【仮面】オペラ座の怪人エロパロ第4幕【仮面】

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649名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 14:13:40 ID:4fOAwrn8
ほんと何度読んでも泣けますな〜
650名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 18:22:46 ID:SY3YBKv0
>647 >「それは解っている。…ってマスター知ってるのか、さすが。
「ドンファン」てバイブもあるんだなこれが
ttp://www.aqua-port.net/itemview/itid-10713.htm
自分も業者ではございません、念のため

天使様御降臨キボン
651名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 20:27:27 ID:BV93TUst
ファントムがあってもよさそうだねw
652名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 21:43:28 ID:MKs7vr8e
「ドンファン」まじ吹いたwwwww
653名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 22:48:01 ID:Phir2SOR
>651
黒光りしてそうだw
654名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 23:46:25 ID:DhwFsBrv
568様の設定をお借りしたSSを投下させていただきます。
中年ファントム「フランソワーズ」の感動覚めやらず、別職人が続きを書きました。
イメージが違いましたらご容赦ください。
568様、投下許可をありがとうございました。

*エロなし、ギャグなし、寸止めなし

宜しかったら読んでください。
655薔薇園:2006/01/23(月) 23:48:06 ID:DhwFsBrv
彼女とその夫の墓は、咲き乱れる薔薇園の奥にあった。
墓標に刻まれた、その愛しい名前。
クリスティーヌ。
何度その名を口にしたことだろう。
私が愛した天使は、もうこの世にいない。

地下の暗闇から、明るい陽の光の下へと解き放った、私の天使。
遠くから、彼女が幸せに暮らしている様子を耳にすることで満足しなければと、彼女が幸せ
であることこそが私の幸せなのだと、長いこと自分に言い聞かせて過ごしてきたが、もはや
彼女の様子を耳にすることはないのだ。
あの男は彼女を永遠に連れ去ってしまった。
私の元から……この世からさえも。

少女は母親の歌を聴いた事がないと言っていた。
クリスティーヌはオペラ座を去り、私の元を去り、歌声を封印したのだ。
私の作ったオペラが彼女の最後の舞台――。
あの橋の上で、私の腕の中で共に歌った激しい愛の歌が最後の歌――。
彼女はあの男の元で愛され、家族を持ち、幸せに生きた違いない。
歌を封印し、紅い薔薇を封印し、オペラ座を忘れ、私を忘れ――。

むせ返るような薔薇の香りに包まれて、私はクリスティーヌの小さな娘に手を引かれていた。
クリスティーヌのものだった薔薇の咲く庭には、色とりどりの薔薇が咲き乱れている。
――紅い薔薇が一輪も無い薔薇園。
彼女はここで薔薇に囲まれ、どれだけの時を過ごしたのだろう。
何を思って薔薇を育てたのだろう。
数え切れない薔薇の中に、今も可憐な彼女の姿が、その幻が見えるような気がした。
656薔薇園:2006/01/23(月) 23:50:01 ID:DhwFsBrv
クリスティーヌの小さな娘からは、近況を伝え、訪問を催促する手紙が海を越えて
たびたび送られてきたが、実際に会ったのは四年後だった。

薔薇園で分かれてから初めて会うというその日、彼女は深紅の薔薇を腕一杯に抱えて訪ねてきた。
忘れ形見の少女は、成長と共に母親に似て行き、私に錯覚を起こさせるほどであった。
もし髪の色が同じだったら、クリスティーヌと見紛いかねない。
髪の色は父親譲り、いや、聡明で活発で、物怖じしない所も父親似なのだろう。

「小父さま! お久しぶりにお目にかかります。お約束の深紅の薔薇よ……」
彼女が一輪の深紅の薔薇を取り出し、私に差し出す。
「毎年、私が庭一杯に咲かせているの。ずっと小父さまに差し上げたかったのよ」
愛らしい手に差し出された深紅の薔薇を無言のまま、見つめる。
そして、私の手がその薔薇を受け取る。

「……ありがとう、フランソワーズ」
この同じ手で、幾度クリスティーヌに深紅の薔薇を贈ったことだろう。
……その薔薇をこの手で握りつぶした夜さえあった。
今、クリスティーヌの娘から、同じ深紅の薔薇を贈られるとは、なんという巡り合わせか。
私を見つめ、母親そっくりの瞳で、輝くように微笑む娘。
フランソワーズは両親を亡くすという境遇にありながら、私の前で眩しいばかりの笑顔を見せる。
クリスティーヌはかつて私の前で、恥じらうような笑顔をよく見せていた。

クリスティーヌ。
おまえも陽の光の下に出てからは、こんな笑顔を見せたのだろうか。
ついに私は見ることの叶わなかった晴れやかな笑顔を。

……どんなに似ていようとも、これはクリスティーヌの娘。
クリスティーヌではない……。
クリスティーヌとは違う……。
657薔薇園:2006/01/23(月) 23:53:39 ID:DhwFsBrv
私が小父さまに初めてお会いしたのは10歳の時のこと。
私の両親が亡くなり、小父さまは私と弟の後見人になって下さった。
小父さまは、私の両親の古い知り合いで……そしておそらく、私の母を愛していたのだと思う。
小父さまは大きな方で、とても美しい瞳をしていらっしゃる。
顔半面につけた仮面にはちょっと驚いたけれど、私はすぐに小父さまのことが大好きになった。
私は小父さまといつでもお会いしたかったけれども、小父さまはアメリカにお住まいで、
非常にお忙しい方なので、長いことお会いできなかった。
私はなかなか訪れないその日を、いつも心待ちにしていた。

だから小父さまにお会い出来た時には、私は嬉しくて嬉しくていつもの倍も余分なお喋りをしてしまった。
私はいつまでも小父さまのそばに居たかったし、小父さまのお声を聞いていたかった。
小父さまは私に決して親しい態度をおとりにならないので、私はそれが残念でならなかった。
初めて出会ったとき、屋敷の薔薇園で手をつないで以来、小父さまはわたしに触れもしない。
久しぶりにお会いしても、挨拶の抱擁もキスも、お別れの握手すらないのだ。

……でも小父さまは時に私のことを、なんとも言えない眼差しでご覧になる。
小父さまはきっと、私の中にお母様の面影を見ていらっしゃるのだ。
髪の色さえ同じなら生き写し、と言われるお母様の姿を。
お母様はこの眼差しで見つめられていたのかしら。
この低くて甘い声で名前を呼ばれ、小父さまの腕に抱きしめられたことがあるのかしら。
……お母様も、小父さまに何らかの想いがあったに違いないのだから。

かつてはお母様のものだった庭で咲かせた紅い薔薇をお持ちした時、小父さまは痛々しいものを見る
ような目で薔薇をご覧になった。
私が差し出した一輪の薔薇を、長いこと見つめてから受け取ってくださった。
小父さまはあの時、何を想っていらしたのかしら。
……やはり、お母様のことを想い出していらしたのかしら。

きっと小父さまは、お母様のことを想って、独り身でいらしたんじゃないかと思う。
お母様はお父様と間違いなく愛し合っていて、そして、小父さまからもこれほどに愛されていたのだ。
私は小父さまのことが大好きだけど、小父さまが私を気にかけてくださるのは、お母様の娘だから――。
昔、お母様との間に何があったのか私は何も知らないし、詮索しないと決めてはいたけれど、
私は大好きなお母様のことを羨ましく思っていた。
658薔薇園:2006/01/23(月) 23:56:24 ID:DhwFsBrv
二度目にお会いしてからさらに三年後、代理人の方から、小父さまが病気になられたと聞かされた。
病状があまりよくないので、アメリカを引き上げて、こちらで治療をなさると言う。
次にいつ会えるかわからないので、特別にお会いできるということだったが、
私は小父さまが心配でたまらず、決められた時間より随分前から迎えの馬車を待っていた。

お屋敷に着き、通されたのは寝室で、私と入れ違いにお医者様が暗い表情で帰っていかれるのを見た。
小父さまの病気は、思ったより悪いのかもしれない。
自分でも戸惑うくらいに衝撃を受け、唇がふるえる。
そして私は、小父さまが寝台に横になっているのを初めて目にした。
背が高くて、いつも見上げるようにしていたあの小父さまが、寝台にいるなんて……。
寝台に近付き、仮面をつけたまま目を閉じた小父さまを見ると涙がこぼれた。
「小父さま……小父さま!」

私はあの薔薇園以来、初めてその手を握った。
私の声に小父さまは、あの蒼とも碧ともいえない瞳をゆっくりと開いた。
「……クリスティーヌ…?」

聞こえるか、聞こえないかという小さな声で小父さまが呼んだのは、お母様の名だった。
そして私をご覧になり、また瞳を閉じてしまわれた。
……小父さまはお母様に会いたいのだろうか。
命が尽きるかもしれないという時に、ひと目会いたい大切な人は、
とうに亡くなられた私のお母様しかいないのだろうか…?

もう意識のない大好きな小父さまを見つめ、私はある事を決心した。
私を屋敷に連れてきてくれた代理人に、病気を理由に、今後この屋敷を訪れることを
強引に承諾してもらい、私は馬車を飛ばして自分の屋敷へと戻った。
小父さまが会いたい人に、私なら会わせて差し上げられるかもしれない。
きっと、私しか会わせて上げられない――。
659薔薇園:2006/01/24(火) 00:01:35 ID:DhwFsBrv
以前、メグおば様の屋敷を訪ねたときに、沢山のデッサン画を見せてもらったことがある。
ほとんどは華やかな舞台の絵だったけれども、そのなかに一枚だけ、おば様とお母様が書かれた、
普段着姿の絵があった。
にこやかに笑うおば様とは対照的に、お母様は静かに微笑んで木綿のドレスを着てたたずんでいた。

「クリスティーヌはよくそのドレスを着てたわね。オペラ座の練習生は贅沢ができなかったけど、
 彼女にはその白いドレスがよく似合っていたわ」
私がお母様を思い出してつい涙ぐんでしまったら、おば様はそのデッサン画を私に下さった。
そして沢山お母様の思い出を話してくださり――、たとえばお母様は私のようには笑わず、
恥ずかしがるように微笑んだことや――他にも大切なことを聞く事ができたのだった。

お母様が、その当時歌の先生をなんと呼んでいたかということ。
「彼女はマスター、とか音楽の天使、と呼んでいたわ。歌うような呼び方で…」
ところが、そこまで言ってからおば様は口をつぐんでしまい、おそらく私に言うべきではないことを
言ってしまったことを後悔しているようだった。
私は今聞いたことを絶対に忘れまいと心に誓ったけれども、表面上は何もなかったかのように、
何も聞かなかったかのようにおば様にご挨拶し、暇を告げたのだった。


私は母と同じ色に髪を染め、先日出来上がってきたばかりの服を身に纏った。
私の寸法に合わせて作っておいた、あのデッサン画の白い木綿のドレスを。
注文する時に、貴族の娘が着るには相応しくないからと随分反対をされたけれど、
せめて生地を上等なものに、とも強く勧められたけれど、そのまま作っておいて本当に良かった。
最初は同じものを着ることでお母様を少しでも身近に感じたくて、でも、本当は、
いつか小父さまにそのドレスを着た私を見てもらいたかったのかも知れなかった。

そうすれば小父さまはもっと私に関心を持ってくださるのではないかしら。
お母様に向けたような瞳で私を見つめ、お母様に話すように話しかけてくれるのではないかしら、と。
こんな形で小父さまに見ていただくことになるとは思っていなかったけれど、
それが少しでも小父さまの慰めになるならば、それで良かった。
お母様を愛しながら、長い時を独りで過ごして来られたに違いない小父さま。
小父さまが、病床で最後に会いたいと願う人は、もうこの世にいないのだから。

鏡の前に立つと、栗色の髪をした、ちょっと古風で質素なドレスを着た私が居た。
少しはにかんで微笑む練習をしてみる。
あの絵のお母様にとても良く似ている。
何度か小父さまの呼び名を呼んでみた。
人を騙すのは良くない事だけど、神様もこればかりはきっと許してくださる。
ああ、お母様、私に力を貸してください――。


馬車に飛び乗って、小父さまの屋敷へと戻る。
その枕元に寄り添い、意を決して、小さな声で小父さまを呼ぶ。
「マスター、…マスター……」
660薔薇園:2006/01/24(火) 00:03:07 ID:q09tay7g
「マスター、…マスター……」
……懐かしい呼び声に目を開けると、クリスティーヌがいた。
白い木綿のドレスを着て、美しい眉を寄せ、私を心配そうに見つめていた。
……そうだ。
これは夢の続きだ。
数え切れないほど見た夢のひとつ。
夢の中で、彼女は夏の木漏れ日の下で晴れやかに笑っていた。
白い木綿のドレスを着て、白い小さな日傘をくるくると回して。
もっとも実際にそんな笑顔でいるクリスティーヌを見たことは、一度もなかったが。

夢の中の彼女は、いつも私の腕の中をすり抜けていき、一度として抱きしめることが出来なかった。
あるときは薔薇の香る庭で、吹き抜ける風に心地良さそうに瞳を閉じるクリスティーヌ。
伸ばした白い喉元、翻る裾、風に揺れる巻き毛。
またあるときは暖かな暖炉の前で、刺繍針を動かすクリスティーヌ。
暖炉の明かりが映える横顔。瞳を上げて私に微笑みかけるその仕草。

彼女はいつもすぐ手の届くところにいるように見えながら、永遠に手の届かない存在だった。
夢の中でさえも。
重い腕を上げて、クリスティーヌに手を伸ばす。
ああ。
初めて彼女に触れることが出来た。
夢の中で、私はその身体を抱きしめた。
柔らかな巻き毛、その白い肌、あの日のままの天使。
「クリスティーヌ……。おまえをまたこの腕に抱ける日が来るとは……」


小父さまは、瞳を開けられて若い頃のお母様そっくりの私をご覧になると、
私の手を引き、病人とは思えない力で私を抱きしめたのだった。
その腕に息が出来なくなるほど強く抱かれ……、今まで何一つ話すことのなかった小父さまの、
お母様への想いを痛いほどに感じた。
……小父さまはこんなにもお母様を求めてらしたのだ。
私の頬を涙がとめどなく伝う。

小父さま、小父さまはどうして、それほど愛したお母様と離れ離れになってしまったの?
お母様は、どうして小父さまと離れて、お父様をお選びになったの?
私は小さな声で小父さまを呼ぶことしか出来なかった。
「……マスター……私の音楽の天使……」
661薔薇園:2006/01/24(火) 00:08:10 ID:q09tay7g
クリスティーヌが涙を流している。
病が重くなると、夢の中の彼女まで優しくなるのだろうか。
彼女が私を呼ぶ小さな声が聞こえた。
「……マスター……私の音楽の天使……」

ああ。クリスティーヌ。
今も私を、そう呼んでくれるのか。
夢の中でも、愛しいおまえの声を聞くことが出来るとは。
死出の旅も、おまえに一時でも会えるのであれば、何もためらうことはない。
私は私の犯した罪と共に地獄へ落ちる身、おまえの声を聞けるのも、これが最後……。
「クリスティーヌ……おまえに出会えたことを、感謝している……。
 ……おまえが幸せであることが、…私の幸せだった……」

クリスティーヌが泣いている。
その泣き顔もあの頃のまま…………。
……朦朧とした意識の奥底で、何かが違うと言っていた。
クリスティーヌ……クリスティーヌ……?
……いや、あれは…………フランソワーズ?

その髪……その白いドレス……。
ああ。
……ここに、私を大切に思い、心配してくれる人物が、ただ一人だけいた。
フランソワーズ。
クリスティーヌの忘れ形見。
残りわずかとなった私の人生に咲いた、もう一つの小さな薔薇。

おまえだけは、私の死を、悼んでくれるか――。
腕の中で泣きじゃくるフランソワーズの涙を、そっと指でぬぐう。
そして私は、この世に別れを告げる前に、彼女に心からの礼を言った。
かつて、咲き乱れる薔薇に囲まれて、小さなフランソワーズに言った時のように。
「ありがとう、フランソワーズ……」


……結局、私の企みは半ば成功し、半ば失敗に終わった。
私をお母様だと思えばこそ、小父さまの本当の声を聴くことが出来たのだろうし、
私は、小父さまの願いを叶えて差し上げることが出来たのだろうと思う。
けれど、小父さまを最後まで騙し通すことは出来なかった……。
小父さまはフランソワーズと私の名を呼び、私に礼をおっしゃったのだ。
小父さまは、その少し後に亡くなられた。

小父さまは今、シャニュイ家の薔薇園を見下ろす高台の教会に眠っておられる。
小父さまは、亡くなられてからもお母様のことを見守っていたいのかもしれない。
私はかつてお母様のものだった薔薇園から、紅い薔薇を持って小父さまに会いに行っている。
662薔薇園:2006/01/24(火) 00:16:01 ID:q09tay7g
それからいくつもの季節が過ぎて、私は屋敷を出ることになった。
私の結婚が決まり、私はアメリカに行くことになったのだ。
爵位は弟が継ぐ事が決まっており、屋敷と領地は弟のものになる。
私には小父さまがまとまった財産を残してくれて、他に両親からの年金や信託財産と、
宝石類を含む母の持ち物を相続していた。

母を偲ぶ品をいくつか持って行きたいと思った私は、母の部屋に入り、
クロゼットの中に小さな古びたトランクを見つけた。
貴族の夫人の持ち物とはとても思えない、粗末なトランク……。
そっと開けてみると、中には数枚の古びたドレスが畳まれて入っていた。
そのうちの一枚を見て、私は息が止まるかと思った。

かつては白かったに違いない、木綿のドレス――。
長い時を経て、生成り色に変色した、粗末なドレス。
母がオペラ座にいた頃、着ていたドレス。
年若い母はこれを身に纏い、小父さまと出会い、歌を教わり、
小父さまにあれほど一途に愛されながら、私の父と結ばれたのだ――。

母は、高価なドレスをいくらでも作れる身分になってからも、この粗末な服を処分しなかった。
母はどんな思いでこれを取って置いたのだろう……。
私の頬を涙が伝っていく。

その古いドレスを手に取る。
鏡の前に持って行き、拡げて胸に当ててみた。
ふと、鏡の中で、そのドレスから何かが落ちるのが見えた。
―――?

床に落ちたそれを、そっと指先で拾い上げてみる。

畳まれていたドレスの間に、長い年月、隠されていたもの――。
それは――。

黒いリボンだった。


小父さまとお母様の間に、昔何があったのか、今でも私にはわからない。
わかるのは小父さまが生涯をかけてお母様を愛していらしたこと。
そして、母もまた小父さまを愛していたということ、それだけだ。

(終)
663薔薇園:2006/01/24(火) 00:17:59 ID:q09tay7g
読んでくださった方、568様、ありがとうございました。
664名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 00:22:53 ID:sziHFML8
>>663
途中、涙で画面が見えなくなりました。
ああ、なんか余韻が残る。寝ようと思っていたけど、眠れなくなっちゃた。
素敵なSSをありがとう。
665名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 00:25:31 ID:zC1I0zLj
小父様のいまわのきわに涙滲んじゃった…
泣けたり、エロい良いもの教えてもらったりと本当このスレ最高

さりげなく猿ゴール落札
666名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 00:42:09 ID:iQxIA2BR
自分も涙で画面が霞んだよ…。
このスレにめぐり合えたことに、心より感謝します。
職人さんたち、本当に皆さん最高だー!
667名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 00:43:00 ID:mGYwbrm3
あ〜泣いた〜久しぶりに泣いたよ
ありがとう。

668名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 01:00:03 ID:/ZPBYf0g
>663
GJ! GJ! GJ!
「……クリスティーヌ…?」って名前だけ呼ぶところ、グッと来た。

ずうっと、死ぬまでクリスティーヌを愛し続けていたファントムの
心情も、そのファントムを想うフランソワーズの心情もまさに心に
迫ってくる。まぢ泣きしました。ありがとう。
669名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 01:56:09 ID:EMtcT+VL
GJGJ!!! よかったです…泣

>665 あなたのそのレスがなんだかツボだよw
670名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 03:02:19 ID:HLeuWfhJ
SS読んで泣いたの初めてだよ…
怪人の大往生は原作のが一番。あれを越えるラストは無いとずっと思っていたけど、原作以上に泣いてしまった。
天使様、感動を有難うございました。
671名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 13:55:41 ID:PeDmJTYt
読書好きな私ですが もう何の本を読んでも感動できません。
GJ!!
672名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 21:07:55 ID:N35Flu4g
すごいGJ、GJだけど、なんだか切なすぎて胸が痛い〜。
どなたかアフォらしくて読んでられなくなるような甘々もプリーズ 。・゚・(ノД`)・゚・。
673名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 21:34:10 ID:/ZPBYf0g
>200の続きを投下します。
長い割にエロ成分が少なくてごめん。

なお、ここでの離婚についての設定は
1884年以降の離婚法を適用しています。
674ファントム×クリスティーヌ(二年半後):1:2006/01/24(火) 21:35:15 ID:/ZPBYf0g
北駅でクリスティーヌを見送ってから二年半が過ぎた。
私は長年ひとりで住み、そして最後のふた月ほどを妻と暮らした地下の住処を出て、
ひとりで住むのには広すぎるアパルトマンで暮らしている。
私の仕事はオペラ座付きの作曲家……ジリー夫人の口添えにより、
クリスティーヌとの結婚に破れた後だったにもかかわらず、
オペラ座と正式に契約を交わしてからもう二年あまりになる。

私の住む部屋は二階にあるので、それほど眺望がよいわけではないが、
向かいにあるふたつの建物の隙間からサン・ピエール教会の尖塔を見ることができ、
作曲の合間にその尖塔を眺めるのが私の唯一の気晴らしであり、慰めである。
今もその尖塔を眺めながらお茶を飲んでいるところだ。

そこへ呼び鈴が鳴る音がする。
せっかくのお茶を邪魔されたくないので無視しようかとも思ったが、
今日の午後は水売りに水を運ぶよう頼んでおいたので、
おそらくいつもの男が来たのだろう。

扉を開けてみると、果たしてそこには水売りが立っていた。
「こんちは、旦那、……運ばせてもらいますよ」と言って、
水売りがずかずかと上がりこんでくる。
私はできる限り他人との接触は避けたくて、この一年半ばかり同じ水売りに
頼んでいるものだから、最初のうちは怖々といった風だったこの小男も
今ではすっかり慣れたものだ。
何往復かして水瓶をいっぱいにした水売りに代金とかなり多めの心づけを支払う。
私のところに来るのに今ではすっかり慣れたようだが、そうはいってもこの男にとって、
私は積極的に商売したい相手ではないのは確かなはずで、
それでもここに来てもらうためには普通の人よりも多くのものを与える必要があった。

「いつもすいませんね、」と言いながら代金と心づけを受け取った男が、
「そういやね、旦那、ここに来る途中、旦那のことを聞いているご婦人がいましたよ、
……あれは多分、旦那のことだろうと……、この界隈に旦那みたいなお人って
そうはいねぇからね」と言って、帽子をちょっと取るような仕草をして出て行った。
私のことを聞いている女……、そう聞いて真っ先にクリスティーヌのことを
思い浮かべる自分をまずは嗤う。
おおかたジリー夫人に頼まれごとでもしたオペラ座の誰かであろう。
675ファントム×クリスティーヌ(二年半後):2:2006/01/24(火) 21:36:11 ID:/ZPBYf0g
ふたたび呼び鈴が鳴る。
二度もお茶を邪魔され、今度こそ無視したいが、さっきの水売りがなにか
忘れものでもしたか、彼の言っていたご婦人とやらだろうと思い、席を立った。

扉を開ける。
…………そこには、クリスティーヌが立っていた。

ああ…………、クリスティーヌ…………。
時間と鼓動が止まる。

幾度夢見たか知れないあの美しいはしばみ色の眸がゆっくりと上がり、
あの愛らしい薔薇色の唇がゆっくりと動く。
「マスター……」
北駅で別れて以来、頭のなかで何度も何度も反芻した愛しい懐かしい声を、
私は二年半ぶりにこの耳で聞いた。

「マスター?」
クリスティーヌが怪訝そうな声音で私を呼ぶ。
「クリスティーヌ……、」
クリスティーヌの名を呟くように呼んだきり、私は夢にまで見た愛しい女を
眼前にして、その場で立ち尽くしていた。
何か言わなければと思っているのに、言葉が出て来ない。
「…………」
「マスター……、あの、お忙しいようなら出直しますわ……」
「あ、いや、これは……、失礼した……、」
時間が流れを取り戻し、心臓がふたたび動き出す。
クリスティーヌの白い小さな日傘を受け取り、彼女を部屋に招じ入れた。

客間というほど客などありはしないが、居間ではなく、普段使っていない客間に通す。
お茶を用意して戻ると、クリスティーヌが窓辺に立って外を眺めていた。
あいかわらず後ろ姿も美しい……、髪を上げているせいで
白く透き通るようなうなじがさらに際立って、なだらかな肩のラインもたおやかだ。
彼女もあの尖塔を見ていたのだろうか……。
「まぁ、マスター……、ありがとうございます、どうぞお気遣いなく……」
振りかえったクリスティーヌに椅子をすすめる。
脇の小卓に帽子を置いて椅子に掛けたクリスティーヌをつくづくと打ち眺めた。
676ファントム×クリスティーヌ(二年半後):3:2006/01/24(火) 21:37:29 ID:/ZPBYf0g
二年半という月日は彼女をすっかりおとなにしていた……、どこへ出しても
恥ずかしくない、貴婦人のような佇まいにこちらがどきまぎしてしまう。
カップを持つ手つきも、口元にカップを持っていく仕草も、以前のクリスティーヌとは
違って、愛らしいというよりは優雅とさえ言ってよいような雰囲気がある。

しばらく黙ってお茶を啜っていたが、音もさせずにカップを置いたクリスティーヌが
意を決したように口を開いた。
「あの、今日はご挨拶に参りましたの……、わたし、今度イタリア座で
歌うことになりましたので……」
どこか探るような目つきで言うクリスティーヌを見て、
まさか、私の送った教師のことでなにか言いに来たのだろうかと思う。

クリスティーヌがウプサラからラニョンに着く頃を見計らって離婚証明書と扶養給付を
届けさせたが、そのとき使いにやった者から彼女があまりに悄然とした様子でいると聞き、
せめてなにかしらの気晴らしになればと思って、すぐに声楽の教師を手配したのだ。
……心のどこかに、私とクリスティーヌとの唯一の繋がりであった歌を
忘れて欲しくないという気持ちがあったことも確かではあるが……。

もちろん、私の名前は出していない。
パリで彼女の声に惚れこんでいた貴族がその才能を惜しがって教師を手配した、
ということにしてある。
教師といっても、かつて私がクリスティーヌに施していたような本格的なものではなく、
定期的に歌を歌うためだけのレッスンでよいということにしておいた。
実際の手配をしてくれた人間が、ごくたまに彼女の様子を報せてくれることもあったが、
基本的に私は彼女について知る権利などないと考えていたので、極力そういったことは
聞かずにいた。毎月の扶養給付も彼女の口座への振込みにしているくらいだ。
そうはいっても、余程のことがあれば報せてくるだろうから、
報せがないということは毎日をつつがなく過ごしているのだろうと思っていた……、
だから、まさか彼女がこのパリの劇場に戻ってくるなど思いも寄らなかったのだ。

「そうか……、それは良かった……。おめでとう。オペラ座ではなく、イタリア座なんだね……?」
「ええ、オペラ座には長期契約のカルロッタがいますし……、それに紹介してくれた人もあって」
クリスティーヌが私の目をじっと見つめるようにして言う。
「そうかね、おまえの歌は素晴らしかったからね、その才能を惜しんでいるファンも多かったんだろう」
「ええ……、」
そう言ったきり、口を噤んで俯いてしまったクリスティーヌが黙ってお茶をすする。
北駅で別れたときよりもずっとよそよそしい感じのするクリスティーヌを
どこか寂しい気持ちで眺めた。

「マスターは……、あれから、どうなさっておいででしたの……? 
わたし、まさかマスターがこちらにお住まいだとは思いませんでしたわ……」
注ぎ足してやったお茶を半分ほど飲んだところでクリスティーヌがふたたび口を開いた。
「いや……、もう、あの地下には住めないし、といって、私はそういくつも色んな部屋を
見て廻って契約するということはできないからね……、だからこちらに住むことにしたのだ……」
そう答えたが、半分は真実であり、半分は嘘だと言えた。
677名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 21:38:05 ID:hKWFLlRp
ベタ甘のイチャラブですか
いいですなー …どの組み合わせで行ってみましょうかねぇ
書くのも疲れるくらい ァフォー な感じいいかもだ
678ファントム×クリスティーヌ(二年半後):4:2006/01/24(火) 21:38:14 ID:/ZPBYf0g
地下にそのまま住むことは確かにできなかった。
あの居場所を多くの人に知られてしまったし、またクリスティーヌのために様々な仕掛けも
すべて解除してしまっていたので、もうあそこに住んでいる意味はない。
それに、オペラ座付きの作曲家として契約するにあたって、
その地下に住んだままというわけにもいかなかった。

しかし、本来はクリスティーヌと新婚生活を送るはずだったこの部屋に
ひとりで住むのはあまりにつらく惨めで、本当は別の部屋にしようかとも思ったのだ。
ただ、私のもとにあるクリスティーヌの思い出の品といえば、彼女が置いていってくれた
手編みのレースのほかは、ふたりの結婚式で彼女が着た花嫁衣裳とヴェール、
それからこの部屋に用意した何着ものドレスや帽子、靴といったものしかなく、
それすら彼女が袖を通したものというわけではなかったが、
それでも思い出の品といえばそれらしかなかった。
別の部屋に住むということにした時、レースはともかくとして、
花嫁衣裳や袖を通すひともないドレスを持っていくべきか、処分するべきか、
どうにも判断のしようがなく、それでしかたなくこの部屋に住むことにしたのだった。

この部屋に住んで以来、時折、彼女のクロゼットを開けては花嫁衣裳を手に取って
眺めたりしていた。
そして、そのたび、その衣装を着けて私の隣に立っていたクリスティーヌの
俯いた愛らしい横顔やこの衣装を解いていったときのクリスティーヌの初々しい様子などを
思い出し、激しい後悔に苛まれていた。
私は、この世でたったひとり心の底から愛しいと思い、
そして、やはりこの世でたったひとり私を愛してくれたクリスティーヌを
己のつまらない猜疑心と際限のない嫉妬心とで永久に失ってしまったのだ。
それでも……、激しい後悔に苛まれたとしても……、
窓から見えるサン・ピエール教会の尖塔や次の間のクロゼットにおいた花嫁衣裳と
ヴェール、彼女がとうとう一度も袖を通すことのなかった幾枚ものドレス、
そして、私のベッドに掛けられた彼女の手編みのレースといった、数少ない彼女の
ゆかりの品々を見ながらクリスティーヌのことを想わない日など一日としてなかった。
679ファントム×クリスティーヌ(二年半後):5:2006/01/24(火) 21:39:11 ID:/ZPBYf0g
そのクリスティーヌがいま、目の前に座ってお茶を飲んでいる。
ああ、私は何度この部屋にいる彼女の姿を想像しただろうか。
己が穢し、傷つけたことで失ってしまったこの部屋の女主人を、
私はそれこそ日ごと夜ごとに想像していた。
この部屋の窓辺、この部屋の椅子、この部屋の食卓……、あらゆるところにクリスティーヌはいて、
私の想像のなかの彼女はいつも優しい笑顔で私を見つめ、優しい声音で私を呼んでくれる。
しかし、現実のクリスティーヌはやはりどこかよそよそしい風で、
「そうでしたの……、でも、あの地下のお住まいよりこちらの方がずっとよろしいですわね、明るくて」
などと言ったりしている。

もう、おまえには私への愛情などひとかけらも残っていないのだろうか……。
この部屋はおまえと私のふたりで住むはずだった部屋……、
おまえとて、それは知っているではないか……。
なのに、そのまるで他人事のような言い方は一体どうしたことなのか、
おまえはこの部屋に来て、なんとも思わないのだろうか……。
やはりおまえは私を恨んでいるのだろうか、いや、恨まれて当然か……。

北駅で別れて以来、二度とクリスティーヌに会うことはないだろう、
仮に彼女の住む家がどこだかわかっていたとしても、決して彼女の姿を見に行ったりは
すまいと心に決めて、事実、彼女の様子を報せてくれようとするシャニュイ子爵の好意も断って、
私は現実のクリスティーヌのことには、毎月の扶養給付の支払いと音楽教師への謝礼以外には
一切関わらないようにしてきていた。
だからといって、こうして目の前にいるクリスティーヌのあまりに他人行儀な様子に接して、
私の心が傷つかないということはないのだ。
……私はまだ、いまでもなお、強くクリスティーヌを愛していたから……。

「イタリア座へは、ビアンカロリさんのお友達という方が紹介してくださったのですけど……、
マスターはビアンカロリさんをご存知ですかしら……?」
突然、クリスティーヌが言い出した。
ビアンカロリ……、私が手配した声楽教師がそんな名前のはずだった。
しかし、私がしたのはシャニュイ子爵に頼んで教師の手配を頼んだことだけで、
つても何もない私としては身を低くして彼に頼むしかなかったのだが、
彼がクリスティーヌのために探し出してくれる人物について、よもや間違いなどあるはずもない、
きっと最も適当な人物を探し出してきてくれるはずだという思いもあり、
自らその教師に会ってみることなどしなかったから教師の名前など一度聞いたきりだったような気がする。
680ファントム×クリスティーヌ(二年半後):6:2006/01/24(火) 21:40:24 ID:/ZPBYf0g
「さぁな……」
そう答えると、クリスティーヌがじっと私を見つめて、
「あら、そうでしたの……、マスターはビアンカロリさんをご存知かと思っていましたわ」と言った。
「どうして私がそんな男のことを知っていると思うのかね?」
やや皮肉っぽく聞くと、クリスティーヌも同じように「いえ、別に」と答える。
「マスターは今やオペラ座付きの作曲家だとお聞きしましたので、
同じ世界の方のことですし、ご存知かと思っただけですわ」

よそよそしい態度に思わせぶりな話し様……、クリスティーヌは一体ここへ何をしに来たのだろうか。
少なくともビアンカロリという音楽教師を送ったのが私であるということには
うすうす気がついているようで、しかし、確信がないせいかも知れないが、
彼について特別なにがしかの文句なり礼なりを言いたいというわけでもなさそうだった。

「では、わたしはそろそろおいとま致しますわ……、
お仕事のお邪魔を致しまして申し訳ありませんでした」
そう言ってクリスティーヌが立ち上がる。
扉のところでパラソルを渡すときに、ほんのわずかに彼女の指先が触れた。
ああ、もう二度と触れることのないと思っていた彼女の肌……。

扉の外でクリスティーヌを送り出す。
「マスター……」と言って彼女が手を差し出した。
その手を取り、口づけたかったが、握るに留めておいた。
クリスティーヌは差し出した己の手を握る私の手をじっと見つめたあと、
「どうぞ、マスターもお元気で……」と言って階段を降りていった。

彼女の姿が消えるまで、私はじっと階段を降りていくクリスティーヌの後ろ姿を見つめていた。
ホールになっている階段室に彼女の靴音が反響し、天井近くに設けられた窓から射す薄日が
彼女の背を照らす。帽子の羽飾りがすげなく揺れる。
もしも、もしも彼女がふり返ってくれたなら、一度でいいからふり返ってくれたなら……、
そう思いながら、白い石造りの階段を一段一段と降りていく彼女の姿を
北駅で列車を見送ったときと同じくらい哀しい気持ちで見送った。
一度もふり返ることなく階段を降りていったクリスティーヌの姿が消えた瞬間、
私はその場にがっくりと膝をついた。

イタリア座で歌うのか……、私がもしも普通の人のようであったなら、
おまえの歌う姿を見に行くこともできるだろうに……、オペラ座ならともかく、
イタリア座ではどうすることもできないではないか……。
おまえの将来を思えば、おまえがこのパリにいるとわかっても、
私はおまえの住むところを探し出したりはしないし、イタリア座へも決して近づくまい。
だが、この同じパリの空の下にいるとわかっていて、
おまえの姿を見ることすらできないとは何というつらい戒めだろうか。
681ファントム×クリスティーヌ(二年半後):7:2006/01/24(火) 21:43:03 ID:/ZPBYf0g
こつこつと階段を上がってくる靴音がする。ひとつ上の階に住む代訴人の奥方だろうか、
いや、あの靴音は……、まさかと思って顔を上げるとクリスティーヌが数段、
階段を降りたところに立っていた。
「クリスティーヌ……?」
クリスティーヌがもう一段階段を昇って、私を見下ろした。
「マスター……」
クリスティーヌが私を呼ぶ。
「…………」
「マスター……」
もう一度私を呼びながら、クリスティーヌも階段に膝をつく。
「マスター……、マスターはもう、わたしのことなど、お忘れになって……?」
私と同じ高さになって、様子を窺うようにおずおずと私を見たクリスティーヌの
眸を見て、私は思わず叫んだ。
「忘れるわけなどないじゃないか! ……愛しているとも! 
愛しているとも……、愛しているに決まっているじゃないか……、
愛していないわけがないじゃないか……」
涙で声がつまってしまい、最後のほうは呟くように語尾がかき消えてしまった。

クリスティーヌが小さい鞄からポマンドールを取り出した。
銀細工の蓋を開けるとかすかな薔薇の香りがした。
なかから小さくたたんだ紙切れを取り出し、広げる。
それは私が彼女に届けさせた離婚証明書だった。
涙をこぼしつつ、彼女の手の動きをじっと見ていると、
広げた証明書を縦に細く割いていく。
いくつかの帯にわけられたそれを横に持ち替え、さらに小さくちぎっていった。
ばらばらになった紙片が彼女の小さい手からこぼれ落ちていく。

最後の紙片を捨てたクリスティーヌの腕が伸びてきて、私の首筋に絡みつく。
そして……、そして私は、彼女の優しい声が私の耳元でこう言うのを聞いた。
「わたし、今でもあなたの妻よ…………!」

クリスティーヌの言葉が胸に落ちるまで、どのくらい掛かっただろうか。
わたし、いまでも、あなたの、つまよ……、わたし、いまでも、あなたの、つまよ……、
わたし、今でもあなたの妻よ……。
「クリスティーヌ…………」
彼女の名を呟いたきり声も出ず、ただただクリスティーヌの顔を見つめた。
「わたし、今でもあなたの妻よ」
もう一度同じ言葉を繰り返した彼女の頬を滝のように涙が流れ落ちていくのを、
どこか遠いところで起こっていることのような気がしながら見る。
ついさっき、階段を落ちていった紙片の幾枚かが下から上がってくる
かすかな空気の流れにのってホールを舞っている。
その白い小さい紙片が舞う様子を、まるで天使の羽根が天から降ってきたようだと
思いながら、溢れる涙で霞むその光景を不思議な気持ちで眺めた。
682ファントム×クリスティーヌ(二年半後):8:2006/01/24(火) 21:43:59 ID:/ZPBYf0g
彼女の髪、彼女の額、彼女の頬、彼女の耳、彼女の首筋、彼女の鎖骨、彼女の腕、彼女の指……、
かつて私が責め苛んだ箇所に口づける。
口づけながら、悔恨の涙が溢れ、彼女の身体に落ちていく。
彼女の指の一本一本に口づけをおくると、クリスティーヌがその指で私の頬を撫でてくれた。
その手に、己の手をそっと重ねる。睫毛を顫わせながら私を見上げたクリスティーヌと目が合い、
私たちは互いに視線を絡めながら近づいていき、先に眸を閉じたクリスティーヌの唇に
私はそっと自分の唇を重ねた。
甘く、やわらかく、温かい彼女の唇……。
ああ……、何度この唇を夢見たことだろう。
私に愛を囁き、私に向かって微笑み、私に口づけをくれる唇……。
私が永遠に失ったと思っていた唇……。
今でも私の妻だと言ってくれたこの愛らしい唇…………。
その唇が今、私の唇と重なっているのだ……。

唇を触れ合わせるだけの優しい口づけを幾度か繰り返す。
彼女の温かい舌に触れたくて、そっと彼女の唇を舐めてみる。
戦慄くように彼女の唇が顫える。そして、開かれた唇の間から深く舌を挿しいれた。
優しく舌を絡め、そっと舌先を吸う。クリスティーヌも私の舌に優しく舌を絡めてくれ、
やはり舌先を吸ってくれる。
初めての夜にも私たちはこうして少しずつ互いの唇を許しあっていったのだったなと思い出した。

深い口づけにうっとりと私を見上げたクリスティーヌの乳房にそっと触れてみる。
「ああ……、マスター……」
恥ずかしそうに声を上げたクリスティーヌの白い乳房がかすかに顫える。
「クリスティーヌ……、愛している……、愛している……」
クリスティーヌの乳房にそっと頬を寄せながら呟く。
私の涙が彼女の白い乳房に移って、肌を濡らしながら下へと落ちていく。

透きとおるように白く、はりつめて重量感をたたえた乳房、蒼く浮き出た静脈、
あいかわらず色づきの薄い乳暈、そしてその頂で硬く熟した小さい果実……。
かつて地下で抱いたときと変わらず初々しいクリスティーヌの乳房にそっと唇を寄せた。
いくつか口づけを落とす。
なだらかな腹に口づけ、そして、薄い繁みにも口づける。
クリスティーヌがかすかに顫え、目を上げると彼女の視線とぶつかった。
恥ずかしそうに目を反らしたクリスティーヌの身体に手を掛け、ゆっくりとひっくり返す。
白い背中に手を這わせる。なめらかな肌理細かい肌がしっとりと吸いつくように手に触れ、
手で触れたあとを追うようにして背にも口づける。
細くくびれた腰にも、真白く張りつめた臀にもそっと唇を寄せる。
ふっくらと盛り上がった丘に私の涙がこぼれ、ゆっくり下へと落ちていく。
かすかに腰を捩ったクリスティーヌの臀のまるみに沿って唇を這わせ、
そして、そのまま大腿の裏、膝裏、ふくらはぎへと唇を移していった。
683ファントム×クリスティーヌ(二年半後):9:2006/01/24(火) 21:45:45 ID:/ZPBYf0g
「クリスティーヌ、こうしておまえのひとつひとつに口づけできて、
とても嬉しかったよ……、おまえの身体にこうして優しく触れたかった…………、
その願いがかなったのだ、私はもう何も思い残すことはないよ……」
そう言いながら起き直ると、クリスティーヌを抱き起こし、強く抱きしめた。
彼女のやわらかい乳房が私の胸に押しつけられる。
彼女の甘い香りがふわりとたち昇り、その香りに包まれて抱きしめあっているだけで、
クリスティーヌへの愛しさと感謝とが募ってくる。
あれほど酷いことをしたこの私をまだ夫だと言ってくれたクリスティーヌ……。

だが、まだ彼女が私から解放されていないというのなら、
まだ私に囚われたままでいるというのなら、今度こそ私から解放してやらねばならない。
彼女はこの秋からイタリア座のプリマドンナになる身なのだし、
それが、私がクリスティーヌにしてやれる唯一のことだから……。

クリスティーヌが寝室に行きたいと羞恥に顫えながら言ってくれたとき、
私はもう一度だけ彼女の美しい裸体を目に焼き付けたいと思い、
かつ初めての夜以外はただ苛むだけだった彼女の身体に優しく触れ、
口づけて赦しを請いたいと思ったのだ。
そして、彼女とじかに肌を触れ合わせ、その柔らかさを、
その温もりを身体中で記憶したいと思ったのだ。
それ以上のことは私には許されていないのだから……。


「マスター…………、どうして……?」
私に抱きしめられたまま、悲しげに声を上げたクリスティーヌを
さらに強く抱きしめて言う。
「ありがとう、クリスティーヌ……、
今でも私の妻だと言ってくれたおまえの気持ちは本当に嬉しかったよ……、
もう二度と見ることはないと思っていたおまえの顔を見られただけでも充分嬉しいのに、
こうして私に身をまかせてくれて……、おまえには感謝してもしつくせない、
本当にありがとう……」
もう二度と触れることはないと思っていたクリスティーヌの肌に触れることができただけで、
私にとってはもう充分だ。そう思っても自然と涙がこみ上げてきて、彼女の肩先にこぼれる。
「ありがとう、クリスティーヌ…………」
684名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 21:45:57 ID:J3Yq58JE
>>663
すごいね、GJGJ!!!
前の作品と別の天使様が書いたっていうのがまたすごい。
スレの天使様の層の厚さを物語っている。
このスレは神スレです。
685ファントム×クリスティーヌ(二年半後):10:2006/01/24(火) 21:46:35 ID:/ZPBYf0g
クリスティーヌの眸からこぼれたらしい涙が私の肩にも落ちてくる。
温かい涙が幾粒も肩先にこぼれ、それが胸にまで伝って彼女自身の胸をも濡らす。
「どうして……? どうして……? マスターはもうわたしのことなど……」
「愛しているよ……、今でもおまえを愛している……、
いや、前よりずっと強くおまえを愛している……、
おまえは私のたったひとつの希望で、私の宝物なんだ、離れていてもそうなんだ、
おまえが幸せになってくれることが私の唯一の望みなんだよ……」
クリスティーヌが私の胸を強く押し、己の身を引き剥がすと、私の目をじっと見つめて聞いた。
「じゃあ、なぜ……、なぜ、わたしを愛してくださらないの…………?」
涙を溢れさせているクリスティーヌの髪をそっと撫で、それからもう一度彼女を抱きしめる。

「私はもうおまえを抱くことはできない、
……おまえはイタリア座のプリマドンナになるんじゃないか、
そのおまえに私のような者がくっついていたらおまえが世に出る妨げになる……。
今日、私に会いに来てくれただけで私には充分だ、もうおまえは私の生徒じゃないし、
私に気を遣う必要はないんだよ……、さっき破ってしまった離婚証明書も書き直そう」
クリスティーヌが私の腕のなかで激しくかぶりを振った。
「そんな……! あなたの、あなたのところに戻るためにイタリア座のプリマになったのに……、
あなたのところに帰るためにパリに戻ってきたのに……、」
そう言った後、彼女は激しく嗚咽しながらベッドに崩れ折れるように手をつき、
そのまま泣きじゃくり始めた。

「クリスティーヌ……、それでイタリア座に……?」
泣きじゃくって上下する肩に手を置き、そっと尋ねる。
「そうよ! あなたに会うために、あなたのところへ帰るために…………!」
彼女の手を取り、ふたたび起き直らせると、嗚咽したままのクリスティーヌを胸に抱き取る。
強く抱きしめる。
しゃくり上げる彼女の耳元でもう一度聞く。
「私のために…………?」
嗚咽したままクリスティーヌが大きく頷いた。
686ファントム×クリスティーヌ(二年半後):11:2006/01/24(火) 21:47:45 ID:/ZPBYf0g
しばらくして、落ち着いてからクリスティーヌがぽつぽつと話し始めた。
「……あなたにどうしても会いたくて、オペラ座と契約すれば、あなたに会えると思って……。
この一年、ビアンカロリさんに頼んで本格的なお稽古をしてもらうようにして、
……謝礼は別にお払いしたのよ……、あなたが毎月、扶養給付のほかに使い切れないほど送って下さるから……、
そしてオペラ座に戻る準備をしたんです。
でも、どうしてもオペラ座には空きがなくて、ラウルがなんとかしてくれようとしたみたいですけど、
カルロッタの契約は長期だったので、歌手で戻ることはできそうになくて……、
それでラウルがイタリア座のパトロンをしているお知り合いに掛け合って下さって……。
本当はあなたの新作で歌う歌手として戻りたかったのよ……」
私を見上げたクリスティーヌをそっと抱きしめ、
「私に会うためにプリマの契約をしたというのか……」と呟いた。
「しかし……、私に会いたかったのなら、パリに出て来ればよかったじゃないか……」と言うと、
「そんなの……、むりよ……、あなたにどんな顔をして会えるというの……?」と眸を曇らせ、
身を捩って私から離れると、深く俯いてしまった。

ベッドに背をもたせかけたまま、私は、身体を起しているせいで隣りにいながら
私に白い背を見せているクリスティーヌを眺めつつ、彼女がふたたび話し始めるのを待った。
じっと俯いたまま上掛けの上に掛けてある例のレースに指を這わせている。
彼女自身が編んだ細かいモチーフに沿って指を這わせるクリスティーヌの横顔は、
一見すると冷たいような、見ようによっては戸惑っているような、
あるいは逡巡しているような掴みどころのないものだった。
声を掛けてよいかもわからず、私はただただ彼女の白い背を見つめていた。


クリスティーヌがふたたび顔を上げて口を開くまでにどのくらいかかったのだろうか。
シーツを巻いた胸が大きく上下し、息を整えて話し始めようとしているクリスティーヌの
ほつれた髪が揺れ、寝室に入った時に私が抜き取り忘れたらしいピンが引っ掛かっている。
そのピンをそっと抜いてベッド脇の小卓に置くと、それを合図にしたのか、
ようやくクリスティーヌが重い口を開いた。
687ファントム×クリスティーヌ(二年半後):12:2006/01/24(火) 21:48:37 ID:/ZPBYf0g
「初めてビアンカロリさんが訪ねてみえたとき、きっとマスターが寄越して
くださったんじゃないかと思ったんです。……でも、マスターのお稽古とは全然違っていた……、
だから、マスターじゃなくて、ラウルなんじゃないかって……。
それに、あなたがわたしのためにそんなことをして下さる道理もないと思って……。
ラウルに手紙でお礼をいうと、ラウルから残念だけれどそれは自分じゃないって返事が来ました。
それで、わたしはビアンカロリさんが言うように、
本当に誰かわたしのファンだったという人がお稽古をしてくれているのかと思って……」
そこまで言って、クリスティーヌは大きく息をつき、それからちらりと斜め後ろの私の眸を見た。
そして、瞬きとともに視線をはずし、また前を向いて話し始める。

「あれは……、ちょうど去年の今ごろでしたわ、わたし、ちゃんとした……、
マスターにしていただいていたようなお稽古をしたくなって、ビアンカロリさんにそうお願いしましたの。
そしたら、ビアンカロリさんはこう言ったんです。いいんですかって。
変だなと思って問い詰めると、依頼人からは本格的な歌の稽古はするな、
ただ歌を歌う時間だけを作ってやってほしいと言われている、きつい稽古はきっとあなたに
悲しいことを思い出させるに違いないから決してしてはならないと強く言われている、
それでもいいのかって。歌のお稽古でわたしが悲しむに違いないなんて……、
そんなこと、ただのファンだっていう方が言うわけないじゃありませんか……。
そのとき、ようやくわかったんです、ビアンカロリさんを寄越してくださったのは
やっぱりあなただったんだって。
わたし、あなたと離れていても、あなたにずうっとずうっと守られていたんだって……!」

クリスティーヌが涙を溢れさせた眸で私の方に振りかえった。
身体の向きを変え、私の眸を見上げる。唇が戦慄いている。
そして、クリスティーヌの腕が伸びてきたかと思うと、
その腕で私の首にしっかりとしがみつき、声を上げて泣き出した。
「わたし、それから、どうしてもマスターのところに帰りたかった……、
あなたの腕にもう一度抱かれたかった……、あなたの…………」
濡れた睫毛が私の肩先に触れ、こぼれた涙が肩を伝って落ちていく。
彼女の温かい涙が己の肌を伝う感触をさっきも含めて私は幾度か味わったことがあったが、
そのときの涙は私が泣かせた哀しい涙だった。
……この涙を流させているのも、やはり私なのだろうか……。
688ファントム×クリスティーヌ(二年半後):13:2006/01/24(火) 21:49:20 ID:/ZPBYf0g
「依頼人の秘密をやすやすと喋ってしまうなんて、碌でもない男だな……」
私がそう言うと、クリスティーヌが「あなたがラウルに頼んでくださったことも知っていてよ」
とすすり上げながら言った。

「ラウルにももう一遍聞いたのよ、もしやと思って……、
ううん、本当にあなたがわたしのためにそんなことをして下さるのか、やっぱり自信がなくて……。
だって、わたしはあなたをあんなに苦しめたんだもの……。
そうしたら、ラウルが本当にそれは自分じゃないって。
自分よりももっと私を想っている人がいて、その男と約束しているから誰だかは書けないけれど、
その人に頼まれて音楽教師を探したんだって。
最初は話も取りあわずにいたけれど、その人が何度も何度も頭を下げてきたって。
自分に頼むのは相当な勇気が要ったろうにって……」

「うちのパトロン殿も存外に口が軽いのだな……」
もう一度すすり上げてクリスティーヌが私の首筋に顔をうずめた。
「わたし、あなたがまだわたしを愛してくださっているってわかって本当に嬉しかった……」
「愛しているに決まっているじゃないか……」
ほつれて肩に落ちかかった髪をそっと手繰り、顕わになった肩先にそっと口づける。

「でも……、二年前、わたしがあなたのそばに置いてほしいと言ったとき、
あなたはうんと言って下さらなかったわ……、あなたはわたしを愛してくださっているけれど
、同じくらいわたしを憎んでいらっしゃるんじゃないかって……、
わたしのことを許してはくださっていないんじゃないかって……」
クリスティーヌの眸からこぼれた涙が私の首筋を濡らす。
「それは私が言うことだよ、クリスティーヌ……。
それに、あの時はおまえにもう私との暮らしを強要したくなかったから……、
離れる方がおまえのために良いと思ったのだ……。おまえが私を愛してくれていたとしても、
互いに顔色を窺い合って暮らすのはあまりにおまえが可哀相で……。
それに、あの時、おまえはああ言ってくれたけれども、それは私への愛ゆえではなくて、
同情とか哀れみとか……、そんなものから言ってくれているのだと思っていた……。
おまえに恨まれ、憎まれることはあっても、よもやあんなことがあった後でも
愛してくれているなんて思ってもみなかったから……」
「愛しているって言ったわ、あのとき……」
どこか咎める口調で言ってから、クリスティーヌが私の肩から顔を上げ、私の眸を見つめる。
……私たちは互いに見つめあい、互いの眸に赦しがあることを探り当て、
そして、互いにいたわりあうように唇を重ねた。
689ファントム×クリスティーヌ(二年半後):14:2006/01/24(火) 21:49:52 ID:/ZPBYf0g
「おいで」と言って、彼女の胴に手を掛け、私の上に抱え上げる。
「マスター……」
横抱きに抱え上げたクリスティーヌがもう一度私の首にしがみつき、肩に頭をもたせてくる。
「こちらを向いてくれ、クリスティーヌ……」
私の方に向き直ったクリスティーヌの髪を指先ですべて後ろに垂らす。
「ああ……、私のクリスティーヌだ…………」
そこには、かつて私の生徒であった頃と変わりなく愛らしい様子のクリスティーヌがいた。
髪をおろし、恥ずかしげにうすく微笑んで睫毛をそっと伏せたクリスティーヌがたまらなく愛しい。
そのままもう一度私の肩に頭をもたせて、「マスター……」とつぶやくように私を呼んで
胸のあたりに唇を押し当ててくる。
彼女のやわらかく温かい唇の感触に、抑えていた欲望が湧き上がってくるのを感じていた。

クリスティーヌの背を支えながら、もう一方の手でゆっくりと彼女の腕を撫でる。
二の腕のやわらかい肉付きのあまりの心地よさに、いまだにその感触を覚えている
手のひらが反応する。
胸を覆ったままのシーツの隙間から、目に見えて激しく上下し始めた乳房の隆起が覗き、
その隙間に顔をうずめたい衝動がふつふつとこみ上げてくる。
なにより己の大腿に感じるクリスティーヌのやわらかい臀の感触が、
その臀がさきほどから微かに捩られている感触がたまらなく淫らで、
すぐにもその臀や臀から続く太腿やその腿の間にある、
あの最も秘められた場所をも隠しているシーツを剥ぎ取って、
臀にも大腿にも、もちろんあの温かく潤って私を待っていてくれるはずの泉にも思うさま口づけし、
そしてその潤みのなかに己のすべてを埋め込んでしまいたい欲望が身のうちを駆けめぐる。
私の喉もとに鼻先をくっつけたまま、しどけなく吐息を洩らし始めたクリスティーヌの
甘く芳しい体臭がたち昇り、あまりの陶酔感に眩暈がするほどだ。
逸る欲望を抑えて彼女の髪にそっと口づけを落とす。

しかし……、しかし、私はやはり彼女を抱くことはできなかった……、
私を愛していると言ってくれ、私のところに戻るためにプリマドンナになったのだと言い、
そして明らかに私に抱かれるのを待っているらしいクリスティーヌを愛しく思えば思うほど、
彼女を己の欲望のままに抱いてしまうのはどうしてもできなかった。
目を閉じて欲望を抑えこもうと必死に闘う。
クリスティーヌをこうしてこの腕に抱いて、その温かい肌に触れているだけで私には充分なはずなのだ。
たとえ私のためであったとしても、結果的に彼女はいまやイタリア座のプリマドンナであるわけで、
この秋に初目見えしようという彼女の邪魔だけはしたくない。
ああ、しかし、この肌のすべらかさ、この肌の芳しさ、この肌のなまめかしさといったらどうだろう……。
690ファントム×クリスティーヌ(二年半後):15:2006/01/24(火) 21:50:29 ID:/ZPBYf0g
もう一度、哀願するような口調で私を呼ぶ。
「クリスティーヌ…………、おまえを愛しているよ……」
彼女の眸をじっと見つめて言うと、一瞬、眸を輝かせ、そして私の目を見つめた後、
眸に失望の色を浮かべてクリスティーヌが俯いた。
「やはり、愛してはくださらないのね…………」
はた、という微かな音がして、見るとクリスティーヌの眸からこぼれた涙がシーツに染みを作っていた。

ぽたぽたと続けざまに涙のこぼれる音がして、クリスティーヌを抱き寄せると
私の胸を強く押して彼女が私の膝から降りた。
「ごめんなさい、お邪魔をして、……もう、もう、わたし、お暇いたしますわ……!」
椅子の背に掛けたドレスや何かを掴み、身体に巻きつけたシーツがほどけかかっているのも
省みずに扉の方へと走り去ろうとする。
「待て、待ってくれ! クリスティーヌ!」
ドレスを抱えている腕を掴むと無理にこちらに向かせて抱きしめる。
私の腕のなかでもがくクリスティーヌの身体からシーツがはがれ落ち、
私の手でドレスをベッドに放り投げると、腕のなかには愛しいクリスティーヌだけがいた。
泣きじゃくる彼女をもう一度強く抱きしめる。

「おまえを愛していると……、何度言えば信じてくれるかね? 
おまえを愛している、……この世の誰よりも、おまえだけを、
おまえ唯ひとりを……愛していると何度言えば信じてくれる……?」
「……だって、でも……、でも、愛してはくださらないのでしょう……?」
「私がおまえを抱かないのか、ということなら、答えはそういうことになるな……」
「…………どうして……?」
「おまえを愛しているから。おまえを愛しているから、
私はもうおまえを抱くことはできないのだ」
戦慄く唇を噛んだクリスティーヌに優しく言う。
「私がどれほどおまえを欲しがっているか、おまえにだってわかるだろう……?」
さっと顔を横に背けた彼女の耳が紅く染まっている。
「可愛い、愛しいクリスティーヌ……、私がどれほどおまえをほしがっているか……、
だが、それ以上に私はおまえが大事なんだ、もう、決しておまえに私のことで
辛い思いをさせたり、苦しめたりしたくない、だから……」
そこまで言ったところで、クリスティーヌが私を見上げた。
691ファントム×クリスティーヌ(二年半後):16:2006/01/24(火) 21:51:01 ID:/ZPBYf0g
その眸にはまだ涙が残ってはいたが、なによりもその強く鋭い眼光に思わずたじろぐ。
床に落ちたシーツを拾い上げ、その美しい裸体を私の目から隠して、彼女がふたたび私を見据えた。

「マスターは……、あいかわらず独りよがりで、思い込みが激しくて、
人の話に耳を傾けようとはなさらないのね……、
あなたは……、あなたは、ご自分が思うようにわたしを愛することができればそれで満足なのね、
わたしがあなたを愛していようと愛していまいと、そんなことはあなたには何の関係もないのね、
わたしが今日、ここへ来るのにどれだけ勇気が要ったか、あなたに想像できて? 

あなたに追い返されるんじゃないか、目の前で扉を閉められるんじゃないか……、
……いいえ、あなたはきっとまだわたしを愛してくださっているはず、
ビアンカロリさんを寄越してくださったのがあなたなら、
きっとわたしをまだ愛してくださっているはず……、そう思い込もうと努力して努力して、
厚かましいと思われるのも覚悟してここへやって来たわたしの気持ちが想像できて? 

あなたはわたしを追い返しはしなかったけれど、わたしへの関心もないみたいだった……、
わたしがどんなにがっかりしたか……、イタリア座で歌うって言ってもちっとも嬉しそうには
してくれなくて、わたしは自分の思い上がりに恥ずかしくなって、
あなたの顔なんてまともに見られなかったわ……、
下まで降りて、それでもどうしても諦め切れなくて、せめてあなたのお部屋の扉の前に立って、
本当はわたしたちふたりが一緒に住むはずだったおうちの前で、
ここに住んでる奥さんみたいな気持ちになれたら少しは気が済むかしらと思って階段を上がって……、
そしてあなたの姿を見つけたときの喜びがあなたにわかって? 

わたし、わたし……、やっぱりあなたが私を愛してくださっていたってわかって
本当に本当に嬉しかった……、その喜びがあなたにわかって? 

わたしがどんなに恥ずかしいのを堪えてベッドに連れていってってあなたにねだったか、
あなたはちっとも想像なんかしてくれないのね、
二年半前、あなたの前でさんざん……、さんざん……、…………、
……わたしがあなたとベッドに行きたがるのは当然だとでも思っているの? 

……それでも、あなたがわたしを抱えてベッドに連れていってくれたときは本当に嬉しかった……、
あの初めてのときみたいにあなたは優しくて、
あなたにキスしてもらっているだけでわたしは本当に幸せで……、
なのに、あなたはただ、わたしに触れたかっただけですって? 

だったらベッドへなんて連れてきてくださらなくてよかったのよ……、
……あのまま、わたしたちはやり直せるって思ったわたしが莫迦だってことなのね、
わたしが思い上がっていただけなのね、マスターは、あなたは、あのことがあっても、
ちっともお変わりになっていらっしゃらない……、何もかもひとりでお決めになって、
わたしの気持ちなんて考えてもくださらないんだわ、
マスターは、やっぱりわたしのことを本当には許してくださっていないのよ、……マスターは、」

激しい勢いで言い募っていたクリスティーヌは、突然、声を奪われたように口を噤み、
どこか意識もない人のように失われた言葉を探したままぽかんと宙を見つめているみたいに見えた。
眸から大粒の涙をぽろぽろとこぼし、シーツを胸の前で掴んだまま拳がぶるぶると顫えている。
息遣いも荒いまま、肩が大きく上下していた。
692ファントム×クリスティーヌ(二年半後):17:2006/01/24(火) 21:52:21 ID:/ZPBYf0g
こんなに興奮しているクリスティーヌを見るのは初めてだった。
あのあどけない、夢見るような少女だったクリスティーヌのどこに
こんな激しい一面が隠されていたのだろう……?
しかし、今こうして思い返してみると、あの頃のクリスティーヌにも今と同じ、
激しい一面を垣間見せた瞬間があったなと思う。
『勝利のドン・ファン』での彼女の歌いぶりからして、
とても私が教え導いてきたあのあどけない少女とは思えぬ気迫だったし、
その後、地下で共に暮らせと子爵の命を担保に迫った私に、
いま流している涙は哀れみの涙ではなく憎悪のそれだと告げたときにも怖い眸をしていた。

そして、自分は私を愛しているのだと、それを私が信じようと信じまいと
それは私の側の問題であって、自分の関知するところではないと冷たく言い放ったこともあったが、
その時の眸も氷の刃のごとく鋭いものだった。……今にして思えばあれは本心であったのだろう。
当時の私は、私を愛していないことへの申し開きなどしたくない彼女の開き直りのように
思い込んでいたが、あれは自分を信じようとしない私への怒りの発露だったと、今になればそう思える。

クリスティーヌを抱きしめようと腕を伸ばした。
しかし、そこで意識を取り戻したように私の腕から逃れるように後ろに身を引いた
クリスティーヌは、私に鋭い一瞥を投げかけた後、何も言わずにベッドの上のドレスを抱え、
呆然とする私をひとり残して寝室から静かに出て行った。


一瞬、呆気に取られたままその場に立ち尽くしていた私は、
今、まさにこの瞬間が己の運命を左右するとてつもなく貴重な一瞬なのだと気づいた。
猛然と次の間の扉を押し開け、泣きじゃくりながらペチコートを着けている
クリスティーヌの肩を掴んだ。
「すまなかった! すまなかった、クリスティーヌ……! 
私は、私はおまえの気持ちを考えていたつもりだったが……、
本当には考えていなかったのかも知れない……」
「かもしれない、ですって?」

語気も鋭く言い返したクリスティーヌの眸がかつて地下で見たときと同じく
氷のように冷たいものだったので、私はもう私の運命を左右する唯一無二の機会を
逃してしまったのだと思い、とてつもない失望感がこみ上げてきた。
「いや……、すまなかった……、私は、……私はおまえの気持ちを
ことごとく踏みにじっているのだな……、…………すまなかった」
最後はもう彼女の眸も見られなくなっていて、肩先に向かって最後のひと言を
絞り出すように言ってから、私はクリスティーヌの肩をもう一度だけそっと撫でて踵を返した。
「マスター!」
咎める口調でクリスティーヌが私を呼ぶ。
彼女の腕が私の胴に絡みつき、背に彼女のやわらかい乳房が押し付けられるのを感じた。
そして、クリスティーヌのえも言われぬほど優しい声が尋ねる。
「わたしは、もう一度、ベッドに連れていってっておねがいしないといけないの……?」
693ファントム×クリスティーヌ(二年半後):18:2006/01/24(火) 21:52:55 ID:/ZPBYf0g
クリスティーヌを抱えて寝室へと戻る。
心臓が早鐘のように打っている。私は運命の女神の前髪をかろうじて掴むことができたらしい。
ペチコートをつけたまま、私の首に腕をまわし、恥ずかしそうに私の肩に頭をもたせた
クリスティーヌがあまりに愛しくて、どうにかなりそうだった。
ベッドにクリスティーヌを降ろし、ペチコートと下着を取り去る。
私にされるがままになっているクリスティーヌの頬は羞恥に紅潮していて、
顫える睫毛がその頬に翳を落としている。
薄暗い寝室のなかにあって、クリスティーヌの白い裸体は光を放つがごとく輝いていた。
ああ、ふたたびおまえとこうして肌を合わせることができるとは………。

私自身もベッドに乗り、羽根枕を背に凭れかかると、クリスティーヌをそっと抱き寄せた。
私の脚の間に納まって、クリスティーヌが私の胸に頬を寄せる。
強く抱きしめたまま、しばらくじっとしていた。
クリスティーヌの髪の匂いがふわりと香って、その甘い香りに誘われるまま、彼女の髪を撫でてみる。
嬉しそうに私を見上げたクリスティーヌの唇が欲しくなって、私は彼女の顎を支えたまま、
そっと己の唇を重ねた。一瞬、顫え、それからそっと開けられた唇の間に舌を挿しいれる。
私を求めるように舌を絡めてくるクリスティーヌを心の底から愛おしく思いながら、
私も優しく彼女の温かい舌を味わった。
彼女のうなじに手をまわして頭を支えながら、唇を舐め、舌先を吸い、
ゆっくりと優しく舌を絡めあっていると、いっそうクリスティーヌへの愛しさがこみ上げてきて、
その強い思いをどうしていいのかわからなくなる。

彼女の背に手をまわし、もう一方の手で肩先から腕に掛けてゆっくりと撫で下ろしていく。
次第に激しく上下してくる胸の下へと手を滑らせていった。
乳房を持ち上げるようにして、それから親指の腹でそっと胸の頂きをかすめる。
「ああっ!」
肩を大きく揺らして喘ぐクリスティーヌの思ってもみぬ敏感な反応に欲情を刺激されて、
私は思わず身を屈めてその可愛らしい果実を吸いたてた。
「あ、ああっ、……マスター……っ!」
私の舌で乳首を舐められ、舐められて濡れた乳首を甘噛みされて、
クリスティーヌが身を捩って快感を伝えてくる。
何度も何度もクリスティーヌの可愛い乳首を舐め、
尖ってそそり立ったそれを啜っては甘噛みしてやる。
694ファントム×クリスティーヌ(二年半後):19:2006/01/24(火) 21:53:30 ID:/ZPBYf0g
私の肩に手を掛け、両の胸の頂きに与えられる強い刺激に頭を左右に振りながら、
クリスティーヌは絶え間なく甘い吐息をついていて、そのしどけない喘ぎをもっと聞きたくて、
可愛い乳首を口のなかで転がしながら、手をゆっくりと腰へと滑らせる。
腰のくびれを幾度か往復し、なめらかな曲線を手のひらに感じたあと、
やわらかい臀のふくらみをそっと掴んだ。優しく撫でまわし、そしてゆっくりと揉む。
「あぁ……んっ、マスターぁ……」
交互に乳首を舐められ、舌で転がされながら尻臀を揉みしだかれ、
クリスティーヌが艶かしい声で私を呼ぶ。
「愛している……、クリスティーヌ……」
ひりひりと焼けつくようにクリスティーヌへの愛しさがこみ上げてき、そ
の強い思いをどうにも制御できなくて、私は何度も何度も彼女の名を呼んだ。
「クリスティーヌ、クリスティーヌ、クリスティーヌ………、
ああ、愛しているんだ……、愛しているんだ、クリスティーヌ…………」
「マスター……、マスター……、…………マスターぁ……」
クリスティーヌも切ない声で何度も私を呼んでくれる。
白くはりつめた双丘を両の手のひらで押し拡げるようにして揉むと
首を左右にふって彼女がよがる。
やるせなさそうに眉根を寄せて、私の肩に縋りつくようにして、
臀をかすかに捩って、羞恥に頬を染めて感じているクリスティーヌが愛しくてたまらない。

彼女の大腿に手を掛けた。片脚を己の脚に掛ける。
「ああ…………」
羞恥に満ちた声を上げて、クリスティーヌが私にしがみついた。
片手を私の腰にまわし、もう一方で私の腕に掴まる。
臀を揉んでいた手を、ゆっくりと下へ滑らせていく。
「あ、あ、……あ、ああ……、ああ…………」
私の手がどこへ向かうのかを察したクリスティーヌの唇から
驚きと羞恥と期待の混ざった声があがる。
「あ、ああっ!」
後ろからそっと花びらに触れると、熱い雫が肉のあわいに溜まっており、
その雫に指先が触れた途端、それが呼び水になったかのようにとろとろっと愛蜜が溢れ出た。
「ああ、もうすっかり濡れているじゃないか……、嬉しいよ……」
「あ、ああっ、……ああっ、ああっ、いや……、あ……」
ぽってりと水気を含んでふくらんだ花びらの上を溢れた愛液で指を
すべらせながら弄ると、いっそう蜜が溢れ出てくる。
私の腰に廻していない方の手で口元を押さえ、声を我慢しているらしいクリスティーヌの口から
もっと喘ぎ声を聞きたくて、花びらを二本の指で挟み、秘裂の上を中指だけでなぞってみる。
「ああっ! あぁんっ、ああ…………!」
敏感な粘膜を刺激されてクリスティーヌが声を上げる。
ああ、可愛い愛しいクリスティーヌ……、おまえの可愛い声をもっともっと聞かせておくれ……。
695ファントム×クリスティーヌ(二年半後):20:2006/01/24(火) 21:54:01 ID:/ZPBYf0g
思わず息をのむクリスティーヌの切なく寄せられた眉根を確かめると、
その小さくしこった突起をゆっくりと転がす。
「…………ぁぁああああああ!!!」
我慢しきれず声を上げて臀を持ち上げるように振り立てた。
「あああ……、あぁん、あぁん、……あぁ……ん」
私の指の動きにあわせて切ない喘ぎ声を上げ、臀を激しく上下左右にふりながら、
クリスティーヌが私の愛撫に応えてくれる。
とろとろと絶え間なく愛液が溢れ、私の指ばかりでなく彼女のみっしりと肉のついた内腿や
白い双臀までがびしょびしょに濡れている。
肉芽を指先で転がし、めくれ上がった花びらを指の腹でしごく。
唇に咥えたひとさし指の隙間からは、指を咥えている意味などまるでないほどによがり声が洩れ、
私の胸に乳房を擦り付けながら身体をくねらせているクリスティーヌがたまらなく淫靡だった。

そっと指先を彼女の入り口に突き入れる。
大きなひくつきとともに私の指を呑み込んで彼女が喘ぐ。
幾度か彼女の温かくやわらかい粘膜のなかで指を往復させ、
愛液をかき混ぜるようにして指をなかで動かす。
そうしながら息も絶え絶えになっている彼女の唇を貪る。
舌を絡め、唇を舐めあい、彼女の甘い吐息を感じながら指を抜き差ししているうち、
クリスティーヌのなかがひくひくと波打ってきて、彼女が官能の極みに近づいてきていることを知らせる。
「ああ、私の指でこれほどに感じてくれて……、嬉しいよ、クリスティーヌ……」
「……マ、スターぁ……、ぁぁあああ………!」
私を呼ぶことすらままならないほどに感じて頭を左右にふっている彼女にそっと囁いてみる。
「なかに……、おまえのなかに……、入っても……いいか……?」
クリスティーヌが顔を上げた。
これ以上ないほど眉根を寄せ、切ない眸で彼女が言う。
「ああ、マスター……、わたしを、もう一度……、あなたの、……妻にして………」
696ファントム×クリスティーヌ(二年半後):21:2006/01/24(火) 21:54:34 ID:/ZPBYf0g
両脚を上げさせ、私の上に跨らせると、クリスティーヌの入り口に己をあてがった。
ひく、と恥肉の蠢く感触が私自身の先端に伝わる。
ああ、クリスティーヌも私を求めてくれているのだ……。
私自身を呑み込まんとする彼女の粘膜の動きに陶然としながら、
彼女の尻臀を掴んでゆっくりと私の上に落としていった。
入り口にあてがった私の楔がゆっくりと彼女のなかに呑み込まれていく。
「あ、ああ……、あああ…………」
次第に自分のなかに侵入してくる私の感触に刺激されて、
クリスティーヌがたまらぬげに声を上げる。
「おまえのなかに私が入っていくのがわかるか……?」
「ああ、マスター、マスター……、マスター…………」
首を左右にふりながら侵入者によってもたらされる快感に耐えかねたように
クリスティーヌがやるせなく切ない声で私を呼び、私の肩に掛けた手が幾度もすがるように私の肌を掴む。

そして、私のすべてが彼女の温かい膣内に収まり、
その瞬間、私たちは何かしら成し終えた人々のような顔をして互いに見つめあった。
「ああ、マスター……、マスター……」
眉を寄せてクリスティーヌが私の眸を見つめ、私の肩に頬を擦りつけてくる。
私の耳の後ろに唇を押しあて、私の顎に指先を這わせながらも、
彼女のなかは細かくひくつき、私の柱にねっとりと絡みついた恥肉が私を包み込んで、
その彼女の唇や指先の愛情深い動きと私を包む粘膜の淫らな動きとの落差がひどく刺激的だ。
それから、私はクリスティーヌの尻臀を掴んだまま、ゆっくりと腰を下から突き上げはじめた。

きゅうっとクリスティーヌの入り口が締まり、奥の内襞がひくひくと蠕動する。
私の柱をやわやわと締めつけ、私が抜き差しするたび纏いついてくる粘膜の感触がたまらない。
幾度も幾度も下から突き上げ、クリスティーヌの最奥を抉る。
突き上げるたび、彼女の唇からは切羽詰った喘ぎ声が洩れ、
かつて私の慟哭しか聞いたことのないこの部屋を甘く淫らなその声で満たしていく。
突き上げながら同時に尻臀を掴んだ手で双臀を揺さぶってやると、
ほどなく彼女の内側のひくつきが規則的になってきて、
やがてひと際高い声で私を呼びながらクリスティーヌが達した。
697ファントム×クリスティーヌ(二年半後):22:2006/01/24(火) 21:55:10 ID:/ZPBYf0g
荒い息を吐きながら目じりに官能の涙を滲ませているクリスティーヌの身体を、
繋がったまま抱きかかえ、そっと後ろに倒す。
私にしがみついていた彼女の頭がシーツに乗ると、
そこで初めてクリスティーヌが私の目を見てかすかに口元を綻ばせた。
ああ、なんといじらしく、なんと愛らしいことか………。
私の背に廻した腕を前に持ってきて、伸ばした指先で私の頬をそっと撫でる。
「マスター……、愛しています……」
私に何を求めるでもなく、ただ想いを発露するように言ったクリスティーヌの口調に
私は深い愛情を感じ、私もどうにかして自分の思いのたけを彼女にわかってもらいたくて、
彼女の唇にそっと自分の唇を重ね、優しく口づけたあと、
「愛している……」とだけ言って彼女を強く抱きしめた。
クリスティーヌは私のもので、私はクリスティーヌのものなのだ、
私たちは互いのために造られたのだ……、初めてそう思える瞬間を私たちは共有していた。
ああ、本当に私たちは愛し合っている夫婦としてやり直すことができるのだろうか………。

甘くそそるようにひくつくクリスティーヌのなかを確かめるようにふたたび抜き差しを始める。
「あぁ……ん、マスター……、マスター……」
私の首にしがみついてクリスティーヌが耳元で私を呼んでくれる。
甘い声で私を呼びながら私の頬に唇を寄せ、そのやわらかい唇を頬に擦りつけてくる。
唇を擦りつける動きと彼女のなかがうねる動きとが同調して、
彼女が私を強く強く求めてくれているような、彼女が私を深く深く愛してくれているような、
そんな気がしていっそうクリスティーヌが愛おしい。私も腰を入れながら彼女の髪や額、耳朶に口づけを送る。
ああ、愛し合って、求め合って、そして互いに与え合う交わりがこれほど幸福なものだとは思いもしなかった。
愛しい愛しいクリスティーヌ……、
あの頃、おまえがどれほど悲しい交わりを強制されていたのか、今ならわかる、
……もしも、もしも私たちがこれから共に暮らしていくのなら、共に暮らしていけるのなら、
私は二度とおまえに閨で悲しい思いをさせはしない、初めての夜に誓ったあの誓いを私は必ず守るから、
きっとおまえを大事に守るから、きっとおまえを誰より幸福な妻にしてみせるから……。

愛しいクリスティーヌの背を抱きかかえながら、真っ直ぐに突き上げる。
突き上げるたびにクリスティーヌの奥から何度も大きなうねりがやってきて、
そのうねりが入り口あたりで締めつけに変化し、なかにいる私を翻弄する。
クリスティーヌの脚が私の身体に絡みつき、私を身体ごと己の方にひきつけようと
しているのが彼女の愛情を感じるのと同時にたいそう淫靡で、
彼女のなかにある自分がいっそう奮い立つ心地がする。
698ファントム×クリスティーヌ(二年半後):23
仰け反った白い喉元に口づけを送る。
「あぁ……ん……」
うっすらと開いた唇から悩ましげなため息が洩れ、次いで切れ切れにか細い喘ぎ声が洩れてくる。
私の身体に絡めた脚を擦り合わせるようにして、腰を私の下腹に押し付けるようにくねらせている。
それらの淫らな動きのひとつひとつが、クリスティーヌが押し寄せる官能の波に
呑みこまれつつあることを知らせている。
頭を左右にふって、その波間からどうにかもがきでようとしている彼女と、
共にもっともっと深い愉悦の海に沈んでいきたい……。
大きく腰を入れながら「クリスティーヌ……、愛している……」と耳元で囁くと、
クリスティーヌがふるふるっと全身を顫わせた。
うすく眸を開けて「おねがい……、最後まで……、初めてのときみたいに、一緒に…………」と
苦しい息の下から囁くように言った。
「いいのか……?」
「ああ、おねがい……、マスターと……一緒がいいの……、
離れ……ないで……ずっと……、お…ねがい……」
返事の代わりに彼女の名を呼びながら激しく腰を使う。
「クリスティーヌ、クリスティーヌ、クリスティーヌ………」

唇を舐めあいながら互いの荒い息を感じ、眸にある情慾と愛情と赦しを確かめあい、
そして……、そして、私が己を彼女の最奥に深く突き入れた瞬間、
「あ、ああっ! ぁぁあああああぁぁぁっっ…………!!!」
クリスティーヌが切なく淫らな啼き声を上げ、ふたたび達した。
私も、弓なりに反った彼女の腰を抱え、艶かしいよがり声を聞きながら、
クリスティーヌへの愛の証を彼女の最も奥深くに解き放つ。
身体の奥深く私の迸りを受けたクリスティーヌが、ひくひくと痙攣しつつさらに私を締めつけ、
私の下腹に押しつけたままの腰を淫らに揺らめかして悦楽の波間を深く深く潜っていく……。
「あ、ああ……、あ、あ…………」
唇を戦慄かせ、喘ぎとも吐息ともつかないうわ言のような声を上げながら、
深い愉悦の水底をたゆたっている彼女のなかで、私も彼女と共に深い絶頂を味わった。