男装少女萌え【6】

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302塔に柊 22:2005/12/18(日) 14:56:58 ID:NzwDk+OM

だが、この決意は彼女が彼に望むことだろうか。それはジェイラス・ダジュール一人の義憤に過ぎないのではないか。
ジェイラスの、マントに包まれた肩が下がった。
彼は視線を水面に向けた。
枝の隙間の、彼の目と同じ色の空から薄片が舞い降りて、波紋も残さず溶けていった。




ジャックは、天井からあやしげな匂いのする束が滝のようにぶらさがっている部屋で老婆と向かい合っていた。
同行した副官のクレドーは首尾良く任務を果たしたあと、一足先に野営地に戻っている。

「わしは弟子にとると言った覚えはない。この娘と……うんにゃ」
ジャックの視線に口を噤んで老婆は咳払いした。
「この子ときたらゆんべから、目に付いた順に薬草の名前と効きめを知りたがるだろ。面倒くさいんでつい口が滑っただけだよ」
ジャックは小屋の暖炉の脇で夢中になって薬草をよりわけているミシェルを眺めた。
短い髪が上気した顔を彩っている。炎のせいではなく興奮のためらしい。
「面白いのかい、ミシェル?」
ジャックは婆さんが押し出した白湯を啜りながら尋ねてみた。今日は特別に高価な粉砂糖も握らせてやったので婆さんの機嫌は悪くないらしい。
「面白いです」
ミシェルは満足そうにきれいにわけた薬草の束を眺めた。
「アディールさんは本当に物知りなんです。納屋に干してある束も、きちんとわけたら、もっといろいろ教えてくださるそうです」
唐突に出てきた美しげな響きにジャックはきょとんとした。
「誰だ、そのアディールさんというのは」
老婆がじろりとジャックを見た。
「わしさ。悪かったね」
彼の握っていた素焼きのカップを奪い取ると、老婆はつんとして小さな洗い場に消えていった。

ジャックは身をかがめてミシェルに囁いた。
「本当に弟子入りする気かい。あの婆さん、お前さんを使ってこの家のゴミを全部片づけさせる気だぞ」
「はい。それにゴミなんかじゃありません、薬草です」
「俺にはゴミに見えるね」
ジャックは疑わしげに、天井ばかりか柱から壁まで覆っている乾燥物を眺めた。
ミシェルは分けた薬草に目を走らせた。
「えーと……発熱…寒気のする時。血が足りない時にはこれはあまり服んではだめ……」
「なあ、ミシェル」
ジャックは童顔を心配そうに傾けた。
「お前さん、このまんまこの村に居着く気かい」
「……私、行くところもありませんし」
ミシェルは顔をあげた。少年のような髪と衣裳の彼女は真剣な目をしていた。
「助けていただいたからといって、そのままお世話になるわけにはいきません。寝ている間、身の振り方を考えていたの」
「にしても、せめてもう少しくらい…」
ジャックは肩をすぼめた。
「ちょうどお役にも立てるんです。願ってもない機会だわ。それに…」
きっぱりとミシェルは言った。少々大きめの毛織物の上衣に覆われた腹に目を向けた。ベルトはゆるやかに締めてあった。
「…お産も見るってアディールさんが約束してくださったの」
クレドーとジャックが崖で作業をしている間にこの家では着々と話が進行していたらしい。
「そうかね。…あー……その…」
良かった、と言うべきか。
本来ならそう言うものなのであろうがミシェルの場合どこまで気持が整理されているものだか、ジャックには想像が難しかった。言えない記憶もあった。
彼はカップがなくなって手持ち無沙汰になった指を机の上で組み合わせた。
「……ミシェルは偉いなぁ」
思っていたことがそのまま口から出てしまった。耳にしたミシェルが急いで首を振っている。真っ赤になっていた。
「えらくなんか、ありません。私……」
また首を振った。
「……ジェイラス様…と、ジャックさん…に助けていただかなかったらきっと……」
言葉が途絶えた。ジャックはミシェルを横目で眺めた。上気した顔を伏せて、ミシェルは肩を竦めた。
「……えらくなんかないです」
ジャックはのんびり首を振った。
「いやいや。いろんな奴がいるからね」
303塔に柊 23:2005/12/18(日) 14:58:01 ID:NzwDk+OM

喋りながら目の裏に浮かぶ母親の顔を見極めようとした。別れたのは随分昔だったから、細かな顔立ちはもう判然としなかった。
彼女は、当時西部の国境を荒し回っていた傭兵の集団に乱暴されて望まぬ息子を産んだ後はいつでも酔っぱらっていた。まれに素面の時にはジャックに恨み言を言った。
父親がどこの誰だか、だからジャックには未だにわからない。
母親は、まだジャックが小さかった頃川に落ちて死んだ。いつものように酔っていた。仕方なく引き取った祖父は、娘を不幸にした獣の息子には母以上に冷たかった。
少しでも楽しく生きるには悪い仕事と仲間のほうがジャックにはやさしかった。そのままだったらたぶん見知らぬ父親のようなろくでなしになっていたはずだ。
強盗に失敗し、仲間に見捨てられ、袋だたきにされた半死半生の姿で道ばたに転がって、どうもろくでもない人生だと考えているところを拾われた。
拾ったのはジェイラス・ダジュールだった。

「…いつかね。その、お産は」
「春の終わりごろだそうです」
「あー……そうか」
短い沈黙が降りた。
「あら、ジャックさんのカップはどこに行ったんですか?お茶、淹れますね」
さっと立ち上がるミシェルの表情が一途な親身さに溢れているのを、ジャックはくすぐったいような気分で見た。
(そういえば、あの時のご主人様もこのくらいの年頃だったかなぁ)

──立ち上がれるか、とジェイラスは訊いた。
──がんばれ。
腕や肋が何カ所も折れている事はわかっていたが、相手の真剣な目と口ぶりに、なけなしの気力を振り絞って立った。
あの時のジェイラスはやっぱり一途な目をしていた。ジャックが生まれて初めて見る系統の目つきだった。

「ジャックさん?」
ぼんやりしたらしい。
我に戻ると、ミシェルが不審そうに湯気のたつ新しいカップを差し出しているところだった。
老婆アディールも、いつの間にか暖炉の傍の椅子に戻って居眠りをはじめている。
「どうしたんですか」
「いや…」
ジャックは掌で顎を撫でた。
「お前さんを見てて、昔、初めてお会いした時のジェイラス様を思い出してたんだ。似てるのかな」
「昔のジェイラス様…?」
ミシェルは顔を傾けて興味を示したが、ジャックは急いで手を振った。
「──いやいや、別にたいした話じゃない」
「そうですか」
少しふくれて、ミシェルは床に戻った。



ジャックが戻ってきた時、彼の主人は天幕にいた。
疲れたような横顔でなぜか燭台を弄っている。マルメロとジッドが構ってもらいたげに周囲をうろうろしているが目を向けてもらえないようだ。
赤毛の生え際にはちらほらと白くなったものが見え隠れし、額には考え事をしている時の癖皺が現れている。

……苦労してなさるせいか、歳を取んなすったなぁ。

ジャックは思った。
ミシェルを見てきたばかりだからそう思うのかもしれない。とはいうものの彼の主人はジャックよりかなり年下なのだが。
「遅かったな」
じろりと灰色の目で睨まれた。ご機嫌斜めだ。ジャックは急いで垂れ布を落とした。
「ただいま戻りました」
「一体、どうなっているんだ」
「うまくいきました。クレドー様の弓矢の腕は大したもので」
ジェイラスはむっつりと首を振った。
「クレドーがさっき自慢にきたから首尾は知っている。そうではなく…」
「クレール・ダンジェスト様ですか。無事食糧をお届けできましたよ」
「そうか。で……」
「ご安心ください。シラー閣下様の小姓の派手な衣裳は村では見かけませんでした」
ジェイラスは音をたてて燭台を置いた。
「ジャック…。お前はあれか、わざとミシェルの話を避けてでもいるのか」
304塔に柊 24:2005/12/18(日) 14:59:20 ID:NzwDk+OM
ジャックは呆れて主人を眺めた。
「ご主人様の一番心配してらっしゃるのがその件だとは思わなかったんですよ。元気ですよ。それがなにか」
童顔の凝視にジェイラスは気色悪げな顔になった。
「…お前は心配じゃないのか?あれだけ集中的になつかれていたくせに。ミシェルの様子はどうだった。落ち込んだりはしていないのか?」
「ミシェルは見た目はぴんぴんしてますよ。麗しのアディールの言ってた通り、もともと丈夫なたちみたいですな」
「見た目?どういう意味だ」
『麗しのアディール』の謎にジェイラスは食いつかなかった。ジャックは残念に思った。
「あの婆さんに弟子入りして修行するつもりらしいです」
「弟子入りだと。婆さんは了解したのか」
「そのようです。ミシェルはやる気ですよ。春には婆さんの介添えで子を産むとか」

ジェイラスがびくりとした。

「………」
「えー……余計な事かもしれませんが」
ジャックは主人の顔から視線を逸らし、小さな声で言い添えた。
「ミシェルは、あのままで大丈夫でしょうか」
ジェイラスは肩をいからせたが黙っていた。ジャックはおそるおそる続けた。
「なんとかやっていくんでしょうか」
ジェイラスは燭台に視線を向けた。
「………自分が決めたのだ。好きにさせてやれ」
「私は心配です」
ジャックは呟いた。童顔にはめこまれた黒い目が年齢相応の陰を帯びた。
「いくらしっかりしているようでもあの娘は一人です。負けてしまうかもしれません。覚悟はどこまで続くでしょうか」
「…………」
ジェイラスは従者を眺めた。灰色の目がかすかな光を放った。ジャックは視線を伏せた。
「私の母親がそうでしたからね」
「もういい、ジャック」
ジェイラスは影のように立ち上がると入り口に向かった。
マルメロとジッドが主人の背とジャックの顔を見比べた。

どこへ行くと、今回従者は尋ねなかった。



三日が過ぎた。
グラン・ルシと王の使いの姿は未だ現れず、包囲軍は相変わらず積極的な作戦を検討しないまま城の包囲を続けている。
城主の現況とジェイラスの推理を聞かされたアルチュールは案の定張り切って、『閣下』の野望を転覆させるべく模範的な部下役を続けることを約束した。
そういうわけで二人の連隊長は息を潜めてシラーの動向を監視し、籠の食糧に文を入れ、ミシェルを通じて幽閉中の財務官とも連絡を取り合った。
クレール・ダンジェストは籠の中身とともに希望と勇気を取り戻し、「見張りに怪しまれぬよう、いつも弱った振りをしている。なかなか上手くなった」などと茶目っ気を窺わせる手紙をよこしてきた。

「それはいい。財務官殿はやはり頭の切れるお人らしいな」
『定例会議』の後、ジェイラスの天幕を単身訪ねてきたアルチュール・ゴラール連隊長が言った。
「このごろ『閣下』は機嫌が悪いと思わないか、ジェイラス」
「財務官がなかなか死なないので退屈してきたのだろう」
ジェイラスは辛辣に言った。
「華の都は遠く離れ、女もいない。見るものといえばお前や私の仏頂面にむさ苦しい兵士たち、こんな田舎の冬景色だからな」
「そっくりそのまま、奴に言い返してやりたいな」
アルチュールは唇をめくって唸った。
温厚な男だと思っていたが、ここに来てから──いや、正確にいえばシラーの部下にされてからというもの、アルチュールの物腰が変わった。
事あるごとに、ことさらに、より『成り上がりの連隊長』らしい態度を選択するようになった。シラーへのいやがらせかもしれない。
いや、シラーとつきあっているとついついそうしたくなる、というだけのことかもしれない。自覚があるのでジェイラスには何とも言えぬ。
305塔に柊 25:2005/12/18(日) 14:59:49 ID:NzwDk+OM
「グラン・ルシはまだ戻ってこないのか?」
「見張りからはまだ連絡が来ない。そうだな、クレドー」
傍らに控えていた堅物の石頭が頷いた。
「はい。…あの、ジェイラス様。実はさきほど、いつも卵を届けてくる農夫が村から私宛の伝言をもって来ました、ミシェルからです」
ジェイラスはさっと頭を巡らせた。クレドーは思わず一歩身を退いた。
「伝言?」
「はい。ミシェルは字が書けるのですな。たいしたものです。このごろミシェルは婆さんから毒草の集中講義を受けていて、それで心づいたらしいのですが……」
アルチュールが怒鳴った。
「余計な事はいいからさっさと教えんか」

ジェイラスは表情を変えずに膝の上で密かに拳を抑えた。クレドーは急いで懐から紙のようなものを取り出した。薬を小分けにするのに使う、木の皮を薄く削って整えた経木だ。
「は。……で、ミシェルが心配しているのは、財務官殿は毒殺されるかもしれないという事だそうです」
「毒殺?」
殴られるところだったとはつゆ知らず、アルチュールがまた唸った。
「だが食事を届けているのはそのミシェルなにがしだろう?」
「そうか…」
考え込んでいたジェイラスは目をあげた。
「クレール・ダンジェストがなかなか死なないと、幽閉側がしびれをきらして、水になにか混ぜるかもしれないということだな」
クレドーは頷いた。
「ミシェルは、あるいは食事を再開するかもしれないと書いております。味やにおいがごまかしやすいからと。種類によっては、怪しまれずに弱らせていくものもあるそうで」
「いかにも『閣下』の好きそうな、安全確実で嫌らしいやり方だな」
アルチュールは腕を組み、貧乏揺すりを始めた。
「だが、頭のきれる財務官殿がそんなもの食べるわけがなかろう。杞憂だ」
「いや、アルチュール」
ジェイラスは考えながら言った。
「頭がきれるからこそ、怪しまれぬようわざと牢番の前で口にするかもしれない。演技にも目覚めておられることだしな。そこまで考えていなかった。早速ミシェルに、私からの財務官への伝言を送れ」
「はい」
クレドーはかしこまった。
アルチュールは少し感心したようだった。
「そのミシェルなにがし、なかなかの男らしいな」
ジェイラスは微笑した。ミシェルを女だと知ったらアルチュールもクレドーもさぞかし驚く事だろう。
「私もそう思う」



自分の野営地に戻るアルチュールを出入り口まで見送り、戻ってきた副官は連隊長の天幕の前でジャックにがっちりと袖を掴まれた。
「なんだ、ジャック。私はジェイラス様に就寝前のご報告があるのだ」
「あの、クレドー様。ミシェルは元気でしたかね。私はわけあってあまり様子を見にいけないのです」
「伝言だけでそんな事わかるものか。放せ」

ジャックの指をふりほどき、天幕に入ると連隊長の声が迎えた。
「ご苦労。で、クレドー、ミシェルの伝言を持っていたな。私にそれを寄越せ」
「………」
クレドーは懐からはかなげな木の皮を取り出して上官に提出した。ジェイラスは字面に目を走らせると裏返して、ほかには何も書いてないことを確認した。
「……クレドー」
連隊長ががっかりした様子なのにクレドーは気付いた。
「で、この他にはなにか伝言はなかったか。……その、私にではなくとも、ジャックにとか」
連隊長の、目もとのあたりが赤く見えるのは気のせいか。
己の目を疑いつつクレドーは口を開いた。
「特にありませんでした」
「そうか……」
ジェイラスは首をかすかに振り、小声で尋ねた。
「…なにも?」
「はい、それだけです」
きっぱりと言うと、その口調に傷ついたように…傷ついた?連隊長が?……ジェイラスは投げやりに言った。
「わかった。もう下がって休むといい」
306塔に柊 26:2005/12/18(日) 15:00:49 ID:NzwDk+OM

首をひねりながら垂れ布をくぐると、まだジャックが張り付いていた。
「クレドー様。それで、ミシェルは他には伝言を寄越しませんでしたか?アディール婆さんはあの子をこき使ってやしませんかね」
うんざりした副官とまとわりつく従者との言い争いに耳を傾けながら、ジェイラスはマルメロの頭を掻いていた。
ジッドが、自分も掻いてもらおうとしてマルメロを押しのけようとする。マルメロが怒って小さく唸った。
「こら、喧嘩をするな」

(…こいつらも運動不足だな)

ジェイラスはそう思った。
野営地が広く中を駆け回れるといっても、猟犬の血筋のマルメロもジッドも体力は有り余っているはずだ。
「……外に行くか?」
声をかけるとどちらも耳をそばだて、そわそわと頭を高く持ち上げた。尾が元気よく床に打ち付けられはじめた。
ジェイラスは立ち上がった。素早く剣をつけマントを羽織った。
「よし。行こう」
天幕を出ると少し離れたしょぼくれた木の下で、副官がジャックに質問責めにあっていた。めざとく主人の姿を見つけたジャックが叫んだ。
「ジェイラス様、どちらへ?」
「こいつらの散歩だ」
「それでしたら私が…」
最後まで聞かず、ジェイラスはマルメロとジッドの後を追い、マントを翻らせて駆けだした。
引き離すなら今のうちである。ジャックは中年のくせにああみえて意外と足が速いのだ。
………クレドーにはあとでそれとなく埋め合わせをしてやろう。



「今夜は特に冷えるみたいだし、早く寝ちまいな」
アディール婆さんは頭巾とショールをかぶった上にマントをきつく巻き付けた完全防備の姿で、道具や薬草の入った籠を手にし、戸口に立った。
「このまま朝まで戻れないと決まってるのさ。ペリョのおかみさんは毎回長引くから。火の始末には気をつけるんだよ」
ミシェルは頷いた。彼女の師匠は村の反対側の農家まで赤ん坊をとりあげに行くのだ。
遠ざかるアディールに手を振って家に戻ると、ミシェルは老婆が早めの腹ごしらえをしたスープとゆで鳥の残りで夕食を済ませた。
皿を片づけ、暖炉の脇の小机によりわけておいた薬草の束を床にひろげた。覚えたいことは山のようにある。
「吐き気止め……ええと、この花と葉は……」
ミシェルは、もとは白や桃や紫色なのだと老婆が教えた、今は黒っぽく見える乾燥花を指先に拾った。
「そう。胸が苦しいとき…で、こっちは」

どのくらい熱中していただろう。
ふと手を止め、彼女はさっと頭をあげた。
遠くで物音がしたような気がした。しばらく耳を澄ませ、ミシェルは急いで立ち上がった。
まだ早いがもう戸締まりをしておこう。村の中ではあるけれどこの家の周囲は林に区切られているから用心に越した事はない。
立ち上がるとミシェルは床の薬草を避ける暇も惜しんでまっすぐに扉に向かった。
戸締まり──と思うと歯止めが効かなくなった。どこかに消えたと思っていたどす黒い不安が頭を擡げ、周囲を見回しているのがわかった。
どうして今の今まで忘れていたのだろう。忘れることができたのだろう。
ミシェルは必死で扉に辿り着いた。狭い部屋なのに、暖炉からそこまで沼の中を進んでいるようにもどかしかった。
指が震えている。その指に力を込めて無理矢理閂をかけようと──途端に扉が叩かれた。
ミシェルは悲鳴をあげ、閂にしがみついた。

いや。
いや。
いやだ、『あいつら』が入ってくる。

軋む扉が内側に勢いよく押し開けられ、ミシェルははねとばされるようにしてよろけ、後ずさった。
冷たい風に雪が混じり、暖炉まで薬草を吹き散らしながらどっと吹き込んできた。
「なにをしている」
「すぐに開けないか」
二人の派手な緑色のお仕着せをつけた従者たちが威丈高に怒鳴りつけた。ミシェルは目を見開きながらその胸についた紋章を見た。赤い木に落ちかかる稲妻──。
従者たちを押しのけて、尊大な口ひげをつけた小男が現れた。
「おやおや。なんというむさくるしい小屋だ」
シラー男爵だった。
307塔に柊 27:2005/12/18(日) 15:01:53 ID:NzwDk+OM



シラーはうさんくさげに、直線という直線が薬草に覆われた部屋を見回した。
火に飛んだ葉や花がくすぶって、一種異様な臭いが漂いはじめている。
「臭い。さっさと用事を済ませよう」
従者の一方がミシェルに進み出た。
「あのまじないの婆さんはどうした?いないのか」
ミシェルは呆然と突っ立ったままだった。なぜジェイラスの上官がこんな場所に現れたのか、その理由が掴めなかった。
なによりも心臓が波打ち、さっき一瞬甦りかけた恐ろしい記憶に怯えていた。

ミシェルと妹のコレットと父が住んでいた小さな家は村の外れに近かったから最後に襲われた。
あの時も夜だった。夏の終わりで、戸締まりに気をつかっていなかった。村の誰もが日中の労働で泥人形のように眠りこんでいた。

「婆さんはいないのか?お前は口がきけないのか?答えぬと…」
従者の、苛立ちをのせた詰問をシラーはおさえた。
「誰でもいい。用事が済めばな。おい、小僧」
口ひげが蠢いて、シラーはひどく卑しい目をした。
「よく効く薬をよこせ。邪魔者の命を、後々知られぬように奪えるような」
ミシェルの理性が火花を散らした。要求とその具体的な内容が即座に結びついた。
ジェイラスに知らせた通りに──ミシェルが予測した通りに、クレール・ダンジェストの命に危険が迫りつつある。
だがミシェルは動けなかった。遠く感じる理性とは別に、かすかに震えながら、ミシェルの心は数ヶ月前の悪夢の中を彷徨っていた。

扉を叩く音がして──何事かとミシェルがあけると押し入って来た男に手首を掴まれた。外に引きずり出されて殴られた。
数瞬気が遠くなり、気付くとミシェルの上に男がのしかかっていた。抵抗すると容赦なく殴られ、また気を失った。
誰かが叫んでいた。その声で目覚めると、げらげらと笑いながら誰かが火になぶられた家の中に妹を投げ込んだ。
コレットはまだ十歳にもなっていなかったのに。

「シラー様にお答えせぬか、小僧が!」
従者がミシェルの膝を蹴った。ミシェルはよろけて床に座り込んだ。緑色の目は開ききり、顔色が吹き込む雪のようになっている。
「聞こえてはおらぬか、それとも頭が変なのではないか?」
シラーは顔をしかめて従者に顎をしゃくった。
「それはそれで始末が楽で良いがな。…毒物ならそれなりに保管してあるはずだ。家捜ししろ」
従者の一人は床に這いつくばり、もう一人は暖炉の傍の小机の抽出をかたっぱしから落とし始めた。
シラーは退屈そうに傍らの椅子に座り、持っていた杖の先で床のミシェルの肩を強く小突いた。
ミシェルはがくりとのけぞり、絶叫した。

コレットの影が火の中で崩れ落ちても男は離れようとしなかった。一人が起き上がると別の男がすぐにミシェルをおさえつけた。
誰かが泣いていた。叫んでいた。娘を放せ。ミシェルを。やめてくれ、やめて──逃げて、とミシェルは祈った。とうさんだけでも逃げて。
腹から下が麻痺していて何もわからなかった。
自由になるのは目だけで、その目でミシェルが見たのは、顔中を腫らし、首に縄をつけられた父と、その縄の先を繋がれた馬が鞭で殴られるところだった。

「な、なんだこいつ」
「男のくせになんて声を出すんだ」
従者たちが仰天して飛び上がった。シラーも驚いたようにまじまじと床の貧弱な小僧を眺めた。
「待て」
黙らせようとミシェルに飛びついた従者たちをシラーは怒鳴りつけた。退いた彼らの間にしゃがみこみ、一声叫んだあとは身を揉んで低く呻き続けているミシェルを観察した。
その視線が細まり、シラーは杖の先を持ち上げた。胸を突くと、ミシェルはまた小さく叫んで縮こまった。
口ひげの下の唇が薄く伸び、シラーはにんまりと笑った。
「ほう。ほうほう。……これは驚いた、やせてはおるがこの感触。しかもよく見ればそう悪くもない顔立ちだ。これは面白い」
「…女、でございますか。しかし、男のような格好ですぞ、ご主人様」
従者たちは驚きとあきらめの目を見交わした。シラーは立ち上がり、杖を投げ捨てた。
「そんな事はどうでもいいわ。お前達、汚い納屋が見えただろう。あちらをしばらく探しておれ──ゆっくりな」
主人の病的な女好きに馴れきっているらしい従者たちは急いで小さな流し台傍の戸口を潜って姿を消した。
308塔に柊 28:2005/12/18(日) 15:03:19 ID:NzwDk+OM
「あまりに退屈なのでついてきたが、正解だったの。ふわはははは」
シラーは高笑いし、ミシェルの胸ぐらを捕まえて引き寄せた。虚ろな目にちょっと顔を顰めたが、手はとめなかった。
ミシェルの上着の合わせ目をむしるように引っ張りながら、シラーは彼女がぶつぶつ呟いている声に気付いた。
「……さん……とうさん………逃げて……やめ……」
「何を言っておるのだ。うるさい、黙らんか!」
シラーは怒鳴りつけ──はっと後ろを振り向いた。
強い風が吹き込み、きちんと閉じていない扉が雪を散らせながら勢いよく開いた。
さえない中年男が立っていた。
怒りに青ざめた童顔に、いつもは埋まりがちの黒っぽい目が飛び出すように見開かれていた。

「──ミシェル!」
ジャックは叫んで部屋に飛び込んだ。シラーの手からやせた躯を奪い取って揺さぶった。
「ミシェル、大丈夫か、ミシェル!」
ミシェルの、茫洋とした視線と、喉から漏れるぜいぜいという、細い、途切れがちの呼吸音にジャックは半狂乱になった。
「ミシェル!俺だ、ジャックだ!」
「何をするか、無礼者!」
突き飛ばされて床に腹這いになったシラーがわめいた。
「ど、どこかで見た顔だ。たしか、えーとお前は確か、連隊長めの従者ではなかったか?なぜこんな所にいる!」
ジャックはシラーに視線をやりもしなかった。
「ミシェル!ジャック──いや」
ジャックはミシェルの頬を掌で軽く叩いた。
「とうさんだ!とうさんがいるぞ!とうさんは、お前のとうさんは大丈夫だ!」
ミシェルの喉がひゅっと音をたてた。振り絞るように彼女は呼んだ。
「とう──さん」

「そうだ!しっかりしろ!ミシェル!!」
ミシェルの緑色の目に、中身が戻って来た気配を感じたジャックは安堵し、次の瞬間後ろ頭に炸裂した痛覚に一瞬視界が狭まった。
ミシェルを投げ出し、ふりむいたジャックに覆い被さるようにして腹の出た小男が重そうな杖を手にしている。
「この私にどんな無礼を働いたのか、その身で思い知れ!この身の程知らずめが!」
意外な素早さでシラーは手首を翻し、ジャックをめった打ちにし始めた。
「お前は!お前のような者が貴族を突き飛ばすなど、許される振る舞いと思っておるのか!主人が無礼なら従者も無礼だわい。ええい、死ね死ね死ね」
ジャックは目を燃やして起き上がろうとしたが、シラーの叫びに固まった。
「おもしろい、下郎の分際で私に逆らうつもりか。お前の主人めのゆく末に気をつけろよ。私はゆくゆくは常設王軍の元帥にもなる身なのだぞ」



野営地を出たジェイラスと愛犬たちは街道を大回りして森の端を抜け、尾根側のぎりぎりから村に入った。
シラーの尾行がないか確認していたので思ったよりも時間がかかってしまったが、村に入ると小川の向こうに苔むした屋根が見えてきた。
小さな草葺きの納屋のついた古い民家。まじない師の婆さんの住処である。
だがここまで来ておいて、橋に近づくに連れてジェイラスの足取りは鈍り始めた。
小川に木造の小さな橋がかかっている。そこから道は緩やかに曲がって、そこまでいけば家全体が見渡せるはずだった。
「………………」
散歩のついでに様子を見に行くだけなのだ。別にやましい事はないのだ。
マルメロとジッドが亀よりも鈍くなった主人に焦れて先に橋を渡り始めた。…犬が先に行くから、仕方がないのだ。
ジェイラスは迷う足で橋を渡り終え、緩やかな曲がりにさしかかり、立ち止まった。
灰色の目が、村から合流する道にうっすらと積もった雪の上に消えかかる複数の足跡を見つけたからだ。マルメロとジッドが唸りながらうろうろ臭いを嗅いでいる。
ジェイラスの視線は上に流れ、家の扉がわずかに開き、雪まじりの風に揺れているのを見て取った。内側から灯りが漏れていた。
犬たちが吼え、一目散に家に向かって駆けはじめた。
ジェイラスは剣の鞘を後ろに廻し、全速力で後を追った。
309塔に柊 29:2005/12/18(日) 15:05:02 ID:NzwDk+OM



ミシェルは咳き込みながら、震える腕に力を込めた。
「この愚か者が!貴族に手をあげおった罪はその薄汚い血で償うのだ。そら!そら!」
短い風切り音と共に肉がうたれる響きが伝わってくる。縮こまろうとする躯をミシェルは必死に押しとどめた。
とうさん──逃げて──とうさん。
中年男は逃げようとしなかった。しっかりと頭をおさえ、躯を丸めて、シラーの執拗な暴行にただひたすら耐えている。
シラーは指が疲れたのか、杖を投げ捨てた。だがそれでやめたわけではなく、今度はジャックに乗りかかって直接殴り始めた。
ミシェルは、目の前の床に転がった重そうな杖を見た。金のめっきで覆われた石突きに黒く血が跳ねている。手を励まして、その柄を握りしめた。
がくがくと震えながら、ミシェルは杖を頼りに立ち上がった。

泣いたって役に立たない。

ミシェルは目の下で揺れている父親の躯と、その上に乗りかかって殴りつけている男の頭を見下ろした。
とうさんは逃げない。いつまでも逃げない。逃げられないのだ、いくら多勢に無勢でもコレットとミシェルを見殺しにできなかったから。
とうさんの掌はいつもあんなに温かだったのだから。
ミシェルを守ろうとして、それから──ジェイラスを──守ろうとして、ジャックはこの場を動けない。

──二度と大事な人たちを失いたくない。

ミシェルは大きく息を吸い込んだ。信じられないくらい深い息ができた。
「やめて!」
叫んだ。振りかざした杖を、ぎょっとして振り向いた男の額に、思い切り打ち込んだ。
「やめなさい!」
額をおさえた男の手首にもう一度ミシェルは打ち込んだ。
「とうさんにもコレットにも触らせない!ジャックさんにもジェイラス様にも、あんたなんかには触らせない!」
たまらず丸まったシラーの背に、ミシェルは三度目の杖をうち下ろした。
「あんたなんかっ!怖くない!弱い相手にしかなにもできないくせにっ!」
「ミシェル!」
大きな掌がミシェルの手を掴んだ。二疋の犬が吼えながら駆け込んできて、シラーの尻に噛み付いた。
涙を散らせてミシェルが振り仰ぐと、灰色の目が覗き込んでいた。
「シラーがなぜここにいるんだ。それにどうしてお前が──」
そこまで言ってジェイラスは、頭を抱えて丸まっているジャックと、猟犬の鋭い牙でしたたか噛み付かれた痛みに悶絶したシラーと、ミシェルの手の中の見覚えのある杖に気付いた。
「──いや、もう少し殴ってもよかった。ジャック!大丈夫か!?」
「………いててて。ああ、この閣下はとんでもない野郎だ」
ジャックがもぞもぞと動いて顔をあげた。童顔の額にはびっしりと汗を、こめかみには血を浮かべていたが、ミシェルを見ると急いで起き上がった。
腕の中のやせた躯がくたくたと崩れ落ち、ジェイラスは慌てて膝をついた。

「…ジェ…ジェイラス様」
「ミシェル」
ミシェルは緑色の目でジェイラスを見上げた。震えていたが、言葉は明晰だった。
「わたし、私──とうさんを助けました。で、できました。ジェイラス様みたいに」
ジェイラスはその目に涙が盛り上がるのを見て、急いで片手の手袋を噛み抜いた。目尻を指で拭うと、ミシェルは錆び付いたような微笑を漏らした。
ジェイラスはかすかに息を呑んだ。ジャックは別として、彼がミシェルの微笑を見たのはこれが初めてのことだった。
ジャックが這うように近づいて来て、ジェイラスの傍に肘をついた。
「ミシェル、本当に偉かったよ」
その声が聞こえたのか聞こえなかったのか、ミシェルはジェイラスを見上げていた。
「……あの時、躯が重くて、もう死ぬんだと思いました。嫌ではありませんでした。死んでもいいと思っていました」
310塔に柊 30:2005/12/18(日) 15:06:28 ID:NzwDk+OM
うわごとのように囁き続ける。
「ずっとずっと死にたかった。見張られていたからできなかったけど、ずっととうさんや妹のところにいきたかった。あ、あいつらに捨てられた時、これでようやく一人で死ねると思いました」
聞くしかできそうになく、それは彼にとって苦痛以外のなにものでもなかったがジェイラスは黙ってミシェルの涙を拭い続けた。
涙はあとからあとから、言葉と同じに転がり出てくる。
「こんな躯、いらない。あいつらが触った髪も、ドレスもいらない。自分も死んで、こ、この子も死ねば一番いいと思ってました」
ミシェルの指が、ジェイラスの手を握った。
「だからあの池の水に入ろうとしました。池の底は、岸の近くで深くなるから。でも──」
涙で歪んだ目が、緑色を増してジェイラスを見た。
「死ねませんでした。さ、寒くて、冷たくて、勝手に涙が出るんです。し、死にたくなかったんです。本当は、あんな奴らのために死にたくなんかなかったんです。わ、私も、この子も──」
語尾は嗚咽で聞き取れなかった。
「とうさんも──い、妹も─村の、ともだち…………」
「もういい、ミシェル」
ジェイラスは、腕に力を込めてやせた娘を抱きかかえた。今回は水を含んだスカートはなく、軽々と彼は立ち上がった。
マルメロとジッドが足元に駆け寄って来て、ジェイラスは従者に言った。
「立てるか」
「当たり前です」
ジャックは痛みに引き攣った笑いを浮かべた。
「昔ご主人様に助けて頂いたときにゃもっとひどい有様でしたさ」
ジェイラスは頷いた。
「戻るぞ」
ジャックは机に掌をつき、顔を顰めた。視線の先に、破れたズボンの尻から血を流したシラーが転がっている。
「『閣下』はどうします」
「あの者たちがなんとかするだろう」
ジャックは小さな戸口の影から恐る恐るこちらの様子を窺っている四つの目を見つけた。気絶したままの主人を介抱しに駆け寄ってくる気配はない。
童顔の従者は吐き捨てた。
「きっと、気付いて喚き出すまではできるだけ放っておきたいんじゃないですかね」



野営地に戻ってみると、寝ているはずのクレドーと向こうの丘にいるはずの『青猪』連隊長アルチュールが血相変えてジェイラスを探しまわっていた。
「どこにいらっしゃったんですか、ジェイラス様!グラン・ルシが戻りました!」
副官がとびついてきて、腕の中の少年に気付いた。
「…ミシェル?ジェイラス様、この子はどうしたのですか」
「病気だ。ジャックと一緒に、私の天幕に頼む」
クレドーが急いでジャックとミシェルを連れて行くと、ジェイラスは近くにいた別の兵士を呼び止めて手早く村への伝言を命じた。
ミシェルの師匠が留守だったのはおそらく仕事のためだろうが、万が一にも今夜は我が家には戻らないほうがいい。

兵士が復唱して飛び出して行くのと入れ替わりに、アルチュールに伴われてグラン・ルシが現れた。
「ただ今戻りました、連隊長。国王様のお使者をお連れしています」
「よくやった。で、使者はどなただ」
赤ら顔の古参兵はにやっと笑った。
「正真正銘の憲兵隊長殿のご一行です。シラー閣下の天幕にご案内しています。…国王様のご決断の早い事、連隊長の兄上様も、今回私をお目見えさせなさるのにたいしたご苦労はおありではありませんでした」
「憲兵隊長か」
ジェイラスも思わず頬を緩めた。クレールの話が真実ならば──真実だろうが──憲兵隊もこのたびの大掛かりな詐称のネタに使われているのだ。
憲兵隊長が今の時点でどれほど事情を知っているかは判らない。
だが、財務官の証言を得た暁にはきっとシラーをはじめとする関係者に対する訊問は厳しいものになるだろう。
「で、ジェイラス」
アルチュールが割り込んだ。
「あの小男めがどこにもいないのだ。まさか風向きが怪しくなったことを悟って逃げ出したのではなかろうな」
ジェイラスは肩を竦めた。
「村のまじない師の家に行ってみろ。犬に尻を咬まれて泣いている」
311塔に柊 31:2005/12/18(日) 15:07:30 ID:NzwDk+OM
「またまた」
アルチュールは眉をあげた。
「本当だぞ。咬んだのは私の犬だ。マルメロとジッドだ」
ジェイラスのマントの下で、二疋の犬がちぎれるほどに尾を振った。
温厚なはずのアルチュールは不謹慎なほどの大声で笑い出した。
「よくやった。後でこいつらに、『青猪』から干し肉を贈る。牙を消毒してやっておけよ。……わかった、上官殿が現場にいないんじゃ仕方ないな。打ち合わせを始めよう」
ジェイラスは頷いた。国王の使者が来た事を城方に悟られる前に、一刻も早く財務官の身柄を確保しなければならない。
久方ぶりの本気の仕事だ。
自分の天幕をちらりと見て──かがり火に照らされ、雪をまぶしてひっそりと佇むそれを灰色の目で穏やかに見て──ジェイラスは大声で、兵士達にシラーの身柄の確保を命じた。



天幕の布は変わらず高く白い優雅な波を描いて寝台に横たわるミシェルを包んでいた。
ぐっすり眠ったからだけではないようなスッキリとした心地で、彼女は短い茶色の髪に覆われた頭をもたげた。
寝台の傍で樽に座ったまま舟をこいでいるのはジャックだ。あちこち血がこびりついた顔がいたいたしいが、思ったほど腫れてはいない。
ミシェルは視線を巡らせた。ジャックの足元で伏せている二疋の犬が耳をあげてミシェルに視線を合わせた。
「…ジェイラス様は?」
ミシェルはマルメロに囁いた。
「ご主人様はどこにいらっしゃるの?」
マルメロはジッドと相談するように鼻先を触れさせたが、二疋とも尾を軽く振っただけだった。
外は彼女の記憶にないほど賑やか、というより慌ただしげな足音や話し声でざわめいている。この明るさからいくと、おそらく午前中半ばといったあたりだ。

ジェイラスに似た声が近づいてきた。ミシェルは思わず撥ねたままの毛先に手をのばした。
一言二言何事かを命じた後、垂れ布を払いのけてジェイラス本人が入って来た。
「ジェイ──」
言いかけたミシェルに軽く手を振ってみせた。ジャックが眠っていることを思い出し、ミシェルは口を噤んだ。
寝台の脇までくると、ジェイラスは床几を引き寄せて座った。
「気分は?」
心地よく低い小さな声だった。
唐突に、ミシェルはその声を何度も聞いていた事を思い出した。この天幕の中に浮かびあがる度に囁き交わしていた声のひとつ、ジャックの掌と同じく何度も彼女を気遣っていた声だ。
ミシェルは口元をおそるおそる綻ばせた。ジェイラスが灰色の目を促すように細めた。
「──ミシェル?」
ミシェルは視線をジェイラスの目に合わせた。なにか言わねばならず、言いたくもあった事がたくさんあるような気がしたが、何も言えないような気もした。
彼は呟いた。
「無事で良かった」
「…………」
「ジャックも大丈夫だ。マルメロもジッドもがんばった。お前も──良くやったな。その調子だ」
ミシェルは上気した顔を思わず伏せた。
ジャックの気持ちがわかるような気がした。

ジェイラスはいつまでも次の言葉を紡がなかった。天幕の中には外からのざわめきとそれに紛れたジャックのかすかな寝息の音、それと犬たちの尾が床を叩く音だけが響いている。
「──そういえば、財務官殿だが」
ジェイラスが唐突に会話──と呼べるものなら──を再開した。
「救出したぞ。城は落とした、夜明けにな」
ミシェルは問うように緑色の目をジェイラスに向けた。彼は頷いた。
「ご無事だ。しばらく休養すれば、すぐに元通りにおなりだろう」
真面目な口ぶりで付け加えた。
「お前のおかげだな」
ミシェルは急いでかぶりを振った。
「自分を見誤るな、ミシェル。お前には勇気がある。お前は──」
ジェイラスは周囲を見回した。樽の上のジャックを見つけて肩をそびやかした。
「──ジャックに、娘のように大切に思われている。マルメロとジッドにも。こいつらが人の尻を咬んだのは昨夜が初めてだ」
微笑を期待した灰色の目を見返さず、ミシェルは毛布の上に再び面を伏せた。
「…それは、きっと、みんなジェイラス様が好きだから」
今度はジェイラスが黙り込んだ。
ミシェルはかすれそうになる喉をはげました。
「ジェイラス様は、私とこの子に命をくださいました。だから、みんなは私を護ろうとしてくれたんです」
312塔に柊 32:2005/12/18(日) 15:08:29 ID:NzwDk+OM

「……その理由をお前さんは知っているのかい、ミシェル」
従者の声にジェイラスは、娘につられ、伏せ勝ちになっていた顔をはねあげた。
樽に座って目を閉じたままのジャックが呟いた。
「いーや、知らないから出て行ったんだ。一番反対なすったのは誰だね。せっかく行儀よくしつけたマルメロとジッドを閣下の尻にけしかけなすったのは誰だ」
「けしかけたんじゃない」
ジェイラスは唸った。
「それより、寝た振りをするのはミシェルだけかと思っていたのに」
「…みんな似た者同士なんでさ」
ジャックは横着に目を閉じたままにやっとした。
「それよか忘れてなさりますよ、ご主人様」

ジェイラスはむすっとして立ち上がった。
「何の事かわからぬ。忙しいからまた後でな、ミシェ…」
「差し出がましいようですが、ご主人様はどうなんです」
ジェイラスはマントを翻らせて立ち去ろうとしたが、床几に脛をぶつけてよろけた。目の前に滑ってきた床几の足を避けて、ジッドが唸った。
「私と犬たちがミシェルを気に入ってるのはその通りです。ジェイラス様は?──命を助けて男の格好をさせただけでご満足なんですかい」
「だから!」
ジェイラスは怒鳴った。
「勇気があると褒めている。勇気があるのは人間として一番大事なことだ」
ジャックは腕をほどいて樽から立ち上がった。
「その大事な勇気を今、もうちっとだけ振り絞ったらどうですか。だから戦場以外じゃ役立たずとか人様に言われるんです」
「言っているのは主にお前だ」
ミシェルは呆然として主従のやり取りを聞いていた。
その前に自分の主人の肩を押し出して、ジャックは痛そうに口元を歪めつつ犬たちに「さあ、一緒に来な」と呼びかけた。
「一世一代の正念場の邪魔はしちゃなんねえよ。いいですか、ジェイラス様。ちゃんとお言いなさいよ」
「行くなジャック。──何を──どう──言えというのだ」
ジェイラスが小さな声で言った。頬が赤くなっていた。
「後でひどいぞ」
「喜んでお叱りを受けますよ。お言いなすったらね」
ふと、ジャックは寝台の傍らで足をとめた。混乱しているミシェルに、彼は囁いた。
「嫌でなけりゃ、これからも俺たちと一緒にご主人様を護って差し上げないかね。お前さんには充分その資格がある──なにせ」
ジャックは痣のできた童顔をほころばせた。
「今回も、拾って来たのはジェイラス様なんだから」


313塔に柊 33:2005/12/18(日) 15:09:24 ID:NzwDk+OM
***


「──とにかく遠慮のない奴だったがいい従者だった。六年前の秋に流行病で死んだが。そうだ、お前はジャックは覚えているな?」

ジェイラスは目の前の椅子に目を向けた。
椅子に座っていても嵩高い彼の甥──現在の、北部駐屯軍の中心である『塔に柊』連隊長──は青い目を懐かしそうに瞬かせて頷いた。
「覚えております。ですが、私にはいつもよい従者に見えました。館に伺ったおりにはよく犬たちと遊ばせてくれました」
ジェイラスは白い筋の太くなった頭を、肘掛けに置いた手に凭れさせた。
「マルメロもジッドも、生きておればジャックと一緒にお前の祝言に連れていってやるのだが。あれらも、長生きはしたがやはり犬だからな」

「そうですね……で、その……そ、そ、そういうわけでして」
サディアスは居心地悪気に、執務机の上に置かれたミニアチュールに目をやった。
彼の従妹にあたる、叔父の長女が生き生きと描き出されている。

彼の叔父の将軍は笑って、片手をのばすとそれを伏せた。
「いやいや、この件は忘れてくれ。かねてから目をつけていたつもりだったが、お前がとうに婚約しているとは知らなかったのだ。で、いつその相手を紹介してくれる?」
大男の甥は恐縮してかしこまった。
「あ、あ、あの、実はその。予定ではもう少し先のつもりだったのですが、そ、そ、その。この夏までには式をあげようかと」
ジェイラスは眉をあげた。
「それは急なことだな。なにかあったのか」
甥は赤毛の根元まで真っ赤に染めた。
「叔父上に言うのは恥ずかしいのですが、そ、その。こ、こここ………こどもができまして」

ジェイラスの灰色の目がいたずらっぽく見開かれた。
「そう、かしこまらんでもいいだろう。……私も妻に求婚した時には、モリーが腹にいた」
「そ、そうでしたか…」
サディアスが上体を硬直させた。王国中の青少年と彼の憧れの星であるジェイラス・ダジュール将軍の意外な話に仰天したらしい。
「だが、それはよかったな。大事な者と一緒にいると勇気が湧くぞ」
ジェイラスは年齢よりもはるかに滑らかな動作で立ち上がった。
机の上のミニアチュールを懐にしまい込むと、口の中でなにか呟いた。
「……となると……第二候補だな」

叔父の将軍には娘ばかりが五人いる。
長女から末の娘まで揃って叔母によく似て気だてのいい美人揃いだし、なによりジェイラス・ダジュールの娘であるしで、サディアスが辞退したとてすぐに良縁に恵まれそうだ。
だが、叔父の腹づもりでは跡取り娘の婿の第一候補だったらしいことにサディアスは驚いたものの悪い気はしなかった。
実は、美人のモリーはともかく、この叔父と親子になれなかった事だけは正直なところ残念だ。
これもクロードに知られたらむくれられるだろうか。

叔父が窓の外を見ている。晴れた北の空に翻るそれは塔に柊が絡まる意匠の連隊旗だ。
「サディアス、あれはいい旗だろう」
前任者オベルの何代か前の連隊長は叔父だった事を思い出し、サディアスは頷いた。
「はい」
叔父は灰色の目を懐かしそうに細めた。
「…ジャックもあの旗が好きだったよ。私が初めて勇気を振り絞った時の旗だといってな」

きびきびと扉に身を翻した叔父を見送ろうと、サディアスは巨体を揺るがせて椅子から立ち上がった。










おわり
314名無しさん@ピンキー:2005/12/18(日) 15:17:15 ID:rtfjJ+o2
どんな言葉を捧げて良いのかわからないので致し方なくGJ!
なんというか、男が惚れる男を描かれるのが上手いですね。
もちろんミシェルも健気で惚れました。泣きそうになりました。
と思ったらサディアス登場でニヤニヤしてしまいました。
これを糧に卒論頑張りますーノシ
315実験屋:2005/12/18(日) 16:10:25 ID:EnmSysUl
>>ひょこ様
GJです!!!女とばらしてコレからが楽しみですね!!
期待してます!!

>>ナサ様
長編乙でございます!!ミシェルにグッときました。
今年最後の投下と言う事で、来年も楽しみにしております。

右手にヒビが入りまして投下遅れてます。何とか週末には投下できる
ようにします。
316名無しさん@ピンキー:2005/12/18(日) 18:17:31 ID:qVI78wLV
GJっす
317名無しさん@ピンキー:2005/12/18(日) 19:35:20 ID:vopJ7w+Z
GJ!
今回の主人公はこれまでも名前が時々でてきた将軍ですね。
確かに鬱なところもあったけど、読後感はさわやかでした。
良いお年を。
318名無しさん@ピンキー:2005/12/18(日) 21:07:29 ID:dipelRGm
GJ!
クロードはどんな母親になるんだろうか。
319名無しさん@ピンキー:2005/12/18(日) 21:12:34 ID:8Tc44NuM
悲しくて泣き、嬉しくて泣きました。
ミシェル、幸せになったんだな…
なんだか、こっちまで父親の気分になりましたよ。
最後は幸せそうで、本っ当ーに良かった!

あれ、まだ心の汗が流れてる…
320名無しさん@ピンキー:2005/12/19(月) 01:54:50 ID:HBnLbYvT
ナサ神様あいやー、いいもん読ませていただきました。

314さんの後追いですが、ナサ神様の書かれる男どもが好きです。
ジャックもアルチュールも財務官も、いい男だ。
肝心のジェイラスも、サディアスと血縁ってことは
似た外見なんだろうかと、余計なこと考えちまったけどやっぱりいい奴だ。
犬も麗しのアディールもいい奴だ。実を言うと『閣下』も好きだw

ミシェル、某スレでイヴァンの姉ちゃん付き女官が同じ名前だったので
そっちに就職の世話させられて、少々寂しげendかと覚悟決めていたのですが
良かった良かった。

さーて、あとはクリスマス投下のあの男装少女だな。
321狂介と有紀:2005/12/20(火) 23:38:16 ID:YmN/sH1s
【クリスマス前に投下します】

なんだって隊にギャラの地域振興券を渡し終え、平常心を取り戻した狂介。
「ま、まぁいいや。『めくるめく夜』差し上げましょう。」
狂介は有紀をそっと抱き寄せた。
「今日はちょっとした小道具があるんだ。」
狂介はそう言うと上着からある物を取り出した。
「何なのソレ?」
「生クリームの残り。」
チューブに入った生クリームを口に含む狂介。
「んぐ、んぅ、うぅーー!!」
有紀に口づけてお互いの口腔でクリームを溶かしあう。
「うぅぅ・・んぅぅ、ん!!・・・ううぅぅ・・・」
始めは驚いていた有紀も狂介とのキスに積極的になっていく。
「あっ・・・んっ・・・」
余韻に浸っていたその時、狂介の口が有紀から離れた。
「甘ーーーーーーい!!」
どこぞの井戸田と小沢のコンビネタのごとく叫ぶ狂介。
「甘い、甘すぎるよ。曙のトレーニング位甘すぎる!!」
「あの・・・狂介?」
有紀が首をかしげながら聞いてくる。
「か、可愛い(鼻血)!! じゃなかった、なんだい?」
「そのクリームって・・?」

「あぁ、実は・・・」

322狂介と有紀:2005/12/20(火) 23:39:04 ID:YmN/sH1s

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

さかのぼる事、前日。

狂介がプレゼント探しの為にデパートに来ていた時、狂介の目には
ある家電製品が留まっていた。
「テレビ・・・・」
何気なくテレビを見ていたがそのときに放送していた番組に目がいった。
「これまた再放送してるんだ。」
その番組は、『妻を亡くした男性が3人の子供を育てる為に義理の弟とその友人が同居する』
という別にタイトルを挙げなくても腐るほど再放送してるんだから一切説明しなくてもいいよね
っていう感じの海外ドラマだった。(ちなみにフル●ウスです。)
そのドラマで・・・
「あんなにデカイアイスクリーム売ってるんだ、アメリカって。」
出演者がバケツサイズのアイスクリーム食べている光景に驚く狂介。
「トッピングもあんなに・・・ん?」
狂介はトッピングに目を見やった。チョコチップやフルーツソースなら納得がいくがその他に・・
「あれ、クリームなのか?」
そのシーンではトッピングの最後にスプレー缶に入った俗に言う『エアゾール・ホイップ』を
アイスにかけていた。

「・・・・・・・・・・・これだ!!」

何のことはない、狂介はただ『生クリームプレイ』がしたかっただけだったのだ!!

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
323狂介と有紀:2005/12/20(火) 23:40:16 ID:YmN/sH1s
「ってな訳でして・・・。」
「じゃあケーキはおまけだったの?」
「まぁ、クリーム使うならお菓子でも。って思ったんで・・・」
「ちょっとガッカリかも・・・」
結局は肉欲系だったというオチに落胆する有紀。
「い、いや待てって!!だからってケーキは手ぇ抜いて作った訳じゃないぞ。全身全霊かけて作りました。」
「狂介・・・」
「でも結局ソッチ関係だもんな・・・悪かった。」
土下座して誤る狂介。
「そんなことないよ。僕の方こそ今のはワガママだったよね・・・ゴメンなさい。」
有紀の目に涙が溜まっていく。
「イヤイヤ、いいんだよ。有紀は今日の主役なんだから、ワガママ言ってくれよ。」
狂介は指の甲で有紀の涙をぬぐった。
「・・・・」
しかし有紀の顔はうかないままだった。
「どうしたんだ有紀?」
「・・・なんで狂介はそんなに優しくしてくれるの?」
「ん?」
「僕・・いつもワガママ言ってるのに・・・狂介は僕の事嫌いにならないの?」
「有紀は俺に嫌いになってほしいのか?」
「違う!! 狂介に嫌われたら僕・・・ぼ・・く・・ふぇ・・」
「ゴ、ゴメン!!言い方が悪かったよ。」
狂介は有紀を優しく抱きしめた。
324狂介と有紀:2005/12/20(火) 23:42:19 ID:YmN/sH1s
「ひっく・・・ひっく・・・」
抱きしめられて徐々に有紀の嗚咽が静まっていく。
「(・・・自惚れても・・・・いいのかな?)」
有紀にとって自分がどれだけ大きい存在か実感する。
「有紀。」
「ひゃ!!」
狂介は有紀の頬に流れる涙を舐め取った。
「俺は有紀が大好きだ。だから、有紀が望む事はなんだってしてあげたいと思う。
 ワガママだって、無理な事だって大歓迎だよ。それに、有紀が言ったことで
 ワガママとか思ったこと一度も無いよ俺は。」
「狂介・・・」
「むしろ、もっとあれこれ俺の事使ってもいいよ。」
「そんなことしないよ。 それに・・・」
「それに?」
「僕だって狂介の望む事は何だってしたいんだから。」
「有紀・・・・」
狂介はそう言われて口元が綻ぶのが抑え切れなかった。
「ありがとな有紀。」
「狂介・・ん。」
次の瞬間、有紀の唇は狂介に奪われていた。
「『めくるめく夜』だったよな?」
「うん。」
「じゃあ俺も・・・楽しませてもらうからな。」
そうして二人はベッドへとなだれ込んだ。
325狂介と有紀:2005/12/20(火) 23:43:58 ID:YmN/sH1s
狂介は有紀の着ていたパーカーをすっぽりと脱がせた。
「あっ・・やぁ・・」
衣擦れが痛かったのか有紀は可愛らしい声をあげた。
「・・痛かった?」
「ううん、ちょっとくすぐったかったの。」
顔を赤く染めてサラシに隠された胸を覆う有紀。
「はい、手を退けて下さい。」
有紀の抵抗も虚しく上下に掻き分けられたサラシの間から有紀の乳房が露出した。
「あぁぁ・・・」
「それでは・・・」
狂介は有紀を後ろから抱きすくめ、左の膨らみを左手で包んだ。
「有紀の胸はスッゲェ柔らかいな。」
「ホント?」
「あぁ、スベスベしてて気持ちよくて、最高。」
「嬉しい・・・じゃあもっと好きにしていいよ。」
お許しが出たので狂介は左の胸はそのままに右の胸にしゃぶりついた。
「やっ・・はぁぁ、んぅ・・・あぁ!!」
胸に狂介の舌が這い回る感触に有紀は思わず震える声を出した。
「こっちも。」
包まれたままの左胸にも狂介は愛撫を開始した。すくい上げる様に持ち上げ、
指先で乳首を摘む。
「んぅぅ・・はぁぁん!!」
両方の胸にまったく違う刺激を受け有紀は狂介に翻弄された。
「コレ使うよ。」
「え? あぁぁん!!」
いきなり有紀はベッドに横にされた。視線の先には狂介がクリームを
手に持って満面の笑顔で佇んでいた。
「アート、アート。 ルンルン♪」
狂介はクリームを有紀の両胸に螺旋を描くように塗り付けた。
326狂介と有紀:2005/12/20(火) 23:45:11 ID:YmN/sH1s
「これは・・・芸術だ!!!」
満遍なく塗られたクリームは有紀の胸を覆いつくし白いブラの様に
胸を彩った。
「もぉ・・やだぁこんなの・・・」
「クリームも使い切ったし・・・さて」

        「いただきマンモス!!」

改めて狂介が有紀の胸にむしゃぶりついた。
「ひゃう・・ふぁぁぁぁ・・・」
狂介の舌に引き伸ばされたクリームが有紀の身体に次々と行き届いていく。
その過程でズボンも取り払われてしまい、お腹、脇腹、遂には秘所まで隅々舐めつくされた。
「んぅ・・やりすぎだよぉ・・んっ!!」
有紀の訴えはクリームを口に含んだ狂介のキスで閉ざされた。
「はぅむ・・んぅぅ・・」
クリームの甘さが口いっぱいに広がる。それに加えて口腔に侵入した狂介の舌が
口の中全体を這いずり回り、吸い立てた。
何度も吸い立てられる内に有紀は身体中を火照らせる。そしてフッと力の抜けた
身体を狂介に委ねた。
「今の有紀も新鮮味があっていいな。」
テラテラと光る有紀の身体を見渡し狂介はある種の達成感に満たされていた。
「あとでベトベトになっちゃう・・」
「あとはあと、今は今。」
狂介は有紀の心配をよそに有紀を抱きよせる。
「あっ、ダメだよ。狂介までベトベトに・・・」
「俺もベトベトになりたいのだ!!」
ルパン三世の様に一瞬で服を脱ぎ去ると狂介は有紀を抱きしめた。
「ん〜いい香りだ。」
「クリームのせいだよ。」
「イヤイヤ、有紀だって負けず劣らず甘くていい香りがするんだよ。」
「・・・バカ。 はぅ!!」
狂介は有紀のうなじをペロリと舐め、警戒が手薄になった有紀の下半身に狙いを定めた。
327狂介と有紀:2005/12/20(火) 23:46:05 ID:YmN/sH1s
「やぁぁ!!」
秘所に伸ばされた狂介の手に驚く有紀。
「きょ、狂介。ソコは・・・ひゃぁぁ!!」
いきなり秘所を触られた有紀は身体を硬直させた。
「スマン、怖かったか?」
「大丈夫、ビックリしただけ・・・お願い続けて。」
そう言われ狂介は秘所への愛撫を再開した。先に軽く舐めていたので有紀のソコは
触れただけで蜜を流し始めてた。
「ん!! あぁぁ、ふぁ!!」
捏ねる度に有紀は腰を震わせて感じた。そして、腰からは徐々に力が抜け落ち
後ろで狂介が支えなければ、そのまま倒れてしまいそうにまでなってしまう。
「ひぃ、はぁぁ!!」
有紀の身体が引きつり、膣に侵入していた指が締めつけられた。
軽く絶頂を迎えたようだ。
「大丈夫か?」
大きく息をつきながら喘ぐ有紀に問いかける。
その時、
「うぉ!!」
狂介は下半身に危機的な感触を感じた。
「オ、オイ有紀・・・」
「これ・・・早くキて・・・お願い。」
有紀はあろう事か狂介の肉棒を掴み扱き立てていた。
「くっ・・わ、分ったからまずは離してくれ・・・」
ここまでの有紀への攻めで狂介自身も充分に昂っていたのだ。これ以上、有紀に
男の急所を扱かれてはあっという間に果ててしまう。
328狂介と有紀:2005/12/20(火) 23:47:31 ID:YmN/sH1s
そのまま仰向けになった有紀に狂介は身体を重ねていった。充分に濡れた有紀のソコは
狂介の肉棒を余裕で飲み込んでいく。
「あふっ・・・ふぁぁぁ・・・」
有紀は恍惚とした表情を浮かべて自分から腰を動かした。その動きは徐々に、しかし確実に
狂介を取り込んでいく。
「こっちもいくぜ。」
返事を待たずに狂介は腰を動かした。お互いに興奮しているからなのか腰の動きが
リズミカルに動き相手を求め離さない様に喰らい付き合った。
「やっ、あぁ・・んあ!!・・い・・いいよ・・ふぁ!!」
身に迫る快感に有紀は抱きしめる狂介の背に力を込めた。
「あっ!!・・ゴメッ・・狂介にキズが・・・んぁ!!・・でも・・あん!!」
狂介の背に有紀の爪が食い込む、有紀はその事を気にしているようだ。
「なんとも無い・・・気にしないで・・・もっと!!」
痛みを感じるのだろうが有紀とつながり快感を貪る事に身体が集中していて
狂介は実感する痛みなどまったくなかった。
「ひぁ・・うぅ、あぁぁ!!・・ひぃ!!」
その間も二人は互いに身体をぶつけ合い快楽の争奪戦を繰り広げた。
「ゆ・・有紀・・・ダメだ・・俺もう限界が・・・」
「僕も・・きちゃう・・・きちゃうの・・・イッちゃう!!」
二人ともそれが限界だった。有紀の膣が締まり狂介の肉棒を飲み込む。
狂介も溜まりに溜まった欲望を有紀へと放った。
「くぁ・・ゆ・う・・き・・・」
限界を迎えた狂介は息も絶え絶えに有紀へと覆いかぶさった。
「あぁぁ・・・狂介のクリーム・・・いっぱい・・」
膣口を痙攣させながらも有紀は狂介を抱きしめてその胸板に擦り寄った。

「ハッピーバースデー有紀。」
「ありがとう狂介。」
329狂介と有紀:2005/12/20(火) 23:48:43 ID:YmN/sH1s
「あぁ!!やっぱりベトベトじゃない!!」
余韻に浸りあわよくば第二ラウンドと洒落込もうと思った矢先、二人の前に
悲しき現実が襲い掛かった。
「うっわ、こりゃ乾いたらパリパリになっちゃうな。このシーツ。」
クリームでベトベトになった二人が絡み合ったベッドは案の定ベットリと
そこで”何”をしていたのかをハッキリと表現していた。
「もう!!布団全部洗濯だよ!?これじゃ僕寝れないじゃない。」
「ゴメンよ、調子に乗り過ぎた。反省してます。許してちょ?」
嵐を呼ぶ五歳児が得意な『母性本能をくすぐる視線』を有紀に発射する狂介。
「しょうがないなー。」
「許してくれる?」
「でも狂介の誕生日に絶対にお返ししてやるんだから。」
有紀は机の引き出しから何かを取り出した。
「何ソレ?」
「コックロック。」
「ウゲッ!!」
コックロック、それは一言で言うならば竿を締めつけて絶頂を防止する大人の玩具である。
「これを狂介に嵌めるんだ。そして、何度も狂介をイカせるの。
 そうして狂介が『外して』って何度も何度もお願いして限界まで虐めてから外すんだ。」
「なんつー恐ろしいことを・・・何処でそんな事・・」
「ママはそうやってパパを落としたんだって。」
「・・・・」
アンタら娘に何教えてるんだと狂介は叫びたくなったが明日は我が身の恐怖から何も言えなくなっていた。
「楽しみだな〜狂介の誕生日。」
「お助けーーーーーーー!!!」

これは心が篭ってるだけでもプレゼントは100点ではいなんだなって言う、そんなお話。

                                          〜おしまい〜


〜おまけ〜
升沢「コックロックはMっ気が無いと痛いだけ・・・」
レオ「じゃあやってあげるよ。」
升沢「いや・・・それは・・・」
レオ「久しぶりなんだしいいじゃない・・・ソレ!!」

升沢「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」

升沢娘「バブバブブ〜(次回をお楽しみに)」
                                          〜ほんとにおしまい〜
330実験屋:2005/12/20(火) 23:50:44 ID:YmN/sH1s
以上になります。自分も今年はこれが最後になるかと。
神々の投下を心待ちにします。
331名無しさん@ピンキー:2005/12/21(水) 00:10:47 ID:Bxi04Njx
>330
実験屋氏GJ!!
読んでるこっちが恥ずかしくなるくらいの二人のラブラブっぷりが最高です!
つか有紀両親はホントにナニを教えてんだww
コックロックの使い方や使用感なんか普通年頃のうら若き乙女に教えるコトじゃねーだろww
しかも升沢は経験者?!

それはともかく、また来年の投下お待ちしておりまする〜。
332名無しさん@ピンキー:2005/12/21(水) 08:09:50 ID:9P5zeW77
ぶっはっは!
有紀どこまでいくんだろうなぁ(笑

来年も楽しみにしてます!
333名無しさん@ピンキー:2005/12/22(木) 17:41:11 ID:dUsrsAEH
凄すぎる、凄すぎるよ、神々は。もう喜ぶことしか出来ないです。
ヾ(*´∀`*)ノ キャッキャ
来年も楽しみにしてます。
もちろん、まだ今年投下してくださるという神々がいたら大大大歓迎です。
334名無しさん@ピンキー:2005/12/22(木) 20:07:41 ID:FZFzqwGP
狂介、Mも似合いそう。
GJ!
335名無しさん@ピンキー:2005/12/22(木) 22:17:38 ID:RGAjANdz
司さん最終回ってクリスマスだっけ
クリスマスイブだっけ
336名無しさん@ピンキー:2005/12/24(土) 00:59:59 ID:ozzqVMln
投下予告というか、何と言うか。
現在AA板の某スレを下敷きとした「男装妻」モノを構想中。
序章だけでもそれなりに長くなりそうだが、期待せずに。
337名無しさん@ピンキー:2005/12/24(土) 21:19:05 ID:bzfrMHsW
+   +
  ∧_∧ + 
 (0゚・∀・)    ワクワク
 (0゚∪ ∪ +     テカテカ
 と__)__) +
338名無しさん@ピンキー:2005/12/24(土) 23:38:25 ID:6mQyU8KV
房津のことか?
339 ◆aPPPu8oul. :2005/12/25(日) 00:01:22 ID:PcZ69xv7
ごめんなさい。体調崩してしまって完成してません
が、お待たせするのも何なのでいつものごとく前半のみ投下いたします
後半間に合わなかったらすいませんm(_ _)m
340司10 ◆aPPPu8oul. :2005/12/25(日) 00:02:13 ID:6mQyU8KV
「カズやん今年の予定は? 」
「例年通り」
「健は? 」
「右に同じく」
「司は? 」
「デート」
カズやんと健は顔を見合わせ、深くため息をつく。
『は〜』
「結局去年と同じなのは俺ら二人か」
「まさかこうなるとはな……」
一年生の頃からの友人である四人の間では、司は年上の女性と付き合っていることになっている。
三宅隆也の姓と名をいれかえてもじり、高久都という架空の女性を作り上げている念の入れようだ。
その四人は去年ことごとく一人身だったのだが、今年は司とマサにそれぞれお相手ができ、
寂しいクリスマス率は50%減となったのだ。
そのマサは、それこのこの昼休み、年下の彼女と屋上でいちゃいちゃしているはずである。
飄々と苺ミルクをすする司の横で健とカズやんが肩を落としていると、
タイミングよく昼休みの終りを告げる予鈴が鳴った。
「んじゃ俺戻るわ。またな」
腰を上げたカズやんは、司と健の隣のクラスだ。
「おう」
「じゃーな〜」
言っちゃ悪いが顔も後姿もオッサンのカズやんは、今日は何時にもまして哀愁を漂わせている。
モテないのも頷けるのだが、その性格の良さを知っているとどうにも同情したくなる。
――してる場合じゃねーけどよ
ふと自分で入れた突っ込みが胸に刺さって、健は首を振り頭を切り替える。
「で、司。どーすんだ、当日」
「何が? 」
きょとん、なんて可愛い顔ではなく、どうにも可愛げのない無表情で聞き返す司に、健は少し言いよどむ。
目の前にいる司は男だが、大前提として、やっぱり司は――一度は好きになった――女なのだ。
だからこそ、ややこしい問題が身の回りに山積していて、こうして自分は手助けをしようとしているのだが。
「……だから、俺のアリバイ工作はいるのか、って聞いてんだよ」
それは間接的に、隆也と会う手伝いをしてやろう、という申し出なのだが。
「いや、今回はいらない。俺も色々考えてあるから。ありがとな」
特に何の気遣いもなく、あっさりとそう言い切られるのは予想外のことだった。
男の友人として、以前の付き合いに戻れたことは嬉しい。
「そっか。ま、うまくやれよ」
「おう」

「期末テストも終わったし、先生もやっとゆっくりできるね……って、先生?」
数日後。十二月も半ばの日曜日。司はお気に入りのマグカップでココアを飲んでいた。
その隣に隆也がいたのだが、その手が何の脈絡もなく司の体を抱き寄せた。
本当に、何の前触れもなく、である。
思わずいぶかしげな声をあげた司が顔を上げると、これもまた唐突に、唇を奪われる。
甘い口内を貪る舌の動きは激しく、司は手にしたカップをテーブルに置くこともできず体を強張らせた。
それでも、愛しい人の舌使いは快感に結びつき、ぞくぞくと体を疼かせる。
「……っ、は、せんせっ」
ようやくのことで口を離した司に呼ばれ、ようやく隆也は言葉を発する。
「司……可愛い、な」
すっかり興奮した目でそう言う隆也の様子は明らかにおかしい。
「なっ、何言ってるんですか!? なんか今日の先生ヘン―」
「だってしょうがないだろ。司がほんとに可愛くて……美味そうなんだから」
司の手からマグカップを取り上げてテーブルに置いた隆也は、さらにおかしな台詞を口にする。
いや、普段もこのくらいのことは言う男だ。しかしどうも、様子がおかしい。
戸惑いながらも頬を染めた司の視線が隆也のそれとかみ合って、それを契機に隆也は再び唇を重ねた。
情熱的な口付けは簡単に司の力を奪い、戸惑いを消し去る。
静かな昼下がりの部屋に響くのは乱れた息遣いと口付けを交わす音だけで、それはいつもの情事と変わらない。
「司……」
愛しそうに呼ぶその声も、それに感じてしまうのも、何一つ変わらないはずだ。なのに。
「せん、せ……」
ソファに横たえられた司は頬を上気させ息を乱して、ふいに不安に駆られ口を開く。
341司10 ◆aPPPu8oul. :2005/12/25(日) 00:03:01 ID:PcZ69xv7
「先生、なんかヘン……だよ」
その隆也は、眉をひそめた司の言葉にもまともに反応しない。
「そうか……」
ふ、と口元に笑みを浮べた隆也はうなじを舌でなぞり、服の中に手を差し入れる。
「や、ぅ……やだ、なんかっ……あ」
さらしの上から敏感な先端をひっかかれ、抗議の声が止む。
「そっか。嫌か。じゃあしょうがないな……」
言葉とは裏腹に執拗に続けられる悪戯にぴくぴくと背をのけぞらせ、首を振って耐える。
それでも体は快感に従順で、こりこりと固くしこるそこを強めに摘まれ、飲み込んでいた声が漏れる。
「ひゃっ、うっ……あう、あ……」
口をぱくぱくさせている司の耳元に顔を寄せ、ズボンの中に手を差し入れる。
「……嫌じゃなかったのか? いつもの男らしい司はどうした?」
下着の上から割れ目に指をおしこむと、じっとりとした熱が伝わる。
指を動かせば内側にぬめる蜜が溢れていることもわかる。
「ひ、い、やっ……せんせ、いつもと違うっ……」
ぐ、と肩口を掴んでにらみつける司の瞳が潤んでいるのを見て、隆也はようやく悪戯をやめる。
「……悪い……」
「……」
隆也の下から抜け出した司は、眉間に皺を寄せて黙り込む。
隆也が声をかけるのを躊躇っている間に、司が口を開いた。
「……なんで? 」
「……」
隆也は答えられない。
冷たい声が、再び彼にかけられる。
「なんでですか」
「悪い……その……」
後が続かない、そこに見える後ろめたさが、司をいらだたせる。
「はっきりしてください。理由、あるんでしょ?」
つめよるような口調におされ、隆也は溜息をつき、そして申し訳なさそうに言葉を継ぐ。
「その……昨夜、AVを見てて、だな……男装した女の子の……それでこう、余計に、したくなって」
「何それ」
冷ややかな返事と視線に、嫌な汗が流れる。
表情を凍りつかせた司の機嫌をつくろうように、隆也は慌てて続ける。
「いや、別にそれだけじゃないぞ? もちろん相手が司だから……」
隆也が言い掛けたところで、凍り付いていた司の口が動く。
「俺は」
その声の静かさが、ぞっと隆也の背を走った。
「俺は、先生だから……嬉しいし、気持ちいい、のに……」
そしてその静かな声は、彼の胸を締め付ける震えを伴っていた。
だというのに、それを聞いた瞬間、隆也の口から出てきたのは往生際の悪い言葉だった。
「だから、俺だって―」
「嘘。さっきの先生は、俺じゃなくても良かった。こういうカッコしてれば、それでよかったんだ」
たしかに、隆也は司の表面だけを求めようとしていたかもしれないが、
もちろん相手が司でなければあんな性急な態度はとらなかった。そこに愛はあったのだ。
それを言い分も聞いてもらえず、こうも一方的に非難されると、大人気なく反論もしたくなる。
「そんなこと―」
「じゃあなんで服脱がせなかったの? この格好が良かったからでしょ? 違うの?」
まくしたてる司の台詞はほとんどが真実で、隆也は返す言葉がない。
押し黙り必死で言葉を探すが、どんな繕いの言葉もこの怒りの前では無意味に思える。
それくらい、目の前の司の語気は強く、目は。
「……」
目は潤んで、とうとう俯いてしまった。
司の手がきつく握られているのを見て、隆也はようやく謝罪を口にする決心がついた。
「司」
「帰ります」
間髪いれずそう言い放って、司は立ち上がり隆也に背を向ける。
乱暴に上着を拾って出て行くその背中に、隆也は何か言いたげな表情を見せる。
けれどその口からは、気の利いた言葉など出てきそうもない。
ただこのまま帰らせたくはないという思いだけで、口を開く。
「司」
342司10 ◆aPPPu8oul. :2005/12/25(日) 00:03:45 ID:PcZ69xv7
自分を呼ぶ声に気付いただろう、司は。
彼を拒絶するように、そのまま部屋を出て行った。
乾燥したドアの音を聞いて、あげかけた腰をソファに落とす。
目の前のテーブルには、おそろいのマグカップ。
腰を落ち着けたソファの片隅には、司が使っていたクッション。
そのまま目線を壁にやれば、可愛らしいサンタクロースの描かれたカレンダーが視界に入る。
「……何やってんだ、俺……」
ちくたくと、無機質な時計の針が進む音だけが部屋に満ちた。

一週間が過ぎた。
街中がクリスマス一色で、放課後ぶらりと遊びに出た司と健は溜息をつく。
「って、司、どーかしたのか? 」
「あ? 何が? 」
「何が、ってお前。ものっそ溜息ついてたぞ」
先生と何かあったのかと、健としては聞きたいが聞けない。
うっかり聞いてしまったら、まだ心のどこかで喜んでしまいそうだし、何より司の不機嫌を煽るのは怖い。
「あー……こーいう華々しいイベントごとってあんま好きじゃねーんだよな」
「あぁ、そうだっけな。ほんとに枯れてるよなぁ司は」
「うっせ。似非クリスチャンの祭りがなんだってんだ」
まったく浮かれた様子のない司は、やはりおかしい。
聞きたくはなかったが、やはり聞かなければならない。友人として。
何でもなさそうに、顔を正面に向けたまま問いかける。
「―先生となんかあったのか? 」
「……うん、まぁ」
呟く横顔はイルミネーションに照らされて、微妙な影を落としている。
健は努めて明るい声を出す。
「ばっかだなー。なんでまたこの時期に喧嘩なんかするかね」
「俺のせいじゃないし。っつーか100%先生のせいだし。っつーかもういい。滅入る」
畳み掛けるように言って、司は歩調を速める。
それに遅れじと健も足を速めて、司のやや後ろから声をかける。
「で? 仲直りして仲良くクリスマスを迎えようって気はねーのかよ?」
「先生が謝れば考える」
「お前、先生が謝ってもきかなかったんじゃねーの? 」
ぴたりと司の足が止まり、思わず肩がぶつかる。
「……なんで」
「いや、お前切れると言い訳きかねーし。つーか図星か」
「……」
再び無言で足を動かし始めた司に溜息をつきつつ、後を追う。
「でー、どうすんだ、お前」
「……どうもしねーよ」
「そうもいかないだろ。 都 さ ん も落ち込んでるんじゃねーの?」
そう、仮の名前を強調する健を置いていきそうな歩調で前を行く司が呟く。
「……しらねーよ」
もうひとつ溜息をついた健は、それ以上その話題には触れなかった。

「電話に出ません。メールも返しません。学校でも目を合わせません、か」
ぼんやりとカレンダーを見つめつつ呟いて、隆也はソファに荷物を投げ出す。
とうとう終業式のこの日まで、司は機嫌を直してくれなかった。
成績表を手渡すときすら目もあわせず、手も触れず、それどころか返事すらしなかった。
何もそこまで、と思うとこちらも折れる気が失せる。
子供っぽいといわれようがなんだろうが、それはお互い様だ。
――と、七つも年上の男が意地を張っても仕方がない。
仕方がないから一生懸命接触を図ろうとしているのだが、応じてくれないとどうしようもない。
家にでも押しかけたいところだが、こんなかたちで司の両親に会うのも気が引ける。
マフラー、コートを脱ぎ捨てて台所に向かいながら悶々と考えを巡らすが、どうにもいい案がうかばない。
そのうえ冷蔵庫は空ときている。
今回に限っては行きたくもなかった職員の忘年会から帰ってみればこのざまだ。
買い物に行くのも忘れていたのかと思うと、イライラを通り越して情けなくなってくる。
「……しょーがねーな」
カップラーメンでも食おうと湯を沸かしながら、一度はソファに投げ捨てた携帯を拾う。
343司10 ◆aPPPu8oul. :2005/12/25(日) 00:05:34 ID:PcZ69xv7
ここ数日は聞いていない、司からの着信音を心待ちにしながらメールを打つ。
『24日、待ってるからな』
もう機嫌を取ろうとか仲直りをしようとかいう努力は諦めた。
あとは司が折れるのを待つだけだ。それがだめなら、もう全てを諦めるしかないのかもしれない。
着信音は、鳴らない。

二十四日。午前九時。
ベッドから伸びた隆也の手が携帯を開き、メールも着信もないことを確かめる。
「……」
昨日メールを送ってから、いまだ携帯は鳴らず、こちらからも何もしていない。
先週までは、当たり前のように司が来てくれるものだと思っていた。
終業式の後から、ひっきりなしにメールを交換するんだろうと思っていた。
ケーキも予約してあるし、シャンメリーも買うつもりだった。
なんなら、手料理の一つも作ってやろうと。
溜息をつきながら体を起こす。
がしゃがしゃと髪を混ぜて、身をすくめて歩く部屋は寒気に満ちている。
床の冷たさから逃れるように暖房をつける。
ケーキは取りに行かなければ。ついでに、自分が食べるものもない。
洗面所の鏡に映った自分の顔はひどく憔悴していた。
顎を撫でて気づく。ここのところ、髭も剃り忘れていたかもしれない。
溜息をつきながら髭を剃って、着替え、家を出る。
予約した以上ケーキは取りに行かねば。一人でもまぁ、この際仕方ない。
この寒空の下、一人身などいくらでもでもいる。


+++++


連投規制ひっかかりますたorz
それではみなさん、悶々としたクリスマスをお過ごしくださいノシ
344名無しさん@ピンキー:2005/12/25(日) 00:27:06 ID:81sR1Wul
イヤミですか。
そうだよ、俺はどーせ悲しい喪男だよ!\(`д´)ノウワァン!!

とまあボヤキは燃えるゴミにでも捨てといて。
GJです。でも体調不良なのに無理して書くのは控えた方がよろしいかと。
他の方もそうですが、遅れても構わないのでしっかり休養を取って体調を回復させて下さい。
悪化させてPCに向かう事すら辛くなったら元も子もないですから。御自愛下さい。
345名無しさん@ピンキー:2005/12/25(日) 00:43:55 ID:QAbW8qRL
GJ

規制に引っかかったらどうなるんだっけ?
346 ◆aPPPu8oul. :2005/12/25(日) 00:48:02 ID:PcZ69xv7
>344
厭味ではありません。ショックのあまり厭味だとすら理解できてないのですw
お気遣い感謝です。風呂入って枕元に靴下置いて寝ます

>345
ストレスが溜まります
347名無しさん@ピンキー:2005/12/25(日) 01:26:09 ID:WkkBhz34
>>338
それだけのヒントでよく分かりましたね。ご名答です。
ただし、名前などはAAは使いません。あと、結構シリアスな感じになるかと。

>>346
いつもながらGJ!!ラストエピソードに相応しい盛り上がり期待してます。

348司10 ◆aPPPu8oul. :2005/12/26(月) 00:00:01 ID:PcZ69xv7
街中は予想通り、幸せそうなカップルと家族連れで溢れかえっていた。
中にはもちろん、男同士や女同士で歩いているものもいるが、とにかく一人で歩いているのは浮く。
それでも大人しく一人で帰るのが悔しくて、わざわざファーストフード店で早めの昼食を取ることにした。
学生の集団や中年女性の二人組みなど、多少は気が紛れるかと思ったが、
やはり男一人黙りこんでバーガーを口に運ぶのは味気ない。早々に店を後にする。
そして、これでもかという大量の食材とケーキと、飲めもしないシャンパンを買って家路を行く。
イルミネーションもクリスマスソングも知ったことか。
あの可愛げのない恋人が隣にいないというだけで、やけに僻みっぽくなって困る。
マンションの駐車場に車を入れて、大荷物を手に部屋に向かう。
司の来た形跡はない。もちろん携帯も鳴っていない。
一人の部屋はまた冷え切っていて、もういっそはやく日が暮れてしまえと思う。
早めの昼食をとったおかげで、もうほとんどすることがない。
なんとはなしにテレビをつけてみても、どこもかしこもクリスマス特番とやらで盛り上がっている。
気に食わない。
自分の心の狭さに溜息をついて、テレビを消しソファで横になる。
天井に伸ばした手は何も掴まない。
掴まないまま自分の胸に落ちて、お前のここは空っぽなんだと思い知らせる。
「……司」
この間ここで怒らせたときの、泣き顔が目に浮かぶ。
そんな顔を見たいんじゃないんだ。嬉しそうに、腕の中で笑う顔が見たいんだ。
着飾っていなくても、女の子らしくなくても、ひねくれていても、それでもいいんだ。
ただ、ここにいて欲しいだけだというのに。
自分の失態を思い出すと、感傷的な気分も馬鹿馬鹿しくなってくる。
目を閉じた。日が暮れたら、一人で冷蔵庫の中にあるケーキを食ってしまおうと思いながら、目を閉じた。

気付けば、本当に日が暮れかかっていた。
呆然と身を起して、くしゃみをする。暖房は勝手に切れていた。
「……ない、か」
携帯の画面に目を落としても、それで司がここに来てくれるわけではない。
むしろ、距離ばかり感じられて泣きたくなる。
それでも泣けないのが、男の意地というか、馬鹿なところというか。
がりがりと頭をかきながら、送信済みメールと送信履歴を確かめる。
これだけこっちからはアピールしたんだ。それでも返事をしないというのは強情すぎる。
返事もしないくらい機嫌が悪いなら、わざわざ遊びに――しかももう夜だ。来るはずがない。
「……知るかよ」
呟いて、立ち上がろうとしたときだった。
来客を告げるベルが鳴り、動きが止まる。司だろうか。いや。期待はしない方が良い。
それでも、久々に胸がドキドキと鳴っている。
おそるおそる玄関を上げると、そこには一人の少女が立っていた。
目の前にいるのは、可愛らしいとしか形容できないような、そんな女の子だ。
ミニスカートとブーツ、白いコートと帽子、赤いマフラー、それに、見慣れた大きな瞳。
「……司?」
一瞬、あてつけかと思った。
男装が好きなだけだろうとか、そんなくだらない問題がこの数日間、彼の思考と彼女の眉を曇らせていたから。
「……メリークリスマス」
けれどそれは、思い違いだったようだ。
気恥ずかしげにそう言う司は、そのまま動けずに隆也の前に立っている。
「あ――……」
あまりといえばあまりの展開に、隆也は言葉が出てこない。
寒い玄関で固まってしまった彼の顔を、司が覗き込む。
「……先生? ――まだ、怒ってる?」
気遣わしげに問いかけられてようやく人心地を取り戻し、隆也は司を家に招き入れる。
「いや、そんなことない。いいから入れ。寒かっただろ」
隆也が肩に手を回しても、司は何も言わない。
自然と玄関に足を踏み入れ、まごつきながらブーツを脱ぐ。
不慣れなその格好が、きっと、多分だが、自分のためだということが嬉しい。
先ほどまで体を投げ出していたソファに司を座らせ、いつもより少し距離を置いて隣に座る。
「えー、と、だな、その」
とりあえず、直接謝罪を口にするのが一番良いだろうと言葉を探していると、手に冷たいものが触れる。
見れば、司の細い指が隆也の手を掴んでいる。
349司10 ◆aPPPu8oul. :2005/12/26(月) 00:00:40 ID:FJzHOHsc
「……ごめんなさい……」
先手を打たれて、思わず俯いていた顔を自分の方に向かせ、額を合わせる。
「司。ごめんな……」
「……」
潤んだ瞳が恥ずかしそうに細められて、自然と唇を重ねる。
離れると、はにかんだ笑顔が生意気な口を叩く。
「先生。メリークリスマスは? まだ言ってないよ」
「そっか。そうだったな。じゃあ、メリークリスマス」
にこりと笑いかける。それから、改めて司の体に目を移す。
「しかし……うん、似合うな。可愛い」
可愛らしい膝小僧に何気なく手を置くと、あっさり退けられる。
「……恥ずかしいからコメントはいらない……」
退けられた手で帽子を取って、短い髪を撫でる。
「何で」
「だから、恥ずかしいから」
自然と顔がにやけてしまう。あまりからかうとまた怒られそうだが、やめられない。
「いいじゃないか。可愛いんだから。俺に見せるために着てきてくれたんじゃないのか?」
「……そうだけど……そうだよ。だから、親に怪しまれないように中学のときの友達に口裏合わせてもらって」
「そっか。頑張ってくれたんだな。ありがとう」
頭を撫でてキスをしてやると、むくれていた顔にますます赤みが差す。
「だ、も、もういいでしょ? 何か食べよう――」
「待て。自慢したい」
言った隆也に、冷たい声が返される。
「は?」
だがめげない。司には理解されそうもない思いつきに、立ち上がる。
「よし。自慢しに行こう。誰でもいい。この際」
「え、ちょ、ちょっと? 何? 」
「こんなに可愛い彼女がいるんだってことを、誰でも良いから自慢したいんだ! 」
「はぁ!? ちょ、ちょっと待ってよ! 」
「まだ夕飯には早いだろ。大丈夫、知り合いのいないとこまで行こう」
有無を言わさず司の手を取り、立ち上がらせる。
「せっかく苦労して着てきたんだから、な? クリスマスらしいことでもしよう」
「でも……」
司の言葉も聞かぬうちに部屋にコートを取りに向かい、ドアの前で体をひねる。
「いいから! そうだ、何時まで大丈夫なんだ? 」
立ち尽くしていた司と目が合い、むくれた口から意外な言葉が出てくる。
「……泊まれる……」
「……そっか。なんだ、じゃあなおさら問題ないじゃないか」
防寒具と鍵の束を手に戻ってきた隆也の機嫌はすこぶるいい。
現金な、と呟く司は、それでも足を玄関に向ける。
――ブーツ、めんどくさいのに
それでも気を使って履いてきただけ、隆也が喜んでくれたことは嬉しい。
嬉しくて、怒る気も失せてしまった。
わかりやすく笑みを浮べる隆也と、わかりにくく喜んでいる司は、手を繋いで部屋を出て、車に乗り込んで。
イルミネーションの輝く街に繰り出した。
夕暮れ時の街中はカップルでいっぱいで、誰も人のことになんて興味はなさそうだ。
それでも、視線は必ずどこかで動いている。向けられている。
それがどうしようもなく息苦しく感じられて、司は居心地の悪さに溜息をつく。
「……ね。どこ行くの? 」
歩きながら、隆也の袖を捕まえて聞く。履きなれないブーツは歩きにくくて、歩調が合わない。
「そうだな。クリスマスプレゼントでも探すか。何か欲しいもんあるか? 」
「ない。っていうか、プレゼントなんかいらないから、もう帰ろう? 」
「……何でだ? 」
足を止めて顔を覗き込むと、司は恥ずかしげに視線を逸らす。
「だって……恥ずかしいよ。このカッコ……」
俯けば、視界に入るのは見慣れないスカートから伸びる自分の足と、ブーツ。
姿見で確認したあまりにも女の子らしいその格好が、どうしようもなく恥ずかしい。
「恥ずかしがることなんてないさ。可愛いんだから」
こちらは恥ずかしげもなく言い放って、冷たい頬をなでる。
「…………」
350司10 ◆aPPPu8oul. :2005/12/26(月) 00:01:11 ID:PcZ69xv7
冷たい頬に血が上る。それでもう、司は抗議するのを諦めてしまった。
いつもは好奇の視線に晒されてできないことが、今日はこの服装のおかげで堂々とできる。
しっかりと手を繋いで、歩くことができる。
手を引かれ、ブーツで足を痛めながらも、いつしかその表情は和らいでいった。

結局、どうしても物はいらない、と豪語する司に隆也が折れて、二人は何も買わずに帰ってきた。
それでも二人は満足そうに、一緒に見た様々なものを思い出しては口にする。
大きなツリーや、おもちゃを抱えてころんでしまった子供や、幸せそうな老夫婦の姿など。
そのどれもが幸せそうに輝いていて、数時間前までの大きな隔たりなどすっかり消し去ってしまった。
宅配のピザをとり、ケーキを食べて、シャンメリーを飲んで。
もう一度この夜を祝う言葉を口にして、饒舌に時は過ぎてゆく。
「……司」
ころあいを見計らって、隆也が司の隣に腰を落ち着ける。
何気なく頬に唇を落とすと、嬉しそうに腰の上にまたがってくる。
「なんだ? 積極的だな」
「いーの。一週間分だから」
「そっかそっか。うん。そうだな、それじゃ」
ぐ、と司を抱き上げて、そのままベッドに連れて行く。
じゃれあうようなキスを重ねて服に手をかけると、司がそれを止める。
「待って。ちょっと話、したいから」
「……うん」
真剣な物言いに手を止め、司に覆いかぶさったまま続きを待つ。
それがきっと、あまりにもあっさりとした和解では解けきらなかったしこりなのだろうと気付いたから。
「……あんなことで、怒って。先生からの連絡も無視して、ごめんなさい」
隆也は黙って、先を促す。できるだけ穏やかな表情で。
「でも、先生に会いたかった。先生に触りたかった。触ってほしかった」
その言葉に答えるように、頬を、耳を、うなじをなでる。目を細めた司に顔を寄せて、次の言葉を待つ。
「抱きつきたかった。抱きしめてほしかった」
ぎゅ、と背に回された腕に力がこもる。
「司、って。呼んで欲しかった」
震える声に胸を掴まれる。
「なのに。なのに、ヘンな意地、張って。せん……せい、に、会いたかった、のに」
ぽろぽろとこぼれる涙が頬を濡らす。
それを掌でそっとぬぐってやりながら、胸の奥からこみ上げてくる熱いものに視界を奪われる。
「……先生も、泣いてるの?」
問われて、隆也ははっとする。
「馬鹿言うな。泣いてるわけ……」
言う声が、自分の物ではないように震えている。
瞬きをした瞬間に司の頬にぽたりと落ちたものを見て、思わず表情をゆがめる。
「……泣いてる、な」
司の細い指が、隆也の目をぬぐう。その手が暖かくて、愛しくて、どうしようもない。
「嬉しいんだ。司。司が、こんなに俺のこと、好きなんだって……」
その手を取って指を絡めて、額をくっつける。お互いの瞳だけを見つめて、幸せそうに笑う。
「司……好きだ……愛してる……」
「先生。好き。大好き。愛してる……」
どちらからともなく唇を重ねる。一度目は、触れるだけのキスを。それから、唇を貪りあい、舌を差し入れる。
唇を離しては見詰め合い、見詰め合ってはまた唇を重ねて、それだけで体温を上げていく。
「服、脱がす、ぞ……」
服の上から司の胸をまさぐっていた手が、器用に服を脱がせ始める。
司もそれに応じて、セーターとシャツは簡単にはぎ取れられる。
「……新鮮な眺めだな」
そこに残ったのは、ミニスカートに上は下着だけという姿の司。普段なら決して見られない光景だ。
「い、いいから、はやく……」
「ん。そうだな……」
言いながらも、うなじにキスを落として、スカートの中に手を差し込む。
下着の上から秘所を揉んでやると、くぐもった声が漏れる。
「ん、や、ぁ……」
「嫌じゃない。だろ? ほら」
首から胸へと口を移し、下着をずらして乳首を吸い上げると、一際高い声が上がる。
「ひ、あんっ……だ、ってぇ……もち、いいん、だもんっ……」
351司10 ◆aPPPu8oul.
「ん……ここ、が? こうがいい? 」
胸を口で責めながら秘所を弄り続けると、さらに良い声が上がる。
「あ、あっ……だめ、せんせぇ……」
立てた膝がふるふると震える。腿を撫でて、上体を起こす。
「ん。せっかくの服、汚しちゃうわけにはいかないもんな」
背に腕を回してブラジャーを脱がせ、腰を持ち上げてスカートも下着もいっきに取り払う。
新鮮な光景は一転して、見慣れた肢体になる。
「……どうしてほしい? 」
顔を寄せて聞くと、小さな声が耳をくすぐる。
「――いっぱい、して……」
「……わかった」


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やっぱり完成しませんでした。えらそうに予告なんてするもんじゃないですね。
と、いうわけで、続きはまた次回。しばしお待ちを。