【友達≦】幼馴染み萌えスレ7章【<恋人】

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606かくれんぼ1:2006/04/20(木) 18:34:20 ID:1nuX7Eaw
その日あたしは、奇妙で少しおぞましい、でもちょっとわくわくするような、全体的に言えば悪夢のような体験をしたのだった。



思えば、幼稚園からのつきあいである徹は変であり、ぼやっとしていた。
連綿とぼやっとし続けていた。
道ばたで石ころにつまずくなんていうのは当たり前であり、服を裏返しに着ていたり、連絡帳を忘れたり、遠足の日に間違えてランドセルで来るなんて事さえした。
おかげであたしは、徹の分までしっかりしなきゃいけないようなことになり、要するにお世話係のようなものだった。
忘れ物はないかとか、雨の日に一人で帰れるかとか、いっつも心配してあげなきゃいけなかった。
水泳の時には、足がつって溺れないようにと、いつも近くで見てあげないと心配だった。
なのに、徹があたしより早く逆上がりが出来るようになったのは納得行かなかった。
でも、あたしの方がかけっこは早かったので、運動会ではあたしの方が得をした。
抜けている割には、頭は悪くないみたいで、算数はあたしと同じくらい九九が言えたし、作文ではよくほめられていた。
(たとえが変だと先生に注意されることもあった)
本を読むのが好きみたいで、徹の家に遊びに行ったときには、いつも本が散らかっていた。
あたしが好きなのはシンドバットの冒険の話だったけど、徹が読んでいたのは、もう少し漢字の多い本だった。
(ついでに言うと、徹はシンドバットの冒険よりアリババの話の方が好きだそうだ)
だからあたしは徹の読んでいる本を読んだことはあんまり無かった。
けれど、いつだったか、一度徹が絵ばっかりの本を熱心に見ていたときに、隣から覗き込んでみたことがある。
真っ青な綺麗な空が背景で、白いドレスを着た女の人が、白い傘を差して立っていた。
その顔の上に、なぜだか紫色の花が、どすんと乗っていた。
女の人の顔は、花で潰されてしまっていた。
なんだか気味の悪い絵だった。
なんで徹は、こんな絵がのっている本をずっと眺めているんだろうと不思議だった。
「ちょっと気持ち悪いよ、この絵。とーる、こんなのが好きなの?」
「リサの顔の上には花が乗ってなくて良かったよね。」
「当たり前じゃない。こんな人どこにもいないよ。」
「でもさあ、リサの顔は目をつぶっていても、やっぱり良いよね」
そう言って、徹は目をつぶって、あたしの顔をぺたぺたさわり始めた。
あたしは、徹は本気で頭がおかしいんじゃないかと心配した。
(あたしは三日に一回は必ず、頭がおかしいんじゃないかと心配した。
ちなみに今まで一番心配したのは、嘘くさい鬼の着ぐるみに本気で怯えて、あたしに縋って泣いていた時だ)
「なにやってんの。息がしにくいからやめてよ。」
そう言うと、目をつぶったまま、顔を近づけて、くんと鼻を鳴らした。
「あ、でも匂いも良いかも。」
こういう風に、こいつの言うことはいつもずれていて、あたしの苦労が少しでも伝わっているとはとても思えないのだった。


607かくれんぼ2:2006/04/20(木) 18:35:10 ID:1nuX7Eaw
『それでね、その悪い子はね、誰よりも上手く隠れてしまったの。
かくれんぼの鬼もずっと探していたんだけど、全然見つからないのよ。
そのうちみんなはそのこのことを放っておいて、別の遊びを始めたの。
でもね、それでも悪い子はずっと隠れていたのよ。みんながその子のことを忘れて帰ってからもね。
そのうち暗くなったんだけど、それでもその子は出ていかなかった。なぜなら、悪い子だったからよ。
それからようやくその子がいないことに気が付いて、探し始めたときには夜になっていたの。
とっても寒い日だったのよね。
上手く隠れたものだから、次の日の麻にその悪い子がようやく見つかったときには、周りの雪とおんなじくらい、冷たくなっちゃっていたのよ。
というわけで、理沙も悪い子だとこんな目にあっちゃうんだから早く寝なさい。』
お母さんがこんな話をした次の日の天気は、薄曇りだった。
夏も間近だったけれど、ちょっと肌寒い日だった。
2年生の授業は4時間で終わる日だったから、午後はずっと近くの公園で遊んでいられる。
色鬼をして、ジャングルジムに競争で上って、缶蹴りをして。
それからかくれんぼになった。
あたしはなにか、まずいんじゃないかという気がした。
ジャンケンをして、鬼になったのはあたしじゃなくて、それも落ち着かない原因になった。
隣で相変わらずぼやっとしている徹の顔を見ると、なおさら心配になってきた。
「どうしたの?そわそわして。リサが、かくれんぼするのを怖がるわけないし」
何にも分かっている分けないこいつに、心配されたのが癪で、あたしはふいっと横を向いた。
「いーち、にーい、・・・」
鬼が数を数え初めて、みんなが走り出した。徹もどこかへと走り去っていく。
徹はどっか変だけど、悪いことをするだけの要領はないから悪い子ではないはずだと、むりやり自分に言い聞かせてあたしも走り出した。
「じゅーよん、じゅーご、・・・」
今日に限っては、数える声に追い立てられるようで、本気で怖い。
早く見つかるように、その辺の木のかげにさっさと隠れた。
「にじゅう!もーいーかい。」
「もーいーよ!」
急いで返事をしたけれど、徹の声は聞こえなかった。この近くではないらしい。
少し考えたら、いつも通りのかくれんぼのはずだ。
なんにも怖いことなんかない。
それでも息が、いつもより荒い気がした。
はあはあとうるさくなる息が、ますます自分を追いつめていくようで、あたしは自分の口に手の平を押しつけた。
ぐるぐるする頭に体がついて行かなくて、あたしはその場にしゃがみ込んだ。
「みーつけた!」
はっと顔を上げると、鬼が目の前に立っていた。
分かりやすいところにいたつもりなのに、あたしが見つかったのは最後から2番目だった。
まだ見つかっていないのは、徹だった。
案の定過ぎて、嫌になった。

608かくれんぼ3:2006/04/20(木) 18:35:44 ID:1nuX7Eaw
やっぱり最後まで徹は見つからなくて、みんなは徹が勝手に家に帰ってしまったんだろうと、チャイムが鳴ったので帰ってしまった。
徹はいっつもぼやっとしているから、あたしもみんなに反対できなかった。
だけど、家に帰ってからも、どうしても気になって、普段は使っちゃ行けないことになっている受話器を取らずにはいられなかった。
焦っているのに電話の方では、のんきな呼び出し音がトゥルルルと響いていた。
がちゃりと出た相手は、徹のお母さんだった。
「あ、あの、川口ですが・・・」
「あら、理沙ちゃん?一人で電話が掛けられるなんて偉いわね。ああ、徹ね。徹ならまだ帰ってないみたいなの。あの子のことだから、またどこかで道草しているのかしら?せっかく理沙ちゃんが、電話を掛けてきてくれたのに。ごめんなさいね、後でかけ直させるから。」
「い、いえ、その、だいじょうぶです。失礼しました!」
がちゃりと電話を置いたときには、心臓がものすごい早さでばくばく鳴っているのが聞こえた。
やっぱり徹はまだきっとどこかで隠れているに違いない。
ぼやっとし続けたまま、明日の朝冷たくなって発見されてしまうかも知れない。
もう動かなくなってしまった徹のいつもぼんやり見開いているうす茶色の目に、雨がぴちょんと降ってくるようなイメージまで浮かんできて、なんだかそれは今にも本当になりそうで、居ても立ってもいられなくなってきた。
あたしは上着を一枚はおって、外へと徹を捜しに走った。

どんどんと周りは薄暗くなり始めて、それでも徹は見つからなかった。
徹が好きな木の下も、ジャングルジムの中も、団地の階段の裏側も(それにしてもどうしてこんなところが好きなのか)、思いつくところは全部探したのに、どこにもいなかった。
いつもはうざったいくらい近くにいるのに、今日に限って本当に影も形もなかった。
なんだか泣きそうになりそうで、とても馬鹿みたいだった。
徹は変な奴だけれど、あたしはそいつのことを大体分かっていると思っていた。
毎日面倒をみてやって、いつも心配してあげて、怖がっているときには手だって繋いであげたし、泣いている時にはお菓子もあげた。
それなのに本当は、徹がかくれんぼでどこに隠れているかも分からない。
あたしにも見つからないようなところに隠れているようなら、あんな奴は勝手に野垂れ死んじゃえばいいんだ、と思いながら、あたしはそれでも探し続けた。
どこにいるかは分からないけれど、きっとあたししか見つけてあげられないに決まっているのだから。
なに考えているのか全然分からない子だけれど、あたしが一番近くにいるのは間違いないのだから。
どっかで勝手に徹を冷たくさせるほど、あたしの今までの苦労と心配は軽くはないのだ。
だからきっと、あたしなら見つけられるはずだ。

609かくれんぼ4:2006/04/20(木) 18:37:07 ID:1nuX7Eaw
もう夜になりかけた頃になって、空はいつの間に晴れたのか月が出ていた。
暗くなると気味の悪い人が出てどこかに連れ去られてしまうよと、最近になって先生にもお母さんにもさんざん言われて、いつの間にかランドセルには防犯ブザーが付くようになったけど、今のあたしはなんにも持っていない。
早く徹を見つけて帰らないと、徹どころかあたしまで心配されてしまう。
本当に焦ってきて、手のひらに汗がじわじわ滲んできたところで、あたしはふとまだ探していない場所を思い出した。
走って走って、息が切れてもまだ走って、喉の奥で心臓が破けるんじゃないかというくらい走って、たどり着いたそこは以前二人で秘密基地を作った場所だった。
遊んでいた公園の裏道に入ってすぐのところにあって、そんなに遠くじゃない場所にあるはずなのに、人通りがほとんど無い場所で、あたしも行くのは2年ぶりくらいで、ほとんど忘れていたのだった。
せまい空き地に塀がめぐらされていて、一カ所がたがたのぼろい扉から入ることが出来る場所で、中にはなにが取り壊された場所なのか、コンクリートの低い台がそこら辺にいくつか置かれていて、ここに二人でお気に入りのものを持ち込んで秘密基地を作ったのだった。
しばらくそこにあたし達は入り浸っていたのだけれど、何週間かしたら二人とも飽きてしまったので、ずっとそれから行ってなかった。
ここを見つけたときもちょうど初夏で、ほとんど変わっていない様子に、なんだかタイムスリップしてしまったような気がした。
ぎいと相変わらずぼけたような音を出す扉を開けて中を見回すと、薄ら寒いそよ風がぼうぼうの雑草を揺らしていた。
目をこらして、じろじろと辺りをさらに見てみると、
草に埋もれて、コンクリートに寄っかかって、徹がうずくまっていた。
ようやく見つけた。

あたしはもうたまらなくなって、とりあえず殴ってやろうと徹の元へと駆けだした。
目の前まで来ると、膝を抱えた徹がふらっと頭を上げてあたしの目を見た。
「やっと、見つけ、た・・・!」
息が切れて上手く声にならなかった。
よく見ると、徹は目が覚めたばかりらしく、いつもより2割り増しくらいぼんやりした目で、あたしを見上げていた。
「あ、リサが鬼になったの・・・?」
寝起きだからって、どうしてこいつはこんなにもぼやっとしているのだろう。
けれど怒る気持ちも萎えてしまって、それどころか泣きそうになってしまって、ぎゅうっと口をへの字に曲げてかみしめて、
涙がにじんできた目を何度もまばたきして、しゃくり上げそうな口元を手で押さえ込んで、こみ上げてくるものを押し戻すので苦しいのも、それもこれも全部徹のせいだった。
「リサ、泣きそうだよ?せっかく見つけられたのに。」
見つけて嬉しいどころか、怒ればいいのか、泣けばいいのか、とにかく頭の中はぐちゃぐちゃだった。
「なんで、こんな、ところに、隠れてるの?分かるわけ、ないじゃない。ずっと、見つからなかったら、どうするつもり、だったの?」
「え、だってココはかくれんぼの範囲内だよ。それに、リサなら絶対分かると思ってたんだけど。今だって僕のこと、ちゃんと見つけたじゃない。」
「そんなこと、言ってると、いつかあたしのいないところで、勝手に冷たくなって、死んじゃうんだから・・・!」
「あ、でも、ここなら他の誰かじゃなくて、リサが見つけてくれるって思ったのは本当だよ。うん、リサが見つけてくれて、よかった。」
そう言って、嬉しそうにへらへら笑いながら、あたしを見上げている徹の顔を見ていると、もう本当に体の力が抜けてしまって、あたしはへたりと地面の上に座り込んでしまった。
610かくれんぼ5:2006/04/20(木) 18:37:53 ID:1nuX7Eaw
ぺたんとしりもちをついて、徹の顔をにらみつけると、何が嬉しいんだかへらへらと笑っていて、心底安心しきっている様子を見ると、やっぱりあたしの方が馬鹿みたいだった。
がっくりとうなだれて下の方を見ると、あたしは少し奇妙なものが見えることに気が付いた。
徹のズボンの前が膨らんで、盛り上がっているようだった。
「何これ?どうしたの、とーる?」
心配になって聞いた途端に、徹は驚いたような呆れたような、ぽかんとした表情を浮かべて、こっちを見た。
「そっか、起きたばっかりだから。」
そう言って、徹はちょっと照れたようにうつむいた。
神妙にも恥ずかしそうにしている様子が徹らしくもなくて(奴は悪戯が好きな子に目の前で裸の女の人の写真を見せられても平然としていた)、この状態が何かは分からないけれど、あたしはいよいよ心配になった。
「まさか病気じゃないよね。怪我したの?それとも腫れちゃったの?痛くないよね?」
「あ、そうだ。」
あたしの心配を素通りして、徹はじゃかじゃかとズボンのホックとファスナーを弄くって、前を開けた。
そこにはあたしが見たこともない形をしたものがあった。
もちろんお父さんのや弟のを見たことはあるけれど、目の前にあるものは、元々おかしな形だったものがさらに変になっていた。
熱を持っているらしいそれには、喉の奥が疼くような気持ち悪さと、目を背けられないような何かがあった。
「ねえ、リサ。触ってみて?」
熱っぽい徹の声に、あたしはびくりと震えた。
「とーる、あたし・・・」
なぜだか分からないけれど、とにかく怖くて逃げ出したかった。
頭の中でどくどくと血が巡り、かんかんと警鐘がめいいっぱい打ち鳴らされていた。
なのにあたしは、ゆらりと震えるようなそれにそろそろと手を伸ばしてしまった。
611かくれんぼ6:2006/04/20(木) 18:38:20 ID:1nuX7Eaw
触れた瞬間の思った以上の熱さに手を引っ込めたくなったけれど、これは徹なんだし、ことさら怯えている様子を見せてはいけないと思って、ぐっと握り込んだ。
すると、痛いと徹が叫んだので、今度こそあたしは飛びのいた。
「もう少し、そっとじゃないと痛いよ。丈夫なところじゃないから」
そう言われても、どうしたらいいかあたしに分かるわけがなくて、とりあえず触っても痛くないように、手のひらに唾を付けてみた。
指で全体にのばして、今度はそっと触れてみると、徹はひっと小さく呻いた。
風が吹くと冷たいのか、徹の肌一面に鳥肌が立った。
あたしは戸惑いながらもいそいそと指でもてあそんでいると、細く甲高い声で徹が悲鳴を上げた。
それでもあたしは手を離せずに、自分の唾液でぬめぬめとするのに手を滑らせながら、指をくるりと巡らせると、くしゃりと唾液が泡立った。
どこからか漏れてくる街灯の光を、唾液がてらりと反射していた。
自分の息が、はっ、はっと、短く荒くなっていた。
手のひらがひどく、熱かった。
徹がぬっと手を伸ばしてきて、細かく痙攣しながらあたしの腕を掴んだ。
血が止まりそうなほどの強い力に怯んで徹の顔を見ると、苦しそうに喘いでいた。
「リサ、リサっ」
上擦った声であたしの名前が呼ばれて、自分の喉が鳴ったのが分かった。
言葉も出ずに、ただ指で少し強く扱くと、腕を握る力が一層強くなって、徹は細く長い声を挙げて、ぐったりとあたしの肩にもたれかかった。
いつの間にか手の中のものは、力が抜けたようにぐにゃりとしていた。
あたしは目の前がくらくらした。

612かくれんぼ7:2006/04/20(木) 18:39:00 ID:1nuX7Eaw
「今のなに?それに、とーる、本当に大丈夫なの?具合悪くないの?」
くたりとあたしの肩に寄っかかっていた徹は、ちょっとけだるそうに体を起こして、服を直してから、あたしの方をじっと見た。
「だいじょうぶ。リサは心配することないよ。」
そんなことを言われて心配しなくてすむようなら、あたしは苦労なんてしないし、とっくに徹の側にはいない。
「あたし、すっごくびっくりしたんだけど。これって、いけないことなんじゃない?とーる、怒られたりしない?」
「大人になってから、こういうことすると赤ちゃんが出来るんだって。リサもにいつかここに子供が出来るんだよね。すごいなあ。」
そう言って、徹はあたしのお腹の下をさらりとなでた。
今のあたし達は子供で、それなのにさらに子供なんて考えてみたこともなくて、そう言われるとなんだか不気味な気がした。
この前体育の授業の時に、よく分からないビデオを見せられて、こうやって子供が出来るんですと言っていたけれど、さっきのようなこととは雰囲気が違って、何もかもがあいまいなままだった。
赤ちゃんはコウノトリが運んでくるんじゃなくて、病院で生まれてくるっていうのは知っているけれど、それ以上のことは知らなかった。
少なくとも、こんなになんだかよく分からなくて、変なことをしなきゃいけないだなんて、誰も教えてくれなかった。
とにかくよくわからないけれど、これはお父さんやお母さんに知られたら叱られるに違いない。
なんの証拠もないけれど、あたしはそう思った。
「ねえ、とーる、あんた、今のこと絶対に、家族の人にしゃべっちゃ駄目だよ。」
「うん、リサがそう言うなら、わかった。」
徹にそこまで念押ししても、あたしはどうしても今までのことが信じられなくて、自分の手をじっと見ながら、何度も握ったり開いたりしてみた。
なんにも変わったところはないけれど、それでもまた、じんわりと熱くなってくる気がした。
「ごめんね、リサ。気持ち悪かった?」
またぼやっとした顔に戻って、徹があたしに聞いた。
「もういいよ、そんなの。それより早く帰らないと、おばさんに心配されちゃうよ。もうとっくに暗くなってるんだから。」
めずらしくも徹があたしのことを気遣ってくれたので(その前は幼稚園の時にあたしが転んで額から派手に血を出したときの、一回きりだ)、それに免じて許してやった。
少し困ったような、でも嬉しそうな徹の顔に、胸がざわついたせいだからでは、断じてない。

613かくれんぼ8:2006/04/20(木) 18:39:50 ID:1nuX7Eaw



ということを思い出したのは、上擦った声で自分の名前を呼ばれた時だった。
「理沙、理沙っ」
下腹部に走る引き裂かれる痛みに圧倒される中で、唐突によみがえってきた記憶にわたしは苦しくなった。
つい数時間前まで私は上にのしかかっている奴に、性衝動がちゃんと存在していることなんてずっと忘れていたのだった。
徹はあの時から10年間、そう言った話題に特に興味を示すことも、素振りを見せることもなく、抱き寄せられたその瞬間まで、わたしは今度こそ本当に子供が出来るかも知れないこと(もちろん避妊はしている)をすることになるなんて、思いもよらなかった。

「あれ、理沙、なんだか変わった?」
まだ荒い息の混じる声で、徹に声をかけられた途端、現実とおまけに痛みまで戻ってきた。
「あ、また、きつっ、」
そう言われても、全身に力が入って、とにかくきつくて、あの時の興奮といけないという気持ちがそのまま流れ込んできて、今もあの時もよく分からないほどぐしゃぐしゃになったあたしは、徹の首に縋り付いて、近くなったその耳に囁いた。
「いま、思いだした、けどっ、・・・、ね、徹、あんたって、ずっと前から、知ってた、よね?」
徹は少し身を離して、きょとんとわたしの顔を見つめた。
「ああ、理沙は、やっぱり忘れちゃってたんだ。」
思った通り、徹の答えはあたしの問いかけに対して的はずれだった。
けれど、ちょっとはにかんだような顔は、あたしが10年前にあたしが徹を見つけた時の、その表情とよく似ている気がした。
「でもね、僕は、ずっと、憶えていたよ。」
そう言うか言わないうちに、体の内側から押し広げられるような圧迫感が強まって、わたしはくうと呻いた。
「思いだしてくれて、よかった。」

あの不思議な、悪夢にも似た思い出を、小学生の頃からわたしは、一度も思い返すことはなかった。
家に帰ってからも怖くて無口になったあたしは、数日間ずっとびくびくしているうちに、あの星の出ていた肌寒い日にあった出来事を、無かったことにしてしまった。
頭の奥底へと隠れてしまった、奇妙で少しおぞましい、でもちょっとわくわくするような記憶を、10年もかかって、わたしはようやく見つけだしたのだった。

ずっと動かないでいた(珍しいことにあたしの体を気遣ったのだろう)徹の体が、ゆるゆると動き始めた。
刺激というには強すぎる感覚が、私の体中でのたうっていた。
その元凶が憎らしくて、とても大事で、わたしは未だにどこか頼りないままの背中へと腕を回したのだった。


(了)
614名無しさん@ピンキー:2006/04/20(木) 21:43:15 ID:6DReBB0k
ぐっじょぶ!
615名無しさん@ピンキー:2006/04/20(木) 22:23:28 ID:sZzcqn8k
2次成長期の頃の驚きと不安が描かれていて
GJ!でした。

10年後のエチにいく前の話希望とか言ってみる…
616名無しさん@ピンキー:2006/04/25(火) 12:27:10 ID:Eb/U5LC6
保守
617名無しさん@ピンキー:2006/04/27(木) 02:43:42 ID:9NFoAxPS
ああ、こういうのもいいな……。面白い試みだと思う。
618 ◆6Cwf9aWJsQ :2006/04/30(日) 23:57:46 ID:yrIxTHvl
たった今書き上がったんで投稿行きます。
619シロクロ 第四話【1】:2006/04/30(日) 23:59:44 ID:yrIxTHvl
ホワイトデーの日から幾日ほどの時が流れ、桜が咲き、そして散っていく季節を迎えた。
つまりは新学期となり、俺達も三年生つまり受験生となった。
まああまり実感湧かないし俺はそれよりも考えるべき事があった。
すなわち――綾乃の気持ちにどう向き合うか。

そして今夜。遂に決心した。
彼女から離れよう。
俺が傍にいては彼女を傷つけてしまう。
――あの時のように。
これ以上――彼女に近づいてはいけない。
「・・・明日、綾乃と話し合わないとな・・・。」
そう結論づけ、俺はベッドに潜り込んだ。

「・・・遅い・・・。」
翌朝の早朝。
いつもより早く目が覚めた俺は目覚まし時計と長い間睨み合っていた。
時計は、いつもは見ることがない時刻を刻んでいる。
――――いつもならば綾乃に起こされるために見ることがない、時刻を。
ついでに言うと時計が鳴る時刻も過ぎている。
まあ起きてすぐに朝食以外の用意は全て済ませたから遅刻するほどってほどじゃないが
そろそろ余裕ある登校ための時間がなくなってきた。
「でも綾乃が来なきゃ始まらないからな・・・。」
正直な話出来ることならこんなこと言いたくない。
だけどこれはいつか言わなければいけないことだ。
でも――やっぱり辛い。
まるで悪さをして親に怒られるのを怖がってる子供のようだ。
と、そう思うと同時、軽快なメロディが鳴り響いた。
充電器に乗せていた携帯から流れるその音はメールの着信を俺に伝えていた。
620シロクロ 第四話【2】:2006/05/01(月) 00:00:33 ID:yrIxTHvl
まさか風邪とはな・・・。」
昼休み。
自分の席に深く腰掛けた俺は溜め息をつきながらそう呟いた。
綾乃からメールで連絡を受けた俺は、その後すぐに登校した。
なんだか拍子抜けしたが、少しだけ、助かったと思ってしまう。
そういうわけで普段なら六人で食べる食事も少しだけ静かな席になっていた。
「あー、綾ちゃんがいなくて、寂しいんだー。」
「違うっての!」
吉村のからかいにいつも通りに返す俺。
・・・せめてこいつ等の前じゃいつも通りにしないと・・・。
ちなみに友人連中には今回言おうとしていることは黙っている。
言えば絶対に「何言ってンだ早く告白しろ馬鹿。」と言われるのは目に見えているからだ。
「白木。」
不意に、黄原が俺に声をかけた。
「何だ?」
俺がそう返すと、黄原は彼にしては珍しく少しの間を置いて、こう言った。
「黒田と何かあったか?」
「いや・・・。」
「そうか・・・。」
意外にも黄原はそれ以上何も言ってこなかった。

その後、俺は午後の授業を受けても上の空だった。
いや、午前中からずっとそうだ。
ふと、俺は教室を見回してみた。
そこには当然綾乃の姿はなかった。
その事実を認めると、何故か綾乃の顔が頭に浮かんだ。
って何考えてるんだ俺。
綾乃から離れるって昨夜決めたばっかりだってのに。
離れる・・・。
俺が、綾乃から・・・。
彼女のいない自室。
彼女のいない教室。
ただそれだけだ。
それだけなのに。
――なんでこんなに世界が味気なく感じるのだろう。
621シロクロ 第四話【3】:2006/05/01(月) 00:01:15 ID:yrIxTHvl
私は泣いていた。
小さな身体ながらも自分の感情を全力で解放していた。
目の前の男の子が必死に止めようとするが、それでも涙は止まらなかった。
泣いてる原因は、その男の子だった。
私と彼が交わした約束。
彼が私にしてくれた、大事な約束。
彼はそれを破ってしまったのだ。
男の子がその理由を稚拙ながらも必死に説明していたが、私は泣き続けた。
解ってる。彼も約束を破るつもりはなく、むしろ必死に守ろうとして、しかし守れなかったことも。
しかし、次から次へと溢れ出る悲しみの感情を止める術を私は持たなかった。
と、不意に場面が切り替わった。

次に私が見たのは、車の中の景色だった。
窓ガラス越しに見える光景は見覚えのあるものだった。
私が生まれ育った街の光景。
それらはやがて自分の知る範囲の限界を迎え、
見覚えがあるか無いか判別できない場所に差し掛かる。
その景色の見覚えの有無を考え、ようやく答えが出た頃には既に車は見知らぬ土地を走っていた。
知っている景色は、もう見えない。
自分を泣かせた、あの男の子も、もう会えない。
そう気付いたとき、私の目に涙が溢れた。
だが、私は堪えた。
溢れた涙を拭き取り、それ以上涙を流さなかった。
自分が泣きじゃくったあの日から、彼は私を避けるようになった。
なら――もう泣かない。
泣き虫な自分を変えてみせる。
そうなれたら、今度こそ――
でも、あてがわれた新しい自分の部屋で1人になったとき。
布団にくるまって思いっきり泣いた。
誰にも泣き顔を見せたくないから。
もう彼に、泣き顔を見せないから。
だから、今日で泣くのは最後。
布団を噛んで声を殺し、涙を流しながら私は大事な人の名を呼んだ。
遠く彼方に離れた、あの男の子の名を。
「けいすけ・・・!」
622シロクロ 第四話【4】:2006/05/01(月) 00:02:28 ID:yrIxTHvl
「――――――――――――!」
目を開けると、そこにまず飛び込んだのは布団ではなく天井だった。
「・・・夢・・・?」
語尾に疑問符が付いたいるが、確信している。
すごく嫌な夢を見た。
彼に「裏切られた」記憶。
彼と会うことすら出来ずに突然訪れた別れ。
思い出すだけで身も心も凍りそうになり、私はそれに耐えるように自分の身体を抱きしめた。
と、そこで私はパジャマが所々を汗で濡らしていることに気付いた。
「凄い汗・・・。」
流石にこのままにしてたら不潔だし風邪が悪化しかねない。
心身共にコンディションは最悪だが人として最低限の身だしなみは整えねば。
「・・・着替えよう・・・。」
怠けようとする自分に言い聞かせる為にそう呟くと私はパジャマのボタンを外し始める。
いつもよりたどたどしい手つきだが慌てずに確実に一つ一つ丁寧に外していく。
ボタンを外し終わると、私は上下を即座に――といってもいつもよりは遅いが――脱ぎ捨てた。
上下ともに色気のない水色の下着が露わになる。
これも汗を吸って斑模様が出来ているので取り替えねばならない。
そう判断した私はまずブラの左側の肩紐を外して、
次に長い後髪を一度かき上げて、背中側のホックを外し――――
たところで部屋のドアが開いた。
「お母・・・。」
さん、と言葉を続けようとしたが声が出ない。
なぜなら、そこには母ではなく、啓介がいたから。
彼も彼で手に洗面器――中には布の固まりが入っているがそれが濡れタオルと気付くのに
かなりの時間を使った――を持ったまま立ちつくしていた。
私もホックを外した体勢のまま、指一本動かせずに固まっていた。
そのまま両者ともに無言。
623シロクロ 第四話【5】:2006/05/01(月) 00:03:28 ID:yrIxTHvl
「・・・ここに置いておくから。」
私より早く復帰した啓介はそう言って
手荷物を置くとドアを閉めた。
まだ動揺が抜けきってないのか大きな音が出たが
その音でようやく私はようやく正気を取り戻した。
流石に驚いた。
というか――見られた。着替え中の恥ずかしいあられもない姿を。
どうしようどうしよういや別に啓介になら裸見られても良いけど出来れば心の準備が済んでからに
して欲しかったっていうかこんな汗かきまくった姿は見て欲しくなかった下着だって勝負下着じゃ
無いしいや別に自分の身体に自信がないって訳じゃないむしろ自信満々だって啓介も興味あるって
言ってたし正確には言ってないけど頷いたしってああもう訳わかんなくなってきた落ち着け自分。
・・・とりあえず着替えよう。話はそれからだ。
そう思い直した私は着替えを再開した。
私も動揺が抜けきっていないのでさっきよりも効率は落ちてしまったが。
624シロクロ 第四話【6】:2006/05/01(月) 00:03:56 ID:yrIxTHvl
「・・・なにやってんだ俺は・・・。」
綾乃の部屋のドアの近くの壁にもたれかかりながら俺は自嘲気味につぶやいた。
さっきから心臓がバクバク言って止まらない。
くそう落ち着け俺の精神と心臓と下半身。
とは言ってもさっきから壁一枚隔てた先から布のこすれる音や「んしょ」「よいしょ」などの
彼女の声が聞こえ、落ち着くどころか先ほどの光景がよみがえりそうになる。
しかし「結構胸がある」と自己申告しただけあってなかなか良い身体してたなアイツ。
身体の線が解りやすい服装を着ることがが多いからスタイル良いのは知ってたが実際にその下を
見るのは初めてだいや下着姿だったし裸見た訳じゃないのが残念って思い出すなよ俺ああイカン
またドキが胸胸してって違う違う胸がドキドキしてきたってこら脳「胸」という単語に反応して
胸のあたりを重点的に思い出そうとするなでも確かにデカかったって畜生とにかく落ち着け俺。
とにかくこれは綾乃のせいだ文句を言わねば。
そう決心した瞬間、ドアが開いた。
「啓介ー?」
「すみませんでした。」
俺は即座に土下座した。
ヘタレという事無かれ。こういうのは大概男が悪い。
っていうかノックしなかった俺が悪いし。
そのままの姿勢で数秒。
綾乃が何かを言う前に身を起こし、尻餅をつくような体勢で、
「いや風邪ひいたって言うから流石に心配になって学校が終わってからすぐにここに来て
そしたらおばさんと一緒に綾乃の部屋に行ったらお前が汗だくで寝込んでたから
濡れタオルやら冷え○タシートやら持ってきて・・・。」
と、一気にそこまでまくし立てたところで綾乃が何か言いたげに口を開き、
しかし俺の発言のせいで黙っている事に気付き、言葉の連射を止める。
数秒してから、綾乃が口を開いた。
「心配して、くれたんだ・・・。」
「ま、まあな・・・。」
嘘は言ってない。
「・・・ありがとう・・・。」
そう言って綾乃はホワイトデーの夜と同じ笑みを向ける。
柔らかく、暖かい微笑みを。
625シロクロ 第四話【7】:2006/05/01(月) 00:04:42 ID:yrIxTHvl
私がこっちに戻ってくる前は白木家の家事は啓介ががやっていたらしい。
まあ最近は私や茜義姉さんががわざわざ来てくれるし面倒くさいので私達に任せっきりだったが
今回ばかりは私が風邪をひいているのでそうも言ってられない。
おかあさんもその話を聞いて「邪魔者は退散ー♪」と言って何処かに出かけてしまったし
実質料理できる人間は現在啓介ただ1人。。
というわけで久々に腕をふるうことになったのだが――
私が啓介が作ったお粥――溶き卵と細かく刻んだ人参が入ったもの――を口に入れた途端、
私の表情が不機嫌な形に歪んだ。
・・・この味・・・。
「・・・私のより美味しい・・・。」
「悔しかっただけかよ・・・。」
病気の私を気遣ってか、いつもより静かに啓介はツッコミを入れる。
そんな彼の態度を嬉しいと思うのは現金だろうか。
まあともかく料理で負けて悔しいのは確かなので
今度料理を教えてもらおうと思いつつとりあえず食事再会。
「ところでさ。」
「ん?」
皿の中身を半ばまで片づけたあたりで、私は啓介に問いかけた。
「聞きたいことと言いたいことが一つづつあるんだけど言って良い?」
「・・・聞きたいことからどうぞ。」
今の間に若干の違和感を感じたが気にせず私は言った。
「私の身体ってどうだった?」
直後、啓介が頭を机に落下させた。
鈍い音が鳴るが、啓介は痛みを感じないのかただ単に我慢しているのか
痛がるそぶりも見せずにジト目をこちらに向ける。
「言うと思った・・・。」
「期待に応えれて光栄です。」
「期待したんじゃねえよ!」
余裕が無くなったのかいつも通りの絶叫ツッコミを繰り出す啓介。
むう。人間余裕が大事だというのに。
626シロクロ 第四話【8】:2006/05/01(月) 00:05:53 ID:oFHFqWur
そう思ってると、啓介はポツリと、
「良いと、思う。」
かの羽音のような小さい声でそう言った。
私は「よろしい」と良いながら大きく頷くと、言いたいことを言った。
「好き」という気持ちと同じくらい、昔から言いたかったのに言えなかった言葉を。
「啓介はさ、やっぱり昔から優しいよ。」
私の発言を聞き、啓介の目が見開く。
が、私は構わず続ける。
「本当に優しくなかったら、人を傷つけても平気なはずだよ。
でも、啓介はずっと、悪いコトしちゃったって思ってたんでしょ?
今日だってわざわざお見舞いに来てくれて夕食まで作ってくれたし。」
数秒の間を置き、啓介は首を縦に振る。
「だから、啓介はずっと優しい啓介のままだよ。」
そう言いきると、啓介は視線を下に向け、うつむいていた。。
が、やがて私の目を真っ直ぐ見てこう言った。
「・・・ありがとう。」
「どういたしまして♪」
満面の笑みを浮かべて答える。
あー何か本調子に戻ってきた。

「・・・俺からも聞きたいことがある。」
「なになに?」
啓介から質問なんて珍しい。
そう思うと彼は、やはり数秒の間を置いて、言った。
「今日、凄くうなされてたけどどんな夢見てたんだ?」
そう言われた私の表情が凍り付いた。
今日見た夢の内容を言うわけにはいかない。
言えば、啓介は私を気遣って自分の意見を曲げてしまう。
それは私の望む関係ではない。
だから――――出来るだけ笑顔を浮かべて私はこういった。
「忘れた。」
「・・・お前なぁ・・・。」
私の発言に、啓介はあからさまに肩を落とした。
627シロクロ 第四話【9】:2006/05/01(月) 00:07:26 ID:yrIxTHvl
ちょうど、食事が終わると同時に帰ってきたお母さんに片づけを頼み、(押しつけとも言う)
私は啓介を連れて部屋に戻り、ベッド(汗まみれだったシーツは啓介が取り替えてくれた)
に潜り込んだ。
その後、薬のせいか愛する人の手厚い看護のせいか幾分かマシになった私は彼としばらくの間
雑談をしていたが、すぐに眠気が訪れた。
それを察した啓介は「そろそろ帰る。」といい、部屋を去ろうとする。
が、私は彼に声をかけた。
「啓介。」
「何だ?」
彼が振り向く動きと連動するように私は上半身を起こす。
「今日は、来てくれてありがとうございました。」
私はそう言いながら深々と頭を下げた。
「・・・ああ。」
ぶっきらぼうにそう返すと啓介は「ちゃんと安静にしてろよ。」と言い残して部屋のドアを閉めた。
「さて、と。」
そう呟くと私は布団を被り直し、ベッドに倒れ込むようにして横になった。
寝起きと違って気分が良い。
今度は良い夢が見れそうだ。
そう思いながら、私は目を閉じた。

帰宅した俺は、自室のベッドに倒れ込むように身を預けた。
「・・・言えるわけないよ・・・。」
こんな俺を、優しいと言ってくれた少女。
「裏切った」俺を、好きだと言ってくれた少女。
そんな子に、「近づくな」なんて言えなった。
それこそ彼女を傷つけることだと解ってしまったから。
「ゴメン・・・、綾乃・・・。」
そうつぶやくと俺はその場で膝をついた。
目に涙が溢れ、視界が歪んでも俺はその場から動こうとしなかった。
628 ◆6Cwf9aWJsQ :2006/05/01(月) 00:10:27 ID:oFHFqWur
今回は以上です。
残り要領わずかにもかかわらず長文の投稿となってスミマセン。
629名無しさん@ピンキー:2006/05/01(月) 00:12:09 ID:jUunX++a
>>628
まさかリアルタイムで遭遇するとは思わなんだ。
続き楽しみにしてます!
630sage:2006/05/01(月) 01:22:45 ID:eEKwgy2o
続き期待しまくり
631名無しさん@ピンキー:2006/05/02(火) 21:50:42 ID:e01F7lE6
GJ!
632名無しさん@ピンキー:2006/05/03(水) 02:12:04 ID:TBYhQpf1
今回読んでて要所要所上手いなー、と思った。
633名無しさん@ピンキー:2006/05/04(木) 10:58:29 ID:+VJzY65T
そろそろ500kb近い?
634名無しさん@ピンキー:2006/05/04(木) 11:44:03 ID:UHecedEs
>>633
今488KB
635名無しさん@ピンキー:2006/05/04(木) 16:48:58 ID:iPLKs210
次スレの季節か。
636名無しさん@ピンキー:2006/05/05(金) 20:26:49 ID:UwMGmPcT
早いもんだな、もう500Kになるのか
637名無しさん@ピンキー:2006/05/12(金) 16:28:22 ID:3/AKsU4E
次スレマダー?
638名無しさん@ピンキー:2006/05/12(金) 20:19:22 ID:wC/2DOFd
投下する人がいなけりゃ、即落ちするだろう?

もし投下したいのに待っている人がいるなら、言ってくれれば俺立てるよ。
639名無しさん@ピンキー:2006/05/13(土) 12:28:39 ID:93ViW5a8
あと一週間もあればたぶん書きあがるんですが……
それまで大丈夫なんでしょうか。
640名無しさん@ピンキー:2006/05/13(土) 12:53:20 ID:IeasXtta
8日も9日も10日も、12日も今日13日もずっと次スレが立つのを待ってた俺が来ましたよ
641638:2006/05/13(土) 13:08:41 ID:WZjq+MVy
じゃあ、次スレ立てて良いのかな?
俺は保守カキコするぐらいしか出来ないが、職人さん頑張ってくれ。
642638:2006/05/13(土) 13:15:01 ID:WZjq+MVy
【友達≦】幼馴染み萌えスレ8章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1147493563/

立てました。
643名無しさん@ピンキー:2006/05/13(土) 15:59:51 ID:YabwULSv
じゃあ、こっちは埋め…ってことでいいのかな?
644名無しさん@ピンキー:2006/05/14(日) 11:10:22 ID:9gjnXJO8
埋めコピペ


半年ぶりの里帰り。駅の改札を出た途端、真夏の日差しが照りつける。この暑い中実家まで歩くのかと
少しげんなりしていると「やっほー」能天気な、けれど聞き慣れた、懐かしい声が聞こえた。声のした
方をみると、幼稚園の頃からの腐れ縁の幼なじみが自転車によりかかって微笑んでいた。
「待っててあげたのよ。ほら、家まで乗せてってあげようと思って。」「マジ?助かるよ」幼なじみ
の機転に心から感謝し、僕はさっそく荷物をかごに載せて後ろに座ろうとすると、すでに幼なじみが
座っている。僕が口を開こうとすると彼女はにんまりと笑って一言、「あんたは前!」

そして僕はこの猛暑の中、自分の荷物と幼なじみとスイカの入った彼女の買い物袋を乗せて、長い坂道を
汗だくになって登っている。「ねー、スピード落ちてるよー。ほらファイト、ファイト!」彼女は僕の肩に
手をのせ少しよりかかりながら僕に発破をかける。「おまえ・・・・企んだな・・・」僕は息も絶え絶えに
つぶやく。「だってこの坂しんどいんだもん。」ケロリと言う。昔と変わらないへらず口。ようやく坂の頂上が見え始める。

坂を一気に下る。「やっほー!」爽やかな風が僕らの体を包む。「うわぁ、気持ちいーい!」
彼女の髪と白いTシャツがはためく。下りながらようやく一息ついた僕は「おい、俺になんか言うことあ
るだろ」と彼女に言った。この暑い中自転車を運転したんだ、彼女にありがとうのお礼くらい言ってもらっても
バチはあたらないだろう。「え?・・・あ、そっか」彼女は僕の背中に体をあずけた。彼女の髪のいい匂いがする。
「ごめん、忘れてた」彼女は微笑んで、下り坂からの風にかき消えそうな声で僕の耳元にささやく。

「・・・・・・おかえり」
645名無しさん@ピンキー:2006/05/14(日) 12:15:28 ID:Vi6SSTDr
なんつー懐かしいものを……
646名無しさん@ピンキー:2006/05/14(日) 16:50:08 ID:pjtP/izx
>>644
初めて見た
いつごろで回ったやつ?
647名無しさん@ピンキー:2006/05/14(日) 21:23:43 ID:9gjnXJO8
>>646
今となってはもう昔のことだが、2001年七夕、ラノベ板に「幼なじみは禁止!」というスレが立った。
そこには「幼なじみ撲滅委員会副会長」と名乗る>>1がいた。誰もが最初はネタだと思い、
冷やかし目的でそのスレに訪れた。だが奴は本物だった。圧倒的なカリスマをもってあっというまに
ラノベ板住人の心を掌握し、今でも続く大派閥を築いた。奴の影響力は半端じゃなかった。
その勢いに危機感を抱いたラノベ板有志が対抗するために「幼馴染推奨スレ」を立て、
今でも古参は副会長と聞くと奴を思い浮かべるほどだ。

ここまで聞けばわかるだろう。>>644は副会長のレスの一部だ。

暇なら目を通すといいだろう。
幼なじみは禁止!
ttp://natto.2ch.net/magazin/kako/994/994517207.html
648名無しさん@ピンキー:2006/05/14(日) 22:48:39 ID:W9j4LlWB
>>646
この頃はツンデレという言葉も無かったんだろうか。
649648:2006/05/14(日) 22:50:02 ID:W9j4LlWB
アンカーミスorz

>>646じゃなくて>>647
650名無しさん@ピンキー:2006/05/14(日) 23:27:45 ID:QQS8BXvD
じゃぁ、俺も埋めこぴするぜ。

 幼馴染というと思い浮かべるのは、学生服とセーラー服の幼いカップルがケンカしてるんだか漫才やってるんだか、二人のことを良く知っている人間で無い限り、なんとも判別しがたい調子で登校して行くシーンなのではないだろうか。
 少なくとも、俺はそうである。
「お兄ちゃんどうしたのー?」
 ということはだ。つまり、これは幼馴染ではなく子守りであるという結論になる。

 目の前のだらけた格好をした娘は来年中学に入るとか。
 俺より4つも年下で、目下恋する乙女真っ最中の少女である。
 恋の対象は俺の部屋のクーラーと扇風機。というわけで、こいつは俺の部屋に入ってくるなり扇風機に抱きつくのだ。
 このちびすけは俺の遠縁にあたる娘で、互いの家が近いことからもう十年来の長い付き合いだ。
 悪いやつではないのだが、ここ数年、女らしさが出てくると同時にどうにも我が侭なところも出てきてしまって、俺に絡んでくることもしばしば。閉口することしきりなのだ。

 俺には背中を向けているので表情はわからないが、タンクトップの胸元が涼しいのか、だらけた声がする。
 俺の部屋にはクーラーもあるのだが、健康上の理由から冷房は25度程度でそれでも暑ければ、あとは扇風機をつけることにしている。冷えすぎた部屋はよくない。それに俺は扇風機がすきなのだ。
 話によると、こいつの部屋には冷房が無いんだそうだ。 それですぐ近くの俺の部屋を別荘代わりに襲撃するってわけだ。
 やつは扇風機を抱きかかえたまま、ずりずりっと俺に近寄ってきてコンビニの袋を俺に差し出す。棒アイスが二本。
「ずいぶん安い賄賂だな」
「ワイロじゃないよ、感謝の気持ちだよ」
 ちょっと口を尖らせたが、すぐににっと笑う。
「お兄ちゃんねっ! 私がこの部屋に遊びに来ちゃうことそのものがワイロなんだよぅ。 ほらほら、女の子が遊びに来てうれしいでしょ?」
 ショートパンツから伸びた、良く云えばスレンダー、悪く云えば貧弱な足で俺の膝のあたりをつつく。
 俺は彼女をチラッと横目で見てから、アイスの袋をあける。そこで雄弁なため息を一つ。

「あっ。それって態度に問題あります。かわいくないよお兄ちゃん」
「ガリガリ君うめーなぁ」
 無視無視、こんなやつの相手をするために俺の黄金の夏休みがあるわけではない。
「ほらほら、こんなにミリキ的な脚が見えてるんだよ?」
「ミリキじゃねーよ。ミリョクっていうの」
「ぐっ……そうともいうかも」
651名無しさん@ピンキー:2006/05/14(日) 23:28:22 ID:QQS8BXvD
「別にいても良いから、静かにしてろよ。出てけなんて云ったことないだろ?」
「うん……そだけどぉ」
「出来れば、部屋の隅に行け。扇風機は貸してやるから」
「……」
「あと、壁のほう向いてろよ。そっちの棚のマンガ読んでいいからな」
「……」
「笑う時は枕を顔に当てて笑うと、音がしなくて良いぞ」
「うわぁ! そんなことばっか云って!」

 いいかげんに切れたのか、彼女は激昂した声をあげる。
「お兄ちゃんのバカ! 意地悪! 彼女いないくせにぃ! お兄ちゃんなんか、夏休みに部屋の中でゲームばっかしてる青春をおくって 30代後半になってから枕を涙でぬらせばイイんだよ!」
 やつは決然と立ちあがると仁王立ちで言い放った。心なしか瞳が潤んでる。いじめすぎたか。――ま、いいや。こいつ、立ち直るの早いし。俺は目を丸くしてガリガリ君を食ってやる。
「もう遊んであげないから!」
 叫ぶが早いか部屋から飛び出していってしまう。
「あらら。云いすぎたかねー。……それにしても…」
 電光石火の早業で扇風機とマンガを持っていったのはさすがだ。ちょっと感動してしまった。

――翌日。
 てっきり今日はこないと思ってたのだが、やつはいつもより早めにやってきた。夏の日差しに溶けそうな真っ白い袖なしサマードレス。ふんわりと広がった柔らかいドレープのスカートから細い足首がのぞいている。
 そのうえ両手で下げた扇風機。
 いや、持ってたものを返しにくるのは当たり前なのだが。なにせ、こいつの今日の格好にはびっくりするほど、似合っていない。
「よぉ」
 俺の挨拶を無視して、扇風機をセットする。すぐに畳の上にあぐらをかいた俺に向けて涼しい風がやってくる。極楽極楽。
 いやぁ、気持ちいい。
 クーラーのほうが涼しいけれど、気持ちいいのは扇風機だよな。扇風機最高!
652名無しさん@ピンキー:2006/05/14(日) 23:29:10 ID:QQS8BXvD
 とはいえ、何で俺に風が向かってくるんだ?
 こいつが俺に扇風機の風をよこすなんて前代未聞。などと考えているといきなりあぐらをかいてた俺の膝によじ登り、背中を向けて座る。
「お、おまえ、いきなりなにすんだよ!」
 びっくりした俺はのけぞりながら尋ねる。
「……今日はここで遊ぶ」
「遊ぶじゃねーだろ! 邪魔だろうが」
「邪魔しにきた」
 可愛いげのない声でぶすっと云うわけだ。俺がなるべく密着しないように後ろへ身をそらせるとくっつくように後ろに体重をかけてくる。重くは無いが、バランスが悪い。
 しかたがないので姿勢を戻すと、あんまり体重をかけないように寄りかかってくる。本当に邪魔をする気なのか。アホか、こいつ。

 しかし、こうしてみてみると、こいつ、本当にちっちゃいんだな。
 日に透ける明るい色の髪が、俺の顎の下にすっぽり入って、前に投げ出した足は、俺の膝を超えて白いスカートを花のように広げている。扇風機のわずかな風にあおられて、はらはらとなびく髪はどう考えても子供っぽいバニラのような甘い香りを持っていた。

 気がつくと、やつは俺の手のひらに自分のをくっつけて真剣に見てる。
「3cmくらい大きい」
 重大な発見をしたような声で呟く。
「俺が大きいわけじゃなくて、おまえがちいせーんだよ」
「そうか」
 くっつけた彼女の背中から、ちょっと高めの体温が伝わる。じっとしてても彼女が後ろの……つまり俺を意識してるのがわかる。
 相変わらず良くわからないやつだ。

「邪魔しにきた割には、静かだな」
「……あんまり邪魔にならないように、邪魔する」
 小さな声で弁明じみたことを言う。
「――アイス食うか」
「うん」
「昨日、おまえが持ってきた残りのだけどな」
「うん……」
 やつは体重を預けたままもじもじと身体を動かす。

「どした?」
「でも、もうちょっとこうして邪魔する」
 どちらのだかは判らないけど、体温が少しだけ上がったような気がした。
653名無しさん@ピンキー:2006/05/15(月) 00:10:34 ID:7xqj9d1q
GJなり。
654名無しさん@ピンキー:2006/05/15(月) 00:13:43 ID:NgNWHong
萌え和む(´∀`)
655名無しさん@ピンキー
書いておきたかった最後の話だけ。 埋め立て兼ねつつおさななじみばんじゃーい
***

小雨が降っていて濡れた木材のにおいがしていた。
父が留守だったので書庫に忍び込み、幾つかの資料をあさって家の歴史を辿っていた。
しばらくは邪魔が入らなかったが、ふと顔を上げた。
朝から縁側が軋んで走り回る足音が続いていたがいつしか泣き声に代わっている。
「孝二郎、梅子。うるさい」
廊下に出れば叔母が一人でいた。
目を合わせたまま瞬きをする。
泣き声は遠ざかっていた。
二つ年上の叔母はむしろ、従姉か姉か幼友達のようで何と呼べばいいのか常々迷う。
「…春海姉さん」
「孝二郎達は賑やかだよね。」
日本人形のようなおかっぱで、まだ中三の叔母はなんともないように言った。
肩を竦める。
「僕は、いつまでああしているんだか、と思うけれど」
「それは余計なお世話だよ宗一くん。宗一君のお世話はいつも余計」
腹立たしいことを言って学校帰りのセーラー服のまま、瞳を雨に移して彼女は欠伸をした。
背が低いので、最近伸びてきた宗一と同じくらいになっている。
「琴子姉さんは」
彼女の暴言を気にしてもしかたがないので話題を変えた。
春海はつまらなそうにデートだってーと答えて雨を見ていた。


「雨が見えますか」
通りかかると硝子戸に手を当てていたので、尋ねた。
本家で頻繁に世話を焼かなくては立ち行かなくなった今日この頃では、よく危なっかしく立つ女性の姿を見る。
「においはするよね」
細い女性はつぶやいて、本家の旦那を振り返りもせず空の方を見ていた。
「梅雨だね」
「そうですね」
すっかり背を越してしまったとふと思う。
宗一は立ち止まり叔母を見た。
弟夫婦は子ができたらしく、宗一自身もそろそろ縁組が纏まりそうだ。
相手はなかなか才知溢れる良家の令嬢で、立場の見劣りしなさについても
屋敷の存続に関しても申し分ない妻になっていただけそうだった。
「見えたらいいのに、と思ったりしますか」
「余計なお世話だよ宗一くん」
なんともないように春海は呟いて、眠いなーとむにゃむにゃした。
相変わらず勝手な人だと当主は思う。
たった三親等というその近さがそうまで遠くさせるものなのだったか。
掃除機の音がする。
梅雨の雨は夕立のように勢いよくもなく、ただ庭の色を濡らしていく。
置き忘れてきた古い色が、水に溶けて消えていくような、それは儚かった望外の幻想。