「リム……見て、全部入ったよ」
汗をかきつつも穏やかに笑うトーマを見て、こわばっていたリムスレーアの表情もやわらぐ。
「……トーマ、わらわは、嬉しいのじゃ………
心から慕うものと、ひとつになれるなど、これ以上に幸せがあるじゃろうか……」
「オレも、同じ気持ちだ……」
繋がったままの状態で、ふと、目が合う。そのことも嬉しくて、トーマとリムスレーアは静かに笑いあう。
「………そろそろ、動いていいか?」
「…ああ、大丈夫じゃ……」
もう一度、目を合わせあう。それが合図となり、トーマが腰を動かし始めた。
傷つけないように、傷つけないように……そう気遣っても、彼女の秘所は、もっと激しくと要求する。
そして、自分自身も、もっと強い快感が欲しいと嘆願し始めていた。
この状態で欲望を押さえつけるのは至難の業だった。危うい天秤のような、あっけなく崩れてしまいそうなバランスを保ち続ける。
「くっ……うっ………」
「トーマ……わらわは、大丈夫なのじゃ、もっと、思うが侭に動いてくれても、かまわぬ」
この状況で、自分だってけして余裕があるとは言えないのに……
だけど、彼女の承諾が得られたのなら、躊躇う必要はなかった。
抜いて、差して、抜いて、差して。苦しそうな顔をするならキスの雨を降らせて。
自分の中で他のモノが激しく動く感覚。そして、一緒に溶けて行く感覚。
他の誰かなら決して受け入れることが出来ない。トーマだから、受け入れることができる……
獣に戻ったように求めあい、相手の名を呼び続ける。何もかも忘れてしまいそうな快感が、頂上までに達したとき、
2人は同時にイき、そして果てた――――
翌日。
リムスレーアに上手く撒かれたミアキスが、彼女を見つけたのはトーマの部屋でだった。
裸のまま抱き合う2人の姿を見て、こういう日のために研ぎ澄ました刃だ、とトーマの首に突きつけると、
リムスレーアがむくりと起き上がり、慌ててトーマをかばった。
「ひ、姫様ぁ、可愛そうな姫様、トーマくんに引き摺られていったんですねぇ……」
「違う!わらわが自分の意思でトーマに抱かれたのじゃ!」
「……姫様、正気ですかぁ?頭まであるまじろんになっていないでしょうねぇ!?」
「そなたはどこまで本気なのか!そなたは変わらぬのぅ……
大丈夫じゃ、責任はちゃんと、トーマに取ってもらうからな」
後日。
ファルーシュに付き添われて太陽宮に戻ってきたリオンは、
「戻ってきたからには、トーマくんの稽古も再開しなければなりませんね!」
と稽古場に走っていった。ファルーシュが何やら名前らしきものを叫びながら顔を真っ青にして追いかけていったが、
彼女はあまり気にしていない様子だった。
そこで彼女がみたものは、鬼の形相でトーマに襲い掛かるミアキスだった。
「あ、リオンちゃん、お帰りなさい」
「……ミアキスさま、何をされているんですか?」
「何って、トーマくんの稽古ですよぉ」
「どうみても、本気で切りかかっているように見えますが……」
「うふふふふ、責任は、ちゃあんと取って貰いますからねぇ」
事情を知るファルーシュは、トーマの心の底から同情しつつ、リオンの手を引き、謁見の間へと向かった。
数年後、ロードレイク出身の若者が新たな女王騎士長になった…かどうかは、不明である。
終わりです。
トーマの口調は6年後ということで、どんな口調になっているのか分からなかったのでこうなりました。
こんなのトーマじゃない!と言う方、ごめんなさい。
では、おやすみなさいませ。
GJGJ
トマリムはいいですねぇ。将来、ありえそうです。
>こういう日のために
ミアキスwwwwwwwww
>>898 GJ!
トーマ合掌w
さりげなく王子×リオンもいいな
>>898 なんだトーマスじゃなかったのか!
すみませんボケてみただけ。GJGJ。でもファルーシュが真っ青になった訳がわかんない読解力ない俺。
>>887 一々突っかかるのもどうかと思う。
>>883 いいですね!
禁断の愛GJ!
待ってますからまた書いてくださいな。
>>898 リムトマもイイですねぇ。
ミアキスにワラタ。こういう日のためにってw
あと王子とリオンが幸せそうで嬉しい。
王子「あっ…だめ、ルクレティア、そこっ…」
ルクレティア「うふふ、往生際がわるいですよ、王子?」
王子「ああっそこだめっ…強すぎっ…!」
ルクレティア「あら、まだやめたくなさそうな目をしてますね王子」
王子「コマゲームくらい少しは手加減してよ、ルクレティア」
ルクレティア「駄目ですよ。正々堂々やらないと」
__
何書いてんだ俺はorz
後日ってのは産まれた後?
身重なのに走ったりして大丈夫なのかってことでしょう>>真っ青
出産後だったら子供ほっぽってリオン何やってんのって話になるべ
圧倒的優位。…彼の立場を示すなら、この言葉が適しているだろう。絶対的、とも言っていいかもしれない。
己を見下ろす彼の瞳は、普段の彼のその強い光を残している。常に余裕で、乱すことの出来ない、
多くの経験に裏づけされた不動の体勢。それに比べてわたしはどうだろうか。彼が今からしようとしていること、
それを考えると身が竦む。供物が如く差し出されたわが身を、彼は恐らく、思うままに…。
「…ゲオルグ、どの」
必死に名前を呼べど、耳に届くだけで、届いて欲しいところは弾いてしまうのだろう。わたしは震えながら、
懇願するように見上げる。しかし、わたしが望むところは不条理だ。彼がわたしをこうすること、わたしが彼に、
こうされることは、彼が受けた痛みと、わたしが与えた痛みを見れば、因果応報と言える。
此処で、許して、というのはただの我儘だ。でも、わたしの、誰にも踏み荒らされたことのない、
未だ穢れの知らぬからだを、欲望と怒りの捌け口として蹂躙される…そう考えると、涙がこぼれそうになる。
彼に憧れがあったのは事実、そして、いずれはこうなっても良いと思っていたのも…。
愛し、愛されるという形で、この状況を呼べればどれだけ幸せか。
自分が招いたことを、あの時こうしていたら、と悔むのは、卑怯以外の何者でもないだろう。
「ッ…ゲオルグ、殿ぉ……」
銀光りするそれが突きつけられる。もう、逃げ場はないのだ。
その隻眼の強い輝きは、ただ発散するが為に己を貪ろうとするだろう。蹂躙し、かき回し、まるで租借するように。
彼が味わう悦楽の分、わたしはその何倍もはしたなく、己の身の悲しい仕組みに従って乱れるのだろう。
これから始まる、その手は優しく和姦のそれでも、心が心を陵辱する虚しき情交。
……でも、仕方がないのだ。わたしがしてしまったことは、こうなるに値するほどのこと……。
目を閉じて、受け入れよう。あわよくば、この痛みと悦楽を刻み込み、決して忘れぬ戒めにしよう―――…。
「…人がチーズケーキを食べようとしている横で妙なナレーションをつけるのはやめてくれないか、ミアキス殿」
「だってぇ。ゲオルグ殿が一人でチーズケーキ全部食べちゃうから悪いんじゃないですかぁ。
だからぁ……わかりますぅ?」
「…………」
苦々しい顔で、にこにこ笑うミアキスのほうに手付かずのチーズケーキの皿を押すゲオルグ。
すんでのところで止まっていたフォークを収めるも、
そのナレーションのせいで少しムラッときてしまったのか、ミアキスを押し倒してしまうのはこれから数秒後の話である。
ベルハヅって両方とも色気ない天然でエロに持って行きにくいな…。
マリハヅの百合なら割とやりやすい
純愛でもちょっと強引なのも
ごめ。マリノ無理。
しかし中の人大丈夫かw
流れ読まずにお初で4主×ミレイ投下する。
913 :
心配性?:2006/03/30(木) 15:38:11 ID:JUMZJw4P
「お出かけですか?」
「うん…そうだけど…ミレイ…」
よりによって今一番会いたくない人物に出会ってしまった、何故か?それは昨日フォーの部屋での出来事であった。
暇を潰そうとわんさかわんさか集まった男集達でやったババ抜き…チープ―との接戦との末、ジョーカーを最後に持っていたフォーが罰ゲームを受ける事になってしまったのだ…その内容とは。
「既に話はつけてある…だから発注元のラズリルの道具屋で一人一人の趣向のエロ本買って来い!」と言う極めてえげつない罰ゲームだった。
だが彼らにも人の情という物はある、ちゃんとお金を渡してくれた事だけだったが…。
「では、今日は私もご一緒させていただきます」
「い、いや…行くのはラズリルだし…僕一人で」
「いいえ!いけません!フォー様は私達、反クールーク艦隊のリーダーである御方です!そんな御方が一人で出歩くなど!」
そうは言われてもラズリルにそんな脅威は残っていないし、来られるのが本当の脅威だ…今、フォーにとっては最大の敵は女性であるミレイと言っても他ならない。
「あ、あのさ、ラズリルは…」
「何を言っても私はフォー様の護衛をさせていただきます!」
914 :
心配性?:2006/03/30(木) 15:39:03 ID:JUMZJw4P
そんな真剣な表情で見られては困ってしまう…だが一緒についてこられるともっと困ってしまう。
「ラズ…」
「護衛させていただきます!」
「ラ…」
「護衛させていただきますので宜しくお願いします!」
もう蛇に睨まれた蛙…言葉がカウンターの様に防がれて段々顔が近づいてくる。さすがに逃げるのは無理だろう…なら道具屋までついて来て貰って外で待ってもらえばいい。
「分かったよ、僕の負けだ…護衛お願いするよ」
「あ、有難う御座います!」
深々と一礼をして満面の笑みを見せるミレイ、余計な頑固さがなければいい娘なのに…とフォーは溜息をついていた。
「ラズリルは大丈夫だと思うけどなぁ…」
「安心して下さい、全身全霊を持ってお守りします」
ミレイの事は諦めるしかないだろう、後はどうやって上手く本を買い漁りかえってくるかが問題だ。フォーは目の前の問題を諦めて次の問題に移ろうと考えながらビッキ―の元に向かいラズリルに飛んでいった。
915 :
心配性?:2006/03/30(木) 15:39:35 ID:JUMZJw4P
ラズリル…フォーが拾われ育った街でもあり無実の罪を着せられ追われた街でもある。
つい最近まではフィンガーフート家により無血開城で明渡され、クールークに支配されていたが、フォーを筆頭とする解放軍によりその自由な姿を取り戻した。
「大きな袋です、一体何を買うのですか?」
「う、うん…何だろうね」
それは今から皆のエッチな本を買うんだ、大きくなくては持ち帰れない。かなり大きな袋の為に街の皆も視線をこちらに向ける。
「あ、フォーさんだ」
街を解放した英雄として知られているフォーは一度誰かに気づかれると伝染病のように伝わって街中の皆から声を掛けられる。
「フォー、そっちの女の子は恋人かぁ?」
他の人と来る時も言われる言葉…護衛だと知っている筈なのだが昔から馴染んでいる人はそうやってからかう事も少なくは無い…だが冗談だとは分かっているフォーは曖昧な笑みを返して答えるだけであった。
「わ、私が…フォー様の…」
「…何か言った?」
「あ、い、いえ!何でもありません!護衛を続けさせて頂きます!」
街の人の会話を聞いて真っ赤な顔で慌てふためくミレイ。いつも冷静な彼女しか知らないフォーには意外だった、というか何を慌てているのか分からずにいた。
916 :
心配性?:2006/03/30(木) 15:40:19 ID:JUMZJw4P
「はぁ…早く終らせないと…やだな…」
背中に背負っている大きな袋をよいしょ!と背負い直すと重い足取りで道具屋の方へ歩き出したが、ミレイが少し距離を置いてついて来るようになっていた。
「ごめんよ、あの人昔からああだから、あまり気にしないで」
「き、気にしてなどいません!寧ろその様に見てくれて嬉しいです…ってあれ…な、何言ってるの私…」
「嬉しいですって、何が?」
鈍感極まりないフォーは彼女の言葉の意味を理解できずに頭を傾げていた。だが本音を言ってしまったミレイはというと真っ赤になり、あまりの恥ずかしさに両手で顔を隠していた。
「ももも、申し訳ありません!フォー様にご迷惑をかけるような発言をしてしまって!」
「迷惑?」
何か迷惑でもかけられたかな?とまたしても鈍感な頭で考えるが、ラズリルに来てからさっきまでの間に思い当たる節が無い。
「別に迷惑なんてかけられた覚えは無いし、逆に僕は感謝しているよ」
「か、感謝…?」
「うん、いつも部屋の見張りもしてくれるし、護衛だって大変なのに自ら志願してくれてさ」
「そ、そんな…私は自分の意志でしているまでで…感謝なんて…」
フォーから顔を逸らしてミレイは困惑しているが表情は嬉しそうだった。
「だからさ、もし良かったらこれからもお願いできる?」
「私で良ければいつまでも…」
「ありがとう」
微笑を浮かべて感謝の言葉を述べると歩き出したフォーの隣にピタッとミレイがくっついて歩調を合わせると、そのまま道具屋に向かって行った。
5の影響のせいか…王○×リ○ンっぽくなってしまったがゼラセ様以外は受け付けないので悪しからず。
GJ!
>>917 GJ!だけど、「何をしているのです!早く続きを(ry」
自分も今書いてる途中だけど、なかなか筆が進まない…
そろそろネタ切れの季節なのだろうか…
まだ・・・フェリド×アルママンが・・・
星辰剣×ゼラセ様がまだだ。
もうそろそろ次スレの季節?現時点で489KBですが。
>>921 一番ありそうでこのスレではまだ出てないんだよな、パパンとママン。
どんな展開でも愛がありそうだ。
フェリド×アルや王子×リオンの王道が浮かばないで、
ゲオミアやらカイリンやらマイナーなのばかりが浮かんでくる始末だ
やっぱり神聖な王道よりも、ある程度好き勝手できる20台同士のハァハァが俺好みなのだろうか…
王道も書きたいんだけどね…。
ジョセフィーヌのエロイの書きたいけどいい相手が・・・
そういうときは萌えるカップリングを考えればいいんじゃね?
カプ厨のノリになるといいの浮かぶよ
私の場合
レインウォールとサウロニクスの交易路確立のために店の前で頭を下げて回るユ−ラム
話を聞いてすらもらえず丸一日店の前で頭を下げっぱなしとか言う状態で、ぶっ倒れているところをランとフェイレンに拾われ。
ミアキスに以前聞いた『殿方を女性がお助けするときは、裸で暖めるというのが〜』を真に受け実践してーとか言うのが色々ネタとしてあるがまとまらねえ。
>>917 gjだ…4主×ミレイ好きの濡れにとっては続きがすげー気になる…
つーかミレイ可愛いよ、ハァハァ…
コルネリオ乙
>>927 ちょっ…超みたいんだけどもwwwwww
頼んだ。本気で頼んだ。
927じゃないけど、ぬぉぉー!メモカ壊れてユーラム君の改心後の喋り方分からなくなったー!
誰か…教えて…
>>932 敬語。
「くっ…私はまだ、殿下の足を引っ張ることしかできないのか!?」
「今更罪が許されるなどとは思っていませんが
どうか、私を殿下の陣営に加えていただけないでしょうか」
みたいなテンション。細かいところはわからないけど、ルセリナと似てるよ。
頭の良さそうな喋り方というか
男版ルセリナを想定して書けばいいってことね
がんがれ
>>932 >>927も超期待してる。ユーラムとかラン絡みのやつが見てみたかったんだ
リムがユーラムと結婚なんてことになったら暴動起きるんだろうな
改心後ならリムを任せても良いとさえ思えるほどの変貌ぶりだけどな。
>>932 改心後は一人称が私になってるのがポイントだ。
あと、オボロさんの調査の三段階目まで行くと、元々はルセリナみたいな聡明さを持ってたけど、
心を病んでしまった母親の為に親離れ出来ない情けない性格を演じてるうちに
どっちが本当の自分かわからなくなったんじゃないか、って話が聞ける。
オボロさんの推測だけどね。
何かしら参考になればなにより。期待してるぜ。
埋めついでに、ふと思いついたリヒャルト→ハヅキネタ
「ハヅキさぁーーーん! ハヅキさぁーーん!!」
「なっ…!! そんな大声で私の名を呼ぶな!」
「えぇ、何でさ? ハヅキさんはハヅキさんじゃないか」
「ええいっ、寄るな! このっ、このっ!」
「あはははは、そうやって怒るハヅキさんも可愛いなぁ」
「―――…っ!! 貴様だけはこの手で殺してやる!!」
「でも、笑った方がハヅキさんはもっと可愛いと思うよ?」
「―――貴様ッ! ベルクートの前に貴様との決着をつけてやる!」
「え? それじゃあやっとキスしてくれるんだ? 嬉しいなぁ」
「ちがーーーうっ!!」
「あの…、ミューラーさん、あれ放っておいてもいいんですか?
下手をするとリヒャルトさん、大怪我しますよ?(それを防いでるリヒャルトさんも凄いけど…)」
「………あの嬢ちゃんには悪いが、俺もようやく解放されたんだ」
「……とか言いつつ、心のどこかで寂しかったりするんjy」
「殺すぞ」
…あれ? ガヴァヤ? しかもエロくないorz
リヒャルトは笑顔でさらりと凄いことを言いそうな印象がある。
まあ、ミューラーさぁんな人なので、ありえなさそうだがw
密かに萌えていたリヒャハヅがまさかみられるとは。超GJ!
呼び方は個人的に「ハヅキさん」じゃなく「ハヅキちゃん」の方が良いな。
同い年だし。
932だが、ユーラム×誰かではないから期待しないでくれ…
>>939 「ちゃん」だと自動的に「ふ〜じこちゅわぁ〜ん」に脳内変換されてしまいます。
いや、リヒャルト変なところで言葉を伸ばすからさー
アヒャルトとハヅキっ協力攻撃あるのな
リ「ベルクートさんはハヅキちゃんと仲良しなんだね、うらやましいなー」
べ「(仲良し…?)リヒャルト君はハヅキさんが好きなんですか?」
リ「うん、ミューラーさんとヴィルヘルムさんの次に好き!」
べ「……そうですか」
リヒャルトだしな。奴の世界基準はミューラーさん(と、その上司のヴィルヘルム)。
吹き荒れる嵐。風と雨が窓を叩き、輝いている筈の月は暗雲が覆い隠していた。
「お前、医者なんだろう!?何とかならんのか!」
隔離されたような山小屋の一室に、少年の怒号が響いた。
白衣の初老の男性に掴みかかり、隻眼が今にも抜刀せんばかりに殺気立ちながら
首元をつかまれた初老の慌てた姿を映し出している。
「無茶を言わないでください!この疫病は、この国には…
赤月帝国のリュウカン様なら、あるいは…」
「赤月だと?何ヶ月かかると思ってるんだ!ここは群島諸国、お前はこのあたりでも
指折りの医者なんじゃなかったのか!?」
がくがくと男の肩を揺さぶり、隻眼の少年は吠えたてる。
しかしその怒りは目の前の男が起因ではなく、彼の焦りと恐怖、そして無力感が
かき立てる、幼いものだった。
「………ゲオルグ、やめて」
ベッドから、小さく、か細い声が響く。
ゲオルグと呼ばれた、隻眼の少年はその声に振り向くと、白衣の襟元から手を離し、
軽く躓きかけながらも、ベッドに駆け寄った。
「…お医者様は、出来る限りのことをしてくださったわ…」
「だが………」
「仕方ないのよ…傭兵が、病気で死ぬなんて…っふふ、笑い話、よね」
そこの眠っていた少女の顔は青ざめ、生気といったものが抜け落ちかけていた。
病人特有のやつれ方をしているも、美しさを損なっていないその風貌が微笑む。
「お医者様…、彼が、あずけたお金は…、残りの、お金は…彼に…。
私も、彼も…身寄りが、ないん、です」
「何を……」
少女の手を取ったゲオルグは、今にも泣き出しそうな目で彼女に問い返す。
そんな彼女は、襟元を正した医師を見て、懇願した。
申し訳なさそうな、悔いたような目をして、医師は頷く。
「お前………!」
「やめて、って言った、でしょう、…ゲオルグ」
その了承は、即ち、彼女が死ぬということ。ゲオルグは再び医師に掴みかかろうとしたが、少女は制した。
「…戦場で、人が、死ぬのも、当然のよう、に…。
病気、でも……人の命をすう、紋章も…あると、言うわ。
あなたも、…お医者様も、悪くない、の……運が、悪かった、のよ」
「……何を…諦めるのか?こんな簡単に…」
「…あなた、これから…たくさん、人の命を、背負うことに、なるのよ…?
こんな小さいことで、迷ってたら、奪っていく、ときの悩みに、も…きりが、ない…」
彼女が振っていた槍は、恐らくこれから幾人もの命を奪う筈だった。
ゲオルグが振う剣も、無論のこと。
そして、今この状況は、「命が失われる」。病魔という、悪意のないソレに奪われる。
…誰を恨むこともない、潰える状況の典型だ。
はぁはぁと、やせた胸を上下させ、少女は無理に微笑み、懐かしげに告げた。
「……ゲオル、グ、おぼえてる…? む、昔、あなたが、まだ…フェリドと、一緒にいた、とき
甘いもの、嫌いだ、って…言った、のに、私…無理に、作ったチーズケーキ…食べさせ、て」
「………何を」
「でも、私、あれしか…つくれなく、て…美味しい、て言ってくれ、たとき…嬉しかった…
…ね、ねぇ、ゲオルグ…」
「もう、いい……もう喋るな…」
「……ま、また…一緒に、……チーズケーキ、食べたかった…な…」
薄い唇が、震えた声を絞り出すと、その横で、つぅ、と涙が一筋流れた。
唇が、ゆっくりと止まり、ゲオルグが握っていた手に入っていたなけなしの力が、抜ける。
…ゲオルグは一瞬、時間が止まったような錯覚を覚えた、そして。
「…嘘だろう?…目を、開け…目を開けてくれ、頼む……」
ゲオルグは、神の祈る言葉を知らなかった。静かに、医師が己の無力を悔み、そして彼女の冥福を祈った様を
背に感じながらも、体温の引いていく手を抱きしめ、縋るように泣き続けた。
一晩。ゲオルグは自らの怒りも、そして、不条理に抗えぬ己を恥じ、医師に頭を下げた。
埋葬を済ませ、金は彼女の好んだ花と、墓石を立てるに当てる。
そして礼金だけを残し、数日後、ゲオルグは忽然と、その疫病伝染を防ぐため隔離された山小屋から姿を消した。
すべての考えを受け入れる男、ゲオルグ。彼のその思想は、たった数ヶ月連れ添った傭兵の少女に影響されたものだった。
そして、彼がチーズケーキを食べるのは、その彼女のことを忘れぬようにするため。
少し焦げてしまった、決して達者とは言えなかったけれども、何より美味しかったあの味を―――
「……っていうことがあってもおかしくありませんよねぇ、ゲオルグ殿って謎が多いですしぃ」
…り、リオンちゃんに王子ぃ?つ、作り話よぉ?泣かないでぇ…」
「で、でも……有り得ない話じゃないよ、ね…うん。」
「全てを捧げてもいい女性、がいる…って聞きましたし」
「……へぇ、そうだったんですかぁ」
ふと、夜。レストランでお茶をたしなんでいたファレナ馴染みの3人が、ゲオルグについての話題を出した折。
ミアキスが想像力を働かせて作った話を、受け入れてしまえるほど、この3人はゲオルグについて
底の知れぬ、悲劇の男。という印象を抱いていたことがわかる。
リオンがぽろっと彼が零した言葉を出してしまうと、ミアキスの顔に影が宿ったが、まあ別の話。
「…ねえ、チーズケーキ、焼こうか?明日食べてもらおうよ」
「そうですねぇ…。 実際、あそこまで拘るのはきっと何かありますしぃ」
「あ、レツオウさんがレシピを持ってるみたいですよ? …でも、ゲオルグ様、どちらに行かれたんでしょう」
「ああ、ルクレティアと作戦会議だってさ。何だか、とっても大事な作戦だとか。レレイも外したみたいだし」
「へぇ…何なんでしょうねぇ」
「どうですか?ゲオルグ殿」
「ああ、美味い…すまんな、いつも」
「いえ。まあ、結構馬車馬に働かせてしまいましたし。たまには女らしいところも見せておきませんと。
伝説の剣士さまに、愛想を尽かされても寂しいですしね」
「馬鹿を言うな。何時でも、お前は事を上手く運ぶことが出来るだろう?」
チーズケーキの乗った皿と、紅茶で満ちたカップを互いの手元に置いた二人。
照明の落ちた軍師の部屋で、ルクレティアとゲオルグ…誰も想像だにしない、ひそかな、
それでいて大人な、恋愛関係、である二人の密談が交わされている。
「…それにしても、ゲオルグ殿ってどうしてチーズケーキがお好きなんです?」
「ああ、特に意味はない。子供の頃、たまたま食べてみたらはまってしまってな。今に至るというわけだ」
「そうですか…いえ、もしかしたら、私よりチーズケーキを優先するのでは?何て」
「……今は、グラスランドのそれに乗り換えてもいいかと思っているが」
「新しいものが上場してきても、浮気しちゃ駄目ですよ?」
「………ふ」
…3人の純粋な尊敬の念など知らず、伝説の謎多き剣士は軍師といちゃいちゃしていた。
伝説とか、謎とかは、時に誇張されることも多い。