お姫様でエロなスレ2

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773服従 1
リュリュはさきほどからはちみつを載せたパンの端を指先で弄んでいるばかりだった。
アグレイアもこっそりと匙を置く。
彼女自身も食欲があるとはいえず、簡素に整えられた朝食は一向に減ってはいなかった。

気付いたリュリュが咎めた。
「皇女様、召し上がらねば」
「リュリュこそ、それでは食べ辛かろう?」
言われてようやく、彼女は指の下で小さな山をなしたパン屑に気がついたらしかった。
頬を赤らめ、女神官はべたべたの指先を擦り合わせた。
「小鳥にやるつもりでしたから」
さっと立ち上がり、リュリュはパン屑をつまみ上げると窓に寄った。塔の最上階だから大きな窓ではない。
パンを空中に撒くリュリュに、アグレイアは自分のパンを指し示した。
「私のも撒いておやり」
「いけません」
リュリュは表情を改めた。
「皇女様は少しお痩せになりました。体力をおつけにならねば」
アグレイアの美貌に翳りが落ちた。微笑というには柔らかさに欠けた。
だがその陰影はすぐに消えたので、言葉の途中から顔をそむけてしまったリュリュには見えなかった。
「そうじゃの」

扉が開いて一人の女官が入って来た。
アグレイアは構わず匙を取り上げた。
女官は長年一筋にこの城で勤めていたと思しき物腰の、年輩の女だった。
支配者が代替わりしようと一変しようと古株の女官は重宝されるが世間の習いである。
もちろん彼女は虜囚である祖国の皇女と余計な口を利く事を禁じられているらしい。
そのことはこの三週近くの無駄な努力の結果、アグレイアもリュリュもよく心得ていた。
「足りぬものはない。お下がり」
パンか飲み物の補充に来たと判断したリュリュが声をかけたが、女官は品のいい眉宇に困惑を滲ませている。
そのまま戸口近くで立ち尽くしているのでアグレイアは灰色の瞳をあげた。
女官は、彼女が視線を向けると深々と礼をして部屋を横切った。
奥には短い螺旋状の階段があり、その先にはかつてはこの国の王妃のものであった小さな、だが贅沢な寝室がある。
階段に向かうタペストリーを腕で掲げた女官は、顔を伏せ、身を開いてぎこちなく後ずさった。

リュリュの顔がこわばった。急いで窓辺から駆け寄ってくる。
アグレイアの袖を強く掴み、傍らに寄り添った。
「ローラン様がお戻りになりました。皇女様をこちらにご案内するようにとのご命令でございます」
女官が、二人が初めて聞くしわがれた声を出した。
「伝言をお受けしております。そのままお伝えせよと申し付けられておりますので、どうかご無礼をお赦しくださいまし。…『さぞかしお気の進まぬ事でしょうが』…」
さらに顔を伏せた女官は機械的に続けた。
「『慈悲深く民と国とを想われ、先日よりはましな再会となるようお努めください』」
静かなものいいだったが語尾が揺れていた。
リュリュが口を開くより早くアグレイアは匙を置いて立ち上がった。
袖におかれていた手をそっと払うと、彼女は透けるような金髪を翻した。

優美な姿がタペストリーの奥に消え、女官はおさえていた手を離した。
「陪食の女神官様にも御用との事でございます。どうぞ、下の階の広間においでくださいますよう」
顔を伏せたまま食卓の横を通る彼女に返事を返さず、リュリュは中身の減っていないスープ皿の縁に目を彷徨わせた。
774服従 2:2006/05/25(木) 10:58:53 ID:jfJBpHcH


間もなく階段上に現れたローランは、鎧下の、綿を縫い込んだ長上着を着たままだった。
彼は寝台から一番離れた窓際に佇んでいる皇女を一瞥して片方の眉をあげた。
生成りの長上着のせいか、顔がさらに陽に灼けたように見える。
「おやおや、まだそんな格好でおられるとは、がっかりです」
揶揄の口調にはかなり免疫ができたアグレイアは首を巡らせて男を眺めた。
「息災なその顔を見ねばならぬこちらのほうが、よほどにがっかりじゃ」
ローランは笑い、皇女は眉を顰めた。
「昔から、戦場では実に運がいいのですよ」
アグレイアはむっとして窓の外に視線を転じた。小鳥が空の端をかすめた。
「そのようじゃの」

三週前の致命的な隣国との会戦にて敗死と捕虜の運命を免れた貴族や将官たちはまだ多数いる。
首都を抑えられ、王が死に、高い身分の高官たちが次々と捉えられても侵略者に抵抗を続ける者に欠く事はなかった。
特に、会戦に参加できなかった東部と南部全域の防衛軍はまだかなりの戦力を有している。
だが、防衛側においては優れた会戦で失われた優れた指揮者層の欠損と、要所の町まちを抑えられて移動と補給を思うに任せない現状がある。この三週間、散発的に起こる遭遇線では全て侵略軍が勝利を掴んでいた。
運とローランは片付けたがそれ以前の問題だった。
現状のままでは戦巧者で知られる彼の率いる軍に対抗する決め手はないというべきであろう。

「…じゃが」
アグレイアは窓から離れた。
「どのような悪運もいずれは尽きる日も来よう。今からよくよく覚悟しておくことじゃ」
「ああ、なるほど…」
ローランは立ち止まり、腕を組んだ。ひきしまった頬の線が歪んだ。
「どうも今日は珍しくお喋りになると思えば。世俗のドレスを着ているその姿をよく見て欲しいという事ですか?これは失礼を。女心には疎くてね」
アグレイアは思わず肘をあげ、胸元を見下ろした。
着たきり雀でいるわけにもいかず、アグレイアは与えられたものの中から地味なドレスを何着か選んで交互に身につけることにしている。
今日のドレスがそのうちの一着であったことに気付き、アグレイアは珊瑚の唇を噛んだ。

ローランは肉食獣の滑らかな足取りで皇女の周囲に円を描きはじめた。
「銀鼠色ですか。悪くないがいかにも地味ですな。髪ももっと高く結い上げるべきです。まるでうなじが見えぬ」
ぶしつけな視線に恐れをなし、アグレイアは窓の傍らに戻った。
天井から床までを覆う重々しい垂れ布に寄り添って防御の構えに入る。
「お前を喜ばせるつもりはない」
「そういう心配を世間では自信過剰といいます」
ローランは唇に薄い笑みを浮かべた。
「残念ながらあなたの場合、男を籠絡する類の魅力は今少し物足りぬ」

見当違いの挑発に反応してはならない、とアグレイアは感情を戒めた。
だが下卑た軽口を叩かれた不快のために頬が紅潮するのは止めようがなかった。
ローランはさらに半周回り込み、窓枠にもたれかかった。
「すこしお痩せになったようだ。食事はきちんととっているのでしょうな」
アグレイアは視線をそらした。
離れようとする皇女の右の指先を、腕をほどいたローランがとった。
咄嗟に彼女がすがりついた垂れ布ごとローランは、その躯を腕の中に抱き込んだ。
775服従 3:2006/05/25(木) 10:59:50 ID:jfJBpHcH

アグレイアは嫌悪もあらわに身を捩った。
その躯から垂れ布をほどきながらローランは喉の奥でくっくっと笑っている。
皇女が勢いよく顔を仰向けた。激しい口調で男に詰問をぶつけた。
「なにがおかしいのじゃ」
「おかしくはありませんかね」
ローランは目を瞬くと、彼女を眺めた。
「契約事とはいえ、口を利くのも稀な男女がこのように朝早くから、急いで事を行おうとしているのですから」
「人ごとのようじゃの」
アグレイアはローランの語りを遮った。
「まあ、あなたのほうには実にお気の毒な事情とは思いますが」
男は呟くと、アグレイアを布から引っ張り出した。二・三歩よろけ、皇女は激昂した。
「今さら善人ぶるのはおよし。愉しんでおる癖に!」
頬はいささか赤すぎるほどに染まり、上気した灰色の目が天にかざした宝石の如く輝いている。
ローランはまじまじとアグレイアを見ていたが、やがて頭をそらして笑い出した。
面と向かって笑われるという屈辱を、アグレイアは睫を伏せて堪えた。
ひとしきり笑い、ローランは破顔のままの表情を彼女に向けた。
「失礼。では、少なくとも私の状態に気付く余裕はできたというわけですな。いや、吉祥」
彼女は身を翻そうとしたが、ローランはすばやくその長い髪を捕まえた。

淡くきらめく金髪をたぐり寄せ、皇女の耳朶に囁く。
「確かに愉しんでおります」
アグレイアは身をそらして逃れようとした。
「あなたのような完全に無垢『だった』女の場合は特にね…最初よりも、馴染んだ頃のほうがずっと面白いだろうとは思っておりました」
顔をそむけたために露になった首すじに唇を置くと細い肩がびくりとわなないた。
「ほら。穢されるだけでは済まなくなってきているでしょう。……前回も」
滑らかに舌を這わせはじめた。
「随分、反応しかけてた。…我慢しているのがわかりましたよ」
「…違う」
彼女は呻いた。
「言葉ではそう仰いますが──御自分でも赦せないに決まっている。厭な男が相手なのに歓びを感じてしまうのだから」
「愚かな…ことを…言うのはおやめ」
皇女は眉を寄せ、唇を歪めて小さく罵った。尖った響きには濃い怯えが滲んでいた。
「講義はお嫌いですか」
ローランは薄い笑いを頬に刷いた。この笑いが敵意の顕われだと彼女も今では悟っていた。
「唇よりお躯のほうがはるかに正直だ。以前も言った筈です、貴女は女だ。ご自分が女神でもなければ天女でもないただの女だと、よく納得させてあげましょう」

ふわりと躯が浮き、急激に視界が流れた。
みぞおちの下に肩の堅い肉を感じる。
ローランに荷物のように軽々と担がれた事を知って美しい顔を怒りで歪め、アグレイアは拳をかためた。
「お放し、この下種!」
ローランはアグレイアを担いだまま器用に肩を竦めてみせた。
「ふうん。存外に、活きのいい言葉もご存知のようだ。だがご身分には!非常に!相応しく!ない!」
台詞の切れ目ごとにドレス越しに容赦なく尻をはたかれ、アグレイアは悲鳴をあげかけたが堪えた。
「口をお慎みなさい、気高い皇女様」
面白がっている声がして、痛みに滲みかけた視界をあげたアグレイアは目の前に寝台が迫るのを見た。
刑場も同然である。
「いや」
脚をばたつかせようとしてすとんと床に下ろされ、拍子抜けして見上げた顔をローランが覆った。

荒れぎみの唇の乾いた感触をアグレイアは覚えていたため、さきほどの男の言葉と合わせて不安と不快に胸が締め付けられた。
後ずさろうとして両腕をねじられる。痛みにそれ以上下がることを断念し、アグレイアは目を閉じた。
望まぬ接吻の最中にも彼女の背後に廻されたローランの手がなにか作業しているのに気付いた。
あわせた手首のあたりを布のようなもので巻いている。
縛られているのだ。アグレイアは呻いた。
どうせ避けられないことでも、自由がきくのとそうでないのでは雲泥の差だ。
なによりもこんな扱いは許せない。
776服従 4:2006/05/25(木) 11:01:01 ID:jfJBpHcH
ローランの腕が滑って戻り、ドレスの襟に置かれたのを目の端に捉えながらアグレイアは急いで手首を捻った。
きついわけではない。だが、巻いた上から手首の間をさらに十文字に縛ってあるらしく、緩みそうにもない。
視線を走らせると、ローランの胴に巻かれていたはずの幅広の腰帯が消えていた。
「ん、…!」
やっと唇が離れた。
アグレイアは急いで呼吸を貪るとすぐさま抗議の声をあげた。
「これをほどきなさい」
「ご冗談を」
ローランは彼女の怒りには無頓着な様子で襟をひっぱった。
喉が苦しくなって黙ると、また薄く笑った。
「無益な抵抗に気を取られていては、快楽の深みには溺れられぬでしょう」
「そのようなものは要らぬと伝えたはずじゃ」
アグレイアは唸った。
ローランの笑いはびくとも揺るがない。
「何度も何度もね。一応覚えていますよ」

冷たい光が流れ、アグレイアはぎくりと顎をひいた。襟の釦が複数弾け、床に転がる堅い小さな音がした。
いつのまにか手にしていた短剣を鞘に戻し、ローランはそれを寝台の端に落とした。
両手で開いた襟ぐりを握り、強くひき下げてくる。
はだけた胸の深い谷間が覗いていた。
襟をもっと下げながら、ローランは付け加えた。
「余計に突き落としたくなりますね、そういう女は。なぜか」
「お前の性根が卑しいからじゃ」
アグレイアは身を捻ろうとしたが釦を失ったドレスはいとも簡単に剥かれてしまった。
肩の部分はすんなりとした二の腕の半ばまで落ちた。
金色のなめらかな髪が大部分を覆っているが、かたちのいい乳房がひきさげられた襟の上に載っている。
くびれた胴から腰にかけてはドレスが緩んでいないだけに、かなり扇情的な光景だった。
肌は白いはずだったが、怒りと羞恥で匂うようなつややかな色に染まっており、ドレスの地味な銀鼠色にはそぐわない。
「いい眺めになった」
ローランは満足そうに呟くとアグレイアの背に腕を廻した。
「お放し」
「いちいち騒ぐのはおやめなさい。肩を脱臼したいというのがお望みなら喜んで突き倒して差し上げるが」
アグレイアは赤くなり、柳眉を逆立てたが口を噤んだ。



縛り合わせた腕を敷いて細い背を寝台に横たえ、ローランは傍らに立って彼女を眺めた。
彼自身がその資格も地位も奪い去った無力そのもののうら若い女。

恥辱に頬を染めている元斎姫は文句なく麗しかった。
胸をはだけ、後ろ手に縛られていてすら堕ち得ない気品があった。
整い過ぎた目鼻立ちにはくっきりとした清らかさが溢れている。
美しい女でなければ斎姫になれぬのか、それとも神話に属する時代の祖から続く血が研ぎすまされていった結果がこれなのか、ローランは知らない。
ただ、このアグレイアという皇女が、彼がこれまでに見た、あるいは抱いた中で最も美しい女だということははっきりしていた。
皇家の最高位にある斎姫は生涯処女を通す。
また、斎姫にならずとも一族の女が嫁するのは同族の縁の男のみとの不文律があるようだった。
その身をどこの骨ともわからない下郎の男に与えるのがどれほどの禁忌か、苦労せずとも想像はつく。
ましてや彼の目的は胎に己の種を植え付けることなのだ。
777服従 5:2006/05/25(木) 11:01:55 ID:jfJBpHcH
だが、だからといって生まれてこのかた人並みの苦労も知らず、神々にのみ相対してきたこの皇女に同情する気にもなれなかった。
どのように気高かろうがどのように麗しかろうが、女は──女だ。
肌は滑らかで息は香しく、柔らかな肉の内も外も、甘く熟れれば炎より熱い。

手早く長上着を脱ぎ捨てた。
シャツ姿で寝台に膝をつくと、アグレイアの眉がはねあがった。
ローランは唇を歪めた。
不自由な後ろ手のまま後ずさろうとする剥き出しの肩を片手で握って押さえつける。
残る片腕はドレスの裾に突っ込んだ。
長い布地をたくし上げ、避けようと泳ぎ回るすんなりした脚を求めた。
裾をからげ、太腿の付け根まで露にする。彼女は詰まったような声をあげて首を振った。
たっぷりとした布地が厚くローランの腹と彼女の躯の間にはさまっている。
簡素な構造の斎姫の衣とは違い貴族の娘のためのドレスだから無理もないが、滑らかな柔肌を幾重にも覆う絹はこの場合無粋で邪魔だった。
ローランは手をのばし、短剣をひきよせると鞘尻を銜えて抜いた。
アグレイアは刃の輝きを見ても怯えなかった。殺される事だけはないと理解しているらしい。
だが、だからといって安心した風情などその緊張した美貌にはみじんも窺えなかった。

絹の繊維が断ち切れる細い音が天蓋の下を何度か震わせ、平たく引き締まった腹に直に掌を置いたローランの茶色の目をアグレイアは睨みつけた。
ローランは無表情にアグレイアの目を見返し、すっと視線を外した。
いつにも増して温度の低い目だ。過度の欲情に煙ることもなく、興奮に煌めくわけでもない。
下劣にも陵辱を『愉しんで』いた先日のようであれば、まだ付け入る術もあるかもしれなかった。
この男にとっては多分今回の事は仕事かなにかの一環に違いないと、彼女はその目から感じ取った。
徹底的な服従を強要するための行為。だが、それが何故かがわからない。
ローランは忙しいはずだった。
このような朝っぱらから女の部屋に入り浸る暇などないに決まっている。
なのに来たのは、反対に、おそらくこの時間しか空いていなかったからだ。
何かが──起こったのだ。



抱き寄せられ、胸が重なる。突き上げたふくらみにローランが目を細めたのが判った。
唇の感触が鎖骨のあたりに落ち、アグレイアは首筋をさらにそらせて顔を背けた。
顎にざらつく強いひげの先端が柔肌を削りながら彷徨う。痛い。
馴れた様子で唇が開き、ひりひりとする肌を舐めとった。
優しい感触の舌が癒すように唾液をまつわりつかせはじめ、乳房の先端がそっと吸い込まれてアグレイアは呻きをかみ殺す。
両腕を敷いている我が身の重みに男のそれが加わり、少し捻っただけで肩に強い痛みを覚えた。
無駄な抵抗はできない。このまま『終わる』のを待つしかない。
アグレイアは震える睫を閉じた。
穢されるのはこれで三度目になる。失ったものはもはや惜しまぬと決めた。
ただ、斎姫であった矜持だけは棚に置くように忘れ去ることはできなかった。
それでも忘れなければ。自分はただの贄なのだと我が身に言い聞かせねば、とてもこれからの時間を耐える事はできそうに──。

階下の遠くでごくかすかに、女の声が響いた。
長い悲嘆の声だった。

778服従 6:2006/05/25(木) 11:03:12 ID:jfJBpHcH
アグレイアは目を見開いた。手を縛られているのを忘れ、身を起こそうと肘をつきかけて悲鳴をあげた。
「リュリュ!」
「耳のいい事だ」
男が呟いた。アグレイアはきっとその顔を睨み据えた。
「リュリュに何をしたのじゃ!あの者は私の母も同然じゃ、一切手出しは許さぬ」
「皇女様の腹心のお方に手出しなぞ」
ローランはふくらみから唇を離し、茶色の視線をあげた。冷笑が滲んでいた。
「お可哀相に、無聊の女神官殿には戦場のささやかな土産をご覧に入れただけですよ」
アグレイアの眉がつり上がった。
「ならば何故あのような声をあげるのじゃ」
「お気に召さなかったようですな。残念です」
男は肘をつき、胸板をはなした。
「想い人に逢わせて差し上げたのですがね」
「想い人?リュリュにそんな者など…っ…」
太腿を撫でさすっていた男の掌が下腹部へ移動していき、あちこちを探られながらアグレイアは呻きを押し殺した。
「おや。ではこちらの勘違いかもしれません」
ローランはのんびり、といえるほどの口調で続けた。
「神官として出世なさると祖宮以外にもいろいろお知り合いができるのかも。あの女神官殿はグラッシのルポネル家の出だそうですね」
アグレイアの胸と舌が凍り付いた。
何も言えずに見返した目の反応をローランが確認し、満足したげに目を細めた。
「いわずとしれた、内海の海運業を牛耳る有力な大商人です。その、小国の元首並みの権勢を誇る当主がリュリュ殿の一番上の兄君にあたられるそうで」
「オノレ・ルポネルを連れてきたというのか」
不吉で暗い想像が脳裏をよぎる。
ローランは肩をちょっと竦めた。
「彼は大物すぎて簡単には手を出せませんな。我が国もいろいろ世話になっておりますし…もっと小物ですよ」
アグレイアの緊張した顔を眺め、ローランは微笑した。
「この国の宰相の副官だった男ですがね。キュクトという小男で…たしか、あなたもこの王宮で一度お会いになった事があるはずだ」
「……」
「先日、なぜか南の国境付近で部下が捕えましてね。なかなか旅の目的を吐こうとしなかったので相当に手こずりました」
アグレイアは息を呑んだ。ローランに体当たりをするよるように身悶えし、首を振った。
「拷問をしたのじゃな。ひどい事を」
「それはこちらの台詞だ」
ローランが低く罵った。
「綺麗な顔をして腹黒いにもほどがある。ルポネルを動かして敗残兵どもに大量の軍資金を入れようとしたのはどうせ貴女の企みでしょう」
「それで、あの者は」
「残念ながら」
ローランは、退こうとする皇女の躯を引きずり寄せた。よじれ、あらわになった太腿の奥に掌をつっこむ。
「今、下で女神官殿と再会を喜びあっているのは、あの男の首です」
アグレイアは太腿を閉じ、膝をよりあわせて抵抗した。
腕が使えないのであっさりとおさえこまれる。
「無慈悲な」
「いいか」
彼女は悲鳴をあげて腰をくねらせた。
濡れていない敏感な芽をつままれている。その指をゆっくりと縒られ、皇女の目尻に涙が滲んだ。
耳元に口を寄せ、ローランが呟いた。
「二度とするな。脅しではないぞ。次に同じ事が起こってみろ、子ができようができまいが契約はご破算だ」
指の圧力が失せ、力を抜きかけたアグレイアはびくりと震えた。茂みの上から掌全体の熱がじんわりと覆っておさえつけてきた。
直接触れられる痛みの後ではひどく優しい感触だった。
「俺は部下の手綱を全て解く。国中の怨嗟の声をこの塔の高みにまで響かせてやる。耳のいい貴女にはさぞかしよく聞こえることだろうさ」
もう片方の掌が腰に廻り、ローランは彼女を弄び始めた。口元から冷笑が抜けていない。
「実際、俗世を捨てたくせに物騒な実家と仲立ちをするような女も目障りだ。『時間かせぎ』はもう関係ないぞ、皇女様。じっくり蕩けて存分に声をあげろ」
779服従 7:2006/05/25(木) 11:04:24 ID:jfJBpHcH
「リュリュは」
アグレイアは呻いた。
「リュリュだけは」
二本の指が溝にそえられた。中指の先が花弁をよりわけ、やわらかく密着する。
溝に添ってゆっくりと指先が滑り始めるとアグレイアは唇を噛んだ。
「国中の民よりも母親がわりのあの女が大切か?」
「……」
「麗しい主従だな。あの女もこの前、同じ台詞を言った」
アグレイアが灰色の瞳をあげると、ローランはその深みに言葉を打ち込むように続けた。
「もう大年増ではあるが代わりに自分がなんでも言う事を聞くから、どうかこれ以上皇女様だけはとな」
アグレイアは目を見開いた。あの誇り高いリュリュが、自害したほうがましという類の嘆願をこの男にしていたと初めて知ったのだ。
ローランは低く笑った。
「むろん丁重にお断りした。少々年増でも構いはしないがあの女は生憎俺の好みではない。それに……」
しっかりとした長い指が微妙に折りまげられ、掬い上げるようにして執拗に入り口を確認している。
アグレイアは努力して呼吸を整えた。
「必要なのは貴女であって、皇家の一族ではない女神官ではない。そしてもう一つ」

かるく抉られた。
あ、とアグレイアの端麗な唇を抑えかねた喘ぎが割った。
擦られていた部分がいつのまにか湧き上がる蜜でしとどに濡れていて、不快よりもはるかに危うい感覚を彼女に教えたのだ。
「ほら」
ローランの声が顔の前でした。瞬間閉じた目を開くと、目前に陽に灼けた顔があった。
「今更俺をとりあげてももう遅い。貴女の躯は、この辱めを悦んでいる」
「ちがう…」
アグレイアは自分のうわずった声に衝撃を受けた。どす暗い不安と怖れが胸を染めた。
「違う!」
叫んだ唇の間に指を押し込まれた。触れた舌に、なまぬるい酸味を帯びた匂いと塩の味がとろりと漂った。
それが自分の奥から掻きとられた蜜であると悟ってアグレイアは呻いた。
急いで顔をそむけ、ローランの指を吐き出す。
反射的な嘔吐を堪えて呼吸を荒げていると太腿を高く持ち上げられた。
縛られたままの手首と肘で躯を支えて彼女は涙のたまった灰色の目をあげた。
予想はついていたが、男の肩が間に入り込み、大きな掌で膝を抑えられている。
控えめな音と熱を躯の芯に感じてアグレイアは息が漏れるような声をあげた。
指ではないもので掬われている。
柔らかく熱いそれは舌に決まっているが、その行為をアグレイアは一番怖れていた。
前回それをされた時、自分という存在が核まで侵されていくほどの愉悦を感じたからにほかならない。

愉悦──それと認めたアグレイアの全身が震えた。
抵抗のしようのない感覚。
自分ではとめられない熱。
抑えられない欲望。
ローランの思うままに翻弄されることへの嫌悪感すら洗い流すものの予兆…。
アグレイアは肩の関節がはずれてもかまわないとばかりに身をよじった。
「おやめ…、お願い…!」
「いやです」
ローランは顔を離し、優しいとすらいえそうな口調で拒否した。
「ここでやめる?まさか。実に狩りたてがいのある牝狐だ」
780服従 8:2006/05/25(木) 11:05:09 ID:jfJBpHcH
アグレイアは深く傷ついたが、それ以上口がきけなかった。
掬われるたびに勝手に腰が微妙にくねり、舌の動きにあわせている。
ローランの熱さが触れる場所が蕩け始めており、腕や胸のあたる場所が熱くてたまらない。
豊かなかたちのいい乳房のふちを中心に、何度も躯中を撫で上げられている。
そのたびにアグレイアの躯が震えた。
肌は上気しきり、撫でられる毎に甘い芳香を放った。
アグレイアは喘ぎをあげ続けた。
意思的ではない反応で躯の内側が搾られ、その刺激が自分自身心地よかったのだ。
躯を動かす電流が自在に流れているようで、たて続けに小さくきゅっ、きゅっと内側がざわめく。
そのため芯の感覚がますます敏感になっていく。
もっとしっかりとした熱を感じたくて──控えめな肉の欠片ではなく、もっとしっかりとした肉を締め付けたくて──アグレイアは呻いた。
ものたりない。
穿たれるまで自分でも存在を知らなかった熱い洞が、ローランを求めている。
動かない思考の隙間を絶望が埋めた。

抱き寄せられた。
尻側から掌をおとされ、泉をかきわけて内部に指が入ってくるとアグレイアは悶え、ローランの胸に唇を押し付けた。
そうしなければ声が出てしまいそうだった。
自分の躯が男の指を締め付けているのを感じてアグレイアは涙を落としそうになったが、与えられた充実は彼女の焦燥感を一層煽った。
「は……あ……ん…っ……ん、ん……」
ぴくぴくと躯を震わせるアグレイアの両手の戒めを、もう片方の手でローランは外した。
必要ないと判断したのである。
陥落寸前の美しい皇女の姿態を愉しむには無粋な要素は排除すべきだった。
背徳感を煽るために背後からという選択肢もあったが、やはり誇り高い彼女が屈服する様を観たいローランは皇女の躯を仰向けに押し倒した。
「あ」
シーツに押さえつけ、太腿を開く。
さきほどからの責めで艶かしい白い腿には透明な蜜がなだらかな筋をひいていた。
すっかり準備ができた花弁は男を誘うように開ききり、とろとろとした光を弾いている。
覆い被さったローランとアグレイアは視線を絡ませた。
興奮と期待と不安が入り交じり、皇女のほうにはインクを垂らしたような絶望の気配がする。
その暗さの美味をローランは味わった。

ようやく入ってきた猛った肉に、アグレイアは小さく叫んだ。
腰が鋭くつきあがる。待ち望んだものを得た彼女の躯は喜びいさんで、そのずっしりとしたものを逃さぬよう絞り上げた。
しぼりきれぬ充実ぶりにますますほだされた肉がわななく。
痙攣が収まり切らないうちに奥に進まれた。からみつく襞を押し込み、深くまで。
彼女は珊瑚の色をした美しい唇をさらに開いた。甘い吐息が喉の奥からはきだされた。
「あ、あ、あ、あ、あっ……!」
舌でも指でもない、堅く太いが奇妙にぴったりと密着してくるローランの肉は進めなくなると動きをとめた。
「アグレイア……」
興奮で一本調子になった声が彼女の名を呼んだ。
「…いかがです?」
アグレイアは胸を弾ませて必死にかぶりを振った。
その間にも何度も何度もローランを締め付けている自分を感じる。
「いやじゃ…いやじゃ、こんな事…こんな、こんな…ああっ…!」
美しい肩をすくめるようにしてアグレイアはローランにしがみついた。男がゆっくりと腰を擦り付けて揺らしている。
押しやるつもりだった。アグレイアの爪先は不規則にローランの肌をはさみ、ほどけかけては力を取り戻した。
灰色の瞳がすがるものを求めて男の背後に向かったが、ほの明るい天蓋に舞うものは光に輝く微細な埃の粒だけだった。
擦り付けられて淫らに揺れていた肉がかすかに退いた。
わずかな欠損に耐えかねて喘鳴した内側を、測ったように力強く突き上げられた。
「ひ、あっ…はぁん!」
意思に反して芯まで直結した刺激に思考が飛んだ。
781服従 9:2006/05/25(木) 11:06:07 ID:jfJBpHcH

数瞬硬直し、頭の天辺まで走り抜けた閃光の激しさに呆然としてアグレイアは拡散しかけた瞳を瞬いた。
一気に色彩と感覚が押し戻ってきて、全身を包み込まれた。
底の知れない快感が広がりを保ちながら連綿と続いている。
それを味わい尽くすかのように自分の腰が貪欲にうねっているのを彼女は遠く意識した。
「イったか」
ローランが相変わらず無表情な声で喘ぐように囁いた。
「ここまでが強情だったな」
「いや…」
言いかけてアグレイアはまたローランの躯に身を擦り付けた。
繋がってひくついているぬかるんだ場所にまた指を感じた。
離れなければ、そう思うのにアグレイアの両腕は柔媚に絡まったまま男を押しやれない。
「いやじゃ、もうやめて……私に触れないで…ローラン」
「まだまだこんなもんじゃない。もっと愉しもう、アグレイア……やっと俺の名を呼んだな」
「知らぬ…」
アグレイアはほとんど啼くような声を漏らした。
「お前は、嫌い…!嫌いじゃ!もう…いや…」

ローランは背中に廻された細い指先の熱が落ち着きなく彷徨っている様を感じた。
眉をよせ、涙を溜めた灰色の瞳の美しさ。
抱く腕から溢れる金糸の髪の感触、瑞々しい肌の柔らかさに滑らかさ、彼をしめつけている肉の旨さ。
喘いでいる呼吸の甘さ、かすれた声。全てが彼を引き寄せ、絡めとろうとする宝物のようだった。
彼は苦笑した。
普段のお高くとまった天女ぶりが気に触るわけだ。
どうも最中のこの女にはローランはそれなりに惹かれているらしい。
『最中だけ』のことだがな、と彼は己を戒めた。血を得るための躯のみの関係だ。
そのへんの苦労知らずの貴族王族ならいざ知らず、骨の髄まで傭兵気質のしみ込んだ叩き上げの男には、この期に及んで女に現を抜かす気はみじんもなかった。
アグレイアの方も別の意味で同意見だろう。
だが、それにしても相手がこれほど美しいとなると、多少は気も迷うというものだ。

(少なくとも、子種のために無理に奮い立たせなくてもいいのだからな)
冷静にそう考え、ローランは指先を繋がっている場所に滑らせた。
溢れている蜜をたっぷりと掬い、丹念に指を潤すとふくらんだ芽を探し当てて愛撫する。
アグレイアの腰がびくんと退こうとするのをおさえつけ、逃げただけ腰を進めた。
押し込み尽くすと、同じく愛撫しながらじりじりと腰を退く。アグレイアが小さく喘いだ。
熱い襞が絡まるのを無視してぎりぎりまでひきぬき、間をおかずに今度は反対におしこんでいく。やはりゆっくりとだ。
「ああ…」
アグレイアの瞳が潤んだ。ゆるい動きに、反対に肉のなまなましい質量を覚えざるを得ない。
「やめて」
擦り付けるように突き上げてローランは吐息をついた。
緩慢な動きで再び往復し、それを繰り返す。白い腕が目の端に動いた。
見下ろすと、自分の指の関節を噛み、声を堪えているアグレイアの姿があった。
即座にその手首を銜え、ローランは皇女の唇から拳をもぎ放した。
「……いや…」
アグレイアが上気し尽くした顔をそむけるとぬかるみから指を引き抜いて肩を掴んだ。
細い腰に躯をうちつける。
濡れた音が響き、アグレイアの柔らかな躯がのけぞった。
「いや、だめ…!」
腰を沈め、退いては繰り返し、ローランは彼女を突き上げはじめた。
寝台が揺れ、肌が密着する。
「い、や…!いや、いや、いやっ…!」
アグレイアは半狂乱になった。
突かれる毎に唇から喘ぎが溢れ、流れる金色の髪が波打った。
内側を削られるたびに美しい曲線が震えてあがく腿がローランの腰を力なく挟んではこすりあげる。
782服従 10:2006/05/25(木) 11:06:52 ID:jfJBpHcH
抵抗か協力か定かではないそのうねりは、男の動きが変わるにつれて変化した。
ローランはもう何も言わなかった。
鞭のような強靭な動きを叩き付けながら温度の低い茶色の目だけが、アグレイアの、普段の清楚の見る影もない色めいた表情を堪能していた。
「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ……あ、あっ、はぁん…ああ、あっ…」
皇女の喉から漏れているのは耳を疑うほどに淫蕩な喘ぎであり、深く眉を刻んだ嫌悪の表情は、見方を転ずれば快楽のあまり苦痛を堪えているとも思えた。
「あっ、あんっ、あっ、んっ、……い……やっ…もうっ、もう、あっ、ああ、だめ、だめっ、あっ、あっ、あっ!」
滑らかに動きながらローランは彼女の躯と精神の亀裂を味わった。
アグレイアの躯が強く緊張した。汗ばんだ男の躯に、柔らかな腕が、脚が絡み付く。
「いや、ロー、ラン…やめ…!」
「俺に犯されるのがそんなに良いか」
ローランは全体重を淡い茂みに擦り付け、圧力をかけた。
貫いたものの先端を子宮口を押し開くほどの底にぬめりこませる。
「気高い斎姫が、聞いて呆れる」
濃い桃色に染まったかたちのいい耳朶に呟き、ローランは精を放った。
「…あ…やああ…あ、ああ…ああぁ……」
皇女は細い白い喉をさらしてのけぞり、哀し気な、長い長い喘ぎを漏らした。

熱く太い糸がぴんと渡されるような強烈な射精感。
塊になったその糸が一気に抜き通る快感にローランは呻き、熱い華奢な躯をかき抱いた。
「は…ぁん…んっ…ん、んっ……」
アグレイアは全身を震わせて何度も何度も反応し、やがてかすかな吐息をつくとゆっくりと弛緩した。
「………」
力という力が失せた。
漂白されたように、美貌から苦痛の色も消えた。苦痛どころか全ての表情が失せた。
アグレイアは気を失っていた。



しばらく抱いていた躯から鼓動と呼吸以外の反応が絶えた事を確認し、ローランは深い溜め息をつくと腕を離した。
ある程度予測はしていたものの、ここまで彼女が突き抜けるとは思っていなかった。
あっけなさに正直なところ拍子抜けもしている。
彼はアグレイアの躯から引き抜いたものに絡みきれずシーツに滴った濃厚な液体をちらと見て苦笑した。
冷静なつもりだったが、ローランのほうも二週間ぶりの美姫との行為にがっついていたかもしれない。

手早く始末して服を着ながら彼は、長い睫をぴったりと閉じ、しどけなく横たわっているアグレイアを眺めた。
既にこのひきしまった腹には前回──もしかしたら最初の折の彼の種が宿っているかもしれず、こんな浅ましい抱きかたをしても良かったものかどうか、咄嗟に判断できなかった。
だがどちらにしても、彼女が確実に懐妊したとわかるまでは抱くつもりでいる。
細い躯にシーツをひきあげ、ローランは胸のうちで独白した。

(尽くすのは国や民ではなく『母親』の命か。やはり天女ではなく人間だったな)

金の髪は柔らかく、上気を残した肌はどこまでもきめ細かい。
なめらかな頬を指の背で撫でながら次の機会を彼は考えた。
小賢しいが、あの女神官の存在がある限りアグレイアは逆らえぬ。
本人には耐え難かろうが男に馴れた躯に変化したという現実もある。
この熱い躯を愉しむ事を目的に加えてどこが悪い?
歪んだ微笑を頬に刻むと、ローランは短剣を腰帯にさして立ち上がった。

階段の垂れ布が揺れ、動かなくなっても、アグレイアは身じろぎもせず昏々と眠っていた。






おわり