>>737 以前アスミア(アスカガ)投下された職人様でしょうか?
殺伐とした感じが好きです。GJ!!
>>699の続きです。よろしく。
【Actor-Actless 後編】
ベッドの上で泳いでいるような女の腕の動きが、2人の躰の下にシーツの波を作る。
散らばった桃色の髪がアクセントの高波だ。2色の水紋の上で重なりあった躰から滴る
汗は、湿った空気を生み出す。限界まで挿したイザークの分身は濃密な液体に包まれ、
女の内壁が痙攣するたびに水圧が増していく。
罪悪感で窒息しそうだ。僅かな空気を求めてもがく偽のラクス。その頭を掴んで、また
快感の水底に沈める。
激しく喘ぎながら彼女は泳ぐ。もう息を継ぐのも苦しそうだ。溺れてしまえ。そのまま。
事切れる寸前で引き上げてやる。だから何もかも吐き出してしまえ。全てを。
ラクスの姿と名で、最後まで泳ぎ切ることなど――できるものか! いや、させない!!
「君は、誰だ――誰なんだ?」
「くぅ……わ、わたくしは……ラクス……ラクス・クライ……あぁああッ、あッ!」
これほど感じさせてしまえば拷問と変わりないだろうに、女はまだ強情を張る。
何が彼女をそこまで駆り立てるのか。
本当の自分を捨てて、彼女は何を手に入れた?
「何故ラクスがこんな――こんなことをする?」
「あっ、ラ、ラクスは……プラントに、必、要……っ、だからっ、あぅ……」
「君が、必要?……本当に、き み が 必要だと?」
皮肉なテンポで綴られるイザークの追求も、本当の意味では女には聞こえていないのだろう。
「プラントのぉ……へ、平和のっ、ために……できることぉ……はぁん……」
返答は譫言のようで、質問とは妙に噛み合わない。イザークにとっては耳障りな不協和音で
しかなかった。耳をそばだててもすぐに意味のない喘ぎに変わり、それほど忍耐力のない
イザークの神経を逆撫でする。
「はっ、はゥ……はゥウン……ぁはァんッ、はんッ」
「誰が言ったんだ。君が必要だと」
「ぎ、議長が、言っ……あぁあ、アンッ」
「――議長が?」
珍しく核心を突いた答えに、イザークは鋭い声を発した。
最早、秘密を守ろうとする意志も残っていないのか、女は先を続ける。
「あっ、そぉ……ラクスで、ない、とっ……できな――アァンンッ! あうッ!」
「だから、君は……?」
「な、何でもするのぉ……約束、したっ……ラクスはぁ……み、みんなのため、にィ……
はぁうゥ…んんっ、いい……!」
答えた分だけ欲しがるものを与えてやる――急に動きを変えて中をかき回し始めたイザークの
分身から受ける刺激に、ミーアの声が上擦った。もっと欲しい。答え……答えなければ……!
「な…んでも……する……するからっ……あ、あたし……ラクス…ううっ…ラクスだから……
っあ……ッ、いいっ、あっ、いいのォ…するぅ…何でも、す、る……!」
今がその時だ、とイザークは悟った。
待ちかまえていたその質問を耳元で、吐息がかかる微妙な距離で囁いてやる。
「誰が必要なんだ――君は、誰だ?」
「ああっ、ラ、ラクス……必要なのは、ラクス……クライン……ミーアじゃな……あぅっ!」
「ミーア……?」
「私っ…は……ラクスぅ…ううっ、ミ…アじゃ…な……ラクスなのぉ……ぁはッ、はぁああンッ!」
2つの名前を交互に繰り返しながら、女は1人で最後の坂を駆け登る。
取り残された男が呆然と動きを止めても、勝手に締め上げて快感を搾り取りながら。
議長が、望んだ。
プラントにはラクスが必要だと。
だから彼女は、姿を変えた。名前を変えた。他人になった。
ラクス・クラインに、なった。
馬鹿な!
やり場のない怒りによる扇情が、またイザークの躰を支配する。
集中していくその1点を、彼は再び狂ったように暴走させた。
「んゥッ、んゥッ、んゥッ……ァアァンン……!」
3回突き上げた後、腰を大きく回した。その動きに合わせて囀る躰。
抑え込めなかった衝動がイザークの意志に反して動き出そうとする。本能のままに快楽を
追い求めようとしている――目の前の女が苦しもうと構わず、滅茶苦茶にしてやりたい。
寸前で押し止めても僅かに漏れる。下半身がビクリと動く度にまた、女は声を合わせる。
硬い先端をグリグリと押しつけてやると、うっとりしているような表情を浮かべた。
「ぁああ……っは、ぁんっ……」
「うッ……そんなに締めつけるとっ――」
思わず言葉にしてしまい、イザークは羞恥に顔を赤らめながら続きを飲み込んだ。女が
うっすらと眼を開けて不思議そうにこちらを見ている。感じまくっているくせにしっかり
聞こえているその余裕が許せず、怒りがまた本能を解放しようとする。――腰が勝手に
大きく動いた。
「あうっ、あああっ……ああっ……」
(俺まで、感じてしまう――冗談じゃない。何で俺が、偽者なんかに……)
しかし目の前では憧れのラクスそっくりの顔が、悶え、喘ぎ、よがっている。
こんな顔をするのか――こんな顔は見たくなかった――こんな顔を誰に見せるのか――本物は。
女の柔らかい肉の感触が、次第に上がる熱が、男の欲望を煽る。下半身だけは興奮しまくって
いる。流れる汗の軌跡に唇を這わせて強く吸い付き、別の痕を刻むとどうしようもなく征服感が
掻き立てられる。
この女は俺のもの……何をしてもいい……好きなようにしても構わない。
本物ではないのだから。
「はっ……はぁっ……イ、イザーク……あぁん、いいっ……」
嬌声がやけに呑気に聞こえる。いやらしくて、淫らで、とても愚かだ。簡単に男に躰を許し、
真実など欠片もない愛撫にもこんなに反応して――誰でもいいんじゃないのか。
ミーアの内心の覚悟のことなど、イザークには伝わらない。伝わるのは目に見えるもの――
所詮、彼女の一部でしかない、ごくごくわかりやすい部分だけだ。
会ってまだ2度目で、互いに騙し合うばかりなのだ。正直に触れ合おうとしても誤解して
しまう人間同士で、こんなことをしていては無理もない。
人形と同じだ。中身のない空っぽの存在。
人形なら、傷つけてもそれほど心は痛まない。
躰がしなう。
しなって、しなって、しなって――それでも足りず、しない続ける。
嵐に翻弄される枝のように、上半身が持って行かれそうになる。男と繋がっている場所
だけが筋肉質の腕に固定されていて、そこを中心に四肢が乱れる。
そして感覚もそこを中心に沸き上がり、迸り、駆け抜ける――!
返して。
返して。これは私の躰。勝手に持って行かないで。
――違う。これは君の躰じゃない。
いいえ、これは私の躰。私の全てと引き換えに手に入れた、私の躰。
――違う。この躰は別の女のもの。ここにあるのは借り物に過ぎない。
いいえ。これは私のもの。永遠にずっと、私のもの。
――違う。この躰は持ち主に無断で作られたもの。盗品に過ぎない。
いいえ! これは本物よ。本物よりも本物らしい、私の躰なのよ! あなたを狂わせる
表情も、淫らな声も、病みつきになりそうなこの感覚も、私、私なのよ!
彼女ではない。
「は……っ」
達した後、長く息を吐いた弾みに声が漏れた。また、聞かれたかと、そればかり気になる。
屈辱を噛みしめながら女の反応を窺うと、女――ミーアの方が激しく息を乱していた。
仰向けに返しての3度目の行為。体力の限界だとしても無理はない。軍人としての鍛錬を
積んだイザークでさえ、声を抑えられないくらいに疲労していた。互いの股間は女が何度も
吐き出した愛液に濡れそぼり、それが乾く間もなく男の精に上塗りされてびしょびしょに
なっていた。
気の毒になるくらい苦しそうにしているのを見て、思わずイザークは手を伸ばし、汗に
まみれた頬に触れた。長い睫毛が擡げられて瞳がこちらに向かって動く――細い腕が甘える
ように絡みついて、ミーアは躰を寄せて来た。考える前に抱き返してしまったイザークは、
肩越しに長い髪をすくい上げて唇を寄せた。
何をしているのか気配で感づいたのか、ミーアは躰を離し、悪戯に囁いた。
「髪にしかキスしてくれないの?」
イザークが思うより、相手は余裕を残していた。男を知り尽くしている所以なのだろう
――どこまでも不愉快な奴だ。
ラクスの象徴である薄紅の髪に口づけたのは、自分だけではないに違いない。
再び躰が近づいて、今度は唇が触れ合った。眼を閉じ、後戯に没頭しつつあるミーアの
顔を見つめながら、イザークは酷く白けた気分になっている自分に気づいていた。
――何をしているんだ、こいつは。
――何をやっているんだ、俺は。
怒りにまかせてミーアの肩を強く掴み、無理矢理引き離した。
「いたっ……」
抗議の声を上げたミーアは一瞬不満そうな顔をしたが、不安の方が優った。
急に冷たくなった男をおどおどと見上げる視線に、イザークは溜息をついた。
「いったいどういうつもり――なんです」
辛うじて敬語をくっつけた。彼女は『ラクス』だ。ラクスとして扱わなければならない。
躰が繋がっている間はまだしも熱を感じられたが、それすら去ってしまったこの状況で
ミーアをラクスとして尊重することは、もともと自重に欠けるイザークにとっては至難の
業だった。
軍人としての責務と人一倍誇り高い性格が、ギリギリのところで踏みとどまらせている。
思いきり罵倒し、縛り上げて、ザフト本部まで引きずって行けたらどんなにすっとする
だろう。
いや、それとも、別の場所に?
もっと彼女を……思いのままいたぶれる別の場所に――?
イザークの内心の惑いに気づいているのかいないのか、偽のラクス――ミーアは妖艶な
微笑みを浮かべた。
「あなたこそ、どういうつもりですの、イザーク?」
重ねた行為に裏付けされた自信が見て取れる。男を骨抜きにできたと確信している。
本当の名を口にしたことなど覚えていないのか。それがあっても、なお騙しとおせると
思うのか。
「あんなに何度も何度も、わたくしにいやらしいことを……アスランに申し訳ないと思い
ませんの?」
「――それは、あなたも同じだ」
「そうかしら? ねぇ、アスランはどちらを信じると思う?」
女は顔をぐっと近づけて、魔性の微笑みを浮かべながら言ってはいけない台詞を口にした。
「わたくしがあなたに力ずくで、無理矢理犯されたと言ったら、あの人はわたくしとあなたと、
どちらを信じるかしら?」
イザークの中で何かが弾け飛んだ。
僅かに残っていた少女に対する憐れみ――事が露見すれば真っ先に切り捨てられ、残酷な
運命を辿るであろう彼女を、ほんの少しだけ気の毒に思う心が、一気に砕ける。
イザークは投げつけるような乱暴な仕草で女の躰をベッドに押しつけ、両肩を強く掴んで
爪を立てた。
「いたっ……痛い! イザーク、いやっ……!」
「うるさい!」
文字どおり怒りで膨れ上がったものをまた、匂うほど濡れた場所にずぷりと深く埋めた。
「ひっ、ひィああぁ……ッ!」
悲鳴をあげるのも構わず、感情のままに中をかき回す。
女性に対してこれほどの怒りを感じたことも、本当の意味で壊してやりたいと思った
こともなかった。
暴虐の限りを尽くし、虚飾に満ちたこの躰を粉微塵に破壊してしまいたい。こんな陰謀に
加担したことを一生後悔させて――いや、この女の一生を今ここで、終わらせてやりたい
くらいだ。
「くッ……何故なんだッ」
その先の言葉を心の中で叫ぶ。
(俺もこの子も、願いは同じだ。プラントの平和――それなのに何故、この子はこんな手段を
選ぶんだ。そして何故、俺はこの子を許せないんだ――!)
切り裂くような叫びを心の奥底に沈めながら、イザークは相手を苛むだけの行為に及んだ。
「ア……ア、ア……アア、アアアアァッ!!」
断崖から突き落とされたかのような悲鳴を残して女も墜ちていく。
繰り返し達して感じやすくなり、それ故に苦悶も大きくなった人工の躰を引きずりながら。
何もかもが壊れていく。
君が殺した――ラクスの姿をした、君が。
俺の中のラクスを。
同時に君は、もう一人、殺した。
本物の君を。
急激に上げられた熱は冷めるのも早い。
今はこんなに熱い躰も、やがて死体のように冷えていく。
行き先は墓場以外にない。
誰も訪れることのない墓標に刻まれるのは、どちらの名だろうか。
涙で濡れた眼の周りに張り付いている髪の毛を、イザークはそっと指先で避ける。
少女は目を覚まさない。深い眠りに落ちたままだ。
ミーア。
それがこの少女の本当の名なのだろう。
犯されながら、彼女は何度も「プラントを守るため」だと口にした。
名を捨て、姿を捨て、自分の存在を捨ててまでも、叶えたい夢なのか。
イザークには理解できない。虚偽を認めることのできない彼にとって、こんな方法で手に
入れたものに何の価値があるのかわからない。それが永遠に続くことなど、もっと信じられ
ない。
唯一つわかるのは、彼女がそんなもののために何もかもを失い、こんな場所で自分に躰を
投げ出して、少しも後悔していないと言うことだけだ。
ミーアの言葉から、議長もこの偽りのシナリオに一枚噛んでいることが伺い知れる。
そんなにも危ういのか。プラントと地球の間に築かれた『平和』と言う名の架け橋は。
こんな茶番劇で支えられるほど脆く崩れやすい条約の上に、何と多くの人々の生活が
成り立っていることだろう。
――きっとまた、戦争が起こる。
砂上の楼閣……いや、蜃気楼だ。
確かな形など、最初から存在していなかったに違いない。
全ては錯覚――そんな平和でも、価値はあるのか――おそらく、あるのだろう。
この偽者のラクスでさえ、プラントが必要とするのなら、大事なのは真実などではない。
どれだけ多くの人間が、それを信じるかが、問題なのだ。
「騙されてやるしか、ないのか……今は?」
以前なら決して受け入れられない呟きを、イザークは思わず、口にした。
眼を閉じたまま、ミーアはイザークの独白に耳をそばだてていた。
堅牢な意志を持つ軍人はそれ以上は何も言わず、ベッドを降りて衣服を身につけ、そっと
部屋を出ていく。
ミーアは溜息をつきながら身を起こした。
「失敗……ね。バレたわ。確実に」
騙しとおすことはできなかった。しかし、追求もされなかった。
これはどういうことだろうか。
イザーク・ジュールは、この後、どうする?
「特に何も言ってきてはいないようだが……私の所にはね」
ミーアの報告を聞いても、デュランダルは眉一つ動かさなかった。まるで最初から失敗
するとわかっていたようだ。
悔しげに唇を噛みながらも、ミーアは幾分ほっとしていた。デュランダルの表情には、
落胆も失望も浮かんではいなかった。――お払い箱になるかと思っていたが、どうやら
それはないらしい。
「ラクスとの会食の件については周囲の誰にも言っていないようだしね。ディアッカ・
エルスマンに対してはわからないが、とりあえず2人とも、通常どおり業務をこなしている。
誰かと接触したとか、地球と連絡をとったとか、怪しい素振りもないようだ。……成功とは
言えないまでも、不問に付してくれるのか……どう思うね?」
「そう……だと思います」
「まぁそうでなければ、君を直ちに拘束していただろう。ジュール隊長の性格なら」
ミーアは僅かに身を震わせた。そうならなくて良かった――抱かれている間は忘れていたが、
イザークはザフトの若き司令官なのだ。ラクスになりすましている自分を、危険分子として
捕縛できる立場にある。
安心させるつもりでもないのだろうが、柔和としか表現のしようのない微笑みを浮かべ
ながら、議長は別の話を切りだした。
「ところで、今夜の予定はどうなっているかね、ミーア?」
途端にミーアの顔色が変わった。愁眉を隠しきれない仕草で髪をいじりながら、ミーアは
憂鬱そうに溜息を吐いた。
「……また、ですの?」
「君の人気はこちらの世界でも素晴らしいよ。希望者は後を絶たない。――気が進まないかね?」
ミーアは少し恨みがましい目でデュランダルを見た。嫌だと言っても無駄だとわかっている。
『ラクス』として、この姿を利用して、プラントの役に立ってくれる人間達――各国の王族や
政府高官、裏社会の実力者達を味方につける。それもミーアの大事な仕事の一つだった。
大して難しい仕事ではない。ラクスの容色を持ってすれば、朝までの時間を与えるだけで
事足りる。難しい議論も、取り引きの材料も必要ない。これほど確実に要求を通す手段は
他にはない。
断ればどうなるかはわかっている。だから今夜も彼女は従う。
もう慣れた――その言葉で自分をごまかす必要すらない程に繰り返された行為なのに、
今日になってまた嫌悪感が頭を擡げてくるのは、イザーク・ジュールのせいだろうか。
『ラクス』が相手をするのはミーアよりずっと年上の男ばかり。自分に見合った年齢の
男性と躰を重ねたのは久しぶりだった。『ラクス』としてでは決して味わえない感覚……
若い躰だからこその情熱と、欲望と、激しい高ぶり。それを集約した怒張の固さ――
貫かれる瞬間に開かれる世界。自分を見失えるほどに没頭した世界。
あの甘美な場所に、もう一度――。
「――どうしたね、ミーア」
デュランダルの声がミーアを現実に引き戻す。知らず知らずの内に指先を髪から唇に
移動させ、うっとりしながらなぞっていたミーアは我に返り、どぎまぎしながら返答した。
「大丈夫ですわ。義務は果たします」
「いい子だ。では、ご褒美をあげようか」
ミーアはまた眉を顰めた。既に彼女も、デュランダルが見たままの人となりでないことに
気づき始めている。今度は何を要求されるのかと内心身構えたが、議長の言葉は思いがけず、
裏はなかった。
「アスラン・ザラから連絡があった」
「――アスランが、戻ってくるの?!」
打って変わって輝くような笑顔を浮かべたミーアを見て、デュランダルの方は苦笑した。
「プラントに戻ってくるわけではないよ。……やれやれ、簡単に機嫌が直るものなのだね」
「アスランは、何て?」
「私と話がしたい、と。まぁ彼の方から会いに来てくれるのだから、プラントに滞在する
ことにはなるのだが――」
「何日くらいいられるんですか? いつ、どの便で? 私、アスランに会える?」
「そう立て続けに聞かれても答えられないよ、ミーア。私も忙しい身なので、日程については
今、秘書に調整させている。……心配しなくても、会えるさ。会ってもらわなければ困るしね」
「じゃあ、いよいよアスランをこちら側に?」
「うん、そうだね……その件だが、少し作戦を変えてみようかと思う」
「え?」
ミーアは怪訝な顔をした。予定では、デュランダルが自らアスランを説得し、同盟者と
なってもらった後でミーアと引き合わせる筈だった。アスランの性格では、ラクスの偽者を
立てるというこの穿った作戦に首を縦に振るとは思えなかったからだ。ミーアの存在は
ギリギリまで隠し、秘密を共有する前に、仲間になると誓ってもらう必要がある――
そういう手筈だったのだが。
「私より先に、君に会ってもらうことにするよ。その方がどうやら、良いようだ」
「え、ええ? いいんですか?……でも、何を話せば……」
シナリオを根底から覆すプロデューサーの発言に、主演女優は戸惑った。では覚えた
台詞も全て白紙に戻して――自分は何を言えば良い?
デュランダルは、演じる必要はない、と言うように、ミーアに向けて首を軽く横に振った。
「アスランには最初から、嘘はつかずに本当の君自身をぶつけてはどうかと思うのだよ。
彼は誠実な人間だ。プラントを守りたいという君の想いは、きっと通じるさ」
(イザーク・ジュールすら騙せない君の演技力では、本物のラクスに成り変われるなどと
主張したところで、無駄だろうからね……まぁ、アスランの方も本物を表舞台に出したくは
ない筈だ。健気なミーアでいた方が、勝算はあるさ)
デュランダルは本心を打ち明けない。ミーアは同盟者ではなく、唯の駒に過ぎないのだから。
もっとも、口にした言葉も全てが嘘と言うわけではなかった。イザーク・ジュールが
ミーアの嘘に気づきながら、最後の最後に沈黙を選んでくれたのは、彼女の行動に何かを
感じてくれたからなのだろう。
意固地な程に真っ直ぐで、偽りを嫌う彼でさえ妥協してくれたのだ。騙すのでなく情に
訴えるなら、アスランはもっと容易い壁だろう。
こちら側への取り込みは、間違いなくうまく行く――この確信が得られただけでも、
デュランダルにとってこの『実験』は意味のあることだった。
全てを握る男は、また不安になって儚げな風情をまとった少女の肩にそっと手を置いた。
細い。簡単に握り潰してしまえそうだ。
彼女の存在のように。
頭から湯気を出しながら報告書の束と格闘している隊長を、ディアッカは少々心配そうに
眺めていた。
イザークはいつも以上に熱心に、寧ろ無心になって書類作りに没頭している。根っから
真面目な性格で、こういう仕事も手を抜くイザークではないが、今日はかなりムキになって
いるようで、そこが副長にとっては頭痛の種だった。
「ディアッカ、この報告書は書き直しだ! 俺のところに持ってくる前におまえがちゃんと
目を通せ。それと、カーペンタリアからの続報はどうなっている? 月基地にはまだ、
動きはないのか?!」
ディアッカが何か言いかけると、それを遮るようにイザークがわめく。――余程聞かれたく
ないことがあるのだろう。
どうせ理由は、決して話そうとしないこの間の夜のことに違いない。
「――別にそんなことしなくたって、聞くなと言われりゃ聞きゃしないがねぇ」
「何だ!」
追求されたくないのなら無視すればいいような呟きに返事をするイザークに、ディアッカは
また独り言のように答える。
「夕食をとるだけだった筈なのに帰りが深夜になることなんか、俺達くらいの男には珍しく
ないって話だよ」
「貴様! 何が言いたいッ!」
「風俗に行ってたとか、それくらいの嘘はつけるようになれよな」
イザークはやにわに立ち上がり、飄々と書類をめくっている副官の胸ぐらを掴んだ。
弾みでディアッカの手から落ちた書類が床に散らばる。イザークは思わずそれに目を走らせた。
あの日、シーツの上に散らばった桃色の筋とイメージが重なり、彼は吹っ切るように首を
横に振った。気をとり直し、少しも動揺している様子のない副官を睨みつける。
「貴様は、俺を愚弄する気か?」
「嘘をつけってのが愚弄することになるんなら、そうかもな」
「何故俺が嘘をつかなければならんのだ!」
ディアッカを突き飛ばすようにして、イザークは手を離した。ディアッカはやれやれと
ばかりに乱れた衣服を直し、落とした書類を拾いながら言った。
「聞かれたくなきゃ命令すりゃいいんだよ……おまえ、隊長なんだから」
イザークは何も言わず、拾った書類を揃えているディアッカの背中を見下ろした。
こいつならああいう場面も、もっとうまく切り抜けられたのだろうか。
もともとディアッカより与し易しと相手に判断されていることはわかっていたが、余計な
ことまでそうだったのだと思い知らされたようで、癪に触る。実際、ディアッカにすら
あの夜のことを話せないでいるというのは、まんまと敵の術中にはまったことになるでは
ないか。
あの女の手練手管で沈黙を選ばせたと思われているとしたら――想像しただけではらわたが
煮えくり返るようだ。
(俺はあんな女に同情なんかしていない! 全ては議長のためだ。議長が絡んでいるとなったら、
おいそれとは追求できんだろうが!)
それに、プラントと地球を取り巻く状況は、そんなことにかかずらっている場合でも
なくなっていた。
月の地球軍が、プラント侵攻の動きを見せている。
情報では、核攻撃部隊もその中に含まれているらしい。防衛戦にはジュール隊も出動する
ことになっており、イザークがデスクワークに忙殺されているのもそのせいだった。
空母ゴンドワナを中心とした大規模な防衛ラインは、敵の攻撃もそれだけ本格的なものに
なることを意味している。
イライラと歩き回り出したイザークに、ディアッカはいつもの調子でこう言った。
「別に後回しにしたって、何も言わなくたって、俺は何とも思わないぜ?」
内心の焦燥を見抜かれたような気がしてイザークはまたディアッカを睨んだが、それで
怯むようなディアッカでもなかった。
「もともとおまえほど清廉潔白な性格じゃねぇし、結果がいい方に転がりゃ、それで
いいんだけど、ね……」
「いい方に転がると思うのか」
落ち着きを取り戻したイザークの問いに、ディアッカはニヤニヤと笑いながら答えた。
「いーや。思わない」
「だったら何で!」
「お手並み拝見ってことで、いいんじゃねぇの。当面はさ」
「誰の手並みだ。おまえが言ってるのは」
偽ラクスを演じるミーアの? 仕組んだ者達の?――知っていて動けない俺の?
何を聞きたいかはわかっているだろうに、ディアッカは憎らしいほど答えを逸らす。
「誰でもいいだろ。とにかく今は、プラントを守ることが大事だ」
「わかっている! そんなことは!」
「わかってるなら、忘れろ」
断言されて、イザークは珍しく絶句した。
ディアッカは口元に笑みを浮かべてはいたが、表情とは裏腹に真剣な口調になっていた。
「そんなに器用な方じゃないんだからさ、今は防衛戦のことだけ考えてろよ。どうせ結論は
出てんだろ?……書類、差し戻してくるわ」
「おいっ……ディアッカ!」
思わず呼び止めようとしたが、ディアッカは振り向きもせずに部屋を出ていった。
1人になって、イザークはほっとしている自分に気づいて少し顔を赤らめた。
結論は出ているとディアッカは言ったが、本当のところはそうでもない。ラクスの偽者が
いるということは確かだが、それをどうするかは決めかねている。イザークの性格では珍しい
ことであり、だからこそ彼は自分を持て余していた。
忘れろ。
――そう言って欲しかった。
嘘にまみれた女の存在も。それを赦した己の不甲斐なさも。
今はもっと大切なことがあるのだからと言い訳してでも、忘れ去ってしまいたかった。
そうでなければ、考えてしまう。
今このときにも、あの女は――誰にどんな嘘をついているのだろう。
今度は誰の前で、ラクスの名を騙っているのだろう。
今夜の彼女を手に入れた男の相手を務めるために、ミーアは高級ホテルの最上階にある
豪奢な部屋を訪れていた。
ホワイト・シンフォニー。
ラクスが初めてコンサートを開いた場所と同じ名を持つ白薔薇が、部屋に強い香りを
放っていた。……噎せかえるようだ。
ミーアはこの香りが好きではない。清廉すぎて自分にはそぐわない気がする。色も、
赤やピンクの方が『ラクス』の容貌には合っていると思うし、もっと砂糖菓子のように
甘く、酔ってしまうような香りだったら良かったのに。
空気を新しくするような涼やかな白薔薇の印象は、塗り重ねた虚飾を払い落として本来の
自分に戻れと言われているようで、押しつけがましく感じる。
あたしは、もっと酔って、溺れていたいの。今の立場に。
プラントのトップが全てのお膳立てをしてくれたのだ。何も心配することはない。
巧言令色を弄ぶがごとく、デュランダルはミーアに聞き心地の良い言葉だけを告げる。
「鏡を見てごらん。ラクスが映っている。本物でないなどと言っても誰も信じないよ、
そうだろう?……偽者が本物と同じ役割を果たして皆が幸せになれるのなら、それでも
構わないと私は思うのだよ。結果が全てだ、こればかりはね……自信を持ってやりなさい。
君は立派にラクスの代役を勤め上げているじゃないか? プラントはラクスを必要として
いる。それに応えられるのは、君だけなんだよ、ミーア」
そうよ。議長の言うとおり。
プラントの薔薇は、汚れを知らない白薔薇でなくても構わない。
汚れすら養分として吸い上げて、美しさに変えて咲き誇る花の女王――そんな紅薔薇に、
あたしがなってあげる。なってみせる。
今は溺れているだけに見えても、立派に泳ぎ切ってプラントの太陽になってみせる。
決して沈んだりしない。だってあたしは、本物以上に『ラクス・クライン』に成りきって
いるのだから。
ここにいるのが本物のラクス。あたしが演じるラクスだけが、唯一のラクスなのよ。
おしまい
番号打ち間違いスマソ。では。
読み応えある作品でした、GJ!
エロ可愛くも、ミーア切ないよミーア。
この後に起きる諸々のことを考えると、なおさら。
イザミアGJ!!
グッジョ
いい話ダナー(;∀; )
いつもせつない話をありがとう!!
760 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/02(土) 02:15:23 ID:K09COZcj
いつも叙情的なお話で毎回楽しみにしています
ミーアがかわいそうですごくいいお話ですね
>プラントの薔薇〜
ここの文章に感動してしまった・・・本編もこんなやりとりがあればよかったのに
GJ !
>>イザミアGJ!GJ!!GJ!!!
エロだけじゃなく、ストーリーに引き込まれた!
すごくいい話だー(;∀; )
職人様、また投下してください!!待っています!!
>>756 同感。とても読みごたえありました。
ミーアイイヨ
シンマユが読みたい・・・ヤバイ?
イザミアGJ!
風俗・・・ワロタ
>>こんな顔を誰に見せるのか――本物は。
その頃、オーブで本物のラクスがキラに貫かれてアンアン言ってたらワロス
イザミアGJ!GJ!
ミーアエロかわいいよ、ネ申職人様GJ!!
912 名前:通常の名無しさんの3倍[sage] 投稿日:2006/08/23(水) 17:37:10 ID:???
やっぱりエロスレは需要があるのかな?
エロイだけで、内容が無いもの。
と、言っては失礼かもしれないが、そんな物でも、スレは盛り上がっているな…
913 名前:通常の名無しさんの3倍[sage] 投稿日:2006/08/23(水) 19:20:30 ID:???
>>912 エロはねえ。エロパロ板行ってほしい。ただエロパロ板読むと、ちゃんと「エロ小説」
になってるのが多い。だから、この板でエロSS書いてるのは、21歳以下で、まだ日本語で
何かを表現することが苦手だからエロパロ板に行く資格も勇気もない人が多いんだと思う。
89 名前:通常の名無しさんの3倍[sage] 投稿日:2006/08/16(水) 18:47:55 ID:???
後は
21禁のエロパロ板で生まれた
Voice Of The Earth
が良SSかなぁ
オリキャラをいれた新約Zみたいなもんだ
エロ小説だけど戦闘描写とかもしっかりしてて
むしろエロ無くても良いや派とかもいたりする素敵なエロ小説だ
ええと、これはマッチ(・∀・)ポンプと理解すればいいのかな
774 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/05(火) 04:26:07 ID:yMDp90Ys
U
職人しかいないような気がする・・・
お気に入り登録してるから気にするな〜
777 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/07(木) 03:53:37 ID:fsr0/OI/
シンカガ神お待ちしております
シンカガネ申こないかなー
俺もシンカガ神の書く話好きだ。待っている
シンカガ神って誰?
シン(アス)×カガとムウ兄貴ネタ書いてた人?
それとも前半でシンカガ書いてた人?
シンカガの続きを改変して書いた人?
新シャア板のシンカガネ申は実はカガリアンチだったw
事の真偽は知らないが、本当だとしたらその職人さんは凄いと思うね。
初めまして!ラクスクラインを描きました。不人気キャラではありますが、
「電波」ではなく「魔性」の女として、彼女がのし上がって行く様を描いて
行きたいと思います。まずは原点となる、アカデミー時代のアスランとの
物語です。お気に召さない方はスルーにてお願いします。それでは。
漆黒の宇宙に浮かぶ巨大な建造物群、「砂時計」とも呼ばれる産業生産用
スペースコロニー「プラント」の艦船用ハッチから、5機の訓練用ジンが
編隊を組んで飛び立った。アスラン・ザラは、初めての宇宙空間飛行に、
スロットルを握る手が汗でじっとり濡れていることに気付いた。
〈アスラン、、〉開いたモニターは、親たちが勝手に結婚を約束した少女、
ラクス・クラインが凛々しいパイロットスーツとヘルメットに身を包んだ
姿を映し出した。
〈宇宙にはこんなにもたくさんの星があるのですね。。〉
「駄目ですよラクス、教官に怒られます」
〈よくわかってるじゃないか、ラクス、アスラン。今は
ドライブじゃないんだぞ!〉間髪を入れずアカデミーのMS飛行訓練教官、
ビル・エシュランが画面に割り込んだ。
〈これからアルファ280空域の小惑星群にて訓練飛行を行う。
各機、最大加速。しっかり飛ばせよ!!〉
既に旧式化しつつあるとはいえ、ザフトが誇る主力MSのフルブーストは、
肺が押し潰されそうな強烈なGで、獰猛な雄叫びを上げ鋼鉄の塊を後ろ
から蹴飛ばす。真っ直ぐに支えた筈の操縦桿が弾みで手前に倒れ、
アスランのジンは編隊から離脱しそうになる。
「うわッ・・・!」
〈しっかり操縦桿を握れ!アスラン!〉
すかさず教官の激が飛ぶ。尤も、この初体験に手間取っているのは
アスランだけではない。レシーバーからは「うおぉ!」「ぐえっ!」と
声にならない同僚たちの呻きが聞こえてくる。
ラクスは?果たして彼女にこんな事が出来るのか?
<アスラン、、大丈夫ですか・・・?>
ラクスは一人、教官機の後ろをぴたりとマークし、事も無げに
この猛獣を乗りこなしていた。
プラントから飛び立つ5機の訓練用ジンを、アカデミーの指揮官室から
眺める2人の男がいた。
「全く、議長閣下にも困ったもんですよ。いくらご令嬢とはいえ、婚約者と
常に同じスケジュールで講義を受けさせろとは。ここはカレッジじゃないんだ、
他の受講生への示しが付かない。。」
アカデミー主席代表のジョン・マクドネルは溜息をついた。
「それだけご心配なんでしょう、いくら本人が行きたいと言い出した事とは
言え、まだ15歳の箱入り娘、しかもわが国のプリンセスを軍の士官学校に
通わせるお父上の心情、察して余りあるものがあります。仕方ありませんな。」
仮面の男、ラウ・ル・クルーゼは、口元に笑みを浮かべた。
「しかしクルーゼ殿、今日はまた何故にこちらへ?」
「この国の未来を背負うお2人の初飛行、見ておきたいと願うのは私ばかりでは
ありますまい。」
マクドネルはフン、と小さく鼻で笑い、「さすがに抜かりがない。両陣営の
ご子息ご令嬢を配下にされれば、未来の議長も夢ではありませんな。」
「私はそのような器の者ではありません。ただ、」
「軍人としての彼らの可能性を見ておきたい、と。」
「さすがは代表、全てお見通しのようで。」
こやつ、ただMSの技量だけでのし上がった男という訳ではないようだな、、
マクドネルは、ザフトのMSパイロットの中で唯一、このアカデミーを卒業して
いない仮面の男の横顔を見た。クルーゼは、そんなマクドネルの視線は意に介
さず、彼方へ消えゆく5つの紅い炎を眺めていた。。
君たちは「鍵」だ。新たなる時代を切り拓いてもらわねばならぬのだよ、
私とともに。。
訓練飛行を終えた新米パイロットたちは、ラクス・クラインを除く全員が
息も絶え絶えになり、ドックの床に倒れ込んだ。
「あらあら?皆さんどうなさったの?」
「ハア、、ハア、、君は、、、何ともないの、、?」
「はい!とても楽しかったですわ!!」
ほうっ、エシュランはにやりと笑った。
「楽、しい、、って、」
ディアッカ・エルスマンは、こみ上げる嘔吐感を噛み殺しながら、呻くように
言った。
「そうか!、楽しかったか!!おいお前ら、そんなんじゃ姫様に笑われるぞ!」
何故かコーディネーターは女性のほうがG耐性が強い、エシュランは多くの
教え子を見てその事を知っていたので、目の前の光景を見て特に驚きはしなかった。
ただ、初フライトを「楽しい」と表現した生徒は、彼が知る限りラクスが初めてだった。
ドックの入り口が開き、マクドネル代表が現れた。
「おいみんな、お客様だぞ!」
「…?!ハッ!!」
代表の後に現れた人物を見るやいなや、教官は背筋を硬直させ、ビシッと敬礼をする。
振り向いた生徒たちは皆一様に「あっっ!!」と声を上げた。
憧れの白服、隊長服を着たマスクの男、軍人ならずとも誰もが知るザフトのエース、
ラウ・ル・クルーゼの姿がそこにあった。生徒達は一様に教官を真似て敬礼をしようと
するが、ラクス以外の男子は皆、腰に力が入らずよろめいた。
「構わんよ、楽にしてくれ給え。」
そうは言われても、と思いつつ男子3名、アスラン・ザラ、ディアッカ・エルスマン、
ミゲル・ノイマンは、へなへなと尻餅をついた。
「どうかな、モビルスーツは?凄い乗り物だと思わないか?大空を駆ける翼、
人類の英知の結晶、そして、ザフトの誇りだ。皆頑張ってくれ給え。」
「はっ!!!」男子3名は下半身が未だ動かぬまま、上半身だけで最敬礼をした。
「よしおまえらッ、基地に戻ってまずやるべき事、機体整備だ!ほら行けぇっ!」
「うへえぇっ!!」教官は容赦なく、ミゲルとディアッカの背中を押し、自機に向かわせた。
「アスラン・ザラ、ラクス・クライン、ちょっと良いかな?」
クルーゼが声を掛ける。エシュランは再度敬礼すると、ディアッカとミゲルの
後を追った。
「お二人の父上方から、君たちを宜しく頼むと仰せつかっている。」
アスランとラクスは一寸顔を見合わせる。
「立場というものはあるかもしれないが、アカデミーに来た以上は是非、赤服の
資格を取れるよう頑張ってくれ給え。期待しているよ。」
そう言い残すとクルーゼは、きびすを返してドックの入り口へと去って行った。
ラクスと、体の感覚が戻りつつあるアスランは、
最敬礼でザフト最強の英雄を見送った。
ミゲルとディアッカは早々と整備を終えた。
「おい、これ終わったらもう自由行動で良いんだよな、ミゲル?」
「チェックリストに教官のサインもらってからだ。」
「かーッ、なんか『やり直せ』とか言われそうだな。アスラン!先行ってるぞ、ラクスは?」
「もう少しかかります、お先にどうぞ。」
「あそ。んじゃお先な。おいアスランっ!イチャイチャしてんじゃねーぞ〜。」
ドックにはアスランとラクスだけが残った。
「素敵な方ですわね、クルーゼ隊長。」
アカデミーを出るまで愛機となるジンのコクピットで作業をするアスランが
顔を上げると、コクピットフードに両肘をついたラクスが悪戯っぽい微笑みを
アスランに向けていた。ラクスはパイロットスーツの上を脱いだのか、白地に
緑のザフトエンブレムが入ったTシャツ姿になっていた。
「そりゃクルーゼ隊長は誰から見ても素敵で格好良いですよ。」
アスランはちらりとラクスを見ると、また何事もなかったように、淡々とマニュアルに
定められた整備項目を、一つずつ確認しながら、同じように淡々と、ラクスに返事した。
ラクスは自分の婚約者だし、誰がどう見てもアイドルのように可愛い。だけど、
だからと言って彼女を愛してるとか、そういう感情を持っている訳ではない。
それは、自分の意志ではない「押しつけ」から始まった関係だからかも知れない。
ただ、、、
「あら、焼き餅?」ラクスがふわりとコクピットに入って来た。辺りがラクスの
匂いに包まれた。
「いや、そういうのじゃないですけど…」
アスランは横のモニターを見たままで、カタカタとキーボードを打ち続ける。
「けど?」
「いや、だから………!?」
ラクスの方に向き直ると、アスランの口はラクスの口でぴたっと塞がれていた。
アスランは驚き、とっさに口づけを中断する。
「ラクスっ!……」
ラクスはアスランを見つめ、そして目を閉じて、再び唇を寄せて来る。
「ん、、」
甘い香りとラクスの腕がアスランを包み、暖かくてとろんと柔らかいラクスの舌が、
アスランの舌に絡まる。アスランもそれを拒まない。初フライトの異常な緊張状態に
あった体のこわばりが、がくっと音を立てて抜け、アスランは目を閉じた。
ラクスは手の平をアスランの両頬に当てると、その口をアスランから離す。
柔らかな舌の官能を中断されたアスランは目を開く。もっと舐めて欲しい、そんな気持ちからか、
アスランは少し口を開く。まるで餌をねだる小鳥のようなアスランを見てラクスは目を細め、
アスランの耳元で囁く。「可愛い。」
その声の振動と生暖かい息がアスランの耳にかかると、アスランは下半身に血液が固まるのを感じた。
「んふ、、」
ラクスはアスランの耳たぶを軽く噛み、それから耳を舐めた。
「あっっ」思わず小さな声を上げたアスランは、下半身がぴくんと脈打ち、
パイロットスーツの窮屈な空間を突き破りそうに己れのモノが堅くなっているのを感じた。
ラクスはアスランのパイロットスーツのジッパーを、チ、チ、チと音がする程
1段ずつゆっくりと、一番下まで下げる。だがそんな事に気が付かない程、
アスランの神経は、ラクスに舌を差し込まれた耳に集中していた。
次は、目かな、、
いつもラクスがしてくれる順番を、アスランは心待ちにする。その期待どおり、
耳から口を離したラクスは、目を閉じる仕草をして、アスランに目を閉じるよう促す。
ラクスはアスランが目を閉じると、そのまぶたにキスをし、暖かい舌で舐めた。
そして頬、首筋。アスランは、15歳の、自分と同い年の少女が与えてくれる
快楽に溺れた。
「アスラン、、」
彼は虚ろに目を開けた。その締まりのない口から唾液が垂れている事にも気付かずに。
「私はあなたのもの、あなたは私のものですわ。。」
彼女は右手をアスランのパイロットスーツの中に潜り込ませ、いきり立った彼の
男性自身の、首の後ろ側の最も敏感な部分を、その細い指で撫でた。
「うっ」アスランは指の1本すら動かせず、少女になされるがままとなった。
再び彼女の口がアスランの口に重なる、、
「ん、ん、」
そっと撫でていただけのラクスの指は、いつの間にか彼のモノを包み込み、
優しく上下に動かしていた。
「んんっ!」
アスランの鼓動に合わせ、ラクスの手の動きが早まる。アスランは暫く射精して
いなかったせいか、異常な早さで上り詰めるのを感じた。さらにラクスは左手を
アスランの胸に置き、爪でアスランの乳首をころころと転がし、それから指で摘んだ。
「あぁっ!」たまらずラクスから口を離し、声を上げるアスラン。
その瞬間、、ラクスは手を彼の股間から抜き去った。
目と口を見開き、なんで!?と無言で訴えるアスラン。
いつもなら、「最後」までしてくれるのに…
「あら、パイロットスーツが汚れちゃいますわ。。」
何の悪意もない、天使のような微笑みを残し、
彼女はアスランのコクピットを離れた。その甘い匂いを残して。。
アスランは、ラクスを愛してると感じた事はない。ただ、出会って1年、
既に、彼女が彼に与えてくれる快楽に、どっぷりと浸かり、彼の体は、
幼い彼女の奴隷となっていた。。
アカデミー卒業の前日、アスラン、ラクス、ディアッカ、ミゲルの4名は
マクドネル代表に呼び出された。明日の卒業式で着る「赤服」を受領する為に。
「おめでとう!今期は君たち4人が赤服の資格を得た。君たちは即戦力として
MS部隊に配備される事になるだろう。ちなみに今期の首席は、ラクス、君だ!
以下、アスラン、ディアッカ、ミゲルの順だ。」
「あの…」
ラクスが一歩前に出る。
「私、軍には参りませんわ」
「は…??」全員が唖然としてラクスを見る。
「君は、なにを言っているのかわかってるのかね?」
「はい!!」ラクスは自身と強さに満ちた微笑みで続ける。
「私、争いは好みませんの。ただ、MSに乗れるようになりたくてアカデミーに
参りましたの。ですからこれは、お返しいたしますわ。」
ラクスから赤服を返されたマクドネルは、開いた口が塞がらず、ただ呆然と
部屋から出ていくラクスを見送った。
「ラクス!」受領を終えたアスランが、真新しい真紅の軍服を小脇に抱え、
ラクスの後を追って来た。ラクスは自室の前まで戻っていた。
「あら、アスラン。。」
「一体どういう事ですか?」
「まあ、中へお入り下さいな、お茶でも入れて差し上げますわ。」
アスランはラクスに促され、ラクスの部屋に入った。
「でも良かったですわね、アスラン。」
ラクスは二杯の紅茶を入れ、一つをアスランに差し出した。
「これであなたが首席卒業生、お義父様もお慶びになられますわ。」
「なっ…まさかその為にあなたは!?」
「そうではありません。私には、やりたい事がございますの。」
「え?」
「私、歌を歌おうと思いますの。」
「歌!?」
「貴方はこの国に平和をもたらす為に軍に行かれる、私は歌を歌う、、
素敵だと思いませんか?」
「いや、しかし…」
「それよりアスラン、約束、覚えていらっしゃいます?」
「約束…」
アスランは心臓が大きく脈打つのを覚えた。
「ええ、貴方がアカデミーを首席で卒業なさったら、私を貴方に差し上げると。。
貴方はそれをなさいましたわ。」
ラクスはベッドに座っていたアスランの横に座り、白くすらりと伸びた手を
アスランの手に重ねる。その手の平は、連日の訓練で血豆が潰れたアスランとは違って、
とても柔らかかった。
「しかし、僕は、、」
受けようによっては屈辱、とも言えるラクスの行為、だが、ラクスに対して
そんな感情が湧かない自分、ラクスの手の感触で、これまでにラクスがしてくれた
様々な悦楽を想像する自分が、アスランは少し情けなく、腹立たしく思い、うつむいた。
「アスラン、、」
ラクスは、その生まれ持った天使の微笑みで、アスランを見つめる。
「貴方は私との約束を果たしていただきました。貴方は明日胸を張って、首席として
お式に望んで下さい。そして、これは貴方が勝ち取られた栄誉への、私からのお祝いです。」
ラクスはうつむいたアスランの頬を両手でそっと持ち上げると、薄いピンク色の唇を寄せた。
「でも、ここじゃあ、、」
「明日のお式が終われば、貴方はすぐにクルーゼ隊に配属されますわ。しばらくお会い
出来なくなりますから。。」
どうしてそんな事をあなたが?言い出す前にアスランの口は、ラクスに塞がれた。
いつもそうだ。ラクスは自分がそれ以上しゃべっても言い訳にしかならなくなりそうな時、
必ずキスをする。そして、優しくも一方的な快楽を与えてくれる。だけど、今日は、、
2人で一緒に気持ち良くなる事を許された日、おれが、初めてラクスの中に入る事を
許された日なんだ。。アスランは、自分の意識が全てラクスで満たされ、
2人だけの真っ白な世界に入って行くのを感じた。