をですか。まだだ、まだ死なんよ。せめて、せめて裸体でも拝ませてくれ。
あ、もうこの際なんで、フトモモだけでもおーけー。
近づいてくる茶色い雌の獣は毛を逆立て、鋭い眼光を放ちながら、息を吸い込んで腕を振り上げた。
うん。もう別に良いけどさ。
足が固い物に何度も当って痛い。ああ、生きてるんだなあと、何とか実感できた。
首から下は全く動かす事が出来ず、意識もはっきりしていない。荷台に積まれて生肉処理場に連れて行かれる牛って言うのは、こういう気分なのだろうか。
今の状況を簡潔に説明すると、手にロープを巻かれて山道を引き摺られている。
特殊な趣味を持つ男ならば、泣いて喜んでいるだろう。だが生憎、俺にはそんな趣味を持ち合わせてはいない。どっちかと言うと逆だろうか。
視線をずらすと、あの胸の大きな方が心配そうに上から覗き込んでいる。
まあ、人間に向けるような視線ではなく、捨てられた子猫を見つめるような視線だったけども。
95 :
熊の人:2006/06/05(月) 22:16:42 ID:O6sE+I2e
食われるのか。煮込まれるか、焼かれるか……獣なら生だろうか。あー煮込まれるのはやだな。熱いの嫌いだし。
「なあ、煮込むのだけは止めてくれまセンカ」
「それでは、ご希望に添えるよう活け造りで食してやろう。普通なら、耳も傾けない所だがな」
はは。あれか、俺は皿の上で腹裁かれながら、のた打ち回って食われるんかい。
でも、血抜きするだろうから、すぐ死ねるかな。うお、女の子に見守られながら死ねるってラッキー。
……虚しい。
「俺、なんか悪いことしたか?」
「私の身体を触った」
そりゃ大罪ですね。いや、実に柔らかくて温かかったですよ。もうちょい、胸があれば最高。
はい、言い訳の余地無しです。それにしても……と、いい加減に手は解放してもらいたいものだ。
頭に石が当って、痛いったらありゃしない。これで馬鹿になったら、どうしてくれる。
そんな叫びは届く訳もなく、俺の身体は鈍い音を立てながら、前へと進んでいく。
ちなみに仰向けに寝かされてるので、覗き込んいる姉さまの下乳は、ばっちり捕捉出来ている。
死ぬ際なんだ。このくらいの贅沢はさせてもらっても、罰はあたらんだろう。死ぬけど。
走馬灯は、つまらん部活の風景しか浮かんでこない。ふと、頭の衝撃が止まったことに気がつく。
視線を横に向けると、白い外壁と木で出来た門が立っていた。
意外と技術は進歩してるんだな……下手すりゃ中世のヨーロッパくらいの町並みが見えるやも知れない。
「着いたぞ。覚悟は出来てるんだろう?」
「今思ったんだが、生かしたまま、保存ってのも良いんじゃないか?」
「私達は冬眠から覚めたばかりでな。丁度、栄養分が無くなっている所だ」
さいですか。ん、って事は冬眠してる間は、皆ふとってんのか?
「なあ、脂肪はやはり腹に溜まるのか?」
「男達はな……女は皆、胸に蓄えているから、冬眠から覚めると一回り小さくなる。分かったか?」
隣で苦笑いをしながら、頷いているナイスバディなお姉さまに目を向ける。
次いで、目の前にいる、良く言うならスレンダー体型の女。ふむ、なるほどな。
「お前は元々、胸が小さいと見た。まあ、精々Bサイズくらいか」
「っ――違う。私は冬の間も、子供達のエサを狩っていたからだな……!」
96 :
熊の人:2006/06/05(月) 22:18:41 ID:O6sE+I2e
「そして、無い胸がどんどん無くなっていきましたとさ」
「――! っリア姉。放して、コイツ殺すから、血抜いて泣かしながら殺すから」
吠える女を宥めるように押さえつける聖女。
そして、その大きな胸に押さえつけられながら暴れる貧乳淑女か。淑女、か?
なんにせよ、可愛い女の子が絡み合っているのは最高である。ずっと見ていたい。
そう思った矢先、目の前を流れ弾――もとい流れ爪が掠めていった。も、諦めてるから煮るなり焼くなり……いや、捌くなり干すなりしてくれ。
ん? そういや、熊の対処法で食べ物を木の上に吊るすというのがあったな。
ぶらさがるか……いや、干されてるのと同じじゃないか。これは却下。
匂いのある食べ物が好きって言うのもあるが、苦い物が好きな俺には水浸しの鞄の中に入っているビターチョコしか菓子はない。
水でびちゃびちゃだから逆効果だろうな。
それにコレを思いついても、一番の問題が解決されてない訳で……手が縛られたまんまです。コレは手痛い。
「頭を抑えて何してる! さっさと、長に会いに行くぞ」
うん? 長って事は集落みたいな所なんかね? それにしちゃ、結構街っぽいんだが。
「長はリア姉の夫だ。私たちにした侮辱を聞いたら、如何反応するだろうな」
酷いなコイツ。考える間もなく、絶対に攻め気質だろう。
くそ。段々、この格好が好きになってきてしまったじゃないか。肉体改蔵反対!
手を後で組まされながら、心の中で悪態をついていると、顔が黒い影に覆われた。
灰色の気に覆われた、いかにも獣っぽい顔が前に現れる。身体にひしひしと伝わる威圧感。
「いやー久しぶりですね。熊五郎さん。最近の景気はどうですかい?」
何言ってるかね。この口は。
「いやいや、最近はさっぱりですわ。そっちはどうですか、藤次郎さん」
おお、熊手を顔の前で可愛らしく横に振っても、恐いことには変わり無いよ熊五郎。
いや。ノリの分かる人で本当に助かった。この人とは良い付き合いが出来そうです、ハイ。
周りを行き交う熊たちも、比較的温和そうだし食われる心配なんてないのでは無いだろうか。
そういや、クラスメートにも一人は居るよな。やけに好戦的で妄想癖持ちの奴が。
「な、アンタ。長と知り合いだったの!?」
……天然記念物とばかりに馬鹿なヤツとか。っていうか、この人ですか。
「いやいや、どうみても。この顔は『熊五郎』って顔じゃないでしょう。どっちかって言うとゴーギャンとか、横文字系だろ」
「いんや。この人間とは初見だな。ははは、お前の次期奴隷婿候補か? 子供は出来んかもしれんが、良い働き手が出来たってもんだ」
97 :
熊の人:2006/06/05(月) 22:19:18 ID:O6sE+I2e
「ち、がう――リア姉。そこで笑ってないで、抑えに回ってお願いだから」
頭を抱えて、壁に手を付いている。ふむ、コイツは理不尽なギャグが苦手なようだな。
とりあえず、熊五郎(仮)とハイタッチを交わし、握手しておく。
これだけ機嫌を取れば、まず殺される事は無いだろうさ。むしろ、旧友みたいな扱いされると思うぞ、うん。
しかし、熊ばかりの街だと思ってたんだけどな。案外、鹿とかも居るじゃん。
結構、平和そうに暮らしてるし、あれ? 普通に人間居るじゃん。首輪付いてるけど。
「案外平和なんだな」
「む? まさか熊が毎日、隣人を殺して食ってるとか思ってたんかい? 最近になって、鹿や山羊なんかと交流を持つようになってな。今じゃ、親友みたいなもんだ」
うあ、ホントだ長い角生えてる。黒い羽付けたら、悪魔娘の完成じゃないか。
そんな事を思っていると、今思いついたかのように熊五郎(仮)が手を叩く。
「うちで山羊のミルクでも飲んでいっては、どうかね? 口に合わんかもしれんが菓子も出そう」
そういや、腹も減ってるし、ちょっと世話に鳴ってしまおうか。それに、後で頭抱えてる奴もからかいたいし。
俺を散々恐がらせた挙句、身の自由まで封じられて、ドンだけイヤだったか……そういや、まだ手が開放されてないんですけど。
先に結論を言っておこう。俺は状況を把握しきれていない馬鹿だったらしい。
机の上には、カラリと揚げられたアーモンドと、灰汁抜きされた木の実が並べられていた。その二つを何度も口の中で転がしているが、意外と癖がなくて美味しい。
ちなみに人間は奴隷扱いらしいので、礼儀上と言う事で皮の首輪を付けられた。まあ、苦しくは無いから良いや。ちなみに俺の持ち主は貧乳の彼女らしい。
凄く嫌そうな顔をしながら、承諾していた。
そして、ミルクなのだが。竹で作られたコップに注がれていたので、半分ほど飲む。しかし、半分ほど飲んだ後に俺は気付いてしまった。此処の世界って、基本的に獣は人間の体してんだよな?
そう思った直後だった。カーテンの奥から、二つの艶かしい肢体が現れた。
一方は、あの姉さん。そして、もう一人は山羊の角を生やした、姉さんより大きな胸を携えた褐色の肌の少女。そう、少女……俺より、二歳くらい年下なんじゃなかろうか。
ごくりと、唾が喉を通っていく。さっきのミルク、ちょっと甘かったなあ。
その豊満な褐色の胸に、白い手の平が宛がわれ、牛の乳搾りの如く、全ての指を動かし、膨らんだ乳房から白くサラサラした液体が搾り出されていく。
噴出した液体は、下に置かれた桶に次々と溜められていた。白い液体に映った自分を見せられて、興奮したのか山羊の少女は嬌声を上げながら、首を振っている。
だが、口から出てくるのは否定ではなく――て。
98 :
熊の人:2006/06/05(月) 22:19:58 ID:O6sE+I2e
「あんっ! ミルク、あったかいミルク出てるっ。私の、私の搾り立て、いっぱい、いっぱい飲んでくださいぃぃ!」
じゅぷっ
そんな水音が耳に届く。白い指が、山羊の女の子の幼い割れ目に挿し込まれていた。
余った片手で、淡いピンク色の蕾が指で挟まれる。白い液体が手を伝い、肘へと向かう。
「も、むりです。ご主人様。これ以上、は。あ、ああんっ!?」
「無理、ではないでしょう? ほら、まだこんなに溜まってるのに」
確かに、彼女の胸はパンパンに張ったまま、握られたそこからは、まだ液の噴出が止まらない。
それを確認すると再び少女へと、今度は舌も交えての愛撫が再開される。絶叫のような嬌声、壊れているのでは無いのかと言わんばかりの表情で腰を振り続け、液を垂らし続けている。
その状況に目をそらした瞬間、別の声が横から聞こえた。
「飲まないの? 言っておくけど、飲まないと言う事は、この乳搾りショーを楽しんでると言う事と解釈されるのよ?」
「……大事に頂かせてもらいます」
視姦男になるくらいなら、飲んだほうがマシだ。チクショウ。
「名前」
はい? と、間の抜けた声が空に放り出された。自分でも情けなくなるほどの擦れた声。
それに呆れたのか、気分を害したのか、横に居る例の女の表情が不機嫌そうに歪む。
「名前。流石に奴隷とは言えないでしょう? ――シャロルよ。よろしく」
「ん……唐崎トウカだ。よろしく、ごしゅじんさま」
自分で言ってみたが、なんとも変な気分だ。女の子から言われれば、また別なんだろうが。
そう思ったのは、向こうも同じ様で。
「なんか気持ち悪い」
「そりゃ、ないでしょうよ」
ふたりで複雑な表情を浮かべ、視線をそらす。後では未だに乳搾りショーが続けられている。
締まらんよなあ。
何とか一日は過ごせそうだ。明日は、どんな言い掛かりをつけられ、殺されかけることやら。
まったく、楽しみでならない。とりあえず、今はこの世界で楽しもうと思う。
99 :
熊の人:2006/06/05(月) 22:23:27 ID:O6sE+I2e
空気読まずに、前書きを忘れて投下してしまいました……すいません。
とりあえず前半終了です。しまった、区切り良くと思ったらエロ部分(?)が山羊娘だけになってしまいました。
後半は絡めます。絡みます。
しかしまあ、6000文字越えましたか。一応、短く纏めてみたんですが。
とりあえず、神職人のSS投下を切に願います。
さくにゅー!
いいですなあ、あえて山羊っ娘で乳絞り。
一人称のせいか、展開のつながりが少し急すぎる気もしますが、グッジョブかと。
後半期待してます!
乳搾りショーGJww
103 :
熊の人:2006/06/06(火) 11:10:57 ID:Ey8DFBH5
読み直してみて、つながりが悪いことに気が付きました。
修正機能があったら、今すぐ修正したい気分です。
まあ、あれです。山羊を選んだのは後でやる小ネタの為です。まあ、山って事もありましたしねw
GJ言ってくれて、どうも有り難うございます。後半も合い間が開き次第、アップさせてもらいます。
あ、私57です。すんません、先に宣告しとくべきでしたわw
それでは、この三日間の内になるべく仕上げたいと思います。無論、エロに力入れて
熊五郎(仮)さんがステキっすw
状況がまだよく分かってませんが、期待してますぜ
>>103 がんばれー。
えっと、ついでに近況報告。
こっちもなんとか、月末投下を目標に書いてます。
>>14でもちょっと触れた、GARMのステイプルトンの話。
人様の設定、それも評価の高い見聞録の設定を借用するわけだから、ある意味普通に書くより疲れてたりw
まあ、去年の夏に見聞録の人がいた頃、設定の借用については避難所で割と寛容な言葉をいただいてたんで、そろそろお言葉に甘えてもいいかなあとw
まあ、普通に書いたら設定負けするのはもう目に見えてるんで、ステイプルトンの「改造手術で獣人化した元ヒト」という部分をうまく生かして書けたらなあ、とか。
とりあえず六月末にはなんとか。
そのあとで……
>>3の27もいつまでも「完結待ち?」にはさせらんないんでそろそろ書かなきゃなorz
この世界観に憧れてプロットを練っていたらいつのまにか
改造手術を受けた元ヒトが復讐を誓って戦い続ける変身ヒーロー物になったうえ
エロがいつのまにか消失していたので没にした俺は
>>105を超応援しています
プロットを練っていたら、王位継承権をめぐるゴタゴタドロドロで、
エロが何処かへ行ってしまった・・・・ orz
とりあえず、今週中の投下を目標に頑張るです(´・ω・`)
>>103 修正版をロダつかって上げるのは如何でしょうか。
保管庫にはいる時に管理人さんが考慮してくれるかも知れませんし。
>>106 仮面マダラー本○猛は改造人間である。
彼を改造したGARMは世界征服を企む悪の秘密結社である。
仮面マダラーはネコ類の平和のため、日々GARMの改造獣人と戦い続けるのだ!
・・・朝から疲れてるのかな、俺。
>>109 むしろ徹夜明けのような元気を感じるが。
かつてこの世界に堕ちてきた青年がいた。
彼は様々な紆余曲折を経て拾い主の少女と絆を結び、幸せな日々を送っていた。
――その時が来るまでは。
イヌの国に存在する暗部を知ってしまった彼は、ヒトにしては高いポテンシャルを買われ
人体実験の検体としてその身を改造されることとなった。
やがて実験の結果、彼は暴走し、施設を破壊し逃走。
ネコの科学者に命を救われた彼は、彼を造り変えた組織と闘うことを決意する。
ブラックドック
「全滅!? 15体の黒殻犬兵が3分と経たずにか!?」
「今の俺は……化け物同然ってことか」
「《猟犬》の出動を許可する。いかなる手段を用いてもヤツを消去せよ」
「君の身体はまだ未完成だ。力の乱用は死期を早めるだけだと覚えておき給え」
「――――変身ッ!」
「ヒト怪人……貴様は……それだけの力を持ちながら……ネコ風情の味方を……!」
脚を全て叩き折られたクモ怪人が、自らの血に塗れながらも吐き出した呪詛と毒液を、
『彼』はその肥大化した右腕で易々と払い捨てた。
――ボディスーツのような黒の装甲に巻き付く神経のような赤のライン。
長剣にも匹敵する鉤爪を備えた巨大な右腕。感情を感じさせない無機質なフォルム。
一言で言ってしまえば――異形そのものだった。
「勘違いするな」
体内の魔法炉が稼働率を上げ、血中の魔法的マイクロマシン群に指示が下される。
「俺は」
脚部甲殻が赤熱。背部甲殻が展開、収納されていた装甲が迫り出し翼となる。
「ネコもイヌも、言ってしまえばこの世界の平和なんかどうでもいい」
黒い異形が飛翔し、足場もなしに反転。
「俺はただ――」
その瞬間、破城槌をも凌駕する一撃がクモ怪人を貫いた。
衝撃と高熱に耐えかねたクモ怪人の魔法炉が爆散、煉獄に匹敵する火炎が周囲を覆い尽くす。
ならば――その火炎地獄に悠然と立つその存在は、果たして何者か。
――奪い返してやるだけだ。
頭部装甲の内側で呟かれたその言葉を耳にした者は、彼以外には存在しなかった。
仮面ライダーマダラ――Coming Soon.
仕事に疲れてむしゃくしゃしてやった。今は反省している。俺pgr
>>111 かっこいいな。だが連鎖的に魔法少女を連想した俺は病んでると思うが
>>112 魔法がきかないと肉体言語でつかまつるアレか。
>>113 ああ、そっちか……
俺はてっきり魔砲少女の方かと。
く、く、熊五郎さぁーん!!
116 :
111:2006/06/12(月) 16:12:32 ID:MV0E/AJg
…………酔いが醒めてから
>>111を見直すと複雑な気分だ。
誰かこれを向こう側の世界に落としてくれ……orz
117 :
105:2006/06/12(月) 17:27:01 ID:Sc2xnNnc
>>116 イ`
そうでなきゃ、嘘予告どころか 大 マ ジ で変身ヒーローものになってる俺の立場はどうなるw
俺なんてライカンスロープだよ…うはw
>>117 変身ヒロインモノにして、変身の反動でヒトの精が必要とかのアタマワルイ設定にすれば良いんだよ!
ところで最近過去ログを読んだんだが
虎国には一大兵器シンジケートが誕生するわ
犬国はあんなだわ、ひょっとしてわーるどうぉーの予感ですか。
というかこの世界の軍事バランスは大丈夫なんだろうか……
まぁ、虎の所は書き手本人がこちむい世界のパラレルワールドって言ってた気が。
>>121 猫の国には人型戦車もあるし、狗国に対しては絹糸盟約もあるから、狗国は動くに動けないってのは見聞録でも出てました。
ただ、こちむい氏がずーーーーーっと前の過去ログで「猫の国は犬の国に滅ぼされる」とか物騒なこと言ってた記憶もあったりして。
軍事バランスという点で言えば、正直取れてないかとw
俺のイメージとしては猫と犬が両大国で図抜けてる。けど猫の国は怠惰のせいで、狗の国は絹糸盟約のせいでどっちも動かないと。
虎は、商売として兵器売るだけで、自分のところは手を汚さない気がw
っつーかいきなり21世紀レベルの高度な科学知識を持っていたとしても、
産業革命初期ぐらいの工業力で、しかもたった数年でレールガン級のものとか作れるのか?
実際問題どうなのよ。
まぁ、魔王だし?で済みそうな気がしないでもない。
現実問題無理だと思うが
そのものの開発だけでも数年。
必要な基礎技術の教育(猫の国でも電気は最先端技術らしい)、
また普及(たとえば純度の高い材料や、集積回路、コンデンサ等の電子部品、工業規格なども)
を考えるに、科学技術だけでやるなら魔王でも20年は必要とみる。
けどまあ魔法制御で魔法電磁加速した魔法弾頭を魔法照準して魔法誘導で魔法命中させればいーじゃねーかと思わなくもない。
>>127 分かりやすく言うと「魔王の魔法ならなんでもありじゃね?」
むしろ、とりあえず用語に魔法って付けとけばOK、ってことかと。
ちまちま執筆中。
なんかいい感じで変身ヒーローぽくなってきたw
ところで最近、肝心のネコの国の話が少ない気がしてるんでつが。
こちむい氏以外にも猫の国の話を書ける職人様が来てほしいなぁと。
スレタイが「猫耳少女と召使いの物語」なのに、100レス以上ついてる段階でまだ猫耳少女が出てくるSSがないってのは激しく問題だよなw
132 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/19(月) 16:10:14 ID:MmkISj6v
700番台はいくらなんでも落ちすぎではないかと。
明日に投下
ちょっと長いかも
逃げたかと思った
>>134 僕たちが信じる心を失ってしまったから職人は消えてしまったんだよ!(安い映画オチ風味に)
つーか、たかが一ケ月程度投下が開いただけで逃げたとか言いだしたらこのスレの職人の何割が……ry
>>135 ピーターパンの妖精さんかよ。
あの話だと、皆が信じると誓えば復活したんだっけ。
>>137 信じると誓えば復活してくれるのかなぁ、こちむいさん……
>>137 狗国見聞録の人を信じているから(略
いや、本気で。
業務連絡:ヘビの人
避難所でお問い合わせが一件入っております。
見聞録は、あれで終わりならそれはそれで納得できるんだけど
どういう閉め方をするつもりだったのかが、凄く気になる。
文章の神様を信じると誓えば降りてきてくれるんだろうか……orz
>>141 脳内で勝手にその後の話を作り出して無理矢理ハッピーエンドにしている俺ガイル
いや、あれだけフラグ立てておいて
あの後バッドエンドと言われても納得いかんぞ俺はw
>>140>>144>>145 申し訳ないけど、そろそろ見聞録の話は避難所でやってもらえないでしょうか。
いくら過疎スレとはいえ、現役の職人が十人近くもいるスレでいつまでも過去の神職人の思い出にふけられては他の職人様が萎縮します。
まあ、職人が萎縮するかどうかはともかくとしても、このスレには他にもいいSSがたくさんあるのにもったいないよなぁとは思う。
個人的にはピューマの方が好きな俺ザンギエフ
カナリアの人に期待してる
目標よりかなり遅くなりましたが&エロ直前までですが、切りの良い所で投下。
登場人物の一人称&ザッピング形式なのは変わらず。
一人称ムズカシス(´・ω・`)
白羽パート
・・・・少々、しんどいですかね。やはり、陸の者は重たくていけませんね。
そんな事を考えながら、オスヒトの胴にまわした手に、更に力を入れました。
カエルでも踏み潰したような声が聞こえましたが、聞こえなかった事にいたしましょう。
意外と遠出していたのか、それとも余計な荷物で遅くなっているのか。
小一時間ほど飛び続けても、まだ里は見えてきません。
この状態だと、あんまり長くも飛べないんですけど・・・・。
姫様は、あまり外についてご存知では御座いませんし、
先に行かせて迷子にでもなられたら、それはそれで問題ですし・・・・。
私も、あまり長くは飛べそうにありませんし、里が近い事を祈るしかありませんでしょうか。
近くに里の者が出した船でもあれば、降りて休むのですが。
この時間では、あまり期待できそうにありませんね。
僅かに茜の色を見せ始めた空。もう半刻もすれば、一番星が出ることでしょう。
遠くに、微かな緑のきらめき。どうやら、それほど長く飛び続ける必要は無さそうです。
姫様パート
飛び続ける先に、里の景色が見えてきた。
午後の暮れかけた太陽の光を浴びて、きらきら輝く緑の葉。
他国には正確な場所が伝わっていない、らしい、伝説の木<金剛樹>。
「姫様、先に行っていただけますか?」
オスヒトを抱えて飛んでいる白羽が、アタシの後ろから声を掛けてきた。
平気そうな声を出してるけど、時々苦しそうな喘ぎを漏らしているのが聞こえる。
「どなたでも構いませんので、医師の手配を」
・・・・本気で、辛いみたいね。自分から『医師を』なんて言い出すの、初めて聞いたわ。
「それと、網の手配もお願い致します」
網? そんな物、何に使うのよ。
「落ち物回収班にそう伝えれば、それで判りますから」
へぇ、そんなのあるんだ。知らなかったわ。
背中の一対の翼と、半分翼になった腕をいっぱいに広げる。
白羽も辛そうだし、早いところ休めるようにしてあげなくっちゃね。
落ち物パート
高い、速い、目が回る。
ぎゅっと背中に押し付けられてる胸から、俺と比べると、かなり早い鼓動が伝わってくる。
短い会話の後、黄色い方がスピードを上げた。先に行くみたいだな。
会話の中身聞いてる余裕なんてないから、良くわからないけどさ。
俺を抱えて飛んでた白いのが、スピードを落としたらしい。
音を立てて顔に当たってきてた風の勢いが、だんだん弱くなる。
「大丈夫ですか? 寒くはありませんか?」
に、日本語、だよな? やっぱり。
「だ、大丈夫・・・・」
何とか声を振り絞って返事する。後ろで、白いのが大きくため息をついたのを感じた。
ぐっと力を込めて、俺を抱えなおす。
自分じゃ良く判らないけど、ずり落ちかけてたらしい。
・・・・あの、腹押されて苦しいんですけど。
いや、胸当たってんのは、結構気持ち良いんだけどな? ・・・・ノーブラ?
「前、見られますか? 進行方向、0時」
白いのにそう声を掛けられて、俺は伏せてた顔を上げた。
乗り物じゃないけど、乗り物酔いしそ。
水平線と空の間に、きらきら光る緑の何か。
「そろそろ、ヒトの方にも見えてくるかと存じますが」
どうやら、アレに向かってるらしい。
それから後の事は、ちょっと思い出したくも無い。
白羽パート
「前、見られますか? 進行方向、0時」
全力で、魔法も併用すれば10分弱、重い荷物を抱えた状態でも20分。
かなり里へ近づいた頃合を見計らって、オスヒトの方に声を掛けました。
里へ入ってしまえば、自力で空を飛べない方にはまず見る事の出来ない景色です。
多少は堪能していただかないと。
・・・・ろくに、あたりの景色を見る余裕も無さそうな青い顔ですが。
急いで、降りた方が良さそうですね。
・・・・あまり、気は進みませんが。
大きく息を吸い込んだのは、飛び続ける為ではなく音律を紡ぐ為。
本来なら、貴種である歌鳥族にのみ与えられた力を使う為。
音を外さぬよう、旋律を違えぬよう。
言霊を逸らさぬよう、咽喉を痛めぬよう。
戦鳥の血の濃い私には、本来使えるはずの無い物なのですから。
加速の、短い音律を紡ぎ始めてから数秒。
オスヒトを抱えたままの私の体は、音律の効力に拠って整えられた気流に乗り、一気に加速しました。
今日は、随分すんなりと、風の精霊も頼みを聞いてくれたようです。
海の上に広げられた白い網。
重い荷物を抱えて飛ぶ者の補助の為に用いられるそれを目指し、
私は翼を羽ばたかせ、さらに速度を上げる事にいたしました。
姫様パート
先に里へ戻って数分。ばたばたと慌しく走り回る人達の間で、アタシは放置されていた。
確かに、生きてる落ち物なんて滅多にあるもんじゃ無いけどさ。
仮にも、アタシは将来ここの支配者になるんですけどー。
・・・・まぁ、お説教されるよりはマシかなー、なんて思ったりもするけどさ・・・・。
港に降りて(いや半分落ちたみたいな感じだったけど!)白羽の言葉を皆に伝えて・・・・。
あれ? アタシ使いっパシリみたいになってない?
網を広げたり、船を出したりしてる皆の間で、アタシはぽつんと立ってるわけで。
普段はあんまり、こんな下まで降りて来ないから、大汗かいて走り回ってる戦鳥の男達のくちばしが、ちょっと新鮮。
戦鳥族も、思ってたより結構カラフルなのねー。
いつも見てるのはマダラの男達ばっかりだし、たまには下に降りてみるのも良いかもね。
ぼんやりそんな事を考えてると、ワーッと言う歓声と共に、大きな羽音と網が激しく揺れる音が聞こえてきた。
白羽が、たどり着いたみたい。
港にバラバラと出ていた船が、一斉にこっちに向かって動き出したのが見える。
「ちょっと通してねぇ〜」
たたんだ担架を二つまとめて、医師のイーシャが走ってきた。
鳥の隠れ里には珍しい異種族なのよね、この人。いや、猫なんだけどさ。
どう考えても怪しい偽名なのに、なぜか里の医療関係を一手に引き受けてる。
アタシの母様の時代からね。・・・・一体、幾つなんだろ、この人。
見た目だけなら、アタシや白羽よりも五、六歳くらい上に見える。
そうそう、一回言って見たかった言葉あるのよね。
行かなきゃ。
白羽パート
網にくるまれた状態のまま、と言うか、網に包まれてぶら下げられた状態で、港まで運ばれました。
・・・・他に手段は無いですし、自力で飛ぶだけの元気は無いので良いのですが・・・・。荷物扱いですか。
「ようこそ、金剛樹の里へ! って、白羽だったの?」
ええ、姫様。落ち物は向こうです。網の中で暴れております。
落ち物の方へ、ぱたぱたと走っていく姫様を見送りながら、私は大きなくしゃみを一つ。
いけませんね、長く空に居たせいで体が冷えて・・・・。
「大丈夫? シロちゃん」
そう声を掛けてきた医師どのに、片手を上げて反応。すいません、起き上がる元気も無いんです。
・・・・子供の頃の呼び名で呼ぶのは止めてください。
「シロちゃん、羽ちゃんと畳まないとひきずるよ〜」
やーめーてー。シロちゃんも、担架にうつ伏せに乗せた状態で、半開きの翼引き摺るのもやめてー。
ちょっと急いで無茶をしたせいで、節々が痛む翼を何とか畳み、担架の上に収めました。
落ち物の方も、網から解かれて担架の上に乗せられたようですね。
シロちゃんパート、ちょっぴり抜けた(´Д`;)
「はい、骨には異常無し! ゆっくりお風呂入って、マッサージしておけば大丈夫でしょ」
ぽん、と翼を叩かれて、痺れるような鈍い痛みが走りました。
思わず顔をしかめる私の様子には気も止めず、イーシャどのが落ち物に向き直ります。
「じゃ、次はこっちの子の健康診断ねぇ。はい、服脱いで〜」
イーシャどの、よだれ垂れてます。
「一応、姫様の持ち物なんで、滅多な事はしないで下さいね? 脅えさせたりとか、手を出したりとか」
一応、止めておきましたよ、私は。一応、ですけどね。
誰か、今の状況を説明してくれ。マジで。
イヤ、大体のところはわかってるんだけどさ。
道歩いてて気が付いたら、何でか知らんけど空飛んでたんだよな、最初。
んで、羽根生えた人間に空中でキャッチされて、抱えられて空飛んで・・・・。
鳥人間が張ってる網に突っ込んで、地面に下ろされて、担架で運ばれて・・・・。
何で、ネコミミ女に服引っぺがされてるんだ?
「健康診断なんだから、さっさと脱ぐのー!」
「だから、何なんだよお前は!」
何か俺、ぺたぺた触られまくりなんですけど。つーか、シャツ返して。
うぉ、聴診器冷てっ!
「ちょ、やめろって」
ふに。
のしかかってくるネコミミおねーさん、結構胸ありますね、じゃなくて!
パンツ下ろすな、パンツ!
下ろされないように、パンツを必死に引っ張り上げる俺。
ちゃき、じょきん、じょきん。
ハサミ・・・・。つか、なんでそこでにやっと笑ってますかおねーさん。
「では、いただきますにゃ〜」
大きくおねーさんが口を開けて、俺のナニを・・・・。
「はい、ストップ」
白い羽根の、さっきシロと呼ばれた少女が、
俺とおねーさんの間に手を突っ込んだ。助かった・・・・かな?
「これも健康診断の一環だってば」
「姫様の持ち物で、勝手に遊ばれるのは困るのですが」
ん? なんか雲行きが怪しくないか? 俺、物扱い?
「でもさ、この子、姫様の奴隷になるんでしょ? だったら、ちゃんと出来るかどうか調べておいた方が良くない?」
おい、そこで考え込むなよ。・・・・って、どれい? ドレイ? 土鈴? いや、奴隷か。
「まぁ、病気持ってたりしたら困りますしね。私は手を出しませんので、存分にどうぞ」
おぃぃ! そこで引っ込むなよ! 丸め込まれるなよ! つか、助けろよ!
「んじゃ、シロちゃんのお許しも出た事だし〜」
本気で楽しそうですね、おねーさん。
にじり寄ってくるネコミミ&白衣のおねーさんの前で、追い詰められた俺(全裸)は、壁に貼りつく以外出来なかったわけで。
・・・・俺、ピンチ。
今回の投下終了。
・・・・落ち物主人公、鳥じゃなくて猫のおねーさんに襲われてますが(´Д`;)
>>159 おおぅ、待ってました。
……って、いいところまできて寸止めでつか……orz
GJでつ。
お姫様カワユス。
>>159 ベネ!(良し)
白羽おねーさん、かわいいです。
姫さま影が薄いよ……
さて、こっちもそろそろ何か書かなきゃな……
スレ住人のニーズってシリアスだったりかっこよかったりするのと萌えパロとどっちの需要が多いんだろう。
ニーズというか、面白ければ何でもいいと思うけどねー
ただ、シリアスは文章力必須だし、文章力あってもいきなりやられると読むのが面倒なことも・・・
やっぱり基本は萌えエロで、そこを完璧に描けた自信ができてから、シリアスなり
ギャグなり考えればいいんでないかな。ご飯炊けないのに料理の技法読み漁っても仕方ないしね
キャラ萌えによって感情移入も容易になるし、そこがきちんと書けていればシリアスに
移行も読者にさせやすい。まずは(この板やスレでの)基本重視でいいんでないかな
きっちり基本の下地を作った後なら、あとはシリアスだろうがなんだろうが、
どんな展開でもあとは読者がついてきてくれると思うよ
>164
まず第一に自分が書きたいものをかくべきだと思う。
一応皆の掲示板だから、それなりに周囲を気を使うのも忘れてはならないと思うが。
最近、みんなエロに縛られているような気がする。
確かにエロパロ板だからエロは重要必須な要素だけど、きちんとメリハリをつけた方がいいと思う。
付け足し程度のエロを書くよりも、自分が書きたい事を丁寧に書いてから濃厚なエロ、とか。
俺は見聞録の人のSSを見てそう思った。
>ご飯炊けないのに料理の技法読み漁っても仕方ないしね
>エロに縛られているような気がする。
>きちんとメリハリをつけた方がいいと思う。
>付け足し程度のエロ
ぐさぐさぐさぐさっorz
……くそぉ、くじけないもんっ。
169 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/29(木) 08:31:51 ID:6pij8kEX
そして誰も投下しなくなった
170 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/30(金) 07:54:31 ID:RAC8zBSp
トンネルを抜けるとそこは
, '´  ̄ ̄ ` 、
i r-ー-┬-‐、i
| |,,_ _,{|
N| "゚'` {"゚`lリ や ら な い か ?
ト.i ,__''_ !
/i/ l\ ー .イ|、
,.、-  ̄/ | l  ̄ / | |` ┬-、
/ ヽ. / ト-` 、ノ- | l l ヽ.
/ ∨ l |! | `> | i
/ |`二^> l. | | <__,| |
_| |.|-< \ i / ,イ____!/ \
.| {.| ` - 、 ,.---ァ^! | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄l
__{ ___|└―ー/  ̄´ |ヽ |___ノ____________|
}/ -= ヽ__ - 'ヽ -‐ ,r'゙ l |
__f゙// ̄ ̄ _ -' |_____ ,. -  ̄ \____|
| | -  ̄ / | _ | ̄ ̄ ̄ ̄ / \  ̄|
___`\ __ / _l - ̄ l___ / , / ヽi___.|
 ̄ ̄ ̄ | _ 二 =〒  ̄ } ̄ / l | ! ̄ ̄|
_______l -ヾ ̄ l/ l| |___|
……何この流れorz
よくある事さ
恒例の住人発狂ですか
>>174 恒例にした覚えはねえw
それにしても、月末投下はやはり無理だったか俺。
投下予告なんてむやみにするもんじゃないなorz
……ところで、
>>11はどうした?
そういえばシュバルツカッツェの城下町って、ネコとヒト以外の獣っ子種族は時々いたりするんでしょうか。
なんか遅れに遅れてる次回投下分の舞台がネコの国になりそうなんでちょっと質問。
大都市にあこがれたり、お金を求めて出稼ぎに来た他種族がそれなりにいるのか、それともネコ以外はほとんどいないのか。
こちむい読む限りだと他種族はあんまりいなさそうだけど、ふつー世界一の大都会だったら、いろんな国から民族があふれこむような気もするし。
>>176 そうか、心の中にいるのか……
最近、みんな姿を見せないけど元気なのかなあ……って、そういえば。
>このスレッドを御覧のヒト召使い予備軍の皆様、このスレッドはこちらの世界との境界が、
>薄くなっている場所に立てられていますので、閲覧の際には充分ご注意ください。
>もしかしたら、ご主人様達の明日の御相手は、あなたかもしれませんよ?
((((;゚Д゚)))ガクガクブルブル
俺の予想によると、少なからぬ人数があっちの世界へ……
――もしかして、SS投下すればあっちの世界にいけるのか?
>>177 他の国から出稼ぎに来ているよーな奴は多いと思うのですが。
リレーなんかだと移民街みたいなものが描写されてますし。
>>178 試しに一本書いてみればいいのでは
保守
181 :
カモシカ担当:2006/07/04(火) 09:57:23 ID:o9HiPcRa
なんか現実逃避して「ビーチで水着で海水浴」な短篇書いてる俺ガイルin職場orz
>>181 ちょwww職場てあんたwwwww
GJ
>>181 スイカ割りのシーン入ってると嬉しいなぁ……
超ガンガレ
184 :
カモシカ担当:2006/07/04(火) 18:20:41 ID:ZyLqxZGf
周囲にはバレることなく無事帰宅w
現時点で全体の半分ぐらいまで。なるべく早く完成させて投下します。
まあもちつけ。
全裸で正座して待つんだ。服を畳んでおくのも忘れるな!
187 :
獅子国短編:2006/07/05(水) 19:15:44 ID:Xav58vGF
てなわけで、水着でビーチで海水浴な短編です。
まあ、あまり深いツッコミは入れないでくださいw
……あぢぃ。
目の前に広がるのは、雲ひとつない青空と、真っ白な砂浜、そして果てしなく続く海。
まさに絵に描いたような夏の海辺が、俺の目の前に広がっている。
向こうの方では、美女と美少女が三人、水着姿でスイカ割りに興じている……んだけど、こっちはとてもそんな元気はない。
なにしろ、こっちはフェイレンさんと二人だけでテントを張って、カマドを作って、その他もろもろの準備をしたわけだから、もうそれだけで疲れ果ててしまって、今は木陰でぐだっている。
……まあ、フェイレンさんは疲れるそぶりもなく海に潜って夜食の材料を集めてるみたいだけど。
そういうわけで、せっかくの海だというのに、俺は水着姿ではしゃいでる三人の女の子の姿を見ながら木陰でぼーっとしているわけだ。
「もーちょっと前、あと三歩!」
「少し右、うん、今度はちょっと回りすぎかな?」
赤いビキニ姿のご主人様と、パレオに白ビキニのサーシャさんが、目隠ししてるミコトちゃんに声をかけてる。
ミコトちゃんは白のワンピース。棒切れ……というかどう見ても木刀を大上段に振りかぶってスイカを探してる。
サーシャさんがネコの国で買ってきたものらしいけど、みんなよく似合ってる。
「あっ、ちょっと行き過ぎた、半歩さがって……うん、そこだよっ!」
ご主人さまの声にしたがって、思いっきり木刀を振り下ろす。
ほんの少しだけ木刀の軌道がそれたのか、スイカはうまく割れずに横に転がる。
「あ〜っ、惜っしい!」
「だいじょうぶよ、そんなに遠くじゃないから。左に向いて……うん、そのまま一歩前」
「こう……ですか?」
「そうそう、そこよ」
「……こんどは当たるかな……」
「ミコトちゃん、スイカをキョータくんの頭だと思って思いっきり振り下ろすんだよ」
……って、なに恐ろしいこと言ってますかご主人様は!
「そうそう。浮気がバレて土下座してるキョータくんだと思っちゃいなさい」
……サーシャさんまで!
「……わかりました」
って、その、ミコトちゃん……声が怖いよ……
「…………」
無言のまま、すぅと木刀を振り上げるミコトちゃん。
なんだか、真夏なのに寒気がするような殺意を感じるのは気のせいでしょうか。
「やあっ!」
気合一閃、まっすぐ振り下ろされた木刀は狙い違わずにスイカを粉砕した。
皮が割れ、真っ赤な果肉が散らばる。
……俺、きっと一生尻にしかれるんだろうな……
「キョータくん、ほらほら、一人でたそがれてないで」
木陰でぼーっとしてた俺に、サーシャさんが近寄ってくる。
いや、たそがれてるというより疲れてるんですけど……
「ほらぁ、そんなに拗ねないでよぉ」
そう言って、無理やり引きずり起こす。
案外というか、けっこう力があるというか、軽々と引き起こして……
むぎゅ。
背中に、やわらかいものが押し当てられる。
「って、なにやってるんですかサーシャさんっっ!」
「んふふ〜……キョータくんの背中って、案外たくましいんだ〜」
後ろから抱きしめてくるサーシャさん。
「ち、ちょっと、その……」
「あら、キョータくん照れてるの? かっわい〜♪」
じたばたする俺をあっさりと押さえつけて、すりすりとやってくるサーシャさん。
背中越しに、薄い布切れ一枚挟んだだけで豊満な胸が惜しげもなく押し付けられるというのは、そりゃあ確かに男としては嬉し……
「あら」
少し驚いたような声。そして、急に手が離れたと思ったら。
どげしっ。
視界の外から、ものすごい勢いで何かがぶつかってきた。
2、3メートルほど吹き飛ばされ、そのままごろごろと転がる。
「な、なに……?」
突然の衝撃にわけもわからず回りを見回す。
「キョータくん、ずいぶん楽しそーだったね」
ビキニ姿のまま、腰に手を当てて仁王立ちのご主人様。
怒った目つきで俺を見下ろしている。
「ふーん、キョータくんはおっきなおっぱいが好きなんだ」
「いや、その、コレは……」
「あらあら、ファリィったらやきもち?」
横から火に油を注ぐサーシャさん。
「サーシャっ! キョータくんはボクのものなんだから手を出さないでよっ!」
「あら、だってキョータくんが声をかけてきたのよ」
……って、なに根も葉もないことを言ってるんですか!
「ふーーん……」
怖い目つきで、こっちを見るご主人様。
「いや、その、それ嘘……」
「あら、さっきはあんなに喜んでたくせに」
「喜んでませんっ!」
「あら、今になってそんなこというんだ。ふーん……」
イジワルそうな目をこっちに向けるサーシャさん。
「嘘つきにはオシオキが必要ね、ファリィ」
いや、嘘ついてるのはサーシャさんじゃ……
「そーね。キョータくんには、もう一度ボクがビシっと鍛えなおす必要があるかも」
って、いきなり共闘しないでくださいっ!
「キョータくん。今からボクの修行にとことん付き合ってもらうからねっ」
「…………はぃ」
逆らったら何されるかわからない雰囲気で言われたら、黙って頷くしかなかったわけで。
「それじゃあ、今日は特別に、キョータくんに修行の中身を選ばせてあげる。次の三つから好きなものを選ぶこと」
「そりゃどうも」
どうせ、どれ選んでもロクなものじゃないくせに。
「じゃあ一番。あの島まで遠泳で往復」
「…………」
ご主人様が指差す先には、霞んで見える島のようなものが。
……あれ、片道10キロどころじゃないだろう……
つーか、あれってひょっとして蜃気楼じゃないのか?
「二番。あの松まで全力疾走で十往復」
「…………」
もしかして、あの爪楊枝より小さく見える樹のようなもののことでしょうか。
……片道……5キロくらい?
「三番。みんなで『びーちばれー』をしながら足腰を鍛える」
「……………………」
あの、ごしゅじんさま。
「さあ、どれでも好きなのを選んで」
「……つまり、ビーチバレーがしたかったんですね」
「なになに? ちゃんと何番か言って?」
「……さんばん」
小声でそう言うと、満面の笑みを浮かべるご主人様。
「ん〜、そっかそっか〜。キョータくんは、どうしてもボクと『びーちばれー』がしたくてしょうがないんだ〜」
……それ、ご主人様でしょ……
「仕方ないなぁ……じゃあ、特別にキョータくんのために、みんなで『びーちばれー』をしようじゃないかっ」
「……そいつぁどうも」
「よーしっ、みんな集まってーっ!」
すっかりご機嫌のご主人様。
ここで下手なことを言って蹴られるよりは、素直に言うことを聞いた方が言いと思った。
「よーしっ、じゃあいっくよーっ!」
元気一杯のご主人様。小さなビキニを着ただけの健康的な肢体が砂浜で跳ねる。
「そーれっ!」
ご主人様が打ったサーブを、サーシャさんがレシーブ。浮いたボールを、俺がアタック……
……しようとしたところを、俺より高く跳んだミコトちゃんがブロック。
落とされたボールを、サーシャさんがかろうじて拾う。ふらふらと上がったボールを、俺が一度拾い、こんどはサーシャさん。
ブロックするミコトちゃんの、そのさらに上から、強烈なスパイク。
レシーブしようとしたご主人様だけど、少しだけ届かない。
「やったやったぁ〜っ!」
一点取るたびに大はしゃぎのサーシャさん。他のみんなも、勝負とかは二の次で、みんなでわいわいと楽しんでいる。
まあ、俺も……ビーチバレーの点数より、目の前で跳ねる水着姿の方が気になるんだけど。
夏の日差しに照らされた肌と、きらめく汗。
時々、砂の入った水着を直したり。
ご主人様のそんな仕草に見とれていたら……
べちっ。
「〜〜〜〜〜っ……」
「キョータさん、試合中に不謹慎ですっ」
ミコトちゃんの全力サーブが顔面に叩きつけられた。
「ふぅっ、いい汗かいたね」
「そーだな」
修行とは名ばかりの楽しい時間を終えて、ご主人様が近づいてくる。
「まだまだ、日が暮れるまでは時間あるよね」
「そうだな」
太陽は、まだまだ高い。
「ねえねえ、海いこっ、海」
「わかった」
俺の手を引っ張って、海に駆け出すご主人様。
こんなにはしゃぐ姿は、道場ではほとんど見ない。
「サーシャーっ、ミコトちゃーんっ!」
「あーっ、きたきたーっ!」
「こっちです、おじょーさま!」
ビーチバレーが終わってからずっと海辺で水遊びしていた二人が、俺とご主人様を見つけて手を振っている。
そういえば、ミコトちゃんも、俺の前でこんな楽しそうな表情を見せるのは初めてかもしれない。
白いワンピースの水着がよく似合っている。
清楚で、かわいらしくて、いい感じだと思う。
……もちろん、こんなのは獅子の国じゃあ売ってない。ぜんぶ、サーシャさんが用意してくれたもの。
サーシャさんいわく、「キョータくんがドキドキして眠れなくなるようなのばかり買ってきたから♪」とのこと。
……ちくしょう、悔しいけどストライクゾーンど真ん中です、全部。
火照った身体に、波が気持ちいい。
ばしゃばしゃと水を掛け合ってはしゃぎながら、四人で時間を忘れて戯れる。
「あははっ、ミコトちゃんつかまえたーっ!」
うしろからミコトちゃんを羽交い絞めにするサーシャさん。
「よーしっ、標的ミコトちゃん、攻撃かいしーっ!」
羽交い絞めにしたミコトちゃんに海水をかけるご主人様。
「きゃあっ! もおっ、二人がかりなんて卑怯ですっ!」
「三人だぞ、ミコトちゃん」
横から、一緒になって水をかける。
「あぁっ、キョータさんまで! っっ、ずるいですぅ!」
「捕まっちゃうほーが悪いのよっ♪」
「そんなぁ、あぁん、みんなキライですーっ!」
じたばたしながら叫ぶミコトちゃん。
「じゃあ、突然だけど標的へんこうっ!」
「うわっ!」
うしろから、俺に飛びついてきたご主人様。
「ごめんねミコトちゃん。仕返しはこいつにしていいから」
「って、何で俺が!」
羽交い絞めにされたまま、後ろに叫ぶ。
「あらあら、だってか弱い女の子を助けもしないで一緒にいじめたんだから当然よね〜♪」
「って、サーシャさ……んわぷっ!」
「さっきの仕返しですっ!」
こんどは、ミコトちゃんとサーシャさんが二人がかりで海水をかけてくる。
「っぷっ……って、元はといえばっ!」
「きゃあっ!」
羽交い絞めにしているご主人様の腕を無理やり振りほどいて、逆に後ろから押さえつける。
「あーっ、そんなのヒドイぞぉっ!」
じたばたと暴れるご主人様。
「あら、最初に水をかけたのはファリィじゃない」
「そーですぅ」
「って、みんなズルいーっ! あっ、こら、ヘンなところさわるなーっ!」
他には誰もいない砂浜に、嬌声と笑い声が響いていた。
「今日は大漁だったぞっ!」
夕暮れ。
さすがに遊びつかれた俺たちのところに、フェイレンさんが戻ってきた。
素もぐりが好きなフェイレンさんは、一人で海に潜って、貝から蟹から、魚にイカになにやら地球では見たこともない生物まで、いろんなものを捕まえてきていた。
「この辺は潜ればいろんなものが採れるからなあ。」
「こういうのは、俺はこのまま焼くのが一番好きなんだけど、まあヒトのキョータくんやミコトちゃんもいるし、タレもいろいろと」
「あーっ、これボク好き!」
「ファリィ……子供じゃないんだからそんなに慌てるなって」
「む゙ぅ〜……フェイレンのいじわる」
夕闇が迫る中で、まあそんな感じでみんなでわいわいと騒ぎながら、魚をさばいたり串に通して火にかけたり。
海といえばやっぱりこうだよなと思う。
「ん〜っ、おいしいっ!」
焼きたての魚をほおばるサーシャさん。
「…………」
その向こうで、焼き蟹の殻を必死になって剥いているご主人様。
フェイレンさんが見かねて声をかけてるけど、半ば意固地になって蟹と格闘している様が妙に可笑しい。
俺の横では、海水で茹でた蛸の切り身を切り分けているミコトちゃん。
「キョータさん」
「ん?」
とつぜん、俺のほうを向いたミコトちゃんと目が合う。
「目を閉じて、口を開けてくれますか」
「えっ……こう?」
はむっ。
「え?」
「うふふ……おいしいでしょ」
蛸の切り身らしい。
「ああ、おいしいな」
「ふふ……」
「あーっ、そこ、何二人だけの世界つくってんのよおっ!」
ご主人様の怒ったような声。さっきまで格闘していた蟹をフェイレンに押し付けて跳びかかってくる。
「って、待て、火の側で、こら、あぶないって!」
「キョータくんが悪いっ!」
「あらあら、ファリィったらやきもちさんねぇ」
「キョータくんのばかーーーーっ!!」
で、いつものようにやきもちを焼いたご主人様にもみくちゃにされたりして。
夜。
大きな月が、浜辺を照らす。
みんなはさすがに疲れたらしく、ぐっすりと眠っている。
俺?
まあ、俺は……みんなが寝ているところからは少し離れた岩陰に来てる。
「きれーな月だね、キョータくん」
「そうだな」
俺の横には、ご主人様。
波の音が、夜の海から聞こえてくる。
「楽しかった?」
「ああ」
「ボクも。久しぶりに思いっきり遊んじゃった」
「よかったな」
「うん」
予定では修行の海合宿だったんじゃないかということは言わないでおこう。
「ボクの水着、似合ってた?」
「ああ。思わず見とれてた」
「ほんと?」
「本当」
「ボク、こんなの着るの初めてだったし、ちょっとドキドキしてたんだ」
「可愛かったぞ」
「そっかぁ……」
肩にしなだれかかってくるご主人様。
「ねえ、キョータくん」
「ん?」
「大好き」
そう言って、首に手を回して抱きついてくる。
そのまま、砂浜に倒れこむ。
砂浜の上で抱き合い、唇を重ねる。
やわらかい肌のぬくもりと、ひんやりとした海風が素肌を撫でる。
舌を絡ませ、そしてしばらくしてからどちらからともなく唇を離す。
「……みんなにバレないうちに、早くかえらなきゃね」
月明かりに照らされたご主人様の声。
「だけど、もう少しだけいいだろ?」
「そうだね」
そう言って、また肌を重ねあう。
抱き合いながら、ご主人様の赤いビキニの結び目を解く。
「あ……」
それに気付くご主人様。だけど、されるがままにしている。
「キョータくんのヘンタイ……」
「お互い様だろ」
言いながら、そっとご主人様のブラをはずす。
「……こんなところだと、ドキドキするね」
「悪くはないだろ」
「……バカ」
続けて、下の結び目も。
二枚の布切れを外し、ご主人様の裸体を月明かりに照らす。
「……誰も……見てないよね」
「見てないっぽい」
「……キョータくん」
「なに?」
「いっぱい、して」
そう言って、砂浜に裸身を横たえ、そっと目を閉じるご主人様。
月明かりと波の音と風の音。そして砂の感触。
かすかな背徳感とそれより少し強い胸の高ぶり。
優しく腕に抱えると、恥ずかしそうに顔を背けながら俺に身を委ねるご主人様。
あの月があと少し傾くくらいまでは、ここにいてもいいだろうと思った。
なんか寸止めみたいな気もするんだけど、とりあえずここまでです。
まあ、夏恒例の季節ネタってことで。
追伸
本編のほうは遅れに遅れまくっておりますorz
フライング夏休みネタgj!
続きを!
ぜひとも続きを!
できれば3ピーで!
そろそろ圧縮がきそうだけど、このスレは大丈夫だよな?
保守
一時は毎週のように新作があったのに、今や保守されなきゃならないほど職人が減ったのか(´・ω・`)
圧縮近いから保守が多めなんじゃないか?
このところ、圧縮直前の状態がずっと続いてるからな
圧縮落ちは回避したのか。
あとはなんというか、新作マダー?(AA略
エロ直前まできた
今月中にいけるかな?
203 :
虎の子:2006/07/14(金) 00:52:16 ID:8YAmoWtw
空気を読まずに投下します。
エロなしで無駄に長いですが、暇つぶしになってくれたら幸いです。
204 :
虎の子:2006/07/14(金) 00:52:50 ID:8YAmoWtw
「いたた――」
体の節々に痛みを感じながら身を起こすと、視界がぼやけていた。
一瞬涙のせいかと思ったが、眼鏡を取り落としていた事に気付いて慌ててあたりを手で探る。
よく眼鏡を取り落とすため、眼鏡の探索スキルについてはちょっと自信があったりするのだが、眼鏡を落とさないスキルは皆無なためあまり意味がない。
そうやって、手探りであたりを探っていると何か柔らかい物に触れた。
しかもそれは柔らかいだけではなく、ちょうど人肌ぐらいの温かさだった。
「……………これはセクハラと判断していいのかな」
「ふへぇっ!?」
突然その何かが声を発した。
ちょうど反対側の指先に触れた眼鏡を急いで掛ける。
ぼやけていた視界のピントが合い、周囲の風景がハッキリ見える。
(うわ、綺麗な子)
今の状態を理解するよりも何よりも、そんな感想が先に出た。
絹のような黒髪に中性的な美貌、非常に珍しく神秘的な紅色の瞳は今にも吸い込まれそうだ。
多分男だと思うが、この場合性別に関係なく男女両方にもてることだろう。
「………どこか頭でも打ったんなら別だけど、そうじゃないならどいてくれない。重いんだけど――」
そう言われて初めて自分の腕が、その少年の胸をまさぐっている事に気付いた。
しかも自分は少年に馬乗りになっており、他人から見れば下に敷いた少年を強姦してるように見える可能性がある。
205 :
虎の子:2006/07/14(金) 00:54:31 ID:8YAmoWtw
「す、すいませんっ!!」
慌てて飛び退くと、散乱した本に足を捕らえそのまま仰向けに引っ繰り返ってしまう。
鈍い音と共に後頭部と床板が接吻し頭に鈍痛が来る。
「…………大丈夫?」
「は、はい、ありがとうございます」
少年の手に助けられ身を起こすが、その視線には心配の代わりに呆れが含まれていた。
確かにネコの癖にこれだけ運動神経が断絶している自分は呆れられても仕方ないだろう。
「でも、何でこんな事に――」
確か自分は研究に必要な資料を運んでいる途中で階段で足を踏み外したはずだ。
そこからこの状況になったという事は、転げ落ちた時にこの子を巻き込んだのだろう。
「あの、すいません。ご迷惑おかけして―――」
謝罪の言葉を口にしようとした時、奇妙な点に気付いた。
少年の頭に耳がないのだ。
他にも鱗やヒレ、はたまた尻尾に体毛なども皆無で、知っている限りどの種族にも当て嵌まらない。
つまり、この世界に居ない生物――
そこまで考えてから、ようやく目の前の少年がヒトだという事が分かった。
異界からやって来た異邦人でこの世界のほとんどの種族より脆弱な生物であり、貴族や富豪の愛玩動物として扱われる存在――
そして、そんな存在が国家機密レベルの研究所にいる事の異常さに気付く。
「な、何でこんな所にヒトが―――」
「怪しい物じゃないよ。お姉ちゃん」
警戒する少女に対してセリスは優しい笑みを浮かべる。
無垢を純粋培養したような笑みだが、彼の主や彼をよく知っている者が見たら後退るような笑みだ。
「そ、そんな事言ったって信じられませんっ!!」
「…………僕と戦う気?」
セリスが何をどう勘違いしたのか本を構える少女に苦笑を向ける。
まあ、声は勇ましいと言う単語の端に引っ掛かる程度の物だが、拾い上げた本を全面に突き出し、へっぴり腰で構える様子は威圧感より笑気を相手に与える姿だ。
何やら秘伝の本を使った秘拳やら出来るのなら話は別だが―――
206 :
虎の子:2006/07/14(金) 00:55:30 ID:8YAmoWtw
「いや、止めといた方がいいと思うけど」
「わ、私だってネコです。身体能力でヒトに負ける訳ありません」
止めると言うより発破を掛ける意味合いで呟かれた言葉に少女は乗ってきた。
少女が動くために一歩後退する。
ずる、
「へっ!?」
散らばった本の一冊を踏みつけてしまい、そのままバランスを崩す。
「や、へ、ああっ!!」
何とかバランスを取ろうと体を振るが、他人が見ると変な踊りを踊っているようにしか見えない。
その努力のかいもなく、少女は仰向けに引っ繰り返る。
「ふぎゃあっ!!」
再び後頭部と床板が接吻、目の前に火花が散る。
ごんっっ、、、
さらに手から吹き飛んだ本が眉間に直撃する。
「……………」
痛みに身悶える少女にさすがのセリスも言葉がない。
頭の冷静な部分で運動音痴は種族の垣根を越えるんだなと、妙な納得をしていた。
しかし、さすがはと言うべきかセリスは珍奇な生物の観察を数秒で切り上げると、無言で少女に近づく。
そして少女の横まで来るとそっと腰を下ろす。
少女の胸の上へ―――
207 :
虎の子:2006/07/14(金) 00:56:04 ID:8YAmoWtw
「ふ、ぐう゛っ!!」
当然セリスの体重に肺を圧迫されて、強制的に息を吐き出される。
「あー、事情を説明しようと思うから黙ってくれないかな?」
セリスは胸の上で腰を揺らし押しのけようとする腕を巧みにかわし、そう提案した。
「ど…………どいてください。お、重い。ふぎぃっ!!」
「駄目だよ。人の話は聞かないと――黙ってくれるよね?」
にこやかな笑顔のまま小さき魔王は少女の肺に体重を掛けていく。
足を真っ直ぐ伸ばし臀部に重量が集中するように体を操ると、少女はことさらに苦しげに呻いた。
「………わ、分かりましたから、ど、どいてくださいっ!!」
「何がどう分かったのかな〜?」
にこやかな表情のまま加虐的に体重を掛けていくセリス、どうやら先程の階段落ちを根に持っているらしく意外としつこい。
「黙りますっ!! 黙りますからっ!! ふぎぃっ!!」
半泣きで叫ぶ少女から反動を付けてセリスは颯爽と身を起こす。
「で、話なんだけど――」
未だ床で呻く少女にセリスは事情を話し出そうとした時、ふとある事に気付いた
「そう言えば、お姉ちゃんの名前はなんて言うの?」
「エ、エリス………エリス・ウィリエムです」
特に深い意味があった訳でも、聞きたかった訳でもないが何となく聞いてみたセリスに少女エリスはか細い声で答える。
いくら上に乗られたからと言って、この程度で満身創痍になるのはネコとして問題があるのではないのだろうかとセリスは柄にもなくそう思った。
208 :
虎の子:2006/07/14(金) 00:56:51 ID:8YAmoWtw
「そうだったんですか――」
一通りの事情を聞き終えたエリスが本を持ちながら前を歩く。
同じく本を持ってているセリスは彼女の後ろを歩いている。
エリスが転んで本をぶちまけた時に被害を最小限に食い止めるための処置だ。
「そう言えばさっきから妙に思っていたんだけど、何で国家機密クラスの研究所に他種族のイヌやネコがいるの?」
「あ、それはここで発見される。遺失物はこの国の技術力で解析出来ないからなんです。虎の技術はあまり高くありませんから、す、すいません」
説明の途中でその虎の貴族に派遣されたセリスの事を思い出し急いで頭を下げるが、運動音痴のエリスがそんな動きをすれば持った本が危なげに揺れるのは当然だ。
「それはいいから、可能な限り変な動きはしないで危ないから―――」
エリスから適度な距離を取って構えるのは、柄にもなくさっきの階段落ちの事を警戒しているからだ。
「だけど、そう言う事ならお姉ちゃんも遺失物の解析してるの?」
「うっ!!」
そのセリスの一言にエリスの肩がビクリと震える。
「どうしたの、お姉ちゃん?」
「…………その、あの」
「そうだよね。他国から呼ばれるぐらい優秀なんだから、それぐらい当然だよね」
「え、えと――」
まるで身を切り裂かれているかのように体を震わせるエリスに、セリスはにこにこ言葉を続ける。
209 :
虎の子:2006/07/14(金) 00:57:27 ID:8YAmoWtw
「そう言えばさっき所長から聞いてね。ネコの研究員の一人が関係ない研究ばっかりしていてプロジェクトから外されたんだって、全く笑っちゃうよね」
「ううっ」
血反吐を吐いた末期の病人のようにエリスの顔色は悪い。
「本当、どんな人なんだろう。その間抜け面を一度見てみたい物だね。そう思うでしょう。エリスお姉ちゃん」
プロジェクトから外された間抜けな少女の背後を歩きながらセリスは笑う。
エリスの背にグサグサと矢が刺さっているように見えるのは一概に幻覚とは言えないだろう。
「……………あの、それ実は私なんです」
「え、何か言った?」
血を吐くような思いで告白したエリスにセリスは笑顔で問い返す。
そのあまりにも無邪気な笑顔は、ネコの少女をさらに追いつめる。
「…………え…と……その………」
「まさか、お姉ちゃんがそうだったりして―――って、そんなわけないかお姉ちゃん優秀そうだしね」
「がっ!?」
心筋梗塞の患者の如く心臓の辺りを握りしめるエリスに、セリスは標本にされる昆虫の断末の痙攣を見るような微笑みを向ける。
セリスは当然、エリス・ウィリエムが遺失物の解析プロジェクトから外されているのは知っている。
詳しくは聞かなかったが、他の研究員全員と意見が分かれてほとんど村八分の状態らしい。
それを踏まえてワザと嬲っているのだ。
他人の心の傷を抉るのもセリスの趣味の一つであり、一種の健康法だ。
特にストレスの発散にはちょうどいい。
彼がエリスの後ろで荷物持ちをしているのも、彼女の部屋までついて行き研究を見せて貰うためだ。
無論、無邪気を装ってなじってけなすためである。
そんなセリスの素敵な企みを知らないエリスは、ふらふらと幽鬼のような足取りでセリスを連れて行く。
210 :
虎の子:2006/07/14(金) 00:58:46 ID:8YAmoWtw
ここはどこだ?
冗談でも洒落でもなく、セリスは本気でそう思った。
いや、ここは虎の国の王立研究所のはずだ。
そうでなければおかしい。
しかし、その現実が受け入れられない。
第二十七号研究室と書かれた色あせたプレートが付けられた扉の先にあったのは、異世界だった。
まず最初に目にはいるのはそこら中に散らばった紙だ。
真っ直ぐな物や、丸められている物、しわくちゃな物や色あせている物など状態も様々で、よくよく見てみると細かい文字がびっしり書かれていたり、赤線が引かれていたりする事から何かの書類だという事が分かる。
それらが机と言わず床と言わず散らばっているのだ。
さらに書類と同じくらいの頻度で本も散乱しており、あちこちのページに付箋が付いていたり開いてたりする物があるし、何かの実験器具らしい奇妙なオブジュもあちこちに散乱していた。
と、ここまでなちょっとずぼらな研究員の部屋で通っただろうが、問題はその後だ。
明らかに使用後と分かる衣類があちこちに脱ぎ散らかしてあり、脱衣籠らしい物に入っている衣服も山積みになっている。
元食べかけのハンバーガーや、ホットドックに飲みかけのコーラらしき残骸が変色して変な匂いを発しているし、しかも器や包装紙から溢れたそれが辺り構わず変なシミとかを作っている。
壁にある断末魔の絶叫を刻み込んだ亡者の表情みたいな紋様は間違いなくカビだ。
と言うかこのネコの少女が煙草を吸わないとすれば、部屋中の壁紙がうっすらと黄色く染まっているのは何故だろう。
部屋の隅のベットには、おそらくここ数年間は干してなさそうな微妙な湿り具合が遠目にも分かる程の布団が敷かれているのだ。
部屋の各所に配置されたゴミ箱は内容量をはるかに超えたゴミを詰め込まれ溢れかえっていて、おそらくゴミ袋らしき黒い物体は袋のビニールが破れてそこから変な汁が出ている。
それらの発する匂いが一体となり、表現不可能な臭気が鼻の粘膜を刺激する。
蛆虫が湧いた腐乱死体の山だろうが、戦乱の後に残る体温を残した死体に満たされた荒野だろうが平然と歩けるセリスだが、この部屋に入るには少し覚悟が必要だった。
肉体の腐乱臭や、血臭にも慣れているセリスだがこの部屋の匂いはそう言う物とはベクトルが全く違う。
何か変な物が発酵したような匂いなど初めて嗅いだ。
(生き物が住む部屋じゃないだろう。これ―――)
肉体がとろけはじめたゾンビだって、もっとマシな部屋にすんでいるだろう。
211 :
虎の子:2006/07/14(金) 00:59:16 ID:8YAmoWtw
「ええと、ちょっと散らかってますが大丈夫です」
恥ずかしそうに顔を伏せるエリスであるが、そんな保証をされてどこの誰が安心出来るというのだろう。
しかし、こんな部屋に住めるこの少女の感性に微妙な興味を覚えなかったと言えば嘘になる。
「で、お姉ちゃんの研究って何なの?」
「は、はい。今出しますっ!!」
普段誰にも相手にされないせいか、エリスは多少興奮しながら発掘を開始した。
比喩でも何でもなく、そこら中に散らばった書類の中から数枚の必要な物だけ選別する作業は正に発掘作業を彷彿させる。
「こ、これです」
如何なる魔法を用いたのか僅か数十秒で膨大な紙の中から、目的の物を見つけ出す手際は正に神業と言っても過言ではあるまい。
書類に変なシミが付いていたり、しわくちゃになっていたりしなければ、セリスも賛辞の言葉の一つぐらい口にしただろう。
「えーと」
変な汚れに指が触れないように細心の注意を払いながらぱらぱらと目を通していく。
並の汚毒には無縁な体ではあるが、精神的にいやな物があるのだ。
212 :
虎の子:2006/07/14(金) 01:01:07 ID:8YAmoWtw
「…………これって本気なの?」
全ての紙片に目を通したセリスがエリスに向けたのは冷ややかな視線だった。
「は、はい」
どこか緊張した面持ち頷くエリスに視線の温度はさらに下がる。
「君はこんな戯れ言を考えている訳、これは理論じゃなくて空想だ。まともな発想じゃないね」
「そ、そんなの分かっています。で、でも出来るはずなんですっ!!」
そこまで言って声を荒げた事を恥じ入ったのか、音量が一気に低くなる。
「理論は完成しているんです。実践すれば必ず成功するはずです」
「実践すれば? 一体何を根拠にそんな事を言うのさ」
もはやセリスの視線は侮蔑と言っていいレベルまで冷え切っていえるが、エリスの言葉は止まらない。
「この国で発掘される遺失物にはのいくつかには、これと似たような技術が使われているはずなんです。他の人は遺失魔法や使用可能な物の研究しかしていませんけど―――」
ダンジョンで発掘される物品の約半分が用途効果とも不明の物品なのである。
そのうち実際に使用出来るのは一割で、原理が解明されているのはさらその一分がいい所だ。
つまり、発掘される品のほぼ全ては使用も解析も出来ないただのゴミなのである。
セリスの手の中にある書類は、そのゴミについての考察と仮説が書かれていた。
「だからそれが? こんな物は夢想の極致だよ。無駄で無意味な愚かな戯れ言だね」
ボンッ、、、
セリスの手にあった紙束が呆気なく燃え尽きる。
エリスがなりする間もなく、彼女の研究成果は灰も残さず消え去った。
「―――な、何するんですかっ!?」
「燃えるゴミを始末しただけだよ。ゴミはゴミらしく燃やすべきでしょう?」
突然の仕打ちに非難の声を上げるエリスだが、幼き奴隷の眼差しは冷ややかだ。
「ま、君が何の研究をしようと勝手だけど、そんなくだらない事を「くだらなくなんてありません」
背を向けて去ろうとするセリス嘲罵の言葉は少女に遮られた。
当然と言えば当然だが、エリスはその小さな体を怒りに震わせセリスを睨み付けている。
「私はこの研究をくだらないなんて思った事は一度もありません。誰も信じてくれませんけど、絶対正しいはずなんですっ!!」
「正しい、実証も証明も出来ない理論の何が正しいというのさ? そんなのはまともな科学者の言葉とは思えないね」
唯一これだけは譲れないとばかりに叫ぶ少女にセリスは嘲笑を向ける。
213 :
虎の子:2006/07/14(金) 01:01:36 ID:8YAmoWtw
「科学者は理論と実績と実証に裏打ちされた事実を積み重ねて行く物だよ。君のは単なる妄想、何の裏打ちもないじゃないか―――」
実績もなく実証も出来ない理論など絵に描いた餅も同然だ。
そんな物は構築するだけ無駄な欠陥品に近い。
そんな理論一つ組み立てている暇があるのなら、使える遺失物を解析してデータを取った方が遙かに生産的だ。
「た、確かにそうですけど、だったら確かめればいいだけです。そうじゃないと証明されてもいないのに、出来ないと決めつけるのは早計ですっ!!」
おおよそ虫けらを見下すようなセリスの視線に、エリスは一歩も引かず熱弁を振るう。
彼女の言う通り、出来ると証明されなくても、出来ないと証明されない限り完全な不可能とは言えないのだから、その言葉は正しい。
「不可能の証明が出来ないからと言って可能って訳じゃないでしょう。そんなのは子供の屁理屈だよ。自らの理論を語るなら他人を納得させるだけの根拠を示しなよ。それがないなら、そんな物を他人に語る資格はないね」
「そ、それは―――」
人が個人でどう思おうがそれは本人の自由であり、それを邪魔する権利は誰にもない。
だが、その考えを人に押し付ける権利も誰にもない。
他者に自分の主張を認めさせたいならば実証と証明により相手を納得させ、心変わりさせるしかないのだ。
「で、もう一度聞くよ。君は本気でこんな物を信じているの?」
そう言ったセリスの表情は今までと寸分違わぬ物だったが、彼の主辺りが見れば微妙な違和感に気付いたかもしれない。
「……………」
返事はすぐには返ってこなかった。
正論によってなじられ、嘲笑され、侮蔑され、罵倒された少女はその身を小さくして震わせている。
もしも、セリスに相手を貶めて優越感に浸るという意図でもあったのならまだマシだっただろうが、彼は淡々と事実を突き付けエリスを科学者ではないと言い切ったのだ。
そして、エリスはそれを反する言葉を持っていない。
それは論理を語る物としての敗北だ。
彼女も自分の言っている事がどれだけ愚かな事か理解はしているのだろう。
しかし、引き下がりはしなかった。
涙を溜めた瞳で決然とセリスを睨み口を動かす。
214 :
虎の子:2006/07/14(金) 01:02:10 ID:8YAmoWtw
「―――分かっています。私のしてる事が誰かに認められるもじゃないって事ぐらい。だけど、止める気はありません。どんな夢物語でも、それを不可能と証明した人は有史以来誰もいません」
言ってからエリスは後悔した。
結局、自分で自らの理論がどれだけ穴だらけか告白してしまったのだ。
目の前の少年も冷笑を浮かべる事だろう。
今まで彼女を嘲り続けた大多数の者達と同じように―――
「…………試してみる?」
だからそう言われた時、すぐに意味が分からなかった。
「…………え?」
「だから、試して見るかって聞いたんだよ。君の考えを、欲しい物は何だって用意するよ。材料、道具、人員、資料、予算、欲しいだけ準備してあげるよ」
煽るように、試すかのように呟くセリスの様子はまるで契約を持ちかける悪魔のようだった。
そしてエリスがその提案を理解するためには数秒の間を要した。
「な、何でそんな事してくれるんですか?」
「そんな事を聞いてる場合かな? これはチャンスなんだよ。これを逃せばおそらくその研究は永遠に日の目を見る事はないだろうね。僕が何を考えていようと、気が変わらないうちに返事した方がいいと思うけど―――」
喜びよりも驚愕よりもまずは疑問が前に出た少女にセリスはにっこりと微笑む。
確かに彼の言う通り、これはまたとないチャンスだろう。
どのような目論見があるか知らないが、彼は自分が活躍する場を提供してくれると言っているのだ。
エリスの心は揺れた。
誰も見向きもしなかった、誰も認めなかった自らの考えを誰かが認めてくれるかもしれない。
そして、この機会を逃せばもうあり得ない事だろう。
「だけど、もしも君の理論が間違っていたならそれ相応の責任は取って貰うけどね」
優しい笑顔のままさらりと怖い事を言うが、エリスはほとんど迷わなかった。
いや、答えは最初から決まっていたと言っても過言ではないだろう。
「―――やらせてください」
気付いた時にはそう言っていた。
215 :
虎の子:2006/07/14(金) 01:09:10 ID:8YAmoWtw
「一体どういう事ですかっ!?」
「いきなり来て、そう言われても即答しかねるのですが、僕が何かお気に障るような事でもしましたか?」
翌日、研究所の資料室で本を読んでいたセリスは、肩を怒らせてやって来たイヌの少女に困惑した表情を向けた。
「どうして、私達があの子と同じ課題をこなして比べられなければいけないんですかっ!?」
「ああ、その事ですか――」
その叫びにセリスはようやく合点がいったという風に頷いた。
「実は我が主の命令でしてね。実際にどの程度の実力があるか確かめろと言われたので、手っ取り早く課題を出して皆さんの実力を推し量ろうとしているだけですよ」
「……………それは分かりますが、だったらなぜあのネコと競わなくてはならないんですか?」
ウィネッサは何かを探るような眼差しをしていたが、セリスはあえて気付かないふりをした。
「何、ちょっとした余興ですよ。彼女にはあなた達より成果が劣っていたら、この研究所を止めて貰う事になっているんですよ。何せ、意味不明な研究をやっているかたですし、所長も頭を痛めていたようですのでちょうど良い機会だと思いましてね」
まるで企みなど欠片もないという表情でセリスは続ける。
「それにあなた方に多少の箔も付くでしょう。研究所の中でも特に優秀な研究者として―――」
と、そこまで言ってからセリスは唐突に気付いたように瞳を鋭くした。
「まさかと思いますが、あなた達が彼女より劣っているという事はありませんよね?」
「当然ですっ!!」
「………それならいいのですが――」
断言する少女にセリスは多少不安げな眼差しを向けながら口をつぐんだ。
「ネコの方と同列視されたくないという、あなたのお気持ちも分からない訳ではないんですが、何分主の命令ですし、我が主はお世辞にも専門知識に熟達しているとは言えないので、資料を提出するより具体的な成果を出して頂く方が理解しやすいんですよ」
多少の苦労をにじませながら、幼き奴隷は軽く嘆息する。
「その際に相対的に比べる物があれば、尚のこといいと思いまして―――」
「………分かりました。そう言う理由なら仕方ありません」
一応了承してはいるが、その様子は欠片も納得していないように見える。
もっともな事だが、誰だって見下している相手と同列に扱われるのはいやだろう。
プライドの高い彼女なら、尚のこと許せまい。
(ま、それだけってわけじゃないだろうけど―――)
自らの内心を悟られぬように沈痛な表情を浮かべながら、セリスはイヌの少女を見送った。
「………果たして類い希なる愚か者か、至上の才を持つ者か――」
そう呟くセリスの視線の先にあったのは、先日彼が燃やしたはずの書類の束だった。
216 :
虎の子:2006/07/14(金) 01:09:59 ID:8YAmoWtw
「…………あいつ、まだ帰ってないの?」
「何だ突然―――」
資料を見ながら課題をこなしていたシルスはミリアの言葉に手を止める。
ちなみに、彼が手がけている課題は言葉を掛けた少女がやるべき物であった。
「セリスの奴が見あたらないんだけど――――」
「ああ、それならさっき電話があってしばらく帰れないらしいぞ」
電気磁気学についての論文に目を通していたマダラの青年は、しおりを挟んで本を閉じる。
「何でも、王都の研究所で科学者を選ぶのに手間取っているらしくてな」
「…………そう」
「…………ひょっとして寂しいのか?」
ゴスッ!!
何やら非常に不満げな表情をするので何となく聞いてみたが、返事は陶磁器の灰皿で眉間に命中、シルスはそのまま引っ繰り返る。
「誰がよっ!! あんな奴いなくなってせいせいしてるわ」
「そ、そうか――」
派手に出血する眉間を押さえてシルスは起きあがる。
如何に虎とはいえあまり失血すると本当に危ないので、即座に止血する。
ミリアと付き合う上で応急処置の技能は必須だ。
「そうよっ!! せっかくあいつがいないんだから、遊びまくってやるわっ!! もう課題なんか何一つとしてやらないわよっ!!」
「もしもし、すいませんが私の前にあるのは、あなたが押し付けた課題なんですが――――」
シルスがそう言い終わる頃には、ミリアは扉を閉めて部屋を出ていた。
「…………………はぁ」
色々な物を諦めるために溜息一つを吐き出し、シルスは再び本を開き幼なじみの課題に取り組みはじめる。
その背には若い見た目とは裏腹に、人生の疲れを知った者の哀愁が張り付いていた。
217 :
虎の子:2006/07/14(金) 01:11:10 ID:8YAmoWtw
「………………意外と時間が掛かったね」
切り立った岩山の断崖を見上げる位置に設けられた来賓席で、セリスは眠たげに呟く。
結局の所、セリスの王都滞在はおおよそ半月程まで伸びた。
ウィネッサとエリスの課題を評価とする決めた日に、シルスに連絡してしばらく留守にすると言付けておいたがそろそろ戻らなければなるまい。
おそらくミリアの方は課題が出されずにすむため狂喜しているだろうが、この後の事を考えればそれぐらい許してやろうという気持ちになる。
自分が帰ったら即座に一日を七十二時間としての勉強スケジュールを取り込まなくてはならないのだ。
せいぜい今の内に地獄の前の余暇を堪能していればいい。
主をからかえないのは多少残念だが、たまには我慢することももマンネリに陥らないためには必要だ。
「しかし、本当によろしかったんですか、このような無駄な事をして―――」
「まあ、仕方ないでしょう。この程度の経費は予定の内です」
真横で肥満体の体を椅子に押し込んでいる所長に適当に返し、セリスは眼前の様子に集中した。
この所長、余程セリスに良い印象を持って貰いたいのか、身分的には奴隷である彼に飲み物や菓子まで振る舞うのは勿論の事、あげくには知り合いが所有している人奴隷とお見合いしないかとまで進めてきたのだ。
初めのうちこそ丁寧に返していたセリスだが、いい加減にめんどくさくなったのでおざなりな対応を続けている。
思考の十億分の一程を所長への応対に振り分け、セリスはその目を細めた。
彼の視線の先にあるのは二つの巨大な鉄塊である。
片方には白衣を着た研究員らしき人影が機敏に動いており、おそらく所長の胴回りでも通りそうな金属の筒を中心に構成された、正に大砲という外見だ。
もう片方の方は白衣を着た人影は一つだけで、その影が他の作業服を着た影に指示をしている。
ちなみに後者の白衣を着ている人影は、先程まで何度も重そうな機器を運ぼうとして顔面から地面に突っ伏し、作業服を着た人達に説教されていた。
そちらの方も円筒形の筒が置かれていて、こちらは普通の大砲の大きさだが、周りに多種多様な装置やケーブルが設置され全体的な大きさはもう一方より大きいぐらいだ。
「しかし、結果の分かり切っている比較など見ていてもつまりませんな」
「………………結果が分かり切っていればですがね」
そう呟いたセリスの言葉は本人以外誰にも届かなかった。
218 :
虎の子:2006/07/14(金) 01:11:57 ID:8YAmoWtw
「一体どんな手を使ったのかしら?」
背後から掛けられた高圧的な声にエリスは肩を振るわせた。
そっと背後を振り向くと、そこには彼女の予想通りの人物が立っている。
「本当、時間の無駄だわ。私とあなたが比べられるなんて――」
あらか様に見下した口調で身長的にもエリスを見下ろすのはイヌの少女ウィネッサだった。
「あ、あの何のようですか?」
「別に用なんか無いわ。ただ、一体どうやってあなたがあの奴隷をたぶらかしたか興味があるだけよ」
侮蔑を乗せた攻撃的な眼差しを向けられ、エリスは無意識に萎縮してしまう。
「そ、そんな…………たぶらかすなんて―――」
「他に何があるのかしら? あなたのような変人をこの場に立たすなんてまともな事じゃないわ」
ネコの少女が強く反論しない事をいい事に、ウィネッサは言いたい放題である。
二人のこの関係は今に始まった事ではない。
事あるごとにウィネッサは愚かな理論を提唱する少女に絡み、その考えを批判していた。
そして罵倒し嘲弄し見下すのがウィネッサの役であり、罵倒され嘲弄され見下されるのがエリスの役目だった。
「まさか、体でも差し出したの?」
「なっ!?」
あまりと言えばあまりの侮辱であったが、結局エリスに出来た事など顔を真っ赤にして俯く事だけだ。
生来からの気の弱さも手伝ってか、エリスは自分を主張するという事が苦手だった。
余程の事がない限り相手の意見に反論したり、異議を申し立てる事はないのだ。
しかし、彼女には珍しくウィネッサの次の言葉には激烈に反応した。
「まあ、あなた見たいな幼児体型に欲情するなんて、あなたと同じくらいの変人なんでしょうね」
「セ、セリスさんは変人なんかじゃありませんっ!!」
全く持って予想していなかった突然の声に、さらに言葉を続けようとしたウィネッサの口が止まる。
「私の事は何と言われても我慢出来ますけど、セリスさんの事を悪く言うのは止めてくださいっ!!」
一気に言い切り、肩で息をする少女にウィネッサは一瞬呆気にとられたが、即座に元の余裕を取り戻す。
「あら、ひょっとしてあの奴隷の事が好きなの?」
「――――そ、そんな事ありませんっ!!」
否定する言葉は、しかし先程より顔に血液を集めていては説得力も欠片もない。
そんなエリスをイヌの少女は汚物でも見るような目つきで見下ろす。
「どうせ、あなたとあの奴隷はここでお別れよ。私が勝つんだから――――精々今の内に愛の告白でもしておいたほうがいいわよ」
「…………………」
捨て台詞を残して去っていくウィネッサの背を見送りながらエリスは拳を握りしめた。
219 :
虎の子:2006/07/14(金) 01:17:37 ID:8YAmoWtw
「いよいよ、始まるようですな」
「……………………………ええ、そうですね」
所長の話を聞き流すために、百万年後のニンニク相場に付いての考察を行っていたセリスが急いで意識を戻す。
彼らの眼前では、ウィネッサの班が装置の準備をしている。
今回セリスが彼女らに与えた課題は、『高威力の兵器の開発』だった。
運用や実用化は考えずに、ともかく威力さえあればいいという考えでやらせた課題だ。
この世界でもっとも攻撃力を持つ物と言ったら、『魔法』である。
大規模な戦略級の攻撃魔法は一発で千、万単位の虐殺を可能にし一気に戦況をひっくり返せる切り札とも言うべき物だ。
それに比べれば、重火器やましてや剣など比較するのもおこがましい程弱小だ。
まあ、剣の中には下手な魔法より威力のある魔剣などと言う例外もあるが一般的には魔法が最高の攻撃力を誇っている。
それが原因かどうかは知らないが、この世界での重火器の発達は遅れ気味だ。
大砲やガトリング砲が精々で、ミサイルなどは概念すら存在しないらしい。
小火器に関してはそれ以下だ。
この世界の種族は生命力が強く小口径の弾丸ではまず致命傷にならず、甲殻類型や爬虫類型の種族の中には、並の銃弾など弾き返す体皮を持っている種が居るし、高速移動が得意な種族になると下手な銃弾より早く動ける者もいる。
そのため戦争の主役は未だに剣と弓と魔法だ。
自らの身体能力をそのまま威力に反映させられる原始的な武器の方が、簡単に高い破壊力を出せるのだから、わざわざ複雑な小型火器の開発をする者が居る訳がない。
つまり、高威力の兵器となると必然的に大砲などの重火器を求める事になる。
「お、はじめるようですな」
ウィネッサがライトの点滅で発射の合図を送ってきたため、セリス達は耳当てを嵌めて待機する。
十数秒後、耳当てをしているのに関わらず爆音がセリス達の鼓膜を振るわせた。
ほぼ同時に威力を試すために置かれた壁に弾丸が命中する。
一つめの丸太を積み上げた木の壁は難なく破砕貫通し、二つめの分厚い鉄板製の壁も難なく突き破り、三つ目の積み上げられた土嚢が吹き飛ばされ、背後にそびえ立つ岩山に命中内部で爆発を起こした。
轟音と共に岩盤が崩れ落ち、岩肌を削り取る。
音が納まった時は、辺りに砂が舞い上がり砕け散り土砂となった岩が山となっていた。
「………………」
大音声から一気に静謐へ、誰も何も言わない。
「成る程、砲尾から砲口へかけて口径を小さくする事によって、銃身内の圧力を効率的に砲弾に伝えているようですね」
自らの見た光景と知識を照らし合わせ、セリスはすらすらと使われた理論を語る。
しかし、その表情はつまらない芸を見たように退屈そうな物だった。
「しかも、圧力を発生させるのに火薬ではなく、火の精霊石を使っているから、質量に対するエネルギー総量も大きい。砲弾に比重の重い金属を使いさらに炸裂弾にする事により破壊力を増している」
「よ、よくお解りで―――」
一人呟くセリスに所長が即座に追従の笑みを浮かべる。
物体の運動エネルギーは速度と質量が大きくなればなるほど増大し、その破壊力を増す。
同じ速度でも、木の弾より鉄の弾の砲が破壊力があるのは当然だ。
さらに砲弾を対象の内部で爆裂する炸裂弾にする事でもっと威力を上げている。
もっとも、あの程度の威力ならわざわざ重火器を用意するより、魔法を使用した方が運用的、戦略的に遙かに効率がいい。
その証拠にたった一発撃っただけで、砲身が熱で駄目になっている。
いくら耐熱構造と耐熱使用に加工した幼智賎無鋼を使っているとは言え、火の精霊石の熱量と衝撃には耐えられなかったらしい。
220 :
虎の子:2006/07/14(金) 01:18:21 ID:8YAmoWtw
「いや、実に素晴らしい威力ですね。これだけの威力の重火器はどこでも作れる物では内でしょう。金属加工の技術もさることながら、火の精霊石を正確に扱うには錬金術の高い知識と技術が不可欠なのに、その点もちゃんと押さえている。実に基本に忠実ですね」
「ええ、そうです。実に素晴らしいでしょう彼女の技術は―――」
自分の事のように誇る所長の言葉に軽く相づちを打ちながら、セリスは視線をエリスの方へ向ける。
彼女らのグループは砕いた精霊石を、ドーム型の箱に詰めていた。
「あれは雷の精霊石――ではなく精霊晶のようですね。あんな物をどうするのでしょうか?」
金より高価と言われる精霊石の中でも特に高純度で貴重な物質をエリス達は惜しげもなく、破砕し消費していく。
「ええ、全く理解出来ません。あの娘は一体何を考えているのか、一応あれは砲身のようですが、火の精霊石ならともかく雷の精霊晶では爆圧で砲弾を押し出す所か、砲身自体が持たないでしょうな。第一、あのドーム型の箱をどうやって砲弾と合わせるかが謎です」
エリス達の方では爆圧を発生させるための、火の精霊石どころか火薬すら使っていない。
これでは爆圧を使っての発射は無駄だろう。
その証拠にエリスはドーム型の箱を砲身に組み込まず、凄まじく太いケーブルを接続している。
接続する途中でよろけて、ケーブルの下敷きになったのはご愛敬である。
しかも、砲弾に使用するのは炸裂弾ではなく普通の徹甲弾だ。
普通に考えれば、エリスの負けはほぼ確定的だろう。
ウィネッサもそのことに気付いているらしく、勝利を確信した笑みを浮かべていた。
「全く、本当に無駄な時間を使いましたな」
やがてエリスがライトの点滅で発射の合図を送ってきたが、所長は耳当ても嵌めずにセリスに同意を求めてきた。
セリスは当然、耳当てを嵌めた。
「はは、そんな事をしなくてもどうせ弾は飛び―――」
所長の言葉を遮って砲弾は発射された。
その発射を認識出来たのは、その場にいた者達の中でセリスだけだった。
発射された弾丸は障害であるはずの壁を何事もないように粉々に粉砕して吹き飛ばし、背後の岩壁に命中すると、そこで溜め込まれた運動エネルギーを解放、地の果てまで届くのではないかという大音声と共に岩盤を爆砕する。
砲弾のエネルギーが納まった時、岩山に巨大なトンネルが完成して向こうの景色が丸見えになっていた。
数秒後、自らの構造に致命的な欠損を抱えた岩山が自重で崩壊し崩れ落ちていく。
「大当たりだね。これは―――」
真横で泡を吹いて痙攣する所長に構わず、岩山が崩れる轟音の中セリスは最高の掘り出し物を見つけた商人のような笑顔で笑った。
221 :
虎の子:2006/07/14(金) 01:19:52 ID:8YAmoWtw
自分の作った試作品が巻き起こした大破壊を見ながらエリスはへたり込んでいた。
予想外の衝撃波に三半規管が麻痺して立つ事が出来ないのだ。
しかし、本人にはどうでも良い事だった。
目の前の光景は彼女の理論を証明し、その正しさを見せつけているのだから―――
爽快だった。
誰もが嘲笑し侮蔑した論理が、今まで誰もなしえなかったであろう結果を導き出したのだ。
何度と無く挫折しそうになった。
嘲罵の声と侮蔑の視線を浴びせられるたびに自己嫌悪に陥り、研究を放り出そうとした回数は決して少なくない。
それでも自分は進み続けたのだ。
そしてとうとうその努力が報われ、彼女の前にその成果が現れた。
心の底から歓喜が湧き上がってもおかしくない。
「面白い表情してるね」
回復してきたらしい聴覚が拾った幼い声の方を向けばセリスが立っていた。
「君さ、泣きながら笑ってるよ」
「うぇ?」
セリスの言葉に顔に指を這わすと確かに涙が頬を伝っていた。
それに気付くと、急に気恥ずかしくなって急いで白衣の袖で涙を拭う。
セリスの方はエリスの涙など特に関心がないようで、試作された重火器を眺めている。
「この世界で電磁加速砲の概念を思いつくとは非常識にも程があるけど、それを完成させてしまう才はさらに非常識だね」
砲弾の衝撃力は内包する運動エネルギーに依存し、運動エネルギーは質量と速度の二乗に比例する。
事実上、光速に近くなるほど運動エネルギーは無限に近づいていく。
確かにウィネッサのやった通り、砲弾を炸裂弾にして質量を増やせばある程度までは容易に破壊力を上げられるが、それ以上に速度は恐るべき武器なのだ。
音速の十数倍と言う常識外の速度で発射された砲弾は衝撃波を纏い、立ち塞がる物全てを貫通し微塵に粉砕、あらゆる防御を突破して大破壊を繰り広げる神槍と化す。
しかし、一般的な魔法や火薬などでは此処までの非常識な速度は出せない。
魔法で此処まで加速しようとすれば、それこそ規格外と言われるクラスの術者でなければ不可能だろうし、火薬や火の精霊石を使っても、その総エネルギーのほとんどが熱量に変換され無駄になり、運動エネルギーに使われるのは微々たる物だ。
対して電気エネルギーは熱エネルギーに対して非常に変換効率が高く、ほぼ入れたエネルギーをそのまま運動エネルギーに変換出来る。
つまり、エリスが雷の精霊晶を使ったのは熱エネルギーよりさらに効率の良い電気エネルギーを使う事によって、この超加速を得るためだ。
発生した莫大な電圧は砲身内で磁場に変換され、それによって砲弾を加速させる。
この世界でも、電気と磁力の関係ぐらいは知れているだろうが、未だ剣と魔法が主流の自体でそれを兵器に転用するなど思いつく物はまず居ないだろう。
そんな事を思いついてしまうのは、余程の馬鹿か、常識外の天才だけだ。
そしてセリスの目の前のへたり込んでいるのは後者だった。
222 :
虎の子:2006/07/14(金) 01:21:14 ID:8YAmoWtw
「あ、あの」
「ん、何?」
非常に機嫌が良いため、フレンドリーな笑顔でセリスが振り向くとエリスは耳まで真っ赤にして俯いてしまう。
(これが正常な反応なんだろうけどな)
自らの上機嫌な笑顔を見るたびに、全力で逃げ出す主を思い浮かべながらセリスは嘆息した。
全く持って失礼な事である。
自分はただ単にちょと斬新的な悪戯を思いついて、それに付き合って貰おうと思っただけなのに―――
まあ、最後には強制的に付き合って貰うので大した問題はないが―――
「あ、ありがとうございました。セリスさんのおかげでようやく研究の証明が出来ました」
「別にお礼は良いよ。これを造ったのは間違いなく君の力なんだし、僕はその手助けをしただけだよ」
礼を述べるネコの少女にセリスは素直な賞賛を送った。
他人の能力を正当に評価出来ないほどセリスの心は狭くない。
もっとも、他人をおちょくるためにあえて侮蔑の言葉を吐くのを躊躇うほどユーモアを理解していない訳でもない。
「それより、僕に付いてこない?」
「え?」
唐突に呟かれた誘いの言葉にしかし、エリスは事態を飲み込めない。
「実はさ、僕がここに来たのは領地の産業を発展させるために、そのための技術者を探しに来たんだよ。ついでにご主人様の家庭教師を探しにもね」
言葉と共に出た嘆息は出来の悪い主に向けた物だろう。
本人が聞いたら全力で抗議しそうな物だ。
「で、最初はあのウィネッサって言うお姉ちゃんを連れて行こうと思ったんだけどね。でも、この実験の結果を見て気が変わったよ。君の方が彼女より優秀だ」
未だ困惑の表情を浮かべるエリスに構わずセリスは続ける。
「過去の理論から積み上げ続け、高みに登るのは誰にでも出来る。だけど、何も積み上げずに高みを歩む事は凡人には無理なんだよ」
天才と秀才の違いは、自ら新しい物を生み出すか、その生み出された物を扱うかの違いである。
そして、前者と後者の差は僅かでありながら絶対的な断裂を持っている。
秀才が十の努力と百の研鑽と千の時を積み上げ辿り着く領域に、天才はたったの一時で到達する。
秀でた才ではなく、天性の才である故にその理を覆す事は出来ない。
得てして、そのような突出しすぎる才の持ち主は周りに理解されず孤立するが、エリスの場合はそれが顕著なのだろう。
あまりにも先走りすぎた彼女の理論は、彼女と同じ才を持たない他人に理解される事はない。
しかし、セリスにとって彼女は非常に魅力的だった。
その才は無論の事、常に新しい物を得ようとする探求心は研究者にとって何よりも必要な物だ。
「君には資格があるよ。僕の知識を学び、自らを高める資格がね。君達が及びも付かない事を僕は知っている。僕と来るならそれを学ぶチャンスを君にあげよう。その全てを得られるかどうかは君次第だけどね」
言われたその言葉は、聖者を堕落させる悪魔の甘言のように魅力的だ。
あまりに甘いその言葉にエリスはしかし躊躇った。
この少年は何かが違う―――そう考えたからだ。
その紅い瞳に見える知性は深く底が見えない故に、踏み出す一歩を躊躇する。
「どうしたの? 何も怖い事はないよ」
優しげな声でセリスがそう勧誘した時、しかし辺二人の間に割ってはいる影があった。
223 :
虎の子:2006/07/14(金) 01:21:44 ID:8YAmoWtw
「一体どういう事よっ!! これはっ!!」
エリスの眼前に立ち塞がった影、ウィネッサは怒声と共にネコの少女の襟首を掴み上げる。
電磁加速砲の発射の際に砂埃でも被ったのか、その姿は全体的に薄汚れていた。
「何で、こんな結果になったのっ!? 何であたしの理論があんたに劣っているのよっ!!」
現実が受け入れないかのようにイヌ少女は叫ぶ。
つい今まで彼女は自分の勝利に何の疑問も持っていなかったはずだ。
しかし、その確信は即座に叩き潰された。
今まで見下していた相手が自分より優れていると、証明されてしまったのだ。
プライドの高い彼女に許せる訳がない。
「私があんた何かに劣っている訳「お取り込み中申し訳ありませんが―――」
割り込んだ冷ややかなその声は、ヒステリックに叫ぶウィネッサの怒声すら遮った。
「これはどういう事ですか? ウィネッサさん」
事務的なその口調は刃のように鋭く固い。
「私はあなたが、この研究所でもっとも優秀な方だという事でお誘いしたんですよ。なのにこの結果は、納得いかないのですが―――」
「ち、違うわ。これは何かの間違いよ」
「科学者としては、いささか論理性を欠いたお言葉ですね。それはそうと、その手を放して頂けませんか、その方は我が領地の客人なので―――」
「――客人?」
セリスの言葉の後半にウィネッサは異世界の言葉を聞いたような顔になった。
「ええ、我が主の領地にお招きするんですよ。当然、あなたの代わりにね」
「え、あの――」
「だから、その手を放してもらえませんか? もう、あなたには用がないんですよ」
エリスはとまどいの声を上げたが、セリスは勿論の事、頭に血が上ったウィネッサは全く聞いていない。
「ふ、ふざけるんじゃないわよっ!! あんたに何が分かるって言うのよっ!?」
「そんな事は関係ありませんね。何事も出した結果によって評価されるのは当然でしょう。そして、その結果であなたはエリスさんより劣っていた」
そう言って、セリスはわざわざ言葉を切った。
心の底から失望と侮蔑の色を浮かべた表情こそが、目の前の少女のプライドをずたずたにする事を知っているからセリスはあえてその表情をする。
「その程度の事も分からないなら、あなたの底も知れますよ」
「っ!?」
奴隷階級、本来ならば自分達の足下に跪き奉仕する役割であるはずの格下の者に見下されウィネッサの怒りが頂点に達する。
しかし、その手がセリスの襟首を掴む前に逆に伸ばした腕を掴み返されてしまう。
「は、放しなさいよ」
如何に女性とはいえ、イヌの身体能力にたかが人が敵うはずがない。
それが彼女の常識であったが、そんな物はセリスには関係なかった。
振り払おうとするウィネッサに対して、彼の腕はビクともしない。
そしてそのまま少女を引き寄せ、その耳元で優しげな声で呟く。
224 :
虎の子:2006/07/14(金) 01:23:20 ID:8YAmoWtw
「あのですね。ウィネッサさん。いい加減にしてもらえませんか、さもないと―――排除しますよ」
最後に紅色の瞳を細めて言い添えられた一言は、その幼い声とは裏腹に凄まじい重みがあった。
そしてその言葉を聞いた瞬間、ウィネッサの産毛が逆立つ。
(な、何よこれ――)
初めて感じる感覚に、イヌの少女の心は戸惑いと驚愕で満たされていく。
体中の筋肉が硬直して全身にいやな汗が噴き出る上に、さらに体の震えが止まらないのだ。
まるでこれでは自分がたかがヒトの奴隷に怯えているようではないか―――
咄嗟に出た考を一笑に伏そうとした所で、セリスの瞳と目があった。
ヒトでは非常に珍しいその瞳は冷え切り、無邪気でありながら攻撃性と残虐性、そしてそれ以上の狂気が溢れ出ていた。
(……あ)
その一瞬でウィネッサの全身から力が抜ける。
それは恐怖を克服した訳ではなく、限界値を超えた恐怖に感覚が麻痺してしまい一時的に機能不全に陥ったのだ。
「……………」
へたり込んだイヌの少女にセリスは、飽きた玩具を見るような視線を向ける。
黙らせるために多少の殺気を込めたのだが、戦士でもない小娘に少々刺激が強すぎたようだ。
普段なら殺気で相手を黙らすなどと言う短絡的な事はせず、もっと上手くスマートにして念入りに壊すのだが、彼の今の興味はネコの少女の方にあった。
「で、君はどうするの?」
セリスがエリスに向けた視線は、ウィネッサに向けた物とは全く別の穏やかな知性を宿した物だった。
「……………」
しかし、ネコの少女は未だに戸惑っているようで、まだその目には迷いがある。
「君は知りたくないの? この世界に無限に溢れる膨大な疑問に問い、謎、それらを分析し解析し、全てを探求し突き詰めて知り尽くしたいとは思わないの」
セリスの言葉一つ一つが、エリスの好奇心を刺激する。
元々科学者は好奇心の強い人種だ。
自分の手の届く範囲に今までにない英知があるとすれば、それを求めずにはいられない。
事実、エリスもセリスの言葉に拒否出来ない魅力を感じていた。
ただ、最後の一歩を踏み出す事が出来なかっただけだ。
そして、それも無くなりかけていた。
(助けてくれたんだ)
詰め寄られていた自分を助けてくれた。
その事実は、好感度と言うにはあまりにも些細で矮小な感情をエリスの中に生み出す。
ただそれだけの事―――
しかし、非常に微妙な均衡を保っていた彼女の心の天秤を傾けるには充分だった。
躊躇いは消え去り、エリスはセリスの手を取った。
225 :
虎の子:2006/07/14(金) 01:24:01 ID:8YAmoWtw
精霊石
長年かけて精霊達が物質化した鉱石で、これを利用すれば精霊魔術の素質がない者でも精霊魔術が扱える。
ただし、扱いは難しく錬金術などの高い知識と技術が必要
基本的に四属性だが、それ以外の属性も存在している。
高級品
精霊晶
精霊石の中でも特に純度の高い物を言う。
精霊石よりさらに高級品
本当に申し訳ありませんが、エロは次回まで待ってください。
要らん肉が付きすぎて収拾がつかない状態です。
次回こそはエロを書きますので、今書いてますから確実です。
ちなみに本文の科学的理論は全く持って適当なので、鵜呑みにしないでください。
それではまた次回―――
乙!
おつ〜♪
あから‐さま
[形動][ナリ]
1 包み隠さず、明らかなさま。また、露骨なさま。「―に非難する」「―な敵意を示す」
2 物事が急に起こるさま。にわかなさま。
3 一時的なさま。ほんのちょっと。
4 (「あからさまにも」の形で、あとに打消しの語を伴って)かりそめにも。まったく。
この先、セリスがエリスにエロエロな事をするんでしょーか?
意表をついてエリス×セリスです
232 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/17(月) 23:11:51 ID:3XxPKZWw
さらなる投下期待age
種族
場所
キーワード
こちむいさん、蛇の人さん、ピューマさん、scorpionfishさん、兎の人さん、皆様お元気にしているのでしょうか……
>>234 現在エロ部佳境。頑張れ、自分。負けるな、自分。
>>234 現在失業中。頑張れ、自分。負けるな、自分。
まさか病院がいきなりつぶれるとは思わなかったぜ。
この不況は地獄だぜ!フゥハハハーハァー(AA略
ガムバレ。みんな。まけるな。みんな。
ベストを尽くせー!
どんとこい!!
ペンギンの人も鳥の人の子とも忘れないでいて欲しい…
消える飛行機雲〜
>>240 いや、もちろん忘れちゃいないんだ。
……二人とも投下したのがまだまだ最近だとからと思ってたんだけど、考えてみたら二人とももう、投下期間が一ヶ月開いてるんだな……
描写に七転八倒中とです(´・ω・`)
244 :
235:2006/07/24(月) 22:00:52 ID:aoRNMCz/
ちょっと、いろいろ落ち着いたので、しぴーつ再開。
目標は7月中完成。8月初頭に投下。
できればね!
狼耳を書いているのだが、初っ端からエロ無し、パワードスーツと人型戦車の戦闘とは如何なものよ。
投下予告
回線おかしい
業者呼ぶ
わけわからんね
PC修理にだす
物故我真下
HDDとりだせません本当にありがとうございました
電話で2時間トークファイト、圧勝
資金無い脳内話進みすぎ携帯でスレ見つからない
鬱
気まぐれで携帯でみたらあった
今ココ
248 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/25(火) 17:39:17 ID:6XA+2shh
>>246 草原の潮風という前例がある。気にするな。
>>247 イ`
いざとなれば土日に漫画喫茶で一日かけて書き上げて推敲して投下するという手もあるぞ。
250 :
蛇担当@携帯:2006/07/26(水) 19:51:55 ID:i62WyT8M
パソコン立ち上げる
nが勝手に打ち込まれる
どうしよう
ウィルスかしら
>>250 キーボードに、ごみやホコリの固まりが突っかえて、
勝手にキー入力が成立する場合があります。
一度、気合を入れて掃除してみるのも、いいかも。
# なぞの新種ウィルスに感染したとゆう説も、
# 捨てがたいものがありますが…
月一回とは言わないけど半年に一回ぐらいは掃除ぐらいしてあげましょう
253 :
蛇担当:2006/07/26(水) 21:55:42 ID:Pzkb35AC
どうやらキーボードの不具合だったようです。ご心配おかけしました。
そろそろコイツも古いので買い換えの時期が来たのかも。
にしても、どうにもスレ住人に不幸が発生してますね。
お祓いでもしたほうが良いのでしょうか?
夏だからだと思う。
キーボードは消耗品だと最近思うようになった
汚れてきたら近所のディスカウントで500で買ってきてる
平均3ヶ月くらいかな?
環境とか考えると罪の意識がするのでハードオフに持ち込んでるw
つ【キーボードカバー】
カバーってウザくね?
やっぱ生が一番だべ
古くなったら新しいのに変えればいいじゃん
俺もキーボードは使い捨て派だな
エロパロ書きにとってのキーボードカバーとは、たとえるなら男にとってのコンドームのごとし。
孕ませた女に容赦なく「おろせ」
いってる用に思えてしまう
会話が「職人」の会話っぽい(笑
>>260 別スレで職人やってます、参戦して良い?ww
絶賛歓迎中。アメリカも泣く。
別スレで手がけてるのがもうすぐ終わるから、そしたらこっちに移動してきます
脱稿
数日後に手直し校正して投下したいっす。
265 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/29(土) 20:52:15 ID:PZdZlYyM
期待age
今まで無いどーぶつで最萌ってなんだろ。
オーストラリアってのは以外に穴場かも。
コアラ・カンガルー・エリマキトカゲ……etc
カンガルーの姫様に袋拉致されてカンガルーの国へ連れて行かれる落ち者の主人公
王子様のカンガルーボクシングでボコボコにされて姫様の袋で優しく癒される主人公
うわぁ〜
>>267 コアラは、スカ苦手な人にはちょっと……w
ところで、wikiがさっぱり更新されていない件について。
プレーリードッグなんていいぞ。
大草原の小さなヤクザ。
前々からジャッカルやハイエナと言った類の話を書きたいと思っていたんだけど
ハイエナを書けば猫の人に、ジャッカルなら犬の人に、それぞれ迷惑が掛かるなぁと思ってやめてる
共に掃除屋とか残飯処理みたいなイメージが付きまとう損な種族なんだけど
彼らだって狩も駆け引きもするんで、そんなエピソードを入れてみたい
良いから書くべし
書いて文句が有ればヤメレ
それで、良い
ハイエナもジャッカルもイヌ科じゃなかろか。
そーだったのかー!!>ネコ目ハイエナ科
初めて知ったぜ。トリビアに送るか。
それはそれとして、猫とピューマとトラとライオンが別の国と文化を創っていることを鑑みるに、
ハイエナとかジャッカルとかやっても何の問題もないのでは。
まあ、スレタイが「猫耳少女と召使の物語」なんだから、ネコ目が多くてもいいんじゃないだろうか。
ところで、素直クールなるジャンルがあることをいまごろになって知ったんだが、このスレでいうなら、サーラ様やパシャたんみたいなご主人様のことなんだろうか。
ファルム様やアンシェルたんも含まれるのかな。
素直クールとは、冷静かつ自分の感情に素直なさまで、自己の内部におけるアンビバレンツが非常に少ない。
自分の恋愛感情を恥じるでもなく誇示するわけでもなくさらっと言ってのけるのが特徴。
このため、ロボや自分ルールで生きているなどの隔世的なキャラに多い。
一番近いのは・・・だれだろ。ミコト辺りか。
282 :
274:2006/08/02(水) 23:03:52 ID:b1OgjRgs
とりあえずハイエナねた短編です、面白くないかも…
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「ご主人さま ただいま戻りました」
半時ほど前から両肩に食い込んでいた収穫かごを下ろして僕は挨拶をする。
ご主人様はこっちをチラッと見てからあくびをしているだけだ。
重たかったのになぁ…
「ネコの方はスクラップ相場が落ちまくりだから…」
ご主人様はかったるそうに立ち上がるとボリボリケツを掻きながら新聞の相場欄を眺めている。
「これはどっちに売るんですか?」
う〜ん…
僕が担いできた籠の中身、それはこっちで落ちものと言われるヒトの世界から来たものばかりだ。
壊れて電源が入らなくなったリンゴマークのノートパソコン。
完全に壊れている原チャリのフレーム。
原形を留めていない何かの工作機械だったと思われる残骸。
ネコの国や犬の国、あとは蛇の国辺りから来ている組織的な回収業者が残していった…ほぼゴミ。
しかし、捨てる神有れば拾う神ありと言うのはこっちの世界でも当てはまるらしい。
僕はこっちの世界に落ちてきてからご主人様に拾われてこんな事ばかりしている…
「やっぱり犬の国の先物取引でにぎわってる中央市場だな、ここなら…」
そこまで言うとご主人様は僕を見た。
「あそこまで行くんですか?」
僕は恨めしそうに見返すしか出来なかった。
ピンと立った耳、しかし、髪はブチでぼさぼさ、決してスタイルが良いわけではない体。
やや歯並びの悪い口にバランスと配置の悪い顔の造作。
ネコ族と同じ系統に当たると自称しているが、僕のご主人様は…ハイエナ…
僕の第一印象はそれだった。
そして、生活の糧もハイエナだ、ネコやイヌの業者が残していったゴミを選り分けて各地の市場に持ち込んでいる。
「疲れてるところ悪いけど、さくっと行ってきておくれ、今は相場が良いはずだ」
自慢じゃないがウチのご主人様は相場の駆け引きが上手いほうだと思う、そして…
「あぁ、その前に少しでも軽くしてあげるよ…」
ご主人様、お願いです、舌なめずりしてこっち見ないでください、未だにちょっと怖いです。
最初はずいぶん引いたんですけどね…、って言うか、いきなり押し倒された時はドン引きだったんですがね。
「溜まってると…辛いでしょ?」
ご主人様…
僕の腰が立たなくなるまでするのは勘弁してくださいね。
明日の市場に持ち込んで売らないとダメなんですから。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------
お目汚しでした
>>282 土台は出来てるぽいし種族も別と考えてもいいという案が出ている
あとはあなたがやりたいかどうか自分自身で決めるだけ
このまま後の為に消えるか自分で道を開拓するのはあなた次第
言いたいことは、分かるよね?
偉そうにすいませんでした
>>282 ご主人さま(女)が不美人ってのは、初めてな気が…
今までに無い感じで面白げ
ちなみにハイエナは怒らすとかなり怖いらすぃ……
_ ∩ ティンダロス!
( ゚∀゚)彡 ティンダロス!
⊂彡
287 :
蛇担当:2006/08/03(木) 20:37:07 ID:Stlvepmy
「はーっはっはっはっはっは!!」
レヴィヤタン一族の住まう砂海に浮かぶ人工島。浮島。
その外壁が高笑いと共に、無数の鼠に食い破られた。
「レヴィヤタン一族の聖域に招かれるとは、貴重な体験をさせていただいた!」
大きく丸く空けられた壁の穴から一羽のウサギが姿を現す。
スタイルの良い長身に粗末な囚人着を纏い、腕組みをして銀縁の単眼鏡を輝かす姿は
果てしなく胡散臭く、どこまでも不審人物っぽい。
「だが、我輩。このような退屈な牢屋で余生を過ごすような趣味はない!」
誰に聞かせるつもりなのか、高らかに脱走宣言をするとやおら大きく口笛を鳴らす。
すると、砂面に複眼を持った巨大な甲殻類の背中が盛り上がってきた。
「それではまた合おう、諸君!このキャルコパイライト・ザラキエル・イナバが真理を携えたその時に!!」
一羽のウサギが高く宙に跳び上がる。
跳躍した女の身体が大きく弧を描き、
巨獣の背に届かず派手な砂飛沫をあげた。
http://www.degitalscope.com/~mbspro/userfiles_res/database/131.txt
つーわけで、第六話です。
お待たせした方々。遅筆でゴメンナサイ。
とても無茶しました。兎の人、ゴメンナサイ。多分予想の斜め下あたりだと思います。
また彼奴等が出てきます。萌えどころは「違うのよー!!」のところ。
次はサーラ様がレズにトラウマ作った原因の娘が出てくる話にしようかと。
こんだけ書いても86キロバイト。
見聞録の人は化物に違い有りません。捕まえて解剖しましょう。これを金のガチョウ理論と言います。
だめじゃん。
とりあえずは、ちょこちょことWikiも更新していく所存です。ではでは。
乙であります!!(早く家に帰りたい)←仕事場
キタ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!
キタ━━━━━ヾ(>ワ<)ノ━━━━━!!!!
キタワァ*・゚゚・*:.。..。.:*・゚(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゚゚・*!!!!!
うわーーーー、うさぎテンションたけええええw!!!!
GJ!!!!
_ ∩ クシャスラ!
( ゚∀゚)彡 クシャスラ!
⊂彡
乙&GJ!
…しかし、本筋とは関係ないハルキネタが、何かこう、魂的にイヤなんですが、私の負けでしょうか?(w
実在のユムシぐらいなら、一通り試してみたいんだけど(w
乙、そしてGJ! でアリマス!
キャル様蝶ステキ。仕えたい。そして無駄な苦労だと認識しつつもがんばってみたい。色々と。
しかし強いなぁ、この男達。
どうでもいいコトだけど、トゲトゲの奴はウィワクシアかなーとか思ってました。マイナーすぎるか。
諸兄におかれましては喜んでいただけたようで僥倖の至り。
>>289 楽しんでいただけましたかー?
もしかして、まだ仕事場ですかー?
>>290 やっぱテンション高いキャラは書いてて楽しいですな。また再登場の予定もありますんでお楽しみに。
>>291 もっと彼女のエロシーンを増やすべきですかねぇ?
最近活躍させてない気もするので。
>>292 >私の負けでしょうか?(w
勝ってどうするって気もしますが。
つうかユムシ試したいって時点で少なくとも俺には勝ってます。
>>293 >キャル様蝶ステキ。仕えたい。そして無駄な苦労だと認識しつつもがんばってみたい。色々と。
女性色情狂版ディスティ=ノヴァ教授的なキャラを目指してみました。
自分で見直してみるに、出来てるようなそうでないような。
>ウィワクシア
流石にしらねー!?
エリーゼの抱えてた皿には乗ってたかもしれませんが。
それにしてもキャラ濃いなぁ。
ところで、野郎二人はどうやってラスボスにたどり着いたんでせう。
296 :
292:2006/08/07(月) 04:31:37 ID:U2BGuSKT
>>295 >ところで、野郎二人はどうやってラスボスにたどり着いたんでせう。
ふつーに、歩いて。
閉じこめられてたわけでなし、大雑把な方向は魔法で判るし。
>>296 ああ、そうか!書いててなんか違うナーと思ったら、彼女には絶望が足らなかったのか!
そーかそーか、なるほどなるほど。
まあ、今のまんまで楽しいから軌道修正はしないでいいや。
思いついたはいいけどちと使えなさそうなネタ置いときますね(´・ω・)
つ【ケモ耳ヒト顔じゃなくて、獣人型の女性】
男にマダラがいるんだから、逆パターンがあってもおかしくないんじゃないかなぁと。
問題はこのスレよりも獣人亜人スレ向きだということ……
迫害を受けて生まれ故郷を追い出された挙げ句、女だてらに盗賊団のカシラ張ってるざんばら赤毛の斧使いとかストライクゾーンだけどな!
つ【不自由な容姿のマダラご主人と、ブサ専な落ちもの女の子】
……何このキワモノ主従。ハートフルか鬼畜かの二択?
また圧縮が近づいてきてるんで、保管庫の方に依頼してきました。
とりあえず
>>23から蛇さんの
>>287まで。
それと、遅くなりましたが蛇の人さま。
>>287GJでした。
エリーゼかわいいよエリーゼ。
獣人型女性、ええなあ…でも出していいのかな?
つ<突然変異>
つ<邪悪な魔法実験>
つ<ネコネコの実>
つ<生え変わりの季節>
萌優先理由後付け例外処理でレッツゴー
お盆です。
夏の大量投下週間です。
皆様がんばりましょう。
> ネコ
> 基本的に女性はヒトにネコ耳とシッポをつけたようなカラダをしている。
Wikiより抜粋。基本的にってことは、例外は有り得るというワケだ。
他種族も似た様なものだと思われるので、自分がイケる! と思ったならお願いします。
エロが書きたい!でもそれに至る経緯も丁寧に書きたい!
どうすればいいんだ〜〜〜〜〜〜〜!!!!
四の五の言わずに全部書く!
それに尽きるww
―――行く宛もなく彷徨うというのは
まさに今の我が身を表す言葉なのだろうと、思う。
Title: Sky Forever [空よ、果つることなかれ]
敵母機は既に沈黙。
されど自分の帰るべき艦も既に無く。
この機の転移圏内には、恒星さえも無く。
いくら進めど虚空に変わりはなく。
推進剤の残り僅かにして、救援の見込みもなく。
思い浮かぶのは遥かな故郷。
ここから辿り着けるはずもない所。
戯れに、機首だけはその方角へ向け。
何も無い場所へと跳躍航路を設定したはずだった―――
Stage 1 : Beyond The Blue [彼方]
[通告]
[交差航体]
突如、視覚に投影される文字列。
自動回避が働き、周囲に展開する通常空間。
気が付けば、星図には無いどこかの星系。
視界の半分を占める、青い惑星。
何をするもなくそれを見つめる、自分。
[警戒]
[未識別顕現体]
再び文字列。
交差軌道上に出現する無数の輝点。
望遠。明らかに戦うための形をした鋼塊の群れ。
こちらの転移は被阻害のまま。
次の瞬間、反射的に。
逃げられないと頭で考えるより早く、
機体を戦闘機動に切り替える自分がいた。
一拍置いて苦笑する。いまさら戦うつもりなのかと。
そして、気付く。
そうだ。ただ燃料の尽きるのを待つより、
戦って死ぬ方が、多分、楽だ。
なおも警告は続く。
表示されるのは大気圏内から急接近する何かの座標。
視野の隅を切り抜いて映し出される拡大映像。
視界を掠める、接近物体の姿。
最大望遠で捉えられたのは鋼塊ではなく――翼あるヒト。
少女の形をして、鳥の翼をもつもの。
背中の翼には、輝く幾何文様の長翼を纏い、
明るい光球を従えるそれは、
――まるで、御伽に聞いた天使。
そのまま彼女の軌道は、真直ぐにこちらに向かってきて、
前方輝点の群れがこちらの照準に入る直前、
追いつき、交叉して、すり抜けるように前に出る。
瞬間、彼女はついて来いとでも言うかのように一度だけ振り向き、
次には「敵」へと銀針の雨を浴びせていた。
その姿に見惚れる暇は無く、
こちらも、射程に入ってきた敵を照準し、ただひたすらに引金を引く。
群れる雑魚を一閃の下に薙ぎ伏せ、
乱れ撃たれた弾を紙一重でくぐる。
障壁を破って至近から一撃を加え、
外殻を破り必殺の弾丸を打ち込む。
そうして、中心へと活路が開け――
[警戒]
[大熱量反応]
多重の障壁を透かして朧に捉えられるのは、今までより二周り大きな影。
直感は告げる。これを倒せば終わりだ、と。
そして、がむしゃらに、ひたすらに。
機関の悲鳴を聞きながら、赤熱した砲身をなだめながら、弾を打ち込みつづける。
対物隔壁が破壊し、さらけ出された中心核へありったけを叩き込む。
一瞬、全ての映像が過大入力で白く飛ぶ。
それで、終わり。
残骸が漂う空間。そして、彼女の姿。
彼女はさっきと同じようにこちらを一瞬だけ振り向いてから高度を落とし始める。
背景は視界の大半を占めるようになった青い星。
時に先導するように、時に戯れるかのように付き添う彼女。
大気突入の炎の向こうに揺らぐその姿は、相変わらず優雅。
高度が落ち、空が青くなってきた頃。
彼方に輝く湖、氷河を抱く山脈。
湖に、さざなみさえ見分けられるほど近づいて。
先を行く姿が、ふっ、と、何も無いところへ吸い込まれるように消える。
続いてそこを通り過ぎると、眼前に現れる集落。
背後には、なだらかな青草の斜面と一筋の石畳。
機体の入力を通していてもなお心地よい風。
誘導に従い集落を回り込み、近づいてくる草原にむけて降着装置を下ろす。
軽い衝撃。
柔らかい草を巻き上げる。草原に二本の爪痕を残して、止まる。
手早く計器を操作する。大気圧と大気組成に支障は無い。
降機のために機体側との感覚接続を停止する。
草原と青空を映していたいくつかの視野と視点が、一瞬の暗転を経て一つに収束する。
視界と感覚が、無機質な操縦席内へと帰ってくる。
はやる気持ちを抑えて、頸部の神経端子を抜く。
操縦席との固定具を外す。
搭乗口を解放する。
僅かな気圧差に空気が流れる。
軽金属の梯子を降りる。
最後の二段は飛び降りる。
草を踏む。
駆け出す。
立ち止まり、振り向けば、陽炎に包まれた機体。
その陽炎の向こうには、立ち尽くす翼の少女。
そして見上げた空は、ひどく透明な、蒼。
Stage 1 END [ 終劇 ]
というわけで投下終了です。
相変わらず突っ込みをお待ちしております。
突っ込みを入れるための情報さえ出てない気がしなくもないのですが。
314 :
カモシカ担当:2006/08/13(日) 11:13:21 ID:6Cy672L2
お盆中の投下はできそうにないんで、とりあえず一年と数ヶ月ぶりにwiki更新。
しかも前までは他人任せだったから、実質初めての更新だったりw
ピューマさんって、今でもこのスレを見てたりするんでしょうか。
ちょっと調子に乗って南米っぽい言葉をいろいろ使ってみたけど、明らかに俺よりピューマさんの方が南米に関しては詳しいし、
「これ、単語の使い方がおかしい」「これ、意味が違う」「これだとイメージに合わない」とか言われたらどうしよう。
まあ、そういった指摘があればすぐに直します。
あと、ハイランダーについても少々書いてみました。
太刀名義を和風というか漢字にしてるんで、ちょっとイメージぶち壊してるかも。
いちおう、数千年前から続く伝統的な流派と今風に再編されていろいろ取り込んだ流派の二つの流派があるということにしてます。
>>307 個人的には嫌いじゃないです。
ただ、やっぱりエロか萌えシーンまで書いてくれないとちょっとまだ乙ともGJとも言えないんで、続編をお待ちしております。
お久しぶりです、盆休みってスバラシキカナないつぞやの落書師です。
ttp://kasamatusan.sakura.ne.jp/cgi-bin2/src/ichi48108.jpg.html しょちゅうおみまいもうしあげます。
…………どないや。
というよりもなんかファンとかに土下座しないといけませんか。
すみません、高熱39度で結局戦場にいけなくて恨みとともにかいてただけです。
だから目の痛くなるような状態。デフォ失敗です。色塗り失敗です。
そもそも作成時間が25分って何だろうか。指揮者さんにやられてきたいです。
…………………………犬っていいよね!
それ以前に某ネコの国の女王様が消えてなくなりました。返せ私の7時間作成絵。
ジーきゅん
ジーきゅん
ジーきゅん
ジーきゅん
ジーきゅん
ジーきゅん
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!
>>315 がんがれ。負けるな。そして乙。
いや、長いこと見なかったからマジで心配してたし。
そういえばジークたんといえば、昔ソウルキャリバーVのエディットで作ってたのがありましたっけ。
あれ、まだどこかにあるかなあ。
>315
う、うおぉおおおぉおおお!!!
ジーキュン萌えが再燃しちまったじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!!!!
ってか俺の中では職人さん達のSSの中での最萌え&燃えキャラはぶっちぎりでジーキュンなんだが、
ちょっとおかしいかな?かな?マジでマイノリティーだよねやっぱ…でも、ジーキュンでもふもふしたい。
自分はジーきゅんにならほられてもいい!!
と思ったがあの二人に割り込む隙なんてあったもんじゃないしなぁ
>…………………………犬っていいよね!
当然だ!
犬萌えは世界標準だ!
>>◆TORI3JAnkE
よし、想像通り頭悪い!(ほめ言葉)
もうとっくに別世界の勢いだが、そのままレッツゴー。
そして早めにエロを。
>>315 保存した。
流れ者だけど、最近このスレに流れ着いた。
とりあえず職人達全員と住人にGJ!!
324 :
虎の子:2006/08/14(月) 13:15:33 ID:A0aYCcI+
一応、ミリアのエロの部分は完成しました。
ただし話の完結はしてませんし、エリスのエロもまだです。
ミリアのエロまでで良いという事なら、今日明日中にも投下出来るんですけど――
やっぱりここまで書いたら完結まで一気に読みたい、というのなら全部書いてから投下しますが、その場合八月中の投下が不可能になる可能性が高いです。
皆さんの反応次第で決めますので、ご意見お待ちしてます。
優柔不断で申し訳ありません。
>>324 レッツ爆撃。ブレイブを持って敢行すべし。
>>324 一回の投下量が大きくなりすぎないほうがいいかと。
うpろだ使っていない以上、結論から言うととりあえず一段落付いたところで投下したほうがいいのでは。
客を飽きさせないコツは「少しずつ根気よく」
別スレでネ申の長編シリーズを閲覧したりしてるので、
それと同じく少しずつ根気よくテンポよくが良いのではないかと
20KB位で良いから3日に一回とかで行くと良いですよん
>>327 いや、三日に一回のペースで20KB投下できる奴は別の意味で神ではなかろうかw
>>328 そう言うネ申が実際居るんだな、これが・・・・
所で
猫萌+少女で猫耳少女のラブラブストーリーが認められるなら
熱帯魚萌+少女でマーメイド激萌えラブラブストーリーはこのスレ的に有りなんでせうか?
どうせならマー冥土萌えが良いなぁとか思うわけですよ、夏だし
>>329 とりあえずscorpionfishあたりで海の民は出てるから、職人さえいれば後はなんとかなるんではないかと。
ただしマーメイドをご主人様にする場合、どこにどういう体位で挿入すればいいかという問題を解決した職人はまだいないw
>>330 太腿の半ばから下が繋がって魚になってればいいのでは。
その前に、♂型マーメイドはどうすんだ?
醜いマーマンなど断じて認めんぞ!
ま、とりあえず先に言っておく
>>329 長文GJ!
魔法使って水中では下半身は魚、陸上では人型の奴かいてるけど駄目か…orz
似たようなネタ考えてる人いたんだなぁ…
実は俺も変身系人魚ネタ考えてたww
地上ではこの世界の底辺に当たる普通のヒト族
水中では魚人系に蔑まれる半漁人としての人魚族
太古に滅んでしまった文明の末裔として大いなる世界の宝を傷つけた呪いによりそうなったと…
蛇担当様の書かれた砂海が生まれた理由、犬世界の古代戦争による国土荒廃
ザッハーク帝が国土崩壊を起こすまで研究していた物の正体
フローラ女王がヒト奴隷を幾人も使って研究する事の真相
ついでに言うと風の谷のアレに出てくる腐海の存在理由なんかを絡めた
大いなる自己呪縛として緩慢に滅びつつある一族の物語
とか書いてみてもプロットも何も進んでないし
それ以前に偉大な作品を製作された皆様方に了解も取ってない訳でして…
期待したかもしれない皆様、書けませんのであしからず
335 :
蛇担当:2006/08/14(月) 21:11:08 ID:wOwCuvAx
ぎ、ぎゃー!
帝都崩壊は最終回用のギミックなんで使わんといてー!
砂海はいじってもいいですけども。
あ!大丈夫です大丈夫です!
書きません!って言うか書けません
お騒がせしました m(_ _)m
337 :
315:2006/08/14(月) 21:30:03 ID:5Fc9sxjk
>>316-320 コメントどうもです。後から見ると痛くて仕方ありませんが受けがよくてよかった。
犬の国の軍服のコンセプトはベルト&首輪に鎖だとイイナ!
また調子こいて投稿するかもしれません。
あえていってみる。狼と鱗の女性っていいよね!
>>321 猫いいですよ。というかごめんなさい。
>>332 そこでサメとかクジラとかシャチとかいってみる。
かっこよくないか。描けそうにないんですが。
>>333 海水に濡れながら念じると下半身魚とか。
陸上では人間の腰や耳にヒレがついてると個人的に萌え。
あとコメントつけられないほど新作に萌えております。
皆さんがんばってください。
>>328 3夜連続で15KBオーバーの作品を連投してる化け物がいるよ
どこのスレとは言わないけれど......
340 :
315:2006/08/14(月) 22:53:15 ID:5Fc9sxjk
>>338 携帯から覗こうとしたんだけどどれかわからない、
というよりいまいちわかってない自分は負け組だろうか。
昼まで待つかな。
>339
ただ単に書き溜めていただけじゃないの?一日でそれだったらマジで化物だな…
第壱話が15KB越えてるんだが、もっと長くなりそうな悪寒。
あんまり長くなり過ぎるとダラダラした感じになるのは分かっているんだが、
それでも書きたい事は沢山あるし…犬耳とか犬耳とか犬耳とか犬耳とか犬耳とか。
342 :
315:2006/08/14(月) 23:57:06 ID:5Fc9sxjk
明日も忙しいけど蛇の人を今更ハケーンしたからとりあえず叫んでみる。
ザッハーク様は思いっきり蛇な姿(マダラだったか?)でいいんでしょうか。
>>329 >>333 座して待つ也。
男については、たしかに
>>337のいうとおり鮫とかシャチがベースだとサマになるなとか。
>>334 大丈夫だ。前スレでは俺もプロットのみだ。
しかもエイプリルフールに乗せるはずが一日遅れだ。(前スレ348参照
>>315 遅まきながら保存した。
>>314 >>322 そうですよね。エロですよね。エロ。
どうやれば繋がるんだろう……orz
>よし、想像通り頭悪い!(ほめ言葉)
想像どおりってことは、前から頭悪いと思われていたと……。
「役者」と「訳者」間違えたのがまずかったですか!?(←やっぱり頭悪い感じ)
ところで、カナリア他の人( ◆/oj0AhRKAw さん )に質問なのです。
・寿命の想定ってありますか
・男の外見設定って決めてますか
猛禽類のヒトたちについてですが、寿命は人間の数倍、
男の外見のほうはカラス天狗/ガルーダな感じで考えています。
そちらの構想とずれていたら擦り合わせますので、見ていたらご回答お願いします。
344 :
蛇担当:2006/08/15(火) 08:04:49 ID:hUjYWQ8o
>>342 マダラではない一般的なヘビの姿にしとこうと思ってましたが、今後出す予定も無いのでご自由にどうぞ。
柄はガラガラヘビの模様です。
>>340 確か、ソウルキャリバーVでこちむいキャラを作ろうとしたけど、エディットパーツに犬耳がなくて、仕方なく猫耳で作ったジークたん……だったはず。
346 :
虎の子:2006/08/15(火) 10:59:58 ID:fxBjyEFk
それでは予告通り投下させて貰います。
347 :
虎の子:2006/08/15(火) 11:03:12 ID:fxBjyEFk
「こんな物出来る訳ないじゃないっ!!」
本日五回目の叫びと共に、ミリアは黒檀製の机にペンを叩き付ける。
「何でよ。何で毎日毎日こんなに勉強しなくちゃいけないのよっ!!」
「ご主人様が課題をさぼってたからだよ」
机を叩いて自らの待遇に異議を唱える主を、セリスは優雅に紅茶に口づけながら一刀のもとに切り捨てる。
「か、課題ならちゃんとやっておいたじゃない」
「あれはシルスお兄ちゃんにやらせたんでしょう。筆跡でばれるよ」
「そ、そんなの証拠にならないわ」
苦し紛れのミリアの弁明にセリスは非常ににこやかな笑顔を向ける。
「ああ、そうなんだ。やったんだ。ふ〜ん、じゃあ僕が即席で問題出すよ。課題をあれだけ完璧にやっていたら絶対に出来る問題をね。でも、もし間違えたら、課題の量を倍にするからよく考えてね」
「な、ちょっと待ちなさいよ」
心底慈愛に満ちあふれた表情で、絶望的な試練を与えようとする奴隷をミリアは慌てて制止する。
「何、ご主人様、やる気になったの? だったら僕の気が変わる前に早くしてね」
「あ、あのマスター、何もそんな風に言わなくても―――」
それまでシルスの勉強を見ていたエリスが口を挟む。
彼女は他人の前ではともかく、普段はセリスに自分の事を師匠(マスター)と呼ぶように言われているため、素直にそれに従っていた。
新参者のネコの少女の言葉に、途端にミリアの顔が希望に輝く。
「ミリア様も一生懸命やってるんですし、今日はこのぐらいでお開きにしませんか」
「………まあ、君がそう言うなら良いけどね」
驚くべき事に数秒の逡巡の後、セリスはあっさり了承した。
ミリアやシルスがいくら文句を言おうが懇願しようが、彼は全く頓着しないが一週間ほど前にやって来たこのネコの少女の意見は重要視しているのだ。
「それじゃあ、ご主人様、復習はちゃんとやっておいてよ」
「分かったわ。ちゃんとやっておくわよ」
上機嫌に返される返事は、しかし今まで一度も実行された事はない。
「……………エリス、この後僕の部屋で講義するけど、時間は大丈夫?」
「は、はい大丈夫ですっ!!」
冷ややかな視線で主を一瞥した後、セリスはエリスと今後の予定について話し合う。
ここ毎日ミリアやシルスの家庭教師をした後に、彼はエリスに自分の知る知識と技術を伝授しているため、必然的にミリアの勉学の時間は減少する。
セリスとしては、主にもう少し知能を増強してもらいたいのだが、ここの産業を発達させるためにはエリスの方もおざなりには出来ないのだ。
規模が小さい内はよいが大規模な事をやるとなると、見た目はヒトである自分が表に出るのはまずい。
セリス自身、肉体を変質させたりして姿を変えられない事もないのだが、彼はその程度の事情で己の身体を変えるつもりはない。
精神操作や幻影などの方法がない訳でもないが、それも一長一短だ。
何よりも物理的に手が足りないのだ。
今現在、資金の運用から裏組織との交渉、産業機器の開発とその全てをセリスは一人でまかなっているが、やる事が大きくなれば一人では手に余る。
さらなる発展を望むためには早い内に才能ある者を見つけ出し、セリスの代わりが務まるぐらいまで育て上げなければいけない。
そうしなければ、何よりミリアをおちょくる時間が減る。
348 :
虎の子:2006/08/15(火) 11:06:35 ID:fxBjyEFk
「…………エリスの時だけは、都合を聞くのね」
ネコの少女を自分より遙かに優しく、好待遇で迎えるセリスにミリアの表情はどこか不満げだ。
「それはそうだよ。エリスの脳味噌はご主人様のを千個直列接続するのより高性能だから、無理する必要なんてどこにもないからね」
セリスは当然とばかりに断言し、その次にうんざりとしたように嘆息する。
「て言うか、本来ならエリスにこんな仕事はさせたくないんだよ。こんな、アホなご主人様の脳味噌増量のために、わざわざ引き抜いてきた人材を使うなんて無駄以外の何物でもないね」
「な、何よっ!! あたしだってこんな勉強やりたくてやってるんじゃないわよっ!!」
嘆かわしいとばかりに肩をすくめ嘆息する召使いに、主は憤然とした足取りで席を蹴って部屋から出て行く。
「あらら、おこちゃったね」
「………………後でフォローしておけよ。俺は知らんぞ」
心の底から愉しげに笑うセリスに、シルスが嘆息しながら自分の課題をまとめ部屋から出て行く。
「あの、もう少しミリア様に優しくしてあげた方が良いんじゃないんですか?」
二人きりになった部屋で、エリスは遠慮がちにセリスに意見するが彼は苦笑を返しただけだった。
「大丈夫だよ。ご主人様って脳内構造が単純だから、三歩も歩けば忘れるよ」
「そ、それはちょっと酷くありませんか? 鶏じゃないんですから―――」
確かに三角関数のコサインを新種のスパイスだと言ったミリアの頭は少しあれだと思うが、セリスの教え方もまずい。
何せ、一時間に約教科書百ページの速さで進んでいく授業を理解出来る者などそうは居ないのだ。
シルスはついて行っているが、彼曰く『一度見て聞けば覚えるだろう』なんぞど何げに一般人の感覚から大きく逸脱しているため、一般人の中でも底辺の辺りにあるミリアの頭脳に理解出来る授業になる訳がない。
「もう少し優しくすればミリア様もきっと勉強が好きになってくれるはずです」
エリスが来てからはミリアに対する授業内容は改められゆっくり丁寧に教える事を主眼に置いて進めているが、セリスが事あるごとに主をからかいその神経を逆撫でするためか、ミリア自身の勉強嫌いに拍車が掛かっていまいち効率が上がらないのだ。
「ふ〜ん、優しくね」
話半分という態度で呟いたセリスだが、次の瞬間その表情が悪戯を思いついた幼児のようになる。
「そうだね、うん、優しくすれば――ね」
「あ、あのマスター」
心底愉快そうな表情で何かを考えるセリスは、声を掛けられて初めて気付居たように顔を上げる。
「え、ああ、ゴメン――じゃあ、移動しようか」
「は、はいっ!!」
師の誘いにエリスは必要以上に力を入れて返事をする。
彼女にとって、セリスの講義は何よりも楽しみな時間だ。
無論、彼の教える内容はネコの少女にとっても難解な内容であり、気の抜ける物ではないが、元々何かを学ぶ事が好きな彼女にとってはたいした苦にはならない。
349 :
虎の子:2006/08/15(火) 11:07:12 ID:fxBjyEFk
「さてエリス、数日前までこの部屋は完全な空き部屋だったよね」
「は、はい」
我慢ならない事を無理矢理押さえ込んでいるような沈痛な表情で、セリスは自らの生徒に確認を取った。
「さてエリス、此処は君の部屋だよね」
「は、はい」
認めたくない現実と向かい合うような厳しい表情で、セリスは再び自らの生徒に確認を取った。
その後、数秒虚空を見つめ、再び視線を戻す。
「………………一体どうやったら、僅かの間でこうなるんだよ?」
「えーと、その……………」
セリスの視線の先にある自らの部屋、書類や本に混じり食べかけのインスタント食品が散乱している部屋を一瞥、
「普通に生活していれば、これぐらいには「ならないから、絶対に―――」
ネコの少女の弁明をしかしその師はただ一言で遮る。
事の起こりは実に単純だ。
エリスが自分の部屋に今回提出するはずのレポートをうっかり忘れ、それならば彼女の部屋でやろうという事になった。
無論エリスは反対したのだが、他人の嫌がる事を進んで行うのがセリスだ。
しかし、いかに魔王の彼とはいえこの部屋の惨状は予想外だったらしい。
「と言うか、あの隅っこにある黒いゴミ袋から何か変な匂いがするんだけど―――中身は一体何? いくら何でも腐敗の進行速度が速すぎるよ」
正に理解不能という顔をする師にエリスは必死で言葉を紡ぐ。
「えーと、その、食べかけのインスタント食品とかですけど―――適当に放り込んでおくと不思議な事にいつの間にか、あんな風に――」
350 :
虎の子:2006/08/15(火) 11:08:06 ID:fxBjyEFk
「エリス、その言葉は本気で言ってるの? そしてそれは事実なの?」
あまりにいい加減な生徒の言葉に、セリスは半眼を向けるがエリスの方は必死だ。
「ほ、本当です。何も特別な事をしなくても、いつの間にか緑色の汁とかが出てくるんですっ!! 魔法金属とかもすぐに溶けちゃうんです」
その言葉を聞くたびにセリスの目が嘘くさい物を見るような目つきになるが、それは事実だ。
彼女が研究所にいた時、その中身を普通に研究所のゴミ捨て場に捨てたら翌日、ゴミ捨て場のゴミ全てが溶けていて異臭を放っていたのだ。
その時は、どこぞの魔法士に火炎系の攻撃魔法をぶち込んで処理したのだが、以来エリスが出したゴミは焼却処分する事になった。
未だに金属やプラスチックを短時間で腐敗させるそのメカニズムは不明で、何か強大な存在の力が働いているとしか思えない。
「………まあ、それはともかく、掃除ぐらいしなよ。見た目も悪いし、何がどこにあるか分からないし、何より危ないから――」
「だ、大丈夫です。気にしませんし、どこに何があるか分かりますし、全然危なくありません」
果たしてどうやって積み上げたのか、自分の身長より高い本の山を叩いてエリスがそう保証した。
バシャ
こちらもどうやってその上に乗せたのか、本の山の頂上にあったカップ麺の食べ残しが衝撃によって落下、狙い違わずセリスの頭で中身をぶちまける。
「「……………………」」
二人とも何も言わない。
と言うか言えない。
エリスはあまりの間の悪さに言葉を失い、セリスは自分に起こった事を理解出来ずに呆然としている。
数秒後、セリスが自分の絹のような髪に触れ、引っ掛かったメンマを指先で摘んで匂いを嗅ぐ。
そして、それが食後数日経っている物だと確認するとエリスに熱のない視線を向ける。
「…………………………………………………………………………エリス」
「…………………………………………………………………………はい」
全ての表情が漂白された顔で、セリスは全く温度を感じさせない声音で言葉を発する。
「即座に清掃して」
簡潔にそれだけ言われた言葉にエリスは逆らう事など出来なかった。
351 :
虎の子:2006/08/15(火) 11:08:57 ID:fxBjyEFk
「うう、もう駄目です。動けません」
本と書類を整理し、食べ残しとゴミを片づけ、脱ぎ散らかした服を洗濯してエリスは精根尽き果てていた。
体力が基準値を大きく下回る彼女にとって、掃除は重労働だ。
全て終わった時には、それこそ何もする気が無くなっていた。
「あのさ、とっても疲れているみたいだけど、半分以上は僕が担当したんだよ。しかも、君がやったのは仕事を増やしただけのような気もするけど――」
「そ、それは―――」
セリスの言う通り、エリスは掃除の邪魔しかしていない。
本の整理で山を崩し、床の掃除でモップを脚に引っ掛けセリスを巻き込んで転倒し、ゴミを捨てればあろうことか中身をぶちまけ汚染範囲を拡大したのだ。
「まったく、本来なら君が僕の世話をして当然なんじゃないの、何で僕が君の世話をしないといけないんだよ」
「うう」
嘆息するセリスにエリスは返す言葉もない。
普通、召使いであるセリスがエリスの世話をするのだろうが、彼はミリアの召使いであり、エリスの師である。
確かにそれなら彼の世話をしたり手伝いをするのは、自分の役目だろう。
「まあ、ひとまず落ち着いたししばらくは大丈夫だね。これでも食べて一息入れよう」
そう言いつつ打ちひしがれたエリスの眼前に山積みになったクッキーの皿を置く。
「これは――」
「焼きたてクッキー、僕の特製だよ」
熱せられた生地特有の匂いがエリスに届き、その食欲をそそった。
その横ではセリスが紅茶を入れている。
「あんなファーストフードばかりじゃ体に悪いよ。しかも、食事の時間も不規則で夜食とかも食べるなんて、ただでさえ栄養が偏ってるのに、そんなんだから小さいままなんだよ」
「ち、小さいって―――な、何がですか?」
「まあ、色々と――ね」
セリスは目を逸らし言葉を濁したが、その視線が自分の首から下を一瞥した事は鈍いエリスにも分かった。
「な、どこを見ているんですかっ!!」
「小さい所」
「小さいって、言わないでくださいっ!!」
彼女とて人並みの願望はある。
同年代の少女達に比べて胸や身長、その他色々な部分の発達が遅滞していることはエリスにとってコンプレックス以外の何物でもない。
「これから大きくなりますっ!! 私はまだ成長期ですっ!!」
「………………本気で言ってるのそれ?」
「…………………」
生物学上、ぎりぎり成長期の端に引っ掛かってる少女にセリスが半眼を向けると、即座に言葉に詰る。
そんなエリスを見ながらセリスは人の悪い笑みを浮かべる。
352 :
虎の子:2006/08/15(火) 11:09:50 ID:fxBjyEFk
「と言っても人の好みは千差万別だからね。君みたいな小さい人に欲情するヒトとかも居るんじゃない。意外と――」
「な、何度も小さいって言わないでください」
エリスの抗議を平然と聞き流し、セリスは苦笑を返す。
「だけどさ、実際に人の好みなんて人の数だけあるからね。例えどんな美人だって、好きな人に好かれる容姿じゃないと意味がないと思うけど―――」
例えどのように大多数の者が美麗と評価しようとも、自分がもっとも振り返って欲しいと思う者の評価が得られなければそれは意味がない。
もっとも、他人から美しいと評価されるのが目的ならばその限りではないが―――
「セ、セリスさんはどんな人が好みなんですか―――」
「身体が発達して大人っぽいお姉様タイプ」
何となく聞いてみた答えはエリスの容姿と真逆を即答する。
「そ、そうですが―――」
少年の言葉にネコの少女は厳しい現実を再認識する。
「う〜ん、でも君もなかなかいい線行ってると思うんだけどな」
呟くのとほぼ同時にセリスの指がエリスの眼鏡を奪い取る。
「へ、ああっ!!」
「顔立ちはまあまあだし、化粧とかすればそれなりに見栄えも良くなるはずだよ」
眼鏡を外したエリスの頬をセリスは無遠慮に撫で回す。
無遠慮と言っても、その手付きは年代物の骨董品を扱うように繊細だ。
「か、返してくださいっ!!」
視界がぼやけて不安になるエリスに構わず、セリスは指を這わせる。
男とは思えない白魚のような指先が頬から顎を伝って首筋に到達する。
「ひぁっ―」
背筋を羽で撫でられるようなくすぐったい感触に、エリスはおかしな声を上げてしまうがセリスの指は止まらない。
首の後ろやうなじを滑り、喉元を撫で回して顎を上げさせる。
353 :
虎の子:2006/08/15(火) 11:10:33 ID:fxBjyEFk
「セ、セリスさん」
視覚がないが、その分他の感覚が鋭敏になり、セリスの顔が間近にあるのが感じ取れた。
男性関係の経験が皆無なエリスの血圧は急上昇する。
「綺麗だよ。君は――」
「ふ、ふぇっ――」
幼い声には不似合いな熱の籠もった甘い言葉にエリスの背筋が泡立つ。
あまり感じた事のない感覚に全身から力が抜けていく。
セリスの体温の籠もった吐息が頬に届いた瞬間、エリスの頬は硬直した。
「まあ、冗談はともかく」
それまでの口調とはうってかわって、言葉の重さが一気に軽くなりエリスの視界が元に戻った。
金縛りのようなに固まった体が元に戻り、セリスの顔が完全にある事を再認識した。
「はへ、ああっ!!」
大慌てでセリスを突き飛ばすが、実際に吹き飛んだのはエリスの方で床にに盛大な尻餅を付く事になった。
「本当に君は可愛いな」
心底愉しそうなセリスの笑顔に見た時、エリスは初めて自分がからかわれた事に気付いた。
「な、何するんですかっ!!」
半分涙目で身を縮こまらせて叫ぶ。
一瞬、変な気分になってしまい、あと少し遅かったらそのままセリスに身を任せていただろう。
「こんな悪質な冗談をするなんて、マスターの事を軽蔑しますっ!!」
「おや、それは大変だね。じゃあ、このクッキーで許してよ」
憤然とする弟子に、師は欠片も悪びれた様子もなく手製の菓子を突き出す。
354 :
虎の子:2006/08/15(火) 11:11:22 ID:fxBjyEFk
「……………」
納得出来ない表情でクッキーを摘むが、その味は極上だった。
干した果物やハーブが練り込んであるためか、単純な甘みだけでなく複雑な甘さがある。
もっともそれがどのような物であるかまでは、インスタント食品に侵されたエリスの舌では判別不可能だった。
「お、美味しいです。とっても―――」
「それはよかった。今回は君の食生活を考えて味の濃い物を揃えたんだよ」
「……………それって私が味音痴って事ですか?」
「事実だよね」
「…………」
エリスは言い返せない自分がちょっと悲しかった。
「それはともかく、これからは少し生活に気を付けてよ。君の身に何かあったら僕が困る」
「うぇっ!?」
我が身を気遣うその言葉に、エリスは一瞬ぎょっとなる。
「何せ君は将来的にはこの地のために働いて貰わないといけないからね」
「…………………そ、そうですか」
セリスが心配しているのはエリス自身ではなく、その能力なのだ。
一瞬何かを期待したエリスの心は一気に落ち込む。
セリスが彼女をこの地に連れてきたのは、その頭脳を生かしてこの領地を発展させるためだ。
その代わり自由に研究出来る環境と比類無き知識が与えられると言う条件で、その事についてはエリスも了承し納得している。
だがしかし、全て簡単に割り切れる物ではない。
セリスが求めているのはエリスの能力であり、彼女自身ではないのだ。
逆に言えば能力さえあれば、誰でも良い事になる。
それはエリスの能力以外に何の価値も見出していないのと同義だ。
(結局、マスターが大切なのは私じゃなくて、優秀な人材なんですね)
分かっていたはずだが、しかしエリス自身その認識を完全に受け入れられた訳ではない。
結局その日の講義は心ここにあらずという風に過ぎていった。
355 :
虎の子:2006/08/15(火) 11:12:23 ID:fxBjyEFk
草木の眠りも迫ろうとした深夜に近い時間、エリスは暗い廊下を歩いていた。
なぜ彼女がこんな時間に屋敷の中を徘徊しているかというと、翌日に提出するための課題に必要な資料を忘をセリスの部屋に忘れていたからだ。
普段の彼女ならばそんな事はないが、今日は色んな事に身が入らずぼうっと過ごしてしまった。
何とはなしに溜息が漏れる。
(…………私は本当に必要なんでしょうか)
おそらくセリスにそう聞けば、『必要だ』と即答してくれる事だろう。
そしてそれは事実だ。
彼にはエリスの能力が必要で、エリスにはセリスが必要だ。
相手が欲する物を差し出しそれによって対価を得る。
商業活動の基本だ。
結局、彼は誰でも良かったのだ。
それこそ、ウィネッサでも―――
エリスが此処にいるのは彼女より、セリスが求める物が秀でていただけの事だ。
「……………」
何とはなしに考えがネガティブな方向に傾いてしまい、エリスは再び嘆息する。
気付いた時にはセリスの部屋の前間出来ていた。
こんな夜中に訪問するのは些か礼儀を欠くかと思うが、セリス自身に分からない事があったらいつでも来てくれればいいと言われているので問題ないだろう。
「一体何のようよ。呼び出して―――」
部屋から聞こえてきた声にエリスの腕は止まった。
356 :
虎の子:2006/08/15(火) 11:13:26 ID:fxBjyEFk
「シルスお兄ちゃんに頼まれてね。ご主人様の機嫌をとれってさ。それで一度謝っちゃえば、ご主人様って単純だから機嫌を直してくれるだろうなって思って――と言う訳でゴメン」
「…………ふ〜ん、そうなんだ」
セリスの正直な説明に付きの謝罪にミリアの額に分かりやすい青筋が浮かぶ。
いくら彼女でも、この召使いが欠片も反省していない事ぐらい分かる。
「あれ、ひょっとして怒ってる。僕は謝ったはずなんだけど―――」
「…………あんた全然悪いと思ってないでしょう」
「当然」
「あたし帰るっ!!」
欠片も悪びれた様子がない奴隷の言葉に、ミリアはそう吐き捨てて回れ右する。
しかし無論、セリスはそれを大人しく許したりはしない。
「ちょ、離しなさいよ」
「そのご命令には従えません。ご主人様」
恭しく丁寧な言葉であるが、背後から主の両腕を掴んでその自由を奪っていては皮肉にしか聞こえない。
とても無邪気な笑顔のままセリスはミリアの背に頬ずりする。
「言葉で誠意が伝わらないなら、体で伝えないとね」
「な、何をふざけて、ひゃっ!!」
寝間着の上からセリスはミリアの敏感な部分を撫でる。
「僕は本気だよ。だからこんな事もしちゃうんだ」
セリスはミリアの脚を払い、そのままうつぶせに引き倒しその背に馬乗りになった。
即座にそのうなじに優しく手を這わせて、顔を寄せ息を吹きかける。
「や、止めなさいよ」
背筋を走る快感に気付かないふりをしながら制止の言葉を上げるが、そんな物でこの召使いが止まるはずがない。
「ひ、ひあっ」
小さな舌が首筋を一舐めし、その後首の横側に軽く歯を立て、同時に自分の体温の移った息を吹きかける。
主の全身が快楽に反応するのを確認しながら、体温の低い手を使って首に付いた唾液を顔まで伸ばしていく。
「しばらくご主人様と会えなかったから、こうすると何だか感慨深いね」
「な、何言ってるのよ。帰ってきた日の夜にあれだけ―――」
そこまで言ってその夜の事を思い出したのか、ミリアの顔が一気に赤く染まる。
「そうだね。ご主人様、なんだかんだ言って凄く感じてたよね」
「そ、そんなことひぅっ」
唾液に濡れた小さな手が襟首から側にあった髪の幾らかを巻き込んで寝間着の中に入り込み、ミリアの背中を這い回り出す。
本人以上に主を知り尽くした奴隷の指が、背筋を滑り唾液を塗り付ける度にミリアの体が小さく震える。
357 :
虎の子:2006/08/15(火) 11:20:27 ID:fxBjyEFk
「ねえ、ご主人様僕に呼ばれて、実は期待してたでしょう」
「ば、馬鹿、期待何かしてないわよっ!!」
小悪魔的な笑みを浮かべるセリスに、即座に否定を返すがしかし奴隷の笑みは変わらない。
腕に巻き込んで背中に入れた紅髪に指を絡ませ、そのまま背筋を撫でさする。
「へぇ、じゃあ何でわざわざ二度もお風呂に入ったのかな? 髪が湿ってるけどね」
「た、だの偶然よ。そんなの――」
湿った髪の感触に鳥肌を立てながらも、ミリアはそう断言した。
「なるほど、ただの偶然ね。ご主人様がそう言うならそうなんだろうね」
ミリアにすら欠片も信用していない事が分かる笑顔でセリスは大仰に頷く。
「じゃあ、せっかく偶然綺麗になったご主人様の体を見てみようか―――」
ミリアの背から体を浮かせ、そのまま仰向けの姿勢に直すと前を開ける。
肌の色が赤く染まっているのは、果たして湯上がりのためかセリスの愛撫のためか――
主が何か言う前に、セリスは唇を合わせてその言葉を封じる。
両腕はもう離してあるが、ミリアは抵抗らしい抵抗を見せない。
セリスが舌を差し入れれば、主はほぼ反射的にその舌に応えておずおずと舌を差し出す。
奴隷の舌が主の舌に絡み付き、そのまま口内を舐め回す。
性感帯を舐められるたびにミリアの体がビクリと痙攣するのを感じながら、セリスは主の体をまさぐる。
「ぷふあぁっ」
口を離すと苦しそうに息継ぎをする主とセリスの間に垂れた唾液の橋が架かった。
「ふぁ、ふぁっ―――」
「ご主人様、キスぐらいで惚けてちゃ駄目だよ。これから、もっと凄い事するんだから」
そう囁きながら再び口を付けようとしたが、ミリアは顔を横にしてセリスの口づけを避けた。
「…………どうしたの、ご主人様?」
ミリアがセリスの愛撫を嫌がる事は常々とは言え、しかし、此処までハッキリした拒絶は珍しい。
「…………あんたなんかエリスと一緒にいればいいじゃない」
どこか拗ねたようにそっぽを向いてそう呟く。
「…………」
一瞬、虚を疲れたような表情になったセリスだが、次の瞬間には全てを理解したような顔になった。
「へぇ、ご主人様、エリスにヤキモチ焼いてるんだ?」
「な、あんたの事なんかどうでも良いわよっ!!」
ミリアがそう叫んだ瞬間、セリスは我が意を得たとばかりに微笑む。
「誰も僕の事で何て言ってはいないと思うんだけど―――そうなんだ。ご主人様は僕がエリスと居るのがイヤなんだね」
「ち、ちがひゃうっ!!」
咄嗟に否定の言葉を言おうとするが、少し強めのタッチで胸を揉み、ハッキリと自己主張した突起を弾かれて言葉が止まる。
358 :
虎の子:2006/08/15(火) 11:21:23 ID:fxBjyEFk
「だけどご主人様、それは誤解だよ。エリスとは師匠と弟子の関係で、それ以上の事はないよ」
「嘘よ。あんた、エリスと居る時はとっても楽しそうじゃない」
「それは否定しないけどね」
正直な話、セリスはエリスと居る時間が嫌いではない。
エリスは優秀な生徒であり、遊びがいもあるためついつい目を掛けてしまうのだ。
しかし、彼女をミリアより遇した覚えはない。
「どうせ、あたしの頭は悪いわよ。あの子みたいに勉強出来ないし、難しい話も出来ないわよ」
「酷いね、ご主人様は」
完全にへそを曲げた主の言葉にセリスは少し拗ねたように嘆く。
「僕があんな小娘に入れ込むと本気で思っているの?」
「………ちょ、何を―――」
いつにも増して真剣な表情で真っ正面にあるセリスの表情に、ミリアはいい知れない不安を感じた。
この召使いが真剣な表情をする事など、災厄の前兆以外の何物でもない。
そして、その災厄のほとんど全てがミリアに降り掛かるのだ。
もっとも、ミリアはその災厄の多くを幼なじみのマダラの少年に転嫁しているのだが―――
しかし、この部屋にシルスはおらず彼女とセリスの二人っきりだ。
逃げ場も囮も何もない。
「そう思われてるなら、ちょっと心外だな―――だから、ご主人様の誤解を解くために誠心誠意ご奉仕させて貰うよ」
「ご、ご奉仕って――」
「勿論体でね♪ 最高の快楽をあげるよ♪」
予想通りの最悪の応えにミリアの顔が引きつるが、もう遅い。
逃げる間も避ける間も与えず強引にセリスはミリアの唇を奪い、口に貯めた唾液を送り込む。
その唾液を一度口内中になすりつけ、そして再び自らの口の中に舌を使って汲み入れる。
一旦ミリアの唇から離れ、口に含んだ唾液を開いた胸元に垂らしその手で塗り付けていく。
「や、やあぁっ!!」
ミリアの弱々しい抗議などには耳も貸さず、幼き奴隷の指が主の体を走る。
首筋、脇腹、腹、へそ、
今まで発見した場所と開発した場所を微細なタッチで責めあげ、主の快感のボルテージを上げていく。
くちゅり、、、
「もうびしょ濡れだね。ご主人様」
指が下腹部のさらに下に到達した時、セリスは獲物を捕獲した猛獣のような笑みを浮かべる。
その言葉通りミリアの太ももの間の寝間着は、水でもぶちまけたかのようにびしょ濡れになっていた。
359 :
虎の子:2006/08/15(火) 11:22:38 ID:fxBjyEFk
「ひゃあゃっ、そんな所障るなああああああああああああああああああああああっっっ!!」
上がる制止の声に、しかしその指は冷酷に服の上から固くなった突起を正確に掴む。
今までとは次元が違う快楽に、ミリアの体がびくびくと痙攣するがセリスは構わず服越しに愛撫を続ける。
その間にも寝間着越しに溢れ出る蜜はセリスの指の間で粘着質な糸を引く。
「ほらご主人様、こんな濡れてる」
「な、舐めるんじゃないわよ。そんな物――」
自分の指に絡み付いた愛液を舐める淫らな少年の姿に、ミリアの興奮も高まるが本人は決して認めない。
そっぽを向いてセリスから顔を逸らすが、召使いはそんな主を逃がさず片手で顎を掴んで自分の方を向かせた。
「いいじゃない。ご主人様の愛液は美味しいよ」
口の中に含んだミリアの物を、そのままに、セリスは主の唇を塞ぐ。
口が完全に防がれているために唾液と共に流れ込む愛液は、吐き出す事も出来ず飲み込むしかない。
ごくごくと嚥下するために動く喉を、セリスの手が愛おしげに撫で上げると、ミリアはくすぐったそうに身を捩った。
合わせた唇が首筋、胸、腹と伝っていき、最後にはぐっしょりと濡れた場所に到達する。
そのまま大きく口を開けると、一気にそこに食らいつく。
「ひ、ひゃああぁぁああぁああぁああっ!!」
口を大きく開き唇を服に密着させ、そのまま舌を突き出して舐め回す。
時にはそのまま吸い付き蜜を吸い出し、時には咀嚼し肉を愛撫し、時には歯を引っ掛け肌を刺激する。
「んあっ!!」
服越しに秘部を刺激され、嬌声をあげるミリアはもはや抵抗らしい抵抗などしていなかった。
体を弛緩させ、セリスにその身を任せている。
360 :
虎の子:2006/08/15(火) 11:24:07 ID:fxBjyEFk
「ご主人様、今すっごい顔してるよ。僕の一番好きな顔」
顔を真っ赤に紅潮させ、涎と鼻水とで顔を汚し、瞳は快楽に潤んでいる主のその表情にセリスは喜悦を見出す。
このおおよそ美とは縁遠そうな表情がセリスの一番好きな表情だった。
普段気が強いだけにそれとのギャップが面白いのだ。
「どうする。そろそろ、入れてあげようか? 我慢出来ないでしょう」
「い、要らないわよ」
セリスの甘い囁きにしかし、ミリアは拒絶する。
どれだけ嫌がっても、最後にはセリスの愛撫に反応し喘ぎ感じさせられてしまう少女は、しかしとても意地っ張りなのだ。
自分から、決して求めたりはしない。
もっとも、その拒絶は言葉面だけの物で、態度やその目はとっても物欲しそうな物なのだが――――
「そう、ならもっと気持ちよくなって貰おうかな」
「………………勝手にしなさいよ」
拗ねたようにそっぽを向きながら、しかし先程とは違い拒絶の色はない。
「じゃあ、遠慮無く」
言葉通り微塵の遠慮もなく、セリスは主の寝間着を剥ぎ取るとその体を持ち上げた。
背中と膝裏に手を回し、俗にお姫様抱っこと言われる姿勢だ。
さすがに恥ずかしい格好にミリアが何か言う前に、セリスは彼女をベットに下ろす。
「一応聞くけど、何かリクエストはある?」
「………どうせ、何言ったって聞かないでしょう」
「良くお解りで、ご主人様」
主の察しが多少は良くなった事に感激しつつ、セリスはミリアの胸に軽く噛み付くと、そのまま手を回してミリアの全身をまさぐる。
「………う、ん」
さっきまでの激しい愛撫とは違い、もむ程度の軽い愛撫だが高まった体には充分な物だった。
二の腕や肩、もしくは背中に手を這わせるとミリアは気持ちよさそうに目を細める。
決して慌てず、ゆっくりと穏やかに加えられる刺激は眠気を誘うかのように心地よいが、眠りに落ちる事は決してない。
全身をまどろみの中に漬け込まれながらも、噛み付かれた胸の部分からの刺激はハッキリ感じているため意識がそちらに集中する。
そのため、セリスがどんな動きをしているか全く注意を払っていなかった。
体格的には上のはずのミリアを軽々と持ち上げ、そのまま一気に落とす。
361 :
虎の子:2006/08/15(火) 11:24:42 ID:fxBjyEFk
「ひぃぐうっ!?」
突然下腹部を襲った衝撃で寝ぼけていた意識に活が入る。
そしてその原因がすぐに分かった。
不本意ながらもあまりに慣れ親しんだその感触に、その原因を起こした召使いを涙目で睨む。
「い、いきなりしないでよ」
「ふふ、ご主人様がぼさっとしているのが悪いんだよ。それに強引なのは嫌いじゃないでしょ」
主の下腹部を撫でながら、その体を軽々と上下に動かす。
「だ、だけど、は、激しすぎひぃうっ!!」
主の言葉など聞いてはいないかのように、セリスの動きに容赦はない。
単純な上下の動きだけではなく、微妙にずらされたそれはミリアの中を突き回し擦りあげる。
激しい衝撃に文字通りミリアの目の前で火花が散るが、決して苦痛ではない。
それどころか全身が快楽を感じ取り、体が震えるのだ。
こうなってしまうとミリアに出来る事は何もない。
歯を食い縛ってセリスに抱きつき、喘ぎ声を堪えるぐらいだ。
「………ぅっ……ぃ………ひぃ」
「声ぐらい出しなよ」
召使いは服に噛み付き必死に声を押し殺す主の髪を弄りながら、そう囁くがしかし意地っ張りな主は余計に歯を食い縛って声を出さなくなる。
だからと言って、全身の筋肉の硬直や痙攣がミリアの高まりをセリスに伝えてくるため、声など大した意味を持っていないのだが―――
「ふぎぃうぅっ!!」
何の前置きもなしに秘裂の上に乗っかっている突起を一気に摘み上げた瞬間、ミリアの手足がピント張りつめビクビクッと震え達する。
362 :
虎の子:2006/08/15(火) 11:25:25 ID:fxBjyEFk
「少しは堪えなよ。ご主人様♪」
「だ、だって―――ひぃいっ!!」
「だってじゃないよ。僕はまだ全然なんだよ。それなのにご主人様だけ先に達しちゃって、本当に酷いね」
快感に翻弄される主の不甲斐なさを叱咤しつつ、その指は秘所の辺りを行ったり来たりしている。
その度にミリアは小さな絶頂に達するが、セリスは容赦なく刺激を加え続ける。
抑えていたはずの喘ぎ声もいつの間にか漏れだし、最後には部屋の外まで聞こえるような大きさになっていた。
「も、もうやめ――ひぃぅうううううううううううううううううううううっっ!!」
「ヤダ」
ご主人様の哀願を即座に拒否すると、召使いは一気に動きを加速する。
「ひぎぃっ!! ひぃっ!! うぃいっ!!」
もはや悲鳴とも言えない獣のような喘ぎ声、しかしそれが悲鳴でなく嬌声である事はその姿を見れば一目瞭然だ。
痙攣する手足が、快楽に惚けた目が、だらしなく開いた口から溢れる涎が、仰け反った体が、その全てが虎の少女が苦痛ではなく快楽に溺れている事を示している。
「いぎぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっ!!」
一際大きな絶叫と共にミリアの体が伸びきり硬直し、数秒後には力が抜けきったかのように弛緩する。
「ねえ、ご主人様、これで僕がご主人様の事をどんなに大切にしているか分かってくれた?」
「わ、分かっらから、分かっらから、もう―――ひぐうぅっ!?」
快楽で惚けた呂律の回らない弱々しい声、しかしそれは秘裂を鷲掴みにされた衝撃で途切れる事となった。
「本当に分かってくれたか心配だから、もう少し御奉仕しようかな。だから頑張ろうねご主人様、朝まで最後まで――」
「そ、そんなはひゃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
本当に愛おしそな表情で小さな舌を胸の間に這わせるセリスだが、その指は自分の物が入っている主の秘裂を広げて無理矢理ねじ込まれていく。
結局、ミリアの嬌声が消えたのは明け方も近くなった頃だった。
363 :
虎の子:2006/08/15(火) 11:26:27 ID:fxBjyEFk
以上、お粗末様でした。
前回のは書き忘れましたが嘲笑われた常識4、今回のは5でお願いします。
やっぱり情事の描写は難しいですね。
時間を掛けた割には、それだけの物を書けた気がしません。
もっと精進を重ねないと―――
その上、未だに私は此処の掲示板の仕組みが分かっていないようです。
うpろだって何? どうやって使えばいいの? 落書師さんの絵ってどうやってみればいいの?(カサマツさんの所まで言ってファイル名は分かるのですが、ファイルの取り方が分かりません
全部基本的な質問ばかりですいませんが、誰かこんな私に物を教えてくれる奇特な方が居たらどうぞご教授ください。
それではまた次回、
虎の子様、乙ですた!GJっすね(・∀・)イイ!!
こういう話はどうかと思いますけど、情事の描写は誰が書いても上手く行きっこないと思うんですよ
だから自分の経験と照らし合わせて、情事にふける女性側に愛を注いであげる男性側に立つと優しい描写になるし
男性側に立って鬼攻めを徹底していると女性側が泣き叫ぶ鬼畜描写になると思う次第です
わざわざお風呂浴びてきたミリア様エロすぎ。
>>343 呼ばれて飛び出て(ry
えちぃ所のプロットは出来てますが、描写に苦労してます【助けて!】
・寿命の想定
成長速度は人と同じ、性成熟した後の老化が遅く、
寿命自体は人の2〜3倍。
成熟した者の羽根は、各人特有の光沢を持つ。
・男の外見
カナリア(歌鳥族)は全員マダラ、猛禽類(戦鳥族)はカラス天狗な感じ。
かくれ里に引っ込んで、他との婚姻が行われていない閉鎖的な氏族と言う設定なので、
多少違っていても大丈夫な気がするですよ
と言う訳で、会話オンリー小ネタ。
その1
「そう言えば、あんたらって年とかどうなってるんだ? あんまりおばちゃんとか見当たらないけど」
「卵が産めない年になったら、女は大抵家庭に入って外には出なくなりますねぇ」
「マテ、卵生なのか、あんたら」
「大体、15歳から40歳ぐらいが卵、それ以上の女は子供を生みますよ?」
「なんつーか、出鱈目な体のつくりだな」
「『かるしうむ代謝の関係』、とか、イーシャどのは仰ってますが。
卵が産めるうちに跡継ぎ作って置くと、いろいろと楽ですよ」
「詳しく」
「卵だと、妊娠期間短くて済みますし、後でゆるくなったりしませんし」
「・・・・シモに走るな」
「後で、うちの子の御守お願いしますね」
「居るのか! あんた幾つで、子供幾つだ!」
「私は18で、娘は3つを頭に32人ほど」
「多いよ!」
「誰が、一人で産んだと申しました? 大半は養子ですよ」
卵の産み捨ては、かくれ里の社会問題らしいです。
その2
「そう言えば、姫さんはまだ子供なんだよな?」
「そろそろ、成人してもおかしくない年なんですけどねぇ。
いつまでも晩生で、卵産めるようにも、羽根に色も出てなくて・・・・。困った物です」
「マテ、姫さん、年幾つだ」
「御年18歳になられたかと。同い年ですし、同じ季節生まれですし」
「羽根に色って?」
「成人すると、羽根に独特の色艶が出るんですよ。強い光の下で無いと判りませんけど」
「あんたの羽根が、たまに青や緑に見えたりするような?」
「戦鳥族は大抵一色、歌鳥は二色で・・・・って」
「で、あんたはどっちだって?」
「戦鳥、と言う事にしておいて下さい」
クジャクやゴクラクチョウの羽根を想像すると宜しいかと。
羽根の表面が、特定の波長の光を吸収したり反射したりするそうです。
>>347-363 GJ!久々にミリア様!
ふふう、意地っ張りな女の子はいいですねえ。
>>366-368 世界観フォローおつ〜。
>クジャクやゴクラクチョウの羽根を想像すると宜しいかと。
>羽根の表面が、特定の波長の光を吸収したり反射したりするそうです。
構造色ってやつですね。
物体界面のナノレベルの周期的微細構造が特定波長の光を特定角度でのみ跳ね返すという。
他に自然界に存在する例としてはオオルリとか一部のチョウチョとか。
色素が無くても発色するので、紫外線による分解で色あせないって特徴がある。
トリビアですが。
370 :
落書師:2006/08/16(水) 20:11:29 ID:D+YQDmqD
なんかいっそのことこう名乗ってみます。
こう素敵キャラが多いと、デザインがかぶりそうな自分。
とりあえずデッサンの真似事でもしてみるか。
>>338 >>345 今更ですが拝見しました。
なんとなく貴族っぽいイメージが強いかな、と思ったり。
黒くしたらそれなりに様になるかな?
というか猫耳しかないとは。製作元は猫耳派か。
>>344 蛇担当様
返答ありがとうございます。
というか、マダラの意味を履き違えてたorzマダラは指揮者だ。
ガラガラヘビとはまた懐かしい。
>>363 虎の子様
もう作品については毎度素敵としかいいようがございません。
で、画像のことなんですが。
URL先にいったら、広告バナーの下に「ダウンロード」という文字があるので、
そちらをクリックしてみてください。つまらない落書きですが見れます。
SS書きになるために2年間修行したんだが、何これ。
ここの職人さん達レベル違いすぎ・・・・orz
もっと情景描写や人物描写練習してきます。
>>371 隠れた努力は大事。けど人に見てもらって実際に意見を聞くのも大事かもしれない。
……なにが言いたいかって言うと、貴方のSSにわくてか(*ノ∀`)
>>366-368 ご回答有り難く存じます。
外見とか寿命なんかはこちらの想定と離れていなくて助かりました。
ただ、卵生は想定外でした。雛期とかもあるんですかね。生まれたては羽毛、とか。
白羽さん、意外にざっくばらんな性格なんですね。
いや、もう少し硬いヒトなのかと思っていたのですが。
>大半は養子ですよ
ってことはやっぱり子持ちなんだ。
というより、母親陣を除くと子持ちのヒロイン(?)って実は初めてなんじゃ…………。
会話形式小ネタ3
「ご飯ですよ〜」
「今日も魚かよ!」
「他に用意できる物も有りませんし・・・・。あ、海草スープ投げるくらいなら、下さい」
「毎日三食魚と海草で飽きないのか?」
「いえ、別に。これが、一般的な戦鳥の食事内容ですよ」
「栄養、偏らないか?」
「・・・・明日は、姫様と一緒に食事なさいます? たまには顔を見せろと仰せでしたし」
「・・・・頼む」
―――翌日―――
「なんだコレは」
「豆と燕麦の混ぜ煮だけど?」
「新鮮な野菜とか、肉とかは無いのか?!」
「あるわけ無いじゃない。ここをどこだと思ってるのよ」
「こんなんじゃ鳥の餌と一緒じゃねーか!」
「だって鳥だもの」
殆ど土の無い、離島の食生活って、たぶんこんな物。
というか、姫様偏食過ぎ。
スープは多分、昆布と鰹出汁。
本編は進んでないのに、調子に乗って小ネタを捏ねてみた。
今は反省している(´・ω・`)
>>376 よかった、『蟲』は出てこなかった(w
>>377 いや、ほほえましい感じがなかなか
本編、がんばってくださいね、とさりげなくプレッシャーをば(w
最近まとめサイトを読み返して思った。
ハンドルがシンプルな人は続くのが多いかも。
380 :
ぺん:2006/08/19(土) 05:39:51 ID:AAo4Z45U
パソコン復活
ほんと連絡おくれてごめんなs視線がいtあっいたtあっあ・・・!
別に猫耳じゃなくて、獣人でもいいですよね?
と思ってちょこちょこ書いてみましたが、
なるべく細かく書きたいと思って文が無駄に長くなりますorz
そしてエロシーンの執筆がまるで進みませんorz
382 :
名無しさん@ピンキー:2006/08/19(土) 17:59:50 ID:V9uyK14j
やっぱり狐最高
>>381 ズッコンバッコンやってるシーンなんて飾りです!
それがベタエロなガキには判らないんです!
チラリズムさいこー!
って…
何やってんだ>俺 orz
エロシーンに捕らわれすぎて物の本質を見失う無かれ
まずは誰かに読んで欲しい!って心が大事だよ
後は、批評酷評をも受け入れる力だね
ガンバ!
>>380 復活して何よりです。続きを期待しております。
>>381 良いんじゃないでしょうか。獣人の猫女性が哀れな美少年を逆レイプとか萌えますし。
>>382 あれ、続きはもう出ないんでしょうかねー?
>>380 おつかれー。
>>382>>385 狐はかなり出る確率低いだろうなぁ。
>>3で「停滞中…」になってる人は、もう一年以上音沙汰がない人たちだし。
さて、こっちも頑張ろう。
とりあえず目標は今月中投下。
えーと、舞台設定上わからない事ができましたので、
教えてください先輩方。
『狐の国は半鎖国状態』とありますが、『主産業は観光』
ともありますから、結構他国の人が出入りしていると
考えていいですよね?観光客の人が工芸品の技術に魅せられて、
そのまま移り住んで修行したりとかも。
人は入れても、物は入れないとかかもしれないな。
昔の長崎みたいに、観光ルートを限定とか。
>>387 たとえがアレだけど…北朝鮮みたいなもんジャマイカ?
閉鎖的な鎖国型国家的存在みたいな感じ
狐の国の人、気分を悪くされたらすいません・・・
>>387 もしくは、国内に他国人が入ることもあるし、一般人との交流はあるけど、巫女連とその近辺の国政を担当する人がいる地域には全然近づけないとか。
景佳くんあたりとは出会うかもしれないけど、天藍さんや翡翠さんなんかだと、もう他国人は半径10キロ以内に近づけないとか。
ところで、猿の国書いてる人、もしくは考えてる人っていたりしますか?
勝手にキツネの国書いてるけど、そんな事全然考えたこと無かったなぁ>鎖国状態
俺は巫女ってのはピンからキリまであって、それこそ国政に関わるような偉い巫女も
いれば、田舎の神社の境内を箒で掃いている巫女さんもいると妄想しているんだが。
>>391 中央と辺境では、微妙に違うって奴ですかな。それもありかとわくわくしてますが(*ノ∀`)
>>391 確かにそうだな。
辺境という程じゃないんだけど大都市とも言えない地方都市で、適齢期は過ぎてるのに神社の管理が忙しくて男が
作れず、次々と結婚を決めていく友人達に焦りを覚えているがかといって還俗するわけにもいかず、「何で他人の
結婚式をあたしが祝福しなきゃいけないのよ」とか「えーっ!?ちょっと次の土日も式典と払い入ってるの?」とか
「ああ、(ピーッ)歳なのに未だに処女なんて友達に言えないわよ」とか一人悶々としている巫女さんがいても良いはずだ。
>>394 そこまで行くとヒトでも狐でも犬でも猫でも馬でも猿でも…
そんな事はどうでも良い!って状態に… ;y=ー( ゚д゚)・∵. ターン
流れをぶった切るようで悪いんだが、ネズミの姫様を書いたので投下していいかな?
あんまり上手じゃないんだが
>396
上手い下手は面白さに関係ないよ。投下汁
>>390 すみません、それって『鎖国』とは全然関係ですよね?
「ここは国政に関わる建物なので、観光客の方は立ち入り禁止です。
ご了承ください」みたいな規制でいいでしょうし。
『半鎖国状態』な設定を考えた方にその意図をお聞きしたい。
既に鎖国の定義といった物の話になりそうな気配…
一昔前の中国と一緒で、外国人の行動が大幅に規制された状態
と考えれば良いんジャマイカ?
>>387 キツネヒト以外入れるところが限られているか、
特定の国からしかヒトを受け入れないか、
あるいは外国からの技術や物の持込を禁止しているか、
上記のいずれか、または複数に該当する状態かと。
なんだかんだ言っても、結局は設定を考えた本人にしか判らないんだろうけど。
>>396 早く。
準備と覚悟を完了したので投下します。
過去ログみるとネズミ=ロリの様でしたがロリにしそこねましたorz
ネズミというよりハムスターに近いのでご注意を。
題名は「無垢と未熟と計画と?」そのいち上
気に入ってただけると幸いです。
初めは大変だった。
でも時が過ぎるのは早くて楽しくて。
わいわい騒いで楽しんで悩んで、また騒いで。
アクシデントもあったけど、また騒いで。
そして、今がある。
偶然に偶然の綱渡りだったけど、みんながみんな頑張ってのこの結果。
それに一切の不満なし!
わたしは本当にそう思う。
〜誰かの8冊目の日記帳の終わりに〜
§ § 1 § §
俺は、そこそこ黄昏ていた。
その原因は、赤点スレスレの数字が大きく載っている将来を左右する紙切れ。それが数枚とも似たり寄ったりなことにある。
「はぁ……これはなぁ……」
テスト用紙から目を離してみればそこは夕暮れの神社の境内。夕日も相まってとても寂しく感じる。
「なにやってんだろうなぁ、俺」
独り言を呟いても肘を壊しかかって野球は出来ないし、テストの点数が上がるわけでもない。
それでも愚痴を言いたくなるのが人情。
「どうにかならんものか、本当に」
まぁ周りには誰もいないし、参拝客も正月くらいでなければ見たこともない。多少、独り言を愚痴を言ってもバチは当たらないだろう。さっき賽銭箱に100円入れたし。
野球でそれなりの活躍して、大学に入って、獣医になって……と考えていたけど結局途中で挫折。
まぁ、それだって無理な練習した所為だし、この点数だってその事実に落ち込んでいて、勉強を疎かにした上にいつもの"要領の悪さ"が災いしてうまく出来なかった。
それでもしなかったよりマシだろうし、一時期に比べれば赤点スレスレなだけでも幸いと思うしかない。
「思えないよなぁ……」
この要領の悪さはとーさんとかーさんも分かってくれるだろう。なんせ自分らもそうなんだから。……あの二人から優秀なねえさんができたのが謎だが。
要領の悪さのサラブレットだからこの程度。ねえさんには敵わない。だから俺はよく頑張った。
「頑張ってもこれじゃあなぁ……」
親や周りは納得しても自分が納得できない憤り、これだけはどうしようもない。原因を転嫁しなければだけど。
403 :
無垢と未熟と計画と?2/13:2006/08/22(火) 00:03:41 ID:2fXdwjvx
神頼みは信じてはいないが、ここまでくると居ないものにすら縋りたくなる。だから、もし神様がいるのなら、
「俺を少しはマシにしてください」
そう願わずにはいられない。
「?」
ぼんやりと黄昏ていると、座っている本殿の下からなにやらガタンゴトンと何かが動き回っている音。
ネコかなんかの縄張り争いだろうか? それにしちゃ暴れすぎてる気がしないでもない。と、考えていると鳴り始めと同じように唐突に音が収まった。
「決着ついたかな?」
決着ついたのなら負けたほうを手当てしてやらなきゃならない。大怪我でもして死んでいたら夢見が悪すぎる。
それにネコは好きだし。
覗き込もうとすると、小さいものと遅れてちょっと大きいものがが飛び出して俺の前をくるくる回って走りまくる。
どうやら、ネコがネズミを捕まえようとしているらしい。
ネズミはよく鍛えられているのかちょろちょろと逃げ回り、ネコは飼い猫なのか鈍重そうな体を無理やり俊敏に動かし追っかけている。
トムとジェリーは、現代じゃなかなか見られるものではないだろう。
「――――!」
追っかけるトム(仮)と逃げるジェリー(仮)はそんな鬼ごっこを1分くらい続けて、ついに形勢が崩れる。
ネズミのスタミナが切れたのかスピードが落ちると、すかさずネコは姿勢を低くして飛び掛る体勢に移る。
さすがはネコ、太っていても天性の狩人か。
「!!」
と、目の前に小石が一つ飛び込んで驚いたように飛び退く。
そりゃそうだろう飛び掛る寸前で石が飛んできたら誰だって驚くだろう。それに投げたの俺だしね。
「……ッ」
やっぱりネコに睨まれる。せっかくの獲物を前に邪魔が入ったわけだし当然なんだけど。
そんな睨みあいをしていると、捨て台詞を吐きそうな貫禄でネコはゆったり振り返り、階段の方へ歩いていく。
足元を見れば逃げていたジェリー君が佇んでいた。
ネコとネズミならネコが好きだけど、なんとなくネズミを助けてしまった。
ま、たまにはいいんじゃないかな。
「次は無いから、気をつけて帰れよ」
言葉も通じないのに、頷くような仕草をして林の方へ帰っていった。ちっちゃい生き物もいいなぁ。
「さっ、帰ろうか」
色々考えてもテストはマシにはならないし、肘が治るわけじゃない。それならさっさと帰って勉強でもしたほうがいいだろう。
そんな結論に至った俺は、ネコが降りて行った石階段へ向かう。
この石階段、自慢じゃないが夏場に運動部の練習でも使われるほどきつい傾斜の階段だ。
転んだら怪我ですめば上等、死ぬかどうかは神様しだい。
それ以上恐ろしいのは、10年に1回はこの階段で行方不明者がでるとか。
気をつけて降りないと……?
「――はい?」
最初は、階段を踏み外したと思った。
しかし、第一歩はちゃんと足をつけたはず。
なぜ二歩目を踏み出そうとして踏み外さねばならない?上を見れば青空。
下を見れば石畳なわけはなく、夜よりも濃い闇だった。
「ちょ……まて――」
理解が状況についていけなかったが、とりあえず抵抗する俺。いくらなんでも、超常現象しすぎだ。
必死に抵抗してもまるで水の中で体を動かしているようでいまいち要領を得ない。
着実に上の青い空は狭くなり、それに反比例するように周りは暗くなってゆく。必死にもがいても手ごたえもなく、突然現れた睡魔のような感覚に抱かれ俺は意識は失った……
§ § 2 § §
最初の感覚は妙に冷たくて重い感触と頭の辺りの柔らかさ。
『〜〜♪』
次に来た感覚は音だった。
その音が歌なのは分かるけど発音が英語っぽくってよくわからない。英語の成績は一番悪かったしなぁ。
音自体はとても綺麗だけど。
『〜〜〜♪』
ずいぶん楽しそうに口ずさんでいるから、相当好きな歌なのだろう。それに声が高めだから多分女の子。
それにしちゃあ歌い方が汚いというか、雑というか。
『〜〜〜〜♪』
なぜか"ユナイテッドステイツ"と聞こえる発音。
アメリカ人の女の子に助けてもらったのだろうか? んじゃあの暗闇は幻覚?
とりあえず体を動かして見るが、服が妙に重たい上に冷たい……服が皮膚にへばりつく感触もするから、多分水に濡れたんじゃないかな?
それ以外は問題は無いかな。
『 〜〜〜〜♪……あ、起きた?』
それはともかく、体を動かしたことであちらさんも俺が起きたことに気づいたようだ。
「――まぶし」
目を開けてみれば天井などではなく緑色を背景に、大きくてくりっとした黒い目が特徴的な綺麗に整った顔が、すぐ目の前にあった。
それ以外は目が光についていけず暗いまま。
改めて状況を確認すると、頭の辺りの柔らかい感触からどうやら膝枕をしてもらっているらしい。
気恥ずかしさから起き上がろうとするが、濡れた服の重みだけでなく妙な疲れでどうにも身動きが取れない。
「起きない方がいいわよ、池に落ちたから怪我は無いだろけどね」
えぇと……?背景の緑は葉っぱだよね?
膝枕されているから大き目の胸で見にくいけど目が特徴的な綺麗な顔、ちょっと湿っている黒いブラウスに黒いロングスカートの黒ずくめもおかしい所は無い。
しいて言うなら蜂蜜色に所々白のメッシュが入っている長い髪位な物だが、染めているような色合いでもないし濡れているのか水の香りがする。
まだ常識の範囲内だよな?
「…大丈夫そうね、それにしても大きな怪我どころかかすり傷すらないなんてヒトって、落ち物としてはかなり頑丈な部類なのかしら?」
そんなことを呟きならがぺたぺたを俺の体を触る目の前の女の子(?)。
断言できないのは、頭の上のソレ。
本来ソレは顔の横に対でついているが、彼女の場合、頭にちょこんと載っていて時折、自己主張するようにひくひく動く。
ソレは髪の毛を掻き分け、付いているのは丸みを帯びた小さな耳。
大きさ、形からいえばネコなどではなく、ハムスターやリスなど小動物にありがちがちな丸い形だ。
暇さえあればペットショップで見ていたからよくわかる。
「あなた名前は?」
ぺたぺた触るのに満足したのか、今度は俺の髪を梳きながらにっこりと聞かれた。その表情にドギマギしながら思考を回転させる。
とりあえず、状況を理解するだけの時間が欲しい。
「ヒトに聞くときは自分からって言われないか?」
正直、この質問の仕方は気分が悪くなる人が多いからあんまりしたくはないんだけどこの際仕方ない。
しかし彼女はさほど気分を害した様子も無くさっきと同じ笑みを浮かべて、
「あぁ、そっか。礼儀は大事にしなきゃね」
こほん、と一息。
「私はラヴィニア――ラヴィニア・ヒュッケルバイト。この近くの町の『王様』をやってるの。って、これだけじゃ意味わかんないかなヒトには」
……ますます理解不能。この時間稼ぎはあまりいい策はでは無いらしい。
「で、あなたの名前は?」
現実逃避しても仕方ないので聞かれたことにはきちんと返す。気分を害して放置されるよりはマシだろうし。
「……藤見、藤見 良」
多少ぶっきらぼうなのは警戒心からくるご愛嬌。
そんな愛想のいい返事でもないのにいい笑顔を見せる彼女。この子の笑顔はどこか足りないものを支えてくれる感じがする。
「ふじ、ふじみ……りょー?」
名前を呼ぼうとするも、なぜか発音できないらしい。流石にそれで呼ばれるのはイヤだ。
「ふ・じ・み・りょ・う」
もう一度ゆっくりと繰り返してやる。さほど難しい発音でもないだろう。……てか何で言葉が通じる。さっきまで彼女英語使ってたぞ。
「……面倒だから『りょー』でいいや」
彼女は相当適当らしい。
「りょー、いい?ここはあなたたちの暮らしてたところとは、まったく別の世界なの。見ての通り、私たちにはこんな耳してるの」
彼女は自分の耳を弾く様に叩く。そんな行動さえ様になるのはその容姿故か。
「あなたたちはヒト。落っこちてきて、奴隷として扱われるの」
奴隷?何処かで働かされたりするんだろうか?……それにしちゃあ親切すぎる。
仮にも王様とか言ってるからかなりの地位があるに違いない。そんなやつが膝枕までしてくれるのだろうか?
「なんで私が膝枕してるのか、って?」
悪戯っぽい表情で気楽に思考を読まれてしまった。かなり出来る。迂闊なことは考えられないか?
「あぁ、そんなに警戒しないでよ、りょー。今ゼロから説明するから……お願いだから、ね?」
両手をあわせて拝むようにお願いされてしまった。なぜか罪悪感がふつふつと湧き上がってくる。
意地を張っても分からない事が多すぎる。
「えっと、ゼロからお願いします」
「うん、じゃあ説明するね」
彼女は口元に手を当てて少し考え込む。
そういや俺、池に落ちたって言ってたな。
……ラヴィニアの髪とか服が濡れているのはもしかして?
「ありがとう」
「え?」
突然謝られた所為か、大きな目をさらに大きくしてぽかんとしている。
「俺を助けるのに服とか髪とか濡れただろ、だからありがとう」
謝ることには抵抗は無いが、耳がちょいとアレなのを除けばかなり可愛い子の目を見るのは恥ずかしい。
「き、気にしなくてもいいわよ、ヒト奴隷は高く売れるからね」
彼女の顔を見れば真っ赤に染まっている。
かなりウソや誤魔化しが苦手なタイプらしいから信用はできるかな。
そんな彼女の表情を見ているうちにウトウトとして、俺はいつの間にか眠ってしまっていた。後でしこたま怒られたが。
これが、ラヴィニア・ヒュッケルバイトと俺――藤見 良との邂逅だった。
§ § 3 § §
とりあえず、俺は落ち物とやらで、ヒトは高級品でなおかつ高く売れる、とのこと。
財政的に厳しいここでは、売れという意見もあったらしいが、この町で――彼女曰く王様をしている彼女、ラヴィニア・ヒュッケルバイトが俺を奴隷とし、売ることは絶対にありあえないと宣言したため、俺は奴隷決定。
もちろん拒否権はあってなきが如し。拒否したら行くところ無い上に誰かに捕まって売られるに違いない。
「ご主人様、起きてください」
ここに暮らし始めて一週間。
ベットの上でブランケットに包まって気持ちよさそうに寝ている"コレ"を『ご主人様』と呼ぶことにも違和感を覚えなくなって、特に病気も怪我もなく暮らしていけるのはありがたい。
「……りょー、あと5分31秒寝かせて。昨日徹夜寸前まで仕事してたから」
「それ、5分36秒前も同じ事言ってますよ」
「時計を持たせたのが失敗だったかしら……」
相変わらず、ベットの上でブランケットに包まってで反論するラヴィニア。彼女の場合、こういう台詞を正確に寝言で言えるから恐ろしい。
二日目あたりにそれに気づかなくて『なんでしっかり起こさないのよー』と怒られた時は理不尽な気分だったけど。
とりあえず、俺はラヴィニアのところで秘書もどきというか、使用人をしている。彼女を起こすのもスケジュール管理するのもその仕事。
彼女曰く、スケジュールがもれるといろいろまずい上に、暗号掛けるよりまず普通には読めないヒトの文字を使ったほうが安上がりで、他人に管理をやらせる方が非常に楽だそうだ。
「んむぅ、おはよう」
ようやく起きたようで、ラヴィニアはまぶたを重たげにうっすらと開けた。開けるまでは大変だが開けた後はちゃんと起きてくれるから非常に楽だ。
ねえさんなんかは起きないどころか布団に引きずり込もうとするから油断ならない。
「ん〜〜!」
ラヴィニアが元気に仰向けで背伸びをしている。これならちゃんと起きるだろう。
これ以上いると着替えまで見せられかねない。
二日目にそれをやられたとき『いいよ、奴隷だし』と返されてしまって、男としてヘコんでその日はちょっと立ち直れそうにもなかったのは今はいい思い出だ。
部屋を出て階段を下りて台所へ。別方向から扉を開く音もするのでもう一人も、目を覚ましたことだろう。
昼食や夕食は、外で食べたり他の誰かのところで食べることの多いこの屋敷の主と、一緒にご相伴に預かる事が多い。しかし、朝食だけはどうしようもないので俺が作ってるという訳だ。
俺が来るまでは、妹が色々やっていたらしい。。
いつ倒れるか分からないのにやらせるのはどうかと思ったが、そこそこ楽しがってたらしい。
「ん〜」
窓から入る光はますます強くなり、庭の木の葉はささやかに揺れる。もう3週間もすればかなり暑くなるそうだが、まだ涼しいからすごしやすい。
「にーさん、おはよー」
昨日の夜の下準備の出来具合に満足しながら台所を動き回っていると、寝ぼけ半分の声を後ろから掛けられた。
「ん、おはよ」
後ろを振り返ると、質素な白パジャマの袖で目を擦りながらラヴィニアの妹――ロレッタ・ヒュッケルバイトが立っていた。
なぜか俺を『にーさん』と呼ぶこの子は、病弱だったらしく肌の色がとても白い。さらにショートにしている髪の毛も灰色だが、濃淡の差で波のように見えるために余計に線が細く見えてしまう。まぁ、余り気味なパジャマの袖もあるのだろうけど。
「準備している内に、しゃんとしてきなよ」
「うん〜」
とぼとぼと危なっかしい歩みで洗面所の方へと消えるロレッタ。ちなみにこの家、トイレ、洗面所、台所、風呂など2階と1階の両方にある。
築20数年らしく、お手伝いさんの為の部屋などもあるが使われていない。しかし、こうした設備はこうして姉妹別々に使われている。
だからといって仲は悪いわけでなく、むしろ良い。理由を聞いたら『もったいない』だそうだから俺には良く分からない領域だ。
そうこうしているうちに出来上がった朝食をテラスへ運ぶ。ガラス張りの為、朝日が清々しくて気持ちいい。
高級そうな木で出来た丸い天板のテーブルがあり、これまた高級そうな椅子がそれを取り囲む。
「えっと、皿、水差し……その前にテーブルクロスっ」
独り言を呟きながら台所とテラスを往復する俺。要領が悪い為、最初は時間が掛かったが最近は結構早く準備できるが、ねえさんならもう一皿、料理を用意しそうだ。
何度か往復し、オレンジジュースを台所からテラスへ持ってくると、ラヴィニアとロレッタが揃って座っていた。
俺がテラスに入ってくると、
「ほらほら〜さっさとしないと、先に食べちゃうぞー」
「ねーさんの分抜いちゃうよ?」
にこにこと冗談を飛ばしあっていた。何度見ても仲がいい。
空いている椅子へ腰掛けて、
『いただきますっ』
三者三様のいただきますの仕草をして、朝食へ手をつける。
今日の朝食はサンドイッチ。昨日の晩に下準備していたからさほど時間は掛からなかったが味は大成功だ。
右手側にはちょっと急ぎ気味で朝食を頬張る暗い青のアオザイっぽい服装の――正装らしい――一応、ご主人様のラヴィニア。
左手側には病人衣のような白っぽい服装をして、いつ姉が喉を詰まらせないかと今か今かと楽しみにしているロレッタ。
っと、つまらせた。水、水っと。
「はい、ねーさん」
ロレッタに水の入ったコップを先にささっと出される。こういう阿吽の呼吸にはまだ勝てない。
「……助かるわ、ほんと」
「ねーさん、ほんとは急いで食べれるほどの体じゃないんだから無理しちゃダメ」
「時間に間に合わせないと、じいやとかフランシス卿とかに小言言われるし、リゼットに先越されると後々貸し作るから国政上よくないの」
「バッカス老とかはともかく、リゼットねーさんに云々はねーさんが個人的によくないんでしょ?」
「……むぅ」
小さい子を叱るように指を立ててロレッタはラヴィニアを突っ込む。
こうしてみると彼女たちにはさほど姉妹の感じがしない。
ラヴィニアの髪の毛に蜂蜜色に白が混じってメッシュ状になってるが、ロレッタは濃淡の差が激しい灰色だ。
髪型だってラヴィニアは背中の中ごろぐらいまでのロングで、ロレッタはショートだ。
耳の形だって細かく違うし、身体つきなんかもロレッタは発展途上極まりないように見えるのに対し、ラヴィニアは服装もあいまってそこそこに見える。
やっぱり……姉妹、というより友達という感じが強い。
「りょーにーさん、失礼なこと考えてない?」
……いろいろ似ていない二人だがこういう鋭い所はそっくりだと思う。
「い、いんや、なんにも」
ちょっとどもってしまった。アドリブは苦手なのは昔からだが変わらないのはちょっと悲しい。
「私たちに対する評価だと思うの。多分」
サンドイッチをひと齧りしたラヴィニアの鋭い直感。気づいているか分からないが、かなり勘が鋭い。
「そーなの?」
ちょっとイジワルな表情のロレッタ。遊び足りなさそうな子供の雰囲気を醸し出してあんまり相手にするとロクな目に合わない。
「あー……さっさと食べようか」
取った戦術は我ながら強引なごまかし。ひょいひょいと皿の上のサンドイッチをハイスピードで頬張りながらじっと見てくるし、ロレッタもキラキラをした光を幻視しそうな視線を飛ばしてくる。
……やっぱりこの二人似ている。2人の大きな目が小動物を連想させられるのも本当によく似てる。
だから――視線が痛いからじっと見ないで欲しい。
朝食が終われば月に一度の定例議会。
議会は七名によって構成されていて、月に一回全員で顔合わせするらしい。
俺はヒトなので会議を見る事すらできない。見ててもあんまり面白くはないだろうけど。
そういうわけで、俺は屋敷の掃除をやることになるわけだ。
「あ、りょーにーさん!」
今朝、朝食を取っていたテラスのガラス拭きをしているとロレッタが俺を見つけた走ってくる。ラヴィニアも俺の肩までくらいまでしかないが、ロレッタはもっと小さい。まぁ身体の小さいのがネズミの特徴らしいが。
ラヴィニアから貸し出された懐中時計を見るまでも無く何の時間か分かった。
ロレッタの服装がフリルが随所に施された白い洋服。これは彼女が病院へ行くときの服装だ。よく似合っていると思う。
「病院いくのか?」
「うん、りょーにーさんも準備して」
「りょーかい」
何が楽しいのかロレッタはニコニコ笑っている。白い服装に灰色の髪色だから余計に病弱に見えるとは、口が裂けても言えない。
これでも彼女は、ラヴィニアの妹なのだ。何をするか分からないし、楽しそうな気分に水を差すこともない。
俺は手早く掃除用具を片付け、適当に着替えて――数も無いので制服のズボンにワイシャツで外へ出る。鍵を掛けてっと。
「〜♪」
おなじみの英語風の歌を鼻歌で演奏しながら、レースがたくさんついた白い鍔広帽子と、これまた白い日傘を持って彼女は待っていた。
やっぱり機嫌が相当いいらしい。こういう機嫌の表現の仕方も姉妹そっくりだ。
「さっさと行こうよ、りょーにーさん」
手を引っ張られるが、とりあえず、
「?」
彼女の手にある帽子を被せてやり、日傘を開いて持つ。もちろん日傘は彼女に日が当たらないような位置をキープ。俺のほうが大きいから楽だが。
ついでに、俺は道の中心側に彼女を端側に並ぶ。
一瞬、ぽかんとした表情を見せたががちょっと帽子の位置を直して、日傘を持ってる俺の腕へしがみつく、というより高さ的にぶら下がるに近いかも。
「にーさん、ありがと」
ちょっと照れくさい。しかもこれ、かなり恥ずかしい。
彼女がヒトだったり俺がネズミだったら兄妹かカップルに見えるだろう。こういう対応をされた経験が少ないから苦手だ。
ラヴィニアにこういうスキンシップはされたことはないから、もしかしたら苦手なのかもしれないが。
「赤くなってるー」
「いや、なってないよ」
と言いつつ、顔に血が集まる感触。どうやら俺は表情に出やすいらしい。えぇと、ごまかさないと。
「そういや、ご主人様とあんまり似てないね」
我ながら三流もいいとこのごまかしだと思う。が、これでも必死だ。
「私たち二卵生だからね」
「えっと、ってことは双子?」
驚愕の新事実。俺の腕にぶら下がるようにくっつきながらロレッタは続ける。
「ネズミは一回の出産に双子が多いの。まぁ、新生児だからすぐに死んじゃう事が多いんだけどね」
「なるほど」
あっちでも、未熟児なんかは生存率が低いからこっちならなおさらか。
「そんな訳でわたしたちは双子って事だけど、数少ない二卵生だから似ていないの。ちなみに、わたしは母さん似、ねーさんは父さん似だけどね」
なるほど姉妹で髪の色も違うわけだ。……ちょっと待て。
「ご主人様と同じ歳?」
「うん、今年で18だよ」
見えない。同じ歳には絶対見えない。
「にーさんはいくつだっけ?」
「今年で17だね」
つまり、俺はロレッタやラヴィニアより年下……?
「あは〜、これからわたしの事を『ロレッタお姉ちゃん』って呼ぶ?」
それはもう楽しそうに笑うロレッタ、お姉ちゃん……だめだ、ラヴィニアならともかく、ちっちゃいロレッタを姉扱いはかなり違和感が出る。
「えっと、勘弁して」
「じゃあ一度だけでいいよ?」
俺の困る反応が楽しいのか耳がピコピコと活発に動いて、今か今かと待っているように見えた。
正直恥ずかしいが、道ですれ違う人はこちらをわざわざ伺ったりはしていないだろうから少しは楽だ。
よしっと気合を入れて意を決して俺は口を開いた。
「ロ、ロレッタお姉ちゃん?」
「んふ〜〜♪」
幸せ一杯のオーラを振りまいて目を細めるロレッタ。ここまで幸せそうなら言った甲斐はあったかな?
「一度でいいから『お姉ちゃん』って呼ばれたかったのよねー、ありがとうにーさん!」
「は、ははは……」
俺に対する『にーさん』はいいのだろうか……?
「〜♪」
とりあえず機嫌もいいようだし、下手な事を言わないでこのままにしておこう。
彼女を病院へ連れて行く事だ。大丈夫だと思うが病気があったら食事を考えてなくては。
「りょーにーさん、わたし、リゼットねーさんの所で遊んでから帰るね」
「おーけい、鍵はどうする?」
「リゼットねーさんに送ってもらうから鍵は大丈夫」
「分かった気をつけていけよー」
もう、行っちまった。
病院の診察は異常なし。ここ一年くらいはやっと抵抗力がついてきたのか、外を出歩いて走ることも、ある程度できるようになったとのこと。
それまではベットの上で一日を暮らすことがザラだったとか。それでも一生懸命学校へ行ったりして、友達は多いらしい。
この一週間でも数人の子が遊びに来ている。目的は珍しいヒトらしいが。
リゼットねーさん、もといリゼットさんはこの集落では珍しいネコ。金髪碧眼のきれいな人で、議会での『財務』を担当しているから恐ろしい。
ちなみに、尻尾も"金"色だから自慢らしい。
議員はリゼットさんや『王』のラヴィニア、『内政』のバッカス老の三人くらいにしか会っていないが、会わなくてもなんとかなるだろう。
ロレッタはリゼットさんのところで食べるだろうし、ラヴィニアは財布を持ってるから自分で買うだろうから問題は、自分の昼飯だ。
病院から少し通りを歩けば食料品専門の通り差し掛かる。お見舞い品を買っていくのにも近いほうが、よく売れるらしい。
「さて、と、昼飯はどうにか考えないと」
多少は料理は出来るがそれはあちらでのお話。パン食が中心のこの町では米は貴重品というか食べないから、炒飯やオムライスなんて代物は難しいし、かといって洋物はカレーとか大鍋料理くらいしかレパートリーがない。
思わず空を見上げれば、じりじりと太陽が真上に上り詰める頃。
そうなればこの通りの活気も最高潮に盛り上がる。勢いのある掛け声、値切りと利益確保の攻防、井戸端会議。そんな雑多な音が活気の一部となって盛り立てる。そんな音を聞いていると、ここが、違う世界ということを忘れそうになる。
「あ?」
そんなことを考えつつも回りを見ると、キツネの若い女性がが見覚えのあるものを売っている。
白い楕円状の粒――米だ。
「いらっしゃいませー」
俺がヒトなのに眉一つ動かさず、丁寧な営業スマイル。さすがプロ。
通りのちゃんとした店でなく屋台風味で売っているからあやうく見逃すところだった。
「これ、食べれるの?」
「えぇ、もちろん。裏の山で有機栽培ですよ〜、農家の皆さんの似顔絵付ですよ」
似顔絵付きってわざわざ産地表示から生産者表示までしっかりしてる。ってこの似顔絵、この売り子の人かよ。
怪しさここに極まれり。でも背は腹に変えられまい。興味あるし。
ちょっと触ってみてもちゃんと脱穀してあるし、色もきれい。火力は台所の鍋を使えばなんとかなるかな。
「一袋分ください」
「はい、銀貨10枚です」
ちょっと高いかな?でもこのくらいあれば色々試せるからこんなもんかな。
俺は代金を払うと、軽い情報交換をして屋敷へ足早に向かう。
雑然とした通りを抜ければ閑静な高級住宅街。そのほぼ中央に屋敷は存在する。
屋敷の前を見れば結構暑いのに誰か立っている。暗い青の服装をした髪の長い女の子……ラヴィニアかな?
「……ご、ご主人様ー!」
正直、この歳でご主人様と大声で叫ぶのは少しばかり勇気が必要だったが。
その声に気がついたのか嬉しそうに手を振って、足元の長い裾を振り回して、こちらに駆け寄ってくるって――おいっ!
「きゃ――」
「――っと」
裾が長い服装な上に、高級住宅街とはいえ荒い石畳。転ばないわけが無い。直前で支えてやらなきゃ、盛大に顔面を地面にぶつけていたことだろう。
ふと気づけば……結構頭が近い。
……ラヴィニアが顔を上げたら至近距離か?
と、するりと身体を抜いて何事も無かったように彼女は立ち上がる。
一瞬でもドキドキしてしまった俺がアホみたいじゃないか。
「あはは、ありがと」
「助けて当然なんだから、礼はいらないよ」
感謝されるのは慣れてないから適当にごまかす。
「ふふん、赤くなってるわよ?」
「なってない、なってない」
否定しつつも、顔に血が集まる感触。流石姉妹、いじめるところまで同じだ。
「えっと、あれいいの?」
と彼女が指を指したのは路上に放置している袋。
助けるために手放したが見たところ中身が出ていないので破けている様子もなし。
拾って触ってみるが、大丈夫。炊けばみんなおんなじかな?
「大丈夫……、で、ご主人様はなんでここに?」
確か、定例会議と仕事場でスケジュールがぎっしりだった気が。
「じいやが言うと誇大だけど私に掛かれば簡単よ、何年書類仕事してると思ってるのよ?」
自慢げに言うあたり本当に終わらせてきたのだろう。
「まぁ、次の書類来るのは3時過ぎからだからそれまで家で休もうかと思って」
なるほど。
「お昼ごはんは?」
「まだよ」
「一緒に食べようか? 珍しいものも手に入れたし」
珍しいといえば珍しいのだろうけど、問題は口に合うか、だ。
「珍しいもの?」
目を白黒させた彼女に、米の入った袋を見せながら鍵を開けて屋敷の中へ一緒に入る。
ちょっと時間は掛かるが頑張って欲しいなラヴィニア。
すいません、あげてしまいました。
以上、「無垢と未熟と計画と?」をお送りしました。
下の方は近日中に投下したいと思います。それではお目汚しでした。
りょ、良作キタワァ*・゚゚・*:.。..。.:*・゚(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゚゚・*!!!!!
待ってます。次回の投下を心待ちにしております(*ノ∀`)
本当に良作!感動しますた(ΩДΩ)
続きに期待
イイネ イイネー
とりあえずご主人様との初夜という重大イベントを虚空の彼方に
すっ飛ばして、ほのぼの純愛系でも書いてみようかと思った俺。
それなのに診察と称して落ち人に迫る獣なお医者さんとか、
ご主人様の留守中に迫ろうとする女中さんなイベントを考えつく俺。
orz
好評なようで安心しました。
今日の夜には続きを投下したいと思います。
今現在、落ちモノと「ご主人様の部下」が、
「診察と称してえちぃ事をするケダモノなお医者さん」にまとめて押し倒されてるシーンを・・・・。
上手く描写出来ません(´Д`;)
男が攻められてるの書くの、難しいですね。
>>422 wktk
あと、返事が送れたけど>>402-
>>414の投下分、GJでした。
>>423 ……って、まさかシロちゃんも一緒に押し倒されるの?
(*;´Д`)ハァハァ
さて、こっちも月末投下目指して頑張ろう。
最近、獅子国ばかり書いてたから「岩と森〜」は4ヶ月ぶりだし。
自分の過去投下分を読み返したら、エロのバリエーションが無茶苦茶少ないことに気付いてorzだったけど、まあ同じ男女のえっちなら毎回同じようになっても仕方ないよなぁと自己擁護中w
ところで、蛇の人さま。
蛇の民が住んでいる砂漠地帯のどこかに、フォーセリアでいうところの「無の砂漠」みたいな、魔法がほとんど使えない一帯があるという設定を出したいのですが、よろしいでしょうか……?
イメージとしては無の砂漠ほど危険じゃなく、カッパドキアみたいな感じで、
何かを信仰する少数の人が奇岩地帯で住んではいるけど、魔法は使えなくて精霊もいなくて住み心地はかなり最悪、何でおまえらそんな場所に住んでんだよ、みたいな感じの場所です。
予告どおり、「無垢と未熟と計画と?」そのいち下 を投下します。
ちょっとだけエロありです。
「はいどうぞ」
鍋でご飯を炊くのは難しかったが、ちゃんとできたかな。授業での調理実習をまじめにやっておいてよかったと心から思う。
それぞれの得物はラヴィニアはスプーンで、俺は落ちたときに持っていた鞄に入っていた弁当箱の箸。
時間と材料がないのでおかずなしが悲しいけど、久しぶりの白米だ。
タイ米とかではなく、日本のお米っぽいのがあるのだから、この世界は不思議に満ちている。というわけで、一口。
……忙しくて朝はパンがいいといつも言ってたが米はいいね。ほんと。
彼女はというとスプーンを握ったまま、お椀からもうもうと湯気を上げている物体――ご飯を睨んでいる。なんというか警戒心丸出し?
「どうやって食べるの、これ?」
「普通にすくって食べなよ、俺はこれを使うけど」
箸を掲げて見せる。知らない人には確かに異文化だろう。
「そんな棒で食べれるの?」
「俺らの世界じゃこれで食べてたんだから大丈夫。それより食べてみてくれ、冷めるとあんまりおいしくないから」
俺はまた、一口箸でつまんで食べる。
ちょっと水多い気もしたが、今度から気をつければ問題はないだろう。
ラヴィニアを見れば意を決したようにスプーンをご飯をすくって口に入れたところだった。しかも目を閉じて。
知らない物を食べるのにそこまで警戒するなんて何かトラウマでもあるのだろうか……?
「どう?」
"まずい"とか言われたら、お米がここで売られなくなる――そんな現実が容易に想像できる。
(俺結構、軽率なマネをしたかもしれない)
ご飯を食べさせた事に後悔し始めた頃にやっとで口を開く彼女。
「……おいしい」
そう言ってもぐもぐと咀嚼し、機嫌を反映しているのか一緒に丸い耳もひょこひょこ動いている。
「噛むと甘くなるんだ……」
そう言いつつ二口、三口とおわんの中身が勢い良く減ってゆく。しかし、口元はちゃんと動いてよく噛んで食べているようなので喉を詰まらせる様子は無い。
でも口元にご飯粒つけて食べるものだから、なんか小さい子供に見えてくるから不思議だ。
これでなんとか、ここからお米がなくなるという悲劇は避けられたらしい。
食べるのに夢中なのか、ラヴィニアから声を掛けてこない。
そんな一生懸命食べる姿を見ていると、ねえさんを思い出してあちらの世界が懐かしく思えて頬が緩む。
……そういえば拾われた後、こちらの世界の話はされたが、元の世界の話題を避けるような節がある。
寂しくならないようにとか、ホームシックにならないようにとの気遣いなのかもしれないが、限度ってものがある。
確かに、元の世界は恋しいといえば恋しいが、今の生活を捨ててまで戻りたいとは思わないし、ラヴィニアやロレッタがいてくれるのだから寂しいとは今のところ思った事は無い。
それに俺は、目の前でご飯を幸せそうに目を細めて食べている女の子の奴隷だ。
主人が奴隷相手に気を使って、遠慮していく関係は何か間違っているような気がする。
「俺の家族は俺含めて4人家族でな」
だから、俺からそんな気遣いはいらないと、示せばいい。
そうだよな、ご主人様?
「俺、とーさん、かーさん、そしてねえさんの4人家族」
「……私のところも昔はとうさんとかあさん、ロレッタと私の4人だったよ、今は両親居ないけどね」
そういえば、家族の話もしていなかった。
ご主人様自身のことは名前と妹がいて、ここで暮らしている程度しか知らない。
まったく、ここまで気を使われていたとは、陰で支える奴隷としては三流以下かな俺は。
何かいい話題は……ねえさんがいいかな?
「ん〜ご主人様を見てると、ねえさんを思い出すよ」
「わ、私?」
「なんでもソツなく出来て、完璧に見える癖に何処か抜けた辺りがそっくり」
「抜けてるのは自覚してるけど……ひどい」
コンプレックスか何かを突付いた所為か、唇を尖らせてご主人様は拗ね気味に視線を逸らす。
「あはは、ごめん。確かに似てるけどねえさんの方が凄いかもね。もちろんご主人様も凄いけど」
「ふーん、どんなヒト?」
「テストで満点を突っ走る秀才。容姿端麗、才色兼備。まぁ、背が小さいのが悩みだったらしいけど」
よくよく考えると、あの人の弟である現実が未だに信じられないが。
「すごいねー、そんなヒトがりょーのおねーさんか」
なにか感銘を受ける部分でもあるのか感心したように頷く。
「今、考えるとあの人にかなり助けられていたと思うよ」
無理矢理フルートの練習に付き合わされたり、後ろから飛びつかれて『私の身長返せ〜〜!』とか色々読めない所はあったけど、大切な家族だ。
ねえさんとの思い出に浸っていると、おずおずとご主人様が声を掛けてくる。
「えっとさ、私をおねーさんだと思っていいよ?」
「……はい?」
聞き間違いだと思いつつ、ご主人様を見ると申し訳なさげに眉尻を下げ、人差し指をつき合わせていた。
「いや、えっと、ほら、んと、なんというか」
「落ち着いて、な?」
一瞬の沈黙を否定を受け取ったのかテンパっているご主人様。なんというか、慌てっぷりがオーバーだ。
「ご主人様」
「は、はぃ!?」
俺は姿勢をただし、相手の目を見つめる。これで大抵の相手は黙る……とはねえさんの言だ。
「大丈夫だよ、俺は」
「――……」
「病気もしてないし、食事もちゃんと取れる。それにあなたやロレッタが居る。だから大丈夫、ね?」
「元の世界に帰りたいとか思ってない?」
「帰りたいと思った事はない……と言えば嘘になるけど、俺は十分幸せだよ。だから気兼ねしなくていいよ」
ねえさんの料理や、とーさんとかーさんの喧嘩が見れないのは悲しいけど、その分こっちで楽しみを探せばいい。
苦境を楽しむコツは楽しみを見出す事、ねえさんもよく言ってたっけ?
「う、うん、……わかったっ」
ご主人様は一瞬ポカンとした表情をしたが、我を取り戻すとにっこりと笑った。
「それじゃ、一つお願いあるんだけどいい?」
「な、なにご主人様?」
恥ずかしげに体をすくめ、おねだり(?)。
なんだか妙な感情が沸きそうだ。
「……おかわり、ちょうだい?」
「その前に、口元のご飯粒とろうね、ご主人様」
あたふたとご飯粒を取ろうとするご主人様に苦笑いしつつ、俺は差し出されたおわんにおかわりをたっぷりと入れた。
§ § 4 § §
まるで古い木造の小学校の教室のような環境は行政局の一室。財政の中で一番パーセンテージを占めているとはいえ、かなり苦しいのか結構くたびれている。
窓から見えるのは残り滓のような夕日。黄昏時も終わりつある時間だ。
「わかったかの?リョウくん」
素材としては上質の絹かなんかで出来た薄い緑色のローブを着込んだでっかい立ったネズミ。
白い毛並みを見れば所々くたびれたところが見え隠れして、重ねてきた年月を感じる。
「えぇと、これがよくわからないんですけど」
「あぁ、そこか」
ここでバッカスさんから文字や規則を学ばされている。落ちてからも勉強するとは思わなかったが暮らすには必須なのだから仕方ない。
「……さて、授業はここらで終わりにしようか」
「あ、はい」
授業時間は4時から6時だけど時計を見れば、終わりまでは後30分はある。
時間に厳しいこの人が、早めに切り上げるのは何かあるのだろうか。
「……」
バッカスさんは何故かなにも語らず、窓の外を眺める。
この雰囲気が、怖い先生に睨まれるより怖く感じるのは年の功か。
「確認するがヒトは奴隷と聞いたな?」
「えぇ、奴隷というから、どこかで働かされるのかと思いましたけど」
奴隷と言うからひどいのかと思えば案外、楽しい生活だけど。
「おまえさんは、姫様に拾われたからマシな生活を送れているだけで大半は死ぬ」
「ここはあちらより環境は悪いだろうし、そしてここの環境は苛酷でヒトは脆過ぎる」
常時雪の降る土地、零下20度まで下がることがザラな山、そして未知の病気。死因はいくらでもある。俺も落ちた時は、池に落ちたとか言われたから、最悪そこで溺死もありえたわけで、決して縁遠い事実じゃない。
「だが、一週間もたって未だに病気の兆候もなければホームシックになりもしない。心身とも頑丈だよ、本当に」
確かに病気をしないのはガキのころからの自慢だし、ホームシックかと言われてもあっちに執着心はあるけど、今はこちらも大事だと思う。
褒められているのか思ったが、横顔で分かりにくいがバッカスさんは苦虫を噛み潰したような表情をしている。
「生き残った奴隷が何をするか知っておるか?」
仕事かな? なら、力仕事……いや、それなら他の獣人とかにもっと優秀なやつが居る。となれば、
「頭脳職?」
「そうなるな」
だが、と続けて、
「頑丈なだけなヒトもいるだろう、おぬしのようなのがな」
耳が痛い。確かに勉強もあまり得意でない俺は知識はないし、体力だって所詮はヒトの域を出ない程度だ。
「だからこそ、ヒトは高級な嗜好品である訳だ」
「……」
「頭も無ければ、技術も無いヒトが、嗜好品を言われる理由分かるかの?」
「……無駄飯食らいだから?」
言ってから自分の間抜けさ具合に気づく。
『無駄飯食らい』なだけで高級な嗜好品扱いされるのは流石におかしい。
「……それもあるかもしれんが、違う」
ん〜それじゃ何なんだ。もうちっと勉強真面目にしとけばよかったかな。
「すいません、降参です」
何故か空気が重苦しくて、俺はおどけるようにに両手を挙げる。が、しかし、バッカスさんの様子は変わらず重苦しい。
「ならば聞く覚悟はあるか。この世界に失望して帰りたくなるかもしれんぞ?」
上等だ。聞かしてもらいたい。
「見くびらないでください、バッカスさん。元の世界だって酷い事は一杯あったんです。何聞いてもそれはないです」
一息。
「それに俺はご主人様達が好きでここに居ますから」
横からじゃ見難いが、バッカスさんの口元らしきところが開いて白い歯が見える。どうやら笑っているらしい。
「若いのう、では、よく聞け」
若くて結構。
「包み隠さず簡単に言えば、性処理の道具とか玩具、そんなところだ」
……はい?
「良かったな、男で」
「え、えぇ。そうですね……」
予想の斜め上をいく言葉に思考が空回りしてまともな反応が出来ない。
「おぬしが、もし女で見つけたのが男だったら犯され、死ぬぞ」
「は、ははは……」
落ちたのがねえさんでなく、俺でよかったのかな…これは。
「……まぁ、男が押し倒される場合も多々あるようだがな」
(ご主人様で良かった、まともな人に拾ってもらって本当に良かった)
思わず、涙ぐみそうになるが堪える。男である以上そういうことは嬉しいが、流石に無理矢理はちょっと嫌だ。
「さて、ここからが本題だ」
目の前のバッカスさんの窓を見つめる視線が厳しくなった気がする。
「ネコやイヌなら長い寿命だが、我々は70年も生きるのが限界」
この大陸でもっとも繁栄しているのはネコは650年なのだからその少なさが伺える。もちろん、人に近い寿命の種族もいるようだけど。
430 :
無垢と未熟と計画と?5/16:2006/08/24(木) 21:58:34 ID:t1TqQUyn
「たった70年しかないのに、もし、王が10年もヒトと遊んで政(まつりごと)を疎かにし、国が乱れたら誰が責任をとるのかね?」
「それは……」
「姫様は戴冠式まであと2年あるが、君が原因で王位継ぐ事止めたら、誰が継ぐのかね? ロレッタ姫様は今は良いが、将来また体が弱くなるかもしれない。」
大体、言いたいことは分かる。悔しいけど、俺にはそんな責任は取れない。
「……つまり俺は邪魔ってことでしょうか?」
「正直に言うなら」
この人キッツイ所があるとは思ったけど、ここまでとは……でも、言ってる事は正しいと思う。
「俺にどうしろと?」
「静かに去って欲しい。と言ってやりたいが、それではこちらの良心も痛む。コネのあるイヌやネコの研究所へ送ってもいい。それでどうかね」
現状では帰れる手段はない。しかし将来的には帰れる可能性のあるのは、ここか、研究所か。そんなことは考えるまでもない。
「どうするかね?」
バッカスさんが窓の外から目をはずし、こちらの瞳を見つめる。やはりかなり厳しい色が見て取れる。
「――お断りします」
確かに、それはそれで"幸せ"なのだろう。だけど、俺はここの生活に"幸せ"を感じている。それは、施設に引き取られて受け取る"幸せ"とは絶対に相容れない"幸せ"の形だ。
研究所に引き取られる方が迷惑をかける人間が少なくすむ。俺があの屋敷で生活する以上、この集落で集められた血税を消費する。一人当たりごく僅かでも迷惑を掛けていると俺の理性は訴える。
しかし、感情はそうはうまくはいってくれない。
俺が居なくなったら誰がご主人様の話し相手になるのだろうか?
ロレッタは姉が帰ってくるまで一人で広い屋敷に居ることになるかもしれない。
もし二人が喧嘩したら誰が止めるのか?
……一番簡単に早く対応できるのは、俺だと思う。自惚れかもしれないけど。
「では、責任を取れるのかね?」
「大丈夫ですよ、彼女なら」
この一週間、伊達には暮らしていない。
たかが一週間、されど一週間。その重さは重々承知している。
「言い切れるのか?」
「もちろん。ラヴィニアは確かに気分屋な所や適当な所はありますけど、仕事の重さと責任を分かっています」
バッカスさんの目をしっかりと見つめる。ご主人様の強さを認めさせるため為に。
「そんな人が、自分の宿命から逃げるわけありません」
「逃げたらどうする」
「俺が止めます」
ちょっと見栄張りすぎな気もするけど、強気に行こう。
「ふっ、ワシがその前に君を追い出すかも知れんぞ」
「俺を追い出したらご主人様も付いていくかもしれないのにそんな事出来ないでしょう、それにバッカスさんがそんなひどい人には見えませんし」
「保証は無いぞ」
確かにない。かなりキッツイ人だし。でも、
「勘があなたを信用できるって言ってるんです」
「――」
バッカスさんは魂やら、気力やらが抜けた顔をして俯く。俺なにか悪い事言ったか?!
「く、くっく、く……」
……笑ってる? 確かに子供っぽいかもしれないけど、笑う事はないんじゃないかな……?
「す、すまん。では、戴冠を止めると言ったら、君に姫様を止めれると証明できるか」
このときの俺は、笑われた事でかなり熱くなって止められない機関車のような状態だだった。
居心地のいい所に居たいと思う。
楽しい人達と暮らして生きたいと思う。
ご主人様と一緒にいたいと思う。
だから……絶対に引いてやるものか。
「なら、一ヶ月ください」
これから言うことは無謀と同意義。
やれるのか俺は? いや、やって認めさせる。
「そのあとで、議会やバッカスさんで俺を追い出すのか受け入れるのか決めてください」
そう思うと自然と舌が回っていた。
自分が何言ったのか分かっていたが妙に高揚していて実感というのが沸かない。
目の前のバッカスさんははニヤリと底意地の悪そうな笑みを浮かべる。
「はっ!議会でお前さんの処遇を決めるか。面白いことを言うのうヒトは。よろしい、その案受け入れよう」
乾坤一擲なのは嫌いじゃない。試合でもよくあることだ。
「自分もその意見に賛成です」
ハスキーでよく通りそうな声が後ろ――入り口の方から聞こえた。
振り向くと、きっちりとした服装で何かの刃物を連想させる青っぽい毛並みの若いオスネズミが壁に寄りかかっていた。
「ロジェか、なにかな?」
ロジェ……『軍』担当のロジェ将軍だろうか?
「"迷宮"の改修許可とそのための資材の購入予算、それと人足の雇用許可証です」
「うむ」
ロジェ将軍の取り出した数枚の紙にサインをしていくバッカスさん。その動きは、慣れと凄みを感じさせる。
「この労働者に支払う予算が少なすぎではないか」
「お嬢様に何かあったら、自分のの首が一番に飛びますから自分も働こうかと」
「さよか」
俺がぼけっとしているうちに、ロジェ将軍は仕事が終わったらしく持ってきた書類をそそくさとファイルケースに納めていた。
「りょう君だったかな?」
今思い出したと言わんばかりのタイミングで将軍は口を開いた。
「あ、はい」
「君はラヴィニアお嬢様をどう思う?」
軽い口調で言われてるが多分、かなり重要な事だと思う。
嘘をついても仕方ないし、偽っても意味が無い。だから正直に言うしかない。
「大好きですよ、本当に」
一週間しか付き合いは無いけど、今じゃねえさんと同じくらい大事だ。
「そうか……ところでいいのかな、時間」
促されて懐中時計を開くと既に6時を回っている。
「――…ヤバっ!」
ご主人様は今日が会食無いから、7時過ぎには帰ってくる。そして、俺は手際が悪いから料理には1時間以上掛かる場合が多い。
即ち、帰ってきてもご飯が無いって事になるから、奴隷としちゃ大失態だろう。
「す、すいません、失礼しました〜〜〜!」
ロジェ将軍の横を抜けて部屋を出て行政局を飛び出す。
……帰り道で、『大好きですよ、本当に』を冷静に考えたら告白みたいじゃないかと考えて、転びそうになったのは秘密だ。
§ § 5 § §
「はい、許可します」
私は内政院の執務室でロジェ将軍の持ってきた書類に印を押した。
大掛かりな工事を5日でやる上に、先頭に立って働いて安く早く終わらせようなどというアイディアを出すなんて、議会の中で一番職務に関して優秀な人と言われる理由が垣間見える。私は何番目なのやら。
「失礼しました」
ロジェ将軍が会釈して慌しく出て行く。馬車でも二日かかる行程なのに走っていくつもりなのかしら?
それはともかく、仕事がない。
会議はあったがいつもの定例。話す事はそう多くはない。話題が少ない=平和のバロメータでもあるし。
将軍のように思いついて即行動する人は珍しく、何日かにまとめて事後承諾風味にするリゼットや、一日ごとにまとめて持ってくるじいやなんかが普通で、暇な時間ができることが多い。
それに輪を掛けて昨日がんばりすぎたのがいけなかった。
徹夜になりかけたものの書類を片付けたので持ち越しって物がない。睡眠時間が足りなかったので寝てみたが、これ以上寝ると夜眠れなくなれそうだし。
それもこれも全部"りょう"の所為だ。
昨日、眠い目擦りながら書類を片付けたのだって、今日ロレッタを病院に送るのを見越して帰ってきたときにお昼ご飯を用意して待って驚かせるつもりだった。
そのための食材を買いに大通りに行ったら、ちょうど、黒髪に耳が横についている生き物を見つけて"りょう"だと確信して隠れた。そしたら――
ごーん ごーん ごーん……
物思いに耽って呆けていると夜7時の鐘の音。閉院だからさっさと出ないと閉じ込められてしまう。
急いで身支度をして部屋の外に出てみれば、廊下の奥にじいやの姿。なんだか機嫌よさそうに見える。
その所為か、珍しく手を振っていた私に気づかず出入り口へ向かっていった。……本当に大丈夫だろうか。
職員の人たちが礼をしていくのに、私は笑顔でお返しをする。
最初は慣れなかったけど作り笑いも様になってきたような気がする。
空を見上げれば今日は片方だけ満月。もう片方は新月かな?
いつもより2割増しで夜道が明るい……せっかくだし、遠回りしよう。
「今日の晩御飯なにかなー?」
今日はどこにも会食に行かないと言ってあるから、"りょう"が用意しているだろう。もしかしたらロレッタと一緒に作ってるかも。
……ご飯といえばお昼のあの現場だ。
見つからないように、けれど"りょう"の一挙一動も見逃さないように観察していたら、キツネのきれーな人と楽しそうに会話してなんか"むっ"とした。
あんなうれしそうな顔、この一週間見せてくれた事がないと思う。困った顔や苦笑、微笑は見たけどあんなうれしそうな顔見せてくれなかったから。
それがなんだか怖くて、何も買わず裏道を通って家に逃げ帰った。けれど屋敷に入る気にもなれなくて、玄関の前で不貞腐れていたら、
『ご、ご主人様ー』
帰ってきた"りょー"に呼ばれてかなりうれしくなった。恥ずかしがっているのにわざわざ言う姿が可愛くて、思わず手を振って走ってしまった。
逃げ帰るときは気をつけていたのだけれど、この正装かなり裾が長くて走りにくい。
それを忘れて走ったもんだから……盛大に転んだ。
あちゃあ、と後悔したのもつかの間、すぐに誰かに抱き支えられた。誰かといっても一人しか居なかったけど。。
……ここで顔上げちゃったらかなり至近距離?
それを意識しちゃったらもう心臓がドクドク、止められない。だけど、ここで意識したら負けなような気がしてするりと彼の体から逃げた。
作り笑いと感情制御は、お手の物だけど、身内に使う技じゃないけど仕方ない。
使わないと顔が真っ赤で多分顔合わせる事ができなくなりそうだったから。
とりあえず、ごまかす為に"りょう"が落とした袋を指差したけど。
「ありゃ?」
回想から現実に戻されると、どうやら行き止まり。
行政区画から屋敷までは近いから遠回りと思ったら住宅街の端っこまで来てしまった。いい加減、私も気に病み過ぎなのかも。
いくつか小道を小走りで抜ければ……大通り。この町の路地裏は全て覚えているから庭みたいなものかもしれない。
……さすがに遠回りすぎたからちょっと早足に帰ろう。
それにしても、まさか、できるだけ家族や"りょう"自身の事は避けていた事がバレるとは思いもしなかった。
でも、私はただ、"帰したくない"から言わなかっただけ。もちろん気遣いの部分もあったけど、おまけみたいなものだ。
そんな私が、"りょう"のおねーさん役をやるなんて言ったのは罪悪感からでもある。冷静に考えるとあれも、"帰したくない"という考えから来た物なのだろう。
「全く、私ってば汚い」
期せず出た言葉は、まるで私の心境そのもの。
"りょう"が頑張っているのに、どうでもいいことに嫉妬して拘束しようした私は本当に主人として相応しいのだろうか。
"りょう"ってばいろんな面を見せてくれる鏡みたいで大好きだ。
私が怒れば苦笑を、困れば微笑を、喜べば満面の笑みを返してくれる。本当にありがたい。
一番好きなのはわがまま言った時の困ったような表情。これだけで、もう……ふ、ふふふ……
「……あぁもう、大丈夫、私?!」
思わず思考の深みに嵌りそうになりかかって思いっきり自分の頬を叩く。強すぎて、ヒリヒリするけど気にしない。
落ち着きなさい私。
奴隷である"りょう"に入れ込むのは自由だけど、奴隷本来の使われ方を忘れちゃダメだ。"りょう"には言ってないけど。
その用途は、えっちの相手。
性処理の道具としては非常に優秀。子供もできないのに快感だけは最高。しかも自分好みにできると、リゼットから聞いたことはある。
ネコの方の姫様でも持っているのが数人居ると聞いたこともあるし、事実、夜のお仕事に使われているという噂も仕事柄入ってくる。
だけど、私はそういう使い方はしたくはないし、初めても……まだだし。
奴隷だって生きているし、意思があるなら尊重したい。
あちらさんは意思を尊重しているのだろうか?
尊重しているのならどんな感じで暮らしているのだろうか?
物扱いしていいのだろうか?
他人から見ればどうでもいい事で、この考えが常識はずれってのも分かっている。
他の種族みたいに長くは生きられない私たちは一日一日が彼らに比べて非常に重く、早い。
私たちの種族の一個人の経験など、長く生きたネコやイヌの一般人の足元にも及ばない。だからヒトを飼っているネコやイヌ、ウサギとかにも聞いてみたい。
「どうしたら、あなた達みたいに付き合えるのかな?」
夜風が熱した頭を冷やして、解けない疑問を解こうと自分の髪の毛を梳く。……やっぱりでない。
私は為政者達のまとめ役であり、ここから出て旅行など以ての外。
ネズミは数も力も少なく、他に比べれば病気にも弱い。だから存在をひたすら隠している。
潰そうと思われれば簡単に私たちは滅んでしまうだろう。商売したり、移民を受け入れているのだから完全に隠していないけどそれでも公に広まるほどでもない。
でも……気づいて欲しいと思うのは私だけなのだろうか?
私はみんなを知っていて、みんなは私を知らないみたいな状況になったらとっても寂しいと思う。
寂しい、それは独りよがりの感情かもしれないけど、誰だって寂しいなんて思いたくないだろう。
「さて」
現実を見つめれば、屋敷の前に着いた訳だけど、どう顔をあわせたものか。
「むー」
とりあえず、唸る。案としては、
・抱きつく――却下。
・甘える――却下。
・纏わり付く――却下。
"りょう"が来てから分かったことだが、私は自分の心情を表すことが苦手ということがよく分かった。なんの得にもなりゃしない。
理屈はないけど甘えたりしたら自分が制御しきれなくなるような気がする。しかも、リゼットのおかげで"余計な知恵"をつけさせられた以上、あんまり派手な事をすると実行しそうで自分が怖い。
無難ににこにこ笑ったり、わがまま言って困った表情をじっくり観賞したりして、構って貰おうかな。
私は扉を勢いよく開けて、元気に『ただいま』と言って楽しむのだ。そして、私は私のやり方で"りょう"を独占して、いっぱい構ってもらうの。
無論、やりすぎない程度って前提だけど、うん、それがいい。
「ただ――」
と決意を新たにドアを開けて入ったのはいいけれど、いきなり淡いピンクのパジャマ姿のロレッタに口元をいきなり押さえられる。……もしかして来客?
「ねーさん、静かに。今、いいもの見れるからね」
「いいもの?」
大きな音が出ると逃げ出す光る虫か何かだろうか?
手招きされてリビングへ。お昼に食べたコメの匂いが漂って食欲を刺激される。晩御飯もコメか。ロレッタは初めてかな?
「火、止めた?」
こげてしまったら食べれないのはおそらく食べ物に共通する事項だろう。
「だいじょーぶ、今止めた。りょーにーさんが時間を気にしながら『あと10分』とかいってたからね、それよりこれ!」
ロレッタが指で指し示す先のソファには、なぜか本に埋もれている"りょう"……どうやら居眠りしているらしい。
「居眠りですって!?」
「ねーさん、声大きい」
思わず、大きい声を出してしまった。ごめん、つい珍しいから。
「真面目なりょーにーさんの居眠り中の寝顔! かなりのレア物だよ!」
声のトーンは低めなが大興奮のロレッタ。……寝顔も可愛いなぁ、可愛いなぁ。
困った顔が不動のトップだけど二位の苦笑と交代かな。
『可愛いなぁ……』
思わず、感想が漏れた上にロレッタとハミングしてしまった。……そういえば、気になっていたところがあったなぁ。この機会だから解決しよう。
足音と気配をできるだけ消しながら私は彼の背後に近づいてみる。ロレッタはもうちょっと見たいから起こさないでーとか言ってるが疑問解決が先だ。
ヒトの耳は横についているが、私の興味は耳の下辺りにあるとってもやわらかそうな部分。
私たちにはないのでとっても興味深い。
私は起きない事を祈りつつ、意を決して恐る恐る触れてみる。
ふにゃん
「!!」
見た目どおりやわらかい。ただやわらかいだけじゃなくて血がトクトクと流れている感じがしてとってもあったかい。思わず背筋がしびれてしまった。
もっと、もんでみる。
ふにゃ、ふにゃ
「――」
あぁ……癖になりそう。
ふにゃふにゃふにゃふにゃ
「ん、んん」
「!!」
起きた!? どーしよ!? どう言い訳しよう!? ロレッタに説明押し付けようかしら――…ってここでふにふにしてたら説明責任、私にあるなじゃないの! あぁ、でも感覚が最高すぎて、手が、手が離せない! ちょっと硬くなった? ってさっさと離さないと!?
「……ZZZ」
「はぁ……」
どうやら、起きないらしい。助かった。この状況で起きられたら私、完璧に変なご主人様扱いされるわ。でも癖になるなぁ、この感触。
唐突に思い出すのは何故か、おねーさんの事を自慢する"りょう"。なんだか分からないがふつふつと嫉妬のようなものが沸いてくる。
感情の内、嫉妬だけはどうしようもない。嫉妬なんてほとんどしないからつぶし方よく分からないし。
「ねーさん、傍から見ればすごい挙動不審な上に百面相」
「……」
"りょう"より先に妹に変人扱いされてしまった。なんか悔しいのでこの嫉妬と屈辱と愛を込めて"りょー"にお仕置きしようと思うの。
ガブっとな。
§ § 6 § §
最初、感じたのは生ぬるい感触、少し遅れて鋭い痛み。その二段構えの刺激で俺は強引に起こされた。
居眠りか……やば、ご飯は炊いてたのに寝たらだめじゃないか!
立ち上がろうとして、現在進行形の痛みと生ぬるさのある右耳に気づく。
「――んむ?」
向いてみると、黒い大きな瞳に俺の顔が映る。おそらく相手も似たようなものだろう。
蜂蜜色と白の混じった髪の色してるからご主人様だろう。ほんときれーな肌をしてるすべすべだ。
それはともかく、努めて冷静に現在の状況を訊こう。答え方次第では晩御飯抜きだ。
「なにをしてらっしゃるので、ご主人様?」
「おひおき」
お仕置き……かな? なんで噛まれてるのか理解の限度を越えているけど。
馬鹿みたいに見つめ合っていると、ご主人様の口の中にある耳たぶを舌でいじくり始める……なんというか背筋が薄ら寒くなる。そんな趣味ないよな俺?
完全に陶酔の域絶好調のご主人様の舌は耳たぶをさらに舐る。
最初は唾液をまぶすようにねっとりと嘗め回し、ねちゃねちゃと擬音が漏れてくる。
別なのを想像しないように必死に思考を切り替える。
だが視界の情報は、目を細めて頬を赤く染めて陶酔の表情のご主人様、聴覚は、ささやかな吸い音さえも逃さず伝え、とどめの触覚は舌が耳たぶを舐め回す感覚をダイレクトに伝える。……耐えろって方が無理に近い。
ひとしきり舐めることに満足したのか、耳たぶを包むように舌を丸め、ストローのように吸い込む。
「ひ――」
情けないようだが、体は完全硬直、気を抜けば大問題。
耳たぶを吸われる度に舌のざらつきがかすって妙な感覚を呼び覚ます。
触覚に追加で色っぽい鼻息までかかるのだからたまらない。
「ね、ねねねねね、ねーさん!!」
ご主人様は俺の耳たぶを弄ぶ事をいったんやめ、後方にいるロレッタへ視線を向けたようだ。
なおその際も耳たぶを咥えている。なんという執念。
ロレッタ、いつものように姉につっこんでこんな奇行を止めてやってくれ。
「ま、混ざっていい!?」
……そういや、双子の姉妹だもんな、は、ははは……はぁ……。
「いいはよ、ホレッタあ、はんかいがわにぇ」
「うん!」
とことこと悪魔2号が歩いて来て、俺の左側に陣取る。……いきなり口に含むのかよ!ってか何で耳たぶなんだよ! 泣きたい。
左側では、舌で耳たぶの感触を確かめるようにつついたり吸ったり、甘噛みしたりとせわしない。
右側では、吸うのが疲れたのか、歯ではなく唇で耳をホールドして舌は耳たぶを舌で緩窄して遊んでいる。
困ったことに唾液音がバイリンガルで聞こえてくる。異様な空間に変化してどうしようもない……どうにでもしてくれ。
『ひあわへ〜〜〜』
どっちを見ても恍惚とした表情で耳を噛んでいる。うぁ……かなりまずい。
「!」
ご主人様が先に気づいた、俺の股間で山になっている存在を。
この一週間忙しく処理なんぞ記憶の底にもなかったからさぞかし溜まっていることだろう。
現在、見たくはないもの二番目に位置する二人の顔。だが見たいものの一番でもあるのだから心は複雑だ。
「へぇ〜」
「……わわ」
器用にもご主人様はニヤニヤしながら、ロレッタは目を覆いながらも隙間から視線を飛ばしながら耳たぶを弄ぶ。
正直、視線と勃ったモノがぶつかってとっても痛い。
ご主人様は今まで散々弄んだ耳たぶから口を離し、俺の正面に来て目を合わせる。その目はなにかに酔っているようにも見える。
「出したい?」
「へ?」
願ってもいない言葉だが、『責任』という言葉が胸の中でリフレインする。
「りょーが望むならやってあげる。嫌がるならここでオシマイ、どうする?」
「わ、わたしもりょーにーさんの言葉に従う」
ロレッタも耳たぶから口を離して意思表示。どちらも俺任せらしい。
……困った。本能はYESだが理性が許さない。二律相反のジレンマ。
「――っ」
「どーするー?」
大きくなったテントを人差し指を使って絶妙な力加減で擦られる。
ミミ付きとはいえ、可愛い女の子だ、男としては嫌なわけが無い。が、流されていいのか?
「ほらほら〜?」
また力を加えられるが刺激が一味足りない。もどかしさが理性ジワジワと削る。
YESならその一味はご主人様やロレッタがやってくれるやってくれるだろうが、これでいいのだろうか。
また一段と焦らされて、薄くなる視界にはにニタリと哂うご主人様。こーいう顔もできるのか……女の子って怖いなぁ。
「だ、だしたいです」
後々考えれば、どれほど間抜けな答え方だろうか。
「正直でよろしい」
イジワルな笑みを一層強くし、俺のズボンのベルトをかちゃかちゃと外す。
「ふふ」
下着と一緒にズボンをゆっくりと――おそらくわざと――楽しげに下げて行くご主人様。それを唾液で喉を鳴らして見守るロレッタ。
今の俺は情けなく思うのと同時に、期待に心臓が痛いほど高鳴るを感じる事しかできない。
「まぁ」
この空気に当てられてモノは既に臨戦態勢。とめる手段は俺にはない。
「ねーさん、わたしもいい?」
「いっしょにやる?」
ロレッタがおずおずとご主人様に尋ねると、とんでもない事を提案した。
「うん、やる」
硬直して動けない俺の前、つまりご主人様の隣にロレッタは陣取りじっと興味深げに見つめる。その瞳は潤み、姉と同じように酔っている様にも見える。
俺のモノを見つめたまま動かないロレッタの様子とは尻目に、ご主人様はほっそりと冷たい手がモノを包み込み、
ゆったりとさする。
「へえ、こんな形してるんだ。それに、あっつい……」
さすられただけで、びくんと小さく脈打つソレ。
「あは、可愛い……」
……びくん、びくんと動くのが楽しいからって遊ばないでくださいご主人様。
「えっと、ねーさん、私はなにをしたらいい?」
「あ、うん……一緒にやりましょ。私は上をやるから、ロレッタは下の方頼むわね」
「うん」
ご主人様と比べると若干小さめだが細いきれいな手。それらが俺のモノを互いに遠慮しあうように弄り、温度の違いが興奮を盛り上げる。
『ん…ん……ん……』
二人の手が上下運動を繰り返しているうちに水のような音が絡まり始め、快感をさらに煽る。
「これ、触っても大丈夫かな? にーさん」
……タマまで興味を示しますかこの子。
「強く握ったりしなきゃ大丈夫よ」
なぜ知ってるんだご主人様。と言いたかったが、興奮の余り喉がひり付き声が出ない。
そうしているうちにロレッタは軽く頷くと恐る恐る口に含み、唇で、はむはむと甘噛みするようにもみしだく。
どうやら彼女、謎な物は口に含む癖があるようです。
「はは、負けられないなぁ……あ、なんかでてきたわね……ん」
「う」
ご主人様に先っぽを舐められた感触で腰が引く。
息は荒くなり、喉がカラカラに渇いて、動く気力すら沸かなくなってくる。
「ちょっと、苦いかな」
俺の反応が楽しいのか、沸いてくる粘液をもぐら叩きのように舐めるご主人様。そのたびに俺は、刺激に腰を振るわせる。
「もうちょっと焦らそうかしら……」
「んむぅ……」
ご主人様は舌をモノの頭に掠るように舐め、ロレッタはタマを舌で弄りつつ両手を竿に絡ませ、強くモノを握りこむ。
そんな単純なコンビネーションにも関わらず、下腹部にかなりの快感が走り、ビクッと俺の腰がはねる。
きれいな顔の二人が頬を朱に染め、俺のモノを弄っている様は視覚的にかなりジワジワくる。が、焦らすことが目的な為か、出すまでには至らない。
「ぐ……」
「ふふ、足りなさそうね? でも頑張れ男の子っ」
不意打ちっぽく亀頭を舐め上げられる。
「……っ!」
その感触だけで達しそうになったのを止めたのは理性か本能か。
「ふふ、んじゃロレッタ、一気にやるわよ」
「うん、ねーさん」
そういうと2人は亀頭へ下を這わせ、ぺちゃぺちゃを水音を立て舐める。
「んん……じゅぷ…はぁ………ぺちゃ…」
「じゅる…ぺた……ちゅぷ…はむ」
俺はギリギリと音を立てるほど歯を食いしばり刺激がやり過ごそうとするが、2人は視線で会話したかのように別れ、別なところから刺激を与えられる。
頬を膨らませて亀頭を縦横無尽に蹂躙するご主人様。
いつの間にか竿の裏に舌を這わせているロレッタ。
散々焦らされ、責められたモノはそれらに耐える術をもたず――
「く――」
「あつっ」
「きゃ」
三者三様の声が交じりあい、俺のモノから出た白いモノが飛び散る。一週間以上分、かなりの量だ。
「熱くていっぱいだね」
ロレッタは呆然とし、顔や前髪についた白いモノを指で運び舐め取るご主人様。
一通り舐め取ると俺に覆いかぶさろうとして――
「――ラヴィニアッ!!」
限りなく少ない理性を総動員して大声を出す。すると、少なくともその意図は分かってもらえたのか動きが止まる。
彼女らが許可したのも許可されたのも出すまで。それ以上はダメだ。これ以上は俺にも彼女らにもいい結果をにならない。
二人の瞳から酔いが覚めていくように理性の光が戻る。これで大丈夫か……?
「えっと、ご主人様……?」
「っ……うぁぁぁぁん!」
……止める隙もなく泣きながら行ってしまった。
「えーと、りょーにーさん……生きてる?」
「なんとか」
冷静なように見えるロレッタ。姉に比べれば肝が据わっているか鈍いのか。
「とりあえず、ズボン上げて。それとタオル頂戴」
「あぁ……うお!」
俺が出した液体を被ったのロレッタに一瞬見惚れたものの、ズボンを上げてタオルを取りに行こうとしたら本に躓いてコケた。
そういや、勉強のため本持ち出したんだっけ?
本に躓いて転んだにーさんが、タオルを取りに行ったのを見送ってわたしは大きなため息をついた。
「厄介なことになったなぁ」
短い髪を梳く……あ、りょーにーさんのがくっつく。ぺろっと。
「苦い……」
りょーにーさんのと思えばこれが、おいしくなったりするのだろうか?
それは置いといて。
こうなった原因、言い訳、ねーさんへの接し方。
いろいろ考える必要があるし、何よりわたし自身の心もなんとかしなきゃならない。
「んむ……」
もう一回舐めてみるとおいしい気がする。……全く厄介事ばかり持ってくるなぁ、満月は。
先に、謝ります。また上げてしまってすみません。日本語おかしくてすみません。
とりあえず無垢と未熟と計画と? そのいち は終了です。
そのに の方はちょっと時間が掛かるかもしれません。
き キタァ(゚∀゚)ァァ( ゚∀)アァ( ゚)ァア( )ァァ(` )アア(Д` )ァア(*´Д`)アァンハァハァ
た
ー
>>425-442 GJです。
りょーにーさんがものすごく可愛くて、ついでに姉妹丼スキーなんでものすごくツボでした。
あと、文章のテンポがものすごく好きです。
読了!
耳愛撫かぁ。耳から入って種族の違いを際立たせる。前振りのラヴィニアの想いと
リンクしててなかなか。
綺麗な文章とあわさってしっとりと勃起しそうです。ゆほびか。
GJです
これからどうなっていくのか楽しみです。
スイッチ入ったラヴィニアねーさんハァハァ。
すげえGJです。
448 :
蛇担当:2006/08/25(金) 12:30:49 ID:UZgHy/QE
>>424 > ところで、蛇の人さま。
> 蛇の民が住んでいる砂漠地帯のどこかに、フォーセリアでいうところの「無の砂漠」みたいな、魔法がほとんど使えない一帯があるという設定を出したいのですが、よろしいでしょうか……?
> イメージとしては無の砂漠ほど危険じゃなく、カッパドキアみたいな感じで、
> 何かを信仰する少数の人が奇岩地帯で住んではいるけど、魔法は使えなくて精霊もいなくて住み心地はかなり最悪、何でおまえらそんな場所に住んでんだよ、みたいな感じの場所です。
いいですよ。もともと無駄に広いし小国家乱立してるしのとこですから。
449 :
カモシカ担当:2006/08/25(金) 18:53:44 ID:DIQF+Br7
>>448 ありがとうございます。
それではお言葉に甘えさせていただくことにします。
450 :
鼠担当?:2006/08/25(金) 21:00:19 ID:XtGqITCy
ラヴィニア嬢の
>私たちにはないのでとっても興味深い。
は、ちょっとまずいかなと思いましたが、喜んで頂けて幸いです。
そのに から話を動かそうと思っているのでお楽しみに。
後、質問なんですがwikiの方に設定とか投下した方がいいのでしょうか?
>>450 >wikiの方に設定とか投下した方がいいのでしょうか
ご自由にご活用ください。
wiki の編集が苦手でしたら、このスレか避難所に設定を書いていただければ、こちらで転載いたしますよ。
452 :
鼠担当?:2006/08/25(金) 22:13:57 ID:XtGqITCy
>>451 はい、分かりました。
wikiは編集した事ないのですが、練習がてらやってみますね。
すみませんが、教えてください先輩方。
各種族の寿命ってどれ位なんでしょうか?
本命はキツネなんですけど、設定が無いみたいなんです。
動物的には数年ですが、妖狐とか仙狐とかのイメージで
何百年か生きてそうな感じがありますし。
できるだけ他者様とのズレは避けたいんですよね・・・。
>>453 ばらばら。
ネコは650年ぐらい。
イヌは250年ぐらい。
ネズミは70年ぐらい。
ヘビが150年ぐらい。
俺が知ってるだけでもこれだけばらつきがある。設定がなければテキトーに決めちゃっても良いと思うよ。
>>453 ちなみに、カモシカはだいたい人間と同じで約100年、獅子の民が200から300年です。
あと、自分の作品じゃないんで軽率にはいえないけど、wikiによるとピューマが大体人間の倍くらいの寿命(150〜200くらい?)
狐は案外長命な気もするけど、これもwikiによると
天藍22歳
紅簾14歳
翡翠26歳
ですから、人間より少し長命程度かもしれないですね。
予想としては120〜200くらいでしょうか?
イヌの場合は寿命ではなく平均生涯かもしれん
見聞録の人の作品からうかがい知れるイヌ社会はとにかく悲惨っぽくて
大都市圏でも餓死が普通に出るような食料的に不安定な社会っぽいから
しかも、出稼ぎで過酷な労働をバリバリしてるっぽいし、早死に社会なんだろうね
だから逆に社会が安定してくると猫並みに長命とかの設定もある意味で可かも…
日本だって明治期までだと籠屋の平均寿命は30歳、人力車は35歳だったし
農村部の小作人クラスは約40〜50年だったみたいだから
追記
体の大きさと寿命は微妙に比例するっぽいけど、こうやって見ると蛇の人は短命だね
カモシカさんは高地で低酸素下での生涯だから短命なのかも
チベット・シェルパ族の平均寿命は50年を越えた事がないらしいし
キツネさんは猫の類なので300年くらい行くんじゃないかと…
社会さえ安定していれば・・・ですが
あんまり寿命が長いと悲しいよな。
ヒトと獣人が心から愛し合って結ばれても、ヒトは獣人より短命な場合が多いから生き別れが必然。
純愛ラブラブチュッチュものを書いている俺としては、なんか欝になるなぁ…
入れ込みすぎてると、ヒトが死んだ後に自殺しちゃう獣人もでちゃうかもね。
その辺もあるから「召使い」という形が社会通念になってるんだろうね。
保管庫で狗国見聞録読んだんだけど、8-3で終わり?
続きは投下されてないの?
女の子が壊れておしまいなの?
この世界だって犬や猫が死んだら変調をきたす飼い主がいるんだし、
寿命問題はアンバランスな位の方が主従としての関係を
より際立たせると思われ
>>461 残念ながらあそこでとまってます。
あと、あたし主観の回想って途中にありますからちゃんと無事だと思われます。
464 :
453:2006/08/27(日) 13:03:53 ID:k9FHSMBI
うわ、気になったので質問してみたのですが、
結構反応があってますね。皆さんどうもありがとうございました。
とりあえず第1日目(仮)が完成してあちこち修正中ですが、
短い・H無し・説明描写が多い、というなんとも微妙な出来。
需要無さそうorz
>>464 第一話はえてしてそんなもの。
一話目からいきなりエロが入ってる作品の方がむしろ少ないような気が。
エロなんて飾りです。エロい人にはそれが分からんのです。
このスレである程度の世界観を書き手は共有し、それをどう料理するのかってのが結構楽しみなんだが。
それぞれの書き手が描き出すこの世界の考察は楽しみだし、誰かが書いた設定を別の書き手が上手く
利用して己の作品に活かしているのを見るのは面白いし、素直に上手いなぁって尊敬できる。
まぁ、結局はここはエロパロ板だからエロも必須事項なんだろうけど、中途半端なエロを書くよりも「ヒトが奴隷として
獣人たちに扱われる世界」をしっかりと描き出し、その中でのエロをどういった風に演出するのかというのも
このスレの醍醐味だと思っている。ただヤるでは味気ないだろう。折角万人が共有し、様々な可能性を
持つこのスレでどれだけ面白い作品を書き上げるか、というのも如何だろうか。
変な話、エロネタは義務じゃなくて推奨位に捉えていたほうが作家さんのイマジネーションを掻きたてると思う
エロ話にこだわって夢の世界(笑)の構築がおろそかになるのもどうかと思うので
愛には形がないだとかいうけど
触れられなければ淋しいもんだよね
こちむいの続きを待つあまり発狂しそうだ。
そういえば、避難所のほうで少し話題に上ってますけど、
キャラの名前ってどうやって決めてます?
>>470 えーと、カモシカの場合は、あまり深く考えず、語感とカナの並びを最優先で決めました。
獅子の国の場合は、名前に使えそうな漢字を並べてからカタカナ変換。
・花麗→ファリィ
・飛刃→フェイレン
悩むのは他国キャラを出すときでした。
犬の場合「犬と関係しそうな単語」という縛りがあるし、なおかつある程度「名は体を表す」必要があるし。
それで、バスカヴィル家の犬から取って、ステイプルトンとベリル。
狐の場合は、縁起のいい文字を音読みで。
景佳って名前は、漢和辞典引きながら選んだ記憶が。
猫の場合は、ドイツとかスコットランド系の名前かなと考えてサーシャ。
ニュスタは、シュバルツカッツェの猫とは別種ということと、ある脳内設定に基づいて、この名前にしました。
ヒト召使の名前は、日本名であること以外は条件はないです。
472 :
名無しさん@ピンキー:2006/08/28(月) 10:16:32 ID:1iRtyTs3
age
>>470 キャラクターの立場と羽根の色を決めてから考えます。
「白い羽根、だから白羽ですか。安直ですね」
「ちょっと、アタシの名前まだ出てないんだけど」
「俺の名前、決まってないらしいんだが」
オチモノ君、まだ名無しだったり・・・・(´Д`;)
近日中に投下出来るかも。
魔法学校を舞台にした物語です。ハ○ー・○ッター?そんなノリです。
ちなみにイヌの黒曜種という設定をIBYDの作者さんから拝借しています。すいません。
>>474 これでオチモノ君の名前が「タカ」とかだったら戦羽の誰かと名前がかぶりそうですな。
「タカヤ」だと落ち物展開の上に夜明けの炎刃王になってしまいますが。
質問なんですが、ご主人様は王族や貴族などじゃないとダメなんでしょうか?
冒険者って設定で書いてるんですが、スレ違いじゃないかと心配になったので。
>>477 そうとも限らないですよ。
たとえばジークたんはGARM最強の生体兵器だけど、表向きはただの冴えない軍人で、王家の血も引いてない。
虎の国のミリア様は今でこそ領主様だけど、それはセリス君の力で手に入れたものだし。
ミーナたんだって科学者だけど貴族じゃないですし。
アンシェルは妹の旦那が貴族ってだけで、本人は一介の騎士。
ファリィは道場主の娘だけど貴族とかって地位じゃない。
この世界だと、問答無用で獣人>>>ヒトというヒエラルキーが存在してるから、特に貴族階級でなくてはならないとかは気にしなくても。
とはいえ、ヒト一人食わせるだけの財力と余裕があるのは貴族階級とか公務員なわけで。
その辺きつい職業だとキツイかもね、まぁこちむいのようにヒトにバイトさせるっ手もあるがw
福引の景品とか
いつもより蒼い海。
月明かりが波間を照らして、黒々とした岩礁を浮かび上がらせている。
上下に揺れる視界。
海面には小さな波が立って。
さっきまでの海の中の世界とは違って、クリアに見えた。
空には大きな月。
比重の違う青が見せる、水平線。
外だ。
水の上だ。
何日ぶりだろう。
あたしは、口に海水が入りそうになるのも忘れて。
ぽかんと空を見ていた。
ファルムの腕が浮き沈みしていたあたしの肩を引き寄せる。
足ヒレが力強く水を蹴って。
気がつけば、岩礁に手が届く位置に来ていた。
「ほら」
ファルムの手に押しやられるようにして、岩礁にあがる。
腕の力で体を持ち上げながら海から上がると、胸元に溜まっていた海水が、おへその前を通り抜けて、下から抜けていく。
今着ている水着は、紺色で、ワンピースタイプになっている。
背中はそんなに空いてない。露出度は少ないかな。
おなかのところが二重になっていて、前からはぴったりしたスカートをパンツの上に重ねたように見えるけど、水は重なった筒状の部分から抜けるようになっている。
ファルムは最初その筒って言うか、穴って言うか、その部分に気付いてなかった。
きゅうくつなそれを無理矢理着た後に、ほんのちょっと裏地がめくれあがって見えてたのに疑問を覚えたらしく。そのパンツ側の部分を思いっきり引っ張られた。
そのときのあたしがすっごくじたばたして逃げたから、記憶に新しいんだけど。
ええと、これの固有名詞が思い出せないんだけど、落ちものらしい。
ヒレも、尻尾も通る穴がないもんね。
でもちょっぴり胸が出てるあたしにはきゅうくつで仕方なかった。
一応、胸の部分は二重の生地になってるんだけど。
「どうしたんだい?」
しきりに胸の辺りを直しているあたしに、ファルムが声をかける。
「ちっちゃくって」
するとファルムが鼻で笑った。
「リテアナなら入らないというのもわかるが…、シロではまだまだ未発達じゃないかい?」
む。
「きっついものはきっついんだもの」
ちょこんと岩の上に腰掛ける。
濡れて重くなった水着は水の上にあがると体に張り付いて、厚い生地の下から体の線があらわになる。
ほら。胸の下とか空気入ってるじゃない?
「じゃあ、直してあげようかねえ」
つつっと、ファルムの白い腕が海面から伸びて、あたしの鎖骨の下からおへそまで一直線に撫でる。
な、なんか、こそばゆい。
「なにするのさ」
ぱしゃっと、足をあげて水しぶきを立てる。
ヒトなら一瞬目をつぶる攻撃にも、ファルムは平然として蒼い眼を開けたまま受けて。
なにをやってるんだか、という顔をした。
「はあ……」
あたしは脱力して、膝を抱えた。
深いため息を吐くと、疲れがじわりと滲んでくる。
警戒しながらここまでやってきたのは、ケモノもサカナも、寝静まった時刻だから。
(泳ぎの練習がしたい)
そう、ファルムを説き伏せたのはあたしで。
魔窟はここからはちょっと離れていて。しかも水底にある。
水底に沈む魔窟の一番上の出口からでも、あたしには息が続かなくなるほど長かったんだけど。あたしはあえて、ファルムの手助けを拒んだ。
今回、ファルムの施してくれた水中呼吸の魔法とかは、使われてない。
だからこそ、こんなにばててるんだけど。
「どうしたんだい?」
ファルムが波間から肩から上を覗かせて、こちらを見ている。
あたしは、溜息を返して、ファルムを見つめ返した。
海面から上半身だけ見せているファルムは、月明かりを受けて光る赤黄色のヒレ耳とか、鱗とかがなんとなく幻想的で。
人魚ってこんなのかな、と思わせた。
月明かりは、水平線から岩礁まで、銀色の帯のように海面を照らしていた。
光の鱗がいっぱい。
あたしの白い手足についた水滴にも、月光は降ってきて、青白く見える肌に波紋が映りこむ。
ファルムが目を細めた。
「そうしていると、まるでサカナみたいだねえ」
ヒレの無い細い手足に、青く揺らめく鱗模様の影。
「そっかな」
あたしは、サカナじゃない。サカナにはなれない。
深く潜れないし、長くも潜れない。
ファルムの魔法がなければ隠れ家からも出られなかっただろう。
でも、その方がよかったのかもしれない。
ファルムのことはよくわかんない。
あたしを、突然魔窟に連れてきたのも、「珍奇なケモノ料理が食べられるから」とかいう理屈をつけてたけど。
もしかしたら、他にも用があったついでかも知れないし。
でも、あたしからは目が離せないから、仕方なくなのかも知れないし。
なんだか、あたしはぐるぐるしてる。
迷いや悩みや、戸惑いや。
そんなものよりもっとどす黒いものも、抱え込んでる気がする。
魔窟はそんなに好きじゃない。でも温かい料理はありがたい。
冷えきった関係は好きじゃない。でもファルムのひんやりした肌は好き。
水鏡の間は好きじゃない。でも、あたしのせいで、あの隠れ家には帰れない。
隠れ家に戻りたい。でも、また体調を崩すかも知れない。
ファルムは戻る話はしない。でも、だんだん眉間に皺が寄ってる時間が増えてる。
時々来るリテアナさんや、持ってくる服は嫌いじゃない。でもそんなことがどうでもよくなるときがある。
魔窟にいる人の視線は好きじゃない。でもあたしはヒトだから目立つ。見られたくなければ隠れているしかない。
ファルムは無理してる。
それはあたしがかよわいヒトだからだ。
魔窟で、ここでのヒトの意味を耳にした。
ファルムはなにもいってなかったけど、今思えば、そういうことなのかもしれない。
でも、あたしはファルムを信じたい。
あたしには何もない。
あのとき、身につけていたはずの服も。
それまであったはずの記憶も。
落ちものについての記憶も。
だんだん、日々にながされ、薄れていく。
あたしは、誰なんだろう。
ふっと考える。そして、頭をぶんぶんと振る。
今は。
月明かりの下にいる今は。
「泳ぐ」
そのために来たんだ。
サカナまではいかなくても。
泳げるように、もっと深く潜れるように。
せめて、ファルムの足手まといにならないくらいに。
「干潮の間だけだからね、それが見えているのは」
そう言い残して、ファルムは岩礁から離れた。
来た時より岩場はちょっぴり小さくなってる気がする。
タイムリミットは短そうだ。
足を伸ばして、海面に足を入れる。
はじめはゆっくりと音を立てずに、やがてぱしゃぱしゃと足をばたつかせる。
長い間、運動といえばファルムの相手ばかりだったので、水の抵抗は重い。
盛大な水音を立てると、ファルムがあきれ顔に、音もなく水の中に消える。
水面に沈む、足のヒレ。
波紋が消えると、そこはただ波うっているだけで。
あたしは、白波にふと怖くなる。
大きな月があたしの横顔を照らす。
目の横の白い髪が月光に透けて。
足の動きを止めると、波の音しかしない世界。
指先を、海面につける。
波紋。
あたしの心の波紋。
焦り。
孤独。
あたしはこわばった目の動きで、辺りを見回す。
水鏡の間でひとりでいても怖くなかった。足がちゃんと踏みしめる場所があったから。
なのに。海のど真ん中。辺りに何もないってだけで、あたしは不安になる。
ファルムのヒレが見えない。
ここは、もうすぐ沈んでしまう。
あたしの居場所は、なくなってしまう。
でも、この広い海で、どこを探せばいいの?
ホントに探せるの?
「ファルム…」
そう心の中で何度目か呟いたときだった。
目の前に何かが浮上した。
深紅の長いトゲヒレ。
顔を上げて、ファルムがにいっと笑う。
「ちょいと目くらましの結界を張ってきただけだけさ。どうしたんだい? そんなに心細そうな顔をして」
あたしは抱きつかんばかりに前のめりにダイブした。
ファルムがあたしを抱き留めかねて、一瞬水の中に沈む。
すぐに海面に二人とも顔だけ出して、ファルムが嗤った。
「おやおや、ちゃんと練習できてなかったのかい?」
「見ててくれないと、や」
あたしはファルムの耳元で呟いた。
我ながら小さな、しょんぼりした声。
伏し目がちにファルムの肩に頬を寄せようとすると、軽く引き離される。
目を見開いて顔を上げると、月明かりの中で、ファルムが嗤った。
なんだか、どことなくよそよそしいような、そんな感じがした。
前言撤回。
「ほら、ちゃんと足を揃えて」
岩の縁に掴まって、顔を海水につけて、泳ぐ練習。
サカナ流は、二本足を揃えて、キックだそうだけど。
なんか、動きが難しい。
でも、水音を立てると、すぐさま、ファルムの修正が入る。
「サカナらしくない泳ぎ方なんて、してほしくないねえ」
んっ。
だからって、なんでいきなり股間に手を突っ込んで姿勢を直すかな。たしかにそこに三角形の隙間は空いてるけど。
ぶはっ、と水面から顔をあげる。
「潜ってなきゃだめだろう?」
「でもっ、そんなにあちこち触られたらうまくできないっ」
さっきから水着の中にまで隙あらば手を突っ込んでくるんだもん。
あらわな背中に口付けてみたり。
手首のトゲヒレで、太股の付け根から水着の生地を持ち上げてみたり。
「しかたないねえ。とりあえず何があっても浮いててごらん」
え?
ふわりと、足もとの岩礁から足を浮かされ、あたしは流されないように慌てて岩礁の縁にしがみつく。
う、指先にしか力入ってない。
必死に顔をあげておく。
「満ち潮になる前に、体に覚えさせないとね」
確かに、早くしないと岩がどんどん沈んじゃうけど…。
でもお、水着の中に指が入ってくる、の、は!
股布の部分だけ、食い込ませるように持ち上げて、ファルムの指が動く。
「おや? なんだか濡れているようだけれど…」
「海水に濡れてるんだから当たり前だもん」
「そうかい? じゃあなんだかぬめりけがあるのは何故だろうねえ?」
「そのへんのコケにでも、ファルムが先に触ったんだもん」
苦しい理屈。
「そうかい? では確かめてこようかねえ」
そういうやいなや、ファルムの姿が消えた。
?
股間に、なんだか、変な感触が。
なんだろ、水着の上から、舐め、られてる?
指じゃない、この感触って……。
やっ、足開いちゃうよっ。足揃えておかないといけないのにぃ。
「ひゃうっ」
あまりの感触に、あたしはつい岩に足をつきかけた。
上半身が海から出かかると胸元にも、同じ感触。
あたしは腰を突き出すような形で、水から上がろうとした。
その腰をがっちりと固定され、股間に顔を背後から埋められる。
「こ、こら、お尻にくっつくなー!」
水音を盛大にたてながら、あたしは暴れた。
う、なんか、変な感じが、ぞわって背筋を這い上がってくる。
内股の敏感なところから、水着の生地を持ち上げて、舌が侵入してきた。
「んーっ!」
水が入っちゃう、じゃなくて。舌が、はいって、きちゃう…。
ひくっと足が上がる。
つま先が浮いて、指の先にも力が入ってこなくなって、なんだかふわんと快感の波が押し寄せてくる。
太ももはがっちりファルムに押さえ込まれてて。
剥き出しになったあそこの割れ目を、何度もなぞられ、目の前がブラックアウトしそうになる。
ヒトなら絶対息が続かないほど潜水してるのに。
サカナだから平気、なんだ……。
圧迫感が少し途切れて。
きゅ、きゅ、と水着が割れ目に食い込む。
じゅわっと水じゃないものが水着にぬるぬると染みていくのがわかる。
「ほら、違うだろ?」
ファルムが海面に顔を出して、今にも沈みかけてるあたしの顔を引き寄せてささやく。
「にじみ出てきてるのは、シロの中じゃないか」
「ちがう、もん」
「そうかい?」
あ、あたるよお……。
くにゅくにゅと押し付けるように何度もなぞり上げられて、あたしはだんだん頭がぽおっとしてくる。
胸を水着の生地の上からもみゅもみゅもみ上げられると、つんと立った箇所が、否応にも目立って。
まるで岩場の上で背をのけぞらせるようなポーズで、あたしは、いやいやと首を振る。
そこを、すかさず隙を狙ったように、水着のくいこみを指で持ち上げられて。
ずん、と突き上げられた。
海水が、生温いというか、冷たいというか、なんだかもうわけがわかんなくなってるのに、中が熱い。
夜の海にあたしの吐息が響く。
は、恥ずかしいよお…っ。
なのに声はだんだん大きくなってて。
ファルムは、岩場にしか足場のないあたしを翻弄するように、深く、浅く、楽しむ。
「胸にも、鱗をあげようねえ」
ファルムが、水着の胸元を一気に押し下げた。
押しつぶされた胸がぷるんと飛び出して。
濡れた肌を外気がくすぐる。
「あっ、んっ、はぅ…っ」
胸と、あそこ、両方いじくりながらするのはらめぇ…っ!
手でじりじりと岩場を無意識にのぼっていこうとするけど、だんだん、岩がちっちゃくなってって。
あたしが何度目かに達して、ぐったりしてからようやく、ずるりと中から引き抜かれて、岩の上にファルムの腕で座らされる。
「ほぇ…?」
ぼーっとした顔で見上げると。
ファルムのなんか意地悪い笑みをみたような気がして。
その瞬間、胸から顔にかけて、熱いものがかかって、あたしは目を閉じた。
顔を舐めるといがいがする。
目をおそるおそる開けると、紺色の水着にもいっぱいかかってて。髪の毛にもくっついてて。
「うん、なかなかいい眺めだねえ」
満足げなファルムにあたしは、言い返せず。
「はあ…」
と、返したのだった。
こんなんで潜水、上達するのかなあ。
えっちな訓練は、まだまだ続きそうだ。
御無沙汰しておりました。
夏はなんといおうと、スク水です。
◆/oj0AhRKAw様
飛べない鳥も、そちらの国にはいるのでしょうか。
鶏キャラがいますので、確認しておきたく。
>>487 お久しぶりです。
シロちゃんかわいいよ
ファルムさまえっちいよ
スク水(*´Д`)ハアハァ ←結局そこかいw
小ネタをこねてみるテスト。
「料理してる間、子供達の相手お願いしますね」
「いや、それは良いんだが」
「何か質問でも?」
「結構、見かけ違うのが混じってないか? とさか付いてるのとか、翼小さいのとか」
「交易に出た時に、外で作ったり他の支族の男を連れて来たりしてますからねぇ」
「マテ、ナニを交易に出してますか」
「んー、『春』とか?」
狭い島の中だけで子供作ると、色々と不都合が出るのは 経験的に 知ってるみたいです。
数は少ないけど、鶏や他の鳥も確実に居る、と。
多分、港で働いてたりするんでしょう。
もいっちょ小ネタ
「今日は、何でこんなに女の人が集まってるんだ?」
「月に何回か、子供の顔を見に来る方々が」
「ここだと、お茶やお菓子出てくるしぃ。子供たちの面倒もちゃんと見てくれてるしぃ」
「たまには、子供連れて帰って下さいよ・・・・」
「ここだったら、ちゃんとキョーイクしてくれるし? シューショクも世話してくれるし?」
「・・・・まとめて、騎士団宿舎に放り込みますよ!」
「あ、ソレいいかもー!」
白羽さんちは、『春を売る』商売の人達の託児所兼溜まり場らしーです。
本編は、牛歩な感じで進行中・・・・。
質問です。
特にキツネの物語を書いている方々。
>>391様。
キツネの国の技術水準ってどれくらいでしょうか?
とりあえず平安時代とか江戸時代辺りを参考にしていますが、
冷蔵庫とか、水洗トイレとか、外灯とか。
ネコの国から機械を輸入しているみたいですが、
値段が高い+数が少ないでしょうから、普及は少ないと思うんですよね。
493 :
カモシカ担当:2006/08/30(水) 19:04:39 ID:eRm7BUeQ
なんとか完成。推敲してから今週中、なるべく明日投下します。
気がついたら69.5KB+18.6KB……長ぇよ、俺(´�ω�`)
もしかしたら自分の投下分では過去最長かもしんない。
最近、みんないっぱい投下してるんで読み手としては嬉しいです。
書き手としては…………うん、頑張ろう。
>>487 (*´Д`)ハァハァ
いや、本当にいいものを読ませてもらいました。GJです。
>>492 実は、その真ん中の室町時代とか御伽草子なんかをイメージしてましたw
木地職人の景佳くんの場合、はっきり言っちゃうとそんなに裕福じゃないんで、近代的な機械とかは遥か彼方の世界です。
そもそも景佳くんは「でんき」とか「せきゆ」なんてものは知りませんし、「まこう」というものも聞いたことがないような、筋金入りの田舎者ですw
着てる着物も括り袴とか小袖だし。
まあ、狐の国でも都心部と田舎ではかなり水準が違うのかもしれませんが。
……あとはまあ、その。
テンプレ
>>3の27番の景佳くんとつんでれ剣術少女のお話も、なるべく早く完結させます。
カモシカ担当様に謹んで諫言奉り候
作品をどれか一つ定め、まずは完結されては如何であろうか
進行が宙ぶらりんなまま放置一歩前状態では
読む側としてはなんだその、つまり、困る。
そんな訳でご検討よろしくお願いする次第でありまする。
495 :
カモシカ担当:2006/08/30(水) 19:57:51 ID:eRm7BUeQ
>>494 申し訳ないです。
とりあえず景佳くんのやつは、後半部でえろを書けばいいだけですからさっさと仕上げて来月にでも完結させます。
で、問題はあとの二つですが……
「岩と森〜」は亀ですけど、とりあえずの最終回まではあと5回か6回くらいで終わるはずです。
で、獅子国の方はといいますと。
正直な話、獅子国は基本として一話完結型の短編集ですから、進行とかそういうのはないんです。
ファリィとキョータとミコトとサーシャとフェイレンの五人を使って、ずーっと代わらぬ日常の中のえろえろな一コマを描いてるといいますか。サザエさんみたいなものですw
だから、即死回避とか、「岩と森〜」じゃ使えないネタを思いついたときとか、あるいはスレの投下量が減って沈滞化しているときとかに燃料として入れるとか、そんなものです。
「岩と森」が終わったら、後は獅子国だけになるかもしれないです。
その、なんといいますか、今後はもう少し執筆サイクル上げます。
一人で三人分位書いちゃってますね、乙であります!
とりあえず獅子国ストーリー希望であります
あっちの世界で人どうしのカップルがどうなるのか?
ついでにご主人様はどう反応するのかなど興味津々w
>492
俺は時代が違う話を書いている心算だから幕末ぐらいの技術水準にしてる。
どっちにしろ舞台は凄い田舎だから関係ないと思うんだけど。
技術水準云々かんぬんは元祖狐書きさんに直接聞いてみないとわからないね。
困ったら別の時代の話にすればいいと思うし。
今回は量が多いんで、連投規制あるかもしれないけど投下します。
◇ ◇ ◇
月光が、戦場を照らす。
死屍累々の草原を漂う、腐臭と血の臭いを含んだ風。
「……ひどい臭いだ」
その中を歩く一人の男が、ぽつりと口にする。
黒髪のイヌのマダラ。濃褐色の軍服を身に着け、腰には軍刀と拳銃を下げている。
階級章も勲章もつけてはいないが、素人目にも上質の生地を使っているとわかる軍服。
硝煙の匂いを嫌うイヌが拳銃を携行しているのも珍しい。
つまるところ、良くも悪くも普通とは違う。
(確かに、ひどい臭いね)
その脳裏に語りかけてくる女性の声。
数日前に戦闘が行われたばかりの、まだ生々しい戦場。
本拠地強襲の報に慌てた王弟派の一師団が、慌てて帰還しようとしたところを精鋭の奇襲部隊が待ち構えていた。
左右を渓谷に挟まれた隘路で、行く手を岩と炎に阻まれ、上からの斉射を受けた。
ほとんどなすすべもなく、八千近い軍が壊滅。
男が立っているのは、そのような凄惨な戦場だ。
──本当に、ここに来るのか?
その声に、同じように心の中でたずねる。
(そうよ。A級国際犯罪者“千の死者の主”デクルレイ。データは見ているはずよ)
──そいつは見た。
通り名のごとく、千の死者を操るといわれる国際犯罪者。
猫の国や犬の国を中心に、どこからともなく遣ってきた死者の群れが、町を襲うという事件が多発している。
無論、どちらも大陸を代表する大国と強国。こういった事件に対しては、迅速に軍を出動させ、大半は被害が拡大する前に粉砕している。
だが、死者の群れを粉砕することは出来ても、それを操る存在にはまったく近づけていないのが現状だった。
そんな折、本国から入った連絡。
──ここで、よかったよな。
(ええ。本国からの連絡では、ここに向かっているはず)
──よく捕捉できたものだ。
(残留魔素から思念を追ったようね)
──今日、来るのか?
(間違いないわ。GARMの情報網は伊達じゃない)
頭の中の声と、語る。
その声は、かつての主の声。
一心同体となった、今は魂だけの永遠の主人の声。
死者の谷を見下ろす、断崖の上。
銀糸の衣をまとう人影。鬣のような髭を生やした、狒々の民の男。
「く……かか……憎悪が、無念が渦巻いておる……」
狂気を含んだ声。
「その憎悪と無念、実にすばらしい……」
言いながら、祭刀を振り上げ、呪文を詠唱する。
「……復讐の時は今ぞ……今こそ蘇りの時……」
──準備はいいか。
頭の中の声に、問う。
(いつでも)
──わかった。
その言葉を聞いて、男はすらりと腰の剣を抜く。
装飾のほとんどない、武骨な倭刀。ただし、見た目にただの刀ではないことはすぐにわかる。
黒い刀身。
そして、柄に螺旋状に刻まれた六条の魔術文字。
魔剣。
そういうものを見慣れている人なら、一目でそう気付くだろう。
男は、それを正面で構えながら、言葉を発した。
「……ライズ・アップ」
剣の柄に刻まれた魔法文字が、光となって浮かび上がる。
そして剣を握る腕に絡みつき、螺旋となって包み込む。
そのまま、魔法文字は腕を下から上へと駆け上がり、肩、胸、全身へと広がってゆく。
魔法文字の駆け抜けた後の肌を、蒼白い炎のような光が包む。
やがて、それが全身を包む。
蒼白い炎に包まれた“魔犬”が、そこにはいた。
脳に次々と送り込まれる、自分以外の意思と記憶。
(ようやく……ようやくブチ殺せるぜぇ……)
(ここはどこだ? 俺は何をしている?)
(もうイヤだ……もう殺したくなんてない……)
(助けて……)
(獲物はどこだ?)
(なぜ俺が……お前なんかに……ヒトなんかに……)
(苦しい……痛い……)
(敵だぁ……敵をよこせ……誰でもいいから壊させろぉ……)
矛盾するいくつもの意思と感情。
そして、ぞっとするような記憶。死の恐怖、そして走馬灯。
頭の中に鉄の杭を打ち込まれるような、嘔吐しそうな圧迫感。
その奥で、そのいくつもの意思が混ざり合い、溶け合い、やがて一つの意思となるのがうっすらとわかる。
そして、それが押し寄せてくる。
全てを飲み込む、一つの巨大な意思。やがて、男の意思すらも包み込み、静寂と白い闇で多い尽くす。
そして、白い闇が再び開けた時。もはや、すでに圧迫感も嘔吐感もない。
──敵か。
まるで、いま目が覚めたように、眼前の風景をぐるりと眺める。
じわりと包囲し、迫る死者の群れ。
が、恐怖はない。
──召還。
心の中で、そう唱える。
大気中の魔素が、数箇所に集まる。
そして、それらは光の蝶の形をとり、男の周りを舞う。
それを、断崖の上から見下ろす人影。
蒼白い炎に包まれたその姿を、興味深げに眺める。
「ほう……このような場所にイヌとは……なるほど、わしが来ると予測していたか……?」
そういいながら、口元を緩める。
「だが、そこで何が出来る? 我が僕を相手に、ただ一人で……」
命あるものを憎悪する無数の死者。
疲労も痛みも恐怖も知らず、ただ生ある者への憎悪だけを糧に動く僕たち。
一人で倒し尽くせる数ではない。
「せいぜい、楽しませてくれたまえ」
月光に照らされる戦場。
駆け抜けながら、剣を奮う。
アンデッドには、通常の剣撃はきかない。
動けなくなるまで破壊しない限りは、何度でも蘇る。
黒い刀身が、胴を薙ぎ、腕を断つ。
骨すら存在しないかのように、軽々と裂く。
鋭い太刀筋で、次々と切り伏せ、両断するが、後から後から死体は押し寄せてくる。
たとえ両断した死体であっても、上半身は上半身だけ這ってくる。
だから、厳密な意味で倒すことは出来ない。相手が動けないようにすることが、唯一の撃退手段。
そして、崖の底で死者の群れと戦っている男──ステイプルトンの剣は、確実に死体の群れが二度と動けないように斬り裂いている。
(術者は、あの断崖の上ね)
──そのようだ。
魔素の流れ。死者を操る『悪意』の潮流。それは、断崖の上から流れてくる。
(どうするの。直接術者を叩く方法もあるわ)
──いや。テレポートにはまだ魔力が足りないだろう。それに、崖の上のどこにいるかも特定できていない。
頭の中を、次々と駆け抜ける情報。
ライズアップ時に使用可能となるいくつかの特殊能力の一つ、超空間把握力。
空間に広がる魔素と大気を媒介に、まるで網の目のように魔力の網を張り、周囲二百メートル四方で動くものの存在を掴み、そして伝えてくる能力。
近くの敵が障害となって目では見えないものさえも、その存在、動き、すべてがわかる。
さらには、その動きの連続性から、半径200メートル内にあるすべてのものの次の行動までも、すべて把握できる。
しかし、それでも。
崖の上にいるはずの死人使いの居場所を特定するには距離が足りない。
数こそ多いものの、死者の群れ自体はステイプルトンの敵ではない。
硬直した肉体の単調な動きは、まるで踊っているかのようにゆっくりとしたものに見える。
邪魔な障害物をどけるように、次々と剣をふるい、なぎ倒す。
ひとたび死んだものに、生前のような柔軟な動きはできない。
恐るべきは、破壊しない限り動き続ける特性と、死者が動くという違和感がもたらす恐怖。そして数。
それさえ注意しておけば、所詮は傀儡にすぎない。
黒い刀身に、銀色の魔法文字が浮かぶ。
『消除』のエンチャント。
刃の触れた箇所を、部分的に『存在しなかった』ことにする魔法。
たとえば、『消除』のエンチャントがかけられた剣で何かを両断した時。それは剣で「斬った」のではない。
剣の通った軌跡には「最初から何もなかった」つまりは「はじめから二つに分かれていた」ということになる。
無論、刃の触れる箇所など毛筋ほどでしかない。
だが、ひとたび剣を一閃させたならば。その軌跡に添って、ほんらい毛筋ほどしかない『存在を消除する』空間は連続し、一つの平面を生み出す。
鋼の塊であろうと、巨大な城塞であろうと、あるいは天を衝くほどの巨大なゴーレムであったとしても。
触れるものすべてを消滅させる刃を。
防ごうとする盾さえも消滅させるそれを、防ぐすべはない。
(増えてるわね)
──ああ。
(まだ、足りないの?)
──もう少し。跳ぶだけなら今すぐでも可能だが、なにしろ相手の居場所が特定できない。
(そんなこと言って、この数を相手にいつまで保つの?)
──見くびらないでくれ。
戦いながら、脳裏の声と話す。
確かに、数は多い。
が、それだけ。
今のステイプルトンには、周囲二百メートルにいる敵の動きであれば、すべてわかる。
次の動きがわかる敵など、敵ですらない。
戦場を、光の蝶が舞う。
動く死体を焼き、再び光へと還る。
その中を、青白い炎をまとう魔犬が歩む。
近寄る死体を、無造作に切り捨てながら、何かを探すかのように。
──どこにいる。
魔素の流れと、どこかから流れてくる悪意を探す。
「……これはこれは」
少し驚いたような、感服したような声。
「あの数を相手に、まさか傷一つ負わぬとは」
狒々の民の死人使い。銀の鬣を震わせるように言う。
「が、あまり調子に乗らぬ方がよかろうて」
そう言ってほくそ笑むと、祭刀を高々と振り上げた。
(上よ!)
突然、声が響いた。
弾かれるように、真横へと避ける。
雷撃。
さっきまでいた空間に稲妻が落ち、数体の死体が黒焦げになって崩れ落ちた。
──どこから術を!
魔素の流れを読み、位置を特定しようとする。
そのとき、再び上空に集中する魔素。
──くッ!
前に駆ける。
再び、雷撃が背後に落ちるのがわかった。
(このままじゃジリ貧よ!)
──わかってる。もう少しだけ待ってくれ。かなり絞り込めてきた。
(この状態でいつまで待てですって?)
──とりあえず、あと五分あれば……
いいかけて、はっと気付く。
──なんだ?
少し離れた箇所に感じる、奇妙な空白。
魔素も、悪意も、ありとあらゆるものが「全く感じ取れない」文字通りの虚無。
今までに感じたこともない何かが、そこにいる。
そちらに気をとられている一瞬、判断が遅れた。
「まずいっ!」
転げるようにして、落雷を避ける。
そこに集まってきた死体の群れをなぎ倒しながら立ち上がる。
(どうしたってのよ、いったい!)
抗議の声。
──わからない。だが……少々計算が狂うかもしれない。
そう言いながら、周囲を見回す。
奇妙な虚無の存在が、動く先。
「あそこは……」
ふと、崖の上を見回す。
──おそらく、術者の居場所……
まだ漠然としかつかめていないが、魔素の流れ、そして死者を操る“悪意”の流れの源らしき場所に、その新たな気配も向かっていた。
崖の上を見上げるステイプルトンと、目が合ったように思った。
「む……気付いたか?」
くっくっと、喉の奥で笑い声を上げる。
「……だが、ここまでどうやって来る? いまだ我が僕は多いぞ? のみならず、我が雷撃をかいくぐってここまで……」
だが、その背後にゆらりと迫る、黒い影がひとつ。
それは、あまりにも「何もない」がゆえに、デクルレイは気付かなかった。
ゆっくりと、黒い人影が狂気の笑いをあげる男の背後へと迫る。
「ぐああぁアァあぁァっ!」
突然、悲鳴が聞こえたように感じた。
そして、激しい魔素の流れが続いた。
雷撃が、崖の上に続けざまに落ちる。
(何が起きたの?)
──わからない。が……さっきの「アレ」だ……
さっき、ステイプルトンが気付いた虚無と、死人使いが邂逅したのだろう。
時間にして、ほんの数十秒。
雷撃がやみ、そして蠢く死体たちが再び動きを止め、崩れ落ちた。
乱れに乱れた魔素の流れが、しだいに落ち着きを取り戻す。
──跳ぶぞ。
(わかった)
崖の上で何が起きたのか。
躊躇する暇はなかった。
溜め込んだ魔力を解放し、崖の上へとテレポートする。
後には、再び動かなくなった死者だけが月に照らされていた。
そこには、無残な死体が一つ転がっていた。
背中から下半身にかけてをごっそりと失い、胸から上だけが血まみれになってそこに残っていた。
が、ステイプルトンの意識をとめたのはそれではなかった。
闇が、そこにあった。
「これは……」
それは、一見すれば黒い人のようにも見えた。
だが、よく見るとそれは人ではない。
否、生物ですらあるかどうか。
黒い人の形に、空間が抉り取られていた。
それは、何の実体も持たない時空の裂け目。
その奥に、何かが見えるような気もする。
「……なるほど、虚無だ」
肩をすくめながら、ステイプルトンが言う。
「何も存在しない。それでいて、触れるものすべてを飲み込む」
実体がないのだから、魔法も物理攻撃も、通用するはずがない。
虚無の人影が、こちらを向いたように感じた。
(戦えるの?)
──わからない。攻撃が通用するとも思わない。が……
黙って、見逃してくれるとも思わない。それに。
「このまま見逃して、良い相手でもなさそうだ」
剣を抜き、その動きに備える。
虚無が、まっすぐに向かってきた。
左手で拳銃を抜き、正面から撃つ。
二発。
が、それは虚無なる人影へと飲み込まれ、そのまま消える。
虚無に飲み込まれる大気が、風を起こす。
風を飲み込みながら、正面に、巨大な虚無が迫る。
──召還!
闇の中に、光の蝶が舞う。
壁を作るように、ステイプルトンと虚無の真ん中に集まる。
が。
何もないかのごとく、虚無は近づき、それを飲み込む。
ウィスプがもたらすまばゆい光は一瞬で消え、そして何事もなかったかのように、虚無がステイプルトンに向かってくる。
──なんて奴だっ……
斜め前へと跳躍し、その突進をかわす。
立ち上がりながら、剣を縦に構えた。
──ならば……こいつはどうだ!
銀色の魔法文字が、刀身を奔る。
それは、『消除』のエンチャントが発動した証。
ふたたび、虚無の人影がステイプルトンの方を向く。
──そこに存在するものを消去する……同じ『能力』どうしがぶつかるのならば……ならば、こちらにも勝機はある!
そして、ステイプルトンは駆けた。
虚無の突進をぎりぎりのところで避けながら駆け抜け、そして剣を一閃させる。
蒼白い炎と、真なる闇が交差し、そして離れた。
背後を振り返る。
虚無の人影の胴は二つに絶たれ、その隙間から彼方の夜空が見える。
しかし、それも一瞬。
上下に断たれた人影が、再びつながり、一つとなる。
ほんの少しだが、小さくなったようにも見える。
おそらくは、ほんのわずか……剣の軌道が断ち斬った分だけ、虚無が消除されたのだろう。
だが。
横を駆け抜けただけで、自身の魔力を少なからず奪われたのがわかる。
──効いたのは効いたが……厄介な敵だ。
そう、思っているところへ。
突然、急速な魔素の高まりを感じた。
──何だっ!?
漆黒の闇だったそれのなかから、突然巨大な手が現れる。
──まずいっ!!
後ろに飛びのき、剣を構えなおす。
一瞬後、何もないそこを巨大な指がわしづかみにする。
だが、狙っていた獲物を捕らえ損ねた巨大な腕は、そのまま一度虚無の中に戻った。
が。
その直後、今度は四つの巨大な手が虚無の人影を内側から掴む。
──なんだ……?
ステイプルトンの疑惑をよそに、四本の巨大な腕は、そのまま一気に虚無を四方に引き裂く。
「くっ!」
とつぜん、膨れ上がった虚無。吸い込まれそうになり、近くの大木に腕を絡み付ける。
そして、膨れ上がった虚無から。
四本の腕の巨人が現れた。
「なんだ……こいつは」
虚無の中から現れた異形の巨人。
身長は5メートルを軽く超えるだろう。
しかし、ステイプルトンを驚かせたのはそれではなかった。
この世のものとは思えぬその姿。
うつ伏せになった上半身の腰と胸から、四本の足が四足獣のように真下に伸びている。
そして、肩と脇腹から日本づつ、あわせて4本の腕が左右に広がっている。
頭髪はなく、左右と額にあわせて三つの目を持つ顔。
巨人と言うよりは、むしろ巨人の形をした蜘蛛のような姿。
──なんだ、こいつは……
(わからない。こんなのは初めて見るわ……)
その背後で。
無理やりこじ開けられた巨大な虚無が、再びもとの等身大の人影に縮む。
そして、するりと動き、ステイプルトンに近づこうとする。
「っ……」
その動きから逃れようとしたとき。
巨人の拳が、その行く手に振り下ろされた。
とっさに地面を逆方向に蹴り、その一撃を避ける。
が、その間に虚無の人影は最短距離を動き、ステイプルトンの至近距離に迫っていた。
「させるかっ!」
剣を一閃。そして、地面に転がるようにして逃げる。
両断された虚無が、また少し小さくなりながら、しかし元通りの姿に戻る。
──くっ……魔素が……
(接近を許すと魔力を吸われるわ。この状態でライズアップを維持できなくなったら終わりよ)
──わかってる……だが……
異形の巨人の力任せの攻撃。動き時代は単調だが、とにかく重く、そして疲れを知らない。
巨人と虚無の攻撃を一度にかわすとなると、かなり厳しい。
「くそおっ!」
攻撃をかわしながら、銃を撃つ。巨人の体まで剣が届かない以上、銃に頼るしかない。
弾は命中し、血が流れる。
しかし、何事もないかのように平然と暴れまわる。
──どうすればいい……どうすれば勝てる!?
答えは出ない。
(恐るべきは巨人よりも、むしろ虚無の方よ)
声が語りかける。
(身体は大きいけど、巨人だけならば倒せなくはない。だけどあの虚無には近づくたびに魔力を吸われる上……あの中から、別の巨人が出てこないとは限らない)
──あんなのが、まだ出てくるのか!
二対一でも厳しいというのに、三対一ではとても勝てる見込みはない。
(だから、優先して倒すべきは虚無の方)
──そうはいっても、どうやって!
近づくだけで魔力を吸われる相手。倒すすべが見つからない。
(確信は持てないけど、試してほしいことがあるの)
──何だ?
(あの虚無は、近くにあるエネルギーを手当たり次第に吸い込んでいる。たとえて言うなら、排水溝の穴)
──排水溝の穴……
はっと、気付く。
──わかった……エルシア、次にテレポートできるまで、何分かかる?
(虚無に魔力を吸われないかぎり、五分あれば大丈夫)
──わかった。そのときがくれば教えてくれ!
なにかの確信を持った言葉。
ステイプルトンは、駆けた。
巨人の攻撃を、ぎりぎりのところでかわし続ける。
その背中から近づく虚無から、逃げて逃げて逃げまくる。
ステイプルトンが何かを思いついてから三分。
ただの一度も、反撃の動きを見せようとしなかった。
超空間把握力をフルに動かし、ただひたすら攻撃を避けることに集中する。
そのかわり。
剣を鞘に収め、銃の弾丸を入れ替えた。
ステイプルトンが所持する弾丸の中で、最も破壊力の強い『爆砕』のエンチャントが施された銃弾。
それを、6発すべて装填する。
チャンスは、おそらく一度。
それに、全てを賭ける。
月光の照らす中、ステイプルトンは時を待ち続けた。
「……っ」
ステイプルトンの足が止まる。
いつの間にか、虚無と巨人に前後から挟まれていた。
前方には巨人。背後には虚無。
その瞬間、月光の下で踊っていた三体の影が、動きを止める。
一瞬の間。
そして、前後から同時にステイプルトンに向かってきた。
──大丈夫か。
(問題ない)
短い確認。
前後から迫る敵。
それを待っていた。
二対の敵が、ぎりぎりまで近づいた時。
ステイプルトンの姿が消えた。
次の瞬間。
ステイプルトンは巨人の背後に立っていた。
ぎりぎりまで待っての、突然のテレポート。
二体の敵がぶつかり、自滅するタイミングだけを待っていた。
巨人の腕が、虚無の中に吸い込まれている。
苦悶の声を上げ、手を振り回す巨人。
その第二関節から先が、飲み込まれて見えない。
──今だ。
巨人の背後に向けて、ステイプルトンは全弾を撃った。
弾丸が、巨人の身体に吸い込まれる。
そして、一瞬の後に大爆発を起こす。
「ぐおおおおおおおっ……」
地を揺るがすような断末魔。
異形の巨人が、爆発して四散する。
もう一つの敵──虚無にとっては、至近距離での大爆発。
それを、全て飲み込もうとする。
巨人に振り回され、空中に投げ出された虚無の空間。
そこに、爆発も巨人の肉片も全てが吸い込まれる。
が。
虚無が、苦悶しているように見えた。
爆風と肉片を吸い込みながら、少しづつ、しかし確実に小さくなっている。
やがて、全てが消えた時。
ステイプルトンを散々苦しめた巨人も、虚無も、そして爆発の痕跡も、すべて消えていた。
──終わったか?
(なんとか)
「そうか……っ……」
たまらず、片膝を付く。
急速な魔力の消耗に加えて、短時間での連発したテレポート。全身にどっと疲労が押し寄せてきた。
さっきまで全身を包んでいた青白い炎は消え、さっきまでともに戦い、一つの意志となっていた彼ら以外の百の魂も、再び眠りにつく。
あとには、衣服こそ奇妙だが、どこにでもいそうなイヌのマダラが一匹いるだけ。
もう、、あの奇妙な空白の存在はどこにもない。
木々は打ち倒され、地面はもとの姿をとどめないが、そこに流れる魔素の風は何も変わらない、この世界のもの。
「……なんだったんだ」
(わからない。こんなのはデータにないわ)
「……何かの災害なのか、魔法事故なのか、それとも俺たちの知らない存在なのか……」
何年ぶりかで感じた、恐怖のような感情。
(本国に照会するしかないわね)
「……信じてくれるのか」
(とりあえず、デクルレイの死体を送り届ければ納得してもらえるはずよ)
「……さっきのアレで、残ってた部分も吸い込まれてなければいいけどな」
(その時はその時ね)
ようやく、今夜の戦いが終わったのだと実感した。
「……ふぅ」
一つ、ため息をついた。
(大丈夫?)
──何とか。
怪我はない。魔力の消耗は確かにこたえたが、ライズアップを解除した状態なら、なんとか動けなくもない。
(吐き気とか、頭痛とかは?)
──大丈夫だ。
少々、頭が痛いが、それはいつものこと。
いつの間にか、慣れてしまっている自分に気付く。
(強くなったんだ)
──おかげさまで。
始めの頃はライズアップを解除した瞬間に、それまでの記憶と現実、そして眼前に広がる死屍累々の後継が入り混じり、そのまま倒れたり、嘔吐したこともある。
その後も、思えばいろいろとあった。
「ご主人様のおかげだ」
そう口に出していいながら、大の字に寝転がる。
(あら、まだ『ご主人様』って呼んでくれるの?)
「今までだって、そう呼んできただろう」
(記憶にないわ)
「ひどいな」
(どーせ、私はひどい女よ)
拗ねたような、それでいて少しおどけたような声。
「そう拗ねるなって」
(拗ねてないわよ)
その声を聞いていると、心が安らいでくるのがわかる。
戦う中で傷つき、ささくれ立った者が癒されてゆくのがわかる。
大の字になったまま、星空を見上げる。
(“魔犬”ステイプルトンがこんな格好してるのが見つかったら大問題ね)
「見てる奴なんているかよ」
そう言って笑う。
その声に重なる、厄介な声がひとつ。
「そうとも限らないわ」
闇の中から聞こえる、聞きなれた声。
「……そういえば、例外が一人いたな」
少し苦い気持ちで言いながら、疲労困憊の身体を何とか立ち上がらせる。
茂みの中から、濃紺の軍服を着た犬国の女軍人……ベリルが姿を見せた。
「いつから見てた」
「最初から」
「……さっきの、アレもか」
「ええ」
そう言って、不思議な笑みを浮かべる。
「貴重なものを見られたわ。仮説として、そういうのがあるかもとは言われてたけど、生で見られるとはね」
「ベリルは、あれが何か知っているのか?」
「仮説上の話よ。正しいと断言するつもりはないわ」
そう断ってから、ベリルは言った。
「世界のバランスが崩れたことによって現れた『ひずみ』のようなものよ」
「ひずみ?」
問い返すステイプルトンに、ベリルが言う。
ステイプルトン……というよりは、その中身であるシゲルもそうだけど、この世界には少なからぬヒトや、ヒトの世界の文物が落ちてきている。
……もちろん、絶対数ではまだまだ少ないけど……それらは、本来この世界には存在しないもの。
あるいは、魔法。
異界の物を呼び、使役する術があるという。
そうしたものが、この世界に少しづつ蓄積している。
世界に、本来存在していたよりも多くのものが溜まりつつある。
それは、この世界の本来持つ許容量を超えるほどに。
「許容量を超え始めたら、余分なものを吐き出そうとする。同時に、別の世界では失ったものを取り戻そうとする。その二つの世界が何らかの理由で接触したとき、互いの世界が本来のバランスを戻そうとする」
「……ピンとこないな」
「まあ、仮説だから。これまでも『とつぜん人が消える』『とつぜん何かが消滅する』などの事例で、既存の学術上説明できないものがいくつが報告されているけど、そう言う事例において、それが消えた瞬間、何が起きたかという目撃者はいない。
……正確には、目撃者も飲み込まれている」
「つまり、俺が始めての生きた目撃者になるわけか」
その言葉に、ベリルが頷く。
「そういうことね」
「……で、どうすればいいんだ? あんな物騒なのが何度も出てこられたら厄介だ」
その問いに答えるベリルの口は重かった。
「…………」
「……対処法ナシ、ってことか?」
重ねかけるステイプルトン。
「魔法の発展は歴史の必然よ。ヒトも、これまでにあまりに多く落ちてきた。絶対数は少ないとはいえ、この地で確実に一定以上が生きている。いまさら、ヒトを皆殺しにして魔法の発展を止めるわけには行かないでしょう」
「俺もヒトだ」
「だから言ってるの。こればかりは、現れたら対処するその場しのぎの対処療法しかないのよ」
「対処療法でもいい。問題は対処できるのかということだ」
「小さければ、なんとかなるかもしれない。今はまだなんともいえないけど」
「大きければ?」
「諦めるしかないわ」
「…………」
「セトの肋骨のことは覚えてる?」
突然、ベリルがそうたずねる。
「……忘れられるものか」
蛇の砂漠に存在する、魔素極小地帯。
砂漠と岩山が交錯し、多くの奇岩からなる複雑な地形を生み出している。
灼熱の大地、侵入者を拒む独特の地形に加え、この一帯ではほとんど魔法が使えなくなっている。
遊牧の少数民族以外は近づこうともしないこの場所は、魔素が極めて少なく、大陸の平均的な魔素濃度と比較して、わずか2%弱しかない。
魔素極小地帯と呼ばれるこの一帯を総称して、セトの肋骨と呼ぶ。
三年前。
国際犯罪者を追っていたステイプルトンはこの一帯に誘い込まれ、もう少しで殺されるほどの目にあったことがある。
「あの一帯でどうして魔素が少ないか、幾度か調査隊が送り込まれているけど、帰還した調査隊はないわ」
「そのようだな。確か、あの時もセトの肋骨から初の帰還者だと言われた覚えがある」
「あの地の奥地に、なにかがいる。もしかすると、それがもっと大きな『虚無』かもしれない」
「…………」
記憶の中で、蘇るモノがいる。
──あのときの……こ……
(……黒竜……)
──可能性はあるな。
記憶が、一気にフラッシュバックする。
◇ ◇ ◇
さかのぼること三年前。
蛇の民が住む大砂漠地帯に、ステイプルトンはいた。
大陸各地で破壊活動を行うB級国際犯罪者『シルバー・ウィスク』。
その消息を警備隊が掴んだのはほぼ四ヶ月前。
蛇の砂漠の奥地にある奇岩地帯に潜むということだった。
そこは、蛇の民の中でもわずかな遊牧民が住むだけという砂と岩だけの場所。
おそらくは、各地を追われ、転々としているうちにそこに追い詰められたのだろう。
ただちに100人近い討伐隊が派遣され、灼熱の砂漠を西へと向かった。
が、帰還者はゼロ。報告さえ届かなかった。
考えられないことだったが、たかがB級の犯罪者相手に、100人近い軍が全滅したという以外の結論は出なかった。
その奇妙な報告を受け、秘密裏にGARMが動く。
GARM第三局【ケルビム】所属。派遣する者の名は【ステイプルトン】。
しかしその目的は、あくまで情報収集。100人近い軍の全滅に普通とは違うという違和感を感じたというだけのことで、正直な話、砂漠に追い詰められたB級の国際犯罪者などは眼中にもなかったということでもあった。
──なんて広さだ。
(移動だけでずいぶん体力を消耗しただろうことは想像に難くないわね)
──戦う前から負けていたということか。
(そうなるわ。……ついでに言うと、シゲルもそうならないとは限らないわよ)
──気をつけることにするよ。
そう言って、砂丘の陰で休息しながら、大気と地中の魔素を吸収する。
第五局、第六局に所属する、本物のティンダロスたちと比べ、ヒトを素体としたステイプルトンは不完全な部分が多い。
その力をフルに発揮できる時間も短ければ、力を発動するためには外部から大量の魔素を取り込む必要もある。
そして、なにより。
本来ならば解けあい、『ひとつ』となるべきはずの101の魂が、かならずしもそうはなっていないということ。
ステイプルトンの中には、本来なら消えうせるはずの、融合前の自我が二つ残っている。
ひとつは、素体であるかつてのヒト召使、ソウマ・シゲル。
もう一つは、その主であり、生前は軍の研究者であったエルシア・サー・スフォール。
二つの意思は、一つの肉体を持ちながら、それぞれ独立した意思をもち、それを伝達することが出来る。
もっとも、エルシアの魂は後から暴走を阻止するためのリミッターとして組み込まれたことを考えると、当初の予定通りだったのかもしれないが。
──これから向かう先のデータはどうなってた?
(残念だけど、詳細なデータはほとんどないわ。そもそも人はほとんど住まない場所だし、過去に何度か派遣された調査隊は……誰も戻っていない)
──よくもまあ、そんなところに一人で向かわせてくれるものだ。
(戦闘は目的じゃないわ。あくまで何が起こったかの調査。だとすれば、人数はあまり必要じゃない)
──目的じゃないからといって、巻き込まれないとは限らないだろう。
(巻き込まれても何とかなるくらいの強化はしてあるはずよ。自慢じゃないけど、100人程度の軍隊よりは、ステイプルトン一人の方がずっと強いわ)
──まあ、それはそうかもしれないけど。
シゲルにとって、ライズアップ後の事はほとんど記憶が残らない。
朦朧とした意思の中で、自分以外の何かが身体を動かすような感触だけが残っている。
そして、我に返ったとき、周囲には死体の山ができている。
いつも、その調子だ。
最初はその惨状を見て、嘔吐したり気分が悪くなったりもしたものだが、慣れというものだろうか、最近はそこまでひどくはなくなった。
(そろそろ、チャージできたんじゃない?)
──そうか。じゃあ、そろそろ跳ぶか?
(OK。じゃあ、一気に地平線の彼方まで跳ぶわよ)
「わかった。……ライズアップ!」
全身を駆け抜ける魔法文字。
身体を包み込む蒼白い魔力の炎。
イヌにしては小柄なマダラの若者が、本来の姿を見せる。
そして、次の瞬間。
砂丘の陰から、その姿が消えた。
ステイプルトンがいた場所から、30キロほど西。
奇妙な岩石が立ち並ぶ中に、その姿が現れた。
──これはまた、おかしな場所にでてきたな。
(…………)
──って、どうした、エルシア……ご主人様?
(……ああ、ごめんね。ちょっと立て続けのテレポートで魔素を浪費しすぎたかも)
──ああ、確かにな……。わかった。しばらく適当に辺りを見ておくから、その間休んでおけばいい。
(ごめんね。いつもなら、こんなに疲れたりしないんだけど)
──まあ、こんな場所だからな。人が住む場所じゃないだろう、ここは。
(そうね……気温もそうだけど、なんだか変に息苦しい場所だわ)
──無理はするな。いざというときに困る。
(わかったわ)
しばらく、ライズアップはできそうにない。
灼熱の太陽が照りつける下で、シゲルは歩き始めた。
GARM第三局【ケルビム】に所属するステイプルトン……シゲルの場合、ル・ガル国内にいるよりも国外にいる時間の方が長い。
今までは主に、猫の国の首都、シュバルツカッツェを拠点に動いていた。
もうすぐ、別の任地に向かうことになるらしいが、今のところは大陸で最も繁栄した街で過ごしている。
それに比べると、なんとも殺風景な光景。
独特の形状をした奇岩が林立し、その合間を砂の混じった熱風が駆け抜ける。
ふと、上空を見上げると、そこには天を支えるように聳え立つ岩の柱や、斜めに傾き、ねじくれたような、なにかの前衛芸術みたいな岩がいくつも視界に飛び込んでくる。
地球で言えば、カッパドキアや桂林。しかし違うのは、ここが文字通りの砂漠のど真ん中で、しかも特別の高地でもないということ。
あたり一面すべて砂。緑はほとんどない。雨なんて期待すべくもないし、雪なんて向こう百年期待できそうにない。
──暑い。
よく考えたら、こんな場所に軍服で来るなど、自殺行為もいいところだったと思う。
まあ、これだけ直射日光が厳しくて、しかも風が熱いとなると、素肌を晒すほうが危険な気もするが、それでも暑いものは暑い。
むしろ、暑いを通り越して熱い。
──とりあえず、岩陰に入るか。
エルシアも疲れているかもしれなかったが、シゲルも少し休みたい気分だった。
「ふう」
岩陰に潜んで、一息つく。
──しかし、調査と簡単に言われても大変だな。
眼前に広がる、一面の奇岩。
水分を補給することさえままならなさそうな地形がずっと続いている。
ステイプルトンの場合、魔素を吸収することで体内で水分を自製できるからいいようなものの、ここで住むなんてのはどう考えても自殺行為にしか思えない。
──そういえば、どうも本調子じゃないな。
異様に疲労が早い気がする。
──この暑さのせいか。
それ以外に、考えようはない。
日陰で疲労を回復させながら、何気なく横を見やる。
少し離れた場所に、なにか光るものが見えた。
「あれは……」
抜き身の剣のようにも見える。多少距離はあるが、歩いてゆけない距離ではない。
──もしかしたら。
全滅したといわれる派遣隊の物品かもしれない。
装備を確認すると、休息を中断してその場所へと足を向けた。
「……これは」
眼前に広がるのは、ぼろぼろの軍服をまとったいくつもの白骨。
中には半分ミイラ状になった死体もある。
「……っ」
嘔吐しそうになるのを、何とかこらえる。
ここで、何かが起きたのだろう。
そして、全滅した。
どういう理由があって全滅したのかはわからない。が、それを調査するのがステイプルトンの任務。
近くの死体に近づき、致命傷は何かを見ようとしたとき。
周囲に、殺気を感じた。
立ち上がり、周囲を見回す。
いつの間にいたのか、奇岩のあちこちに人影があった。
手には、粗末だが頑丈そうな得物。
その目に、残酷な殺意が感じ取れる。
「我らを追ってきたか」
獰猛そうな表情の狒々が、憎悪をむき出しに言う。
「……シルバー・ウィスク……」
ぽつりと、つぶやくステイプルトン。
この地に逃げ込んだといわれる、B級国際犯罪者。
銀色の鬣が特徴的な、狒々の民が主体となっているため、そう呼ばれている。
──とはいえ。
口元を、微かにゆがめる。
──たとえ、そうであったとしても。
オレには、勝てない。
その確信とともに、剣を構える。
──いくぞ、エルシア!
(……えっ……)
戸惑ったような返事。が、シゲルはその声の変化に気付かない。
周囲をぐるりと見回し、そして叫んだ。
「ライズアップ!」
疾走する魔法文字。
心に絡み付いてくるような白く大きななにか。
そして、全身を包み込む蒼白い炎。
それが、一瞬で消えた。
「…………?」
自分の両手を見る。
絡み付いてきたはずの魔法文字は消え、炎もない。
いや、それよりも。
ライズアップしたはずなのに、意識がしっかりと残っている。
──失敗? 馬鹿な!?
呆然としているところに、狒々が襲い掛かってくる。
「くっ!」
転がるようにして避け、剣を構えなおす。
──!?
次の瞬間。
がくんと、片膝が崩れた。
「……っ……」
疲労が、全身にのしかかってくる。
身体が、自由に動かない。
残る力を振り絞るように、ほとんど逃げるように岩陰へと飛び込んだ。
──エルシア! ご主人様っ!
(…………)
必死に呼びかけるが、反応はない。
そこに、数人の狒々が卑しい笑みを浮かべてにじり寄ってくる。
「っ……」
なんとか立ち上がる。そして、剣を構えた。
「……怖いか」
狒々の一人が、嘲弄気味に言った。
武器は握っていない。代わりに、拳に皮を幾重にも巻きつけている。
「何?」
「魔法を使えぬことが、それほどに怖いか」
「魔法……使えない?」
その言葉を、口中で反芻する。
「先ほど、うぬが見ておった兵士どもも、始めのうちは威勢が良かったが、魔法を使えぬと気づいた瞬間から慌てふためき、自ら崩れおった」
「…………」
「わしらが、なんの考えもなくこのような場所に来たとでも思うたか」
「………………」
話している間にも、残り二匹が背後へと回り込もうとする。
岩を背にして、背後を守る。
「現地のものは、ここをセトの肋骨と呼ぶそうな。……魔法は使えぬ、精霊もおらぬ、水がほしければ100尋の底まで井戸を掘らねばならぬ。昼は炎のように暑く、夜は氷よりも寒い」
自慢げに語る狒々の男。
「この地に不慣れな者には、朽ち果てるよりほか道はない」
「…………」
つまりは、この地域に逃げ込んだこと、それこそが罠そのものだったということ。
そして。
魔法が使えない、すなわちライズアップできない今、そこにいるのはステイプルトンではなく、ひ弱な半獣人のソウマ・シゲルでしかない。
「く……」
恐怖を、感じていた。
その表情を見た狒々の男が、侮蔑の笑みを浮かべる。
「なんというツラだ。さっきの威勢はどうした? かかってくるがよかろう」
「…………」
顔を上げて睨みつけるが、それ以上は体の方が動かない。
「……なんとも、のう。イヌなど、所詮はその程度か」
「オレは、犬じゃない……」
ヒトだ。
改造手術を受け、軍人の片隅に置かせてもらえるようになったかもしれない。
だけど。
所詮は、ヒト。
戦ったことなんて、一度もない。
──怖い。
近づいてくる狒々の男を前に、足が震えて逃げることも出来ない。
「くそっ!」
無理に勇気を搾り出し、一歩前に。
袈裟斬りにしようと剣を振り上げ……
その腕が、止まった。
──嫌だ。
人を斬るということ。
シゲルにとって、それは初めての経験。
ステイプルトンと化した時、シゲルの意志は朦朧としていて、ほとんど何もわからない。
結果として、どれだけの敵を斬り、どれだけの命を奪ったかはわからないが、それはシゲルの意思で行われたものではない。
ただ、目を塞ぎ、耳を閉じていただけ。
自分以外の誰かが、手を汚していたに過ぎない。
今は、違う。
目の前の狒々を斬ったならば。
それは、シゲルが殺したということ。
殺すという事実を、誰にも押し付けられない。
──オレには、できない。
青ざめた表情で、そのまま硬直するシゲル。
「ぅぐっ!」
剣をふりかざしたまま固まっているシゲルの腹に、狒々の男の拳がめり込んだ。
膝を突き、前のめりになったところに蹴り。
吹き飛ばされ、岩に背中から叩きつけられる。
「げほっ……」
痛覚が、さらに恐怖を呼び覚ます。
──オレは。
どうして、ここにいるんだろう。
なぜ、こんなことになっているんだろう。
半ば朦朧とした意識の中で、そんなことを考える。
そこに、また殴打。
見えない場所からの一撃。
脳が揺れ、がくんと膝をを付く。
そこに、もう一度蹴り。
つま先が、みぞおちに食い込む。
持ち上げられたように、感じた。
そのまま、サッカーボールのように吹き飛ばされる。
「かはッ……!」
息ができなくなり、ぱくぱくと口を動かす。
嘲笑が聞こえたような気もしたが、脳がガンガンと揺れて、それ以上はわからない。
起き上がろうとしたところに、後ろから思い切り踏み潰される。
ぐしゃりという嫌な音。
顔面から、岩場に叩きつけられた。
砂と岩だけしかないはずの光景が、やけに赤い。
それが自分の血の色だと気付くのに、ずいぶん時間がかかった。
気がついたときには、髪の毛を掴まれて持ち上げられ。
そして、思いっきり殴り飛ばされていた。
──こんなものか。
ステイプルトンではないときのソウマ・シゲルなど、この程度か。
──痛ぇ。
身体が満足に動かない中で、そんなことを思う。
意識が、過去の記憶をまさぐる。
が、次から次と訪れる痛みが、それすらも許してくれない。
岩に打ち付けられ、蹴られ、殴られているのだと脳は理解しているが、なぜ自分がここでこんな目に合っているのか、それがなぜかわからない。
逃げようという気持ちすら、なぜかわかない。
──こんなところで、死ぬのか……
それを、驚くほどあっさりと受け入れている自分がいる。
──死ねば、楽になる……
頭の中で、そんな声が聞こえる。
ふと、光が見えたような気がした。
血と砂が入って、ほとんど目が見えない状態で、なぜ光が見えたのかはわからない。
ただ、確かに光が見えた。
──これは……
薄れる意識の中で、ぼんやりと思った。
──おれは……どこかでこの光を見た気がする……
その奥に見えるのは、ありし日の記憶。
雨が、降っていた。
誰かが、俺の身体に覆いかぶさり、泣いている。
「誰か! 誰か、医者はいないのですか!」
──医者? 誰か、怪我でもしたのか?
ぼんやりとして、周りは何も見えない。
立ち上がろうとして、身体を起こそうとするが……
立てない。
指一つ動かない。
「誰か! 誰でも構いません、彼を助けてください!」
──彼? 誰のことだ?
「彼を……シゲルを、助けてくださいっ!」
──シゲル? 俺!? なぜ俺が……
そういえば。
俺には、大切な人がいた。
誰よりも大切な人だった。
その人を、俺は守ろうとした。
雨の降るある日。
暴走した貨物車両が、歩道に飛び込んできた。
“その人”は、一瞬逃げ遅れた。
逃げ遅れた“その人”を、俺は守ろうとして……
とっさに“その人”を突き飛ばして、そして……
──俺は、死んだ。
俺が光を見たのは、確かその時。
俺は。死んだ。
いや、死んでいるはずだった。
俺の命を救ったのは“その人”が所属している組織だった。
「そんな……無謀すぎる!」
「理論上は可能よ! 肉体の改造を行えば、十分成功の可能性はある! それだけのノウハウは蓄積されているはずよ!」
「付け焼刃に過ぎない!」
「付け焼刃でもいい! 今、ここで彼を見殺しにするなんて、私には出来ない!」
「……わかった。ただしこれは実験と言うことにしよう。ヒトを素体としてティンダロスが完成するかの実験だ。……あなたが、私情に駆られて行うものではない」
「それで構いません」
記憶のどこかに残る、そんな会話。
俺が聞いていたはずがない。
だとすれば、これは誰が聞いていた会話だろう……
.
「だめだ、拒絶反応が出ている!」
「どうして? シミュレートした時は問題なかったはず!」
「魂と言うものは、われわれがすべてを知り得るほど簡単なものではないということだ」
「どうすればいいの?」
「リミッターをつけるしかない。彼の心を鎮め、サポートする何かが必要だ!」
「できなければ?」
「できなければ……暴走する!」
「……わかったわ。急いで再手術の準備をしてください」
「再手術?」
「私なら……私の魂なら、シゲルを制御できます!」
──『私』……一体、誰なんだろう……
声の主は、俺の命を救ってくれた“その人”……
一体、誰なんだろう……
「冗談はよせ! あなたは、自分の言っていることがわかっているのか!」
「わかっています。彼を鎮めるのは私しかいません」
「あなたが言っていることは、死ぬということだぞ!」
「この肉体としては死ぬかもしれませんが、私は、彼の中で生きます。だから、問題はありません」
「大問題だ! なぜあなたが……あなたのような有能な研究者か、たかがヒトのために!」
「彼が私を命がけで助けてくれたからです。私には、彼に報いる義務があります!」
「たかがヒトだぞ!」
「関係ありません! 私にとって、彼はかけがえのない存在なんです!」
ずっと、そばにいる、すごく親しく、愛おしい誰かの声。
誰だろう……
(……おはよう、シゲル)
──ご主人様?
(よかった。目が覚めたのね)
──俺は……?
手術台の上で、俺は周囲を見回した。
イヌの科学者、医者、軍人らしい姿の男も。
だけど、声の主はいない。
「ご主人様? どこですか?」
(あなたの中よ、シゲル)
「おれの……中?」
(私は、シゲルといっしょにいるのよ)
科学者らしきイヌが、無機質な声で言う。
「拒絶反応は見られない。成功したようだな」
「成功……?」
「おめでとう、ソウマ・シゲル……いや、ミスター・ステイプルトン」
──ステイプルトン。
俺は、その日からそう呼ばれた。
おれは、その日から……
──ヒトでは、なくなった。
──これは……
いつの記憶だ?
なぜ、俺は泣いている?
「なぜ、俺をこんなことにしたんだ!」
(あなたを助けるため)
「俺は、こんなになってまで生きたくなかった!」
(……シゲル)
「だいたい、どうしてご主人様がいなくなって俺が生きるんだよ! 逆じゃないのか!?」
(私は、生きているわ)
「いないじゃないか! どこにも! 声は聞こえるけど、姿は見えない、気配も感じられない! 第一、あの死亡報告書は何だよ! あの日、どうして俺とご主人様が一緒に死んだことになってるんだよ!」
(私たちは、生まれ変わったのよ。ふたりで、ひとつになったの)
「そんなの、俺は望んじゃいなかった! 俺は、誰の為に車の前に飛び込んだと思ってるんだ!」
(いいかげんにしなさい!)
ご主人様の叱咤。
「いいかげんにしろって……それはご主人様の方じゃないか! 俺は、あんなにご主人様を助けたかったのに!」
(黙りなさい! あなたは、私に一人で生きろというのですか! 召使の分際で、私に何百年も孤独になれとでも?)
「だって!」
(だってじゃありませんっ! あなたは召使、私は主人です! 私はあなたを助けたかった。その気持ちの方が、あなたが私を救いたいという気持ちより優先します!)
「そんなの、傲慢だ……俺の気持ちも知らないで!」
(あなたこそ、私の気持ちも知らないで!)
同じ器に共存していた、俺とあの人。
お互いに気持ちが読めるから嘘がつけないし、だから喧嘩もしたし、半分泣きながら怒鳴りあったこともある。
それでも。
最後は、力を合わせる。
二人で、生き残るために。
二人の時間を、もっと続けるために。
──なんて数だ……
(50人はいるわね)
──悪い。あんなところで警報にかかるとは思わなかった。
(謝らないで。私も気付かなかったから)
シュバルツカッツェ北方の科学研究所。
潜入して機密を見た帰り、警報に引っかかった。
生憎なことに、月は満月。
逃げるといっても、どう見ても包囲されている。
(使うしかないかな)
──使うって?
(シゲル、あなたの本来の力を解放するから)
──本来の……力? 解放?
(剣を取って)
──戦うのか? この数と……?
(戦うかどうかは、後で決めるわ。とにかく、剣を抜いて)
──わかった。
刃から柄まですべて漆黒の刀を、抜いてみる。
(そして、キーワードを口にするの)
──キーワード?
(“ライズアップ”。それが、力を解放するキーワード)
──言葉に出すのか?
(そうよ。それがあなたの能力を解放するキーワードなの)
──少し恥ずかしいな。
(そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!)
「わーったよ。……“ライズアップ”!」
──俺たちは、二人でひとつだった。
それは今も変わらない。
たとえ、姿が見えなくても。
たとえ、声が聞こえなくても。
俺は、一人じゃない。
そして。
俺が死ねば。
その時は、あの人も死ぬということ。
なぜ、俺はここにいるのか。
わかりきっていたはずの答え。
俺は、あの人の為にここにいる。
俺は、あの人と出会うためにこの世界に来た。
そして、ともに生きるためにここにいる。
だから、俺はここにいる。
そのために、俺は生きなきゃならない。
──エルシア。
(……シゲル?)
微かに、心配そうな声が聞こえたような気がした。
──安心しろ。
そう、心の中の声に答える。
──俺なら、大丈夫だ。
血まみれの顔を上げる。
狒々の男の拳が、眼前に迫っていた。
考えるより早く、身体が動いていた。
顔面すれすれで、その拳を受け止める。
「…………?」
糸の切れた人形同然だったボロボロの犬が、突然見せた動き。
一瞬、戸惑いを見せた狒々の男と、シゲルの目が合った。
「なめるな、エテ公」
自分のものとも思えないような、低い声が出た。
身体は、勝手に動く。
もう一方の左手が、拳銃を抜く。
安全装置は解除してある。
そのまま、至近距離から銃弾を打ち込む。
絶叫を上げ、腰から崩れ落ちる狒々の男。
どす黒い血が、砂を染める。
銃声と、突然見せた反撃におののき、数歩後ずさる狒々。
その隙に、取り落とした剣を掴み取る。
「悪いな」
言いながら、再び剣を構える。
「おかげで目が覚めた」
自分は、誰の為に生きているのか。
何のために戦うのか。
そして。
誰が、誰の意思で、敵を殺すのか。
「魔法が使えない」
一歩、前に踏み出す。
「敵が多い」
さらに一歩。
気圧されたように、狒々は周囲を取り囲んだまま動かない。
「関係ない」
ぐるりと、もう一度周囲を見る。
「もう一度、かかってこい」
静かな声。
「ただし、今度は殺す」
(……シゲル)
──大丈夫か?
エルシアの声に、そう問い返す。
(私は。それより、シゲルの怪我は?)
──心配ない。かえって目が覚めたくらいだ。
(よく聞いて。この一帯は、魔素は少ないけど全くのゼロじゃない)
──つまり……?
(魔力を十分に溜め込めば、ライズアップは可能よ)
──溜めるまでに、何分待てばいい?
(三十分。その間に、全力で溜めるわ)
──それで、ライズアップの限界時間は?
(……三十秒)
──上等だ。
疲労は、残っている。
やりたい放題に殴られたダメージも、少なくはない。
なにより、やわらかい砂地と灼熱の空気は、そこにいるだけで体力を奪う。
それでも。
一つだけ、明らかな違いがある。
──怖くない。
傷つくことも、誰かを傷つけることも、そして、そのことを背負って生きる未来のことも。
今は、不思議と怖くない。
二人ほどが、左右から襲い掛かってきた。
──前だ。
剣が触れる寸前で前に飛び出し、そして腰を落としながら身体を反転させる。
二匹が、同時に剣を振り下ろしてくる。
横に、転がってかわす。
転がりながら、右の狒々の膝を断つ。
骨に当たる、重い感触。
そのまま、立ち上がりかけたところに、別方向から一匹。
腰のホルスターから、銃を抜く。
六連装リボルバー。左手一本で扱うには少々重く、反動もあるが、かまわない。
反動を生かして、身体の向きを変える。
周囲を見る。
集まってきた狒々。
強い殺意と、何かしらの法則を持ったような動き。
相手が、本気でシゲルを殺そうとしているのがわかる。
そして、岩陰には。
弓矢を構えている狒々が、合わせて十数匹。
──飛び道具か。
矢の盾となりそうな岩を、周囲から探す。
──あそこか。
中が大きく抉れた、瓜を割ったような岩。
──あそこなら、何とかなる。
駆けた。
その前に、一匹の狒々が立ちはだかる。
「どけえっ!」
叫ぶ。
右手に持ち替えた拳銃を、走りながら撃つ。
岩に響き、こだまする銃声。
眉間と腹部を撃たれ、崩れ落ちる狒々。
一瞬、狒々の動きが止まる。
その間に、包囲を駆け抜けようとする。
駆け抜けざまに、剣を真一文字に薙いだ。
目の前で真っ二つに両断され、血を吹いて斃れる狒々。
突き飛ばすようにそれを左手で払いのけ、そして瓜のような岩までたどり着く。
剣を突き立て、銃弾を補填する。
たった今、自分が殺した狒々の悲鳴と苦悶の表情が、一瞬だけ脳裏に浮かぶ。
「…………」
それでも、心が動かない。
おかしいほど冷静に、自分と敵の居場所を考え、倒し方を考えている自分がいる。
剣を片手で握り、拳銃をもう片手に。
じりじりと距離をつめる数十匹の狒々。手にはそれぞれの得物が握られている。
だが。
本当なら、怖くて仕方がないはずの心が、まるで動じない。
岩陰から、撃つ。
三体が、倒れる。
敵の数が多く、敵の武器の大半が近接武器である以上、剣よりは銃の方が明らかに有利。
撃ちながら、岩陰の間を奥へ奥へと走る。
最初は勢いよく近づいてきた狒々も、十人近くが銃弾に倒れ、さすがに無防備に近づこうとはしなくなる。
死体を盾代わりにして、左右に展開しながら、林立する奇岩に隠れて近づこうとする。
──どう、動く……?
この地の地形は、シゲルよりも敵の方が熟知している。さらには、ただ平面的に移動するだけではなく、岩に登ったりいることにも長けている。
おそらくは、こちらの想像よりも上を行くはずだ。
──どうすればいい……?
考えていたその時、傷口から流れる血が、左目の視界を奪う。
「っ……」
さっき、岩に叩きつけられた時に切った傷。
予想外に深かったのか、一向に血が止まらない。
──見えない。
左半分の視界がない状態。
敵が左右に展開している状態では、かなり不利な条件。
──敵は左右に展開し、こちらの視界は半分……ならば、どうする?
答えは、簡単なこと。
見えなければ、敵の音を聴けばいい。
見えなければ、敵の匂いを嗅げばいい。
見えなければ、敵の気配を感じればいい。
今なら、できるはずだ。
──俺はもう、ヒトじゃない。
半分とはいえ、改造手術の中で獣の力を与えられている。
五感を集中すれば、視覚を補うくらいはできる。
──感じろ。
耳を澄まし、匂いを嗅ぎ取り、気配を感じ取る。
──そこだ!
振り向きざま、背後の奇岩に立つ狒々を撃つ。
悲鳴を上げ、奇岩から転げ落ちる狒々。
手にしていた短弓が、岩の端にひっかかっている。
そして、右。
ずいぶん近づいてきていた。
三発。
一発は盾になっている狒々の死体に。しかし残り二発は、その背後の狒々を射抜く。
駆ける。
風が砂を巻き上げ、渦を巻いている。
左右から襲い掛かる敵。
岩陰を抜けながら、銃を撃ちまくる。
巨大なリボルバーが火を噴くたびに、奇岩に銃声がこだまする。
本来なら、この世界には存在しないはずの銃。
虎の国から取り寄せた特注の六連装リボルバー、通称“グローリーブリンガー”。
獣人の体力に合わせ、威力と口径を大きくしている。
お世辞にも裕福とはいえない犬の国で、どうやってこれを手に入れたか、エルシアは口を閉ざす。
たぶん、何かしらの裏取引で手に入れたのだろう。
が、今はそれが役に立つ。
奇岩の間を駆け抜けながら、銃を撃つ。
その弾丸は的確に敵の姿を狙い、急所を射抜く。
絶叫を上げて倒れる敵。倒れた仲間を盾にして、迫ってくる敵。
──なんだろう……俺は、この動きを知っている……
ふと、身体がその一連の動作を覚えていることに気付いた。
シゲルは使ったことのないはずのその銃を、しっかりと正確に構え、狙い、撃つ。
そして、すばやく弾を装填する。
敵の気配を感じ、最善のルートを選び、岩陰から岩陰へと身を隠す。
すべてが初めての経験なのに、身体がそれを覚えている。
「……エルシア」
ふと、その名を呼んだ。
ずっと、戦ってきたんだな。
俺が、何も知らない時に。
俺が、目を閉ざし、耳を閉ざしていた時に。
──ずっと、こうやって戦い続けてきたんだな。
今まで、何度繰り返してきたかわからないライズアップ。
意識を取り戻したときには、ただ死屍累々の光景が広がっているだけだった。
──これは……俺がやったのか? 俺が……こいつらを殺したのか?
(……シゲルは、誰も殺してない)
──俺じゃなきゃ、誰が殺したというんだ! この血は何だ、この手に残る感触は何なんだよ!
(あなたは、ただ眠っていただけ。戦ったのはあなたの中に眠る私たち。あなたが苦しまないでいいの)
──そんなの、言い訳にもならないよ! 眠っていたから知らない。意識が跳んでいたから俺の責任じゃない、そんな理屈を誰が認めるんだよ!
(……シゲル)
──俺なんだよ……俺が殺してるんだよ! この身体が殺したのなら、それは俺が殺してるんだ!
(違う! あなたは誰の命も奪っていない!)
──どうして! どうしてそんなことが言えるんだ!
雨の日の記憶。
──何もわかってなかった。
命を奪うということ。
自らの意思で引き金を引くということ。
今の今まで、確かに。
俺は、誰の命も奪わなかった。
人任せにして、その罪悪感から逃げ続けていた。
──こんなになるまで。
この身体が、殺戮の術を完全に覚えこむまで。
ずっと、俺の代わりに戦い続けていたんだな。
「……エルシア」
涙が出そうになるが、それは何とか我慢する。
泣くのは、いつでもできる。
今は、ただ戦うだけ。
きっと、それだけでいい。
(シゲル)
その時、声が聞こえた。
(お待たせ。ライズアップできるわ)
──わかった。
(もう一度言っておくけど、時間は三十秒よ。それを過ぎたら元に戻るわ)
──わかってる。それと、その……
(なぁに?)
「……ありがとう」
(なによぉ、急にかしこまっちゃって)
──いや、その……
(もう。何考えてんのか知らないけど、水臭い話はナシよ。そんなことより、さっさと終わらせちゃいましょ)
「……そうだな」
微かに、口元に笑みを浮かべる。
高々と、剣を上空に突き上げる。
太陽の光が、黒い魔剣をきらきらと輝かせる。
そして、体の前に構える。
まばゆい光の下、シゲルは叫ぶ。
「ライズアップ!」
剣からあふれ出す、蒼白い炎。
柄より流れ出る魔法文字は疾風と化し、竜巻のように全身を駆け抜ける。
それと共に現れる巨大な意思。
そして、爆発するようなエネルギーの高まり。
取り囲む狒々たちが、その姿を恐れるように数歩後ずさる。
その視線の先に立つのは、“魔犬”──ステイプルトン。
「馬鹿な……なぜこの場所で! セトの肋骨で!」
「生憎と、猿の常識が世界の常識とは限らないんだよ」
言いながら、剣を見る。
絡み付く血糊はすべて蒸発し、刃こぼれも消え、新品動揺の輝きを見せている。
いや、それよりも。
ステイプルトンと化した時の、靄がかかったような意識が。
何も見えず、何も聞こえなかったはずの世界が。
今も、はっきりと見える。
──これは……
(見えるの? シゲル)
──ああ。今までと……違う。
(それがあなたの意思よ、シゲル)
──俺の、意思……
(あなたが、戦いを受け入れ、力を受け入れたということ。戦うことを受け入れ、あなたの器で戦ってきた、百と一つの魂と、同じ意思を共有したということ)
──同じ、意思……
(あとは、戦っているうちにわかる。行きましょう、シゲル。……時間は少ないわよ)
──わかった。
一気に、前へと駆け出した。
狼狽する中で、それでも武器をとり戦おうとする狒々たち。
──遅い。
その動きが、まるでスローモーションのように見える。
刃の合間を潜り抜け、一刀で断つ。
周囲を囲み、一斉に襲い掛かってくる。
本来ならば、見えないはずの背後の敵。
それが、どう動いているかがわかる。
まるで、背中にも目があるように、360度すべての方向の敵の動きがわかる。
(ハイパーサーチ……超空間把握力よ)
──超……空間把握力?
(魔素、大気の流れ、温度差、そして敵の悪意。それらすべてを把握し、分析することであなたは半径200メートルの敵の動きをすべて把握できる)
──なるほど、それは便利だ。
言いながら、銃を背後に向ける。
後ろを見もせずに、残弾を討ちつくす。
五匹の狒々が、背後で眉間を貫かれ、倒れるのがわかった。
(残り、16秒よ)
──少し短いな。
(手助けを呼んだほうがいいわね)
──手助け?
(あなたには、こんな力も付与してるのよ。──サモン・ウィスプっ!)
エルシアの声。それに呼応するかのように、砂漠に現れた無数の光の蝶。
──これは?
(魔素を凝集して作り出した擬似生命体。いわゆるウィル・オ・ウィスプ……同時に50体まで具現化させられるわ)
──50体……
(致命傷は難しいけど、戦闘能力を奪うくらいならたやすいわ。彼らは生命を見つけると、よってたかって焼き尽くす)
エルシアが説明する間にも。
光の蝶──ウィスプは、攻撃をかいくぐり、あちこちで狒々に襲い掛かり、焼いている。
絶叫と悲鳴。
それが耳に飛び込んでくる。
自らの剣が、敵を裂く。
目の前で断末魔をあげ、倒れ行く敵。
それを、驚くほど冷静に受け入れている自分がいる。
そして、何事もなかったかのように次の敵を斬る。
──これが、俺なのか。
もう少し、死にナイーブだったような気がしたが。
少しは、強くなったのかもしれない。
(残り7秒。時間がないわ)
──だったら……
敵の間を駆け抜け、近くの岩柱に近づく。上に行くほど広がった、石杯型の巨大石柱。
──斬れるか?
(問題ないわ。X字に斬ればこちらに倒れる)
──わかった。
刀身に刻まれた、銀色の魔法文字が光る。
『消除』のエンチャントが、刀身にかかる。
杯のような形をした、巨大な石柱。
一番細いところなら、直系2メートル程度。
そこを、狙う。
「せやあっ!」
右上段から、一閃。
返す刀で、左からさらに。
巨大な石杯の根元に、深く切れ目が入る。
そのまま、横に駆ける。
倒れ落ちる石杯の最上部は10メートル近い。
重さだけなら、数トンはあるだろう。
それが、狒々たちの上へと崩れ落ちてくる。
その下を脱出したところで、ライズアップが切れた。
眼前では、崩れた奇岩が瓦礫となり、その下敷きとなった狒々が血まみれの腕や足を瓦礫の隙間から覗かせている。
ほぼ全滅といってもいいだろう。
──倒し損ねたやつは……って、聞いても仕方ないか。
エルシアの声は聞こえない。魔力をほとんど使い果たした状態では無理もないだろう。
周囲を、もう一度見る。
ほぼ全滅だが、多少は生き残ったのも居るかもしれない。
岩の向こうに逃げたのもいるようだ。
だが、この砂漠のど真ん中で仲間の9割方を失った状態では、もはやどうすることも出来ないはずだ。
──何とか、なるものだな。
もう一度、眼前の光景を見る。そこに広がる地獄のような光景は、自らが作り出した光景。
だが、それを見てももう、嘔吐も、頭痛もしない。
それは、自分の意思で斃した敵だとわかっている。
自分の意思で。
自分の為に。
そして、守るべき誰かの為に。
背負っている命は、自分ひとりのものではないということ。
だから、この風景を受け入れられるのだと思う。
(シゲルは)
──何?
突然、それまで沈黙していたエルシアがたずねてくる。
(今のシゲルは、イヌ? それとも、ヒト?)
──どっちでもいい。俺は俺だ。
(そうね。でも、シゲルは……やっぱりヒトね)
──なぜ?
(イヌの寿命は、数百年。でもヒトの命はたかだか百年。逆を言うとね、あなたは私たちの数倍のスピードで成長するの)
──そういうものか……?
(たった三年。でもあなたはものすごい速度で成長している。今日だって)
──あれは……
(あなたは、あの短時間で弱さを乗り越えた。それが、ヒトの成長力。私たちになくて、シゲルにあるものよ)
──ご主人様がいなけりゃ、あのまま死んでたかもしれない。あの時、声をかけてくれたから何とかなった。
(呼べば、応えてくれると信じてたから。あなたのことは、私が誰より知っている。きっと、あなたよりもずっと)
──ありがとう。
(そういって、ちゃんとお礼を言ってくれるから好き)
──す、好きって……
(あら、一人で何照れてんの?)
「る、るさいっ!!」
声に出して、そう怒鳴った。
──それにしても。
岩陰で全身の傷やら痣の応急処置をしながら、エルシアに語りかける。
(何?)
──なぜ、この地では魔法が使えないんだろう。
(魔素の濃度が低いのよ。砂漠の平均と比べて、2.8%しかない。砂漠に住む蛇の民は精霊を使役することで住環境を整えるけど、そういう点からすればここは死の砂漠ね)
──でも、どうして魔素が低いんだろう。
(それは……これから調査するしかないわね)
そんなことを話していた時。
(!?)
──!?
同時に、突然現れた強い魔力を感じた。
ライズアップ前の状態でもわかる、空気が震えるほどの巨大な魔力。それが、急速にこちらに向かってくる。
──何だ?
(わからない! だけど、桁違いの魔力……とてもじゃないけど勝てる相手じゃない!)
──逃げるしかないのか……テレポートは使えるか?
(無理よ! さっきのライズアップで魔力を使い切ってる!)
──走って、逃げるしかないのかっ……逃げ切れるのか?
とっさに、魔力の方向に背を向けて走り出した。
「こっちだ!」
その時、声が聞こえた。
声の方向を見る。
人影が、手を振って呼んでいる。
──何がある?
(わからない……でも、このまま走って逃げきるのは無理よ)
──わかった。
岩肌を登り、砂の上を駆け、声の方へと駆けた。
「こっちじゃ」
奇妙な衣装を来た蛇の民が、手招きする。
「ヤツに見つかったならば、生きてはおれぬぞ」
そういいながら、岩と岩の隙間へ。
岩に隠され、一見、外からは見えないような場所に階段がある。
その階段を、下へと走る。
一瞬だけ、背後を振り返った。
「あれは……」
(……黒竜……)
それは、本当に竜だったかはわからない。
ただ、それはひたすらに黒く、大きく、そして恐ろしかった。
階段を、底まで走る。
蛇の男が扉を開け、中に招き入れてくれたとき、シゲルは目を見張った。
「これは……」
ドーム上の空間一面に描かれた、極彩色の絵画。その中で、祈りをささげる蛇の民。
遠くの方でも、数人の蛇の民が何かをしているらしい。
外からの揺れが、伝わってくる。
「おまえさんの魔力に引かれてやって来たのだろう。しかし、もうしばらくもすれば帰っていくだろうて」
「ここは……ここはどこで、そしてあの黒いのは何物なのですか」
「それなら、こちらからも聞かせておくれ。おまえさんは何者で、どうしてこの地で魔力を使えたのか」
「それは……」
(記憶を失っていることにしたほうがいいわ。あなたは、記憶を失って旅をしているただの賞金稼ぎのマダラ)
──わかった。
「相談はまとまったかね?」
「!?」
驚くシゲル。蛇の男は笑って答える。
「図星か。おまえさんは、すぐ表情に出る。……わしの見たところ、誰か、おまえさんと親しい者が近くにいるのだろう。わしには見えぬが」
「…………」
「まあいい。おまえさんが普通ではないのはわかる。言えぬこともあるだろう」
「……すみません」
「なに、咎人ではなさそうだ。あの無礼な狒々どもであれば見捨ててもどうとも思わぬが、おまえさんは奴らを滅ぼした功者だからな」
「………………」
「さて、まずは飲めばいい。おまえさんは客人だ」
そう言って、杯に注がれた赤い酒を差し出してくる。
「……」
無言で、その酒を飲み干す。
「……甘い」
葡萄酒のようで、それよりもまだ甘い。なにかの果実酒なのだろう。
「喜んでもらえて幸いだ」
「これは……何の酒なんですか?」
「カロティポの酒だ……と言うてもわかるまい」
「かろ……てぃぽ」
(乾燥地帯に生える低木ね。真っ赤な南瓜のような果実は糖度が高くて栄養素も豊富だけど、そのままだと硬くて食べられないから、酒にしたりあるいは臼で挽いて粉末にしてパンにしたりするわ)
──へえ。
「この辺では育つものも限られているからな。こいつは命の実だ」
「貴重なものなのでは?」
「まあ、貴重といえばこの地ではすべてが貴重だ。とはいえ、客人に粗末なものも出せまい」
「……はは」
.
「さて」
男が、話し始めた。
「君は、あの無礼な狒々を追ってきたのかな」
「……半分は」
「残り半分は?」
「調査……です。以前から、調査隊や探検隊が消息を絶っていまして、それで……」
「ふむ」
男が、酒をちびりと舐めて言う。
「時折、命知らずが来たのう。ここの地図を作ろうとしたり、奥地を目指そうとしたり」
「それで……?」
「何度かは、おまえさんのようにここに泊めてやったりもしたが、みな、手前勝手な欲を出して奥に向かい、そして食われた」
「食われた……って、さっきの……」
「そうだ。黒き竜だ」
「…………」
「黒き竜には、矢も槍も効かぬ。かというてこの地で魔法は使えぬ。勝てる相手ではない」
「……そんなのがいるのに、どうしてここで住んでいるのですか」
「わしらのことか?」
「はい」
「……勝てぬなら、戦わなければよい。我らはこの地で、ただ終末の時を待つのみ」
「終末の時?」
「遠い未来、しかし確実に来る日。神の裁きは下り、邪なる者はセトの息吹で焼き尽くされる」
「……セト?」
(砂漠で信仰されている竜神ね)
「……その日まで、ここでずっと過ごすんですか」
「五感の快楽を断ち、邪念に汚されることなく、ただその時を待つ……と、いいたいところだが」
「ところだが?」
「こいつだけは、どうあっても止められぬ」
そういって、カロティポの赤酒を飲む。
「快楽を断ち切れてないような」
「どのみち、わしが生きておる間に来るものでもないからの。わしらは次代へと教えを伝え、来るものへの道標となるのみ」
「……いつなんですか、その終末の時というのは」
「あと四千と二百七十九年先だ」
「………………」
(無意味としかいい様がないわね)
──言うな。
「何しろ、長いからな。先々まで正しく教えが伝わるとは限らない。ゆえに我らはここにいる」
「あと四千年も、あんな化け物がいる場所で生きていくつもりですか」
「なに、黒竜は確かに脅威だが、ここまではこない。いてもいなくてもかまわぬよ」
「そういうものですか」
「外地のものは、とかく欲に惑わされて、大いなるものには挑もうとする。悪い癖だ」
「…………」
「さて、そろそろ飯でも食うか」
運ばれてきたものは、カロティポのパンだろうか、茶色い煎餅みたいなものと、サボテンかなにかのサラダらしきもの、それから串焼きの肉に何かいろいろと放り込んだスープ。
なにやら、儀式のようなものに付き合わされて、聞いたこともない祭文を一緒に反芻させられる。
それから、食事。何グループかごとに分かれて食べているらしい。
不慮の事故で全滅しないよう、どのようなときでも数グループに分かれ、居住区内を散らばるらしい。
「これ、何の肉ですか?」
串焼きの肉を食べながら、不用意にそうたずねる。
「む? それは、狒々の肉じゃ」
あっさりと言われる。
「ひ、狒々って……」
肉を噴出しそうになるのを必死でこらえる。
「少し前に無礼なのが来おったから、数匹ばかり叩き殺した。我らの血肉となれば、奴らも浮かばれるじゃろう」
「…………」
シュバルカッツェにいた頃には想像もつかない理屈だと思った。
(でも、美味しいわね)
──否定できないのが悲しいな。
たしかに、狒々の肉は美味かった。
よく見ると、この地下居住区はよくできている。
罠や情報網もしっかりと張られ、住人はみな訓練された戦士でもある。
(ここを落とすには、1万人の兵が必要ね)
──魔法抜きで、しかも内部で食物の生産までできる以上、まさに難攻不落だな。
(あの黒竜と共存するんだから、やっぱりそれなりのものが必要だったのね)
──かもな。
「なかなか良くできているだろう」
「そうですね」
「はるか古から、こつこつと岩を削ってこの地にこれだけの広さの空間を作り上げた。今もまた、少しづつ掘り進めている」
「……最初にここを掘り始めた人は偉大ですね」
「そうだな。唯一つの竜を信じる者の祖先がこの地に来て、終末の時を待つかりそめの時を過ごすことを選んだとき、どれほどの苦難があったか想像を絶する」
「そのころから、あの竜はいたのでしょうか」
「いたかも知れぬし、いなかったかも知れぬ。始祖たちは、かりそめの時を無意味として記録を残していないからな」
「……今も、そうなのですか」
「そういうものもいる。しかし、わしは残している。時の神は悪戯好きでな、せっかく正しく伝えたことでも、すぐに捻じ曲げてしまう。たとえかりそめの時を生きておるとしても、その時々の者がその時々の事を記すのは必要だと思うのだ」
「……そうですね」
(記録というものが永遠のものとか常に公正なものであるとは言えないけど、口述に頼るとか、そもそも伝えないなんてのよりは遥かに賢明ね)
「して、明日はどうじゃね?」
「明日?」
「調査とか言っておったな。ちと外を歩いてみないか」
突然の申し出。
「でも、あの黒竜は……」
「ちょっかいを出さなければ問題はない。さっきのは、おそらくおまえさんが魔法を使ったのでそれに寄ってきたのだろう」
「……なるほど」
(あんなのが寄ってくるとしたら、とてもライズアップは使えないわね。もっとも、使うこともないとは思うけど)
──そうだな。
「で、どうするね?」
「ぜひ行かせてください」
翌日。
「……暑いですね」
「ふっふ。慣れろというても無理じゃろうて。まあ、この地の記念とでも思うておけ」
「そうします」
駱駝に乗って移動する。水と食料を大量に積んでいるのは、稀に砂嵐などで戻れなくなったり、道が変わったりするためらしい。
黒竜が暴れたりしたら、それこそ地形が変わるという。
奇岩の中を抜けながら、説明を受ける。
もっとも、この地がいつからこうなっているのかはわからないらしい。
口伝では、唯一の龍はその復活の時に備え、肉を砂と変え、骨を岩と変えたとかいう。唯一の龍が蘇るとき、この地の岩が骨となり、砂が肉となるともいうが、正直信じられる話ではない。
「向こうに、高台がある。そこからならあの黒い竜も見れるだろう」
「見る……って」
「ちょっかいをださなければ襲ってはこない」
昨日と同じことを言う。
「それだったら」
後に、付いてゆくことにした。
セトの肋骨の中でも、小高い丘のようになった場所。
そこから、全景を一望できる。
「あれだな。黒竜だ」
「あれは……」
遥か彼方に見える、黒い塊を見て言葉を失う。
「八つの首と二つの尾を持ち、暴れるとすべてを食らい尽くす。下手に手出しはしないことだ」
「…………」
──八つの首の…………竜?
(あれって……)
全体像を見て、唖然とした様子で声をかけてくるエルシア。
──竜というか、何と言うか……どっちかというと……
(空飛ぶ……巨大コウモリダコ?)
──だよな……
それはどうみても、地球にいた頃にテレビで見た深海生物だった。
(なかなかシュールな光景ね)
──同感だ。
奇岩が立ち並ぶ砂漠の遥か彼方に浮かぶ、空飛ぶコウモリダコ。
(砂漠って……こういうところなんだ)
──いや、たぶんこれは極端な光景だ。きっとそうだ。
(シゲル、声が上ずってるわよ)
「この距離から見ても恐ろしい姿じゃろう」
「…………そうですね」
しばし沈黙してからの返事に、おびえていると思ったらしい。
「そう怖がらなくても良い。静かにしておけば暴れることもない。黒竜はそういう奴だ」
そう言って、豪快に笑うヘビの男。
──空飛ぶコウモリダコを竜と呼ぶのはやっぱり抵抗があるな……
(そうね。でも……)
──でも?
(空飛ぶコウモリダコに食べられるよりは、巨大な黒竜の餌食になったって言われたほうが、軍人にとっては名誉よね)
──それは、そうかもな……
(記録簿に『ステイプルトン、享年何歳、セトの肋骨でコウモリダコに食べられる』って書かれるよりは『セトの肋骨で黒竜と戦い、殉職』って書かれたほうが救いがあるって感じがしない?)
──まあな。最期の記録が『コウモリダコに食われる』じゃあ末代までの恥だ。
そんなことを話していると。
ゆらりと、黒いコウモリダコ……黒竜が動いたように見えた。
「む?」
ヘビの男が異変に気付く。
「まずいな。機嫌が悪いようじゃ。早々に逃げるぞ」
「え?」
「何があったかはわからぬ。が、あの様子では間違いなくこちらに来る。退散しなくては死ぬぞ」
「何でそんなことにっ!」
「わからん。このようなことは初めてだ」
(……シゲル)
──何だ?
(私たちに引き寄せられている可能性は高いわ)
──どういうことだ?
(ステイプルトンの身体は、自動的に魔素を吸収蓄積するようになってるの。はっきりいうと、ただそこにいるだけで魔素は蓄積する。ある程度溜まってたなら、ライズアップしなくても魔素が集まっていると気付くかもしれない)
「って、何だよそれ!」
思わず、声を上げる。その声に、ヘビのおじさんが気付く。
「……すまぬな。わしが余計なことを言うたばかりに」
「いえ、その……」
「何とかしてやりたいが、この状態では運を天に任せるしかない。……わしはもとより、かりそめの命を生きるゆえ命に未練はないが、おまえさんはそうもいかなかろう」
「…………その」
思いつめた表情のシゲル。機先を制して、ヘビの男が言う。
「一人で囮になるとか考えるなよ。そう言うのは好かぬ」
「……いえ。一人できっと逃げ切れます。ここで左右に分かれましょう」
「逃げ切れる? あの黒竜からか?」
「はい」
真剣な表情。ヘビの男が笑う。
「おまえさん、嘘がつけぬ性質だな。すぐ顔に出る」
「嘘じゃ……」
反論しようとするシゲルに、ヘビの男が言う。
「そうだな。今、おまえさんは嘘を言っていない。嘘が下手なおまえさんが、今は本気であの黒竜から逃げ切れると思っている。だとすれば、信じてやらなくもない」
「ありがとう……ございます」
「なに、おまえさんは信じ甲斐がありそうだ。それに乗るだけよ」
「……それじゃあ、もう……時間がないですね」
「そうだな。ここで別れよう。ところで」
「はい」
「名前を、聞かせてくれんかね」
その言葉に、シゲルはいっしゅんためらい、そして答えた。
「シゲル……ソウマ・シゲルです」
「シゲルか。わかった。その名は記録しておこう。……よいな、わしに嘘はつくでないぞ」
「わかりました」
そう言って、駱駝から降りる。
──何秒変身できる?
(一分くらい。テレポートするなら40秒が限界ね)
──わかった。
黒い影が、迫っているのがわかる。
剣を、すらりと抜いた。
「それじゃあ、おじさんもお元気で。俺は、向こうに行きます。……ライズ・アップ!」
目の前で、本当の姿を見せる。
「なるほど、なかなか雄雄しい姿だ。信じて間違いはあるまい」
「信じてください」
そう言い残して、彼方へと走り出した。
「……まったく、他所者のくせに大した男じゃ」
言いながら、駱駝を逆方向へと歩ませる。
「死ぬでないぞ」
そして、最期に一言だけつぶやいた。
砂漠と奇岩の中を、ただ全力で駆ける。
灼熱の空気を吸い込むたびに、喉の奥の水分まで奪われる気がする。
その背後に迫る黒い影。
異変に気付いたのは、そのときだった。
(そんな……っ!)
──どうした?
(魔力が……あのコウモリダコに吸い込まれてる!)
──なんだって?
(まずいわ……おまけに、あのコウモリダコの中の魔力がおかしな具合になってるから、テレポートするにも魔力干渉が激しくてできない!)
──冗談じゃない! こんなところでコウモリダコに食われるなんて、本気で末代までの恥だ!
言いながら、それでも走る。
その背後で、触手の間の膜を大きく広げる巨大コウモリダコ。膜の中で何かが光るたびに、魔力が吸われているらしい。
(このままじゃ、ライズアップだってそう長持ちしないわ!)
──くそっ……何かないのか?
走りながら、周辺の光景を見る。
前方に、切り立った断崖みたいなものが見える。
──エルシア、ライズアップが解けるギリギリの瞬間を教えてくれ!
(えっ……?)
返事を待たずに、銃に弾丸を装填する。
結界弾、爆砕弾、火炎弾に氷結弾、魔弾の中でも特に魔力の高い弾丸だけを装填する。
その動作に、何をしたいかエルシアも気付く。
(わかったわ。たぶん、あの断崖までは大丈夫よ)
──そうか。
(だけど、落ちた後の受け身までは責任取れないわ)
──そっちは、俺が責任を取る!
言いながら、断崖へと駆ける。
走りながら、途中に転がる岩塊を一つ掴んだ。
背後に迫る黒い影。
触手がのたうち、奇岩を弾き飛ばす。
──召還っ!
ウィスプを何匹か放ち、コウモリダコの触手の興味を一時的にそらす。
が、素早い動きで放ったそばからウィスプを吸収する。
(あと、五秒よ!)
──わかった!
なんとか、断崖までたどり着きそうだ。
走りながら、岩塊を投げる。
超空間把握力が、岩の軌道を予測する。
銃弾を、立て続けに6発撃つ。
撃ちながら、断崖の底へと跳んだ。
一発目の銃弾が、岩を砕く。
岩を砕いた残りの残留魔素が、周囲へと広がる。
一瞬、ステイプルトンを見失った巨大コウモリダコが、その残留魔素を発見する。
そして、その魔素の中からさらにどこかへと跳んでいくいくつかの強い魔力。
その少し離れたところで、断崖から落下しながら消えた魔力の存在よりも、勢いよく逃げる魔力にコウモリダコは向かってゆく。
思ったより高い断崖。
岩にぶつかり、転がり、叩きつけられるようになりながら、谷底まで転げ落ちた。
「ぐぁっ……」
一番底まで転げ落ちたステイプルトン。全身を襲う激痛に悶絶する。
(大丈夫?)
──コウモリダコは?
(なんとか、向こうに向かったみたい。このまま、魔力の回復を待って一気にテレポートしましょう)
──そうだな。
上空を見上げる。十数メートルはありそうな崖。
──あんなところから落ちて、よく命があったものだな。
いまさらながら、無茶をしたと思う。
(ほんと、無茶するわね)
──まさかというか、あのコウモリダコは予想外すぎて無茶するしかなかったんだよ。
(確かにね。でも、きっともう安全ね)
──そう願いたい。
岩の隙間で、少しの休息を取る。
あの巨大コウモリダコがもぐりこんでくるには、少々狭すぎるはずだ。
(報告書には、魔法を吸い込む巨大な黒竜と戦ったと書いておきましょうね)
──そうだな。そのくらいは書いてもバチはあたらないだろう。
傷だらけの顔で砂漠の青空を見上げながら、そう答えた。
◇ ◇ ◇
「大丈夫?」
「ああ。ちょっとばかりトラウマになってる記憶を思い出しただけだ」
そう口にするステイプルトン。
「じゃあ、話を続けると……結論を言うと対処法ナシってことね」
「……つくづく厄介だな」
「そうね。何度も言うけど、目撃されたのは今回が初めてなのよ。まだ、何もわかっていないに等しいの」
「……個人的には、二度は出会いたくないな。……いや、三度は出会いたくないというべきか」
「それでも、出会うんじゃないかしら」
「ぞっとすることを言わないでくれ」
「でも、誰かがあれを何とかしなきゃならないのなら……それが出来るのは限られてるわ」
「…………」
「そして、その限られた人たちの中に、義兄さんは含まれている。それだけの力があるのよ」
「……まあ、乗せられておくよ」
そう言って、歩き出す。
「まだいろいろ、やらなきゃならないことは多いし。つまらない芝居もやる必要がある」
(それでも、ずいぶん板についてきたわよ。あれなら、悪役として十分お金が取れるわ)
──あまり板に付きたくない演技だがな。
そして、夜の闇へと消える。
残されたベリル。くすりと、一人微笑を浮かべる。
「義兄さんは、所詮ヒトなのよ」
そして、反対側へと歩き出す。
「……いくら強くても、いくら見た目がマダラでも、それは変わらない」
愛情と憐憫の入り混じった、謎めいた微笑。
「だから、逃げられないものがある。敵がどんなに強くても、守りたいものがあれば絶対に逃げない。……それが、義兄さんの限界なのよ」
534 :
カモシカ担当:2006/08/31(木) 08:08:47 ID:RwTkZDoo
とりあえず、前編のステイプルトンのパートだけ投下しておきます。
残りは仕事から帰ってから。
えーと、ステイプルトンってキャラは、もともと見聞録を読んでから思いついたキャラです。
そう言うわけなんで、かなり見聞録の人にリスペクトを込めて書いたつもりだったりしますが、まあ……
アレですね、ヒトは所詮神にはなれませんか(´・ω・`)
いいんです。書くことで成長することもあるw
あとは、蛇担当様ありがとうございました。
ちょっとだけ頑張って、文体を似せてみようとしたんですが、力不足だったかもしれません。すみません。
とりあえず、ガラでもないシリアスもーどな話はここまで。仕事帰ってから、後半のいつもどおり……というかエロ萌え最優先の後半部、レーマ×アンシェルのパートを投下します。
乙であります!
あ、夏休みに投下して無い……
どんだけ量があれば読み応えあるのだろうか
536 :
落書師:2006/08/31(木) 16:51:45 ID:MNkanHpt
世間一般にいう「夏休み」の間に、このスレッドでできた作品よめるかと思ったけどムリだった・・・。
まぁがんばって全部読みたいな。見聞録から入った身なんだけど、ほかの作品も好ましいのが多くて嬉しい。
自分もなんか文章が書いてみたいと思う毎日。
おぼろげなネタがあるけど、色んな種族混ぜ込みならほかの国の状況もわからないとなぁ。
・・・あ、そうだ、
>>487様、
水着GJ!
帰ってきたので、今から後半……と言うには短いですけど、残りの部分を投下します。
◇ ◇ ◇
その頃、太陽の都のエグゼクターズ基地では。
レーマとアンシェルが奇妙な捕虜暮らしになってから、もう何日かになる。
レーマの漠然とした予想では、そろそろリュナが助けに来てくれてもいいはずなのだが、世の中はとかく予想通りにはいかない。
もっとも、リュナが来ないというのは、ニュスタにとっても意外なようで、鉄格子越しに愚痴を聞かされることもある。
「遅いなぁ〜」
「僕にいわれても困ります」
癖と言うものは怖いもので、最初のうちこそタメ口を利いていたのに、いつの間にかニュスタに対しても敬語を使うようになっている。
十年間、言葉遣いを鍛えこまれたトラウマがあるのかもしれない。
「かわいい奥様が悪の組織に捕まってるというのに、なにやってんのよあいつ」
「悪の組織……って、自分で言っちゃっていいんですか?」
「私はいいの」
「……そういうものですか」
「レーマ。あまり相手にするな」
横から、アンシェルが言う。
その言葉を聞いて、口元に微かな笑みを浮かべるニュスタ。
「あら、そんなこと言ってもいいの? アレ、まだ私が持ってるんだけど」
そう言って、手の上でころころと水晶を転がす。その奥の方に、なにやらからみつく人影のようなものが。
「なっ!」
顔色を変えるアンシェル。
「返せっ、今すぐそれを返せっ!!」
半狂乱になって鉄格子をつかむ。
「ふふーんっ♪」
そういって、手の届かないあたりで水晶球をもてあそぶニュスタ。
「返すわけないでしょう」
「このっ、卑怯者、俗悪な金の亡者めっ!!」
「ん〜っ♪ 敗残者の悲鳴っていつ聞いてもいいわねぇ」
「貴様っ! このままですむと思うな、いつか必ず真っ二つにしてくれるからなっ!」
「ん〜っ、負け犬の遠吠えってほんと気持ちいいわぁ♪」
「貴様ーっ!」
「…………」
二人の諍いをからはじき出されたレーマ。退屈そうに窓の外を見上げる。
「…………」
仕方なく、鉄格子の側から離れる。
ベッドの近くの、少し広い空間に歩いてゆくと、そこで軽く剣の構えを取る。
何も握っていない両腕に、少しだけ力を入れる。
上段から縦に。右斜めに返し、そのまま左肩先に切っ先を合わせるように。
そして、そのまま左に突き出し、そして腰を引くように回し、弧を描くように大きく横薙の一閃。
片膝を付き、受け。
前方からの斬撃を額の前でとめるように、横一文字に構える。
受け止めた一撃を流すように、右に大きく身体をひねりながら立ち上がる。
同時に、石突で前方の敵のみぞおちを突くように、握った左逆手を前方に。
そして、半歩下がりながら袈裟斬りに。
再び、上段に構えて一つの型が終わる。
「…………へぇ」
ニュスタの、少しだけ感心したような声。扉の向こうから見ていたらしい。
「あんがい、やるじゃない」
「当然だ。あいつを誰だと思っている」
少し自慢げなアンシェル。
「あー、そーね。身も心も蕩けさせるような愛しの彼だもんね」
「べ、別にそこまでは言ってない!」
「言ってはないけど、思ってはいるのよね」
「だ、黙れっっ!」
「……やれやれ」
「レーマっ! お前も何かこの無礼者に言ってやれっ!」
「…………」
想像していたよりも、捕虜生活は騒がしく、そして少しだけ楽しい。
ただし、本当に少しだけ。
この小さな部屋から出て行けるわけでもないし、監視の目もある。
なにより、退屈を紛らわせる手段が何もない。
仕方がないから、剣の型を繰り返したり、鉄格子とか適当なものを利用して身体を動かしたり。
少しでも身体に覚えこませておかないと、いざというときに身体が動かない。
ここ数日は、そんなことばかり繰り返している。
リシェルのことも気になるけど、こればかりはどにもならない。
あまり信用できないけど、ニュスタの「無事だ」という言葉を信じるしかない。
ハイランダーの剣には、習い覚えるのにいくつかの順番がある。
基本となる三絶の型。
はじめにそれを繰り返すことで、太刀筋を身体に覚えこませる。
それを覚えると、次に応用となる五箇の型。
乱剣と呼ばれ、一対他を想定した戦場用の剣をここで覚える。
そして、さらにその応用となる十本の太刀を加えた、一十八本の太刀を、本太刀(もといたち)と呼ぶ。
それを覚えた段階で、双円、弧月、遊打、立思、瑞楼、氷凌の6つ。あわせて麒麟法と呼ぶ。
もともとはカモシカの国の剣術……ハイランダーの剣術とは異なる、他国の術技を組み入れたものを呼ぶ。
二千年前、リュカオンの乱において圧倒的な魔法の前にハイランダーはほぼ壊滅し、その術技は大きく失われた。
大戦の終結後も、人々の目が魔法に向く中で剣と弓を中心としたハイランダーの戦闘術は長らく捨てて省みられなかった。
再び、その術技に光が当たるようになったのは、せいぜいここ数百年のこと。
その間に失われた多くの者を補う形で、他国の戦闘術を取り込んだのが麒麟法である。
その上に、さらに奥義がいろいろあるらしいが、レーマは知らない。
レーマが自信を持って実戦で使えるのは、せいぜい五箇三絶、そして本太刀まで。麒麟法は教わっているし、型も知ってはいるが、実戦で使う自信はいまひとつない。
技術も大事だが、やはり先立つものは体力。
獣人ならざる身で使いこなせるほど、麒麟法は甘くはない。
「…………」
さっきまでニュスタと言い争っていたのを忘れたように、レーマの演武をじっと見ているアンシェル。
扉の向こうで、ニュスタが面白くなさそうにつぶやく。
「あーあ、瞳キラキラさせちゃって。いーなぁ、恋する乙女は」
そういいながらも、窓越しにレーマの動きを見る。
無駄のない動き。型が型に終わらず、仮想敵を想定した上での動きなのがわかる。
ところどころ、動きが変化するのは、その仮想敵の動きに合わせているのだろう。
それでいて、規をはずれない。
一年や二年で覚えられるものではないというのはわかる。
かなり幼少の頃から、剣を扱ってきたのだろう。
「そこらの兵隊さんじゃあ、相手にならないわけだ」
数日前の、血まみれの廊下を思い出す。
エグゼクターズが銃火器戦闘に力を入れ始めた半面で、近接戦の訓練が少しおろそかになっていることは否定できない。
長柄の武器の訓練が主体となっているため、剣を扱う時間が減っているということもある。
しかし、それにしても。
仮にも訓練された兵士を相手にしてなお、明確な技量の差があったというのは驚くべきことだった。
「アルルスより強くなるんじゃないかな、そのうち」
もちろん、ヒトとカモシカの体力差という、簡単には越えられない壁を越えることが出来たらの話だが。
目を閉じ、一心に型をこなすレーマ。
それが即、強さに直結するわけではないが、それを重ねて身体に覚えこませなければ、強くなることは最初から出来ない。
それを、少し離れてじっと見るアンシェル。
ずっと見ていると、着実に鋭さと速さ、そして確実さが増しているとわかる。
──強くなった。
そう、思う。
いつの日か、レーマが自分より強くなるのではないか。
ふと、そんなことさえ考えてしまう。
──そうなったとき、どうすればいいんだろう。
嬉しいような、すこしだけ怖いような。
そうなってしまえば。
そのまま、レーマに何もかもゆだねて甘えてしまいそうな気がする。
そして、レーマは。
そんな姿を、やさしく受け入れてくれるだろう。
それは、怖いことだと思う。
自分の弱さを認めて、それに甘えてしまえばそれはきっと、もう自分ではないと思う。
──だけど。
レーマは、人の気も知らずに。
勝手に、どんどん強くなってゆく。
すこしだけ複雑な気分で、演武を見ていた。
一通りの型を終え、辺りを見る。
「…………?」
いつの間にか、アンシェルとニュスタがじっと見ていた。
「あ、あれ……見てたんですか」
「この狭い部屋の中でそれだけ動いていれば、目に付かぬはずがなかろう」
目をそらし、慌てて怒ったようにアンシェルがいう。
「え、あ……その、すみません……」
肩を落とすレーマ。
「あらあら、さっきまで愛しの彼に見惚れてたくせに」
「見とれてなどいないっ!!」
ニュスタの茶々に、慌てて否定するアンシェル。
「だいたい、レーマの型はまだまだなっていない!! いいかっ、五箇の太刀はまず足構えからだ!」
顔を真っ赤にしながら、レーマに八つ当たりするアンシェル。
「そもそも腰がしっかりとしていないから一撃一撃に重さが感じられぬのだ! 腰を据えるにはまず脚の粘り! それでいて俊敏さを失わぬことが肝要!」
なぜだか顔を真っ赤にしながら、怒鳴るように言う。
「やれやれ、ほんっと退屈させない二人ね」
そう言って、ニュスタは肩をすくめた。
◇ ◇ ◇
「レーマと姉さまは、無事なのですか」
その上の階。囚われの身のリシェルが、アルルスに問う。
「無事ですよ。本音を言えば、ずいぶん損害を出してくれたし、多少痛めつけたい気分ではありますが」
「そんなっ……」
「とはいえ、目的を考えたときには、無傷で生かしておいたほうがよいでしょう。心配しなくても大丈夫ですよ」
「そうですか……」
すこし、ほっとした様子のリシェル。
「とはいえ」
皮肉っぽい笑みを浮かべて、アルルスが言う。
「リュナ卿は存外、冷酷な方でいらっしゃる」
「……!」
「いや、存外ではありませんか。われわれが知ってる通り、ですね」
「…………」
「あの方は、いざという時は自分以外の全てを捨てて省みない。もちろん、そういう人だからこそ他人に出来ないことを成し遂げられるわけですが、しかしまぁ……」
「言わないでくださいっ!」
たまらず、声をあげるリシェル。
「ああ、これは失礼。しかし、私としてもおそらく奥方様を助けに来ると思って待っていたのですが」
「きっと……何か理由があるんです」
「そうでしょうね。奥方様を見捨てるほどの大切な何かが」
「み、見捨ててなんか……」
少し不安げに抗弁するリシェル。だが、追い討ちをかけるようにアルルスが言う。
「そういえば、フィリーヌ嬢のことはご存知ですか?」
「!?」
「彼女とは幼い頃から生死をともにしていますからね。もしかすると、心の中で本当に思っているのは誰か……」
「そ、そんなことっ……」
「もちろん、全て憶測ですよ。わかることは、唯一つ。……リュナ卿が、いまだに助けに来ないということ」
「…………」
「それでは、失礼いたします」
「ま、待ってください!」
その言葉に、扉に向かいかけたアルルスが振り向く。
「何か?」
「もし……リュナがこなければ、どうなるのですか」
その言葉に、心の中でほくそ笑む。あえて、冷たい言葉を投げる。
「その時は、その時ですよ。使えない手札ならば持っていても仕方がない。かといって下手に騒がれても困る。……邪魔なものは消すに限る」
「そ、それは……」
恐怖の色を浮かべるリシェル。その表情を、冷酷な微笑で見つめる。
「それでは、私は失礼しますよ。こう見えて忙しいので」
「あっ……」
まだ何か言いかけるリシェルを残し、アルルスはさっさと外へと出た。
「つくづく、最低の男ね」
書類を抱えたフィオール。外で聞いていたらしい。
「これも仕事だ。好き好んで女を泣かす趣味はない」
「泣かされることはあるけどね」
「あれは相手が悪い」
「まあ、それは同感だけど」
「それで、本当はどうするつもり?」
「なに、ある程度は可能性はあった。あのリュナ・ルークス卿がここで我を忘れるような人とは、ハナから思っちゃいない」
「だから?」
「時間をかけて、リシェル嬢を揺さぶりまくる。そうやって、彼女を内面から落とす。都合のいいことに、お人よしの召使くんという手札もある。あの召使くんが親切心を出せば出すほど、リシェル嬢は壊れてゆく」
「それが、目的?」
「短期的には、ね」
「長期的には?」
「リュナ・ルークスに手駒となってもらう」
「……出来るの?」
「できる」
そう言って、自信に満ちた笑みを見せる。
「大切なものを失ったと気付けば、是が非でも取り返そうとする。それがあの人だ」
◇ ◇ ◇
「……まあ、前よりはずいぶんマシになっている。努力だけは認めてやらなくもない」
下の階。
肩で息をしながら寝台に腰を落としているレーマに、アンシェルが言った。
「そ、そう……ですか」
返事をするのも苦しそうだ。
「……疲れたか?」
すこし、心苦しい気持ちで尋ねる。
「さ、さすがに……」
「そうか。だが、そうやって積み重ねたものは、いずれ必ずモノになる。おまえは、もっともっと伸びる素質がある」
「素質……ですか」
「これでも、お前のことは評価しているつもりだ」
すこし、目をそむけながら言う。
「いつかきっと、おまえは私より強くなる」
「……なれますかね……」
「なれるさ。誰がおまえに教えていると思っている」
「そうですね」
そう言って、微笑を返す。
横目でちらと見たアンシェルと、微笑むレーマの目が合う。
あわてて、顔を横に向けるアンシェル。
「と、とにかく、だ。私がおまえを徹底的に仕込む。泣き言は許さぬ、逃げることも許さぬ、返事は『はい』以外認めぬ」
「はい」
そこに、窓の外から茶化すような声。
「あらあら、急に先生ぶっちゃって」
「ニュスタ!」
「あんまり厳しくすると、愛しの彼に嫌われちゃうわよ」
「だ、黙れっ! 私は、レーマの師としてだな……」
「ふーん」
「な、なんだ、その目は!」
「子供の頃って、好きな子ほどいじめたくなるのよね〜」
「ち、違うっ! 私は……」
何か言おうとするのを、後ろからレーマかおさえこむ。
「む、むぐっ、んぐぅ〜っ!!」
口を押さえられて暴れるアンシェル。その耳元に、そっとつぶやく。
「別に、いいじゃないですか」
そう言って、軽くアンシェルの頬にキスする。
「あら」
驚いたようなニュスタの声。
「レーマくんったら、だいたん」
「んくぅ〜……」
口を押さえられたまま、突然のことに戸惑い、力が抜けるアンシェル。
「あんまりからかわないでください。ご主人様、こういうの苦手なんですから」
「……仕方ないわね。見せ付けられちゃったら、逆につまんないもん」
「…………」
首まで真っ赤になってうなだれるアンシェル。
「ほんっと、いい彼氏ね。大事にしてもらいなさいよ」
そう言って、つまらなさそうにニュスタが扉の向こうへと消えた。
「…………」
まだ全身が火照っているアンシェル。
「大丈夫ですか?」
「……人前であんなことするやつがいるか」
消え入りそうな声。
「すみません」
「私は、おまえの主であり師だ」
「はい」
「その私をこのようにするなど、無礼にもほどがある」
「すいません」
「……謝るくらいなら最初からするな」
「はい」
恥ずかしさで全身を小さくしたまま、文句を言う。
「それにしても」
小さくなっているアンシェルの肩に、手を回すレーマ。
「アンシェルさまって、恥ずかしがり屋ですよね」
「お、おまえが破廉恥なのだっ」
小さな声で抗弁する。
「そうやって、また人のせいにする」
言いながら、アンシェルをくいと抱き寄せるレーマ。
「あっ……」
至近距離から、顔を見つめられる。
それだけで鼓動が早くなり、頬が上気する。
「でも、慣れも必要ですよ」
そういいながら、アンシェルの服に手をかける。
「……れ、れーま……」
戸惑うような声。無視して、するりと服を脱がせる。
「あ……」
慌てて、両腕で胸のふくらみを隠す。
「な、何を……」
羞恥に頬を染めながら、レーマを睨む。
「これも、修行ですよ」
そういいながら、軽くキスをする。
両手で胸を隠しているため、全く無防備になっている唇を吸う。
「んっ……く……」
どうすることもできないまま、首に手を回され、抱き寄せられ、唇を奪われるアンシェル。
そのまま、寝台に押し倒される。
「んん……」
舌を深く入れられ、絡み付けられるだけで全身の力が抜けてゆく。
甘い感触に全身が溶けてゆくようになり、まるで力が入らない。
「んふ……むふぅ……」
無理やり押し倒され、蹂躙されているはずなのに、抵抗することが出来ず、声さえ出ない。
それをいいことに、レーマは何分も唇を責め続けた。
「ん……はぁん……」
頬を上気させ、とろんとした目つきでレーマを見つめるアンシェル。
「キスだけでこんなになるなんて、ほんとにいやらしいご主人様ですよね」
わざと、そう言っていじめる。
「ち……ちがう……」
半分涙目になりながら、弱々しく抗弁するアンシェル。
「れーまが……むりやり、こんなことするから……」
その言葉に、さらに追い討ちをかける。
「なるほど。無理やりされたらこんなに感じちゃうんですね」
「ち、ちがうっ……」
反論しようとするけど、頭が真っ白になって何も考えられない。
「何が違うんですか?」
いいながら、胸を隠そうとしている両腕を横にどける。
「や、やめ……」
抗議の声を上げるが、レーマはそれを無視して腕をどける。
拒もうとしているのに、腕は自分の意思を無視して、されるがままに横へとどかされる。
「…………」
小振りな乳房が露になる。
「どうですか、僕にこうやって見られてる気持ちは」
「……れーま……見るなぁ……」
「だめです」
そういいながら、上から馬乗りになり、アンシェルの顔を無理やり正面に向ける。
「ふふ。見られて、感じてるんでしょう?」
「ち、ちがうっ……私は、そんな……んっ……」
反論しようとするが、つんと乳頭をつつかれ、途中で止められる。
「違うっていうなら、どうしてこんなになってるんですか?」
そういいながら、指先で胸の先端を転がすように責める。
「はふっ……そ、それは……」
「見られて感じちゃうなんて、やっぱりいやらしいんですね」
「ちが……っ……」
言葉で責められるたびに、アンシェルが羞恥に身悶える。
「ふふっ、違ってなんかないでしょう?」
馬乗りになったまま、アンシェルの肌を愛撫する。
抵抗する力もなく、愛撫されるたびに身悶えて艶かしい喘ぎ声を上げる。
「そんな、れーま、いやあっ……」
「嫌がってるわりには、こんなになっちゃって」
そういって、肌の上を指でなぞる。
ほてりきった肌に、玉の汗が浮かんでいる。
「あぁ……ん……」
肌をなぞる指の感触に、耐え切れず恍惚の表情を浮かべる。
「ほら、こんな気持ちよさそうな声を出して」
言いながら、くいと引き寄せ、抱き抱える。
「れーま……」
半ば放心したような表情で、レーマを見つめるアンシェル。
「どうして、ほしいですか?」
「……れーまの……」
「何ですか?」
「れーまの……好きにして……」
「わかりました」
そう言って、再びアンシェルを寝台に寝かせる。
軽くキスをして、そして、左の乳房を口に含む。
「んっ……」
微かに震えるアンシェル。
舌先で乳房をねぶり、先端を転がし、かるく甘噛みをし、時々強く吸ったりもする。
そのたびに、耐え切れないような喘ぎ声が漏れ、身体がこわばる。
アンシェルの意識が、責め嬲られている乳房に集中ている隙に、レーマの左腕がアンシェルの腰紐を解く。
そして、そのまま下腹部を愛撫する。
「やっ……」
微かに、抗議の意思を示すが、体が動かない。
なすすべもなく、レーマの指と舌に操られ、快感だけを高められてゆく。
「れーまっ……れーまぁ……」
泣きそうな声で、レーマの名を呼び続ける。
もう少しで果てるという寸前で、しかしレーマは愛撫をやめた。
「れーま……?」
あと少しというところで愛撫を中断されたアンシェルが、呆けたようにレーマを呼ぶ。
そんなアンシェルを、もう一度寝台に寝かせる。
「ふふっ」
悪戯っぽい微笑。
「いまのアンシェル様、かわいいですよ」
そういいながら、急所を少し外した場所を責める。
ふとももの内側、おへその周囲、わき腹。
敏感だが、そこだけでは絶頂に達することが出来ない箇所ばかりを、執拗に嬲る。
「ああっ、あんっ、だめ……」
ほとんど声も出せず、身悶えることさえ出来ない状態で、生殺しのように性感だけを高められる。
「ふふっ。本当に、アンシェルさまはいやらしいですね」
わざと、そう言って責める。
「ちがっ……れーまが、れーまがいじめるから……」
消耗しきった身体で、それでも弱々しく抗弁する。
「まだそんなこと言うんですか」
そういいながら、愛撫の動きを早める。
「あんっ……だめ、だめえっ……」
力の入らない指で、シーツをわしづかみにしてこらえるアンシェル。
全身が桃色にほてり、汗と愛液で肌がぐっしょりと濡れている。
「気持ちいいですか、アンシェルさま」
「……おねがい……もう、許して……」
「どうしてほしいですか?」
「れーまぁ……もう……ゆるしてぇ……」
「アンシェルさまは、とってもいやらしいご主人様だって認めますか?」
「そ……それはっ……」
拒絶しようとするが、火照りきった体を責められ続けるたびに、体の方が勝手に反応する。
「黙ってたら、ずーっといじめちゃいますよ」
ちろり。
舌先で敏感な突起を舐めるたびに、力なく喘ぐアンシェル。
身悶える体力さえ奪われたご主人様に、一方的に拷問を加える。
あと一歩で絶頂に達するという直前まで愛撫を加えて、それから急にやめる。
体のほてりが少しおさまったと見るや、再び愛撫を加える。
その繰り返し。
「れーま……おねがい……もう……おかしくなりそう……」
焦点の合わない瞳で哀願するアンシェル。
「仕方ないですね。ほんと、いやらしいくせに強情なご主人様なんだから」
そう言って、寝台の左側、アンシェルの足許に回りこむ。
両脚を左右に押し広げ、秘肉に舌を這わせる。
「あっ……」
大きく、身体が跳ねる。
無視して、舌で肉芽を責め、時々強くすする。
「ひぃっ、あん、んくうぅぅっ!」
乱暴な舌の動きに、反応しきれずにぴくんぴくんと暴れるアンシェル。
「だめぇ、こわれる、こわれちゃうよおっ!」
悲鳴のような哀願。それさえ無視して、ちろちろと責める。
「あふっ、んはぁっ、ひはぁんっっ!」
こらえきれなくなり、大声で乱れるアンシェル。
「ひっ、ひぃ、やああぁぁぁぁっ!」
あと少しで達するというときに、しかしまたレーマは舌での愛撫を止める。
「れ……れーまぁ……」
さんざん性感を高められ、それでもまだ一度も絶頂を迎えさせられていないアンシェルの、泣くような懇願の声。
失望で一瞬、全身の筋肉が弛緩する。
その瞬間に、レーマは再び舌を差し入れた。
「ひはぁああああっ!」
突然のことに、部屋が揺れるような声を上げるアンシェル。
ぴちゃり、ぴちゃりとわざと音が聞こえるようにレーマは責める。
そのまま、潮を吹いて果てる。
「ふふっ。本当に、いやらしいご主人様」
絶頂を迎えて半失神状態のアンシェルを見ながら、そう話しかけるレーマ。
「でも、こんなのじゃ許してあげませんからね」
そう言って、その表情を覗き込む。
「これから、たっぷりと特訓してあげますから」
「…………」
その声に、じっとレーマをみるアンシェル。
「れーま……」
「なんですか?」
「こんなことして……ゆるさないからな……」
「いいですよ」
そう言って、再び唇を重ねる。
「はぁん……」
「ほら、こんなにとろけちゃってるくせに」
「……それは……れーまが……」
「僕がどうしたんですか?」
微笑むレーマに、アンシェルは小さく言う。
「……あとで、ぜったいにおしおきしてやるんだから……」
「はいはい」
「でも……」
「でも?」
「いまは、なにしてもいいから」
そう言って、そっと目を閉じた。
「……ほんとにもぅ」
二時間後。
ニュスタが、扉の向こうで怒った様な声で抗議していた。
「仮にも軍基地の中であんなに何度も大声ださせなくてもいいじゃない」
「いや、まさか、あんなになるとは思わなかったし……」
弁解するレーマ。ベッドの上では、アンシェルが一人ですやすやと眠っている。
「聞いてるこっちが恥ずかしかったわよ。私の部屋、真横にあるのよ」
「まあ、ご主人様もここ数日ご無沙汰だったし……」
謝るレーマに、少し嬉しそうな返事が返ってくる。
「とりあえず、あの子をいじめるいい材料ができたからいいけど」
「でも、あんまりいじめないでくださいね」
その言葉に、くすりとニュスタが笑う。
「よく言うわ。愛しのご主人様をあんなにさせといて」
「愛情表現なんです」
「ま、そー言うことにしといてあげるわ」
そう言いながら、鉄格子の向こう側からぴょこんと顔を見せる。
「何ですか、そのイジワルそうな微笑は」
「でもレーマくん、意外と上手そうだし」
「……上手……って」
「時々、私の相手もしてもらおうかしら」
「あ、相手って、その、それって……」
「もちろん、夜のお相手」
「いや、その、それは……」
慌てふためくレーマに、ニュスタが笑う。
「あらあら、真っ赤になっちゃって。かわいい」
「そ、その、それはそのっ……」
「冗談よ」
「……じ、冗談ですか……」
「あははっ、ほんと、君たち二人って見てて楽しいわ」
「……ほっといてください」
少し拗ねたように言う。
「でも、かわいくていいわ、二人とも」
「かわいい……ですか」
「うん。初々しくて最高。なんかもう、ずーっと味方したくなっちゃう」
「こんどは、裏切らないでくださいね」
「あら、意外と根に持つのね」
「持ちます」
「そんなこといってると、これが全世界に流出しちゃうぞ♪」
「っっ!」
水晶球を見せられ、動きが止まる。
「味方してあげるけど、レーマくんは一生私に頭かあがらないんだからね」
「…………」
女は怖いと思った。
547 :
カモシカ担当:2006/08/31(木) 18:48:30 ID:RwTkZDoo
えっと、とりあえずここまでです。
……って、横道ばかりそれて展開がさっぱり進んでねぇorz
まあ、リュナ卿のパートを書いてないから仕方ないといえば仕方ないんですが。
えーと、全部あわせて40レスくらいですか……なんというか、その、ごめんなさい。
世の中にはうpろだという便利なものがあるそうなんですが、恥ずかしながら使い方を知らなかったり(´・ω・`)
なんというか、アンシェルさまはすっかり被虐に目覚めちゃった感がありますがw
とりあえず、未完で投げ出すことだけはしないつもりで頑張ります。
GJです。
れーまくん、アンシェル様にメロメロですなw
いいぞ、もっとやれ。
文体真似してもらえるとは・・・気恥ずかしいですが、嬉しいです。
これからも精進したいと思います。
先輩方の作品って本当に素晴らしいですね。
保管庫の作品を読んで、自分のを書いて、読んで、書いて・・・・・。
その差に思わずため息が出てきます。
いぢられアンシェルさまキタ━━━ヽ(∀゚ )人(゚∀゚)人(゚∀゚)人(゚∀゚)人(゚∀゚)人(゚∀゚)人(゚Д゚)人( ゚∀)ノ━━━ !!
GJ!!
そういや落ちもののヒトで大人とかってあんまりいないよね。
>>552 それ覚えてろってのもヒデェ話じゃねえか?w
まあ、とりあえず二十歳以上っぽいのはフユキ、サトル、太陽あたり?
キオって年齢出てたっけ。
きっと展示しようとした会社の社名はイナバだろう…
なんか漫画にしたい
>>557 流石、イナバの『空気嫁』
百人で強姦(まわ)しても、大丈夫っ!!!
>>559 その、取った『筆を降ろす』のはどんな姫様の役得なんだろふ?
>558
個人的にはジーキュンの漫画が読みたい。
>>561 個人的にはバスタードの荻原かヘルシングの平野が作画してくれると
素晴らしく神作品になりそうな希ガス
>562
ヒラコーが描くとなると、あの無口な大尉が物凄いワンコロ可愛くなっているのが
ジーキュンになるわけだな?そんで「私」はオッパイが魔改造されている、と。
>>563 でシュレディンガー準尉が猫耳ショタか。
このスレにも英国国教機関の狗が紛れ込んでるな…
それは良いとして、この世界の宗教ってどんなんだろうね?
蛇の国はイスラ…じゃくてセト教ですけど、他の世界は微妙ですか
狐さんは神道系っぽい自然崇拝に近そうな雰囲気だし、
猫は現実的な雰囲気で宗教なんざ気にしなさそうだし
どうなんでしょ?
>>566 ピューマさんとこはアステカをモチーフとした多神教ぽい。
兎さんとこはレシーラっていう宗教があるみたい。
犬のところは、wikiの「100の質問」によると宗教自体はあるらしいけど具体的には書かれてない。
カモシカの国は政祭一致の太陽神信仰……だったけど今では宗教の権威ってのはかなり落ちてる。政祭一致でもなくなって、宗教的権威と政治的権威は完全に分断された状態。
獅子国は道教みたいなのがあって、口訣と導印で術を使う仙人みたいなのもいる。
あとは、カルトというか邪教があちこちに。
S級、A級の国際犯罪者の中には、やばーい思想に染まってる人や団体もいるから、そう言うのを宗教というならわりとあちこちに社会の闇としてあるかも。
犬の国は生きていくのに精一杯で神様どころじゃないのかも
神様なんかいない事は俺たちはわかっているはずだ
エロの神ならときどき降りてくるんだが、肝心の文章力が追い付かねえorz
ホーリービーストやっててここ思い出した
こちむい世界の時間軸ってどうなってるんだろうといろいろ考えてみた。
たぶん抜けが多いと思うけど。
大昔 リュカオンの大戦。大陸の大半を征圧するも狼の民の裏切りにより犬の民は敗北。
絹糸約定締結。猫の国を中心とした七ヶ国が同盟。
カモシカの国でハイランダー(シンチ)が没落。
ちょっと昔 このあたりで兎と狼の仲が悪くなる。
魚の民が海に本格的に移住
1000年前 犬の国が真銀の発掘で急成長
600年前 GARMの前身が発生?
500年前 キンサンティンスーユ建国。
100年前 ザッハーク帝国首都消失事件。ディンスレイフはこの前後から暗躍?
フローラ様即位。魔洸エネルギーの実用化。
20年前 エグゼクターズ誕生。
超大雑把なタイムテーブル
あしたら
10年後 ↓
こちむい
※「こちむい」と同時代か「こちむい」以降と思われる話のうち、時間的前後がわかりやすいもの
狗国見聞録(フローラ様、リナ様についてジークが言及)
↓
最高で最低の奴隷
(セリス君がフローラ様について言及。ただし「見聞録」でジークがセリス君について言及していないことから、「見聞録」以降の時代と思われる)
↓
岩と森の国ものがたり・獅子国
(ステイプルトンが虎の国の武器を使用したことからセリス君登場以降の時代のはず。「獅子国」のファリィは「岩と森の国ものがたり」にも登場)
↓
放浪女王と銀輪の従者
(エリーゼがカモシカの国の内乱で暗躍したのが約10年前)
特に描写がない作品は暗黙の了解で「こちむい」と同時代ってことでいいかも。
あと、最近こちむいさんがいないから淋しい。
昨日始めてここ見つけて、過去ログ読み漁ったんですけど…。
ここって、書き手の新規とか問題ないんですかね?
書き手の新規参入はいつでも歓迎。
>>569 古レススマソ、見聞録によれば・・・
>政教分離、『誰も神なんか信じない』理性崇拝が推奨されているイヌの国
と言う記述があります、やはり1000年単位での極限生活が続いた関係で
誰も救ってくれない神の存在などハナから信じてない状態になったと思われ
578 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/05(火) 15:11:59 ID:6O1aivxD
フローラ女王の220年って記述があるから、即位してから220年では‥‥‥
>>578 なるほど。そうなると実はザッハーク帝よりフローラ様の方が年上ってことかぁ。ちょっと意外かも。
時間軸について細かいツッコミされると書き手としては怖かったりして。
矛盾出てくるからなあ・・・・・・絶対。
仮想戦記系でその手のつっこみに疲れた自分にしてみれば「つっこみどころがどれほど多かろうが面白いお話」の方がありがたいね
「非の打ち所の無い完璧な話」ってやつが面白かったためしがないし……
でも、書く側としては、やっぱ気になるよねぇ〜
全部書いてからじっくり吟味して紙に年表的に書き表してみて整合性確認したりw
そんな訳で、イヌの国のお話をチマチマ書いている者です
近日デビューさせていただきますので、どうぞよしなに>皆様
イヌのお話大歓迎!
期待してますよぉ!
>>582 おぉっと!
なんかここしばらくニューカマーの登場が多くて嬉しい!
ところで、初ポストする時、なんか暗黙の了解ってありませんでしたっけ?
>>586 いや、特に。
他の書き手の設定勝手に弄らないぐらいじゃないか?予告無しに投下しても問題ないし。
588 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/09(土) 19:45:37 ID:1Y1mL6As
定期age
ご利用はご計画的に
589 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/11(月) 13:02:16 ID:mLSD8twc
ちょっと保守しますよ・・・・・・・・・・
九月になったとたんに、一気にレスが減ってる……
見聞録の人も、もう一年以上見かけなくなったんだなぁ……最近はこちむい氏も兎の人もいないし、寂しいな。
気がつくと先輩は蛇担当さんと虎の子さんくらいしか見かけないような……まあ、俺は俺の書けるレベルでがんばります。
近況報告としてはとりあえず、週末にでも狐の後半を投下して、今月中にもう一本いけるかな。
「宙船」なんか聞いてたせいで、また本編ほったらかしにしてステイプルトンの話をまた書いてる俺w
まあ、シゲルじゃああらゆる面でジークきゅんには遠く及ばないのはわかってるけど、とりあえずGARMの面汚しと言われないくらいにはしないとなぁ。
さて、久しぶりの一月に2本投下ができるかな。
>>590 このスレ女性も見てたんか・・・。
>>591 アベレージ早いよねえ。羨ましいわ。
さて、俺も進めないと。
会報とかブログとか(マテ)
確かに九月になってから人減ってますねえ…
やっぱり、定期的に新作が投下されるのがスレ活性化の近道なんじゃないかなぁと思いますです。
そうなるとやっぱり現役の書き手が頑張るしかないかなあと思ったり。
書き手としてはいつまでも見聞録人気、こちむい人気に頼るわけにもいかないというか、現役が頑張らないとスレ全体が先細りだし。
俺も書くぞー!とは思うものの、なんでだか筆が進まない…orz
あんまり急かしても仕方ないと思うけどな。
もともと投下が早いスレじゃないし、まったりやるべきだと思うけどね。
つうか8月がハイペースだっただけかと。
ところで遅いといえば保管庫収録もまだですね。
忙しいのでしょうか。
>>596 はい、頑張って書いてます……...〆(・ω・´)
近況は
>>591の通りです。
その、こちむい氏や見聞録の人クラスの神職人のレベルを期待されても困りますけど。……ていうか俺では無理ですw
とりあえず景佳くんの話でショタ分を、ステイプルトンの話でイヌ分を少しでも補給してもらえるならいいなぁと。
……エロ分は…………頑張れ、俺w
最近、ひそかに村枝賢一せんせの「ウルフガン」って漫画を探してるんだけど、住んでるところが田舎だからさっぱり見つからないorz
村枝せんせの絵はインスピレーション沸くんだけど。
>>599 今までの投下分は全部保管されてたと思いますよ。
>最近、ひそかに村枝賢一せんせの「ウルフガン」って漫画を探してるんだけど、住んでるところが田舎だからさっぱり見つからないorz
村枝せんせの絵はインスピレーション沸くんだけど。
チラ裏乙
方法はいくらでもあるだろ
pgr
どうも自作に納得がいかなかったので、大部分を消去して
新しく作り直そうとしたら、今度は全くネタが浮かばなくなりました。
orz
設定だけなら既に完成済み。あと第壱話ももう間も無く完成。土日月の何れかに投下可能。
>>604>>605 がんがれ。
・・・このスレで二次ってどこまで許されるんだろう。
1.他の職人さんの作った世界設定を使用する。
2.他の職人さんのキャラの名前を会話の中とかで出す。
3.他の職人さんのキャラを、サブキャラクターとして登場させる。
4.他の職人さんのキャラを、かなり重要な役どころで作中に出す。
5.他の職人さんのキャラでSSを一本書く。
>>607 1、2は見聞録あたりで革命起きたな(*ノ∀`)
3〜は要相談だとおもう。一次著作者に最終判断権があるのでは、と。
>>608 ありがとう。
でも一次著作者の人はもうこのスレにはいないかもしれないの。・゜・(ノД`)・゜・。
実は猫の国の話が書きたくて、そのなかでユナ様やリナ様を書きたいんです。
まだ細かくは設定とかができてないんですけど、ご主人様はネコの大商人のお嬢様になりそうです。
それで、姫様長屋に新製品の売り込みに来たり借金の取立てに来たりって形で・・・
>>611 いいんじゃないの。たしか2次創作用にwikiかなんかで『こちむい』のキャラの
一人称とか、呼び方とかUPされてた気がする。
ここはまったりしてるからとりあえず書くべし。
>>611のSSが他の職人を呼んだり復活させたりすると住人にとって
1粒で2倍おいしいぞ。だからがんがれ。
あと、借金取りが来る話を書く前にこちむいの『なぜこち』を読んどくべし。
似たような部分があるからね。未完だけど。
>>612>>613 ありがとうございます。投下まではまだまだかかりそうですががんばります。
>>613の部分の前後を見たら、なんか懐かしい名前がちらほらと・・・
狐の人とか兎の人とか狼の人とか、あの頃の職人さんたちは皆さんお元気にしてるんでしょうか・・・
ぬぉー、見聞録読んでたら半日潰してしまったー。
こういう時文章もダメ、絵もダメ、音楽が少しできる程度の自分が腹立たしい。応援しかできない自分が憎いぃぃぃい
ところで、見聞録以外の作品もいろいろあるけど、みんなどんなのが好きなんだろう。
617 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/14(木) 22:55:30 ID:nJVltdw3
虎の子さんのセシリスとミリアとか
今も読み返す
…最近ここ知ったがエロ抜きでも普通に読み物として面白いのばっかり。設定も凄い面白い。てかSSで初めて泣いた。
…一度は俺も別スレで作品作ろうとして自分の非力さに挫折したけど…時間かけてちびちび作品作ってみようかな…
徹底的に純愛へ振ったピューマの話は大好きだ、シュナとフユキの間に子が出来たらどれ程幸せだろうかと思う。
あと、蛇さん所のラーメン小咄は読むたびになんかホンワカ幸せになる気がする。
食事と言う行為を絡めて話を作ると内容が一気にリアリティを帯びてくる気がする。実際はあり得ない話しだろうけど。
>>620見て朱奈の話読んでまた泣いた…歳かな…ハハ…
>>620 > 食事と言う行為を絡めて話を作ると内容が一気にリアリティを帯びてくる気がする。
ハルキゲニアッ!ハルキゲニアはご勘弁を!(w
なあ、このスレ的には半獣形態の女はあり?
一応マダラではない女の獣人もいるらしいけど、そこら辺は萌える?
…俺だけだったらどうしよう…
>>623俺もどっちかってーともふもふしたお姉さんも全然イケる。でもまぁ少数民族としていてもいいんじゃないかなぁ。
>>624お前さんも最近ここ知ったか。神級作品多くてもう読んでて楽しいし抜けるし最高だよな。そしてそれはぞーきんかッッ!!
>>620 フユキとシュナの話は最近やっと子供が出来た自分達夫婦の話に読めて
最初読んだ時は途中から素で泣いてしもた、いい年こいて・・・と笑った妻も泣いた。
ちなみにその夜から燃え盛ったww
単にベタベタエロ話でないところが神作品だと思う。
食べ物の話は・・・・・
ネコが熱々のラーメンを味見できるんだろうか?と思えた俺は負け組みですか?そうですか・・・・
とりあえず…アレだ。
純愛ラブラブでノロケ満載の色ボケバカップルが大好き。エロ抜きでもだっ。
いやフユキと朱奈は色ボケバカップルじゃないけどさ
時に、昆虫娘というのはあってよいものなのかな?
いや、変身少女=変身といえば昆虫かな、と、そんな腐った発想がね…
昆虫系は執筆最中だけど、完成はまだ遠いなぁ…
主人公はお約束通りバッタなんだけどね。
そういや、もうすく480kか。
あと1,2作品投下されれば一杯かな?
昆虫はさすがに守備範囲外のような気もするけど…
どうだろう?
別の大陸とかね、獣人が居るんだから環境さえ違えば別の可能性もあるかも。
以前、サブキャラクターでカタツムリ娘が出てるんで、考えようによってはアリではないかと。
どこかの大陸にある未開拓の森林帯にある国…なんかいかがだろう。
…ちょっと途上国っつうか原始的な国っぽくなっちゃうけどね
昆虫の軍隊とか兵士って、なんか強そうだよね。
いわゆる「知性化された動物の世界」って奴の範疇はネコ耳とかイヌ耳とかだと思うんだけど。
昆虫の知性化ってありなんだろうか?と言う問題にブチあたるわけで・・・
果たして昆虫類が知性を持つに至るまで進化するか?って話だと思う
だから、それに対する裏付けをキチンと作り込めれば多いにアリでしょうね。
逆に徹底してファンタジーへ振るならミツバチマーヤかケロッコでめたんの世界になるんで・・・・
まぁ、本気で形而上生物である人魚の国を考えるくらいだから何でもアリだとは思うがww
>>606 5までやっちゃった例としては白熊がありますね。
>>616 未だにゼキ姉さんの続きを待ってる俺がいる。
>>620 食事シーンとか書くの、好きだからー!
本人は一週間カレーでも平気なのにこーゆーのには妙にこだわったり。
食べ歩きも好きですが。
>>624 新たな絵師さんキター!GJです。
>>629-634 ほかの作品の邪魔になんなけりゃアリアリで行ったほうが楽しいかと。
しかし昆虫娘かぁ……自分の稚拙な想像力じゃ想像出来ませんや。
変身魔法猫娘とかなら想像出来ますが。二人は肉球ア(ニクキュア)とか。
>>639 きっと女性が蝶々なんですよ
武装錬金に出てきたような
現在475KB。
1スレの容量ってどれくらいだったっけ。
500KB超えた時点で書き込みできなくなるはず。
ちょっと大きなのが一つ来たら終わる可能性大だね。
昆虫系と聞いてカブトのワームが頭に浮かんでしまった…… _| ̄|⊂・∵. サラサラ
>>643 そんな、灰にならなくても。
俺なんか特撮板の某スレでSS投下したことさえあるというのにw
>639
ニクキュアいいなあw
向こう世界って芸能関係はどのくらい発達してるのかな。
アイドルとかいるのかな。
TVの普及率にもよるでしょうが、
可能性としてはありえますよね。
人気ドラマなら、国を超えて流行していそうだw
アイドルや歌手とかって猫の国には多そうだねぇ。
猫の国は一番この異世界で先進国っぽい感じがするっていう自分の勝手な見解ですけど。
こちむい時点でテレビって普及してるんだっけ?
649 :
鼠担当?:2006/09/17(日) 01:17:47 ID:oXbJK14w
そのに を書き終えたので近日中に投下します。
例によってサイズが大きくなってしまったので前後編です。
前後通じてエロ無くて本当にごめんなさい。
>>636 すたーしっぷとるーぱーず ですね
んもぉ、わらわらでてくるYO
次スレの用意しておいた方がいいかも
誰かお願いします
とりあえずテンプレの作品リストの更新だけお願いします。
NO: 作品タイトル 経過 <作者様名(敬称略) 初出 >
36:白 新規参入! <8th-67>
37:熊の国 新規参入! <熊の人 8th-92>
38:ハイエナの国 新規参入! <274 8th-282>
39:鳥? 新規参入! <8th-308>
40:無垢と未熟と計画と? 新規参入! <8th-402>
えっと、これだけ・・・で足りてたかな。あとカナリアのタイトルが「金剛樹の梢の下」になってますね。
あと、テンプレ候補でこんなの作ってみましたw
かなり主観の入った分類かもしれないんで、追加、変更、編集があればお任せします。
はじめて来た人のための(超暫定版)作品別登場属性リスト
幼女・ロリ/「こちむい」「あしたら」「放浪女王と銀輪の従者」「ペンギンの国」「無垢と未熟と計画と?」
おねーさま/「scorpionfish」
妹・姉妹丼/「こちむい」「あしたら」「岩と森の国ものがたり」「無垢と未熟と計画と?」
ツンデレ/「狗国見聞録」「放浪女王と銀輪の従者」「最高で最低の奴隷」
くーでれ/
素ヒート?/「獅子の国」
無感情っ娘/「獅子の国」
奥手っ娘・恥ずかしがり屋/「放浪女王と銀輪の従者」「最高で最低の奴隷」「岩と森の国ものがたり」
積極系/「こちむい」「あしたら」「scorpionfish」「獅子の国」「無垢と未熟と計画と?」
巨乳/「scorpionfish」「獅子の国」
貧乳/「こちむい」「あしたら」「岩と森の国ものがたり」「放浪女王と銀輪の従者」
らぶらぶでれでれ/「狗国見聞録」「放浪女王と銀輪の従者」「木登りと朱いピューマ」
えろえろどろどろ/「こちむい」「あしたら」「最高で最低の奴隷」「scorpionfish」「放浪女王と銀輪の従者」
ぷらとにっく・・・?/「岩と森の国ものがたり」
三角関係?/「あしたら」「岩と森の国ものがたり」「獅子の国」「無垢と未熟と計画と?」
燃えとか戦闘とか/「狗国見聞録」「放浪女王と銀輪の従者」「岩と森の国ものがたり」「夜明けのジャガー」
ショタ/「こちむい」「あしたら」「最高で最低の奴隷」
655 :
落書師:2006/09/17(日) 09:26:05 ID:8jI78KOG
久々にきてみれば新規参入やら絵師やらでフィーバーみたいで嬉しい。
自分もなにかあげたいんだが…ラフが雑だから何とも。
というか
>>654のテンプレ候補に爆笑と感謝の渦を。
こういう傾向表っていいんじゃいだろうか。
そういえばくーでれって何でしょうか?
芸能面で言うならテレビよりまだまだ舞台演劇の世界じゃないかと思うんです
オペラにミュージカルに歌舞伎って感じでしょうか
2枚目をはれるスター役者の存在とか面白そうw
昨日1日で書き上げたので申し訳ないが、
うpしてもいいでつか?
良いも悪いも逆にお願いしますって感じで
659 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/17(日) 09:51:43 ID:/XHb5AUG
>>656 地域格差が激しい世界だからその辺も考慮した方が逆に面白いかも
>>657 ドカンと行きましょう!wktk
>>655 えっと、今風に言えば「素直クール」とか「素クール」といえばいいでしょうか。
思い返してみれば意外となかったので空欄にしてます。。
じゃあ、行きますね。
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達哉(たちや)
21歳の医学生。父親は大学病院の院長。
母親不在ながらも、裕福な家庭でなんの不自由も無く暮らしていた。
優しく思いやりのある青年だが、裏を返せば人に騙され易くお人好し。
自分のやりたい事を貫こうと思い、父親には外科と偽って獣医学科を受験した。
それがバレて父親と言い争いになり、殴り合いに発展した末、誤って刺し殺してしまった過去を持つ。
こちらの世界に来てからもその事を気にしており、事ある毎に自分を蔑んでいる。
そのため“蛇足”のメンバーからは白い目で見られる事もしばしば。
しかし、医学の知識と技量は中々のもので、更にヒトの世界にしかない技術も知っているため、
その点だけは一目置かれている。
レナ
獅子獣人の女性。外見年齢は20代半ば…らしい。
所謂マダラと呼ばれる姿形ではなく、男性と同様に半獣の姿をしている。
結構な美人らしいが、達哉の視点からはイマイチよく分からない。
“蛇足”の実質的なリーダーであり、細身の体ながらも男性と変わらない膂力の持ち主。
獅子の国独特の格闘術を使うが、それ以外にも短剣や銃器なども使用する。
しかし魔法の素養には恵まれておらず、使えるのは下位の攻撃魔法でやっと。
だが、格闘センスとこれまでの実績は相当のモノで、
裏の社会では『血染めの雌獅子』と呼ばれ有名。
仕事の途中で達哉と遭遇し、“蛇足”付きの医師兼家政夫として迎え入れる。
職業のためか性格の為か半獣の外見の為かは分からないが、色恋沙汰には縁が無く、
達哉を拾った事で随分と野次られてるようだ。
“蛇足”
レナがリーダーを勤める、複数の種族が混在した傭兵集団。
人数は少ないが、裏社会では有名な存在であり、
かなりの犯罪を犯している筈だが、国家からの依頼も多いため、懸賞金は掛けられていない。
また、メンバー全員が何かしらの理由があって故郷を追われた身。
そのため、他者の受け入れに対しては消極的だが、それぞれの仲間意識が非常に強い。
ちなみに、“蛇足”という名称はヒトの世界の言葉から取っており、
全員が世界にとっての『蛇足(※余分なもの。不要のもの。なくてもよいもの。)』であるという皮肉。
「何故おまえは分かってくれない!私の医院を次ぐのがおまえの仕事だろう!!」
「父さん!いい加減にしてくれ!僕の未来を決めるのは僕だろ?
僕が目指してるのは父さんじゃない!!自分と同じモノを僕に求めるな!!」
耕也は感情を爆発させながら、目の前の自分の父親に向かって叫ぶ。
普段は温厚な達哉がここまで感情を高ぶらせている事に、達哉の父親驚く。
達哉は父親の求める事に逆らった事はなく、父親の言う通りに生きていた。
(これからもずっとそうだ。逆らわれる筈が無い。)
そう思っていた父親は、少なくないショックに見舞われる。
常に自分が思う通りの成績を残し、自慢の息子と胸を張って言えた。
その達哉が、自分の医院を次がずに獣医を目指していた。
それを裏切りと感じるのは、器量の狭い男からすれば、当然の事かもしれない。
「僕の好きにさせてくれ!僕は父さんのような人間にはなりたくない。
自分の事しか考えられないから母さんにも逃げられるんだよ!!」
その言葉に、達哉の父親の動揺は、一気に怒りへとシフトチェンジする。
近くにあった灰皿を掴むと、迷う事無く達哉に投げつける。
咄嗟の出来事に達哉も避ける余裕は無く、それは達哉の額に赤い色を滲ませた。
そのまま額を押さえて蹲る達哉を、自分の息子を容赦無く蹴りつける。
「おまえにとって、そんな夢は『蛇足』だ!!必要ない!俺の言う通りにしろ!!」
「…ッ…!!!」
達哉は、口の中に血の味が広がるのを感じる。
蹴られた表紙に口内を切ったようで、手の甲で唇を拭うと、薄っすらと血が付いていた。
このままでは何をされるか分からない。と言う恐怖に駆られ、達哉は必死に逃げようとする。
だが、痛みと恐怖で身体が思ったように動いてくれない。
何か助かる方法はないかと辺りを見回しても、ロクなモノは見当たらない。
「おまえにとって、そんな夢は『蛇足』だ!!必要ない!俺の言う通りにしろ!!」
「…ッ…!!!」
達哉は、口の中に血の味が広がるのを感じる。
蹴られた表紙に口内を切ったようで、手の甲で唇を拭うと、薄っすらと血が付いていた。
このままでは何をされるか分からない。と言う恐怖に駆られ、達哉は必死に逃げようとする。
だが、痛みと恐怖で身体が思ったように動いてくれない。
何か助かる方法はないかと辺りを見回しても、ロクなモノは見当たらない。
「おまえの存在自体が蛇足なんだ!おまえのようなヤツならいない方が良かった!!」
「ぐぇッ……!」
鳩尾に爪先蹴りを入れられて、達哉は返るの潰れたような声を出す。
その拍子に側にあったテーブルに達哉の父親の仕事机にぶつかり、その上の道具がバラバラと落ちる。
そして達哉は目にした。カッターナイフが一つ、 刃を出したままで落ちている。
しかも父親は達哉への怒りで頭がいっぱいで、それに気付いていないようだ。
達哉は、迷わずそのカッターナイフを掴むと、父親の方向へ突き出した。
大学でやった、動物の死体相手の手術の練習とは、違った手応えを手に感じ取る。
カッターナイフでは思ったようには行かず、冷静にもメスの便利さを意識した。
「あっ…!」
父親は、五月蝿い悲鳴などは上げなかった。
達哉が見たのは、自分の太股に突き刺さった凶器に脅える、ただの人間。
医者なら何とかしてみせろと思うが、父親の震える手を見て、それは無理だなと納得する。
達哉は父親が動揺している内に立ち上がると、他になにか武器になりそうなモノはないか辺りを見回す。
すると、父の机の上にはまだ刃物があった。ペーパーナイフだ。
達哉はすぐにそれを掴むと、その頼り無い切っ先を父親に向ける。
それは真っ直ぐに父親の首へと向かい、そして串刺しにする。
思ったよりもすんなりとペーパーナイフの刃は首に刺さった。
動揺し過ぎて、返って冷静になってしまっている思考の中、達哉は父親に向かって何かを言った。
「…大嫌いだ」
「あら、達哉さんお出かけですか?」
「……」
走りながら病院を出ると、見回りに出ていた看護婦に声を掛けられた。
達哉はそれを無視して、自分のスクーターが置いてある駐車場に走る。
達哉は、父親を殺したその後、すぐに部屋を立ち去った。
あと30分もすれば、父親の死体は見付かってしまうだろう。
そして、カッターとペーパーナイフには達哉の汗と指紋がベッタリ付いてる筈だ。
つまり、達哉はすぐに逮捕される。逃げたって意味はない筈だ。
だが、
(コレは間違えだ!僕が人殺しなんて、悪い冗談だ!!)
自分の過ちを認められるほど、今の達哉は冷静ではない。
スクーターの前で、上手く刺さらないキーをガチャガチャとやりながら、達哉は泣き始める。
スクーターの鍵穴にキーを刺そうとする度に、父親の首にめり込むペーパーナイフがフラッシュバックする。
耐え兼ねた達哉はキーを投げ捨てると、自分の足で走り出す。
(そうだよ。家に帰って一晩寝れば、全部が元通りになってる筈だ…!)
様々なモノが、自分の横を通り過ぎていく。
たくさんの車や、人前でイチャつくバカップル。塾帰りの小学生。
ストリートダンサー、ホームレス、とにかくたくさんのモノ。
ガムシャラに走る達哉の肩が、その中の一人の肩とぶつかった。
その相手は持っていた缶ジュースを自分の来ているシャツにぶちまけた。
「テメッ!なにすんだよコラァ!!」
しかし、その相手の手が達哉に届く前に、達哉は遥か向こうへ走り去っていた。
回りは何も見えず、ただ走る。見えない恐怖から逃げて、ただ走る。
(こんなのは全部ウソだ!ウソだウソだウソだ!!ある筈がない!!)
有り得る筈が無い事でも頭に言い聞かせて、必死に現実から逃げようとする。
次第に、辺りに響いていた都会の喧騒も、自分の足音も聞こえなくなる。
全てが無音の、真っ暗闇の世界に放り出される。
だが今は、それすらも奇妙だと思う余裕は無い。
何も考えられない。何も考えたくない。怖い。これから先の人生が怖い。
いっその事、どこか別の世界に行ってしまいたい。
だけど、どこに行こうと自分の犯した罪は消えない。
後悔しながら生きていく。そして、後悔しながら死んでいく。
『生き地獄とはこんなモノだろうか?』頭の中にそんな言葉が浮かぶ。
思考は際限無くリープして行き、もはや何が何だか自分でも分からない。
いつの間にか、地に足を付けている感覚さえも無くなる。
足を動かしていても、前に進んでいるような気はしない。
風などは微塵も感じず、目を開けている筈なのに何も見えない。
そして異変に気付いた時には……
「うわぁ!?」
何か大きな物体にぶつかった。ある程度の弾力はあり、ぶつかった時に生物の体温も感じた。
動物の毛皮もあったように思える。達哉は、混乱する思考回路をなんとか落ち着かせて、顔を上げる。
そこにいたのは、どう見ても人間には見えない異形の存在。
「テメェ!何処から入ってきやがった!あぁッ!!?」
「なっ…なに…?」
目の前に居たのは、世間では獣人と呼ばれる存在だろうか。
しかしそれは、空想の産物でしかない筈で、目の前にある筈も無い。
だけど、達哉の目の前に居るのは見紛う事なきモノホンの獣人。
大きな剣を背負って重そうな鎧を着込んだ、リーダー格っぽいオオカミが一人。
他にも数人のオオカミの獣人達が居る。そちらは、如何にも子分と言った風貌だ。
そして後ろの方に、小太りの犬の獣人。それも明らかに年寄りが一人。
何故か分からないが、達哉に対してエラク警戒心を剥き出しにしている。
状況から判断すると、オオカミ達は護衛だろうか?
頭の中ではそこまで考える事ができたが、身体は言う事を聞かない。
達哉は口をパクパクさせるだけで、言葉を発する事が出来ないで居る。
「テメェ!どこから入ったかって聞いてるんだよ!!!」
「ひっ…!!!」
今度は牙を剥き出しにして、オオカミ獣人が達哉に叫んだ。
慌てて後ずさりしながら辺りを見回すと、明らかな密室だった。
遥か上の方に、明かりを入れる為の小窓と、天井に通風孔があるモノの、どうやって自分がここに入ったか分からない。
達哉は頭を抱えて、今の状況を考える。だが、答えなんて出る筈も無い。
そこにいる全員の視線が自分へ向き、これでもかと言うほどの息苦しさを感じる。
犬の年寄りを覗いて、全員が武器と防具を装備し、構えている。
いつ死んでもおかしくない。いつ殺されてもおかしくない。
動揺を隠さずに固まっている達哉に、オオカミの男はふと気付いた。
「そういやおめぇ……ヒトじゃねェか。尻尾も毛皮も無い。
それに、そんな服装の奴なんざ、こっちじゃ見た事もねェ」
「そう言えば、そうっすね!コイツを売れば当分は食ってけますぜ!」
達哉の身体をねぶるように見詰めながら、オオカミの男が言った。
それに続いて、子分の一人が嬉しそうな声を上げた。
達哉にはそれが何の話しだか理解する事は出来ない。
ただ、『売る』と言う単語はハッキリと聴き取る事ができた。
その言葉に、達哉は戦慄を覚える。人身売買など、遥か遠い世界の話しだと思っていた。
自分には関係の無い、社会の裏側で起こっている事と。
しかし、それもよく考えれば不思議ではない気もしてきた。
自分はいつの間にか人殺しになっていた。…いつの間にか売られてても、そこまで驚くほどの事ではない。
結局の話し、人生なんて何が起こるか分かる筈がないのだから。
オオカミたちは、相変わらず達哉の事で楽しそうに話している。
「新しい武器を買う」とか「美味いものをたらふく食べる」とか「しばらく遊んで暮らせる」とか。
自分に随分と高い値段が付いている事に、達哉は場違いながら、自分に価値を見出した気がした。
「ま、待て!」
そんな中、オオカミたちの後ろにいた犬の老人が声を張り上げた。
杖を振り上げてオオカミたちに向け、振り回す。
その姿から、自分の事しか考えない父の面影を感じ取り、達哉は嫌悪感をおぼえた。
老人は達哉から見ても明らかな虚勢を張り上げ、オオカミたちに言った。
「そいつはワシのだ!ワシの敷地に落ちてきたからには、ワシの決まっとろうが!!
孫もペットを欲しがっていたし、ヒトが一匹欲しいと思ってたところなんじゃ。
ワシの家の敷地に偶然落ちてくるなんて、なんと幸運な!」
「あぁ!?…じいさん、雇い主だからって図に乗るなよ。
アンタが出した報酬よりもよっぽど高い金が、コイツを売れば手に入るんだ。
なんなら、今すぐ契約を打ち切ってもいいんだぜ?」
「な、なんだと!雇ってやった恩をアダで返すのか!!?」
オオカミたちのリーダーと、犬の老人の間で口論が始まる。
達哉がどっちの所有物かで争ってるようで、この世界でのヒトとは愛玩動物である事が窺い知れる。
落ちてくると言う言葉もあったし、恐らくたまにヒトが元居た場所からやってくるのだろうか。
この隙に逃げたいとも思ったが、一つしかない扉の前にはオオカミの一人が立っている。
しかも、リーダーと雇い主の口論が続く中でも、2人のオオカミは達哉に視線を向けたままだ。
達哉は逃げ出す事を諦め、尻餅ついたまま壁に寄り掛かって天井を仰ぐ。そして驚いた。
天井にある通風孔の蓋が、少しずつ開いている。音も立たない程度にゆっくりだが、少しずつ確実に。
達哉は、自分を見詰めるオオカミ達に悟られないよう、顔を向けずに目だけでそれを見る。
やがて蓋が完全に開いて、中から女性の足が出てきた。
そのまま勢いをつけて全身も通風孔から飛び出し、オオカミのリーダーの頭を蹴りつけて着地する。
「ッ!!!」
達哉は目を見張った。体つきや鬣が無い事で女性だと分かるが、他の獣人達と同じ姿をしている。
しかし、唯一違うのは、その女性が犬科の獣人ではなく、ネコ科のライオンだと言う事だろう。
女性はしなやかな動きで腰のベルトに付けてある短剣を鞘から引き抜き、犬の老人の元へ直進する。
達哉が何が起こったのか分からないでいると、犬の老人の首が刎ねて、達哉の元へ飛んできた。
ゴトッと音を立てて達哉の前に落ち、身体は首から血を吹き出しながら倒れ込む。
そして、犬老人の生首と達哉の視線が、一瞬だけ交差した。
あまりの恐怖に、達哉は叫び声をあげたいと思った。
「ッ…!!ぁ……ッ!!!」
だが、声帯が押し潰されてしまったかの様に、声を出す事ができない。
後ろに下がろうと思うが、壁を背にしている所為でそれ以上下がれない。
回りを見ると、今度は女性の方に全員の視線が集中している。
その中で、女性は表情に変化も見せず、詰まらなさそうな表情をしていた。
「こんな楽な仕事は久しぶりね。貴方たちも傭兵なら、もっと真剣に仕事に挑みなさい」
「…ッ!んだとテメェ!!…ふざけやがって!」
余裕の表情を見せるライオンの女性に、リーダーは背中の剣を抜き放って切り掛かる。
雇い主を殺されたのだから、もう報酬はもらえない。
達哉を売った金と、老人から受け取った報酬の両方で、
しばらくは遊んで暮らそうと思っていた彼にとって、ライオンの女性の行いは許せるモノでなかった。
相手が同じ傭兵で、あくまで依頼をこなしただけと言う事が分かっていても。
「チッ…、任務外の仕事をするなんて、よっぽど暇な傭兵ね…」
ライオンの女性は軽く舌打ちすると、手にした短剣でオオカミのリーダーの人達を受け流した。
大剣は女性の横を通って床に突き刺さる。
それによって出来た隙を利用して、女性はリーダーの腹部に膝蹴りを入れた。
「ッ…!!」
先ほどよりも更に大きな隙が出来る。そして今度は顔面にかかとをめり込ませた。
オオカミのリーダーはその衝撃に吹き飛んで、壁に叩き付けられる。
他のオオカミたちも、自分達のリーダーが一瞬でやられた事に、戦意を喪失しているようだ。
達哉はと言うと、ジャッキー・チェンの映画でも見た事の無いような鮮やかな格闘戦に、唖然とするだけだ。
自分の前に転がっている生首も忘れて、ライオンの女性に見とれていたその時、
女性が達哉の方を向いた。達哉はビクンと硬直して、女性の視線を受け止めた。
「貴方のお陰でいいタイミングが取れたわ。有り難う。
金のなる木を見れば、誰だって仕事どころじゃなくなるものね。
――――さあ、おまえ達もそろそろ帰りなさい。私に勝てないのは分かったでしょ?」
「ひっ…、ひぃ!!」
残りのオオカミたちは、女性の視線を受けて一人残らず逃げ出した。
リーダーも他のオオカミに担がれて行った。気絶していたようだ。
最後に達哉は女性と2人きりになり、少なからず恐怖感に囚われる。
だが、自分から何かを話す事も出来ず、ただ女性を見詰めていた。
すると、女性の方から何かを話そうとしてきた。達哉は一瞬驚く。
女性は呆れたような表情と口調で話し始めた。
「そう怖がらないで。貴方に敵意はないわ。ただ、この世界の事を教えようと思っただけよ」
「この……世界…?」
この世界。つまり、達哉が生きてきた世界とは、別の世界と言う事だろう。
ヒトが高値で取り引きされて、獣人達の暮らしている世界。
達哉にはその程度の情報しかなく、女性の言葉は素直に有り難いと思った。
だが、口から出る言葉はまだ微かに震えていた。
「貴方のお陰で私も楽を出来たし、お礼にね。
……まず、ここは貴方の居た世界とは別の世界。
そして、貴方は自分の居た世界からこの世界に落ちてきたのよ」
「落ちる…」
女性は饒舌に語り出す。ヒトの世界の物が、たまにこの世界に落ちてくる事。
それらは“落ち物”と呼ばれ、希少価値が高い事。
中でもヒトは、ペットとして非常に高値で取り引きされ、数年は遊んで暮らせる金が手に入る事。
達哉が尋ねる事全てに、女性はすぐに答えてくれた。
あらかた質問を終わらせて、一息つく達哉に女性は不思議そうな声色で質問した。
「元の世界に戻る方法は質問しないのね?…ほとんどのヒトは、落ちてきてすぐそれを質問するらしいけど」
女性の言葉が胸に刺さる。自分はもうあちらの世界には戻れない。
あちらに行けば自分は犯罪者で、父親を殺した罪で投獄されるのだろう。
残してきたモノは数え切れないほどある。獣医になりたいと言う夢も潰えた。
だが、あちらの世界には戻りたくない。戻るのが怖い。
達哉は、消え入りそうな声で女性の質問に答えた。
「帰りたく…ないですから…」
「そう…なにかしら訳ありのようね。……じゃあ、私もこれでお暇するわ」
女性は達哉の言葉に返すと、すぐにドアの方へ歩き始めた。
達哉は立ち去っていく女性に焦りを覚える。
この世界の事はあらかた教えて貰ったが、ここのままでいたら自分は奴隷商人にでも捕まってしまう。
見たところこの女性は安全そうな印象を受けたし、売られるくらいならまだこの女性に付いて行きたい。
達哉は慌てて立ち上がると女性に向かって走り出す。
その時、犬老人の生首を蹴飛ばしてしまったが、今はそれ所ではない。
「ま、待って下さい!!」
達哉の呼び掛けに、女性は立ち止まる。
「僕は、元の世界に居たとき医者を志していました。
この世界の方たちよりは高い技術を持っている自信はあります!
それに、一人暮らしをしてたから炊事洗濯掃除なんでもできます。
だから、僕を貴女の奴隷にして下さい。貴女なら信用できる」
志していたのは獣医であって、人間相手の医者ではないが、それくらい大丈夫な筈だ。
それに獣人の外見をしているのだし、もしかしたら獣医の方が適任かも知れない。
女性は振り返ると達哉の方へ振り返ると、口を開いた。
「…貴方、名前は…?」
「達哉です。姓は……ありません」
名前だけで十分な筈だ。今はまだ、父親と同じ姓を名乗る気にもなれない。
達哉はそう思いながらも、祈るような視線を女性に送り続ける。
女性は達哉を見てしばらく考え込んでいたが、おもむろに口を開いた。
「タチヤね。分かったわ。私はレナ。“蛇足”のレナ。
医者は丁度欲しいと思っていたし、貴方を“蛇足”のヒト奴隷にするわ。
言った通り、炊事洗濯掃除、雑用は何でもしてもらうわよ」
「は、ハイ!!…レナさん」
達哉は笑顔を作ると、レナの直ぐ横まで移動する。
近くでよく見てみると、ライオンの顔立ちの中にも女っぽさがあり、レナを可愛いと思った。
それが伝わったのかレナは「あんまり見るな」と言って達哉の頭を叩く。
達哉は頭に出来たタンコブをさすりながら、顔を上げた。
「タチヤ、宜しく頼むわね。“蛇足”の一員として」
密室の扉を出て、その先に広が無世界に見とれていた達哉に、レナはそう言った。
達哉はイマイチ聞こえていないようだったが、レナは仕方ないとばかりに肩をすくめた。
達哉はまだ、月明かりの照らす世界に見とれていた。
「おまえもある意味、元の世界から放り出された“蛇足”…。
そう、私たちと同じ……」
ヒトの耳では聞き取る事の出来ないほど小さな声でレナは言った。
もちろん、達哉がそれに気付くはずもない。
第1話完
今は、まだこれだけです。