「…あ、…はぁ、……ア…スラ…ン…っ」
メイリンの部屋から荒い息づかいと自分の名前を呼び捨てで甘く囁く声が聞こえるのを
アスランが聞いたのはこれが初めてではない。そして心苦しく思う。
彼女がおそらくもっと優しい俺を妄想しながら自分で自分を慰めるのも、全ては俺が彼女に
ちゃんとしてやらないからだ、と。
カガリとのことは『幼い恋心』だったと、アスランの中で決着はついている筈だった。
だからこそ、
「もういいんじゃないですか…?寂しそうな顔ばかり、見たくはありません…。もっと笑って欲しい…」
そう言って自分に身を預けたメイリンを抱いた。身をもって自分を助けてくれたメイリン、
戦後も自分の側にいることを選んだメイリンを…。
(好きなんだろ?…おまえのこと)
あの時、メイリンの潤んだ瞳をのぞき込んだ瞬間に、カガリの言葉が蘇った。その声をふり払うように
メイリンを抱きしめたとしても、それぐらいは許れるだろう。
メイリンの体は驚くほど柔らかく、弾力があった。ぎこちなく服を脱がせるアスランを、ともすれば
じれったく思っていたかも知れない。ブラジャーの下の乳首は既に屹立してアスランに「早く口にふくんで、
舌で味わってみて」と言わんばかりだったのだし、もちろんアスラン自身が生まれて初めて滑り込ませた下着の下の
女の秘所だって、誘い水で潤みきっていたのだから。
夢中で覚えていない、といっていい。
ただ欲望にかき立てられるがままに怒張した己をメイリンの中に割り入れ、味わう間もなくそのぬらぬらした
柔らかくて熱い刺激にやられて射精してしまったことと、そんなアスランを責めるでもなく嘲うでもなく
メイリンが浮かべた優しい笑み、そのまま股間に近づく赤い唇、彼女の口に含まれてみるみる復活した若い自分自身…、
それら一連のことが靄がかかったようなヴィジョンのスライドショーで思い返されるだけだ。
ただ、アスランを悩ませているのはそのスライドショーの合間、合間に、まるでサブリミナル効果のようにして
まぶしい程の金色が挟まることなのだ。
終わったはずなのに……
叶わない夢は呪いと同じだ、と誰かが言ってたっけ…?
(好きなんだろ?…おまえのこと)
初めて覚えた快楽をメイリンに促されるままに手放そうともせず、幾度も体を重ねるたびに、でも
やっぱり十分に彼女に愛を注げずに金色の影をこそ愛しく思い浮かべてしまうことは、それは許されることではない。
いつも自分勝手に欲望を処理するためだけに自分を抱くアスランに、メイリンはそれでも体を開く。
おざなりな前戯や終わった後のつれなさが、メイリンを自慰に導く。
きっとこの次こそ欲望が愛情に変わり、彼女の献身に応えられるようになるだろう、この次こそ、
この次こそ…。
だが、未だにアスランの呪いは解けてはいない。
(好きなんだろ?…おまえのこと)
俺はいつ解放されるんだ?!
「仮面舞踏会?」
ラクスからアスランに連絡があったのは夏の始まりの頃だった。アスランは見るでもなくつけていた
テレビの音をしぼる。プラント地球間の復興協議サミットの開催を告げるニュースが流れていた。
「そんな催しが実際にあるとは、社交界というのは計り知れないな」
「まあまあ、そんなにバカにしたものでもありませんわよアスラン」
「それにしたって暢気なもんだ、戦後まだ間もないというのに」
「間もないと言ってももうそれなりに時間はたっています。サミットの余興で、友好関係を一層深めるためにも…」
画面が2分割され、右側にはスカンジナビア王国の第二王子、そして左側には……カガリだ。
テロップに結婚の文字が踊る。
最近何度も目にする映像なのに胸が痛い。痛い。どうしようもなく。くそっ。
「ラクス、君は何を企んでいる?」
「企むなんて人聞きの悪いことを仰るものじゃありませんわ、アスラン。ただわたくしは貴方のお力を
お借りしようと思っているだけなのです」
「俺の力?なんだそれは」
口調がぞんざいになってしまうのは、テレビ画面のせいだ。アスランは、画面から目をそらす。
「お父様のことがあったからこそのアスラン・ザラの存在を平和活動に使っていただきたいのです。
もちろん全てわたくしが用意いたします。そのためにも今度の舞踏会には是非来ていただきたい、
それだけのことですわ。この世界への第一歩としてはうってつけだと思うのですが。
いかがですか、アスラン」
いかがですか、と言われて「ノー」と返したところでキラを使ってでも説得されるに決まっている。
わかったと答えるとラクスは心底嬉しそうに礼を言い、詳細は後日と通信を切った。
「アスランさん…」
メイリンが躊躇いがちに呼ぶ声を背中に聞く。今日もまた愛を深めることのできなかった自責の念に
苛まれて終わった後に背を向けるのは、いつものことだ。
「最近のニュースで言ってますよね、…あの、オーブの…」
体中の細胞が萎縮するのを感じながらアスランは平然を装い、
「ああ、知ってる」
返した。やめろ、その話は聞きたくない。いや、俺が解放される吉兆と捉えなければならないのか?
アスランは自嘲気味に鼻を鳴らした。
「私、あの時代表に言われたんです。ずっと言えなかったんですけど、あの…アスランさんのこと
よろしく頼むって。自分は一緒に行けないからって…」
…その瞬間、不意にこみ上げる感情にアスランは息が詰まった。カガリが、俺のことを…?
メイリンの聞いたカガリの言葉は、まるでその場に自分もいたかのようにリアルに頭の中を巡る。
カガリ、君は…
「ご結婚の話も出てるみたいだし、もう言ってもいいかなって」
どんな思いで、どんな覚悟で俺を斬り捨てた?!
「私、ずっと一緒にいていいですよね? 私のこと、少しは愛してくれてるんですよね?」
俺自身も甘くみていたこの喪失感を少しは君も味わったか? 失って初めて気づくなんて陳腐な言葉に
君も胸を切り裂かれたか?
「私、アスランさんに愛してもらえるように何でもします!」
背中に押しつけられたメイリンの熱い二つの乳房は、これは、罰なのか? 俺が君を守り切れなかった
ことへの君からの罰なのか。
カガリ、俺は…
アスランは胸の一番深いところからわき出る震えを悟られまいと歯をくいしばった。
ばかばかしい余興の日はきた。
仮面などとはほんの飾り、顔の一部を覆っているだけで誰が誰かなんてことは丸わかりなのに、
それを踏まえての無礼講。
こんなもの虚構にしか見えない。しかも
「ほら、アスランたら、そんな白けた態度ではいけませんわよ」
隣りの歌姫は
「ラクス、その髪の色は何の冗談だ?」
髪を赤く染めてしれっと笑っている。
「あら、何か気に障りましたか?…あ、ほらキラですわ!それに…」
小さなざわめきと共に場に登場したのはキラと、それからあの隆々とした体躯はキサカ一佐に違いない、
二人を従えた、
「ドレスもよくお似合いになってますわね!」
カガリだった。
銀白ベースにパーソナルカラーのグリーンを挿したドレス、髪はアスランを苛み続ける眩いばかりの金色…。
あちこちで声をかけられ立ち止まるカガリを離れ、先にラクスの元にたどりついたのはキラだった。
キラはラクスの赤い髪の色を見て瞬間ぎくりとしたようだったが、
「僕はいつもの髪の色の方が好きだな」
とやわらかい笑みを口元に浮かべ、ラクスからとろけるような微笑みを引き出した。
「久しぶり、アスラン」
「ああ、久しぶりだな」
三人の視線は自ずとカガリの方へ向けられた。だが、アスランはキラから何か決定的な言葉が出るのではないかと
内心びくびくしている。気まずい空気、のように思っているのはアスランだけか。
「お仕事は順調ですか、キラ?」
ラクスに訊ねられて、カガリの弟だってことでヘンに大事にされてしまうのは相変わらずだが、軍の開発方の仕事だから
やりやすい、というようなことをキラはひとしきり報告する。この二人にとってはプラント-地球間の遠距離も、
大した障害にはなっていないらしい。それほどの太い絆がありありと感じられる横でアスランは、
カガリの一挙手一投足から目が離せなかった。
物腰がやわらかくなった…。口元を覆うような仮面なので目の動きが見てとれる。
声をかけられちょっと大きくなり、それから笑うと細くなる愛しい金色…。
「…スラン、…アスラン!」
呼ばれてはっとして振り返るとラクスの腰に手を回したキラが笑っていた。
「わたしくたち、少し踊ってまいりますわ。キラもダンスを教えていただいたんですって」
「そうか」
そして去り際にキラは
「自分を偽ることないよ」
小さくそう残した。
仮面舞踏会で偽るな、というのもおかしな話だ。
アスランはそのまま歩を少し下げて壁際に佇み、重い息をつく。
煌びやかな目の前の光景で頭の中が占められているしまっているせいか、自分がこれからどういう行動に出ればいいのか
皆目検討がつかない。
ただ、それがデフォルトであるようにカガリに視線を戻すと、一瞬カガリの瞳が自分のそれに重なった。
心臓が一つ大きく跳ねた。
俺を視認した。だがそのまま目を伏せた。
何故?
もう少し、その瞳の伝えようとしていることを知りたい。
思うより早く、アスランはカガリの方へと歩を進めた。
カガリを取り巻く人々を縫って、カガリの手を取る。
「踊っていただけますか?」
金色の瞳が小さく揺れて、
「はい」
懐かしい声が耳からすべり込みアスランに染み渡った。
(君がダンスだなんて)
(ばかにするな)
交わされるはずだった言葉もなく、二人はただ息を合わせて踊った。
くるくる溶ける周りの光に酔う。おかしいな、手を取り合っているはずなのに、実感がない。
腰を抱いているはずなのに、現実味に乏しい。
喧噪が遠く、近く、…ああ、夢、かな?次のステップに迷うこともない。
ふわり、とカガリの香りが離れて、手には小さな鍵が残されていた。
アスランはゆっくり瞬きをした。
カガリはまた幾人かに囲まれ、静かに笑っていた。
渡された鍵は控え室のものだった。アスランは自分の気持ちを落ち着かせようとするように照明を落とし
見るともなしに窓の外に視線を捨てた。どのぐらいそうしていたろうか、やがてノブの回る控えめな音がして、そして
「カガリ…」
そこにはカガリがいた。
カガリは口元を覆うヴェールを外し、みるみる瞳を潤ませた。が、涙のこぼれるのを堪えるかのように唇をきっと結び、
心持ち背筋を伸ばすこと数瞬間、それからようやく
「会いたかった」
止めていた息とともに吐き出すように決然と言った。
アスランは体中の緊張が抜けるのと同時に、また違う情動がわき上がるのを感じた。
思わず数歩カガリに近づくと、やおらカガリがうつむき、しぼり出すようにして
「できると思ったんだ!」
言った。
「お前を思い出に、…できると思ったんだ。お父様がなくなったことを乗り越えられたみたいに、
ちゃんとできると…。お前にはちゃんとお前を大切に思ってくれる娘がいて、それでちゃんと
お前が幸せでいてくれれば、私もそれで幸せなんだと…!毎日政務が忙しければ、きっと忘れられるって、
本当にそう思ったんだ。でも、気づけばいつもお前の顔を思い出してて、…」
「カガリ…」
「…会いたくて会いたくて、……どうしようも…なかった…、…会いたかったんだ!!」
勢いよく上げられたカガリの顔は堪え切れなかった涙で濡れていた。
アスランは弾かれたようにカガリに駆け寄り、抱きしめた。
あの別れは俺達二人の若さへの、等しい罰だったのか。
涙を溢れされるカガリの体は驚くほど熱かった。どちらからともなく唇を合わせると、
そのカガリの涙が媚薬のように二人の唇に伝う。いや、
「アスラン、…?」
アスランの涙も、だ。
「私のこと、もう忘れ…」
「忘れられるわけないだろう!」
カガリの語尾を引きちぎってアスランは言った。
それからしばらくの静寂が降り、カガリが懐かしい碧の瞳に自分を映すと静かに伝える。
「ドレスってやっぱり窮屈だな」
ベッドに横たえたカガリの上気した肌は落とした照明の光を貪欲に受け止めている。
きれいだ、とアスランは素直に思った。
壊れ物に触れるように指を伸ばすと、カガリはびくっと体を震わせた。俺は、こんなふうにも女の体に触れることのできる男だったのか、とアスランは自嘲気味に思う。思いながら執拗にカガリの輪郭を撫で、それから思い切ったように乳輪を指先で丸く辿る。
「あっ…」
みるみるカガリの乳首が赤みを帯びて硬くなった。アスランは堪らず口に含み、そのしこりをほぐすみた
いにやさしく舌でころがし、そして吸った。そんなことをしても硬さは増すばかりなのに。
片手でカガリの髪を分けると、その手を取ってカガリがふるふると首を振る。
「あ、…ア、…アスラ…」
気持ちいいのか、かわいい…そう思った瞬間、アスランの耳に違和感のある言葉が
「…結婚…」
飛び込んできた。ピタリ、と空気が固まる。何だ、何を言い出す?!
けれど、カガリが吐き出した言葉は、
「結婚なんて、したくない。この先どうなるかわからない、でも、だから…
…私を傷物にしてくれ、一生消えない傷を私につけてくれ、アスラン!」
カガリは下からアスランの首に両手を回してしがみついてきた。アスランは両手を突っ張って体を起こし、
カガリに影を落とす。俺の顔は逆光でカガリからは見えないかも知れない。見えなくて上等だ。
俺は思いの丈を行為で示す。
「カガリ、ここは?」
アスランがカガリの秘所に手を伸ばすと、淡い陰毛に指先が触れただけでカガリは身を固くした。
構わずさらに下に指をあて、割れ目に沿ってゆっくりとなで上げた。湿っている。
「はぅ…う!」
到達した突起をゆるく押すと、スイッチが入ったようにカガリの体が跳ねる。指先でこねれば
「あっ、あぁ…、や、…いや…ぁ!」
切なくて、それでいて甘い鳴き声を上げる。
「ここは、俺のもの?」
「アスラン!…アス…ラン…!」
「自分でしたことは?」
「や、やだ、…アスラ…ン…そんなこ…と」
アスランが手を止めると、カガリは身を捩らせて目を潤ませた。
「言えよ、俺のこと考えながら自分でしたって」
「止めないで、アスラン、…」
「言ってくれよ、カガリ!」
「止めないで!いつもしてた、ずっとアスランのこと考えて、いつも…!」
その答えに満足してアスランは指ではなく、顔を近づけて舌で蕾をこねた。
「やっ…!」
間近で見るそれはこぼれ落ちんばかり膨れあがり、アスランの唾液で小さな宝石のように光っている。
アスランは容赦なく舌を動かした。強く押し、小さくなめ回し、唇でやさしく挟む。カガリは痙攣させ続け、
「いや…っ、だめ、…やっ、…ああっ!」
やがて弓なりにしならせながら早くも達した。なるほど、言う通りいき方は知っているようだ。
カガリの秘所は蜜をいっそうあふれ出させ、赤く開いてアスランを誘う。アスランはひと舐め、蜜をすくって味わった。
「カガリ、…俺も君を思いながらいつもメイリンを抱いてた」
カガリは潤んだ瞳をこれ以上ないぐらい見開いた。
「君が言ったんだろ、俺のこと頼むって」
だから俺は君を忘れようと、と続けようとしたアスランの手をとり、カガリは自分の頬にあてた。
それからおもむろに重ねたままの手を胸にあて思い切り力を込め、…下へと引っ張る。
「!」
カガリの手によって凶器になったアスランの爪はカガリの皮膚を裂いた。数条の赤い筋がカガリの白い肌に浮かび上がる。
「…いいんだ、アスラン、…私がばかだったんだ。お前の受けた傷を、だから私にもつけろと言っている」
その瞬間にアスランの中で何かが弾けた。
「うぁぁぁぁぁぁ…っ」
アスランは自らの意志で今度はカガリの肌に赤い筋を幾筋も残す。カガリの喘ぎはアスランの声にかき消されたが、
アスランの怒張したものは確かにカガリに突き立てられた。
固い、狭い、ちくしょう、なんだって上手く入らないんだ!
押し返すな、俺を中に入れろ!ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!…熱い!!
気づくとアスランは泣きながら果てていた。ずるりと萎れたそれを抜くと、白濁とともに真っ赤な花がシーツに
点々と咲いた。カガリはアスランの額の髪を分け、破瓜の衝撃で重たい体を起こすとアスランの体を仰向けに寝かせた。
そして柔らかく口づけ、まだ荒いアスランの吐息を奪う。ありがとう、と小さく言ったかも知れない。
これで私には一生残るアスランの跡が残った。
カガリはもう一度アスランの顔に唇を寄せ、今度は目尻の涙を舌ですくった。
アスランは目を眇めることもせず宙を見ていた。それから譫言のように
「カガリ……カガ…リ…」
カガリの名を呼ぶ。
カガリは覆い被さるようにしてアスランの頭を胸に抱いた。それから一つ大きく息を吸って言う。
「アスラン、すっごい痛かったんだからな!」
ひときわ大きくおどけて言うカガリの言葉に、アスランは現実に引き戻された。焦点を合わせれば、
ハチミツみたいな金色とやさしい笑顔があって、それから一瞬の間、二人は同時に吹き出した。
「なあ、アスラン、なんとかなると思わないか?私はなんか、頑張ればなんとかなりそうな気がするんだ」
「なんだよ、それは」
「え?えーっと、…いろいろなことがだよ!とにかく諦めることからじゃなくて、望むことから始めなきゃって思うんだ」
自分で自分の言葉に納得するようにうんうん、と頷くカガリにアスランは以前のカガリを見た。
「安心したか?」
アスランが訊ねると、カガリはちょっと頬をふくらませて言う。
「それはお前のほうだろ」
アスランはふっと小さく笑う。ああ、俺は安心したよ、カガリが俺と同じ痛みを抱えながら俺のことをまだ思っていて
くれたと分かって。だからカガリ、君も安心してくれ、俺は君のことをもう諦めようとだなんて思わない。
多分あの時、アークエンジェルに脱走して帰還した時に掛け違った釦を、今ようやく掛け直すことができた。
「…痛かった?」
胸についた赤い筋を舌でなぞれば、
「ん…っ」
カガリはまた甘ったるく鳴く。それを合図のように仰向けになったままアスランはカガリを胸に引き寄せた。
「わっ」
力を込めて抱きしめる。ああ、今度は実感がある。直に触れる肌のぬくもりも、鼓動も、俺の胸でつぶれる二つの乳房も、
絡めた指も、顔にかかる髪も、細い腰も、柔らかい太腿も。愛しい、という思いと共に不意に
自身の復活に気づき、アスランは充実した気持ちになった。これが正しい順番だ、と。
「ア、…アスラン、これ…」
カガリも気づいて頬を染める。
「まだカガリが欲しいんだ」
カガリの白い指が伸びてきておそるおそる触れると、アスランのそれはぴくりとした。
同時に腰のあたりが急激に熱を帯びて、先端にその熱が伝わる。
「ち、ちゃんと入るかな…?」
「入れてみて」
カガリは素直にアスランのそれを自分の中に納めようとアスランに跨り、ゆっくりと腰を沈めようとした。
「んっ…」
自然と眉根を寄せるカガリの表情をアスランはきれいだと思う。そして着実にアスラン自身はカガリに納まってゆく。
狭くて、熱くて、…柔らかい。
「う…っ」
たまらずアスランも声を上げた。納めきって満足げに太い息をつくカガリを、体を起こしてつながったままで抱きしめ、
今度は体を入れ替える。このままカガリに上にのったままで、と思わないでもなかったが初めてでそれはあまりに酷だろう。下から存分にカガリのよがる表情を見ていたかったが、おあずけだ。
乳首を口にふくみ、ちょっと噛めば
「いたっ」
という声と同時にカガリの中がキュッと締まる。
アスランはゆっくりと動き始めた。
「あ…ん……はぁ、はぁ…、あ…」
自分の動きに合わせて揺れながら、カガリは心地よい声で鳴く。
「もっと声出して、カガリ、もっと聞かせて」
「はぁ…ん、ア…スラ…ン」
もっと聞いてみたくて、見てみたくて、アスランは一旦自身を抜く。秘所に顔を近づけると、
「や、恥ずかし…いから、やめろって…」
いつものカガリの口調だが、でも弱々しい声が耳をくすぐる。やめるわけがないだろう。
金色の海に顔を埋めると細い足首をつかみ膝を立たせた。
改めて触れるとカガリの太腿はアスランの掌にしっとりと吸いつき、
「もっと足、開いて」
アスランにされるがままに開いてゆく。
蜜壷に指を挿しこみ、くちゅくちゅとかき混ぜてみたり、角度を変えて恥骨の裏側を中から押してみたりすると
一際高くカガリが鳴くのが直接アスラン自身にも伝導する。
「すごい濡れてる」
アスランによって開かれた淫靡な花は、律動しながらなおもアスランを誘う。それに感応したみたいに、
アスラン自身の先からも溢れるものがある。
アスランはカガリに口づけ唾液を送りながら、入口にそっと自身を当てた。
「もう痛くないか?」
「痛くても…いい」
カガリの耳朶を甘噛みしながら、アスランは静かに腰を沈め、ゆっくりと抜き挿ししてみた。
「あっ、…は……ん、んん…っ」
カガリは、痛いのか気持ちいいのかよくわからなかったが、わからないなりに足の間に感じる異物感が確実に
自分をどこかへ連れていこうとしていることに幸せを感じていた。確実につながっているその事実が、
肌と肌が触れ合って混じるその体温が。
カガリの柔らかく蠢く肉襞に包まれたアスランは、より硬度を増し、荒い息をつかせ、高みへと昇らせる。
「ア、アス…ラ…ン、なんか…おかし…い…体が…」
カガリの言葉が痺れる脳裏に小さく響く。
「カガリ…っ、俺もう…」
荒い息づかいと、肉を打つ音が空間のすべてになり、やがて
「う…っ」
果てた。
息がおさまるにつれて、ゆるゆると活動を取り戻すアスランの脳に先ず浮かんだのは、
どうしてもっと早くこうしておかなかったのかという思いだった。指輪を贈ることなんかより、だ。
思わずアスランは小さく笑う。
「なにがおかしいんだよ?」
カガリらしい訊き方だ。
「いや、俺は子供だったなと」
「なんだよ、自分ばっかり大人になったような言い方」
「カガリも今日、大人になっただろ」
「な…っ」
真っ赤になったカガリがくるりと顔を背けたので、アスランはその髪を笑いながら撫でた。
「結婚、しないんだよな?」
「するわけないだろっ」
頬をふくらませたカガリの顔がアスランのほうを向く。くるくる表情の変わるカガリがほんとうに嬉しくて、愛しい。
「するとしたってスカンジナビアの王子はないさ、…どちらかというと連合の…」
「え?」
刹那に顔色を曇らせたアスランに、したり顔のカガリが舌を出す。力が抜けて
「はっ…はははは!」
アスランは心の底から笑うことができた。
「お前、もう、ちゃんとお前に戻ったよな?」
今度は真剣な表情のカガリだ。君はいつもそうだな、自分だってさんざん辛い思いを抱え込んで、
それは俺とのことだけじゃなく、国も、世界もひっくるめて…それなのにまだこんな風にして俺を心配するんだ。
「カガリ」
アスランもう一度しっかりとカガリを抱きしめた。懐かしくて、けれど新鮮な抱擁。
君を失うことにならなくて、ほんとうに良かった。俺の希望が確かにここにある。君は世界と俺のために存在していてくれ、俺もそうするから。
宙(プラント)の女王とオーブ代表の弟とのロマンスと、オーブ代表と親善活動家のロマンスというのも悪くない。
力強くて、それでいて優しいカガリの腕を背中に感じながら、アスランはふとそんな風に思って
今度は自嘲気味にではなく頬をゆるむのを感じた。
了