天誅のエロパロスレ凱旋!
なんかこのスレ見てると、天誅やってる奴ってキモデブ・オタクが多いんだなと思って鬱になってくる。
3 :
名無しさん@ピンキー:2006/01/05(木) 13:28:10 ID:ajQbjQPd
>>1乙
けど語るネタは残ってんの?
呼び鈴age
4 :
名無しさん@ピンキー:2006/01/05(木) 14:16:47 ID:Gg7n/j0W
>>3-4トン。
勢いで立てちゃったけど…ん〜…厳しい…かな。
7 :
ぽぽ者 ◆kPQnSLIzzk :2006/01/05(木) 19:03:52 ID:MZGOr7q8
∧_∧
∧_∧ (´<_` ) …何だよ。何とか言えよ。
(* ´,_ゝ`) / ⌒i
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__(__ニつ/ FMV / .| .|____
\/____/ (u ⊃
…ついに…ついにフカーツしたんですね。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ) …まあ、そうだな。
(* ´,_ゝ`) / ⌒i 取り合えず
>>1さん乙。
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__(__ニつ/ FMV / .| .|____
\/____/ (u ⊃
この目出度いフカーツの日を祝して
新作今書いてますんで…。今暫しのお待ちを…。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ) 相変わらず全くエロく無いけどな。
(* ´,_ゝ`) / ⌒i
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__(__ニつ/ FMV / .| .|____
\/____/ (u ⊃
>>7 ぽぽ者神様キタ━━━(゚∀゚)━━!!
お待ちしておりましたぁーー!!
新作ぅを首を長くしてお待ち申し上げ奉る!
取りあえず即死阻止保守
以前途切れたままの作品もこのスレで続き見れたら良いな(*゚ー゚)
>>7 ぽぽ者様キタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・* !!!!
楽しみに待ってます。
>>9 お疲れ様です!!
みなの者保守だ!保守だー!
と、言うわけで投下を開始いたします。
少々長いので、何回かに分けて投下したいと思います。
∧_∧
∧_∧ (´<_` )
( ´_ゝ`) / ⌒i
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__(__ニつ/ FMV / .| .|____
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情婦(イロ)
力丸は大抵毎晩、半刻ほど時間を掛けて妻の彩女を抱き、
その後、四半刻ばかりの寝物語をして眠りに付く事を日課としていた。
その寝物語の席の事である。
事を終えた力丸は、今だ興奮冷めやらぬ様子の彩女の乳房を片手で弄びながら、
何やら面妖な事柄について切り出した。
「なあ、彩。情婦(イロ)を持っても良いか。」
「え?」と彩女は目を丸くした。
我が亭主の言葉を意味を、直ぐには理解出来なかった。
「どういうことだい?」
「情婦だ。」
乳房を弄ぶ力丸の手に若干の力が籠った。
「お前の他に、情婦を持ちたい。」
つまり、彼は愛人を持ちたいと言うのである。
「何を言っているんだい?
力さん。あたいをからかっているのかい?」
「からかってはいない。俺は本気だ。」
「なあ、彩。」と力丸は途端に甘えた声を出し、
「良いだろう?情婦を持っても。」
彩女は呆れた。一体何処世界に我が妻に向かって、
しかも寝物語の席で、この様な馬鹿げた願望を口に出す亭主が居ると言うのだろうか。
「…力さんは、あたいの事が嫌いになったのかい?」
「俺がお前を嫌いになるわけが無い。」
「…じゃあ飽きたんだろう。」
「俺がお前に飽きるわけが無い。」
「…じゃあ、なんで情婦なんか持ちたいなんて言うのさ。」
「うむ。」と力丸は暫し黙考する仕草を見せた。
その最中にも、妻の手を取って自身の陰嚢へと導き、愛撫を要求する。
仕方無しに、彩女は彼の要望に答えてやった。
「実はなぁ…村に出ている最中…。」
力丸はその訳を語り出した。
「俺がいつも通る道の脇に建っている家に、
一人交わいたい女が居るからだ。」
力丸の仕事は、炭焼きである。
焼き上がった炭を麓の村々へ卸す事でこの夫婦は日々の糧を得ているのだが、
その道中、夫は己の嗜好に合う女に出会ったのだそうだ。
「その女を情婦にして、交わいたい。」
力丸は大真面目に言う。
しかし一方の彩女としてはたまった物ではない。
「交わいたいって…。」
彼女は大きく溜息を付いた。
「力さんはあたいと毎晩交わってるだろ?それだけじゃあ不足なのかい?」
「不足というわけではない。しかしどうしてもその女を情婦にしたいのだ。」
「ねえ、力さん。」
仕置き代わりに、彩女は夫の陰嚢から手を離した。
しかし直ぐ様力丸に連れ戻され、再び元の位置に収まらざるを得ない。
「力さん。もし、あたいがだよ、力さんと同じような事を言い出したら、
あんた、どう思う。良いって言うかい?」
「言わない。お前は俺の女だ。」
「だろ?じゃああたいだって…。」
「だが彩よ。」
力丸の声の調子が一段上がった。
「お前は俺以外の男を知っている。だが、俺はお前以外の女を知らない。
だから、お前以外の女と交わってみたい。」
彼は全く悪びれる様子も無く語った。
これには彩女も沈黙するしかない。
確かに彼女は力丸以外の男を知っている。それも十や二十では済まない。
しかしそれはあくまで女乱破であった時代、任務の一環として男と同衾しただけで
自ら好んでそうしたわけではない。
自らの自由意志と好意を持って閨を供にした男は、
あくまでもこの力丸しかいなかった。
「…どんな女なのさ。その女ってのは。」
彩女は思わず問うて見た。
我が夫が情婦として望む輩に対し、
知らず知らずの内に対抗心が芽生え始めている。
「一瀬村のお滝という女だ。機織をして暮している。」
「あたいより慶(い)い女なのかい?」
「お前より慶い女ではない。」
「じゃあ、あたいより若いんだろ。」
「若くは無い。俺より歳は六つ、いや、七つか。七つ上だ。」
彩女は力丸より二歳年少である。
従ってその「お滝」とか言う女は、彼女より九歳も年長という事になる。
「何だい、年増じゃないか。」
彩女は鼻で笑った。
「ああ、そうかも知れぬ。それに寡婦(やもめ)だ。
亭主をいくさで死なせたらしい。
それにお滝には娘も居る。今年で十二になると聞いた。」
「あっはは。」
今度は声に出して笑った。
「何だい。年増の上に寡婦女かい。おまけに瘤付きと来た。
…ねえ、力さん。一体そんな女の何処が気に入ったのさ。
ああ、可笑しい。言ってご覧よ。そんな女の何処がいいのさ。」
「何処と言われても困る。」
彩女とは対照的に、力丸は怖い程真剣であった。
眉に皺を寄せ、口許を真一文字に結び、考え込んでいる。
―この男、本気なのか?
当初、これは力丸一流の諧謔なのであろうかとも疑っていた彩女も、
彼のこの態度の前にして、大いに動揺した。
「とにかく一目見た時から、
俺の情婦にして好きな時に交わいたいと思ったのだ。」
暫し黙考した後、力丸が答えた。
「寡婦女は交わいが巧いと聞く。
そんな女を情婦に出来たら、どんなにか良いだろう。」
―何だ?この人は別にお滝って女が好きになったわけではなくて、
ただ単に交わいをしたいだけなのか?
若干安堵しつつ、彩女は「ねえ。力さん。」と力丸の耳元で甘く囁いた。
「交わいなら、あたいがいくらでも巧くやってやる。
力さんの望むように何でもやってやるから。」
彼女の手は既に夫の陰嚢から離れ、再度屹立を始めた彼の中心部分を愛で始めている。
「だからさ、そんな女の事は早く忘れてお仕舞いよ。
ね、あたい、何時だって力さんのして欲しいようにしてやるから。」
言うや否や床の内に身を沈めた彩女は、
今度は我が口腔を持って屹立を溺愛した。
途端に力丸が大人しくなる。
―この人は、簡単だ。
彩女は内心ほくそ笑んだ。
―こうしてやれば、直ぐにあたいの思い通りになる。
既に力丸の屹立は、今し方の二回の絶頂にもへこたれず、
妻の口腔内で十分な硬度を保ちつつあった。
「ねえ、力さん。」
彩女が囁いた。
「情婦なんて、そんなつまんない事言うのはもうお止し。
交わいがしたいんなら、あたいが幾らでも相手してやるから。」
「あ、ああ…。そうなんだが…。しかし…。」
妻の溺愛は、確かに力丸の屹立を蕩かしていた。
しかし年来の度重なる営みの日々は、
彼の耐性を彩女の想像以上に鍛え上げていた。
歓喜の吐息を吐きながらも、力丸は口を開いた。
「…お前も確かに良いのだが、それでも情婦が欲しいのだ。」
「…力さん、そんな事言うのはお止しったら。
交わいなら、女房のあたいとすれば良いだろ。」
「…ああ、お前とも交わいたい。しかし…お滝とも交わいたいのだ。」
―この期に及んで、まだそのような戯言を。
彩女は立腹したが、それでも夫を愛する行為を止めようとはしない。
―そんな事を、言えないようにしてやる。
彼女の舌が、力丸の排泄口をなぞり始めた。
この敏感な箇所は、彼の最も脆弱な急所でもある。
そこを責められたのでは堪らない。力丸は思わず上擦った声を漏らした。
「ねえ、力さん。これ好きだろ?」
「…あ、ああ、好きだ…。」
「ふふ、そうだろ?こんな事、情婦はやってくれないよ。
女房のあたいだからしてやれるのさ。」
彩女はまるで熟練した料理人のように、力丸の肉体を操る事が出来た。
目で見ずともその吐息の具合、熱の昂ぶり、仕草の程…
あらゆる変化を瞬時に感じ取り、それに合わせて何とも見事に、
そして自由自在に料理参らせるのである。
同時に、夫のあらゆる行為を慈愛を持って許し、
あらゆる行為を歓喜を持って受け入れる事は勿論、
彼の精血を口にする事も何ら厭わなかったし、
請われて尿(ゆばり)を飲み干す事もあった。
―それこそが夫婦ならでは、でないか。
だからこそ、力丸の突然の造反が何とも憎い。
先程二回も弾けたと言うのに、彼の屹立が更に一回り膨張した。
これなら、再度交合に及ぶ事も十分に可能であろう。
彩女は頃合を見計らい、
「ね、もう一度、交わおう。ね、あたいにお情けおくれ。
あたいなら、何度交わったって構いやしないんだから。」
慣れた動作で夫の上に跨ると、屹立を我が胎内へと導いた。
そのまま、動いてやる。
ここのあたりは、流石は女房と言った所だ。
力丸の最も好む角度も、速度も、力の具合も知り尽くしている。
更に彼の両の手を取り、我が乳房に触れさせた。
そのまま身体を折り曲げると、今度は力丸の顔面中に唇を這わせ始める。
彼女の濡れた口唇は、終には夫の唇に辿り着いた。
「力さん…んふ…力さん…。」
鼻を鳴らしながら無理矢理舌を侵入させ、絡みあい絡ませあい、
互いの唾液を交換し合った。
やがて力丸は呆気無く果てた。
夫の絶頂を見届けた彩女は、今だ繋がったままの肉体を
がばりと彼の上に放り投げ、乳首を彼の口に含ませてやった。
力丸は「彩…ああ、彩…。好きだ…彩…。」彩女の背中を掻き抱き、
まるで乳飲み子のように音を立てて乳首を吸いたてた。
「よし、よし、いい子だ。いい子だ。
可愛い力さん。可愛い可愛いあたいの力さん。」
彩女もまた、二歳年長の夫の頭を抱き、
まるで母親を思わせる素振りでその頭を愛しげに撫でてやる。
―やっぱりこの人は簡単だ。
こうやって少し甘やかしてやれば、
力丸の如きは如何様にも操縦する事が出来た。
彼女は何時でもこの様にして、
我が夫を己の意のままに操って来たのである。
「彩…俺が悪かった。赦してくれ。もう二度とあのような事は言わない。
やはり俺にはお前しか居ない。お前以外の女は要らない。」
彩女は、夫の口から上記のような言葉が飛び出して来る時を、
今か今かと待ち受けていた。
しかし期待とは裏腹に、彼の口から飛び出してきた言葉は、
「…彩。頼む。良いだろう?お滝を俺の情婦にしても。
俺はあの女を情婦にしたいのだ。どうしてもそうしたいのだ。」
彩女は力丸に軽い失望を覚えた。
「力さん…良い加減にしておくれ。あたいは…。」
「…なあ、彩、頼む。駄目か…。なあ…。」
「良い加減におし。」
ここに来て、彼女はいよいよ立腹した。
彼女は怒りの意思を表す為に、乳首を力丸の口から引き離すと、
同時に我が胎内からも彼の中心部分を引き抜いた。
そして「力さんなんかもう知らないよ。
そんな我侭を言う子なんて、あたいは嫌いだ。」
力丸にくるりと背を向けて、頭から布団を被ってしまった。
「なあ、彩。そんなに怒らないでくれ。
俺はお前の事が嫌いになった訳では無いのだ。
ただ、情婦が欲しいだけなのだ。」
この期に及んで尚、力丸は未練の言葉を吐いている。
「なあ、彩。聞いているのか?彩。」
彩女は返事をしない。その代わりに一つ屁をひって、彼を拒絶した。
しかし力丸も相当執念深い男である。
妻の返事が無いとわかるや否や
「彩!」
何と彼は彼女の眼前で土下座を始めたのだ。
「彩。俺は今まで、博打を打った事も、女郎に手を出した事も無い。
高い道具を買った事も無ければ、お前に手を上げた事も無い。
だから、頼む。俺のたった一つだけの頼みだ。
あの女を情婦にしてもいいだろう。頼む。」
彩女は狼狽した。
まさか力丸が土下座をしてまで情婦を所望するとは、
思っても見なかったのである。
同時に「それ程までに情婦を欲している。」という彼の心境にも驚愕していた。
しかし彩女は、我が亭主に何時までも平伏させておく事を良しとするような
図太い精神を持った女ではない。
彼女は一転、がばりと起き上がり、
「…ねえ、力さん、そんな事は止めておくれ。」
必死に夫の頭を上げさせようとするものの、彼は頑として聞かない。
それ所か、ますます「頼む。頼む。」と敷布団の上に頭を擦りつけ、
懇願してくるではないか。
「力さん、ねえ、力さん。あたいなら、どんな淫らな事だってしてやる。
力さんのして欲しい事だったら、どんな淫らな事だってしてやるから。
それじゃあ、不満かい?ねえ、それでも情婦が欲しいのかい?」
力丸の答えは「それでも情婦が欲しい。」と言うものであった。
彩女は溜息を付いた。
我が夫ながら、情け無くなる。
「どうして力さんはそんなに情婦が欲しいのさ。」
「お前以外の女と、交わってみたいのだ。」
「…そんなにあたい以外の女と交わいたいのかい?」
「ああ。交わたい。何故なら…。」
ここで力丸はすわ、と頭を上げ、妻の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「お前は俺以外の男を知っている。俺はお前以外の女を知らない。
これでは不公平だ。だから、俺もお前以外の女と交わってみたいのだ。」
―どういう理屈なのだ。
彩女はますますもって情け無くなった。不公平も何も無いであろう。
独身時代ならともかく、現在の二人は夫婦なのである。
少なくとも、彩女は力丸と所帯を持って以降、
ただの一人も他所の男と閨を供にした事は無い。
それなのにこの男は「不公平」を理由に、他の女に手を出そうとしているのだ。
―…仕方のない奴だ。しかし男なら、そう言う事もあるかもしれない。
彩女は決して男の欲望に理解の無い女ではない。
そこで、妥協案を提示する事にした。
「…わかったよ。そんなに女と交わいたいのならさ。
情婦じゃなくて、お女郎におし。お女郎なら、構わないから。」
本当は夫が女郎と同衾する事も嫌であるが、この際止むを得まい。
少なくとも、関係が長引く情婦よりも、
一夜の女郎遊びの方が幾分かマシであろうと判断した。
「ね、お女郎ならいいから。あたいが貯めた銭もやる。
それを持って街の廓に行って、お女郎と交わっておいで。」
彼女なりの精一杯の譲歩の筈であったが、
一方の力丸としては、受諾出来る案ではなかったらしい。
彼は「女郎では嫌だ。」と頸を横に振り、その理由を述べ始めた。
「女郎だと、銭が掛かる。俺の家は貧乏だ。女郎を買う銭など無い。
その点、情婦だと銭が掛からない。
銭が掛からない割りに、何度でも交わう事が出来る。」
―何とまあ、この男は吝嗇(りんしょく)なのだ。
最早情け無さを通り越し、彩女は大いに呆れた。
吝嗇とは、ケチの事である。
確かに力丸は吝嗇者だ。無駄銭の使用を大いに嫌う。
その為、滅多に酒も飲まなければ、煙草も吸わない。
しかし、夫の吝嗇は彩女の矜持でもあった筈だ。
他所の亭主連中が、酒だ博打だと現を抜かし、女房を困惑させているというのに
我が夫にはそう言う所が一つも無い。
―あたいの亭主は、他所の亭主と違って手が掛からない。
内心そう思って、世の女房達を哀れんでさえいた。
それなのに今更になってこの男は。
「なあ、彩。一人だけで良い。一人だけ、情婦を持っても良いだろう。
頼む。なあ、頼む。俺のたった一つだけの頼みだ。だから頼む。」
これなのである。
「ねえ、力さん。」
「何だ。」
「あんたに女を教えてやったのは誰だい。」
「…それは…お前だ。」
「そうだろう。あんたのこの可愛い皮被りを綺麗に引ん剥いてやってさ、」
ふふふ、と蟲惑的な笑みを浮かべながら、
彩女はその愛しい皮被りに手を伸ばした。
彼の皮被りは、今だ互いの体液で濡れている。
「…一から十まで全部教えてやったのはこのあたいだろう?」
「…ああ。そうだ。お前だ」
力丸が彩女に教授されたのは、何も女の味だけではない。
同時に人として生きる道も教えられた。
それ以前の彼は、単なる人外の殺人鬼に過ぎなかったのである。
「だからさ、」
彩女は力丸の手を取って、口付けた。
「あんたは黙ってあたいの言う事を聞いていれば良いんだ。
今までだってそうだっただろ?
そうやって、いつも上手くやってきたじゃないか。
だから今度もあたいの言う事をお聞き。
そうしたら、これから先もずっと可愛がってやるから。」
彩女にたった一つ、邪な部分があるとしたら、正にこの部分であろう。
彼女は我が夫、力丸を常に己の支配下に置く事を望んだ。
その為に、時には辛辣な言葉を、又時には肉体と手練手管を、
そして時には母の如き慈愛を持って、彼を篭絡し、調教し、そして征服したのである。
彩女の言葉を耳にした力丸は、一瞬ではあるが疲れたような表情を見せた。
そして「…だから情婦が欲しいのだ。」と哀しげに呻いた。
「俺は何時だってお前の言う事を聞いて来た。
何時でもお前の言う通りにして来た。
俺が昔『一度、博打を打ってみても良いか。』とお前に聞いたら、
お前は『あんなものは損をするだけだから駄目だ。』と言った。
俺が『予備の刀を買っても良いか。』と聞いた時も、
お前は『もう家に一振りあるだろう。余分な刀は要らない。』と言った。
俺が『鶏でも飼おうか。』と聞いても、駄目だと言う。
『庭に柿を植えようか。』と聞いても、やはり駄目だと言う。
では、何ならば可なのか。言ってくれ。
お前は俺のする事は、みんな駄目だと言うではないか。
何であるならば可なのか。何であるならば良いのか。」
力丸は泣いていた。
いや、実際はそうではなかったのかも知れないが、
少なくとも彩女にはそう見えた。
彼女は殆ど無意識の内に、彼の頭を我が胸に抱き寄せていた。
しかし、途端に振り払われる。
夫の思わぬ反抗を目の当たりにした彩女は仰天し、そして狼狽した。
「…俺はお前の事が嫌いになった訳では無い。
お前は三国一の女房だ。そうとも。三国一の女房だ。
それに、お滝の事が好きになった訳でも無い。
ただ、お前以外の女と交わってみたいだけなのだ。」
「だから…それはお女郎を抱けば良いじゃないか。
ね、お小遣いをやるって言ってるだろう?
それを持って、お女郎と交わっておいで。」
「女郎は嫌だ。」
この一点に置いては、力丸は頑なであった。
「何で嫌何だい…?言ってご覧よ。」
「銭を渡して交わうのが嫌なのだ。」
「それが何で嫌何だい?」
「女郎は銭が欲しくて男と交わうのだろう。
俺と交わいたくて交わう訳では無かろう。」
「…だってお女郎はそれが商売なんだから仕方が無いだろう?」
―昔はあたいだって。
と言いかけて、彩女は閉口し、沈黙した。
力丸は続ける。
「俺は銭とは関係無しに交わって見たいのだ。
お前だって別に銭が欲しくて俺と交わっている訳ではなかろう。」
「…そりゃあ、まあ、そうさ。
あたいは力さんが可愛いから交わっているんだ。
可愛くなけりゃあ交わらない。」
彩女は、決して力丸の事を好きだとは言わない。
「可愛い」という言葉が、彼女なりの最大限の愛情表現の言葉であり、
彼女の支配欲の一端は、そのような箇所にも見る事が出来る。
「…本当に困った子だねぇ…。」
彩女は今夜何度目かの溜息を付いた。
「ねぇ、力さん。一体どうしちまったのさ。ん?
『情婦が欲しい』だなんて、そんな悪い事言う子じゃなかっただろ。
何かあったのかい?何かあるのなら、隠さないであたいにお言い?
隠し事はしないって、あたいと所帯を持つ時に約束したろ?
ね、言ってご覧。怒らないから。」
「…別に何も無い。ただ情婦が持ちたいと思っただけだ。
ただそれだけだ。本当だ。」
これは事実である。
力丸は、彩女の前においては極めて素直で正直な男であった。
「…ねえ、力さん。あんた、そんなに情婦が欲しいのかい。」
「…ああ。欲しい。」
「でもさ、力さん。」
彼女は再度力丸の手を取って、今度は乳房へと導いた。
妻に誘われるまま、力丸は彼女の乳房を弄び始め、
やがて胸に顔を埋めると、まるで赤子のように乳首に吸い付いた。
途端に彩女の表情が和らいだ。
ふわりと彼の頭を抱いてみる。今度は拒絶されなかった。
「…もしそのお滝とか言う女が、
力さんの情婦になるのが嫌だって言ったらどうするんだい?」
「それは…。」
乳首に吸い付いたまま、力丸は沈黙した。
彩女が続ける。
「そうだろう。力さんがそうしたいって言っても、
相手が嫌だと言ったら駄目だろう。
…まさか力さん、無理矢理その女を情婦にするつもりじゃないんだろう?」
「…ああ、それは勿論だ…。」
「その女は、力さんの情婦になっても良いって言ったのかい?」
「…いや、言っていない。」
沈んだ声で、力丸は答えた。
「その女とは、何時何処で知り合ったんだい?」
「…知り合ったのは半年ほど前、俺が村に出かけた時だ。」
「その女と力さんは、懇ろなのかい?」
「…いや、たまに挨拶するだけだ。懇ろではない。」
「そうかい、たまに挨拶するだけの女かい。」
力丸を胸に抱きながら、彩女はくすくすと笑っている。
―何て事は無い。あたいの杞憂だった。
力丸とお滝の関係が、何と無しに理解出来た。
突然「お滝を情婦にしたい。」と告白してくるものだから、
二人はさぞや親密な関係にあるのであろうと勘ぐっていたが、
お互い単なる顔見知り程度の付き合いに過ぎなかったのだ。
この程度の希薄な関係では、女を情婦にする事など到底不可能である。
世間知らずの上、女知らずの力丸らしい早計であった。
この男の知る所と言えば、殺人の方法か、そうでなければ炭焼きの方法しかない。
「…じゃあさ、力さん。こうしよう。」
彩女の声は華やいでいた。
所詮子供染みた願望である。
このまま放置していても支障は無さそうであるが、万が一と言う事も在り得た。
元乱破者の彩女は、そう言った部分には抜かりは無い。
「明日、そのお滝って言う女の所にあたいと二人で行ってみよう。」
「…お前と?何をしに行くのだ?」
「決まっているだろう?
力さんの情婦になっても良いかを聞きに行くのさ。」
「あ、彩。」力丸は思わず口に含んでいた乳首を吐き出した。
「ほ、本当か?」
「ああ、本当さ。明日あたいと一緒に言って聞いてみよう。」
彩女はもう笑みを抑え切れない。
―行った所で、無理に決まっている。
こんな子供染みた男の情婦になっても良いと言う女など、
そうそう居る筈も無かろう。
居るとしたら、天下広しと言えどもあたいぐらいのものだ。そんな女は。
まあ、気の毒だけれども、そうやって一遍現実を突き付けて、
諦めさせてやったほうが良い。
そうすればこの男も大人しくなるだろう。
「ね、あたいと明日行って聞いてみよう。」
女房も同伴する、と言うのがこの作戦の要である。
女房付きの男が突然現れれば、相手としても不快を感じるに決まっている。
その上「情婦になれ。」と言うのでは、かえって嫌悪の対象にさえなるだろう。
しかし当の力丸には、妻の謀を看破するだけの能力が無かった。
「あ、彩も頼んでくれるのか?」
彼は彩女も我が意に賛同し、尚且つ協力してくれるものだと勘違いをしている。
「ああ、お願いしてやる。」
彩女はそ知らぬ顔で嘯いた。
当然彼女には、その様な意図はさらさら無い。
代わりにこの元乱破女の心中には、夫に付き添う振りをして相手の女に嫌悪を抱かせ、
場合によっては口舌の一戦をも辞さないと言う算段があった。
そうとなれば、元々希薄であった力丸との関係は、その場で終焉を迎える。
これからは挨拶すら交わして貰え無くなるだろう。
「ね、あたいが明日お願いしてやる。
力さんの情婦になってやって下さいってお願いしてやる。
…でもね、力さん。一つだけ、約束しておくれ。」
「何だ?彩。」
「その女が力さんの情婦になるのが嫌だって言ったら、
その時はすっぱりと諦めるんだよ。」
「いや…それは…。」と力丸は狼狽した。
無論、彼にも拒否される可能性がある事は理解している。
しかし仮にそうだとしても、
また再度挑戦すれば良い、と楽観視を決め込んでいた所だ。
そこに早くも楔を打ち込まれてしまったのでは、立つ瀬が無い。
「諦めるんだよ。いいね。あたいとの約束だ。」
「…いや、まだそうとわかった訳では…。」
「力さん。諦めるってお言い。わかったね。」
我が妻に強く念を押されれば、彼には同意するしか術が無かった。
「…ああ、わかった。諦める…。」
彩女の口許が僅かにゆがんだ。
「よし、約束だ。さ、指切り。」
彼女は力丸の眼前に左の小指を突き付けた。
「さ、ほら。指切りだよ、早く。」
促されて、仕方なく力丸も小指を絡ませる。
「ゆーびきーりげーんまーん、うーそつーいたーら…
…そうだねぇ…うん。力さんの皮被りの皮を切り取って食べちまおう。
よし、それがいいや。そうしよう。」
彩女が何とも恐ろしげな罰則を口にした。
力丸は脅えた。
何故なら、彼女は時々
「力さんのこの可愛い皮を喰っちまっても良いかい?」と
夫の耳元で秘めた願望を囁く事があるからである。
「そんな事は止めてくれ。」と懇願した力丸に向って彩女は、
「おや、何を言っているんだい。
力さんがあたいとの約束を守れば済む事さ。
それともあたいとの約束は守れないって言うのかい。」
「いや…守る…。守るが…しかし…。」
万が一と言う事も在り得る、と言いかけて、力丸は閉口した。
彩女に証人(人質)となってしまったその皮を抓られてしまった為だ。
恐怖に引き攣った表情の力丸を尻目に、彩女は何とも愉しげに唄った。
「ゆーびきーりげーんまーん、うーそつーいたーら、
りーきさんのこの皮ーを喰っちーまお。
…ふふふ、その時はどうやって喰ってやろうか。
茹でて醤(ひしお)に付けて喰おうか。それとも汁物にして喰おうか。
…ほーんとーだよ。りーきさーんがうーそつーいたーら
こーの皮ーを喰っちまーうかーらね。
…そうだ、塩漬けにして干物にするって言うのも旨そうだ。
ね、力さん。ふふふ…。あはは…ああ、可笑しい。
可笑しいや力さん。力さん可笑しいや、ははははは。」
〜続く〜
取り合えず、一回目の投下はこれで終わります。
誤字脱字その他文章の破綻などは、
大目に見てやってください。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ) それにしてもえらく長いな。
( ´_ゝ`) / ⌒i
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39 :
名無しさん@ピンキー:2006/01/06(金) 23:32:37 ID:vhxjRUsV
うひゃー(゚∀゚)
おお…これはいわゆるGJというモノですな!
ぽぽ者殿あってのこのスレでございます!
(*´Д`)自分は彩女の情夫に…
職人様降臨と聞いてすっ飛んできますた。
いやはや、良い仕事してますなぁ!
( ・∀・O)ワクワクテカテカ
続き投下します。
翌朝、力丸と彩女は連れ立って家を出た。
「いいかい、力さん。断わられたら潔く諦めるんだよ?
わかったね。」
家を出る前、彩女は何度も念を押した。
「ああ…わかった。」
「もし断わられたらさ、仕方が無いから帰りに廓に寄ってもいいからさ。
そこで一度だけお女郎と交わって、それでその女の事は忘れるんだよ。
そしてもう二度と情婦を持ちたいなんて言ったら駄目だよ。いいね。」
その時の為に、彩女は床下に秘しておいた貯蓄の一部を持ち出していた。
この貯蓄の隠し場所は、彼女本人しか知らない。
「力さんは今まで廓なんか行った事無いだろ。」
「…ああ、無い。」
「じゃあ、あたいがお女郎の買い方を教えてやる。
そこでお女郎とあたいと力さんの三人で交わおう。」
「…え、お前も?」と力丸は目を丸くした。
「ああ、そうだよ。いけないかい?」
「…いや、いけなくは無いが…。」
「よし、じゃあ決まりだ。
あたいがさ、力さん好みの器量が良くて、
床上手なお女郎を選んでやるから。ね。
その娘とあたいの二人で、力さんをうんと可愛がってやる。」
「………ああ…、わかった……。」
力丸は口を尖らせながら、一張羅の小袖の袖を強く握り締めた。
二人は手を繋ぎながら、麓の村へと降りて来た。
力丸曰く、お滝の家は村の東の外れにあるのだそうだ。
彼が問屋に炭を納めに行く途中に、良く通り掛かるのだと言う。
「ここだ。」
力丸が指差した先に、一軒の小屋が建っていた。
近づくと、中からトントンという何かを叩くような音が、
断続的に聞こえて来る。
「よし。入るぞ。」
力丸が鼻の穴を広げた。傍らの彩女には表情は無い。
「御免。」と力丸は入り戸に向って声を掛けた。
返事は無い。再度「御免。」今度は返事が来た。
「何方です?」
「炭焼きの力丸だ。お前さんに用があって来た。」
「ああ、力丸さん。どうぞ、開いてます。」
力丸が入り戸に手を掛けると、
お滝の言う通り用心棒が掛かっていなかった。
からりと戸を開けて中に入ると、薄暗い部屋の中に人影を見た。
「御免なさいね。今、手が離せなくて…。」
お滝は、狭い部屋の中で機織をしている最中であった。
表で聞いたトントンと言う断続音は、その彼女の手元から響いて来る。
彼女の傍らでは、床に尻餅を付いた少女が、
糸車を回して糸を紡いでいた。
恐らく彼女が力丸の言っていたお滝の娘なのだろう。
まず力丸は「仕事中にすまない。」と非礼を詫び、次に
「これは俺の女房で、彩女と言う。」
隣に居た妻を紹介した。
紹介されれば、仕方が無い。
彩女も渋々頭を下げ「亭主が、いつもお世話になっております。」と、
明らかに敵意の籠った慇懃無礼で挨拶を交わした。
―ははあ、この女か。
彩女は遠慮もせずまじまじと女を観察し、同時にその値打ちも鑑定した。
―それ程、慶い女ではないな。
確かに、彩女程の美貌の持ち主ではない。
決して醜女という訳ではないが、美女と呼べるものでもなかった。
十中六、七と言った所であろうか。
年の頃は三十前後。当事としては、それ程若い女ではない。
しかしその肉体は、小袖の上からでもはっきりと
男好きのする豊潤を秘めている事がわかる。
そこだけを見れば、確かに力丸の言う通り閨での具合は良さそうだ。
「それで、何のご用件です。」
機織の作業から目を離さずに、お滝が用向きの程を尋ねてきた。
「実は、お前さんに頼みがあって来た。」
「まあ、どんな頼みです?」
「言っても良いか。」
流石に緊張しているのか、力丸も慎重になっている。
彼はふと、横の彩女の表情を伺ってみた。
彼女は無表情のまま、視線を中空に漂わせている。
しかし真一文字に結ばれた口許からは、明らかな敵意が見て取れた。
「ええ、どうぞ。おっしゃって下さいまし。」
相変わらず、お滝は仕事から目を離そうとしない。
「うむ。では言うぞ。」
力丸は決意を決め、大きく息を吸い込み、
「俺は、あんたが気に入った。」
喚くように声を絞り出した。
「だから、俺の情婦になって欲しい。」
これにはお滝も仰天した。
思わず仕事の手を止め、力丸を凝視する。
「…え、あ、あたしが、お前様の情婦に?」
「ああ。そうだ。俺はあんたが気に入った。だから俺の情婦になって欲しい。
俺はお前と交わいたいのだ。ずっと前からそう思っていた。」
投げ付けるように一息で述べ、続いて、
「俺の女房も、良いと言っている。」
彩女の背中をぽんと押した。
―そんな事は言っていない!
彩女は思わずそう叫びかけた。
しかしここで取り乱してしまえば、
目の前のお滝に何と思われるであろうか。
癇癪持ちの、嫌な女房だと思われてしまうかもしれない。
それが何とも癪に触る。
「まあ、お内儀様が…。」
お滝は先程の彩女同様、彼女の顔面をまじまじと見つめた。
しかし、どう見ても了解している風には見えない。
それ所か、今にも亭主に食って掛かりかねない激情を
胸の内に秘めている事が、一目でわかる。
「あんたには男がいるか。」
力丸が聞いた。
お滝は頸を横に振って答える。
「いいえ。亭主が死んでから、男が居たためしなんて…。
ずっと男日照りが続いています。」
「そうか。」力丸の声が華やいだ。
「それならば、良いだろう。俺の情婦になってくれ。」
「ええ…でも…。」
―お前様にはお内儀様が。
お滝はちらりと彩女に目をやった。
「ああ、こいつか。」
力丸が笑った。
「こいつなら平気だ。
こいつが情婦を持っても良いと言ったのだ。」
「まあ、お内儀様が…?」
―何と奇妙な女房なのだろう。
とお滝は目を丸くした。それはそうであろう。
子の無い大名ならともかく、地下の女房の申す事ではない。
その彩女が、亭主の横腹を肘で突付いた。
「ああ、」と力丸が頷く。
「しかしなぁ、それには条件があるのだ。」
「条件?」
「ああ、もしお前さんに『情婦になるのが嫌だ。』と断わられたら、
俺はお前さんの事を諦めねばならぬ。それも永遠にだ。
女房とそう言う約束をした。
だからお前さんが俺の情婦になってくれないと、俺は本当に困る。」
「まあ。」とお滝は口許に手を当ててくすくすと笑った。
「俺は本当に困る。」と吐いた際の力丸の表情が、
正に困惑の極みという風であったからだ。
「ふふ、それは困りますね。」
「ああ、本当に困る。俺はお前さんを抱きたいからな。」
お滝は更に笑った。
女を口説く言葉にしては、余りにも愚直に過ぎる。
今だかつて、彼女はこれ程までに珍妙な男とは出会った事が無かった。
「お前さんは俺の事が嫌いか?」
「いいえ。嫌いだなんて。とんでもない。」
お滝は慌てて手を振った。
確かに彼女はこの男が嫌いでは無い。
何度と無く挨拶を交わす内に、
生真面目そうな、人の良い男であると内々に好感を抱いていた。
少なくとも、死んだ亭主とは正反対の好人物のように見受けられる。
おまけに彼女も長らく男日照りに喘ぎ、
ここらで我が女に養分を与えてやりたかった所だ。
その養分が、向こうからやって来てくれた。
これが単なる偶然とは思えない。
「なあ、良いだろう。俺は村に降りて来る度に、必ずお前さんの所に寄る事にしてやる。
寄って、必ずお前さんを抱いてやる。それから娘にも。」
と言って力丸は、「大人の交渉」と呼ぶには
余りにも子供染みているやり取りを聞きつつ、糸車を回しているお滝の娘を見た。
彼女の名は律と言う。
「…娘にも土産を買って来てやろう。だから、俺の情婦になってくれ。」
力丸は必死であった。一世一代の大勝負である。
やがて思い出したように「なあ、お前からも頼んでくれ。」と隣の彩女にも訴えた。
彼女はそっぽを向いた。
「おい、話が違うぞ…お前も頼んでくれると…。
なあ。彩、そんなに怖い顔をしないでくれ…。」
―まあ、可笑しな御人。
お滝はもう可笑しくて可笑しくて仕方ない。
彼女はすっかり仕事の手を止めて、
「そんなに言うんなら、良いですよ。
あたしも亭主を亡くして男が恋しいですからね。
お前様の情婦になれと言うんなら、なりましょう。」
呆気無い程の明快さで了解した。
力丸は狂喜した。
「本当に、俺の情婦になってくれるか!?嘘ではないな!?」
「あたしは嘘なんて言いませんよ。今からあたしはお前様の情婦です。」
無論、彩女は大いに困惑し、狼狽した。
「ほ、本当にあたいの亭主の情婦になるつもりかい!?」
思わず声が裏返ってしまった。
「あ、あたいの亭主はとてもおかしな人だよ!?
こんな人の情婦になったら、せ、世話を焼くのが大変だよ!」
正に予想外の出来事であった。
これ程あっさりと人の亭主の妾になっても良いなどと言う女は、見た事が無い。
力丸同様、このお滝も相当珍妙な女である。
そのお滝は「ええ、可笑しな御人である事は、わかっています。」
今だにくすくすと笑っている。
しかしその後「でも、それには一つ条件があります。」と言葉を続けた。
「何だ!?言ってみてくれ!」
身を乗り出したのは力丸だ。
「言っても宜しゅう御座いますか?」
「ああ、言ってくれ。」
「では、言います。」お滝の表情から笑いが消えた。
「あたしはお前様の情婦になるのは構いません。
でももし、あたしにお前様のやや子が出来ましたら、
あたしは寡婦ですから独りでは育てられません。
ですからその時は、お前様の所でお世話になっても宜しゅう御座いますか?
それで構わないのでしたら、お前様の情婦になりましょう。」
「ああ!勿論だ!」
力丸は子供のようにはしゃいだ。
しかし間髪居れず彩女が「それは駄目だ!」と喚いた。
「家は貧乏だ!これ以上余計な人間を養う事は出来ない!」
力丸は甲斐性無しである。今の彼の収入では、夫婦二人を養うだけで精一杯だ。
その上このお滝まで養うとなると、
同時に彼女の娘も付いてくるのだから尚更である。
お滝の表情に再び笑みが戻った。
「その心配には及びません。あたしも機織りを致しますから。
この娘も、」と言って、娘のお律に目をやり、
「何でもやらせて働かせます。ですから平気です。」
「平気なものかい!」
彩女の口調は既に喧嘩腰である。
「あたい達の家は狭い!これ以上入らない!」
「それは大丈夫だ。」
力丸が余計な助け舟を出して来た。
「俺があの家を広く作り変えてやる。なあに、平気だ。
俺がお前さん達の為に、作り変えてやる。」
「力さん!何を言っているんだい!
まさか、あんた本当にこんな女を…!?」
「お前こそ何を言っているんだ?お前は良いと言っただろう。
約束した筈だ。」
「約束したけど、家に置いてもいいとは言って居ない!」
―まあ、まあ、まあ。
見るに見かねたお滝が救いの手を差し伸べてきた。
「やや子が出来たら、の話ですよ。まだ先の話です。
それにやや子が出来ても、どうしても駄目と言うなら仕方がありません。
あたしがここで育てます。育てられなくても、適当に潰しますから平気です。」
「潰す」とは間引きの事だ。
この時代においては、至極当然に行われてきた人口調整の手段である。
余談ながら、お滝はこれまでにも二人、乳幼児を間引いた過去を持っていた。
―何という女だ…。
彩女は絶句した。
こうも簡単に子潰しを決意出来る女を、彼女は知らない。
しかし一方の力丸は、何ら衝撃を覚えなかった。
彼は元々暗殺者である。人の生き死に対して特別の感情は無い。
そんな事よりも、欲した女が我が物となった事実の方が、
彼に取ってはより大きな意味を持つ。
「よし、これで決まりだな。今からお前さんは俺の情婦だ。」
力丸は高らかと宣言をした。
そして「では!」と身を乗り出し、
「早速お前さんと交わっても良いか!?」
「え?今…ですか?」
これには流石のお滝も目を丸くする。
「ああ、今ここでだ。
何しろお前は俺の情婦になったのだから、良いだろう。」
「え、ええ…でも…。」
しかしお滝は逡巡している。
力丸の女房の突き刺すような視線が、先程から何とも身体に痛いのである。
「でも、お前様のお内儀様がいらっしゃいます。」
「ああ、こいつか。」
力丸が二、三頷いた。
そして今度は彩女の方に向き直り、
「彩、お前はどうする?俺は今ここで情婦と交わおうと思っている。
お前はそれを見ているか?それとも終わるまで外で待っているか?
それも嫌だったら、先に帰っていて良いぞ。」
「先に帰る。」然もありなん。
彩女は早々にこの場から立ち去る案を選択した。
―何て男なんだい…!あたいが側に居るって言うのに…!
それにあの年増もあの年増だ…!
やや子が出来たら、力さんの世話になるだって…!?
全く冗談じゃないよ…!図々しいにも程がある…!
確かに冗談ではなかった。
彩女にはまだ子がいない。
殆ど毎晩のように夫と肌を合わせているというのに、
今だ胤を宿す気配すら無いのだ。
もし自身よりも先に、お滝のほうが夫の子を宿したりしようものなら、
彼女は嫉妬と憤怒の余り発狂してしまうかも知れない。
―憎い男だ。本当に、憎い男だ。
しかし、それでも彼の事が大いに気になった。
彼女は帰宅したと見せかけ、素早く踵を返し、
例の小屋の小窓から中の様子を伺う事にした。
屋内ではお滝が娘のお律に何事かを言い含めていた。
彼女は娘に向って、
「今からおっ母さんは少しの間この人と遊ぶから、
お前も表で遊んでおいで。」
娘も朧げながら、母の意図を感じ取ったらしい。
「うん。おっ母さん。わかった。」
素直に頷いた彼女は、糸車をほっぽり出して土間まで駆け出した。
―まずい!
彩女が盗見を決め込んでいる格子窓は、入り戸に隣接した壁にある。
寸での所で慌てて身を翻した彼女は、入り戸を開閉した娘に発見される事無く
小屋の裏側まで身を隠す事に成功した。
娘はそのまま入り戸を閉じ、何事も無かったかのように何処かに遊びに出かた。
一方、屋内である。
「は、早く脱いでくれ。」
力丸が盛んにお滝の脱衣を促していた。
「ええ、ええ、今脱ぎますとも。」
「早くしてくれ。俺はもう我慢出来ない。」
力丸は既に小袖も褌も脱ぎ捨てて、素裸になっていた。
彼の少年が、天に向かってそそり立っている。
ようやくお滝も全ての衣服を脱ぎ捨て、全裸となった。
―あっ。
彩女は思わず息を呑んだ。
彼女の見立て通り、お滝の肉体はあらゆる男を蕩かせる
豊潤な装いを見せていた。
若干ではあるが、今だ娘の青さを残している彩女の肉体とは明らかに違う。
徹頭徹尾、一部の隙も無く熟し切った、匂い立つような女の肉体である。
―ああいうのが、力さんの好みなのか。
一瞬ではあるが、彩女の内心に敗北感が沸き起こった。
お滝のあれは、我が元には無いものである。
しかしそれでも簡単に敗北を認めたりはしない。
―…でも所詮は年増女だ。所々、肉が垂れてきている。
重箱の隅を突付くが如くお滝の弱点を探し出し、
陰険に侮蔑する事で、彩女は精神の均衡を保とうと努力した。
力丸がお滝に向って突進した。
「お、お滝、お滝!」
彼は幼子のように情婦の熟れた乳房を頬張りながら、
盛んに彼女の名を呼び、その情熱を露にした。
お滝の方もまんざらでは無い。
「おやまあ、そんなにあたしが欲しかったんですか?」
愛しげに目を細め力丸の頭を撫でてやっている。
「ああ、ああ、欲しかった。お前が欲しかった。
見てくれ。俺のを。もうこんなになっている。」
お滝の手を取り、我が屹立へと導いた。
瞬間、お滝の頬に赤みが差す。
この感触を味わったのは、一体いつの事だろうか。
「まあ、可愛らしい。」
力丸の少年を指先で弄びながら、何とも切なげに溜息を付いた。
「あたしは殿方に抱かれるのは、三年ぶりです。」
「そうか。俺は昨日女房と交わったばかりだ。
その時三回気を遣った。それなのに、もうこれだ。」
「まあ、三回も?お強いのですねぇ。」
「強いのかどうかはわからん。だが、俺は交わいが好きなんだ。
だから、沢山したい。」
「あたしとも、沢山してくださいますか?」
「ああ、ああ、沢山してやる。勿論沢山してやる。」
「ふふ、嬉しい。」
力丸に情が移ってしまったお滝は、盛んに彼の額や頬に唇を這わせつつ、
その中心部分を愛しげに撫で回してやっていた。
その技術も彩女のものとは大分違っている。
力丸は一瞬にして彼女の手練手管に魅了されてしまった。
「お前は俺の女だ。俺のモノだ。」
乳房に吸い付きつつも、熱に浮かされたように繰り返し力丸が呻くと
「ええ、ええ。あたしはお前様の女です。
お前様のモノですよ。」
彼女のほうも、すっかり年下の情夫に熱を上げてしまっている。
「お前様の、コレのお味見をしても宜しゅう御座いますか…?」
力丸の屹立は、既にはちきれんばかりに膨張していた。
先端から溢れ出る露を、お滝は愛しげに指で塗り広げている。
「は、早く味見をしてくれ…!もう我慢出来ない…!」
最早耐え難し、力丸が喚いた。
お滝もすっかりその気になった。
「ええ、それじゃあ、お味見をさせて頂きますね。」
彼女は「ああ、久しぶり。」と切なげに呟くと、力丸の屹立を我が口腔に含んだ。
〜続く〜
今日の所はこれで終了です。
明日で完結します。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ) 期待しないでお待ちください。
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おぉぉ!!GJ!!
次が待ち遠しいですなぁ!!(*´Д`)
61 :
名無しさん@ピンキー:2006/01/08(日) 00:54:01 ID:23H1iXEq
楽しみだwww
62 :
名無しさん@ピンキー:2006/01/08(日) 17:22:27 ID:83rvlz/6
なるほど・・面白い。
ほんと神やわぁ。
期待を裏切らない人だよ。
凛「はいだらー!」
最早これ以上見ていられなかった。
憤怒と屈辱を噛み締めながら、彩女は小窓から顔を離した。
―憎い男だ…!餓鬼の癖しやがって…!
彩女が力丸を我が夫としたのは、
彼の邪気の無い幼児性と純粋性に魅力を感じたからである。
それと同時に、
―あの男なら、如何様にも自分の思う通りに出来る。
このような若干の邪心を抱いた事は事実であるが、
しかしそれでも彼を愛していた。これは間違いない。
力丸の持つ幼児性と純粋性は、彼が施された教育の副産物と言って良い。
この男は殺人鬼として育成された。
人を殺すありとあらゆる技術を叩き込まれ、人でありながら鬼の性を持つに至った。
しかしそれだけである。それ以外の事は、何一つとして教授されていない。
無論、これも教育者の意図によるものだ。
彼はただ、上官の下知に只管従順であれば良く、
それ以外の意思は必要とされなかったのである。
故に彼は今まで何ら思考思索する事も無く、意思も持たず、
今だ自我すら芽生えぬ幼児の様に生きて来た。
その力丸に女を教え、炭焼きの方法を教え、人間の生活を教え、
彼を人たらしめんと奮闘努力して来たのは、この彩女なのだ。
―それなのに、あの男と来たら…!生意気に情婦を持ちたいだって…!?
全く憎い男だ…!本当に憎い男だ…!
彼女の脳裏に、一瞬「離縁」という言葉が浮かんだ。
しかしそれは即座に否定された。
力丸はこの昨日今日見せた突然変異以外は、極めて理想的な夫なのである。
浪費もしないし、女郎に入れ込んだ事も無い。
女房に暴言を吐いた事も、手も挙げた事も全く皆無なのだ。
妻に対しては子供のように従順忠実であるし、
反逆もしなければ造反を企てた事も一度も無かった。
問題や疑問があれば必ず彼女に相談し、独断専行する事が無い。
その結果、全て妻の下知通りに振舞い、却下されれば諦める。
正に「如何様にも、自分の思う通りに出来る。」忠臣と呼ぶに相応しい男であった。
離反造反が日常茶飯事の戦国の世において、
この力丸程、我が意に忠実な家来はこの世に存在しなかった筈なのである。
―畜生…!畜生め…!
あたいがあの男を可愛がり過ぎたのが、いけなかったのだ…!
確かに、彩女は力丸と所帯を持って以来、
無垢であった夫を全身全霊を賭けて溺愛し続けて来た。
―それがいけなかった。それがあの男を思い上がらせたのだ。
世の中の女が全てあたいの様な女だと、勘違いさせたのだ。
「畜生…!」
道行く人にも憚らず、彩女は一つ悪態を付いた。
「何も知らなかったあの餓鬼に、
慶い事を教えてやったのはこのあたいじゃないか…!
それが何だって…!?情婦を持ちたい…!?
人を馬鹿にするのもいい加減におし…!」
直ぐ傍の畑で耕作に従事していた農夫が、一体何事かと彩女を顧みる。
「あたいはあの餓鬼の師匠も同然だ…!
弟子が師匠を蔑ろにするとは、何と生意気な餓鬼なのだ…!」
彩女はその後も、二歳年長の夫の事を盛んに「餓鬼、餓鬼」と連呼し、
農夫はおろか、周辺で遊んでいる少年達をも恐れさせた。
「あの餓鬼め!餓鬼男め!」
ここに来て、彩女は漸く我が夫の本性に気が付いた。
いや、正確にはかねてより察知してはいたが、
それを改めて口に出したのは、これが初めてである。
力丸と言う男の人間性は、全て彼女の悪態の中に表現されていた。
しかしだから言って、今更それを責めるというのも、酷と言うものだろう。
そもそも彩女は、力丸のその「餓鬼」の部分に魅力を感じて所帯を持ったのだ。
彼女がこれまでに知った有象無象の男達に共通した、虚しい見栄や矜持、
つまらぬ陰謀術数や野望、馬鹿げた嫉妬や体裁…
そういった悉くを嫌悪し、憎悪し、拒絶した結果、
辿り着いた先がこの「餓鬼」だった訳である。
「ええい!腹が立つ!あの糞餓鬼!生意気な皮被りめ!
あんたの尿(ゆばり)だって飲んでやったじゃないか!
あんたが可愛いからそうしてやったんだ!畜生!
それを一丁前に情婦だって!?百年早いよ!
皮被りの餓鬼の癖しやがって!」
一頻り喚き散らした後、彩女の怒りの矛先は、
力丸から先程のお滝へと移行して行った。
「大体あの年増女は何だ!寡婦の瘤付きめ!
どうせあの女が力さんを誑かしたに決まっている!
そうでなけりゃあ、あの力さんがあたい以外の女に手を出す筈が無いんだ!
きっとあたいを追い出して、力さんの女房にでも収まろうって魂胆だろ!
ふざけるんじゃないよ!年増の癖に!」
彩女の心底には、如何ともしがたい猜疑心と被害妄想の渦が
嵐の如く逆巻いていた。
最早罵詈雑言を喚き散らす事でしか、自己を保つ術が見付からない。
そうでもしない限り、彩女は内側に沸き起こった憤怒と憎悪で
破裂してしまうであろう。
「餓鬼を孕んだら力さんの世話になるって…?
一体何処まで図々しいんだい!あの年増め!
全く手前の親の面が見てみたいってもんだ!
どうせ碌な親じゃあ無いんだろ!
手前そっくりの汚い淫乱売女に決まってら!
畜生!力さんの子を孕めるもんなら孕んでご覧!
あたいにだって考えがあるよ!あたいは元々乱破だ!
乱破者を怒らせるとどういう目に遭うか、思い知らせてやるからね!
年増め!年増女め!孕んでみろってんだ!
その時が手前の最期だよ!手前の弛んだ手足をぶった斬って、胎かっさばいてやる!
その胎ん中から手前の汚いやや子(胎児)引きずり出して、
山犬にでも食わせてやらぁ!」
喚きに喚いて、漸く疲れた。
ふと視線を感じた方角に目をやると、
痩せた農夫が恐怖に引き攣った眼差しを向けて、
彩女を凝視しているではないか。
恐らくは彩女の事を物狂いの女か、狐憑きの女とでも勘違いしたのだろう。
彩女と目が合うと、彼は慌てて視線を逸らし、
脅えつつも逃げるように踵を帰して行った。
確かに、今の彩女には女夜叉が乗り移っていたのかもしれない。
怒りに我を忘れていたとは言え、罵詈の限りを尽くしながら道を行く我が姿は、
正に人外の化け物の如きものであっただろう。
道すがらの数々の言動を反芻した彩女は、一転、我が身を恥じた。
それからの彩女は、無言のまま帰路に着いた。
その瞳が幽かに潤んでいるように見えた。
―今まで、あたい以外の女には目もくれなかったから、
年がら年中、毎朝毎晩懇ろに可愛がってやっていたのに…。
これじゃあ、可愛がりようが無くなっちまうじゃないか…。
彩女が用意していたのは、何も膳だけは無い。
夫の着替えまでも、その隣に伏せて置いていた。
するすると一張羅を脱ぎ捨てた力丸は、当然の如く着替えの小袖を手に取って、
「お滝はな、娘のお律も俺の情婦にしても良いと言ったぞ。」
「な、何だって!」
一切の無視を決め込んでいた彩女ではあったが、
流石にこの言葉には目を剥いた。
「お、お律ってのは、あの女の娘じゃないのさ!
あの女がそう言ったのかい!?」
「ああ、言った。」
力丸は涼しい顔をしている。
彼の肉体から、仄かに女の残り香が漂って来た。
「交わい終わった後、俺が娘も情婦にしても良いかと聞いたのだ。
そうしたら良いと言ったぞ。」
―何と言う女だ…!
怒りよりもまず呆れと驚愕の念に、彩女は打ちのめされた。
一体何処の世界に、我が身は元より我が娘までをも
情婦にしようとする母親が居るであろうか。
>>69誤まって一つ飛ばしてしまいました。正しくはこれです。
彩女が帰宅してから一刻半後、力丸も我が家に到着した。
「彩!彩!」
草鞋を脱ぐのも煩わしいとばかり、慶び勇んで今に上がった彼は、
「彩!やはり俺の思った通りの女であったぞ!
交わいが滅法巧かった!俺は三回も気を遣ってしまったぞ!」
「そんな話は聞きたくない。」とばかり彩女は膝を横にずらし、そっぽを向いた。
しかし力丸は妻の不機嫌も構わず言葉を続ける。
「お滝は心底淫らな女であった!お前よりも淫らな女だ!
あの女を情婦にして良かった!俺の眼に狂いは無かった!
俺はこれから、村に降りる度にあの女と交わう事にする!」
彩女は口を真一文字に結んだまま、返事を返そうとしない。
ただ一言「いいから、早くお飯をお上がり。」独り言のように吐き棄てると
後は座する石造と化した。
「ん?飯か。」
力丸は眼前に我が分の膳が用意されている事に気が付いた。
この様な屈辱的な状況に置かれても、彩女は妻の役割だけは忘れてはいない。
しかしその夫は何とも無情であった。
「いや、飯はいい。お滝の所で喰ってきたからな。
あの女は飯も美味い。」
―この餓鬼男め…。
立腹しながらも、彩女はこの不貞男を一喝する事が出来ないでいる。
力丸の持つ無邪気な「餓鬼」の部分を、彼女はそれでも憎みきれなかった。
>>70その続きがこれです。申し訳ありません。
―今まで、あたい以外の女には目もくれなかったから、
年がら年中、毎朝毎晩懇ろに可愛がってやっていたのに…。
これじゃあ、可愛がりようが無くなっちまうじゃないか…。
彩女が用意していたのは、何も膳だけは無い。
夫の着替えまでも、その隣に伏せて置いていた。
するすると一張羅を脱ぎ捨てた力丸は、当然の如く着替えの小袖を手に取って、
「お滝はな、娘のお律も俺の情婦にしても良いと言ったぞ。」
「な、何だって!」
一切の無視を決め込んでいた彩女ではあったが、
流石にこの言葉には目を剥いた。
「お、お律ってのは、あの女の娘じゃないのさ!
あの女がそう言ったのかい!?」
「ああ、言った。」
力丸は涼しい顔をしている。
彼の肉体から、仄かに女の残り香が漂って来た。
「交わい終わった後、俺が娘も情婦にしても良いかと聞いたのだ。
そうしたら良いと言ったぞ。」
―何と言う女だ…!
怒りよりもまず呆れと驚愕の念に、彩女は打ちのめされた。
一体何処の世界に、我が身は元より我が娘までをも
情婦にしようとする母親が居るであろうか。
「今度村に降りた時、娘とも交わらせてくれるそうだ。
その日までに娘に言い含めておいてくれるらしい。
今から愉しみな事だ。」
「馬鹿!」彩女が喚いた。
「あの子はまだ子供じゃないか!
そんな小娘と交わおうなんて正気なのかい!?」
「確かにまだ子供だが、別段交わえない年頃と言うわけではあるまい。
何処かの殿様も、十二の小娘と所帯を持ったぞ。」
力丸は気にも留めて居ない。
しかも更に途方も無い事を言い出した。
「なあ、彩。俺はあのお滝に、俺の子を産ませる事に決めた。」
―何だって!?
思わず叫んで彩女は夫に詰め寄った。
力丸はしかし、慌てもしなければ悪びれる様子も見せなかった。
それ所か、さらに妻を激怒させる言葉を述べ始めたではないか。
「お滝が俺の子を産めば、あの女は俺の所へ来る。
そうすれば、俺は毎日のようにあの女と交わう事が出来る。」
しかし流石にそれでは妻に悪いと思ったのか、その後に更に言葉を続けた。
「勿論お前の事も忘れてはいないぞ。
そうだ。ではお前とお滝、一晩ずつ交互に抱いてやる。
いや、朝、仕事に出る前にお前を抱いて、
夜、寝る前にお滝を抱くというのも良い。勿論その逆でも良いぞ。」
彩女は最早怒りを通り越し、呆れも尽き果て、言葉すら失った。
力丸は続ける。
「いや、いやいや、お前とお滝の二人を一遍に抱く、というのも良いな。
俺は一度、そうして見たかったのだ。うむ。それはいい。
どうだ。なかなか良い考えだろう。
うむ。一人ずつより、二人一遍の方が良い。そのほうが面白そうだ。
…それにな、」
漸く着替えを終えた力丸は、その場にどすりと胡坐をかいた。
「考えてみろ。あの女が俺の所に来れば、良い事だらけだ。
俺だけでは無いぞ。お前にも良い。」
「あたいに…何でさ…。」
彩女は疲れたように一つ溜息をついた。
「あの女が俺の所に来れば、賄いも、掃除も洗濯も、
全ての仕事が半分になるだろう。お前は大分楽が出来るぞ。
半日寝てたって良いかも知れない。
それにあの女は、俺の所に来ても機織の仕事を続けたいと言っている。
そうすれば余分に扶持が入る。
お前にも良いべべや、良い櫛を買ってやれるだろう。」
力丸は更にぽん、と膝を打ち、
「いや、娘のお律の事も忘れていた。俺はあいつにも子を産ませようと思う。
母親のお滝と、その娘のお律にも子を産ませるのだ。
一体どちらが早く俺の子を孕むか。お前はどちらだと思う?」
彩女は答えない。
ただ一言「馬鹿っ!」と一喝すると、襖一枚を隔てて隣接している
寝室へと飛び込み、ぴしゃりと襖を閉めてしまった。
しかしそれでもまだ、力丸の言葉は留まる所を知らない。
いや、これは最早言葉と言うより、挑発と言った方が良いだろう。
「明日もう一度行って、今度はお律と交わって来ようと思う。
母親よりも一日遅れだが、そう大差はあるまい。
それからは村に降りる度に、母娘二人一遍に交わうのだ。
一体どちらが早く俺の子を孕むかな?二人同時だったら面白い。
考えてみろ。母娘が一遍に俺の子を産むのだ。
交わってから子が産まれるまで十月十日と言うが、
全く同じ日に、同じ時刻に子が産まれでもしたら、ますますもって面白い。
なあ、そうは思わんか?」
隣室からの返事は無かった。
力丸は知らなかったのだが、この時彩女は頭から布団を被って
耳を塞いでいたのだ。
それを良い事に、力丸は止めの言葉を吐いた。
「そうだそうだ。あの母娘を同時に孕ませてやろう。
そして同時に子を産ませるのだ。これは面白い。
考えてみろ。母親とその娘が同時に孕んで
子を産むと言う話は世間でも聞かないであろう。
少なくとも、俺は聞いたことが無い。だからそうなったら面白い。
俺がそれをやってやる。そうだ。きっとやってやるぞ。」
〜終わり〜
え〜…如何でしたでしょうか。
毎度毎度大してエロくも無い上に
電波な話しばかりですいません。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ) 本当にそうだよな。
( ´_ゝ`) / ⌒i
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\/____/ (u ⊃
最後になりましたが、
ここで皆様にお知らせしたい事があります。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ) な、何だ?突然改まって。
( ´_ゝ`) / ⌒i
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\/____/ (u ⊃
彩女には腋毛が生えています。
戦国時代の女性ですから。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ;) どーでもいいよ、そんな事…。
(* ´_ゝ`) / ⌒i
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\/____/ (u ⊃
匂い立つほどボーボーです。
∧_∧
∧_∧ (´Д` ;) だからどーでもいいって
(* ´_ゝ) / ⌒i 言ってんだろ…!
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76 :
名無しさん@ピンキー:2006/01/08(日) 19:45:38 ID:83rvlz/6
良かった。
女慣れしていない男に女運が付いた時の暴走っぷりがリアルに表現されている。
男子校出身の童貞少年が、大学デビューとばかりに合コンで羽目を外しまくる様を見るようだ。
オチもイイヨ!
力丸が因果応報とばかりに痛い想いをする陳腐なオチを想像していたが・・見事に裏切られたw
今回もお見事!
力丸のはしゃぎっぷりが愉快だった。
終わってしまったのが残念だなぁ。
79 :
腹黒屋丼兵衛:2006/01/10(火) 00:29:16 ID:6tbv9byq
スレ住人の皆様、このスレでは始めまして。
以前、スレに投下した「龍丸×香我美」の改訂版をご希望次第
明日うp致しますが、如何でしょうか?
>>79 うpして!うpして!
絶対うpお願いしますm(_ _)m
81 :
腹黒屋丼兵衛:2006/01/10(火) 21:19:07 ID:6tbv9byq
「羅刹(らせつ)の涙」
応仁の乱以来、150年に渡った戦国時代もようやく終わりを告げる頃、郷田領は騒乱の
渦中にあった。
天下盗りを狙う隠密集団「陽炎座」が、手始めに郷田領の国盗りを目論んでいたのだ。
国盗りの手段として、昼夜を通して建造されていた巨砲搭載の大安宅船“焔口鬼(えんくき)”
がようやく完成に漕ぎ着けた頃の事である。
元は東(あずま)忍流の上忍で陽炎座を追い、奇妙な縁から陽炎座四天王の『青龍』を名乗って
いた龍丸は、頭領である香我美から「大事な用件」があるとの呼び出しで、とある場所に
足を進めていた。
(来るべき郷田との戦の為のものか、それとも弟弟子達の事か…)
篝火から弾ける松脂と、新造船特有の木の香と漆が混じった匂いのする通路を進んだ。
・・・龍丸は香我美を一度追い詰めた際に崖から落ち、その時の衝撃で記憶喪失となって
いた。彼が陽炎座に属しているのも、討たれた青龍の代わりに都合が良いという、
それを見越した香我美の差し金であった。
だが、その為に知らずとはいえ自らの故郷を焼き、あまつさえ師匠の東紫雲斎を殺める
という許されざる非道を犯してしまった。
“もはや、東には戻れぬ…”
覚悟を決めた龍丸は香我美から、例え弟弟子―力丸や彩女―を消せという
達しを伝えられたとしても、躊躇せずに実行する覚悟を固めていたのであった。
82 :
腹黒屋丼兵衛:2006/01/10(火) 21:24:21 ID:6tbv9byq
「・・・来たか」
指定された部屋に入るなり、龍丸は我が目を疑った。
通された部屋は明国風の華麗な装飾を施された臥所(ふしど)であった。
陽炎衆が根拠としている洞窟は岩肌に木材の骨組を取り付けただけの簡素なもの
であったので、鮮やかな赤漆や漆喰、見事な装飾は余計に不釣合いに映った。
「これは一体・・・?」
「たまには男と臥所を共にするのも悪くないだろう」
香我美の肌は、心なしか上気立っている風に見えた。
「だが、今になって何故…」
「これまでのくの一は、武士の為に敵に体を委ねなければならなかった。
だが、これからは好いた男と思うが侭(まま)に契りを交わす事が出来る。
これはその前祝といった所だ。
まぁ、あの師匠では貴様がその手の事に疎いのは無理も無かろうがな」
「なっ………」
香我美の言った通り、東紫雲斎はくの一がよく使う床術や誘惑の術が苦手であった。
その為に、女弟子の彩女にすら通常の忍びの術を教えていた程であった。
龍丸は成す術も無く突っ立っていたが、香我美はおもむろに髷を解いた。
「…せめて、お前の前では女で在っても良かろう?」
香我美の頬は、肌以上に薄っすらと赤味を帯びていた。
83 :
腹黒屋丼兵衛:2006/01/10(火) 21:29:41 ID:6tbv9byq
龍丸は香我美の胸当ての留め具を外そうとするが、手が震えて上手く行かなかった。
「ふふ…、女子(おなご)の肌に触れるのは始めてか」
香我美に茶化されながらも、やっとの事で留め金を外すと香我美の形の良い乳房が
姿を現した。その途端に、龍丸の顔が赤く染まって動作がぎこちなくなった。
「どうした、好きにして良いのだぞ?」
突然、香我美は龍丸の口に自らの唇を重ねた。
「!?………」
「…口吸いも始めてなのか。まぁ良い、妾(わらわ)が色々と教えてやろう」
香我美は意味深な笑みを浮かべつつ、ぺろりと唇を舐めた。
香我美は腰巻を剥ぎ取って一糸纏わぬ姿になると、龍丸の逞しい体に馬乗り
になった。
「お前のモノはどうかな…?」
慣れた手付きで龍丸の股引をまさぐるなり、いとも簡単に剛直を取り出した。
「なっ、何をする………」
龍丸がたじろぐのも意に介さず、香我美は剛直を口に含んで優しく、しかし舌を絡めて
執拗に吸い始めた。
「ん・・・、んっ・・・」
「くぅ・・・」
香我美の絶妙な舌技に龍丸は早くも果てそうになったが、どうにか気力を降り絞って
早漏になる事だけはどうにか免れた。
「良く耐えたな。まぁ、そうで無くては愉しめぬがな」
香我美は唇を舐めると、胸の谷間に剛直を挿んで亀頭を唇で舐めだした。
「これはどうだ、気持ちが良いであろう?」
柔らかな乳房が掌の中で形を変え、亀頭を包む様に締め上げた。
香我美は小悪魔のような笑みを浮かべつつ執拗に龍丸を攻め立てたが、龍丸はそれに
必死に耐えた。
「そう我慢せずに、精を出しても構わぬそ」
「…そなたの美しい顔を汚すのが忍び無くてな」
龍丸は執拗に迫り来る快楽に顔を歪めながらも、不敵に微笑んだ。
84 :
腹黒屋丼兵衛:2006/01/10(火) 21:30:47 ID:6tbv9byq
「俺も奉仕されてばかりでは、漢として面目が立たぬ」
龍丸は上体を起こすと、太い腕で香我美のほっそりとした腰を掴み、己の半身に
重なる様にあてがった。
「あひぃ!」
下から逞しい剛直を突き立てられた香我美は小さく悲鳴を挙げた。
「痛かったか?」
心配した龍丸が剛直を引き抜こうとすると、香我美が龍丸の腰を掴んだ。
「心配要らぬ、このままで良い」
「そうか…」
龍丸は香我美の腰を両手で掴むと、慎重に己の剛直で突き上げ始めた。
「あっ・・・んっ・・・」
香我美の唇から漏れ出る微かな嬌声と淫靡な水音が薄暗い部屋に響いた。
乳房も突き上げられる振動に合わせ、小刻みに揺れていた。
「・・・もっと、深くまで来て・・・」
「わ、分かった・・・」
龍丸は繋がったまま香我美の身体を慎重に抱えると、今度は覆い被さる格好で
己の臀部を上下させ始めた。
「んぁ・・・あぁ・・・あぁっ・・・」
「ん・・・くっ・・・ぅ・・・」
目方の重い龍丸が上になった為か、剛直は更に香我美の身体の奥深くまで沈み、
香我美を更に喘がせた。
85 :
腹黒屋丼兵衛:2006/01/10(火) 21:39:27 ID:6tbv9byq
「くっ・・・、もう限界か・・・・・・」
龍丸が剛直を抜こうと上体を上げようとすると、香我美の両腕が龍丸の逞しい背中
を掴み、そのまま離そうとしなかった。
「香我美・・・、このままでは・・・」
「・・・お前のものを、全てこの身で受け止めたい・・・」
香我美は更に龍丸の身体を抱き寄せ、乳房を龍丸の胸に押し付けた。
「ならば・・・止むを得ぬ・・・受け取れ!」
「あぁ・・・来て・・・!」
香我美は口吸いを求めると、龍丸はそれに応じて唇を重ねた。
お互いに求め合い、激しく身体をぶつけ合ったが、遂に限界が来た。
「ぐあっ!」
龍丸の剛直はとうとう堪え切れず、勢い良く白濁液を吐き出した。
香我美の身体の中で荒れ狂ったそれは、繋がった部分の隙間から溢れ出した。
「あぁ・・・」
香我美は自ら求めた男の精が、己の身体に注がれる快感を全身で感じた。
一人の男と一人の女が固く結ばれた瞬間でもあった。
86 :
腹黒屋丼兵衛:2006/01/10(火) 21:53:28 ID:6tbv9byq
「何故、俺を…?」
まぐわいの後、龍丸は香我美に尋ねた。
「妾もお前の全てを受け入れようと思った。それに…」
「何だ?」
「…これが最後になると思ったからな」
香我美は自嘲染みた笑みをこぼした。
「お前は記憶が戻ったのであろう。今更妾に仕える道理も無かろう…」
そう言うなり、香我美は顔を背けた。
「俺は戻らぬ」
龍丸の声はその意思を象徴するかの様にはっきりとしていた。
「前にも言っただろう。
お前の細き身体では、全てを受け止めるには酷だからな。
俺がお前の苦しみや悲しみを受け止める為に出会い、お屋形様
や弟弟子達と刃を交える運命(さだめ)なのであれば、
俺はその運命を喜んで受け入れるまでだ」
「解せぬ…。何故、そうまでして妾に尽くす道理があると言うのだ…」
「お前が望んでいる様に、俺もお前と共に在りたい」
「うっ・・・く・・・うぁぁぁぁぁぁ!!」
堪え切れなくなった香我美は、龍丸の逞しい胸に抱きかかえられて涙を流した。
冷酷非情な忍びの頭領が、一人の男を愛する一人の女になった瞬間でもあった。
*
「あの女とて所詮はか弱き人に過ぎぬか。つまらぬものよ…」
そう呟いたのは、陽炎衆四天王の一人である朱雀であった。
彼は盲(めし)いているにも関わらず、包帯を巻いた顔を二人の居る方に真っ直ぐ向けていた。
「あの女の働きで多くの血が流れた。
だが、奴には陽炎座の頭領としてもっと血を流して貰わねばならん。
無論、あの男にも相応に働いて貰うがな・・・」
赤く染まった恋の華と共に、どす黒い悪の華が綻びつつあった。
(完)
87 :
腹黒屋丼兵衛:2006/01/10(火) 22:15:42 ID:6tbv9byq
・・・その後、2人は戦いで命を落としたのはご存知の通りです。
龍丸は怪しい妖術爺の力で現世に転生したにも関わらず、
「香我美が寂しがっているだろうからな」という言を残し、
爆弾抱えてダイブ・・・本当に香我美の事を愛していたのですね。
こういう純愛もありかな・・・かな?
腹黒屋丼兵衛様
すごくよかったです(*´д`*)
龍丸と香我美の本編では描かれなかった(当たり前ですが)
部分が描かれていて、結ばれてよかったね、と特に最後の方では
うるっとしちゃいました。
89 :
ぽぽ者 ◆kPQnSLIzzk :2006/01/11(水) 20:06:55 ID:VXhsgyR6
腹黒屋丼兵衛様乙です!
文章が濃密で読み応えがありますね〜。
ぽぽ者の文章はスカスカですな。
非常に勉強になります。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ) だけど兄者の天誅歴が参と紅しか無い事は
(* ´_ゝ`) / ⌒i 秘密だよな。
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ぽぽ者も今新作を書いている途中です。
書き上がり次第投稿します。
腹黒屋様の新作にも超期待しております!
∧_∧
∧_∧ (´<_` ) あとウコン様や初音様などの職人さんの
(* ´_ゝ`) / ⌒i 再降臨を期待して、ageときます。
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91 :
腹黒屋丼兵衛:2006/01/14(土) 21:18:11 ID:S63dWCyI
スレ住人の皆様、今晩わ。
皆様のご好評を頂けた様で何よりであります。
>ぼぼ者殿
言葉攻めと言うべきか、登場人物の台詞に独特の間と凄みがありますね。
浄瑠璃か歌舞伎の愛憎物を見ている感覚で読ませて頂きました。
あと、当方は初代〜参までです(笑
他の職人様のご降臨もお待ちしております。
92 :
腹黒屋丼兵衛:2006/01/14(土) 21:50:31 ID:S63dWCyI
うお、よりによってお名前を間違えるとは・・・(大汗
「ぽぽ者」殿、誠に相済みませぬ。
大体、「ぼぼ」というのは地方によってはとんでもない意味に・・・。
93 :
名無しさん@ピンキー:2006/01/15(日) 00:38:28 ID:0aXs+G15
彩女カワイス
94 :
ぽぽ者 ◆kPQnSLIzzk :2006/01/17(火) 22:03:48 ID:1VgXI2Jp
取り合えず保守させて頂きます。
95 :
名無しさん@ピンキー:2006/01/18(水) 19:07:39 ID:YtXZ9f3K
>>92 「ぼぼ者様」にワロタww
先生方、新作お待ちしてますよ
96 :
名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 14:51:08 ID:e6RCw6m/
鉄さんが主人公のもおながいします
97 :
名無しさん@ピンキー:2006/01/26(木) 01:13:45 ID:Im8g0c0r
鉄舟イーネ
98 :
名無しさん@ピンキー:2006/01/26(木) 20:32:32 ID:yzPkVK0Q
しかし鉄舟のそういうのって絵的にいかがなものかって感じだよな。。。
いや不細工ってわけじゃないけど、なんとなく。。。
99 :
名無しさん@ピンキー:2006/01/27(金) 00:42:29 ID:HoZhU1oy
>98
分かる。何か微妙なんだよなぁ…。
でも実はこっそり鉄舟×凛なんてあり得ないカプに萌える自分がいる。
そういやこの二人って本編で絡みあるの?
100 :
名無しさん@ピンキー:2006/01/27(金) 21:04:51 ID:Rc1t/1e3
>>99 本編では絡みはなかったよ。
凛が立ち去ったあとに鉄舟が出てきてちょっとしゃべる、ってくらいかな。
鉄舟×凛、そそるねえ。
最初は激しく抵抗していた凛もやがて……みたいなのがいいな。
101 :
名無しさん@ピンキー:2006/01/27(金) 21:44:49 ID:HoZhU1oy
>>100 ありがとう。そっか絡みないんだorz
凛「鉄舟…抱いて…?///」
鉄舟「おい止めっ…!///」
と鉄舟に女扱いされない凛が鉄舟を押し倒すのを妄想しだした俺は末期か
マイナーはつらいよ(ノд`。)
102 :
腹黒屋丼兵衛:2006/01/29(日) 21:41:19 ID:PMDL+e74
スレ住民の皆様、今晩は。
SSの前の下調べ(資料集め)のついでにスレ保守をば。
当方にとって鉄舟と言えば、某必殺シリーズのテーマ曲が(脳内に)流れます。
(必殺ファンにとって鉄舟はこの上無く美味しい人物なのです)
で、鉄舟は町医者、それも鍼灸師なので、治療に来た彩女か凛の秘孔を突いて
動けなくしてから、その隙を力丸と襲う・・・というシチュを考えております。
全身麻痺の力丸をいじくり回すお笑いネタも良いかと考えてみたり。
103 :
名無しさん@ピンキー:2006/01/30(月) 07:15:17 ID:K0gtH/kn
腹黒屋さんグッジョブ
104 :
名無しさん@ピンキー:2006/01/31(火) 23:52:49 ID:P+CBASeq
腹黒屋丼兵衛様
念願の鉄舟、しかもすごくいいシチュですな…
期待してます
105 :
ぽぽ者 ◆kPQnSLIzzk :2006/02/02(木) 21:50:21 ID:z5jH801s
俺のPCのHDDの中身は
俺の脳内世界そのものです…。
∧_∧
∧_∧ (´Д` ;)
( ´_ゝ`) / ⌒i
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…と、まあ、それは置いておいて、
すいませんねぇ、皆さん。
最近ちょっと忙しいんで、
小説の投稿が少し遅れそうです。
一応九割がた書き上げたんですが…。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ;) 取りあえず、当面は腹黒屋様に
( ´_ゝ`) / ⌒i 期待だよな、兄者。
/ \ | |
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>>105 えぇっ、そんな……orz
でもお忙しいなら仕方ありませんよね。
時節柄お体を大事にしてくださいね。
107 :
名無しさん@ピンキー:2006/02/07(火) 21:44:27 ID:gIp4pdP4
保守
108 :
名無しさん@ピンキー:2006/02/11(土) 01:20:45 ID:JyFmADJc
そういえば参での鉄舟のキャラは「女好き」ってなってたけど、
実際本編ではそういうことを示唆する場面が微塵もなくて
がっかりしたことは内緒だw
109 :
名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 14:00:06 ID:6K0e2ngx
女好き鉄舟いいね〜。
もし天誅最新作が出るならそんな鉄舟が見てみたいよ
110 :
名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 00:44:45 ID:ujl3a+Pf
腹黒屋さん、期待してますよ〜!
111 :
腹黒屋丼兵衛:2006/02/18(土) 23:37:45 ID:IsIZla+8
スレ住人の皆様、今晩は。
何故か話題になっている新作なのですが、4割方の所で設定に詰まっております(泣
(鉄舟(力丸)×彩女で、忍び鎧ネタにしようと思いましたが、詳しい設定が無い・・・)
流石にこれはいかんと思い、気分転換に瀬戸内海は夜見島に探検に逝ったはいいのですが、
闇から湧き出る物の怪の群れに、ここでもどん詰まりという事態に(爆
・・・村正が欲しいと思いました。
何はともあれ、牛歩の歩みで進めておりますので、ごゆるりとお待ち下さい。
112 :
名無しさん@ピンキー:2006/02/22(水) 18:57:39 ID:iXcPDXXY
ほす
113 :
名無しさん@ピンキー:2006/02/26(日) 22:25:22 ID:3j1yGPNO
qqq
腹黒屋丼兵衛様
腹黒屋丼兵衛様
無事に夜見島からご帰還される事を祈ってまする。
お体に気をつけて。
116 :
名無しさん@ピンキー:2006/03/04(土) 07:50:22 ID:BiOuSli0
ほす
117 :
名無しさん@ピンキー:2006/03/07(火) 10:48:17 ID:kCqxs6SQ
今夜が山田
118 :
名無しさん@ピンキー:2006/03/10(金) 14:18:54 ID:qfDr5oPe
サイレン2、すごくやりたいんだけど怖くて出来ない。。
119 :
名無しさん@ピンキー:2006/03/12(日) 16:26:40 ID:qddCJ/U2
ほす
120 :
名無しさん@ピンキー:2006/03/14(火) 21:51:56 ID:0hUQS3QS
おえkff
121 :
名無しさん@ピンキー:2006/03/16(木) 21:52:37 ID:zH6Ej1E8
陣内ってエロそう
122 :
名無しさん@ピンキー:2006/03/18(土) 19:34:40 ID:2ve51Vu7
定期age
123 :
名無しさん@ピンキー:2006/03/20(月) 07:42:46 ID:/4pCm8y2
定期age
124 :
名無しさん@ピンキー:2006/03/21(火) 13:28:22 ID:patgl476
定期age
125 :
名無しさん@ピンキー:2006/03/21(火) 23:21:23 ID:Rf/4WkjU
早く新作が読みたいage
126 :
名無しさん@ピンキー:2006/03/22(水) 18:52:08 ID:EdqH24e3
127 :
名無しさん@ピンキー:2006/03/22(水) 21:54:19 ID:GOusTLO/
定期age
128 :
名無しさん@ピンキー:2006/03/23(木) 22:26:29 ID:rsnzpdqx
定期age
129 :
名無しさん@ピンキー:2006/03/24(金) 11:27:27 ID:Arm3Cqi+
定期age
130 :
夏:2006/03/25(土) 06:52:40 ID:c2SK8LzD
はじめまして。
ぽぽ者さまはじめ、神々の帰還を待ちたいので保守がてら投下します。
途中までですが。
途中、連投禁止にひっかかったらすみません。
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とっぷりと日も暮れ、夜回りのじじいも行灯を消すころ、
黒屋の座敷には5.6人の下忍が集っていた。
その男達の視線の先には上着のみの一人の女ー・・・
結い上げた黒い髪は乱れてはいたがなめらかで、
それに縁取られた顔はきりりとした瞳が印象的なかなりの美形であった。
その口にはあざがつきそうなほどに猿轡が噛ませてある。
つい先ほどまで黒屋の双葉というくのいちと死闘を
繰り広げ、その毒刃に倒れたくのいち・・・郷田の彩女であった。
郷田の東忍流と聞けばその界隈では知らぬ者はいないが、この女がその東忍流の
彩女であるなどとは双葉はもとより黒屋の下忍も知りはしない。
ただ、かぎまわっていた不審なくのいちを捕らえ、
男盛りの下忍共に差し入れとして与えられたに過ぎない。
舌なめずりをする男達に見つめられ、これからの事を考えて彩女は身震いをした。
男の一人が鼻息を荒げて彩女の足を持ち、その中心を皆の前に晒した。
未だに毒刃の効き目が残っているようで痺れた身体は抵抗することなく開いた。
「く・・・っ」思わず彩女が息を飲む。
しっとりとした黒い茂みを掻き分け、節くれ立った指で彩女の秘部を押し開く。
紅い花弁はぷっくりとふくらんでいて指に吸い付き、
なまめかしく男の指の動きにあわせてひくついている。
その奥からは芳香が漏れだし辺りを満たす。
「こりゃあ・・・なかなかなモノだな」ごくりと男の一人が喉を鳴らした。
131 :
夏:2006/03/25(土) 06:53:58 ID:c2SK8LzD
そもそも、彩女は生娘ではない。
幼い頃に龍丸の性欲処理として使われていた事から
むしろ性経験は早いとも言えた。
しかし、である。
彩女にはくのいちとしての性技を持っているわけではない。
このように多くの男達の前で身体を開かせられるなどとは
初めての事である。また、本来、はすっからい性格ではあるものの、羞恥を知らぬ訳ではない。
むしろ、何も知らぬ頃に龍丸に仕込まれた事はともかく、
東忍流が力丸と二人だけになってからは、お互いだけが絆である事を
確かめ合うように体を重ねてきた。
その今や力丸にしか許していない所を知らぬ男達に好奇の目で見られるのは、
彩女にとってはすぐさま舌を噛み切りたいほどの屈辱だった。
「たまらねえ・・・」男の唇が秘部に吸い付き、その舌がねじ込まれた。
ねちねちと音をたて、その音に操られるかのように他の男が彩女の上着をたくしあげた。
白く豊満な乳房があらわになり、
先ほどからの羞恥に薄桃色の突起はすでに固く、男達を誘うかのように見上げている。
二人の男がそれぞれ乳房に吸い付いた。舌をひくひくとひくつかせながら
乳首を刺激しているとなりでは乳首がちぎれんばかりに歯を立てて吸い上げる男がいる。
秘部にはますます舌が入り込み、ぴっちりと隙間無く味わい尽くされていた。
「う・・・っ、くうっ」彩女の声が漏れる。だがその声は快楽への歓喜に近い。
三人もの男に同時に責め立てられ、意に反して身体が反応してしまう。
男達の手にも余るほどの乳房のふくらみは形を変え、ますます男達の嗜虐心をあおる。
132 :
夏:2006/03/25(土) 06:54:34 ID:c2SK8LzD
その姿に耐えきれなくなったのだろう、皆でゆっくり楽しむ筈が、
せかせかとおのれ自身を引きずりだした一人の男が彩女の股間に顔を埋めていた男を押しのけ、
彩女の秘部にあてがい、一気に貫いた。
「・・・!!」
頭の中で何かがはじけとんだように彩女の身体がはねた。
白魚のごとく跳ねる身体を力任せに押さえつけ、男は腰を叩きつける。
「膣がからみついてきやがる、・・・う・・・うひっ!?」
彩女に突っ込んでいた男がふいに情けない声を上げた。
どうやら、もう、果ててしまったらしい。結合部からはじわりと白い液が漏れだした。
すぐさま、他の男が彩女から引き剥がす。
次は俺だといわんばかりに彩女の身体にまた、群がりはじめた。
果てた男は本人も思いの他の事らしく、なごりおしげに彩女を見つめるも
一度の射精に相当量を搾り取られたらしく局部はすっかり頭を垂れていた。
「挿れただけで急に吸い上げられるように揉まれた・・・・」男がつぶやく。
「こんな女、初めてだ」
彩女のくのいちとして鍛え上げられた身体をもって力丸を喜ばせるために
無意識にくねらせていた行為がそのまま男をすぐに果てさせる程の技を
知らず知らずに身につけていたのだ。
力丸は力丸で、強靱な身体と精神の持ち主である。
少々の快楽にへこたれるような並の男ではない。
彩女の美貌と色香に溢れる身体を相手にしても臆せず、
さらに龍丸との事で性行為に後ろめたさを感じていた彩女を虜にしたような男である。
その力丸と毎夜のごとく身体を重ねてきた。
悲しいかな天性の才能を持っていると言われた彩女はまた、性技においても
その才を開花させていたのであった。
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ここまでです。
この先は今の所考えていないので、また機会があれば。
お目汚し失礼しました。
133 :
名無しさん@ピンキー:2006/03/25(土) 11:33:41 ID:AbN1MCdn
職人キンタマーーーーー!!
ageるぜおい!
134 :
ぽぽ者 ◆kPQnSLIzzk :2006/03/25(土) 21:52:05 ID:HC2ZLf0m
夏様、乙です。
文章がお上手で、内容もコンパクトに纏まっていて、
とても読みやすかったです。
もし機会がありましたら、是非是非これからも投下して下さい!
ぽぽ者のほうは…今月中か、来月の頭ぐらいには投下出来るといいなぁ…
と思っております。
136 :
夏:2006/03/27(月) 19:47:41 ID:xTLQcGrX
ぽぽ者さまの新作!!!
楽しみです楽しみです!!!
待っててよかった・・・!
137 :
名無しさん@ピンキー:2006/03/27(月) 21:52:29 ID:zm8xAVYm
夏様の作品よかったですよ!
ぽぽ者様の新作と会わせて夏様の次回作も楽しみにしてます。
住人の皆様、夜見島からようやく帰還致しました。
例の新作ですが、鉄舟が手淫だけになりそうなのが何とも・・・(汗
まだまだ先になりそうです。
>夏殿
淫乱(?)設定の彩女というのも乙であります。
この後、山田風太郎の小説ばりに性技を駆使して男達を
倒しそうで恐ろしい気が・・・。
>ぽぽ者殿
ご多忙な様で何よりです。
何はともあれ、新作をお待ちしております。
139 :
名無しさん@ピンキー:2006/03/30(木) 00:12:37 ID:WsHSE9S8
腹黒屋丼兵衛様 、名前入れ忘れましたね?( ´∀`)σ)∀`)
鉄さんの手淫楽しみです(*´∀`)
は〜…朝河蘭復活しね〜かな〜…。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ) …え?何だ?突然。
( ´_ゝ`) / ⌒i
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あ、どうも。ぽぽ者です。
新作投下します。
今作は前作「情婦」の
一年ぐらい前の話しと言う設定です。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ;) 何なんだよ。
( ´_ゝ`) / ⌒i その変わり身の速さは。
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勿論今回も公式設定を無視した
「俺設定」&エロパロ板である事を無視した
「普通の小説」ですよ。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ;) …うむ。それは判っている。
(* ´_ゝ) / ⌒i いつもの事だからな。
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ただ、朝河蘭の復活祈願の片手間に書いたものなので、
内容が少し暗めです。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ;) …片手間に書くなよ。
( ´_ゝ`) / ⌒i つーか朝河蘭はもう復活しないから。
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それと今回、小説を書くに当って
一番苦労したのはタイトルです。
これは、と言うタイトルを思いつかなかったので。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ) 確かにタイトルって意外と難しいよな。
( ´_ゝ`) / ⌒i
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取り合えず暫定的に、
「波平、マスオと駆け落ち」
「サザエ、サブちゃんと同棲」
「ワカメ、風俗デビュー」の三本の中から然るべきタイトルを…
∧_∧
∧_∧ (´<_` ;) OK、ふざけ過ぎだ、兄者。
( ´_ゝ`) / ⌒i
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∧_∧
∧_∧ (´<_` ;)
( ´_ゝ) / ⌒i
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…そうですか。それでは
「フネ、風俗デビュー」のほうがいいですかね。
∧_∧
∧_∧ (´Д` ;) いいからさっさと投下しろ!
( ´_ゝ`) / ⌒i
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闇の中の華燭
主は滅び、虎狼は縛鎖から解き放たれた。
倒木に腰を掛けた一組の男女が、何やら会話を交えている。
「ねえ、力丸さん。あんた、今の仕事愉しいかい?」
「今の仕事か…?」
力丸は直ぐに返答を返す事が出来なかった。
仕事の苦楽についてなど、今だかつて思考した事すらなかった。
「…さあ、どうであろうな。
俺は今まで一度も仕事が愉しいと思った事は無いし、
つまらぬと感じた事も無い。」
やや間を置いた後、彼は抑揚の無い返事を返した。
力丸の仕事は殺人である。
彼は一個の殺人鬼として、この人界の闇に跋扈した。
―この男は、やる。
力丸の鮮やかな殺人術を目にした彩女は、一言そう思った。
人の心臓に寸分違わず刃を付き入れた際に見せた彼の眼差しが、
今も瞼の奥に焼き付いて離れない。
―あれは、獣の目だ。
と思った。
人を殺めるにしても、呼吸一つ乱さず、眉一つ動かさない。
それはまるで、鹿を仕留める狼の所作を思わせた。
殺した死体は見ぐるみを剥ぎ、わざわざ山深くに捨てた。
「何故そうするのだ?」と聞くと「畜生の餌食にする。」と言う返事が帰ってきた。
死体の処理を、山野に巣食う肉食獣に任せようという魂胆らしい。
「畜生の?」
「…食わせてやる。」
全くの無表情で力丸は答えた。
「…そうかい。」
彩女は深くは追求しなかったが、
―この男は、人の命を何とも思っていない。
力丸が見せた非情に刹那の恐怖を覚えつつも、
同時に可笑しみの籠った清々しさも覚えてた。
これは常人には理解し難い、乱破者特有の感覚なのかも知れない。
彼らは日夜闇に潜伏して生きる事を定められた者供である。
乱破者はしばしば世間を軽んじ、
そこに生きる世人を見下す傾向にある。
所詮世人などと言うものは、卑しい欲望と複雑怪奇なしがらみから死ぬまで遁れられずに、
一生を世間と言う名の澱んだ檻の中で生きるしか術を知らぬ憐れな「家畜」であると、
ある意味世を疎む聖のような眼差しを持って遠望している。
ただ、「家畜」と言えば、乱破者もまた十分に家畜であろう。
表の世界に繋がれた家畜か、裏の世界を蠢く家畜かの違いでしかない。
勿論彼らにもその事は判っている。
しかし、その家畜にも貴賎はある筈だ。
大抵の乱破者は、以下の様な優越感を抱いて生きていた。
―確かに我が身も家畜だ。ただし、我が身は気高い虎狼である。
世人のような惨めな犬猫とは違う。
「家畜ではあるが、世人よりは孤高の存在である。」
これが彼ら闇に潜む者を支える精神の拠り所であり、
矜持と呼べるものであった。
しかし乱破物の持つこのような感覚こそは、
実の所世間や世人に対する限りない羨望と憧憬の裏返しに過ぎない。
世界の達観者を気取っている乱破者も所詮人であり、
そうである以上、ある者は平凡な家庭に憧れを持ち、
またある者は世間の認知を欲している。
世人並みに人の愛に飢え、人の温もりを求めて止まない者も、決して少なくは無い。
しかし哀しいかな。
乱破者である以上、彼らは生涯それらに手を触れる事すら出来ない定めの中に居た。
この彼らの秘めたる欲求不満、
いや、これはある種の飢餓感と言った方が良いかも知れないが、
これを巧く昇華し、我が身を納得させるには、
世間を捨てた聖になり切り、死ぬまで世人を侮蔑し続けるしか
術が残されてはいなかったのである。
そしてこの羨望と憧憬の入り混じった歪んだ飢餓感は、
時に先程の力丸が見せたような冷酷な刃として表に現れる事となる。
だからこそ、それを目の当たりにした彩女は感動した。
やはりこの男は、我が身と同じ「世間の異物」であると思った。
異物には異物にしか理解し得ない、
排他的な同朋意識にも似た連帯感を覚えたのである。
だが「不幸」にも既に主は滅び、彼らは意図せずに自由の身となった。
自由を得た虎狼ほど、惨めなものはいないだろう。
彼らは「世間の異物」であるが故に、世間で生きる術を知らなかった。
取り分け力丸のような、獣の瞳を持つ人間ならば尚更だ。
彼はもう生涯、世間の中で、人として生きる事は出来ない筈である。
しかし。
「ねえ、力丸さん。」
「何だ。」
「あんた、何か他の仕事をやってみる気は無いかい?」
「他の仕事?」
力丸は目を丸くした。
これも彼の思考の範疇外の話であった。
殺人鬼の仕事は殺人以外には無く、
それ以外の事柄は全く未知の領域に等しい。
「俺にその気は無い。」
「どうしてだい。」
「俺は…。」
力丸が俯いた。
「俺は田畑を持っておらぬし、物も造った事が無い。
金勘定も出来ぬ。」
故に百姓も職人も商人も出来ぬ、と彼は言った。
「俺には刃を握る事しか出来ぬ。」
心無しか、声が沈んでいる。
事実、彼は殺人以外の事柄に関しては、全くの無能であった。
そして力丸は「ふう。」と一つ溜息を付きながら、
「…ただ、餓鬼の頃、畜生の皮を剥いで幾ばくかの銭を得ていた事はある。
それだけだ。仕事といえば、今の仕事か皮剥ぎ以外の仕事は知らぬ。」
彼はその後「…だが俺は畜生が好きだったから、皮剥ぎの仕事が嫌いであった。
俺の友は、山の畜生以外には居なかったからな。」と続けた。
二人は暫し沈黙する。
やがて「ねえ。」少々離れて隣座していた彩女が、すさ、と腰を寄せて来た。
「じゃあさ、炭焼きでも教えてやろうか。」
「炭焼き?」
力丸は彩女が腰を寄せた分、腰を離した。
「…いや、結構。俺には出来ぬ。」
「そんな事無いさ。あたいが教えてやる。」
「お前は炭焼きとやらが出来るのか?」
「あたいの前の亭主がさ。」と彩女はもう一つ、腰を寄せた。
同様に力丸も、もう一つ腰を離す。
「あ、亭主と言っても、向こうが勝手にそう思っていただけさ。
そう言うお役目だったんだ。あんたも乱破ならわかるだろ。」
彼女は何やら言い訳染みた言葉を吐いた。
乱破とは忍びの隠語である。
彼女はかつて、とある城下に潜入し、そこで情報収集に当たっていた事があった。
その際、彩女が化けた身分は、城下一の炭焼き窯元の主人の妾であった。
「…そのあたいの亭主が、炭焼きの窯元だったんだよ。以外に大きな窯元でね。
地元の大名の屋形に炭を納めていたのさ。」
そこでやり方を覚えたのだ、だからあんたに教えてやる、と彼女は言った。
力丸は唇と尖らせながら黙考している。
いや、困惑している、と言ったほうが良いかも知れない。
やがて「…俺には出来ぬ。」指で地面を穿り返しつつ、言った。
「何でさ。」
「俺は今まで一度も炭焼きとやらをした事が無い。だから出来ぬ。」
あっはは、と彩女は笑った。
「そんな事は心配しなくて良いよ。あたいの亭主もさ、元は武士さ。
炭焼きなんか、これっぽっちもした事が無かった人だよ。」、
力丸の指が止まった。
「何故?」
「何故?何がだい?」
「何故、俺に炭焼きとやらをやらせようとする?」
「あんたをこのまま乱破家業で死なせたくないからさ。」
「俺を?何故?」
彩女は返答に窮した。
彼女は心密かに、この男に好意を抱いていたのだ。
その理由は以下の通りである。
―かつてあたいと任務を供にした男の中で、
この力丸ただ一人が、我が肉体を求めて来なかったから。
生娘でもない女が男に好意を抱いた理由としては、真に青臭いものであるが、
しかし流石にこの場で秘想を告げる事は躊躇われた。
彩女の心身にもまた、乱破家業が染み付いている。
口を開いたのは力丸の方だ。
「…もし、俺がお前の言う炭焼きとやらをやらないと、どうなる?」
「どうなる。」とは奇妙な疑問である。
しかし、力丸に取っては至極当然の疑問であった。
彼は己の任務を拒否した場合、或いは任務が失敗に終わった場合、
速やかに抹殺される。
従って、この場合に置いてもその規律が適応されると思い込んでいた。
無論、彩女はそのような女では無い。
「…別にどうもしないよ。」
彼女は力丸を安心させる為に、軽く微笑んで見せた。
「そうか。」力丸が安堵の溜息を付いた。
彩女が再度腰を寄せて来た。
「で、どうする?炭焼きをやってみるかい?」
今度は力丸は動かなかった。
「…判らぬ。」
「…でも他に仕事が無いんだろ。
このまま渡り乱破(一時雇用の忍び)でもやるかい?
それともまた畜生の皮でも剥ぐかい?」
「もう畜生の皮は剥がぬ。」
この部分に関しては、力丸は毅然として宣言した。
「…止むを得ぬ。このまま何処かで生きるだけ生きようと思う。
それで命運が尽きれば、やはり何処かで野垂れ死に、
今度は俺が畜生の餌食となろう。」
「馬鹿。」と彩女は力丸の顔を覗き込んだ。
「そんなの駄目さ。
だからあたいが炭焼きを教えてやるって言っているだろう?」
力丸は沈黙した。
暫くして「銭が欲しいのか?」
「え?」彩女は一瞬、虚を突かれた。
「何?銭だって?」
「俺に炭焼きとやらを教えて、
見返りに銭を欲しているのであろう。」
彩女は呆れた。苦笑している。
しかし同時に、我が好意がこの朴念仁に
卑賤な形で誤解されてしまった事に対して、
少々の失望と哀しみを覚えていた。
「違うよ。銭なんか要らないよ。」
「只で、教えてくれるのか。
銭が欲しいのなら、別に炭焼きを教えてくれなくとも、
幾ばくかならくれてやっても良いが。お前には世話になったからな。」
力丸に取って貨幣は、単に「円形の金属片」という存在でしかない。
世人はこれを好むらしい、と言う事実は知識として持ってはいるものの、
自身の体感としては、彼等の嗜好は到底理解出来るものでは無かった。
従って、力丸はこれまでこの「円形の金属片」を、自らの欲望に任せてばら撒いたり、
或いはそれとは間逆に、金属片が徐々に蓄積して行く様を愉しんだりした事はただの一度も無く、
世俗的な生活とは掛け離れた、隠遁者にも似た日々を送っていた。
銭が無いなら無いで、山野に分け入って山菜や川魚を採って食えば良いし、
そうでなければ、野盗の真似事をして糧を得ても良かった。
乱破者である彼には、その知識と技術がある。
それで駄目なら、その時は潔く飢えて死ねば良いだけの話だ。
この様に、力丸の経済観、ひいては死生観は、
極めて短絡的であり、また簡潔なものであった。
その為、この女が銭を好むのであれば、
懐の「円形の金属片」を残らずくれてやっても良い、と思っている。
しかし彩女もまた、「円形の金属片」を殊更好むような女ではない。
「違う。銭が欲しいわけじゃない。」
先程の力丸同様、彼女もまた毅然として言い放った。
「あたいはただ、あんたに炭焼きを教えてやりたいだけさ。」
「何故?」
「…別に。何となくだよ。」
ここでも彼女は、一度抱いた秘想を告げる事が出来なかった。
蝶よ花よの生娘でもあるまいし、まさか
「あんたは今まで一度もあたいの身体を欲しなかった。
あんたみたいな男は初めて見た。だからあんたの事が気に入った。」
などとは、口が裂けても言えるものではない。
ただ「教えてやりたいから、教えるだけだ。」とだけ言った。
「そうか。」
力丸もそれ以上の追求はして来ない。
彼の場合
「…そんなに俺に炭焼きとやらを教えたいとは、
変わっておるな。」と少々の驚愕を持って彩女を眺めている。
「では、俺に炭焼きを教えてくれるのか。」
「ああ、教えてやる。」
「それは難しいのか?俺は阿呆だから、余り難しい事は出来ぬぞ。」
「阿呆でも出来るさ。何せ、あたいの前の亭主にだって出来たんだから。」
そう言って、彩女は笑った。
「…そうか。」
言いながら、力丸は天を仰いだ。
そして暫し黙考した後、
「どうしても、俺に炭焼きをやらせたいのか。」
彩女の返答は「どうしても、やらせたい。」
これが乱破の女なりの、秘想の告白であった。
そうか、と力丸は呟いた。
そして「…お前がやれというのなら、やってみよう。」
彼は子供のような素直さで一つ、頷いた。
日差しが暖かい。
冬ももう終わりを告げようとしていた。
それから力丸は彩女に連れられて、彼女の家に向った。
道中、彼は「本当に俺に炭焼きが出来るのか。」と弱気の言葉を何度も吐いた。
その度に彩女は「きっと出来るさ。出来るまで、あたいが教えてやる。」
彼を安心させる言葉を掛けてやった。
彩女の家は、深い山中に穿たれた窪地にぽつりと建っていた。
「何故この様な辺鄙に庵を結んでいるのか?」
常人ならば当然に抱く筈の疑問も、力丸は口にしなかった。
ただ一言「俺の生まれ故郷に似ている。」とだけ呟いた。
「狭くて悪いけれど。」と彩女は申し訳無さそうに眉を潜めた。
事実、狭い。小さな土間と、二間四方の居間が一つあるだけの、方丈の庵である。
しかし力丸は「別に構わぬ。」と気にも留めて居ない。
任務の内容次第によっては、彼は半月も一月も山中に潜伏する事があった。
薄汚い草庵とは言え、それに比べれば、雨風を凌げるだけでも上等と言える。
「何にもなくて、恥ずかしいや。」
客人に丸茣蓙を勧めながら、彩女は頭を掻いた。
彼女の言葉通り、屋内には目ぼしい物は何も置かれて居ない。
居間の片隅に小さな囲炉裏一つが設置され、
その脇には僅かばかりの柴が積まれていた。
反対側の隅には、薄い寝具が几帳面に折り畳まれて置かれている。
しかしただそれだけである。
装飾品の類は勿論の事、季節の花一輪、飾られていない。
それが彼女の半生を雄弁に物語っていた。
「待っていておくれ。今、お白湯でも飲ませてやるから。」
立ち上がった彩女に向って、力丸は、
「それより、早い所炭焼きとやらを教えてくれないか。」
彼の表情は可笑しいほどに真剣であった。
「いや、教えてやるけど、その前にお白湯でも…。」
「白湯は良い。俺は炭焼きを教わりに来ただけだ。」
彩女は一瞬呆気に取られ、次の瞬間には思わず噴出していた。
―何だこの珍妙な男は。
「いや、炭焼きも教えてやるけど、
その前に一休みしようじゃないか。」
「別に疲れてはおらぬ。それよりも炭焼きを教えてくれ。
俺は一刻も早く、その炭焼きを体得してみたいのだ。」
どうやらこの男、「炭焼きの技術」は、
一朝一夕で身に付くものと勘違いしているらしい。
故に今すぐにでも技術を体得し、
早々にこの場から立ち去りたい、と考えているようだ。
「あのね、力丸さん。炭焼きは、そんなに直ぐには覚えられないよ。」
「…では、どのぐらいの日にちが必要だ?十日で出来るか?」
「十日でも無理さ。…そうだね、早くても三月は掛かるね。」
「三月も掛かるのか。」
むう、と唸って、力丸は閉口した。
「だからそんなに焦っても駄目さ。今お白湯を入れてやる。
少しぐらいゆっくりおし。それにほら、もう日も暮れるだろ?」
言いつつも、彩女は既に囲炉裏に火を起し始めている。
彼女の言う通り、表では既に日が暮れ始めていた。
力丸はもう一度、むう、と唸った。
日が暮れれば仕方が無い。
「…では、白湯を貰おう。本当は俺も喉が渇いていた。」
炭焼きの作業は、その翌日から始まった。
まず、木材を炭化させる為の土製の窯を造った。
この窯は庵の裏庭に造る事に決めた。
「ささ、力丸さん。あたいの言う通りに窯を造ってみておくれ。」
彩女が指示を出し、力丸がその手足となって製作に及んだ。
この男、自ら思考し行動する事は苦手だが、
一度命じられると、まるで機械の様な正確さと生真面目さを持って、事に当る。
その力丸の奮闘もあって、窯は僅か三日で完成を見た。
それからは、只管炭焼きの作業である。
橡や楢などの木材を釜に投入し、後は根気良く火加減を見て、
炭化するまで只管待ち続ける。この作業は非常な忍耐を必要とする。
常に火を絶やさぬように注意し、
それこそ徹夜で火の面倒を見続けなければならない。
しかしその部分に関しては、
この力丸ほど適した人材は存在しなかったかもしれない。
彼は逐一彩女の指示に従いながら、驚異的な忍耐力と集中力とを発揮して、
何ら失策を遂げる事無く仕事をやってのけた。
その間力丸は、決して無駄口を叩かず、怠ける事もせず、
師の彩女に対して口説き文句の一つも囁かず、ただただ炭焼きの人と化した。
しかしこの男は幾分変わっている。
奇人変人の類はこれまで何度も目にして来た彩女であったが
力丸の場合、その彩女にすら奇異の目を向けさせた。
仕事の合間に僅かな暇が出来た時などは、
地面をじっと見つめたまま、微動だにしない。
その姿はまるで、古の哲人がこの世の真理について
思索している様にも見受けられるし、
或いは山の獣のように、一切の思考の範疇外に佇んでいるようにも見える。
食事は一日二食、彩女の拵えた物だけを食い、かわりを勧められても、
「いや、もう良い。」と言って、それ以上は食わなかった。
「酒を飲むか。」と聞いても、「要らぬ」と言い、
「では、点珍(菓子)でも買ってきてやろうか。」と尋ねても、やはり頸を横に振る。
ただ、「それでは、罠を仕掛けて鹿でも獲ってきてやろうか。
鹿の肉はどうだ?精が付くだろう。」と聞かれた時だけは、激しく拒絶した。
力丸は「要らぬ…!それだけは要らぬ…!」と子供のように激昂し、
暫し彩女を唖然とさせた。
しかし、それだけである。
それ以外は、彩女に対してまるで山犬のように極めて従順、かつ忠実で、
口答え一つしなかった。
―本当に珍妙な男だ。
彩女は今だかつて、このような変人を見た事が無かった。
若い女と同棲しているというのに、決して彼女との同衾を望まないし、
夜這いを掛けてくるといった事も無い。
また、あわよくば手篭めにしてくれようなどといった邪心も見られ無い。
彩女は一度、この男を試すつもりで、
「あたいが夜伽の相手をしてやろうか。
あんたも男なら、女が必要だろう。
あたいなら別に構わないよ。」と誘った事があった。
しかしその際も力丸は
「俺に『夜伽』とやらは出来ぬ。
俺には皮剥ぎと、乱破家業しか出来ぬ。
後は少々、お前に教わった通り一遍、炭焼きが出来るぐらいだ。」
こう言って、独りでさっさと寝てしまうのだ。
彩女はもう呆れるばかり。
更にしつこく誘ってみても、
今度は寝た振りをしてやり過ごそうとするのだから、
流石に女心にも複雑なしこりが残る。
―この男は、女が嫌いなのか。それとも生粋の衆道家か?
しかし一方で、これら力丸の奇妙な言動の数々は、見方によっては、
人間らしい情緒や欲望が欠落している為だとも受け取れた。
―この男は、人というよりも獣に近い。
…まるで獣を庵に住まわせているようだ。
こう思う一方で、彩女は、
―いやいや、そうではない。あたいの思った通り純情な男なのだ。
何故ならこの男は、あたいに一度も手を出そうとしなかった。
こんな男は初めて見た。確かに珍妙な男だが、こういうのも悪くは無い。
この炭焼きの人に、相変わらず生娘のような好意を募らせてもいた。
やがて日数が経過し、お互い打ち解けて来ると、
力丸がぽつりぽつりと己の過去を明かし始めた。
「俺の母(かか)は、淫売であった。」
彼が最初に語ったのは、己の出生に付いてである。
「故に俺は父(てて)の顔を知らぬ。母も俺の父が誰だか判らぬと言った。」
二人は窯の前にドカリと置かれた丸太に並んで腰を掛け、
火の具合を見ている。
「俺の家にはしょっちゅう知らない男がやって来た。
幾人もだ。そしてやって来ては母を買っていった。
だがそれでも俺の家は貧乏であった。だから俺も銭を稼がなくてはならぬ。
俺は母を買いに来た客の紹介で、畜生の皮剥ぎの仕事を始めた。
確か、四つか五つか、それぐらいの時だ。」
そう言いつつも、力丸は窯の中を覗き込む。
火はまだ十分に燃えていた。
「俺には弟や妹が居た。だが皆死んでしまった。
母が殺したのだ。産まれたばかりの弟や妹を、このように踏み付けて…。」
力丸は薪の一本を地面に置き、無造作に踏み付けてみせた。
「…皆、殺してしまった。俺は母に命じられて、
死んだばかりの弟や妹を裏山へと捨てに行った。
すると山の畜生供がやって来て、弟や妹を掻っ攫っていった。
山の畜生と俺は、その時に仲良くなったのだ。だから連中は俺の友であった。」
言い終わると、彼は踏み付けていた薪を窯へと投げ入れた。
「母は良く俺に向って、
『お前も間引かれたくなかったら、うんと畜生の皮を剥いで銭を稼げ。』と言った。
俺は間引かれたくなかったから、母の言う通りにうんと畜生の皮を剥いだ。
せっかく友になれたというのに、俺は片っ端から連中の皮を剥いだ。
しかし母はその後、病で死んだ。
俺は病の事は判らぬが、母は体中が腐って死んだ。」
―唐瘡(梅毒)か。
と彩女は察した。しかし何も言わない。
沈黙したまま、戯れに小さな薪の一片を窯の中に放り入れた。
「その後、俺はやはり畜生の皮剥ぎをして暮した。
俺にはそれしか出来ぬから、仕方あるまい。
…畜生は皆優しい連中ばかりだった。
村の連中のように、俺に石を投げたりしなかったし、
母のように、俺を殴り付けたりしなかったからな。」
見ろ、と力丸は顔を彩女に向けた。
「俺のこの眼は、母に殴られて潰されたのだ。」
彼の右眼は醜く潰れていた。
稲妻状の裂傷が、眼孔を縦に割っている。
そして力丸はふふ、と自嘲を零しながら、
「…しかし今となっては、これだけが俺の母の思い出となってしまった。
これでしか、俺は母を思い出せぬ。」
彼の口許には幽かに笑みが浮かんでいた。
今は亡き、母の姿を思い出したのだろうか。
それにしても、痛ましい記憶である。
そして彼は一つ溜息を吐き出し、今度はかか、と声に出して笑った。
「…いや、畜生は本当に優しき連中ばかりであったよ。
人よりも、ずっとな。
故に俺は畜生の皮を剥ぐ度に『すまぬ、すまぬ。』と言いながら皮を剥いだ。
『俺はお前達が好きだ。お前達は俺の友だ。だから赦してくれ。』そう言いながら皮を剥いだ。」
山の獣は、確かに孤独な彼の友であったのだろう。
そして人は彼の敵(かたき)であった。
「しかしな、幾ら俺に皮を剥れても、山の畜生は何も言わなかった。
俺に仕返しをする事もなかった。
ただ黙って、俺に皮を剥れるままとなっていた。
…ああ、今でも良く覚えているよ。
俺に皮を剥れる時の鹿の眼などはな、とても美しかった。
お前は黄金と言うものを見た事があるか。
世間の人間は、黄金がこの世で一番美しいと言う。
だが俺に言わせれば、この世で最も美しいものは、死んだ鹿の眼だ。
あの丸くて真っ黒く透き通った眼が、一番美しい。
世間のあらゆる財(たから)よりも、もっともっと美しい。」
そこまで言うと、力丸は漸く言葉を止めた。
そしてやや間を置いた後「…あの眼はお前の眼に似ている。」と感慨深げに呟いた。
思わず彩女がその眼を伏せる。
「…だから、俺は畜生が好きだった。
村の連中は、俺の顔を見ると俺に石を投げる。
母は、俺の顔を見ると俺を殴る。
だが畜生は、俺の顔を見ると俺の所に寄って来るのだよ。
もしかしたら俺の事を、同じ畜生と見たのかな。そうかも知れぬ。
何せ俺は村の連中に「山畜生の餓鬼」と呼ばれていたからな。
きっとそうだ。山の畜生は、俺を仲間と見たのだ。だから俺の所に寄って来たのだ。」
感傷に溺れるでもない。彩女に同情を引かせようとするでもない。
力丸はただただ淡々と、己の半生を語った。
「…だがな、それから暫くして、俺の所に胡乱な野伏せり供がやって来た。
最初、俺はその者達の事を、俺の剥いだ皮を買ってくれる大人達かと思った。
何せ、その者供の中には、熊の毛皮の半纏などを身に付けておった者も居たからな。
俺はまだ熊を殺す事は出来なかったが、鹿や狐や狢ならば殺して皮を剥ぐ事が出来た。
だから俺の剥いだ獣の皮でも買ってくれるのかと思っていた。
しかし、違った。連中は親無しの俺をかどわかしに来たのだ。それが連中の仕事であった。
そして俺は連中が持っていたズタ袋の中に押し込められ、乱破者の里に連れて行かれた。
俺が八つか九つの時だ。」
そこで俺は連中と同じ、乱破者になったのだ、と力丸は締めくくった。
この彩女の庵と同様、余りにも簡潔、そして空虚な半生である。
彼がこれまで歩んで来た道のりには、畜生の皮剥ぎと、そして殺人しかなかった。
「…そうかい。」短く答えた彩女も、彼に同情した風は無い。
ただ「あたいもあんたと同じ様なもんだ。」と小さく呟いた。
彼女の黒目がちの瞳には、燃え盛る窯の炎が寸分違わずに映し出されていた。
暫しの沈黙の後、力丸が独り言のように呟いた。
「…何故、俺は畜生に生まれて来なかったのか。
俺は人ではなく、鹿に生まれたかった。」
彼の氷のような瞳にも又、夜の闇を照らす炎が宿っている。
取り合えず今日はここまでです。
またその内続きを投下します。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ) 相変わらず無駄に長いな。
( ´_ゝ`) / ⌒i
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おもしろい。確かにおもしろい!
……でも、これ誰?
163 :
夏:2006/03/32(土) 00:14:22 ID:dzfdDskh
待ってました!ぽぽ者さま。
すでに暗雲とした先行きが立ちこめている感じがしますが、続きが楽しみです!
彩女が不幸になりそうで少し恐いですが。
目の傷が母に付けられたモノというのも新しい切り口でイイ!!
さて、力丸が炭焼きを初めて三ヶ月が経過した。
彼はこの間、ただの一日も休息を取る事無く、只管仕事に没頭した。
そして「我、意を得たり」と感じた力丸は、師である彩女の元に馳せ参じ
「世話になった。」と平伏した。
「お前のお陰で、俺にも炭焼きの仕事が出来そうだ。
今の俺には何の礼も出来ぬが、何時の日か、必ず礼に訪れる。」
言いながら、彼はそろそろ師の元を去ろうかという素振りを見せた。
しかし「お待ち。」その師匠、彩女が、
炭粉で黒く染まった弟子の袖を強く引いた。
「何処に行こうって言うんだい。」
「判らぬ。だが、何処か、炭焼きが出来る所だ。
そこでお前に習ったように、炭焼きをしてみよう。」
「馬鹿だね。」彩女は眉間に皺を寄せた。
「あんたの家はここだろう。」
袖を引いていた筈の手が、何時の間にか力丸の手を取っている。
「…いや、ここはお前の家だ。今の俺は宿無しだ。
だが俺もその内何処かに…、」
家を持とうかと思う、と言い掛けた力丸の口を、彼女の言葉が封じた。
「あんたの家はここだ。
だって、あんたはあたいの亭主なんだから。」
力丸は、直ぐには彩女の言葉の意味を理解する事が出来なかった。
取り分け「亭主」という単語の意味が、彼の理解の範疇を超えていた。
彼は独来独去を義務付けられた男である。
唯一の肉親であった母が死んで以来、身寄りも居ないし、
家族は勿論の事、恋人や友人すら持った経験が無い。
我が身は、それら人界の者とは全く違った次元を
往来する人外の化生であると思っていた。
人外の化生とは、とどのつまり化け物や物の怪の類の事である。
彼の場合、己の事を「山の畜生の生まれ変り」だと信じていた。
その「山の畜生」が、どうして人の亭主などに成り得ようか。
そもそも力丸が彩女の家にやって来たのは、炭焼きを習得する為である。
それ以外の理由は無い。
その為、彼は技術を一通り習得した後は、速やかにこの地を去ろうと
来訪した際から心に決めていた。
事実、彼はたった今、彩女に別れを告げようとしたばかりなのだ。
それなのにこの女は「何処にも行くな。亭主になってここで暮せ。」と言う。
口には出さなかったが、力丸は内心、
―迷惑だ。
と思った。
しかし師匠の手前、本心を明かす訳にもいかない。
間を置いて、力丸が聞いた。
「…亭主?俺が?」
「ああ、あんたはあたいの亭主さ。」
「何故?」
「何故って…だって三月も一緒に暮したんだもの。
だからあんたはもうあたいの亭主さ。だから何処にも行かないでおくれ。」
彩女は力丸の腕を取っていた。
力丸の左腕が彼女の胸の内に埋った。
傍目にも分かるほど、彼は動揺した。
一刻も早くこの場から遁げだそうと、浮き足立った。
しかし腰を上げようとした矢先、
彩女に更に強く腕を抱かれ、再び引き戻されてしまう。
「ねえ、ここに居ておくれよ。毎日あんたの御飯(おまんま)作ってやるからさ。
あたい、あんたが居なくなると寂しいよ。
ね、お願いだよ。炭焼き教えてやっただろ。
だからあたいの亭主になって、ずっとここで一緒に暮しておくれ。」
彼女は決して「あたいをあんたの嫁にしてくれ。」とは言わなかった。
その代わりに「亭主になれ。寂しいからここに居ろ。」としつこく食い下がった。
先程力丸の事を「独来独去の男」と評したが、
それはこの彩女にも当て嵌る事だろう。
彼女の半生もまた、力丸の歩んで来た道程とそう大差のあるものでは無い。
彩女は語らなかったが、彼女は少女の頃に、
いくさの混乱に乗じた敵軍による人的略奪の餌食にされた女である。
彼女はその際に初めて男を知り、そして気が付いた時には
人市(人身売買市場)に流されていた。
哀れにも売買の対象と成り下がってしまった人間の内、
幸運な者は身内に買い戻される場合があるが、
残念な事に、彼女の両親はそのいくさの際、命を落としてしまっていた。
実際に彼女を購入したのは、
彼女の美貌に目を付けた「乱破の里の者」であったと言う訳だ。
その時から、彩女は第二の人生を乱破者として送る事となった。
力丸が我が身を「山の畜生」と観たのと同様、
乱破者となった彩女は、自身の事を「我、肉の傀儡(くぐつ)なり」と俯瞰した。
その自嘲を胸に秘め、彼女は浮世の闇を漂流して来たのである。
「肉の傀儡」は「肉の傀儡」として、ただの一度たりとも人間の情を持ち得る事無く、
その生涯を終える筈だったのだ。
しかし力丸を一目見た瞬間、彩女は、
―この人は、あたいに似合っている。
「肉の傀儡」と釣り合う存在は、眼前の「人外の化生」を置いて他に無かった。
この「山の畜生の生まれ変り」こそが、我が生涯の伴侶であると、直感した。
彩女は右腕で力丸の左腕を抱きつつも、更に左手で彼の腰帯を握り締めた。
女のものとは思えぬ程の、強靭な膂力である。
膂力には自信のある力丸でさえ、容易に動く事が出来なかった。
「ねえ、ねえ、ここに居ておくれよ。あたいの亭主になっておくれ。」
彩女は背中を入り戸に向けて、力丸の退路を断つ体勢を取った。
そこには「意地でも遁がさぬ。」という、彼女の気迫と決意が見て取れる。
「お、俺は…炭焼きは出来るようになったが、お前の亭主などは出来ぬ。」
「出来るさ。それもあたいが教えてやる。」
そう言って、彩女は「ひし」と力丸の胸板に顔を埋めた。
分厚い大胸筋を通してでも、早鐘のように打ち鳴らされる彼の鼓動を感じた。
「いや、出来ぬ。俺には出来ぬ。」
「出来る。あたいが教えてやる。
炭焼きを教えてやったように、亭主のやり方もあたいが教えてやる。」
「で、出来ぬ…、お、俺には出来ぬ…。」
力丸は突如幼子のように震えだした。
胸を打った鼓動は、決して彩女に絆されたが為ではない。
彼は恐怖を覚えていたのである。
「山の畜生の子」が、今更人の子の生活を送る事が出来る筈も無かった。
それは自身が今まで殺めて来た獣達への造反に当るのでは無いか。
友と定めた獣を裏切り、今更どうして
一度敵(かたき)と定めた人への服属を承諾する事が出来ようか。
それは自身の存在と、そしてその半生の否定でもある。
或いはこれは一種の意地の現われ、と言って良いかも知れない。
武士には武士の、そして乱破には乱破の意地が存在するように、
畜生にも畜生の意地があった。
初めて獣を殺した時、力丸は泣いた。泣きながら、皮を剥いだ。
しかし初めて人を殺した時、彼は微笑を浮かべながらこう言ったのだ。
―これで、今日からは畜生を殺さずに済む。
人ならば、幾ら殺しても心が痛まぬ。
「俺には出来ぬ…!出来ぬ…!」
力丸が喚いた。
「何でだい…!炭焼きは出来ただろう…!」
彩女もまた、喚き返した。
「いや、出来ぬ…!俺には出来ぬ…!俺は無能者だ…!
俺に出来るのは畜生の皮剥ぎと乱破家業と、
それから炭焼きだけだ…!」
「それだけ出来れば上等じゃないか…!
だからあんたにもあたいの亭主が出来る筈だ…!
亭主なんて皮剥ぎよりも、乱破家業よりも、炭焼きよりももっと簡単だよ…!
あたいと一緒にここで暮してくれれば良い…!
それだけだ…!たったのそれだけなんだ…!」
二人は暫し揉み合った。
ややもして、彩女が力の限りに力丸を押し倒し、その上に乗った。
凄まじい膂力である。力丸ですら抵抗出来るものでは無かった。
「出来ぬ…!出来ぬ…!赦してくれ…!銭ならやる…!銭ならやる…!
俺は幾ばくかの銭を持っている…!これをやるから赦してくれ…!」
力丸は無意識の内に懐を弄っていた。
取り出したものは、汚い巾着袋である。
中には一文銭がずっしりと詰っていた。
ただし、これは彼の財産と言うわけではない。
刃物と同様、単に仕事に使うだけの道具の一つ過ぎなかった。
彩女は差し出された巾着袋を引っ手繰ると、
「銭なんか要るもんか!」力任せに部屋の隅に投げ付けた。
その衝撃で袋が裂け、乾いた音を立てながら床に一文銭が散らばった。
「あたいを馬鹿にするな!こんなもの誰が要るか!」
彼女は更に激しく力丸を責め立てた。
「亭主になれ!あたいの亭主になれ!
炭焼きを教えてやった代わりに、あたいの亭主になれ!」
「で、出来ぬ…!出来ぬ…!俺には出来ぬ…!見返りに銭をやる…!
炭焼きを教わった見返りに俺の銭を全部やる…!だからもう赦してくれ…!」
「銭なんか要らないって言ってるだろ!いいからここに居ろ!
ここであたいと一緒に暮すんだ!
それが炭焼きを教えてやった見返りだ!」
力丸はもう激しく脅えていた。
彩女の如夜叉面(にょやしゃおもて)が、
かつて亡母が彼を殴打した際に見せた形相そのものだったからである。
「赦してくれ…俺には出来ぬ…俺には出来ぬ…
亭主など出来ぬ…俺は山の畜生だ…人の亭主など出来ぬ…。
俺は山の畜生だ…人ではない…山の畜生なのだ…。」
力丸は泣いていた。泣きながら赦し乞うた。
しかし泣いていたのは、力丸だけではない。
「だから何だってんだい…!山の畜生だから何だってんだい…!」
上になっている彩女もまた、泣いている。
「あたいだって傀儡人形だ…ただの傀儡人形なんだ…山の畜生が何だってんだい…。」
泣きながら、力丸の小袖の襟足を激しく揺さ振った。
胸元の合わせが乱れ、彼の厚い胸板が露になった。
彩女の涙はその上にひたひたと落ちた。
「俺は…俺は…最早人にはなれぬ…今更…今更人を赦す事が出来ぬ…。
俺は山の畜生の生まれ変わりだ…人ではない…山の畜生なのだ…。」
「それでもいい…それでもいい…あたいだって今更人には戻れない…。
だからだ…だからだよ…あんたが人で無いなら、あたいも人で無いんだ…
だから人で無いもの同士、一緒にここで暮しておくれ…。
寂しいよ…あんたが居なくなったらあたいは寂しいよ…。
あんたが居なくなっちまったら、あたいは独りぼっちになる…。
あたいはこのまま本当の独りぼっちになっちまう…。」
『本当の独りぼっち』と言う言葉が、彼女の孤独に満ちた半生を物語っていた。
人で無いものは、結局どうあがいても人と交わる事は出来ない。
例え「人の形」を真似る事は出来ても、それでも決して人には成り得ないのだ。
彩女がこの様な人里離れた草庵に居を構えているのも、その為であった。
「人外の化生」同様、「傀儡人形」もまた、人の世に生きる資格を持たなかったのである。
しかし、そこに力丸と言う彼女の同類が現れた。
我が身と同じ、浮世の闇を彷徨う「人外の化生」の男である。
彼をこのまま遁がしてしまえば、
我が身は永遠に『本当の独りぼっち』となってしまうであろう。
その彼女の孤独への恐れ、そして一度伴侶と定めた男への妄執が、
涙に暮れる如夜叉面となって現れたのだ。
「お願いだよ…お願いだよ…ここに居ておくれ…
炭焼き教えてやっただろ…だからここであたいと一緒に暮そう…
あたいの亭主になっておくれ…教えてやる…亭主のやり方も教えてやるから…。」
彩女はそのまま力丸の胸に突っ伏して、声を上げて泣いた。
いや、泣いたのではない。「哭いた」のである。
両の眼からは、止め処も無く涙が溢れ出した。
それを拭いもせずに、彼女はただただ哭いた。
涙に濡れる彩女の瞳を目にした瞬間、力丸は声を失った。
それはかつて見た鹿の眼であった。いや、それよりも遥かに美しい漆黒である。
底すら伺えぬ深淵冥渤にも似た、全てを呑み込まんとする闇の色であった。
力丸は闇を愛した。
闇こそが、老若男女、善人悪人、有徳(資産家)無徳、有能無能、貴賎、美醜を問わず、
全ての人間達を包み込み、永遠の奈落へと連れ去って行く仏である。
無論、「山の畜生の生まれ変り」も「肉の傀儡」も、そこでは何ら区別される事は無い。
彼ら「人外の化生」ですら、闇の前では平等であった。
最早掛ける言葉が見付からなかった。
胸の彩女の悲嘆のみを、力丸は呆然と聞いている。
やがて彼女の哭き声は嗚咽へと変じ、その内それも止んだ。
二人は重なり合ったまま、石と化した。
それからどれ位の時間が経過したであろうか。
二人はいまだ石のままである。
表で鳶が鳴いている。五月晴れの風が、肌を涼やかに撫でて行った。
力丸の胸を濡らしていた彩女の涙も、すっかり乾いていた。
やがて彩女はするり、と力丸の体から離れ、彼の横に腰を下ろした。
若干、今し方の狂乱を恥らう素振りを見せている。
一方の力丸は今だ天井を仰いだまま、硬直していた。
お互い無言であった。
ところで…このスレを見てくださっている
おにゃのこってどれぐらい居るんでしょうかねぇ?
∧_∧
∧_∧ (´<_` ) さあ、どれぐらいだろうな…?
( ´_ゝ`) / ⌒i つーかそもそもこの板におにゃのこは居るのか?
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もしおにゃのこが居るのだとしたら、
俺はそのおにゃのこの為だけに頑張りたい。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ;) 男はどうでもいいんかい…!
(* ´_ゝ`) / ⌒i
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175 :
名無しさん@ピンキー:2006/04/04(火) 13:38:25 ID:2eUIfpeu
>>173 ノシ ノシ おにゃのこじゃなくてオヴァだけど
それから暫く沈黙の刻が流れた。
やがてその沈黙に耐え切れなくなったのか、
「ああ…。」と力丸が搾り出すような声を吐いた。
「何故俺は畜生に産まれなかったのか…。
何故人に産まれてしまったのだ…。何故…。」
―麓の村人のように、平凡な人生を送りたかった…。
それが果せぬとあらば、せめて山の畜生に産まれたかった…。
俺には人の生活というものが一体どういうものなのか、皆目検討も付かぬ…。
その俺に、今更人の生活が送れようか…。
俺はこのまま人にも畜生にもなれず、
浮世の闇を彷徨い続けるしかないのだ…。
大の字姿の力丸は、
無意識の内に身内の奥底に秘めていた懊悩を吐き出した。
彩女はそれを閉口したまま聞いている。
暫くして「…大丈夫。やり直せるさ。」
彼女は静かに口を開いた。
「…あたいとあんたで、人の生活をやり直そう。」
「俺には出来ぬ…。」
「出来るさ。」
「…いや、出来ぬ…。」
「出来るさ。あたいが付いているだろう。」
力丸は戸惑っていた。
床の上に大の字であった彼は一転、彩女に背を向けるように身体を丸めると、
年端も行かぬ幼子のような質問を矢継ぎ早に彼女に浴びせ始めた。
「…お前は俺を殴ったりせぬか。」
「ああ、殴ったりしないよ。」
「…俺に悪口(あっこう)を浴びせたりせぬか。」
「ああ。そんな事は一言も言わないよ。」
「…俺に石つぶてを投げたりせぬか…。」
「ああ。投げたりしない。約束する。」
「…俺を嫌ったりはせぬか…。」
「ああ。嫌ったりするもんか。
だってあんたはあたいの亭主だろう。」
「…そのような偽りを申すな。俺にはわかる。
何故なら俺は今だかつて人に好かれた事が無い。」
「偽りじゃあないよ。本当の事さ。」
「…俺には信じられぬ。人の言葉が。」
「人の言葉なんて信じなくても良いよ。
その代わり、あたいの言葉は信じておくれ。」
「…俺は人が恐ろしい。…恐ろしいのだ。」
「大丈夫。あたいが守ってやる。
だからそんなに怖がらないでおくれ。」
「…お前が俺を?何故だ。そのような謂れは無い。」
「あんたに惚れているからさ。」
「…それも偽りであろう。それともつまらぬ情けか。」
「違う。本当さ。」
彩女が力丸に対して抱いた愛情には、
彼女の言葉とは裏腹に、彼に対する哀れみが多分に含まれている。
闇の中を彷徨う異物が、同様の闇を行く異物に惚れた理由としては、
身に積まされる様な同情と、そして痛ましい共感を置いて他に無かった。
裏を返せば、彩女は力丸を哀れむ事により、我が身を哀れんだのである。
力丸を愛する事により、我が身を愛したのである。
「…大丈夫さ。力さん。あたいが付いているだろう。
だから何にも心配は要らないよ。」
だからあたいの亭主になっておくれ、と彩女は力丸の顔を覗き込んだ。
しかしこの期に及んで力丸は今だ大いに困惑し、硬直している。
やがて彼は突如がばりと身を起こすと
今度は胡坐をかいたままやはり石化した。
これまでの半生において、彼の友人は彼自身だけであったし、
彼の恋人も彼自身だけであった。
それ所か本来彼を庇護し、無償の愛を注いでくれる筈の父母もまた、
彼自身なのである。
彼が愛でていた獣は、言うなれば我が分身とも言えよう。
これまでただの一度も人の愛を受ける事無く、只管に闇の中を漂流してきた力丸には
他人の愛と言うものの存在を信じる事が出来なかった。
仮にそれが存在していたとしても、それは「山の畜生の生まれ変り」である我が身とは
全く無縁の何処か遠い世界、つまり「人界」においてのみ存在する
蜃気楼のようなものだ、と頑なに信じていた。
「…ねえ、いいだろう。あたいの亭主になっておくれ。」と再び彩女が懇願した。
力丸は頸を小さく横に振った。
「…俺には出来ぬ。人の亭主など…。」
彼は彩女の愛情を恐れていた。
それは未知なる物への恐怖であると同時に、
人間への根本的な不信から来る恐怖である。
その恐怖から遁れる為には、やはり彼は今まで通り、
我が身一つを頼みとして「山の畜生」として生きていくしかない。
「…すまぬ…。やはり俺にはお前の亭主は出来ぬ…。」
「…出来るさ。」
「…いや、出来ぬ…。俺には無理だ…。」
「…それじゃあ、別に出来なくても良いさ。
ここであたいと暮してくれるだけで良いよ。
それなら出来るだろう。」
「…それも出来そうに無い…。」
力丸は力無く頸を左右に振った。
他人と、しかも女と同棲し、供に生活を築き上げていく己の姿が
全くと言って良いほど想像出来なかった。
夜毎女と肌を合わせ、やがては子を為し、人の親となる我が身などは
初めからこの世には存在しない筈なのだ。
今だかつて、力丸は死を恐れた事が無い。
鉄砲玉も、弓矢も、刀鑓も恐れた事が無い。
激しい拷問も、飢餓も、病も同様である。
その彼がこの世で唯一恐れたもの、
正確に言えば、恐れながらも密かに希求し続けていたもの、
それこそが「人間の生活」に他ならなかった。
「ね、どうしても、駄目かい?」
突如、彩女の口調が今までの湿気を帯びたものから、
乾燥したものへと変わった。
「……………。」
力丸は返事をしなかった。
彼に唯一つ残された左の眼球が、哀れな程泳いでいた。
「…力さん、答えておくれ。
力さんがどうしても嫌だと言うなら、あたいもこれ以上の無理強いはしない。
あたいもきっぱり諦めるから。
その代わり、ここから出て行っておくれ。
そしてもう二度と、あたいの前には姿を表さないでおくれ。
炭焼きの礼なんて要らないからさ。」
これは彼女なりの覚悟の言葉である。
仮に力丸に拒絶された場合、彼女は最早この世に対する一切の未練も希望も打ち捨てて、
やはり今まで通り、肉の傀儡として生涯を送る所存であった。
「…ねえ、あたいの亭主になっておくれ。
亭主が嫌なら、ここであたいと一緒に暮してくれるだけで良いよ。
それだけで良いんだ。」
それだけを一息で言い切って、彩女は力丸の返事を待った。
しかし力丸は今だ目を白黒させ、乱破者らしからぬ動揺を見せている。
彩女はもう一度、
「ねえ、どうなんだい?答えておくれ。」
今度はやや強い口調で返事を請うた。
それに釣られるように、
「…わ、わからぬ…。」と力丸は呻いた。
「わからぬ?どういうことだい。
亭主になっても良いのか、嫌なのか、どっちなんだい?」
「…わ、わからぬのだ。」
わからぬ、とは奇妙な返答である。
力丸の喉はからからに渇ききり、全身に不快な脂汗が粘りついていた。
男の曖昧な返答に痺れを切らせた彩女は、更に執拗に可否を迫った。
しかし力丸の返答は要領を得ない。
相変わらず「わからぬ、わからぬ。」と言う言葉を繰り返すのみである。
ただ、力丸がここで断固として彩女を拒否しなかったのは、
やはり彼にも人並みの生活に対する羨望と憧憬が、
僅かながらにも残存していたからであろう。
卑賤な方向から覗き込んでみれば、
「山の畜生」として生きて来た筈の力丸にも、
世間の男のような生身の女に対する情欲と未練が
間違いなく存在していたのだ。
正直な所、彩女から好意を告げられた際、
不覚にも力丸の胸は高鳴ってしまった。
しかし、仮に彩女に絆されてこのまま夫婦となったとしても、
彼女が一度でも我が身に注いでくれた好意は、
すぐさま嫌悪と拒絶に変じるのでは。
それならば、彼女が己に対し好意を抱いている内に
このまま「山の畜生」らしく身を引いたほうが良いのではないか。
詰る所、人間に対する抗い難い希求と根深い不信との葛藤が、
「わからぬ。」と言うあやふやな物言いとなって、
力丸の口から零れ落ちたのである。
「お、俺は…山の畜生だ…。人の生活を知らぬ…。
それでも良いのか…?」
「ああ、良いさ。」
「俺は…きっとお前が思っているような男ではない。
それでも俺の事を嫌ったりはせぬか?」
「ああ、嫌ったりはしないさ。」
「ほ、本当か…?」
「ああ、本当さ。」
「しかし…俺には亭主とやらが巧く出来ぬかも知れぬ…。
若しかしたら、お前を怒らせてしまうやもしれぬ…。」
「怒りゃあしないよ。約束する。」
「…本当か?偽りではあるまいな…。」
「本当さ。偽りなんかじゃあないよ。」
ここに来て今まで石であった力丸に、大きな乱れが生じた。
彩女の凝視する前で、彼はしきりに髪を掻き揚げ、乾燥した唇を舌で湿らせ、
また時折大きく息を吐き出し、手に掻いた汗を小袖の裾で拭うなど、
落ち着かない素振りを見せている。
力丸は、先程見た彩女の瞳をふと思い出した。
あの五月晴れの空のように澄み切った漆黒が、
今尚脳裏に鮮烈に焼き付いて、彼を魅了していた。
それは全くの無垢の闇であった。穢れ無き真実の闇であった。
思い出してみて、改めて全身が感動に震え立った。
力丸は狼狽し、ちらりと彩女を見た。
彼女は無言のまま、例の漆黒の瞳で力丸を見つめている。
その清冽なる闇の煌きが、力丸の心を開かしめた。
彼は二、三大きく息を吐き出した後、
「…わかった…それ程言うなら、亭主とやらをやってみる。
正し巧く出来なくとも、本当に怒らないでくれ…。」
今にも泣き出しそうな声で、漸くそれだけを言った。
「本当かい…?」
彩女の声が踊った。
「…本当にあたいの亭主になってくれるのかい?」
力丸は頷いただけで返事を返した。
ややもして、彼は頭を掻きながら、
「本当に怒らないか…?巧く出来なくとも…。」
それだけ念を押した。
「怒らないさ。あたいが亭主のやり方を教えてやる。」
「…そうか。」
力丸がぎこちない笑顔を見せた。
いや、それは笑顔などと言ったような
気の利いたものでは無かったのかもしれない。
或いは狼狽による顔面の引き攣り程度のものだったのであろう。
しかし、彩女はそれを笑顔と見た。
それ故彼女も相好を崩した。
こちらは艶やかな女の微笑みである。
そして間を置かずに言った。
「…それじゃあ、契りのお酒でも飲もうか。」
固めの杯のつもりであった。
同時に、この奇妙な「山の畜生」が、
臆病風に吹かれて変心しない内に、
一刻も早く既成事実を作ってしまおうと言う
やや狡猾な思惑も含まれている。
「いや…俺は…。」
力丸は躊躇したが、既に彩女は立ち上がっていた。
そそくさと台所から小さな酒瓶と杯を持ち出して来た彼女は、
「さ、まず力丸さんからお上がり。」杯一杯に安酒を注いだ。
「む…。」
指図されるままに、力丸は杯を取った。
杯に満たされた薄い白濁には、
やや困惑した様子の新郎の面が揺らめいている。
少々の間を置いた後、一息に呑み干した。
刹那、顔面が歪んだ。
「不味い。」
力丸の飲酒はこれが生来初の事である。
「…喉と胸が焼けるようだ。…毒にはならぬか?」
「毒になんかなら無いよ。安心おし。」
彩女はくすくすと笑った。
そして「あたいにもおくれ。」
彩女は力丸から杯を受け取りつつ、言った。
彼は素直に下知に従う。
彩女も一息に白濁を胃袋に流し込んだ。
こちらは「ああ、美味しい。」にっこりと微笑んだ。
それから夕餉を取った。華燭の膳である。
山菜や茸類の入った稗粥が、この晴れの日の祝膳であった。
力丸はこの稗粥を三杯平らげ、彩女を悦ばせた。
ほう… 人人
∧_∧
∧ _,,_ヽ (´<_` ;)
(* ゚,_・・゚) / ⌒i
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\/____/ (u ⊃
ほっほっほ…成る程、
少なくともこのスレには女子衆が
二人は居ると言うことですか。
∧_∧
∧ _,,_ヽ (´<_` ;) …それにしてもキモイ面だな〜、おい。
(* ゚,_・・゚) / ⌒i
/ \ | |
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まあ、ぶっちゃけ
この俺も実は女子なんですけどね。
∧_∧
∧ _,,_ヽ (´<_` ;) ええ!?何でそんな嘘つくんだ!?
(*´,_ゝ`) / ⌒i
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え…違うんですか?
∧_∧
∧_∧ (´<_` ;) いやいやいや、
( ´_ゝ) / ⌒i 明らかに嘘だろーが!
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186 :
腹黒屋丼兵衛:2006/04/05(水) 23:07:49 ID:JwFD/hdh
スレ住人の皆様、今晩わ。
前はコテを入れ忘れていた様で・・・(汗
>ぽぽ者殿
2人の凄惨な設定は、白土三平の「カムイ伝」を連想させました。
皮剥ぎという生業も“穢れ”を伴う性質上、部落の仕事でありましたし・・・。
救いの無さが嫌が応にも現れております。
当方も時代ネタを仕込むべく悪戦苦闘しておりますが、“江戸時代初期”
を想定している為、何となく能天気な感じになりそうです。
実際は、劇中と同じくそこら中浪人だらけの不穏な世だった訳ですが・・・。
やがて夜の帳が降りた。
屋内には一面、闇が充満する。今宵は月も出ていない。
この貧しい草の庵には、夜の闇を照らす行灯さえ無かった。
従って、夜に我が身を抱擁された時が、即ち就寝の刻となる。
「もう寝よう。」と彩女が切り出した。
ここまでは、普段通りである。
しかしこの夜は、ここから先が違っていた。
「今夜は新床だねぇ。」
力丸は闇の中から紡ぎ出された彩女の声を聞いた。
心無しか、艶めいている。
この三ヶ月間、この師弟が同衾した事は、ただの一度も無かった。
庵に居候を始めた当初、力丸はたった一敷だけある褥を
宿主である彩女に進められたが、彼はそれを丁重に遠慮し、
自らは茣蓙の上に筵を掛けて寝た。
そして彩女はその横で、薄い布団を頭からかぶり、
力丸の背中を盗み見しつつ眠りに付いていたのだ。
しかしお互い夫婦となった今夜は、ついに褥を共にする事が出来る。
彩女は力丸を褥の上に上げ、お互い対面する形で着座した。
二人の距離は二尺と離れてはいないが、
この闇の中では相手の輪郭を判別するだけで精一杯であり、
双方の表情までは伺う事は出来ない。
力丸がこの褥に腰を下ろしたのは、この時が初めてである。
その為か、無造作に髪の毛を掻き毟ったり、膝を何度も撫で摩るなどの
明らかな困惑ぶりを見せ、終始無言であった。
その手をふわりと彩女が取った。
「…あんたは女を抱いた事あるかい?」
途端、力丸の体が僅かにぴくりと跳ねた。しかし返事は無い。
「…ねえ、恥ずかしがらないで言ってご覧よ。」
彩女はすさ、と膝を前に寄せた。
これで二人の距離は一尺へと縮まった。
薄い夜着を纏っただけの彼女の肉体が、
闇の中でもはっきりと浮かんで見える。
「…ん?どうなんだい?
あんた、今まで女を抱いた事があるのかい?」
彼女は先程力丸がそうしていたように
彼の膝頭を撫でている。
すると「…いや、無い。」
消えるような声で、力丸が返事を返してきた。
「…だろう。」彩女の心が歓喜に沸き立った。
薄々察してはいたが、やはり力丸は無垢であった。
「だったらあたいが教えてやる。
あんたに炭焼きを教えてやったようにね。」
しかし「いや、俺はよい。」と力丸は項垂れた。
「俺には出来ぬ。」と言うのが、その理由であった。
彩女は少々呆れた。
よほど己に自信が無いのか、
この男は口を開けば「俺には出来ぬ。」と言う。
彼女は力丸を安心させてやる為に、
「…ふふ、心配は要らないよ。
それもあたいが教えてやる。ね、だから出来るさ。
炭焼きよりも簡単だし、それにとっても面白いから。」
まるで幼子に語り掛けるような口調で、優しく諭した。
しかし力丸は哀しげに頸を横に振り、
「…俺には出来ぬ。俺は無能者だ。
皮剥ぎと、乱破家業と、炭焼きしか出来ぬ。
それに今、酒を飲んでお前の亭主になったばかりだ。
それでもう勘弁してくれ。俺はそれ以外は何も出来ぬ。」
何やら殺人鬼らしからぬ気弱な台詞を吐いた。
緊張の為か、或いは恐怖の為か、
まるで生まれたての小鹿のように震えている。
彩女はもうすっかりこの男が可愛くなってしまった。
「契りの杯を交わしただけじゃあ、
まだ半分亭主になっただけさ。」
そう言って、彼女はするりと力丸の腕を取った。
「女房と新床を供にして、漸く本当の亭主になれるのさ。」
そして彼女は更に「あんたの事、夜通し可愛がってやる。」と耳元で甘く囁いた。
しかしそれでも力丸は
「…やはり俺には出来ぬ。」
やはり震えたまま、縮こまっている。
「おやまあ、どうしてだい?」
彩女は左の腕を力丸の左肩に回して、我が方に抱き寄せた。
「…ん?どうしてなんだい。あたいの事が怖いのかい?怖くなんてないさ。
別にあんたの事を獲って食おうなんてしやしないんだから。」
力丸はややどもりながら、
「べ、別に怖くは無い…。た、ただ…、」と上擦った声を上げて返事を返した。
「ただ、何だい?」
「…お前が腐って死ぬといけない。」
ああ、と彩女は得心した。
この男の母は、梅毒で死んだ。
「大丈夫さ。あんたの母様は、何処か他所の男に病を移されたのさ。
あんたはそんな病を持っちゃ居ないだろ?」
「…わからぬ。何せ、俺はあの淫売の子だからな。」
「大丈夫さ。あの病はね、病持ちの女と交わらなけりゃ、罹らない。
あたいはそんな病には罹っちゃいないから安心おし。」
「…本当か?」
「ああ、本当さ。」
彩女は、これまで性病の類に罹患した事が一度も無かった。
彼女の仲間が任務中、次々と性病を患い、
ある者は苦しみながら死に、又ある者は生涯の不具者として
一生を送らざるを得ない地獄を余儀なくされた中で、
彼女はたった一人、その悲劇から取り残されていた。
―あたいは運が良い。
戦場において激しい銃火に晒されながらも、
運良く一命を取りとめた男達が、そのように我が身を回顧するのと同様、
彼らとは別種の戦場に身を置いている彩女もまた、
我が幸運には感じ入るものがある。
「自分でした事はあるのかい?」
「…何を?」
「決まっているだろう。手遊びさ。それぐらいなら、あるだろう。」
力丸は直ぐには返答を返さなかった。
しかし再度彩女に促されると、
「乱破の里に居た時、昔見た雌鹿を思い出しては、
それを女子に見立ててした事はある。」と白状した。
「…乱破の仕事で、気が昂ぶった時などにした。
それから、何やらふと寂しくなった時などにもした。…人の女子は、好かぬ。
俺がまだ村に居た時、村の女子は俺の顔を見ると皆遁げ出したからな。
『山畜生の仔』『皮剥ぎの仔』と囃し立ててな。
別に俺が何をする訳でも無いのに、俺を嫌って皆遁げるのだ。
だから俺は人の女子は好かぬ。
…俺を嫌わずに近づいて来てくれた女子は、山の雌鹿だけであった。」
力丸は過の日に見たしなやかな雌鹿の姿態を
脳裏に巡らせていた。途端、我が身の昂ぶりを感じた。
「…そうかい。雌鹿だけだったのかい。それじゃあ寂しかったろう。」
彩女は力丸の頭を飽く事無く撫でている。
既に彼の身体からは振るえが消え、新妻の胸に身を預けるに任せていた。
「あんただって、女子と仲良くしたかったろうに。」
「別に寂しくは無い。」と強い口調で力丸は嘯いた。
「俺の側にはいつも雌鹿がいてくれたからな。
俺の所へやって来た雌鹿は多いが、
俺が一番気に入っていた雌鹿は何と言っても『はつ』だ。
この名は俺が付けた。今思ってみても、美しい鹿であった。」
この「はつ」と言う名は、彼の亡母の名を取って付けたものだ。
当時の彼は、それしか女の名を知らなかった。
力丸は語らなかったが、しかし彼はその後、
自らの手でこの最愛の「はつ」を殺め、皮を剥いでいる。
それにしても、人間の代わりに鹿を愛するとは、
珍妙この上ない男である。
―この男は、やはり山の畜生の生まれ変りなのかもしれないな。
彩女は少々の驚愕と可笑しみを伴った眼差しで、力丸を見た。
無意識の内に、口許に笑みが零れてしまっていた。
「そうかい。そんなに鹿が好きだったのかい。
でもさ、流石に鹿相手じゃあ、好き合えないし、
夫婦にもなれないし、交わえもしないだろう。」
「…ああ。」と力丸は呻いた。
「…だが、村の女子は俺を見ると遁げるから仕方あるまい。
だから、俺には雌鹿しか居なかったのだ。」
力丸の往年の孤独と懊悩の根源は、我が身を「山の畜生の生まれ変り」と観じながらも、
それでも尚、畜生には成り得なかった事である。
幸か不幸か、彼はやはり人間としてこの世に生を受けた。
そうである以上、所詮鹿は鹿でしか無く、人間の代用品であるに過ぎない。
その証拠に、彼は愛する「はつ」の皮を剥いでいるではないか。
いや、そもそも力丸が、雌鹿に人の子の名を付け、愛でていたのも、
人間に対する飽くなき希求と渇望による所以ではなかったか。
この殺人鬼が人間に対して見せた非情や酷薄も、
結局はそれらの裏返しである歪んだ求愛表現であったのだ。
「…じゃあ、あたいを鹿だと思っておくれ。
そうすりゃあ出来るだろう。」
「…お前を鹿に…?」
力丸は一瞬ちら、と彩女の顔を盗み見た
そして無言のまま、再び顔を伏せる。
目の前の女は、どう見ても人間であった。
「ほら、あたいはあんたの鹿だ。だからあたいの所においで。」
彩女はそう言って柔らかく微笑んだ。
「…いや、俺は出来ぬ…。」
それでも力丸は消えるような声で呟いた。
「平気さ。おいで。力さん。あたいはあんたの鹿だ。」
彼は今度は無言のまま頸を振った
「おいで。」
彩女は力丸の手を取った。
出来ぬ、と力丸が呻いたような気がした。
「おいで。」
彩女は半ば無理矢理力丸の頭を我が方へと引き寄せた。
彼女の豊かな胸に、彼の頭が押し付けられる格好となった。
途端、若い女特有の甘い芳香が、力丸の鼻腔をくすぐった。
「ああ…。」不覚にも溜息が漏れた。魂が蕩けるような錯覚さえ感じた。
同時に、薄い夜着を通して、彩女の体温を感じた。
鹿のものではない、人の体温を。
力丸は実の母親にすら、ただの一度も抱かれた事は無かったのだ。
人肌と言うものは、これ程暖かいものであったのか、と彼は
生まれて初めて味わう恍惚に酔った。
それらは、彼が長年追い求めて止まなかった物の
欠片であったのだろう。
渇き切って痛々しくひび割れた土くれが、恵みの雨を吸い込んで柔らかく潤うように、
力丸の長年の呪詛と悔恨が、急速に消失して行く音を彼ははっきりと聞いた。
彩女は実に四半刻ばかりもの間、力丸を抱き続けていた。
「…どうだい?少しは落ち着いたかい?」
囁くようにして問いかけた。力丸は無言のまま頷いた。
「…じゃあ、出来そうかい?」
力丸は少々逡巡した後、「…ああ。」と返事をした。
え〜と、次回にようやく微妙な
エロシーンがありそうです。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ) 長い前振りだったな。
( ´_ゝ`) / ⌒i
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\/____/ (u ⊃
つーか最初、この小説には
エロシーンなんて無かったんですけどね。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ;) エロパロ板なのにエロシーンが無いなんて
( ´_ゝ`) / ⌒i 流石すぎるよな、兄者。
/ \ | |
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そうなんですけど、
弟者がどうしてもエロを入れろって
五月蝿いもんですから、急遽書き足しました。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ;) そんな事言ってねーよ。
( ´_ゝ`) / ⌒i
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え?だってこの間俺に包丁を突きつけて
エロを入れろって…
∧_∧
∧_∧ (´<_` ;) だから言ってねーっつーの!!
( ´_ゝ) / ⌒i
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>>186お久しぶりです。腹黒様。
ぽぽ者の小説はあと少しで終わりそうなんで、
続いては腹黒様の作品に超期待です。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ) うむ。その通りだよな。
(* ´_ゝ`) / ⌒i
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∧_∧
∧_∧ (´<_` )
(* ´_ゝ`) / ⌒i
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ところで…
∧_∧
∧_∧ (´<_` )
(* ´_ゝ`) / ⌒i
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腹黒様は女子ですか?
∧_∧
∧ _,,_ヽ (´Д` ;) どうでも良いわ!!!
(* ゚,_・・゚) / ⌒i
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はらり、と彩女が夜着の袖を落とした。
闇の中に青白い女の肌が浮かび上がった。
小柄ではあるが、肉付きは良い。
それはいつか見た雌鹿のように、
力丸の男性を高揚させるのに十分な魅力を秘めていた。
「ああ…。」力丸が息を呑み、次の瞬間には目を伏せる。
「さあ、力さんもお脱ぎ。」彩女が夫の隣にふわりと侍った。
そのまま腰帯に手を掛けて、するすると結び目を解いた。
力丸は抵抗をしない。彩女の成すがままとなっている。
彼女はそのまま夫の夜着の袖を落とした。
現れたものは真っ黒に日に焼けた、戦士の肉体であった。
「ふふ。」彩女は目を細めた。
そのまま力丸の胸に手を添えると、彼の額に唇を這わした。
力丸は固まったまま、動かない。
彩女の唇はそのまま額から瞼、鼻頭、頬へと移行し、
ついにはその唇に到達した。
「触ってご覧。」
彩女に誘われて、力丸は恐る恐る彼女の乳房に手を伸ばした。
しかし触れるまでには至らない。掌が細かく震えている。
「遠慮しないで、触ってご覧。」
彩女は力丸の手を取ると、我が乳房へと導いた。
「…ああ…。」彼は若干の感動と驚愕を伴った溜息を漏らした。
肉刺だらけの掌の下で、彩女の豊かな乳房が柔らかく形を変えた。
「どうだい?柔らかいだろう。」
力丸は言葉を失った。
かつてこれほどまでに柔和な物体に触れた事があっただろうか。
柔毛に覆われた雌鹿の腹よりも、彩女の肉は更に彼を魅了した。
「ほら、こっちも。」
彩女は力丸のもう片方の手を、空いた乳房に触れさせる。
まるで新しい玩具を与えられた子供のように、
力丸は新妻の乳房に夢中となった。
彩女が彼の下腹部に目をやると、
その中心部分は既に十分に屹立していた。
しかしそれでも屹立の先端部分だけは、今だ包皮に覆われている。
―おや、可愛い。
思わず彩女が手を伸ばそうとした瞬間、
突如愛しい屹立を奪われた。
奪ったのは力丸である。
何と彼は妻の目の前で、事もあろうに自慰を始めだしたのだ。
「あ、こ、こら…そんな事しちゃ駄目だろ。」
彩女は慌てて力丸の腕にしがみ付いた。
妻が目の前にいるというのに、
独り遊びに耽られては立場が無くなる。
「どれ。あたいがやってやる。」
力丸を制しつつ、軽く触れてみた。熱い。
さらに握ってみると、肉の内から熱く脈を打っているのが判る。
半分ほど包皮に覆われた先端部分は、既に露に濡れていた。
「おやま、立派だ。」
彩女は淫蕩な笑みを零した。
軽く扱いてやると、力丸の口から歓喜の吐息が漏れた。
「皮を剥いてやるから、少しの間大人しくしてるんだよ。」
言いながら付け根を握り締め、徐々に皮を後退させてやると
やがて「ううっ」と言う力丸の呻き声と供に、包皮が完全に剥けた。
完全に露出した先端部分に、彩女の鼻息が掛かった。
「はは、垢が付いているねぇ。」
鼻を寄せながら、彩女は言った。
痴垢特有の据えた臭いが彼女の鼻腔を突いた。
「どれ、綺麗にしてやる。」
言うや否や、彼女は力丸の屹立に舌を伸ばした。
「わっ…!な、何をする…!」
先端に舌が触れた途端、力丸がびくりと震えた。
「き、汚いぞ…!」
「汚くないさ。いいから大人しくしてな。
直ぐに良くしてやる。」
彩女は屹立にしゃぶりついた。
そのまま痴垢を舐め落とすように舌を這わせてやると、
力丸の背中が恍惚に反った。
「あ、彩女…。」
更に深く咥え込み、頸を上下に振りながら、
口腔内で舌を暴れさせてやる。
彩女の唾液と力丸の先走りが口内で混ざり合い、
彼女の口許から糸を引いて床に零れ落ちた。
そして口舌の妙技と供に、
力丸の睾丸に手を沿え、柔らかく揉んでやる。
「あ…あ…っ。」
たったのそれだけで、力丸は呆気無く果てた。
彼の熱く滾った迸りは、彩女の喉の奥まで達した。
彼女は驚きもせず、力丸の精液を残らず呑み込んだ。
今だ快楽の余韻覚めやらぬ力丸の顔を抱き寄せた彼女は
「どうだい?自分でするより良かったろ?」
彼の耳元で甘く囁いた。
力丸はまるで幼児を思わせる素振りで、こくりと頷いた。
頬が上気している。
彼は「彩…。」一声鳴くと、彩女に強くしがみ付いてきた。
―おやまあ、可愛い人だ。
思わず彩女が微笑んだ。
閨に置いては、力丸は冷酷な殺人鬼ではなかった。
彼は産まれ立ての小鹿よりも更に柔弱な生き物として、
今は彩女に縋っている。
そして「じゃあ、これからは独りでしたら駄目だよ。
したくなったらあたいにお言い。」
力丸の頭を撫でながら優しく囁くと、
やはり彼は幼児のように頷いて、彩女をますます悦ばせた。
「それじゃあ、少し休もうか。」
一度果てた所で、少々の休憩を取る事にした。
胸に抱いていた力丸が「もう一度触っても良いか。」と恐る恐る聞いてきた。
どうやら乳房を弄びたいらしい。勿論可である。
彩女に赦されると、力丸は夢中になってこの柔らかい玩具で遊び始めた。
「あたいのお乳が好きかい?」
彩女が聞くと、力丸は「ああ…好きだ…。」
既に夢見ごこち、と言った風に返事を返した。
「おや、嬉しい。」彩女はくすりと笑い、
「ふふふ、よしよし。…力さんは本当に可愛い子だねぇ。」
今度は彼の頭や背中を扇情的に撫で回してやる。
「どれ、こっちの具合はどうなったかねぇ。」
やがて、その手は一度果てた力丸の一物にまで伸びた。
彼の耳元で睦言を囁きながら、指先で睾丸を転がしてやると、
ややもしない内に力丸の屹立はすっかり回復した。
「ささ、あたいと交わろ。ね。
これであたい達は夫婦になれるんだ。」
言いながら、彩女は力丸を仰向けになるよう促した。
力丸は今だ彩女の乳房に未練があったようであるが、
それでも彼女に指し示されるまま、その下知に素直に従った。
「じゃあ、行くよ。」
彩女は彼の屹立を自らの中心部分に宛がい、
ゆっくりと腰を沈めていった。
彼女の最も深き部分は、既に十分に露に濡れていた。
そのまま力丸の屹立は彩女の胎内にぬるりと収まった。
「ああ…。」力丸が呻いた。
力丸にすっかり胎内を満たされた彩女は、彼の頬をひたと一撫でして、
「…ほら、あたい達は一つになったよ。これで夫婦になったんだ。
…ねえ、どんなあたいの胎は感じだい?」
「わ、わからぬ…。だが、暖かい…。」
皮を剥いだ後の、鹿の肉の感触に似ている、と力丸は思った。
すっかり皮を剥ぎ取られ、一個の桜色の肉の塊と化した鹿に触れ時、
その余りの暖かさに、彼は感動を覚えたものである。
それは母が彼に決して与えようとはしなかった、血肉の温もりであった。
筋肉を剥き出しにした鹿の骸が熱を失い、
土くれのように硬化するその時まで、幼少の力丸はそれを抱き続けた。
しかし彩女の胎内は、熱を失う事も無ければ、硬化する事も無かった。
それ所か、ますますの熱を帯び、淫靡な胎動を持って力丸を包み込んで来る。
「あんたはそのまま寝ていて良いよ。
あたいが動いてやるから。」
欲情に上擦った彩女の声を、
力丸は遥か天上の彼方で聞いたような気がした。
彩女は力丸の屹立を胎内深くに呑み込んだまま、
ゆっくりと動き始めた。
「ああ…。」思わず悦びの吐息が漏れる。
「ああ…力さん…力さん…。」
盛んに腰を振りながらも、
無意識の内に甘い嬌声を紡ぎ出していた。
これまで彩女が知ったあらゆる男のそれよりも、
力丸の屹立は彼女を蕩かした。
力丸と結合したのは、何も肉体的な部分だけでは無い。
孤独と自嘲のみで形成された彩女の半生をも融かし出し、
力丸の過去と混ざり合った。
仰向けになっている力丸の目の前で、
彩女の豊かな乳房が上下に波打っている。
彼は誘われるように、二つの肉の塊を鷲づかみにしていた。
「ああ、力さん…力さん…。」
途端、彩女の表情に新たな悦びの色が浮かんだ。
力丸の方も、既に未知の快楽に支配されている。
「彩…彩…。」
彼は無意識の内に彩女の身体を引き寄せていた。
口許に迫った彩女の乳首にしゃぶりつくと、
彼女は更に熱の籠った嬌声を上げて悦びを露にした。
彩女の動きが速まった。
粘液の擦れる音と肉を打つ音、そして男女の吐息が、
この暗闇の中で匂い立つような色を放っている。
「ああ、ああ、ああ、ああ…。」
今宵、彩女は乱れに乱れていた。
今だかつて、彼女がこれ程までに我を忘れ、
情交に及んだ事は無かった。
肉の傀儡は命ある道具として、ただ主人を悦ばせていれば良く、
自らの悦楽に浸る必要など無かったのである。
しかし今宵、この時の何とも愉快な悦びよ。
かつての肉の傀儡はこの瞬間、一個の人間として再生したのであろう。
まるで水面に踊る一羽の白鷺のように、
彩女は力丸の上で無我夢中に舞った。
堪らずに力丸が爆ぜた。
同時に、彩女も絶頂を迎えた。
その瞬間、突如として二人の視界が開けた。
肉の悦びが永遠の闇に閉ざされた世界を切り裂いて、
そこから溢れ出た無限の光明が二人を包み込んだ。
力丸の熱い迸りが、彩女の胎内に充満した。
やがてそれはその内心までをも満たし、
今だかつて知り得なかった真の充足と満足を齎した。
がくり、と彩女が力丸の胸に崩れ落ちた。
彼女の乳房が、力丸の胸板の上で柔らかく潰れた。
呼吸も整わないまま、彩女は無意識の内に力丸の口を強く吸った。
力丸の唾液こそが、真の固めの杯であった。
彼女はこの美酒に酔った。
力丸の唾液を存分に吸い尽くすと、
彩女は自らが絶頂を迎えた事を彼に告げ、次に力丸を賞賛する言葉を述べた。
そして「…初めての女の味は良かったかい?鹿より良いかい?」
「…鹿より良い。」
今だ興奮冷めやらぬ力丸は、
少年のように頬を上気させながら返事をした。
「これで、あたい達は本当の夫婦になったんだよ。わかるかい?」
「…ああ、ああ、わかる…。」
「これから毎日いい事しよう。ね、力さん。」
「…ま、毎日して良いのか?」
ふふ、と彩女が淫靡な笑みを漏らした。
「当たり前だろう。あたい達はもう夫婦なんだから。
毎日しよう。これからあたいがもっと淫らな事を教えてやるから。」
言いながら、今度は彼の頬といい、鼻頭といい、瞼といい、額といい、
顔中に唇を這わせ始める。
その度に彼女は淫猥な睦言を囁き、力丸を悦ばせた。
「少し休もうか。」と彩女が告げた。
力丸は既に二回、立て続けに爆ぜている。
二人の夜はまだまだ始まったばかりであるが、
三度となると、暫しの休憩が必要であろう。
彩女は身体を起こすと、
胎内に埋没していた力丸の一物をぬるりと引き抜いた。
その直後、胎内に充満していた彼の迸りが、
彩女の内腿を伝って垂れ落ちてきた。
彼女はそれをぬるりと指で掬うと、
当然のように口に含み、二人の愛の証を存分に味わった。
彩女は力丸を胸に抱くと、遠い故郷の唄を唄って聞かせた。
美声であった。哀切な曲調が、力丸の胸を深く打った。
彼はもうすっかりお気に入りとなった彩女の乳房を弄びながら、
黙ってそれを聞いている。
唄を聴き終わると、力丸が再度の交合をねだってきた。
「おや、もう出来るのかい?存外強い子だねぇ。」
目を丸くしつつも、彩女は快く了解した。
彼女は力丸の下半身に顔を埋め、
一物を口に含むと、再び溺愛し始めた。
そして十分に屹立した頃を見計らい、
「ほら、元気になった。じゃあ、もう一度交わおう。」
力丸の上に跨って、今夜二度目の情交を開始した。
やがて力丸が果てると、
彩女はやはり彼を胸に抱きながら唄を唄ってやり、
休息を兼ねてお互いの昔話などを物語した。
暫くして、再び力丸が求め始めると、彩女もそれに答えてやる。
このように彼らは一晩中交わっては休み、
休んでは交わうといった行為を繰り返した。
交わう度に愛の言葉を叫び、休む度に睦言を囁き合った。
互いの肉体は、これ以上無い程の愉快な玩具であった。
蕩けるような愉悦に耽り、飽くなき欲望を満たし、
生きながらにして、彼らに浄土の土を踏ましめた。
取り分け、この玩具で初めて遊ぶ力丸には、
格別の思いがあっただろう。
空想上の雌鹿などでは到底得られない快楽と充足に、彼は耽溺した。
闇の中の華燭は、夜が明けるまで続いた。
遥か東方の空に姿を現した暁を、
二人は繋がったままの姿で仰ぎ見た。
その日から二人は、時と場所も選ばずに
僅かな暇さえあればお互いを求め合った。
二人には朝も昼も夜も無かった。
閨は勿論の事、裏庭も、森も、河原も、
この世の全てが彼等の為の褥であった。
力丸はまさに一個の畜生と化して、妻の全てを貪らんとした。
しかしその彩女もまた、同様である。
彼女は彼女で、やはり肉の傀儡になりきって
夫の求める全てを受容し、そして彼を溺愛した。
それから幾日が過ぎたであろうか。
二人が筆記に使用する竹炭を製作した日の事である。
炭化した竹片を手に取った彩女は、
「試しに字を書いてみよう。」
そう言いながら、備え付けの小さな納戸を開け、
筆硯と薄汚れた美濃紙を取り出した。
「文字が書けるのか。」力丸は瞠目した。
彼は分盲である。いろはすら解読する事が出来ない。
それをこいつは女の分際で、と感嘆の溜息を付いた。
「ああ、まあね。」
言いつつ彩女は、美濃紙に何言かをさらさらと書き付けた。
「何と書いてある。」
彩女の筆止を待って、力丸は尋ねた。
彼女は「教えない。」少々意地の悪い言葉を述べた後、
まるで乙女のように頬を赤く染めた。
美濃紙にはこう記されてあった。
独り寝の 寂しに袖を 濡らし夜も
今では夫(せ)なの 情に濡れつつ
力丸への想いを綴った恋歌であった。
終わり
えーと、一応これで終わりです。
最後、やっつけですいません。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ) 本当にそうだよな。
( ´_ゝ`) / ⌒i
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これから俺は朝河蘭を探す旅に出なければなりません。
暫しのお別れです。
それでは皆さん、御機嫌よう。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ;) OK、永遠にお別れしたいぐらいだ。
( ´_ゝ`) / ⌒i
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209 :
名無しさん@ピンキー:2006/04/09(日) 01:20:08 ID:6DH826O8
ゆっくり読もうとプリントしていた最中に
新しく続きが投下!!!!!!!!!!
ぽぽ者さま、素敵でした。
彩女がやさしくてこんな女房は最高です!
永遠にお別れなんて言わずに、休養といってください!!
210 :
名無しさん@ピンキー:2006/04/12(水) 14:56:58 ID:ClDwxSrb
ぽぽ者さま、大変お疲れ様でした。
充分休養を取ったらまた復活してください。
待ってます。
211 :
名無しさん@ピンキー:2006/04/17(月) 10:23:41 ID:/LUkTnPI
ぽぽ者様の今回の新作もすごくよかったです!
またよろしくお願いします
地味なスレに限って名作が多いな。
天誅はプレイした事がないが、忍者ものが好きなので楽しめた。
213 :
名無しさん@ピンキー:2006/04/24(月) 01:40:31 ID:vwE1B3zu
復活定期age
214 :
名無しさん@ピンキー:2006/04/27(木) 17:41:44 ID:TGWsDr37
定期age
215 :
名無しさん@ピンキー:2006/05/01(月) 18:04:46 ID:SlIMvef8
定期age
217 :
名無しさん@ピンキー:2006/05/06(土) 03:08:55 ID:KHWk6v3P
定期age(*´∀`)
218 :
ぽぽ者 ◆kPQnSLIzzk :2006/05/09(火) 21:35:19 ID:MpIc541P
朝河蘭何処にも居ないなぁ…。
一体何処に行ってしまったんだろう…。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ;) だからもう探すの止めろっつうの。
( ´_ゝ`) / ⌒i
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219 :
名無しさん@ピンキー:2006/05/13(土) 03:03:16 ID:w090C+y1
(σ・∀・)σゲッツ!! age
220 :
腹黒屋丼兵衛:2006/05/13(土) 22:59:12 ID:j0TENC27
スレ住人の皆様、お久しぶりでございます。
以前予告していたSSの導入部がようやくそれらしい形になりましたので
保全がてら投下致します。
尚、劇中に浪人者がやたらと多い理由についても一考察を交えております
ので、その点もご賞味下されば幸いでございます。
221 :
腹黒屋丼兵衛:2006/05/13(土) 23:00:34 ID:j0TENC27
「忍び鎧始末」
現代、近畿地方の忍術の流れを汲む旧家に、ある大学の考古学調査班が調査に訪れた。
多種多様な手裏剣や道具類の中、かなり風変わりな鎧が所蔵されている事に注目が集まった。
皮製の下穿きに板葺きの覆いを付けた極端に簡素な作りで、伝承に因ればこれに楔帷子を
合わせ、臀部に小刀を差して着用したと伝えられていた。
「えらく奇抜な鎧ですな」
「ええ、何でも私の先祖が着用していたと伝えられております」
「ご先祖様が?」
調査員は首を傾げた。男性が着用するには小さ過ぎた為である。
「我が家は父母共に隠密の家系で、この鎧は母方のものだそうです」
「母方の?」
「何でも、当時から優秀な忍者であると同時に、相当な傾き(かぶき)者として名を馳せたそうです。この鎧も、実際に着用したそうですよ」
「確かに、汗染みが所々に・・・」
忍び鎧にしては露出が多く、十分過ぎるまでに奇抜なデザインである。
(傾き忍者か・・・こりゃ大発見だ!)
学者は早速、展示品に飾る鎧のレプリカを製作する胸算用を始めた。
珍奇な発見が大胆な想像を掻き立てる事はそう珍しくは無い。
ただし、この事例の真相はご大層なものでは無く、余りに滑稽千万なものであった。
222 :
腹黒屋丼兵衛:2006/05/13(土) 23:02:05 ID:j0TENC27
300年前の郷田領。
戦乱の世が終わり、ようやく城下町として栄えつつあった町並みの外れ、当時としては
典型的な長屋の一角に、『鍼灸・鍼』と書かれた中吊りの表札が下がった場所があった。
その中では、坊主頭の鍼灸師の男が商売道具らしき針を砥石で黙々と磨いていた。
商売道具故に手入れが欠かせないのであろうが、何処と無く安達が原の鬼女が出刃包丁を
研いでいる様な、独特の威圧感を醸し出していた。
うっかり男に声を掛けずに背後に周ろうものなら、喉元に鍼を突き立てられかねない。
これも男の稼業故の雰囲気であろうか。
223 :
腹黒屋丼兵衛:2006/05/13(土) 23:03:24 ID:j0TENC27
突然、男が磨く手をぴたりと止めた。
「・・・誰ですかぃ?」
男は磨いていた鍼を人差し指と中指に挟んで戸の方に問いかけた。
「あたいだよ」
「あぁ、力丸のお妾さんですかい。入りなすって」
男は鍼を再び砥石の上に置いた。
「・・・妾ならまだマシだよ」
戸の前に立っていたのは憮然とした表情の彩女であった。
彼女の表情には憤怒を通り越して何かに呆れた様子が伺えた。
「・・・もしかして、原因は力丸で?」
「違うと言いたいけど、その通りさ。
力丸の野郎ときたら、あいつが酔狂で造った忍び鎧をあたいが着けた姿を見たいって
五月蝿くて仕方無いんだよ。
おまけに、巷に出回ってる秘薬の効能を確かめたいって・・・あたいを何だと思ってんだい」
彩女は吐き捨てるように言った。
妾ならまだしも、実験体扱いである。彩女が呆れるのも無理も無い。
それに、例の忍び鎧は動き易いとは言え、地肌を曝し過ぎる上に奇抜で目立って仕方無く、
どうにも使い道が限定されそうな代物・・・それが彩女の評価であった。
無論、力丸の無器用な願いを受けて大人しく着る訳が無かった。
「それで、仕事着にしちゃ血の匂いがしねぇと思いましたよ」
「あたいのは仕事着と言うより普段着だけどね。仕事柄化ける事が多いんだ」
気分も含めて、流石に疲れたのであろう。彩女は肩を大仰に回した。
「あぁそうだ。折角ここに来たのも何かの縁だ。鍼を打って進ぜましょう」
鉄舟が珍しく気の利いた事を言う・・・彩女は面白いと思った。
「鍼ねぇ・・・只ならいいか」
「じゃ、まずは痛くなくなる壺に打ちますぜ」
鉄舟は彩女の首筋を手馴れた手付きで探るなり、すとんと針を打った。
「くっ・・・」
「たまに痛いのが嫌だってお客も居るんで、こうしてんでさぁ」
「は・・・効く・・・」
首筋の秘孔を突かれた彩女の視界は、濃い闇に包まれていった。
224 :
腹黒屋丼兵衛:2006/05/13(土) 23:04:23 ID:j0TENC27
「ん・・・!?」
再び目が覚めるなり、彩女は我が身に起こった変化に困惑した。
彼女は例の忍び鎧を着せられ、仰向けの状態で寝かされていたのである。
当然ながら、剥き出しの臀部が丸見えの格好である。
「・・・悪く思わねぇで下せぇ。予め前金で請け負ったんでさぁ」
「鉄舟殿、かたじけない」
奥の襖から出てきたのは、力丸であった。
この分だと、予め鉄舟に“鼻薬”でも嗅がせていたに違いない。
自分が計略に掛かったと悟った彩女は顔を赤く染め、力丸に食い付かん勢いで喚いた。
「力丸!、お前、恥を忘れたのか!?
あたいをものにしたいんなら、お前自身で片を付けるのが筋じゃないか!?」
「昔ならいざ知らず、今は郷田藩お庭番役を預かる身・・・拙者に何かあれば、拙者ばかり
でなく殿や御家老、更には部下や家来衆にまで要らぬ苦労を掛ける」
225 :
腹黒屋丼兵衛:2006/05/13(土) 23:07:01 ID:j0TENC27
この辺り、少々事情を説明せねばならない。
この頃、江戸に成立して間も無い徳川幕府は、全国の諸大名に対して徐々に締め付けを
強めていた。
関が原の合戦のみならず、お家騒動や百姓一揆においても幕府に睨まれて改易や転封の
憂き目に遭った家が続出し、失業した武士=浪人が全国に大挙して出現するという悪循環を
伴っていた。
後に述べる慶安年間においても、全国に二十数万は存在していたと言われる。
これらの浪人は、慶長十四年から元和元年(1614〜15)の大坂の陣や寛永十五年(1638)の島原の乱といった大乱においても主要な武装勢力として活躍した。
当然の流れとして、郷田領に出現した有象無象の集団もこれらの浪人を用心棒や戦力と
して雇い入れていたのはご存知であろう。
この流れは、慶安四年(1651)の由比正雪の乱によって幕府政権が所領政策の転換を行い、
幕藩体制の確立を図るまで続いた。
当然ながら、それらの不穏分子を監視し、集まった情報を統括する力丸の苦労は以前とは
比べ物にならなかったのである。
・・・とは言え、貞操の危機が間近に迫っている彩女にとっては問題では無かったのだが。
226 :
腹黒屋丼兵衛:2006/05/13(土) 23:14:18 ID:j0TENC27
・・・本番に入る前に状況説明だけになってしまいました(爆
力丸が手篭めにする理由と手段としては余りにせこくて笑えるのですが、
時の権力者などというのは大体こういうもんじゃないかと・・・。
尚、「念仏の鉄」こと鉄舟さんは手淫フェチになりそうな事を予めお断り
しておいてこの場を失礼致します。
ひさしぶりに見に来たら神降臨中でしたか
腹黒屋丼兵衛さま、本格的な内容、スバラシイです!
228 :
名無しさん@ピンキー:2006/05/21(日) 08:17:59 ID:If/55iaM
いいですねぇ・・・こういう世界観って重要ですからね。
はてさて続きはどうなりますか・・・がむばってくだちい!!!
229 :
名無しさん@ピンキー:2006/05/28(日) 20:08:15 ID:4TwCDu05
腹黒屋丼兵衛様
時代考証とかきちんとされていてスゴイ!と思いました。
自分は全然疎いので勉強にもなりましたよ。
面白かったです!
なぁ、ここって忍道戒や侍道のSSも投下していいのかな。
過疎ってるし、忍者モノ投下してくれる職人サマがいるなら
大歓迎ー。
233 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/17(土) 10:33:01 ID:TnQhlRjz
保守
234 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/22(木) 00:49:08 ID:DDjm9kpK
保守
235 :
ぽぽ者 ◆kPQnSLIzzk :2006/06/22(木) 21:47:36 ID:Pf/lruvu
何か過疎ってますな。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ) 兄者、新しい小説書け。
( ´_ゝ`) / ⌒i
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236 :
ぽぽ者 ◆kPQnSLIzzk :2006/06/29(木) 22:59:20 ID:THIa6/wg
保守
237 :
ぽぽ者 ◆kPQnSLIzzk :2006/07/01(土) 21:26:11 ID:kmpFCMyZ
なんだか過疎ってるので今新しい小説書いてます。
つい最近読み始めた者ですが、お待ちしております。
wktk
保守
241 :
ぽぽ者 ◆kPQnSLIzzk :2006/07/11(火) 21:02:56 ID:X+BFWKGD
今月中には投稿出来そうです。多分…。
242 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/13(木) 14:55:05 ID:Tbu9TMvo
よそのスレで流石兄弟のAAをみると心音が跳ね上がるようになった。
ぽぽ者さま、お待ちしております。
下げ忘れ
244 :
腹黒屋丼兵衛:2006/07/13(木) 22:38:13 ID:mHXIKL6S
スレ住人の皆様、お久しゅうございます。
待ちに待った続きをうp致しとうございます。
エロと呼ぶには薄めで、おまけにお笑いオチですが・・・。
245 :
腹黒屋丼兵衛:2006/07/13(木) 22:39:58 ID:mHXIKL6S
(この旦那も、中々食えないな・・・)
鉄舟も、涼しい顔をしてさらりと言ってのける力丸に苦笑した。
朴念仁の力丸がこのような詭計で彩女を手篭めにするのが可笑しいと思った為であるが、
実は、鉄舟も一枚も二枚も噛んでいたのであった。
気の強い女子がどの様に喘ぐか・・・この意味では、鉄舟も癖のある好き者であった。
「騒がれては近隣の者共への迷惑になろう・・・少し我慢しろ」
「こら!、何を・・・」
力丸は猿轡代わりに、罪人の自決防止用の噛ませ口を彩女の口蓋に噛ませた。
「ふむ、綺麗な形だ・・・、褌とは異なる密着具合だな」
力丸は眉一つ動かさず、皮の覆いだけで隠された彩女の臀部を撫で回していた。
彩女は全身が金縛りにでも遭っているが如く身動き一つ取れなかった。
(畜生・・・金縛りの秘孔を突いたな)
力丸が鉄舟を引き入れたのはこれも理由があった。
腕の良い鍼師でもある鉄舟ならば、全身麻酔の壺も心得ているであろう為である。
かくして、彩女は2人の男の成すがままにされていた。
(秘薬の効能を試してみるか・・・)
力丸は小ぶりの壺を取り出すと、中に入った膏薬を指先に付けた。
「鉄舟殿、済まぬが彩女の股を開いて貰えぬかな?」
彩女は首を振って懇願したが無駄であった。
「こうですかい?」
鉄舟は彩女の両方の太股を抱えて、谷型(現在の表現で例えるならM字である)に開いた。
力丸はするりと皮の内側に指を忍ばせた。
「ひゃうっ!!」
そして指を回転させたりかき回したりなどして、秘所の辺りを万遍無く塗りたくった。
246 :
腹黒屋丼兵衛:2006/07/13(木) 22:41:21 ID:mHXIKL6S
「旦那、あっしも良いですかい?」
「そうだな、眺めてばかりでは身体に悪かろう」
「旦那も顔に似合わず、話の分かるお方で」
「顔は余計だ。まぁ良い、存分に可愛がってくれ」
鉄舟は薄手の帷子に包まれた彩女の乳房に手を回し、こねぐり回した。
勿論、覆い皮の裏側にも手を回し、膏薬の付いた指を差し入れた。
「くぅぅ・・・」
彩女もされたい放題で面白い訳が無く、隙を見て反撃したい所ではあったが、手足の自由
が効かないのではどうしようも無かった。
「ひっ・・・!」
ひとまず達した彩女は、少しばかり痙攣すると全身から力が抜けた様に床に沈みこんだ。
ぐったりとした彩女を尻目に、鉄舟は満足そうな表情で指を秘所から抜くと手拭で拭いた。
「鉄舟殿、それで満足なのか?」
「あぁ、あっしは仕事柄のせいか、買う時もこうして遊ぶんでさぁ」
「・・・貴様も顔に似合わず、随分と奥手だな」
鉄舟は照れくさそうに坊主頭を掻くと、ニヤリと笑った。
「・・・仕事柄、手の方が敏感なんですよ」
247 :
腹黒屋丼兵衛:2006/07/13(木) 22:42:19 ID:mHXIKL6S
力丸は彩女の意識が朦朧としている事を良い事に、愛液ですっかりふやけた皮覆いを
捲り、剛直を押し当てた。
「いい加減弄くってばかりではつまらぬのでな」
「・・・!!」
力丸と鉄舟に散々狼藉を働かれた後という事もあり、彩女の臀部はすんなりと剛直を
受け入れた。
「ふぅぅぅぅ・・・ん」
金縛りにかかった状態では、身を捩って逃れる事すらも適わない。
こうして、彩女は後背位のままで攻められる羽目となった。
ただし、この時はまだ彩女の堪忍袋の緒は切れていなかったのだが・・・。
248 :
腹黒屋丼兵衛:2006/07/13(木) 22:44:37 ID:mHXIKL6S
「しかし、何で又この娘をこんな形で手篭めにしたいと思ったんで?」
彩女は臀部をじっとりと塗らしたまま、ひくひくと痙攣していた。
未だに金縛りに遭ったままの彩女を背負うと、力丸は表情一つ変えずに口を開いた。
「彩女が俺の言う事をおいそれと聞く訳が無かろう。
それに、今から弱みを握らんと俺の身の方が危うくなるかも知れん」
「お大尽ともなると、何かと厄介の種が増えますからね」
「まぁな。さて、今宵はじっくりと愉しむかな」
意識だけははっきりとしていた彩女は、いよいよ我慢がならなくなっていた。
当然、彼女の袋の緒も切れ始めた。
(・・・あたいの事、本当に何だと思ってやがるんだい!
あんたとは大人しく契りを結んでやるつもりだったけど、こうなりゃ隙を見て
きっちりとお返しをしてやるからな・・・)
この“お返し”は、結果として高く付く事となった。
しかも、力丸の預かり知らぬ所であるばかりか、到底及ばぬ所であった・・・。
そして、300年が経った今日。
後日、博物館で件の忍び鎧を着装した形が展示公開された。
マネキンのモデルは、東家に伝わる伝書と肖像画を基にした為
・・・力丸のそれであった。
尚、伝書を編纂したのは力丸の伴侶であり、名うてのくの一であった彩女と伝えられる。
〔完〕
249 :
腹黒屋丼兵衛:2006/07/13(木) 22:47:14 ID:mHXIKL6S
・・・このマネキンを見た観光客はどう思った事やらw
何となくウホな方々に好評を博しそうな気がします。
GJ!
251 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/22(土) 18:10:45 ID:NETRPr50
GJです
力丸に一方的に犯される敵くの一を希望…
ぽぽ者さま待ち保守
253 :
名無しさん@ピンキー:2006/08/05(土) 11:36:47 ID:+s4QU/JC
ほす
254 :
名無しさん@ピンキー:2006/08/08(火) 00:17:12 ID:pxrNsklU
保守
乱造ネタとかは有りですか?
256 :
名無しさん@ピンキー:2006/08/12(土) 23:45:40 ID:CnT+o0lg
>255
イケー!
257 :
名無しさん@ピンキー:2006/08/13(日) 19:58:19 ID:aPa/Ha2g
頼んます
259 :
255:2006/08/14(月) 01:08:48 ID:MQpofWF5
まだうまく纏まってないので(´・ω・`)もう少し時間を下さい…
260 :
ぽぽ者:2006/08/15(火) 21:38:06 ID:2s7V+Z1E
>>255様、では代わりにぽぽ者が投下します。
皆さん、遅れてしまって申し訳御座いません。
色々忙しかったもので…。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ) まあ、ただサボってただけなんだけどな。
( ´_ゝ`) / ⌒i
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兎も角、グダグダの内容ですが
一応書き終わりました。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ) まあ、いつもの話だけどな。
( ´_ゝ`) / ⌒i
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とりあえずこの作品は…
60%がぽぽ者の妄想で出来ています。
25%がぽぽ者の心オナニーで出来ています。
10%がぽぽ者の趣味で出来ています。
4%がぽぽ者の暇潰しで出来ています。
1%が天誅で出来ています。
∧_∧
∧_∧ (´<_` ;) 天誅はたったの1%かよ!!
( ´,_ゝ`) / ⌒i
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「蝉が五月蝿くて、仕方ないや。」
「啼かせてやれ。どうせ一夏の命だ。」
「そりゃそうかもしれないけどさ…でもこう五月蝿くちゃ…。」
「それぐらい赦してやれ。
お前は知っておるか分からぬが、蝉と言う虫はな、
それはもう何年もの間、暗い土の中で暮すのだそうだから。」
「へえ、そんなのかい?」
「ああ、そうだ。何年も何年も土に塗れて暮らし、
それである夏の日に、漸く土の上に顔を出す。
その一夏の間、散々啼いて、啼いて、啼き喚いて、そして、死ぬ。」
蝉しぐれ
作 ぽぽ者
流れ流れて、辿り着いた先は閑散とした漁村であった。
そこにたった一軒だけある小さな宿が、二人の終着地点であった。
一体如何なる道を辿り、或いは山を越え川を渡りこの地に辿り着いたのか、
それすらも今のこの二人には、思い返す事が出来ない。
宿の主人である老婆は、この男女の姿を見た時、あからさまに怪訝な顔をした。
このような辺境の閑村を訪れるにはまだ若すぎる。人生を諦観するほどの年齢ではない。
しかしすぐに「いくさに破れて、落ちてきた夫婦であろう。」
或いは「駆け落ちの男女であろう。」などと思い直し、とやかく詮索する事は無かった。
今までにもそういう客は、稀にだが来たことがあった。
「こんな所じゃ大したおもてなしは出来ないよ。」
女主人はぶっきら棒にそう言ったが、
今の二人にとっては何も聞かずに宿の部屋に通してくれた
老婆の心遣いが何よりの馳走である。
「ここでお終いだね。」
通された部屋の中から一望出来る海原を、ぼんやりと眺めながら、
独り言のように呟いた彩女の言葉が身に沁みた。
「…ああ。」
二人は互いに顔を見合わせて、ただ疲れたような笑顔を浮かべ小さな溜息を付いた。
「あたいの隣にお座りよ。」
「…ああ。」
彩女は力丸を隣に呼び寄せると、
彼の手を取って握り締め、やはり黙ったまま視線を海に戻した。
久々にやって来た二人の宿泊客の存在が余程嬉しかったのか、
宿の手代はしきりに世話を焼きたがった。(彼は老婆の孫で、普段は漁業で生計を立てている。)
しかしその度に力丸に睨まれ、
「ここには立ち入るな。用があればこちらから出向く。」
と襖をぴしゃりと閉められてしまうので、
不満げな表情を見せつつも、引き下がらざるを得なかった。
何故力丸と彩女の二人が、この地を終着地点に選んだのか。
答えは極めて単純である。
「ここから先には道が無かったから。」
たったそれだけの理由であった。
確かにこの漁村を最後にすっかり道が途切れていた。
その先には、波に洗われ丸くなった玉砂利の砂浜と、
暗く沈んだ海がただただ拡がっているだけである。
或いは荒涼とした殺風景の向こう側に、ただ無限に海が広がるだけのこの土地が、
何となくこの世の果てのような気がして、この場所こそ我ら漂流者の最期の地に
相応しいと感じ取っていたからかも知れない。
「この世の果て。」
正にそう呼ぶに相応しかった。
何しろこの土地には、「色」と呼べるものが無いのだ。
ただ土気色と灰色の風景が見渡す限り拡がっている。それ以外には何も無い。
まず土地が驚くほど痩せている。
石灰質の硬い大地の上に植生しているものと言えば、
痩せた刈萱か、枯れ果てたススキ位しかない。
おまけに終始肌寒い北風が吹き荒び、
天は日夜、途切れる事の無い分厚い雲に覆われ、
海は錆付いたような暗灰色に沈んでいる。
それだけではない。ここには碌な「音」すら無かった。
いつも耳にするものといえば、鋭い寒風が大地を引き裂く音と、
苛立たしげにさざめく波の音ばかり。
それ以外では、村人の発する
「何処そこの誰かが死んだ。」
「魚が取れなくなった。」
「またいくさがあるらしい。」
等という不吉な叫びだけであった。
しかし力丸はその渇き切った風景の向こう側に、
ふと、得も言われぬ郷愁を覚えていた。
だがそれにしても、「郷愁」とは奇妙な話である。
力丸の故郷は暗鬱な天険によって鎧われた辺境の山国であり、
彼は十代の前半まで、その土地から一歩も外界に出た事は無い。
この男が初めて海というものを目にしたのは、
十代も終わりに近づいたある嵐の日の事である。
しかし、それは確かに郷愁であった。
もしかすると、この何もかもが錆付いた世界こそ、
力丸の心象風景そのものであったのかもしれない。
「良い天気だ。」
無意識の内に、思わず口を付いて出ていた。
分厚い暗雲に閉ざされた鬱屈した空気。
折れた刃から顔を除かせた地金のような、鈍い鉛色の沈殿を固着させた海原。
ひょうひょうと言う、まるで亡母を乞い求める幼子のように啼き荒ぶ乾いた寒風。
湿り気を帯びた玉砂利の砂浜に放置された、白骨を思わせる流木の群。
この世界に果てがあるのだとしたら、
それは正にこのような光景なのだろうと、彼は思った。
その力丸の歪な美意識に彩られた感動が、
僅かに面に零れたのを、彩女は見逃さなかった。
「…何だかこの世に、二人だけになっちまったみたいだね。」
―読まれたか。
力丸は一瞬表情を硬くしたが、即座に
―読まれても、どうと言う事は無い。
と思い直した。
そう、どうと言う事は無いのである。
この世界の果ての地で、今更つまらぬ内心を看破されようと、
一体何の不都合があろう。
「…俺を恨んでいるか。」
「恨んじゃあ、いないよ。」
「本当か。」
「ああ、本当さ。」
「嘘を言え。」
「嘘じゃあ、無いよ。」
「………………。」
「…愉しかったよ。有難うね。」
「…いや。良いのだ。」
これまで幾度と無く繰り返してきた、半ば儀式化されたやり取りを演じてみた。
その虚しい言葉の数々さえ、この灰色の世界には相応しいものであった。
ふたりの宿泊している部屋は、宿にたった二つしかない客間の内の、
西側に位置する部屋である。
広さは六畳ほど。埃が薄く積った板葺きの間で、
隅に二人分のかび臭い布団がおかれていた。
ここから南西方向一帯に弧を描くように灰色の海が広がっており、
部屋の南側の障子戸と、西側の板戸から遠望する事が出来る。
南側の障子戸から五間と離れていない場所に、村を東西に貫く小道が走っており、
この道を三百歩ほど西に降れば、玉砂利の敷き詰められた海岸に辿り着いた。
部屋は、常に薄暗かった。
もともとの暗天に加え、灯も無く、採光の為に戸を開け放つ事もしない。
唯一の光源は、所々破れた障子戸から零れてくる薄明かりのみであるが、
それでさえ、互いの表情と肉体をどうにか識別出来るほどの光量しかない。
二人はこの昼とも夜ともわからぬ澱んだ空間で、
ただただ深い溜息を付く生活を送っていた。
その為であろうか。
兎に角何をする気も起きなかった。
二人は日がな一日狭い部屋の中でごろごろし、朝から安酒を飲み、煙草をふかし、
一刻も二刻も双六に興じ、聞くに堪えない猥談を交わし、
破れた障子紙の隙間から、暗雲に閉ざされた海をぼんやりと眺め、
何度も大欠伸をし、嫌になるほど深い溜息を付き、
寂しくなると情事に耽り、それはもう退廃極まる生活を送っていた。
最早着替えるのも面倒臭いとばかり、
薄い夜着を何日も着たっきり、小袖の袖に腕も通さなくなった。
彩女などは帯も碌に締めず、肩や乳房がだらしなく零れ、
太腿が露となっていても、気にも留めない。
力丸も同様だ。
褌一丁に夜着を羽織っただけの格好で壁に寄りかかり、
向こう岸で揺れる連れの女の乳房を目で追っているうちに一日が終わる。
飯なども寝たまま食う。箸も使わない。
欠けた椀に盛られた雑穀飯の湯漬けを啜り、
小さな目刺しの干物は手掴みで貪り食う。
その内自分自身で飯を喰うことすら嫌になったのだろうか。
「面倒だからあんたが食わせておくれよ。」と彩女が横になったまま言うと、
やはり力丸も横になったまま、手掴みで小さな里芋を彼女の口の中に押し込んでやり、
その反対側の手で薄い汁物に浮かんでいる海草を摘んで食べる、という具合である。
それはもう人間の生活等ではなかった。
いや、野の獣ですらここまで怠惰と退廃を貪っては居ないであろう。
この宿においては、二人は人間である事を止め、
訳のわからぬ奇怪な物の怪として生きていたのであろうか。
そうとしか、表現出来ない。
まったく酷い有様だが、一方の排泄のほうも惨々たるものだ。
この時代の厠は大抵表にあり、それはこの宿も同様である。
朝から酒を飲んでいる彼らは、頻繁に尿意を催してしまう。
その為一々表の厠へ出向くのも面倒になり、考えた末、盥を部屋の中に引き込んで、
何時の間にかそこに用を足すようになっていた。
彩女が夜着の裾を巻くって盥の上にしゃがみ込んで排泄すると、
続いて力丸が盥を片手に持ち立ったまま用を足す。
用が済んだら杉の板を蓋にして被せ、部屋の隅に押しやって
何事も無かったかのように再び酒を煽る。
これを一日に何度も繰り返し、二人の尿で盥の嵩が一杯になると、
手代が見ていないことを確認してから、力丸が庭に向って盛大にぶちまけるのだ。
その為、じきに庭から異様な臭気が立ち込めるようになったが、
二人はそ知らぬ顔をして部屋を締め切り臭気を遮断した。
しかし液体はそれでよくても、固体のほうはそうもいかなかった。
以前、彩女が試しに一度、盥にそれを排泄した事があったが、
忽ちの内に息も出来ないほどの臭気が部屋の中に充満し、力丸が慌てて盥の中身を
厠まで棄てに行ったことがあった。
それをいい事に「これからはあんたがそうやって棄てに行っておくれよ。」
と彩女が極めて図々しい指図をしてきたが、
流石の力丸も、連れの排泄物を処理出来るほどお人好しではない。
大体放尿ならともかく、若い女が目の前で何の恥じらいも無く脱糞している様など、
見ていて余り気持ちの良い物ではない。
―何故俺があいつの糞の始末までしなきゃならんのだ。
盥に入った二人の小便の海にぷかぷかと浮かぶ彩女の排泄物を見ながら
力丸は思わず泣けてきた。
「お前の糞の始末など、二度とするものか。」
処理を終えた彼は一言そう吐き捨てると、
安酒をがぶ飲みして、後はどかりと不貞寝をするばかりである。
それからどれだけの日数が経過したであろうか。
最近では何をするのも嫌になり、対面した壁に寄りかかり、
お互いぼんやりと見つめあったまま、朝から晩までそうしている事もある。
ただ、男である力丸には、
それでも若干の生理的欲求と言うものが存在していたらしい。
彼は決まって一日二回、朝と晩に、最早生き人形に成り果てた彩女を抱き、
その迸りを彼女の胎内に撒き散らす事を日課としていた。
ある日、彩女が呟いた。
「何だか交わいにも飽きちまったよ…。」
彼女の股座の間には、まるで機械の様に
単調な前後運動を繰り返しているだけの力丸の姿がある。
しかし中空にぼんやりと投げ出された彼女の瞳は、
その男の姿を捉えていない。
「あんたは良く飽きないねぇ。」
ここで漸く、彩女は力丸の姿を己の視界に入れた。
彼女と視線が交錯した瞬間、力丸は動きをぴたりと止め、
気まずそうに目を逸らした。
彩女の能面にも似た端正な面には、
嫌悪とも、侮蔑とも、そして憐憫や慈愛とも取れるような
複雑にして奇妙な色が浮かんでいた。
―俺を、嬲っているのか。
力丸はそのように邪推し、やや立腹した。
しかし、それでも決して交接を止めようとはしない。
そして子供のように口を尖らせながら、
「…別に飽きはせぬ。」
無造作に彩女の豊かな乳房を鷲掴みにすると、
苛立ちを紛らわせるようにして乱暴に揉みしだいた。
「…あたいとの交わいは面白いかい?」
「…別に面白くもつまらなくもない。」
「…それなのに交わうのかい?」
「…飯を食ったり糞をするのと同じだ。
それをせぬと、何だか落ち着かぬ。」
力丸の発した、まるで彩女を侮蔑するかのような言葉は、決して嘘ではない。
元々彼には、やや神経症的な潔癖がある。
一度生活の型が完成すると、是が非でもそれを日々踏襲しなければ気が済まないのだ。
事実、乱破時代の彼は、毎日決まった時刻に定められた修行を開始し、
やはり決まった時刻に終了するという日々を送っていた。
雨の日も風の日も関係が無い。
いや、それ所か病の日ですら、朦朧とした意識を引き摺って修行に赴き、
同僚に呆れられた事が何度もある。
無論、彩女も連れの男の性癖を良く知っている。
「ふうん…ははは、御飯を食うのと糞をするのと同じかい。
知ってるよ。あんたは昔から融通が利かない所があるからねぇ。」
彼女は口許に薄く笑みを浮かべた。
「…でも毎日同じ女とばかりじゃあ飽きるだろう。」
いや、別に、と言い掛けて、力丸は閉口した。
今となっては、最早彼が、
彩女の肉体に性的な魅力を感じる事は、殆ど無くなっていた。
余りにも長期間、幾度と無く肌を合わせ続けてきたため、
我が身に馴染み過ぎてしまっていたのである。
従って、今、彼の為している行為は、男女の営みと言うよりは
自慰行為の延長線上にあるものと言えた。
しかし、力丸は決してそれが苦痛と言う訳では無い。
彩女には余計な気遣いは無用であるし、愛の言葉を囁く必要も無かった。
何より、気楽なのである。
他所の女のように、銭も手間も掛からない。
「…ここには他に女が居ないので仕方が無い。」
「宿の婆様が居るよ。」
彩女はケラケラと挑発的に笑ってみせた。
彼女のこの態度が、力丸の矜持を軽く抉った。
彼は半ばその挑発に乗るような形で、
「…お前は交わうには便利な女だからな。」
やや強い口調でそう言ってのけ、
「売女のように銭は掛からぬし、
俺を拒まぬし、如何様に扱っても怒らぬし、何より子を孕まぬ。」
その時、これまで口許に笑みを漏らしていた彩女の表情に一瞬陰りが差した。
力丸の指摘通り、彼女はこれまでに一度も彼の子を胎内に宿した事が無い。
妊娠能力が無いのである。
当時の女としては致命的な欠陥と呼べるものであったが、
それでも彼女の場合、常に気丈に振る舞い、
決して己の哀れな身上を語る事は無かった。
「…ははは、そうかい。確かにあんたの言う通りだ。」
彩女の声には、不自然な快活が入り混じっていた。
しかし、人間の機微を察するに鈍する力丸の前では、
その言葉は虚しく通り過ぎるだけである。
彼は相変わらず彩女と繋がったまま、乳房を乱暴に弄んでいた。
「じゃあ、早い所済ませておくれ。
あたい、尿(ゆばり)がしたいんだ。」
「…お前に言われなくとも分かっている。
お前が余計な事を言わなければ、もう済んでいた。」
「そうだったね。御免よ。じゃあもう黙ってるからさ。」
「…ああ、そうしていてくれ。直ぐに済ませる。」
そう言って、力丸は再び単調な前後運動に戻っていった。
暫くして、彼は小さく短い溜息を二、三吐くと動きを停止した。
どうやら事が済んだようである。
「…おい、終わったぞ。」
言いながら力丸は彩女の乳首を一つ指で弾いた。
「…ああ、そうかい。ご苦労さん。
じゃあもう離れておくれ。尿が漏れそうだ。」
「…ああ。」
言われるまま、力丸は彩女の胎内から屹立を引き抜いた。
そして交合の残滓が布団に零れ落ちないように注意を払いながら、
彩女の夜着の裾を使って屹立を丁寧に拭う。
すると、忽ち彼女から抗議の口矢が飛んできた。
「ちょいと。あたいのべべで拭かないでおくれって何度も言ってるだろ。」
彩女の夜着の裾は、これまで何度と無く力丸が拭き取った残滓が乾燥して、
薄茶色に変色していた。
「他に拭くものが無い。」
しか、当の力丸には全く悪びれる様子が見られない。
流石に彩女も立腹する。
「手前のべべで拭いてろ。」
彼女は力丸の手から裾を引っ手繰るようにして奪い返すと、
大きく一つ溜息をついて上半身を起こした。
「厠を取っておくれ。」
「厠」とは彼らが便所代わりに使用している桶の事である。
「俺が?」
「良いだろ。それぐらい。取ってくれないともう交わらせてやらないよ。」
「…………。」
やれやれ、と言う表情で、力丸は部屋の片隅に置かれていた桶を手にとると、
彩女の眼前に置いてやった。
「ああ、漏れそう。」
彩女は早速桶の上にしゃがみ込み、恥らう様子も無く用を足し始めた。
一方の力丸は部屋の片隅に腰を下ろし、その光景をぼんやりと眺めている。
―俺が間違っていたのか。
そう呟きかけて、慌てて言葉を呑み込んだ。
―今更何を言っても仕方があるまい。最早あの日には戻れぬ。
「七道の俺達が、一生に一度の夢を見て何が悪い。」
仏法によれば、成仏しきれない人間は、死ぬと生前の行いに照合して、
天道、人道、修羅道、餓鬼道、畜生道、地獄道の六道の内、何れかの世界に転生し、
再びそこで終わる事の無い生死を繰り返し続けるのだという。
しかし彼ら「七道の者」は生前は元より、死後もその何れの世界にも、
それは最下層の地獄道にすら転生する事が赦されず、
寄る辺無き永遠の闇を彷徨う漂流者と化すのだそうだ。
それは六道の何れの道からも外れた、正に「外道の者」。
此岸と彼岸の間を蠢く者達の事である。
その「七道の者」力丸には、一個の「夢」が存在した。
いや、それは「夢」などと言う茫洋とした表現によって語られるものではなく、
より生々しい「野心」とでも呼称されるべきものであろう。
―俺は何時か必ず、惨めな「七道」の身上から脱し、人として生きるのだ。
そしてその念願は、多額の「金銭」によって成就出来る筈であると、信じて疑わなかった。
力丸は「仏」を信じない。
何故なら、「仏」の救済範囲はあくまでも六道の内側に生きる者達のみに限定され、
その道から外れた者達には、
「仏」は決して救いの手を差し伸べようとはしないからだ。
しかし「金銭」は違うだろう。
金銭は全ての者を平等に救済する。
例え「七道の者」であっても、その「金銭」さえ入手出来るならば、
陰惨とした人生から解脱し、この世の内で救済される筈であると、
半ば宗教的な信仰心にも似た情熱を内心に滾らせていた。
それは事実そうであったのだろう。
彩女は力丸に「金平糖」をねだった。
当時としては極めて貴重な、南蛮渡来の高級菓子である。
その乳白色に輝く小さな砂糖塊を口に含んだ瞬間、
まるで年端も行かない少女のように無邪気に微笑んだ彩女の姿は、
決して幻ではない。
力丸は名刀の類を我が物とした。
武具屋の主人は最初、みすぼらしい風体をして目の前に現れた男に対し、
砂を噛み潰したかのような嫌悪の視線を送った。
しかし、「銭ならある。」
その男が懐から幾枚かの金子を取り出して突きつけた所、忽ち態度が一変した。
力丸はこれまでの半生において、決して体験した事が無いような、いや、生涯体験する筈も無かった
武具屋の慇懃な所作を前にして、見る見るうちに自尊心が満たされていく快感を覚えた。
「京(みやこ)に行ってみたい。」
彩女に乞われるまま、彼女の願いを叶えてやった。
初夏の太陽に彩られた京に到着するや否や、
早速仕立て上げた流行の帷子に身を包んだ幼馴染の女は、
京女の艶やかさも霞むほどに美しかった。
「やや子踊り」も見た。「猿楽」も見た。「虎」も「孔雀」も見た。
珍しい「放下芸(手品)」を始め、様々な雑芸軽業の類も全て見た。
「蒔絵造りの櫛」も買った。「螺鈿細工の手鏡」も買った。
「白粉」も「紅」も「香」も、彩女の望むものは何でも買ってやった。
「山海の珍味」を鱈腹食い、「美酒」を浴びるほど飲み、「風呂屋」にも入り浸った。
毎日のように「京女」を抱いた。
櫛やら簪やら、その他力丸の知らない装飾品の数々を、
宿の畳の上に並べて、一人悦に入っている彩女の直ぐその隣で、
汗と体液に塗れながら、複数の裸体の美女を相手に丸一日、
阿呆のように戯れた事も一度や二度ではない。
濃厚に戯れ、疲れ果てた女が寝息を立てているその横で、
何故か中々寝付く事が出来ないでいる力丸は、
しばしば少年時代の記憶を手繰り寄せた。
―まさかこの俺が、畳のある部屋で、
こうして大の字になる事が出来ようとは。
少年時代の力丸の寝床は、集落の高台に建つ、神社の社の軒下であった。
今は昔、彼は夜毎この神社の敷地内に忍び込み、
軒下の冷たい土の上で、寒さに身を縮みこませながら、
やはり眠れぬ夜を明かしていた。
彼が神社を我がねぐらと定めた理由は、そこが神域であった為である。
ここであるならば、浮世に蔓延するありとあらゆる無法と理不尽から、
幾分かは我が身を守る事が出来るだろうと考えたのだ。
少なくとも、武辺の侍が購入した
新しい刀鑓の試しとなるような「日常」には遭遇し難い筈である。
彩女ともここで出会った。
あれは何時の日の事であっただろうか。
霧雨の降りしきる晩、山猫に追われる野鼠のように、するりと軒下に潜り込み、
そこで初めて予想外の先客の存在に気が付き、脅え、戸惑う彼女に向って、
力丸は極めて温和な口調で、
「ここなら安心だ。夜露にも濡れない。神様も守ってくれる。
誰にも見付からぬうちに、俺の隣に来い。」
この時分の彼は、まだ無邪気に神仏の存在を信じていた。
姿も見えぬ先客の言葉に導かれるように、彩女は力丸の隣に侍って寝た。
その日から、彼女は毎晩のように力丸の元へとやって来るようになった。
供に親無し仔であった為、二人は直ぐに打ち解けあい、意気投合した。
「孤独な二つの魂の揺り籠」
冷たく暗い、軒下の土の床は、正にそう呼ぶに相応しかった。
一寸先も見渡せぬ暗闇が、二人を守り続けた。
その揺り籠に揺られながら、夜な夜な他愛も無い夢を語り合った。
「あたいはコンペイトウと言うものを食べてみたい。」
彩女は自ら口にした金平糖なる舶来菓子が、
一体如何なるものなのであるか、知らない。
ただ、幼い日、この世には「コン・ペイ・トウ」と言う、軽妙な語感を持って語られる
得も言われぬほどの甘美な菓子が存在する事を、小耳に挟んだ事がある。
「よし、何時の日か、俺がお前にそれを買ってやる。」
一文無しの浮浪少年は、まるでそれが生涯を賭して
遂行されるべき誓約(うけい)であるかのように、凛然として言った。
「それからミヤコと言う所にも行ってみたい。」
「ミヤコ」。
コンペイトウ同様、彩女はミヤコなる土地の詳細についても、無知同然であった。
しかしそれでも、辻の往来人の噂話や、「ミヤコ」という如何にも雅やかな響きと相まって、
未だ見ぬその地が、まるで御伽噺に登場する極楽浄土か桃源郷のような
この世ならぬ楽園であるのだと、無邪気に信じていた。
軒下の暗闇の中に、憐れな程透き通った瞳が二つ、まるで蛍火のように浮かび上がった。
「よし、何時の日か、俺がお前をそこに連れて行ってやる。」
「…力さん、本当かい?」
「ああ、本当だ。俺はお前にだけは嘘は付かぬ。」
その二人が、初めて情を交わしあったのも、この軒下であった。
あれは何時の事であっただろうか。
確か、茹だるような夏の日の午後の事だったと記憶している。
狂ったように啼き喚く蝉しぐれが、
今でも錆のように耳の奥底にこびり付いている。
その日、焼け付くような酷暑を避ける為に、陽炎の沸き立つ境内を抜け、
例の軒下へと転がり込んだ。
そして近所の畑から盗んだ瓜を、二人で分かち合って食っている時、
「暑い。暑い。」
徐に、彩女が汗で濡れたツギハギだらけの小袖の帯を解き、袷をばさりと開いた。
暗闇の中にぼんやりと浮かび上がった、僅かな膨らみを帯びた少女の可憐な乳房。
力丸の視線が釘付けになった。
しかし彩女は、粘りつく様な少年の視線も全く意に介さずに、
黙々と瓜を食い続けている。
やがて力丸の手から、瓜が零れ落ちた。
その後の事は、彼も良く覚えていない。
ただ、それでも彩女の押し殺したようなくぐもった呻き声と、
彼女の塩辛い汗の味だけは、今でも記憶の中にある。
暗闇の中で刻まれる、非日常の刻は無言のままに過ぎて行く。
彩女は全く抵抗もせず、また拒絶や嫌悪の言葉を吐く事も無く、
目を強く閉じ、食いかけの瓜を強く片手に握り締めただけ格好で、力丸の欲望の中にいた。
全てが終わった後、彼女は仰向けの姿勢のまま、
まるで何事も無かったかのように、再び瓜を口にし始めた。
そしてただ黙々と食い続け、言葉は一言も発しなかった。
同様に、力丸も沈黙を守っている。
しかしこちらは為す所無く、項垂れたまま、彩女の股座で荒い呼吸を整えていた。
その表情には、汗の玉と供に、若干の悔恨と自己嫌悪の色が浮かんでいる。
やがて詫び言の代わりであるかのように呟いた。
「…何時の日か、俺がお前にコンペイトウを買ってやる。
…ミヤコにだって連れて行ってやる。」
彼らが村の大人達に発見され、「揺り籠」から引き釣り出されたのは、
それから一年後の冷夏の年の事である。
その時二人は、社の軒下で情を交し合っている最中であった。
この軒下の高さは、精々二尺程度しかない。
しかしそれでは情交には不便だというので、
力丸が軒下の土を畳一丈分、一尺程掘り下げて空間の余裕を作り、
戯れる際にはそこを褥としていた。
二人の側の土の上には、
彼らが取って食べたと思われる茄子の蔕が複数個、無造作に転がっていた。
下になっている彩女の手には、小さな茄子が握られている。
茄子は、所々歯型に抉り取られていた。
この二人は、先程、畑から失敬してきた茄子に交互に歯を立てながら、戯れていたのである。
力丸にとって、彩女は最高に愉快な玩具であった。
今だかつて、これほどまで面白い玩具で遊んだ経験は、彼にはない。
そして彩女にとってもまた、力丸ほど面白い玩具は存在しなかった。
この遊具は、実に愉しい。
肉体は勿論の事、何よりその精神までも深く満たしてくれる。
それは捨て子の彼らが初めて味わう、人間の温もりの悦びであった。
二人は好奇心と欲望の赴くまま、
互いの肉体を玩具として一心不乱に戯れた。
暫く無心に腰を使い続け、やがて、力丸は絶頂を迎えた。
迸りを絞りきった彼が、彩女の中心部分から離れようとすると、
「嫌だ。このままで居ておくれ。」と彩女に遮られた。
力丸が逆らわずにそうしてやると、今度は、
「口を吸っておくれ。」
彼は交接したまま彩女の口を吸い、
ついでにその手の内にある茄子をしゃくりと食らった。
「お前は、何とも可愛いな。」
茄子を咀嚼し終わった力丸は、
僅かな膨らみを帯びている彩女の乳房に触れ、
固くしこり立った乳首を口に含んだ。
塩の味がした。
「本当かい?力さん。」
彩女がはしゃいだ様な声を出した。
「ああ、本当だ。」
力丸は彩女の乳首を甘噛みし、強く吸った。
彩女の未発達な肉体には少々の苦痛を伴う行為であるが、
それでも彼女は何も言わず、ただ力丸の為すがままに身を任せている。
「これからも、こうして可愛がってやる。」
「うん。可愛がっておくれ。」
「お前は俺と交わうのが好きか?」
「うん。好き。」
力丸とは違い、彩女は、決して性的な快楽を求めて
彼との情交を好んでいるわけではない。
快楽を覚えるには、力丸は余りにも稚拙過ぎたし、
彩女の未成熟な肉体にも、その余裕は無かった。
ただ、力丸に抱かれている間は、心が何とも充足するのである。
肉体ではなく、我が魂を愛撫され、抱擁されているかのような錯覚に陥るのだ。
父母の愛を知らない彩女の魂の間隙を、
力丸の体温と吐息がそれに成り代わり、満たしていた。
「そうか。俺も好きだ。」
力丸は熱っぽく囁くと、
彩女の薄い胸板を舌でなぞり始めた。
唾液の生臭さが、彩女の鼻腔を突いた。
「じゃあさ、あたいを力さんのお嫁にしておくれ。」
彩女は力丸が好きであった。
この男とは境遇が似ているし、何より優しく接してくれる。
こうして、肉の繋がりも持っている。
「…それは…わからぬ。」
力丸は、悲しげに呻いた。
「…どうして?」
彩女もまた、哀しげに聞いた。
「…俺はまだ、お前にコンペイトウを食わせてやれていないし、
ミヤコにも連れて行っておらぬからな。…それが済んでからだ。」
物事には順番がある、と力丸は賢しげに言った。
「まず、コンペイトウの約束。それからミヤコの約束。
お前を嫁にするのは、その次だ。」
どうやら彼は、既にこの時分から融通の利かない性格を有していたようである。
彩女は「それでは嫌だ。今直ぐにお嫁にしてくれ。」と愚図ったが、
力丸は生来の生真面目さと頑固さで、彼女の所望を頑なに拒んだ。
最終的には、彩女のほうが折れた。
「…じゃあ、いつかきっとあたいをお嫁にしてくれるって、
約束してくれるかい?」
「ああ、きっと約束する。」
「本当に、本当だよ。」
「ああ、本当に本当だ。」
言いながらも、力丸は彼女のすべらかな肌に没頭し始めていた。
やがて、彩女の胎内に納められていた彼の一物が、勢いを取り戻してきた。
「もう一度、してもいいか?」
「うん。しておくれ。」
「よし、ではもう一度だ。
今度はもう少し、時をかけてやろう。」
力丸が再び腰を使い始めた、その時である。
「この下だ!誰か居るぞ!」
不意に荒立った声を聞いた。
「一体誰なのだ!?出て来い!」
狼狽した二人が、声の方向に目を向けると、
軒下を覗き込んでいる中年の男の姿が目に飛び込んできた。
思わず力丸は動きを止め、物言わぬ石のように身を硬化させた。
下になっている彩女も、食いかけの茄子を握り締めたまま、
恐怖の籠った眼差しで、声の主を凝視している。
しかし男は社の軒下の曲者を警戒して、
それ以上は踏み込んでは来ない。
―何が何だか分からぬが、
兎に角このまま動かなければ、遣り過ごせるのでは。
力丸の楽観的な観測は、見事に裏切られた。
声の主が仲間を呼び始めたのだ。
「おい!こっちだ!早く来てくれ!この下に誰か居る!
若しかしたらこやつかも知れぬ!」
やがて、ばたばたとした足音と供に、更に複数人の増援が到着した。
何れも村の男衆である。
腰刀を差している人間もいれば、
乳切木(ちぎりき=足元から胸先までの長さの棒)を手にしている者も居る。
「この下だ!」
最初に力丸らを発見した男に促されて、
増援達も、揃って軒下を覗き込んだ。
「あっ!本当だ!誰かが居る!」
「怪しい奴だ!やはりこやつかも知れぬ!」
「早く出てこい!出なければ、酷い目にあわせるぞ!」
男達の声は殺気立っていた。
―.一体何事なのだ。俺達をどうするつもりだ。
折角の行為の最中に、突如として身に降りかかってきた晴天の霹靂は、
力丸を大いに怒らせ、そして困惑させたが、
今の二人には、ただ固く抱き合う以外に、どうする事も出来ない。
その内、社を囲んでいる男の一人が痺れを切らし、
「おい!俺は行くぞ!お前達も来てくれ!とっ捕まえてやる!」
包囲の仲間に声を掛けた。
その中の度胸の据わった数人が、男の意気に答えた。
「今から行くぞ!」
「大人しくしておれ!」
「遁げると承知せぬぞ!」
男達は自らを奮い立たせるように、口々に喚き散らしながら、
身を屈めて、軒下の暗闇に足を踏み入れてきた。
力丸と彩女の心蔵は早鐘のように高鳴った。
村人の目的が何であるのか、彼らには皆目検討も付かなかったが、
兎に角村の衆が、何やら得体の知れない敵意を持って
力丸達を捕獲しようとしている事は、最早疑念の余地は無いようだ。
最初、力丸は我が身や彩女を護る為に、
暴れるだけ暴れて、この正体不明の危機を脱してやろうかとも考えたが、
乞食少年の細腕では、野良仕事で鍛え上げた男達に対し、
一体どの程度の抵抗が可能なのか、彼にはわからなかった。
また、男達は腰に打刀を差している。
しかし力丸は護身用の金物一振り所持していない。
これでは万が一の勝算も無いであろう。
下手に抵抗すると、その場で刺殺されるという危険性もある。
そして何より、彼らが今、人間が最も無警戒に陥る
情交の真っ最中であった事が、力丸の覚悟と闘争心を萎縮させていた。
男達が迫ってきた。
もう、手の届く距離である。
「あっ!」
その時、男の一人が何かに気が付いた。
「一人ではない!二人いるぞ!」
刹那、他の男達が一斉に目を凝らした。
よく見ると、確かにその言葉通り、人間が二人重なり合うようにして、
身を硬化させているではないか。
男達はてっきり曲者は一人であると思い込んでいた。
軒下の暗がりの中で、肌を重ね合わせていた男女を
一個の人間であると勘違いしたのである。
しかし、更に男達を仰天させたのは、
曲者の二人が、この狭い暗がりの中で、情交に及んでいた事であろう。
「こやつら、交わっておる!」
誰かが素っ頓狂な声を上げた。
「このような軒下で、交わっておるぞ!」
彼はあきらかに好奇と好色の入り混じった声で、
表の衆に状況を報告した。
「己!神域でこのような行いに及ぶとは、言語道断じゃ!」
村の鎮守の社を汚されたと知った男達は、先程の及び腰から一転、
怒りに任せて力丸と彩女を引き離しにかかった。
しかし、曲者の二人は岩場に張り付いた牡蠣のように、
互いに強く抱きしまったまま、びくともしない。
どうやらこの軒下の狭隘な空間では、
農夫自慢の膂力も思うように活用出来ないようである。
「ここでは狭くて駄目だ!
構わぬからこのまま引き釣り出せ!」
苛立った男達は、二人重った状態のままで、
無理矢理に軒下から引っ張り出す事にした。
「や、止めろ!止めろ!」
力丸も彩女も、固い地面に足を踏ん張って抵抗を示したが、
それでも流石に複数の屈強な男達の手に掛かっては、為す術が無い。
結局彼らは繋がったまま、軒下から文字通り引き釣り出された。
暗がりから突如、日の当る場所に連行された為、
力丸も彩女も、事態を把握するのに少々の時間を要した。
目が慣れてくると、複数の村の大人達が、
まるで犬畜生でも見るかのような眼差しで、
二人を見下ろしている事に気が付いた。
「どのような奴らかと思っていたが、
まだ餓鬼ではないか!」
曲者の正体が、元服前の少年であった事に、男達は驚愕した。
「この小僧と小娘は、この辺りをいつもうろうろしている乞食の餓鬼供だぞ。」
良く日に焼けた小太りの農夫が、忌々しげに二人を睨み付けた。
以前、彼は連れ立って物乞いをしていた力丸と彩女に、
彼等の演じた陳腐な雑芸と引き換えに、僅かばかりの施しをくれてやった事がある。
それで二人を見知っていたのだ。
「このような所で、盛っておったのか。汚らしいやつらよ。」
小太りの農夫は吐き棄てるように喚いた。
しかし嫌悪を同時に、年端もいかない物乞いの少年少女が、
社の軒下と言う世間と隔絶した空間で、昼間から情交に及んでいたと言う事実に、
例え様も無い程の淫靡な匂いも感じ取っている。
「乞食の分際で、こういう事だけは一人前よ。
見よ、見よ。このように晒されても、まだ繋がっておるわ。」
境内に引き出されて尚、力丸と彩女は今だ繋がっていた。
互いに着物を羽織ったままの、半裸である。
痩せこけた体を仔犬のように震わせながら、強く抱き合っていた。
その時、「あっ!」
ぎょろ目の小男が、更に大きく目を剥いた。
「この小娘の手を見ろ!」
彩女の手には、例の食いかけの茄子が、今だ握り締められていた。
「こいつは、俺の畑の茄子だ!間違いない!」
ぎょろ目は、己がさも憐れな被害者である事を演出するかのように、
甲高い声で喚いた。
「一体何者かと思いきや、この餓鬼供が俺の野菜を盗んでいたのか!
畜生!恐らく、村中の畑を荒らしていたのも、こやつらだ!」
力丸と彩女の顔面が蒼白となった。
これで漸く大人達の目的が理解出来た。
彼らは、野菜泥棒を追っていたのである。
成る程、確かにこの二人の浮浪少年達は、腹が空くと、
村人の目を盗んでは、度々畑の作物を獲って喰っていた。
しかしこれまでは、彼等の窃盗行為も深く追求される事無く、
半ば見過ごされてきたのであるが、
運の悪い事に今年は例年に無い程の冷夏であった。
漸く僅かばかりに実った作物を奪われては、
村人達も下手人探しに躍起になるのは当然であろう。
二人は「この野菜泥棒が!」と口々に面罵された。
「汚い悪餓鬼供め!仕置きをするから、来い!」
男達は二人を引き離そうと試みたが、
力丸も彩女も、互いの身体にしがみ付いたまま、離れようとしない。
「引き離されたが最後、もう二度と、生きて会う事は出来ない。」
二人供、本能的にそう察知していた。
「全く犬の如き餓鬼供だ!おい!水を持って来い!」
男の一言で、力丸の背中に水が浴びせかけられた。
「いつまでも盛ってないで、いい加減離れろ!」
水の次は、蹴りが飛んで来た。
しかしどれだけ激しく蹴り付けられようとも、
力丸は決して彩女を離そうとはしなかった。
それ所か、蹴り付けられれば蹴り付けられるほど、
彼は自らを盾として、少女を庇い続けるのである。
彩女の方も、両腕を力丸の背中に巻きつけ、両足で彼の腰を挟み込み、
意地でも離れるものかと、抵抗の意を表した。
すると男達は、今度は手にしていた乳切木で力丸を殴打し始めた。
固い棒で背中をた打たれる度、力丸の口許から苦悶の呻吟が漏れた。
それでも彼は必死に耐えていたが、
これには寧ろ、下になっていた彩女のほうが先に降参した。
―このままでは、力丸が殺されてしまう!
そう判断した彼女は、力丸に絡み付かせていた手足を解放し、
「御赦し下され!御赦し下され!この人を叩かないで下され!
野菜を盗んだのはあたいです!この人ではありませぬ!」
力丸の耳元で、大声を張り上げて喚き始めたのだ。
そこで漸く男達の動きが止まった。
彩女は尚も喚き続ける。
「あたいが悪う御座りました!あたいが悪う御座りました!
だからこの人を叩くのは止めて下され!全部あたいの仕業です!」
「何!?本当か!」
男の一人が詰問した。
彩女に替わって、力丸が返答を返した。
「ち、違う…!野菜を獲ったのは、俺だ…!
俺だ…!俺だ…!」
力丸と彩女の言い分は、半ば事実であり、半ば間違っていた。
これまで彼らは二人揃って、野菜を盗み獲っていたのである。
従って、どちらか一方が悪という事は無く、言うなれば二人は共犯なのだ。
しかし力丸も彩女も、互いを庇い合う為に、
自らが主犯であると言い張った。
それに対する村の衆の反応は、実に明快なものであった。
「どちらが盗んだなどは、どうでも良い。連帯責任である。」
この期に及んでは、最早男達も、力尽くで力丸と彩女を離反させようと決意した。
そうなると、少年少女の細腕では、抵抗にも限界がある。
まず、男達の手によって、力丸の背中に巻かれていた
彩女の両の腕(かいな)が解かれると、それと時を同じくして、
腰に絡み付いている両脚も膂力に任せて引き剥がされた。
これで、両者の抱合の力も半減した。
彩女は耳を劈くような喚き声を上げて抵抗したが、それも徒労に終わった。
二人を結合させているものは、彩女を抱きしめている力丸の両腕と、
互いの下半身の接合のみである。こうなっては、最早是非も無い。
力丸の両腕には、左右に一人ずつの男が付き、引き剥がしに掛かった。
腕が抜けるほどの力で捻り挙げると、
彼の腕は余りにも呆気無く彩女の体から剥離した。
それを見計らったかのように、更に別の男が二人、力丸の腰を抱え上げた。
少年の痩身はいとも容易く中空に浮き上がり、
彩女の胎内に収まっていた彼の陰茎が、
白い糸を引きながらぬるりと抜けた。
同時に、彩女の中心部分からも、二人の体液がどろりと零れ出した。
それを見た男衆はどっと笑った。
卑猥な言葉を投げ付ける者、悪童さながらに、囃し立てる者もいた。
力丸と彩女は後ろ手に腕を掴まれ、神社の敷地内から連れ出された。
そして、山の麓に生い茂る竹薮まで連行されると、花崗岩の大岩の前に並んで立たされた。
力丸も彩女も、継ぎ接ぎだらけの薄汚れた着物を羽織っているだけなので、
肋骨の浮き出た胸板から腹、そして陰部までが、大人達の視線に晒されている。
力丸の陰茎は既にすっかり縮み上がり、
ぬらぬらと互いの体液に濡れた先端部分も、今では完全に包皮に覆われていた。
それでも力丸は、存外平然としていたが、
彩女は大人達の前に恥部を露出する事を嫌がり、
度々身をくねらせては、背後で控えている男に力尽くで姿勢を矯正された。
まず、名を問われた。二人は自らの名を小声で名乗った。
しかし続いて「親は居るのか?」と聞かれると、
力丸も彩女も、沈黙したまま俯いてしまった。
彼らは親無しである。物心付いた時には、親は既に存在していなかった。
「…親は居らぬのか。では、何処に住んでおる。無宿か。」
力丸は「無宿であるが、夜は先程の社の軒下をねぐらにしている。」と告げた。
「歳は幾つだ。」今度は別の男が聞いた。
二人は口を噤んだまま、答えなかった。
大人達に対する、ささやかな反抗という意図からではない。
彼らは、自らの正確な年齢と言うものを知らなかったのだ。
煮え切らない少年達の態度に、男の一人が苛立ったように声を上げた。
「大方、十二かそこらだろう。」
彼は、手にしていた乳切木で、二人の股間を指し示しながら言った。
力丸の陰部には、うっすらと陰毛が芽生え始めてきていたが、
彩女の方は、それすら皆無であった。
男達は言った。
「餓鬼の癖に、まあ、あのような狭き所で犬のように盛りおって。」
「乞食の男女は、例え餓鬼であっても、それしかする事が無いのだ。」
「これから仕置きをするからな。覚悟しておれ。」
彼らの言葉の端々に、嗜虐の炎のくすぶりを感じた。
力丸も彩女も、震え上がった。
「この餓鬼供が、村の畑を荒らしていた野菜泥棒の正体である。」
二人は着物をすっかり剥ぎ取られ、後ろ手に強く縛られた挙句、
頸に縄を掛けられ村中を引き回された。
薄汚れた全裸の少年少女が、前のめりになって引き回される姿を目撃した村人達は、
口々に「まるで犬のような奴らだ。」と嘲笑し、中には石を投げ付ける者も居た。
村の男衆は下手人を引き回す事に飽きると、時々足を止め、
二人に対し容赦の無い暴行を加えた。
筆舌にし難い悪罵を投げ付けられながら、乳切木で殴打されている力丸のすぐ隣で、
彩女は屈辱に満ちた言葉と供に、複数の男達に代わる代わる犯された。
その悪夢の一時が終わると、再び二人は頸の縄を強く引かれ、引き回される。
力丸は体中から血を流し、彩女は秘部から男達の白濁を滴らせながら、
この「野菜泥棒」達は村の衆に晒された。
道中、男達は、農作業に勤しむ農夫に出会う度に事情を説明し、
彼らに力丸を殴打させ、彩女を土手に引きずり込んで、陵辱させた。
その間、男達は虎の子の煙管煙草を回しあい、
日に焼けた皺くちゃの農夫に慰み物にされる彩女を肴に、
卑猥な談笑に興じる事で、時を潰した。
その後も、引き回されては暴行を受け、
暴行を受けてはまた引き回されると言う苛烈な私刑が、
実に半日もの間、哀れな少年少女に対して執拗に加えられた。
この嵐のような暴行により、
遂には力丸は片目を失い、彩女は子を為さない体となった。
彼らは最終的に村の高台にまで連行されると、
頂上に生えている一本杉の根元に縛り付けられた。
そのまま三日三晩、彼らは晒し者にされたが、
しかしそれでも二人が絶命する事は無かった。
彼らの身柄を引き受けに来た人間が居たからである。
命の恩人は、代々乱破家業を生業とする一族の者であった。
二人は彼等の持参していたズタ袋の中に押し込められ、里へと連行された。
乞食として生を受けた力丸と彩女は、
その日から、やはり同じ「七道の者」に属する乱破者として
生きる事を運命付けられたのである。
京の夏は暑い。
その暑さを物ともせずに、毎日毎日女を替え、
まるで盛りのついた獣のように、真昼間から情交に及んでいたとしても、
彩女は眉を顰める事もしなければ、力丸の乱行を咎め立てる事も無かった。
彼女は彼女で、連日のように市へと出かけ、
これまた阿呆のように高価な品物を仕入れてくる。
出かけと帰りで、力丸の相手をしている女が入れ替わっていたとしても、
彩女は気付きもしない。
何しろその彼女も、出かけと帰りで着物が違っている事など、
さして珍しくはなかったのだから。
「七道の俺達が、一生に一度の夢を見て何が悪い。」
それが二人の理屈であった。
その理屈さえあれば、全てが赦されるような気がした。
力丸は、黄金二十一枚、銀三十六枚という途方も無い大金で、その「夢」を買った。
「今日より俺達は、人として生きるぞ。」
確かに力丸と彩女は、京にいる間は優雅な「遊民」として浮世の生を謳歌していた。
しかし彼らは「遊民」であると同時に、「罪人」でもあったのだ。
その為、京に辿り着いて三ヶ月もしない内に、
彼らはそのもう一つの属性である「罪人」即ち、
「逃亡者」へと身を変じなければならなかった。
力丸の得た黄金二十一枚、銀三十六枚は、
極楽浄土への道筋を書き記した地図であったと供に、
地獄への一里塚ともなった。
金平糖を口に含んで微笑んだあの日の彩女の姿は、
やはり幻だったのではなかろうか。
或いは真夏の午後、裏通りに揺らめき立つ虚ろな陽炎か。
殆ど獣の如き本能により、追捕の気配を感じとった彼らは、京から風のように消えた。
消えざるを得なかった。
茹だる様な猛暑の夏も終わりかけた日の事である。
最後の命を振り絞って啼き喚く蝉しぐれだけが、落人達の背中を見送った。
しかしその二人には一体何が残されたのだろう。
彩女の購入した高価な櫛や簪や、その他装飾品の数々は、
今はもう彼女の手元には存在しない。
それらの全ては、逃亡資金に替えられた後である。
無論、力丸の名刀などは言うまでも無い。
惜しむべきは、力丸が京で女遊びに現を抜かしていた事であろう。
彩女の求めた品物と違って、こちらは下取りがきかない。
今思えば、一時の悦楽を得んが為の、愚劣極まる無駄な浪費でしかなかった訳であるが、
しかしその事で彩女が力丸を折檻した事は一度も無かった。
その彩女は、この逃避行の最中で何度も同じ言葉を繰り返し述べた。
「若しもの事があったら、あたいは痛い思いをするのが嫌だから、
その時はさ、力さん。あんたが一思いにあたいの頸を刎ねておくれ。」
彼女のがこの台詞を漏らす時は、大抵一寸先も見えぬ、
虫の音すら聞こえぬ静寂の暗夜の中であった。
孤独な体温を交し合い、精も根も尽き果した後、
ふと、力丸の耳元で脅えたように囁くのである。
彼女の言う「若しもの事」とは追手による彼女の殺害、そして「痛い思い」とは
その際に加えられるであろう苛烈な拷問の事を指すという事は、
力丸にも良くわかっている。
彩女は、自身の死の恐怖よりも、拷問の恐怖を恐れているのであろう。
力丸と違って女である彼女には、苦痛と同時に、かつて味わった、
あの嵐のような恥辱と屈辱も加味されるであろう事は、容易に想像出来た。
ただ、正直な所、力丸は彼女のこの懇願にも似た言葉には、
少々の困惑を覚えざるを得ない。殺人の技術の問題ではない。
力丸ほどの腕であるならば、彼女の望みを叶えてやる事は、
さして難しい事では無いだろう。
問題は、その「若しもの時」この幼馴染の女を
一刀の下に斬り伏せる事が出来るかと言う事である。
或いは年来の情けから、逡巡に逡巡を重ねた挙句、
機を逸してしまう可能性も棄て切れない。
胸中に一抹の不安を抱えながらも、
しかし力丸は、その戸惑いの一片も面には出さず、
「大丈夫だ、彩。俺はお前にだけは嘘は付かぬ。」
と乾いた声で返事を返してやる事を常としていた。
そうしてやると彩女は
「有難う。」
戦慄くような礼の言葉と供に、
小さく安堵の溜息を一つ吐いて力丸に身を寄せてくるのだ。
それを見るに付け、やはり力丸も安心するのである。
「彩。つまらぬ乱破仕事はもう止めだ。
それより欲しいものを言え。何でも買ってやる。」
力丸のこの一言が、二人の運命を変えた。
訝しがる彩女を前に、力丸はズタ袋の中に無造作に納められた
黄金二十一枚、銀三十六枚を意気揚々と見せびらかし、
「どうだ。俺は分限(金持ち)であろう。」と得意げに鼻を鳴らした。
この二人には生涯、いや、七度生れ変っても縁の無いであろう、
心臓が止まる程の大金である。
彩女が仰天した事は言うまでも無い。
「こんな大金を一体どうしたのか。」
目を剥いて詰問する彼女に対し、力丸は薄ら笑いを浮かべながら、
「銭はある所にはある。」とだけ答えた。
その一言で、彩女は全てを悟った。
「…一体…何処の蔵を…。」
「何処でも良い。そんな事より欲しいものは無いか。何でも買ってやる。」
「良くは無い…!何故…何故そんな事を…!」
彩女の脳裏に、かつての野菜泥棒の記憶が甦って来た。
―この男はその愚を、再び繰り返そうとしているのか…!
彼女は必死で力丸の小袖の袷を揺さ振って、彼の狂気を諌めようとした。
事が発覚し、捕獲されれば手討ちでは済まない問題である。
しかし力丸は彼女の手を苦も無く振り払いながら、
「七道の俺達が、一生に一度の夢を見て何が悪い。」
彼のこの言葉は、彩女を閉口させ、
沈黙させるのに十分な威力を持っていた。
鹿の眼のように黒く澄んだ隻眼に浮かび上がった、
小さな冷たい炎の揺らめきを、彩女は確かにこの目で見た。
「乱破仕事など、もう止めだ。俺は今より、人として生きるぞ。」
痛々しいまでの無垢なる渇望を宿した眼差しであった。
それは打ち棄てられ、途方に暮れる幼子の嘆きにも似ていた。
瞬間、彼女の瞳にも同様の炎が、まるで合わせ鏡のように映し出された。
それだけで全てを得心した。
彩女もまた、力丸同様「七道の者」であったのだ。
気が付くと「金平糖が食べたい。」とあの日の所望を告げていた。
その望みは、力丸の得た金銭の力で苦も無く叶えられた。
続いて「京にも行ってみたい。」後は上記した通りである。
京に滞在している最中、力丸は事あるごとに、
「銭とは、不思議なものだな。まるで妖術のようだ。
そうであろう。俺達のような卑賤の輩であっても、
銭さえあればまるで偉い殿様のような扱いを受ける。
これは最早妖術以外の何物でもない。
そうとも。銭は人の心を変える妖術なのだ。」
―その通りだ。
と彩女も何度も頷いた。
「だとすると、あんたは仙人さ。
あたいの願いを何でも叶えてくれる、妖術使いの仙人様だよ。」
「ああ、俺は確かに仙人かも知れぬな。この間の武具屋の様を見ろ。
今まで偉ぶっていた人間が、どうだ。銭を見た途端、犬畜生のようになりおったわ。」
そう言って、力丸はからからと乾いた声を立てて笑った。
ただ彼の言葉の端々には、金銭の持つ不思議な力に対する新鮮な感動と供に、
一抹の悲哀と自嘲が込められている事に、彼自身も気付いていない。
兎も角二人は、まるで親の仇でも獲るかのように、浪費に継ぐ浪費を繰り返した。
若しかすると、「七道の者」としてこの世に生を受けた二人にとって、
あの京での放蕩の日々は、彼等の不条理な運命と、
憤懣に満ちた人生に対する復讐の意味が込められていたのかも知れない。
或いは、それら悲憤と鬱屈の日々から脱却し、解放される為の儀式であったとも言えようか。
ただ確実に言える事は、彼らは放蕩三昧を尽くす事によって、
自らの存在の不条理を僅かにでも赦す事が出来たのである。
例えそれが一時の気休めに過ぎなくとも、
運命を赦し、人生を赦し、過去を赦し、人を赦し、世界を赦す事が出来たのである。
あの一夏の狂騒の日々は、
まるで砂漠に揺らめく蜃気楼であったかのように、融けて、消えた。
取り合えず、今日はここまでです。
長い話ですいません。
「俺がいくさに出て手柄を稼いでくる。頸の一つでも獲れば暫くは暮らしていけるだろう。」
宿の手代からいくさの話を聞きつけてきた力丸が、
殆ど半裸のまま万年床に寝転び、一人双六遊びに興じていた彩女に告げた。
この双六盤、木製の既製品を購入する金が無かった為、
女主人から借りた安物の筆硯を用いて、
美濃紙に枡目を書き付けだけの、貧相な代物である。
サイコロは木片を小柄(小型のナイフ)で加工した、不恰好な六面体。
駒に至っては、何の変哲も無い小石を代用としていた。
何れも彩女に乞われて、力丸が即興で製作したものだ。
その力丸の目線の先には、
壁に立てかけたきり手入れもしていない護身用の打刀があった。
本来なら対となるべき脇差も存在していたのだが、
それは早々に売り払らわれ、宿賃に変えられてしまっている。
「頸が取れなくても幾ばくかの稼ぎは手に入る。
お前はここで待っていてくれ。適当に稼いだらすぐに戻る。…戻れたらだけどな。」
彼の投げやりな口調には「もうこのいくさで死んでしまっても良い」と言うような
虚無感と脱力感が大いに含まれていた。
それを敏感に感じ取った彩女は、
「馬鹿だね。」
そう言って気だるげに身を起した。
途端に肩に掛かっていた夜着の合わせがするりと崩れ落ち、
その拍子にまろび出た乳房が重そうに揺れた。
彼女はそれを隠そうともせず、布団の上に胡坐をかきながら
「あんたがそんなことする必要は無いんだよ。
あんたはもうずっとここで寝ていたって構いやしないんだ。
いざとなったらあたいが稼いであんたを食わせてやるからさ。
だから余計な心配は要らないよ。」
そう言って、脇の下をぽりぽりと掻き毟った。
ここに辿り着いてからというもの、
碌に身体を拭った事も無かった為、全身のあちこちが痒い。
彼女が胡坐をかいている万年床も、二人の汗や皮脂、
そして体液に塗れて不快な湿り気を帯びているが、
今となっては、互いにそれを気にもしないでいる。
「そんなこといいからあんたもここで横におなりよ。
あたしと双六して遊ぼ。」
手招きして双六遊びに誘ったものの、
力丸は浮かない顔をしたままただ突っ立っているだけで、誘いに乗ってこない。
「しかしもう銭が…。」
力丸は、彼が都合が悪くなった時に何時もそうするように、
眉間に皺を寄せ、不貞腐れた子供のように唇を尖らせた。
それを見た彩女は、少々苛立たしげな表情を浮かべた。
「銭の事なんかいいから、早くあたいと遊ぼ。」
今度はやや強い口調で力丸を呼び寄せたが、しかしそれでも彼は、
「そうは言っても、銭が無くなれば俺達はここから追い出されるぞ…。」
相変わらず立ち尽くしたまま、愚図愚図と俯いている。
彩女は呆れたように彼を一瞥すると、小さく溜息を付いて
「あんたもいい加減臆病だね。銭なんてすぐ稼げるんだよ。
あたいに任せておきな。」
彩女は簡単にそう言ったが、女が安易に金を稼ぐ手段はたった一つしかない。
力丸は彩女に客を取らせたくはなかった。
ただし、それは決して彼女の身を気遣った為ではない。
自らの連れの女に春を鬻がせたとあっては、後々如何なる風評を立てられるか
分かったものではない言う、身勝手な理由による物だ。
「いくさに出たほうが稼げる。お前こそこうして寝ていてくれていい。」
当時の戦争には、略奪目的で参戦してくる傭兵達が吐いて捨てるほどいた。
戦闘のさなか有徳人(資産家)の屋敷に押し入り、
労せずして大金を得た男の数も決して少なく無い。
しかし彩女もまた力丸をいくさに赴かせたくなかった。
「こっちのほうが安全だ。」
いくさは稼げるかもしれないが、常に死と隣り合わせである。
敵は勿論の事、味方ですら信用出来ない。
何を略奪したところで、
それを味方に奪われたついでに殺害される事など、日常茶飯事の世界なのだ。
「運良く大将頸でも獲れば、一生遊んで暮らせる。」
「そんなの無理さ。死んだらそれで終わりだよ。」
―別に今死んだ所で。
思わずそう吐き捨てかけて、力丸は沈黙した。
彼にとっての「死」とは、若干の甘い響きと誘惑を伴ったものであるのに対し、
一方の彩女にとってのそれはただ只管恐ろしく、忌むべき存在でしかない。
故に、その台詞を吐けば彩女が悲しむだろうと思い、あわてて言葉を呑み込んだのだ。
人間とも物の怪とも付かない今の生活に、悲しみは必要ない筈なのである。
「今夜あたり、稼いでくるよ。」
表には既に夕闇が迫っていた。
「ここには貧乏人しか住んで無いみたいだけどね…はは、なぁに、数をこなせば平気さ。」
この漁村に足を踏み入れた時に、痩せこけた身体の上に貧相な衣服を纏った
貧しい漁師を何人か見かけた。彼らを相手にすれば幾ばくかの金になるであろう。
例え彼らに金が無くとも、魚の一匹でも分けて貰えればそれで上等である。
この世の果てでは、彩女の美貌と肉体ですら魚一匹と同等の価値を持つものでしかなかった。
「あたいがちょっと本気を出してやればね、一刻で三、四人はちょろいもんさ。」
彩女は「そんなことは何でもないんだ。」とばかり一つ欠伸をして、再び双六に戻っていった。
それっきり、お互い後は沈黙である。
彼女はそのまま一人賽を振り、出た目の数だけ駒を進めている。
その日から、彩女は夕暮れ前になると宿を出、
客を求めて漁村を徘徊し始めた。
その間、力丸は特に為す事も無く、只管に孤独を弄ばねばならない。
床の上には、彩女が遊び尽くした双六道具が散乱しているが、
今更独り遊びに興じる気にもなれなかった。
彼は冷たい床板の上に仰臥したまま、天井の梁をぼんやりと見つめ、
時々思い出したように深い溜息を付く。
そして田舎の山賊を思わせる、むさ苦しい無精髭を無意識の内に捻りながら、
―俺の為した事は、やはり間違いだったのだろうか。
薄暗い部屋の中で独り、力丸は何度も自問自答を繰り返した。
―もし、俺がつまらぬ気を起さねば、
俺も彩女も平凡な人生を送る事が出来たのではなかろうか。
そう自問して、即座に否、と否定した。
―俺とあいつの人生に、平凡などと言うものはありえぬ。
どうせあのまま乱破として御屋形に飼われていても、
一生涯、身心を擦り減るまで扱き使われ、
野の獣のような生活を送るだけだ。
これで良かったのだ、と力丸は半ば無理矢理納得した。
過ぎ去った時間は決して戻らない。己の下した決断も、覆る事は無い。
今更になって、別の可能性に想いを馳せ、
また何を後悔した所で、全く無意味なのである。
―俺達はほんの一時でも、人として生きる事が出来たのだ。
あの日より後は、最早余生だ。
俺も彩女も既に人の世から隠遁し、余生を送っているのだ。
考えてみれば、この村ほど人間の住処から遠く離れた所はあるまい。
この地こそが、そうとも。この世の果てなのだ。
だとすれば、人の世を棄てた俺達がこの地に辿り着いたのも、偶然では無い。
「彩…。」
この頃になると、既に力丸と彩女との間には、
まともな会話など存在していなかったが、
それでもこれまで常に傍らに居た女がいざ不在となると、
途方も無い孤独感に苛まれるようになった。
「彩…まだ帰って来ないのか。今頃何をしている。
俺の知らない男を悦ばせているのか。」
力丸は、金銭と引き換えに、見ず知らずの男を前で
一糸纏わぬ姿となり、巧みな手練手管を駆使して奉仕に勤しむ
彩女の姿を想像した。
男が彩女の胎内に侵入すると、彼女は商売女の嬌声を上げて答え、
男が果てると、今度は頬を赤く染めて、
その具合の程を大げさな表現を用いて賞賛する。
力丸は何度も何度も寝返りを繰り返しながら、
彩女と男の戯れる場面を思い描き、その都度歯噛みをし、溜息を付いた。
―彩を抱きたいなぁ…。
不毛な妄想に耽る度、
胸を掻き毟られるような焦燥と供に、
猛烈に彩女の肉体を味わいたくなった。
彩女の肉厚の唇を吸い、乳房を頬張り、彼女の肉と言う肉を貪りつくし、
その精妙な手練手管に身を任せ、やがて一つとなり、
精根尽き果てるまで、迸りを注ぎ込みたいと胸を焦がした。
それにしても、ついこの間までは、我が欲望の一端を
ほんの一時受け止めるだけに過ぎなかった一個の肉塊に対して、
力丸は何故、今更になってこれ程までの執着を抱き始めたのか。
―若しかしたら、俺は彩に惚れていたのかも知れぬ。
彼は何ら躊躇うことなく、そう結論付けた。
―俺はあいつで女を知り、あいつは俺で男を知った。
あれから随分と戯れたものよ。それこそ数え切れぬほどにな。
彩の悦ばせ方を一番良く知っているのは俺であるし、
俺の悦ばせ方を一番良く知っているのは彩だ。
力丸の記憶の中にある彩女との思い出は、
少年時代、神社の軒下での日々を除けば、
実はそれ程存在していない。
二人が乱破者の里に引き渡されてからと言うもの、
お互い顔を合わせる機会と言うものがめっきりと減った。
しかしそれでも何とか暇や隙を見付けては逢瀬を重ね、
その度に情を交わした。
出会った当初は、力丸と殆ど大差無かった彩女の肉体が、
年を追う事に肉付きを増し、丸みを帯びてくる驚愕と感動は、
今尚、忘れる事が出来ない。
闇夜の竹林、太陽の照りつける河原、人家の密集する路地裏、
高台にある大岩の影、打ち棄てられた廃屋、
田畑の途切れた所にある土手、咽るような草いきれの漂う草叢…
その僅か四半刻にも満たない短い逢瀬の間、
彼らは会話をする時間さえ惜しんで、互いの肉体を求め合った。
いや、この二人に取っては、正に情交こそが、
会話そのものであったと言って良いだろう。
逢瀬の度に、力丸の肉体はより強靭に研ぎ澄まされ、
彩女の手練手管はより巧妙さを増していくのが、手に取るように分かった。
その事が二人の置かれている境遇を、何よりも雄弁に物語っていた。
それを最も正確に、かつ迅速に理解する最良の方法が、
会話ではなく、男女の営みだったのである。
二人は互いの肉体と快楽を通して、無事を確認し合い、近況を報告し、
時には戯言の一つでも述べたのだ。
そして、あの日を迎えた。
竹林で情を交えた後、
普段ならば彩女の前から早々に立ち去ろうとする力丸が、
何故かこの日に限っては、愚図愚図と留まっていた。
暫くして、悲壮な覚悟を宿した眼差しで、
彼は持参してきたズタ袋を開いた。
「彩。つまらぬ乱破仕事はもう止めだ。
それより欲しいものを言え。何でも買ってやる。」
彩女は早ければ夜半の内に、
遅くとも早暁までには宿に帰ってくる。
その際、幾ばくかの鐚銭を懐にしてくる時もあれば、
数匹の干し魚のみが報酬と言う事もあった。
力丸の待ち侘びている部屋に帰りつくと、
彼女は無言のまま手土産を彼に渡し、
後は寝床に倒れこむようにして、泥のように眠りに落ちる。
―彩を抱きたいなぁ…。
彩女の寝顔を横目で見る度に、力丸はそのように渇望した。
彼女が日銭を稼いでくるようになって以来、
力丸は例の日課を遠慮せざるを得なくなっている。
褥で寝息を立てている彩女は、何とも艶かしかった。
彼女が寝返りを打つ度に、素肌に纏わりついた薄い夜着が、
その肉感的な姿態をより強調するが如く、扇情的に乱れた。
その姿を目にすると、力丸はもう居ても立っても居られなくなり、
彼女の艶姿を肴に自慰に耽るのだ。
最初の内は、それで彼も身内の滾りを押さえる事が出来た。
しかし半月も過ぎると、それも虚しくなった。
今、力丸の目の前には、仕事に疲れ果て、
眠り込んでいる彩女の姿があった。
力丸は、音を立てぬように注意を払いながら、彼女の沈頭に寄り、
改めてその姿態を観察した。自慰の肴にする為である。
力丸の眼下では、彩女の呼吸に合わせ、夜着の下に収められた、
豊かに盛り上がった彼女の二つの肉が、規則正しく上下していた。
彼は彩女が目を覚まさないように気を付けながら、
小袖の袷から、するりと手を差し入れてみた。
―相変わらず、良い肉(しし)付きをしている。
これだけは、京女でも敵うまい。
堪えきれずに、袷を開いてみる。
その直後、
「う…ううん…。」
彩女の口から吐息が漏れ出した。
はっ、と力丸の動きが止まった。
しかし、目を覚ましたわけではなさそうである。
彼女は何事も無かったかのように、
再び小さな寝息を立て始め、力丸はほっと胸を撫で下ろした。
彩女を起こさぬように、静かに袷を開いていくと、
やがて彼女の豊かな乳房が露になった。
白磁の柔肌に透かされて、青い血管が幾本も浮き出ている。
その二つの肉は重力に従って、胸板の上に椀を伏せたように、丸く拉げていた。
力丸は、彩女の左右の乳房を交互に揉みしだき、
その柔らかな感触を愉しんだ。
それに飽きると、今度は乳首を指の腹で優しく撫でてやる。
すると、陥没していた乳頭が、見る見るうちに固くしこり立って来た。
同時に、力丸の欲情も滾って来る。
彼は左手で乳房を弄びながら、
右手で褌の脇から屹立を取り出し、自慰に耽り始めた。
―あの時のガリガリの小娘が、
このような円やかな乳房を持つ女になるとはな。
時の流れとは、何とも不思議なものよ。
乳首を咥えようと、力丸が顔を近づけた瞬間、
明らかに彩女の体臭とは異なった、据えた汗の臭いが彼の鼻腔の奥を付いた。
あっ、と力丸が思わず息を止めた。
思えば、彩女はほんの半刻ほど前まで、男と戯むれていたのである。
彼女に染み付いていた不快臭は、
力丸に改めて、連れの女の営む生々しい生業を思い起こさせた。
―そうだ。この女は、俺の知らぬ行き擦りの男供に身体を開いて
銭を得て来たのだった。
そう思った瞬間、焼け付くような嫉妬と供に、
得体の知れない性的興奮が鎌首を擡げてくるのを、
彼は抑える事が出来なかった。
―.一体、どのように男達と戯れたのか。
何時も俺にするようにか。それとも、また違った方法でか。
彩女が見ず知らずの男達に献身的な奉仕を施し、
また彼らの思うまま身体を弄ばれた事を想像するにつれ、
見慣れたはずの彼女の肉体が、
また新たな魅力を放ち始めたような気がした。
堪えきれず、力丸は一物の先端を、彩女の唇にぬっ、と押し当てた。
途端、彼女の声を聞いた。
「あんた何だい、いきなり…。
今はそんなモノ見たくないよ…。」
眠りに付いていたとばかり思っていた彩女が、薄く目を見開いた。
「あ、彩…寝ていたのではないのか…。」
狼狽した力丸は、掠れた声を出した。
実に滑稽な光景であった。
仰向けに寝ている女の口許に、
褌から一物を取り出した男が、その先端を突きつけている。
大きく一つ溜息をついた彩女は、あからさまな嫌悪の表情を浮かべ
「…後でにしておくれよ。あたいは眠いんだ…。」
頸を大きく左右に振って男の要求を拒絶した。
しかし、力丸の方としても、このまますごすごと
引き下がる事が出来るような状況ではなかった。
間抜けな行為を見咎められた以上、最早意地でも彩女を犯さなければ、
男の沽券に関わる事になる。
それに加え、彼の昂ぶりは、既に抑制が効かぬ所まで上り詰めていた。
「いや、今してくれ。」
力丸は彩女の後ろ髪を鷲掴みにし、
今度は無理矢理口内へと割って入ろうとした。
「ちょっ…嫌だ…嫌だったら…!」
「いいから口を開けろ。舌を出せ。」
「嫌だ…!お放しよ…!この乱暴者…!」
「いいだろう。直ぐに済む。直ぐだ。
だから俺の言う事を聞け。」
力丸は、普段から寡黙で、己の感情を露にする事も少ない男であるが、
しかしだからと言って、温厚で理性的な人間と言うわけでは、決して無い。
寧ろ、胸の内に秘めた鬱屈した情熱の赴くまま、
突発的な行動に出易い人柄を有していた。
立腹した力丸は、彩女の腰に申し訳程度に結わえ付けてあった腰帯を振り解き、
力任せに夜着を剥ぎ取った。
抵抗も虚しく彩女は全裸に剥かれ、
湿った布団の上に転がされる格好となった。
彩女は露となった肌を隠す事も無く、
憤懣と侮蔑の込もった眼差しで、力丸を刺した。
「…じゃあ、銭をお出し、銭を。
そうしたら、あんたの相手をしてやるから。」
「何?何だと?」
「銭だよ。銭。聞こえなかったのかい?」
彩女は吐き棄てるようにそう言うと、
力丸に向って、無造作に右の掌を突き出した。
「お前…俺から銭を取ろうと言うのか。」
「当たり前だろ。あたいはタダじゃ無いんだ。
あたいと交わいたいなら、銭をお出し。」
「…おい、つまらぬ戯れをぬかすな。」
「戯れ?そんな訳無いだろ。あたいは本気だよ。
あたいと交わいたかったら、銭と交換だ。
そうじゃなきゃ、させないよ。」
「馬鹿を言うな。いいから俺の相手をしろ。」
力丸は彩女が自分を嬲っているのだと思い、一度は立腹した。
しかしどうにか怒りを圧し留め、
「…なあ、いいだろう。少しぐらい。
俺はもう何日もお前を抱いていないのだ。
お前が恋しくて溜まらぬ。お前ほど慶い女子は居らぬ。」
まるで駄々っ子を宥めるかのような穏やかな口調で、
彩女を説得しようと試みた。
しかし、彩女は頸を左右に振って、拒絶の意を露にする。
「い、や、だ。今更優しい言葉を掛けたって駄目だよ。
この皮被りの甲斐性無しめ。全く、調子が良いったらありゃしない。」
力丸の褌の前袋の脇からは、
半分ほど包皮に覆われた屹立が、天を向いてそそり立っていた。
「うんと時間を掛けて可愛がってやる。
腕に選りを掛けて、良い思いをさせてやる。
それなら良いだろう。」
「外で十分に可愛がってもらったから、これ以上は結構さ。」
「そのようなつれない事を言うな。
哀しくなるだろう。…なあ、彩。なあ。」
そう言いながら、力丸が彩女の股間に手を伸ばした矢先、
「だから嫌だって言ってるだろ…!
あたいを抱きたいなら、銭を出せ、銭を…!」
投げ付けるかのような言葉と供に、彩女に手首を取られ、間接を捻られた。
力丸は「あっ」と言う間に、身体を半回転させて床の上に転倒した。
一瞬の空白の後、彼の目に映ったものは、いつもの煤けた梁であった。
その瞬間、彼は我が身に起こった事態を悟った。
「ふざけるな!」
力丸は咄嗟に身を起こすと、雷火の如く喚いた。
「何をするか!!俺が下手に出ていると思って、甘く見おって!!」
彩女も負けてはいない。
「はは、甘く見ているわけじゃあないよ。
だから銭をお出しって言ってるだろ。
銭さえ出してくれりゃあ、幾らでも抱かせてやるから。」
彼女には、並みの男には後れを取らない程度の腕がある。
先程見せた体術もその一端である。
最も、それが手練の力丸相手に、どれ程通用するかは彼女にも定かではない。
しかし力丸が幾ら激昂した所で、幼馴染の女相手に、
手を上げるような人間でない事ぐらいは、彼女も熟知していた。
そう言う意味においては、やはり彩女は連れの男を甘く見ていたと言って良い。
「ほぅら、早く銭をお出しよ。
銭さえ出せばさ、あたいを好きに出来るんだよ。」
彩女は自らの乳房を大げさに揺すって、力丸を挑発して見せた。
「ほら、銭だよ、銭。あたいを抱きたいんだろ。
だったら銭をお出し。銭を。はは、今のあんたに出せるもんならね。
この乱破崩れの甲斐性無しめ。」
力丸の顔面が、一瞬にして蒼白となった。
一時期は、黄金二十一枚、銀三十六枚と言う財力を誇っていた彼も、
今となっては一文無しの無宿人でしかない。
彼も彩女も、所詮は出来星(成り上がり)の長者、
一皮剥いてみれば、財産を貯蓄する方法も、管理運用に当てる方法も知らず、
只管に浪費するしか能の無い、根無し草の七道の者に過ぎなかったのだ。
「もう良いわ!!」
怒りに任せて、大喝していた。
「誰がお前のような売女と交わうか!!」
激怒した力丸は、彩女の夜着をくしゃくしゃに丸めてその場に叩き付け、
それを拾い上げては再び叩き付けると言う行為を、二度三度繰り返した。
その余りにも子供染みた男の態度を見るに付け、
彩女は大いに呆れると供に、失笑を禁じえなかった。
いや、それは嘲笑と言っても差し支えないだろう。
しかし彼女のその態度が、力丸の怒りに更なる火を付けた。
彼は床に落ち夜着を拾い上げると、何を思ったか、
今度は部屋の隅で埃を被っている彩女の小袖も引っ手繰るように手に取った。
丸めた夜着の上に、更に小袖を覆い被せるようにして強く押し固め、
最後に腰帯を縛り付けて固定すると、丁度、
着物を用いて作られた鞠のようなものが出来上がった。
「…一体何の真似だい。」
彩女は連れの男の奇行を、相変わらず嘲笑うかのような眼差しで眺めている。
返答を返す代わりに、力丸はこれまで硬く閉ざされていた鎧戸をがらりと開け放った。
ぶ厚い暗雲を透過した滲んだ光が、室内の一角にするすると差し込んできた。
「この売女め。」
まるで唾棄するかの如く、一言毒づいた力丸は、
今度は床に転がっていた火打石を手にした。
これは煙管煙草に点火する為に、二人が用いているものである。
石は大分磨り減っており、角が丸く取れていた。
力丸は「俺を甘く見るな。」
言うや否や、石を二、三強く打ち付け合って、事もあろうに
その着物の鞠へと火を付けたではないか。
石火は麻を用いて作られた小袖に引火し、瞬く間に燃え広がった。
「な、何をするんだい…!」
これには、流石の彩女も仰天した。
彼女は慌てて身を起こしたが、しかし力丸はそれよりも早く、
火の付いた鞠を、今度はぽおんと表に向って力一杯投げ捨てていた。
鞠は庭先を五間も向こうに飛び、乾いた地面に転がった後、
めらめらと本格的に燃え始めた。
「あっ!あたいのべべが!」
彩女が絶叫した。
何しろ彼女の着物と言えば、普段着代わりに着用してる薄汚れた夜着か、
そうでなければ旅装束でもあるあの小袖ぐらいしかない。
その二着の着物が燃えてしまえば、彼女はもう着衣が無くなってしまう。
「畜生め!」
一言喚いた彩女は、脱兎の如く飛び上がると、
裸のまま慌てて表に飛び出そうとした。
しかし庭先まで後一歩と言う所で、力丸に押さえ込まれてしまった。
彩女は遮二無二暴れた。
「放せ!放せったら!」
「俺の相手をしたら放してやる!」
力丸の膂力は強靭である。
武芸の経験があるとは言え、
女の力では易々と太刀打ち出来るものではない。
「糞っ!放せっ!放せっ!」
「いいや、放さぬ!俺の相手をしなかった罰だ!」
力丸は、剥き出しとなった彩女の乳房を力任せに握り潰した。
彩女が悲鳴を上げた。
「痛い!止めろ!何が罰だっ!畜生!放せよっ!糞っ!」
「この身体で、一体何人の男の相手をして来たのだ!」
力丸の指が、彩女の中心部分に侵入してきた。
「彩!言ってみろ!ここで何人の男を愉しませてきたのだ!
…糞っ!この売女め!それなのに何故俺の相手が出来ぬ!」
「五月蝿いっ!このろくでなし!誰があんたの相手なんかするか!」
彼女は無意識の内に、力丸の二の腕に噛み付いた。
今度悲鳴を上げるのは、力丸の番である。
彩女を捕えていた彼の膂力が、僅かに緩んだ。
彩女はその隙を見逃さなかった。
生来の俊敏さで、彼女はするりと力丸の脇を抜けると、
次の瞬間には驚異的な跳躍力を発揮し、
殆ど一足飛びで表に飛び出していた。
そのまま庭を数歩駆け出すと、背中で鎧戸が閉じられる音を聞いた。
あっ、と思った時にはもう遅かった。
鎧戸は完全に封印され、内側から用心棒も掛けられている。
一瞬、彩女は目の前が真っ暗になるような感覚に襲われたが、
―そ、それよりあたいのべべ…!
刹那、思い直して頼みの綱の鞠に目をやった。しかしちらも時既に遅し。
彩女のたった二着の着物は敢無く黒く焼け焦げ、
最早着衣に耐え得る物ではなくなっていた。
これでは、拾い上げた所で、何の役にも立つまい。
哀れ、彩女は一糸纏わぬ姿のまま、
寒風の吹き荒ぶ中を為す術も無く、途方に暮れている。
表から回って、宿の玄関から屋内に入ろうかとも思ったが、止めた。
玄関で、手代と旅人らしい髭面の牢人風の男が、
何やら雑談を交わしていた為だ。
彩女は宿の壁角にへばり付いて、恐る恐る聞き耳を立てた。
どうやら彼らは、奇妙な男女の宿泊客の事柄、
つまり力丸と彩女に付いてのあらぬ噂を話し合っているらしい。
手代は、男女の人相から、その奇矯な生活態度、
そして彩女の密やかな生業に至るまでを、
虚実を取り混ぜながら語り、まるでお調子者の道化師宜しく、
牢人風を笑わせている。
彩女は赤面し、慌てて身を翻した。
こうなっては是非も無かった。
まことに口惜しいが、力丸の情けにすがるより他、術が無いようである。
彼女は乳房を左腕で覆い隠しながら、先程の板戸の前まで来ると、
「開けておくれ…!開けておくれったら…!
このままじゃ、寒くて風邪を引いちまうよ…!」
周囲の者に気付かれぬ様、押し殺した声で我が身の窮状を訴えた。
しかし力丸からの返事は無い。
「ねえ…!ねえったら…!お願いだよ…!」
彩女の口調に懇願の色が浮かび始めた。
彼女が放り出された場所は、宿の西側に広がる荒地で、
五間と離れていない前方南側には、
漁師が頻繁が往来する小道が走っている。
しかも周囲には目ぼしい樹木も存在せず、人家も疎らで、
彼女が身を隠すべき場所は何処にも存在しない。
「ねえ…!ねえ…!あたいが悪かったよ…!謝るよ…!だから…」
言いかけて、彩女ははっと顔を上げた。
小道の先から、数人の漁師がこちらにやってくるのが見えたのだ。
今日の仕事を終え、海辺から帰ってきたのだろう。
この宿から小道を挟んだ向かい側には、
この村にたった一軒存在する、寂れた居酒屋が建っていた。
彼らはそこに向かっているらしい。
「ねえ…!ねえ…!人が来た…!見られちまう…!
早く開けとくれ…!後生だよ…!
あんたの相手する…!相手してやるから…!」
狼狽した彩女が戸板をどんどんと叩くと、
中の力丸から非情な返答が帰ってきた。
「そいつは丁度良いではないか。
では早速その男供の伽の相手をして、銭を稼いで来たらどうだ。」
お前は銭が欲しいのだろうが。」
見る見るうちに彩女の顔面が青ざめた。
しかし次の瞬間、蒼白となった顔面は、一転、突如として烈火に燃え上がった。
「この阿呆!!」
手負いの野犬の如き大喝であった。
「畜生!あたいを馬鹿にするな!この人でなし!人非人!」
喚けば喚くほど、内奥から怒涛のように怒りが沸き上がってきた。
彼女は、最早恥も外聞も捨て去り、
乳房を振り乱し、陰部を曝け出しながら、金切り声の続く限り、
戸板を拳で殴り付け、足で蹴り付けた。
「糞っ!開けろ!開けろ!この碌で無しの甲斐性無し!
あたいが一体何をしたって言うんだ!何をしたって言うんだ!
ええ!?言ってみろ!言ってみろってんだ!このトウヘンボク!」
形振りも構わぬ彩女の狂態に、道行く漁師の男達も気が付いたようだ。
彼らは道の中央でぴたりと立ち止まると、
互いに顔を見合わせ、暫く何事かを囁き合っていたが、
その内の一人が恐る恐る彩女に声を掛けてきた。
「な、何をしているのだ…この寒い中、そんな格好で…。」
「五月蝿いっ!文句があるか!あっちへ行け!消え失せろ!」
彩女は裸体を隠す事も無く、仁王立ちで男達を一喝した。
仰天した彼らは、その場で身をぴしりと凍りつかせた。
しかし、やがて彩女に命じられた通り、
すごすごと遁げるようにその場から退散していった。
恐らく狂女の類とでも思ったのだろう。
そして、この時に退散したのは、何も漁師達だけではなかった。
彩女は気付いていなかったのだが、
密かに彼女の狂態を伺っていた手代と牢人風の男も、
その余りの迫力に恐れ戦いて、慌てて何処かに身を隠していた。
彩女の狂乱は更に激しさを増した。
「畜生!畜生!あんたのせいだ!全部あんたのせいだ!
あんたがあたいを誑かさなければ、
きっと今頃あたいは何処かにお嫁に行っていたんだ!
それなのに畜生!何が金平糖だ!糞喰らえ!
帷子も櫛も簪も、みんなみんな糞喰らえ!
畜生!畜生!あんたなんか死んじまえ!」
知らぬ間に、彼女の頬に涙が伝っていた。
やがて力丸を罵倒する気力も、戸を叩く力も消え失せ、
何時しか彼女はその場にぺたりとへたり込んで、
わんわんと大声で泣き始めた。
無論、その様子は屋内の力丸にも伝わっていた。
彼は大いに困惑した。
本人にしてみれば、悪辣であったとは言え、
腹立ち紛れの悪戯の延長線上のつもりだったのだが、
それでまさかあの気丈な彩女が泣くとは思わなかったのである。
狼狽した力丸が、慌てて鎧戸を開放すると、
彩女は裸体のまま、庭先に蹲って泣いていた。
寒さによるものなのか、あるいは屈辱によるものなのかは分からぬが
彼女の白い背中は細かく震えている。
掛ける言葉が見付からなかった。
またその余裕も無かった。
彩女は力丸と目を合わせようとも、言葉を発しようともせず、
力丸の脇をすり抜けて、屋内へと上がった。
そのまま足を引き摺るようにして褥まで歩み寄ると、
どさりとうつ伏せに倒れこんだ。
力丸は、別段彩女に謝罪するわけでも無く、
優しい言葉の一つでも掛ける事わけでも無く、
不貞腐れたような表情でその場に佇んでいた。
庭先から吹き付けてくる寒風が、
まるで彼を責め立てるかの様に、その肌を刺して行った。
その責め苦に耐え兼ねた力丸は、徐に鎧戸を閉め、何事かを呟いた。
彼の言葉は、余りにも声量が乏しかった為、
彩女には聞き取る事が出来なかったが、
少なくともそれは、彼女に対する謝罪の言葉で無かった事は確かである。
そしてその力丸はさっと身を翻すと、
北側の壁に背を預けて、どかりと座り込んでしまった。
それから半刻余りの時が流れた。
若しかしたら、一刻以上の時が流れていたのかも知れない。
いや、実際にはほんの僅かの時間の経過であったのかも知れないが、
少なくとも針の筵に座している力丸にはそう感じた。
時折、彩女にチラリと視線を送ってみるものの、
彼女は褥の上にうつ伏せに横たわったまま、身動ぎ一つしない。
―彩が、俺を嬲るからだ。
彼は、彩女の形の良い尻を横目で見ながら、思った。
―彩がつまらぬ事を言わなければ、
今頃俺は、お前を懇ろに可愛がってやっていたのに。
「俺が悪かった。」とは言えなかった。
これが赤の他人であったのなら、
力丸はあっさりと謝意を表明していたであろうが、
相手が竹馬の女であった事が災いして、
素直に頭(こうべ)を垂れる事が、返って躊躇われたのである。
その代わりに、卑劣な責任転嫁を繰り返す事で、
良心の呵責を押さえ込もうとしたが、
やがてそれも我が身を虚しくさせるだけだと言う事を悟った。
兎に角、この寒空の下、
何時までも彩女を裸体のままにしておく訳にもいかなかった。
取り敢えずの詫びの印として、何か彼女に着せる物を入手してくる必要がある。
―仕方が無い。何か着る物を買って来てやらなければ。
力丸は、冬眠から目覚めたばかりの熊のように、
緩慢な動作でのっそり立ち上がると、無言のまま居室を後にし、
そのまま玄関を通って、宿の敷地内から一歩、外に踏み出した。
表に出ると、海から吹き付けて来る冷たい潮風が骨身に凍みた。
空に、何かちらちらと灰のようなものが舞っている。
雪であった。力丸は思わず身を震わせ、白い息を一つ、吐き出した。
どうやら本格的な冬の到来も間近に迫っているようである。
小道の向こうに目をやると、
この寒空の下、ボロボロの小袖を纏った乞食が一人、
施しを求めて右往左往している姿が見えた。
歩みに力が無い。今にも倒れそうである。
―あの乞食は、この冬を越えられないだろう。
自らの少年時代を思い起こした力丸は、
何とも遣る瀬無い気持ちになった。
そっと、懐を握り締めてみる。
そこには組み紐に通された僅かばかりの一文銭があった。
彩女が自らの女を売って稼ぎ出してきた金銭を、持ち出してきたのである。
力丸は最初、このうちの幾枚かを乞食にくれてやろうと思った。
しかし、声を掛ける段になって、何故か言葉が出なかった。
理由は、彼自身にも良くわからない。
ただ、あの憐れな乞食の姿に、自身の背負った宿業を重ね合わせて見るうちに、
不覚にも足が竦んでしまったのである。
愚図愚図戸惑っている内に、何時の間にか、乞食は力丸の視界から消えていた。
力丸は乞食を探そうかと迷ったが、しかし彩女の事もある。
仕方無く、彼は当初の目的を果す為、刈萱に縁取られた道を行った。
道中、見かけた村民に示された通りに歩いてゆくと、
村にたった一軒だけ存在する、雑貨屋を兼ねた古着屋に辿り着いた。
そこで女物の古小袖を買った。
継ぎ接ぎだらけの、安物である。
その帰路、力丸は先程の乞食を無意識の内に探してみたが、
しかし、乞食は彼の前に姿を現さなかった。
その代わりに、道端で一人の痩せた雲水が、
刈萱を踏みしめ、錫杖に凭れ掛かかるようにして、
経文を唱えている姿が目に飛び込んで来た。
この雲水、行きの道程には居なかった。
力丸が古着屋に入った後に、ここにやってきたのだろう。
力丸は雲水を無視してその前を通り過ぎようとしたが、
その瞬間、雲水は疲労と懇願の籠った視線を力丸に投げかけ、
経文の声量を一段上げた。
―糞…。
内心舌打ちをしつつも、力丸はその場に立ち止まった。
そして懐から渋々例の一文銭を束ねた組み紐を取り出し、
その中から一枚だけを取って、頸から掛けている鉢に入れてやろうとした。
先程の乞食の代わりのつもりであった。
しかし雲水は、それを鉢ではなく直接掌で受け取った。
分厚く、肉刺の跡だらけの無骨な手であった。
力丸から喜捨を受け取った雲水は、小さく会釈し、
彼の温情に対する感謝の意を示した。
しかしその途端、声量が元の調子に戻る。
そんな彼の態度に立腹したのだろうか。
力丸は雲水を振り返ろうともせずに、
白い息を吐き出すと、暗雲に覆われた天を仰いだ。
彩女が待っている。
彼は、足を速めた。
今日はここまでです。ではまた次回。
久しぶりに覗いたらぽぽ様が!
早く続きが楽しみです!!
自分も今度投下するでよ。
彩女たんハァハァ
力丸が彩女の元へと帰り着くと、彼女はまだ布団の上に伏せっていた。
「…彩。べべを買ってきたぞ。」
ぶっきらぼうにそう言うと、
力丸はなだらかな曲線を描いて隆起している彩女の背中に
今し方購入してきたばかり古小袖をそっと掛けてやった。
彩女からの返事は無かった。
しかし、既に涙は乾いているようだ。嗚咽が漏れていると言う事も無い。
力丸は若干安堵し、彼女の枕頭にどっかと胡坐をかいた。
往復で四半里ほどの道を歩いただけに過ぎないというのに、
何だか酷く疲れているように思えた。
その原因の一つには、日頃の運動不足が挙げられるだろう。
この宿において、力丸が為す運動行為といえば、
一日二回、彩女を無造作に抱く事だけであったのだから。
しかし、それだけでは無い。原因は、更にもう一つ存在した。
こちらのほうが問題である。
力丸は迷っていた。これを言おうか言うまいか、暫し葛藤に苛まれた。
しかし、言わねばならなかった。ここから先の事は、彼の義務である。
乾いた雑巾を絞り切るが如く、
力丸は心底に押し込められていた勇気を奮い起こし、
「…彩。話しがある。」
漸くそれだけの言葉を吐き出した。
彩女の反応は無かった。
彼はそれにも構わずに、話を続けた。
「お前、俺の嫁になれ。」
力丸の話は常に単刀直入である。彼は美辞麗句の類を一切知らない。
まず結論から先に述べ、気が向けばその結論に至った理由を述べる。
しかし、その力丸の結論は、彩女の想像を遥かに凌駕したものであった。
沈黙から一転、彼女は伏せていた顔をがばりと上げ、連れの男の面を仰いだ。
あからさまな疑念の眼差しを、力丸に突き刺している。
「お前を俺の嫁にしてやる。」
力丸は臆する事無く、再度、同じ事を言った。
最早彩女の表情に、憤怒の様は見られなかった。
力丸の非道に対する憤懣を露にする以上に、
彼の唐突な言葉は、彼女を驚愕させていたのである。
「…どうして…突然そんな事を…。」
力丸は彩女の声を久しぶりに聞いたような気がした。
彼は、「ああ、それはだな。」と暫く考える素振りを見せた後、
「…表を歩いていたら、ふと、昔の約束を思い出してな。それでだ。」
まるで独り言を呟くかのように、抑揚の無い声でその理由を告げた。
「約束…?」
最初、彩女は不審を露にし、続いて困惑したが、
やがて記憶の奥底で眠っていた力丸と約束事を掘り起こすと、
「ああ、あれか。」と頷いた。
「子供の頃の約束だろ?社の軒下に居た頃の…。」
「ああ。そうだ。蝉の子のように暮していた頃のな。」
「…でも…何故、突然そんな事を…。」
彩女が怪訝そうな視線を向けるのも無理は無い。
何しろこの約束は、彼女ですら殆ど忘れかけていたものなのだ。
おまけにこの直後に、村人から苛烈な暴行を受けたと言う事もあり、
彼女は意識的にこの記憶を封印していた。
力丸がからりと答えた。
「今言った通りだ。表を歩いていたら、突然お前との約束を思い出したのだ。
そうしたら、今にでもその約束を叶えぬと、何とも気分が悪くなった。」
それを聞いた彩女は、
―何ともおかしな男だ。
と眉を顰めたが、同時に、
―いや、若しかしたら、これがこの男なりの和睦の方法なのかもしれない。
とも推測した。
力丸の無粋と不器用は、これまでにもしばしば彩女を呆れさせたが、
こと、今日の彼の突拍子も無い言動は、それに輪を掛けて酷いものであった。
だからこそ、彩女は思わず笑ってしまった。
「あっははははは…あたいが?甲斐性無しのあんたのお嫁に?」
「ああ、そう言う約束だったからな。」
「あっははははは…今更そんな子供染みた事を。」
「そうかもしれぬ。だが、約束は約束だ。お前との約束は、守らねばな。」
薄暗い部屋の中に、憐れな程透き通った瞳が一つ、
まるで蛍火のように浮かび上がった。
彩女の面から笑いが消えた。双方供に、押し黙る。
「…いや、でもさ。」
沈黙を嫌った彩女は、何とか会話を続けようと言葉を捜した。
「…でもさ、あたいが、嫌だって言ったらどうするんだい?」
力丸のたった一つの眼球に、彩女の裸体が寸分違わずに映し出されている。
彼女はその鏡に映る我が身を覗き込みながら言った。
「それは、困るな。」
鏡から、ふと、彩女の姿が消えた。
力丸が、哀しげに目を伏せたのである。
「…困るかい?」
「ああ、困る。それでは、約束を守ってやる事が出来ぬ。」
彩女は一瞬、この男は馬鹿なのではないかと思った。
先程の非道を詫びる事もせずに、
突然、少年時代の「約束」云々を持ち出してきたのである。
和睦を図りたいのであれば、一言詫びればそれで済むはずなのだ。
それで彩女は力丸を赦す。
彼女には、この朴念仁の意図が全く読めなかった。
「…どうしようかね。
だって、あんた、あたいにあんなに酷い事をするんだもの。」
「もうこれからは二度とはせぬ。本当だ。」
「本当かい?」
「ああ、本当だ。二度とはせぬ。約束する。
嘘ではないぞ。二度とはせぬ。本当だ。」
力丸は怒ったような口調で、同じ言葉を繰り返し述べた。
ふむ、と彩女は閉口した。
或いはこれは、彼一流の諧謔か何かなのではとも疑った。
しかしこの無愛想な朴念仁に、そのような高度な芸当が出来る筈も無い。
その証拠に、力丸は相変わらず、
沈痛な面持ちで床板を睨みつけているだけである。
やがて、彼は溜息と供に呟いた。
「…やはり駄目かね。俺では。」
自嘲の為か、或いは諦念の為か、
そうでなければ彩女の同情を引く為かはわからぬが
力丸の仏頂面には、幽かな微笑が差していた。
それを目にした瞬間、彩女は思わず泣きたくなった。
この男が心底邪悪な人間で無い事は、
何より彼女が一番良く知っている。
親も無く、身分も無く、金も無く、
縁も、学問も、将来も無い七道の力丸がただ一つ、
彩女に対して捧げる事が出来るものといえば、
これまでも、そしてこれからも「約束」の名を借りた、
憐れな優しさ以外には無かったのだから。
―恐らく、これは今し方の非道に対する、
この男なりの不器用な詫びのつもりなのであろう。
彩女はそう確信した。
このような辺境に落ち延びて尚、
少年時代の約束とやらを引っ張り出すしか術の無い力丸が、
何とも滑稽で、気の毒に思えた。
彩女は、力丸を赦そうと思った。
そしてその方法は、たった一つしかない。
彼女は、力丸が購入して来た古小袖の袖に両腕を通すと、
帯をきっちりと締めこんだ。
「…あんた、そんなにあたいをお嫁にしたいのかい。」
「ああ、そう言う約束だからな。」
「ふうん…でももう二度とあんな事をしないって、誓えるかい?」
「ああ、誓うとも。」
「今度同じ事をしたら、その時は離縁だよ。」
「ああ、わかった。」
「本当にわかったのかい?」
「ああ、本当にわかった。」
彩女は呆れたように笑った。
「…じゃあ、あんたの好きにおし。」
「では、俺の嫁になっても良いか。」
「ああ、いいよ。」
「…そうか。すまぬな。これで俺の肩の荷も降りたわ。」
薄暗い部屋の中に、力丸の白い歯が浮かんで消えた。
何とも奇妙なやり取りである。
この奇妙なやり取りを経て、二人は夫婦となった。
「では、夫婦となった暁に、身でも清めようか。」と力丸が言い出した。
これまでの怠惰な生活を象徴するかのように
二人の体には、垢や皮脂がこびり付き、不快な異臭を漂わせている。
「折角の晴れの日に、このような有様では、余りに格好が付かぬからな。」
試しに力丸が腕を軽く擦ってみると、浮き上がった垢がぽろぽろと剥落した。
彩女が「それはいいね。」と賛同すると、力丸は
「湯を持ってくるから、待っていろ。」
と言い残し、手代の元へと向った。
暫くして、力丸は手代に沸かせた湯を盥に入れて、帰ってきた。
二人は早速着物を脱ぎ捨てて全裸になると、
手拭を湯の中に浸して互いの身体を拭きあった。
「おや、少し肥えたんじゃないのかい?」
力丸の胸に手拭を当てた彩女が、彼の腹回りの肉を軽く摘んだ。
痩せぎすで筋肉質だった彼の身体は、確かに少々の脂肪によって覆われている。
しかしそれも当然であろう。
お互い朝っぱらから酒をかっ喰らい、
ろくな運動もせず惰眠を貪っていたのだから。
「お前も人の事は言えないだろう。」
力丸がお返しとばかり彩女の乳房に触れた。
「馬鹿!助平!そっちじゃないだろ!」
笑いながら力丸の胸を一つ張った。
「では、こっちか。」今度触れたのは彼女の尻だ。
「こら…!こら…!お止め!」
力丸はきゃあきゃあ喚いて悪餓鬼から逃れようとする。
しかし彼女も負けてはいない。今度はこちらが反撃する番だ。
「あんたのこれを中までよーく綺麗にしてやる。」
思わせぶりな台詞を吐いて、彩女が力丸の中心部に手を伸ばし始めた。
それを寸でで交わした力丸がさらに反撃に転じ、
今度は彩女の中心に触れようと手を伸ばすが、
やはり彼女もひらりと身体を捻ってそれを赦さない。
「こら、大人しくしてな。あたいが綺麗にしてやるって言ってるだろ。」
「ここは自分でやるからいい。お前こそ大人しくしていろ。」
「生意気な事を言う子だね。それなら無理矢理にでも綺麗にしてやる。」
「やれるものならやってみろ。」
「言ったね。じゃあお望み通りそうしてやる。」
一糸纏わぬ姿の男女は、狭い部屋の中でお互いを追い掛け回し、
身体に触れあっては笑い、盥のお湯を掬って引っ掛けては騒ぎ立て、
それはもう幼いあの日に帰ったかのように戯れた。
―これは一体何の騒ぎだ。
突如として沸き起こった喧騒の真相を突き止めようと、
例の手代が忍び足でやってきた。
部屋の手前まで来た彼の耳に、
「こら!馬鹿!お止め!」と言う女の声が飛び込んで来た。
次に「後ろは壁だ。もう逃げられぬぞ。」と言う男の声が聞こえてくる。
そうかと思うと今度は「この皮被りめ!あたしが全部引っぺがしてやる!」と女が喚き、
男の「く、来るな!」と言う慌てふためく声がする。
―何だ…何をやっているのだ…?
手代は恐れた。この男女が殺し合いでも演じているのかと思ったためだ。
しかしそれにしては様子がおかしい。
時折女の甘ったるい嬌声や、男が愉しそうに笑う声まで聞こえてくる。
殺し合いをしている人間の発する声ではない。
手代は逡巡したが、万が一修羅場などが展開されていた場合の事を考えて、
悪いとは思いつつも無断で部屋の障子を少し開け、中の様子を覗き見た。
―何だこの有様は。この客は物狂いか。
彼にはそうとしか思えなかった。
前から奇矯な客であるとは思っていたが、ここに来てそれが確信に変わった。
何しろいい歳をした男女が、こともあろうに真っ裸になって、
狭い部屋の中で鬼ごっこに興じ、互いの秘所に手を伸ばしあい、
自分がやった盥の湯をぶちまけて騒いでいるのだ。
だが当の男女は、すぐ表で呆然としている手代にも
気が付いていないようである。
女は上半身の肉を、男は下半身の突起を大いに揺らしながら、
相変わらず子供のようにはしゃぎ回り、馬鹿のようにふざけあっている。
暫くすると体中びしょ濡れになった二人が、
部屋の真ん中で突然「ひし」と抱き合った。
これ以上無いくらいに強く胸を密着させ、
後ろに回された掌で互いの背中や尻を撫で回しながら
耳元で何かを囁きあっている。
「手代に見られているぞ。」
「知ってるよ。」
「いいのか?見られても。」
「別に減るもんじゃ無し、構いやしないよ。」
「俺はちょっと嫌だな。」
「皮被りぐらいどうってこたないだろ。」
「いや、そうじゃなくてお前のほうだ。」
「はは、あんた若しかして妬いているのかい?」
「馬鹿。そう言う訳じゃなくて…。」
「そうなんだろ。正直にお言い。」」
「…違う。男の俺は見られてもいいが、女のお前が困ると思っただけで…。」
「いいのさいいのさ。あたし達に隠すものなんて何も無いんだから。
見せてやりゃいいんだよ。」
一体どのような睦言を交わしていたのかは知らないが、女がにやりと笑ったかと思うと、
突然お互いの身体を離し、再びあの下にも付かない狂騒に舞い戻るのだから
訳がわからぬ上に気味の悪い事この上ない。
最初手代はこの馬鹿騒ぎをしている男女を咎めようとした。
しかしよくよく考えてみると、今この宿に宿泊しているのはこの男女しかおらず、
彼らの迷惑となるような客は存在しない。
―放っておこう。この客は物狂いだ。下手にかかわらないほうがいい。
これまでこの宿から一歩も外へ出ず、部屋を締め切ったまま手代の干渉を赦さず、
布団も干させず掃除もさせず、ただ只管沈黙してきた彼らが
今日に限っては、裸で馬鹿騒ぎをしている。
これはもう物狂いか、そうでなければ狐憑きとしか思えない。
手代は及び腰で男女の部屋の前から姿を消した。
―気味の悪い客を泊めてしまった。早い所この宿を出て行ってくれないものか。
手代は溜息を付いて後ろを振り返ると、
物狂いの乱舞する部屋を恨めしげに見つめた。
彼の耳には、まるで季節外れの蝉しぐれのような、
あの男女の狂騒が、今尚届いている。
子供染みた遊びに疲れると、二人は壁に背中を預けて座り、
手を繋いだまま寄り添った。
改めて見回すと、部屋中嵐でも過ぎ去ったかのようにびしょ濡れである。
口まで満たされていた盥の湯がもう殆ど残っていない。
しかしこの不始末を二人は全く気にしていなかった。濡れた床は後で拭けばよい。
そんな事より今はこの一時が何よりも大事であった。
「ああ、面白かった。」
彩女は満足げに溜息を付くと、力丸の肩にふんわりと頭を乗せた。
この地に辿り着いて以来、まともに身体すら動かしていなかった。
朝も早くから馬鹿騒ぎすることで、身も心も軽くなったような気がした。
力丸も同感する。
「ああ、面白かったな。」
お互い「くっくっくっ」と悪餓鬼の笑みを漏らし、続いて大きく笑った。
最後にこんなに笑ったのは、一体何時の事だったであろうか。
今では思い出すことすら出来ない。
暫くして、彩女が
「ねえ、口を吸っておくれ。」
見ると彼女は口を大きく開け、舌を半分べろりと出してこちらを見ている。
力丸は一見して了解した。
彩女同様、彼もまた舌をべろりと出し、
お互いの味を確かめるべく顔を近づけた。
彩女の鼻息が力丸の舌を擽った瞬間、
「あ。」
彩女が大きく顔を仰け反らせ、眉を顰めた。
「何だ?」焦らされて、力丸は不服の籠った眼差しを向ける。
「あんた、お髭を剃ってやる。」
「髭だと?」
「ああ、お髭さ。だってあんた、とてもむさ苦しいもの。
まるで、山賊の頭みたいだ。」
そう言って、彩女はケラケラと笑った。
力丸が最後に髭を剃ったのは、一体何時の事だったであろうか。
元々彼は身嗜みには無頓着な男であったが、
ここに辿り着いて以来、その風体は日に日に、
無様な様を晒すようになっていた。
「後でいい。今は…」
せっかく興が乗ってきたと言うのに、
下らない用事で中断されては面白くない。
口を尖らせながら不満を漏らす力丸に彩女は、
「今じゃないと駄目さ。後でじゃ忘れちまうかもしれないだろ。」
彩女の言うとおり、彼女の記憶力には今ひとつ頼りないところがあった。
その為、思いついたらすぐにでも実行に移さないと気がすまない性質なのである。
それに目の前にあった力丸の髭面は、昨日にも増して、むさ苦しかった。
女房としては、それを放って置くわけにも行かない。
彩女は「ちょっとお待ち。」言い終わらぬうちに、
「すわ」と立ち上がると、
何日も開けていなかった荷物の前でしゃがみ込み、
その封を解いて剃刀を物色し始めた。
「どこにいっちまったっけ…確かこの辺りにあった筈なんだけどねぇ…。」
長らく中身を確認していなかったので、剃刀の所在が中々掴めない。
彼女は今度は四つん這いになり、荷物の中身を一々床の上に出して剃刀の探索を始めた。
その直ぐ真後ろに居る力丸には、
彩女の尻とその中心部分が丸見えとなっている。
彼女が荷物を一つ取り出すたびに、
それはまるで力丸を誘うかのように、怪しく胎動した。
―ほう、これは絶景かな。
力丸は目を細めた。
そして更に間近で観賞しようと、
身を屈めて彼女の露な部分に見入った。
「…すっかり見飽きたとばかりと思っていたが、
こうして改めて見てみると、やはり良いものだな。」
「え?何がだい?」
彩女は間延びした返答を返した。
彼女は今だ、荷物と格闘している。
力丸は好色そうな笑みを浮かべながら、
彩女に気づかれないよう、恐る恐る顔を近づけた。
しかしその時、
「おや、あった!」
彩女がむくりと起き上がった。
どうやら目当てのものを発見したようである。
彼女の手には、小さな剃刀が握られていた。
力丸は慌てて元の壁に引き下がったものの、
「全く、何してんだい。この助平め。」
彩女には彼の企みが全てお見通しだったらしい。
「そんな事をすると、これであんたの皮を切り取っちまうよ。」
剃刀の刃を突きつけながら、恐ろしい事をさらりと口にしてくる。
これには流石の力丸も恐れ戦き、
「すまん。もうしない。」と平に頭を下げるしかない。
彩女は笑いながら
「ははは、冗談さ。あたいがそんな事をするわけが無いだろ?。
だってあたいも、そのほうが好きだもの。…ほら、赦してやるから顔をお上げ。」
彼女は力丸に胡坐をかかせると、自らはその対面に座した。
そして桶の残り湯を使って彼の髭を湿らせ、剃刀を当てて髭を剃り始めた。
水分をたっぷりと含んだ力丸の髭は、少し剃刀を滑らせるだけで、
面白いように良く剃れた。
この男とは長い付き合いであるが、
それでもその髭を剃ると言う経験は、これが初めてである。
その為、何だか不精者の亭主の世話を焼いているようで
照れ臭いやら嬉しいやら、彩女の心中は喜びに高鳴った。
「ねえ、ついでに頭もやってもいいかい?」
この喜びを、髭だけで終わらせるのは惜しい、と彼女は思った。
「何?頭もか?」
「ああ。ついでだからさ。
だってあんたの頭も、まるで山賊みたいだもの。」
「頭も山賊か。」
彼はかか、と快活に笑った。
「ああ。やってくれ。
確かに今の俺は、山賊と大して違わないだろうからな。」
髭を剃り終えると、山賊面が多少マシになった。
元々顎の線が細い男であるだけに、髭が失われると、
途端に面に元の精悍さが戻ってくる。
―やはりこの男は、慶(い)い男だ。
と彩女は密かに内心を熱くした。
「じゃあ、次は頭をやるよ。」
約束通り、彩女は頭のほうに取り掛かった。
力丸の眼前には、淡い桜色をした彩女の豊かな果実が二つ、柔らかく実っている。
彼女が剃刀を動かす度に、それは確かな重量感を伴ってたわやかに揺れた。
力丸の両の掌は無意識のうちにそれを包み込んでいた。
「こら、危ないだろ。」
彩女は擽ったそうに身を捩った。
苦笑しながら彼の悪戯を非難したが、しかしそれを決して止めろとは言わない。
「いい子だから大人しく遊んでな。」
そう言ってこの悪戯を容認した。
力丸がそうして遊んでいると、やがて屹立に力が籠ってきた。
「ねえ。」
彩女はちらちらと、その昂ぶりに視線を移しながら、
「これが終わったら、あたいを抱いておくれ。」
彼女の頬は、うっすらと情欲に染まっていた。
「…それはどうであろうな。何せ、お前を抱くには銭が掛かるのだろう?」
この期に及んで、力丸は意地の悪い事を言う。
「あれは嘘さ。もう忘れておくれ。」
「では、只か?」
「ああ、只だよ。だってあたい達はもう夫婦だ。」
そうか、それもそうだな、と力丸は笑った。
「ほら、綺麗になった。」
彼の頭を青々と剃り上げた彩女が自慢げに鼻を鳴らした。
そして自分の仕上げた芸術作品を見回しながらさも可笑しそうに、
「あんたはすっかりお坊様みたいだ。」
「変か?」
「変じゃないよ。凄く可愛いや。」
目を細めながら、力丸の頭をつるつる撫で回す。
すると、力丸が突然無茶苦茶な経文を唱え始めたではないか。
彩女は笑うよりもまず、仰天した。
普段から気難しい一面のある力丸は、
この手の諧謔を好まないし、また理解する度量も無い。
生真面目さだけが、取得の男である。
しかし今、目の前で滑稽芸を演じる彼の、
場末の道化師さながらの陽気さは、一体何事であろうか。
若しかすると、むさ苦しい髭や頭髪と供に、
彼の精神を冒していた鬱屈した靄も
綺麗さっぱりと消え去ったのかもしれない。
ここで漸く彩女が噴出した。
「馬鹿!罰が当るからお止め!」
しかしこの生臭坊主は読経を止めようとはとせず、
更に大声で出鱈目な文言を唱える始末である。
「この罰当たり!」
彩女はもう堪えきれず、
大声で笑いながら坊主頭を胸に抱きしめていた。
後はもう、我を忘れて互いを貪りあうだけである。
存分に戯れて、漸く疲れた。
力丸は彩女を背後から抱き抱えるようにして、胡坐の上に乗せると
指の腹を使って、飽く事無く二つの乳首を転がしている。
暫くして、言った。
「…彩。ひとつ良い物を見せてやる。」
振り返った彩女は、柔らかく相好を崩した。
「何だい?良いものって。」
「今は内緒だ。良い物を見せるには、暫し支度が要る。それまで少し待て。」
「おや、待てってどれぐらいだい?あたいは今直ぐに見たいよ。」
一体この男は自分に何を見せるつもりなのであろうか。
特に事前から準備をしていた気配が無い事から察するに、
恐らく他愛も無いものなのであろうが、
それでも今の彩女には十分に好奇心を刺激される話しである。
「ねえ、何なのさ。ちょっとぐらい教えておくれよ。」
彩女は媚びる様な仕草で力丸を覗き込んだ。
「今直ぐに支度をする。お前は後ろを向いて、目を瞑っていてくれ。」
力丸に乳房を愛撫されながら囁かれると、
彼女は少々頬を赤く染めながら素直に従った。
「俺が良いと言うまで、目を開けるなよ。」
「ああ、わかってる。」
―.一体何なのだろう。
彩女の胸は、はちきれんばかりに高鳴った。
背後で、力丸の気配がする。
「ねえ、まだかい?あたい待ち切れな…。」
最後の部分は言葉にならなかった。
刹那、紫電の煌きと供に、部屋中が暗赤色に煙った。
どさり、と床に何かが落ちる音がした。
彩女の頸であった。
その後、主を失った胴体もゆっくりと床に崩れ落ち、
その瞬間、彼女の生命活動は永久に停止した。
まるであの夏の日の無邪気な少女のように、彩女は微笑んでいた。
微笑んだまま、この世を去った。
彩女の亡骸を見下ろしながら、力丸は重い息を一つ吐き出した。
その右手には、たった今、彼女の生命を寸断した二尺二寸が、握り締められている。
まさに一刀の出来事であった。懸念していた逡巡も無かった。
「俺は、お前だけには嘘は付かぬ。約束は、守った。」
そう呟くと、力丸は間を置かずに、
今度は自らが宿の壁に背中を預けて持たれかかり、
天井の梁を仰ぎ見たまま、大きく一つ溜息を付いた。
やがてその隻眼がくわっ、と大きく見開かれた。
刹那、力丸は彩女の鮮血に濡れた二尺二寸を、
自らの左脇腹に深々と突き立てた。
そのまま左から右へ一文字に斬り割ると、
切開部から、鮮血が滝のように溢れ出して来た。
同時に、力丸の口からも、くぐもった苦悶の呻きが漏れる。
腹部に灼熱した鉄塊を押し付けられたような激痛が走った。
一瞬、意識が朦朧となりかけたが、
それでも自らを叱咤し、震える手で、一端腹から刀身を引き抜いた。
羅刹の形相に、脂汗の玉が浮かんでいる。
耐え難い苦痛に苛まれ、呼吸すらままならなかった。
力丸は刀身を握り直すと、今度は切っ先を鳩尾に突き入れ、
峰に手を掛けて、力任せに下方へと押し込んだ。
その瞬間、弛緩した肛門から、大量の糞便がひり出された。
糞便は、床に溜まった血の池の中に、ぼとりぼとりと落ちた。
しかし力丸の我が身に対する獄卒の如き残虐は、
これで終わったわけではない。
霧中を彷徨うかのような意識の中、彼は最後の気力を振り絞って
十文字に裂けた胎内へ左手を捻じ込ませると、
「ああああああああ…っ!!」
物の怪のような絶叫と供に内臓を掴み出して見せた。
苦痛は感じなかった。
飛散した内臓と供に、意識もまた、彼岸の彼方へと飛んでいた。
「ああああ…あああ…あ…ああ…。」
力丸の断末魔は次第に力を無くし、終には壁際を滑り落ちるようにして、
彼は自らの鮮血と糞便に塗れた床の上に、尻餅を付くような形で倒れこんだ。
力丸の肉体は、暫しの間、断続的に痙攣していたが、
それが完全に沈黙するのに、それ程時間は掛からなかった。
それから、ほんの十を数えるか数えないかの後の事であろうか。
この部屋に通じるあらゆる進入口が、何の前触れも無く、
まるで破裂したかのように一斉に蹴り破られた。
続いて乱入してきたのは、手にそれぞれの獲物を携えた屈強な男達である。
その数は四名。しかし、庭や裏手にも更に複数の人員が存在する。
宿を包囲している内の一人は、何と彩女が全裸で表に放り出された際に見た、
あの三人組の漁師であった。
残りの二人は、宿の主人である老婆と手代に刃を突きつけている。
突入の気配すら匂わせぬ見事な連携と手際から、この突如の闖入者達は、
揃いも揃って相当の訓練を積み重ねた精鋭であるだけに留まらず、
この突入作戦に際して、事前に綿密な計画を立てていた事も容易に知れた。
満を持して乗り込んできた手錬供であったが、
しかし彼等の目的が達せられる事は無かった。
「これは…。」
最初に声を発したのは、力丸が道端で見たあの痩せた雲水である。
しかしそれから先は言葉が続かない。
如何に数々の修羅場を潜り抜けてきた猛者達とはいえ、
予想外の修羅場を目の当たりにしては無理も無かった。
部屋中に咽返る様な鮮血と糞便の悪臭が充満し、
この凄惨な光景を、より一層生々しく際立たせている。
「糞…一足遅かったか…。」
続いて声を発したのは、鼻を手で覆った大柄の男だ。
こちらは宿の前で手代と雑談を交わしていた、髭面の牢人風であった。
「どうする…。御屋形様は生け捕りにせよと申されたが…。」
「…俺が知るか。」
忌々しげに言葉を吐き棄てた雲水の、
分厚く、肉刺の跡だらけの掌には、
先端に鑓の穂先を装着した錫杖が握り締められていた。
彼は憤懣やるかたない様子で、部屋の内部をぐるりと一瞥した。
六畳間ほどの板葺きの部屋の中央部には、頸を切断された全裸の女の死体が、
まるで血の海に浮かぶかのように、仰向けに倒れている。
その左大腿部付近には、斬り落とされた彩女の頭部が
やはり血海に右頬を沈めたまま、無造作に転がっていた。
兎に角夥しい出血であった。
死体を中心に、足の踏み場も無いほど鮮血が流れ出している。
無論、雲水をはじめ、他の三人の男達も血の海に踵を沈めながら、
この惨状を呆然と見つめていた。
天井部や庭側に面した戸板にも血飛沫が飛び散っている事から、
切断部分から、相当の勢いで血液が噴出した事が分かる。
一方の力丸は、部屋の北側の隅の床に尻餅を付き、
板壁に持たれかかる格好で、絶命していた。
その腹部は十文字に切り裂かれ、溢れ出た大量の血液と供に内臓も露出し、
その一部が、まるでばら撒かれたかのように死体の周囲に散乱していた。
「女の頸を刎ねた後、腹を切ったな…。」
雲水は、力丸の右手側の床に打刀が転がり、
左手に腸の一部が絡み付いている現状から、
まず力丸が女の頸を斬り落とした後、
壁に寄りかかったまま立ち腹を切り、
自らの手で内臓を抉り出したのだと推測した。
その時、
「この女…。」
牢人の隣に陣取っていた、流浪の乞食に扮した男が呟いた。
先程とは打って変わって、今の彼は、足取りもしっかりしている。
「この女、笑っておるわ…。」
この男の立ち位置からは、彩女の表情が良く見て取れた。
断末魔の形相で事切れている力丸とは違い、
その面には、死してなお、幸福に満ちた微笑を浮かべている。
「…男と睦んでおったのだろう。」
言いながら、雲水は錫杖を使って、彩女の両脚を強引に開いて見せた。
彼女の中心部分からは、力丸の迸りが逆流し、血の海に流れ出していた。
「…睦んだ後に、頸を刎ねられたか。」
牢人風は、苦笑交じりの溜息を吐くと、彩女の胴体部分の横にしゃがみ込み、
鮮血に濡れていない左側の乳房に手を伸ばした。
絶命して間もないため、まだ体温と質感が残っている。
「阿呆、よせ。この人非人め。」
雲水は強い非難の意味を込めて牢人風を面罵したが、
しかし当の彼は、
「まあ、良いではないか。
このような田舎くんだりまでやってきて、獲物も捕えられずに居るのだ。
このまま帰り付いたとしても、俺達は何らかの罰を受けるだろう。
だからこれぐらいは赦せ。
本当なら、この女は俺達で弄ぶつもりだったのだからな。
見ろ、この身体を。生きておれば、良き女子であったろうに。惜しい事をした。」
牢人風は雲水を鼻で笑い返すと、行為を続けた。
雲水は露骨に侮蔑の表情を浮かべたが、それ以上は何も言わない。
言い用の無い遣る瀬無さを覚えた彼は、蹴り破った戸板を踏み、
所在無さげに表を覗き見た。
その時である。
何処かで蝉の声を聞いたような気がした。
―はて。
雲水の表情に、今度は疑念の色が浮かんだ。
しかし、当の昔に夏は終わりを告げている。
ましてや、このような小雪の舞い散る閑村に、
蝉が生き残っている筈も無い。
不審に思った雲水であったが、
―気のせいか。大方、風の音を聞き違えたのだろう。
ただの勘違いだと判断し、踵を返そうとした。
しかしその矢先、今度は盛んに啼き喚く蝉しぐれを聞いた。
―まただ。今のは聞き違いではない。
「おい、今、蝉が啼かなかったか?」
薄気味の悪さを覚えた雲水は、堪らず部屋の中の男達に問うてみた。
「蝉だと?何を言っておるのだ?」
牢人風は、今だ彩女の乳房を弄んでいる。
「蝉だ。今、蝉が啼いたであろう。」
「馬鹿を言え。夏はとっくの昔に終わっておろう。」
「そんな筈は無い。俺は確かに聞いたのだ。…お前達はどうだ?聞いたであろう。」
雲水は他の二人にも尋ねてみたが、返答は何れも否であった。
―いや、確かに聞いたのだ。蝉しぐれの声を。
埒が明かぬ、と判断した彼は、小雪の舞う西側の庭に飛び出して、
そこを持ち場にしていた男にも聞いた。
「そんなものは聞いておらぬ。」と彼は面倒臭そうに答えた。
―俺の聞き違いなのか…。いや、そうかも知れぬ…。
散々この者供を追って来て、疲れておるのやも知れぬな…。
雲水は自らの耳が聞いた季節外れの蝉しぐれを、
単に疲労による幻聴であると結論付けようとした。
それでも念の為、その場に居合わせていた他の仲間にも問うてみたが、
その答えは、何れも先の男達と同様のものであった。
そして今となっては、その雲水本人も、三度蝉しぐれを聞く事は無く、
ただただひょうひょうと言う寒風の吹き荒ぶ音が、
耳に届くばかりとなっていた。
―やはり俺の聞き違いであったか。
疲れておるせいだ。今夜はゆっくりと休もう。
若干安堵した雲水は、気分を落ち着かせる為に、
眼前に広がる海原を望遠した。
相変わらず、そこには、この世の果てを思わせる
見渡す限りの灰色の光景が広がっている。
〜終わり〜
長々とすいません。一応これで終わりです。
それでは皆さん、御機嫌よう。
ぽぽ者様、おつかれさまです。
私、始めて小説で泣いてしまいました。
なんて切ないんでしょうか。思い出すだけで涙が出そうです
長い間読んでいたはずなのに、全く飽きさせず読ませる
ぽぽ者様の巧みな文章能力には心の底から尊敬しております。
素晴らしい小説をありがとうございました。
353 :
名無しさん@ピンキー:2006/08/19(土) 03:05:34 ID:ZGdJgMg4
言葉もありません。
ぽぽ者様、本当にお疲れ様でした。
全米が抜いた
355 :
名無しさん@ピンキー:2006/08/29(火) 00:42:59 ID:c1zcm1Qd
ぽぽ者様
大変お疲れ様でした
感動しました!
356 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/04(月) 09:18:49 ID:W143O9K4
保守age
357 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/16(土) 21:01:08 ID:3UajA5As
保守age
保守
359 :
名無しさん@ピンキー:2006/10/09(月) 01:15:33 ID:qFYRuYof
保守
天誅紅発売前頃に立てられた虹板の天誅スレの存在を知っている人は、どれだけいるだろうか
361 :
名無しさん@ピンキー:2006/10/25(水) 21:45:27 ID:8OplK6Tg
保守
362 :
名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 20:54:04 ID:qM53NZFX
保守
363 :
名無しさん@ピンキー:2006/10/27(金) 16:04:14 ID:UEwGN615
保守
捕手
365 :
名無しさん@ピンキー:2006/11/12(日) 21:16:38 ID:f5n/Pnyf
保守
保守保守
保守
368 :
名無しさん@ピンキー:2006/12/17(日) 00:21:00 ID:lSLu1sUU
熱狂的保守
369 :
名無しさん@ピンキー:2006/12/29(金) 02:55:15 ID:YWg6+h69
機舞羅に犯される彩女書きます
370 :
名無しさん@ピンキー:2006/12/29(金) 07:26:59 ID:eq6w1bsf
371 :
名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 19:07:55 ID:96UTTmY3
372 :
名無しさん@ピンキー:2007/01/09(火) 11:44:01 ID:EWvJYO5w
373 :
名無しさん@ピンキー:2007/01/09(火) 13:23:57 ID:SfjMPAc8
天誅 紅でアヤメのパンツはどうやって見れる?
>>373 巻物を1500本以上集めるか、百鬼夜行をクリアして手に入る
彩女の衣装「牡丹」をゲットして装着させたら見えまくりですお
375 :
名無しさん@ピンキー:2007/01/09(火) 22:15:31 ID:SfjMPAc8
天誅紅で彩女でパンツはどうやって見れる?
376 :
名無しさん@ピンキー:2007/01/09(火) 22:22:24 ID:SfjMPAc8
重複スマソ
視点変更してもなかなか見えないです
タスケテ(>_<)
377 :
名無しさん@ピンキー:2007/01/10(水) 01:28:55 ID:eHi2Y5JM
>>376 PARを使え
カメラいじれるコードあるよ
PS2CCでググってみなされ
力丸と彩女はゲームだと、どんな関係なの?
379 :
376:2007/01/11(木) 21:51:59 ID:IEKmmDvR
コードいじりってPCとか必要ですか?
>>378 深い信頼関係で結ばれた同志ってところ?
恋愛関係は一切無し。
ショボイ恋愛関係より結ばれているかもな。
>>379 やったことないからわからない・・・
ゴメン
つい最近ココの存在を知った者ですが
過去のSSが読めるまとめサイトみたいな物は何処に
あるのでしょうか?よかったら教えて下さい
382 :
名無しさん@ピンキー:2007/01/19(金) 14:51:42 ID:pW+ilA7A
まとめサイトか・・・
過去ログなら
>>6にあるが、●持ってないと読めないらしいしな
過疎ってるなあ…
いっそアクワイヤ総合スレとして出直したら、侍道や忍道のファンも来てくれて盛り上がるかなあ?
総合スレになったら侍道2の主人公×さよの十年後ぐらいのエロが読みたい。
386 :
名無しさん@ピンキー:2007/01/21(日) 18:44:06 ID:EJSo8VKa
賛成。
一時は三つもスレが立ってたんだよな。
で、二つが圧縮で落ちて、残ったここも過疎。
守備範囲を広げよう。
387 :
名無しさん@ピンキー:2007/01/24(水) 19:01:25 ID:/x1uu/tX
388 :
名無しさん@ピンキー:2007/01/30(火) 13:51:10 ID:H/tZ96jG
保守
以前天誅スレに出没してた者です。
復活してたの気付かなかったw
何か書けたらうpします〜
391 :
名無しさん@ピンキー:2007/02/13(火) 09:16:30 ID:srWFrFWh
保守age
392 :
名無しさん@ピンキー:2007/02/16(金) 22:15:17 ID:JjgsSrGn
保守age
393 :
名無しさん@ピンキー:2007/02/21(水) 23:04:24 ID:2v0kR6xu
保守age
394 :
名無しさん@ピンキー:2007/02/26(月) 20:33:03 ID:AnBjMybo
保守age
395 :
名無しさん@ピンキー:2007/02/28(水) 17:01:43 ID:8eRpTuKq
保守age
396 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/02(金) 01:26:17 ID:KBJuikdK
最近俺は忍道ばっかりなんだけど、此所は忍道もOKなんだよな?
期待age
>>396 アクワイアスレも落ちたしOKじゃないのか。
あと、侍道もありにするくらいじゃないと保守が続くこのスレは厳しいと思う。
じゃあ益々期待。
俺が書けば良いんだろうが、ネタが浮かばない。
何か萌えそうなシチュがあればなぁ。
弐の香我美とか読んでみたいな。雪蛍もイイ。
400 :
麗羅:2007/03/06(火) 00:18:08 ID:mFKvTVJu
死百、いただきます。
401 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/12(月) 13:20:10 ID:ncvT9KzG
保守age
402 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/15(木) 10:56:14 ID:8IkptHVK
誰か書いて
ほす
404 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/29(木) 21:36:55 ID:4QKRveQB
hosyu
405 :
名無しさん@ピンキー:2007/04/05(木) 11:57:06 ID:oRjjHTjt
ホシュ
406 :
名無しさん@ピンキー:2007/04/16(月) 18:11:44 ID:yESRKPwo
保守
407 :
名無しさん@ピンキー:2007/04/24(火) 13:59:33 ID:2ag6DMI5
ほす
408 :
名無しさん@ピンキー:2007/04/24(火) 19:49:53 ID:veLjSavB
保守
409 :
名無しさん@ピンキー:2007/05/07(月) 13:48:33 ID:9YOm6xMW
保守
410 :
名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 21:53:48 ID:KnzucX+V
保守
411 :
名無しさん@ピンキー:2007/05/21(月) 02:08:29 ID:hEbCRtc6
412 :
名無しさん@ピンキー:2007/05/21(月) 19:26:34 ID:AVKZUJjZ
>>411 久しぶりに神が!
似てるよ!何年後かの彩女といった感じ。
エロい〜(*´д`*)
>>413 おぉ〜!!いいねえ!上手いなあ。
凛がすごくキレイでエロカッコよくなってる!
この凛を動かしてみてえ。
力丸の表情にワロタw
遅ればせながらキャラ板見てきました〜
すみません、上くの一たんだったのですね。
凛がこうであって欲しかったという願望がつい出てしまったw
てか、キャラ板の力丸は鼻水でこっちは鼻血だったのねw凝ってるな〜
弐の香我美と雪蛍の画像って無いんでしょうかね?
描きたいのですが資料がない…
417 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/10(日) 02:26:52 ID:3pa1W7KA
☆
418 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/18(月) 09:44:53 ID:eM9UPMGr
保守
419 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/20(水) 22:31:08 ID:u8cFNnER
守ろうか
ここは落ち武者×彩女みたいな化け物に〜系はなしのスレだよな?
へんなこと聞いてすまん
421 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/24(日) 21:42:47 ID:dIrYw2PR
乱造の鬼畜っぷりが見たい俺は異端者だろうか
422 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/25(月) 09:31:19 ID:7bgYmqRb
423 :
421:2007/06/25(月) 16:10:55 ID:YgjbHpAj
424 :
421:2007/06/25(月) 16:17:45 ID:YgjbHpAj
ごめ、見れた見れた
これは・・・ないwww
426 :
SS保管人:2007/06/29(金) 23:53:41 ID:/6ZJdx9U
是非を問はず。
いやよいやよは最初だけ
428 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/30(土) 09:31:33 ID:stETTv6v
保管庫カモーーーン!
429 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/01(日) 17:19:11 ID:m3IbD9va
SS神、召喚の儀式
430 :
SS保管人:2007/07/02(月) 20:46:16 ID:DrXXmY9/
問題無さそうなので「アクワイア作品の部屋」に収蔵させて貰いました。
431 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/03(火) 15:48:26 ID:oGCmCRhq
乙〜
前スレや侍道のもあるとは!
432 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/09(月) 21:31:45 ID:1nhm4m4n
hosyu
434 :
sage:2007/07/14(土) 11:58:45 ID:7NV22v7M
435 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/23(月) 23:21:02 ID:Duuykh5A
ほしゅ
ほしゅ
437 :
名無しさん@ピンキー:2007/08/08(水) 10:38:15 ID:1KK7EZhb
毎日暑いですね〜
438 :
名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 22:48:28 ID:SWuYS4kN
ほしゅ
439 :
名無しさん@ピンキー:2007/08/30(木) 01:07:28 ID:ZLXkb2ev
ほ
440 :
名無しさん@ピンキー:2007/09/01(土) 18:33:54 ID:gaWYbTuf
ほしゅー
441 :
名無しさん@ピンキー:2007/09/11(火) 01:14:59 ID:7Qyiz5J/
定期ほしゅ
俺以外にもいるんだろうか
保守七連続かぁ。
上くの一とか好きなんだけど、一番は凱旋の般若くの一かも。
どうせなら保守がてら雑談でもしないか。
443 :
名無しさん@ピンキー:2007/09/16(日) 16:29:58 ID:9tlwa+2Z
ほしゅ
俺もいるぞ
下忍爪は俺の婿
444 :
名無しさん@ピンキー:2007/09/27(木) 07:43:21 ID:jK4GnctV
朝からほしゅ
佐々木半兵衛は俺の嫁
445 :
名無しさん@ピンキー:2007/10/11(木) 01:24:06 ID:dCtZGhGt
ほ
446 :
名無しさん@ピンキー:2007/10/30(火) 00:05:10 ID:o1Qyponb
しゅ
この頃、神楽が好きになってきた。
448 :
名無しさん@ピンキー:2007/11/18(日) 02:49:44 ID:4Gd39Rgs
ほしゅ
/\/\/\∧
<投下するよ!>
V\/\/\/
\ | /
\ rー-、 /
/ ヽ /
\ 川{0}/ヽ{0}川 /
{ っ ヽ_ノ と }
`/ ム `-′ ム \
(__ __)
__ | | __
ノ /
― / ノ`ー-、
| へ_ノー、_ )
/| | / /
/ ノ | / \
`ノ / ノ〈
(〈 ヽ_ \
ヽ_> `-′
451 :
かたち・一:2007/12/05(水) 01:18:42 ID:GfUNZJJn
――――彩女、お前は俺のことを好いておるか?
突如として聞かれた。
すぐ近くにある力丸の顔を見る。鋭く、しかし優しい眼差しが彩女をとらえていた。
「突然何言い出すんだい」
「いや、お前とは寝所を共にする仲だが、はっきりとさせておきたくてな。」
「・・・そうだねぇ」
彩女は少しため息をつき、向かい合っていた力丸から顔を背けるように寝返りを打った。
初めて力丸から抱かれてから幾年か経つ。
お互いに自分の命に代えがたい、大切な存在であることは意識している。
力丸は素直に彩女への愛情を表現する男だが、彩女は特に力丸へ気持ちを伝えていたわけではなかった。
顔を背けてしまった彩女に対して、後ろからそっと手を回し、抱きしめた。
きつく身体を密着させる。
「お前が龍丸よりも俺のことを好いておると言ってくれたら、俺はもうこの世に悔いも何もないのだが、な」
452 :
かたち・ニ:2007/12/05(水) 01:25:58 ID:GfUNZJJn
――またそんな事言うのかい
彩女は少し呆れたような顔をしたが、その表情を伺えない力丸はそのまま彼女の首筋に唇を寄せた。
首を吸っていくと、徐々に彩女の熱が昂ぶってきているのが分かる。
「彩女」
力丸は彩女の身体をころりと自分の方に向けて、お互いの唇を重ねた。
強引に舌を彩女の口内に割り込ませ、その味を確かめるようにねぶる。
彩女の舌も彼の口腔に入ってきたところで、口づけは激しさを増し、唾液があふれ出す。
口づけだけでじわりじわりと自分の芯から熱いものが溶け出していくのが、彩女の恍惚感を更に加速させた。
――お互い、心が通じ合っているのならコトバなんて形にしなくても良いじゃないか・・
あんたがあたいを必要として、あたいにとってもあんたが必要なのは二人とも判ってるんだ
はだけた着物から見える彩女の白い肌が、美しく月明かりに濡れていた。
今日は力丸が事を急いていて、前戯もおざなりにもう褌を脱ごうとしている。
いつもは時間をかけて彩女を悦ばせようとする力丸だが、やはり彩女が答えを曖昧にしたままでいるのが不満なのだろう。
「挿れるぞ」
「っ・・・・・」
ぐい、と自身を押し入れる。
一瞬彩女の身体が強張るが、繋がったままの状態で緊張が取れるのを待つ。
453 :
かたち・三:2007/12/05(水) 01:28:42 ID:GfUNZJJn
小柄な彼女の身は、抱きしめるとすっぽりと力丸の身に収まった。
その華奢な身体を包み込むと、膣を軽く小突くように小刻みに腰を動かしていく。
「、っあ、、、あっ、」
しっとり汗ばんだ手足を力丸の胴に絡みつけ、彩女は彼の剛直を胎内に感じた。
それは別の生物のように膣の中を進み、ずいと突いてくる。
「りきまる、も一度、口を吸って」
「・・・俺のことを好きだとはっきり言えば好きなだけ吸ってやる」
ここぞと力丸が意地悪そうに笑いながら言う。
そして、彩女のぷくりと勃った乳首を軽くひねった。
「あッ!!!」
刹那に電気が走るのを感じ、身体をひねった。
彩女は少し眉間にしわを寄せたが、すぐに、真上の力丸の首に手を伸ばして口づけをした。
言葉ではあのように言ったものの力丸はその口づけに応じ、彩女の濡れた唇をまた丹念に吸った。
やがて胎内の剛直の突きが激しくなり、彼はその中で絶頂を迎えた。
454 :
かたち・四:2007/12/05(水) 01:31:07 ID:GfUNZJJn
彩女は力丸に彼女の想いを伝えない。
もちろん気恥ずかしいという理由もあるし、影として生きていくには恋愛情事に溺れられないという強い決意もある。
それに、力丸がふと呟く、この世に悔いが無くなるのだが、という言葉が彩女を躊躇させていた。
迂闊に「力丸、愛してる」なんて呟いたら本当に力丸がいなくなってしまう――そんなおそれが以前からあったのだ。
「あんたがヨボヨボの爺さんになってからだったら、あたいの愛情がどのくらいか教えてやるよ」
達してからまだ上に乗っている力丸の背中をそっと撫でて言った。
力丸は少々不満げな表情をして、
「ヨボヨボの婆さんに言われてもな、」
と目尻を細くして笑った。
【終劇】
おお、神降臨!
ツンデレ彩女ごちそうさまでした!!
456 :
名無しさん@ピンキー:2007/12/07(金) 22:26:46 ID:+7lTxPzv
きたー!何て可愛い二人
ほしゅ