1 :
名無し:
とりあえず乙
dat落ちの条件って何なんだ?
どうせ一人しか書き込みしないのに新スレ要るか?
君が書けばいい
少なくともEDF2のSSに興味があるから覗きに来たんだろ?
続きまで保守するか
hosyu
定遠はまだ沈みませんか
おねがいします
死守
こちら森
負傷しました、退却しまつ
11 :
名無しさん@ピンキー:2006/02/17(金) 22:49:56 ID:9mJ3wECi
おい、この作戦に参加しているらしいぜ、あいつが。
もし本当なら、このスレ生き延びれるかも。
13 :
名無しさん@ピンキー:2006/02/18(土) 14:30:26 ID:Cf0qhEwW
差・・・さんだーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そんな御伽噺を信じるより、この場を生き残る事を考えるんだな!
オレも保守るか
保守れ
SUNだー
18 :
名無しさん@ピンキー:2006/02/19(日) 16:28:33 ID:MrKlUljW
前スレから誘導できなかったから保守age
19 :
名無しさん@ピンキー:2006/02/20(月) 22:01:45 ID:lrGJfSEp
同じく保守age。
20 :
名無しさん@ピンキー:2006/02/21(火) 15:55:36 ID:+z73ZQlD
Bダーーー
初めてだけど書いてみようかな…
23 :
21:2006/02/22(水) 08:47:20 ID:tHYdV1AB
あー、名前決めらんねー、誰か男女1人ずつ名前クレ
太郎と花子
続きまだかな?
保守
保守
保守
保守
とりあえず即死回避はなった
後はよろしく
−Inf絶対包囲一時断念を記念して−
《西暦2019年9月10日 巴里 テュールリー練兵場》
花の都、巴里。
今は破壊され、整地された上で練兵場となった公園跡地に、新設された第7混成連隊の隊員が集まっていた。
その数およそ400名。
中尉に任官した智恵理と、コンボイ曹長ことレギー・ベレッタもその中にいた。
隊の主力は30名のペイルウイングと160名の陸戦兵である。
その他に司令部、守備隊、主計部、整備班など、総勢210余の基地要員が連隊を構成する。
「中尉、見てください」
レギーが顎をしゃくり、金網を背に立っている一人のペイルウイングを示す。
短い金髪を綺麗に撫でつけたゲルマン美人であった。
冷たいが、落ち着いた大人の雰囲気を漂わせている。
「伯林の第3主力部隊にいたアイスバーン少佐。総撃破数350を越えるエース中のエースでさぁ」
撃破数が350なら、防弾パッドは240枚前後稼いでいるはずである。
初期装備を合わせると、耐久力は300を大きく越えている。
「あっちはゲイロード大尉です。陸戦兵上がりで、スコアは300以上と言われています」
2人の視線が、黒髪が美しい長身のペイルウイングに移る。
厚みではレギーにかなわないが、身長はやや低いくらい。
スーパーモデル級のプロポーションである。
「あの東洋人はライトニング大尉。東南アジア戦線のエースで、既に250は喰ってるって話です」
年齢は智恵理より少し上であろうか。
小柄だが引き締まった体は、軽量級のボクサーか軽業師を思わせた。
「すごいね。これだけエースを揃えたら負けっこないじゃない」
智恵理は素直に感心して見せた。
「なぁ〜に、中尉のセンスだって負けちゃいません。それに、この私がついてますから」
レギーは肩を揺すって余裕の笑みを浮かべる。
「頼りにしてまっせ」
智恵理は照れ臭さを隠すため、わざとおどけて見せた。
「ところで3個中隊規模で総員30名ってのはどういうことかしら?」
智恵理は想像してたより、ペリ子の姿が少ないことに疑問を抱く。
30名だとこれまでの2個小隊にも満たない兵数である。
「空戦隊スタイルを採ったんでしょう。3人一組で1個小隊、小隊3つで1個中隊なんですよ」
経験豊富な曹長が、智恵理に新式フォーメーションを説明してやる。
「隊員のインフレみたいなものなの?」
「そんな単純なモンでもありませんが……」
レギーが苦笑する。
「正直ホッとしてる。いきなり小隊長だなんて、レギーみたいなの18人も部下に持つって考えたら……」
智恵理がわざとらしく、自らの肩を抱いて身を震わせた。
「ほらっ、編成表が貼られますよ」
レギーの示した掲示板に、白い士官服を着た女性少尉が近づく。
そして丸めていた模造紙を広げると、四隅を画鋲で貼り付けた。
隊員たちが一斉に掲示板へと殺到する。
「部隊名はペガサスか。カックイイ〜ッ」
ペイルウイング各隊には正式名称の他に、ニックネームが付いている。
大抵は鳥の名前か、神話に出てくる空飛ぶ動物の名が付けられていた。
「見て見てっ、また一緒だよ」
「頑張ろうね」
あちこちで黄色い歓声や悲鳴が上がる。
溜息をついてうなだれる者があり、友人同士で抱きつく者も出てくる。
「ハイスクールの合格発表じゃないっつぅ〜の。呼ばれて来たんだから、名前があって当然じゃん」
伍長の襟章を付けた若いペリ子が、白けきった口調で言った。
智恵理も人だかりの後ろから掲示板を覗き込む。
「あった、第1中隊の第2小隊長だよ」
レギーは、と見ると同小隊の2番員であった。
「すごい、私も同じ小隊の2番員ですよ。どうして」
レギーが「よろしく」と頭を下げる。
「さぁ? 新米小隊長が不安だから、経験豊富な下士官を付けたんじゃない」
智恵理がクスクスと笑う。
まさか、最高機密を切り札に、倫敦の総司令部に脅しを掛けたなどと言えるはずもない。
「チェリーブロッサム中尉って、アンタ?」
背後から声を掛けられ、智恵理は振り返った。
そこに挑戦的な目つきの若い伍長が立っていた。
イタリア系の小柄な少女で、智恵理より1つ2つ年下に見える。
身長は智恵理よりやや低いが、お尻の位置は格段に高い。
顔の造作は充分美少女の範疇にあったが、荒んだような目が全てを台無しにしている。
ロングにしたプラチナブロンドが、サラサラと風になびいていた。
「3番員のエンジェル伍長。よろしくっ」
伍長はだらしなく敬礼すると、智恵理の答礼を待たずに手を下ろす。
それを見たレギーが眉を吊り上げた。
「おい、お前。どこで礼儀作法を習ってきたんだ?」
巨体のレギーに睨まれて、エンジェルが本能的に数歩を後ずさる。
しかし、なんとか踏みとどまると、握り拳を固めて身構えた。
「礼儀が実戦で何の役に立つっての? 行儀よくしててスコアが伸ばせるんなら、たった今からでもレディになってやるよ」
エンジェルはふて腐れた目つきで、レギーを見上げる。
「やれやれ『マイ・フェアレディ』は好きじゃないんだが、少々躾が必要みたいだな」
レギーは指をボキボキと鳴らし、冷たい目でエンジェルを見下ろす。
「入院させない程度にセーブしといてよ。いきなり欠員が出るのはゴメンだから」
智恵理が関心なさそうに注意する。
「ちょっとぉ、止めないのかよ。アンタ、小隊長だろうがっ」
どうせ誰かが止めに入るから、強気のポーズを取っておこうという計算であったらしい。
計算の狂った3番員が真っ青になるが、智恵理は相手にしない。
まさかヘビー級のレギーに刃向かうはずもないし、謝りさえすれば済むことであった。
それで後々の力関係は、ハッキリさせることが出来る。
しかし、初対面の部下の性格までは、智恵理の考えに入っていなかった。
「くっそぉ〜っ、舐められてたまるかぁっ」
驚いたことに、智恵理よりも小柄なエンジェルが、拳を振るってレギーに挑み掛かったのである。
だがレギー・ベレッタは、素人のヤケクソなどが通用するような相手ではなかった。
元女子プロレスのヘビー級チャンピオンは、小娘のパンチが届く前に襟元を掴んでいた。
そして無謀な小娘を天地逆さまにひっくり返すと、そのまま頭上に持ち上げた。
以前、智恵理も失神させられた、必殺のブレーン・バスターである。
「謝っちまうなら、今のうちだぜ」
「だっ、誰がぁ〜っ」
最後通牒を突っぱねたエンジェルの体が、背中側に移動を開始する。
「ひぃやぁぁぁ〜っ」
エンジェルが絶望的な悲鳴を上げた時であった。
傾きかけたレギーの体が止まった。
エンジェルが恐る恐る目を開けると、痩せっぽちのペイルウイング中尉が立っていた。
浅黒い顔の眉間に、赤いビンディが付いている。
ヨガの行者なのであろうか、そのインド人中尉の体には無駄というものが全くなかった。
そのくせ、全身から溢れんばかりのエネルギーを放射している。
穏やかで澄んだ理知的な目が2人を見ていた。
何を命令されたわけでもないのに、2人は自然に争いを止めていた。
「別に、ケンカしてたってわけじゃないですぜ」
「そっ、そうだよ。ちょっと力が余ってトレーニングしてただけだよ」
2人は目をキョロキョロさせて言い訳をする。
「そうなの、よかった。でも、力はインベーダーに向けて使いましょうね」
インド人中尉は微笑んだまま、穏やかな口調で言った。
「手間掛けさせちゃったみたいだね、ありがと。あたし、チェリーブロッサム」
智恵理は、身内の諍いを収めてくれた中尉に礼を言う。
「第3小隊長のマーヤよ」
マーヤ中尉は合掌してお辞儀する。
その姿に智恵理は何故かデジャブーを感じた。
「えっと……前に会ったこと……ないよね?」
中尉はそれに答えず、智恵理に顔を近づける。
ハーブの臭いが智恵理を包み込んだ。
「あなたからは、とっても良い風を感じるわ」
マーヤ中尉が智恵理の瞳を覗き込む。
「あなたは、きっと何か大切な役目を果たすためにこの世に生を受けたのね」
智恵理は中尉の澄んだ瞳に吸い込まれそうな感覚に陥る。
「花が開くその時まで、神があなたを護りますように」
中尉は再び肘を張った合掌を見せ、その場を立ち去った。
「参ったなぁ。まるで死んだマイティ少尉に叱られてるようでしたよ」
バツが悪そうに頭を掻くレギー。
レギーの呟きを耳にして、智恵理はハッとした。
先程感じた既視感の源流は、マイティ少尉の波動であったのである。
アルカトラズで悪魔の姉妹と戦った時、少尉の残留思念が流入してきたことがあった。
マーヤ中尉から流れてくる波動は、その時の感覚とダブっていた。
「不思議な魅力の人だね」
智恵理はマーヤ中尉の背中を見送りながら呟いた。
※
集合ラッパが鳴らされ、連隊員たちが規定の位置に整列した。
指揮台を正面に、右から陸戦隊1個大隊、ペイルウイング隊3個中隊、そして各種基地要員の順である。
ペイルウイング第1中隊第2小隊長の智恵理は、指揮台から見て正面やや左よりの中央部にいた。
「曹長ぉっ、ほらっ……男っ、男がいるよ」
エンジェルが目をキラキラさせて、レギーの背中を突っつく。
「みっともない真似するな」
レギーが振り返って睨み付ける。
「けど。ほら、あたし……もっ、もう……」
エンジェルが太腿をこすり合わせてもじもじする。
「バカッ、盛り気のついた雌犬じゃあるまいし」
しかし異性を意識しているのはエンジェルだけではない。
隊のあちこちでソワソワした空気が流れる。
それは陸戦兵側も同じであった。
やがて軍楽隊の演奏が始まり、隊員たちがかしこまる。
黒塗りの高級車が止まり、EDF士官服を着た上級幹部たちが降り立った。
「やべぇ、シュレッダーの奴……もう中佐かよ……」
最後に降りてきたペイルウイングの指揮官を一目見るや、レギーが顔をしかめて小声で唸る。
「誰なの?」
智恵理が小声で問い質す。
「ほら、いつか話した、陸戦兵時代の中隊長でさぁ。こいつぁ、先が思いやられるな」
「あいつが? 部下を見捨てて逃げたっていう……」
思わず声が大きくなり、周囲にいる隊員たちの視線が集中する。
智恵理は自分の鼻先に人差し指を持っていき、小さく縮こまった。
礼装した軍楽隊の伴奏に合わせて、総指揮官たる連隊長が指揮台に上がる。
「敬礼っ」
最右翼、陸戦隊の第1中隊長の号令で、敬礼がかわされる。
「諸君っ、よく集まってくれた。連隊を預かるセイバー大佐だ」
戦場仕込みの通る声が、練兵場中に響いた。
まだ30半ばという大佐の顔は、刃物でそぎ落としたように全く贅肉がなかった。
長身で厚みのある体は、大佐が実戦部隊の叩き上げであることを雄弁に物語っている。
「今、戦局は非常に厳しい。だが苦しいのは、遠征軍である敵側も同じである。先に音を上げた方が負けだ」
頷く隊員たちの体に力がこもる。
「ここで我々がどれだけ踏ん張れるかが、大戦の行方を決する。さっそく、今日から死ぬ気で励んでくれ」
連隊長の訓辞が終了し、敬礼がかわされる。
その後は司令部要員と参謀たちの紹介が行われた。
簡素な式典が終了し、隊舎において各隊ごとにミーティングとなった。
陸戦隊とペイルウイング隊は、互いに未練がましく視線を絡め合い、それぞれの隊舎に別れていった。
※
人数の少ないペイルウイング隊は、本館の戦術演習室に集められた。
「指揮官のシュレッダー中佐だ。実の姉と思って、何でも相談してくれ」
ペイルウイング指揮官のシュレッダーが自己紹介をする。
「プッ、ちょっと厚かましいんじゃない? せめて実の母ぐらいにして貰わないと」
トラブルメーカーのエンジェルが、さっそく悪口を開く。
聞こえなかったのか、無視したのか、シュレッダー中佐は他の幹部の紹介に移る。
「副官のフォルテシモ少尉。EDF士官学校を首席で卒業したばかりだ」
中佐が自分の片腕を紹介する。
先程、編成表を貼っていた少尉である。
「よろしく……」
大人しそうな少尉の声は、コードネームとは逆にピアニシモであった。
元は世界的に有名な、天才少女ピアニストだという。
報道番組のバックに流れている勇壮なペイルウイングマーチも彼女の作である。
その後、第1中隊長アイスバーン少佐、第2中隊長ゲイロード大尉、第3中隊長ライトニング大尉が紹介される。
各中隊長はそれぞれの第1小隊長を兼任し、戦場では先頭に立って戦うリーダーである。
幹部紹介が終わると、中隊ごとのミーティングに移った。
アイスバーン少佐は、隊員たちを中庭のテラスに誘った。
「基本戦術要覧では各小隊長が攻撃を、2、3番員はその援護を、と規定されています」
少佐が落ち着いた調子で隊員の顔を見回す。
2番員、3番員の隊員たちが、露骨に嫌な顔を見せた。
自分たちはファイターであり、ボディガードではないという自負心があった。
ペイルウイングの自意識の高さは半端ではない。
「しかし戦闘は、階級や職名で行うものではありません。戦場では実力だけが全てだと心得なさい」
少佐が顔色一つ変えずに続けた途端、立ち込めていた嫌な空気が霧散した。
「ヒャッホゥ。話が分かる中隊長でよかったぜ」
自信家のエンジェルが飛び上がって喜ぶ。
「但し、個人的な欲求のために、全体の足を引っ張る者は、容赦なく切り捨てます」
一瞬で、皆が静まりかえる。
「独断専行でチームを危険に陥れた者を処罰するため、これまでに3度この手を不名誉な血で汚しました」
少佐のアイスブルーの瞳に影が差し、全員が黙り込んだ。
「それでは午前中はこれまでにします。午後からは訓練を行うから、標準装備で練兵場に集合のこと」
再び沈黙が流れる。
レギーが智恵理の脇腹を突っついて、右手をこめかみに当てるジェスチャーを送る。
「ん? あ、そうか……敬礼っ」
次席指揮官である智恵理の号令で、ミーティングが解散となった。
※
午後からの訓練は、もっぱら中隊単位のフォーメーション変換に重点が置かれた。
「V字疎開隊形、作れっ」
アイスバーン少佐の号令とともに、3人一組の小隊がめまぐるしく飛び交う。
「どっち行くの」
「ぼやぼやするなぁっ」
これまでとは勝手の違う、3人組での部隊行動に、隊員たちがまごつく。
それでなくとも、初顔合わせが済んだばかりで、慣れないチームメイト同士なのである。
互いの気心も、また技量も分からない。
V字疎開隊形は、デルタとも呼ばれる基本的な隊形である。
小隊長を先頭に、左後ろに2番員、右後ろに3番員を配し、正三角形を描く。
小隊長が攻撃し、後方に並んだ2番員と3番員がそれを補佐、援護する。
そして中隊単位では3個小隊が大きな三角形を作り、頂点にいる第1小隊を第2、第3小隊がカバーする。
それが基本的な中隊戦術である。
しかし隊形を保っての戦闘など、奇襲攻撃を掛ける時──しかも最初の1、2撃だけに限られている。
乱戦になると、ものを言うのは、やはり個人の技量であった。
それでも隊形変換、方向変換などのドリルは、チームワークを高めるのに役立つ。
それに個人の習熟度を量るには、もってこいであった。
ベテランとルーキーの差は歴然としていた。
ベテランは次に自分が飛ぶポイントを的確に計算し、最小限度のユニット噴射で直線移動する。
それに比べて、ルーキーは基準点を探しながら飛行するので、余計なエネルギーを浪費する。
その僅かな差が、実戦に置いては命取りになりかねない。
ほとんどのプラズマ兵器は、そのエネルギーの源を飛行ユニットと共有している。
これまでにも多くのルーキーが、ユニットの無駄噴かしが原因で、未帰還者の列に加わっているのである。
「中隊、密集っ」
横一列に並んだ中隊員が、一斉に銃口を連ねる。
「遅いっ。何回やったらまともに組めるの?」
アイスバーン少佐の冷酷な檄が飛ぶ。
「次っ。一線疎開隊形、作れっ」
それぞれ教育隊で訓練を詰んでいるはずなのに、若い伍長の練度はやはり低かった。
敵の攻撃をかわすのに必要最小限度の飛行と、敵を撃破するのに必要最小限度の射撃。
無駄をそぎ落とした技術を身につけるには、やはり100回の訓練より1回の実戦が有効と言えた。
「今日はこれまで」
夕闇が辺りを包み始めた頃、ようやくアイスバーン少佐のお許しが出た。
「敬礼っ」
智恵理の号令で、中隊員が敬礼を行う。
アイスバーン少佐は不機嫌そうに答礼すると、踵を返して待機所の方へと去っていった。
「きっつぅ〜っ」
エンジェルをはじめ、若手の隊員が悲鳴を上げる。
シレッとしている智恵理やマーヤ中尉とは、如何にも対照的であった。
実戦形式の訓練となると、基礎体力の高さだけではどうにもならない。
無駄な力が入っていると、体力はどんどん削られてしまうのである。
「こんなので大丈夫なのかよ。シャキッとしろ、陸戦兵のお兄さんたちが見てるぞ」
レギーが気合いを入れると、渋々立ち上がる若い隊員たち。
初日からヒィヒィ言っている連中を見ていると、智恵理の心にも不安が影を落とす。
「中尉っ、隊舎に戻らないんですか?」
レギーがへばっている第1小隊のフェアリーとマリンカを、子猫のように摘み上げた。
「うん。アルカトラズで少々体がなまってる。もうちょっと走っていくよ」
智恵理が駆け出すと、マリンカが吐き気を催して口を押さえた。
「あたしたちがしっかりしなくちゃ」
智恵理は30分ほど走り込むと、今度は手にしたレイピアを使ってシミュレーションの訓練に入る。
突き、薙ぎ、斬るの攻撃動作を連続させた、型の訓練である。
智恵理の型は、ペ科練で教わった10個の基本型をベースに、独自のスタイルを取り入れたオリジナルである。
所々にユニットを使った側転回避が織り込まれていた。
それが、あの『伝説の男』の動きを真似たものであることは言うまでもない。
「変わったシミュレーションね」
気が付くと背後にアイスバーン少佐が立っていた。
少佐も手にレイピアを持っている。
「これだと最小限のブーストで、緊急回避が出来るんです」
『伝説の男』についての説明は省く。
どうせ信じてもらえないと分かっていた。
「私はそんな曲芸みたいな動き、好きじゃないわ」
少佐は氷のような目で智恵理を見る。
自分のスタイルを否定され、智恵理が鼻白んだ。
「けど、これって実戦では有効なんです。それに、人にはそれぞれ合ったスタイルがあると思います」
智恵理に反論されても、アイスバーン少佐は表情を動かさなかった。
「それじゃ、一つお手合わせ願おうかしら」
少佐は模擬戦を申し出る。
「よぉ〜し」
やってやると智恵理は意気込んだ。
最低出力に押さえられた6本のプラズマが銃口から迸った。
無論、人体に当たれば只では済まないので、寸止めルールである。
「お願いしまぁ〜す」
そう言うやいなや、智恵理はユニットを噴かして突っ込んだ。
「でやぁぁぁ〜っ」
間合いの取り合いも糞もない。
まどろっこしい名人戦は、智恵理の好みとするところではなかった。
智恵理のチャージアタックを、少佐は瞬きもせずに絡め取る。
プラズマとプラズマがぶつかり、激しく反発した。
眩い光に、少佐の目が細められる。
「もらったぁ〜っ」
智恵理が必殺の三段突きを繰り出す。
ユニットを断続的に噴かし、ホップ、ステップ、ジャンプを見せる智恵理。
しかし智恵理が最後のジャンプを終えたとき、2人の間合いは最初と同じだけ開いていた。
得意技をあっさり捌かれ、智恵理が一瞬呆然となる。
その隙を逃がさず、少佐の反撃が開始された。
たちまち防戦一方となる智恵理。
無駄のないステップと突きが智恵理を追い詰める。
苦し紛れに宙に逃げると、少佐は最短距離で智恵理の着地予想地点へ回り込む。
智恵理が感覚と反射に頼った動きをしているのに比べて、少佐の動きは予測と計算によって成り立っていた。
視線、顔の向き、重心の位置──少佐から見れば、智恵理の全身は、動きを予想するデータに満ちていた。
更に少佐は智恵理の動きの癖を見つけ、回避と攻撃のパターンを統計立てて記憶する。
智恵理が2、3手先を読んでいるうちに、少佐はその遥か先まで読むことが出来た。
智恵理の鼻先にプラズマの剣が突きつけられるまでに、5分を要しなかった。
まさかの完敗であった。
少佐がプラズマを納め、レイピアの安全装置を入れる。
アイスブルーの目には、勝ち誇る色など微塵もなかった。
「いいこと、真のエースには、紙一重で危険を回避する技術なんて不要なの。そんな状況に陥るなんて、それだけで戦士として失格だわ」
それだけ言うと、少佐は夕闇の中に消えていった。
43 :
名無しさん@ピンキー:2006/02/25(土) 13:07:32 ID:sV+Q0wk0
第二部復活オメ乙
なんとリアルで奮闘中でしたか
安心してください、漏れなんはハードの絶対方位も中断したままでつw
知らぬ間に再開
しかもいつの間に2に
乙であります
「ふぅぅ〜っ」
ペイルスーツとブーツを脱ぐと、智恵理は自室のベッドに倒れ込む。
目を瞑ると、レイピアを振るうアイスバーン少佐の姿が浮かんできた。
蝶のように舞い、蜂のように刺すという表現がある。
しかし少佐の動きは、そんなものとは次元が違った。
フェイントやカウンターといった小細工は一切使わない。
最短距離を使った直線攻撃を仕掛け、相手がミスをするのを待つ。
そして、ここぞと言う時に、稲妻のような一撃をお見舞いする。
これまで出会ったエースたち──お局様、神楽中尉、バルキリー大尉、そしてニッキーとパリス、その誰とも違って見えた。
「騎士の戦い方なんだ」
智恵理が天井を見つめたまま溜息をつく。
「上には上がいるもんだなぁ。もっともっと練習しなくちゃ」
それなりに自信があった智恵理だったが、今やそんなものは微塵に砕かれてた。
悔しがることすら、おこがましいと思った。
智恵理が2度目の溜息をついた時、遠慮がちにドアをノックする音が聞こえた。
「開いてるよ」
智恵理が答えると、ドアが開いて食器を乗せたワゴンが入ってきた。
「夕食をお持ちしました」
メイド服を着た少女が、ペコリと頭を下げる。
薄茶色の巻き毛がふんわりと揺れた。
「専属従兵のベアトリーチェ・ベリーニです。一生懸命お仕えしますので、よろしくお願いします」
名前からするとイタリア系なのであろうか、高価なフランス人形みたいな美少女であった。
士官と言っても、駆け出し少尉などは士官公室での雑居生活を強いられる。
中尉となった智恵理は、個室ばかりか専属の従兵まで持てる身分に出世したのである。
「EDF幼年学校の生徒さんなの?」
「はい。今、2号生徒、13歳です」
幼年学校は、EDFの将校候補を育成するための教育機関であり、12、3歳の少年少女が2年間席を置く。
卒業後は士官学校に入り、その後将校となりEDFの中核を担うことになっていた。
ベアトリーチェが、危なっかしい手つきで、食器をテーブルに並べていく。
「中隊のみんなと一緒に食べるから、わざわざ部屋に持ってこなくてもいいのに」
智恵理が照れ臭そうにベアトリーチェに礼を言う。
「いけません。将校が下士官用の食堂なんかに入ったりしては、シュレッダー中佐に叱られます」
ベアトリーチェが怯えたように制する。
「そんな……この21世紀に、士農工商じゃあるまいし。関係ないよ」
智恵理が思わず吹き出しそうになる。
「ダメです。中佐はとても厳しい方です。お願いですから、お立場をわきまえて下さい」
ベアトリーチェが必死で首を振る。
「あたしは士官学校卒じゃないから、そういうの苦手だな。ちょっと行ってくるよ」
少々意固地になった智恵理は、スモックを羽織ると自室を出ていった。
※
下士官食堂へ入ると、賑やかな話し声があちこちから聞こえてきた。
「食事はこうでなくっちゃ」
智恵理は自分の中隊の溜まり場を探す。
レギーの巨体は直ぐに目に入ったが、エンジェルは何かの当番についているのか姿がなかった。
さっそくテーブルに近寄って声を掛ける。
「みんなへばってたけど、その様子じゃ大丈夫のようね?」
智恵理に気付いた隊員たちが、一斉に立ち上がって敬礼した。
第3小隊のハロウィン軍曹が席を勧める。
「どうしたの? みんな座ってよ」
突っ立ったままの隊員たちに声を掛けると、レギーが号令を掛けた。
「お言葉に甘えまして。休めっ」
全員が一礼してから着席した。
緊張したような、よそよそしい空気が流れる。
「やだなぁ。みんな昼間の元気はどうしたのさ? マリンカ、気分悪そうにしてたけど、もういいの?」
白磁器のような肌をしたロシア人少女が、立ち上がって気を付けする。
「もう大丈夫です。ご心配お掛けして、申し訳ありませんでした」
マリンカが一礼して着席する。
「いいわねぇ、若いって。って、そう言うあたしもまだ17なんだけど」
智恵理が一人でウケるが、テーブルの空気は張り詰めたままであった。
流石に鈍感な智恵理も、自分が浮いていることに気付く。
「そっ、それじゃあたし帰るから。風邪ひかないようにね」
智恵理が腰を上げると、全員が立ち上がって敬礼をした。
答礼をして回れ右すると、レギーが見送ってくれた。
ダイニングの出口まで、2人とも無言であった。
「周囲じゃなく、あなたの立場が変わったんです。ここは地方の前線基地とは違いますから」
ドアの手前まで来て、初めてレギーが口を開いた。
「お辛いでしょうが。偉くなるってのは、孤独なモンなんでさぁ」
無言で頷く智恵理。
振り返ると、若い隊員たちがホッと胸を撫で下ろしていた。
それを見た智恵理は、もうここには二度と来るまいと心に誓った。
※
士官公室も宴たけなわであった。
「中尉っ、チェリーブロッサム中尉」
自室へ帰る途中、智恵理は若い少尉たちに捕まった。
若いと言っても、みんな智恵理と同い年か少し上である。
「中尉っ、まぁ一杯」
真っ赤になって酔っぱらったバーディ少尉が、智恵理にワイングラスを持たせる。
「あたし、未成年だし……」
「なぁ〜に憲兵みたいなこと言ってんすかぁ」
拒絶しようとした智恵理だったが、シュリンプ少尉が許さない。
「そうだよ、エース様がなに遠慮してんです」
「しかし士官学校も出ないで、もう中尉だなんて、運がいいよな」
「あやかりたいモンだぁ」
新米少尉たちが大笑いする。
「運がいい……か……」
レポーターを背負って蟻の群れに取り囲まれたり、多脚歩行戦車ダロガと撃ち合いをしたり、妖術使いのような能力者とデスマッチすることが運がいいと言えるのだろうか。
気を悪くした智恵理は、グラスに注がれた赤ワインを一気に飲み干した。
そしてグラスを返すと、罵声を無視し、無言で士官公室を後にする。
「コウモリみたい」
鳥にも獣にも仲間に入れて貰えない、哀れなコウモリに自分をなぞらえる智恵理。
この基地のどこにも、自分の居場所がないような気がした。
※
自室に帰ると、食事にカバーが掛けられていた。
従兵のベアトリーチェの姿はない。
カバーを取ってみると、下士官食堂とは全く違った豪華メニューが並んでいた。
空腹のはずなのに、食欲は湧いてこない。
無理に飲んだワインのせいにしたかった。
ドアがノックされ、申告と共にベアトリーチェが入ってくる。
「洗濯物がございましたら、お出し下さい」
ベアトリーチェが防水加工されたバッグを差し出す。
その変に声が震えているのを、不審に思った智恵理が顔を上げる。
ベアトリーチェの目が真っ赤に腫れ、涙が滲んでいた。
「どうしたの?」
智恵理の問い掛けにも、ベアトリーチェは無言で首を振るだけで答えようとしない。
「何があったの? 言いなさい」
智恵理が厳しく問い詰める。
「わっ、私が……中尉殿を、お止め出来なかったから。シュレッダー中佐殿が……」
そこまで言ってベアトリーチェがしゃくり上げ始めた。
「お仕置きされたの?」
思いもしなかった出来事に、智恵理が狼狽える。
自分の行動が、中佐に見張られているようなのも不気味であった。
「大丈夫なの? ちょっと見せてみて」
智恵理が立ち上がると、ベアトリーチェはお尻を押さえて後ずさった。
「跡が残ると大変だから」
智恵理はベアトリーチェをベッドに寝かせると、スカートを捲り上げ、パンティを下ろす。
真っ白なヒップに、ミミズ腫れが数本走っていた。
サディストの中佐にムチでぶたれたようである。
小さなお尻をまじまじと見ているうちに、智恵理はムラムラしてきた。
「中尉……殿?」
智恵理の視線に不安を感じたのか、ベアトリーチェが肩越しに怯えたような顔を見せる。
「痣になったら大変だ」
智恵理がベアトリーチェのヒップに舌を這わせた。
ビクッと身を震わせるベアトリーチェ。
「中尉っ、いけません」
逃げようとするヒップを、智恵理が抱え込む。
「任せといて」
智恵理は微笑むと、処女雪のようなヒップに顔を埋めた。
※
翌朝、智恵理は目を覚ますと、激しい頭痛を覚えた。
胃がムカムカし、吐き気がする。
「ワインのせいだ」
昨夜初めて飲んだアルコールが、まだ体の中に残っているような気がした。
「あったま痛ぁ〜」
智恵理は頭を左右に振って、顔をしかめた。
その瞬間、智恵理の目にとんでもないものが飛び込んできた。
自分の左横に、裸のフランス人形が横たわっていたのである。
「ベアトリーチェ?」
それは専属従兵のベアトリーチェであった。
人形ではない証拠に、まだ膨らみ始めたばかりの胸が、呼吸に合わせて上下していた。
「ん……うぅ〜ん?」
智恵理の気配を察したのか、ベアトリーチェが目を覚ます。
「あっ、中尉殿。おはようございます」
智恵理と目を合わせたベアトリーチェが、頬をバラ色に染めて恥ずかしそうに俯く。
「えっ、えぇ〜と。おはよう」
訳が分からず、智恵理が対応に窮する。
「昨日は素敵でした。最初が中尉殿でうれしい……」
ベアトリーチェが智恵理の胸に顔を埋めてきた。
智恵理は、自分が取り返しのつかないことをしてしまったと悟った。
責任を酔いに転嫁することが、今度は従兵の心を傷つけてしまうことも分かっていた。
「朝ご飯の用意しますね」
ベアトリーチェはテキパキと身繕いをし、一礼して部屋から出ていった。
ベッドのシーツに、少女が女になった証跡が残っていた。
「最低だわ……」
智恵理は天井を見上げて自己嫌悪した。
※
本日は行事は予定されておらず、朝食の後、智恵理は通常業務に掛かるため、本館の士官室へ向かった。
下士官兵には朝6時に起床してから、点呼、体操、掃除と慌ただしい日課が待っている。
それに比べて、士官の待遇は貴族のようなものであった。
自室でシャワーを浴びた後、豪華な朝食をゆっくり取り、掃除すら従兵がやってくれる。
課業についても下士官兵が、訓練や労働を課せられるに対して、士官はエアコンの利いた部屋でのデスクワークだけである。
「経験不足は新任少尉も同じなのに。小隊を率いる小隊長こそ訓練が必要じゃないの」
快適な部屋では、新任のバーディ少尉たちが談笑していた。
全員が白い夏用の士官制服である。
ペイルスーツを着込んだ智恵理だけが浮いて見えた。
「流石はチェリーブロッサム中尉。常に臨戦態勢ですか」
智恵理に気付いたバーディ少尉が立ち上がり、シニカルな笑顔を見せた。
金ボタンのダブルのジャケットとミニのタイトスカートには、染み一つ無かった。
「そっちの格好の方が、兵隊たちにはウケがいいんでしょうねぇ」
シュリンプ少尉も智恵理を皮肉るような台詞を吐く。
彼女たちの目には、士官学校を出ていない上官への敵意が溢れていた。
「あたし、白い服だと直ぐに汚しちゃうから。制服はパーティー用に取ってあるんだ」
智恵理は「売られたケンカは買います」とばかりに、同年輩の少尉たちを睨んだ。
「アラベスク少尉。昨日の訓練じゃ、ヒィヒィ言ってたようだけど。そんなので中隊長のセカンドが務まるの?」
智恵理が、第1小隊の2番員であるアラベスク少尉に顔を向けた。
セカンドとは各第1小隊の2番員のことで、中隊長の直援を受け持つ重要ポストである。
通常は下士官上がりの准尉をもって充てられ、隊内で最高の実力者と目される。
本来なら、士官学校出たてのアラベスクなどに務まるポストではない。
エースであるアイスバーン少佐には、護衛など不要と言わんばかりの人事であった。
「そりゃ、中尉みたいなペ科練出身者は、ずっとペリ子やるしかないから、訓練しとかなきゃいけないでしょうけど」
半泣きになったアラベスクに代わって、バーディがしゃしゃり出てくる。
「私らは直ぐに総司令部や参謀本部に転勤して、中尉たちをアゴで使う立場になるんでね」
バーディが挑戦的な目つきで智恵理を睨む。
「それまであなたが生き伸びていればね」
智恵理は冷たく言い放ち、真っ青になったバーディの脇を通って自分のデスクに座った。
朝イチから揉め事になり、智恵理は陰鬱な気分になった。
「なんで味方同士で、こんな余計な諍いしなくちゃならないの。准尉の頃に戻りたいよ」
まだアルコールの影響が残っており、頭が割れるように痛かった。
窓から練兵場を見ると、先任下士官であるレギーの指揮で訓練が始まるところであった。
一緒に汗を流せばスッキリするのであろうが、次席指揮官の彼女には、やるべきデスクワークが山積していた。
それに昨夜のこともあり、皆の輪の中に入っていく勇気もなかった。
ぼうっと窓の外を見ていると、指揮官であるシュレッダー中佐が入ってきた。
「お早うございますっ、中佐殿」
若い士官たちが立ち上がって挨拶をし、朝礼が始まった。
現在の戦況がフォルテシモ少尉から報告される。
各戦線とも劣勢、もしくは膠着状態が続いていた。
壁に貼られた世界地図の全域に、「戦況不利」を意味する赤い印が付けられている。
時期が来れば、智恵理たちの部隊も出撃し、疲弊した部隊と交替になるであろう。
今はその日が待ち遠しかった。
戦っていれば、余計なことを考えずに済む。
「最後に一つ──」
智恵理が気がつくと、朝礼が終わりかけていた。
「昨夜、士官であるにもかかわらず、下士官食堂などに出入りした者がいる。心当たりのある者は分別をわきまえて、今後、軽はずみな行動を取らないよう。以上」
智恵理の頭に血が昇った。
気がついた時には椅子から立ち上がっていた。
「部下の気遣いをすることが、どうして軽はずみなことなんですか?」
智恵理は言ってしまってから後悔したが、もう遅かった。
「なんだぁ貴様は? ふん、貴様がチェリーブロッサム中尉か。我々は士官である」
中佐が不愉快そうに目を細める。
「気を遣うのは部下である下士官兵の方だ。貴様も士官なら士官らしくしろ」
中佐は汚物でも見るような目で智恵理を睨め回した。
その瞬間、智恵理の頭の中で、レギーが話してくれたシュレッダーの悪行が蘇った。
中佐には自分が逃げるために、小隊一つを平然と生け贄にした過去があるのである。
彼女にとっては下士官兵の命など、チェスの駒みたいなものなのであろうか。
「抵抗も出来ない従兵を、ムチでお仕置きするのも士官のたしなみですか?」
智恵理の目が怒りに燃えていた。
シュレッダー中佐の顔から血の気が引き、士官室がしんと静まりかえる。
「貴様……Xナンバーだからって、調子に乗るなよ」
剥き出しになった前歯は、レギーに教えて貰った通り、全部差し歯であった。
その歯の隙間から、Xナンバーの語彙が漏れ出した途端、今度は智恵理の顔が真っ青になった。
ニッキーとパリスの無惨な死に様が、脳裏に蘇ってきたのである。
士官室の空気が凍りつき、冷たい殺気が渦巻いた。
不機嫌そうに目を閉じていたアイスバーン少佐が、椅子から立ち上がろうとした時であった。
静寂を破るように、通信室からの緊急電がスピーカーから流れ出た。
「東京に巨大生物が出現しました。EDF総司令部から支援出撃の要請が入っています」
通信員の声は、パニックのためか完全に裏返っていた。
第2弾乙であります
55 :
名無しさん@ピンキー:2006/03/07(火) 01:15:20 ID:WRfD7wt6
続き期待age
つ@@@@
57 :
名無しさん@ピンキー:2006/03/09(木) 18:06:56 ID:jh0FSvGv
乙であります!
今日やっとこさでINFオールクリアを果たしますた。
思念力も糞もない、只の体力頼みのガチンコ勝負でしたが。
これでやっと停泊地獄の毎日から解放されるw
《西暦2019年9月12日 東京上空》
東京へと急ぐジェット輸送機の機中で、智恵理は固く目を閉じて腕組みしていた。
コンボイ曹長は、支給されたばかりのダイナストXの点検に余念がない。
エンジェル伍長は、レーザーランスBを後頭部にあてがって寝息を立てている。
キャビンにいるのは、チェリーブロッサム小隊3名だけであった。
手持ちの兵力を温存しつつ、一方で総司令部の要請に応えようというシュレッダー中佐の魂胆であった。
今回は、敵を倒しても極東支部の手柄になるだけである。
大事なエースにもしものことがあったら、取り返しのつかない損失になる。
そこでチェリーブロッサム小隊、3名のみの派遣となったのだ。
日本は智恵理の出身国であり、「故郷に錦を飾らせてやろう」というのが人選の理由であった。
しかし気に食わない智恵理に重荷を負わせようという本心は、誰の目にも明らかだった。
「ごめん、レギー」
「ん?」
急に謝られて、曹長が眉を上げた。
「あたしが中佐を怒らせたばっかりに」
智恵理が溜息をつく。
「中尉が私より嫌われてるとは思いませんが。なんせ奴を差し歯にしてあげたのは、この私なんですからね」
曹長がクククッと笑った。
「よしましょうや。二人っきりの時にまで、変にけじめを付けなくてもいいでしょう」
曹長がエンジェルの寝顔に視線を移す。
起きている時は生意気な彼女も、寝顔は天使のように可愛かった。
「こいつらがいる時にゃ、上下の関係をハッキリさせとく必要がありますが」
顔つきも、アルカトラズ時代のものに戻っていた。
「中尉は、いざという時には、我々に『死ね』って命令を出さなきゃならん立場ですから」
「分かってる。普段から馴れ合ってると、いざと言う時、厳しい命令が出せなくなっちゃうからね」
智恵理が寂しそうな作り笑顔を見せた。
「特別報道です。宇宙生物ソラスが東京に向かっています」
埋め込み式になったテレビが、報道番組を流し始めた。
「見て下さい、全長は40メートルにもなります。幾つもの町を焼き払った恐ろしい魔獣が再び出現したのです」
金髪のTVレポーターが、カメラに向かって厳しい顔を見せていた。
その直ぐ後ろには、宇宙生物ソラスの巨体が迫っている。
自らの体を対比スケールに使って、ソラスの巨大さを伝えようという積もりなのか。
逃げ腰になったカメラマンの腕が振るえて、画面が小刻みにブレていた。
「あぁっ、あの人。確か倫敦で死にかけてた……」
アップになった深刻そうな顔が、智恵理の記憶巣を刺激した。
「まだレポーター止めてなかったんだ」
智恵理はその根性に感心する。
「突撃ジェミーと知り合いなんで? 向こう見ずなレポートが受けて、最近じゃ結構な人気者ですよ」
レギーが意外そうに智恵理を見る。
「デビューが一緒なのよ、彼女とは」
智恵理は自分の初陣となった『第一次倫敦降下作戦』をホロ苦く思い出す。
画面が切り替わると、焼け野原になった下町が映し出された。
息を飲む智恵理。
「ひでぇ……」
そこには地獄の風景が広がっていた。
※
陸戦兵によるAS−19改の一斉射撃が始まった。
しかし全長40メートルの宇宙生物は、軽く一吼えしただけで歩みを止めない。
「くそっ、なんて奴だ」
代わってゴリアス−2が火を噴くが、ソラスの皮膚を貫通することは出来なかった。
「駄目だ。我々の武器ではソラスを倒すことは出来ない」
陸戦兵たちの顔が恐怖に歪む。
そこへキャタピラの音を立てて、ギガンテス主力戦車の一群がやって来た。
頼もしい仲間の到着に、陸戦兵たちの間から歓声が上がる。
「俺たちに任しときなっ」
戦車砲が一斉に動き出し、ソラスに照準を合わせる。
「てっ」
指揮官車の射撃を合図に、8門の戦車砲が次々に巨弾を吐き出した。
音速を超える早さで撃ち出された120ミリ砲弾が、ソラスに命中して大爆発を起こす。
しかし、戦車砲をもってしても、ソラスを沈黙させることは叶わなかった。
宇宙怪獣の皮膚は、絶え間なく降り注ぐ宇宙線すら防ぐ強靱さがあるのだ。
孤高の進撃を続けていたソラスが立ち止まり、戦車隊に向けて身を屈めた。
次の瞬間、ソラスの口から紅蓮の火炎が吐き出された。
「ギャァァァーッ」
地獄の業火が戦車隊を飲み込んでいく。
搭乗員が蒸し焼きになり、続いて車体が大爆発を起こした。
「冗談じゃねぇ、逃げろぉっ」
「馬鹿野郎、踏み止まれっ。踏み止まって撃ちまくれぇっ」
大混乱になった陸戦兵たちに向かって、2度目の火炎放射が吐き出された。
「グェェェーェッ」
「グワァァァーッ」
ソラスから逃げようとした陸戦兵たちが、次々と業火に灼かれた。
皮肉なことに、その場に踏み止まろうとした者たちだけが、ソラスの股間の死角に入り無事であった。
しかし、その命も、僅かばかりを長らえたに過ぎなかった。
その一瞬後には、突進を開始したソラスに蹴散らされ、戦友たちの後を追うことになった。
※
「うわっ、すっごい」
VTOLから地上のソラスを見て、智恵理があんぐりと口を開けた。
上空から見ても、全長40メートルの巨体は充分恐怖に値した。
「いけないっ、陸戦兵が追われてる」
ソラスが巨大なツノを、地上スレスレまで下ろして陸戦兵を追いかけ始めた。
そしてツノを振り立て、先端に引っ掛けた兵士を蹴散らす。
屈強の陸戦兵たちが、紙屑のように宙を舞った。
「2人ともっ、イクよっ」
智恵理が先頭に立ち、出撃ハッチから宙に身を躍らせる。
愛用のレイピアは肩に背負い、代わりにサンダーボゥ20を構えた。
飛行ユニットで加速し、一気に間合いを詰める。
射程距離に入るや、智恵理はサンダーボゥ20のトリガーを引き絞った。
20本の蒼い稲妻が、ソラスの後頭部で火花を散らす。
立ち止まったソラスがゆっくりと振り返り、ビルに降り立った智恵理たちの姿を認めた。
「サンダーボゥ20が効かない?」
ソラスは体ごと智恵理たちの方に向き直る。
その隙に、命を救われた陸戦兵たちが、クモの子を散らすように逃げまどう。
「ふざけんなよ。あんな化け物、双葉理保でも連れて来て相手させろや」
不平を言うエンジェルの顔は引きつっていた。
「エンジェルはビルの上から、レギーは地上から、立体的に攻撃して。あたしは空中から遊撃を掛けるから」
とにかく陸戦兵が安全圏に逃げ切るまで、ソラスを釘付けにしておかないといけない。
「火炎攻撃に気をつけること」
智恵理は部下に指示を与えると、飛行ユニットを噴かして宙に舞い上がった。
眼前を横切った智恵理を目で追うソラス。
その横っ面を引っぱたくように、エンジェルのレーザーランスBが襲いかかる。
ソラスがエンジェルに向き直ると、今度はレギーの粒子砲が下腹部にヒットした。
身を屈めたソラスが、レギー目掛けて全力噴射で火炎を吐く。
レギーは素早く股間の死角に潜り込み、炎の奔流をやり過ごした。
その時にはソラスの背後に回り込んでいた智恵理が、後頭部へ一撃をお見舞いした。
「いける」
三位一体となった立体攻撃は、功を奏するかに見えた。
しかし、天を仰いだソラスが一際高く咆哮した瞬間、智恵理の表情が強張った。
「なっ、何? 何なの?」
智恵理の脳髄に、宇宙生物の思念が流れ込んできた。
戦闘状態に入ると同時に溢れ出た脳内分泌液が、智恵理の脳下垂体を活性化させていたのである。
「お前は……そうなの?」
飛行ユニットがシャットダウンされ、智恵理が力無く緩降下し始める。
サンダーボゥ20が、その銃身をダラリと下げてあらぬ方向を向いていた。
「中尉っ、どうしたんです?」
急に戦意を喪失した智恵理を見て、レギーが駆け寄ってきた。
「この子はエイリアンの手で無理やり地球に連れてこられたんだよ。見慣れぬ風景に戸惑い、みんなの攻撃に怯えているだけなんだよ」
流入してきた思念から、智恵理はソラスの置かれた現状と、その感情を知ってしまった。
「おいっ。アンタ、頭は大丈夫なのか?」
智恵理の秘めた能力を知らないエンジェルが、顔を真っ青にさせる。
「ほら、あんなに空に向かって啼いて。自分の故郷の星に帰りたいんだよ」
巨獣はその巨体と怪力を、破壊の道具としてインベーダーに利用されているに過ぎない。
更に興奮剤を打たれている可能性もあった。
いずれにせよ、事情を知ってしまった智恵理には、もうそれ以上ソラスを攻撃することは出来なかった。
ひとしきり咆哮したソラスが再び進撃を開始した。
進む先には巨大なガスタンク群が夕日に映えてそそり立っていた。
「ダメェ〜ッ。そっち行ったら」
智恵理が両手を広げてソラスの前に立ち塞がる。
しかし智恵理の思いなど、巨獣に通じる訳もなかった。
「危ねぇっ」
レギーが飛行ユニットを噴かして、智恵理を横抱きにかっさらう。
ギリギリの所をソラスのツノが掠めていった。
そのまま直進したソラスがガスタンクに激突した瞬間、もの凄い爆炎が巻き起こった。
それでもソラスの足は止まらなかった。
智恵理は無駄と知りつつも、飛行ユニットを全開にしてソラスを追いかける。
「どうしちまったんだよ、小隊長は?」
エンジェルが唇を尖らせて、レギーに説明を求める。
「中尉にはソラスの心が分かるんだよ」
レギーは何か薄ら寒いものを感じた。
智恵理が空間認識力において、異常なまでの鋭さを持っていることは知っていた。
テレパスや予知能力に近いモノを身につけていることも、薄々感じていた。
しかし異星の巨獣と交感出来る能力となると、レギーの理解の範疇外であった。
「独りぼっちが心細いだけなんだよね。自分の星に帰りたいだけなんだよね」
智恵理がソラスに縋り付かんばかりに寄り添うが、本能のままに突進していく巨獣の耳には届かない。
「あぁっ、お願いだから大人しくしてっ。あなたの体はそれ自体が兵器なの」
木造の家屋が次々に踏みつぶされ、立木が炎に崩れた。
「中尉っ、もういけません」
前方に、態勢を整え直した陸戦兵が、ライサンダー1を構えて防御線を張っていた。
「お願いっ、撃たないでぇっ」
叫ぶ智恵理が、レギーに押さえ込まれる。
ライサンダー1が吼え、ソラスの腹部に無数の火花が散った。
さしもの巨獣も歩みを止める。
「やったか?」
頭を垂れる巨獣の姿に、陸戦兵の指揮官が指をパチンと鳴らした。
安堵したのも束の間、次の瞬間、ソラスの口が大きく開かれ、紅蓮の炎が走り出た。
火炎地獄が陸戦兵を薙ぎ払う。
陸戦兵の1個中隊が一瞬で土に還った。
逆襲を終えたソラスは、何事もなかったように進撃を再開した。
「いけませんや中尉。前方の教会の敷地内に孤児院があります。まだ避難が済んでないそうです」
本部の通信を傍受したレギーが顔を曇らせる。
「何をモタモタしてんだよ。早く逃げねぇと、アイツに踏み潰されちまわぁ」
エンジェルがヤキモキしたように、前方の教会を睨み付ける。
教会の敷地内には、取り残された子供たちがまだいるのだ。
だが陸戦兵の1個中隊ですら敵わない魔獣を相手に、エンジェルに打つ手はなかった。
「こんのヤロォーッ」
叫び声とともに、エンジェルがソラスの足元に飛び出した。
「やいっ怪獣っ。こっちだ、こっち」
エンジェルが大きく手を振って、ソラスの注意を引こうとする。
しかしソラスは、エンジェルなど目に入らないように進撃を続ける。
「くそっ、これでも喰らいやがれぇっ」
レーザーランスBが唸り、ソラスの胸元にヒットする。
それでも巨体の動きは止まらない。
「エンジェル、無茶するな」
レギーがエンジェルを引き戻そうと首根っこを掴む。
「放せぇっ、お前なんかに孤児の気持ちが分かってたまるかぁ」
エンジェルがレギーを睨み付けて叫んだ。
その目にはうっすら涙が滲んでいた。
「おめぇ……」
レギーの手が思わず緩む。
気を逸らした次の瞬間、2人の体はソラスに蹴散らされていた。
「レギー。エンジェル」
部下のピンチを前に、智恵理が息を飲む。
「ソラス、お願いだから大人しくして。でないと、あたし……」
智恵理は必死でソラスに呼び掛けた。
しかし智恵理の願いは、我を忘れたソラスには届かなかった。
教会まで、後わずかの距離であった。
智恵理の体が急上昇に入った。
そしてソラスの頭を飛び越えたと思うと、鮮やかなループを描く。
燕返しで身を翻した智恵理は、そのままソラスの首根っこに跨った。
そしてサンダーボゥ20を捨て、持ち替えたレイピア・スラストを延髄部に押し付けた。
一瞬の沈黙の後、眩いプラズマが炸裂した。
「許して。みんなを守るためには、こうするしか……」
不死身のソラスが脳髄を灼かれ、断末魔の叫びを上げる。
「ごめん、ソラス。あなたには力がありすぎるの」
智恵理の目から涙が溢れてきた。
ソラスの動きが完全に止まり、やがてゆっくりと地面に崩れ落ちた。
「すごい、あの巨大な宇宙生物を一人で倒すなんて。あの人は一体……?」
エンジェルの声が震えていた。
ユニットを切った智恵理が、静かに地面に舞い降りる。
ソラスの硬い皮膚に手を触れてみても、もうピクリとも動かなかった。
何の罪もない、ただ無理やりこの地に連れてこられただけの巨獣が、故郷から遠く離れた星で命の終焉を迎えた。
「許さない。この事だけでも、あいつら許せない」
インベーダーへの憎しみを燃え上がらせて、智恵理が下唇をギュッと噛みしめる。
夕闇の迫る中、長大な一本ツノが天空に向かってそそり立っていた。
智恵理には、それがまるで墓標のように思えた。
双葉理保wwwwwwwwwww
大美人乙
69 :
名無しさん@ピンキー:2006/03/17(金) 05:17:06 ID:O6prE4Ar
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
長大な| ちんこ | が天空に向かってそそり立っていた。
|_____|
∧∧ ||
( ゚д゚)
/ づΦ
70 :
名無しさん@ピンキー:2006/03/17(金) 22:10:40 ID:SmXTj00r
盛大にズレてますが。
保守
『宇宙怪獣を単独撃破!』
『無敵!PW隊』
翌日の朝刊の1面は、智恵理を讃える見出しで埋まっていた。
『チェリーブロッサム中尉1人の戦力は、機甲連隊に匹敵する』
とは誇張が過ぎたが、東京師団が全戦車を投入して倒せなかったソラスを、彼女が単独撃破したのは事実である。
対比に使われた陸戦隊にとってはたまったものではない。
といって海外メディアを含め、世論は陸戦隊を攻撃したりはしなかった。
ソラスの恐ろしさは、前大戦において充分過ぎるほど思い知っていたからである。
そのお陰で、智恵理は陸戦兵から恨みを買わずに済んだ。
むしろ前線の兵士からは、命の恩人として感謝の念を持って迎えられた。
しかし幾ら讃えられても、智恵理は笑顔を見せなかった。
ソラスの暴走を止められなかったことに対する、自責の念があったのである。
「あたしが未熟だったから。死ななくてもいいソラスを死なせてしまったんだ」
ソラスの思念を受けることが出来たのなら、自分の思念を伝えることも出来たのではないかと智恵理は悔やんでいた。
事情を知らない世間は、一向に偉ぶる様子のない智恵理を見る度に、その奥ゆかしさを讃えた。
智恵理が地元日本の出身であったことも、熱狂をヒートアップさせた要因であった。
EDF極東総司令部からの個人感状授与をはじめ、種々の公式行事が相次ぎ、連隊本部への帰還は遅れに遅れた。
ようやく解放されて帰途についたのは、任務終了の5日後のことであった。
楽しみにしていたハミングバード隊との再会は、遂に叶わなかった。
同期生たちは今、東南アジア戦線で激戦の真っ只中にいるという。
「生きていさえすれば、きっとまた会える日が来るわ」
智恵理は同期生の無事を祈りながら、故郷日本を後にした。
※
「エンジェル、格好良かったよ。ソラスの前に捨て身で飛び出した時」
ここ数日、浮かぬ顔をしていた智恵理が、ようやく笑顔を見せた。
「誰かのために命を懸ける……一番格好良くて、一番難しいことだよ。あなたのこと誇りに思ってる」
智恵理は窓にもたれて富士山を眺めていた3番員を讃えた。
「よっ、よせよ。あたしは他人から褒められんのに慣れていないんだ」
エンジェルが頬を赤らめて眉を吊り上げる。
喧嘩っ早くて協調性がない、そんな性格が彼女の生い立ちによるものか、先天的なものかは分からない。
しかし智恵理は、自分の3番員が真のペイルウイング・スピリットの持ち主であると分かっただけで満足であった。
一方のエンジェルにも、ようやく理解できたことがあった。
あの強くて恐ろしいコンボイ曹長が、何故年下の中尉なんかに心酔しているのか。
何のことはない、チェリーブロッサム中尉は、曹長よりも更に強くて恐ろしいのである。
互いを少しでも知ることが出来たのなら、この遠征は無駄ではなかったと言えよう。
機がフランス上空に差し掛かったころ、智恵理はEDF参謀本部への出頭命令を受け取った。
ソラス撃破の功により、勲章の授与が行われるという。
智恵理はげんなりしたが、公式行事をキャンセルすることは出来ない。
巴里への着陸は中止され、智恵理たちはドーバー海峡を越えた。
《西暦2019年9月18日 倫敦 EDF参謀本部》
参謀本部はEDFの軍令を司る中央統轄機関である。
参謀総長は実戦部隊の元締めである総司令長官の上位にあって、EDFを構成するピラミッドの頂点に位置する。
名実共にEDFのナンバー1たる存在である。
その参謀総長が直々に勲章を授けたいというのだから、余程今回の件が嬉しかったのであろう。
苦戦続きにより厭戦気分が蔓延する中、兵の士気を盛り立て、市民の動揺を押さえ込む必要もあった。
「精鋭ペイルウイング隊がある限り、EDFは決して負けない」
マスコミはこぞってペイルウイング隊を褒め讃え、市民の熱狂は最高潮に達している。
風評操作に苦慮していた参謀本部にとって、智恵理のソラス撃破は渡りに船の快挙であったのだ。
智恵理の叙勲式は、ウエストミンスター寺院の大聖堂において執り行われた。
お歴々の居並ぶ中、壇上へ進み出た智恵理は、参謀総長アン王女直々の叙勲を賜り、両頬にキスを受ける栄誉を拝した。
アン王女は英王室の出身で、王族の習わしとして英軍に入る代わりに、EDFを選んだ変わり種である。
出自もさることながら、元々軍事に天賦の才があったのであろうか。
数々の武勲と明晰な頭脳を武器に出世し、30過ぎには参謀総長の座に納まっていた。
王女は三十路に入った今も独身で、そのお陰なのかまだ20代半ばで通用するスタイルを保っていた。
髪はくすんだ色の金髪、常にイタズラっぽく笑った目が魅力的である。
聞くところによると、ペイルウイング隊の設立も元は彼女の発案だという。
上層部では数少ない、ペイルウイング贔屓の1人と目されていた。
「ご苦労様。この次も頑張ってちょうだい」
アン王女はニッコリと微笑むと、ケープを翻して立ち去っていった。
軍楽隊が勇壮なペイルウイングマーチを奏でる中、智恵理は夢心地で壇上から降りた。
その後、レギー・ベレッタ曹長は特務曹長に、エンジェルことチチョリーナ・ロッシ伍長は軍曹に、それぞれ一階級特進する旨の通達があった。
※
式典の終了後、智恵理は参謀本部の作戦第1課長に乞われ、彼の執務室を訪れていた。
「本当なら貴官も大尉任官で良かったんだが」
智恵理にとっては、そんなことより部下の昇進の方が嬉しかった。
勝利は小隊のものと考えていた智恵理は、ここに来てようやく部下の功績が認められたような気がした。
もう一つ、智恵理を喜ばせる出来事が待っていた。
「なにぶん、功績を上げる度に貴官を昇進させていたら、直ぐに大将になってしまうと脅す者がいるのでな」
課長が手で指し示したソファーに、白い制服姿の女性士官が座っていた。
「うちの諌言どす。結構、当を得ておりますやろ?」
毛先を外巻きにした艶やかな黒髪が振り返る。
「綾……さん?」
そこに座っていたのは、ペ科練同期生の一条綾であった。
「お久しゅう」
にっこり笑った綾の胸元に、智恵理は頭から飛び込んでいった。
「智恵理はん、オーバーや」
みんなと別れてから、まだ2ヶ月半しか経っていないのに、もう何年も会っていないような気がした。
「アルカトラズは竜宮城やおまへんやろ?」
気が付くと、綾の制服には、参謀飾緒と大尉の肩章が着いていた。
「そっか、綾さん知ってるんだ。実験小隊のこと」
智恵理は自分の身に起こった変化を、綾が既に知っていることを悟った。
同期生に化け物扱いされるのは耐えられそうにない。
「そりゃ、ヒラとは言え、本部の作戦課に席を置く参謀どすさかい」
今度は綾が寂しそうな顔付きになった。
一旦本部の参謀になれば、除隊するまでその身分から離れることは出来ない。
それは、綾がもう二度とペイルウイングとして、同期生たちと同じ戦場で戦えないことを意味していた。
「ところで、近々大きな作戦がありますさかい」
綾がいきなり話題を変えた。
「これまでは敵の攻撃に合わせて、防御するだけどしたけど、今度は攻めに回ります」
立ち上がった綾が資料をテーブルに広げる。
「これが東京に出来たインセクト・ヒルどす。これを破壊して、これ以上アリが増殖するのを食い止めます」
写真には、周囲の高層ビルを圧する巨大な蟻塚がそびえていた。
「抵抗は相当に激しいだろうね」
兵士の顔に戻った智恵理が、目を爛々と輝かせる。
「今、うちの3課が情報を収集してはります。攻撃の時には智恵理はん、頼みましたで」
智恵理は同期生に向かって力強く頷いた。
《同日夕刻 巴里 第7混成連隊本部》
「ワハハハッ、やってくれたなチェリーブロッサム中尉。お陰で我が隊の株は鰻登りだ」
智恵理など死んでも構わないと考えていたことも忘れ、シュレッダー中佐はご機嫌で迎えてくれた。
「次席閣下がな、私に直接電話をよこしてなぁ。『良くやってくれた』なんてお褒めの言葉を頂いたぞ」
中佐の頭の中には、総司令部に対して点数を稼ぐことだけしかないのである。
アイスバーン中隊長に戦闘詳報を提出し、ようやく智恵理に日常が戻ってきた。
中隊長は一言「ご苦労様」と声を掛けただけで、直ぐに視線をデスクに戻した。
※
隊舎に戻った途端、智恵理は寂寥感に包まれた。
若い少尉たちの顔には、あからさまな妬みの感情が滲んでいる。
下士官兵は以前にも増して智恵理を畏怖し、敬遠しているようである。
ここでは智恵理はソラスと同じ、独りぼっちであった。
自室のドアを開けると、中から人の気配がした。
「だれっ?」
智恵理が部屋に入るのと、ベアトリーチェが絨毯の上から立ち上がるのが同時だった。
怯えた表情のベアトリーチェが、手にしていた物を背後に隠す。
「何してたの? 今隠した物、見せなさい」
ベアトリーチェはイヤイヤをして後ずさる。
従兵がここで何をしていたのかは明白であった。
可愛い膝小僧の辺りに、咄嗟に上げ損なったパンティが絡まっていた。
それに気付いたベアトリーチェの目に、みるみる涙が溜まってくる。
智恵理が腕を取ると、従兵の手に一枚のパンティが握られていた。
「これ、あたしのね? 洗濯するって言ってたじゃないの」
ベアトリーチェがその臭いを嗅ぎながら、自慰行為に耽っていたことは言うまでもない。
「それで何してたのか、正直に言いなさい。お洗濯も出来ない従兵はクビにするわ」
智恵理が冷たく言い放つと、従兵はしゃくり上げながら告白を始めた。
「ベッ、ベアトリーチェは……中尉様のパンティを……クンクンしながら……オッ、オナニーしていましたぁ」
最後の方は泣き声になっていた。
「そんないけないコトする従兵は、お仕置きするのが規則よ」
智恵理が腕を捻ると、ベアトリーチェは簡単にベッドの上に崩れた。
乱暴にスカートを捲ると、新雪のようなお尻が顕わになった。
肩越しに怯えた顔で見上げてくるベアトリーチェを見ているうちに、智恵理の脳下垂体が熱くなってきた。
左脳の働きが抑制され、攻撃本能が智恵理の理性に覆い被さる。
ベアトリーチェにのし掛かった智恵理が、純白のお尻を左右から鷲掴みにした。
「いやぁ〜ん」
さして嫌そうでもなさそうに、ベアトリーチェが眉をひそめる。
智恵理は彼女のお尻を左右に大きく割ると、顕わになったピンク色のアヌスにむしゃぶりついた。
「はぅっ」
アヌスを乱暴に吸われ、ベアトリーチェの手がシーツを固く握り締めた。
智恵理の舌先が、綺麗に整った菊の花弁に沿ってなぞり上げる。
「そっ、そんなとこ」
ベアトリーチェのアヌスが早くも反応を見せ始める。
アヌスがキュッと締まる度、白いソックスを履いた爪先がギュッと内側に折り畳まれる。
興奮したアヌスが自然に半開きになる頃には、ベアトリーチェは身も心もトロトロになっていた。
智恵理が舌先を固めて、アヌスの中にくぐらせる。
「ひぃやぁぁっ」
背筋に電流でも走ったような感覚に、ベアトリーチェが身を仰け反らせた。
その拍子に智恵理の下顎が上がり、伸ばしていた舌先を軽く噛み切った。
「あたし……また……」
冷静さを取り戻した智恵理が自己嫌悪に陥る。
しかし、肩越しに振り返り、期待の籠もったような視線を投げ掛けてくる従兵を見ているうちに、別の感情が湧き上がって来た。
「お前も1人でお留守番して、寂しかったんだね」
智恵理は再びベアトリーチェのアヌスにキスをすると、中指をそっと潜り込ませた。
「はぅぅっ」
小さなアヌスがキュッと締まり、智恵理の指を締め付けてくる。
「ほらっ、ココをこうすると……気持ちいいでしょ」
智恵理は指先で裏Gスポットを探り当てると、コリコリと刺激をしはじめた。
「こっ、こんなのって……いやぁ〜ん」
ベアトリーチェの碧眼が、まぶたの裏側へと入り込む。
「ふぅむぅぅ〜っ」
鼻から大きく息を吐き出したベアトリーチェが、身を震わせて失神した。
生まれて初めてアヌスでイッたのである。
本人は失神してるのに、アヌスだけは独立した生物のように、智恵理の指を何度も締める。
智恵理は指を抜くと大きく足を開き、失神したままの従兵の顔を股間に持っていく。
「ベアトリーチェ、これが恋しかったんでしょ。さぁ、タップリ味わうといいわ」
目を覚ました従兵は、鼻先に智恵理の股間を見つけて驚く。
そして愛おしそうに舌先を伸ばし、黒々とした毛に覆われた部分を舐め始めた。
テクニックは稚拙であったが、相手に喜んで貰おうという奉仕の精神に富んだ舌遣いであった。
「うぅっ」
智恵理の膝がベアトリーチェの頭を挟み込み、ブルブルと震えた。
ここ1週間ほどオナ禁状態にあった智恵理は、アッという間に登り詰めてしまった。
「今度は、あたしのお尻を可愛がってちょうだい」
智恵理は手探りで枕元の引き出しを開けると、中から支給品のベルト付きディルドゥを取りだした。
従兵にディルドゥを装着させローションを塗りたくると、自分は四つん這いになって尻を突き出す。
「あぁ、中尉様ぁ」
ベアトリーチェは智恵理のアヌスにキスをすると、中心部にディルドゥの先端を押し付けた。
そしてこわごわと腰を前に突き出していく。
既に開発されている智恵理のアヌスは、易々とヴァギナ用のディルドゥを受け入れた。
股の間から覗き込むと、黒光りする張り型がズブズブと沈み込んでいくのが見えた。
「あぁっ、入ってくるわ。あたしベアトリーチェに犯されてる」
アッという間に根元までくわえ込んだ智恵理は、しばらくジッとして感触を楽しむ。
アヌス周辺の筋肉が完全に解れるのを待って、従兵に動くよう指示した。
「あぅぅっ。そう、そこ……あなた、上手い……ヒィィッ」
ベアトリーチェが腰を引く度、大きく張り出した亀頭が腸壁を掻きむしる。
ディルドゥが前進する度、アヌスがググッと押し広げられる。
その度、智恵理は狂おしいまでの快感に悶え狂った。
「イクっ、イクぅっ。アヌスでイッちゃう〜っ」
智恵理がベッドに突っ伏し、ヒップが一際大きく痙攣した。
気が付くと、ベアトリーチェが不安そうな顔で見ていた。
「あなたのペニス……素敵だったわ」
智恵理に褒められ、ベアトリーチェが恥ずかしそうに頬を染める。
「あたしってMの素質あるのかな? いっつも部下や後輩に犯されて楽しんでるみたい」
可愛い従兵も可愛がってやらねばならない。
幸いなことに、秋の夜は長いのだ。
※
その一週間後、遂にペイルウイング・ペガサス隊に出撃命令が下された。
長期の戦闘で疲弊しきったドラゴン隊に替わり、智恵理たちが倫敦防衛にあたるのである。
「おい、倫敦だぞ倫敦。私のこれまでの苦労が認められたんだ」
シュレッダー中佐が気の狂れたようにはしゃぎまくる。
参謀本部や総司令部など、EDFの中枢が集まる倫敦は世界の首府でもある。
その防衛を任されたということは、上層部に実力を認められたということに他ならない。
苦労はともかくとして、シュレッダー中佐がはしゃぐのも無理はなかった。
綾の情報により、てっきり東京行きだと信じていた智恵理は拍子抜けした。
「まだ、インセクト・ヒルの解析が済んでないのかな。場合によっちゃ倫敦からの直行もあるな」
いずれにせよ、長期の出撃となると、ベアトリーチェにもしばらく会えそうもない。
巴里に来て、ようやく手に入れた心の安らぎを失うのは辛かった。
しかし、戦闘に参加できる喜びは、それを大きく上回っていた。
「いい子でお勉強してたら、また呼んであげるから」
ベアトリーチェたち専属従兵は、ペガサス隊の出撃に伴い実習を中断し、一旦幼年学校に戻ることになった。
「ご武運をお祈りしています。あたし中尉様のこと、クラスのみんなに自慢してやりますから」
つぶらな瞳に涙を浮かべてお別れの挨拶をするベアトリーチェ・ベリーニ生徒。
「今度帰ってきたらBBって呼んであげる」
「クラッシック・スーパーカーみたい」
ベアトリーチェは嬉しそうに微笑み、もう一度智恵理にしがみついた。
情報操作する第三課……。
ヨハネ?
ヨハネ?
とにかく乙です
83 :
名無しさん@ピンキー:2006/03/31(金) 01:40:27 ID:S7aPzwPj
ほしゅ
干す
《西暦2019年10月2日 倫敦》
ペイルウイング・ペガサス隊が倫敦に到着してから、早1週間が経過した。
その間、倫敦周辺に現れる巨大甲殻虫を相手に3度出撃し、毎回ワンサイドゲームで勝利した。
特にアイスバーン少佐率いる第1中隊、ペガサス1の活躍はめざましく、全スコアのうち3分の2を占めた。
智恵理は第1小隊の若手2人、アラベスク少尉とマリンカ伍長の経験不足を危惧していたが、全ては杞憂に終わった。
エース中のエースであるアイスバーン少佐は、自分の護衛を逆に守る余裕すらもって敵と渡り合ったのである。
「生きて戦場から帰りさえすれば、ルーキーもいずれエースに成長する」
それが彼女の持論であり、智恵理はその考えに感銘を受けた。
一流のエースである少佐は、また一流の教育者でもあった。
その日も智恵理たちペガサス1は、倫敦に出現した巨大甲殻虫の掃討作戦に参加した。
敵の数が少ないこともあり、戦いは終始優位に進んだ。
若手にスコアを稼がせるように、配慮する余裕があったほどである。
ベテランが追い込んだ巨大アリを、ルーキーがとどめを刺す要領で、中隊での総スコアは20を数えた。
ペガサス1が一人の犠牲者も出さず、帰途につこうとした時であった。
「倫敦上空に新たな敵ですっ」
イヤーレシーバーから、中隊副官フォルテシモ少尉の声が漏れ出た。
フォルテシモは指揮官シュレッダー中佐と共に本部のオペレータ室に詰めており、実戦部隊をサポートしている。
「方位、西北西。高度500。敵機、間もなく直上」
隊員たちが一斉に空を見上げると、1機のキャリアーが市街地に侵入してくるところであった。
倫敦市街上空で停止したキャリアーが、腹の下から巨大生物兵器を吐き出し始めた。
「新種の巨大生物です。注意してください」
フォルテシモ少尉の警戒警報が飛ぶ。
キャリアーの腹から落下してきたのはいつもの黒アリではなく、見るもおぞましいクモの化け物であった。
「ひぃぃっ」
その醜い姿が生理的に受け付けないのか、若い隊員たちが早くも逃げ腰になる。
兵器の容姿をも武器に使おうという敵の意図であるならば、それは戦術的に大成功であった。
巨大なクモは毛むくじゃらの8本足を蠢かせながら続々と落下し、市街の一角を占拠していく。
初めての敵を相手に智恵理も咄嗟に対処出来ず、アイスバーン少佐に視線を向ける。
頼みの少佐は若い隊員に負けないほど青ざめ、その場に棒立ちになっていた。
「少佐?」
智恵理は少佐の様子を気遣い、声を掛けてみる。
しかし少佐からの反応はなく、なんの指示も出ないままであった。
少佐の膝が笑っているのが、背後からでもハッキリと分かった。
「少佐、戦闘指揮を。少佐?」
再度の呼び掛けに、ようやくアイスバーン少佐が我に返った。
「よっ、よし、デルタ50」
少佐の指示に従い、ペガサス1は50メートル前進して三角形に展開した。
その時、中隊の動きに合わせるように、巨大クモの一団が一斉に反応した。
巨大な体からは想像も出来ぬ身軽さで、クモの群が鮮やかな跳躍を見せる。
「キャァァァーッ」
真っ先に悲鳴を上げて逃げ出したのは、中隊長アイスバーン少佐であった。
「少佐ぁっ」
思いもしなかった事態に、ペガサス1の隊形がメロメロになる。
そこへクモの尻から飛び出た、粘性の毒糸が襲いかかってきた。
「いっ、糸がぁっ」
「ヒヤァァァ〜ッ」
先頭に立っていたアラベスク少尉とマリンカ伍長が糸に絡め取られる。
2人はあっという間に体力を奪われてグッタリとなった。
「中距離戦闘、開始。ファイヤー」
少佐に代わって智恵理が攻撃命令を出した。
糸を吐いている大クモに向け、サンダーボゥ20が稲妻を投げかける。
さしもの化け物も絶命して仰向けに転がった。
レギーとエンジェルが駆け寄り、すかさず2人を救出する。
「熱ぃっ」
粘糸に触れた途端、宇宙繊維で作られたグラブの指先がブスブスと煙を上げた。
クモの糸には強烈な酸性が含まれているのだ。
「レギーとエンジェルは2人を後送して。後の者はあたしの指揮で戦闘続行」
指揮権を継承した智恵理が、中隊員に指示を出す。
「一旦間合いを取ろう。隊形このまま、バック80」
今や4人きりになったペガサス1が、小さなデルタ隊形を保ったまま後方に退く。
その後を追うように、白い毒糸が飛行機雲のように伸びてくる。
着地とともに智恵理は第3小隊のハロウィン軍曹とフェアリー伍長にサンダーボゥ20を準備させた。
「撃てぇっ」
各銃20本ずつ、合計40本の稲妻が宙を切り裂く。
「密集部分を狙って」
サンダーボゥ20の連射が次々にクモに命中する。
絶命した敵は逆さまにひっくり返って、なお嫌らしく足を蠢かせた。
エネルギー切れになったサンダーボゥ20が、チャージモードに入り一瞬沈黙する。
「バック50」
3人の隊員たちが指示に従い、智恵理を残して後方に飛び下がる。
それを追うように数匹のクモが大きく跳躍した。
唯一人、その場を動かなかった智恵理が真上にジャンプする。
頭上を飛び越えようとした大クモに向け、レイピア・スラストが一閃した。
柔らかい腹部を切り裂かれ、大クモが断末魔の悲鳴を上げて地面に転がる。
紫色の返り血が智恵理のペイルスーツを台無しにした。
着地した智恵理は、今度は皆と反対方向に大きくジャンプする。
2つのチームが交互に囮になる『シザース』と呼ばれる戦術である。
クモの群が智恵理に釣られて方向を変えた頃には、ハロウィンたちのサンダーボゥ20はチャージを完了していた。
2丁のサンダーボゥ20が射撃を再開する。
背面から襲われたクモの集団は、次々とひっくり返って絶命した。
上空のキャリアーが再びクモを吐き出し始めるのを見て、智恵理は撤退を指示した。
「バック300。ステップ3」
100メートルずつ、3度に分けて300メートルを一気に後退する。
クモの群を避けつつキャリアーを落とすには狙撃銃が必要であった。
「マーヤ中尉、しばらくお願い」
智恵理は第3小隊長のマーヤに指揮を任せると、自分は中隊長を探しに向かう。
クモの第2陣は待機していた陸戦隊第9班に任せることにする。
アイスバーン少佐は2ブロック先のビル陰に、隠れるようにしゃがみこんでいた。
自分の両肩を抱いて、小娘のようにガタガタと震えていた。
うずくまった足元には、真新しい水たまりが出来ている。
「少佐っ、どうされたのですか? 隊をほっぽり出すなんて、少佐らしくありません」
智恵理は少佐を驚かせないよう、声を掛けながら近づいていった。
「ごめんなさい。ダメなの……クモだけはダメなの」
少佐の歯がカチカチと音を立てた。
絶句した智恵理のイヤーレシーバーから第9班の無線が流れてきた。
「こちら第9班、巨大生物が襲ってきました!」
「こいつら、俺たちを食うつもりだぞ! 糸で絡め取って俺たちを食う気なんだ!」
「おい! 落ち着け! 取り乱すな!」
「俺は食われない! 絶対に食われない!! クソ! 糸、糸が うわぁーっ」
ガリガリというノイズが聞こえ、やがてそれもプッツリ切れた。
再び静けさが周囲を支配する。
先に沈黙を破ったのはアイスバーン少佐であった。
「子供の頃ね、森で毒グモに噛まれて酷い目にあったことがあるの」
少佐が右のロンググラブを捲って上腕部を晒した。
そこには見るも無惨な痣が出来ていた。
「それ以来ダメなの。クモを見ただけで、あの時のことが頭に浮かんで……」
固く閉じられた少佐の両目から、涙が糸を引いてこぼれ落ちた。
「クモ恐怖症……」
智恵理は掛ける言葉も見つからずに絶句した。
クモ恐怖症の者にとって、今度の新手は天敵同然と言えた。
実は智恵理も少佐ほどではないにせよ、クモが大の苦手である。
身の丈よりでかいクモなど、見ただけで吐き気を催す。
だが、今ここで少佐に戦線を離脱される訳にはいかない。
「クモは少佐にとって憎い仇なんですね。それじゃ、あたしもたった今から、クモ嫌いになります」
アイスバーン少佐がゆっくりと顔を上げ、智恵理を見詰めた。
「だって、あたしたちの大事な少佐に、そんな酷い傷をつけたクモなんて許せません」
智恵理は眉毛を逆立てて憤慨した。
少佐がキョトンとした顔で智恵理を見た。
「にっくい仇を討つチャンスじゃないですか。昔の借り、この際まとめてお返ししてあげましょうよ」
智恵理はわざと脳天気に笑って見せた。
「あたしが一緒に手伝いますから。ねっ」
智恵理はしゃがんで少佐の顔を覗き込んだ。
「あなた……分かった。やってみる」
少佐の顔に赤みが戻り、口元がわずかにほころんだ。
何とか立ち上がったものの、跳梁跋扈する大クモの姿を見た途端、少佐の気力が再び萎えかける。
少佐の足元がぐらつき、智恵理がしっかりと抱きかかえてやる。
「少佐、行きますよ。あんな虫けらにいつまでも怯えてちゃダメです」
少佐の頭がゆっくり、しかしハッキリと頷いた。
「このヤロォーッ。よくも少佐をっ」
ユニットを全開にさせた智恵理が、まっしぐらにクモの群に突っ込んでいく。
遅れまじと、アイスバーン少佐もそれに続いた。
「ヤァァァーッ」
裂帛の気合いとともにレイピア・スラストが振り回され、辺りの大気が紫に染まった。
少佐は目を瞑ってレイピアを振るっているのか、何度か智恵理の体をプラズマが掠めた。
気が付くと、いつの間にか大グモの第2波は全滅していた。
「少佐、少佐っ。やりました。全部片づきましたよ」
智恵理に呼び掛けられて少佐が目を開くと、辺り一面に大グモの死体が転がっていた。
「これでもう大丈夫。どうってことなかったでしょ?」
少佐の涙でグショグショになった顔がようやくほころんだ。
そこに隊員たちが駆けつけてきた。
「みんなご免なさい。もう大丈夫だから」
落ち着きを取り戻した指揮官を見て、中隊員がホッと胸を撫で下ろす。
少佐にはこれまでの恩こそあれ、恨みなどあろうはずもなかった。
「アラベスク少尉とマリンカは手当が早かったので、軽傷ですみました」
戦線に復帰したレギーが少佐に報告する。
「私のせいだわ。後で2人に謝らなくては」
アイスバーン少佐の顔が厳しくなる。
「けど、その前に敵を全滅させましょう。ハロウィン軍曹っ」
「はいっ」
指名を受けたハロウィンが一歩前に出る。
「後方より敵キャリアーを狙撃しなさい。チェリーブロッサム中尉とマーヤ中尉は軍曹の直援に、残りの者は私の指揮でクモ退治に当たること」
少佐はテキパキと指示を出し、間髪入れずに飛行ユニットで飛び上がった。
中隊員たちがそれに続く。
「精神科のドクターでも務まりそうね」
マーヤ中尉が智恵理に笑い掛けた。
「エースが駄目になるのを防いだんだから。敵を500ほど撃破したのと同じ働きだわ」
「そんな、あたしはただ……」
智恵理が返答しようとするのをマーヤが手で制した。
そして何かを探すように、ゆっくりと上空を見回し始めた。
智恵理も釣られてビル街の空をキョロキョロと見回す。
「どうしたの?」
そう問い掛けた時、智恵理の頭の中で耳鳴りのような音がした。
そして次の瞬間、気の狂れたような女の笑い声が響いた。
「ひゃはははは、ははははははっ、死ぬ、糸に巻かれて死ぬんだよぉ。あはははははは」
最初は無線ラジオが混信したのかと思った。
しかし100メートル先で奮戦している仲間たちは、その声を傍受した様子はない。
「なっ、なんだったの? 今の」
智恵理は背筋に冷たいものを感じた。
マーヤ中尉は、と見ると、悲しそうな目をしてうつむいていた。
「今の、あなたも聞こえたの?」
智恵理が問い掛けても、マーヤは返事をしなかった。
だがいつもとはまるで違うその態度が、智恵理の問い掛けを無言のうちに肯定していた。
「んっ? 居るっ」
脳下垂体が沸騰し、もの凄い殺気が智恵理の体を貫いた。
「方位125度。高角35度」
一瞬で波動の源を察知した智恵理は、南西にそびえ立つ企業センタービルへと飛んでいた。
ユニットのエネルギーギリギリでビルの屋上に到着した。
緊急チャージモードに移行し,ユニットの警告アラームがうるさく鳴り響く。
「誰なのっ? 姿を見せて」
レイピア・スラストを構えた智恵理が誰何する。
エネルギー充填の終了したプラズマエネルギー・ユニットが、乾いた金属音を立てて再閉鎖した。
「キャハハハハッ、キャハハハハッ」
笑い声を上げながら給水塔の後ろから現れたのは、思った通りエイリアン・ウォーシッパーであった。
黒い全身タイツ式のスーツに、ヘルメット。
そして背中にプラズマエネルギー・ユニットを背負った姿は、まさに悪のペイルウイングと言った出で立ちである。
深く下ろされたバイザーのせいで、素顔は見えない。
エイリアンを信奉し、地球侵略の尖兵となるエイリアン・ウォーシッパー。
智恵理は全人類の敵ともいうべき存在を睨み付ける。
「あなた……あなたもあたしの『姉さん』なの?」
智恵理はニッキーが今わの際に言い残した、まだ8人生き残っているという脱走被験者のことを思い出した。
敵はその言葉の意味を理解できなかったのか、一瞬動きを止めた。
そして何かを悟ったかのように、大笑いを再開した。
「ひひひひひ、い〜っひひひひひ。時が来たよ。最後の審判、世界の終わりだよ」
バイザー越しに、狂気の籠もった目が光る。
「人は滅ぶ、地と天と、二つの王が世界を滅ぼすよ!あはははは、い〜ははは」
目の前の女も、被験者の例に漏れず精神崩壊を起こしているようであった。
「何言ってるのかよく分かんないけど、そんなこと絶対させない」
智恵理はレイピア・スラストを発射してチャージを仕掛ける。
しかし、敵の身は意外に軽く、智恵理の攻撃をあっさりとかわしてしまった。
「キャハハハハッ」
謎の女は奇怪な笑い声を上げながら建物づたいに飛び、ビルの谷間に消えていった。
今の智恵理の実力では、思念誘導兵器なしに能力者と戦うことは無謀と言え、追跡は断念せざるを得なかった。
EDFは、この日初めて巨大グモ『凶虫バゥ』との戦いを経験した。
同日、倫敦においてペイルウイング3個中隊が被った損害は、死者2名、負傷者9名である。
それはここ1週間、ペイルウイング隊が世界の全地域で受けた被害総数を越えていた。
凶虫バゥはペイルウイングが初めて対峙した強敵であり、以後も進化を続け、最後まで彼女たちを苦しめることになる。
つ@@@@
#13「巨獣」→#20「魔塔強襲」とおもたら、
#11「凶虫大挙」に逆戻りでしたか。
続き楽しみにしてます。
小佐ハァハァ
《同日 倫敦 ペガサス隊基地 戦術会議室》
「ともかく、あのジャンプと毒糸は侮れません。早急に対策を練らないと」
アルカトラズにいたころ智恵理が危惧していたことが、遂に現実になったのである。
凶虫バゥの機動力は、彼女たちペイルウイング隊に勝るとも劣らない。
更にその攻撃力は圧倒的ですらある。
「とにかくあの集団に間合いを詰められては勝ち目はありません。徹底した中間距離からの射撃に頼るしかないでしょう」
レギーもしかめっ面をして智恵理に賛同する。
「兵器をサンダーボゥ20の両手持ちに統一するべきかもね」
第3中隊のサマーソルト中尉が誰に言うともなく呟いた。
「クモの対策はそれでいいとして、敵が混成部隊で攻めてきた時にはどうすりゃいいんだよ」
エンジェルが智恵理を気にしながら、サマーソルトに反論する。
小隊長がレイピアにこだわりを持っていることを、エンジェルはよく知っていた。
「予測の付かない接近戦じゃ、レイピアほど頼りになるモノはないよ」
エンジェルのレイピア擁護に、智恵理が無言で頷く。
彼女には愛着のあるレイピアを捨てる気など、さらさら無かった。
「小隊長以上の者はレイピア・スラストとサンダーボゥ20の併用。隊員はサンダーボゥの2丁持ちと言うことで決まりね」
中隊長のアイスバーン少佐が決を下し、椅子から立ち上がった。
「それじゃ、明日から対凶虫バゥの想定訓練に入ります。特段に出撃のない限り、0900に練兵場に集合」
智恵理の号令で戦術会議は解散となった。
皆が会議室から出ていった後、一人マーヤ中尉だけが取り残された。
夕日の差し込む無人の会議室で、マーヤ中尉は俯いて黙りこくっていた。
智恵理はドアのところでしばらく佇んでいたが、結局何も言わずにその場を去った。
いつもにこやかなマーヤ中尉が落ち込んでいるのを見ていると、謎の女について問い質すことは出来なかった。
※
智恵理は自室に帰ると、パンティとタンクトップだけになってベッドに寝転がった。
体はクタクタに疲れているのに、脳が興奮して寝付けそうになかった。
乳首が意味もなく尖っていた。
智恵理は目を閉じ、凶虫バゥのジャンプの軌跡を脳裏にトレースしてみる。
8本脚のバネを有効に使った鮮やかな跳躍であった。
それに問題は、あの粘性のある糸である。
速くて射程も長く、至近距離からの攻撃をかわすことは至難の業である。
強酸性の成分が含まれているのか、巻き付かれた隊員たちのペイルスーツはボロボロに腐食していた。
ペイルウイングと同等の機動性と攻撃力を持った強敵が、遂に出現したのである。
「これからの戦いは厳しくなるわ」
智恵理が溜息をついた時、ドアをノックする音がした。
返事を待って入ってきたのは、中隊長アイスバーン少佐であった。
少佐はペイルスーツのまま、ブーツとグラブを外した軽装である。
素足にサンダルをつっかけていた。
「少佐っ」
智恵理は慌てて立ち上がると、脱ぎ散らかしたペイルスーツを身に着けようとした。
「あなたの部屋よ。気にしなくていいわ」
少佐が吹き出しそうになり、スーツを前後ろ逆さまに着ようとする智恵理を制止した。
「今日はありがとう。お陰で私のプライドが守れたわ」
少佐のお漏らしした恥ずかしい姿は、智恵理以外の目には晒さずに済んだはずである。
「座っていいかしら? お風呂には入ってきてるから」
少佐は断りを入れてからベッドに腰掛け、智恵理に自分の横に座るよう勧めた。
カチコチのお辞儀をしてから、智恵理がベッドに座る。
「幻滅したでしょ? 今日の私の姿を見て」
アイスバーン少佐が自嘲気味に唇の端を歪めた。
「そんなことありません。かえって人間味が出てて、その……可愛らしかったです」
智恵理はムキになって首を激しく振った。
ここで少佐に自信を無くされては元も子もない。
「あなたのお陰で何とかやっていけそうだわ。何かお礼をしたいの」
少佐の真剣な視線が智恵理の目を射抜いた。
嫌な予感が脳裏を掠めた瞬間、智恵理はベッドの上に押し倒されていた。
「しょっ、少佐ぁっ?」
叫ぶ暇も与えられず、少佐の薄い唇が智恵理の唇を塞いでしまった。
柔らかい舌と舌がねっとりと絡み合い、卑猥な音を立てる。
少佐の唇が離れる頃には、智恵理の目は恍惚となっていた。
「ごめんなさい。お礼と言っても、戦地ではこれくらいしかないの」
少佐の手が智恵理のタンクトップをたくし上げ、盛り上がった乳房を露わにさせる。
そして尖りきっていた左の乳首を唇でくわえると、舌先を使ってしゃぶり始めた。
右のトップは右手の人差し指と中指で挟み込み、鷲掴みした乳房共々グニグニと弄ぶ。
「く……くはぁ……」
緻密に計算された責めに、智恵理は思わず声を漏らしてしまう。
少佐の右手が乳房を離れ、円を描くように肌をさすりながら下へ下へと降りていった。
パンティの上端に指が掛かり、躊躇無く中へと差し込まれる。
ごわごわとした感触をかき分けて先に進むと、智恵理の股間はバターを溶かしたようになっていた。
「ほら、もうこんなに」
少佐は一旦パンティから引き抜いた手を智恵理に見せつける。
白魚のような指の間にねっとりとした液が糸を引いていた。
「いやぁ……恥ずかしい」
智恵理が両手で顔を隠した隙に、少佐がパンティを下ろしてしまう。
黒々とした縮れ毛に覆われた股間が剥き出しになった。
「けっこう濃いのね」
少佐は自分のペイルスーツを脱ぎ捨て、黒いボディアーマーも外す。
それは都合250枚にも及ぶ防弾パッドを貼り付けた彼女の勲章である。
セクシーな紐パンから脚を抜くと、髪よりやや暗い金髪のヘヤーが露わになった。
「タップリ可愛がってあげる」
少佐はニッコリと微笑むと、智恵理を仰向けに寝かせる。
そして足を開かせると、自らの性器を智恵理の性器に押し当てた。
「くはぁぁぁ〜っ。そう、そこぉ」
「むぅぅぅ〜っ」
股間が擦れ合う度に凹と凹が互いを噛み合い、目の眩むような快感が2人を包み込む。
膨張し、包皮から飛び出たクリトリス同士が触れ合う度、2人は仰け反って声を上げた。
2人は2匹の雌となって、めくるめく快楽の海に沈んでいった。
※
翌日の午後のこと、倫敦上空にインベーダーのキャリアーが6機侵入してきた。
対空砲火をかいくぐったキャリアーは市街地上空にとどまり、生物兵器を投下する機会を伺っているという。
直ちにペガサス部隊に出動命令が下され、アイスバーン少佐以下の第1中隊が出動した。
「敵の積荷は凶虫バゥと思われます。充分注意して対処して下さい」
レシーバーから洩れてくるフォルテシモ少尉の声が、心なしかうわずっているように思えた。
第1中隊が倫敦市街に到着すると、上空は既に敵に占拠されていた。
6機のキャリアーがゆっくりと旋回する様は、あたかも回転木馬であった。
アイスバーン少佐が中隊員たちに向かって振り返った。
「みんな、昨日は取り乱してごめんなさい。指揮官失格と思われても仕方がない失態でした」
誇り高いエースが頭を下げる姿に、皆はあっけにとられた。
「何を言うのです。誰もそんなこと……」
智恵理が庇おうとするのを、少佐は手で制して首を振った。
「軽蔑されても言い訳のしようがないわ。しかしチャンスが貰えるなら、まだ私が指揮官として適任かどうか試して欲しいの」
思いもしなかった中隊長の姿を前に、隊員たちは静まりかえった。
「お願いしようよ、みんな。中隊長っ、あいつらをやっつけて下さい」
智恵理が口火を切って頭を下げると、中隊員たちが次々と続いた。
「中隊長、お願いします」
「お願いします」
智恵理に続き、皆が少佐に頭を下げた。
「みんな、ありがとう。これが凶虫バゥに対する、私からの回答です」
そう言うや、アイスバーン少佐は飛行ユニットを全開にさせて、傍らの高層ビルへと飛翔した。
あっという間に屋上に降り立った少佐は、空の一角を占拠していたキャリアーへ向けてサンダーボゥ20をぶちかました。。
1発、2発、3発と連射するうちに、キャリアーから濛々と黒煙が上がりはじめる。
少佐は直ちに銃口を右へとずらし、次の獲物に向けて稲妻を放つ。
2機目のキャリアーから火が噴き出ると同時に、少佐は屋上を走り始めた。
脱落を始めたキャリアーに目もくれず、少佐は3機目の獲物に向かって飛翔する。
みるみるキャリアーが眼前に迫り、少佐がサンダーボゥのトリガーを引き絞った。
ユニットのエネルギーが僅かになり、耳障りな警告アラームが鳴り響く。
「あんなに派手に飛んじゃ、エネルギーが保たない」
地上の隊員たちは固唾を呑んで見守るしかない。
智恵理も思わず汗ばんだ手を握りしめた。
3機目のキャリアーが飛行不能になると、少佐はユニットのエネルギーをカットして自由落下に入る。
その落ち行く先には、タイミングよく高層ビルのだだっ広い屋上が待ち受けていた。
緩降下で屋上に着地した少佐は、駆けながら左上方のキャリアーへ向けて発砲する。
4機目のキャリアーもたちまち炎に包まれた。
その頃にはユニットのエネルギーもかなり回復しており、少佐は次のキャリアー目指して飛び立った。
5機目のキャリアーが有効射程距離に入ると、少佐が正確無比な射撃で致命傷を負わせる。
その時、遂に少佐のプラズマエネルギーが底を尽き、緊急チャージモードに入ってしまった。
警報アラームがキンキンと甲高い音に変化する。
プラズマ噴射口から白煙が吹き上がり、長く尾を引く。
「いけないっ。少佐ぁっ」
智恵理たちの動揺をよそに、少佐は落ち着いて足下の高層ビルの屋上へと緩降下していく。
ビルの屋上に着地した少佐の飛行ユニットが、通常の倍速で緊急チャージされる。
あっという間に機能を回復したユニットが、虹色の航跡を残して再び空へと舞い上がる。
そして最後に残ったキャリアーに蒼い稲妻が伸び、遂に6機の侵入者は残らず撃墜された。
アイスバーン少佐はビルの屋上を時計回りに飛びながら、一度も地上に降りることなく敵キャリアー群を壊滅させたのである。
少佐の働きで、地上に投下された凶虫バゥは最小限にくい止められた。
「偶然なんかじゃない、全て計算通りなんだ。足場にしたビルの位置も、緊急チャージのタイミングも」
智恵理は知らぬうちに、ビルの上に佇む少佐に向けて敬礼をしていた。
気が付くと全隊員が、自分達の中隊長に向かって敬礼していた。
類い希なる判断力と戦闘力を誇る中隊長が眩しかった。
そして、自分達が彼女の部下であることが、この上もなく誇らしく思えた。
「よぉ〜し、少佐に続け。投下されたクモ野郎を残らずやっつけろ」
智恵理の号令に、隊員たちが歓声を上げて突撃を開始する。
大いに士気の上がった第1中隊の前に、少数のバゥは太刀打ちできずに壊滅した。
この日地上で撃破されたバゥは全部で12匹。
事前のキャリアー撃墜がなければ、被害は甚大なものになっていたことであろう。
結局、対バゥ戦における最良の戦術は、搬送中のキャリアー撃墜であると再確認された戦いであった。
一方その頃、倫敦のEDF参謀本部では、いよいよ東京のインセクト・ヒル攻略が本決まりとなり、作戦要項が着々と定まりつつあった。
その攻撃隊の一角に、智恵理たちペイルウイング・ペガサス隊も名を連ねていた。
乙!
しかし、遅ればせながら
あの「糸に巻かれて」の人の隠し音声
あーゆー風に使うとは脱帽したっす
エイリアン・ウォーシッパーって
この為の設定だったのね…
未使用パターンの謎の女の声も結構はじけてるよ
105 :
名無しさん@ピンキー:2006/04/10(月) 18:42:19 ID:Ll9zCPiq
GJ
防衛パックに入っていた回転木馬の動画の再現かな?
あれは衝撃的だった
かつてどこかの神がうpしていたINF攻略動画集だよ。
ビルの屋上を飛び回りながらキャリアを次々に破壊することによって、
ビルの高さ分の位置のエネルギーをサンボウ30の攻撃エネルギーに回すの。
キャリア1機ごとに地面から射程まで飛び上がるより、遥かに効率的に
電撃出来るし、地上で虫に襲われる危険もない。
考え抜かれた着地位置や緊急チャージのタイミングとか、まさに神業の一言に尽きる。
今では流石に見慣れたけど、最初に受けた衝撃は、劇中のペリ子たちにも劣らなかった。
108 :
名無しさん@ピンキー:2006/04/17(月) 13:32:03 ID:snsxLe2N
圧縮来そう?
《西暦2019年10月5日 倫敦 ウエストミンスター寺院》
東京派遣を命じられたペガサス第1中隊は、ウエストミンスター寺院にあるEDF参謀本部を訪れていた。
出撃に先だち、先日の回転木馬撃破に対する表彰式が挙行されたのである。
感状は最初、アイスバーン少佐個人に対するものとして申請された。
しかし当人たっての要望により、中隊に対しての表彰となったのである。
参謀総長アン王女の待つ壇上に上がったのは、次席指揮官の智恵理であった。
「ダメになりかけていた私を立ち直らせてくれたのはあの子です」
登壇を促されたアイスバーン少佐は、言葉少なに拒絶した。
「讃えられるべきはあの子でしょう」
遠慮がちに登壇した智恵理を、澄まし顔のアン王女が迎えた。
王女は智恵理に気付くと「あら、また貴女なの?」というように眉を開いた。
「6機のキャリアーに時間を与えていたら、倫敦は100匹以上のバゥに蹂躙を許すところでした」
アン王女は記念のメダルを手渡し、華やかな笑顔を見せた。
「東京を救ったら、直ぐに帰ってらっしゃい。今後の活躍に期待しています」
祝福のキスを受けた智恵理の両頬が、瑞々しいリンゴのように真っ赤に染まる。
壇上から降りる智恵理を万雷の拍手が迎えた。
更に嬉しいご褒美がアイスバーン少佐と智恵理に下賜された。
待ちに待ったM2レイピアがいよいよ制式化され、彼女たちの主武器として配備されたのである。
※
それから1時間後、ペガサス1の面々は東京行きの超音速輸送機の中にいた。
「お疲れのところ、ほんまにご苦労はんどした。まずは、おめでとはんどす」
作戦1課所属の一条綾大尉が、アイスバーン少佐、智恵理そしてマーヤ中尉にお辞儀をした。
綾は現地作戦本部の参謀兼連絡将校として、作戦要綱の伝達のためペガサス1に同行していた。
離陸後間もなく、智恵理たち3名はブリーフィングのため、別室に集められたのである。
「それではこれを」
綾がスイッチを入れると、テーブルの上がモニターとなって帝都のマップを映し出した。
ビル街の中心地に巨大な蟻塚が3D映像となって現れた。
辺りの高層ビルすら圧倒する威容である。
「これが敵の本拠地か……」
智恵理が生唾をごくりと飲み込んだ.
「敵はこの中でどんどん増えてます。これを破壊せんことには、地球は虫で埋まってしまいますやろ」
これは人類が侵略者に対して行う、最初の反攻作戦である。
絶対に失敗する訳にはいかなかった。
「敵の防備は? かなりのモノなんでしょうね」
マーヤ中尉は静かな目でモニターを見詰めている。
「内部までは情報不足で、ちょっと見当もつきまへん。それでも今までにない激戦になることは確かどす」
綾は青ざめた顔で無理に笑おうとして、口端だけを歪めた。
内部偵察に送り込んだ作戦3課所属の特殊部隊はことごとく連絡を絶ち、結局1人も生還しなかった。
「作戦の趣旨は理解できた。で、我々は何をすればいいのかだが」
アイスバーン少佐が綾に向き直る。
「インセクト・ヒルは第8戦車連隊の十字砲火で叩く予定どす」
綾は申し訳なさそうに頭を下げた。
「ペガサス1はファルコン部隊、イカロス部隊と一緒に、本作戦の陽動ならびに戦車隊の直援をお願いします」
綾が祈るような気持ちで、上目遣いにエースを見る。
ようは囮と護衛をしろというのである。
孤高のエースに対して、余りにも失礼な命令であった。
「よろしい。友軍に頼られるのであれば本懐です」
少佐は穏やかな口調で返答した。
今までの少佐なら、即座に作戦内容の変更を要請していたかもしれない。
智恵理とのやりとりを経て、彼女の心の中の氷が溶けかかっているのは明らかであった。
綾と智恵理は同時に胸を撫で下ろした。
「いよいよだね」
通路の簡易ベンチに腰を掛けた智恵理が綾に話し掛けた。
「もうこれ以上、奴らの好きにはさせまへん。攻撃開始の日、10月10日が人類勝利の最初の記念日になるんどす」
綾が紙コップのコーヒーを差し出す。
「その一大作戦の立案者が、自分の同期生だと思うと鼻が高いよ」
智恵理がコップを受け取り、熱さに顔をしかめた。
「実際に作戦を遂行するのは智恵理はんや。これはご褒美の前渡しどす」
「自販機のコーヒー1杯で? やっすい女」
2人は顔を見合わせ、ケラケラと大笑いした。
《西暦2019年10月10日 東京》
さわやかな秋風が、正午直前の帝都を駆け抜けていった。
照りつける日差しはまだ強いものの、湿り気が少なく過ごしよい。
日陰に入ると、肌寒くすら感じた。
「運動会としてなら絶好の秋晴れなんだけど」
智恵理は前方のビル群の中にそびえ立つ蟻塚を眺めた。
途方もない巨大さである。
2キロ以上離れた地点からでも、圧倒的な量感をもって迫ってくる。
智恵理はハロウィン軍曹からサンダースナイパーCを借り、4倍ズームの望遠スコープを覗き込んだ。
アリの出入り口なのであろうか、それとも通風口なのであろうか、塚のあちこちには大きな空洞が開いていた。
付近に敵の姿は見えない。
今現在、第8連隊の戦車群が塚の北と東から忍びより、L字型に包囲陣を敷きつつあるはずである。
智恵理たちは塚の南西部に配置され、攻撃命令が下るのを待っていた。
手始めにペガサス1が蟻塚に攻撃し、反撃に出てきた巨大甲殻虫を南方へ誘致する。
その隙に戦車隊の全力砲撃が塚を破壊する手順であった。
残るペイルウイング隊、ファルコンとイカロスは、2つの戦車群の直援が任務である。
囮と言えど、絶対にしくじるわけにはいかない大事な作戦の一角を任されているのである。
妙な緊張感が漂い、全員が固くなっていた。
「囮みたいなマゾッ気のある任務は趣味じゃねぇや」
エンジェル軍曹が口を尖らせて不平を言った。
「それでも先陣を任されたんだ。文句言ってるとぶっ放すぞ」
コンボイことレギー・ベレッタ特務曹長がE2プラズマランチャーを担ぎ上げる。
「じょっ、冗談だよ」
エンジェルが真っ青になり、ランチャーの前から飛び退いた。
レギーの巨体に長大なランチャーがよく似合い、殺気を帯びた威圧感を周囲に撒き散らしている。
レギーはインセクト・ヒルに対して第一撃を放つ予定であり、多大なプレッシャーが彼女を神経質にしていた。
なにしろ、今回はあちこちの部隊から集められた友軍が注目している中での射撃である。
自分一人でなく、ペガサス部隊全体のプライドが掛かっていた。
「レギー、折角だからど真ん中に頼んだわよ」
横合いから智恵理が注文をつけた。
レギーなら命中して当然、外すことなどあり得ないといった口調であった。
その一言で、レギーが平常心を取り戻した。
「小隊長のリクエストとあらば、喜んで」
レギーがニヤリと笑う。
「でも一撃で潰しちゃったらダメだよ。戦車隊のメンツも考えてあげなきゃ。さっきチラリと見たけど、割といい男揃いだったよ」
智恵理が混ぜっ返し、全員が爆笑した。
それでみんなの肩から無駄な力が抜けた。
「そろそろ攻撃開始の時間です」
セカンドのアラベスク少尉が、ゼロアワーの到来を中隊長アイスバーン少佐に告げた。
少佐がヘルメットのバイザーを下ろし、バーチャルディスプレイを開く。
眼前1メートルの空間に、銃口と連動した照準器、簡易レーダー、火器管制モニターなどが出現した。
左端にあるクロノメーターが、日本標準時で正午を示そうとしていた。
「攻撃用意っ」
アイスバーン少佐の右手が挙がり、凛とした声が響く。
クロノメーターの読みが12:00に変わった瞬間、少佐の右手が振り下ろされた。
「ファイアッ!」
同時にレギーのランチャーから球状プラズマが飛び出した。
プラズマ球が緩やかな弧を描いて飛び去り、蟻塚の中腹に命中して火柱を上げた。
ベテラン隊員ならではの超遠距離射撃であり、レギー・ベレッタの面目躍如であった。
「やや下すぎでしたかな?」
みごと信頼に応えたレギーが、智恵理を振り返った。
智恵理は嬉しそうに白い歯を見せた。
隊員たちの間から歓声が上がり、アイスバーン少佐も「ほう」と感心した顔つきになる。
それでも無論のこと、蟻塚は崩れ落ちたりはしなかった。
プラズマ球の一撃で破壊できるような敵本拠なら苦労はしない。
「さあ、敵の歓迎部隊が来るわ。気を引き締めて」
少佐が隊員たちの浮かれ気分に釘を差す。
彼女たちには、もうすぐやってくる黒アリどもを南方へと誘き出す役目があるのだ。
それも出来るだけ蟻塚から遠く、出来るだけ長く。
いつも彼女たちがカモにしている黒アリが相手なら、さして困難なことでもなかった。
しかし……。
「敵巨大生物接近。新種です」
アラベスク少尉の声が裏返った。
グリフォンという空想上のモンスターがいる。
只でさえ強いライオンに鷲の翼が付いていれば無敵の存在になる。
そんな発想から生まれた怪物であり、強大な力の象徴としてペイルウイングの一隊が愛称に用いている。
今、ペガサス第1中隊に向かって襲いかかってくる黒アリには、透明の羽が付いていた。
それを高速に羽ばたかせ、ヘリのローターのような爆音を上げていた。
「羽アリ……」
皆が呆然と空を仰ぐ中、羽アリの群は猛スピードで殺到してきた。
つ@@@@
116 :
名無しさん@ピンキー:2006/04/20(木) 23:13:22 ID:3hoL1t0Y
「ひぃやぁぁぁ〜っ、圧縮がくるよ。板の中にあいつがいるんだぁ」
どうやら逃げ切ったみたいだね
干す
hosyu
保守
「ファイヤ、ファイヤァッ」
我に返ったアイスバーン少佐が、部下たちに射撃命令を下す。
隊員たちが慌ててサンダーボゥ20を構え、一斉射撃を開始した。
しかし不規則な軌跡を描いて飛翔する羽アリは、なかなか火線に捉えられない。
「畜生ぉっ」
レギーがプラズマランチャーを発射するが、2匹のアリを散らすのがやっとであった。
羽アリの大群は、いよいよ智恵理たちの頭上に迫ってくる。
「密集している部分を集中攻撃して」
少佐の的確な指示が飛び、蒼い稲妻が投網となって幾重にも投げられる。
効果的な電撃により、多数の羽アリが黄色い体液を撒き散らしながら墜落した。
それでも羽アリの大群は次から次へと湧いて出てくる。
「流石は敵の本拠地ね。きりがないみたい」
マーヤ中尉が後続の第2陣を見据えて呟いた。
新たに殺到してきた羽アリの大群が、智恵理たちの頭上を飛びかい始める。
そして腹部の先端から一斉に黄色い液体を吐き出した。
「いやぁっ。なによ、これっ?」
「ばっちぃ〜っ」
ペイルスーツを汚され、隊のあちこちから非難の声が上がる。
その声が悲鳴に変わるまでに、10秒を要しなかった。
「キャァァァーッ」
「サンダァーッ」
最初その叫びを聞いた時、レギーは誰かのサンダーボゥが暴発したのかと思った。
しかし、ブスブスと煙を上げ始めた自分のスーツを見て全てを理解した。
「酸っ、酸だぁーっ」
羽アリの吐き出している液体は、強烈な酸性の蟻酸であったのだ。
悲鳴を上げて逃げまどうペイルウイングたちに、更に黄色い雨が降り注ぐ。
今度の敵には飛行能力とともに、酸攻撃までが備わっている。
敵は明らかに進化していた。
「散開っ、散開するのよっ」
アイスバーン少佐の指示が、いつしか金切り声になっていた。
長い金髪を晒したエンジェルは、頭を押さえてひたすらに駆け回る。
反撃もままならないまま、ペガサス1は戦闘ユニットとしての機能を喪失していった。
「みんなっ、しっかりして。反撃するんだよ」
ハワイの峡谷で、もっと酷い条件下での戦いを経験していた智恵理は、まだ冷静であった。
それでも実戦の緊張感と集中力は、知らず知らずのうちに彼女の脳内物質の分泌をどんどん促していた。
脳下垂体が熱くたぎるに連れ、空間を乱舞する羽アリの一匹一匹まで個別に認識できるようになってくる。
同時に智恵理の周りに、羽アリの群がまとわりつき始めた。
たまらず、智恵理はユニットを噴かしてその場を逃れる。
「なんでっ、なんでぇ?」
訳の分からないまま智恵理は駆け出し、羽アリの大半を引き連れる形で戦場を離脱していった。
お陰でペガサス1はかなり楽になったとはいえ、それでもまだかなりの数の羽アリが酸攻撃を続けている。
降り注ぐ酸の飛沫は、ペイルウイングたちの戦闘力を次々に奪っていった。
そんな中、アイスバーン少佐は飛沫をかいくぐって、的確な攻撃を続けていた。
彼女が孤高のエースを演じ続けていれば、敵に後れを取ることなど無かったであろう。
しかし部下たちを庇いながら戦うには、羽アリの数は余りにも多く、その攻撃は余りにも強力すぎた。
そして遂にアイスバーン少佐も酸の直撃を受けてしまった。
逃げ遅れたマリンカを突き飛ばし、身代わりに自分が蟻酸を浴びてしまったのである。
「アゥゥーッ」
打撃には強いボディアーマーも、液体の浸透までは防げない。
鋭いムチを受けたような痛みが走り、少佐はその場に転倒する。
倒れ込んだ少佐に向かって、3匹の羽アリが急降下を仕掛けた。
転がって回避しようとするが、焼け付くような痛みが筋肉の動きを邪魔する。
「うぅっ、ダメッ」
少佐が目を瞑るのと、何者かに抱きすくめられるのが同時であった。
「熱ちぃ〜っ」
目を開けると、眉をひそめたレギーの顔があった。
「コンボイ特務曹長っ」
少佐は、自分の代わりに酸の直撃を浴びたレギーを気遣う。
「大丈夫ですかい? うちの小隊長が心酔している少佐に何かあったら、あたしゃ、あの人に合わせる顔がありませんや」
少佐が黙ったままで、嬉しそうに何度も頷く。
「コンボイ特務曹長。司令部の横槍さえ無ければ、本当はあなたを私のセカンドに欲しかったのよ」
アイスバーン少佐がレギーの腕の中で呟いた。
「合点で。中隊長のために、あたしゃここで死にましょう」
台詞の意味を理解できず、少佐がレギーを見上げる。
「士は己を知る者のために死ぬ──前の上官が好きだった言葉でさぁ」
言うや否や、レギーは少佐を抱いたまま地面に転がり、降ってきた酸の飛沫を避けた。
そして右手のサンダーボゥ20を中空に向けて発射した。
2匹の羽アリがまとまって地面に落下する。
一時揚力を喪失した羽アリは、羽の具合を調節して再度の飛翔を図る。
しかし巨体の特務曹長には、敵にそんな機会を与えるつもりなど毛頭無い。
トドメの稲妻が走り、羽アリは体液を撒き散らして絶命した。
その頃、羽アリの大群に追われる智恵理にも危機が迫っていた。
「なんで、あたしについてくるのよ。あんたたちにモテても、ちっとも嬉しくないの」
智恵理は小刻みにユニットを噴かし、小ジャンプを繰り返しつつ背後を振り返る。
自分の発する思念波に羽アリが惹かれているなどとは知る由もなかった。
ときおりM2レイピアを振り回すが、敵は致命傷を負う前に射程外へと逃げてしまう。
逃げる羽アリを追って宙に浮かぶと、待ってましたとばかりに四方八方から酸の雨をぶっ掛けられた。
「ひぃぃっ、熱ぅ〜っ」
智恵理はたまらずユニットの出力を上げて離脱を図る。
身軽に宙を舞う敵を相手にしては、レイピアは全くの無力であった。
一方、主力部隊の戦車群も不利な戦いを強いられていた。
折角の巨砲も、ちょこまかと宙を舞う羽アリには威力を発揮できない。
その上、上部装甲の薄いギガンテスは、空中から撒き散らされる酸の格好の餌食となった。
エンジン部の真上を灼かれたギガンテスが次々に炎を噴き上げる。
「ペリ子どもは何をしているんだ」
戦車兵が罵り声を上げるが、既にファルコン隊もイカロス隊も散り散りになり、各個撃破されつつあった。
※
その頃、戦場から5キロ東に離れた戦闘指揮車の中で、一条綾大尉は顔面蒼白になっていた。
「第1戦車隊、壊滅」
「第2戦車隊Bチーム、戦闘力無し」
スピーカーから洩れてくる戦況報告は悲惨を極めた。
打撃力を誇る戦車隊は壊滅しつつある。
「うちの責任どす……」
綾は作戦の失敗を悟った。
戦術スクリーンには、敵を示す真っ赤な光点が乱舞している。
一方の味方ユニットを示す青い点は、次々に数を減らしていった。
「事前の情報収集が甘過ぎどしたな」
こうなれば、後は被害を最小限にするよう、司令に撤退を進言するだけでる。
それは彼女がこれまで築き上げてきたキャリアが、音を立てて瓦解することを意味していた。
「また一から出直しや」
綾は天井を見上げて溜息をついた。
※
「攻撃隊各員に告ぐ。本作戦は失敗した。直ちに撤収せよ」
司令の無念そうな声が隊員たちのイヤーレシーバーから流れた。
「聞いた通りだ。生き残ってる奴は撤収しろ。逃げるぞ」
戦車隊指揮官が指示を出し、真っ先に後退を始めた。
後退する戦車隊が、羽アリを引き連れて走り回る智恵理とすれ違った。
「なに遊んでんだぁ、あのペリ子は」
「黒だったぜ」
戦車を一跨ぎに飛び越していった智恵理を、戦車兵があきれたような顔で見送った。
だが当事者の智恵理にとっては、遊んでいるどころの話ではなかった。
ユニットのエネルギーが切れかかり、けたたましいアラーム音が背中で鳴り響いている。
智恵理は残り少ないエネルギーで小ジャンプを繰り返し、酸の雨を避け続けていた。
少しでも回避が小さければ、酸の直撃を受けて戦死。
少しでも回避が大きければ、ガス欠になり戦死。
まさにギリギリ、命懸けの綱渡りであった。
しかし智恵理の闘志は、いまだ衰えてはいなかった。
「撤退? 冗談じゃないわ。そんなことしたら綾さんの経歴に傷がついちゃう」
絶体絶命のピンチにありながら、智恵理の頭の中は同期生のことで一杯だった。
「綾さんはね、私なんかとは違って、これからのEDFを背負って立つ大事な人材なんだから」
智恵理は脇目も振らず、インセクト・ヒルに向かって突き進む。
その背中スレスレを黄色い飛沫が掠めていく。
一直線に進むうち、前方から逃げてくるペイルウイングの一隊に出くわした。
それは北方の戦車隊の直援に就いていた、ファルコン隊の生き残りであった。
智恵理とすれ違った途端、ファルコン隊の指揮官が振り返った。
「おいっ、今のはチェリーブロッサムじゃないか」
その指揮官は、かつてアルカトラズ実験小隊で同僚だったヴィナス中尉であった。
特殊部隊であるペイルウイング隊は、部隊間における横の連携が希薄である。
ヴィナス中尉が紐育の第11機動歩兵大隊に転属になったことは、智恵理も知っていた。
しかしファルコンという名のペイルウイング隊が、同大隊麾下にあり、その指揮官がヴィナス中尉であることなど知りもしない。
部隊に停止の合図を出したヴィナス中尉は、褐色の顔に不審の色を浮かべた。
「あのチェリーブロッサムのことだ。また何かうまい手を考えついたんじゃないのか」
ヴィナス中尉は、アルカトラズ時代に智恵理が見せた、奇跡的な活躍ぶりを思い出した。
ヴィナス中尉としても、このまま何もしないで負け戦では納得がいかない。
それにチェリーブロッサムについていけば、甘い汁を吸える公算が大きかった。
「一斉反転っ。我々も再突撃するぞ」
ヴィナス中尉の命令に歓声が応じた。
エリート部隊を自認する彼女たちには、自意識に比例した意地とプライドがあるのだ。
「くそっ、こうなったら一か八か緊急チャージに賭けてみるしかない」
智恵理は体を半回転させ、後ろ向きのジャンプを開始する。
そして肩に掛けていたサンダーボゥ20を構える。
「喰らえっ」
空を覆い尽くすような羽アリの群に、サンダーボゥの稲妻電撃が襲いかかった。
耳を塞ぎたくなるような絶叫が連続して上がる。
「……17発、18発、19発……ラストォッ」
サンダーボゥ20のエネルギーが尽き、再チャージのためユニットのエネルギーを大量に貪った。
同時にユニットのエネルギーが0になり、緊急チャージモードに突入した。
けたたましい金属音が鳴り響く。
この時、智恵理は攻撃も高速移動も出来ない絶体絶命のピンチに陥っていた。
しかし、智恵理の奇襲攻撃に陣形を乱していた羽アリの大群は、重なり合う味方が邪魔になり攻撃不可能な状態にあった。
僅かに飛んでくる酸の飛沫は、横転して避ける。
例の『伝説の男』の動きを模倣した緊急回避である。
何度か転がっているうちに、チャージが終了しエネルギーが満タンになった。
丁度その時、智恵理の逃げ道を遮るように、インセクト・ヒルの壁面が目の前に迫っていた。
「……これだぁっ」
一見、退路を断たれた形になった智恵理だった。
しかし別の見方をすれば、そこは背後からの攻撃をシャットアウトできる絶好のポジションでもあった。
壁を背負った智恵理は、躊躇無く垂直上昇を始めた。
羽アリの大群が後を追って舞い上がってくる。
「ちゃんと追ってきなさいよ」
智恵理は壁沿いにグングン上昇していく。
エネルギーが底を尽きかけた時、羽アリの群れは智恵理の足元で、一本の棒状の塊となっていた。
すかさずユニットをオフにし、M2レイピアのトリガーを引く。
プラズマの剣を無数に振るいながら、智恵理の体が垂直降下を開始する。
羽アリの群れが上から順に押しつぶされていき、ものすごい悲鳴が連続した。
黄色い体液が霧となって、視界がゼロになる。
「ウゲェ。ゴホッ、ゴホッ」
酸の蒸気を吸い込んで、智恵理が激しく咳き込む。
目を開けていられなくなり、涙がボロボロとこぼれた。
それでも智恵理は歯を食いしばって、レイピアのトリガーを引き続けた。
「負けるモンかぁ、負けるモンかぁ〜っ」
智恵理の足が再び大地を踏みしめた時、50匹はいた羽アリは壊滅状態に陥っていた。
周囲にオゾンの臭いが立ちこめた。
涙が酸を洗い流し、ようやく智恵理に視力が戻る。
振り返ると、インセクト・ヒルの壁面もプラズマに削られてボロボロになっているのが分かった。
「ん? もしかしてイケる」
智恵理に一計がひらめいた。
そこへヴィナス中尉率いるファルコン部隊が到着した。
「おいっ、チェリーブロッサム」
ヴィナス中尉がヘルメットのバイザーを上げて素顔を見せた。
「ヴィナス中尉っ?」
思わぬ場所での再会に智恵理が驚く。
「相変わらずスゲェな。全部お前一人でやったのかよ」
ヴィナス中尉は周囲に転がった羽アリの死体を見回して驚嘆した。
いったいどうやったらこんなことが出来るのか。
中尉の褐色の顔が強張った。
「丁度いいわ。中尉たちも手伝って」
智恵理はインセクト・ヒルを仰いで指差した。
「あちこちに穴が開いているでしょ」
ファルコン部隊の隊員たちが、うんうんと頷く。
「あの中に入ってレイピアを全力発射して。インセクト・ヒルを内部からぶっ潰すのよ」
レイピアの照射1秒あたりの破壊力には凄まじいものがある。
戦車砲弾の直撃のそれを遥かに越えている。
壁面の穴に入り込み、一斉にレイピアを照射すれば、戦車砲数百発に匹敵するダメージを与えることが出来る。
「よし、乗ったぜ。功名は折半、私が指揮を執る」
ヴィナス中尉が笑い、口元から真っ白な歯がこぼれた。
智恵理としては作戦の成功だけが問題であった。
綾が恥をかかずに済むのであれば、功績などどうでもいい。
「それじゃ、行くぞ。ファルコン2、テイク・オフ」
ファルコン隊の隊員たちが、ユニットを噴かして上昇する。
智恵理も一呼吸遅れて宙に舞い上がる。
「適度に散らばって穴に潜り込め」
ファルコン隊が散開し、ランダムに穴へと侵入する。
出遅れた智恵理は、比較的低い位置にある穴に滑り込んだ。
床面に着地するなり、泥濘に足を取られて転倒した。
「あいたたたぁ」
四つん這いになったまま、首をねじって確認すると、お尻の部分が茶色く汚れていた。
「きったなぁ〜い。これじゃ、ウンチ漏らしちゃったみたいじゃない……何よこれ」
智恵理が真っ赤になって憤慨する。
指を鼻先に持っていったが、想像していた最悪の事態は避けられた。
それは吹き込んできた土が、内部に立ちこめる湿気で泥濘になったものであった。
胸を撫で下ろして立ち上がった智恵理が、再び足を滑らせて派手に転げる。
「きゃぁぁぁっ」
今度は足元が傾斜地であったからたまらない。
智恵理は滑り台を滑るように深い穴蔵の底へと落ちていった。
新作キテルー
サンダァーキタコレ
132 :
名無しさん@ピンキー:2006/05/06(土) 23:29:00 ID:/5K1qtPN
乙であります!
サンダ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
hosu
智恵理は斜面にヒールを立ててブレーキを掛けるが、泥が潤滑剤となり摩擦がきかない。
「ひぇぇぇ〜っ」
傾斜がどんどん強くなり、智恵理の落下速度が速くなっていく。
床が垂直になった途端、無重力感覚に支配された。
「ユニット、ユニット噴射しなきゃ」
幸い着地する寸前に飛行ユニットの上昇力が重力に打ち勝ち、負傷することなく足場を回復できた。
「ん? 地面だ」
智恵理は自分が踏みしめている地面が、湿った土であることに気付いた。
インセクト・ヒルに入ったはずなのに、転げ落ちるうちにいつの間にか地中に入っていたのだ。
「インセクト・ヒルが地中に続いている……」
それは恐るべき事実であった。
「奴らの本当の巣は、地面の下なんだ。奴らは地下で増殖し、進化しているんだ」
これでは幾らインセクト・ヒルを叩き潰しても、アリの息の根を止めることにはならない。
智恵理の背筋に凍りつくような悪寒が走った。
彼女の思考を遮るように、イヤーレシーバーから雑音混じりの無線が流れてくる。
「おい、この作戦に参加してるらしいぜ、あいつが。もし本当なら、俺たち生きて帰れるかも」
「またその話か…後ろだ、気をつけろ」
しばし銃撃の音が続く。
どうやら羽アリの追撃を受けている陸戦兵同士の会話らしい。
戦闘中の私語は禁じられているのだが、この緊張感の中ではバカ話でもしていないことには気が狂いそうになる。
「敵は圧倒的な科学力と軍事力、それに比べてこっちの頼みの綱は伝説の勇者様ってか? ケッ、ありがたい話だぜ。目の前の現実をよーく見るんだな」
「来る! こっちだ! 撃て、撃てぇ!」
ガリガリという雑音が流れた後、無線はプツリと途切れた。
彼らの安否を気遣う智恵理だったが、今は無事を祈ることしかできない。
その時、智恵理の超感覚が人間の気配を捉えた。
「右手の岩陰、かなり弱ってる?」
智恵理の超感覚は日を追う毎に研ぎ澄まされ、今では寄せてくる波動の強弱すら判別できるようになっていた。
岩陰に駆け寄って確認すると、黒いレザースーツを着込んだ人物が倒れていた。
本来艶やかだったろうレザーは泥にまみれ、所々が酸のために焦げている。
アリの攻撃を受けたことは明白だ。
「しっかりして」
智恵理が上半身を抱え起こすと、フワフワした白金色の巻き毛が波打ち、大きく隆起した胸の膨らみが天を突いた。
「女の人だ」
しかも頂きにあたる部分にはEDFの徽章が輝いている。
「この人、EDFの仲間だ。どうしてこんな所に?」
智恵理は驚いて、彼女の胸の谷間に耳を押し当てる。
弱いが確かな鼓動が聞こえてきた。
「よかった、生きてる。早く病院に運ばないと」
立ち上がろうとした智恵理の皮膚が、耳では捉えられない振動をキャッチした。
少し遅れて地鳴りのような音がしたと思うと、いきなり地面が震えだす。
ファルコン2によるレイピアの一斉攻撃が開始されたのである。
「来るっ。いっぱい来る」
智恵理は地下の奥深くから沸き上がってくる多数の存在を覚知した。
今まで遭遇したこともない、想像を絶する数の敵が間近に迫っていた。
しかも敵集団は憎しみの感情に包まれている。
「まずい、逃げなきゃ」
智恵理の飛行ユニットが唸り、女を抱いたまま上昇を開始する。
頭上に現れた白い点が見る見る大きくなり、やがて開口部が現れた。
どうにか地上部分に辿り着いたのである。
しかし怒れるアリ軍団は、直ぐ背後に迫っていた。
智恵理は振り向きざまに、片手でM2レイピアを振るう。
絶叫が上がり、先頭にいたアリの頭部が引き裂かれた。
黄色い体液が周囲に噴霧される。
「うげぇ〜っ、ゴホッ、ゴホゴホッ」
空気の澱んだ閉鎖空間に強酸の霧が立ちこめ、智恵理が激しく咳き込んだ。
気管に鋭い痛みが走り、肺胞が焼け爛れる。
それでも女を背負った智恵理は止まれない。
「ヴィナス中尉、まだダメなの?」
旧式レイピアの威力では非力なのか、インセクト・ヒルはいまだ健在である。
「インセクト・ヒルさえ崩壊させれば……」
智恵理は次々に襲い来る牙をかわしては、手にしたレイピアを振り回す。
再びアリの悲鳴と酸の飛沫が撒き散らされた。
目がかすみ、次いで息が出来なくなった。
「も、もうダメ……綾さん、ごめん……」
何とか穴の出口まで這ってきた智恵理だったが、ここまでのようだった。
遂に力尽きた智恵理が最後に見たものは、遥か彼方のビルの屋上に走った閃光であった。
ほぼ同時にインセクト・ヒル全体が衝撃に包まれ、グラグラと崩壊を始めた。
智恵理は膨大な土砂に飲み込まれながら、雷鳴の轟きを耳にしていた。
※
目が覚めると、見知らぬ白い天井があった。
「ここは? ゴホッ、ゴホッ」
身を起こそうとした智恵理が激しく咳き込む。
「心配せんでもよろしおす。ここは病院どすさかい」
弱々しい笑顔の綾が上から覗き込んできた。
「10日も寝たきりやったんや。ペ科練以来の寝坊癖は直ってまへんな」
智恵理はようやく自分の身に起こったことを理解した。
「そっか、あたしインセクト・ヒルが崩壊する時に巻き込まれて……作戦は成功したんだね」
智恵理は長い溜息をつくと、綾に向かって笑いかけた。
「智恵理はん、ほんまにアホや。うちの撤退命令無視して……軍法会議もんや」
何度も頷く綾の目は、真っ赤に充血していた。
智恵理は何も言わなかったし、綾も聞かなかった。
それでも綾にはハッキリと分かっていた。
参謀本部における自分の立場を守るために、智恵理が命令無視してまで特攻を掛けたことを。
「作戦成功は智恵理はんの手柄や。タップリご褒美おねだりしなはれ」
綾にそう言われて、智恵理は失神寸前に見た、謎の閃光を思いだした。
「あの人だ。あの人が来てくれたんだ」
衝撃に遅れて伝わってきた、身のすくむような雷鳴。
あれは紛れもなくライサンダー・タイプFの銃声であった。
戦車砲の威力を上回る、超高性能狙撃銃。
あんな化け物じみた銃を扱える陸戦兵は一人しか知らない。
自分が絶体絶命の危機に陥った時、何処からともなく現れて、事も無げに救ってくれる伝説の男。
「またあの人が助けてくれたんだ」
目を瞑ると、広い背中、不敵に笑った口元、顎先にまばらに生えた無精ヒゲなどが記憶に蘇ってくる。
求めたわけでもないのに、必ずやって来てくれるその存在は、智恵理が幼い頃に病死した兄の存在を思い出させた。
スポーツ万能の兄は智恵理の自慢の存在だった。
どんな時でも自分の味方をしてくれた兄を、智恵理は心の底から愛していた。
『伝説の男』のことを思うと、何故か死んだ兄の記憶と重なり、胸がドキドキと高鳴った。
「あたし、ばっかみたい」
智恵理は名前も知らない2度会っただけの陸戦兵に、ほのかな恋愛感情を抱いている自分に気付いて頬を染めた。
「別にあたし個人を助けてくれたって訳じゃないよね。単にインセクト・ヒルの破壊が目的だったのかもしれないし」
そこで智恵理は大変なことを思い出した。
「そうだ、綾さん。インセクト・ヒルは奴らの本拠地じゃないんだ。奴らの本当の巣は……」
智恵理は叫んで上体を起こそうとした。
しかし体力が極度に衰えているのか、体に力が入らなかった。
綾が智恵理の体を押し止める。
「その話やったら、もう聞いてます」
綾は智恵理の隣のベッドに向けて顎をしゃくった。
そこには同じくベッドに横たわった一人の白人女性の姿があった。
高い鼻梁に彫りの深い顔立ちは、典型的なアングロ・サクソンである。
フワフワしたプラチナブロンドの巻き毛と、ロケット型の乳房に記憶があった。
「作戦3課所属の特別攻撃隊隊長、スチュワート大尉。情報収集のためインセクト・ヒルに先行突入してはったんや」
SISと呼ばれる特別攻撃隊は、情報部とは別に作戦部の麾下に置かれた独自の諜報機関である。
作戦立案のための情報収集の他、隊内粛正をも任務とする特務機関であり、身内からも恐れられていた。
その誇り高いSISの隊長が、格下である東洋人の小娘に向かって頭を下げた。
「中尉は部下の仇を取ってくれた恩人です。それにお陰で貴重な情報を持ち帰ることが出来ました」
命などとっくに捨てているのであろうか。
大尉は「自分の命の恩人」とは口にしなかった。
それよりも、持ち帰った巣穴についての情報の方が大事らしい。
「で、巣穴に対する対策はどうなってるの?」
智恵理はスチュワート大尉への挨拶もそこそこに、綾に疑問をぶつけた。
「この10日間、うちが何にもしてない思てはりますんか? 今度の作戦は、ちと大掛かりどすえ」
綾が自信たっぷりの笑みを浮かべる。
「各部隊選りすぐりの精鋭部隊による地下本拠攻撃から、インセクト・ネストへの陽動まで含めた、史上最大の作戦や」
無論、それが綾の立案であることは間違いなかった。
そして綾に立案が許されたのは、インセクト・ヒル攻略作戦が成功したからに他ならない。
「それで、出撃はいつなの?」
智恵理は苛立ちを隠せずに叫んだ。
「もう明日の早朝に迫ってますんや。日の出と共に、都内に発見されたインセクト・ネストに陽動を掛けます」
綾がカルテの裏に地図を描いて説明する。
「インセクト・ネストいじって、敵が寄ってきてる隙に、精鋭部隊が巣穴に突入して一気に焼き払う作戦どす」
綾は胸を逸らしてニンマリと笑った。
「陽動作戦にはハミングバードの皆さんも参加します。神楽はんだけは地下攻撃部隊に選抜されましたけど」
それを聞いて、智恵理はいても立ってもいられなくなった。
久しぶりに同期の仲間たちと一緒に戦えるチャンスなのである。
「あたしっ、あたしは?」
「今回、智恵理はんは留守番や。まだ病み上がりどすさかいに」
綾が智恵理にいたわりの目を向ける。
「あたし、どうあっても参加するよ」
冗談じゃないとばかりに智恵理が息巻いた。
「そない言わはる思てました」
綾が毛布を捲ると、智恵理の体がベルトで巻かれベッドに固定されていた。
「えぇっ、なにこれぇっ?」
道理で体が動かなかったわけである。
「今回は代わりにうちが行きます。智恵理はんは大人しゅうして、はよ体直してや」
綾がクスクスとわざとらしく笑った。
「こ、これじゃあ、おしっこ……おしっこ出来ないじゃないのぉ」
智恵理が真っ赤になって怒りまくる。
無論、ベルトを外せば、即座に逃げ出す算段であった。
綾にはそれくらいのことはお見通しである。
「下のお世話は、この私が……」
スチュワート大尉が当然のように呟き、智恵理のパンティをずらした。
そして剥き出しになった秘部をまさぐると、尿道口にカテーテルを突き入れた。
「ひぃぃ〜っ?」
膀胱が搾られるような感覚と共に、カテーテルの先端から黄色い液体が滴り落ちた。
「はっ、恥ずかしい。見ないでぇ〜っ。本当はおしっこなんかしたくないのぉ」
智恵理は腰をくねらせてみたが、流れ出した小水は自分の意思では止められなかった。
その様子を見ながら、綾はそっと病室を出た。
「智恵理はん、堪忍や。半病人に務まるほど、今回の任務は甘もうないんどす」
綾は心の中で智恵理にそっと詫びる。
「うちら同期に任せて、作戦終了までSISのスペシャル・テクニックでも楽しんどいてや」
病室のドアの向こうから、それまでとは異なる調子の悲鳴が洩れ始めた。
※
その日の夜半、低気圧の通過に伴い都内は荒れ模様になった。
雨が激しく降り注ぎ、風は木々を根こそぎにせんばかりに荒れ狂った。
「きゃ〜ははははははっ、地底に潜る愚か者がいるよ。地底は大地の主の統べる場所だよ」
風を突いて、狂ったような女の笑い声が響いた。
「大地の主の怒りを買うよ。大地の主が全てを滅ぼすよ。きゃ〜はははっ」
いつ終わるともしれない哄笑が、嵐の街を席巻した。
ライサンダー乙
しかし凄いクオリティだ
もう一度だけ、「あの男」と共闘して欲しいなぁ。
146 :
名無しさん@ピンキー:2006/05/19(金) 17:26:52 ID:YZ7uDT/t
家ゲーの攻略スレで陸戦の雑魚っぷりを怒っていた人がいたが
これはペイルモードのSSだから我慢しなくちゃね
hosu
干す
陸戦兵の女性兵士がムカデに襲われるSSを途中まで書いていてPCクラッシュした。
誰か代わりに書いてくれ。
《西暦2019年10月21日 東京》
一条綾大尉が都内の作戦司令部に到着した時、夜の嵐は収まりかけていた。
「ほんま、よう降りましたなぁ」
綾が出迎えた眼鏡の士官にレインコートを手渡して愚痴る。
眼鏡の似合うリタ・キャンベル中尉は、かつて“エイプリル”のコードネームで、アルカトラズ実験小隊の副官をしていた。
その経験を買われ、本作戦の指揮官補佐に抜擢されたのである。
「どうでしょう? この雨で、悪い運を全て洗い流してしまったと考えるのは」
リタ中尉はレインコートの水を丁寧に切ってからハンガーに吊した。
「それ、ええわぁ。そない思ときまひょ」
綾は機嫌を直したように言い、タイムスケジュールの確認を行った。
「万事、予定通り進行しています。後は3時間後の攻撃開始を待つばかりです」
時間にうるさいリタ中尉が保証するのだから間違いない。
「陽動作戦部隊の方は? ちゃんと揃とりますん?」
「最後の1隊、ハミングバードが昨日20時に到着し、全ての攻撃態勢が整いました」
東南アジア戦線を後任部隊に任せ、ハミングバード隊が東京に到着したのは昨夜のことである。
敵の追撃をかわしつつの帰還となったため、帰京、即攻撃参加という強行軍となった。
途中、皆と分かれた神楽大尉は、今頃は地底突入本隊に合流しているはずである。
「もう、そろそろ起きはる頃ですやろ」
綾はリタ中尉を伴って、ハミングバード隊が待機している体育館へ向かった。
体育館に入ると、ムッとするような女の体臭が立ち込めていた。
隊員たちはようやく起き始めたばかりであり、下着だけのだらしない格好で歯を磨いていた。
疲れ切っているのか、無駄話をする者もいない。
30余名いる隊員のうち、綾の記憶に残っているのは全体の4分の1ほどである。
後は見知らぬ若手が補充されていた。
小隊長のお局様も今回は作戦から外れており、今はラオスの密林で別隊の指揮を執っている。
今回ハミングバードの指揮を任されたのは、綾の同期の“お嬢”こと竜崎雅である。
当の雅といえば、体育館の一番奥の特等席に、敷き布団を10枚重ねた特製ベッドで二度寝の真っ最中であった。
金ピカの参謀飾緒を着けた綾たちが乗り込んでいっても、若い隊員たちは無関心であった。
最前線では参謀など見たことないし、第一そんなものに構っている余裕はなかった。
いつ襲ってくるか分からない、密林の中の敵の方が余程恐ろしい。
「指揮官はどこどす? うち、陽動作戦部隊の第2戦隊司令どす」
綾が声を掛けると、ようやく若いペリ子が反応した。
「竜崎中尉でしたら、まだお休みですが」
そのペリ子は指揮官に取り次ぐどころか、伺いを立てようともせずにそっぽを向いた。
本部の参謀などが、実戦で何の役に立つのかといった風情である。
綾はそのふてぶてしさにムッとしながらも、同時に頼もしさを覚えた。
しかし指揮命令系統はハッキリさせておかなくてはならない。
「いてはるんやったら、とっとと叩き起こしてんか」
荒っぽい口調になった途端、敵意のこもった視線が一斉に振り向いた。
みんな目の隅ではちゃんと綾の存在に気付いており、敢えて無視していたのである。
最前線の兵士ほど、本部の参謀を嫌っている存在はない。
しかし、東洋人の身で、唯一人参謀本部の作戦部に席を置く綾にとって、そんな視線は慣れっこであった。
綾は涼しい目でペリ子たちを睥睨する。
「綾じゃねぇか?」
最初に綾の存在に気付いたのは、ペ科練で同室だった“ロック”こと六村貴子であった。
「きゃあ、ほんとぉ。綾じゃん」
同じく真渕“ボーイング”美穂も旧友の存在に気付いた。
体ごと振り返ると、巨大なバストがブルルンと揺れる。
2人の嬌声を耳にし、浅野寧々も近づいてきた。
「お前ら、こいつはいいんだよ。綾はアタイらの同期で、一番の出世頭なんだぜ」
貴子は上機嫌で部下たちに綾を紹介した。
綾は同期の輝ける星であり、皆の自慢の存在なのである。
途端に隊員たちの眉間から緊張が解ける。
ところが……。
「確かに綾どすけど、その下に大尉殿が付きますで」
綾は恐ろしく冷たい声で言い放った。
「気易う話し掛けんといてんか」
続いてゴミ屑でも見るような目で、同期生たちを見下した。
「あんたはんらと友達や思われたら、うち、かなわんわ。出世に響きますやろ」
思いも寄らない綾の台詞に、たちまち場が凍り付く。
「何だと、それがお前の本心かよ」
貴子が眉を吊り上げていきり立った。
他の隊員たちも鼻白む。
「元気あるのはよろしおすけど、肝心のインセクト・ネスト攻撃の時のためにとっときなはれ。ほな、時間に遅んよう」
綾は踵を返すと、かつての仲間の冷たい視線を背中に感じつつ体育館を後にした。
「よろしいんですか?」
リタ中尉が気遣わしそうに、綾に声を掛ける。
「これでええんや。あの人らも、この作戦を皮切りにどんどん出世しますやろ。それだけの実力のある人らやさかい」
綾が俯いたままで答えた。
「そんな時、本部の参謀であるうちと特別な間柄やゆうて知れたら、周りの人はどない思わはりますやろ?」
「本当に実力で昇進したとしても、コネを使ったって陰口を叩く輩も出てくるでしょうね」
リタ中尉はそれだけで綾の心中を察した。
綾自身にしてからが、祖父を極東支部の司令長官に持つ身なのである。
いわれのない誹謗の腹立たしさは、身に染みて知っていた。
「それだけやあらしまへん。仮に後方勤務にでも就くようなことがありましたら、コネつこうて逃げた言われます」
綾が自嘲気味に微笑む。
「せやから……これでええのや」
綾はもう一度呟くと、寂しそうに目を伏せた。
※
それから3時間後,都内の町並みは朝日に映えて輝いていた。
双眼鏡のレンズ一杯に、地面からこんもりと盛り上がった土塊が映っている。
地中の本拠から続いているアリどもの出入り口である。
日の出と共に活動を開始した数匹の黒アリが、既に土塊の周囲に蠢いていた。
双眼鏡を上へずらすと、巨大なガスタンクの群れが整然と並んでいるのが目に入る。
「厄介なとこに作ってくれはりましたわ」
綾は端正に整えられた眉をひそめた。
タンクに流れ弾が当たりでもすれば、爆発の巻き添えになるネストも只では済まない。
そのため、射線が極度に狭められてしまうのである。
今回はインセクト・ネストの破壊が目的ではない。
ネストから這い出てくる敵を殺し続け、巣穴の敵を地上に誘致するのが彼女らの役割である。
その間に精鋭部隊が巣穴の最深部に突入し、敵の増殖源を焼き払うのが本作戦の主眼であった。
一気にネストを破壊して出入り口を塞いでしまっては、陽動の目的を達成できなくなる。
突入を成功させるためには、無限に湧いてくるアリと最後まで戦い続けなければならない。
絶望的な持久戦を強いられるおそれがあった。
見方によっては、本拠地に突入し、最深部を破壊すれば作戦終了という本隊より、更に過酷な任務とも言える。
周囲の状況を確認した綾は、目から双眼鏡を下ろした。
綾がいるのはインセクト・ネストの南方にある小高い丘で、陽動作戦の指揮所が設置されている。
指揮所に詰めているのは指揮官の綾、オペレーターのリタ、そしてハミングバード隊隊長代理の雅である。
「ほんなら行きまひょか」
綾が左に立った雅をチラリと横目で見た。
「よしなに」
雅の素っ気ない返事を聞いて、綾が副官に目配せした。
「第2戦隊現地本部から攻撃総司令部へ。我、これより陽動作戦を発動す」
リタ中尉の通信が、そのまま攻撃命令となった。
草むらに伏せて待機していたハミングバードの隊員たちが、一斉に飛行ユニットを噴かして攻撃に入った。
無駄のない射撃が次々に黒アリに襲いかかる。
研ぎ澄まされたゲリラ戦術が冴え、まばらだった黒アリはたちまち全滅した。
「どんなモンだっ、ざまぁ見やがれ」
貴子がサンダーボゥ20を掲げて吼え立てる。
「さぁ、どんどん来やがれってんだ」
その呼び掛けに応えるように、ネストの中から次の黒アリ部隊が続々と湧いて出てきた。
※
丁度その頃、インセクト・ヒル跡に出来た洞穴を前に、EDF各隊から選りすぐった精鋭60名が突入準備に入っていた。
「だから余計な手間掛けさせるなって言ってるだろ。黙ってすっこんでろ」
突入部隊のリーダーが一人の女性の前に立ちはだかっていた。
女性は動きやすいジーンズ姿で、片手にマイクを握っている。
「突撃ジェミーか何様か知らんが、こんなことしてまで人気取りしたいのか。我々は遊びに行くんじゃないんだ」
陸戦兵のリーダーは、火の出るような勢いで女性レポーターを怒鳴りつけた。
彼は他人の死を飯のタネにしようというハイエナたちが大嫌いであった。
更に目の前にいる雌ハイエナが世間の人気者だと言うことは、彼にとって許し難いことであった。
「命知らずが売りだそうだが、死ぬのは自分だけにしてくれ。俺たちの命を人気取りのネタに使わせる気はないぞ」
つい最近、古い戦友を失ったばかりのリーダーは、声を荒げてジェミーに退場を命じた。
リーダーの怒りが隊員たちにも伝染し、殺気立った雰囲気が周囲に流れる。
突撃ジェミーの形のよい唇が開いた。
「命の大切さは誰よりも知ってるつもりよ。私、前に倫敦でアリンコに殺されかけたことがあるから」
ジェミーは荒くれ兵士たちを怖れる様子もなく、淡々と語った。
「その時一人のペイルウイングに助けて貰ったんだけど、私その子と約束したのよ。あなたたちの真実の姿を報道するって」
ジェミーは隊長の目を見据えたまま言った。
「EDFの隊員が人類のためにどれだけ必死で戦っているか、そしてどんな思いで死んでいくのか。世界中の人々は知る義務があるわ」
ジェミーの真剣さに、リーダーは一言も言い返せずにいた。
「誰かがそれを報道しなければならないとすれば、それはあなた達に命を救って貰った私の役目だわ」
思いもよらなかったジェミーの言葉に、陸戦隊のリーダーは項垂れて黙り込んだ。
そしておもむろに口を開くと、若手の佐野軍曹を呼んだ。
「軍曹っ、ミス・ジェミーの側を離れるな。掠り傷一つ負わせても承知せんぞ」
「イエッサー」
重大な任務を仰せつかった佐野軍曹は、誇らしげに胸を張った。
「お取り込み中、申し訳ないんだけど」
アイスバーン少佐が冷たい口調で割り込んだ。
「間もなくゼロアワーです。そろそろ突入準備をした方がいいんじゃ?」
同じく神楽大尉もフゥッと溜息をつく。
「ワハハハッ、すまん。直ぐに準備する」
陸戦隊のリーダーは豪快に笑い、右手を上げて応じた。
「本人が死にたがっているんだから、好きにさせとけばいいのよ」
「全く、単純なんだから」
アイスバーン少佐と神楽大尉は顔を見合わせ、呆れ果てたように頭を左右に振った。
両名はエース中のエースとして、各部隊から突入要員に選抜されたメンバーである。
ペガサス1のほとんどが負傷した中、少佐はレギーの人間防弾チョッキのお陰で、軽い火傷を負っただけで済んだ。
同僚の復讐戦の意味も込めて、少佐はこの作戦に自ら志願した。
突入部隊の構成はペイルウイング10名に陸戦隊50名。
そのうち陸戦隊は第1隊から第10隊、5名づつの小部隊に分けられていた。
先行遊撃するペイルウイングを、それら陸戦隊がバックアップする手筈である。
もっとも一瞬後には何が起こるか分からない敵地のことであるから、手筈通りに行くとは限らない。
「ところで……」
神楽大尉がアイスバーン少佐に話し掛けた。
「智恵理ちゃんがお世話になっているそうで。あの子、思いこみが激しいから……お手を焼かせたりしていませんか?」
ペ科練の後輩として、ハミングバード隊の部下として、大尉は智恵理のことを実の妹同然に思っていた。
たとえ遠く離れ離れになっても、苦労を共にした絆の強さに変わりはない。
「チェリーブロッサム中尉ならよくやってくれているわ。今じゃ隊になくてはならない存在ね」
アイスバーン少佐の頬に、ほんのり赤みが差すのを大尉は見逃さなかった。
「今に私を抜いてトップエースになることは間違いないわ。あの子がいる限り、人類の希望の灯は消えない」
それを聞いて神楽大尉は苦笑した。
「少佐、褒めすぎです……それに、この戦争はもうすぐ終わりますから。我々の勝利で」
アイスバーン少佐も釣り込まれて苦笑した。
気がつくと陸戦隊のリーダーが集合を掛けていた。
やがてクロノメーターが作戦開始の時刻を告げ、突入隊員たちはインセクト・ヒル跡地に出来た深い縦穴の中に消えていった。
直ぐ側のビルの屋上に、彼らを見送る人影があった。
「ひゃ〜っはははははは、地底に降りた馬鹿者がいるよ。虫達の世界さ、暗いよ〜、恐ろしいよ〜、もう出られない」
黒ずくめの女の口から、狂気に満ちた台詞が流れ出した。
口端からはヨダレが滴っている。
「餌になるのさ。ここから出られない、出られない、出られない〜」
その後には、気味の悪い笑い声がいつまでも続いた。
gj
インセクト乙
知らないうちに続きキテター
「お願いっ、スチュワート大尉……あたしだけ、こんなとこで遊んでらんない……い、行かせてぇ」
重傷者として病院のベッドに縛り付けられている智恵理は、介護人兼見張り役のSIS隊長に哀願した。
スチュワート大尉は、SISの拷問術を応用したスペシャルテクニックを智恵理に施している真っ最中である。
「申し訳ないですが、中尉を行かせることはできませんの。代わりにここでタップリ逝かせてあげますわ」
大尉は指先でこねくり回していた智恵理のクリトリスを、微妙なタッチでキリリと絞り上げた。
「ひぃっ、ひぃぃぃ〜っ。イクっ、イクぅぅぅ〜っ」
智恵理の足の指先が内側にギュッと折り畳まれ、全身が電撃を浴びたように痙攣した。
黒目が瞼の裏側に潜り込み、今日何度目かの失神をしかける。
インセクト・ヒル強行偵察のさなか、スチュワート大尉は命より大事な部下たちを面前で殺された。
その部下の仇を討ち、自分を地上に連れ帰ってくれた智恵理に心の底から感謝していた。
それだけに、恩人である彼女の哀願を、いつまでも断り続ける自信はなかった。
取り敢えずイキっぱなしにさせて、思考力を奪っておくしかない。
「おっ、お尻……お尻も」
智恵理がアヌスをピクつかせておねだりする。
「うふふっ、お尻にも欲しいのですね」
大尉は中指を立てると智恵理のアヌスに押し当て、捻りながら一気に貫く。
「はぁうぅぅ」
智恵理は身を硬直させ、次に来る快感を待ち受ける。
アヌスだけが興奮を抑えきれないように、大尉の指をギュギュッと締め付けた。
大尉のしなやかな指が腸壁をまさぐり、裏Gスポットを探り当てる。
「そっ、そこぉっ……ひぃっ、ひゃぁぁぁ〜っ」
最大の泣き所を的確に責められ、智恵理の腰が淫らにくねる。
頭の中がホワイトアウトし、もう突入作戦などどうでもよくなっていた。
下半身の筋肉が緩みきり、尿道口から熱いものが迸った。
「お漏らしするほどよかったの? でも、こんなもんじゃありませんわ」
大尉は智恵理を更なる高みに連れ去ろうと、指先を奥へと捻り込ませる。
「何をしているのですかっ」
突然、背後から厳しい非難の声が上がった。
大尉が振り返ると、ドアの入り口のところに看護婦が立っていた。
吹けば飛ぶような小柄の看護婦のくせに、職業意識に燃えているせいか、異様な迫力が滲み出ている。
他人の尻の穴に指を突き入れているという、異常なシチュエーションを見られてしまったこともあって大尉は狼狽えた。
看護婦は医療器具を載せたワゴンを押してベッドに近づいてきた。
仕方なく大尉は智恵理のアヌスから指を引き抜く。
「あふぅ」
夢心地にされた智恵理は、周囲の状況など気付かぬように腰をくねらせている。
股間のあたりがお漏らしでグチョグチョになり、シーツが台無しになっていた。
「こんなに不潔にして、取り敢えずあなたは出て行きなさい」
看護婦が柳眉を逆立てて、スチュワート大尉に退室を命じた。
「しかし、私の任務は……」
「任務だかなんだか知りませんが、治療の邪魔です。この患者は重傷なんですよ」
看護婦のもの凄い剣幕に押され、大尉は這々の体で部屋を出ていった。
邪魔者がいなくなると看護婦はようやく眉の緊張を解いた。
もし大尉が作戦部の特殊部隊員ではなく一般の参謀であったなら、その看護婦の正体に気付いたかもしれない。
しかし彼女はEDF戦技研に知己はなかったし、思念誘導兵器開発主任ミラージュ博士の顔など知る由もなかった。
「もう、こんなになっちゃって。中尉っ、チェリーブロッサム中尉。ほら、シャンとして」
ミラージュは智恵理の頬をピシャピシャと叩く。
「う……うぅ〜ん……」
薄目を開けた智恵理の視界に、看護婦姿のミラージュが飛び込んでくる。
「午後からの予定は新型エクレールの試射だっけ……?」
夢うつつの智恵理は、自分がアルカトラズ実験小隊にいるものと錯覚した。
「なに寝ぼけたこと言ってるんです。突入作戦に間に合わなかったら、一生後悔することになるわよ」
突入作戦なる語彙を耳にして、智恵理が正気に戻った。
「あれっ、ミラージュ。どうしてここに?」
ミラージュはアルカトラズで別れた後、思念誘導兵器の開発のため、EDF戦技研に戻ったはずである。
「知らないっ。お尻さえ可愛がって貰えれば、見境なくイッちゃう中尉なんて」
痛いところを突かれ、智恵理は耳朶まで真っ赤になった。
「けど、今はそんなこと言っている場合じゃないから、特別に許してあげる」
ミラージュは智恵理の上半身をベッドに縛り付けている、3本のベルトを外しに掛かった。
「もう陽動作戦が始まったわ。参謀本部は敵を過小評価しているけど、敵の本拠にはきっと恐ろしい敵が待ち構えている」
なまじ一粒選りのエースを数多く投入しているだけに、作戦の失敗は一戦場での戦術的敗退にとどまらない。
大戦の終局を左右する、戦略的な大敗北となるおそれがある。
その意味で今回の地底決戦は、この大戦の天王山と言えた。
ミラージュがワゴンの中から見慣れぬ銃器を取り出す。
「ミラージュ5WAY。今度完成した新型の思念誘導兵器よ。これ持ってって」
智恵理は優美な曲線で構成された新型ミラージュガンをまじまじと見詰める。
「起動、照準、発射ともに前作ミラージュ・ゼロと同じ思念作動──」
ミラージュが得意そうに説明を始める。
「連射速度は6分の1に落ちたけど、一度に5本のビームを拡散発射できるから、閉所での乱戦ならむしろ有利に戦えるわ」
ミラージュ5WAYを手にした途端、ニッキーとパリスの死に様が脳裏に蘇ってきた。
生まれて初めて人の命を奪った、嫌な思い出であった。
「そんな顔しないで。やぁね、中尉のことモルモットだなんて思っていないから」
相手に表情を読まれたことに気付き、智恵理は無理に笑顔を作る。
「それと、脳波活性剤。今の中尉の思念力が、どのレベルにまで達しているか分かりませんから──」
ミラージュは滅菌された無針注射器のパックを差し出す。
「もし、それが使いこなせないようなら打ってちょうだい」
受け取ったパックを見ると、タバコほどの大きさの筒が5本詰まっていた。
「当たり前ですが、試射はしてません。あくまで最後の武器として考えて……出来るだけ無駄には撃たないで」
最後の台詞の時だけ、ミラージュは何故か沈痛な表情を見せた。
※
ドアが開き、ワゴンを押した看護婦が出てきた。
職務に忠実なスチュワート大尉はドアのすぐ外で待機していた。
「あなたが興奮させるから、患者の神経が異常に高ぶっています。鎮静剤を投与しましたから、しばらく安静にしてあげて下さい」
部屋の中を覗くと、中尉は頭まで毛布を被って寝入っているようであった。
大人しくしていて貰えるなら、大尉にとっても好都合である。
「悪かったわね。お手伝いしましょうか?」
大尉は看護婦に代わってワゴンを押そうとする。
「不潔な手で触って貰ったら困ります。これは医療器具なんですよ」
大尉は直前まで他人の排泄器官を弄っていたことを思い出し、素直に手を引っ込めた。
「お気持ちだけ頂いておきます」
看護婦はアルコールの染みたガーゼを取り出し、大尉の手の平に乗せた。
そして重そうなワゴンを押して、次の巡回先へと立ち去っていった。
※
ガスタンク脇に出来たインセクト・ネストからは、次々に黒アリが湧き出していた。
「ヒャハハハハッ、こいつは、ご機嫌なスコア稼ぎだ。さぁ、幾らでも来やがれ」
現場の指揮を任された貴子がサンダーボゥ20を撃ちまくる。
敵がネストから顔を出した瞬間を狙えば簡単なのだが、それではネスト自体も被弾する危険がある。
そのため攻撃は一呼吸おいて、敵がネストを離れてからになる。
それでも少数の獲物を我先に奪い合うため、過剰に撃ち込まれた稲妻の反射が、少しずつネストを削りつつあった。
「けど、流石にだるいじゃん」
飽きっぽい美穂が愚痴をこぼす。
「神楽大尉の負担を少しでも減らすためには、あたしたちがここで頑張らないと」
サンダースナイパーを抱いて後方警戒に当たっている寧々が、貴子と美穂をたしなめた。
目をウルウルさせて詰め寄ってくる寧々に、2人は閉口する。
実際、自分たちの陽動作戦が、どの程度突入部隊の役に立っているのかは分からない。
だが彼女たちは、ここに踏ん張ってアリを引き寄せることが、大好きな大尉への恩返しになると信じて戦うしかなかった。
その頃、彼女たちのいる場所から北西に数百メートル離れた交差点で、異常事態が起こりつつあった。
アスファルトに亀裂が入り、その裂け目から間歇的に土砂が吹き上がっていた。
不幸なことに、巨大なガスタンク群の死角になっていたため、その異変に気付いた者は誰一人いなかった。
※
「撃て、撃てぇっ」
洞窟中にアサルトライフルの銃声が響き、火薬と酸の臭いが充満する。
天井に張り付いていた黒アリが、深い穴の底へと転がり落ちた。
巣穴に突入した突入部隊は、深い縦穴の手前で黒アリの奇襲攻撃を受けていた。
「この縦穴から地下に侵入するんだ」
突入部隊を率いるリーダーが、深淵の底をこわごわと覗き込む。
『縦穴の底に生命反応多数。巨大生物です』
ヘルメットのレシーバーからオペレーターの通信が入った。
「奴ら、我々を待ちかまえているというのか。だが、それでも行くしかない」
誰かの生唾を飲み込む音がした。
「何て数だ。もし落ちたら、取り囲まれて一巻の終わりだ」
レーダーを確認すると、重なりあった敵で中央部が真っ赤に染まっていた。
『もしこの崖から転落したら、巨大生物の群の真ん中に落ちることになります。気を付けてください』
オペレーターの忠告も、なんの気休めにもならない。
逡巡している暇もなく、次の一団が壁を伝って這い上がってきた。
「くそっ、撃て、撃てっ。撃って撃って、撃ちまくれぇっ」
もの凄い弾幕が敵を次々に血祭りに上げていく。
しかしこんな所で足止めされていては、いつまで経っても下には降りられない。
ペイルウイングのエース、アイスバーン少佐は、打開策を見つけようと深い穴の底を見下ろした。
AS−19のマズルフラッシュが闇を切り裂き、眼下を左右に走る足場と、その先に口を開いた洞穴を照らし出す。
「私があの洞穴で敵を引き付ける。みんなはその隙に下に降りてちょうだい」
少佐は立ち上がるとM2レイピアを左肩に背負い、サンダーボゥ20の銃把を握り締める。
そしてリーダーの制止にも耳を貸さず、ユニットを噴かして足場へと降り立った。
「さぁ、こっちよ。掛かってらっしゃい」
少佐は足場を走って洞穴に入り込み、振り向きざまにサンダーボゥ20を放った。
青白い稲妻が迸り、追ってきた黒アリに命中する。
闇に慣れた目に、人工の稲妻が眩しい。
バイザーがなければ網膜が灼かれているところである。
一人崖の上から降り、仲間から離れた少佐の存在は、直ぐに嗅ぎつけられた。
洞窟の入り口に黒アリたちが群がってくる。
少佐は飛び来る酸液を避け、洞窟の奥へ奥へと下がる。
カーブを描いた洞窟の奥には、直線的に発射される蟻酸は届かない。
全ての酸は少佐の遥か前方に命中し、虚しく岩肌を灼いた。
「悪いけど、こちらからはアンタ達を撃てるのよ」
少佐の放った稲妻が、岩肌の露出した壁に命中する。
壁に当たった稲妻が反射し、岩肌を滑るように先へと流れた。
一瞬後、カーブの先の見えない位置から、アリの断末魔の悲鳴が聞こえてきた。
サンダーボゥの反射特性を知り尽くした、見事なアウトレンジ戦術である。
仲間の死骸が邪魔になり、後続のアリたちが立ち往生する。
死骸を乗り越えようとしたアリが、狭い洞窟の天井につかえて身動きできなくなった。
そこに情け容赦ないサンダーボゥ20が、次々に叩き付けられる。
「流石だわ、アイスバーン少佐」
崖の上の神楽大尉が感心したように頷いた。
歴戦のエースは、どんな状況でも自分に有利なように活用できる。
只のドンパチ好きとは一線を画していた。
「さぁ、今のうちだわ。私たちが先に降りて橋頭堡を築くから」
神楽大尉は陸戦隊のリーダーに一瞥をくれると、他のペイルウイングたちと共に崖下へと飛び降りた。
168 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/11(日) 21:21:07 ID:yge8mIiQ
続きキテタァー
相変わらずスゲーなw
保守
171 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/16(金) 13:34:04 ID:uy8JR018
>>170 何かを予感させるような時間帯に書き込んだものだな
172 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/17(土) 16:18:09 ID:1AbI9Eqo
保守
173 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/20(火) 16:11:25 ID:VsJSQ/9j
保守
174 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/20(火) 17:50:51 ID:D/Kdidfk
175 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/24(土) 22:49:12 ID:3Wn9i/RN
保守v
※
病院を抜け出した智恵理は、戦技研が差し向けた公用車でインセクト・ヒル跡へと急いでいた。
狭い車内で、真新しいペイルスーツとプラズマエネルギー・ユニットを身に着ける。
黒いボディアーマーだけは、戦地から回収された自分のオリジナルである。
長いブーツとグラブは体に馴染んでいないので、履くのに尋常でない苦労を強いられた。
それでもヘルメットを被って締め付けを調整すると、それまでの疲労感が嘘のように霧散する。
いつもの調子を取り戻した智恵理が運転手を急かす。
「急いでちょうだい。地球の運命を左右する大事な一戦なのよ」
ソルジャーの一人として、これが興奮せずにおれようか。
脳内物質が過剰に分泌され、智恵理の脳下垂体が温度を上げていく。
思念波の放出が全開となり、空間認識力が異常な高まりを見せる。
その途端、智恵理の脳内に甲高い嘲笑が流れ込んできた。
『ひひはははははは、どんどん出てくるよ〜、地底は巨大生物だらけ。いっひはははは』
智恵理は反射的に武器を掴むと、車のドアを開いて車外に転がり出た。
同時に車体がパルスレーザーの雨に貫かれ、大爆発を起こした。
地面を転がった智恵理は、飛行ユニットを断続的に吹かして姿勢制御する。
そしてそのまま移動し、ビルの残骸に入った。
「どこっ?」
智恵理は首を巡らせて敵の姿を探す。
『地の底でもっと恐ろしいものが育っているよ。大地の主が育っているよ〜ふふふふ、あ〜っははははは』
再び女の哄笑が響き渡り、智恵理は新型サンダーボゥ20Rを構えた。
「そこぉっ」
空間を稲妻が走り、背後に建ったビルとビルの隙間を貫いた。
一瞬置いて、その隙間から漆黒のペイルウイングが飛び出して来る。
以前、倫敦で軽くあしらわれた、エイリアン・ウォーシッパーの女である。
その正体は元アルカトラズ実験小隊に属するEDF士官。
悪魔の姉妹ニッキー、パリスと同じく、脳波実験の結果、正気と引き替えに超能力を得た狂戦士の一人である。
失敗作として廃棄処分される寸前に脱走し、侵略者側に寝返った裏切り者であるが、その能力は半端ではない。
柳生新陰流の使い手、マイティ少尉を死に至らしめたのは、彼女たちが集団脱走した直後のことである。
アルカトラズが誇るエース、バルキリー大尉とコンボイ軍曹のタッグですら、悪魔の姉妹に勝てなかった。
しかも、目の前の黒いペイルウイングから伝わってくる波動の強さは、悪魔の姉妹を凌駕している。
今の智恵理にどこまで戦えるかは、正直分からなかった。
「今度は逃がさないっ」
サンダーボゥ20Rは前作に比べて破壊力に劣るものの連射速度は2倍、毎秒2発の速射性能を誇る。
雷鳴が轟き、超科学の稲妻が次々に放たれた。
「ひははははぁ〜っ」
黒衣のペイルウイングは、一束20本もの稲妻を無造作に避けていく。
「くそぉっ、当たれ、当たれぇ〜っ」
焦った智恵理はサンダーボゥ20Rを連射する。
しかし黒い女は既に見抜いていた。
生身の人間を撃つことに恐れを抱いている智恵理の深層心理を。
智恵理が無意識の内に、照準と射撃のタイミングをズレさせていることなど、とうの昔にお見通しであった。
「ダメだ、当たらない……時間がないってのにぃ」
まさか自分が敢えて狙いを外していることなど知らず、智恵理はクロノメーターを気にする。
こうしている間にも、EDFの仲間たちは慣れない地底で苦戦を強いられているのだ。
「こうなったら……」
智恵理は背中に吊したミラージュ5WAYに手を伸ばす。
そして一瞬の躊躇の後、意を決したかのようにトリガーの無い銃把を握る。
黒いペイルウイングが僅かに表情を変えた。
智恵理の脳裏に、実際には見えないはずの表情が映り込んだ。
「ゴメン、仕方ないのよ……起てっ!」
智恵理はミラージュ5WAYを起動させようと、精神を集中させた。
ところが、新型のミラージュガンは、智恵理の呼び掛けに反応しなかった。
「そんな……起てっ、起てぇっ」
アルカトラズでは完全に管制下に置いていたミラージュガンが、今は全くコントロールできなかった。
「ひぃ〜ははははっ。戦士じゃない、戦士じゃないよ。ひゃ〜はっはっはっ」
けたたましい笑い声と共に黒い女が攻撃に転じた。
「やばっ」
智恵理が身を投げ出すと同時に、たった今まで背にしていた電柱がパルスレーザーを受けて吹き飛んだ。
敵の殺意が銀色のラインとなって智恵理を貫く。
それを避けると、脇腹を赤紫色のパレスレーザーが掠めていった。
後手に回る不利を悟った智恵理はミラージュ5WAYを投げ捨てる。
そしてサンダーボゥ20Rに持ち替えると、ユニットを噴かして宙に飛び上がる。
黒い女も智恵理を追って飛び上がり、壮絶なドッグファイトが開始された。
目まぐるしく位置が入れ替わり、青白い稲妻と赤紫の光の雨が交錯する。
機動力、攻撃力共にほぼ互角。
だが、まともに相手を狙えない智恵理が不利になっていくのは、当然の成り行きであった。
一度も地上に降りない空中戦が続き、エネルギーゲージがみるみる下がっていく。
頃合い良しとみた黒い女は、わざと単調な動きで智恵理の射撃を誘う。
「今ぁっ」
智恵理はここぞとばかりフル連射する。
その途端、敵は垂直上昇に入り、稲妻の束は虚しく流れ去った。
弾切れになったサンダーボゥが、ユニットのエネルギーをがぶ飲みする。
同時にユニットのエネルギーが尽き、緊急チャージモードに入ってしまった。
「しまったぁ〜っ」
失速した智恵理が、攻撃も飛行も出来ない無防備な状態で地面に緩降下していく。
ニヤリと笑った黒いペイルウイングが、パルスレーザーガンを構えて急降下した。
そして、トリガーに添えられた人差し指に力がこもる。
『いけませんっ』
突如として脳に突き刺さった叫びに、黒い女と智恵理が同時に首を巡らせる。
横合いから一人のペイルウイングが乱入してきた。
イヤーレシーバーにマーキングされた、ハスの花が鮮やかであった。
「マーヤ中尉っ」
マーヤのレーザーランスRカスタムが火を吹いた。
速射型ランスの猛攻を受け、流石の黒い女もあたふたと逃げまどう。
その間に智恵理のユニットがチャージを完了する。
「マーヤ中尉、あなた……」
智恵理は自分を庇うように立っているマーヤの背中に声を掛けた。
「あの女は……アスラは私の姉なのです。正確には同じアシュラムで修行を積んだ姉弟子に当たるのですが」
マーヤが振り返って答える。
前に倫敦で見せた、憂いを帯びた目になっていた。
それで以前感じた疑問は全て氷解した。
マーヤは自分の姉を、敵とみなして戦わねばならない立場にあるのだ。
アスラがアルカトラズ計画の犠牲者であるのなら、智恵理としても堪らないものがある。
まかり間違えば、智恵理も彼女と同じ道を歩んでいたかも知れないのだ。
マーヤが視線を智恵理に戻す。
「チェリーブロッサム中尉。あなたはヨーガの修行など、経験は全くありませんよね」
智恵理は神妙そうな顔付きで頷く。
学生時代のクラブ活動はバスケとアニ研だった。
「なのに、あなたのクンダリニーは異常なまでに高まっている」
マーヤは驚きを隠せず、ただ首を左右に振る。
「あの、ゴメン。クン……ダリニーって?」
智恵理はサッパリ訳が分からず、目をパチパチさせる。
クンダリニーとは尾てい骨周辺に眠っている根源的なパワーのことであるが、そんな知識など智恵理には無い。
「何らかの原因で肛門部にあるムーラダーナ・チャクラが劇的に開いたため、クンダリニーが覚醒、背骨を通って上昇し、次々と上位のチャクラを開いていったんだわ」
マーヤが奇跡を目撃したような、驚きに満ちた目で智恵理を見詰める。
「それって……ひょっとして……アナルセックス……?」
俯いた智恵理の頬が真っ赤に染まる。
思えばミラージュが異常な執拗さをもって、智恵理のA感覚を開発しようとしていたのは偶然なのか。
「今のあなたがこれが使いこなせないのは、頭頂部のサハスララ・チャクラが開いていないからなのです」
マーヤがミラージュ5WAYを差し出す。
「サハスララ・チャクラは他のチャクラを統合する最高位のチャクラ。7つのチャクラが開いたとき、人は高次元生物へと進化できるのです」
いきなり専門的な話をされても、素人の智恵理に理解できるはずがなかった。
そんなことより、今は目の前のエイリアン・ウォーシッパーの方が問題であった。
「今は時間がありません。アスラは私に任せて、あなたは先を急いで」
マーヤ中尉は智恵理にミラージュガンを手渡すと、同門の姉を振り返った。
※
もう何匹のアリを倒したのか、覚えている者はいなかった。
東南アジアの密林で過酷な戦闘を続けてきたハミングバード隊にも、これだけの激戦は経験がない。
無限の回復力を誇る敵は、インセクト・ネストから間歇的に湧き出してくる。
それでも地下で戦っている仲間の負担を少しでも減らすためには、手を抜くわけにはいかない。
体力の限界は既に超え、ただ戦友に対する思いと責任感だけが彼女らの気力を支えていた。
隊員たちの動きが鈍ってきていることは、離れた高台に設置された現地司令部からでもよく分かった。
「まだ突入部隊からの連絡は入りまへんか?」
この方面の陽動作戦を任されている綾が、副官リタ中尉に尋ねた。
同じ質問をするのはこれで3回目である。
「小集団が最下層に到達したことろまでは、司令部経由で情報が入っていますが……」
リタ中尉が申し訳なさそうに語尾を濁す。
「あれから30分どすか」
綾は腕時計をチラリと見て眉をひそめる。
早く最深部の破壊に成功してくれないと、こちらはもう長くは保ちそうにもない。
「第1戦隊の方は、どないなってはります?」
町の反対側、ビル街のインセクト・ネストに対して陽動を仕掛けているセイレーン隊の状況も気になる。
「第1戦隊も同じ状況です。徐々に被害が出てきている模様」
リタ中尉は無線を傍受して得た、セイレーン隊の情報を伝える。
欧州の名門、セイレーンは、ハミングバード隊にも劣らぬ精鋭部隊である。
しかし同じ人間である以上、やはり体力に限界はあるのだ。
持久戦に弱いというのは、ペイルウイング各隊に共通する最大の弱点であった。
「いっそ、どっちか一方のネストを壊して、陽動部隊を合流させた方がええんやろか」
迷いの生じた綾が、ハミングバード隊長代理の雅をチラリと見る。
「よしなに。どの様な命令でも聞いて差しあげてよ。実戦の指揮さえ、わたくしに任せていただけるなら」
雅は真正面を見据えたままで同期生に答えた。
問題は噴出口を一つ閉鎖することによる、地下への影響である。
行き場を失った敵集団が、突入部隊へと向かうようなことになれば、陽動の目的を果たせなくなる。
自分たちはあくまで突入部隊の最深部攻撃を助けるための囮なのだ。
綾がそう割り切ろうとした時、思いも掛けないことが起こった。
若手の隊員が、黒アリがネストから顔を出した瞬間、反射的に攻撃してしまったのだ。
サンダーボゥ20の直撃を受けたインセクト・ネストは、砂煙を上げてバラバラに吹き飛んだ。
それまでにも流れ弾を受けて脆くなっていた外壁が、一気に崩落したのである。
岩盤のように練り固められた破片が陥没し、巣穴内部へと続く開口部は完全に閉ざされてしまった。
「悩む手間、省けましたわ。こうなったら第1戦隊と合流して、休息を取りつつ……」
綾が転進命令を出すより早く、リタ中尉の悲鳴が上がった。
「ガスタンク群の背後に敵多数。敵の巧妙な罠です」
レーダーを確認すると、いつの間にか現れた真っ赤な光点が、味方の後方をぐるりと取り囲んでいた。
「新しい巣穴が出現したのです」
リタ中尉の声を合図とするように、敵の新手がガスタンクの陰から雪崩れ込んできた。
183 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/28(水) 04:02:35 ID:9xSDssNQ
キテタァ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
亀GJ
侵食と地底突入シリーズを連動させたのか?
186 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/02(日) 19:53:54 ID:xwZDXKFz
乙!!GJ!!
187 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/03(月) 07:12:32 ID:FnCmJWGi
最高だな!
こんなにおもしろい作品があったなんて知らなかったよ
188 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/03(月) 15:38:54 ID:yxy74dS4
まとめれば本として出せそうだよな
また圧縮かよ
一度落ちてるだけに心配だぜ
190 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/07(金) 20:05:05 ID:o+DGwiiw
板が圧縮するぞ
回避、回避しろ〜
誰か前スレの過去ログ持ってない?
纏めサイトドコー
このスレの内容は纏めてる
前スレログあれば纏めて纏めるよ〜(何か変かw
※
2つの影が虚空を飛び交い、時折青白い光の槍と赤紫の雨が走る。
マーヤとアスラの戦いは、ヨーガの体術を極めた者同士の壮絶なドッグファイトとなった。
見守る智恵理とて肉眼では全てを捉えきれず、波動を追うことでしか状況を掴めない。
肉体的に若く、今も修行を続けているマーヤの方が動きがいいようである。
しかし、アルカトラズで能力を強化されたアスラも負けてはいない。
更に、能力の増強と引き替えに理性を喪失したことも、アスラにとって強みになっていた。
どうしても命を奪うような攻撃はできないマーヤに引き替え、アスラの射撃には容赦がない。
平気でマーヤの頭部や心臓目掛けてパルスレーザーガンをぶっ放す。
「もうやめて下さい。あの優しかったアスラは何処へ行ってしまったのです」
マーヤはレーザーの雨を避けながら、アスラと別れた日のことを思い出していた。
※
決して裕福とは言えないアシュラムに政府の使者が訪れたのは、ある暑い日の夕暮れであった。
政府の役人は、鷲のような目をしたアングロサクソン系の中年男を伴っていた。
男はWG、すなわち世界政府設立委員会のEDF担当部門の要人と名乗り、莫大な寄進を申し出た。
それと引き替えにヨーガの技術伝道者を一人差し出せと要求してきた。
EDFがヨーガのインストラクターを欲しているのではないことは、聞くまでもなかった。
しかしこの国において、政府の要求は即ち命令であり、断ればアシュラムの閉鎖は確実であった。
アシュラムの仲間を代表して、自らEDFに身を投じたアスラは、元来誰よりも争いごとが嫌いな性分だった。
「なぜ姉さんが兵士なんかに……どうしてあなたが戦うの?」
姉弟子の気性を誰よりも良く知るマーヤは訝しげに尋ねた。
「あなた達が戦わずに済む世界を作るためよ」
アスラは微笑んで答えると、一人アシュラムを去っていった。
アスラの事故死を伝える官報が届いたのは、それから間もないことであった。
「姉さんが死ぬわけがない」
そんな疑問を持ってEDFへ入隊したマーヤだったが、エイリアン・ウォーシッパーの存在を知るに連れ、疑問は確信に変わった。
姉は悪魔に魂を売り渡したのである。
妹には姉を改心させるか、無理ならば抹殺する義務があった。
それがアシュラムの厳しい掟なのである。
※
「もう、ダメなのですね……」
ならば、せめて自分の手で葬ってあげたい。
上を取ったマーヤは、アスラの未来位置を予測してレーザーランスを連射する。
アスラは素早く進路を変えて攻撃を避ける。
しかし、それはマーヤの仕掛けた陽動であった。
彼女は姉の進路をビル街へと巧みに誘導したのである。
ビル群に行く手を遮られたアスラは、やむなく上昇機動に移る。
一瞬速度を落としたアスラに対し、マーヤの急降下が迫る。
「終わった」
マーヤが勝利を確信し、トリガーに掛けた指に力を込めた。
だが黒いペイルウイングには、まだ取って置きの切り札があったのだ。
アスラは不敵な笑みを浮かべると、マーヤに向けて強烈な思念波を飛ばした。
マーヤの脳裏一杯に、強制流入してきたイメージが広がる。
それは全裸で愛し合うアスラとマーヤ自身の姿であった。
「………………!」
一瞬、身を硬直させたマーヤの動きが止まる。
その隙を逃さず、アスラのパルスレーザーガンが唸りを上げた。
「キャァァァーッ」
レーザーに貫かれたマーヤが墜落する。
「卑怯よっ」
智恵理の叫びは悲鳴に近かった。
アスラの飛ばした思念波は、遠く離れた智恵理にも感知できるほど強烈であった。
同時に、智恵理はマーヤが決してアスラに勝てないことも悟った。
彼女はまだ姉のことを愛しているのである。
アスラがマーヤの足元に降り立ち、非情な銃口を突き付ける。
マーヤが悲しげな目でアスラを見上げるが、かつて姉と呼んだ女の顔には表情がなかった。
「マーヤ中尉が殺される」
智恵理は、無意識に脳波活性剤の無針注射器を握り締めている自分に気が付いた。
※
『やぁ〜ねぇ、アンタ、またアレで人を殺すの?』
いきなり背後から話し掛けられ、智恵理は飛び上がりそうになるほど驚いた。
振り返ると、サラサラのプラチナブロンドを風になびかせた白人娘が立っていた。
ラメを光らせたゴージャスなボディコンスーツ姿である。
ただし肉体も着衣も半透明で、背後の景色が透けて見えていた。
「ニッキー?」
それは智恵理がアルカトラズで仕留めた悪魔の姉妹の姉であった。
『化けて出ちゃったぞぉ〜』
横合いから手をブラブラさせた、妹のパリスが身を乗り出す。
江戸時代中期に円山応挙が確立した、日本式幽霊の所作である。
「キャァァァーッ」
耳を押さえた智恵理が、固く目を閉じてその場にしゃがみ込む。
『キャハハハハハァ〜ッ』
『面白ぉ〜い。うらめしやぁ〜』
日本製アニメの大ファンである2人が、智恵理を中心に円を描くようにグルグル回る。
「ゴメン、あんなことになるなんて思わなかったのよ。謝るからもう許してぇっ」
智恵理はただ目を瞑って2人に許しを乞う。
『なによ、こいつ。アタシらこんな奴に殺されたの?』
『なんか自己嫌悪ぉ〜っ』
ニッキーとパリスがしらけたような表情になる。
『もう、およしなさい。2人とも』
耳元で聞き覚えのある声がした。
智恵理がそっと目を開けてみる。
ポニーテールの少女が凛とした表情で立っていた。
夏用の白いセーラー服と肩に担いだサムライソードがミスマッチであった。
マイティこと風見舞子──アルカトラズにおける智恵理の先任者である。
「マイティ少尉」
地獄に仏とばかり、智恵理がすがりつこうとする。
しかし半透明の少尉の体には触れることはできず、勢い余って前のめりに倒れ込む。
「あたし、どうすればいいの……アレを使うとまた人を殺しちゃうし、使わないと仲間が殺されちゃう」
智恵理は地面に手を付いたままの姿勢でマイティ少尉を見上げた。
『……吾、ことにおいて後悔せず……さる高名な剣豪が遺した言葉です』
智恵理が落ち着くのを待って、マイティ少尉が口を開いた。
『一旦決めて行ったことは、どんな結果になろうとも後悔はしない。後悔しないように、自分の頭で考えて決断せよ、という意味です』
マイティ少尉は叱責するでもなく、哀れむわけでもなく、自然体のまま語った。
『如何なる時も自分の判断を信じてベストを尽くせば、その結果について後悔する必要ははないのです』
18歳で命を散らせた少女剣士は、そう言ってニッコリと笑った。
『さぁ、自分の信念に従って行動しなさい。私たちはいつでもあなたを見守っています』
笑顔のマイティ少尉の姿が薄らいでいく。
『私“たち”って……ちょっとぉ』
あからさまな不平顔になったニッキーとパリスの姿も陽炎のようにゆらめく。
※
「待って……」
気が付くと智恵理は何もない空間に向かって手を突き出していた。
手には無針注射器が握り締められている。
反射的にクロノメーターを確認すると、注射器を握ってから10秒も経っていなかった。
「夢だったの?」
先達の残留思念が激励してくれたのか、深層心理が自分に都合のいい幻覚を見せたのかは分からなかった。
しかし自分の取るべき行動はハッキリと分かった。
人を殺すのは嫌だが、自分の不作為のために戦友を失うのはもっと嫌であった。
智恵理は無針注射器の封を破ると、剥き出しになった肩口に叩き付けた。
たちまち襲いかかってきた目眩と吐き気を耐え抜く。
そしてまさにトリガーを引こうとしているアスラに向かって飛翔した。
「起てっ!」
智恵理の思念を受けて、ミラージュ5WAYのジェネレーターが起動した。
次いでコンプレッサーが唸りを上げ、エネルギーを圧縮していく。
「撃てぇっ!」
銃口から5本の光線が同時に迸った。
「斬れぇーっ!」
発射された5本のエネルギー波は、アスラを包み込むように襲いかかった。
「ひぃはぁぁぁ〜っ」
素早く飛翔したアスラは、能力の全てを駆使して宙を舞った。
それでも5本のエネルギー波の全てを避けきることは不可能だった。
1本が左の太腿を貫き、更に1本が右手の手首に命中した。
パルスレーザーガンを握り締めたままの右手が吹っ飛ぶ。
「ふぎゃぁぁぁ〜っ」
化け猫のような悲鳴を上げてアスラが逃走に入る。
「待てぇっ」
後を追おうとした智恵理だったが、今は時間が惜しかった。
手負いの黒いペイルウイングは、アッという間にビルの谷間へと消えていった。
智恵理はマーヤ中尉を助け起こすと、無事を確認する。
脇腹を削られて重傷は負っていたが、致命傷にはなっていない。
しかし直ぐには戦闘できるような状態ではなかった。
「ごめん、あたしがもっと早く撃ってれば……」
智恵理はマーヤ中尉に頭を下げた。
「逡巡した私がいけなかったのです。あれしきのことで……まだまだ修行が足りないわ」
美貌のインド人中尉が恥ずかしそうに頬を染めた。
自分とアスラの深い関係を智恵理に知られてしまったことは確実だった。
「それより一刻も早く巣穴へ。私なら大丈夫だから」
マーヤ中尉が巣穴の入り口へアゴをしゃくり、智恵理に突入を促す。
突入部隊が巣穴に侵攻してから既にかなりの時間が経過している。
無駄に費やせる時間は、もう1秒もなかった。
「わかった。助けが来るまで動いちゃダメだよ」
智恵理はマーヤ中尉を寝かせると、巣穴の入り口へと駆けていった。
「あなたは強制的にサハスララ・チャクラを……私のために……」
智恵理を見送るマーヤの目は悲しみに潤んでいた。
※
『こちら第10攻撃隊。巨大生物に囲まれて苦戦しています』
『撃てぇ。生き残るには敵を倒すしかない。撃てぇ、一匹残らず倒せぇ』
巣穴に侵入すると同時に、智恵理のレシーバーが突入部隊の交信を鮮明に捉えた。
隊員たちの喚く声に混じって、激しい銃声が聞こえてくる。
『う、上です。上から敵が』
『なんだ? 糸、糸が降って来るぅっ』
奇襲を喰らったのか、隊員の慌てふためく様子が声にハッキリ現れていた。
『取れない、糸が取れない』
『わぁ〜、動けないぃ〜っ。助けて隊長……う、うわああぁぁ』
激しい銃撃が続いた後、交信がプツリと途絶えた。
第10隊は全滅したのであろうか。
「糸がどうとか言ってたけど、黒アリ以外にクモもいるの?」
智恵理の背筋を冷たい汗が伝って落ちた。
『こちら陸奥。地底を巨大生物の群れが移動しています』
『こっちへ来るぞ。撃て、撃てぇ〜っ』
『しまった。うおぁ〜っ』
何をしくじったのか、後悔に満ち溢れた悲鳴が上がる。
『各員、周囲の敵を殲滅せよ』
リーダーの命令が飛ぶが、内容が具体性に欠けている。
リーダー自身もパニックを起こしかけているのであろうか。
『本部、応答願います。巨大生物の群れを発見。回避は不可能』
飛び交っている無線は全て早口であり、一部聞き取れないくらいである。
陸戦兵たちの苦戦の様子が手に取るように分かった。
「急がないと」
智恵理は深い縦穴の上部に辿り着いた。
もの凄い数の黒アリの死骸が転がっている。
ほとんどのアリが電撃銃でやられたらしい。
体に銃創は無く、焼け焦げた跡が残っていた。
深淵の底を覗き込んだ智恵理が、弱々しい波動をキャッチする。
それは右手の洞穴の中から発せられている、アイスバーン少佐の波動であった。
「ジョアンナッ」
智恵理は悲鳴を上げながら、洞穴の中に飛び込んだ。
奥に進んだ岩陰にアイスバーン少佐がもたれていた。
ヘルメットは脱ぎ捨てられ、短いブロンドがくしゃくしゃになっている。
「正しくはヨハンナよ、中尉」
少佐は薄目を開けると、弱々しい笑顔を見せた。
「大丈夫、ちょっと疲れただけ。第1ステージで脱落しちゃった。ペガサス隊の代表なのに、ゴメンね」
智恵理は何も言わずに少佐に抱きついた。
少佐が表で死んでいる黒アリの全てをここに引き付け、一人で全滅させたことは明白である。
そのお陰で他の隊員たちが先に進めたことなど、一々聞くまでもなかった。
暗く狭い洞穴に1人で踏ん張り、無限に襲いかかってくる敵と至近距離で対峙するのである。
常人の体力では不可能、否、並みの精神力では発狂していたであろう。
智恵理は君こそ我が誇りとばかり、ヨハンナ・シュミットバウワー少佐を抱きしめた。
互いの汗の臭いも気にならなかった。
「痛い、痛いってば。どうせなら、もう少し優しく抱いてちょうだい」
少佐に叱られ、智恵理が力を緩める。
『こちら第8隊。負傷者多数。至急、救援求む』
智恵理が口を開こうとした時、またも無線交信が流れてきた。
『数が多すぎる。もう、ダメだ。地底は巨大生物で、埋め尽くされてる』
ここで少佐を介抱していてあげたいが、そうすべきでないことは智恵理にも分かっていた。
「それじゃ、あたし行きますから。ここでゆっくり休んでて下さい」
智恵理は少佐に敬礼すると、何度も振り返りつつ洞穴を出た。
ここで作戦が失敗するようなことになれば、少佐の苦闘が全て無に帰すことになる。
何が何でも最深部の破壊を成功させなければならない。
「後はあたしにまかせて。死んでもやり遂げますから」
智恵理はもう一度洞穴を振り返ると、真っ暗な深淵の底へと飛び降りた。
キテタ────(゜∀゜)────wwwwww
激しく乙でありますwww
204 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/11(火) 22:53:19 ID:57jOf1dR
毎回ドキドキさせてくれるぜ…GJ!!!!
礼讃乙
206 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/14(金) 00:54:09 ID:mtEnkobV
と、水を差してみる凡俗とは一味違うオレサマ
どこの誤爆だ?
一応保守
保守
>>210 サンダ─wwヘ√レvv〜(゚∀゚)─wwヘ√レvv〜─ !!
超GJ (゚∀゚)b
>>210 キタコレ
でも製品情報に、メイド服と機関銃が入ってるのはなぜw
>>210 GJ!!DAT落ちしてて見れなかった過去のペイルウィング物語がやっと読めたよ
※
「第1戦隊、第1戦隊。こちらは第2戦隊本部」
リタ中尉の必死の呼び掛けにも応答は無い。
これまで10匹のアリを30名で叩いていた戦力比が、今や完全に逆転していた。
100匹近い敵に背後からの奇襲を喰らったハミングバード隊は、まだ態勢を立て直せないでいる。
第1戦隊と合流しようにも、先方との連絡が途絶えてしまい、どうにもならなかった。
「第1戦隊、第1戦隊。こちらは第2戦隊本部……」
リタ中尉の呼び掛けが虚しく続けられる。
「もうよろしくってよ。わたくしが出ます」
雅が冷たく言い放って立ち上がった。
ヘルメットを被り、サンダーボゥ20を手にする。
「うちらも……ここからやと、間合いが遠すぎてどないもなりまへん」
綾も続いて立ち上がり、リタ中尉を促す。
「よしなに」
雅は振り向きもせずに答えると、ユニットを全開にして飛び上がった。
丘を一気に下ると林を飛び越え、激戦地の真上に出る。
そして戦友に向かって牙を剥いている黒アリに、怒りのサンダーボゥ20をぶちかました。
滑空しながらの19連射でアリの陣形は大きく崩れ、組織だった攻撃ができなくなる。
雅は20連発のサンダーボゥを撃ちきる前に、武器をレーザーランスBにチェンジした。
ペイルウイングの武器は、そのエネルギーのソースを飛行ユニットと共有している。
武器のエネルギーが切れると自動的にチャージされるが、その際ユニットに多大な負担を強いる。
サンダーボゥ20が1回のチャージに消費するエネルギーは、実に総エネルギー量の6割以上にも達する。
飛行しながらの弾切れは、確実に緊急チャージを招くことを意味していた。
敵に囲まれている時に緊急チャージに陥れば、飛行も攻撃も出来ず、命取りになりかねない。
敢えて1発分の余力を残してサブ・ウェポンに持ち替える「チャージ延期」は、教科書通りの初級テクである。
ただ、それを冷静にこなせるようになるには、幾つもの死線をくぐる必要がある。
歴戦の雅は、興奮した挙げ句に残弾ゲージを見ることも忘れてしまうルーキーとは違うのだ。
「雅、すまねぇ」
貴子は戦友の援護射撃に手を振って応えると、チームの建て直しを図る。
「各個撃破されるぞ、バラバラになるな。北西に向けて三線攻撃隊形っ」
貴子の指示が飛ぶが、パニックを起こした一部の新人の耳には届かない。
離脱の遅れた3人ほどが、アッという間にアリの群に飲み込まれた。
見殺しにはできないが、中途半端な陣形のままでは3倍近い敵を相手には戦えない。
彼女たちを救うためには、速やかに個の力を部隊の戦闘力に昇華させる必要があるのだ。
素早く8−12−10の3列横隊が組み上がり、そこへ隊長代理の雅が合流した。
勿論、サンダーボゥ20を1発空撃ちして、延期していたチャージを済ませている。
「お待たせ。それでは行きますわよ」
雅の右手が前方へ向かって振り下ろされ、中列12丁、後列10丁のサンダーボゥが吼えた。
皮肉にも逃げ遅れた隊員たちが囮の役目を果たし、不意を突かれた黒アリの群れが為す術もなく吹き飛ばされる。
集団の外殻が崩壊すると、雅が2度右手を振り下ろした。
前列で待機していた8名の突撃隊が、レイピア・スラストを振りかざして突攻を掛ける。
右往左往する敵集団は、都合48本のプラズマアーク刃にズタズタに切り裂かれた。
黒アリの一群が突撃隊を包囲しようと側面から回り込む。
そうはさせじと、後列の隊員たちがサンダースナイパーに持ち替えて援護する。
突入隊が敵集団の中核へと割って入った時、逃げ遅れた3人のルーキーは既に惨殺されていた。
落胆する間もなく、北方より別の敵集団が迫ってくる。
「新しいネストの位置はガスタンク先にある交差点のど真ん中どす」
丘から降りてきた綾が状況を説明する。
「約1分ごとに10匹前後のアリが出てきよります。40秒以内に今いる敵を全滅させて、そっち行きまひょ」
この乱戦の中、綾は冷静に戦況を把握していた。
「まだやるってのかよ。いい加減にしろ」
貴子が血相を変えて綾に詰め寄る。
「当たり前どす。作戦はまだ続行中どすさかい」
綾はケロリとした顔で答えた。
「アタイらは将棋の駒じゃないんだぞ。怪我もすれば疲れもするんだ」
貴子の唇がワナワナと震えていた。
「疲れてはるんは、あんただけやおへん。もっとえらい目してはる人かていてるんや」
綾が地面を指差して、地底の突入部隊を気遣う。
貴子にとっては気に食わない物言いだが、それは正論であった。
それに神楽大尉のことを持ち出されたら、黙らざるを得ない。
ヒヨッコだった自分たちが一人前になるまでに、何度大尉の命を危険に晒したか分からない。
恩返しをするのは今であった。
「それじゃ戦闘指揮をよろしくって? 戦いながらでは、とてもじゃないけど指揮まではとれませんわ」
雅が隊の運用権を綾に引き継ぎ、自分は一兵士として戦闘に加わることにする。
「無論そのつもりどす」
綾は鷹揚に頷きながら、右手の人差し指でガスタンク群を指し示した。
「美穂はん、まずはアレつこうて敵を北に押し戻します。派手にぶっ放してんか」
E2プラズマランチャーを背負った美穂が唖然とする。
「責任はうちがとります。無駄にする時間はありまへんのや」
綾が再度射撃を命じる。
「うっそぉ〜。前から一度アレ撃ってみたかったんだぁ」
美穂がランチャーを抱え上げると、巨大な乳房がブルルンと震えた。
「手前から4つ目のタンクの右端部分を狙って下さい。計算では最小限度の被害で充分な効果があります」
素早く計算を終えたリタ中尉がアドバイスする。
「後で弁償しろったって無理じゃん」
美穂がランチャーをぶっ放し、放たれたプラズマ球は狙い違わず目標のタンクに命中した。
吹き上がった炎と衝撃波が次々に右側のタンクを誘爆させていく。
連鎖反応で巨大な渦巻きと化した火炎流が、黒アリの大群を巻き込んだ。
炎が鎮まった後、80匹はいた黒アリが半分以下に減っていた。
「すげぇ……」
余りの凄まじさに、隊員隊が声を無くして固まる。
「何してますのや。アレが新しいインセクト・ネストどす」
綾が北方の交差点に小さく見えている土塊を示した。
「隊を3つに割って、1つをアレに向かわせて。残りの2つで落ち武者狩りや」
綾が厳しい口調で命令を下し、それは直ちに実行された。
※
深淵の底に降り立つと、ペイルウイングの死体3つが智恵理を出迎えた。
真っ先にこの地に降り立ち、仲間の降下を助けるため死に物狂いで戦ったのであろう。
ある者は酸で焼けただれ、ある者は胴体を噛み千切られて絶命していた。
彼女たちの奮闘のお陰なのか、陸戦兵の死体は一つも見当たらない。
「………………」
智恵理は掛ける言葉も見つけだせないまま、犠牲者たちに向けて敬礼を贈った。
『こちら第7隊、北条。地下通路を進攻中です』
『奴ら、どこに潜んでいるんだ』
『奴らがいつ襲ってくるかわからん。慎重に進め』
先を急ぐ智恵理の耳に、突入部隊の交信が飛び込んできた。
『本部応答願います。こちら森、現在巨大生物と交戦中。敵は増える一方です』
『こちら第6隊。最深部へ向けて移動中。なんて深い巣だ。俺たち、本当に地上に帰れるのか』
会話の内容から、智恵理は自分が本隊からかなり遅れていることを知る。
『本部、応答願います。こちら森、巨大生物の襲撃により2名が死亡、3名が負傷しました』
慣れない地形と暗闇をも敵に回し、突入部隊はかなりの苦戦を強いられているようである。
「早く追いつかないと……」
気ばかり焦る智恵理の前にアリの大群が立ちはだかった。
幸い敵はまだ智恵理に気付いていない。
ふと前を見ると、破壊されたコンクリート製のトンネルが目に入った。
地面には曲がったレールが剥き出しになっている。
ここは元々、地下鉄が走っていた場所らしい。
アリが巣穴を拡張する時に、横穴の伸びる方向と重なったため、不幸にも寸断されたものと思われた。
智恵理は迷わずトンネルに飛び込み、戦場を迂回することにする。
幸い全開になった思念力のお陰で、自分が進むべき方向は分かる。
敵の殺気を避けつつ、味方の残した波動を辿ればよいのである。
アスラとの戦いで疲労した体で、連戦するのは流石にきつい。
まして病み上がりの身では、避けられる戦闘は可能な限り避けたかった。
『こちら森、巨大生物に包囲されました……救援を。く、来るぞ、撃て』
パニックになりかけた隊員の声が耳元でがなる。
いよいよ事態は切迫しているようである。
『各員に告げる。多くの犠牲を払い、ついに我々は巣穴の奥深くまで進入することに成功した』
レシーバーから突入部隊のリーダーらしき男の声が漏れてきた。
『これから巣穴の最深部まで到達し、なんとしても巨大生物を完全に駆逐しなければならない。各員、攻撃を続行せよ』
攻撃隊の先鋒部隊が、遂に最深部の入り口に到達したようである。
問題は、戦闘可能な人数がどれくらい残っているかであった。
あちこちに転がっている戦死者の数を見れば、かなりの被害が出ていることが予想される。
一方、敵は突入部隊の戦力を徐々に減殺しながら奥へと引き、攻勢に出る機会を伺っているに違いない。
戦いはこれからが本番になるはずであった。
「それにアスラの言ってた『大地の主』ってのが気になる」
敵がわざわざ吹聴するほどの切り札である。
余程自信のある、敵の決戦兵器的存在なのであろう。
智恵理は胸騒ぎを抑えつつ先へと進む。
しばらく走ると、トンネルの壁に小さな穴が開いていた。
多くの人間が潜っていった感覚が残っている。
「こっちか」
智恵理はためらうことなく穴に身を投じた。
横穴を進んでいくうちに、智恵理は広い空間に出た。
そこは横穴のターミナルなのか、今通ってきたものを含めて7つの洞穴が口を開けていた。
広場の真ん中あたりにペイルウイングの死体が転がっている。
駆け寄って確認すると、大尉の階級章を付けた東洋人であった。
イヤーレシーバーのカバーにパンダの顔がマーキングされている。
「北京支部のペイルウイングだ……」
智恵理はパーソナルマークから推測した。
「うっ……」
傷をあらためようとして、智恵理は目を背けてしまう。
ボディアーマーのクロッチ部が食い破られ、股間が惨いことになっていた。
巨大生物どもが、寄って集って彼女の体液を貪り尽くしたのであろう。
恐怖と絶望のためか、その死に顔は苦悶に歪んでいた。
「……酷い」
智恵理は知らなかったが、それは鳳凰部隊から派遣されているランラン大尉であった。
中華戦線を支える掛け替えのないエースであり、彼女の戦死による人的資源の損失は計り知れない。
「どいつがこんな……」
智恵理が下唇を噛みしめ、7つの洞穴を順々に睨み付ける。
「……しまった。罠だわ」
智恵理はそれらの穴から放射される憎悪の念を感じ、自分が敵の罠に落ちたことに気付いた。
敵はこの地に智恵理を誘い込み、7方向から包み込んで一気に葬り去る気なのだ。
まごまごしているうちに、早くも穴の一つから黒アリが姿を現せた。
智恵理はサンダーボゥ20Rを放ってアリを死骸に変える。
ホッとする間もなく、今度は背後の穴から酸攻撃が飛んできた。
左にサイドステップしてそれを避けると、振り向きもせずに射殺する。
そして左前から殺気がすると同時に、虚無の穴に向けて電撃を叩き込む。
岩盤を反射した稲妻が曲がりくねった洞窟の奥へと流れ、見えない位置にいるアリを灼いた。
耳に馴染んだ黒アリの悲鳴が聞こえてくる。
しかし同時に7方向を攻撃できない智恵理は、自分が後手に回ったことを悟った。
穴から流れ込んできたどす黒い思念が空間を満たしていく。
重苦しい邪念が立ち込めて、智恵理の思念波を遮断した。
慌ててレーダーのスイッチを入れると、周囲が真っ赤に染まっていた。
人間1人を相手にするには、過剰としか思えない数である。
敵は何が何でもここで智恵理を抹殺する腹であった。
智恵理はサンダーボゥ20Rを連射し、穴の一つ一つを順番に攻撃していく。
周囲から悲鳴が上がり、大気に酸の饐えた臭いが混じる。
「ダメだ、こんなんじゃ間に合わない」
言ってるそばから24発を撃ち切り、再充填が開始される。
ユニットのエネルギーが銃にがぶ飲みされ、エナジーゲージがガクンと落ち込んだ。
サンダーボゥ20Rの総合的な攻撃力は前作より倍増している。
だが、その分チャージに必要とされるエネルギーも多くなっている。
その量は、実にフルゲージの71パーセントと、途方もないものであった。
智恵理は銃を構え直すと、驚異的な速度で穴を灼いていく。
たちまちエナジー・サーバーが空になり、再びチャージが開始された。
ユニット本体の回復がエネルギー消費に追いつかず、いきなり緊急チャージに入ってしまう。
智恵理がアラーム音に気を取られた隙を突いて、穴の奥から糸攻撃が襲いかかった。
「あぁっ?」
右手首に酸糸が巻き付き、ブスブスと煙を上げ始めた。
取り落としたサンダーボゥを拾おうと伸ばした左手に、別の穴から飛んできた酸糸が絡み付いた。
「しまった……熱ぅっ」
智恵理を絡め取った糸が、もの凄い力で左右に引っ張られる。
「痛い、痛ぁーいっ」
智恵理は十字架に磔にされたように、両手を開いたまま動きを封じられてしまった。
そこに四方から酸攻撃が浴びせられる。
智恵理の処刑が始まったのである。
>>222 GJ!!
クオリティ高いぜ
保管庫もすでに更新済みなのもクオリティタカスw
2chのSS保管庫じゃないようだね。
>>210書き手に許可は取ったの?
>>224 取ってないんじゃないか?それらしい書き込みはこのスレに無いみたいだし。
226 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/28(金) 11:56:47 ID:BbClAEAg
つ@@@@
難易度はノーマルからハデストくらいかな?
精々ハードまでだろ。糸に絡まって「痛い、痛ぁーいっ」で済むのはw
ノーマルがデフォでしょ
ダロガが礼賛F 2発で倒せた事を考えるとゲーム的にはハードだね。
「熱っ、熱ぅぅぅーっ。キャァァァーッ」
智恵理の全身に黄色い液がぶっかけられ、真新しいペイルスーツがブスブスと腐食した。
気化した酸が気管を灼いて呼吸ができなくなる。
「もっ、もう……だめぇ……」
クモの糸に磔にされた智恵理が、ガックリとうなだれた。
『ひゃははははぁ〜っ、処刑だよ。裏切り者の処刑が始まったんだよ。いぃ〜はははぁっ』
何処かでアスラの笑い声がした。
彼女にすれば、同じ能力者でありながら、人類に組みする智恵理は裏切り者というのであろうか。
自分たちと同じく、化け物として人間に迫害される側の存在であるというのか。
「違うっ、裏切り者はアンタの方よっ」
智恵理の視床下部が沸騰し、洞窟に立ち込めた邪気を吹き飛ばした。
同時に思念力が回復する。
「起て! 撃てっ! 斬れぇっ!」
肩に背負ったミラージュ5WAYが咆哮した。
左右の洞穴に飛び込んだエネルギー波が、糸を引き絞っていた凶虫バゥを貫く。
吹き飛ぶクモのイメージが脳裏に映った途端、智恵理の体が自由を取り戻した。
智恵理が地面に転がり、素早くサンダーボゥ20Rを拾い上げる。
「右前の洞穴っ」
智恵理の思念力が敵影の薄い横穴を見つける。
更に、その奥へ進んだ通路は、背後から襲われる危険が皆無だ。
智恵理の頭には、迷路のような巣穴の詳細と、点在する敵の位置が手に取るように浮かんでいた。
右前の穴に飛び込むと、サンダーボゥ20Rの連射で3匹の黒アリを即死させる。
そしてその先にある分岐を、3つ続けて右へ曲がると振り返った。
その位置は主幹路の一部となっていた。
仮に敵が智恵理の背後を取ろうとしても、大きく迂回してこなければならない。
つまり、ここは前方だけを注意しておけばいい安全地帯なのだ。
勿論、先程覚えたアイスバーン戦法の応用である。
智恵理の反撃が開始された。
蒼い稲妻が暗闇を切り裂く。
時折、儚い桜色をした5本のビームが迸る。
狭い洞窟一杯にプラズマ放電が荒れ狂った。
プラズマの嵐が過ぎ去った時、その場に生きているものはなかった。
「急がなくちゃ……かなり……時間を……」
歩き始めた智恵理は、異常な疲労感を覚えて岩壁に寄りかかった。
全身に浴びせられた酸攻撃のせいだけではない。
「10日も寝てたからなぁ。体がなまってるんだ」
智恵理は自分にそう言い聞かせ、先へ進もうとした。
しかし徐々に立っていられなくなり、その場に座り込んでしまう。
余りにも急激な体の変調であった。
※
一方、綾の率いる第2陽動戦隊は、ようやく事態の収拾に成功しつつあった。
付近に散った敵の掃討に成功すれば、新しいインセクト・ネストを利用して元の状況を再構築できる。
「そしたら、またせいぜいアーマーパッドでも稼がせて貰いまひょか」
綾がようやく笑みを漏らした。
ハミングバード隊は、今日だけで数え切れないほどの巨大生物を倒している。
防御パッドの原料となる宇宙繊維もかなり手に入ることであろう。
宇宙繊維で編まれたパッドはボディアーマーに貼り付けられ、防御力を向上させるのに利用される。
綾は権限をフルに使い、今回手に入る宇宙繊維全てをハミングバード隊のために独占する気でいた。
「そのくらい許されますやろ」
綾がほくそ笑んだ時であった。
「敵集団、西南西より近づきつつあり」
レーダー観測をしていたリタ中尉が叫び声を上げた。
「その数……判別不可能」
冷静なリタ中尉の声が金切り声になっていた。
現場の西方は植林地帯になっていて視界がきかない。
その木々の間から、数人のペイルウイングと陸戦兵がわらわらと転がり出てきた。
第1陽動戦隊のセイレーン隊と第46陸戦小隊の者らしい。
逃げる途中で武器を捨てたのか、完全な丸腰であった。
陸戦兵たちは悲鳴を上げながら綾たちの方へと逃げてくる。
その後を追うように、木々の間から純白の帯が伸びた。
次々と伸びた白い帯が、逃げる隊員たちを絡め取る。
「ギャァァァーッ」
「イヤァァァーッ」
帯に巻き付かれた途端、陸戦兵たちは悲鳴を上げて地面に倒れ伏した。
しばしの苦悶の後、ピクリとも動かなくなる。
「貴子ぉ……あ、あれ……」
美穂がうわずった声で同期生の親友に話し掛けた。
「あぁ……あいつら……男と混成部隊で……」
「それ……驚くところ間違ってると思う……」
信じられない──というより、認めたくない光景を見た2人は、パニックを起こし掛けていた。
そのショックからまだ立ち直りきれないうちに、林の中から大グモの姿をした悪夢が姿を現せた。
九分九厘制していた東南アジアの戦況をひっくり返した難敵。
隊長であるお局様の右足を食いちぎり、第一線から去らせた憎い仇。
ハミングバード隊にとって凶虫バゥは恐怖と憎悪の対象であった。
凶虫バゥ──クモに似た外観を持つ巨大生物、本部指定の危険度、特A。
綾の頭の中で、本部のデータバンクで得た情報が目まぐるしく駆け巡った。
「撤退っ、南の指揮所方向へ向かって撤収や」
綾の命令が、本作戦が始まって以来の素直さで受け入れられた。
ハミングバード隊が一斉に南に向かって逃げ始める。
西から奇襲を喰らったからといって東へ逃げないところが、まだ綾が冷静さを失っていない証明であった。
わざわざ敵が逃がしてくれる方向には、伏兵が潜んでいる可能性がある。
案の定、東のガスタンク群の陰に潜んでいた羽アリが一斉に舞い上がった。
ベテランは断続的にエネルギーを絞って長距離を飛行する。
しかし、ルーキーはヒステリックにユニット全開にさせて、アッという間に緊急チャージに陥る。
そしてユニットの回復を待つ間、モタモタしているところを襲われ、呆気なくやられてしまう。
綾はそんなルーキーや陸戦兵の合間を縫うように走り抜ける。
途中ではぐれてしまったリタ中尉は無事であろうか。
とにかく自分が逃げるのに精一杯である。
綾が振り返ると、逃げ遅れた隊員たちに敵が群がっていた。
しかし武器を持っていない綾に、彼らを助ける術はない。
今はこの状況を利用して少しでも遠くへ逃げることしかできなかった。
綾が前に向き直り、全力疾走を再開しようとした時、もの凄い衝撃とともに、右足スレスレを稲妻が走り抜けていった。
「はぅぅっ」
痺れた右足が動かなくなり、綾がもんどりうって地面を転げる。
反撃を試みた仲間の誤射を喰らったのであろうか。
しかし、退却した隊員たちが防衛線を構築し、組織的な反撃を開始するには早過ぎる。
事実、前方を確認しても、そんな余裕のある隊員は見当たらない。
だが、先程足元を掠めたのは、間違いなくサンダースナイパーの超高圧電撃であった。
「まさか……痛ぅ」
立ち上がろうとして、綾は右足首を挫いていることに気付いた。
それでも立ち止まっているわけにはいかず、脚を引きずって懸命に撤退を再開する。
だが、痛みに耐えながらでは速度は上がらず、額に脂汗が滲んでくる。
そして数歩進んだところで蹲り、遂に動けなくなってしまった。
「これまでどすな……」
後は上手く逃げ切った仲間たちが復讐してくれることを祈るだけである。
「うちが死んでも、あの人らがおったら、何とかなりますやろ」
やるべきことは全てやったと自負する綾は、最期を迎えて不思議と冷静でいられた。
心残りは、同期生に誤解を与え、嫌われたままで死んでいくことだけであった。
「それも、うちが自分でしたことや……」
自嘲する綾の目の前に黒いブーツが立ち止まった。
顔を上げると、貴子が冷たい目で見下ろしていた。
「何してはるんや。はよ逃げなはれ」
綾は素っ気なく言い放った。
戦死者の数は、できるだけ少ない方がいいに決まっている。
ところが貴子は逃げるどころか、その場にひざまずいた。
そして驚いている綾を肩に担ぐと立ち上がり、無言のまま駆け始めた。
「な、何しはりますねん」
駆け出した直後、貴子の足元を酸糸が襲った。
足をもつれさせた貴子が、綾を背負ったまま転倒する。
それでも貴子は綾を抱え直すと、再び立ち上がって走り出す。
そこへ羽アリの酸攻撃が降り掛かり、貴子はまたも地面に膝をついてしまう。
しかし貴子は諦めない。
プラズマユニットを外すと、綾の体を背負い込み、気合いを入れてダッシュを再開した。
「余計なことせんといて。こんなことしとったら、貴子はんまで……」
「うるせぇ、黙ってろぃっ」
綾が肩越しに咎めるのを貴子が怒鳴りつけた。
「そやかて、もう絶交するゆうて……」
貴子が今度は振り返って喚いた。
「黙ってねぇと、ぶっ殺すぞぉっ」
その勢いに綾は口をつぐむ。
「うおぉぉぉぉーっ」
貴子は叫び声を上げながら前傾姿勢で走り続けた。
「伝わってた……ちゃんと伝わってた……」
同期生たちを冷たくあしらい距離を置いたのは、周囲の者に自分とのコネを勘ぐらせないための措置であった。
綾は自分の意図するところについて、同期生たちに一言も語らず、弁解もしなかった。
それでも同期生の親友たちは、急に素っ気なく変心した綾の真意くらい見抜いていた。
その上で綾の好意を無駄にしないよう、敢えて距離をおいて接していたのである。
それが彼女たちなりの友情の証であった。
貴子の肩口を掴む綾の手に力が籠もる。
泣き顔を見られたくない綾は、貴子の背中に顔を埋めた。
※
しばらくの休息の後、何とか立ち上がった智恵理は、重い体を引きずって前へと進んでいた。
『こちら森、負傷しました。退却します』
『こちら佐野、みんなやられました。現在位置がわかりません』
レシーバーから漏れてくる交信は、相変わらず味方の苦戦を伝えている。
『もうだめだ……出してくれ、俺をここから出してくれぇっ』
『落ち着け、パニックを起こすな』
『出してくれ、出してくれぇ〜っ』
『待て、一人で行動するなっ』
『助けてぇ。ひ……う、うううわあぁぁ〜っ』
極度のストレスが原因なのであろうか、精鋭を集めたはずの突入隊員がパニックを起こしかけている。
「急がないと……みんなやられちゃう」
智恵理は焦るが、体が鉛になったように感じられ、思うように動かない。
『みんな、どこへ行ったんだぁ。待ってくれ、おいていかないでくれぇ』
『ひぃ……や、奴らがくる。助けて、たすけ……ひ……う……うわああぁぁ』
悲鳴の後、ガリガリという雑音だけが続いた。
また1人、犠牲者が出たようである。
『もう無理だ、これ以上進めない。生きているのが不思議なくらいだ』
突入部隊は、いよいよ進退窮まったようである。
「神楽先輩……大丈夫かなぁ?」
先程から漏れてくる無線交信は、全て陸戦兵のものである。
まだ数人生き残っているペイルウイングの交信は耳にしていない。
そんなことを考えている時、聞き覚えのある声がレシーバから流れ出た。
『こちら神楽。巣穴の最深部に到着しました』
その声は懐かしい神楽大尉の声であった。
「さすがは先輩。最深部に一番乗りだ」
右に屈曲した通路のずっと先、最短直線距離でなら、厚い岩壁の向こう側数十メートルの所に神楽大尉の波動があった。
智恵理はペ科練の先輩であり、教官助手として指導してくれた大尉の顔を思い浮かべる。
何をさせても抜群の腕を誇る先輩は、智恵理たち後輩の誇りであった。
普段は優しい大尉だったが、訓練中に少しでも弛んでいると、容赦のない平手打ちが飛んできた。
智恵理に女の悦びを教えてくれたのも大尉である。
大尉の執拗で丁寧な愛撫と舌遣いで、智恵理は初めてイクことを覚えた。
彼女とベッドを共にしたことは、今でも智恵理は自慢に思っている。
懐かしさが込み上げ、無性に大尉の顔を見たくなった。
「先輩っ、今智恵理が行きますから」
現金なもので、大尉に会えると思った瞬間、体が急に軽くなったように感じた。
大尉のいる最深部までは、あと細長い通路1本を駆けるだけである。
智恵理はユニットを噴かして先を急いだ。
ガリガリというノイズに混じって、神楽大尉の声が流れる。
『ここは……巨大生物の生まれる場所? なんてこと……』
大尉の語尾が恐怖に震えていた。
「……先輩?」
いつも冷静で怖いもの知らずの大尉が声をうわずらせている。
いったい何を目の当たりにしたというのか。
智恵理は妙な胸騒ぎを覚えて、ユニットを全開にさせた。
『あれは女王? 女王なの? ああ、こっちへ来る』
大尉の声が悲鳴混じりになる。
「先輩っ、先輩ぃっ」
大尉は何者かに襲われ、逃げまどっているようである。
「先輩っ、今行きますからぁーっ」
智恵理は胸が張り裂けそうになるのをこらえて先を急ぐ。
大尉の波動が追い詰められ、恐怖の感情が爆発するのを智恵理は感じた。
そして……。
『ああ……きゃああぁ〜っ……』
絶叫を最後に、大尉の交信がパッタリと途絶えた。
同時にユニットのパワーが底を尽き、智恵理が力無く地面に降り立つ。
最深部の入り口まで、あと30秒も掛からない距離であった。
「先……輩……」
智恵理は膝から地面に崩れ落ち、ガックリと項垂れた。
神楽大尉の波動が、急速に薄れていく。
「あたし……あたしが途中でサボったりしたから……ぶったるんでいたから……」
怒りと悲しみで、智恵理の全身がブルブルと震えた。
神楽大尉の波動に変わって、巨大などす黒い思念が闇の奥に蠢き始める。
続いて、洞窟の奥から、もの凄い勢いで酸の霧が噴き出してきた。
通路一杯に毒霧が充満し、空気が濃い黄色に染まる。
しかし、そんなものでは智恵理の息の根を止めることはできず、怒りに火を付ける結果となった。
「うわぁぁぁぁーっ」
立ち上がった智恵理がミラージュ5WAYを滅茶苦茶にぶっ放す。
薄桃色の光の筋が、右カーブした洞窟の奥へと次々に消えていく。
数秒後、異次元の壁がひび割れるような絶叫が上がった。
その後、辺りを静寂が押し包んだ。
智恵理はしばらく放心したように突っ立っていたが、再び重くなった体を引きずって前へと歩みだした。
通路の先に広大な空間が広がっていた。
そこは巣穴の最深部であった。
中央部、泉のそばに見たこともない巨大な羽アリの死骸が転がっている。
黒アリのクイーンなのであろうか。
周囲の岩盤に夥しい数の卵が産み付けられていた。
「こいつが『大地の主』なの?……こんな奴のために……」
あちこちに倒れているEDFの仲間の遺体を見ているうちに、再び智恵理の感情が激してきた。
「うわぁぁぁぁぁーっ」
次々に放たれたサンダーボゥ20Rの稲妻が、孵化する前の卵を砕いていった。
巣穴の中に残っていた敵反応が、一つまた一つと消えていく。
やがてレーダーから全ての赤い光点が消え去った。
それはEDFが地底決戦を制したことを意味していた。
もうこれで敵の巨大生物が増殖することはない。
しかし被った損害の何と大きいことか。
ヘルメットのレシーバーから、ガリガリというノイズに続き本部からの無線が流れた。
『勝った……被害は甚大だが、とにかく勝ったんだ』
勝利を伝える司令官の声は、様々な感情が交じりあったため小刻みに震えていた。
折角の勝利にもかかわらず、智恵理に達成感はなかった。
神楽大尉を始め、EDF選り抜きの精鋭のほとんどは二度と地上に還れないのだ。
激しい嘔吐感と目眩に襲われ、智恵理がその場に転倒する。
意識を失った智恵理の体がピクピクと痙攣していた。
『きゃ〜っははははは、虫たちの巣が焼かれたよ。大地の主が怒っている、怒ってるよ。大地の主が姿を現すよ〜。あ〜っははははは』
どこからともなく不気味な女の笑い声が響いてきた。
『は〜ははははははは、人類は大地の主に滅ぼされる。もうすぐ、もうすぐ大地の主が現れるよ』
その声は、失神した智恵理を嘲笑するようにいつまでも続いていた。
乙!
乙であります。
つ@@@@
ここまで一気に読んだ。作者氏すごすぎ。
ゲームでは次は大百足が出てくるんだっけ。
246 :
名無しさん@ピンキー:2006/08/11(金) 17:42:44 ID:JjajfPGs
未使用の台詞ってディスクの中には入っているんだよね
それを聞くためのソフトってあるの?
PAR使えばどうとでもなるんじゃね?
たしかなんかのソフト使って音声吸い出せば聞けるはず。
どうして「糸に巻かれて」の台詞だけはNGにならずに使用されたんだろう
まさかと思うが消し忘れか?
それだけなら狂った女の台詞として使えると思ったからじゃない?
攻略本じゃ、精神に異常をきたした女性隊員のセリフとして扱われてるね。
漏れもNGセリフ集を見なかったらそう思っていた。
>>251 >攻略本
>NGセリフ集
ちょっと詳しく
まぁ、今はもうPSoundが配信中止されててDL出来ないんだが。
255 :
名無しさん@ピンキー:2006/08/15(火) 22:23:24 ID:bWvfbeIZ
シンプル2000シリーズに攻略本なんかあったんだ
保守
投下開始します
インベーダーの侵略から10年、地球は復興の道を歩んでいた。その中でEDFは
新たな兵種を誕生させた。ペイルウィング隊。空をも飛べる機動力と強力な攻撃力を
エネルギーユニットから供給されるエネルギーでまかなう。インベーダーの来襲前であれば
夢のような計画ではあったがペイルウィングと呼ばれることになる新兵種の隊員と武装と
エネルギーユニットの開発は進んで行った。
しかし、その道のりは黒く塗りつぶされた箇所の方が多い険しいものだった。
エネルギーを無限に供給し続ける機関の開発、配属される隊員は
余りに操作の難しい飛行ユニットで相次ぎ事故死、武装の余りの強力さと不安定さゆえに
陸戦兵ではあくまでも演習の上でだが確立されつつあった多人数で同一地域に展開し、
行動することが非常に困難であった。つまり、すぐに同士討ちを招いてしまう危険性。
これではペイルウィング隊が解散していてもおかしくなったかもしれない。
しかし、人類はインベーダーの侵略を受けたことで陸戦兵の武装を強化し、
戦術を研究することだけではとても安心することが出来なかった。
研究機関では創意あふれる者からたががはずれた者まで研究者が日夜開発と研究を続けることとなる。
その結果生み出されたのがペイルウィング隊であった。エネルギーユニットを支えるのに
筋力や骨格は問題とならなかった。逆に体重が問題となり、隊員は女性から選抜されることとなった。
これには初期に死亡した多くの男性隊員というマイナスイメージから逃れたかったことも理由としてはあった。
ともかく微妙な感覚と操縦を必要とするペイルウィング隊は女性から構成されることとなった。
そして、陸戦兵との共同作戦に関して演習や訓練を行う前に彼らは再びやって来た。
そう、インベーダーは地球に巨大生物という置き土産を残していたのだった。
EDFの戦いは再び始まったのである。
遅い。彼女は蜘蛛が吐いた糸をかわすとサンダーボウを叩き込む。体液が飛び散り、蜘蛛は死んだ。
そのままゆっくり降下する。その間も目を地上に走らせて安全を確認する。
たまに上空を確認することも忘れない。彼女の教官は過去の空戦からレーダーだけに頼るのではなく
目視による確認も重要になるだろうとEDFペイルウィング隊の候補生に説いていた。
その教官も同期生も最初期の戦闘でほとんどが戦死していた。地面に足が着く。
ペイルウィングのエネルギーユニットは高い高度からの落下においても
重力に逆らってゆっくり降下するだけのエネルギーは必ず確保するように出来ている。
それはエネルギーを使い果たして緊急チャージと呼ばれる状態になっても変わらない。
「侵攻してきた敵は撃退したようだ」
彼女の方に向かってEDF陸戦兵の制服を着た男が歩いてくる。
その右手にはあまりもごつい、としか表現しようのないスナイパーライフルが握られている。
「そう」
彼女は簡潔に答え、聞いてみる。
「敵は次にどの方面から来ると思う?」
「敵は都心部からじょじょにその周りの都市へとその足を伸ばしているが予測はほとんど不可能だ」
この男の気に入らないところは全く予測不可能と言いながら怒りもしなければ恐れもしないところだ。
大体所属する部隊が全滅して唯一合流出来たこの男と二人でこの地域を維持しているが
この男は敵を攻撃しながらもこちらの心配までしてくれる。助けられたのは2度や3度ではない。
ペイルウィングの最高速度で動こうが何だろうが必ずこちらの動きを把握している。
同じペイルウィング隊員であれば先輩と呼び素直に尊敬していただろうが全く気に入らない。
「今日は引き揚げよう。暗闇の中では敵把握にも限界がある」
「……」
2人は無線に耳を傾けて安全圏まで退避することにした。
巨大生物は都心部に巨大な巣を形成しているとされ、その巣への総攻撃が目前にまで迫っていたのだ。
朝日が目に差し込む。ペイルウィングのスーツにも通気性はあるがそれで快適に眠れる訳でもない。
防御の点では著しく陸戦兵のスーツに劣るのは誰も口に出さぬ常識だった。
「敵に対してどうやら戦線を形成出来たようだ。これから敵の巣への攻撃に移る。俺達もその一員に選ばれた」
「蟻の巣に突っこむ訳ね」
あまりよろしくない。いいやとてもよろしくない。敵の待ち構える巣に飛びこむなどとてもよろしくない。
「移動する」
陸戦兵とペイルウィングでは移動速度に差がある。合流地点を複数決めて、陸戦兵が先に移動し、
ペイルウィングが飛行して合流、また陸戦兵が先行しを繰り返す。そして、作戦開始地点へと向かった。
作戦開始地点ではペイルウィング隊はほとんど見かけなかった。どうやら陸戦兵を主体とし徒歩で
巣の中に突入して、巣を粉砕する計画のようだ。上官が説明を続ける。
「敵のインセクトヒルを破壊し、地上の巣はほぼ一掃された。これから地下に形成された巣を攻撃する。
この作戦では複数の巣を同時に攻撃し、敵巨大生物のこれ以上の繁殖を喰い止める。
これまでにも巣への攻撃はおこなわれているが成功とは言い難い。
だが、今回は必ず敵の繁殖源を突き止めこれを破壊して欲しい。全ての装備は整っている。
明日明朝に突入を開始する。各員は十分に静養し、明日の作戦に備えて欲しい。以上、解散」
全員が立ち上がり敬礼する。そのまま解散となった。
この作戦のために集められたペイルウィング隊の数名とこれまでの戦闘の話となった。
有効な武器から戦い方などを話していると一人が言った。
「陸戦兵ってジャマよね」
まずいとは思い陸戦兵に聞くものがないことを祈った。だが、祈りは通じなかったらしい。
「ちょこちょこ飛び回って誤爆ばかりしているおまえらに言われたくないなぁ?」
相手は本気のようだ。ここは謝れば
「なによ?あんたらの爆発の巻き添えに何度なりかけたと思ってるのよ?」
「何だと?気楽に戦っているおまえらがうらやしいよ」
他の陸戦兵達は半分様子見のようだ。ペイルウィング隊が陸戦兵によく思われていないのは知っていたが
ここまでだとは思っていなかった。両者はにらみ合っていたがやがて目を逸らし、乱闘は避けられた。
皆足早に解散していく。私達も気まずくなり臨時に設営されたペイルウィング隊の兵舎へと向かった。
他人の警備の中眠れるというのは極楽のようなものだ。お風呂にも入れる。
その日は毛布の中で眠りに落ちた。
日の出を期して蟻の巣攻撃への準備は始まった。と言っても重装備の陸戦兵と違い
ペイルウィング隊の準備することは少ない。エネルギーユニットと武装の点検と
蜘蛛の糸に巻かれてあの世行きにならないように祈ることぐらいだ。
第一地下に突入するというのにペイルウィング隊がどれほど役立つのだろうか?
地下での戦闘などペイルウィング隊は想定してなかった。
結局私達の結論は実戦を行い、どの程度地下でペイルウィング隊が有効か調べたいのだろうというところに達した。
私達は各班に1名ずつ配属され、地下へ突入することになった。
突入する者もさせる者もそれがどれだけ長い一日になるかなどまだ知らなかった。
「A小隊、順調に侵攻中」
「B小隊、敵を撃破しつつ前進中」
「C小隊、敵巨大生物の抵抗軽微」
ペイルウィングとしての出番は余りなかった。陸戦隊の集中された火力は蟻を吹き飛ばし、
体液を飛び散らせ粉砕されていく。レイピアやサンダーボウを使うまでもなく敵は粉砕されていく。
「これは勝ったかな」
「気を抜くな」
「はい」
陸戦兵の気が抜けるのも分かる。アサルトライフルの一斉射撃の前に蟻の集団は粉砕されていく。
ここまでで大きな犠牲は出ていない。だが、妙な不安感を誰もが感じていた。
蟻の巣の果てしない深さに呆然とするばかりだ。突然、巨大生物のうごめく音が周りでし始めた。
敵の一斉攻撃が始まったのだ。
「全員、敵に一斉攻撃!」
小隊長が号令するとアサルトライフルの一斉射撃が始まった。一瞬、敵を粉砕できたかと思うと
巨大蟻は仲間の死骸を乗り越えて突き進んでくる。まずい、死骸がこちらの火力の優位を奪い
逆に陸戦兵の火器が通用しなくていく。
「小隊長、私が突入し退路を切り開きます」
知らない内に自分の声が上ずっている。だが、小隊長は
「待て、各小隊と連絡を取り連携を」
「そんな余裕はありません!ペイルウィングなら敵を死骸どころか細切れに出来ます。
退路を作れます。私に突入命令を!」
「それは出来ない」
その間にも敵の死骸は積み重なり、視界が奪われていく。
「独自に行動します」
レイピアを握り締めるとフルブーストをかけて一つの巣穴に突入する。
蟻がレイビアの放つレーザーで切り刻まれ、体液がスーツに降りかかる。
そんなことを気にしている余裕はなかった。
そして、ある程度広い空間に出ることが出来た。すぐに無線で小隊長と連絡を取ろうとする。
しかし、出て来たのは小隊長ではなかった。
「小隊長代理です。現在、あなたが切り開いた道を使い撤退中」
「小隊長は?」
「最後まで敵と戦い戦死しました」
「・・・分かりました。出口の安全を確保します」
「お願いします」
5分後出てきた陸戦隊は半分以下に減っていた。誰もが戦闘服に蟻の酸と体液を浴びている。
「A小隊、こちらはC小隊、応答せよ。A小隊応答せよ」
「こちらA小隊、バカ!パニックを起こすな!」
「俺達ここで死ぬんだ。ハハハッ、ハハハ」
「A小隊、状況を」
「……」
無線から何の反応もなくなった。恐らく全滅したのだろうとしか推測はつかなかった。
「本部、こちらC小隊隊長代理です。A小隊の状況は?」
「こちら本部、A小隊は恐らく全滅です」
「B小隊は?」
「B小隊は進撃中です。C小隊も前進して下さい」
「……了解。C小隊も進撃します」
小隊長代理は皆に前進を告げた。動揺が広がるのが分かる。誰もが撤退すると思っていたようだ。
「前進する」
小隊長代理が命じるとC小隊は進撃を続けた。明らかに不利だが動かないのも逆に不利だと思われた。
やがて、いくつも横穴が開いている広間に出た。
「全周警戒」
黙って生き残った隊員が八方に開いている横穴に向けてアサルトライフルを構える。
突然一人が横道へ走りこんだ。
「バカ!戻って来い!」
「お、俺は帰るんだ!こんなところで死んでたまるか!」
彼は手にしたロケットランチャー乱れ撃ちしながら突入していく。
「うわあぁぁ!」
「くそっ!」
明らかに自分達の位置を知らせることにしかならない攻撃で彼は爆死してしまった。
「ここにいては不利だ。前進する」
武器を構えて前進する陸戦隊に突入時のような士気は感じられない。皆疲労を抱えている。
だが、前進は続いた。
逆に陸戦隊は無茶とも言える進撃でさらに地下へと進入していく。
ほとんど狂気に近いが正確な射撃で敵を殺し、粉砕し、さらに最深部へと進む。
「待て、誰も動くな」
明らかにこの先に何かがいる。
「誰か手榴弾を持っているか?」
「持っています」
「あの中に投げこめ、出来るだけ遠くにだ」
「了解」
陸戦隊の一人が狭い道の奥にある空間へと出来るだけ遠くへ届くように手榴弾を投げこむ。
爆発音がして、次々と蜘蛛が湧き出て来る。
「打ち方始め」
一斉に射撃が始まり、蜘蛛は銃弾と爆片で切り刻まれていく。
ペイルウィングにとって蜘蛛ほど扱いにくいものはない。陸戦兵がこれだけ生き残っていたのは
自分にとって幸運だと言ってもいい。
「中に突入する。おまえとおまえ、着いて来い」
うなずいた2人はアサルトライフルを構えて背中を丸めて進んでいく。
そこに広がっていたのはまるで地獄絵図だった。合図で残された者も前に進む。
「……」
後から来た者も声を失った。そこには捕食された陸戦兵の死体が
何十という単位でごろごろと転がっていた。
「半分は確認証を集めろ。残りは警戒」
「誰かまだ女……恐らくペイルウィング隊の生存者が奥にいます!」
「私が行きます」
体を浮かせて狭い地下を飛行する。その先には陵辱としか言い様のない光景があった。
ペイルウィング隊の一人が手足を広げるように蜘蛛の糸で壁へと貼り付けられている。
戦闘服は酸で溶かされてその若い体を無理矢理晒されていた。
その上に蜘蛛が乗りかかって尾部から何か管のようなものを彼女の下腹部へと突き刺している。
陸戦兵の一人がスナイパーライフルを取り出すと蜘蛛の頭部へ一撃を加えた。
蜘蛛は生き絶え、足を丸めると地面に転がった。
「助けに来たわ」
自分自身の動揺を抑えて彼女に声をかける。だが、彼女は誰か男の名前を繰り返し呼んでいる。
「私が見える?」
「あっ、どこへ行っていたの?やめちゃだめだよ」
完全に向こうの世界に行ってしまったようだ。彼女は露出した両胸を荒く上下させながら
焦点のあっていない目を向けてくる。陸戦兵が軍用ナイフで彼女の中に挿入されている管を切った。
管からは黄色い体液がこぼれ落ちる。私は彼女の中にまだ入っている管を出来るだけゆっくり引き抜く。
「来てくれたの?」
「分かる?私が分かる?」
「分かるけどもう私ダメみたい……多分蜘蛛の」
「それ以上言わなくていいから」
「さ、最後に人と話せてよかった。あ、ありがとう」
「待って!助かるから気を確かに!」
「……あ、あり」
彼女の口がそれ以上開くことはなかった。蟻の酸を浴び、蜘蛛に陵辱された彼女は力尽きて死んでしまった。
今まで一般市民の死体を何度も見てきて慣れたつもりだったが膝を着いてしまう。
「彼女から認識票を回収してくれ、すぐに前進する」
睨みつけようとして振り返ると小隊長代理の顔が目に入った。その顔に不思議に表情はなかった。
ただ、意思のみを感じる目だった。死んだ彼女の腕を胸の前で交差させて認識票を取る。
「こちらC小隊、A小隊のものと思われる多数の遺体を確認。認識票のデータを送る」
「こちら本部、了解。死亡者を確認した。前進せよ」
「了解、前進する」
C小隊はさらに前進を続ける。そして、水の音が聞こえる場所に出た。
「ペイルウィング隊は待機。他のものは三班に分ける。それぞれ左、中央、右へ銃撃を加えろ」
「待って下さい」
「これは命令だ。従え。それに我々陸戦兵が背後から攻撃を受けないように守って欲しい」
「了解」
明らかに巨大なものがうごめいている音が洞窟の先から聞こえてくる。彼女は後方を警戒しながら
小隊が無事に突入することを祈った。突然何かガスのような噴出音が聞こえたかと思うと悲鳴がこだました。
いそいで無線に耳を澄ます。
「女王だ!女王蟻を倒せ」
銃撃音と爆発音が聞こえる。それでもガスを一気に噴き出すような音がまだ続いている。
彼女は耐え切れなくなり突入を試みた。
(巣?)
そう思った。白い卵のようなものが段上の棚に多数据えられている。そして、スーツどころか
体ごと溶かされ、白骨を見せている陸戦兵がいた。ガスを噴き出している巨大な蟻がいた。
とてつもない大きさだ。とっさに急上昇をかける。その下を強酸性のガスが吹き抜けていく。
(逃がすか!)
レイピアの出力を全開に上げると女王蟻に飛びこむ。女王蟻の固い殻は破られて体液が噴出する。
まだ死んでいない。腹部から頭部へとレイピアが女王蟻を切り結ぶ。
(やった!)
女王蟻を一匹倒して舞い降りる彼女が後ろを振り向くとそこにも女王蟻はいた。
すでに強酸性のガスを噴出させる体勢だ。エネルギーユニットのパワーが足りない。
今、ブーストをかけたらすぐに緊急チャージに入ってしまう。
ここで終わりかと思った時に銃声が2、3発響いた。
その射撃で女王蟻は息絶えていた。女王蟻は体内の神経中枢を撃ち抜かれたらしい。
その射撃手はこの繁殖地の中を飛び回る羽蟻をも正確な射撃で落としていく。
残ったのはこの巣に産みつけられた多数の白い卵のようなものだけだ。
その男は手榴弾を投げこんではまだ白い体の幼生からすでに生体となった
黒い蟻まで出てきた蟻を撃ち殺していく。
私もレイピアの出力を上げると白い卵へと向かった。レイビアで卵ごと中身を切り刻む。
全てが終わった。陸戦兵が無線で連絡を入れる。よく見ると巣に入るまで組んでいたあの男だ。
「巣の最深部で女王蟻と卵を発見し、これを撃滅した」
「一個の卵も残さないで下さい。それと追加事項ですが
爆破班がB,C小隊の脱出後に潜入し巣を全て吹き飛ばします。掃討は短時間で済ませて下さい」
「了解」
「遺体は回収しないの?」
「卵を殲滅してここを脱出する」
「聞こえないの?遺体は」
「余裕はない」
私は陸戦兵を殴っていた。
「聞こえないの?」
「……」
男は押し黙ったまま背中を向けると落ちついた歩調で穴から空洞の上部までも調べていく。
私はサンダーボウを撃ちこみたい衝動に駆られたが我慢した。
自分でも八つ当たりだと分かっていたからだ。自分も残った卵がないかを確認する。
三小隊の生き残りの脱出を確認して爆破班が潜入し、都心部に広がっていた蟻の巣は完全に爆破された。
戻った基地で再会したもう1人のペイルウィングにペイルウィング隊一名が蟻の巣で死んだことを伝えた。
彼女と私は威儀を正すと蟻の巣のあった方角へ敬礼した。そして、生き残った者の中から選ばれた人間は
聴取を受けることになり、私も選ばれてしまった。
「君がここに呼ばれたのは」
「まずはこの聴聞会の定義を教えて頂きたいと思います」
ペイルウィングの軍服から正式な軍装に着替えていた私は3人のEDF制服組と向き合っていた。
「いや、この聴聞会は君たちの責任を問う場ではないことは明言しておく」
「我々はこの戦いに参加したものから率直な意見が聞きたいと思っているんだよ」
信用出来なかったが分かりましたとしか言いようがなかった。
「それでは聞くが今回の作戦についての意見が聞きたい」
「ペイルウィング隊と陸戦兵を組ませるなら陸戦兵とペイルウィング混成の2,3人の部隊を複数組んで突入した方が
最終的には死者は抑えられたと思います」
EDF制服組の1人が頭を抱える。今回の作戦は運用がまずかったとは思っているらしい。
「君はペイルウィング1人で戦果を十分に上げて危地を救っている。そう、その通り大部隊は
恐らくこの戦いでは必要がなかったのだ」
「ペイルウィングの機動力は洞窟などの密閉空間の中でも衰えることはありません。陸戦隊とは別に動かすべきだったと」
EDF制服組の1人が手を上げて私を制した。
「分かった。君の働きは素晴らしいものだった健闘を認める。下がりたまえ」
それで私の聴聞会は終わった。生き残ったもう一人のペイルウィングは教官任命を受けて
EDF本部へ異動が決まったと本人から聞く。その場所すら聞かされていないらしい。
もうお互いに生きて会うことはないかもしれない彼女と敬礼を交わして別れた。
敵の巣穴殲滅作戦の終了を受けて私は原隊に復帰した。あの男とも一緒だ。
兵員輸送車は後部に重機関銃を備えつけた車両であり、中は狭い。
あの男と私が小さい椅子に座るように隣り合っている。
「あの時は悪かったわ」
それでもこの男は喋らない。それもいいかと思い始めていた。
生き残る術は余計なお喋りする暇があったら腕でも磨いておけ。
意思伝達を迅速に行い、正確な行動を常に心がけること。
結局のところ、少人数でエリアを抑えて安全地帯に基地を置き、敵を掃討しつつ前進する。
この兵員が足りないゆえの苦肉の策がその後からはじょじょに正式な戦術となっていった。
私達は北関東エリアに戻されたのだ。
激戦の日々は続くが勝ちつつあるのを感じる。巨大生物運搬用のキャリアー型巨大UFOを
見たという話を聞かなくなった。巨大生物群の移動を阻止し、そして、敵が集結させていた侵略部隊を
ここだけでなく各地で全滅させたと聞いた時は小躍りしたくなったものだ。
損害もバカにならなかったとは聞いたが戦況は消耗戦とは言ってもこちらが主導権を握っているのは
間違いない。しかし、隣の陸戦兵はスナイパーライフルの整備に余念がない。
もはや悟りの境地にでも達しているのか。まぁ、もう慣れたが。
「無線だ」
男が言った。無線が自分の通信機にも入っている。その内容に耳をすます。
「敵マザーシップが単機で突入してきます。突入地点は・・・」
ここじゃないか・・・何てことだ・・・ついに悪運尽きたか・・・まぁ、いい・・・ここまで来れば戦えるだけ戦うだけだ。
「増援はないのか?」
この男がそんなことを言い出すのは珍しい。
「増援は送れません。各地ではまだ突発戦が続いています。現状の戦力で戦ってもらうしかありません」
「了解」
男は通信を切った。この男がこんなことを言い出すのは初めてだ。
「おまえは敵小型円盤群を叩き続けろ。マザーシップには目もくれるな」
「なに言っているのよ?まさかあなた」
と言いかけてついに分かった気がした。この男が・・・あの・・・
「来たぞ」
上を見上げると夕闇のような黄色い空に巨大な円盤、マザーシップが降りてくるのが分かった。
男はスナイパーライフルに弾丸をつめると構えた。
「おまえは小型円盤だけ相手にするんだ」
はいはい分かりましたよ、と言いたい気持ちを抑えて
「了解」
とだけ短く返す。恐らくこの男にとっては2度目なのだろう。男は射程圏内に入ったことを確認して
マザーシップの周りを回るリングに射撃を加える。そして、あのジェノサイド砲が放たれた。
その下の街が一瞬で壊滅する。
来た。小型円盤が発進口から出て来る。出て来るというようなものではない。恐ろしい数だ。
引きつけてサンダーボウを構える。その間にも男はリングに射撃を続けている。
参ったわね。この男はこの場では私に命を預けたのかひたすら狙撃を繰り返している。
私は飛び回り円盤を引きつけてはサンダーボウ、時にはレイピアで破壊していく。
突然、光が私たちの周りを飛び交い始めた。
「ひたすら動いていろ。それでほとんど当たらない」
男は返答も確認せずにひたすらジェノサイド砲を狙撃し落としていく。
確認の時間が取れないほど小型円盤が出て来る。これが最後の戦いか。
前の戦いはマザーシップを落として終わったはず。これで終わるのか。
エネルギユニットの残量を気にしながらひたすら小型円盤を落とす。
ジェノサイド砲はついに全て破壊されて敵の攻撃手段は飛び交う光の嵐と小型円盤だけになった。
マザーシップの円盤発進口から緑色の爆煙が上がる。弱点がそこだとは座学で習ったはずだが
こうして見ると意外な気がする。それもこれもこの男が一瞬の隙も逃さず撃ちまくっているからだ。
突然、轟音が空間をつんざく。ついにあのマザーシップが落ちたのだ。
無線に恐らくは全世界に流すための宣伝用の放送が流れる。
「やりました!ついに私達は銀河の無法者を打ち倒したのです!
突然、地球に現れて無法の限りを尽くした来襲者はついに滅ぼされたのです!私達は勝ったのです!」
力が抜けるのを感じる。落ちていくマザーシップの爆発から逃れるべく、
私達はひたすら落下点から遠くへと逃げた。
ついに終わったのか。そう思った。まぁ、前回よりは被害は少ない。
人類が立ち直るのに時間がかかるだろうがそこは各国で何とかするだろう。
EDFの戦いは終わったのだ。生き残ったEDF隊員には掃討戦の命令が下された。
これで地球上から再びインベーダーを追放することが出来そうだ。
超巨大円盤の襲来という最悪の展開を迎えて私はまだあの男と一緒にいる。
そう言えばエネルギーユニットの点検をだいぶしていない。
武装が故障すれば死につながるのは陸戦兵もペイルウィング隊も同じだが
明らかにペイルウィングの武装は精密に作りすぎたという欠点がある。
まぁ、死ぬ時は死ぬし・・・そんな思考に浸っていられるのも時間の問題だった。
「来たぞ」
建物が破壊しつくされて水平線が見えるあり得ない都市の光景。
その水平線上に敵がわんさと湧いているのが見える。
私達の戦いはまだ終わっていなかったのだ。
投下終わりました
リアルタイムで読ませて頂いた。
乙
こういうのもヨイよ〜
陸とペのやり取りが淡々とした印象で何故か新鮮だった。
気が向いたらまた投下して下さい。乙
今読みました。乙です。
喪主
282 :
名無しさん@ピンキー:2006/08/20(日) 22:34:10 ID:KSeEXJ1j
干す
>>282 IDが――
ココってエロティックなのは無しなのか?
いや別に書けるわけじゃないが
エロ有り大歓迎っす。待ってるよーん
虫姦系はキモイから遠慮してくれ
それ専用のスレもあるから、そっちへどうぞ
初代スレは虫姦系もメカ系もウケてた件。
いろんなのがあった方がいい
いろんな職人に来て欲しい
好きなとこに投下すればいいよ
敢えて注文付けるなら、ここに投下する時は事前注意を付けて欲しいな。
290 :
名無しさん@ピンキー:2006/08/23(水) 23:37:42 ID:DqVm4msB
つうか、これほどまでのエロ要素が少ないゲームの二次創作の枠を更に縮めてどうするよ?
折角ゲームの原作スレがあるんだから、シチュスレにわざわざ投下するのもどうかと思うが。
前スレではここと287のスレの両方に
全く同じSSマルチ投下して叩かれた人がいたな
! …なんと心のせまい方々だ
すげー今更で悪いが、
>>231の
「起て、撃て、斬れ」
に燃えた。
まさか、この台詞をこんなとこで見れるとは思ってなかった。
作者氏GJ!
こんなに人がいたのかw
>>291マルチとか本人の問題だしどうでもいい。読み手としては抜けるものには手放しで評価する。
当時は見てるだけで何もレスらなかったが。
新作でもでれば新たな書き手が来るんだろうか?いや書き手なら何でもいいけど途中やめが一番困る。
漏れは抜けなくてもEDFネタで面白ければ何でもいいな
別にここに抜きネタ探しに来ているんじゃないし
むしろ2年前の前の侵略が10年前になっているような考証ミスや
丸腰のアリを「切り結ぶ」ような動詞の誤用が気になる
細かいとこ突っ込んでゴメンね、作者さん
作者の好きにすればいい
マルチをやって荒らしを呼び込まれるのはご免被りたいな
作者の勝手でスレが荒れるのは迷惑だ
読み手が誘導するのも一つの原因だと思うけどな。
あの時は誘導したけど耳を貸して貰えなかったんじゃ
しかも逆ギレまでされて一時めちゃくちゃに・・・
《西暦2019年10月28日 東京》
昼下がりの町並は、季節はずれのスコールに煙っていた。
「天気予報じゃ晴れだったのにぃ」
私服姿の智恵理は恨めしげに天を仰ぎ見た。
たった今まで晴天だった帝都の空は、真っ黒な雨雲に埋め尽くされている。
傘を持っていない智恵理は雨宿りするため、手近に見つけたアーケードに飛び込んだのであった。
※
悪夢のような地底決戦から、既に1週間が過ぎていた。
あの後、捜索隊に救助された智恵理は、搬送先の病院で死んだように眠り続けた。
そして5日後、目が覚めると昏睡状態が嘘のように元気を取り戻していた。
意識を回復した智恵理は、既に犠牲者の慰霊祭が終わり、連合部隊も解散していることを知らされた。
その時にはハミングバード隊はラオスへと原隊復帰しており、同期生との再会はまたも叶わなかった。
智恵理とともに巣穴からの生還を果たしたアイスバーン少佐は、倫敦への出発間際まで看病をしてくれていたという。
覚醒の後、智恵理は精密検査を受けたが、5日も意識不明だったにも関わらず、異常は全く見つからなかった。
その後、退院を許可された智恵理は、倫敦へ出発するまでの半日の間、正式に休暇を貰ったのである。
実家へ帰省するには時間が足りなかったし、仮にあったとしてもその気にはなれなかった。
午前中、インセクト・ヒル跡地を訪れた智恵理は、地底決戦で犠牲になった全兵士のために花を捧げた。
既に献花台の花束は大半が枯れてしまっており、智恵理は1週間という時の流れを思い知らされた。
慰霊碑を拝んでいるうちに、神楽大尉の死に様が脳裏に甦り、涙で前が見えなくなった。
献花台の前で涙を流す少女の姿は、通行人にとって見慣れた光景となっており、彼女も遺族の1人にしか見えなかったであろう。
悲劇の中にも美談も生まれていた。
テレビクルーの護衛を任された隊員は、自らは犠牲になりながらも、最後までレポーターを守り抜き、地上へ生還させたという。
街頭テレビに映った突撃ジェミーは、最期まで冷静さを失わなかった佐野隊員の勇気を褒め讃えていた。
「ありがとう、ミス・ジェミー……」
佐野という隊員が地下で敵に包囲された挙げ句、パニックを起こして逃げだしたことを智恵理は知っている。
智恵理は敢えてそのことを伏せてくれたジェミーの好意に感謝した。
午後、昼食を取った智恵理は、もう一つの花束を持って郊外の下町を訪れた。
かつて自分が手を下した宇宙生物ソラスの墓参りをするためであった。
といっても凶悪な大怪獣に墓などあるわけがなく、ただソラスが倒れた最期の場所にそっと花束を置いただけである。
「1人くらい悲しんであげてもいいよね。アンタ、もう暴れることも出来ないんだし」
奥多摩の研究所に保存されていたソラスの死骸が、跡形もなく消滅したことは智恵理も聞いていた。
秘密を守ろうとするエイリアンの仕業とされたが、智恵理は彼が生まれ故郷の星へ帰っていったのだと信じたかった。
突然の雨に襲われたのは、丁度そんな時であった。
※
「ちぇっ、しばらく止みそうにないなぁ」
智恵理はヘヤーバンド代わりのバンダナを解いて顔を拭った。
「夏でもないのに夕立なんて……ついていませんね」
智恵理は背後から話し掛けられて振り返った。
そこに、やはりアーケードで雨宿りしている若いシスターが立っていた。
「失礼ですが、チェリーブロッサム中尉様でいらっしゃいますね?」
シスターが微笑んで頭を下げた。
Tシャツにジーンズという軽装の智恵理は、正体を看破されて小さく狼狽えた。
「目を見れば分かります。かなりの修行をお積みになったようですね」
シスターは智恵理の頭頂部を眩しそうに見て、小さく十字を切った。
ヨーガの行者であるマーヤ中尉と同じく、この若いシスターにも智恵理のチャクラが見えるというのであろうか。
もしかすると、シスターの目には智恵理の頭上に、天使の光輪でも見えているのかも知れない。
そうだとすると、この若いシスターもただ者ではない。
「この先の教会の者です。先だっては、ありがとうございました」
智恵理はソラスの進撃方向に教会と孤児院があったことを思いだした。
「あぁ、あの時の……」
彼女は逃げ遅れた孤児たちを守るため、ソラスを絶命させたのであった。
「施設のみんなも感謝しています。大したお礼は出来ませんが、是非一度遊びにいらして下さい」
智恵理は血塗られた自分の体を思い、気まずそうに居住まいを正した。
自分は神様の前に堂々と立てるような人間ではないのだ。
会話が続かなくなった智恵理は、居心地悪そうに天を仰ぎ見た。
半透明のアクリルガラスが雨に打たれて、小気味いいビートを奏でている。
この辺りもソラスの攻撃を受けたはずだが、こんなアーケードがよく無事であったものである。
「ここは都が侵略者の空襲を想定して、シェルター代わりに作った避難場所ですのよ」
シスターが智恵理の心を見透かしたように説明した。
「支柱は特殊合金製、屋根はビーム兵器を無力化する偏光ガラスで出来ているとか……」
智恵理は感心したように改めてアーケードを見回した。
防御力の高さは、ソラスの火炎攻撃を凌ぎきったことで証明されている。
智恵理はこのアーケードが、将来自分にとって重要な存在になるとは、この時思いもしなかった。
気が付けば雨が止みかけていた。
※
倫敦への出立を目前に控えた智恵理は、一人EDF東京輸送基地のロビーに佇んでいた。
行き交うEDF士官の制服は、ダブルの紺色ジャケットに衣替えされている。
制服の準備がない智恵理は、仕方なくペイルスーツを着込んでいたため、目立つことこの上なかった。
ペイルウイング隊員など見たこともない基地隊員は、きわどい服装の智恵理を見て何事かと訝しがる。
少しでも動けばパンティが顕わになりそうなスカート丈は、軍隊においては充分けしからん範疇にあった。
ジロジロ見られるのに疲れた智恵理は、居場所を滑走路わきの整備員ピストに移した。
ついでに武器やユニットなどの装備品は、先に輸送機へ積み込んで身軽になる。
そして出発までの短い時間を、ピストに備え付けのテレビでも見て過ごすことにする。
テレビのニュースでは地底決戦の勝利が繰り返し伝えられていた。
参謀本部の風評操作が上手くいったのか、世間はもう大戦に勝利したような騒ぎである。
市井の騒ぎっぷりはともかく、巨大生物の根拠地を叩き、これ以上敵が増殖するのをくい止めることはできた。
人類が巨大生物によって滅ぼされるのを待っていたインベーダーにとって、大きな計算違いが生じたことであろう。
後は敵の親玉──マザーシップを叩けばこの戦いは勝利で終結する。
漏れ聞いた情報によると、先日アメリカ西海岸にマザーシップが出現し、一撃でシアトルを廃墟に変えたという。
ジェノサイドキャノンの威力は想像を絶するものらしい。
また噂では各国から集められた連合空軍が太平洋上でマザーシップを捕捉、空中戦に入ったが、完敗を喫したとも聞く。
勝ちに驕るマザーシップが次に狙うのは紐育か倫敦か、はたまた伯林なのか。
情報部と作戦3課が懸命に情報収集に当たっているとのことであったが、正確な予測をするにはデータが不足していた。
いい加減な想定で一点に戦力を集中させても、後手に回って空振りするおそれがある。
だが智恵理には一つだけ勝算があった。
ようはこちらからマザーシップを呼び寄せて叩けばいいのである。
敵を叩いて叩いて叩きまくれば、敵は恨み重なる仇を葬らんと、自分の前に出現するのではないか。
智恵理は侵略者が送り込んできた数々の刺客たちとの戦いを反芻する。
歩行戦車ダロガを砕き、宇宙怪獣ソラスも屠った。
凶虫バゥの包囲網を突破し、UFOファイターを蹴散らした。
そしてこの度、クイーンにとどめを刺して地底決戦を制した。
智恵理は侵略者の切り札をことごとく葬り去ってきたのである。
自分にはマザーシップを召喚する資格があるのではないかと智恵理は考える。
しかしあの強大なマザーシップを相手にして、勝利を得ることができるだろうか。
こんな時、あの『伝説の男』がそばにいてくれたらどんなに心強いことか。
噂では前大戦の審判の日、彼はたった一人でマザーシップを撃墜して侵略者にトドメを刺したという。
そんな芸当は、とても自分にはできないと智恵理は思う。
『臨時ニュースです。地の底から巨大な生物が姿を現しました』
突然ブラウン管に現れた突撃ジェミーの金切り声が、智恵理を夢想から呼び覚ました。
『全長は数百メートルになるでしょうか。その姿は……最早言葉では伝えられません』
画面の中のジェミーが、背後を気にしつつ言葉を探している。
『これまで、様々な巨大生物が出現しましたが、その中でも最も恐るべき姿をしています』
カメラが引いていくと、徐々に背後の景色が画面に映り始めた
『この生き物を我々はこう呼びたいと思います……地の底からやって来た大地の主と』
テレビのモニターに恐ろしい怪物の全容が映り込む。
その姿は巨大なムカデのようにも見えた。
「大地の主……アスラの言ってたのは、こいつのことだったの」
怪物が体をのたくらせて宙を行く姿は、伝説に聞く龍神を思い起こさせた。
全館内に警報が流れる。
『都内に巨大生物が出現した。全ての飛行作業を中止せよ』
基地司令の声がスピーカーから流れ出た。
青天の霹靂のような敵出現に、司令の声がうわずっている。
「あたしのせいだ……地底に降りた時、アイツの存在に気付いていれば……」
眠れる怪物なら簡単に倒せていたであろう。
そうしていたなら、大地の主は地上に姿を現すことなく土に還ったはずである。
智恵理はいても立ってもおれなくなり、手荷物を抱えて指揮所へと走った。
ここはEDFの航空基地とはいえ、輸送任務を目的とする後方施設である。
戦闘とは無縁の技術士官や補給参謀たちは、モニターの中で大暴れしているムカデを固唾を呑んで見守るしかない。
大ムカデは帝都郊外の下町を滅茶苦茶に踏み潰して回っていた。
木造の家屋は大ムカデの重みを支えきれず、次々と倒壊していく。
「ひどい……」
思わず声を出した智恵理を、指揮所にいた士官たちが振り返る。
しかし直ぐに招かれざる客に興味をなくし、モニターに視線を戻す。
智恵理は司令に攻撃許可を取ろうとしたが、相手には智恵理に対する指揮権がないことに気付き口をつぐんだ。
それでなくても智恵理は許可なく地底決戦に参加したことで、総司令部から大目玉を喰らったのだ。
もっとも智恵理が上げた功績は計り知れず、その結果、犯した命令違反は相殺されていた。
しかし続けて勝手な振る舞いをすれば、厳格に処罰されることは明らかであった。
自分が処罰されれば、中隊長アイスバーン少佐も監督責任を問われることは間違いない。
それだけは許されるものではなかった。
智恵理が攻撃に参加するためには、倫敦にいるペガサス部隊指揮官、シュレッダー中佐の命令が必要なのだ。
しかし遠く離れた東京にあって、そんな許可など取り付けようがない。
智恵理は壁に掛かった時計を見る。
「15時か……」
今ごろ倫敦基地は起床30分前である。
寝起きの悪い中佐がこの時間帯に叩き起こされて、智恵理のおねだりを聞いてくれる訳がなかった。
ただでさえ智恵理は中佐に疎まれているのだ。
「くっそぉ〜っ、あたしにはどうすることもできないの?」
モニターの中にようやく駆け付けた陸戦兵が映り込む。
EDF陸戦隊の攻撃が開始された。
※
「ひひひひひ、い〜っひひひひひ。時が来たよ。最後の審判、世界の終わりだよ。人は滅ぶ、地と天と、二つの王が世界を滅ぼすよ。あ〜はははは、い〜ははは」
暴れる大ムカデの姿に、女の笑い声が被さる。
女の声に促されるように、大ムカデの動きが激しさを増した。
『地底の巣穴は焼き払ったはずなのに……まだこんな奴が残っていたのか』
市ヶ谷の連隊本部で戦いを見守っている隊長の声が、電波に乗って流れた。
『巣穴の最深部より更に深い場所で眠っていたようです。巨大生物はこの生き物に進化するため巣穴を作っていたのかも知れません』
応じるオペレーターも、無線スイッチの切り替えを忘れるほど狼狽していた。
『巨大生物の最終進化形態。まさかそんなことが……』
2人のやりとりに関係なく、戦いの火蓋が切って落とされた。
セオリー通り、ロケラン兵から攻撃を開始し、ゴリアスDの火線が大ムカデを包み込む。
目標が巨大な分、照準を外した砲弾は少なかった。
大ムカデが爆炎に包まれて一瞬見えなくなる。
『信じられません! 攻撃によってちぎれた部分が動いています。あの生物は体を千切られても平気なようです』
レーダーを確認したオペレーターの報告が入る。
『それどころか……千切られた部分は独立した生物となり、戦闘を続けています』
彼女の声は恐怖に震えているようであった。
視界が回復すると、分裂したムカデの破片が、それぞれ独立した生物として蠢いていた。
『何てことだ……痛めつければその分、数が増えていくということか』
隊長の呆然とした様子が、ハッキリと声に現れていた。
『ロケットランチャーなど爆発系の武器は、敵を分裂させてしまう恐れがあります。使用は控えてください』
状況を分析したオペレーターの助言が飛ぶ。
「他人事だと思って……」
オペレーターは悪くないと分かっているのにも関わらず、現場の兵士は何とも忌々しい気分になる。
「仕方がない、突撃するぞ」
陸戦中隊長がボルトを操作してAS−20のチャンバーに銃弾を送り込む。
こうなった以上、彼らに出来ることは命懸けの接近戦だけである。
「突っ込めぇーっ」
中隊長自らが先陣を切って喊声突撃を開始した。
それと共に後方からSNR−230による支援射撃が行われる。
しかし敵の動きは余りにも素早く、陸戦兵の移動速度では追い切れない。
ビルからビルへと宙を駆ける大ムカデの機動力は圧倒的であった。
アッという間に包囲された陸戦中隊は、降り注ぐ酸の雨の中で朽ちていった。
「あははははは、いひひひひ。あがいても無駄だよ、全ては決まったこと。百脚の魔獣が人を滅ぼす、星の皇帝が地球を焼く。ひゃ〜っはははは」
勝ち誇った女の笑い声が、何処からともなく響いてきた。
作者殿乙であります。
あのアーケードがそんなもので出来ていたとは・・・
あの男の登場を今か今かと待ちわびている俺がいる。
VSムカデは好きだったな。わざとゴリアス叩き込んでショットガン乱射して遊んでた。
>>210 保管庫内の「防衛と侵略」の削除をお願いします。
314 :
edf2:2006/09/03(日) 22:29:01 ID:+K4ivnDg
>>312 しばらく待って欲しい。
結構気に入ってるから保存したい。
316 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/05(火) 22:56:25 ID:S7NrqkxB
ここは他のサンド作品は書いていいのかな?
リモダンやギガドラ、超操縦のSSも見てみたいが、サンド総合を立てるのも少しはばかられる…。
ここは作品単体のスレタイが看板だからな
お姉チャンバラ専用スレもあることだし、遠慮せずにサンド総合立ててもいいんじゃないかな
いっそのことサンドにこだわらずSIMPLE2000シリーズの総合スレでも立ち上げればどうだい?
その方が間口が広くなるぜ
じゃあSIMPLE+サンドスレ立てるか。正直どっちか片方だけだと落ちてしまいそう。
ほす
>>313はい
>>315 2chの●を持ってますか?
よくわかりませんが●があれば落ちたものも読めるそうです。
後出しで申し訳ないのですが、あれについての収録及び転載は不可なので、その方向でお願いします。
>>320 ってか、意地の悪い言い方すると、
>>312がアレの作者である証拠は無いのだし、消す必要なくね?
てか、保管庫ってどこ?
教えてEDFのエロイ人ー。
325 :
323:2006/09/13(水) 19:03:37 ID:s5bsTxde
※
同時刻、リージェンツ・パークにあるペガサス隊基地の一室で、指揮官シュレッダー中佐が悶々としていた。
とうとう一睡もできないまま、起床ラッパが鳴ってしまったのである。
点呼の指揮は当直士官に任せることにして、自分は再びベッドに倒れ込む。
今の中佐は点呼どころではなかった。
「ぢっぐじょう〜っ、ライトニングのヴォケがぁ〜」
噛みしめた歯の隙間から、呪詛に満ちた声が洩れる。
中佐の表情は、まさにこの世の終わりを迎えたように青ざめていた。
昨日、ライトニング大尉率いる第3中隊が、試験運用したLARG−Vで市民を誤射するという事故を起こしたのである。
幸いレーザーの出力が弱く、また照射が一瞬のことであったので、市民の負傷は軽くてすんだ。
しかし市民を守るEDFにより市民が傷つけられたという事実は、前代未聞の不祥事であった。
関係者の処分が決定するのは、本日午後1時から開かれる査問会の席上である。
このままでは指揮官である中佐の更迭も充分に有り得る。
インセクト・ヒル攻略戦、地底決戦と連戦を制し、参謀総長から直々に感状を貰ったばかりだというのに……。
「みんなで足を引っ張りやがってぇっ。全部ぶち壊しじゃねぇかよぉ〜っ」
中佐が毛布を蹴飛ばして吼えまくる。
卓上電話から、外線の入電を知らせる着信音が流れ出たのは、丁度その時であった。
中佐は一瞬ビクッと身を震わせて逃げ腰になる。
しかし無視するわけにもいかず、やむなく受話器を取り上げて耳に当てた。
『あ、あのう……シュレッダー中佐殿……起きてらっしゃいましたか?』
スピーカーから聞こえてきたのは、遠慮がちに喋る智恵理の声であった。
「なんだぁっ、貴様。チェリーブロッサムかぁっ」
電話の相手が毛嫌いしている智恵理と知って、中佐の血圧が急上昇した。
『申し訳ありません、中佐殿っ』
いつもと違うしおらしい口調に、「何かあるな」と中佐は幾分冷静さを取り戻す。
この辺の嗅覚は図抜けている中佐であった。
「で、なんだ。今忙しいから、手短に頼む」
改まった口調で智恵理に先を促す。
『実は壊滅させたと思った巣穴の底から、新たに巨大生物の主が現れて……現地の部隊では手に負えません』
智恵理は申し訳なさそうな口調で、敵の親玉を討ち漏らしていたことを詫びた。
その瞬間、シュレッダー中佐の頭脳が素晴らしい速度で回転を始めた。
「市民の誤射を最悪マイナス3として、これまでの功績と差し引きすると……今は失点1程度か」
仮に智恵理が、現地の部隊も手を焼く「大地の主」とやらを葬り去ることができたなら……。
「悪くても差し引きゼロ。上手く行けばプラス1……いやアピール次第でプラス2にはもっていける」
中佐の口元が徐々に緩んできた。
「バッカもんがぁ。お前みたいなペガサス隊の恥さらしは即刻クビだぁっ」
中佐が火の出るような勢いで受話器を怒鳴りつけた。
『ご、ごめんなさい……』
受話器の向こうでペコペコと頭を下げる智恵理の姿が想像できた。
「と、いいたいところだが。自分で蒔いた種は、自分で刈り取ってこい。東京の連隊本部には私から話をつけておく」
できるだけ冷たい口調を心掛けながら、中佐が続ける。
『ちゅ、中佐……殿?』
智恵理の戸惑ったような声が洩れ聞こえた。
「失敗は2度も許さんからな。こちらの時間で正午までに片を付けろ。いいな、正午までしか待たんぞぉっ」
中佐は怒鳴りつつ、反論を許さぬ勢いで受話器を電話に叩き付けた。
※
「あの、中佐っ……もしもし……もしもし……」
気付けば電話は切れていた。
耳がキーンと鳴っている。
智恵理は耳をさすりながら受話器を置いた。
「ともかく攻撃参加の許可が下りたんだ」
ダメ元で掛けた直通電話であった。
あの中佐が、と智恵理は意外に思った。
正午までと時間を切られたことが気になったが、そんなことを考えている暇はない。
「あと5時間ちょっとじゃない」
取り敢えず、東京で一暴れするための正式な許可は貰った。
「武器とユニットを取ってこなくちゃ」
智恵理は8番滑走路へ走り、倫敦行きの超音速輸送機に駆け寄った。
積荷の搬入口に、見張り役の整備員が立っている。
巨体の整備員が右手を横に広げ、近づいてくる智恵理を制止した。
「ごめん、取りたい荷物があるんだけど」
智恵理は整備員の手前で足踏みを続けたまま、もどかしそうに用件を伝える。
しかし、鈍重そうな整備員は手を下ろしてくれない。
「搬入チェックの済んだ荷物は、司令部の許可無しに持ち出せないことになっています」
整備員がマニュアル通りの説明で拒絶した。
「あたし、チェリーブロッサム中尉なんだけど……それでもダメ?」
智恵理は小首を傾げ、媚びのこもった目を整備員に向ける。
一刻を争う事態ゆえ、自分のネームバリューを試してみた。
「いえっ、中尉殿であろうと規則は規則ですから」
整備員は心苦しそうに表情を歪めながらも、自分の職業倫理を優先させた。
彼は身だけではなく、心まで岩石のように固いらしい。
この分だと、ここの基地司令を相手にしても同じ台詞を吐きそうだ。
それはそれで好ましいことではあったが、今は緊急事態の真っ最中である。
シュレッダー中佐が東京連隊本部に対し、正式に支援攻撃の申し出を行うまでには、今少しの時間が必要だ。
自分が口頭で説明するくらいでは、基地司令は納得してくれないであろう。
戦地までに掛かる時間を考えると、こんなところで揉み合っている暇はない。
「あのぉ……そのぉ……」
「……?」
整備員は急にモジモジしはじめた智恵理を訝しげに見る。
「……始まっちゃったのよ……急に……」
智恵理は頬を赤くさせ、上目遣いに整備員を見た。
極端な内股になって腿を摺り合わせる智恵理の仕草で、鈍重な整備員もようやく意味を理解する。
整備員が顔を紅潮させてあからさまに狼狽えた。
してやったりと、智恵理が貨物室に駆け込もうとする。
「中尉殿ぉっ」
それを背後から整備員が呼び止める。
この頑迷さには、流石の智恵理も切れかけた。
「この機は21時発の36号便です。中尉殿の荷物を積んだ23号便なら、先程既に出発しましたが……」
その途端、智恵理の目の前が真っ暗になった。
これでグリニッジ標準時の正午までに決着を付けることは不可能となった。
「出発するのなら、どぉ〜して教えてくれなかったのよぉ」
智恵理は巨体の整備員に詰め寄った。
「飛行再開になった時、館内放送があったはずですが……」
整備員が辟易したように説明する。
おそらくシュレッダー中佐との会話に夢中になっていて、気付かなかったのであろう。
全ての責任は自分にあった。
「なんで同じ場所に、倫敦行きの似たような飛行機を用意してるのよ。嫌がらせじゃないのぉ」
智恵理はとうとう駄々っ子みたいにぐずり始めた。
「あたしを倫敦に運ぶためだよ、先輩」
背後から声を掛けられ、智恵理は肩越しに振り返った。
そこにEDFの制服を着た、小柄な准尉が立っていた。
七三に撫で付けられたショートカットの黒髪、細く整えられた眉の下に、黒目がちの大きな目がキラキラ輝いている。
そして、身長に比して異常なほど発達した胸の膨らみが印象的であった。
「先輩、ひょっとして遅刻? 全然進歩してないなぁ」
少女准尉がクスクスと笑った。
「……光ちゃん……どうして?」
それは智恵理のペ科練での後輩、蛍野光であった。
智恵理の2期下、手ずから指導した後輩である。
「お久し振りぃ〜っ」
光は智恵理に飛び掛かると、首筋に抱きついて頬ずりした。
「ちょ、ちょっと……光ちゃん……」
焦った智恵理は、人目を憚らない後輩の行為をたしなめる。
「今度、先輩のいるペガサス隊に配属されることになったんだぁ。よろしくね」
ペコリと頭を下げる光の傍らに、台車に積まれた大きな荷物があった。
ジッパーの金具に『Firefly』のコードネームタグが付いている。
「配属ってホントなんだ」
台車を見る智恵理の目が妖しく光った。
「当たり前でしょ。冗談で倫敦まで行けるかっつぅ〜の」
光はバカにされたと勘違いして唇を尖らせる。
「ところで光ちゃん、アンタどんな武器支給されたの?」
智恵理が興味ありげに質問すると、光は直ぐさま機嫌を直した。
「見たい?」
「見たい、見たい」
智恵理はウンウンと頷きジッパーをスライドさせる。
生意気なことに最新型のM2レイピアと、もう一つ見知らぬ型の大型銃が入っていた。
下段のケースにはヘルメットとプラズマエネルギー・ユニットが収納されている。
「ところで今ごろに部隊配属って、どうして?」
ペ科練のカリキュラムだと、卒業生の新規配属は先月のはずである。
「よっくぞ、聞いてくれましたぁ〜っ」
光がオーバーな身振り手振りで説明を始める。
「それが卒業したのは先月なんだけどぉ。あたしだけ中野の研究所行きになっちゃって」
自分一人だけ特別扱いされたことが余程嬉しかったのか、光がオーバーアクションで自慢話を続ける。
しかし智恵理はハナからそんなもの聞いてはいなかった。
後ろ手にスパナを持つと、こっそり光の背後に回る。
「でさ、なんか精密検査するってんで、一月もVIP待遇だよ……先輩、聞いてる……」
その台詞を最後に、光は後頭部に衝撃を感じて意識を失った。
※
智恵理が都心に到着した時、ビル街は暗闇に包まれていた。
おどろおどろしい邪念が大気に満ち溢れ、言いようのない不安感を醸し出している。
避難が済んでいるのか、上空からは人っ子一人見当たらない。
ビルの街にガォーという化け物の咆哮だけが轟いていた。
虹色の航跡を残して、智恵理が夜のハイウェイに降り立つ。
新品のプラズマユニットは絶好調である。
ヴァーチャルスクリーン上のエナジーゲージがみるみる上昇していった。
1キロ先にのたうつ大ムカデの姿が見えている。
時折全身から酸の飛沫を撒き散らせて、周囲の空気を黄色に染めていた。
「さてと……」
爆発系の武器はムカデを寸断し、敵の数を増やしてしまう。
といってM2レイピアで正面から突っ込めば、あの酸の霧雨に巻き込まれてしまう。
智恵理はM2レイピアを左肩に背負い、もう1丁の武器を点検した。
「えぇっ?」
その銃をつぶさに見て、智恵理は驚きの声を上げてしまった。
本体に比べて異様に小さな銃把には、トリガーが付いていなかったのだ。
「サイコ……ガン……」
光が支給された武器は、思念誘導兵器であったのだ。
「そう言えば……あの子、研究所で精密検査を受けたって……」
今になってその話の裏に隠された、恐ろしい意味が把握できた。
「どういうこと……光ちゃんも思念誘導兵器の被検体だというの?」
アルカトラズでの忌まわしい記憶が、智恵理の脳裏に蘇る。
全てはサイコガンの射手となるための、脳波強化実験であったことは後から知った。
智恵理はその銃をまじまじと見詰める。
“MADE IN JAPAN”と“PSY−BLADE”の刻印が不気味に光っていた。
「サイ・ブレード……日本製のサイコガンなんだ」
光は日本独自の研究機関により、サイコシューターとして選出されたのであろうか。
智恵理はこれまで撃った思念誘導兵器──ミラージュやガイストを思い出す。
これはどんな能力を秘めたサイコガンなのか。
EDFは自分や光に何をさせようとしているのか。
自分の知らないところで何かが蠢動しているのは確実である。
智恵理は自分を取り巻く、なにかドロドロした不気味な世界の入り口を見てしまったような気がした。
ビルーのまちーにガォー♪
サンドロットつながり鉄人28号キタ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!
第1部(?)でも28号ネタが出てきたなぁ
ビュ〜ンと飛んでくペ〜ルウィング、28号ォ〜w
保守
Hoshu!
保守
ビル街に大ムカデの咆哮が轟き、智恵理は我に返った。
「今はアイツに集中しなきゃ」
智恵理はサイ・ブレードを肩に背負うと、M2レイピアを手にしてハイウェイを飛び降りた。
そしてビルの死角を使って大ムカデの側面に接近を図る。
半分も間合いを詰めると、既に嗅ぎ慣れた感のある酸っぱい臭いが鼻を突き始めた。
粘膜を刺激された両目から涙がこぼれ落ちる。
「乙女を泣かせた罪は重いよ」
智恵理はロンググラブの指先を使って涙を拭う。
ムカデの酸は、黒アリとは比べものにならないくらい強烈なものらしい。
直撃を喰らったら只では済みそうにない。
慎重にムカデの側面に回り込んだ智恵理が、ユニットを噴かせて一気に接近する。
「ギェッ」
ようやく敵に気付いたムカデが、酸の煙幕を張りつつビルの頂に向かって逃げる。
「遅ぉ〜いっ」
智恵理はM2レイピアを撃ちながら、逃げるムカデに逆走して飛ぶ。
ヤキを入れられたムカデが、苦し紛れに酸を放出した。
「うわぁぁぁ〜っ。ダッ、ダメェ〜ッ」
もの凄い圧力の酸攻撃を受け、智恵理が方向感覚を失う。
そこに逃げるムカデの尾部が引っ掛かった。
智恵理の体が木の葉のように舞い、ビルの壁面へと飛んでいく。
硬いコンクリートに叩き付けられればただでは済まない。
生命の危機を前にして、脳下垂体が急激に活性化する。
空間認識力が異常に高まり、智恵理が自分の位置を取り戻した。
智恵理は軽くユニットを噴かせ、足からビルの壁面にタッチする。
そして膝のバネを利用して、再度虚空へと飛び上がった。
「体が長すぎるんだ」
ムカデの体を前後半分ずつ、2回に分けてチャージで焼く作戦であったが、敵が余りにも長く、また頑丈すぎた。
すなわち攻撃に掛かる時間が長くなり、それだけ酸に晒される時間も長引いてしまったのだ。
逆進攻撃では照射時間が短いため、ほとんどダメージを与えられなかったようである。
むしろ自分の受けた被弾の方が深刻であった。
このまま同じ戦術を続けていれば、敵に有効な打撃を与える前に、自分の方が参ってしまう。
流石はインベーダーが、最後の切り札として秘蔵していた決戦兵器だけのことはある。
この最強最後の敵は、生半可な攻撃では倒せそうにない。
智恵理はバイザーを跳ね上げ、目の回りの涙と汗を拭う。
腋が開くと甘酸っぱい匂いが漂った。
その臭いは体に付いた酸の移り香だと、無理やり自分に言い聞かせる。
「やっぱり短く切って、各個撃破するしかない?」
智恵理はポケットに手を突っ込み、シガレットケース状の容器を取り出した。
中にはタバコ大の無針注射器が並んでいる。
ミラージュから貰った脳波活性剤の残りであった。
「仕方がないのね……」
智恵理は摘み取った無針注射器を、剥き出しになった肩口に叩き付けた。
脳みそを掻き回される感覚と共に、目眩と吐き気が襲いかかってくる。
しゃがみ込むと急に酸の臭いが鼻先に甦り、嘔吐感が高まった。
その代償として智恵理の感覚は急激に研ぎ澄まされていく。
「よぉ〜し」
智恵理はサイ・ブレードを手にすると、意を決して立ち上がる。
そして銃口を上空に向けて目を瞑った。
北北西1250メートル先に、ビルの谷間を西へと移動する大ムカデの気配があった。
「起て! 撃て! 斬れっ!」
智恵理が念じると同時に、鮮やかなピンク色をした光の刃が銃口から飛び出した。
光のブレードは1秒ほど直進した後、何かに導かれるように急激に左カーブを描いて落下する。
ズズーンという爆発音の直後、大ムカデの体が上空へと吹き飛ばされた。
大ムカデが悲鳴を上げて、智恵理の目の前を東方向へと流れていく。
サイ・ブレードの性能は申し分なかった。
弾速はミラージュに劣るが、破壊力はガイストを凌駕している。
初弾を命中させた誘導性能も申し分なかった。
これが日本の最先端サイコ・テクノロジーの精華なのか。
智恵理は目を瞑ったまま、ムカデの軌道をトレースしつつ新たに念じた。
「斬れぇっ!」
再度飛び出たピンクのブレードが、今度は右へカーブしつつ急上昇を見せた。
ブレードがムカデの体に接触した瞬間、大爆発を起こして光のページェントを繰り広げる。
身悶えする大ムカデの体が、後ろ3分の1の所で千切れ飛んだ。
両断された大ムカデが、地響きを上げて落下した。
智恵理は逃げまどう尾部には目もくれず、自分に向かってくる頭側に意識を集中する。
「斬れぇーっ!」
直進したブレードが、大ムカデの真上でストンと落ちた。
「ギェェェェーッ」
断末魔の悲鳴と共に、大ムカデの体が真っ二つになって宙へ舞い上がった。
「包囲させる時間を与えちゃダメ」
智恵理はサイ・ブレードを背負うと、M2レイピアに持ち替えてユニットを全開にする。
狙いはまだ衝撃から立ち直れていない先頭部である。
プラズマアーク刃を使い、頭側から丁寧に撫でてやる。
今度は元の3分の1の長さなので、酸の霧に巻かれる前に離脱できた。
振り返るとムカデがひっくり返ってのたうち回っている。
やがてムカデの体はバラバラになり、個々の龍虫に戻って死滅した。
次の目標は先に分断した尾部である。
智恵理の思念波は南へ向かって逃走中の尾部を補足した。
「逃がさない」
智恵理はユニット全開で南へと飛ぶ。
そしてアッという間に尾部に追いすがり、追い抜きざまにM2レイピアを放射した。
文字通り、踏みつぶされた格好になって尾部が即死する。
「北北東、距離350。撃った」
智恵理の脳裏にゆっくりと落下してくる銀色の流星群が映り込む。
前方へダッシュすると、今まで立っていた場所に黄色い雨が降り注いだ。
この時、智恵理の空間認識力は、恐ろしいまでに研ぎ澄まされている。
奇襲にしくじった中央部は、バラバラの龍虫に分散して智恵理を包囲する作戦に出る。
「なによっ、こんなゴキブリなんか……うぅっ」
飛び上がろうとした智恵理の体が硬直した。
「あぁっ……まっ、また……」
突然襲いかかってきた疲労感が、智恵理の体の自由を奪ったのだ。
M2レイピアが手から滑り落ちてアスファルトに転がる。
立っていられなくなった智恵理は路上に膝をついてしまう。
「まずい……」
気は焦れども力は戻ってこず、智恵理は遂にうつ伏せに倒れ込んでしまった。
一匹の龍虫が、ゴキブリさながらにガサガサと近づいてくる。
龍虫の一つ目と智恵理の視線が宙で絡み合う。
「負けるモンか……負けるモンかぁ……」
智恵理は肘を使って上体を起こし、なんとか立ち上がろうとする。
だが腹筋も背筋も言うことを聞いてくれない。
「ダメだ。どうしちゃったの……あたしの体……」
智恵理の上体が、再び前のめりに崩れる。
12匹の龍虫が智恵理を円形陣で包囲した。
敵は急激に弱まっていく智恵理の生命反応に、戸惑っているように見える。
「ここで……お終いなの?……」
死を覚悟した智恵理が目を閉じる。
「光ちゃんに謝れなくなっちゃったな」
後輩を騙し討ちにして装備を奪ってきたことを、智恵理は少しだけ後悔する。
『ひゃ〜あはははははっ、もう何をしたって無駄さ。世界は滅ぶよ。大地の主よ、全てを滅ぼすがいい』
どこかで女の笑い声がしたような気がした。
大気に混じる邪気の密度が濃くなった。
「そうだ、あたしが死んだら……光ちゃんが……」
智恵理が死ねば、EDFの闇の部分は、次の生け贄として光を選ぶかもしれない。
呪われた兵器を振るい、地獄からの使者と戦う血塗れの夜叉に……。
生意気だが自分に懐いている可愛い後輩を人殺しに仕立てるわけには行かない。
こんな思いをするのは自分だけで充分であった。
「くっそぉ〜っ、負けるモンかぁ〜っ」
生きてる限り望みは失わない、戦える限り仲間は見捨てない。
体に染み付いたペイルウイング・スピリットが、智恵理に新たな力を与えた。
「うわぁぁぁ〜っ」
叫び声を上げて立ち上がった智恵理は、M2レイピアを拾ってトリガーを引いた。
「このぉぉぉ〜っ」
龍虫たちは急に息を吹き返した智恵理に恐怖を感じて逃げまどう。
単体に戻った龍虫は、さして危険な存在ではなかった。
至近距離でも凶虫バゥほどの圧力は感じない。
たちまち2匹がプラズマアークの刃によって血祭りに上げられた。
とても勝ち目はないと判断した龍虫は、再び合体してムカデの姿を取る。
途端に敵の機動力が跳ね上がった。
足元のおぼつかない智恵理は、その動きについていけなくなる。
「うぷっ……うげぇぇぇっ」
無理をしたため吐き気がこらえられなくなり、智恵理は激しく嘔吐した。
オマケに吐瀉物に足を取られ、スリップダウンを喫する。
肉体の限界に続き、とうとう精神が挫ける時が訪れた。
今度こそもうお終いであった。
10匹の龍虫が連なった大ムカデが、鎌首をもたげて智恵理に覆い被さる。
「ゴ……ゴメンね……光ちゃん……」
智恵理の口から弱音が漏れるのと、頭上を衝撃波が駆け抜けていくのが同時だった。
大気を切り裂きながら飛来した何かが、大ムカデの体を構成している先頭の龍虫に命中した。
「ギエェェェェーッ」
悲鳴と共に頭部の龍虫が粉微塵に吹き飛んだ。
反動でムカデの本体も後方へと飛ばされる。
再び衝撃波が走り、のたうち回るムカデの新しい頭部を吹き飛ばした。
どこからともなく、遠雷が聞こえてきた。
「なに?」
振り返った智恵理は、遥か彼方に閃光が走るのを肩越しに見た。
ほぼ同時に頭上を衝撃波が通過し、智恵理はヘルメットを押さえて耐える。
雷鳴の到達と共に、ムカデの3番目の頭が消し飛ぶ。
「ライサンダー?」
背後で3つ目の雷鳴が轟いた。
再び振り返ると、ヘッドライトが近づいているのが見えた。
視界の中でSDL2エアバイクの姿がグングン大きくなる。
シートの上に立った陸戦兵が肩付けしたスナイパーライフルを発射した。
今度は稲光と雷鳴がほぼ同時であった。
頭上で大気を切り裂く音がし、ムカデの体が後方へと飛ばされる。
「そうか頭から順に叩いていけば、分裂させずに倒せるんだ……」
智恵理はその戦術の巧みさに舌を巻いた。
敵わぬと見たムカデが退却に移る。
しかし陸戦兵の狙撃技術がそれを許さない。
6度の雷鳴が鳴り響いた時、侵略者最後の切り札は完全に滅びていた。
『ひゃ〜あ、大地の主が殺されたよ……ううう、うああああああ』
女の悲鳴が、直接智恵理の頭の中に響く。
その声には驚きと怒りの要素が含まれていた。
『戦士がいるんだ、人類の中に奴がいるんだ、あいつが主を殺したんだ。許さない……許さないぃぃぃ』
悲鳴は徐々に弱くなっていき、やがてプツリと途絶えた。
それと同時に、周囲の大気から邪気が薄れていった。
軽快なホバーエンジンの排気音とともに、SDL2の車体が横滑りする。
エアバイクが停止すると、乾いた接地音がした。
エンジンを切り、陸戦兵がアスファルトに降り立つ。
「遅くなって悪い。だいぶやられたようだが……大丈夫か?」
陸戦兵は智恵理の肩を抱いて助け起こす。
そう言う彼の戦闘服にも毒糸が絡み付き、無惨な焦げ跡が無数に付いていた。
銃を撃ち続けたためであろうか、顔は煤だらけである。
今の今まで、相当な数の凶虫バゥと死闘を演じていたことは聞くまでもなかった。
もし、怒れる凶虫の群を街に侵入させていたなら、大ムカデとの挟み撃ちにあって、智恵理は為す術もなく敗れていたであろう。
陸戦兵は智恵理のヘルメットのエアを抜き、そっと頭から外してやる。
そして口元に付着した吐瀉物をハンカチで拭い去る。
汗と酸の饐えた臭いにゲロまみれのペイルスーツ。
そこにはムードの欠片もなく、智恵理は苦笑するしかなかった。
優しく抱かれていても、恋人に抱擁されているような気はしない。
転んで泣きべそをかいているところを、兄に助け起こされたような──そんな感覚であった。
「ありがと。いつかの狙撃もあなたでしょ?」
智恵理はインセクト・ヒルを制したとどめの一撃も、彼のライサンダーによるものだと見抜いていた。
男は否定も肯定もしなかった。
「俺は存在していない……したがって、お前は何も見ていない」
ただいつも通りの台詞を吐いただけであった。
今度はたまらず、智恵理は噴き出してしまった。
男も釣られて肩を揺すって笑う。
「帰るか……送ってく」
その誘いは、伝説の男が智恵理を戦士と認めてくれた証明であった。
「うん」
智恵理は頷いてSDL2のシートカウルに跨る。
エアバイクは排気圧で浮き上がり、滑るように走り出した。
切り札を全て使い果たしたエイリアンは、いよいよマザーシップを繰り出してくるであろう。
最後の決戦場が果たしてどこになるか。
それはまだ誰にも分からなかった。
乙 GJ やっと伝説の男が出てきましたね ワクテカ
乙です。
349 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/26(火) 01:53:33 ID:n4QShSgG
また圧縮かよ
早過ぎるぜ
次回はついに伝説の男×智恵理か?
でもマザーシップ攻略までお預け食らいそうな予感。
伝説の男は「百足龍虫」の裏で「虫の怒り」やってたと見たが?
保守
ライサンダーが輝いている
4丁しかないライサンダーZを手にする日は来るのだろうか
礼賛乙は女王蜂が持ってくる
保守
hosu
ほす
保守でし
《西暦2019年11月1日 リージェンツ・パーク ペガサス部隊本部》
倫敦に帰還した智恵理を待っていたのは、大尉任官と第3中隊長の地位であった。
ペガサス隊指揮官シュレッダー中佐は、第3中隊の市民誤射という大失態により、進退に関わる窮地に陥った。
懲戒処分の危機を回避させたのは、他ならぬ智恵理の上げた大戦果である。
自らを裁く査問会が開かれる寸前、「百足龍虫撃破」の報を受け取った中佐は、その時点で勝利を確信していた。
敵の決戦兵器たる大ムカデ撃破が持つ戦略的な意義と、極東に対する中央の優位性を示した功績は絶大な武器になった。
事実、侵略者は持ち駒を全て使い果たし、極東支部からは篤い謝意表明が届いている。
底意地の悪い査問委員たちも、その戦果を無視する訳にはいかなかった。
誤射された市民の負傷が軽く、賠償を求める意思がなかったことも、中佐にとって有利に働いた。
後日判明したことであるが、被害者はペガサス隊の大ファンで、むしろこの事態を喜んでいるらしい。
結局、査問会は、これまで絶大な功績を上げ続けてきたペガサス隊の指揮官を貶めることはできなかった。
「どうせなら倫敦近郊に出現してくれてたら良かったのに。ったく、気の利かねぇムカデ野郎だぜ」
査問会議の席上、シュレッダー中佐はこっそり鼻で笑ったという。
敵の決戦兵器を叩いたことは充分な戦功ではあったが、所詮は地球の裏側で起こった出来事である。
これが倫敦の危機を救ったとなると、評価はもっと上がっていたはずであった。
それでも中佐の卓越した自己宣伝技術は、実際の戦功を2倍にも3倍にも見せて、部隊の株価暴落を見事に防いだ。
「くそっ、虫けらの主めが。こんなことならもう2、3匹現れてくれってぇの」
勝利に酔いしれるシュレッダー中佐は、何の気なしにそう漏らしたという。
それを耳にした取り巻きの士官たちは大いに笑ったが、後日、忸怩たる思いで己の不明を恥じることになる。
ともかくEDFにおける中佐とペガサス隊の名声は一段と高まった。
それに伴い、戦功を上げた隊員を賞揚する必要が生じたのは当然のことである。
それに自分の立場を危うくした、第3中隊長ライトニング大尉の処分もしなくてはならなかった。
それもとびっきり冷酷な罰で、見せしめにしなくては気が済まない。
自分を査問会などという不浄の席に送り込む原因を作った大尉を、中佐は絶対に許せなかったのだ。
両者を同時に行う名案はすぐに浮かんだ。
すなわちライトニング大尉の降等と、智恵理の中隊長昇格である。
中佐は残酷にも、全隊員の列席する会議の席上で、ライトニング大尉の処分を発表した。
余りに厳しい処断に対し、第3中隊の隊員たちが真っ青になる。
「そんな、あんまりです。あたし大尉になんかにならなくていいから」
智恵理が勢いよく立ち上がったため、座っていた椅子がガタンと倒れた。
シュレッダー中佐が不愉快そうに智恵理を一瞥する。
「本来なら、巣穴で敵の親玉を見逃して、被害を拡大させる原因を作ったお前もコレもんなんだぞ」
中佐は智恵理に向かってクビを切るジェスチャーをして見せる。
「中隊長の重責を負わされるのも、一種の罰だと思って貰おうか」
中佐が冷酷そうにせせら笑った。
「けど、これまでの大尉の功績を考えると、一度だけの失敗にしては重すぎる処分です」
智恵理は大尉を慕う第3中隊員のことを考え、中佐に食い下がった。
ライトニング大尉の顔からは、いつもの陽気さは消え失せ、神妙に俯いていた。
大尉は部下のために、如何なる処分でも黙って受け入れる覚悟であった。
実際にLARG−Vで市民を撃ったのは第3小隊のロータス伍長であったが、大尉は一言も彼女を責めなかったという。
そんな大尉を、智恵理は立派だと思った。
「黙れ、チェリーブロッサム。戦功を上げた隊員を賞揚しなくては、私の評判に関わるんでな」
シュレッダー中佐が差し歯を剥き出しにして笑った。
「貴様ぁ……歪んだ性根は、まだ直ってなかったのか」
コンボイことレギー・ベレッタ特務曹長が、傲然と椅子を倒して立ち上がった。
「ヒィッ」
身長1メートル94、体重105キロの巨体は、中佐の腰を抜かさせるのに充分な迫力を持っていた。
以前、レギーに前歯を全部折られた中佐は、両手で口を覆って逃げ腰になる。
だが中佐のやり口に、我慢の限界にきていたレギーは許さない。
可視化せんばかりに高まった殺意をまとって中佐に詰め寄っていく。
レギーの猛進を止めたのは、ピシャリという乾いた打撃音であった。
「中尉っ?」
レギーは自分と中佐の間に割り込んだ智恵理の姿を認めた。
中佐は、と見ると、スナップの利いた智恵理のビンタを喰らい、表情をこわばらせていた。
「あ……あ……あ……?」
意表を突かれたシュレッダー中佐は、ぶたれた頬を押さえて呆然となる。
「上官暴行は無条件で一階級降格だよね。これで大尉昇任も中隊長任命もご破算だよ」
智恵理がサラリと言ってのけた。
我に返ったシュレッダー中佐の顔が見る見る紅潮していく。
逆にレギーの顔面が蒼白になった。
部下全員の面前で恥をかかされた中佐が、このままで済ませるわけはない。
戦地での上官暴行は、規律を何より重んじる軍隊では重罪である。
智恵理が言うように、一階級降格程度で済まされるような軽い罪ではない。
下手をすると、この場で銃殺も有り得た。
「貴様ぁっ、中佐殿に何をするかっ」
中佐派色を鮮明にしているバーディ少尉やシュリンプ少尉が、怒気を顕わにして駆け寄ってくる。
スマッシュ少尉などは、自分が責めを負うべき第3中隊の将校であることも忘れて飛び出していった。
「なんだぁ、このぉっ」
それに負けじと新任配置されたばかりの智恵理の後輩、ファイアフライ准尉こと蛍野光が血相を変えて飛び出した。
「お前、新入りのくせに。それが上官に対する言葉遣いかぁっ?」
「そっちこそ。中尉に対して貴様とはなんだぁっ?」
本題とは関係のないところで、小競り合いが勃発する。
それを見たシュレッダー中佐の眉間に、みるみる深い皺が刻み込まれた。
「もう結構です」
中佐が口を開くより早く、第1中隊長アイスバーン少佐が立ち上がった。
「あくまで大尉を処分するとおっしゃるのなら、同じく中隊を預かる私も同罪です」
第2中隊長ゲイロード大尉も立ち上がる。
「部下の監督不行き届きで、中隊長全員が辞表を提出しましょう」
シュレッダー中佐の顔から血の気が引き、文字通り真っ青になった。
部隊の看板であるアイスバーン少佐とゲイロード大尉を失えば、ペガサス隊は戦闘集団として機能しなくなる。
「ヨハンナ、何を言ってるのか分かってんのか。自分の部下を見捨てて、隊を去るつもりなのか?」
シュレッダー中佐が口元をピクピクと痙攣させる。
「お言葉ですが、中佐殿は今、ライトニング大尉に同じことをさせようとなさっています」
アイスブルーの瞳が悲しげに光っていた。
花形のエースに突っ込まれて、シュレッダー中佐は口をつぐむ。
「だいたい、LARG−Vなんてアホな武器、実戦投入させたバカは誰だぁ?」
最後列で興味なさそうに居眠りしていたエンジェルがアクビまじりに言った。
「確か先週、売り込みに来てたロシアの技術者に『こいつは欠陥兵器だ』って中佐も笑ってたよなぁ」
何十本もの冷たい視線がシュレッダー中佐を射抜く。
そこにいた全員が、エンジェルの台詞に黒い霧の存在を感じ取った。
「そいつはいけねぇな。中佐殿が採用を反対なさるような欠陥兵器を使わせた不届き者がいるとは……」
レギーがニヤニヤして中佐を見下ろす。
新型兵器の採用不採用は、無論、指揮官たるシュレッダー中佐が主管している。
真っ赤に紅潮させた中佐の顔が、賄賂の存在を肯定していた。
「もうこの辺でよろしいでしょう。ライトニング大尉も以後は充分に注意をするということで」
頃合いを見計らい、アイスバーン少佐がまとめに入った。
「どうです、ここは指揮官訓戒という辺りで如何でしょう?」
脛の傷を顕わにされた中佐としては、その意見を飲むしかなかった。
会議室の張り詰めた空気がようやく緩んだ。
「しかし貴様は別だぞ、チェリーブロッサム」
シュレッダー中佐が智恵理を睨み付けた。
「貴様の上官暴行は、これとは別問題だ。処分が決まるまでクーラーに入ってろ」
智恵理も流石に顔色を変えた。
敵との最終決戦が近いという時に、懲罰房などでゆっくりしている訳にはいかない。
「ごめんなさい中佐。何をされても文句言いませんから、それだけは堪忍してください」
智恵理は腰を屈めて必死に謝罪を繰り返した。
しかし中佐の決断は翻らない。
レギーは小隊長のために中佐を説得しようとした。
それで許されるのなら、憎い仇である中佐に頭を下げてもいい。
しかし敬遠されている自分が何をしても逆効果になると悟り、開きかけた口をつぐむ。
表情を見たところ、シュレッダー中佐の興奮は既に冷めているようであった。
ただ、智恵理を見下ろす冷たい目からは、なんの感情も読み取れなかった。
MPが呼ばれ、智恵理を荒々しく引き立てようとする。
「いやっ。中佐、堪忍してぇっ」
抵抗しようとした途端、強烈な力で腕をねじ上げられる。
「痛ぁっ。ちょっと、乱暴にしないで」
下級兵士にサディスティックな扱いをされ、智恵理は悲鳴を上げる。
しかし中佐に対し点数を稼いでおきたいMPたちは聞く耳を持たない。
うだつの上がらない彼らにとって、女の上官に悲鳴を上げさせることは無情の楽しみなのだ。
「チェリーブロッサム中尉、恩に着る。今日、中尉がしてくれたことは、生きてる限り忘れないよ」
ライトニング大尉は、MPに引き立てられる智恵理に向かって両手を合わせる。
大尉の顔は思い詰めたように強張っていた。
智恵理は、いつも陽気な大尉にそんな神妙な顔は似合わないと思った。
※
引き続き行われた戦術会議の議題は敵の母船、マザーシップの所在であった。
先だってシアトルを廃墟に変えたマザーシップは、大方の予想を裏切って紐育に出現した。
次はサンフランシスコだと万全の備えで警戒していた米軍は、完全に裏をかかれた形となった。
首都陥落の憂き目にあったアメリカは、一時的に国家としての機能を喪失し、大戦の主戦場から脱落していった。
倫敦、巴里、伯林そして東京などEDF主要基地を有する大都市は、マザーシップ襲来に備えて警戒態勢を取っている。
「バッカみたい。幾ら警戒しても、やられる時はやられるっつぅ〜の」
エンジェル軍曹は無関心を装い、右往左往する上層部をシニカルに笑う。
彼女の態度の是非は別として、人類にあのジェノサイドキャノンを防ぐ術がないのは事実であった。
「敵のマザーシップは8基のジェノサイドキャノンを装備し、その対地攻撃力は圧倒的です」
戦術会議の席上、副官フォルテシモ少尉は消え入りそうな声で、マザーシップに関する情報を伝達する。
隊員たちは、次々とモニターに映し出される各国主要都市の有り様に、ただ息を飲むばかりであった。
広大な区画は完全に廃墟と化し、破壊を免れた僅かなビルだけが、そこがかつて都市であったことを控え目に主張していた。
「この環状のスペースリングは対空対地を兼ねた小型火器群です。無数の砲台からの射撃が始まれば接近さえ困難になります」
壇上の大モニターに映されたマザーシップのスチールはピンボケであった。
マザーシップに関する情報は非常に少ない。
それはマザーシップに相対し、生還できた者が皆無に等しいということを意味していた。
「その上、マザーシップの周囲には、常に20機程度のファイターUFOの存在が確認されています」
かつて太平洋上においてマザーシップと対峙した、連合空軍の戦闘機が撮影したガンカメラ映像が流れる。
ノイズ混じりの画面の中で、各国の戦闘機がUFOに追い回されて次々に火を噴く。
僅かに生き残った戦闘機がマザーシップに肉迫を試みる。
しかしスペースリングが発狂したように光弾をばらまき始めると、戦闘機隊はミサイルを抱いたまま炎に包まれた。
都合1分に満たないビデオが終わり、副官が数語付け加えると、マザーシップに関する乏しい情報は尽きてしまった。
「攻守ともに完璧、難攻不落の空飛ぶ要塞か」
「オマケに用心棒まで引き連れてる」
百戦錬磨のベテラン隊員たちも、有効な手立てを見出せない。
一番の問題は、肝心のマザーシップが一体どこに現れるのか、今もって全く分からないということであった。
ペガサス隊としては、取り敢えずのXポイントを世界の首府たる倫敦に設定し、警戒態勢を整えるしかない。
ペガサス隊が所属する第7混成連隊の本隊は、今だ巴里にあって現地を守るのに手一杯な状態である。
とてもではないが、倫敦への増援を要請するどころではなかった。
現在、倫敦常在の守備部隊としては首都防衛隊の他、参謀本部の親衛隊があった。
しかし、いずれも規模は小さく、実戦経験の乏しい弱小部隊である。
特に親衛隊ときたら、装備だけは華麗であるが戦闘力は皆無であり、人形の兵隊と揶揄される存在である。
頼りになりそうなのは、やはり彼女たちペガサス隊だけであった。
流石のアイスバーン少佐も、資料の山を前に厳しい顔を隠せないでいる。
どう考えても、マザーシップを撃墜するには多大な犠牲が必要であった。
ファイターUFOをマザーシップから引き離す役。
遠距離からジェノサイドキャノンやスペースリングを破壊する役。
そしてマザーシップに接近して、大地に叩き落とす役。
それら3つに部隊を分け、連携攻撃を掛ける正攻法しかなさそうである。
「直接攻撃の部隊は私が率いるよ」
ライトニング大尉が立ち上がって挙手した。
誰もが尻込みする危険な仕事は、志願者がいない限り、最も近いタイミングでミスを犯した者が引き受ける。
明文化されていないとはいえ、それはEDFの伝統であり、絶対的な不文律の一つであった。
「あの子がそばにいてくれたら……」
アイスバーン少佐が一番の信頼を置く部下は懲罰房の中である。
少佐は、今更ながらに智恵理の存在の大きさを痛感していた。
続編キター!
超GJ!
乙です
いよいよ山場が近づいてきたよ
.;^^^゛゛ ゛ーーz
/ ヽ
_、z゛゛ ヽ
冫 >
> 7
< 从 |
| 冫^゛^^^゛゛゛゛゛゛゛゛゛ | |
[ | . | |
冫 .i .‐-- i -- # | |
\|, へ: i | イ
│ \ | _ノ``ヾ │ I __人_人,_从人_.人_从._,人_人_
. /| -=・=-ヾ′-=・=- │ |ヽ ) しかし貴様は別だぞ、チェリーブロッサム
i ヽヽ / i \ /ノ | ) ) 貴様の上官暴行は、これとは別問題だ
ヽ.│|, | ヽ I丿 フ ) 処分が決まるまでクーラーに入ってろ
ヽ. 、l> イ |ノ ⌒Y⌒Y⌒l/⌒Y⌒Y⌒Y⌒ ′
.|ヽ ;;;;;;;へ;;;;;;;、 / | |
/. | | .,-----┐ ) | | ヽ
/ | └==┘ノ リ | ヽ
〈 \ ー- ./ | :| ヽ
\ │\ / :|| ノヽ __
> | \_l_/ ノ / ノ  ̄ ̄| 冂|
/ ノ ノ / \ |凵|
\ / −y / \ └ ┘
誰?このおっさん
保守
捕手
373 :
名無しさん@ピンキー:2006/10/16(月) 18:02:12 ID:yzRenK/V
触手
アホ毛
>>370 カンユー大尉を存じ上げないとは、
貴様新兵だな。
すまん
漏れはPWS一筋なんだ
377 :
名無しさん@ピンキー:2006/10/20(金) 03:44:12 ID:t1BnZMxJ
つまんねええええええええええ
378 :
名無しさん@ピンキー:2006/10/20(金) 07:42:46 ID:w3A3OC1T
保守
379 :
名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 01:13:27 ID:IeeRFHpP
保守
※
その頃、ウェストミンスターのEDF参謀本部でも作戦会議の真っ最中であった。
列席するのは参謀総長を始めとする本部の各部長、総司令長官およびその幕僚、そして各方面の軍司令官たちである。
議題はやはりマザーシップの所在であり、次にどの都市が狙われるのかで会議は紛糾した。
世界の首府にして、EDFの総本山たる参謀本部が設置された倫敦が危ないという説。
参謀本部に降伏を迫るため倫敦は放置し、恫喝として対岸の巴里を焼き払うという説。
あるいは世界の兵器工場たる伯林の工業地帯が狙われているという説。
いずれも決定的な説得力に欠け、判断を下す材料にはなり得なかった。
「マザーシップはどこにもいない。そして同時にどこにでも存在している」
参謀総長アン王女は禅問答のようなことを口走った。
その顔は少々やつれ、イタズラっぽい笑みを湛えた目元には隈ができていた。
少佐に昇進し、作戦部長の補佐に選ばれた一条綾は、アン王女の謎掛けを正確に理解した。
「空間転移能力どすか?」
インベーダーが時空を制する科学力を有していることは、かなり以前から予想されていた。
例えば敵の母艦たるキャリアーである。
あの機体の容積に比較して、生物兵器の搭載量は不釣り合いなまでに多い。
おそらくキャリアーは人類が考えているような輸送機ではなく、移動可能なワープトンネルの出口なのであろう。
侵略者たちは秘密の繁殖場で巨大生物を量産し、作戦に応じて必要な数を転送装置に掛ける。
そして電磁信号として送信された巨大生物を、任意の場所で再実体化させるのがキャリアーの役目なのである。
無限とも思える搭載量の謎も、それならば辻褄が合う。
その空間転移能力を使えば、大気圏外へと消えたマザーシップは、地球上の如何なる場所にでも瞬時に出現できるのだ。
「それでは、敵がどこに現れるかなど、全く分からぬではありませんか」
実戦部隊を統括する総司令長官が頭を抱えた。
「誰か良い意見のある者はおらぬか」
アン王女は列席したEDFの頭脳とも言うべき幕僚達を見回す。
しかし常識を越えた科学力の前には、妙案など直ぐに浮かぶものではなかった。
「やむをえん,こちらでマザーシップの出現場所を指定してやろう」
アン王女は自嘲気味に唇の片端を吊り上げた。
高級参謀たちが、呆けたような表情を王女に向ける。
「しかし……いったい。どのようにして……」
総司令部の参謀長が同僚たちを代表して質問した。
「私の督励視察を予定に組み込め。士気の下がった前線の兵士を激励してやろう」
アン王女の目がイタズラっぽく笑っていた。
「何をおっしゃいます。この様な時に、最高司令官たる閣下が前線に出られるなどとは」
先任参謀が色を失って狼狽える。
「そうです。これではマザーシップに狙ってくれと言っているのと……同じ……」
後を引き継いだ戦務参謀が途中で口ごもった。
「……まさか、閣下は……」
アン王女は我が意を得たりと、満足そうに頷く。
「EDFの最高司令官の首、マザーシップを誘き寄せる囮として不足とは言わせぬ」
アン王女の戦略は、自らを囮としてマザーシップと刺し違える、一種の特攻作戦であった。
「出現場所さえ分かっておれば、奴の撃墜も不可能ではあるまい。ここまで敵を追い詰めた皆の実力、決して侮ってはおらぬぞ」
アン王女は真剣な顔で高級参謀たちを見回す。
「…………」
列席した参謀たちは、王女の戦いに臨む姿勢に心打たれた。
同時に何が何でもこの作戦を成功させねばと思った。
今大戦の終結後、世界政府たるWGが樹立する予定である。
その初代主席の最有力候補の一人と目されているのがアン王女なのである。
心無いライバル候補にすれば、この囮作戦が票集めのパフォーマンスに見えるかもしれない。
しかし、政略的な演出と考えるには、王女が背負うリスクは余りにも大き過ぎる。
あくまで彼女が、純軍事的な立場で立案した作戦であることは間違いなかった。
全員が椅子から立ち上がり、自分達の最高司令官に向かって深々と頭を下げる。
「マザーシップ釣る餌やったら、もっとええもんがありますで。ちょっと安もんどすけど」
皆が振り返ると、最後列に座った綾が手を挙げていた。
「黙れ、その方ごときの出る幕ではないわ」
折角の感動に水を差された情報部長が、末席の綾を睨み付ける。
「せやけど敵の親玉潰すのに、自分とこの最高司令官と引き替えにしてどないしますねん。うち、そんなんアホらしいわぁ」
綾が冷たい視線を完全に無視して笑い飛ばす。
「少佐の意見を聞かせて貰おうか。私以上の適任者とは?」
アン王女は余裕タップリの物腰で綾を見詰めた。
「たった一人でソラスを倒し、インセクト・ヒルを潰したペリ子はんどすわ。先日はアリの女王や大ムカデも殺りよりましたなぁ」
綾は同期生の智恵理のことを鼻高々に自慢する。
「あの人やったら、向こうさんでも結構有名やろし。どないどす、参謀総長より安上がりですやろ?」
綾には智恵理に対する絶対的な信頼があった。
智恵理ならたった一人でマザーシップを誘き出し、そして見事に叩き潰してしてくれるであろう。
幾つもの不可能を可能にしてきた、あの智恵理なら。
会場がザワザワとざわめき始める。
もの凄い戦果を上げ続けているペイルウイングの存在は、参謀たちも耳にしていた。
最高機密に携わる身分にいる者は、彼女がWG設立委員会が選出したサイコシューターであることも知っていた。
アン王女も、自身が祝福のキスをしてあげたペイルウイングのことは良く覚えていた。
「ほぅ、あの東洋人の娘な。私より名が売れているとは気に食わぬが。買っている恨みの強さでは、なるほど敵うまい」
王女は天井を仰ぎ、明晰な頭脳を超高速で回転させる。
僅かな秒数で作戦の基本構想がまとまった。
「よし、直ちにそのペイルウイングに連絡を取れ。倫敦郊外にマザーシップを釣り出して、大地に叩き落としてやる」
王女が立ち上がり、会議はひとまず終了した。
※
参謀本部の高官一行がリージェンツ・パークを訪れたのは、その日の午後であった。
ペガサス隊指揮官、シュレッダー中佐は平身低頭してそれを出迎えた。
「こんなむさ苦しい所にわざわざお越しいただかずとも、呼び付けて下されば直ぐに出頭しましたものを」
司令室に通された一行は、中佐のお愛想を無視して用件を切り出した。
「チェリーブロッサム中尉を引き渡して貰おう。今後中尉の身柄は、作戦部の管理下に置かれる」
一行の代表である作戦部参事官は、高圧的な態度で中佐を見下す。
拒否などできるような物言いではなかった。
副官フォルテシモ少尉も、中佐が作戦部の要求を拒否するとは思わなかった。
第一、拒否する理由がなかった。
ところが中佐の口から飛び出した台詞は、予想もしないものであった。
「それが生憎、中尉は軍律違反を犯しまして。今は懲罰房に拘束中なので……」
シュレッダー中佐はヘラヘラ笑い、参事官の申し入れを拒否した。
「なにっ、直ちに拘束を解け。軍法会議が必要ならば、それもこちらで行う」
参事官は煩わしそうに、タバコの火を灰皿でもみ消す。
「そうは行きません。なにしろ罪名が、指揮官たる私に対する暴行ですから……」
中佐はヘコヘコと腰を屈めながら続ける。
「貴官は命令権の所在を何と心得ておる? EDF軍法の第8条を知らんとは言わせぬぞ」
参事官は遂に癇癪を起こし、軍法まで持ち出して脅しに掛かった。
ところが中佐は余裕の顔でそれを受け止めた。
「その理論で押されるのなら、なおのこと無理ですな」
中佐は眉を吊り上げてせせら笑う。
「同432条によると『戦地における司法警察権の所在は、被疑者の直属指揮官が他に優越する』と明記されてますからねぇ」
中佐は不遜な態度で参事官の脅しを突っぱねた。
これには参事官も黙らざるを得なかった。
自分が構えている盾は、軍において最高の防御力を誇っている筈であった。
ところが相手はあろうことか、軍において最高の攻撃力を持つ矛で突いてきたのである。
自らの地位と権限の拠り所である軍法を、自ら無視する訳にはいかなかった。
「何か反抗しているようで申し訳ありませんが。ここは一つ、隊内の処罰が済んでからってことで……」
中佐はヘラヘラした笑顔に戻ると、手揉みして何度も腰を屈める。
フォルテシモ少尉は目の前の光景が信じられなかった。
あれほど上層部に対して媚びを売っていた中佐が、これまでの努力を無駄にして参事官に反抗しているのである。
おそらく、この件だけで中佐のウェストミンスターへの道は閉ざされるであろう。
少尉はある考えに思い当たって青ざめた。
中佐は、自分に手を上げたチェリーブロッサム中尉を、どうあっても自身の手で裁こうというのであろうか。
そこに中佐の怨念の強さを感じ取り、少尉はブルッと身震いした。
その考えが当たっているとすれば、もはや正気の沙汰とは思えない。
怒気を伝える術のない参事官と、無意味に薄笑いを浮かべる中佐との間に気まずい空気が漂う。
重苦しい沈黙が続き、本来繊細な音楽家である少尉は、その場から逃げ出したい程の恐怖を感じた。
そんな少尉を救ったのは、警戒システムに連動した自動受令機のアラームであった。
小走りに受令機に駆け寄った少尉は、思わずアッと声を上げてしまった。
「敵の総攻撃です。廃墟となった倫敦郊外に、大規模な攻撃部隊が集結しています」
副官の叫び声に中佐の顔が引き締まる。
「大規模では分からん。敵種別知らせと打ち返せ」
中佐にどやされて、少尉が慌ててキーボードを操作する。
「敵戦力は、キャリアー3、多脚歩行戦車ダロガ6。その他、UFOファイター多数が確認されています」
これはかなりの大部隊である。
「マザーシップ出現の兆候は?」
中佐が苛立たしげに受令機に歩み寄る。
「空間電磁波、地磁気の乱れとも観測されておりません」
ピアノの鍵盤を叩くような、芸術的な指の動きでキーボードが操作され、必要なデータが画面に映し出された。
「よし、全中隊を現場へ向けろ。いいな、絶対に奴らを市街地に入れてはならんぞ」
中佐はフォルテシモ少尉に命令を下すと、参事官を振り返った。
「見た通りの緊急事態でして。悪いですが出直して貰えませんでしょうか? この件は日を改めて、またゆっくりと」
中佐は笑顔に戻ると、参事官に向かって深々と頭を下げた。
※
侵略者集結の報に接し、隊内は俄然色めき立った。
3個中隊が同じ戦場に立つのは、部隊の結成以来2度目のことである。
会議室に集合した隊員たちが、シュレッダー中佐からの指示を受ける。
「ヨハンナ、現地の戦闘指揮はお前に任せた」
第1中隊長アイスバーン少佐は黙って頷く。
中隊の要である智恵理を返して欲しかったが、戦闘を前に不協和音を出す訳にはいかない。
「いいな、絶対にウィンザーから東に敵を入れるな。よし、掛かれっ」
起立した隊員たちが敬礼し、出撃準備のため一斉に駆け出した。
一方、そのころ智恵理は、隊舎の地下に作られた懲罰房の中で眠っていた。
急に騒がしくなった隊舎の空気が、智恵理の神経を刺激する。
「……ん? 何かあったのかな」
智恵理は粗末な折り畳みベッドに寝ころんだまま薄目を開けた。
僅かな時間であったが熟睡していたので、頭はスッキリと冴えていた。
途端に簡易トイレの異臭が鼻を突く。
尿意を我慢するかどうか決めかねていると、壁の向こう側の看守事務室で何やらやり取りする声が聞こえてきた。
おもむろに金属製の扉が開いたかと思うと、一人のペリ子が入ってきた。
「光ちゃん?」
鉄格子の向こうに立っていたのは、ファイアフライ准尉こと蛍野光であった。
なぜか、ペイルスーツを脱いだ、黒いボディアーマー一丁のあられもない姿である。
巨大なロケット型の乳房が、胸の辺りを突き破らんばかりに押し上げていた。
「へへっ、看守の奴。先輩に教えて貰った通り、オッパイ突き付けて交渉したら一発だったよ」
光はあどけなく笑い、ペロッと舌を出した。
ペ科練時代のこと、2人連れ立って夜遊びしている時に、よくMPに呼び止められたものであった。
そんな時に役に立ったのが、光のロケットオッパイである。
光の乳房は男の脳みそに対して、本物のロケット弾に劣らない破壊力を示した。
先端を尖らせた2基のロケット弾を押し付けられて、平静を保っていられるMPなど皆無であったのだ。
その上で道に迷ったふりをすれば、2度に1度はMPがアッシー君になってくれた。
そんなこともあったっけと智恵理が苦笑する。
「先輩っ。今から出撃することになったから、挨拶に来たよ」
光は緊張した様子など微塵も見せずに言った。
「えぇっ? 出撃って、どこに」
何も知らされていなかった智恵理は、ベッドから跳ね起きて鉄格子にしがみつく。
「都心の西方40キロの郊外に、敵の大部隊が出現したって。今から全中隊で迎撃に出るから」
度胸がいいのか、実戦の怖さを知らないだけなのか、光はクラブ活動の遠征にでも行くような口調で説明する。
「准尉殿。もう、そろそろ……」
若い下士官の看守が、事務室から不安そうな顔を覗かせる。
こんなことがシュレッダー中佐にばれたら、どんな目にあわされるか分からない。
「分かってるって」
光は少年のような看守をシッシッと追い払う。
「先輩、久し振りにアヌス舐めてあげよっか? こっち向けてお尻突き出しなよ」
光が舌なめずりして、半ば本気で誘う。
「馬鹿っ。こんな時にアンタ、なに言ってるの」
智恵理は怒りながらも、肛門がキュンと締まるのを感じる。
思い起こせばペ科練時代、最初に智恵理のアヌスを責めてきたのは光であった。
その時は、ただ恥ずかしいだけであったが、A感覚を完全に開花させた今ではどう感じるであろうか。
後輩による、執拗かつ丁寧なアナルキッスを受けてみたい気がするが、今はそれどころではない。
それに、どうあっても、愛しいアイスバーン少佐を裏切るわけにはいかない。
智恵理は頭を振って誘惑を消し去った。
「それよりアンタ、絶対にコンボイ特務曹長から離れちゃダメだよ。あの人を信じて、そばに付いているのよ」
智恵理は、後輩の緊張感の無さに不安を覚えた。
初陣で孤立することの恐ろしさは、自分のデビュー戦で嫌というほど味わっている。
それだけに、後輩の初陣に付き添ってやれない自分を情けなく思った。
「それじゃイクから。上手くスコアを稼いで帰ったら……先輩、久し振りに成仏させてやるから、覚悟してなよ」
光はウインクすると、看守に急かされつつ事務室に消えていった。
智恵理は閉ざされる扉を見ながら、何故か不吉な予感が脳裏を掠めるのを感じた。
GJ!です。盛り上がってきましたね〜
#33・侵略者集結ですな
いよいよマザーシップも近い
保守
391 :
名無しさん@ピンキー:2006/11/01(水) 14:13:33 ID:YuvGhqgp
捕手
ほす
393 :
名無しさん@ピンキー:2006/11/03(金) 19:52:21 ID:0BCO3Aty
394 :
名無しさん@ピンキー:2006/11/06(月) 00:25:10 ID:W2e9QXs+
( ´o`)п< <(ホ) (^▽^)良いホが出ましたな シュ
マザーシップは何処にでもいるし何処にもいない。
シュレディンガー?
兵隊は武装して集結しなけりゃいけないから、智恵理も武装して集結せな。
保守ですな
今日も保守しとくです。
※
ペガサス隊を載せた3機の輸送ヘリは、敵の待ち受けるウィンザー上空に差し掛かった。
1番機に搭乗したアイスバーン少佐は、隊員たちの様子をゆっくりと見回した。
今回は謹慎中の智恵理、負傷入院中のマーヤ中尉と、信頼する小隊長を2人とも欠いている。
代わりにコンボイ特務曹長とハロウィン軍曹が小隊長代理として少佐の補佐をし、光とステビア伍長が欠員の穴を埋める。
頭数は揃っていても、戦力としては不安を禁じ得ない状況であった。
「間もなく降下地点に到着する。各員、装備の最終チェックを」
少佐の指示により、隊員たちが銃器類をチェックする。
その後、互いに背中を見せあってユニットの状態を点検する。
「ファイアフライ准尉とステビア伍長は小隊長から離れないで。隊員間、小隊間の連携を密にすること」
少佐から最後の注意が与えられ、全員が真剣な顔で頷いた。
「降下用意っ」
左右のドアがスライドし、外気が渦を巻いて室内を駆け抜ける。
床に腰を下ろし、ランディングギアに足を掛け、全ての降下準備が整った。
足元に見える下界の風景が流れるように過ぎ去っていく。
やがて進行方向に、廃墟と化したウィンザーの街が見えてきた。
「降下っ」
少佐の短い命令がレシーバーから流れ、9人のペイルウイングが一斉に宙に躍り出た。
他の2機からも、同じくペガサス2、ペガサス3の面々が一塊りになって降下する。
高度100まで自由落下した後、ユニットを噴かせて姿勢制御を行う。
空中でデルタ隊形を作り上げ、そのままランディングする。
3個中隊が大地に降り立った時、3つの三角形が鋭い矢尻のように敵陣と対峙していた。
ペガサス1を中心に、左翼にペガサス2、右翼にペガサス3を配した一線攻撃隊形である。
アイスバーン少佐はバーチャルスクリーンを展開させて状況分析に入った。
遥か先に3機のキャリアーが浮かび、周囲を無数のファイターUFOが遊弋している。
地上には多脚歩行戦車ダロガが6機が配置され、丁度ペガサス隊を感知して活動を開始したところであった。
いつもなら各中隊ごとに、キャリアー1、ダロガ2と責任分担するところである。
だが3個中隊の指揮権を与えられたアイスバーン少佐は、徹底した連携作戦をとるつもりでいた。
早くもUFOの一団が彼女たちの頭上に迫ってくる。
「UFOは1中隊が引き受ける。2中隊はダロガをフィールド正面から排除、3中隊は速やかにキャリアーを撃墜して」
少佐は指示を出すや、前方へダッシュしてUFOとの間合いを詰めた。
UFOは突出した1中隊を危険因子と認めて降下してくる。
「ファイヤァッ」
少佐が右手を振り下ろし、9丁のサンダーボゥ20が一斉に火を噴いた。
密集隊形をとっていたUFOは痛手を被り、編隊を大きく乱して逃げまどう。
「後ろを取らせないで。互いにカバーして背中を守るのよ」
少佐はアラベスク少尉とマリンカ伍長を引き連れてジャンプする。
UFO編隊の真上に出て、機体の投影面積が最大になったところへ正確無比な射撃を送り込む。
数機が火を噴いて編隊から脱落した。
「やった」
レギーが感心する間もなく、少佐たちの着地軌道を狙って、横合いからUFOが攻撃態勢に入る。
「そうはさせるかっ」
レギーの指揮で、エンジェルと光が援護の猛攻を加えた。
炎を上げた1機が、ゴミ集積所に墜落する。
「金属ゴミの収集日は毎月第1水曜日だぜ」
自身はエコロジーなど興味すらないのを棚に上げ、エンジェルが唇を歪めて皮肉る。
1中隊の派手な立ち回りに引き寄せられるように、上空に待機していたUFOが降下してきた。
その隙に2中隊と3中隊が左右に大きく展開する。
ゲイロード大尉率いる2中隊は、ダロガの正面から突っ込んでいった。
そして回転機銃の射程距離ギリギリを時計回りに移動する。
これ以上離れれば光線砲が作動するという紙一重の安全地帯を、大尉は涼しい顔で駆け抜ける。
「さぁ、ついてらっしゃい。お姉さんがイイことしてあげる」
ゲイロード大尉は黒髪をなびかせて、見せかけの逃走に入る。
ダロガの集団は2中隊を追い、フィールド中央部から左へと移動を開始した。
足元が脆い残骸のため、ダロガの移動速度は鈍い。
第2中隊はユニットを断続的に噴かす小ジャンプを繰り返し、余裕を持って外周道路を目指す。
フィールドの逆方向からは、ライトニング大尉を先頭に3中隊がキャリアーに忍び寄る。
多数の巨大生物を投下するキャリアは、撃破優先順位のトップにランクされている。
「ロータス、名誉挽回のチャンスだ。お前の腕前を見せてやれ」
ライトニング大尉はLRSL−36を担いだロータス伍長を振り返る。
上空のキャリアは黒アリと凶虫バゥを吐き出し始めている。
これ以上敵に時間を与えれば、それだけ味方を危険に晒させてしまうことになる。
ロータスがLRSL−36のスコープを覗き込み、ダットポイントをキャリアーに重ねる。
黄緑色のレーザーが迸り、銃口とキャリアーを繋いだ。
しかし、射程は長いが瞬間ダメージの低いロングレンジレーザー銃は、一定時間照射を続けないと効果を発揮できない。
ゆっくりと移動するキャリアーに合わせて、ライフルの銃口がジリジリと横に流れる。
1秒2秒と時が流れ、ロータスのエナジーゲージがグングン下がっていく。
ユニットのアラームが鳴り始めた時、ようやくキャリアーが黒煙を吹き始める。
そして機体から小さな火が漏れたと思うと、次の瞬間キャリアー全体が炎に包まれた。
グラリと大きく揺らいだキャリアーが、浮力を失って地面へとゆっくり降下する。
そして地上に接した途端、大爆発を起こして四散した。
「やった、いいぞロータス。残りも頼んだぞ」
ライトニング大尉が指をパチンと鳴らして部下を褒める。
その攻撃により、3中隊の所在を認めた黒アリ部隊が急襲してきた。
「船を壊されたぐらいで興奮するなよ。どうせ帰りは天国までの直行便。お代はサービスしちゃうわよ〜ん」
ライトニング大尉にいつもの軽妙さが戻ってくる。
「クロスファイアだ。スマッシュ少尉、右翼に回れ」
スマッシュ少尉の3小隊が、瓦礫に身を隠してアリの側面に回り込む。
しかし盾に使った瓦礫に邪魔されて、前進の速度が鈍る。
日頃は士官学校卒を鼻に掛けているスマッシュだが、戦場ではそんな肩書きなどお守り代わりにもならない。
おべっかで中佐に取り入り小隊長の職を得ているものの、肝心の技量はお粗末極まりない。
「チィッ」
ライトニング大尉は軽く舌打ちし、黒アリ軍団目掛けてサンダーボゥ20を掃射する。
黒アリが立ち往生し、その隙にようやくL字型の包囲隊形が構築された。
「上手いのは口だけか。このフェラチオ娘が」
技量の未熟を卑猥な言葉でなじられ、スマッシュ少尉が顔を赤らめる。
その怒りは黒アリ軍団に向けて叩き付けられた。
十字砲火の中心で、黒アリたちが断末魔の悲鳴を上げる。
一方、ダロガを外周道路まで誘き出した2中隊は、頃合いよしと見て攻撃に転じていた。
ゲイロード大尉は、派手さはないが堅実な指揮で信任を得ている有能な中隊長である。
まずはプラズマランチャーの範囲攻撃でダロガの足を止めた。
足元の地形を変えられたため、ダロガのAIが周囲のスキャニングを開始する。
歩行可能であるかどうかを判断するため、一時戦闘行動が凍結された。
「今だ。1番から4番まで、突っ込めぇっ」
機能を停止させたダロガに向けて、隊員たちがチャージを仕掛ける。
2中隊のアタッカーが装備しているのは、新型ランスであるバトル・ラムであった。
その特徴は、サーバーにチャージした圧縮エネルギーを、一回の射撃で全て放出する攻撃力の高さにある。
最大威力は2000dmにも達し、現有兵器の中でも群を抜いている。
だが驚異の破壊力を得る代償として、射程距離は49メートルと絶望的に短い。
敵の懐に飛び込み、攻撃と共に一気に離脱する、ヒットアンドアウェーに特化した必殺武器であった。
元体操選手だったゲイロード大尉は、大柄な体躯に似合わぬ素早さでダロガを照準に捉える。
「ファイア」
目の眩むような光の槍がダロガの土手っ腹に命中する。
その効果も見ずに、大尉は右斜め前方へ向かって離脱していく。
間髪入れずセカンドのディトナ少尉が、3番員のヨーデル軍曹が、続けざまにバトル・ラムをぶっ放す。
都合6000dmもの打撃を受け、さしものダロガもグラリと崩れて大爆発を起こす。
或いは過剰な攻撃であり、ヨーデル軍曹の一撃は余計だったかもしれない。
しかしダロガが立っている限り、攻撃の手を緩めないというのが大尉の定めた鉄則であった。
続くダロガ2号機に対しては、余力のある4番員──2小隊長のバーディ少尉が先頭になって突っ込む。
だがダロガの戦闘機能が回復し、回転機銃が作動し始めたのに気を取られ、少尉は照準を外してしまった。
「オポンチバルカンなんかに気を取られて……ネンネじゃないんでしょ」
逆方向から突っ込んできたゲイロード大尉は、癇癪を押さえつつダロガにプラズマの衝角を叩き込む。
必殺のフォーメーションにケチをつけるようなバーディ少尉の失態であった。
シュレッダー中佐たっての依頼がなかったら、役に立たない新任少尉など、とっくに切り捨てているところである。
またも3本のラムが命中し、2号機も完全に動きを止めた。
「この調子で全部いくわよ」
部下を振り返ろうとしたゲイロード大尉の顔がこわばる。
キャリアーから投下された凶虫バゥが、彼女たちの戦場に到着したのである。
その頃、1中隊はファイターUFO相手に、互角以上の戦いを展開していた。
「UFOの密度が濃い所を狙うのよ。一点に火力を集中して」
アイスバーン少佐はファイターUFOの性能が、以前より向上していることを見抜いていた。
速度、機動性そして攻撃力とも、夜の倫敦で戦った時より段違いに優れている。
もっとも自分たちの武器も性能アップしているため後れを取ることはないが、決して侮れない敵である。
「少佐、2中隊から応援要請です。凶虫バゥが現れました」
アラベスク少尉の報告を受け、アイスバーン少佐は天を仰ぎ見た。
そこには今1機のキャリアーが健在であり、ゴマ粒のような凶虫バゥを投下していた。
2中隊の主兵装は射程の短いバトル・ラムや非力な初期型サンダーボゥである。
凶虫バゥを相手にするには不利と言えた。
「コンボイ特務曹長」
少佐はレギーを呼び付けると後の戦闘指揮を委譲した。
「私は2中隊の援護に向かうから、UFOを全滅させて3中隊と合流しなさい」
少佐はサンダーボゥ20を背負い込むと、替わりにM2レイピアを手にする。
「お一人でですかい?」
古参の特務曹長が心配そうに眉をひそめる。
「大丈夫。先にダロガを片づけて、ゆっくりバゥの相手をしてあげるわ」
少佐はレギーに片手を上げて応じると、ユニットを噴かせて空高く飛び上がった。
ダロガのいるエリアまでの中間地点で、少佐は一度ビルの屋上に着地する。
ユニットの回復を待ち、再度少佐は空高く飛び上がった。
今度は角度を深く取った上昇軌道である
上空から見ると、2中隊がバゥの群れに押され、外周道路を後退していくのが確認できた。
それをゆっくり追っていた4機のダロガが、高空へ駆け上がる少佐の動きをレーダーで捉える。
ダロガの対空警戒システムが少佐を敵と認識し、頭頂部から誘導ミサイルを発射した。
合計4発のミサイルが少佐に襲いかかる。
しかし動きの速い少佐を止めるには、明らかに誘導性能が不足していた。
少佐は、まさに天馬のごとき華麗な身のこなしで、4発のミサイルをことごとくかいくぐって見せる。
ダロガは、と見ると、対空警戒とミサイル誘導のためにAIの機能を集中させ、完全にフリーズしていた。
ダロガの特性を研究し尽くした少佐の作戦勝ちである。
「今度会う時には、もう少し上等なコンピュータを付けて貰いなさい」
不敵に微笑んだ次の瞬間、少佐の目に青白い鬼火が灯った。
「タァァァーッ」
M2レイピアが唸りを上げて4機のダロガに襲いかかる。
少佐が地上に降り立つと同時に、全てのダロガが炎を吹き上げて崩れ落ちた。
地に足をつけた少佐は、軽く息を吐いて呼吸を整える。
その時、少佐の背後から疎らな拍手が起こった。
「誰っ?」
素早く振り返った少佐の目が、2人の女の姿を捉える。
一人は黒いフォーマルドレスを着た貴婦人、今一人は黒い僧衣を纏った尼僧であった。
余りに場違いな闖入者を前に、アイスバーン少佐は眉間に皺を刻む。
「動物愛護団体の方かしら? 抗議ならウェストミンスターの広報室にお願いするわ」
とぼけた挨拶とは裏腹に、少佐はM2レイピアのトリガーから指を放さない。
途端に気の狂ったような哄笑が巻き起こった。
「キャハハハハッ、おんもしろぉ〜い。ジョークが言えるんだ、この人ぉ」
正装した貴婦人や尼僧が、文字通り笑い転げる姿は異様であった。
常道を逸した出来事に呆気に取られながらも、少佐は一切隙を見せない。
「あたし春嶺尼ちゃん。こちらはタランテラ男爵令嬢、イングリッドよ。よろしくね」
尼僧は自分の名を名乗り、併せて傍らの貴婦人を紹介した。
「ごきげんよう、少佐」
男爵令嬢は両手でスカートの端を摘み上げると、優雅な動きでお辞儀した。
唐突に現れた謎の女たちは何者なのか。
少佐の聡明な頭脳が、その正体を見抜いた。
「エイリアン・ウォーシッパーね」
少佐のアイスブルーの瞳が刃物のように鋭くなる。
「って言うらしいわね、そちら様じゃ。ゾクゾクするから、そんな目で睨まないで」
「あぁ〜ん、子宮が疼いちゃうぅ〜ん」
黒衣の女たちがクスクス笑い、少佐の問い掛けを肯定した。
「何のご用か知らないけど、今取り込み中だから後にしてくれない?」
少佐はトリガーに指を掛けたまま、ジリジリとチャージの間合いに入っていく。
あと一歩で攻撃可能な位置までにじり寄った時、それを見透かしたように尼僧が口を開いた。
「あの28号って、なんてったっけ?」
尼僧が眉を開いて貴婦人をチラ見する。
「チェリーブロッサムでしょ」
貴婦人が智恵理のコールサインを口にした。
少佐の足がピタリと止まる。
「そうそう。そのチェリーブロッサムって、少佐とできてるんでしょ?」
尼僧が芸能レポーターのように下卑た笑顔を浮かべた。
少佐の目の縁に、ほんのりと赤みが差す。
アドレナリンが過剰に放出され、動悸が高まっていく。
「あの子をどうしようというの?」
少佐は感情を押し殺そうと懸命になったが、上手くはいかなかった。
「アイツむかつくから、一番大事なもの奪い取ってやるの」
答える尼僧の態度が一変した。
尼僧の顔が憎悪に歪み、目がギラギラと輝き始める。
「そう、つまり貴女の命をね」
男爵令嬢がドレスを脱ぎ捨て、少佐に向けて投げつけた。
少佐はプラズマアークでドレスを切り刻み、素早くバックステップして間合いを取る。
瞬間的に蒸気が立ち込め、少佐の視界を奪う。
蒸気のカーテンが晴れると、目の前に黒いペイルウイングが2人立っていた。
逃げてー! 少佐逃げてー!!
GJ!!!!!!!!
408 :
名無しさん@ピンキー:2006/11/12(日) 13:51:27 ID:bRdpD4b2
GJ!!!!!!
ペリ娘's頑張れ
(ついでに)陸男も頑張れ
GJ!!!!!!
少佐〜
こんなところで死なないで〜
410 :
名無しさん@ピンキー:2006/11/13(月) 19:45:35 ID:HM2xUxDy
狙った様なタイミングで主人公到着参戦願う
というかここらで陸男の活躍が欲しいなー
圧倒的火力で薙払う陸男大隊とか。
ペイルが弱体化していくのは中盤以降だろう
どんどん強化されていくインベーダーの兵器に敵わなくなる日はもうすぐだ
陸男の火力の番ですね!
ペイルオンリーの中盤以降は、個人的に非常にキツかったしな
陸さん'sは重火器で足下を掃除&ディロイ・近衛兵を狙撃…かねぇ
ペリ子は大人しく囮になってなさいってことだ
つうかホントこの後のディロイ連中とどう戦っていくんだろうな
今のままではしんどすぎるw
審判の日で大被害ながらも勝利
だが終章で壊滅一歩手前までいきそうだなぁ
大蜘蛛、超爆、超獣集結、神獣辺りにゃ主人公しか戦える者がいなくなるかも
保守
ほす
保守
ほす
保守?
おまいらもうすぐ地球防衛軍3発売だぜホシュ
買えないのよ
保守
ペリ子の出ない防衛軍なんて防衛軍じゃないやい
ペリ娘はまだ研究段階って事で
保守
陸男とは住む世界が違うので
保守
しかし他の作者さんはどこに行ったんだろうか
保管庫見てたら読みたくなったよ・・・
保守
保守
そして今朝も
保守
俺も書いてみたいです
そして今夜も
保守
無力な俺は保守るのみ
非力な俺も保守るのみ
ペリ子な漏れも保守るのみ
陸男な俺は保守れるか?
※
「全軍、苦戦の模様です」
リージェンツ・パークの作戦室にあって、現地の交信を傍受していたフォルテシモ少尉が戦況報告する。
「凶虫バゥの攻勢に押され気味になっています」
現地からリレーされてくる戦術ディスプレイの画像は、敵を示す赤い光点で一杯である。
その赤い点が、自軍を意味する青い点を分断し、その一方を左隅へ追い詰めつつあった。
「3個中隊も投入して、何たるざまだ」
シュレッダー中佐が不機嫌そうに吐き捨て、こめかみに血管を浮き立たせた。
司令部要員たちは中佐の雷が自分に落ちてこないことを祈り、心の中で青い輝点を応援する。
この時、基地司令部の全ての注意力が、一台のタクティカル・スクリーンに注がれていた。
最初に異変に気付いたのは、絶対音感を備えたフォルテシモ少尉であった。
微妙な空気振動を違和感として捉えた少尉は、軽い目眩と嘔吐感を覚える。
そして外気を吸おうとして窓辺に近寄り、そのまま硬直してしまった。
少尉がそこに見たものは、基地上空を取り囲んだUFOの編隊であった。
「敵円盤、直上ぉっ」
少尉の悲鳴がフォルテシモで響いた。
同時に地震のような揺れが起こり、作戦室の天井が崩れてくる。
続いて大爆発が起こり、司令部要員の足が床から浮き上がった。
「敵の奇襲だ。待避しろっ」
中佐がわめき立て、尻を蹴っ飛ばされたように駆け出した。
現在、全ての攻撃要員はウィンザーに出払い、残っているのは僅かな守備隊員と非戦闘員だけである。
完璧な奇襲であった。
「やられた。裏をかかれた」
練兵場のシェルターへ逃げ込んだ中佐が、臍を噛んで悔しがる。
守備隊員たちが旧式のAS−18を撃ちまくるが、高速で飛び交うUFOは捕捉できない。
数機のUFOに僥倖の弾丸が命中するが効果はなく、かえって怒りを買う結果となった。
UFOが急降下し、紫色のパルスレーザーで守備兵を薙ぎ払う。
基地は一瞬にして反撃能力を喪失してしまった。
敵の猛攻は反復的に続き、基地の最上階はほとんど原形を留めていない。
あちこちで火災が発生し、黒煙が吹き上がる。
レーダーやアンテナはことごとくへし折れ、兵器庫も粉々に吹き飛んでしまっている。
基地の機能は完全に奪われてしまった。
一階部分に火が回り、窓ガラスが次々に割れていく。
それを見たシュレッダー中佐は顔色を変えた。
「いかんっ」
中佐がシェルターから身を乗り出す。
そしてフォルテシモ少尉が止めるのを振り払い、炎上している基地目掛けて駆け出した。
※
地下の懲罰房でオナニーに耽っていた智恵理は、最初の激震で簡易ベッドから転げ落ちていた。
光の舌技を思い出しているうちに我慢できなくなり、壁に向かって寝たふりをして、こっそり陰部を弄っていたのである。
そんなことをしている場合でないと分かっていても、一旦火の付いた体を鎮めるには取りあえずイクしかなかった。
「いったぁ〜」
淫夢に集中していたため受け身が取れず、智恵理は鼻先をコンクリートの床に打ちつけた。
短いスカートが捲れ上がり、真っ白なお尻が剥き出しになっていた。
智恵理は監視カメラの存在を思い出し、慌ててボディアーマーのクロッチホックをはめる。
「見られちゃったかな……」
地味に痛む鼻先を擦っていると、事務室との扉の隙間から真っ黒な煙が流れ込んできた。
「ちょっとぉ、看守さん。晩ご飯、焦げてる……わ……よ……?」
文句を言い終わる前に、看守が料理を焦がしたのではないことに気付いた。
食事が焦げても刺激臭などしないし、この煙の勢いでは1000人分が一度に焦げていることになる。
「火事? ちょっ、ちょっと待ってよぉ」
先程の振動が爆発によるものであると、その時ようやく分かった。
「ちょっとぉ、看守さん。ゴホッ、ゴホッ」
智恵理は鉄格子にしがみつき、事務室の看守を呼び付ける。
しかし幾ら叫んでみても返事はなかった。
煙はますます勢いを増して流れ込んでくる。
「こらぁ、看守さん。看守ぅっ……ゴルァ〜ッ」
とうとう智恵理はぶち切れて、鉄格子をガンガン蹴りつける。
その時、ようやくロックが開く音がし、扉が勢いよく開かれた。
しかし煙に巻かれながら飛び込んできたのは看守ではなく、なんとシュレッダー中佐であった。
「ひぃぃっ」
中佐の手に握られたピストルと鬼のような形相を見て、檻の中の智恵理は縮み上がった。
てっきり中佐が自分を処刑するために来たのだと思ったのである。
「どいてろぉっ」
中佐は銃口を檻の錠前に向けると、続けざまにぶっ放した。
狭いコンクリートの部屋が、衝撃波でビリビリと震える。
檻の施錠部分が金属音を上げて吹っ飛ぶ。
「ひぃやぁぁぁっ」
智恵理は悲鳴を上げて、房の隅へと跳び下がった。
膀胱周辺の筋肉が緩み、我慢していた小便が一気に噴出する。
内股になった太腿を生暖かい小便が濡らしていく。
見る見るうちに、足元に水溜まりが出来た。
「出ろっ。早く」
中佐は鉄格子の扉を蹴破り、房の隅っこで震えている智恵理に命令する。
「いやっ……いやぁぁぁ……」
しかし、怯えた智恵理は激しく首を振ってイヤイヤを続ける。
智恵理が拒絶していると、中佐は房の中に乗り込んできた。
そして泣き叫ぶ智恵理の腕を掴んで、無理やり外へと引きずり出す。
「勘違いしてダダこねてんじゃねぇっ」
その時になって智恵理は、中佐の髪や制服のあちこちが焦げていることに気付く。
「敵の襲撃だ。基地はもう壊滅した」
智恵理が息を飲んで中佐を見詰める。
「奴ら、部隊が出払うのを待って、基地に奇襲を掛けようと企んでいたんだ」
中佐が悔しそうに奥歯を噛みしめる。
智恵理は中佐の状態を見て、既に基地が炎に包まれていることを悟った。
ただ、なぜ中佐がこんなになってまで、憎い自分を救助に来たのか分からなかった。
「とにかくここを脱出するぞ」
中佐は制服を脱ぐと、智恵理に頭から被せる。
そして強引に智恵理の手を引いて走り出した。
2人が事務室に飛び込むと、そこは火の海であった。
顔を向けていられない熱波が襲いかかってくる。
「いくぞっ」
中佐は智恵理の手を引いたまま、炎に包まれた事務室を一気に突破する。
再び建物全体が激しく揺れ、天井から火の付いた建材が崩れ落ちてきた。
中佐がほとんど反射的に智恵理に覆い被さり、背中で落下物を受け止める。
智恵理の耳に骨の軋む音が響いた。
「中佐っ」
智恵理は中佐を気遣うが、強く押さえ込まれていて身動きできない。
ようやく揺れが止まり、建材の落下が収まった。
「中佐っ」
智恵理が首を巡らせて確認すると、血塗れになった中佐と目が合った。
「心配するな。陸戦上がりはお前らと鍛え方が違う」
中佐はクスリとも笑わずそういうと、立ち上がって智恵理を引き起こす。
そして何事もなかったかのように、脱出を再開した。
中佐は智恵理を庇い、火の塊を振り払って先を急ぐ。
やっとの事で玄関に辿り着き、シェルターのある練兵場へと走る。
上空で待機していたUFOが目聡く2人の姿を見つけて急降下してきた。
「中佐ぁ、早くっ。お願い、もっと早くぅっ」
フォルテシモ少尉がエロティックな悲鳴を上げ、慣れない手つきでAS−18を乱射する。
2人がシェルターに滑り込むと同時に、赤紫色の通り雨が吹き抜ける。
ギリギリのタイミングであった。
その一撃を最後に、所期の目的を果たしたUFO部隊は北の空へと消えていった。
智恵理はしばらく口もきけないほど呼吸が上がっていた。
ようやく落ち着いても、中佐に何を言ったらよいのか分からず、取り敢えず頭を下げた。
「……こ、これで釈放なのですか?」
自分でも馬鹿な質問をしたと、智恵理は後悔した。
ところが中佐は怒りも笑いもしなかった。
「ああ。元々、お前を生け贄にさせないためだけにとった隔離措置だった……」
智恵理は眉を開いて中佐を見る。
言っている意味が理解できなかった。
「ウェストミンスターの薄汚い連中が、マザーシップを釣る餌として、お前の身柄を要求してくることくらい読めていた」
中佐は吐き捨てるように言った。
その参謀本部に、どうにかして取り入ろうとしていたのは、当の中佐ではなかったのか。
「もっとも、最初はすんなり渡してやる気でいたのだから、私も他人のこと言えんがな」
訝しがる智恵理の視線に気付き、中佐が鼻で笑う。
「中央の腐った連中を一掃してやるつもりだった。そのためには、私自身が参謀本部での地位を得る必要があった」
中佐が焼け爛れた自分の頬に、そっと手を添える。
間髪入れず、副官が冷却スプレーを吹き付けた。
「ありがとう。すまんが副官、中尉の装備を持ってきてやってくれんか」
中佐は副官に礼を言うと、本館とは別棟だったため、破壊を免れた隊員宿舎へとアゴをしゃくる。
フォルテシモ少尉は黙って頷くと、宿舎へ向かって駆け出した。
2人きりになるのを待って、シュレッダー中佐はおもむろに口を開いた。
「中尉、直ぐにウィンザーへ飛べ。そして、お前の力で……レギーの奴を助けてやってくれ」
智恵理はその言葉の真意が読めずに、ただ突っ立っていた。
中佐にとってコンボイことレギー・ベレッタ特務曹長は目障りな存在ではなかったのか。
少なくともレギーの方は、中佐のことを部下の仇だと認識している。
かつて中佐が陸戦隊の中隊長だった頃、当時部下であったレギーの小隊を囮に使って戦地から逃亡したことがあったという。
そして中佐は「必ず増援を連れて戻る」という約束を履行せず、結果としてレギー小隊を見殺しにしてしまった。
その後、基地に生還してきたレギーにぶん殴られ、前歯を全部叩き折られた。
それが元で、レギーは軍刑務所送りになったと聞いている。
「お前ならレギーから聞いているだろうが、奴には一生掛かっても返せない借りがある」
中佐は智恵理に向かって、レギーに殴られた時のことを語り始めた。
「……あの時、基地に戻った私は、直ぐさま大隊長に援軍の出撃を要請したさ。勿論私自身も、もう一度戦場へ戻る気だった」
怒りで血圧が上がったためなのか、激しさを増した痛みが中佐の口を封じる。
「ところが大隊長は、自分が退却する時のために兵力を温存しようと、出撃を拒否しやがった。そればかりか、口封じのために私を営倉に……」
中佐が苦しそうに呻き声を漏らす。
「解放されたのは、レギーの小隊が壊滅した後さ。やけくそになってクラブで一杯やってたらアイツが帰ってきやがった」
中佐が遠くを見るような目をする。
「戦友の帰還は嬉しかったが、奴に合わせる顔は無かった。結果として奴の部下を殺したのは、この私だ……」
中佐の両目が固く閉じられた。
「もしかして、中佐はわざとレギーに……」
智恵理は、中佐がせめてもの罪滅ぼしにと、敢えてパンチを避けなかったのだと悟った。
身長1メートル94、体重105キロ、元WWWCヘビー級チャンピオンのパンチをである。
「じゃないと、奴のへなちょこパンチなんぞ食らうか。バァ〜カ」
弱々しく笑うと、差し歯になった前歯が顔を覗かせる。
またも激痛の波が襲いかかり、中佐は苦しそうに顔を歪めた。
「アホなお偉方を叩きのめしてやろうと決めたのはその時さ。そのためには、こっちも上層部に食い込まなきゃならない」
痛みのせいなのか、悔しさからなのか、中佐の目から涙がこぼれる。
「戦功も上げたし、勿論おべっかも使った。お陰で随分と部下の恨みを買いはしたがな。だが、それも今日で終わりだ……」
中佐は手探りで智恵理の手を掴む。
「理想はあっても、目的のために手段を選ばなかった私は、知らぬ間に奴らと同じ腐臭を纏っていた。お前に殴られて目が覚めた」
智恵理は中佐の真意を、たった今知った。
そして中佐が生きている限り、ずっと背負い続けていかなければならないものの重さを。
「それじゃ頼んだぞ」
中佐の手に力が籠もる。
「任せて下さい。あたし中佐のこと、ちゃんとレギーに伝えなきゃ」
智恵理は中佐の手を固く握り返した。
そこへ智恵理の装備を持って、フォルテシモ少尉が駆けつける。
「分かってくれるかな、あいつ」
中佐が目を開き、弱々しく智恵理を見詰める。
「お二人は戦友じゃないですか」
智恵理が力強く頷いた。
今更レギーの歓心を買っても、何の得もしない中佐である。
中佐の潤んだ目には、ただ真実の光だけが見出せた。
GJ!!!
目頭が熱くなりました
中佐……お前ってやつは…………(´;ω;`)
GJ!!!!!!
続きGJ!!
中佐いい奴だったんだな…。
来たよGJ!!!
各キャラのサイドストーリーもイイ!!
中佐に敬礼しつつ
保守
中佐の活躍想像図が
カン・ユーからカンジェルマン殿下に上方修正されながら保守
>心配するな。陸戦上がりはお前らと鍛え方が違う
>じゃないと、奴のへなちょこパンチなんぞ食らうか。バァ〜カ
中佐ツヨス
>>443 GJ!
中佐カッコ良いよ中佐。
焔の大佐に通じる物があるな。
h
脳内で物語は展開できているが文章におこせない俺がもどかしい。
妄想の中では、絶対包囲で背中合わせになって礼賛を撃ち捲っている伝説の男と陸女。
「あーあ、こんなことなら一発やっときゃ良かったわー」
「…無駄口叩かずリロードしろ。クモを落として次は爆撃機だ」
「へいへーい…でもさ、マジなんだよね。ね、腐れた親玉(マザーシップ)落としたらさ、一発やらね?」
な、ストイックな伝説の男とフランクな陸女の物語。
EDF3フラゲ組が出始めましたよ 保守
>>453 書き手に余程の会話センスがないことには寒いだけのSSになっちゃうだろうな
下品で軽妙な中にもキラリと光る知性の輝きがある台詞回しが生命線だ
いつか読める日を楽しみに待ってるよ
絶対包囲の後でマザーシップをどうこうするって言ってる段階で既にダメだろ、その物語は
457 :
名無しさん@ピンキー:2006/12/16(土) 04:16:39 ID:iPGS+izO
ここらでageとくか保守
保守
459 :
名無しさん@ピンキー:2006/12/19(火) 10:29:03 ID:R+CnukVG
ほしゅ
3やってる人いる?
箱無いからやってね('A`)
誰か箱貸してくれ
そしたらやるかも
保守
箱値下がりするらしいからそれまで待てお!
あんまし売ってないんだよな、箱…
また圧縮が近いな保守
466 :
名無しさん@ピンキー:2006/12/24(日) 19:20:16 ID:i94KmiZ+
捕手
戦場のクリスマス
ペリ子に神の御加護のあらんことを
「ああ、そういや今日はクリスマスだったな…」
「そーだねー…ケーキなんか暫く食べてないや。あはは」
肩に担いだゴリアスから火が放たれ、爆音と共に蟻が宙を舞う。
わずかに遅れて二連射されたプラズマランチャーが吹き飛ばされた蟻に止めをさし、爆風が残りの蟻を仕留める。
「戦場でメリークリスマスってかよ…ったく、イエス様も粋な演出するじゃねぇか」
弾の切れたゴリアスを投げ捨て、愛用のスパローショットをしっかりと構えた。
「じゃあ我等が主(マイゴッド)に見せ付けてやらないとね?あなた様の愛し子が産まれた日に盛大な花火をあげてやるって!」
エネルギーを食うだけのプラズマランチャーを外し、レイピアを構える。
「合唱の時間だインベーダー!」
「あんたらの悲鳴でイカした聖歌を捧げなよっ!」
12月25日
アメリカ南部の渓谷にて蟻の大群が発生。
陸戦1小隊、ペイルウィング2小隊の戦力を投入するも、双方共の全滅で戦闘は終結。
残された戦闘記録を解析した結果、とある兵士二名の活躍により、侵略者の70%が殲滅されたことがわかった。
ハリウッド製の映画でよく耳にするセリフだね
乙
こういった単発ネタも楽しみにしてます
そうか、あの二人は死んじゃったんだ(´・ω・`)
そして皇帝都市の残骸の中から這い出すふたりの男女隊員の影
生きてた。良かったよ
だから保守
PS2で続編がまたやりたい('A`)
3はさすがにPS2じゃ無理なのか
あのクオリティでPS2は無理だな。敵が現れただけで処理落ちする。
セントリーガンと爆弾が神兵器過ぎて笑った。
INF巨大怪獣すら一瞬で殲滅できるんだもんな。
今晩中に来るかな?保守
大晦日ネタが有れば嬉しい
オペ子「世界各地でEDFの旗が保守されています!」
隊長「なんだと!?EDFは壊滅したはずだぞ!?」
オペ子「保守しているのは、市民です!!」
ここでちょっと小話を
360の地球防衛軍だが
・・・処理落ちしたとか
・・・・・・・・・・・何を作っていらっしゃるので?
逆に考えるんだ
箱○の性能でさえ処理落ちするほど馬鹿げた量の敵が出る
そう考えるんだ
俺はいまんとこ処理落ちはしてないがなぁ・・・
インフェルノとか行けばなるのかしらん
敵が出現する時に一瞬止まったりはするな。
後は…飽和攻撃を喰らうor喰らわせるとカクカク気味になる。
INFはもちろん、ハデストでもカクカクになるステージがあるしな。
処理落ちは一番の敵だよな
※
基地要員の操縦するEF24バゼラートにより、智恵理はウィンザー上空に到着した。
「もうここでいいよ。近づきすぎるとファイターUFOに狙われるから」
智恵理は親切心からパイロットの自尊心を傷つけてしまう。
バゼラートは曲がりなりにも戦闘ヘリなのである。
1対1でなら、決してファイターUFOにも引けを取らない性能を持っている。
危ないから逃げろは、余りにも失礼な言い草であった。
だが当のパイロットは、戦場上空を飛び回るUFOの大群に気付き顔を真っ青にさせる。
「ちゅ、中尉殿、ご武運を……」
早くも逃げ腰になったパイロットがバゼラートを横滑りさせて速度を落とす。
若いパイロットは、男として死ぬまで中尉を守り抜こうと決意していた筈だった。
しかし、そんな騎士道精神など、雲霞の如きUFOの群を見た途端、何処かに吹き飛んでいた。
「ありがとう」
智恵理はパイロットに手を振って応えると、ドアを跳ね上げて降下体勢を取る。
そしてステップを思い切り蹴り、虚空に身を躍らせた。
フラップを全開にして、しばらく自由落下に身を任せる。
背中の翼がシュルシュルと風を切る。
背後を振り返ると、バゼラートが全速力で逃げていくところであった。
智恵理は視線を戻し、フィールドを見回して着地点を探す。
眼下の一角に、凶虫バゥの群れに追われるペアが目に入った。
「あそこっ」
智恵理はブーストを掛けると、急降下でバゥの背後に忍び寄る。
「伏せてぇっ」
智恵理の声を合図に、追われていた隊員たちがバッタリと地面に倒れ伏す。
間髪入れず、智恵理のサンダーボゥ20Rがバゥの背後から襲いかかった。
速射性能に優れる新型電撃銃は、バゥに振り返る暇さえ与えずに滅多打ちする。
紫色の体液が飛び散り、辺りに酸っぱい臭いが充満する。
「すごいっ」
リュージュ軍曹とカフェオレ伍長が地面に伏せたまま感嘆する。
4匹のバゥは瞬く間に全滅した。
智恵理は軽く上昇して、周囲に伏兵のないことを確かめて着地する。
窮地を救われた2人が、手を振って駆け寄ってきた。
「ありがとうございます、中尉」
カフェオレ伍長が智恵理に抱きつかんばかりに感謝する。
普段は智恵理と付き合いもない第2中隊所属の隊員だが、余程嬉しかったのであろう。
「あなた達の小隊長は?」
智恵理は首を巡らせてシュリンプ少尉の姿を探す。
「それが、横合いから奇襲を喰らって、小隊はバラバラに……」
軍曹が済まなさそうに首を垂れる。
シュリンプ少尉や2人を責めるわけにはいかなかった。
これだけの激戦では仕方のないことである。
「あたしたち、生きてここから帰れるのですか」
まだ若いカフェオレ伍長が真っ青になっていた。
年上のリュージュ軍曹も体を小刻みに震わせている。
2人ともこれまで単騎戦闘の経験は皆無なのであろう。
智恵理は自分のミスが原因とはいえ、初陣からして単騎戦闘だった。
当時は今ほど敵の数が多くなく、また強力でもなかった。
比較的ゆとりのある条件下で初陣に臨めたことは、彼女にとってラッキーであった。
それでも初陣の智恵理は苦戦を強いられている。
あの時、伝説の男に救って貰わなければ確実に死んでいたであろう。
今度は智恵理が2人を救ってあげる番であった。
「大丈夫。あたし、もっと酷い戦場を何度も経験してるけど、こうして生きているでしょ」
智恵理は伍長を励まそうと笑顔を作った。
「こういう戦場では、パニックに陥ることが敵よりも怖いのよ。さぁ、まだ行ける?」
智恵理は即席のデルタを組むと、手近のアリの群に向かった。
「あたしが突っ込むから、2人は援護して」
言うが早いか、智恵理はM2レイピアを腰だめにしてチャージを掛ける。
後方から臨時の部下が発射したサンダーボゥ20が、アリの陣形を掻き乱す。
そこへ突入した必殺のプラズマ・アークが猛威を振るった。
たちまちエリア内のアリが駆逐され、勢力圏が人類側に戻ってくる。
「ねっ、簡単でしょ。こうやって勢力圏を広げていき、敵を追い詰めるのよ」
智恵理は振り返って2人の若手を励ます。
その微笑みに対し、2人は戸惑いの色を顕わにした。
「ん、どうかした?」
智恵理が小首を傾げて落ち着いた笑顔を見せる。
「聞いてた中尉のイメージとかなり違って……」
「もっと怖い人だと思ってました」
2人が誰に何を吹き込まれて、どういうイメージを持っていたのか、ゆっくり聞いてみたい気がする。
だが、今はそんな余裕はない。
全てはこの戦場から生きて還ってからのことである。
「これでも勝手なことする悪い子には怖いのよ。さぁ、次イクわよ」
進撃を再開した智恵理たちの前に、今度は凶虫バゥの群れが立ちはだかった。
強敵を前に、後続の2人が動揺するのがハッキリと分かる。
「慌てないで、奴らが糸を吐く前にはお尻を大きく振るから。発射の合図を見極めて事前に回避するのよ」
なんでもないさと智恵理が笑みを浮かべる。
白い歯が印象的であった。
「ジャンプに惑わされないで」
小隊は中間距離を保ちながら小刻みに右回りに移動する。
その動きに反応した先頭の3匹が、いきなり飛翔して間合いを詰めてきた。
「ジャンプ中は攻撃してこないっ。今よっ」
智恵理の合図に従ってサンダーボゥが火を噴く。
一丁当たり20本もの雷撃は、ろくに照準を合わせなくても敵に有効打を与えられる。
バゥの柔らかい腹部を稲妻が切り裂いた。
紫色の飛沫が激しく飛び散る。
たちまち死骸と化した大蜘蛛が、もんどりうって地面に転がった。
「バック50」
一斉にユニットを噴かせて50メートルを一気に飛び下がる。
智恵理は徹底して中間距離を保つ作戦をとった。
距離さえ保っていれば、必殺の毒糸も余裕をもって避けられる。
バゥの群れがモゾモゾと尻を動かし、腹部の先端を智恵理たちに向けた。
「ポート」
智恵理の略式号令に従い、2人がユニットを使って左に高速回避する。
たった今までいた場所を、白い飛行機雲が幾筋も駆け抜けていった。
「ファイヤー」
仲間の死骸を乗り越えようとしたバゥの群れに稲妻攻撃が突き刺さる。
続いて左側面から別の集団が迫ってくる。
「スターボー」
智恵理が号令を掛けながら、今度は右へと飛ぶ。
死にたくない一心から、若い2人も必死で続く。
「ファイヤー」
サンダーボゥの集中砲火が巨蜘蛛を次々にひっくり返していく。
ものの数分で新たなエリアが人類側に加わった。
「やった、やったぁ〜」
カフェオレ伍長が智恵理にしがみついて大はしゃぎする。
これで少しは戦いに慣れ、単騎戦闘にも自信が付くだろうか。
「しぃっ、ちょっと静かにして……」
智恵理はイヤーレシーバーからアラーム音がしたのに気付き、はしゃぐ伍長を制した。
『全隊員に告ぐ、戦闘中の隊員はエリアE4に集結せよ。繰り返す、戦闘可能な隊員はエリアE4に集結せよ……』
それは第2中隊長ゲイロード大尉による戦術指令であった。
部隊の戦闘指揮は第1中隊のアイスバーン少佐に任されているはずである。
次席指揮官のゲイロード大尉が勝手に指示を出すのはおかしかった。
「少佐、なんかあったのかな」
ともかく集合地点に急がねばならない。
指定されたエリアに行けば状況も明らかになるであろう。
智恵理は胸騒ぎを抑えつつ、デルタを保ったままE4エリアへと向かった。
途中、何度となく敵の小集団とすれ違うが、戦闘は可能な限り控えて集合地点へと急ぐ。
幾つかのアリの群れをやり過ごすうち、前方にまたも凶虫バゥの群れが見えてきた。
「あいつらもやっちゃいますか?」
目を輝かせたカフェオレ伍長が、自信満々に意見具申してくる。
だが巨蜘蛛の群れはジャンプを繰り返し、急ぎ戦線離脱しているように見えた。
ならば、敢えて攻撃して注意を引くまでもない。
「やり過ごそう。あたし達には興味ないみたいだよ」
今の智恵理は一刻も早く少佐の無事を確認したかった。
逃げていく敵などに構っている暇はなかったのだ。
それでも智恵理は細心の注意を払って敵の観察を怠らない。
少しでも不審な動きがあれば即座に先制攻撃できるよう、銃口は敵に向けたままである。
智恵理のデルタとバゥの群れは、横50メートルの距離を取って正面からすれ違った。
その時、智恵理は思わず息を飲んで絶句した。
「…………!」
先頭のバゥが、一人のペイルウイングを横ぐわえにしているのを目の当たりにしたのである。
巨蜘蛛の毒牙に噛まれたペイルウイングは、手足を完全に弛緩させていた。
既に絶命しているのかもしれない。
ただ、智恵理にはそのペイルウイングの背格好が、命よりも大切なアイスバーン少佐に似ているように思えたのだ。
「少佐っ……アイスバーン少佐ぁっ」
智恵理は緊急回線を使い、マイクに向かって怒鳴った。
しかしイヤーレシーバーは沈黙を続けたままである。
「少佐……少佐っ、返事をして下さい……」
智恵理の背筋に悪寒が走る。
おまけにフィールドのどこからも、少佐の波動は伝わってこない。
「少佐ぁ〜っ」
智恵理は空中で身を翻すと、ブーストを全開にして、たった今すれ違ったバゥの群れを追い始めた。
しかし、その時には目標のバゥは、拡散していく群れの中に溶け込んでしまっていた。
もう、どれがどれだか区別がつかない。
それでも智恵理は闇雲に追うしかなかった。
一人敵陣に突き進んでいく智恵理の姿は、空中哨戒中のUFOの知るところとなった。
UFOは智恵理を排除しようと群れをなして襲いかかってくる。
「邪魔しないでぇ〜っ」
サンダーボゥ20Rの速射がUFOを薙ぎ払う。
しかし、エネルギーを大量に消費したユニットが、無情にも緊急チャージに入ってしまった。
巨蜘蛛の群れは既に稜線の向こう側に消えようとしている。
今の智恵理にそれを追いかける術はなかった。
智恵理は力無く地上に降り立ち、そのまま地面に倒れ込む。
「少佐ぁーっ」
智恵理はもう一度叫んでみたが、少佐からの返答はなかった。
プラズマユニットの上げるアラーム音だけが悲しげに響いていた。
491 :
名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 02:05:44 ID:7+RNOEQL
続きキタァー
乙だけど鬱w
うわぁぁああああああ少佐ぁぁあぁぁあああああああああ!!!
禿乙であります!!
少佐が何もされない内に助けられるのを切に願う…('A`)
いや、少佐が何かされてから助けられるのを切に願う・・・( ^ω^)
板的に何かされてからだなフヒヒヒ
レギュラーが遂に犠牲者に…?
ええと…
し、少佐が何かされてエロエロになって、
かつ無事に帰還する事を願うっ
恐怖に怯えて震える少佐…
↑いいね!そして500GET
少佐はフラグが立った・・・・智恵理はどうなんだ?
干す
E!
E・・・DF?
閉鎖・・・されるのか?
閉鎖されたら続きは何処で連載されるのか
保管庫の掲示板に直接投下になるの?
落ち着け
PINKは2chと関係無いから閉鎖は無い
508 :
名無しさん@ピンキー:2007/01/14(日) 19:38:37 ID:PrMCtt2V
であります
可哀想にあっちのEDFスレは風前の灯か…
こんな良スレあったのか。思わず一気読みしてしまった
続きが気になる…
久しぶりに2をひっぱり出してサンボウ20担いだペリ子で空を飛んでみよう
3はペリ子がいなくて寂しいんだorz
陸夫がゴリアスで宙を舞う
PS3ユーザーでTHE地球防衛軍4を待ってる俺はかち組
振動しないEDFなんて…
ごめん、俺振動うざいから切ってる・・・
俺なんかコントローラを修理(分解)してたら
モーターが二つとももげたぜ。
何となくPS3は信用出来ないので、箱だけでいいです
智恵理は真っ暗な闇の中をひたすら逃げていた。
あのおぞましい凶虫バゥに追われているのである。
愛銃レイピアは既に無く、ユニットの右翼は無惨にへし折られている。
頼りになるのは自分の脚だけだが、まるで泥沼の中にいるように前へ進まない。
邪魔なユニットを背中から取り外しても、体は一向に軽くならなかった。
焦る智恵理に向かって、四方から蟻酸がぶっかけられた。
「熱ぅぅぅっ」
地面に倒れ込んだ智恵理が、悲鳴を上げて悶え転げる。
ペイルスーツがブスブスと煙を上げて腐蝕した。
強酸性の液がボディアーマーの中にまで染みてくる。
仕方なくボロボロになったスーツを引き裂き、ボディアーマーも脱ぎ捨てる。
唯一体に貼り付いていたアンダーサポーターも横紐が腐れ落ち、智恵理は生まれたままの姿になってしまう。
智恵理は呼吸を整えて立ち上がろうとしたが、何者かに背中を押さえつけられて地面に接吻する。
振り返ると凶虫バゥの赤い目が自分を見据えていた。
「ひぃやぁぁぁ〜ぁぁっ」
悲鳴を上げて藻掻いてみても、毛むくじゃらの前肢はビクともしない。
諦めた智恵理が大人しくなるのを待って、バゥが丸々とした腹部を下側に折り曲げた。
その先端から毒々しい色彩の体内器官がせり出してくる。
ゴツゴツしたイボが一面に浮き上がり、先端からはドロドロした液が滴っていた。
「ヒッ……」
相手が何をしようとしているのかに気付き、智恵理の背筋に悪寒が走った。
ゴツゴツした器官が智恵理の股間をまさぐり始める。
「イヤッ……イヤァァァーッ」
智恵理は必死でお尻を振り乱し、相手に照準をつけさせないようにする。
「誰か、誰か助けてぇぇぇっ。少佐ぁっ、少佐ァァァーッ」
智恵理は思わず、この場にいるはずもないアイスバーン少佐の名を呼んでしまう。
「どうしたのチェリーブロッサム中尉。落ち着きなさい」
期待していた訳ではないのに、少佐の返事がハッキリと聞こえた。
反射的に声のした方を見た智恵理は、息を飲んで絶句した。
自分の右側に、全裸のアイスバーン少佐が仰向けに寝そべっていた。
少佐の顔の上には生殖器官を露出したバゥの尻があった。
そして少佐はそのイボだらけのモノを両手で持ち、愛おしそうに舌を這わせていたのである。
「やめてっ。やめて下さい、少佐ぁっ」
智恵理はおぞましさに耐えかねて少佐を制止する。
「どうして? こんなに美味しいのに」
少佐の目は霞がかかったようになり焦点を結んでいない。
少佐が一心不乱に奉仕するうちに、巨大なペニスが脈打ち始める。
「それでは、お情けを……」
少佐が四つん這いになり、引き締まったヒップを高々と掲げる。
あの誇り高い少佐が、こともあろうにクモなんかに交尾をおねだりしているのである。
凶虫はそれに応えるように身を揺すり、少佐の股間を正確に貫いた。
「はぁぁぁ〜ぁぁっ」
少佐の背中が折れそうに反り返る。
凶虫は尻を前後に揺すって、少佐の膣壁にペニスを擦りつける。
「いいっ……いいわぁ……」
少佐は幸せそうに呟き、更なる高みへ駆け上がろうと自らも腰を振り立てる。
ペニスが前後する度、結合部分から少佐が分泌した嫌らしい液が飛び散る。
凶虫の動きがどんどん速くなり、少佐を法悦境へと連れ去ろうとする。
「う、うそぉ……いやっ、こんなのイヤァァァーッ」
智恵理は激しく首を振り、目の前の全てを否定しようとする。
その隙を突き、背後のクモが己の剛直を智恵理の秘裂に押し当てる。
「いやぁっ、無理っ。こんなの絶対に無理だってぇ〜っ」
巨大グモの生殖器官は、その巨体に比べて異様に細長いものである。
だが人間のそれと比べれば、恐怖感さえ覚えるほどのビッグサイズといえた。
「キャァァァァァ〜ッ」
体が真っ二つになりそうな激痛が走った。
しかし大グモは悲鳴にも怯みを見せることなく、グイグイと腰を送り込む。
智恵理の膣口がギチギチと音を立てて広がっていく。
「むぅっ……むぅぅぅ……」
もの凄い圧迫感に、智恵理は白目を剥いて悶絶した。
「だらしがないわよ中尉。そんなことでは私の後継者失格ね」
少佐が涎にまみれた唇を動かして智恵理を非難した。
その少佐にのし掛かったバゥは、いよいよクライマックスを迎えようとしている。
一際大きくバゥの尻が動いたと思った次の瞬間、少佐の背筋が反っくり返った。
一瞬の間を置いて、結合部分から白濁色の液体が飛沫となって吹き上がった。
「射精してる。中で射精してる……少佐がクモに妊娠させられちゃう……」
しかし、智恵理に他人の心配をしている余裕はなかった。
自分を貫いた剛直が前後に動き始めたのである。
「あっ、あたし……クモに犯されてる……クモなんかに屈服してる……」
智恵理は自分に降りかかっている災厄が信じられなかった。
だが、灼熱の剛直は、現実に自分の膣内を跳ね回っている。
自分はクモに蹂躙されているのである。
クモのペニスが動くたび、無数のイボが膣壁を擦り上げる。
その摩擦感が、この世のものとは思えない快感をもたらせた。
「くぅぅ〜っ……いいっ……バイブなんかより、何倍も気持ちいいっ」
感情的にはおぞましいはずなのに、感覚はあくまで正直であった。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」
智恵理はだらしなく舌を伸ばして、雌犬のように興奮しまくる。
やがて虫のモノがビクンビクンと、今までとは違った律動を示し始める。
「あぁっ、出る? 中に入れたまま出されちゃう……」
このままではクモの子を身籠もってしまう。
もしこの場から生きて帰れたとしても、二度と人前に出られなくなってしまう。
そんな心配をしているうちに、クモのペニスが限界に達した。
ブルルルッとクモが尻を振った直後、膣の中が大爆発を起こす。
「ヒィヤァァァァーァァッ」
智恵理の口から絶叫がほとばしる。
智恵理は子宮口の中に大量の精子が流れ込むのを感じ取った。
打ちひしがれた智恵理の上体が、ガックリと地面に崩れる。
遂に仇敵に無理やり契られてしまったのである。
クモはしばらく結合したままで余韻を味わっていた。
智恵理の膣は独立した生き物のようにピクピクと痙攣してクモを楽しませる。
やがて膣からペニスが引き抜かれると、白濁色の液体が滝のように噴き出してきた。
放心状態の智恵理に向かって少佐が話し掛けた。
「私、これからエイリアンの星へ行くの。そして永遠に可愛がっていただくのよ」
少佐は幸せそうな顔をして、人間界と決別すると語った。
「中尉はどうするの? 私と一緒に行く?」
少佐の問い掛けに智恵理は返答できなかった。
自分はエイリアンと戦うEDFの戦士なのである。
智恵理が黙っていると、少佐は悲しそうな目をして別れを告げた。
「そう……残念だけど、これでサヨナラね」
別れの言葉を口にする少佐に、白い毒糸が絡み付いていく。
「しょっ、少佐……」
戸惑いを見せる智恵理の目の前で、少佐の体が白い繭に包まれていった。
「もう会うことも無いでしょうけど、元気でね」
最後の言葉を残し、少佐が繭の中に消えた。
繭をくわえ込んだ凶虫バゥが動きだす。
「少佐、待って。待って下さいっ」
思わず智恵理は駆け出していた。
股間から白い液が漏れてくるが、そんなもの気にしている場合ではない。
「少佐っ、少佐ぁっ」
一杯に伸ばした手の先で、バゥの姿がどんどん小さくなっていく。
「やだっ、こんなのやだぁ〜っ」
智恵理の目に涙が滲んでくる。
霞む視界からバゥの後ろ姿が消え去った。
「イヤァァァーッ」
※
智恵理が自分の悲鳴で目を覚ますと、白い天井が視界一杯に広がった。
微かなクレオソートの臭いが、そこが病院の一室であることを悟らせた。
全ては夢であり、あるはずもない出来事であった。
しかし現実は悪夢よりも更に悲惨といえた。
あんなに慕っていたアイスバーン少佐はウィンザーの地に散華してしまった。
もう二度と触れることの出来ない遠い存在になってしまったのである。
右腕に痛みを感じ、智恵理は気怠そうに首を傾けた。
肘裏に点滴の針が絆創膏で固定されている。
ガラス容器の中の薬液が間もなく尽きようとしていた。
《西暦2019年11月9日 リージェンツ・パーク ペガサス部隊本部》
巨星墜つ。
天才と謳われたエースの戦死は瞬く間に伝播され、全軍の士気を大きく低下させた。
“アイスバーン”ことヨハンナ・シュミットバウワー少佐、享年24。
生涯スコアは公認で512ポイント、共同撃破は1000を越える。
有り余る才能を存分に発揮して、数々の作戦を勝利に導いた。
戦術指揮官として、戦士として、史上最高のペイルウイングであったことは万人が認める事実である。
その功績と名声が認められ、彼女は戦死の認定と共に同日付けをもって大佐へと2階級特進を果した。
懸命の捜索にもかかわらず、少佐の遺体は遂に発見されなかった。
公式記録には、ウィンザー迎撃戦において凶虫バゥの餌食になったものと記されている。
しかし少佐に心酔している智恵理には納得できなかった。
あの少佐が大蜘蛛ごときに後れをとり、喰われてしまったなどとは信じられなかったのである。
正規の捜索活動は3日で打ち切られたが、智恵理は一人現地に残って捜索を続けた。
少佐が生存しており、どこかで救助を待っているのではないかと思うと、智恵理はじっとしていられなかった。
明らかな軍紀違反であったが、2人の関係を知るゲイロード指揮官代行は黙って見ぬ振りをしていてくれた。
その3日後、疲れ切ってボロ布のようになった智恵理の姿が、ウィンザーの山中で発見された。
森林警備隊に保護された時、智恵理は廃人同然になっていたという。
つい先日、地底決戦において神楽大尉を看取ったばかりだというのに、続けて直属の中隊長を失ったのである。
幾ら軍人といえど、17歳の少女には厳しすぎる現実であった。
しかも今回は自分が意地を通し、懲罰房に拘束されている間の出来事である。
大事な人を殺したのは自分だという強迫観念が、智恵理を強く苛んだ。
地底で見たランラン大尉の惨い死に様が脳裏に甦り、更なる追い打ちを掛ける。
少佐も無数の凶虫にいたぶられ、股間から体液を啜られて苦悶のうちに死んでいったのであろうか。
そんなことを考えていると智恵理の胸は張り裂けそうになり、いよいよ心を閉ざして塞ぎ込んでしまった。
その日のうちに作戦部の参事官がやって来たが、変わり果てた彼女の姿を見ると、落胆したように肩を落として帰っていった。
マザーシップを釣り上げる餌としては、既に消費期限が切れたと判断されたのである。
軍人としての智恵理は、少佐と共に死んでしまったも同然であった。
※
「中尉っ、アイスバーン少佐の部隊葬が始まっちまいますぜ」
心を閉ざしてしまった智恵理は、相棒レギーの呼びかけにも反応を示そうとはしなかった。
「何て顔してんです。今のあなたを見たら、少佐はさぞかし悲しむことでしょうぜ」
レギーは敢えて憎まれるようなことを口にしてみる。
しかし智恵理の目が焦点を結ぶことはなかった。
その様子を見たレギーは、しばらく放っておくのが一番だと判断した。
やがて時間が全てを解決してくれるであろう。
一人になった智恵理はベッドに倒れ込んだ。
もう何もかも嫌になっていた。
人類が滅亡するのならすればいい。
そうすれば、もう悩むことは何もない。
『あぁ〜あ、一人で深刻ぶっちゃってぇ。ばっかみたい』
背後で起こった嘲笑に反応し、智恵理がゆっくりと首を巡らす。
ベッドの傍らに、金髪のセレブが腕組みして立っていた。
相手がニッキーの残留思念だと知って、智恵理は興味なさそうに視線を外す。
『アンタ、ずっと泣いて暮らすつもり? そんなことしてどうなるのさ』
半透明のニッキーが智恵理にまとわりつく。
『死んだ者は生き返らないんだよ。私みたいに』
ニッキーが智恵理の耳元に口を近づけて厳しく決めつける。
「アンタなんかに何が分かるのよっ。あたしと少佐のこと何にも知らないくせに」
智恵理がベッドから跳ね起き、ニッキーに対して怒りを爆発させた。
「あたしと少佐はね……あたしと少佐はね……」
大声を出しているうちに感情が激して言葉にならなくなった。
『分かるわけないじゃん。だって私、アンタじゃないんだし。けど羨ましいな。私、友達の思い出なんか全然無いから』
ニッキーが不満そうに唇を尖らせた。
『取り巻きは大勢いたけど、友達は一人もいなかった。学生時代も、EDFでも。だから嫌味じゃなく、アンタが羨ましい』
アルカトラズ時代のこと、ニッキーたちサイコシューター候補生は、一般隊員から畏怖されこそすれ、決して仲間とは思われていなかった。
彼女たちはXナンバーと呼ばれ、隊の上層部からも奇異の目で見られていた。
その挙げ句に、不良在庫として味方の手で廃棄処分され掛かったのである。
『友達なくしちゃったのは辛いだろうけど、大切な人が存在してたってこと、楽しい思い出を残してくれたってことは事実じゃん』
智恵理の目から怒りの色が薄れていく。
『それは、大事な人が最初から存在していなかったってことより、だんぜん幸せなことだと思うよ』
沈黙を守る智恵理に向かってニッキーが続けた。
『だから少佐のこと、忘れる必要なんかない。アンタが忘れない限り、少佐はアンタの思い出の中で生き続けるから』
智恵理の脳裏に少佐の笑顔が蘇り、両目から涙がポロポロとこぼれ落ちてきた。
おそらくニッキーの言っていることは正しいのだろう。
しかし体がそのことを理解するには──完全に立ち直るには、今少し時間が必要だった。
『お葬式、行ってあげなよ。行って惨めな姿を晒すのは辛いだろうけど、行かなきゃ一生後悔することになるよ』
はち切れんばかりの健康美が売りであった智恵理は、今やゲッソリとやせ細り、眼窩は落ちくぼんでいた。
こんな姿で式典に列席すれば恥ずかしい思いをするだろう。
それでも今日しかない部隊葬に出なければ、一生後悔することになるだろう。
智恵理は決意のこもった目をして立ち上がった。
※
アイスバーン少佐の部隊葬は、焼け落ちた本館前広場で行われていた。
完全密葬のため外部の来賓はなく、基地要員だけが列席する閑散としたものであった。
隊員から見習いのコックまで、列席した者の全てが目に涙を浮かべており、故人の生前の人柄を偲ばせた。
喪主を務めたのは、重傷のため後送されたシュレッダー中佐に代わって指揮を執る、ゲイロード指揮官代行である。
ゲイロード代行は後任の指揮官が赴任してくるまで部隊の運用を任され、特例任官で少佐に昇進していた。
ウィンザー迎撃戦では4名が戦死、6名が重傷で戦列を離れ、実に隊員の3分の1強を喪失する大被害を被った。
ゲイロード少佐は残った隊員をやりくりして、早急に隊を再編成しなくてはならない。
アイスバーン少佐の部隊葬は、部隊再編にあたっての、避けては通れぬ最初の儀式であったのだ。
部隊葬といっても遺体もなく、少佐の写真が飾られている祭壇も急拵えの物であった。
フォルテシモ少尉のオルガンに合わせて賛美歌を歌い、少佐の天国への凱旋を祝う。
そして式も終わりに近づき献花が始まった時、紺のEDF士官服に身を包んだ智恵理が会場に現れた。
相変わらず生気は感じられなかったが、目は真っ直ぐ前を見て、足取りもしっかりしていた。
「先輩っ」
思わず飛び出そうとした光がレギーに引き戻される。
「今はそっとしておいてあげろ。また直ぐに私たちの元に帰ってきてくれるから」
光は不服そうに眉をひそめたが、それでも黙ってレギーに従った。
智恵理は壇上に進み出て、祭壇に白いカーネーションを捧げると、少佐の写真に向かって敬礼する。
写真の少佐は笑顔で迎えてくれた。
クールでシビアな印象のあった少佐だったが、全ては部隊の戦力を高水準に保つためであった。
実は誰よりも部下思いであったことは、一緒に戦場に立った全員が知っていた。
「あたし、インベーダーなんかに負けませんから。絶対マザーシップを撃墜して見せますから……」
智恵理は少佐の笑顔に誓う。
まだまだ教わりたいことが山ほどあったが、それはもう叶わぬ願いであった。
「あたし、少佐の教えを忘れませんから……安心して……お休み下さい」
少佐の写真が涙でぼやけてきた。
智恵理は涙を見られまいと努力しながら、壇上を後続に譲る。
階段を降りながら智恵理は誓った。
憎いインベーダーどもを一人残らずぶち殺してやると。
そして、何が何でもマザーシップを撃墜し、その破片を少佐の墓前に供えてやると。
そして、その機会は直ぐに訪れた。
後に『審判の日』と呼ばれることになる、人類の存亡を掛けたロンゲスト・ディが始まったのである。
乙!!
まさかリアルタイムで遭遇できるとは思わなかったぜ
次はいよいよ審判の日かwktk
少佐、最悪の結果になっちまったか・・・
禿鬱
新作キテター。超GJ
次は審判の日か。wktkが止まらないぜ
待てないから2のINF審判の日やってくる
少佐が洗脳されて帰って来るに1ペリ子
532 :
名無しさん@ピンキー:2007/01/23(火) 17:41:47 ID:au7NWiiD
更新きてたage
お前ら何を勝手に少佐が死んだと決めつけてんだ?
あの人の遺体が見つかったか?
わずかでも可能性があるならそれに賭けろ、彼女がまた現れて、智恵理と共に戦うと信じろ!!
きっと必ず戻ってきてくれる!!
だろ?(´;ω;`)
生き残ってたらエイリアンウォーシッパーとして再登場だろうな
そして智恵理との悲劇的な対決に…
(´;ω;`)ブワワッ
悲劇の師弟対決はあるだろうなぁ
それを機に何かに目覚めそう
そこで伝説の男がトドメですよ。
保
保守
メカソラスフラグが立ってたけど
皇帝都市まで続くのかな
まず生き残れるんだか
543 :
名無しさん@ピンキー:2007/02/02(金) 21:56:01 ID:1033i2tE
どっかで飛躍的に装備が強化されないとキツいな
若しくは更なる能力の覚醒とか
※
「倫敦市街を見物に行こう」
そう言い出したのは智恵理であった。
こんな時に何を言うのかと皆は訝しがったが、智恵理は平然としていた。
自分達が守っている倫敦の街を、これまで一度もゆっくりと見たことがないというのがその理由であった。
もしかすると、これが倫敦の街を見る最後の機会になるかも知れない。
智恵理の提案に賛同した若手の下士官達は、午後から半日の特別休暇を取って倫敦の観光スポットへと繰り出した。
ゲイロード少佐は、市内から出ないことを条件に、智恵理たちの休暇を認めてくれたのである。
勿論、何かあったら緊急連絡が入ることになっている。
同行するのは光の他、マリンカ、フェアリー、カフェオレ、ロータス、シェリーである。
そして驚いたことに、部隊への帰属意識の薄いエンジェルまでもが休暇を申請したのである。
「お前らがサボるのに、なんであたしだけが仕事してなきゃならないんだ」
エンジェルは照れ臭さを隠すために、肩をそびやかして仲間を睨み付けた。
※
すっかりお馴染みになったビッグベン、バッキンガム宮殿の衛兵交代式、タワーブリッジそしてセントポール大聖堂。
見慣れているはずの風景も、戦闘中とは全く違った趣があった。
命の心配をせずにゆっくり見る倫敦は、世界で最も美しい都市に思えた。
町の人は突如現れた少女たちが、ペガサス隊のメンバーであると直ぐに見破った。
それでも彼女たちを不謹慎と非難する者は一人もいなかった。
マザーシップが出現すれば、真っ先に立ち向かうのが彼女たちであり、そしておそらく全員が死んでいくのだと知っていたのである。
倫敦名物フィッシュ・アンド・チップスの屋台では、店の親父さんがもの凄くオマケしてくれた。
テームズ川の岸壁に座り、白身魚のフライとフライドポテトをみんなで頬張る。
食事が不味いことで有名な倫敦だが、熱々のフィッシュ・アンド・チップスは美味しかった。
川を渡る風が身を切るように冷たい。
ウェストミンスターブリッジの川上を見ると、巨大な観覧車がゆっくりと回っているのが目に入った。
「あれ、一度乗ってみたかったんだぁ」
智恵理の呟きでロンドン・アイへの搭乗が決まった。
こんな時節であるので観光客などいる訳もなく、ロンドン・アイは彼女たちの貸し切りであった。
高さ135メートルは当然世界最大である。
「でっかぁ〜い」
少女たちは巨大なホイールが回る様に圧倒される。
「あの中心軸が外れたらみんな一巻の終わりだぜ」
エンジェルが怖がりのシェリーを脅しに掛かり、キヒヒと意地悪く笑う。
「縁起でもないこと言うなっ。お前だけ落ちてろ」
光が半ば本気でエンジェルを睨み付けた。
智恵理たちは、20人も収容できる透明のゴンドラカプセルに乗り込んだ。
一周するのに必要な時間は約30分である。
「いやぁ〜ん。下からパンティ見られちゃう〜っ」
「アンタのなんか誰も見たくないってさ」
ゴンドラ中が黄色い歓声で一杯になる。
智恵理も子供のようにはしゃぎ、アクリルの壁におでこを付けて下界を望んだ。
「ほらっ、ピカデリーサーカス。あたしたちが倫敦に来て最初に戦った場所だよ」
あの時はアイスバーン少佐の指揮で、黒アリ軍団相手にパーフェクト勝利を収めた。
「あっちはUFOの夜襲を撃退したメイフェア」
少佐は飛行物体相手でもレイピアが通用することを、身をもって教えてくれた。
「カナリー・ワーフのあそこ……少佐が回転木馬事件の時に使ったビル街が……」
結局、倫敦の思い出は、全てアイスバーン少佐と直結していることに気付き、智恵理の顔から笑みが消えていった。
おまけに、ロンドン・アイの視界は約40キロメートルである。
頂上近くまで昇ると、遥か西の彼方にウィンザー城が見えてきた。
背後から智恵理を見守っていた隊員たちは、しまったと後悔した。
ウィンザーは智恵理にとって、少佐を失った恨みの地なのである。
エンジェルは口をつぐんで俯き、光は智恵理の背中に手を伸ばそうとして止めた。
ゴンドラカプセルの中に重苦しい沈黙が流れる。
それを破ったのは他ならぬ智恵理であった。
「みんな、あたしやるよ。少佐の思い出の一杯詰まったこの倫敦、命に替えても守ってみせるわ」
智恵理は下界を見下ろしたまま、自分に言い聞かせるように呟いた。
「そしてマザーシップを撃墜して、悪魔どもを地獄へ追い返すの。それが少佐に対する何よりのご恩返しだわ」
※
ロンドン・アイから降りた後、智恵理は用事があるからと言って皆と別れた。
智恵理が向かった先は、ケンジントンにあるEDF戦技研の本庁舎であった。
EDFの戦術と兵器の開発を担当する研究施設である。
自然、携わる業務内容もほとんどがトップシークレット扱いとなっている。
ジーンズ姿の智恵理を見た衛兵は、当たり前のように入り口を封鎖した。
こんな所に用事がある少女とは思えなかった。
肩に担いだゴルフバッグも、危険な臭いを周囲に振りまいている。
智恵理は自分の身分を告げ、技術9課のミラージュ技術士官への取り次ぎを頼む。
衛兵は訝しがりながらも、技9の総務係に来訪者の意向を伝えた。
偏屈者のミラージュ主任に怒鳴られるかもしれないと、若い衛兵は心配した。
しかし少女が纏っている雰囲気は、無視するには余りにも儚げで哀れすぎたのである。
自分にできるだけのことはしてあげようという気になったのは、男として当然のことであった。
ところが衛兵が驚いたことに、5分もしないうちに白衣を着たミラージュ主任自身が受付に現れたのである。
そして少女に向かって飛び付いて首根っこにしがみつくと、摩擦で煙が上がらんばかりに頬ずりした。
「よく来てくれたわ。さぁ、入ってちょうだい」
驚いている衛兵を尻目に、ミラージュは智恵理の手を握って庁舎に招き入れた。
衛兵としては智恵理のゴルフバッグが気になったが、それを言い出せる立場にはなかった。
「聞いたわ、少佐のこと。残念だったわね」
地下施設へと降りるエレベータの中で、ミラージュはお悔やみの言葉を口にする。
「うん……立派な人だった。あれだけの人は、もう出てこないと思う」
智恵理も今更ながらに、不世出の天才と呼ばれたペイルウイングのエースを讃える。
「これからは、後に続くあたしたちが少佐の築き上げた栄光を守り、引き継いで行かなくちゃ」
智恵理は力強く頷いて答えた。
それを見てミラージュがホッと溜息をつく。
「安心した。少佐が亡くなって廃人同然になっちゃったって聞いてたから」
エレベータが開くと、通路の左右にガラス張りのラボが幾つも並んでいた。
外部に対する閉鎖性とは対照的に、内部の研究者間の繋がりは結構オープンなものであった。
互いの研究を公開することによって、専門外の技術者から思いもよらないヒントを与えられることもあるらしい。
様々な兵器の実験をしている技官たちが、通路を進むミラージュに手を上げて挨拶する。
智恵理は技官の中に一人の日本人がいるのを認めた。
年齢は30半ばであろうか、如何にも技術バカといった風貌の中で目だけが異様に光っている。
ある領域に達した天才に共通する、一種の狂気を帯びているようにも思えた。
「あぁ、結城博士? そう言えば、中尉と同じ日本の出身だったわね」
智恵理の視線に気付き、ミラージュが説明する。
「なんでも、前大戦中に弟さんが戦死されたとかで……強力な武器の開発に余念がないの」
博士が手にしている見慣れた銃に、智恵理の目がとまった。
「それじゃサンダーボゥ・シリーズの……?」
智恵理が小さく感嘆の叫びを上げる。
「地底決戦の時、是非とも中尉にってサンダーボゥ20Rの先行試作機を貸してくれたのも博士よ」
巣穴に突入する直前、ミラージュから渡された兵器のうち、ミラージュ5WAYはデータ収集のため回収された。
しかし同時に受け取ったサンダーボゥ20Rは、そのまま智恵理の愛銃になっている。
「20Rの後継機は、射程で2倍、威力は6倍って化物みたいな銃に仕上がるらしいわ」
ミラージュが開発者本人から聞いたデータ諸元を智恵理に披露する。
技術敞で量産に入った20Rの6倍の威力となると、3000dm以上の破壊力である。
これはギガンテスの戦車砲や、次期主力狙撃銃として量産に入ったライジンの威力を上回っている。
それが、あの『伝説の男』の愛銃、ライサンダーFに匹敵する威力であることまでは、智恵理が知る由もない。
「そんな兵器が完成したら、この戦争はもう勝ったようなもんだよ」
「そう。大戦中に、完成したらね」
ミラージュはそんなこと無理だとばかりにクスクス笑う。
智恵理は少佐にこそ、その様な高性能兵器を使って欲しかったと夢想してみる。
視線に気が付いたのか、結城博士が顔を上げ、智恵理に向かってニヤリと笑って見せた。
視線があった瞬間、智恵理の背中に寒いものが走った。
それはアルカトラズで初めてガイスト博士と会った時の第一印象と、余りにも酷似していたのである。
「あたし、マッドサイエンティストに気に入られる運命なのかなぁ」
智恵理がげんなりしたように俯く。
「あら、あたしも中尉のこと気に入ってるけど、マッドじゃないでしょ」
気が付くと、ミラージュがギラギラした目で智恵理を見詰めていた。
※
ミラージュのラボは、一般ラボのフロアから更にエレベータで下がった地下深くにあった。
流石に思念誘導兵器の詳細は、ここでも極秘中の極秘となっているらしい。
飾りっ気のない研究室の奥が休憩室になっており、仮眠用のベッドが置いてあった。
「全部忘れさせてあげる……」
ミラージュが智恵理の首に手を回した。
唇を重ねた智恵理とミラージュがベッドに倒れ込む。
柔らかなスプリングが沈み込み、ギシギシと音を立てた。
互いに舌を絡め合い唾液を交換しているうちに、パンティの中がグショグショになってくる。
ミラージュが白衣を脱ぎ捨てると、パンティ一丁のヌードが現れる。
智恵理ももどかしそうにジャンパーとジーンズを脱ぎ、タンクトップも捨て去る。
パンティは既に使い物にならなくなっていた。
オフェンスのミラージュが、智恵理の胸に飛び掛かりアグレッシブな愛撫を加える。
固く凝った乳首をカリッと囓られ、智恵理がウゥッと顔をしかめた。
それが直ぐに柔らかな舌先と唇を使った責めに代わり、智恵理は甘えたような鼻声を上げてしまう。
執拗な胸への責めが智恵理をトロトロにとろけさせる。
智恵理は自然に膝の裏を抱え込み、M字開脚の体勢でおねだりを始める。
「お願いっ、ミラージュ……早くぅぅぅっ」
おねだり汁が溢れ出し、ヒクヒクと開閉を繰り返すアヌスまでがドロドロになっていく。
「相変わらず汁ッ気の多いアソコね。で、どっち責めて欲しいの?」
ミラージュはわざと智恵理を焦らして、智恵理の泣き出しそうな表情を楽しむ。
「どっ、どっちもぉ〜っ」
遂に智恵理が叫び出す。
「欲張りな中尉さん。オッケーよ」
ミラージュは智恵理の下の唇に口付けすると、上の唇にしたように舌を突き入れて中身を掻き回した。
「ひはぁぁぁ〜っ」
悲鳴を上げた智恵理が腰をくねらせて逃げようとするが、ミラージュがそれを許さない。
「うふふっ。中尉のお汁、とっても美味しいわ」
ミラージュの細い指が包皮を捲ると、一番敏感な部分が固く尖って責めを待っていた。
ソコを軽く舌で突っつかれるだけで、智恵理は軽くイッてしまう。
そのころには、智恵理の主武器であるアヌスが物欲しそうにパクパク収縮を繰り返してしていた。
「意地汚いアヌスね。いいわ、直ぐにお食事させてあげるから」
ミラージュは嬉しそうに笑うと、ベッドの引き出しを探ってペニスバンドを取り出す。
そして素早く股間に装着すると、智恵理の尻の中心に狙いを定めて、一気に貫き通した。
「はぁむぅぅぅ〜っ」
野太いディルドゥが肛門と腸壁を擦り上げ、目の眩むような電流が智恵理の背筋を突き抜ける。
「ふ、太いぃぃぃ」
恐怖感からディルドゥの動きを止めようとして肛門が締め付けられ、それが更なる快感を智恵理にもたらす。
「ひぃっ、ひぃぃぃっ」
溢れかえる汁が潤滑剤となり、肛門の締め付けがキャンセルされる。
ディルドゥの出入りが劇的にスムースになった。
小柄なミラージュが智恵理に大きくのし掛かり、猛然とラッシュを開始する。
「ひやぁっ、ひぃやぁぁぁぁ〜っ」
めくるめく甘美な疼きが、大波となって智恵理をさらっていった。
※
それから小一時間の間に智恵理は5度果て、反撃を喰らったミラージュも2度の失神を喫していた。
「ありがと……」
礼を言うのも変だと思ったが、智恵理の口から自然と感謝の言葉がでていた。
「素敵だったわ」
ミラージュは智恵理の瞳をうっとりと見詰めたまま返答した。
智恵理もミラージュの目を見据えて、戦技研を訪れた本来の用件を切り出した。
「最新型の思念誘導兵器、黙って今すぐ貸してちょうだい。お願い、何も聞かないで」
智恵理は口を開きかけたミラージュを制すると、両手を合わせて頭を下げた。
「急にそんなこと言われたって……」
ミラージュが返答に窮したように眉をひそめる。
ストックしてあるサイコ兵器は、常時使用可能な形で保管されている訳ではない。
必要があるたび組み立てて、念入りな調整を行う必要がある。
サイコ兵器は非常にデリケートな内部構造をしており、発射可能な状態にするには丸一日かかる。
さぁ出せと言われて、直ぐに提供できる通常兵器の類とは根本的に違うのである。
「悪いけど、完成したサイコガンは全部、戦技研のラボでばらして組み直し中なの。直ぐに撃てる物は1丁も無いわ」
ミラージュは智恵理ががっかりする顔は見たくなかったが、正直に答えるしかなかった。
だが、智恵理の反応はミラージュが想像していたものとは違った。
智恵理はベッドから身を起こすと、プイッと横を向いて飛び降りたのである。
ミラージュは一瞬、智恵理を怒らせてしまったと後悔し、引き止めて謝罪しようとした。
しかし、ミラージュが謝るより早く、智恵理はゴルフバッグを手にしてベッドに戻ってきた。
「組んであるサイコガンなら、直ぐに撃てるようにできるんでしょ?」
智恵理は呆気にとられたミラージュの目の前で、ゴルフバッグの中身を取り出した。
それは光のロッカーから無断で持ち出したサイ・ブレードであった。
「これの構造調査と交換条件よ。さぁ、あたしには時間がないの」
※
「すごい、サイキック・ジェネレータの出力がこんなに……ダイレクト・デトネータのキャパシティも……」
智恵理の持ち込んだサイ・ブレードの内部構造を調査したミラージュは、先進の技術に驚愕した。
随所に自分の技術を凌駕したサイコ・テクノロジーが使われている。
何より、使用後は軽い調整だけで、何度でも使えるメンテナンス・フリーの構造であることは驚異に値した。
高性能で壊れないというのは、日本の工業製品に共通するセールスポイントである。
現時点では、地上で最も優れたサイコ兵器であると認めざるを得なかった。
しかし、性能とは別に、サイ・ブレードが意外に雑な作りであることも分かった。
特に、自分が苦労して開発したマイクロ・リニア・ブースターの回路がバッサリと省略されているのを見て、ミラージュは顔色を変える。
「中尉、この銃を撃つのは控えた方が……」
ミラージュが青ざめた顔を智恵理に向けた。
「余りにも性能向上に目を向けるばかり……シューターのことを……」
最高機密に関わることなので、ミラージュはそれ以上続けることはできなかった。
マイクロ・リニア・ブースターは、エネルギーを昇圧してコンプレッサーに送り込む増幅器である。
それはミラージュガンが発射に必要とする微弱なエネルギーに、実用レベルの破壊力を持たせる、まさに同銃の心臓部であった。
そして、サイコ兵器に共通するエネルギー源は、この世にたった一種類と限られていた。
「心配してくれてありがとう。けど、マザーシップを撃墜して、少佐の仇を討つためにはこれしかないんだ」
智恵理はミラージュに向けて精一杯の笑顔を見せた。
無数に襲いかかってくるUFOの群れをかいくぐり、マザーシップにとどめを刺すためには既存の兵器では無理がある。
自動照準、自動追尾能力を持つ、思念誘導兵器に頼るしかなかった。
「あたし、マザーシップを撃墜したら、少佐の生まれ故郷のバーデン・バーデンに行くわ。そして人類の勝利を笑顔で報告するの」
智恵理の決意のこもった目を見ては、ミラージュも止めることはできなかった。
「私じゃ……ダメなのね……」
ミラージュは寂しそうに目を伏せた。
作者様乙です。
智恵理の決意に感動しました。
参謀30フラグきたな
マザーシップまでwktkが止まらない
557 :
名無しさん@ピンキー:2007/02/03(土) 21:33:58 ID:4EDXelrD
wktkが止まらない
マスレイ、イクシオンの出番は無いんかな…?
マスターレイピアが出るとしたら皇帝都市前くらいじゃないか。
絶対包囲とかどんな悲惨なことになるんだよ
その頃には登場人物ほぼ壊滅してそうだな
全軍突貫ガンパレード
562 :
名無しさん@ピンキー:2007/02/07(水) 17:53:12 ID:/a0Kln2s
GJ!!!
保守
ほ
テラソラスのレイプマダー?
テラソラスをレイポ
567 :
名無しさん@ピンキー:2007/02/12(月) 10:44:18 ID:J9AOF7Qu
ほ
し
ゅ
の
あ
き
大集結の時には既に世界が壊滅している状態だからな
灼熱、絶対包囲は連続してペリ単騎だろう
E!
D!
え
_ _ .' , .. ∧_∧
∧ _ - ― = ̄  ̄`:, .∴ ' (
>>576)
, -'' ̄ __――=', ・,‘ r⌒> _/ /
/ -―  ̄ ̄  ̄"'" . ’ | y'⌒ ⌒i
/ ノ | / ノ |
/ , イ ) , ー' /´ヾ_ノ
/ _, \ / , ノ
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j / ヽ | / / ,'
/ ノ { | / /| |
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`、_〉 ー‐‐` |_/
なにこの流れwww
579 :
576:2007/02/14(水) 22:44:45 ID:icacD89c
何俺殴られた?
F!
新着レスの数で続きが来たのかと思って開いてみたら……
( ゚д゚ )
まさかこれは一年越しでやってるのか・・・!!!?
E!
D!
え
ふ
F
サ
ン
ド
ロ
ッ
ク
_ _ .' , .. ∧_∧
∧ _ - ― = ̄  ̄`:, .∴ ' (
>>595)
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j / ヽ | / / ,'
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`、_〉 ー‐‐` |_/
>596隊員!罠です!後ろからも>595が!
※
同じ頃、ドーバー海峡を挟んだ対岸のカレーを、高速列車ユーロスターが東へと疾走していた。
EDF最高司令官、アン王女率いる前線視察団を乗せた特別列車である。
いよいよ王女自らが囮となってマザーシップを釣り出す、ビッグハント作戦が発動されたのである。
王女が前線視察を装って外遊に出掛け、マザーシップを誘き出す。
そしてマザーシップが現れれば、列車に潜ませていた大部隊で一気に葬り去る、逆奇襲作戦であった。
無論、安全対策として、アン王女の乗る車両には可能な限りの防爆装備が施されている。
その前後の車両には、偽装された3個大隊約600名の陸戦兵が満載されていた。
旅行者に扮して一般車両に乗り込んだ隊員たちには、事前に積み込まれていた銃器類が配備済みである。
完全装備の陸戦兵たちは血に飢えた形相で、その時がくるのを待っている。
マザーシップを撃墜した者には英雄の称号が与えられるのだ。
それは戦いを生業とする兵士なら、誰もが欲する最高の名誉であった。
「結局、私が出ることになったか」
アン王女は少し早めのハイ・ティーを楽しんでいるところであった。
「例のペイルウイングが潰れるとは、計算違いでした」
ティータイムに付き合わされた戦務参謀がペコペコと頭を下げる。
「よいわ、元より覚悟の上。それより敵の動きはまだ掴めぬのか」
王女はティーカップを優雅に啜って、目だけを情報部長に向ける。
「今のところ、なんの兆候も掴めておりません」
情報部長は申し訳なさそうに首を振った。
極秘のうちに王女が倫敦を出発する。
そして迂闊な前線基地の司令部が、その情報を暗号も遣わず垂れ流しにする──陽動作戦は完璧な筈だった。
「まさかと思いますが、作戦内容が漏れているのでは……」
戦務参謀はスパイの存在を憂慮し眉をひそめた。
EDFのあらゆるレベルに、エイリアンのスパイが潜入している形跡がある。
参謀本部に敵の手先がいないという保証はどこにもなかった。
「スパイというと、作戦部の一条補佐官が地底決戦の陽動部隊を指揮している時に、何者からか狙撃を受けたとか」
アン王女がチラリと戦務参謀を見る。
「どうも、それが味方から放たれたものらしい……」
王女が言葉を続けようとした時、計器を監視していた情報将校が大声を上げた。
「空間電磁波に異常あり、NWからSE方向っ。続いて地磁気に大幅な乱れっ」
「釣れたっ」
アン王女が短く、鋭く叫ぶ。
しかし続く情報将校の叫びが、王女を絶望の淵に追い込んだ。
「倫敦です。敵の出現位置は倫敦上空っ」
※
夕闇迫る倫敦上空を巨大な円盤が遊弋していた。
遙か銀河の果てからやって来た侵略者の母船、マザーシップである。
その周囲を小型UFOの群が警戒飛行を続け、一大連合部隊の態をなしていた。
敵最後の連合部隊が向かう先は倫敦の西の外れ、ハイドパークである。
そこに一人の少女が彼らを待っていた。
彼らの立てた作戦をことごとく頓挫せしめ、彼らの送り込んだ全ての決戦兵器を退けた憎い仇が。
彼らは何が何でも少女を葬り去るつもりであった。
宇宙の星々を制圧し、無敵と謳われた彼らの矜持に懸けて。
そして彼らが敬愛し、宇宙で唯一無謬と崇め奉る皇帝陛下の御為にも……。
負ける訳にはいかなかった。
負ける筈がないと信じていた。
※
「来た」
ハイドパークの中心に立ち、ひたすら敵を待っていた智恵理の眉が跳ね上がった。
皮膚感覚が大気を震わせる微弱な振動を捉えたのだ。
脳波活性剤の影響で、智恵理の脳下垂体は熱くたぎっている。
マーヤ流に言うと、サハスララ・チャクラを強制的に開いた形になり、思念波の出力は最大になっていた。
智恵理は額当ての鉢巻きをキリリと締め直し、愛用のヘルメットを被る。
エアが注入され、クッションの効いた内装が頭部を適度に締め付ける。
「よしっ」
智恵理は地面にしゃがむと、サンダーボゥ20Rを拾い上げて肩に背負い込む。
そして今一丁の大型銃、サイ・ブレードを持って立ち上がった。
「マザーシップの他、ファイターUFO20」
見ずとも敵の陣容が手に取るように分かった。
やがて、夕日を浴びオレンジ色に染まったビル街の向こうから、敵の巨大母船が姿を現せた。
その余りの巨大さに、智恵理は圧倒されかかる。
一人では勝ち目は無いように思えた。
しかし、これは詰まらぬ意地が元で、愛する少佐を見殺しにした自分への罰なのである。
マザーシップを落とすことさえ出来れば、自分の生死は問題外であったのだ。
「それじゃあ、そろそろイクよ」
智恵理はサイ・ブレードを手に、マザーシップへ向かって駆け出した。
「起てっ」
智恵理の思念を受け、サイ・ブレードの機関部が起動する。
ジェネレータが唸りを立てて回転し、LEDが次々に点灯していく。
コンプレッサで圧縮されたエネルギーがサーバを満たすと、グリーンのLEDが輝き、発射態勢が整ったことを知らせる。
最初の狙いは、8基のジェノサイドキャノンである。
ジェノサイドキャノンを放置したままでは接近することは出来ない。
それに一度発射を許せば、倫敦の街は焼け野原にされてしまう。
「撃てぇっ」
銃口から鮮やかなピンク色のブレードが飛び出た。
「斬れぇーっ」
地上スレスレを飛んだ光の刃は、マザーシップの真下で急激なホップを見せた。
激しい炸裂音と共にピンク色の大爆発が起こる。
智恵理が放った初弾は、狙い違わず1基のジェノサイドキャノンに命中した。
先制攻撃を受け、護衛のUFOが動き始めた。
「斬れぇぇぇーっ」
続く第2弾がUFOの合間を縫って飛び、薄煙を上げるジェノサイドキャノンに痛撃を与えた。
ジェノサイドキャノンの付け根から爆炎が上がり、ゆっくりと脱落を開始する。
地面に落下したジェノサイドキャノンは衝撃で大爆発を起こした。
「あと7つ」
智恵理は次の突起に意識を移し、第3弾、第4弾を続けざまに発射する。
2つ目のジェノサイドキャノンが炎に包まれ、大爆発を起こして四散した。
「あと6つ」
その頃になるとUFOファイターも智恵理の位置を正確に掴み、一気に襲いかかってきた。
UFOの群が投網となり、智恵理を包み込むように上空から覆い被さってくる。
その機動力は、かつてアルカトラズで戦った時よりも格段に優れている。
だが今の智恵理には、UFOの攻撃軌道など丸見えであった。
UFO編隊の未来位置を予測すると、死の投網から無造作に抜け出す。
そして急降下してきたUFOに向けて、サンダーボゥ20Rをぶっ放す。
ガンガンと火花が上がり、浮力を失ったUFOが脱落していく。
上空に迫った脅威を振り払い、智恵理はマザーシップに向かってダッシュする。
そして再度サイ・ブレードに持ち替えると、3本目のジェノサイドキャノンを脳裏に描いて発射した。
「斬れぇっ」
銃口から飛び出した光の刃はUFO編隊の間を縫うように飛び、ジェノサイドキャノンに命中した。
変幻自在の軌道を見せる光の刃は、身を挺して母船を守ろうとするUFOを置き去りにする。
マザーシップの底面から火柱が吹き上がり、3本目のジェノサイドキャノンが抜け落ちた。
母船を守るためには、シューターを抹殺するしかないと判断したUFOは、いよいよ智恵理の捕捉に全力を傾けてきた。
密集隊形をとり、数十の砲門を揃えたUFO編隊が、智恵理を一気に押し潰そうと被さってくる。
「この瞬間を待ってたのよ。斬れぇーっ」
編隊のど真ん中に飛び込んだブレードが大爆発を起こす。
その爆風が周囲のUFOを巻き込んで、密集隊形の編隊に大被害を与えた。
破壊は免れたもののコントロールを失った一団が、付近のビル街へと近づく。
「斬れっ」
今度はビルに命中したブレードが、その爆風で多数のUFOを薙ぎ払った。
討ち漏らしたUFOはサンダーボゥ20Rでスウィープアウトする。
アッという間に20機のUFOは殲滅されていた。
「これでゆっくりマザーシップに専念できる」
智恵理は振り返って上空を睨み付ける。
3本のキャノン砲を失ったとはいえ、マザーシップ本体は未だ健在であった。
「待ってなさいよ。今あたしが決着付けてあげるから」
智恵理はサイ・ブレードを構え直すと、マザーシップ目掛けて走り出す。
『いい気なモンだわ』
智恵理は最初その声を幻聴だと思った。
全てのチャクラが開きトランス状態に陥ると、自分の雑念が心の声となって聞こえてくることがある。
『大事な上官、見殺しにしておいて』
『今度は手柄の独り占めかしら』
思わずドキリとした智恵理が足を止めた。
今度の声はハッキリとした気配──質量を持ったプレッシャーを伴っていたのだ。
振り返ると、正装したレディと若い尼僧が立っていた。
「ゴメン、ひょっとして傷つけちゃった?」
尼僧が眉をひそめて泣き出しそうな顔になる。
「でも、全部ホントのことでしょ」
尼僧の表情がクルリと一変し、魔女のようにニタリと笑う。
もう一方の淑女が、餌を見つけた狼のように、ペロリと舌なめずりするのが帽子のベール越しに見えた。
「エイリアン・ウォーシッパー……」
確認するまでもなく、伝わってくる波動がそう告げていた。
「ごきげんよう、チェリーブロッサム中尉。わたくしはイングリッド。一応、男爵令嬢ですのよ」
イングリッド嬢が優越感タップリに名乗りを上げる。
「あたし、春嶺尼ちゃん。中尉と同じ日本人だよ」
尼僧も自己紹介して、媚びを含んだウィンクを寄越す。
見掛けとは裏腹に、2人が相当危険な存在であることは、伝わる波動の強さで理解できた。
悪魔の姉妹は勿論のこと、2人揃ってならあのアスラをも凌ぐ強烈な邪念である。
「邪魔しないでちょうだい。今はアンタたちに構っているヒマは無いの」
智恵理は2人を睨み付けながら、ジリジリと立ち位置をずらしていく。
「そんな風に思われてるんて……春嶺尼ちゃん、悲しいよぉ。うぇ〜ん」
春嶺尼がみえみえのウソ泣きで智恵理をからかう。
「あら、邪魔なんかするつもりはなくってよ」
イングリッド嬢がオホホと高笑いする。
「アイスバーン少佐に続いて、部下のあなたとも仲良くしたかっただけですのに」
智恵理の足がピタリと止まった。
「どういうこと……」
押し殺したような声で智恵理が問い質す。
「あなたの大事な少佐殿のお味……忘れられないわ」
「中尉のお汁もさぞかし……」
次の瞬間、智恵理の頭のブレーカーが飛んでいた。
眼球の毛細血管が破れ、白目が真っ赤に充血する。
頭皮の筋肉が毛根を収縮させ、髪の毛がザワザワと揺らめく。
噛みしめた歯の隙間から、獣じみた唸り声が洩れた。
「お前らか?……お前らが少佐を殺したのか?」
智恵理がしゃがれた声で2人を詰問した。
それで全て合点がいった。
あの少佐が、大グモの10や20を相手にして、後れを取るはずがないのだ。
凶事の陰にはエイリアン・ウォーシッパーの暗躍があったのである。
「お前ら許さない……2人とも……殺す……」
怒りで我を失った智恵理はマザーシップの存在も忘れ、ゆっくりと2人に近づいていく。
沸騰した頭からは怒気が揺らめき、網膜には2人の女しか映っていなかった。
対する異星人の信奉者たちは余裕の構えであった。
智恵理の意識を戦略目標から逸らさせるという目的は既に果たした。
おまけに智恵理の理性は吹き飛び、脳波は大きく掻き乱れている。
それこそが彼女たちの狙いであった。
「そこ、動かないで……今、少佐の元に送ってあげるから」
智恵理の口元が引きつったように歪む。
「そしたら、あの人にキッチリ謝罪するのよ」
サイ・ブレードの銃口が2人に突き付けられた。
この距離では自動追尾の光の刃は避けきれない。
少佐の仇を討つことは容易いはずであった。
しかし智恵理の敵は2人のエイリアン・ウォーシッパーだけではなかったのだ。
サイ・ブレードのLEDが次々に消え、機関部の動きがストンと落ちた。
「……?」
智恵理の心は今、嵐の中の枯葉のように激しく揺れていた。
薬効で安定させていたシーター波が大きく乱れ、思念波の流出が止まった。
生まれて初めて覚えた殺意が、脳下垂体をオーバーヒートさせてしまったのである。
その結果、サイ・ブレードは冷徹な反応を示した。
一番必要な時にあって、智恵理を主人たるに値せずと判断を下したのである。
「ひゃははははっ、どうしたのかしら」
「やだぁ。イク寸前に、バイブの電池が切れたみたいな顔してるぅ」
異星人の信奉者たちが腹を抱えて笑い転げた。
サイ・ブレード背信の理由を悟った智恵理は、必死で冷静さを取り戻そうとする。
しかし、一度うねった大波は簡単には鎮まりそうもなかった。
落ち着こうと焦れば焦るほど、その焦りが更に精神の乱れを産む。
更に目の前の敵が智恵理の心に揺さぶりを掛けてきた。
「あぁ〜ん、早く来てぇ〜ん」
「も、もう待ちきれないのぉ」
2人は向き合うと、互いを抱きしめて濃厚なキスを智恵理に見せつける。
「こんなんじゃやっぱり駄目ぇ」
「あぁ〜ん、少佐のキスが忘れられないぃ〜ん」
2人が智恵理に向かって流し目を送った。
怒りが頂点に達した智恵理は、役に立たなくなったサイ・ブレードを投げ捨て、サンダーボゥ20Rに持ち替える。
「慌てんじゃないよ、このお調子者が」
イングリッド嬢の口調が蓮っ葉なものに変わる。
なじられた智恵理は反射的にトリガーを引き絞った。
目も眩むような稲妻の束がマズルから飛び出る。
しかし至近距離であったことがかえって災いした。
2人は驚異的な反射神経で、拡散前の細い稲妻をあっさりかわしてしまった。
「チィッ」
智恵理は腰を落とすと春嶺尼に狙いを絞り、サンダーボゥ20Rを連射する。
「ひゃははははぁ〜っ」
春嶺尼は高らかな笑い声を上げて稲妻をかわしていき、瓦礫の陰に飛び込んだ。
一瞬後、黒い全身タイツに身を固めたエイリアン・ウォーシッパーが飛び出てくる。
「がっつくんじゃないよ。アンタの相手は、後ろのお兄さんたちがしてくれるさ」
智恵理が振り返ると、どこから湧いて出たのか、新たなUFOの編隊が背後に迫っていた。
その機数は10機。
2人のエイリアン・ウォーシッパーを相手にしながら戦うには絶望的な数である。
しかも、例の原因不明の疲労感が、ジワジワと魔の手を伸ばし始めていた。
智恵理は恥も外聞もなく脱兎の如く逃げ出した。
新作キタ-------(^・ω・)
>その前後の車両には、偽装された3個大隊約600名の陸戦兵が満載されていた。
>完全装備の陸戦兵たちは血に飢えた形相で、その時がくるのを待っている。
想像しただけでチンコ勃った
審判の日キターーーーーー
出し抜かれた陸戦達は後半で参戦するものと期待
あ、熱い……
そのまま一気にマザーシップやって欲しかったけど、そうはいかない現実ですね
バイブの電池切レタァ────ッ
今、読んだ。
職場で盛り上がった。
614 :
名無しさん@ピンキー:2007/02/20(火) 22:45:18 ID:r4zn8Unp
お昼前にネットで、しかもエロパロで盛り上がる職場って・・・
楽しそうで羨ましいなw
会社でエロパロかい
って思ったのは俺だけでなかった様だな
616 :
612:2007/02/22(木) 13:57:23 ID:gZjZkBu1
昼休みが交代制で11:30から1時間なんだ
で、周りにEDF好きが何人かいるから
盛り上がってるという状況なのさね
>>616の職場仲間「「うおおおおおおおおおおEDF!EDF!」
上司「やかましいわアホ」
>>616「EDF!EDF!」
上司「黙れボケ」
>>616「EDF!EDF!」
上司「EDF!EDF!」
いぃぃぃぃぃぃぃ
でぃぃぃぃぃぃぃ
えぇぇぇぇぇぇぇふ
621 :
名無しさん@ピンキー:2007/02/24(土) 01:35:46 ID:C3VumFzj
今晩中に来るかな
早すぎないか?
2、3週で更新って感じだと思ってたが
違う、最大の敵「圧縮」の話
今回は助かったけど、一度負けてるからなぁw
あ、成る程
うおおおおおおお!やらせるかああああああ!
626 :
613:2007/02/25(日) 05:25:09 ID:QF1CEnQL
>>616 凄い。職場で
>>612ひとり盛り上がってたと思ってたが、
本当に職場が盛り上がってたとは・・・・
伝説の男がアイスバーン様を助けた
そんな夢を見たんだ・・・どう思う?
アリだぁーッ!
賛(成)だぁーッ!
ほす
倫敦を守れ!
俺は保守する!
ほす
634 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/06(火) 00:39:54 ID:QANhat3A
ん、なんだあれは
蟻の体液か?
さ、酸だァーーーッ!
「しまった……あいつらに、まんまと乗せられた」
智恵理は怒りに我を忘れ、本来の戦略攻撃目標を見失っていたことを後悔する。
サイ・ブレードに背かれた智恵理に、もはやマザーシップを沈める手段はなかった。
実際のところ、ジェノサイドキャノン3基を潰した辺りが、今の彼女の限界なのかもしれない。
「マザーシップを叩き落とすどころか、少佐の仇も討てないなんて……」
怒りと悔しさが入り混じり、涙となって両目から溢れてきた。
逃げる智恵理の頭上から、ファイターUFOの編隊が被さってくる。
「まずいっ、数が多い」
焦った智恵理は、ユニットを噴かせて離脱を図る。
しかし改良を重ねたUFOは、初期型とは比較にならない高機動力を示した。
一旦間合いを取り、中間距離から攻撃するつもりであったが、UFOは真後ろにピッタリ食い付いて追随してくる。
「振り切れない」
バーチャルスクリーンのエナジーゲージがグングン下がっていく。
逃走を断念した智恵理はユニットを切り、地上戦に切り替える。
今度は完全に目視による射撃のため、思念波を利用した見越し照準が効かない。
空を飛ぶUFOを狙い、機体のど真ん中に命中させるのは至難の業である。
しかもサンダーボゥ20Rの稲妻は、20本まとめて着弾しないとスペック通りの威力を発揮しない。
だが、四方八方から狙い撃ちされる中で、ゆっくり照準する余裕などあろう筈もなかった。
「くっ……動きが……速いっ……」
思念力を失った智恵理の練度は、せいぜい中堅どころといったものである。
智恵理は今更ながら、自分をエースたらしめている思念力のありがたみを知った。
隙を突いて撃ちかけられたパルスレーザーが、智恵理の脇腹にヒットする。
「ギャッ」
一条のレーザーがペイルスーツを貫き、下に着込んだボディアーマーに食い込む。
ボディアーマーの表面で防御パッドが弾け飛び、レーザーの熱と衝撃を分散させた。
宇宙繊維で織られたフィルム状のパッドは物理攻撃を吸収し、粉々に弾けることによって着用者の身を守る。
パッドの原料は巨大生物の死骸から採取されたものであり、撃破者に対して優先的に配布されている。
高スコアを誇る智恵理の体は多重装甲に守られているものの、攻撃を喰らう度にパッドは確実に失われていく。
同じ箇所に何度も攻撃を喰らうのは危険であった。
しかも、防御パッドは衝撃の全てを引き受けてくれる訳ではない。
吸収し損なった何パーセントかの打撃は、着用者の肉体が被ることになる。
徐々に蓄積されていくダメージは、筋肉や骨格、そして内臓に著しい負担を掛けていく。
急所をピンポイントで狙われ続ければ、アーマーより先に肉体の方が参ってしまいかねないのだ。
智恵理は小刻みにユニットを噴かせ、必死でUFOの攻撃を避け続ける。
そしてUFOが射撃に入る際に見せる一瞬の隙を突き、的確な攻撃を浴びせる。
稲妻の直撃を受けたUFOが、爆発を起こして地面に叩き付けられた。
しかし所詮は多勢に無勢であった。
能力を失った上、失神寸前の疲労感に苛まれる智恵理には、UFOの一斉攻撃を凌ぎきる力は無かったのだ。
UFOが智恵理を一気に葬ろうと、輪殺フォーメーションをとる。
全方位からレーザー砲を突き付ける陣形は、まさに集団レイプそのものであった。
「ヤバいっ、囲まれた」
パルスレーザーが前後左右から一斉に発射され、智恵理の体を大きく吹き飛ばした。
「あぐぅぅぅっ」
後頭部から地面に叩き付けられ、智恵理が低い呻き声を上げる。
目の前の景色がグニャリと歪み、意識が遠のいた。
「……これで……お終い……なの……?」
仰向けになった智恵理の視界一杯に、夕焼け空が広がっていた。
こんなに綺麗な夕焼けを見たのはいつ以来だろうか。
智恵理は、ふとペ科練の放課後を思い出した。
補習の講義、売店での買い食い、当番日誌の提出、それに重いリュックを背負っての自主トレ……。
まだペ科練を卒業してから半年も過ぎていないのに、何故か遠い昔の思い出のように感じられた。
「お腹空いちゃったな……」
智恵理がポツリと呟いた。
足元の方から、マザーシップの姿がゆっくりと視界に入ってくる。
その下部には、まだ5基のジェノサイドキャノンが健在であった。
敵はこの地にジェノサイドキャノンを撃ち込んで、街もろとも智恵理を葬り去るつもりなのだ。
春嶺尼とイングリッドもそれを承知しているのか、既にエリア外へ離脱しているようであった。
5基のジェノサイドキャノンの先端に灯りが点る。
それが智恵理の目には、逆さにした蝋燭のように映った。
その蝋燭から熱く溶けた蜜蝋が落ちる時、倫敦の街は地球上から消え去るのである。
最初、小さな点であった光はみるみる膨張し、同時に輝きを増していく。
「少佐……今、行きますから……」
覚悟を決めた智恵理が至福の表情になった。
体中の筋肉が弛緩し、股間から漏れ出した大量の水分がアスファルトを変色させていく。
死を前にして、全ての欲望から解放された智恵理は、徐々に思念力が回復してくるのを感じた。
その途端、マザーシップとは逆──自分の頭上方向からエリアに進入してくる集団が脳裏に浮かぶ。
「敵の増援……?」
この期に及んで、幾ら敵が増えようが関係はなかった。
間もなく痛みも苦しみも伴わない、確実な死が訪れるのである。
「約束守れなかったけど……待ってて……少佐……」
意識を混濁させた智恵理が、空に向けて手を伸ばす。
茜雲の向こう側に、笑顔のアイスバーン少佐が待っているような気がした。
その時、突如として天空を切り裂いた5本の閃光が、朦朧とする智恵理を現実に引き戻した。
「………?」
夕焼け空を6つに分断した黄緑色の軌跡は、マザーシップのジェノサイドキャノンに襲いかかった。
「LRSL−36?」
智恵理は首を反り返らせて背後を確認する。
狙撃用レーザーライフルを構えたペイルウイングチームの姿が見えた。
「ライトニング大尉」
それはペガサス3による直接支援攻撃であった。
遅ればせながら、マザーシップ迎撃のため出撃したペガサス隊が、ようやく現地に到着したのである。
ジリジリとレーザーに灼かれたジェノサイドキャノンが、やがて高熱に耐えきれずにオーバーヒートした。
膨張の過程にあった光の球体が、エネルギーの供給を絶たれて虚しく萎む。
キャノンの付け根から紅蓮の炎が吹き上がり、5本同時に基部から抜け落ちた。
巨大な蝋燭がスローモーションを見ているように落下してくる。
その時になって、智恵理は初めて死の恐怖を感じた。
「ひっ……」
数十秒後に起こるであろう惨劇を思い描き、智恵理は固く目を閉じた。
「やだっ、死にたくないっ」
そう思った瞬間、体が浮遊感に包まれた。
体が空気を切り裂くのを感じる。
そっと目を開けると、巨大な乳房の谷間に顔が埋もれていた。
目だけを動かして上を見ると、レギー・ベレッタ特務曹長の不機嫌そうな顔があった。
レギーは無言のまま智恵理を抱きしめ、エネルギーの続く限りマザーシップから離れる。
そして着地すると同時に、智恵理に覆い被さるように地面に伏せた。
ズズンと腹に応える衝撃波と、耐え難い熱波が交互に襲いかかってくる。
それは5本のジェノサイドキャノンが起こした大爆発の余波であった。
数多くの都市を焼き払ったエイリアンの切り札が、遂に無力化された瞬間であった。
「レギー、ごめん」
巨体の特務曹長が身を起こすと、智恵理は小声で謝罪した。
こわごわ見上げると、レギーは口をへの字に歪ませたままであった。
「なに勝手なことやってんです。アンタ一人で侵略者と戦ってるんじゃありませんぜ」
レギーの目が本気で怒っていた。
「敵と刺し違えて、少佐殿が喜んでくれるとでも思っているのなら大間違いだ。アンタ、少佐殿から何を学んだんです」
目先の勝利のために、命を引き替えにするような危険は冒さない。
それはアイスバーン少佐から受けた最初の教訓であった。
「ほんと……あたし、何やってんだろ……」
自分がやろうとしていたことは、自暴自棄になった挙げ句の自殺行為であった。
しかも怒りの余り我を忘れ、当初の戦略目標を見失うとは、軍人として恥ずべき失敗である。
こんな調子で再会したとしても、少佐は決して許してくれなかったであろう。
仰向けに寝たまま、智恵理の目から涙が溢れてきた。
「これっきりにして貰いますぜ。中尉を守るのがあたしの役目と言っても、これじゃ命が幾つあっても足りませんや」
レギーが苦笑いしてM2レイピアを差し出す。
「さぁ、まだ終わっちゃいません。奴を叩き落として、少佐殿の墓前に供えてやりましょうや」
智恵理がレイピアのグリップを握ると、レギーが右腕一本で軽々と引き起こしてくれた。
そこに膨れっ面の光が突進してくる。
「先輩っ。またあたしの専用銃、勝手に持ち出したでしょっ?」
光が加速管の破損したサイ・ブレードを智恵理の鼻先に突き付けた。
智恵理が投げ捨てた時に壊れたのか、流れ弾を喰らって破損したのか。
サイ・ブレードは発射不可能な状態になっていた。
「ゴメン……でもね、アンタがそんなモノ、撃つ必要はないんだよ」
智恵理は素直に謝り、そして優しい口調で後半部分を付け加えた。
光は予想していたのとはまるで違う先輩の態度に面食らう。
「どうせ、あたしはコレの撃ちかた知らないから、別にいいんだけど……一言、声くらい掛けてよね」
光はブツブツ言いながらも、仕方なくサイ・ブレードを引っ込めた。
「笑えねぇコントはそれくらいにして。そろそろ、あのデカいのを殺るとしようぜ」
代わってエンジェルが智恵理にサンダーボゥ20Rを差し出す。
「中尉は孤児のアタシを認めてくれた最初の上官だからな。こんなところで潰れて貰っちゃ困るぜ」
そう言ってエンジェルは照れ臭そうに笑った。
その言葉に、智恵理は自分の本分を思い出す。
自分は彼女たちを率いる小隊長なのである。
将校として部下を指揮し、戦功を上げさせ、そして無事にこの場から生還させる義務があるのだ。
そう思えば、滅多なことで死ねるものではなかった。
「今、ゲイロード中隊が、エリアB2でUFOの編隊を引き受けてくれています」
レギーが詳しい戦況を説明してくれた。
改めて上空を確認すると、先程まで乱舞していたUFOの姿が見えなくなっていた。
智恵理がマザーシップに専念できるように、ゲイロード中隊が別のエリアまで誘致してくれたのである。
「ライトニング中隊が支援してくれる算段になっていますから、中尉は1中隊を指揮してマザーシップに直接攻撃を」
その命令は、指揮官代行であるゲイロード少佐の、智恵理に対する好意であった。
マザーシップを撃墜し、アイスバーン少佐の仇を討てというのである。
1中隊の生き残りは智恵理以下、光、レギー、エンジェル、マリンカそしてフェアリーの僅かに6名である。
「みんなの命、預かったよ」
智恵理の言葉に全員が頷いた。
智恵理は首を巡らせて、上空を漂うマザーシップを睨み付ける。
サンダーボゥの射程は140メートル。
地上から撃ったのでは、マザーシップの高度にはまるで届かない。
有効打を放つには、ギリギリまで接近して空中戦を挑むしかなかった。
「イクよぉーっ」
真っ先に走り出した智恵理を部下たちが追いかける。
それを待っていたかのように、マザーシップ本体に装備された無数の砲台が、迎撃の光弾を吐き出し始めた。
まるで発狂したような激しい射撃が、光の奔流を作って智恵理たちを遮る。
まともに一撃を浴びたマリンカ伍長が後方に吹っ飛ばされた。
小柄なロシア娘は、マネキン人形のように転がりながら遠ざかっていく。
「マリンカッ」
智恵理は振り返って安否を確認するが、立ち止まることは許されない。
続いてフェアリー伍長の体が前のめりに崩れる。
妖精のように可憐な顔が、激痛のために歪んでいた。
「くぅっ」
智恵理は奥歯を噛みしめて、個人的な感情を抑え込んだ。
今は2人の無事を祈ることしかできない。
心を鬼にして、視線をマザーシップに戻す。
憎いマザーシップに向けて、黄緑色の閃光が突き刺さった。
ライトニング中隊の支援射撃が始まったのである。
ロングレンジ・レーザーライフルがハリネズミのような砲台を灼いていくが、余りにも効率が悪い。
それでも敵弾の照準が分散されたため、弾幕の密度が幾分和らいだ。
「いっけぇぇぇ〜っ」
ユニットを全開にさせた智恵理が、急上昇でマザーシップに肉迫する。
そして、手にしたサンダーボゥ20Rを驚異的な速さで連射した。
青白い稲妻が底部装甲に突き刺さるが、マザーシップはビクともしない。
しかも飛びながらの攻撃では、射撃の機会は絶望的に短かった。
たちまちユニットが緊急チャージに入り、智恵理が虚しく緩降下を開始する。
無防備に降下する智恵理に、マザーシップの直掩UFO部隊が襲いかかった。
「中尉を援護しろっ」
レギーの指示で、エンジェルのサンダーボゥ20がUFOの編隊を蹴散らす。
駆けながらの射撃は不正確であったが、数機は喰ったようである。
「次ぃっ。エンジェル軍曹、行くぜぇっ」
エンジェルがダッシュの余力をかって、ユニット全開で飛び上がる。
マザーシップの底部がみるみる視界一杯に広がっていく。
「死ねぇぇぇっ」
エンジェルの銃が唸りを上げるが、稲妻はやはり装甲の表面を流れてしまった。
連射性能に劣るサンダーボゥ20では、サーバー容量の半分を撃ちきらないうちにユニットの限界が訪れる。
「続いて、ファイアフライ准尉、行きまぁ〜す」
エンジェルと入れ替わりに、光がユニットを点火させて宙に舞う。
単騎突入する光に向けて、対空砲の攻撃が集中する。
「ひぃぃっ」
光の顔が恐怖に引きつり、泣きそうな悲鳴が漏れた。
何千、何万という無数の光弾が、全て自分に向かって飛んでくるような錯覚を起こす。
「やだぁっ、死にたくない」
光が目を固く閉じ、身をすくめた途端、真っ暗な視界の中に銀色のラインが無数に流れた。
「なに、これっ?」
銀色の筋は次々に流れ去り、後方に消えていく。
ラインの一本が光の体にぶつかりそうになる。
反射的に身をよじり、そのラインを避ける。
光がそっと目を開けた途端、一発の光弾が体を掠めて飛んでいった。
「…………?」
光は慄然として黙り込む。
身をよじらなければ、その光弾は確実に胸を撃ち抜いていた。
「今の……何だったの?」
ゆっくり考えている間もなく、マザーシップが射程距離に入る。
射撃開始が遅れたため、光は3回トリガーを引くのが精一杯であった。
必死の攻撃にもかかわらず、やはりマザーシップの装甲は傷一つ付かなかった。
続き キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!!!!
お、乙だぁーーッ!!!
続ききてたぁぁぁ
wktk
マザーシップ戦だヒャッホー!!
651 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/13(火) 01:31:08 ID:EX6728LA
だれか前スレのログくれ。誰がなにやらさっぱりわからん
653 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/13(火) 01:43:51 ID:EX6728LA
こんなのあったんだな。ありがとう
654 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/13(火) 02:56:41 ID:EX6728LA
エロなしがいくつか見受けられたんだが、それもアリなのか?
基本的にエロ混じってるから無問題
656 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/13(火) 22:49:41 ID:EX6728LA
やっと追いついたわ。
正直クォリティ高すぎだろ・・・。情景、心情描写、戦闘のテンポと兵器のリアルさ。
ゲーム設定のこじつけの上手さ。それでエロいところはしっかりエロい。
大したこと無い1ミッションをとても濃い密度にしたのが凄い。
赤色甲殻虫をハワイに設定して、赤波とくっつけるし。
これは中々出てこない発想というか・・・。
とりあえず、これからは誘導兵器の使用を控えることにするよ。
ペリ子が可哀想になってきた
俺は最初ドライだった外人ペリ子が主人公の頑張りに触れるうちに
段々とウェットになっていく過程が好きだ
あと元ゲーじゃ没になったアヒャ子を敵のスポークスマンとして登場させた設定がいい
こんな形でも復活したと知ったら声の人も開発者もきっと喜んでくれると思うよ
大変GJです
あとは陸戦を・・・・
アヒャ子の使い方はほんと開発冥利に尽きるだろうなぁ
すごく納得のいく使われ方でもあるし
膨大な没ボイスの数を考えると、開発も泣く泣く削ったんだろうと思う…
入ってるボイスの1/3以上が2パターン収録の没になったアヒャ子の声だしなw
この調子で皇帝降臨したらどうなるんやら
最終局面の頃にはLRSL-ACや乙型ライサンダーがあるじゃないか
けどその前にディロイやバゥINFが出てくるあたりで、ペイルはお荷物に・・・
662 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/16(金) 02:59:02 ID:a1Yo+wpx
全員が最高の武装でも、智恵理以外バタバタ死んでいく姿しか見えない。
考えたくない(´;ω;`)
>>662 それがEDFクオリティ
皇帝都市なんか最終的に攻撃隊は主人公以外全滅状態だし…
664 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/16(金) 19:32:41 ID:a1Yo+wpx
でもレギーさんだけは助けて欲しいんだ。負傷後送でもいいから命だけは。
>>662 智恵理は指揮官としても一兵士としても有能だから、絶対に仲間を死なせない……はず…………だよな?
絶 対 包 囲
近衛が…
なんか意味無く『進め!ゴリアス爆裂小隊!』という本編のシリアスをブッ壊すギャグシナリオが脳内で再生されている。
蟻に跨りヘイホー!とか言ってる陸戦とかクモの糸で編み物やっているペリ子とか。
なにその化け物軍団
>>668 お、俺…この戦いが終わったら…
あんたの作品が読みたいな…
読めると…いい…な。
>>668 お、嬉しいねえ。新しい職人さん降臨だよ。
保守
dion軍めが
俺は落ちない!絶対に落ちない!!
保守
「こんな攻撃じゃダメだ。何かいい手を考えないと……何か……」
智恵理はバイザーを跳ね上げ、マザーシップを睨み付ける。
腋が開くと甘酸っぱい匂いが鼻を突いた。
ふと、意識が日常感覚に戻る。
一刻も早くシャワーを浴びてスッキリしたかった。
そのためには、目の前に立ちはだかるマザーシップを撃沈しなくてはならない。
智恵理は意識を腋の下から頭上の敵に戻す。
ジェノサイドキャノンやスペースリングを失ったマザーシップは、巨大な円盤となって夕焼け空に浮かんでいる。
巨大な円盤がゆっくりと回る様が、智恵理にロンドン・アイを連想させた。
『あの中心の軸が外れたら、みんな一巻の終わりだぜ』
エンジェルが意地悪そうに吐いた台詞が蘇る。
しかし残念ながらマザーシップは観覧車とは違い、軸の支えなど必要とせずに自律回転している。
「アイツの真ん中にも穴があって、回転軸で支えられているんだったら……」
智恵理が非建設的な夢想をしている時であった。
マザーシップの下面、その中心にある突起が左右に分かれ、本当に巨大な穴が出現したのである。
それを呆然と見守る智恵理のレシーバーに、ゲイロード少佐からの無線が入る。
『UFOファイター全機撃墜せり。これよりマザーシップ攻撃に参加する』
吉報であった。
と、思うや否や、マザーシップに開いた穴から、UFOファイターがポロポロとこぼれ落ちてきた。
都合10機のUFOを吐き出したと見ると、突起は再び動きだし、開口部をピッチリ隠してしまった。
増援部隊として発進したUFOの編隊は、ゲイロード中隊のいるエリアB2へ向けて飛び去っていく。
「UFO発進口……?」
マザーシップの弱点見つけたり。
それは意外なところに存在していた。
「みんな聞いてっ。護衛のUFOが全滅すると、マザーシップ下面の中央ハッチから増援部隊が発進してくるの」
智恵理は無線の回線をフリーにし、生き残っている全隊員に敵の弱点を知らせた。
「アレが開いて、内部構造が露出した時……それが唯一の攻撃チャンスよ」
『ゲイロード中隊、了解。こちらはUFOファイターの撃滅に専念する』
答えるゲイロード少佐の声に張りが戻っていた。
続いてライトニング大尉からの無線が入る。
『ライトニング中隊、既に……戦闘力なし……貴官の奮戦に……期待……』
大尉の口調は弱々しく、切れ切れになってレシーバーから漏れてきた。
その只ならぬ様子に、智恵理は振り返ってフィールド後方を確認する。
だが、3中隊のいたエリアに人の気配は無かった。
気が付けば、いつの間にかLRSL−36による直接支援攻撃も沈黙していた。
長距離レーザーライフルを効果的に使用するためには、静止しての射撃が要求される。
3中隊の隊員たちは一つでも多くの砲台を潰そうと、危険を承知で身を晒したまま攻撃していたのであろう。
そのお陰で、智恵理たちは無傷で立っている。
「ライトニング……大尉……」
智恵理は、先日会議室で大尉が見せた神妙な表情を思い返す。
大尉は自分のプライドを命懸けで守ってくれた智恵理を、今度は自分の命を懸けて守り抜こうとしたのであった。
「大尉のバカ……同じEDFの仲間同士、困った時に手を差しのべるのは当たり前じゃないの……」
智恵理は目頭が熱くなるのを感じ、表情を隠すためバイザーを下ろした。
「何が何でもマザーシップをブチ落とすよっ」
そのチャンスは間もなく訪れた。
待ちに待った、ゲイロード中隊からの無線が入ったのである。
『ゲイロード中隊からチェリーブロッサム中尉。我、UFO編隊全機撃墜せり。攻撃準備されたし』
声の主はゲイロード少佐ではなく、セカンドのディトナ少尉であった。
レギーたちの肩がガックリと落ちた。
ペガサス隊は、全軍に誇った3人の中隊長を全て失ってしまったのである。
「落ち込んでる場合じゃないよ。いい? ハッチが開いた瞬間、一斉に突っ込むよ」
智恵理は心を鬼にして感情を殺した。
やがてガタンという作動音がして、センターハッチが左右に割れ始めた。
「今だっ。いっけぇぇぇ〜っ」
智恵理の合図で最後の突撃が敢行された。
各人の視界の中で、マザーシップがグングンと大きくなる。
狙いは只一つ、センターハッチのど真ん中である。
特攻を試みる4人に気付き、マザーシップの対空砲火が激しさを増した。
目も開けていられない光の奔流に飲まれ、まずエンジェルがユニットに被弾して落伍する。
続いてレギーが胴体に、光がサンダーボゥ20に直撃弾を浴びて戦線を離脱した。
一人残った智恵理は、射程ギリギリからサンダーボゥ20Rを連射する。
しかし何というアンラッキーか、射撃の開始がUFOの投下タイミングと重なってしまった。
高速で連射された稲妻はことごとくUFOの機体に遮られ、マザーシップには届かなかったのである。
「なんてことなのっ」
結局、智恵理はマザーシップ本体に有効打を与えられないまま射撃を終え、UFO発進口は再び固く閉ざされた。
緊急チャージに入った智恵理は、虚しく地上へと逆戻りしていく。
歯噛みする智恵理の傍らを、黒煙を引いた1機のUFOが墜落していった。
その姿は、あたかも母艦を守るため、自らの体を犠牲にした勇者のようにも思えた。
『自分が苦しい時は、相手も苦しいのです。その苦しさに耐え、より頑張った方に勝利の女神は微笑むのですよ』
意識の外でマイティ少尉が囁く。
頷く智恵理の目の前を、増援のUFO部隊が素通りしていった。
兵力の多いゲイロード中隊の方を、より重大な危険因子と判断したのであろうか。
反撃力を持たない智恵理にとっては幸いなことであった。
地上に降り立った智恵理は、仲間たちの元に駆け寄る。
ユニットや武器をやられただけのエンジェルと光は、ほとんど無傷であった。
しかし、腹部に直撃を受けたレギーは重傷であった。
彼女が鍛え抜いたプロレスラーでなかったら、あるいは即死していたかもしれない。
「レギーッ、しっかりして」
智恵理がレギーの巨体を揺するのを、エンジェルが必死で止める。
「部下の前で狼狽えるなんて、みっともないですぜ」
ようやくレギーが目を開け、唸るように吐き捨てる。
「このくらい、丁度いいマッサージでさ」
強がりを言うレギーの口元から、鮮血が溢れ出してきた。
「お願いっ、もう喋らないで」
智恵理は起きあがろうとするレギーの上体を押さえる。
「いいや、まだ作戦中ですから……小隊長に助言をするのは、2番員の役目でさぁね」
上体を起こしたレギーは、溜息をついてマザーシップを見上げた。
「しぶといですなぁ。無理もありませんや……アレが奴らの全てなんですから、必死にもなろうってもんでさ」
血が喉に絡んだのか、レギーが激しく咳き込む。
「同じように、あたしにとっては中尉が全てなんで。どうあっても奴を討って本懐を遂げて貰いたいんでさぁ」
この期に及んで、レギーは自分の生命より智恵理の願望を優先させようというのである。
「ごめんっ。あたしが少佐の仇討ちにこだわり過ぎてたから……あたし、大バカだった」
死んだ者より生きている仲間の方が重要であると、智恵理は今更ながらに気付いた。
頭を殴られたような衝撃と共に、目が覚めたような気がした。
その時、光は信じられないものを目の当たりにした。
智恵理の頭上に、光のリングが出現したのである。
驚く光の目の前で天使の輪は眩く輝き、その一瞬後には消えていた。
「…………?」
極限まで高まったサイコエネルギーが、智恵理の頭頂部から溢れ出たのである。
それは未熟な光にも捉えることが出来るほど、強烈な力の発露であった。
「せ……先輩……?」
超常現象を目の当たりにした光が、口をパクパクさせて狼狽える。
だが、今の智恵理には後輩などに構っている暇はなく、厳しい口調で指示を出した。
「レギーのこと頼んだよ。アンタとエンジェルはレギーを連れて、出来るだけ遠くへ離れてっ」
そう言う智恵理の目は、何かを悟ったように澄んでいた。
ほんの今し方までとは、全く別人のように感じられる。
気圧された光は、黙って頷くしかなかった。
「任せときなって。生きてる限り望みは失わない、戦える限り仲間は見捨てない。それがペイルウイング・スピリットだろ」
エンジェルが、いつになく真剣な表情になっていた。
「全部、中尉が教えてくれたんだ」
恥ずかしそうに微笑むエンジェルに向かって、智恵理は大きく頷いた。
「チェリーブロッサムからゲイロード中隊。攻撃にしくじった。もう一度お願い、もう一度攻撃のチャンスを」
智恵理はゲイロード中隊に向けて無線を送った。
直ぐに雑音混じりの返答が帰ってくる。
『こちらの……も……限界。後一回……後一回しか……』
ゲイロード中隊の被害も甚大なものらしい。
彼女たちが10機のUFOを相手に戦えるのも、これが限界のようであった。
すなわち、センターハッチが開く機会は後一回しか訪れない。
正真正銘、これが智恵理に残された最後のチャンスであった。
「落ち着いて……落ち着くのよ……」
サンダーボゥ20Rの攻撃力では、一度の攻撃でとどめを刺せないかもしれない。
こんなことなら狙撃銃を用意しておくんだったと後悔するが、今更どうにもならない。
UFO発進口に取り付くことさえ出来れば、射程は短くとも圧倒的な破壊力を誇るレイピアを使える。
だが、ユニットの推進力を考えると、それは望むべくもない戦術であった。
考えがまとまらないうちに、智恵理のレシーバーにゲイロード中隊からの連絡が入った。
『UFO編隊……全機撃墜完了……後は……頼ん……』
2中隊の次席指揮官、バーディ少尉の声が雑音混じりに聞こえる。
『中尉には……言いたいこと……山ほど……基地に帰ってから……今は……よろし……』
激しい電磁波の嵐に邪魔されて、バーディ少尉からの無線が途切れる。
しかし、長く対立関係にあった少尉からの激励はしっかり受け取った。
「任せて」
胸を張ってそう返答できないことが心苦しかった。
智恵理の胸中などお構いなしに時が過ぎていく。
そして遂に運命の扉が開き始めた。
センターハッチの中央部に一筋の線が入る。
不気味な作動音と共に、線の幅がどんどん太くなっていく。
何にも考えつかないまま、とうとう突撃の時が来てしまった。
「なんとかしなきゃ……なんとか……」
極度の緊張のため智恵理の顔は青ざめ、体はカチコチに硬直していた。
これは人類の存亡を懸けた戦いである。
死ぬことはできても、負けることは許されないのだ。
「なんとかなるっ……なんとかするぅっ。タァァァァーッ」
智恵理は雄叫びを上げて宙に飛び出す。
そしてユニットを点火しようとした瞬間、智恵理は背後から何者かに抱きすくめられた。
「レギー?」
振り返るとレギーの大きな顔があった。
智恵理はレギーに抱かれたままマザーシップへ向かって上昇していく。
「いつ以来ですかね。こうやって中尉を抱きしめるのは」
レギーがフッと笑った。
そういえばペガサス隊に入ってから、下士官のレギーとは随分疎遠になっていた。
レギー自身が立場をわきまえて、敢えて距離を置いていたのだが、今更ながらにおかしな気がした。
「なんにも考えずに飛び出したんでしょうが。あたしのユニットで途中まで運んで差し上げましょう」
レギーは命懸けの二段ロケット作戦を申し出た。
「ダメッ、あんたは安静にしてなきゃ。放してっ、これは命令よ」
智恵理がレギーの腕を振り解こうと藻掻くが、圧倒的なパワーの前にはどうにもならない。
過負荷のためスピードの上がらない二人は、砲台群の格好の獲物となった。
無数の光弾が襲いかかり、2人の体を掠める。
レギーは智恵理の体を敵弾に晒すまいと固く抱きしめる。
そのレギーのヘルメットに、ボディアーマーに、幾つもの光弾が命中した。
防弾装備の薄い箇所からは激しく血飛沫が上がり、鮮やかな真紅の花を咲かせる。
「レギィーッ、もう止めてっ。もう大丈夫だから、ここで放してぇっ」
智恵理の叫びが悲鳴となって迸る。
だがレギーの上昇は止まらなかった。
「覚えてますかい? ハラワ峡谷の赤波を。あたしゃあの時、いつかあなたのために死んであげようと決めたんでさ」
智恵理は赤波に呑まれ掛かったレギーを救ったことを思い出す。
たった一度世話になったことを、この忠実な部下は忘れずにいてくれたのである。
「レギー………」
智恵理には、もう何も言えなかった。
無言の時間が流れる中、レギーのユニットが警告音を鳴らし始める。
いよいよレギーとの離別の時が来たのである。
「それじゃ、よろしく頼みましたぜ。武運長久を祈ります」
その言葉を最後に、レギーの腕から力が抜けた。
同時に彼女のユニットが緊急チャージに移行する。
アラーム音と共に、レギーの巨体がゆっくりと脱落を始める。
ニッコリ笑ったレギーが、智恵理に向けて敬礼を贈った。
智恵理が慌てて自分のユニットを点火すると、レギーの降下速度が加速度的に上がったように感じた。
「レギィーッ」
虚しく伸ばした手の先で、敬礼したままのレギーがみるみる小さくなっていく。
「うわぁぁぁぁーっ」
智恵理は義務を友情に優先させるため、雄叫びを上げてUFO発進口に突撃した。
丁度顔を覗かせたばかりのUFOファイターが、サンダーボゥ20Rの餌食になって破壊された。
高熱と衝撃波が発進口に逆流し、後続のUFOを巻き込んで連鎖的に大爆発を起こす。
発進口を破壊されたマザーシップはUFOを吐き出せなくなった。
その発進口の縁にしがみついた智恵理は、右手にM2レイピアを構えていた。
「…………」
万感のこもった目でマザーシップの内部を見据える。
一瞬の沈黙の後、智恵理は雄叫びを上げてトリガーを引き絞った。
「いっけェェェーッ」
プラズマアークの刃が無数に乱舞し、エネルギーダクトや配線を切り裂いていく。
ダクトから漏れ出したエネルギーが、化学反応を起こして炎を上げる。
巻き起こった炎が火炎流となり、エネルギータンクや反応炉の爆発を誘引した。
爆発が連鎖反応を起こし、巨大なマザーシップの各所から小さな火が漏れる。
漏れ出した火と火が連なって炎となり、やがてマザーシップ全体を包む大爆炎となった。
マザーシップの巨体がグラリと傾く。
「落ちろォォォーッ」
最後の一撃を放った智恵理は発進口を離れ、宙に身を投げ出した。
降下していく智恵理の姿が、墜落を始めたマザーシップに隠れて見えなくなる。
やがて倫敦の地に不本意な接吻を強いられたマザーシップは、ハイドパーク全域を巻き込む大爆発を起こして四散した。
高々と上がった爆煙は、遠くカレーの地からも見えたという。
この時ビッグベンの屋根に陣取り、TV中継を続けていたミス・ジェミーが、歴史に残るコメントを全世界に向けて発信した。
「やりました、マザーシップを撃墜しました。人類は勝ったのです。唐突にこの星を訪れた不作法な訪問者を、残虐な宇宙の旅人を遂に撃退したのです」
ジェミーのバックに、炎の中で崩れ落ちるマザーシップの残骸が映り込む。
それは地球人が侵略者に勝利した何よりの証であった。
「勇敢に戦った地球の戦士達。彼らは地球を、平和な日々を取り戻したのです」
EDFの勇者を讃えるジェミーの声は、感動と悲しみにのため潤みを帯びていた。
※
それからほぼ48時間後、智恵理はシュヴァルツヴァルトの北、バーデン・バーデンの街角にいた。
顔面の火傷を始め、体のあちこちが包帯と絆創膏に被われている。
頬はゲッソリと削げ、見るからに衰弱しきった痛々しい姿であった。
それでもその双眸は、皆との約束を果たした達成感に輝いていた。
智恵理の目の前には、大きな翼を広げた女神の像が立っている。
ショートカットの女神は誇らしげな表情で天空を見上げ、今にも飛び立ちそうに片足立ちになっていた。
地元出身のヨハンナ・シュミットバウワー嬢が中尉に任官したのを記念して、住民有志が建立した等身大の裸像である。
余程手入れが行き届いているのか、幾度もの風雨に晒されているはずなのに、染み一つ付いていなかった。
ブロンズの地肌がキラキラ輝く様は、地元住民の彼女への期待と誇りが滲み出ているようであった。
智恵理は像の足元に跪き、小さな金属片をそっと地面に置く。
「少佐、あたしやりましたよ。少佐の教えを守って、あのマザーシップを叩き落としてやりました」
戦詳報告をする智恵理の目は穏やかだった。
悲しみを完全に乗り越えた訳ではなかったが、涙を見せれば少佐がゆっくり休めないと思ったのである。
続いて智恵理はペガサス隊の現状を少佐に報告する。
大きな勝利は得たものの、ペガサス隊の被った損害もまた大きかった。
隊長代理のゲイロード少佐を始め、全隊員の3分の2は遂に還らず、生き残った全員が傷を負っていた。
爆発に飲み込まれながら智恵理が行ったことは、相棒レギーの回収であった。
気絶した100キロ超の巨体は、この上なく負担になった。
エンジェルと光の助けが無ければ、智恵理はレギーもろとも火の海に飲み込まれていたであろう。
しかし、それでも彼女はこれ以上大事な仲間を失いたくなかったのである。
仲間を守ろうという願いは天に届いた。
レギーは重傷を負ったものの、今は危険な状態を脱してEDF倫敦病院のベッドの上にいる。
第一線からは退くこととなったが、退院後は教官としてEDF戦術学校に赴任することが決まっている。
彼女を失うことは痛手ではあったが、残った人材でペガサス隊を再建しなければならない。
その再建作業の第一陣として、新しい部隊長がEDF参謀本部からやってくることが決まった。
何でも、参謀総長アン王女と血縁関係にある王室の外戚と聞く。
そこには戦後を見越した政治臭が感じられた。
大戦後、戦勝に大貢献したペガサス隊を自家薬籠中の物にしておこうという算段なのであろうか。
しかし、そんなことは智恵理の関心の外にあった。
智恵理はこれを機会にEDFを去る決心を固めていたのである。
マザーシップを叩き落とした今、後は置き去りにされた巨大生物を叩く掃討戦が残っているだけである。
自分がいなくてもEDFの仲間は立派に戦い、そして究極の勝利を手にすることであろう。
「さぁ〜てと、日本に帰ったら何をしようかな」
大学に入って勉学に勤しむのもいい。
恋愛もしてみたいし、オシャレだって楽しみたい。
それよりもまず、美味しい物をいっぱい食べたかった。
いずれにせよ、まだセブンティーンの智恵理には、輝かしい未来が待っているに違いないのだ。
「あたし、少佐の分まで元気で頑張ってみせますから」
立ち上がった智恵理は少佐の銅像に敬礼を贈る。
そして背後を振り返り、少佐が見上げている天を自分も仰ぎ見た。
そこには奇跡のような青空が広がっていた。
だ が し か し↓
更新キテタワー。いつもながらGJ
レギーここで脱落か。生きててよかった
赤波からの伏線でぐっとくるものがあるなぁ
堪能した!そしてさらばレギー!
伝説の男は、戦いに間に合わなかったのね。
マザー内部ってどうなってるんだろな
レギー、お疲れ様。死ななくて良かったよ。
智恵理もお疲れ様。顔に火傷負って痕が残ったらフライフェイス中尉を名乗っちまえ。
残党処理している最中に………絶望だなぁ………
今inf攻略やっているからより絶望感が増して伝わる…
後の伝説の鬼教官コンボイである。
レギー大好きだったから生きてて嬉しいよレギー
やヴぇえやヴぇえ皇帝くるよ皇帝…
696 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/30(金) 10:15:07 ID:m0w040wP
もう大学生になって打ち切りにしようぜ
・・・いや、さすがに皇帝都市はちょっと
すまんけど日本語でおk
皇帝降臨でもう全滅する恐れが
残党処理中に皇帝が出てきても、伝説の男が撃退してくれるよ。
それを聞いて復帰するんだよ たぶん…
というか伝説級じゃないとあんなの撃退出来ないよ
・天空を覆い尽くす数の近衛兵
・恐るべき機動力の新型歩行戦車
・弾丸の如き鋼虫
・地を焼き払う爆撃機
・無慈悲なる巨獣の大群
・野生と科学の融合した機械竜
・空を貫く巨竜の王
・王を守護する絶対防御
・天上より放たれる殺戮の雨
ハードル高すぎ
498918バイトか今スレももう終わりかな?
480kbを超えて書き込みが一定時間無いとdat落ちのはず
どのくらいの時間が空くと落ちるのかは忘れた
多分、1日だったかな
あと、500kbに達すると書き込めなくなるよ
これで499361バイト
もう次スレの時期か
いきなり3が関わってきて
陸男が開発が終わったばかりのロボットにのって援護する
電波を受信した。
ありゃ?500049
名に言ってんだおまえは
次スレは
THE 地球防衛軍 3ダァァァ!!
でどうよ?
>>701 >>天上より放たれる殺戮の雨
皇帝都市ステージの女性隊員…
まだ454KBらしい。
ほす
ヒント
1024=1K
保守
そして保守
実際はあとどれくらい書き込めるんだ
46KBくらい
1KB=1024byte=全角512文字。
だからおよそ22500〜23000文字。
原稿用紙に換算して56〜57枚程度。
新スレたてて職人さん誘導したらどうだろう。
>>719 そろそろ圧縮来そうだからしばらく待とう。
ペリ達は、戦場のド真ん中でヤりたくなったらどうすんだろ
「俺は見たぞ…ストーム1だ!ストーム1が保守している……たったひとりで…」
出してくれーっ!
早く新作を出してくれーっ!!
724 :
名無しさん@ピンキー:2007/04/13(金) 10:04:46 ID:brOLQ4l5
落ち着け、パニックを起こすな!
出してくれ!出してくれーーーーー!!!
板が板だけに別の意味にもとれる件について
待て、一人で保守するな!
ここは俺に任せな
まて! ここは俺がくいとめる!
お前らは早く新作を!!
おい、この保守に参加してるらしいぜ、あいつが…
またその話か…敵は圧倒的な定期圧縮と過疎スレ!
それに比べてこっちの頼みの綱は伝説の保守様ってか?
ケッ、ありがたい話だぜ!目の前の新作をよーく待ってるんだな!!
こちらEDF……誰か保守してください……誰かっ
こちら東・・・何とか保守・・・てる
くそっ、なんという過疎だ…スレが生きているのが不思議なくらいだ!
即興で保守SS書いてみます。
俺は見たぞ……ストーム735だ! ストーム735が戦っている……たったひとりで……
・・・・・・初めて彼の声を聞いたのは絶望の中だった。
2017年。
突如飛来したUFOにより、私たちの平和は失われた。
未知の兵器、巨大生物。
街は無残にも破壊され、私は家族を失った。
私は復讐を誓い、EDFへと志願した。
そして、彼と出会ったのだった。。
私がオペレーターとして配属されたときには、既に世界中のEDFが壊滅寸前の状態だった。
彼は私の配置ミスにより、何度もピンチに陥った。
でも、それでも彼は生き残った。
そして、いつしか彼は “伝説の男。” と呼ばれるようになった。
書いてみたら凄く難しい! 撤退します!!
>>739 撤 退 は 許 可 で き な い 。
ストーム
>>739 よく聴こえないぞ、もう一度言ってくれ
くそっ
通信妨害か…
>740
サ、サンダーッ!
でも、彼が教導隊の一員としてロンドンへ向かってから何かがおかしいのです。
彼は新設のペイルウイング隊の一人と日本へ帰ってきました。
最近では二人で出撃する姿をよく見かけます。
この際、巨大生物などどうでもいいのです。
・・・・・・私は真実を確かめなければいけません。
彼、伝説の男は私の旦那様になるのですから。
今日は海岸での殲滅作戦です。
海からは歩行戦車と円盤がやってきます。
・・・それと、地中から微細な振動が検出されています。
私以外は気づいていないでしょうが、これはおそらく赤アリでしょう。
でも、まだ彼には知らせません。
彼は死なないから。 あの女だけ死ぬの。
絶対に渡さない。
・・・・・・彼の力を過小評価していたようです。 二人で、たったの十分で片付けてしまいました。
「お疲れ様です。」
「オペレーターさん、ありがとう。 あそこで知らせてくれなかったら危なかったわ」
・・・・・・あなたへ言ったんじゃないから。 調子に乗らないで。
今日は峡谷で、巨大生物輸送用の円盤への先制攻撃です。
一瞬レーダーに映った影。 おそらく敵歩行戦車の亜種だと思われます。
でも、私以外は誰も気づいていない様子。
・・・・・・彼が少しくらい怪我をしても、あの女を殺さなきゃ。
ついでだから、働かない隊長様にも消えてもらいましょう。
・・・・・・敵部隊の全滅を確認。
彼はつかれきって動けなくなったアイツを背負って、基地へと帰ってくるみたい。
計算違い。 おかしい。
復興への兆しを見せていた旧東京。
でも、あの“皇帝都市”を相手に生き残れるのでしょうか。
私は、彼と戦った戦場を忘れないでしょう。
・・・・・・彼が出撃前にあの女とキスをしていました。
私のものにならないなら、いっそのこと死んで。
私の思い出となってください。
おわり
では、EDFの今後の活躍を祈ります。 こんな締めでサーセンwwwww
オペ子マジ黒いwwww
これはワロタ
質の悪いストーカー女の様にもとれる
うほっ! いいオペ子・・・
750 :
名無しさん@ピンキー:2007/04/21(土) 22:38:30 ID:l9Kjchlk
あきらめないでください! あきらめないでください!
見ろ!スレが保守された!戦っているんだ!仲間が、EDFの仲間が戦っているんだ!!
保守
753 :
名無しさん@ピンキー:2007/04/26(木) 03:58:54 ID:GDWQeBhs
過疎にまかせてしぬんだよぉッ!
あははははははははははは
機密通信です。
エロパロ板地球防衛軍スレで新作S2の投下が決定されました。
エロパロスレで史上最大の保守が開始されます。
俺はPWSの新章が始まるまで保守するぜ
じゃあ、俺も保守しとくぜ
エロパロ戦線からの情報です。SS職人不在によって新作S2は大破。
保守部隊は全滅とのことです…。
758 :
名無しさん@ピンキー:2007/04/28(土) 21:34:08 ID:Fpj+xHTE
wwwww
このぉ!お前らのせいでみんな死んだんだ!畜生…畜生!
前スレだかでヘルシングの台詞改変がいくつかあったよな?
「お願いします(プリーズ)」
貼ってもらえまいか。
エロパロ板「THE 地球防衛軍【エロサンダー】2」スレ住人殿。
こちら
>>761。過疎と交戦中。我々が……不利です!
>>761、落ち着け。見捨てはしないぞ。すぐに保守隊が到着する。踏ん張れ!
おまいらww
どれだけ楽しそうに保守するんだよ
本部「過疎化による被害は甚大だ。過疎スレ群はすでに壊滅的な被害を受けている。
なんとしても、今この場でdat落ちを防がなければならない。
単発保守レスは住民離れや圧縮によって狙い撃ちにされる。
方法は一つだ。新作SSを投下し、住民離れを防止する」
オペ「保守チームはスレの前面に展開。保守レスによって過疎化の行く手を遮ってください。
その間にSS職人チームが過疎スレに接近、新作投下による集中攻撃を行ないます」
本部「保守チームは、スレの正面に展開し攻撃せよ。
SS職人チームは側面からSSを投下する」
こちらスカウト4
保守の許可を要請する
「しまった!ライサンダーFが!」
武器を失った陸戦兵にせまりくるソラス
「クソッ!ここまでか!」
死を覚悟した次の瞬間!
バシュン!
空に轟く一発の銃声
そしてボロボロの陸戦兵の前に立つ一人の男
「たっ隊長!」
「待たせたな!」
そう、普段は姿を見せない隊長が現れたのだ。
「コイツを使え、ライサンダーの最新モデルだ」
「これさえあれば!」
そして二人はソラスに向かって駆けていった
「俺達の戦いはこれからだ!」
いや何でもない
オペレーター 「隊長、たまには働いてください!」
隊長「よく聞こえない」
オペレーター「隊長が給料泥棒の上に玉なしだと叫びながら陸戦兵1個小隊がアサルトライフルを上空に乱射しています」
770 :
名無しさん@ピンキー:2007/05/02(水) 23:20:10 ID:NC3OIMwQ
まてよ、あの隊長はニー(サ、サンダー
ニーサンダー?
にいさん、だー
兄さんだ!
兄なのか!
結城博士参戦
あの絶望的な戦いから半年。復興の兆しがようやく見え始めてきた世界。
EDFは一時解体され、復興の礎となるべく世界中へ派遣されていた。
そんな中、ある元陸戦兵と元ペイルウィングの二人がインベーダーの施設を発見する。
そこで二人が目にしたのは―――
「ふわぁ〜…うんぅ、朝ですか〜?」
触覚の生えた、蟻っぽい感じの女の子だった。
動揺する元軍人たち!
「インベーダーってバカか!?もしくはアホか!?」
「多分どっちもだと思う……」
なんか次々に増えるニューキャラ!
「そ、そんなごはんに釣られるくもー!?」
「おねーちゃんに意地悪すんなボケー!」
本編のシリアスなんか知ったこっちゃねえぜ!
「あぁ……次は酸の小便だ……」
「連結してる!あれ変な場所で連結してる!!」
神道にまで組み込まれた日本人の萌え、擬人化をこの作品にまで!叩き罵り何でも来い!
現在鋭意執筆未定!
こいつら、俺たちを食うつもりだぞ!
過疎で絡め取って俺たちを食う気なんだ!
逃げろ!こんな保守じゃ持たない!
776 :
名無しさん@ピンキー:2007/05/05(土) 11:24:08 ID:M0nF0l8X
助けてええぇぇ!
ただ黙々と保守するのもいいけど
雑談もしたいなぁ
ペイルウイング物語の対マザーシップ戦時に伝説の人はどこにいたのやら
自慢の畑か優雅に喫茶
膝ジョイントの分解メンテナンス中
X箱 防衛3初めの面で↓
女→きゃぁぁぁぁ・・・
男→UFOに誰かが攫われたぞ!!
d(・ω・) 脳内18禁モード突入していいっすか?
住民が……過疎でやられて……連れて行かれたんです……。
どうすればいいんですか……? どうすれば!
暇だから書いてる。適当に。明日までには投下しようと思ってる。
保守ネタに近い気はするけど…。
783 :
名無しさん@ピンキー:2007/05/05(土) 22:36:32 ID:3vfIkcDN
ageちまったあぁ。
本当に地上へ帰れるのか……?
786 :
782:2007/05/06(日) 07:11:00 ID:5lAJWaQT
さてはて、昨日書いた奴を投下しようかな。
ぶっちゃけた話、やっつけ仕事。保守ネタだと思って下さい。
787 :
英国の悪夢:2007/05/06(日) 07:12:38 ID:5lAJWaQT
某年、某月。地球へ侵略者が到来。
地球は、急遽国境を越えた軍を用意。
それが、地球防衛軍。通称EDF。
そこには様々なドラマがあった。戦い、友情、恋愛、死の刹那の輝き。
全てが、大きな物語を紡ぐ。それを形成する一本の糸に気を向けるものはいなくても、その糸で大きな物語が出来る。
この大きな物語の中、細い一本の糸に目を向けてみようと思う。
この糸は、その細く儚い身体で様々な糸を結びつけた。
そして糸を大きく、一枚の布へと変えていった。
ブリーフィングルーム。
あまり騒がしくなって欲しくない場所なんだけど、今日はかなり騒がしい。
まぁ、仕方ない気もするけど。何せ、英国へと侵略者が攻めてきたわけだから。
俺は一応新兵。実戦経験はそこそこあるけど。名前?どうでもいい。『生き残る』ことが先決。名前を残すのはそれから。
新兵でも、ブリーフィングには参加できる…というより、このブリーフィングルームにいる人間しか戦えない。
有事に備えてはいたけど、実際はかなり辛い。戦力差は大きい。
ブリーフィングの内容も、どこか抽象的な表現が多く感じられる。情報が曖昧なのだろう。
ホットラインの情報も、イマイチ信頼性が低いと判断しているらしい。
「…それで、隊長。相手は『宇宙からの侵略者』としか聞いていないのですが、具体的にはどのような敵なのでしょうか?」
俺がした質問はみんな聞きたがっていたらしく、にわかに部屋が静まり、隊長の言葉を待つ。
「それなんだが、はっきり言ってよくわからん。とりあえず、人ではないらしいが…。
まぁ、実際戦うのが一番だろう。新設された特殊部隊の連中も参加してるし、そんなに悲壮になるな。ブリーフィングはこんなもんだ。出撃!」
隊長のどこか気の抜けた説明に、その場にいた連中は緊張がほぐれたみたい。もちろん、俺も含めて。
「そこのお前。」
「私ですか?」
ちょっとブリーフィングルームから抜け出すのが遅れた俺に、隊長が声をかけた。
なんだか、俺の顔を見てにやにやしている。何が面白いんだろう?
「…私の顔に何かついていますか?」
「いや、新兵らしからぬ落ち着きがちょっと気になってな。ツラを見ればふてぶてしさが滲む。
そういう人間を見ると興味で顔がにやけちまうんだ。どこでその落ち着きを手に入れたんだ?」
「はぁ…新兵といえば新兵なんですが、元々私は傭兵をしておりましたので。」
「傭兵…言ってみればたたき上げの戦争通だな。わざわざ陸戦の新兵にならずとも、仕官になればよかったのに。なぜ?」
「私は、根っからのバトルジャンキーですから。戦のスリルを味わいたいだけです。
今回も何も変わりません。ただ銃を向ける相手が人間から侵略者に変わっただけの話です。
…申し訳ありませんが、仲間達に置いていかれますので、ここで失礼致します。」
小走りに駆けていく新兵を見て、隊長は思っていた。
恐ろしい男だと。言い放った言葉に、ひとかけらの躊躇もなかった。
多分、あの男は息をするぐらい自然に戦争をするのだろう。
だが…。
そういう男こそ、遊べるのだ。
血で遊ぶ男こそ、司令室の退屈を吹き飛ばす。
ふふ、と軽く含み笑いをして、同じ穴の狢…戦争狂の隊長は司令室へと向かっていった。
788 :
英国の悪夢:2007/05/06(日) 07:14:15 ID:5lAJWaQT
「こりゃ、酷いなぁ。」
それが正直な心境だった。ビッグ・ベンに群がる巨大なアリ、逃げ惑う市民、錯綜する無線と断末魔。
結構色んな地獄を見てきたつもりだけど、ここまで混沌が満ち溢れた戦場はなかった。
一緒に行動するのはレンジャー・チームと、その上に乗っかる少尉殿。
「さて、少尉殿。市民を吹き飛ばさないように戦いましょうか。」
「い、言われなくてもわかっている!敵はあのアリだ、突撃!」
少尉殿が先陣を切って駆けていく。AS-18を片手に、腰を引きながら。
コマンダー・フォワードは結構な事だけど、そんなんじゃ犬死するだけだ。
案の定アリに囲まれている。一人で突撃したんじゃ、無理もないけど。
少尉殿と比べて、アリはかなり大きい。
有効射程ギリギリから、アサルトライフル弾をアリの頭に当てるのはそんなに難しくはなかった。
少尉殿は多少のケガを負ったようだけど、まだまだぴんぴんしている。
また突撃をしそうな気がするので、ひとまず危険が無いのを確認してから、少尉殿へと近づく。
「少尉殿、勇猛な事は結構ですが、もう少し周りを見てください。」
「す、すまん。だが、攻撃しないわけには…。」
「アゴで使うようで申し訳ないのですが、逃げ惑う市民の誘導をお願いいたします。
このままでは、アウトレンジからゴリアスが撃てません。」
「う、うむ。それもそうだな。部隊から、2.3人引っ張っていく。帰ってくるまで持ちこたえられるか?」
「お任せを。ここを守れなければ、市民含めて生き残れませんから。ここが最終防衛ラインだと思って戦います。」
「よし、頼んだぞ!」
と言うが早いか、市民達のほうへと走っていく。
やっぱりあまり実戦経験はないらしい。リロードしながら思っていた。
声が震えているのも、無線のマイクを切らずにいたため、情けなさを司令室へ送信するようなミスも。
チャージングハンドルを引き、弾をチャンバーに叩き込む。再び前へ視線を向けると、市民達は綺麗にいなくなっている。
どうやらあの少尉殿『逃げ』に関しては一級品の実力を持っているらしい。
有難いことだった。背中に背負ったゴリアスを遠慮なくぶっ放せる。
前をよく見れば、アリが15,6匹の編隊で襲ってきている。果たして何匹潰せるか…。
ゴリアスを2発、群れに向けて叩き込む。数匹吹っ飛んでいくのが見える。
横に広がっていた編成のため、よくて半分だった。
ゴリアスをしまい、AS-18を構える。ゴリアスの自爆で粉々になるのは勘弁願いたかった。
襲ってくる。一匹目。頭に10発叩き込む。沈黙した。
二匹目。同じように叩き込む。体躯の割には柔らかいようだ。
とはいえ、あのアリ達はかなり素早い。そんな事をしている間にも迫っていた。
ちっ、と舌打ちして、後ろに下がる。
仲間の連中に援護射撃をさせながら、自分はヘッドショットを狙う。
「うっし、ワンダウン!」
「そんな事言ってる暇があるなら、黙って手を動かせ、レンジャー2!」
「了解、レンジャー1。どうせアイツにはかなわないしな。」
と、その指が示す先にいるのは…俺?
「レンジャー2。お褒めに預かり光栄だよ。」
ひゅう、とレンジャー2が口笛を鳴らす。
もう目の前にアリはいなかった。
789 :
英国の悪夢:2007/05/06(日) 07:15:35 ID:5lAJWaQT
「次の敵を探そうぜ。」
「それもそうだね…無線で聞いてみようか。」
マイクのスイッチを入れ、司令室へと電波を飛ばそうとすると、一足先に無線連絡が入る。
そこで聞いたのは予想外の出来事だった。
「こちら隊長。レンジャー・チーム及びその周辺のEDF陸戦歩兵隊、聞け。
本作戦に参加していた特殊部隊『ペイルウイング』が孤立している。半数は手負いのようだ。
幸いにも、距離はそれほど遠くない。すぐ救援に向かえ。方位280、距離400メートルだ。」
「レンジャー・チーム、了解。…だそうだ。さっさと行くぞ。」
「はい!」
皆まだまだ元気だ。特にレンジャー1。40近いのに、年甲斐もなく張り切っている。
結構なことだけど。
「くっ…!何て数!これじゃあ、ジリ貧ですよ、隊長。」
見渡す限りのアリ、アリ、アリ。
武装も段々と辛くなってきているし、体力の損耗著しい。
手負いのものを真ん中に置いての円陣は、確実に狭まっていた。
「全くね。孤立したのは不味かったかな。」
こんな状況でも、隊長の声色に変化はない。一体どれだけ肝が太いのか…。
ついつい声を荒げてしまう。
「今更何呑気なこと言ってるんですか!」
「大丈夫よ。陸戦部隊の支援がきたから。」
「え?」
隊長が指を指したほうを見ると、銃声が聞こえてきた。
そして、近づく小さな影。
アリ達も向こうへ気づき、向かったために圧力は大分少なくなっている。
「隊長、こんなに嬉しい事って今までないかもしれません…。」
「生き残ってから言うことね。その台詞は。」
「そうですね!」
勝ちの目が出てくると、俄然元気になってくる。人間って現金なものだよね。
永遠に思えたアリとの戦いも、段々と終着点が見えてきた。
そう思って、俄かに油断した瞬間。
目の前を、銃弾がすり抜けていった。
放ったのは…結構若い兵士。
「…危ないじゃない!」
「真後ろにアリがいたもんで…不可抗力って奴です。」
へ?と思って後ろを見ると、今まさに私へと倒れかかろうとしているアリの死骸。
再び、銃声。今度の一撃でアリは倒れる方向が変わり、自分のすぐ右に倒れていった。
へなへなと座り込む私。そんな私を見ながら、あの男は近づいてきた。
「…深刻なダメージはないようですね。立てますか?」
何で、そんなに冷静なのよ…。さっきまで殺し合いしていたのよ?何で、そんなに…。
この男と私は、明らかに違った。立場も、経験も。そこそこの自信など、鴻毛の如く吹き飛んだ。
呆然として、差し出された手を掴むこともできない。無理に立とうとしても、膝が笑ってしまっていた。
「コントロールへ。ペイルウイング隊の救出に成功。重傷者が数名おり、救難ヘリの手配をお願いします。」
「了解。ついでにトラックも回しておく。お前たちはそれで帰還しろ。」
「帰還…ですか?」
「何だ、気づかなかったのか?周囲に敵反応はないぞ。お疲れさん」
「了解しました。帰還いたします。…皆、撤収しよう。後で美味しい酒でもどう?」
「賛成だ。」
当たり前のように戦う男。戦場に血の花を咲かせる男。
そんな男は戦闘中も、終わった今も、薄く笑っていた。
790 :
782:2007/05/06(日) 07:16:38 ID:5lAJWaQT
以上です。もしかすると続くかもしれません。そして続いても非エロになるかもしれません…。
なんかぶっちゃけ
エロ無しのスレでもいいような気がしてきた
後のストーム1である
視点があちこち飛ぶからサッと読んだだけじゃ、
誰が何をやっているところなのかサッパリ分からない
視点が変わったあとは一人称と状況が入った文があるといいかも分からんね。
って文書いたことがない俺が
795 :
782:2007/05/06(日) 19:14:44 ID:5lAJWaQT
ふむふむ。皆様ご指摘ありがとうございます。
次は気をつけて書いてみます。
796 :
名無しさん@ピンキー:2007/05/06(日) 22:37:40 ID:oJNUttXk
>>791 ペリ子物語が、エロ抜きでも普通に面白いから困る
スターシップトゥルーパー好きな俺には
まさにど真ん中すぎて困る
あれ最高の映画だよな
原作のパワードスーツもなしにただの歩兵が戦車とかもなしに飛び込んで行って
面白いくらいにバグの群に蹂躙されて正直漏らしそうなくらい馬鹿受けしてる俺がいた
スタシトパは大好きだな。
あの勇壮で、ホンの少し悲壮感を漂わせるメインテーマがたまらない。
話が違うぜ!上には圧縮、下には過疎化、どうすりゃいいんだ!?
オ〜イ皆ぁ〜どこ行っちまったんだよぉ〜俺を一人にしないでくれぇぇ〜
我々は何としても、どんな犠牲を出そうとも、
このスレを保守しなければならない!
総員、保守レス開始!
で、あとどのくらい書き込めるの?
あと22KB
普通に雑談するなら100レス分くらいだが
>>703を踏まえるとそろそろ次スレ建てた方がいいかも
保守サンダー
早く保守しないと踏みつぶされるぞ!
懐に飛び込めば!
どうだろう、おまいら
この流れをブツ切りするためにも
俺の全裸画像うpで手を打たないか?
ちょっwww誤爆wwwサーセンwww
(遅れて)
罠です!
>>808 とてもセンスの良い誤爆だな。
お前さんの全裸画像に期待しているぞ。
保守
こちらレンジャー1結城、現在保守中!
保守ダー!
保守れ
スレは落ちない!絶対落ちない!
みんなぁ…どこに行ったんだ…
待ってくれ…置いてかないでくれ・・・!
こちら第十一大隊新城!!
本部応答願います!!
こちら本部、今オペ子とお楽しみの最中だ。
後にしろ。
罠です!オペ子はニューハーフでした!
本部は頼りにならん!
各自で保守せよ!
自分に保守らせてください!
隊長!ぺり子の保守はどのようにすればよいでありますか!?
整備長「よく聞け。ペイルウィングの兵装は胸部・腰・陰部となっておる。
この中でも胸部の性能は段違いだ。ボディコンシャスなスーツを押し上げるこの胸部を仰ぎ見るたびに私は股間のたぎりを禁じえない。
さらに腰。細すぎると感じる向きもあるだろうが体重が軽いのがペイルウィングの第一条件。よいペイルウィングは柳腰と覚えておけ。
最後に陰部。黒いパンツに覆われたこの秘部の性能は未知数だ。
EDFがもしインベーダーを打ち倒したら御開帳するから拝んでおくように。
何?顔?それは……見て良い気がするものではないとだけ言っておこう」
この後、MONSTER-Sの狙撃が整備長の頭を直撃したのは言うまでもない。
俺、この戦いが終わったらペリ子の絶対領域に触るんだ……。
気をつけろ!
絶対領域に触れるものは…
吸い込まれて帰ってこられなくなるぞ!!
う・・・うわ
吸い込まれる
アッー
うお…!今スレが、今スレが炎を吹き上げている!
攻撃隊はもう壊滅状態のはず…!誰だ…、誰が戦っているんだ!
そろそろ再開を
EDF!EDF!
_ ∩
( ゚∀゚)彡 EDF!EDF!
⊂彡
サンダァー
ペイル物語の人は書き溜めしてるのかな?
残り17KBならいけると思うけど
IMP攻略でのたうちまわってんだよw
あははははっ! 保守にまみれて死ぬんだよッ!
たしかPWSの人がINF絶対包囲の攻略中に前スレ落ちたんだっけ
サンダァァァ
酸?
サンダァァァン!!
俺たち、本当に生きて次スレに行けるんだろうか……
本部!次スレに移項しないために職人がSSを投下できないのではありませんか!?
あと何レスほど行ける?
>>846 残り約16KBと153レス。
1KB=1024byte=全角512文字だから、
512×16=8192文字、
原稿用紙換算で20枚半って所かな。
各地から続々と
>>848に通信が入っています!
すべて内容は同じ……
“幸運を祈る”。 以上です
_ ∩
( ゚∀゚)彡 E・D・F!
⊂彡 E・D・F!
e・d・f
声が小さぁ〜いっ
E・D・F!
よぉ〜っし
E・D・F!E・D・F!
V2!ライサン!ジェノジェノ砲!
いくらジェノがあったってIMPじゃ……
いや、なんでもないや
856 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/06(水) 01:52:41 ID:3dY6/ga9
しょせんIMPはオマケです
早いとこ諦めて切り上げてください
もうお終いなのか?
次スレ立つまで投下できないんだろ
容量少なすぎるし
体力があと1500
いや、せめて1000あったら……orz
んじゃ次スレ立てるか?
スレタイ候補あげようぜ
THE 地球防衛軍【さ、3だー!】
3はいいかもしんないけど、4以降は苦労しそうだな、その手のスレタイは
シンプルなのでいいよ
SIMPLEシリーズだし
【陸戦兵】THE 地球防衛軍でエロパロ3【ペリ子】
【陸戦兵】THE 地球防衛軍でエロパロ さ、3だー!【ペリ子】
【E・D・F!】THE 地球防衛軍でエロパロ3【E・D・F!】
ほ、保守ダー!
EDF!EDF!
『ペリ子ハード』 クリムロットコミックス
縦穴を下り洞窟の奥へ進撃するペリ子
しかしそれは敵の巧妙な罠だった
バゥ「アーマースーツは 私達に溶かされるために鍛えてきたんですものね」
ペリ子「いつもの力が出せれば…こんな蜘蛛なんかに…!」
バゥ「良かったじゃないですか ダメージ硬直のせいにできて」
ペリ子「んんんんんんんっ!」
バゥ「へへへ、おい、壁貫通糸を用意しろ。みんなでぐるぐる巻きにしてやる」
ペリ子(耐えなきゃ…!!今は耐えるしかない…!!)
バゥ「ペリ子の生自爆ゲ〜ット」
ペリ子(いけない…! 雷撃兵器がない事を悟られたら…!)
バゥ「生ペリ子様の生再出撃を拝見してもよろしいでしょうか」
ペリ子「こんな奴らに…くやしい…! でも…退却しちゃう!」(ピロリッ
バゥ「おっと、退却してしまったか。甘い敗北感がいつまでも取れないだろう?」
それから奈落の罠は後から侵入してきた陸男によってクリアされた
次スレは
>>875が上記の好きなタイトル選んで立ててくれ
そんなこと書いたらスローレースになって誰も書き込まなくなると思うんだが
俺としては
THE地球防衛軍ライ3ダーがいいな。
同じネタが続くのはどうかと思うが。
まとめてみた
【ライ3ダーZ】THE 地球防衛軍でエロパロ3【さ、3ダー!】
足の裏がむずむずすると思ったら
1cmクラスの巨大甲殻虫がががががががが
最後の更新から3ヶ月か
しかし絶対包囲INF陸男をクリアしたマゾな俺なら放置プレイにも耐えられるはずだ!
アダン登場wktk
今更攻略スレと間違えた事に気が付いた
《西暦2019年11月20日 倫敦上空》
ヒースロー空港を出発した東京行き135便は、高度4000フィートで水平飛行に移った。
気流は安定し、4基のジェットエンジンも快調のようである。
「もうあんなに遠くに……」
智恵理は見る間に小さくなっていくブリテン島を振り返り、心の中で手を振った。
審判の日から既に10日余りが過ぎていた。
この日ようやく除隊を承認された智恵理は、EDF予備大尉として日本に帰国することになった。
もうペイルスーツを着て大空を舞うこともないと思うと一抹の寂しさはあった。
その代わりに銃を取って生きるか死ぬか、ギリギリの戦いをしなくてもいいのである。
神経を極限まですり減らす死闘の日々とお別れできるのである。
「日本に帰ったら、まず神楽先輩のお墓参りに行こう。それとソラスのお墓にも」
それが終わったら下町の教会にある孤児院を訪ねてみるのもいい。
それから故郷に戻って、学生時代の友達に自慢話を一杯してやろう。
とにかく時間は幾らでもあるのだ。
そんなことを考えているうち、昨夜遅くまで続いたお別れパーティの疲労が一気に出てくる。
智恵理は大あくびすると目を閉じ、夢の世界へと旅立っていった。
居眠りを始めた智恵理が、涎を垂れ流しかけた時であった。
ジェット旅客機の床が大きく傾き、強い横Gが掛かった。
予告無しの急旋回に、機内からブーイングが起こる。
やがてCAによる落ち着いた口調の案内放送が流れ、機が倫敦に引き返す旨を告げた。
「故障でも見つかったのかな」
不安そうにざわめく乗客をよそに、智恵理は平然と機内を見回した。
そして仕方ないやと首をすくめた。
空港に到着すると、智恵理たち乗客は全員機を下ろされた。
そして直ぐに代替機に乗せられることなく、何故かロビーで待機することとなった。
智恵理の搭乗機以外も倫敦に引き返してきたとのことであり、ロビーは大勢の人でごった返している。
智恵理の直感は、ただならぬ事態が発生したことを察知した。
「何か良くないことが起こったんだ」
そうと分かっても情報はなく、何が起こったのか予測することもできない。
あれこれ考えているうち、大型モニターが設置された一角で悲鳴とどよめきが生じた。
モニターの前にいた女性がヘナヘナと床に崩れ落ち、男たちは恐怖に顔を強張らせている。
智恵理は何事かとモニターの正面へ走った。
丁度ワールドニュースの時間であり、モニターには極東ローカルのライブ映像が映し出されていた。
「ええっ?」
智恵理は巨大モニターを見た途端、心臓が凍り付く思いがした。
100インチの液晶モニターには、巨大な都市が映っていたのだ。
次元の異なる文化の産物であることは、全体にまとっている雰囲気でそうと分かる。
そして何より智恵理を驚かせたのは、その都市が空中に浮かんでいることであった。
「侵略者の浮遊都市……」
それはマザーシップを遙かに凌ぐ巨大な存在であった。
映り込んだ下町が、まるで特撮番組のミニチュアセットに見える。
画面をよく見ると、地上のビル街が滅茶苦茶になっていた。
「ひどい……」
敵の総攻撃を受けた直後であると智恵理は悟った。
侵略者は滅びたのではなかった。
更に強大になって、再び襲来してきたのである。
画面に大写しになったキャスターは、迎撃に出た東京連隊がほとんど抵抗も出来ないまま撤退したと報じていた。
「大変だ」
智恵理は踵を返すと、空港を走り出てタクシーを拾う。
息せき切って運転手に告げた行き先は、勿論のことリージェンツ・パークのペガサス隊本部であった。
隊本にとんぼ返りしてきた智恵理は、見知った警備兵に門を通して貰う。
警備兵も既に東京の事変を耳にしているらしく、彼女が帰ってきた理由も当然分かっていた。
厳しい顔をして隊舎へと向かう少女の後ろ姿を、警備兵は頼もしげに見守る。
彼女こそ仇敵マザーシップを撃沈し、倫敦を悪魔の手から救った恩人、不可能を可能ならしめた英雄なのである。
警備兵は詰所の内線電話に飛びつき、隊員宿舎に連絡を入れた。
「チェリーブロッサム大尉、帰還す!」
仮設の隊本は蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
突如として東京に現れた浮遊都市は下町を廃墟にせしめ、迎撃に出た東京連隊を壊滅させたという。
巨大な都市の底面には無数の火砲が備わり、連隊は接近することさえ叶わなかった。
その上で多連装ジェノサイドキャノンをお見舞いされては、小さな下町などが持ちこたえられる筈もなかった。
更には未確認ではあるが、見たこともない戦闘艇の存在も報告されている。
その性能は、火力、機動力ともファイターUFOを遙かに凌ぐという。
いずれにせよマザーシップを凌駕する、恐るべき敵が出現したのである。
隊本の司令部要員は各地から送られてくる情報の整理に追われ、パニック状態に陥っていた。
「これ、総監部に送信して」
戦務課長が至急報のファイルをフォルテシモ少尉に手渡す。
ファイルを持って作戦室を飛びだそうとした少尉が、入り口に立っている智恵理に気付いた。
「チェリーブロッサム……大尉……」
フォルテシモが目と口を極限まで開いて驚きを表す。
その声に作戦室に詰めていた将校たちが振り返った。
「ただいま……」
盛大な送別会までして貰った手前、智恵理は顔を赤らめて鼻の頭を掻くしかなかった。
そこに警備兵から連絡を受けたペリ子たちが走り込んでくる。
「センパ〜イッ」
ペ科練の後輩、蛍野光が真っ先に走り寄り、智恵理の首に飛び付く。
「きっと戻ってくるって信じてたよ。もうどこにも行かないで」
光は力一杯智恵理の頭を抱きしめた。
巨大な胸の谷間に智恵理の顔が埋没する。
「ちょっ……光ちゃん……ぐるじ……」
智恵理は復帰早々、危うく事故死するところであった。
※
『各員に次ぐ。これまでの奮闘に感謝する。これが最後の戦いになるだろう。すべての敵を殲滅せよ』
図上演習室のモニターに、東京連隊の戦闘記録ビデオが流されていた。
画面に映っているのは東京の下町である。
夕暮れが近いのか、やけに画面が赤っぽく見えた。
この日、世界各国で巨大生物への一斉攻撃が行われた。
巣穴を焼き払い、巨大生物を一掃すれば、人類は完全なる勝利を手にできるはずであった。
画面の隊員たちが、民家の陰で蠢く黒アリに向かって総攻撃を開始する。
事変は戦闘開始から5分ほど過ぎたころ、予告もなく唐突に始まった。
『空間に異常。上空に信じられないほど大きなエネルギーが集まっています。質量反応はなし、エネルギー反応だけです』
突如、オペレータの悲鳴が画面に被った。
『なんだと?』
『なんてエネルギーだ。これじゃ地球どころか、宇宙そのものが吹き飛ぶ。質量もなしにこんなエネルギーが……』
陸戦隊の隊長もペイルウイング指揮官も計器の異常を前に声を震わせる。
『エネルギー、さらに上昇! 空間に歪みが発生します』
夕焼け空に一点の染みが生じたかと思うと、振動しながら膨張していく。
球状に膨らむエネルギーの塊から、プラズマ放電が激しく飛び散る。
『時空が歪むだと。一体なにが起こるんだ?』
『エネルギー、急速に低下。反比例して質量が増大しています』
黒い球体が爆発的に膨張したと思った次の瞬間、今まで何もなかった空間に巨大な物体が出現していた。
余りの巨大さに、全容が画面に入り切れていない。
その大きさは、あのマザーシップを遥かに越えている。
遊覧船でない証拠に、底部には種々の火砲が所狭しと林立していた。
『なんてことだ……』
超ベテランの陸戦隊長が絶句する。
『おそらく空間転移……空間をねじ曲げて物体を移動させる……インベーダーはこの方法で星々を旅してきた……』
ペイルウイング指揮官は冷静に状況を分析する。
『でも、これほどの大きな物を転移させるなんて……』
その冷静なペイルウイング指揮官ですら、常識を越えた現象を前にして、攻撃命令を出すことも忘れていた。
『あれは……敵の母船……いえ、都市でしょうか……』
オペレータの呟きを合図にしたかのように、無数の砲台が一斉射撃を開始した。
火の雨を受けて、画面の中の隊員たちが次々と倒れていく。
余りの惨劇に、智恵理は思わず目を背けた。
やがて多連装ジェノサイドキャノンから、幾つもの火の玉が発射される。
その数秒後、モニターの映像は砂の嵐に切り替わった。
フォルテシモ少尉がカーテンを開けると、図演室の闇が切り払われた。
ビデオを見終わってしばらくの間、口をきく者はいなかった。
マザーシップを沈めて、ようやく平和が訪れると思った矢先、更に強大な敵が現れたのである。
自分たちが払った犠牲は何だったのかと思うと、徒労感がずっしりとのし掛かってくる。
無力感と絶望感が、隊員たちの気力をザックリと削いでしまった。
「敵が何だろうと、やるしかないよ」
いきなり、智恵理が椅子を蹴って立ち上がった。
この会議に先立ち、智恵理は大尉として正式に現役復帰を許され、ペガサス隊への再配属を認められていた。
「あたし、あんな奴に絶対負けないっ」
突然の大声に、俯いていた隊員たちが驚いたように顔を上げる。
そして、命懸けの特攻でマザーシップ叩き落とした立役者の顔を見た。
智恵理の目には炎がメラメラと燃えさかっていた。
彼女の衰えを知らない闘志に感化され、仲間の顔に生気が戻ってくる。
「そうだ、今更降伏なんかできないよ。先輩、あたしもやります」
少尉に昇進した光が勢いよく立ち上がり、巨大な乳房がブルルンと揺れた。
「降伏するんなら、こんなことになる前にしてるさ。なに、振り出しに戻っただけじゃん」
エンジェル曹長が醒めた口調で混ぜ返し、部屋が笑い声に占拠される。
ようやく、いつものペガサス隊の雰囲気が戻ってきた。
だが、皆の笑顔を見回す智恵理の心中は、決して穏やかではなかった。
エンジェルの言うように、戦いの趨勢は振り出しに戻った。
しかしペガサス隊の戦力までがリセットされたわけではないのだ。
3人の隊長は既に亡く、レギーを始めとする貴重なベテラン隊員は大半が戦列を離れた。
衰えた戦力で、強大な敵とどこまで戦えるのか。
智恵理は不安に顔を曇らせた。
その時卓上電話が鳴り、フォルテシモ少尉が受話器を取った。
「えぇっ……す、すぐにイクから……そう……間違っても粗相のないように」
少尉は顔を真っ赤にさせて受話器をそっと置いた。
「誰か来たの? お客さん?」
智恵理は少尉の態度に只ならぬものを感じた。
「新しい部隊長がお見えになったそうです。もう警備詰所を出られたとか……」
浮遊都市の出現によりすっかり忘れられていたが、本日はEDFの異動発令日であり、新隊長が着任する予定があったのだ。
副官としての努めを疎かにしていた少尉は半泣きになっていた。
生き残りの中では最先任の智恵理が、フォルテシモ少尉と共に新任部隊長の出迎えに走る。
「怖い人かな?」
「ええ、戦局がこの様な状態ですし。頼りのない指揮官では困りますわ」
2人は新部隊長について想像を巡らす。
いずれにせよこんな時だからこそ、厳しくともしっかりリーダーシップを発揮してくれる指揮官が望ましかった。
智恵理は期待に胸をはずませて玄関へと急いだ。
「えっ……?」
玄関口へ出た智恵理とフォルテシモ少尉が、バカみたいに口を開けたまま硬直した。
2人を待っていたのは、紺碧の士官服に身を包んだ少女であった。
まさかと思って肩口を見ると中佐の階級章が付いている。
智恵理は改めて少女の全身を見回した。
年の頃なら、智恵理の一つか二つ下であろうか。
小柄な智恵理より更に背が低く、長く伸ばした金髪が腰まで届いている。
前髪はセンターから分けられ、露わになった額の下で大きな碧眼がキョロキョロと不安そうに動いていた。
容姿から仕草まで、その全てが可愛らしい少女であった。
「あのう……新しく着任された部隊長でしょうか?」
智恵理は失礼があってはならないと、おそるおそる尋ねた。
「如何にも、新部隊長のマリーじゃ」
少女は胸を反らせて、精一杯の虚勢を張った。
しかしその仕草さえも智恵理の目には可愛いとしか映らず、吹き出しそうになるのをこらえて敬礼する。
噂によると彼女は現王室に連なる名家の出身で、参謀総長アン王女の親戚筋に当たるという。
16やそこらで中佐というのもそれなら頷ける。
智恵理はこれはやっかいなことになったと顔を曇らせた。
マザーシップを墜として、大戦は終結したはずであった。
平時ならば姫様隊長でも、お飾りの役くらいは立派に果たせるであろう。
しかし戦争が継続し、実戦の指揮を執るとなれば、とてもではないが彼女には無理な話である。
シュレッダー中佐の冷徹な判断や、アイスバーン少佐のそつのない戦闘指揮は、一朝一夕に身に付くものではないのだ。