【仮面】オペラ座の怪人エロパロ第4幕【仮面】

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1名無しさん@ピンキー
引き続き天使様の御降臨をお待ちしております。
エロ無し・ギャグ無しを投下する天使様は、注意書きとしてその旨のレスを入れてから
SSを投下してくださいませ。

過去スレ
 第1幕 http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1107434060/
 第2幕 http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1117948815/
 第3幕 http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1127032742/

関連
 【仮面】オペラ座の怪人エロパロ【仮面】:まとめサイト  
ttp://lot666.fc2web.com/
2名無しさん@ピンキー:2005/11/24(木) 23:59:07 ID:t6wsGBaN
>1
乙華麗度!
天使様御光臨キボンキボンキボン
3名無しさん@ピンキー:2005/11/25(金) 00:02:09 ID:GG3v/mDf
スレ立て乙!
今回もいろんな天使様で賑わうのを期待してます
4名無しさん@ピンキー:2005/11/25(金) 00:04:00 ID:VrRQyObq
>>1
もつかれいど!!
5O.G.:2005/11/25(金) 00:11:07 ID:QXzgZDQP


6名無しさん@ピンキー:2005/11/25(金) 00:57:24 ID:02E3mDj6
ほす協力
7名無しさん@ピンキー:2005/11/25(金) 01:10:21 ID:ew5M+sps
乗り遅れた(ノД`)
>>1 乙!
8名無しさん@ピンキー:2005/11/25(金) 02:05:44 ID:W53FGe7D
>>1乙華麗度!
前スレは天使様の洪水でしたな!
9名無しさん@ピンキー:2005/11/25(金) 09:27:08 ID:xdCZ2QHN
新スレ立ってる!
>>1 乙華麗
10名無しさん@ピンキー:2005/11/25(金) 19:58:43 ID:o1f5+4/9
>>1タン乙です!
今幕も繁栄しますように…
11名無しさん@ピンキー:2005/11/25(金) 20:35:14 ID:ymsv8Zty
前スレ>495の続きを投下します。

ファントム×クリス
若干、鬼畜風味

3幕に間に合わなくて新スレの一発目が暗いssですみません。
19KBあったので、こちらを使わせて下さい。
12ファントム×クリス(鏡のうらで):1:2005/11/25(金) 20:38:07 ID:ymsv8Zty
ある夜、クリスティーヌを連れて彼女の楽屋へ行った。
しばらく前からそこにあるものを見せたいがためだ。

クリスティーヌになぜ私を愛してくれないのかと問い、それに答えて彼女が、彼女の愛を信じるも
信じないも私自身の問題であって彼女の問題ではないと突き放すように言ってから
彼女はどうやら開き直ったものと見え、私の下で喘いでいるときにももう決して私を呼んではくれなくなった。

私の愛撫に啼き、喘ぎ、切なく吐息をつき、そして深い絶頂を迎えても、もう私を呼んでくれることはない。
今まさに迎えんとする絶頂を拒むように首を横に振りながら達するクリスティーヌを見ていると、
彼女の身体は確かに私のものだが、彼女の心まで手に入れることはできないのだと思い知らされた。

日々の暮らしのなかでどうしても必要があるときには、彼女は私に向かって「あの……」と呼びかける。
時にはこれまで通り「マスター」と呼んでくれるときもないではなかったが、
その声には愛情どころか、もう思慕のかけらも感じられなかった。
私を呼ぶ声は冬の冷気のように冷たく、私を見る目は永久に融けぬ氷のように冷たい。

彼女の師であった頃、私はクリスティーヌから尊敬と思慕とを捧げられていた。
夫になれば、それに愛情が加わるものと思い、どうにか彼女の愛が欲しくて足掻いた結果がこれだ。
私はクリスティーヌから憎悪と、……そしてほんのわずかに憐憫を……、捧げられている。


私を愛していると言いながら、決して私への愛などない妻が憎くて、何かしらの意趣返しをしてやりたくて、
…………そして、以前の彼女の声にあった尊敬と思慕とが混ざった優しい声で呼ばれるのは無理だとしても、
せめて交わっているときくらいどうにかして私を呼んでもらいたくて、私はしばらく前から気づいていた
あることを利用することにしたのだ。
13ファントム×クリス(鏡のうらで):2:2005/11/25(金) 20:38:47 ID:ymsv8Zty
鏡の裏から楽屋のなかが見える。
私の後ろからついてきていたクリスティーヌの方に振り返り、顎をしゃくって鏡のなかを示した。
「見ろ。あいつはああして毎晩のようにおまえの楽屋に来ては、ああやっておまえを偲んでいるのだ。
 ……どうだ、嬉しいか?」
ほの暗い部屋のなかには、椅子に腰掛け、化粧机の表面を撫でている子爵の姿が見えた。
やや右に頭を傾け、右手でそっと木の面を撫で続ける男の姿は、
憎い恋敵であることを差し引いても哀れを催させるものだった。
ある日突然、自分のもとからいなくなってしまった婚約者の肌を撫でているつもりになっているのか、
大事そうに何度も何度も指先で机の表面を撫でている。
こちらからは見えないが、泣いているのかも知れなかった。

あの男もクリスティーヌを心底愛していたのだ……、そう思うと、ふたりの間を裂いた己の短慮が悔やまれた。
あの男なら、あんな風に優しくクリスティーヌを愛撫し、愛しんでやることができるのだ……。
それにひきかえ、私は、あれほど愛したクリスティーヌに優しい言葉ひとつ掛けることができないでいる。

「ラウル……」
クリスティーヌの絞りだすような声がかつての婚約者の名を呼び、痛ましいものを見る目つきで
子爵をじっと見ている。
ああ、彼女のその声、その眸……。
私を呼んでもくれなくなったその唇で、おまえは恋しい男の名を呼ぶのだね……。
私を見てもくれなくなったその目で、おまえは恋しい男の背を見つめるのだね……。
ああ…………、激しい怒りと悲しみとが全身を満たす。
14ファントム×クリス(鏡のうらで):3:2005/11/25(金) 20:39:28 ID:ymsv8Zty
「恋しい男が今でもおまえを思っているとわかって、おまえも嬉しかろう?」
「……いいえ、わたしはあなたの妻ですもの……、もう……」
「ふふん、……あいつに肌を見せたことはないんだろう?」
返事はない。無表情で、何を考えているのかも読み取れない。
「おまえは確かに初めてだったものな……。
 いや……、……まさか、愛撫の味を教えられたのはあいつにではあるまいな……?」
「そんな……!」
クリスティーヌが物凄い形相でこちらを振り返った。
「はっ、下衆だと思うんなら思え」
彼女の剣幕に気圧されながら、なおも喰い下がる。
「……どうなんだ」
「……いいえ、一度も……」
「ふん、……まぁ、いい」
そううそぶきながら、その実ほっと安堵したのがクリスティーヌにわかっただろうか。

皮肉っぽい顔になっているのだろうなと思いながら、彼女の身体に手を伸ばす。
「な……」
驚きとともに私を見たクリスティーヌの視線をかわし、彼女の衣服を緩めていく。
「やめて……、マスター、なにを……、なにをなさるの……」
久方ぶりに呼ばれた呼び名を耳の奥で反芻しながら、その声に滲む彼女の私への憎悪を感じる。
が、しかし、私はか細い声で抵抗するクリスティーヌの耳元で囁いた。
「あの扉は、おまえも知ってのとおり、こちらからはあちらの様子が見えるが、
 あちらからこちらは見えない。しかし、声は聞こえる。
 この程度の小声なら、いや普通の話し声でも聞こえる心配はないが、少しでも大きい声を出せば
 聞こえてしまうよ。おまえもいつもここで私の声を聞いていたのだからわかっているだろうが」
クリスティーヌが身を捩って私に抵抗したが、それでもかまわず衣服の紐やらホックやらを緩め、
いまや胸のあたりは手を挿しいれられるばかりになっていた。
後ろから首筋に唇を這わし、デコルテを撫でた。
15ファントム×クリス(鏡のうらで):4:2005/11/25(金) 20:40:05 ID:ymsv8Zty
「…………!」
声を立てず、身を顫わせたクリスティーヌに向かって言う。
「よくわかっているじゃないか……、
 まぁ、尤も、あいつにおまえの喘ぎ声を聞かせてやるのも一興だがね」
「どうして……」
「どうして、こんなことをするかって? おまえの願いを叶えてやろうと思ってね。
 あいつに肌を見せたことはないって言っていたな。さすがに私もあいつに見せてやる気なんて
 さらさらないが、おまえに気分だけでも味わわせてやろうと思ってな」
「……どういう……」
クリスティーヌが訝しそうに私を振り返った。
「……こういうことだよ」
そう言って、緩めた胸元をさらに寛げ、クリスティーヌの乳房を露出させた。

「やあっ!」
「いいのか、聞こえても……?」
「あ、あ……、ああ……、いや……」
両の乳房を下から掬い上げるようにして激しく揉みしだく。
身顫いし、唇を戦慄かせて耐える彼女の肩が大きく上下し、かすかな抵抗のしるしに
私の両手に掛けた手が顫えている。
くいしばった歯の隙間から甘い吐息が洩れ、喉の奥から切ない喘ぎがかすかに聞こえる。
乳首を絞りだすように、何度も何度もしつこいほど揉みしだいていると、徐々に乳首が立ち上がってくる。
肩口に顔をうずめ、首筋をなめ回しながら、なおも乳房を揉み続ける。

ようやくそそり立つように屹立した両の乳首をつまみ上げた。
「ああっ! ああああぁぁぁ…………!!」
声を殺してはいるが、そのぶん切なげな吐息が混ざった声で彼女が喘ぐ。
「あいつの姿を見ながら揉まれて感じたか」
「うぅっ、いや…………」
「ほら、あいつに見られている気になってくるだろ?」
乳首をつまみ、鏡のほうに向かって引っ張る。
「あぁっ!」
「さあ、あいつにこうされていると思え……」
言いながら、摘まんで引っ張り上げた乳首を捏ねくりまわす。
「んっ……、くうぅ…………」
「感じているのか」
「……いや…………、」
16ファントム×クリス(鏡のうらで):5:2005/11/25(金) 20:41:35 ID:ymsv8Zty
痛々しいほど紅く色づいた乳首を捻りまわし、時折、乳房を掬い上げながら揉みしだく。
指の腹で乳首を転がし、摘まみ上げる。
そのたび身体を捩り、激しく頭を振って抗うクリスティーヌの唇からは熱い吐息が洩れ、
私を拒絶しながらもその身を快楽に任せつつあることを感じさせる。
「いいんだろう……?」
「くぅっ……」
「こんなに硬くして……、嫌がっているふりをしたってすぐにわかる。……いいんだろう、ええ?」
「マスター……、ゆるして……」

顔を背け、楽屋のなかを見ないようにしているクリスティーヌの顎に手を掛け、無理やり前に向けさせる。
嫌がって激しく振る頭を捕まえ、耳元で囁いた。
「あいつにこうされたかったんだろう……?」
「うぅっ……、」
呻き声だけしか発しない彼女の声を聞き、否定して欲しくて聞いたと自覚した。
いいえ、あなたにこうされたいとずっと望んでいたのです……、と。
いいえ、あなたの手にこうされることだけを望んでいたのです……、と。

想像のなかの妻は私の手を、私自身を喜び迎え、優しい声音で私を求めてくれる。
だが、現実の彼女は私の手を拒み、私自身を拒み、哀しい呻き声を発しながらただただ首を振るばかりだ。

クリスティーヌを我がものにする前、どれほど彼女に焦がれ、彼女が手に入らぬことを嘆いて
暮らしたか知れなかったが、今にして思えば、それはどんなに甘く切ない日々だったろう。
この味気なく惨めな現実と較べ、どれほど豊かな想像のなかに自分がいたのか、いま初めて思い知る。
………想像のなかのクリスティーヌは決して私を拒まなかったから。
17ファントム×クリス(鏡のうらで):6:2005/11/25(金) 20:42:24 ID:ymsv8Zty
鏡の向こうで椅子を引く音がして、子爵が立ち上がった。
机の表面を名残惜しげに一撫でし、化粧机から離れる。
壁にかかった肖像画を見上げた。歴代のプリマドンナの肖像画だ。
一番新しい肖像画の隣には、いつか彼の婚約者の肖像画が並ぶはずだった。
絵にあるプリマドンナの顔に愛しい婚約者の顔を重ねて見つめているのだろう、
涙をこぼしているらしく肩が顫えている。

「おまえを想って泣いているようだよ」
クリスティーヌの耳元で囁く。
「…………」
「あいつのところへ飛んでいきたいだろう?」
「…………」
何を言っても返事をしない。
しかし、彼女の眸は言葉以上に雄弁だった。

「……行かせるものか」
我ながら陰気な声だ。
「おまえは私の妻だ、私のものだ、おまえがどんなにあの男を焦がれたところで、
 おまえがどんなにあの男のもとに飛んでいきたいと思ったところで、
 おまえを決してあいつには返さないよ」
悔しさと屈辱にまみれて彼女のスカートをめくり上げる。
「いやっ!」
とっさにスカートを押さえたクリスティーヌの手を無視し、アンダースカートもペチコートもめくり上げ、
顕わになった小さい下着に手を掛けた。
「マスター、いや、いや……、おねがい……」
涙を浮かべながら哀願する彼女を一瞬見遣り、それから一息に下着を下ろす。
「いやあ……!!」
声を殺したまま叫んで涙を溢れさせた。
18ファントム×クリス(鏡のうらで):7:2005/11/25(金) 20:43:11 ID:ymsv8Zty
嫌がって後退るクリスティーヌを壁際に追い詰め、閉じようとする膝に無理やり己の脚を割りいれる。
「やめて、やめて…………」
涙をこぼしながらか細い声で抵抗する彼女の大腿に手を這わせる。
そのまま両脚の間に手を挿しいれた。

くちゅという湿った音とともに溢れ出た愛液が指に絡みつく。
秘唇は水気を含んでふくらみ、莢から顔を出した肉芽が蜜にまみれて顫えている。
秘裂をそっと撫で上げる。
「あ、あぁ……ん……」
途端に洩れた媚を含んだ甘い声にかすかに哀しみの色が混ざる。

無理に身体を開かされ、与えられる刺激に反応してしまう哀しさ、惨めさを私はよくわかっていながら、
それでも私は彼女を苛まずにはいられない。
「やはり濡らしていたか……、あいつを見て感じているのか、
 それとも私の愛撫で感じているのか、どっちだ」
「あんっ! ……うう…………」
私の指遣いに反応しながら、それでも屈辱に泣くクリスティーヌをなおも責める。
「ふん、おまえにとってはどっちだっていいのか、……」
「どうして、どうして……」
哀しい声で問う彼女の秘唇を指で挟んで擦り上げる。
「あぁっ、いや……、いや……ぁん……」
「ふん、嫌がっている割には良い声で啼くじゃないか」
肉芽を指の腹で擦る。
「あんっ……、あぁっ……」
「良い声だが……、あんまり大きい声を出すとやつに聞こえてしまうよ、
 ……それとも聞かせてやりたいのか?」
「う、うう……」
19ファントム×クリス(鏡のうらで):8:2005/11/25(金) 20:43:51 ID:ymsv8Zty
「こんなに濡らして……、脚まで垂らして……、男のものが欲しくて欲しくてたまらないんだろ?」
「いや……」
「ほら、ちょうどあいつもこっちを見ているしな」

肖像画を眺めて泣いていたらしい子爵が向きを変え、鏡のほうに近寄ってきていた。
鏡の前に立ち、自分の顔が写っているあたりに手を伸ばす。
頬が写っているあたりをそっと撫でる。
おそらく己の顔の向こうに消えた婚約者の顔を見ているのだろう。
私自身、鏡など見るのもおぞましかったが、それでも何かの折に鏡を見ると、
自分の顔の向こうに愛しいクリスティーヌの顔を思い浮かべ、鏡の表面を撫でたことが何度もあるので、
今、彼がしていることの意味もその心持ちも手に取るようにわかった。
いなくなった恋人を懐かしむような眸をして鏡をそっと撫で続ける子爵の姿は、
哀れを通り越して痛ましいことこの上なかった。
その双眸からは涙がこぼれ、彼がいまだに恋人を忘れておらず、
その心の痛みをどうすることもできずにいることを知らせていた。

そして、彼がそこまで愛し、想う恋人は、その鏡の裏側で夫に責められ、泣きながら犯されている。
オペラ座裏で彼らが別れの抱擁を解いたとき、私を見つめた子爵の眸を思い出す。
婚約者を失う悲しみとともに、その眸には愛しい彼女が幸せになることを祈り、
その祈りを託す相手である私への無言の願いがこめられていた。
彼が今、自分の立つ鏡の裏で行われていることを知ったら、私は間違いなくその場で命を落とすことだろう。
刃もて刺し貫きたいほど憎い恋敵に、己の最も大切なものを差し出した彼の真情は踏みにじられ、
彼の大事な花はその花びらをむしりとられて無残な姿を曝け出している。
………今、彼が私を殺し、クリスティーヌを救い出してくれるのなら、むしろ喜んでそうされたい、
この地獄から私たちふたりを救い出して欲しい、そう思う自分がいた。
20ファントム×クリス(鏡のうらで):9:2005/11/25(金) 20:44:32 ID:ymsv8Zty
「ほら、ちょうどあいつもこっちを見ているしな」
「…………」
かつて婚約までしていた男の惨めな姿を見て、心優しいクリスティーヌが何も思わないわけはなかった。
私の目を懼れてか、何ものをも写していないような彼女の眸を見て、
この女はあの男ではなく私を選んだはずなのに、この女の夫はこの私なのに、という悔しさが募ってくる。
「ちょうどやつがこっちを見ているんだ、もっとよくしてやろう、……あいつの顔を見ながら逝くがいい……」
そう言いざま、クリスティーヌの片脚を上げさせ、貫いた。
「は、くぅぅぅぅ………………!!!」
声を出すまいと己の指を噛んだクリスティーヌの眸からは涙がこぼれ、
にもかかわらず彼女のそこは熱いぬめりでもって私を悦び迎える。


臀を抱えて下から突き上げる。
そのたび洩れる苦しい喘ぎを聞きながら、あれほどに愛しいと思い、心の底から愛していると思った
クリスティーヌとどうしてこんな交わりしか持てないのだろうかと思う。
あの初めての夜だけが唯一幸せな記憶で、あとの交わりの惨めさといったらない。
愛しい妻と快感を共有し、ふたりでいることの幸福をかみ締めながら繋がりたかった。
私は一体どこで間違ってしまったのだろう……?
……否、私が間違ったのではない、この女が、クリスティーヌが私を愛さないから悪いのだ。
私たちから幸福な交わりを奪ったのは他ならぬクリスティーヌだ。

クリスティーヌの身体ががくがくと顫え、入り口も奥も襞が激しくうねって私を締めつける。
私に抱えられたまま臀をくねくねと振っている。
彼女を罰するために強い刺激を与えてやりたくて、肉芽を爪の先で引っかくように弄ってやった。
身体の芯を貫くほどの刺激に喉の奥で声を上げた彼女の双臀を押し拡げるようにしてから大きく腰を入れると、
クリスティーヌが切なげに肩を寄せ、唇を戦慄かせて逝った。
21ファントム×クリス(鏡のうらで):10:2005/11/25(金) 20:45:13 ID:ymsv8Zty
私の腕を掴んだまま大きく息をつき、涙をこぼしているクリスティーヌがふと視線を動かした。
その視線の先を見遣ると子爵が楽屋を出ようとするところだった。
扉が閉まる。
子爵の姿が楽屋から消えた。

「あいつを見ながら逝ったんだろう? ……どうだ、良かったか」
「うっ、うぅ…………」
「夫が良かったかと聞いているんだ、返事くらい欲しいものだね」
「どうして、どうして……」
子爵がいなくなったことで、声を上げて泣き出したクリスティーヌから己を引き抜くと、
その場に泣き崩れた彼女をそのままに鏡を動かす。
彼女の腕を掴み、楽屋に引きずり込んだ。

「いやっ、いや…………!!」
「つい今しがたまであいつがいたんだ、あいつのにおいがするんじゃないか? 今度はここで逝かせてやるよ」
私のシャツの袖を掴み、激しく抵抗するクリスティーヌの腕を掴むと頭の上でひとくくりにして組み敷いた。
はだけたブラウスから先刻私が蹂躙した乳房が見え、それを掴んでゆっくりと揉みしだく。
乳首を摘まみ、先端をかりかりを爪で擦ってやる。

名残りの蜜を先端になすりつけ、ふたたび彼女を刺し貫く。
涙をこぼしながら抗う彼女のそこからは大量の蜜が溢れ、男の侵入をよりいっそう容易にする。
喉の奥から絞り出すような呻きを洩らしながら、それでも彼女の内襞はうねって私を迎え入れた。
やわやわと私の柱に絡みつき、ひくひくと収縮を繰り返す粘膜を感じる。
「相変わらずだな……、どんなに嫌がってもおまえのここは私のものに夢中じゃないか」
「ああ…………」
乳首を摘まんで指先を擦り合わせるようにして弄ってやると、さらに入り口がきゅうっと締まり、
続いて奥から襞がうねってくる。
そのうねりに応えるように腰を大きく送り込む。
22ファントム×クリス(鏡のうらで):11:2005/11/25(金) 20:45:49 ID:ymsv8Zty
「あぁ……ん、あ、あぁ……ん、やあ……」
拒絶の言葉に甘い喘ぎが混ざり、その屈辱に涙を溢れさせる。
彼女のそこからはとめどなく蜜がこぼれ、すべりが良くなった彼女の胎内を
犯しつくすような気持ちで責め上げると、腰を左右に振ってよがった。
「そんなによがって……、もし今やつが戻ってきて、このおまえの姿を見たらさぞや驚くことだろうな」
「あ、ああ……」
「私に突き上げられてこれほどによがっているおまえを見たら、さすがのあいつも諦めるだろうよ」
「やあ……」
「何が嫌なものか、もう逝きたくなっているんだろう? いやらしい女だな……」
「ああ、マスター……」
彼女が哀しい声で私を責める。
ああ、私はこんな風に呼ばれたいんじゃない……、どんな風でもいいから彼女の声で
私を呼んでもらいたいと思ったが、やはり私が聞きたいのはあの優しい声だ……、
私を責めるのではなく、私を慕って呼ぶあの優しい声だ……。
だが、もう二度とあの声を聞くことはないのだ。

大腿の裏に手を掛け、大きく腰を使いながら首筋を舐め、耳朶を噛む。
床に投げ出されたまま、抵抗することもなくなった彼女の手が時折びくりと顫える。
乳首を摘まみ上げ、捏ねくりまわし、乳房を乱暴に揉みしだく。
指の腹で肉芽を転がし、爪の先で弾いてやる。
私のものをいっそう深く咥えこもうとするように腰を引いて私を迎える。
なのに彼女の首だけはその快楽を拒むように激しく横に振られている。
「さあ、逝け、さっきまであいつがいたこの部屋で、私に抱かれて逝くがいい」
早い動きで肉芽をいらってやりながら激しく突き上げる。
「ああ……、あああああぁぁぁぁ………………!!」
……クリスティーヌがふたたび達した。
23ファントム×クリス(鏡のうらで):12:2005/11/25(金) 20:46:43 ID:ymsv8Zty
クリスティーヌが達する瞬間、私自身も彼女の白い大腿に己を吐き出しており、
ハンカチを取り出すとそれでその痕を拭ってやった。
鏡の裏に脱ぎ捨てられたままになっていた下着を拾ってきて渡す。
泣きながら身支度をするクリスティーヌのうなじの白さがよりいっそう哀れで、
一度は信じて選んであろう夫にこれほどの仕打ちをされ、それでもただ泣くしかできない彼女が
ひどく惨めに思われた。
世界一幸福にすると誓った妻は、いま、世界一不幸な妻となっていることは疑いようもない。

しばらく身支度をするクリスティーヌを見下ろしていたが、次第に嗚咽がこみ上げてきて、
私はよろよろと床に崩れ折れた。
「マスター……?」
心配げに私を呼んだクリスティーヌの声を聞いた途端、私のなかで何かが爆発した。
「もういい! もういらぬ! もうおまえなど……、おまえの顔など見たくない……、」
「………マスター、ごめん……な、さい………」
ここで私に詫びるクリスティーヌの気持ちがわからない。
「なぜおまえが謝る? なんでおまえが謝る必要があるんだ? 私を愛さないことを詫びているのか、
 それともいまだにあいつを愛していることを詫びているのか!」
「マスター………」
「ああ………、このままでは、私はいつかおまえを苛め殺してしまう……、
 どうか私にそんなことはさせないでくれ……、お願いだ、クリスティーヌ、……どこか……、
 どこでもいい、どこかへ行ってくれ! 私の前から消えてくれ! お願いだ……」
「マスター……」
「お願いだ……、」
「どうあっても……」

床に手をついたまま、溢れ出る涙が膝を濡らすのにもかまわず、私はただただ泣いていた。
彼女が何か発したらしいことはわかったが、その言葉すらも耳には入らない。
あれほど自分のものにしたいと焦がれた妻が、今は見るのも厭わしい……、いや、今でも愛している、
魂の奥底から、狂おしいほど愛している、だからこそもうこれ以上は耐えられなかった。
これほど愛しているのに、クリスティーヌは私を愛さない。愛されないから彼女が憎い。
憎いのに愛している……、自分でもどうしようもないほど愛している。愛している。愛している。愛している。

一体、私はそこでどのくらい泣いていたのだろうか。
慟哭から覚めてあたりを見わたした時、もう、どこにもクリスティーヌの姿はなかった。
24ファントム×クリス(鏡のうらで):13:2005/11/25(金) 20:47:25 ID:ymsv8Zty
クリスティーヌが私のもとを去って、一体どれくらいが経ったのだろう。
あれほど愛し、あれほど憎んだ私の妻はもういない。

あの時、もしやと淡い期待を抱いて急いで地下へと戻ってみたが、やはりクリスティーヌの姿はなかった。
いくつか心当たりを探してみたが、オペラ座内のどこにも彼女の気配はなかった。

食卓につけば、クリスティーヌの気配のないことが悲しく思い出され、もう何も喉を通らなかった。
食べないでいると、だんだんと食べないことが当たり前になってきて、
私はもう物を食べようと努力するのをやめてしまった。

クリスティーヌが使っていたベッドに横になり、かすかに香る彼女の残り香を感じながら
過ごす時間が一番幸せだった。
ある時、彼女がいつも編んでいたレース編みを見つけたので広げてみると、なにやら大きな一枚布のようで、
よく考えてみるとそれは寝台に掛けるスプレッドのようであった。
クリスティーヌは私たちふたりが寝むベッドのためにこれを編んでいたのだろうか……。
いや、まさか、よりによって夜具ということはあるまい。
拷問に等しい行為を強制される刑場を飾るために、わざわざ編み物をする女などいるはずもない。

テーブルクロスには大きすぎるその編み物を、かつてクリスティーヌを無理やりに抱き、
責め苛んだ手で抱きしめる。
今、この編み目のつまったレース編みを抱きしめているように優しく、
包み込むように抱いてやれなかったことが改めて悔やまれる。
私はいつだっておまえを優しく包み込むように抱いてやりたかったのに、どうしてそれができなかったのだろう。
25ファントム×クリス(鏡のうらで):14:2005/11/25(金) 20:48:05 ID:ymsv8Zty
一心不乱にレース編みをしていたクリスティーヌの姿を思い浮かべようとしたところで愕然とした。
思い浮かぶ彼女の顔は、悲しそうに俯く顔や寂しそうに微笑んだ顔、涙をこぼしている顔ばかり……。
ひと月もともに暮らして、クリスティーヌの心からの笑顔として思い出せるのは、
私たちが初めて結ばれた翌朝、ジリー夫人に結婚の報告に行った帰りに階段ではしゃいでいた折の笑顔だけだった。

世界中の誰より幸福な妻にすると神に誓い、クリスティーヌに約束し、己も固く決心していたのに、
彼女を一度しか笑わせてやれなかったことが私の最大の罪、
そして、今この瞬間にたったひとつの笑顔しか思い出せないことが私への最大の罰だった。

誰より愛しいクリスティーヌ……。
私はおまえにたった一度しか笑顔を与えることができなかった……、どうか、どうか許しておくれ……。
嫉妬深く狭量だったおまえの夫をどうか、どうか許しておくれ……。
薄れゆく意識のなかで、私はただひたすらクリスティーヌに詫び続けていた。




続く
26名無しさん@ピンキー:2005/11/25(金) 20:49:21 ID:ymsv8Zty
以上です。
読んで下さった方、ありがとうございました。

また、しばらく放っておいてすみませんでした。
次はなるべく早く投下できるよう努力します。
27名無しさん@ピンキー:2005/11/25(金) 21:17:54 ID:j3UM1Xy5
ま、マスターが死んじゃうぅぅー!
一気に読んでしまいました。
どうか>>26天使様、なるべく早く続きを読ませて下さい。
ここで終わるなんて生殺しのようだw
28名無しさん@ピンキー:2005/11/25(金) 21:32:14 ID:cYvW+hOP
クリスはいったい何処へ行っちゃったんだ・・・
早く戻って来てあげてー!お願いマスターを見捨てないであげて・ ゚・(つД`)・゚・。

>薄れゆく意識のなかで、私は「ロディマス」という謎の言葉を残した
冗談ですすみません
29名無しさん@ピンキー:2005/11/25(金) 21:45:09 ID:xpmM5q4Z
>>26
マスターも、クリスティーヌも、ラウルも、これ以上無い悲しみが
激しく伝わってきて、泣けます。
レースにもじんときた…。
前回までも、今後どうなることかと思っていましたが、これほど切ないとは。
せめてこれがどん底であるよう祈ってしまいます。
30名無しさん@ピンキー:2005/11/25(金) 21:55:49 ID:QXzgZDQP
>>26
ううっっ……ただひたすら泣きました・゜・(ノД`)・゜・。
31名無しさん@ピンキー:2005/11/25(金) 22:13:03 ID:o1f5+4/9
>>26
なんという修羅場だ…もう言葉も出ません…
続き、ひたすら待っています。
32名無しさん@ピンキー:2005/11/25(金) 22:18:18 ID:hdLM4NR7
>>26
グッジョブ! むしろゴッジョブ!
毎回「前よりどん底だ...」と思ってましたが、
これよりどん底はもはや想像すら出来ないですよ...
今から続きが読みたくてたまらんです
33名無しさん@ピンキー:2005/11/25(金) 23:21:42 ID:Cf7nKltc
>26
続き、ありがとうございます!
もう言葉にならないくらい、胸が締め付けられました。マスターの自虐と絶望
・後悔もここに極まれり・・・
どんな鬼畜も、やむにやまれぬ心情の繊細な描写があればこそ、こんなにも切
なく胸を打たれるのだと、読むたびに感じ入ります。
もうマスターがこれ以上苦しむのを見ていられません! どうしたら救われる
のか見当もつかないけど、とにかくマスターを早く救ってくれ〜!
34名無しさん@ピンキー:2005/11/25(金) 23:27:30 ID:Dmz2pH6B
>>26
GJGJ!!早速の投下マリガトン天使様!!
ま…ますたぁぁ…読んでてこっちの心臓痛くなった・゜・(ノД`)・゜・。
クリスの真意はどうなんだろ…続き待ってます!
35名無しさん@ピンキー:2005/11/26(土) 00:06:02 ID:hqbkpyCk
ちょwwwwwwwwwグラチャンとかみてる場合じゃなかった
マスターがますますの自虐プレイで
大変なことになっているΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)
マジで死んじゃうぜ、あの人・・・
>>26wwwwwwwwwおまいには前からホレているがますますホレたよ
なんとかマスターを幸せにしてやれぬだろうか・・・

マスターがかなしすぎてヤバイしばらく寝れない日々が続きそう(ノД`)
36名無しさん@ピンキー:2005/11/26(土) 08:37:25 ID:hSeFgkkh
マスター……
誰かマスターを助けてやってくれー。
>>26 たのむよー。
クリスどこ行っちゃったんだよ。
戻ってくれー!
37名無しさん@ピンキー:2005/11/26(土) 10:49:27 ID:oq2sxmBg
うわー!泣いた!マジ泣いた!ホントに泣いちゃったー!!!
ボロ泣きしながらエロパロスレ読むとは゜・(ノД`)・゜・。
38名無しさん@ピンキー:2005/11/26(土) 12:49:20 ID:598aIvPi
泣き崩れる瞬間のマスターにハートをわしづかみ

夜明け前が一番暗いと申します
ファントムがクリスの真実の声を受け取って
幸せを掴む事を願ってやみません
何言っても聞きそうにないですね今の彼
作者様、ひとつここはうんと弱らせて…(鬼

どうか急がず続きをお願いします
待つ時間も幸せなものですから
39名無しさん@ピンキー:2005/11/26(土) 23:54:45 ID:cHcTN3jh
>26です。
レス下さった方々、どうもありがとうございます。
20日以上も放置していたのに、ちゃんと読んで下さってありがとう。

年末に向けて仕事も忙しくなり、いつ、とはお約束できませんが、
なるべく年内には投下できるようにしたいと思います。
40名無しさん@ピンキー:2005/11/27(日) 13:18:55 ID:WRx/Z+ya
ここまできたら何ヵ月でも全裸待機だ!!!!!!
41名無しさん@ピンキー:2005/11/27(日) 14:32:45 ID:5eGALIc3
いつも愛憎編には泣かされてます。
読んでると胸が痛くてたまりません・・・
クリスの前回の発言は本心じゃないんだよ〜ああ言わないと
あんまり惨めだから心にもない事を言ったんだよーと
マスターに言いたくなってきた。
42名無しさん@ピンキー:2005/11/27(日) 14:57:49 ID:FBkgzrnA
>>40
インフルエンザの予防注射打っとけよ。
43名無しさん@ピンキー:2005/11/27(日) 17:57:39 ID:wY5/Q4dH
>>26作者様、お忙しいところ投下ありがとうございました
続きは年内といわず、落ち着いてからでも(そりゃ早いほうが嬉しいケド)
作者様のご都合を第一に優先して下さいな
お身体お大事に・・・

さて・・・。
素晴らしすぎる作品の後に投下するのは大変気が引けるのですが

・スーザン・ケイ「ファントム」のエリック×ルチアーナ
・エリック&ルチアーナは15歳ぐらい、そのときの出来事を回顧する感じ
・本番ナシで極めて生ぬるいエロですが、まだ若いふたりなのでご勘弁を

まぁ気分転換にどうぞ・・・○| ̄|_
44夏の夜の夢・1:2005/11/27(日) 17:58:48 ID:wY5/Q4dH
それは、夏も盛りを過ぎたころ。
夜遊び好きなローマ人たちも既に我が巣に引き上げてしまった刻限。
眠りに包まれた街を、一人の男が馬を進めていた。
そこにある音は、馬が時々吐き出す荒々しい息のみだった。
夜明けにはまだ遠い。

男はやがて、裏通りの一角にあるありふれた家の前で馬を止めた。
静かに馬を下り、誰も居ない街角で、しばし物思うように石造りの家を見上げていた。
その時、闇の中から、腰のひどく曲がった老婆が杖を突きゆっくり歩み寄ってきた。
白く濁った両目で不思議なほど正確に男を見据えて、ふっとため息をついた。
「いつか、お前さんがここに戻ってくると思っていたよ」
「…誰だ?」
全身で警戒する男の質問には応えず、老婆は長い物語を始めた。
45夏の夜の夢・2:2005/11/27(日) 17:59:54 ID:wY5/Q4dH
ローマの老石工ジョヴァンニの末娘ルチアーナは、類まれな美貌と万人が抗えない魅力に恵まれ
父親に溺愛され、まさに我が世の春とばかりに奔放に生きていた。
だが数えて14歳の夏、生まれて初めて自分の意の通りにならない相手に出会った。

それは彼女が寄宿学校の夏休みに入り、一年振りの我が家に駆け込んだときだった。
蕩けてしまいそうに甘い顔をして迎えてくれるはずの父親が、ぎこちなく物陰に手招いて
そこから顔をすっぽり覆う白い仮面を付けた人物がひっそりと現れたのだった。
エリックという名前のその父の新しい弟子は、初めて会ったときから非常によそよそしく
最低限の礼儀は保つが、あくまでも恩師の娘として扱う態度を崩そうとせず、
そしてルチアーナの魅力にまるで気付かないかのように振舞った。
あまつさえ、頑として仮面を脱ごうともしない。
(なんて無礼な人!)
ルチアーナはそう思った。

「お嬢さん、おはようございます」
「わたしの名前も呼べないの?礼儀もない・・・呆れるわ・・・」
そこまで言っても彼の頑丈な鎧は揺らぎもしない。

(いや、そうではないのだ…)
男はあの時の感情をほろ苦く思い出していた。
初対面の一瞬でルチアーナの美しさは自分の心に焼き付いた。
彼女に心奪われ感情が制御できなくなるのを恐れ、本能的に身の回りに壁を築いてまわった。
あの頃はそうすることしか知らなかった。
そう、まだ若かったのだ…
46夏の夜の夢・3:2005/11/27(日) 18:00:35 ID:wY5/Q4dH
高慢な少年に、自分に関心を持たせ屈服させようというルチアーナの願いは一向に果たせず、
逆にエリックの細い指から紡ぎ出される素晴らしい音楽にどんどん溺れていった。
それに彼の声は魅惑的で、知らずに聞き惚れている自分に赤面することもしばしばだった。
それがかえって彼女の自尊心を傷付けた。
父親が何か言いたげなのに気付かないふりをし、彼女の挑発は過激になっていった。
何ゆえここまで固執するのか、ルチアーナ自身にもよく分からないまま。
そして応えがないまま、お互い細かい傷を付け合うような日々を重ねた。

ルチアーナは新学期が始まっても、病みがちという理由でローマに残った。
…本当に蝕まれていたのかもしれない、いわゆる恋という名の病魔に。
彼女の病気は、年が明けても、再び夏が来ても、治癒しなかった。

万物には終わりというものがあるものだ。

それは夏のある日、ルチアーナの父親が所用で一晩家を空けたときだった。
ある朝、父親が恐る恐るという感じでその話を持ち出した時、企みをひらめいた。
「その日はアンジェラの家に泊めてもらうわ。あんな人と2人っきりでは恐ろしいわ!」
外で植木を刈っているエリックにも聞こえるように、声を高らかに張り上げる。
父親はほっとしたように言葉をもらした。
「ルチアーナ、お前が寄宿舎に戻っていてくれた方がどれだけ安心か…」
「じゃあパパ、わたしは邪魔者だというのね…?」
拗ねて見せると、慌てた父親は娘を宥める言葉を繰り広げる。
そうしてひとしきり父親を玩んでいる間も、植木を刈る音は止まなかった。
しかし、彼には一連の会話は確実に聞こえていただろう…

その日、夜が更けるまで待って、ルチアーナは家の鍵を開け、そっと屋内に入った。
エリックの地下室から流れていたピアノの音がはたりと止んだ。
47夏の夜の夢・4:2005/11/27(日) 18:01:10 ID:wY5/Q4dH
男はあの夜のことを思い出していた。
自分は家に一人きりという開放感に酔いしれ、数ヶ月ぶりに作曲に没頭していた。
しかし夜も更けたその時、頭上で人の気配がしたのだった。
ナイフの存在を確認し、足音を忍ばせて素早く階段を上がっていった。
しかし居間の扉を開けた時、そこにいたのはルチアーナだった。
彼女は戸口に立ち竦む自分に向かって、宣言するように言った。
「一度あなたと話したかったの。パパが居ない所で」

ルチアーナは水差しからワインを一杯グラスに汲み、エリックに差し伸べた。
彼は操られるようにふらふらとルチアーナの傍に歩み寄って、しわがれた声で呟いた。
「…何を話したいとおっしゃるのですか?」
ルチアーナは用意していた話をすらすらと話し出した。
父親が自分たち二人の不仲を心配していること。
肺病病みの父はもう永くない。これ以上心配をかけるのは申し訳ない。
だからお互い努力して仲良くしようではないか。
「これは、その誓いの杯よ。受けて頂戴?」
エリックは戸惑ったが、とりあえず無言で杯を受け取り、一気に飲み干した。
そうして全身に軽い酔いが廻るのをじっと堪えた。
「わたしも飲むわよ?」
彼女はその白い首を波打たせ、ワインをゆっくり飲み干した。
ワインに濡れた唇がぞくりとするほど艶めかしい。
それが動いて、新しい言葉を紡ぎ出す。
「これでわたし達も仲良しね?」
エリックは全身を駆け巡る熱にぎくりとして、思わず顔を背けてしまった。
しまったと思う間もなく、少女は神経質な怒声をあげる。
「ひどい、そんなにわたしが嫌いなの?」
「努力はいたしますから、それでお許し下さい」
「どうしてわたしを避けるのよ?」
また堂々巡りだ…。
エリックは息苦しさを覚え、本能的に彼女の居ない所を求めて戸口に向かった。
48夏の夜の夢・5:2005/11/27(日) 18:01:51 ID:wY5/Q4dH
少女は、思いもよらない行動に出た。
「エリック、待って!」
ルチアーナは素早く戸口の前に滑り込み、通せんぼするように立ちはだかった。
そして、少年の視線が自分に注がれていることを確認すると、静かに上衣を肩から滑り落とした。
その下には、薄絹のシュミーズしか着けていなかった。
エリックの目が信じられないというように見張られた。

おのれの下着だけ付けた身体を家族以外の男性の目に晒すのは初めてだった。
ルチアーナは微かに震えながら、少年の視線が全身を這うのを感じた。
エリックの息は今や明らかに荒々しくなり、その胸が上下するのがはっきり分かるほどだった。
「…これでも何も出来ないの?」
ああ、また忌々しい唇から毒々しい言葉が滑り落ちる。
止まらない。
ルチアーナは心の中で引き裂かれながら、少年の正直な下半身をねめつけた。
「本当はそんなに欲情しているくせに!」
嘲笑う。
エリックの握り締めた拳が大きく震える。
彼の身にまとう鎧にひびが入り、その中の嵐が見え隠れしているような錯覚を
悪魔のような自分が甘露のように味わう。
ああ、自分は何をしているんだろう。

エリックはただルチアーナを見詰めて、しかし、身動きもしなかった。
ルチアーナは涙がこみ上げてくるのを感じながら、衝動的に叫んだ。
「…意気地なし!」
そしてくるりと回れ右して、扉を押し開こうとした。
その時、後ろから2本の腕が伸びて少女の身体を掻き寄せた。
49夏の夜の夢・6:2005/11/27(日) 18:02:50 ID:wY5/Q4dH
エリックの身体とここまで接近したのは初めてだった。
背中に感じる厚い胸板、汗の入り混じった匂い、そして耳に吐き掛かる熱い息。
ルチアーナは、彼が充分に成長した男であることを痛いほど理解させられた。

男の手がルチアーナの身体を薄布の上からゆっくりと愛撫してまわる。
急に怖気つく自分と、これから起こることに対する期待にぞくりとした。
「お願い、何か言って…」
エリックの腕が、痛いほどルチアーナの身体を抱き締めた。
しばらく後、万感がこもった短い一言が発せられた。
「…ルチアーナ!」
その言葉に込められた情熱に、少女は陶然とした。
自分が望んでいたのはこれだったのだろうか?

ふいにエリックがはっとしたようにルチアーナの身体を解放した。
数歩下がり、両手で顔を覆って呟いた。
「どうか許して下さい、大変失礼なことをしました」
ルチアーナは恍惚とした気分のまま、彼の前に立ってそっと言った。
「いいのよ、あなたの好きにして」
エリックはゆっくり両手を外し、ルチアーナをじっと見つめた。
その目からは今までのよそよそしい壁は外れ、抑えきれない情熱に溢れていた。
彼の視線に焼かれるような思いで、ルチアーナは両目を閉じた。
やがてそっとエリックの顔が近付く気配がし、冷たい仮面の表面が唇に触れた。
(仮面を付けたままキスしているんだわ…)

エリックはそっとルチアーナのシュミーズを脱がした。
綺麗な曲線を描く乳房の先端の桃色の乳首が、外気に触れてたちまちつんと尖る。
蝋燭の揺らめく炎に照らされる裸体を眺め、男は感嘆の溜め息をついた。
「あなたは本当に美しい…」
ルチアーナは恥ずかしさのあまり、両手で顔を覆っていやいやした。

学校の寄宿舎で先輩たちが夜中にこっそり噂していた、いろいろなこと。
それを自分もとうとう経験することになるのかしら?
50夏の夜の夢・7:2005/11/27(日) 18:05:15 ID:wY5/Q4dH
エリックはふふっと笑って、後ろから乳首をそっと手で覆った。
手のひらに感じるこりこりした感触がくすぐったく、愛らしい。
「こんなに綺麗じゃないか、恥ずかしがることなんてないのに…」
愛おしさにかられ、指で乳首をそっと摘み転がす。
ルチアーナは耐え切れないというようにエリックの腕の間で身悶えした。

エリックも仮面ひとつだけの姿になり、ルチアーナを床の敷物の上に組み敷いた。
自分の怒張がルチアーナの滑らかな肌の上を弾む感触に、気が遠くなる。
これでいいのだろうか…。
男は本能に突き動かされる頭の片隅で微かに、師に対する後ろめたさをおぼえていた。
その反面、このまま自分を抑えられず最後まで突き進むだろう、という昏い予感に酔っていた。

エリックの両手が楽器を奏でるときのように優雅にルチアーナの全身を撫でる。
やがてその口は乳首を攻め始め、両手は乳房や太腿を力強く揉みしだく。
ルチアーナはただ彼の肩に手を置いて、全身を委ねるしか出来なかった。
しかし初めて片手がそっと足の付け根に差し込まれた時は、さすがに抗った。
「大丈夫…、おとなしくしていれば問題ない…」
エリックの声を聞くと、不思議に従順な気持ちになる。
彼の指が再び繁みの中に忍び入った時、ルチアーナは自分の鼓動がまるで割れ鐘のように感じられた。

エリックの指はルチアーナの敏感な部分を的確に捉え、絶妙に操った。
自分は男の意のままに啼く楽器…
初めて知る快感にわななき気が遠くなりながら、ぼんやり思った。
彼の本当の顔に口づけたい。
その一念で、ルチアーナの手が男の後頭部を神業のように滑ったかと思うと
エリックの仮面が、少女の豊かな胸の上にはらりと滑り落ちた。
そうして、ルチアーナは彼の素顔を見たのだった。

どこかで絹を裂くような悲鳴が上がった。
…いや、それは自分の喉から出ていた。
51夏の夜の夢・8:2005/11/27(日) 18:07:59 ID:wY5/Q4dH
ルチアーナの顔は一瞬で血の気が引き、その目は見開かれ、唇は恐怖にわなないていた。
「…そんなに醜いか!」
目の前の顔が苦しげに歪む。
「あんなに見たがっていただろう!もっと、心ゆくまで見るんだ!」
あの顔が、迫ってくる。
ルチアーナは目の前の顔から逃れようとした。
しかし男が激しく指を操った時、彼女は奥深くからの未だ知らない快感の波に飲み込まれ
…ルチアーナの記憶はそこで途切れた。

目覚めた時、ルチアーナは何が起こったのか思い起こせなかった。
彼女は居間のソファの上に丁寧に寝かされ、身体にはマントが掛けられていた。
燭台に掛かったろうそくが、ちりちりと煤を吐き出して揺らめいた。
ぼんやりと石壁のでこぼこな表面にうごめく火影を眺めていた。
腰が重い…。
次の瞬間ルチアーナは全てを思い出し、跳ね起きた。

さっき愛を求めて抱き合った床の上に、エリックの仮面が落ちていた。
それは原形もとどめないまでに、ずたずたに切り裂かれていた。
エリックの絶望を目の当たりにして、ルチアーナは打ちひしがれた。

ルチアーナは涙を流しながら彼の名前を呼び、自分の愚かさを許して欲しいと請うた。
しかしエリックの姿は地下室にも屋上にも、家中どこにも見出せなかった。
彼の使っていた地下室は空っぽになり、厩にも彼の世話していた2頭の馬が見当たらなかった。
エリックは出て行ったのだ。

ルチアーナは絶望に打ちのめされ、夜闇の中にふらふらとさまよい出た。
それ以降、生きた彼女の姿を見たものはいなかった。

ローマの老石工は一晩にして愛娘と愛弟子とを失った。
52夏の夜の夢・9:2005/11/27(日) 18:08:44 ID:wY5/Q4dH
語り終えた老婆を、男は悄然とした目で見据えた。
「…良く出来た話だな。しかし、私を誑かそうとしてもそうは行かない!」
老婆はふっと笑った。
「嘘かどうかは、お前さん自身がよく判っているだろう」
男は押し黙った。
老婆は男をしみじみと見つめて、呟いた。
「お前さんのことは、初めてローマに来た時からずっと見ていたんだよ」
「あなたは…」
「あの頃のお前さんは、まだ闇に染まり切っていなかったな」
そう言って、老婆は不思議な笑みを浮かべた。感嘆とも、憐憫とも言い難い、それを。

不意に遠くで鶏の鳴き声が一声響いた。
いつの間にか空は白み始め、夜が明けようとしていた。
二人は目を合わせ、暗黙の了解の下に立ち去ろうとした。
ひらりと馬上の人になって背中を見せた男に向かって、老婆は声を掛けた。
「ルチアーナと父親は、ここから北に行った教会に眠っているよ。行ってやると喜ぶだろう」
男はちらりと振り返り、無言で小さく頭を下げた。

やがて陽光が満ち、誰も居なかった裏通りにも人が溢れた。
闇の時間は終わり、ローマはまた新しい一日を迎えたのだった。

(終)
53名無しさん@ピンキー:2005/11/27(日) 18:16:03 ID:wY5/Q4dH
以上です
ぬるい話を読んで下さった方、心からありがとうございます。○| ̄|_

前書きに書き忘れましたが、ケイ著のとはだいぶ違う話になっています
(パラレルワールドとでも思っていただければ)
「ファントム」未読の方でも理解できるよう話を構成したつもりですが・・・

いちお「ファントム」読み込んでから書いたつもりですが
これは違うよという所、こうした方がいいという点、などあれば
遠慮なく指摘していただけると幸いです

それでは次なるエンジェルの出現を祈って(*´Д`)
54名無しさん@ピンキー:2005/11/27(日) 18:18:55 ID:cTIuF8xy
天使様の降臨に立ち会ってしまった〜
53の天使様、GJ!
55名無しさん@ピンキー:2005/11/27(日) 19:52:49 ID:8alA71KF
>>53
エリック×ルチアーナを読めるなんて…
嬉しいよ!
 ∩  
(ヨ )    
  \ \( ゚∀゚ ) GJッ!!
56名無しさん@ピンキー:2005/11/27(日) 20:01:59 ID:LtWBSj9q
GJ!ルチアーナとは本当に切ない恋だったよね…
原作では限りなく相思相愛に近かったのにキスひとつもしなかったし。
エリックの目の前でルチアーナが亡くならなかった設定も良かったよ。
57名無しさん@ピンキー:2005/11/27(日) 21:35:28 ID:mY/rDgUt
GJGJ!!
あの二人の雰囲気がリアリティもあった。
初々しい微エロもイイ!
58名無しさん@ピンキー:2005/11/28(月) 00:50:19 ID:i3eQ/f7d
今までずっと大人のファントム(エリック)のエロだったから、
15歳の初々しいエチなんてスレ初めてだしすごく新鮮に感じた。
この2人はホントに切ないね…
59名無しさん@ピンキー:2005/11/28(月) 03:56:21 ID:o90x3D3I
GJ!
スーザン版エリックとルチアーナにもこういう交流があったならば……、と
思ってしまいました。
あと、大人のエリックがいかにもエリックの雰囲気でそれも良かった。

いや、本当に切ない……。
60名無しさん@ピンキー:2005/11/28(月) 16:03:11 ID:6Q8i/Pvz
3幕で忘年会したいよね〜という話があがっていたので、
忘年会ネタで書いてみました。
切ないSSが続いているから、場違いのような気もしないでもないんだけど。

・ちょいギャグ、ちょいエロ(エロという程でもない。でもやることはやってる)
・マスターはちょっとお間抜けorz
・マスターがクリスとマダムに遊ばれてるといか、利用されてます。
・マスターが忘年会に参加することから話は始まります。ラウルは名前だけしかでません。

では、次から始めさせて頂きます。
61マスターも走る、12月:2005/11/28(月) 16:06:15 ID:6Q8i/Pvz
 忘年会の会場は白木屋であった。
 「未成年も参加するのだからしょうがないか」
 エリックはひとりごちた。
 掲示板に名簿が貼られていて、参加不参加に○を付けるようになっている。
 クリスティーヌは参加に○を付けている。
 まあたまには許してやるか。と、名簿にざっと目を通した。
 すると一番下の欄にシャニィ子爵の名があった。自分で書き足したであろう文字だ。
 しかも参加のところにぐるぐると花まるをしてある。 
 「図々しい男だ」
 エリックはペンを取り出すとその欄に二重線を引き、その下に「エリック、参加○」と記入した。

 会費3千円は前払いである。
 几帳面なエリックは5千円でもなく1万円でもなく、きっちりと千円札を3枚会計係に払った。
 クリスティーヌの隣に陣取る為、彼は素早く目を走らせる。
  ・・・子爵はまだのようだな。ふふふ・・・
  さすがクリスティーヌ。私の教え子。私が時間にうるさいからそれが染みこんでいるのだろう。もう来ている。
  しかも両隣はあいているではないか!!
  私はなんと幸運な男であろうか!!
 エリックが靴を脱いで(もちろん脱いだ靴はきれいに並べることは忘れない)座敷に上がろうとすると、会計係に呼び止められた。
62マスターも走る、12月:2005/11/28(月) 16:07:51 ID:6Q8i/Pvz

 「金は払った筈だが?」
 「違いますよ。エリックさん、席はくじ引きで決めるんです。このくじを引いて下さい」
 「・・・え・・・?」
 彼が引き当てた席は、彼と同じく時間に厳しいマダム・ジリーの隣であった。
 彼の焦がれるクリスティーヌは遙か向こうで、若い踊り子仲間達と楽しそうにしている。
 ちらりとマダム・ジリーを見やってエリックは呟いた。
 「私は世界一不幸な男だ・・・」
 それを聞いたマダム・ジリーは意地悪そうににやりと微笑んだ。
 「陰気な男は嫌われるわよ?」
 その言葉はナイフのように彼の胸に深くつきささり、彼はここが白木屋だという事も忘れ、アルコールの力を借りて
 違う自分に挑戦したのだった。
 
 その日のことをクリスティーヌは忘れないだろう。
 誇り高きマスターが額にタイを巻き、はだけたシャツ姿でどこで覚えたのか下ネタ全開な宴会芸を披露したその事を。
 寒いネタではあったが、それはエリックという男を印象づけるのに十分だった。
 ネタに引きながらも、女性の大半が彼の体にうっとりとしているのにクリスティーヌは気付いていた。
 特に、恋に百戦錬磨だというマダム・ジリーの視線はあからさまなものであったので、
 「私のマスターなのに!」とクリスティーヌは憤慨していた。
 「私がこの場の女どもからマスターの身を守ってあげなければ!!」
 クリスティーヌは決心すると、べろべろに酔っぱらっているマスターと共に店を後にし、ホテルに入ったのだった。

63マスターも走る、12月 3:2005/11/28(月) 16:09:54 ID:6Q8i/Pvz
 「・・・こんなことしちゃったんだもの、それなりの責任ってものを取ってもらわなくっちゃ・・・うふふ」
 クリスティーヌはマスターとの行為に満足し、うっとりと目を閉じるとそのまま眠りに落ちた。
 さて、目覚めたエリックはパニック状態だった。
 裸だし。クリスティーヌが横にいるし。そのクリスティーヌも裸だし。どうもホテルの一室だし。
 エリックが動いたので掛けてあった寝具がずれてクリスティーヌが目覚めた。
 「・・・あ・・・。おはようございます・・・マスター・・・」
 ぽっ。と顔を赤らめる我が教え子を見て、昨夜の記憶と感触が生々しく蘇ってきた。
 そして、あれだけ酔っぱらっていたのによく出来たものだ。と思った。
 「おはよう、クリスティーヌ。・・・その・・・昨夜はすまなかった」
 「謝るなんて、マスター・・・。でもそう思うのでしたら、私のお願いを聞いて下さる?」
 「出来ることなら、何でも」
 クリスティーヌが裸体をそっと押しつけてきたので、エリックは呻くように返事をすることになった。
 「本当、マスター?ああ、うれしいわ。
 あのね、忘年会にはもう出ないで頂きたいの。だって、すごく格好悪いんですもの。いつものマスターがいいわ。
 それから・・・マスターは紳士でしょう?こんなことの後じゃ私はまともな娘とはいえないわ・・・。
 私の言いたいことはわかるでしょう?」
 「・・・あ、ああ。日を改めて、きちんとした服装で、花束をもってクリスティーヌのもとを訪ねよう。それに忘年会にはもう出ない」
  冷静に。冷静に。それにしても今日は朝から嬉しい事ばかりだな・・・ふふ。
 「ああ、マスター。ええ、マスター。約束よ?
 でもね、その前に私・・・主役を演りたいのよ。それまで待っててくださるかしら」
 「もちろん、待とう。そう遠くないだろうが・・・」
  いかん、いかん、顔がにやけてしまう。主役なんて、私がどうにかできるしな。
 「なんて素敵なんでしょう!マスター、コーヒーを淹れてくださる?なんて良い朝なのかしら!」
 「・・・え・・・?あ、ああ・・・」
 コーヒーを用意しながら、欲しいものを手に入れた筈なのに、なんだか腑に落ちない思いのエリックであった。
64マスターも走る、12月 4:2005/11/28(月) 16:15:09 ID:6Q8i/Pvz
 後日、偶然マダム・ジリーに出会ったエリックは再びナイフのような言葉をかけられた。
 「陰気な男は嫌われるっていったけど、バカな男は論外よ?」
 「・・・なっ・・・!まあ、しかし、私は忘年会にはもう出ないから関係ないことだ。未来の妻と約束したからな」
 エリックは長い独身生活ともおさらばだ!とばかりににっこりと微笑んでみせた。 
 「あら、そのことじゃないわ。結婚する前に主役を頂戴とかなんとか言われて、小娘に騙されてるかと思ったものだから」
 「・・・え、あ、何故マダムがそのことを!?」
 「あらやだ!正解?・・・私も昔その手を使ったのよねえ。プリマになりたくって。
  もちろん、結婚まではしなかったわよ。人生の墓場っていうでしょう?・・・うふふふ」
 エリックはがっくりとその場に膝を付いた。彼は大きななりをしてさめざめと涙を流している。
 「やあねえ、このくらいのことで。私がいるじゃないの。はいはい、よしよし・・・じゃあ一緒にお部屋に行きましょうね」
 マダム・ジリーはエリックを抱き寄せて、子供をあやすように背中をぽむぽむと軽く叩いてやった。
  ・・・先日はクリスティーヌに抜けがけされたけど、大人の女の力量をみせてやるわ・・・っ!
 そんなことを彼女が考えてるとは露知らず、エリックは泣きやむと、鼻をまだぐすぐすならしていたけれど、
 黙ってマダム・ジリーに連れられていった。
 
 女に翻弄されて忙しいエリックの12月であった。
 そしてこれは本編「仮面舞踏会」へとつづくのである。

                    <おしまい>
65名無しさん@ピンキー:2005/11/28(月) 17:22:33 ID:rLLSySMr
天使様ハゲワロスwww
余りの笑いに涙出てマスカラ禿げました。

クリスに手玉に取られまくりなマスター最高です。
そりゃマスターも指輪引き千切るよなー(笑)
66名無しさん@ピンキー:2005/11/28(月) 17:26:24 ID:Hchapzte
ハゲロワロスwwwww
なんてクリスが悪女なんだ!
男の純情弄ばれてるマスター哀れwww

あとさりげなく名前を書き足して花丸付けてるラウルに
禿萌え。
67名無しさん@ピンキー:2005/11/28(月) 17:31:50 ID:5hpyijCv
エンジェル、GJ!!

なるほど、それであんなに目の回り真っ黒になってたのかマスター。
若干ウラヤマスクもあるぞぉ
・・・これで「マスカレード」でも笑いが来るのか・・・なんて嬉しい事だ!
68名無しさん@ピンキー:2005/11/28(月) 18:34:16 ID:o2Pw766G
>>61-64
冒頭の白木屋で噴いたwww
マスターの独白がいちいちツボです、禿しくGJ!
マスカレードであんなにキレていた理由がこんな所にも…
69名無しさん@ピンキー:2005/11/28(月) 18:48:15 ID:o2Pw766G
ID:6Q8i/Pvz様、豚切り大変失礼します。
自分はエリック×ルチアーナを書いたものです。
反応下さった方々、心から感謝しています。
…しかし実は、投下する際に肝心の部分が抜け落ちていました_| ̄|○
恥を忍んで、追加させていただきます

>>51、ルチアーナが意識を失ってから目覚めるまでの間に以下の11行が入ります
-----
ルチアーナが意識を失ったのを確認して、エリックは力なく立ち上がった。
少女の白い首には、男の指の跡が赤く残されていた。
エリックはルチアーナの裸体を見下ろし、愛液に濡れた右手で行き場を失った己の欲情をしごき出した。
石造りの壁に、荒い息遣いのみがこだまする。
どうして取り返しのつかない事態に至る前に出て行かなかったのか?
激しい後悔の念に追い立てられるように、後始末を済ませる。
自分は人間と相容れない存在なのだと分かっていた筈なのに。
この世界にもしや自分の居る余地が残されているかも知れない、という甘美な期待に溺れてしまった…
しかし、夢はもはや醒めた。
もう二度と、同じ過ちは繰り返さない。
エリックは仮面を手に取り、自分を戒めるように刃を沈めていった。
-----
以上です。お目汚し、大変失礼致しました。。。○| ̄|_○| ̄|_○| ̄|_
それではエリックに華麗にパンジャブられてきます…(・ω;;;:.::..:.
70名無しさん@ピンキー:2005/11/28(月) 19:30:28 ID:i3eQ/f7d
>61
GJ!まずタイトルから大笑いしたよ。
あんまりにも堂々と現代的なので、リアルにその光景が想像出来て
良かった!ラブホでエチーするふたりっていうのもイイ( ゚∀゚ )
安楽亭の次は白木屋の呪いが・・・
>69
おおうこんな切ないエロシーンが入ってたんですね
71名無しさん@ピンキー:2005/11/29(火) 00:12:09 ID:OE/4dQAb
>64
GJ!
いやもう、マスターが可愛くて可愛くて!
あんなに可愛いマスターならクリスもマダムも手に入れたいかもだ。
72名無しさん@ピンキー:2005/11/29(火) 09:23:31 ID:XauN95Q5
「マスターも走る、12月」を書いたものです。
読んでくれた方、レスくれた方、ありがとうございます。
ギャグは初めてだったんだけど、楽しんでいただけたら嬉しいです。

ファントムがファントムの格好で居酒屋にいたら良い感じだよなー、と思って書きました。
飲み屋ののれんをくぐるファントム、ちびちびと日本酒や焼酎をやっているファントム、
隣の席に来た客に絡まれるファントム…と、妄想が広がりますw

>70
タイトルは、何かの歌で「先生も走る12月」というのがあったので、そこからw
73名無しさん@ピンキー:2005/11/29(火) 16:06:55 ID:UhwZCrgV
うばるど×かーら
エロほとんど無し
…ピアンジのあのメイクがエロにゆくのを邪魔するYO!
74名無しさん@ピンキー:2005/11/29(火) 16:07:31 ID:UhwZCrgV
「ねえ、カーラ機嫌を直して」
ウバルドは大げさに嘆息してみせた。
胸元に差し入れようとして振り払われた手を、
芝居がかった仕草で撫でながら。
「いやよ!衣装は黒っぽいし…私はピンクが好きなの!
大体何で私があんな役なのよ!この私が!ラ・カルロッタが!」
「しょうがないよ、あいつを罠にかけるためだ。
あいつの言うとおりにしないと…」
「そう言うあなたも、今日の稽古では随分嬉しそうに触っていたじゃないの!
あの…あの小娘、クリスティーヌ・ダーエを!」

歯を剥き出しにして唸るところが猫を思わせて、
知らずに頬が緩みそうになるが、かろうじて堪えた。
かわりにカルロッタの目を見詰めながら、ゆっくりと口を開く。
「私が小娘なんかに興味がないことは、君が一番よく知っているだろうに」
「あんなチビ…!」
「あんなチビで骨ばっかりで、ぼーっとした子供には。ファントムとやらの気が知れない」
「あのパトロン殿の気もね」
ふんと横を向いて、それでも怒りの矛先は変わったようで、
その目からは幾分険しさが薄れた。
「いいじゃないか。この公演が終われば、もうあいつにビクビクすることもなくなる」
持ち前の低い声を存分に生かして甘く囁く。耳元に唇をつけ、部屋着の襟に手をかける。
そのまま胸元を大きく寛げたが、動き回る手はもう振り払われなかった。

カルロッタの耳朶を軽く噛む。
「ラ・カルロッタはプリマドンナに返り咲く。6期でも7期でも8期でも。
パトロン殿が小娘に執心なら幸い、さっさとくっつけてここから出て行ってもらえばいいさ」
柔らかい顎を指先で擽るように撫で上げると、
眉根は寄せたまま、カルロッタは目を閉じた。
「あの子にもファンがいるわ。…私ほどじゃないけど。」
「歌わない歌手などすぐに忘れ去られる…歌わせなければいいんだよ。
君はそうできるだろう、プリマドンナ?」
「そう…そうね。歌わない役はいくらでもあるものね…」
漸くカルロッタの表情が緩むのを見届けて、
ウバルドはカルロッタの夜着の襟を捲り上げる。
掌をそっと腿の内側に這わすと、濡れた吐息をこぼす唇が
ようやく満足げな笑みを浮かべた。

女王様は気難しいが、単純で可愛らしいんだ。
もっと勉強したまえよ。

心の中で支配人達に呟くと、ウバルドはカルロッタの腰に回した手に力を入れた。
75名無しさん@ピンキー:2005/11/29(火) 16:54:56 ID:HM5VR0m6
>>73
小太りダンディ、ウバルド様が、度量の広い大人の味を出していてGJ!
このウバルドに比べると、ラウルもファントムも青臭い若造に見えてくるw
76名無しさん@ピンキー:2005/11/29(火) 17:02:40 ID:SEkJVVxx
いや実際青臭い若zあwせdrftgyふじこlp;

77名無しさん@ピンキー:2005/11/29(火) 18:25:08 ID:HfUHzXAJ
この2人の恋愛も、悲劇の結末だったよね・(ノД`)・゜・
映画の中のように、どれほどウバルドがカルロッタを愛していたのか
よくあらわれてたよ、GJ!
78名無しさん@ピンキー:2005/11/29(火) 19:55:48 ID:lNqeblfO
すげぇ!エロパロ板史上初じゃね?
ピアンジ×ロッタ
びっくりしたよ、GJだ!
79名無しさん@ピンキー:2005/11/29(火) 20:12:31 ID:0XpqbmJn
>>74
おお、GJ!
これを読んだ直後ならあのドンファン扮装のピアンジにも萌えられそうだ
ロッタかわいいよロッタ(;´Д`)ハァハァ

すまん、カルロッタが「カーラ」と呼ばれる場面ありましたっけ?
知ってる方、どうか教えてくれまいか…
80名無しさん@ピンキー:2005/11/29(火) 20:19:29 ID:DMEmupBG
天使様GJ!
ロッタ好きにはたまらん!
そして個人的にピアンジ好きだから萌えまくりだ。

ロッタ好きだけど数少なすぎでさみしい…
81名無しさん@ピンキー:2005/11/29(火) 21:52:07 ID:OE/4dQAb
>74
GJ!
確かにエロパロスレ初だ!
いや、正直、>73を見た時「え〜!?」と思ったが、
ちゃんとピアンジがカッコイイ。
82名無しさん@ピンキー:2005/11/29(火) 22:39:13 ID:uRs+TeUH
>>79
舞台では、最初の背景幕落下のシーンでピアンジが
「カーラ、大丈夫かい?」と言ってるよ。
83名無しさん@ピンキー:2005/11/29(火) 23:00:25 ID:0XpqbmJn
>>82
そうなのか、ありがとう!
今度映画でも言ってるか確認してみます
84コミケ:2005/11/30(水) 22:04:42 ID:XX5lmOkg
むかーしむかし1幕でコミケネタ書いていた者です。
冬も近いので投下させて頂きます。
オールギャグで会話中心、久々に書いたので内容グダグダですがお暇でしたらどぞ。

85コミケ1:2005/11/30(水) 22:05:17 ID:XX5lmOkg
マダムには、疑問に思うことがあった。
それはこのオペラ座のことだ。
毎年夏と冬、そして春頃にオペラ座は妙に殺気立つ。
美術の人間はカンバスではなく、何やら薄青い線が書かれた紙にデッサンらしきものを必死にしている。
小道具担当も巨大なベットを眺めてそのミニチュアのような物を作っている。
殆どの従業員が目の下に隈を作り、しかし嬉しそうにしている。
彼女にはそれが疑問で仕方がなかった。
そんなマダムの疑問をよそに、オペラ座のいつもの3人はダンボールの山の下、話し合いをしていた。

「完成だな」
「完成ですね」
「やー今回も素晴らしい」
「あぁ、今回も自信作だ。今回の新刊はメグ×クリス『オペレッタ・百合御殿』」
「どっかで聞いたタイトルですね」
「冬に相応しいタイトルだな」
「全くだ。特にオペレッタの部分」
「ちょ、おまwwどこら辺が冬ww」
「カタログも発売されたことだし、スペースのチェックでもするか…」

パリ、オペラ座のいつもの3人は、冬コミの準備に余念が無い。
今回も早期入稿、地方の方の為に『豹の穴』や『ブドウブックス』へ委託の準備もしてあるし、
本は一律500円の形は今回も変わらない。
86コミケ2:2005/11/30(水) 22:05:48 ID:XX5lmOkg
「やはり蛍ピはお金を惜しますに入れるべきだな」
「手触りの良いマットカバー仕様、素晴らしい」
「今回のオマケはマグネットなんですね。冷蔵庫にメモも貼れて便利ですね」
「子爵、貴方の職業が未だに気になるのですが」
「まぁ見てくれ!先着順でフィギュア付き。フィギュアサークル大手兼うちの小道具担当に作らせたのがコレだ」
「うお・・・っ」

二人の歓声があがる。
そこに登場したのはダブルベットに横たわる、ラウルでさえ(ryなクリスの姿だった。

「ウホッ・・・いいフィギュア」
「す、凄いですね・・・こ、こんな細部まで!?うっ・・・」
「今回はプレミアがつくだろうな。先着100名分しかない。しかし我々の分は確保されている」
「素晴らしいな、アンドレ」
「ど、どどどどこに飾ろう」
「シャニュイ子爵、落ち着いて」
「飾ってクリスにでも見られたらそうするんです?」
「そ、そうですよね」
「そういえばファントムの奴、今回は参加するのか?」
「前回逮捕されちゃいましたしね。流石に今回は・・・」
「あ、あった。ファントムのサークル」
「「な、なんだってー!!」」
「ほら、ここを」

そこにあったのはドン★ファン。ファントムのサークルだ。
傾向の部分に断面図・鬼畜の文字。これももう見慣れてしまったが、イライラする。

「またしつこく断面図か」
「彼も相当マニアックですからね」
「マニアックどころの問題じゃないですよ。猟奇的です!」
「逮捕してもらわにゃ!!」
「無理してナッチ節は使わなくてもいいよフィルマン。DVDでは改善されたのだから」
「しかし、ファントム先生のクリス断面図が見れるのは『ドン★ファン』だけ!」
87コミケ3:2005/11/30(水) 22:06:23 ID:XX5lmOkg
3人が騒いでいるうちに、夜は更けていく。
その夜、漆黒の闇に紛れて仮面の男は不気味に微笑んでいた。

「やっぱり冬も断面図!明日のコミケが楽しみだ・・・」

その日の朝は快晴であった。オペラ座にかかる垂れ幕にはこう書いてある。
『コミック・マーケット6in花の都』

「倫敦どんより晴れたらpくぁすぇdrfgyふじこ」
「やめろ!東映に殺されるぞ!今その歌は禁止だ!」
「そんなにナージャは黒歴史なのですか?」
「バッ・・・バカッ!!」


相変わらずな3人だが、やはりこの瞬間には顔が引き締まる。
使命を遣り遂げた男達の物語が、コミケにはあるのだ。
スワロフスキー製のシャンデリアが輝き、そして次の瞬間・・・怒号、そう形容した方が正しいであろう声が
オペラ座に響いた。

「ぷにもえーーーー!!!」
「それはぷにけっとだ!!」
「ゆーこりーん!!」

各々の心情が入り混じり、オペラ座は幕を開けた。

大手に位置する『オペラ座』は、てんやわんやであった。
最後尾カードはどこまでも伸び、もう見えなくなっている。
支配人2人はスマイル0円でファン達に応えて、それでいて本もきっちり捌く。
ラウルはこの点、まだ素人同然なので、本の整理や袋詰めを手伝っていた。
しかし、自分達の作った本に、これほどの人が集まってくれることに、喜びを見出している。
ただ心に残るのは、この同人誌が『百合』であることだ。
彼は純粋にクリスを愛している。出来ることなら自分とクリスの本が作りたい。

「だがしかし、そんなことをしたらあの忌々しいOGと同じ自慰野郎になってしまうではないか」

そう、ファントムは自分の同人誌で、自分×クリスをやっている。
普通は引かれるものだが、彼の天才的な物語と、絵、そして彼の魅力に多くのファンがいるのは事実だ。
そして今回、サークル参加しているファントムことエリックのサークルには、人が集まっているではないか。

「逮捕されても帰ってくるって信じていました!」
「やっぱり『ドン★ファン』最高です!」

今回の『ドン★ファン』新刊は、オフセット36ページの表紙フルカラー。
タイトルは『これが私のマスター』コレでもかというほどの鬼畜な、それでいて何処か中毒性のある絵で描ききっている。
そして購入特典は手拭いだ。可愛くディフォルメされたクリスと、見事な書体で『オペラ湯』と書かれている。
ネタにも凝る、それがドン★ファンクオリティだ。
88コミケ4:2005/11/30(水) 22:08:16 ID:XX5lmOkg
「アンドレ、奴だ」
「あぁ、相変わらずのようだな」
「我々の本ももうすぐ完売だ。まさか挨拶に行くと?」
「そうせにゃ!」

今回は妙に気が合う2人だった。

「やぁ、ファントム」
「ごきげんよう、支配人方。ところでまだ私の給料が振り込まれていないのだが」
「同人誌で儲けてるからいらないだろ」
「まだ資金が必要だ。私とクリスの愛を、世界に見せ付ける為の資金がな」
「そうはさせないぞ!!」

支配人とエリックの間に散る火花に飛んで入ったのはラウルだった。
いつ着替えてきたのか胸の肌蹴たドレスシャツに、長剣を持って既に息切れしている。

「子爵、コスプレに長物は駄目なんですよ」
「コスプレじゃありません!私はこいつが許せない!可憐なクリスを毎回酷い目に合わせて!」
「君には、愛の形というものが分からないのだよ」
「分かりたくもない!そんな愛!」
「ふっ・・・若造が」

このセリフを言ったのはアンドレである。

「ミスター・アンドレ?」
「すまない、つい乗ってしまった」
「と、とにかくだ、決闘を申し込むぞ!!」

ラウルが何処から出したか手袋を投げつける。と、その時。

「すみません、コミケット運営委員会の者ですが・・・あのーコスプレにはですね、登録が必要なんですよ」
「・・・は?」
「それとですね、お客様。剣等の持込は禁止されていまして、そちらは運営が預からせて頂きます」
「子爵、だから言ったじゃないですか!コスプレはルールを守らないと!」
「一人のレイヤーがやったら、皆がやっていいのですか?子爵!」
「ちょwwwwwどっちの味方ww」
「とりあえずこちらにご同行願いますね」
89コミケ5:2005/11/30(水) 22:10:41 ID:XX5lmOkg
シャニュイ子爵の哀れな叫び声を残して、そこには支配人2人、そしてエリックが残った。

「あ、あのこれ今回の新刊なんで、よろしければ・・・」
「毎回すみません!これ、よろしければどうぞ、拙いものですが」
「わー!素敵な手拭いですね!使うのが勿体無い」
「そちらこそこのフィギュア!限定品なのにいいんですか?」
「いいんですよ!クリスを愛好するもの同士じゃないですか!」

仲が良いのか悪いのか、今回の冬コミも無事に終わった。
3人と、そしてオペラ座に集まる人々の瞳には、シャンデリアより眩い星が光っていた。
そう、オタクの未来は明るいと、そう暗示させるかのように。

the end
90コミケ:2005/11/30(水) 22:12:19 ID:XX5lmOkg
どうもお粗末様でした。このスレ4幕目なんてやっぱこの映画は愛されてるんだなぁと
心の底から思いつつ。また何かネタ出来たら投下しにきます。
読んでくれた天使様、ありがとう。ネタがアレすぎてすまんかった。
91名無しさん@ピンキー:2005/11/30(水) 22:31:22 ID:8LxDwp56
>84
久しぶりのコミケ、楽しかったです! GJ!
この数カ月、いろんなサイトを経巡ったおかげで、コミケ用語もばっちり
理解できるようになりましたw
またの投下を期待しています!
92名無しさん@ピンキー:2005/11/30(水) 22:35:23 ID:c3cJbQcP
今回も笑わせていただきました。GJ!

何だか冬コミ行ってみたくなりました(笑)
93名無しさん@ピンキー:2005/11/30(水) 22:49:19 ID:OteZdKqD
♪ロンドンどんより晴れたらパリ♪でコミケGJ!
なんて生々しいオペラ座コミケ直前の裏事情…
自分もなんだか久しぶりに行きたくなってきたよ
94名無しさん@ピンキー:2005/12/01(木) 00:48:12 ID:BTgPMbsp
>90
GJ! 相変わらず面白すぎる……!
いや、久しぶりに腹抱えて笑った。
支配人sとエリックの会話がいかにも過ぎてすごくイイ。
95名無しさん@ピンキー:2005/12/01(木) 00:52:39 ID:89jeBXyP
コミケGJ ! 今回初めて見ましたがおもしろい・・・
96名無しさん@ピンキー:2005/12/01(木) 09:19:10 ID:lp0/pYLY
>90
オペレッタ・百合御殿wwwヨミタスww
夏はアレですよ、ドン★ファンがフルスケールクリスフィギュ(ry
97名無しさん@ピンキー:2005/12/02(金) 00:36:56 ID:WfyT/6Br
コミケです。
久々だったのに皆暖かい言葉をありがとう。超ウレシスwwwwっうぇww
ていうかフルスケールフィギュアネタwww萌えたww今度それにするよ。

98名無しさん@ピンキー:2005/12/02(金) 15:53:01 ID:8z1k6za7
前スレの賑わいが懐かしくなってきたぞ
99名無しさん@ピンキー:2005/12/02(金) 17:27:29 ID:adycEY0E
いや、これはきっとアレだよ…嵐の前の静けさだ!ハアハア(;´д`)
100名無しさん@ピンキー:2005/12/02(金) 17:37:15 ID:rrcbPdUP
投下したいのはやまやまですが


OSふっとんで書きかけてたのか消えた…orz
101名無しさん@ピンキー:2005/12/02(金) 17:57:07 ID:h9yAe3Q3
ええええええっなんて勿体ない!
ふっとんだのが窓だけ、とかなら、DOSコマンドで
フロッピーかなんかに待避できませんかー?
あとはやっすいHDをマスターにしてOS突っ込み直して
今のHDのデータだけ救うとか。
102100:2005/12/02(金) 18:38:55 ID:rrcbPdUP
ノートなんで…

なんとか手は尽くしてみます(つД`)
103名無しさん@ピンキー:2005/12/02(金) 23:31:41 ID:45IIJg8N
流れに逆行してますが、お邪魔します。
前幕645の続き・・・というか、実はこちらが先に出来ていまして・・・
前回、レスくれた方ありがとうございます

【注】 えらく長い割には萌えません。11レスもあります、申し訳ない・・

*出てくるのは、ラウルとメグ二人のみ 後は名前だけ
*エロ濃度、薄し。 ひと刷け程度・・・メロって感じ
 ラウルは、ここまでの流れで、(映画のラストを逆に・ファントムとラウルの立場逆転)
既にオリジナルになり果てたので、この設定が苦手な方は、どうぞスルーでお願いします
今回はまたちょいと変わってます、気位は高いけど少しヘタレてしまった
イメージ落ちて不快になる方いたら…スマソ orz   自分は、メグ好きなんで・・(ボソッ
 それでは献上開始します
104ラウル・ソロ(×メグ)・1:2005/12/02(金) 23:33:00 ID:45IIJg8N

 オペラ座が、恐ろしい「事故」によって焼け落ちてから、1週間程が過ぎた。
メグ・ジリーは手に数通の封筒などを持って、足早に歩いていた。
行き先は、オペラ座より歩いて数分、ごく普通の民家。
そこを一時的に借りているのは、例の事件で愛しい婚約者を見送った、名家の子爵殿だ。 

 彼は何故、自分の屋敷に戻らないのだろう?
理由はいくつかあった。 
事故現場から、離れたくなかった。 正確に言えば、あの地底湖から。
 ……もしかしたら、クリスティーヌがそっと戻って来てくれるのではないか……。
思い切り良い格好をして、彼女を送り出したのに、実のところは未練たらたらなのである。

 その反面、あの事件は夢ではなかった、自分は独りなのだと、はっきり認めたい気持ちもあった。
屋敷に帰れば、普段の生活が待っている。 
もう帰ることはないかもしれないとまで思い詰めていたのに。
親族との付き合いなど真っ平、しばらくは自分の行動を非難する身内から逃れたい。
かといって、変に同情されるのも不愉快だった。

 お坊ちゃまの考える事は、やはり不可解なことが多い。
その辺りのことは、あまり詮索しない方がいいかもしれない。
おそらく、本人が一番分かっていないのだろうから。

ただ、道を蹴り付けるように歩いているメグは、明らかにひどく憤慨していた。
ラウルの仮住まいまで、荷物を届けるようにと母から頼まれたことが、随分と気に入らないらしい。
当然のことだが、彼女らもまた、慣れない生活を強いられていたのだ。

 ……一体何だって、自分が感傷に浸る為にわざわざ家まで借りなくちゃならないのかしら、
私たちは職場も住む所も一度に失って、嫌になる位、どたばたしてるってのに!
だいたい、あんまり近寄りたくないタイプだわ、気障というか気取っているというか、
 妙に澄ました話し方に、いつも作ったような笑顔で。

新パトロンと紹介された時だって、クリスティーヌには、一応「ハンサムね」って言っといたけど、
 内心は、なんか好かない感じだと思ってたのよ。
おまけに、すぐ自分の世界を作っては、どっぷり浸ってるんだから。
でも、彼女を見る時の、とろけるような眼差しだけは、本物だったから、許せたのよ。
母さんの使いじゃなかったら、こんなこと絶対、絶対しやしないわ!……

 メグは心の中で、マシンガンのように不平を鳴らしていた。
憤懣が一杯で、家の中に入る合図さえ、つい忘れてしまったのだ。
105ラウル・ソロ(×メグ)・2:2005/12/02(金) 23:34:09 ID:45IIJg8N

「ひっ!──── 」
ベッドから両腕を落とし、横向きにぐったりしているラウルの姿が目に飛び込んだ。
(死、死んで…ないわよね?…… はぁ、またびっくりしちゃった、ああ、嫌だわ、やっぱり苦手、この人!)

 うぅ…、と小さく呻いて横たわった「不審人物」は、薄く目を開き、こう言った。
「……君、誰だ…、何か、用事でも?」
 (むっかーーー。 呑気なもんだわー。 第一、鍵も掛けずに昼間から寝てないでよ)

 更にご立腹のメグ、でも可愛い彼女に怒り顔は似合わない。
「…失礼しましたムッシュウ、母の使いで参りました…、あの、お加減はいかがですか?」<作り笑い
「ん?ああ…、マダム・ジリーのお嬢さんか…。 もう熱もないよ、朝から飲み過ぎただけで…」
 ずぶ濡れのまま長時間地底にいたために、軽い気管支炎になっていたが、
  その後の丁寧な処置により、今では咳もほとんど治まった。
 さすがは真冬に薄手のシャツ一枚で仮眠できる男だ。 結構鍛えているらしい。

「ただ、……ベッドがちょっと窮屈で、どうも寝た気がしない」
 軽く頭を振りながら、いかにも気怠い様子で、ラウルが起きあがる。

(それが普通の大きさなのよ、貴方の感覚だけで物を言わないで欲しいもんね。
どうせ普段は、だだっ広いお部屋で、何人も寝られそうな大きなベッドにお休みになるんでしょ?
なんなのよ、そのえらく艶の良いシーツは! ブラウスにでも、仕立てた方がいい位じゃないの…)

 彼の物憂げな顔が、余計にメグを苛々させるが、とにかく、母の言い付けだけは守らなければ。
「…いろいろと、皆にお心遣い頂き、ありがとうございました」
 (母さんから『団員への見舞金の礼を伝えて』、って言われたから言っただけよ!)

「当然のことをしたまで……みんな、大変なんだろうね、怪我をした人たちは尚更」
 顔を両手で擦って、目を上げたラウルだったが、メグの微妙な表情の意味は分からない。
「はい、でも…、少しずつ落ち着いてくると思いますわ」
 そうか、良かった…と、彼のまだ半分寝ぼけた顔が、少し明るくなった。

言葉からは、本当に安堵している感じが伝わって来て、メグの苛々も、少しだけ和らいだ。
 ただ、あくまでも少しだけ。
それにしても、嫌味なくらいに白いシャツが、妙に憎らしい。
(…言葉一つで、何でもお付きの人がやってくれて、全てが整えられて
  服も食事も、何不自由なくこんなとこで、のんびりしていられるなんて、もう!)

 古びた質素な民家には不似合いな、丁寧な細工のされた椅子を勧められ、渋々メグは座った。
106ラウル・ソロ(×メグ)・3:2005/12/02(金) 23:36:30 ID:45IIJg8N

気の利いた身の回り品や銀の食器、何本も空いた高級ワイン。
名のある店から届けられたパンや食事、上等なショコラに焼き菓子。
グラスや小皿の手触りの良さも、ラウルの普段の暮らしを窺わせた。
しかし今の彼は、身形こそ小綺麗なものだが、その眼には、光が無い。
酒ばかり飲んで、食事をまともにしていないから、頬も少し削げたようだ。

それでも、メグから受け取った封筒と包みを、机の上で一つずつ丁寧にあらためる。
封筒の中身は… 事務連絡のようなものか、警察や消防署、支配人からのものもあるかもしれない。

(でも、あの妙に小さな包みは… 何だろう、母さんはあれを見て、顔を青くしていたわ。
すぐ包み直して、またその上からも紙を被せていたっけ……
その後に、「メグ、これはあなたが届けなさい、決して他人に預けないように」なんて怖い顔をしたけれど?)

薄紙で何重にも包まれているので、いちいち剥がすのが面倒になったラウルは、
 爪を立てて、それを半分に裂いた。
──── と、何かが金属音を立て、机の上に落ちた。
彼の手が、ぴたりと止まり、目を大きく見開いたまま、身動き一つしない。
 それは、彼がクリスティーヌに贈った、あの婚約指輪だった。

 メグもまた、冷や汗が出てくるのを感じた。 
何度も見た事はないが、見間違えていないのは、彼の様子ではっきりと分かる。
(ああ・・・!! 母さん、なんてこと! あんなもの、どうして今、この人に渡すの?
 それも、どうして私に運ばせたのよ、恨まれるのは私じゃないの!)

 半ば放心の態で、指輪を掌に置き、眉を曇らすラウルの姿は、悲痛なものだった。
置き去りにされた、小さな指輪。 まるで、自分自身だ。
 ……これは、訣別ということか。
僕との、そして、今までの記憶、全てとの。
いや、……記憶どころじゃない。
僕は彼女のことを、何も知らなかったんだ… 自分には、何かが欠けているのか?

 自問自答をしていると、いかにも心配そうなメグの視線に気付いた。
あまりに無防備なところを、見られてしまった。
何か、喋らないと・・・気恥ずかしさを紛らすように、わざと明るい声で話し掛ける。
「あの、君は…、クリスティーヌが寄宿舎に来た頃からの知り合いなんだよね」
「はい…」
「彼女は、どんな様子だったのかな、何か覚えてる?」
「…、少し顔が蒼い位、色白で、痩せて小柄な子でした…」
気が進まない会話だった。 
107ラウル・ソロ(×メグ)・4:2005/12/02(金) 23:37:39 ID:45IIJg8N

 罪のない表情で、こくんと頷きながら聞くラウルは、どこか頼りなげで、昔の彼女にそっくりだ。
「バレエのお稽古がちょっと苦手だったらしくて、たまに泣いてました…
 でも、彼女とっても努力家でした、ずる休みなんてした事は無かったはず」
「……そうなんだ」
「そんな所が偉いな、と思ってました…、あと、いつのまにか背が伸びて、私を追い越して。
 あの時は、ちょっと驚きましたけど、私も好き嫌い減らすって、彼女と話しました」

 ラウルの表情が和らぐ。 いかにも、もっと聞きたそうだ。
「それから…、そう、彼女は一人で考え事をして、ぼんやりしてることが、よくありました。
 不思議な夢の話とか、私にもちょっと分からない所が多い子でした…。
 ただ,歌や音楽への気持ちは、とても真似出来ないくらい真面目で、私はそこが好きで」
「それほど大切なものだったんだね、…彼女には」

「お父様との繋がりを感じられるから…、と言ってました。
 そういえば…、昔は声が充分出せる程、体が丈夫では無かったんです… 
 でも、いつ頃からかしら、 どんどん声量が増したので、その事を聞いたら
 名前も知らない先生から、歌の稽古を受け……」  メグは、そこで言葉を呑んだ。
────  しまった!! ああ、私ったら、何でこんな話を────

「…君にも、そんな話をしていたんだ……誰でも、知っている事なのか」
子供が何かをねだるように、じっと覗き込んでいた彼の顔が、俄に硬直した。
……秘密でも何でも無い事だった。 組んでいた両手を、どうして良いかと、持て余している。

───音楽か。 芸術か。 なるほど、確かにそれは僕にとって、ただ知識の一つでしかない。
自分の中で、そんなものを育てる事など、考えた事も無い。
程々に武術を修め、士官として立身し、家名を継ぐ……、全てが「守り」の為の生き方だった。
新しいものを創り出すなんて、あまりに抽象的で、理解できない。
根本的に、違う人間なんだ。

 でも、違っていたら、寄り添う事は不可能なのか? ……分からない!……  
酒のせいで少し過敏になっている彼は、足元が揺れそうな感覚に混乱した。   
 嗄れた声で、メグに言う。
「戻っていいよ…、 頼む、帰ってくれ、悪かった…」

返事も出来ず、立ち竦むメグを部屋から出そうと、ラウルは彼女の肩を押した。
掴んだ両手が、段々と震えてきた。 それを止めようと、ぐっと力を入れる。
「い、痛いです、ムッシュウ、あの、腕……」
「ああ、…ごめんよ、これじゃ動けないはずだ、…すまない」
メグの肩から、さっと手を離すと、その目に涙がうっすら滲んでいるのが見えた。 
108ラウル・ソロ(×メグ)・5:2005/12/02(金) 23:38:55 ID:45IIJg8N

 彼は、徐々に頭痛が増してくるのを感じた。
恋人に去られて落ち込んでいる男ではなく、自分自身を追い詰めて、
 何かを見失いかけた、哀しい存在だった。

 ラウルはメグから離れ、テーブルの上にある酒をグラスに荒っぽく注いだ。
立ったまま、急いでそれを呷ったので、シャツに点々と零れた。
酒に咽せたのか、彼は何度も咳き込みながら、襟元を少し開ける。 ……なんて醜態だ。
「…疲れた、もう、休むよ、…マダムによろしく伝えておくれ」

 ラウルがメグを振り返ると、彼女はゆっくりと近付いて来た。
彼に腕を伸べ、シャツの前立てを、器用に開いていく。
貴腐ワインの染みは、まるでトパーズを何粒も散らしたような、甘い色合いだった。

 ……なんだ? と顔を顰めるラウルに構わず、
「着替えた方が、いいと思いますわ、……」 全てのボタンを外した。
メグは、来る途中で、彼に毒突いていた自分を、少し申し訳なく思った。
 ……いくら母さんの使いだったからとはいえ、やっぱり可哀相過ぎるわ、
 セーヌに身投げでもされたら、こっちが困るじゃないの……

今ひとつ状況が理解出来ないラウルは、呆然と立ったまま。
そんな彼の胸にメグは自分の頬を寄せ、シャツの中に手を滑らせた。
「な、──── 」 驚いて言葉が出てこない彼を後ろに押して歩かせる。

え?と振り返ったラウルを、そのままメグは、ベッドに座らせ、その肩を抱いた。
彼にしてみれば、何故メグがこんな「暴挙」に出るのか分からなかった。
 その目は、メグと同じくらい丸くなっている。

間を置いて、顔を横に向け、「……何のつもりだ、一体」と、吐き捨てるように言った。
鼻先や顎の尖った顔立ちは、少し口を歪めただけで、神経質な雰囲気になる。
今まで、女から強引に迫られた事が無い訳ではない。 それにしたって、こんなのは初めてだ。
  今日は……、とてもそんな気分じゃない。

腕を伸ばし、爪先だけを床に付けているメグの足から、ぐいっと靴を脱がせた。
そのまま、足首から柔らかく、舐るようになぞり上げ、膝裏に指先を強く食い込ませる。
ぴくりと体を硬くしたメグの顔を、居丈高に覗き込んだ。
  (今なら、これ以上触れたりしない。 早く、家へお帰り。)
109ラウル・ソロ(×メグ)・6:2005/12/02(金) 23:43:37 ID:45IIJg8N

 強い視線は、メグの負けん気と好奇心を刺激しただけだった。
不安定な姿勢のまま、彼女はラウルを力任せに押し倒す。
面食らった彼の顎先にキスをして、挑むように目を合わせる。 メグは真顔だ。
さすがにこうまでされては、無理に追い返す事も出来ない。

ラウルは溜息をついて、開けたままの窓を閉めに立った。 振り向くと、もうメグはブラウスを開いている。
その姿に彼はぎょっとしたが、踊り子が人前で着替えをする事は、舞台裏では日常的なものなのだ。

───大した度胸…いや、人目ぐらい気にしてくれ、そんな趣味はないぞ、なんて娘だ…
話の種にでもするつもりか、それ程浅ましく見えると言いたいのか?───── 

腹立たしげに窓を閉めてベッドに戻り、放り投げるように靴を脱ぐ。
(何とでも思え、……勝手にしろ!)
メグのブラウスを荒っぽく取り、椅子の背に投げかける……と、手を滑らせ、ベッドから落ちそうになる。
慌てたラウルは、メグにしがみつく格好になった。  …ああ、一体どうして、こうも調子が狂うんだ?
「………」 少しの間、無言の二人。

メグの体は、柔らかく、温かい。 
ここしばらく、荒んだ時間を過ごしていたラウルは、つい腕に力を込めて抱き締めた。
顔を歪めたまま、自分に体を預ける彼の背中を、そっとメグは撫でた。
「あの、…すいません、私、嫌な話を…」 彼女も、本当はどうしたらいいのか分からない。

(…すいません、って…、今、そう言ったのか?)
目を上げると、複雑な表情をしたメグが、自分を見ている。
なんとも片付かない気持ちになった。 なるほど、要するに…同情されているわけだ。
メグの、もっと何か言いたげな瞳にも、ラウルは答えられずにいる。

その時、ばたばたと窓の外を、子供達がはしゃいで通り過ぎる声が聞こえた。
そういえば…今は、真昼だった。 
二人は、はっとして同時に同じ場所を見て、少し体を離した。
全く同じ行動をしたことに気付き、顔を見合わせる。

どちらからともなく、くすっと笑うと、僅かに緊張が緩んだ。 
ベッドの上で、着衣を乱して近くにいるのに、その間には大きく隔たりがある。

 ……ずっとこうしてるのも、いい加減おかしな感じだ。
思案に尽きたラウルはメグに触れ、貴婦人から褒美を貰うように、そっと唇を重ねた。
110ラウル・ソロ(×メグ)・7:2005/12/02(金) 23:45:09 ID:45IIJg8N

まだ少し躊躇いのある、そのキスと表情を受け止めるように、メグは彼に両腕を廻す。 
メグの肌は、熟れた果実のような甘い香りがした。
こんな香りに包まれては、プライドも後ろめたさも全て何処かに消えてしまう。

馴染みの無い分、探り合うように、互いの肌に触れ合う。
危険な相手ではない。 名前と顔を知っているだけ、共通の知人がいるだけ。
明るい部屋の中で抱き合う二人は、傍からは、昔から睦まじい恋人同士に見える。
確認していくほど距離は狭まる、気持ちまで近くなりそうに。

いたわるように、その肌を優しくなぞり合い、髪や頬を愛撫する。
ついさっきの、酒の味も匂いも残ったまま。
吐息を交換しながら、細かく穏やかなキスを繰り返すと、少しずつ体温が上がっていく。
 ラウルは下唇を、相手の耳や首筋に軽く引っ掛けるだけに留めていた。

その細面から想像していたより、肩も背中も厚みがあるのが、メグには以外だった。
それでも、自分に触れるその手も唇も、この上なく優しい。
綿花で擽られるような愛撫が、羽根で撫でるようなものになり、
 滑らかなシーツの肌触りと同じに、心地よく体中を包んだ。

でも、ああ…、もう少し、強く触れて、お願い…、ラウルの背中に置いた指先に力が入った。
一瞬、彼は動きを止め、メグの表情を確かめた。
僅かに姿勢を直すと、お互いの体を強く近付け、相手の首筋を軽く噛んだ。
微かに汗ばんできた肌が、吸い付くように合わさっていく。

メグの漏らす声が、少しずつ高くなってきた。
と、ふいに抱き起こされ、明るい光に目が眩む。
背中を支えるラウルが、眩しげに目を細めながら、自分の姿を見ていることに気付いた。
どんな育ちをしたら、これ程穏やかな表情で女を抱けるのだろう。

…綺麗だ、と小さく呟くと、長い髪を手で後ろに梳き、肩から腕を、大事そうに撫でた。
その豊かな重みのある胸に頬擦りしながら、唇でその感触を味わう。
メグは、自分が宝物のように扱われている感覚に、ただ陶然としていった。

「後は、任せるよ」 
あっさりとラウルがそう囁き、自分だけ身を横たえると、ふいにメグは錯覚から呼び戻された。
 (わざわざ言わなくてもいいじゃないの…、もう!)
少し顔を赤らめたメグが唇を窄めるのを見て、満足げに口角をきゅっと上げ、いかにも彼らしく笑う。
「どうぞ?」 からかうように、顔半分を自分の右手で覆った。
111ラウル・ソロ(×メグ)・8:2005/12/02(金) 23:46:13 ID:45IIJg8N

つんとした顔で、メグはラウルにしっかり跨った。
両目の上に手を伏せた彼は、指の隙間から、ちらと相手を盗み見た。
腰を少し上げたメグは、彼の片手を、熱を帯びてぽってりと膨らんだ、一番敏感な場所に誘う。
充分に潤んだそこは、軽く触れるだけで滴り、もう待ちきれない様子だ。

「…あん、……やぁっ……」 
メグは自分の手を重ね、強く押し当てながら体を捩ってしまう。
されるがままに、熱いぬめりを受け止め、指を滑らせるラウルの口元から笑みが消えた。
甘い喘ぎと濃い蜜に急かされ、どうにも自分が反応してくるのを抑えきれない。
…でも、いいんだろうか、本当に…? ここまで来ても、まだ彼は何かに拘泥している。

「…んぅっ、…」 メグは小さく呻き、彼自身を、ゆっくりと自分の中に沈めてゆく。  
僅かに動く彼の口元を眺めながら、自分まで、その動きを真似ていた。
(これだけで、なんだか凄く感じちゃ……、あぁ、…)
目を覆っているせいで、ラウルの顔は半分しか見えない。
薄く開いたり、真っ直ぐに結んだりを繰り返す口元は、何を伝えようとしているのか。

…全部、見せて…ずるいわ…
 あまりに濡れすぎて、少し動くと離れてしまいそうだ。 注意深く背を曲げ、顔を寄せる。
そうっと彼の手を除けると、固く閉じられた目が、薄く開いた。
急に哀しげな表情になった彼は、覚悟を決めたように相手の首筋を両手で捉え、
 今までに無い勢いで、強くその唇を開かせ、舌を捩じ込んでいく。

メグは少し戸惑い、身を起こしたが、何処か切ないラウルの顔に、体中がひりひりと反応する。
もう一度、しっかりと奥まで彼を受け入れると、思わず声が高く漏れた。
反らした白い首筋から鎖骨の美しさは、そこに跡を残して欲しいと告げている。

 腰を揺らし始めたメグの顔は、堪らなく淫らで可愛い。
正視すると、それだけで高まってしまうのをやり過ごすように、ラウルは息を大きくついた。
感じる角度と位置を探すように、悩ましく腰を動かしながら、幾度もキスを求める。
それに応えながら、ラウルもメグの柔らかな肌を、あちこち愛おしんだ。
我を忘れて乱れる彼女の目から、涙が一筋零れて光った。

細かなうぶ毛も、しっとりした肌の肌理も、僅かな表情の変化も、全て見える。
何も隠せない、明るい陽差しに、お互いを晒け出すように。
もとより、隠し事等無かった。 今まで接点の少なかった二人だから。

しばらくの間、狭い部屋を、苦しげな息遣いと、シーツと肌が擦れる音が満たしていった。
112ラウル・ソロ(×メグ)・9:2005/12/02(金) 23:47:43 ID:45IIJg8N

気付くと、すぐ横に、メグがぐったりとしていた。 その腕と脚は、ラウルにまだ絡み付いている。
─── 寒かったのは、風邪で熱が高かったからじゃない。 独りだったからだ。
メグの寝息を感じながら、ラウルは引き留めたくなる気持ちを感じた。
そっと彼女の体を離し、ばらばらに転がった靴まで歩くと、床の冷たさで素足が凍みる。
─── だけど、二人ではとても眠れやしない。…狭すぎる、そうだろう?
自分に言い聞かせるように呟き、優しい娘の体に丁寧に毛布を掛け、その白い肩を暖めた。
 「……メグ…?」 誰かが、優しく名前を呼んでいる。
少しの間、うとうとしたメグが目を覚ますと、既にラウルは身なりを整え終わるところだった。
「早く起こせば良かったけど、よく眠っていたから…、ごめん」
 本当は、傍で可愛い寝顔をもう少し見たい…、それを口にはしなかった。
カフを直した手で、そっと彼女の頬に触れる。 …まだ眠そうだ、と笑いかける。
真っ白な襟の高いシャツに、淡青色のスカーフをひと巻きしたラウルは、
 まるで、二人の間に何事も無かったかのように、平穏な表情だった。
「もう、随分経った、……マダムが心配してしまう」
優しい口調と、その深い眼差しに、メグは一瞬だけぼんやりとしたが、すぐに飛び起きた。
 (…この色は、私の服に合わせて選んだのかしら? ……まさか、ね)
メグが慌てて下着や服を身に付けるのを、後ろで手伝うラウルのスカーフが、肩にあたる。
コルセットを調節してもらおうと、長い髪を片側にさらりと纏めた。
ふと、ラウルはその背中を眺めて、手を止めた。
歳より若く見える、あどけないメグには少し不似合いなほど引き締まった背中。
いつだったか、支配人達に引っ張られ、プリマを目指す少女達が練習する風景を見たことがあった。
まだ幼い女の子が、基本のパを完璧に習得しようと懸命だった。
何度も同じ注意を受け、泣くのを堪えて繰り返し膝を曲げ伸ばしする子・・・
 あの場の緊張感、皆の真剣な表情は、とても印象的だった。
もちろん、早々に立ち去ったけれど。  
好色そうな目で少女の「物色」をする支配人達を、マダムが睨んでいたからだ。
動かないラウルを不思議そうに振り返るメグに、彼は静かに質問する。
「稽古、というのは・・・・毎日、した方がいいものかな」
 ふだんのメグの軽やかな身のこなし、舞台の上で映える流麗な腕の動き。
 この背中になるまで、脚が思い通りに動くまで、どんなに練習を積んだのだろう。
113ラウル・ソロ(×メグ)・9:2005/12/02(金) 23:53:43 ID:45IIJg8N

気付くと、すぐ横に、メグがぐったりとしていた。 その腕と脚は、ラウルにまだ絡み付いている。

──  寒かったのは、風邪で熱が高かったからじゃない。 独りだったからだ。
メグの寝息を感じながら、ラウルは引き留めたくなる気持ちを感じた。
そっと彼女の体を離し、ばらばらに転がった靴まで歩くと、床の冷たさで素足が凍みる。
──  だけど、二人ではとても眠れやしない。…狭すぎる、そうだろう?
自分に言い聞かせるように呟き、優しい娘の体に丁寧に毛布を掛け、その白い肩を暖めた。


 「……メグ…?」 誰かが、優しく名前を呼んでいる。
少しの間、うとうとしたメグが目を覚ますと、既にラウルは身なりを整え終わるところだった。
「早く起こせば良かったけど、よく眠っていたから…、ごめん」
 本当は、傍で可愛い寝顔をもう少し見たい…、それを口にはしなかった。

カフを直した手で、そっと彼女の頬に触れる。 …まだ眠そうだ、と笑いかける。
真っ白な襟の高いシャツに、淡青色のスカーフをひと巻きしたラウルは、
 まるで、二人の間に何事も無かったかのように、平穏な表情だった。
「もう、随分経った、……マダムが心配してしまう」
優しい口調と、その深い眼差しに、メグは一瞬だけぼんやりとしたが、すぐに飛び起きた。


 (…この色は、私の服に合わせて選んだのかしら? ……まさか、ね)
メグが慌てて下着や服を身に付けるのを、後ろで手伝うラウルのスカーフが、肩にあたる。
コルセットを調節してもらおうと、長い髪を片側にさらりと纏めた。
ふと、ラウルはその背中を眺めて、手を止めた。
歳より若く見える、あどけないメグには少し不似合いなほど引き締まった背中。

いつだったか、支配人達に引っ張られ、プリマを目指す少女達が練習する風景を見たことがあった。
まだ幼い女の子が、基本のパを完璧に習得しようと懸命だった。
何度も同じ注意を受け、泣くのを堪えて繰り返し膝を曲げ伸ばしする子・・・
 あの場の緊張感、皆の真剣な表情は、とても印象的だった。
もちろん、早々に立ち去ったけれど。  
好色そうな目で少女の「物色」をする支配人達を、マダムが睨んでいたからだ。

動かないラウルを不思議そうに振り返るメグに、彼は静かに質問する。
「稽古、というのは・・・・毎日、した方がいいものかな」
 ふだんのメグの軽やかな身のこなし、舞台の上で映える流麗な腕の動き。
 この背中になるまで、脚が思い通りに動くまで、どんなに練習を積んだのだろう。

114ラウル・ソロ(×メグ)・10:2005/12/02(金) 23:55:23 ID:45IIJg8N

「いえ、お休みもありますけど……稽古が無い時の方が、体が鈍ってしまって」
 その自分の言葉に、メグははっとした。
……あんなに苛々していたのは、しばらく練習してないからなんだわ……。
「稽古が辛い時もあるだろう?」 コルセットを整え終わったラウルは、メグに手鏡を渡す。
 妙に落ち着いた彼に疑問を感じながら、メグは身支度を進めた。
「本当に辛いのは、練習しても上達しない時、かしら… 体が痛むのは平気なんです」
「辛くても、続けたいのかい」
高みを目指すというのは、そういった事の積み重ね、か……。
「舞台に立つ前は緊張するけれど、あの高揚感が大好きで、…」
後ろから、ひょいとラウルがメグの横顔を覗く。
「何だか、今にも踊りたくて仕方なさそうだ」
「ええ、ええ、もちろん! …でも、もう無理です、分かってるんですけど」
彼女達が汗を流して稽古をし、観衆を魅了した劇場は焼け落ちたのだった。
 ──── どうにか、ならないものだろうか。
「んー…、他にもたくさん劇場はあるよね、そこでは駄目なのかい」
「演目のタイプも違うし…、それに定員もあるはず」 格が違うが、実力だけでは無理な事もある。
「確かにそうだけど、とにかく練習だけはしたい人もいると思うよ」
 髪を梳いていたメグは、はたと彼を振り返った。
…何故、ここまで考えるの、この人?…
「歌やバレエが心の支えになっている子も、きっといる」
 ラウルの声が、ほんの少し震え、誰のことを思っているのかが分かった。 
「はい、…生活の為にこの仕事に就く人もいますけど、それだけなら、長くは続けられません」
 彼の気持ちを支えるように、言葉を選ぶメグ。
にこりと笑い、嬉しそうに頷くラウルは、感謝を込めて彼女を見た。
コンセルヴァトワールや他の劇場が無理なら、大きな屋敷の広間を整備したらいい・・ 
例えば、彫刻家がアトリエにしていたような場所なら、相当広い敷地が空いているはず。
辺り一帯を、団員専用に借り切って、楽隊も入れるよう交渉してみよう。
バーや鏡は直付けが無理なら、床にしっかり置けるものを。 大道具の出番かな?
いや、それよりも、皆の仕事先を早く見付けるべきか・・・
何にせよ、これは一度マダムに相談した方が良さそうだ。─────── 
歌うようにすらすらと話すラウルは、「稽古」という言葉を押し流したかったのかもしれない。
それとも、筆頭後援者としての面目を保つための、ただの虚勢なのか。
115ラウル・ソロ(×メグ)・11:2005/12/03(土) 00:00:19 ID:tdIgonzd

帰り支度を終えたメグは、いろんな意味で気持ちがはやる。
「馬車を呼ぼうか?」
「いいんです、急ぎますから…走りたいんです、とっても!」
「あ、忘れ物!」
暖かそうな毛織物のショールで、ふわりと彼女を包んだ。
「これを付けてお行き、僕はあまり使わないから」

今にも駆け出しそうなメグのショールの前を、手早くクラヴァット用の長いピンで留めてやるラウル。
「これで、走っても踊っても大丈夫だ」
「そんな…、いくら何でも」 少しムッとして、メグが下から睨んだ。
その顔は、来たときと少し違う。 いかにも困ったように、ラウルが耳元にそっと囁く。
「お化粧がすっかり落ちてますよ、お嬢さん?」
「…!…」 慌てて顔に両手を当てたメグは、足を止めた。

ふふ、と笑いながら、ラウルはドアを開けた。
「じゃあ、気を付けて…、」 
言葉の途中で、憎らしげにメグはラウルに飛び付き、わざとドアの外でキスをした。
ん、と彼は驚いたが、通りにいる誰も、全く二人に注意を留めない。
陽の光の下では、強く唇を絡めても、何の秘密にもならない。

「…マダムに、さっきの話をよろしく」 
苦笑して、ゆっくり身を離すと、ラウルは素顔のようなメグの目元をそっと撫でた。
深く頷くと、その頬が薔薇色に輝き、一層愛らしい。

踊れる…!! 励まされたのは、メグの方だった。
くるりと廻った彼女のショールに、長い金のピンが光る。
飛び立つように軽い足取りで帰るメグを眺め、明日にはここを出よう、と彼は考えた。

そう思いながら、唇の端に残る、クリスティーヌに噛まれた傷を知らずに擦っていた。
もう、それは癖になっていたが、日が経つにつれ、ほとんど分からなくなっている。
彼女との最後の接点が、日増しに薄れていく。 やるせない気分だった。

指輪を、さっき開いたままの、カフリンクスやクラヴァット・ピンが整然と並んだケースに、静かに置く。
 …もう、これを着けた君には、会えないんだね。
遠くからでもいい、元気な顔を見たら、この気持ちも少しは収まるのだろうか…。

 ケースの蓋をそっと閉め、机に半分腰掛けたまま、ラウルは長い間そうしていた。
116名無しさん@ピンキー:2005/12/03(土) 00:11:42 ID:tdIgonzd
うあ。 お見苦しい点、平にご容赦をば・・・一つとばして下さい、脱力・・
アラシではございません。 ただのミス、って言わなくても分かるね

この長いのを読んで下さった方がいらしたら、感謝です。 ありがとうございました。
鬼畜もギャグも大好物ですが、自分のはこういうのしか書けない・・
117名無しさん@ピンキー:2005/12/03(土) 00:26:07 ID:UxWsiVQL
>>116
GJ&ドンマーイン!
丁寧な話運びにラウルへの愛を感じました
メグもエロイ…(*´д`)
本当に素敵な後日談をありがとう
この続き、あるのかな…?
118名無しさん@ピンキー:2005/12/03(土) 03:25:41 ID:T14uZS6X
前後に卑屈な言葉入れなくてもいいよ…。職人はあんまり語り過ぎないほうがいいと思う。
作品はGJGJ!!メグらぶい。
119名無しさん@ピンキー:2005/12/03(土) 11:12:24 ID:hTIbkn2c
ちと質問
自分3幕の>839で 「鞭も萌える・・・」とか言っていたヤシだが、
鞭じゃないにしても、叩くのとかってありかな?
パシッと・・・尻とかをorz
やや構想中なのだが、さすがにひかれるか などとも思ってみる
120名無しさん@ピンキー:2005/12/03(土) 11:14:18 ID:hTIbkn2c
う、しかも連投すまぬ

>116 メグタンかわいい(*´Д`)
GJ!
121116:2005/12/03(土) 18:21:51 ID:tdIgonzd
 レスありがとん。
>117
続き、は、やはりマダムかな。 悪いヤツにしてもいい?
>118
自分が職人という自覚はないんだ
 知人に頼まれて書いてるものだから。 で、ミスったのは2回目なんでツラくってねぇ
>119
誰を叩くの?
 誰にしても、流血しないならOKかな 
122名無しさん@ピンキー:2005/12/03(土) 18:23:52 ID:tdIgonzd
ありゃ ゴメンうちのPCじゃなかったんだ、sage忘れてた.....
123名無しさん@ピンキー:2005/12/03(土) 19:21:46 ID:tWsSxpMo
いやいや貴方も立派な天使様ですよ、GJ!
続きはマダムだそうですが、まさかラウルとメグたんとの三角関係とかだったりしたら
激モエス
124名無しさん@ピンキー:2005/12/03(土) 20:56:28 ID:h74nD28u
クリスティーヌ×ファントム
エロ有り、鬼畜…クリスが鬼
のはずだったけれど、なんだかうまくいきませんゴメンOTL
1251/5:2005/12/03(土) 20:57:03 ID:h74nD28u
その男は不運だった。地上に戻った二人を見てしまったのだから。
少女はマントに包まれたまま白い仮面を見上げた。
邪気のない懸念を浮かべる唇がひとつの名を零す。
「ジョセフ・ブケー」
それは、不運な男にとって死刑の宣告に他ならなかった。
ぶら下がり、力なく揺れる男の身体。悲鳴と混乱。
逃げ惑う踊り子たちの間をすり抜けながら、クリスティーヌは
ラウルを伴って屋上へ上がる。ファントムの気配を影のように引き連れて。
素肌に纏いつくような暗い情念が心地よかった。
音楽の天使もオペラ座の怪人も、そして嫉妬に燃えるあの男も、
総て自分のものにしたいと、そう思った。

結局カルロッタはパニックから立ち直れず、翌日もクリスティーヌが代役を務めた。
その夜、食事に誘うラウルを断り、一人楽屋に戻る。
鏡台の前の椅子に腰掛けると、姿身の方へ向き直った。
「…いらっしゃるのでしょう?」
クリスティーヌの言葉に鏡の表面が波立つ。
水面から浮かび上がるように、現れる黒ずくめの男。
ぎらぎらと燃える瞳はきっと千人だって睨み殺せる。
「あの、生意気な若造はどうしたのだ」
尊大な口調の底には殺意が滲んでいた。
「ラウルのことを仰っているの?彼なら今日はもう帰ったわ」
ゆったりとした仕草で椅子を指し示す。
「上着を脱いで、お掛けになって」
ファントムは肩をそびやかすとマントを脱いだ。ばさりと椅子の背に掛け、立ったまま腕を組む。
「あなたを、お待ちしていました、マスター」
クリスティーヌは立ち上がると、男の顔をじっと見上げた。
薄い色の瞳の奥に、微かに動揺の波が立っている。

すと白い手を伸ばす。一瞬身を引こうとした男の身体を、優しい声が止めた。
「動かないで、マスター」
彼の小さな弟子はふわりと微笑むと、次の瞬間彼の仮面を剥がし取った。
「何をする!」
大きく跳び退り、露わになった半面を右手で隠しながら叫ぶ。
しかし、クリスティーヌは表情を変えずに彼を見つめていた。
「お前は、」
最後まで問う前に、クリスティーヌの両腕がファントムの肩を強く。
不安定な姿勢を支えきれず床に転がる男を、少女は笑顔のままで見下ろした。
「クリスティーヌ!一体、何を…」
左肘を付き、半身を起こしかけた胸を、無言でぐっと踏みつける。
1262/5:2005/12/03(土) 20:57:50 ID:h74nD28u
「クリス…!」
ファントムが声を荒げかけた時、ドアの外で足音が聞こえた。
「クリスティーヌ!」
「メグ?」
ノックの音とともに親友の声が響く。小さな足の下で男の胸が波打つのが分かった。
「どうしたの?何か大きい音がしたけど…」
「…なんでもないの。ちょっと椅子を引っ掛けて倒しちゃっただけ」
何事もないかのように応えながら、クリスティーヌは側にあった職台を手にとった。
「怪我は?」
「大丈夫よ。心配かけてごめんなさい」
ふっ吐息を吹きかけ火を消す。そのまま蝋燭を外すと、無造作にテーブルに放り投げた。
「そう、よかった…」
足音が遠ざかる。一瞬緩んだ男の身体に、クリスティーヌは素早く馬乗りになった。

職台の鋭い先端を、ぴたりと喉に当てる。ファントムは首を逸らし、大きく息をついた。
「クリスティーヌ、何をする…」
「両手を上げて下さる?」
「!」
「早く」
燭台の先端が喉にくい込み、鋭い痛みが声を上げさせた。
「止めろ…」
ぷつりと皮膚を破る手応え。生暖かいものがつと喉を伝う。
「手を上げて、マスター」
その手のしていることとは対照的な優しい声が促す。
ファントムは言われるがまま両手を上げた。見開いた目の中に、混乱に混じり微かに刷かれた恐れの色。
クリスティーヌは小さく笑うと職台を喉から離した。
ファントムが息を吐き出す暇を与えず、身体を上にずらすと、血の流れる喉に膝を乗せ、体重を掛ける。
「が…」
呻き、頭を動かすのを無視し、頭上に上げられた両手を
自らのストールで一つに縛り、そのまま余った端を鏡台の脚に繋いだ。
そうしておいてようやく膝を離す。男は酸素を求め、大きく咳き込んだ。
1273/5:2005/12/03(土) 20:58:57 ID:h74nD28u
「クリスティーヌ!」
身を捩るファントムに、クリスティーヌは人差し指を唇に当ててみせた。
「お静かに、マスター。さっきもメグが来たでしょう?
昨夜のどなたかのせいで、オペラ座全体がまだ動揺しているの。
私がここで、少しでも大声を出したら…どうなるのかしら」
肩で息をする男を笑顔で見つめる。
「ですから、私の言うことを聞いて下さらなくてはダメよ」
「呪われた…小悪魔め…」
怒りを含んだ呟きに、クリスティーヌは笑みを消した。
「呪われているのはどちら?
幼子をたぶらかし、醜い怪物を天使と信じ込ませ…
大した天使さまね。ゴーストで化物で、大金を脅し取る恐喝者!」
嘲るような響きに、ファントムは顔を歪ませる。
「黙れ、クリスティーヌ」
「身分と地位と正当な財産と…健やかな美貌
…あなたにはない総てを持っている若者が、大事なクリスティーヌにくちづけしたわ。
それを屋上で指を咥えてみていた哀れな醜い獣…」
「止めてくれ…ッ!」
叫んだ男の頬を、平手が襲う。
「クリスティーヌ…」
ほおに走る痛みに、呆然と名を呼ぶことしか出来ない。
少女は唇を三日月の形に撓めた。
「静かに、とお願いしたでしょう?あまり声をお出しになるなら、
手だけではなく、口まで塞がなくてはならなくなります。
…それはしたくないわ。天使さまの声が大好きなのですもの」
無邪気にすら見える笑みに、ファントムは慄然とした。
本当にここにいるのは彼の愛弟子だろうか?
首を傾げ、じっと師の目を見つめながら襟に手をかけるこの女は。

「もっと聞かせて…マスターの色々な声を」
腹に馬乗りになったまま、ゆっくりとファントムの服を脱がせてゆく。
クラヴァットを抜き取り、襟元を緩め、ベストのボタンを外して左右に開く。
薄いシャツ越しに厚い胸の頂きを指先で優しくなぞる。
男の身体が震えた。
「マスター…」
布越しにでも先端が硬く立ち上がりかけているのが分かる。
暫くそこを指で弄った後、顔を寄せるとシャツごと咥え、歯を立てた。
1284/5:2005/12/03(土) 21:00:05 ID:h74nD28u
「マスター…」
布越しにでも先端が硬く立ち上がりかけているのが分かる。
暫くそこを指で弄った後、顔を寄せるとシャツごと咥え、歯を立てた。
「ぐ…」
固く結んだ唇の間から漏れるくぐもった声を頭上に聞きながら
弾力とシルクの感触を唇でじっくりと味わう。
「シャツの上からだと…物足りなくていらっしゃるかしら…」
呟いて、唾液に濡れ透けて露になった頂を、人差し指でくるくると転がした。
「……!」
身体をよじって必死に逃れようとする男から、もちろん答えは返ってこない。
クリスティーヌは少し眉を上げると無造作にズボンのボタンを外した。
躊躇なく半ば立ち上がった熱い塊を取り出し、後ろ手に掴んだまま向き直る。
「クリスティーヌ、止めろ…!」
「止めてしまってよろしいの?…ああ、ダメなのね」
みるみる硬さと質量を増す彼自身を、逆手に包む。
ひくひくと脈動が掌に伝わり、クリスティーヌはうっとりと微笑んだ。
「ね、いつもはどうなさっているの?」
胸に熱い息を吹きかけながら尋ねる。
「ご自分でなさるの?」
握ったものを、ゆっくり上下に扱く。
「こんな風に?…私のことを思い浮かべながら?」
「…」
「言って」
ぎゅっと爪を立てて握り込む。声にならない叫びを上げて、ファントムは仰け反った。
「さあ、教えて下さる?」
「…じ、自分で…」
目を閉じたまま、呟く。クリスティーヌは一度掌を緩めると、改めて根元を強く握った。
ファントムの喉がなる。寄せられた眉根に、苦痛と快楽が同時に閃く。
「続けて。全部、教えて」
「自分で、している…お前、のことを…考えて…自分で、何度も…く…!」
強めに握ったまま、クリスティーヌは再度手を上下に動かし始めた。
「うあ、あ…何度も、お前、を…お前と…」
頭を反らせ喘ぐ喉元に唇を寄せ、甘い言葉を流し込む。
「そう…そんなに何度も私を犯したの?どうやって?」
鈴を振るような笑い声。言葉は酸のように耳から入り、頭蓋の内側を焼き、考える力を侵食する。
ファントムは頭を左右に振り、手に合わせて腰を突き出しそうになるのを堪えた。
「…まだ我慢できるのね。こんなになっているのに」
びくびくと蠢きながらも抵抗を示す身体から降り、
限界近くまで膨らんだ昂りを覗き込むと再度両手で根元を掴む。
「これでも我慢できる?」
「く…!」
強く扱き、手を離した瞬間男は低く叫び、あっけなくその先端から白濁した液を迸らせた。
1295/5:2005/12/03(土) 21:00:44 ID:h74nD28u
「酷いわ、マスター…」
顔と胸元にべったりと付いた液体をハンカチで拭き取りながら、
クリスティーヌは口を尖らせた。
「…ふふ、我慢できなかったのね。それとも…」
焦点の定まらぬファントムの瞳を見詰め、じわりと唇を舐める。
「意地悪を言われて、感じたの…?」
放ったばかりの彼自身を両手で包み、やわやわと愛撫する。
先端の亀裂を指でなぞり、裏の合わせ目を親指の腹でそっと押す。
硬さを取り戻す兆候を感じ、クリスティーヌはそれを口に含んだ。
「う…ああ…!」
裏側を舌で舐め上げ、先端を奥歯で甘く噛む。
びくびくと身体を震わせながら、それでも何とかファントムは言葉を紡いだ。
「止め、てくれ…クリスティーヌ…もう…」
「まだお喋りできる程お元気なのね。素敵」
口を離し、クリスティーヌは微笑んだ。
先端を掌でくるくると撫でてから、口を開くと深く銜え込む。
飲み込むように喉の奥で何度も扱く。
男の口からは、もう意味を成さない喘ぎしか出てこなかった。
繋がれた鏡台が、ファントムの身体が跳ねるのに合わせがたがたと揺れる。
唇で締め付け、舌で嬲りながら早い動きで出し入れする。
ファントムはもう隠そうともせず腰を突き出した。
「………」
マスターと呼ぶ声も、ただの音にしかならない。
口の中をいっぱいに満たす肉の轡が、どくりと脈打つ。
「あああぁあ……!」
長く掠れた嬌声と共に、先端が熱く弾けた。


口の中の液体を、丸めて脱ぎ捨てたガウンの裾に吐き出す。
ぐったりしたまま荒い息をつく男の身体を眺め、クリスティーヌは呟いた。
「ダメよマスター…まだお休みになるには早いわ…」
130名無しさん@ピンキー:2005/12/03(土) 22:15:47 ID:vvtP2JgK
ここでおしまいか?
中途半端やな
131名無しさん@ピンキー:2005/12/03(土) 22:53:51 ID:tdIgonzd
>124
 自分は好きだな、このクリスならモノにしたいと思う 怖くてイイ
 続き待ってるよー
132名無しさん@ピンキー:2005/12/03(土) 22:58:26 ID:tWsSxpMo
>124
グッッジョォォォ――z_____ブゥッッ!!
エロい鬼畜歌姫ハァハァ 尊大なマスターが爺を自白させられるなんて、
しかも踏みつけに平手打ち…鬼クリスタン十分堪能させていただきました。
ぜひとも今度は地下などで続きをキボン
133名無しさん@ピンキー:2005/12/04(日) 00:29:28 ID:K1PoI+MC
モノにするというよりされそう。
続きは読みたいがクリス風俗嬢みたい
134名無しさん@ピンキー:2005/12/04(日) 01:32:14 ID:PU9TbeWD
風俗嬢かぁ・・・女王様っぽくなるのは仕方ないやね
それを徐々に屈服させor調教・・・っていうと、違う話になるか
でもカラーの違うss読めて面白かったぞい
次は誰を鬼にする? 
135名無しさん@ピンキー:2005/12/04(日) 01:38:52 ID:kVbhz0iC
風俗といえば雑誌で見たSMクラブ「○○秘密倶楽部」←○○は地名

「オペラ座秘密倶楽部」怪しい?
>124タンGJ!まじ続き待ってるよ、うまくいってるよ
136名無しさん@ピンキー:2005/12/04(日) 01:54:32 ID:lFuQ231O
自分も続きキボォォォォォォォォンヌ!!!!!!!11!!!
137名無しさん@ピンキー:2005/12/04(日) 02:10:39 ID:nLF/liWJ
>119の者だが

>121反応ありがとう。多分、マスターがクリスを・・・になるかと
年内投下の方向で

>124おお!クリスがカコイイ!辛そうなマスターに萌えたよ
自分も続き読みたい
138名無しさん@ピンキー:2005/12/04(日) 02:45:28 ID:lUDUcAmE
>>116
遅くなりましたが、GJ!!
前スレのから読み返してきたよ。
ラウルのかっこよさを再認識しまくる。
139名無しさん@ピンキー:2005/12/04(日) 11:15:55 ID:zaAI5Izi
>116
自分も遅くなったけど、GJ!!
>…もう、これを着けた君には、会えないんだね。
で、泣きました。
いや、このスレのおかげでラウルが好きになったよ、ホント。

>124
GJ!
あんな鬼クリスなんだけど、実はファントムを好きっぽい?
とか思ってドキドキしました。
140名無しさん@ピンキー:2005/12/04(日) 21:43:46 ID:ABHlOdn1
>>121
次回は母娘どんぶりっすか…ラウルスゲエ
いや一体どんな話になるのか、楽しみにしてる!

>>124
すげえ、GJ!!!
鬼畜なのに不思議に漂う優雅な雰囲気…テラモエス
自分も続きキボン(;´Д`)

ただ残念なことに誤字や文の重複などあるので、続きはどうか気を付けて下され
お節介スマソ
141名無しさん@ピンキー:2005/12/04(日) 22:50:49 ID:kVbhz0iC
また賑わい出してきて嬉しいね。色んなカップリングやらシチュやら
味わえて美味しいぞ。

自分も投下した事ある。
ワードパッドで書いて、完成したらプリントアウトして
数日は赤ボールペンと一緒に持ち歩いたりして推敲する。
誤字脱字もついでにチェックな。
上映待ち時間に座席でしてた事もしょっ中だった。
いよいよ投下する直前には、1レス分ごとに行を区切っておいて
番号をふっておく。
他の職人さんはどんな感じで投下してるのかちょっと知りたい。
142名無しさん@ピンキー:2005/12/04(日) 23:01:31 ID:eJlso4pd
>125-129
GJ!!
鬼なのにクリスが可愛い!
出来れば続きもキボーン。

>141
自分はメモ帳で書いて、10数回推敲してから投下してます。
1レスごとの区切りは適当に決めて、フォームにコピペしてるだけ…。
141氏を見習って、念入りに推敲しなければと思いました。

ちなみに、PCや携帯にここをブックマークする際は「エロ」部分を
抜いて登録してます。
携帯落っことしてもセキュリティモードで中を覗かれる心配は無いんだけど、
何となく。
143名無しさん@ピンキー:2005/12/05(月) 00:13:27 ID:K5Vlvh0G
>141
自分はWordで書いている。
ページ設定を40字×30行にしておき、それを1レス分の目安として書いていく。
今は60行でもOKになったけど、1レスがあんまり長くない方がいいので…。
場面転換などもその区切りに合わせるようにしている。

で、頭のなかで映像化しながら読んでシチュを推敲、次に頭のなかで音読しながら
語感を推敲、最後に誤字・脱字をチェックする。

投下時はメモ帳のコピーし、「右端で折り返す」にして改行を入れ、語の区切りの
良いところで改行するように手直してしてからコピペして投下。
144名無しさん@ピンキー:2005/12/05(月) 00:14:40 ID:K5Vlvh0G
OGかと思ったら0Gだった……。
がっくり_| ̄|○
145名無しさん@ピンキー:2005/12/05(月) 00:18:24 ID:ilyLo8t9
>141
自分はメールの下書きに書いて、やはり10回以上推敲してから投下。
レスの区切りは自ずと決まってくる。
プリントアウト?紙に印刷なんて恐ろしくて出来ない。
見られたらどーすんだー?

>142
自分もエロを抜いてるよ
セキュリティモードにしておくって手もありか。
ありがと。
146名無しさん@ピンキー:2005/12/05(月) 00:34:34 ID:JbiZ1mNd
マダム♪マダム♪カモーン!
147名無しさん@ピンキー:2005/12/05(月) 16:31:10 ID:Ixz9ScJe
>141
 自分も他のエンジェルと似てます>書き方
 あまり推敲はしません 文を削りすぎて意味不明になったことあるので 
 ただ…投下の時、必ずと言っていいほどリアルで邪魔が入る
 今度からは、玄関ダブルロックして電話も無視するわ
 いやホント ダブリについては勘弁しておくんなさいまし

>146
 マダムのどの辺がツボ? 自分はあの猫っぽい目かな
 何かリクあったら教えて でも失敗したらゴメンよ
148名無しさん@ピンキー:2005/12/05(月) 18:04:40 ID:JVPSDvd5
初投下です。
中年ファントムvs年増の娼婦
おっさんファントムは嫌!という方はスルーしてください。
エロは極少。ギャグもなし。
筆者は「マンハッタン」を読んでいません。

初めてなので、投下に手間取るかもしれません。字詰めなども
どうなるのか分からないので、読みづらかったらゴメン!
全部で10レス分あります。
149十年後 1/10:2005/12/05(月) 18:09:53 ID:JVPSDvd5
「おや、エステルだろう? 今さらお前がこんな場に来ているとはな」
身の程知らずな、という嘲りが込められた意地の悪い男の一言で、どっと嗤い声がわき上がった。冷水を浴びせられた思いになる。とりどりの仮装に仮面をつけた人々から逃れる
ように身を翻し、そのままオペラ座の正面玄関から走り出していた。

「きゃっ!」
誰かにぶつかった。黒革の手袋を嵌めた大きな手が、私を支えるように抱きとめた。
「驚いたな……、どうなさった、マダム……?」
言葉とは裏腹に、落ち着いた低い声が頭上から聞こえてきた。その声で我に返ると、黒い
マントに身を包んだ、長身の男が見下ろしていた。蒼とも碧ともつかない眸が私を見つめ
ている。わずかに唇の左端を上げているのは、嗤いを噛み殺しているに違いない……。

「あ、あなたもご覧になったのでしょう? 嗤うといいわ、どうせ私は……」
「何をだね? 私はここでオペラ座を眺めていただけだが……」
「うそ! あなたもあそこに……マスカレードにいらしたのでしょう? だって仮面を…」
そう言いかけると、右半面に白い仮面をつけた男の眸がすっと細められ、顔から表情が消
えた。心臓がきゅっと縮むような心地がして、私は言葉を呑み込む。

「まあ、いい……。どちらへお帰りになるのかな、マダム。宜しかったら送ってさしあげ
ようか。このままでは凍えてしまうのではないかね。それともその足で、戻ってコートを取ってくるかい?」
男はかすかに皮肉な笑みを浮かべて、愉快げに言う。足元を見ると、左の靴が脱げて片足
裸足になっていた。
「も、戻るなんて! ………いいわ、私の屋敷まで送っていただけますかしら」
こんな得体の知れない男の申し出をなぜ受け入れたのか、自分でもよく分からない。でも、取り澄ました口調をつくろった私を面白そうに眺めながらも、男が自分のマントを脱いで
私に着せかけてくれたとき、なぜだか涙が零れそうになった。
150十年後 2/10:2005/12/05(月) 18:13:42 ID:JVPSDvd5
すぐ後ろに停められていた立派な箱馬車に、男が私の手をとって乗せてくれた。今夜、私
は辻馬車を雇ってここに来ていたのだ。もしこの男に出会わなければ、そして男が送ろう
と言ってくれなければ、こんな姿のままで、私はどうなっていただろう……。

男と向かい合って座り、馬車に揺られる。私が行き先を告げると、男は低い深みのある声
で御者に伝え、そのまま見るともなく私に視線を向けている。
歳の頃は四十過ぎだろうか。印象的な眸と高い鼻梁の整った顔立ちで、渋みと落ち着きを
備えた中にも、私の知っているその歳頃の男たちにはない、何か不思議な雰囲気を漂わせ
ているのは、仮面のせいだけではないように思えた。

仕立ての良いテイルコートの上からでも逞しく引き締まった身体が伺え、男などいくらも
見てきた私なのに、胸の鼓動が早くなる……。

「あ、ありがとう…、ムッシュ。助かりましたわ。ご存知かどうか……私の名前は…」
「名乗らなくてけっこうだよ、マダム。どうせ行きずりの酔狂だ。いずれにしても私はパ
リに着いたばかりで、あなたの名を知らないし、何者かも……いや、あなたはマダム・灰
かぶりだろう?」
男は私の言葉を遮り、揶揄するようにそれだけ言うと、黒絹のクラヴァットを解き、血が
滲む私の左足を自分の膝に載せた。

「なっ、何を……!」
男の滑らかな動きに、自分の足が膝に載せられて初めて、声を出すことができた。小娘の
ように頬が染まるのが分かる……。
「失礼。だが、そのままというわけにもいかんだろう?」
からかうような口調は相変わらずだが、私の傷ついた足をクラヴァットで器用にくるみ込
む手つきは、慈しむように優しかった。
「取り敢えずはこれでいいだろう。家に着いたらよく洗って、王子様が迎えにきてくれる
のを待つのだな」
そう言って男は私の足を床にそっと下ろすと、黙り込んだ。
151名無しさん@ピンキー:2005/12/05(月) 18:14:03 ID:hPAjk6Qy
>>147
うんとねー・・・私は四季から入ったんだけど、
マダムの少々孤独そうな威厳を身に着けたところとか、
公平で自分にも他人にも厳しいけど、人一倍愛情深い所とか。
後は、まぁ・・・基本的にオバ専なんで、あの年頃の全てがたまんないw

厚かましくもリクは、ファントム×マダムがイイ!!
実はメグはファントムとの(ry
みたいな感じで、それがマダムの秘密みたいな話が読みたいでし!
マダム♪マダム♪マダム萌え♪  

ところで、マジで書いてくれるの?!!
152十年後 3/10:2005/12/05(月) 18:16:46 ID:JVPSDvd5
沈黙が息苦しい。……いいえ、男と何か話していたい。男の低く甘い声をもっと聞いてい
たい……。
「あ…、あの……ありがとうございます。分かりましたわ。私はマダム・灰かぶり、あな
たはムッシュ某。それで宜しいかしら?」
「けっこうだ」
いくら取り繕ってみても、見るからに取り乱した惨めなありさまの私を何も詮索しない男
の態度に、かえって胸が苦しくなる。

……唇が震え、涙が溢れてきた。恋愛遊戯などお手の物だった筈の私が、幼い子供のよう
に嗚咽を漏らしながら泣くしかできない。なぜ泣いているのか、自分でも分からない。オ
ペラ座で受けた屈辱のせいなのか、我が身の惨めさのせいなのか、それとも、男のさり気
ない優しさのせいなのか……。

「今度はハンカチが必要なようだね。……ああ、洟をかんでもかまわないよ。返してもら
うには及ばない」
泣き続ける私から視線を外していた男が、しばらくして少し困ったような、それでいてど
こか面白がっているような口調でそう言うと、白い絹のハンカチを手渡してくれた。また
涙が溢れてくる……。
「ご…ごめんな…さい。いい歳をして、こんな……小娘…みたいな……嗤ってくださって
けっこうよ」
「女性の涙に歳は関係ないだろう。ことに美しいご婦人の場合は……」
涙を拭い、洟をすする。きっと私の顔は、このハンカチ同様ひどいことになっている……。

気がつくと、男にすべてを話し始めていた。
自分がいわゆる高級娼婦であること。しかし年齢を重ねるとともに、頻繁に屋敷を訪れて
私を賛美していた男たちも離れていったこと。そして、パトロンだった男も新たな恋人を
つくり、援助を受けられなくなったこと。今夜はもう一度パトロンに会おうとマスカレー
ドへ行ってみたが、若い恋人を連れた彼は私に見向きもしなかったこと。
さらには、かつては劇場のボックス席やサロンの華だった私が、学生ふぜいに身の程知ら
ずと嘲られ、周囲の嘲笑を浴びたこと。……口にしたくもない筈のことが次々と溢れ出し
てくる。

男は黙って聞いていたが、私が息をついたところで、初めて口を開いた。
「気が済んだかね……?」
その言葉ではっとなる。自分が繰り言を口走っていたのに気付き、再び頬が染まる。なぜ
見ず知らずの男に、こんなみっともないことを何もかも打ち明けてしまったのだろう……。
男はふっと笑って続けた。
「まあ、いいさ。……私はいわば異邦人だから、ここで君が話したことは誰にも伝わらな
い」
153十年後 4/10:2005/12/05(月) 18:19:33 ID:JVPSDvd5
私への呼びかけが 'あなた' から '君' に変わった。胸が少し暖かくなる。不用意に見苦し
い様を晒してしまった決まり悪さもあり、話題を変えてみた。
「あ、あの……、パリへお着きになったばかりだとか……。外国の方ですの? でも綺麗
なフランス語……」
「ふん、つまらないことを口にしてしまったな。……しばらくアメリカにいたのだ。パリ
は十年ぶりくらいかな」
「まあ、アメリカに……。黒いマントに仮面をつけておいでだから、私はまた、かつて噂
に上ったオペラ座の怪人の扮装で、あなたがマスカレードに参加なさっていたのかと思い
ましたわ」

突然、男が哄笑した。驚いて目を見張る私をよそに、男はただ笑い続けている。初めて男
の笑い声を聞いた……。
「君は面白いことを言う。……そうだな、私も君に秘密を打ち明けよう。実は、私はオペ
ラ座の怪人なのだよ」
男が身を寄せて、さも重大な秘密を明かすかのように私の耳元でそう囁くと、悪戯めかし
た表情を浮かべた。男の吐息が耳にかかる。……胸の鼓動がまた早くなる。

男の冗談を聞き流し、どぎまぎしながら言葉を続ける。
「フランスの方でしたの。こちらへお戻りに……? あ…、立ち入ったことをお聞きして
は失礼ね…」
「別にかまわないさ。帰ってきたわけではない。ちょっとした所用があったので、ついで
に古い知人の消息でも知ろうかと思いついただけだ」
男の口調にわずかばかり心安さが混じったように感じられる。私の言葉に気分を害したわ
けではないようだ。このまま会話を続けたい……。

「そうでしたの。お知り合いの方々には、これからお会いになられるのね……」
男の顔から再び表情が消えた。どこか虚無感の漂う眼差しになる。
「いや……、会う予定などない。皆つつがなく暮らしていると分かっただけで充分だ。言
ったろう、私は異邦人だと。……いや、私はもう存在しない男なのだ。なにしろ、あのオ
ペラ座の怪人だからね……」
冗談とも本気ともつかない様子でそう言うと、男はまた黙り込んだ。
私たちはしょせん行きずりの他人同士、深い話などする筈もない……。

「……私はブルターニュの出ですの。普段は大丈夫だけれど、時々ぽろっとお国訛がいま
でも出てしまうわ……」
気まずい雰囲気を変えたくて、なんでもいいから思いついた話をしてみる。だがブルター
ニュという地名を聞くと、男の表情がかすかに動いた。
「ブルターニュにも行かれたことがおありなの?」
「いや……、それよりも、どうやら君の屋敷に着いたようだ」
男はそのまま話を打ち切った。
154十年後 5/10:2005/12/05(月) 18:22:16 ID:JVPSDvd5
真っ暗な屋敷の庭を進み、馬車が玄関の前で停まった。今も一人だけ残っている婆やは、
もう眠っているだろう……。
「誰も出迎えはないのか…? その足では歩けまい。どうする?」
男が尋ねた。その刹那、私の身内を熱いものが駆けめぐった。
まだ男と別れたくない! ……せめて今夜だけでも、私を救ってくれたこの男と過ごした
い! 
……声が少し掠れた。
「申し訳ないのだけれど、部屋まで手を貸していただけるかしら。一人では歩けそうもな
いわ……」
「よかろう……、高級娼婦の部屋というのも、また一興だからな」

男の声に皮肉な響きが混じる。
ああ……! 私の心など見透かされているのだ。パトロンに捨てられた、花の盛りを過ぎ
た惨めな娼婦が、捨てられたことを改めて思い知ったその夜に、浅ましい思いを抱いてい
ることを……。
それでもいい、一夜だけでいい、この男の胸に抱かれてみたい、大きな手で身体に触れて
ほしい、低く甘い声で囁きかけてほしい……。

御者に低い声で指示を与えると、男は無造作に私をマントごと横抱きに抱え上げ、玄関へ
と向かった。男の逞しい腕が私の膝裏と背中に回される。クラヴァットを外したシャツの
あわせから、厚い胸板がわずかに覗いている。
……息が上がりそうになるのを、必死に抑えた。

「おや、お早いお戻りでしたね……」
婆やが扉を開けてくれる。馬車の音で目を覚ましたのだろうか。仮面をつけた見知らぬ男
に抱き上げられている私を見ても、顔色ひとつ変えない。マスカレードで引っかけた男を
連れてきたとでも思っているのだろう……。私たちはひとことも発せず、灯りをかざす婆
やに導かれて部屋へと向かった。
155十年後 6/10:2005/12/05(月) 18:25:14 ID:JVPSDvd5
灯りを受け取って婆やを下がらせ、自室の扉を閉めた。念のために鍵をかける。男はそれ
に気付いて、うっすらと笑った。頬が熱くなる。
……今夜は何度こんなことを繰り返しているのか。この男の前では、自分がひどく愚かな
小娘……いえ、小娘でさえない、遠い昔の少女に戻ったような気持ちにさせられる。出逢
いがあれでは仕方ない……。
だが馬車の中で男が一瞬だけ見せた、少年めいた表情が浮かび、つい顔がほころぶ。同時
に耳元への囁き声が甦り、また頬が赤らんだ。

ふと気がつくと、男が面白そうに私の顔を見つめている。
「さっきから赤くなったり笑ったり、ずいぶんと忙しいようだな……」
また耳元で囁くように言う。
「なっ…何を……」
何も言い返せない。そればかりか頬がさらに熱くなる。……明らかに男は私の反応を楽し
んでいる。

「ここにいなさい。浴室はあちらかな?」
ソファに私を降ろすと、男はもの慣れた様子で部屋の灯りをいくつかつけ、手袋を外しな
がら浴室へ向かった。そして、湯を満たした容器を抱えて戻ってきた。
「さあ、足を出しなさい」
男は上衣を脱いでシャツの袖を捲り上げると、私の前に跪き、足に巻いたクラヴァットを
そっと解く。そのまま、包み込むように私の足を湯の中へ沈めた。
「…っつ!……」
「しみるかね? だが少し我慢しなさい」
そう言うと、男は私の足を洗い始めた。涙がこみ上げてくる……。男の指が傷口にそっと
触れ、泥を落とす。男の手がさするように私の足を清める。手を握り締め、身体が顫えそ
うになるのをこらえた……。

男は新しいハンカチを取り出し、足を拭いてくれる。
「これでハンカチは終いだ。少し濡れているが仕方ない……」
そう言いながら、傷口を覆うようにしてハンカチを足に巻きつけた。
「ほ…本当にありがとう。こんなにしていただいて……。ハンカチもクラヴァットも駄目
にしてしまいましたわね。ごめんなさい……」
「私が勝手にしたことだ。気にする必要はない」
俯いたまま低い声で男が言う。それから口調を変え、酒の並んだキャビネットを指して続
けた。からかうような笑みが戻っている。
「さて、君には着替えてきていただこうか。その間、私はあれで勝手にやらせてもらおう」
156十年後 7/10:2005/12/05(月) 18:27:32 ID:JVPSDvd5
「ええ…、どうぞ。それじゃ……」
男が留まってくれると知れ、胸が弾む。つい先ほどは不幸のどん底にいる心地だったのに、
私はなんと浮ついた女なのか……。だが、そうやって暮らしてきたのだ。私がそういう類
の女だと承知すればこそ、男は寛ぐ気になったのだろう。
立ち上がりながら、さり気なくクラヴァットを拾い上げる。明け方には男は立ち去るが、
これと二枚のハンカチは私のもの……。

素早く湯を使い、涙でくずれた顔を直す。身体にも顔にもたっぷりとクリームを擦り込む。
髪を下ろすが、少し考えて髪留めだけでもつけることにする。新しい下着に、胸高に化粧
着を纏う。……馬鹿なことをしているのは分かっている。クラヴァットとハンカチを衣裳
箪笥の引き出し奥深くにしまった。

「お待たせしました……」
男のマントを腕に居間へ戻ると、上衣を着直した男が、ソファに座ってコニャックを傾け
ていた。帰らないでいてくれたことに、改めてほっとする。
「ああ……、君もやるかね?」
男はマントを受け取って脇に置くと、向かいに座るよう目で私に促した。頷いて腰を下ろ
す。含み笑いをしながら私を眺め、男は滑らかな手つきでグラスに酒を注ぐと、私の前に
置いた。

互いに口を利かず、ただコニャックを啜る。緊張のためか、いつになく早くグラスが空く。
そのたびに男が注ぎ足してくれる。
「あ…、あの……」
「趣味の良い部屋だ……」
ようやく男が口を開いた。
「ありがとう……。でも、じきに出ていかなければなりませんの。その後は……」
「その後は……?」
「まだ決めていません。故郷へも戻れないし……、どこか遠くへ行って、売り子か女給に
でもなるかしら……」
「そして新たなパトロンを見つける……?」
言葉は意地が悪いが、男の声は穏やかだった。
「ここでの暮らしの間に、少しは蓄えもしておいたのだろう?」
「ええ……、まあ……」
157十年後 8/10:2005/12/05(月) 18:29:41 ID:JVPSDvd5
「アメリカでは、女ももっと自由に生きているのかしら……?」
「ふん……、ブルーマー夫人の運動にでも身を投じる気かね?」
男は大して関心もなさげに、皮肉な笑みを浮かべて突き放したように言う。
「あなたは……、アメリカでは何を……?」
男の眸が鋭くなった。慌てて口をつぐみ、誤摩化すようにコニャックを舐めた。ほろ苦い
味がする。

「君は読み書きや、ある程度の教養は身につけたのだろう? だが話術はいま一つだった
ようだな。高級娼婦というよりは、不用意な素人の小娘だ。……それとも、それが君の売
りだったのかな?」
揶揄するような男の言葉は、自分でも分かっていることだった。だからパトロンも私に飽
きがきたのかもしれない……。つい蓮っ葉な口調になる。
「どうせ、もうお終いだもの。後は野となれ山となれ、だわ……」

男は愉快そうに笑った。
「だいぶ聞こし召したようだな。……前後不覚になる前に、私を誘った続きをお願いしよ
うか」
低い声に、淫蕩な響きが加わる。男はいきなり立ち上がると、テーブルを回ってこちらへ
近づき、さっきのように私を軽々と抱き上げた。これ以上はないというくらい、鼓動が早
くなる。
……でも、私はこの時を待っていたのだわ……。

「寝室の扉はあれだね? では行こうか……」
部屋履きが片方脱げ落ちた。
「マダム・灰かぶり殿……、あいにく私は王子でなくて気の毒だったな」
耳元で男が囁く。そう……、この男は王子様なんかじゃない。それどころか、悪魔なのか
もしれない……。得体が知れず、恐ろしい……恐ろしいほど私を惹きつける、優しい悪魔
……。
158十年後 9/10:2005/12/05(月) 18:31:51 ID:JVPSDvd5
寝室の扉を開け放したまま、男が私をベッドに横たえた。はずみで髪留めが外れ、栗色の
髪が広がる……。ふと男の眸が留まった。見上げると、男は薄い笑みを浮かべて目を逸ら
し、灯りをつけようとする。
「あ……、蝋燭は一本だけに……」
「分かった……」
男は枕元の蝋燭を灯すと、扉を閉めた。

……闇が広がる。蝋燭のほのかな火影だけが私たちを照らす。
男が服を脱ぎ捨てていく。広い肩、厚い胸、引き締まった腹……見つめているだけで息が
荒くなり、思わず横を向く。
「ふん……、そんなところも、まるで小娘のようじゃないか、え?……」
男は低い声で囁きかけながら、私の身に纏うものを無造作に剥ぎ取っていく。
あっという間に一糸まとわぬ姿にされる。男の眸が無遠慮に私を眺め回すのが分かり、手
で顔を覆う……。

だが、ベッドの中で男は優しかった。仮面は外さぬままで、私に素性を明かす気はないよ
うだったが……。
私の髪を愛おしそうに撫で、口づけてくれる。目を開けると、男が優しい眸で私を見つめ
ていた。男の唇が私のそれに寄せられる。
……こんな、惨めな娼婦の私に……、娼婦の唇に口づけしてくださるの……?
「君は綺麗だよ……、灰かぶり姫……」
吐息のような声がそう囁くと、ゆっくりと男の唇が重ねられた。目蓋を閉じ、男の首に腕
を回す………。
 
………どれほどの時が過ぎたのだろう……。気がつくと私は涙を流していた。
「もうハンカチはないと言ったろう……?」
男は笑いを含んだ声でそう言うと、指で私の涙を拭ってくれた。

「あ、あの……本当はこんなお願いをしてはいけないのだけれど……、もしも……、もし
かまわなければ、エステルって呼んでみてくださる……?」
男は少し笑ったが、私の願いを聞き入れてくれた。
「エステル……、エステル………エステル……、エステル……」
男が私の名を繰り返し囁きながら、頭を撫でてくれる。髪に、頭に、額に、耳に、唇に、
首すじに……口づけを落としてくれる。私は男にしがみつき、ただ涙を溢れさせることし
かできなかった。
159十年後 10/10:2005/12/05(月) 18:33:25 ID:JVPSDvd5
冬の長い夜が明けそめるまで、男は何度も私を愛してくれた。男の唇が私の身体のすみず
みまで這い、男の手が私の肌を滑る……。一つだけ灯しておいた蝋燭が、重なった私たち
に淡い影を投げかける。男の愛撫に翻弄され、たゆたい、流され……錯乱していく脳裡の
奥を、オレンジ色の輝きが奔りぬけ、私は堕ちて……どこまでも堕ちていく………。

窓から射す薄い陽に目を覚ますと、男はいなかった。枕元には金貨の詰まった皮袋があり、
そして……黒絹のリボンが結ばれた深紅の薔薇が、一輪だけ残されていた。

<終わり>
160名無しさん@ピンキー:2005/12/05(月) 18:37:06 ID:JVPSDvd5
以上です。
読んでくださった方、ありがとうございました。
最初のところで字組が失敗しちゃった。ごめん!
宜しければ感想をいただけると嬉しいです。
161名無しさん@ピンキー:2005/12/05(月) 18:42:10 ID:xCRZn0oB
言葉にならないぐらいGJ…!

エステルの純真さに萌えるし描写の細密さに感服です。
紳士なマスター堪らん…!

今地下鉄の中から見ていたのですが
こんなに駅の間が長いと思ったのは初めてです。
ちょっと感動で鼻水出ました。

あなたの文章に惚れました。
162151:2005/12/05(月) 18:45:29 ID:E6SRT9xo
>>160
激しく割り込みゴメン!!!
レスする直前に確認すりゃよかったよor2

それと、パリのかほり漂うとてもお洒落な作品を乙です。
163名無しさん@ピンキー:2005/12/05(月) 22:32:36 ID:ODwEZcOa
>160天使さま
ラウル風にブラボー!と叫ばせてください。
私の好み直撃のカコイイマスター…最高。
泣くの我慢してたんですがラスト1行で涙腺決壊しました。
天使様、素晴らしい作品を本当にありがとうございました。

今からもう1回読んでくるノシ
164名無しさん@ピンキー:2005/12/05(月) 22:36:13 ID:3SeoWrIC
>>160
おお、蝋燭の明かりの下で読みたくなる優雅なSSだ
一夜の情景が丁寧に紡ぎ出されていて、心ゆくまで萌えさせていただきマスタ(*´Д`)
しかしこれが初投下ですか、凄い!
是非また貴方の文章を読みたいナリ
…そして作者タンには今後も「マンハッタン」は読まれないことを推奨したい気がする(´・ω・`)
165名無しさん@ピンキー:2005/12/05(月) 22:38:16 ID:1C/drV4c
GJ
大人エリックのやさしさがいい。

すみません、質問が…。
エステルって名前、何か意味とかあります?
166147:2005/12/05(月) 22:55:27 ID:Ixz9ScJe
>151
マダムに自分も惚れそうになったよ 共感できるなあ
 あー、でもすごくレベル高いわ、その設定・・・
 聞いておいて申し訳ない、自分には100年かかっても書けそうにないです
 どなたか他のエンジェルにバトンを渡させて頂きます

>160
初投下?? GJ! エステル可愛いよ! また読みたいっす
167名無しさん@ピンキー:2005/12/05(月) 22:59:19 ID:K5Vlvh0G
GJ!
紳士的なマスターに萌えました。
あんなマスターとならエステルでなくたって
一夜をともにしたいと思いました。
168名無しさん@ピンキー:2005/12/05(月) 23:21:17 ID:WXbC3Ts7
リアル表現のない、ロマンチックなss、素敵です。
ベッドに広がった栗色の髪に眸を留めるマスター。
マスターの脳裏をよぎったものを考えると切ない…
169名無しさん@ピンキー:2005/12/06(火) 00:23:07 ID:S7zsacf2
やべえな!親父怪人かっこいいな!
170名無しさん@ピンキー:2005/12/06(火) 00:25:08 ID:gzo6Wl9n
>>166タソよ
だったらどんな話でもイイから書いておくれよ〜(´・ω・`)
171名無しさん@ピンキー:2005/12/06(火) 09:03:42 ID:y/ibst+J
>>159
すごく素敵だった。
書き込みすぎずシンプルな文体なのに雰囲気が十二分に伝わって来るよ〜。
>>166
おいらも100年かかっても書けそうにありませんorz
「怪獣のバラード」の替え歌で「怪人のバラード」とか作って、うふふ♪
とか思ってる私とじゃあ次元が違うってもんだが。
172160:2005/12/06(火) 15:55:36 ID:WwF2buye
160です。過大なお褒めの言葉をいただき、とても嬉しいです。
勇気を出して投下して良かったと思っています。ありがとう!

>165さん
エステルは「明日は舞踏会」(鹿島茂・著)で紹介されていた、バルザックの
「人間喜劇」に登場する高級娼婦の名前です。SSの冒頭シーンは、そのエステ
ルのシチュをパクったwのです。名前は変えようと思っていたけど、最後まで
考えつかなかったので、そのままにしてしまいました。
バルザック大先生、ごめんなさい! orz
173147:2005/12/06(火) 16:41:14 ID:TPIxIfLT
> 170
 え、どんな話でも? 
 「ジリー母娘どんぶりby ラウル話」書いてるけど、そんなんでもいい?
 レスのお陰で、マダムのイメージ、すごく助かった ありがとう
 でも語りがエラく長くなってしまった…
 もうじき仕上がるけど、あまり連投はよくないよね
 エンジェル様が次々いらして嬉しいのなんのって、ほんとに
174名無しさん@ピンキー:2005/12/06(火) 23:54:57 ID:erJu0Uaq
>172さま
165です。回答ありがとう!
他ジャンルの影響で、その名前に全く異なるイメージを持っていたため、
一人勝手にとまどってましたが、今度は高級娼婦のイメージを育ててから
改めて浸らせていただこうと思います。
お騒がせしてすみませんでしたorz
175名無しさん@ピンキー:2005/12/07(水) 01:15:44 ID:ogiJYBtZ
>>173
そんなんでもいい!!

別に連投だって構わないでしょ。
出来た人が投下すればいいと思いますよ。
176173:2005/12/07(水) 09:48:29 ID:3vOb69oU
  (注)エロ皆無、ただの雰囲気もの

なんとなく、昨夜思い付いて書いてしまいました
単なるイメージなので、軽く読み飛ばしてもらえたら幸いデス…
177名無しさん@ピンキー:2005/12/07(水) 09:49:56 ID:3vOb69oU

 マダム・ジリーは大きな心配事に頭を抱えていた。
誰にも相談もせず、ただ独り、耐え切れぬ程の重さに耐えていた。

背筋の伸びたその姿、毅然とした表情、皆が彼女に一目置いている。
しかし、外見とは違う繊細さを知っている者は、ほとんどいない。
きりりとした眼差しは、外敵から自己を守る鎧に過ぎない。
本心を隠して生きる術を学んだが為に、他人に頼る事を忘れてしまったかのようだった。

その生き方故に、ひどく疲れてしまう事も少なからずあった。
内側に抱え込んだ膿を吐き出すのは容易ではない。
誰もが、いつも面白いばかりの人生を送っている訳ではない。
けれど疲れ切った時、そこに誰かの手があったなら。
そっと導き、握り締めてくれる手があったなら。
顔も上げられない程の頭痛に、椅子に崩れるように腰掛けたまま、マダムは泣いていた。

こんな時にでも、彼女は誰かの名を呼ぶ事もせず、一人で痛みが過ぎるのを待つのみだった。
何と強情な女だろう。
たった一人で、何にでも立ち向かってゆけると思っているのだろうか。
そんな事が、生身の人間にできるのだろうか。

作りかけのポタージュが、焦げ付く匂いがする。
少し歩けば手が届く場所なのに、マダムは動けずにいた。
誰かの優しい声が聞きたい。
自分だけに微笑む顔を見たい。
寂しい時に、思い浮かべる相手がいれば、どれだけの支えになるだろう。
例え、本当には会えなくても、その人を想う事ができるのなら。

しかし、マダムがその名を呼びたい相手は、今はどこにもいない。
オペラ座を焼いて姿を消したその男は、それ以来全く行方が分からない。
何と恩知らずな男だろう。
慈悲の心で包んでくれた女を置いて、一体何処に行ってしまったのだろうか。

二人が親しく名を呼び合う事は無かった。
心も体も、一番成長する時期に出会い、一番不安定な季節を過ごし、
 そして大きな罪を共有してしまったのだから。

引き摺るように体を起こそうとするマダム。
鉛のように重い頭をやっと上げるが、意識が遠のく。
それが、彼女の意地を消した。
ほんの小さな声で、絞り出すように彼の名を呼んだ。
「助けて……エリック」
178名無しさん@ピンキー:2005/12/07(水) 09:51:45 ID:3vOb69oU


  ……こんなに煮詰めたスープを、誰に飲ませるおつもりかね?……

聞き覚えのある、低い声。
これはきっと夢だ。
いなくなった筈の、恩知らずな男が、そこにいた。
「まさか……」
目を開けると、白い仮面の奥で彼女と視線を合わせる彼の姿。
「ジリー、珍しい事もあるものだ。 君が私を呼ぶなどとは」

「エリ、……ック?」
「何があったのだね、そんな姿は君らしくない」
……私らしい、って、それはどんな姿なの?
質問は言葉にならない。
「聞かせてごらん、あいにく私は人を気遣う程、器用な事は出来ないのだから」

喉が塞がって、言いたい事は一つも出てこない。
何処に行っていたの、何故私を置いて一人で行ってしまったの。
守りたいものがあったから、私も生きる事が出来たのに。

言葉の代わりに涙が幾筋も頬を伝い、強気な彼女の寂しさと辛さが
 如何ほどのものだったかを彼に訴える。
それが分かっても、彼はただ相手の顔を見つめるだけだった。
「誰の事をも、遠くから見守る事しか出来ないのだよ、私には。 今までも、これからも。
 いつでもお呼び、私はそこにいる。 …君の、すぐ傍に」

声が出そうになった瞬間、彼の大きな手がマダムの頬を包み込み、その額に微かに唇が触れた。
閉じた目を開いたとき、やはり彼の姿は消えていた。

残されたのは、片方だけの、黒革の手袋。 
震える手で拾うと、そこに暖かさを感じる。
これは、私の体温? それとも、彼の温もり?
ああ、エリック、貴方に私の声が聞こえても、私にその声は聞こえないのよ…!
頬に強く手袋を押し当てると、また涙が溢れた。

  ……私は、そこにいる。 君の、すぐ傍に……

涙に濡れた手袋を、驚いて見るマダム。
聞こえたわ、聞こえるわ。 …エリック、離れていても、何処かで見ていてくれるのね…

いつか自分が導き、守ったその手は、そんなにも大きくなっていた。
179名無しさん@ピンキー:2005/12/07(水) 09:54:00 ID:3vOb69oU

いつも冷静な人が泣いていたら、狼狽えてしまうだろうな
でも、耐える女って、少し色っぽい 
突発短レスものなので、どうぞエンジェルの皆様、投下お願いします…
180名無しさん@ピンキー:2005/12/07(水) 13:07:06 ID:Qz3ysi1D
GJ!
雰囲気に酔わせていただきますた。
自分も投下できるよう励むことにしよう。
181名無しさん@ピンキー:2005/12/07(水) 20:59:30 ID:xcuTL73C
>>179
あぁ、こんな作品が大好き・・・。
しあわせ。
182名無しさん@ピンキー:2005/12/07(水) 23:17:31 ID:9Zs5eXXt
>179
GJ!
強い女の弱い一面というのに萌えました。
神出鬼没なファントムに萌え。
183名無しさん@ピンキー:2005/12/08(木) 22:09:21 ID:Mo3i/3Mf
>25の続きを投下します。

ファントム×クリス
エロ無し、ギャグ無し
エリック、と私を呼ぶ声を幾度か聞いた。
あれは母だろうか、それとも地獄から私を呼ぶ悪魔の呼び声だろうか……。



目覚めたとき、ベッドの横にはジリー夫人とクリスティーヌがいた。
まだ朦朧としているところに、ジリー夫人が屈みこんで
「良かった……、一時はどうなることかと……」
と安堵した様子で言う。私は一体どうしたのか……。
「約束の期日になっても一向にオペラを持ってこないし、
どうしたのかと思ってきてみたのよ……、あなた、ここで死にかけていたのよ、エリック?」
先刻の安堵した様子から、いつもの厳しい顔になって咎めるように言う。
そうか、私を呼んでいたあの声はこの人の声だったのか…………。
「さ、後はあなたがたで……、ね」
そうジリー夫人が言って、クリスティーヌの肩に手をおく。
「これまで通り、砂糖水を与えて……、それから小麦粉を溶いたのを……、
しばらくしたらオートミールにしていいわ、すぐはだめよ、いいわね」
クリスティーヌの方に身を屈め、小声で指示を与えると、
私の方を見遣って「では、ね、エリック」と言ってジリー夫人が出て行った。


涙で汚れた頬をしたクリスティーヌを見る。
もう二度と会うことはないと思っていた私の妻………。
無理やり奪い、穢し、傷つけて放り出した私の天使………。
この愛しい顔をもう一度見られただけで、私はもう死んでしまってもいい………。
「なぜ、戻ってきた」
何をどう言ってよいものかわからず、素っ気ない言い方になってしまったが、
そう冷たい口調ではなかったことにまずは安堵した。
「マダム・ジリーからお知らせをいただいて……、それで……」
「私が死にかけているから、ということか」
この期に及んでまだ優しい物言いのできない自分に心底うんざりしたが、
弱っている所為で聞きようによっては優しく聞こえるかもしれないくらい
小さな声しか出なかったので、やはりきつい口調にはならずに済む。

「マスター……」
クリスティーヌの眸からはらはらと涙が零れ落ち、そして突然、私のベッドに突っ伏し、
嗚咽を洩らしながら叫んだ。
「マスター……、マスター……、ゆるして、ゆるして…………!
……こんなにまであなたを苦しめていたなんて……、
……マスター、ゆるして……、ゆるして……」
私の脇に身を投げ出し、激しく肩を上下させているクリスティーヌの頭に手を置く。
ああ、この小さい頭を私は何度撫でてやりたいと思ったことか……。
「クリスティーヌ……、おまえが謝らなけりゃならないことなど、
なにひとつないじゃないか……、なぜおまえが謝る必要がある……? 
謝らなければならないのはこの私じゃないか……」
顔を上げずに激しく頭をふって彼女が言う。
「いいえ、いいえ……! あなたにああさせたのはこのわたしです、
わたしが、わたしがあなたを苦しめて、だから…………」
幼い子どもの頭を撫でるようにクリスティーヌの頭を撫でる。
ああ、ようやくこうしておまえの頭を撫でることができたよ……、
それだけで私は充分幸せだ……。

「おまえはなにひとつ悪いことはしていないよ、なにもかも私が悪かったのだ、
私が嫉妬深く、狭量だったから……、謝っても許されることではないが、
本当にすまなかった……」
こうしてクリスティーヌに詫びることができただけで、私には充分すぎるほどだ。
もう二度と会うこともない、許しを請うことも、
詫びることすらできないと思っていたのだから……。
「私が死にかけていると聞いて、戻ってきてくれただけで、充分だ……」
私はもう溢れてくる涙を抑えることができなくなっていて、しかも唇から音を紡ぐのが
これほど大変なことであったかと思うくらい苦しくて、ついさっきまで意識も
なかったのだから当然かもしれないが、これ以上言葉を続けることができなかった。

私の苦しい息遣いに気づいたのか、クリスティーヌが顔を上げ、
涙を拭ってベッド脇のテーブルにあった水差しを取った。……あの水差しだ。
布に水を垂らし、私の口元に持ってくる。
甘い。
味という感覚があったことを初めて知ったような気がするほど、
私はもう何日も食べ物を口にしていなかったことを思い出した。
そして、私は、クリスティーヌの姿を見ながら、
ふたたび意識が遠ざかっていくのを感じていた。
それからしばらく、私はクリスティーヌに看護されていた。
あれ以来、ふたりとも言葉数は減って、時折言葉少なに今日は暖かいだとか涼しいだとか、
オートミールの味はどうだとか、そんな当たり障りのない話をした。
会話と言えるほどのまとまった話ではなかったが、そうやって何気なく言葉を交わしていると、
あたかも世間並みの夫と妻として暮らしているような心持ちがし、
最後にこうしてふたりで穏やかに日々を過ごせただけで私にとっては充分すぎるほど幸せで、
この先、この思い出だけで生きていかれるような気さえした。

私たちが当たり障りのない話題でしか言葉を交わさないのは、
世間の夫婦のように話すべきことがないからというわけではなく、
話すとすればいやでもあのひと月のことを、
そしてこれからのことを話さざるを得ないから……、
だから話すべきことから目を背けてしばしの夫婦生活をしているだけ……、
ただそれだけであることは、何も言わなくてもふたりとも充分に承知していた。

日が経つにつれ、私の身体も目に見えて回復して軽い食事ならどうにか取れるようになった。
一日の大半をベッドで過ごしてはいたが、時折身体を清めて着替え、
湖の周りをクリスティーヌに手を引かれて散歩することもあった。
黙って手を繋いでいるだけで喜びが胸に溢れ、しかし、あのひと月の非道を思い出しては
悔恨に苛まれた。どうあってもあの暗黒の蜜月を私たちふたりの間から……、
少なくとも私自身のなかからなくしてしまうことはできない。
クリスティーヌに懺悔し、彼女の裁きを受け、彼女を自由の身に……、
この恐ろしい怪人たる夫から解放してやるべきときが刻一刻と近づいてきていた。
そして、今朝、私は断固たる決意のもと、朝食後のクリスティーヌをベッド脇に呼んだ。
まだ身体は本調子ではなかったが、横になっていながらであれば辛い話題にも
耐えられる程度には回復していたし、これ以上彼女を自分のもとに留めておけば、
どうしても彼女を手放したくなくなってしまう。
そして、この行き場のない後悔を彼女自身にぶつけるのだ……、おそらく、私という男は。
そうなる前に彼女を解放してやらなくてはならない。

「クリスティーヌ、話がある」
「ええ……」
「クリスティーヌ……、」
「マスター」
突然、クリスティーヌが私の言葉を遮った。
「マスター、どうか先にわたしの話を聞いていただけないでしょうか? 
わたしはどうあってもあなたにお話しなければならないことがあるんです」
「…………」
「マスター、聞いていただけますか?」

クリスティーヌの話というのがどんな内容であるか、おおよその見当はついた……、
おそらくここでこのまま夫婦として暮らすことはできない、どうか自分を解放してほしい、
そういう話であろう。彼女にそう言わせてしまう前に私から話をしたいと思って呼んだのだが、
どうしたものか……。どう返事をしたらよいか迷っていると、返事のないのが返事と思ったか、
クリスティーヌが話し始めた。

「マスター……、あんなになるまであなたを苦しめて、本当にごめんなさい……。
どんなに謝ってもゆるされることではありませんけど、
でも……、でも、どうか、……ごめんなさい……」
話し始めた途端、みるみるその眸に涙がたまってきたクリスティーヌの頬を、
溢れ出した涙が濡らしていく。
「どうして……、どうしておまえが謝る必要がある? 
おまえは何にも悪くないじゃないか、悪いのはこの私じゃないか……」
「いいえ……、わたしがちゃんと自分の気持ちに向き合って、
初めからあなたのもとに置いていただいていれば、あなたと一緒にいることを選んでいれば、
そうすれば、あなたをあんなに苦しめることはなかったのです……」
ますます溢れてきた涙を拭おうともせず、クリスティーヌが言葉を紡ぐ。
「わたしは……、わたしは、あの優しい人を裏切ってでもあなたと一緒にいたかった……。
あの人と一緒にいる方がいいとわかっているのに、わたしの心はいつもあなたを求めていた……」
嗚咽を呑み込むように喉を鳴らして、それでも先を続けるクリスティーヌを
どこか不思議な気持ちで眺める。

「わたしがどれほどあなたに惹かれていたか……、
マスカレードの夜、わたしはあなたにあの切り穴の奥へ連れ去られたかった、
父の墓所に参ったときにも、わたしはあなたに逢えるような気がしてあの場所に行ったのです。
あのまま墓所に入れば、わたしはあなたのものになれる……、
そう思って、いえ、そのときにははっきりそう考えたわけではなかったけれど、
そんな風に感じて、胸が高鳴りました。
ラウルが来て、あなたと争いになったときも、わたしの目はあなただけを追っていた……、
あなたが勝って下さることを願っていた……、あなたが勝つということがどんなことなのか、
よくわかっていたのに……。
わたしは、……わたしは、あなたに無理やり連れ去られたかった、
……自分からあの人を裏切ることなどできなかったから……」

一瞬口を噤み、しゃくり上げるようにして涙をこぼす。
はらはらと彼女の頬を落ちていく涙を見ながら、この涙は私が流させている涙なのだろうか、
そうではないのだろうかと取りとめもないことを考えていた……、
ふと我に返って何か言おうと口を開きかけたが、クリスティーヌが大きく息を吸うと、
ふたたび話し始めた。

「そういう自分の気持ちに正直に、最初から素直にしたがっていれば、
あなたをあんなに苦しめずとも済んだのです。
……そして、とうとう、わたしはあの人の目の前で自らあの人を裏切ってしまいました。
あの舞台でわたしは、われ知らず、はっきりとあなたを選んでしまっていた……。
ああ、あの階段であなたと見つめ合っていたときの胸の高鳴りを、あの眩暈のような陶酔感を、
わたしは一生忘れないと思いましたわ……。
橋の上であなたの腕に抱かれたとき、わたしは自分の居場所が他のどこでもない、ここなのだと、
わたしがずっと求めていたのはこの腕なのだと、ようやく自分で認めることができたのです。
あなたに抱かれて、あなたの腕のぬくもりを感じて、わたしは本当に本当に幸せでした。
そのすぐそばで、あの優しい人が、ラウルが苦しんでいることなど忘れてしまうくらいに……。
父を亡くして以来、初めて自分があるべき自分になれたような、
自分がいるべきところに自分がいるような、そんな気がしました。だから……」
ここまで一息に話すと、クリスティーヌは生唾を飲み込むような仕草をして、一瞬俯いた。
「だから……、だから、わたしはあなたに素顔で言ってほしかったんです、
わたしを愛していると。
初めて地下に連れて来られたとき、あなたはわたしに、この顔を直視できるか、
それでも私を思うことができるかって尋ねました。
わたしはやっぱり怖くて、とてもあなたのお顔を……、ごめんなさい……、
直視できないと思いました。
でも……、でも、聖堂でのお稽古がなくなって、あなたの声を聞けないようになって、
どんどん日が経っていって、わたしはあなたのことばかり考えるようになって……、
あなたのお顔もはっきり思い出せるのに、それでもあなたが恋しくて、
恋しくて恋しくてどうしようもなくなって……」

そこでクリスティーヌが瞼を閉じ、眸に溜まった涙を押し流した。
彼女の頬を流れる涙が蝋燭の灯りを吸い取って鈍く光っていた。
その涙を拭ってやろうと手を伸ばしたが、それより先に彼女自身の指先が涙を払ってしまった。

「でも、わたしはあなたが怖かった。
……いえ、本当に怖かったのは、あなたに惹かれていく自分自身だったかも知れません。
ラウルにあなたのことを話したとき、どれほど安堵したことでしょう。
ラウルに話したことで、あなたから解放されたような気がしました。
でも、そんなのは無駄なことでした。いえ、無駄どころか、ひどい過ちでした。
ただ、あの人を巻き込んだだけ……。
あの人は必死でわたしをあなたから守ってくれようとしているのに、
わたし自身はあなたにどんどん惹かれていく……。そんなの、矛盾していますもの……」

また、大きく息を吸い込み、話し始める。
「だから……、あなたにあのときに聞かれた答えを、わたしは舞台で、
あの橋の上で答えたんですわ……、あなたはわかって下さらなかったけれど。
橋から落ちていくときには、わかって下さったと思っていたんです、
だから、あなたはわたしをあなたの場所に連れて行ってくれるのだとばかり……。
でも、違っていた。……違っていてもいいんです、今は、もう。
あのときには、わたしの気持ちもわかってくれずに無理やり花嫁衣裳を着せようとしたのには
心底がっかりしたし、あなたを選んだ自分に腹も立ちましたけれど」

クリスティーヌがほんの少し笑い、しかしすぐに表情を戻した。
「ラウルが来なかったら、わたしたちはきっとあの場で最初の喧嘩をして、そして仲直りして……、
でも、あの人が来てくれて、わたしはやっぱり後悔しました、あの優しい人を裏切ったことを。
もう、あのときには、自分はどうしたらいいのか、どうしたいのか、よくわからなくなっていました」

「あなたが、自分を選ばなかったらあの人を殺すと言ったときには、
自分が……、なんというか……、そう、自分が選択から逃れられたような気がしました。
わたしがあの人を選べば、あの人は殺され、わたしはあなたのものになる。
わたしがあなたを選べば、あの人は命が助かり、わたしはあなたのものになる。
だったら、選ぶ道はひとつしかありませんもの」

「なのに、……わたしはあなたを選んだのに、わたしは……、わたしは……」
そこまで言うと、クリスティーヌは両手で顔を覆って激しく泣きじゃくり始めた。
私はそっと腕を伸ばし、彼女の髪に触れてみた。数日ぶりに触れる妻の髪だった。
私が目覚めた横で彼女が激しく泣いていた折に触れて以来、こうした接触はしないでいたので、
そのひんやりとした手ざわりをどこか懐かしいような気持ちで髪を指で梳いてみる。
クリスティーヌが落ち着くまで、そっと頭を撫で続けた。

「わたしはどうしてもあなたを忘れることはできないって、あなたを愛さずにはいられないって、
よぅくわかったのに、だからあなたのそばにいることを選んだのに、
わたしは心のどこかにあの人もこともしまっておいたんです。
あなたに初めて抱かれた夜も、最初のうちは自分の罪深さに恐れ慄いていました。
あの優しい人には指一本触れさせなかった己の身をあなたに捧げることができるのが嬉しくて、
そんな風に思っている自分が許せなくて、……でも、あなたの温かい手に触れられると
あっという間にそんな罪深い気持ちもどこかにいってしまって……。
ああ、あの夜ほど幸せだったことはありませんわ……、わたしの生涯で一番幸せだった……。
わたしはとてもとても幸せで、本当に幸せで、ようやくあなたのものになれた喜びで
胸がいっぱいだったのに、……なのに終わってみると、あの人にすごく申し訳なくて、
あの人のことを考えていました」
あの折のことだ……。
しかし、あのとき、クリスティーヌは私に抱かれて幸せだと思ってくれていたのだ、
喜んでいてくれたのだ……。
なのに、私はつまらない猜疑心でいっぱいで、婚約者を捨てたばかりの彼女の心情など
思いやりもしなかったのだ。
心優しい彼女が婚約者を捨てたその数日後に、まるでなにごともなかったかのように
新しい男と結婚生活を始められるはずなどないではないか……、
私は、今になって思えば至極あたりまえのことなのに、
なぜこんなことにも気づかなかったのだろうか。
そうだ、やはり心のどこかにクリスティーヌを疑う気持ちがあったからだ。
彼女が本気で私を愛することなどないと、あの若くて美丈夫な婚約者よりも私の方を愛して
くれることなどあり得ないと、そう思っていたから彼女を信じることができなかったのだ……。

「あのとき、あの人の名を呟いていたなんて、自分ではわかりませんでしたけど、
あなたはそれをご覧になったんでしたわね……」
クリスティーヌが私を見て尋ねるように言う。

「二日目の晩、あなたが私を無理やりに……なさったとき、わたしは思わずあの人を
呼ぼうとしてしまった……、どこかで、あなたが冷たいときにはあの人が慰めてくれるような、
そんな甘えた、都合の良い思いがあったのだと思います。
でも……、だから、あなたにどんなにひどいことをされても仕方ないんだって思おうとしました。
わたしが悪いのだからって……。
でも、わたしはちゃんと自分の思いをあなたにお話すべきだったんですわ……、
わたしはわたし独りの気持ちしか考えられなかった、
わたしさえ我慢すればいいなんて、思い上がっていたんですわ……。
そのことで却ってあなたを苦しめていたのに……。
あの夜、どうあってもあなたはわたしを信じてはくださらないのだと、
どうあってもあなたはわたしを許してはくださらないのだとわかって、
わたしがいるだけであなたを苦しめ、傷つけてしまうのだとわかって、
わたしは……、わたしは………、
……マスター……、本当に本当にごめんなさい……」
思わずクリスティーヌを遮った。
ふたたび激しく泣きじゃくる彼女に言う。
「おまえは何も悪くない、悪くないんだ、クリスティーヌ。
おまえは私を選んでくれたのに、婚約までした子爵を諦めて、私のそばにいてくれると言ったのに、
おまえを信じて愛してやることができなかった。
私が嫉妬深く、狭量だっただけなんだ、おまえをあんなに苛めて、苦しめて……。
私が何もかも悪いんだ、おまえはちっとも悪くなんかない、
だから、どうか謝ったりしないでおくれ……」
言っているうちに涙が溢れ、最後の方はうまく話すことができなかった。

クリスティーヌが泣きじゃくりながら、それでもはっきりとこう言った。
「いいえ、マスター、わたしはラウルを諦めたわけではありませんわ。
さっきからお話している通り、わたしはあなたと離れることがどうしてもできなかった、
ただ、それだけ……」

とめどなく涙を溢れさせているクリスティーヌの頬を指先で拭ってやる。
しばらく俯いたまま泣いていたが、ふたたびゆっくりと顔を上げた。
「それだけ……。それだけを言いたかったんです、マスター。
わたしは、わたしを大事に思って下さった方をふたりとも傷つけてしまった……。
わたしがおふたりの人生をだめにしてしまった……。
ここを出たあと、ラウルにも本当のことを言ってお詫びしてきました。
こうして、マスターにもちゃんとお話できてよかったですわ……」

「それで……」
この先、どうするつもりなのか……、そう聞きたかったが、私には聞く権利がないような気がした。
……あの男のことだ、クリスティーヌがいま私に語ってくれた同じことを聞いたとしても、
おそらく今のままの彼女を受け止め、一緒に暮らそうと申し出たに違いない。
もともと身分違いで伯爵家の反対を押し切って婚約した経緯があり、
その婚約を破棄して私と結婚までしたクリスティーヌを娶るためには、
おそらく爵位を捨てることになるだろうが、彼のことだ、それも厭わないだろう。
言いよどんだきり、口を噤んでしまった私を見て、クリスティーヌがかすかに微笑んだ。
「ラニョンに帰ろうと思いますの。遺産と呼べるほどのものはありませんけど、
父の残してくれた家屋敷がありますし、それを処分すれば、しばらくは暮らしていけますから……。
必要な手続きはあらかた済ませてきましたし」

ラニョン! 
オペラ座にいてくれれば、せめて彼女の歌声を聞き、その愛しい姿を見ることもできるだろうに……、
せめてパリにさえいてくれれば、同じパリの空の下で生きていると思うこともできるだろうに……。
……いや、そうではない、ブルターニュだろうがどこだろうが、
彼女が生きてこの世にあってさえくれればいい……、
彼女が私と同じこの地上で生きて呼吸してくれていることを思えば、
私はそれだけで幸せなのだから……。

「では……、オペラ座から……」
「ええ」
「そうか……、では、離婚証明書はどうしようか、
……ラニョンに届けさせるということでいいかね……?」
「マスターのご随意に……。それに、わたしはまだしばらくこちらにおりますわ、
マスターのお加減がよくなるまで……」

クリスティーヌの申し出は非常に嬉しかったが、しかし、このままここにいてもらえば、
私はどうしても彼女を手放したくなくなる。ここを出て子爵のもとに行くのか、
それとも本当にブルターニュに行くのかはわからないが、
いずれにせよ初めから私のもとを離れる決心をしていたらしいクリスティーヌを
これ以上引き止めたくはなかった。彼女への執着心は己が誰よりよくわかっている。
ふう、と大きく息をついてクリスティーヌが握り締めていたハンカチの皺を伸ばす。
そして、ふと顔を上げると、
「マスターのお話は……? ごめんなさい、わたしが先に話をしてしまって……」と言った。
「いや、もう話すことはないよ、私はおまえにここを出なさいと、そう言いたかっただけだから……、
だから、おまえは今日限り、ここを出た方がいい。さぁ、支度しておいで……。
今まで本当にすまな……、いや、……本当にありがとう、クリスティーヌ、
最後におまえとこうして夫婦らしい暮らしができて、私がどんなに嬉しかったか……、
あんなにひどい夫だった私によく尽くしてくれて、感謝している……、
いずれ近いうちに離婚証明書と心ばかりの餞別を届けさせるから、
どうかそれだけは受け取ってほしい、
……おまえがどうしても私からなにかを受け取るのが嫌でなければ………」
「でも、まだお加減が……」
「いや、もう独りでも大丈夫だ、おまえはもうここにいてはいけない……」

まだ何か言いたそうにしていたが、私が視線で彼女の部屋を指したのを見て
クリスティーヌが涙ながらに小さく頷き、ベッド脇から立ち上がる。
もとの自分の部屋に入っていく。
「クリスティーヌ……、もしも、もしもおまえが嫌でなれば、
その……、あのレースだけは置いていってくれまいか……」
振り返った彼女が小さく頷いた。
それが寝台の上掛けなのかどうか、彼女に聞こうと思ったが、
どちらの答えであっても哀しい気がしたので、結局聞きそびれてしまった。
クリスティーヌが立ち上がる。
私の手を取った。
両手で私の左手を持ち、己の手のうちにある私の手をじっと見つめながら、
親指でそっと甲を撫でるような仕草をした。
あれほどおまえを苛んだこの手を、おまえはそんな風に優しく取ってくれるのか……。
ふたたび涙がこみ上げてくる。

私の手を見つめていた眸を上げ、
「マスター、どうかお元気で……」と言って、手を離す。
かすかに微笑んでくれた。
屈んで荷物を取る。
彼女のスカートがシュッと衣擦れの音を立てる。
靴音が響く。
彼女が扉から……、
「行くな! 行くな、クリスティーヌ! 行かないでくれ! 
お願いだ、クリスティーヌ、行かないでくれ……」
私は思わず叫んでいた。
ベッドから起き上がり、クリスティーヌの方へ手を伸ばす。
「お願いだ……、行かないでくれ……、……愛しているんだ……、
愛しているんだ、クリスティーヌ……」
涙が溢れた。

扉のところで立ち止まったままのクリスティーヌがゆっくりとこちらを振り返る。
泣いていた。
「クリスティーヌ、お願いだ……、愛しているんだ、行かないでくれ……」
転げるようにしてベッドを降り、クリスティーヌに向かって歩き出す。
クリスティーヌが私の方に手を伸ばす。
手と手が触れた。
握り合った。
抱きしめた。
「お願いだ、行かないでくれ、行かないでくれ……」
私はクリスティーヌに取りすがるように床に崩れ折れると、
彼女の脚に抱きついたまま、声を上げてひたすら泣き続けた。
ようやく我に返る。
「取り乱してすまなかった……。……おまえはもう、決めたのだものな……」
身を引き裂かれるような痛みをこらえ、立ち上がりつつクリスティーヌから離れる。
「…………」
「さぁ、私がまた引き止めたりしないうちに、行きなさい」
「……マスター……、」
「行きなさい、……達者でな」
ぎごちないながらも、どうにか微笑もうと努力する。
せめて、旅立ちくらいはきちんと見送ってやりたい。
「マスター……」
おずおずと彼女が言う。
「……ここに置いて……、マスターの、そばに……」

ああ……! どれほどこの言葉を待っていただろうか……!
……しかし、あの暗く惨めな蜜月を私たちふたりの間から失くしてしまうことは絶対に……、
天地がひっくり返り、太陽が西から昇らない限り、絶対にできないのだ。
私たちはいま一時の感傷から、ここでともに暮らすことにしたとしても、
早晩前と変わらない暮らしをすることは目に見えていた。
私は彼女を傷つけたことを悔い、彼女は私を傷つけたことを悔い、
互いに遠慮しあって、顔色を窺いあって……、そんな暮らしをクリスティーヌにさせたくはない。
私はもう、彼女を手放すべきなのだ。
私の支配から逃れて、彼女が自分の自由意思で自らの暮らしを立てていく。
それをさせてやるのが夫たる私の最後の役目なのではないだろうか。

私はゆっくり首を横にふると、どうやら私と同じようなことを考えていたのか、
クリスティーヌもそう強く抵抗することもなく、涙をこぼしながらであったが頷いた。
しかし、一瞬ののち、きっぱりとこう言った。
「では、本当にもうしばらくだけ、ここに置いていただきたいの……、
そして、わたしがパリを出るのを見送ってほしいんです、
……どうか、わたしのおねがいを聞いてくださいな……、これが最後のおねがいですから……」
それから、私たちは一週間ほどこれまでのような穏やかな暮らしを続けることになった。
そして、とうとう明日がクリスティーヌの旅立ちという日の夜、
私たちは居間のソファに掛けてこれが最後になるだろう夕食後のお茶を一緒に飲んだ。

「列車はいつのを? モンパルナス駅だろう?」
カップを持ってお茶を啜るクリスティーヌに聞いてみると、
すぐにラニョンで暮らすのではなく、ウプサラに行くつもりだという。
「ウプサラにはおまえの母が眠っているのだったな?」
「ええ、母のお墓から土とか……、まだ枯れていなければ白薔薇があるはずですから、
その枝をもらってきて、父のお墓に植えてあげたいと思って」
「そうか……」
明日の午後二時の列車だが、聞けばブリュッセルまでしか切符が取れていないという。
「では、ロッテルダムに出てそこから船で?」
「いいえ、キールまでは列車で行きたいと思っていますの。そこからは船ですけど」
「そうか……。では、北駅だね」
「ええ」
本当に見送りに行ってよいものだろうか……、
いくら彼女といえど、私と一緒にパリの街中を昼日中から歩きたがるとは思えない。

しかし、浮かない顔をしているだろう私に気遣ってくれたのか、
約束どおり見送りに来て欲しいとクリスティーヌの方から言ってくれた。
「マスターが辛くなければ。まだ、身体が本調子じゃないでしょう?」
「大丈夫、行くよ。……おまえが、私と一緒に歩くのが嫌でなければ」
クリスティーヌの手がそっと私の手に重ねられ、私と一緒に歩くのが嫌ではないと教えてくれた。
翌日はよく晴れてはいたが、木枯らしの吹く寒い日で、そんな陽気だったから人々は
それぞれ道を急いでおり、私の目深に被ったフードのなかにまで興味はないようだった。
どこへということもなく、オペラ座から北駅の方へとそぞろ歩きを楽しむ。
風は刺すように冷たかったが、クリスティーヌの隣で彼女の体温をマント越しに感じながら
歩いているのはとても幸せだった。……これが、最初で最後の妻とのそぞろ歩きだったとしても。
まだ身体が回復しきっていないので速く歩くことはできなかったが、
列車の時間には充分間に合うので、急ぐ必要もなかった。

「マスター、お身体は辛くない?」
私を気遣って時折見上げるようにして尋ねてくれるクリスティーヌの心遣いが嬉しい。
「うん、身体は辛くはないよ」
「身体は辛くないって……、他にどこか具合が悪いの?」
「いや、」
……おまえと離れるのが寂しいだけだと心の中で続きを言って、
そういえば、いつかこんな風なやりとりをしたことがあったなと、ふと思い出す。
ジリー夫人に結婚の報告に行った帰りだ。
多分、彼女も同じことを考えたのだろう。目が合うと互いに微笑みあった。

「サン・ピエール教会に行ってみないかね?」
「ええ、いいですけれど……、坂は大丈夫かしら?」
サン・ピエール教会はパリでも最も古い教会のひとつで、今度、その横に新しく大きな寺院が
建つらしいが、今はまだ何もない更地が広がっており、年月を感じさせるローマ・ゴシック様式の
教会が寂しげな様子で佇んでいた。
聖堂で彼女の行く末が幸せなものであるよう祈りを捧げ、北駅へと向かう。
坂の途中でクリスティーヌを止めた。オペラ座が見える。
「オペラ座からぐっとこちらに寄ったところに、青いマンサード屋根が見えるが、わかるかね? 
ほら、あのレンガ色の隣」
坂の下に広がる街並みの一角を指差した。
「あそこだったんだよ」
「……私たちのおうちのことね?」
「そうだ」
ジリー夫人の忠告に従った私はかなり早い時期に部屋を用意したのだが、
クリスティーヌと新しい環境でやっていく自信も気力もなく、移り住む準備などできなかったのだ。
もしも、もしも私があの晩、彼女の口元など見ずにいたら……、
もしも私があれほど嫉妬深く狭量でさえなかったら……、
そうしたら、今ごろはあの窓のうちのひとつ、どの窓かはここからではわからないが、
どれかの窓の向こうでふたり幸せに暮らせていたのかも知れないのだ……。
……クリスティーヌがそっと私の手を握ってくれた。
北駅のファサードに立つ彫像たちが私たちふたりを見下ろしている。
彫像のうしろのガラスに西日が反射して、まるで彫像に後光が差しているかのようだ。
つい数年前に改築されたばかりの駅は、その古典的な様式とはうらはらに、
確かな技術によって裏づけられた空間の配置の正しさ、装飾の美しさで目を瞠るものがある。

改築を請け負った建築家を心のどこかで羨みながら、己の際限のない嫉妬心がこのクリスティーヌとの
別れを招いた原因であることに思いを致し、これからの私がせめてできることは謙虚さを身につけ、
自制を働かせられるようになること、ただその一点に尽きると思った。
……あの二十三体の彫像のうち、ブリュッセルを象徴するのは一体どれなのだろうか。
クリスティーヌが最初に着くその都市を象徴するという彫像を探してみたが、
果たしてそれがどの人物なのかはわからなかった。

彫像たちに挟まれた時計が列車の出発時刻が近づいたことを知らせている。
駅の中に入ると、もうとっくに列車は入線していて、私たちはクリスティーヌの荷物が
ちゃんとコンパートメントに運び込まれているかどうかを確認した。
まだ時間があったので、しばらくホームで話でもしようと思ったが、
もうどちらも言葉を発することなく、ただ黙って互いに向かい合ったまま立ち尽くす。
私は、たったふた月たらずという短い間だったが、自分の妻だった愛しい女の姿を
この目に焼きつけたいと、不躾なほど彼女の姿をじっと見つめた。

車掌が鐘を鳴らして歩いていく。
クリスティーヌが涙で濡れた睫毛を上げて私を見上げた。
そのこの世のものとも思えぬほど美しい眸を私もただじっと見つめ返す。
クリスティーヌの手が私の胸に静かに置かれ、
背伸びした彼女の薔薇色の唇がそっと私の唇に重なった。

彼女の顫えが伝わってくる。彼女を抱きしめ、このまま連れて帰ってしまいたい衝動を必死で抑える。
腕が上がらないよう我慢するのが精一杯だった。
永遠にも思われるような一瞬ののち、彼女の唇が離れた。
……これでもう、私たちの身体が触れ合うことは二度とないのだ。
それどころか、彼女の姿を見るのもこれが最後かも知れないのだ。
既に大粒の涙をこぼしているクリスティーヌの唇が動く。
「どうか、お元気で……、マスター」
彼女のコンパートメントの扉に車掌が鍵をかけていく。
汽笛が鳴る。
車軸が動く鈍く重い金属音がする。
車輪がゆっくりと廻り始めるのが見える。
列車が走り出した。
列車は少しずつではあるが次第に速度を上げ、クリスティーヌの乗った車輌がだんだんと遠ざかる。
列車の吐き出した煙で車両が霞む。
……否、今ようやく流れてきた涙で列車が霞んでいるのだった。


私のクリスティーヌ……、私の愛しい大事な妻……。
「どうか、お元気で……、マスター」と言ってくれたおまえの優しい声がまだ耳に残っているよ……、
最後に聞けたおまえの声が優しく私を呼ぶものであったことに心から感謝する。
どうか、どうかおまえの行く末が幸せなものであるように……、
この世の誰よりと願ったおまえの幸せを私がすべて台なしにしてしまったが、
どうか私ではない、別の誰か優しい男とおまえが幸せになってくれるよう、
今度こそ本当に心から願っている、祈っている。
おまえが生きてこの世にあることが私の喜び、
おまえが誰より幸福になってくれることこそが私の祈り……、
ああ、神よ、どうかクリスティーヌをお見守りください、
彼女の行く末がどうか幸せでありますように……。

私はただただ涙をこぼしながら、列車が見えなくなった後の虚空を
いつまでもいつまでも見つめていた。



続く
201名無しさん@ピンキー:2005/12/08(木) 22:32:51 ID:Mo3i/3Mf
以上です。
読んでくださった方、ありがとうございました。

1レスが長くて申し訳ない。
12に投下ミスがあったのに気づき、軽く凹んでいます……。
202名無しさん@ピンキー:2005/12/08(木) 22:40:59 ID:tqoSnSI/
天使様GJ…!

しかし続きが気になって仕方ないです!
マスター切ない…。
203名無しさん@ピンキー:2005/12/08(木) 22:45:46 ID:2QxROjdn
>>200天使様
リアル遭遇に感謝。
レスつけるのももったいない気持ちです……
もうかつて無いほど激しくGJ!!!
204名無しさん@ピンキー:2005/12/08(木) 22:50:52 ID:gAqc4xSx
>200
(ノД`)(ノД`)(ノД`)
言葉になりません…胸が張り裂けそうだ………


あ、「続く」になってるの今気付いた。
今日はもう眠れないです。
205名無しさん@ピンキー:2005/12/08(木) 22:50:56 ID:ywM6k+DA
>200
リルタイムキターーーーー(゚∀゚)ーーーーー!!!!
って えぇぇ別れちゃうのかYo!?続きが気になって眠れないよママン
天使様GJ!っていうかGod Job!相変らずスバラシス
続きをいい子でまってます。でも無理はなさらずノシ
206名無しさん@ピンキー:2005/12/08(木) 22:51:48 ID:yG+qjeq4
天使様、乙です
…せ、切ないよぅ。・゚・(ノД`)・゚・。
せっかくお互いの心が通い合ったというのにお別れなんて!

でも、「続く」ということは
この先何らかの展開があると信じていいんでしょうか
是非この続きで二人を幸せにしてあげて下さいませ
207204:2005/12/08(木) 22:52:41 ID:gAqc4xSx
ageてしまって大変申し訳ありません。
cookie消したのを忘れてた大バカの所業をお許しください。。
208名無しさん@ピンキー:2005/12/08(木) 22:55:52 ID:X1tQZBKb
マスターが生きててほんとに良かった…
でも涙が止まらない。
マスターとクリスとで幸せになってほしいんだよう…。

天使様、いつもありがとうございます。最大級のGJ!を捧げます。
あなたのファンより
209名無しさん@ピンキー:2005/12/08(木) 23:05:35 ID:a3+Q+LDl
>>201天使様、いつも大変ゴッジョブ!!!
マスター生きてたよかった。・゚・(ノД`)・゚・。
あとこれだけ沢山喋るクリスティーヌは初めて読んだような気がする
お互い惹かれ合いながら、けじめを付ける為に別れる二人
オトナだ…
しかしこの先も続くのか、一体どうなるんだ
ただ首を長くして待つのみ…次はエチー有りかな(;´Д`)ハァハァ

にしてもパリ市内の描写がすごく細密で驚いた
いつかSSに出てきた場所巡りツアーをしてみたくなったw
210名無しさん@ピンキー:2005/12/08(木) 23:12:48 ID:/KrMLJID
どん底から這い上がってもまだ幸せには遠いのか………
気持ちが通じたふたりの穏やかさが余計に切ない
ここからどんな方向に続いてくのか気になって堪らない

なんかもう>200天使様、言葉にならんがとにかくGJ!
211名無しさん@ピンキー:2005/12/08(木) 23:12:53 ID:Z+M7CzQO
>200
言葉が出ないくらいGJ……
このシリーズはいつも泣けてくるけど、今回はもう堪りません!
愛し合っているのに別れる二人、切なすぎます!
続き、という文字に期待したい。期待させて下さい!
これ以上マスターを孤独にしないで〜!
212名無しさん@ピンキー:2005/12/08(木) 23:16:37 ID:pqSKc/iw
展開や台詞はもちろん、リアルで美しい情景にも浸って
マスターの感情が胸に迫る…。
レースや建築が出てきたのもつぼでした。
最後の行が「続く」でホッとし、嬉しいです。
213名無しさん@ピンキー:2005/12/09(金) 02:29:39 ID:E6TbAZQB
前回焦がれ死にしそうになりその後マスターは(肉体的に)回復しましたが、
自分は今も尚焦がれ死に寸前であります。
とにかくグッジョブ天使さm




214名無しさん@ピンキー:2005/12/09(金) 09:00:10 ID:kR9pc44j
>201
天使さま、GJ!
涙をふきながら読んだ(ノД`)
マスターに幸せになってもらいたい。
続きがハッピーエンドに向かってるといいな。
切なくて身悶えております。

215名無しさん@ピンキー:2005/12/09(金) 09:54:03 ID:NxHK3kYY
>200
続くのか…!
外を穏やかに散歩が切ない…
今より悪くはならないだろうけど、
マスターが幸せになるといいなぁ
216名無しさん@ピンキー:2005/12/09(金) 12:19:36 ID:xvC8WNMS
ここで終わらなくてとっても良かったような
続きが気になって死にそうなような

どうかラストは鼻血が出てしまうくらい甘々で
悶え死ぬくらいハッピーになりますよーにw
217名無しさん@ピンキー:2005/12/09(金) 21:05:56 ID:Aw2VFlkX
>201です。
レスして下さった方々、どうもありがとうございました。
今回は自分にとって初の「エロ無し」だったので、ちょっとおっかな
びっくりでしたが、こんなにレスをもらえて嬉しかったです。

次回が最終話の予定です。
218名無しさん@ピンキー:2005/12/09(金) 22:54:31 ID:l8DZI3rO
>>201
天使様、本当に本当にありがとう。
あなたの作品(他のもすべて)に出会えて幸せです。
次回が最終回とのことですが、読みたいけど読みたくない!
…という葛藤に悶えてますw
219124:2005/12/10(土) 10:27:38 ID:4vzjHrAN
129からの続き
ヌルい鬼畜、一応クリス鬼
前回は前半的なこと入れるの忘れてブッた切ったり、
何かもう色々スマン…今は反省している。
2201/6:2005/12/10(土) 10:28:00 ID:4vzjHrAN
すっかりと肌蹴させた男の胸に跨る。
荒い鼓動が密着した内腿に、下腹に、重い振動となって伝わる。
クリスティーヌは頭を沈めると、喉の傷を舌で擽った。
口の中に広がる錆の味。
閉じられた目蓋がひくりと動くのを見て、そっと呼びかける。
「…天使さま…」
開かれた瞳は暫く中を彷徨い、やがてクリスティーヌの顔で焦点を結んだ。
「気持ちよかったって、おっしゃって」
深く座りなおす。裾に入ったスリットが大きく割れて、
微かに頭をもたげた男の視線がその奥へ吸い寄せられた。
「気持ちよくて…打たれて縛られたまま2度も果てたって、ね?」
「…ち…がう…!」
掠れた声。ファントムは頭を左右に振り、身を捩る。

「違う?」
クリスティーヌは目を細めた。
顔を近づけ、ファントムの顎を捕らえる。
「ではアレは…私を汚したものは、何だったの?」
「…!く…!」
耳を打つ低い声。きりと肉にくい込む爪。ファントムは痛みに顔を仰け反らせた。
「…ああ、ごめんなさい、マスター」
細い指が解かれ、優しい声と甘い息が頬を撫でる。
「まだ…満足して頂けてないって、そうおっしゃってるのね」
「クリス、ティーヌ…!」
体を持ち上げようとした為、繋がれた鏡台が大きく揺れた。
上に乗った小瓶が倒れ、次々と床に落ち、砕ける。
続けざまにあがる物音に、2人の動きがぴたりと止まる。
静まり返った空間に、不規則な男の呼吸だけが響いた。

「…あら、もう皆帰ってしまったのかしら」
誰かがやってくる気配はない。
クリスティーヌはちらりと短くなった蝋燭に視線を走らせた。
「よかった。これでいくらでもお声を聞かせて頂けるわ
…今まで我慢させてごめんなさい。」
男の唇を指で辿りながら、自らの唇を舐める。
2212/6:2005/12/10(土) 10:28:49 ID:4vzjHrAN
胸元を留めるリボンに細い指を絡める。すいと引くとあっけなくそれは解けた。
優雅な動作で部屋着の肩を落とし、腕を抜く。
ほっそりした上腕を、褐色の巻毛が蛇のように滑る。
コルセットを取り去り上半身をを露わにすると、クリスティーヌは自らの身体に視線を落とした。
なだらかな曲線、淡い色の先端に感じる男の目。
くすくすと笑うのにあわせ、柔らかな乳房の影が男の腹で揺れた。
「…触れたい?」
少女めいた表情は拭い去られ、替わりに嘲るような笑みが浮かぶ。
両手で男の頬を挟むと、自分の胸元に押し付けた。
乾いた唇の感触が、柔らかい膨らみの上を這う。
「ん…」
やがて、そこを湿った熱い舌が貪り始めるのを感じ、
クリスティーヌは溜息を漏らした。
男の手を縛めるストールが軋む。
黒い皮手袋の指が、何かを求めるように蠢いている。
「…まだそれは、解いてはさしあげられないわ」
身体を起こしながら呟く。触れなくても分かっていた。
男の一部が再び力を持ち始めていることは。

腰を浮かし、下着をずらし、男の腰のほうへ移動する。
「うう…!」
手を添えただけで、それはまた硬く立ち上がった。
先端を身体の中心にあてがうと、じわりと腰を落とす。
既に溢れていた蜜が、水音を立て、呑みこむのを助ける。
やがて総てが自分の中に納まったのを確認して、
クリスティーヌは上体を倒すとファントムの胸に手をついた。
茫洋とした瞳を見詰めながら、ゆっくりと腰を回す。
「…止めろ…止め…」
苦しげな声が、クリスティーヌの背筋を撫で上げる。
「ん…くぅ…」
心地よさに小鳥のような鳴き声を上げながら、頭を反らす。
下腹をファントムのそれに擦りつける度、自分の中が蠢くのが分かる。
そして、包み込み絞り上げているものが、徐々に硬さを増していることも。
2223/6:2005/12/10(土) 10:29:11 ID:4vzjHrAN
「やぁ…っ、んん!」
ふいに起こった下からの揺すり上げるような動きに、
クリスティーヌは思わず悲鳴のような嬌声をあげた。
肩越しに視線を遣ると、投げ出されていた脚は膝を立て、床を蹴りつけている。
「ふふ…どう…なさったの?止めろって、おっしゃったのに」
動きを止め、突き上げられるままに身体を弾ませる。
「ご自分で、動いてらっしゃるのね」
クリスティーヌは声を立てて笑った。
「気持ちいいの?止められないの?」
首の下に腕を差し入れ、抱き起こすようにこちらを向かせる。

男はうっすらと目を開けていた。
淡い宝石のような色の瞳は、
今味わっている感覚に塗り潰されながらも、底に暗い光を宿す。
覗き込むとそこには、まるで同じ目をした自分が写っていた。
「クリスティーヌ…クリス…ティーヌ…」
荒い息の下で切れ切れに自分の名を呼ぶ男の、醜く崩れた頬に舌を這わせる。
盛り上がった肉に添って、引きつったこめかみまで。
唇で強く吸うたび、男の腰は大きく反った。
「ああ、ア…」
悲鳴にも似た声を上げ、肘を床に落としてファントムの肩に額をつける。
豊かな髪は背から零れ、動きに合わせ男の胸を掠める。
揺すり上げる動きに合わせて自らも動きながら、波打つ筋肉に2度3度と歯を立てる。
その度に捻れ、引き攣れた唇は悦びの呻きを漏らした。

「痛いのも、随分と、お好き…なのね?」
一度つけた歯の跡に再び噛み付く。血の匂い。
「クリスティーヌ!あ…あああぁ!」
獣のような声とともに、男の身体ががくがくと揺れる。
繋がっている部分から全身に広がってゆく波に、全身を委ねる。
自分の中で熱い塊が弾けるのを感じ、クリスティーヌもまた、頭を仰け反らせた。
白くなりゆく意識の隅で、少女はやはり獣のような自分の声が
男のそれと重なるのを聞いていた。
2234/6:2005/12/10(土) 10:30:15 ID:LZhHpJ07
先程脱いだガウンで身体を拭うと、クリスティーヌはゆるゆると立ち上がった。
別の部屋着を羽織り、男の両手からストールを解く。
袖を少し捲ってみると赤く擦れた跡がついていた。
ストールは柔らかい素材だったが、酷く引っ張った所為だろう。
皮手袋をつけたままの掌を握り、縛めの跡を舐め上げる。
「う…」
低い声とともに、男の目が開いた。
ぼんやりと天井を見上げ、ついで顔を横に向けると微笑むクリスティーヌを見つめる。

次の瞬間ファントムは弾けるように身体を起こした。
クリスティーヌを見上げ、吠えるように叫ぶ。
「売女…!悪魔の手先!淫乱な毒蛇め…!」
「その売女で悪魔の手先の小娘に嬲られて、あんなに悦んでいらしたのに」
クリスティーヌは立ち上がるとその様子を見下ろしながら、小さく笑った。
「…黙れ!」
「詰られて、…」
肩口についた、血の滲む歯型を眺める。
「痛みを与えられて、嬉しそうに鳴いて、何度も…」
「黙れッ!!」
「治った頃そこに、また違う跡をつけてさしあげたいわ。
杖がお好み?鞭がよろしい?それとも…」
細い肩口を大きな手が掴む。そのまま音を立てて壁に押し付けると、
ファントムはクリスティーヌの喉に両手を掛けた。

「黙れ…!」
怒りに震える声、血走った瞳。
「…それとも、天使さま」
場にそぐわぬ呼びかけに、男の手が一瞬緩む。
「キスして欲しい?」
白い頚に黒い指を巻きつけられたまま、細い指をファントムの顎に滑らせる。
顎から頬へ、そして強張った唇へ。
「ラウルにしたように」
その名を聞いて、男の指に力が戻った。
静かな声が、頬を歪ませる男に囁きかける。
「あなたなら、私の首を折ってしまうことも出来るのでしょうね」
2245/6:2005/12/10(土) 10:30:35 ID:LZhHpJ07
声に誘われるように手に力が篭る。指は蛇のようにゆっくりと、確実に息を奪ってゆく。
クリスティーヌは瞳を閉じた。唇を薄く開くが、もう声を発することは出来ない。
なぜ抗わない?なぜ助けを求めない?
ファントムは混乱のままに指に力を加え続ける。
細い身体から、少しずつ力が抜けてゆく。
掌に感じる脈が、重く、速くなる。
頬に熱病のような赤みが現れ、対照的に唇が色を失ってゆく。
何故止めろといわない?
「…何故じっとしている…」
何の表情も浮かんでいなかったクリスティーヌの眉根が少し寄せられた。
「抗え…さっきのように脅してみろ…!」
低い、唸るような声に、伏せられた睫が震える。
「離せと叫べ!許しを乞え!止めろと…言ってくれ…!」
男の掠れた叫びに、瞳を開いた少女は静かに笑みを浮かべた。

瘧に罹ったように、ファントムの全身が震える。
細い首を掴んでいた指がぎこちなく開き、支えを失った細い身体は床に崩れ落ちる。
座り込み激しく咳き込むクリスティーヌを
どこか焦点の合わぬ目に写しながら、ファントムはがくりと膝を折った。
クリスティーヌの足元に蹲り、部屋着の裾を両手で握り締め、
白く柔らかいレースを頬に押し当てて何事か呟く。
苦しい息を整えつつも、クリスティーヌはその唇の動きを見逃さなかった。
「…お母様?」
「…!」
丸められた広い背がびくりと強張る。
「お母様は…どうなさったの?」
目の端を投げ捨てられた白い仮面が掠め、ファントムは怯えたように顔を背けた。
「…死んだ…最後まで、私を、憎み…罵り、酷い言葉を投げつけながら…」
「お母様はあなたに何とおっしゃったの?」
「呪われた、子…私の子じゃない…」
両手で顔を覆う。
「誰もお前なんか愛さない、生まれてこなければ良かったのに…死んでしまえ…」
震える肩にクリスティーヌは掌を乗せた。
2256/6:2005/12/10(土) 10:30:56 ID:LZhHpJ07
「見世物小屋に売られ…見世物に…皆が私を見て、顔を顰め、
唾を吐きかけ、石を投げつけ…"悪魔の子!!"」
搾り出すように叫び、蹲った男をクリスティーヌはそっと抱き寄せる。
耳元に吹き込むように囁く。
「キスして欲しい?」
驚いてあげた顔を、少女の指が擽るように辿った。
「額や唇や…こちら側にも、首にも…」
手はゆっくり下へ降りてゆく。
「ここにも、ここにも…もっと他のところにも」
頬を両手で挟み覗き込む。
右手に感じるものとは違う、左手の硬い感触。
さっき見たのと同じ瞳の暗い輝きが、クリスティーヌの唇を緩ませた。
「してほしいなら、お願いの仕方があるわ。…マスターはもうお分かりね?」
すっと立ち上がり、表情を消す。じわりと片足を前に出す。
見上げる男の揺れる瞳をじっと見つめると、やがて男は顔を俯けた。

「愛してくれ、クリスティーヌ…」
震える手が恭しく部屋着の裾を持ち上げる。
現れた小さな足の、その甲に、ファントムは唇で触れた。
「私を、愛してくれ…愛して…」
細い脹脛に縋り、低く繰り返す。
「マスター…」
クリスティーヌは膝をつく。
ファントムの頭を抱き起こすように抱え、さらりとした髪に頬を寄せた。
「触れてあげる…愛してあげる、私のやり方で。
大丈夫、あなたにもきっと気に入って頂けるわ…さっきのように」
腕の中の身体から力が抜ける。
「あなたは私のもの…」
怪人を胸に抱く少女はうっとりと微笑を浮かべる。
そして男の唇も、あるいは燃えつきかけた蝋燭の
最後の瞬きがみせた影かもしれないが、小さく笑みを刻んでいた。
226名無しさん@ピンキー:2005/12/10(土) 11:57:31 ID:HZBRYIJ8
昼だが

はぁぁぁぁぁ(´Д`;)
すげぇ、いいよ。マジで、萌えた。
>>219の小悪魔クリスとMモードな怪人最高だった。
愛ある鬼畜、いい。GJだ!
227名無しさん@ピンキー:2005/12/10(土) 12:21:18 ID:FDTDGO8l
す、すげえ!
携帯から読んでこれほど萌えるとは
すんげえGJ!!!!!
228名無しさん@ピンキー:2005/12/10(土) 16:46:21 ID:8erhhNKA
GJ!
いやさ、自分はマスターはSモードが基本だが、
>226がいう通り、Mモードのマスターもイイ!

つか、プライド高くて屈折してて、だけど
マスターって意外にMっぽいような気がする。
229名無しさん@ピンキー:2005/12/10(土) 23:55:47 ID:MJK4wBTe
鬼畜ものは実はちと苦手だったんだが、貴方のは最高!良かったよ。
最後ホロッときたよ、そうかマスターは受けも結構いけるんだな…
今日はGJなSS読めたし四季観たし最高
230名無しさん@ピンキー:2005/12/11(日) 19:34:49 ID:ofUdx3k2
>219
鬼畜GJ!女王様クリス(*´Д`)ハァハァ
マスターって引き篭もってた分、触られると弱いとオモ。萌えた、
231名無しさん@ピンキー:2005/12/11(日) 20:24:52 ID:75yT41oy
>>219
心の底から、GJです…
最後まで息を詰めて読み切りました
クリスの荒療治のような行為で曝け出されるマスターの素顔
最後に二人はお互いを手に入れたのだなと
その絆に言葉も出ないぐらい萌えさせていただきました、ありがとう

ほんと、マスターって図体でかいのに意外とM属性があ(ry
232名無しさん@ピンキー:2005/12/11(日) 21:47:40 ID:+WA2No4R
豚切りですまんが、
3幕の方に忘年会の告知が出てます。
興味のある人は行ってみてー。
233名無しさん@ピンキー:2005/12/12(月) 11:50:44 ID:qgcRqSKk
過疎ってさみしいぞ
234名無しさん@ピンキー:2005/12/12(月) 13:03:04 ID:jJRKNN9C
嵐の前の静けさ…(´Д`)
235名無しさん@ピンキー:2005/12/12(月) 13:37:34 ID:3cdPjusJ
クリスマスに絡めて書いてるけど進まん・・・。
書き上がったころにはクリスマス終わって新年かもorz
236名無しさん@ピンキー:2005/12/12(月) 17:09:02 ID:V7FZLu88
今晩か明日の夜には、おそらくは・・・・・
内容的にウケなそうだがorz
237名無しさん@ピンキー:2005/12/12(月) 17:59:38 ID:m8Dr/HHE
自分でも書いてみて分かったけど、けっこう大変なんだよね。
あまり職人さん達をせっついてはアカンのだと、身にしみて感じた。
236さん、そんなことを心配せずに、ぜひ投下してください。
待ってますから。
235さんも、クリスマス過ぎても問題ナッシング!
238名無しさん@ピンキー:2005/12/12(月) 18:17:46 ID:m8Dr/HHE
雑談続けてもいい?
職人さんたちに聞きたいのだが、書く際に何かBGM流してる?
自分は無理矢理にでもムード盛り上げないと書けない。orz
で、書き上がった後にBGMなしで読み返すと、ただ自己陶酔してた
だけだったと……orz
239名無しさん@ピンキー:2005/12/12(月) 20:55:04 ID:7gA44ghv
>238
自分はショパンの夜想曲とかクラシックの歌入ってないやつか無音。
歌詞があるとそっちに集中するから…。
歌ありは聴いても教会音楽ぐらいだ。
240名無しさん@ピンキー:2005/12/12(月) 22:02:53 ID:U/IkDwpl
>238
書くものによって違うけど、最初の下書きっぽいところまでは
映画のサントラか「Phantasia Suite」。
その後は無音。ひたすら先生になりきり、先生の声を頭のなかで
反芻しながら音読しつつ書く。めちゃ浸れる。←自分キモス OTL
241名無しさん@ピンキー:2005/12/12(月) 22:23:15 ID:CJ12+zKg
>238
自己陶酔してないと書けない、自分も。
曲は一切聴かないけど、話の中にある物を一つ身近に置いて書くことがある
酒とか、宝石とか
後は、映画と同時代の絵画や彫刻の本見てるときが多い
読み返して…どころか、書いてる途中でも恥ずかしい時なんて毎度の事で
それを投下してる厚かましいやつだよ
238の、気が向いたらぜひ読ませておくんなさい
242238:2005/12/13(火) 01:32:48 ID:gP6peKqu
239〜241さん、お答え、ありがとう。
241さん、1つ投下して、2つ目に呻吟しているところです。
皆さんの答えを参考にして、なんとか頑張ってみます。
激励、メルシー。
243忘年会:2005/12/13(火) 23:15:09 ID:PbkK/OLg
三幕にも書き込みましたがこちらにも


忘年会開催候補日
18日、23日、24日、30日

開催候補地
池袋、新宿、渋谷


参加希望の方は下のテンプレを埋めて目欄の捨てアドまでメールして下さい。
参加表明〆切りは15日の13時まで延長します。


HN…
参加可能日…
参加可能場所…
希望予算…

語らいたい方、是非メール下さい。
244名無しさん@ピンキー:2005/12/14(水) 03:57:00 ID:Gxjh24um
せっかく忘年会の告知してるのに・・・、
間の悪いときにすまぬ。
禿しくつたないが、投下させてください。

スペックは以下。

○ファントム×クリス
○ラウルがオペラ座にやってきたのは、
♪「think of〜」の数日前です。で、その日の話。
○クリスは子供の頃から、地下でファントムと歌のレッスンしていた。
○クリスの着ている服は、ゴメン、
部屋着=ブラウスにスカート、ということで勘弁を。
○エロ度、激薄。むしろ、マニア気味・・・orz

オイオイ・・・(怒)の方、どうかスルーで。
そして、本当にごめんなさい。
245地下でのレッスン:2005/12/14(水) 04:01:43 ID:Gxjh24um
強いオルガンの音が、クリスティーヌの歌声を遮った。
激しく荒いその音には、怒りが含まれていることを感じたのだろう。
叱られる。
クリスティーヌはとっさに身を固くし、怯えるように私の様子を伺った。
だが、私の右側に立つクリスティーヌにとって、感情を読みとることが
できない私の白い仮面の横顔はなおいっそう恐ろしくみえるだけに
ちがいない。
「あ、あの・・・マス、タ・・・・・・」
震える声でクリスティーヌが尋ねる。
しかし、その声をまたも遮るかのように、私はオルガンの椅子から
ガタンと立ち上がり、乱暴に楽譜をまとめると、オルガンの上にバサリと
投げつける様に置いた。
にわかにおこったその風で、オルガンの上にある数本の蝋燭の明かりが
一瞬強く揺れる。
私はその蝋燭の明かりを見つめながら、言った。

「支度を、しなさい。クリスティーヌ。」

クリスティーヌにとって、この私の低い声音は、
明らかに“宣告”なのだった。
246地下でのレッスン:2005/12/14(水) 04:05:08 ID:Gxjh24um
私は、オルガンから少し離れたところで両手を組み、
クリスティーヌの様子をじっと見据えた。
彼女は、なにか懇願するかのように、一、二度私を振り返ったが、
私の怒りを含んだ冷たい表情に、絶望感を煽られるばかりなのであろう、
彼女の表情にはいっそうの恐怖の色が伺えた。

オルガンの前にクリスティーヌがそっと立つ。
彼女の細い後ろ姿は蝋燭の明かりのせいなのか、いっそう頼りなげにみえ、
そして余計に美しい。
私は、彼女の体の上から下まで視線を滑らせる。
豊かなカールした長い髪は、
彼女の華奢な体を包む薄手のブラウスの白色に柔らかく映える。
そして、そのブラウスの白さがくすんで見えてしまうほど、
彼女の無防備な顕わにされた下半身はなお白く、まるで真珠のようだった。
細い腰から続くふっくらと丸みを帯びた白い尻は、
恥じらうように微かに震える。
柔らかく肉のついた太股、ほっそりとした脹ら脛、細い細い足首。
クリスティーヌのまるで彫刻の様な体に、私は目眩すら覚える。
上半身は衣服を身に纏い、裸の下半身を男の前に晒す。
その不自然で淫らな姿が、いっそう私の目を楽しませた。
そう、これは紛れもなく視姦なのであろう。
その様子は、まるで悪魔に捧げられる生け贄の少女のそれを思わせる。
私は、無意識に皮肉を含めて笑んだ。
クリスティーヌの密やかな息が聞こえた。
247地下でのレッスン:2005/12/14(水) 04:13:40 ID:Gxjh24um
私は組んだ腕をほどき、数歩歩くとクリスティーヌの背後へと立った。
すぐ後ろに感じるその気配に、クリスティーヌは体が震えるのを
止めることができない。
私は、彼女の表情を確かめるべく、少しだけ顔をずらしのぞき込んだ。
みると、彼女の瞳はあちこちに動き、瞼は幾度も瞬きを繰り返す。
ふと震える右手を唇へもっていき、左手をそっとその上に添えると、
「ほぅっ」と微かな息を吐いた。

私は、ふいに彼女の腰に両手を添えた。
そのまま、彼女の細い体に沿って上へ上へと手を滑らせていく。
ゆっくりとしたその動きは、かえって羞恥心を煽り、
クリスティーヌの息が速度を上げる。
体を滑る手は、彼女のふっくらとした胸をかすめ、脇の窪みを通ると、
それぞれの上腕にたどり着く。
自然と口元からはずされたクリスティーヌの掌は、力なく微かにぴくり
と動いた。
下からクリスティーヌの両の上腕をそっと掴む。
ゆっくりと持ち上げながら、私はさらに手を移動させる。
華奢な両肘を通り、やがて手首に到着すると私は
少し力を入れて彼女の細いそれを握った。
脈が、速く感じられる。
私は、またクリスティーヌの表情を見る。
寄せられた眉、潤む瞳には、これからされることへの戸惑いと恐れの色が
あらわれていた。
私はそのまま彼女の両手首をもったまま、先ほど楽譜を置いたオルガンの
上へと導いた。
そして、そっと彼女の背中に手を添えると、そのままオルガンの
方へと倒す。
オルガンに両腕をつき、そこに頭も乗せ、突っ伏すような体制にさせると、
クリスティーヌは自然と尻を突き出す格好となった。
もはや完全に抗うことができないクリスティーヌは、時折「ああ」と
微かな声をあげ、身を震わせるばかりで、そのことが私に皮肉めいた
笑みをもたらすのだった。
248地下でのレッスン:2005/12/14(水) 04:18:54 ID:Gxjh24um
クリスティーヌの突き出されたまっ白な尻の丸みに右手でそっと触れる。
指先で、まるで羽毛で梳くかのように撫でる。
彼女の体と意識に、これから始まる罰への覚悟を促すのだ。
私の指先の感触に、クリスティーヌは戸惑い小さく尻を震した。
ひとしきり撫でてやり、私はその手を離す。
そして、私はクリスティーヌの耳元へ顔を近づけ「耐えるのだぞ?」と
囁くと、クリスティーヌは微かに頷いた。

私は、右手に鞭を掴んだ。
それを、彼女の尻にそっとあてがう。
クリスティーヌは、鞭のピンと張ったしなやかな皮の感触に、
その絶望的な感触に、もはやいっさいの抵抗は無駄なのだと
あらためて思い知る。
私は鞭の柄をもった手にぐっと力が加えると、
すっと振り上げ、一気に振り下ろした。

パシィンッ!!
「は、ぁぁっ・・・」

非情な音と少女の高い声が、岩肌の壁に響く。
それは、これから彼女が受ける責めの儀式の
始まりの合図であるかのようだ。
少女の声はせつなげで、あまりにも哀れだった。

パシッ!!パシッ!!ビシッ!!
しなやかな鞭が容赦なくクリスティーヌの柔らかな肌を苦しめる。
そのたびにあがるクリスティーヌの小さな悲鳴が、
なぜだか私を興奮させた。
みるみる赤みを帯びていく白い尻を、クリステ
ィーヌは痛みを紛らわすかのように振り立てる。
その動きは、さらに私を満足させるのだ。

鞭の痛みに必死で耐える彼女を見ながら、私はふと思い出していた。
彼女が今よりもっと幼い頃、やはりここで歌のレッスンをしていた時の
ことである。
たった一度、彼女はレッスンはいやだと、歌うのはもうやめるのだ、
と駄々をこねたことがある。
その日、たまたま寝起きを共にしている少女同士で小さなもめ事でも
あったのか、あるいはこの舞台という、明日のことなどわからない、
不安定な芸術の世界で生きていくことへの不安を感じてのことだった
のか・・・、彼女はただ泣きじゃくり頑なにレッスンを拒んだのだ。
だが、私は彼女の訴えを受け入れず、嫌がる彼女を捕まえ自分の膝の上に
乗せると、その尻を打った。私の掌で覆うことができそうな程の小さな
彼女の尻を激しく打ちながら、彼女が感じる痛みを、己の掌にも感じた。
249地下でのレッスン:2005/12/14(水) 04:29:41 ID:Gxjh24um
小さな少女はいま、すっかり美しい年頃の娘となった。
その仕草や表情小さな子供の面影を残してはいるが、まぎれもなく女性の
色香を讃えた娘となった。
その彼女は、師である私の前で自ら下半身を晒し、幼い女の子のように
尻に罰を与えられている。それもあの時のように、厳しく暖かい掌では
なく、鞭で打たれているのだ。
この状況が、彼女の羞恥心を煽らないはずがなかった。
クリスティーヌがすすり泣く。

「クリスティーヌ、尻が痛むか。」
「・・・っ・・・・・」
「お前はなぜ尻を打たれているのだ?そのような恥ずかしい姿を晒し、
まるで小さな女の子のように。」
少し体を屈め、クリスティーヌの肩を両手で押さえ、彼女の耳元に囁くよう
に言葉を投げかけると、彼女は涙をこぼし、私に許しを請うような瞳を向
け、口を開く。
「わ、わたしが、
レッスンに・・・、集中しない、から、だから・・・・・・」
「ああ、そうだね。お前は自らの罪を償っているのだね。」
改めて自分の置かれている状況を明確にさせると、クリスティーヌの表情は
いっそう哀れなものになる。

「ところで、今日オペラ座は新たな二名の支配人とパトロンを迎えた。パ
トロンは確か・・・、ラウル・ド・シャニュイ子爵、といったか・・・」
クリスティーヌの表情をちらとみる。
「あ・・・ラウル・・・」
そう呟き、僅かに安堵の表情をもらす彼女に、私は、自分の表情が
ぴくりとこわばるのを感じた。
「そう、彼だ。
・・・時に、愚かな人間は過去のあるものや状況に過剰な郷愁を感じその思い
にしばし耽るわけだが・・・、そうして貴重である時間というものを無駄に
するわけだが、クリスティーヌ、お前にはそのようなことはあるまい?」
「あ、あの・・・」
「クリスティーヌ?」
「ああ、マスター。でも、違うんです。けしてラウルのことを考えて、レッ
スンに集中できないわけではないのです。ああ、本当に、本当なのです!」
身を起こそうとするクリスティーヌの肩をぐっと押さえつける。
なおも耳元へ囁きかけた。
「さて、クリスティーヌ。まだ、罰は終わってはいないが・・・、あといくつ
鞭が必要かね?お前が決めなさい。お前を愚かな郷愁に浸らせ、
歌のレッスンの妨げともなる人間を忘れるためには、あと鞭はいくつだ?
いえ!?」
ああ、自分は重大な過ちを犯してしまったのだ、
とでもいうように、クリスティーヌのその表情は絶望に満ちていた。
悪いのは、このわが身。
「マスターに・・・・・・、従います。」

パシィッ!

私は再び鞭でクリスティーヌを打ち据えた。

ラウル・ド・シャニュイ。

なぜだか私を不安にさせる男の存在。
私の前から、何か大切なものを奪っていきそうな、そんな気持ちを抱かせる。
それをかき消すかのように、私はただ夢中でクリスティーヌに罰を
あたえ続けていた。
250地下でのレッスン:2005/12/14(水) 04:36:39 ID:Gxjh24um
パシィンッ!!

一際大きな鞭の音が響き、クリスティーヌの啜り泣く声がはっきりとした泣き声に
かわり、私はようやく彼女への責めを終えた。

クリスティーヌはぐったりとオルガンの上にうなだれ、うっすらと涙を流し、
苦しそうに呼吸をする。唾液によって微かに濡れた彼女の口元がどこか淫らで、
私はなぜだかさらなる罰を与えてみたい感情が沸き起こった。
自分の罪を償うために必死で受けた罰、その代償として、彼女の尻は
赤く腫れあがり、いくつかの鞭の傷跡が痛々しく残っている。

私は、手にしている鞭を投げ捨てると、その場に膝をついた。
つと両手を伸ばす。

「ひぃっ・・・!」
突然の感触に、クリスティーヌはとっさに体を起こそうとする。
「しぃっ!いい子だ、クリスティーヌ、いい子だ。」
私はなだめながら、クリスティーヌの腫れあがった尻にそっと両手をおいた。
先ほどの低い声音とは異なり、幾分優しさを含んだ私の声に、クリスティーヌは
安心したのかおとなしくなる。
なにより、自分の尻におかれた私の大きな手が尻全体を包み込むように、熱っぽい
肌にひやりと感じられ、心地よいのだろう。
私は視線を、クリスティーヌの赤く腫れたやわらかいその肌へ注ぐ。
いくつも残る罰の痕を確かめるように見つめながら、私はその痛ましさに
だんだんと眉をひそめた。
そして中指で、傷の一つに触れる。
「・・・・・っつ!」
ひりとしたあらたな感覚にクリスティーヌの体が跳ね、後ろを振り返る。
クリスティーヌの視線が、見上げる私の視線に絡まった。
何も言わず、お互いしばし見つめ合う。
やがて私は、彼女と視線を絡めたまま、指をおいた傷にそっと唇を寄せ、
ふぅっとやさしく息を吹きかけた。
「はぁっ・・・」
行き場を失ったかのように、思わず体をオルガンの上に戻し、頭をのけぞらせる
クリスティーヌの様子を見てから、私はさらに唇をよせ、その傷痕に口づけた。
251地下でのレッスン:2005/12/14(水) 04:42:42 ID:Gxjh24um
「あ、っん・・・!」
とまどうようにクリスティーヌが声をあげる。
私はクリスティーヌの様子を窺うと、また別の傷へと指を移動させた。
クリスティーヌの尻が、無意識に振り立てられる。
「かわいそうに、ここも痛むのだな。」
「あ・・・・・。」
息を吹きかけ、また口づける。
「クリスティーヌ、お前はまもなくこのオペラ座で歌姫となるだろう。それが
お前の運命なのだ。いいかね、クリスティーヌ。お前は歌のことだけを
考えるのだ。そうすれば、このような、傷は受けずにすむのだよ?」
「はぅ・・・あ、はい。マスタぁー・・・」
傷跡と同じ数だけ、指先でそっと慰め、口づけを与える。

そうして、クリスティーヌの傷を癒すように、彼女の尻に口付けを与えていると、
私は、彼女の足元の床に落ちる、透明な液体に気がついた。
それは、まぎれもなく彼女の体から溢れる淫らな蜜だった。
私はゆっくりと尻肉の間に手を持っていき、そっと触れる。
びくんと体を震わすクリスティーヌを見上げ、密やかに彼女に話しかける。
その声は、彼女の耳に多少淫らな響きを与えたかもしれなかった。

「クリスティーヌ、ここも痛むかね?」
「あ、あの・・」
「ここは?」
指先で、その部分を撫でるように動かすと、
「ん、あぁ、そこ・・・・も・・・」
消え入りそうな声で、クリスティーヌが答えた。
私は彼女のその部分から一度指先を離すと、赤い尻に手を添え、軽く押しひろげた。
そして、その部分にぐっと顔を近づけると、唇をそっと寄せ押しあてる。
私は、彼女のその部分の溢れるほどの蜜を思い切り啜ってやった。
「・・・あぁ!や・・・・・」
クリスティーヌがますます尻を所在なげに動かす。
私は、蜜を啜りながら問いかける。
「クリスティーヌ、お前にはまた罰が、必要なのかね?」
「そ、そんな・・・・・あぁ・・・」
わき上がる感覚にクリスティーヌは必死に堪える。
だが、彼女のその部分を、舌に力をいれて舐めてやると、クリスティーヌは
小さく悲鳴を上げるようにいった。
「ああ、マスター、どうか罰を、お与えくださ、い。私が、すばらしい声で
歌えるように。いつの日かあなたの歌姫になれるように。
どうか・・・、罰を・・・・・。」
私は、口の端を引き上げ、すっと目を細め、彼女をみつめた。
252地下でのレッスン:2005/12/14(水) 04:44:11 ID:Gxjh24um
クリスティーヌ、お前は間もなくこのオペラ座で唯一無二の歌姫となる。
人々の心を掴み、たくさんの賞賛を浴び、褒め称えられる、美しい天使。
私には確信があるのだ。
お前は、栄光の道を歩いていく。
お前は、お前にふさわしい光り輝く場所に身をおくことになるだろう。

そのために私は、お前を導くのだ。


253名無しさん@ピンキー:2005/12/14(水) 04:47:20 ID:Gxjh24um
無駄に長くてすいません。
まず、読んでくれる方は希だと思うのですが、ほんとにすみません。
それと、題、適当につけちまいましたが、既に使われている方がいらしたら
被ったことをお詫びします。
254名無しさん@ピンキー:2005/12/14(水) 13:51:46 ID:572VrHWg
>>253
尻の天使さまと呼ばせてくれw
闇の中の白い尻って卑猥でイイ。
255名無しさん@ピンキー:2005/12/14(水) 15:03:59 ID:gBfcdhoe
>253さま
うぐぐっGJです。
Mクリス、エロっぽい・・。
256名無しさん@ピンキー:2005/12/14(水) 20:21:21 ID:mh2QFLGT
密かに待っていたアイテムがついに
キタ━━━━━━━━━━!!!!!!
天使様ありがとう!!!
257名無しさん@ピンキー:2005/12/14(水) 22:35:40 ID:406nLTtf
>253
うああ……! GJ!
なに、このエロさ!?

下半身のみ露出、白い尻、罰……、激しく悶えました。
258名無しさん@ピンキー:2005/12/14(水) 23:00:17 ID:rP/MiiVP
>>253エンジェル
GJ!(;゚∀゚)=3
ほの暗い地下には淫靡が良く似合う…
259紐編:2005/12/15(木) 19:16:07 ID:pDZOV263
短編につきこの後の投下はご遠慮なく

*ファントム×クリス
*すでに仲良く一緒にいる状態の、とある晩という設定
*エロ薄
260紐編:2005/12/15(木) 19:17:49 ID:pDZOV263
夜が更けてきた。
最近では夕食後にソファーでワインを楽しむのが二人の日課となっている。
ワイングラスを置いてクリスティーヌの身体に手を伸ばす。
「クリスティーヌ…もう酔ったのか?」
片手を彼女の膝に置き、片手を彼女の耳の下に差し入れた。
ほんのりと頬を染め、私を見上げる彼女の瞳が濡れている。
「だってマスターがすすめるんですもの…」

ワインの香りのする薔薇色の唇が誘っている。
その唇に吸い寄せられるように口づけし、膝に置いた手で寝衣の裾をたぐる。
「あ……マスター…」
すべすべした脚を撫でまわし、もう一方の手は首筋から胸元へと下ろしていく。
「あっ……あん…」
クリスティーヌが瞳を閉じて心地良さそうに首を伸ばす。
白い首筋がなまめかしい。
「そんな声を出して…私を誘っているのか…?」
「ちがう…ワインのせいよ…」

うっとりと答えるクリスティーヌをソファーに押し倒し、
裾から入れた手を腰まで撫で上げたところでふと気づく。
彼女がいつもと違う下着を着けている。
視線を彼女の腰に置いたまま裾を捲り上げる。
「あ! 灯りを消して……」
「いや、クリスティーヌ。よく見せてもらおう」

それは横の部分が細い紐で結ばれた小さな下着だった。
「ああ、おねがい…」
「クリスティーヌ…こんな下着をつけて……」
「いや…見ないで…」
クリスティーヌが両脚を捩り合わせている。
261紐編:2005/12/15(木) 19:19:30 ID:pDZOV263
華奢な紐で支えられただけの白い下着を目の前で撫で回しながら問う。
「街に出たというのは、こんなものを買うためだったのかね…?」
「ちがうわ…これを買いにいったわけじゃないわ……」
「紐1本で脱げてしまうような下着を、自分で選んできたのか…?」
「…メグがこれがいいってすすめるから…」

下着を覆い隠そうとする手をよけさせて、さらに撫でる。
「これを穿いて恋人に脱がせて貰えとすすめられたのかね?」
「ああマスター……ちがう…」
「ほらごらん、うっすらと翳が透けて見えている」
「あぁ! いや…!」
「いやじゃないだろう……さあ脚を開くんだ」
「ああっ…」
半ば強引に膝を開かせると、すでに布の中心部が濡れてしまっている。

「クリスティーヌ…こんな下着を…もうこんなに濡れさせて…」
「あぁ……見ちゃいや…」
「せっかくの新しい下着だ、見てもらいたいだろう…?
 それとも早く触って欲しいのか…?」
「あああ!!!」

下着の上から中心部を何度もこすり上げられ、クリスティーヌがのけぞる。
「クリスティーヌ、おまえがこんなにいやらしい娘だとは知らなかったよ…」
「ああ…マスター、ああぁ…」
「濡れ過ぎて、もうすっかり透けて見えてしまっているじゃないか…」
「いや、いや…」
「そんなに私にこうされたかったのか?」
「あ……マスター」
耳元での卑猥な囁きに、クリスティーヌが悶える。

「クリスティーヌ、それでは望みどおり私が脱がせてあげよう…」
下から彼女の瞳を見つめながら、そっと紐のはじを歯で噛む。
クリスティーヌも、半ば開いた唇をふるわせて私を見つめている。
視線を絡ませたまま、噛んだ紐を引き寄せた。

「ああ……ああぁ…」
紐がほどけ、秘められた場所が剥き出しになる。
開いた脚を閉じようとするのを押さえて、もう片方の紐も歯でほどく。
恥ずかしさに顔を覆うクリスティーヌの脚をさらに押し拡げ、
蜜をあふれさせたその部分に舌を這わせていった。
262紐編:2005/12/15(木) 19:28:52 ID:pDZOV263
以上。
行為前に終わってスマン。
263名無しさん@ピンキー:2005/12/15(木) 20:13:44 ID:AAculSSN
つ、続きを…
264名無しさん@ピンキー:2005/12/15(木) 20:21:23 ID:T/dowvXI
続き!続き━━━━(。A。)━(゚∀゚)━(。A。)━(゚∀゚)━(。A。)━━━━!!!!
265名無しさん@ピンキー:2005/12/15(木) 20:40:46 ID:7Ca2Xq0o
ぐはっ!生殺しじゃねーか(;´д`)
天使様…どうか続きを…
266名無しさん@ピンキー:2005/12/15(木) 20:50:27 ID:AiiyEPQp
脳内で思い描いていた妄想が具現化されてハァハァハァハァ…(*´o`)
メグと一緒に、裏通りの怪しい店で紐を購入するクリスを想像して超萌え。
それを歯で解いちゃうマスターに激萌え。

天使さまありがとうございます。
ハァハァが止まらんよ…
267名無しさん@ピンキー:2005/12/15(木) 22:04:16 ID:FvUjiTJA
ちょwwwwwww! 寸止めって……!
天使様、お願い、続きを……!
268紐編:2005/12/16(金) 21:39:02 ID:J1Rnjcy9
コメントくれた方ありがとうございます。

とりあえず続き1レス書いてみました。
それでも本番前…ゴメン。
269続・紐編:2005/12/16(金) 21:40:53 ID:J1Rnjcy9
「ああああ! あっ…あぁん……あん…」
クリスティーヌの腰を抱えて蜜を啜り、秘めやかな襞と突起を繰り返し舐め上げた。
甘いよがり声を上げて身をくねらせる彼女のその部分から、さらに蜜があふれ出してくる。
全てに淫らに反応するクリスティーヌが可愛くて、さらに彼女を攻めたくなる。

彼女の敏感な部分を指で撫でてやりながら、耳元に口を寄せる。
うぶなクリスティーヌの可愛い耳へ、低い声で卑猥な言葉を囁き続けるのは
我ながらあまり良い趣味だとは思えなかったが、
彼女が私の声だけでも達しそうなほどに乱れることを知っているので、
あのような下着を身に着けてきた今夜、クリスティーヌを言葉で攻めてみたかった。

「クリスティーヌ、おまえはここを舐められるのがそんなに好きなのかね?」
「ああいや…ちがうわ…」
「おまえはこうして擦られる方が好きだったかな?」
「ああぁ! …いや…いや…」
「ほら…ここをこんなに硬くして…」
「ああ! …マスター、…言わないで…」
「どうして? おまえが悦んでいる証拠じゃないか」
「…はず…か…しい…」
「おまえは恥ずかしいところを弄られるのが好きだろう?」
「あぁ…いや…」
「おまえはこうして恥ずかしいことを言われるのも好きだったな…」
「マスターの声を聞くと…あぁ…声がいけないのよ…」
「私の声を聞くとこんなに濡れてしまうのかね…?」
「あぁ…あぁ…いや! マスター…」
「いやじゃないだろう? クリスティーヌ。
 ほら…少し私に擦られただけで今にも逝きそうじゃないか」
「あぁ! あぁ! …もう…もう…だめ…!」
「ああクリスティーヌ……おまえはなんていけない娘なんだ…」
「あっ、あああああ!!!!!」

クリスティーヌは私の手を両脚ではさみ、白い身体をびくびくと震わせて達した。
270続・紐編:2005/12/16(金) 21:47:06 ID:J1Rnjcy9
引き続き他の方の投下をお待ちしています。
271名無しさん@ピンキー:2005/12/16(金) 22:27:27 ID:UmkRnObA
ううっエロい…セリフがエロい…!
気が向いたらまた続きを…
272253:2005/12/17(土) 00:00:55 ID:6U+//+1P
読んでくださった方、レスまでくださった方、ありがとうございました。
フクロにされるの覚悟だったんで、マジうれしかったす。

>270 ちょwwwwwエロいってばw!
てか、マスターの声がエロいな
273名無しさん@ピンキー:2005/12/17(土) 00:17:38 ID:jKnodQda
何ですか久々に来たら寸止めブームディスカー?俺の身が持たない。
天使様方GJ!超GJ!!でも続きキボン…

寸止めといえば木登りラウルの天使様は去られたのか?
寸止めの上放置プrうわなんry
274名無しさん@ピンキー:2005/12/17(土) 00:18:06 ID:3xxCAD2R
>>270
うああ……やばい
さらに生殺し。

なんとかしてくれ!
275名無しさん@ピンキー:2005/12/17(土) 01:31:48 ID:XxxIGkov
ちょwwwww、また寸止めっすか!
いや、マジで寸止めの天使様と呼ぶことにする!

セリフがエロすぎ……!!!
276忘年会:2005/12/17(土) 02:25:44 ID:gHOLneFH
生殺しの天使様続きを…ハァハァ


忘年会の日時が30日の7時からに決定したのですが
それなら行ける!という方はいらっしゃいますか?

追加募集を日曜の24時まで受け付けるので、よろしければメールください。
277名無しさん@ピンキー:2005/12/17(土) 13:52:49 ID:ySsk/s9y
新手の焦らしプレイ中失礼
エロ無し、ネタ。
墓地エンジェルと場所かぶっちゃっててごめんなさい
2781/3:2005/12/17(土) 13:53:32 ID:ySsk/s9y
冬枯れの、雪を頂く木立。ひっそり佇む墓石の群れ。
静謐たるべきその中に、今は時ならぬ金属音が響いている。
突如襲い掛かった男の剣を必死で受けながら、ラウルは叫んだ。
「もう止せファントム!彼女の気持ちが分からないのか?!
これ以上クリスティーヌを悲しませるのは止めろ!」
ファントムはマントを翻し、憎しみのままに鋭く打ち込む。
「この若僧が…!お前がクリスティーヌの何を知っているというのだ!」
「知っているさ、何もかも!僕たちは幼馴染なのだからね!」
ファントムは鼻を鳴らした。いくら幼馴染とはいえ、
我々が共に歩んだ日々はそう軽いものではない。
「…私はお前の知らないクリスティーヌを知っているぞ、シャニュイ」
不敵に呟くと、ファントムは飛び退った。
ぴたりと剣の切先をラウルに突きつける。
「クリスティーヌは…あの子は、13歳までニンジンが食べられなかった!」

猛然と打ち込まれる鋼の刃を、ラウルは自らの剣で受け止めた。
「それがどうした…僕は…彼女が3歳まで
…おねしょをしていたことを知っている…」
ぎぎ…と音を立てて刃と刃が擦れあう。
「しかも隠すため自分でシーツを洗おうと真冬の川に入り、
肺炎を起こしかけたんだ!」
一気にファントムを弾き飛ばす。
ファントムは体勢を立て直しながら唇を歪めた。
そのままラウルは剣を振りかぶり振り下ろす。
「その後薬を飲んだ振りをして、ベッドと壁の隙間に隠してたのがバレ、
ダーエ氏にこっぴどく叱られた!」
2792/3:2005/12/17(土) 13:54:18 ID:ySsk/s9y
「く…!」
何とか受け流したファントムは、憎しみに瞳をぎらつかせた。
(オペラ座でも風邪の時同じことをして、
ジリにそれはもう叱られていた…)
唇を噛みしめながらもラウルを睨みつける。
「…歌のレッスン中にうとうとして礼拝堂の金網から
転がり落ちること3度!危ないので私が
ステンドグラスに改造したのだ!」
そう、オペラ座に来てからのことなら自分の範疇。
この約10年、5番ボックスから、天井の梁の上から、
はたまた楽屋の鏡裏から見守ってきた愛しい娘。
「身長、体重は言うに及ばず!靴のサイズから
左手薬指のサイズに至るまで、
私は彼女の総てを把握している!」

胸を張るファントムにラウルは勝ち誇ったように叫んだ。
「お前は知るまい、彼女が5歳のときに木から落ちて、尾てい骨を折ったことを!
…僕ははっきり覚えている。彼女のお尻に
大きなアザができていたのをこの目で見たんだからね!
今も彼女のお尻には跡が残っているはずだ」
「馬鹿な…まさか、そんな…」
ファントムは剣を取り落とした。2〜3歩よろめき、ラウルの顔を見つめる。
「…でたらめを言うな、この青二才!」
「でたらめであるものか。
さあ、クリスティーヌ!この男に証拠を見せてやれ!」
「そうだ!証拠があるなら見せてみ…!」
同時に振り返った2人の男は、凍りついた。
そこに佇む二人の思い人は、かつてないほど冷ややかな目をしている。
2803/3:2005/12/17(土) 13:55:26 ID:ySsk/s9y
「「クリスティーヌ…」」
恋敵である2人の声が奇妙な2重奏を奏でる。
2人と1人の間をごうと音を立てて雪混じりの風が吹き抜ける。
圧し掛かるような沈黙の中、先に立ち直ったのは
修羅場慣れしたファントムだった。
背筋を伸ばし、マントを身体に巻きつける。
「勇敢なるムッシュウ、今日はこの位にしておいてやろう。さらば―――!」
ダーエ家墓所に駆け込もうとしたマントの裾を、ラウルが掴む。
「待て!僕を1人で置いてゆく気か…!」
「ラウル・ド・シャニュイ!」
姿を消すタイミングを狂わされ、ファントムはラウルを睨みつける。
(貴様が何とかしろ、何でも知ってる幼馴染だろう)
(都合のいいときだけそんなことを言うのか)
お互いの胸倉をつかみ合い、ぼそぼそと口論する男達の耳に、低い呟きが聞こえてきた。
「……せんから…」
「「…ク、クリスティーヌ?」」

歌姫はその端正な顔をゆっくりと上げた。
能面のような無表情。声は地を這うよりもまだ低く。
「アミンタ、歌いませんから。絶対」
冷たく言い切ると踵を返し、彼らの天使はすたすたと墓地を出て行った。
「……彼女の為に、書いたオペラなのに…」
「…困る、彼女が歌わないと、計画が…」
それぞれの理由から焦りを滲ませ、二人の男は面を上げる。
「「クリスティーヌ!!」」
しかしその呼びかけに応えるのは、
雪を孕んで木立を渡る冷たい風の音だけだった。
281名無しさん@ピンキー:2005/12/17(土) 16:16:31 ID:ykZ7wySs
ワロタw
282名無しさん@ピンキー:2005/12/17(土) 18:14:08 ID:/s1R3z9e
前から思ってたんだがこの二人、実はよく似てるんだよな
はずすとこもおんなじで何かカワエエ。
クリスに去られた二人の姿が目に浮かぶよ、また新たな呪いにかけられてしまった。
GJ!もっと長編も頼むよ
283名無しさん@ピンキー:2005/12/17(土) 18:28:35 ID:bj2v9wWY
な、なに……
映画のあの3人ですっごく想像できるんですけどwww
禿しくグッジョブ!!!
284名無しさん@ピンキー:2005/12/18(日) 02:01:53 ID:r03gB0kC
ちょwwwwエンジェルwwwwwwうはwwwGJwwwwwwwwww

この後『プリマドンナ』を歌ってクリスを宥める
怪人と子爵の姿まで妄想してしまったwwwww
285中年ファントム:2005/12/18(日) 17:44:45 ID:ENvYg6Yt
中年ファントムvsエステルの続編です。
相変わらずエロは極薄、ギャグもなし。
「マンハッタンの怪人」も未だ読んでいません。
全部で9スレ分あります。
286さらに三年後 1/9:2005/12/18(日) 17:46:44 ID:ENvYg6Yt
あれから三年近い月日が流れた。
私は装身具などを扱う、小さな店を営むようになっていた。
それまでの蓄えと、あの男が置いていってくれた少なからぬお金が助けてくれたのだ。
市井の人間としてやり直すという私を、かつての友人は驚きもしたが、
陰から何かと支えてくれた。そして、贅沢はできないものの、一階に店を構え、
上階に部屋を借りて暮らせるまでになった。
私は幸運だった。何よりも、新しい人生に踏み出せたことが嬉しかった。

店は「エステルの店」と名付けた。
店名の脇には小さく、黒いリボンを結んだ深紅の薔薇の絵を描いた。
通りから見える店の窓辺にも、同様の薔薇の一輪挿しを絶やさなかった。
纏めた髪にも黒絹のリボンをつけるようになった。
クラヴァットと二枚のハンカチは、私の宝物だ。
あの時の薔薇の花びらも、結ばれていたリボンも、大切にしまってある。

夜になると店を閉め、部屋の窓から通りを見下ろして過ごすのが私の日課となった。
いつの日か馬車が停まり、「エステルの店」に気付いた男が降りてくるのではないかと、
儚い望みを抱いて……。

男が訪れる夢を、幾たび見ただろう。
夢の中で男は、店を案内する私に優しい眼差しを向け、
子供を褒めるように私の頭を撫でてくれた。
私の部屋であの夜のように寛ぎ、黙って私の話に耳を傾けていた。そして……。
287さらに三年後 2/9:2005/12/18(日) 17:48:27 ID:ENvYg6Yt
ある日、家紋のついた一台の馬車が店の前に停まった。
上品な身なりの母子が降りてきて、店の名前を見上げている。
「お母さま、メグ小母さまがお手紙で書いていらしたのは、ここね」
利発そうな少女の声が聞こえる。

母子が店に入ってきた。
「いらっしゃいませ、奥様、お嬢様」
モード誌に小さく紹介されたこともあってか、しばらく前から私の店には、
裕福な階層の婦人たちも訪れるようになっていた。
だが、この母子はそれとは違う、明らかに別の階級の人間だった。
「ええ……、おじゃまいたしますわ……」
母親の方が控えめな口調で言った。
貴族の奥方にありがちな尊大さのない、優しい声だった。

「わあっ、素敵……!」
少女は朗らかな声を上げ、母親の手をはなれて店の中をめぐり始めた。
十歳ほどだろうか。母親とよく似た面差しの、明るい色の髪をした少女で、
刺繍を施したハンカチ、レース飾りの小物などを熱心に眺めている。
「フランソワーズ、勝手にさわったりしては駄目よ。ごめんなさいね、
やんちゃな娘で……」
「いいえ、少しもかまいません。こんな小さな店ですのに、
奥様のような方においで頂き、光栄に存じます」

私より十歳ほど下だろうか。
ほっそりして楚々とした風情の、とても美しい人だった。
豊かな栗色の巻き毛は、緩く結い上げられている。私の髪の色とよく似ていた。
夫人は物思わしげな眸で辺りを見回していたが、窓辺の薔薇をみとめると、
はっとしたように息を呑んだ。

「奥様……?」
「あ……、いえ、なんでもありませんの……」
「あちらにお掛けになって、まずはお茶でもいかがでしょうか。どうぞ……」
客用に備えてあるテーブルへ案内する。
夫人は手袋をはずしてカップを持ち上げるが、どこか上の空の様子だった。
「今日は、どんな物をお探しでいらっしゃいますか?」
「え……? あ……、そうね、いくつか見せて頂こうかしら」
「お母さま、このハンカチ、とっても素敵なの。これがいいわ」
少女が向こうから弾んだ声でせがむ。
私はリネンの刺繍入りハンカチを幾種類かテーブルに並べた。
「これは当店のオリジナルでございます。私が刺繍いたしました。
お嬢様にお似合いの柄もあろうかと存じます」
288名無しさん@ピンキー:2005/12/18(日) 17:49:09 ID:DBRWCDIM
こ、ここは嫌スレ……?
めちゃくちゃ笑いました! 天使様GJ!
289さらに三年後 3/9:2005/12/18(日) 17:49:56 ID:ENvYg6Yt
「この薔薇とリボンの小さな刺繍は、お店の名前の横にあるのと同じね? 
とても優雅だわ」
少女がおしゃまな口調で私に話しかける。
「はい、ですが、お嬢様にはもっと可愛らしい色柄の方が……」
そう言いかけた時、夫人の顔色が変わっているのに気付いた。
「奥様……?」
「あ、いえ……、フランソワーズ、他のものも見ていらっしゃい」
少女を遠ざけると、夫人は少し震える声で私に問いかけた。
「この薔薇は……、どなたの意匠でいらっしゃるの……?」
「それは、私の幸運のお守りでございます。あちらに挿してある薔薇も……」

私を見つめる夫人の眸の真剣さに、私は真実を打ち明けた。
「実は……、私は三年前までは、このような身分ではありませんでした。
ある夜に出会った男の方のおかげで、ここまでになれました。
その方が、黒絹のリボンが結ばれた深紅の薔薇を残していかれたのです」
「その方は……、どんなご様子でいらっしゃいましたか……?」
「とても背の高い立派な紳士で、所用のため、
アメリカから十年ぶりに一時帰国されたとのことでした。
テイルコートに黒いマントをお召しで、お顔の右側に白い仮面をつけておいででした。
その夜はオペラ座のマスカレードでしたので、私はまた……」

みなまで言わぬうちに、夫人の唇が震え始め、涙がひとすじ零れた。
「奥様……?」
「その方は……、お元気そうでいらっしゃいましたか……?」
「はい……」
「お母さまぁ……」
少女が向こうから呼びかける。
夫人は顔をそむけて涙を拭い、低い声で囁いた。
「その方のことは、どなたにも知らさないで頂けませんか……」
「……承知いたしました。これまでも、そうして参りましたから……」

母子はいくつかの品を購入して立ち去った。
だがその中に、深紅の薔薇と黒いリボンを刺繍したハンカチはなかった。
どんなに少女がねだっても、夫人は頑として受け付けなかった。
通りに出て馬車を見送る。
……あの貴族の夫人は、あの方をご存知なのだ……。あの男と知り合いだったのだ……。
この店の噂を耳にし、男のことを確かめにやって来たのだ……。
今年初めての木枯らしが吹いた日のことだった。
290さらに三年後 4/9:2005/12/18(日) 17:51:30 ID:ENvYg6Yt
それからも、私の日常は変わらなかった。
昼は店で客の対応や品揃えに追われ、夜は部屋の窓辺で過ごした。
ハンカチに刺繍をしながら、男を想って暮らす日々。
世間では数年後の博覧会に向けて、大きな建造物が建てられるとの噂が流れていたが、
私の生活にはなんら変化もなかった。季節は冬になっていた。

マスカレードの夜がやって来た。冷たい月が輝いている。
外気は冷たかったが、私は窓を開けて通りを見下ろしていた。
マスカレードの夜は、いつもこうしてきたのだ。
……そしてついに今夜、店の前に漆黒の箱馬車が停まった。
黒いマントを纏った長身の男が降りてきて、私の店を眺めている。
月の光に、白い仮面が浮かんだ。

身を乗り出し、窓から小声で叫ぶ。
「ムッシュ某……!」
刺しかけのハンカチが手を離れ、窓から舞い落ちていった……。
男はそれを拾い上げると、窓を見上げた。
あの、不思議な色の眸が私を捉えると、唇の端が少し上がった。
転がるように階段を駆け下りる。通りへ回ると男がうっそりと佇んでいた。
「もう、灰かぶり姫は終いにできたのだね……」
薄く微笑みながら、右半面に仮面をつけた男は穏やかな口調で言った。
口も利けずに、ただ何度も頷いて男を見つめる。今夜、私はちゃんと両の靴を履いていた。

脱げかけていたショールを直す。鍵をはずして店の戸口を開け、内部の灯りをつけた。
男が御者に低い声で指示を与えると、馬車は動き出し、少し離れた場所で停まった。
男が店内に入ってくる。
「君の店なのだね。……小ぢんまりした趣味の良い店だ」
男はゆっくりと内部を見渡し、窓辺に挿した、黒絹のリボンを結んだ薔薇に目を留めると、
面白そうに微笑んだ。
291さらに三年後 5/9:2005/12/18(日) 17:53:13 ID:ENvYg6Yt
「所用で三年ぶりにこちらへ来たのだが、……あれから君がどうしたかと思いついて、
寄ってみたのだ。新しい生活を始めたのだね」
覚えていてくれた。男は私を忘れないでいてくれた……。
男は優しい眸で微笑み、そして、子供にするように私の頭を撫でてくれた。
……夢の中と同じように。
「あり…がとう……、本当に……」
胸が詰まってうまく喋れない。
「だが……、ハンカチが必要なのは変わらないのかな?」
含み笑いをしながらそう言うと、男は私が落としたハンカチを差し出した。
私の頬には涙が流れていた。

「あ……、このハンカチは私が自分で刺繍したもので……、
刺繍のハンカチはお客様に好評で、特に深紅の薔薇のものは、とても好まれていて……、
あ、ごめんなさい。あなたが残していかれた薔薇をかってに意匠に使って……」
おそるおそる伺うが、男は特に気にした様子もなかった。
「では、私は君の店の売り上げに貢献しているというわけか。けっこうなことだ」

「窓辺の薔薇も、いつかあなたがパリへいらした時、
目に留めて頂けるかもしれないと思って……」
「君は相変わらず、娘じみたことを考えているのだね。
もう立派な店のマダムだというのに……」
男はからかうように言うが、そこに皮肉や揶揄はないように思えた。

「あの……、ここではお持てなしもできないので、
私の部屋にいらっしゃいませんか。この上に借りていて……、
小さな部屋だけれど、私の暮らしぶりもご覧になって頂きたくて……」
頬が紅らむのが分かったが、できるだけさり気なく言ってみた。
男は唇の左端を上げた。
「誘い方も相変わらずぎごちないのだな。……だが、遠慮なくお邪魔するとしようか」
おずおずと差し出した私の手に、男の手が重ねられた。
292さらに三年後 6/9:2005/12/18(日) 17:54:46 ID:ENvYg6Yt
少し胸を張り、男の手を引いて階段を昇る。それなのに、
これがうつつなのか信じかねる心地がして、つい何度も振り返ってしまう。
「心配はいらない。ここに私はこうしているよ……」
仮面の奥から、どこか懐かしげな眼差しで男が言った。

男を私の部屋へ招き入れる。……扉は開け放したままになっていた。
男に椅子を勧め、急いで窓を閉める。
「小さくて質素な部屋ですが……、これが今の私の城ですわ」
「居心地の良さげな、君らしい部屋だ」
あの夜とは較べようもない古びた椅子に、男はこだわりのない様子で腰を下ろした。

あの夜と同じコニャックを取り出す。これだけは少し贅沢をしてでも買い求め、
大切にしまってあったのだ。封をしたままのボトルを見て、男はうっすらと微笑んだ。
だが何も言わずに、私の差し出したグラスを受け取ってくれた。
「君もやりたまえ……」
もう一つ持ってこさせたグラスに男は酒を注ぐと、向かいに座った私に渡してくれた。

「……久しぶりだわ」
ひと口含んで懐かしそうに言った私に、男は悪戯げに囁く。
「もう、酔っぱらいは卒業したのかね……?」
「ふふ……、ええ、あれから必死だったもの。あの頃の友人は驚いていたけれど、
私にはそれもいいだろうって、色々と力を貸してもくれたの……」
「君はひとが好いからな……。今は生き生きと輝いているね、良かった……」
木綿のブラウスに地味な色合いのスカートを身につけた私に、男はそう言ってくれた。
「私の店を紹介するよう、流行のモード誌にも手を回してくれたり……、そのおかげで、
百貨店がたくさんできても、むしろ上流のお客様も見えられるようになったの」
男は優しく頷いて、私の話を聞いてくれる。

ふと会話が途絶えた。……息が苦しくなり、頬が染まってくるのを止められない。
「もう、酒が回ってしまったのかな……?」
愉快そうに言うと、男が立ち上がった。潤んだ眸で見上げる私に手を差し伸べる。
「君の寝室に案内してもらおうか……」
甘く囁くように、男が言った。
293さらに三年後 7/9:2005/12/18(日) 17:56:20 ID:ENvYg6Yt
月の光が射す部屋で、男が私を愛してくれる。……三年前のあの夜のように。
男の手と唇が私の全身を愛撫し、猛った男のものが私を思うさま狂わせる。
私ははしたないほどに熱い雫を溢れさせ、息をはずませ、声を上げ、男にしがみつき、
脚を絡め、身体を顫わせ……朦朧とするまで乱れ、男を貪った。

静かな暗闇の匂いが漂っている。
行為の後も男は優しかった。私の左肩を抱き寄せ、滲んでいた涙を指で拭ってくれた。
「辛かったか……?」
「いいえ、いいえ……」
横たわる男の胸に口づける。男は黙したまま私の髪を、頬を、肩を、撫でてくれる。
……だが、私は感じてしまうのだ。どんなに熱く、優しく抱きしめてくれても、
男の眸は別の誰かを見つめている、男の胸の奥には、他の誰かがいることを……。

男の厚い胸に手を当てて話しかける。
「また、パリへおいでになることは、あるかしら……?」
「そうだな……、あるかも知れないし、ないかも知れない」
「こちらへ戻って暮らされるおつもりは……?」
「それは、ない」
男は上を向いたまま、短くそれだけ言った。

晩秋の日に店を訪れた、美しい母子のことが胸に浮かんできた。
鼓動が早くなる。口にしてはいけないと、何かが私に告げる。
……だが、私はそれを話し始めていた。男の横顔を見ながら言う。
「あのね……、近頃は裕福な方たちも店を訪れるようになったって話したでしょ。
少し前にね、……貴族の夫人と思われる方もお見えになったの。
お嬢さんをお連れになって……」
男が私を見やり、続きを促すように黙って見つめている。
「私とよく似た栗色の髪をした方で……、薔薇を見てはっとしたお顔をなさったわ。
あなたのことをお話ししたら、お元気そうだったかとお尋ねになり、
涙を浮かべていらした。……でも、誰にも言うなって……」
294さらに三年後 8/9:2005/12/18(日) 17:58:15 ID:ENvYg6Yt
唐突に男が身を起こした。私に背を向けて、ただ黙り込んでいる。
「あの……?」
「……いや、なんでもない……」
私は一度も男の仮面に触らなかった。男がそれを望んでいないと感じたから。
だが、いちばん触れてはならぬことに、触れてしまったのだ。
やはり、あの夫人のことに触れてはならなかったのだ。
……それでも、私は確かめてみたかった……。

男の背中に身を寄せ、指を滑らせる。旧い、遠い昔の傷痕が無数にあった。
その傷痕を指でなぞり、ひとつひとつ唇を寄せていく。
男はぴくりと肩を動かしたが、なされるままで、一言も口を利かなかった。
……男の心には、開いたままの傷がある。私は男の孤独に触れることはできないのだ……。
そっと表情を窺うが、男の眸はただ遠くを見つめていた。
私は男の背中を撫で、心を込めて傷痕に口づけを繰り返した。

「君は優しい……、優しくて、強い、女だ……」
しばらくして男は向き直ると、私の手を取り口づけてくれた。
「ありがとう……、その話を聞かせてくれて」
男はそう言った。穏やかな眸からは、なんの感情も読み取れなかった。
気がつくと、男にしがみついていた。男を抱きしめるように腕を回し、
胸に顔をうずめる。
「もう……パリへは、おいでにならないつもりね……」
男が頷く気配がする。
「あの夫人の、ために……?」
男は私を抱き寄せると、黙って髪を撫でてくれた。……私の栗色の髪を。
私が夫人のことに触れなければ、男はまた私の元を訪れてくれただろうか。
……だが、それでも男の心を得られはしないのだろう。
私は男の胸の中に住まうことはできないのだ……。

「……抱いて! もう一度、もう一度でいいから……」
私の身体を再び横たえると、男が覆いかぶさってきた。
男のすべてを自分に刻みつける。
……髪に、額に、頬に、顎に、首筋に、肩に、腕に、胸に、背中に、腰に……、
私は手を這わせる。男の唇を貪る。男の眸を胸に焼きつける。
男の匂い、男の肌、私の中の熱い昂りを、全身で感じ取り、身体ごと燃え尽くした。
295さらに三年後 9/9:2005/12/18(日) 17:59:54 ID:ENvYg6Yt
男の背中を見ながら階段を降りる。通りへ出ると、男が低い声で「店へ……」と言った。
戸口の鍵を開けると、男は滑るように中へ入り、ハンカチの棚へと向かった。
そして、深紅の薔薇を刺したものを選り分けた。
「これは私が買い取ろう。そして……、もうこの意匠は終いだ。分かったね」
静かな口調の中に、有無を言わさぬ響きが込められていた。
お金の詰まった皮袋を置くと、男は窓辺へ歩み寄り、一輪挿しの薔薇を抜き取った。
「これは、私がいただいていく。大口の客への景品といったところだ」

……この男は、自分が存在していた全ての痕跡を消し去ろうとしている……。
込み上げるものを呑み込んで頷いた。声が震えないように努める。
「けっこうですわ、どうぞ……お客様」
「……ありがとう、マダム」
低い声で男が言った。

戸口から出ようとする男のマントを思わず掴む。男がゆっくりと振り返った。
「ムッシュ某……!」
万感の想いを込めて、ただ一つ知っている名前を呼んだ。
男の眸が優しく細められ、見上げる私の顔に近付く。
「元気で……、エステル……」
囁くようにそう言うと、男の唇が私に寄せられた。
目を閉じて最後の口づけを受ける。
長く、甘く、ほろ苦く、そして……涙の味がする口づけだった。

通りへ出る。男がもう一度私に身体を寄せると、髪を纏めていたリボンを解いた。
「君はもう、こんなものがなくとも生きていかれる……」
首を横に振りたかった。……だが、それをしてはいけないのだ。
声に出さず、仮面の下で男の唇が動いた。永別を意味する別れの言葉だった。
最後に微笑みかけてくれると、男は私に背を向けて歩き出した。

滲んだ視界の中で、男の背中が遠ざかり、停めてあった馬車へと消える。
馬車がひそやかに動きだした。……そして、闇へ走り去っていった。

<終わり>
296中年ファントム:2005/12/18(日) 18:01:11 ID:ENvYg6Yt
以上です。
読んでくださった方、ありがとうございました。
297296:2005/12/18(日) 18:04:38 ID:ENvYg6Yt
すいません。9スレじゃなくて、9レスでした。
自分・・・アホかいな。orz
298名無しさん@ピンキー:2005/12/18(日) 20:13:43 ID:DBRWCDIM
>296
GJ!
3レス目と9レス目で涙がこぼれました。
ファントムの安否を確かめるクリスの心情が心に迫って……。
ハンカチを買い取るファントムの心情も……。

途中で投下に気づかず>280へのレスをカキコしちゃってごめん。
299名無しさん@ピンキー:2005/12/18(日) 21:24:28 ID:J67RHK0J
>>296 GJ!
すごい引き込まれたよ
エステルが店がんばっててほっとした。
自分の痕跡をことごとく消すマスターがストイックでうるっときた。
300名無しさん@ピンキー:2005/12/19(月) 13:49:43 ID:i9Ap7h0d
>296
素敵。

301名無しさん@ピンキー:2005/12/19(月) 17:51:42 ID:+xCQivj3
親父ファントムキタ!!
好きなんだこれ〜。もう、ホントGJ。
302296:2005/12/19(月) 20:28:48 ID:AJ7+tYJy
感想、どうもありがとうございました。
これでマニアックな中年ラブストーリーは終わりです。
貴重な職人体験でした。読んでくださった方、本当にありがとう。
また一読者に戻り、天使様たちの物語を楽しませてもらいます。
303続紐編:2005/12/19(月) 21:07:27 ID:/0ari3Go
寸止め続編投下します。
304続紐編:2005/12/19(月) 21:08:43 ID:/0ari3Go
う、上げてしまった…ごめん。
305続紐編:2005/12/19(月) 21:13:59 ID:/0ari3Go
クリスティーヌを見下ろしながら服を脱いで投げ捨てる。
両手をくの字に投げ出し、腰を捩るようにしてしどけなく横たわっているクリスティーヌが
絶頂の余韻に息を弾ませ、やるせない眼差しで私を見つめている。
ついこの前まで穢れを知らぬ天使だった彼女のこの悩ましい姿はどうだろう。
自然と呼吸が速くなっていく。
彼女の両脚を持ち上げ、開かせて蕩けきったそこに私自身をあてがう。
「あ! ……マスター…」
クリスティーヌが切ない瞳で私を見上げ、両腕を伸ばしてきた。
そのしなやかな腕に絡め取られながら、ねっとりとした体内へ一気に突き刺していく。
「あぁぁぁぁ……!」

高いよがり声を上げるクリスティーヌの身体を組み敷いて腰を使いながら、
もどかしい思いで寝衣を剥いだ。
私の動きに合わせて揺れる白い胸を露出させる。
両手で揉み、淡い薔薇色の先端を転がし、舐め、擦る。
「あっ!…あぁ!…マスター…!」
「クリスティーヌ…ここも硬くしているね…?」
「…いや…マスター…」
うっすらと涙を浮かべ、責めるような眼差しで私を見つめる。

「…どうして…いじわるばかり……言うの……?」
「…あんな下着を見せられて……黙っていろと言うのか…?」
腰を抱えて浮かせ、さらに奥深くまで貫く。
「…私に抱かれるのは嫌か?
 ……私に、こうされるのは嫌か?」

彼女の首がうっとりと左右に振られ、彼女の中がうねって私に絡みつく。
「あぁ…マスター…マスター…好き…」
快感に喘ぎながら、好きと言ってしがみついてくるクリスティーヌが愛しい。
その柔らかな肉体の感触を全身で感じ、身体の奥まで繰り返し突き上げる。
狂おしいほどに欲しいと願ったクリスティーヌと肉の悦びを共有できるとは、何という至福だろう。
彼女に覆いかぶさり、耳元に悩ましい喘ぎ声を聞きながら、その全てを味わう。
306続紐編:2005/12/19(月) 21:22:51 ID:/0ari3Go
甘い声を囁かれるのは、今度は私の番だった。
「あぁ…ん…好き…マスターの全部が好き…」
「……いじわるばかり言う…マスターも……好き……」
「あぁ…すごく…恥ずかしい…けど…でも、大好きなの…」
「マスター…私をずっと…離さないで…ね…」
「あぁ……おね…がい」
淫らな喘ぎ声とともに繰り返し囁かれる言葉のなんという甘さ。
その言葉が耳から脳に入り込み、抑制していたものを溶かしてしまう。
「…っ! クリスティーヌ…!」
放出してしまうのを抑えようと、動きを止めて息を吐く。
彼女の中が私を締め上げ、うねり、間もなく絶頂を迎えようとしているのがわかる。

「あぁ…ああ! …マスター…!」
動きを止めた私の腰に手を回し、自分の腰を回して押し付けてくる。
「あぁ…!ああ、おねがい! ………して…!!!」
首を傾げて私を見つめ、耐え切れないように切ない声でせがみ、さらに腰を回す。
ああ。もう我慢できない。

「クリスティーヌ!クリスティーヌ!!」
お互いの粘膜が擦れ合い、あっという間に高みへと駆け上がる。
「あああああぁぁぁぁ!!!!!」
「くっ………!」
いつになく激しく達するクリスティーヌの蕩けきったその中へ、私の全てを放った。

彼女の上に重なったまま、しばし二人で快楽の余韻に浸る。
「…ぁ……マスター……大好きよ……」
クリスティーヌの腕が私の背を撫で、その甘い声が耳元をくすぐる。


…耳元で囁かれる声に弱いのは、彼女だけではなかった。


(終)
307名無しさん@ピンキー:2005/12/19(月) 21:27:11 ID:GPWdUd1E
天使様ありがとう!!
もう興奮で何て褒めたたえていいか解らん…!
308続紐編:2005/12/19(月) 21:28:12 ID:/0ari3Go
読んで下さった方ありがとうございました。


>>273
木登り書いてます。遅くなって申し訳ない。
終わるかどうか不明ですが年内投下予定。
309名無しさん@ピンキー:2005/12/19(月) 21:53:26 ID:Rxbe/Iuf
>>308
GJ! GJ! GJ!
ファントムに好き好きって言っているクリスに萌え。
そんで、耳元で囁かれる声に弱いファントムに萌え。
3回も読み直しちゃったよ……、でも、また読む、きっと。
310名無しさん@ピンキー:2005/12/19(月) 22:42:57 ID:Lfvv86B9
>302
渋い中年ファントムが原作やオマージュ小説以外で読めたなんて幸せ。
また気が向いたらヨロシク!
>308
紐と聞くだけでここ数日モエてしまいますヤバス
木登り続編楽しみ!復習しておこう
311名無しさん@ピンキー:2005/12/19(月) 22:49:25 ID:yOi5foL7
たまらん。すんげえ萌えた!
生殺しの天使様GJ!!

312名無しさん@ピンキー:2005/12/19(月) 22:52:24 ID:SWrnJ/UN
>>308
273でつ。
どどど同一人物キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!
せかしてしまってゴメソナサイ天使様 orz
どっちの作品も大好きです。紐編もGJ!!木登り続編も待ってますハァハァ
313名無しさん@ピンキー:2005/12/20(火) 13:52:10 ID:tMoVOYjb
うわっ!昼間っから・・・紐編全部読み直しちゃったよ。
視線を絡めながら・・・が頭から離れん!GJ!
314名無しさん@ピンキー:2005/12/20(火) 15:23:58 ID:cFXnIu9U
紐パンの天使様、マスターの命令でエロい下着を身につけて舞台に立つクリスまで想像しちゃいましたw
315Tバック:2005/12/20(火) 20:02:45 ID:u4jdRR/b
>314
エロ下着を着けて舞台ってこんなのですか?

ファンクリでエロ直前本番無しの2レスのみ


―――やっぱり落ち着かないわ…。

 本番の最中にもかかわらず、わたしは気をそがれていた。

理由はこの…下着と言うのもおこがましいほどの小さな布。

ちょっとお片づけをしようと思ったら、楽譜に蝋燭の火が燃え移り

数枚楽譜を焦がしてしまったのだ。

―――でも元はといえばマスターが悪いんじゃないの…!

 そう、片付けないマスターが悪いはずなのに、わたしはお仕置きされた挙句

罰としてこの布きれを身につけて本番に出るよう約束させられたのだ。

隠す部分なんて無いに等しく、むしろお尻に食い込む紐がわずらわしい。

しかもレースでできていて、『隠す』なんて言葉はどこからも出てこないような下着!


マスターはこんなのをどこで手に入れたんだろうか…。

 おかげでこの日、わたしはどう役をこなしたのか覚えていなかった。
316Tバック:2005/12/20(火) 20:07:38 ID:u4jdRR/b
全体的に変な改行入ってる!?何でだ…orz
携帯ってだから嫌いだ…。


「今日は随分と気が散っていたようだね、クリスティーヌ」
 聴衆に気づかれないレベルではあるが、今日のクリスティーヌは完璧とはいえなかった。
一日の労をねぎらい、いつものように食後を過ごし、私は言った。
「だって、マスターが…」
 クリスティーヌが顔を赤らめて私に抗議する。まあ理由は私の与えた罰則のせいだろう。
だから掃除をするなと言っておいたのに…。
実際楽譜にそこまでの被害は無かったが、彼女にあれを穿かせる口実ができたのは幸いだった。
清楚な顔をした彼女があんな娼婦もつけないような下着を着けているなんて
聴衆も、団員も、神でさえ気づかないだろう…。
「私が、なんだね?」 そう畳み掛けるとクリスティーヌは言葉に詰まった。
「マスターが…マスターがあんな下着を穿かせるからだわ…」
 頬を赤らめるクリスティーヌのなんと可愛らしいことか!
まさか本当に私の命令を聞くとは思ってもいなかったが。
「あの下着がどうしたというのだね?」
「後ろの紐が、お尻に食い込んで…。気が散るったら無かったわ!」
「そうか、それは悪いことをした。それなら改良したほうがいいな。少し見せてみなさい」
「あっ、マスター…!」
 私は彼女を押し倒すと、スカートの中に手を入れ太ももに手を這わせた。
「だめ、だめよマスター…!」
「駄目?何故だね?」 私の指が彼女の尻に行き着く。覆われてなどいないその素肌の感触に、私は密かに興奮した。
「この紐だね?」
 尻に食い込む紐を少し引っ張ってやる。
「あぁ、だめ…お願いよ…」
「ああ、本当に食い込んでいるね。お前の尻にも…ここにも」
 私はそう言うと、彼女の秘裂を布越しになぞってやった。
「あっ、あぁ…」
 羞恥に顔を赤く染め、クリスティーヌの尻が震える。
「おや、おかしいね。少し湿っているようだが…」
 指先に伝わるその感触を彼女に告げてやると、彼女は恥ずかしさの余りか顔を手で覆い隠した。
「いや…違うわマスター、…言っちゃいや…」
「何が違うものか…。お前も期待していたのだろう?このままこうして私に抱かれることを
317Tバック:2005/12/20(火) 20:13:22 ID:u4jdRR/b
ごめ…字数制限で切れてたorz
なんかもういろいろと吊ってきますorzorz
これで本当に最後です…。


「何が違うものか…。お前も期待していたのだろう?このままこうして私に抱かれることを」
「あぁ、…酷いわ、マスター…」
 そんな彼女が狂おしいほど愛しくて
私はクリスティーヌの顔を覆っている手をどかすと、その柔らかな唇に口付けた。
318名無しさん@ピンキー:2005/12/20(火) 21:27:11 ID:JyVtPgrm
>>317
GJ! と言いたいところだが、ちょっと待て!
まさか、あなた様も寸止めするんですか?

お願いだから、つ、続きを……!
つか、このスレ、寸止め禁止令とか出した方がよくね?
319名無しさん@ピンキー:2005/12/20(火) 22:08:01 ID:hAGa/H8v
内容も寸止めも似てんな!
別パターンキボン
320名無しさん@ピンキー:2005/12/20(火) 22:27:44 ID:DBs3BEsi
このスレは天使様が住人を生殺しするスレとなりますた。
321名無しさん@ピンキー:2005/12/21(水) 00:08:08 ID:IaToIpsV
生殺された人数

ノシ
322名無しさん@ピンキー:2005/12/21(水) 00:10:19 ID:IaToIpsV
IDが、「あともう一歩ス」だった!!くだらなくてスマソ(´・ω・`)
323名無しさん@ピンキー:2005/12/21(水) 00:38:16 ID:QGaq648I
イイねー紐パンにTバック、ブームになりそうハァハァ
元々少ないキャラに限られたシチュエーション作品なので、どうしても
同じパターンに見えてきちゃうんですな、もう4幕目の半ばだし。
でも職人さんは本当によくキャラを動かしてくれてると思うんよ
自分はたとえ似通った話がいくつあっても、同じ設定やカップルばかりだとしても
いくつでも話読みたいよ
ていうわけで生殺しされたヤシ 2 ど、どうか一気に投下をキボン…
324名無しさん@ピンキー:2005/12/21(水) 00:54:21 ID:viTq5I4c
生殺しされますたノシ 3
そだね、私は投下があるだけでもトキメキます
続き読みたいな
325名無しさん@ピンキー:2005/12/21(水) 00:58:01 ID:j17zIi4/
空気を読まずにクリスマスネタ投下
・全3レス分
・ファントムの一人称、他に出てくるのはクリスティーヌのみ
・ファントム23才ぐらい、クリス7才(映画の設定より)
・ょぅι゛ょにつきエロ無しの旨ご了承下さい、かといってネタでもなし○| ̄|_
3261/3:2005/12/21(水) 00:59:21 ID:j17zIi4/
明日はクリスマス。
年中稼動するこの劇場も、イヴは昼公演で終わる。
皆いそいそと家路を急ぎ、この巨大な建物からどんどん体温が失われてゆく。
クリスマスは家族で暖かく迎える、ものらしい。
私には無縁のものだ。

私は人々の退去を見届けるように、建物の隅から隅まで歩き回る。
今日の真夜中、ここで一人きりで行うミサの構成を考えながら。
私の秘密の通路の一つは、地下礼拝室の傍を通っている。
そこを通りかかった時、いつもの少女が来ているのに気付いた。

オペラ座の人間は不信心者ばかりなのか、ここには滅多に人が来ない。
それでも偶に、最後の神頼みに来る者がある。
人はひとりきりだと本音が洩れるとみえ、興味深い呟きをこぼす。
壁に描かれた天使像の真後ろに陣取り、巧妙に開けた隠し穴から祈る者を見下ろし、
告解を受ける神父さながらに人々の打ち明け話を聞く。
我ながら少々悪趣味だと思うが、これも貴重な情報源だ。
しかし、数ヶ月前から訪れる少女は他の人々と様子が違っていた。

マダム・ジリーから聞いた話を思い出す。
少女は物心付く前に既に母親はなく、ついでこの春に父親を亡くした。
音楽家の父親の遺志により、手厚い教育を受けるためにこの街に来た。
一度も聞いたことはないが、少女は稀有の美声を持っているらしい。
しかし、少女の年齢と身上では、選択肢はここしか無かった。
「自分の娘と同じように、思っています」
同じ年齢の娘を持つマダムは、彼女に大変同情を覚えているようだった。
確かこのクリスマスにもジリー家に招き、一緒に過ごすと言っていた…
3272/3:2005/12/21(水) 01:00:56 ID:j17zIi4/
少女は私が見ているとも知らず、慣れた手つきで蝋燭に火を移す。
炎の揺らめきが静まるのを待ってから、いつものように祈りをあげ始める。
神に感謝する日常的な祈りと、亡き父親に捧げる祈り。
そこまでは普通だが、少女の場合はそこで終わらず、独特の一句を付け加える。
「音楽の天使様、聞いておられましたらどうかわたしにお応えください」
そして後は耳が痛くなるような沈黙の中、炎が尽きるまで祈るのが常だった。

しかし今、少女の口から出たのは聞き慣れたそれではなかった。
私は初めて彼女の歌声を耳にした。
それはこの国に生まれ育った者なら誰でも知っている、旧い聖歌だ。

−天のいと高きところに、みうたは響きぬ。

可憐なソプラノが狭い聖堂を埋め尽くし、私の記憶を容赦なく引きずり出す。

その歌を私が最後に歌ったのは、自分を産んだ母とだった。
あの人の機嫌が良いときのみ一緒に歌うのを許された。
「クリスマスだから、この歌を歌いましょう」
楽譜の指定とどれだけ外れようが、交響を求めて私たちの歌声は奔放に彷徨った。
その時だけだった、あの人が私に微笑みをくれるのは。
しかし歌の魔法が解けると、あの人は眼に冷やかさを湛えて私を部屋に追い返す…

ふと耳に届く歌声が弱々しくなってゆくのに気付き、慌てて現在に意識を戻す。
少女の目にはみるみるうちに涙が溢れ、唇の動きはたどたどしい。
無意識のうちに私も歌い始める。
今や微かな歌声を力強く押し上げるように、しかし決して圧し潰さないように。

昔は声変わり前の声で、母の豊かなソプラノを裏打ちすることに歓びを覚えた。
今、あの頃よりオクターブ下の私の声は、少女のソプラノの礎となり道程をつくる。
私が見守る下で少女の表情はみるみるうちに輝き、その声はたちまち力を取り戻す。
328名無しさん@ピンキー:2005/12/21(水) 01:01:11 ID:KY8xfYVM
あのう質問です
前スレで父ファントムと思春期娘さんシリーズありましたよね
あの設定に触発されて書いてしまったものがあるのですが…
勢いで書いてしまったものの、勝手に設定使ってしまっている
事に気付いて…
作者様見てらっしゃいますか?
3293/3:2005/12/21(水) 01:03:41 ID:j17zIi4/
今や私達は天に届けとばかりに高らかに歌い上げる。

−我らは聞きぬ、歓びのみうたを。

ふたつの歌声はひとつに融ける。
そこから溢れるまばゆい光が、母親の傍で立ち竦む痩せ細った少年を包み、昇華する。

最後の音が消えかけるより早く少女は膝まづき、頭を垂れた。
「音楽の天使様、心より感謝いたします」
そうして両の手を血の気が引いて白くなるほど強く組み、縋るように呟く。
「どうかこれからも、あなたのしもべをお導き下さい」
私はそっとささやき返す。
内なる心が微かな予感にうち震えるのをぼんやり感じながら。
「求めよ、されば私の音楽を与えよう」

程なくしてジリー母娘が迎えに来、少女は何度も振り返りながら立ち去る。
誰も居なくなった室内にはしかし温もりが残っていた。
ふと私は自分の口が小さく笑みの形を作っているのに気付いた。
苦笑して、闇の中で独り言を漏らす。
「今宵のミサは、少々変わった構成になりそうだ…」
そして私も、立ち去った。

今思えばこの日、私達は後戻り出来ない道を歩み始めたのだった。

(終)
330328:2005/12/21(水) 01:10:57 ID:KY8xfYVM
>329
まぬけな質問を差し挟んで申し訳ありませぬorz

このティストはファントムバージョンのエリックでしょうか?
違ったら再び申し訳ありません。
きっかけが歌で結び付けられたというのが伝わって来ました。
いたいけなクリスティーヌに惹き付けられました!
331名無しさん@ピンキー:2005/12/21(水) 01:18:45 ID:j17zIi4/
>>330
いやいやお構いなく
今夜のココ、ちょっと賑わってますな〜

いや、映画のファンクリで想定しています
それは明記してなかったな、誤解させてすまぬ(`・ω・´)
332名無しさん@ピンキー:2005/12/21(水) 01:30:26 ID:27hf3ilL
>>329
GJ!
ファントムの母との思い出が切ないね。
そんで、ちびクリスがめちゃ可愛い。

ところで、どんなミサだったんだろう……?
333名無しさん@ピンキー:2005/12/21(水) 09:07:14 ID:WE3UAIPg
314です。
Tバックのえんじぇる様ありがとうw
なんかもう、親父入っちゃってるマスターに萌え。
バカップルにも見える二人に萌えだ!

個人的に寸止めも好きwwww
334名無しさん@ピンキー:2005/12/21(水) 13:28:37 ID:SiGQ463U
チビクリスとファントムキタ━━(゚∀゚)━━!!!
この二人愛らしくって大好きだ。名作だと思います。GJ!!

そして清楚なチビクリスが可愛いと言いながら
紐パンとTバックにも萌えてしまう自分ww
寸止めはいずれ続きが読めるなら全然おっけーです。
紐パンとTバックでお題(エロイ下着)は共通してますが、
自分的には全然内容処理は違うと思うけどなあ。
他のエンジェル様のこのお題も読みたいです。

335名無しさん@ピンキー:2005/12/21(水) 15:22:25 ID:NQCucAHd
>328
投下したエンジェルじゃないけど
読みたい!期待期待
336名無しさん@ピンキー:2005/12/21(水) 18:45:44 ID:cik5EyqT
>328です

季節物だし、パソの調子が非常にまずいことになっているので、
投下させていただきます。

1.クリスマスネタ
2.エロ・ギャグなし
3.前スレの父ファントムと娘さんの設定をお借りしました
337クリスマスツリー 1:2005/12/21(水) 18:50:01 ID:cik5EyqT
父親と喧嘩をして以来、娘はとても不機嫌だった。
毎年楽しみにしているクリスマスツリーの飾り付けにも早々に飽きてしまい、飾り付けを続けている母親の姿をクッションを抱えながら見ていた。
「お母様」
優しい手つきでサンタクロースやエンジェルのオーナメントを、枝に吊るしていた母親が振り返る。
「なあに?」
「…お父様とはいつ出会ったの?」
先日、彼女の一番仲がいいボーイフレンドに髑髏の蝋で封をされた不気味な手紙が届いた。
クリスマスシーズンだというのに、おどろおどろしい警告に満ちたそれの差出人が自分の父親だと知って、娘は生まれて初めて眩暈のするような怒りを覚えた。
全く恥じる様子もなくお前の為にやったのだよと言いのける父親に、大嫌いという言葉をぶつけた。
今、父親は新作のオペラの締め切りが近いということで、屋敷の地下に篭っているので、彼女の怒りはそのまま持ち越されている。
面白くなさそうな表情の娘に、母親は聞きたい?と秘密めいた笑みを見せた
「ええ、聞きたいわ、とっても」
彼女は力を込めてそう答えた。
娘の眼からみても、今なお少女のようにほっそりとした美しく優しい母と、あの分からず屋で、変わり者の父がつり合うとは思えなかった。
「お母様がお願いしたの」
少し恥ずかしそうに、けれどしっかりとした口調で母親は言う。
その顔には、想い出を慈しむような笑みが浮かんでいた。
「お父様はお声だけで、お姿を見せて下さらなかったの。お母様はそんなお父様に会いたくて会いたくて。毎晩お願いしたのよ。どうぞ私の前に姿を現して下さいって」
「嘘!」
思いがけない答えに、娘は思わず抗議の声を上げる。
「嘘なんかじゃないわ。会えなくて悲しくて。姿を現してくれないなら死んでしまうって思いながらお祈りし続けたの…そうしてやっとお父様は姿を見せてくださったのよ…」
どうしても信じられない。
自分の生まれる前、母親はオペラ座の名高い歌姫だったという。
それならば演技も上手だろう。
自分を騙すことくらい、お手の物かも知れない。
納得の行かない気持ちで、娘は再び問い掛ける。
「…それで、会ってみてどうだった?会えてよかった?お父様に」
「何度も喧嘩をしたし、本当に色々あったけれど、会いたくて待ち侘びる日々が続くのと比べる事もできないわ」
「でも…!」
母親は、それ以上何も言わずにただ娘をみて微笑んだ。
なおも言い募ろうとした娘は息を呑み、母親を見つめた。
そうして思う。
例えどんな大女優だって、こんな演技は出来ないと。
利発で、勝気で、生意気盛りの娘は黙った。
意地悪な気持ちで、その質問をしたことを恥じた。
それを悟られないよう、彼女は急にやる気を出したように、ツリーの飾り付けを手伝い出す。
ツリーの枝が色とりどりのリースやオーナメントで一杯になり、娘が一息ついた時に名前を呼ばれる。
母親の手の平には、金色の星が乗せられていた。
「私達に出来るのはここまでね…」
どうしたい?と見つめられる。
「私…」
母親はいつもお説教じみたことは言わない。
それなのに娘はいつも彼女によってあるべき道に戻された。
時に悲し気な表情や、時に胸が締め付けられるような微笑みで。
「呼んで来るわ、お父様を」
星を受け取り、走って部屋を出て行く娘の後ろ姿をクリスティーヌは愛おしげに見送った。

338クリスマスツリー 2:2005/12/21(水) 18:50:53 ID:cik5EyqT
広い屋敷の廊下を駆け抜け階段を降り、父親の仕事部屋になっている地下室のドアを叩く。
返事はない。
夢中で降りて来てしまったけれど、地下は苦手だった。
薄暗さと、冷えた空気に鳥肌が立つ。
もう一度扉を叩いても、ドアは開かず、物音もしない。
ふいに不吉な予感が彼女の脳裏を掠める。
顔を合わせなくなってもう丸3日たつ。
母親は食事を差し入れたりしていたけれど、自分は一度も顔を見ていない。
そんなわけはないと思うけれど、扉の中で父親にもしもの事があったら。
もう二度と会えなくなってしまったら。
「お父様!私よ!ここを開けて…お願い!開けて!大嫌いなんて嘘よ!大嘘よ!お願い、姿を現して」
ほんの少し前までは顔も見たくないと思っていた。
でも今は会いたい。
今すぐ会えなければ、寂しくて辛くてどうにかなってしまう。
「姿を現して!お父様」
お母様の気持ちが伝染したんだわ…。
娘は泣きながら扉を叩き続けた。
339クリスマスツリー :2005/12/21(水) 18:52:41 ID:cik5EyqT
ガチャリとドアノブが回り扉が開き、やつれた顔をした父親がとうとう顔を出した。
昼夜の区別のない作曲の間に、少しだけ眠っていたのだろう。
疲れきった顔をしていたが、娘の姿を見るなり血相を変え顔を覗き込む。
「どうしたんだ?気丈なお前がそんなに泣くなんて、何があった?!」
扉の外の泣き声に慌てていたのだろう。
彼は仮面をつけていなかった。
いつもの一分の隙もない姿よりも、今の方がずっと好きだと彼女は思った。
その方が素直になれる気がしたから。
しゃくりあげながら、やっとの事で娘は声を絞り出す。
「…ほし…」
「何だい?」
「…忘れたの?…ツリーの星が飾れないの…いっとうてっぺんの星は、お父様じゃないと飾れないのに」
そこでやっと彼は、彼女の小さな手に金色に輝く星が握られていることに気付く。
そうだ。
毎年この季節になると、彼の背丈より高いクリスマスツリーを居間に飾るのだ。
妻も娘も、それを飾り付けるのを楽しみにしていて、彼はそれを見ているのが好きだった。
女たちでは手が届かないので、最後の仕上げに彼がソファーから立ち上がり、星を受け取り頂きに飾るのだ。
見上げるほどのツリーの頂上に彼の手によって星が輝くと、娘はことのほか喜んだ。
「…ああ、そうか。本当にすまなかった。…それは行かなくてはね。何をおいても」
「そうよ……お父様じゃなけりゃ…」
涙に濡れた顔で真っ直ぐに父親を見て、娘は握っていた星を差し出した。
340クリスマスツリー 4:2005/12/21(水) 18:53:50 ID:cik5EyqT
確かにどんなに華やかに飾り付けられたツリーでも、頂上に星がなければ台無しだろう。
オペラの締め切りが迫っているのだが、そんな事は些細なことだ。
愛しい女二人が、彼を待っているのだ。
私じゃないといけないのだそうだ。
一人胸の中で呟き、彼は手の平にある星をじっと見つめる。
暗い廊下で本物のように、それは光輝いて見えた。
「…きゃっ…」
地下に慣れない娘が躓いたので、彼は手を差し伸べる。
娘はほんの少しだけ躊躇ったけれど、次の瞬間、彼の手の平に自分のそれを重ねる。
右手に星、左手に大切な娘。
この現実に比べれば、自分の書くオペラのなんとちっぽけなものか。
そうファントムは思った。
長い廊下の果てにある暖かい居間では、愛しい妻がツリーの前で彼と娘を待ち侘びていた。
                                     (おわり)
341名無しさん@ピンキー:2005/12/21(水) 19:32:33 ID:ljR6r1e8
ぅぅぅ・・・そんなクリスマスがしたい・・・
342名無しさん@ピンキー:2005/12/21(水) 19:33:36 ID:ljR6r1e8
ワ・・すみませぬ

GJ&下げます
343名無しさん@ピンキー:2005/12/21(水) 21:18:35 ID:QGaq648I
>326
ちびクリス健気で可愛い!きっとこの年からファントムのクリスマスは寂しいものでは
なくなったに違いないよね、10年くらいは…ウルッ
厳かな雰囲気がよく出てたよ
>337
これはスウェーデン編の続きなんですね、幸せそうなファントム一家イイ!
何となく娘の勝気なとこが父に似ているような。
しかしここでも地下室作っちゃったんだマスター
344名無しさん@ピンキー:2005/12/21(水) 21:34:33 ID:Sww8usQ1
>>336
GJ!!ファントム娘、めちゃくちゃかわいい。ファントムに気性が
似てるっぽいところがとてもうれしい。
愛するクリスとかわいくてしかたない娘と過ごすファントムのクリスマス
はあったかいね。ファントムが幸せそうでかなりうれしくなりました。
ファントムの仕事部屋が地下なのもツボだったす。
すばらしいお話をありがとう。

感動してつい長々とすまぬ。
345名無しさん@ピンキー:2005/12/21(水) 22:27:39 ID:MGaaA6jq
関係ないけど、アメリカ在住の知人から聞いた話。

海外ではクリスマスの特別公演として、ミュージカルの
オペラ座のキャストがあの衣装のままクリスマスソングを
歌う舞台をやったことがあって、
舞台の片側で「ホワイトクリスマス」を歌いながら
楽しそうにラウルとクリスがツリーの飾り付けをする反対側で
マスターが(あのオルガンで)同じ曲をハモりながら
クリスマスカードの宛名書きをしている、
なんてシーンもあったそうだ。

・・・・見てー。
346名無しさん@ピンキー:2005/12/21(水) 22:30:38 ID:viTq5I4c
素敵なクリスマスネタの数々に嬉しくて涙が出てきちゃうよ
テレビとかでもクリスマスものいっぱいやってるけど今年はここが1番
それらしくて良い
本当に天使様達ありがとう
347名無しさん@ピンキー:2005/12/22(木) 00:47:51 ID:K0pK13On
>336
思春期娘との話なら前スレ299氏からの続きだね、自分は297なんだが。
GJ!先生が望んでやまなかった暮らしがまさにここにある、幸せそうで嬉しいよ。
クリスの想いが丁寧に描かれてるのが素晴らしい!
妻と娘から見たファントムは何か可愛い感じがして良かった。本当に有難う。
>分からず屋で、変わり者
ワロタ
348名無しさん@ピンキー:2005/12/22(木) 09:00:22 ID:DvW9VkIC
>345
多分クリスマスカードもあの封蝋で…
349名無しさん@ピンキー:2005/12/22(木) 11:06:34 ID:IcZ2DfM2
>>348
同じ事思ったw巨大な禍々しい髑髏の封 してあったら
「Wish your merry Christmas & Happy new year♪」
なんて書いてあっても説得力無い罠…。

>>336
映画のマスターにもこれくらい幸せになってもらいたかったよ
。・゚・(ノД`)・゚・。心温まる作品をありがとう、エンジェル。
350名無しさん@ピンキー:2005/12/22(木) 11:41:33 ID:O+Q+KHGL
235です。
おいらのクリスマスSSもなんとか出来上がりました。
クリスマス前に書き終わって良かった…ほ。
今日中に投下予定です。

>349
髑髏の封は嫌だwめでたくないじゃないかっ。

>336
良いお話だ〜。うるっと来たよ。
娘の為にサンタさんの扮装までするファントムを想像してしまったけどorz
だって溺愛しそうなんだもん。
351名無しさん@ピンキー:2005/12/22(木) 11:57:39 ID:GDonGksO
>350
嫌スレのネタにあったけど、きっとマスカレードの赤い死の衣装張りに
ピチピチ&ムチムチサンタなんだよマスター
352名無しさん@ピンキー:2005/12/22(木) 12:23:57 ID:B6K3o5Lg
投下予告キタ─!今夜は早く帰らねば…!
さっきまですんごい吹雪だったけどもうやんじゃった(残念)
いいねえホワイトクリスマス
しかしピチピチムチムチサンタの父ファントム、今度こそ娘に絶縁されるのでは
クリスは慣れてるだろうけど
353名無しさん@ピンキー:2005/12/22(木) 12:49:52 ID:j1rrbeVF
>336はあ〜素晴らしい
意地悪な質問を恥じることができる
娘さんでよかったね!
素顔の方が好きと思ってくれる
娘さんでよかったね!
マスター幸せものすぎる…
あのガラナイトの出会いをそんなふうに
話すクリスにもノックアウトされました…
354名無しさん@ピンキー:2005/12/22(木) 13:22:14 ID:9pWZ4NP7
308です。
素晴らしい投下続きでお礼のタイミングを逸しましたが
コメントくださった方、ありがとうございました。
スレもすっかりクリスマスの雰囲気…
355名無しさん@ピンキー:2005/12/22(木) 15:53:54 ID:Do1ml9sb
356名無しさん@ピンキー:2005/12/22(木) 16:30:14 ID:Cxml+1G2
>355 ワロタw

350です。
クリスマス絡みのSSですが、外国のクリスマスを知らんので違和感があるかもしれません。
フランスではノエルというくらいしか知識がないもんでw
・エロ無し、ギャグ無し、強姦あり(嫌な場合は避けてください)。
・ラウルの登場はなく、嫉妬の対象にすらなっていません。
・改行が変&無駄に長い。
本当に長いので、ダメだという時はすっとばしてやって下さい。
357クリスマスの休暇 1:2005/12/22(木) 16:32:24 ID:Cxml+1G2

 もう一年近くもの間、クリスティーヌは彼女のマスターと師弟以上の関係ではなかった。
 「この生ぬるい関係を打破しようと思っているの」
 12月に入ったある日、クリスティーヌは親友のメグにそう告げた。
 驚いたのはメグの方である。
 毎夜毎夜、彼らは逢瀬を重ねていたのではなく、レッスンを重ねていただけだったのだ。
 それを知ったメグは、この美しい歌姫が哀れに思えて目頭があつくなった。
 「このクリスマスが良いきっかけになってくれるはずだわ。そう思わない?」
 「・・・そうね。健闘を祈るわ」
 メグは励ますようにクリスティーヌの肩を、ぽむとたたいた。

 クリスティーヌはクリスマスイブに照準を合わせていた。
 マスターのことだから、きっとクリスマスにも私をパーティーに行かせないようレッスンを入れているだろう。
 去年だってそうだったもの。
 「その日のレッスンが終わったらキスをするのよ。・・・クリスマスの宿り木が私を導いてくれるわ!」
 そして、そして、そのまま男と女の関係になったっていい。むしろ望む所よ。
 だがしかし、男女にはすれ違いがつきものである。
 クリスマスの計画の準備を着々と進めていたクリスティーヌは、己のマスターの言葉に愕然とした。
 「休暇が必要だ。クリスマスのね」
358クリスマスの休暇 2:2005/12/22(木) 16:34:29 ID:Cxml+1G2
 計画実行の一週間前である。レッスンを終えたところで彼はクリスティーヌにそう言ったのだった。
 いつもと同じ静かな口調で。
 「まあ」
 予想外の展開にクリスティーヌはぽかんと口を開けた。
 「こういうことはもっと早めに言っておかなければならなかったんだが・・・どうも世間に疎くてね。
 毎夜のように私と一緒では飽きていることだろう。羽を伸ばしてくるといい。
 ただ、レッスンがないだけで公演は幾つかあるからゆっくりできないかもしれないが、
 パーティーや晩餐の招待を受けているなら、応じられるだろう」
 「まあ」
 「君にも一緒に過ごしたい相手があるだろうし、私も正直休暇が欲しいと思っていたところだ。
 体調に気をつけて、特に喉に注意を払うように。二十日から公現祭までレッスンはないから」  
 「・・・まあ」
 幾つもの蝋燭が掲げられていても彼の仮面の奥にある瞳の表情を、クリスティーヌは読めなかった。
 これはどういうことなのだろう?
 パーティーに晩餐、過ごしたい相手?何をほのめかしているのだろう、私のマスターは。
 彼はいつもの声で、いつもの物腰で、いつものように・・・事務的だ。
 そのことにクリスティーヌは傷ついていた。今晩の傷は特に塞がりにくいだろう。
 もうずっと、彼女が彼を選び取った時から、彼は恋人ではなく、夫でもなく、天使でもなく、友人でさえない。
 師としてしか(それ以上でもそれ以下でもなく)、クリスティーヌと接しようとしないのだった。
 だからこそ、クリスマスに奇跡を、自分の手で起こそうとしていたのに。
 今まではっきりと彼の口から聞いてはいないけれど、私との繋がりを徐々に絶ってゆくつもりなのかもしれない。
 休暇が欲しいと彼は言った。私を遠ざけたいのだろう。
 レッスンを終えて自室に引き取ったクリスティーヌはそんな考えに、ベッドに潜り込むと声が漏れないように涙を流した。
359クリスマスの休暇 3:2005/12/22(木) 16:36:36 ID:Cxml+1G2
 思い当たる節はいくらでもあった。
 視線が合えば顔をそむけ、肩先指先が軽く触れるだけで「失礼」と小さく会釈する。
 ささいなおしゃべりも耳障りなのだろう、遮られ、私は歌うのみだ。
 それでも歌声は愛していてくれているに違いない。
 うっとりと、笑顔で「素晴らしい」と褒めてくれることがある。
 ただ、嬉しくなってしまった私が笑顔を返すと、やはりその目は私を避けるのだ。
 歌声以外の私に、彼は興味など無いのだろう。私は私の歌声に嫉妬する。
 いっそ潰れてしまえばいい。潰れてしまえ私の声。そしてマスターに見限られてしまえばいい!
 「・・・そうよ・・・そうだわ。見限られる前に出来る努力はしておかなきゃ。しないで後悔するよりやって後悔するほうがいいもの」
 そう思いつくと、傷が癒えたわけではないが、すうっと気が楽になった。
 今までマスターを完全に失う事を畏れて何もしてこなかったけれど、だらだらと終末を迎えるよりもここではっきりさせよう。
 きちんと気持ちを伝えて、マスターの気持ちを聞こう。勇気がしぼんでしまうような、その後のことは考えてはいけない!
 涙で濡れた頬をぐいぐいと拭い、計画に少々変更を加えて実行に移すことを決心した。
360クリスマスの休暇 4:2005/12/22(木) 16:39:23 ID:Cxml+1G2

 さて、エリックは地下の隠れ家よりも深い後悔の底にいるところだった。
 いらいらと薄暗い中を行ったり来たりしても、心の中は落ち着かない。
 出来ることならクリスティーヌの休暇など取り消してしまいたい。
 愛する者と過ごすクリスマスとはどんなものだろう?
 エリックは神を信じることはやめてしまっていたが、人との繋がりに飢えているので、
 家族が集うというクリスマスに憧れを持っていた。認めたくはなかったが。

 「クリスティーヌに会えないことに慣れなければ」
 低く小さく呟いた。
 エリックは、彼の歌姫の手を放して自由にすることをずっと考えていた。
 今更な感はあるが、クリスマス休暇はその第一歩であった。
 クリスティーヌがエリックを選んだとき、嬉しさと同時に彼は自分のしたことを畏れた。
 彼女の持てるもの全てを奪ってしまったのだから。
 若く美しく、天使の歌声を持つ女性の夢を、希望を、その将来を、摘み取ってしまったのだという罪悪感が彼の心を重くした。
 けれどもクリスティーヌの傍にいたかった。傍にいてほしかった。
 ・・・たったそれだけの為に今まで彼女を引き留めていたのだ・・・。
 普通の男のように愛する人の恋人になることを、夫になることを望んでいたけれど、自分がまともでないことを彼はわかっていた。
 そしてクリスティーヌが、歌姫としての成功以上に、あたたかな家庭を望んでいることもエリックは知っていた。
 私に出来ることではない。
 クリスティーヌがいつかの幼い日に祈っていたのを彼は聞いたのだった。
361クリスマスの休暇 5:2005/12/22(木) 16:41:29 ID:Cxml+1G2
 「ママになりたいわ。素敵な優しい人と結婚して、何人も赤ちゃんを産むの。そうしたら、子ども達は私みたいに寂しい思いをすることはないんじゃないかしら?
 パパ、音楽は好きだけれど・・・それだけでは寂しい・・・」
 その声はエリックの心を揺さぶった。
 彼も寂しかった。考えないようにしていたが、音楽だけを友として過ごす日々のなんと単調で孤独なことか。
 ただでさえ闇の中で暮らす身だというのに、足先から寂しさという波にひたひたと侵されてゆく感覚 のなんと恐ろしく気持ちの悪いものだろう。胸がむかむかして、背中にはびっしょりと汗をかく。
 そんなエリックの耳にクリスティーヌの音楽の天使をよぶ声がして、彼は耐えきれず応えたのだった。

 「ここにいる。私はここだ・・・クリスティーヌ」
 ふっと昔の記憶が蘇り、エリックはまたひとり呟いた。
 クリスティーヌが子供のままでいてくれたなら、ずっと天使でいられたのに。
 少女から娘に、娘から大人の女へとかわってゆくクリスティーヌを嬉しさとともに眺め、誇りに思うと同時に、エリックの彼女に対する眼差しも変わっていった。
 父親のように慈しむ気持ちは、いつの頃からか一人の男として女を愛するものに取って替わり、独占したくてたまらなくなったのだった。
 一連の事件の後でもそれは変わらない。ただ、更に深くクリスティーヌのことを想い、クリスティーヌの幸せを考えるようになった。
 彼女は幼なじみの求婚者ではなくエリックを選んだが、愛ゆえだと思うことは出来なかったので、
 クリスティーヌが自分の元から離れる時のことを考えて必要以上に接することはしなかった。
 すこしでも距離が近づけば、また同じように掠って奪って、彼女を追いつめてしまうことになってしまうだろう。
 それでもレッスンの時間は至福の時であった。すぐ傍にいるのに、その姿を瞳を見つめず、触れず、言葉も交わさないけれど、そこにクリスティーヌがいるだけでどれ程嬉しかっただろう。衣擦れの音、息づかい、ほのかな香りに少年のようにときめいたものだ。
 ・・・もう十分だ。十分過ぎるほど私の我が儘に付き合ってもらったじゃないか。
 エリックは自嘲した。

362クリスマスの休暇 6:2005/12/22(木) 16:43:40 ID:Cxml+1G2
  3
休暇を好きに過ごすように言われたクリスティーヌは、それを拡大解釈することにしたのだった。
 「私がマスターのところに行けばいいのよ」
 クリスマス前夜、クリスティーヌは青ビロードのドレスをまとい、髪をゆったりと結い上げた。
 少しでもきれいに見えますように。
 持ち物を何度も点検して、最後に、宿り木の小枝を手提げ袋にそっと忍ばせた。

 地下室への道順はよく覚えていたけれど、水路を渡るための小舟を用意するのはメグに手伝ってもらったがなかなか骨が折れる作業だった。
 前日に小ぶりのツリーとその飾り、晩餐のこまごまとしたもの等はもう積んである。
 クリスティーヌは舟の操作もお手の物で、さくさくと目的地へと進んでいった。
 「・・・門前の小僧習わぬ経を読むってやつね・・・ふふ」
 緊張しているためか、妙な独り言を言ってしまうクリスティーヌだった。
 隠れ家へ着いてぐるりと周りを見渡したが、人の気配はなかった。所々まだらに蝋燭の炎が揺れている。
 ・・・お出掛けかしら?でもそれならかえって好都合だわ。
 暖炉のそばにコーヒーテーブルずるずると引きずってくると、自分で持ってきたクリーム色のテーブルクロスを広げた。
 暖かい料理を持ってこられないのを残念に思いながら、クリスマスのビスケットや数種類のチーズ、小さなパイ、ワインや食器をテーブルに並べる。
 それからツリーを抱えてその近くに置くと飾り付けをし、ツリーの足下にリボンをきれいにかけた小さな箱を置いた。
 中身はガラスのペーパーウェイトだ。高価ではないが、ラピスラズリのような深いブルーに金色の点が散り、夜空のように美しい品だった。
 なかなか良い出来映えだ。支度を整えたクリスティーヌはにっこりした。
 こんなことをして押しつけがましい図々しい女だと思うが、やりたいことをやってしまおう!と開き直っていた。
 マスターが嫌がるなら自分で片づけて帰ればいいことよ。それだけだわ。
363クリスマスの休暇 7:2005/12/22(木) 16:44:43 ID:Cxml+1G2
 クリスティーヌは少しの間そこで大人しくしていたが、だんだんと耐えきれずに立ち上がり辺りをうろつき始めた。
 お行儀の良いことではないわね。そう思いつつ、エリックの私室の扉の前に立っていた。
 ノックをして返事がなかったが、用心して音を立てないようにゆっくりとドアを開けた。
 蝋燭が一本、サイドテーブルの上で小さくなりながらも灯りを掲げている。
 そのささやかな灯りが、寝台に横たわる人影を浮かび上がらせていた。
 部屋着姿でも寝間着姿でもなく、黒っぽい外出着を身につけたまま、仮面をつけたままでクリスティーヌの探す人がそこにいた。
 一瞬、死を想像したクリスティーヌだったが、近寄って微かに胸が上下するのを確認できるとほっと息をついた。
 「・・・良かった」
 仮面をそっと取り去る。ひきつったような皮膚、血管は浮き出ているし、唇はめくれあがっている。
 どんな顔をしていてもいいから、素顔のマスターと向かい合いたいとクリスティーヌは思っていた。仮面ひとつで彼がとても遠くにいるように感じられるからだ。
 同じ場所同じ時間に一緒にあっても、仮面がこれ以上踏み込むなという標のような気がするのだ。
 久しぶりに見た本当のエリックは、まばらな睫を濡らし、頬にも涙を流したようなあとがあった。
 「夢を見たのかしら?それとも泣きながら眠ってしまったのかしら・・・?」
 愛しさが込み上げてきて胸から溢れる。頬を撫でてキスをしたいと思うが、クリスティーヌは躊躇した。
 いくらなんでも気持ちも態度も押しつけ過ぎじゃないの?けれど、宿り木のことを思い出して、乳白色の小さな実をつけた小枝を取り出して握った。
 クリスマスだわ。
 クリスティーヌはエリックの上にかがみ込むようにすると、彼の唇に自分のそれを押しあてた。
364クリスマスの休暇 8:2005/12/22(木) 16:45:57 ID:Cxml+1G2
 柔らかな感触を唇に感じたエリックは、ふっと目を開け、こぶしひとつ分ほどの距離に人があることに驚いた。
 最初に目に入ったのは、彼の愛してやまない茶色のビー玉のような瞳だった。
 「・・・クリスティーヌ・・・?」
 「・・・クリスマスおめでとう、マスター」
 目覚めると思っていなかったのだろう、クリスティーヌも驚いたように声が震え、掠れていた。
 エリックはゆっくりと体を起こして周りを見渡した。
 夢をみているのだろうか?それとも我知らず地下から這いだしたのだろうか。いいや、ここは私の部屋だ。
 「何故ここに?」
 そう言うと同時に仮面が外されていることにエリックは気付いた。
 「君はよくよく私の仮面を取るのが得意なようだ。君は私の領域にずかずかと入りこみ過ぎる!
 ここへは何をしに?哀れなエリックを慰めに?からかいに?」
 無防備な姿を晒してしまったことに、いつもそんな姿を見てしまうクリスティーヌに、彼は憤りを覚えた。
 実際、眠りに入る前、家族が集うというクリスマスという日に、暗い地下にひとりだという事実に堪えきれず、寂しさを押さえきれず、涙を流した後だったので尚更であった。
 クリスティーヌは、青とも翠ともつかない彼の瞳が遠い北の海のようにひどく冷たくて、ふるふると首を横に振るのが精一杯だった。
 エリックは冷笑を浮かべたままだ。
 「若い女性が男の寝室にいるとはどういうことだろうか。君は男のベッドを暖める趣味があるのかな?
 それなら私もあやかることにしよう。慰めにきてくれたのだろうから!」
 そう言うや否やエリックはクリスティーヌの手首を握り、ぐっと引っ張った。
 彼女はぐらりとベッドに倒れ込み、今度はエリックが被さるようにしてクリスティーヌを見下ろした。  彼の瞳は怒りと欲望でぎらぎらと光っている。
 「青髭公の城へようこそ。好奇心を満たすために秘密の部屋を開いたのは君だ。罰を受けねばね・・・なに、殺しはしない」
 にやりと歪めた唇を彼は舌で濡らした。
365クリスマスの休暇 9:2005/12/22(木) 16:49:32 ID:Cxml+1G2
 「私が大事に育てた歌姫だ。私が作り上げた芸術品だよ、君は。
 天使の声、加えてその美しさ、・・・生かして楽しむべきだろう?」
 エリックは指でクリスティーヌの顔の輪郭をなぞった。まとめられていた髪からはピンが抜け落ちて 栗色の髪が白いシーツの上に乱れている。
 「ベッドの上には男と女だ。となれば、すべきことは何か解るね」
 エリックは、指をクリスティーヌの顔から首へと滑らせ、胸のふくらみにたどり着くと力まかせにそれを掴んだ。
 「・・・っ」
 ちぎられるような痛みにクリスティーヌは呻き、目を瞑った。
 「いつの間にかすっかり女の体だ。私を苦もなく受け入れてくれるだろう」
 エリックは耳元でそう囁くと、くっくと低く笑った。そして、乱暴にスカートの襞を押しやり、幾枚も重ねられた下着を剥ぐようにして、目指すものをさぐりあてた。
 目を閉じて声もたてず、体を硬くしているクリスティーヌを無視して、エリックは一言の声も一片の優しさも見せず、いきなり己のいきり立ったものを彼女の中に沈めた。
 ぎりぎりと体を裂かれるような痛みにクリスティーヌは耐えていた。
 どうしてこんなことになってしまったのだろうと考える余裕などなく、ただただ怖かった。
 この行為が、マスターの瞳が、声が、冷たい手が。
366クリスマスの休暇 10:2005/12/22(木) 16:53:11 ID:Cxml+1G2
 エリックはクリスティーヌを傷つけたかった。
 エリックの涙を見たのだ、仮面を取ったのだ、この女は!私の世界に許可なく入り込んだのだ。
 守ってくれるものもなく、自分で自分自身を守ってきたエリックの隙間なく塗り固めてきた自尊心はクリスティーヌの前ではひどく脆いもので、彼にもそれが良くわかっていた。良くも悪くもクリスティーヌはエリックに強く影響する。
 自尊心という壁が壊れれば、傷つきやすいままのエリックがそこにいる。自分が傷つく前に傷つけてしまえ。
 「・・・君が望んでここへ来たのだ」
 クリスティーヌの中は固くきついものだったけれど、エリックは彼女の肩を押さえつけたまま、欲望 のおもむくままに動き、頂点に達するとその中で全てを解き放った。
 それが済むと、彼は着ていたシャツを脱ぎ、ぬめぬめとした体液をそれで拭き取った。
 衣装箪笥から新しい着物を取り出して身なりをきちんと整えてから、寝台の上でぼんやりとしている クリスティーヌに、凍えさせるような声で言った。
367クリスマスの休暇 11:2005/12/22(木) 16:54:07 ID:Cxml+1G2
 「こんな素晴らしいクリスマスは初めてだったよ、礼を言おう。・・・だがもう用は無い。帰りなさい、ここは私の寝室だ」
 彼女が乱れた髪やドレスをなでつける間もなく、エリックは扉を開けて「さあ」とクリスティーヌに出て行くように促す。
 彼女は痛みと畏れに震える体を起こし、マスターに従った。
 「・・・良いクリスマスを・・・」怒りも悲しみも湧かず、何が起こったのかはっきりと理解できず、すれ違い様にクリスティーヌは絞り出すような声で言ったけれど、エリックは何も応えなかったし、侮蔑する視線さえもよこさなかった。
 心身共に痛み、帰りの舟を操るのは容易なことではなかったが、なんとか自分の部屋までたどり着くことができた。
 「・・・あんなことの後なのにちゃんと戻ってこられるなんて、強いじゃないのよ、私・・・」
 ベッドに倒れ込んでそう呟くと突然笑いたくなった。ふっふと笑うと同時に溢れてきた涙を、クリスティーヌは止めることが出来なかった。
 認めなければ、彼が自分を愛してくれていたのはもう過去のことなのだ。
368クリスマスの休暇 12:2005/12/22(木) 16:55:40 ID:Cxml+1G2
 エリックは暫く部屋に佇んでいた。
 クリスティーヌの残り香に、自分のやってしまったことが幾度となく鮮明に思い出された。
 傷つけたかったくせに、傷つけてしまえばそのことを後悔する。クリスティーヌを傷つければ自分も同様に痛むのだ。
 枕もとに宿り木の小さな実を見つけ、居間にはささやかな食事と飾られたツリーも見つけた。ツリーの足下には小さな包みがリボンをきれいにかけられて置いてある。
 「・・・なんてことだ・・・」
 家庭のにおいがそこにはあった。
 クリスティーヌがいそいそと支度をする様子が思い浮かぶ。はにかんだような幼さの残る笑顔が思い出され、しかし、その表情をずっと見ていないことに彼は気付いた。
 笑顔はかき消え、先ほど彼女が見せた悲しげな表情がエリックを苛めた。
369クリスマスの休暇 13:2005/12/22(木) 16:56:26 ID:Cxml+1G2
 目覚めたとき、それがクリスティーヌだと解った瞬間、エリックは嬉しい驚きに胸が震えた。
 だが、彼女はクリスマスをひとりで過ごすだろう私に同情して、出来る限りのことをしにここへやって来ただけなのだとすぐに思い直した。
 クリスティーヌは求める者の手を振り払うことなどできない人間なのだ。
 相手が私ではなくても誰でも、きっと同じように自分の持てるものを差し出してしまうに違いない。
 しかし、もうそういうことは無いだろう。思い知った筈だ、寂しい男に期待を持たせるような行動がどういう結果を招くか。
 包みのリボンをほどくと、ころりとして美しいペーパーウェイトが顔を出した。
 ありふれた品物でないことは確かで、クリスティーヌが慎重に贈り物を選んだことが窺われ、再び良心の呵責におそわれた。
370クリスマスの休暇 14:2005/12/22(木) 16:58:11 ID:Cxml+1G2
  4
公現祭も終わった次の夜、クリスティーヌは礼拝堂でマスターが現れるのをじっと待っていた。いつまでも待つつもりだった。
 「約束は守る方よ・・・」
 壁のこちら側で、エリックは迷っていた。クリスティーヌは二度と来ないだろうと考えていたからだ。
 さんざん躊躇った末に、これで最後にしよう、最後の挨拶が出来るのは悪くないだろうと、彼はクリスティーヌの前に姿を現した。
 微かな空気の揺れを感じてクリスティーヌが振り返ると、会いたかった人がそこにいた。
 「・・・マスター・・・」声が詰まる。早く、早く言わなければ。気持ちを伝えなければ、マスターが行ってしまわないうちに!
 なのに、彼が来てくれたという安堵感からか、言葉よりも先に目から涙がこぼれてしまった。
 涙を見たエリックは、自分と会うのが泣くほど嫌なのだろうと思った。当たり前だ、ひどい事をしたのだから。
 「そのままで」立ち上がろうとするクリスティーヌを制する。
 「まずこれを受け取って欲しい。クリスマスの贈り物の礼だ。ありがとう・・・嬉しかった」
 クリスティーヌがありがとうと言おうとするのを彼は片手を上げて遮った。
371クリスマスの休暇 15:2005/12/22(木) 16:59:49 ID:Cxml+1G2
 「言わなくていい。私はひどい事をした。謝ってすむことではないのはわかっているが、謝らせて欲しい。・・・済まなかった。
 それから、今日で私がここへ来るのは最後だ・・・」
 エリックは、クリスティーヌに会えて幸運だったと告げたかった。君を知ってからずっと良い日々を過ごせたと言いたかった。しかし、彼女にとっては長い悪夢だっただろうと考えてそうは言えなかった。
 さよなら。と、ただ一言を置いて去ればいいのに、まだここに居て彼女を見ていたかった。
 「・・・君は・・・とても良い生徒だった・・・」
 目を細めてクリスティーヌの頭のてっぺんから足の先まで見つめる。蝋燭の灯りに浮かび上がるその姿は清楚で美しく、彼に汚された痕など微塵もない。
 エリックは振り切るように視線を離すと、体もそちらへ向けた。黒い外套が翻って、クリスティーヌの 元から足音がはなれてゆく。
 「・・・だめよ・・・っ!」
 彼女は立ち上がり、エリックの腕に力一杯しがみついた。
 「・・・触れるな」
 振り向きもせず、絡みつく細い腕を振り払おうとしたが、クリスティーヌはなかなかしつこかった。
 もうひとつの手でもぎ取ろうとしてエリックはバランスを崩した。そして、クリスティーヌは見たのだ。彼が涙を流しているのを。
 仮面の下を伝って顎からぽたぽたと涙が落ちる。
372クリスマスの休暇 16:2005/12/22(木) 17:00:54 ID:Cxml+1G2
 「私を見るな!」
 「見るわ!私はあなたを見ていたいし、触れたいもの。
 ご自分だけ言いたいことを言ってさっさと行ってしまうなんてずるい。私だって言いたい。
 あなたを愛しています。愛しているわ。ずっと、ずっと言いたかった。
 嫌っててもいい。恋人になれなくても、友人でさえなくてもいい。お願い・・・ここにいて。歌を教えて。 行ってしまわないで。置いていかないで」
 ほとばしる言葉に、激しさに、エリックは圧倒されていた。これがクリスティーヌだろうか?
 彼はゆるゆると壁に背をついて天井を仰いだ。
 「・・・君の言葉はいつも私を揺さぶる・・・。
 私は・・・手許に君を置いていたいと思うと同時に、君には幸せであって欲しい。そして、君の幸せは私と共にあるものでないと考えている。わかって欲しい」
 「わからないわ。どうしてそういつも決めつけてしまうの?
 私が幸せかどうかはマスターが決めるものじゃない。私が感じるものだわ。
 マスターは私がいつまでも頼りない子供のままだと思っているみたいだけど、それは違うわ。
 いつまでも子供扱いしないで。ちゃんと私を見て!
 私が幸せだと思うのは、あなたを身近に感じたときよ」
 クリスティーヌは一度言葉を切ったが、思いきって訊ねた。
 「・・・マスターは?」
373クリスマスの休暇 17:2005/12/22(木) 17:01:33 ID:Cxml+1G2
 エリックは大きく息を吐いた。
 「幼い君が天使を呼んだ時。成長する様子を間近で感じることが出来た時。・・・私を選んで・・・キスをくれた時。
 それから・・・クリスマスに来てくれて本当はとても嬉しかった。あんなことをしてしまったが、本当に本当に・・・。
 宿り木のキスも、クリスマスの贈り物も、初めてだった。ずっとあんなふうに愛する人と過ごせたらと思っていた。
 ・・・ありがとう。君は私を幸福にしてくれる。」
 上を向いて目を閉じたまま、彼は告白した。
 エリックは、彼が思っているよりずっとクリスティーヌが大人の女性だったことを、今夜初めて知った。
 「私の幸せを願って下さるなら、ここにいて。マスターも、私がいることで幸福だとおっしゃるなら」
 「・・・しかし、私はまともな男ではない。そんな男と君は一緒にいるべきではない。必ず後悔する時がくる」
 クリスティーヌはこちらも見ずにそういうマスターの頬を一発叩いてやりたいような気持ちだった。
 「私を見て!今更なに?醜いから?人殺しだから?私の体を無理矢理奪ったから?そんなの知りすぎるくらい知ってるわ。
 さっきから言ってるじゃない。愛してるって、傍にいたいって、何度言えば解ってくれるの?
 それとも私に合わせているだけで、さっき言ったことは嘘?それならそうとちゃんと言って!本当のことを教えて・・・」
 エリックにすがりつき、我慢していた涙がぼろぼろとこぼれ、髪もほつれてみっともないほど顔をくしゃくしゃにして、クリスティーヌは泣きじゃくった。
374クリスマスの休暇 18:2005/12/22(木) 17:07:18 ID:xKKCt/k4
 どれほど泣いただろうか。いつしかエリックの腕はクリスティーヌの背中に回され、抱き寄せられ、髪をなでられていた。
 「・・・大人になったと自分で言ったそばから、今度は小さな子供のように泣く・・・」
 泣き過ぎてしゃくりあげているクリスティーヌを抱きしめながら、背中をぽむぽむとたたくとエリックはそう言った。
 穏やかで思いやりのある、かつて彼女を導いた天使の声の響きに、クリスティーヌは顔を上げた。
 エリックは微笑んでいた。
 「困ってしまうじゃないか」
 今のエリックの瞳は、春の海のように穏やかで柔らかな色をしている。
 彼は片手を仮面にやると、顔からそれを外した。醜い素顔がクリスティーヌに向けられる。
 「このマスクは私のプライドで・・・君がときどき取り外してしまうものだ」
 微笑んだまま、肩を軽くすくめた。
 「どうだろう?この顔は。自尊心を取り去った男は。これが私だ・・・手も血で染まっているがね。
 それでもクリスティーヌが可愛い。クリスティーヌが愛しい。君を愛している。
 しかし、きっと、君の望む平凡であたたかな家庭を与えてやることはできない。相応しい人物がどこかで待っているだろう」
375クリスマスの休暇 19:2005/12/22(木) 17:08:25 ID:xKKCt/k4
 仮面を外した素のままのエリックとクリスティーヌは向かい合っている。
 「・・・知っていらしたの?・・・でも不思議じゃないわね。私はときどき礼拝堂で独り言を言っていたから。父や音楽の天使に話しかけていたから。
 ・・・与えてもらおうとは思っていないの。作っていくものだと思っているから・・・その・・・マスターに手伝ってもらえたらって」
 家庭というものに憧れつつも、経験として知らないエリックはそう言われて初めて気が付いた。
 漠然としたイメージしか持っていないから、それが最初から存在するのではなく、築いていくものだと思いもしなかったのだ。
 「いつか、音楽をつくるのを私に助けて欲しいとおっしゃた。
 今度は私を助けて、手伝ってほしいの。・・・あなたじゃなければ出来ない」
 「・・・」
 とても魅力的な提案だったが、なんと応えればいいかエリックはわからなかった。だってこれは求婚なのだから。
 「仮面がないだけでとても近くに感じるわ。・・・大好き」
376クリスマスの休暇 20:2005/12/22(木) 17:09:07 ID:xKKCt/k4
 クリスティーヌはエリックの頬を両手で挟むと自分の顔へ引き寄せ、唇を重ねた。
 心に温かさがじんわりと広がって、エリックは唇が離れると、クリスティーヌを見つめた。
 複雑に絡み合っていた糸がほぐれてゆくような思いだった。
 「・・・手伝わせてくれるだろうか?私に出来るだろうか?私は何も知らないんだ・・・」
 クリスティーヌはもう一度キスするとにっこりと微笑んだ。
 「二人で知っていけばいいわ。一人では出来ないことも、二人でなら出来るわ」

 数日後、クリスティーヌの話を、うんうんと聞き終えたメグは「クリスマスの準備を手伝ったかいがあったってわけね。特に舟は大変だったもの」
 笑顔でそう言うと「良かったわね」と、笑顔で親友を抱きしめた。
 そしてこう付け加えた。
 「今度は結婚式の準備のお手伝いかしら?」
377クリスマスの休暇 :2005/12/22(木) 17:11:52 ID:xKKCt/k4
あ、<おしまい>って書くの忘れてたorz

すんません、予想以上にレスを使ってしまいました。
計画性がない…。
ああ、本当に無駄に長い。
378名無しさん@ピンキー:2005/12/22(木) 17:23:24 ID:fFNIV8Mc
この板のSSを読んで泣いたのは初めてだ…
379名無しさん@ピンキー:2005/12/22(木) 17:26:40 ID:jEEiiqsZ
天使様GJ!
たまたまMOTN聴いてたせいかときめきがとまらない…。

そしてメグが可愛すぎる。
380saga:2005/12/22(木) 17:31:50 ID:2opdX5u9
初めてリアルタイムに遭遇して感激ひとしおです。
こんなに精神的に強いクリスに初めて出会った気がします。
381名無しさん@ピンキー:2005/12/22(木) 17:40:17 ID:2opdX5u9
失礼しました。無知な一愛読者が書き込んでしまいました。
またおかしかったら平にお許しを。
382名無しさん@ピンキー:2005/12/22(木) 18:07:15 ID:dlkqXvz4
>377さん
すんばらしい! ブラヴァ! ブラヴィッシマです!
真正面から愛を請う自信を持てない、素のマスターの弱さ、屈折した想い、
恐れを振り切って自分の気持ちを正直にぶつけていくクリスティーヌがイイ!
映画の二人もこんな風に幸せになれたら良かったのに・・・と思ったよ。
素敵なクリスマス・プレゼントをありがとう!
383名無しさん@ピンキー:2005/12/23(金) 00:28:38 ID:axn1ZSCk
良かった!GJ!
映画や原作のマスターの孤独がどんなに深いものだったか、
ここで改めて知ったような気がする。
無理矢理抱いた所も、すごく切なくて、んで結構ハァハァしちゃった…
クリスマスの天使様方ありがとう!
384名無しさん@ピンキー:2005/12/23(金) 02:06:14 ID:F5QAq+vz
377です。
長いのに読んでくれて、レスまでもらって嬉しいです。
最初に、クリスティーヌがファントムの元に残ったという設定だと書き忘れましたorz
後出しスマソ。
385名無しさん@ピンキー:2005/12/23(金) 19:52:21 ID:axn1ZSCk
「へへへ、見れば見るほどいい女だせ…」
と、下卑た台詞を吐きながらファントムはズボンのチャックをあけて、怒張したペニスをズヌーとクリスティーヌに見せ付けた。
「ひい……」
それを見てクリスティーヌは小さく悲鳴をあげて怯えた。
「くくく、あとでじっくりコイツでお前を可愛がってやるからな」
そう言ってファントムはズボンをいったん直してペニスをしまった。
(あんな汚らわしいものを入れられたら、私どうなるの……)
そう思っただけでクリスティーヌはがくがくと震えて恐怖するのだった。
その様子をニヤニヤと眺めていたファントムは無意識のうちにつぶやいた。
「へへへ、怯えていやがる、まったくたまらねえ女だ……」
するとファントムは、おもむろに自分のズボンのチャックを開けて、ズヌーと自らの陰茎を取り出したではないか。
「ひいー!」
いきなり醜悪な物体を見せ付けられてクリスティーヌは思わず悲鳴を漏らした。
「よーく見ておけ。私のこの自慢の逸物をあとでたっぷりぶち込んでやるぜ!」
そう言いながら、ファントムがまたズボンを穿き直している間に、クリスティーヌはこんなことを思って恐怖した。
(私はこれからこの男に犯されてしまうのかしら。なんておそろしい)
まるで痙攣したように全身を震わせるクリスティーヌ。
しかしそんな様子もファントムにとっては嗜虐心を喜ばせるに過ぎなかった。
「ひひひ、せいぜい楽しみにしてろよ……いい女だ……」
ファントムは満足気にそう呟いた。
そしてクリスティーヌをいたぶるように、なんと自分のズボンのチャックを開けて、勃起したペニスをズヌーと取り出すのであった。
ファントムのとんでもない暴挙にクリスティーヌは悲鳴をあげすにはいられなかった。
「ひ!」
「へへへ、見ろよ。後でお前を犯しまくってやると思うと、もうこんなになってるんだぜ」
クリスティーヌの体に戦慄が走る。
(な、なんてことなの、あんな醜悪なもので、私は犯されてしまうというの……?)
ニヤリと顔を歪めて、一度ズボンを直して勃起を再び押さえつけるファントム。
目に涙を浮かべ小動物のようにただ怯えるしかないクリスティーヌ。
「まったく、お前の怯えている顔といったら、たまらねえぜ」
そして非道な笑みを浮かべたまま、ファントムは驚くべき行動に出た。
なんとズボンのチャックを開けて、自分のいきりたった男性自身をその場に晒しだしたのだ。
「ひー!」
その思わぬ行動に、クリスティーヌは悲鳴をあげて驚き怯えた。
「後でやってやって、やりまくってやるぜ……」
クリスティーヌの怯えきった反応を見ながら、ファントムはズボンを穿き直していったん男性自身を封印するのであった。
(な、なんていうことなの……あんな凶悪な……こ、こわい……)
クリスティーヌはもうがたがたと震えて怯えるしかなかった。

ネタモト↓
「ネット上の駄目なエロSS 第五章 」
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1122722360/396-#tag411

386名無しさん@ピンキー:2005/12/23(金) 20:36:43 ID:Ihh0T9e2
…orz
わざわざ駄目なやつをコピペせんでもいいだろうに…。
クリスマスの雰囲気が…orz
387名無しさん@ピンキー:2005/12/23(金) 20:46:40 ID:BsZFAIAr
飛び切りイイか、飛び切りクリスマスなのをおながいします。
388名無しさん@ピンキー:2005/12/23(金) 21:23:52 ID:urJr3hih
クソワロタwwwwwGJ!!wwwwwwww
延々ループで何も起こらないんだなwww
389名無しさん@ピンキー:2005/12/23(金) 21:53:53 ID:mv/zv47s
状況を想像してみるとあまりにもリアルに浮かんできて笑いが止まらん!
それでこそマスターだ!って感じで。
イイジャン面白いんだしさ
今SS書いてるけどトビキリ良くも無くクリスマスものでも無いんで
なんか投下しにくいなと思った、でもそのうち落とさせてもらうけど…
390名無しさん@ピンキー:2005/12/23(金) 22:05:40 ID:SxsAcpHi
「強盗だ、おう!」といい、これといい…
邪神の書くSSはある意味感心する。
誰も真似できんw
391名無しさん@ピンキー:2005/12/24(土) 01:54:56 ID:SaMSi/yZ
>>385の元ネタは狙ってる感がありあり
それでもある意味オモロイがw
392名無しさん@ピンキー:2005/12/24(土) 10:26:26 ID:+ouWM9BT
「後でやってやって、やりまくってやるぜ……」
クリスティーヌの怯えきった反応を見ながら、ファントムはズボンを穿き直していったん男性自身を封印するのであった。が、その時!
「ぅぐッッ…!?!」
(な、なんていうことなの……あんなにはさんで……チャックって…こ、こわい……)
クリスティーヌはもうがたがたと震えて笑いを堪えるしかなかった。
393名無しさん@ピンキー:2005/12/24(土) 10:44:44 ID:pv2HA7R6
>392
おいwww
チャック恐ろしいよチャックwww
394名無しさん@ピンキー:2005/12/24(土) 11:01:13 ID:fCW/zgsk
クリスマス…ですが、325氏とシチュかぶっちゃってる、ごめんなさい。
エロ無い、ギャクも無い、オチも無い、そんなチビッコNoel
では、じゅわいよ のえる!
3951/4:2005/12/24(土) 11:02:03 ID:fCW/zgsk
街路樹が色づいた葉を脱ぎ捨てる頃、入れ替わるように通りには色が溢れ始める。
しかしやがて訪れる神の子の誕生日に向け、徐々に活気を増してゆく街とは対照的に
彼の弟子はここ数日、それと判るほど元気を無くしていた。
「何かあったのかね、クリスティーヌ」
「…何もないわ、天使さま」
この小さな弟子に歌を教え始めてからもう1年近くになる。
悲しいことや辛いことを、1人で耐えがちな性格ではあったが
それでも何かあったなら、音楽の天使にだけは話すはずなのに。
「ありがとうございます、天使さま。それでは、おやすみなさい」
ぺこりと一礼して出てゆくクリスティーヌの背を眺めながら、ファントムは首を傾げた。

「…寂しいのよ」
マダム・ジリは見上げながら尋ねる娘に答えた。
「寂しい?クリスティーヌは寂しいの?」
「周りがね、華やかで楽しげだと余計に寂しくなるものよ。
ノエルは家族で過ごす日だから、余計に亡くなったお父様のことを思い出すのね」
注意深く視線を梁のあたりに投げる。
「去年はここに来たばかりでそれどころではなかったのでしょうけど…
ずっと父1人子1人だったから」
「…そう言えば、クリスマスはいつも、お父様がバイオリンを弾いてくれたって言ってたわ。
その話をしてから、なんだか悲しそうな顔をすることが多くなったの」
心配そうな表情の娘の頭を撫でる。
「大丈夫よ。すぐにクリスティーヌは元気になるわ。
あの子には私たちもなくなったお父様も…天使もついているのだから」
梁の軋む音。目の端に何か黒いものが動くのが写るが、マダム・ジリは振り返らずに我が子を促した。
「さ、もう行きましょう…」
3962/4:2005/12/24(土) 11:03:26 ID:fCW/zgsk
「明日はミサに行くのだろうから、レッスンは休みにしよう。
そのかわり…ミサから戻り、皆が寝静まったら大道具部屋に来なさい」
天使の言葉に従って、クリスティーヌは深夜の廊下を歩いていた。
いつも人で溢れているオペラ座の、真夜中の姿。
見慣れた扉も、手摺も、カーテンも、全く別のものに見える。
ぶるっと背筋が震えたのは寒さの所為だけではない。
クリスティーヌは唇をへの字に曲げると一気に廊下を駆け抜けた。

大道具室は舞台の奥にある。
不気味に翻る緞帳を見ないようにしながら、大道具室の扉に手をかける。
そっと押すと、いつもは鍵の掛かっている扉はギイと開いた。
予想に反して中にはぼんやりと明かりが灯っている。
中央には小さな椅子。その足元にランプが置かれ、椅子自体は柊と南天の実で華やかに飾られている。
「天使さま?」
呼びかけるけれど、返事は返ってこない。
(座ったらいいのかしら)
おそるおそる腰掛けると、目の前の薄闇がかたりと音を立てた。

椅子に腰掛けたまま身を固くするクリスティーヌの眼前で、
ずらりと並んだ燭台に次々と火が灯ってゆく。
「わあ!」
誰もいないのに火が現れる不思議さと、灯った明かりの眩い美しさに
クリスティーヌは怖がるのも忘れて身を乗り出した。
灯火の向こうにぼんやりと影が浮かび上がる。
白い衣を纏った天使の人形。
クリスティーヌの背丈ほどもあるその人形は、手に小さなガラスのヴァイオリンを持っている。
3973/4:2005/12/24(土) 11:04:35 ID:bh+/tjN5
きい、と小さな音がして、天使の人形がひとりでに動き出した。
滑らかな動きでヴァイオリンを顎に当てる。
小さな弓がきらきら輝く弦の上を滑った瞬間、美しいヴァイオリンの音が零れた。
瞬きを忘れて見入るクリスティーヌの耳を懐かしいメロディーが通り過ぎる。
スウェーデンの古い歌。
ノエルの夜、父親がいつも最後に弾いてくれていた子守唄。
泣き止まないクリスティーヌに、天使が始めて歌ってくれた曲でもある。
「…お父様…」
思わず呟いて、瞳を閉じる。

「クリスティーヌ」
ヴァイオリンの音色に混じり、ふいに聞き覚えのある声がすぐ背後から聞こえた。
(天使さま!)
「振り返ってはいけない」
低い、いつもよりずっと近くで聞こえる声に、動かしかけていた頭を慌てて戻す。
「お前の父の魂は、常にお前とともにある。私の声が、常にお前とともにあるように」
「…お父様の魂は、ずっと一緒にいてくださるの?」
「ああ」
「天使さまも?ずっと?」
大きな手が頭の上に載せられる。
音楽の天使は、今まで聞いた中で一番優しい声で呟いた。
「ああ…お前の望む限り、ずっと…」
「よかった」
掌の温かさに安堵して、クリスティーヌは頷いた。
「天使さま…お歌を歌って」
「歌?」
「お父様が弾いて下さているお歌」
「よかろう」
やがて頭の上から、ヴァイオリンに合わせて優しいメロディーが降ってきた。
低く甘い声は粉雪のように頬や髪をかすめて、夜の中に溶けてゆく。
揺れる蝋燭の光の中で、天使の歌声に包まれながら
クリスティーヌはゆっくりと眠りの階段を降りていった。
3984/4:2005/12/24(土) 11:05:15 ID:bh+/tjN5
何者が運んだのか…そもそも昨夜の出来事は現実だったのか、
彼女は翌朝、寄宿舎の自分の部屋で眼を覚ます。
しかし夢でない証に、起きたとき彼女は枕もとに小さな包みを発見するだろう。
送り主の名は書かれていないが、彼女はすぐに分かる筈だ。
包みの中身は送り主曰く、手慰みに造った、他愛無い、つまらないおもちゃで、
蓋に赤いばらのモチーフがついた愛らしい小箱。
開けると素朴で暖かい、彼女の故郷のメロディーが流れ出す。

そして朝の礼拝堂の冷たい空気の中で、送り主もまたふたつの包みを見つけるだろう。
それぞれに拙い文字で「おとうさまへ」「てんしさまへ」と書かれたカードが添えられている。
中は例えば聖母の絵がついている指貫だとか、年上のダンサーから貰ったロケットだとか、
それこそ他愛無いものだけれど、それでも彼にとっては生まれて初めて
愛情をもって他者から贈られたノエルの贈り物に違いない。
他人に感謝を表すことを忘れて久しい怪人は、その夜のレッスンで
小さな弟子に何と言葉をかければいいか、暫く悩むことになるだろう。
でもそれらは総て、明日の朝の話。
輝かしい聖なる朝に向けて、ただ夜は静かにその帳を揺らしていた。
399名無しさん@ピンキー:2005/12/24(土) 13:11:10 ID:MfYypU5k
>395
良かった!ちびクリスまじ可愛い!
このふたりはクリスマスの光景がよく似合うよね、心が温かくなる話を有難う。
そしてマスターは「聖母の絵がついている指貫」でクリスのウェディングドレスを
ちくちく縫うわけですな。

>392もGJ!オゲフィンでちと、おマヌケなマスターも好きだ
400名無しさん@ピンキー:2005/12/24(土) 23:06:44 ID:SsFMKrsI
二人きりのイブ素敵!
きっとこんなクリスマスを毎年過ごして来たんだと思うよ
クリスからプレゼント貰って、マスターなんて言葉かけるんだろう、照れちゃって悩むんだね
なんか人少ないな…皆デートか、イイナア恋人持ちは(´Д`)
401名無しさん@ピンキー:2005/12/25(日) 01:28:18 ID:nDJr68KI
>395
GJ!
情景がありありと目に浮かびました。
ふたりの結びつきがいかに深いか……。
ずうっとあんな風にクリスマスを過ごしたら良かったのにね……。
402名無しさん@ピンキー:2005/12/25(日) 17:55:36 ID:jz4SLnxC
もう、時期的に遅いような感があるのだが・・・orz
クリスマスもの投下させてください。

○若いファントム×子供クリス
○当たり前だが、ヨウジョにつきエロなし
○イブの深夜ということで

よろしくお願いします。
403贈り物1/5:2005/12/25(日) 17:57:13 ID:jz4SLnxC

「て・・・し、さま・・・」

「天使さま・・・・・」

深夜。静寂のなか、私はオルガンにむかっていた。
今宵はやけに冷え込んでいて、刺すようなピンと張りつめた空気がオルガンの音をすき間なく
連れ去ってより澄んだ音が響く。
なぜだか厳かな気持ちになる。
そのオルガンの音に混じって聞こえる囁くような小さな声。
声のする方へ視線を向けると、私のすぐ横にクリスティーヌが立っていた。
「天使さまぁ」
涙が溜まった大きな瞳が私に訴える。
───何度も呼んだのよ。
天使さまはわたしに気がつかなかったから、何度も何度も呼んだのよ───

彼女にすまなかったという気持ちもあり、私はいつものレッスンするときの声よりも
幾分やわらかい声で彼女の呼びかけに答えた。
「どうした?怖い夢でも見たのかな?」
彼女は瞳に涙をうかべたまま、首をふるふるふると左右に振る。
ひゅうっと湖の方からやってきた冷気が無数の蝋燭の炎を揺らす。
私の住処の岩肌は、いっそう寒さが身にしみる。
この子に風邪を煩わせる前にベットに戻さなくてはならない。
「では、どうしたのだ?・・・まだ、傷むのか?」
先ほど手当ては終えているのだが、もしやと少し不安を感じながらそう尋ねると、
彼女はやはり、ふるふるふると左右に首を振り、今度はそのまま俯いてしまった。
404贈り物2/5:2005/12/25(日) 17:58:40 ID:jz4SLnxC
私は彼女の両腕の下にそっと手をさしいれて抱き上げるとオルガンの椅子から立ち上がり、
その椅子にそっと彼女を座らせた。
突然体がふわりと浮いて、椅子の上に降ろされたことに小さく驚いて、彼女が俯いた顔を上げ
「ぁ・・・」と私をみる。
私は、彼女と向かい合うように、床の上に膝を落とすとわずかにクリスティーヌの方へ
身を乗り出すようにして彼女の顔をのぞき込んだ。
「クリスティーヌ?」
クリスティーヌが私を見つめしばし沈黙する。
私は彼女を見つめ返すことで彼女を促した。
と、新しい涙がますます彼女の瞳を揺らす。
ぐすっ。
ついに小さくしゃくりあげると、彼女はぽつりと呟くようにいった。
「サンタさんは、来ないわね・・・・・・?」
「?」
「明日のクリスマス、サンタさんはきっと私のところには来てくれないわね?」
彼女が瞬きをすると、いままで瞳に留まっていた涙が、彼女の目から頬へと伝った。

───サンタクロースが、来ない・・・・・

「なぜ、そう思うのだ?」
私の問いに彼女が哀しそうに答える。
「だって、クリスティーヌは、いい子じゃない、から・・・・・」



ほんの数時間前のこと。
クリスティーヌは、どうしてもやりたくないのだと、歌のレッスンを頑なに拒んだ。
私が彼女に歌を教えるようになってからみた初めての彼女の抵抗である。

───いやなの、歌わない!歌いたくないもの!

歌がいやだとは?
一体どれほどの理由があるというのだ?
私がどんなに理由を問いただしても、彼女はただ歌いたくないと言うばかりだ。
彼女の抵抗はやがて駄々っ子のそれになっていき、手に負えなくなった私は、彼女を自分の膝の上に乗せ、
彼女がごめんなさい、ごめんなさいとついに泣き出し繰り返し言うまで、尻をたたくという少々手荒な
お仕置きを与えたのだ。
405贈り物3/5:2005/12/25(日) 18:01:35 ID:jz4SLnxC
ぐすっ。
彼女はまた俯いてしまった。
───クリスティーヌは、いい子じゃない。
レッスンを拒んだ自分に対する罪悪感からか、私に与えられた罰によるものなのか、
いずれにしても今度のことは彼女に相当の罪の意識を植えつけてしまったらしい。
いくら歌のこととはいえ、こんな小さなこの子に、先ほどのお仕置きは
少々厳しすぎたのかもしれないと、
私はあらためて後悔の念が浮かんだ。


それにしても、サンタクロースとは。
彼女を哀しませる原因があまりにかわいらしくて、そして少しほっとする。
なんと返したらよいものかわからない私は、
「サンタクロースはわかっているよ。おまえがとてもいい子だと」
とありきたりな言葉を彼女にかけるしかなかったが、それでもクリスティーヌの表情は
いくらか嬉しそうな笑顔に変わり、私は心の中で安堵の微笑みをもらした。
やがて、クリスティーヌははっと何かを思いだしたように言った。
「天使さま?天使さまのところにもサンタさん、くるのでしょう?
天使さまは、わるい子じゃないでしょう?」
あどけない表情で無邪気に私をみつめるこの子に、私はなんと返していいものか今度こそ
見当もつかない。
神から、お前は存在してはいけないのだと、この人間の世界にいるべき生き物ではないのだと、
そう烙印されたこのわが身。
醜い化け物。汚らわしい怪物。
生まれついた罪人のように人の目を避け、神からも身を隠し、死を夢見ながら生きている怪人。
彼が、サンタクロースなる人物がもし一目でも私をみたら、一瞬にして彼を嫌悪と驚愕の炎で
焼き尽くしてしまうだろう、呪われし悪魔の子供。
己の顔がはっきりと自嘲めいた表情をつくっていくのがわかる。
私はすっと体を起こすと、座っているクリスティーヌに仮面の側を向けて立ち、
「さぁ。」
とだけ答えた。
クリスティーヌの表情が一瞬にして曇るのがわかる。
ただならぬ私の態度になにか聞いてはいけないことに触れた気がしたのかもしれない。
「そう・・・・」
と哀しそうにいった。
沈黙に居心地が悪くなったのか、私の表情と自分の膝の先をそわそわと交互に見ていた彼女が、
やがて何かを思いついたように表情を輝かせた。
「あ、あの・・・、わたしが天使さまのサンタさんになってあげる!」
にっこりと私をみてクリスティーヌが微笑む。
この新しい思いつきがよほど嬉しいことなのだろう、表情がきらきらと輝いてかわいらしかった。
406贈り物4/5:2005/12/25(日) 18:03:06 ID:jz4SLnxC
「じゃぁ・・・、目を閉じてくださいな、天使さま」
すっかりうきうきとしたクリスティーヌの指示に、私は戸惑わずにいられない。
────目を閉じる
人前で一番無防備な姿を晒すことは、私にとって即、死を意味する────
こんな小さな少女の前ですら、怯え身構える自分がなぜだかとても惨めに思えた。
「ふふ、天使さま。目を閉じてくださいな?」
クリスティーヌがにこにこと誇らしげに、私にかわいらしく迫る。
その愛らしさに誘われるように、私はそっと目を閉じた。
「うふふふ」
くるくると楽しそうな笑い声。
クリスティーヌがさわさわと何かしている音がする。
次の瞬間、私の左の手首に小さな手が添えられる感触がして、そのままそっと持ち上げられた。
そして。
「天使さま、目を開けてくださいな!」
私はおそるおそる目を開けた。
先ほど同様、いやさらににこにこと誇らしそうなクリスティーヌが私の瞳に映る。
クリスティーヌの大きな瞳がすっと動き、私は彼女の視線に従うように、自分の左の手首に
目をやった。
手首には何か巻きつけてある。
白地に金色の縁の入ったリボンが、私の手首で蝶のように結ばれている。
言葉もなくクリスティーヌに視線を戻すと、先ほどまで結ばれていた彼女の髪が、
今はふわふわと下ろされていることに気がつく。
「クリスティーヌ、これは・・・」
「あのね、天使さま。私が一番大切なリボンなのよ。
だから、だからお父様と同じくらい大切な天使さまに、クリスマスプレゼント!」
ああ。
驚きと初めてのこの感覚に、私は、なんと答えたらいいのかわからない。
「あの・・・、天使さま?」
小さなサンタクロースが目の前で私を訝しげにのぞき込む。
左の手首にむすばれた贈り物は、まるで暖かな光のように私を包むような感じがした。
407贈り物5/5:2005/12/25(日) 18:07:09 ID:jz4SLnxC
贈り物が結んである方の手をクリスティーヌに差し出す。
クリスティーヌを見下ろすと、彼女の重たくなってきた瞼をそっと擦っている反対側の手で、
私の手をぎゅっと握った。

さっきまで彼女が眠っていた、ベットへと向かう。
もう何も心配はないから、安心して眠れるねクリスティーヌ?
少しだけ、その愛らしい寝顔を見つめてから、彼女を起こさないようにそっとそっと枕元に置いておくのだ。
かわいらしい小さな小さな薔薇の飾りのついた髪留めは、
この子にはまだ大人びすぎていて、少しだけはやいだろうか───


クリスマス。
世間と神から疎まれる、サンタクロースとはほど遠い存在である罪深い私だが、今日は彼も許してくれるかもしれない。

手首に結んである贈り物は、もうしばらくこのままにしておこう。


408名無しさん@ピンキー:2005/12/25(日) 23:24:54 ID:dQQ2BXmk
おしりペンペンマスターキタ───!!
しかも、姿を現したファントムとょぅι゛ょクリスものというのはお初なのでは?
まるで絵本にしてもいいような素敵なお話をありがとう!
409名無しさん@ピンキー:2005/12/25(日) 23:29:16 ID:nDJr68KI
>407
GJ!
素敵なクリスマス・プレゼントだね。
ファントムが長じたクリスに心惹かれていくのがわかるよ。

読み手にも素敵なプレゼントをありがとう!
410名無しさん@ピンキー:2005/12/26(月) 14:43:08 ID:KuLKTXOi
素敵なクリスマスのssが続いた後ですが、投下させていただきます。

*ファントム×クリス
*すでに仲良く一緒にオペラ座外で暮らしている設定
*行為前まで

例によって寸止め。ごめん。
411寝室編:2005/12/26(月) 14:46:55 ID:KuLKTXOi
その時私は、寝室の片隅で着替えるクリスティーヌを見ていた。
衝立の陰で少し手間取りながらドレスを緩めていく後姿を。

外出から帰ると、それぞれに着替えを済ませてお茶にすることが多いが
今日はそうするつもりはなかった。
外にいるときから、彼女の横顔に、唇に、細い腰に、視線がとらわれてばかりで、
手を伸ばして抱いてしまいたい衝動を抑えるのが大変だったのだから。

自らのフロックコートとベストを椅子の背にかけ、壁にもたれながら彼女の後姿を見つめる。
私に見られていることなど考えもしないように、
クリスティーヌが身に纏っていたドレスを脱いでいく。
無防備なコルセット姿になり、白い肌があらわになる。
足音をさせずに近寄り、彼女がこれから着るドレスを手に取ろうとしたところを
後から抱きすくめた。

「……きゃ!」
驚いて身をかたくする様子まで可愛らしい。
「…外にいるときからずっとおまえを抱きたかった…」
なめらかな肌に手を這わせ、その可愛い耳に口づける。
「マスター…! いや…まだ昼間じゃないの…」
私から逃れようとするクリスティーヌの身体を引き寄せてこちらへ向かせ、
拒否を口にするその唇に口付けて塞いでしまう。

「!…」
クリスティーヌの動きがゆっくり止まり、
小さくこぶしを握っていた手の指が、徐々に開かれる。
「…ん……」
瞳を閉じた彼女が甘えるように鼻を鳴らし、口づけに答え始める。
差し入れた舌に自分の舌をそっと絡め、うっとりと身体の力が抜かれていく。
その身体を抱きしめたまま手を下ろしていき、尻の丸みを掴むように撫でた。
「あ……、だめ…マスター…」
唇を触れ合わせたまま、小さくつぶやくが、もうその口調はだめと言っていない。

コルセットはこういう時厄介な代物だが、
これさえ取り去ってしまえばあとは思うままだ。
片手でコルセットのレイシングに手をかける。
クリスティーヌの身体に火をつけ…思う存分に……

ふいに腕の中からクリスティーヌが逃げ出した。
「マスター!だめよ…今日はあとでメグが来るかも知れないのよ?
 さっきお話したでしょう…?」

…そういえばそんな話を聞いたかもしれない。
聞いたかもしれないが、もうそんなことはどうでもいい。
何か用事があるというならこちらから出向けばいいのだ。
ただし、おまえを抱いたあとで。
412寝室編:2005/12/26(月) 14:51:50 ID:KuLKTXOi
私から逃げ出したクリスティーヌが
明るい日が差し込む寝室にコルセット姿で立っている。
私の口づけと愛撫から逃れ、頼りない風情で目を潤ませているのがなお劣情をそそる。

「クリスティーヌ…必ず来ると約束したわけではないのだろう?
 帰りに寄れたら寄る、そんな話じゃなかったかね?」
彼女の元へじりじりと歩を進めながら答える。

「でも…もうすぐ来るかもしれないのよ?」
そう訴える彼女の後に、ちょうどベッドがあるではないか。
ここで押し倒さずにいつ押し倒せというのだろう?

「クリスティーヌ…」
彼女と見つめ合ったまま、1歩ずつ近付いていく。
抵抗を示した彼女には触れず、屈んでその耳元で囁いた。
「…私は今おまえが欲しいのだよ」

私の言葉に彼女が耳まで赤くなるのがわかった。
「何か用事があるなら、あとで私達の方から出向こう。
 今は…おまえに触れていたい」
目の前で小さな肩が震えている。
そっと指で唇に触れると、小さなため息と共に彼女が瞳を閉じた。

あたたかな耳の下のくぼみに、かすかに唇を這わせる。
「…あぁ……」
瞳を閉じたままやるせない声を上げるクリスティーヌの首筋を、
そっと唇でついばみながら行き来する。
小さな顎に口づけし、耳に口づけし、また唇のすぐ横にも口づける。

クリスティーヌが眉を寄せ、唇を寄せてくるような仕草を見せる。
「あぁ……」
私の唇はそれから逃れ、再びうなじを這い、顎のラインをたどり、
かぐわしい唇の横をかすめる。
愛らしい唇が私の唇を追う。
彼女の呼吸が大きくなり、コルセットからのぞく白いふくらみが目に見えて上下する。
すぐさま押し倒してしまいたい気持ちに駆られたが、思い直す。
私を拒否したクリスティーヌから、求めさせたい。
すでに彼女の身体の奥が、官能に蕩け始めていることはわかっていた。
413寝室編:2005/12/26(月) 15:06:34 ID:KuLKTXOi

私の唇にはぐらかされ、クリスティーヌが切ない声を漏らす。
「あぁ……ん……」
私を上目遣いに見上げる眼差し。
私の手はまだ彼女を抱き取ることもせず、そっと指先で胸を、首筋を、顎をなぞる。
頬に触れた指に彼女が唇を寄せる。
唇を開き、遠慮がちに紅い舌を見せ、指をそっと舐めた。
その淫らな仕草とまだ幼ささえ残るような清楚な容貌との落差に、
私自身がいっそう固さを増すのを感じる。

彼女の唾液で濡れた指で小さな顎を手荒く掴み、
唇を触れ合わさんばかりに近づけて問う。
「…おまえが抱かれたくないと言うなら仕方がない…
 あきらめるとしよう」
視線を絡ませたまま、手と身体を離していく。

「ああ…まって……待って」
クリスティーヌが私の手を掴んだ。
「……マスターはいじわるだわ…」
長い睫を伏せてつぶやく。
「私の腕から逃げ出したのはおまえだよ。
 いじわるなのはどっちだろう?」
「…ああ…マスター……おねがい…」
息を弾ませて私を求めるクリスティーヌをじっと見つめる。

「…おねがい………キス……して…」
「…キスだけかい?クリスティーヌ…」
もう一方の指で彼女の唇をなぞる。
可愛いおねだりだがまだきいてやるつもりはない。

「……キスだけなら断らせてもらおう。
 それだけで満足できるほど私は子供じゃないのでね」
「ああ……マスター……」

握り締めた私の手を最後のより所ででもあるかのように引き寄せるので
私の手が彼女の柔らかな胸に押し付けられている。
彼女はしばらく迷ってから、まっすぐにその瞳を見つめる私に向かって、
小さな声で囁くように言った。

「……マスターの、したいようにして……」
「私のしたいように…?
 私のしたいように、何をしろというんだね?」
「…ああ……、マスターの…したいように、…私を……抱い…て……」
414寝室編:2005/12/26(月) 15:12:12 ID:KuLKTXOi

言ってしまってから、クリスティーヌが頬を染めて視線を反らす。
彼女を見つめたまま、その唇に触れそうなほど近付いてさらに問う。
「私の、…好きにしていいんだな?」
視線を揺らめかせ、かすかに震えながら頷いたクリスティーヌの方から、
そっと唇を重ねてきた。

(続く)
415名無しさん@ピンキー:2005/12/26(月) 20:07:18 ID:181ejy82
>410さん
マスターの危険な男っぷりがすんごくイイ!です。じりじりとクリスに迫って
いくのもいいし、ほとんど身体に触れず、クリスからおねだりさせようとする
のもイイ!

イイんですが・・・そろそろ完結まで行き着いたものを読みたい!w
416名無しさん@ピンキー:2005/12/26(月) 22:44:40 ID:wCfST3Zw
>>410天使さま
殺るならいっそひと思いに殺ってくれー!
紐と同じ天使様かな?
萌えシチュ天才的。
生殺しでなければなおいいんだけど。
ま、待ちきれない!
417名無しさん@ピンキー:2005/12/27(火) 00:56:11 ID:F3A2PFrf
>>410 GJ!
続きまってまつ!
「私の、…好きにしていいんだな?」 ていうマスターに萌える。
この人の好きなようにって・・・どんなことになっちゃうんだよw
418名無しさん@ピンキー:2005/12/27(火) 18:27:45 ID:aCmZcwUZ
>>410
GJ! GJ! GJ!
じりじりと歩を進めるマスター、わざと唇には触れずに焦らすマスター、
キスだけで満足できるほど子供じゃないと言っちゃうマスター……、
いや、もう、ほとんど犯罪のようなエロさです。
419名無しさん@ピンキー:2005/12/27(火) 18:53:10 ID:RI24yI93
す、…寸止めか・・・_| ̄|○・・・はうぅ・・・
420名無しさん@ピンキー:2005/12/27(火) 21:43:14 ID:KePm2sMN
>>410
GJ!!クリスエロ可愛いよクリスハァハァ
寸止めの天使様最高。抜きました寸止めで。つ…続き…!!
421名無しさん@ピンキー:2005/12/28(水) 00:09:34 ID:kFZw0bLc
>336で投下したものです
みなさんレスありがとうございます。
>347さん、3幕がもう見られなくなってしまっているので、確認できませんが
作者さまの一人でしょうか?GJいただけて嬉しいです!

そしてまた夫婦な二人の妄想がとまらず、書いてしまいました。
今回はまだ娘さんはお腹の中です。

1.エロ・ギャグなし
2.甘たるい

もし大丈夫な方いらしたら、読んでやって下さい。
422幸福感1:2005/12/28(水) 00:14:20 ID:kFZw0bLc
地下に一人でいると、無性に妻に会いたくなったので、ファントムは作曲の手を休めて居間の扉を開けた。
「マスター」
ソファーに座り編物をしていたクリスティーヌが、彼を認めて微笑む。
彼女の足元には、毛糸の玉が転がっている。
最近は日がな一日、その糸を繰り小さな靴下や、その他ファントムが想像もつかないような細々したものを彼女は作り続けていた。
一度完成した靴下を手の平にのせ、こんなに小さいものかと彼は驚いた。
何だか空恐ろしくなり、それ以来彼はクリスティーヌが編物に熱中するのを穏やかな気持ちで見ることが出来なくなっていた。

「お仕事はいいの?」
「ああ、一段落ついた。お前もあまり根を詰めるな。お茶でも入れよう」
「あ…今、動きましたわ。あなたが来て、この子も喜んでいるみたい」
ファントムは、何と答えてよいのかわからずにいた。
「きっといい子ですわ」
それには気付かずに、クリスティーヌは愛しげな表情で、少し膨らみが目立ってきた自分の腹を撫でた。
「…お前に似れば、美しい子になるだろう」
気を取り直し、ファントムも口元に笑みを浮かべ言う。
クリスティーヌは歌うように続ける。
「あなたに似たなら」
「そんなことあってはいけない。絶対に」
荒い語気に、それまでの柔らかい空気が一変する。
「マスター…?」
「お前はわかっていないんだ。この顔を持って生まれることが、生きていくことがどんなものなのか…わかっていないんだ、なにも」
そこまで一気に吐き捨てるように言ってしまってから、彼は荒い息を繰り返した。

「マスター…私の子を差別するおつもりなのね?まだ生まれてもいないうちから」
先ほどまでの優しい声とはまるで別人のように、クリスティーヌの声は厳しかった。
「クリスティーヌ…」
クリスティーヌは、自らの腹に向かい語り掛ける。
「大丈夫よ。お母様が全てをかけて愛してあげますからね。どんなことからも守ってあげますからね」
そう言ってから、身体を庇うように立ち上がり、部屋を出て行こうとする。

423幸福感2:2005/12/28(水) 00:16:55 ID:kFZw0bLc
「待て!クリスティーヌ!その子は私の子だ、私の子でもあるんだ」
「それではもう、起こってもいないことで思い悩むのはやめて下さい」
思わず叫んだファントムに、クリスティーヌは振り返り、視線を合わせる。
「この子に人生を一人で歩かせるわけではないでしょう?どのみち、どちらに似ていたって、似ていなくたって、愛さずにはいられないのに」
「だが、私に似たら…」
「なお愛しい」
言い切られて、ファントムは返す言葉をなくしてしまう。

「クリスティーヌ、先ほどの言葉を訂正してくれないか?その子に」
少しの沈黙の後、彼はおずおずと申し出た。
「ご自分で仰らないと」
声は優しかったけれど、何となく楽しむような雰囲気も滲ませて、クリスティーヌはもう一度ソファーに腰を降ろす。
すっかり彼女のペースだ。
それに気付いているのかいないのか、ファントムはそれでも生真面目にクリスティーヌの前に立ち、覚悟を決めたように口を開く。

「…先ほど言ったことは全て取り消す。生れ落ちたその瞬間から、お前はこの私の庇護のもとにある。…あー、だから、安心して生まれて来るがいい」
とうとう堪えきれなくなったというように、クリスティーヌは笑い出してしまう。唖然としているファントムをよそに、眼の端に涙さえ浮かべて、笑い声を上げ続ける。
「マスター…マスター、ごめんなさい。でも止まらなくて…あ、いたっ…」
「どうした、クリスティーヌ!」
腹を庇うように身を折っていたクリスティーヌは、息を整えてから顔を上げる。
「大丈夫です…お父さまを笑ったりしたから、怒られてしまいましたわ、この子に」
ファントムは密かに持ち続けていた、生まれてくる筈の子への空恐ろしさが、消えていることに気付いた。
あの小さな靴下を履く子は、今もここにいるのだ。
私と、クリスティーヌの間に。

「なるほど、いい子のようだ」
「意地悪…」
涙目で上目遣いに睨まれる。
そこにはファントムにだけわかる、微かな媚態が含まれていた。
次にするべきことはわかる。
形のいいおとがいを持ち上げ、優しい唇に自身のそれを重ねるのだ。
けれどファントムは彼女から視線を逸らす。
ふいに訪れた幸福感に、息が止まりそうになったのだ。
クリスティーヌは少し不思議そうな顔をしてファントムを見つめたが、何も言わなかった。
一緒に暮らし始めてからというもの、こういう瞬間は実は結構あったから。
先ほど腹を蹴った子は、気を利かせているのか今は静かだ。
クリスティーヌは、なかなか幸福に慣れることの出来ない男からの口づけを、ただじっと待っていた。

                                      おわり
424名無しさん@ピンキー:2005/12/28(水) 00:20:14 ID:kFZw0bLc
以上です。
妄想極まれりな内容です。
読んでくれた方、いらしたら本当にありがとうございます
425名無しさん@ピンキー:2005/12/28(水) 00:30:14 ID:bCExkIZE
>424
GJ!
子ができたことを単純に喜べないマスターの心情が痛い程よくわかる。
そんなマスターを少しずつ幸福に馴れさせようとしているクリスもイイ。
息詰めて読み切りました。素晴らしいssをどうもありがとう!
426名無しさん@ピンキー:2005/12/28(水) 01:42:34 ID:lNC2Ahan
GJ!自分>347です。
マスター以上に、もしかしてクリスだって不安でいっぱいのはずなのに
支え合って慈しみあうふたり良かったです、本当に有難う。
クリス妊婦時代をすっとばして変な親父ファントムとょぅι゛ょ娘の
中途半端な小ネタを書いてしまってたので、続きを書いてくださった
3幕299氏と、>421氏マジ感謝です。
また書いてください、待ってます!
427名無しさん@ピンキー:2005/12/28(水) 01:46:19 ID:lNC2Ahan
IDに色っぽい吐息が出たので俺も何か書くとするか…
428名無しさん@ピンキー:2005/12/28(水) 03:30:13 ID:f2Vd7eMj
>424
もう、素晴らしいです! ファンクリに子供はどうかなぁなんて思っていまし
たが、あなたが書いて下さるのは大好き!
なかなか幸福に慣れる事のできないマスターを、むしろ慈しむように包み込ん
でいるクリスティーヌの妻ぶりが素敵だ。生まれてくる娘も、変わり者のお父
さんwと思いつつ、素顔の父親の方が好きないい子ですよね。
文章も素晴らしくて感動します。またぜひ書いて下さいね! 待ってます。
429名無しさん@ピンキー:2005/12/28(水) 16:13:18 ID:Ep18ci4V
>427
IDが変わる前に投下汁!
430名無しさん@ピンキー:2005/12/29(木) 01:24:19 ID:k6PXqAmc
エロ無し、ネタ、225その後?   小ネタにつき、Ahan氏もエンジェル方も直後でもカモーンていうかお願いしますor2゙
4311/2:2005/12/29(木) 01:27:38 ID:k6PXqAmc
「で、これがその”蝋が付いても火傷しない蝋燭”なの。熱くは感じるのだけど」
「…それをどうしてシャニュイがお前に贈ってよこすのだ、クリスティーヌ」
「”私そそっかしくて、よく手に蝋を落としてしまうの”って言ったら、翌日には3
箱ほど」
「…シャニュイめ…どこまでも私の邪魔を…!」
「じゃあ早速使ってみましょう。さ、服をお脱ぎになって」
「台詞の前半と後半が微妙に噛合っていないように感じるが」
「初めてだから、マスターに垂らす場所を決めさせてさしあげるわ」
「人の話を聞きなさい、クリスティーヌ」
4322/2:2005/12/29(木) 01:30:53 ID:k6PXqAmc
「お決めにならないなら、私が決めてしまいましてよ?」
「…な、何故そんなトコロをじっと見ているのだ…」
「ああ、とりあえずシャツの上からでも」
「待ちなさい…待て!待ってくれ、クリス…熱ッ…!ああ!わああぁああ
あぁぁーっ!」
「もっと聞かせて、私の天使さま!」


「え?もう使っちゃったの?また届けさせようか?」
「ええ、お願い。…今度は…もう少し熱くてもいいみたい」
…平安の3か月、はあくまで地上でのおハナシでした。
433名無しさん@ピンキー:2005/12/29(木) 03:18:20 ID:euo/l357
ワロタwGJ!
いいねーマゾマスターにサドクリス
>「人の話を聞きなさい、クリスティーヌ」
ここ妙にツボりました
434名無しさん@ピンキー:2005/12/29(木) 17:16:46 ID:dBE9b7/k
GJ!
こういう投下大好き。
また続編をお願いします。


今夜中に木登り続編投下予定。
3幕がもう見られない上に半端な寸止めで申し訳ない。
今夜を逃すと今年中に投下出来ない…
435名無しさん@ピンキー:2005/12/29(木) 17:37:15 ID:fPiXiRz+
>>424
ファントムのあの顔の攣りって遺伝するようなモノなのかな。
実際に子供に遺伝しちゃったら(しかも女の子だったり)マスターものすごく
苦しみそうで可哀相だ。でもいい話だ…

とじんわり感動していたら
>>431に吹いた。
自分的には
>待ちなさい…待て!待ってくれ
の偉そう型→命令形→嘆願型の変化がらしくてツボったw
436名無しさん@ピンキー:2005/12/29(木) 18:49:31 ID:euo/l357
投下予告キタ───!早く帰らなくては…!

今でいうハンセン氏病とかアトピー性皮膚炎ってとこだったのかなファントム。
どちらも遺伝しないし、まして感染なんてしないから子供出来たとしても無問題でしょうね
437名無しさん@ピンキー:2005/12/29(木) 19:31:01 ID:WsbBjzbF
原作では「髑髏の仮面」と評されるくらいだからなぁ。
生半可なもんじゃない希ガス。

天使様、Hide no longer!待ってまつ
438名無しさん@ピンキー:2005/12/29(木) 20:57:45 ID:2S0tqUnz
てっきり火傷とかかと思ってたよ・・・>ファントム

投下楽しみに待ってます
439名無しさん@ピンキー:2005/12/29(木) 23:04:29 ID:JwBszdXI
いいねいいね!
クリス悪くてカワイス。
自分も「人の話を聞きなさい、クリスティーヌ」がかなりツボった
440木登り続編:2005/12/29(木) 23:38:44 ID:dBE9b7/k
3幕がすでに見られませんが前回の続きです

*ファントム×クリス
*現在寝椅子で座位で行為中
*ラウル木の上から涙目で楽屋を覗いている設定

また寸止めです。ごめん。
441木登り続編:2005/12/29(木) 23:40:40 ID:dBE9b7/k
<ファントム>

クリスティーヌの顔から辛そうな表情が消えていくのにそう時間はかからなかった。
ゆっくりと動く私に合わせて、その唇から可愛い喘ぎ声がもれはじめる。
ああ、おまえのその声はなんと耳に心地よく響くのだろう。
同じ唇から発せられるというのに、いつも耳にする歌声とは全く違う、淫らな響きを含んだその声音――
昨夜は苦痛でしかなかった行為の中から、今おまえは快楽を学び始めている。
自らの身体の奥から湧き上がる悦びの渦に圧倒され、その受け止め方がわからず戸惑うおまえの姿を見ていると、
愛しくてたまらず自制心を失いそうになる。

彼女の細い指が私の腕にすがりつくように絡まってくる。
その愛らしい唇からは喘ぎ声だけでなく、私を呼ぶ甘い声が繰り返される。
「ああ…マスター…マスター…」
クリスティーヌ、私は絶対におまえを手放さない――

クリスティーヌの表情をあの男に見せるのが惜しくなり、
私は彼女の腰を抱き寄せ、そのまま抱え上げて私の脚の上に乗せた。
繋がりが浅くなるので、細い腰を引き寄せてさらに脚を開かせる。
突然私の上に乗せられたクリスティーヌが抵抗しはじめた。

「あ!…いや!マスター、こんな…こんなことは…いや…!」
私を押して離れようとする彼女を大きく抱きしめ、優しく拘束する。
そしてその耳元で囁く。
「クリスティーヌ…クリスティーヌ。じっとして……恥ずかしがることはないよ。
 お前は知らないだろうが、男と女なら誰だってすることなのだから」

「…?ああ……でも、でもいや…、恥ずかしい……!」
羞恥に頬を染める彼女の眸を見つめ、唇の前に人差し指を当てて囁くように言う。
「シーッ、さあ…私に任せて…いい子だ…」

恥ずかしさに俯く彼女の髪を撫で、かき寄せて首筋に口づける。
そして納得しないながらも抵抗をやめた彼女の身体をきつく抱いたまま、腰を突き上げた。
「あっ…!」
身体の奥深くまで届く私自身の感触に、眸を閉じて顎を上げるクリスティーヌ。
初めての感覚に戸惑っているのか、私が動くたびにクリスティーヌが乱れて行く。
眉を寄せ、息が荒くなってくる。
自分を襲う快感をどうしたら良いのかわからないような表情とその反応が初々しく、
可愛いくてたまらない。
いつの間にか私にしがみつき、シャツを握り締め、心地よさを堪えるように首を左右に揺らす。
そのたびにゆらめく長い髪が艶かしい。
442木登り続編:2005/12/29(木) 23:43:46 ID:dBE9b7/k
しばらくその淫らな姿と、私を包み込み、締め付ける彼女自身の感覚を堪能してから、
可愛らしい声を上げるクリスティーヌの唇を舐め、舌を差し入れて口づけた。
切ない吐息とともにおずおずと口づけを返してくる彼女が愛しい。
こうして肌を寄せ合っていると、彼女の肌のほのかに甘い香りが私を包み込んでくる。
その甘い香りは私を酔わせ、更なる欲望を煽る。
もっとその肌を曝け出させ、撫で、舐め、自分だけのものだと確認したい。

私の背にまわった腕をほどき、首筋から肩へと両手をすべらせて
彼女のシュミーズの肩紐を落としていく。
それは彼女の腰までするりとすべり落ち、白い上半身が私の前で剥き出しになった。
反射的に胸の前に合わされた彼女の両手首を掴み、繋がったままクリスティーヌの上半身を反らせ、
ゆっくりと左右に広げさせていった。
「あ!…ああ…」
私の目前に裸体を晒す恥ずかしさに、固く瞼を閉じて顔を真横に背けるクリスティーヌ。
羞恥に震える長い睫が頬に影を落としている。
その横顔をあの男も見ていることだろう。
月の光りに浮かび上がる、剥き出しの白い背中とともに。


月明かりを背にして、昨夜飽くことなく愛撫した彼女の身体が、今また目の前に息づいていた。
鎖骨からなめらかな曲線を描く胸のふくらみ、ほのかに色づくその先端。
息のかかる程の距離から見つめられることに耐え切れなくなったのか、
再び腕を合わせようと身を捩るが、その両腕は私に自由を奪われたままだ。
私に身体の中心を貫かれながら顔を背け、荒い呼吸に曝け出した胸を上下させているクリスティーヌ…

おまえの身体をこうして思うままに開かせることができるのは私だけだ――

そっと右手だけを離し、可愛い顎に手をかけて背けた顔をこちらへ上げさせる。
クリスティーヌが恥じらいに眸を揺らめかせながら私を見つめた。
その濡れた眸と視線を絡ませる。
「クリスティーヌ…おまえの全ては、私のものだ…」
顎にかけた指をゆっくり下ろしていく。
ほんの指先だけを、その顎から細い喉元へ、鎖骨へ、胸のふくらみへ――
指と共に、視線も落としていく私を、彼女は羞恥に耐え、震えながら見つめている。
443木登り続編:2005/12/29(木) 23:45:43 ID:dBE9b7/k

「……ああ!!」
指が胸の先端へ触れた瞬間、クリスティーヌが身体を捩って喘いだ。
彼女の中がうねって私自身を締め付ける。
もう、彼女も私も指先で触れるだけでは我慢できない。
指だけでなく右手全体で彼女の胸を手荒く掴み、左手をその背に這わせていく。
吸い付くような滑らかな肌。柔らかな膨らみ。
いっそう喘いで反らせた細い腰を左手で支え、彼女の胸に顔を埋める。
その心地よさ、柔らかさ、胸を満たす甘い香り。
胸の開いたドレスでも見えないような位置に口づけし、そこに紅く私の印を刻んだ。

その肌を思う存分味わいながら、片手で自分のシャツのボタンを外していく。
クリスティーヌの肌を直に感じたい。
彼女のすべらかな肌と肌を合わせ、その柔らかな胸を私の胸に直に抱きしめたい――
その肌を全身で感じながら、彼女のより奥深くへと入りたい――

ボタンが外れシャツの前がはだけたが、私の手はシャツを脱ぐよりも再び彼女の身体へと伸びてしまう。
一時でもその肌から離れるのが惜しい。
と、肩に置かれていたクリスティーヌの手が私の胸に触れた。
少し首を傾げ、切ない吐息を洩らしながらためらいがちに私を見つめると、
白い手をシャツの上から中へとすべらせて行く。
肌と肌が直に触れ合う。

その手は手触りを確かめるように私の胸を数回撫でてから、徐々にシャツの中を私の肩へと移動してい
った。
彼女の手でシャツが押しやられ、私の肩が露出する。
「クリスティーヌ……」
そしてそっと私の胸に頬を寄せてきた。
おまえも私の肌に触れたいと、私と肌を合わせたいと思ってくれるのか。
昨夜、強引にその身体を自分のものにしてしまったこの私と――
444木登り続編:2005/12/29(木) 23:51:43 ID:dBE9b7/k
――昨夜のおまえは、吹き荒れる嵐に放り込まれた可憐な蕾だった。
ただなすすべも無く翻弄され、まだ固い花びらを蹂躙され――
私のやりように耐えるおまえの、なんと健気で愛らしかったことか。
これからおまえの官能の花びらを1枚1枚あでやかに開花させて行こう。
この私の手で。


彼女へのよりいっそうの愛しさがこみ上げ、手早くシャツを脱ぎ捨てるて
クリスティーヌを抱きしめた。
身体をぴったりと密着させ、その肌の心地よさに陶然とする。
ああ、クリスティーヌ、クリスティーヌ……

その背中から手を回し、白い両肩を掴んで下から突き上げる。
動きに合わせて彼女の身体がびくびくと反応する。
クリスティーヌの息が浅く、早くなって行く。
すでに蕩けるように私を包むその部分がきつく私を締め付け始めた。
こんなにも感じているクリスティーヌをこのまま逝かせてやりたいとも思ったが、
私はあえて動きを止めた。

まだだ。
もっとクリスティーヌを乱れさせたい。
彼女が自分から私を求める姿をあの男に見せてやろう。
窓から覗かずにいられないほどに思いをかけ、恋した女が、
他の男を求め、愛の行為に乱れ、快楽によがり狂うさまを見ても
あの男はその恋心を持ち続けられるものかどうか?

私の耳元で今にも達しそうに喘いでいた彼女が、しがみついたまま、
突然途絶えた快楽の名残を探すかのように私を見上げる。
「…あぁ…マスター……?」
両手で彼女の髪を撫で、彼女の切ない眸を見つめて耳元で囁く。
「クリスティーヌ……、自分で動いてごらん」

(続く)
445木登り続編:2005/12/29(木) 23:53:33 ID:dBE9b7/k
次回ラウルから続く予定。
今度はもっと早く投下します。

読んで下さった方ありがとうございました。
446名無しさん@ピンキー:2005/12/30(金) 00:32:36 ID:1sKSetpb
>>445
烈しくGJです…!!!
ファントムの何度も繰り返される独白に凄まじい独占欲が感じられてハァハァ(;´Д`)
丁寧で細やかな描写に濃厚な情景が目前に見えてきそうです
…次回のラウルの心情が今から思いやられます(´・ω・`)
続きは来年ですね、楽しみにしています!
447名無しさん@ピンキー:2005/12/30(金) 01:22:42 ID:QW8BiGLR
_ト ̄|㊙ '`ァ'`ァ .....

GJ!エロかった!待った甲斐があったよ、もうハァハァしすぎて息切れしそう。
ラウル視点でのこの光景はどんなのだろう、楽しみだ
448名無しさん@ピンキー:2005/12/30(金) 03:28:47 ID:plPCXprR
>445
素晴らしいです! 待った甲斐がありました。
この濃厚なエロスはどこから来るのだろうか。直裁的な言葉を使ってないのに
もの凄くエロい、そして下品じゃない。「エロスの神」の称号を捧げたいくら
いですよw
次回も、激しくワクテカでお待ちしています!
449名無しさん@ピンキー:2005/12/30(金) 07:19:45 ID:/0lXCUoP
エロスのネ申 キタ------!!
GJ!!!!!!!!
来年の楽しみが増えたよ!!
450名無しさん@ピンキー:2005/12/30(金) 14:13:10 ID:UvsKRba0
410・445です。
コメントくださった方ありがとうございました。
また続き投下しますのでよろしくです。
451名無しさん@ピンキー:2005/12/31(土) 00:05:55 ID:mGANQjYT
忘年会本当にやったのかな
452名無しさん@ピンキー:2005/12/31(土) 00:26:56 ID:e01jCNOG
忘年会から帰ってきました。

参加者は6名、職人さんも数名。
まずはスレの繁栄を願って乾杯し、ほのぼのした雰囲気の中で料理を
楽しみながらオペラ座トークで盛り上がりました。
カーテンで仕切っただけの部屋だったので、エロトークはそこそこでw
453名無しさん@ピンキー:2005/12/31(土) 00:36:24 ID:unh1627K
いいなあ!地方者だから無理だったけど参加してみたかったYO
そしてIDにOGが出ておりまするオメデトウ
454名無しさん@ピンキー:2005/12/31(土) 01:08:21 ID:8FLJ4Rpt
>445
いや、本当に華麗なエロスだ!
ドン・ファンの危険な雰囲気のファントムって感じがする。
絶対に逃がすものかって言うような気迫がドン・ファンに
通じるというか、恐ろしくエロい。
455名無しさん@ピンキー:2005/12/31(土) 16:45:22 ID:+8sESGzi
マスターって 生まれてきた女の子には すっごい豪華な名前つけそう。
日本名で言うなら 麗華とかw
456 【凶】 【1068円】 :2006/01/01(日) 00:52:25 ID:PqZ6Tf4N
あけおめです

今年もワクテカ待機してます
457 【凶】 【1348円】 :2006/01/01(日) 01:19:02 ID:4SXclhip
Bonne annee !
天使様方、昨年はたくさんの萌えを本当にありがとう
今年もよろしくお願いいたします(;´Д`)ハァハァ
458名無しさん@ピンキー:2006/01/01(日) 01:20:08 ID:4SXclhip
おみくじ・・・・・・_| ̄|○
459 【ぴょん吉】  dama:2006/01/01(日) 01:21:36 ID:+Ql76gP/
この板でも出るんだ
皆様おめでとうございます。今年も益々のスレの発展を願っております。
460名無しさん@ピンキー:2006/01/01(日) 01:24:31 ID:+Ql76gP/
アチャーお金出なかったorz

おみくじ機能、お年玉機能 *

毎年元日には名前欄に半角で!damaと入力する事でランダムに金額が表示される。
10,000円以上は滅多に出ない。

ex7 ex9サーバ上の板は、毎月1日には名前欄に半角で!omikujiと入力する事でランダムに【大吉】などの
文字が表示される。(【だん吉】や【ぴょん吉】など、遊び心が混じった物もある)
プレミアで【神】や【女神】があるらしい。

461名無しさん@ピンキー:2006/01/01(日) 01:24:59 ID:5GeVrbDE
あけおめです。
462 【大吉】 【1373円】 :2006/01/01(日) 01:26:17 ID:MOZ1FEuf
あけあめ!
463 【だん吉】 :2006/01/01(日) 01:41:23 ID:ggdc5Py+
昨年はこの板で萌えさせてもらったよ。ありがとう。
今年もよろ!
464 【大吉】 【1357円】 :2006/01/01(日) 06:08:04 ID:EJa44xoF
吉以上なら神降臨!
465 【85円】 【凶】 :2006/01/01(日) 06:46:33 ID:Wf1LDCtj
今年もよろしくお願いします。
466名無しさん@ピンキー:2006/01/01(日) 06:47:34 ID:Wf1LDCtj
上げちゃった、、、
しかも安いし凶だ……orz
467omikuji dama:2006/01/01(日) 10:33:22 ID:EdsdZ35X
あけおめです!
今年も天使様の御降臨、期待してます。
468名無しさん@ピンキー:2006/01/01(日) 10:39:23 ID:EdsdZ35X
あっ・・、アホ丸出し。
失礼しました。 
469 【1829円】 :2006/01/01(日) 10:45:29 ID:+PhpiAHx
今年もエロしく
470 【凶】 :2006/01/01(日) 10:47:10 ID:+PhpiAHx
マスタ&クリスはどんな新年かな
471 【1811円】 !omikugi:2006/01/01(日) 13:16:22 ID:8OdrOZaT
年が明けたらマスカレード!
472dama omikuji:2006/01/01(日) 15:09:49 ID:QdzrYl42
あけおめ。
去年はここを見つけていい年ですた。
今年もよろ。
473名無しさん@ピンキー:2006/01/01(日) 15:27:11 ID:l4eFlyN4
あけおめ
474dama:2006/01/01(日) 16:35:05 ID:4xaCOs/t
あけおめー!
475 omikuji:2006/01/01(日) 16:36:25 ID:4xaCOs/t
出ないじゃん。
476名無しさん@ピンキー:2006/01/01(日) 17:31:45 ID:l4eFlyN4
出た?
エンジェルの降臨お待ちしています(´∀`)
477名無しさん@ピンキー:2006/01/01(日) 17:38:40 ID:4xaCOs/t
さすがに正月早々の降臨はないだろうな…
478 【1641円】 【小吉】 :2006/01/01(日) 19:20:22 ID:+Ql76gP/
元旦から投下待ってる我々って…or2゙ オネガイ

わかった、ブランク空けずに入力したら両方出るんだ。
!dama!omikuji
↑これをコピペしてみて
479 【末吉】 【1635円】 :2006/01/01(日) 19:26:14 ID:s8WWPqay
<おみくじ機能・お年玉機能 >

毎年元日には名前欄に半角で!damaと入力する事でランダムに金額が表示される。
10,000円以上は滅多に出ない。

ex7 ex9サーバ上の板は、毎月1日には名前欄に半角で!omikujiと入力する事でランダムに【大吉】などの
文字が表示される。(【だん吉】や【ぴょん吉】など、遊び心が混じった物もある)
プレミアで【神】や【女神】があるらしい。
480 【34円】 【大吉】 :2006/01/01(日) 21:02:00 ID:4xaCOs/t
コピペしてみたわけだが
481 【1619円】 【大凶】 :2006/01/01(日) 21:04:36 ID:4xaCOs/t
やっと出た!ありがと!
482名無しさん@ピンキー:2006/01/01(日) 21:05:47 ID:4xaCOs/t
どっちやねん
483 【1925円】 【大吉】 :2006/01/01(日) 22:09:07 ID:zOpCnRk4
マスターとクリスは、どんな初夢見たのでしょうか?
484 【1114円】 :2006/01/01(日) 22:34:58 ID:C1TLdk1D
あけおめ!
485 【1804円】 【中吉】 :2006/01/01(日) 22:38:18 ID:C1TLdk1D
途中送信してしまった…orz
今年もスレがにぎわいますように ノシ⌒I
486名無しさん@ピンキー:2006/01/02(月) 04:39:32 ID:DLS4XNA1
今年は大人風味が書けますように… ノシ〜S
487名無しさん@ピンキー:2006/01/02(月) 07:27:53 ID:KcqMBi5F
マスカレード!!
今年も天使様の大洪水になりますように⌒D
488名無しさん@ピンキー:2006/01/02(月) 23:52:44 ID:a8TvKp4k
今年もマダム・ジリーの神が現れますように⌒ID 
489名無しさん@ピンキー:2006/01/03(火) 16:05:13 ID:n3G4k6ZH
今年はたくさんGJレスがもらえるSSが書けますようにノシ〜I
490名無しさん@ピンキー:2006/01/03(火) 17:18:11 ID:onIe+9dO
今年はエロSSを極められますようにノシ〜D
491名無しさん@ピンキー:2006/01/04(水) 03:37:37 ID:6/Bm6U7q
あけおめ!
今年もエロssを書き続けられますように…… ノシ〜S

って、三が日過ぎてる……、ま、いいか、まだ松の内だし
492名無しさん@ピンキー:2006/01/04(水) 07:27:54 ID:gsv2jtDL
新年一発目の天使様のご降臨に立ち合えますようにノシ⌒SSSSS

or2゛
493名無しさん@ピンキー:2006/01/04(水) 09:29:54 ID:3Wh+4MIx
Bonne Annee!

ファントム×クリス
エロ無し、イチャイチャしてるだけ
ヅラ無し仮面有り
新年なのでちょっと酔っ払ってます
4941/2:2006/01/04(水) 09:30:35 ID:3Wh+4MIx
髪を掻き上げる白い指の隙間から、絹糸の輝きが重たげに零れ落ちる。
伏せた瞳の長い睫が影を落とす頬は上気して薔薇色。
薔薇色の原因は(残念なことだが)自分ではなく、テーブルの上のワインの空き瓶。
動きは何時もよりずっと緩慢に、視線はゆらゆらと彷徨う。
その妙に滲んだブラウンが男の上で暫し留まり、赤い唇が吐息と共に笑みの形に撓められる。
「ファントム」
どうした、と問い返す代わりに瞳を合わせ、手を伸ばす。
今まで自分で弄っていた髪に指を通し、ゆっくりと梳く。
かすかにひんやりと滑らかで、柔らかく指に絡み、流れる。
小さな頭を引き寄せると、クリスティーヌはすっと目を細めた。
「素敵」
「ん?」
「髪を…こうして触られるのは。気持ちがいいわ」
「そうか?」
梳く手を止めずに応える。
「こうして…触っているほうがよほど心地良いが」
「……。」
白い面が仰のき、じっとファントムの顔を見つめる。
おもむろに手を伸ばすと、額に落ちかかった髪を摘んだ。
「そうなのね」
頬にぴったりと柔らかい掌が当てられ、滑るようにこめかみに移動する。
指先が髪の中を泳ぎ、一気に項まで擽る。背中を走った何かに気をとられた隙に、
肩に頬を埋めてクリスティーヌが囁いた。
「本当」
くすくすと笑う。

掌で覆った肩、ブラウスの下に感じる暖かな肌、華奢な骨格。
手の甲をふわふわと毛先が撫でる。
暫く首筋で戯れていたクリスティーヌの指が、やがて再び頬へと戻ってくる。
その掌に唇を寄せようとした瞬間、ふいに両手で頭を掴まれ、くしゃくしゃと髪を掻き回された。
「こら!何を…!」
「なにって…。」
存分に掻き回しておいてから、クリスティーヌは少し身を離すと満足げに笑った。
「ふふ、面白いわ」
「何がだ!」
4952/2:2006/01/04(水) 09:31:05 ID:3Wh+4MIx
多少慌て気味に髪を整えようとするファントムの両手をやんわりと掴む。
「何だか若い。…たまには、こんなでも…うん、いいわ」
蕩けるような微笑。滲む瞳、吐息はかすかに葡萄酒の薫り。
少しだけ緩められた襟元から覗く白い首筋。
その僅かな隙が、大きく開いたドレスの胸元とはまた違った白さで頭の奥を焼く。
手を伸ばし、頬に触れるとくすぐったそうに笑う。
両の掌で柔らかな感触を楽しみながらそっと唇を合わせる。

しかし小さなその唇に触れたか触れないかのうちに、
いつもならするりと背に回される腕がファントムの肩を押し返した。
「…どうした?」
俯く睫に問い掛ける。
「嫌なのか?」
「……」
「クリスティーヌ?」
顎を摘む。上げられた瞳に湛えられる熱。花のような唇をまたすぐに奪いたい衝動をかろうじて堪える。
「いや、じゃ、ないけれど…」
少女は小さな声でつぶやくと、ファントムの前髪に触れた。
「…あなたじゃないみたい…」
「お前がやったのではないか。」
ファントムは笑い出した。
「ええ。でも…。」
視線を逸らせて息をつく。
「あなたじゃないと、嫌なの」
無邪気な表情で突然に放つ甘い言葉は、いつも彼に小さくは無い衝撃をもたらす。
身体の中心に熱く蟠るなにかを逃がすように大きく息を吐くと、前髪を掻き上げながら笑ってみせる。
「…これでいいか?」
「ん」
頷きざまに腕が首に回り、柔らかい唇が押し当てられた。
擽るように求める男の舌に応えて、唇はやがて薄く開く。
甘く温かな葡萄酒の香りを貪り、少し顔を離すと、くすくすと笑って額を合わせる。
「子供みたい、かしら」
「みたい、というよりそのまま大きな子供だな」
「…あなたは子供にこういうことをするのね?」
クリスティーヌは濡れた瞳のままうっとりと唇を撓めてみせた。
496名無しさん@ピンキー:2006/01/04(水) 18:17:55 ID:LmBKNTCu
新年一発目の投下キタ───!
え?続きは?微妙に寸止めなような気がする。
>「何がだ!」 怒るなよマスター
なんだかマスターの方が生徒みたいだね、良かったよ!
497名無しさん@ピンキー:2006/01/05(木) 00:31:20 ID:++a9WNjg
文章上手いなぁ。
498名無しさん@ピンキー:2006/01/05(木) 02:15:39 ID:rHzVRFjH
細やかな描写が素敵で、うっとり。。。
もっと読みたいです
499名無しさん@ピンキー:2006/01/06(金) 21:44:39 ID:JrXTb3s8
新年イチャイチャ投下第一弾きてた!!GJ!!
クリスが可愛い(*´д`)何つーか微エロイ。
500名無しさん@ピンキー:2006/01/08(日) 01:34:02 ID:fE862I7o
500番いただきです。
501名無しさん@ピンキー:2006/01/09(月) 04:20:29 ID:5GlBxnut
なんか新年早々過疎っているみたいなんで。。
ショートストーリーというか、一場面だけですが投下します。

クリスティーヌを地下に攫った後のお話、ラウルはヘタレで助けに来れなかった設定。
エロは少なめ、暗いです。。。


502地下の牢獄で:2006/01/09(月) 04:24:04 ID:5GlBxnut
この地下に攫われてきてもうどれぐらい経つだろう。
昼も夜も無い地下の世界では、時間の感覚が無くなってしまっていた。
ラウルが今頃自分を心配して探し回っているに違いない。
でも彼が此処を見つける可能性は少ないし、例え此処から助け出して貰う事ができても、
私はもう彼の花嫁になることは出来ない身体になってしまった。
この地下の牢獄に閉じ込められ、無理やりあの恐ろしい男の花嫁にされて
身体を汚され続ける日々・・・
クリスティーヌの頬を涙が伝い落ちた。
「クリスティーヌ」
音も無く近づいていたファントムに名前を呼ばれてビクリと身体を震わせた
彼はクリスの顎を軽くつかんで仰向けさせた。
「また泣いていたのか・・・」
涙に濡れたクリスの顔を見つめてから唇を重ねる。
攫ってきてから幾度となく奪ってきたが、花びらのような唇はいつも涙の味がした。
ラウルのことを思って泣いているのだろうと思うと嫉妬が暗い欲望に火をつける。
泣いているクリスを哀れに思いながらも、抱き上げて寝室へ連れて行く。

クリスティーヌに対する欲望には際限が無かった。
ベッドの上にその華奢な身体を横たえて抱き締める。
白い柔肌をきつく吸って体中に自分の印をつけていく、
そして愛撫もないままクリスの身体を開き、まだ潤ってもいない体を自分の欲望で貫く。
強く腰を押し付けて挿入を深くすると、クリスが苦痛の声をもらした。
「お前は私だけのものだ…」
耳元で囁き、長い口付けをする。
こうしている時だけはクリスが自分のものだと感じる事ができたから。
狂おしいほどの愛しさと独占欲が彼を支配していた。
クリスの体に自分を刻み付けるように荒々しく腰を動かし続ける。
最初は嫌がって泣き叫んでいたのに、クリスはもう抗わなくなっていた。
諦めたようにじっと目を閉じて耐えているだけだ。
その従順さに淡い希望さえ持ってしまう。
もしかしたらいつかラウルを忘れて、彼を受け入れる気になってくれるかもしれない、と。
彼女にとってこの行為が苦痛と屈辱でしかないのは分かっているのに
こんな風に奪い尽くしても決して心は奪えないと分かっているのに。
自分は一体どこまで堕ちていくのか・・・
もはや身も心も化け物になってしまっているのかもしれないと思う。
それでもこの腕の中の柔らかな温もりだけは離したくないのだ。
  
                                   〜fin〜          

503名無しさん@ピンキー:2006/01/09(月) 14:13:45 ID:d2JyvtBl
>502
救いがないよ〜。幸せになって欲しいよ〜。
504名無しさん@ピンキー:2006/01/09(月) 14:54:59 ID:s4kH1GAR
>>502
新年早々暗いよ〜。
マスターには幸せなエチーをさせてあげたい…。
505名無しさん@ピンキー:2006/01/09(月) 16:20:57 ID:cmtlZ0Ka
>>502
(´・ω・`)ショボーン
もしヤっちゃったとしても結末はこんなものなのかも知れないけど・・・
506名無しさん@ピンキー:2006/01/09(月) 16:21:05 ID:NoaSTHsp
>>502
暗く惨めなマスターもそれらしくて良いし悲しいエチーも風情がある。
でもできたら救いも欲しいな〜

…というわけで続きキボンw
507名無しさん@ピンキー:2006/01/09(月) 18:43:32 ID:vEnUEAvd
>506 そうそう。マスターらしい雰囲気が良くでてるよね。私も続きが読みたい〜
508名無しさん@ピンキー:2006/01/10(火) 00:09:54 ID:wuCjhMA/
>502
自分はこのダークさが好きだけどな。
救いのために続きを、てのはどうなんでしょ?
509続寝室編:2006/01/10(火) 01:15:04 ID:Cl3PZ0ew
新年の投下が少なめなようなので
>>414からの続き、投下させていただきます

*ファントム×クリス
*すでに仲良く一緒にオペラ座外で暮らしている設定

例によって寸止め。次で終わる予定。ごめん。
510続寝室編:2006/01/10(火) 01:16:35 ID:Cl3PZ0ew
私を求めて寄せてきた唇を優しく迎えることはせず、
彼女の髪に両方の指を差し入れ、後ろの髪を掴んで手荒く顔を上げさせる。
「あっ!…」
眉を寄せ、自然に開いたその唇は、待ち構えていた私の獲物だ。
いきなり舌を差し入れて柔らかな唇を蹂躙する。

優しいとはいえない扱いを受けながらも、しきりと甘い吐息を漏らすクリスティーヌ。
その身体を私の好きにしていいという大胆な申し出に
私自身がすでにこれ以上ないほど硬くなっていた。
温かく濡れた舌を吸い、上顎を嘗め回し、その細い腰を強く抱き寄せて下半身を押し付ける。
瞳を閉じて身体を任せていたクリスティーヌが驚いたように瞳を開き、
そして甘えるように私を見つめ、腰を捩っている。
すでにその身体は淫らな期待に蕩けてしまっているに違いない。

ああ、今すぐその白い脚を拡げさせ、淫らに濡れた体内に私の全てを埋め込みたい。
何度も何度もぬめった身体の奥まで突き上げ、よがり狂って啼く声を聞きたい。
そして、快楽に耐え切れずに我を忘れて達するおまえの姿を見たい。

はやる気持ちを抑えて彼女を抱き上げ、ベッドの上に投げ出す。
少々手荒だったか、白い身体が弾んでベッドがきしむ。
抵抗して私の腕から逃げ出したクリスティーヌが、
午後の日差しの中、欲望に潤んだ瞳で私を待っている。

その細い肩を掴んで後ろを向かせ、コルセットのレイシングに手を伸ばす。
結び目を解き、緩めてやってから彼女の耳元で囁いた。
「全部脱げ。自分で、脱ぐんだ」

はっと私を見上げるクリスティーヌを見つめたまま、膝立ちで自らのシャツを脱ぐ。
有無を言わさぬ私の態度に諦めたのか、彼女がおずおずとコルセットを外し始める。
が、取り去る段になってからこの日差しの中で全てを脱ぐということの意味をようやく悟ったらしく、
顔を赤らめてシーツを手繰り寄せた。
クリスティーヌを見下ろしながら私も服を脱ぎ捨てていく。
511続寝室編:2006/01/10(火) 01:21:30 ID:Cl3PZ0ew
シーツを剥ごうと手をかけた私に彼女が言う。
「マスター……おねがい、ここは明るすぎるわ……」
「……私の好きにしてくれと言ったのは、嘘だったのか?」
「ああ…嘘じゃない……嘘じゃないけど……でも……」
懇願するように私を見つめるクリスティーヌ。

「抱いて欲しいというのも、嘘か……?」
彼女が大きく首を振る。
「嘘じゃないわ…!」
シーツの下へ手を差し入れ、そのすべらかな腰から脇腹へ、柔らかな乳房へと撫で上げた。
「ああっ……」
クリスティーヌが甘い吐息を漏らす。
その隙にシーツを剥いだ。

「ああいや!マスター……!」
白い裸身があらわになる。
美しい曲線を描く身体を、両手で隠そうと身を捩るクリスティーヌ。
「……私の好きにさせてもらおう」

「ああっ!」
両脚の間に私の膝をこじ入れ、胸を覆う腕の隙間に手を差し入れる。
「手をどけろ…クリスティーヌ」
彼女の腕が力なくほどかれていく。
なめらかな肌に静脈が透けて見える。
これだけ明るい場所で彼女が身体を晒すのは初めてのことだった。
身体を引いて、日差しの中に横たわる白い裸身を眺めた。
「ああ……見ないで……」

ふくらみの柔らかさを確かめるように撫でまわし、淡い薔薇色の先端を指先で弄ぶ。
クリスティーヌが甘い声をもらす。
私の手は胸から腰へとなめらかな曲線を描くくびれをなぞり、まるい尻を撫でた。

脚は彼女の両脚の間の奥まで入り込み、とうに蕩けたその部分を擦りあげる。
腿に熱い蜜の感触を感じた。
「ああ…! マスター、マスター……」
美しい茶色の瞳が、午後の日差しの中で切なく揺らめく。
彼女の両脚が私の脚を挟み、濡れた部分を擦りつけてくる。
「ああ…もう……おねがい…」
呼吸が荒い。
「……私の好きにしてくれと言ったな…?」
「…ああ……」
私を見つめたまま切ない声を上げる。
512続寝室編:2006/01/10(火) 01:24:47 ID:Cl3PZ0ew
右手で彼女の左脚を押し拡げ、蕩けたその部分に指を這わせた。
「ああっ!!」
濡れた入り口の上部に尖った突起を見つけ、指の腹でそこを弄る。
「ああ!…ああっ!…あああ……!」
背を反らして快感に耐えるクリスティーヌ。
「クリスティーヌ……自分から抱いて欲しいと言うだけの事はあるな…?
 こんなにいやらしく濡らして……」
「いや…!言わないで……」
クリスティーヌが片手の甲で顔を覆う。

指で突起を擦りながらなおも言葉を重ねる。
「それとも、私に見られて感じているのかね……?」
「ああ!……いや……」
彼女が顔を覆ったまま首を左右に振った。
指の動きを早めるとあえぎ声が高くなり、もう耐え切れないようだった。
「マスター!……もう…ああ…!」
「まだだ……クリスティーヌ。
 おまえの全てを見せてもらおう……」

<続く>
513続寝室編:2006/01/10(火) 01:26:10 ID:Cl3PZ0ew
次で完結予定。
読んでくださった方ありがとうございました。
514名無しさん@ピンキー:2006/01/10(火) 01:28:28 ID:nIrDrpaS
502です
ホント救いがないですよねー
続きも考えてはいるんですが、
自分にはマスターを幸せに出来る自信ないっす。
彼が辛い思いをするほど萌えるんでw

優しい天使様達のご降臨をお待ちしてます〜
515名無しさん@ピンキー:2006/01/10(火) 01:34:39 ID:nIrDrpaS
わおっ!
お願いした途端に天使様の投下が!
516名無しさん@ピンキー:2006/01/10(火) 02:46:23 ID:KtJ0tyka
>513
GJ! GJ!
エロ過ぎる展開にただただ脱帽するばかりでございます
腿で擦りあげるファントム萌え
で、自分からそこを擦りつけちゃうクリス萌え
517名無しさん@ピンキー:2006/01/10(火) 15:00:44 ID:AtTJ4k0K
>513
マスター愉しみ過ぎw

処女を自分好みに仕込んでいくのって、根気がいるだろうけど楽しいだろうな〜。
マスターなら教え方上手そうだし、クリスも覚えが早いかもwwww
518名無しさん@ピンキー:2006/01/10(火) 15:52:32 ID:Z6Mwv+ZN
>>513
GJ!!
救いのないマスターの次は愉しみ過ぎのマスターかw
マスターがんばれ。
519名無しさん@ピンキー:2006/01/10(火) 17:13:59 ID:YgM1Dp5+
>>355
去年の話だけどw
デスマスクサンタが 右手に持ってるように見える
縦長のオレンジ色はなに?
520名無しさん@ピンキー:2006/01/10(火) 18:05:45 ID:bQScNzWi
>>519
恐らく87ドルのセクシーランジェリー>縦長オレンジ色
521名無しさん@ピンキー:2006/01/10(火) 21:31:18 ID:+p+E75AW
え?そうなん?
522名無しさん@ピンキー:2006/01/10(火) 21:40:27 ID:hmqhPZ74
ああああぁぁぁ やっとわかった!ただのカードだと思って
よく読まなかったけど あれ目録?なんだw
523名無しさん@ピンキー:2006/01/10(火) 22:07:34 ID:yaen2p23
>>519
いや、ビンテージのボルドーだとオモ
ボトルでしょ?だって。
524名無しさん@ピンキー:2006/01/11(水) 11:53:09 ID:GD4Ihv2y
ってことはランジェリーはあの箱か
…デカイよ。どんなの買ったんだよw
525名無しさん@ピンキー:2006/01/11(水) 13:49:29 ID:JyVtYSkw
原作でエロ
伯爵×ソレリ
…需要なさげですが、
大分前の埋め雑談でちらりと出てタ。
5261/3:2006/01/11(水) 13:50:06 ID:JyVtYSkw
「ずいぶんと、ごゆっくりでしたのね」
楽屋の扉を開くと、とたんに不機嫌そうな声が飛んでくる。
どうやら自分がどこで道草を食っていたのか、もう知っているようだ。
おそらくなかなか現れないのに業を煮やして、
付き人を見に行かせたのだろう。
苦笑しながら視線をやると、もう馴染みになった付き人の少女は
如才なく視線を逸らせた。

「そうだね、ダーエの楽屋に寄っていてね」
とっくに知ってはいるだろうが、何食わぬ顔で応える。
鏡に向かって髪を梳かしていた恋人は、キッと振り返った。
「でしたら、そのままダーエのところにいらしたらよかったのに」
ガウンに着替え、湯まで使った後のようで、
フィリップは改めてダーエの楽屋で過ごした時間の長さを思った。
「違うのだよ。ダーエに用があったのはラウルの方だ」
「弟さん?」
鏡のほうに向き直り、まだ刺々しい口調のソレリの横に腰掛ける。
「そう。あれはどうやらダーエに熱を上げているようでね」
「それでお兄様がわざわざ付き添って行かれたの」
「ああ。それ以上の何がある?…まさか、私を疑っているのではあるまいね。
 君が私にスパッツまで預けるから、私は友人たちから
ソレリの靴下係とからかわれているんだよ?」
ソレリの手からブラシをそっと取り上げ、鏡台に置く。
「こんなに君に尽くしている私に他所へ行けとは、
ちょっと冷たいのではないかね?」 
口を尖らせてそっぽを向いたソレリを、
フィリップは哀れっぽく囁くきながら抱き上げた。
形ばかりの抵抗を意に介さず、長椅子に横たえる。
5272/3:2006/01/11(水) 13:51:36 ID:JyVtYSkw
「…プリマバレリーナの脚に何かあっては大変だ。
靴下係である以上、異常がないかは私が確かめねば」
そう言うと、自分も足元に腰掛け、両足首を掴み膝の上に乗せる。
「フィリップ…」
咎めるような口調だが、拒む風はない。
目の端に付き人の少女が、そっと出てゆくのが見えた。
憚る者がいなくなり、フィリップは唇の端に笑みを浮かべると
無造作に片足を手に取った。
掌で包むように弄ぶ。ソレリの唇が薄く開いた。
小さな足の甲に唇を寄せる。湯に垂らしたのだろう香油が香る。
ゆっくりと骨に沿って足首まで舐め上げると、喉を鳴らす音が聞こえた。
膝までをキスで埋め、そのまま握っていた足首を肩に掛ける。

「フィリップ…止めて…」
止める声に小さな喘ぎが混ざり、もはやねだっているようにしか聞こえない。
「…まだ、ちゃんと確かめていないよ」
膝を抱え上げ、殊更にゆっくりと腿の内側に舌を這わせた。
背で足先がびくびくと揺れている。
脚の付け根の、薄く張り詰めた皮膚に何度も舌を往復させる。
「…こら」
小さなかかとが背を蹴りつけるようになり、フィリップは苦笑しながら顔を上げた。
「だって…」
つぶやきながら尖らす唇に自分のそれを重ねる。
そのまま歯列を抉じ開けるように舌をねじ込むと、
柔らかい舌が待ちかねたように絡められた。

しばらく無言でお互いの口を貪り合って、大きく息をつきながら顔を離す。
「…そろそろ、機嫌を直してくれたかね」
「…まだよ」
息を弾ませながら微笑む。その唇をもう一度奪いながら胸元へ手を差し入れた。
柔らかく手になじむ乳房は、もうその先端を硬く尖らせている。
掌で捏ねるように揉みこみながら、圧し掛かる。
5283/3:2006/01/11(水) 13:52:58 ID:JyVtYSkw
「ああ…ッ…はあ…!」
口が離れた瞬間、大きく喘ぎながらがくりと首を反らす。
フィリップはその首筋を強く吸いたてた。
そろそろと手を下に滑らせ、ガウンの裾を捲り上げた。
「もう、いいようだ…」
「やあ…!」
すっかり潤ったその部分を撫でてやると、かわいらしく腰をくねらせる。
「この私が”美しきソレリ”の楽屋に入る権利を、他の男に譲るとでも思っているのか?」
言いざまに、すっかりと立ち上がった己をソレリに突き立てる。
「君は、こうされるのが好きだったね」
ゆっくりと回すように腰を動かす。
「あ、ああ…好きなんかじゃ、ないわ…」
「…強情っぱりめ…」
すすり泣きのような喘ぎが、だんだんと切羽詰ったものに変わってゆく。
眉が切なそうに寄せられ、長いすの背を握る指は関節が白くなっている。
締め付ける内部が細かくひくつきだし、フィリップは腰を送込む速度を速めた。
「フィリップ!ああっ!」
弾けるように身体を反らして絶頂を迎えた恋人を目に映しながら、
フィリップもまたソレリの中に放っていた。

「…で、ご機嫌は直して頂けたのかな?」
「いいわ。許して差し上げる」
つんと反らした頭を抱いて、その柔らかな巻き毛を梳きながら、
フィリップは笑みを浮かべた。
(さて、意外とやり手のわが弟も、今ごろはうまくやっているだろうか?)
「…何笑ってらっしゃるの?」
「さて…なんだろうね」
フィリップは肩をすくめると、恋人の頭をぽんぽんと押さえた。
529名無しさん@ピンキー:2006/01/11(水) 16:17:24 ID:X7qbYCRq
萌えー!
天使様GJ!!
ツンデレ属性には堪らんです!いいもの見せてもらいました(*´Д`)
530名無しさん@ピンキー:2006/01/11(水) 17:27:35 ID:K73cscnE
初投下っっっっす!!
かなり下手&ありえないないようですが勘弁してけろ。。。。
531風邪マスター:2006/01/11(水) 17:29:35 ID:K73cscnE
・全部で?Gレスあります
・エロ部分少ないです…ごめんなさい(マスターが一人○○○してるだけです)
・レスの一番上の名前がレスごとの主人公です


★エリック
私は初めてクリスティーヌを抱いた時、彼女に痛みをおさえる薬を使った。それは自ら調合した薬だった。しかしそのまま飲めるような味ではなかったため、飲みやすいように白色の金平糖に混ぜたのだった。
 次にクリスティーヌを抱いたとき、私は媚薬を使った。それは桃色の金平糖の形をしていた。

 ある夜、行為の後クリスティーヌは疲れていたので自分のベッドへ戻らなかった。そして
私の隣で裸のまま寝てしまい、歌姫の喉を心配した私は彼女に上掛けをかけてやった。
しかし、自分も疲れていたのか、ブランケット一枚ですっかり眠ってしまっていたのである。
次の朝、私はクリスティーヌが目を覚ます前に、いつものように彼女に服を着せ、
彼女を彼女の楽屋まで運んでいき、いつものように彼女の頬にキスをすると、いつものように地下へ戻っていった。

その日の午後、私はベッドで昼寝をした。
夕刻になり、起きようとするが身体がだるく起きられない。
しばらくするとひどい頭痛におそわれそのまま寝込んでしまった・・・。
532風邪マスター:2006/01/11(水) 17:31:45 ID:K73cscnE
★クリスティーヌ
私は一日の用を終え、いつものように楽屋でエリックを待っていたのだが、いつまでまっても来ない。おかしいと思ったわたし、はいつか彼に教わった裏道から、彼の住まいへ行ってみることにした。

 歩き始めてからわたしは不安になった。歩くには暗すぎるし
案内人もいない慣れない道だったから。それにもし、行き違いになっていたらどうしよう・・・?
 ・・・あのマスターのことだから、そうなってもきっと許してくれる…そう思うと頬がゆるんでしまう。
 
 でも一体どうして迎えに来てくれなかったのかしら・・・?
不吉な考えが頭をよぎり、だんだん悪い考えが浮かんでくる。
心配になりわたしはとうとう走り出した。
 走っても走ってもなかなか着かない。暗闇でつまずきころびながらどんどん進んだ・・・

そしてエリックの部屋に着いた・・・
533風邪マスター:2006/01/11(水) 17:33:06 ID:K73cscnE
★クリスティーヌ
しかし部屋がいつもとちがう。
暗いのだ。たくさんの蝋燭はほとんど燃え尽き、灯がともっている蝋燭は数本しかない。

わたしは彼の名前を呼びかけながらすすんでいった。
オルガンには昨日の時点ではまだ書きかけだったオペラが完成されていた。
それをみて安心したわたしは寝室へむかった。

そこではエリックが眠っていた。
わたしがキスするとエリックは目をさましてこういった。
「・・・クリスティーヌ・・・私に近寄っては・・・だめだ・・・」

一瞬、なぜだかわからなかったけれど私はエリックの唇の熱さ、眼が潤んでることから
彼が病気ということに気づいた。
534風邪マスター:2006/01/11(水) 17:34:09 ID:K73cscnE
★エリック
「マスター!!どうしたの?!」
「・・・今日は・・・迎えに行ってやれなくて・・・すまなかった・・・」
「そんなことはどうだっていいのに・・・!!」
 クリスティーヌが私の額に手をあてた。
「まぁ・・・熱があるわ・・・
  マスター、薬はどこにあるの? とりあえず、今冷たいタオルを持ってきますから・・・」
同じ部屋にいたら風邪がうつってしまうではないか!彼女を苦しませることなどできない!
「いいから今日は・・・戻れ・・・」
「こんなに苦しそうなマスターをほっておけません!!
 それにこうなったのは私のせいでもあるし・・・」
何故そう思うのか聞いてみると、
「なぜって・・・昨日はいろいろしたから・・・お互い疲れてしまって・・・それで・・・」
・・・そうかそうか!彼女は私の風邪の理由をちゃんと知っているのだ。
「・・・クリスティーヌ。・・・それではお前に看護婦さんをやってもうらうとするか・・・。」
「よろこんでそうさせて頂きます…。マスター…」
535風邪マスター:2006/01/11(水) 17:34:48 ID:K73cscnE
★そう言うとクリスティーヌは私の額に冷やしたタオルをのせてくれた。
そして食事の支度、掃除をしながら私の様子を見に来てくれた。
「マスター…?そういえば薬はどこにあるの?」
・・・そうだ薬・・・!いくらなんでもクリスティーヌに調合は任せられない。
なにか出来上がった薬・・・出来上がった薬・・・・・・あれだ!!
しかし「あれ」はもともと風邪薬ではないし・・・まぁ何も飲まないより体は楽になるだろう。
さっきより調子がいいようだ。あの薬を思い出して立ち上がろうとすると、
クリスティーヌは取ってきてあげる、というので場所を教えると、ぱたぱたと走っていった。

そしてクリスティーヌは棚の上からトルコ製の小さな壺を持ってきた。
「ありがとう。クリスティーヌ…その中に白い金平糖が入っているはずだ…。」
「…マスター…これはあの時の……。」
「そうだよ。クリスティーヌ何も照れることはないじゃないか。
 ありがとう…その中に白い金平糖が入っているはずだ…。
 桃色ではなくて白い金平糖を1つくれないか?」
「白…白…暗くてよくわからないわ…白…白…!!これかしら?」
そういってクリスティーヌは私の口に金平糖を入れてくれた。
そしてクリスティーヌが自室に戻るのを促した。
536風邪マスター:2006/01/11(水) 17:35:47 ID:K73cscnE
★エリック
これで頭の痛みはおさまるだろう…と思っていたのだが…。
どうやらクリスティーヌは桃色の方を飲ませたらしかった。
私は媚薬なんか飲んだことはなかったが、これが媚薬の効果である事はわかった。
もし今クリスティーヌがここへ来たら間違いなく犯してしまう…。
とにかく寝よう!そうすればこの欲望もおさまるはずだ………
しかしなぜか眠ることができないのだ。それどころか自分の手は自分自身へとのびていった…。
そして自分の勃起しつつある肉棒をとりだした。
自分の分身に触れた…だんだん体が熱くなり体にかかっている毛布も
邪魔になり、私はベッドの上で完全に自分の肉棒を露出し自慰を開始した…。
静かな部屋に己の興奮した息づかいが聞こえる
あぁ…もうだめだ…はぁ…はぁ…っっはぁっ…クリスティーヌっ…
……もう…出るっっ!!
そして私の肉棒は爆先端から白い濁液をほとばしらせた…
射精してしまった…。
しかし一回出すだけでは私の性欲はおさまらず自慰を繰り返した…
何度も何度もクリスティーヌの事を思って射精を繰り返した…我を忘れて…
537風邪マスター:2006/01/11(水) 17:36:39 ID:K73cscnE
★エリック
どれほどたっただろう?私は体力がなくなり自慰をやめた。
体を起こすとベッドのシーツは私の精液でべっとり汚れていた。
いつかクリスティーヌがこのシーツを替えにくるだろう…。なんていったらいいのだ?

!!そもそもこうなったのはクリスティーヌがちがう薬を飲ませたからではないか!!
そうだ!全て彼女のせいなのだ!
シーツと服を替え自分で薬を飲み直し、眠ることにした。
今度はよく眠れそうだ……クリスティーヌにはお仕置きが必要だ………
538風邪マスター:2006/01/11(水) 17:39:33 ID:K73cscnE
★クリスティーヌ
マスターは私に風邪がうつらないように部屋へ帰した後、寝るといっていた…。
私が部屋で編み物をしていると、マスターの部屋から苦しそうな声が聞こえてきて
不安になってドアをあけると…
!!!!!!
マスターは一人で…一人で…していた…。
夢中になってしていた…でも果てる時は私の名前を呼んでいた…
でもあんなことする元気があるなんて…!


*****************
マスターはしばらくするとすっかり元気になった。
そして歌のレッスンの後、私が看病した日の話がでた。
どうやら私はマスターに違う薬をのませてしまったらしい…それでマスターはあんな事を…。
その後マスターにたっぷりお仕置きされてしまった…
くやしいけど腹いせに私が見てしまった事はだまっておこう。
それが役に立つ日もあるだろうから…♪

                    〜劇終〜

ここまで読んでくれた方ありがとうございます。
ほんとに下手だし病気のくせにありえない展開ですが…
もうしわけありませんができれば感想おながいします。
ありがとうございました
では。。
539名無しさん@ピンキー:2006/01/11(水) 19:02:56 ID:mDQ7hphS
うーん、何と言うか、中学生の書いた日記のようだな、と思いました。
個人的に三点リーダー・・・と…はどちらかに統一された方が良いかと。
540名無しさん@ピンキー:2006/01/11(水) 20:15:29 ID:HdnfvpCP
>530
クリス、どんなお仕置きされちゃったのかな…
ところでこれはギャグととらえてもいいんかな?
だとしたら、照れずにもっとガンガンとばしていいぞ!
文章は読みやすくていいよ、また自作を期待してるからね!
541名無しさん@ピンキー:2006/01/11(水) 21:07:48 ID:hiwTucM9
ワラタ
542名無しさん@ピンキー:2006/01/11(水) 21:35:05 ID:LrLRYjDc
急ににぎわってきたな。

>>530
若ーい男の子が書いたよなSSだ。

>>525
いいよー。すごくいい!
他のも読みたくなってくる。ぜひ続編を。
543名無しさん@ピンキー:2006/01/11(水) 22:17:46 ID:4wkT+XI6
>>525
オペラ座の裏話な雰囲気溢れる素敵な掌編だ…!
ソレリタン(;´Д`)ハァハァ
フィリップ兄ちゃんも弟より格段にレベル高いな

>>530
初投下ですか、乙です
なんつーか、今まで見たことのないキャラだ…
こういうのもアリかとは思うので、今後ともガンガレ
544名無しさん@ピンキー:2006/01/11(水) 22:36:57 ID:Z1apGaF5
>526
スレ始まって以来、初めてのフィリップ伯爵だ!
実は原作ではあんまり印象が残らなかったんだが、アナタのSS読んでなんだか
リアルに顔とかのイメージが湧いたよ。それってすごい才能だよ

>531
そうかマスターこういうキャラもありなんだ、ワロタGJ!
初投下というわりにはよく話が出来上がっていると思うよ、おぬし伸びるぞよ
次はもっと長いの頼む、ガンガン行け
545名無しさん@ピンキー:2006/01/11(水) 22:40:56 ID:Cp5UEMGA
>525
GJ!
伯爵の余裕あるダンディっぷりがステキでした。
ソレリのキャラもいいね、ツンデレが可愛い。

>530
投下乙でした。
こういう構成もなかなか面白くて有りなんだなと思った。
546名無しさん@ピンキー:2006/01/12(木) 10:00:43 ID:/Ds6ymB2
>>525
スマートなのにエロい!GJ!

>>530
投下乙!
少年誌の4コマみたいで楽しかったよ。
547名無しさん@ピンキー:2006/01/12(木) 23:15:13 ID:G72W+TtL
今連載中のssって
・寝室編(次でラスト)
・木登り編
・自虐マスター
の三つでおk?自虐マスターの天使様の御降臨ないかなwktk
548名無しさん@ピンキー:2006/01/13(金) 00:13:31 ID:b/mv3jXA
あってるとオモ(´・ω・`)
2大マスター…楽しみだ!
549名無しさん@ピンキー:2006/01/13(金) 01:17:33 ID:axj5+pbM
>547
自虐です。
ひと月も放り出したままですみません。
今月中には必ず投下します。
エロが少なくて長いのですが。
550名無しさん@ピンキー:2006/01/13(金) 02:45:28 ID:vyiHvA0E
投下予告キタ――――!!
>>549
タオル用意して待ってます!
551名無しさん@ピンキー:2006/01/13(金) 16:43:36 ID:nE/7pVNw
    .,,,l,,,,,l,liiiiliiiii,,,、         
    .,l,lll!!!llllll!!!!llllllllii,         
   .,l゙゜  ゙ll,、 llllllllll、       
    | _,..s.ll,,,,,,,,,゙llllllll、       
    | .゙lllll"》゙〓゙ト.!!゙!ll:  「自虐です」て!    
  .,,,,,i、.'"゙,|,h  '゙.,,l!″  >549  
 .,,illlll゙li,,r,i,⊂⊃、 .iiiilll,         
: ,illlllllli, 't,.''''゙゙゙″.,l゙゙llllllli,,、   
lllllllllllllllii,,,~,,iiillliiill,,,,,,llllllllll,: ,! ) 
llllllllllllllllllll,゚lllllllllllllllll゙!llllllllllliilllli l、  
 
お待ちしてますor2
…終わっちゃうと思うと寂しいけどね
552名無しさん@ピンキー:2006/01/13(金) 19:47:59 ID:49ENIUHw
>551
マスターだ!うまいなあ
眉間のしわの「s」が切なそうで、でも可愛くてなんともいえん
553名無しさん@ピンキー:2006/01/13(金) 23:22:08 ID:lYjO0TII
>>549
>547です。天使様投下予告きた!!責任とって全裸待機します(;´Д`)ハァハァ
しかし連載中の作品どれも切なかったりエロかったりご馳走様です。

>551 GJ!wwwwクソワロタwwww
554名無しさん@ピンキー:2006/01/14(土) 14:31:31 ID:8bvtPp0j
530です

自分でも書いててギャグなんだかエロ系なんだかわからなくなったww

ほんとはエロ書きたかったけど・・・ozr

みなさんスマソ 
555534:2006/01/14(土) 15:39:35 ID:8bvtPp0j
連投スマン
オペラ座のなりきりスレみつからないから誰か誘導してくださいまし
556名無しさん@ピンキー:2006/01/14(土) 19:23:37 ID:Xj+ziylm
ファントムだけど、何でも質問していいよ
http://tv6.2ch.net/test/read.cgi/movie/1106978509/l50
【ファントム】オペラ座の怪人キャラ総合
http://etc3.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1108974205/l50
【ファントム】オペラ座の怪人キャラ総合第2幕
http://2ch.pop.tc/log/05/03/19/0231/1109501888.html
【ファントム】オペラ座の怪人キャラ総合第3幕
http://etc3.2ch.net/test/read.cgi/charaneta/1110123385/l50
【ファントム】オペラ座の怪人総合第4幕
http://etc3.2ch.net/test/read.cgi/charaneta/1110869207/l50
【ファントム】オペラ座の怪人総合第5幕
http://etc3.2ch.net/test/read.cgi/charaneta/1112027647/l50
【ファントム】オペラ座の怪人総合第6幕
http://etc3.2ch.net/test/read.cgi/charaneta/1122453645/l50

>554 また投下待ってるよ!
557中年ファントム:2006/01/14(土) 22:25:24 ID:FQ+hqWsr
295の続きです。
中年ファントムと、クリスティーヌの娘フランソワーズのお話です。
前回で終わりなんて書いたのに、申し訳ありません。
しかも今回はエロ度ゼロ、ギャグもなし。orz
宜しかったら読んでください。全部で10レス分あります。
558フランソワーズ 1/10:2006/01/14(土) 22:28:35 ID:FQ+hqWsr
パリのお店へ出掛けた日から、お母様はぼんやりと物思いに沈まれることが多くなった。
何かの拍子にふと眸が遠くを見つめ、心は他所の世界を彷徨っておられるのが分かった。
そんな時、私はただ黙ってお母様を見つめる。気がつくと、お父様もまた、そうしていら
した。
「フランソワーズ、おいで。馬に乗せてあげよう」
お父様と私は、静かに部屋を出て厩舎へ向かう。さっき見たお母様のことには触れず、私
はお父様との乗馬を楽しむ。

小さい頃からそうしてきた。私は美しくて優しいお母様が大好きだったけれど、お母様の
心の奥深くには、決して入り込むことのできない扉があるように感じていた。お父様も、
そのことをご存知だった筈だ。お父様は私をたいそう可愛がってくださり、私もお父様が
大好きだった。そしていつしか私たちは、口に出さない秘密を共有する者同士になってい
たように思う。きっとお父様は、その理由を知っていらしたのだろう。私には分からなか
ったけれど……、あの日までは。

お母様はその冬にお風邪を召され、年が明けてようやくベッドを離れることがおできにな
った。私はお父様とお母様に、南へ避寒に行かれることをお勧めした。お母様はパリを離
れられた方がいい、お父様と二人きりで、しばらく過ごされるのがいいと思ったから。そ
れに、私にはその間にしたいことがあった。メグ小母さまにお会いしたかった。お会いし
て、お母様の秘密について伺うつもりだった。

出発の朝、お二人を玄関でお見送りした。私はお父様に、内緒話のように話しかけた。
「お父様、お二人でうんと楽しんで、お母様の憂鬱を吹き飛ばしていらしてね」
お父様は私を抱き締めてくださった。
「ありがとう、フランソワーズ、私の可愛いお姫様。お土産は何がいいかな?」
「何も。その代わり、お帰りになったら子馬を飼ってくださる? 私も乗馬を習って、お
父様と並んで走ってみたいの」
「お転婆なお姫様だね、フランソワーズは。その話は帰ってからゆっくり相談しよう」
お母様にも抱きついて、小声で話しかけた。
「お母様、新婚の頃に戻られたみたいに、お父様にうんと甘えていらしてね」
「ま、この子ったら……。でも、ありがとう、フランソワーズ」
お母様は、頬を少し薔薇色に染められた。
「弟のことは私にまかせて。何も心配いらないわ」
お母様と離れるのをいやがってぐずり始めた弟の手をしっかりと握り、私はお二人の馬車
を笑顔で見送った。それが、お父様、お母様との最後のお別れになってしまった……。

お父様とお母様が、旅行中に馬車の事故でお亡くなりになってから、三カ月近くが過ぎた。
その間のことは、あまりよく覚えていない。初めは信じられなかった。けれども……、お
二人の棺が戻ってきた時、私は泣きじゃくった。私が旅行なんて勧めなければ良かったの
かと、自分を責めた。同行していた召使いの話で、お父様とお母様はとても仲睦まじく、
お幸せそうだったと聞いて、少しだけ心が慰められた。よく知らない親戚の人たちも現れ
た。お葬式はしめやかに行われ、お父様とお母様は敷地の奥にある墓所で、永久の眠りに
就かれた。

それから、大変なことが起こりそうになった。親戚の人たちが、私は修道院の寄宿舎に入
るべきだと言い出したのだ。私の言うことには、いっさい耳を傾けてくれなかった。いっ
そ家出でもしようかと思った頃、私と弟の後見人になることを名乗り出た方が現れた。正
確に言えば、その代理人という人が……。それからは、何がなんだか分からないうちに物
事が進んでいった。そしてとにかく、私は今までと同じ暮らしを送れることになった。私
は救われた。……十歳の女の子が経験するには、ずいぶんと目まぐるしい三カ月だったと
我ながら思う。
559フランソワーズ 2/10:2006/01/14(土) 22:30:10 ID:FQ+hqWsr
後見人となってくださった方にお会いする数日前、私はパリの街へ出掛けた。執事と厩舎
係をなんとか説き伏せての、久しぶりの外出だった。「エステルの店」の前で馬車を降り
た私は、一人でお店の前に立った。
……なんだか、あの時とはちょっと様子が違う。
お店を眺めていて気付いた。お店の名前の横に、黒いリボンが結ばれた深紅の薔薇の絵が
なかった。窓辺にも違うお花が飾られていた。少し不安になったけれど、私はお店の扉を
開けた。そこには、あの時の優しそうなマダムがちゃんといらした。
「こんにちは……」
「いらっしゃいませ、……まあ、あの時のお嬢様でいらっしゃいますね」
「覚えていてくださったの。嬉しい! あの……、今日はあなたにお話があって……」
「どうぞ、お入りくださいな。お一人でおいでになったのですか? お母様は……?」
「お母様は……、三カ月ほど前にお亡くなりになったの。事故で、お父様とご一緒に……」

マダムは息を呑み、手で口を押さえられた。
「申し訳ございません、不躾なことを……」
マダムは心から謝られ、お悔やみの言葉を掛けてくださった。少し目を潤ませていらした。
優しくしてもらい、私まで涙が出てきてしまった。
「ごめんなさい、私の方こそマダムにお気を遣わせて……。でも、もう大丈夫です。今日
は違うお話があって……、いえ、少しは関係あるけど、聞いてもらえますか?」

お店では落ち着かないからと、マダムのお部屋に案内していただいた。お店の方は、とき
どき手伝ってもらっているという女の人を頼んでくださった。
「お嬢様のようなお方にこんな狭苦しいところで、申し訳ございません。でも、こちらの
方が、お話しするには宜しいかと思いまして……」
「いいえ、とても落ち着ける素敵なお部屋だわ。突然に訪ねてきて、ごめんなさい。私の
ことはフランソワーズって呼んでください」
マダムが勧めてくださったショコラをいただきながら、私は自分の名前を名乗った。
「……承知いたしました、フランソワーズ様。私のことはエステルでけっこうでございま
す。で、お話とは……?」
560フランソワーズ 3/10:2006/01/14(土) 22:31:35 ID:FQ+hqWsr
私は、今までのことから話し始めた。
「両親が亡くなったら、普段は付き合いもなかった親戚の人たちが現れて、私を修道院の
寄宿舎に入れようとしたんです。跡継ぎの弟がいるから、女の私には財産を分けるべきで
ないって……。弟は可愛いけれど、私は絶対に、そんな所に入るのはいや! でも、私の
言うことなんて、聞いてもらえなかったわ……。
そうしたら、ある日、さる実業家の代理人という人が現れて、よくは分からないけれど、
その実業家の方が後見人となってくださり、私は今までどおり暮らしていかれるようにな
ったの。シャニュイ家のことは、三歳の弟が大きくなるまで、執事と代理人の人が管理し
て、悪いようにはなさらないって。親戚の人たちも帰っていったわ。きっと何か言い含め
られたか、お金を貰ったかしたのね」

「それで私は助かったのだけれど、後見人がどなたなのか、心当たりもなくて……。代理
人という人に聞いても、はっきりとは教えてもらえませんでした。ただ、両親の古い知り
合いで、今はアメリカで暮らしておられるのだとか。それで、思い出したの。以前にここ
へ伺った時、お母様とあなたが話していらしたことを。……ごめんなさい、少しだけ聞こ
えちゃったの。その方もアメリカに住んでおられると、おっしゃってましたよね? お母
様は安否を尋ね、涙を零していらした……。私には秘密になさりたいのだと思ったから、
お母様には何も伺わなかったわ。でも、深紅の薔薇を見てはっとなさったり、薔薇の刺繍
のハンカチも買ってくださらなかった……。それで、後見人になられた方と、その方は、
同じ人じゃないかしらと思いついたの」

エステルさんは、ただ驚いたように私の話を聞いていらした。
「……私ね、こう見えても察しがいいの。お母様とお父様はとても仲が良くて、お互いに
慈しみ合っていらしたわ。でも……、お母様はときどき、遠くを見つめてぼんやりなさっ
ていることがあったし、お父様はそれに気付かれても、ちょっと寂しそうなお顔をなさる
だけで、お母様を問い質したりなさらなかった。だから、過去に何かあったのかなと……」

「私ね、代理人の人にせがんで、後見人となってくださった方に、どうしても直接お礼を
言いたいので、一度でいいから会わせてくださいってお願いしたの。とても困ったご様子
だったけれど、雇い主であるその方に連絡を取ってくださり、ついにお会いできることに
なったんです。その時……、エステルさんもご一緒なさいませんか?」
561フランソワーズ 4/10:2006/01/14(土) 22:33:00 ID:FQ+hqWsr
「なぜ……私も?」
エステルさんは低い声でおっしゃった。
「だって、エステルさんもその方をご存知なのでしょ? だから、薔薇の絵を描いたり、
刺繍のハンカチを作られたのでしょ? きっとエステルさんも、お会いしたいのじゃない
かと思ったの……」
「後見人という方が、私の存じ上げていた方と、同じ人かどうかは分かりませんが……、
もしそうだとしても、私はお会いしません。その方も、それは考えておられないでしょう。
フランソワーズ様のお心遣いには感謝いたしますが……」
エステルさんは少し青ざめたお顔でそう言われ、唇を噛み締めて目を伏せられた。
「ごめんなさい、子供の私が出すぎたことを言って……。分かりました。私は一人でその
方にお会いします。そして……、エステルさんはお元気ですってお伝えします」
私がそう言うと、エステルさんは泣き笑いのような表情をなさった。
「……ありがとうございます。私からも、ご無事でなによりです、……これからもお元気
でと、お伝えください」

馬車に揺られて帰りの道を辿りながら、エステルさんの言葉を思い出す。
……エステルさんは、後見人の方をご存知なのだわ。そして本当は、お会いしたいのに違
いない。だって、エステルさんはきっと……。でも、理由は分からないけれど、その方と
はもうお会いしないと決められたのね。だから、お店から深紅の薔薇をすべて消されたの
だわ。エステルさんはお強くて、……寂しさに堪えていくと、決めておられるのね……。
これからお会いする後見人という方は、どんな人なのかしら。お母様のお心に、そしてエ
ステルさんのお心にも、強い何かを残された方……?

メグ小母さまの言葉が蘇ってきた。
「私もね、そんなに詳しく知っているわけじゃないのよ。クリスティーヌとは小さい時か
ら姉妹のように育ってきたけれど、彼女には夢見がちというか、私にはよく分からないと
ころがあったから……。あのお店のことはモード誌で見つけて、一応クリスティーヌに知
らせたのだけれど、余計なことだったかしら。フランソワーズ、私もあなたみたいに知り
たがり屋で、好奇心旺盛な子供だったけれど、世の中には知らずにいた方がいいこと、詮
索しない方がいい秘密もあるんだわ。今はそう思うようになったの」

「でも、これだけは覚えておいてね。あなたのご両親は、ラウルとクリスティーヌは、幼
い恋人同士で、再会した後もそれは深く愛し合い、お互いに慈しみ合ってきた。それは確
かよ。誰にだって秘密の一つくらいあるわ。クリスティーヌのそれは、きっと哀しいもの
だったから、心の奥に封印したのだと思う。それをラウルも理解しているのよ」

お母様が胸に秘めておられた哀しい思い出……、それを探り出そうとするのはもう止めよ
うと思った。それでも、お父様とお母様の古い知り合い、数日後にお会いする後見人とい
う方に、私は強く惹きつけられていくようだった。
562フランソワーズ 5/10:2006/01/14(土) 22:34:53 ID:FQ+hqWsr
当日がやって来た。お昼すぎに代理人の方が、馬車で迎えにいらした。執事に見送られ、
私は後見人の方が待っておられるという屋敷へ向かった。
「ご主人様は、先ごろ少し体調を崩されましたし、外出をあまり好まれないのです。あな
たを部屋へご案内したら、私は下がらせていただきます。ご主人様がおいでになるのを、
そこでお待ちください」
その屋敷は、今回のために用意なさったのだという。お茶とお菓子を用意し、私に椅子を
勧めてくださった後、代理人の方は部屋を出ていかれた。

私が通された客間の窓はカーテンが半ばまで引かれていて、部屋は薄暗かった。上品な調
度が整えられ、正面の壁には大きな姿見がある。気持ちを落ち着かせようと、私はお茶を
一口飲んだ。
……まだ、おいでにならないのかしら。そう思った時、どこからか声が聞こえてきた。
「初めまして、マドモワゼル。……君がフランソワーズだね?」
びっくりして辺りを見回した。
「どなた……? どこにいらっしゃるの?」
「ああ……、驚かせてしまったね、すまない。私は後見人となった者だ」
低くて深みのある、落ち着いたお声がそうおっしゃった。

「まあ……、あの…、はい、私はフランソワーズ・ド・シャニュイと申します。このたび
は私と弟の後見人になってくださり、そして、私が修道院へ行かなくてすむようにしてく
ださり、本当にありがとうございました」
考えてきたお礼の言葉を、私はなんとか言うことができた。でも……、まさか、こんな形
でお会いするとは、思ってもみなかった。
「あの……、お姿を現してはいただけないのですか? 私は、直接お会いして、お礼を申
し上げたかったのですが……」
「……私は、少し変わった様子をしているので、君を怖がらせてしまうかもしれない。こ
のままで話をした方が、良いのではないかと思ったのだ……」
「そんな……、私はお会いするのを心待ちにしてきたのです。どうかお姿を現してくださ
い。それに……、今のお言葉を伺って、もう心の準備をしました。私はそんなに怖がりじ
ゃない。むしろ弟よりもずっと勇敢だわ」
そう言って微笑んでみせると、お声の主も低く含み笑いをなさったようだった。
「そうなのか? ……では、そちらへ伺おうか。少し待っていてくれたまえ」

ゆっくりした足音が聞こえ、客間の扉が開かれた。そこには、お父様よりも背の高い、大
きな男の方がいらした。その方の眸を食い入るように見つめてしまう。蒼とも碧ともつか
ない不思議な色の眸で、吸い込まれてしまうような心地がした。
「やはり驚かせてしまったようだね、すまない……」
「あ、違うんです。あなたの眸があんまり不思議なお色で……、見とれてしまったの。ご
めんなさい、失礼なことをしてしまって……」
その方はお父様よりもお歳が上のようで、黒いフロックコートをお召しになり、クラヴァ
ットもやはり黒だった。そして……お顔の右側に白い仮面を付けていらした。先ほどおっ
しゃったのは、このことだと思う。本当は少し驚いたけれど、私は心の準備をしていたし、
……もう長いこと付けていらっしゃるように、仮面はお顔になじんで見えた。何か事情が
おありなのに違いない。私は好奇心が強いけれど、尋ねてはいけないことがあるのを知っ
ている。
563フランソワーズ 6/10:2006/01/14(土) 22:35:41 ID:FQ+hqWsr
「君も座りたまえ」
その方は立ち上がっていた私にお声を掛けられ、私の正面より少し斜め右に用意された椅
子に座られた。私にはお顔の右側がなるべく見えないように気を遣われたのだと思う。カ
ップに紅茶を注いでレモンを添え、その方の前にお出しした。
「ありがとう……。では改めて、こんにちは、フランソワーズ」
深いお声はとても優しかった。私は緊張がとけていくようだった。
「こんにちは、初めまして。お会いできて、とても嬉しいです」
その方は、優しい眸で私を見つめていらした。……お母様もこの眸で見つめられ、あのお
声で話しかけられたのかしら。そして……、それが忘れられなかったのかしら。お母様の
お気持ちが、少しだけ分かったような気がした。

「あの……、あなたのこと、何とお呼びすれば良いのでしょう?」
「何とでも。好きに呼ぶがいい」
「じゃあ、小父さまってお呼びしてもいい?」
「…………」
その方は、少し驚いたように瞬きをなさり、一瞬目を逸らされた。そして、低い声でおっ
しゃった。
「……まあ、君がそう呼びたいのなら、それでも構わない」
「じゃあ……、小父さま」
「……なんだね」
「ううん、お呼びしてみたかっただけ。練習ってところかしら」
小父さまは、また目を逸らされた。そして咳払いをなさってからお茶を一口飲み、私に向
き直られた。なんだか、小父さまに親しみが湧いてきた。

「小父さまは、お父様とお母様の古いお知り合いだとか。その頃のこと、伺ってもいい?」
私は思い切って言ってみた。小父さまは目を伏せて少し考えるように間をおかれ、低い声
で話された。
「そう大した付き合いでもない。……昔、君の母君に少し歌を教えたことがあるのだ」
「じゃあ、お母様がオペラ座にいらした頃……? 小父さまは音楽家でいらっしゃるの?」
「いや、もう音楽はやっていない」
小父さまは、きっぱりとした口調で言われた。
「……お母様もそう。私はお母様のお歌を聴いたことがないの。お歌を聴かせてって頼ん
だこともあったけれど、微笑んで首を振られるだけだったわ」
「…………。父君はオペラ座のパトロンをなさっていたが、勇敢で、乗馬や剣の腕前も素
晴らしい方だった。君の髪の色は、父君譲りのようだね」
小父さまは私から視線を外されたままで、当時のことはあまり話したくないご様子に見え
た。
564フランソワーズ 7/10:2006/01/14(土) 22:36:18 ID:FQ+hqWsr
「ええ、髪の色はお父様譲りで、顔立ちはお母様に似ているって言われるわ」
「……そのようだね」
「でも、性格はメグ小母さま、…あ、お母様のご親友の男爵夫人だけれど、その小母さま
みたいだって。知りたがり屋で、元気がいいってことだけど。メグ小母さまのことも、ご
存知?」
小父さまは含み笑いをなさり、私を見ておっしゃった。
「ああ、少しね。……確かに、君には修道院は向いていないようだね」
「あんな所! 私ね、いっそ家出しようかと思ったくらい。だから小父さまが後見人にな
ってくださって、本当に良かった。親戚の人たちは、普段はうちと付き合いもしなかった
くせに……。どうやってあの人たちを追っ払ってくださったの?」 
「君は利発なマドモワゼルのようだが、大人の世界には色々とやり方があるのだ。それを
知る必要はない。彼らにも不満はない筈だから、もう修道院の心配はないよ」
小父さまは私の質問を封じられたけれど、眸には愉快そうな表情が伺えて、私はちょっと
嬉しくなった。小父さまとは楽しいお話をしたい、そう思った。

もう一つ、お伝えしなくてはならないことを思い出した。
「それから、エステルさんはお元気です。この間お会いしてきたの。エステルさんをご存
知ですよね?」
「…………」
小父さまは、また瞬きをなさった。
「本当言うと、今日のこと、お誘いしたの。でも、お会いしないって……。小父さまに、
ご無事でなによりです、これからもお元気でと伝えてくださいって、エステルさんはおっ
しゃっていました」
「……君は、あの店にも行ってきたのか。つまり君は、利発で勇敢で、知りたがり屋で元
気で、さらに、人を驚かせることも得意なわけだね。……だが、分かった。ありがとう」
小父さまは低い声で言われた。そして私が話そうとする前に、「この話は終わりだ」と静
かに遮られた。

小父さまはお話を戻された。
「伯爵は年金など、君のためにも財産を用意しておられた。こちらでも信託財産などを整
えたから、何も心配はない。君がお嫁にいく時には持参金もたっぷりある。何かやりたい
ことがあるなら、それも可能だ。……もちろん、受け入れられる範囲でだが」
「お父様が私のために……? お父様は私をとても可愛がってくださったの。お馬にもよ
く乗せてもらって、旅行から戻られたら、私の子馬を飼っていただくご相談も……」
突然、涙が溢れてきた。止めようと思っても止まらない。
「ああ、悪かった、哀しいことを思い出させてしまったね」
小父さまは慌てたように言われた。私は首を振りながらも、涙が止まらなかった。
「違うの……、そうじゃないの。私が、……旅行をお勧めしたの。そんなこと……しなけ
れば、お父様もお母様も……」
ずっと胸にわだかまっていたことだった。けれども、口にしたのは初めてだった。
「事故は君のせいではないよ、フランソワーズ。そんなふうに考えてはいけない。君は何
も悪くないんだよ」
小父さまが優しく慰めてくださる。ますます涙が出てきて、私は手で顔を覆って大泣きし
てしまった。
565フランソワーズ 8/10:2006/01/14(土) 22:37:02 ID:FQ+hqWsr
「フランソワーズ……、君は優しい子だよ」
少しして、耳元で低い囁き声が聞こえてきた。手をどけると、小父さまの眸が目の前にあ
った。小父さまは私の前に片膝をついて、屈み込んでいらした。
「君はいい子だ、少しも悪くない……。とても優しい子だよ、フランソワーズ……」
「ほ…ほんとう? ……私は、悪くないの……?」
「本当だとも、フランソワーズ。君はちっとも悪くないよ。それどころか、思いやりのあ
る、とてもいい子だ。強くて、優しくて、本当にいい子だよ……」
小父さまは私をじっと見つめ、優しいお声で何度も繰り返してくださった。私は少しずつ
嗚咽がおさまり、涙も止まっていった。
「このハンカチを使いなさい。……少し待っていてくれるかね? すぐに戻ってくるから」
小父さまはそう言われ、私の肩にちょっと手を掛けられて、お部屋から出ていかれた。小
父さまの手は大きくて、温かかった。私は誰かに、私は悪くないと言ってほしかったのだ
と気付いた。そして……、それを小父さまに言っていただきたかったのかもしれない。あ
の眸で見つめてもらい、あのお声で慰めていただきたかったのかもしれない……。

「さあ、これを飲みなさい。気持ちが落ち着くだろう……」
小父さまは温かいショコラを持ってきてくださった。
「……美味しい、小父さまが淹れてくださったの?」
小父さまは頷きながら椅子に戻られた。
「もう、大丈夫だね?」
「はい……、ハンカチ、ごめんなさい。くしゃくしゃにしてしまって……」
「そんなもの、構わない。……それよりも、君が泣き止んでくれて、ほっとしたよ」
小父さまは少し微笑んでおっしゃった。つられて私も微笑んだ。
「これから君がやってみたいことを、聞かせてもらえるかね?」
小父さまは話題を変えてくださった。私も楽しいお話をしようと思った。乗馬を習いたい
こと、自転車にも乗ってみたいこと、いろいろな所へ行ってみたいこと、そして……英語
を勉強して、アメリカへ行きたいとも言ってみた。小父さまは少し苦笑なさりながらも、
面白そうに私の話を聞いていらした。

「あの……、これから、両親のお墓にお参りしてはもらえませんか? うちの敷地の奥に
墓所があるの。きっとお母様も、……お父様とお母様も、喜ばれるわ」
いとま乞いをする時が近付き、私は思い切って言ってみた。このまま小父さまとお別れす
るのは寂しかった。それに……、きっと小父さまも、そうなさりたいのではないかと思っ
たから。
「……私がそうさせていただいても、良いものだろうか……?」
小父さまは目を伏せられ、低く呟かれるようにおっしゃった。
「もちろんです! ぜひ……!」
566フランソワーズ 9/10:2006/01/14(土) 22:37:47 ID:FQ+hqWsr
花束を持つ小父さまと、墓所まで一緒に歩いていく。小父さまが用意なさったのは、白を
基調とした淡い色合いの花束だった。
「お花……、深紅の薔薇じゃないのね?」
「……何故、そんなことを?」
「ううん、何となく、言ってみただけ……」
「……いずれにしても、君のご両親の墓前に、そんな花は供えないよ……」
小父さまの声の様子が変わられたような気がして、お顔を見上げた。けれども、不思議な
色をした小父さまの眸は、ただ遠くを見つめていらした。……以前のお母様のように。
小父さまの大きな左手をそっと握ってみた。小父さまは少し驚かれたようなお顔をなさっ
たけれど、そのまま私と手を繋いで、ゆっくりと歩いてくださる。私はなんだか嬉しくな
り、もう少し力を込めて小父さまの手を握り直した。私たちは手を繋いだまま、黙って墓
所への道を辿った。

「ここがシャニュイ家の墓所なの。お父様とお母様もここで眠っていらっしゃるわ……」
建物の形をした大きな墓所の前で、私たちは立ち止まった。小父さまは扉の前に花束をお
供えになり、私の横まで戻られてから、一言もお口を利かずに墓所を見つめていらっしゃ
る。
「小父さま……?」
「……すまないが、少しの間、独りにしてくれるかね……?」
お声の調子は優しかったけれど、私には伝わってきた。……小父さまはお独りで、お父様
とお母様に、……お母様にお別れをなさりたいのだと。私は頷いて、少し離れた石造りの
柵に腰を下ろした。長いこと、小父さまは同じ場所に佇んでいらした。大きな背中が、な
んだかとても……哀しそうに見えた。

お母様とお父様、そして小父さまの間に何があったのか、私には分からない。メグ小母さ
まも、エステルさんも、よくはご存知ないようだった。きっと、尋ねてはいけないことな
のだわ。……小父さまの仮面についても。でも、小父さまは私が修道院に入らなくてすむ
ようにしてくださったし、これからもずっと、代理の人を通して私と弟の後ろ盾になって
くださるという。絶対に悪いお方じゃない。……ううん、私は小父さまが好き。お父様と
は感じが違うけれど、小父さまは強くて、優しくて、私たちを気に懸けてくださっていて、
……なんだかお寂しそう。私がこんなこと考えるのは、生意気かもしれないけれど、私は
小父さまを喜ばせてさしあげたい。楽しそうに笑わせてさしあげたい。そして……小父さ
まに甘えてみたい。お声を聞いていたい。不思議な色の眸を見つめていたい……。
567フランソワーズ 10/10:2006/01/14(土) 22:38:31 ID:FQ+hqWsr
ようやく小父さまが戻ってこられ、低い声で「待たせてすまなかったね、行こうか……」
とおっしゃった。夕映えの逆光で、お顔の表情はよく見えなかった。私は「ええ」と答え、
また小父さまの左手を取った。小父さまの手は少し冷たくなっていらした。私の小さな手
では、小父さまの手を包み込んでさしあげることはできないけれど、それでも私は、ぎゅ
っと力を入れて手を握った。小父さまは少し微笑んでくださった。

「ね、あちらの道から戻りましょう。あちらには、お母様が丹精していらした薔薇園があ
るの。今は春薔薇が咲いているのよ」
小父さまが何かおっしゃる前に、私は手を引っ張るみたいにして、小父さまを薔薇園へと
お連れした。お母様は亡くなられたけれど、庭師が手入れを続けてくれているおかげで、
色とりどりの花が咲いている。白、ピンク、オレンジ色、クリーム色……、そこに深紅の
薔薇がないことに、私は初めて気がついた。……お母様も、本当は深紅の薔薇を植えたか
ったのではないかしら。それとも、哀しいことを思い出すのはお嫌だったのかしら……。
ううん、……思い出すことを、ご自分に禁じていらしたのかもしれない……。

小父さまは黙って薔薇を眺めておられる。小父さまも気付かれただろうか、深紅の薔薇が
ないことに……。
「あのね、これからはね、私がお母様に代わって、薔薇の世話をするつもりなの。それで
ね、まず深紅の薔薇を植えるつもりよ。エステルさんのお店にあったような薔薇を……」
小父さまのお顔を見上げて、私はそう言った。
「だから……、だか…ら……」
急に涙が込み上げてきた。私は小父さまの腰に腕を回し、顔を埋めてしがみついた。
「だからね、これからも……会いに来て。私……、きっと見事な……、深紅の薔薇を咲か
せて……、小父さまにさしあげるから……」

それ以上しゃべれなくなって、私は小父さまの腰にしがみついたまま、泣き出してしまっ
た。だから、小父さまがどんなお顔をなさっていたか分からない。でも、少しすると、大
きな温かい手が私の背中に回された。そして、小父さまはゆっくりと頭を撫でてくださり、
低いお声でおっしゃった。
「ありがとう、フランソワーズ……」
私は涙が止まらなくて、でも小父さまの手の温もりが心地よくて、頭を撫でられるのが嬉
しくて、涙を零し続けた。小父さまはずっと、私の頭を撫でていてくださった。
……私は、こうしているのが幸せだった。

<終わり>
568中年ファントム:2006/01/14(土) 22:40:06 ID:FQ+hqWsr
以上です。
読んでくださった方、ありがとうございます。
569名無しさん@ピンキー:2006/01/14(土) 22:45:25 ID:VjAHyEgx
感 動
天使様ありがとう…!
出先だから携帯からだったけど、帰宅したら存分に泣きます
570名無しさん@ピンキー:2006/01/14(土) 22:46:15 ID:COVma1ga
>568 GJ! GJ! GJ!
互いに思いあっているファントムとクリスの心情に泣き、
物思いに耽る妻を温かく見守る父娘の思いやりに泣き、
亡くしたクリスの墓前に佇むファントムを想像して泣き……。

深紅の薔薇にまつわるファントム、クリス以外のふたり……、エステルと
薔薇との因縁を理解した上で育てるというフランソワーズにも泣かされました。
571名無しさん@ピンキー:2006/01/14(土) 22:48:06 ID:IRjPgPYT
>>568
涙がとまりません。
続編をありがとう。
本当にありがとう。
572名無しさん@ピンキー:2006/01/14(土) 23:06:55 ID:Br+ajSl4
>>568
せ、切ないです。・゚・(ノД`)・゚・。
孤独な二人が最後に出会えたのが救いです。
今回も素敵なお話を本当に有難う・・・。
終わりなど言わず、今後も是非書いて下さいまし!
573名無しさん@ピンキー:2006/01/14(土) 23:08:01 ID:tu1xfLe6
>>568
激しくGJ!GJ!GJ!GJ!GJ!GJ!天使様ありがとうございます。
涙が出てもうだめだー。でももう一回読んでくるよノシ
574名無しさん@ピンキー:2006/01/14(土) 23:13:52 ID:2A1QG00n
>>568
GJです!!
切なさに滂沱&それぞれの愛情に感動&秘密を秘密のままにする優しさに
浸りました。美しいお話ありがとう!
575名無しさん@ピンキー:2006/01/14(土) 23:54:10 ID:i2N/3gn5
GJ!!!!!!!!!!!!!
まじ泣きしました!!!
すばらしいです!!
ありがとうございました!!
576名無しさん@ピンキー:2006/01/15(日) 02:32:26 ID:a+/tVSZY
GJ!!
すごく感動しました。
泣きっぱなしです。

フランソワーズの薔薇園で、美しく咲いた深紅の薔薇は、いつどんな所でファントムの手に渡るのでしょうか。
この続きが読みたいです。

577名無しさん@ピンキー:2006/01/15(日) 03:30:09 ID:CdVCzsVF
中年─壮年期ファントムが男として一番いけるのではないかとアナタのss読んで思った。
物語性があって、シーンごとにその情景が浮かんでくるよ、本当良かった。
また投下してください!

もちろん青年─中年期のエロエロファントムも大好きだ
578名無しさん@ピンキー:2006/01/15(日) 03:59:08 ID:qgk60qV3
ヤバイ!!久々にこのスレでマジ泣きしたよ。
本当に良かった!!でもやっぱり切ないなぁ…
ちょっと間を開けないと切なくて読めないかも自分w
とりあえずクリスとラウルが死んだ所から泣いてた私は
間違ってますか??そうですかorz
579名無しさん@ピンキー:2006/01/15(日) 15:27:09 ID:ktlj5S54
・゚・(ノД`)・゚・。
ひたひたと感動がせまってきますた。
>568さんのSS、優しくって品があって好きだー!!
580名無しさん@ピンキー:2006/01/15(日) 17:34:56 ID:LbnxoMbn
登場人物がそれぞれに切なく優しい。
ああ、本当にありがとう>568さん。
昨日から何度読み返したことか・・・
581名無しさん@ピンキー:2006/01/15(日) 19:28:28 ID:fNpGg25f
ファントム×下級街娼
前スレの(エロ)雑談の際に出てきた
エンジェル方の寝技習得設定をお借りしております。
2万フランを有効活用。
暗めなので、だめな方はスルーして下さい。
5821/7:2006/01/15(日) 19:29:07 ID:fNpGg25f
「早く脱ぎなよ」
女はそう言うと、さっさと自らの衣服を解き出した。
天井の低い狭い部屋。粗末な家具。1人横になるのがやっとのみすぼらしいベッド。
場末の娼婦らしい、その値に相応しい部屋。
ファントムにとっては夕食時に嗜むワインの
一杯にも満たないその値段で、この女は一晩男にその身を売るのだ。
小さなテーブルの上の花すら既に萎れている。

「花を」
その夜のレッスンで、クリスティーヌはそう言うと微笑んだ。
「メグが、ファンだとおっしゃる方から花を貰ったの。
カードが入っていて、お食事に誘われたんですって」
「…彼女の踊りは抜きん出ているからな」
そう答えながらも、内心では呆れている。
メグ・ジリーならクリスティーヌと同い年ではないか。
こんな子供に、気の早いことだ。壁の隙間からクリスティーヌを見つめる。
肩で渦を巻くとび色の巻毛。同じ色の瞳は無邪気に瞬きしている。
こんな子供に。ファントムが再度心の中でつぶやいたとき、
クリスティーヌはふっと目を伏せた。
「素敵だわ」
長い睫の影が、蝋燭の炎に合わせて頬で揺れる。
「何がだね?」
「メグの踊りを見て、お花を贈ったり食事に誘ったりしたくなった方がいらっしゃるなんて」
「やがてお前もそうなる」
お前の声を聞いたものは、皆お前に焦がれるようになるだろう。
それほどの声を、彼の弟子は持っている。しかしその言葉に、クリスティーヌは少し首を傾げた。
「…私もお花をいただけるかしら」

「その花は自分で買ったのか?」
女の言葉を無視して、ベッドの脇の花瓶を指差す。
名前も知らぬ女は、馬鹿にしたように眉を上げた。
「どこの誰がこんな娼婦に花なんか贈るわけ?」
下着姿で腰に手を当てると無遠慮に男の姿を眺める。
「脱がないなら…いいわ、そのまま始めるわよ」
赤く塗りたてられた唇を歪めるように笑って、女はぐいとコルセットを引き下げた。
零れる乳房を隠そうともせず男の足元に跪くと、汚れた床がぎしと軋んだ。
5832/7:2006/01/15(日) 19:29:45 ID:fNpGg25f
その気になれば最上級の娼婦を買うことも出来るし、
退屈しきった貴族の奥方を、目隠ししたまま地下で抱くことも出来た。
それが何故今夜はよりにもよって
こんなところでこんな女を選んでいる?
今日はどうかしている。あのときからずっと、どうかしているのだ。

「私もお花をいただけるかしら」
「花?」
「天使さまのおっしゃるとおりに歌えるようになったら、私も」
白い頬がふっと薔薇色に染まる。
「私も、どなたかから…」
目元に滲む恥らいに、胸の内が奇妙にざわついた。
「…お前が地上の栄達にうつつを抜かし、つまらぬ男の誘いに乗ったり
…恋するようなことがあれば、音楽の天使は永遠にお前のもとから去るだろう」
自分でも思いもよらなかったほど厳しい口調になる。
はっと見開いた大きな瞳にみるみる涙が溜まった。
「クリスティーヌは恋なんかしません、もう花も欲しがらないわ。
だから、天使さま、行かないで」
唇を震わせて、同じ言葉で懇願する。
「行かないで。ここにいらして。ずっとずっと、お導き下さい」
ほろほろと零れる透明な滴から目を逸らし、
声すら掛けずそのまま立ち去ってしまった。
舞台に立って主役を射止め、貴族の若君に見初められ…
そんな、少女の他愛のない夢だ。聞き流せるはずだったのに。

ズボンの前を外し、手探りで男のものに触れ、女が上げたのは品の無い嬌声。
「へえ…あんた、なかなかじゃない!」
手を添えると、馴れた様子で口に含んだ。
唾液を絡め、包み込んだままゆっくりと舌先で嬲る。
男の身が強張るのを感じ、咥えたまま上目で男の顔を見上げる。
仮面越しに見える瞳は何の表情も表してはいなかった。
5843/7:2006/01/15(日) 19:31:47 ID:fNpGg25f
しかし、女はにやりと瞳を笑わせた。
どんなに興味の無い目をしていても、この男はわざわざ自分を買っているのだ。
現に自分の内にあるものは、はっきりと反応を示している。
女はだらりと垂れた男の手を取ると、自分の頭に導いた。
暫く頭上で戯れていた皮手袋の手は、
やがて女の頭を掴みゆっくりと前後に動かし始める。
大きく息を吐きながらファントムは視線を下ろした。
鏝で巻いているのか、幾分緩くなった巻毛が指に絡みつき
貧弱な灯りの下、手袋の黒さと幾分変わらぬ色で揺れる。
陽の光の下ならもっと明るい色だろう…路地の暗がりの中では、とび色に見えた。

乱暴に女の頭を己から引き離す。
「きゃ…」
素早く押し倒すと、古いベッドは撓んで悲鳴をあげた。
「あぁん、もう…無理にしないで…」
甘い声で囁きながら、男の襟に手を掛けようとする。
それを押し止めて、剥き出しで揺れる乳房を口一杯に頬張った。
徐々に立ち上がる頂を舐め上げ、甘く噛み、もう一方を指で弄る。
しばらくは低い天井に男女の荒い息遣いと、ベッドが時折軋む音だけが響いた。

「んん…あ、ああ…」
手馴れた喘ぎ声。が、女優としての素質はゼロに近い。
ファントムの唇が嘲るように歪んだ。乳房を握り潰すように、根元から掴む。
突き出た先端に明確な意思を持って歯を立てた。
「いやっ!」
びくりと身体を震わせ抗おうとした身体を押さえつける。
「乱暴にしないで!…止めて…や、あ…!」
女の中に深く差し入れられた指が、ゆるい抜き差しを繰り返しながら
徐々に敏感に、潤ってゆく内壁をこすり上げる。
たまに冷たい目で反応をうかがいつつ、動き回る指で、熱く湿った舌先で
順にボタンを外すように女の身体を解いてゆく。
女が男の手管に屈するのに、時間はかからなかった。
5854/7:2006/01/15(日) 19:32:32 ID:fNpGg25f
「お…お願い…来てッ!お願い」
切羽詰った懇願にファントムは唇の端を上げた。
女が先程のように男の顔を見ていれば、その目は笑っていないことに気付いただろう。
しかし女の瞳は男の姿を映してはいても、見てはいない。
そうして、男もまた女を見てはいなかった。

あの声を欲した。ただ自分の音楽を形にするためのいわば楽器として。
しかし、いつからだろう、楽器に過ぎぬはずの娘の笑顔から目が離せなくなったのは。
恥らうようなあの笑顔を思い浮かべようとしても
今は滲んで零れ落ちる涙に掻き消されて、浮かぶのは泣き顔だけ。
震える睫、優しい色の睫。伏せた頬に揺れる巻き毛も同じ色。優しいとび色。
無意識のうちに手を伸ばしていた。触れようとしていた。
頭を撫で、頬を撫で、泣くのを止めさせたいと…触れたいと思った。

毟るようにペチコートを引き摺り下ろし、両足を大きく開かせる。
女は鼻にかかった声で、大きく身をくねらせる
その腿を押さえつけ、一気に突き入れた。
両手で腰を抱え込み、上から打ち下ろすように突く。
「ああ…っ!あぁあん、もっと…もっとォ…!」
打ち付けるたび、女はあられもない声で仰け反る。
乳房を突き出し、両足を男の腰に絡める。
滑った部分を押し付け、溢れる蜜を男の腹に、太ももに塗りたくる。
ベッドが壊れそうな悲鳴を上げる。
粗末なものでも豪華なものでも、その衣類を引き剥いてしまえば
どうせ女など中身は同じ、彼の指に、舌に、無様に腰を振るだけの…
…彼の年若き弟子とてどうせ、同じ、女。
「や…やあッ!」
動きを止めて引き抜くと、女の口から悲鳴のような声が漏れた。
「止めないで!」
身を起こし男の腰に縋ろうとした手首を捉え、白い体を裏返す。
尻を掴み腰を抱え、背後から一気に貫くと一際大きな声があがった。
5865/7:2006/01/15(日) 19:33:17 ID:fNpGg25f
ほんの戯れだったはずだ。
蹲り泣く子供に呼びかけてみたのは。
「迷える子供よ…」
「だれ?」
この子もまた他の者たちと同様、辺りを見回し、その目に怯えを閃かせ、
慌てふためいて逃げ出すだろうと皮肉に眺めていると
涙を湛えた大きな瞳が見開かれた。
「待って!行ってしまわないで!」
身体を起こし、声の主を求めて辺りを見回す。
「天使さまなのでしょう?」
安堵と喜びが滲む声で。
「天使さま、もっとお話しして…」
彼女だけなのだ。
彼に怯えなかったのは。
彼の声に応えたのは。

「………!」
その名が溢れそうになり、ファントムは唇を噛みしめた。
女の喘ぎ声はもはやすすり泣くように細く、揺れる体も力を無くしかけてはいたが
それでもそこは別の生き物のように、猛る男を包み、蠢き、絞り上げる。
「…や…も、もう…ダ…」
うつぶせのまま、背骨の浮いた背が大きく撓む。
しかし懇願に耳を貸さず、ファントムは無言でその背に手を置いた。
ぐっと押し下げると背は尚大きく反りる。
「あああ…あぁああッ!」
高く上がった腰が深々と男のものを飲み込み、貫かれた女は悲鳴を上げた。
中が細かく、何度も締め付け、合わせるように頭もがくがくと揺れる。
「ああぁあぁぁぁ…」
声が途切れて身体から力が抜ける。
腰を支えていた手を離すとゆるゆると崩れ落ちる。
女は咥えていた男をずるりと放ちながらゆっくりと寝台に沈んだ。
5876/7:2006/01/15(日) 19:34:05 ID:fNpGg25f
ぬらぬらと自らの体液が太ももを淫らに光らせている。
荒く上下する背中から零れ、乱れたシーツにうねる髪。
白い腰、小さな手…とび色の巻毛。
「…クリスティーヌ…!」
掠れた声で小さく叫び、己を扱く。
放った液体が尻を汚しても、女は身動ぎしなかった。

身じまいを済ませ、未だベッドにうつぶしたままの女を見下ろす。
完全に気を失ってしまったのだろうが、このままにしておくわけにもゆくまい。
シーツを外して身体をぬぐってやると、仰向けにし、粗末な上掛けで身体を包んだ。
横を向いた顔の、黒く彩られた目蓋を指で拭う。
現れた寝顔は思った通り、まだどこか幼さを残して
涙の跡の残る頬に、行かないでと繰り返した泣き顔が重なる。

…例えば親を亡くした子供が、世話をしてくれる知り合いの夫人も無く、
親類も無く、1人世間に放り出されていたとしたら。
天使を信じるあの純粋な娘は、どうなっていたのだろうか。
この女のように鼠の走り回る路地裏で、誰とも知らぬ男の袖を引く、
そんな運命が待っていたのかもしれない。
得体の知れぬ客と、名も無い娼婦と、そんな風にめぐり合っていたかもしれない。
ファントムは頭を振った。今日は本当にどうかしている。
マントを羽織り隠しから時計を取り出すと、思いのほか遅い時間になっていた。
もう一度女の顔に目を移す。
暫く躊躇い、女の手の中にそっと時計を滑り込ませた。
どんなに安く叩き売っても、一月は客をとらずに暮らせるはずだ。
「ん…」
冷たい感触に、紅の滲んだ唇が微かな声を漏らす。
間もなく目を覚ますであろう気配を感じ、ファントムは部屋を後にした。
5887/7:2006/01/15(日) 19:35:22 ID:fNpGg25f
粗末なアパルトマンを後にする。
扉を後ろ手に閉めた途端、暗い路地で何かに躓いた。
「あっ」
小さな人影が駆け寄って、ファントムが蹴飛ばした籠を起こす。
暗さに目が慣れると、散らばった花束が見えた。
拾い集めているのはまだ幼い少女。今から通りに出て酔客に売るのだろうか。
「…花売りか?」
上から降ってきた声に、花を集め終えた少女は頭を上げた。
「お前が売るのか?」
頷く少女の頭にファントムは手を置いた。
「それを総て貰おう」
小さな掌の中に金貨を落としこむ。そのまま顔を、今出てきた部屋の窓へ向けた。
「…全部あの部屋へ届けてくれ」
驚いた顔のまま、少女はこくこくと頷いた。
マントを翻して背を向け、すれ違いざま
色とりどりの花の中、一輪だけ紛れ込んでいた真紅の薔薇を抜き取る。

花を欲しがっていた娘。
もう欲しがらないと泣いた娘。
これを贈れば、少しは喜んでくれるだろうか。
また笑ってくれるだろうか。
そうすれば、この形容しがたい苛立ちは治まるのだろうか。
赤い花を潰しそうなほど握り締めながら、ファントムは狭い路地から
星の見えない夜空を見上げた。
589名無しさん@ピンキー:2006/01/15(日) 19:54:52 ID:0Bl3mt/Q
このスレ、すごいことになっております…
神たて続けに降臨。
GJGJ!
590名無しさん@ピンキー:2006/01/15(日) 20:06:10 ID:iJmT5Bj4
GJGJGJGJ!!!!

初めてリアルタイムで降臨に立ち会えた。
最高のお年玉です…
591名無しさん@ピンキー:2006/01/15(日) 20:18:19 ID:QSf29/IP
うーむ、素晴らしい構成…GJ!
592名無しさん@ピンキー:2006/01/15(日) 20:46:57 ID:LbnxoMbn
うわっ!
なんでしょ、この男の色香漂うファントムは。
しかしここの神々の素晴らしさといったら。
593568:2006/01/15(日) 21:00:35 ID:BPWFlp4T
始まりからの構成も素晴らしいし、雰囲気も暗いだけでなく、緊張感や
やるせなさが漂っていて、最後もイイ! 素敵です。
またの登場を楽しみにしています。

「中年ファントム」です。たくさんの感想、ありがとうございました。
全くエロ成分がないので、投下をためらっていましたが、読んでいただけて
良かったと心から思っています。
お礼が遅れてすみませんでした。
594名無しさん@ピンキー:2006/01/15(日) 21:07:24 ID:i5wrtnz6
>>581 GJだよ!
場末の娼婦の侘びしさみたいなのもありありと思い浮かべることができた。
クリスへの気持ちに戸惑うマスター、めちゃくちゃいい。
595名無しさん@ピンキー:2006/01/15(日) 22:13:25 ID:LeVtLhLf
>>581
うおおおお凄え!! 何だこの暗くやるせないくせにかすかに柔らかい読後感は!
596名無しさん@ピンキー:2006/01/16(月) 01:14:43 ID:MwrbKPpg
GJGJGJGJGJJJッ〜〜〜〜(。´Д⊂)!!
いい!!娼婦シリーズ万歳!!
597名無しさん@ピンキー:2006/01/16(月) 02:01:57 ID:dZr6DfBs
娼婦との行為と回想シーンが交互に
出てきて最後に一つにつながる構成
がとても良かったです!
そして冷たい態度を取りながらも、
やっぱり優しい怪人がエライ男前でした(*´д`)
主よ、感謝します。
598581:2006/01/16(月) 17:14:14 ID:E44N+HqK
このスレの皆様は、ほんとflattering、誉め上手。過分なお言葉を頂き、本当にありがとうございます。
599名無しさん@ピンキー:2006/01/16(月) 23:02:25 ID:b4Zl0Z3N
天使様乙でした!また心に残る名作が増えました。
600名無しさん@ピンキー:2006/01/17(火) 00:19:39 ID:YNW/gZKT
>581
GJ! GJ! GJ!
ああ、こんな素晴らしいSSが読めて幸せ過ぎる……!!
クリスティーヌを思い浮かべながら娼婦を買うファントムの苛立ちと
その娼婦にクリスを重ねて戸惑いながらも優しさを見せる辺りが
素晴らしかった。シリーズ投下して欲しい……!
601名無しさん@ピンキー:2006/01/17(火) 01:05:13 ID:DTq5Oq32
他ざんる者です。今日初めてここにふらっと立ち寄らせてもらいました。
いやーーー、堪能いたしました。
天使様達のレベルの高さ、すごいですねーー。
舞台を一度だけ見た事があるだけの私でも十分萌えました。
それから、観客の皆さんのお行儀の良さもすごいです。
自ジャンルは喧嘩ばっかなんで、このスレの雰囲気、裏山です。
また、立ち寄らせていただきます。失礼しました。

602555:2006/01/17(火) 16:00:01 ID:tTlpHZux
>>556 ありがとうごぜえました
>>568、582 GJGJGJGJGJ!!!!!!

しっかしこのスレの職人さんはすごいな…
もうすこし勉強させていただきます。
でも読んでくれた人ありがとう。
603名無しさん@ピンキー:2006/01/18(水) 02:57:44 ID:40mH2xVZ
DVD観た
このスレ読んでこの作品に興味を持ったから
てっきりファントム×クリスだと思ってたorz
604名無しさん@ピンキー:2006/01/18(水) 11:30:02 ID:ultmsTcH
いやー、映画のラストがファントム×クリスのハッピーエンドで
終わっていたら、きっとこのスレでこんなに心揺さぶられることも
なかっただろうと思います。

ところで映画・原作に全く出てこないオリキャラはまずいかなーと
思ってたのですが、オリキャラだらけの天使様も結構いらっしゃる
ようなので、そのうち投下しても良いですかー?
605名無しさん@ピンキー:2006/01/18(水) 12:48:07 ID:kkqtnyXA
いいとも〜!!
つか禿しくキボン(´Д`;)
606名無しさん@ピンキー:2006/01/18(水) 13:06:18 ID:D9MDmD9B
>604さま そのうちと言わず、今日にでも!
607名無しさん@ピンキー:2006/01/19(木) 00:12:21 ID:suiH6G8V
技量のない奴ほどオリキャラ出したがるよな。ドリ女とか。
608名無しさん@ピンキー:2006/01/19(木) 00:47:51 ID:DZmGNVJO
オリキャラがらみでも、読みごたえのあるssが多いと思うよ。
主要キャラだと、イメージが変わるのを嫌う人もいるから、少し書きにくい場合がある。
読み手の立場から言うと、いろんな種類のものがあるのは嬉しい。
ところで連載もののエンジェル方、あまり無理せず、ゆっくりで全くおkですから。
609名無しさん@ピンキー:2006/01/19(木) 02:01:44 ID:5cLCGLKY
>608さん、同感です。
いろいろなシチュエーションの、
しかもクオリティの高い作品が読めていつも幸せをもらっているので
みなさまぜひ投下お待ちしています。
610名無しさん@ピンキー:2006/01/19(木) 12:43:53 ID:VTkLHb3V
投下予告です。
と言っても導入部のみなんだけどw
続きものになっちゃうので、このスレには連載が数本あるし混乱してしまうかも。
混乱させたらごめんなさい。

・今回のところはエロ無し、ギャグ無し
・4レスくらいで済むはず
それではよろしくお願いします。
611失われた環:2006/01/19(木) 13:20:42 ID:vmNFYmYb

  1
 凍てつく二月。日曜の礼拝からの帰り道、クリスティーヌの足下に子犬がじゃれついてきた。
 「きゃっ」
 路地裏をうろつく薄汚れた野良犬ではなく、手入れが行き届き美しい茶色の子犬だ。
 「・・・まあまあ、どんないいお宅から逃げてきたの?」
 人懐っこく、しっぽを振るばかりでちっとも吼えないので、抱き上げてクリスティーヌは子犬ににこにこと話しかけた。
 すると、ぱたぱたと足音が聞こえ「バロン!」という呼び声に、子犬はするりとクリスティーヌの腕から抜け下りて、声の主に飛びついた。
 「お姉さん、バロンをつかまえてくれてありがとう!」
 それは三つくらいの少女だった。お日様色の巻き毛が寒さと駆けたせいで赤くなった頬を縁取り、大きな灰色の瞳はいきいきと輝いてひどく可愛らしい。
 体に合った清潔で美しい服を身につけ、ふっくらと健康そうな様子からするとどこかの令嬢なのだろう。
 「いいえ、どういたしまして」
 少女の明るい笑顔に誘われて、クリスティーヌもにっこりと笑顔を返す。スカートの裾を翻して再び元気に駆けていく後ろ姿を見送った。
 しかし、それで終わらなかった。少女は、今度は父親を伴ってクリスティーヌのところに戻ってきたのだ。
 「パパ、パパからもお礼を言って!」
 クリスティーヌは息が出来なかった。
 その父親は、かつて彼女を導いた天使だったからだ。
 目深に被られた帽子、その下の白い仮面。音楽の天使の懐かしい声。
612失われた環 2:2006/01/19(木) 13:23:18 ID:vmNFYmYb
 「・・・娘のオーレリーがご迷惑をかけたようで申し訳ない。子犬をつかまえてくれたとか、どうもありがとう」
 オーレリーは父親の袖をひっぱり、父親は娘の頭を愛しげになでている。
 幸せそうな親子の姿に胸がちくりと痛んだ。
 「・・・そんな、たいしたことではありませんわ」
 微笑もうとしたけれど、クリスティーヌの唇は歪んで上手くいかない。
 何か言わなくては、何か話さなくては、でも何を?心からいろいろな思いや言葉があふれるのに、どれも形にならず、口からは白い息がゆっくりと吐き出されるだけだ。
 「どれくらいぶりかな。昨夜の舞台を観た・・・素晴らしかったよ。まだ君が歌っているとは思わなかったが」
 信じられないといった面持ちで仮面の男を見上げたクリスティーヌは、光の加減なのか今はみどり色のその穏やかな瞳を見つめた。
 声を与えてくれたのはあなただというのに?私がそれを簡単に捨て去ることが出来ると思っていたのだろうか。
 いいえ、・・・この人はもう怪人ではない。私の天使でもない。ひとりの男で、・・・娘を持つ父親なのだ。彼にとって私はすでに過去なのだ。
 なのに何故私は傷つけられたように思うの?
 「・・・5年になりますわ」
 「そうか。では同じだけシャニィ子爵を待たせているのだね」
 「・・・舞台を下りる決心がつかなくて・・・」
 ああそうか。私は天使との唯一の繋がりである歌を舞台をやめたくないのだ。
 恋人の求婚に応えられないのはどうしてか、この出会いで、今はっきりとクリスティーヌに理解できたのだった。
どれだけ愛していると言われようと、幾度となく口づけを交わし体を重ねても、それらがどんなに素晴らしく心地よいものであっても、ラウルはこの人ではない。
 この人でなければ!
613失われた環 3:2006/01/19(木) 13:27:36 ID:vmNFYmYb
 クリスティーヌは、こんなにも強い自身の気持ちに驚き、戸惑った。
 と、「ママだわ。マーマ!こっちよ!」オーレリーの大きな声が、クリスティーヌの思いを遮るかのように響いた。
 そして現れたのは、美人ではないが、ふっくらとした頬にえくぼを浮かべ、娘と同じ大きな灰色の瞳が印象的なチャーミングな女性だった。
 明るい金髪は日曜日の午前に相応しくシンプルにまとめ上げられ、瞳の色によく映るペールブルーのエレガントなドレスは夫が選んだものに違いない。
 「マリー=アンヌ」
 彼は誇らしげな声でその名を呼び、それはクリスティーヌの体を冷たくこわばらせた。
 いつもそうしているのだろう、さりげなく妻のウエストに腕を回して引き寄せると言葉を続ける。
 「紹介しよう、妻のマリー=アンヌだ。マリエンヌ、昨夜観た歌劇のヒロインだよ。・・・昔の知り合いでね」
 「まあ!クリスティーヌ・ダーエ嬢ね。昨日は素敵でしたわ。私はマリー=アンヌです、どうぞよろしく」
 親しげな笑顔は娘のそれと同じで、年はクリスティーヌよりいくつか年上のようだがとても可愛らしい。そのうえ、人を和ませるようなあたたかな雰囲気の持ち主だ。
 差し出された手をクリスティーヌは握り返す。動揺は押し隠し、苦労して感情に蓋をする。
 「ありがとうございます。・・・ご主人には以前お世話になったことがありましたの。久しぶりに会えて嬉しかったですわ。
 素敵な奥様と、かわいいお子さんまでいらっしゃって驚いているところですのよ」
 クリスティーヌは一端言葉を切って、マリー=アンヌの夫を見た。
614失われた環 4:2006/01/19(木) 13:34:04 ID:vmNFYmYb
 「幸せですのね」
 彼は微笑を浮かべて頷いた。
 「ゆっくりお話したいのですけど、これから人に会う約束があって・・・残念だわ。
 パリに滞在するのも今日までなの。もう、エリック!こんな素敵な方と知り合いだって教えて下さっていたら、お夕食を一緒にいただけたのに」
 「済まないね、マリエンヌ。さあ、もう行かなければ。約束の時間に遅れてしまう。
 オーレリー、もう一度お礼を言いなさい。・・・上手に言えたね」
 笑顔で互いを見交わす夫婦、両親の愛情を一身に受ける可愛い娘。
 クリスティーヌはそんな彼らを前にして、口の端を上げて笑みをつくるだけで精一杯だった。
 「さようなら」
 「さようなら」
 幸せそうな家族が目の前から去ってゆく。
 彼は一度も振り返らず、妻と娘と共に行ってしまった。
 エリック・・・名前さえ私は知らなかった。
 そして、彼は一度も私の名前を呼ばなかった。
 いつもは清々しく感じられる冬の空気も、今はただただ冷たい。
 胸の中をぐるぐると渦巻く様々な感情に叫び出しそうな自分を、クリスティーヌは唇を噛んで押さえ、自宅へと待つ者もないのに急いだ。
615失われた環 :2006/01/19(木) 13:40:19 ID:vmNFYmYb
ごめんなさい、<続く>と入れ忘れましたorz

多分気になっている人もいると思われますが、
オーレリーとバロンは「ペリーヌ物語」から拝借しましたw
616名無しさん@ピンキー:2006/01/19(木) 13:44:25 ID:kwbmOUL3
ぅわGJ!
せつな過ぎて 立ちすくんでしまいました。
続き おりこうさんに待ってます。
617名無しさん@ピンキー:2006/01/19(木) 13:48:46 ID:1X4GR+tc
GJ!
いやー、今までなかった切り口ですっごくイイよ!
面白い!
他の連載と混乱することもないよ。
ものすごく続きが気になる!
618名無しさん@ピンキー:2006/01/19(木) 14:06:37 ID:tW4TRXeL
タイプがかなり違うから、他のと混乱することはないと思う。
困るのは、あなたが現れるたびに続きが気になって悶えまくるだろうってことだよ。

続き・・・本当に続きが気になるよ天使様!
619名無しさん@ピンキー:2006/01/19(木) 16:03:34 ID:+Jg2TWE5
うは、新パターンwwwww
クリスティーヌがラウルを選んだ後、捨て去ったモノの大きさに
気付いて後悔したりしないのかなと一度ならず思ったので
自分もすんごい続きが気になります。
早く再臨して下さいましーーーー!!
620名無しさん@ピンキー:2006/01/19(木) 16:41:38 ID:fy/blmkS
ホント 反対のシチュは想像しやすいけど
まさか クリスが一人で ファントムが幸せな家庭を持ってるとは・・・
かきむしられました。
621名無しさん@ピンキー:2006/01/19(木) 17:16:35 ID:5cLCGLKY
意表を突かれた設定にドキドキしながら読みました。
これからどうなるんだろう・・・
自分がクリスになったかのように胸が潰れそう。
続き、楽しみにしていますね。
622名無しさん@ピンキー:2006/01/19(木) 21:05:20 ID:+ynxeYg0
これはまたなんて斬新な作品なんだ
一回目読んだ後は正直ショックで呆然だったが、さっきから何度も読み返してる。
めちゃくちゃ続きが気になる…待ってるよ、乙!
623名無しさん@ピンキー:2006/01/19(木) 22:13:04 ID:DZmGNVJO
すごい、GJ!!
自分も怪人(映画の)は、あの後独りで暮らす事は無かろうと思っていたけど
もう、すんばらしく文章化されていて堪らないよぉ
もしや・・・「ポワント」他の作者さんですか?
違っていたら、禿げしくごめんなさいです orz
624名無しさん@ピンキー:2006/01/19(木) 22:23:26 ID:DZmGNVJO
>615
連投すいません 特にお返事、強制なぞしませんから!
続きが楽しみだなぁ〜 ほんと贅沢なスレですね ここって
625名無しさん@ピンキー:2006/01/19(木) 22:43:35 ID:1X4GR+tc
これで、エロがあるとしたらどの組み合わせの絡みなんだろう…
また激しく気になる…
626名無しさん@ピンキー:2006/01/19(木) 23:47:50 ID:CIxhfRCj
>615
GJ! GJ!
ああ、こんなファントムを見たかったんだよ!
クリスは失ったものの大きさに愕然とするがいいさ!
627名無しさん@ピンキー:2006/01/20(金) 00:33:31 ID:VJedeca0
うーむ。今までに見た映画やファンフィクの中でも、最も現実的な後日談だ。
こうなるとマリエンヌとエリックの馴れそめが激しく気になる。
628名無しさん@ピンキー:2006/01/20(金) 08:46:33 ID:SlQj5EvR
615です。
たくさんレスがついてて驚きました。読んで下さった方々ありがとうございます。
>623
「ポワント」は自分ではありません。
あんな簡潔で色気のある文章はおいらには無理orz
前回の作品も<おしまい>と入れ忘れたくらいのあわて者ですからw

続きは今月中に投下できると思います。
外国の習慣や風俗がかなり曖昧にしか解らないので、おかしな部分があると思いますが
笑って読み流してやってください。
629名無しさん@ピンキー:2006/01/20(金) 10:20:41 ID:6xvy6ajk
違うのか…
このスレには一体何人神がいるのか
なんか怖くなってきたな
630名無しさん@ピンキー:2006/01/20(金) 12:24:40 ID:Pd3VsDCG
>628
GJ!続きが気になってしかたない…が、このマスター
はそっとしておいてあげたい…昼ドラみたいになったら嫌だ。
マスターには幸せになってもらいたいお。('A`)喪男の願い
631名無しさん@ピンキー:2006/01/20(金) 13:51:31 ID:+N1FfUkH
また前みたいに点呼してみたいな

読み専門と職人の人数を知りたい。
『ほぼ読み手』とか無しで一度でも投下したことのある人を知りたいな。
632名無しさん@ピンキー:2006/01/20(金) 14:38:07 ID:C9Tfo8Nl
各職人様の代表作もわかればいいな…
天使様のうち数人はわかるよな気がするんだけどな。
633名無しさん@ピンキー:2006/01/20(金) 17:28:11 ID:Yjyky7wb
623より
>615
返事強いてしまったようでゴメンなさい
615の文章も、風景やキャラの表情まで思い浮かんでカコイイです
634名無しさん@ピンキー:2006/01/20(金) 22:33:13 ID:DeMogNQJ
>>628タンの前回作は>>357-376のクリスマス長編ですねw
貴殿の発想の豊かさに祝福を!
このスレに栄光あれ!!
635名無しさん@ピンキー:2006/01/21(土) 03:40:44 ID:9N0bzQN1
この時代のこの国に生まれ、
このスレに出会えて本当に嬉しい。
日本語が読める人間で良かった。
天使様ありがとう。

636名無しさん@ピンキー:2006/01/21(土) 07:20:35 ID:rnj9WECN
>634さんビンゴ〜。
計画性のない628ですw
637名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 01:47:46 ID:2yIwiCMT
今夜は誰もいないのか…(´・ω・`)
638名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 09:11:29 ID:p7bK1chL
>630
ごめん、このスレに男はいないと思い込んでたw
639名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 10:53:06 ID:1Ph5oJBk
630じゃないがここにも男いる 
そして喪男スレ住人だった
640名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 16:32:45 ID:RbjTdUzL
え?女のほうが少ないと思ってたw
641名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 17:49:31 ID:11YPxpqN
エロ無し、小ネタ
431の続き…というわけではないけれど
某スレで三角木馬の話が出ていたので、つい。
Sのように見えてMマスター

なお小ネタに付き今夜予定のエンジェルは
気にせず投下お願いします。


「さて、あの不穏な木製の何かについてだが」
「お邪魔になるかしら」
「邪魔にはならない…が、そういう問題ではない」
「良かったわ。思ったより大きかったから」
「だから、何故ソレをシャニュイがお前に贈って…
ま、まさかクリスティーヌ、既に…」
「…お父様にもぶたれたことが無いからすごく新鮮だって、
とても喜んでいたわ」
「あの若造…生きやすい性格をしている…!」
「でも私はマスターのように力いっぱいイヤがって下さるほうが
愉し…もとい、遣り甲斐がありますの。ですから、ね?」
「もといの用法が違っているぞクリスティーヌ」
「木材は全て最高級のノルウェー材なんですって。身体に優しいの」
「私の身体には優しくない気がする」
「上の部分は使わないときには外して収納できるの」
「常に”使わないとき”であるほうが望ましいが」
「練習は済ませたから、安心して任せていらしてね」
「安心も出来ないし、任せも出来な…何をする、離しなさい」
「だって、いつもすんなり脱いで下さらないんですもの」
「何故脱ぐ必要がある!」
「うふふ」
「いや、だから、ああ!」
「…素敵、そんなに嫌がって下さるなんて。天使さま、大好きよ」

というわけで、今でもあります黒鳥のベッドの脇に。
上部を外して。
642名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 18:19:01 ID:uobgrEkq
>641
ちょwwwwwwww
ファントムの口調が素晴らしくGJ!
で、生きやすい性格のラウルも可愛いw
643名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 18:39:57 ID:XjX6koG+
食事しようと入った店で投下発見。

笑いたいのに笑えない…。腹筋死にそう。
644名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 19:25:43 ID:1Ph5oJBk
某スレでこのアイテム名が出た時はどうなるのかと思ったがGJ!
ファントム先生の生真面目な台詞が最高っす
もしかして>431の天使様?別人さんだったらゴメン
645名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 19:46:48 ID:UE8OYsKP
>641
腹痛てーw
オプションで鞭とか付いてたのだろうか。
646641:2006/01/22(日) 21:30:54 ID:MYtXZ5Ip
オプション鞭の他にも拘束用鎖、重り、使用者によって高さを変えられる親切設計。 >644 oui 641=431ついでに=124=219。Mマスタ頑張れ
647名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 09:10:56 ID:kXCGAHVI
>646
「持ち運びもらっくらく☆」なんでしょうねw
私も641氏に触発されて小ネタを書いてみました。

ある時、マスターは枕の下で変わったものを見つけた。

「クリスティーヌ、何かねこれは」
「何って、オルガスターよ」
「それは解っている。何故ここにあるのかと聞いている」
「『マスター』と『オルガスター』響きがよく似てるでしょ」
「だから、どうしてこんなものがここにあるのかね?」
「買ったからよ」
「・・・私ではイケナイのかね?」
「・・・」
「・・・今までのは演技だったのかね?」
「マスター、そんなことはどうでもいいから、それ、返して頂けるかしら」

夫婦の最初の危機であった。
  <完>

オルガスターってこんなの↓
 ttp://daimaoh.kir.jp/ro/orga.htm
業者ではありません。商品に興味があったもんだからネタに使ってみましたw
648名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 11:50:35 ID:sNIoEiT+
200様の続きがヨミタイぞ〜
649名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 14:13:40 ID:4fOAwrn8
ほんと何度読んでも泣けますな〜
650名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 18:22:46 ID:SY3YBKv0
>647 >「それは解っている。…ってマスター知ってるのか、さすが。
「ドンファン」てバイブもあるんだなこれが
ttp://www.aqua-port.net/itemview/itid-10713.htm
自分も業者ではございません、念のため

天使様御降臨キボン
651名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 20:27:27 ID:BV93TUst
ファントムがあってもよさそうだねw
652名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 21:43:28 ID:MKs7vr8e
「ドンファン」まじ吹いたwwwww
653名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 22:48:01 ID:Phir2SOR
>651
黒光りしてそうだw
654名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 23:46:25 ID:DhwFsBrv
568様の設定をお借りしたSSを投下させていただきます。
中年ファントム「フランソワーズ」の感動覚めやらず、別職人が続きを書きました。
イメージが違いましたらご容赦ください。
568様、投下許可をありがとうございました。

*エロなし、ギャグなし、寸止めなし

宜しかったら読んでください。
655薔薇園:2006/01/23(月) 23:48:06 ID:DhwFsBrv
彼女とその夫の墓は、咲き乱れる薔薇園の奥にあった。
墓標に刻まれた、その愛しい名前。
クリスティーヌ。
何度その名を口にしたことだろう。
私が愛した天使は、もうこの世にいない。

地下の暗闇から、明るい陽の光の下へと解き放った、私の天使。
遠くから、彼女が幸せに暮らしている様子を耳にすることで満足しなければと、彼女が幸せ
であることこそが私の幸せなのだと、長いこと自分に言い聞かせて過ごしてきたが、もはや
彼女の様子を耳にすることはないのだ。
あの男は彼女を永遠に連れ去ってしまった。
私の元から……この世からさえも。

少女は母親の歌を聴いた事がないと言っていた。
クリスティーヌはオペラ座を去り、私の元を去り、歌声を封印したのだ。
私の作ったオペラが彼女の最後の舞台――。
あの橋の上で、私の腕の中で共に歌った激しい愛の歌が最後の歌――。
彼女はあの男の元で愛され、家族を持ち、幸せに生きた違いない。
歌を封印し、紅い薔薇を封印し、オペラ座を忘れ、私を忘れ――。

むせ返るような薔薇の香りに包まれて、私はクリスティーヌの小さな娘に手を引かれていた。
クリスティーヌのものだった薔薇の咲く庭には、色とりどりの薔薇が咲き乱れている。
――紅い薔薇が一輪も無い薔薇園。
彼女はここで薔薇に囲まれ、どれだけの時を過ごしたのだろう。
何を思って薔薇を育てたのだろう。
数え切れない薔薇の中に、今も可憐な彼女の姿が、その幻が見えるような気がした。
656薔薇園:2006/01/23(月) 23:50:01 ID:DhwFsBrv
クリスティーヌの小さな娘からは、近況を伝え、訪問を催促する手紙が海を越えて
たびたび送られてきたが、実際に会ったのは四年後だった。

薔薇園で分かれてから初めて会うというその日、彼女は深紅の薔薇を腕一杯に抱えて訪ねてきた。
忘れ形見の少女は、成長と共に母親に似て行き、私に錯覚を起こさせるほどであった。
もし髪の色が同じだったら、クリスティーヌと見紛いかねない。
髪の色は父親譲り、いや、聡明で活発で、物怖じしない所も父親似なのだろう。

「小父さま! お久しぶりにお目にかかります。お約束の深紅の薔薇よ……」
彼女が一輪の深紅の薔薇を取り出し、私に差し出す。
「毎年、私が庭一杯に咲かせているの。ずっと小父さまに差し上げたかったのよ」
愛らしい手に差し出された深紅の薔薇を無言のまま、見つめる。
そして、私の手がその薔薇を受け取る。

「……ありがとう、フランソワーズ」
この同じ手で、幾度クリスティーヌに深紅の薔薇を贈ったことだろう。
……その薔薇をこの手で握りつぶした夜さえあった。
今、クリスティーヌの娘から、同じ深紅の薔薇を贈られるとは、なんという巡り合わせか。
私を見つめ、母親そっくりの瞳で、輝くように微笑む娘。
フランソワーズは両親を亡くすという境遇にありながら、私の前で眩しいばかりの笑顔を見せる。
クリスティーヌはかつて私の前で、恥じらうような笑顔をよく見せていた。

クリスティーヌ。
おまえも陽の光の下に出てからは、こんな笑顔を見せたのだろうか。
ついに私は見ることの叶わなかった晴れやかな笑顔を。

……どんなに似ていようとも、これはクリスティーヌの娘。
クリスティーヌではない……。
クリスティーヌとは違う……。
657薔薇園:2006/01/23(月) 23:53:39 ID:DhwFsBrv
私が小父さまに初めてお会いしたのは10歳の時のこと。
私の両親が亡くなり、小父さまは私と弟の後見人になって下さった。
小父さまは、私の両親の古い知り合いで……そしておそらく、私の母を愛していたのだと思う。
小父さまは大きな方で、とても美しい瞳をしていらっしゃる。
顔半面につけた仮面にはちょっと驚いたけれど、私はすぐに小父さまのことが大好きになった。
私は小父さまといつでもお会いしたかったけれども、小父さまはアメリカにお住まいで、
非常にお忙しい方なので、長いことお会いできなかった。
私はなかなか訪れないその日を、いつも心待ちにしていた。

だから小父さまにお会い出来た時には、私は嬉しくて嬉しくていつもの倍も余分なお喋りをしてしまった。
私はいつまでも小父さまのそばに居たかったし、小父さまのお声を聞いていたかった。
小父さまは私に決して親しい態度をおとりにならないので、私はそれが残念でならなかった。
初めて出会ったとき、屋敷の薔薇園で手をつないで以来、小父さまはわたしに触れもしない。
久しぶりにお会いしても、挨拶の抱擁もキスも、お別れの握手すらないのだ。

……でも小父さまは時に私のことを、なんとも言えない眼差しでご覧になる。
小父さまはきっと、私の中にお母様の面影を見ていらっしゃるのだ。
髪の色さえ同じなら生き写し、と言われるお母様の姿を。
お母様はこの眼差しで見つめられていたのかしら。
この低くて甘い声で名前を呼ばれ、小父さまの腕に抱きしめられたことがあるのかしら。
……お母様も、小父さまに何らかの想いがあったに違いないのだから。

かつてはお母様のものだった庭で咲かせた紅い薔薇をお持ちした時、小父さまは痛々しいものを見る
ような目で薔薇をご覧になった。
私が差し出した一輪の薔薇を、長いこと見つめてから受け取ってくださった。
小父さまはあの時、何を想っていらしたのかしら。
……やはり、お母様のことを想い出していらしたのかしら。

きっと小父さまは、お母様のことを想って、独り身でいらしたんじゃないかと思う。
お母様はお父様と間違いなく愛し合っていて、そして、小父さまからもこれほどに愛されていたのだ。
私は小父さまのことが大好きだけど、小父さまが私を気にかけてくださるのは、お母様の娘だから――。
昔、お母様との間に何があったのか私は何も知らないし、詮索しないと決めてはいたけれど、
私は大好きなお母様のことを羨ましく思っていた。
658薔薇園:2006/01/23(月) 23:56:24 ID:DhwFsBrv
二度目にお会いしてからさらに三年後、代理人の方から、小父さまが病気になられたと聞かされた。
病状があまりよくないので、アメリカを引き上げて、こちらで治療をなさると言う。
次にいつ会えるかわからないので、特別にお会いできるということだったが、
私は小父さまが心配でたまらず、決められた時間より随分前から迎えの馬車を待っていた。

お屋敷に着き、通されたのは寝室で、私と入れ違いにお医者様が暗い表情で帰っていかれるのを見た。
小父さまの病気は、思ったより悪いのかもしれない。
自分でも戸惑うくらいに衝撃を受け、唇がふるえる。
そして私は、小父さまが寝台に横になっているのを初めて目にした。
背が高くて、いつも見上げるようにしていたあの小父さまが、寝台にいるなんて……。
寝台に近付き、仮面をつけたまま目を閉じた小父さまを見ると涙がこぼれた。
「小父さま……小父さま!」

私はあの薔薇園以来、初めてその手を握った。
私の声に小父さまは、あの蒼とも碧ともいえない瞳をゆっくりと開いた。
「……クリスティーヌ…?」

聞こえるか、聞こえないかという小さな声で小父さまが呼んだのは、お母様の名だった。
そして私をご覧になり、また瞳を閉じてしまわれた。
……小父さまはお母様に会いたいのだろうか。
命が尽きるかもしれないという時に、ひと目会いたい大切な人は、
とうに亡くなられた私のお母様しかいないのだろうか…?

もう意識のない大好きな小父さまを見つめ、私はある事を決心した。
私を屋敷に連れてきてくれた代理人に、病気を理由に、今後この屋敷を訪れることを
強引に承諾してもらい、私は馬車を飛ばして自分の屋敷へと戻った。
小父さまが会いたい人に、私なら会わせて差し上げられるかもしれない。
きっと、私しか会わせて上げられない――。
659薔薇園:2006/01/24(火) 00:01:35 ID:DhwFsBrv
以前、メグおば様の屋敷を訪ねたときに、沢山のデッサン画を見せてもらったことがある。
ほとんどは華やかな舞台の絵だったけれども、そのなかに一枚だけ、おば様とお母様が書かれた、
普段着姿の絵があった。
にこやかに笑うおば様とは対照的に、お母様は静かに微笑んで木綿のドレスを着てたたずんでいた。

「クリスティーヌはよくそのドレスを着てたわね。オペラ座の練習生は贅沢ができなかったけど、
 彼女にはその白いドレスがよく似合っていたわ」
私がお母様を思い出してつい涙ぐんでしまったら、おば様はそのデッサン画を私に下さった。
そして沢山お母様の思い出を話してくださり――、たとえばお母様は私のようには笑わず、
恥ずかしがるように微笑んだことや――他にも大切なことを聞く事ができたのだった。

お母様が、その当時歌の先生をなんと呼んでいたかということ。
「彼女はマスター、とか音楽の天使、と呼んでいたわ。歌うような呼び方で…」
ところが、そこまで言ってからおば様は口をつぐんでしまい、おそらく私に言うべきではないことを
言ってしまったことを後悔しているようだった。
私は今聞いたことを絶対に忘れまいと心に誓ったけれども、表面上は何もなかったかのように、
何も聞かなかったかのようにおば様にご挨拶し、暇を告げたのだった。


私は母と同じ色に髪を染め、先日出来上がってきたばかりの服を身に纏った。
私の寸法に合わせて作っておいた、あのデッサン画の白い木綿のドレスを。
注文する時に、貴族の娘が着るには相応しくないからと随分反対をされたけれど、
せめて生地を上等なものに、とも強く勧められたけれど、そのまま作っておいて本当に良かった。
最初は同じものを着ることでお母様を少しでも身近に感じたくて、でも、本当は、
いつか小父さまにそのドレスを着た私を見てもらいたかったのかも知れなかった。

そうすれば小父さまはもっと私に関心を持ってくださるのではないかしら。
お母様に向けたような瞳で私を見つめ、お母様に話すように話しかけてくれるのではないかしら、と。
こんな形で小父さまに見ていただくことになるとは思っていなかったけれど、
それが少しでも小父さまの慰めになるならば、それで良かった。
お母様を愛しながら、長い時を独りで過ごして来られたに違いない小父さま。
小父さまが、病床で最後に会いたいと願う人は、もうこの世にいないのだから。

鏡の前に立つと、栗色の髪をした、ちょっと古風で質素なドレスを着た私が居た。
少しはにかんで微笑む練習をしてみる。
あの絵のお母様にとても良く似ている。
何度か小父さまの呼び名を呼んでみた。
人を騙すのは良くない事だけど、神様もこればかりはきっと許してくださる。
ああ、お母様、私に力を貸してください――。


馬車に飛び乗って、小父さまの屋敷へと戻る。
その枕元に寄り添い、意を決して、小さな声で小父さまを呼ぶ。
「マスター、…マスター……」
660薔薇園:2006/01/24(火) 00:03:07 ID:q09tay7g
「マスター、…マスター……」
……懐かしい呼び声に目を開けると、クリスティーヌがいた。
白い木綿のドレスを着て、美しい眉を寄せ、私を心配そうに見つめていた。
……そうだ。
これは夢の続きだ。
数え切れないほど見た夢のひとつ。
夢の中で、彼女は夏の木漏れ日の下で晴れやかに笑っていた。
白い木綿のドレスを着て、白い小さな日傘をくるくると回して。
もっとも実際にそんな笑顔でいるクリスティーヌを見たことは、一度もなかったが。

夢の中の彼女は、いつも私の腕の中をすり抜けていき、一度として抱きしめることが出来なかった。
あるときは薔薇の香る庭で、吹き抜ける風に心地良さそうに瞳を閉じるクリスティーヌ。
伸ばした白い喉元、翻る裾、風に揺れる巻き毛。
またあるときは暖かな暖炉の前で、刺繍針を動かすクリスティーヌ。
暖炉の明かりが映える横顔。瞳を上げて私に微笑みかけるその仕草。

彼女はいつもすぐ手の届くところにいるように見えながら、永遠に手の届かない存在だった。
夢の中でさえも。
重い腕を上げて、クリスティーヌに手を伸ばす。
ああ。
初めて彼女に触れることが出来た。
夢の中で、私はその身体を抱きしめた。
柔らかな巻き毛、その白い肌、あの日のままの天使。
「クリスティーヌ……。おまえをまたこの腕に抱ける日が来るとは……」


小父さまは、瞳を開けられて若い頃のお母様そっくりの私をご覧になると、
私の手を引き、病人とは思えない力で私を抱きしめたのだった。
その腕に息が出来なくなるほど強く抱かれ……、今まで何一つ話すことのなかった小父さまの、
お母様への想いを痛いほどに感じた。
……小父さまはこんなにもお母様を求めてらしたのだ。
私の頬を涙がとめどなく伝う。

小父さま、小父さまはどうして、それほど愛したお母様と離れ離れになってしまったの?
お母様は、どうして小父さまと離れて、お父様をお選びになったの?
私は小さな声で小父さまを呼ぶことしか出来なかった。
「……マスター……私の音楽の天使……」
661薔薇園:2006/01/24(火) 00:08:10 ID:q09tay7g
クリスティーヌが涙を流している。
病が重くなると、夢の中の彼女まで優しくなるのだろうか。
彼女が私を呼ぶ小さな声が聞こえた。
「……マスター……私の音楽の天使……」

ああ。クリスティーヌ。
今も私を、そう呼んでくれるのか。
夢の中でも、愛しいおまえの声を聞くことが出来るとは。
死出の旅も、おまえに一時でも会えるのであれば、何もためらうことはない。
私は私の犯した罪と共に地獄へ落ちる身、おまえの声を聞けるのも、これが最後……。
「クリスティーヌ……おまえに出会えたことを、感謝している……。
 ……おまえが幸せであることが、…私の幸せだった……」

クリスティーヌが泣いている。
その泣き顔もあの頃のまま…………。
……朦朧とした意識の奥底で、何かが違うと言っていた。
クリスティーヌ……クリスティーヌ……?
……いや、あれは…………フランソワーズ?

その髪……その白いドレス……。
ああ。
……ここに、私を大切に思い、心配してくれる人物が、ただ一人だけいた。
フランソワーズ。
クリスティーヌの忘れ形見。
残りわずかとなった私の人生に咲いた、もう一つの小さな薔薇。

おまえだけは、私の死を、悼んでくれるか――。
腕の中で泣きじゃくるフランソワーズの涙を、そっと指でぬぐう。
そして私は、この世に別れを告げる前に、彼女に心からの礼を言った。
かつて、咲き乱れる薔薇に囲まれて、小さなフランソワーズに言った時のように。
「ありがとう、フランソワーズ……」


……結局、私の企みは半ば成功し、半ば失敗に終わった。
私をお母様だと思えばこそ、小父さまの本当の声を聴くことが出来たのだろうし、
私は、小父さまの願いを叶えて差し上げることが出来たのだろうと思う。
けれど、小父さまを最後まで騙し通すことは出来なかった……。
小父さまはフランソワーズと私の名を呼び、私に礼をおっしゃったのだ。
小父さまは、その少し後に亡くなられた。

小父さまは今、シャニュイ家の薔薇園を見下ろす高台の教会に眠っておられる。
小父さまは、亡くなられてからもお母様のことを見守っていたいのかもしれない。
私はかつてお母様のものだった薔薇園から、紅い薔薇を持って小父さまに会いに行っている。
662薔薇園:2006/01/24(火) 00:16:01 ID:q09tay7g
それからいくつもの季節が過ぎて、私は屋敷を出ることになった。
私の結婚が決まり、私はアメリカに行くことになったのだ。
爵位は弟が継ぐ事が決まっており、屋敷と領地は弟のものになる。
私には小父さまがまとまった財産を残してくれて、他に両親からの年金や信託財産と、
宝石類を含む母の持ち物を相続していた。

母を偲ぶ品をいくつか持って行きたいと思った私は、母の部屋に入り、
クロゼットの中に小さな古びたトランクを見つけた。
貴族の夫人の持ち物とはとても思えない、粗末なトランク……。
そっと開けてみると、中には数枚の古びたドレスが畳まれて入っていた。
そのうちの一枚を見て、私は息が止まるかと思った。

かつては白かったに違いない、木綿のドレス――。
長い時を経て、生成り色に変色した、粗末なドレス。
母がオペラ座にいた頃、着ていたドレス。
年若い母はこれを身に纏い、小父さまと出会い、歌を教わり、
小父さまにあれほど一途に愛されながら、私の父と結ばれたのだ――。

母は、高価なドレスをいくらでも作れる身分になってからも、この粗末な服を処分しなかった。
母はどんな思いでこれを取って置いたのだろう……。
私の頬を涙が伝っていく。

その古いドレスを手に取る。
鏡の前に持って行き、拡げて胸に当ててみた。
ふと、鏡の中で、そのドレスから何かが落ちるのが見えた。
―――?

床に落ちたそれを、そっと指先で拾い上げてみる。

畳まれていたドレスの間に、長い年月、隠されていたもの――。
それは――。

黒いリボンだった。


小父さまとお母様の間に、昔何があったのか、今でも私にはわからない。
わかるのは小父さまが生涯をかけてお母様を愛していらしたこと。
そして、母もまた小父さまを愛していたということ、それだけだ。

(終)
663薔薇園:2006/01/24(火) 00:17:59 ID:q09tay7g
読んでくださった方、568様、ありがとうございました。
664名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 00:22:53 ID:sziHFML8
>>663
途中、涙で画面が見えなくなりました。
ああ、なんか余韻が残る。寝ようと思っていたけど、眠れなくなっちゃた。
素敵なSSをありがとう。
665名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 00:25:31 ID:zC1I0zLj
小父様のいまわのきわに涙滲んじゃった…
泣けたり、エロい良いもの教えてもらったりと本当このスレ最高

さりげなく猿ゴール落札
666名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 00:42:09 ID:iQxIA2BR
自分も涙で画面が霞んだよ…。
このスレにめぐり合えたことに、心より感謝します。
職人さんたち、本当に皆さん最高だー!
667名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 00:43:00 ID:mGYwbrm3
あ〜泣いた〜久しぶりに泣いたよ
ありがとう。

668名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 01:00:03 ID:/ZPBYf0g
>663
GJ! GJ! GJ!
「……クリスティーヌ…?」って名前だけ呼ぶところ、グッと来た。

ずうっと、死ぬまでクリスティーヌを愛し続けていたファントムの
心情も、そのファントムを想うフランソワーズの心情もまさに心に
迫ってくる。まぢ泣きしました。ありがとう。
669名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 01:56:09 ID:EMtcT+VL
GJGJ!!! よかったです…泣

>665 あなたのそのレスがなんだかツボだよw
670名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 03:02:19 ID:HLeuWfhJ
SS読んで泣いたの初めてだよ…
怪人の大往生は原作のが一番。あれを越えるラストは無いとずっと思っていたけど、原作以上に泣いてしまった。
天使様、感動を有難うございました。
671名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 13:55:41 ID:PeDmJTYt
読書好きな私ですが もう何の本を読んでも感動できません。
GJ!!
672名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 21:07:55 ID:N35Flu4g
すごいGJ、GJだけど、なんだか切なすぎて胸が痛い〜。
どなたかアフォらしくて読んでられなくなるような甘々もプリーズ 。・゚・(ノД`)・゚・。
673名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 21:34:10 ID:/ZPBYf0g
>200の続きを投下します。
長い割にエロ成分が少なくてごめん。

なお、ここでの離婚についての設定は
1884年以降の離婚法を適用しています。
674ファントム×クリスティーヌ(二年半後):1:2006/01/24(火) 21:35:15 ID:/ZPBYf0g
北駅でクリスティーヌを見送ってから二年半が過ぎた。
私は長年ひとりで住み、そして最後のふた月ほどを妻と暮らした地下の住処を出て、
ひとりで住むのには広すぎるアパルトマンで暮らしている。
私の仕事はオペラ座付きの作曲家……ジリー夫人の口添えにより、
クリスティーヌとの結婚に破れた後だったにもかかわらず、
オペラ座と正式に契約を交わしてからもう二年あまりになる。

私の住む部屋は二階にあるので、それほど眺望がよいわけではないが、
向かいにあるふたつの建物の隙間からサン・ピエール教会の尖塔を見ることができ、
作曲の合間にその尖塔を眺めるのが私の唯一の気晴らしであり、慰めである。
今もその尖塔を眺めながらお茶を飲んでいるところだ。

そこへ呼び鈴が鳴る音がする。
せっかくのお茶を邪魔されたくないので無視しようかとも思ったが、
今日の午後は水売りに水を運ぶよう頼んでおいたので、
おそらくいつもの男が来たのだろう。

扉を開けてみると、果たしてそこには水売りが立っていた。
「こんちは、旦那、……運ばせてもらいますよ」と言って、
水売りがずかずかと上がりこんでくる。
私はできる限り他人との接触は避けたくて、この一年半ばかり同じ水売りに
頼んでいるものだから、最初のうちは怖々といった風だったこの小男も
今ではすっかり慣れたものだ。
何往復かして水瓶をいっぱいにした水売りに代金とかなり多めの心づけを支払う。
私のところに来るのに今ではすっかり慣れたようだが、そうはいってもこの男にとって、
私は積極的に商売したい相手ではないのは確かなはずで、
それでもここに来てもらうためには普通の人よりも多くのものを与える必要があった。

「いつもすいませんね、」と言いながら代金と心づけを受け取った男が、
「そういやね、旦那、ここに来る途中、旦那のことを聞いているご婦人がいましたよ、
……あれは多分、旦那のことだろうと……、この界隈に旦那みたいなお人って
そうはいねぇからね」と言って、帽子をちょっと取るような仕草をして出て行った。
私のことを聞いている女……、そう聞いて真っ先にクリスティーヌのことを
思い浮かべる自分をまずは嗤う。
おおかたジリー夫人に頼まれごとでもしたオペラ座の誰かであろう。
675ファントム×クリスティーヌ(二年半後):2:2006/01/24(火) 21:36:11 ID:/ZPBYf0g
ふたたび呼び鈴が鳴る。
二度もお茶を邪魔され、今度こそ無視したいが、さっきの水売りがなにか
忘れものでもしたか、彼の言っていたご婦人とやらだろうと思い、席を立った。

扉を開ける。
…………そこには、クリスティーヌが立っていた。

ああ…………、クリスティーヌ…………。
時間と鼓動が止まる。

幾度夢見たか知れないあの美しいはしばみ色の眸がゆっくりと上がり、
あの愛らしい薔薇色の唇がゆっくりと動く。
「マスター……」
北駅で別れて以来、頭のなかで何度も何度も反芻した愛しい懐かしい声を、
私は二年半ぶりにこの耳で聞いた。

「マスター?」
クリスティーヌが怪訝そうな声音で私を呼ぶ。
「クリスティーヌ……、」
クリスティーヌの名を呟くように呼んだきり、私は夢にまで見た愛しい女を
眼前にして、その場で立ち尽くしていた。
何か言わなければと思っているのに、言葉が出て来ない。
「…………」
「マスター……、あの、お忙しいようなら出直しますわ……」
「あ、いや、これは……、失礼した……、」
時間が流れを取り戻し、心臓がふたたび動き出す。
クリスティーヌの白い小さな日傘を受け取り、彼女を部屋に招じ入れた。

客間というほど客などありはしないが、居間ではなく、普段使っていない客間に通す。
お茶を用意して戻ると、クリスティーヌが窓辺に立って外を眺めていた。
あいかわらず後ろ姿も美しい……、髪を上げているせいで
白く透き通るようなうなじがさらに際立って、なだらかな肩のラインもたおやかだ。
彼女もあの尖塔を見ていたのだろうか……。
「まぁ、マスター……、ありがとうございます、どうぞお気遣いなく……」
振りかえったクリスティーヌに椅子をすすめる。
脇の小卓に帽子を置いて椅子に掛けたクリスティーヌをつくづくと打ち眺めた。
676ファントム×クリスティーヌ(二年半後):3:2006/01/24(火) 21:37:29 ID:/ZPBYf0g
二年半という月日は彼女をすっかりおとなにしていた……、どこへ出しても
恥ずかしくない、貴婦人のような佇まいにこちらがどきまぎしてしまう。
カップを持つ手つきも、口元にカップを持っていく仕草も、以前のクリスティーヌとは
違って、愛らしいというよりは優雅とさえ言ってよいような雰囲気がある。

しばらく黙ってお茶を啜っていたが、音もさせずにカップを置いたクリスティーヌが
意を決したように口を開いた。
「あの、今日はご挨拶に参りましたの……、わたし、今度イタリア座で
歌うことになりましたので……」
どこか探るような目つきで言うクリスティーヌを見て、
まさか、私の送った教師のことでなにか言いに来たのだろうかと思う。

クリスティーヌがウプサラからラニョンに着く頃を見計らって離婚証明書と扶養給付を
届けさせたが、そのとき使いにやった者から彼女があまりに悄然とした様子でいると聞き、
せめてなにかしらの気晴らしになればと思って、すぐに声楽の教師を手配したのだ。
……心のどこかに、私とクリスティーヌとの唯一の繋がりであった歌を
忘れて欲しくないという気持ちがあったことも確かではあるが……。

もちろん、私の名前は出していない。
パリで彼女の声に惚れこんでいた貴族がその才能を惜しがって教師を手配した、
ということにしてある。
教師といっても、かつて私がクリスティーヌに施していたような本格的なものではなく、
定期的に歌を歌うためだけのレッスンでよいということにしておいた。
実際の手配をしてくれた人間が、ごくたまに彼女の様子を報せてくれることもあったが、
基本的に私は彼女について知る権利などないと考えていたので、極力そういったことは
聞かずにいた。毎月の扶養給付も彼女の口座への振込みにしているくらいだ。
そうはいっても、余程のことがあれば報せてくるだろうから、
報せがないということは毎日をつつがなく過ごしているのだろうと思っていた……、
だから、まさか彼女がこのパリの劇場に戻ってくるなど思いも寄らなかったのだ。

「そうか……、それは良かった……。おめでとう。オペラ座ではなく、イタリア座なんだね……?」
「ええ、オペラ座には長期契約のカルロッタがいますし……、それに紹介してくれた人もあって」
クリスティーヌが私の目をじっと見つめるようにして言う。
「そうかね、おまえの歌は素晴らしかったからね、その才能を惜しんでいるファンも多かったんだろう」
「ええ……、」
そう言ったきり、口を噤んで俯いてしまったクリスティーヌが黙ってお茶をすする。
北駅で別れたときよりもずっとよそよそしい感じのするクリスティーヌを
どこか寂しい気持ちで眺めた。

「マスターは……、あれから、どうなさっておいででしたの……? 
わたし、まさかマスターがこちらにお住まいだとは思いませんでしたわ……」
注ぎ足してやったお茶を半分ほど飲んだところでクリスティーヌがふたたび口を開いた。
「いや……、もう、あの地下には住めないし、といって、私はそういくつも色んな部屋を
見て廻って契約するということはできないからね……、だからこちらに住むことにしたのだ……」
そう答えたが、半分は真実であり、半分は嘘だと言えた。
677名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 21:38:05 ID:hKWFLlRp
ベタ甘のイチャラブですか
いいですなー …どの組み合わせで行ってみましょうかねぇ
書くのも疲れるくらい ァフォー な感じいいかもだ
678ファントム×クリスティーヌ(二年半後):4:2006/01/24(火) 21:38:14 ID:/ZPBYf0g
地下にそのまま住むことは確かにできなかった。
あの居場所を多くの人に知られてしまったし、またクリスティーヌのために様々な仕掛けも
すべて解除してしまっていたので、もうあそこに住んでいる意味はない。
それに、オペラ座付きの作曲家として契約するにあたって、
その地下に住んだままというわけにもいかなかった。

しかし、本来はクリスティーヌと新婚生活を送るはずだったこの部屋に
ひとりで住むのはあまりにつらく惨めで、本当は別の部屋にしようかとも思ったのだ。
ただ、私のもとにあるクリスティーヌの思い出の品といえば、彼女が置いていってくれた
手編みのレースのほかは、ふたりの結婚式で彼女が着た花嫁衣裳とヴェール、
それからこの部屋に用意した何着ものドレスや帽子、靴といったものしかなく、
それすら彼女が袖を通したものというわけではなかったが、
それでも思い出の品といえばそれらしかなかった。
別の部屋に住むということにした時、レースはともかくとして、
花嫁衣裳や袖を通すひともないドレスを持っていくべきか、処分するべきか、
どうにも判断のしようがなく、それでしかたなくこの部屋に住むことにしたのだった。

この部屋に住んで以来、時折、彼女のクロゼットを開けては花嫁衣裳を手に取って
眺めたりしていた。
そして、そのたび、その衣装を着けて私の隣に立っていたクリスティーヌの
俯いた愛らしい横顔やこの衣装を解いていったときのクリスティーヌの初々しい様子などを
思い出し、激しい後悔に苛まれていた。
私は、この世でたったひとり心の底から愛しいと思い、
そして、やはりこの世でたったひとり私を愛してくれたクリスティーヌを
己のつまらない猜疑心と際限のない嫉妬心とで永久に失ってしまったのだ。
それでも……、激しい後悔に苛まれたとしても……、
窓から見えるサン・ピエール教会の尖塔や次の間のクロゼットにおいた花嫁衣裳と
ヴェール、彼女がとうとう一度も袖を通すことのなかった幾枚ものドレス、
そして、私のベッドに掛けられた彼女の手編みのレースといった、数少ない彼女の
ゆかりの品々を見ながらクリスティーヌのことを想わない日など一日としてなかった。
679ファントム×クリスティーヌ(二年半後):5:2006/01/24(火) 21:39:11 ID:/ZPBYf0g
そのクリスティーヌがいま、目の前に座ってお茶を飲んでいる。
ああ、私は何度この部屋にいる彼女の姿を想像しただろうか。
己が穢し、傷つけたことで失ってしまったこの部屋の女主人を、
私はそれこそ日ごと夜ごとに想像していた。
この部屋の窓辺、この部屋の椅子、この部屋の食卓……、あらゆるところにクリスティーヌはいて、
私の想像のなかの彼女はいつも優しい笑顔で私を見つめ、優しい声音で私を呼んでくれる。
しかし、現実のクリスティーヌはやはりどこかよそよそしい風で、
「そうでしたの……、でも、あの地下のお住まいよりこちらの方がずっとよろしいですわね、明るくて」
などと言ったりしている。

もう、おまえには私への愛情などひとかけらも残っていないのだろうか……。
この部屋はおまえと私のふたりで住むはずだった部屋……、
おまえとて、それは知っているではないか……。
なのに、そのまるで他人事のような言い方は一体どうしたことなのか、
おまえはこの部屋に来て、なんとも思わないのだろうか……。
やはりおまえは私を恨んでいるのだろうか、いや、恨まれて当然か……。

北駅で別れて以来、二度とクリスティーヌに会うことはないだろう、
仮に彼女の住む家がどこだかわかっていたとしても、決して彼女の姿を見に行ったりは
すまいと心に決めて、事実、彼女の様子を報せてくれようとするシャニュイ子爵の好意も断って、
私は現実のクリスティーヌのことには、毎月の扶養給付の支払いと音楽教師への謝礼以外には
一切関わらないようにしてきていた。
だからといって、こうして目の前にいるクリスティーヌのあまりに他人行儀な様子に接して、
私の心が傷つかないということはないのだ。
……私はまだ、いまでもなお、強くクリスティーヌを愛していたから……。

「イタリア座へは、ビアンカロリさんのお友達という方が紹介してくださったのですけど……、
マスターはビアンカロリさんをご存知ですかしら……?」
突然、クリスティーヌが言い出した。
ビアンカロリ……、私が手配した声楽教師がそんな名前のはずだった。
しかし、私がしたのはシャニュイ子爵に頼んで教師の手配を頼んだことだけで、
つても何もない私としては身を低くして彼に頼むしかなかったのだが、
彼がクリスティーヌのために探し出してくれる人物について、よもや間違いなどあるはずもない、
きっと最も適当な人物を探し出してきてくれるはずだという思いもあり、
自らその教師に会ってみることなどしなかったから教師の名前など一度聞いたきりだったような気がする。
680ファントム×クリスティーヌ(二年半後):6:2006/01/24(火) 21:40:24 ID:/ZPBYf0g
「さぁな……」
そう答えると、クリスティーヌがじっと私を見つめて、
「あら、そうでしたの……、マスターはビアンカロリさんをご存知かと思っていましたわ」と言った。
「どうして私がそんな男のことを知っていると思うのかね?」
やや皮肉っぽく聞くと、クリスティーヌも同じように「いえ、別に」と答える。
「マスターは今やオペラ座付きの作曲家だとお聞きしましたので、
同じ世界の方のことですし、ご存知かと思っただけですわ」

よそよそしい態度に思わせぶりな話し様……、クリスティーヌは一体ここへ何をしに来たのだろうか。
少なくともビアンカロリという音楽教師を送ったのが私であるということには
うすうす気がついているようで、しかし、確信がないせいかも知れないが、
彼について特別なにがしかの文句なり礼なりを言いたいというわけでもなさそうだった。

「では、わたしはそろそろおいとま致しますわ……、
お仕事のお邪魔を致しまして申し訳ありませんでした」
そう言ってクリスティーヌが立ち上がる。
扉のところでパラソルを渡すときに、ほんのわずかに彼女の指先が触れた。
ああ、もう二度と触れることのないと思っていた彼女の肌……。

扉の外でクリスティーヌを送り出す。
「マスター……」と言って彼女が手を差し出した。
その手を取り、口づけたかったが、握るに留めておいた。
クリスティーヌは差し出した己の手を握る私の手をじっと見つめたあと、
「どうぞ、マスターもお元気で……」と言って階段を降りていった。

彼女の姿が消えるまで、私はじっと階段を降りていくクリスティーヌの後ろ姿を見つめていた。
ホールになっている階段室に彼女の靴音が反響し、天井近くに設けられた窓から射す薄日が
彼女の背を照らす。帽子の羽飾りがすげなく揺れる。
もしも、もしも彼女がふり返ってくれたなら、一度でいいからふり返ってくれたなら……、
そう思いながら、白い石造りの階段を一段一段と降りていく彼女の姿を
北駅で列車を見送ったときと同じくらい哀しい気持ちで見送った。
一度もふり返ることなく階段を降りていったクリスティーヌの姿が消えた瞬間、
私はその場にがっくりと膝をついた。

イタリア座で歌うのか……、私がもしも普通の人のようであったなら、
おまえの歌う姿を見に行くこともできるだろうに……、オペラ座ならともかく、
イタリア座ではどうすることもできないではないか……。
おまえの将来を思えば、おまえがこのパリにいるとわかっても、
私はおまえの住むところを探し出したりはしないし、イタリア座へも決して近づくまい。
だが、この同じパリの空の下にいるとわかっていて、
おまえの姿を見ることすらできないとは何というつらい戒めだろうか。
681ファントム×クリスティーヌ(二年半後):7:2006/01/24(火) 21:43:03 ID:/ZPBYf0g
こつこつと階段を上がってくる靴音がする。ひとつ上の階に住む代訴人の奥方だろうか、
いや、あの靴音は……、まさかと思って顔を上げるとクリスティーヌが数段、
階段を降りたところに立っていた。
「クリスティーヌ……?」
クリスティーヌがもう一段階段を昇って、私を見下ろした。
「マスター……」
クリスティーヌが私を呼ぶ。
「…………」
「マスター……」
もう一度私を呼びながら、クリスティーヌも階段に膝をつく。
「マスター……、マスターはもう、わたしのことなど、お忘れになって……?」
私と同じ高さになって、様子を窺うようにおずおずと私を見たクリスティーヌの
眸を見て、私は思わず叫んだ。
「忘れるわけなどないじゃないか! ……愛しているとも! 
愛しているとも……、愛しているに決まっているじゃないか……、
愛していないわけがないじゃないか……」
涙で声がつまってしまい、最後のほうは呟くように語尾がかき消えてしまった。

クリスティーヌが小さい鞄からポマンドールを取り出した。
銀細工の蓋を開けるとかすかな薔薇の香りがした。
なかから小さくたたんだ紙切れを取り出し、広げる。
それは私が彼女に届けさせた離婚証明書だった。
涙をこぼしつつ、彼女の手の動きをじっと見ていると、
広げた証明書を縦に細く割いていく。
いくつかの帯にわけられたそれを横に持ち替え、さらに小さくちぎっていった。
ばらばらになった紙片が彼女の小さい手からこぼれ落ちていく。

最後の紙片を捨てたクリスティーヌの腕が伸びてきて、私の首筋に絡みつく。
そして……、そして私は、彼女の優しい声が私の耳元でこう言うのを聞いた。
「わたし、今でもあなたの妻よ…………!」

クリスティーヌの言葉が胸に落ちるまで、どのくらい掛かっただろうか。
わたし、いまでも、あなたの、つまよ……、わたし、いまでも、あなたの、つまよ……、
わたし、今でもあなたの妻よ……。
「クリスティーヌ…………」
彼女の名を呟いたきり声も出ず、ただただクリスティーヌの顔を見つめた。
「わたし、今でもあなたの妻よ」
もう一度同じ言葉を繰り返した彼女の頬を滝のように涙が流れ落ちていくのを、
どこか遠いところで起こっていることのような気がしながら見る。
ついさっき、階段を落ちていった紙片の幾枚かが下から上がってくる
かすかな空気の流れにのってホールを舞っている。
その白い小さい紙片が舞う様子を、まるで天使の羽根が天から降ってきたようだと
思いながら、溢れる涙で霞むその光景を不思議な気持ちで眺めた。
682ファントム×クリスティーヌ(二年半後):8:2006/01/24(火) 21:43:59 ID:/ZPBYf0g
彼女の髪、彼女の額、彼女の頬、彼女の耳、彼女の首筋、彼女の鎖骨、彼女の腕、彼女の指……、
かつて私が責め苛んだ箇所に口づける。
口づけながら、悔恨の涙が溢れ、彼女の身体に落ちていく。
彼女の指の一本一本に口づけをおくると、クリスティーヌがその指で私の頬を撫でてくれた。
その手に、己の手をそっと重ねる。睫毛を顫わせながら私を見上げたクリスティーヌと目が合い、
私たちは互いに視線を絡めながら近づいていき、先に眸を閉じたクリスティーヌの唇に
私はそっと自分の唇を重ねた。
甘く、やわらかく、温かい彼女の唇……。
ああ……、何度この唇を夢見たことだろう。
私に愛を囁き、私に向かって微笑み、私に口づけをくれる唇……。
私が永遠に失ったと思っていた唇……。
今でも私の妻だと言ってくれたこの愛らしい唇…………。
その唇が今、私の唇と重なっているのだ……。

唇を触れ合わせるだけの優しい口づけを幾度か繰り返す。
彼女の温かい舌に触れたくて、そっと彼女の唇を舐めてみる。
戦慄くように彼女の唇が顫える。そして、開かれた唇の間から深く舌を挿しいれた。
優しく舌を絡め、そっと舌先を吸う。クリスティーヌも私の舌に優しく舌を絡めてくれ、
やはり舌先を吸ってくれる。
初めての夜にも私たちはこうして少しずつ互いの唇を許しあっていったのだったなと思い出した。

深い口づけにうっとりと私を見上げたクリスティーヌの乳房にそっと触れてみる。
「ああ……、マスター……」
恥ずかしそうに声を上げたクリスティーヌの白い乳房がかすかに顫える。
「クリスティーヌ……、愛している……、愛している……」
クリスティーヌの乳房にそっと頬を寄せながら呟く。
私の涙が彼女の白い乳房に移って、肌を濡らしながら下へと落ちていく。

透きとおるように白く、はりつめて重量感をたたえた乳房、蒼く浮き出た静脈、
あいかわらず色づきの薄い乳暈、そしてその頂で硬く熟した小さい果実……。
かつて地下で抱いたときと変わらず初々しいクリスティーヌの乳房にそっと唇を寄せた。
いくつか口づけを落とす。
なだらかな腹に口づけ、そして、薄い繁みにも口づける。
クリスティーヌがかすかに顫え、目を上げると彼女の視線とぶつかった。
恥ずかしそうに目を反らしたクリスティーヌの身体に手を掛け、ゆっくりとひっくり返す。
白い背中に手を這わせる。なめらかな肌理細かい肌がしっとりと吸いつくように手に触れ、
手で触れたあとを追うようにして背にも口づける。
細くくびれた腰にも、真白く張りつめた臀にもそっと唇を寄せる。
ふっくらと盛り上がった丘に私の涙がこぼれ、ゆっくり下へと落ちていく。
かすかに腰を捩ったクリスティーヌの臀のまるみに沿って唇を這わせ、
そして、そのまま大腿の裏、膝裏、ふくらはぎへと唇を移していった。
683ファントム×クリスティーヌ(二年半後):9:2006/01/24(火) 21:45:45 ID:/ZPBYf0g
「クリスティーヌ、こうしておまえのひとつひとつに口づけできて、
とても嬉しかったよ……、おまえの身体にこうして優しく触れたかった…………、
その願いがかなったのだ、私はもう何も思い残すことはないよ……」
そう言いながら起き直ると、クリスティーヌを抱き起こし、強く抱きしめた。
彼女のやわらかい乳房が私の胸に押しつけられる。
彼女の甘い香りがふわりとたち昇り、その香りに包まれて抱きしめあっているだけで、
クリスティーヌへの愛しさと感謝とが募ってくる。
あれほど酷いことをしたこの私をまだ夫だと言ってくれたクリスティーヌ……。

だが、まだ彼女が私から解放されていないというのなら、
まだ私に囚われたままでいるというのなら、今度こそ私から解放してやらねばならない。
彼女はこの秋からイタリア座のプリマドンナになる身なのだし、
それが、私がクリスティーヌにしてやれる唯一のことだから……。

クリスティーヌが寝室に行きたいと羞恥に顫えながら言ってくれたとき、
私はもう一度だけ彼女の美しい裸体を目に焼き付けたいと思い、
かつ初めての夜以外はただ苛むだけだった彼女の身体に優しく触れ、
口づけて赦しを請いたいと思ったのだ。
そして、彼女とじかに肌を触れ合わせ、その柔らかさを、
その温もりを身体中で記憶したいと思ったのだ。
それ以上のことは私には許されていないのだから……。


「マスター…………、どうして……?」
私に抱きしめられたまま、悲しげに声を上げたクリスティーヌを
さらに強く抱きしめて言う。
「ありがとう、クリスティーヌ……、
今でも私の妻だと言ってくれたおまえの気持ちは本当に嬉しかったよ……、
もう二度と見ることはないと思っていたおまえの顔を見られただけでも充分嬉しいのに、
こうして私に身をまかせてくれて……、おまえには感謝してもしつくせない、
本当にありがとう……」
もう二度と触れることはないと思っていたクリスティーヌの肌に触れることができただけで、
私にとってはもう充分だ。そう思っても自然と涙がこみ上げてきて、彼女の肩先にこぼれる。
「ありがとう、クリスティーヌ…………」
684名無しさん@ピンキー:2006/01/24(火) 21:45:57 ID:J3Yq58JE
>>663
すごいね、GJGJ!!!
前の作品と別の天使様が書いたっていうのがまたすごい。
スレの天使様の層の厚さを物語っている。
このスレは神スレです。
685ファントム×クリスティーヌ(二年半後):10:2006/01/24(火) 21:46:35 ID:/ZPBYf0g
クリスティーヌの眸からこぼれたらしい涙が私の肩にも落ちてくる。
温かい涙が幾粒も肩先にこぼれ、それが胸にまで伝って彼女自身の胸をも濡らす。
「どうして……? どうして……? マスターはもうわたしのことなど……」
「愛しているよ……、今でもおまえを愛している……、
いや、前よりずっと強くおまえを愛している……、
おまえは私のたったひとつの希望で、私の宝物なんだ、離れていてもそうなんだ、
おまえが幸せになってくれることが私の唯一の望みなんだよ……」
クリスティーヌが私の胸を強く押し、己の身を引き剥がすと、私の目をじっと見つめて聞いた。
「じゃあ、なぜ……、なぜ、わたしを愛してくださらないの…………?」
涙を溢れさせているクリスティーヌの髪をそっと撫で、それからもう一度彼女を抱きしめる。

「私はもうおまえを抱くことはできない、
……おまえはイタリア座のプリマドンナになるんじゃないか、
そのおまえに私のような者がくっついていたらおまえが世に出る妨げになる……。
今日、私に会いに来てくれただけで私には充分だ、もうおまえは私の生徒じゃないし、
私に気を遣う必要はないんだよ……、さっき破ってしまった離婚証明書も書き直そう」
クリスティーヌが私の腕のなかで激しくかぶりを振った。
「そんな……! あなたの、あなたのところに戻るためにイタリア座のプリマになったのに……、
あなたのところに帰るためにパリに戻ってきたのに……、」
そう言った後、彼女は激しく嗚咽しながらベッドに崩れ折れるように手をつき、
そのまま泣きじゃくり始めた。

「クリスティーヌ……、それでイタリア座に……?」
泣きじゃくって上下する肩に手を置き、そっと尋ねる。
「そうよ! あなたに会うために、あなたのところへ帰るために…………!」
彼女の手を取り、ふたたび起き直らせると、嗚咽したままのクリスティーヌを胸に抱き取る。
強く抱きしめる。
しゃくり上げる彼女の耳元でもう一度聞く。
「私のために…………?」
嗚咽したままクリスティーヌが大きく頷いた。
686ファントム×クリスティーヌ(二年半後):11:2006/01/24(火) 21:47:45 ID:/ZPBYf0g
しばらくして、落ち着いてからクリスティーヌがぽつぽつと話し始めた。
「……あなたにどうしても会いたくて、オペラ座と契約すれば、あなたに会えると思って……。
この一年、ビアンカロリさんに頼んで本格的なお稽古をしてもらうようにして、
……謝礼は別にお払いしたのよ……、あなたが毎月、扶養給付のほかに使い切れないほど送って下さるから……、
そしてオペラ座に戻る準備をしたんです。
でも、どうしてもオペラ座には空きがなくて、ラウルがなんとかしてくれようとしたみたいですけど、
カルロッタの契約は長期だったので、歌手で戻ることはできそうになくて……、
それでラウルがイタリア座のパトロンをしているお知り合いに掛け合って下さって……。
本当はあなたの新作で歌う歌手として戻りたかったのよ……」
私を見上げたクリスティーヌをそっと抱きしめ、
「私に会うためにプリマの契約をしたというのか……」と呟いた。
「しかし……、私に会いたかったのなら、パリに出て来ればよかったじゃないか……」と言うと、
「そんなの……、むりよ……、あなたにどんな顔をして会えるというの……?」と眸を曇らせ、
身を捩って私から離れると、深く俯いてしまった。

ベッドに背をもたせかけたまま、私は、身体を起しているせいで隣りにいながら
私に白い背を見せているクリスティーヌを眺めつつ、彼女がふたたび話し始めるのを待った。
じっと俯いたまま上掛けの上に掛けてある例のレースに指を這わせている。
彼女自身が編んだ細かいモチーフに沿って指を這わせるクリスティーヌの横顔は、
一見すると冷たいような、見ようによっては戸惑っているような、
あるいは逡巡しているような掴みどころのないものだった。
声を掛けてよいかもわからず、私はただただ彼女の白い背を見つめていた。


クリスティーヌがふたたび顔を上げて口を開くまでにどのくらいかかったのだろうか。
シーツを巻いた胸が大きく上下し、息を整えて話し始めようとしているクリスティーヌの
ほつれた髪が揺れ、寝室に入った時に私が抜き取り忘れたらしいピンが引っ掛かっている。
そのピンをそっと抜いてベッド脇の小卓に置くと、それを合図にしたのか、
ようやくクリスティーヌが重い口を開いた。
687ファントム×クリスティーヌ(二年半後):12:2006/01/24(火) 21:48:37 ID:/ZPBYf0g
「初めてビアンカロリさんが訪ねてみえたとき、きっとマスターが寄越して
くださったんじゃないかと思ったんです。……でも、マスターのお稽古とは全然違っていた……、
だから、マスターじゃなくて、ラウルなんじゃないかって……。
それに、あなたがわたしのためにそんなことをして下さる道理もないと思って……。
ラウルに手紙でお礼をいうと、ラウルから残念だけれどそれは自分じゃないって返事が来ました。
それで、わたしはビアンカロリさんが言うように、
本当に誰かわたしのファンだったという人がお稽古をしてくれているのかと思って……」
そこまで言って、クリスティーヌは大きく息をつき、それからちらりと斜め後ろの私の眸を見た。
そして、瞬きとともに視線をはずし、また前を向いて話し始める。

「あれは……、ちょうど去年の今ごろでしたわ、わたし、ちゃんとした……、
マスターにしていただいていたようなお稽古をしたくなって、ビアンカロリさんにそうお願いしましたの。
そしたら、ビアンカロリさんはこう言ったんです。いいんですかって。
変だなと思って問い詰めると、依頼人からは本格的な歌の稽古はするな、
ただ歌を歌う時間だけを作ってやってほしいと言われている、きつい稽古はきっとあなたに
悲しいことを思い出させるに違いないから決してしてはならないと強く言われている、
それでもいいのかって。歌のお稽古でわたしが悲しむに違いないなんて……、
そんなこと、ただのファンだっていう方が言うわけないじゃありませんか……。
そのとき、ようやくわかったんです、ビアンカロリさんを寄越してくださったのは
やっぱりあなただったんだって。
わたし、あなたと離れていても、あなたにずうっとずうっと守られていたんだって……!」

クリスティーヌが涙を溢れさせた眸で私の方に振りかえった。
身体の向きを変え、私の眸を見上げる。唇が戦慄いている。
そして、クリスティーヌの腕が伸びてきたかと思うと、
その腕で私の首にしっかりとしがみつき、声を上げて泣き出した。
「わたし、それから、どうしてもマスターのところに帰りたかった……、
あなたの腕にもう一度抱かれたかった……、あなたの…………」
濡れた睫毛が私の肩先に触れ、こぼれた涙が肩を伝って落ちていく。
彼女の温かい涙が己の肌を伝う感触をさっきも含めて私は幾度か味わったことがあったが、
そのときの涙は私が泣かせた哀しい涙だった。
……この涙を流させているのも、やはり私なのだろうか……。
688ファントム×クリスティーヌ(二年半後):13:2006/01/24(火) 21:49:20 ID:/ZPBYf0g
「依頼人の秘密をやすやすと喋ってしまうなんて、碌でもない男だな……」
私がそう言うと、クリスティーヌが「あなたがラウルに頼んでくださったことも知っていてよ」
とすすり上げながら言った。

「ラウルにももう一遍聞いたのよ、もしやと思って……、
ううん、本当にあなたがわたしのためにそんなことをして下さるのか、やっぱり自信がなくて……。
だって、わたしはあなたをあんなに苦しめたんだもの……。
そうしたら、ラウルが本当にそれは自分じゃないって。
自分よりももっと私を想っている人がいて、その男と約束しているから誰だかは書けないけれど、
その人に頼まれて音楽教師を探したんだって。
最初は話も取りあわずにいたけれど、その人が何度も何度も頭を下げてきたって。
自分に頼むのは相当な勇気が要ったろうにって……」

「うちのパトロン殿も存外に口が軽いのだな……」
もう一度すすり上げてクリスティーヌが私の首筋に顔をうずめた。
「わたし、あなたがまだわたしを愛してくださっているってわかって本当に嬉しかった……」
「愛しているに決まっているじゃないか……」
ほつれて肩に落ちかかった髪をそっと手繰り、顕わになった肩先にそっと口づける。

「でも……、二年前、わたしがあなたのそばに置いてほしいと言ったとき、
あなたはうんと言って下さらなかったわ……、あなたはわたしを愛してくださっているけれど
、同じくらいわたしを憎んでいらっしゃるんじゃないかって……、
わたしのことを許してはくださっていないんじゃないかって……」
クリスティーヌの眸からこぼれた涙が私の首筋を濡らす。
「それは私が言うことだよ、クリスティーヌ……。
それに、あの時はおまえにもう私との暮らしを強要したくなかったから……、
離れる方がおまえのために良いと思ったのだ……。おまえが私を愛してくれていたとしても、
互いに顔色を窺い合って暮らすのはあまりにおまえが可哀相で……。
それに、あの時、おまえはああ言ってくれたけれども、それは私への愛ゆえではなくて、
同情とか哀れみとか……、そんなものから言ってくれているのだと思っていた……。
おまえに恨まれ、憎まれることはあっても、よもやあんなことがあった後でも
愛してくれているなんて思ってもみなかったから……」
「愛しているって言ったわ、あのとき……」
どこか咎める口調で言ってから、クリスティーヌが私の肩から顔を上げ、私の眸を見つめる。
……私たちは互いに見つめあい、互いの眸に赦しがあることを探り当て、
そして、互いにいたわりあうように唇を重ねた。
689ファントム×クリスティーヌ(二年半後):14:2006/01/24(火) 21:49:52 ID:/ZPBYf0g
「おいで」と言って、彼女の胴に手を掛け、私の上に抱え上げる。
「マスター……」
横抱きに抱え上げたクリスティーヌがもう一度私の首にしがみつき、肩に頭をもたせてくる。
「こちらを向いてくれ、クリスティーヌ……」
私の方に向き直ったクリスティーヌの髪を指先ですべて後ろに垂らす。
「ああ……、私のクリスティーヌだ…………」
そこには、かつて私の生徒であった頃と変わりなく愛らしい様子のクリスティーヌがいた。
髪をおろし、恥ずかしげにうすく微笑んで睫毛をそっと伏せたクリスティーヌがたまらなく愛しい。
そのままもう一度私の肩に頭をもたせて、「マスター……」とつぶやくように私を呼んで
胸のあたりに唇を押し当ててくる。
彼女のやわらかく温かい唇の感触に、抑えていた欲望が湧き上がってくるのを感じていた。

クリスティーヌの背を支えながら、もう一方の手でゆっくりと彼女の腕を撫でる。
二の腕のやわらかい肉付きのあまりの心地よさに、いまだにその感触を覚えている
手のひらが反応する。
胸を覆ったままのシーツの隙間から、目に見えて激しく上下し始めた乳房の隆起が覗き、
その隙間に顔をうずめたい衝動がふつふつとこみ上げてくる。
なにより己の大腿に感じるクリスティーヌのやわらかい臀の感触が、
その臀がさきほどから微かに捩られている感触がたまらなく淫らで、
すぐにもその臀や臀から続く太腿やその腿の間にある、
あの最も秘められた場所をも隠しているシーツを剥ぎ取って、
臀にも大腿にも、もちろんあの温かく潤って私を待っていてくれるはずの泉にも思うさま口づけし、
そしてその潤みのなかに己のすべてを埋め込んでしまいたい欲望が身のうちを駆けめぐる。
私の喉もとに鼻先をくっつけたまま、しどけなく吐息を洩らし始めたクリスティーヌの
甘く芳しい体臭がたち昇り、あまりの陶酔感に眩暈がするほどだ。
逸る欲望を抑えて彼女の髪にそっと口づけを落とす。

しかし……、しかし、私はやはり彼女を抱くことはできなかった……、
私を愛していると言ってくれ、私のところに戻るためにプリマドンナになったのだと言い、
そして明らかに私に抱かれるのを待っているらしいクリスティーヌを愛しく思えば思うほど、
彼女を己の欲望のままに抱いてしまうのはどうしてもできなかった。
目を閉じて欲望を抑えこもうと必死に闘う。
クリスティーヌをこうしてこの腕に抱いて、その温かい肌に触れているだけで私には充分なはずなのだ。
たとえ私のためであったとしても、結果的に彼女はいまやイタリア座のプリマドンナであるわけで、
この秋に初目見えしようという彼女の邪魔だけはしたくない。
ああ、しかし、この肌のすべらかさ、この肌の芳しさ、この肌のなまめかしさといったらどうだろう……。
690ファントム×クリスティーヌ(二年半後):15:2006/01/24(火) 21:50:29 ID:/ZPBYf0g
もう一度、哀願するような口調で私を呼ぶ。
「クリスティーヌ…………、おまえを愛しているよ……」
彼女の眸をじっと見つめて言うと、一瞬、眸を輝かせ、そして私の目を見つめた後、
眸に失望の色を浮かべてクリスティーヌが俯いた。
「やはり、愛してはくださらないのね…………」
はた、という微かな音がして、見るとクリスティーヌの眸からこぼれた涙がシーツに染みを作っていた。

ぽたぽたと続けざまに涙のこぼれる音がして、クリスティーヌを抱き寄せると
私の胸を強く押して彼女が私の膝から降りた。
「ごめんなさい、お邪魔をして、……もう、もう、わたし、お暇いたしますわ……!」
椅子の背に掛けたドレスや何かを掴み、身体に巻きつけたシーツがほどけかかっているのも
省みずに扉の方へと走り去ろうとする。
「待て、待ってくれ! クリスティーヌ!」
ドレスを抱えている腕を掴むと無理にこちらに向かせて抱きしめる。
私の腕のなかでもがくクリスティーヌの身体からシーツがはがれ落ち、
私の手でドレスをベッドに放り投げると、腕のなかには愛しいクリスティーヌだけがいた。
泣きじゃくる彼女をもう一度強く抱きしめる。

「おまえを愛していると……、何度言えば信じてくれるかね? 
おまえを愛している、……この世の誰よりも、おまえだけを、
おまえ唯ひとりを……愛していると何度言えば信じてくれる……?」
「……だって、でも……、でも、愛してはくださらないのでしょう……?」
「私がおまえを抱かないのか、ということなら、答えはそういうことになるな……」
「…………どうして……?」
「おまえを愛しているから。おまえを愛しているから、
私はもうおまえを抱くことはできないのだ」
戦慄く唇を噛んだクリスティーヌに優しく言う。
「私がどれほどおまえを欲しがっているか、おまえにだってわかるだろう……?」
さっと顔を横に背けた彼女の耳が紅く染まっている。
「可愛い、愛しいクリスティーヌ……、私がどれほどおまえをほしがっているか……、
だが、それ以上に私はおまえが大事なんだ、もう、決しておまえに私のことで
辛い思いをさせたり、苦しめたりしたくない、だから……」
そこまで言ったところで、クリスティーヌが私を見上げた。
691ファントム×クリスティーヌ(二年半後):16:2006/01/24(火) 21:51:01 ID:/ZPBYf0g
その眸にはまだ涙が残ってはいたが、なによりもその強く鋭い眼光に思わずたじろぐ。
床に落ちたシーツを拾い上げ、その美しい裸体を私の目から隠して、彼女がふたたび私を見据えた。

「マスターは……、あいかわらず独りよがりで、思い込みが激しくて、
人の話に耳を傾けようとはなさらないのね……、
あなたは……、あなたは、ご自分が思うようにわたしを愛することができればそれで満足なのね、
わたしがあなたを愛していようと愛していまいと、そんなことはあなたには何の関係もないのね、
わたしが今日、ここへ来るのにどれだけ勇気が要ったか、あなたに想像できて? 

あなたに追い返されるんじゃないか、目の前で扉を閉められるんじゃないか……、
……いいえ、あなたはきっとまだわたしを愛してくださっているはず、
ビアンカロリさんを寄越してくださったのがあなたなら、
きっとわたしをまだ愛してくださっているはず……、そう思い込もうと努力して努力して、
厚かましいと思われるのも覚悟してここへやって来たわたしの気持ちが想像できて? 

あなたはわたしを追い返しはしなかったけれど、わたしへの関心もないみたいだった……、
わたしがどんなにがっかりしたか……、イタリア座で歌うって言ってもちっとも嬉しそうには
してくれなくて、わたしは自分の思い上がりに恥ずかしくなって、
あなたの顔なんてまともに見られなかったわ……、
下まで降りて、それでもどうしても諦め切れなくて、せめてあなたのお部屋の扉の前に立って、
本当はわたしたちふたりが一緒に住むはずだったおうちの前で、
ここに住んでる奥さんみたいな気持ちになれたら少しは気が済むかしらと思って階段を上がって……、
そしてあなたの姿を見つけたときの喜びがあなたにわかって? 

わたし、わたし……、やっぱりあなたが私を愛してくださっていたってわかって
本当に本当に嬉しかった……、その喜びがあなたにわかって? 

わたしがどんなに恥ずかしいのを堪えてベッドに連れていってってあなたにねだったか、
あなたはちっとも想像なんかしてくれないのね、
二年半前、あなたの前でさんざん……、さんざん……、…………、
……わたしがあなたとベッドに行きたがるのは当然だとでも思っているの? 

……それでも、あなたがわたしを抱えてベッドに連れていってくれたときは本当に嬉しかった……、
あの初めてのときみたいにあなたは優しくて、
あなたにキスしてもらっているだけでわたしは本当に幸せで……、
なのに、あなたはただ、わたしに触れたかっただけですって? 

だったらベッドへなんて連れてきてくださらなくてよかったのよ……、
……あのまま、わたしたちはやり直せるって思ったわたしが莫迦だってことなのね、
わたしが思い上がっていただけなのね、マスターは、あなたは、あのことがあっても、
ちっともお変わりになっていらっしゃらない……、何もかもひとりでお決めになって、
わたしの気持ちなんて考えてもくださらないんだわ、
マスターは、やっぱりわたしのことを本当には許してくださっていないのよ、……マスターは、」

激しい勢いで言い募っていたクリスティーヌは、突然、声を奪われたように口を噤み、
どこか意識もない人のように失われた言葉を探したままぽかんと宙を見つめているみたいに見えた。
眸から大粒の涙をぽろぽろとこぼし、シーツを胸の前で掴んだまま拳がぶるぶると顫えている。
息遣いも荒いまま、肩が大きく上下していた。
692ファントム×クリスティーヌ(二年半後):17:2006/01/24(火) 21:52:21 ID:/ZPBYf0g
こんなに興奮しているクリスティーヌを見るのは初めてだった。
あのあどけない、夢見るような少女だったクリスティーヌのどこに
こんな激しい一面が隠されていたのだろう……?
しかし、今こうして思い返してみると、あの頃のクリスティーヌにも今と同じ、
激しい一面を垣間見せた瞬間があったなと思う。
『勝利のドン・ファン』での彼女の歌いぶりからして、
とても私が教え導いてきたあのあどけない少女とは思えぬ気迫だったし、
その後、地下で共に暮らせと子爵の命を担保に迫った私に、
いま流している涙は哀れみの涙ではなく憎悪のそれだと告げたときにも怖い眸をしていた。

そして、自分は私を愛しているのだと、それを私が信じようと信じまいと
それは私の側の問題であって、自分の関知するところではないと冷たく言い放ったこともあったが、
その時の眸も氷の刃のごとく鋭いものだった。……今にして思えばあれは本心であったのだろう。
当時の私は、私を愛していないことへの申し開きなどしたくない彼女の開き直りのように
思い込んでいたが、あれは自分を信じようとしない私への怒りの発露だったと、今になればそう思える。

クリスティーヌを抱きしめようと腕を伸ばした。
しかし、そこで意識を取り戻したように私の腕から逃れるように後ろに身を引いた
クリスティーヌは、私に鋭い一瞥を投げかけた後、何も言わずにベッドの上のドレスを抱え、
呆然とする私をひとり残して寝室から静かに出て行った。


一瞬、呆気に取られたままその場に立ち尽くしていた私は、
今、まさにこの瞬間が己の運命を左右するとてつもなく貴重な一瞬なのだと気づいた。
猛然と次の間の扉を押し開け、泣きじゃくりながらペチコートを着けている
クリスティーヌの肩を掴んだ。
「すまなかった! すまなかった、クリスティーヌ……! 
私は、私はおまえの気持ちを考えていたつもりだったが……、
本当には考えていなかったのかも知れない……」
「かもしれない、ですって?」

語気も鋭く言い返したクリスティーヌの眸がかつて地下で見たときと同じく
氷のように冷たいものだったので、私はもう私の運命を左右する唯一無二の機会を
逃してしまったのだと思い、とてつもない失望感がこみ上げてきた。
「いや……、すまなかった……、私は、……私はおまえの気持ちを
ことごとく踏みにじっているのだな……、…………すまなかった」
最後はもう彼女の眸も見られなくなっていて、肩先に向かって最後のひと言を
絞り出すように言ってから、私はクリスティーヌの肩をもう一度だけそっと撫でて踵を返した。
「マスター!」
咎める口調でクリスティーヌが私を呼ぶ。
彼女の腕が私の胴に絡みつき、背に彼女のやわらかい乳房が押し付けられるのを感じた。
そして、クリスティーヌのえも言われぬほど優しい声が尋ねる。
「わたしは、もう一度、ベッドに連れていってっておねがいしないといけないの……?」
693ファントム×クリスティーヌ(二年半後):18:2006/01/24(火) 21:52:55 ID:/ZPBYf0g
クリスティーヌを抱えて寝室へと戻る。
心臓が早鐘のように打っている。私は運命の女神の前髪をかろうじて掴むことができたらしい。
ペチコートをつけたまま、私の首に腕をまわし、恥ずかしそうに私の肩に頭をもたせた
クリスティーヌがあまりに愛しくて、どうにかなりそうだった。
ベッドにクリスティーヌを降ろし、ペチコートと下着を取り去る。
私にされるがままになっているクリスティーヌの頬は羞恥に紅潮していて、
顫える睫毛がその頬に翳を落としている。
薄暗い寝室のなかにあって、クリスティーヌの白い裸体は光を放つがごとく輝いていた。
ああ、ふたたびおまえとこうして肌を合わせることができるとは………。

私自身もベッドに乗り、羽根枕を背に凭れかかると、クリスティーヌをそっと抱き寄せた。
私の脚の間に納まって、クリスティーヌが私の胸に頬を寄せる。
強く抱きしめたまま、しばらくじっとしていた。
クリスティーヌの髪の匂いがふわりと香って、その甘い香りに誘われるまま、彼女の髪を撫でてみる。
嬉しそうに私を見上げたクリスティーヌの唇が欲しくなって、私は彼女の顎を支えたまま、
そっと己の唇を重ねた。一瞬、顫え、それからそっと開けられた唇の間に舌を挿しいれる。
私を求めるように舌を絡めてくるクリスティーヌを心の底から愛おしく思いながら、
私も優しく彼女の温かい舌を味わった。
彼女のうなじに手をまわして頭を支えながら、唇を舐め、舌先を吸い、
ゆっくりと優しく舌を絡めあっていると、いっそうクリスティーヌへの愛しさがこみ上げてきて、
その強い思いをどうしていいのかわからなくなる。

彼女の背に手をまわし、もう一方の手で肩先から腕に掛けてゆっくりと撫で下ろしていく。
次第に激しく上下してくる胸の下へと手を滑らせていった。
乳房を持ち上げるようにして、それから親指の腹でそっと胸の頂きをかすめる。
「ああっ!」
肩を大きく揺らして喘ぐクリスティーヌの思ってもみぬ敏感な反応に欲情を刺激されて、
私は思わず身を屈めてその可愛らしい果実を吸いたてた。
「あ、ああっ、……マスター……っ!」
私の舌で乳首を舐められ、舐められて濡れた乳首を甘噛みされて、
クリスティーヌが身を捩って快感を伝えてくる。
何度も何度もクリスティーヌの可愛い乳首を舐め、
尖ってそそり立ったそれを啜っては甘噛みしてやる。
694ファントム×クリスティーヌ(二年半後):19:2006/01/24(火) 21:53:30 ID:/ZPBYf0g
私の肩に手を掛け、両の胸の頂きに与えられる強い刺激に頭を左右に振りながら、
クリスティーヌは絶え間なく甘い吐息をついていて、そのしどけない喘ぎをもっと聞きたくて、
可愛い乳首を口のなかで転がしながら、手をゆっくりと腰へと滑らせる。
腰のくびれを幾度か往復し、なめらかな曲線を手のひらに感じたあと、
やわらかい臀のふくらみをそっと掴んだ。優しく撫でまわし、そしてゆっくりと揉む。
「あぁ……んっ、マスターぁ……」
交互に乳首を舐められ、舌で転がされながら尻臀を揉みしだかれ、
クリスティーヌが艶かしい声で私を呼ぶ。
「愛している……、クリスティーヌ……」
ひりひりと焼けつくようにクリスティーヌへの愛しさがこみ上げてき、そ
の強い思いをどうにも制御できなくて、私は何度も何度も彼女の名を呼んだ。
「クリスティーヌ、クリスティーヌ、クリスティーヌ………、
ああ、愛しているんだ……、愛しているんだ、クリスティーヌ…………」
「マスター……、マスター……、…………マスターぁ……」
クリスティーヌも切ない声で何度も私を呼んでくれる。
白くはりつめた双丘を両の手のひらで押し拡げるようにして揉むと
首を左右にふって彼女がよがる。
やるせなさそうに眉根を寄せて、私の肩に縋りつくようにして、
臀をかすかに捩って、羞恥に頬を染めて感じているクリスティーヌが愛しくてたまらない。

彼女の大腿に手を掛けた。片脚を己の脚に掛ける。
「ああ…………」
羞恥に満ちた声を上げて、クリスティーヌが私にしがみついた。
片手を私の腰にまわし、もう一方で私の腕に掴まる。
臀を揉んでいた手を、ゆっくりと下へ滑らせていく。
「あ、あ、……あ、ああ……、ああ…………」
私の手がどこへ向かうのかを察したクリスティーヌの唇から
驚きと羞恥と期待の混ざった声があがる。
「あ、ああっ!」
後ろからそっと花びらに触れると、熱い雫が肉のあわいに溜まっており、
その雫に指先が触れた途端、それが呼び水になったかのようにとろとろっと愛蜜が溢れ出た。
「ああ、もうすっかり濡れているじゃないか……、嬉しいよ……」
「あ、ああっ、……ああっ、ああっ、いや……、あ……」
ぽってりと水気を含んでふくらんだ花びらの上を溢れた愛液で指を
すべらせながら弄ると、いっそう蜜が溢れ出てくる。
私の腰に廻していない方の手で口元を押さえ、声を我慢しているらしいクリスティーヌの口から
もっと喘ぎ声を聞きたくて、花びらを二本の指で挟み、秘裂の上を中指だけでなぞってみる。
「ああっ! あぁんっ、ああ…………!」
敏感な粘膜を刺激されてクリスティーヌが声を上げる。
ああ、可愛い愛しいクリスティーヌ……、おまえの可愛い声をもっともっと聞かせておくれ……。
695ファントム×クリスティーヌ(二年半後):20:2006/01/24(火) 21:54:01 ID:/ZPBYf0g
思わず息をのむクリスティーヌの切なく寄せられた眉根を確かめると、
その小さくしこった突起をゆっくりと転がす。
「…………ぁぁああああああ!!!」
我慢しきれず声を上げて臀を持ち上げるように振り立てた。
「あああ……、あぁん、あぁん、……あぁ……ん」
私の指の動きにあわせて切ない喘ぎ声を上げ、臀を激しく上下左右にふりながら、
クリスティーヌが私の愛撫に応えてくれる。
とろとろと絶え間なく愛液が溢れ、私の指ばかりでなく彼女のみっしりと肉のついた内腿や
白い双臀までがびしょびしょに濡れている。
肉芽を指先で転がし、めくれ上がった花びらを指の腹でしごく。
唇に咥えたひとさし指の隙間からは、指を咥えている意味などまるでないほどによがり声が洩れ、
私の胸に乳房を擦り付けながら身体をくねらせているクリスティーヌがたまらなく淫靡だった。

そっと指先を彼女の入り口に突き入れる。
大きなひくつきとともに私の指を呑み込んで彼女が喘ぐ。
幾度か彼女の温かくやわらかい粘膜のなかで指を往復させ、
愛液をかき混ぜるようにして指をなかで動かす。
そうしながら息も絶え絶えになっている彼女の唇を貪る。
舌を絡め、唇を舐めあい、彼女の甘い吐息を感じながら指を抜き差ししているうち、
クリスティーヌのなかがひくひくと波打ってきて、彼女が官能の極みに近づいてきていることを知らせる。
「ああ、私の指でこれほどに感じてくれて……、嬉しいよ、クリスティーヌ……」
「……マ、スターぁ……、ぁぁあああ………!」
私を呼ぶことすらままならないほどに感じて頭を左右にふっている彼女にそっと囁いてみる。
「なかに……、おまえのなかに……、入っても……いいか……?」
クリスティーヌが顔を上げた。
これ以上ないほど眉根を寄せ、切ない眸で彼女が言う。
「ああ、マスター……、わたしを、もう一度……、あなたの、……妻にして………」
696ファントム×クリスティーヌ(二年半後):21:2006/01/24(火) 21:54:34 ID:/ZPBYf0g
両脚を上げさせ、私の上に跨らせると、クリスティーヌの入り口に己をあてがった。
ひく、と恥肉の蠢く感触が私自身の先端に伝わる。
ああ、クリスティーヌも私を求めてくれているのだ……。
私自身を呑み込まんとする彼女の粘膜の動きに陶然としながら、
彼女の尻臀を掴んでゆっくりと私の上に落としていった。
入り口にあてがった私の楔がゆっくりと彼女のなかに呑み込まれていく。
「あ、ああ……、あああ…………」
次第に自分のなかに侵入してくる私の感触に刺激されて、
クリスティーヌがたまらぬげに声を上げる。
「おまえのなかに私が入っていくのがわかるか……?」
「ああ、マスター、マスター……、マスター…………」
首を左右にふりながら侵入者によってもたらされる快感に耐えかねたように
クリスティーヌがやるせなく切ない声で私を呼び、私の肩に掛けた手が幾度もすがるように私の肌を掴む。

そして、私のすべてが彼女の温かい膣内に収まり、
その瞬間、私たちは何かしら成し終えた人々のような顔をして互いに見つめあった。
「ああ、マスター……、マスター……」
眉を寄せてクリスティーヌが私の眸を見つめ、私の肩に頬を擦りつけてくる。
私の耳の後ろに唇を押しあて、私の顎に指先を這わせながらも、
彼女のなかは細かくひくつき、私の柱にねっとりと絡みついた恥肉が私を包み込んで、
その彼女の唇や指先の愛情深い動きと私を包む粘膜の淫らな動きとの落差がひどく刺激的だ。
それから、私はクリスティーヌの尻臀を掴んだまま、ゆっくりと腰を下から突き上げはじめた。

きゅうっとクリスティーヌの入り口が締まり、奥の内襞がひくひくと蠕動する。
私の柱をやわやわと締めつけ、私が抜き差しするたび纏いついてくる粘膜の感触がたまらない。
幾度も幾度も下から突き上げ、クリスティーヌの最奥を抉る。
突き上げるたび、彼女の唇からは切羽詰った喘ぎ声が洩れ、
かつて私の慟哭しか聞いたことのないこの部屋を甘く淫らなその声で満たしていく。
突き上げながら同時に尻臀を掴んだ手で双臀を揺さぶってやると、
ほどなく彼女の内側のひくつきが規則的になってきて、
やがてひと際高い声で私を呼びながらクリスティーヌが達した。
697ファントム×クリスティーヌ(二年半後):22:2006/01/24(火) 21:55:10 ID:/ZPBYf0g
荒い息を吐きながら目じりに官能の涙を滲ませているクリスティーヌの身体を、
繋がったまま抱きかかえ、そっと後ろに倒す。
私にしがみついていた彼女の頭がシーツに乗ると、
そこで初めてクリスティーヌが私の目を見てかすかに口元を綻ばせた。
ああ、なんといじらしく、なんと愛らしいことか………。
私の背に廻した腕を前に持ってきて、伸ばした指先で私の頬をそっと撫でる。
「マスター……、愛しています……」
私に何を求めるでもなく、ただ想いを発露するように言ったクリスティーヌの口調に
私は深い愛情を感じ、私もどうにかして自分の思いのたけを彼女にわかってもらいたくて、
彼女の唇にそっと自分の唇を重ね、優しく口づけたあと、
「愛している……」とだけ言って彼女を強く抱きしめた。
クリスティーヌは私のもので、私はクリスティーヌのものなのだ、
私たちは互いのために造られたのだ……、初めてそう思える瞬間を私たちは共有していた。
ああ、本当に私たちは愛し合っている夫婦としてやり直すことができるのだろうか………。

甘くそそるようにひくつくクリスティーヌのなかを確かめるようにふたたび抜き差しを始める。
「あぁ……ん、マスター……、マスター……」
私の首にしがみついてクリスティーヌが耳元で私を呼んでくれる。
甘い声で私を呼びながら私の頬に唇を寄せ、そのやわらかい唇を頬に擦りつけてくる。
唇を擦りつける動きと彼女のなかがうねる動きとが同調して、
彼女が私を強く強く求めてくれているような、彼女が私を深く深く愛してくれているような、
そんな気がしていっそうクリスティーヌが愛おしい。私も腰を入れながら彼女の髪や額、耳朶に口づけを送る。
ああ、愛し合って、求め合って、そして互いに与え合う交わりがこれほど幸福なものだとは思いもしなかった。
愛しい愛しいクリスティーヌ……、
あの頃、おまえがどれほど悲しい交わりを強制されていたのか、今ならわかる、
……もしも、もしも私たちがこれから共に暮らしていくのなら、共に暮らしていけるのなら、
私は二度とおまえに閨で悲しい思いをさせはしない、初めての夜に誓ったあの誓いを私は必ず守るから、
きっとおまえを大事に守るから、きっとおまえを誰より幸福な妻にしてみせるから……。

愛しいクリスティーヌの背を抱きかかえながら、真っ直ぐに突き上げる。
突き上げるたびにクリスティーヌの奥から何度も大きなうねりがやってきて、
そのうねりが入り口あたりで締めつけに変化し、なかにいる私を翻弄する。
クリスティーヌの脚が私の身体に絡みつき、私を身体ごと己の方にひきつけようと
しているのが彼女の愛情を感じるのと同時にたいそう淫靡で、
彼女のなかにある自分がいっそう奮い立つ心地がする。
698ファントム×クリスティーヌ(二年半後):23
仰け反った白い喉元に口づけを送る。
「あぁ……ん……」
うっすらと開いた唇から悩ましげなため息が洩れ、次いで切れ切れにか細い喘ぎ声が洩れてくる。
私の身体に絡めた脚を擦り合わせるようにして、腰を私の下腹に押し付けるようにくねらせている。
それらの淫らな動きのひとつひとつが、クリスティーヌが押し寄せる官能の波に
呑みこまれつつあることを知らせている。
頭を左右にふって、その波間からどうにかもがきでようとしている彼女と、
共にもっともっと深い愉悦の海に沈んでいきたい……。
大きく腰を入れながら「クリスティーヌ……、愛している……」と耳元で囁くと、
クリスティーヌがふるふるっと全身を顫わせた。
うすく眸を開けて「おねがい……、最後まで……、初めてのときみたいに、一緒に…………」と
苦しい息の下から囁くように言った。
「いいのか……?」
「ああ、おねがい……、マスターと……一緒がいいの……、
離れ……ないで……ずっと……、お…ねがい……」
返事の代わりに彼女の名を呼びながら激しく腰を使う。
「クリスティーヌ、クリスティーヌ、クリスティーヌ………」

唇を舐めあいながら互いの荒い息を感じ、眸にある情慾と愛情と赦しを確かめあい、
そして……、そして、私が己を彼女の最奥に深く突き入れた瞬間、
「あ、ああっ! ぁぁあああああぁぁぁっっ…………!!!」
クリスティーヌが切なく淫らな啼き声を上げ、ふたたび達した。
私も、弓なりに反った彼女の腰を抱え、艶かしいよがり声を聞きながら、
クリスティーヌへの愛の証を彼女の最も奥深くに解き放つ。
身体の奥深く私の迸りを受けたクリスティーヌが、ひくひくと痙攣しつつさらに私を締めつけ、
私の下腹に押しつけたままの腰を淫らに揺らめかして悦楽の波間を深く深く潜っていく……。
「あ、ああ……、あ、あ…………」
唇を戦慄かせ、喘ぎとも吐息ともつかないうわ言のような声を上げながら、
深い愉悦の水底をたゆたっている彼女のなかで、私も彼女と共に深い絶頂を味わった。