【あのね…】かしましSS総合 第3期【大好きだよ】

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794♯24アフター 『愁霖(13)』
 繰り返す思いは、とまりを憔悴させる。
――もう、今は…あたしがあたしでいるのがつらいんだ……
 膝の上で握りしめていたの手の甲に、ひとしずく、ぽとりと涙が落ちた。
――あたしが先でいいだろ……、はずむ……
 雫は続かなかった。それで終わりだった。終わりを感じた時、とまりは誰かが声を出す
のを聞いた。
「抱かないの……?」
 男は背を向けている。缶ビールを口にしたまま、動作を止めた。
「抱くんじゃないの……?」
 抑揚のない女の声が、こぼれる。身体が、熱かった。
「そのつもりで、待ってたの……」
 モニターに映る洋画から、異国の女の声で、一人語りが流れている。
 男が、どちらを聞いているのか分からなかった。缶ビールを持つ手をゆっくりと下げる。
脱力したようにも見えた。
 言い知れない昂ぶりに押されて、とまりは叫んだ。
「もう、抱いてッ…」
 少女の声が、高く響いた。男は、その余韻が消える前に振り向いた。ベッドの端に腰掛
けた小さな身体は、俯いて肩を震わせていた。無言でそれを見つめた。
「あたしのこと、好きに抱いていいから。言われた通りにするから。だから……!」
 怯えを含んだ声で、とまりは言った。そして顔を上げる。男の顔が見えた。そこに柔和
な表情はなく、視界に入ったとまりの瞳を、平坦に見つめていた。
「もう…あたしのこと、変えてほしいの……」
 千切り棄てるように言った。
「あたしじゃなくなりたいの……」
 誰に告げた言葉か分からなかった。それに男は、ただ頷いた。
「特別優しくは、出来ないよ」
 穏やかに、冷たく告げた。
「いいんです」
 見ず知らずの優しさなんていらない、と思った。
「恥ずかしいことも、言える?」
「…いいます」
「いやらしいことも、できるの?」
「…やります」
「痛いことも、あるかも知れない」
「…がまん、します」
「途中では、止められないよ」
「…はい」
 男は表情を変えない。淡々ととまりに問いただす。ひとつひとつの言葉には、何の感慨
もなかった。問われるまま、頷いていた。
「……リクエスト、あるなら聞くよ」
 それは、どう抱かれたいのかを、聞かれているかのようだった。とまりは男に試されて
いるように聞こえた。心の襞を、汚泥のようなものがどろりと流れつたっていく。
――誰に抱かれても、同じ……
 目を閉じて、思う。
――誰が抱いても、同じ……
 男と女の、肉体だけが交わる。ただそれだけ。
 男と女の、本性だけが互いの肌を求め合う、ただそれだけ。
――誰に抱かれても、きっといやらしいあたしになっていく……
 そんないやらしい自分を、はずむはどう思うのだろうか。
 女の、淫らな本性に狂う自分を、はずむはどんな気持ちで見るのだろうか。
 軽蔑し、汚いものを見るように顔を背けるだろうか。
 それとも、淫猥なとまりの姿に、はずむも感じて、性を刺激されるのだろうか。
 ぞくりと湧き上がる背徳感に、とまりは身震いした。
 そして、その湧き上がるままを答えていた。
「……あたしを、写真に撮って」
795♯24アフター 『愁霖(14)』:2007/03/12(月) 20:25:13 ID:fTD4wJBq
 意外な言葉を聞いたように、男の目に感情が流れた。
「写真を…?」
「抱かれる前のあたしと、抱かれてるあたしを写真に撮っておいて欲しいの……」
 男は少女の意図を掴めなかったが、彼女の瞳に異質な光を感じ、問い直しはしなかった。
 ソファーの脇に投げ出してあったビジネスバックから、小さなデジタルカメラを取り出
し、少し指で撫で回した後、とまりに示した。
「これで、撮るから」
 とまりは小さく頷いた。そして、エチケット袋からおもむろにヘアバンドを取り出す。
バンドといってもヘアターバン並に幅広で、部活で使っているものだった。額の汗を吸っ
たせいか少し埃っぽかったが、構わない。
「これで……、あたしを目隠ししてから抱いて下さい……」
 俯いたまま、手だけでそれを男に差し出した。
「目、隠し…かい?」
 男が、何かの誤解を確認するように聞き返す。とまりは、はいと答え、続けた。
「抱かれてる間、何も……見たくないの」
 冷え冷えとした、自分の声だった。なのに顔も身体も、上気していた。
 自分の心も、身体も、もう自分のものでなくなっていた。
 手にしたヘアバンドを受け取りに、男がとまりに歩み寄る。ベッドの傍らまで来た男を
とまりは上目遣いで見上げ、ヘアバンドを差し出す。手が震えていた。男の手がそれに重
なった。とまりはぎゅっと目を閉じて、男が顔までヘアバンドを潜らせるのを待つ。顔へ
の緊縛感を伴いつつ、瞼の向こうが暗く閉ざされる。闇にあって、とまりの胸に怯えが生
じ出す。そこを、男の手がとまりの髪を撫でるように動いたので、心臓が跳ね上がった。
男はゆっくりと指でとまりの髪を櫛梳り、ヘアバンドの向こうへ流し出した。その仕草は
穏やかで、不安が少しだけ和らいでいく。男が、この長い髪を褒めてくれていた事が、ち
らりと脳裏を掠めた。
「これで、…いいんだね」
 男の囁きが、耳元近くで聞こえる。無言でとまりはうなずいた。
 何も目にしたくはない。何も瞳に焼き付けたくない。
 変えられていく自分を、記憶に刻みたくはなかった。行為の後は、残った心を消して闇
に堕ちようと思っていた。
 次の朝に目を開けた時、それまでの自分こそが、夢だったのだと思えればいい
「写真、どう撮って欲しいんだ」
 男が、聞く。
796♯24アフター 『愁霖(15)』:2007/03/12(月) 20:26:13 ID:fTD4wJBq
 とまりは、心が疼き上がっていくのを感じる。写真…、記録…、今……そして、その後。
――これまでのあたしが変わっていくのを、そして変わってしまった事を、誰に宛てて残
したいんだろう……
 はずむに見せつける。はずむに背負わせる。そして最後の時まで、はずむの心を思いを
自分に縛り付ける。
――あたしを、おいていってしまう罪と、……その罰。
 はっきりと、浮かび上がる憎しみと復讐を知ってしまった。
――はずむには、置き去らて、また置き去られるあたしへの罪を感じて欲しいんだって
 とまりは、いなくなるつもりのはずむを知ってしまった。
――あたしからはずむは消えないのに、はずむはあたしを消してしまえるんだ。だから……
 はずむは、とまりの事を諦めてしまえるのだった。だから、何も言わず微笑んでいられる
のだ。
 はずむは、自分のいなくなった世界でとまりがどうなってしまうのかが分からない。想
像すら、やめてしまった。だからあんなに残酷になれる。誰かにとまりを託してしまえる。
 あの時、屋上で鉢植えとおしゃべりしていたはずむの姿。…声。
――許せない
 とまりは、くやしかったのだと気付いてしまった。はずむから寄せられる想いより、自
分の想いが強かったことが悲しかった。
 とまりは今、目を閉じて思う。
 女の自分を意識した。女の自分が、想い人に何を刻みつけようとしているのかを。
 ゆらゆらと揺れていた情動が、闇の中で像を結んだ。
――いなくなるあたしを、想って悲しめばいい…
 温度の無い光が、魔を伴ってとまりの心を染めた。
――ひとり、満ち足りて逝かせたりしないから
 女として愛することが叶わない人がいる。いや、女の自分を受け止めて欲しかった人は、
もう消えていたのかも知れない。なら、女の自分に未練はない。紙屑のように、そこらに
投げ捨ててもいい。捨てるつもりなのだから、どんなに汚れても構わない。
 ぼろぼろに、どろどろになっても、見合った仕事をさせてやる。そしてそれを、はずむ
に見せてあげるのだ。
 とまりの悲しみを、幾分かでも思い知るに違いない。
――互いに喪いあって、ふたりともいなくなろう
 とまりは、奈落への踏み板に足を掛けた。
「いやらしいのを……」
 闇色の決意が挫けてしまう前に、自分を追いやってしまおうとした。
「男の人があたしのことを、……いやらしい女と思うように、写して」
 男の方を振り仰ぎ、とまりは答えた。声に感情は出なかったが、舌が震えていた。
 目元の隠れたとまりの表情は、男にはよくは分からなかった。
 ややあって、男は口を開いた
「……じゃ、僕の言うとおりに、するんだ」
「はい」
「いやらしいこと、恥ずかしいことも、たっぷりとしてもらう…。いいね」
「……はい」
「泣いても、嫌がってもいいけど、……最後には言うとおりにするんだ」
「分かり、ました」
 繰り返されるそれは、確認の言葉ではなかった。契約だった。男に促されるまま、とま
りは契約の言葉を口にする。
「今からの先は……もう、戻れないんだよ」
 闇の向こうから聞こえる声の意味を一度だけ噛み締めて答えた。
「もう、決めたから。だから……」
 おぞ気がぞわりと背筋を這い上がり、唇からこぼれた。
「あたしが壊れるまで、いなくなるまで……やってしまって」 
 血判の捺された誓約だった。おぞまし気な情念を滲ませ、少女は自ら誓った。
 男から、もうその返答はなかった。代わって、命じた。
797♯24アフター 『愁霖(16)』:2007/03/12(月) 20:27:31 ID:fTD4wJBq
  *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *

「バスローブの前を、はだけるんだ」
 ゆっくりと、とまりは腰紐を解いた。前合わせの胸襟を手に取り、開く。
 生肌の肩に、ブラジャーのストラップはない。それを目にし、男は少女がブラジャーを
着けていないのに気付いた。当たり前だ。自分がランドリーに出したのだ。意識して脱衣
籠の中は見なかったが、そういう事なのだろうと思った。パンティも、着けていないのか
も知れない。そう思うと、男の鼓動は自然と跳ね上がった。
 とまりは腰の辺りの内紐を解き終え、胸前を覆うバスローブを握り締めた。ぎゅっと力
が入り、固まる。自分の乳房をさらけ出す羞恥と不安に、手が止まってしまう。
「どうした…胸を、見せるんだ」
 男の声に促がされ、とまりは小刻みに震えながらゆっくりとバスローブを開いていった。
 最初に左の乳房が、その乳首が覗く。次いで、右の乳房もすべてが露わになっていく。
 日に晒されたことの無い、真白い肌だった。男は息を呑んだようにとまりの胸の双丘を
見据えてしまう。二の腕の中途と首回りから下は、はっきりと質感の異なる肌具合だった。
照度の落ちた暖色光にも、その白さと艶めかしさが見てとれた。
 乳房は小振りだが、たるんだ部分がない。余分な肉が落ち、発達した乳腺の上を女の肉
が適度に覆っているように感じられた。首筋や脇からの締った肉が引きあげている乳房は
、形よく天を仰いでいる。
 乳房の大きさに合わせたように、乳輪や乳首も控えめだった。緊張したようにしこりを
帯びたそれが、はかなげに先端を揺らしている。薄いピンク色が、歳相応の可憐さを漂わ
せていた。
 美乳、と言っていい。
 男は見惚れ、言葉も、行為も失っていた。
 とまりは、くたりと両手を下げ、震えている。異性に肌を、乳房を見られる羞恥におの
のいていた。男の沈黙も、怖かった。暗闇の中、心が縮こまっていくのを感じた。
「……あたしの胸、だめ…だよね?……ちいさいし、こ、子供みたいで……」
 堪らずに言葉がこぼれる。
「こんな、小っちゃい胸…で、男のひとの気、惹こうなんて、無理だ…よね……?」
 不安で消え入りそうな声を、男は耳にしていた。
「ごめん、なさい……あたし恥ずかしい……ごめん…ごめんなさい……」
 少女の啜り上げるような呟きは、男の胸の、何色なのか分からない炎を煽った。
「…写真、とらなきゃね?」
「え…?」
「いやらしい写真、撮るんだよね…?」
「……は、い」
「じゃ、どんどん撮っていくから、言われた通りの事、するんだよ…?」
「…は……い」
 カシャッ…とデジタルなシャッター音が響いた。
 とまりの逡巡を介さないように、男は色々な角度からシャッターを切る。レンズが、肌
へ接近されているのを感じた。音が響くたび、とまりは心から、何かが剥がれ落ちていく
のを感じた。
「綺麗だよ、きみの胸…」
 ふいに、男が耳元で囁く。耳朶に、ぞくりとした感覚が流れた。とまりは形にならない
声を、小さく漏らした。
「白くて、なめらかで、形もいい……」
 男の声が、脳髄を焼くように流れ込んでくる。
「うそだ…」
 とまりは、流れ込む男の声を否定する。
「うそに、決まってる……」
「本当さ。綺麗で、いやらしくて、手のひらでくるんで揉みしだきたくてたまらないよ……」
「う…そ……」
「ピンク色の乳首も可愛らしくて好きだし…、はやく口に含んで、舌の上で転がしたい……」
「…や、だぁぁ」
 男の言葉に、とまりは自分を失いそうになり、怯えた。時折響く、乾いたシャッターの
音が、とまりに灯りつつある火を煽り立てていく。
798♯24アフター 『愁霖(17)』:2007/03/12(月) 20:28:22 ID:fTD4wJBq
  *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *

 ふいに男の手がとまりの肩を突いた。とまりは何の抵抗もできないまま、ベッドに仰向
けに転がされる。ぼふんと、ベッドが軋んだ。
 バスローブは完全にはだけ、未だ隠していた下半身まで露わになってしまう。とまりは
突然の事の中でも咄嗟にバスローブの裾を戻して、女の部分を覆い隠そうとした。それを
男の声が見咎め言った。
「隠さなくて、いいんだ」
 とまりは男の声を聞いても、ベッドの上でのろのろと手を動かし、秘部を男の視線から
隠そうとした。
「手をどけて。…恥ずかしいのを我慢するんだろ?」
 男の意地悪な思いが、言葉に感じ取れた。とまりは唇を噛んで、バスローブから手を放
した。ぎゅっと閉じ合わせたふとももだったが、下腹部は外気に晒されているのが分かる。
 パンティは、穿いていない。
 恥毛を見られているに違いなかった。
――い…、やだぁ……
 自分のそれが薄い事も、とまりの秘めたコンプレックスだった。部活の後のシャワーも、
何なりと理由をつけては皆の後でひとりで浴びに行っている。銭湯や大浴場といったもの
には入らない。人目が、気になって緊張するのが嫌だった。他人とを、比べてしまう自分
も嫌だった。
 少し大きめの鏡の前に立てば、見えた。細く、まばらな体毛は女の恥ずべき箇所を隠す
にはいかにも頼りなかった。それが、自身の女としての幼さを際立たせているように、と
まりには思えた。
 人とは、絶対比べられたくはなかった。
 それを、見られてしまっている。
 震えと硬直が、全身の血を絞り上げる。タオル地のヘアバンドがそれを圧迫し、顔全体
を脈動させるかのようだった。
「足、…開いてみせて」
 とまりは、男の言葉に小さくふるふると首をふる。シャッター音が聞こえた。
「…開くんだよね?」
 イヤイヤをするように、うつむいて拒むとまりに男は、無理矢理は嫌だよね?と続ける。
 分かっていた。無理矢理されたら、その後も最後まで無理矢理されてしまったら、その
すべてはとまりにとって何の意味も無い事になる。
 だから、自分の意志で足を、開くしかなかった。
 薄い恥毛と、誰にも見せたことのない性器とを、自分から男に見てもらうのだ。
 上半身をベッドに横たえたまま、強張った内腿を弛める。ベッド端から投げ出した膝を
解いた。つま先をカーペットに立てて、そして、ゆっくり足を開いていく。汗ばみつつあ
る鼠蹊部が、空気に曝されたのが分かった。
「まだだ。もっと、一杯に開いて。……よく見えるようにね」
 男に促がされるまま、今の体勢で可能な限りまで、とまりは膝を開いていった。もう、
女の秘めたる部分を、全てさらけ出している事だろう。男の好奇の視線が注がれているに
違いなかった。
799♯24アフター 『愁霖(18)』:2007/03/12(月) 20:29:18 ID:fTD4wJBq
 シャッターの音が無慈悲に響き、とまりは耐え切れず、顔をそむけてシーツに埋めた。
膝の間に、男の顔が入ってきたのを感じる。その呼気が、内腿の皮膚に触れた。
「あ…、ぁぁ……」
 慎ましやかに閉ざしている性器を、男がファインダー越しに見つめている。オートフォー
カスの耳障りな音が繰り返され、幾度かのシャッターが切られていく。それを、とまりは
唇を噛んで耐えていた。
「…指を這わして、さすって」
 股間の方から男の声がした。
――え?
 意味が分からず、とまりは反応できない。それを反抗と受け取ったのか、男は少し固く
なった語調で続けた。
「自分の指でおまんこをさわって。…動かして」
「……え」
――それって、自分でしろって事…なの?
 経験が無い訳ではない。興味本位に試し、そして、想いに押し潰されそうになった夜に
も何度か指を伸ばして得た、淡い快感。引き換えに味わった自己嫌悪。
――今ここで…するの?本当にそう言ってるの?
「…何を、しろって…」 
 多分そうなのだと分かっていても、縋るように確認してしまう。
「君に、自分の指で、『おまんこ』をさすりなさいと言ってるんだ」
 わざと卑語を強調し、繰り返す声には冷徹な響きがあった。男が生来持つ、嗜虐性に火
が灯りつつあったのだろうか。当たりが穏やかで優し気だったはずの男が、変わってしま
っている。とまりを、その女の部分で服従させようとして、命じているようだった。
「は……、い」
 男の意図に沿うように、とまりはそろそろと右手を股間に伸ばした。へその脇から下腹
へ、そして恥毛の生えそろう辺りまで手をすすめていく。そろえた指で恥丘あたりを押さ
えて、手が止まってしまう。
――うぅ……、こんなの、いや……はずか、し……
 見えない目が、羞恥を膨れ上がらせる。
 その先へ手を伸ばす決心が、未だつかない。じりじりとした時間が過ぎる。
 それは、申し訳程度の薄い恥毛を手で隠して、性器のみを見せつけられているようにも
見える。卑猥な光景が、男の目の前にあった。
 少女の股間は、肉厚の大陰唇がふっくらと盛り上がり、それが閉じて一つの筋をつくっ
ているだけだった。手で隠された部分以外に、恥毛は生えていないようだ。閉じた秘肉は
白く、柔らかく張っていて、尻の肉がそのまま続いているように見える。そこには小陰唇
の先すら、控え目にも覗いていなかった。クリトリスを隠しこんでいる肉鞘も、ほとんど
がその柔肉の割れ目に埋没していて、恥丘のはずれからピンクがかったその身を少しさら
しているだけだった。
「…どこを押さえているんだ?」
 とまりは答えない。止まった手は、薄い恥毛を押さえているままだ。
「どこを擦りなさいと言われた?答えなさい」
――…だって、だって、そんな……待っ……
「…どこを、だ?言ってごらん?」
 微妙な格好のまま、胸の整理もつかない内に詰問され、とまりは混乱する。
「……言えないのか?」
 男の声に怖いものが混じる。闇の中で肩をつかまれたような怯えが走る。
「お…、ま、…………」
 答えようとする。卑語を口にする禁忌に、舌が震えた。
「…聞こえないよ。聞こえるように言えるね?……さあ」
 男は声色を柔らかく戻し、とまりの決心を促がす。
「……おま、…ん………こ、…………で、す」
 生まれてこの方、声に出したことのない言葉だった。自分の発声が耳に届いても、まる
で異国のもののように響き、意味不明に感じている。ただ、卑猥なことを口にさせられた
恥ずかしさが、本能のようにとまりの性を疼かせた。
800♯24アフター 『愁霖(19)』:2007/03/12(月) 20:30:43 ID:fTD4wJBq
  *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *  

「分かっていれば、いい」
 とまりに女性器の名称を言わせた事で、男は満足気だった。
 男は自身の経験にはなかったが、成人女性の中には性毛が極端に薄かったり、全く生え
ない人がいることは知っていた。今、彼に身を委ねている少女もそうした女性の一人なの
だろうか。
 性器も、それだけ取れば、まるで年端もいかない女性のもののように見える。目の前で、
それが小刻みに震えていた。この子は胸が小さい事を気に病んでいたようだったが、性毛
の薄さもコンプレックスなのかも知れない、と男は思った。それを単純に可愛らしいと感
じたが、震えながらうつむくその様子はひどく被虐感を纏っていて、男の理性を焦すもの
だった。
 彼女の眉をひそめさせ、恥辱をこらえる唇を歪ませたい。そんな気持ちになっていく。
「止まってないで、はやく指をすすめて…!」
 強い口調で命じられ、縛を解かれたかのようにとまりの手は動いた。
 指を歩ませ、恥丘を過ごして、大陰唇のふくらみを隠すように手を伸ばす。人差指と中
指をそろえて肉の割れ目にあてた。
「そう、…そこだよ」
 自身の性器をいじる少女を見て、その卑猥でそそる姿に男は満足する。
「今から、セックスで使う場所だよ…分かっているね?……返事は?」
 わざと、聞かなくても分かりきった事をとまりに確認する。
「………は、い」
 セックス、という言葉がとまり胸に響いた。
「そこに、僕のおちんちんを入れるんだよ。………返事は?」
 男のペニスに、性器を、初めてを貫かれるのだ。
「………は…ぃ……」
 これから男の性器を受け入れねばならないのだと言い聞かされると、とまり不安と恥ず
かしさで涙が溢れそうになった。
「じゃあ、今からその準備をしなきゃいけないのも分かるよね…?」
 性器を濡らして、ペニスの挿入をスムーズにさせる必要があった。
「……はい」
「なら、始めて…?」
 とまりはもう答えなかった。男の指示に従うのだ。言われたとおりに準備を済ませて、
男のペニスで処女を散らすのだ。苦痛に満ちた時間は、短い方がよいと思った。
 そんな風に思うと、どうしてか胸が切なく燃えるように感じてくる。
 指を滑らせて、陰唇をなぞった。
「ん…、んん………」
 シャッター音を浴びながら、自分の秘肉をゆるゆると撫でていく。緊張とは裏腹に、柔
い快感が生まれてくるのを感じる。呼気が上がりそうになり、とまりは自分の淫性への不
安がよぎった。
801♯24アフター 『愁霖(20)』:2007/03/12(月) 20:32:44 ID:fTD4wJBq
 その時、男が体重を掛けたのか、ベッドがギシリと傾いだ。
「ひ…、ぁ……!?」
 そのまま覆い被さってこられるのかと思い、とまりは驚愕で胸が潰れそうになる。
 だが、そんなことも無く、男はとまりの顔や胸の辺りの写真を撮ってはポジションを移
していく。ふと、耳元まで顔を寄せてきて、男が囁いた。
「…いちいち止まらないで。いやらしい君を、撮って欲しいんだろう…?」 
 耳朶に息が響き、ぞくりと震えが背筋をくだる。その感覚がとまり胸を昂ぶらせた。ど
きどきしながら、命じられた行為を続行する。
――うぅ…、い、や……い…や……ぁは、……はず、ぅ……
 ゆるゆると指を動かし、自身の性器をいらいながら、とまりは最後にはずむを思い浮か
べて行なったオナニーを思い出してしまっていた。うっとりと上気したはずむの顔が、優
しい声でエッチな睦み事を呟きながら、恥じらい嫌がるとまりの秘部にいやらしく指を這
わしていく…といったものだった。少し暗くした部屋で目を瞑ってて、どうしてか、そん
なオナニーをしてしまった。その時、昂ぶって自分の敏感すぎる部分に触れてしまい、そ
の感覚に驚いてしまって以来、性器に触っていなかった。
「ん、ぁぅぅ………」
 おびえを含んだ指が会陰部までたどり着く。なでるように大陰唇が合わさった溝を何度
か往復させる。はずむの顔が、閉じた目蓋の裏に浮かび上がっていた。なぜかその顔は紅
潮し、切なげにゆがんでいた。
『あぁ、とまりちゃん…』
 はずむの幻が喘ぐ。
 たまらなくなったとまりの指は恥丘の根を強く刺激していた。クリトリスに届いた刺激
が鋭利な快感に変わって背筋を走り、脳髄を貫いた。うなじの髪がぞわりと逆立っていく。
「んあ、あぁっ……ぁぁ……!」
 とまりは自分の艶声に驚き、あえぎを噛み殺した。性器を弄う手を止める。
「いい声だね……続けていいんだよ」
 そろりと、男の手がとまりの髪を撫でて言った。
 目を隠したとまりにとって、初めて触れる外界からの感覚だった。そしてそれは男を感
じた最初の肉の感触であり、体温だった。男女の行為が始まってからは冷たく尖ったよう
にとまりを追いやっているのに、この手は大きくて暖かだった。とまりの小さな頭は、柔
らかくその手のひらで包まれ、鬢の髪と耳がそっと撫で下ろされていく。そうして、男は
とまりの髪を何度も愛撫していく。それだけの行為なのに、淡い快感がとまりを覆ってい
く。止まっていた指が、お預けされた快感の続きを求めるように動き出してしまう。
 ふと、はずむの事を思いながら他の男の前で性器を晒し嬲っている自分を思った。
 黒い情動が胸を締め付ける。しかしその黒さがとまりの淫らな性感を煽っている。恋し
い人を身体が裏切っていく背徳感が、昏く淫靡な悦びを目覚めさせていく。胸に詰まるよ
うな息苦しさは、性の快感がもたらす苦しさに似ているように思えた。そんな混沌とした
感情を塗りつぶすように、肉体へ性感を与えようと指が性器を嬲っていく。
「そう…いい感じにエッチになってきたね……?」
 男はそう言って、股間だけでなく、色々な角度からとまりの姿態をカメラに収めていく。
「なかなか、いやらしい格好だよ…」
 シャッター音を浴びながら、とまりは閉ざした闇の中で、自身の姿を想像してしまい、
手が止まった。バスローブをはだけて、小さな乳房を剥き出しにしてベッドに横たわり、
開ききったふとももの奥に伸ばした手のひらが、性器を微妙に包み隠している。猥雑な
グラビアのような構図が、ファインダーには現れているのだろうか。
 胎内が羞恥で火照り、白い肉を内から炙っている。いつのまにか握りこんだ左手のシー
ツが脂汗で湿気ていた。
 猥雑な構図を拾いながら、男は指で感じるよう命じる。とまりはそれに従った。 
 汗ばんだ指で、性器の割れ目をそろりとさする。下からなぞり上げていくと、少しだけ
覗いている秘肉に指先がかかり、性感らしき痺れが背中を走り抜けた。思いだにしない快
感が、頭の奥底を瞬時に焦がした。返す指が、クリトリスを被う包皮の上をこすりつけ、
新たな快感はとまりの腰から首筋を震わせていく。ぷっくりと盛り上った大陰唇のふくら
みを、その割れ目に沿ってさする。怯えを含んだ指は、かえって微妙なタッチで性感部を
捕らえた。その度に肉の奥から沸き立つ快感が、はっきり膨れ上がっていく。もう、意識
を逸らす事が出来なかった。
「っああ………!」
 思わず漏れた声だった。何故か、唇を噛み締めて、それを防ごうとしなかった。