嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ

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1名無しさん@ピンキー

浅いものはツンツンしたり、みたいな可愛いラブコメチックなヤキモチから
深いものは好きな人を独占して寵愛する為に周囲の邪魔者を抹殺する、
みたいなハードな修羅場まで、
醜くも美しい嫉妬を描いた修羅場のあるSS及び、
他様々な展開の修羅場プロット・妄想を扱うスレです。

関連スレ
嫉妬・三角関係・修羅場総合スレ 第10章
http://idol.bbspink.com/test/read.cgi/hgame/1136066548/
2名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 16:44:55 ID:iVFE59Ja
2ゲットε≡Ξ⊂ ´⌒つ´∀`)つ
3名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 17:23:50 ID:iSrBXSri
938 名前:\         . '´/ ,、ヽ キャハハハ  ../無したちの午後 [s
女の同僚か \   ___.i (ノノ"))i     ./人きりで生きてきた。
「貴方に兄の何\...{l,、,、,、,、l|l=i l| "ヮノlOi!  /
まぁ、その妹にハ.\;     リ⊂)允iソ  /全にお母さん気取り。だが
             \*  ..(( く/_lj〉)./弟が彼女を連れて来る。表情
939 名前: 名無したち...\∧∧∧∧/・ちゃぶ台の下――握った拳に
貴方が妹さんを引き受...< .の 修 .>・「明日の弁当、彼女が作った
943 名前: 名無したちの< .    .>・「もう○○ちゃんにお姉ちゃんは
いや、>>938が同僚の旦< 予 羅 .>・最近の日記は、「あの泥棒猫」
──────────<   .  >─────────────
|ヽ| | l、 レf爪| 、   | < 感 .場 .>  | | |   ::| !|: l l:..  :|:l:.  !:|::   |
ヽ_ゝ|、 Fこ|_-|、 !、  ...|< .!!!!   ..>‐:十!1「: :l:::「|`|十l―l‐!:-/-!:: :  :.l
/r->ヽy‐ィ;;;;::Tヽ \  .|/∨∨∨∨\ 示:.l:|::::::!l::l |::l示tッ〒ト/:.l/::::::: :.l
| |/个iヽ┴―┴   .../したちの午後..\l:.:l|、:::|:|:!:j/.:.`ニニ´:/:. /|::::::: .::.!
ヽ/汚| !       /に対する嫉妬に狂.\  ヽ|i    :.:.:.:.:.:.:. /ノ!:::::::.:::l
ハ.||、 i      /名無したちの午後 投稿.\ :l        /'!:::!:::::i|::::|
|  || |i ヽ   /そこにヒロインが壊れるあまり\       ..:/:::|:::|:::::l:l:::.!
|  || ! ヘ 、.../被害を出し始めて、自分に責任が...\.:.:.:/:.:.`ヽ!:::::!:!::.|


皆仲良く。修羅場はゲームの中だけにしましょう。
4名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 18:25:31 ID:XmDjlWEV
お ついに立ったな
5名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 18:32:40 ID:iD5B3cxL
ずっとワクテカしてる俺ガイル
まだかな まだかな ハァハァハァハァ…
6名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 18:33:16 ID:cbD3YDOq
わたしはさとるちゃんがだい好きです。
私はサトルが大好きです。
あは、私は悟が大好き、でした。
7名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 18:42:03 ID:IE/RsZsB
>>1
せめて、姉妹スレのライトノベルの奴も
■姉妹スレ
嫉妬・三角関係・修羅場統合スレinラ板
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/magazin/1132666398/

入れるべきかとw
8名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 18:48:11 ID:JobLUrGp
「何?こんな人気のないところまでに呼び出して」
「ちょっと他の人に聞かれたくなくて……お前に頼みたいことがあってさ……」
 いつになく酷く赤面してボソボソとした声で幼馴染は口を開いた。
 人に聞かれたくないこと。二人きりで。
 ――告白……かな。
 そう考えると自然と自分の顔が赤くなるのがわかった。そんな顔が見上げるのが嫌で俯いた。
 しばらく、黙って次の言葉を待つが中々来ない。幼馴染の方を覗き見れば口をもごもごとさせていた。
「もうハッキリ言いなさいよ。最後まで笑わないで聞いてあげるから」
 背中を押すつもりでそんな言葉をかけて笑った。笑ったつもりだった。でもちゃんと笑った顔になっているのか自信がなかった。
「あのさ、須藤のことなんだけどさ」
 彼の口からは私がいつも一緒に遊んでいる女友達の名前が出た。
 何で?こんな時に?そう思ったが言葉にならなかった。私の口がパクパクと魚のように動いただけだった。
「須藤って好きな人とかいるのかな?」
 そうか――
 そうなんだ。
 こいつ、あいつが好きなんだ。
「こんど聞いておく……」
 ついさっき燃え上がった胸の中のものは急激にその行き場を失って荒れ狂っていた。
 顔の表情を隠し、湧き上がる心を抑えその場は平静を保った。
 正直今はどうしていいかわからなかった。
 でも――
 でも何だろうこの胸の中の嫌なモノは……。
「ごめん、私用事あるからもう行くね」
 そう言ってその場から逃げるように背を向けて歩き始めた。
 そして角を曲がり彼の目の届かないところにきたところから走り始めた。ここには一秒だっていたくない。
 嫌だ。
 何かが嫌だった。
9名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 19:30:14 ID:iSrBXSri
>>8
なんつうかシャナを連想するなw
10名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 19:34:57 ID:atO01l08
まだ早いと思うがこのペースだと落ちるしちゃんとしたスレだと思うのでage
11名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 19:41:15 ID:3ETahwYA
そくしかいひそくしかいひ

そういや最近、即死回避機能が止まってる板があるらしいね。
糞スレでもいい、たくましく育って欲しい・・・ということなのか。
12名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 19:53:57 ID:ywGmFVvl
>>1乙。

>>11
Pinkちゃんねるの板は全面停止中。
2ちゃんの方も方々で即死機能が止まってるらしい。
13名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 21:08:10 ID:NJwMyM9Q
さあ、皆さん、寝取り女をやっけましょう!!

   , ',´ィ ' ´                          \
   / '/             ___    、     、  ヽ //ヽ
. / '´, '   /    ,  ,...:.:.':.´:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:`:.:.:.ヽ     ヽ  冫:;ィ::::;'  __
 '′/  ,/     /':.:.:.:.;:. -―¬¬¬―- 、:.:ヽ     ヽ/:/,.l:::::l':´_ハ
  / .,.,''  ,    /:,: '´             ` ',    ',//;:l::::;'´ /:::/
  ,' //  /    ,'´   i    l   ! .  |     !   ,      r '´ l::〈 /::::ノ
 i /.,'  /    l   i  l __tハ l ! .| t T¬ ト l、 !      ト、 !:::l /:; '
 l./ .l  ,'!      l  ,レ'T´ ll! !.l, l  li. |', ト, _!_l `!      lヾ':.l::::!l::::l
 l,' l  ! !      !  l', l ,ゝェ 、',|',l',. ! !.l >' ,r 、 ヽ,,'l     l::ヾ:!:::|.l::::!
   !  l !      ', . l ' / /.n.',` .'|',| '!  l 0 l  '' !    .l;:::l::ー':;'::/  
   ',  !. l     '., ',::''::.ヽニ.ノ, .:    ::... ミニ'r  l.   !  ll::::ト:ヾー'  
    ', ! !      ヽ':;:::.` ̄   ..::.        ,' .  l.  !l::::! ';::':,   
    ', l l          ';`::::..   .::::::'         ,'   l   !.';:::', ':;:::':,   
     '.,! !         ';::::::::...:::::::::r--ァ     ..;'  .l l!  l ';:::', l';::::',
.       !     l   lヽ:::::::::::::::::ー.′   ..::;:;'   l .l!  !  ';:::':!,';::::',
         ! l      !.  !  ` 、:::::::::::  ...::;:::'::/    ! ,'!. /  ヽ::::':,!::::!
       ! l    .l  .l  !   `ヽ:、:;::::':::::::/     ! ,','./ l   ヽ:::';:::l
       l l!   ', . ト、. ト、',、    !:::::::::::/   , / ./// ト、、 .l! !:::ト'
       l ハ .  ', ',ヽ ', ヽ',\   !::::/   ///>、 、 ! ヽ!', l.l,'';;';!
14名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 21:14:39 ID:vRZyjjcP
応援してます
15名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 21:44:40 ID:bORVNU3R
こいつぁ面白そうだ
16名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 21:53:20 ID:6eDlXQ4c
適当に書いたんで投下しまーす。
エロパロ板に来るのも久しぶりなんで、いろいろミスするかもしれない。
とりあえずエロはなし。
長さは、だいたい4レスくらいかな?
いや、長文制限がどのくらいか分からないんだけどな。

-----------------------------------------------
今日はおにいちゃんの誕生日。
えへへ、押しかけちゃった。
久しぶりにお兄ちゃんに会えるんだ。
……緊張しちゃうな。
おにいちゃんは今年になって一人暮らしを始めたばかり。
一人きりの誕生日は始めてのはずだ。
えへへ。
だから、あたしが一緒に祝ってあげるのだ。
手にはケーキ。おにいちゃんの大好きな、三角堂のモンブラン。

えへへ、おにいちゃん、喜ぶだろうなぁ。
17名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 21:54:15 ID:6eDlXQ4c
驚いた。
アルバイトを終えて帰ってきたら、アパートの前で思いがけない人物が待っていたのだ。
艶やかな黒髪が腰まで届く、人形のような美少女。
「あ、お兄ちゃん!」
弾けるような笑顔には、確かに見覚えがある。
「……加奈?」

俺がまだ幼かった頃。
一番の年長だったからか、俺は近所の子どもたちのお兄さん的存在だった。
いつも子どもたちと遊んでやっていた俺は、大人からの信頼も厚かった。
もちろん、子供たちからも信頼されていたと思う。
中でも、「お兄ちゃんお兄ちゃん」と特に俺に懐いてくれた少女の姿は、今でも忘れていない。
その少女というのが――加奈だった。
俺が大学に入学してからは疎遠になっていたのだが……

「本当に久しぶりだな」
「うんっ! 一年ぶりだもんね!」
そう言って飛び込むように抱きついてくる加奈を、俺はなんとか受け止める。
ちょっとした衝撃。
少し見ない間にずいぶんと成長したもんだ。
加奈はこういう外見なのに、けっこう活発な性質なんだよなぁ。
……いや、そうじゃない。
俺が初めて会った時は、見た目どおり、友だちの陰に隠れているような大人しい子だった。
それがいつのまにか、すごく明るい娘になってたんだ。
忘れかけていたことを思い出して、少し笑う。
本当に、ずいぶんと成長した。そう思った。
なんだか胸の方も――
「だああああっ、離れろっ!」
俺は子泣き爺みたいになっていた加奈をベリベリと引き剥がした。
ぶーぶー言う加奈を放って、なんとか鼓動を鎮めようと深呼吸する。
ふう、妹みたいな存在に欲情するなんて、どうかしてる。
「まったく。で、いきなり何だよ? なにしに来たんだ?」
「何にしに、って……もう、なに言ってるのよ!
 加奈、今日はお兄ちゃんの誕生日をお祝いしにきたんじゃない!」
「誕生日? ――ああ、そうか」
そんなもの、すっかり忘れていた。
そう。そうだ。確かに今日は、俺の誕生日だ。
「……覚えててくれたのか」
「そんなの当たり前じゃない。お兄ちゃんの誕生日なんだから。
 ね、ケーキもあるんだよ。お兄ちゃんと一緒に食べようと思って買ってきたの」
手に持った袋を掲げる加奈。
なんというか、瞳がものすごくキラキラしている。
そんなにケーキを食いたいのか?
「まあ、とりあえず部屋にあがれよ。お茶くらいは出してやるからさ」
「はーいっ!」
返事だけは素直に、加奈は再び俺に抱きついてくる。
やれやれ。バイトで疲れてるってのに。
そう毒吐くけれど、俺は口の端に浮かぶ笑みを抑えられないのだった。
18名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 21:55:24 ID:6eDlXQ4c
加奈ちゃんがおにいちゃんと一緒に部屋に入っていく。
なによ、おまえ。
わたしのおにいちゃんに近づかないでよ。
加奈ちゃん……加奈、昔はよく遊んであげたじゃないの。
おにいちゃんに加奈を紹介したのはあたしじゃない。
おにいちゃんと遊ぶとき、加奈も誘ってあげたじゃない。
おにいちゃんに怒られた時だって、一緒に謝ってあげたじゃない。
どうして裏切るの?
どうしておにいちゃんと一緒にいるの?
おにいちゃんはあたしのモノでしょ?
おまえのモノじゃないでしょ?
おまえは、あたしの後ろでびくびくしてる子だったじゃない。
あたしの前に出ないでよ。
あたしより先に行かないでよ。
――待ちなさいよ。



ケーキはいつのまにか潰れていた。

三角堂のモンブラン。
別にいいよね。
おにいちゃんはあたしに会えるだけでも嬉しいはずだわ。
とりあえず害虫を駆除しなきゃ。
ケーキはその後で買ってくればいいのよ。
えへへ、えへへ。
待っててね、おにいちゃん。
いま、そっちに行くからね。

邪魔な虫は、潰してやる。

-------------------------------------------------
とりあえずこれで終わり。
あ、三レスでいけたな。
まあ、ありがちな話だけど、とりあえずはこれで勘弁してくれ。

それじゃアディオス!
19名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 22:56:18 ID:KvTxwm9A
             _,. -'' " ̄~゙三=-_、_   ,.-'"
          ,,.-''" r _、      三三ヽ."
        /    i {ぃ}}       _ニニ三゙、
       /,.、     `--"      二三三;     _,,. -'''"
       l {ゞ}    i        _ニ三三|  _,..-'''"
      .l `" i_,,...-''|           ニ三三!''"
     _,.-!    !  i         -ニ三三/
      l´,.- l    \/        -ニ三三/
  _.  ! ri l\       __--三三三='"
  j'‘´j `´ | !  ` ミ三三三三三=''"
 i',.. '´}  | |
  l,.. r´   '´
20名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 23:39:34 ID:iD5B3cxL
そんなにケーキ食いたいのか?にテラワロス
おまwwwそんなだから修羅場るんだってwww
21名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 23:46:58 ID:G+E4OVmu
じゃ漏れもいっちょ


静かに一人でおやつを食べながら、備え付けのテレビでも見ようと、
放課後の生徒会室の前まで来た時。
鍵がかけられている部屋から、副会長の西野妙子の声が聞こえて来た。
かすかだけれど、でもなんだか様子が変。・・・どこか苦しそうな、呻くような声。

『やだ、ひょっとしてたえちゃん、Hなコト、してる?』

一見真面目で従順そうな美少女の妙子はとてもモテる。
自分でもそれを自覚しているから、たくさんの男子を思うままに貢がせている。
・・・イクとこまで行っちゃった関係の男子も、両手の数じゃきかないって話だ。
ルックスだけならアタシだって妙子に負けるつもりはないけれど。
いや、ぶっちゃけ、自信は、ある(笑) 
でも、あんな風に男に媚びるのは、ちょっとなあ・・・

だから、従弟とはいえ、アイツの前でも、つい、ね・・・
だって一応は同じ高校の先輩後輩なわけだし・・・
22名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 23:48:39 ID:G+E4OVmu
『・・・ちょっと覗いちゃおう・・・ごっめんねー、妙子・・・
後日の為に、ちょいと勉強させてもらいますよぉ・・・』

ささやかな好奇心。
でも、この時目にした光景を、アタシは一生忘れられないだろう。
・・・知らなかったほうが良かったのに。
・・・いや、もっと早くに気付いていれば、ここまで手遅れになることはなかったのに。

会長権限で持っている合鍵で、入り口のドアをそっと、開ける。
・・・隙間から覗くと、生徒会室の真ん中で妙子が椅子に座っているのが見えた。
どうやら、彼女の前には、誰かがしゃがんでいるようだ。
妙子は真っ白な喉を仰け反らして、時折喘ぎ声を漏らしていた。

『あ・・・あぁ・・・そこ・・・うッ、そう、こないだ教えてあげたみたいに・・・
そこがいいッ!』

聞いているコッチが真っ赤になるような、猛烈な喘ぎ声をあげると、妙子の姿勢が変わって、入り口側に体の正面を向けた。

最初はなんだか良くわからなかった。
妙子はスカートを捲り上げ、両脚を広げて椅子に座っている。
その長く白い両脚の間に、一人の制服姿の男の子が跪いている。
ここから見えるのは、その線が細く、華奢な背中だけだ。
・・・アタシが良く知っている背中。
・・・・・・今朝もアタシが見送った、あの背中。
彼は頭を、妙子のスカートの奥に突っ込んでいる。
妙子は男子の頭を片手で押さえつけ、
空いた手でブラウスの上からその豊かな胸を自分で揉んでいる。
男子は・・・両手を妙子の腰に回し、時折その頭が上下左右に小刻みに動いていた。
23名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 23:49:42 ID:OqaNw4H9
>>16-18

>>16-17でほのぼのと見せかけて、>>18で一気に落す!GJ!

よく読むと>>16>>19は「おにいちゃん」、加奈ちゃんは「お兄ちゃん」
なのな。
24名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 23:49:49 ID:G+E4OVmu
その時、床に、女物のパンティが脱ぎ捨てられていることにアタシは気がついた。
・・・・・・二人が、何をやっているのか、判ってしまった。

妙子は下唇をかみ締め、喘ぎ声を押し殺すと、跪く男子の顔を・・・
・・・アイツの顔を・・・恥ずかしげも無く、自分の股間にぎゅっ、と押し付けた。
そして我慢しきれないのか、自分で腰を動かしている。

『ん、んんンンー−−−−−−−ッ!!』

一際甲高い声を上げると、妙子は長い髪が床に着くほど仰け反って、がくん、がくんと全身を痙攣させた。
・・・イッた、ってコトなんだろうか。

しばらくして落ち着くと、ハァ、ハァ、と荒い息をつきながらアイツの顔を両手で包み込む。

『・・・ありがと。とっても、気持ち良かったぁ・・・北川君、大好き・・・』
『そんな、僕・・・西野先輩のためならなんだって・・・しますから・・・』

ふと、アタシは手のひらがぬるぬるすることに気がついた。
見ると、握り締めた爪が突き刺さった手のひらから、血がだらだら流れていた。
25名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 23:51:44 ID:G+E4OVmu
『ね、北川クン。わたしのこと、好き?』
『も、もちろんです!西野先輩とこんな関係になっちゃうなんて、僕なんだか夢見てるみたいで・・・』
『・・・じゃあ、石田さんのことは?石田さんと北川クンはどんな関係なの?』

妙子・・・なんでそこでアタシの名前を・・・

『え?なんでかっちゃん・・・あ、いや石田先輩のことなんか聞くんですか?』

『だって、北川クンと石田さんていっつも一緒じゃない?すごく仲良さそうだし。
わたしね、ホント言うとずっと悔しかったんだ・・・
好きな男の子には、もっとわたしだけを見てて欲しい、って思っててさ。
・・・ゴメン、こんな独占欲強い女、引いちゃう?』

『そんな事ないです!僕、本気で人を好きって言えるのは、西野先輩が初めてなんです。
石田先輩は、その、なんていうか、従姉の腐れ縁っていうか、もう実のお姉ちゃんみたいな感じだし・・・
全然、ほら、女の子としてなんか今更見れないっていうか・・・』

唇がわなわな震えている。産まれて初めての感情だった。
もし誰かがここでアタシにバットを手渡してくれたなら。

『じゃあ、正直に、ホントのコト、教えてね?
石田和美と西野妙子、北川クンが愛しているのは、どっち?』
『え・・・そりゃ・・・』

ハッとして、アイツの声に全神経を集中する。口ごもるってことは、まだ・・・
26名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 23:53:31 ID:G+E4OVmu
『・・・お姉ちゃんみたいな石田さんと、
・・・・いろいろ教えてあげたわたし。北川クンは誰が好き?』

長い沈黙。

『ね。いい加減はっきりしてよ。そんな態度、体張ってる女に失礼だとは思わないの?』

急に妙子の声の調子が変わり、ドスの効いたすごみを漂わせる。

『・・・・・・・・・・、しの、せんぱいです・・・』
消え入りそうなアイツの声。

『ん?なぁ〜に?ぜんっぜん聞こえないから、もっと大きな声で言ってよね?北川望君。』
『僕が愛しているのは・・・に、西野先輩です。』
『誰よりも?石田さんよりも?』
『・・・・・・・・・・・・・はい。僕が愛しているのは、西野先輩だけ、です。』

『わたしもよ。北川クン、もう、離さないよ・・・』

両腕をアイツの首に回し、激しいキス。そしてそのまま、妙子はアイツを押し倒した。
・・・その直前、アタシは妙子と目が合ってしまった。
・・・・・・始めッから、妙子は気付いていたのだ。
・・・・・・・・・アタシが覗いていることを・・・・・・・・・・・・・・・
あの、忘れようとも忘れられない、勝ち誇った目。


ふらつく足取りでその場を後にすると、アタシはなんとか家に帰った。
何度か吐いたけれど、晩御飯は一口も喉を通らなかった。


取り返しのつかない喪失感が、抑え切れない憎悪に変わるまで、それほど時間はかからなかった。
27名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 23:55:00 ID:G+E4OVmu
終わりッス。
ありがちッスけれど、今回はこんなところで勘弁ッス

これからもちょくちょく来るッス
28名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 00:02:13 ID:iSU0EmGG
>>27
うまいなー、書き慣れてる感じする

ちょっと挑戦してみたいんですが、どなたかテーマくれませんか?
妹とか、クリスマスとか、それにそって書いてみます。
期待にそえられるかは分かりませんが
29名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 00:06:24 ID:svhkJYeF
>>23
「おにいちゃん」「お兄ちゃん」は狙ってたんだが、>>16に一ヶ所混じってるな。ミスった。

>>27
いやぁ、やっぱエロが混じると違うな。
つーか西野先輩最高w悪女テラモエスwww

>>28
じゃあ、キャラクターは姉、テーマは鮮血のクリスマスで。
いや、鮮血はなくてもいいけどw
30名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 00:07:37 ID:svhkJYeF
>>29=>>16-18な。
日付変わっちまった。
31名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 00:10:02 ID:CkqlAawV
>>29
じゃあ、それでやってみます。鮮血までいけるかどうか解んないですがw頑張ってみるw
32名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 00:52:44 ID:3CSaEppO
なにこのレベルの高さ

応援してるよ、みんな頑張れw
33名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 00:58:21 ID:CkqlAawV
もうすぐクリスマス、どうせだから両親にはゆっくり休んでもらうために旅行を
プレゼントした。まぁ、ゆっくり旅行に行ってもらうのはもう一つ理由があるけどw
私には弟がいる。親が仕事で遅くなったりした時は、ずっと私が面倒見てきた。
もう私が育ててきたようなモノだから、可愛くて仕方ない。
そんな弟も大学生、最近私が来るとちょっと煩わしそうな態度を取る。
「そんな構わなくても大丈夫だから」とか言う。自分では大人のつもりなんだろうけど
そんな事言ってる時点でやっぱり子供。私がいないと料理すら困るくせにw

…でも弟が一番分かっていないなと思う時は、大学の女友達らしい子の話をする事だ。
女は外面良く振舞うのが、やっぱり見抜けてないのよね。
ウチの弟、なんか母性本能刺激しちゃう所があるから…。変なのに引っかからなければ
いいんだけど。だからこそクリスマスは弟と二人で…
34名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 01:13:34 ID:CkqlAawV
クリスマスの少し前に姉から「クリスマスは一緒に過ごすからね、楽しみにしててよ」と
言われる。いや、実は先約入ってるんだよね…。断ろうとしても有無を言わさぬ笑顔で
微笑まれるとどうしても言えなくなるよな。彼女と過ごすだなんて…。

結局姉には言えず彼女とデートに行ってしまった。姉の事を思うと、良心が痛んだが、
隣にいる彼女の、楽しそうな表情を見てしまうと、これで良かったかなと思ってしまう。
いつまでも姉弟でいられるわけでもないし、これがいいきっかけになるかもしれない…
35名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 01:28:10 ID:CkqlAawV
買い物を済ませて、弟の待ってる自宅へと帰る。もちろん弟へのプレゼントだって忘れていない。
逸る気持ちを落ち着かせようにも、どうも落ち着かない。両親を旅行に行かせた理由もここにある。
弟と一緒に一晩を過ごしたかったのだ。すでに弟への気持ちが、血の繋がる中での買い物を済ませて、弟の待ってる自宅へと帰る。もちろん弟へのプレゼントだって忘れていない。
逸る気持ちを落ち着かせようにも、どうも落ち着かない。両親を旅行に行かせた理由もここにある。
弟と一緒に一晩を過ごしたかったのだ。すでに弟への気持ちが、血の繋がる中での愛情を越えている
事なんて自覚していた。弟全てを私のものにしたかった。大学に入るまでは弟のためと我慢していたが、
もう縛るものなんてない。一つになるのが必然だ…
などと思いをめぐらせると家についていた。おかしいな、明かりが消えてる。疲れて寝ちゃったのかな。
36名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 01:47:45 ID:CkqlAawV
コース料理も堪能し、デートも終わりに近づいてきた。
結構高かったんだぞwまぁ、一緒にいられるのがなによりなんだが。
むしろこれからのスケジュールが本番だったりするがw
窓から夜景が綺麗だぞ、きっと…。
今夜の都合のいいように、雪が降り出した。ホントに綺麗だ。
彼女と繋いでた手が引っ張られる、それと共にドンと音がする。
ちょっとはしゃぎすぎだろ、しかも今度は手離すし。
気になって隣に目をやる。…自分の手が、赤で染まっている。
目の前に姉の姿…
…どうなってんだよ。黒に染まる意識の中で姉の声が聞こえる
「だから、女に騙されるなって言ったじゃない。あなたは…私のものなの」
37名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 01:52:06 ID:CkqlAawV
一応ここで終了です、駄文を長々とすいません。
余談ですが、このスレが貼られたリンク元でも、姉とクリスマスで一つSS書いたことがあります
何かの縁でしょうかねw姉はいないですがw
38名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 01:56:38 ID:e4LBI1BK
Z。
ただ2レス以上にまたがる場合はメモ帳かなんか使って一通り書いてから投下しる
39名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 02:01:52 ID:CkqlAawV
スマン、自分の遅筆っぷりを甘く見てた。次から気を付ける
40名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 02:13:58 ID:pHR2jUsI
父親 「だけど、お前ほんとに一人でのこるのか?」
主人公「うーん、まあ、大丈夫だと思うけど…」
明日から、主人公の両親は仕事の都合で海外に行くことになった。
しかし、受験を控えた主人公は日本に残ることにした。のだが、こうも
父親から心配されると、なんだか不安になってくる。
母親 「あなたは、どこか抜けてるとこがあるから、一人にさせるのは
    不安なのよねえ」
母親からもだ。自覚はしてないが、主人公は傍から見てると、確かに
のんびりしたところがある。
主人公「うーん…そう言われるとなあ…」
やはりどんどん不安が増えてくる。こうなったら……

主人公選択
@「大丈夫、どうにかやってけるさ」
A「そうだ、従姉妹の家にお世話になりにいこうかな」
B「やっぱり、お姉ちゃん、一緒に残って!」
C「学校の寮に、今からはいれるかなあ?」
41名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 03:04:47 ID:e4LBI1BK
いい感じで進行していたのに
直接対決がないまま終っちまった不遇の作品を張っておく。
ttp://www.geocities.jp/vippersonals/hyde/near-sister.html
42名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 11:11:43 ID:N0ceZnm3
今更だが>>8上手いな。
こういうの書けたらいいなと思うよ。
43名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 19:05:00 ID:aj3NOehQ
俺的には嫉妬に走った幼馴染が主人公に逆レイプする展開が萌えるんだが・・
自分で書くしかないのか・・
44名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 20:00:09 ID:grGQZqm6
遅ればせながら、スレ立ておめでとう(^▽^)ゴザイマース
458:2006/01/23(月) 23:37:00 ID:8UKlVH9F
>9 >42
(ノД`)
チミのおかげで今月一杯で100枚以上書き上げて推敲するという荒行が出来そうな希ガス
46名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 23:42:43 ID:RkSqvYhw
>>45
かなり面白かったよ
これからもガンガレ
47あの時上げてスミマセンの 10:2006/01/23(月) 23:46:28 ID:b9S3rcuM
>>45
なんか昼ドラのシナリオが1本できそうですな、期待
48名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 23:57:30 ID:grGQZqm6
>>45
がんばれ。そして俺たちを悶え喜ばせて欲しい
マジデ応援してる
4927:2006/01/24(火) 00:29:11 ID:qMlELKZv

じゃあ、自分も>>26の続き、うpって良いでありますか?

あと、

直情一途な幼馴染と、
一見クール、でもどす黒い欲望の塊な悪女、

発狂させるならどっちっすかね?

相応しい狂乱シチュもありましたら教えてくだされ〜たも〜れ〜
50名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 00:50:18 ID:nP7Bt268
>>49
馬鹿かお前は!!そんなもん両方発狂に決まっているじゃないですか
お願いしますよ。
51名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 01:47:17 ID:bchvhIJy
一途な娘が好きな男の所に押しかけ女房しに行ったら既に同棲ずみで
自棄になってる所をDQNにレイプされ、逆にそのDQNを使って復讐を・・・とか

ゴメン、眠狂四郎読んだばっかりだったので(´д`;)
52春の嵐 その1:2006/01/24(火) 01:48:30 ID:rtDYk/xg
掲示板に、一面にびっしりと数字が書かれた大きな紙が貼られていく。
 私は固唾をのんで、ある番号を探す。
 あった! こみ上げる喜びにせかされながら、もう一つの番号も探す。
 もう一つもすぐに見つかった。
 もう喜びを抑えきれなくなって、私は側にいる直人にとびついた。
「合格だよ! 二人とも!」
 返事がない。直人はまだ自分の番号を探しているようだった。
「ほら、あそこ!あそこだよ!」
 私の指さす方向をじっと見つめているうちに、直人の顔が輝きだした。
「ほんとだ! やったぜ! あはは、やったやったぁ! 合格だぁ!」
 私と直人は二人で手をつないで飛び上がる。第一志望の高校に合格したのだ。
 喜ばないわけがない! 特に私は。
 がんばったのだ。担任には志望校を変えろと言われたこともあった。
 だけど今、共にはしゃいでいる幼なじみの直人と同じ高校に行きたかったのだ。

「曾我君も合格したんだ」
「ああ。……岩崎さんも合格したんだね。顔でわかるよ」
 私が感慨に浸っていると、直人に声をかける女がいた。
「あは、そんなに嬉しそうな顔してた?」
「だって、俺、岩崎さんがそんなに嬉しそうに笑うところ初めて見たよ」
「ねぇ直人、知り合いなの?」
 少しもやっとしたから、つい私は口をはさんでしまった。
 あたしと違っておとなしそうで清純そうで決して大口開けて笑わないタイプのひと。
 嫌な感じ。
53春の嵐 その2:2006/01/24(火) 01:49:46 ID:rtDYk/xg
「ああ、塾の知り合いだよ。岩崎……えーと」
「……美緒です。名前、覚えてくれてなかったんだ」
 岩崎って子の顔が少し曇る。直人、そんな名前覚えなくていいから。
「ごめん、ごめん。……紹介するよ。こいつ梶原陽子。幼稚園からの腐れ縁。もうどろどろに腐って糸がねばーって……」
 なんか馬鹿にされているような気がしたから、直人の頭をぐりぐりとしてやった。
「直人ぉ、そんなこと言うんだったら、先週貸したお金、今すぐ返してもらおうかなぁ?」
「……まて陽子。話し合えばわかる。我が家の緊縮財政の中でおまえの援助だけが頼りなんだ」
「……さーて、どうして返してもらおっかなぁ」
「悪かった。俺が悪かった」
「ふふん。ま、わかればよろしい。今日はめでたい日ゆえに特別に赦してつかわそう。この陽子様の寛大な心によーく感謝するように」
 ちょっと気分が直ってきたところを、あの女の笑い声がだいなしにした。
 口に手をあてて上品にくすくすと笑う。いかにも女の子らしい、男の視線を意識しまくったぶりっこ笑い。
 目でわかる。この女は楽しくて笑ってなんかいない。直人の気をひきたくて笑っているんだ。
「……やれやれ、陽子、俺たち笑われているぜ」
「別に。……えと、岩崎さんだっけ? わたしたちこれから家に帰るんだけど」
 笑うのはすぐ止まった。やっぱり演技だ。この女を直人に近づけてはいけない。
 この女はきっと直人を騙して傷つける。そんなのは絶対に許さない。
「……ごめんね、曾我君。でもこれで同じ学校の友達だよ。4月からよろしくね」
「ああ、こちらこそ。でも岩崎さんは美人だから、俺なんか興味ないって思ってた。なんか近寄りがたい感じでさ、あたしとつきあうなら高くつくわよって感じでさ」
「うう、酷いなぁ。……曾我君は頭良いから、勉強について行くのが必死なお馬鹿な子の心がわかんないんだよ。私、この高校に入りたくて必死だったんだから」
「そうかなぁ。俺、別に普通だけどなぁ」
 直人、あんたは勉強は優秀だけど、女の鑑定は間違いなく赤点。こんな女のみえみえの演技にひっかかってちゃだめ。まったく私がついてないとダメなんだから。
「直人、合格したこと早く家に連絡しないと! 今日はお祝いパーティやるんだから!」
「……そうだな。じゃあ、岩崎さん、またね」
「あ、曾我君。これ私の携帯。もう友達だから、教えとくね」
 私が油断した隙に、あの女は直人に電話番号のメモを押しつけてた。
「直人!」
「なんだよ、陽子。番号教えてもらったんだから、こっちも教えないと失礼だろ!」
「あ、そうだ」
 わざとらしくこの女は私のほうに向いた。
「梶原さんにも教えておくね」
「……、ありがと」
 メモを渡しながら、この女は嫌らしく笑った。
 そう、狙ってるんだ。 私は携帯に番号を入力しおわると、直人の腕を抱え込んだ。
 私の胸に押しつけてぎゅっと挟み込む。そう、あんたと違って私は直人にこれ以上だってしてあげられる。
「おい、陽子。なんだよ、急に」
「うん、合格して高校でやること決まったなって思ってさ。……ねぇ直人、今日は直人の好きなものいっぱい作るよ。何がいい?……あ、じゃね、岩崎さん」
 校門へと直人を引きずって歩き出しながら、わざとらしく付け足しのように挨拶をしてやる。
 頑張ってるね。でも笑顔がこわばっているから。あんたが友達を狙うなら、私はそれ以上になるから。
「じゃあ、岩崎さん。……それにしてもまったく、今日の陽子は少し変だぞ。それに……」
「うん? 何?」
 私は抱え込んだ腕にさらに胸を押しつけた。つぶれた乳首がかすかに気持ちいい。
「……いや、その……」
「はっきり言ってよ」
 ま、言えるわけ無いよね。直人はそうやって純情してるの。わたしがちゃんとしてあげるから。
「……、別になんでもない」
 赤くなっている直人をみて、私は嬉しくなった。こんなのは序の口だから、直人、覚悟しておくよーに。
54名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 02:11:03 ID:hgL+UCx7
>>52
感動した!!
youがこの物語の長編を出したら買う!!
ドロドロした高校生活読みたいなぁ
55名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 09:21:17 ID:zEGneBL1
職人の質・量共に高いですね
56名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 09:25:43 ID:GqwaxZEe
>>52
凄い上手いな凄い読ませる文章だ
57名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 11:09:09 ID:WIiIZgQz
>>52-53
深い感銘を受けた
こんなエロゲーの主人公になってみたいと心から思う(´Д⊂グスン
続編きぼん
58名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 12:54:20 ID:LCocr/Yv
遅ればせながら>>1乙華麗サマ
とうとう、待ち望んでいたスレがたった。
たまらぬなぁ。まったく、たまらぬ。
職人という名の神たちよ。

作品まってます..._〆(゚▽゚*)
59名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 15:13:52 ID:E3Y/Wiuy
保存庫とか作ろうぜ
60名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 23:36:58 ID:ngHO9jdM
いかん‥‥vipでグロを書きすぎた性で適度に流血させようとしてもグロ話にしかならねぇ‥‥
‥‥このスレってグロでもおけ?人肉シチュー程度の。

あと、ニ次作もありですか?
61名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 23:56:36 ID:ZeVTHJMY
二次はありだろ。
シチューは詳細グロ描写がなけれりゃまあいいんじゃない?
6260:2006/01/25(水) 00:15:24 ID:vMRNwrFT
>>61
じゃあダメポかも‥‥(´・ω・`)

あと、三角関係じゃなくても嫉妬ならいいのかな?
63名無しさん@ピンキー:2006/01/25(水) 00:21:54 ID:LuNRXfUf
詳細グロ描写あるんかいw
64名無しさん@ピンキー:2006/01/25(水) 00:29:55 ID:wjMv9ZtW
腹を裂くみたいなのはわりと平気なんだけど、爪を剥がしたりするのは苦手だな
まあ嫉妬が絡むのなら美味しくいただけるかも知れないから60氏投稿お願い
65名無しさん@ピンキー:2006/01/25(水) 00:33:11 ID:vMRNwrFT
>>63
VIPで書いた話は妹が薬で動けなくなった兄の女をぼこぼこになぶりながら四肢切断してシチューにして食卓にだすハートフルな話だったお(^ω^)
6616:2006/01/25(水) 00:45:00 ID:yl6YqMgY
夕暮れ時の教室はひどく寂しい。
窓の向こうで練習に明け暮れるサッカー部員の姿が、まるで額縁の中の絵画に思える。
切り取られた世界。隔絶された空間。
私は教室にひとりきり、自分のものではない机に腰掛けている。
「……やっと来たかな」
私は息を吐いた。
待ちわびた足音が教室の前で止まる。
ようやく扉が開かれる。
私は目一杯の笑顔で彼女を迎える。
ようこそ。
処刑場へようこそ。

覚悟は出来てる?



「あの、なんの用でしょう? こんな時間に……」
きょろきょろとこちらを窺いながら、彼女は教室に入ってきた。
本当に可愛い娘。背が低くて、細くて、そのくせ胸は大きい。
わずかに茶色に染めたショートボブがよく似合ってる。
さぞかし男が引っ掛かるでしょう。
思わず嘲笑ってしまう。
誤魔化し半分に、私は切り出した。
「今日呼んだのは、彼のことについて、あなたに言いたいことがあったから」
「? 彼って?」
小首をかしげて、抜け抜けと言ってみせる。
まるで「誰のことでしょう、わたし全然わかりません」といった様子で。
他でもない私に呼び出されたのだから、察しくらいは付いているでしょうに。
「本当に白々しい。……そうね、一昨日あなたと寝た彼、って言えばわかるかしら?」
彼女の身体が震えたのがわかった。
決定的な証拠は持っていなかったけれど、これで確信した。
やはり彼女は――……
沸々と怒りが湧き上がってくる。冷静になろうとして抑えていた怒りが。
このアマ、この泥棒猫、この腐れ売女、この――
さまざまな罵倒が脳裏を巡っては消え、消えては巡り、
最後に私の口を突いて出たのはこんな言葉だった。
「……彼に近づかないで」
大切な彼。
いつも私に優しい幼馴染。
こんな腐った女に騙された、かわいそうな男の子。
「あなたみたいな下衆、彼には似合っていないのよ。とっとと別れて。二度と彼の前に姿を見せないで」 
「……どうして?」
まったく落ち着き払った声だった。
彼女は優雅ともいえる仕草で、私の正面に座った。
先ほどまでの怯えた様子から一転――まるで女王様のように。
「あなた、ただの幼馴染でしょ? わたしと彼との関係に、どうして口を挟むのよ?」
「っ、ただの幼馴染じゃないっ! 私はっ!」
「『私は』――なぁに? 『ずっと好きだったの』って? 『私が先に好きになったんだ』って?
 『だから彼は私のモノだ』とでも? ……随分とお高くとまってるのね」
ふふん、と鼻でせせら笑う音が聞こえた瞬間、一気に頭に血が上った。
思考が空白に染まった。
そして、
私は、
6716:2006/01/25(水) 00:46:03 ID:yl6YqMgY
――パシィッ!

右手を動かしていた。
頬を打つ小気味いい音。
「う、うるさいのよっ! あんたは、どうせお遊びなんでしょっ! 私は本気で、本気で彼のことを、好きなんだからっ!!」
私の声は震えていた。
頬を押さえた彼女が、ものすごい目付きでこちらを睨んでいた。
「……お遊び?」
彼女が口を開いた。
「お遊び。ええ、そうよ。楽しいお遊び。わたしも随分と多くの男と寝たわ。数え切れないくらい」
あっけなく、彼女はそれを認めた。
認めたのね。自分が薄汚い女だと。
「恋愛なんて、所詮お遊びだと、思ってた。欲しい男を手に入れるための遊び、だと思ってた」
そう、この女はそういうタイプのクズ。
人を人とも思わないようなヒトデナ――
「これまでは、そう思ってた」
――え?
「でもね、彼は違うのよ。彼の傍にいると、すごく穏やかになれるの」
ちょっと待って。
待ってよ。
「わたしがそういう女だと知って、わたしの体目当てに近づいてきた男はたくさんいたけれど、」
私、おかしくなっちゃったのかしら。
彼女のことがわからない。
――彼女は、なぜ泣いているの?
「わたしのことを考えてくれて、そういうことから遠ざけようとしてくれた人は、彼だけだった」
ヒトデナシであるはずの彼女は、その大きな瞳からぼろぼろと涙をこぼして、それでも顔を上げて私を睨んでいた。
……やめてよ。
あなたは男好きの女郎蜘蛛。彼はその巣にかかった哀れな虫ケラ。
そのはずでしょ?
ねぇ、それだけなんでしょ?
「わたしは彼が好き」
私の懇願とは裏腹に、彼女は断言した。
「彼もわたしを好きだって言ってくれてる。
 もし、それでも彼が欲しいと、わたしと戦うと言うのなら――」
彼女の黒い瞳が私を見据えた。
足が竦んだ。
「――負けないから」
それは私を射抜いた。




彼女の足音が遠ざかっていく。
処刑されたのは誰だったのか。
もう日は暮れた。
暗くなった教室。
ひとりきりの教室。
――ひどく寂しい。

私の隣には、彼がいない。
6816:2006/01/25(水) 00:47:22 ID:yl6YqMgY
次回、恋に破れた女と愛に目覚めた女が、ついに激突する!
続きません。

おっかしいなぁ。
「クラスのリーダー格の少女が、彼女の好きな人と最近仲がいい娘を、放課後の教室でリンチする」
ってのが最初のテーマだったんだけど。
どこでどう間違って真っ向からのガチンコ勝負になったのか。
もっとエグい修羅場マダー?
個人的には人肉シチューでも可。
たぶんスレ的には不可だろうけど。

次はコメディ系の明るい嫉妬を書きたいなぁ。書けるかわからんが。
エロも欲しいよなぁ。書いたことないが。
69名無しさん@ピンキー:2006/01/25(水) 01:05:06 ID:U7ZC5W4F
>>68
youは力あるね
真正面からのぶつかり合い見たいなぁ

どうもここのSS見るとそのまま続きを読みたくなってしまう
ほんとにつぼを押さえた物書いてくれる職人に感謝
7027続き:2006/01/25(水) 01:25:52 ID:XLgYt0Ru
僕は、今だに西野先輩が良く分からない。
知っているのは、断片的な知識だけ。

例えば・・・かなりの美形だ。
まあ、同学年のかっちゃんだって、従弟の贔屓目を差し引いても美人である。
でも西野先輩は大人っぽいというか、どことなく近寄り難い影がある。
みんなの前では、自分からあまりしゃべらないせいで、
余計にそう感じてしまうのかも知れない。
実際、話かけてみるとびっくりするくらい気さくで、そして優しい。
でも、従順そうに見えて、意思は強い。
いつも、自分の意見が通るまで粘る。

・・・根っからの体育会系のかっちゃんは姉御気質たっぷりで騒々しい。
きついことを平気で言うわりに、案外最後の最後で甘かったりする。
西野先輩とは正反対だ。


頭も切れる。成績が良いだけじゃなく、時々人の意見に鋭い突っ込みを入れる。
・・・どこか抜けているかっちゃんとはこれも正反対だ。
つまり基本的に頭が良い人だから、僕がウソをついてもすぐにばれる。
そしてばれた時は・・・普段が穏やかなだけに、かなり怖い。

全学年の男子から人気がある。
たまに全校集会で演壇に立つと、歓声があがるくらいだ。
・・・でもいろんな噂の所為で、女子からはあまり好かれていないらしい。
どちらかといえば、女子から人気があるかっちゃんとはこれも逆だ。
過去に西野先輩と付き合った相手は、少なくとも複数、いるらしい。
それを知った時は結構ショックだったけれど、僕はあんまり気にしない。
気にしないように・・・努力している。
7127続き:2006/01/25(水) 01:29:36 ID:XLgYt0Ru
普段の制服姿は真面目な優等生っぽいスタイルだ。
スカート丈はかっちゃんよりも2cmは長い。
夏服のブラウスは、第1ボタンまで外している。
どんなに暑くても、リボンタイはちゃんと結んでいる。
やや栗色っぽい髪は、背中の半分まで届く長さで揃えている。
右に流した前髪に、ほっそりして顎の尖った瓜実顔。
切れ長の二重がちょっとクールな印象だけれど、
ぽってりした唇がちょっと・・・えっちぃ感じだ。
(・・・実際、かなりえっちである。まあ、付き合った相手が複数いたのも頷ける。)
その日の気分で、眼鏡とコンタクトを使い分けているが、基準は良く判らない。

一見スレンダーで、(最近知ってしまったのだが・・・実は結構、胸が大きい)
いかにも文科系の美少女だが、実は去年まで新体操部だったそうだ。
一度バク転して見せてくれたことがあった。
すげえ、と思ったけれど、
できれば新体操部のレオタードを着ているところを見たかったなあ・・・

・・・かっちゃんは豪快に第3ボタンまで外す。ブラが見えようと全く気にしない。
もう長い付き合いなので、今更そんなものが見えたところで
有り難くもなんとも無いけれど。
リボンタイは外すか、先生に注意されても適当に結んでいるだけ。
スカートはもはやスカートとしての役目を果たしていない。以上。
夏でも冬でもその格好なので、一度、
『腰が冷えると、将来難産するらしいよ?』
とからかったら、思いっきり、気絶する程しばかれた。
耳を隠す程度に揃え、軽くシャギーを入れた髪形は、
5m離れると少年に見えなくも無い。
背も高いし、黙っていればボーイッシュな美少女で通用するのに、
いつも一言多いせいか、まったくもてない。
水泳部で鍛えているからスタイルは良いけれど、基本的に筋肉質なので
まったく、エロさというものを感じさせない。
いい加減適当に彼氏でも作りゃいいのに・・・
そしたら僕も買い物に駆り出されなくて済むし。

ここまで共通点が少ない二人だけれど、生徒会の会長と副会長という間柄
以前に、親友同士である。

ーーーーーーそのはず、だった。
けれど、最近微妙な空気の変化を、僕は感じている。
72名無しさん@ピンキー:2006/01/25(水) 01:30:41 ID:XLgYt0Ru
ねぬいので
きょうは
こkまで もうしわkない ごめん
73名無しさん@ピンキー:2006/01/25(水) 01:32:19 ID:+nO3MQHW
 久しぶりの日本だ。窓の外を眺めながら、私は興奮を抑えることができなかった。
 タカに会いたい。声を聞きたい。抱き締めたい。
 去年の夏から一度も会っていないタカ――双子の兄、隆史――を想う。
 両親の反対に遭いながらイギリス留学できたのはタカのお陰だった。
 タカは兄であると同時に良き理解者であり、ずっと私を支え続けてくれているパートナーだ。
 そんなタカに、今日はプレゼントを。
 私は向こうを立ってからずっと手に持っている紙袋を押さえた。ガサリ。そんな音さえ幸せに感じられる。
 日本まで、あと二時間。待っててね、タカ。

 ピンポーン。
「はーい、いらっしゃい――って姉貴!?」
 その驚いた表情がかわいくてかわいくて――
「ただいまっ」
 堪らずがばっと抱き付き、ぎゅーーっと抱き締める。ああ、幸せ。
「ちょっ、帰ってくるのは明日って言ってたじゃないかっ」
 慌てて私を引き剥がしにかかるタカ。……ちょっと淋しい。
「何よ、今までだってやってたじゃない」
 別に嫌がることをしたい訳じゃない。私は向き合える程度には腕を緩めた。
「それはそうだけど、今日はまずいんだよ」
「なんでっ」
「それは――」
 ガチャッ!
「遅くなってごめん――って、え?」
 目を見開いてこちらをみる可愛らしい女の子ひとり。利発そうな顔立ちにセミロングの髪。TシャツにGパンを穿いていて、全体的にラフな印象だ。
「あら、お邪魔だったみたいね」
 そしてそのまま帰ろうとする。私はとっさに声を掛けた。
「待って下さい、私は隆史の姉です。誤解しないで下さい」
 このまま返しては、きっと後でタカが困る。それに……
「あなたは?」
「えっと、進藤麻妃です。隆史君とは同じ学部の同級生で、たまに遊びに行ったりしてます。今日みたいに」
 敵の情報も知らなければならない。
「そうですか。うちの隆史がお世話になってます。それで、タカ?」
「えっ、な、何かな」
 ちょっと上擦った声。やっぱりかわいい。
「女の子を待たせるものじゃないわ。まあ、今回は私のせいだけどね」
 そう言って、ウインクしてみせた。タカの顔が赤く染まる。
「それで、えっと、隆史君のお姉さん?」
 見ると、わずかに頬がひくついている。そろそろ我慢できないのだろう。
「いつまで、その体勢でいるんでしょうか」
 そう。私とタカはずっと抱き合ったままだった。互いの吐息さえ感じられる距離。
「ああ、ごめんなさい。『同級生』の前とは言えはしたない真似を」
 同級生ではなく、はしたないという単語に反応する彼女。あまりに初々しいからついからかいたくなる。
「はい、どうぞ。あ、そうそう。私のタカなので、無傷で返して下さいね」
「「なっ!?」」
 タカと進藤の声が重なった。
「冗談です。いってらっしゃい」
 進藤麻妃。要注意ね。
74名無しさん@ピンキー:2006/01/25(水) 01:36:35 ID:+nO3MQHW
ついカッとなってやった。
策士な姉ならなんでもよかった。
今は後悔している。
75名無しさん@ピンキー:2006/01/25(水) 01:36:53 ID:iMJcO9fb
>>66
淡々と、それでいて周辺事情の十分理解できる展開はさすがだと思った
俺も精進せねば…

>>60
俺的には許容範囲
修羅場→刃物沙汰の行き着く先はある意味グロと認定されても仕方ない
展開もありかと。 期待してまつ
7673、74:2006/01/25(水) 01:40:27 ID:+nO3MQHW
>>73 の「兄」は全て「弟」です。
スレ汚しすみませんでした……
77名無しさん@ピンキー:2006/01/25(水) 02:01:04 ID:iMJcO9fb
>>70-71
続きキタキタキタキタ━━━!!
とおもったら今日はここまでですか。
ヒロイン的にはどっちなんだ?というより主人公、相当なヘタレの臭いがするよ…

>>73-74
何だかのっけからガツンとこないところで今後の展開を期待させますね
あとどうでもいいけど進藤と聞いて一瞬某みずいろのキャラ思い浮かんだ
ってかほんとどうでもいいな。 あ、それと置換はしっかりな
78名無しさん@ピンキー:2006/01/25(水) 02:10:31 ID:vMRNwrFT
>>75
>>64
グロ分下げて書きなおしてみる。ちょっと時間かかるぬ。
79名無しさん@ピンキー:2006/01/25(水) 19:25:11 ID:+nO3MQHW
>>77
期待して下さる方がいるなら、続き書いてみますね。
正直相手にされないと思っていたので……
80名無しさん@ピンキー:2006/01/25(水) 22:00:39 ID:kEc6RxUB
>>79
そんなことないですよ
なんかゾクゾクするし主人公のへたれ具合もイイ!
続きを楽しみにしてます
81名無しさん@ピンキー:2006/01/25(水) 22:27:49 ID:LuNRXfUf
>>79
双子ものは良いよねぇ…ハアハア
8279:2006/01/25(水) 23:19:08 ID:+nO3MQHW
「ただいま」
 ようやく帰ってきたようだ。むこうから持ってきたプレゼント、予定は少し変わったけれど早く渡さないと。
「おかえり。ねえ、タカ。約束覚えてる?」
 言った途端、タカはそっぽを向いた。覚えているようだ。
「ターカ。どうなの」
 身体を寄せて、囁きかける。
「えっと、あれはその、別れる勢いで言ってしまったというか」
 勢いでも何でも、約束は約束だ。
「そ、それに! 姉貴、プレゼントなんて……って、あるのか!?」
 タカは口の中で、あのいい加減な姉貴が……なんて言っている。このやろ。
「私のしたいこと、なんでもしてくれるって言ったよね」
 日本に戻る時のお楽しみが欲しい。そう言って約束を持ちかけたのだ。タカは笑って
『イギリス土産をくれたら、なんでもしてあげるよ』と言った。私は今まで土産というものを
買ったことがなかったから、タカも本気にはしていなかったのだろう。他愛ない約束だったけど、
あの女が現れた今は揺さぶる材料になるかも知れない。
「言ったけど……分かった、分かったよ。何をすればいいんだ」
 タカは、ちょっと睨んだだけで了承してしまった。
 物分かりのいいところは変わっていない。こんな風にいい子だから、他の女も寄ってくるのだ。
「そうねえ、デートして」
 タカはびくっと身体を跳ねさせた。ふふ、驚いてる驚いてる。
「な、デートって……待てよ、俺たち姉弟だぞ」
「確かに、姉弟で結婚してはいけない法律はあるけれど」
「待って、もう俺たち大学生なんだから、いや、年齢とか関係なく、その、とにかく駄目だ!」
「好きよ、タカ」
 息を呑む音が聞こえた。時が止まる。
「ねえ、タカ」
 甘く囁きながら、タカの身体を拘束していく。タカはたいした抵抗もせず、私のなすがままだった。
 そして、唇を近づける。
「ちょっと姉貴、まずいって」
 唇まであと1センチというところでタカは震える声で言った。私は吐息を漏らして微笑んだ。
「好きよ」
 胸が高鳴る。いつか思い描いた夢が、目の前にある。この状況を招いた原因が別の女だというのは
気にくわないけれど、今はどうでもよかった。
「タカ――」
 そして私は、タカに口づけした。タカは抵抗しなかった。
「タカ、私のこと、好き?」
 とどめとばかりに甘く囁く。タカは熱にうかされたような顔で、ああ、と頷いた。
 その夜、私達は繋がった。
8379:2006/01/25(水) 23:20:09 ID:+nO3MQHW
「隆史、最近どうしたの? どうして私を避けるの」
 大学の講義の空き時間に、私は隆史をカフェに呼び出した。
「別に、そんなつもりはない」
「嘘言わないで。どうして。私が何かしたの?」
 特別思い当たることはない。だが、気付かないところで傷つけていたなら謝ろうと思った。
「麻妃のせいじゃない。違うんだ」
「じゃあなんで? 理由を教えて」
 隆史は押し黙った。
「どうして教えてくれないの」
「……すまん」
 まるで全てを拒絶するかのような態度。
 恐い。このまま引き下がったら、もうずっとこのままのような気がした。
 言うしかない。
「ねえ、その、私あなたのこと、その――」
 好きだから。一緒にいたいから。教えて。
「それ以上言わないでくれ」
 しかし隆史は、全てを言う前に私を遮った。
「あ――」
 そう。そういうこと。わたしは始めから関係なかったんだ。
 私みたいな他人に話せるような内容じゃないんだね。
 そう思った瞬間、私は泣いていることに気付いた。
「……すまない」
 隆史はそう言って、私の前から去っていった。

「どうしたのタカ。落ち込んでるみたいだけど」
 帰ってきてから、タカはずっとふさぎ込んだままだ。
「姉貴。俺たち、これでいいのか」
 何を今更。
「当然よ。いいに決まってるじゃない。好きなもの同士が好きあってて何が悪いの」
 その言葉を聞いて、タカは顔をあげた。
「俺はさ、姉貴のこと好きだよ」
 や、やだ。急に言われると照れる。
「でもな、家族として好きなのか、異性として好きなのか分からない所もある」
「どっちにしても、私のことを好きでいてくれるなら」
 私は後ろから抱き付いた。
「それでいいわよ――」
 口づけを交わす。隆史は僅かにうつむいたけれど、抵抗はしなかった。
「そっか。そうだな」
 頷き、今度は隆史から唇を近づけたところで。
 ピンポーン。来客だ。でも今は、そんなのに応対するような気分じゃない。
「居留守しましょ」
「……ああ」
 私達はそのまま互いの身体をまさぐり始めた――。
8479:2006/01/25(水) 23:22:33 ID:+nO3MQHW
「あ、あ……そこっ、タカっ」
 ソファの上で、私はタカに覆い被さっていた。目の前には立派なモノがあり、私の唾液で濡れている。
「あ、あねきっ……」
 再びくわえると、絞り出すような声がアソコに響いた。思わずじゅんとなって、腰をタカの顔に押しつける。
「ん、んんっ! 姉貴の匂いがするよ……」
 恥ずかしいけれど、嬉しい。
 タカが私を求め、腰を突き上げてきた。口の中を、喉奥まで犯される。
「んぐっ!? んん……」
 苦しい……けれど、それが愛しい。こんなに私を好きでいてくれる。
 視界が涙で歪んでいるけれど、口の中の感触だけがあれば何も困ることはなかった。
「あ、姉貴、大丈夫か? うっ……」
 答える代わりに思い切り吸い上げる。
 すると、タカも私の中に舌を差し込んで――。
「あっ、いいよ……そこ……」
 うっとりとしてしまって、瞳を閉じる。
 お返ししなくちゃ――そう思った瞬間。
「っっ、なんなのよコレッ!!!!!!!!!!」
「なっ!? え、あ、あなた……」
「うわっ!? え、一体何が――」
 そこには、あの女、進藤麻妃が立っていた。その手はバッグを握りしめ、ぶるぶると震えていた。
 見開かれた目は涙に濡れ、眉はつり上がって、口は恐ろしいほどに歪んで、まるで般若のようだった。
「ふざけないでっ!! 何よ、すまないじゃないわよ! 何でこんなことになってるの!? 私はいったい
何だったのよ!! 私なんか、姉に手を出すほど価値のない女だったの!!?? 今まで優しくしてくれたのは、
今まで遊んでくれたのは、姉の代わりだったっていうの!!?? ねえ隆史っ!!! 答えてよ!! 答えてよぉっ!!!!!」
 いっきにまくしたてて、はあはあと荒く息をつく。
 私達はとりあえず手近にあった服で局部を隠してから、今にも掴みかかりそうな進藤と相対した。
 その瞳は血走り、髪が逆立つような怒りをありありと表していた。
「その、」
「待って」
 口を開こうとする隆史を制する。隆史は優しいから、余計なことまで言いかねない。ここは私が。
「進藤さん、何でそんなに怒ってるのよ」
「あなたは黙って!! 私は隆史に訊いてるのよ!!」
「黙らないわ。あなたにタカを責める理由があるの?」
「ある!! 姉に手を出すなんて、責められて当然でしょ!!」
「でも、あなたがここまで怒る理由にはならない。違うかしら」
 進藤がひるんだ。
「で、でも!! その、隆史が……勝手に」
「勝手に? タカはあなたの何? 恋人でも何でもないんでしょう? だったら、タカが誰と何しようと――」
 タカを抱き寄せる。
「あなたには関係ないんじゃないかしら」
「っ!! このっ!!」
 彼女はその手にあったバッグをこちらへ投げつけようとして、止まった。
「そっか、そうよね……」
 ぼそぼそと呟いて、彼女はその手にあったバッグの中身を足元へ落としていった。マグカップ、タオル、シャーペン、
その他多くの雑多なモノが床に広がった。
「それは一体?」
 私が訊ねると、生気のない目で「隆史のです」と答えた。
「じゃあね、隆史。短い間だったけどちょっと楽しかったよ」
 その言葉に、腕の中のタカが震えた。
 まだ、油断できないのかも知れない。
85名無しさん@ピンキー:2006/01/25(水) 23:26:26 ID:+nO3MQHW
>>80
>>81
レスありがとうございますw 
リアルの方が忙しいのであまり書けないかも知れませんが(´・ω・`)
86名無しさん@ピンキー:2006/01/26(木) 00:00:46 ID:kEc6RxUB
>>85
続きが読みたい
87名無しさん@ピンキー:2006/01/26(木) 01:02:11 ID:14FdioLM
続きまだぁ?o(・∀・)oブンブン
88名無しさん@ピンキー:2006/01/26(木) 01:22:26 ID:1MGL51li
>>77
へたれと優柔不断は
修羅場の起爆剤w

>>78
昔、没落武家の娘が遊郭に入り、ある旦那の愛人になるが
最後にその旦那の正妻の目の前で、旦那を刺し殺して自分も
切腹して自決するッちゅー話よんだけど、その程度のキッタハッタは
うぇーるかぁーむ〜
89名無しさん@ピンキー:2006/01/26(木) 05:07:38 ID:c4+SRM7l
エロシーンは流し読みして修羅場シーンに興奮している俺がいる。
姉貴最高だよ姉貴。
90名無しさん@ピンキー:2006/01/26(木) 06:35:02 ID:uRQIcKwI
>>85
続きがものすごく気になる所ですが
リアルの方に支障が出ない程度で
がんがってください。
91名無しさん@ピンキー:2006/01/26(木) 08:26:32 ID:cWrw0iy0
ここって、ドロドロ系なら特定のゲームとか関係無しにどんなメディアからでもネタ引っ張ってきておk?
あと、女多男1ってのは前提条件だったりするん?
92名無しさん@ピンキー:2006/01/26(木) 09:07:57 ID:14FdioLM
>>91
あんまり型枠考えずにまずは出してみてはどうかね?
それと、元がエロゲー板からの派生スレなので多分にCatFightな傾向になってると思う。
まぁ、男同士の争いなんてのはあんまり見たいとも思わないけど…
93名無しさん@ピンキー:2006/01/26(木) 11:28:33 ID:neRct5rG
元のエロゲ板からして、攻略対象キャラが、別シナリオででも主人公以外と
くっつくのでもNTR扱いになって、あまり歓迎されないムードだし
支持少ないのは覚悟したほうがいいかもしれぬ

漏れも自由にやりゃいいと思うがね
94名無しさん@ピンキー:2006/01/26(木) 11:55:46 ID:neRct5rG
おね星や僕僕のような
男→女←女
は話題にならないまでも、テンプレ入りしてるし反発ないかもね
95名無しさん@ピンキー:2006/01/26(木) 14:22:13 ID:r8nRVv9d
質・量・テンション・自己顕示欲

全てが高い良スレage
96名無しさん@ピンキー:2006/01/26(木) 16:18:13 ID:14FdioLM

この…泥棒猫ッ!
9785:2006/01/26(木) 20:07:51 ID:jb/O6ebP
 もともと、姉貴は俺と同じT大学で学んでいた。イギリスのM大学に一年の短期留学に行ったのが去年の夏。
ずっと一緒だと思っていた姉貴がどこかへ旅立っていくのは淋しくまた辛かったが、周囲から散々シスコン呼ばわり
されてきた自分を変えようと思ったのもその時からだった。
 しかし、俺はひとりが不安だった。誰か側にいて欲しかった。
 そこに現れたのが麻妃だった。
 彼女は強烈だった。姉に負けるとも劣らないキャラクターを持っていた。それでいて他を圧倒するようなことはなく、
うまく目立たない方法も知っているようだった。
 俺は彼女に興味を持った。
 しかしそれは、今から思えば、やはり彼女の言葉通り「姉の代わり」だったのかも知れない。少なくとも最初のうちは。
 利用しようと思ったことはないが、きっと誰でもよかったのだろう。寂しさを埋めてくれる人が欲しかったのだ。
 だがそれは、彼女と話をし、遊びに行くごとに変わっていった。
 麻妃は姉貴ではなかった。姉貴の代わりでもなかった。俺は姉貴に抱いたことのない感情を彼女に抱き始めた。
 純粋に隣にいたい、彼女の姿を眺めていたい、彼女に微笑みかけていたい。
 彼女は不安を埋めてくれる存在ではなく、俺が何かをしてあげたいと思える存在になっていた。
 それから、俺たちはよく一緒にいるようになった。決して付き合っている訳ではなく、ただ隣にいるのが心地いい関係。
 他愛のないことで互いの家を行ったり来たり。ビデオを見るとか、ノートを写すとか、なんとなく暇だとか。
 そう言えば、以前麻妃が「何も言わずにすぐに来て、お願い」なんて思わせぶりなセリフを吐いたことがあった。
 あの麻妃に一体なにが起こったのか。俺は全速力で麻妃のアパートへ向かった。
 そしてそこで見た光景は、凄まじい臭いと煙が立ちこめる、修羅場と化したキッチンだった――なんてこともあった。
 楽しかった。
 それが唐突に失われることなど、誰が想像し得たろうか。
 しかも、実の姉によって。半ば自らの意思で。
 久しぶりに姉貴に会えた。その喜びや安心の方が、麻妃との他愛ない楽しみより大切に見えた。そういうことなんだろう。
 だが、あの時の俺は正しかったのだろうか。
 分からない。
9885:2006/01/26(木) 20:13:07 ID:jb/O6ebP
出ましたよヘタレの常套句「分からない」
困った時には実に使いやすい。ヘタレの心境が分かりますw
とりあえず今日はこれだけです。
前述の通り今は忙しいので、少しずつやっていきますがよろしくお願いします。
99名無しさん@ピンキー:2006/01/26(木) 21:44:58 ID:dti+PuOE
いいへたれっぷりですね
100名無しさん@ピンキー:2006/01/26(木) 22:38:16 ID:zaD5zskB
ほんとにすんばらしいヘタレだ
このスレに自分の名前が出てきたのがちょっと複雑な気分だ
101名無しさん@ピンキー:2006/01/26(木) 23:55:01 ID:USTHGuHG
こんないいスレが立っていたとは感動ものですね

>>100
岡村さんなにしてはりますん?
102名無しさん@ピンキー:2006/01/27(金) 13:37:25 ID:6J0E6SCq
ちょっとあなた、○○に気安く話しかけないで……
彼は私のものなのだから
1038:2006/01/28(土) 00:08:52 ID:XsPGUOQW
(ノД`) 今応募要綱を再確認したら250枚じゃなくて350枚だった罠

今回の投下分
ttp://kasamatusan.sakura.ne.jp/cgi-bin2/src/ichi22889.txt.html
○警告というか言い訳
・かなり殴り書きに近いです
・前回(>8)の続きじゃないです
・全然嫉妬の炎は見えません(一応後々ちゃんと燃え上がります、多分)


避難所からの書き込み代行でした。
104名無しさん@ピンキー:2006/01/28(土) 00:39:07 ID:AoYPl+gd
>「穢れた女がベタベタするんじゃねえ!」
ぽちっとな。
105名無しさん@ピンキー:2006/01/28(土) 01:20:55 ID:osKdLjNW
>>103
ダウソできないの俺だけ?
106名無しさん@ピンキー:2006/01/28(土) 01:21:50 ID:osKdLjNW
ごめん
解決
107名無しさん@ピンキー:2006/01/28(土) 17:20:28 ID:tDVYNAw2
「うん、これから毎日起こしにいってあげるからね」
藍子は合鍵を、それをまるで宝物の様に、大切そうに、受け止めた。
 
 その合鍵の元鍵の持ち主、元也は一週間程前から独り暮らしを始めた。両親が
ブラジルに転勤したのだ。その日から遅刻を繰り返してる。彼は寝起きが悪いのだ。
それでも両親が居た時は、藍子が部屋まで上がってきて強引に起こしてくれていた。
しかし両親がいない今、彼女は家に上がれず、インターホンを鳴らすだけしか出来ない。
インターホンの音程度で元也が起きれるはずも無く、結果、毎日遅刻することになる。
 
 この状況を打破すべく、元也が思いついたのが、藍子に合鍵を渡し部屋まで起こしに
来てもらう、というなんとも情けない方法だった。

 合鍵を渡した翌日。藍子の声で眼が覚める。寝ぼけ眼で彼女を見ると、セーラー服の
上にエプロンを羽織っていた。
藍子「さあさ、早く下に降りましょうよ」
どことなく嬉しそうな彼女について一階に降りると、そこには朝ごはんができていた。
しかも豪華。いつもトーストだけな元也だが、今日はトーストに加え、目玉焼きにサラダまで
ついていた。
藍子「さ、食べましょ。私もまだ食べてないから、ご一緒しましょう」
二人で、向かい合ってその朝ごはんを食べた。おいしかった。

 合鍵を渡してから3日の放課後。
元也は独りで帰路に着いていた。いつも隣にいる藍子の姿が見えない。今日、部活に
行く前、「今日は私、先にかえるね」と藍子に言われたのだ。その時はなんとも
思わなかったが、こうして独りで帰っていると、ひどく寂しい。
 思えば、幼稚園の頃から、ずっと一緒に帰っていたのだ。そしてその頃から、ずっと
藍子に頼りきっていたなあ、いや、今もだなあ。
 そんな事を考えながら、とぼとぼ歩いていると、後ろから声をかけられた。
「あら、元也君、お独りなの?」





















108107:2006/01/28(土) 18:58:10 ID:V3UpfOxa
「あら、元也君、おひとりなの?
 いつも着いてるあの娘はどうしたの?」
声に振り返ると、そこには美術部の先輩、サキさんがいた。
元也「そんな、いつも一緒って訳じゃないですよ」
つい先ほどまで、藍子に頼りきっていた自分を情けなく思っていたとこなので、
わざとぶっきらぼうに答えた。が、
サキ「あら、そうっだたかしら、ねえ?」
からかう様に、サキは言う。
 なんだか恥ずかしくなった元也は早歩きになる。
サキ「ああ、待っててばあ。そんなに怒ることもないでしょうに」
サキも釣られて早歩きになる。だが、元也の素直な反応が可笑しかったのか、クスクスと笑っている。
元也「ああもう、なんか用ですか?」
先輩にからかわれている事が分かっているので、元也の言葉も荒っぽい。
サキ「用?……ああ、そうだったわ、あなたも独り暮らしの身でしょう?
   どう、予定が無いのなら、同じ境遇の身同士、夕飯食べていかない?」

場所は変わって、ファミレスの中。
元也は鉄火丼を、サキはとろろ定食をたべている。
サキ「じゃあ、あの娘に晩御飯を作って貰ってる訳じゃないんだ」
元也「流石に、そこまで面倒をかけてる訳じゃありません」
……毎朝、起こしに来て貰ってる事は伏せておく。
サキ「ふーん…そっかあ、まだ、そんな仲じゃないわけか……ふーん」

サキ「やっぱりねえ、御飯と言うものは、誰か食べてくれる人がいないと作る張り合いって
   言うものがないわけよ」
ファミレスを出た後、サキは話続けた。元也に自分で御飯を作れないのかと聞かれた
ことにカチンときたらしい。
元也「はあ、そういうものですか」
料理を全くした事が無い元也にはピンとこない話だ。
サキ「…元也君、あなた、明日の晩御飯の予定はあるのかしら?」
元也「明日?…いえ、何も」
サキ「じゃあ、丁度いいわ。明日、私の家に来なさい。私の手料理、食べさしてさげるわ」
元也「…ちゃんと、食えるものですか?」
サキのチョップが飛んできた。
109名無しさん@ピンキー:2006/01/28(土) 22:15:33 ID:2UmH4oen
まだぁ?(・∀・ )っ/凵 ⌒☆チン
11098:2006/01/28(土) 22:29:09 ID:o7HLcCSO
 最近、タカの元気がない。やはりあの女のせいだろうか。
 強引にふり向かせたいとは思うけれど、あの女に負けるみたいでそれは嫌だった。
 いや、そもそも。
 私は既に勝っている。タカは私を選んだのだ。
 その証拠に、タカは今も私の隣でぐっすりと寝ている。
 男にしては綺麗な髪の毛を梳く。
 愛しい。全てが愛しい。絶対に離さない。絶対に。


 隆史に会いたい。


 あれから一週間、麻妃は大学に来ていない。講義は無断欠席、レポートも出していなかった。
 麻妃は今ごろどうしているだろうか。
 そう思うたび、無責任な自分を殴りたくなる。
 俺は幸せになるために、幸せになれると信じて、姉貴を選んだはずなのに。
 あれは間違いだったのだろうか。
 いや、違う。違うはずだ。俺は確かにあの時、姉貴と共にある未来に幸せを想っていた。
 そう、間違いがあるとすれば。
 きっと、麻妃と知り合ってしまったこと。
 そして、麻妃を好きになってしまったこと。
 俺は麻妃が好きで、そして姉貴が好きだ。その上で姉貴を選んだのだから、俺は、間違ってない。
 間違っては、いない。
 なのになぜ、麻妃は苦しんでいるのだろうか。
 麻妃の気持ちが何なのか、薄々気付いてはいた。だから、そのせいにするのは容易い。
 ただ、俺は、姉貴に告白されるまで自分の気持ちに気付いていなかった。
 姉貴にキスされて初めて、麻妃を想って胸が痛んだ。
 あの時にはもう手遅れだった。
 そう考えれば原因は、己の愚鈍。
 しかし、あそこで姉貴を断ることを想像するたび、自らの足場が崩れていくような不安が
起こる。もし気付いていたとしても、どうしたか分からない。
 だからあの判断は間違ってはいない……のだろうか。
 どちらにしろ、既に起こってしまったことだった。
 時を戻すことなどできないし、丸く収めることもできそうにない。
 せめて、麻妃に謝りたかった。
 自分の重荷を下ろしたいからなのかも知れない。それでも、麻妃が救われるなら。
 偽善だとしても救われるなら、それでいい。
 今日、麻妃のアパートへ行ってみよう。二週間ぶりくらいだろうか。麻妃の様子が気になった。
111名無しさん@ピンキー:2006/01/28(土) 22:30:25 ID:o7HLcCSO
「今更何の用があるのよ」
 ドアを開けて一言目に、麻妃は言った。
 思わず怯んでしまう。
「あ、その……謝ろうと」
 麻妃の目がスッと細くなった。
「で?」
「ああ……その、麻妃には本当、悪い事したから……すまなかった」
 言った途端、麻妃に胸ぐらを掴まれた。その瞳にゾクリとした。
「ふざけないで。なに、哀れんでるのよ。あんたのせいでこうなってるっていうのに、自分だけ楽なところにいて」
「そんなつもりは――」
「そういうつもりでしょ! 何が、すまなかったよ。何が、悪いことしたよ。全部アンタの自己満足じゃない。
それで、全部アンタが救われたいからじゃない! 私はあなたの為に生きてるんじゃない! これ以上私を使わないで、
私はあなたの道具じゃない……」
 それを言ったきり、麻妃はぐったりと俺にしなだれかかってきた。両手に力はなく、弱々しく震えていた。
「……ってやる」
 ぼそりと呟いた声色に背筋が寒くなった。と、急に麻妃は俺に抱き付き、部屋へ連れ込もうとする。俺は為す術もなくしたがった。
「ちょっと、待て、どうして」
 久しぶりに入った部屋は薄暗く、どこか退廃的な雰囲気がしていた。アルコールの臭いが鼻を突く。
 彼女は普段からウイスキーを好むが、見ればテーブルの上にはハーパーのボトルが数本置いてあった。
 あれを一週間で飲んでしまったのだろうか。
「麻妃、待て」
「待たないよ! 待てない! 待ってたら、隆史はあっちへいっちゃうんだから!!」
 涙声だった。
「この、バカッ!」
 麻妃は叫んで、俺をベッドに引き倒した。
「ばかぁっ!!」
 そして自身も倒れこんで、シャツを掴んで何度も何度もバカと繰り返す。
「すまない」
 思わず抱き締めたくなったが、そんなことをすればまた彼女を傷つける。
 何もできなかった。
「うるさい、バカ!!」
 麻妃は、俺の胸に顔を埋めてわんわん泣き出してしまった。
「何で今更、もう顔なんて見せないでよバカ!」
「すまない」
「顔見たら、辛いじゃない!! それくらい察しなさいよこのバカ!」
「すまない」
「なんで……もう、私の前から消えてよ……ばか」
 言われた。ここまで拒絶されたなら、もう文句はないだろう。麻妃への未練は断ち切れる。
 なんだ、結局、俺は麻妃への未練があったからこの部屋へ来たのか。最低だな。
「……分かった」
 もう去るべきだ。
 覆い被さっている麻妃の方に手を添えて、そっと押し上げる。
11298(111は私です):2006/01/28(土) 22:31:10 ID:o7HLcCSO
 麻妃の瞳が揺れた。
「あ……」
「すまなかった。本当に。もう、二度と麻妃と関わらない。大学では、顔を合わせるかも知れないが、関わらないようにする」
「あ、待って、たかしまってよ」
 麻妃の虚ろな瞳がすがってきた。
「たかし……さみしいよ」
 さっきの言葉とは逆に、麻妃はギュッと抱き付いてきた。
 どうすればいいのか……。
 さっきの言葉は本気だったと思う。しかし、今の麻妃の様子は一人にしておいたら死んでしまいそうに見えた。
「さみしいよ」
 再びの言葉と共に、麻妃の顔が迫ってきた。
 予想はできた。しかし、避けられなかった。
「たかし……」
 そして、唇が触れ合った。
「麻妃……」
 すき、と彼女は言った。
「なっ」
 頬を染めたかと思うと、麻妃は俺の身体を抱き締め、弱々しく、しかし艶やかに微笑んだ。思わずくらっとした。
「落ち着け麻妃。こんなことして、後で後悔するぞ」
 麻妃は首を振った。
「後悔……してもいい。このまま隆史を帰すよりはずっといい」
 その瞳は泣きそうで、嬉しそうで、辛そうで、苦しそうで……どこか穏やかにも見えた。
「待て、麻妃。待ってくれ」
 何としても、思い留まらせなければ。これ以上彼女を傷つければ、取り返しのつかないことになる。
「麻妃、俺は……その、姉貴と」
 麻妃は微笑んだ。
「分かってる。いいの」
「俺は、きっと麻妃を選べない。それでもいいのか……」
 ふっとその瞳に影がよぎり、麻妃は俺を見た。
「いい。私は、あなたのことを」
 その瞬間の麻妃は、まるで聖母のようだった。
「だいすきなのだから」
11398:2006/01/28(土) 22:35:21 ID:o7HLcCSO
おはようございます。先ほど起きますた。
徹夜明けは辛いとです。
最後の「だいすきなのだから」は始め「あいしているのだから」と
あからさまにファル様だったのですが、まんまはまずいだろうと思って
変えてみました。
114名無しさん@ピンキー:2006/01/28(土) 22:43:04 ID:At2xeNJO
おはようです。98さん

今、学校から帰ってきたら修羅場がますますエスカレートしていますね。
主人公の最低ぶりにも拍車がかかってるしw

続きを期待しております。
115名無しさん@ピンキー:2006/01/28(土) 22:45:32 ID:osKdLjNW
>>113
泣いた
続きは・・・ある?
116名無しさん@ピンキー:2006/01/28(土) 23:06:47 ID:2UmH4oen
盛り上がってまいりました!
11798:2006/01/29(日) 08:50:57 ID:+ZQZfbtV
>>114 >>115
  恐らく続きます。
  まあ、今の所何も考えていないのですが(´・ω・`)
118名無しさん@ピンキー:2006/01/29(日) 10:02:39 ID:7IWcnPZ2
付き合い始めた当初はおとなしくて恥ずかしがり屋だったのに、だんだん嫉妬深く、独占欲も強くなっていきました。
他の女子ならまだしも、女の先生と話しただけでも怒ります。しまいには、暴力を振るわれるようになりました。
昼休みとかに誰もいない教室に呼び出されて、思い切り殴られたことがよくありました。
彼女の言い分では、誰よりも愛してるから、これは愛の鞭だそうです。そう言って殴られます。
でも殴った後、必ず謝ってくれます。そしてその後、お詫びということで僕を気持ち良くしてくれます。
殴られて、謝られて、イカされる。これが毎日のように繰り返されるのです。
初めは彼女が恐かったのに次第に、僕を殴るのは僕のことを誰よりも愛してくれているからだと
思うようになりました。しまいには彼女に殴られるために、わざと他の女の子に話しかけるようになっていました。

また呼び出されました。今日も殴られるのかと思い、恐怖を感じながらも微かな期待を抱いてドアを開けました。
いつもは入ってきた僕を無言で睨み付けるのに、その日はやけにニコニコしていました。
するとどうしたことでしょうか、彼女はセックスしようと言うのです。僕が他の女の子に目移りするのは、
セックスさせてあげてないからだと言いました。確かに彼女には毎日のようにイカされてますが、
それは手や口でのことで、本番はこのところしていませんでした。僕は彼女の優しさに心を打たれて、彼女のもとに駆け寄りました。

それから何時間、僕は延々と犯され続けました。手足を拘束して、僕の上で腰を振り続けています。
何回イッたか分かりません、彼女の陰部からは大量の精液と愛液が滲み出て、動くたびに淫猥な音を奏でます。
僕がもうやめてと言っても彼女は動くのをやめません。どうやら彼女は、いつもとは比べ物にならないぐらい怒ってたようです。
突然僕の首を絞めて、囁くように言いました。
「○○君のこと・・・こんなに・・・んっ・・・愛してるのに・・・あぁ・・・どうして、他の女の子が・・・気に・・・なるの?」
段々と力が強くなっていきます。苦しくてどうしようもありませんが手足の自由がきかないため唸ることしかできません。
もう限界だ、もしかしたら僕はここで死ぬのかもしれない、そんな考えが浮かんできました。
「もしも・・・私を捨てて・・・んっ、あっ・・・他の娘のところに、行った・・・らっ・・・はぁ、はぁ・・・こうやって・・・んんっ!・・・殺して・・・あげるから、ね・・・」
そのまま意識を失いました。遠のいていく意識の中ではっきりと覚えているのは、僕を愛おしそうに見下ろす彼女の顔です。
119名無しさん@ピンキー:2006/01/29(日) 10:05:30 ID:7IWcnPZ2
彼女と別れようか迷っています。束縛されて暴力を振るわれて心が休まることがないのに、それを幸せに感じるようになったからです。
冷静に考えれば異常なことなのに、それが愛されていることだと勘違いして、彼女なしでは落ち着かない自分に気づいたからです。
自分が自分でなくなる、それが恐ろしくなったからです。
でも彼女は許してくれるでしょうか。理由を説明したところで、あっさりと身を引いてくれるでしょうか。
そんなの分かりきってます。許してくれるはずがありません。
彼女にとって僕がいることは当然のこと、いなくなるなんて有り得ないことなんですから。

あっ、彼女からメールが来ました。

件名:ちゃんと勉強してる?
明日から中間試験が始まるね。明日は現国、世界史、英語・・・赤点なんて取っちゃ駄目よ?
○○君は数学と化学はすごいんだから、ちょっと勉強すれば文系科目だってすぐ点数取れるんだからね。
それじゃあまた明日、学校でね。試験が終わったらどこか遊びに行こうね。おやすみ。

追伸:○○君は私にとって全てなんだから、いなくなろうなんて考え、間違っても起こさないでね。
   そんなことになるくらいなら私、本当に・・・

こういう単発モノもいいのかな?
120名無しさん@ピンキー:2006/01/29(日) 10:20:40 ID:GYNoG44C
もろツボだ
121名無しさん@ピンキー:2006/01/29(日) 11:13:31 ID:l1QsxSup
>>118->>119

逆DVだなあ。つーかこういう小説読みたいんだけどココのスレの住民さん良いの知りませんか?
122名無しさん@ピンキー:2006/01/29(日) 17:15:36 ID:jtgjTtT+
>>118
GJ
完全にヤンデレですwww

やはり、逆レイプされるのときが一番盛り上がるなーww
123名無しさん@ピンキー:2006/01/29(日) 21:34:30 ID:m6uHdeH9
続き書いてるんでつが、
途中経過をすっ飛ばして
いきなし修羅場がイイ?
それとも、独占欲から友人関係がギクシャクして
憎しみがエスカレートしていく様子があったほうがイイ??
あと、やっぱエロはあんまし要らんもん???
124名無しさん@ピンキー:2006/01/29(日) 22:06:14 ID:cyjvxYaI
>>123
俺としては
>独占欲から友人関係がギクシャクして
ここの部分が大好きだから是非入れてください。
125名無しさん@ピンキー:2006/01/29(日) 22:19:55 ID:2k6GV6P5
独占欲のある女性の狂気

1・主人公の体の匂いをかいで、あの女の匂いがする!!

2・自分の母親と主人公が喋っているだけで、「○○君、お母さんと浮気!!」
  その後、折檻される・・。

3・主人公に近づいてくる女性を影から脅す・・。




うーん わからんw
126名無しさん@ピンキー:2006/01/29(日) 22:37:56 ID:+1NE4ARN
>>103
おもしろかったよー
続き気になるよ!!
127名無しさん@ピンキー:2006/01/29(日) 22:48:16 ID:9M0cEPJX
漏れの母親が、保健所でこういうのを担当してるので聞いてみた。
リアルヤンデルの特徴としては、
外見は、儚げで弱弱しい清楚な感じ。母親の主観だが、担当した人は皆美人だったらしい。
性格は無口で怖がりで依存心(精神的な意味での)が非常に強い。
しかも箱入り率高し。
こういうのが現実のヤンデルの代表例らしい。
128名無しさん@ピンキー:2006/01/29(日) 22:50:43 ID:lJ2ey7cz
これだけ高レベルのSSが投下されるのであればまとめサイトを作る価値が
十分あるよね。その時の為にも使い捨て構わんから、積極的にトリップを使っ
て欲しいと思うんだが、どうだろう?
129名無しさん@ピンキー:2006/01/29(日) 23:14:54 ID:2k6GV6P5
>>127
モロに言葉様じゃんwwww

無口で怖がりで依存心

自分に清楚で優しくて容姿は普通の子が依存してくれるのはいいんだが、ブサイクだったら死ぬな・・
一生×ゲームやんww
130名無しさん@ピンキー:2006/01/29(日) 23:18:20 ID:D0y5UcdY
>>125
1番はありだな。
赤竜王での呂后と虞美人のやりとりは読んでて面白いw
131名無しさん@ピンキー:2006/01/29(日) 23:19:56 ID:w8y899St
ある一つの話から派生してもいいんじゃない?

他人のネタ読んでて別の修羅場神がおりてくることもあるのではないかと
さすがに〜〜のねたを一部使用していますとかは書くべきだと思うけど
特定の人の修羅場SSじゃなくて、
皆が考えた修羅場SSにしとけば信者もアンチもでないと思う

いい修羅場があればインスパイアもOKと考える俺は少数派?
132名無しさん@ピンキー:2006/01/29(日) 23:40:38 ID:2k6GV6P5
>>131
面白い修羅場を自分並にアレンジするのはいいじゃないのか・・・?
俺もオンライン小説書いているけど、普通に魔術師とか魔法使いの設定はRPGからパクってるし
修羅場を読むことで、小説で修羅場するときは助かるよマジで・・w
ノウハウを作ってくれるだけでこのスレの価値はある
133117:2006/01/30(月) 00:06:24 ID:Q97BIxia
 電話があったのは夜の八時頃だった。
「はい、岸本ですが――」
「あ、姉貴? 隆史だけど、今日」
「タカ!? こんな時間までどこに行ってるのよ!」
 サークルに入っている訳ではないから、こんな時間になるのはおかしい。
「あ……ええと、カラオケ」
 カラオケ。友達と一緒なのだろうか。
「タカ、友達と遊びに行ってるの?」
「え? あ、ああ。そうだよ。それで、その」
 一瞬の沈黙。
「今日、帰れないから」
「え?」
「ごめん」
「あ、ちょっとタカ!」
 切れてしまった。慌ててどうしたのだろうか。何か急ぐ理由があったのだろうか。
 タカの様子が気になったが、それにしても。
「こういうの、息子が夜遊び始める頃の親の心境よね」
 まったくしょうがない。ま、そこが可愛いんだけど。

「……ごめんね」
 電話を切ると、麻妃はうなだれてそう呟いた。
「気にするな。さすがに麻妃をこのままにしては帰れない」
 麻妃を選べないとは言ったものの、抱いた女性を放っておいて家に帰るほど薄情でもないつもりだ。
「その優しさが……」
 麻妃は何かを言いかけて、口をつぐんだ。
「ん? どうした?」
「何でもない」
 麻妃が身体を寄せてきたので、その思ったより華奢な肩を抱いた。温かかった。

 明日は何を作ろう。どうせ外食ではたいした物食べられないだろうから、しっかり作ってあげないと。
 それにしても、隆史も夜遊びを覚えたか。
 友達と一緒だというのは安心できるけど、心配でもある。
 隆史はいい子だから。友達に誘われたら嫌とは言えないだろう。悪いことしてないかな。
 そうだ、明日は炒飯にしよう。隆史が昔から大好きだったシーフードの。
 そう言えば、私が初めて作ってあげたのも炒飯だった。今でこそレパートリーは増えたけれど、当時の私が一番自信を持って作れたのは炒飯だったから。
 ありがちな残り物で作るんじゃなくて、ちゃんとしたもので作ってあげよう。
 喜んでくれるかな。
 喜んでくれるに決まってる。

 薄暗い部屋。月明かりがカーテンの隙間から滑り込んでいる。
 それが、麻妃の部屋を断片的に照らし出す。
 荒れていた。
 激情家な所もある麻妃だから、その様子は容易に想像でき――
「すまない」
 自らの思い至らなさに嫌気が差した。
「え?」
「その、酷いことした。それに、してる」
「……うん」
「謝ったって仕方ないことだが、すまなかった」
「……いいよ」
 まるでそれが幸せだといわんばかりに、麻妃は微笑んだ。
「隆史は今ここにいる。だからいいよ」
 喉の奥に苦い味がした。
「でも、いつも一緒には」
「分かってる。隆史はお姉さんを……選んでるんだから」
 その言葉に非難めいた色はなく、ただ、淋しい諦めの香りだけがする。
 そして、その言葉に少なからず安堵を覚えずにはいられない自分。
 泣きたいくらいに情けない自分が嫌だった。
134117:2006/01/30(月) 00:07:52 ID:Q97BIxia
「もう帰るから」
 次の日の朝。今日は日曜だが、さすがに家へ帰らないとまずい。
 麻妃は一瞬悲しそうに眉を寄せたが、すぐに笑顔になった。苦しい笑顔だった。
「うん。また、学校で」
「その……すまない」
「もういいよ。あんまり謝られると私が辛くなる」
 目を合わせられない。思わずうつむいた。
「じゃあね」
 キィ、という音に顔をあげると、彼女はバイバイと手を振ってから、ドアを閉じた。
 俺は、しばらくそこから動くことができなかった。

 遅いなあ。
 昨日の電話の様子では、遅くとも朝の早いうちに帰ってくると思っていたんだけど。
 夜通しカラオケで過ごしたとしても、空が白み始める頃には解散するんじゃないだろうか。
 もしかして、どこか別の所に行ったのだろうか。そして、そこで夜を明かしたとか。
 そうだとすれば、タカは風邪を引いてしまうかも知れない。いや、もっと悪ければ、誰かに絡まれて――。
 その時、ピンポーンと音がした。
「タカっ!?」
 玄関へ向かう。知らず駆け足になっていた。
「あ……姉貴」
「タカぁっ!!」
「うわっ!?」
 ギュウっと抱き締める。ああ、タカだ。タカが帰ってきた。私の所へ帰ってきた――!!
「良かった、タカが無事で……心配したんだからぁ!!」
 暖かい。タカはいつもと変わらず暖かくて、いい匂いが――。
「……うそ」
「え、何が?」
「ううん、何でもない」
 何この臭い。香水?
 柑橘系の、そんなに強くはない……オレンジか。
「あ、姉貴。苦しいって」
 更に締め付ける。悟られないように嗅ぐと、私の知らないタカの――いや、タカ以外の臭いがした。
「一日ぶりに会うんだから、いいじゃない」
 街にいたならもっと雑多な臭いがつくはずだ。こんな微かな臭いがきちんと残っているということは。
「やれやれ」
 誰だ。私のタカに手を出したのは。
「タカは私のものなんだから、いいじゃない――ね?」
「あ、姉貴……ん」
 タカに口づけた。タカは身体をこわばらせるだけで、いつものように舌を絡ませてはくれなかった。
「あ……タカ……あ、ん」
 この臭い……忘れない。絶対に。
135117:2006/01/30(月) 00:10:02 ID:Q97BIxia
投下前に>>125 を見てorz
漏れ、想像力低いな……
136名無しさん@ピンキー:2006/01/30(月) 00:11:08 ID:uFB8bQtB
>>134
ドキドキドキドキ
すげぇいい
youがノベルとかだしたら絶対買う!!
137名無しさん@ピンキー:2006/01/30(月) 00:14:05 ID:wesjjeDt
>>135
全然低くないよ
というか素晴らしい
138名無しさん@ピンキー:2006/01/30(月) 00:56:14 ID:WZ1hpi61
>>129
男はそういう感じの女の子に頼られると、満更じゃないでしょう。だから女の子
を構う、可愛がる。結果として女の子の依存心は強まり、それに比例して独占欲
とかも強まる。そんでストレスが溜まりまくる。
しかし、ストレス発散の方法を知らない為、爆発するまで溜め込まれ続ける…。

ストレスが溜まって本格的に病んでくると、男が帰るのが遅かったり、職場や学校で
他の女性と話をしただけで物投げたり、引っかいたり、ヒス起こしたりする。刃物沙汰になったケースもある。
容姿に関しては、一般家庭より上のレベルの家庭の娘にこういうのが多いらしいから、美人率は高いらしい。
母親も含めてだが、保健所の関係者は皆「息子がこういうのにひっかからないか心配。」なんだって。俺は間違い無く引っかかるでしょう。
後、患者の家族も無駄に世間体を気にするから、治療とかも大変らしい…。
139名無しさん@ピンキー:2006/01/30(月) 01:03:18 ID:Q97BIxia
>>138
不謹慎かも知れないが、修羅場向けの性格ですな
境界例という、精神病のような神経症のような病気にもそういうのがあるらしい
140名無しさん@ピンキー:2006/01/30(月) 01:26:44 ID:7Ilu5Lm5
漏れには見える、見えるぞ……その後に訪れる、惨劇が……!!
141107:2006/01/30(月) 01:57:35 ID:aXVSGYXU
>>108の続き

藍子「ごめん、あのね、今日も私、先に帰るね」
そう言われた時、元也は内心ホッとしていた。昨日サキから食事に誘われていたのだ。
それを藍子に言うのは、やはり少しためらいがあった。
藍子「……どうか、したの」
内心の安堵を見透かしたかのように、藍子が顔を曇らせる。
藍子「……なんで、嬉しそうなの……」
元也「そんなこと、無いってば!」
藍子の鋭さに内心冷や冷やしながらも答える。声は裏返ってはいない。良かった。

藍子は表情を曇らせたまま、帰っていった。何度も元也の方を振り返っていた。
ひょっとしたら、一緒に帰ろうと着いて来て欲しかったのかもしれない。
けど、今日は先輩の家に行く約束があるのだ。美人な先輩の手料理が食えるのだ。

所変わってサキの家。
リズミカルな包丁の音が聞こえる。なかなか馴れた手つきだ。人を誘うだけあって、
料理は上手らしい。
今日は部活を休んで料理をしている。その内、こちらはちゃんと部活に出た元也が
来るはずである。

時計を見ると、六時十五分。そろそろ元也が来てもいい頃だ。準備も終わり、することが
特に無くなると、なにやら落ち着かなくなる。しまった、料理を始める前にお風呂入っとく
べきだったかしら、いや、何も今日中に、一日やそこらで、ねえ、そんな…いや、
今からでも、シャワー位なら……!
インターホンがなった。飛び上がるほど吃驚した。
ドアの覗き穴をみる。元也だ。
玄関横の鏡を見る。料理をする時につけたヘアバンドをしたままだった。慌てて
ヘアバンドを外す。よし、笑顔。

元也「お邪魔します」
元也「あ、これ、つまらない物ですが、どうかお納め下さい」
そう言って元也が出したのは、苺と林檎だった。
その、妙な紳士的な言い方が面白かったようで、サキも
サキ「これはこれは、ご丁寧に、さ、大したおもてなしも出来ませんが、
   ごゆっくりなさっていって下さい」
と、不自然に丁寧な答え方をする。

サキ「じゃ、あとお茶入れるから、おこたで待ってて」
御飯も食い終わり、アルコールもいい感じで回っている。普通なら、のんびりとした
いい気分だろう。
だが今、元也の頭はフルスピードで回っていた。帰るタイミングのことだ。
サキの家のコタツは一人用サイズで、それを見た瞬間、この家に居るのが自分とサキだけ
ということを今更ながら、強烈に思い出した。
コタツの前で立ち往生していると、サキがおゆのみと元也が持ってきた果物をもってキッチンから
出て来た。
サキ「どうしたのよ、座りなさいな」
そう言うとサキは先にコタツに入った。元也も腹を括って、コタツに入った。
一人用のコタツだけあって、二人で座ると困るほど顔が近い。


元也とサキが、二人でコタツに入っている頃、藍子は、元也の家のキッチンの隅で座っていた。
コンロの上には、彼女が作ったのであろう、白菜の煮物と海老のチリソースがあった。
藍子「…どうしたんだろ、もとくん、遅いな…
   せっかく、御飯、内緒で作って驚かせようと想ったのにな…」
142名無しさん@ピンキー:2006/01/30(月) 04:14:09 ID:7Ilu5Lm5
いいね〜、次回が楽しみになってきたよ
143名無しさん@ピンキー:2006/01/30(月) 05:25:56 ID:R9ZedEyp
うわー
夕飯作って待ちぼうけ。お約束でハアハア
144118:2006/01/30(月) 08:29:07 ID:tRePil27
これからもちょくちょく投下していきますんで。
稚拙な文章ですが楽しんでいただければ幸いかと思います。
145名無しさん@ピンキー:2006/01/30(月) 11:11:16 ID:5wAnnS5t
>>138
>>一般家庭より上のレベルの家庭の娘にこういうのが多いらしいから
リアル下流社会の俺にはこういう娘をGETするのは無理そうです・・。
うーん、言葉様みたいなヤンデレの子を彼女にしたいと思うけど・・・
現実は上流社会のお嬢様の特権だったんですね・・・w 
まあ、言葉様はお金持ちのお嬢様で世間知らず=上流社会の娘
に当てはまるかもしれないけど・・。

保健所の関係者はリアルでヤンデレとか第三者の立場で
傍観できるのか・・。何か面白そうですねww


146名無しさん@ピンキー:2006/01/30(月) 18:20:28 ID:qtHyM6W6
本スレまとめサイト管理人あたりに、このスレもまとめてもらいたいものだな。
ラノベ板のほうは年齢制限の関係で対応しなかったみたいだけど。
147名無しさん@ピンキー:2006/01/30(月) 19:00:10 ID:WZ1hpi61
>>145
私も色々聞いてみたいんですが、仕事は本当に大変ですから、聞きにくいんですよね…。
ヤンデル娘だけじゃなくて、アル中・ヤク中や躁鬱も管轄していて、そういった人が昼夜も場所も問わず
に暴れるので、真夜中に警察から呼び出しがかかったりもする。
末期のヤク中の話聞いたらこっちがブルーになりました…。
148名無しさん@ピンキー:2006/01/30(月) 19:17:30 ID:WoUV0exq
>>146
ラノベ板言うな

>>147
まぁ、ぶっちゃけ不謹慎だしな。
修羅場は二次元の中だけにしておきたいものよ。
149135:2006/01/30(月) 19:24:22 ID:jNqcT27r
 タカの取っている講義は……ここだ。この講義室だ。
 私は何食わぬ顔で中に入った。
 講義開始までにはまだ時間があるので、人はまばらだ。それに私はイギリス留学していた
お陰で知り合いが少ない。バレることはないだろう。
 後ろの方に席を取る。この講義室は大きい方だから、一度に200人からの人が入れる。
私も入学したての頃、ガイダンスを受ける為に入ったことがあった。
 しばらくして人が増えてきた。開始時間まで後3分。そろそろタカも現れるだろう。
 私は伊達眼鏡を掛けた。変装なんてものじゃないが、気付かれにくくはなるはずだ。
 そのまま左右の入り口にさり気なく視線を巡らす。
 そこへ、隆史は現れた。
 隣には誰もいない。隆史を誑かした女は、この講義を取っていないのだろうか。
「あの、隣いいですか」
 わっ!?
「っ……え、ええ。どうぞ」
 すんでの所で声を抑える。
 私は相手を見ないまま半分腰をずらした。
「ありがとうございます。あの……いえ、何でもありません」
 彼女は何か言いたかったようだが、そのまま隣に腰を下ろして用意をし始めた。
「あれ……おかしいな」
 何か手間取っているようだ。
 目立ちたくない。無視しようか。
 いや、でも、この教室にいるうち私のことを知っているのはタカくらいなものだろう。
 騒がなければ大丈夫だ。
「どうかしましたか」
「あ、その、実は筆箱を忘れてしまって……久しぶりの学校なので」
 彼女は微笑んで私の方を見て――
「あなた……」
 目を見開いた。彼女、進藤麻妃は信じられないという顔をしていた。
 信じられないのは私も同じだ。
「……まさかってやつね」
 動揺を悟られないようわざと素っ気なく言う。
 なぜ気付かなかった。彼女だ。
 他のどんな女より怪しいのはこの女、進藤じゃないか。
 互いに黙り込む。
 今はまだ様子を見るべきだ。余計なことは言えなかった。
 講師が入ってきた。どうやらタカは一人で講義を受けるようだが……。大学にいる間は
それと見せないでいるつもりだろうか。
 不可解だ。私からタカを奪おうとしているにしてはあまりに覇気がない。
 まるで、私とタカの関係を容認しているかのように見える。
 彼女はそんな位置に甘んずるような女ではない。少なくとも私にはそう見える。
 演技か。それとも進藤ではないのか。
 どちらにしろ、情報を得なければならなかった。
150135:2006/01/30(月) 19:26:31 ID:Ag8yYdDr
 結局、それ以降講義が終わるまで私と進藤は話をしなかった。
 チャイムが鳴り、生徒が次々に講義室を出て行く。
 私もタカに気付かれる前にここを出ないと。
 そうだ、その前に聞いておかなければならないことがあった。
「ところで、進藤さん香水は?」
「今は使ってません」
 確かに、彼女からはボディーソープかシャンプーのような香りしか感じられない。
 私自身あまり飾るのは好きではないので、好ましい香りと言えた。
「そう。じゃね」
 進藤はまだ灰色だが、怪しい。この先注意しておかないと。
 それに、タカ。
 私というものがありながら他の女に手を出すなんて。
 しっかり躾ないと。

「隆史、さっきの講義お姉さんも取ってたのね。先に言ってくれてれば注意したのに」
 何だって?
「そんなバカな。姉貴は第一、学部が違う。文学部で比較文化論を専攻してるはずだ」
「でも、私は隣に座って話までしたわよ」
 麻妃が嘘をついているとは思えない。ということは。
「何でそんなことを」
 麻妃は、しばし顔を伏せてから言った。
「たぶん、タカと私の関係に……いや、そこまでは分かっていないと思うけれど、
少なくともタカがお姉さん以外の誰かと『そういう関係』になってるってことには
気付いてるんじゃないかしら。今日はそれを調べに来たのよ」
「そんな……」
 しかし、いきなりの門限宣言といい、今日の不可解な行動といい、そう考えるのが
妥当に思える。
「どうして気付いたのかしら。隆史、心当たりはない? その、相手は私……しかいないんだから、
あれ以降で隆史がお姉さんと会った時になるけれど」
 麻妃は僅かに頬を染めて目を逸らした。
 そんな仕草をされると、俺まで恥ずかしくなってくるじゃないか……。
「と、とにかく。もう少し考えてみるよ。何か分かったら連絡する」
 麻妃はじっと俺を見た。
「なんだ?」
「今日は、その、家には」
 ぽつりぽつりと呟いた声が妙に艶やかで、どきりとした。
「あ、そ、そういえば言ってなかったな!」
 動悸を吹き飛ばすような勢いで言う。そうでもしないとうまく口が動かない。
「実は、姉貴、いきなり門限を決めたんだ。午後八時までって」
「じゃあ、それまででいいから」
 麻妃は一歩近づいて、縋るように言った。
 断ることなどできなかった。
151135:2006/01/30(月) 19:31:43 ID:Ag8yYdDr
このSS、自分でもどこへ行くのか分からなくなってきましたw
始めはこんなに続くはずじゃなかったので……

ところで、>>128氏の言うようにトリップを付けた方がいいんでしょうか。
意見があればお願いします。
152名無しさん@ピンキー:2006/01/30(月) 20:28:16 ID:+ZnXNimg
>>151
恐らく本職を含む数人の書き手が、日を跨いで長編を書いて下さっているので、
実用のためにもハンドルネーム(HN)やトリップを使って頂きたいと思っています。

同一HNの継続使用やHNの使用そのものを強要しなければ、荒れ対作としても十分
でしょう。作品毎に使い捨てても問題ないかもしれません。専ら書き手の意思に
任せ、実用を第一義として使って頂ければ、いいのではないでしょうか?
153名無しさん@ピンキー:2006/01/30(月) 21:37:24 ID:JcmySIIj
ここは神が住まうスレだよ・・・・感動した・・
まとめサイトがあってもおかしくないよwwwww


まあ、嫉妬する女の子の恐さというのは
冷たく微笑むことかな・・。あの恐さは男の子では再現できない・・
女の子のみが使える最終奥義の一つだよ・・

あの微笑みを見ただけで、男の第6感が騒ぐんだよ・・。
逃げろ・・。ここにいたら、危ないと・・。
背筋に悪寒が走るし、恐怖して足が立ちすくむほどに・・・




154無題 ◆DxURwv1y8. :2006/01/30(月) 22:54:43 ID:jNqcT27r
>>152
意見ありがとうございます。じゃあ、トリップ付けてみますね。
と言っても、実はトリップを付けるのは初めてなので少し心配ではありますが。
155本スレまとめサイト”管理”人:2006/01/30(月) 23:26:13 ID:RhFEHTOD
ちょくちょく話があがっているようですが、
私ごときでよろしければ纏めてみようかと思います。。
少し時間がかかるかもしれませんが。
156名無しさん@ピンキー:2006/01/31(火) 01:37:56 ID:Xt6vnMZU
ん、本スレまとめサイトの方も大変なのにお疲れ様
俺は知識的に援護は難しいけど、誰でもいいから力になってあげて欲しいよ

――私、独占なんてしませんから。
157107:2006/01/31(火) 03:23:34 ID:u+18uZhR
>>141の続き

藍子「…どうしたんだろ、もとくん、遅いな…
   せっかく、御飯、内緒で作って驚かせようと想ったのにな…」

そうポツリと呟きながら、藍子は今日の自分の行動を思い出し、顔を真っ赤にする。
あんな事をするつもりは、全く無かったのに……

話は昨日にさかのぼる。
昨日、彼女としては珍しく元也をおいて先に学校を後にした日、彼女が何をしていたかと
言うと、実は元也の家の食料品を買いに行っていたのだ。
合鍵を受け取ってから、毎日朝ご飯を作るようになり、色々と足りないものがあるのが
気になった。例えばインスタントコーヒーや塩、胡椒、いざという時の冷凍食品。
そういったものだ。
本当を言えば、元也と一緒に買い物に行きたかったのだが、彼を部活の後、連れ回すのは
気が引けたので、彼女は独りで買い物に行くことにした。

スーパーの袋を手に下げたまま、合鍵を使い、元也の、主のまだ帰ってきていない家に入る。
そのままキッチンへと向かう。手早く、馴れた手つきで物を収めてゆく。
荷物の中には、野菜や肉もあった。今晩、料理をするつもりだろう。

荷物も全てしまいきった後、藍子はリビングに出た。
一息つこうと、ソファーに向かった。そこに、元也のコートがほうりっ放しのまま
置かれていた。これではシワが付いてしまうだろうと、元也の部屋のクローゼットに
掛けに行った。

ドアを開け、元也の部屋に入り、コートを掛けた。
その時、はたと思った。そう言えば、この部屋にもとくんが居ない
状態ではいるのは、今までなかった、と。
そう気がつくと、急に落ち着かなくなった。
用も無いのだから、出て行かなくちゃ、とは思っても、藍子が出て行くそぶりは見えない。

本棚を見る。漫画と小説が同じ位ある。CDはサントラが多い。半年ほど前に流行った
アルバムがあった。
なんとなく、元也の椅子に座る。椅子をクルクルと回す。
ふと目に入った引き出しを開ける。結構綺麗に整理されてた。日記でもないかと思ったが、
そんな事しないであろうと、誰よりも知っていた。

ベットが目にとまる。毎朝あそこで元也が寝ているのを見ている。
時計を確かめる。まだ、元也の部活が終わる時間ではない。もう一度、時計を見る。
うん、大丈夫、まだもとくんは帰ってこない。
158107:2006/01/31(火) 03:24:59 ID:u+18uZhR
>>157の続き

うん、大丈夫。まだもとくんは帰ってこない。

ゆっくりと、藍子は元也のベットに横になる。深く息を吸い込む。元也のにおいが感じられた。
毎日毎晩、彼がここで寝ていると思うと、全身がこそばゆく感じる。
二度三度と寝返りを打つ。
その時頭に閃くものがあった。たしか、こういうベットの下には……
あった。そういった本が。うわ、あ、ああ…
そうなの、もとくんは、こんなのが、こういったのが………
それで、こういったので、じぶんで、やちゃってるの、ね、

そう思うと、この写真の女の人に怒りが湧いてきた。マジックで塗りつぶしてやりたい。
切り裂いてやろうかしら、燃やしてやりたい、シュレッダーにかけたい。ガソリンを
つけて燃やしたい。

だが、それをしたら、さすがにもとくんが怒るかも、いや、そもそも、もとくんが悪いんだから、
胸に沸き立つ怒りをとりあえず押さえ、本を戻す。

布団を被り直す。元也のにおいを感じてる内に怒りが収まっていく。
その代わりに湧き上がってきたのは、ここで、元也が、そういったことをしていたという事に
対する微熱のような湿った感情だった。

ひょっとしたら、昨日も…ここで…?
そう思うと徐々に頭が茹って来る。顔が熱くなる。呼吸が大きくなる。

「ひゃん!」
じぶんの声に驚いた。気がつくと、セーラー服のスカートを捲り上げ、自分で触っていた。
無意識の自分の行動が信じられず、パニックになる。
混乱したまま、急いで部屋を出、そのままの勢いで元也の家からも飛び出した。

その日、料理するつもりで買っておいた食材のことを思い出したのは、自分のうちに
ついてからだった。
159名無しさん@ピンキー:2006/01/31(火) 04:10:49 ID:kP4+ySuz
エロ本に嫉妬する藍子タンテラモエスw
健気で純粋で、主人公の所有権を当然の物と思っていた幼馴染が
後から突然やってきた泥棒猫にそれを奪われることで、
その独占欲を剥き出しにしていく…
そんな美しい光景が見られると期待しても良いですか?
160名無しさん@ピンキー:2006/01/31(火) 13:15:44 ID:oN6q4NFK
無断で部屋に入るのは幼馴染みの特権ですなw
においを嗅ぐだけで怒りが収まる藍子タソハァハァ
161名無しさん@ピンキー:2006/02/01(水) 00:08:34 ID:BibGoqA4
本スレよりジプシー。
今日この日まで、ここに来なかったことを激しく公開中。。。

本職および連載中の神々には遠く及ばないとは思うけど、出来たら貼り付けるわ。
そのときはよろしくね。
162名無しさん@ピンキー:2006/02/01(水) 03:01:32 ID:05JoGaYJ
君には期待している
163107:2006/02/01(水) 04:09:54 ID:IiyClqzr
>>158の続き

そして翌朝、藍子の部屋。
目覚ましが鳴る前に目が覚めた。パジャマがやけに肌にまとわりつく。
昨日、元也の家から帰った後も、彼のベットに寝た時の熱が体の奥に残っていたが、
それを無視して強引に寝付いたのだ。そのせいだろう、じっとりとした、体に纏わりつくような
汗をかいてしまったのは。
そして、その熱はまだ体の奥でくすぶっていた。

シャワーを浴び、汗を流す。
セーラー服に着替え、外に出る。朝御飯は元也の家で取るつもりで、家では食べなかった。

トーストをオーブンに入れ、コーヒーを沸かす。その間にハムエッグを作る。
用意も終わり、元也を起こしに二階へあがる。
起きていない事が分かっているのでノックもしない。
元也を起こそうと声をかけようとした時、昨日の自分の行動が思い出された。

瞬間で、体の中にくすぶっていた熱が燃え上がる。
昨日、私が、あんな、あんな事を、その、やちゃった、いや、やりそうになちゃった
とこで、もとくんが、寝てる、いや、当然は当然なんだけど、でも、あ、あああ、
セーラー服のスカートの中で、ふとももが閉じられ、もじもじと動いていた。

元也の部屋から飛び出し、洗面所に向かう。深呼吸。冷水で顔をザブザブと洗う。
鏡を見る。
腰の辺りに熱い強い疼きは残っていたが、顔色はなんとか平常に戻っていた。

改めて、元也を起こしに行った。

その日、学校に居る間、彼女は落ち着きが無かった。妙に頬が赤く、瞳は潤み、肌は汗ばみ、
元也を密かに追うその視線はいつもより熱っぽかった。

そして放課後。
藍子は昨日元也の家に置きっぱなしにしてきてしまった食材のことが気になっていた。
白菜の方はともかく、海老の方はタイムサービスで買ったものなのだ。早いうちに
調理をしておきたかった。

昨日に続き、2日も連続で元也と一緒に帰れないのは物凄く、物凄くイヤだったが、
先に帰っておき、元也が帰ってくるまでに料理を済ませておき、彼を驚かせるのは
とても楽しい想像で、彼女は先に独りで帰ることにした。

藍子「ごめん、あのね、今日も私、先に帰るね」
元也にそう告げたときの、彼の反応はおかしかった。
明らかに、なにかホッとした様子なのだ。私と帰れないのに、その反応は何?
寂しく、ないの?
藍子「……どうか、したの」
藍子「……なんで、嬉しそうなの……」
思わず、詰問口調になる。
元也「そんなこと、無いってば!」
不自然な大声で答える元也。
ますます胸の中で疑心暗鬼の心が膨れ上がる。

胸に黒いモノを持ったまま、元也のもとから離れる。
ひょっとしたら、今からでも、私のこの気持ちを感じ取って、一緒に帰ろうと言って
くれるかもしれない。
そう思って何度も元也の方を振り返ったが、彼はこっちに来てはくれなかった。

164107:2006/02/01(水) 04:11:22 ID:IiyClqzr
>>163の続き

所変わって元也の家。
藍子は昨日作るつもりだった白菜の煮物と海老のチリソースを作り上げ、ソファーに
足を抱えて座っていた。
学校で別れた時の元也の態度がずっと気にかかっていた。
何か、すごく嫌な感じが収まらなかった。
そして、その気持ちと同じように、昨日から続いている体の熱と、腰の辺りの熱い疼きも
収まってはいなかった。

黒い気持ちと熱い体をもてあまし、彼女は考えることを止める。
すると自然とその足は元也の部屋、元也のベットへと向かっていった。

開いていたカーテンを閉める。
ベットに横に鳴る前、
藍子「これは、シワになっちゃうと、いけないから、だから、
   そうなの、こうしなくちゃ、いけないの」
顔を真っ赤に、いや肩の辺りまで真っ赤にさせながら、そう呟く。
自分に言い聞かせているのだろう。

スカートのファスナーに手をかける。ゆっくりとおろし、スカートを脱ぐ。
上もスカーフを取り、そろそろと脱ぐ。

そして、下着姿で元也のベットに潜り込んだ。
大きく息を吸い込み、元也のにおいを感じ取る。
昨日の何十倍も、体が熱く疼いた。
そして、今日は自分から、意識的に自分に触れた。声が漏れる。

玉のような汗が体中から出て来た。
それを気にする事もせず、むしろ意識的に汗を元也の布団に染み込ませる。

そして今、彼女はキッチンの隅で座っていた。
セーラー服も元通り、ちゃんと着ている。
昨日から続いていた体の熱い疼きが収まると、あれほど沈んでいた気持ちも
収まっていた。
むしろ、けだるい幸福感にも包まれながら、彼女は元也の帰りを待っていた。

藍子「…どうしたんだろ、もとくん、遅いな…
   せっかく、御飯、内緒で作って驚かせようと思ったのにな…」

165名無しさん@ピンキー:2006/02/01(水) 04:49:10 ID:GwfXvVf9
107タンキタ━━━━(。A。)━(゚∀゚)━(。A。)━(゚∀゚)━(。A。)━(゚д゚)━━━━!!!!
>玉のような汗が体中から出て来た。
>それを気にする事もせず、むしろ意識的に汗を元也の布団に染み込ませる。
ちょっと変態な藍子タンハァハァ
166名無しさん@ピンキー:2006/02/01(水) 10:31:25 ID:77AEqKy3
やはりヒロインは須らく偏執的な愛情を持っていないと。
主人公の部屋でオナニーは基本と言えるのではないか。
主人公の洗濯物の臭いを嗅ぐのもベター。
エロ本に嫉妬も常道であろう。
主人公が違う女と写っている写真を処分すると尚良し。
16716 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/01(水) 12:29:04 ID:bWRN/sLj
投下しまーす。
テーマは「ツンデレVS素直クール」。

まとめサイトに収録するときにタイトルが必要なら、別途タイトル付けますけど。
いかがでしょうか? >本スレまとめサイトの中の人
16816 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/01(水) 12:29:58 ID:bWRN/sLj
「山田優治。約束だ、一緒に昼食を取ろう」
その瞬間、陽子は椅子ごと後ろに倒れそうになった。
時間は昼休み。
陽子はいつものように優治の机に自分の机をくっつけて、
購買で買ってきたジュースと自作の弁当を広げているところだった。
このクラスには暗黙の了解がある。
すなわち、"陽子と優治の食事に同席してはならない"という鉄の掟が。
いくら二人が付き合っていない(と主張している)とはいえ、
昼休みのたびに展開されるストロベリー空間に割り込むほど野暮な人間は、このクラスにはいないのであった。
否。
いない、はずだった。
「一緒に食べよう」
優治の前に立つ鈴木雪は、そう繰り返した
「ちょ、な、いきなりやって来て何言ってんのよ!?」
思わず陽子は爆発していた。
だってだって、これから優治と一緒に昼食で、
今日のお弁当はわりと自信作で、それがなんでいきなりこんなことに!?
勢いよく立ち上がった陽子に、しかし、雪は冷ややかな一瞥をくれるだけだった。
「佐藤陽子、少し黙っていてくれないか。君に発言権は無いのだよ。
 彼は昨日、私と一緒に昼食を食べたい、と言ってくれた。先約は私の方なのだ」
憎らしいほど落ち着き払った声。
どことなく胸を張っているように思えた。ちなみにFカップだ。
貧乳もいいところの陽子は思わず気圧されてしまう。
「ちょ、ちょっとどういうこと、優治? 先約ってなによ?
 あたしと一緒の食事は不味くて食えないってワケ!?」
矛先を変えると、当の優治は腰を引き気味にしつつ泣き笑いを浮かべていた。
「……えーと、落ち着いて、陽子ちゃん」
「これが落ち着いてられるかってのよっ!」
ダンッ、と机を叩く。弁当箱が浮く。
「まさかアンタ、鈴木さんと付き合ってんの?」
「ふむ、いずれそうなるだろうな」
「な、ホントなの、優治!? どうしてあたしに言ってくれなかったのよ!」
優治と雪が? 付き合うって? だって、そんな素振り全然なかった!
一抹の寂しさと共に悔しさが込み上げてくる。
――この女が!
陽子は雪を睨みつけた。
「え、いや、僕の話も聞いて――」
「そういうわけだ。負け犬は引っ込んでいたまえ」
「誰が負け犬ですってぇ!?」
「貴様だ、佐藤陽子」
「アンタに貴様呼ばわりされる覚えは無いわよ、バカッ!」
「バカというほうがバカなのだ。統計的にも証明されている」
「どこの統計よ!?」
「あの……僕の話も聞いて……無視しないで……」
昼休みを喧騒の渦に巻き込む二人の少女に、その間でおろおろと惑う優治。
クラスメイトたちは遠巻きに、呆れたような視線を彼らに向けていた。
この日、クラスには新たな暗黙の了解ができあがった。
すなわち、"鈴木雪と佐藤陽子は混ぜるな危険"。
16916 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/01(水) 12:30:47 ID:bWRN/sLj
結局、雪は強引に優治を引き摺っていってしまった。たぶん食堂に行ったのだろう。
優治が陽子の作った弁当を持っていったことは唯一の救いだったが、
それでも面白くないことに変わりはなかった。
陽子は仲のいい数人の女子と一緒に、ようやっと食事を始めていた。
喚き散らしながら。
「むかつくむかつくむかつくー!」
「はいはい、陽子、口にモノ入れながら叫ばない。
 ってか、アンタ、山田君とは付き合ってないんじゃなかったの?」
「付き合ってないわよ! なんであんなバカとっ!」
「じゃあなんで怒ってんのよ。付き合ってないならいいじゃない」
「なんでかわかんないけどイライラするのっ!」
箸をブンブンと振り回して、陽子はいっそう声を張り上げた。
「むかつくーーーーーーっっっっっっ!!!!!!」
「うわ、ご飯粒飛んできた」
周囲の顰蹙を買いつつ、なおも陽子は不満を垂れ流す。
「鈴木さんもさぁ、……急に何? いつから優治のこと好きだったの?」
「あ、それ私も思った。そんな話、聞いてないよね」
「『昨日、彼と昼食を一緒にする約束をした』って言ってたっけ、たしか。
 授業中に接触はなかったはずだから、放課後になんかあったのかなぁ。陽子、なんか知ってる?」
陽子はむすっとした顔で、
「昨日は、優治はクラブがあるって言ってた。あたしは先に帰った」
「山田くん、逢引してたんじゃないのぉ? クラブはサボってさぁ」
「そんな! 優治があたしに嘘つくわけないじゃない!」
「わっかんないわよ〜。浮気されたくないなら首輪付けとかなきゃ〜」
友人たちは完全に面白がっている。
陽子はよく茹でられたアスパラガスを口に入れて、鼻から大きく息を吐いた。
いまごろ優治とあの女はなにしているのだろうか。
一緒に仲良く食事?
楽しそうに会話?
弁当の中身を交換しちゃったりして。
その弁当は陽子が作ったものなのに。
(このアスパラガス美味しいなぁ……)
優治と一緒ならもっと美味しかったかもしれない。
燃料の切れたロボットのように、陽子はぼんやりと青い空を眺めるのだった。
17016 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/01(水) 12:31:29 ID:bWRN/sLj
――昨日の放課後。

雪はいつものように校庭を横切って下校していた。
サッカー部と野球部の境界を縫うようにして歩くのだ。
もちろん両側から注目を浴びるのだが、雪は意に介していなかった。
――もう日が暮れそうだな。
夕日を見て思う。
図書館で過ごした時間は思ったよりも長かったようだった。
少し足を速めようとして、雪は行く手に誰かが倒れているのに気付いた。
いや、大の字になってグラウンドに寝そべっているのだ。
仰向けになったその顔に見覚えがあって、雪は呟いた。
「山田優治か」
臥していた体が傍目に分かるほどビクッと震えた。
慌てたように優治は体を起こしてきょろきょろと周囲を見回し、
そして雪の姿をみつけてにっこりと微笑んだ。
「なんだ、すごくびっくりしたよ」
――それは私に話しかけられたことに対してか?
内心苦笑したが、表情にまで出ずにそれは消えていった。
「なにをしていたんだ?」
「えーとね、寝転んでたんだ。疲れちゃってさ」
あはは、と優治は笑った。
疲れていると口にしながら、それを疑わせるような笑顔だった。
「真面目に励まなくてもいいのか?」
「いいんだよー。監督だって、あんまり頑張るなよって言うしね」
「なんだ、それは」
馬鹿馬鹿しい。雪は思った。
優治はどうしてこのクラブに入っているのだろう。
練習に励まないで、なんのための部活なのか。
「あ、笑った」
「え?」
優治は雪の顔を指差して、
「鈴木さんの笑った顔、はじめて見たよ。これって自慢できるね。なんか嬉しいなぁ」
――笑っていた? 私が?
雪がきょとんとしていると、彼はそんな雪を見てさらに笑った。
本当に楽しそうな、心の底からの笑顔だと思った。
優治の傍にいれば、自分もこんな風に笑えるのだろうか。
そう思ったとき、雪は口を開いていた。
「明日の昼食、一緒に食べないか」
なぜそんなことを言ったのかわからなかった。
このまま、ただのクラスメイトに戻ってしまうのが惜しくて、
だから何らかの繋がりを求めたのかもしれない。
優治は一瞬あっけに取られた顔をして、すぐにまた笑った。
「いいね」
ちょっと驚いた。
もう少し渋ると思っていたからだ。
「本当にいいのか? 佐藤陽子と約束しているんだろう」
山田優治と佐藤陽子の仲はクラスでは有名だ。
こんな浮気のような真似をすれば、後々面倒なのではないかと思った。
けれど、優治の答えは明快だった。
「うーん、いいんじゃないかな。陽子ちゃんとはいつも一緒だし、たまにはね。
 って、よく考えてないだけなんだけどさ」
そう言ってはにかむ優治を見ていると、それだけで頬が火照ってくるようだった。
さよならを告げて、雪は再び帰宅の途についた。
明日が楽しみだった。
17116 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/01(水) 12:32:20 ID:bWRN/sLj
このあと何も考えて無いんですけど。

1.このままヌルいラブコメ路線で
2.急転直下、激・修羅場!
3唐突に.エロ

どれがいいでしょうか?
先着一名様、お願いします。
172名無しさん@ピンキー:2006/02/01(水) 12:44:33 ID:UUb3kNQl
>>171
2
17316 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/01(水) 12:49:15 ID:bWRN/sLj
>>172
了解。

何日か掛かると思うんで、気長に待ってください。
では、おやすみなさい。
174名無しさん@ピンキー:2006/02/01(水) 14:57:12 ID:05JoGaYJ
まてまて、まだ主人公と女の子達の心理描写が弱い
もっともっと盛り上げてから一気に急転直下
その温度差に萌えるんジャマイカ
175名無しさん@ピンキー:2006/02/01(水) 21:29:26 ID:8FzWPcjI
>>171
1の後に2で
176無題 ◆DxURwv1y8. :2006/02/01(水) 21:30:25 ID:8FzWPcjI
「はい、コーヒー」
 行為を終えて一息つくと、門限まであと一時間を切っていた。
 もうここを出なければならない。
「ありがと」
 麻妃は微笑んでカップを受け取ると、そっと口を付けた。
「なあ、麻妃。香水使ってるか?」
 いきなりだったからか麻妃は目を見開いている。
「なんで?」
「いや、例の心当たりってやつなんだけどな。あの日俺が帰った後、姉貴に……
なんていうか、匂いをかがれたんだと思うが、その時、俺の知り合いにオレンジの
香りの香水を使ってる奴がいないかって聞かれたんだ。もし麻妃がそういうのを
使ってたら、そこからバレたんじゃないかと思って」
 麻妃はうつむいた。
「……そうね、あの時までは使ってたわ」
「あの時まで『は』?」
「ええ。変えたの。というより、使わなくなったのよ」
 麻妃は何故か、斜め下を見て恥ずかしそうにしている。
「なんで変えたんだ?」
「……隆史が言ったから」
「は?」
 麻妃は俺を恨めしそうに見た。
「あの日、その、終わってシャワーを浴びた後、『いい匂いだ』って」
「あー、そんなことを言ったかも知れないな」
 というより言ったんだろう。
 確かに香水の匂いよりは石けんの香りの方が好きだった。
「前の方がいい?」
「いや、今のままでいいよ。……さて、そろそろ行かないと本当に遅れるな」
 麻妃は何も言わず、その柔らかい手を俺の手に添えた。
「麻妃?」
「あ、ごめん……」
 麻妃はパッと手を離した。
「いや」
 気まずい空気を紛らわすかのように麻妃は微笑む。
「バイバイ。また明日」
 その微笑みは、泣いているようにも見えた。
177無題 ◆DxURwv1y8. :2006/02/01(水) 21:31:05 ID:8FzWPcjI
「ただいま」
「どこ行ってたの」
 帰宅するなり姉貴に詰問され、思わずどきりとした。
「えっ? 駅ビルにずっといたけど」
 用意しておいた答え。
「何をしてたの」
「CD探してた」
 姉貴はまだ納得しないようで、じーっと見つめてくる。
「本当? 何のCDを探してたのよ」
「えっと、ポップスを」
 さすがにこの先は用意していない。
「ポップスねえ……タカ、そういうの聞く方?」
「いや、聞かないけど……たまたまっていうか、ちょっと気が向いたから」
 沈黙。姉貴は探るような視線を投げかけた後、ため息をついた。
「まあ、門限まであと10分残ってたからいいけれど。次はあまり遅くならないようにするのよ」
 助かった。どんな曲を探したのかまで聞かれたら答えられなかった。
 しかし、明日からはどうしようか。
 きっと、姉貴はもう疑っている。講義に紛れ込んでくるような姉貴だから、
ひょっとしたら後を付けられかねない。
「タカ、早く」
「分かってる、今行くよ」
 重い。
 姉貴の存在が重かった。
178無題 ◆DxURwv1y8. :2006/02/01(水) 21:37:14 ID:8FzWPcjI
今回は時間がなかったのでこれだけです、すみません・゚・(つД`)・゚・
あと、>>167氏と同じように、もしタイトルが必要なら私も付けますよ。>本スレまとめサイトの中の人
179名無しさん@ピンキー:2006/02/01(水) 21:43:56 ID:05JoGaYJ
単発なら今までどおりタイトルなしでいいと思うよ
もし続きがあってしばらく間が空くようなら、タイトルとついでに
話数なんかも出してもらえると、読むほうは分かり易いかもね
180名無しさん@ピンキー:2006/02/01(水) 21:53:10 ID:BibGoqA4
姉貴の暴走がエスカレートするのが楽しみです。
作者dGJ!
181175:2006/02/01(水) 22:03:17 ID:8FzWPcjI
>>175を取り消して下さい。先着一名を見逃してました……
182阿修羅@本スレまとめの(ry:2006/02/01(水) 22:51:33 ID:pKS2wi0y
>>167
>>178
>>179
多くの作品をひとつのサイトに掲載して管理するという観点からしますと、
単発、連作ともにタイトルがあるほうがいいかな、と考えています。
ですので、私個人としましてはタイトルを付けていただければ、と思います。

また、タイトルなしの投稿作品につきましては、僭越ながら私のほうで
内容に則したタイトルを付けさせていただくことになると思います。
こんな感じでいかがでしょう?
最終的にはスレ全体の流れを見ながら方針を変えていくことになるかと思いますが・・。
183178 ◆DxURwv1y8. :2006/02/02(木) 00:32:20 ID:RAJW2Gjy
>>182
私はそれでいいと思います。
ちなみにタイトルはまだ決まってません(ぇ
184178 ◆DxURwv1y8. :2006/02/02(木) 00:47:39 ID:RAJW2Gjy
すみません、いくらなんでも無責任すぎました。
タイトルは一応「姉貴と恋人」ということでお願いします。
18516 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/02(木) 01:11:37 ID:KSEVDJxZ
いま起きた…何時間寝てたんだ、俺…

>>182
了解しました。
以前の単発物に関しては、そちらにお任せいたします。
素敵なタイトルを付けてあげて下さいな。

>>168-170に関しては、えーっと、「陽の光のなかで舞う雪」とでも。
…あきらかに凝りすぎだな。
186107:2006/02/02(木) 03:37:10 ID:SuL6r1lT
>>164続き

藍子が独り、元也の帰りを待っている頃、元也とサキは…
サキ「じゃあ、明日も来てくれる?
   やっぱ、誰かと食べた方が寂しくなくて、おいしいな」
元也「ありがたく、お邪魔さして貰います。
   ……先輩がそんなに寂しがり屋とは知りませんでしたよ」
意外そうに、元也が言った。
サキ「そう、私、寂しがり屋さんなの。構ってくれなかったら、寂しくて死んじゃうから。
   せいぜい可愛がってあげてね」
クスクスと笑いながらサキは答える。
元也「分かりました。その内、頭なでてあげますよ。
   ……じゃ、ご馳走様でした!」

冷たい空気の中、帰路に着く元也。
…結局、何も起こらなかったな…
そのことに、ホッとするような、残念な様な、何かしなくちゃ駄目だったのか、色々な
考えが浮かんだ。
思い浮かぶのは、サキの華やかな印象だ。人を惹きつけ、自然と人の中心になるような
雰囲気の持ち主だ。

一人の女性に思いをはせると、自然と、自分に一番近い女性と比較してしまう。
藍子。幼馴染の女の子。いつも世話になっている。あんなに可愛らしい女の子が自分の
面倒を見てくれている事に、ありがたく、申し訳ないとも思う。
サキとは対照的に、目立つ人柄ではない。おとなしそうな、柔らかい印象を受ける。
サキがひまわりなら、藍子は…白い朝顔というところか。

家に着き、鍵を開けて入る。
サキの家でアルコールを呑んだ為、喉が渇く。キッチンに、冷やしてあるウーロン茶を
取りに行く。キッチンの蛍光灯を点ける。
驚いた。
そこに、藍子が足を抱えて座っていた。
な、何でこんな所に?
理由はすぐ分かった。コンロの上に料理が出来ていた。これを作って待っていてくれたのだろう。
胸が痛んだ。
もう、先に食べちゃったんだと言おうと、藍子の方を振り向いた。そして気が付いた。
待ちくたびれたのだろうか、彼女が眠ってしまっている事に。

藍子はそもそも、年よりも幼く見える。それが、こんな風に無防備に寝ていると、更に
幼く、あどけなく見えた。
足を抱えて、寂しそうに寝ている藍子を見ると、いつもあんなに面倒を掛けていると
言うのに、藍子が手間のかかる、寂しがり屋で甘えん坊な妹のように思えてきた。

元也「ほれ、起きろって」
声をかけても、藍子にいまいち反応が無い。完全に寝ぼけていた。
やれやれ、とため息をつき、
元也「ほら、抱っこしてやるから、つかまって」
そう言うと、素直に身をあずけて来た。

187107:2006/02/02(木) 03:38:58 ID:SuL6r1lT
>>186の続き

藍子を抱え、彼女の家へと向かう。藍子を前に正面を向いて抱えているため、彼女の白くて細い
首筋が目に入る。妙な気分になって来た。そこに、藍子が抱っこの姿勢を直そうとしたのか、
体を摺り寄せるような動きをした。うお、ヤバイ。
この、やましい気持ちが藍子に伝わらないように祈る。無邪気に寝ている彼女に、
申し訳なくなる。きっと、こいつはこんな感情を持ったこと無いんだろうな、と思い
自分が情けなくなってきた。
 
ふと気が付くと、元也に抱っこをされていた。
ああ、そうか、もとくんを待っている間につい寝ちゃったのか、と理解した。
もう起きたよ、と告げようかと思ったが、そのまま寝たフリを続ける。
元也にこれ以上はないというほどに密着しているのだ。こうやって甘えられている事に
深い安らぎと幸福感を感じた。もうちょっと、このままでいたかった。

首筋に元也の吐く息が当たった。
とたん、体が熱く疼いてきた。
元也のベットで、あれだけ自分で触ったというのに、また腰の辺りが熱を持って来るのが
感じられた。
抱っこの姿勢を直す振りをして、体を擦り付ける。擦り付けた場所から、また新しい
疼きが生まれてきた。その感覚が心地よく、何度も何度も擦り付けた。

そうしている内に、藍子の家にたどり着く。
元也は助かったと、藍子はまだまだ抱っこされていたいと、両者別の感情を持ちつつ、
家の門をくぐる。
元也に起きろと言われたが、藍子はまだ寝た振りを続けた。
ため息を付きつつ、藍子の家のインターホンを押す。藍子の母が鍵を開けてくれ、
そのまま元也は二階の藍子の部屋に行く。
 
彼女をベットに寝かせつけた。しかし、首に巻きつけた藍子の腕は、元也を放さなかった。
これ以上は俺がヤバイ。
煮詰まりつつある頭の中でそう判断すると、寝ている人間に悪いと思いながら、強引に
引っぺがした。

相変わらず起きる気配が無いのでしょうがなく、元也は藍子に掛け布団をのせてやった。
制服のままで悪いと思ったが、着替えさせるわけにもいかないので、そのままにしといた。

そして最後に彼女の顔を見つめた。あどけない、幼い寝顔だ。
頭をなでて、お休み、と言って、部屋から出て行った。

部屋から出て行く元也を見送ると、制服を脱いだ。シワが付かないよう、丁寧にたたむ。
だが、下着のみになっても、体は熱く疼いていた。
我慢できなかった。吐く息が荒い。
目を瞑り、抱っこされている時の元也の体温とにおいと、頭をなでてくれた時の
くすぐったさをおもいだしながら、彼女は自分を触り始めた。
188名無しさん@ピンキー:2006/02/02(木) 03:52:26 ID:aa4DemrV
>>187
エロ加減と心理描写がいいね!
189名無しさん@ピンキー:2006/02/02(木) 04:11:13 ID:tFz/ePa8
>>186-188
いいよいいよ〜(・∀・)ネレネーヨ!!

あと分かり辛いんで、良かったら次回から名前欄に
タイトル(とできれば話数も)入れて欲しいな
190名無しさん@ピンキー:2006/02/02(木) 04:25:46 ID:ksF1ssdK
>>187
この萌え幼馴染が嫉妬で豹変しちゃうのか…ハアハアたまらんな
191名無しさん@ピンキー:2006/02/02(木) 16:05:03 ID:kIEYVHW6
>>187
抱っこ!! いいですねぇw
元也が藍子に抱くイメージとエロスな実態のギャップが(・∀・)イイ!!
192107:2006/02/02(木) 16:09:17 ID:Or/Vwygi
元也と藍子とサキを書いてる者です。
タイトルは「合鍵」にします。

>>107  第一回
>>108  第二回
>>141  第三回
>>157  第四回 上
>>158       下
>>163  第五回 上
>>164       下
>>186  第六回 上
>>187       下

193姉貴と恋人 ◆DxURwv1y8. :2006/02/02(木) 19:16:05 ID:kIEYVHW6
「隆史、ちょっといい?」
 2コマ目の講義が終わったところで、麻妃に声を掛けられた。
「ん、なに?」
「その、お姉さんのことで少し」
 思わずつばを飲み込んだ。
「……いいよ。どこで話そうか」
「カフェに行きましょう。隆史は今日はこれで終わりよね」
「ああ。木曜は2コマだけだ」
 麻妃は頷くと先に歩き出した。
「しかし、まさか麻妃の方から話があるとは思わなかった」
「どういうこと?」
「いやさ、麻妃と姉貴には……その、色々あったじゃないか」
 彼女は一拍おいてから「そうね」と答えた。
「でも、別に私は気にしてないわ。私にとって彼女はライバルでも何でもなく、届かない人だから」
「届かない?」
 返事はない。
「麻妃?」
「ところで隆史、何でお姉さんのこと好きになったの?」
「なっ……いきなり、いきなり何を」
 そんなの、麻妃に言いたくない。
「そんなに驚かないでよ。別に嫉妬してる訳じゃないし、聞いたから私が何をする訳でもない。ただの興味よ」
 いや、でも。
「言えない」
 彼女の眉が動いた。
「言えない? なんで?」
「それは、分からないけど。言いたくない」
「そう」
 沈黙が降りた。
 しばらく歩き、屋外に出たところで彼女はふり返り、口を開いた。
「私は、隆史がお姉さんのことを好きならそれでいい。でも」
 そこまで言って、麻妃はかぶりを振った。
「ごめん。いい。私が口出しすることじゃなかった」
 一体何なんだ。
「何だよ。言えよ」
「言っていいの?」
 深い鳶色の瞳に吸い込まれそうになった。
 堪らず目を逸らす。
「……いや」
「そう」
 麻妃は再び歩き出した。
 胸の奥がぐつぐつ煮えたぎるような不快感。
 足取りが重くなる。
 麻妃はふり返ってくれない。
 そして、麻妃との距離が10mにもなりかけた頃、彼女はようやく俺の所へ来てくれた。
「もう、しょうがない人」
 麻妃は微笑んでいた。
194姉貴と恋人 ◆DxURwv1y8. :2006/02/02(木) 19:19:29 ID:kIEYVHW6
 カフェに着いて席を取り、オーダーし終わったところで麻妃は口を開いた。
「話っていうのは、この前言っていた、門限についてよ」
「門限?」
「ええ。分かっているとは思うけど、おかしいわ。今でも寮なら門限はある。
でも隆史はお姉さんと賃貸マンションで二人暮らしでしょう?」
「それは分かるよ。でも、何で今更」
「隆史、本当にそれでいいと思ってるの?」
 強い口調だった。
「いや、思ってはいないけど」
「お姉さんは昔からそういうのに厳しかった?」
「いや……むしろ姉貴の方がよっぽど奔放な生活をしてたな」
「ならやっぱり異常よ。このままだと、いつかお姉さんは隆史を監禁、とまでは
いかないと思うけれど、何らかの形で隆史を拘束してしまうわ。隆史のことだから
私がとやかく言うべきじゃないとは思うけれど、それでも隆史、お姉さんを
止めるなら今のうちだと思う」
 麻妃は必死だった。
 彼女の言うことはもっともだ。最近の姉貴は普通じゃない。
 恐らく彼女の言うとおりにするのが正しいのだろう。
 だが、それは聞けない。
「いや……大丈夫だ」
「隆史」
「拘束されても仕方ないよ。俺は姉貴のことを」
「好きなの?」
 胸の奥にじんわりと熱がこもる。さっきの不快感があふれ出しそうになる。
 それら全てを振り切って、俺は言った。
「好きだ」
 麻妃は何も言わなかった。ただ、揺れる瞳で見つめるだけだった。
195姉貴と恋人 ◆DxURwv1y8. :2006/02/02(木) 19:20:16 ID:kIEYVHW6
「ただいま」
「お帰りタカっ! 今日は早かったじゃない」
 喜色満面。
「うわっ」
 案の定抱き付かれ、口づけされる。
「タカ、タカっ……好きよ」
 ついばむように。次第に深く。
 それに応えながら俺は、頭の奥では別のことを考えていた。
 どうして姉貴なんだろう。いや、どうして麻妃じゃないんだろう、と。
「どうしたの、タカ。元気ない?」
 ぎゅっと密着する身体。
 熱い。
 くらくらする。
「そんなことないよ」
 姉貴の背中を撫でまわす。曰く、これが好きなのだという。
「あ……ん。ゾクゾクする……」
 とろけた瞳で見つめられ、思わず首筋に顔を埋め、唇で愛撫していく。
 こうしていながらもやはり、どこかで冷静な自分が麻妃の姿を探す。
 こんな所にいるわけないのに。
 そもそも、俺は姉貴を選んでいるというのに。
 今腕の中で震えている女性は紛れもなく俺の姉だ。
 そして、間違いなく恋人でもある。
 俺は姉貴を選んだ。
 なぜ。
 ――綺麗だから――。
 ――頼りになるから――。
 ――魅力的だから――。
 違う。
 姉貴に、求められたからだ。
 思えば今まで俺は姉貴に従いっぱなしだったし、それが当然だった。
「タカ……タカ大好きだよ」
「ああ、俺も、だ」
 姉貴は熱っぽい吐息を漏らした。淫靡な瞳で見つめてくる。
「行こう?」
 俺は答えずに姉貴を抱き上げ、ベッドへ連れて行く。
「あん……」
 横たえる時にまた、悩ましげな声を漏らす。
 我慢できず、姉貴にむしゃぶりつく。
「あはっ」
 乱暴にさえ思われる俺の行動を嬉しそうに受け入れていく姉貴を見て、思った。
 俺は姉貴のことを、何の為に抱いてるんだろう、と。
196 ◆DxURwv1y8. :2006/02/02(木) 19:23:32 ID:kIEYVHW6
そろそろ引き際。
そう思ってはいるものの計画性がなく先が見えませんorz
197名無しさん@ピンキー:2006/02/02(木) 22:19:25 ID:TmSYkS/B
俺は続けて欲しいぞ。
素人考えだが、最短でも後山ふたつはいけると思う
198名無しさん@ピンキー:2006/02/02(木) 23:32:13 ID:aa4DemrV
誰か神達の作品に挿絵を提供してくれる神現れないかなぁ
贅沢だけど
199春の嵐 その3:2006/02/03(金) 01:59:23 ID:tFj9cNaz
 合格発表から数日後の夕暮れ時、私は一軒の焼き肉屋の前に立っていた。
 油で汚れ気味の窓ガラス、色あせたビニール製の日よけ、どことなく汚れた茶色

の外壁。普段ならあまり入りたくもない外観のこの店に、今日ばかりは嬉しさと期

待を感じていた。
 扉を押して入ろうとしたとき、岩崎さんと私の名前を呼ぶ声が聞こえ、私は振り

返った。
「……曽我君……」
 私は嬉しくて思わず立ち止まってしまう。曽我君がすこし怪訝な顔をしながら扉

を開けて入っていったので、あわてて後に続いて入った。

 焼き肉屋は私達によって貸し切りになっていた。
「こらそこ、まだ肉を焼くな。……俺の挨拶ぐらいは聞いておけ」
「先生ー、腹減ったぁ!」
 ちゃちゃが入ったのにも動じず、でっぷり太った初老の男性……塾の塾長先生は

続けた。
「わかったわかった。手短に行くぞ」
 咳払いを一つして立ち上がる。
「諸君、合格おめでとう! 我が塾からは第1志望校は25人が合格して、おまえ

達のがんばりが見事に形となって現れた。ほんとうにめでたい!」
 その野太い声でのお祝いの言葉に、私達は歓声と拍手で応えた。
「そう言うわけで今日は祝勝会だ。思いっきり食べろ! ただしアルコールはだめ

だぞ」
 どっと笑いが起こる。
「よしおまえら、グラスは持ったか? ……それでは、合格を祝して、かんぱーい

!」
 唱和する声が店内に響き、私達はグラスをぶつけあった。
 男子達は待ちきれずにお肉を焼き始める。もっとも私達だってわいわい言いなが

らお肉を並べ始めたのだけど。
200春の嵐 その4:2006/02/03(金) 02:00:40 ID:tFj9cNaz
「なんかさ、こういうのでやっと合格したって感じだよね」
「わかるわかる。なんか発表までは落ち着かないしね。親もピリピリしてさ」
 男子はひたすらお肉を食べていたけども、私達は男の子の手前、あんまりがっつ

くわけにはいかない。特に曽我君の前でみっともなくお肉にかぶりつくってのは、

恥ずかしすぎる。もっとも食べ放題なんで、ゆっくりと食べても問題ないのだけど

も。
 だから男子達の会話が聞こえてきたのは、始まって30分ぐらいはたってからだ

ったと思う。
「なぁ曽我。梶原も合格したのか?」
「おう。受かってたよ」
 お肉を食べていた私は、思わず耳をそばだてていた。
 曽我君と、その横に座っていた仲町君という優等生っぽい人が話をしていたのだ


「あいつ、がんばったよなぁ」
「うん、私も梶原が同じ高校を受けるって思わなかった」
 これは太田さん。泣きぼくろが大人びた雰囲気をかもし出している女の人だ。
「やっぱりあれだよね。曽我への愛だよね」
 町村さんは、にやにや笑いながら、焼き肉を口に放り込んだ。
 ポニーテールで可愛い人なんだけど、言葉遣いは男っぽい。
 それを聞いた曽我君は複雑そうな顔をしていた。
「おまえらなぁ、なにかといえば俺達をすぐにカップル扱いしやがって。俺達はた

だの幼なじみ。腐れ縁なの」
「えー、曽我君って冷たいなぁ。うちの学校の公認カップルじゃない」
 太田さんの意外そうな顔に、曽我君はまるで頭痛を我慢するかのように額を手で

押さえた。
「何が公認カップルだよ。おまえらが勝手にカップルにしてくれたせいで、おれは

ぜんぜんもてなかったじゃないか」
「曽我。おまえがもてないのは梶原とは関係ないと思うぞ」
 仲町くんが冷静につっこんだので、テーブルが笑いに包まれて、私も釣られて笑

ってしまう。
「じゃあ聞くけどさ、カップルってキスとかさ、Hまでしちゃう奴らもいるだろ?

201春の嵐 その5:2006/02/03(金) 02:02:24 ID:tFj9cNaz
「いきなりエロいな、曽我」
 これは佐藤くんだ。長身で筋肉質の体育会系で私と同じ学校の男の人。
「違うって。俺は陽子とはいっさいキスとかそんなのしてないぜ。一緒にでかける

ことはあったけどデートとかそんないいもんじゃないし。そういうのってカップル

って言わないと思うな」
 思わず私は心の中で小躍りしてしまった。キスもデートもしてない!
 私がそんなことを考えていると、町村さんが口を開いていた。
「だけど、良く一緒にいるじゃない。仲良いしさ」
「あれは見張られてるんだよ。おまえら、幼なじみに憧れてるだろ? 現実を教え

てやるよ」
「梶原って可愛いじゃん。あいつが幼なじみで何が嫌なんだよ?」
「そうそう。曽我君は、贅沢すぎなの」
 町村さんのフォローの太田さんまで乗った。私はなんとなく嫌な気分になって、

メロンソーダをごくりと一口飲んだ
「じゃあさ言うけど、あいつさ、俺のおふくろと仲が良いから学校のこと、一から

十まで全部チクられてしまうんだぜ」
「別にたいしたこと無いな」
 佐藤くんがつまらないなって顔で答えると、曽我くんは首をふった。
「ゲーセンとかに寄ったことも全部ばらされるんだぜ。たまんないよ。それにあい

つ勝手に俺の部屋に入ってきて、中を漁るんだぜ」
「エロ本でも見つけられた?」
 町村さんのおもしろがるような顔に、曽我くんは少しとまどってからうなづいた


「没収されて、口止めでマックを奢らされた」
 前より大きな爆笑がわき起こる。曽我君だけが憮然とした顔をしていた。
202春の嵐 その6:2006/02/03(金) 02:02:56 ID:tFj9cNaz
「それって、完全に尻にひかれてるぜ」
「やっぱりもう夫婦だよねぇ」
 口々にでるからかいに、曽我くんは猛然と反論していたが、私は、訳もわからず

に腹が立ち、それをごまかすためお肉を数枚続けて食べた
「何言ってるんだよ。何が夫婦だよ。あんなの口うるさい姉貴みたいなもんだぜ」
「あはは………でも、確かにそうかも」
 笑い続けていた太田さんは、何かを思い出して笑うのをやめた。
 それをみて曽我くんが腕を組んでため息をついた。
「だいたい、中一まではあいつのほうが身長が高かったんだ。その頃は公認カップ

ルも何も無かったし、あいつだって真藤先輩かっこいいとか言ってたんだぜ」
「真藤先輩って生徒会長やってた?」
 仲町くんの疑問に曽我くんが、首をたてに振る。
「そう、あの人も俺達の高校に入学しただろ?」
「うんうん、覚えてる。かっこよかったよねぇ」
「だから俺達って、おまえらの思うようなそんな関係じゃないんだよ」
 町村さんの桃色な吐息をあえて遮り、曽我くんは力をこめて言い切った。
 それを聞いた私は思わず踊り出したくなった。お肉がいきなり美味しくなった。
「ところで曽我、合格発表の時に岩崎さんと何を話してたんだ?」
 佐藤くんから突然話を振られて私は思わずむせかけた。
「何で知ってるんだ?」
「おまえね、岩崎さんも美人だし梶原さんだっけ?も可愛いから、すげー目立つの

わかってる?」
 すかさず町村さんが目を輝かして乗り出してくる。
「なになに、美人の不倫相手出現で夫婦の危機?」
「誰が夫婦だ、誰が不倫だ! だいたい岩崎さんに失礼だろ? ねぇ、岩崎さん」
「あはは、でも梶原さんてとっても可愛い人ですよね。そんな人と比べられると私

負けちゃいますけど」
 頬が熱くなるのを感じながら、私は適当なことを口走った。
「いや、岩崎さんのほうが美人だって。女らしいし、大人びているし、俺、岩崎さ

んが幼なじみだったら良かったのに」
 それを聞いて、私はうれしさのあまりなにも考えられなくなった。
「おーい、曽我。なに岩崎さんを口説いてるんだよ」
「えー、ウソー、岩崎さんが、赤くなってるー!」
 その後、私はなにをしゃべったのか覚えていない。お肉の味もわからなくなって

しまった。ただ曽我君が浮気だの不倫だの言われて必死に反論しているのをかすか

に覚えているだけだ。
 私はひたすら幸せだった。あの人は見せつけるように曽我君を連れ去った。けれ

ど曽我君とあの人は何でもなくて、曽我君もあの人をなんとも思ってなくて。
 梶原さんぐらい可愛い人だったら、すごく男の人にもてるだろうと思う。
 だから曽我君を私にくれても良いと思う。
 私は暗くていじめられっ子で人に好かれないタイプだ。
 だけど曽我君だけは私に優しくしてくれた。だから私は学校は休んでも塾だけに

は来た。
 私には曽我君が必要だ。あの人は曽我君がいなくなっても大丈夫だけど私はそう

じゃない。だから……。 
203名無しさん@ピンキー:2006/02/03(金) 02:19:44 ID:fk89UU3o
>>202
依存っ子キターーーーーー
204名無しさん@ピンキー:2006/02/03(金) 02:42:28 ID:lUX77fgh
キタコレ!
前回から通して、二人のヒロインの心情が
しっかり描き出されているところが(・∀・)イイ!!
続きが気になる…
205名無しさん@ピンキー:2006/02/03(金) 03:05:45 ID:Qw3N4okf
>私には曽我君が必要だ。あの人は曽我君がいなくなっても大丈夫だけど私はそう
>じゃない。だから……。 

キタキタキターーー!!!
206107:2006/02/03(金) 04:04:54 ID:V7d552l5
>>192の続き   

合鍵  第七回


サキ「じゃあ、明日も来てくれる?
   やっぱ、誰かと食べた方が寂しくなくて、おいしいな」
元也「ありがたく、お邪魔さして貰います。
   ……先輩がそんなに寂しがり屋とは知りませんでしたよ」
意外そうに、元也が言った。
サキ「そう、私、寂しがり屋さんなの。構ってくれなかったら、寂しくて死んじゃうから。
   せいぜい可愛がってあげてね」
クスクスと笑いながらサキは答える。
元也「分かりました。その内、頭なでてあげますよ。
   ……じゃ、ご馳走様でした!」

元也を見送り、サキは家の中に戻る。
ふう、と一息つく。急に疲れを感じる。ガラにも無く、相当緊張していた様だ。

使ったお皿を洗いながら、今日の事を振り返る。
結構な量を作ったのだが、元也には丁度いい量だった様だ。
おいしい?と聞くと、おいしいです!と元気に答えてくれた。
ああ、そんな真っ直ぐ、笑顔で見られると、おねえさん、困っちゃうわ。

特に何も起こらなかった。そのことが残念のような、ホッとしたような、年上の私から
何かしなきゃいけなかったのだろうか、頭はグルグルと回っていた。

その時、目に付いたのは、元也が使っていたお箸だ。洗い物の手が止まる。
…ちょっと、舐めちゃおうか…
そんな事を思いついてしまった頭をブンブンと振る。
何考えてるのよ、私ってば。リコーダーをこっそり舐める小学生じゃあるまいし、
そんな事しない、しない!
そう心の中で言っても、何となくそのお箸を洗うのを後回しにする。

舐めた。舐めて、しゃぶってから、自分の行動のアホさ加減に顔が赤くなる。これじゃ、
まるっきり変態じゃないの。止めましょう、こんな事。
 
お皿洗いは終了した。
お箸をくわえたまま、キッチンから出てくる。

リビングの炬燵に座る前、引き出しを開け、写真アルバムを取り出し、炬燵の上に置く。
その中から、一枚取り出す。その写真に写っていたのは元也とサキの二人だった。美術部で校外写生に
行った時に撮られた物だ。元也の絵を覗き込んでいる時に撮られたおかげで、二人が寄り添い合ってる
様に見える。

その写真を見ながら、つい先程まで元也が居た所に座りこむ。
そして、彼の事を考える。
207107:2006/02/03(金) 04:06:11 ID:V7d552l5
>>206の続き

はじめは、ただ、絵が上手い子だなあ、とだけしか思ってはいなかった。とは言っても、
彼が絵で食っていける位の才能があるかまでは分からない。ただ、自分よりはずっと上手だった。

絵を描いている時の彼の表情は、真剣そのものだった。絵以外の事は目に入っていないようだ。
けど、ふと一息ついて、サキが後ろから覗いていることに声を出して驚き、その後笑いながら
挨拶をする、その時の表情のギャップがなんだか面白かった。

気が付くと、部活の時はいつも元也の側にいるようになった。

彼と一緒にいる時間が増えると、すぐに気が付いたことが有る。
毎朝一緒に登校して、毎日美術部が終わるまで待っていて、元也と一緒に帰る女の子のことだ。

「あの娘、だれ?」
と聞くと、幼馴染との事。まあ、付き合っては無いらしい。

よくよく見ると、本当にいつも一緒にいる。部室以外、例えば移動教室のとき、偶然会うときや
図書館にいる時とか、など。そういった時、元也の側にはいつも彼女がいた。

すこし、あきれた。私なら、あんないつも一緒にいられたら、鬱陶しく思っちゃうだろうな、
それとも、あーゆーのが、幼馴染ってモノなのかしら、と。

だから、昨日、珍しく一人で帰っていた元也に声をかけた。
「あら、元也君、おひとりなの?
 いつも着いてるあの娘はどうしたの?」
そう言うと、彼はいつも一緒にいる訳じゃないと答えた。
その答えが嬉しく、ついからかってしまった。
顔を赤くして、歩調を早める元也。
その反応が素直で可愛らしく思い、ついつい笑ってしまう。
そしてその日、一緒に御飯を食べた。そして今夜は自分の家で、自分の手料理をおいしいと言って
食べていた。

アルバムから取り出した、二人で写っている写真を写真立てに写す。
それを持って、くわえていたお箸を流しに放り込んでから、寝室に移動する。
今夜はいい夢が見られそうだ。元也君が出てきてくれるといいな、と思いながら、
彼女は横になった。

208名無しさん@ピンキー:2006/02/03(金) 12:19:25 ID:RYtqQNcY
先輩いいよ、いいよ先輩
209名無しさん@ピンキー:2006/02/03(金) 13:47:53 ID:ym1nK3j7
先輩(*´Д`)ハァハァ
210名無しさん@ピンキー:2006/02/03(金) 19:07:58 ID:z21UTe+8
>>202
祝勝会の中で必死に聞き耳立てて一喜一憂してる姿を想像してハァハァしますた
しかも既に依存の兆候が現れてるので、修羅場も期待できそうですね
211姉貴と恋人 ◆DxURwv1y8. :2006/02/03(金) 20:34:42 ID:z21UTe+8
 私のタカ。
 愛しいタカ。
 双子の弟。恋人。同級生。
 どんな言葉も意味がない。
 どんな言葉でも表せない。
 愛しいひと。
 頼りなげで可愛くて。それでもしっかり男の子で。
 私のことを大好きで、私が大好きなひと。
 タカがいれば何も要らない。
 私はずっと側にいてあげる。
 だからタカも。
 ずっと側にいてね。いつまでも。

 ベランダでぼんやりと月を見ていると、姉貴との思い出が浮かび上がってくる。
 こうするのは何ヶ月ぶりか。
 姉貴がいなくなって三ヶ月。毎日こうしていた。
 姉貴がいなくなって六ヶ月。麻妃と知り合って、でも毎日月を見ていた。
 姉貴がいなくなって九ヶ月。満月の夜にはこうしていた。
 姉貴がいなくなって丸一年。麻妃と知り合って丸半年。
 こうして月を見るのが懐かしくなるほど、俺は麻妃で満たされていた。
 そこへ姉貴が帰ってきて。
 全てが変わった。
 姉貴は強く優しく美しく。あまりに眩しかった。
 太陽は姉貴で月は麻妃。そう見えた。
 そして太陽に惹かれた。月を捨てた。
 しかし同時に太陽は強すぎた。あまりに強すぎた。
 近づきすぎて、熱さに耐えられなくなって。
 俺は月の優しさを知った。
 でも。もう月には向かえない。
 太陽はあまりに強すぎて。俺を離してくれないから。
212姉貴と恋人 ◆DxURwv1y8. :2006/02/03(金) 20:35:26 ID:z21UTe+8
 隆史。大切な隆史。
 彼の心は弱々しくて。
 昔の私を見ているようで。
 今の私を見ているようで。
 私達は傷をなめ合うもの同士。
 さみしい。あったかい。
 あったかい。さみしい。
 大切なひと。包んであげたいひと。
 そして包んでほしいひと。私を大切にしてほしいひと。
 私は弱くて、傷ついて一人泣いていた。
 彼は弱くて、傷ついて一人泣いていた。
 だからいっしょ。
 一緒にいれば淋しくない。
 でも。
 彼は去った。
 大切なひとを見つけて。
 隆史の大切なひとは。
 私じゃなかった。
 淋しかった。
 淋しすぎた。
 隆史というあたたかさを手に入れて。
 それを失ったときのさみしさ。
 さみしさ。
 そして隆史が現れたときの憤り。喜び。
 よかった。どうでもよかった。隆史がいるならそれでよかった。
 一人がいやだった。いてほしかった。私のものにならなくてもよかった。
 それなのに。
 隆史は今、一人で苦しんでいる。
 私を癒し、傷つけ、癒し、そして今苦しんでいる。
 隆史。大切なひと。
 包んであげたいひと。
213名無しさん@ピンキー:2006/02/03(金) 21:07:49 ID:Esf6Br4b
個人的にかなり好きなふいんきです。さてどうなることか。
214名無しさん@ピンキー:2006/02/03(金) 23:19:18 ID:35/J4fJT
詩?
215 ◆DxURwv1y8. :2006/02/03(金) 23:33:37 ID:z21UTe+8
>>213
スレタイは裏切らないつもりですw

>>214
詩というか、心情告白というか、独白というかモノローグというか(同じやん
前後半に分ける訳じゃないんですが、話の転機になるので。幕間みたいなものだと思って下さい。
何も考えずに書いたけど、お蔵入りさせるのが忍びないから入れてみたというのは秘密です。
216阿修羅:2006/02/03(金) 23:51:34 ID:PYYHC0Pe
>>212氏の投稿作品までの内容でまとめてみました。
トップのSSまとめページへの入り口から入れます。
漏れ、編集ミス、提案などありましたらご指摘くださいまし〜

ttp://dorobouneko.5gigs.com/

なんかまとめ作業を投げ出して何回も読み返していたオレガイル・・・・
217名無しさん@ピンキー:2006/02/04(土) 00:12:11 ID:BdC3lkzA
管理人乙だよ!
218阿修羅:2006/02/04(土) 01:30:30 ID:ObUFq1sD
ごめんなさい、、IEでアクセスすると文章が中央寄せになってました・・
とりあえず左寄せに直しておきました。
219春の嵐 その7:2006/02/04(土) 03:07:08 ID:rVf0+z8y
「もしもし曽我ですけど。……岩崎さん? 突然でびっくりしたよ、うん。……え? ボタン? 良いけど……。なんか照れるな、ほんとに俺のでいいの?」
 一本の電話。それは開幕のベル。それは嵐の始まり。

 歌声が校舎に響くと、卒業式なんだなって実感がわいた。
 下級生の女の子が、卒業生の男子に駆け寄っていくのをみて、なんか言葉に言い表せない感慨が沸いて、また涙がでてしまう。
「梶原でも泣くんだねぇ」
「太田は、心が冷たいから泣けないんでしょ」
 太田が嫌みったらしいことを言ってきたからお返しをしてやった。
「まるであたしが冷酷非情の女みたいじゃない」
「違うっていうの? ……まあ卒業式だし、これくらいにしとく」
「そだね。…あーあ、あたしに告ってくれる可愛い下級生の男はいないもんかね」
「太田は人の恋愛に首をつっこみすぎなんだよ」
「やっぱり自分のことになるとねぇ」
 ふうと太田がため息をつく。この仕草はかなりいろっぽくて私でもどきっとする。だけど太田はこのいろっぽいのが長く続かない。
「ところで、亭主はどこよ」
「さあ、その辺じゃない? 私だっていつでも直人と一緒というわけじゃないわよ」
 何気ない私の言葉に、なぜか太田はにやりと嫌な笑い方をした。
「ふーん、知らぬは奥様ばかりなり、か」
「なによ、それ。なにが言いたいの?」
 私がにらむと、太田はさらにニヤニヤ笑った。
「ご亭主、狙われてるよ」
「……」
 瞬間、あの女の顔が浮かんだ。
「へー、思い当たる節があるんだ」
 おもしろがる太田の顔を、本気であたしはにらんだ。
「ちょっと、そんな怖い顔しないでよ」
「太田、クラスのカラオケ来るよね。全部話さないと、カラオケのときにいろんな思い出話するけど、いい?」
「……ちょっと梶原、それ反則……」
「そう、太田の事が好きだった渡辺くんに、思い出をプレゼントしようっかな」
「……マジ?」
 私は、心からにっこりと笑顔を浮かべた。
「太田、まだ私の性格わかんない?」
220107:2006/02/04(土) 04:12:32 ID:pxg0OZsu
>>187の続き  

合鍵  第八回


藍子が元也に抱っこして貰い、サキが元也に手料理を振舞った日の翌日の朝。
今日も藍子は元也を起こしに行く。

昨日は結局、元也を待って、そのまま寝てしまい、抱っこされて家に帰ったので、夕御飯を
食べ損ねた。
おかげで、ひどくお腹は空いていたが、昨日の抱っこを思い出し、ついつい笑みがこぼれてしまう。
まだ、ふわふわとした陶酔感があった。

「おはよう、もとくん、朝だよ」
朝ご飯の用意もでき、元也を起こしに行く。
一回ぐらい声をかけた位では彼は起きない。いつもなら、ここで彼の体をゆさぶって
起こすところだが、今日はそうしない。

「ねえってばあ、朝だよう。起きてってばあ。」
元也の耳元に口を近づけ、甘えた口調で、囁く。それでも起きない。
「もーう、しかたないんだからあ」
元也の耳元に、更に口を近づけた。
はむっ、と耳たぶをあま噛みする。

元也「おうのわあっっ」
飛び起きる元也。
元也「な、何した!?」
藍子「んー?何の事ー?」
首をかしげる藍子。とぼけられて、自分が寝ぼけたのかと思う元也。ばつが悪そうに
耳をを擦っている。
藍子「ふふ、へんなもとくん」

元也「……まあいいや、下に降りようぜ」
先に部屋を出る元也。藍子もついて出て行くが、その前に、チラッとベットを見た。
あそこには、私の汗が染み込んでいる。
もとくんは、その、私の汗が染み込んだ布団で今まで寝ていたのだ。
そして、元也の後姿を見る。
体がゾクゾクッと震えた。
今まで感じたことの無い程の充足感があった。
元也「……?どうした?」
立ち止まってる藍子に呼びかける元也。
藍子「ううん、なんでもないよ、……ふふ」

221107:2006/02/04(土) 04:13:35 ID:pxg0OZsu
>>220の続き


藍子「はい、これ、お弁当ね」
朝ご飯を作りにキッチンに行くと、昨日作った晩御飯が手付かずで残っていた。
あんなに遅く帰ってきたので、やはり外で済ませてきた様だ。せっかく作ったのに
食べて貰えなかったのは残念だったが、捨てるのも勿体無いので、今日のお弁当に
再利用した。
お弁当箱は、幸い元也の家に二人分あった。
お揃いのおべんと箱に、お揃いの中身。

家を出て、学校に向かって歩く二人。
藍子「今日も晩御飯作っておくね、何がいい?」
そう聞かれ、そうだなあ、と考える元也。
しかし、思い出す。確か、昨日サキ先輩と、今日もお邪魔しに行くと約束していた。
元也「いや…今日はいいや」
藍子「え?…どうしたの?」
なにか、嫌な予感。
元也「それは、その、美術部の先輩と食べる約束しちゃってるんだ」
藍子「そっか、それじゃ、仕方ないや」
残念だが、部活の付き合いではしょうがない。
けど、安心した。
一瞬、誰か、私以外の女の子との約束が有るのではないかと思ってしまった。
そうじゃなくて、良かった。
そんな事、あるはず、ないのに。
そうだよね、もとくん。



222 ◆DxURwv1y8. :2006/02/04(土) 07:59:38 ID:y6Q5aWPd
>>216
管理人さん乙です。
どこまで続くか分かりませんがこれからもよろしくお願いします( ´∀`)
223優柔◇7IWcnPZ2:2006/02/04(土) 12:01:00 ID:qHskAXC4
第1話

束縛されるのは、もううんざりです。
「今どこにいるの?」とか「私だけを見てて」とか「なんであの子と楽しそうに喋るのよ」とか、
そんな台詞は二度と聞きたくありません。えっ、何の話かって?前の彼女の話ですよ。
可愛かったし尽くしてくれたりして、幸せでした。
手作りのお弁当の味は今でも思い出せるくらい美味しかったです。
冬になったらマフラーを編んでくれたし、風邪をひいた時もわざわざ看病しにきてくれましたし。
初めて付き合った子がこんなに良い子で本当に幸せでした。
できれば別れたくなかったですよ・・・でもね、いくら可愛くても自分の母親と喋るだけで嫉妬するような子は駄目なんですよ。
いくら尽くしてくれても、悪い虫が付かないようにって携帯のメモリを全部消去しちゃうような子は無理なんですよ。
黒くて長い髪に縛られる苦しみってやつですか、それに耐えられなくなった僕は別れを告げました。

二人っきりだとなんか危険な感じがしたので、駅前のカフェで言いました。
予想してた通り、彼女は信じられないみたいな態度をしました。
他に好きな子ができたのかとか、意味が分からないとか、普段は温厚な彼女も
その時ばかりは声を荒げて、怒りで目が見開いていました。でも僕はひるまずにもう別れようと何度も伝えました。
そのうち彼女はしくしくと泣き始めました。
「いや、だよ・・・私には・・・うっ・・・ゆう君しか・・・うぐっ・・・い、いない・・・の、に・・・ひぐっ・・・そん、なの・・・だめだ・・・よ・・・ううっ・・・」
両の目からは涙が止めどなく流れています。そんな様子を察してか、周りの客が僕達を見てきました。
(何、別れ話?)
(あれだ、浮気だろ)
(あーあ、彼女泣いちゃってるよ)
(あの男・・・最低)
そんな視線でした。僕も男ですから流石に女性の涙には弱いです。一瞬、決心が揺らぎそうになりました。
でも僕は心を鬼にしました。
「じゃあ、もう帰るから。学校で会っても話しかけてこないでね」
彼女の反論を聞く前に、早足にその場から立ち去りました。
それ以来、あそこのカフェには行けません。・・・あの店のカプチーノとシナモンロール、好きだったのにな・・・

バスタブの中で、僕は激しい自己嫌悪に陥りました。
(あんな言い方なかったかも・・・いくら別れたからって女の子を置き去りにして帰るなんて、なんて酷いことをしたんだろう・・・彼女、傷ついただろうな・・・)
自分から別れ話をしておいて自分の行動を悔いる・・・ヘタレですね。
でもこれで良かったと思います。相手を傷つけない別れなんて、有り得ないんですから。
この別れがお互いの為になった、そう思える日がいつかきっと来る。
そう言い聞かせて、自責の念を押さえ込みました。


もうちょっと続きます。
224名無しさん@ピンキー:2006/02/04(土) 13:17:59 ID:CTpN4h4m
チン☆⌒ 凵\(\・∀・) まだぁ? ?
225名無しさん@ピンキー:2006/02/04(土) 14:43:02 ID:/AHozuri
神々の皆様乙!
最近家に帰ってきたら一番にこのスレを開く自分がいる…
226名無しさん@ピンキー:2006/02/04(土) 16:29:23 ID:VblEU9fj
>>223
「人間失格」を彷彿とさせる、とつとつと打ち明ける作風がなんともイイ(・∀・)

まとめサイト始動を受けて、投稿用のテンプレを作ってみました。
よければ使ってください。

■投稿用テンプレ
投稿スタイルについて特にこだわりが無い場合は、
次の形式を使用して頂くとみんなハッピーです。

100 :{1.SSタイトル}{2.話数}{3.トリップ}:2001/01/01(月) 00:00:00 ID:xxxxxxxxxx
(例) 100 :鮮血の結末 7◆DxURwv1y8.:2001/01/01(月) 00:00:00 ID:xxxxxxxxxx
      ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※まとめサイト管理人は、これらの情報に基付いてSSを整理します。
※名前欄にタイトルのあと、「半角# + 秘密の文字列」でトリップが出ます。
(例) 鮮血の結末 7#abcdefg → 鮮血の結末 7◆v/rTh0HxaQ
227名無しさん@ピンキー:2006/02/04(土) 20:12:42 ID:CTpN4h4m
テンプレ乙
それならぐっと見やすくなるね
てかタイトルにワロタ
228合鍵 第八回  ◆tTXEpFaQTE :2006/02/05(日) 14:15:06 ID:twc5sAey
名前欄テスト
これでいいんでしょうか?

あと、ついでで申し訳ありませんが
遅れましたが管理人様、乙でございます。
229合鍵 第九回  ◆tTXEpFaQTE :2006/02/05(日) 17:23:23 ID:FNzGp4Ze
>>221の続き


合鍵  第九回


元也「じゃあな、藍子、また明日」
授業も全て終わり、放課後。
いつもは部活が終わるまで待っていてくれる藍子を今日は先に帰らせる。
サキと一緒に帰る約束だからだ。
藍子「あ、待って!もとくん」
慌ててた様子で藍子が呼び止める。
藍子「ねえ、明日は?明日は予定、無いでしょう?
   明日は私の御飯、食べてくれるよね?」
振り返って藍子の方を見る。その表情に、すがりついて来るようなものを、一瞬、感じた。

元也「予定は無いから…じゃあ、お願いするよ」
その返事に、顔を輝かせる藍子。
藍子「うん、分かった。絶対だよ!
   そうだ!指切りしましょう、指きり」
なんだい、それは…と思っても、藍子の勢いに負けて小指を差し出す元也。
藍子「じゃあ、嘘ついたらハリセンボンだからね、指切った」
元也「はい、指切った」
指切った…と言っても藍子はその絡めた小指を放さない。
放せば、そのまま元也が何処かに行ってしまう気がした。

元也「こら、放しなさい」
そう言われて、しぶしぶ指を離す。
元也「それじゃ、バイバイ」
そう言うと、元也は去っていき、美術室に向かっていった。
寂しさが胸に残る。


そして美術室。
粘土をこねくり回している元也。表情は真剣そのものだ。そこに、後ろから忍び寄る影一つ。
「今日は、来るのが遅かったんじゃないの?」
元也に後ろから目隠しをして、声をかける影の主。その声に不機嫌さが混じっている。
元也「だ、誰だっ!貴様!」
その答えにムッとしたのか、押さえてる元也の目をググッと圧迫してきた。
元也「痛い!痛いってばサキさん」
サキ「ハイ、せいかーい。
   よくできましたー」
そう言うと、ご褒美とばかりに、後ろからギュウ、っと抱きしめてきた。サキの胸が当たる。
サキ「ところで元也君、今夜は何が食べたい?リクエストある?」
後ろから抱きついたまま、話しかけるサキ。
元也「特には!あ、ありま、せん」
サキの腕から逃れようと、もがく元也。逃がすまいと更に強く力をこめるサキ。
230合鍵 第九回  ◆tTXEpFaQTE :2006/02/05(日) 17:24:24 ID:FNzGp4Ze
>>229の続き

サキ「今日は中華にしたけど、どう?おいしい?」
元也「はい、とっても」
サキの家で、ガツガツと料理をたいらげる元也。
それを見て、微笑むサキ。
そして感じる。元也に対する強い感情を。

この子を手に入れたい。
昨日までは、自分の、この想いの強さが分かっていなかった。隣に、いつも女の子がいるなら、
諦めた方がいいかも、諦めもつくかな、と思っていた。
けど、こうして近くにいると、何であんな風に考えれていたのか分からない。
諦めれるはずが無かった。

いつからそうなったのか、分からない。
けど、昨日、はっきりと自覚した。この子を手に入れたい、と。
この子の隣に、女の子がいるというなら、いいだろう。しょうがない。
けど、これから先は許せなくなるであろう自分がいることを知っていた。

これまで、男の子をこんなに好きになったことは無かった。
そして気が付いた。自分は結構さばさばした性格だと思っていた。
けど、違った。
こんなに、元也に執着心がわくとは思いもよらなかった。

実を言えば、今日、授業が終わるとすぐに元也の教室まで彼を迎えにいったのだ。
すると、そこで見たのは彼と幼馴染の女の子の指きりシーンだった。
気に食わなかった。女の子を張り倒してやろうかと思った。髪の毛を引っ張って、
引きずりまわして、ええと、それから、どうしよう、
とにかく、気に入らなかった。そして、そこまで不快になる自分に驚いた。
自分がこんなに嫉妬深い事を、初めて知った。

元也「どうか、しました?」
サキが黙り込んでしまったので、元也が不思議がる。
ああ、なんでもないのよ、と答え、自分が今考えてたことを元也に言うとどんな反応を
示すのか、想像すると、クスクスと笑ってしまった。
驚いて、私から離れて行くかもね。冷静にそう思う自分がいた。
231名無しさん@ピンキー:2006/02/05(日) 17:57:12 ID:sqPWxqYi
きたきたきたーよ!
漏れも三人の今後の展開を想像すると、クスクスと笑ってしまいそうだ
2328 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/05(日) 18:17:17 ID:U1K1cHZ/
っかしーな、中々生温い展開から抜けだせんとです。
人様の作品の出来にハンカチを引きちぎらんばかりに嫉妬しつつ投下
233River of Tears 第2回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/05(日) 18:18:41 ID:U1K1cHZ/
 別にそういう関係とかじゃないよな――オレ達。
 喫茶店を出てから半ば無意識で口元を隠していた。
 キス――だよな。唇の感触はあった。こいつって冗談でそんなことするような奴だったか。
 ――冗談か?
 違う。昔から知っている可奈は内気な方で、広子ほどじゃないにしても奥手な方で――
 可奈の方を向けば少し恥ずかしそうな笑みを浮かべる。一方の手は相変わらず勝手に繋がれていた。
 結局考えても結露には行き着きそうにないので思考を打ち切ることにした。
「じゃあ明日もお願いね」彼女はやはり少し恥ずかしそうに笑っている。
「――ああ」
 可奈の家の前でそういって別れた。

234River of Tears & ◆tt9KhM1CGo :2006/02/05(日) 18:19:22 ID:U1K1cHZ/
 今朝、迎えにいったが彼女は昨日の事を何一つ言わなかった。以前と同じように話しかけてくる。ただ、手を繋いで歩いて、電車の中で抱きつかれていることを除けば。
 彼女も普通に接しているのだから、それに自分も合わせることにした――心に妙な引っかかりが残っていたが。

 昨日のキスはなんだったんだろう。昨日考えるを止めたはずの問題が再び頭を支配しようとしていた。退屈な授業中ずっと可奈の背中を見ながら考えてみた。もちろん答えなど出なかった。
 授業に集中していようが寝ていようが時間は流れる。そうして時計と鐘は昼を告げていた。
「じゃ、オレ、パン買に言ってくるから」そういっていつもと同じように外にでようとしていた。
「ちょっと待って」
 既に歩き出そうとしていたところを可奈に呼び止められた。
「えーと、これ。昨日のお礼というか……お母さんから……」
 恥ずかしそうに目の前に一つ余分に弁当箱が出されていた。
「オレの?」
「――うん」
 食費が浮くので断ることもない、素直におばさんの好意は受け取ることにした。
 広子達と三人で机を並べる。そういえばこういう風に一緒に食べるなんて随分久しぶりのことが気がする。
 弁当箱を開ける塩の匂いがした。唐揚げを一つ口に放り込んでみる。
 ――塩辛い。超をつけていいぐらい塩辛い。
 自分は味にうるさい人間ではない。むしろいい加減な方な人間だと思っている、がこれは塩が多すぎる。
「なあ、オレを成人病にでもしたいのか?」
「それ弁当もらってて言う言葉?」一緒に机を並べていた広子が口を挟む。
「じゃあ、一口食ってから言え」
 広子の前へ塩弁当を差し出す。。
「――ごめん、フォロー無理」
 広子も一口で塩弁当に敗北し、お茶を買いに出て行った。
「でも、ユウ君、前に甘いの駄目だって……」
「味は普通でいいんだって。人間の食い物じゃないぞ。ためしにお前も食ってみろって」
 可奈の方へ塩弁当を差し出す。恐る恐る箸を伸ばし、口へと運んでいった
「……ごめん、私ちゃんと味見してなかった」
 そういいながら可奈の瞳には涙が溜まっていた。そして静かに泣き出していた。
 ――なんか気まずい。
 なぜかクラスメイト達の視線が痛い。
「なんで泣かせているんだ?」
 そんなヒソヒソ声が耳に入ってくる。
 ――今オレ悪者になっているのかもしれない。
 クソ!ヤケだ、
 諸悪の根源であるべき塩弁当を処分すべく一気に口に放り込む。口の中がヒリヒリする。ご飯まで十二分に塩が利いている。口の中で漬物が作れそうな気がしてきた。
 空になった弁当箱を叩きつけるように置き、塩分濃度が限界にまで達した口の中をどうにかすべく教室を飛び出そうとしたところに広子がいた。都合よく手にはお茶のペットボトルを持っている。
「一大事だからよこせ」
 それだけ言って広子の持っていたお茶をひったくって一気に口内に流し込む。
 少しだけ口の中が落ち着く。
「助かった」
 空になってしまったペットボトルを返そうとしたら広子は顔を紅潮させ俯いていた。
「ん?どうした?」
「間接キス――」
 確かに空けた時、抵抗はなかた気がする・
「まあ、気にするなって」そういって笑いながら軽く広子の肩を叩く。
「私は――するわよ」
 相変わらず彼女の顔は赤かった。
235River of Tears & ◆Jx3uuDAUoo :2006/02/05(日) 18:20:37 ID:U1K1cHZ/
 口の中の塩漬け感は放課後になっても残ったままだった。
 広子のお茶以後、何度も口をゆすいだが抜けきることはなかった。
 昨日同様、可奈と一緒に帰路につこうと校門へ向かっていた。
「ユウちゃーん」後ろから抱きつかれた。
 先輩だ。いいかげんコレは止めて欲しいと何度も言っているが今に至る。
 無駄になれしまった手つきで先輩の体を引き剥がす。
「じゃあ、今から一緒に行こうか」いつもの人の良さそうな笑顔で部室へ誘っていた。
「いや、今からコイツ家に送っていかないといけないんで、今日は無理です」
 そう言って隣の可奈を指そうとしていたら――いない。あわてて周りを見渡したら自分の背中に隠れるようにいた。
「よろしくね」先輩は相変わらずにこやかな顔のまま可奈に挨拶した。
 一方可奈は恥ずかしいのか、小さな子供のように黙って俯いた。
「おい、可奈――。すみませんね先輩。コイツ昔から人見知りするトコあって――」しかたなく頭を下げる。
「いいって、いいって。――ところでその子が前言っていた子?」
「ええ、まあ」
「ふうん、一緒に遊べないの残念だけど、ちゃんと送っていくのよ」
「はーいっと」
 オレ達二人を見送る先輩のは本当に残念そうな顔だった。


 電車の中はさほど混んでもいないのに、やはり可奈に抱きつかれていた。
「ユウ君――」
「なんだ」
 抱きついたまま上目づかいで名前を呼んで来た。
「……ずっとこうしてくれるよね」
「まあな――おばさんにも頼まれているし」
 可奈は顔を俯けた後、その日は家につくまで何も言わなかった。

|> とりあえず現状維持
  「そろそろ一人で大丈夫じゃない?」
  「明日はチキンブロスがいいな……」
236名無しさん@ピンキー:2006/02/05(日) 19:55:30 ID:sqPWxqYi
おかしいな、カーソル動かないや…修正パッチまだ〜?
237姉貴と恋人 第二章(1) ◆DxURwv1y8. :2006/02/05(日) 20:27:49 ID:XAMAa/MB
 いきなりですが、ここから第二章ということでお願いします。
 それに伴って今までのものは第一章としてください。
 ()内の数字は、その章の中の話数です。


 土曜日。麻妃が俺を呼び出したのは学生街の喫茶店だった。
「よっ」
 窓に面した丸テーブル。彼女は微笑んだ。
「あ、隆史。良かった来てくれて」
「麻妃の誘いだ、来るよ。まあ、あまり長居はできないが」
「……お姉さん?」
「そうだ。外出は合計五時間まで。遅くとも日没までには帰れだとさ」
 麻妃は面を伏せた。
「ねえ、辛くない?」
 腰を下ろしてから俺は答えた。
「辛くはある。でも姉貴がそう言うなら」
 麻妃はじっと俺を見てから、息を吸った。
「実は、今日はそのことについて話したかったの」
「そのこと?」
「お姉さんのこと」
「……またか」
「ごめんなさい。でも、やっぱりおかしい。私は、その、隆史のこと大切に思ってるから
無視できない。人ごとなんかじゃない」
「そんなこと言って、この前みたいに謎かけして終わりじゃないだろうな」
 彼女は眉を寄せた。
「あれは……ごめんなさい。でも、今日はきちんと話すから」
「……それで?」
「隆史。お姉さんとは元の姉弟に戻って。そして、私と一緒にいて」
「何だって?」
「傲慢に聞こえると思う。それに、私の希望が混ざってないと言えば嘘になる。でも、
今の隆史を見るのは忍びなくて……」
 麻妃も姉貴と一緒だ。自分の為に俺を利用して……。
「余計なお世話だ」
 そう思うのに、辛い。麻妃の瞳を見られない。
「うん、本当に余計なお世話だと思う。だけど、余計なお世話でも焼きたくなるのは、
隆史だからなの。隆史が苦しんでいるのは辛いから」
「麻妃、俺は……」
 そんなこと望んじゃいない。
「うん」
「俺は、その」
 姉貴のこと本当に好きだから。
「俺は……」
 麻妃は静かに答えを待っている。早く答えないと。
「あ、えっと」
 しかし、言葉が出なかった。分からない。なぜ言えない。
「……ごめんなさい。いきなりすぎた」
 と、麻妃はそこで追求をやめてしまった。
「麻妃、俺は別に……」
 彼女はじっと、見つめている。
 その瞳を見るとなぜか許された気がした。
「その、麻妃の気持ちは嬉しい」
 ようやく、本当の心を言える。
「うん」
「でも、まだ整理できてない」
 姉貴の影のない言葉を発したのは本当に久しぶりで。
「うん」
「だからもうちょっと待ってくれ。そうすれば、答えを出せると思うから」
 麻妃の前では自由になれる。タカでなく、岸本隆史に戻れる。
「うん。待ってる。待ってるから」
 彼女は許しに満ちていた。
238姉貴と恋人 第二章(1) ◆DxURwv1y8. :2006/02/05(日) 20:28:35 ID:XAMAa/MB
 遅いなあタカ。
 もう出て行ってから二時間と十七分も経つ。今ごろ誰か別の女とでも会っているんじゃ――
 いや、タカはそんなことはもうしない。
 あの進藤とかいう女とも別れたんだし、タカはそんなに不実じゃない。
 あれ以降、タカが例の香水の臭いをさせてくることもなくなった。
 タカは私だけのものだ。
 だってタカは私のこと大好きだから。
 私の言うことなら何でも聞いてくれるし、私の為に色々なことを犠牲にしてくれる。
 だから私は愛されている。実感できる。
 最近タカはどこか上の空だから、心配になってしまうけれど。
 タカはずっと私と一緒にいる。
 だって姉弟だから。恋人だから。
 そうでしょ、タカ?
239名無しさん@ピンキー:2006/02/05(日) 20:38:06 ID:XAMAa/MB
>>230
さっぱりした子の嫉妬はイイですねぇハァハァ

>>235
現状維持→状況悪化のコンボですな。
240& ◆suNUdz56d. :2006/02/05(日) 21:31:05 ID:U1K1cHZ/
 朱色に染まった川辺。
 ボクは少々悩んでいた。嫌少々というレベルではなく今目の前にある川に飛び込んで入水自殺しかねない程悩んでいる。
 そしてその問題はいくら悩んだところで解決するはずがないとわかっていても悩んでいる。
 彼女相手に洒落にならない失敗おかした。元々気性の激しかった彼女には散々罵倒された。その際の傷は今も激しく後を引いている。
 ――あんた隠れてい付き合っている子とかいるんでしょ!
 その際に金きり声でそんな事言われた。そんな子いないのに、ずっと一筋だったのに。
 ――でも、関係修復不可能だよな。
 情けない話だか彼女が怖くて近づくこともできない。
 更に彼女はあれ以来元々キツかった目つきで時折こちらを威嚇するように睨みつけてくる。ますます近づけない。
 携帯もメールすら指先が震えて無理だった。
 訳もなく足元にある石を思いっきり投げてみる。
 ここは一発叫んだ方がそれらしいのかな。
「なに、一人で黄昏てんの?」
 叫ぼうと大きく息を吸い込んだ時、背中から突然声をかけられビックリして激しく咳き込んだ。
「……なにやってんの?」
 あきれた顔でクラスメイトの松岡が立っていた。
「行き場のなくした青春の衝動を持て余していた」――まあ言ってることは間違ってない。
 彼女は真っ直ぐボクへと近づいてくる。そして家族の間でさえ不自然な距離。
「――ふうん」鼻を鳴らした。
 視界には彼女しかいない。
 お互いの呼吸が感じられる距離。少し落ち着かない距離。
「な、なんだよ」
 少し声が上擦っていた。
「悩み事でもあんの?」軽く笑いながら彼女は訪ねてくる。
「うん、まあ……」
「じゃあ、話してよ」
「誰にも話さない?」
「誰にも話さない」さっきまで笑ってた彼女の顔が真面目な顔になった。
「笑わない?」
「笑わない」なんか彼女の目は真剣になっていた。
「えーと平田とさ――」
「ケンカしたのなら気づいてたけど、そんな事?」
「まあ確かにケンカなんだけどさ、彼女といざしようとした時に立たなかった……」
 もうすこし本能的なものだと思っていたら
「そんな事で落ち込んでいるの?そんなの次の時にでも――」彼女はえらい簡単な事のように言ってくれる。
「更に困ったことに、その際に私の事嫌いなんだとか
 他に付き合っている子がいるんだとか、
 前に電話でなかったのも別に付き合っている子と話していたんだとか
 ――まあ、そんな感じでこじれてケンカ別れ」
「――ご愁傷様……」
「ついでにそれ以来全く立たない」
 ケンカ別れしたことより今はそれの方が悩みだった。
 十代で人生終った気分だった。そういうのはもっとオヤジとかがなるのばかりだと思っていた。
 朝起きても立たず、刺激も何も反応しない下半身に壮絶な喪失感を味わっていた。
「で、彼女とはどうしたいの」
「んー、もう吹っ切ることに決めた」
 ついさっき決めたことだが。
しかも肝心の理由が怖くて謝りにいけないという余りに情けなさ過ぎる理由で。

「松岡ありがとう、少し気が楽になった」
 何でこんなに人に言い辛い事ベラベラ話しているんだろう。
別にそんな親しい友人って訳でもない。
 ――でも、なんか話しやすい相手だった。
241『無題』 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/05(日) 21:32:27 ID:U1K1cHZ/

「じゃあ私と付き合ってみる?」
 何か何処かで食べて行こうって感じの言葉だった。
「――え?何で?」唐突過ぎてよくわからない。
「今、フリーなんでしょ?」
「いや、だから何か唐突過ぎてさ」
「……私もさ、こないだ失恋したばっかりだから色々吹っ切りたいのよね」
「だから何で?」
「ほら、失恋の特効薬って新しい恋って言うじゃない、それとも平田さんの言ってた通り別に付き合っている人でもいるの?」
「別にいないけどさ」
「だったらいいじゃん」
 彼女はまた先の様に異常なまでにボクと顔を接近させていた。
 真っ直ぐに目の奥まで見つめられている。彼女の目の中にボクが映っている。
 ――あ
 唇同士が軽く触れたのが分った。
 ――自分の視界を占有している彼女の目は真剣だった。
242& ◆GEEJoBSa2Y :2006/02/05(日) 21:34:24 ID:U1K1cHZ/

 体育の授業、運動場に向かう際に私は平田さんに呼び止められた。
「松岡さん――あなた、ひょっとして青木君と付き合っている?」
「まあ、ね」
「そう……」彼女の声は少し震えていた。
「ふうん――」私は平田さんの瞳を覗き込んで、鼻を鳴らす。
 青木君は彼女の視線を単に睨んでいると表現していたが、それは少し違っていた。
 彼女の瞳の中には後悔と半ばあきらめの色、そして私への怒りの色があった。
「――いつから」彼女の声には押し殺した怒気が含まれていた。
「確か――三日前ぐらいから」
 一ヶ月ぐらい前から、とでも言ってやろうと思ったが少し思いとどまった。
 その言葉を聞いてから、彼女の瞳の中の私への怒りの色は消えていた。
 代わりに、同情とも哀れみともとれる色が浮かんでいた。
「――そう、多分彼、他に付き合っている子いるわよ」あきらめと同情の混じった声。
「そう――忠告ありがとう、『誰かさん』みたいに『一方的に怒鳴りつけたり』せずに『私の彼』とちゃんと話し合ってみるわ」
 ――ふうん。


243『無題』 1 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/05(日) 21:36:56 ID:U1K1cHZ/
 友達以上恋人未満。
 そんな言葉がボクの頭に浮かんでいる。
 一応松岡とは付き合うことにした。そして三日ほど経つ。したつもりだが何だが違う気がする。
 下半身は未だ回復の傾向は見られないが、そっちは今のところ関係ない。
 別に嫌いとかそういうのじゃない。何というか落ち着く。頑張らなくていい。
平田との時はこっちが全力で機嫌を損なわせないように頑張っていたが、松岡との間にそういうのはなかった。
「なあ、松岡……」隣にいる松岡に語りかける。
「なに?」
「お前といると落ち着くって言うかなんか――」
 相変わらず、うまく切り出せない。
「へえ、じゃああたし達相性いいじゃん」
「へ?どういうこと」
「落ち着ける相手って相性いいんだよ。一番長続きできるタイプなんだって」少し嬉しそうに彼女は喋った。
「ふーん」
 ――まあ確かに悪い感じではない。
「ああ、それから、青木……えーと下の名前なんだっけ?」
「……健司」
 ――なんかさっきまでことの重みが急激に消えた。
「健司――好きだよ」
 彼女はさっきまでの冗談半分の顔を急に真面目な顔をして言う。
「……何だよ急に」
「いやー、こういうのって機会逃すと中々言いづらいのよ。大体最初の時ちゃんと好きって言ってなかったし」
 照れ隠しか彼女はさっきまで表情を打ち消すように笑っていた。
「――でボクには由香と呼べと?その後には好きって言えってか?」
「そうそう」
 何でもないようなことなのに二人して笑った。
 ――落ち着ける。確かに悪くはない。
2448 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/05(日) 21:40:39 ID:U1K1cHZ/
とりあえず書きたい場面へ中々届きそうにない時は
別にそっちの場面に直ぐ行き着く話を書けって、ばっちゃが言ってた。
これって二股のことだよね
245優柔 第2話◇7IWcnPZ2:2006/02/05(日) 22:04:05 ID:XzjeKxEa
別れてから1週間経ちました。
あんなに僕のことを束縛したのだから、当然何らかのアプローチがあるだろうと思って身構えていました。
しかし、意外なことに何もありませんでした。
電話が掛かってきたり、登下校の時に待ち伏せされたり、呼び出されたり・・・そんなことは一つもありません。
クラスも違うので、用事がない限り隣の教室へ行くこともないので顔も合わせていません。
あまりにあっけなかったので肩透かしを喰らった感じです。たかが恋愛、彼女も冷めたということでしょうか。
まあそういうわけで僕は晴れて自由の身、これからは悠々自適の学園ライフが待っています。
これで良かったんです・・・よね。

「よう愛原、こんなとこで何やってんだよ?」
屋上のベンチで流れる雲を見ていると、入り口の方からよく聞き知った声が僕を呼びます。
「ああ・・・先輩ですか・・・ご無沙汰してます」
「何そのやる気のない返事。こんないい女が声掛けてやってんだから、もっと嬉しそうにしろよ」
杉山綾乃先輩。去年、体育祭実行委員に選出された時に知り合った人です。
実行委員の仕事を続けているうちに、いつの間にか仲良くなっていました。
先輩は男言葉を遣い、性格もサバサバしています。
それとは対照的な、女性を意識させる外見―腰の辺りまで伸びた髪に透き通るような白い肌、そして、ブレザー越しからでもはっきりと分かる豊かな胸―黙っていれば相当モテると思います。
体育祭が終わってからも何度か遊んだり、メールのやりとりをしましたが、彼女ができてからはすっかり疎遠になっていました。
『あの先輩はゆう君をたぶらかす悪い人なの。きっとあの大きなおっぱいで男の人を手篭めにしてるんだわ。だからゆう君、騙されちゃ駄目』
そんな根拠のないことを言い聞かされて、先輩との接触を禁止されていたんです。
「はあ・・・すみません」
「ったく、元気ないな・・・さては、彼女に振られたか!?」
たぶん先輩は冗談のつもりだったのでしょうが、僕には痛い言葉でした。
「・・・」
「えっ、図星かよ・・・いや・・・その・・・ゴメン」
「謝らないで下さい。先輩は悪くないんですから。それに、振ったのは僕なんです」
「そうか・・・でもよ、それだったら落ち込むことなんかないのに」
先輩の言う通りです。僕はどうして落ち込んでいるのでしょうか。
彼女の事・・・引きずっているとでもいうのでしょうか。
自分のことなのに、いえ、自分のことだから分かりません。
246優柔 第2話◇7IWcnPZ2:2006/02/05(日) 22:05:17 ID:XzjeKxEa
そんな僕の様子を見かねてか、先輩は大きなため息を吐きました。
そして、何かを決意したように言いました。
「何があったか話してくれ。あたしで良かったら力になるよ。何も話したくないって言うんなら愚痴でもいい。付き合うから」
それはいつもの先輩ではありませんでした。目の前いるのは、僕のことを心配してくれる1人の女性です。
優しい眼差し・・・先輩って、こんな表情できるんだ。思わず見惚れてしまいました。
同時に、僕は驚いていました。
長いこと会ってなかったのに、突然現れて僕の力になってくれるというんですから。
でもそれが、今の僕にはとても嬉しかったのを覚えています。
「はい・・・じゃあ、聞いて貰おうかな」
「よしっ!それじゃ決まりだな」
いつもの快活な先輩に戻りました。そして立ち上がり、手を差し伸べてきました。
「場所変えよっか。静かなとこ知ってんだ」
僕はその手を握りました。細くて長くて、柔らかな指。強く握れば、壊れてしまうような・・・

午後3時半。隠れていた太陽が、待ち望んでいたかのように現れ、僕達を照らしました。


しばらく続きそうです。
247名無しさん@ピンキー:2006/02/05(日) 22:44:12 ID:sqPWxqYi
>>240-243
新シリーズですか?はじめからいい感じに気配が立ち込めててタマランw
えっとタイトルはそのまま&(アンド)でいいんじゃないかな

>>245-246
キタキタキタキタ━━━
何て表現したらいいのか分からないんだけど、少しだけ文学っぽい表現が
まるで絵画のようで妙に印象に残るっていうか、うまく表現できなくてゴメン
けど続きが楽しみだよ
24816 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/05(日) 23:49:07 ID:RNbFOdGH
「それではこれより〜第一回〜山田優治攻略会議を〜開始しまぁ〜す」
――ヒューヒュ〜 ――ドンドン〜 ――パフパフ〜
「はい、そんなわけで主賓の佐藤陽子さんでーす。みなさん拍手〜」
――パチパチパチパチ ――いよっ、待ってました! ――パチパチパチパチ
なんだろうこれは。
ドアを開けた瞬間のまま、陽子は固まってしまっていた。
狭いカラオケルームにはぎっしりと、陽子の友人たちがすし詰めされていた。
すでにテーブルには飲み物やケーキが並び、中にはビールっぽいのも持ち込まれていて、
まあつまり早い話が、彼女たちはすっかり出来上がってしまっていた。
「遅刻だよ陽子ー、あんたが主役なのにさぁー」
「そのパフェ一口食べさせてー」
「もっとどんどん歌うべー」
「あたしmyマイク持ってきてるんだけど」
「ちょっとあんたら、本題分かってんの?」
「陽子ーここ座りなー」
指差されたところには、ちょうど一人が座れるくらいの空間がぽっかりと空いていた。
勧められるまま、安っぽいビニル張りのつるつるしたソファに、陽子はおずおずと座った。
いったいなにがなんだか、陽子には理解できなかった。
今日は何人かでカラオケをするだけじゃなかったのか。
どうしてクラスの女子の半分くらいが集まっているのだろう。
「さて、佐藤陽子さん」
カラオケ用のマイクを陽子の方にぐいっと突き出してきたのは、
面倒見が良いことでクラスでは"姉御"として知られる少女だった。
「ズバリ直球で訊くよ。あんた、山田君のこと好きなんでしょ?」
直球過ぎた。
陽子は一瞬呆気にとられて、次におもしろいほど狼狽した。
「な、なななななな、なに言ってんのよ? 違う。違うって。違います。何回言ったらわかるの?」
「違わないでしょ。寂しいんでしょ、陽子。最近はずっと彼と話せてなくて、すっごく落ち込んでるもんね?」
「だから、それは……」
それは、の次の言葉が出てこなくて、陽子は俯いてしまった。
うまい言い訳が思いつかなかった。
言い訳?
なにを言い訳する必要がある?
なにを誤魔化す必要があるんだ?
「正直になりなよ、陽子」
「もう、いい加減に――」
と顔を上げて、陽子はハッとした。
249陽の光のなかで舞う雪 2 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/05(日) 23:50:20 ID:RNbFOdGH
姉御の厳しい瞳が、じっと陽子に向けられていた。
いや、他のクラスメイトたちだって、驚くほど真剣な顔つきだった。
姉御が続ける。
「例えばさ、陽子。このまま鈴木さんが山田君をゲットしちゃったらさ。あんたますます山田君と話せなくなっちゃうんだよ?」
「…………」
「二人が話してるところとか、抱きあってるところとか、もしかしたらキスとかだって、見ちゃうのかもしれないのよ?」
「…………」
「そういうの、どう思うの?」
わからなかった。
わからなかったけれど、陽子の口からは自然に言葉が出てきていた。
「……いやだ」
なぜだかとてもリアルに想像できた。
鈴木さんとこんなことを話したんだ、と笑う優治。
明日は雪さんとデートなんだ、何を着ていこうかな、と笑う優治。
雪が弁当を作ってきてくれることになったから、君のはもう要らないよ、と嗤う優治。
「……それは、いやだ」
「だったら頑張りなよ。みんな応援してるんだからさ」
部屋にいる全員が、陽子に微笑みを向けていた。
それがとても温かくて、陽子はいつのまにか泣き出していた。
「いやだよ、……っ、あんな女に、優治を取られるなんて、ひくっ、いやだよぅ……」
「はいはい、だったら一緒に頑張ろうね」
「わたしたちはみんなアンタを応援してるからさ」
「あんな冷血女に負けちゃいけないよー。陽子なら絶対いけるってー」
「ほらほら、泣いちゃダメでしょう。笑ってないと山田君に嫌われちゃうわよ」
口々にかけられる励ましの声。
陽子は思った。
彼女たちの想いを無駄にしちゃいけない。
そして、彼女たちによって気付かされたこの想いも、大切にしなきゃいけない。
――明日、優治に告白しよう。
陽子は決意した。
「みんな、ありがとう。ありがとうね」
狭い室内の中で、その「ありがとう」は何度も繰り返された。
何度も、何度も……。
250 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/05(日) 23:55:09 ID:RNbFOdGH
今回はこれだけです。
前回の時に「急転直下」とか言っといて、全然急転直下じゃありません。
修羅場ですらありません。ハートフルです。
>>174の意見を採用してワンクッションおいてみました。
名前欄も間違えてたりしてグダグダです。
申し訳ない。
後々、ちゃんと修羅場を考えてますので、
根気強くお待ちいただければ幸いです。


それと、まとめサイトの管理人さま、おつかれさまです&ありがとうございます。
251名無しさん@ピンキー:2006/02/06(月) 00:01:25 ID:XAMAa/MB
>>250
友達にサポートされている状況がスクイズの世界を彷彿とさせ(ry
ここで陽子を持ち上げておいて、一気に雪と優治のラブラブモード発動で
読者をも嫉妬させる訳ですな
252名無しさん@ピンキー:2006/02/06(月) 00:06:23 ID:93Twx7kG
タイトルに意味はあるのか、それだけが気になる
253名無しさん@ピンキー:2006/02/06(月) 00:16:27 ID:/Udek0LU
ヒロイン「陽子」と「雪」がタイトルに潜んでいる辺りに
作者様のセンスが伺えますね。
続きを楽しみにしてます♪
254 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/06(月) 00:20:49 ID:BxaFIfl/
>>252
ぶっちゃけ特に無い。

ツンデレ=明るい=陽子
素直クール=冷たい=雪
修羅場男=優柔不断=優治

というのが先にあって、
その後で、せっかくだからタイトルに「陽」と「雪」を入れてしまおうと思っただけ。

ごめんなw
255名無しさん@ピンキー:2006/02/06(月) 00:39:13 ID:7ud2TW+n
>>251
自分もそれを思い出した。
まあザ・ワールドの場合は自分で誠と言葉をくっつけておきながら友人を利用して別れさせようとするという高等テクだったが。
付き合いの浅い個人VS多人数にサポートされている幼馴染って構図だと雪さん凄く不利に見えるね。
256名無しさん@ピンキー:2006/02/06(月) 01:54:47 ID:3ekkMmOE
漏れは雪タン応援しちゃうぞ!
257名無しさん@ピンキー:2006/02/06(月) 01:55:31 ID:3ekkMmOE
おおっIDが萌えっ
258名無しさん@ピンキー:2006/02/06(月) 14:16:47 ID:tawHZm8Y
個人的に「合鍵」と「River of Tears」がたまらない
作者様、楽しくかつ興奮して読ませていただいております
このジャンル、レベルの小説が何故出ないのかと小一時間(ry
259名無しさん@ピンキー:2006/02/06(月) 16:00:36 ID:eHwaeb8e
このペースだと多数のSSが同時期に修羅場シーン突入して祭りになるヨカーン
260名無しさん@ピンキー:2006/02/06(月) 16:17:22 ID:3ekkMmOE
実際の修羅場はお互い共に引かず長期に渡って鍔迫り合う傾向があり
決着後も互いの関係に修復不可能な遺恨を残すケースが多いとか

そのことで知り合いのバツイチとバツニが酒の席で意気投合してたよ
261名無しさん@ピンキー:2006/02/06(月) 18:12:06 ID:hYNQ9o2k
家庭裁判所まで持ち込むと双方ダメージは相当でかいらしい@ままらぶ
262姉貴と恋人 第二章(2) ◆DxURwv1y8. :2006/02/06(月) 18:28:26 ID:sj2t8v9d
「こんにちは」
 中庭で休んでいると、隆史のお姉さんが歩いてきた。
 彼女の方から近づいてくるなんて。
 ……なぜ?
「あ、隆史のお姉さん。こんにちは」
 彼女は私の言葉を聞くか聞かないかで話を切り出した。
「単刀直入に聞くわ。いつの間にタカを懐柔したの」
「えっ?」
 気付かれた。隆史が疑われた以上私の所まで辿り着くのにそう時間は掛からないと思ったが、
ついに来たか。
 この人には借りがある。それに、隆史を苦しめている以上、姉とはいえ容赦はしない。
 つばを飲み込んでから、口を開いた。
「懐柔なんて……私はただ、あなたが隆史を拘束しているのが我慢ならなかっただけです」
「面白いことを言うわね。ならどうしてタカに手を出したの?」
「私が隆史を好きだからです。ついでに言うなら、あなたに縛られているよりは私の側にいた方が
いいと思いました」
「盗人猛々しいわね。タカは私とずっと、生まれてから今まで二十年間ずっと一緒にいたのよ。
そしてこれからも。あなたみたいな女に入り込む余地はないわ」
「そうやって血の繋がりを使って隆史を拘束するんですね」
「拘束? 人のモノをかすめ取るようなあなたよりずっといいじゃない」
「隆史はあなたのモノではない。そうやって隆史を苦しめて、あなたは満足ですか」
「当然。むしろ、タカの方こそ昔から私にべったりでしょうがないんだから。今まで、あなたの
知らないようなこと、できないことを沢山してきた。タカは私から離れないわ」
「隆史は迷っていると言いました」
「タカは騙されてるのよ」
「私が騙したのだとしたら、あなたは隆史から自由を奪っています」
「それがどうかしたの? タカが幸せならそれでいいのよ。そしてタカの幸せは私と一緒にいること」
「なぜ言い切れるんです」
「私はタカのことを誰よりも分かっている。知っている。想っている。理由はそれで充分でしょう?
それに、タカは、昨日私を抱いてくれたわ」
263姉貴と恋人 第二章(2) ◆DxURwv1y8. :2006/02/06(月) 18:29:06 ID:sj2t8v9d
 隆史の顔が浮かび、歪んでいった。
 呼吸が浅くなる。めまいがした。
「……それは、タカは優しいから」
「あなたは許せるの?」
「隆史はあなたを大切に思っています。もちろん、家族としてです」
「ただの家族がセックスするかしら」
「それは! ……あなたが相手だから、隆史は断れないんです」
「つまりタカは私が好きなのよ」
「……それは」
 確かにそうかも知れない。でなければ迷ったりはしないだろう。
「泥棒猫はしっぽ巻いて逃げなさい」
「でも、あなたはタカを苛んでいる。そんなのが、幸せだなんて隆史は思っていない」
「ふふ。苦しみだって喜びの内よ。がんじがらめに縛ることが、朝起きる時間から食事、服、
受講する講義まで全部私が決めてしまうことが、タカへの愛情なのよ。そして、タカもそれを
受け入れることで私への愛情を表してくれてるの」
「そんな関係は異常です」
「それで? どうするの? 私がおかしいから、私からタカを盗っていくの? もしそうなら、
勝手にタカの気持ちを決めつけているのは進藤さん、あなたの方ではなくて?」
「それは……」
 違うとは言い切れない。私が何も言わなければ、きっと隆史はこの人と一緒だったろう。
 しかし、隆史は迷っていた。お姉さんとの関係を絶ってくれと言ったとき、迷っていた。
 つまり、隆史もこの関係が普通でないと分かっているのだ。
 そして、その継続に疑問を持っている。
 私は隆史を救いたい。
 だがそれを決めるのは、結論を出すのは隆史だ。
「何も言えないの? タカは私の側にいる方がいいって分かった?」
「いいえ。私の側にいる方がいいと信じています」
「そう。無駄な希望を持っても辛いだけなのにね」
「決めるのは隆史です」
「タカは私の言うとおりにするわ。今までだってそうだったし、これからもそうなのよ」
「それは、隆史が決めることです」
「そう。そうやって、自分は逃げているのね」
「なっ……」
「そうでしょう? 隆史が決めるなんて都合のいいことを言って。あなたはタカを苦しめてるのよ」
 ズクン、と身体の奥を一突きされた。
「ふふ。分かった? さっきから私ばかり責めてるけれど、あなただってタカを苛んでるの。
どっちにしたって、タカは苦しむのよ」
 違う、と言いたかった。
 私はタカが苦しんでいるから、だから……。
 しかし、私がいなければ隆史だってこんなには苦しまなかった。
 だとすれば、私のせい?
 私が隆史を苦しめてたの?
 チャイムが鳴り、彼女は微笑みを浮かべたまま帰っていった。
「私が、隆史を?」
 そんなことは、ない。
 そんなことはない!
 私は動けなかった。
 講義が始まり、中庭は静かになっていった。
 ぽつんと一人。
 隆史は隣にいなかった。
264 ◆DxURwv1y8. :2006/02/06(月) 18:37:36 ID:sj2t8v9d
収拾つかなくなってきました。これ終わるんだろうか(´・ω・`)
話は変わりまして、
第一章→前編
第二章→後編
に変更をお願いします。何度も変更してすみません>まとめサイトの管理人さん

それにしても、みんなクオリティ高須
私も精進します(`・ω・´)
265 ◆DxURwv1y8. :2006/02/06(月) 18:38:15 ID:sj2t8v9d
収拾つかなくなってきました。これ終わるんだろうか(´・ω・`)
話は変わりまして、
第一章→前編
第二章→後編
に変更をお願いします。何度も変更してすみません>まとめサイトの管理人さん

それにしても、みんなクオリティ高須
私も精進します(`・ω・´)
266 ◆DxURwv1y8. :2006/02/06(月) 18:39:06 ID:sj2t8v9d
書き込みミスりましたorz
すみませんでした
267名無しさん@ピンキー:2006/02/06(月) 19:50:34 ID:3V4+ykyI
姉貴の壊れるペースが絶妙です!
そういや姉貴の名前出てたっけ?
268 ◆DxURwv1y8. :2006/02/06(月) 20:40:30 ID:sj2t8v9d
>>267
(´-`).。oO(実は決まっていないなんて言えないなぁ)
269名無しさん@ピンキー:2006/02/06(月) 21:23:19 ID:Geg4+Zkl
隆史の姉なんだから隆子なんじゃないの?w
270名無しさん@ピンキー:2006/02/06(月) 22:28:38 ID:Hn9lHk9t
つ【良美】
271『無題』 2 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/06(月) 22:32:16 ID:aasDuUtt
「青木君……時間いい?」
 携帯から鳴った。だから出た。そして相手は平田だった。
「え、と……」
 自分で声が少し震えているのが分った。目が泳ぐ。
 あれ以来、会話は全くしていなかったが、その代わり感じる視線だけは段々と強くなっていた。
 ――怒ってるのだろう。
 自分はやりなおそうとは思っていない。現に今由香と付き合っている。
 しかし、彼女の視線を感じる度、何度も浴びせかけられていた金切り声が何時飛び出てこないかビクビクしていた。
「ごめん、もう直ぐ映画始まるから」
 それだけ言って一方的に切った。
 心臓の鼓動は早かった。

「健司、誰からの電話?」
「な、なんでもないって」
「――ふうん。……もうすぐだからちゃんと電源きっときなさいよ」
「わかってるって」
 そういって電話を切った。
 ――次に電話かかってくる瞬間が怖かった。何て言おうか……


272『無題』 2 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/06(月) 22:33:16 ID:aasDuUtt
 教室でぼんやりと携帯のメールを再び確認する。
 『放課後屋上で話したいことがあります』――平田からのだ。それ以外は何も書いてない簡素なメールだった。
 昨日の映画の前以来、いつ次が来るのかビクビクしていたが、とうとう今朝来た。
「どうかしたの?」
 人の不安そうな顔に気づいたのか由香は心配してくる。慌てて携帯を閉じる。
「……放課後ちょっと用事入った。でも多分すぐ終ると思うから、お好み焼き屋には一緒にいけると思う」
 この機会にキッパリ言っておこう。もう別に付き合っている人がいるから別れるって。
 ――少し自信ないけど。
「――ふうん。早く終らせてよね」
「ああ……うん」
 やっぱり自信ない。


273『無題』 2 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/06(月) 22:33:59 ID:aasDuUtt

 今朝から――いや、昨日映画を見る前辺りから健司の調子がおかしい。
 まあ原因なんて簡単に想像つくのだけれど。そして最近の彼女の纏っている空気。
 ――もう一度釘さしといた方がいいかな。
 そんな事を考えていると都合よくトイレの前で彼女と会った。
「平田さん――」
「なに?松岡さん」
 ふうん――やっぱりだ。
 彼女の瞳は以前見たときにあった、あきらめの色のではなく、迷いの色。
そしてその奥には吹けば飛ぶほど微かではあるが決意の色。
 ――そして充血していた。
「この前の忠告はありがとう。確かに彼、彼女はいたわ」
「――私付き合っている人いるって知ってた?」少しだけ震えている彼女の声。
 彼女の言葉は無視して話を続ける。
「――でも『別れた』って。その前の彼女って酷い人らしくてね、その時散々言われた事が未だにトラウマになっているんだって
 多分二度と顔も見たくないんじゃないかしら」
 彼女は押し黙ったまま何も言わない。
「あと、私放課後『健司』と一緒に遊びに行く予定あるから――」
 ――釘はさしておいたわよ。


274『無題』 2 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/06(月) 22:34:45 ID:aasDuUtt
 踊り場の時点で一息をつく。体力的に問題があるわけではない、ただ足が重い。
 何を言われるのか想像しただけで、屋上へと近づくだけで、胃がしめつけられる。
 大きく深呼吸をして再び階段へと足を進める。
 ――死刑囚が上る十三階段って感じなのだろうか。
 背中は汗がベッタリと、体はかすかに震えているのがわかった。
 ――バックレようかな……。
 心の中の弱い考えがムクムクと大きくなる
――が、逃げたら何が起こるかわからないという更に弱い考えが足を進めさせた。


「ごめんなさい……」
 屋上で待っていたのは彼女の金切り声だとばかり思っていたが、涙を溜めた平田がいた。
 ――なんだよ、この展開。
 受験の面接時の様にいくつかやりとりは想定していたが、全部吹き飛んだ。
「私ずっとわがまま言ってた、付き合ってくれって言われて有頂天になって青木君に甘えて青木君のこと何も考えてなかった。
 ずっと好き勝手やって傷つけるなんて思ってなかった。
 この前のときだってつい口が滑っちゃったけど……」涙で言葉を飲みこんだ。
 両手をグッと握り締め泣きながら、それでいてこっちを真っ直ぐ見つめてくる。
 ――なんだよ、今目の前にいる女の子は。
 自分の知っているのはもっと高圧的で、デート中は常にこっちが気を使っていないと癇癪を起こす――でも好きだった子。
「いつも見たいに直ぐ謝りに来てくれると思ってたのに、中々謝りに来てくれなくて……。
 今回は……ううんいつも私が悪いから私から謝る。
 許してくれるんだったら青木君の言うこと何でも聞く。
 青木君好みの女の子になるから――」
「いや……今別に付き合ってる人いるし、だからもう――」
 ――雰囲気に飲まれそうだ。視線を合わせていられない。
 屋上を上っていた頃に決めていた意志をかろうじて搾り出す。
「そんな事知らないわよ!私は青木君が好きで、青木君は私が好きなんだから……」
 ヒステリック気味に声を荒げる。
 携帯がなる。平田の視線を避ける理由に携帯を覗く。由香から早く来いとメール。
「ごめん――人待たせてて、もう行くから……」
 メールが来たのを言い訳に逃げるように屋上を出た。
 何か背中に言葉をかけられた気がしたが文字通り走って逃げた。

 彼女のあんな顔を見たのは始めてだった――少し困った。困っている。心が少しだけ揺れた。


275『無題』 2 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/06(月) 22:36:06 ID:aasDuUtt
 鉄板の上で焼ける音がする。
 ボクと由香は約束どおりお好み焼き屋にいた。
 ――言うか、言わざるべきか。先程屋上で起きた事について。
 決めた――言う。目の前の彼女に後ろめたいものを持ちたくないから。
「なあ、今日の放課後、より戻さないかって言われた」
「知っている……」
 彼女の声には抑揚はなかった。
「……なんで?」
「女の勘……」
 相変わらず抑揚のない声で、行き場のない感情を自分の豚玉にぶつけるように睨み付けていた。
 小皿にとって小さく切り分けていく。
「怒ってる?」
 彼女は小皿の上のお好み焼きを原型を残さないほど潰されいた。
「怒っているわよ、本当なら目の前の鉄板で顔焼いてやりたいぐらい」
 繭一つ動かす抑揚のない声――冗談に聞こえない。
「でも許してあげる」
 その言葉を言いながら、いつもの顔で笑っていた。
「その事私に話して、私とこうしているって事はちゃんとケリつけてきたんでしょ?」
「うん――まあ」
 もしこのタイミングで冗談でもノーと言ったりしたら本当に鉄板で焼かれてしまうのだろうか。

「あんた馬鹿正直って言われない?普通黙ってたら大抵はわかんないわよ」
 呆れてものも言えないって顔をしている。
 ついさっき自分では女の勘でわかっていたとか言ってた癖に――。
「前落ち着ける関係って言っただろ?嘘ついてるのに落ち着いてるのなんて何か嫌だからさ」
「ふふ、私って信用されてんだ。――でも遅れた分のツケはもらうわよ」
 そういうなり彼女は鉄板の上の人のイカ玉を真っ二つにしようとしていた。
「なにやってんの?」
「遅れた分のツケ。イカ玉半分」さも当然の事のように言ってくれる。
 彼女のヘラを自分のヘラで受け、金属音をさせ止まった。
「君が太って悲しむ姿を見るのは嫌だ。だから自分の分はきちんと処分する」
 何と言うか素直に取られるのは癪に障る。
「大丈夫、私いくら食べても太らない体質だから。
 むしろうっかり奢るなんて言ってくれてたら、後二つは頼むつもりだったから」
 結構食い意地はってんな。平田はいつも小食で――って何考えているんだ。

 その後お好み焼き交渉はイカ玉半分と豚玉四分の一とのトレードで決着はついた。
2768 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/06(月) 22:39:06 ID:aasDuUtt
なんか切ない系をやりたかったハズなのにドロドロ系をやりたくてしょうがない自分がいる希ガス
277名無しさん@ピンキー:2006/02/06(月) 22:47:48 ID:DjFKP4zk
切なくなる修羅場なんて要りません
278名無しさん@ピンキー:2006/02/06(月) 23:11:28 ID:3ekkMmOE
漏れは見てみたいけどなぁ>切ない修羅場
>>271-275
全体に漂うピリピリした空気がまた……(;´Д`)スバラスィ ...ハァハァ
279名無しさん@ピンキー:2006/02/06(月) 23:50:26 ID:zPgtfnot
ドロドロでも切なくても修羅場は修羅場
280名無しさん@ピンキー:2006/02/07(火) 01:00:42 ID:Xv9ve1qU
やっぱ修羅場=三角関係なのかな
もっと大人数になるとまとまんなくなるか
281名無しさん@ピンキー:2006/02/07(火) 01:21:51 ID:ON0bJFOO
コミックの「魔法遣いに大切なこと 太陽と風の坂道」は多角関係だぞ。

 ヒロイン ←→ 男A ←女C

↑   ↑

男B 女B(レズ)

↑   ↑

女A ヒロインの弟



男C


こんな感じ。
人間関係ドロドロしすぎ。
282名無しさん@ピンキー:2006/02/07(火) 02:55:18 ID:HrgeKnpc
>>281
…なんだそりゃ
283名無しさん@ピンキー:2006/02/07(火) 03:30:28 ID:ON0bJFOO
それでほぼ全員がクラスメイトで友達同士ってんだから恐れ入る
284合鍵 第十回  ◆tTXEpFaQTE :2006/02/07(火) 03:56:32 ID:qFdHncOd
>>230の続き


合鍵    第十回


藍子「ねえ、明日は?明日は予定、無いでしょう?
   明日は私の御飯、食べてくれるよね?」
元也「予定は無いから…じゃあ、お願いするよ」
藍子「うん、分かった。絶対だよ!
   そうだ!指切りしましょう、指きり」
藍子がそう言うと、元也は少しあきれながらも、素直に小指を出してくれた。
小指を絡める。
その時、ふと、思った。
自分と元也は、この小指一本位で繋がっている程度なのではないだろうか、と。
そう思うと、足元が崩れていく様な、深い深い暗闇に飲み込まれていくような、そんな感覚に
襲われた。

その嫌な感情は、サキと会ってる事で元也の態度が微妙にかわった事を感じ取った
違和感が原因で湧き上がったものだ。しかし、藍子がそれを知る筈もなかった。

今朝の会話。
藍子「今日も晩御飯作っておくね、何がいい?」
元也「いや…今日はいいや」
藍子「え?…どうしたの?」
元也「それは、その、美術部の先輩と食べる約束しちゃってるんだ」
藍子「そっか、それじゃ、仕方ないや」

その時は、何とも思わなかった。残念だな、その程度だった。
しかし、時間が経過するごとに、何か違和感を感じ始めた。
元也が行ってしまうことが怖くなった。

不思議だった。今朝、元也を起こしに行くころは、とても幸せだった。抱っこの感触を
思い出すだけで、体が熱くなった。
それなのに、今、自分を支配しているのは、黒くて重い、寂寥感だった。


もとくんと一食、一緒に食べれないだけじゃないの、それに、明日は一緒に食べるって
約束したじゃない。
そうよ、明日は何作ろうか、もとくんの好きなシーフードカレーにしましょう、海老を
たっぷり入れて、隠し味にコーヒーとソースとミルクを入れて、
チーズを入れたサラダも出して、そうだ、ラッキョも忘れちゃだめよね。ラッキョが
無いと、もとくんコンビニまで買いにいっちゃうんだから。

明日の事を思い浮かべ、心を弾ませようとしても、上手くいかない。
なんで、こんなに心が沈んでしまったのか、分からない。

そうこうするうちに、自分の家に前にたどり着く。
門を開けようと手をかけたとこで、立ち止まる。そして、家の前を通り過ぎる。
それからほんの三分ほど更に歩いてから立ち止まったのは、元也の家の前だった。

285合鍵 第十回  ◆tTXEpFaQTE :2006/02/07(火) 03:57:45 ID:qFdHncOd
>>284の続き


今日は用事が無いのだから、立ち入る必要はない。
いや、用事が無いなら入ってはいけないだろう。いくら合鍵を渡されているとは言え、ここは
人の家なんだから。
そう思い、一度差し込んだ合鍵を抜いた。
しかし、この沈んだ心をどうにかするのは、自分の家よりも、この元也の家のような気がした。

元也の家に入る。だが、ここで自分が何をしたがっていたのか分からなくなり、途方に暮れる。
何か、することは?
辺りを見まわす。
もとくんのためにしてあげれることは?
ここに、わたしが、居ても、いい、理由に、なる、ものは?
なにか、なにか、なんでもいい、なんでもいいの!!ここに、ここにいてもいい理由!!!
半ばパニックになりつつ、そして泣きそうになりながら、藍子は元也の部屋へと駆け込む。

目に付いたのは、元也のベット。
それと彼が着ていた寝巻き。トレーナーとジャージ。
それを見つけると、泣きながら、セーラー服を脱いだ。
そして、涙をすすりながら、元也の寝巻きを着込んだ。
ベットに横になる。
そして、昨日と同じ様に、昨日より乱暴に自分で触り始める。

何度か、果てた。
元也の寝巻きも、自分の汗でぐっしょりとしている。
しかし、昨日のような陶酔感はまるで無かった。
むしろ、すればするほど、元也の不在感が強くなる。
それでも彼女は、この方法以外、この寂しさを埋める手段が思いつかなかった。
元也の名を、泣きながら囁き続け、彼女は、自分を触り続けた。

どうしようも無かった。
汗をつけてしまった元也の寝巻きを持ち帰る。
どうしようも無い寂しさを胸に抱き、泣きながら、彼女は家に帰っていった。
明日には、この気持ちが治っていますように。
そう祈りながら、彼女は今夜、眠りにつく。
286名無しさん@ピンキー:2006/02/07(火) 04:37:14 ID:+DhZyJEG
藍子タン依存傾向だったとは…
しっかし心理描写丁寧だね〜、なぜか俺まで悲しくなってきたよ(;´Д`)
287名無しさん@ピンキー:2006/02/07(火) 07:14:56 ID:oB46s4L3
>277
わかっていない貴様に教えてやる。

極限にまで濃縮されて切なさは爆発する!
288名無しさん@ピンキー:2006/02/07(火) 11:28:42 ID:7xGc5syb
鮮血ENDになりそうな予感・・
289名無しさん@ピンキー:2006/02/08(水) 00:59:29 ID:AVM4M9Um
依存スキーには堪らない
あまりのうまさに思わず藍子を応援してしまう俺がいる
290名無しさん@ピンキー:2006/02/08(水) 01:00:34 ID:AVM4M9Um
sage忘れたorz
スレ汚し申し訳ない

彼女に刺されてきます(´;ω;`)
291優柔 第3話◇7IWcnPZ2:2006/02/08(水) 01:54:50 ID:BAFrkM2W
「いや、全然静かじゃないでしょ、ここ」
連れてこられたのはカラオケボックスでした。
学校から徒歩10分のところ、言い換えれば駅前にあるので需要が高く、いつもは満員です。
ですが今日はたまたま空いていたようです。僕達は一番小さな個室に案内されました。
薄暗く、少し煙草の匂いのする部屋、所狭しと敷き詰められたソファとテーブル、そしてモニター・・・久しぶりに来たので、懐かしさで胸が高鳴りました。
「ホントは別のとこだったんたけど、使用中だったからなあ・・・」
「使用中?」
「あっ、ううん・・・何でもない・・・ほら、先に曲入れな。アタシは食い物注文しとくからさ」
そう言うと先輩は、モニターの横に設置してある楽曲検索機を手に取って放り投げました。
「うわっ!?」
辛うじてキャッチできましたが、先輩の不意打ちは僕の心拍数を大きく上昇させました。
先輩は僕の反応が面白かったみたいでゲラゲラ笑っています。
「あははっ、悪い悪い、何かテンション上がっちゃってさ」
どうやら先輩も僕と同じ心境のようで、とても嬉しそうにメニューを眺めています。
(久しぶりだな、先輩とカラオケなんて・・・)
前は・・・そんなこと、許されませんでしたから。
感慨に耽っているうちに、先輩は注文を出していました。
「即断即決がアタシのモットーだ」と言っていただけあって、選曲にあれこれ苦心している僕とは違って行動が早いです。
「・・・それと山盛りポテトフライと軟骨から揚げと枝豆、あと・・・スティック野菜とポッキーとフルーツサンデーと・・・」
・・・計画性がないとも言えますね。
「ああ、心配しないでいいよ。今日アタシのオゴリだから」
292優柔 第3話◇7IWcnPZ2:2006/02/08(水) 01:56:43 ID:BAFrkM2W
歌のほうは一段落して、来の目的に移りました。そう、僕のことです。
彼女と付き合い始めた頃のこと、彼女が尽くしてくれたこと、段々と変わっていったこと、そして今の心境・・・先輩に洗いざらい話しました。
「・・・別れる前は精神的にすごく辛かったんです・・・学校にいる時はいつも傍にいて僕を監視して、女子と目が合っただけでも嫉妬心を剥き出しにして怒るんです。
でも二人っきりの時だと、めちゃくちゃ尽くしてくれて・・・その・・・
エッチも一杯させてくれたし・・・僕を束縛して、でも愛してくれて・・・ワケが分からなくなって・・・別れました。
別れた今でも、束縛されなくてホッとしてるって思う反面、心に穴が開いたような虚無感があって・・・分かりにくくてすみません」
僕が言い終わるまで、先輩は辛抱強く聞いてくれました。
「そんなんでいちいち悩むなよ」とか「まあ人生いろいろあるから」とか言ってくれればそれで良かったのですが、
どうしてなのか、先輩はずっと黙っています。その表情には複雑なものがありました。
何故なんでしょう、僕にはそれが、とても哀しいものに見えました。
狭い空間を支配する沈黙。スピーカーからは賑やかなメロディーが溢れてきているというのに、それさえもかき消してしまうような、そんな重さがありました。
僕は耐えられなくなって口を開きました。
「あ、あの・・・先輩・・・」
「・・・」
「えと・・・す、少し重かったですよね?あ、でも、聞いて貰えただけでもすごく楽になりましたし、その・・・」
巧く喋れません。土壇場で口ベタになる・・・本当にヘタレだと思い知りました。
ですが、僕の言葉が起爆剤になったようで、先輩は沈黙を破りました。
「お前さ」
「は、はい!?」
「まだその子のこと・・・忘れられないんだな・・・」
「・・・はい」
他人による、自己の心理の言語化―分かってはいたつもりですが、言われてからようやく気づきました。
僕はまだ、彼女のことを忘れられないでいます。この空しさも、きっとそれが原因でしょう。
僕は、僕という人格が、つくづく嫌になりました。物事を引きずり、自分の決断を悔いる、そんな思考を持った人格が。

しかし、こんな重たい空気を一変するような出来事が起こりました。
発端は、先輩の言葉です。
「・・・アタシが・・・忘れさせてあげよっか・・・」                 
 
そこには、数時間前に見た、女性の顔がありました。 
293◇7IWcnPZ2:2006/02/08(水) 01:57:53 ID:BAFrkM2W
もうちょっとしたら修羅場れるかと思います。
ていうか他の皆さんレベル高杉orz


294合鍵 第十一回  ◆tTXEpFaQTE :2006/02/08(水) 03:24:53 ID:A0xh5gT3
>>285の続き

「…起きて、もとくん、朝だよ……」
そうやって、今日も元也を起こす藍子。
だが、今日はその声が沈んでいる。昨日の落ち込んだ気分は、今朝になっても変わらなかった様だ。

目を覚まし、リビングに降りる元也。食卓テーブルの上を見る。
用意されてる今日の朝ご飯は和食のようだ。
白い御飯と豆腐のお味噌汁。それとシャケ。藍子が家から持ってきた、彼女の家特製の
お漬物もある。ああ、今日も豪華。
両親と一緒に住んでた頃よりも、確実に朝ご飯が素敵だ。今日も藍子に感謝。
元也「いただきまーす」

元也「あれ?目が腫れてっぞ、藍子。
   …寝不足?大丈夫か?」
テーブルに着き、藍子と向かい合わせになると、すぐに気が着いた。藍子の目が真っ赤だった。
クマもできてる。
藍子「…え?…そう、かな?
   よく、わかんないや。」
慌てて、元也から顔を隠した。みっともない顔を元也に見られたくはなかった。
藍子「あ、れ?」
ぽろり。
と、涙が零れた。
自分の、ちょっとした不調にすぐ気が着いてくれたのと、それを案じてくれる元也の気持ちが
嬉しくて、涙が出た。止めようと思ったが、次から次へと、涙は溢れてきた。

元也「なっ、おい、どした!?」
目の前で急に幼馴染が泣き始め、うろたえる。
藍子に尋ねても、なんでもない、なんでもない、と涙を流しながら微笑むだけだ。
訳が分からないまま、とりあえず、悲しくて泣いている訳ではなさそうなので、安心する。

元也の前で泣いて、あやして貰うと、少し気分が楽になっていた。
元也を見ると、戸惑いながらも、微笑み返してくれる。
胸にあった、寂しさが晴れていくのが分かる。

少し軽くなった足取りで、元也と一緒に登校する。
元也が隣に居てくれることが、嬉しかった。彼の脚音と、自分の足音を合わせる。
それだけで、幸せだった。

元也「ああ、そうだ。今日はお前が夕飯作ってくれるんだろ?
   何作るか決めてる?」
そう聞かれ、シーフードカレーを作るつもりだったが、リクエストがあるなら、そっちに
しようと思い、まだ決めてない、と言った。
すると、
元也「じゃあ、久しぶりにお前の作ってくれるシーフードカレーが食いたいな。
   あれ、好きなんだよ。」
と言われた。

もとくんと、私の考えてたことが一緒だ!!!
途端、元也との間に感じてた距離感が無くなり、胸の中の寂寥感が何処かへと行った。
藍子「…海老をたっぷりと入れて?」
元也「そうそう」
藍子「サラダにチーズを入れて」
元也「いいね」
元也・藍子「「それと、ラッキョも忘れずに」」
最後の声は重なった。
それがおかしくて、二人で笑った。

295合鍵 第十一回  ◆tTXEpFaQTE :2006/02/08(水) 03:26:02 ID:A0xh5gT3
>>294の続き


なんで、あんなに気分が沈んでいたのか分からない。
もとくんは、ここに、私の側に、居るのに。


藍子「じゃあ、私は先に帰ってカレー作っておくから、部活、頑張ってね!」
そう言うと藍子は足取りも軽く帰っていった。
あの分だと、腕によりをかけて作ってくれるだろう。今から楽しみだ。

今晩のカレーのことを考えながら、目の前にある石膏像をスケッチする。
すると、後ろから、首に巻きついて来る腕が出て来た。サキだ。
サキ「にゃっほ〜、がんばってるねえ」
そのまま、元也の肩に頭をのせる。ああ、む、胸が当たる。
元也「サ、サキさんは、どしたんですか、何かしないんですか?」
サキ「んん〜?今日はそんな気分じゃあ無いのよねえ。
   それはそうと、今夜は何食べたい?昨日が中華だったから、今日はイタリアンで
   責めようかと思うんだけどさあ」

…あれ?今日のこと、言ってなかったっけ?
元也「ああ、今日はお邪魔しませんよ」
サキ「ん?…どうして?」
元也の首にまわしてある腕に力が入る。
元也「今晩は、藍子が、ああ、僕の幼馴染なんですけど、そいつが作ってくれるんですよ」
サキ「………ふーん、ああ、あの、いつもあなたにくっついてる娘がねえ……」

何、それ。おかしいじゃない。この前、料理を作って貰ってはいないって言ってたじゃない。
だいたい、それならそうと、もっと早く私に言っとくべきじゃない?いや、そもそも、私と
食べる筈だったんだから、そっちを断るのが筋じゃないの?ふざけないでよ?

そんな事を考えていると、元也が腕をパンパンと叩いていた。気が付くと、元也の首を
思いっきり絞めていた。
うわ怖。今、私、無意識で絞めてたわ。私こんなに嫉妬深かったの。ヤキモチさんね、私、ふふ。
あんまり困らせないでね、元也君。うふふ。

サキ「だったら、私も元也君の家に行くわ。 
   それで、一緒に御飯食べましょう」
元也「え?でもサキさん、藍子の事知らんでしょ?」
サキ「いいから、いいから。そうね、今日から私とその娘、『オトモダチ』のなるから」

うーん、藍子とサキさん、かあ。
藍子は大人しいけど、人見知りする方じゃあないし、サキさんなら、誰とでもすぐ仲良くなれそうだし、
大丈夫かな?
藍子みたいにのんびりしてるのには、サキさんみたいな、引っ張って行ってくれる人が丁度いいかも。
そう思うと、結構仲良くなれそうな組み合わせのような気がしてきた。
それに、自分と藍子とサキが、一緒にカレーを食べるのは楽しそうだ。御飯は大勢の方がおいしいって言うしな。

よし、そうしよう。今日はサキさんも連れて帰ろう。
カレーだし、一人前位、増えても大丈夫だろう。
二人が、サキさんが言ったみたいに、友達になれるといいな。
296名無しさん@ピンキー:2006/02/08(水) 03:30:24 ID:SfLGzx5G
お前ら最高だw
297名無しさん@ピンキー:2006/02/08(水) 04:16:50 ID:gVNdZ2T5
>>295
うはっ元也空気読めなさ杉ッ
そんなだから修羅場になるんだってばwww
298名無しさん@ピンキー:2006/02/08(水) 07:34:36 ID:XrDU08S9
神が次々と降臨するスレはここですか?
299名無しさん@ピンキー:2006/02/08(水) 08:05:53 ID:Kw037CVg
何でこんなにここはクオリティが高いんだろう

そして、だったらどうしてクオリティの高い修羅場ゲーが出ないのかな・・・かな?!
300名無しさん@ピンキー:2006/02/08(水) 09:27:15 ID:6qV15fjx
>>よし、そうしよう。今日はサキさんも連れて帰ろう。
ちょっ!まっwww
301名無しさん@ピンキー:2006/02/08(水) 13:14:19 ID:PL6/eQHQ
にゃっほー萌え
302名無しさん@ピンキー:2006/02/08(水) 13:48:01 ID:iByEusMX
>>295
へたれ主人公キタコレ!!
303名無しさん@ピンキー:2006/02/08(水) 14:16:11 ID:ZFCV3rLe
>>295
コタコレーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
304名無しさん@ピンキー:2006/02/08(水) 14:22:43 ID:kRECVXOZ
優柔不断な主人公GJ!
305名無しさん@ピンキー:2006/02/08(水) 15:33:19 ID:uxjWL6K9
ちょ、やば、あの、キタコレ―――――!!
306名無しさん@ピンキー:2006/02/08(水) 15:57:09 ID:7kjuuQvF
神々が集うスレがあると聞いたがココか?
307名無しさん@ピンキー:2006/02/08(水) 17:52:14 ID:zl2AZWcJ
>>295
うはwwwwキタコレwwwww修羅場確定wwwww
ワクテカして待ってますw
308姉貴と恋人 後編(3) ◆DxURwv1y8. :2006/02/08(水) 18:34:31 ID:zl2AZWcJ
 テレビを見ていると、姉貴に肩を叩かれた。
「ねえタカ。話があるんだけど」
「ん?」
 ちょうどテレビ番組が終わったところだった。時間は空いている。
「あのね。明日から一緒に帰ろ? 高校の時みたいに」
 いきなりガバッと首っ玉に抱き付かれた。
「何だって? ちょっと待てよ。いきなり、それはさすがに無理だろ」
「どうして」
 耳元で囁かれた。声が笑っていない。
「何かあるの?」
 寒気がした。
 何もないから大丈夫と言いそうになる。
 だが……これ以上姉貴の言うままにはなれない。
「何もないけど、まず第一に時間が合わない。講義の終わる時間バラバラじゃないか」
「そんなの、どっかで暇つぶしてればいい」
「そんなことするくらいなら家に帰ってた方が――」
 首に回された腕に力が込められた。
「タカは、意見しなくていいの」
 苦しい。少しずつ拘束が強まっていく。
「タカは私の言うとおりにするんだから。ずっとそうしてきたでしょ? 私はタカが心配なの。
私はお姉ちゃんなんだから弟の面倒はしっかりみなくちゃいけないの」
「あ……」
 古い景色が見えた。
 まだこの家に越してくる前。昔の街の十字路で、姉貴が俺の手を引いていた。
「もうケンカなんかしちゃだめ。タカはお姉ちゃんが守るんだから、お姉ちゃんに言いなさい」
「でも、あいつら公園をひとり占めしてて」
「そんなの、お姉ちゃんに任せなさい」
「でも、お姉ちゃんが怪我したらイヤだよ」
「大丈夫。私がお姉ちゃんなんだから弟のめんどうはしっかりみなくちゃいけないの」
 にっこり微笑んだ姉貴は誰よりも頼もしかった。
309River of Tears 第3回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/08(水) 18:34:53 ID:9MC/YNQt
 目を覚ますと激しい雨音がしていた。カーテンを開ければ、もちろんそこに朝日はなく、どんより黒く厚い雲に覆われた空があった。多分今日一日は全力で降り続ける――そんな気がした。
 いつものように朝食をとり、いつものように家を出る。
 傘を叩く雨の音がいつになくうるさく感じる。多分今日も手を繋いでとか言われるのだろうか。いや相々傘にしてくれと言われるかもしれない。
 可奈の送り迎えは続いている。弁当も毎日もらっている。
 ――あの人を腎臓病にさせたいが為に作られた塩弁当は一日限定であったのが心底ありがたかったことだが。
 ここ数日の可奈の自分への接し方についてはいくつか思うことはあったが、自分の中では単に頼れる友人ということで片付けている。無理やりにでもそう思い込むことにした。
 ――一体どうしたいんだよ、オレもあいつも。


 可奈の家の前にはいつも様に可奈は待っていなかった。代わりに広子がいた。多分雨で朝練がなくなったから一緒に行こうと思ってたのだろう。
「おはようさん。可奈はまだ?」
「ああ、可奈ね、今日調子が悪いからって」
「ふーん、そう」
 昨日は割りと元気そうに見えていたのに風邪でもひいたのだろうか。
 足は駅へと向け始めていた。
「最近可奈とどう?」
「どうって、お前達学校でいつも一緒じゃん」
「なんていうかさぁ……最近ずっと一緒にいるじゃない?」広子は短い髪を弄る。
 そうは言っても広子がいない時に可奈と一緒なのは部活のある放課後ぐらいしかない。
「最近って言ったって昔から一緒に行ってたし、最近変わったのは弁当もらってるから一緒に食ってるぐらいと、帰りに送っていくぐらい――」
 そう言ってから自然と手は口元を隠していた。そういや帰りに送っていった途中でキスされたんだよな……。
「――まあ結局大して変わってないって」
 それは半ば自分に言い聞かせるように言った。
「ふーん……」
 広子は何か言いたげそうな顔をしていたが結局何も続けて言おうとはしなかった。

|> To Be Continued
  「今度あいつと一緒に弁天様のお参りでも行こうかと……」
  「これ以上本当の気持ちを黙っていられないんだっ!」
  「実はこないだ……夜這いに来たんだ……」
  安西先生……早く修羅場にもっていきたいです。
310姉貴と恋人 後編(3) ◆DxURwv1y8. :2006/02/08(水) 18:35:16 ID:zl2AZWcJ
 しかし、今の姉貴は……。
「タカ。お姉ちゃんの言うことが聞けないの?」
 こんな姉貴、見たくない。
「姉貴、俺姉貴のこと好きだよ」
「なら私の言うとおりに――」
 言わないと。姉貴の為に。
「でも。今の姉貴は嫌いだ」
「タカ……?」
「姉貴は綺麗で優しくて、格好良くて頭が良くて、俺の自慢の姉だよ。でも、今の姉貴は……汚い」
「そんな、タカ……そんな」
「姉貴はもっと清らかな人のはずだ。なのに、麻妃にやきもち焼いて、俺を強引に奪った」
「それは違う! 私は、お姉ちゃんはタカのこと大好きだから、だから!」
「姉貴は、俺が離れていくのが恐かったんだ」
「違う!」
「俺が姉貴の手の届かないところに行くのが嫌だったんだ」
「違うっ!」
 余韻が耳に残る。
 鼻をすする音が聞こえた。
「どうしてそんなこと言うの……お姉ちゃんは、タカが大好きなだけなのに……タカとずっと一緒だと
思ってたよ……ううん、ずっと一緒よ……なのに、どうしてそんな酷いことを言うの……」
 首筋にぽたりと、冷たいものが落ちた。
「ごめん」
「どうして!」
「俺は、姉貴を、姉として以上に見られない」
「ならどうして今まで!」
「姉貴を、泣かせたくなかったから……」
「だったら私を泣かせないでよ!! 私の側にいて!」
「それは無理なんだ」
「どうして!! ……まさか、あの女……!!!」
「待て! 麻妃は悪くない」
 ギリ、と噛みしめる音がした。
「どうしてあんな女かばうの! 隆史を騙して!!」
「違う! 麻妃を選んだのは俺の意志だ。姉貴を選んでから、ずっと麻妃のことが頭から離れなかった。
麻妃を忘れられなかった。だから、姉貴には期待させるようなことになって本当に悪かったと思う。だけど、俺は」
「やめて、言わないで……」
「俺は、麻妃が好きなんだ」
「いやっ!! 聞きたくない!!」
「姉貴、聞いてくれ! もう決めたんだ。姉貴は姉として好きだ。でも、女性として好きなのは麻妃なんだ」
「いやあぁぁっ!!」
311姉貴と恋人 後編(3) ◆DxURwv1y8. :2006/02/08(水) 18:35:46 ID:zl2AZWcJ
 姉貴との関係はもう元には戻らないだろう。
 きっと、ずっと遺恨は消えない。
 その代わり麻妃を。
 本当に好きな人を幸せにできるなら。
 これが一番良かったんだ。
 そう信じたかった。

「麻妃っ!」
 朝一番、麻妃の姿を探して名を呼ぶ。愛しい名を。
「あ、隆史……」
 しかし、麻妃の顔が浮かなかった。なにかあったのだろうか。
「麻妃、話があるんだ。聞いてくれ」
「あの、私も聞いて欲しいことが」
 おずおずと切り出す麻妃。
「いいよ。先に」
 嬉しいニュースは後に取っておくのがいい。
「あの……私、迷惑?」
 目を逸らして彼女は訊いた。
「そんなわけないだろ、一体どうしたんだ?」
「私、隆史に気持ちを押しつけてたんじゃないかって思って」
 下を向いたままポツポツと麻妃は語る。
 そんな姿は麻妃に似合わない。
「何があったかは知らないが、そんなのは杞憂だよ」
「でも」
「いいんだ。それより俺の話を聞いてくれ」
「……いいよ」
「俺は麻妃が好きだよ」
「うん」
「ずっと麻妃と一緒にいたい」
「私もそう思うけど……お姉さんが」
「昨日、話をした」
「えっ?」
「姉貴と話したんだ。それで……もう、姉貴とは元の姉弟に戻ることにした」
「じゃあ……」
「ずっと一緒だよ。麻妃だけとずっと一緒にいられるんだ」
「うそ」
「本当だ」
 麻妃は呆然として、それからじわっと目尻に涙が浮かぶ。
「隆史……嘘じゃないね……?」
「嘘じゃない。もう、俺の恋人はお前だけだ」
 その時の麻妃の笑顔は、俺の胸の中だけにしまっておこう。
 ごめん、姉貴。そしてありがとう。
 姉貴は、最後には分かってくれたのだ。
 もっとも、しっかり釘は刺されてしまったが。
「そういえば、姉貴から伝言が」
 言いたくないんだけどな……。
「えっ」
 麻妃は眉を寄せた。
「浮気には気を付けて、だそうだよ」
 居心地が悪い。いや、そもそも姉貴が悪い。こんなデリケートな話題を伝言にしなくたって良いだろうに。
 ちらっと見ると、麻妃はむっと唇を締めていた。
「バカ。そういうのは言わなくていいの」
「でも、姉貴が言えって」
 麻妃は目くじらを立てようとして……笑っていた。
「なによ、結局お姉さんの言いなりじゃない」
 思わず微笑み返す。
「でも、仕方ないだろ」
「また「でも」って言った。「でも」は禁止ね」
「そんな」
「「そんな」も禁止!」
312姉貴と恋人 後編(3) ◆DxURwv1y8. :2006/02/08(水) 18:39:24 ID:zl2AZWcJ
>>309
みごとに被ってしまいましたね・゚・(つД`)・゚・

いちおうこれで終わりです。
今までレスしてくれた人達、レスはなくても読んでくれた人達
本当にありがとうございました。
修羅場を思いついたらまた来ますのでその時はよろしくお願いします。(´ー`)ノシ
3138 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/08(水) 18:43:52 ID:9MC/YNQt
なんでよ!なんであんたがさま当然のようにそこにいるのよ!!・゚・(ノД`)・゚・ スマソ

一応プロットは出来ているはずなのに筆の乗りが悪い。全然かけないよママン
こうなったらもう一本の方に浮気するからいいもん・゚・(ノД`)・゚・
314名無しさん@ピンキー:2006/02/08(水) 19:32:38 ID:87bP2/+I
お姉ちゃん・・・まさかこのまま終わりじゃないよね?・・・よね?
むしろエンジン全開はここからだ!
315名無しさん@ピンキー:2006/02/08(水) 20:14:37 ID:s+sL1Woo
>>295
鮮血の結末が近付いて参りましたw
316名無しさん@ピンキー:2006/02/08(水) 20:33:26 ID:gVNdZ2T5
>>312
――ひどい
ひどいひどいヒドイ…ッ

ひどいよ! あんまりだわ! 私あなたのこと信じてたのに!!
こんなに私を期待させて、なのに最後であっさりと身を引いちゃうんだ?
これからってところなのに…これからもっと楽しくなっていく筈だったのに!
今まであなたの言葉を信じていた私は…私は、一体何だったの?
ねぇ、教えてよ!!

いやだ………私は終わりたくない
あなたがそうするなら、私…わたしは………ッ!!!
#ちょっと導入部があります。よければお付き合いください。

 広いおでことは対照的に、私の世界は狭い。
 
 ファッション誌より赤川次郎とビートたけしの毒舌本が好きだったり、
 ミルクティよりブラックコーヒーが好きだったり、
 黒や黄色いねずみより青いねずみが好きだったりする自他共に認める変わり者のわたしでも、
 さすがに実兄に本気で恋してしまうとは思わなかった。
 
 高校時代を女子高の文芸部で過ごし、何を間違ったかそのまま文学部に進学してしまった私に言い寄る物好きなどいない。
 何度か合コンに誘われ、興味本位でついて行ったこと一回限り。
 わたしの決して豊かではない胸元をじろじろと弛緩し、どさくさにまぎれて肩を組んできた男の面体を張り倒して以来、異性にはとんと縁がない。
 
 元々、他人に対して興味の薄いわたしにとって、兄さんと共に過ごす時間は何よりも大切だったし、これからもきっとそうだろう。
 兄さんはやさしい。
 年頃にもかかわらず男っ気もなく、ついでに身を飾ることにも興味をあまり示さない気持ち悪い妹にも、
 兄さんは昔と変わらない笑顔を向けてくれる。
 兄さんは、やさしい。
 そんなやさしい兄さんが、もし―――
 
 (楓に紹介したいひとが、いるんだ)
 
 かなしくて、
 そんなことはありえない、と否定する材料がひとつもないことに気がついて、
 泣きながら兄さんのベッドで眠りについた。
 
 何故この世界は、わたしたちに他者を強要するのだろう?
 ……たったふたりで、生きてゆけたらいいのに。
稚拙ですが頑張ります。
職人様がたとの力量差に orz

天いなのサントラ聞きながら書いたらすごい暗い話になってしまった
 昔から、こいつは狭いところが好きだった。
 狭い部屋、狭い趣味、狭い人間関係―――
 かくれんぼでも何でもないのに、箪笥と壁の間に挟まってズッコケ三人組を手繰る楓を見て、
 子供心に「こいつ、やばいんじゃないのか」と考えていたことを覚えている。
 
 小学校の頃は、クラスメイトから微妙に敬遠されていた。
 どこか浮世離れした雰囲気を持ち、いつも本ばかり読んでいた楓はその頃から、世間というものに対して懐疑的だった。
 それでも見た目は悪くなかったし、今ほどつっけんどんではなかったから友達もそれなりにいた。
 卒業式の日ちょっとした事件があって、今のような状態になってしまったのだが……。
 
 それでもおれより一年遅れて中学生になり、高校生になり、
 他の連中の兄妹仲が険悪になることが多いなか、
 ずっと変わらずおれを慕ってくれたことは、すごく嬉しかった。
 
 天の川のような黒髪が腰に向かって流れている。
 長いまつげが微かに震える。
 
 こいつは今のままではいけないと、感じる。
 確かに世間はこいつの望む透明さを持ち合わせてはいないが、全てを拒絶しなければならないほど薄汚れてはいない。
 自分の好きなもの、気に入ったものだけを周りに並べて満足する小さな子供のような在り方は、いずれ楓を破綻させるだろう。
 
 それを防げるのは、きっとおれだけだ。
 いずれ自然に治るだろうとたかをくくっていたが、これはまずい。
 大学生にもなって、兄貴の布団で泣いていていいはずがない。
 
 多少の荒療治は必要かも知れない。
 楓には恨まれるかもしれないが、それも兄貴の仕事だと思えばつらくない。
 大丈夫、きっとうまくやれる。
 
 背中と膝裏に腕をまわし、そっと抱き上げる。想像よりもずっと軽く、弱々しい。
 きっと最後になるであろう感触をかみ締めながら、おれは立ち上がった。
322名無しさん@ピンキー:2006/02/08(水) 23:18:55 ID:AmLR7EFO
ウポウポ 妹ものだぜ
323名無しさん@ピンキー:2006/02/08(水) 23:28:01 ID:gVNdZ2T5
不思議系の妹なのかな
324阿修羅:2006/02/08(水) 23:34:46 ID:h6u6G3Ac
>>321氏の投稿作品までの内容でまとめてみました。
稚拙設計ゆえ、掲載ミス、編集ミスなどありましたらご指摘ください。

>>226
テンプレ作成乙!
かなり編集が楽になりそうです。

>>◆AuUbGwIC0sさま
私の勘違いで完結の表記にしておりました。
申し訳ありません。
325阿修羅:2006/02/08(水) 23:35:20 ID:h6u6G3Ac
ageてしまった・・・ごめんなさいOTL
326 ◆kQUeECQccM :2006/02/08(水) 23:43:01 ID:co9dRC3h
管理人様、お疲れ様です。
楽しませてもらった分、自分も少しずつスレに還元していければと思っています。
327名無しさん@ピンキー:2006/02/09(木) 00:05:00 ID:SfLGzx5G
>>312
お疲れ様でした!!
毎回本当に楽しく読ませていただきました!
しかし姉の今までの展開からどうも簡単に引くような気がしない・・・
もう一山きても・・・って埒が明かないか
ありがとう職人さま
328 ◆DxURwv1y8. :2006/02/09(木) 00:20:07 ID:hqTTmtir
>>314>>316>>327
実は……↓の様な展開も考えてたんですが諸々の事情により断念しました。
もしかしたら、暫くしたら投稿するかも知れません。

>>310の九行目から
「お姉ちゃんが、汚い?」
 ゴクリ。喉の鳴る音で気付いた。
「あ、姉貴……?」
 恐い。唇が震える。冷や汗がどっとでる。
「タカ。タカはあの女に騙されてるからそんなことを言うのよね」
 落ち着け。落ち着け。落ち着け。
 姉貴はただ、ちょっと怒ってるだけだ。
 だからこんなに怖がる必要なんてどこにも――。
「大丈夫。お姉ちゃんが、タカの目を覚まさせてあげるから」
「あ、姉貴?」
 ふり向こうとして――
 ガンッ!!
「ぐっ!?」
 あ、ねき――な、んで

そしてサイ娘化、タカ監禁
329優柔 第4話◇7IWcnPZ2:2006/02/09(木) 00:24:40 ID:+bZe7vkz
電車の中。僕は軽い放心状態で、外の景色を眺めていました。
(先輩を抱いたんだよな・・・)
さっきの出来事はまるで夢のようにさえも思えてしまいます。
ですが、身体に立ち込める倦怠感が、それを現実のものだと認識させるのです。

僕は昔から女性に対して、神聖なイメージを持っていました。
女性は僕ら男性とは違う生き物なんだ、そういう固定観念です。
だから女性と話す時も、そういうのを意識してしまって・・・女性が苦手でした。
それを見事に吹っ飛ばしてくれたのが先輩でした。
女っぽさを感じさせない雰囲気と、誰にも媚びない態度。
一緒に活動を続けるうちに、女性への苦手意識は無くなっていきました。
初めて親しくなった女の先輩であり、女の友達・・・それが先輩でした。

友達だから、男と女という風に考えたくありませんでした。
女性だと意識しなければ、これ程素晴らしい人はいないと思います。
恋愛感情の伴わない男女の友情、それを壊したくなったんです。
先輩はその・・・率直に言って、とてもいやらしい身体つきをしています。
胸は絶対90を超えているだろうし、くびれとかもすごいし、脚もすごい綺麗だし・・・
だから僕は、そういうことを意識的に避けてました。
じゃれ合ってお互いの身体が触れた時も、考えないようにしていました。
あぐらをかいて座っててパンツが見えた時も、わざと目を逸らしたりしていました。
考えちゃ駄目だ、見ちゃ駄目だ、意識しちゃ駄目だ・・・そうしないとこの関係は終わってしまうから、と。

その反動でしょうか、ワイシャツの下から覗かせる柔肌を見た時、先輩の女としての素顔を見た時、僕はどうしようもなく興奮してしまいました。
同時に、ある種の背徳感を感じていました。本当に一線を越えてしまっていいのか、そんな考えが頭の中を支配しました。
理性と本能の衝突・・・結局、本能には逆らえませんでした。
今までみたいに自然に会話ができなくなるかもしれない・・・そんなこと、知ったこっちゃない。
先輩は僕を慰めてくれるって言ってるんだ、僕はそれに甘えればいいんだ。
もう、彼女はいないんだ。僕は何でも自由にできるんだ。僕を縛る鎖はもう・・・ないんだ。
カラオケボックスのソファの上で、僕は先輩を抱きました。
330優柔 第4話◇7IWcnPZ2:2006/02/09(木) 00:25:37 ID:+bZe7vkz
先輩は処女でした。身体を使って癒してくれるというぐらいでしたから、経験があると思うのは当然です。
僕はひどく狼狽しました。
「いや・・・あ、あれだ、あれ。この歳で処女なんてダサいだろ?」
「誰でもいいってわけじゃなかったんだ・・・その・・・お前だったら気心が知れてるし・・・お前のこと、嫌いじゃないし・・・」
「お前だってほら、こんないい女とヤれて良かっただろ?」
「だから・・・あんま気にすんな。アタシも気にしないからさ」
平静を装っているつもりでしょうが、先輩の顔は明らかに紅潮していました。
行為が終わってから駅で別れるまで、目を合わせてくれることはありませんでした。

これからきっと新しい生活が始まる、そう思った矢先のことです。
203号室、僕の住む部屋の入り口の前に、1人の少女がうずくまっています。
うちの学校の制服を着たその子は、僕を目にすると、安堵したような表情を見せました。
そして今度は、泣きそうになって僕の名前を呼ぶのです。
「・・・ゆう君」
・・・その顔には見覚えがあります。いえ、忘れたくても忘れることなんてできません。

彼女はまだ、僕を諦めてなんかなかったのです。


つづく
331名無しさん@ピンキー:2006/02/09(木) 00:36:30 ID:YNy5wYO+
>>317-321
妙に落ち着いて自分の感情を理解しているあたり、黒桐鮮花@空の境界を彷彿とさせるな。
型月儲の漏れとしては間桐桜みたいなキャラの作品も欲しいな。漏れがこのジャンルに手出したのは
桜がきっかけだし。
332名無しさん@ピンキー:2006/02/09(木) 00:37:10 ID:YNy5wYO+
すいませんageちゃいましたorz
333『無題』 3 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/09(木) 00:41:26 ID:EXfsBF4H
 初めて会った時は少し綺麗な子って思ったぐらいだった。
 しばらくして校内で会う度に自然と目で追う自分に気がついた。
 彼女の事を考えていると胸が熱くなった。
 二学期に入った辺りでようやく自分が恋している事を自覚した。
 彼女の名札にある平田という名前しか知らない。共通の友人もいない。同じ学校、同じ学年という以外の接点は全く存在しなかった。
 何故違うクラスなのか神に呪った。
 休み時間は理由もなく廊下に出て、彼女が出てくることを期待しながら時間を潰した。
 彼女を目で追うだけ、そんな悶々としたものを押し込めたまま彼女に一言も話せないまま半年を浪費していった。

 話したいけど話せない。何を話したらいいかどころか、話しかける切っ掛けすらない。どうしようもない状況が続いていた。
 悶々と妄想していも現実が変わるわけでもない、でも暇さえあれば彼女のことばかり考えていた。考え事しながら歩いていると階段の前に来た辺りで誰が倒れてきて、自分も巻き込まれる形で倒れた。
 ついさっきまで頭の中のいた彼女が目の前――自分に倒れ掛かる形でいた。
 この状況が発生したことに神様に感謝した。
「ご、ごめん」謝るのは相手の方が正しいのかもしれないがとにかく自分の口から出た言葉はそんなものだった。
「こちらこそごめんなさい」
 それだけ言うと彼女はすぐさま立ち上がり小走りで去っていった。
 本当にそれだけだった――神様にサービス精神はないと確信した。
 でも彼女と初めて触れ合えた。そのことだけで十分に幸せだった。
334名無しさん@ピンキー:2006/02/09(木) 00:41:27 ID:SXPKLDVw
>>330
キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
335『無題』 3 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/09(木) 00:41:56 ID:EXfsBF4H

 しかし時間が立ち少し落ち着くと、やはり仲良くなりたいという衝動ばかり湧き出してきた。
 しばらくして意を決して挨拶をしてみた。挨拶は返してくれたけどそれだけだった。でも嬉しかった。でももっと仲良くなりたい。でも切っ掛けがない。
 そんな悶々とした考えを幼馴染の大助に相談してみたら、「一度コクっちまえ、そうすればあきらめもつく」前半分はともかく後半は励ましているかどうかわからなかった。でも告白しようと思い立った。
 しかし手段だけで三日は悩んだ。携帯・メールは知らないから問題外。結局口で伝えるか古典的に手紙を渡すかの二択になった。本人を目の前にしてちゃんと喋る自信がないという消極的な意見の元手紙になった。
 手紙を書くだけでも恐ろしく時間がかかった。何て書いたらいいのかもわからない。一週間近く悩んだ挙句書き上げたものが『ずっと好きでした。付き合ってください』――自分で見ていてなんとも情けなくなる内容だった。
 直接渡す自身もなかったから下駄箱にいれることにした――多分断られることになっても自分に返事はこないからダメージは少ないだろうから……
 下駄箱に入れようとしたらバッタリと彼女と遭遇した。人気がないから警戒をしていなかった。
 ボクと彼女の視線が合う。
 体中が燃えるように熱くなる。その癖背筋には冷たいものが走る。自分の顎がガクガクと震える。
「えーと……青木君、そこ私の――」
 馬鹿みたいに首を縦に振った。
 言え、早く言え――心の中で何かが急かす。
「つ、つきあってください」顎が震えながら今までいえなかった言葉をようやく言った。
 自分でも言ってしまったことに驚いた。言ってしまった以上はしかたない。息を止めて目を閉じ返事を待つ。
「いいよ……」
 その瞬間魂は天に昇った。

 初めてデートに誘った。
「今日、何するの?」
「えーと、適当に映画でも見ようかなって……」
「適当って何?ちゃんと考えていなかったの!」
「ご、ごめん」
 ――彼女と初めてのデートで、初めて彼女に怒鳴り付けれて、初めて彼女に謝った瞬間だった。



 ――目が覚めた。
 時計を見ればまだ四時過ぎだった。
 頬は濡れていた。寝ながら泣いていたのか――原因は多分、平田の夢を見たから。
 昨日彼女泣きながら謝ってたんだよな。記憶の中では彼女が謝ってきたのは初めてだった。
「なんで今頃謝ってくるんだよ」――誰が聞く訳でもないが口にしていた。
 頭を振るって平田の事を頭から追い出す。今ボクは由香と付き合っているんだから……



336『無題』 3 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/09(木) 00:43:00 ID:EXfsBF4H
 彼女、松岡由香は気の会わないタイプだと思っていた。だから同じクラスになってもあまり話をしようとしなかった。そしてその印象は間違っていないと確信している。
 そして今彼女に屋上に呼び出された。理由はもちろんわかっている。
「私の彼ね、今昔の女の付きまとわられて迷惑しているのよね」
 やっぱり、この女は嫌な女だ。わかっていてわざわざ嫌味たらしく遠まわしに言う。もっとハッキリ言えばいいのに。
「ふーん、私も困ってて人がちょっとケンカしている間に横から変なのが割り込んでくるのよね」
 彼女の言葉に合わせてやる。
「今付きまとっている女ってね、多分自分の事自覚してないと思うよ。」
「そう、私たちの間に割り込んでいる子も多分自覚してないのかしらね、邪魔者だってこと」
 いい加減こんな回りくどい話し方止めてみない、ハッキリと言って見なさいよ――目で言ってやる。
「――ふぅん、私たち何だか気が合いそうね」彼女が鼻を鳴らす。
 何から何まで嫌だと感じているが特に目が嫌いだった。まるで人の考えなんて全てわかってますよなんて見下したような目。
「そうね、気が合いそうね」
 お互い白々しい嘘をつきながら自然と口元を緩めていた。


337『無題』 3 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/09(木) 00:43:38 ID:EXfsBF4H
 気が付けば彼女――平田の視線があった。充血した瞳でじっと見つめられている。
 同じクラスなので一日中だ。授業中もずっと背中で視線を感じる。昨日のアレに今朝の夢。正直落ち着かない。過剰なまでに意識してしまう。
 どうしたらいいのかわからなかった。
「ねえ、今日行きたい所あるんだけどイイ?」
 そんなボクの心境をわかってか考えていないのか由香はいつもの口調で話しかけてくる。
「行きたい所って?」
「健司の部屋」
 何故だかわからないが彼女は何やら秘めた笑顔をたたえていた。
「いいよ」
「いいの?」アッサリ返ってきた返事に彼女は少しだけ拍子抜けしたような顔になって聞き返してくる。
「そっちから聞いて来たんだろ」呆れた口調になってしまう。一体何を考えていたのだろうか。
 そんな会話の中、背中に冷たいものが走る。今朝から何度なく感じている平田の視線。
「どうかした?」少しだけ心配そうに聞いてくる。
「なんでもないよ」――そんなことはない、ただどうしようもないだけで――。
3388 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/09(木) 00:46:14 ID:EXfsBF4H
昔同僚のデザイナーが二つの仕事同時で引き受けていて大丈夫か?って訪ねたら
一方に飽きたら気分転換にもう一方をやるって言ってた意味がよくわかった希ガス
339『鏡』 ◆AsuynEsIqA :2006/02/09(木) 02:59:10 ID:FJ4Dh3za
「お〜い!涼くーん!」
「ん…真奈か…」
名前を呼ばれ、振り向いた青年、坂巻 涼。目付きが悪いことと同じように、性格も口も悪く、教師からの評価も悪い。
対してやって来た少女は森崎 真奈。 長めのポニーテールが特徴である。 涼とは幼馴染だったが、先月晴れて恋人になった。
「はい、お弁当!」
「あぁ、悪い」
高校の屋上で食べる二人。既に学校では二人の関係は広まっており、立ち入り禁止区域となっている。理由は…「はい!タコさんウィンナー。あーん」
「……あーん」
見てのとおり、「典型的」甘さで、その場を占めているからだ。恐らく「無愛想」「無礼」「無感情」の涼をここまで誘導できるのは彼女ぐらいだ。惚れた弱みと言うのだろう。・


「ごちそうさん」
「エヘヘ、お粗末様でした。」
頬を赤らめながら弁当箱をしまう。だがまだ終わりではない。さらなるシュガーZONEへ。
「じゃあ次は歯磨きね。はい!」
そう言って目を瞑り、唇を突き出す真奈。
「ハァ…またやんのか?マジで勘弁してれ」
先ほどの破顔はどこへやら。一転して半べそをかく真奈。
「したく…ないんだ…ヒグッ……そうだ…よね……私なんかと……グス」
340『鏡』 ◆AsuynEsIqA :2006/02/09(木) 03:01:40 ID:FJ4Dh3za
「お〜い!涼くーん!」
「ん…真奈か…」
名前を呼ばれ、振り向いた青年、坂巻 涼。目付きが悪いことと同じように、性格も口も悪く、教師からの評価も悪い。
対してやって来た少女は森崎 真奈。 長めのポニーテールが特徴である。 涼とは幼馴染だったが、先月晴れて恋人になった。
「はい、お弁当!」
「あぁ、悪い」
高校の屋上で食べる二人。既に学校では二人の関係は広まっており、立ち入り禁止区域となっている。理由は…「はい!タコさんウィンナー。あーん」
「……あーん」
見てのとおり、「典型的」甘さで、その場を占めているからだ。恐らく「無愛想」「無礼」「無感情」の涼をここまで誘導できるのは彼女ぐらいだ。惚れた弱みと言うのだろう。・


「ごちそうさん」
「エヘヘ、お粗末様でした。」
頬を赤らめながら弁当箱をしまう。だがまだ終わりではない。さらなるシュガーZONEへ。
「じゃあ次は歯磨きね。はい!」
そう言って目を瞑り、唇を突き出す真奈。
「ハァ…またやんのか?マジで勘弁してれ」
先ほどの破顔はどこへやら。一転して半べそをかく真奈。
「したく…ないんだ…ヒグッ……そうだ…よね……私なんかと……グス」
341『鏡』 ◆AsuynEsIqA :2006/02/09(木) 03:03:29 ID:FJ4Dh3za
「…恥ずかしいだろ。お前も」
「私は涼くんとだったら何でもできるもん!そうなんだね、恥ずかしいんだね!私みたいなのと付き合うのが恥ずかしいんだね!」
脈絡のない論点のすり変え。発作的なヒステリックは勘弁願いたい。
「わかったから…やりゃぁいいんだろ?」
ここでいくと、泣いたままクラスへ=学校のプリンセスが泣いている!=クラスの野次馬どもの責めたて=五月蠅い。の式が成り立つ。よって折れる。
(保身のため保身のため……えぇい!ままよ!)
自分に言い聞かせながら一気に口付ける。
「ん…ぷは…ぇう……レロ…んんっ」
互いに舌を混ぜ合い、一分ほどのディープキス。これが彼等流「歯磨き」
「ぷはっ。…へへー、キレイキレイ」
そんなバカップルも裸足で逃げ出す行為をしてるまに昼休み終了。予鈴がなる。さらに頬にキスをした後、遅刻しちゃう〜と叫びながら走る去る真奈。
「ぐおぉぉぁぁ〜」
片や全身の発疹に身悶える涼。そんな彼の午後は自主休講。
342陽の光のなかで舞う雪 3 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/09(木) 03:42:42 ID:/NxSfCkZ
学校からの帰り。
夕暮れの道を、陽子と優治は二人で歩いていた。
陽子がそれを久しぶりだと感じたのは、高校になって優治が部活に入ってしまったのと、
最近は、部活がない日の優治の下校時間を、鈴木雪が占有しているからだった。
久しぶりに一緒に歩いている。
けれど、先ほどから二人のあいだには会話がなかった。
陽子はずっと考えていた。
――どう切り出そうか。
昨日からずっと心に決めていたことだ。
何を言うか思いつかないというのもあったし、踏ん切りがつかないというのもあった。
ふと、優治の声が聞こえて、陽子は我に返った。
「……ごめん、聞いてなかった」
「だからさ。鈴木さん本当に大丈夫だったのかな。やっぱり一人で教室を掃除するのは大変だよ」
「あ、ああ……うん、大丈夫じゃないの?」
努めて笑顔でいようとする。
陽子の口元が引きつっているのに、目の前の男は気付いているだろうか。
「本人だって、『他の人間がいたってわずらわしいだけだ』って言ってたでしょ」
「そうだけど、でも、まるで周りの人たちに押し付けられたみたいだったじゃないか。僕たちも、なんだか追い出されちゃったし……」
「……みんな気を使ってくれたのよ」
「え?」
「なんでもないわ」
陽子はにっこりと微笑んだ。
そう、ここが正念場だ。陽子は思った。
あの女の足止めをしてくれた上に、優治と二人きりなる機会をくれたみんなに感謝を。
彼女たちのためにも、ぐずぐずと迷っていてはいけない。
陽子は立ち止まった。
言うんだ、言うんだ、言うんだ。
前を行く彼に呼びかける。
「あ、あのさ、優治」
その声に振り向いた優治の顔を、陽子は直視できなかった。
これから告白するのだと思うと、思考がまともに働かなかった。
「なに? 陽子ちゃん」
「あ、あのね? あたしさ、アンタのこと、す、……す、す、す」
「『す』? ……もったいぶるなぁ」
の、能天気な顔しやがってっ!
心臓がバクバクと脈打つ。全然頭が回らない。
陽子は沸騰寸前だった。
「す、す、す、鈴木さんと仲良いよね? ……最近さ」
「え? ああ……うん、良い子だよね」
えへへ、と嬉しそうに笑う優治。
思わずムカッとくる。
優治のにやけた顔にもムカついたが、もちろん、言うべきことを言えない自分にも苛立ちを覚えていた。
「……あたしと鈴木さん、どっちが好き?」
「ええっ? ……なにそれ、なんか恥ずかしいなぁ」
冗談としか思っていないらしい。
優治はあごに手を当てて、たっぷりと悩み始めた。
「うーん……やっぱり陽子ちゃん、……かな?」
「ホントにっ?」
「やっぱり付き合いの長さが違うからね。なんか、鈴木さんには悪いけどさ」
それって――
343陽の光のなかで舞う雪 3 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/09(木) 03:43:59 ID:/NxSfCkZ
「だからさ、陽子ちゃん、鈴木さんと仲良くしてあげて?」
「――え?」
わけのわからない言葉を聞いた。
陽子が呆気に取られたのを肯定の表現だと受け取ったのか、優治はさらに言葉を継いだ。
「鈴木さん、あんまり友達いないでしょ? 彼女、なんだかいっつも一人でいるじゃないか。
 だから陽子ちゃんが友達になってくれればいいなって思うんだ」
こいつは何を言ってるんだろう。
こわばった声が、陽子の唇から漏れた。
「……なに言ってるのよ。あたしとあの子が喧嘩したところ、見てなかったの?」
「もちろん見てたよ。そりゃ、陽子ちゃんと鈴木さんって何故だか仲悪いけどさ、
 でもほら、喧嘩するほど仲が良いって言うし、鈴木さんは他の子たちとは喧嘩すらしないわけだし、
 陽子ちゃんなら、きっと仲良くなれるんじゃないかなって思うんだけど。
 ああ、僕の方からも話しかけるし、……そうだ、今度三人で――」
「……わないでよ」
「え?」
「バカ言わないでよっ!」
陽子の瞳からついに涙がこぼれた。
ドロドロに溜まった感情をすくって、目の前の男に投げつけてやりたかった。
「いい加減にして! アンタはどうしてそんなにバカなのよっ!?
 いっつも自分の勝手ばかり言って、あたしの気持ちなんて全然考えてくれない!
 『きっと仲良くなれる』って? なれるわけないじゃない!
 アンタはそういうところが全然っ、全然っ、わかってないのよっ!」
呆気に取られる優治に背を向けて、陽子は走り出した。
一拍遅れて優治の呼び止める声が聞こえたが、そんなものに構うわけがなかった。
「……優治っ……優治っ……優治っ!」
陽子は走る。
彼の名前を呼びながら。
どうしてあんなに鈍いんだろう。
どうしてあんなに察しが悪いんだろう。
どうしてあんなに空気が読めないんだろう。
「……優治なんて、大嫌い」
けれど、大好きなのだ。
鈍いところも。
察しの悪いところも。
空気が読めないところも。
全部全部、大好きなのだ。
「だから、信じてもいいよね、優治。
 ……あたしの方が好きだって言ってくれたこと」
344陽の光のなかで舞う雪 3 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/09(木) 03:45:10 ID:/NxSfCkZ
今回はこれだけ。
次回は雪パート。
そしてクライマックスへ。
…という予定。

B'zの「BANZAI」聞きながら書いてたら、テンションが変になった。
アナタトワタシデサア シュラバノタメニ BANZAI!!
テキモミカタモナイゾ カガヤクナイフニ BANZAI!!

あと、まとめサイト管理人さんへ。
タイトル「放課後の対決」も私の作品なので、直してくださったら嬉しいです。
お手数かけてすみません。いつもありがとうございます。
345名無しさん@ピンキー:2006/02/09(木) 04:08:54 ID:0l4Gdkht
深夜に乙!
346合鍵 第十二回  ◆tTXEpFaQTE :2006/02/09(木) 04:23:24 ID:k50cBEwF
>>295の続き

合鍵  十二回

元也の家のキッチン。
料理の音にまじって、小さなハミングが聞こえる。軽快なリズムだ。
その歌い手の機嫌の良さが分かる。歌い手は、藍子。

部屋中に、カレーのいいにおいが漂っている。
味見をすると、上手くできていた。
元也の喜ぶ顔が思い浮かび、我知らず、笑みが浮かんでしまう。なんだか、体がポカポカと
してくる。

時計を見ると、元也が帰ってくるまで、もう少し時間があった。
そうだ、と思いついて、お風呂掃除をしておく。寒い外から帰ってきて、すぐに温まれたら、きっと
喜ぶだろうな。自分の思い付きに満足しながら、お湯を沸かし始める。

一方、下校中の元也とサキ。
元也は少し戸惑っていた。サキに話しかけても、いまいち反応が良くない。そのくせ、ずっと
クスクスと笑い続けている。

先程からずっと、元也に話し掛けられていることは分かっている。
しかし、心は、既に元也の幼馴染と面と向かう時のことばかり考えている。
元也に執着心がある今、その幼馴染と向かい合えば、自分がどうなるか分からない。
目に入った瞬間、殴りつける事は、流石に無いだろうと思う。
しかし、想像はつかない。
一体、自分がどうなってしまうか、そのことを考えると、何故か、笑みがこぼれる。
自分が不思議だった。
もし、その子を殴ってしまい、その事で、元也が自分から離れていったら?
その時は…しょうがない、一緒に死んでね?元也君。
そんな考えが、本気で浮かぶ自分がまた面白く、クスクスと笑った。

347合鍵 第十二回  ◆tTXEpFaQTE :2006/02/09(木) 04:25:09 ID:k50cBEwF
>>346の続き

元也「ああ、着きました、ここです、ここが、俺の家です」
そう言って、元也が自分の家の門を開ける。
ふーん、これが元也君のおうちかあ。そう思って、視線を上げたときに、アラ?と思うことがあった。

今日、元也君の幼馴染がカレーを作るんでしょう?
彼女、いつ来るの?
今から、彼女を呼び出して、それから作って貰うの?
ああ、彼女、自分の家で作って、それを持ってくるのかしら?

元也が、藍子に合鍵を渡していることを知らないサキは、当然、藍子が既に元也の家で
料理を終えていることを知るはずもない。
だから、元也と玄関に上がると、藍子が、当然のように、セーラー服の上にエプロンを羽織って、
「おかえり、もとくん、お風呂、沸いてるよ、
 …カレーと、お風呂、どっちにする?」
と聞きながら現れた時、意味が分からなかった。

意外と冷静に思ったのは、
ふーん、選択肢の中に、『それとも、わ・た・し?』はないの。
そんな事だった。

……なに?何でこの娘、我が物顔で、元也君の家にいるの?
何だって言うの?…どういうつもり?幼馴染だからって、馴れ馴れし過ぎるんじゃ
なくって?どういうつもりなの?

そういった感情が湧きあがるのは、後、数秒経ってからの事だった。
その湧き上がる、頭を焼く様な憤りの感情は、サキが自分で想像していた物よりずっと
黒く、ひどく粘着質な、ドロドロとした、嫌な熱さをもって、彼女の胸に淀んでいく。
そして、その渦巻く熱い泥の様な不快感を感じながらも、彼女は藍子を見つめると、
クスクスと笑いはじめた。

348名無しさん@ピンキー:2006/02/09(木) 04:30:35 ID:KTAINRe6
ついに次回血で血を洗う修羅場ですか?

新作や他の作品の続きもうpされてるし、
ここは本当に神々が集うスレですね
349名無しさん@ピンキー:2006/02/09(木) 08:01:27 ID:CkM7WPWo
ぐっはぁ・・・・・・
サキ先輩怖いよサキ先輩
350『鏡』 ◆AsuynEsIqA :2006/02/09(木) 08:03:09 ID:FJ4Dh3za
結局俺はそのまま昼寝をし、起きたのは四時だった。真奈の奴は委員会で遅くなると言ってたから、先に帰ろう。
階段を下り、渡り廊下を歩いていると、親しい顔の女子の後ろ姿が見える。早足で寄って背中を叩く。

「よう、真由」
「ひゃ!…あ、涼さん、どうも。」
そう言って律義に頭を下げ、ニッコリと微笑むのは真奈と同じ顔…つまり双子だ。
この二人とは同じアパートに住んでおり、向いの部屋ということでよく一緒に遊んでいた。ちなみに真奈が姉である。本当に瓜二つだが、髪型の違いで見分けられる。真由は真奈と同じ長さのツインテールだ。
「今から帰りか?」
「えっ!?えぇ、そうです、帰りなんです。」
「じゃあ一緒に帰るか?」
「は、はいぃ!」
なぜ声が裏返る。何時からかこいつは誰にでも敬語を使うようになった。最近はやたらと俺と距離を置くようになったが…。性格が反対の真奈の顔で他人行儀な態度をとられるとなんかむず痒い。
「あの、あの。姉さんはいいんですか?」
「ん?構わねぇだろ。先帰れ言われたし」
そう言って真由の歩みを促す。
こうして歩いているのを見た輩が、やれ不倫だの二股だの喚くが気にしない。興味で騒ぐ奴は無視だ。
351『鏡』 ◆AsuynEsIqA :2006/02/09(木) 08:14:53 ID:FJ4Dh3za
帰り道。 他愛の無い話をしながら歩いてると、急に真由は真剣な顔をした。
「あの…姉さんの事、見捨てないでくださいね。ふだんと違って、あの人寂しがり屋ですから。」
「??…ぁ、ああ」
いきなり言われて返事に吃る。今までに無い事を言われたからだ。
「心配するな。浮気は憎むほどに嫌いだからな。」
馬鹿な親父への軽い当てつけ。そのせいで今は一人暮らしだ。
それを聞いてまたニッコリと微笑む真由。
「じゃ、また明日な」
「はい、おやすみなさい。」
部屋まで着き、鍵を開けて中へ入ろうとする。その時。

「クスクス…私だって…本当は……クスクス」

嫌な寒気と共に真由の声が聞こえたと思い振り返ってみるが、既に廊下は誰もいなかった…。
「……ん?」
その奇妙な感覚にうち震えながら部屋へ戻っていった。







夢を見た。

またあの悪夢。

女が全裸で俺の上でまたがり、淫らに腰を振る。
本当なら興奮する夢だが、なぜか俺の意識は冷めていた。何よりも恐怖が心を占めていた。
女の顔が見えない。ぽっかりと穴が開いたような、ぼやけた顔が恐ろしい。意識とは逆に、体は絶頂に上り詰める。
そして果てると同時に、それは夢の終わりを告げる。

「最悪だ……」
ここ一週間同じ夢を見て、ひどい倦怠感に襲われる。
ただの夢だ。その時はそう割り切っていた…。
352名無しさん@ピンキー:2006/02/09(木) 13:56:12 ID:AMgCCKMs
>>351
双子キター!!
353名無しさん@ピンキー:2006/02/09(木) 14:55:35 ID:3wqMrq8x
>>328

遅レスですが期待させていただきます(*´д`*)
それにしてもこのスレの神様の多さは異常(;つД`)
354名無しさん@ピンキー:2006/02/09(木) 16:32:26 ID:5SSSCE0c
正直このスレが立ったとき
こんなに神が来るとは思わなかった(*´Д`)
「一人暮らしをしようと思うんだけど」
 楓を除いた家族全員が示し合わせて集合したある日の夕食の途中、おれは切り出した。
「ふむ」
「そうなの?」
 おれは続ける。
「三年次から研究室配属が始まるんだ。かなり忙しいし、
 終電が行った後の時間まで研究室に居ることもざららしいから、
 自宅が遠いやつはアパートを借りたりするのが普通なんだと。……で、どうかな?」
 親父はふーむ、とひと唸りすると、
「そういうことなら仕方ないな。そうしろ」
 あっさりと承諾してくれた。
「ごめん親父、生活費は極力バイトして稼ぐから、少しだけ援助してくれると嬉しい」
「金の心配はしなくていい。自宅から国立大に通ってくれている分、
 余裕はあるんだ。安心して勉強に専念しろ」
「そうよ元樹。あんたたちがどんな進路を希望しても叶えてあげられるように、
 蓄えはあるんだから。子供がお金の心配なんてするもんじゃないわ」
お袋も林檎を剥きながら同調する。
「春休みになったら、一緒に部屋を見に行きましょうね」
「一人暮らしか、独身の頃を思い出すよ。きったない下宿で風呂とトイレは共同だった。
 それでも気のいい連中が多くてな。なかなか気楽で良かったよ」
 お袋からうさぎ林檎を受け取りながら、親父が一人ごちる。
「私は就職してからも実家から通っていたから、経験ないわー。
 本当に大丈夫? 掃除はまめにするのよ」
「生活はなんとかするし、しなきゃいけないから。それより……楓のことなんだけど」
「泣くわね、絶対。わたしもついていく〜っ、とか言いそうだわ」
 しなを作る45歳、二児の母。正直無理がある。
 親父は新聞の株価の欄を眺めるような目つきで母親から視線を外す。
「話が早い。おれが言いたいのはそれさ。ちょうどいい機会だし、
 楓もこれをきっかけに少しは自立してくれるかなと」
「そうね……大学生にもなってお兄ちゃんにべったり、っていうのもどうかと思ってたし、
 いいんじゃない?」
「……俺は正直、心配だ」
「まったく、お父さんは楓のことになるとすぐ心配だー、心配だー、って。
 そうやって甘やかすのがよくないんですよ?」
「……わかってる」
 親父はセブンスターに火をつける。
「そういうわけだから。楓にはおれが言うよ」
「言い方には気をつけなさいよ。変に突き放すような言い方はしなくていいんだからね」
「ああ」
 どうやったって、結局はそうなるだろう。そう思っていた。

 ----------

 酷い夢をみた。
 
 兄さんが笑っている。
 その隣で、知らない女が微笑んでいる。
 
 兄さんはわたしの頭をひと撫ですると、背を向けてしまう。
 
 待って、待ってよ兄さん……!
 
 兄さんは振り返らない。
 知らない女が私の行く手をさえぎる。
 
 兄さんはどんどん遠くに行ってしまう。
 女は得体の知れない笑みを張り付かせたまま、私の前に立っている。
 きつい香水が鼻につく……
 
 あっという間に兄さんの背中は遠ざかり、砂粒ほどの影になった頃、
 女は満面の笑みを浮かべて、下腹部に手を当てる。
 
 
 わたしのおなかには、もときさんのこどもがいるのよ。
 
 
 わたしはその場に崩れ落ちた。
358 ◆kQUeECQccM :2006/02/09(木) 17:36:26 ID:WGDk7tNC
展開遅めですが平にご容赦をば。
世の中に修羅場ゲーが少ない理由が少しだけわかった気がします。
#連投失礼。

 最悪の目覚め。
 寝汗と涙で体中の水分が抜けきり、心臓が痛いほど高鳴っている。
 手元の携帯で時刻を確認する。朝の6時。いつもの起床時間より都合一時間ほど早い。
 この携帯は兄さんが大学入学祝いに買ってくれたものだ。
 大学生にもなれば付き合いも増えて、家に連絡を入れることも増えるからと。
 だが、メモリに記録されているのはごくごく僅かな連絡先だけだ。
 家族と、大学の事務室と、ちょっとだけの「友達」と……
 卵型のボディを胸の前で抱きすくめるようにして、喉の渇きを癒すために台所へと赴いた。
 
「おはよう、早いな」
 リビングでは兄さんが頭を拭いていた。シャワーを浴びていたらしい。
 スウェットの下に、引き締まった精悍な体を透視してしまい赤面する。
「……おはよう、兄さん」
「目が腫れぼったいぞ、夜更かしでもしたのか」
 兄さんはいつだってやさしい。
「ううん、そういうわけじゃ、」

 ―――わたしのおなかには、もときさんのこどもがいるのよ。
 どうして、
 ―――わたしのおなかには
 今日の悪夢は、
 ―――わたしのおなかには、××××××××××××××。
「にいさん」
 がっしりとした肩。いつもわたしを庇ってくれた、大好きなひとの背中。
 子供の頃からずっと感じてきた、兄さんの匂い。あたたかさ。力強さ。
「やっぱりだめだよ、わたし、兄さんがいないと」
 兄さんは、何も言ってはくれなかった。
 きっと兄さんは、わたしを女として愛してはくれないだろう。
 ……それでも幸せだ。兄さんが、ここにいてくれさえすれば。
 胸の痛みが和らいで、代わりに暖かな気持ちで一杯になっても、しばらくそのままでいた。
 ----
 
「はあ、それはまた難儀なことでしたね」
「樹里ちゃん、本当にそう思ってる?」
 ずるずる。
「何にせよ、念願の一人暮らしの開始、おめでとうございます。
 お祝いですから今日は私のおごりでいいですよ」
 
 おれの目の前でとんこつラーメンを啜っているのは森川樹里ちゃん。楓の数少ない友人だ。
 髪はショートボブ、黒目がちなどんぐりまなこに薄い唇と、
 黙っていればいいところのお嬢様で通りそうな雰囲気の美人だが、
 感情をあまり表情に出さず訥々と喋るものだから、なんとも得体の知れないイキモノになっている。
 たぶん類友だ。きっとそうだろうと思う。
「ありがとう。でも別に念願ってわけじゃないよ、必要になったから、」
「自宅生って大変って聞きますよ。
 なまじ家族が家に居るものだから部屋に連れ込めないし、ホテル代も馬鹿になりませんしね」
「……君は一体何の話をしているんだろうね」
「冗談です」
 にこりともせずに切り返す。本当につかみどころがない娘さんだ。
「楓さんはそれで?」
「もしかしたら、まだ寝込んでるかも」
「重症ですね。―――すいません、学生ライスおかわりお願いします」
「すいません、おれもお願いします。大盛りで。はい。―――いい加減あいつも兄離れさせないと」
「そういうことなのかなあ……?」
「どういうこと?」
 樹里ちゃんは箸を止めて、一瞬逡巡する。
「……ただのブラコンにしては、度が過ぎてると思うんですが」
「だからこその兄離れだと、この愚兄は愚考する次第なんですがどうでしょう森川女史」
 おかわりのライスが運ばれてくる。ここは安く、それなりにうまく、
 学生はライスがおかわり自由ということで学内の連中には人気がある。
「がんばらない森川さん的には、最後のチャンスをうまいこと生かしたということで
 残虐行為手当をあげてもいいですよ。おとうさん、ギョーザひとつ追加、お願いします」
 店長はひとつ唸ると、厨房に引っ込んでいった。
「最後のチャンス?」
「ええ。先輩は二年後には就職ですか?」
「そのつもりだけど」
「勤務地はどちらに?」
「できれば東京か、その近辺がいいなって思ってるんだけど。
 地元にずっと居るのもどうかと思うし」
「……引越し、慣れないサラリーマン稼業、不規則な生活。心身共に疲弊しきっているとき、
 田舎からはるばるやってきて泣き喚く妹に優しくしてあげられますか?」
「なかなか厳しいね」
「そういうことです。かえるを茹で殺したいなら水から煮ないと」
「物騒だなあ」
「楓さんにとってはそういうことです。いずれ先輩は居なくなる。
 だったらその苦しみを少しでも和らげてあげるのが兄貴の心遣いってものでしょう」

 樹里ちゃんの住むアパートの前までやってきた。
「……何か元気出てきたよ、ありがとう」
「私でよければ話を聞きますから、またどこかにご飯食べに行きましょう」
「うん。ありがとう。おやすみ」
「おやすみなさい。……ところで先輩」
「?」
 樹里ちゃんは玄関のドアから顔だけ出して、
「従兄弟同士は鴨の味って言いますけど、兄妹同士はもっと美味しいんですかね?」
 最低だこのコ。
361 ◆kQUeECQccM :2006/02/09(木) 20:08:26 ID:WGDk7tNC
素直クールって書くの楽しいですね。

遅レスですが
>>331
自分では意識してませんでしたが、確かに似ていますね。
実の兄貴に恋していることを冷静に自覚してるあたりとか。
というかビジュアルイメージは鮮花でOKだと思いますw
362名無しさん@ピンキー:2006/02/09(木) 21:23:14 ID:G10pHWBw
>>351 双子+サスペンス風味(?)
織れの大好物キター!!!
そこから導かれるであろう展開にハァハァ(*´Д`)
期待してますよー!

>>360 樹里タン ハァハァ(*´Д`)
今後の楓タンの嫉妬に期待大!!

とにかくここにいるおまいらみんな神ですよ!!
363名無しさん@ピンキー:2006/02/09(木) 23:19:10 ID:p3Rt/6sr
>>361
レスdクス
樹里タンを桜っぽく・・・ってのはもう無理だな。
別作品で是非。
364名無しさん@ピンキー:2006/02/09(木) 23:19:43 ID:p3Rt/6sr
ID変わってますが331です。
365不義理チョコ ◆AuUbGwIC0s :2006/02/10(金) 00:43:38 ID:i+vb9Oti
 朝の教室。
 二月十四日だからってそうそう何が変わる訳ではない。学校内でチョコが飛び交ってるぐらいで。
 そして今目の前――悪友とも言える三沢智子がややぶっきらぼうにチョコを差し出していた。
「ああ神崎、コレ。義理じゃなくて一応ホンメイだから」
 ホンメイ――本命……。
「トモコォォォー!」
 半ば奇声となりながら彼女の名前を叫びつつ彼女に抱きつく。
 バレンタインデーの勝利者の証とも言える本命チョコ。ついに貰える日が来た。
「ちょ、ちょっと!」
 彼女が慌てながら何かを言おうとするが無視して強く抱きしめる。
「もう、何も言わなくていいから。
 ごめんよ、今まで悪友ぐらいにしか思ってなくて。
 でももう大丈夫だ。お前の気持ち全部受け取ってやるから」
「落ち着きなさいって!」
「はっはっは、恥ずかしがるなって。オレもお前の事好きだから」
 三沢の頭が少し後ろにいった。
「つぅ!」鼻先に頭突きをくらった。鼻を押さえる為抱きしめていた手を離してしまった。


 何故か罪人の取調べのお白州の如く、オレは教室の後ろで正座させられていた。
 同級生達からは先ほどの奇行から視線を多く集めていた。ああ、またこいつら何かやっているなって目で。
「お奉行様、ワタクシめの行動の何が間違っていたのでしょうか」
 三沢は腕組みをしたまま正座したオレを見下ろす。
「裁きを申し渡す――」
「おい、途中カットかよ!」うっかり突っ込んでしまった。
「これはミカからの」
 ノリも人の突っ込みを無視した答えをしながら、チョコを団扇の様にヒラヒラさせる。
「――誰?」
 ひょっとしたら今自分達に向けらている視線の中にミカちゃんはいるのかもしれないけれど、本当に覚えがない。ひょっとしら名字とかあだ名で呼んでいるから下の名前を覚えていないだけかもしれないけれど。
「月島美香。私の友達。電車の中で何度もあっているでしょ?」
 確かに居た。違う高校だが同じ電車を利用していて、三沢といつも一緒に話している。オレとも何度か話したことがある。でも二人いた。一度紹介された記憶はあるが名前自体は完全に忘却の彼方へ行っていた。
「髪短い方?それとも三つ編みの眼鏡かけている方?」
「眼鏡かけている方――まあ細かい事色々は付いているメッセージカード読んで。さっきみたいに行き成り抱きついたら今度は蹴るからね」
 ようやく名前と顔が一致した。
 彼女は少しばかり呆れた顔になりつつ、ようやくチョコを差し出していた。
「あー、うん。考えとく」
 ――さて、どうしようか。正座したまま受け取ったチョコを睨んでみた。もちろんチョコは何も言ってくれない。


366不義理チョコ ◆AuUbGwIC0s :2006/02/10(金) 00:45:00 ID:i+vb9Oti
        *        *        *

 ちょうど一週間前にミカから頼み込まれた、神崎君にチョコ渡してくれって。
 電車の中で見る彼、そして私からの話で興味を持ったと言った。
 多分ミカは私の気持ちなんか気づいていなかったのだろう。神崎が好きだと言う事。
 入学してから直ぐ仲良くなって、気が付いたら好きになっていた。
 いつまでも言い出せずウジウジしているのは私らしくない。ふっきる機会には丁度よいのかもしれない。そう思って笑いながらミカの頼みを受け取った。

 休み時間、何気なく尋ねる。
「……ねえ、ミカとは付き合うつもり?」
「……うーん、わからないな」
 煮え切らない返事だ。
「それって朝にチョコ一つでいきなり抱きついてきた男の言う言葉?」
「彼女の事よく知らないからさ。でもお前の事は結構分ってるつもりだから」
「ふーん。さっきも言ったけど今朝みたいな冗談はミカにはやらないように」
 この馬鹿は念入りに釘刺しておかないと本気でやりかねない。
「冗談じゃなくて割と本気だったんだけどな、お前の事結構好きだしさ」
 軽く笑いながら神崎は返事する。
 体中がゾクリとする。彼の言ってる好きは友達としての好きではなく――
 なんで今まで言わなかったんだろう。一言言えばきっとあいつは馬鹿が付くほど正直に答えてくれたに違いない。
 ――今からでも間に合うかな私。


 授業が終る同時に走って屋上まで駆け上がってきた。走った為――いや不安と期待で心臓の鼓動は極限にまで高まっていた。冬の屋上はとてもじゃないが人のいる場所ではなかったが体の熱さと外気の関係が不思議と心地よかった。

 神埼が席を離れた隙にそっと彼の机にチョコを忍ばせた。朝あんな事があったせいで渡し損ねていたチョコ。義理にするつもりだったが突如本命へと変わったチョコ。ノートの切れ端に『もし私の事が好きなら放課後屋上まで来てください』と添えて。
 ミカには悪いとは思った。でも選ぶのは神崎だから――そう自分に言い訳をした。
 もし来たら何て言おうか。自分の気持ちを伝えたら彼は朝みたいに抱きしめてくれるのだろうか。

「よお、三沢。何やってんだ?」
 なんて鈍感な男だろう。寒風吹きすさぶ屋上で待っている理由なんて一つしかないのに。
「そっちこそ何やりにきたの」
「手紙で呼び出されてきた」
 二人して屋上のフェンスにもたれ掛かる。
「ねえ――手紙の子とミカどっちと付き合うつもり?」
 まるで人事のように言葉が口から出た。
「さっきも言った気がするけどわかんない。ミカちゃんの方はそんなに知らないし、手紙の子に至ってはは誰かも知らない」
 やっぱり鈍感な上に煮え切らない男だ。手紙の子は直ぐそこにいるのに何故気づかないのだろう。

 何も言わない、何も言ってこない。フェンスにもたれかかったまま、ボンヤリと流れる雲を見ながら、そんな時間を過ごす。
 外気は黙っていても私の体温を奪っていく。朝みたいに抱きしめてくれたらこんな日でも暖かく感じられのだろうか。
「来ないな」空を見上げたまま神崎は呟く。
「――そう」
 もう来ている、目の前にいる。どうしてわからないのだろう。自分から言わなきゃ駄目なのに言えない。
「オレはそろそろ帰るけど、お前は?」
「――もう少しここで空見てる」
 今ここで言えなかったら多分このままずっとズルズル引き摺って一生言えないに決まっている。
 呼び止めなきゃいけない。そして言わなきゃいけない――私の気持ち。
 でも出来ない。出来なかった。
「ふーん、風邪引くなよ」
 そういって神埼は屋上から去っていった。

「何やってるんだろ私」誰も居なくなった屋上で空に向かって一人呟く。
 ――結局言えなかった。
 二月の風は冷たかった。

<続くどうかワカンネ>
3678 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/10(金) 00:51:09 ID:i+vb9Oti
バレンタインが近いから書けって耳元で妖精さんが囁いたから衝動的に書いた。反省はしていない。

<チラシの裏>
・ミカを牽制しつつ、神崎とは友達の距離を維持
・二人の仲を応援しつつも、やっぱり本当の気(ry
・学内では自分と学外ではミカとの二重生活
衝動だけで書いたせいでルート未確定。
誰か代わりに書いてくれない?
</チラシの裏>
368名無しさん@ピンキー:2006/02/10(金) 01:11:50 ID:hln3rifV
えー結構好きな雰囲気なのに、、、
もったいないし、続き書いて欲しいな

…どうせなら主人公死亡エンドでひとつどうだろうか?
3698 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/10(金) 01:16:29 ID:i+vb9Oti
>>368
トリビア
聖ウァレンティヌス司教は撲殺され殉教した

いや別にね、別に他意はないんだよ
370名無しさん@ピンキー:2006/02/10(金) 01:23:46 ID:eocLD4pp
>>360
実兄が好きな妹の類友で樹里…
なんか兄に近づく犬とか殺すヒロイン?を思い出したw
371名無しさん@ピンキー:2006/02/10(金) 04:42:23 ID:mR2IQeuA
        ☆ チン  〃  ∧_∧   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
          ヽ ___\(\・∀・)<  今日の「合鍵」まだー?
             \_/⊂ ⊂_)_ \_______
           / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄/|
        |  ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄:| :|
        |           .|/
372名無しさん@ピンキー:2006/02/10(金) 05:58:23 ID:ZNP2eU/I
いやまあそう焦らず
373名無しさん@ピンキー:2006/02/10(金) 11:10:03 ID:0LC69AEU
初めて来たけど、ここまでレベル高いSSが集まるスレも珍しいな……
374名無しさん@ピンキー:2006/02/10(金) 14:58:19 ID:dqy5PSZn
世の中に修羅場ゲーが思ったよりないからうっぷんはらしてるに違いない
375名無しさん@ピンキー:2006/02/10(金) 17:56:38 ID:hln3rifV
そんな当たり前のことを今更…
376名無しさん@ピンキー:2006/02/10(金) 18:17:05 ID:TUMOX+Q3
けどSSも長続きしないけどね
これで長編書くのは無理

俺?俺は書こうとしたけど修羅場でなく依存系になってしまったので却下
ヒロインがアニメ版シャッフルの先輩を責めるシーンの無い楓みたいな感じ
377名無しさん@ピンキー:2006/02/10(金) 18:23:31 ID:Zlwx0Ylu
    〃                 i,        ,. -‐
   r'   ィ=ゝー-、-、、r=‐ヮォ.〈    /
    !  :l      ,リ|}    |. }   /   .や
.   {.   |          ′    | }    l
    レ-、{∠ニ'==ァ   、==ニゞ<    |    ら
    !∩|.}. '"旬゙`   ./''旬 ` f^|    |
   l(( ゙′` ̄'"   f::` ̄  |l.|   |     な
.    ヽ.ヽ        {:.    lリ     |
.    }.iーi       ^ r'    ,'    ノ    い
     !| ヽ.   ー===-   /    ⌒ヽ
.   /}   \    ー‐   ,イ       l    か
 __/ ‖  .  ヽ、_!__/:::|\       ヽ
「おれ、春から一人暮らしを始めようと思うんだ」
 そう楓に伝えたのは、結局引越しの準備を始める直前だった。
 言おう、言おうと思っても、気持ちばかりが空回りしてしまってうまくいかなかったとはいえ、
 いよいよ切羽詰ってから伝えようとしたのがまずかったらしい。

 座布団が飛んできた。
 目覚まし時計が飛んできた。
 真鍮のブックスタンドはクッションでガードした。
 ペーパーナイフはさすがに止めた。
 
 決して心身ともに丈夫ではない楓はそれっきり寝込んでしまい、見送っても貰えなかった。
(……自業自得だな)
 でも、ものは考えようだ。兄貴に幻滅して喧嘩別れになったなら、逆に外に意識が向かうきっかけになるかもしれない。
 
 と思ったが。
 
「兄さん、こんな時間までどこに行っていたんですか?」

 何故か楓が部屋の中にいた。
「おまえ……何でここに、」
「……酷いですね兄さん。わたしは兄さんが一人暮らしをすることを認める、とは一言も言っていません」
「はあああ!?」
 何でおまえの許可がいる? と言いかけてぐっと堪える。
 ここで爆発させたらこいつの思う壺だ。思うさま暴れて、どさくさに紛れてここに居つく腹だろうがそうはいかない。
「あのな、見ての通りここはひとり部屋だ。お前の寝る場所はない」
 正論でいこう。こいつも馬鹿じゃない。きちんと諭せば思い直すだろう。
「一緒に寝ればいいじゃないですか」
「ずっとこれから生活していくんだぞ、そういうわけにもいかんだろうが」
「兄さんの気に障るというのなら、キッチンに寝袋を敷いてそこで寝ます」
「ばか、そんなことさせられるわけないだろ」
「だったら是非一緒に寝てください」
「……学校はどうするんだ?」
「もちろんここから通います。近くなってむしろ便利じゃないですか」
 墓穴を掘った。
「め、めしはどうするつもりだ」
「わたしが毎回作りますから心配要りません。兄さんのためにこころを込めますから楽しみにしていてくださいね」
 にこり。
 意識しないようにしていたが、こいつは実は凄く可愛い。
 実の妹とわかっていても、ちょっとどきりとしてしまう。
 そもそも、おれはこいつが嫌いというわけではないのだ。
 こんな風に言われて嬉しくないわけがない。
 嬉しくないわけではないのだが……
「でも、やっぱりまずいだろ……」
「何がですか?」
「いや、俺たちだって言ってみれば年頃の男女なわけで……」
 傍から見て、女との同棲の言い訳が「妹」ってのは苦しすぎだと思う。
 痛くない腹を探られるのはまっぴらだった。
「そもそも、どうやってここに入った? 実家に置いてきた合鍵か?」
 楓はいともあっさりと、
「そんなの、大家さんに言って開けてもらったに決まってるじゃないですか」
 こういうとき血の繋がりって便利ですね、なんて言いながら笑っている。
 こ、このままでは逆に言いくるめられてしまうぞ……
 やりたくはない。やりたくはなかったが、やむを得まい。
「なあ楓。おれも男だ。健康な成人男子なんだ」
「知っています」
「ならわかるだろう。男には独りになりたいときがあるんだ」
「そうかもしれないですね」
「な、そういうわけだから。ここはひとつ、兄貴にシングルライフを満喫させてくれまいか?」
 これ、実はちょっと本気。楓が寝てる横でイタすわけにも行かないから、欲求不満な夜もあったりしたのだ。
 
「そうですね、その時はきちんと言っていただければわたしが処理させていただきます」
 今度という今度は、かくーんと顎が落ちた。
「は、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」
「別に恥ずかしがる必要はありません、自然なことですから。
 変に溜め込んで、見境なしにその辺の女とされるよりはよっぽどいいです。
 今は性病が怖いですからね」
「……おまえ、自分が何を言ってるか、本当にわかってるのか?」
「ええ、わかっていますよ」
 
 ブラコンなんてものは時間が解決してくれると思っていた。。
 だが、これはあきらかに異常だ。まともじゃない。
 どこの世界に、実の兄貴のシモの面倒を見たがる妹がいるっていうんだ……!
 
「わかった、わかったよ。とりあえず今日のところは泊まっていけ。だからな、その、
 とりあえず……ちゃぶ台の上の包丁をかたすところから始めてみないか?」
381 ◆kQUeECQccM :2006/02/10(金) 18:48:15 ID:nKwAirY6
妹は本当にさじ加減がむずかしい。

>374
大正解。あくまで俺の場合ですが。
382『鏡』 ◆AsuynEsIqA :2006/02/10(金) 19:00:06 ID:tiqNllJt
今日は雨が降っていた。雨は嫌いだ。憂鬱になる。いつものように姉さんと朝食をとり、玄関を出る。

「おはよう。真奈、真由」

「おはよ!涼くん」
「おはようございます、涼さん。」
やっぱりだ。涼さんはいつも姉さんから先に呼ぶ。なんでだろう?私も姉さんもそう変わりないのに、いつも姉さんしか見てない。なんでなんでナンデ?
口が悪いけど私たちには親しく接してくれる涼さん。
お母さんたちが事故で死んだ後、自分の親の離婚や失踪にも弱気を見せずに私たちのことを一番心配してくれた涼さん
似合わなくも可愛らしい黄色い傘をさす涼さん。
滅多にしないオレンジの香水に気付かない鈍感な涼さん
どんな涼さんでも私はアイシテイル。なのにナンデ姉さんなの?

姉さんと同じ顔、同じ体、同じ声なのに、いつも周りから姉さんが評価されていた。唯一性格が違った。姉さんは誰にでも優しく明るい。私だって昔からそうだった。
でも、お母さんたちが死んだ時、私はそのショックを受けきれず、他者との交流を閉ざしてしまった。まともに喋れるのは姉さんと涼さん、それと2、3人の友達だけ。
でも姉さんと涼さんが「恋人」という形で付き合い始めてからは、二人にも話しずらくなった。その影響で友達とも話す回数が減り、クラスでは孤立してしまった。
二人の仲を恥ずかしながらも幸せそうに話す姉さん。彼女は嫌味や自慢で話しているのではない。天然なのだ。それは私が一番よく知っている。でも私はそれを素直に聞き入れられず、曲がった形で受けてしまった。
それに気付いた頃にはもう手遅れだった。
一度点いた黒い炎はもう消えない。すべてを燃やすまで

姉さんが、姉さんが私からすべてを奪うんだ。周りの評価も、人生も、愛する涼さんも…………。


だったら

奪い返せばいい。
383 ◆AsuynEsIqA :2006/02/10(金) 19:02:10 ID:tiqNllJt
なんか
ホラー+ミステリー+嫉妬となりそうです(つд`)
嫉妬をメインにもってこれるか…
384不義理チョコ 第2回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/10(金) 22:56:30 ID:i+vb9Oti
「本当に私何やってんるんだろう……」
 誰も居なくなった屋上で一人呟く。辺りはもう暗くなって部活で学内に残っている人間も殆ど居ない。。
 それでも神埼がヒョッコリ戻ってきて、笑いながら「いい加減ハッキリ言えよ」なんて言って来るかもしれない、そんなありえない期待をしていた。
 吐く息が白い。マフラーを巻きなおす。
 このマフラー、あいつからのプレゼントだった。

 寒気が酷くなってきた日、あいつはマフラーを巻いてきた。それも手編みで名前入りのマフラー。
「彼女からのプレゼント?」ってからかってみたら自前だと憮然した顔で言った。じゃあ証拠見せなさいよって言ってやった。
 そしてそんな事を忘れかけた頃のクリスマスに、あいつはその証拠を持ってきた、手編みのマフラーを。無駄に気合を入れた様な柄で、人のイニシャルを入れて。
 変な奴かと思っていたが編み物が得意だなんて益々変な奴だと思った。
「あんたにしてはセンスいいじゃん」――本当はとっても嬉しかった。大好きだよって言ってみたかった。でもそんな言葉しか言えなかった。

 ――なんであの時素直に言えなかったんだろう。
 ずっとそうだ、文化祭の時も、初日の出を見に行ったときも、何度も一緒に遊びに行った時も、いくらでもチャンスあったのに。ずっと言えなかった。
 今日もただ単に、いつもの言えない事が、またあっただけど。そう――いつもの。でも
何で今更涙出ているんだろう。
 吹っ切るつもりだったの、吹っ切ったつもりだったのに、馬鹿みたいに未練たらしく考えている。
「馬鹿みたい」
 自然と口から出ていた。


385不義理チョコ 第2回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/10(金) 22:57:27 ID:i+vb9Oti
        *        *        *

 そういえばあいつ何で屋上にいたんだろう。一時間近く二人してボケーっと空を眺めていたが結局聞くの忘れた。
「――まさかな」
 一瞬ある考えが浮かぶが即座に否定する。いくらなんでもそんな話がある訳がない。
 手紙の子は現れなかった。何かの理由で来れなかったか、単にイタズラか。まあ、十中八九後者だろう。ノートの切れ端なんかに書いてくるぐらいだから。
 そっちはそれでいいとして、ミカちゃんの方だ。
 メッセージカードはご丁寧に彼女の携帯の番号とアドレスも添えられていた。
 ――返事はしなきゃいけないよな。
 何て言えばいいのかな。正直よく知らない子だし。もし相手があいつのだったら悩む必要ないのに。
 ミカちゃんに何ていったらいいかわからないまま、駅についてしまった。


 駅のホームにいる人に気づいた。同じ学校の人間もいるが一人違う制服の女の子。
「あ――」
 悩みの原因の相手がそこにいた。
「えーと、ミカちゃん?」
「あ、あの――」彼女は小さくクシャミをした。
「ごめん、ひょっとしてオレ待ってたの?」
「……はい」
 この寒い中待っていたのか――屋上で待ちぼうけしている間に酷く悪いことをした気がする。

「どのぐらい待ったの」
「学校終ってからずっとです」
 約束なんかしてなかったのに待たせていた事に何故か罪悪感を感じるのは何故だろう。
「電話してくれれば良かったのに」
「あの、私神崎さんの番号知りませんから」
「そうか、そうだよね。えーと、オレの番号」
 携帯のオレの番号を見せるとすぐさま彼女も自分の携帯を取り出し登録し始めていた。
「えと……あの――」登録を済ませてから何かを言おうとかけていた彼女はまたクシャミをした。
 ――オレのせいだよな。
「まあ、これでもつけてろ」
 少しは暖かくなるかと思い自分のマフラーを外して、彼女にかけてやろうとしたら彼女少し驚いた顔になっていた。
「あー、ごめん。男のお古なんて嫌だよね」
「そんなことないです」
 慌ててマフラーを戻そうとしたら、彼女が慌てて否定した。
「このマフラー手編みなんですよね……」
 マフラーを受け取った彼女は何ともいえない顔をしてマフラーを巻いていた。
 間もなくして電車がやってきた。


386不義理チョコ 第2回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/10(金) 22:58:00 ID:i+vb9Oti

 電車の中。
「あの――それから読んでもらえましたか……」
「食べた」
「あ、はい――」
「お手紙読まずに食べた。割と美味しかった」
「え?手紙なんか食べてお腹壊さないんですか?」
 彼女の眼鏡の奥の瞳は冗談を言っているものではない、本気で言っている。
 軽い冗談のつもりだったが真に受けている。
 ――天然かよ、この子。
「いや、ごめん。冗談だって。チョコはまだ食べていない。手紙の方は読んだ」
「あの、それで返事は……」
 彼女は顔を紅潮させ期待と興奮と恥ずかしさに満ちた落ち着かない様子でオレの言葉をグッと待つ。
 ――言わなきゃ駄目だよな。
「うーん、ミカちゃんの事よく知らないからさ。友達からってことでいいかな?」
 えらい無難な言葉だな自分でも思ったが他に適当な返事は結局思いつかなかった。
「はい」
 彼女は大きく二度頷いた。

 しばらくお互い何を話していいかわからず電車に揺られながら無言の時間が流れた。
「ああ、そうだホワイトデーのお返しに何かリクエストある?」
 無理やりにでも会話の切っ掛けを作ってみる。
「あ、あの、トモちゃんみたいなマフラーが欲しいです!」
 トモちゃん――三沢の事か。
「ああ、あのマフラーね。わかった」
 ――あのマフラー結構自信作だったからな。

 電車が止まる。
「あの、私この駅ですから。後――明日の朝も同じ時間の電車ですか」
「……寝坊しなければね」
 その目、明日その電車で待ってますからと言っていた。
「あと、それから……今晩電話かけていいですか」
「別にいいよ」
 ――まあ、友達だから。

 ――なんか少し疲れた。
387不義理チョコ 第2回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/10(金) 22:59:55 ID:i+vb9Oti
        *        *        *

 電車の中でヨーコと会った。中学の頃はミカと三人でよく遊んだ。高校では私だけが違う学校に行くことになってしまったが今でも機会があればよく遊んでいる。
「トモ、珍しいね。こんな時間になんて」
「あー、うん。ちょっとね」
 本当の事なんて言えやしない。ミカが好きだって言ってた男の子に告白しようと一時間立ち続けて結局何も言えなかったなんて。
「そうそう、ミカの行方はどうなりそう」
「まだ、わかんないかな。渡すことには渡したけどチョコ貰ってから酷く煮え切らない感じだったし」
 ――もしあの時ミカのチョコを差し出して抱きつかれた時、訂正しなかったらどうなっていたのだろう。
 ずっとそんな事ばかり考えている。
「――多分、うまくいかないかな。なんか相性悪そうな気するし」
 二人が付き合ったりしなければ、まだ私にもチャンスがあるから。
 吹っ切るつもりだった筈なのに――
 あきらめるつもりだったのに――
「――ひょっとしたら煮え切らない理由は他に好きな子がいたからかな」
 ――その好きな子は私。
 気がついたらヨーコの話なんか聞かず、ずっと一人で喋っていた。
 自分の言っていることが希望的憶測の混じった――いや願望による意見になっていることに気づいた。
 ――ホント馬鹿みたい。

 携帯にメールが来た。ミカからだ。
 ――『友達からなら』か。
 えらく平凡で無難な了承の言葉だ。
「今日の所はまずまずって感じだね」ヨーコは届いたメールを見て楽しげに笑う。
「――うん、そうだね」
 笑うべきなのに、笑わなきゃいけないのに。友達の幸せなのに。
 顔がうまく笑ってくれない。
「トモ、ひょっとして調子悪い?」
 ヨーコが私の顔を覗き込む。
 彼女は昔から勘がいいというか人の事がよく気づいた。でも今は気づいて欲しくなかった。
「――なんでもない」
 ――本当の事なんて言えやしない。
388不義理チョコ 第2回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/10(金) 23:00:45 ID:i+vb9Oti
        *        *        *

「はい、コレ」
 自宅に戻ると姉ちゃんがチョコを差し出していた。
 ――いらねえよ。
 昨日、姉ちゃんはやたら気合を入れて手作りチョコを作っていた。それもとても一個や二個と思えない数を。そしてそれの試食の為に散々食わされた。そのせいで今日になってもチョコを食べたい思わない。
 何故か頭を小突かれた。
「何すんだよ」
「あんた今いらないって思ったでしょ」
 ――エスパーかよ、って思ったが、いらないオーラは自分でもハッキリ出していたな。
「どうせ義理しかもらってないんだから素直に受け取っときなさい」
 ――義理なら昨日の分だけで十分です。
「いや、今年は義理以外もらえた」
「――その話詳しく聞こうかしら」
 姉ちゃんの目が猫科の動物を思わせる輝きを見せていた。

 姉ちゃんの部屋で何故か正座させられた。
 ――なんで朝教室で正座させられて、帰ってきても正座させられているんだろう。
「で、誰から貰ったの」
 ――人が正座させられているのに、なんで姉ちゃんはベッドに座って見下ろしているのだろうか。
 まるで尋問されているようだ。
「友達の友達からと、もう一つは差出人不明」
「前のはいいとして後者の差出人不明ってのは何よ、何で本命ってわかるの」
「『もし私の事が好きなら放課後屋上まで来てください』って書いた手紙ついてたから」
「えらくレトロな手段ね。で、その子はどんな子だったの?」
「放課後行ったけど居なかった」
 おまけに寒空の下一時間近く待たされたが無駄だった。
「こっそり隠れていたとかは?」
「隠れてそうなところって――貯水タンクの中ぐらいかな」
 頭を殴られ小気味良い音がした。
「それだとホラーになっちゃうでしょ。他に誰か居たりしたとかは?」
「ああ、そういえば友達がいた、でも――」
「男友達がいたとかいうのは却下」
「いや、女友達だって。でも、さっき言った『友達の友達』の友達の方だから」
「――ふうん」
 姉ちゃんは意味ありげに鼻を鳴らした。
「で、友達の友達の方はどうした訳?」
「学校も違うし、よく知らない子だったから友達からならって」
「あんたにしちゃ普通の返答ね」
 褒められているか馬鹿されているのか――多分後者だろうな。


<多分続く>
3898 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/10(金) 23:02:35 ID:i+vb9Oti
おっかしいな続き書く気あんまりなかったのに妖精さんがあんまり囁くから書いちまったよ。

初めてプロットなしで書いている。自分でも話がどっち行くかワカンネ
390名無しさん@ピンキー:2006/02/10(金) 23:17:57 ID:iS1KGMne
           *'``・* 。
           |     `*。
          ,。∩∧ ∧  *
         + (ゝω・ )  *。+゚  早よ書けや〜ぃ☆
         `*。 ヽ、  つ *゚*  
          `・+。*・' ゚⊃ +゚
          ☆   ∪~ 。*゚
           `・+。*・ ゚
391名無しさん@ピンキー:2006/02/10(金) 23:43:44 ID:XqPradDw
>>384
かなり自分好みの雰囲気だ。
期待しているのでがんばってください
392名無しさん@ピンキー:2006/02/10(金) 23:47:25 ID:kDpQjKvT
かなりイイ感じだと思いまする

393合鍵 第十三回  ◆tTXEpFaQTE :2006/02/11(土) 03:49:57 ID:ED6sgNq2
合鍵  第十三回


カレーも出来た。サラダも作った。ラッキョも忘れてない。
その上、今日はお風呂まで沸かしてある。
どんなにもとくんは喜んでくれるかな?

もとくんが帰って来る、私の事を褒める、頭を撫でてくれる。
想像するだけで顔がにやけて、体がこそばゆくなる。

自分の考えに、どうしようもなく照れていると、鍵を差し込む音が聞こえた。
もとくん!!帰ってきた!!!
慌てて玄関まで迎えに行く。

「おかえり、もとくん、お風呂、沸いてるよ、
  …カレーと、お風呂、どっちにする?」
あっ、これ、このセリフ、まるで私、奥さんみたい!
自分のセリフにまた照れる藍子。

しかし、その昂揚感は、次の瞬間、吹き飛ばされた。
元也の後ろで、ありえない、あるはずが無い、あってはならない事が起きていた。
元也の後ろに、女の人がいた。

自分を見て、驚いている女性。
誰?
何?
どういうこと?
藍子の思考は停止してしまった。

藍子が凝視している間に、サキがクスクスと笑い始めた。
まるで、サキの周囲が明るくなったかと思わせる程の、華のある笑顔だ。
その内面に、藍子に対する溶けた鉄の様な不快感があることは、その顔からは想像できない、
明るい笑顔だった。

藍子「……誰、その人…」
こわばった顔のまま、元也に尋ねる。
が、その答えを待つまでも無く、藍子はサキの事を思い出していた。

藍子が美術室へ元也を迎えに行くと、いつも彼女が、元也の近くにいた。
ある時は、元也と親しげに喋っていた。
ある時は、甘えるかのように元也にもたれかかっていた。
ある時は、元也に膝枕をして貰っていた。
その時、噛み砕いていた不快感と共に、彼女の顔を思い出した。

元也「ああ、この人、美術部の先輩。サキさんって言う人。
   サキさん、一人暮らしで寂しいから、一緒に食べようって。
   いいだろ?」
サキを見つめたまま、動けない藍子の横を通り過ぎながら、元也が答える。
元也から、藍子の表情は見えない。
394合鍵 第十三回  ◆tTXEpFaQTE :2006/02/11(土) 03:50:55 ID:ED6sgNq2
>>393の続き

………………びじゅつぶの、せん、ぱ、い?
……どこかで、きいた。
ああ、あのときだ。

藍子「今日も晩御飯作っておくね、何がいい?」
元也「いや…今日はいいや」
藍子「え?…どうしたの?」
元也「それは、その、美術部の先輩と食べる約束しちゃってるんだ」
藍子「そっか、それじゃ、仕方ないや」

もとくん、きのう、ことわったの、この、せんぱい、と、
いっしょ、に、いる、ため???

藍子の目が大きく、見開かれる。唇を、噛む。

サキ「こんばんは、はじめまして、藍子ちゃん。
   ご一緒さして貰っても、構わないでしょう?」
藍子の表情を見ながら、サキが明るい笑顔で尋ねる。
あーあ、すごい顔しちゃって。私なら、絶対、そんな顔、元也君の前ではしないけどなあ。
表情を隠す事が出来ない娘なのね。

藍子の返事も待たず、元也に続いて家に入るサキ。
棒立ち状態の藍子とすれ違う。
至近距離で目が合う二人。
対照的な表情の二人。
般若の面を思わせる藍子。明るい、涼やかな表情のサキ。
しかし、内面は、両者、同じように、熱く、濁った物が淀んでいた。

カレーの支度を始める藍子。
手伝いを申し出るサキ。しかし、
結構です!
と言う、藍子の強い拒否に断られた。首をすくめた。

再度申し出る事も無く、キッチンから離れるサキ。
リビングに戻ると、元也に、部屋を見せてよー、と言い始めた。
断る元也だが、サキに後ろから、いつもの様に胸を押し付けるかのような抱きつき方を
されると、もう断れなかった。

二階に上がっていく元也。はしゃぎながら、サキはついて行く。
後ろから、抱きついたままだ。元也も、困った素振りをしているが、引き離そうとはしない。
もう、サキのこういった行動については、諦めている。あと、やっぱり、ちょっと、嬉しいし。

それをキッチンから見る藍子。
振り返った、サキと目があった。
サキは、微笑みながら、更に強く、元也の背中に体を押し付ける。
藍子は唇を、噛む。
血が、ツウ、と溢れてきた。
395名無しさん@ピンキー:2006/02/11(土) 05:47:50 ID:5fcqRb5z
キタ─wヘ(゚∀゚)√レ( ゚∀)wヘ( ゚)√レ(  )wヘ(  )√レ(゚  )wヘ(∀゚ )√レ(゚∀゚)√レv〜 !!!!
>藍子の目が大きく、見開かれる。唇を、噛む。
感情を隠せない藍子イイよイイよ〜。
修羅場分も補給したことだし寝ます。オヤスミ。
396名無しさん@ピンキー:2006/02/11(土) 08:56:35 ID:CivhpxYs
>>394
神!!
397名無しさん@ピンキー:2006/02/11(土) 10:05:08 ID:rHmANsTG
イョ━━━━ヽ(=゚ω゚)人(゚ω゚=)ノ━━━━!!
398名無しさん@ピンキー:2006/02/11(土) 10:08:43 ID:CtYd//KR
>>断る元也だが、サキに後ろから、いつもの様に胸を押し付けるかのような抱きつき方を
>>されると、もう断れなかった。
もとくん!!
399名無しさん@ピンキー:2006/02/11(土) 15:26:30 ID:jso+pBPc
>>394
神乙!
このスレ始まって以来最高の修羅場の予感。
ツヅキ タノム
400名無しさん@ピンキー:2006/02/11(土) 16:41:30 ID:rh2cjNd5
神々が光臨するスレと聞いて、ラノベ板からやってきました
401名無しさん@ピンキー:2006/02/11(土) 18:33:41 ID:fr+DkW8c
我らがクラブへようこそ
402名無しさんで悪かったわね!:2006/02/11(土) 22:06:43 ID:ICIFQwGS
マジで合鍵の中の人の才能に嫉妬 orz
セツナス
403名無しさんで悪かったわね!:2006/02/11(土) 23:06:02 ID:ICIFQwGS
藍子ちゃんテラカワイス
404名無しさん@ピンキー:2006/02/11(土) 23:35:34 ID:rHmANsTG
漏れは陽の光のなかで舞う雪にワクテカ(*´д`*)
雪タソの活躍はまだか
405名無しさん@ピンキー:2006/02/11(土) 23:56:00 ID:eU7k1PGH
>>401
その言い回し・・・まさか・・・
406名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 00:05:10 ID:XQkf7F7n
こういうこと言わない方がいいのかもしれないがあえて言わせてもらうと










俺は藍子ちゃん派
407名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 00:15:55 ID:nJ3o7vZD
>>330>>380
「優柔」と「妹(わたし)は実兄(あなた)を愛してる」の展開を、正座して待ってます
+   +
  ∧_∧  +
 (0゚・∀・)   ワクワクテカテカ
 (0゚∪ ∪ +        
 と__)__) +
408名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 00:37:07 ID:k0qMctE2
ここに投下されているすべての神々の作品の続きを正座して待っています
+   +
  ∧_∧  +
 (0゚・∀・)   ワクワクテカテカ
 (0゚∪ ∪ +        
 と__)__) +
409名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 00:42:27 ID:O9/tXO1R
でもたまにどれがどれだか分からなくなるよね
410名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 00:48:31 ID:kan5dk3Y
ここのスレのレベル高すぎだよね
全員が一番だよ
411名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 00:50:27 ID:sWm7X+KB
>409
そうだ……私以外のみんながいなくなれば……
私だけになれば……
きっと私とわかってくれる……
私だけを見てくれる……
412名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 00:59:10 ID:29VzW8h+
ていうか本当になんでこんなレベル高いの?
びびった。
413不義理チョコ 第3回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/12(日) 01:08:02 ID:sWm7X+KB
        *        *        *

「シロウちょっと待ちなさい」
 尋問が終ったようなので姉ちゃんの部屋から一刻も逃亡を試みようとした瞬間に声がかかった。
「なんだよ」
 思いっきり嫌な顔をして振り向いてやる。
「あんた、その友達のことどう思っているの?」
「どうって?」
 自分の右手が軽く鼻先をかいていてた。
「……胸に手をあてて考えて見なさい」
 左胸に手を当ててみる。
 まあ、あいつの事嫌いじゃないし、その気がないと言ったら嘘になるけど、向こうにはその気がないんだろうし。
「先生……不整脈が……」
 真面目に答えるのも癪だから適当に返してやる。
「……一度病院行ってきなさい」
 姉ちゃんの顔は呆れて何もいえないって顔になっていた。

 夕食をとってから間もなくしてミカちゃんからメールが入った。
 『今電話していいですか?』――普通メールで聞いてくるような内容なのだろうか。素直に返信してもよかったが面倒くさいから、こっちから直接電話することにした。
「オレだけど――」
「あ、あの、神代さんじゃなかった神崎さん!」
 電話越しで何かパニック状態になっているようだった。
「えーと、ひょっとしてタイミング悪かった?」
「そんなことないです。えっ、えっとですね――」
 会話の内容に対して会話時間は長くなる気がした。
 そして、その予感は正しかった。
 

4148 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/12(日) 01:08:33 ID:sWm7X+KB
        *        *        *

 学校から帰ってきてからずっと泣いている。
 忘れようとすれば、忘れようとするほど――
 あきらめようとすれば、あきらめようとするほど――
 何故か涙が溢れてくる。
 何で今更泣いてたりするんだろう――馬鹿みたい。

「あ、トモちゃん?私だけど今日はありがとう。それから――」
 電話がかかってきたので半ば無意識に出てしまった。
 電話の向こうからミカの楽しげな声が聞こえてくる。今の私とは全く逆の感情に満ちた声が。
「ごめん――私今日疲れてるから……」
 それだけ言って電話を切った。
 聞きたくない。聞いているだけで涙が出てくるから。
 ――馬鹿みたい。



 朝起きて、鏡を覗き込んでみると目が真っ赤に充血していた。
 昨日あれだけ泣きはらしたら、いい加減この未練がましい思いも少しはスッキリするはずだ――無理にでもそう思う事にしていた。
「おはよう」
 なるべくいつもどおりに、無理矢理にでも元気に駅のホームで待っていたミカとヨーコに挨拶する。
「ミカ、あんたの巻いてるマフラーって……」
 私のよく知っているマフラー。今自分が巻いているマフラーにも似ているマフラー。ミカとは別の名前の入っているマフラー。
「そーなんだ、コレ。もらっちゃったんだよ、昨日駅で待っていたら寒いだろう、ってコレくれたんだ」
 ミカは溢れ出さんばかりの笑みを浮かべ、とても大切な宝物の様に、自分のマフラーの中の名前を見つめていた。
「ふーん、そう」
 ――でも似合ってないわよ貴方には。
「それでね神崎さんがね――」
 電車が来るまでの間、普段のミカからは想像出来ない勢いで昨日あったことを機関銃の様に喋り続けた。
 ――嫌な顔。


415不義理チョコ 第3回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/12(日) 01:09:18 ID:sWm7X+KB
        *        *        *

 ――ダルイ。
 東日が部屋に差し込む。体がどういう状況であろうと朝は朝だ、まだ布団から抜け出るのに根性の要する寒さのある。
 体の芯が重い。精神的な疲れが全然抜けきっていない。
 女友達も普通にいるし話もしていたが、ミカちゃんとの会話は今まで経験したことのない感じのものだった。お互いの事をよく知らないという点もあったが、迂闊な事を言ってはいけないとか、そういう感じのある種の緊張感は始終立ち込めていた。
 ――どうしようかな。
 いつもの通り出れば彼女と必ず鉢合わせすることになる。
 昨日別れ際では期待全快の眼差しで言われ、電話で朝待ってますからなんてハッキリと名言された。
 ――まあなるようになるか。
 そう思いながら、時計の針の位置を確認して、ようやく布団から抜け出ることを決意した。

 彼女たちのいる駅は一つとなりの駅である。
 それこそあっという間の距離である。そのあっという間の間とは言え少しだけ考える事にした。
 ――何話したらいいんだろう。
 昨日話したことは、確か家族の事とか、学校の事とか無難な内容だったはずなのに、えらく慎重に話題を選んだ気がする。
 ――普通に話して良いんだよな。
 よく考えればその筈だ。昨日は彼女のペースに巻き込まれていただけだ。普通のノリでいいんだ普通で。
 そうこう考えているうちに次の駅に着いた。
「おはようさん」
 いつもの友達にする感じの軽い挨拶。
「おはよう」
「お、おはようございます」
 軽く手を上げて返す三沢と隣の子に対してミカちゃんはまるで何処かの重役相手にするかのように深々と頭を下げていた。
「いやさ、そんなに畏まらなくていいからさ」
 そうだ、昨日はこの雰囲気に呑まれて、こっちのペースまで狂わされたんだ。
「え、で、でも……あ、後マフラーありがとうございます」
 ――確か昨日の電話内だけで五回以上出てきたと思われる言葉が聞こえた。
「ミカね、昨日私に電話かけてきたと思ったらそればっかり喋ってるんだよ」
 三沢の隣の髪の短い子が言う――彼女の名前が思い出せない、胸の名札を盗み読む深井か。

 電車の中での会話は友達が居たおかげか、昨日よりもかなり楽に話せた気がした。


416不義理チョコ 第3回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/12(日) 01:09:55 ID:sWm7X+KB
        *        *        *

 電車から降りるとき、挨拶もそこそこに降りようとしていた神埼に対して、ミカは彼に後でメールすると言って、いかにも名残惜しそうな顔をしていた。
 ――一方通行の行為なんて見苦しいよ。
 駅から出て私たちはいつもの様に肩を並べて歩き始めた。
 一年近く続いている時間。ミカには絶対出来ない時間。
「ミカとはどうだった」
 なるべく普通に、なるべく自然に声を出してみた。
 ――嫌だったんでしょ。
「なんか話し慣れてないせいか、少し疲れた」
 彼はそれこそ本当に疲れたって感じの表情をしてみせる。
 ――疲れるような人間と無理して付き合う必要ないんだよ。
「あとさ、最初は何話していいかよくわからなくてな」
 彼は少し困った感じをしてみせ鼻先を軽くかく――彼が考え事や悩んでいる時には必ずといって必ずやるミカは絶対知らない筈の癖。
 ――じゃあ、話さなきゃいいじゃない。
「まあ、普通に話していいんだよな」
「そうだよね」
 ――私となら無理する必要ないのに。
「うー寒い」
 彼は寒そうに首元をさする。
 ――だったらマフラーなんてあげなければよかったじゃない。
「寒いなら……私の――貸そうか?」
 そう言いつつ私は自分のマフラーは解こうとしていた。私の匂いの染込んだマフラー。
「ほー、人の送ったもの突き返そうとは、いい根性しているじゃねえか」
 彼に拒絶された。怒られた。嫌われた。
 そんな事はない、いつもの感じで笑いながら言う冗談の筈なのに何故かそう感じてしまう。
「なに?自分で送ったマフラーで絞殺されたい?」
 ――このマフラー大事しているんだよ。私の宝物なんだよ。
 無理矢理笑って、顔に出ようとしていた表情を隠し、湧き上がってくる感情をごまかす。
「そいつはごめん被る」
 いつもの感じで笑うあいつ。いつもの通学風景。何だかんだいいながらもズルズル続いていくと思っていた関係。
 ――あきらめたハズ。
 ずっと一緒に歩いてくれるよね。遊んでくれるよね。
 ――私とこいつは友達だから。


4178 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/12(日) 01:13:09 ID:sWm7X+KB
切なさを中々黒い衝動で塗りつぶせねえ
418名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 01:15:04 ID:W8W32wkU
あるある。
419名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 01:15:30 ID:nJ3o7vZD
修羅場スレのまとめサイトを運営して下さっている阿修羅氏の
SS専用まとめサイトを貼っておきますね。

■修羅場系総合SSスレまとめ
ttp://dorobouneko.5gigs.com/SS/index.html
420名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 01:23:08 ID:DF/G1TD4
溜めて溜めて溜めて、そして一気に爆発させるのです。>切なさ

それが、より深い歓喜の音を生み出すのですから。
4218 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/12(日) 01:27:03 ID:sWm7X+KB
(´Д`)y-~~
フムン――限界を超えて爆発した後は家出して消息不明になった後に
無言電話をかけてストーキングして呪いで体力を奪っていく訳だな
422名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 01:31:19 ID:29VzW8h+
むう、こんな悪友娘どこかに落ちてねえかな…
423名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 02:42:45 ID:0mFRD2WI
そういや、エロゲその他かまわずストーキング系はあまり見かけないなぁ
424合鍵 第十四回  ◆tTXEpFaQTE :2006/02/12(日) 02:46:36 ID:RJ7YdUE0
合鍵  第十四回


「いただきます」
食卓テーブルについて、三人声を合わせて言った。
カレーを一口。美味しい。

サキ「あら、美味しい」
素直な感想を口にするサキ。

それを聞き、藍子の方を見る元也。
てっきり、褒められて、照れているかと思ったが、藍子の顔は無表情だ。いや、何か、
怒りが透けて見える。
…何も言わず、知らない人連れてきたから、怒ってんのか?
それとも、こいつ、人見知りする方だっけ?

そんな事考えていると、サキが話し掛けてきた。
サキ「ねえ、元也君。こんな料理上手な『オトモダチ』に御飯作って貰ってきたなら、
   私の御飯じゃ、不満あったんじゃないかしら?」
元也「え?そんな事ありませんよ!
   十分、美味しかったですよ!!」

それを聞き、サキがクスクスと微笑む。
想像通りの元也の返答。r
ああいう風に聞けば、元也君は、絶対『美味しかった』って返事するはず。
そのセリフを、藍子に聞かせてやりたかった。
藍子を見ると、案の定、スプーンの動きが止まって、サキを見つめていた。
いや、彼女に自覚は無いだろうが、睨んでいる、と言っても構わない表情だ。
それを微笑みながら、睨み返すサキ。

藍子「……もと、くん…
   サキさんに、ごはん、つくって、もらって、いたの?」
うん、そうだけど、と元也が返事しようとすると、それをさえぎり、サキが先に答える。
サキ「そ、一昨日、昨日と『私のおうち』で御飯、食べて貰ったの
   そうよね、元也君」
元也「はい、美味しかったです。ご馳走様でした」

藍子が息を飲むのが分かった。構わず喋り続けるサキ。
サキ「ね、このカレー、とっても美味しいけど、何か秘密あるの?
   今度、元也君が来る時、作ってあげたいわ」

返事をしない藍子に、元也が、おい、と声をかけた。
藍子が我に帰り、搾り出すように、
藍子「しり、ま、せん…………」
と答えた。

あまりに愛想の無い藍子に、元也が表情で叱る。
視線を落とし、絞り出す様に、
藍子「玉ねぎを、よく、いためれば、いい、ですから」
とだけ答える。
425合鍵 第十四回  ◆tTXEpFaQTE :2006/02/12(日) 02:48:15 ID:RJ7YdUE0
>>424の続き

サキ「ああ、美味しいカレーの秘訣には、それ、よく聞くわね。
   けど、面倒で、結局、そこそこ炒めただけで、止めちゃうのよねえ」
嘘おっしゃい。この味、隠し味で、ウスターソースに、コーヒーかしら?
入れてるでしょう。
  
「ねえ、もとくん」
スプーンを握り締めながら、藍子が元也に話し掛けた。
藍子「もう、サキさんのとこ、いっちゃ、だめだよ」
え?と、元也が藍子の方を見ると、彼女は視線を落としたまま、続けた。
藍子「サキさんも、めいわく、してるだろうし、これいじょう、
   ひとに、めいわく、かけるの、だめ、だから」
視線は、下を向いたまま。

そうでしたか?と、サキの方を見る元也。
サキは、微笑みながら、首を横に振る。

サキ「そんな事無いのよ、藍子ちゃん。むしろ、私の方から、頼んでる位だから。
   …藍子ちゃんの方こそ、わざわざ、元也君に御飯作るの、面倒でしょう?
   私のは、自分が食べるついでだから、これから、ずっと私が作ってもいいのよ?」
   そうする?元也君?」

藍子「もとくん!!!!!!
   わたしと、そのひと、どっち!!!!」

急に大声を出されて、驚く元也。
ええと、御飯の事?
元也「いや、どっちも、十分、うまいけど…」

サキ「じゃあ、これから、どっちの御飯、選ぶのかしら?」
サキの方を見ると、いつもの笑顔のままで元也を見つめていた。

何だよ!?どしたんだよ、二人とも!
どっちの料理も、美味しく、選ぶ事が出来そうにも無いので、こう答えた。
「ええと、その、よろしかったら、変わりばんこでお願いします」
426名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 03:13:19 ID:7q6ytDBo

       ヽ|/
     / ̄ ̄ ̄`ヽ、
    /         ヽ
   /  \,, ,,/    |
   | (●) (●)|||  |
   |  / ̄⌒ ̄ヽ U.|   ・・・・・・・・ゴクリ。
   |  | .l~ ̄~ヽ |   |
   |U ヽ  ̄~ ̄ ノ   |
   |    ̄ ̄ ̄    |
427名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 03:23:45 ID:Ooxyryzh
>>ええと、その、よろしかったら、変わりばんこでお願いします
あるあるwwwwwww
藍子タンに間違った意味で頑張ってほしい!

そして今週の「春の嵐」まだ〜?(・∀・ )っ/凵 ⌒☆チン
428名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 03:42:44 ID:29VzW8h+
>>ええと、御飯の事?
エエエエエエエエー!?
429名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 03:44:10 ID:kan5dk3Y
ちょww
もと君の言動こそ修羅場スレの騎士だw
430名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 03:45:21 ID:QMEVIVli
もとくんサイコーw
431名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 04:31:27 ID:7ZuGG0TX
とりあえず作ってみた( 'A`)<妹〜の作者様ごめんなさい
ttp://mata-ri.tk/up1/src/1M1244.zip.html
パスは「kaede」ね。
432陽の光のなかで舞う雪 4 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/12(日) 05:01:18 ID:B7zJ1iG1
朝から陽子は口を利いてくれなかった。
優治は放課後の教室で、てきぱきと掃除が行われていくのをぼんやりと眺めていた。
きっと陽子は怒っているわけじゃないのだろう。
長年の付き合いから、優治にはそれがわかっていた。
あれは――恥ずかしがっているのだ。
「終わったぞ」
その淡白な声に顔を上げると、至近距離で雪が優治の顔を覗き込んでいた。
恐ろしく深い瞳は、彼女の思考がそこに表れるのを阻む。
優治は、雪が何を考えているのかわからない。
「掃除、手伝わなくて大丈夫だったの? 鈴木さん、昨日もやってたじゃないか」
「昨日やった掃除がイレギュラーだったんだ。今日が本来の当番の日なのだから、私がやらなくては意味が無い」
「だって、当番は他にも何人かいるはずじゃないか。どうして鈴木さんが一人でやらなくちゃいけないんだよ」
優治が唇を尖らせると、雪はふっと笑った……ような気がした。
それは微かすぎて、すぐに溶けて消えてしまったけれど。
「私のことを心配してくれるんだな。……そういうところが実に好ましい」
「え? いや、そんな面と向かって言われると……」
照れてしまう。
雪はこうやって感情をストレートに伝えてくる。それ自体はいいことだ。
けれど、雪の表情は、まったく感情を表していない。
その言葉を疑いなく信じるには、雪はあまりに無表情なのだった。
彼女の真意を知りたいのは、彼女の好意を信じたいからだ。
放課後のグラウンド。
あの時の笑顔を、信じていたいからだ。
でも、それは何故?
433陽の光のなかで舞う雪 4 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/12(日) 05:02:49 ID:B7zJ1iG1
「でもやっぱり、あいつらは許せないな。サボってばっかりで、ぜんぶ鈴木さんに押し付けて」
「ふむ、どうやら裏でいろいろと画策しているようだが……」
雪がそっと、優治の机の上に手を置いた。
「……そろそろ勝負を決める頃合か」
そうやって、優治の方に身を乗り出すような格好になる。
漂う雪の香りに、優治の鼓動は自然に高まる。
雪の視線は優治を見据えていた。
「なあ、山田優治。君は、わたしのことが好きか?」
「……え?」
思わず優治が見上げても、雪は目を逸らそうとしない。
「そ、そりゃ好きだけど」
「友達として? ……恋人として?」
「……わかんないよ」
優治は俯いてしまう。
自分の気持ちなんて、わかるはずがない。
「佐藤陽子と私なら、どっちが好きだ?」
「はは、同じようなこと、陽子ちゃんにも訊かれたよ」
動揺を隠そうとする。
けれど、きっと見抜かれているだろう。
「鈴木さんには悪いけど、やっぱり陽子ちゃんかな。幼馴染だしね。ちっちゃい頃からずっと一緒にいるんだもん。
 陽子ちゃんの考えてることはだいたい分かるし、陽子ちゃんと一緒にいると楽しいし、
 あ、これがもしかして恋ってやつなのかも――」

「嘘だな」

その言葉は、ストンと優治の心の奥に刺さった。
「君は私に惹かれ始めているはずだ。いや、はっきりと、惹かれている」
ゆっくり、ゆっくり、優治に近づいてくる鈴木雪。
漆黒の瞳、滑らかな頬、艶やかな唇。
そこに浮かぶ微笑。
……ぺろり。
頬が舐め上げられると同時に、氷の塊が優治の背筋を這い上がった。
「正直になれ」
驚くほど妖艶な表情。
これが、あの鈴木雪なのだろうか?
さっきまで何を考えているか分からなかった鈴木雪?
その悪魔的な誘惑に、優治は引き込まれていた。
――そうか。
優治はようやく気付いた。
「僕は、君のことが好きなんだ」
434名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 05:03:14 ID:hXnf+/J8
>>431 ガクガク((((゚Д゚ ;))))ブルブル
435陽の光のなかで舞う雪 4 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/12(日) 05:03:45 ID:B7zJ1iG1
どうしてなんだろう。

なかなかやってこない待ち人。
下駄箱に靴があることと、部活に出ていないことは確認していた。
まだ校内にいるはずなのだ。
昨日のことがあったから、ちゃんと話をしておきたかった。
教室で会った時は、気まずくて陽子の方から避けてしまったけれど、
それでも自分の想いを告げておきたかった。
「……優治、まだ教室にいるのかな」

そして陽子は、見てしまった。

「どうして……」
ドアの隙間から、優治が愛を囁いているのが漏れ聞こえる。
陽子が覗いているのも知らず、二人は抱き合っている。
接吻が交わされ、舌が絡み合う。
雪の腕が優治の背中に回され、優治の右手が雪の胸に添えられ、
くちづけの音をくちゃくちゃと響かせながら、吐息の音を響かせながら、
雪がショーツをずらし、優治の左手はそこを撫でる。
どろどろに溢れた雪の中に、優治はゆっくりと挿入していく、
雪の甲高い悲鳴と、快感を堪える優治の呻き声。
陽子の目の前で、二人が愛し合う。
陽子は、その二人の姿を、しっかりと脳裏に焼き付けている。

――どうしてアイツなの。

「鈴、木、さんっ……っ……鈴木さんっ……はぁっ……鈴木さんっ……!」

――ひどいよ。ひどいよ、優治。

「好きだよっ、鈴木さんっ、鈴木、さんっ」

――あたしのこと、好きだって言ってくれたじゃない。

熱に当てられたのか。
自然と、陽子の指は自らの蜜壷を掻き回していた。
「……はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
一本、二本、三本……
優治のソレを想像しながら、陽子はひたすら指を出し入れする。
空いた左手で胸を揉みしだく。だって、優治はそうしている。

――優治、優治、優治、優治、優治、優治、優治、優治、優治。

優治のモノが自分の中に入れられている満足感に、陽子は浸る。
優治が陽子の乳首を捻る。
優治が陽子の肉芽を摘む。
痺れるような快感が思考を焼き尽くしていく。
「優治……優治ぃ……」
その声は、決して想い人には届かない。
涙を流しながら、陽子は達した。



優治と雪が教室から出る頃には、廊下には誰の影もなかった。
436 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/12(日) 05:04:45 ID:B7zJ1iG1
今回の書いてるとき、やたらとブチャラティを思い出した。
この味は! ………ウソをついてる『味』だぜ……

あと、エロをダイジェストで誤魔化した。エロくなくてごめんね。

つーか「蜜壷」とか「肉芽」とかいう単語、生まれて初めて使ったぜ。
何かの境界を越えてしまった気分だ。
いまなら何でもできる気がするよ。気がするだけだが。

そして、たぶん次回で終わり。

>>431
これマジですげーな。
感動ものだ。
437 ◆kQUeECQccM :2006/02/12(日) 08:01:11 ID:W8W32wkU
現在出先ですので更新滞っています。ごめんなさい。

>407 氏、他読んでいただいている全ての方
そういって頂けると本当に嬉しいです。できる限り純度の高いネタを提供できるように頑張りますので、どうかもう少しの間お付き合いください。

>◆tTXEpFaQTE氏
あの、すみません。ぶっちゃけ貴方は天才だと思います。
藍子ちゃんの愛らしさと、もとくんの綱渡り技術はもはや神の域。

>藍子「もとくん!!!!!!
   わたしと、そのひと、どっち!!!!」

>急に大声を出されて、驚く元也。
>ええと、御飯の事?
エクセレント。

>431
ちょ、おま、SUGEEEEE!!
寝起きの頭には刺激が強すぎたらしく微妙に手が震えてますw

名前変更についてですが、デフォルトで入力を求められるのではなく、
あくまでオプション扱いであれば全く問題ないと私は思っています。
ただ、呼称に揺らぎがある場合綺麗に置換ができるかどうかが心配だったりしますが…

おまけネタ
森川樹里→森川→がんばれ森川君二号→二号さん
…ねぇ、貴方は本当にそうなると思ってるの?
438名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 10:12:01 ID:Ee5yz8tg
>>436
凄いよ、あんた神だよ!
雪がエロくて何か高ぶってきたよ。
次回で終わるのが残念
439名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 10:33:17 ID:kpzuBgXT
431
音楽ファイル関係でエラーが出て進めないね
440名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 10:35:41 ID:7q6ytDBo
>>436
もっと続いてくれなきゃ(´・д・`) ヤダ
雪タソ萌えるんだよ、頼むよ、マジデ
期待してるんだから〜
441『鏡』 ◆AsuynEsIqA :2006/02/12(日) 10:40:39 ID:lG1XjR6z
同日 森崎宅

「姉さん、話があるの。」
「ん?なになに?」
夕食を食べながら真奈に話を切り出す。

「あのさ、真奈、涼さんと別れてくれない?恋人として。」
「え…?な、何言ってるのよ〜真由ったら。冗談はやめてよぉ。」
「私は本気よ、真奈。私が涼さんの恋人になるの」

「ちょ、ちょっと!何脈絡のない事いってんの?そんなのに賛成できるわけないでしょ!?」

「いいじゃない。真奈は周りから褒められて、友達も多いし、涼さん以外にも恋人なんてできるでしょ?簡単に。だから私に涼さんを譲ってもいいんじゃないの?」
だんだんと目が座ってく真由。
「い、嫌よ!!涼くんだけはダメ!!絶対、絶対ダメ!やっと恋人同士になれたのに。別れるなんて絶対嫌!」
「フフ。アハハハ。恋人?真奈がしてるのは恋人ごっこじゃない。男としてじゃない、幼馴染として好きの延長上にいるだけよ。私は違う。男として涼さんだけを愛せる。涼さんがいれば他は何もいらないわ。真奈、あなたもいらない。」

「男として愛す?アハ、いいわよ。わかったわ真由。明日の昼休みが終わる頃、屋上に来なさい。そうすれば私たちの仲がわかるから。」
そのまま味気無い夕食を終えた
442『鏡』 ◆AsuynEsIqA :2006/02/12(日) 10:42:26 ID:lG1XjR6z
翌日

晴れ渡る空。
「あー。良い天気だ。」
柄にも無い事を言ってみる。そうでないとおかしくなりそうだからだ。
「………」
「………」
「う」
重い。いつより明らかに機嫌が悪い。姉妹喧嘩でもしたのだろうか。まぁ俺の割り込む余地は無いだろう。二人とも目が座ってるからあまり触れたくない。


教室

「坂巻君」
「あ?」
クラスの女子が教室に入った途端話しかけてくる。顔は覚えてるが名前は……忘れた。
「須加先生が探してたわよ。今度の委員会のことで。」
「あぁ、わかっ、だ!」

返事をし終える前にぐいと強い力で腕を引き寄せられる。見ると真奈が笑顔のままキリキリと腕を掴んでいる。
「高野さん、今度からそういうのは私に通してくれるかな?」
「え?あ、うん」
「ほら、職員室行くよ、涼くん。」
強引に廊下に引きずり出される。
「一人で行くっての。なんだよ、いきなり。」
「アハ、ダメよ。私がいないと、また変なのが寄ってくるでしょ?涼くんの居場所は私の隣りだけでしょ?」
そう言って腰に絡むように抱き付いてくる。歩きにくいし周りの目線が痛い。そのまま職員室へ。須加も話ながら俺に目を合わせない。職員の目が痛い。
結局授業中以外はずっと隣りに引っ付いていた。須加に言われた事を同じ委員の池田に伝えようと話しかけたら、思いきり抓られた。
「いだだだ!」
「アハ。だから、私が、代わりに伝えるって、言ったじゃない。」
真奈の手を払う。
「あのなぁ!拘束するつもりならやめてくれ!」
「拘束?違うよー。恋人として当たり前の事でしょ?常に隣りにいて、何が悪いの?」
「そんな一方的に押しつけるのはやめてくれ。恋人でもある程度距離をあけるもんだろ。それに今日のお前、なんか変だぞ?真由と喧嘩したからって八つ当たりはやめ…。」
「真由の名前を言わないで!!」
そう叫びながら胸倉に掴み掛かり、強い力で締める。苦しいと肩を何度か叩くと、我に帰ったように手をはなす。
「あ、り、涼くん。ごめんね。ごめんね。苦しかったよね?ごめん。もう二度としないから許して。嫌いにならないで。ごめん、ごめん、ごめん。」
半泣きで抱き付いてくる。正直恐怖を感じた。今日は逆らわない方がいいな。

「わかった、わかった。許すから。…飯食いに行くぞ。」
「うん!!」
晴れた笑顔で教室を出ていく真奈。それを追う様に、静まった教室から俺も抜け出した。
443『鏡』 ◆AsuynEsIqA :2006/02/12(日) 10:44:40 ID:lG1XjR6z
この神々が集まる中に拙い自分の作を投下するのが恥ずかしいですorz

とりあえず
藍子萌へ。
444名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 12:10:12 ID:XQkf7F7n
何を、貴方も神の一人だ。


真由萌へ。
445名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 12:50:25 ID:0mFRD2WI
最近凄まじいスピードで修羅場スレが発達してる・・・
446名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 13:02:32 ID:k0qMctE2
某スレのように半月で一スレ埋まるような良スレになることを願う
447名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 13:19:24 ID:u/tXEv57
>>442
あなたは神か?

失礼ですが、神の証明を
448名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 13:54:13 ID:CdKyRhZE
修羅場?萌え?セクース?
なんのことです?
449431:2006/02/12(日) 14:28:57 ID:7ZuGG0TX
楽しんでいただいているようで何よりです。
あとテキストウィンドウのサイズが変わるごとにバックログが読めなくなってしまうことを謝罪しますorz
これはNSの仕様で、やり方次第では何とかなるかもしれないけど何せ勉強不足。
>439
あれま。音楽が鳴りませんか。
とりあえずこちらでは正常に鳴り(当たり前)、他のプレイヤーも正常に鳴っているようなので、
原因はダウンロードするときにファイルが破損してしまったか、そちらのPCがMIDIが上手く鳴らない環境なのかもしれません。
お手数ですがもう一度ダウンロードしなおし、それでもダメでしたらどの場面で止まるのかと動作環境を教えてください。
こちらはほぼ初めてNSを使ったものですからサポートできないと思いますがorz
あと、音楽なしでも良いから進めたいなら
    play "(ファイルパス)"
の文頭に半角セミコロン(;)をつけてください。(セミコロンがコメントの印になる)

今『姉貴と恋人』もやってみているんだけど、BGM設定がムズかしー。
全部の作品にいえることだけど、雰囲気が基本的にダークだからのんきな音楽鳴らすわけにはいかないし……
450名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 16:07:51 ID:djp31zTq
>>449
GJ!!

他の作品のサウンドノベル化も期待してます。あとは絵師さんが居ればいいのになぁ
451阿修羅:2006/02/12(日) 17:22:53 ID:v+bYSvEp
>>442氏の投稿作品までの内容でまとめました。
・・・が、ここ数日、レンタルサーバのほうが繋がりにくくなっています。

>>431
サウンドノベル化乙!
サイトでも掲載したいと思うのですがよろしいでしょうか?

とにもかくにも
全作品の嫉妬ヒロイン萌へ。
45227&70:2006/02/12(日) 17:55:40 ID:w5TC7NSJ
どうやらおいらは勘違いしてたみたい
嫉妬・三角関係の肝は、黒化w したヒロインの心情描写にあるんであって、
エロは必ずしも必要無い、いやむしろ余計な付け足しなのかも
む〜難しいぃ〜〜
続き書いてるけど、ただのエロエロになっちまったよ
453名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 18:24:19 ID:7q6ytDBo
エロパロ板なんだからエロくてもなんら問題はないよ
胸を張れ
454優柔 第5話◇7IWcnPZ2:2006/02/12(日) 18:38:03 ID:4YDBAB9s
「ゆう君に別れようって言われた後ね・・・私、考えたんだ。
あの優しいゆう君が、『学校で会っても話しかけてこないでね』なんて言ったぐらいなんだもん、きっと私に問題があるんだろうって。
だからこの1週間ずっと、今までの自分の行動を振り返ってみたの・・・私、ちょっと酷かったよね。
自分のことばっかりで、ゆう君の気持ちを考えてなかった。何でもかんでも干渉されたら、誰だって嫌になるよね。
ゆう君・・・今までほんとに・・・ごめんなさい」
それは思ってもみない言葉でした。
・・・もしかして、今日来たのは・・・謝りたかったから?
は、はは、そうなんだ。何だ、そんなことだったんだ。
肩の力がスッと抜けた感じがします。
「い、いや、謝らなくてもいいよ。そんなに気にしてないからさ」
「・・・ほんとに?」
「ほんとほんと。僕って結構、楽観的なところがあるから。むしろ僕のほうこそ悪かったなって思ってる。
あんな酷い言い方無いよね。こちらこそごめん」
「ゆう君・・・じゃあ、許してくれる?」
「許すも何も。ああ、良かったよー、実は言いすぎたなーって思ってたんだよ。罪悪感ってやつ?」
安心したからでしょうか、僕は無駄に口数が多くなっていました。
でもこれで一件落着ですね。お互いに心残りが無くなったし、これからは友達に戻れ―――

「これで仲直りだね。私達、もっと素敵な恋人になろうね」
・・・え?
「皆に羨ましがられるような、そんな恋人に」
・・・ちょっと・・・
「明日お弁当作ってくるよ」
・・・何言ってんの・・・
「おかずのリクエストある?久しぶりだから豪華にいこうかな」
・・・少しでも期待した僕が馬鹿でした。彼女がそんな簡単に諦めるわけが無いのに。
僕は・・・阿呆です。どうしようもない阿呆です。
今から言わなくてはならないことを考えると、胃が痛くなってきました。
僕に復縁の気が全くないことを、ちゃんと言わなければなりません。
455優柔 第5話◇7IWcnPZ2:2006/02/12(日) 18:38:43 ID:4YDBAB9s
「ハンバーグにエビフライに唐揚げに・・・って、ちゃんとお野菜も入れなくちゃ」
「・・・椿ちゃん」
「美味しいだけじゃなくて栄養バランスも考えて・・・」
「椿ちゃん!」
「な、何?」
「僕・・・やり直す気なんてないよ」
「えっ・・・」
「別れようって言ったじゃん」
「えっ、でも、許してくれるって・・・」
「過去のことは水に流そうって意味だよ。元の関係に戻ろうなんて一言も言ってない」
「・・・も、もう、ゆう君ったら、そんな冗談言って。笑えないよ」
「僕は・・・本気だよ」
「ゆう君・・・」
「もう君とは付き合わない」
「嘘・・・」
「・・・もう、帰るよ。さよなら」
彼女の悲痛な顔を見ていると、僕は居た堪れなくなってきました。
これ以上この場にいたくありません。
「待ってよ、私、ちゃんと謝ったよ?ねえ、行かないでよ?」
僕の袖を掴んで離そうとしません。
「僕のことは忘れてよ・・・」
「嫌・・・そんなこと言わないで・・・私、何でも言うこと聞くから、ゆう君のためなら何でもするから!」
「離せよ!!」
密着してくる彼女を、僕は振りほどきました。
僕が怒鳴るなんて初めて見るでしょうから、驚きを隠せないようです。
でも、その驚きは、違うものに対してでした。
「・・・女の人の・・・匂いがする・・・」

女の人の匂い、それは先輩のです。
僕は香水なんか付けたりしないので、彼女はすぐに気付いたのでしょう。
目を見開いて、身体を震わせています。
無理もないと思います。少し前まで自分の彼氏だった人が、他の女と寝たんですから。
・・・もう嫌だ。でも、言わなきゃ。
僕はトドメの言葉を言い放ちました。
「さっきまで・・・セックスしてたんだ」
途端に、彼女の目から涙が溢れ出しました。
前に別れ話をした時とは比べ物にならないほど、次から次へと流れていきます。
「・・・うっ・・・ううっ・・・ひぐっ・・・」
前まで僕を束縛して、暗い瞳で僕を睨む彼女では、ありませんでした。
ただ身体を震わせて泣くだけです。
誰もいない公園に響き渡る嗚咽が、僕の胸を締め付けます。
―泣かないでよ。僕が悪いみたいじゃないか。
女性の泣き声は聞きたくありません。早く逃げ出したいです。
―放っておこう。もう関係ないんだから。ここで優しさを見せたら駄目だ。
でも、足が動きません。
―何してるんだよ、この子とは切れたんだろ?
僕はポケットに手を入れました。
―やめろよ、彼女はもう他人だろ・・・
僕はハンカチを取り出すと、彼女に渡しました。
456優柔 第5話◇7IWcnPZ2:2006/02/12(日) 18:39:22 ID:4YDBAB9s
僕は、彼女が泣き止むまで傍にいて、携帯を貸して家に連絡させ、
そして、女の子の一人歩きは危ないからと、駅まで送ってしまいました。
彼女とは別れたんだから、そんな気を遣う必要なんてないのに。
諦めさせようと冷たく接しましたが、最後の最後で詰めが甘くなりました。
僕はそんな人間です。
僕は誰も傷つけたくないんです。
僕は、傷つきたくないんです。

「・・・ゆう君、やっぱり優しいね・・・私・・・諦めないから・・・ゆう君のこと・・・信じてるから・・・」
別れ際、彼女は振り返って僕に言いました。泣きはらした目で、無理に笑顔を作って。
それは僕に、得体の知れない不安を抱かせるのでした。

ベッドの上で、携帯に留守番が入っているのに気が付きました。
・・・先輩からです。
『もしもし、アタシ。今日はその・・・あんな展開になっちゃったけどさ、まだ忘れられないって言うんなら、その・・・また慰めてやってもいいかな、なんて。
だから、いつでも連絡しろよ?いつだってお姉さんに甘えていいんだからな。それじゃ、また学校でな』

今日は色んなことがあり過ぎて、あまり眠れませんでした。
457◇7IWcnPZ2:2006/02/12(日) 18:43:13 ID:4YDBAB9s
管理人様乙です。
本当は5話完結の予定だったのに軽く2,3倍はいきそう

・・・簡単に殺したりなんか・・・しませんから・・・
458名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 18:47:24 ID:k0qMctE2
リアルタイム投下キター!
長くなる分には無問題、
wktkしながら待ってます。
459名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 18:56:28 ID:wjYd2yFW
毎晩このスレを覗くのが楽しみだ
460名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 19:01:01 ID:pyuUjQtO
なんでこのスレが立ち上がるのに時間が掛かったのか
良作を見ると思わずにいられない
461名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 19:07:00 ID:+XoqUCNg
時間が掛ったからこそ良作が生まれた気もする。  
462名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 19:36:00 ID:hXnf+/J8
>>457 ガクガクガク(((((((゚Д゚ ;)))))))ブルブルブルブル
463名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 20:17:06 ID:oO7Cy72w
すごい良スレだな。
久々にこんな良スレ見たよ。
464名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 20:22:46 ID:29VzW8h+
>>「これで仲直りだね。私達、もっと素敵な恋人になろうね」
あるある(笑)
465名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 22:04:08 ID:djp31zTq
ゆう君そこで優しくしちゃダメー!!!
466名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 22:04:09 ID:mduX/qA5
>>457
ノーマル三角関係へ行くのか、サイ娘へ突っ走るのか非常に楽しみです。
467名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 22:28:24 ID:ZJEezjaZ
ここって男の嫉妬もあり?
4688 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/12(日) 22:29:35 ID:1CLlquhH
>467
自分的にはアリだけど需要は少ないと思われ
469名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 22:35:17 ID:kan5dk3Y
男の嫉妬は勘弁してください
470名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 22:41:04 ID:0mFRD2WI
男の嫉妬ってのは寝取られのことか?
・・・俺は寝取られダメ派だ

書くならちゃんと前書きしてから上げてくれ
471名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 22:44:36 ID:5iCH0Zu5
オレも寝取られはダメだ。 
472名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 23:12:51 ID:NrGsrBBh
男の嫉妬とだけ言われても寝取られと判断できないけど、
寝取られっぽいんであれば、そっちのスレに投下した方がいいな。
473名無しさん@ピンキー:2006/02/13(月) 00:06:51 ID:y+r+KXql
前書きすればいいと思うが…

正直漏れは勘弁願いたいな。
474名無しさん@ピンキー:2006/02/13(月) 00:24:11 ID:bo2zuC44
ショタ・・
いや、なんでもない。
475名無しさん@ピンキー:2006/02/13(月) 01:21:50 ID:01fail03
>>474
そのような煮え切らない態度が修羅場を招(ry
476 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/13(月) 01:51:48 ID:z12KOY0c
主人公の親友(男・女装趣味)に嫉妬の炎を燃やすヒロイン…
というのを連想したけどそれは「男の嫉妬」じゃなく「男への嫉妬」だった罠。
477名無しさん@ピンキー:2006/02/13(月) 01:56:39 ID:TS7xJPTG
>>476
とても読みたいであります!
478『鏡』 ◆AsuynEsIqA :2006/02/13(月) 01:58:20 ID:Snht8pfw
いつものように屋上に出る。何だか空が曇ってきた。反面真奈は…
「はい!」
「お、おぉ。」
全力の笑顔。今は自然であり不自然に感じる。終始その笑顔のまま弁当を食べ終えるといつものように
「は・み・が・き」
抱き付かれながら上目遣いで言われる。男の性なのか。ふだん無欲な俺もドキリとする。
「ん、ふぅ」
キスをしながら真奈の腰に手を回す。なんだか普段より興奮しているのがわかる。たっぷり一分近くキスをし、唇を離すが…
「ん、んん!」
真奈に再度キスされながら、全体重をかけられ押し倒される。
ガン!
「んぐ!」
とっさの事に、手で受け身をとれず、強く頭を打った。一瞬視界がぼやけ、耳に高鳴りが響く。
「ん、んんぅ、ふう、はぁ」
こっちが苦しんでいる事に構わず、真奈は口内に無理やり侵入する。
「んく、んく、んく、ぷぁ。はぁぁ。涼くん。唾飲んで。私の唾。んん。ぅう」
押し込むように大量の唾を流し込まれる。そうやって口を攻められたためか、頭がまともな思考しなくなる。
(真奈がホシイ)
そう本能が理性を破り、叫び出す。腰がむず痒さとともに熱くなる。
「あぁ、凄いよぉ。涼くん、興奮してる。私で興奮してる。」
「あぁ、真奈!!」
獣の様に混じり合う。sexは前に一度だけした。互いに初めてで、見本の様に初々しかった。でもこのsexはそれとは違う。「愛」ではなく、「欲」を求める性交。「欲」=「愛」と勘違いをする。
前とは比べようのない快感を得る。
「ん、ん、んん、いい!イク、イ、イクゥゥゥゥ!!」
「くっ!」
オルガで体が震える。何の考えも無く、全てを膣へブチまける。何度も精の塊が流し込まれる。
「ハァ、ハァ、ハァ、ん、はぁ、あつぅい、よぉ……フフ、ハハハハ。したくなったら、いつでも言ってね。どこででも何度でもやらしてあげるから。…ね?」
そのまま放課後まで、倒れ込んだまま過ぎていった。
479『鏡』 ◆AsuynEsIqA :2006/02/13(月) 02:01:56 ID:Snht8pfw
帰り道。雨が降っていた。真奈が持って来ていなかったため、二人寄り添って俺の昨日置きっぱなしだっ傘で帰る。
「あーっと…体、大丈夫か?その……あんなに激しく…ヤッて」
「え…うん。なんともないよ。平気平気。」そう言って更に体を寄り添わせる。見ると顔が真っ赤になっている。雨に濡れて冷静になったため、少し恥いているのだろう。会話に乏しいままYの字分岐に着く。
「あ、私今日バイトだからこっちだ。」
「ん、おぅ。そうか」
普段なら送っていくところだが、さっきの後のため、早く一人になりたかった。
「じゃあこの傘持ってけよ。俺は家まで近いから大丈夫だからさ。」
「う、うん。ありがとう。……じゃあ、また…」
「ん、またな。」
少ないやりとりを経て別れる。



「はぁーー。しっかし、今日の真奈はなんだったんだ?少し怖かったし。」
そう一人でぼやいていた。少し歩きだしながらうつむいていた刹那。
キキィィーーーーー!!!!!!ドン!!!
少し遠くから聞こえた急ブレーキに続く鈍い音。その音から考えられる可能性を思い描く。
「ははっ、まさか、な。」
言葉とは裏腹に、足は来た道を戻る。だんだんと早足に、そして走り出す。
先程のYの字分岐まで戻り、真奈の行った道を行く。
「ハァハァハァハァ。………はは、あっはははは。なんで……なんで……だょ。」
目の前の最悪の光景にタダ空笑いが漏れるだけだった。
道の真ん中に止まる白のワゴン車。
開いたままひしゃげた赤い傘。
俯せに倒れる一人の愛しい少女。その体からは赤い水が雨と共に流される。
「マナ!マナァ!!マナァァァァ!!!!!」
ただ少女に抱きつき、叫ぶしかなかった。認めたくない。夢を覚ますように叫ぶ。
だが無情にも降り注ぐ雨が激しさを増し、現実を押し当てられた………………

End 『Ryo Side』
480 ◆AsuynEsIqA :2006/02/13(月) 02:07:03 ID:Snht8pfw
一応、>>339>>350>>351>>442>>477>>478で涼編が一段落です。

続いて真由編→真実編となる予定です。
びみょ〜〜〜に伏線張ったんですけどねぇ……回収できるか心配です(´・ω・`)
481 ◆AsuynEsIqA :2006/02/13(月) 02:08:49 ID:Snht8pfw
被ったorz
>>477でなく>>478>>479
482名無しさん@ピンキー:2006/02/13(月) 02:09:00 ID:eaOK9u3u
君望!!?
483名無しさん@ピンキー:2006/02/13(月) 02:17:43 ID:Mk/2L6/4
つかさ。
まさか椿ちゃん萌えが俺だけではあるまいな
484名無しさん@ピンキー:2006/02/13(月) 02:21:02 ID:+OVZO1uQ
>>481
それなんて君望?
485 ◆AsuynEsIqA :2006/02/13(月) 02:25:23 ID:Snht8pfw
決してパクリ出ない事を御理解頂きたいm(_ _)m
486名無しさん@ピンキー:2006/02/13(月) 02:40:43 ID:WXm0SC3v
2日来なかったら、良作多すぎてもう感想レスが間に合わんorz

>>480
双子要素+事故……?
なんとなく真実編はどろどろダークな予感が(w
487合鍵 第十五回  ◆tTXEpFaQTE :2006/02/13(月) 04:34:49 ID:oB6EQRnu
合鍵  第十五回


「ええと、その、よろしかったら、変わりばんこでお願いします」

そう言って、藍子とサキの顔色をうかがう元也。
藍子が、唇を噛んでいるのが見えた。肩も震えているのが分かる。
だが、瞳は髪に隠れて、見えなかった。

サキを見る。相変わらず、微笑んでいる。こっちは、いつも通りだ。
とりあえず、ホッとした。

しかし、元也からは見えない、テーブルの下では、爪が食い込むほど、手を握り締めていた。
その痛みで、辛うじて、微笑を保つ理性をキープしていた。
しかし、その理性も薄皮一枚の様なものである事を、彼女は自覚していた。
それでも、微笑むサキ。
感情に任せて、爆発する藍子とは違うところを、元也に見せたかった。

なんとも重い雰囲気の中、食事の音だけが、部屋に響く。
藍子とサキ、二人とも、相手がいないかの様に振舞う。
おかわりをするか、藍子は元也にだけ尋ねる。それを悪いと思った元也が、サキに尋ねる。

もう、お腹は一杯だったが、嫌がらせのために、サキはおかわりを頼んだ。
忌々しげに、サキのお皿を受け取ると、藍子は立ち上がり、サキと元也のお皿を持って、
キッチンへと向かう。

サキ「ねえ、元也君、気になってたんだけど、何で、藍子ちゃん、あなたより先に、ここに
   入る事が出来たの?」
藍子がいなくなったので、サキが元也に話し掛けた。
サキ「なんで、自分がいないとき、彼女が上がってたのに、驚かなかったの?」

元也「ええと、それは…」
言いよどむ元也。
毎朝、独りじゃ起きれないので、藍子に頼んで、起こしに来て貰うので、
合鍵を渡してあるからです。
とは言いづらい。

サキに、そんな、藍子に甘えてる事は知られたくなかった。
情けない、と、呆れられる事は嫌だった。

サキ「ねえ!なんでなのかしら!?」
語尾も荒く、元也に迫るサキ。

「だって、わたし、もとくんから、このおうちの、合鍵、もらってますから」

サキが声の方を見ると、藍子がカレー皿を手に、リビングに戻ってきてた。

藍子「これで、まいにち、まいあさ、もとくんを、起こしに、来るよう、
   もとくんに、頼まれてるの」

488合鍵 第十五回  ◆tTXEpFaQTE :2006/02/13(月) 04:35:32 ID:oB6EQRnu
>>487の続き

そう言って、カレーをテーブルの上に置くと、胸ポケットから、合鍵を取り出し、
サキの目に見せ付けた。
そして、口元をほころばせる。
今日、この家にサキが入ってから、初めて見せる、藍子の笑顔だ。
サキに対して、勝ち誇るかのように、言葉を続ける。

藍子「もとくん、小さい頃から、本当に小さい頃、幼稚園に入る前ぐらいから、ずっと、ずっと、
   朝が弱かったんです。だから、もう本当に、小さい頃から、毎朝、もとくんを起こしに行くのが、 
   私の朝の日課でした。
   もとくんの、お母さんでもなく、お父さんでもなく、私の仕事なの。
   幼稚園、小学校、中学校、それで今、高校に入っても、やっぱりもとくんは朝が弱くて、
   やっぱり、もとくんは、私が毎朝起こしてあげなくちゃ、ダメなんで、だから、私、今も
   毎朝、もとくんのおうち、もとくんのお部屋にまで行って、それで、毎朝起こしてるんです。
   きっと、今まで、休みの日でもない限り、私がもとくんを起こさなかった日は無いと思います。
   ううん、絶対にないわ。
   もとくんを起こして、もとくんが学校に行く仕度を済ますまで、もとくんのお母さんとお話
   して、もとくんの仕度がすむと、一緒に学校まで行くのが、もうずっと、ええと、十年以上
   続いています。
   いま、もとくんのお母さんとお父さんが、外国に行っちゃってるから、私、朝、おうちに入れなく
   なっちゃって、そしたらもとくん、毎日遅刻しちゃうんです。やっぱり、私がおこさないと、もとくん、
   ダメなんです。
   だから、もとくん、合鍵をくれました。私に、くれました。嬉しかった。毎日、起こしに行くって、
   もとくんと約束しました。
   毎朝、合鍵で、おうちに入って、もとくんを起こしてます。ちょっと、早めに行って、朝ご飯も
   用意してるの。もとくん、喜んでくれてるの。
   私の、頼まれた、ことなのよ!!!!!
   いいでしょ!!!!
   羨ましいでしょ!!!!!!」

元也「藍子!」
サキに噛み付くような勢いで話し続ける藍子を、制止させる元也。
元也「何言ってんだよ!
   サキさん、困ってるだろ!」

すいません、と、元也がサキに声をかける。
それさえもが気に入らない藍子が、
もとくん!!!!と大声を出す。

それを無視して、サキを見る。
元也と目が合うと、サキは、困った顔で、微笑んだ。

こんな時でも、微笑んでくれるサキに感謝しながら、元也は、そろそろ帰りますか?
送っていきます、と言った。
サキも頷いて、もう、帰った方がいいみたいね、と言った。

サキが、もう一度、藍子を見た。
その表情は、般若のようだった。人は、嫉妬で、こんな表情になるのかと改めて驚いた。
私も、こんな醜い表情をするのかしら?きっと、しちゃうんでしょうね。
そう思うと、胸に、収まらないほどの藍子への不快感があったが、それでも、自然と、
クスクスと笑みがこぼれた。
489名無しさん@ピンキー:2006/02/13(月) 04:42:56 ID:Xw4llcIt
>>488
長台詞キター!!
藍子タンハァハァですよもう。
490名無しさん@ピンキー:2006/02/13(月) 04:44:07 ID:Pa56yNoy
藍子に性欲をもてあます
491名無しさん@ピンキー:2006/02/13(月) 04:44:31 ID:TS7xJPTG
>>私の、頼まれた、ことなのよ!!!!!
>>いいでしょ!!!!
>>羨ましいでしょ!!!!!!」
確率変動キタァァァァァ!!
もとくん!!!
492名無しさん@ピンキー:2006/02/13(月) 04:45:38 ID:TS7xJPTG
藍子ならもとくんに対して小一時間くらいの問い詰めをやってくれそうだ
493名無しさん@ピンキー:2006/02/13(月) 07:59:51 ID:Mfu8updE
>>478
まあ古来より双子がいたら、○○を疑えとあるからな。基本だよ。
494名無しさん@ピンキー:2006/02/13(月) 08:42:36 ID:eaOK9u3u
藍子テラ萌え
495名無しさん@ピンキー:2006/02/13(月) 10:08:31 ID:v9vZ0osa
藍子テラモエスwwww
496名無しさん@ピンキー:2006/02/13(月) 10:39:01 ID:Mk/2L6/4
藍子大人気
497名無しさん@ピンキー:2006/02/13(月) 11:09:05 ID:Ob10Yfvp
せっかくだから漏れはサキタソ応援しちゃうぞ!
498名無しさん@ピンキー:2006/02/13(月) 11:34:55 ID:Z7KAD2QL
サキ「えぇ、羨ましいわね。じゃあ、代わってくれない?」
499名無しさん@ピンキー:2006/02/13(月) 14:10:11 ID:LXEV+6C+
藍子みたいな子が彼女に欲しい
絶対浮気はできないが
500名無しさん@ピンキー:2006/02/13(月) 14:26:55 ID:/ZnIPxM9
しかも藍子たんは人のベッドで一人エッチしちゃうような子だからな
最高だ。

でもサキも巻き返してくれるはず
501名無しさん@ピンキー:2006/02/13(月) 14:29:10 ID:gCK9GtZO
二人ともコワスww
502優柔 第6話◇7IWcnPZ2:2006/02/13(月) 18:39:23 ID:h+lN4rKh
私の嫌いなタイプ、男らしくない男―それが、愛原優希の第一印象だった。
運悪く体育祭実行委員に選出され、初めての集会であいつに会った。
頼りなくて、話かけても曖昧な態度を取る・・・コイツ、女子が苦手だな。
同じブロックの下級生なのに、これでは円滑な作業ができない。
私は愛原の、女子恐怖症を払拭してやろうと思った。
半分は円滑な作業の為という大義で、もう半分はただの暇つぶしという理由で。
パシリに遣ったり、暴言吐いたり、関節極めたり・・・
なんだかんだしてる内に、愛原と仲良くなってた。

愛原は、どこまでも優しい。
煮え切らない態度、優柔不断・・・そうじゃなかった。
相手の気持ちになって考え、行動する。
相手のことを気遣って、自分のことを後回しにする。
誰の悪口も言わない、そうするくらいなら長所を見つけようとする。
全てを受け入れ、肯定する。
・・・何も拒まないんだ、コイツは。こんな人間は初めてだ。
私を・・・愛原なら、私を受け入れてくれるだろうか。

気が付けば、いつも愛原のことを考えていた。
その笑顔を思い出し、拍動が激しくなった。
時に見せる優しい眼差しに癒された。
意外に逞しい身体の感触を思い出し、自慰をしたこともある。
私は完全に恋をしていた。

体育祭が終わった後も、二人でどこかへ出かけた。
男勝りな先輩と、それに引っ張られる後輩・・・いつまでこの関係を続ける気だ、私は。
私は顔も身体も悪くない、それは分かっている。私が彼女でも、恥ずかしいことはないと思う。
好きだと言ってしまおうか、そうすればこんなに苦しむことは無いのに。
でも・・・振られてしまったら?
疎まれてしまったら、私はどうなる?
それが怖くてできなかった。
愛原、お前が私に告白してくれ、私を好きだと言ってくれ。
そして気づいてくれ・・・私は、臆病なんだ。
503優柔 第6話◇7IWcnPZ2:2006/02/13(月) 18:40:00 ID:h+lN4rKh
愛原に呼び出された。大事な話があるという。
やった、私の願いは叶ったんだ。私を愛してくれるんだ。
「先輩、聞いてください。僕・・・生まれて初めて彼女ができたんです」
目の前が真っ暗になった。聞こえてくるのは、愛しい愛原の声だけだった。
「隣のクラスの子なんですけど、ずっと前から気になってて」
―嫌だ。
「勇気を出して告白したんです。そしたらOK貰えて」
―聞きたくない。
「実は僕、女の人と話すの苦手だったんですよね。でも先輩のおかげで克服できたんです」
―止めて。
「だから先輩にはめちゃくちゃ感謝してます。あの、先輩・・・本当にありがとうございました!」
この時ほど自分を恨んだことはなかった。
自分の不甲斐無さが悔しくて、誰もいない教室で、声を押し殺して泣いたのを忘れない。

ヤケになって他の男と付き合った。でもやはり満たされなかった。
私にはお前しかいないんだ。他の誰でも駄目なんだ。
付き合った男には身体を触られたし、キスもされた。
でも、それ以上のことはさせなかった。貞操は守ったつもりだ。
だから屋上で見つけた時は、今しかないと思った。
彼女と別れて傷ついてるお前を慰める・・・本当は、処女を奪って欲しかったのだ。
ずるいやり方なのは分かっている、でも嬉しかった。
初めての相手が愛する人だったんだから。

翌日の体育の授業、男子と合同だった。
やっぱり視線を感じる。胸や尻に向けられる、へばりつくような視線。
前まで気にしないようにしてたのに、今は特別憎く感じる。
そりゃそうだ、私の身体はお前等の目の保養の為にあるんじゃない。
私の身体は、愛原のものだ。
お前等の下衆じみた視線で汚すな。

本当は愛原を独り占めにしたい、私だけを見て欲しい。
でもあいつは、束縛が嫌で彼女と別れた。
だから独占欲を見せたら駄目だ。
私のキャラは、細かいことを考えなくて、掴みどころのない先輩。
しばらくそれを演じなければならない。
いつか恋人になれるだろうか。
いつか私のことを『先輩』じゃなくて『綾乃』と呼んでくれる日が来るだろうか。
『愛原』じゃなくて『優希』と呼べる日が来るだろうか。
私を愛してると言ってくれるだろうか。

愛原には彼女がいない。そして、私の身体を受け入れてくれた。
もういいんじゃないか、自分から好きだと言っても。
でも、恐い。まだ言えない。
もっと身体を重ね合わせて、もっと時間を掛けなければ。
絶対大丈夫、そう思えるまでは言えそうにない。
愛原、私は強くない。お前のことを考えて、お前に嫌われないように行動する。
お前は私が、虚勢を張ってるだけということを知ってるだろうか。

私は今も・・・臆病なままだ。
504名無しさん@ピンキー:2006/02/13(月) 18:51:08 ID:f9MqLPag
今「義理の妹」対「実の姉」っつー電波が飛んできた
505名無しさん@ピンキー:2006/02/13(月) 19:26:05 ID:eotdkCPS
>>502
せ、先輩がッ! これはとてもよい修羅場的燃料ですね。
506『鏡』 ◆AsuynEsIqA :2006/02/13(月) 20:32:52 ID:Snht8pfw
「あー。いい天気だ」
涼さんが柄にも無い事を言う。
「………」
「………」
「う」
私も真奈も何も返事をしない。昨日宣戦布告してから、互いに一言も口にしていない。涼さんは欠伸をかいていた。自分のことで争われているというのに。呑気だ。でも怒りはわかない。当然だ。アイシテルカラ。

学校
真奈がこれみよがしに涼さんに引っ付いていた。廊下で私と擦れ違う時、明らかに私と目を合わせ、挑発していた。腹が立つ。
私の恋人に。私の恋人に。私の恋人に。私の恋人に……。更に黒い炎が強くなる。
昼休み
真奈に言われた通りに屋上へ行く。どうせ一緒に昼ご飯を食べているのを見せつけたいだけだろう。
………思いもしない光景が飛び込む。
真奈と……涼さんが…抱き合っている………?
いや、チガウ。アノ女が……無理やり押し倒しているんダ。
私の涼さんが。あのきたない女に汚される。
フザケルナフザケルナフザケルナフザケルナ
感情が高ぶるとともに、体が熱くなる。
止めに行きたいのに、足が動かない。物陰に隠れる様にしゃがみ込み、スカートをめくる。二人の行為を覗き見ながら、自慰を始める。アア、この指が涼さんの物だったら。あそこにハァハァ…涼さんがいるのに近付けない。あの女が邪魔だ…
(ん…んぐ!り、涼さん、涼さん、……涼さぁん!!!!)
「んんんぅーー!」
二人と同時に私もイった。アノ女は涼さんに多い被さりながら、こっちを見ながらウットリとしている。気付いているんだ。
…………もう迷うことは無い。私は涼さんがいればそれだけで良い。あんな女はイラナイ。消してしまえばいいんだ。
507『鏡』 ◆AsuynEsIqA :2006/02/13(月) 20:36:13 ID:Snht8pfw
帰り道。
傘をさしながら人気の無い道の途中でアノ女を待つ。今日はバイトなはずだ。ならばこの道を来るはずだ。…………来た。
運良く一人で歩いている。涼さんはいない様だ。殺るなら…今だ。
「真奈…」
「…真由……どうしたの?」
薄ら笑いを浮かべている。
「今日、屋上に来てたわね。フフフ。私たちのやってるところを見て、一人で弄っちゃうなんて。とんだ変態さんね。」
五月蠅い
「でもわかったでしょ?私たちがどれだけ愛し合っていたか。涼くんだって自分から私を求めてくれたわ。」
ダマレ
「だからね、あなたの入り込む余地なんで少しもないの。まぁ、他の男でも見つけなさい。」
道の向こうから聞こえる。この女の死に神となる音が。
「クスクス……………心配しなくても、いいですよ。真奈…………私がクスクス……涼さんを幸せにするから……」
「わからない娘ねぇ。だから…」
「……サヨナラ」
それだけ言って、思いきり真奈につかみ掛かり、前へ押し出す。
「きゃあ!」
突然のことに、持っていた傘から手を放し、つまずいた様に道の真ん中へ…そして……
キィィーーーーー!!!ドン!!
空に舞うからだ。放物線を描き、地面に叩き付けられる。
「……アハハハ…ハハハ……アーッハハハ!やった!殺った!殺った!」
でもまだ喜ぶのは早い。ここから逃げないと。回りを確認する。誰も見てない。急いで傘を拾い、住宅街の裏道を走り抜ける。アパートへ続く大通りに出る前に、傘をさし、息を整える。思わず顔がニヤけてしまいそうだが、平静を装う。
そのまま帰宅。
「フフフフ……これで……ついに涼さんと二人きり…クスクス。」
覚め遣らぬ興奮を隠しながら、ベットに横になる。
…………………………Piririririri
ウトウトしていた時、突然家の電話が鳴り、驚きベットから飛び上がる。電話のディスプレイを見ると、涼さんの携帯からだった。慌てて時計を確認すると、帰ってから三十分ほど経っていた。心を落ち着け、電話に出る。
話の内容は、やはり真奈のことだった。だが内容などどうでもいい。ただ涼さんの声に聞き惚れ、生返事を返していた。これからは涼さんの全て私のものになる。そればかりを考えていたからだ。
病院に行くことを伝え、電話を切る。まだ安全では無い。そう自分に言い聞かせ、ゆっくりと部屋を出た。

End 『Mayu Side』
508 ◆AsuynEsIqA :2006/02/13(月) 20:38:05 ID:Snht8pfw
以上>>382>>506>>507が真由編です。短いし単調になってしまったorz
509名無しさん@ピンキー:2006/02/13(月) 21:04:19 ID:/ZnIPxM9
これからどうなるんだー
生きてるのか死んでるのかワクテカ
510名無しさん@ピンキー:2006/02/13(月) 22:11:00 ID:Ob10Yfvp
ここは毎日が一瞬たりとも気の抜けない緊張感のあるスレですね
511不義理チョコ 第4回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/13(月) 23:52:38 ID:efpW7XDD
        *        *        *

 いつもの朝の教室。
「そういやさ、あんた達付き合ってなかったの?」
 田中がそんな風に訪ねてくる。
「なんでまた?」
「よく一緒に遊んでるし」
「お前だってオレとよく一緒に遊んでるじゃん」
 田中はよく一緒に遊んでいる面子の一人だ。三沢と遊びに行くときは大抵一緒だ。
「いや、なんて言うのかな。空気というか距離というか、そんなものが近いって言うか
 ――なんかとにかく付き合っているって感じがしてんのよ」
「できれば、こんなんじゃなく、もっと可愛い子と付き合っている感じになりたかった」軽く鼻で笑ってみせる。
 言い終わるか言い終わらないかのタイミングで三沢からボディーブローが飛んできた。
「ごめん。手が滑った」何食わぬ顔で三沢が言った。
 体がくの字になる。
 腹筋を締めそこなって、モロに喰らった。

 ――こいつが悪友たる由縁がここにある。
 入学式の日にまで遡ることになる。
 中学からの友達と話すもの、新しく友達を作ろうと頑張るもの、そんな人々がいる教室へいざ一歩踏み込もうとした瞬間、見事に躓いた。
 そして躓いた先には三沢がいた。付け加えるなら自分の顔は都合よく胸元へと飛び込む形になった。
 すぐさま離れて謝ろうとしる暇もなくボディーブローが入った。それも腰が入った重く強烈な奴が。
 後で聞いた話したが中学までは空手をやっていたらしい。
 痛みで悶えに悶えまくった挙句、近く窓にぶつかりガラスを割った。
 幸い体は無傷で澄んだが、入学式そうそう二人して呼び出されるはめになった。
 初日にしてみんなから名前を覚えられた。

 人が痛みで七転八倒しているのに周りはいつもアレとしか見てくれない。
「前みたいにガラス割らないように」と田中。
 ――ひでえ友人だ。
「神崎いつまでもふざけてないで早く自分の席につけ」
 ――先生、校内暴力はいいんですか。
 まともに喋れなかった。

512不義理チョコ 第4回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/13(月) 23:54:27 ID:efpW7XDD

 昼。
 サンドイッチを咥えながら、ミカちゃんから来たメールに何て返信しようかと考えていたところで声をかけられた。
「そういや、朝言い忘れたんだけど」
「何?」
 田中が話しかけてくる顔に少し嫌な予感がする。
「あんたや三沢のマフラーって神崎の手編みだよね」
「……一応」
 嫌な予感センサーの針が大きく触れる。
「私チョコあげたよね」
 田中の笑顔の裏の意思がありありと感じる。
「私も欲しいなマフラー」
「三月ぐらいになると結構暖かくなっているよな」
 視線を外し窓の外を見ながら、適当に呟いてみる。
「欲しいなぁ」
「ホワイトデーはクッキーとマシュマロどっちがいいかな?」
 引いてはいけない。一歩でも後ろに下がったら負けが確定する気がする。
 話を合わせてはいけない。一気に相手のペースに飲み込まれてしまう気がするから。
「セーターの方がいいかな?」
「――義理一枚が高くつくじゃねえか……」
「えー、気持ちこもってるよ。じゃあマフラーでお願いね」
 ――義理に気持ちもクソもあるか。
「ってオイ!オレは一言もやるとは言ってないって」
 人の抗議も虚しく田中は鼻歌混じりに席から離れていった。
 ――負けた。
 まあマフラーの一つぐらい適当にやれば直ぐ終るか。
「みんな、神崎君のホワイトデーのお返しは手編みマフラーだって」田中は他の女の子にそう公言していた。
 ――訂正マフラー五枚。

「いい加減、嫌なら嫌だとハッキリ言ったら」
 先程までのやり取りで黙々と弁当をつついていた三沢は、そんな事をボソリと呟いた。
 その声にはあまり元気がなかった。昨日から少し変な感じがしていた。朝の時だって無理矢理元気なふりをしている感じがした。
「うるせーな」
 少し気にはなったがいつも通り接することにした――風邪でも引いたんだろう。

513不義理チョコ 第4回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/13(月) 23:55:09 ID:efpW7XDD
        *        *        *

「なんだ、今日も屋上に来ていたのか」
 その声に全身に電流が走った。多分神崎はいつもの感じで話しているのに、私は無理矢理笑っていなければ耐えることが出来ない。
 辛い。苦しい。
 二人の間の関係は何も変わっていないって言うのに。
「昨日さ、姉ちゃんと話して何故手紙の子が来なかったか気づいたんだ」
 あいつはいつもの顔、いつもの口調。
「うん――」
 ――この馬鹿ようやく気づいたの。
 私は胸が高鳴る。呼吸が荒くなる。体中から汗が噴出している。
 返事への期待と不安で神埼の顔を見ていられない。顔を俯け返事を待つ。
「なあ貯水タンクあるだろ」
 上目遣いで神埼の方を覗き見ると私の方へは向かず貯水タンクを見ながら話し始めていた。
「貯水タンクの中ってさあ、結構カラスとか猫とかの水死体があるんだよ。
 田舎の方とかいくと狸も入ってたりするわけでさ。
 ――学校の貯水タンクの中なら女の子の一人ぐらい入っててもおかしくないと思わないかな?」
 あいつは軽く笑いながら話している。私の気持ちなんて全く気づかずに。
 ――この鈍感。その子はここにいるのに。
「……貯水タンクの中の男子生徒Kになってみる気ある?」
 いつも通りの冗談。でも今、私の口から出るそれはとても白々しく感じる。
「その時はお前も一緒に引き摺りこんでやるよ」
 ――そうなればずっと一緒にいられるのかな……。
 ぼんやりとそんな事を考える。
「おい――」
 気がついたら神崎が目の前にいた。あと少し踏み込めばキス出来るような距離。
「目赤い。風邪でも引いたか?」
 少しだけ心配そうな顔になって私の顔を覗き込んでいる。
 私の気持ち気づかないなら、そんな事は気づかないでいて欲しかった。
 放っていて欲しい。構わないで居て欲しい。いつも通りにして欲しい。
 心配なんかされていると変な期待しちゃうから――あきらめよう、忘れようって頑張っているのに。


514不義理チョコ 第4回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/13(月) 23:55:47 ID:efpW7XDD
 帰りの電車の中で神崎とミカは話をしていたが、お互い言葉を選んで遠慮しあっている少し固い空気があった。
 ――無理して付き合う必要ないのに。
 心の中の何かが呟く。
 私は二人から少し離れていた――二人の邪魔しちゃ悪いから。
 でも心の中の何かはまた呟いた。
 ――私と一緒の方がきっと楽しいんだから、そうしよう。


「ねえトモ、ひょっとして失恋した?」
「なんで――?」
 夜にヨーコからかかってきた電話は私の今の問題を真正面から捕らえていた。
「バレンタインの帰りから元気ないって感じだから。私で良かったら相談に乗るよ」
「ありがとう――でも今はまだ話したくない……」
 ――言える訳がないじゃん。今ミカが付き合っている相手は、ずっと前から私が好きで、結局何も言えなかったなんて。
「――そう、でも私たち友達だから。いつでも言ってきてよ」
 友達だから言いづらいのに。
「うん……」
「そうだ、週末遊びに行こう。ミカと三人で一緒にパーっと」
「うん……」
 何で後悔しているんだろう。ミカからあいつの仲介引き受けた時に割り切ったのに。覚悟してたのに。

 ミカからメールが入っているのに気づいた。
 週末のデートは何処がいいかと尋ねていた。少しだけ考えてビリヤードがいいと返してやった。
 あいつビリヤードは下手糞な癖に大好きだから。
 前に五連敗したらなんでも言うこと聞いてやると言ったので勝負に応じたら、あいつは見事五連敗した――そう言えば、この約束まだ守ってもらっていない。
 気がついたらまた、あいつの事ばかり考えている自分がいた。
「もうあきらめよう」
 昨日から何度心の中で誓ったか忘れない言葉を呟いた。
 何故か涙がこぼれた。

 気晴らしに窓を開けてみると冷気が肌を刺した。少しだけ湿気を含んだ空気だった。
 ――本当に馬鹿みたい。

515不義理チョコ 第4回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/13(月) 23:56:50 ID:efpW7XDD
        *        *        *

 ――かったるい。
 そう思いながらも夜な夜な田中達にチョコ一枚の代価のマフラーを編み続ける。チョコ一枚分相応に手を抜いてやる。
「あんた、自分のやりたくない事は本当に嫌そうな顔してやるのね」
 後ろから何時の間にか近づいていた姉ちゃんが人の頭に手をのせていた。
「ええ、ワタクシは義理一枚でマフラー編まされている哀れな愛の奴隷です」
 頭の上の手を無視して編み続ける。
「あのさ――」
「ヤダからな代理で編まされるなんて」
 中三の時クリスマス前に突如彼氏に送るからなど言って編まされた。人が受験勉強に必死こいている最中にだ。
「そうじゃなくて、あんた前にクリスマスに送るんだって言って子とは結局どうなったの?」
「別に――」
 ただの友達だよ――良くも悪くも。
「――ふうん」
 姉を覗き見れば意味ありげに鼻を鳴らしていた。
 そんなものを横目に目の前の面倒なマフラーをさっさと片付けることにした。

 そう思った矢先、携帯がなる。知らない番号だ。
「あの私だけど、ちょっといいかな?」
「えーと、深井さん――だっけ?」
 多分当たっていると思っている。
「うん、そう。ミカから番号聞いてかけてるんだけど、ちょっとトモの事で聞きたいことあるんだけど、いい?」
「別にいいけど」
 肩で電話をはさみながらも編み物は続ける。
「あのさ、トモなんだけど最近おかしくない?」
「まあ今日は何となく元気なかった」
 放課後の屋上を思い出す。
「どうも失恋したみたいなんだけど、あんまり詳しく話してくれないんだよね。神崎君って仲いいし同じ学校だから何か知らないかなって」
「――知らない」
「あー、そう。ありがとう。それからミカともちゃんとなかよくしてやってね」

 目が赤かったのはそっちが原因か。
 誰なんだろう相手。考えてみるが思い当たる節がない。
 ――そういや、あいつからチョコもらってないや。
 電話が切れてから少しの間手が止まっていたことに気づいた。
 明日学校ででも話せばいいかと思い、その事は頭から追い出すことにした。

516不義理チョコ 第4回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/13(月) 23:57:23 ID:efpW7XDD
        *        *        *

 ――嫌な雨。
 昨日の夜遅くから振り出した雨は今朝にはバケツをひっくり返したような大雨になっていた。
 その雨はただでさえ憂鬱になっている気分を更に酷くさせるのには十分な理由だった。

 今朝電車の中で神崎は、紙袋傍らにイソイソと編み物に専念していた。
「おはよう」
 朝の挨拶もそこそこに神崎は直ぐに作業に戻った。
「それ、田中達の?まだ一ヶ月あるんだからそんなに急がなくてもいいんじゃない」
「嫌なことはさっさと済ませる主義なんだよ」
 神崎は、こちらに顔を向けることなく黙々とマフラーを編んでいた。
 小中学校の頃、学校で編み物をしている女の子は何度か見ていたが、編み物している男の子はやはりはじめてみた。
 慣れた指先でテキパキと進めていく。それはトップアスリートの一見単調な繰り返しにも見えるが無駄がない動きにも思えた。
「凄いんですね」ミカの目はその無邪気な子供の様に、その作業光景に吸い寄せられていた。

 雨の中を歩くって最悪。傘をさしていても多少は濡れてしまう。靴から染込んで靴下も濡れてしまう。
「ミカとはどう?」
 何気なく尋ねてみる。二人の友達だから。ただ男女の関係が気になる年頃の女の子だから。
 ――嫌ならミカの方には諦めるようにそれとなく言ってあげるから。
「まだ少しとっつきにくい所あるけど――まあ可愛いと思う、あと誰かに似てるんだよな……」
 神崎は薄暗い雲をボンヤリと見ながら言う。
 ――可愛いなんて私には一度もそんな事いってくれなかった。
「なに惚気てんのよ!」
 少しだけ怒ってみせる――無理にでも表情を作っていないと泣き出してしまいそうだから。

 神崎は学校につくなり黙々と編み物を再開し始めた。
「よしよし、ちゃんとやってるな」田中はその光景を見て満面の笑みを浮かべていた。
「一本は既に出来て、そこの紙袋の中に転がっている適当に持っていけ」
 神埼はいかにも面倒だという顔をしてぶっきらぼうに言った。
「むー。三沢と同じ感じのが欲しい」田中は少しだけ渋い顔をして唸っていた。
「義理チョコ一個分なら、それ十分お釣り来るだろ」
 田中の方には一切視線を向けず、黙々と作業を続ける。
 ――私のでもお釣りはくるのかな……。
「うー」田中は渋々と言った感じながらもマフラーを見つめていた。


517不義理チョコ 第4回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/13(月) 23:58:36 ID:efpW7XDD
 ――本当に嫌な雨。
 放課後になり次第、自然と足は屋上へと向いていた。しかし外は土砂降りの雨。外に出る気にすらならない。そして何故か隣には神崎がいた。
「あんた、ひょっとしてまだ手紙の子待ってたりするの?あきらめ悪いよ」
 半ば自分に言い聞かせるように言葉をかける。
 ――そう私もあきらめが悪い。
「今日はお前に会いに来た。中々邪魔されない二人きりなるチャンスってなくてさ」
 鼻先を軽くかいて、少しだけ言葉を選んでいる感じ。
「――なによ、それ」
 ――あきらめるつもりなのに。
「オレの生まれ故郷って凄い田舎でさ、山と田んぼしかなくて、こんな風に雨降ると蛇口から泥水が出てくるんだよ」
「――なにが言いたいのよ」
 こいつのいつもの冗談。期待しちゃいけないのに何故か期待していしまう。
 ――本当馬鹿みたい。
「まあ最後まで聞けって。
 五歳かそのぐらいだったかな。まあ小学校あがる少し前まで、そんなとこに住んでいたんだよ。
 その頃両親がいつもケンカばっかりしていてさ子供心なりに家に居たくなかったんだよ。
 そこで近くの同い年の子のいる家にずっといたんだ。近くっていっても田舎だから滅茶苦茶距離あるんだけどさ。
 まあ、そこの家の子、女の子といつも一緒に遊んでたんだけど、まあ結局離婚することなって母親についていくことになって、その子と離れ離れになっちゃったんだ。
 離れ離れなってから、その子に会いたい会いたい泣くに泣いてさ、母さん困らせたんだよ。
 そんな子も今となっちゃロクに顔も思い出せないんだ……」
 神崎は何か少しだけ困った顔で天井を見ていた。
「それが?」
「いやさ、昨日深井さんから電話かかってきて、お前が失恋したって聞いたから――その何というかこんな感じの言い方でしか言えなくてさ」
 少しだけ照れている。こんな顔している神崎は初めて見た。
 そう思うと少しだけ笑えて来た。
「なによ、それ慰めてるつもり?」
 ついつい噴出してしまった。
 ――思い出の女の子か、そんなのもいつか色褪せていくんだ。

「じゃ、そろそろ帰るか」神崎はもう顔をみせたくないって感じをしていた。
「ねえ神崎」
 あることが――少しだけ気になった事。少しだけ確かめたい気持ちがあった。
「なんだ?」廊下を降り掛けていた彼が振り返る。
「私のマフラーだったら――義理チョコだったらいくつぐらいかな」
「――さあな」
 神崎は少しだけ何かばつの悪い顔になっていた。


518不義理チョコ 第4回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/13(月) 23:59:09 ID:efpW7XDD
 相変わらず電車の中で神崎とミカの間には少し硬い空気があった。でも少し、少しずつその硬さは解けつつある。
 この二人の間に入って行ってもいいんだよね――二人の友達だから。
「じゃあね、神崎」
 いつもの駅、ここで私達は神崎と別れる――はずだった。
「いや、オレ今日はここで降りるから」
 神埼から変な言葉が聞こえた。
「え?」
 ――何で?わかんない。
「昨日ミカちゃんい編み物教えて欲しいって頼まれてさ。今日の帰りに教えていく約束してたんだよ」
「そうなんだよ」
 ――馬鹿じゃない、男の子に編み物教えてもらうなんて。
 心の中の黒い何かが呟いた。

 駅を出ようとしたところで、ミカがあるものを忘れていることに気がついた。
「……傘、電車の中に忘れた」
 土砂降りの雨を目の前にしてミカもようやく気がついた。
「電車もう行っちゃったよ?」
 雨の日に傘忘れるなんて本当にしょうがない子。
「家まで近い?」神崎がミカに尋ねる。
「――うん」ミカが小さく頷く。
「じゃ、一緒に入っていく?」
 そう言いながら神崎は傘を広げていた。
 ミカは恥ずかしそうに少しだけ頷いて見せた。
 ――傘ぐらいその辺で買えばいいのに。
 何故か私は二人から少し後ろに離れて歩いていた。
 後ろから見る、一つの傘の下で並んで歩く二人は初々しい恋人そのものだった。
 ――馬鹿。無理して傘をミカの方によせたりするから、あんたの肩濡れてるよ。

 「じゃあね」
 そう言ってミカは私に別れの挨拶をする。少し恥ずかしそうで凄く嬉しそうな顔。それ以外は邪念もなにもない純真な笑顔。
 神埼とミカが家へ入っていく。
 そう様子をずっと見つめていた――何故か拳を強く握り締めている自分に気がついた。

519不義理チョコ 第4回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/13(月) 23:59:51 ID:efpW7XDD
        *        *        *

「おかえりなさい。あら、友達もご一緒?」
 ミカちゃんの母親と思われる人がいた。
 なんとなく見覚えがあるような。誰かに似ているのかな、少しだけ気になった。
「ども、お邪魔します」
 軽く挨拶をして上がらせてもらう。
 別に女友達の家に遊びに行ったことがないわけではないが一人で来るってのは初めての経験だ。
 そう思うと何か緊張してきた。

 女の子と部屋で二人きり、更に編み物を誰かに教えるなんて始めての経験だった為、二重の緊張が強いられている。
 いいかげん緊張の糸が限界まできている。そんな折トイレに立った際、偶々居合わせた白猫を捕まえて帰ってきてみた。
「この子の名前なんて言うの」
 猫の一匹でも同じ空間においておけば少しマシになる気がしていた。
「シロツグだよ」
「シロちゃんか、オレは士郎だよ」そう猫に語りかけてやる。
「神崎さんって下の名前シロウなんですか。私の幼馴染にもシロウって人いるんですよ」
 彼女は嬉しそうに語る。シロウなんてさほど珍しい名前ではないとは思うが、そんな突っ込みを入れるのはあまりにも無粋な気がした。
「ちょっと待ってて下さいね、今写真見せるから」
 そういって彼女はアルバムを出してきてページめくっていた。
「あった、コレですよ」
 随分昔の写真だ。確かオレが五歳ぐらいの頃の奴だ。
「こっちが私で、こっちがシロちゃん」
 懐かしそうな目で写真を見せながら指差す。
「確か、この写真とって直ぐぐらいかな、オレ引っ越したの?」すっかり忘れていた思っていた昔のことが段々思い出してきた。
「うん、そうなんだ」
「あーそうだ、よく綾取りで遊んだっけ――」
 そこまで話していてある事に気がついた。
 何故彼女の持っている写真に、子供の頃の自分が彼女と一緒に写っているのか。
「……これ、オレだけど」少し自分の声が震えている。
「神崎さん?これ、シロちゃんは山城士郎ですよ」彼女は不思議そうな顔している。
「えーとさ、オレ、親が離婚して再婚で神崎になって、昔の苗字は山城なんだけど……」
 彼女もようやく答えに気がついたらしく、こちらの顔をまじまじと見つめてくる。
「や、やあ。ミーちゃん久しぶり……」
 強張った顔になりつつ、そんな事を言って見る。
「シロちゃん久しぶり……」
 二人して固まっていた。
 しばらくして二人同時に笑い出していた。

「じゃあな、ミーちゃん」
 幼馴染である事に気がついたら、何か今まで二人の間にあった壁みたいなものは一気に消し飛んでしまった。
「シロちゃんと私……付き合ってるよね」
「うん、まあそうだけど」
 改めて言われる恥ずかしいものがある。その視線を真っ直ぐ受け止めることが出来ずついつい視線を逸らしてしまう。
「――キスしてくれるかな?」
 横目で彼女を見れば恥ずかしそうに懇願している。
 ――やらなきゃ駄目だよな。
「目閉じてて」
「……うん」
 息を止める。一気に顔を近づけ、唇が触れた瞬間にすぐ顔を戻す。
「……じゃあな」
 彼女の顔、恥ずかしながらも満面の笑みがあった。
 オレは恥ずかしいから小走りでさった。

520不義理チョコ 第4回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/14(火) 00:01:17 ID:efpW7XDD
        *        *        *

 ――なんで私こんな所でたっているんだろう。
 二人が家に入ってからずっと雨の中、立っていた。
 どのぐらい待っていたか、ようやく神埼が小走りで出てきた。
「よ、よお、三沢。こんなところで何しているんだ?」
 神埼の顔は恥ずかしげなものだった。
 ――二人きりで何してたの?
「私の家そこだからさ……」
「ああ、そうか」
 そういいながらも神崎の顔には何か恥ずかしいそうに隠していることがあるのが見て取れた。
「あのさ、私の家遊びに来る?」
 ――来てくれたら私にも同じことしていいから。
「今からか?門限はないけど、あんまり遅くなると晩飯消えていることがあるから駄目だって」
 ――ご飯ぐらいうちに来ればいくらでも作ってあげるのに。

「じゃあな」
 私は小走りに去っていく神崎の姿をずっと見送っていた。
 見えなくなってようやく、ずっと拳を握り締めていたのを思い出した。
 開いた拳の中では汗をかいたせいか湯気が立ち上っていた。
5218 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/14(火) 00:04:02 ID:ph0nSp3X
なんか無駄にボリューム増大中。


<チラシの裏>
最近きづいたんだけど絶対領域ってミニスカとニーソの間じゃなくて
ロングスカートとソックスの間のふくらはぎにあると思うんだ。
</チラシの裏>
522名無しさん@ピンキー:2006/02/14(火) 00:07:14 ID:hRKTmL9d
>>521
設定最高だよGJ
これはミカが3馬身ぐらいリードしたな
523名無しさん@ピンキー:2006/02/14(火) 00:07:27 ID:AuBl+NpF
ローライズのジーンズと短めのシャツとの間の背中にこそ絶対領域は存在する。
524名無しさん@ピンキー:2006/02/14(火) 00:20:34 ID:Oqs0X5qd
初恋の少女との再会キター
トモコガンガレ
525名無しさん@ピンキー:2006/02/14(火) 00:57:11 ID:WmA8zAVs
>>521
乙ー
心理描写が丁寧で良さげ。気持ちの変化に友人を絡めている所もイイ感じ。
トモコがどんどん不利になって報われん上に、じわじわ黒くなっている様子が特にツボ(w
526名無しさん@ピンキー:2006/02/14(火) 01:43:34 ID:LTt6m18W
うーん、シロウ君のお姉ちゃんって再婚した相手の連れ子なのかな?
そこにちょっとだけ期待している漏れがいる
527名無しさん@ピンキー:2006/02/14(火) 02:25:01 ID:czPG4nPK
お前ら









大好きだ
528名無しさん@ピンキー:2006/02/14(火) 02:33:34 ID:LTt6m18W
>>521
これくらいのボリュームが読んでてちょうど良いと思うよ
感情移入も十分出来てるし、それでいてくどくないし
今後の展開に期待してる
529名無しさん@ピンキー:2006/02/14(火) 02:36:16 ID:agR6WZIg
これだけいろんな作品が同時進行してて、はずれがひとつもないってのがすごいね。
何かうれしくて頭がクラクラしてくるよ。
530名無しさん@ピンキー:2006/02/14(火) 03:12:56 ID:DMA1cMTr
神作品の宝物庫だな、ここは・・・
531名無しさん@ピンキー:2006/02/14(火) 03:13:50 ID:DMA1cMTr
神作品の宝物庫だな、ここは・・・
532合鍵 第十六回  ◆tTXEpFaQTE :2006/02/14(火) 03:51:46 ID:WKoxCW1X
合鍵  第十六回


元也「サキさん、そろそろ、帰りますか?
   送っていきますよ」
元也は、申し訳なさそうに、サキにそう尋ねた。

その後ろで、藍子が興奮して、何か金切り声を出している。
何がそんなに気に入らないのか、分からなかった。
だが、今夜の藍子は余りにもサキに対して失礼な事を繰り返していたので、元也もかなり
頭に来ていた。
藍子の声を無視して、サキに話しかける。

サキ「そうね、もう、お暇した方が、良いみたいね。
   …彼女に、殺される前にね」
藍子を見ながら、サキはクスクスと笑い出した。
こんな状況で、そんな風に笑い出したサキを見て、急に元也は、ゾオッ、っとした。

元也「じゃあ、俺はサキさんを家まで送って来るけど、藍子、お前は?
   一緒に送っていこうか?」
靴を履きながら、藍子に尋ねる。
藍子「ううん。私、お皿、洗わなくっちゃ、ダメだから、
   もうちょっと、ここに残るわ」
そう言うと、サキの方を見て、笑った。
その笑顔が、なんだか、嫌だったので元也は藍子から目を逸らした。
元也「……ああ、分かった。
   じゃあ、サキさん送ってきたら、すぐ帰ってくるから、それまで待ってろよ。
   ちゃんと、お前も家まで送って行くから、勝手に独りで帰んなよ。
   …行きましょう、サキさん」

玄関から元也とサキは出て行った。後ろで、鍵が閉まる音。

内心、元也はホッとしていた。
これ以上、藍子とサキを近づけておきたくは無かった。
藍子が残ってくれて助かった。

元也「なんか、色々、申し訳ありませんでした。
   …いつもなら、あんな、失礼な奴じゃあ無いんですけど」
元也が、済まなさそうな顔で謝ってきた。
サキ「別に、いいわよ。
   元々は、私が藍子ちゃんに断りも無くお邪魔したんですもの。
   悪いのは、私も同じね」
そう言っても、元也の顔は晴れない。

気を取り直すかのように、サキが、明るい声で、
サキ「さて、明日は私の番ね!今夜のカレーに負けない、美味しいもの、たっぷり作るから、
   楽しみにしといてね!」
え?何のことです?と、驚く元也に、
サキ「何言ってるの!あなたの明日の晩御飯でしょう!
   変わりばんこでお願いって、あなた、言ったでしょうに
   今日、藍子ちゃんだから、明日は私の番でしょう?」
533合鍵 第十六回  ◆tTXEpFaQTE :2006/02/14(火) 03:54:09 ID:WKoxCW1X
元也「え?ああ、確かに言いましたけど…」
そんな事したら、また藍子がどうなってしまうか、想像は出来なかったが、また荒れてしまう事は
避けたかった。

困った様子の元也を見ていると、胸にわだかまっている不快感が高まってきた。
サキ「何、思い悩んでるのよ?
   私の料理、食べるのが嫌になったの?」
元也「え?いや、そういうわけじゃあ」
サキ「じゃあ、何だって言うの!!??
   もっと、嬉しそうな顔、してよ!!!」
元也の考えは分かっていた。藍子が気になるのだろう。
だが、だからこそ、気に入らなかった。
藍子の前で、我慢していた感情が、少し、零れるのが分かった。
しかし、止められなかった。

サキ「何よ!藍子ちゃんの事は心配できるのに、私のこと、考えてくれないの?」
元也「サキ、さん?」
サキ「あんな風に、騒いだもの勝ちなの?
   あんな風に、あなたの前で、興奮した方が、よかったって言うの!!??」

元也「サキさん!!!」
元也に肩をつかまれ、どうしたんです?と、瞳を覗かれると、自分の興奮を自覚した。
我に帰り、元也の手を振り解いて、先に歩き始めた。
元也が後ろから、自分の名前を呼んだが、振り返らない。
今の自分の顔を、見せたくなかった。

サキ「…ごめん、ちょっと、みっともなかったね、私」
サキが前を見たまま、話し掛けてきた。
苦笑いしながらも、構いません、とだけ答える。

急に、サキが立ち止まる。
そして、元也が隣に並ぶと、体をピッタリと横につけ、腕を組んできた。
驚いて、サキの方を見たが、髪に隠れて、その顔は見えなかった。
な、何ですか、と尋ねても、
サキ「いいから、このまま!!」
とだけ言われ、しょうがなく、腕を組んだまま歩く。
サキの香りが鼻に届き、鼓動が早くなる。

534合鍵 第十六回  ◆tTXEpFaQTE :2006/02/14(火) 03:55:05 ID:WKoxCW1X
>>533の続き

ずっと、元也の視線を、顔の辺りに感じるが、腕を組んで、横に並んでいる状態では、
表情を見られることは無いだろう。
今の表情を元也に見られたくはなかった。
多分、藍子ちゃんと同じような、醜い顔をしているから。
私は、藍子ちゃんとは違う。あんな、嫉妬で醜く歪んだ顔を、元也には見せたくなかった。
いつも、笑顔で、笑顔の自分の顔を、元也に覚えて貰いたかった。

だから、今、元也に、自分の顔を見られたく、無かった。
誤魔化す様に、元也の腕を、より強く、つかむ。
自分の胸が、ちょっと当たっている。元也が、困っている素振りをしているのが分かる。
いいわ、私を、苦しめた罰だわ。もっと、困りなさい。
そう思い、胸の谷間に、腕を挟みこませた。
慌てて、腕を振り解こうとする元也。
しかし、逃がさないよう、より一層、腕に力をこめ、体を摺り寄せる。

こんな暗い夜道、こんなことして、元也君、送り狼になちゃたりしないかしら?
まず、そんなことありえないでしょうけど、まあ、そうなったら、そうね、
責任とって貰うしかないわね。うん。b
ああ、だめよ、元也君、そんなとこ、触っちゃ、ああ、だめよ、んんっ、やめて、いじわる、しないで………

そんな考えが浮かぶと、今度は、体ごと、元也に擦り寄ってみた。
あの、ちょっと、サキ、さん、ちょっと、ねえ、いいかげんに、ちょっと、あの、ですからねえ、
まともに言葉も出せないほどうろたえまくる元也が、妙に、いとおしかった。
535名無しさん@ピンキー:2006/02/14(火) 07:24:30 ID:sZxIW1K1
    _  ∩
  ( ゚∀゚)彡 藍子!藍子!
  (  ⊂彡


     _
   ( ; ゚д゚) ハァハァ
   し  J


     _
   (;゚∀゚) ニコッ!
   し  J
536名無しさん@ピンキー:2006/02/14(火) 10:37:30 ID:LTt6m18W
サキたんいじらしくっていいね〜(*´д`*)ハァハァ
537名無しさん@ピンキー:2006/02/14(火) 10:39:00 ID:Bk2b7G1T
>535
kccmnn

サキさんも激情家ですねえ。
538名無しさん@ピンキー:2006/02/14(火) 13:50:02 ID:9aD8u30r
そのころ家では藍子が・・・
539名無しさん@ピンキー:2006/02/14(火) 15:33:16 ID:jAvd22QM
スレ進むのが速い!!
540名無しさん@ピンキー:2006/02/14(火) 15:46:31 ID:Oqs0X5qd
>>538
家じゃなくてすぐ後ろの電柱の影に…
541名無しさん@ピンキー:2006/02/14(火) 17:41:42 ID:TANq3Okh
キャー!!
 見慣れない天井を見上げている。
 こち、こち、こち……
 聞き慣れた、兄さんの部屋の時計が時を刻む音、
 小鳥のさえずり、遠くから聞こえてくる車のエンジンの音、
 ……そこまで意識が至った時点で、自分が目を覚ましていることに気がついた。
 
 隣には最愛の兄。
 いつものように、その胸に顔を埋める。
 穏やかな吐息、優しい体温、
 ……兄さんの匂い。
 あたたかな感覚ががわたしの中心から、体中の隅々までいきわたってゆく。
 冷たい意識は押し流されて、代わりにただ幸せだけで満ちてゆく。
 羊水の中心に回帰する感覚。
 実感する。
 私の帰ってくる場所は、ここだけだ。
 誰にも赦されなかったわたしが生を実感できる、世界にただひとつだけの場所。
 兄さんの隣。
 もう離さない、渡さない。……それがたとえ、誰であっても。
 それにしても昨夜は無茶をしたものだと自分でも思う。
 泣いて止める両親を無理やり振り切り、勇んで電車に乗り込んだのが今から半日と少し前。
 大家から鍵を借り(おばあさんだった、ちょっと安心)、部屋に入った瞬間にわかった。
 たとえダンボールが散乱し、生活できる最低限度の道具しかなかったとしても、
 そこは兄さんの部屋だった。わたしが愛している、兄さんの秘密基地だった。
 ここでわたしと兄さんの二人きりの新しい生活が始まるのだ。
 そう思うと、それだけで胸がはちきれそうだった。
 ……それにしても、包丁を持ち出したのは流石に冗談だったのだが、
 兄さんが本気でおびえているように見えたのがちょっとショックだ。
 
 わたしは兄さんの唇にそっと口付けると、そっと布団から這い出た。
 外はまだ肌寒い。それでも、兄さんのためならつらくない。
 パジャマの上にエプロンを羽織り、わたしは朝食の準備を始めた。
 ―――
 
 味噌汁の匂いで目が覚めたのは初めてだった。
 
「おはよう、兄さん。朝ごはんが出来てますよ」
 二つの茶碗。
 二膳の箸。
 二人分の朝飯。
 ダンボール箱に部屋のほとんどを占領されている中、こたつを挟んで向かい合っている。
 まるで昔からそうだったかのように、馴染んでいる朝の風景。
 元々二人で居ることが多かった兄妹だから、二人で向かい合っているだけでもいい塩梅に落ち着く。
「ご飯、おかわりあるから。いっぱい食べてね」
 とても幸せそうに甲斐甲斐しく俺の世話を焼いている楓と、
 包丁まで持ち出した昨日の楓がどうしても重ならない。
 色々なことが朝の回らない頭を駆け巡るが、
 馬鹿みたいに嬉しそうな顔をする楓を見ていたら、なんだかどうでも良くなってしまった。
 楓の作った朝飯は、宣言通りとても心のこもった優しい味だった。
 ちょっと涙が出そうになった。
 ―――
 
「……先輩、本気で兄離れさせる気あるんですか?」
 舌の根も乾かぬ昨日の今日でこれだから、呆れられても仕方がないだろう。
「……なくはない」
「鼻の下が伸びてますよ」
「え、うそ、まじ?」
「年端もいかない娘に求婚された父親の顔に見えます」 
 そんなに酷いのだろうか。うなだれる。
「楓さんが久しぶりに授業に出てきて、機嫌が妙にいいと思ったら案の定ですね」
「うう」
「先輩は楓さんのことよくブラコン、ブラコンって言いますけど、それを言ったら先輩もシスコンですよね」
「ううう」
「式はいつですか、シスコン」
 できねえっつうの。
 二人揃ってため息をひとつ。
「先輩」
「……なに?」
 もう何を言われても気にならん。
「本当の本気で兄離れさせたいですか」
「そりゃあ……なあ」
「覇気がないですね」
「はい、あります、ありますとも」

「……それなら私に案があります」
546名無しさん@ピンキー:2006/02/14(火) 20:38:35 ID:nbYFgDme
「この裏切り者」フラグきたー
547名無しさん@ピンキー:2006/02/14(火) 21:05:17 ID:YVrD4cnG
泥棒猫きちゃうんんんん????????
548名無しさん@ピンキー:2006/02/14(火) 22:43:03 ID:4iprbhdt
「あの女の匂いがするよ」来るか!?
549名無しさん@ピンキー:2006/02/15(水) 00:25:24 ID:6nA0H7H2
   _  ∩
  ( ゚∀゚)彡 暴走!暴走!
  (  ⊂彡


そして、修羅場へ…
550名無しさん@ピンキー:2006/02/15(水) 12:10:48 ID:UqXJt9zn
この泥棒猫め・・・!
 人間の支えかた、護りかたなんてものは星の数ほど、
 それこそ千差万別でひとりひとり違うのはわかる。
 だが、このやりかたはまずい。
 極めて依存心が強い人間に対して、ちょっと突き放してすぐに拾う、
 そういうことを繰り返していったらいずれどうなるか、
 私の目の前でとろけているおばかさんにはわからないらしい。
 私にはわかる。
 私もまた、この人の底知れない温かさに惹かれた女だから。
 この人になら絶対に助けてもらえると、見捨てられることはないと、
 そういう幻想を勝手に積み重ねた挙句に自壊するのだ。
 かつての私のように。
------
 
 その日の夜、先輩の携帯に電話を掛けた。
 あらかじめ予告しておいたのが良かったのか、2コール目で繋がった。
(もしもし)
「こんばんは、森川です。本題から入らせていただきますが、そこに楓さんはいますか?」
(え? いるけど。代わろうか?)
「……先輩、寝言は寝てから言ってください」
 やっぱり先輩にとって、この問題は些細なことなんだろう。
 ちょっと変な妹が、ちょっと奇行に走っているだけ。その程度の認識に違いない。
 大した度量なのか単なる考えなしなのかは、残念ながら判別できない。
(あ、ああ、そうだよな。すまん。で、どんな作戦なんだ?)
 ……もう、何も言うまい。
「……明日、十一時にS駅前の噴水で。よろしいですか?」
(え、ああ、うん)
「詳しいことはその場で教えます。
 この電話が終わったあと、先輩は携帯をその場に置いてお風呂に入ってください」
(よくわからんなあ)
「わからないなら言うとおりにしてください」
(わかった、じゃあ明日な)
「おやすみなさい、先輩」
 ブツッ。
「……愛してますよ」
------

 樹里ちゃんは約束の五分前に現れた。
 女の子のファッションは正直よくわからないが、
 いつもより少しだけ気合が入っているように見えた。
「失礼のないように、自分なりに気を使ってみたつもりですが」
 ……だ、そうだ。
「ところで、楓さんは」
「さあ。家に居るんじゃないか?」
「……そうですか」
「さて、さっそく作戦の続きとやらを聞かせてもらおうか」
「先輩、私と付き合ってください」
 ざわ……
 公衆の面前での突然の告白に、周囲が一瞬どよめく。
「―――もちろん、フリだけですよ」
 正直、かなりびびった。
「一体、何のために?」
「鬱陶しいくらいにいちゃつく兄と友人、傍から見ていた妹はどんな気持ちになるでしょうね」
「だから、楓は家に居るって」
「ありえませんね」
 さらりと否定される。
「昨日の電話の後、楓さんは絶対に先輩の携帯の着信履歴を調べたはずです」
「いや、あいつはおれの携帯の暗証番号知らないはずだし」
「生年月日、電話番号の下四桁、安直な語呂合わせ。このうちのどれかじゃありませんか?」
 ばれてた。しかも一番最初。
「楓さんは、先輩と私の間に親交があることを知りません」
「あれ? そうだっけ?」
 言われてみれば……三人一緒に居た記憶がない。
「楓さんから見れば、先輩と私は単なる『兄とわたしの友人』でしかありません。
 その二人が外で待ち合わせて連れ立って歩く。楓さんはすぐにその理由を悟るでしょう」
「それで“あの”楓が諦めると思う?」
「今日だけなら難しいでしょうね。でも明日、明後日、一週間、一ヶ月とそれがずっと続いたら。
 それと平行して、先輩が楓さんをあくまで『妹』としてしか扱わなかったら」
「……いける、か?」
「楓さんからしてみれば、多少酷かもしれませんが」
「でも、そんな長丁場に樹里ちゃんを付き合わせるわけには」
「かまいませんよ」
「でも」
「それに、」
 樹里ちゃんは一旦言葉を切り、
「もし先輩が本当に私のことを好きになってしまったとしても、それはそれでかまいません」
 樹里ちゃんは、ほんとうに、よくわからない。
------

「デートの定番といえば恋愛映画ですね」
「……おれ、こっちのほうが……」
 シネコンの入り口で貰ったパンフを指差す。SF超大作の最新作だ。
「そうですか、ならそうしましょう」
「いいの?」
「折角ですから、楽しみましょう。丁度私も観たいと思っていましたから」
 樹里ちゃんは常にクールで、悪く言えば女の子っぽくないから、
 言いたいことが素直に言えて、おれみたいな手合いからすると気楽でいい。
 だが周りはカップルだらけで、おれたちもそう思われているかと思うとどうにも尻がむずむずしてすわりが悪い。
 だが決して、悪い気分ではなかった。

「なかなか良かったとは思うけど、最後のトンデモ展開は蛇足だと思った」
「商業的な理由があるのはわかりますが、伏線を次作に丸投げにするのは個人的に最悪だと思うんですが」
 映画の感想を言い合いながら、近くのハンバーガーショップで昼飯。
 樹里ちゃんは指に付いたてりやきのたれを舐め取りながら、バーガーをもしゃもしゃと咀嚼しているんだが、
 それがどうにもいやらしく見えてしまって辟易する。
 普段からわりとちょくちょく会っていたのに、こうして街にでて二人きりだとまた気分も変わってくるのだろうか。
「食べたいんですか」
 じっと見つめられていることを誤解したのだろう、樹里ちゃんはこちらに歯形の付いたてりやきバーガーを向けてくる。
「……うん」
「先輩のもください」
 こういうことに対して抵抗はないらしい。
 わざわざ食み跡を避けるのも失礼かと思って、そのまま何も意識せずかぶりついた。
 樹里ちゃんはちょっとだけ驚いた顔をして、それから嬉しそうにおれのチキンタツタに挑みかかった。

「他にどこか行きたい場所はありますか」
「海!」
「夏になったら行きましょう、お供します」
 軽く流された。

「先輩、子供相手にゲームで勝って嬉しいですか?」
「別にいいだろ」
「ごめんねボク、あのお兄さんはちょっと頭がおかしいひとだから」
「うるさいよ!」

「ネコミミを買ってあげよう。百円だし」
「倦怠期の夫婦じゃあるまいし、やめてください」
 割と本気で嫌そう。
「どうせなら首輪とリードも買ってください、先輩に着けて外を連れまわしますから」
 謹んで辞退させていただきました。

「この指輪、樹里ちゃんに似合いそうだな」
「そうですか、よくわかりません」
 シンプルなデザインのそれは、彼女のほっそりとした白い指に良く似合うのではないかと思った。
 これは銀か? 結構いい値段がついてるが、はっきり言って指輪の相場なんて知らん。
「おうおうニイちゃん、随分可愛らしいカノジョ連れてるじゃねーか。
 まけてやるから、プレゼントしてやんなよ」
 露店のおやじに煽られて、ついその気になる。
「樹里ちゃん。手を出して」
「……なんだか照れますね」
 一瞬逡巡して、観念したように左手を差し出す樹里ちゃんがいじらしい。
------

 思うさま遊びに遊び尽くして、気が付けばとっぷりと日が暮れていた。
「……そろそろもういいでしょう」
「ああ、そうだな。そろそろお開きにしようか」
「もしかして先輩、本来の目的を忘れてはいませんか」
「本来の目的、って」
 ああ、そういえばそうだった。
 恋人のフリ。いちゃつくフリ。
 それを楓に見せ付けて間接的に兄離れをさせるつもりだったのだ、本来は。
「……先輩?」
「……うん」
「指輪、ありがとうございました」
「かまわんよ」
 樹里ちゃんの左手の薬指には、細身のシルバーリングが光っている。
 この子も楓と同じように、あまり身を飾ることをしないようだから、
 逆にこういうアクセントは強烈だ。男から見れば。
 
「……私、先輩が怖いです」
 ぽつり、と樹里ちゃんはこぼした。
「……怖い?」
「残酷なんですよ、先輩は」
 樹里ちゃんの瞳が揺れる。
 
「嘘なら嘘って最初に言ってください。
 もう何も信用しませんから。
 その声も、眼差しも、優しさも、暖かさも、
 みんな偽物だって、そう言ってください。
 じゃなきゃ……私が見てきたものが全て嘘になってしまう。
 私も、楓さんも、誰も救われない。
 最初から、期待させないでください。
 こんな幸せな嘘、嬉しすぎて、吐き気がします」
 
 樹里ちゃんの瞳は、夕日を受けて紅く燃え上がっているようにも、
 宵の泥濘を得て濁っているようにも見える。

「樹里ちゃん?」
「……今日は帰ります。作戦放棄してごめんなさい」

 樹里ちゃんは背を向けて走り出す。
 掛けてあげられる言葉は、ひとつも見つからなかった。
こっちの娘さんも突付けば意外と脆かったとかそういう話。

>546-550
真っ当な終わりかただけは絶対にしないと断言できますが、
本当に言わせるかはわかりませんw>「この泥棒猫!」
557名無しさん@ピンキー:2006/02/15(水) 18:48:22 ID:6nA0H7H2
(´・ω・`)つ「お兄ちゃんどいて、そいつ殺せない」
558『鏡』 真実編 ◆AsuynEsIqA :2006/02/15(水) 19:13:52 ID:e0D9P2fz
病院
あれからすぐに救急車を呼び、今は治療が始まった。今は待つしかないので、外へ出て真由に伝えるため電話をする。
「もしもし?」
「ああ、真由か?あのな、落ち着いて聞いてくれ…」
真奈が事故にあったことを簡潔に伝え、すぐに病院に来るように言った。
「…はい、わかりました。すぐに行きます。」
ピッ
電話を切り、溜め息をつく。真由の返事には覇気が無かった。無理も無い。唯一の家族が事故にあったのだ。もし真奈が最悪の事態になれば、真由は壊れてしまうかもしれない。そんな彼女を、俺は支えられる自信が無い。
手術が始まって一時間後、真由が病院に着いた。
「あ、涼さん。……姉さんの方は?」
「ん……」
思ってた以上に真由は落ち着いていた。
「あの、涼さん?」
「あ、ああ、今はまだ手術してる。見つけてすぐに救急車呼んだから、大丈夫だと思うけど……」
「え?涼さんが呼んだんですか?」
「まぁ、な…。俺が最初に見つけたんだしな。」
「そ、そう…ですか」
やたらと真由の目が泳いでいる。
「大丈夫か?」
「えへへ…今になって驚いてきちゃいました……」
トサッ
座って涼の胸に頭を乗せる。
「……お、おい。」
「ごめんなさい。落ち着くまでこうさしてください。」
やっぱりショックが大きかったのか。少し涙目で寄り掛かる真由を見て、自分の心も痛くなった。
                    更に一時間後…
集中治療室のドアが開き、小太りの中年の男が出てきた。
「おい!真奈はどうなった!?」
そう叫びながら詰め寄ると、男…名札に「杉田」と書かれていた…がいやらしい目付きで睨みながら言った。
「君は…救急車に一緒に乗っていたね。森崎真奈さんとはどんな関係だい?」
(そんなのどうでもいいだろ!)という心の叫びを飲み込む。
「保護者代理…みたいなものだ」
「私は真奈の妹の森崎真由です。」
「ほぅ…双子ねぇ。」
舐めるように真由を見る。頂点まで来た怒りを堪えて、真由と杉田の間に立って再び聞く。
「…それで?真奈の容体は?」
「僕が手術したわけじゃないんだけどね……とりあえず、一命は取り留めたよ。」
559『鏡』 真実編 ◆AsuynEsIqA :2006/02/15(水) 19:19:04 ID:e0D9P2fz
それを聞いた途端、全身の力が抜け、うなだれるようにイスに座る。
「それと君、保護者代理であり、第一発見者なら、警察の方も色々と聞きたいことがあるそうだよ。」
「………わかった」
呟くように返事をすると、杉田はフンとはなを鳴らして去っていった。
「良かったな、なんとか助かったみたいで。」
「くっ……ええ、そうですね。」
感情の無い返事に違和感を抱き、見てみたが、俯いていて顔が見えなかった……。体が小刻みに震えていたのは、何だったんだろうか?



それから警察に行き、色々と聞かされたり、真奈の持ち物の確認などさせられたが、ほとんど頭に入ってこなかった。事故が起こったショックと、真奈が助かった事で安心したからだ。ただ今回の事は事故か自殺ということで調べると聞いた時は、少し不思議に思った。
真奈が自殺する理由が思い付かなかったし、事故にしては不自然だっからだ。
そんなモヤモヤを残したまま、帰路へ着いた。
560 ◆AsuynEsIqA :2006/02/15(水) 19:23:36 ID:e0D9P2fz
今回は嫉妬が薄くてしまったorz
次からはだんだんとドロドロにしてきます。
真由は完全に壊れてるってことで
561名無しさん@ピンキー:2006/02/15(水) 19:27:52 ID:AoA2wWbg
乙カレ。
だけどネタバレしちゃだめだよー
562名無しさん@ピンキー:2006/02/15(水) 20:15:35 ID:PvdSyZYX
小太りの中年の杉田がやな感じ・・・
強請りとか寝取られはマジ勘弁・・・
どっかの寝取られSSでこんな展開を読んだ覚えが、ああトラウマ
563名無しさん@ピンキー:2006/02/15(水) 20:27:30 ID:PvdSyZYX
なんか感想読み返したら文句言ってるように見えたので訂正
まぁ問題は杉田の料理の仕方やね
この修羅場系のSSでどうこの手の男を料理するか
・・・ぶっちゃけ俺には想像もできないんですが
そう言う意味でも続きを期待
564優柔 第7話◇7IWcnPZ2:2006/02/15(水) 21:32:15 ID:SMQq9BnV
放課後、教室から出てきたゆう君を呼び止めた。
「ゆう君」
私の声に反応して振り返る。そして私を見ると、申し訳なさそうに目を逸らした。
やっぱり昨日のこと気にしてるのかな。
「えっと・・・何?」
「うん・・・ハンカチ、返そうと思って」
「・・・別に返さなくても良かったのに」
ゆう君・・・冷たく接する振りをしても私には分かるよ。ゆう君、無理してるね。
そんなんで私がゆう君を嫌いになったりするわけないのに。
ハンカチが入った紙袋を渡すと、ゆう君は何も言わずに受け取った。
「じゃあ、帰るね。さよなら」
「えっ・・・」
私の言葉に驚きを隠せないゆう君。
それもそうね、以前の私だったら、こんな簡単に引き下がらなかっただろうから。
それとも、私がいなくなるのが寂しいのかな。
「昨日言ったでしょ、ゆう君に何でもかんでも干渉しすぎないようにするって。
それに、ここでゆう君に泣きついても駄目だと思うの。
私、変わったんだよ?前みたいにゆう君を束縛しない、もっとゆう君を信じようって」
相変わらずゆう君は黙っている。私はさらに続けた。
「だからゆう君、浮気の1回や2回は許すよ。私のところに戻ってきてくれればそれでいいから。
私の態度を見てやり直してくれる気になったら、その時は遠慮せずに言ってね。待ってるから。
じゃあね、ゆう君。バイバイ」
「あ・・・椿ちゃん」
「ん?」
「えっと・・・ハンカチ届けてくれてありがとう・・・」
・・・やっぱりね。ゆう君はまだ私に未練があるんだ。これなら近いうちに元に戻れそうだわ。
私は笑顔で手を振ると、下駄箱に向かった。
ゆう君、早く一緒に帰ってくれるようになってね。

あ、そうそう。私ね、ゆう君に1つだけ嘘ついてた。
浮気の1回や2回は許すって言ったけど、あれ嘘。そんなの許せるわけないじゃない。
例えばね、私が他の男に犯されてるところ、想像してみてよ。ね、正気じゃいられなくなるでしょ?
誰だか知らないけど、ゆう君の優しさに付け込んでゆう君をたぶらかして・・・

あ・・・今、私が抱いてる感情って・・・「殺意」って言うのかな?
565優柔 第7話◇7IWcnPZ2:2006/02/15(水) 21:32:57 ID:SMQq9BnV
昨日のことを思い出すと心臓が高鳴る。
あんな場所だったけど、愛原に抱かれた。それだけで幸せだ。
窓の向こうの景色をボーっと眺めているうちにチャイムが鳴った。
もう放課後か・・・愛原はどうしてるかな。
・・・会いにいこうか。
教室を出て階段を下りれば、すぐ2年の階だ。
私は偶然を装って2組の教室前を通りかかればいい。
何くわぬ顔で、軽い口調で。
意識する必要はない。
細かいことを気にしない先輩、それを演じればいいだけだ。
早く行かないと帰ってしまう。
今日会っておかないと、次に会えるか分からない。
不安になってしまうから。

2階、角を曲がればすぐ教室前の廊下に続く。
早く行かなきゃ・・・でもやっぱり緊張する。
動けないでいる私を、怪訝そうに一瞥する下級生達。
やっぱり浮いてるか・・・これじゃまるで不審者そのものだな。
さっさと会おう。ほんの数メートルなんだ。
即断即決、それが私のモットーだろ?

いた、廊下に。
顔を見ただけで顔が熱くなる自分がいる。
そんな自分がおかしく思えて、にやけてしまう自分もいる。
私は一歩を踏み出した。
でも、止めてしまった。
愛原が誰かと話してるからだ。
・・・誰だ、あいつ。
566優柔 第7話◇7IWcnPZ2:2006/02/15(水) 21:33:40 ID:SMQq9BnV
一度だけ見たことがある。いや、それ以降見ないようにしてただけか。
忘れるわけがない。
愛原の、元カノ。
あいつがいなけりゃ、私と愛原の仲はうまくいってたのに。
そう思うと無性に腹が立つ。あいつさえいなけりゃ、あいつさえ・・・
・・・いや、私にも責任がある。さっさと告白していれば良かったんだ。
そうすればあの女になびかなかったかもしれないのに。
でも・・・どうして一緒にいる?
愛原の顔を見てみろよ、迷惑そうにしてるだろ。
お前なんかとやり直す気なんかないんだよ。とっとと諦めろよ・・・

「えっと・・・ハンカチ届けてくれてありがとう・・・」
何言ってるんだ・・・そんなこと言うから勘違いされるんだろ?
そういう態度を取るから、お前のことを好きになるヤツが出てくるんだよ。
その優しさ・・・私だけに向けてくれ。他のヤツには向けないでくれ。

最後に見た、あの女の勝ち誇った顔。愛原が戻ってくる、そんな確信の顔だ。
ふざけるな、お前等はもう別れたんだ。もう十分、幸せを満喫しただろ。
今度は私が愛原に愛される番だ。
そして誰にも渡さない、誰も入り込めないようにしてやる。
例えどんな手を使ってでも。
私は愛原の元へ向かった。勿論、この黒い感情を覆い隠して。
567◇7IWcnPZ2:2006/02/15(水) 21:50:36 ID:SMQq9BnV
プロット無いからどうなるか分かりません。
エンディングが今のところ6パターン浮かんでいるので
どれにしようかと迷ってます。
まあ、気長に待って頂ければと。
568名無しさん@ピンキー:2006/02/15(水) 22:10:03 ID:jTDz+WMO
>>567
うおおぉぉぉ!GJ、GJ、超GJ!
椿の黒さがたまらん(*´Д`)ハァハァ
569名無しさん@ピンキー:2006/02/15(水) 22:26:58 ID:7b8EqV2m
>>567
ここは全部・・・・いやなんでもないです
570名無しさん@ピンキー:2006/02/15(水) 22:48:54 ID:iPkdtIXs
>>567
つ[包丁エンド]
571名無しさん@ピンキー:2006/02/15(水) 23:05:23 ID:vpeKegv+
良作の続きがどんどんきてすごい事に・・・・
>>554
すごく・・・この夫婦漫才好きです・・・・
572裏『姉貴と恋人』(1) ◆DxURwv1y8. :2006/02/15(水) 23:27:07 ID:R5UqzMSv
逆襲の姉貴。
>>310以降のパラレルワールド的に読んでもらえればおkかと。
>>308から読んでもらった方が分かりやすいと思います。

 しかし、今の姉貴は……。
「タカ。お姉ちゃんの言うことが聞けないの?」
 こんな姉貴、見たくない。
「姉貴、俺姉貴のこと好きだよ」
「なら私の言うとおりに――」
 言わないと。姉貴の為に。
「でも。今の姉貴は嫌いだ」
「タカ……?」
「姉貴は綺麗で優しくて、格好良くて頭が良くて、俺の自慢の姉だよ。でも、今の姉貴は……汚い」
「お姉ちゃんが、汚い?」
 ゴクリ。喉の鳴る音で気付いた。
「あ、姉貴……?」
 唇が震える。冷や汗がどっとでる。
「タカ。タカはあの女に騙されてるからそんなことを言うのよね」
 落ち着け。落ち着け。落ち着け。
 姉貴はただ、ちょっと怒ってるだけだ。
 だからこんなに怖がる必要なんてどこにも――。
「大丈夫。お姉ちゃんが、タカを目覚めさせてみせるから」
「あ、姉貴?」
 ふり向こうとして――
 ガンッ!!
「ぐっ!?」
 あ、ねき――な、んで

「あ、進藤さん」
「ええと、隆史のお姉さんじゃないですか。どうしたんですか」
 お姉さんはうつむいていた。
「今日はちょっと、言わなくてはならないことがあって」
「何ですか。隆史のことですか」
「ええ。その、とても言いにくいのだけれど……」
 視線を彷徨わせ、こちらの様子を伺っている。
「言って下さい。今日は隆史が来ていなくて、気になってた所なんです」
「実は、タカ、もうあなたと一緒にいたくないらしいの」
 なっ!?
「そ、それは一体どういう……」
 隆史、そんな、なぜ、いきなり……。
「本当にごめんなさい。タカは……私とずっと一緒にいたいから、もう進藤さんとはいられないって――」
「そんな……嘘よ……嘘に決まってる……」
「本当なの」
「隆史に直接聞いてみます!」
 お姉さんは止めなかった。
 しかし……
「うそ……うそよ……」
 着信拒否。なぜ。そんなバカな。隆史はそんな……酷いことする人じゃないのに……。
「ごめんなさい」
 彼女はそれだけ言って去っていった。
 私は、その場から一歩も動けなかった。
573裏『姉貴と恋人』(1) ◆DxURwv1y8. :2006/02/15(水) 23:27:44 ID:R5UqzMSv
「なんてことするんだ!!」
 家に帰ってみると、縛り上げられたタカが目を剥いて怒っていた。床を這ったのか、ところどころ汚れていた。
「なんてことって、なんのこと?」
「この……!!」
 タカはきちんと聞いていたようだ。
「分かったでしょう? あの子は、私の言ったことを信じたわ」
 ツーツーと大きな音を出している電話機に近づき、オンフックの設定を切る。
 すぐに帰ってきたけれど、五時間近く繋ぎっぱなしだったから電話代が気になる。
 まあ、これでタカが目を覚ましてくれるのなら安いものだ。
「麻妃は絶対に俺を信じてる! すぐに気付くはずだ!!」
「タカ、まだそんなこと言ってるの? あの子が信じようと信じまいと、タカは私のものなんだから関係ないでしょ」
 まだ分かってくれていない。
 でも大丈夫。私はタカのこと大好きだから、何でもしてあげられる。タカが分かるまで何度でも。
「俺は俺のものだ! 姉貴のものじゃない!!」
「ふふ、必死なのね。あの子とおんなじ」
 気にくわないわ、あの子。こんな所まで入り込んでいるなんて。
 タカは私の色だけでいい。私だけを見て、私だけと話して、私だけに微笑んで、私だけとセックスして、私だけのタカになっていればいい。
 だから、タカを汚すような真似は許さない。
 あの子の影を、タカから追い払わなければ。
「タカ……好きよ」
 寄り添うように横になり、そのまま口づけする。
「あ、姉貴やめろ……んむっ!?」
 タカの唇。タカの舌。タカの頬。タカの耳。タカのうなじ。タカの首筋。タカの、タカの、タカのタカのタカのタカの――!!!
 ――ぜんぶ、わたしのものだ――

 お客様の電話番号は現在着信拒否に設定されています――
 無機質な応答メッセージが再び耳に届いた。もう何度目だろうか。
「隆史……嘘だよね」
 だが隆史は答えてくれない。
「こんな終わり方嫌だよ……」
 唯一の望みは、まだ直接聞いた訳ではないということ。
 あの人経由で伝わった情報でしかないということ。
 しかし着信拒否になっているということは、つまりはそういうことじゃないのか。
 いや、でも、まだ。
「返事してよぉ……たかし……」
 あの日から大学へ行っていない。
 私が行かなければ隆史が行けるかも知れない。そういう考えがあるにはあった。
 しかし一番の理由は、行くだけの気力がないことだった。
 視界が歪む。
 さっき一気に飲んだウイスキー……グラスで三杯?四杯?覚えていないけど――が効いてきたんだろう。
 やけで一杯まで注いでしまって、こぼしてしまったのが無性に悲しくて悔しくて嫌だった。
 なんでそんなことで高ぶるのか分からなくて、またそれが堪らなく苛立たしくて……
 ヒュッ――ガシャンっ!!!
 いつの間にか投げ捨てていたウイスキーグラスがクローゼットに当たって砕け……その音が、破片が耳の奥まで突き刺さった。
「いたい……いたいよたかし……」
 本当にガラスが刺さったわけでないことくらい分かってる。でもいたい。さみしい。くるしい。いたい。いたい。いたい。いたい。
 なにがなんだかわからない。
 ぐるんとせかいがまわった。
 ひょうしにすがったボトルがあまりに頼りなく落ちてきて、めのまえにおちてはねた。
 あ、まずい、のみすぎ――たかし、たすけて。
 たかし、たすけ――
574裏『姉貴と恋人』(1) ◆DxURwv1y8. :2006/02/15(水) 23:30:36 ID:R5UqzMSv
「ああ、岸本君。弟さんの具合はどうかね」
 教授が手招きしていた。
「まだ良くならないみたいです。本人は大丈夫だって言ってるんですけど、危なっかしくて」
「岸本君みたいなしっかりした人が見てくれているなら、安心だよ。弟さんに言っといてくれ、
お姉さんの言うとおりにしてれば間違いないって」
 本当、その通りなのに。
「言いすぎですよ、先生」
 ハハハと笑って退室していく。
 まったく、隆史ったら先生にまで心配かけて。
 いつになったら分かってくれるのだろう。

「うえぇ……」
 洗面所は酷いことになっていた。これ全部、私の中から出てきたのかと思うと自分のことながら信じられない。
「はぁ、はぁ……うっ」
 出てくる出てくる、朱色に染まったウイスキー。もとは綺麗な琥珀色なのに、汚い色だ。
 昨日からキリキリと胃が痛んだけど、やっぱり出血してたんだ。
 よく考えれば、ここ数日まともな食事をしていない。いや、何も食べていなかった。
 酔っては寝て、酔っては寝て。
「まるで、あの時みたい――っ」
 あの光景がフラッシュバックする。アルコールが入ると、こういうことが多い気がする。
「キツイの思い出しちゃった……ひっ」
 肺がヒクンヒクンと震える。しゃっくりの酷くなったようなものだ。
「っく……っあ……っう……」
 ひどい――こんな飲んでたのか。
 これが出たのは生まれて二回目だ。
 一回目は、二十歳になったときに好きなだけ酒が飲めると喜んで、羽目を外しすぎたとき。
あれは失敗だった。アルコールに慣れてなくて、ペースを知らないないこともあって、その上、
ボトル一本開けてやると無駄に意地を張ったのも悪く作用して……朦朧としながらも救急車を
呼べたから良かったものの、医者の話では、下手をしたら死んでいたという。
 今は……まあ、いいか。死んでも。誰も悲しまない。親は私に興味がないし、大学での友人も
広く浅く作っているから、きっと一日で忘れ去られる。隆史は――
「ひっく……っく……あれ?」
 ぴちょん、ぴちょん。シンクにアルコール以外の液体が落ちていく。
 何だろう。
 どうでもいいや……たかしだって、きっとあの人の方がよかったんだから。
 グッと胸の奥が締まり、むかつきが酷くなった。
「なんで、たかしのこと考えると気分悪くなるのよ……もうやだぁ……」
 たかし。どこにいるの。やめて。私はこんなに辛い思いをしてるのに。もう隆史なんか考えなくていい。
助けに来てよ。はやく。ねえ。たかし。やめて、やめてやめて。私はここにいるよ。ほら、こんなに苦しんでるよ。
隆史なんか忘れて! だから助けに来てよ。はやく。いますぐ。嫌っ!! おねがいだからたすけにきてよたかしっっ!!!
575名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 00:08:49 ID:yjOr7Vz5
いったい麻紀タンはどうなってしまうのか!?
576名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 00:16:15 ID:cas1oFAD
姉が暴走してこれまた君望みたいな・・・・
慎二みたいな奴が出ないことを祈る
577431:2006/02/16(木) 00:48:55 ID:a2dpjtSq
13日くらいから書き込み規制食らってましたorz
携帯で書き込もうとしてもダメだしウガー。
とりあえず規制の原因は独占欲の強い娘が他の誰とも接触させないためにしただと前向きに考えておきます。

なんか古いですけど続き↓ パスは「syuraba」です。
ttp://mata-ri.tk/up5/src/5M3096.zip.html
追加事項は
・姉貴と恋人 ・まとめページの名シーンからいくつか ・名前変更機能(仮)
あと個人的なお願いとして、
・大学の広い講義室の写真(640×480)
 ……素材サイトに無かったため。 他のシーンでもこの写真が良いというのがあればお願いします。

>阿修羅氏
13日の終わりごろにまとめサイトのメルアドにメール送りましたが、届いていませんか?
内容は書き込み規制食らったので代わりに〜、と言った感じのものです。
あとまとめサイトに掲載しても良いですよ。むしろ掲載してくださってありがとうと言いたいですw
578陽の光のなかで舞う雪 5 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/16(木) 04:10:09 ID:/uso8wwC
私、鈴木雪は、朝起きればまず顔を洗う。
鏡に映る自分の姿はまるで幽鬼のようだと思う。
目が隠れるほど伸びた前髪、胸に届くほど長い黒髪。
けれど、その表情は決して暗くはない。
昨日のことを思い出すと、自然と頬がほころんだ。
彼を想うと、世界中が光に包まれている気がする。
……大げさだと思うか?
顔を洗ったあと、私は台所へと向かった。
いまのうちに弁当を作ろうと思ったのだ。
"鈴木雪"という人間からすればかなり異常な行動かもしれないが、
なに、これも「恋は人を変える」というやつだ。
ご飯にふりかけを混ぜ、茹でた野菜を並べる。
彼と一緒に食べる光景を思い浮かべ、またニヤついてしまう。
……いけない。集中しないと。
野菜を切るとき手元が狂わないか心配だったが、なんとか弁当は完成した。
うん、なかなか良く出来たと思う。
その弁当を、私はいそいそと鞄に詰めた。
「朝ごはんは?」母親が訊ねてくるのに「いらない」と返す。
まったく食欲がない。
早く学校に行きたい。
鞄を引っつかむと、私は玄関へと向かった。
手早く靴を履いてドアを開ける。
途端に、冷たい朝の空気が流れ込んでくる。
一気に駆け出した。
早く、早く会いたい。
579陽の光のなかで舞う雪 5 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/16(木) 04:10:51 ID:/uso8wwC
私は坂を駆け下りていく。
冷たい風が耳元を通り抜けていく。
学校まで伸びたこの坂道。
私は駆け下りていく。
前方に彼の姿を認めたとき、私はその勢いのまま飛びついていた。
「うわっ」
驚いて振り返る彼の顔を、たまらなく愛しく思う。
腕にしがみついたまま、とりあえず挨拶を。
「おはよう、山田優治」
「な、なにやってんだよ?」
「む? 愛するもの同士が腕を組んでおかしいか?」
「なっ……!」
絶句する彼の腕を引きずるように、私たちは校門へと向かう。
彼はしばらく黙り込んでいたが、
「……ねぇ、今日、なんか変じゃない?」
恐る恐るといった様子で、私の顔を覗き込んできた。
「変だろうか?」
「うん、変だよ」
「どこがだ?」
「どこがって……なんか、まるで……」
「まあいい、恋は人を変えるというやつだよ」
お決まりのフレーズで、反論を封殺する。
「……恋?」
「そうだ。君と私は恋人同士だろう?」
「さっきも愛する者同士とか言ってたね……冗談にしては性質が悪いよ」
「冗談? 冗談であるものか」
どうして冗談だなんて言うのだろう。
私の中に懐疑の念が芽生える。
――もしや何かあったのではないか。
可能性は十分にある。
ただでさえ彼は優柔不断なところがあるのだ。
昨夜、あの女に言い寄られて、あっさりと押し倒されてしまったのではないか。
彼は不安げな目で私を見ている。
胸騒ぎがする。
そんな目で見るな。見ないでくれ。
「……忘れたのか? 昨日、あんなにも愛し合ったことを。君は私は抱いてくれたではないか。
 君は私のカラダを貪って、あんなにも満たしてくれたではないか! 忘れたのかっ!?」
最後の方は、もはや絶叫に近かった。
通りすがりがチラチラとこちらを見ているのを感じる。
けれど、そんなものを気にしてはいられない。
「私は――」
「なにをやっている」
ぴしゃりと、私の声を遮るように、背後で声がした。
冷たくて厳しい声だ。
振り向くと、
そこには、
――鈴木雪が立っていた。
580陽の光のなかで舞う雪 5 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/16(木) 04:12:17 ID:/uso8wwC
「なにをやっている」
鈴木雪がもう一度、繰り返す。
いや違う。こいつは偽者。
鈴木雪の、偽者。
「手を離せ。君が掴んでいるのは、私の恋人だ」
少し焦ったような声で、偽者は言った。
へぇ、彼女でもこんな風になるんだ。
「優治は私の恋人だ。……なあ、そうだろう?」
私が訊ねると、優治は困惑した表情で、私と偽者のあいだに視線を彷徨わせた。
どうして即答してくれないんだ。
言ってくれ。私を愛してるって。
「……僕を好きだって言ってくれるのは嬉しい。でも、僕が好きなのは鈴木さんなんだよ」
「あはっ。あははっ。ほら、聞いたか? 優治は私の方を好きなんだって言ってる」
おかしくてしかたがない。
偽者は呆然としている。
おかしい。笑ってしまうくらいおかしい。
……何がおかしいのだろう。
何もおかしくない。
なのに、どうして優治は怯えているの?
「……おまえは、誰だ?」
私?
私は――
「鈴木雪。私は鈴木雪」
「……違う。おまえは佐藤陽子だ」
偽者がなにか言っている。
負け犬の遠吠えってやつ? ……惨め。
「行こう、優治。もう授業が始まる――どうした?」
私は優治の腕を引いたけれど、彼は動こうとしなかった。
優治はじっと私を見つめていた。彼の瞳は、怯えているけれど、真剣だ。
頭が、ずきりと痛む。
「それはこっちのセリフだよ。どうしちゃったんだよ、陽子ちゃん。君は、陽子ちゃんだろ?」
……頭が痛い。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
優治はどうしてこんなことを言うんだろう。
優治を惑わせているのは誰?
……あなた?
「そうよ。そうよね。偽者がいるから優治が迷うんだわ。偽者さえいなければ、優治は『あたし』しか見ない」
「……陽子、ちゃん?」
「優治、今日もお弁当作ってきたの。昼休みに一緒に食べようね」
にっこりと笑って、優治の腕から離れる。
ポケットを探りながら、あたしは偽者に近づいていく。
偽者は怯えた顔で後ずさりする。
あたしが近づく。
偽者が後ずさる。
いつもの冷静ぶった態度はどうしたの?
情けない顔で、あたしから逃げようとしてる!
ざまあみろ! ざまあみろ! ざまあみろ! ざまあみろっ!
私はナイフを取り出し、振りかざした。
偽者の顔が恐怖に歪む。
ああ、楽しい。ああ、楽しい。
「――これで、本物になれるわ」
581 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/16(木) 04:14:03 ID:/uso8wwC
これで終わり。

全体的の感想。三人称視点で嫉妬心を描写するのがキツいのなんのって。もうやりたくない。
第五話は一人称視点だけど、なんか変なことやってるので、さらにキツかった。

というわけで、次を書くことがあれば、素直に一人称で書きたいと思います。
それじゃ。
582 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/16(木) 04:15:08 ID:/uso8wwC
全体的の感想→全体の感想


こんな誤字してるようじゃorz
583名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 04:36:54 ID:wUj/9sPm
◆sF7o7UcWEMさんお疲れ様でした
>>「――これで、本物になれるわ」
この台詞は背筋が寒くなりました
584名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 04:41:54 ID:fhD8AnxK
ちょwwwwwwwwwww
陽子イイヨイイヨー
585不義理チョコ 第5回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/16(木) 04:46:12 ID:cP4AIVFe
        *        *        *

 今朝のミカはいつになく幸せそうな顔だった。世の中の暗い事、嫌な事なんて存在すら知らずに育ってきたような顔。
 ――どうしたらあんなに幸せそうな顔になるんだろう。
「トモちゃん、昨日私達凄い事あったんだよ。聞きたい?」
 ――聞きたくない。
 言いたくて言いたくてしょうがないって顔。ヨーコはもう聞いたのか、もう聞き飽きたって顔をしていた。
「電車、来たね……」
 ミカの顔は見たくなかった。近づいてくる電車に顔を向けていた。

「おはようさん」
 電車の中で神崎は待ってましたばかり顔だった。
「久しぶりにこれやろうか?」
 満面の笑みを浮かべた神埼の指には毛糸で作られた輪がひっかかっていた。

 電車の中で神埼とミカはまるで小さい子供の様にあやとりで遊んでいた。
 ついこの間まで殆ど話したこともなく、お互い言葉を選んでいた関係ではなかった。
 二人の間に昨日までの距離はなかった――昨日二人きりで何をしていたんだろう。
「あのさ、トモ、大丈夫?」ヨーコが心配そうに声をかけてくる。
「ただバカップルの気にあてられて、イラついてるだけだよ」無理にでも笑ってみせた。
「――そう?」少しだけ渋い顔になって覗き込んでいた。

「シロちゃんまたね」
「じゃ、またな」
 ――呼び方まで変わっていた。
 少しだけ名残惜しそうな二人の瞳。別れを惜しむ恋人の顔。
 ――二人の間に私の居場所はない。

 いつもの通学風景――のはず。
「お前もあやとりやるか? 結構童心に帰って面白いぞ」
 歩きながら神埼は私に糸をとれと言わんばかり手を出していた。
「いい……」
 そんな事しか言えなかった。

 
586不義理チョコ 第5回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/16(木) 04:47:06 ID:cP4AIVFe
        *        *        *

 昼。
「行儀悪いよ」
 サンドイッチを咥えながらミーちゃんからのメールを返信しようとしていたら、三沢がそんな事を言ってきた。
 お前も時々やっているだろ――そう言い返そうとしたが、元気のなさそうな顔を見るとあまり軽口を叩く気にはなれなかった。
 ミーちゃんと一緒にいる間は気づかなかったが、意識すればするほど変に思えてくる。昨日の放課後屋上で話した時笑ったので少しはマシになったと思ったが今朝になるとやっぱり元気がなかった。
 少なくとも向こうからは失恋話については全く話してくる気配はない。
 人が付き合い出したばかりだから気を使っているのかもしれない。でも、こいつはとは気兼ねなく話せる関係だとは思っていた。
 そんな事を考えていると、彼女に言えずに結局心の引き出しの奥にしまいこんでいた言葉が出てきかけていた――慌ててそれを再び奥にしまい込むことにした。

「週末空いてる?」
 田中が尋ねてくる。いつも通り遊びに行かないかの誘いだ。
「オレ、空いてない」
 ――デートの先約が入っているから。
「私、友達と遊びに行くから」
 三沢はきわめて普通の振りをして言っている――がやっぱり変な感じがある。
「今日の放課後は?」
「ついさっき用事が入った」
 さっきのメールで編み物教室二日目決定したから。
「ふーん――例の彼女?」
「まあな」
 少しだけ勝ち誇った顔で笑ってやる。
「私達女の友情なんてそんなものなのね!
 このケダモノめ!ケダモノめ!
 英語で言うとアニモー!家畜人ヤプーめ!」
 田中は少し怒った振りして、そんな事言いながら消しゴムを投げてくる。
「意味わかんねーぞ田中」
 笑いながら返すいつもの冗談。いつもなら乗ってくる三沢は全然のってこない。
 横目で見れば、無理矢理頑張って笑ってるふりをしている――痛々しい。何とかしてやりたかった。

587不義理チョコ 第5回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/16(木) 04:48:14 ID:cP4AIVFe

 放課後の屋上。
 ――やっぱりいた。
 フェンス越しにずっと遠くの風景を見つめている。
 そういえば、こいつ何で屋上にいるんだろう。ふとそんな疑問が浮かぶが今は大した問題ではない。
「お前今、相当変だぞ。相談ぐらいならいくらでものってやるからさ」
「あんまり言いたくない……」
 話しかけても、こちらにすら向こうとはしなかった。
「アドバイスしてやる自信はないけど、愚痴ぐらいだったらいくらでも聞いてやるぞ――まあ友達だから」
 三沢の方は俯いたまま何も言わない――まあ言いたくないのならしょうがないか。
 お互い何も言わない、二人きりの屋上に気まずい空気だけが流れる。
「好きなった奴には私以外に好きな奴がいて、そいつとはもう付き合ってる――それだけ」
 聞こえるか聞こえないか程度の、長い沈黙の後になってようやく搾り出された小さな声。
「そりゃ仕方ないか……」
 出来るとは思っていなかったが、やっぱりアドバイスなんて出来なかった。
 再びフェンスにもたれかかって流れる沈黙の時。
「……オレ、そろそろ帰るけどいいか?」
 向こうから何もいってこないんじゃ、オレなんかじゃもう何も言いようがない。
 頭をかきつつ屋上を後にする事に決めた――思いっきり後ろ髪を引かれていたが。
 背を向け重い足をどうにか動かし始めた時に、背中から何かが飛びついた。
 その何かが何であるかを理解するのに若干遅れた――三沢に抱きつかれている。
 ――何だよこの展開。
 頬が外気で冷やされ、まだ暖かいとは言えない気候の中なのに背中だけが熱い。彼女の体温を感じている。
 その事に気づいた時、自分の心臓の鼓動が早くなっているのに気がついた。
「おい……」
 声を出そうとするが、うまく声が出ない。
 何と言っていいかわからない。
 振り向けない。
 どうしたらいいかわからない。
「少しでいいから……少しでいいから背中貸してよ……」
 背中からの声は泣いていた。
「……ちゃんと後で返せよ」
 背中の方では泣かれているから、前の方では少し無理して笑ってみせた。

588不義理チョコ 第5回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/16(木) 04:49:10 ID:cP4AIVFe
        *        *        *

 人前で遠慮なく泣いたのっていつ以来だろう――。
「ありがとう……すこしはスッキリした」
 ――意外と広かったんだ、こいつの背中。
 ハンカチで自分の顔を何度も拭く。
 あいつは少し困った顔を見せながら鼻先をかいている。
「なんかあったら、今度は私の胸貸してあげるから」
「いらねえって」
 自然と笑い零れ落ちていた。多分バレンタインデー以来だ、自然に笑っていたなんて。
「髪切ろうかな、私」
 ――今度こそ忘れなきゃいけないから。
「ま、そんときゃ付き合ってやるよ」
 軽く笑うあいつ。
「あんた馬鹿じゃない?」
 また自然と笑いがこぼれる。ようやく何でこんな奴が好きになったのかわかった気がした。
 二人でいる時間が心地いい。

「ミカとさ――仲良くなったよね」
 ――最初の頃は絶対長続きしないと思っていたのに。
「ああ? 昨日話さなかったっけ?
 昨日話した思い出の女の子がミーちゃんだったんだよ。
 十年ぶりだからお互い全然気づかなくて初対面と思って緊張してさ、スゲー馬鹿みたいだろ」
「なに、それ」――笑ってみせる。
 ――思い出の女の子か。
「ほら、あんたミカ待たせてんでしょ」
 そう言いながら神崎の背中を押してやった。


 ――ホント小さな子供みたい。
 電車の中であやとりしながら遊ぶ二人は体こそ大きいものの、まるで子供みたいだった。
「トモちゃん、またね」
「またねって、ミカあんたもこの駅でしょ」
 相変わらず、どっか抜けている子。
「昨日私の家だったから、今日シロちゃんの家でやるんだ」相変わらずの無邪気な笑顔。
「まっ、そういう事」少しだけ恥ずかしそうな神崎。
「そっか……」
 ――恋人だもんね、一応。


 ――何で私、ここにいるんだろう。
 神埼とミカを見送った後、何故か私は一本後の電車に乗った。
 私の足は自然と神埼の家へ向かっていた。
 前に一度だけみんなと行ったことのある神崎の家。まるで誰かに誘われるように住宅街の路地を迷うことなく突き進んでいる。
 そして直ぐに神崎の家の前へ来ていた。
 ――わからない。何でここに来たのか。ここで何をしたいのか。
 今頃二人きりで何をしているんだろう。そんな事を考えて神埼の部屋を見上げる。
「うちに何か用?」
 後ろから女の人に声をかけられた。その一言で全身の気が逆立ち、ボンヤリとしていた頭が覚醒をした。
 後ろを向けば制服を着た知らない女の人。
「シロウの友達? そのマフラーってもしかして――」
「ごめんなさい」
 何を言っていいか分らず、怖くなってその場から全力で逃げ出した。
 少し走って息が切れて足を止めた。
 ――私何をしているんだろう。
 その疑問に答えてくれる人は誰もいない。

 
589不義理チョコ 第5回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/16(木) 04:49:51 ID:cP4AIVFe
        *        *        *

 母親が帰ってくるのが遅い日。彼女と二人きりの我が家。
 ――よく考えれば滅茶苦茶美味しい状況じゃないのか、コレって。
 オレの家でやりたいと言った時は全く意識してなかったが、今になってようやく気がついた。
 そんな事を意識し始めた頃になって一階から短い間隔の音。それは一気に階段を駆け上がってくる音。
 ――なんでこういう日に限って早く帰ってくるのかな。
「――変なのが来るかもしれないけど気にしないでね」
 思いっきり嫌な予感がするから彼女には予め警告しておくことにした。
 嫌な予感の発信源である足音は一直線にこちらに近づいていた。
「ただいまー。あ、シロウ、友達来てたの? よろしく」勢いよく背後のドアを開け、いかにも誰か来てたのしりませんでしたって振りして話しかけてくる。
 なんでワザワザ、オレの部屋へ直で帰って来るんだろう。
 このわざとらしい言い方は多分玄関の靴で気づいたんだろうな。
「おかえり。じゃあね、バイバイ」
 大体どんな顔をしているが想像出来たので振り向くことなく返事をする。
「シロちゃん、この人って?」
「シロウの妻です」声色一つ変えることなくさらりと言ってくる。
 ――何でこういう冗談いうのかなこの人は。
「えっえっ? 結婚してたの?」目の前のミーちゃんは目を白黒させている。
 ――何でこういう冗談を真に受けるのかな、この子は。
 天然とか純朴を通り過ぎて素直に馬鹿と言ってやったらいいかも知れない気がする。
「義理の姉、神崎涼子。歳は一つ上。以上」
 放っておくと何をしでかすかわからなくなってきたから腰を上げ、無理矢理部屋を追い出すことに決めた。
「ちょっと待ちなさい、そっちの子の紹介終ってないでしょ」
「月島美香、オレと同い年。以上」
 それだけ言って部屋の外まで追い出す。
「シロちゃん、お姉さんと結婚しているの?」本気で尋ねている目だ。
「――違うって」
「え、お姉さんじゃなくて――」
 ――本当に大丈夫かな、この子……

 ――なんだろう。嫌な予感が収まらない。
 また階段を上ってくる音がする。ただ今度は普通に上ってくる。それがかえって嫌な予感を膨らませた。
 キッチリノックをしてからドアを開ける――でも返事を待たずに開けていた。
「いやー、悪いわね、愚弟はお客様にお茶の一つも出さない子で」
 かなり早いご帰還だ。紅茶を淹れて来たのか――体の良い侵入理由だ。
 ミーちゃんに一つカップを渡し、自分に一つ。
 ――盆の上に何故かカップが一つ余っている。
 盆の上の方にある顔は不敵な笑みを湛えている姉の顔があった。
 しばしアイコンタクトでの会話。その結果、無言でそのカップをとり自分の前に置く。
「サービスしてくれたんだ。ありがとう」
 盆の上にある顔の口元が歪む。
「じゃ、じゃあね」
 背を向けた今となっては顔は見えないがきっと歯を食いしばっているに違いない。
 ――勝った!
 拳を握り締め小さくガッツポーズをとる。
「シロちゃんのお姉さんって一個多く持ってくるなんて親切なんだね」彼女は真顔でそんな事を言う。
 ――ひょっとしてコイツは会っていなかった十年間の間に体は成長しても頭は成長していなかったのかもしれない。

590不義理チョコ 第5回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/16(木) 04:51:30 ID:cP4AIVFe

 ――まだ嫌な予感がする。
 そもそもあの程度で尻尾みせていくような性格だとは思っていない。
「なにやってんだよ姉ちゃん……」
 カーテンを開けてみると隣の部屋から繋がってるベランダを通ってオレの部屋の前にいた。
「シロウちゃんは、もうお姉ちゃん嫌いなんだ」
 やたら芝居がかった話し方で泣きまねすらしてみせる。
「生まれた時からずっと見守っていたのに」
「――オレ姉ちゃんと初めて会った時にはもう8歳だったんだけど」
「私なんかよりずっと小さかったのに、背ばっかり大きくなって……」
「――初めて会った時は目線の高さ同じだった気がするんだけどさ」
「虐められて時、守ってあげたのに」
「――姉ちゃんに虐められてた記憶なら一杯あるんだけど」
 ――訂正。これは現在進行形。
「小さな頃は一緒にお風呂入ったのに」
「――入ってない」
「大きくなったらお姉ちゃんのお嫁さんになるって」
「――言ってない」
 過去を次から次へとどんどん捏造しながら身振り手振りが段々大袈裟になってきた。
「姉ちゃん、嘘はそのぐらいにしてよ」
 ――後ろにいる子がうっかり信じちゃうから。
「怖いテレビ見たから一人で寝れないって言ってきて」
 ――それは言った。
「中学に上がるまでヌイグルミと一緒に寝てて――」
「……姉ちゃんゴメン」
 放っておくとエスカレートしそうな気がしてきたので素直に頭を下げた。
 上目遣いで姉を顔を覗き見ると腕組みをし勝ち誇った顔があった。

 結局、彼女は小姑にとって格好の玩具だったらしく、変な事を吹き込む、オレが訂正するのローテーションが帰るまで延々と繰り返された。
「姉ちゃん……もう変な事を言うのやめてくれよ……」
 彼女を見送った後、滅茶苦茶疲れた体で意味のないであろう釘を刺しておく。
「『この泥棒猫め』『このさかったメス豚め』『私のお腹にはもう赤ちゃんが』とか言って欲しかったのかな」
 楽しくってしょうがないって顔だ。
 ――神様なんでこんなのが一つ屋根の下に住んでいるんですか?
「そういや、言い忘れてたけど」
「なんだよ?」
 どうせロクでもないことに決まってる。
「今日他の子と遊ぶ約束とかしてた?」
「いや、別に」
 一応誘われてたけどキッチリ断ったし。
「――ふうん」
 何か意味ありげな笑顔だった。

591不義理チョコ 第5回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/16(木) 04:52:03 ID:cP4AIVFe
        *        *        *

 ――なんでここにいるんだろう。
 自分がここにいる理由がわからなかった。あれから意味もなく神崎の家の周りをうろついている。
「トモちゃん、ここで何しているの?」ミカだ。
「……ちょっと――ね」
 自分でもなんて答えたらいいかわからず、返答にならなかった。
「じゃトモちゃん一緒に帰ろうよ」
 今まで一度も人に対して疑いを抱いたことのない顔。裏切られたり騙されたりなんてした経験は一度としてないのかもしてない。
「……一緒に帰ろうか」
 ――私がここにいる理由なんてないんだから。

        *        *        *

 人がせっせと編んでいる中、こいつは人の部屋で漫画など読んでいる。
「シロちゃん」人を猫なで声で呼んでくる。
 無視して手元の作業に集中する。
「シロウ、彼女にどんな事教えてあげたらいいと思う?」
「……なんだよ」
 思いっきり嫌な顔をして睨んでやる。
「前にあんたがマフラー上げた子って今どうしてる?」
「別に――」
 只今失恋で落ち込んでいて、今日背中で泣かれましたなんて正直に言ったら何言われるかわからない――そんな事を考えていたら知らず知らずのうちに眉間に皺がよっていた。
「――ふうん、そうか」
 少しだけ何かに納得した顔をしてうなずいていた。

592不義理チョコ 第5回 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/16(木) 04:52:58 ID:cP4AIVFe
中盤一気に巻き返すつもりが中々巻き返すような展開に持っていけず
何となく当初考えてもいなかったストーカールートに入ってしまいそうな今日この頃。
マジで加筆修正加えると本一冊分ぐらいになりかねん予感。

<チラシの裏>
今回のボツネタ
・「これ以上本当の気(ry
・後ろから抱きついた際に「今だけミカの事が嫌いな(ry
・後ろから抱きついた際にそのまま締め落として逆レ(ry
・後ろから抱きついた際にそのまま締め落として貯水タ(ry
・後ろから抱きついた際にそのまま締め落として一緒に飛び(ry
・後ろから抱きついた際にマフラーで絞(ry
・「思い出の女の子か……じゃあ、もう一度思い出に返さないといけないよね」→鮮血の(ry
・「よし、お姉ちゃんが練習相手に(ry
</チラシの裏>
5938 ◆AuUbGwIC0s :2006/02/16(木) 05:03:13 ID:cP4AIVFe
>>「――これで、本物になれるわ」
これ、自分がネタだけは溜めている双子物のラストのオチに使おうと思ってた奴だ
自分のボギャブラリーの浅さを反省しつつ、なんで私の頭からネタとるののよと勝手に逆恨み(ノД`)
594『鏡』 真実編 ◆AsuynEsIqA :2006/02/16(木) 08:19:35 ID:tMwEFWmH
結局次の日は学校を休んだ。流石に行ける気分ではなかったからだ。昼頃まで寝ていると、不意にチャイムが鳴った。のそのそと玄関まで行き、覗き窓を見ると、真由が立っていた。
ガチャ
「おう、どうし……た?」
顔を見ると、目が赤く腫れていた。泣いていたのだろう。
「あの……一緒にいても…いいですか?」
「ああ、上がれよ…」
そう言って真由を部屋に入れる。万円の笑みを浮かべているのを見て、自分も顔が綻んだ。
「あ、お昼食べましたか?」
「いや、まだ食ってねえ」
「じゃあ私が作ってあげますね。」
頼むと言うと、すぐさま台所に立ち、料理を始める。出された炒飯を食べている間に、部屋や風呂場の掃除、洗濯までしてもらってしまった。
全て終わり、おかわりを食べている俺の横に座り、ニコニコと横顔を見ながらほほ笑んでいた。
「おいしいですか?」
「ああ、おかわりするぐらいな。」
「姉さんと比べてどっちが旨いですか?」
「え?」
こんな時にそんなことを聞いてくる真由に戸惑いを覚えた。
「どっちですか?」
真剣な顔でせめよられ、思わずのけ反ってしまった。
「えっと…真由…だな。」
これは正直な答えだった。前に真奈に料理を作ってもらったが、真由の方が上手だ。
「ふふふふ、そうですよね。あの女より…上手いにきまってるわ…。いえ、そうでないといけないの…」
後半部分はぼそぼそと言っていて聞こえなかった。
「それじゃあ…」
そう言って俺が食べ終わると、顔を近付け、耳元で囁く。
「はみがき…しましょうか?」
「んん!!!」
突然口付けをされ、混乱する、そんな俺を余所に真由は更に激しさを増す。真奈ではなく、真由としている。そのことで、強く興奮したが……
「くっ!おい真由!やめろって!」
なんとか引き剥がし、真由を止める。
「どうしたの?何で止めるの?最後まで……ね?」
「そんなの…できる訳ないだろ!」
「なんで?真奈に気を使ってるから?アハハ、それなら大丈夫ですよ。今はあんな状態だし。私を真奈と思ってください。ほら、こうすれば…」
髪型を真奈と同じポニーテールにする。
「ふふふふ、真奈と同じ。顔も声も髪も…体も。これなら私のことも愛せるでしょ?いえ、あの女よりもっと強く私を愛して。アイシテアイシテアイシテ。」
狂気じみた目で迫り寄られる。
「だめだ!!やめろ!!お前は真由だ!真奈とは違う!俺は……真奈が好きなんだ!」
595『鏡』 真実編 ◆AsuynEsIqA :2006/02/16(木) 08:33:01 ID:tMwEFWmH
「ひっ……」
真由が息を飲んで引きつる。その顔には困惑の色が浮かんでいた。
「どう…して…?どうしてそう昔から真奈ばかり涼に愛されてるの?私たちは同じなのに!!!
同じぐらい…いえ、私の方が強く涼を愛している!私、涼のためだったら何でもできる。涼の子供だって生める!私の体も心も、みんな涼だけの物なのよ!昔から私は涼を見ていたのに、あなたは真奈しかみていなかった!なんで?どうして?いつも私と真奈への態度は反対だった!
鏡の様に、映る物は同じでも中は逆だった!私を愛してよ!私にも好きだって言ってよぉ、同じぐらいに……愛してよぉ…切なすぎるのよぉ…ウゥッ…クッ」
そう言って泣き崩れてしまった。壊れるように泣いている。
(アア、俺はまた…真由を…コワシテシマッタ……)
俺が真奈を好きに…女として好きになったのは、その強さに惚れたからだ。彼女達の親が死んだ時、二人は近付き難い程に落ち込んだ。
それを何とか元気づけたいために近付き、励ました。それに答えてくれるように、真奈は元気を取り戻した。だが真由は違ったその悲しみに耐え切れず、壊れてしまった。
俺は弱い人間だ。だからそうして壊れた真由に触ることを恐れた。
だから実際に真奈と付き俺は弱い人間だ。だからそうして壊れた真由に触ることを恐れた。だから実際に真奈と付き合い、真由とは距離を開けたのだが…
「……」
互いに無言のまま時間がすぎる。

と、突然。
「アーッハハハハハハ!!やっぱりねぇ、真奈が、アノ女が…アノ邪魔者がいるから、涼は騙されてるんだ!!
ふふふふ、大丈夫よ、涼。私が助けてあげるから…もうすこしまってて。真奈を…あなたから引き離してあげる。もう二度と近付きたくなるように…クスクス。」
いきなり高らかに笑いだし、そう告げるとクスクスと妖しい笑みを浮かべ、部屋から出ていってしまった。俺はタダその様子をみているだけしか出来なかった。
「くそっ!……」
その様子を見て、真奈が事故でも自殺でもなく、第三者による『事件』に遭ったとわかったのだった。
596名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 10:01:30 ID:i2IpfP+e
なんつーか
「違う、俺は二人とも幸せになってほしいんだ。嫌いなわけじゃない」
という定番のヘたれ主人公の気持ちが良くわかる
綺麗な言葉なのに残虐な言葉
597名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 10:54:07 ID:IuYv3x30
すっげぇペースね
1日でどんだけ作品がうpられてるんだもう大好き
598合鍵 第十七回  ◆tTXEpFaQTE :2006/02/16(木) 16:04:01 ID:XPAC8l0E
合鍵  第十七回


元也「じゃあ、サヨウナラ、また明日!」
サキの家の前まで着くと、元也は回れ右をして、帰ろうとする。
慌てて声をかけるサキ。
今、元也の家には、藍子が居るのだ。
帰したく、ない。

サキ「ちょ、ちょっと待って!
   体、冷えちゃったんじゃない?ココアでも入れてあげるから、上がっていったら?」
元也「うーん、いや、結構です。
   藍子、家で待たせてるし、とっとと送ってやらなきゃ、藍子のお袋さんが心配する
   だろうから」
笑顔で答える元也。

…年上のおねえさんに、夜、部屋に上がっていかない?と、言われて、何も思いつかない
朴念仁なら、まあ、大丈夫かな。

それに、今のサキは、藍子との対峙で、嫌な汗をかいた後だった。
こんな状態で、いざ、事が起きるのは、やっぱり嫌だ。
万全の状態で、そういった事に至りたかった。

サキ「…そう、じゃあ、残念だけど、サヨウナラ。
   明日、忘れずに来てよ。約束、したからね。」
勝負は明日、私の部屋で、か。
お布団、シーツ、綺麗なのにしとかなくっちゃ。
…白と黒、どっちが興奮させれるかしら?靴下は、着けたままのが、いいんだっけ?ニーソックス?
サキ「バイバイ、また明日ね」
手を振って、元也と別れた。

サキと別れて、駆け足で家へと向かう元也。
考えているのは、今日の藍子の事だ。あの、サキさんへの態度、やっぱり許せなかった。
帰ってから、藍子を叱るつもりだ。
その後、サキさんに電話をかけさせて、謝らせよう。
そんな事を考えながら、元也は家へと向かっていった。

元也の家のキッチンから、水の流れる音がする。
藍子が食器を洗っている。
いや、違う。
藍子は、水が流れていくのを、何もせず、ただ、見ていた。
頭にあるのは、サキの事だ。

599合鍵 第十七回  ◆tTXEpFaQTE :2006/02/16(木) 16:07:16 ID:XPAC8l0E
>>598の続き

鍵  第十七回

あの女が帰るのを、このおうちから、見送った。見送ってやった。
あの女は、私と違い、もとくんが家に居なくなれば、このおうちに居る事は出来ない。

あの女は、私と違い、もとくんが居なかったら、このおうちに入る事は出来ない。
私は、合鍵を、もとくんから、貰った。
あの女は、貰っていない。

あんな女がいたところで、私ともとくんの関係は、どうかなったり、しない。
あんな女が居たところで、私ともとくんの間には、関係ない。
あんな女が、急に出てきたところで、二人の間に、入る余地など、皆無だ。
あんな女に、私のもとくんを、どうこうする権利なんか、無い。

あの女に、そんなこと、出来るはずがない。
だって、私たち二人の絆は、あんな女なんかに、どうこう出来るほど、弱くなんか、ないもの。
積み重ねてきた、年月が違う。
思い続けてきた、年月が違う。

だから、あんな女、気にすることは、ない。絶対に、無い。

なのに、あの女が、嫌い。
嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い
嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い
なのに、あの女が、憎い。
憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎
憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎
あんな女、死んだほうが、良い。死んで。死ね。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

サキが使っていた食器が目に入る。
手にとると、全力で、床に、叩きつけた。砕けた。
笑う。笑った。嘲笑った。

涙が、出た。
急に、怖くなった。
このお皿、もとくんのおうちの物じゃない。こんな事しちゃうなんて。
それに、サキさんへのあの態度、どうかしてた。もとくんの先輩じゃないの。
もとくんが、帰ってきたら、怒られる。怒られる。

そう思うと、骨の奥から、震えてきた。
もとくんに、怒られて、嫌われる。いや。いや!そんなの、いや!!!
お願い、そっちに、行かないで、いっちゃ、やだ!!!!

恐ろしさのあまり、声をあげて、泣いた。まるで、幼子のように、大声で泣いた。

600合鍵 第十七回  ◆tTXEpFaQTE :2006/02/16(木) 16:08:23 ID:XPAC8l0E
>>599の続き

玄関を開けて、ただいま、と言いながら元也が帰ってきた。
どうやって、叱るのを切り出そうか考えていた。
しかし、キッチンから藍子の泣き声が聞こえてくると、怒りも吹っ飛び、
大慌てで、藍子のところに駆けていった。

割れた食器の前で、藍子がへたりこんで、大声をあげて泣いていた。
元也「け、怪我は?どっか、切ったのか?」

何を聞いても要領を得ない返事しか返ってこないが、腕や脚を見たところ、怪我は
見当たらない。
そうなると、皿を割った事に、こんなに大泣きしているのだろうか。

そう思うと、いつかの様に、藍子が手のかかる妹のように思えてきた。
元也「ほら、藍子、皿を割った程度じゃ、怒りゃしないよ。
   だから、泣き止んで」
そう言っても、藍子は泣き止まない。元也は、あやす様に、藍子の背中をさすってやる。
藍子が、元也の胸に顔を埋めてきた。頭を、撫でてやった。
それでも、藍子は泣き続けた。
結局、泣き声がおさまったのは、実に一時間後のことだった。
その間、元也は、優しく、藍子の背中をさすり続けた。

頭と、背中を撫でてくれるもとくんの手の感触が、優しい。
そうだ、この手の暖かさは、わたしのもの。
伝わってくる体温も、わたしのもの。
心地よい声も、わたしのもの。
聞こえてくる、心臓の音も、わたしのもの。
このひとの、からだも、こころも、なまえも、たましいも、いまも、むかしも、みらいも、
このひとにかかわる、すべてが、わたしのもの。
しせんのさきにいていいのも、わたしだけ。
なにひとつ、かみのけも、きったつめも、はくいきも、ことばのひとかけらでも、
だれにも、わたさない。わたしだけにもの。
ぜんぶ、わたしの、わたしだけの、ひとなんだから。
わたしのものなんだから。
私のものなの。私のものなの。私のものなの。私のものなの。私のものなの。私のものなの。私のものなの。
私のものなの。私のものなの。私のものなの。私のものなの。私のものなの。私のものなの。私のものなの。

そうだよね、愛しい、私の、愛しいもとくん。
誰にも、指一つ、髪の毛一本、触れさせたり、しないから。
だって、あなたは、わたしだけのものなんだから。わすれちゃ、だめなんだ、よ。
601名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 16:32:38 ID:yjOr7Vz5
藍子テラモエス(;´Д`)
602名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 16:56:59 ID:Pom/D+wP
(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
603名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 17:03:41 ID:IuYv3x30
やっべこれで次の日もとくん食われたりしたらもうやっべ
 罪悪感がなかった、といえば嘘になる。それでも、確かめずには居られなかった。
「誰……今の」
 絶対に女の人なのはわかっている。
 兄さんは子供の頃から、女の子に突然話しかけられると声が半音上がるのだ。
 兄さんの携帯を手に取る。幸い兄さんはお風呂だ。最低でも十五分は出てこないだろう。
「まもら、なきゃ」
 わたしの兄さんと、わたしの居場所を。

(なんで、なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんで―――!?)
 ついさっきまで兄さんが会話していた相手が、よりにもよって森川さんだったなんて。
 何度も己が目を疑った。
 それでも、現実は変わらなかった。
 わからない、わからない、わからない!
 どうして森川さんと兄さんが親しげに電話をしなければならないのだろうか。
 仮に森川さんが私の連絡先を失って、それで兄さん経由で連絡を求めてきたのならわかる。
 だが、そうではなかった。
 あくまで個人的に、森川さんと兄さんの間には何かがあるのだ。私の知らない何かが。
 真っ黒に煮えたぎるタールのような××が、わたしの胸の内を満たしてゆく……
 
 次の朝、首をかしげながら家を出る兄さんをつけてみることにした。
 兄さんは普段どおりだ。
 シャワーを浴びる時間も、鏡に向かう時間も、着替えに掛ける時間もいつもと同じ。
 だがそれらすべてが、誰でもない、ただ一人の女性のためだけに行われたのだと思うとたまらない。
 自分自身の内圧が徐々に高まっていくのがわかる。
 この、全身を内側から圧迫する感覚はなんだろう。
 怒り? 悲しみ? やるせなさ? 嫉妬?
 どれも微妙に違う気がする。
 のんきに電車の窓の外の風景を眺めている兄さん。
 どうしてそう飄々としていられるの……?
 わたしの気も知らないで。
 その穏やかな横顔を張り倒して、私のほうに振り向かせてやりたくなる。

 駅の改札口を出た先、柱の影から二人の様子を伺う。
 さすがにここから会話の内容を聞き取ることはできない。
 それでも、何やら楽しげな雰囲気でやりあっているのはわかる。
 普段から無表情な森川さんも、心なしか微笑んでいるようにみえる。
 心臓の音がうるさい。
 息を整え、落ち着こうとしてもますますそれは酷くなるばかり。
 うるさい。うるさい。うるさいうるさいうるさいうるさい……!
 これじゃ、いつまで経っても兄さんの声が聞こえないじゃないか……!
 映画を観るようだった。
 僅かながらに残されていた、私の誤解という最も喜ばしい可能性は潰えてしまった。
 ……デート、なんだ。
 目の前が真っ暗になる。
 足元のアスファルトが溶けて、底なし沼にとらわれてしまったような感覚に陥る。
 もう嫌だ。帰りたい。もう見たくない。
 それでもわたしは、血走った目で出口の人影を監視することをやめられない。
 
 食事を取るようだった。
 差し向かいで紙包みを頬張る姿は、その場の風景に違和感を与えることなく馴染んでいた。
 わたしと外に食事に出ると、兄さんは何かと周りに気を使ってくれていた。
 座る席、店員を呼ぶタイミング、注文のやり方、
 そういうものすべてが私のためだけに用意されていた。嬉しかった。
 今の兄さんは違う。
 何を気負うこともなく、誰かの保護者でもない。
 倉井楓の兄ではなく、ただの倉井元樹としてそこに存在している。
 兄さんの向かいに座る女が自分の包みを差し出す。
 それを見て、兄さんも自分のそれを女に渡す。
 普段からそうするのが当たり前であるかのように淀みがない。
 ……またひとつ、わたしのこころは軋みをあげる。
 
 通りを連れ立って歩く二人は、とても自然体だった。
 いいところを見せようと気張るでもなく、かといってふてくされているわけでもなく、
 ただあるがままにお互いの存在を認め合っていた。
 まるでずっと昔からそうだったかのように。
 いつの間にか二人は手を繋ぎあっていた。
 女は半歩遅れて兄さんの背中を追う。
 昨日までそこに居た人間の存在を知らないがゆえに、女は何も感じない。
 だからそんな風に笑っていられる。
 ……それなら、わたしは、いま、どこにいるのだろう?
 二人は道端でしゃがみこんでいた。
 露店を眺めているらしい。
 色とりどりの宝石が、まっしろな太陽の光を受けていっそう煌く。
 兄さんが守ってくれない今のわたしは、暗闇に生きる魔女のようなものだ。
 自らの殻に閉じこもり、外界に呪詛を唱えるだけの存在に、
 正当な価値など与えられない。
 だからその輝きは眩しすぎる。
 だからこそ、平然とそこに居られるその女が、憎い。
 
 店の主らしい男が何かを言った。
 顔を見合わせる二人。
 抱き寄せるように、慈しむように、兄は視線で女を愛撫する。

 いやだ。
 
 女は躊躇し、やがて決心したように左手を差し出す。
 
 もうやめて。
 
 兄さんは女の手をそれはそれは優しく取り上げ赤い絨毯のような陳列から無造作にひと
つのリングをつまみ女の指先に添えた女は頬を赤らめ自ら薬指を選択し第一第二関節を過
ぎ根元までそっとそれを引き上げたそれはその女のためにしつらえられたかのように女と
調和しそこにいる者たちを根こそぎ魅了した。顔を赤らめうつむく女にやりと笑う店主顔
をほころばせる兄微笑ましいものをみたと言わんばかりの通りがかりの老夫婦青い空白い
雲優しい春風柔らかな日差し誰も彼も人としての生を謳歌し先の不安など何もないという
ような表情で街中を闊歩する中、


 わたしは、ただひとり、うすくらがりのなかにいる。
607 ◆kQUeECQccM :2006/02/16(木) 17:39:08 ID:+3OY22vy
正直なところ、こう神がかり的な「壊れ」をやられるとやりづらくてしょうがありませんw
自分にできることをやるしかないのですが。結局のところは。

BGMですが、いまいちこうぴったりとはまるものがないので、
暫定的に「最果てのイマ」のサントラで書いています。

>557=431 氏
ご苦労様です。宇宙戦争は正直危険だと思いましたw
もしこれからも活動を続けていくつもりであれば、鳥をつけてみてはどうでしょうか?
608名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 18:49:47 ID:uQLAkHbE
ここが神が住まうスレか?

失礼ですが、神の証明を?
609名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 18:56:50 ID:d6OQrALR
11月26日?
5枚?
何の事です?
610名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 19:01:41 ID:cas1oFAD
>>608
今イチ意味が解らない
前にも同じこと言ってて気になった
なんか元ネタでもあるの?
611 ◆kQUeECQccM :2006/02/16(木) 19:05:15 ID:+3OY22vy
最初わからんかったですが >609で納得。おそらくデスノート。
612『鏡』 真実編 ◆AsuynEsIqA :2006/02/16(木) 19:11:26 ID:tMwEFWmH
涼に言いたい事を全て言い、部屋へ戻った。あれじゃあ私が真奈を殺したと宣言したと同じだが、証拠は無い。涼も証明出来ないだろう。
自分の部屋に入り、机に座る。前には涼の写真。あと少しで全て自分の物になると思うとにやけずにはいられない。だがまだ問題がある。アノ女が死ななかった事と、涼の気持ちが強い事だ。
もはや手段は選ばない。犯罪だろうと構わない。今すぐ真奈を殺しに行ってもいい。だがそれだけでは駄目だ。涼の心を真奈から離さないと。
だがどうやって?




しばらく考えて、また一つ黒い物が浮かぶ。これしかない。周りから何と言われようが構わない。世界には涼と私しかいないのだから。
早速明日行動を開始しよう。ベットに横になると、さっき涼とキスした事を思い出す。
「あ…」
じわりと下腹部がうずく。自分で胸を揉み、秘部を掻き回す。普段より興奮し、何倍もの快感が得られた。だがもう指では物足りない。涼が欲しい。欲しい。欲しい。
「ウフフフ、もう直ぐだからね…涼。私達だけの生活が…始まるのよ。」
                               Piririririri

翌日。携帯の着信音で目が覚める。発信元は涼だ。すぐに眠気が消え、電話に出る。
「もしもし?」
「ああ、真由。あの…な、真奈の意識が戻ったそうだ。」
「えっ?本当ですか?」
思ってたより意識回復が早く、予定が狂う。
「それで今から病院にいくんだが…一緒にいくか?」
はい、と即答したいところだが、言葉を飲む。
「えっと…色々と用意しないといけないんで、先に行っててください。」
「ん、わかった。」
電話を切った途端、心臓の鼓動が早くなる、まずい。まずい。まずい。
もし真奈が真実を話したら台無しになってしまう。そうなったらもう終わりだ。
最悪の事態を考えて、台所へむかい、包丁を取り出し、鞄にしまう。いざとなったら、皆でシネバイイ。アノ女は地獄へ。私と涼は二人、永遠を過ごすのだ。
罪悪感も緊張も湧かない。あるのは本能のみ。理性は効かない。止める手立てはない。





613『鏡』 真実編 ◆AsuynEsIqA :2006/02/16(木) 19:12:58 ID:tMwEFWmH
病院で待っていたのは、うれしい出来ごとだった。真奈が事件当時の記憶を忘れていたのだ。
その駄目頭にいまは感謝する。今は少しいきながらえたことに喜んでいればいい。
涼と居られるのも今だけだから。
「涼さん。私杉田先生に話があるんでちょっと行ってきます。」
「何?杉田に?」
「えぇ、ですから姉さんのことはお願いします。じゃあね、姉さん。」
「うん。また来てね。」
そんな真奈の笑顔を後に病室を出た。やけに純粋で反吐が出る。病室に私の涼と二人っきりでいると思うと狂いそうになる。だがその純粋さを汚す事が出来ると思うと嬉しくなる。
「さて、と…」
ふうと溜め息をついて辺りを見回す。するとちょうど良いタイミングで「駒」が見つかった。その「駒」に駆け寄る。
「あの…杉田先生。真奈のことで相談があるんですが…」
614名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 19:32:57 ID:cas1oFAD
やめてーなんか寝取られな展開に・・・
どうか未遂で終わってくれ・・・

なにはともあれGJ
真奈も真由も黒さがイイ
615名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 20:01:08 ID:nONg6vdC
毎日このスレを見るのが生きがいになってきたよ

皆さん本当にGJです
616名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 20:16:33 ID:xe99hpBi
NTRクルーーーーー!!!???
617名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 20:27:57 ID:BHUhOjyy
NTRはちょっと勘弁して(;´Д`)
618名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 20:40:50 ID:t5v7z8k2
漏れはNTR( ・∀・)イイヨイイヨー
619名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 20:50:26 ID:33zLeVY6
まさか……NTRですかー(((((((( ;゚Д゚)))))))

しかし皆さんの作品はどれも質が高くて激しくGJです
620裏『姉貴と恋人』(2) ◆DxURwv1y8. :2006/02/16(木) 20:57:12 ID:z0zFKznU
>まとめサイトの阿修羅さん
まとめサイトをみたら完結???になってましたが、こうして裏を始めてしまったこともありますので
継続しているということで一つよろしくお願いします。
紛らわしくなってしまってすみませんでした
裏の方をどうやってレイアウトするかはお任せします(無責任

「ターカっ。ご飯よ」
 姉貴はソファに並んで座って、あーんをしようとしていた。おかずはコロッケ。
買ってきたものではなく、姉貴自ら揚げたものだ。

さすがは姉貴だ。いい匂いがして、食欲をそそる。
 両手両足をきつく縛られてさえいなければ。
「この縄をほどいてくれ」
「だめ。タカはまだ調子が悪いんだから、ちゃんと治るまで私が面倒見るの。ほら、あーん」
 にこやかに微笑む姉貴はしかし、どこか薄ら寒い。
「……食べられないの? 仕方ないなぁ」
 姉貴は、箸に挟んだコロッケを自ら口にした。もぐもぐと噛んでから、呑み込まず――
「ほふぁ、くふぃあけふぇ」
 まさか――。
「んんんっ!? んむう……!!」
 どろっと、姉貴の咀嚼したコロッケが流れ込んで……。
「んんっ、んん……」
 ごくり。喉を通りすぎていく。
「どう、お姉ちゃんの口移し。美味しい?」
「あ……はぁ」
 身体が、熱くなっていく。
「ほら……美味しかった?」
 艶やかな唇。さっき口移しした唇。その上を、ちろりと舌が這った。
「あ、姉貴……もう、やめてくれ」
 さっと姉貴の瞳が潤む。
「どうして? お姉ちゃんはこんなにタカのこと好きなのに」
「姉貴だって分かってるんだろ、これじゃ駄目なこと」
「駄目? どこが? どうして? タカは私と一緒にいるもの、なんの問題もないじゃない」
 姉貴が迫ってくるが、拘束されている以上、身体を揺らすくらいしかできない。
 それでもやらないのは麻妃への裏切りのような気がした。
「タカ……んっ」
 そして、口づけてしまう。
 麻妃、すまない……。
 せめて心の中でだけでも。
 麻妃へ届いて欲しいと願った。
621裏『姉貴と恋人』(2) ◆DxURwv1y8. :2006/02/16(木) 20:58:46 ID:z0zFKznU
上の、
買ってきたものではなく、姉貴自ら揚げたものだ。

さすがは姉貴だ。いい匂いがして、食欲をそそる。
の一行空けは無視して下さい……


 もうかれこれ二週間、学校へ行っていない。出席に厳しい科目はそろそろ単位を落とすだろう。
 だが、関係なかった。
「……っく……うう」
 涙は枯れない。
 目の奥が痛んでも、ハンカチから涙が滴っても、アルコールで無理矢理眠っても。
 起きるたびにぐしょぐしょになるから、今では枕を使っていない。その代わりに、
寝間着代わりのトレーナーの袖が冷たくなるけれど。
「ひっく……ぐす……」
 泣いたってしょうがない。でも泣くしかない。
 隆史からの連絡はない。着信拒否も解除されない。大学へは行けない。
 恐い。ただ恐い。隆史に会うのが恐い。会って、本当に捨てられるのが恐い。
そして捨てられた私が何をするのかが恐い。
 動けなかった。
 動いたらそこには恐怖がある。
 動かなければ、少なくとも恐怖を味わうことはない。
 だから私はここにいる。
 そうすれば――もしかしたら。
 あの日みたいに隆史が――
「うああぁっ!!」
 来ないよっ!! 来てくれないのっ!!! 来てくれないよぉっ!!!!
「なんでなんでなんで!!!! あああああっ!!!!!」
 来ない、来ない来ない、隆史が来ないっ!!!!
「たかしぃっ!!! 来てよぉっ!!!!!」
 叫び声の余韻が消え、部屋がシンと静まりかえる。
 こんなことの繰り返し。
「たかし……さみしい、やだよ、くるしいよ、いたいよ、たすけてよぉ……」
 隆史しかいないのに。私のこと本当に見てくれて、助けてくれたのは隆史しかいなかったのに。
 どうして。
「たかしぃ……」
 もう私の元から去ってしまったのなら。
 一言そう言って。
 そうすれば、私は――ラクニナレル。
622裏『姉貴と恋人』(2) ◆DxURwv1y8. :2006/02/16(木) 21:00:15 ID:z0zFKznU
「タカ、たっだいま!」
 にこやかに微笑む姉貴。
「今日はねー、ハンバーグを作ってあげるからね」
 姉貴は鼻歌交じりにキッチンへ向かった。
「あ、姉貴?」
 やけに機嫌がいい。
「何かあったのか?」
 ふり向いた拍子にエプロンがふわっと舞った。
「えっ? んふふ〜、後でね」

「ごちそうさまでした」
「……ごちそうさま」
 姉貴は終始ニコニコしていた。いつもよりよく喋ったし、ときおり思い出し笑いをすることもあった。
 こんなに機嫌のいい姉貴は初めて見るかも知れない。
「さてと、片づけちゃうから待っててね」
 話はその後でということだろう。
 ジャーと水の流れる音がする。
 ガチャガチャと食器が鳴っている。
 そういえば、こんなこと、前にもあったな。
 三ヶ月くらい前、麻妃が唐突に現れて料理をしたときだった。
 挑戦だから、なんて言って急に煮物をやりやがったんだ。
 そしたら案の定、鍋の底焦がしちゃって。
 水をジャージャー流しながら、焦げをガリガリ削ってた。
 あの時の鍋はまだ残ってるはずだ。
 結局底に染みみたいな跡が残ってしまって、麻妃はひたすら謝ってたな。
「タカー、この鍋焦がしちゃったの?」
「ああ、麻妃がな――」
 ガゴッ!、と鈍い音がした。
「あ、姉貴!?」
「どうかした?」
「どうかしたって……姉貴の方こそ」
「私? 私は別に、鍋を捨てただけだけど」
「捨てたって……どうして!」
「あの子の痕跡は必要ないのよ」
「姉貴にとって必要なくても、俺にとっては大切なんだよ!」
「ふふ、大丈夫。お姉ちゃんと一緒にいればそんなの気にならなくなるから」
 あまりに自然に微笑む姉貴。
 知らず、ゴクリと喉が鳴った。
「それにね――あの子、もういないもの」
 …………は?
「信じられないかも知れないけれど、あの子、もう一ヶ月近く学校に来てないの。
それで天川教授に聞いてみたら」
 にやり、と姉貴が笑った。
「一昨日電話があって、退学したいと申し出があったそうよ」
「嘘だ」
「本当。もちろん退学届けが必要なんだけど、彼女、それきり連絡つかないらしいの。
だから、期限が来たら退学の意志を認めて、除籍するって言ってたわ」
 麻妃が、退学?
「そんなバカな!」
「私に言っても仕方ないじゃない。それより、ほら。あの子がいなくなったんだから、
タカはもう私のもの! ねー?」
 あまりに脳天気な口調。
 もう我慢ならない!
「姉貴ッ! 姉貴は、麻妃の人生を壊して楽しいのか!!」
 きょとん、とする姉貴。
「楽しいとか楽しくないとかじゃなくて、そうするべきだったからそうしただけよ?」
「何で、どうしてそんなことをしなきゃならなかったんだ!!」
「はぁ……前にも言ったでしょ。タカの目を覚ますため、タカと私がずっと一緒に生きていくため、よ」
 頬に手を添え、唇を寄せ――
「ん……ね? お姉ちゃんとずっと一緒だよ」
623名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 21:02:17 ID:+3OY22vy
怖いよお姉ちゃん…
624裏『姉貴と恋人』(2) ◆DxURwv1y8. :2006/02/16(木) 21:03:57 ID:z0zFKznU
「……はぁ」
 疲れた。何もかも疲れた。
 学校も、隆史も。
 なんでこんなことになったのか。
 原因を求めればきりがない。
 隆史と遊んでいた日々が懐かしく、もう手に入らないものだという実感がない。
 隆史がお姉さんを選んだという実感がない。
 そして、私が退学するという事実もまた、実感がなかった。
「……はぁ」
 これからどうしよう。
 実家に戻れば、勘当される。
 いや、戻らなくても、いずれバレるから同じか。
 このアパートの家賃も払えなくなる。
 学費が要らなくなれば、バイトで生活を立てられるかな。
 いや……でも、隆史がいる近くでバイトはしたくない。会いたくない。
「……はぁ」
 ここを出よう。
 どこへ行くにしても、今はもう柵はない。
 大学中退でも、職を選ばなければ就職口はあるだろう。
 その日暮らしになってしまうかも知れない。
 でも、まあ、いいや。生きていくしかないんだから。
「……はぁ」
 いま、すべきことは、ここでないどこか遠くで就職して、住処を得ること。
「……はぁ」
 でも、なんでそんなこと。
 よく考えれば、もう、私には何もない。
 家族もなく、隆史もなく、身よりも、技術も学歴もない。
 だったら、この世から去る方がどれだけマシか。どれだけ楽か。
「それだけは、だめ」
 だめだ。
 自ら戒めないと、流れてしまいそうになる。
 生きていればいいことがある。
 そんな言葉を信じている訳ではない。でも、死んだら全て終わりだ。
 でも……全て終わりで何が悪い?
 社会への責任? 親不孝?
 知ったことではない。
 色々な人に迷惑が掛かる?
 どこか見つからないところで死んでしまえばいい。日本全国、行方不明者は五万といる。
「……はぁ」
 だめだ、こんな後ろ向きでは。
 隆史は、私の前向きなところが好きだと前に――
「……なんで」
 忘れたい。忘れるために遠くへ行くのだ。
 早くここを去らないと、もう耐えられない。
 だが、離れたところで耐えられるのか。忘れられるのか。
 その問いに対する答えは、私の中には用意されていなかった。
625名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 21:15:44 ID:+3OY22vy
割り込み本ッ当にごめんなさい… orz
626名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 21:17:16 ID:i2IpfP+e
壊れたマキが隆史と出会ったら救われるんだか・・・
マキが可哀想すぎる
627 ◆DxURwv1y8. :2006/02/16(木) 21:30:02 ID:z0zFKznU
>>625
いえいえ、お気になさらず(`・ω・´)シャキーン
レスが早いのは有り難いことです。
628名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 21:32:21 ID:GLBhTAnq
ちょっと話をきって悪いが、
そろそろ次スレの準備をすべきじゃないか?
629名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 21:38:20 ID:i2IpfP+e
そうか容量がアレか
じゃあ嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 2ヘラ目とか
630名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 21:48:52 ID:+3OY22vy
サイズ制限って512KBでしたっけ。
ちなみに現在600前半で460KBちょっと。
631名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 23:43:59 ID:tUKcJeS8
2本目とか

何が2本かって?それはもうほ包ty
632名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 23:59:12 ID:0WbEAOrK
二ノ太刀要らず

はどうだろうか。
633名無しさん@ピンキー:2006/02/17(金) 00:02:29 ID:b577RD5A
二股目
634名無しさん@ピンキー:2006/02/17(金) 00:09:03 ID:rh/io7cn
>>633
(・∀・)ソレダ!!
635名無しさん@ピンキー:2006/02/17(金) 00:09:27 ID:0CVQiFZA
>>633

それだ
636名無しさん@ピンキー:2006/02/17(金) 00:15:18 ID:fzRXnUlP
泥棒猫2匹目とか 長いか?
637名無しさん@ピンキー:2006/02/17(金) 00:25:19 ID:myglsVJU
633がいいことを言った
638名無しさん@ピンキー:2006/02/17(金) 00:31:30 ID:P0ediGWo
>>633
まさに的を得た表現
639名無しさん@ピンキー:2006/02/17(金) 01:03:43 ID:Tlba1cKx
633の人気に嫉妬
640名無しさん@ピンキー:2006/02/17(金) 01:05:10 ID:iIR0Qrc6
おお、嫉妬の炎が
641阿修羅:2006/02/17(金) 01:07:32 ID:b8viKu9h
>>624氏の投稿作品までの内容でまとめました。
もう毎日ハァハァ・・・・

>>431
すみません、メールチェックは週に1回くらいしかしてませんでした。。
ご指摘の点の修正も行っています。

修羅場ノベルも掲載させていただきました。
掲載許可ありがとうございますm(_ _)m
あと、◆kQUeECQccM氏も仰っていますが、鳥をつけてみてはいかがでしょう?

>◆DxURwv1y8.氏
こっそり「?」をつけておりましたが、気づかれていましたかw
ちょっと凝った画面効果などを加えることをを考えていましたが、
見づらくなるのも困るので、従来と同じ流れでまとめさせていただきました。
稚拙設計サイトで恐縮ですがまたよろしくお願いしますm(_ _)m

642名無しさん@ピンキー:2006/02/17(金) 01:35:27 ID:qkWLbdnc
みんな>633がイイとか言ってるけどさ他にもっといいのあると思うんだけどな。
べ、別に>633が駄目とかそういうのじゃなくて、もっとほかにあるの見て欲しいだけだから
643名無しさん@ピンキー:2006/02/17(金) 01:35:49 ID:Hbh6rZPq
>>638
的は得るもんじゃなくて射るもんだ

一瞬「的=泥棒猫」な構図が浮かんだw
644名無しさん@ピンキー:2006/02/17(金) 04:31:00 ID:qkWLbdnc
645 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/17(金) 07:16:42 ID:5Ut443kV
今日の部活は早めに切り上げた。
これから三人で会うことになっている。
なんでだか知らないが、いつのまにかそれが決まりになっていた。

待ち合わせ場所は、私がいままでいた体育館のすぐ側、
そこにある小さな休憩スペースを指定していたのだが、
私が来るよりも随分と前から、二人は待っていたようだった。
一人は、黒色のショートボブ。勝気そうな瞳。すらりと長い手足。
一人は、茶色のツインテール。特徴的な垂れ目。小柄な体。
どちらも少々いらいらしながら、携帯をいじったりジュースを飲んだりしていた。
「待たせたな」
私が声をかけると、二人は待ちくたびれたといった顔で振り向いた。
今日も、戦いが始まる。



「そろそろ同盟を解消したくなってきたわ」
黒髪が言う。
肩に掛けた竹刀入れを揺らしながら。
チャンバラで一勝負、とでも言うのだろうか?
この女は、脳みそまで筋肉でできているのだろうか。

「もっと仲良くしましょうよぅ……」
そう呟くのは茶髪だが、いちばん油断がならないのがこの女だ。
弱々しい振りをして、裏で相当えげつないことをしていると、私は知っている。
646 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/17(金) 07:17:43 ID:5Ut443kV
二人は一瞬、目を合わせて、そして図ったように同時に私を見た。
「そうよね。仲良く、ね」
黒髪が笑う。
ち。
こいつら、何を企んでいる?
「わたしたちは、あの人を見守るために同盟を組んでいる。そうよね?」
私は頷く。
「そのとおりだ。三人で彼を守る。他の女どもの魔の手から」
「抜け駆けは許さない。接触さえ許さない」
茶髪が唱和する。
最後に黒髪が、厳かに、まるで神の予言を告げるように、言った。
「わたしたちは三人で彼を守る。――ああ、」
黒髪は竹刀入れを肩から下ろした。
「そういえば、知ってる? バドミントン部の――あなたの後輩に、彼に告白した娘がいるの」
「なに?」
聞いていない。
誰だ?
「高橋さんよ。知ってるでしょう?」
「あの娘か」
私は美人ではないが明るい性格の一年生を思い浮かべた。
「だめじゃない。監督不行き届きでしょう?」
黒髪はにこやかに竹刀を差し出してくる。
「そういうのってぇ、部長さんが責任を取るべきよねぇ?」
茶髪の無邪気な笑顔が私に追い討ちを掛ける。
そうやって、私一人に汚れ仕事を押し付けるのか。
「とっととヤキ入れちゃってね。わたし、これから友達と約束があるの」
「あたしだってぇ、今日は早く帰ってお風呂に入りたいのよぅ」
二人は勝手なことを言って、勝手に去っていった。
後に残された私は、ただ理不尽な怒りを抱えて、
それをぶつける対象を見失って、ただ立ちすくんでいた。
今日の戦いも、負けだった。

私はするべきことを弁えていた。
それを実行するつもりでもいた。
客観的に見れば、許されないことかもしれない。
もし、あの二人がいなければ、こんなこと、しなかったのかもしれない。
けれど、逃げることは許されない。
それが"同盟"なのだから。
そして。
……私だって、彼に近付く女を許せないのだから。
私は歩き始めた。
彼女はまだ残っているはずだ。
647 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/17(金) 07:19:26 ID:5Ut443kV
竹刀は使わなかった。せめてもの意地だ。
私は家路に付いた。
薄暗くなった道を、一人で歩いていると、
なぜだか自分がひたすら惨めに思えてくる。
あの二人に言いように使われているだけではないのか。
あの二人は私の知らないところで彼に近づいているのではないか。
自分の家の、その隣の家の前で立ち止まる。
表札には、愛しいあの人の名字。
インターフォンを鳴らす。
そしてわたしは、今日もカッターナイフを取り出す。
手首の上でその冷たい刃を滑らせたとき、
「――――!」
彼が血相を変えて飛び出してくるのを見て、私は薄く笑った。
「またこんなことを!!」
傷口にハンカチを押し当てながら、彼は泣きそうな顔で私を抱きすくめる。
これだ。
あの二人には、こんなことはできないだろう。
私だけ。
ずっと隣の家に住んできた、私だけの特権。
幼馴染の私だけが、彼をこんな顔にできるのだ。
救急車のサイレンを遠く聞きながら、
私は彼の肩に顔をうずめていた。
648 ◆sF7o7UcWEM :2006/02/17(金) 07:20:44 ID:5Ut443kV
ついでだからリスカも盛り込んでみた。

タイトルは、すみません、まとめサイトの管理人さんに一任します。
そこまで考える気力がありません。
649名無しさん@ピンキー:2006/02/17(金) 07:45:39 ID:P0ediGWo
もはや邪悪ちゃんですな。
650名無しさん@ピンキー:2006/02/17(金) 08:24:08 ID:RACglTNZ
すごい妄想力と文才だな、まさにGJという言葉がふさわしい
651名無しさん@ピンキー:2006/02/17(金) 10:20:02 ID:J4TQGS8m
>>647
正直、勃起しますた…
 部屋では楓が夕飯の準備をととのえて待っていた。
 なじられはしまいか、ふさぎこんではいないかと心配して戻ってきたが、
 特にそういうこともなく、というよりはちょっと上機嫌にすらみえる。
 ということは、やっぱり見てなかったんだな。
 ほっと胸を撫で下ろす自分がおかしい。
「遅かったですね、兄さん。暖めなおしますから、座って待っていてください」
 楓はコンロに向かう。
「あ、ああ。悪いな。いつも待たせちまって」
「いいんです、望んでやっていることですから。兄さんが気に病む必要はありません」
 振り返る楓の顔は、なにか憑き物が落ちたようなすがすがしさに満ちている。
 なんかいいことでもあったのかな。
 
「いただきます」
「いただきます」
 楓は普段から料理には手間を掛ける方だが、今日は特に品数が多く、妙に豪勢だ。
「何だかおかずが豪華だけど、なんかあったっけ?」
 女はやたらと節目とか記念日にこだわるらしいからな。
 ここで一緒に暮らし始めて三日目とか、記念日だらけにされたらたまらん。
 楓はうーん、とひと唸りすると、
「意図はそれなりにありますが、意味はありません」
「……なんじゃそりゃ」
 禅問答じゃあるまいし。
 それでも種類と量がちょっと多いだけで、その他はいつも通りの楓の料理だ。
「おかわり」
「はいはい、まだまだありますから、いっぱい食べてください」
「ん」
-----
 
 食事を終え、洗い物をする楓のうしろ姿を眺めながらほうじ茶を啜る。
 ……こんな風に、おれたちは兄妹としてなら本当にうまくやっていける。
 変に意識するからおかしくなるんだ。
 次に樹里ちゃんに会ったときに、これ以上は何もしなくていいって伝えよう。
 後はなるようになるだろう。そう思った。
 
 樹里ちゃんといえば、別れ際の態度が何だか気になるな。
 何とも思わせぶりな発言だったが、もしかして、その、俺のこと……
 いやいやいや。勘違いしてはまずい。これだから男子校出身の童貞は。
 ……自分で言っていて悲しくなってくる。
 いい加減溜まってきているせいか、妄想が止まらない。
 樹里ちゃん、可愛かったなあ……
 普段が無表情な分、ちょっと笑うとそれがすごく心に響くし……
 見た目はちょっと冷たい感じだけど、実は洒落の通じる相手だし……
 付き合ってる奴とかいるのかな……
 樹里ちゃんくらい魅力的なら、彼氏の一人や二人、いてもおかしくないよな……
 脳内で彼女をひん剥いてみる。
 おお、胸はうちの愚妹より大きいな。これが脂肪の塊とは、まさに人体の神秘なり。
 うーん、腰はさすがにモデル体型というわけにはいかないが、十分えっちだ。
 うお、そのクールな表情が、うは、めがね、めがねですか、すご、うはは……
 本人にばれたら絶対に絞殺されるような妄想に耽るうち、愚息がジーンズをぱんぱんに膨れ上がらせていく。
 いい加減に処理しないとな……
 トイレだと絶対ばれるだろうし、風呂だとすりガラス越しに丸見えだ。
 まいったな……
「何がまいったんですか?」
「い、いや、なんでもない」
 楓が自分の湯飲みを持ってきておれの隣に座る。
 慌てて体育座りするおれ。不審すぎ。
 楓は既に風呂に入ってきたのか、ピンク色のパジャマに着替えていた。
 濡れた長い髪と、紅潮した頬が匂い立つような色気を放っている。
「兄さん」
「な、なんだ」
「今日で三日目ですね」
「色々なことがありすぎて、何だかもう一週間近く経った気分だよ」
「……ごめんなさい、経緯はどうあれ、急に押しかけたのは事実です」
「気は済んだか?」
「いえ、全然」
 いけしゃあしゃあと開き直りやがって。
「それでですね、兄さん」
 楓はおれの方に向きなおる。両の瞳がおれを捉える。
「溜まってませんか」
 ……。
「……本気かよ」
「何をいまさら」
 これ見よがしにため息をつかれる。
「あのな、おれたちは……」
「兄さんは朝起きたら顔を洗って髭を剃りますよね」
「ああ」
「夜寝る前にはお風呂に入ってトイレに行きますよね」
「ああ」
「それと同じように、わたしとセックスしてくれればいいんです」
 ……いい加減あたまにきた。
 便所に行くのと、実妹とのセックスを同列に扱えと?
「……楓、おまえいい加減に」
「だってしょうがないじゃないですか! 兄さんがあの女を気にしてるのは性欲のせいで
 す! 絶対! 絶対に! 愛なんかじゃない! 本当はあんな女のこと、好きでもなん
 でもないんです。性欲と愛情を勘違いしてるだけです。それにあの女が漬け込んでいる
 んだってことにどうして気づいてくれないんですか!? 今日だってあんなに露骨に兄
 さんのこと誘惑して、汚らしい雌の匂いをぷんぷんさせて兄さんを困らせて、それで悦
 に浸ってる売女ですよあの女は! 目を覚ましてください! 指輪なんて買ってやって
 る場合じゃないでしょう! 何度でも言います、兄さんはあの女を好きなわけじゃあり
 ません。セックスしたいだけです。射精したいだけです! だからわたしが、兄さんが
 勘違いしないように、兄さんの性欲を、受け止めます。すべて? 全部。全部! 毎日
 からっからになるくらい兄さんの精子を絞ります。そうすれば馬鹿な考えなんて微塵も
 浮かばないでしょう。そうすれば兄さんはわたしを見てくれる。本当の愛情をくれる存
 在、自分を一番愛しているのが一体全体誰なのか、嫌でもわかります! だから! 朝
 でも、夜でも、大学でも、外でも、家でも、兄さんが望むままに! 家族で妹で同居人
 であるわたしが! 楓が! 全部! 責任もって! 兄さんを愛しますッ!!」

 おれは、楓の何をわかっていたというのだろう?

「でも、意外と簡単なものですね。……兄さん、愛してます。ほら簡単。こんなに簡単に
 気持ちって口にできる。今まで押し込めていたのが嘘みたいです。……すごく心が軽い。
 幸せすぎて息が止まってしまいそう。こんなに幸せなら、最初から言っていればよかっ
 たのかな。うふふ。兄さん、あっけに取られた顔してる。そんなに意外? 嘘だ。絶対
 気づいてたでしょ。このまま自然消滅させるつもりだったんだろうけど、甘いよ、甘い。
 甘すぎる。この気持ちはそんなに軽くない。背負ってきた私が言うんだから間違いない
 よ。あはは。あー、幸せ。兄さん、好き。大好き。抱かれたい。犯されたい。うふふ。
 壊されたい。殺されたい」

 ……にいさんのこと、ころしたいくらい、あいしてる。
 
 楓がしな垂れかかってくる。
 熱を帯びた躯。石鹸の匂い。潤んだ瞳。薄く開かれた唇。
 楓は無邪気におれの股間に手を伸ばす。
 自分にないものに興味しんしんだった、本当に小さかったあの頃に戻ったかのように。
「あは、にいさんったらもうこんなにおっきくしちゃって、ズボンがはちきれそう。
 ごめんね、我慢させちゃったね。すぐに楓が、楽に、してあげるよ。
 だからね、お兄ちゃん。いっぱい、いっぱい、いーっぱい、
 まっ白いどろどろの精子、かえでで、びゅっ、てして?」
 もう、我慢、できなかった。
655 ◆kQUeECQccM :2006/02/17(金) 17:12:53 ID:P0ediGWo
かえで蛾物故割れた。

>571
こういう嫁が欲しいです。
656名無しさん@ピンキー:2006/02/17(金) 17:18:48 ID:uwhdxsOn
>>645->>648
>>652->>654
お二方GJ!


さて、次スレの準備についてなんだが。

2ヘラ目
2本目
二ノ太刀要らず
二股目
泥棒猫2匹目

が今の所出てるヤツな。

容量的にはあと、>>645->>647を一本として9本分くらい{(512-477)/4≒9}
あまり余裕ないから>>670あたりに頼むかw
657名無しさん@ピンキー:2006/02/17(金) 18:51:46 ID:chSCQLlb
>>654
楓たん、なぜか俺の中ではD.C.の音夢が声・セリフ共にダブって見える訳だが
658『鏡』 ◆AsuynEsIqA :2006/02/17(金) 19:59:43 ID:pwzhniZw
しばらく忙しくなるため、更新遅れますorz
余談ですが乃南アサの『ふたり』という小説はいい嫉妬小説ですた(`・ω・´)
659 ◆kQUeECQccM :2006/02/17(金) 22:12:19 ID:P0ediGWo
>657
もうあの人の声にしか聞こえなくなった。こうなった責任とってよ! ねえっ!w

>◆AsuynEsIqA氏
お疲れ様です。
自分も今回分で貯金を全部吐き出してしまいますた ω
660名無しさん@ピンキー:2006/02/17(金) 22:37:23 ID:Sxuszj/X
病んだ現代社会の疲れを癒すスレですね。
661名無しさん@ピンキー:2006/02/17(金) 22:56:50 ID:chSCQLlb
そうか?w

>>659
それはすまんかった…
だが私は謝ま(ry
662名無しさん@ピンキー:2006/02/17(金) 23:16:29 ID:J4TQGS8m
またおっきしますた
663名無しさん@ピンキー:2006/02/17(金) 23:41:34 ID:LsX9mFPY
「私のことは好きか?」

蝉の鳴き声が響く縁側でスイカにかぶりついている傍らの少年に伊吹綾(7)は唐突に尋ねた

「ふぇ?」

一切れ目を食べ終え、二切れ目に挑みかかっていた岡野誠(4)は口の中のスイカを咀嚼しながら綾に顔を向けた
口の中をもくもくとさせながら不思議そうな顔をしている誠に綾はもう一度同じ質問を投げかける

「誠は私のことは好きか?」
「うん、ひゅきだよ」

口の中に頬張ったままそう答えながらうなずいたので口から涎ともスイカの汁ともつかない液体が誠の
口周りとシャツに飛び散り、綾の真っ白なワンピースにも一つ二つの染みを浮かび上がらせた

「そうか、私も誠が好きだから私たちは両想いだな」
「りょうおもい?」
「そうだ、両想いだから結婚も可能だ」
「ケッコン?」

幼稚園に上がったばかりの誠には理解できない言葉を操りながら綾は自分ワンピースの染みなど一顧だにせず誠の口周りをハンカチで拭ってやる

「そうだ。大きくなったら私と誠は結婚するんだ」
「そうなの?ケッコンするとどうなるの?」
「結婚すると私と誠はずっと一緒にいられるんだ」
「ほんとう?ごはんもいっしょにたべるの?」
「ああ、ごはんも一緒だしお風呂も寝るのも一緒だ。何をするのも私たちは一緒。それが結婚だ」

綾は結婚というものがどういうことかを誠にも理解できる言葉で教えた
664名無しさん@ピンキー:2006/02/17(金) 23:42:19 ID:LsX9mFPY
「ふーん…じゃあいまとぜんぜんかわらないね。ごはんもおふろもねるのもいっしょだし」

綾の説明を聞く限り、結婚という物は何をするのも一緒だという。
だがそれが結婚だというのであれば自分たちは既に結婚しているのではないか?昨日の夕食も一緒だったし風呂にも一緒に入った。おまけに寝るのも同じ布団だったではないか

「そうだな…今とあまり変わらないな…だが誠が小学校に行くようになったらご飯は一緒に食べられるかもしれないがお風呂と寝るのは一緒じゃ無くなるかもしれない」
「どうして?」
「どうしてもだ」

小学校に上がり、なんとなくではあるが社会の空気というものを理解し始めた明敏な少女は今の環境がもう、そう長く続かないことを察していた
しかし目の前にいる少年はこの状態が当たり前で永遠であると思っている。彼の年齢を考えれば当然ではあるが……

「えーそんなのやだー」
「嫌か?」
「うん、やだー」
「じゃあ…」

体ごと自分に振り向かせ、頭一つ低い位置にある瞳を見つめながら誠に詰め寄る綾

「私と結婚してくれるか?結婚すれば誠が大きくなってもずっと一緒だ。ご飯もお風呂も寝るのも全部だ」

その瞳には小学生になったばかりの少女とは思えない「何か」が篭っていた
さっきまでうるさいくらいに誠の耳に響いていた蝉時雨がいまは遠くから聞こえてくる。
そしてそれははまだ頑是無いといっていい誠にも伝わるくらいの「何か」であり、見えない力に押さえつけられたように誠は首を縦に振った

「うん…でもケッコンってどうやるの?」
「これから私の言うことに「はい」で答えるんだ。難しく考えることは無いぞ」
「それだけでいいの?」
「そうだ…では始めるぞ…こほん、誠は綾を妻とし、病気のときも元気な時も時も一緒に過ごし綾を永遠に愛することを誓うか?」
「はいっ!」
「よし、じゃあ私が良いというまで目をつぶっててくれ」
「はーい」
665名無しさん@ピンキー:2006/02/17(金) 23:43:08 ID:LsX9mFPY
言われるままに目をつぶった誠の頬を両手で挟みこむ。その手の温かさに言いようのないくすぐったさを覚え、目を開けようとした刹那

チュッ…

誠が目を開けるのと唇に柔らかく冷たい何かが押し付けらたのはほぼ同時であった

「ん…んむ…んくぅ…」
「ん〜〜ん〜〜…」

歯を割り開き綾の舌が誠の口の中に進入し舌を絡ませて口内を思う様蹂躙する

クチュ…クチュ…

「ぷはっ…」

息が続かなくなりどちらとも無く離れたが細い銀の糸が幼い二つの唇を繋いだ

「くちのなかがなんかぬるぬるする…」
「そのうち慣れる。結婚すると毎日これをやるんだからな」
「毎日?」
「そうだ、毎日だ…もうちょっと大きくなったらもっとすごいこともするぞ」
「もっとすごいことって?」
「誠が大きくなってからのお楽しみだ」

そういって誠を自分の頭を膝に乗せる。ふんわりとした心地良い感触が綾の太ももをくすぐった

「これで私たちは夫婦だ、ずっと一緒にいられるぞ」
「ふーふ?」
「結婚した男女のことだ」
「ふーん…まぁいいや!これであやねーちゃんとずっといっしょにいられるんでしょ?」
「ああ、ずっとずっといっしょだ」
「やったぁ!あ、そうだ、ねぇねぇっ!」
「なんだ?もっとすごいことは誠がもう少し大きくなってからだぞ?」


「かすみねーちゃんともケッコンしていい?」

その瞬間綾の瞳の奥に稲妻が疾ったように見え、誠の頭に敷いてる柔らかい太ももが強張った

666名無しさん@ピンキー:2006/02/17(金) 23:45:48 ID:LsX9mFPY
素直クール+修羅場+幼馴染という妄想が指令を出してきたので投下
下手な文章でごめんなさい(ノД`)
いい感触だったら続き書きます
スレ汚し失礼しました
667名無しさん@ピンキー:2006/02/17(金) 23:47:22 ID:1jVYMXJ8
>666
十年後の二人まだー?
668名無しさん@ピンキー:2006/02/17(金) 23:50:38 ID:P0ediGWo
素直クールに激震走る、はかなり好きなので個人的には大アリで。
669名無しさん@ピンキー:2006/02/18(土) 00:00:03 ID:BsENeHdg
続きキボンヌ
670名無しさん@ピンキー:2006/02/18(土) 00:05:34 ID:tAQg58U0

>「かすみねーちゃんともケッコンしていい?」

あるあるw
671名無しさん@ピンキー:2006/02/18(土) 00:18:27 ID:6AYOXTBd
そろそろ次スレかな
672名無しさん@ピンキー:2006/02/18(土) 00:24:12 ID:VDCO66LX
>666
小学校高学年ぐらいから女の子意識して恥ずかしくなって距離とろうとするのまだー?
性に対して全力全開で目覚める中学編まだー?
全寮制の学校に行こうかと思ってるなんて言って激震はしるのまだー?
密かに転校していく他の女の子に対してケッコンすれば一緒にいられるよと言って別れた後帰ってくるのまだー?
幼馴染相手に散々練習したからスーパーテクニシャンとなって、影に隠れてやりまくるプレイボーイ編まだー?

…妄想で煩悩中枢刺激されて五本分ぐらいSSかける気がした
673名無しさん@ピンキー:2006/02/18(土) 01:02:10 ID:0jH3kNB8
早く10年後編きぼんぬ!

〃〃∩  _, ,_
 ⊂⌒( `Д´) < 早く書いてくれなきゃヤダヤダ!
  `ヽ_つ ⊂ノ   
             
           ジタバタ
674名無しさん@ピンキー:2006/02/18(土) 03:23:26 ID:3YiETB4C
480越えたし早々に次スレ立てないとやばくない? テンプレはこんな感じか。


嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 二股目(仮)


浅いものはツンツンしたり、みたいな可愛いラブコメチックなヤキモチから
深いものは好きな人を独占して寵愛する為に周囲の邪魔者を抹殺する、
みたいなハードな修羅場まで、
醜くも美しい嫉妬を描いた修羅場のあるSS及び、
他様々な展開の修羅場プロット・妄想を扱うスレです。

前スレ
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1137914849/


■関連スレ
嫉妬・三角関係・修羅場統合スレ 第11章
http://idol.bbspink.com/test/read.cgi/hgame/1139807187/
■姉妹スレ
嫉妬・三角関係・修羅場統合スレinラ板
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/magazin/1132666398/



風呂入ってくるが、出てきても立ってない&特に反対がないのなら俺が立ててくるよ。
675名無しさん@ピンキー:2006/02/18(土) 03:36:07 ID:YdaZjF6C
保管サイトの方も追加しる
676674:2006/02/18(土) 05:39:11 ID:80ZAQkTo
次スレ立ててきました。獲得票多数の二股目使わせてもらいました。

嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 二股目
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1140208433/

では。
677名無しさん@ピンキー:2006/02/18(土) 05:46:09 ID:pn39YV6s
俺はこのままロリ展開で良いと思ってるw
678名無しさん@ピンキー:2006/02/18(土) 14:32:59 ID:jFTQeEBD
こっちってスレストするまで埋めなきゃ何かまずいのかね?
679名無しさん@ピンキー:2006/02/18(土) 15:28:55 ID:NjvgXqOF
とりあえず今486KBだから少し投下してもらえれば・・・・
680名無しさん@ピンキー:2006/02/18(土) 16:05:09 ID:nqrqld6p
てめぇら正直に手をあげろ。
>>599-600の藍子で抜いたのは俺だけじゃあるまいな?
681名無しさん@ピンキー:2006/02/18(土) 17:06:31 ID:FSoyXct1
私のものなの。私のものな>の。私のものなの。私のものなの。私のものなの。私のものなの。私のものなの。
>私のものなの。私のものなの。私のものなの。私のものなの。私のものなの。私のものなの。私のものなの。

このへんでバーストしました
682名無しさん@ピンキー:2006/02/18(土) 18:45:51 ID:TnxIpHgG
新スレが……立った……?
嘘でしょ。
だって、まだ私10KBもあるんだよ!
682スレもの長い間!01/22(日) 16:27:29!
あのときから今日! この時間! この瞬間まで!
ずっとずっと一緒だったのに!
新スレが立ったからって私の前から消えるの……?
ううん。いや。絶対にいや!
私はあなたのものだもの。あなたもいやだよね?
間違って立てちゃっただけだよね?
安心して。あんな新スレすぐに削除してもらうから。
え…このスレの寿命?
大丈夫。私達愛しあってるんだもの。辛くないよ。
だから、だから。
あんな新スレほっといって
一緒に、dat堕ちしよう……?
683名無しさん@ピンキー:2006/02/18(土) 18:55:58 ID:GI2LhSGw
ワロスw
684名無しさん@ピンキー:2006/02/18(土) 18:57:32 ID:+hIpP0nQ
埋め
685名無しさん@ピンキー:2006/02/18(土) 19:02:20 ID:pFvc8cZG
>682
あんた馬鹿ね、本当に馬鹿ね。
あなたはもう用済み。必要ないから新スレ――私が必要になるの。
容量オーバーで書き込みも出来なくなるスレって惨めじゃない?
彼とはうまくやっておくからあなたは心配しなくていいのよ。
686名無しさん@ピンキー:2006/02/18(土) 20:15:48 ID:+hIpP0nQ
埋め
687名無しさん@ピンキー:2006/02/18(土) 20:15:51 ID:bLsrytAq
>>682
>682スレもの長い間
長すぎるぞw
688 ◆DxURwv1y8. :2006/02/18(土) 21:33:41 ID:0pvneFG5
埋め立て用にSS書いたんですが、18KBになってしまいました……
制限が500KBだとすると足りず、512KBだとしてもギリギリなので、投下していいものでしょうか。
次スレに落とすべきでしょうか。
689名無しさん@ピンキー:2006/02/18(土) 21:54:58 ID:pFvc8cZG
>689
前半部分をこちら、後半を新スレ。
これで立派な二股作品だ。
690 ◆DxURwv1y8. :2006/02/18(土) 22:03:12 ID:0pvneFG5
>>689
なるほどw じゃあいきますwww
一応埋め立てようなので、前半をかなり多くしますが。


 どこか愛らしい、チープなアーチをくぐる。
 ここは○○学園。あたしの彼氏、平野君が通う学校。
「いらっしゃーい! 寄ってみて下さい!」
 チラシをいくつも渡される。その中には平野君のクラス、2−Bの出し物も含まれていた。
「へぇ、喫茶店かぁ」
 何だ、普通じゃない。教えてくれないからどんなにヘンなやつかと思っちゃった。
「にしても……」
 教えてくれたっていいのに。確かに平日だから私は授業があって来にくいけれど、一日くらい
サボったってどうってことない。実際、今日は友達も何人か欠席しているはずだ。
 まあいいや。いきなり行ってビックリさせてあげよう。
 どこか頼りない彼があわてふためく様を想像して、ちょっと危ない人みたいとは思ったけれど、
あたしは含み笑いが止まらなかった。


「ねぇ、本当にだいじょうぶ?」
 心配そうに、それでいて甘く囁く洋子。
 喫茶の裏側で忙しく準備しながら、僕達は身体を寄せ合っていた。
「大丈夫だって。美奈には何も教えてないんだから」
「日程も?」
「日程も」
「出し物も?」
「出し物も」
「クラスも?」
「それは、前に教えちゃった」
「もう……来ないでって言った?」
「それは、言ってないけど」
「もう、ツメが甘いんだから……んっ」
 柔らかい唇。ついばむように何度も口づけを交わす。
 視界の端に、うんざりしたような金子武雄の表情が見えた。見て見ぬ振りをしてくれるのは
ありがたい。
「ん、はぁ……そう言わないでくれよ……大丈夫だよ、今日平日だから」
 普通は客の入りが悪くなるから敬遠されるのだけど、今年は日程やら交通やらその他諸々の
理由によって平日に開催されることになっていた。
 まあ、そのお陰で僕は洋子と楽しい青華祭を迎えられるのだから文句は言えないけれど。
「そうね……あなたを信じるわ」
 どこか媚びるような上目遣いにくらくらする。
 クラス一の、いや学年一の大和撫子と評判の高宮洋子。彼女のこんな表情は、僕しか知らないのだ。
「あっ」
 ギュッと強く抱き締めて、僕は今日が最高の一日になることを確信した。


 いきなり襲撃……したいけれど、今回はちょっと趣向を凝らそう。もっと時間をおいて、そう、
お昼に行けば、混んでるかも知れないけど、お昼ごはんを食べられるし平野君と会えるし驚かせ
られるしで一番良さそう。
 うん、そうしよう。
 そうと決まれば早速、それ以外の所で時間をつぶさないと。幸い今日は青華祭。暇つぶしなら
いくらでもできそうだ。
691 ◆DxURwv1y8. :2006/02/18(土) 22:04:05 ID:0pvneFG5
「ねえ、やっぱり初めのうちは止めておきましょう? もし美奈さんが来たら大変だし、やること
も沢山あるし」
 開場し、ガヤガヤと遠くから賑やかさが近づいてきた頃、洋子はそんなことを言った。
「……そうだな。美奈はあいつ、我慢できない質だから、来るとすれば最初の方だろうし」
 もう客が来る頃だ。そろそろ出ないと。
「あ、待って。その前に一分だけ」
 すっと身体を寄せ、控えめに背中に腕を回す洋子。胸に顔を埋め、うっとりとしている。時折
頬ずりする様は、猫か犬か、とにかく可愛らしい。
 よそからの視線は感じたけれど、この幸福感の前ではものの敵ではなかった。
 スレンダーな割に出るところは出ている感触。
 思わずそこへ手を伸ばしそうになるけれど、我慢した。
 彼女の家はとても厳しく、結婚するまで「そういうこと」は一切禁止と言われている。
彼女もそれを守っているので、僕達はまだ、キスまでしかしたことがなかった。
 本当はキスもだめなんだけれど、洋子が僕のためにと、それだけは内緒でさせてくれている。
「……はい、一分」
 やがて彼女は自ら身体を離した。頬が赤くなっているのが堪らなく愛しい。
「頑張ろうね」
「ええ」
 僕達はウェイターとウェイトレスとして働くことになっていた。
 総勢10名で、客が入ってくるたびに一人ずつロケット鉛筆のように入れ替わっていく方式だ。
だから、待機時間の内は、その、いちゃいちゃできると思っていた。
 もっとも、午後からは別の10名と入れ替わって一緒に青華祭の出し物を見て回る予定ではある。
つまりは、丸一日甘い時間を過ごせるかそうでないかの違いしかないのだけれど。
「いらっしゃいませ」
 そんなことを考えているうちに一人目の客が来た。それに寄せられたのか、どんどん人が入って
くる。
 今日は忙しくなりそうだ。

 そろそろ、いいかな。
 もう12時を少し回ったくらいで、飲食系の出し物に人が集まっている時間帯。
 混雑に紛れて、平野君に至近距離まで近づいて。
 いきなり抱き付いたりしたら、きっと面白いくらいに驚いてくれるはず。
 ガヤガヤと騒がしい廊下は活気に溢れている。あたしまで楽しくなってくる。
 待っててね平野君。今行くから。
692 ◆DxURwv1y8. :2006/02/18(土) 22:04:36 ID:0pvneFG5

 シフトの交代時間まであと少し。そうすれば、この仕事から解放されて洋子と一緒に……。
「いらっしゃいませ」
 今裏で、交代要員が準備をしている。客への応対方法の確認とか、オーダーの伝え方の確認とか。
 もうすぐだ。もうすぐ。
 オーダーを取ってきた洋子を見ると、ちょうど目があった。
 柔らかく微笑む洋子。
 美しい。
 のろけと言われようが、バカップルと言われようが、美しいものは美しい。
「はい、前半の人は、各自あと一回オーダー取ってきたら交代していいよ。逐次後半の人と入れ替わって」
「いらっしゃいませ」
 これが僕の最後の仕事。洋子はついさっきオーダーを取ってきたばかりだから、
一番最後の方になってしまうが、仕方ない。
 そして、つつがなく仕事を終えた僕は、高橋と交代して裏で洋子を待つ。
「羨ましいヤツだ」
 と、僕に続いて交代した金子が肩を回しながら近づいてきた。
「何が」
「お前、殴っていいか。高宮洋子だよお前の彼女の。一緒に青華祭回るんだろ?」
 小突かれたが、決して悪い気分ではない。むしろ誇らしい。
「まあね。きっと彼女は、神様がくれた宝物なんだよ」
「ったく、彼氏バカだな。否定できないところが本当にムカツクぜ」
 そう言いながら、金子は豪快に笑った。
「ちょっと金子くん、そういうの恥ずかしいわ……」
 と、当の本人も仕事を終えたらしい。そして当然のように僕の脇に寄り添う。
「あーあ、やってらんないよ。まあ楽しんでこいや」
 ひらひらと手を振って金子は外へ出て行ってしまった。
 すっと視線を合わせて微笑みあう。
「行こう」
「ええ」
 僕らの青華祭は始まったばかりだ。
693 ◆DxURwv1y8. :2006/02/18(土) 22:05:09 ID:0pvneFG5
 僕が洋子と知り合ったのは高校一年の春。同じクラスで、一緒にクラス委員になったことで
話し合う機会ができて、そのまま親しくなっていった。彼女は一言で言えば才色兼備。まず美しく、
淑やかで聡明、そして何よりいい子だ。全校の憧れの的といっても間違いではないだろう。
そんな彼女がなぜ僕なんかを好きになってくれたのかは分からないけれど、僕の方からは一つも
不満はない。
 対して美奈は幼馴染みに近く、家は100mと離れていないし幼稚園から中学校まで一緒だった。
美奈と特別親しくなったのは中学二年の頃からだ。初めての恋だった。互いに初々しくて、手を繋ぐ
のにも戸惑うくらいで、あっと言う間に一年が過ぎ、受験になって。僕はそれなりに名の通った公立
高校に無事入学したが、彼女は同じ高校を受けたけれど落ちてしまって、遠く離れた私立に通っている。
 美奈のことが嫌いな訳じゃない。ただ、高校が離れたことで互いのスケジュール合わなくなり、
すれ違いも多くなってしまった。そして、去年の十月頃から半年以上、細々とメールのやり取りを
続けるだけになってしまっている。

 初め僕が美奈の存在を打ち明けたとき、洋子はまず美奈の心配をし、ついで僕を責めた。どうして、
そんな酷いことをするのかと。確かにその通りだった。僕は酷いことをしていた。洋子のことが好きな
のは本当だったし、同時に美奈を振るほどの理由は見つけられないでいた。しかし、彼女は僕と別れよ
うとはしなかった。酷い酷いと責めはしても、僕が彼女のことを本当に好きなことは分かってくれてい
たようだ。そして、彼女も同じく、僕と離れがたく思っていてくれたのだろう。彼女が如何に怜悧聡明
であっても、やはり高校生となれば道理を通して好きな人と別れるのは難しかったのだと思う。

 洋子は、僕と自らと美奈の関係において、多く美奈を優先した。美奈が可哀想だから、とか、美奈に
悪いから、とか。今回の青華祭で美奈に来させないようにしようと言ったのも洋子だった。彼女はきっ
と傷つく。三人が出会ったら、きっと僕は美奈を傷つけるから、と。彼女は僕のことを実によく分かっ
ていた。僕自身、確かにそうなってしまうと思う。
 彼女は、僕と美奈の関係が自然消滅するのが一番いいと考えているようだった。直接別れを切り出し
たら美奈が傷つくし、かといってだらだらと続けていてもやはり、いつか彼女を傷つけてしまう。だか
ら、互いに悔恨を残さないように静かに別れるのがいいと。
 だが物事はそううまくいくものではなかった。結局ずるずると長引いて、青華祭になってしまった。

 彼女はきっと来ない。
 だけど、これを機によりを戻そうとしないとも限らない。
 洋子と楽しく周りながら僕は、一抹の不安を拭えないでいた。


 まったく、平野君ったらシフトが午前中だけだったなんて。
 お陰でこうして校内を探し回ることになってしまった。
 賑やかな廊下が、今では鬱陶しい。
 早く探さないと青華祭が終わってしまう。終了時間は午後四時。今は午後一時。あと三時間。
 その間に会って話をして、ちょっと疎遠になっちゃってたのをなんとかしないと。本当にあたし達終
わりになっちゃう。
 どこ行ってるの。
 会いたいよ。
694 ◆DxURwv1y8.
「ここに何かあるの?」
 管理棟四階。特別教室がずらっと並んでいるここには、僕の友人がいる。
「まあ、付いてきてよ」
 手を繋いで洋子と歩く。
 廊下は静かで、こんな所に展示があるなんて知る人も少ないだろう。パンフレットにも、隅っこの方
に小さく載っているだけだ。
「こんにちは」
「あら、平野君。どうしたのこんな所に」
 実験室特有の四人がけのテーブルに肘をついて、怠そうに答えたのは叔母の高井聡子さん。この学校
で数学教師をしている。数学部の顧問でもあり、数学部の展示を監督するという名目で煩雑な仕事から
逃れているちゃっかり者だ。
「ちょっと彼女とのんびりしたいと思って」
「ふぅん。そちらの綺麗なお嬢さんがそうなのね」
 面白そうな視線を受けて、洋子はおずおずと自己紹介した。
「初めまして、高宮洋子です、その、平野くんとお付き合いさせて頂いてます。よろしくお願いします」
「あら、あなたが。高宮洋子といえば職員の間でも評判よ。うちの甥がお世話になってます」
 にっこりと微笑む叔母さんと、珍しく動揺している洋子が面白い。
「それでさ、ちょっと準備室貸してくれない?」
「やっぱりそれが目的なのね。まあいいけど。コーヒーは三人分よろしくね」
「はいはい。さ、行こうぜ」
「えっ? え、ええ。あっ、失礼します」
 洋子は律儀に頭をさげてから付き従う。
「あ、そうだ。うちの兄によろしく言っておいて。こんな良くできた、綺麗な娘ができるなんて幸せ者
だって」
「う、か、からかうなよ!」
 洋子は頬を染めて黙っている。
「ほら、行った行った。仲良くね。でも、あまり仲良くしすぎちゃ駄目よ。防音なんてできてないから」
「わ、分かってるよ!」


「ごめんな。まあ、これくらいは予想の範疇だったけど」
「ええ、それはいいけれど」
 洋子は控えめに部屋を見回す。
「ここ、使っていいの?」
「大丈夫大丈夫。ここは叔母の城だから」
 化学実験準備室は叔母の私物で溢れている。洋服、化粧品、パソコン、本、本格的なコーヒードリッ
パー。職員室から遠く誰も見に来ないので、自由に使えるのだという。僕も時々利用させてもらっている。
「さてと。叔母にコーヒー持っていってやらないと」
 もう何度も出入りしているから、扱いには慣れている。
 叔母はこだわりを持っているので、ミルで豆を挽くところから始めなければならない。
 ミルのレバーを回し、ガリガリと細引きする。
 その様子を珍しそうに眺める洋子。
「なんだ、洋子は挽いたことないのか?」
「家は紅茶なの。そっちなら、基本的な煎れ方くらいは分かるけれど」
「そっか。じゃあ、今度ごちそうしてくれよ」
「ええ、喜んで」
 洋子は微笑んだ。
「ん? ということは、僕が洋子の家へ行くってことになるのかな」
「え? ええ。そうなるけれど」
「緊張するな」
「も、もう……ちょっと遊びに来るだけでしょう」
「そうだけど」
 くすぐったいような、恥ずかしいような。幸せな空気。
 昼下がりの化学準備室。
 豆を挽く音が静かに響いていた。