いやー、メイドさんって、本当にいいものですよねぇ。
と言うわけではじめまして、よろしくお願いしますと言いつつ投下させていただきます。
オリヴァー=ウェイトリィは寝起きが悪い。
別に低血圧と言うわけではないが、とにかく起きない。
まあ、一般に貴族と呼ばれる人種は怠惰な物だ。
ましてや王族ともなれば、怠惰に怠惰を重ねて発酵してしまうほど怠惰でも仕方はあるまい。
しかし、どうしても彼に起きて貰わなければならなかった。
彼の面倒を見る。それが仕事であるが故に。
ゆさゆさ。
ゆさゆさゆさ。
ゆさゆさゆさゆさ。
「御主人様、朝でございます」
そう呼びかける声に、しかしオリヴァーは首を振り、毛布を引っかぶろうとする。
「そう意地を張らないで下さい、御主人様。もうとっくに日も昇っております」
起こそうとすれば起こそうとするほど、オリヴァーは意地を張るかのように毛布を握り締める。
「仕方ありませんね。では、最終手段を取らせていただきます」
そう言って、彼を起こそうとしていた者はオリヴァーの毛布を剥ぎとり、目蓋をひくひくさせながら目を閉じる彼の顔へと、己の顔を――唇を近づけてい
く。
古人曰く。お姫様は口づけで目を醒ます。
「ええい、やめんか阿呆っ!」
唇と唇が重なる寸前、オリヴァーはぐわっとばかりに眼を開き、今にも接吻しようとしていたその顔に拳を叩き込む。
ぐふ、と言う呻き声をもらし、しかし相手は顔を歪めることなく、涼しげな顔で言った。
「おはようございます、御主人様。朝食の用意が出来ております。お着替えとお支度が終わり次第、食堂へとおいで下さい」
鼻からだくだくと鼻血を流しながら。
背後にずらっと従者たちの居並ぶ食堂で、しかしオリヴァーは一人、朝食を取っている。
何故なら、従者と主人は同じ食卓を囲むものではないからだ。
主人が食事を取ったのを見届けた後、従者たちは別室で主人とは別の食事を取るのである。
「御主人様、スープのおかわりを」
「……ん」
「御主人様、汚れた手をお拭きください」
「……ん」
「御主人様、食後には何をお飲みになられますか」
「コーヒー」
従者たちは入れ代わり立ち代わり、主人であるオリヴァーの給仕をする。
生まれて以来ずっと繰り返されてきた光景であり、される側のオリヴァーも慣れたものだ。
……だが。
「御主人様、コーヒーをお持ちしました」
従者の持ってきたカップを受け取って一口すすり、しかしオリヴァーはそのまま俯いた。
「御主人様、お口に合いませんでしたか?」
心配そうにその顔を覗き込むのは、今朝方彼を起こしに来た従者だ。
街を歩けば10人中9人が美しいと評するであろう顔は、鼻に詰めた鼻血止めのティッシュのせいで台無しである。
「――――だ」
「はい?」
「だああああああ、もう嫌だ、こんな生活っ!」
叫びと共にオリヴァーは手にしたカップを放り投げる。
金貨数枚以上する高価なカップが砕ける音をバックに、彼は立ち上がり、背後にいる従者たちを指差した。
「何で兄貴が王城で沢山の妻やら愛人やら妾やら側室に囲まれて酒池肉林な生活を送ってるのに、俺がこんな山奥に監禁されてなきゃいけないんだっ
! それも、お前らみたいなのとっ!!」
オリヴァーが指差した従者たち。
それは、黒いワンピースに白いエプロン。長い脚をガーターストッキングに包み、頭にはヘッドドレスを付けた、所謂正統派メイドスタイルの――ロマン
スグレイのオジサマ達だった。