早くも6。
過去ログ及び保管庫は長いので
>>2を参照のこと
しまった。
ブラウザバーの故ピぺでやったが倉庫のアドが変になってしまった
マカーOSの分際でうっかりたてた俺が悪かった。
誰か直してくれないか
6 :
名無しのアヒル:2005/11/16(水) 18:51:24 ID:NRFvKA6e
>6
乙&ありがとう
ほっとしたから飯杭にいく
8 :
遠井家の人々:2005/11/16(水) 19:34:41 ID:NRFvKA6e
【即死防止の投下。ようやくエチー終了の遠井家です。しばらくは四作ともエチー展開が遠ざかりそうだなぁ。】
ようやく行為を終え、余韻に浸る絢と春希。二人は裸のまま布団の中で休んでいる。
「絢・・・。」「はーちゃん・・・。」
春希は絢を抱きしめ、その柔らかな感触を味わい、絢は春希の細く見えて意外としっかりした腕の感触に安らいでいる。
「そろそろ教えてくれる?避妊のこと。」
絢はずっと気になっていた話を聞き出した。
「はい、実は白々斎は避妊の薬や器具も開発しているという話があるのです。真琴様が病気になる前から
避妊技術を持つ医師を探していたのです。」
「そう・・・だったの・・・。」
「はい、どうしても、絢と一緒になりたかったから・・。」
「はーちゃん!!!」
「うわっ!!」
絢は春希に勢いよく抱きついてきた。
「嬉しい・・・。嬉しいよ、ボク・・。はーちゃんがボクのこと、そんなに思っててくれてるなんて・・・。」
「当然ですよ、絢。」
そう言いながら春希は絢に口付けをした。性行為の後なので、お互いの精液や愛液の味が伝わりあう。
「もうっ。はーちゃんってば、二人とも口の中、こんな状態なのに口付けなんて・・。」
そう言いながらも絢の顔は笑顔を浮かべている。
「いいじゃないですか。お互い愛し合って出したものなんですから。」
「愛・・・。もう!はーちゃんってばぁ!」
春希の言葉に急に照れくさくなった絢は声を上げた。
「ふふふふふ。」
春希はそんな絢を見て微笑みを浮かべた。
「では、私は部屋に戻りますね。明日は早いですから。」
「うん、送ってくよ。」
お互いの身体に付いた精液や愛液を拭い、着物も着直した二人は立ち上がった。
「部屋出る前にもう一回口付けしよ。」
絢は春希に口付けをお願いした。
「はい。」
春希はためらいもなく絢を抱きしめ、一連の行為の終了を示すとも言うべき口付けをした。
最後だからか舌を絡ませない軽めの口付けであった。
「はーちゃん、大好き。明日から頑張ろうね。」
「私も、絢が大好きですよ。」
二人は笑顔を向け合いながら襖を開き、外に出た。
9 :
遠井家の人々:2005/11/16(水) 19:36:28 ID:NRFvKA6e
「・・・夏希さん、最後までするのですか・・・?」
まだ快楽の余韻が治まらない夕顔は小さな声で夏希に問い掛けた。
「えっ!!」
その問い掛けに夏希は驚いた様に声を上げた。
「夕顔は、どうなんだ・・・?」
「気持ち的には最後までしてもいいのですが、やはり色々と問題が・・。その、妊娠・・とか・・。」
「そうか・・。実はオレ、最後まではしないつもりだったんだ・・。夕顔の言ってる問題とかもそうだけど・・。
て言うか、出来ないんだ・・・。」
「えっ?どういうこと・・ですか?」
夏希の言葉が気になり問い掛ける夕顔。
「実は・・・・・んだ・・・。勃た・・ないんだ・・・。オレのアレ・・・。」
夏希は今にも消え入りそうな声で言った。
「勃たないって・・。その・・夏希さんの・・・。」
夕顔は顔を赤らめながら夏希の股間の方に視線を向けた。
「ああ、気持ちはすげー興奮してんのに、何故か最初っからずっと勃たなくて・・・。」
「今までは大丈夫だったのですか?」
「ああ、今急に・・。不能になっちまったのかな・・・。」
夏希は不安げな声を上げた。そんな夏希を見た夕顔は顔を真っ赤にしながら口を開く。
「確か、女の人が口とか手とか胸で男の人のものを愛撫するって技術があるって聞いたのですが・・・。
私が・・・夏希さんのを・・愛撫・・しましょうか?」
夕顔は顔をうつむかせながら、消え入りそうな声で言った。
「いいい、いいよ!!!最後までするわけにはいかないんだしさ!!そろそろ春希の兄貴も戻ってくるかもしれないし!」
「そういえば・・・春希さんと同じ部屋だったのですよね・・。」
「う、うん・・・。兄貴はしばらく戻ってこないって言ってたから、こうして夕顔のこと部屋に呼んだんだけど・・。」
「そう、ですね・・。今日はもう終わりにしましょう。明日から旅に出るのですし。」
「そうだな・・。その、いきなりこんなことして、悪かったよ・・・。」
今更照れくさくなった夏希はばつが悪そうに謝った。
「ううん。いいのです。実は、私、夏希さんに一目ぼれ、してたんです・・・。」
夕顔は真っ赤になりながらも自分の気持ちを打ち明けた。
「実はさ、オレも・・夕顔のこと一目ぼれしたんだ・・・。女の子って知ったときすごく嬉しくてこんな真似したんだ・・。
だからさ!今度機会があったら、また、してもいい!?妊娠のこととかは考えておくから!」
「はい・・・。でも実は私、この家に来たのにわけがあるんです。今度二人っきりになったとき、話しますから・・。」
「そっか・・・。明日から頑張ろうな。
「はい・・・・。」
二人はそう言いながらも内心明日から普通に振舞えるか、緊張していた。そんな気持ちを紛らわす様にいそいそと
服を着直したり、身体を拭ったりして後始末をしていた。
「では、夏希さん。また明日。」
夕顔は襖に手を掛けながら夏希に微笑みかけた。
「送ってこうか?」
「いいです。私と夏希さん、仲悪く思われてますから、一緒にいたら不自然ですよ・・。それに、今すごく照れくさくて・・。」
夕顔は真っ赤な顔を隠す様に手を顔に当てた。
「そ、そうだな!じゃ、また明日!」
夏希も夕顔の方を向けない為、真っ赤な顔を横向けにしながら緊張した声を上げた。
「はい、夏希さん、おやすみなさい・・。」
夕顔は夏希の方を向けないまま挨拶して部屋を出るとあわてる様にその場を駆けて行った。
【以上です。今スレも今まで通りの繁栄を願います。】
>>1 乙!それと名無しのアヒルさん、GJです!!
【あつかましくも連投。前スレ前半に投下したのに結局前スレでは一回も続きが投下出来なかった
浜屋道場です。その理由はテンポ悪いは、エロどころか萌えもギャグも微妙はでz1nMDKRu0s様や
実験屋様といった神の後に晒す勇気がなかったからです。】
「よし、着いた!ここだよ、菊ちゃん!」
「き、菊ちゃんはやめろって・・・。」
あいかわらず馴れ馴れしい寿丸の態度に戸惑い気味の菊之丞。
「いーじゃない!仲良きことはいいことって!道場にどうじょー入って下さい!なんつって!」
寿丸は某M・Kさん(十七)と同じ発言をするとダジャレを言った。菊之丞は顔をうつむかせてその場に佇んでいる。
「あっ、外した?けっこー自信あったけどなぁ。」
寿丸がそう言った直後。
「ククククク・・・。アーハッハッハッ!!」
菊之丞はダジャレが受けたらしく大笑いをした。
「おおっ!!こんなに大うけされたの初めて!!!」
寿丸はダジャレを言うのが趣味だが、当然というか、笑われることはほとんどない。
「道場にどうじょーなんて・・。プッ、クスクス・・・。」
よっぽどツボにはまったのか菊之丞はまだ笑っている。寿丸はそんな菊之丞に近寄る。
「布団がふっとんだ。草が腐って臭い。カッターを買ったら硬かった。イスカンダルで椅子噛んだる。」
菊之丞はダジャレを連発した。後半から時代考証があってませんな。
「アーハッハッハッハッ!!!ヒー、だめだ、やめて・・。」
菊之丞は更に爆笑し、苦しそうにする。確かにイスカンダルは以前トリビ○で見たときおもろかったけど。
どうやら菊之丞は(くだらない)親父ギャグに弱いようである。
「菊ちゃん、かっわいー!」
笑いこける菊之丞を見てからかう様に寿丸が声を上げた。それに菊之丞が驚いた様に反応した。
「か、かわ、かわいいだなんて、そんな!!!」
大笑いしてたときに言われたせいか、かなり大げさな反応だ。その姿に当初の厳格な雰囲気は失せていた。
「まあまあ、さ、そろそろ入ろうや、当店は誰でもウェルカム(z1nMDKRu0s様絶賛の初代スレの名台詞 )。」
寿丸は菊之丞の肩を掴み、道場へと連れ込んだ。
「あっ・・・・。」
いきなり肩を掴まれ、菊之丞は微かな声を上げた。その声が妙に色っぽい。
「ひゃー、菊ちゃん、なんか肩狭くない?女の子みたい。」
「えっ・・、あ・・・、その・・結構いいとこだね!ここ。」
寿丸の言葉に緊張が最高潮に達した菊之丞はあわてて寿丸の手を振り切ると、道場を見渡した。
意外と片付いていて、広さもなかなかだが、立派な日本古来の甲冑の隣に何故か西洋の甲冑が飾られてたり、
お世辞にも達筆とは言えない書が飾られた額縁が掛けられてたりと突っ込み所満載な装飾があった。
「えっと・・・これは何かな?」
菊之丞は西洋の甲冑を見つめて言った。
「あー、かっちょいいでしょ。親父のマブダチの商人さんが南蛮から持ってきたんだって。
それを親父が気に入って買ったんだよ。」
「へ、へえ・・。えと、これ・・。」
菊之丞は顔を上げ、額縁を見つめた。
「それ、親父直筆の書。いいでしょ、『旗幟鮮明』。」
『旗幟鮮明』とは主義主張や態度がはっきりしてること。一般的ではないけど意味はいいね。
「あ・・・、いや。これ・・。」
あまりの字の下手さに突っ込みたくなったのだろうか?(そんなに下手か?)
「これ・・、字が間違っている・・。」
書いた本人がいないとはいえ、字が下手ってズバッと言うのは失礼だよね。
「な、なんだってーーーーー!!!!」
本家(実験屋様)に負けじと例のAAそのままに驚く寿丸!
「幟が『織』になってるし、鮮の羊が半になってる。後、明も日は目になってる。」
「うわっ、ほんとだ!親父やばっ!!」
菊之丞の指摘に声を上げる寿丸。
「あっ。」
菊之丞は何かに気付いた様に声を上げると師範、師範代、弟子の名前が書かれた札に近寄った。
「どした、菊ちゃん?」
「この師範の「浜屋薙丸」がえっと・・。」
菊之丞が口ごもった。実は寿丸が菊之丞に名乗ってないことをようやく作者が気付いてさっき一話目を見返して確認。
馴れ馴れしいこと言いまくって実は名乗ってないなんて失礼だな、寿丸。まあ、本名を考えたりするのは
男装少女ならではの楽しみだけど、野郎の名前なんかどうでもいいか。
って思った直後に145様の二重奏を思い浮かべてしまいました。カナデウマ。
おっと話逸れ過ぎ。ギャグは初めてなのでどうもテンポが悪くてすみません。早く名乗れ、寿丸(責任転嫁)。
「オレの名前?そーいや名乗ってなかったねー。全く作者ってば(似た者同士)。オレは名前はねえ・・・
男装スレらしく当ててもらおうかなぁ。」
パソコンがない時代なのに何故知っている・・。ムーミン・・じゃなくて、真・・でもなくて
寿丸がこのスレに興味を持ったようです。しかし、悲しいかな、男の名前などスレ住民にとって
どうでもいいのであった。
「寿丸?」
「えええっ!!!何でわかんの!!!超能力者!!?スプーン曲げられるんの!!?」
驚く寿丸。この時代にスプーンないだろ(突っ込み所違う)。
「師範代の所に名前が・・・。」
「ああっ!ナルホド!!今更だけど隣の師範の薙丸ってのがオレの親父。それも親父直筆なんだ。」
「・・・これも字が間違ってる。」
「なんだってーーーーー!!!!」
もはやお約束の例のAAそのままに驚く寿丸。
「薙って字は草かんむりなはずだけど・・竹かんむりになっている。」
「あっ!バカな親父だと思ってたけど自分の名前まで間違えるたぁ息子としてはずかしー!
オレのは自分で書いてよかったぜ。」
「寿丸殿のは御自分で?どうりで筆跡が違うと思った。」
薙丸の字もお世辞にも上手いとは言えないが、寿丸のは更に・・・。
「どお、達筆でしょ。」
「寿丸殿のも字が間違っている。」
「なんだってーーーーーー!!!!」
例のAAといえば後ろにドラえもんとのび太がいる奴を見たことあるけど二人がえらく浮いてたなぁ。
「寿の横線が一本足りない。後、丸が九になってる。浜のさんずいもにすいになってる。」
「あーほんとだ・・・。」
自分ののび太並のマヌケっぷりに流石に意気消沈する寿丸。つーか達筆とはほど遠い+字間違えまくりの
二重苦でよく名前が読み取れたな、菊之丞。(小説では伝わりづらいけど)。
「ダジャレと漢字間違いだけで2レス半近くも消費しちゃったな。早く本題行こう!」
「本題とは・・・入門試験のことだな。」
ようやく本題に入り、道場の真ん中に移動する二人。萌えもエロもなくてすみません。
「そ、菊之丞、立派な刀差してるね。それ真剣でしょ?」
「ああ、父が私に残してくれた物だ。」
菊之丞は刀に手を掛け、感慨深げに言った。
「ウチに来いって遺言したってことはオレの親父と知り合いってこと?」
「いや、すまないがそのへんは話を聞いていない。と言うか、浜屋道場のことを言ったのは本当に最期のときだったんだ。」
「へえ・・。菊之丞の親父さんも剣客でしょ?」
「ああ、もっとも、父上は道場は開いていなかったがな。剣術を教えたのは拙者にのみだった。」
「おかーさんは?」
「母は・・、拙者が生まれてすぐ亡くなった。」
「苦労したんだねぇ。」
「いや、別にそのようなことは・・。父は刀鍛冶で生計を立てていたし。剣術だけではなく、刀作りも教わった。」
「あ、ウチも刀作りからやる方針なんだよね。菊之丞の剣術の流派どこ?」
「百季一刀流だが。」
「あれ、ウチの流派だよ。菊ちゃんの親父さんはウチの道場の門下?」
「・・・どうもそうらしいな。だからここに行く様に言ったのか。」
「じゃあ、ますます入門に不足はないね。後は・・・。」
「実力か。」
菊之丞は刀を構えながら立ち上がる。
「そだね、後、入門試験だから真剣はなしね。今竹刀用意するから。」
寿丸も立ち上がると、竹刀が掛けてある壁の方へと向っていく。
「はい、菊ちゃん、竹刀と防具。」
「かたじけない。」
菊之丞は目の前に置かれた竹刀と防具を見て寿丸に礼を言って防具を装着し始めた。
「!?寿丸殿、それは・・・!!?」
菊之丞は寿丸が装着しようとしている防具を見て面食らった。
「えっ、ああ、これねぇ。門下生のガキ、いやいや坊ちゃん達が書きなぐった落書き、じゃなくて芸術さ。」
寿丸の防具には数々の明らかに子供の仕業である落書きが描かれていた。
で、これがその作品群
「岩男」「兄ちゃんなんで蛍すぐ死んでしまうん。」「相合傘で「薙丸」と「寿丸」」「万年発情男」
と、よくこんなの着れるなって言いたくなってくる迷作ばかり。他にも2ちゃんでおなじみの
あのAAの絵が描かれており、本物かと思える程見事な出来だった。もちろん「なんだってーーー」の台詞付で。
「な、何故そんな防具を・・・・。」
あまりのへんてこ(死語?)っぷりに呆ける菊之丞。
「いやなぁ、道場が休みのとき、門下生のガキ共と絵描いて遊んでたんだ。で、オレがちょっと、ホントに
ちょーーーーーっと目を離した隙にさぁ。」
寿丸はちょっとをえらく強調して密かに自分の正当性を訴えている様だが、実際に寿丸が子供達から目を離した時間は
3時間50分45秒と野原みさえもびっくりな時間だったりする。ちなみに何故そんなに時間が掛かったのかというと
近所に住む力士の友人と一時間半程もし呪泉郷の泉に入るとしたらどこがいいとかピカボンって知ってるか、
ああ、バカボンパパとピカチュウを合わせたサザエボンの亜流商品だろ、どう見ても可愛くなさすぎなやつ、とか話し合った後
何を思ったのか川原に向かい、相撲を取り合ったところ、当然寿丸が負け、川に落とされた(道頓堀カーネル?)ところ
近所のゴロツキ(これも死語?)達に『土左衛門が二人もいるぜー!』とからかわれたところ、二人ともマジギレして
ゴロツキ達を担ぎ上げ、橋の上から川に投げ付けた(これがほんとの道頓堀カーネル)。なお、その力士の友人は
その道頓堀カーネルもとい水辺に人を投げ付ける技を「土左衛門に謝れー!!!」と名付け、相撲技として書物に記した様だが
当然ダメ出しされ、「土左衛門に謝れー!!!」はどこかに封印され、ウン百年後、K少年によって「道頓堀カーネル」と
名を改め平成の世に伝えられた・・・かどうかは不明。
そうやって門下生ほっといて、戻った寿丸が見た物は見事に落書きされまくった防具だった。
一つだけだったのが不幸中の幸いといったところだろうか。そのことを父、薙丸に訴えたところ
門下生達から目を離したことがばれて、逆に叱られ、落書き防具は寿丸専用にされてしまったのであった。
「へ、へぇ・・。自業自得とはいえ、大変だな・・。」
「そうなんだよねー。初めて見た人とか笑ったり、あきれたりで試合に集中出来ない様になっちゃたりするんだ。
でも道場破りとかにはちょうどいいんだよ。だからさぁ、結構気に入ってたりして。」
「そ、そうか・・。しかし慣れぬ人と刀を交えるには不便ではないか。私はその防具を見て試合中、集中できる
自信はないのでな・・・・。」
「んー、入門試験で実力出せないのは困るなぁ。でも、普通の防具は使うなって親父に命じられちゃったからなぁ。」
「・・普通の防具を使えないのはまずくはないか・・?今は拙者と二人っきりなのだから普通の防具を使用すればどうだ・・?」
「ああ、それもそうか。菊ちゃん、意外とワルだね。菊之丞、そちもワルよのぅ。」
「えっと、いえいえお代官様ほどでは・・。でいいのか?」
「おっ、菊ちゃん、意外とノリいいじゃん。このこのぉ。」
寿丸は菊之丞の身体を肘でつついた。
「あっ・・・。(防具、付けててよかった・・)」
寿丸が再び身体に接触してきたことに菊之丞は顔を赤くした。
【本当にテンポ悪いですな。すみません。次回は燃え展開になりそうです。後、z1nMDKRu0s様、実験屋様、145様
勝手にネタにしまくって申し訳ありません。】
15 :
Z:2005/11/17(木) 08:46:26 ID:Ubk5VP63
【新スレ乙です!!そして投下します!!】
ゼットが去ってからエリスは拘束・監禁されている為部屋から出ることも出来ずに
ただ時が流れるのを待つだけだった。
『Z〜第8話〜』
「トントンってね・・・口で言ってるし。」
不意にドアがノックされた。
「入るよ〜。」
そこに現れたのは・・・
「あなたは確か・・」
「キノイと言います。ヨロシクね!!」
四天王最年少のキノイだった。
「何か・・・・ご用で・・・?」
ここに連れて来られてから会う人間といえばゼットと食事を持ってくる使用人だけだった為
ゼット直属の部下である四天王のメンバーにエリスは戸惑いを覚えた。
「まあね・・・どっこいしょ。」
そう言うとキノイは傍にあったイスに座り込んだ。
「コマンダーがさぁ〜・・・」
「!!」
ゼット関係の話と理解しエリスの身体がこわばった。
「何を言っても答えないし、近づくと攻撃してくるのさ。」
「攻撃・・・?」
「まぁ、衝撃波でぶっ飛ばしてくる位なんだけどね。」
キノイは「参った、参った。」と言わんばかりにかぶりを振った。
16 :
Z:2005/11/17(木) 08:47:48 ID:Ubk5VP63
「・・・知り合いか何かなんデショ?」
「えっ!!」
キノイの一言にエリスは驚いた。ゼットはともかく他の人間に悟られるような
振る舞いはしていないからだ。
「ど、どうして・・・その事を?」
「特殊能力、って程じゃないんだけど人の顔色やオーラから何考えてるのか
だいたい読み取れるんだよね、昔から。」
キノイは膝で頬杖をつきながら語った。
「コマンダーから罪悪感、良心の呵責、そんな感じが見えたのさ。
九分九里原因はお宅にあると思ってね。聞きに来たのさ。」
口元は笑っているが真剣な眼差しでキノイはエリスを見つめた。
「どういう事か、説明してよ?」
依頼と言うよりは強制に近い口調で用件を述べる。
「実は・・・・」
「・・・なるほどね〜。」
エリスとゼットの過去を聞きキノイは口元を押えた。
「玩具とか言ってたワリに結構執着するし、いつものコマンダーらしくないんで
どうしたものかと思ったけど、そんなことが・・・クソッ。」
真相を知る為とはいえ自分ではどうしようもない現状に歯噛みした。
「アンタはどうしたい?」
「えっ!?」
「俺達はアンタがここで逃げ出したとしても痛くも痒くもないから別に逃げても
構わないけど・・・アンタ的には?」
「・・・私は・・・・」
エリスはしばらく俯いたままだったが意を決したように顔を上げた。
17 :
Z:2005/11/17(木) 08:49:05 ID:Ubk5VP63
「ゼット様に会いたい。会ってちゃんと話がしたい。」
「・・・・フッ。」
エリスの真剣な視線を見てキノイは表情を緩めた。
「そっか・・・」
キノイはイスから立ち上がりエリスに背を向けた。
「でも、コマンダーの所有物であるアンタを勝手に部屋の外に出ちゃあ
いけないんだな〜コレが。」
そう言いながら扉へと進んでいく。
「ただ、俺はドジだから扉にかける施錠呪文をかけなかったりするんだ。
だからよく”2階の北側の部屋”にいるコマンダーに怒られる。」
そして出て行く際に小さく呟いた。
「・・・・コマンダー・・・・兄さんを助けてくれ。」
確かにそう言い残しキノイは去っていった。
「キノイ君・・・!!・・」
キノイの言わんとした事を理解し、エリスは扉のノブに手を伸ばす。
ギイィィ。
ドアが開いた。
「ありがとう・・・・。」
誰もいない廊下にそう言い残してエリスは走り出した。
「・・・2階の北側の部屋。」
18 :
Z:2005/11/17(木) 08:50:27 ID:Ubk5VP63
「頑張ってね。」
陰に隠れながらキノイはエリスを応援した。
「いいのか?」
「!!・・ドラン!?」
いつの間にか自分の後ろに現れていたドランにキノイは驚いた。
「どうして・・・もしかして聞いてた?」
「盗み聞きは得意でね。」
勝ち誇ったようなドランの笑みにキノイは渋い表情を浮かべる。
「悪趣味だねぇ〜。」
「これでも副官だ。コマンダーの心身を癒す為に最善の策と思ったつもりだが。」
「副官か・・・もう少ししたらその役職、返還しなきゃいけないかもよ?」
「確かにな、・・・でも、それも良いかもな。」
「おっ!!大人だねぇ。」
「お前がガキなだけだ。」
「ウッセー!!・・ちなみに他の二人は?」
「フランも感づいてるようだぞ?」
「ウルフは?」
「あの熱血筋肉バカが気付くと思うか?」
「思いません。」
「その内気付くだろ・・・まぁ馬に蹴られたくないし、俺達はここまでだ。
後は・・・彼女に託そう。」
「うん。」
「願わくば、我等の主に幸あらんことを・・・」
19 :
Z:2005/11/17(木) 08:51:15 ID:Ubk5VP63
「ココが・・・」
エリスはゼットの部屋に辿りついた。
コンコン
ノックしてみても返事が無い。不安に思いながらもエリスは部屋の中へと入った。
「・・・ゼット様?」
部屋を見渡す。ゼットの姿は・・・・
「・・・・・!! ゼット様!!」
入り口からは死角の窓の下の床ににゼットはもたれ掛かるように座っていた。
「ゼット様。」
エリスがゼットに近づく。
「・・・ククク・・・」
「ゼット様?」
「ヒヒヒ・・アハハハハ」
ゼットは濁りきった虚ろな目でどこを見るわけでもなく辺りを見回していた。
エリスに返事することも無く力の無い笑いを発しながら・・・。
「ゼット様・・・」
ココまで彼を追い込んだのは自分、エリスの心が痛んだ。
「今そちらに参ります。」
エリスはゼットの元へと足を進める。
「!!あぁああぁぁぁああ!!」
エリスが近づいた瞬間、ゼットは奇声を上げて衝撃波を放った。
20 :
Z:2005/11/17(木) 08:52:23 ID:Ubk5VP63
「きゃあ!!」
衝撃波を正面から受けエリスは壁に叩きつけられた。
「クッ・・・うぅぅ・・・」
全身を襲う衝撃にエリスはうずくまる。
「あっ・・うあぁあぁ・・がぁあああぁああぁぁぁあ!!」
いきなりゼットは頭を抱えて叫びだした。もはや何も見えていないながらも
エリスを攻撃してしまった事を認識し苦しんでるように見える。
「ゼット様!!」
なんとか衝撃を耐え切ったエリスが再びゼットの元へ近づく。
「ぁぁあぁ・・・ああぁぁぐぅぅあああぁ!!!」
ゼットは辺り構わず衝撃波を放つ。
「くっ!!」
衝撃波を正面から受けながらもエリスはそれに耐え突き進む。
(ちょっと動かさないだけでこんなに鈍るなんて・・・)
白騎士としての訓練を積んでいるエリスも今日までの陵辱の日々に身体が衰え
ゼットの衝撃波を受け止めるだけで精一杯の体力しか残っていない。
「がぁあぁああぁ!! あぁぁあぁあああ!!」
「ゼット様!!」
衝撃波を堪えきったエリスはゼットに抱きついた。
「あ・・あぁぁああ・・・あ・・・う・・ああ」
「ゼット様・・・ごめんなさい。」
エリスの瞳から涙が零れ落ちた。
「う・・ぁぁ・・ぅぅ・・エ・リス・・・?」
21 :
Z:2005/11/17(木) 08:53:28 ID:Ubk5VP63
「ゼット様!?」
確かにゼットは自分の名を呼んだ。
「なん・・で・・・ココに・・?」
「キノイ君が鍵を開けてくれました。」
「・・・そう・・か・・・キノイが・・・」
話を返してくれるもののゼットの瞳はまだ虚ろいだままだ。
「ゼット様・・・御加減は?」
「・・・・」
エリスの呼びかけにゼットは答えない。必死に何かを考えているように見える。
「エリ・・・ス・・・すま・・・な・・・かった・・・俺は・・・俺・・は」
「謝るのは私の方です。あの時、助けてくれたアナタに恩を仇で返すようなことを・・・」
「も・う・・・いい・・んだ」
そう言うとゼットは指をパチンと鳴らした。
「あっ!!」
エリスの身体に刻まれていた拘束用の魔法陣が消える。
「これ・・・で・・・エリスは・・・自由だ・・・逃・・げても・だいじょうぶだ。」
「・・・イヤです。」
ゼットを抱く力に力が入る。
「なぜ・・・だ?・・・あぁ・・ぁ・・そうか・・」
ゼットは震える指で懐から短剣を取り出す。
「俺に・・・トドメ・・を・・さし・・てないもんな・・・やり返さない・・とな。
一突きで・・も・・・何回も・・・かけて・・嬲り殺しても・・・いい・・ぞ。」
「イヤです!!」
エリスは大きな声で叫んだ。
「何でそんな事言うんですか!?私は・・ずっとアナタに会いたかった!!」
「エリス・・・」
「ゼット様が好き!!大好きです!!愛してます!!玩具でも、奴隷でも、家畜でも
なんにでもなりますから!!お願いですお傍に置いて下さい!!」
22 :
Z:2005/11/17(木) 08:54:48 ID:Ubk5VP63
「エリス・・・」
(エリスが玩具・・・)
「だ・・・め・・・だ・・・」
(奴隷だと、家畜だと・・・・)
「ダメだ!!」
スイッチが入ったかのようにゼットの瞳に輝きが戻る。
「ゼット様!?」
ゼットはエリスを抱きしめ返した。
「ダメだ。ダメだダメだダメだ!!」
「ゼット様・・・」
「絶対にそんなことはしない!!」
まだすこし朦朧とする頭を振りエリスと見つめあう。
「でもな、俺はエリスを思い出せなかった。お前のことを愛してたのに。」
「本当ですか!?」
「あぁ、そして俺はお前を犯した、乱暴した、屈服させようとした・・・
これは誤って許されることじゃない。相手がお前ならなおの事だ。」
エリスはゼットから目を離せないでいた。
「これ以上俺の傍にいたらお前がもっと傷ついてしまう・・・そんなこと俺は耐えられない。」
ゼットはエリスの髪を優しく撫でて頬に触れる。
「やり逃げなのは分かってる・・・だからお前が裁いてくれ。」
床に落ちていた短剣を再び持ちエリスに手渡す。
「覚悟は出来てる・・・好きにしてくれ・・・俺は・・・もう・・・」
そのままゼットは項垂れた。その表情は覚悟と諦めが入り混じった複雑なものだった。
23 :
Z:2005/11/17(木) 08:56:17 ID:Ubk5VP63
バキィッ!!
エリスは渡された短剣をへし折った。
「エリス?」
「ゼット様がなんて言おうと私はアナタから離れません!!」
「だが・・・俺は・・・」
「やっと会えたのに・・・もう離れたくない!!」
「俺といればお前が傷つく・・」
「傷つけてください!!」
「お前を泣かせる・・・」
「いいです!!泣かせて下さい!!」
エリスは一歩も引かなかった。
「愛してるって・・言ったじゃないですか・・・ヒック・・・・私だってぇ・・」
エリスの声に嗚咽が混じる。
「もう・・離れたくない・・・ずっと・・一緒に・・・うんっぅ!!」
言い切る前にゼット唇に自分の唇を塞がれる。
「ん、ん・・むぅ・・・ん」
口の中を丹念に絡めとられエリスはゼットの舌に翻弄される。
「ぷ・・はっ・・はぁ、はぁ・・・ゼット様。」
「口同士でキスってのは初めてだったな。」
やっと開放されてエリスは息を荒げる。
「また泣かせたな・・・ゴメン。」
ゼットは悲しげな顔を浮かべる。
「俺はこんな奴だぞ?」
「はい!!」
「外道だぞ?」
「はい!!」
「・・・ったく、後戻りなんか出来ないからな。」
そのまま二人の顔が近づいていく・・・。
「エリス・・・。」
「ゼット様・・。」
「「愛してる。」」
24 :
実験屋:2005/11/17(木) 09:00:24 ID:Ubk5VP63
風邪だと思っていたらインフルエンザでマイコプラズマ肺炎も
併発してしまい週明けまで死の淵を彷徨いました。
抗生物質を投薬しないと危なかったそうで・・・。
とまあ、八割方完治したのでZの続きを投下します。
続きは今日中に投下しますが先に病院行ってきます。
どうぞご賞味下さい。
実験屋サマ
無理なさらずにご自愛ください。
白雀氏は何処へ・・・。
27 :
Z:2005/11/17(木) 23:03:22 ID:Ubk5VP63
【続き投下します。】
荒れ果てた部屋でかろうじて被害を免れたベッドの上で後からゼットに抱きすくめられるエリス。
ゼットの手がエリスの上着のボタンを外し、胸を隠すサラシにかかった。
「・・・怖いか?」
ゼットが顔を傾げながら聞いてくる。
「大丈夫です。」
エリスはニコッと笑みを返した。
「大丈夫って事は少し怖いんだ?」
「え?あっ・・その・・」
気に障ったかとエリスの顔が曇る。しかし、ゼットは優しい表情で、
「もう・・あんなヒドイ事はしないから・・・だから・・・」
「ゼット様・・・」
そのまま二人は求め合うように唇を重ねた。
「んっ、むぅぅ・・・」
二人の舌が絡み合う淫靡な音が静けさを取り戻した部屋に響く。
ゼットの手は再びサラシに伸びていた。ゆっくりとサラシを解き丁度良い大きさの
乳房を露出させる。
「あんっ・・・」
多い被さる様に右の乳房を包み込まれる。ゼットの手が乳首に触れる刺激で
エリスは思わず声を漏らした。
「んくぅ・・あっ!!」
優しく乳房をも揉まれながらゼットはエリスを押し倒す。
「あぁぁ・・・ゼットさまぁ・・・」
ゼットのキスがうなじから首下、乳房へと到達する。
「ひぁ!!」
乳首を舌全体で包むように咥えて乳房を舐め回す。ジュルジュルと音を立てて
右の乳房全体を舐めて回る。
「あぁ・・そんなに・・胸ばっかりぃ・・・」
「エリスのおっぱい、とっても美味しい。」
「そんなぁ・・いやぁん・・・」
ゼットは感想もそこそこに乳房を再び味わう。
28 :
Z:2005/11/17(木) 23:04:54 ID:Ubk5VP63
「はぁぁん!!あぁんぁぁ・・・ゼットさまぁ・・・あぁんあ!!」
乳房への刺激だけで悶えまくるエリス。ふと腰の方に目をやるとエリスの下半身は
コチラもして欲しいといわんばかりに腰をくねらせ、足は快感に引きつっていた。
「下もこのまま行くよ?」
ベルトの留め金を外し、ズボンとショーツをまとめてひき下ろす。
「あぁぁ・・恥かしいです・・・」
真っ白な裸体を晒しだすエリス。陶磁器の様に輝くその姿にしばし見とれるゼット。
「エリス・・・キレイだね。」
「そんな事無いです・・・」
恥かしげに目を閉じるエリス。と、ある一点に目が留まった。
「これは・・・?」
エリスの肩に赤いアザが出来ている。ゼットが衝撃波でエリスを吹き飛ばした時についた物だ。
「こ、これは・・・」
エリスが答える前にゼットがアザに手を伸ばす。手が触れた瞬間、暖かい力がエリスに流れ込む。
「これで心配ない。」
ゼットが手を離すと肩からアザが消えていた。回復魔法でアザを直したのだ。
「こんなにキレイなエリスの身体に・・・俺は最低だな。」
「そんなこと・・・。」
「責任は・・・とるよ。」
そのままゼットはエリスの頬に口付ける。
「ゼッ・・ト・・さま・・・」
額、鼻先、耳、顔中隈なくキスの雨を降らせる。そしてそのままゼットの顔は
舌へと下がっていく。途中乳房やくびれを経由しながら吸い付くようなゼットの
キスの進路は腰へと向かい秘所へ・・・
29 :
Z:2005/11/17(木) 23:06:13 ID:Ubk5VP63
「あっ!!そ、ソコはぁ!!」
クレヴァスを舐められる感触にエリスは腰をくねらせる。
エリスは股を閉じようとするが力が入らず、しかもゼットに太腿を押えられている為
ゼットの舌技から逃れられないでいる。
「あぁあん!!・・・くぅうぅ・・・はぁぁ・・」
腰から下が自分のもので無いような感覚の襲われる。エリスはゼットの
一心不乱な責めに身を委ねているうちに愛しさと切なさで胸がいっぱいになる。
この行為が自分を愛してくれている証なのだと思うだけで言いようの無い快感が
エリスを狂わせる。
「ゼット様ぁ・・・愛しています・・・」
この思いに答えるべくエリスは腰を持ち上げて振り乱す。
「俺も愛してるぞ・・エリス。」
今までに見たことの無い優しく全てを包み込んでくれるようなゼットの笑みに
エリスは涙を流す。
「ど、どうしたんだエリス!?」
突然泣き抱いたエリスにゼットは動揺した。
「ゼット様が・・私に・・愛してるって・・・うれしい・・・」
報われること無く散っていくはずだった想いを受け止めてもらえる幸せがエリスを包む。
「エリス・・・」
「ひゃっ!!」
ゼットはエリスの瞳から流れる涙を舐めとった。
「嬉し泣きでも・・・エリスが泣くのは耐えられない。」
左から右へとエリスの頬を伝う涙を舐めとる。
「ゼット様・・・ありがとうございます。」
「俺は何もしてないさ。」
「あの・・・その・・・」
エリスが顔を赤くして俯く。
「どうした?」
「・・・・挿れてください。」
30 :
Z:2005/11/17(木) 23:07:36 ID:Ubk5VP63
すでにゼットに舐め回されたエリスの秘所はビクビクとヒクついていた。
「いいのか?」
「はい・・・来て下さい。」
エリスはゼットを待ちわびる。
「・・・・・」
ゼットの顔が真剣味を帯びる。今まで平気で犯してきたエリスのソコは神々しくて
自分が入るに相応しくない聖域の様に感じられた。そんな聖域を汚した自分を内心
罵りながら肉棒をあてがっていく。
「・・・いくぞ。」
「はい・・・。」
ゼットは慎重にゆっくりと自分の分身を沈み込ませる。
「くぅっ・・・あっ!!」
己の中に入ってくる異物の感覚にエリスは思わず声を荒げる。
「す、すまない・・・もうやめるから」
顔をしかめるエリスにゼットはそう言いながら肉棒を抜き出そうとする。
しかし、
「大丈夫です・・・から・・来て下さい。」
エリスは自分に覆いかぶさるゼットを抱き寄せ離れないようにしがみ付く。
「しかし・・・」
「離れたくない・・・離れたくないから・・・」
背中に回されたエリスの手が一層しがみ付く力を強くする。
「分かった・・・ゴメンな。」
本当の意味でまたエリスを泣かせるところだった。自分の浅はかさを呪いながら
ゼットは腰の動きを再開した。
31 :
Z:2005/11/17(木) 23:08:32 ID:Ubk5VP63
「くぅ・・ふぁっ、あぁ・・」
ゼットが腰を動かすたびにエリスは悩ましげな声を上げる。
「・・・平気か?」
「はい・・・気持ちいいです・・・あぅっ!!」
自分の肉棒を吸い込むように締め付けるその感触にゼットはエリスの言うことを信用する。
「あぁぁ・・・ゼットさまぁ・・好き・・・愛してます!!」
「エリス・・・!!」
エリスの内部の心地よさに包まれてゼットの肉棒も昂ってくる。
「あん!!・・・あぁぁ・・・んっ、あぁ!!」
エリスの表情が恍惚を帯びてくる。
「エリス・・・エリス!!」
「来て・・・私の中に出してください!!」
そう言われゼットはピストン運動をより一層激しく行う。
「はぁ!!・・ダメッ・・・もう、わたし・・・・イッちゃう!!」
エリスの中が急激に締まりだした。そして小刻みに震え全てを飲み込もうとする。
「エリス!!一緒に・・・クッ!!」
飲み込まれたゼットの肉棒はその刺激に限界を向かえエリスの中で果てた。
「あ・・・あぁぁ・・・ゼットさまぁ・・・」
「エリス・・・」
二人は寄り添いあいながらそのまま深い眠りへと落ちていった。
32 :
Z:2005/11/17(木) 23:09:49 ID:Ubk5VP63
「うぅん・・・あっ・・・」
暖かい感触にエリスは目を覚ます。
「起きた?」
「え?・・・ゼット様!!」
声の先に目をやりエリスは今の状況を把握した。
布団の中で正面からゼットに抱きしめられているのだ。
「申し訳ございません!!ゼット様より遅く起きるなんて!!」
「いいさ、おかげでこうしてられたしな。」
「あん・・。」
ゼットがエリスを抱きしめる力を強くする。
「無理に俺に仕えようなんて思わなくていい。ただずっと一緒にいる以上
守ってもらうことがあるんだが・・・」
「・・・なんでしょう?」
「これからは俺に愛され続けろ。いいな?」
「・・・・はい。」
しばらくしてオズマリアのゼット・ルーファスに常に寄り添う男装の副官が
現れることになる。
第8話〜完〜
33 :
実験屋:2005/11/17(木) 23:20:32 ID:Ubk5VP63
何とか体調も回復しました。Zは今後、短編形式で続けていく予定です。
よろしかったらお付き合いください。
>>25 そう言っていただき感謝感激です。
>>アヒル様
遠井家&浜屋道場乙です!!
特に浜屋道場のパロスペシャルに激ワロです!!
道頓堀カーネルにあんな起源があるなんて・・・知らなかった。
久しぶりに投下します。またエロまで果てしないです。ごめんなさい…
続編となるのですが、時間が開いてしまい、忘れられてそうなので
人物紹介からしてみたり。
気分は、ゲーム攻略本のキャラ解説でw
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
■ホーク(Lv.39)
本名:不明 年齢:19歳
分類:盗賊 職業:トレジャーハンター
使用武器:短剣、弓
少々へたれ気味だが、一応主人公。趣味は園芸の平和主義。
普段、あまり物事を深く考えてないよーな。
考え始めると後向き街道まっしぐらかも。
■リディ(男装時:リド)(Lv.17)
本名:アイリーディア・シャム 年齢:18歳
分類:剣士 職業:クリスの世話焼き・農村のお手伝い要員
使用武器:長剣
幼い頃、家族を野盗に殺されたため、盗賊と分類される者全て
嫌っていたが今は…。
大人しいように見えるが、直情傾向有り。
現在はクリスんちで生活している。職業的に、レベルが上がったら
ホークより強いような…
■クリス(Lv.10)
本名:クリス・C・ノーア 年齢:14歳
分類:魔術士 職業:王宮魔術士の後継ぎ
使用武器:自分自身(本人談)
引き籠もり傾向があるためレベルは低いが、生来の才能と研究の成果で、
そこそこ使える。
生い立ちは、リディに育てられたようなもの。
女の子の様な可愛らしい外見に反し、かなり腹黒いと思われ。
■ローズ(Lv.3)
本名:不明 年齢:10歳
分類:魔術士 職業:お子様
使用武器:ひみつ
能力の詳細、活躍は遥か未来で。きっと。
ホークんちの居候。性格はちゃっかりしっかり。
◆レッドムーンの人達
食堂兼宿屋を経営。
ママ:一応、スネイルとゆー名前があります。本名は秘密。
乙女ちっくで巨漢でオカマ。
メイ:ママの奥さん。オカマの妻の座に平然と収まる強者。
※二人は同じ盗賊団出身。現在、元団員達の協力により、情報屋を
裏稼業として営む。因みに下記のトビーも同じ盗賊団出身。
◆パパさん達
トビー:ホーク父。
常に留守で、職業、経歴共にほぼ謎なクソ親父。(誉め言葉)
レオン:クリス父。
王宮仕えの魔術士だが、王都ではなく、付近の平和な農村に居を構える。
ペルジオ:リディ父。
戦う百姓親父。村周辺の盗賊を退治した結果、復讐により逝去。
娘をそーとー溺愛していたらしく「リディを泣かせたら祟られる」
と、上記2名は語ってます。
イロイロ大変だな、ホーク。はっはっはっ。
※パパさん達は若かりし日の旅仲間です。
あれから、一ヵ月ぐらいだろうか。
親父の友人の子供だという少年、クリスとリドの魔物退治に付き合った。
しかしリドは、追っ手の目を惑わすため、男装していた女の子だった。
リド、いや、リディとは勢いでヤッちまったが、結構本気で惚れて
しまったようで…
しかし、コトの後では言い出しにくく、結局何も言わずに別れてしまった。
素の彼らと過ごした時間は、短かかった。
それでも、また会いたい気持ちは消える事無く、こっちから会いに
行く口実やタイミングをずっと考えてた。
しかし、再会の時は突然やってきたのだった…
* * *
イロイロ考える事もあって、最近は本業の盗掘に精を出してる。
今日も、2週間程かけて隣国までチョロリと仕事に行って帰ったトコだ。
日が傾きかけた頃、家に着く。
「ふぃ〜…たぁだいまっ…とぉ」
「おっかえりー。稼げた?」
トテトテとローズが出迎えに走って来る。
「ん、まあまあ。明日にでも換金してくる。」
ローズの頭を、ガシガシと撫で留守番の労をねぎらい、旅の荷物は
放置したまま部屋へ向かった。
「もー…」
ブツクサ言う声と、荷物を引きずる音を聞きながら、階段を昇る。
んな厄介な遺跡ではなかったが、場所が遠くて行って帰るだけで疲れた。
ベッドに身を投げ出し、窓から覗く空を見上げる。
月は欠け、また満ち始めた。
俺の部屋は今夜辺り、リディを抱いたあの夜のような光景に
近づいているだろう。
そんな部屋に一人で居るのは虚しそうだ。
一眠りしたら、呑みにでも行こうか…
半分眠りながら、そんな事を考えていた。
その時、いきなり異様な気配を感じる。
驚いて目を開けると、風景が歪んでいた。
「な、なんだ!?」
前にもこんな事あったよーな…
―ドサッ
「ぐはっ」
身を起こすより早く、記憶を引きずりだすより先に、何かが俺の
上に降ってくる。
蜂蜜みたいな金髪の少年、クリスだ。
そういや、前にこいつの魔術で移動した時も、あんなふうに景色が
歪んでた。
「く、クリス!…久しぶりだなー。親父さん達、無事だったって?」
や、呑気に挨拶してる場面でもないな。
「ホーク!リディは!?リディ、来てるでしょ!?」
「へ?」
「僕は連れ戻しに来た訳じゃないんだ。匿っても意味ないからね!?」
襟首を掴まれ、すごい勢いで迫られるが…そんな嬉しい現実、俺は知らん。
「待て、落ち着け!俺は何も知らん!説明しろ!」
「何騒いでるの?…あ、クリスちゃんだ!」
ローズがひょっこり顔を出す。
「ローズ、リディどこ!?」
「どしたの?リディちゃん?何が?」
俺に乗っかったまま噛み付く、クリスの勢いも物ともしない声が聞こえる。
「本当に、知らないの?」
俺とローズを交互に睨む気迫は中々だが、知らんモノは知らん。
「取り敢えず落ち着いて、そこをどけ」
いくら女みたいな顔してても、野郎に乗っかられるのは楽しくない。
クリスは憮然としたまま床に下りた。
居間に移動し、ローズが煎れた茶で一息付く。
クリスは相変わらず、ムスッとしたまま対面のソファで、ブツブツ
呟いている。
「魔術でここまで来たみたいだが、体調は?大丈夫なのか?」
前はこの術使った後、ぶっ倒れてたが…
「ん?ああ、道具さえ使えば、けっこー楽なもんだよ。大丈夫」
口調からすると、少し落ち着いたようだ。
「そんならいーや。で、何が起きた?」
クリスは茶を啜り、溜息をつく。
「リディが…帰ってこないんだ…」
その顔は少し青ざめ、疲労が見えた。
* * *
リディがノーア氏に遣わされ、セッタの町にある、氏の友人宅に
出発したのは一週間以上は前になる。
同行した者達の話によれば、その帰り道に「別の用事がある」と、
リディは一人で姿を消したらしい。
セッタからここ、ヒュージリアまでは馬で飛ばせば半日程度。
なので、クリスは俺の所にリディはいると狙いを定めたらしいが…
「私、ずっと家に居たけど誰も来なかったよ」
ローズに予想を突き崩されたクリスは、頭を抱えてしまう。
「実際に姿を消したのは、何日前なんだ?」
「今から5日前…。もしかしたらすぐ戻って来るかも、って様子
見てたんだけど、連絡すら無い」
「リディが家を出るような心当たりは?」
この質問には、少し間が空き…
「父様ね、命は助かったけど、今でも寝込んだままなんだ」
少し呆れたような顔になり、続ける。
「それで、母様がすっかり保守的になっちゃってさぁ。早いうちに
身を固めるべきだ、とか言って、リディにしつこくお見合いを勧めて
たんだよね」
「見合いぃっ!?」
待て。見合いってアレだよな。結婚が前提になってる…
「写真も見ないで断り続けてたよ」
「そ、そうか…」
し、心臓に悪い…
ついでにお子様達から向けられる、生温い視線が居心地悪い。
「でも、母さまも強情でさ。見舞いに来た父さまの友人と、その
息子まで家に泊めたりするから、リディには寝る時も剣は離さないよう、
言ってたんだよ」
溜息混じりで吐き出された言葉に、少し動揺する。
「…それは、何か?お前の母親は、強行手段に出たという事か?」
「まさか、母さまがそこまでするとは思いたくないけど…。
そのくらいの勢いだった」
「はぁ…」
一瞬、静寂が落ち、クリスがボヤく。
「リディが逃げ込むなら、ホークの所だって思ってたんだけどな…」
「……なにゆえ?」
あ、思わず言葉が変になった。
なんだ?その物言い、期待すんぞコノヤロー。
「僕に、男女のココロのキビなんてモノは理解出来ないけど、リディの
考えてる事は解る。つまり、そーゆー事」
「はあ」
クリスはそれ以上何も言わず、楽しげに笑うだけ。
俺に都合良い方に、受け取っていいのか?
クリスだけでなく、ローズまで愉しげなのが、居心地悪い。
…リディが考えてる事は本人に会ってから聞けばいいさ。
話題を戻そう。
「話がそれたな。…えーと、リディが姿を消したのは5日前。
もしかすると、見合いを嫌がり、家出したのかも…という事だな」
「そーゆー事」
女の一人旅となれば、人身売買目的の人さらいやら、野盗の恰好の的。
リディの容姿も、そういった輩に狙われるに充分だ。
「馬と剣は?」
「少人数だったから、馬車じゃなくて馬で行ったよ。それに、村を
出る時は、護身用に剣は離さないはず」
…彼女の剣と馬術なら、複数に囲まれたとしても逃げるのは容易いはずだ。
だが、それもよっぽどヤバい連中に狙われなければ…だ。
「他に心当たりは?」
「少しでも可能性のある所は、僕の使い魔に見張らせてる。音沙汰無し」
うーん…
ローズを横目で見やると、ニコニコと笑い返してくる。
…こーゆーのは、本当はローズの得意分野なんだが。
この様子だと、自分達でなんとかしろ、という事らしい。
ローズが何も言わないなら、取り敢えずリディは無事なのだろう。
こっちの狼狽ぶりを、ただ楽しんでるだけって気もするけど…。
やれやれ。
俺は立ち上がって伸びをする。
「んじゃ、出掛けるとするか」
「どこに?」
不思議そうな顔を向けたクリスに、笑ってみせる。
「情報収集しかないっしょ」
* * *
クリスは白い小さな石を取り出し、変な発音の言葉を呟いた。
すると、石は青白い炎に包まれ床に落ちる。
炎はそのまま広がり、複雑な魔法陣となった。
例の歪みが視界を覆い、俺達三人はヒュージリアの裏通りへと移動していた。
目的地はレッドムーン。
俺がリディ達と初めて会った場所。
ゴツいオカマのママがいる飯屋だ。
リディがこの周辺で姿を消したのなら、ここにいる可能性は十二分にあるし、
ママは情報屋。なんらかの手掛かりくらいは掴めると踏んで、ここに来た。
が、店内が何やら騒がしい。
この時間なら、酒も振る舞われてるはず。酔っ払いのケンカだろうか。
俺は、先に店に入り様子を伺う。
* * *
やはり、店内では酔っ払い同士がケンカをおっ始たとこだった。
「テメェ!もう一度言ってみやがれ!」
立ち上がり、睨み合うガタイの良い男が二人。
あー、コイツら毎回ケンカしてる常連だ。
一触即発なそこに、小柄な長髪のウェイターが乱入する。
酔っ払いの一人は、ウェイターが手にする、モップの柄で鳩尾を
突かれて撃沈。もう一人は、喉元にモップを突き付けられ、壁に
貼り付けられた。
それは一瞬の出来事。
客からは歓声が上がり、当の本人達は呆然としている。
随分と玄人染みた動きだが…この店にママとメイさん以外に、従業員
なんて居たか…?
「お客さん、喧嘩なら外でお願いしますよ」
「なっ…」
思わず声を上げる。
押し殺したような、掠れた声。
少年なら、声変わり前のようなその声に、聞き覚えがあったからだ。
「あっ…!」
向こうもこちらに気付き、絶句する。
そう。その、ウェイターは『リド』だった。
ワイシャツにストリングタイ、腰にはエプロン。
束ねられた黒髪が、サラサラと動きに合わせて揺れる。
完全にウェイターと化したリディは、今は少年として振る舞っていた。
「リドちゃん、おひさ〜!」
外で待たせてたはずのローズが、平然と俺の横を通り過ぎ、奥に席を取る。
振り向くと、クリスが固まっていた。
席に着く俺達に、リディが水を持ってくる。
「こんなトコで何やってるのさ」
「出稼ぎ」
睨みつけるクリスの勢いをかわし、彼女はさらっと答える。
「お金だったら、僕の面倒見役として貰ってるでしょ!?」
「じゃあ、社会勉強?」
「何で!」
クリスはかなり、イラついてるようだ。
「クリスの面倒見て貰うお金なんて、お小遣いと同じじゃない…」
リディは視線を逸らし、小さな声で呟く。
その声も言葉遣いも女性のものだったが、次の瞬間には無愛想な
少年へと戻る。
「今は仕事中だから、後で話す。それと、店内では男って事になってるから」
リディは小声でそれだけ伝え、逃げるように去って行く。
それと入れ代わりにママがやってきた。
「皆サマ、お・ひ・さ。あら、男性陣は怖い顔ね〜」
語尾に音譜が付いてそうなくらい、上機嫌だ。
そんな態度に、蓄まった疲れが一気に吹き出て、ついママに当たってしまう。
「ママ…どうなってんだよ!」
「なかなか似合ってるでしょ?本当はフリルのエプロンとか着てほしいけど、
この通りは、女の子には物騒だものねぇ」
うむ。胸の辺りを強調気味のヒラヒラエプロン、ミニスカにニーソで
生足がチラリと…って、今はそこじゃねぇっ!
「それに、リドちゃんくらいの腕があれば、さっきみたいなのにも
対応してもらえるしネ」
先程の酔っ払い達は、酒を前に毒気を抜かれたように座っている。
「ねえ、ママ。リド、働きたい理由、何か言ってなかった?」
クリスが聞く。
確かに、社会勉強目的なら、黙って出てくる理由も無い。
「何か事情はありそうだったけど、聞いてないわ」
「そう…」
頬杖を付いてクリスが落胆する。
その様子にママは何かを察し、気を効かせてくれた。
「今日はもう上げてあげるから、ゆっくり話しなさいヨ。さ、
注文は何にする?」
そういや、腹ぁ減ったな。
クリスは沈黙してしまったので、ローズと適当に注文を選んだ。
* * *
「どうしたんだ?」
すっかり考え込んでしまったクリスに話し掛ける。
「ん〜?…こんな近くに居たのに、なんでホークのトコ行って
なかったのかなーって」
テーブルに肘をついたクリスの視線の先では、リディが最後の
料理を運び終り、ママとメイさんに挨拶をしている所だった。
その姿は、働くのが楽しくて仕方ないといった感じ。
や、働くのが目的、結構じゃないか。
べ、別に、会いに着てくれなかった事なんか気にしてないぞ。
留守だったからな。
この際、ママ達に知らせておいた旅程から、帰りが2日程遅れた、
なんて決定的な現実は忘れる。
…傷ついてなんかないって…
「…僕は、リディの枷でしか無いのかな」
ほとんどテーブルに伏せたような姿勢から、か細い声が聞こえる。
「クリス?」
「僕の探しそうな所を避けて…これじゃまるで、家から逃げ出そうと
してるみたいじゃないか!」
起き上がり、テーブルの上を見据える顔は、拗ねた子供の顔だった。
「でもよー…」
「クリスちゃんは、まだまだガキねっ!」
俺を遮り、突然ローズが叫ぶ。
ガキがガキをガキ扱いしてどーする。
「ローズ…?」
ぽかんと見返すクリスに、ローズは朗々と続けた。
「いーい?自分でお金稼いで生活しようってのは自立よ、じ・り・つ!
家族にでもなんにでも、保護されてるって自覚がなければ、自立
なんて考えない!」
クリスは、ローズに人差し指を突き付けられたまま、唖然としている。
「…そう、いうもの?」
「そう!黙って家を出るってのは、褒められた事じゃ無いけど、
何か事情があったのかも、とか…少なくとも、リディちゃんが
クリスちゃん達を大好きだって、信じられないの?」
しばらくローズを見つめていたクリスは、戸惑いはまだ消えない
ものの、微かに笑った。
「……そうだよね。僕、リディの話、まだ何にも聞いてないのにね…」
「クリスちゃんみたいに、家を継ぐってレール敷かれてるのも大変だと
思うけど、何のレールも無い人生ってのも、考えなきゃいけない事
いーっぱいで、大変なんだから」
愚痴でも吐くかのように、ローズが言う。
…俺も、コイツが一人で生きていけるよう、考えてやらんとなぁ…
その時、店の奥の扉が開き、リディが出てくるのが見えた。
「本人登場、だな」
緊張の面持ちで歩いてくるリディ。
ジーンズにブラウス、と以前のような少年の服装だが、帽子が無い。
「お、お待たせしました…」
ガチガチに固まって挨拶される。
「そんな緊張しないでよ」
「クリス…」
クリスの柔らかい笑顔に迎えられ、安堵したようにリディの力が抜ける。
「聞きたい事はイロイロあるけど、一つだけ」
しかし、そう前置きするクリスには、何故かまた困惑の色が見え始めている。
「…もしかして、父様は全部知ってた?」
「うん。…え?えぇっ!?何も聞いてないの!?」
「あぁ〜やっぱりぃ〜…」
いきなり動揺し始めるクリスとリディ。
俺とローズは流れに着いて行けず、ただ見守るのみ。
「リ…ドが連れてるの、父さまの使い魔だよね…。あー、もう!
何にも知らないとか言いくさって、あの万年発情馬親父がーっ」
待て、クリス。キャラ壊れてる壊れてる。
「えーと、話が見えないんだが…」
やっと、口を挟める隙が出来た。
「あ、ごめん。ホーク、ローズ、久しぶりだね」
リディは我に返ると、改めて挨拶する。
「お、おう、久しぶり」
「お久しぶり〜っ」
なんか、バタバタしてた割に、のんびりとした再開だ。
「取り敢えず座れよ。話すならゆっくり話そうぜ」
丁度、料理も運ばれてきた。
リディは仕事の上がりがけに注文を済ませたらしく、人数分の料理が並ぶ。
皿を並べ終わると、ママが言う。
「リドちゃん。明日から三日間お休み上げるから、遊んできなさいよ」
「三日もですか?」
「ここに来てから働き詰めでショ?見る所の少ない町だけど、
勿体ないわよぉ〜」
「は、はぁ…」
なんかテンション高いママはフフンと鼻を鳴らし、突拍子も無い
事を言ってくれる。
「きっと、ホークちゃんが案内してくれるワ」
「「えぇっ!?」」
二人して同時に声を上げる。
お、俺的にはやぶさかではない、ってーか願っても無い事なんだが。
いや、そのイキナリ…
ウフフと、キモい笑いを残し去っていくママを、俺とリディは
半ば呆然としながら見送った。
「…あー、えっと、皆を巻き込んじゃったし、最初から話すよ…」
あのー、今のママのセリフ、無い事になってない?ねえ?
気を取り直し、リディは話し始めた。
事の発端は、やはり例の見合い話。
断り続けるリディと、諦めないノーア夫人の口論は日常となりつつあった。
そんなある日、夫人の放った言葉が起爆剤となる。
「もしこの家が無くなったら、あなただけでは生きていけない」
それはノーア邸が襲撃され、邸の主人が生死の境を彷徨った件から来る、
夫人の気弱さが言わせた言葉なのだろう。
だが、リディにとっては、自分の無力さを突かれる形となったようだ。
「確かにオレは、この歳になっても仕事らしい仕事をした事が無い。
村の外の事もほとんど知らない。…そう思ったら悔しかった。
だから、家を離れて、クリスの手も借りないで、一人で何かやって
みたかったんだ」
「別に農家や剣術家でじゅーぶんじゃん?」
「そうじゃなくって…ッ!」
クリスの入れた茶々に、リディは素の声で何かを言いかけ、赤面して止まる。
その瞬間、クリスとローズの目が笑っていた事に、俺は気付かずにいた…
「とにかくっ…それをおじ様に愚痴ってたら、じゃあ実際に
やってみるかっておっしゃって、この計画を出してきたんだ。
後は任せとけ、って…」
「で、君に使い魔を付けて出掛けさせた、と。あー、もーあの◆ν×£▼…。
リドも、そんなあからさまに怪しい計画、乗らないでよ〜」
えー、一部の表現を規制させて頂きます。
俺が言うのもなんだが、実の父にその言い草はどうよ、クリス君。
頭を抱え込む少年を気にもせず、リディは話を続ける。
「オレ、昔ちょっと放浪癖があったんだ。と言っても、村の周りを
ウロつくだけだけど。それで…」
リディが右手の人差し指を水平に伸ばすと、そこに白い小鳥が
ぼんやり現れる。
「おじ様に、この使い魔を付けられてたんだ。こいつと居ればオレの
居場所も大体特定出来るし、多少の身の危険からも守ってくれる」
「ちなみに姿を消してても、魔術士ならちょっと注意すれば存在に
気付くよ。今回はちょっと動揺して、遅れたけど…」
悔しそうなクリスの補足が入ると、鳥は音もなく消えていった。
「つまり、リドは身の安全を保障された状態で出歩いていて、
クリスは親父さんに、見事に振り回されただけ、と」
こーゆーオチか。
「また迷惑かけちゃったね…ごめん」
「いーのよ、どうせ退屈してたし」
肩を落とすリディに、ローズが能天気に返す。
「俺も構わねえよ。暇だったしな」
リディに会いたかったから、好きで巻き込まれたんだ。
そう、言ってしまえれば…。せめてチビ共、キエロ。
「僕、疲れた…。ローズ、ちょっと集合」
「はーい」
クリスは突然立ち上がり、皿を持ってフラフラとカウンター席に
移動していく。
ローズはそれを追い掛け…
俺とリディは、いきなり二人きりにされてしまった。
* * *
…いや、確かにさっき願ったけどよ。まさか、本当になるなんて思わねーよ!
互いに、目線を合わせられないまま向かい合う。
こうしてると、あの夜を意識してしまうワケで…
彼女はあのコトを後悔してて、俺には会いたくなかったんじゃなかろうか、
と変に後向きになってしまう…。
「「あのっ…」」
気まずくなって、言葉を発せばキレイに重なる。
なんだ。このお約束展開は。めっちゃくちゃ気恥ずかしいわ!
「あ…ホークから、どうぞ」
微かに頬を染めて笑う彼女に、ホッとする反面、いやに落ち着きが
無くなる。
「え、いや、その…元気だったか?」
「う、うん。元気だったよ」
「そか、良かった…」
話したい事は沢山ある。
それでも、彼女の笑顔に心は浮き立ち、頭ん中はさらに白くなっていく。
「ホークは?」
「お、俺も元気だったぜ〜」
「そう、良かった」
わざとらしいくらい明るく振る舞う。
乾いた笑いが、しぼんで消えた。
「…と、取り敢えず飯食おうぜ…」
「…う、うん…」
気まずさを紛らすように、冷め始めた料理をモソモソと食べる。
カウンターには、いつのまにか厨房から出てきたメイさんが立ち、
チビ達とやたら話が弾んでいる。
時折口を挟むママが、困ったような表情なのが気になる…
こっちは、帰ってきたばかりの旅の話や、料理の感想などを適当に
交わしながら、ぎこちない食事を済ませた。
すると、見計らったようにガキ二人が戻ってくる。
二人そろってテーブルの横に立ち、ローズはにこやかに言った。
「ホーク!私、眠くなっちゃったから、今日はここに泊まるね」
…嘘だ。メッチャ元気良さそうだぞ、お前。
なんか不穏な気配がするな、おい。
「泊まるってな〜、お前…」
「母屋の方に泊めるし、お代は気にしないで」
反対しようとしたが、何時の間にか近づいてたメイさんの視線が、
俺に有無を言わせない。
「僕は疲れたから、もう帰るよ。それでね、リド。ホークを送って
あげてくれる?」
「え?」
「はい…?」
爽やかな笑顔で提案される。
「僕の魔術でここまで来たから、ホークは馬が無いでしょ?」
「なら、お前、俺を帰してから帰れよ」
内心、変な焦りが渦巻いているのだが、なるべく平静を装う。
「やだね。もう疲れたんだってば。それに僕、黙って出てきたから
早く戻らないと」
「クリスッ!」
当然の様に無責任発言をする少年に、リディが叱責の色を見せる。
しかし、そんな事を意に介す事無く、クリスは続ける。
「リドはもう暫らく、この町に居るんでしょ?また、様子見にくるよ。
ホーク、疲れてたのに付き合わせてごめん。今日はゆっくり休んで!
じゃ、またね〜」
陽気に店を出ていくクリスは、もんのすっっっごく元気そうだった…
そして、気まずい沈黙りたーん。
「…あ、別に構わないぜ?歩いても帰れるし、ここに泊まるって手も…」
ダメだ。ここに泊まっても、何か企まれてる。メイさんの笑顔が
それを物語っている。
なんかもー、縛り付けられて無理矢理、膳を据えられてるカンジ。
「あ、あの、疲れてるんでしょ?」
リディが心配そうに見上げてくる。
いかん。この目に弱い。
「気にすんなって!大丈夫だから!」
「ううん、送ってく。だって、オレのせいだし…馬、連れてくる!」
リディは走って行ってしまった。
「良い子だねぇ。しっかりやんなよ!」
残された俺の肩を、メイさんが叩く。
「すっごい。クリスちゃんが言った通りの反応…とと」
ローズは呟き、慌てて口をつぐむ。
「何か言ったか、コラ」
「何でもな〜い」
ったく…もう、いーや。
* * *
あれから一ヵ月か…
あの夜と同じ月の照らす草原を、馬は駆ける。
手綱を握るリディからは、髪の甘い香が漂う。
掴まっている肩は、狭くて薄い。
このまま抱き締めたい。
…ともかく、腰が当たらないよう必死だった…
* * *
「はい、着いたよ!」
馬は高く鳴き、我が家の前で止まる。
さて、開き直りのお時間ですよー…
いくらリディが強くったって、夜の一人歩きはさせたくないしな。
馬からは降りず、掴まってた肩を引き寄せる。
「サンキュな。…帰んの?」
耳元で言うと、目の前の耳が赤く染まった。
「ええええーっと…」
「もう、遅いから危ないぞ。少し休んだら送ってくから、寄っていけよ」
「それはダメっ!…ちゃんと休まないと!」
勢いで振り向くリディ。
耳元まで顔を寄せていた俺と唇が触れそうになり、慌てて前を向く。
「お、オレは大丈夫だからっ」
「だーめ。俺は心配なの」
肩に乗せた手に力を入れる。
耳の赤が濃くなってくもんだから、開き直りも楽しくなってきた。
「で、でもっ」
「じゃ、泊まってく?どーせメイさん達は、その腹積りだろーしな…」
俺の言葉に、彼女は動きを止める。
しばらくして、思い立ったように呟く。
「…もしかして、ハメられた?」
鈍い!
「今頃気付いたか。言っとくけど、俺もハメられたクチだからな」
我ながら脱力する現況に、リディの肩に顎を乗せる。
「…なら、仕方ないか」
少しだけ、照れた笑顔が振り向いた。
本日は以上です。
>>アヒル氏、実験屋氏
新スレ発動より、早速GJ―!です。
ついつい、投下が乗り遅れてしまいましたよ。
これからも、期待させて頂きます!
最近、風邪が流行ってるみたいですね。
皆様、お大事にどうぞ…
医者には早めに行きましょうね。
「インフルエンザだが、もう治りかけている。来るのが遅い」
と、過去に二回程、医者に叱られた私からのメッセージ…orz
GJ〜
GJです。ビバ生殺し。
GJ!!
司さんマダ~
8838サマ、降臨お待ちしてます。
Tera
Moe
Revolution
TMR!!
なんてこれみながらTM聞いてたら、ふと思った。
>アヒル氏
同時に四つ書くって凄いなぁと思います。
久々の浜田道場、好きです。これからもがんばってください。
>実験屋氏
部下がいい…つまりZもいい奴なんでしょう。
壊れてるZがなんだかとても好きです。よかったなぁ。
インフルエンザの予後、ご自愛ください。
>R.m.G.
俺は、どうも、この、おかまの夫妻が大好きだ(以前のなれそめに泣けました)。良過ぎる。続きも楽しみにしてます。
浜田じゃねえ!浜屋だ…!(切腹)
新スレおめでとうございます。
久々に時間ができたので投下します。
ちょろっと長く、しかもエロ成分に欠けておりますので、
面倒な人はスルーよろしく。
54 :
ス・ロゼ(1):2005/11/20(日) 02:56:49 ID:e020VMCm
メルの住むス・ロゼは、とても大きい町の一部なのだそうだ。
一度はのぼってみたかった、教会の鐘楼のてっぺん。
風の吹き込むくりぬき窓からは、えんえんと続く屋根の連なりの果てに、かすかに、周囲を取り巻く灰白の平らな稜線が見えた。
きっとあれが話に聞く『山』というものなのだろう、とメルは目をみはりながら考えた。
「そこにいるのは誰だ?危ない、おりろ」
ほどいた鐘の紐を腕に巻きながら、気配に振り向いた老いた寺男が怒鳴った。
「なに、大きな山が見える?ばかな子だ。あれは市壁だ」
壁。
…ほんとうだろうか。
ス・ロゼの楼門が穿たれた壁はもっと低いし、家家と同じ濃淡のばら色をしているのに。
メルが驚いていると、都の壁だからずっと大きいに決まっとる、と老人は仏頂面で付け加えた。
「たくさんの屋根……」
メルは口ごもりながら、広い光景に見蕩れた。
寺男の老人は紐にとりついているから、闖入者を叱りつけたもののすぐには実力排除を行えそうにない。
彼はじろりとメルを睨んだ。
「どのうちにも、全部、人が住んでいるの…?」
「当たり前だ」
見える限りのこの屋根の下には、ス・ロゼ中の住人を全員あわせた何百倍もの人間が住んでいるのだ、と寺男は吐き捨てた。
そして、不思議な生き物を見る目つきで、小さなズボンをはき、シャツの裾をはみ出させているメルの顔を眺めた。
「待てよ。お前さんはたしか、となりで養われている子だったか」
「…うん」
「いくつになる」
メルは片手を出し、それからもう一方の指を一本付け加えた。老人は呟いた。
「大きくなったもんだ。だが、女に囲まれとるせいか、なんだか女の子みたいな顔になったな」
メルが返事に困っていると、烈火のごとく怒ったマダムが、館の下男を引き連れてはしごの下に現れた。
すぐさま鐘楼から引きずり下ろされた。
寺男に鐘の紐をひかせてもらえるかもと、ほのかに期待していたのだが。
あの、どっしりした壁に護られてどこまでも広がる屋根の波をもっとゆっくりと見たかったが、無断で教会に行き、無断で寺男とおしゃべりしたというのでマダムにきびしく叱られた。
「でも…」
メルは細々と主張した。
「あの人は、お坊さまじゃなかった……です」
マダムは眉を吊り上げた。棚の上から細い樺の枝を探り下ろす。
「寺男も同じです。それから口答えをしたね。手をお出し」
心躍る眺めに再び臨むことのできないまま三年がたち、メルは今年の冬には十歳になるはずだ。
55 :
ス・ロゼ(2):2005/11/20(日) 02:58:31 ID:e020VMCm
*
教会のコウノトリの巣が見えるの見えないのの議論が、どうやって、自分の唯一のささやかな冒険である三年前のその話に移ったのかがメルには定かではなかった。
「たしかに、市壁はとても長いらしいわ」
それぞれの下着を配るメルのために躯を反らしながら、『お姉さん』の一人であるアンヌが上手に相づちをうってくれた。
メルはほっとして彼女に微笑んだ。
話が得意でないのは、自分でもよくわかっている。
「全部回りきるのに一日ではとても足らないんですって。馬でなきゃ無理って、いつかお客さんが言ってたわ」
「そんなのちょっと考えればわかるでしょ、だってここは王様がいらっしゃる都なんだもの」
同じく『お姉さん』のトリクサが、遠慮なく鼻をならした。
若くてきれいな娘だけどずばずばものを言うから、メルはトリクサが苦手だ。
「ス・ロゼなんて、ハンカチに刺繍針で突いた穴みたいなものよ。でも、ま、メルの場合、楼門から外は一人じゃ覗いた事もないんだったっけね」
都から少々離れた農村からこの館にきたトリクサは、事あるごとに物知らずのメルをからかうのが面白いらしい。
といっても『外』から来たのはトリクサだけではない──ス・ロゼしか知らないのは、確かにメルくらいのものだろう。
メルはへどもどして押し黙り、手にした籠の底から衣装棚に、今度は丁寧に畳んだハンカチを移しはじめた。
こんな時に、さっと気の利いた事が言い返せない性質である。
「しかたないじゃない。メルはまだ小さいんだから、トリクサ」
トリクサの横で、長い黒髪をブラシでときほぐしていた、同じく『お姉さん』のアリシャが口を挟んだ。
「もちろん、知ってるわよ。ある意味羨ましいわ」
メルの、ズボンの裾から踝が覗く細っこい素足を馬鹿にしたように眺めてから、トリクサは化粧を落とした唇を突き出した。
化粧台の自分の抽斗をあけてひっかきまわしながら、ぶつぶつ言った。
「あら、髪のリボンがまたどこかにいっちゃった。えーと、どこに置いたかしら」
「トリクサ。またなくしたの」
アンヌが吹き出した。アリシャがブラシを振った。
「しかも、いつもいつも、目立つリボンなのにねえ」
「そうよ。きっとしばらく使ってると足が生えてくるんだわ。でもいい、夜までに『外』に新しいのを買いにいくから」
メルも吹き出したいのをこらえて籠を抱え直し、化粧部屋からそっとすべり出る。
トリクサほど小さなあれこれをいつもなくす『お姉さん』はいやしない。
そのうっかり癖は他でも発揮されて、彼女はお代をツケにした後よく忘れているから、ス・ロゼ界隈の小間物屋から敬遠されている。
そしてトリクサのほしがるような田舎じみたリボンは、そもそも、王都でも名高い歓楽街であるス・ロゼには少ない。
*
メルの、正しい名前はメルロゼとか言うらしいのだが、誰も呼ばないしほとんど誰もがそれを知らない。
第一、それとても本名とは言えない。
彼女の本名は、『お姉さん』たちははおろか、実はマダムすら知らないのだ。
実際、メルの産みの母親が、我が子の名をつける暇があったのかどうかすら疑わしい。
九年前の冬の早朝、地区の境界ごしに隣接する教会と濃いばら色の壁の館の間の路地で泣いている生後数日の赤ん坊を、遊び帰りの男が見つけた。
鼻白んだ顔で赤ん坊を抱えた男が向かったのは、当然のごとく教会のほうだった。
だが司祭は、同じ教区の司教選出にむけた自薦活動に勤しんでいてあいにくの留守であり、
「捨て子だと?そんな事いって実はおまえさんの子だったりするんじゃないのか、この遊び人め。司祭様のお留守中に、勝手な事はできん。帰れかえれ」
と、まあ、寺男のくせにたいそう無慈悲な老人に、こう拒絶されてしまった。
腹がすいたらしく泣き声がだんだん大きくなっていく赤ん坊を、往生きわまった男が次に持ち込んだその先は、路地を挟んだ、一夜の夢を結んだばかりのばら色の壁の家である。
館の女将であるマダムも、およびではない赤子の世話の依頼など、即座に断った。
「うちの娘たちのならともかく、なんで、見も知らない赤ん坊の面倒を見なきゃいけないんですかね」
56 :
ス・ロゼ(3):2005/11/20(日) 02:59:29 ID:e020VMCm
「うちの娘たちのならともかく、なんで、見も知らない赤ん坊の面倒を見なきゃいけないんですかね」
昨夜の客とはいえども一歩もひかぬとの勢いで男と渡り合うマダムをよそに、泣いている赤ん坊に群がり集まったのは仕事を終えた女たちだった。
「捨て子ですって、この寒いのに」
「かわいそうに」
「でも、かわいい」
「みて、小さな指」
女たちの暖かい腕に次々に抱かれると赤ん坊は環境が変わったのに気付いて泣きやみ、ぽっちりとした唇をさかんにもぐもぐさせはじめた。
「おなかが減っているのね。ねえジョアン、お湯を沸かしてきて。ミルクに混ぜて薄めるから」
「いいわ。ああ、誰か、おむつになる布を持ってない?」
女たちは子だくさんの家の出身者が多く、赤ん坊の面倒など、弟妹たちを世話してきた経験ゆえ手慣れたものであった。
お定まりのように、口論ではたちうちできなくなってきた男がロビーを抜けて逃げ出し、逃がさじとマダムが追いすがった。
鬼ごっこの体力勝負に移行すると、分がいいのは今度は男のほうだった。
玄関の大扉から、朝陽の中をみるみる遠くなっていく背にマダムが罵詈を投げつけ始めた頃には、赤ん坊はミルクを与えられ、色っぽい高価なレースのショールにきっちりとくるみこまれていた。
心地よさそうに天井を眺めている大きな瞳は遠い春の空のような水色で、女たちが我勝ちにあやしているのに気付いたマダムは卒倒しそうになった。
が、さすがに、厳寒の路上に戻せとは命じなかった。
赤ん坊は女たちの手厚い保護のもと、五日間幸せな日々を過ごした。
*
だが五日後、となりの教会に、留守をしていた司祭が戻ってきた。
早速、マダムは晴れ着を着込むと、その住居へと突進していった。
「たしかにうちとの間の路地だけれど、あの子は教会の壁際に捨てられていたんですよ。正確にはス・ロゼじゃない」
彼女は声高にまくしたてた。
「それを客が、こっちに断られたといって無分別にもうちに連れてきて。私の店が無垢な赤子を育てるに相応しい場所だとは、ご寛容な司祭様でもさすがに仰らないでしょう。
さあ、一刻も早く、こちらでひきとってくださいな。あの赤ん坊に必要なのは神様のお恵みです」
マダムの一方的な説明で片がつくと思いきや、あいにくなことにこの司祭は冷静な処理能力に恵まれた男だった。
彼は、息巻くマダムに、無理矢理に一旦お引き取り願った。
そして寺男の老人に当日の詳しいやりとりを聞き、老人と男のいざこざを窓から見ていた館の女たちそれぞれにも証言を求めた。
同日夕刻に改めてマダムを呼んだ司祭が語ったのは、かの赤ん坊が一人前の者になるまではそちらで養育費を負担するのが順当と思われる、という見解である。
「冗談じゃありません」
マダムは吠え猛った。
「絶対に、この教会の敷地にあの赤ん坊はいたんです。なんでそんな理不尽な」
「ほう。では、どうやらあなたの主張なさる境界と、当教会の認識しとる境界にはたっぷり路地一本分の隔たりがあるようですな。これは聞き捨てならぬ」
じろりと欲深げな目に晒されて、マダムは震え上がった。
この司祭は、自ら司教に立候補するのを見てもわかる通り、お上品が習い相場の聖職者にしては傍目を気にしないやり手として評判の男である。
下手をすると、この事件を奇禍として、言い分を逆手にとったあげく強引に館の一部を奪いかねない。
マダムは、ほほと笑ってごまかしつつ、急いで交渉の見通しを百八十度反転させた。
切り替えのはやい彼女の脳裏には、問題の赤ん坊の愛らしい色白の頬、濃い水色の目に、淡い金色の巻き毛が浮かんでいる。
考えてみればあの赤ん坊は素地がいい。
むすめになった暁にはきっとかなりの上玉に──いや、飾り立てれば、さらにさらに、上玉にできるはずだ。
押しつけられると思うから腹が立つ。
あの赤ん坊なら、娘になるまでにかかるだろう衣食住の費えの、元をとっておつりがくるくらいの見返りだって望めるだろう。
これは十数年後に花開く、いけ好かない強欲司祭からの滅多にない贈り物ととるべきだ。
……俗世で逞しく生き抜いている、マダムの思考は柔軟であった。
あるいはこれも、神様のお恵みであろう。
57 :
ス・ロゼ(4):2005/11/20(日) 03:01:38 ID:e020VMCm
マダムは楚々として、質素な木の椅子に座り直した。
「…わかりました。あの子はうちでひきとりましょう」
司祭は眉を寄せた。
掌を返すがごとくあまりにも急に隣人の態度が変わったものだから、興味をそそられたらしい。
「なにかたくらんでおられるな」
彼は、机の上で組んでいた指を順番に動かした。
なんといっても歓楽街として名高いス・ロゼに隣接する教会を取り仕切る抜け目のない男は、マダムの気の変わった理由に即座に思い当たったと見えた。
「──いかぬ。肝心な事を確認するのを忘れておった」
太い声に、マダムは都合のいい未来の夢想から我にかえった。
「その赤子の性別は、マダム?男子ならばよし、養子にするも徒弟に出すも、あるいは下男にするもお好きになさるがよろしかろう。
だが、ただ生まれてすぐに捨てられただけが咎の無垢の女子を、成長後、万が一にもそちらのご商売に従事させるおつもりならばこちらとしても立場上むざと見過ごすわけにも参らぬ。
しかるべき尼院を紹介してもよろしいが」
マダムの笑顔が消えた。
だが彼女は一歩も退かなかった。
「ご心配は無用です、司祭様。あの赤ん坊は男の子ですよ。顔は綺麗ですけどね」
滑らかに言い放ち、マダムはドレスの襞をととのえつつ立ちあがった。
そうと腹を括ったからには、不毛な会話はとっとと切り上げるに限る。
「ご迷惑をおかけしました、司祭様。ではご機嫌よう」
司祭は声と同じく太い首を傾け、鋭い目を細めた。
彼の視線にこもる疑惑をひしひしとマダムは感じ、次の別れの言葉でそれは確信となった。
「その慈悲深い志を日々弁え直しておいきになるように。当教会も隣人のよしみとして、その赤子の行方はさやかながら末永く見守ることにしましょう。
代々の後任の者にもこの事は心にかけるよう、特に言い伝えることとします。そう、神に仕える我々に相応しい仕事だ──ご安心をな、マダム」
*
さて、この司祭は猛烈な活動の甲斐あって望み通り教区の司教へと昇格し、堂々隣の教会から去っていった。
後任の男はうってかわって学者肌のもの静かな坊主、とマダムはみたが、それでも、きっちり監視役を引き継いだらしい。
それとなく、メルと名付けられた赤子の様子を気にかけている様子である。
その背後に前任者の、今は司教の目がひかっているのは疑いの余地がない。
メルが女の子である事は館中の女たち誰もが知ってはいたが、マダムの厳しい通達で、彼女を男の子として扱わねばならない、というしきたりが生まれることになった。
そしてそのしきたりは、メルが愛らしい赤ん坊から天使のような幼児となり、さらに美しいこどもへと、
マダムが司祭の館で夢見た白昼夢、『ス・ロゼきっての美女』への過程を順調に歩む気配濃厚となっていくに従って、不文律ながらも鉄の掟となっていった。
館に入る新入りは掟を守ることを誓わされたし、出る時にも特にマダム直々、これを言いふらしてはいけない、と言い含められた。
同様の不文律に、『メルは一人で裏の教会に近づいてはいけない』、『特に坊主と口を利いてはいけない』などの、理解に苦しむものがいろいろあった。
が、女たちが年ごとに少しずつ入れ替わるにつれ、マダムしか承知していないその理由など、ますます定かではなくなった。
今では、メルが男の子、という扱いはほとんど習慣のようになっている。
だがそれでもメルが市壁を覗いた時のようにいいつけを破るとマダムは怒る。
そのたびに全員が──本人も含めて──なんでメルだけ、とは思うものの、いまさらその理由を根ほり葉ほり探るものなどいなかった。
九年という月日が過ぎ、教会の責任者はあの司祭から数えて三代目になった。
そろそろ監視の目が緩まぬかと期待してマダムは今度は助祭のこの聖職者を観察したが、どうやらもとは騎士の家の出身らしく、二代目よりもさらに隙のない男である。
天敵の司教は今ではなんと大司教に昇進して王都にどっかり腰を据えているし、マダムはその執念深い指示を考えると、最近むしゃくしゃするったらない。
メルが一人前の娘として初潮を迎える前に、短い金色の髪を美しく伸ばし、加えて、館の女としての教育も始めたいのだが。
ある日いきなりメルの見た目が変わったら、裏の教会から、尼院への招待状が届くような気がしてならぬ。
そういうわけで、いまだにメルは『館の雑用係の男の子』のままだ。
このごろ急に背はのびたけどまだこどもこどもしているし、胸もお尻もほとんど直線でできている。
館に出入りしている客の誰一人として不思議に思ってもいない──
──はずで、あったのだが。
58 :
ス・ロゼ(5):2005/11/20(日) 03:02:42 ID:e020VMCm
*
小さな広場を人の後ろを選るようにして、手足の長い金髪の男の子が急ぎ足で横切っていく。
躰の前で組んだ両腕で大事そうに抱えているのは大きな紙袋で、中には色とりどりの砂糖菓子がぎっしりと詰まっていた。
メルは、広場の中央に位置する小さな水場で一息いれることにした。
『お姉さん』たちは砂糖菓子を買う時には必ずメルにわけてくれるから、このお使いは大好きだ。
あそこで買うのよと指定されている、ス・ロゼ界隈で一番美味しいと評判の菓子店は、館からかなり離れた場所にあるから、少々道草をする楽しみもある。
ここが、菓子店から館への道のりの最後に位置する広場だ。
メルは水場を観察した。
いつもにぎわう場所だが、まだ暑い時刻のせいか、水汲みをしている先客の女が二人ほどいるばかりである。
メルは順番を待ち、紙袋をぬらさぬよう上手に水を飲んでから、脇の段差に腰を下ろした。
この時刻、この場所から眺める広場の眺めを、メルはとても気に入っている。
ぐるりと円形に広場を取り巻いた建物は、窓枠を除き、ス・ロゼの他の町並みと同じく濃淡のばら色の石材やレンガで覆われた美しいもので、それぞれの商売を示す意匠を凝らした看板がつきだしていて目にも楽しい。
西に行くともっと大きな広場があってそちらには毎日市もたつが、メルは、館に近いこの小さな広場のほうが好きだ。
自分も小さいからかもしれない。
傾きゆく午後遅くの熟した陽が建物に当たり、広場全体が淡いばら色に輝き始めた頃、メルはふと、その声に気付いた。
水場の後ろには区分けをされた枡を支える低い壁があるのだが、その向こうでぼそぼそと誰かが話し込んでいる。
ちらりとそちらを覗き込むと、夏の短めのマントをつけ、その下に剣を帯びた騎士が二人、そして彼らの従者とおぼしき、こちらは夏にも関わらずフード付きのマントの男が一人。
ス・ロゼで騎士や貴族を身近で見ることなど珍しくもなんともないが、メルが興味をひかれたのは彼らの見た目と、実際に交わされている言葉使いのそぐなわさだった。
騎士のほうが、従者にひどく遠慮がちなのである。
*
「しかし、ナタリー様」
「オリヴィエ、その名を呼ぶなってば」
フードの影で編み込んだ金褐色の頭を振って、ナタリーは呼びかけた騎士を小さくたしなめた。
上から下まで地味な色合いの男物の衣裳をまとい、この暑いのに、顔を隠すマントをすっぽりとかぶっている。
きびきびとした口調までが堂に入っていた。
オリヴィエと呼ばれた若い騎士は、急いで周囲を見回した。
水場の段差で紙袋を抱えた子供が一人ぼうっと座っているだけなのを確認して、安堵したように、間もなく王子妃になる予定の貴婦人に向き直った。
衛兵の漆黒の制服を着ていなくとも、素性を知る者にはさもありなんと頷かせるような姿勢の良さである。
「…ナサニエル様、ここまで来てたしかに残念ではありますが、戻るには案外時がかかるものです。そろそろお戻りになるべきです」
「だが」
ナタリーは白い拳に視線を落とした。
色とりどりのビーズにびっしりと覆われた、一風変わった趣味の女物の財布が握られている。
「こんな珍しい財布をなくしたらさぞがっかりするだろう。もう少しだけ、オリヴィエ」
「ですが、実際にあの女が落としたのかどうかも定かではございません」
「わたしは見たのだ。確かにあの派手な緑色のドレスの人だった」
ナタリーは広場の一方の通りを指さした。
「あちらのほうに行ったと思う。…パトリスが鞘の先でさっきの陶器売りの棚を払わなければ確認できたのに」
「謝罪に手間取りましたからな」
ナタリーとオリヴィエから非難の波動を感じたのか、一歩控えていたもう一人の若い騎士、パトリスが頬をかすかに赤らめた。
「お言葉ですが、さきほどの路地はとても狭うございました、ナタ…」
「ナサニエル」
ナタリーはじろりとパトリスを一瞥した。
パトリスは慌ててさきほどの同僚の行動を繰り返した。
周囲をみまわし、相も変わらず少年しかいないのを見て安心した様子である。
「では」
同様に若いものの、パトリスよりは貫禄のあるオリヴィエが提案した。
「こう致しましょう。そこに食堂があります。その主人にでも落とし主探しを言付けて…」
「その主人の人品をお前は直接知っているのか?この財布はかなり重い。猫ばばしないという保障はどこにもないではないか」
ナタリーは身分には不似合いな疑い深さで提案を一蹴し、広場を一面に染める夏の陽射しに目をやった。
刻限が近づきつつある。
門に詰める兵士長との約束の時刻までには戻らねばなるまい。
59 :
ス・ロゼ(6):2005/11/20(日) 03:04:51 ID:e020VMCm
「だが、確かにオリヴィエの言う通りだな。そろそろ戻らないと、アランに迷惑がかかる」
ふたりの騎士は勢いよく首を振って同意した。
ナタリーは声をひそめた。
「…最後に、あの通りだけ、探してもいいか。もしそれでだめならば無理はしない、必ず戻るから」
「そのお言葉を信じます」
目に見えてほっとしたようなオリヴィエに、ナタリーは頬をゆるめた。
凛としていた表情がみるみるやわらかくほどけた。
「ふたりとも、何度も我が儘を言って、すまないね」
「いいえ」
二人の騎士は、広場の陽射しに染まったように、少々目元を赤くした。
*
あの財布、トリクサのに似てる…。
メルは従者の若者が握っているごてごてとしたビーズの財布を気にしていた。
ビーズの財布なんてどこにでもありそうなものだが、トリクサの持っているような目が悪くなりそうな多色使いの財布はたぶんス・ロゼ中探しても二つとはないだろう。
水場の音に邪魔されたが、若者の、「派手な緑色のドレスの人」という言葉だけはメルにもしっかりと聞き取れた。
落ち着いた大人っぽい衣裳が好みの娼館の娘たちが多いこの界隈で、わざわざ派手な緑色を好んで着るのはやはりトリクサくらいのものだ。
メルはもう一度若者の手に水色の瞳を凝らした。
……同じ財布だ。
トリクサは、リボンを買いに『外』に行くとか言っていたのだし、きっとどこかで落としてしまったのだ。
『お姉さん』たちにもらえるはずの砂糖菓子を残らず賭けてもいい。
メルは顔を戻し、頷いた。
紙袋を抱き直して、立ちあがった。
知らない人に声をかけるための勇気を急いでかき集めた。
だから振り向いた時にはあの三人はとっくに水場から20歩も離れていた。
幸い、彼らの足は館へ通じる通りの方に向かっている。
「あ、あの」
メルは段差から飛び降り、慌てて後を追った。
*
まだ灯りを入れるには早く、かといって広場ほど潤沢に陽射しが入るわけでもなく、通りにはどことなくうらわびしい気配が漂っていた。
両脇に並ぶ建物の、それぞれの優雅なカーブを描いた入り口横に色ガラスのカンテラが用意されてあるのを見てナタリーが声をあげた。
「随分贅沢な町だね。表の作りも贅沢なら、どこもかしこも色ガラスだ」
「は、はぁ」
オリヴィエは気のない声を出し、困惑したようにパトリスと顔を見合わせた。
双方が同じ疑問を相棒の目に発見した。
(……ナタリー様は、ここがどういう町かを本当にわかっていらっしゃるのだろうか)
色ガラスを観察しながらさっさと足を進めるその細めの後ろ姿を観察するぶんには、わかっているようでもあり、全くわかってないとも言い兼ねた。
もっとも、わかっていないとしてもそれは無理からぬ話だ。
良家の子女がこのモレ地区こと通称『ス・ロゼ』に足を踏み入れることなぞ滅多にないし、だいたい今現に彼らがここをうろついているのも偶然のなせるわざである。
*
二ヶ月ほど前から、王子イヴァンの婚約者ナタリー・ド・ノシュワール公爵令嬢は王宮に部屋を与えられ、都に仮住まいしていた。
結婚した後継者は妃とともに国王王妃とは別居するのが古来からの決まりだ。
が、都における、婚儀までの手続きの準備と練習と本番、事前の顔見せや挨拶回りなどの行事量が半端ではない。
そのため、婚儀前の婚約者の仮住まいも、それに付随する伝統となっている。
王宮付衛兵隊長の命により、仮住まい中の未来の王子妃の護衛に割り当てられたジョン以下四名の衛兵は、あっという間に彼女の『騎士』に変身した。
もともと騎士身分の彼らに、重ねて騎士という言い方はおかしいかもしれない。
しかしこの公爵令嬢は清楚な美貌といいしっかりとした気性や優雅な振る舞いといい、下手をすると、夫となる王子殿下よりも王族に相応しい女性に見えたので、ジョンたちの単純な反応とても無理からぬ話である。
紫煙、要りますかね?
61 :
ス・ロゼ(7):2005/11/20(日) 03:06:24 ID:e020VMCm
だが、二週間がたち三週間がたち、王宮内を犬のごとく忠実についてまわる彼らの目には、王子の婚約者の疲労が蓄積していく様子がはっきりとわかった。
王国有数の旧家の娘といえど(養女ということだが)、勝手の違う王宮で連日苛酷な日程をこなすのだ。
当然ではあるのだが、それでもナタリーは辛抱していた。
彼女の婚約者、つまりイヴァン王子がしっかりフォローできていればそのまま辛抱しきれたかもしれない。
だが、彼には彼単独の仕事や結婚の報告などの行事が渦を巻いて待ちかまえており、それもうまくいかなかったらしい。
五週間目、婚儀まで残るところ一週間のある日の午後、ついにナタリーの自制の限界がきた。
昼食後、ジョンや侍女を供に王宮の自室への長い廊下をドレスの裳を引いてしずしずと歩いていた時のことである。
ふいに絨毯の上でたちどまり、侍女を先に部屋に追いやると、彼女は振り向いて口を開いた。
「ジョン。みんなを呼びにやってください」
同じような年齢ではあるが一番衛兵としての経歴が長いため、ジョンがこの一団のリーダーということになっていた。
命令どおりに彼女の小さな衛兵隊全員が急いで集められ、自分よりかなり背の高い四人の顔を見渡して、ナタリーは小さな声で囁いた。
「…少し抜け出して乗馬でもしたいのだけど、だめかしら」
衛兵たちの顔に驚きの色が浮かぶのを見て、ナタリーは急いで訴えた。
「乗馬でなくてもいいわ。散歩でも買い物でも。なぜか知らないけど、なんだか、このごろ、真綿で喉をしめつけられてるような気がするのよ。夜もあまり眠れないわ」
確かに三日ほど前から彼女の顔色が悪いのは、彼ら全員気がついていた。
ジョンがおそるおそる言った。
「お言葉ですが、ナタリー様、ご婚儀は一週間後です。そのような暇はございません」
ナタリーは指を口元に持っていっていらいらと関節を咬んだ。
「わかってるわ。でもこのままだとわたし、今すぐあなたたちを連れたまま、吠えながら中庭を駆け回りそうよ」
ジュストという名の衛兵が吹き出しかけて、同僚たちに睨まれて口を押さえた。
一番若いパトリスがおずおずと視線を送るのでジョンは発言を促すよう首を振る。
「あの…私には、二年前に嫁に行った姉がおりまして」
「それがどうした」
「姉も結婚前にひどく沈みこんでいる時期がありました。前日になって、いきなり結婚をとりやめたいとか言うのです」
「なぜだ?」
「まあ!」
オリヴィエ衛兵の声をナタリーの叫びがうち消した。ぐっと小柄な身を乗り出し、パトリスに矢継ぎ早に質問する。
「それで?お姉さまはどうなさったの?結婚をとりやめたの?」
「いえ」
パトリスはどぎまぎして漆黒の制服の胸を反らした。
「家族全員で説得してなんとか結婚させました。今は義兄とむつまじく暮らしております」
「そう」
ナタリーは再び関節を咬みはじめた。
その様子をちらと心配げに見やり、オリヴィエが声を潜めてジュストに囁いた。
「その手の話は俺も聞いたことがある。…もしや、ナタリーさまは、“花嫁の気鬱”にかかられたのではないのか」
その囁きが聞こえたのか聞こえぬのか、ナタリーは指を咬みながら衛兵たちの前を気ぜわしくいったりきたりしはじめた。
ぶつぶつなにか呟いているので耳をそばだてると、
「…やっぱり、イヴァン様なんかと結婚したくないわ。今さら無理かしら。無理よね。わかってるわ。ええ、無理よ。でも……」
などと聞こえてジョンたちは青ざめた。
当然、無理だ。
いや、まさかこの優雅な女性が今更全てをぶち壊しにするとは思えないし、彼女の迷いが一過性である事は明かである。
ナタリーは、放蕩で評判だった王子殿下がこれまでの人生最大に惚れ込んで、成年に達する以前から連日の如く国王から押しつけられていた縁談も見合い話も顧みなかったのが嘘のように、めったやたらに婚儀を急いだ女性だ。
そしてナタリーのほうも、衛兵の傍目にも王子とは睦まじげに見え……
見えたのだが…
………。
62 :
ス・ロゼ(8):2005/11/20(日) 03:08:42 ID:e020VMCm
上の身分の人の気持ちは、特に王の家族のそれは今ひとつわからない彼らである。
言うも畏れ多くあたりをはばかることながら、賢く治世を行う勇猛な国王様は、私生活では変人だ。
特に朝食の際に嫌いなゆで卵が出てくると片っ端から壁に投げつけている姿を見てしまうと、議会で天蓋つきの玉座に座ってヒゲをひねりつつ睥睨しているのと同じ人物とは思えない。
優しく良識的でおっとりしているような王妃様も、常時仕えてみるとわかるのだが、多少怪し気な点がある。
誰彼かまわず身近な者に自ら考案した素性の知れないハーブ茶をお薦めになるのだけは、できれば勘弁してほしい。先月は衛兵が二人腹を壊した。
聡明で頼もしい後継者だと重臣たちに期待されているイヴァン王子も、婚約するまでの傍若無人なアレさ加減はいわずもがなだ。
いったいどれほどの数の衛兵が、煙のごとく王宮を抜け出す王子に撒かれて護衛の任務を果たせず、生きた心地もせずに朝まで都を探しまわったことか。
一番上のコリーヌ姫様は病弱を除けば唯一まともに見えるのだが、もうすぐ北部の修道尼院に院長としてお去りになる。
できればずっと都にいらして、御一家をこれまでのように静かに抑えておいて戴きたいというのが、王宮付衛兵隊一同の忌憚なき、叶わぬ密かな願いである。
残りの王女様がたは同じく御病弱のうえいらっしゃるんだかいらっしゃらないんだかわからないくらい影が薄いので性格の把握もできないし、こんな一家に嫁として加わらざるを得ないナタリー様のお気持ちなど、どうも一介の衛兵ごときには理解できぬ。
彼女は女性で、彼らは男性でもあることだし。
だが、王族ではなく、男としてのイヴァンのほうの気持ちは彼らにもいささかはわかる。
あと一週間で待望の妃に迎えるまで彼女を追いつめ、いや──待ちかまえ──もとい、逃がさぬようおびき寄せ──。
…どう表現すれば主君に対して無礼にならないのかわからないのだが、とにもかくにも、たぶん天下晴れての婚儀を非常に楽しみにしている王子に今のナタリーの姿は見せられない。
我儘勝手が不治の病のイヴァンは当然、自分と同じように楽しみにしない彼女に対して腹をたてるだろうし、敏感になっているナタリーも過剰にそれに反応し、すったもんだの修羅場になるかもしれない。
そうなったらここは王宮であるから、当然、国王王妃の両陛下が介入してきて、混乱に拍車がかかるに決まっている。
冗談ではない。
ジョン以下四人の衛兵たちははらはらしながらナタリーの旋回運動を見守った。
ゆっくり100数えるほどの間は歩き回ったあげく、しおれた花のように首うなだれて、ナタリーは立ち止まった。
「…男の格好をすれば、危険も少ないわ」
泣くまいとしているかのように唇が震えている。無理を承知で言わずにはいられないらしい。
「この午後は礼儀作法のお勉強だけだし、それは夜にとりかえせると思うの」
衛兵たちは、ナタリーの哀しそうな顔から目を逸らそうとしたが失敗した。
「遠くにはいかないし、すぐに戻るから…一生のお願いだから……」
「ナタリー様、いけません」
ジョンがなんとか反対した。同僚たちの視線が一斉に彼の横顔に突き刺さった。
だが、一呼吸おき、彼は情けなさそうにその背を丸め、小さく付け加えた。
「……どうしてもいらっしゃるのならば、せめて我々をお連れください」
沈みこみかけたナタリーの顔色が一気に明るくなるのを、残りの衛兵たちもジョン同様、ほっとしたような、だが複雑な面持ちで眺めた。
*
偉丈夫揃いのジョンたちの私服では無理だったが、幸か不幸か年少の小姓の中に、ナタリーと背格好の似た者がいた。
調達された地味な衣装を着込んだナタリーは、フード付きのマントを羽織ると一見少年めいた若者のように見えてジョンたちは目を丸くした。
しかも妙に着慣れた風情なのが妙だ。
振る舞いもそれまでの楚々とした仕草が影を潜め、えらくあっさりとおおまかなものに変化している。
「ああ、そうだ。言葉遣いも揃えるから、みんな驚かないようにね。“男”なんだから」
ナタリーは、陰謀の仲間にひきこまれたお付きの侍女が急いで編み込んだ金褐色の長い髪を器用にフードに押し込みながら、間もなく王太子妃になる女性にしてはためらいのない表情でにやっと笑った。
その溌剌とした口調に、ジョンたちは丸くしたままの目を見交わした。
ナタリーの受けてきた変則的な教育などそうそう世間にあるわけもないから、深窓の姫君だと思いこんでいる衛兵がとまどうのも無理はない。
63 :
ス・ロゼ(9):2005/11/20(日) 03:10:08 ID:e020VMCm
ぞろぞろと歩くわけにもいかぬから、怪しまれぬよう、四人の衛兵のうち若いほうから順に、パトリスとオリヴィエが供に選ばれた。
責任重大ではあるものの、現在の王宮衛兵隊は血筋だけではなく武芸に秀でたものでなければ選抜されない。
よって彼らは若くとも護衛に関しては実力者揃いであり、しかも今回の外出は非常に突発的なものなので、計画的に何者かに狙われる心配などもない。
ジョンとジュストと侍女たちは、ナタリーの数時間の不在に気付かれぬよう、部屋の前や内側を固めて場をとりつくろう役割を引き受けた。
都合のいい事に王宮の門を護る兵士長は、オリヴィエの父の数多い兄弟の一人──つまり、実の叔父にあたる男だった。
おかげで、出門の風体改めを受ける際、兵士達がフードをかぶったナタリーの顔を暴くことのないよう簡単に手配できた。
もっともたとえ親族といえども彼女の素性はあかせない。
よんどころない事情があり、絶対に叔父に迷惑はかけない、とだけ告げるにとどめた。
兵士長は、オリヴィエたちがなにか秘密の御用でも果たしにいく宮中の侍女を護衛するのだろうと勘違いしたらしく、帰城時刻厳守を条件に了承してくれた。
彼らが出門したのは午後半ば、あまり遠くに行けるはずもないがかといって王宮近くでうろうろするのもまずいということで、王宮前広場の片隅の馬車溜まりで一台を雇った。
都の中西部の河沿いに位置する植物園で降りた。
八月にも関わらず涼やかに晴れ上がった気持ちのよい日で、大樹の下に屋台がいくつも出ている。
パトリスに金を借りて自ら飲み物を物色しつつ、店番の軽口にナタリーが声をたてて笑うのを、私服の衛兵ふたりは周囲に気を配りつつも嬉し気に見守った。
傍目には、騎士のために従者が飲み物を買っているように見える。
*
一時間ほどして、そろそろ戻ろう、と言い出したのはナタリー本人だった。
「気が晴れた。ありがとう」
我侭を聞いてくれた衛兵たちに気を使ったのは明らかだったが、確かに彼女の表情はずっと明るくなっていて、オリヴィエたちは一も二もなく賛成した。
馬車を拾いに植物園北側の門に向かっている途中、ふいにナタリーが立ち止まった。
「あ」
衛兵たちは彼女の視線を追い、昼間にしてはきらびやかな緑のドレスに身を包んだ赤毛の若い女性が花壇の花をひとつ摘みとったのを見た。
甲虫を連想させる光り具合のドレスはともかく、顔だちは悪くない。
だが、全体の雰囲気はどこからどうみても貴族の子女ではない。
「…ご存知の方、でしょうか?」
オリヴィエの質問にためらいがあったのはそれが理由だ。
「いや」
ナタリーは答え、マントを翻して駆け出した。
そのあいだに、若い女性はきらめくドレスを揺らせながら、意外な素早さで北門から出て行ってしまった。
衛兵が素早く追いつくと、ナタリーが花壇の下生えから煌めくものを手に拾い上げている。ごたついた色合いの、総ビーズの財布だ。
「あの人、これを落としたようだ。パトリス、呼んであげて」
「は。……ええと」
若い衛兵は名も知らぬ若い女に咄嗟にどう呼びかけていいか迷い、門の外に光る後ろ姿を睨んだ。
「……と……止まれ!そこの、アオカナブンのようなドレスの、赤い髪の娘!お前だ!…こら!聞こえぬのか!」
緑のドレスはとっくに通行人の影に紛れかけている。
周囲の人々は、両手を握り顔を赤くして叫んでいる若い騎士を遠巻きにし、好奇に満ちて見守った。
ナタリーが軽く舌打ちして(オリヴィエはまた目を丸くした)、立ち尽くしているパトリスに囁いた。
「パトリス。……女性とつきあったことが、一度もないんじゃ?」
「は。なぜそれを」
我にかえったように言葉を返してくる衛兵に、ナタリーは唇をひき結んでみせた。
「正反対の人を一人知っているからね。わかるんだ」
オリヴィエが礼儀正しく割り込んだ。
「ナタリー様、娘が楼門を潜ったようです。あの先はス・ロゼですが…」
「ナサニエルと呼べ、オリヴィエ。…『ス・ロゼ(秘密を護る)』…?」
ナタリーの眉が問うように上がり、オリヴィエは目もとにちらりと狼狽の色を浮かべた。
「…通称です。本来は、モレ地区といいますが、その。えー、…通常、あまり、女性は立ち入らぬのです」
「ふうん」
ナタリーは、赤くなったパトリスをちらりと見た。
「幸い今はわたしは“男性”だし、急げばそう時間はかからぬだろう。追うよ、いいかい?」
いいかいもなにも、ナタリーの褐色の瞳は門の外の人ごみに向かい、手は握った財布を無意識のうちに軽く放り投げては受け止めている。
追う気まんまんだ。
オリヴィエとパトリスは視線を交わし、すっかり気鬱が治ったらしい彼女の歩みに粛々と続いた。
*
さかんにきょろきょろしている若者とそれに従者のごとくくっついて歩いている騎士、という奇妙な三人組に見え隠れについていきながら、メルはまた思い悩みはじめた。
さっきはトリクサの財布だと思ったけれど、もし…違ったらどうしよう。
あの人たちの様子は変わっているけれど、どうも領地から出て来た田舎騎士のようではない。
随分目の配りや身のこなしが厳しいし、もしかしたらなにかの役目についている人たちなのかも。
メルはマダムから「いーかい、余計な事に頭つっこむんじゃないよ。兵隊や坊主には気をつけるんだよ。お前は目立つんだから」と日頃口うるさく言われていることを思い出していた。
例の不文律というほどではないが、彼女を男の子と偽っているという弱みから、マダムはメルの行動を昔からびしびしとりしまりたがるのだ。
おかげで、メルは年齢のわりに引っ込み思案な性格である。
見た目もロマンティックな天使そのものの、線の細い容姿なのでいかにも弱々しい風情にみえ、時々館の客にからかわれている。
「捨てられていた?」……「あの子、男の子かね、マダム?」……「女の子でも、あんな顔をした子は滅多にいない」………「マダム、メルが男で残念だろう」
客の軽口がメルの性別に及ぶたびにマダムは壁越しに教会のほうを一瞬見上げ、慌てて笑ってごまかしているのだが、メルはその振る舞いが自分を護るためなのだと思っていた。
マダムはメルを、トリクサやほかの『お姉さん』たちのようにお客をとる仕事につかせる気はないのだろう。
どちらかというと誰かと話すことが苦手なメルは、それをありがたく思った。
お使いだの掃除や炊事の手伝いだの洗濯物の仕分けだの、雑用や小さな仕事を果たすだけの半人前の自分を養ってくれるマダムには感謝の念すら抱いているといってもいい。
まさか、正反対の理由で現在男の子のような格好をさせられているとは夢にも思っていない。
すれ違ったこどもが率いたうるさいがちょうの群れを踏まないように道の端によけて、メルが顔をあげてみると、奇妙な三人組は館の前で立ち止まっていた。
路地や別の方角にも目をやりながら、額を集めて相談している様子である。
従者の若者が館に顔をむけ、財布を握った腕を振りながら何かを熱心に提案しており、騎士たちはその主張にはあまり乗り気でないらしい。
トリクサは中にいる。
あの若者の勘は正しい。
メルは思い切って、彼らのそばに駆け寄ろうと──して、いきなり、ぐいと腕をひかれた。
その強さに驚いて、思わず悲鳴をあげようとした口を下顎ごと、骨張った掌で塞がれた。
驚きのあまり、大事に抱えていた砂糖菓子の紙袋が落ちてしまった。
滝のように石畳に流れた菓子を残し、半ば抱きかかえられるようにしてそばの路地にひきずりこまれた。
メルは水色の目を見張り、首をねじって、自分をおさえている人物を見た。
こざっぱりとした服に身を包み、細面にあごひげを蓄えた商人ふうの男だ。神経質そうな口のあたりに見覚えがあった。
館で何度か見たことがある。
『外』のどこかで、馬具かなにかの店を開いている男だという。
あの人は金払いはいいらしいけど、ところかまわずごみを落とすからあたしゃ迷惑だ、と、一緒に階段の手すりを磨いている時に掃除婦の老婆が愚痴っていたので覚えている。
路地の後ろの暗がりには、男同様、なんだか見覚えのあるような男たちが数人で立っていた。
腕を組んだり腰に手をあてたりしてにやにやしている。
通りからの斜めの陽射しに淡く輝く、メルの金髪に目をやって、あごひげの男が言った。
「お前は、あの館にいる雑用係の子だろう」
口を開くとかすかに酒臭かった。
まだ夕方にもならぬうちからもう一杯ひっかけてきたらしい。
たとえ顎をおさえられていなくても内気なメルには答えられなかったろうが、後ろの仲間たちが短く笑った。
彼らも全員、気分よく浮かれているらしいのに、混乱しつつもメルは気付いた。
「名前はなんといったかな。メル…マル…?」
「暗くてよく見えん。どれ、顔を通りに向けてみろよ、フランソワ」
男は頷き、メルの顔をさらに斜めにねじった。
仲間たちは相変わらず笑いながら近づき、じろじろと観察している様子である。
ぶしつけな視線が顔中にまとわりつくのが、メルにもわかった。
「うむ、見ればみるほどわからんな、こりゃ」
一人がうなった。仲間たちが口々に同意する。
「男の子にしてはどうも色が白すぎないか。よくよく見れば顔立ちも」
「これは、もしかしたらこいつが正しいかもしれんが。奢るのはごめんだ、フランソワは底なしだからな」
「だがマダムは男だと言っていたぞ」
メルを抑えつけているあごひげの男が鼻を鳴らした。
「触ってみると本当に細っこい子だ、ますます怪しい。マダムが勘違いしているか、あるいは嘘をついているかだと俺は思う」
彼らの会話が頭の上をとびかうのを聞きながら、メルは、なんとか自分のおかれている状況を推測した。
この男たちはどうやら全員館に来たことのある客で、ちょろちょろしているメルを見かけて、その性別に疑問を持ったらしい。
今日、一杯ひっかけて早々と館に乗り込む景気付けに、通りすがりのメルをつかまえて常日頃の疑問氷結を計ることにしたのだろう。
迷惑な話だ。
メルが男の子ならともかく、実際、本当は女の子なのだから。
「こうして見ていても埒があかん。早くすませて館に行こうや」
一人が口ひげをひねりながら言った。
「フランソワ、確認してみろ」
促されたあごひげのフランソワが頷いた。
顎から手が離れたので、ほっとしたメルは大きく空気を貪った。
次の瞬間、男の手が下腹部に滑ったのを感じた。
ズボンごしに握りこもうとするのを感じとり、メルは肺一杯に吸い込んだばかりの空気を、今度は勢いよく吐き出した。
笛のようにかん高い悲鳴がほの暗い路地の空気をつんざき、あごひげ男はその衝撃でのけぞった。
股間から手が離れ、急いでメルは身をもがき、腕を掴んでいた反対側の手をもぎはなした。
脱兎のごとく身を翻すメルの肩を、たちなおった男が再びつかもうとする。
またもや大きな悲鳴をあげ、メルは必死で腕をふりまわし、なんとか路地から飛び出した。
「待て、こら!」
誰が待つものか。
通りに飛び出したメルの瞳に、ものすごい早さでこちらに駆け寄ってくる騎士のマントが翻るのが見えた。
悲鳴をあげながら、メルも騎士を目指した。
本能的に、あの騎士は自分を助けてくれるつもりなのだとわかった。
とびついてきたメルの細い胴をひきさげるようにして自分の後ろに隠し、騎士はマントの裾を跳ね上げた。
剣の柄に手をかけたのだろう。
笑いながら路地からばらばらと踏み出してきた男たちの顔が、そのままに固まったのだから間違いない。
震えているメルの肩にそっと、誰かの掌が触れた。
振り返った潤んだ水色の目に頷いたあの従者の若者が、メルの躯をさらにうしろへと引き寄せた。
メルは急いで若者のフードマントにしがみつき、しゃがみ込んだ彼の温かな掌が肩から離れないのを感じて安堵した。
もう一人の騎士が、若者とメルを護るように、前の石畳に場所を占めた。
後ろからみる彼のマントが肘のかたちに張り出しているのを見て、この騎士も剣の柄を握っているのだとメルは思った。
通行人はまだあまりいなかったが、そろそろ玄関の灯火をいれようと出て来ていたあちこちの娼館の使用人たちがこの騒ぎに気がついた。
彼らはボロ布だの火打石だのを握りしめたまま、男たちを遠巻きにしはじめた。
「なんだ、今のただならぬ悲鳴は。こども相手に、おまえたちは何をしておるのだ」
男たちに対峙している騎士が低い声で尋ねた。
「かどわかしか。それとも強盗か」
「違います、旦那さま」
男たちの一人が慌てて首を振った。
「そのような怪しいものではありません!我々はただ…」
「ただ?」
「ただ……その……えー…」
男たちはもじもじとして互いの顔を盗み見るようにした。
説明しようとして、自分たちの行動が褒められたものではないことに初めて思い至ったらしい。
まだ震えているメルの小さな耳に、柔らかな響きの声が囁いた。
「大丈夫?」
メルは、自分を引き寄せてくれている若者の顔を至近距離から初めてみた。
ほの暗いフードの内側からじっと覗きこんでくる褐色の瞳と、美形の少ないわけでもない娼館育ちのメルにして生まれて初めてみるような繊細な造りの凛とした美貌に、彼女は震える事を忘れた。
この人、男の人の格好をしているけど、この人…
……『も』、女の人だ。
若者、いや、若者の姿をした若い女性は、メルが濃い水色の目を見張ったのに気付いて微笑んだ。
「やっぱりわかる? ……どこか、変?」
メルは一所懸命首を横に振った。
変ではない。
その事自体は、たぶんメルがそうであるのと同じように変なことなんだろうけど、でも変じゃない。その人にはこの格好がひどく似合っていた。
「いい子ね。…叫んだのはどうして? あの人たちに、なにかされた?」
メルは、やはり一所懸命、今度は縦に頷いた。
目の奥から熱いものが溢れそうになり、我慢できずにしゃくりあげながら小さく訴えた。
「か、からだ、…触られて…」
女性の瞳がきゅっと細まった。
こどもにしても華奢な首筋に絡む半端な長さの金髪を撫で、線の細さに納得したように優しく抱きしめた。
メルは安堵に泣き出した。
この人に触られるのは全然怖くない。
宥めるように泣いているこどもの背中を撫で、やがて白い顔をあげると、若い女性は傍の若い騎士に囁いた。
「パトリス、この子は女の子だ。…憲兵を呼ぶべきではないか?」
騎士は、女性が立ち上がったのを目顔で抑えた。
「いけません、ナタ──ナサニエル様」
咳払いをし、ごく低く付け加える。
「…お微行が、ばれますよ」
「………」
彼女は、野次馬を背景に突っ立っている酔っぱらい男たちを睨みつけた。
「だが、癪に触る」
「ナサニエル様。正義の騎士の我々にお任せを」
前面の騎士が一瞬だけ振り向いた。落ち着きのある表情が崩れ、わずかににやりとしたようだ。
彼は大声で喋りはじめた。
「剣で手足の一本ずつも叩き折ってやれば、当分はこどもを怯えさせる気などおこらぬはず。手伝え、パトリス」
より若いほうの騎士が肩をすくめ、調子をあわせて大げさに溜め息をついた。
「何人ずつだ、オリヴィエ?」
「こちらの三人が私、お前は残りの二人でよい」
「だ、旦那がた…ご冗談……」
男たちの顔色が面白いくらいにどこかに失せた。
そこに騎士たちが、柄を握り直してこれみよがしに一歩足を踏み出した。
追いつめられたように素早く互いの顔を見合わせた男たちは、わっと悲鳴をあげると踵を返して逃げ出した。
こどもをからかったくらいの事で大事な手足を折られてはたまらない。
両腕をつきだして野次馬の垣根をかきわけかきわけ、彼らは酔っぱらいとは思えぬ速度で消えて行った。
もはやほろ酔いなどどこかに消し飛んでしまったのかもしれない。
「なんだい、あいつら」
「メル!おまえ、弱っちいんだから、酔っぱらいには気をつけるんだぞ」
野次馬から一斉に拍手と笑い声があがり、メルは若い女性のマントに隠れたまま泣き笑いの顔をあげた。
二人の騎士が彼女らの傍らに戻って来た。
「ところで、ナサニエル様」
オリヴィエの顔がいつもの表情を取り戻した。有能な衛兵のそれである。
「あのような者たちが出始める時間になりました。これ以上の寄り道はなりません。次々と脱線をしていては、叔父がやきもきいたします」
門番の兵士長のことだ。
ナタリーは、掌に握ったままの財布を思い出したように持ち上げた。
「だが、これは?」
「あ、あの、それ……」
三人の視線が、ナタリーのマントの畝に埋もれている金髪の頭に注がれた。
メルは注目され、はにかんだように頬を赤くした。
「…それ、トリクサのお財布です」
「まあ」
ナタリーはかがみこみ、メルの前で掌を開けた。
「知っている人のもの?」
メルが頷くと、ナタリーはさらに尋ねた。
「おうちはどこか、知ってる?」
すぐさきの濃いばら色の壁の館を指差すメルの肩に手をかけ、彼女は身軽に立ち上がった。
その勢いで空気をはらんだフードが肩にずれ落ち、メルのそれよりもずっと濃い、編み込んだ金褐色の髪が露になった。
「では、一緒に行きましょう。事情も説明しなければいけないし」
パトリスが急いで、ナタリーの注意を促した。
「ナタリー様、フードが…」
「ナサニエルだというのに、パト…」
「顔を隠せ、ナタリー」
騎士たちとは別の声が街路を渡り、ぎょっとしたメルは思わず若い女性──ナタリーというらしいが──にしがみついた。
大きくも威嚇的でもない低い声だったが、それを聞いたナタリーの躯がかっと熱くなったのをメルは感じ取り、心配げに騎士たちを見上げた。
愕然とした彼らの顔が同じ方向にむいている。
メルは視線を転じ、何者がそれほどナタリーと騎士たちを驚かせたかを知ろうとした。
*
全員の視線の先には、二人の男が立っていた。
さっきの酔っぱらいではない。
ひと騒動終わったとみてそれぞれの仕事にもどりつつある野次馬の後ろに、彼らは静かに佇んでいた。
明らかに主人とわかる上等な身なりの長身の騎士は、ナタリーと同じく、夏に似合わないフードつきのマントを纏っているので影になった顔はここからはみえない。
護衛と思しきもう一人の男はやはり長身の騎士姿だったが、こちらはメルを助けてくれた二人とよく似た気配を発散している。
メルを取り巻く三人が声もないのを見て取って、フードの騎士のほうがかすかに笑いを含んだ声を続けた。
「何を驚いている。迎えにきてやったぞ、ありがたく思え」
「イヴァ…」
ナタリーが声を漏らし、すぐに口を噤んだ。
メルの手を握り、彼女は、さっと身を乗り出した。
「オリヴィエとパトリスは叱らないでください。それに、そこのジョンも、それからジュストに、それから……」
「門番の兵士長と、それから口裏を会わせた侍女たちもだろう……随分たくさん泣き落としたものだな」
「まだ三時間くらいしか経ってないわ。どうしてこんなに早く案内してきたの、ジョン」
情けなさそうに金褐色の頭を振り、ナタリーは、相手の護衛の騎士にちらりと目をやった。
ジョンと呼ばれた騎士は慌てふためいた。
「申し訳ございません、ナタリー様、イ…いえ、その、……様が非常に早めにお戻りに…」
「案内役はこの男だけではないぞ」
ぴしゃりとフードの騎士が遮った。
「その格好は悪くないが、残念ながらお前には微行の才能がない。馬車溜まりで車を拾うなど言語道断だ」
言いながら大股に歩み寄ってくる。
「拾うなら流しだ。植物園でもすぐに屋台の親爺が証言した」
ナタリーの片方の腕を掴んで引き寄せかけ、そこでやっと彼女の反対側にメルがくっついているのに気がついた様子をみせた。
「なんだ、まだいたのか。こどもは早く家に戻れ」
「そうだわ。イ…、………あの」
相手の名を言いよどむナタリーに、メルは自分が部外者である事をひしひしと認識した。
誰もがこのフードの騎士の名前をあからさまに呼ぼうとしない。
なにか事情のある身分の男なのだろうか。
ナタリーは男の腕をさりげなく振りほどき、メルの肩に掌を置いた。
「お願い、この財布を届けて事情を説明して、そのあとこの子だけ家に送れば戻るから、もう少しだけ」
「オレには泣き落としはきかんぞ」
機嫌を損ねたらしく、フードの男の声が険悪なものになった。
素直に従わない彼女の態度を不快に思っているらしい。
メルは急いでナタリーのマントの裾を引っ張った。
身をかがめた彼女の耳に、つっかえながら囁く。
「あの、わたしの家は、ここです。……けんかをしないで」
「ここ?」
フードの男が耳聡く呟いた。
「それは都合がいい。ほら、その財布を受け取ってさっさと戻れ。早く行け」
「…あなたって方は、どうしてそう私の言う事を聞いてくださらないの」
ついにナタリーの声にも暗雲の気配が混じり始めた。
「こんなに簡単に私を捕まえたんですもの、それくらい許してくださってもいいでしょう」
「おい。オレがなんのために、無理をして早く戻ってきたと思っているんだ」
男の声も彼女の口調に反応して、いっそう低くなった。
「お前と一緒に夕食をとろうと思ってたんだ。このところ忙しくて、あまりいっしょにはいられなかったから」
「ありがとうございます」
ナタリーはつんと頭を持ち上げた。
「でも、一週間もすれば、いやでも毎日顔をあわせることになりますわ。そんなに急ぐ必要もないんじゃなくて」
「この物知らずめ」
男はイライラと口早に呟いた。
「式のあとは三夜ぶっつづけで外国の使節だの坊主だの議員だのとの宴会が続くんだ。簡単に二人っきりになんかなれるものか」
ナタリーは赤くなるとフードを被りながら身を翻し、メルの肩をそっと押して、館の方角に向き直った。
「さ、こんな人は放っておいて、早くお財布を届けに行きましょう」
「待て!」
周囲ではらはらしているらしい騎士たちの案じ顔を横目で見、怒りも露に頭からフードを払いのけた男の形相を見て、メルも心配になってきた。
が、こどもの上にとても内気な彼女には、当然ながらうまく口を挟む勇気も経験もない。
*
大扉から駆け込んできたメルとフード付きマントをかぶった若者を見て、ロビーに灯す蝋燭の配置を指図していたマダムは思わず声を荒げた。
「メル!お客様のご案内はお前の仕事じゃないし、一緒に玄関から入っちゃダメじゃな……」
だがその語尾は、メルたちに続いて竜巻のように踏み込んできた背の高い騎士の一団が目に入るや、口の中でもごもごと消えた。
「主人!」
先頭の、明るい色の目をした若い男が大音声に呼ばわった。
他人を支配しつけた人間にしかありえないような傲慢そのものの声音に、嫌も応もなく従わざるを得ないような気になったマダムはその前に転がり出た。
「女将か。失礼」
男は、ちっとも失礼とは思ってないような態度で呟き、腕をのばして、メルと一緒にいた若者の首根っこをむんずと掴んだ。
「この家で一番上等の部屋はどこだ」
「に、二階の、西の端の部屋でございます」
「二時間ほど借りる。女は要らん、誰も近づけるな。おい、ジョンだったか、部屋代はお前が立て替えておけ」
男は言い放ち、後も振り返らずに若者をひきたてて、ロビー中央の優雅な階段をどんどんあがっていってしまった。
「あ、あの…!旦那様、女は要らないって、その、うちは宿屋じゃ…!それに、その人、お、男…?」
あっけにとられ、マダムはその後を追おうとしたが、三人の騎士が素早くその前に立ち塞がった。
「なんの真似です!」
階段下に強固な壁ができたのを見て取ったマダムはヒステリーをおこしかけたが、騎士の一人がごそごそと懐から革袋を出して、無言で彼女の手に押し込んだ。
マダムは掌で革袋の重みをはかり、唇を歪めた。
「これじゃまだ足りませんよ。あの部屋だけならともかく、開店前で、三階にだって一人も客をあげちゃいないのに」
残りの騎士たちが、やはり無言で、揃って懐から革袋を出した。
合計三つの重みで、ようやくマダムは口を噤んだ。
うさんくさげに直立不動の騎士たちを眺め、マダムはロビーの端にたちつくすメルの涙で汚れた頬と、床に転がっているビーズの財布に気がついた。
「なんだいメル。あれ、それトリクサの財布に似てるね」
「そうです、マダム。あ、あの綺麗な人が、拾って届けてくださって…」
「綺麗な人?…さっきの、若い男の人?」
「いいえ、あの人、わたしと同じです。女の人……」
言いかけたメルにとびついて、重い革袋を押し付けて口を塞ぎ、マダムは後ろで聞き耳をたてている騎士の壁に愛想笑いをしてみせた。
「ほほほ、何を言ってるんだか、この子は」
「マダム」
壁の一人が声を発した。一番若い騎士である。
「その子はどうして、男の子の格好をさせられているのですか?」
マダムはメルの口を塞いだまま、たじろいだ。
「この子は男の子ですよ」
「いや。ナタ…いや、確かな筋から、その子は女の子だと聞いたのですが」
もう一人、一番背の高い騎士(ジョンである)が興味をそそられたように口を挟んだ。
「そうか。そういわれれば、女の子だな」
マダムは、メルの口を塞いでいた革袋を取り落とした。
若い騎士の言葉に衝撃を受けたらしい。
「確かな筋ですって…?」
マダムが反射的に、西側の壁の上をちらりと眺めたのが若い騎士──パトリスの目には、奇妙に映った。
彼女は視線を戻し、気もそぞろな様子で、結い上げた自分の髪を撫で付けた。
「それは、どちらからですか?……騎士様がたは、なにかあてにならない噂をお聞き及びで?」
「………」
パトリスとオリヴィエとジョンは、並んだまま互いに視線を交差させた。
マダムの様子はなんだかおかしい。
彼らが無言でいるのを見て、マダムの、髪を撫で付ける手の動きが早まった。
「……あの、騎士様がた……まさかとは思いますが、裏の教会に……お知り合いか、なにか……」
「ス・ロゼの裏手の教会?サノー地区のサノールヴァン教会だな」
オリヴィエが口を開いた。
「父の一番下の弟が、たしかこの春から助祭として赴任しておるが、それが?」
ジョンが感心したようにオリヴィエを見た。
「アラン兵士長だけではないのか。おまえの叔父はあらゆるところに入り込んでおるのだな」
オリヴィエは胸を張った。
「父は十二人兄弟、母とても五人兄弟だからな。だがルノー叔父は幸運だった。助祭の身にも関わらず、この教区の大司教様の信頼をとりつけることができ…」
その言葉が終わるのを待たず、パトリスは一瞬ふらついたマダムに急いで駆け寄った。
「大丈夫ですか、マダム」
マダムは差し伸べられた腕を押しのけ、オリヴィエを食い入るように見た。
呼吸が早い。
「大司教……じゃ、じゃあ、やっぱり…!」
「しっかり、マダム。…一体、どうしたというのだろう」
パトリスは困惑したようにオリヴィエとジョンを見上げた。
オリヴィエとジョンは眉をしかめた。
男の子の格好をさせられている女の子といい、それを隠す様子といい、異様にサノールヴァン教会を怖れる様子といい、さきほどからどうもこのマダムの言動は怪しい。
王宮に戻り、イヴァン王子とナタリー様のご婚儀が無事終わったらばすぐにルノー助祭と大司教に連絡をとり、事情を詳しく追求することにしよう。
彼らはそう決意した。
*
鎧戸の隙間から見えるのは、教会の薔薇窓の一部らしい。
藍色に染まりつつある空を背景に、背の高い尖塔の影が重なって見えた。
喘ぎをますますあおられながら、彼女は、イヴァンの頭を抱く腕に力を込めた。
鎖骨のあたりに鋭く吐息があたり、イヴァンはナタリーを抱いた腕に力を返してきた。そのまま耳朶に息の暖かさが伸び、首筋にキスが移った。
ナタリーは甘く声を漏らし、うねるイヴァンの背の肉に爪をたてた。
「……この強情者が…やっと諦めたか」
諦めたとか、そういうのじゃなくて。
抗議するのも難しいくらい集中力が乱れているのに、あまり物を喋らないでほしい──ナタリーは、ゆっくりと突き上げられながら、潤んだ瞳をぼんやりと天井に向けた。
複雑な梁と漆喰のコントラストの中に、夕映えの名残のばら色がまつわりついて揺れている。
「気持ちいいな、ナタリー……」
「………」
行為の最中にからかうのも、やめてほしい。
ナタリーは思わず反応した。目の前の彼の肩にかすかに舌を這わせ、もっと溺れたいと訴えた。
イヴァンが、喉の奥で小さく笑った。
「いいぞ」
イヴァンが腕をずらし、彼女の腰から太腿に掌を動かした。
掴んでひきあげ、腰に絡み付かせて、彼はナタリーの上に被さるように顔を近づけてきた。
「……もう、逃げるなよ」
でも、すぐ捕まるのはわかっていた、と彼女は思った。この行為と同じだ。
本気でその下から逃げたいわけではなく、だが、時折逃げてその気持ちを確かめたくなるような男に、人生を捕まえられている。
一週間もすれば、二度と逃げられなくなる。でもそれでも、もういい。
不安も、苛立ちも、憂鬱も、イヴァンが街路に立っている姿を見たあの瞬間に、全て蕩けて流れてしまった。
イヴァンが動きを再開する前に、ナタリーはその首にしがみついて、囁いた。
「ねえ、イヴァン様、ご存知ですか──」
「なにを?」
「秘密を護ると、お約束なさるなら、教えて、さしあげます」
イヴァンはナタリーの鼻の先にキスをした。
「よし。『ス・ロゼ』」
ナタリーは微笑を浮かべた。
「愛してるわ」
「なんだ」
イヴァンはにやにやした。
「オレのと同じだ。言ってやるから、お前も誓え」
ナタリーは、脚に力をいれながら、イヴァンの明るい色の瞳に囁いた。
「『ス・ロゼ』」
*
館を染めた夕暮れの最後の光は教会のばら窓に集まって、日中の余韻を聖堂の宵闇にとけ込ませていた。
これも神様の思し召しかもしれない。
おわり
ナタリーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
リアルタイムで見れた俺は勝ち組!
あ、あまりに興奮して言い忘れてしまいました。
GJです!!
GJ!!!
起きてて良かった....。
うおーーー!!
GJーーー!!!!
す、すばらしいっス…
禿しくGJ!
これがネ申の所業か!
このあとメルはナタリーの側付きとして……という後日談を当然のように妄想してしまいましたごめんなさい。
神の後ですが書きあがっちゃったので投下します
空気読めなくてごめんなさい
司の兄は、恐ろしく矛盾した人間だ。
整った容姿と不要な物事には徹底して興味を示さないクールさを持っている一方、
のめりこんだら一直線、ヲタク道を邁進し、妖しい趣味に没頭する日々を過ごしている。
「今日は友達と遊ぶんでしょ? 」
「うん。ついでだから司乗せてくわ。目的地が近いみたいだし」
そんな兄は実に簡単に母をだまし、司を車に乗せて隆也の家へと向かう。
ヲタクのくせに一般人の彼女がいるのはぶっちゃけこの外面のよさのせいだ、と司は思っている。
「で、その先生の家ってのはどこなんだ? 」
「あー、あそこ。春に新しいショッピングセンターできたでしょ。あれの近く」
「んじゃ何か買ってくか。手ぶらで行くのもなんだろ」
兄の常識人らしい申し出に、司は肝を冷やす。
そのショッピングセンターには司の通う高校の生徒も良く来る。知人に見つかるのは嫌だ。
ことにこの、外面ばかり良い兄と一緒にいるのを見つかるのは嫌だ。
兄のことは好きだが、それとこれとは別問題なのだ。
「い、いや、いい。要らない」
「要らないって。お前はそれでいーかもしれないけど、俺はそうもいかねーだろ」
「いや、ほら、逆に先生も気ぃつかっちゃうだろうし? 先生もほら、緊張してるだろうから……」
なんだか理由になっていないが、意外と簡単に兄は折れた。
「まぁ、緊張はしてるかもしれないけど……そうだな、じゃあ趣味でも聞いておくか」
変な方向に折れた。
「趣味? 」
「共通の話題があればあった方が良いだろ。俺のほうが歳も近いわけだし」
社交性のあるんだかないんだかわからない兄だ。
どうせ自分はヲタクだというのに趣味を聞いてどうする。と、思わないでもないが、素直に答えておく。
「えーと……三国志とか、戦国時代とか、あの辺の歴史が好き。あとは……家に置いてある漫画はソレ系のと
あとはJOJOとドラゴンボールと……」
「お。JOJO好きか。なら会話もできるな」
司は、いや無理、と喉まで出かかった言葉を飲み込む。
たしかに家に全巻置いてはあるが、兄と話せるレベルではない。
兄のJOJOトークの熱さ・深さはヲタクのそれとしか思えない。
ことに司や隆也のように三部最高!な一般人にはなじみの薄い一部・四部の話をされてもついていけない。
いけないし無理なのだが、今日はとにかく兄の機嫌を損ねたくない。
「ん、まぁ……そう、だといいね」
曖昧な返事をした司の様子には一向に構わず、兄はどこまでもマイペースに話を続ける。
「ときに司」
ときに、って普通は使わないよなー、と司が兄の痛さを細かいところで認識している間に、話は進む。
「お前先生って呼んでるのか? 」
「そうだけど……それがどーかした?」
「いや。まだ名前も聞いてないし」
「あ、そっか。三宅隆也。24歳、だったはず」
「……7つ、か」
その数字を、司は何度も数えた。
その大きさに打ちひしがれたことも何度もあるが、表立ってそれを口にした事はない。
しても何も変らないし、変わりようがないのだから。
「俺とは5つ違いだな。うん。まぁ普通に話せるだろ」
その自信はどこから湧いてくるのだろう。
表面上、簡単なあいさつくらいなら普通にできるだろうが、そのあとは甚だ怪しい。
しかし願わくば、普通に話して、何事もなく終って欲しい。きりきりと司の胃が痛み出した。
痛み出したことなど知らない兄は、どこまでもわが道を行く。
「そういやお前サラシ巻いてんだよな。夏場暑くねーか? 」
「暑いけど……どしたのいきなり」
「いや、知り合いのレイヤーが男装するのに胸潰すのがめんどくさいとか何とか言っててな
話によると男装用のシャツがあるらしいぞ」
「マジで!? 」
レイヤーという単語に一瞬肩を落とした司が、おもいっきり話にくらいつく。
「うん。性同一性障害の人向けだから多少値は張るらしいが、だいぶ目立たなくなるらしい」
信憑性のある話だ。思わず自分の胸をなでて、司はため息をつく。
「いいな〜。ぶっちゃけサラシ巻くのも面倒だし綺麗に潰れないんだよね……」
「司でもか? 」
心底意外そうに問いかける兄に、思わずしかめっ面を作る。
「……何、その言い方」
「いや、別に胸でかくもないから」
核心をつかれた。
司自身は別段胸を大きくしたいと思っているわけではないが、こう言われるとやはり多少は気になる。
ついでに、以前隆也のパソコンを勝手に開いて見つけた妖しいファイルの中身に巨乳が多かったのも気になる。
気になるというか気に食わないというか、一種頭に来る。
「うるさい! これでもまだ成長してるんだから! 」
「いや悪い。そうか。まだ成長してるんだな」
あまり反省していなさそうな謝罪にそれでも一応は不機嫌を直す。
「当たり前でしょ。俺まだ17だよ? 」
「……そうだな」
微妙な間に、司はいぶかしげな視線を投げる。
それに気付いているのかいないのか、兄は急に黙り込んで運転に集中しはじめた。
それでも司が重い空気を感じなかったのは、BGMが(多分)アニソンだったからだろう。
間もなくして、車は隆也の住むマンションの駐車場に到着した。
車を止めた兄はふいに司に問いかける。
「その三宅先生の車、どれかわかるか? 」
「え〜と、あそこのシルバーの……」
「よし」
言うなり隆也の車に向かって歩き出した兄に驚き、司も後を追う。
「ちょ、ちょっと、何? 」
兄は隆也の車の中を無遠慮に見渡している。
「いや、車を見れば人柄も想像がつくかと思って」
「止めてよ、完璧不審者じゃん! 人が見てるって! 」
「別に犯罪犯してるわけじゃなし、いいだろ」
「良くない! ほら、先生も待ってるんだから早く行くよ! 」
痛い。やっぱり痛い。
しかしこの痛い行動が、一心に妹を心配する気持ちからきていることを考えると、一概に怒れもしない。
「む……仕方ない、諦めるか」
ようやく諦めた兄の手を引いて、司は階段へと向かう。
隆也の部屋の前で足を止め、兄を振り返る。
「ここ。その……できるだけ、普通にね」
「わかってるって」
本当にわかっているのかと問いただしたくなるような気軽さで、兄はインターホンを押す。
少しして聞きなれた足音が聞こえ、ドアが開く。
「あ」
と短く声をあげた隆也は、幾分緊張した笑顔で二人を出迎えた。
「どうも」
「どうも。あがってください」
「おじゃまします」
一言ずつ、実に簡単な挨拶を交わして、男二人は家の中に入る。
司はゆっくりと深呼吸をしてから、それに続いた。
「あ、そちらにお座りになってください」
兄より年上のはずの隆也が敬語を使っているせいか、どうも司は居心地が悪い。
いつもは隆也と並んで座るソファに、兄と並んで腰掛ける。
「すいません、手ぶらで。こいつが要らないって言うんで」
「あぁ、気にしないで下さい。あ、今お茶煎れますから」
まだ一言も発していなかった司が、隆也より先にすっと立ち上がる。
「あ、俺が煎れる」
隆也が妙な顔で司を見上げ、腰を上げる。
「いや。今日は司とお兄さんはお客さんだからな。俺が煎れる」
「でも……」
「いいから座ってろって」
不服そうな司を残して隆也はキッチンに消え、司は仕方なしに腰を下ろす。
「意外とちゃんとやってるんだな」
ふいに兄の口から出た言葉に、司は首をかしげる。
「何が? 」
「いや、女の子らしいこともさ」
「……そういう教育されてきましたから」
司の言葉を受けて、兄は幼少期を思い出す。二人の母親は割合古い考えを持っていた。
女はたとえ仕事を持つにしても家事ができなければいけないし、
長男は嫁をもらって家を継ぐのが当然だと考えている。
兄はそれでも別に不満を感じることはなかったが、どうも司はそれがいやで仕方なかったらしい。
兄は、司が男装をする理由は親への反発だと思っているし、実際それも理由の一つだ。
「それもそうか」
大人しい兄の様子に司は安心しかかったが、それでもどこか不安で兄の様子を横目で探る。
兄の視線は部屋の中をぐるりと見渡している。
「綺麗な部屋だな」
「綺麗好きだから。お兄ちゃんと違って」
先ほどの仕返しとばかりに言う司の台詞にはちっとも堪えた様子もなく、兄の眼はせわしなく動く。
「むしろさっぱりしすぎてる気がするんだが……」
「まぁ、ここはね。向こうの部屋は資料とかいっぱいあるから、ここよりはごちゃごちゃしてるけど」
「そうか……教師だしな」
その単語にひっかかるのは、誰でも同じことらしい。
自分たちの関係が、ことによれば低俗なゴシップ記事になりかねないことも、司はわかっている。
わかっていて続けているのだ。
「まぁ、ね」
その考えが伝わったのか、兄は口を閉ざした。
隆也は客用のカップを二つと、いつぞやの対のマグカップに紅茶を用意した。
どうせならいつもどおりにしてくれればいいのにと、不満そうな顔をした司だったが。
「 」
短く声をあげかけた司の様子に、兄は気付かない。隆也が使っているのは、普段司が使っている方のカップだ。
隆也と目が合うと、にこりと笑みが向けられる。すると何故だか急に恥ずかしくなって、司は俯いた。
お客様扱いに不満そうな司に気を使ってわざとこんなことをしたのか、
それとも単純に間違えて照れ隠しで笑ってみせたのか、それもわからないけれど、何故か恥ずかしい。
「えぇと……申し送れました。三宅隆也です
司、さんの担任で……七月から、お付き合いをさせていただいています」
「あ。司の兄の、高槻佑です。今大学一年です
先生のことは司から聞いてます。といっても、俺も細かいことは何も聞いていないんですけど」
先生、と言われて隆也は微妙な表情を浮かべる。
改めて、自分の教え子と大して歳の変らない相手にかしこまっている現状を認識した。
しかしこの年下の男は、あくまで司の保護者代理なのだ。
「それで今日は、どんなご用件で」
司は口を挟めず、じっと二人の会話を聞いている。何か息苦しい。
「失礼ですが……」
「はい」
改まった切り出し方に、隆也も緊張した面持ちになる。
「三宅先生は、JOJO好きと聞いたんですけど」
「は? 」
「……お兄ちゃん! 」
間の抜けた声をあげる隆也にこれ以上兄の本性を見せたくなくて、司は横の兄を小突く。
「いいから本題! 」
「む……なんだ、せっかく友好ムードを演出してやろうとしてるのに」
「いらないから! っつーかむしろひくから! 」
必死で止める司に、なにやら兄はぐずぐずと「でも」とか「しかしだな」とか言っている。
このままでは埒があかないと、司はなおもせっつく。
「そもそも俺もお兄ちゃんが何しに来たのかわかってないんだから、早く教えてよ」
「まぁ、そうか。つーかアレだ。ようするに責任とれるかどうかっつーのを問いただしに来たんだ、うん」
この流れであっさり口にすることではない。
ほほえましい(?)兄弟の会話と流し聞きしていた隆也も、思わず居住まいを正す。
「あります。司がその気なら、結婚しようと思ってます」
これもまた、司に言う前に、しかもこんな流れで口にすべきではない台詞だ。
「せ、先生っ! 話飛びすぎ! 」
予期せぬ告白に頬を染めた司が声をあげても、横の兄は落ち着いたものだ。
「いや、飛んでないぞ。責任取るっつーのはそういうことだ」
「だ、だってお兄ちゃん、俺まだ17だよ!? 」
「17でも女だ」
「司、嫌か? 」
ふいに隆也に声をかけられ、司は言葉に詰まる。
「いっ……嫌じゃない、けど……先生もひどいよ……こんな……」
当事者のくせにすっかり蚊帳の外状態の司は、おもいきり眉をしかめる。
悪い、と思わず反省した隆也の後は、しばらく沈黙が続く。
それぞれの視線が下がり、口をつけたカップの中身は温くなってゆく。
その長い沈黙を破ったのは兄だった。
「……司。お前は女だ。結婚もできる歳だ……先生と、何もしてないわけじゃないだろ? 」
「……」
司も隆也も、返す言葉がない。
「男はもちろん、女もそれなりの覚悟が必要なんだ。お前にその覚悟はあるのか?
お前のせいで先生が職を失うことになってもかまわないって、そう思えるのか?」
俯いた司が顔を上げようとした瞬間、隆也が口を開いた。
「そういうことについては、司の方が心配してくれてるんです。俺の方が、考えが浅いくらいで……
でも、覚悟はあります。何があっても、司と一緒にいます」
しっかりと兄と視線を合わせて語る隆也の言葉に、司は胸が熱くなる。
自分といるときの隆也はどこか余裕の対応ばかりしていて、こんなに真剣な表情は中々見られない。
それだけに、想いの確かさが息を詰まらせる。
けれど隆也に全責任を負わせるわけにはいかない。震えそうな声を絞り出す。
「俺だって、覚悟はしてる。何があっても先生と離れたくないし、誰に何て言われても……離れない」
あらためて決意を口にする司の潤んだ瞳を見据えて、兄は口を開いた。
「……そうか。わかった。じゃあもう俺がどうこう言うことじゃないな」
お兄ちゃん、と司が呟くのにかぶせるように、兄はさらに言葉を続ける。
「ただし。ばれないように……は、司も気を使ってるだろうからいいか
先生。できるだけ早いうちに、親にも会ってください」
司の台詞に浸っていた隆也が、慌てて膝に手をつく。
「あ、はい。その……司が卒業するときに、って考えてたんですけど……」
「それで充分です。その、うちの母親は司にちゃんと女として幸せになって欲しいらしくて
問題はあるでしょうけど、きっと喜ぶと思うんです。親父も……うん、まぁ、そんな感じで」
微妙なぼかし方がなんとも言えず隆也を不安にする。
だいたいこういう場合は父親の方が気難しかったりするものだ。
「あ、えーと……じゃあ、頑張ります」
「はい。で、JOJOの話なんですけど」
「お兄ちゃん! 」
思わずつっこむ司にかまわず兄は話し始め、隆也も面白半分に司を置き去りにして話に乗る。
しかし拗ねた司が勝手に台所に向かって隆也のマグカップで紅茶を飲み始める頃には、
隆也は司兄のトークの深さについていけなくなっていた。
引き気味の隆也と司を相手に、兄一人が満足げにしゃべり終わった頃には、秋の短い日はとうに傾いていた。
「さて。それじゃ俺は失礼します」
腰を上げた兄に付いていくように司も立ち上がり、それを見送ろうと隆也も腰を上げる。
玄関まで歩いて唐突に兄は振り返り、司の鼻先に指を突きつける。
「お前は残れ。食器ぐらい片付けていけ」
「え? 」
思いがけぬ言葉に目を丸くして立ち尽くした司に満足げな笑みを向け、兄は靴を履きドアを開ける。
「お邪魔しました。こいつ、よろしくお願いします」
「あ、は、はい……」
どこまでもマイペースな兄には実の妹も教師もついていけず、呆然とその背中を見送る。
ドアが閉まってしばらく後、隆也が口を開く。
「気を使ってくれた、のか? 」
「……わかんない。多分そうだと信じたい」
うーん、と額を抱える司を後ろからふいに抱きしめて、隆也は笑う。
「ま、どっちでもいいか。夕飯くらい食っていってもいいだろ? 」
「うん」
笑みを浮べた司は、これからのことを考える。
これから、夕飯を一緒に食べて、月曜日には学校で笑みを交わして、また週末には、ここで話をして。
穏やかな日々が続くことが、どこかで当然のように思えてきた。
「先生」
「ん? 」
「ずっと、一緒にいようね」
「うん。ずっと、だ」
甘い空気に浸る二人から少し離れたところで、兄は一人隆也の人物評定を下していた。
「司がいるとできないからな。うん。部屋も車も片付いてるし、嘘はついてないだろ
俺のようなヲタクでもなし職業も安定してるし、問題ないな」
駐車場で、近所の方々の不審な目に晒されながら。
司の兄ちゃんの痛さが足りなかったなァと反省。
とりあえず、司と先生の話は次(クリスマス?)でいったん締めます。
こっそり和モノやエルフ話が沸いてきてるのでそっちにとりかかりたい、です……
>>83 確かに司の兄は思っていたより痛くなく良い人という感想を受けました。
でも、それもまた良いと思いますよ、と偉そうに言ってみました。
なにはともあれGJです。
>司
兄ちゃん痛くないです
いい兄です(これで痛ければゴッドのヨシアキ…ファンだけど…はどーすれば
エルフ見たいなぁ 楽しみにしとります
86 :
名無しさん@ピンキー:2005/11/20(日) 23:57:20 ID:7fEibokL
>司
GJ!
感動したです。
GJ!
JOJOトークを省略したのが残念。
脳内では4部について熱く語っていてくれるよ。
88 :
実験屋:2005/11/21(月) 19:50:32 ID:whcqbmQh
>>.Xo1qLEnC.様
亀レスですがGJ!!!&感謝です。
笑いあり、萌ありでご馳走様です!!
風邪ですが、初インフルエンザで何していいか分からなかったので
医者に「もっと早く来なさい。死ぬよ」と言われました。
>>QKZh6v4e9w様
GJ!!っす。新キャラのメルの今後が楽しみです。
>>aPPPu8oul.様
GJ!!兄さんいい味出していらっしゃいますね。
司の兄さんとJOJOについて論戦したい自分がいます。
続き投下します。
* * *
で、だ。
往生際悪く、居間で茶ぁしばいてたりする。
ソファにリディは所在無げに座る。
茶を運んできた俺は、その隣に腰掛けた。
一息付いて、吐き出す。
「あんな近くにいたのなら、会いにきてくれれば良かったのに。
…まあ、俺は留守だったけど…」
膝に頬杖をついて、リディを覗き込むと、ばつが悪そうに茶を啜る。
「迷惑…だと思って…」
「迷惑なんかじゃないよ。…会いたかった」
やがて、覚悟を決めるように深呼吸し、カップを置く。
彼女は、カップの中で揺れる波紋を見詰めながら、話し始めた。
「あ、あのね、もっとホークの事知りたくって、ずっと考えてた。
何を思って、どんな景色を見てるか、とか…でも、解るわけなかった。
オレ、村の外の事、ほとんど知らないんだから。だから…」
リディは俯き、膝の上で拳をギュッと握る。
「関係無い。また会えて嬉しい」
束ねきれず、耳元にこぼれるほつれ毛をそっと掻き上げてやると、
顔を上げる。
「貴方に近い場所で、貴方に近い生活をして…もっと貴方に近付きたかった。
そうしたら、自信が持てると思ったんだ。そうしたら…」
震えた声が途切れ、再び顔が伏せられる。
…脳が溶けそうだ。
肩を抱き寄せ、片方の手で彼女の膝上の拳を包み込む。
「俺も同じだよ。もっとリディの事、知りたかった。だからこそ
俺は、もう一度会いたかったんだ」
重ねた手をギュッと握る。
「知りたい…解りたいから、これからいっぱい一緒に過ごして、
沢山話そう。それが一番早い」
「うん…」
緊張で震えるのを誤魔化すように、握った手に力を籠めた。
「好きだ…リディ」
やっと言えた。しかし、流れる沈黙。
それでも、腕の中から逃げようとはしない。
短いような長いような時間の後、消えそうな声が聞こえる。
「ホーク、ありがとう…オレも…」
小さな体がこちらに預けられた。
「ところで。なんで、まだ男言葉なん?」
ピク、とリディの肩が動く。
「…ダメ…?」
ごまかし笑いを浮かべ、上目でチラリと視線を投げてくる。
…なんか可愛いけど、う、うやむやにはさせないぞー。
「な・ん・で・?」
こっちも笑ったまま問い詰める。
「だって、なんか、今更…恥ずかしいし…」
「どっちが今更だよ」
「んむっ…」
問答無用でリディの唇を奪う。
舌を這わすと僅かな戸惑いの後、奥へと迎え入れられる。
鼻から漏れる息がくすぐったい。
舌を存分に絡ませながら、髪を解くと甘い香りが強くなる。
翌日には、互いにそ知らぬフリで別れた、幻のような一夜だった。
でも、それは確かな現実。俺は、リディが『女』だと知っている。
手を胸に這わすと、サラシの固い感触。
緊張したように、力の入った肩を抱き締め、指に少し力を入れてまさぐる。
みつけた小さなしこりを、爪を立てて引っ掻けば彼女は逃げ出そうと
体を捩る。
「っ…あ、やっ…」
キスは中断。目の前で、細い糸が光って切れた。
頬を染め、恥ずかしげに目を逸らす仕草が可愛い。
「ほら、普通の女の子だ」
その長い髪を弄びながら言うと、耳まで赤くなった顔を胸に埋めてくる。
額に、目蓋に、頬に。顔中に口付けを落とす。
「…っ」
くすぐったいのか、恥ずかしいのか、声にならない声をあげて、
身を退こうとするリディを追う。
口元に辿り着く頃には、ほぼ押し倒した形になっていた。
そのまま力いっぱい抱き締め、耳元で聞く。
「いい?」
「こ、ここで…?」
「ここじゃなきゃ良い?」
弱々しい問い返しに、更に返すと少しためらい、そして頷く。
「じゃ、移動すっか」
床に降りてリディを抱き上げると、慌ててしがみついてくる。
「きゃっ…あ、あとっ」
「ん?」
「朝まで一緒…だよね?」
縋るように見上げられる。
「もちろん」
速答すると、リディが首に抱きついてきた。
「なら、いいよ…。あの時、部屋に戻れって言われる度、すっごい
淋しかったんだから…」
「りょーかい」
あーもー可愛いなぁ…
* * *
正直言ってね、今夜は手ぇ出すつもりは無かったんだよ。
最初に襲っちまったもんだから、告白も体目当てとか思われんの
嫌だしさ。
何よりも疲れきってて早く寝たかった。
なのに何故か、息子さんはお元気な様で…まったく…
* * *
「ちょっと、しっかり掴まってて」
リディを首に掴まらせ、背中を支える手でドアノブを捻る。
隙間に足を突っ込んで蹴り開け、そのままベッドでリディを脱がしにかかる。
「ちょ、ちょっと、やっぱ待ってっ」
「どしましたー?」
向かい合うように座り、ボタンを勝手に外されてく彼女は、やたら
焦って襟元を押さえる。
「ごめん…。お風呂入らせて。汗掻いてるし」
「どうせ、汗なんてこれから掻くんだから」
手は止めないまま、返事をする。
「〜〜〜ッ。せめて自分で脱がせてっ」
「明かり点けたままヤるのと、俺に脱がされるの、どっちが良い?」
だから、真っ赤な顔で抵抗しても煽るだけだっつーの。
理不尽な選択肢に絶句してる隙に、シャツを抜き取る。
「…もう…」
「怒った?」
動きを止め、むくれた横顔をみつめる。
「ホークのばか」
そう言う口の端が笑ってるのが見えて、俺は少し安心する。
月明かりに浮かび上がるのは、サラシの冷たい白と、肌の暖かな白。
肩の傷はもう、跡形無く消えていた。
「傷跡、残らなくて良かったな」
「うん、クリスのお陰で…そういえば!」
「な、何?」
いきなり真っ赤な顔で、胸倉を掴んでくる。
「あ、貴方が、あんな事す、するからっ…怪我、誰にも見せられ
なくて大変だったんだから!…服着たまま、治療の術かけてもらってっ…」
あんな事…?あ、キスマークか。
「わりぃ、わりぃ。少しでも長く、リディが俺を忘れないよう、おまじない」
苦笑混じりに、言い訳する。反省はしてない。
「クリスは何も聞かなかったけど、は、恥ずかしかったんだからっ
…ばかっ!」
たっ、愉しい…。
彼女は必死に睨み付けてくる。真っ赤な顔で。
てかリディ、クリスの前では普通に脱げるって事か?
羨ましいぞ、あのクソガキ…
「怪我も治ったし、今日は大丈夫だよな?これは、独占の印」
「んんっ…」
言いながらワザと音を発て、首筋に痕を付ける。
「……もう、ほんっとーにばか!」
バカと連呼されながらも、リディの照れた顔が物凄く好きなので、
ついニヤけてしまう。
油断してたら首に腕が巻き付き、鎖骨の辺りにチクリとする感触。
「ホークは私だけの、だからね」
真剣な目で言われる。
あー、顔が緩みっぱなしだ、俺。
抱きつかせたままサラシを巻き取る。
途中何度も、伏せ目がちな少女と唇を重ねた。
唇を吸う、微かな音と静かな息の音が空間を埋める。
下を覗き込むと、緩んだサラシから白い双丘が飛び出て、微かに震えた。
うわ、ぷるん、とか音でそー…
そんな光景に思わず見入っていると、顔の向きを無理矢理直され、
迫力無く睨まれる。
「見ないでっ」
「綺麗だよ」
もう一度口付けし、ゆっくり押し倒す。
またむくれてる彼女の、首筋から胸の谷間を通り、下腹までを指でなぞる。
「…んっ…」
ビクリと震えるが、息を止めて声を堪えているようだ。
「こっちも早く脱がないと、使い物にならなくなるな」
「あっ」
脚の間を擦れば、厚い生地の上からでも反応する。
「はい、腰浮かせて〜」
留め具を外していうと、おずおずと言うことを聞く。
ジーンズを引き抜き、露になった白い下着には、既にシミが浮き出ていた。
「遅かったな。もう、濡れてる」
「やぁっ…」
シミを撫でると脚を閉じて、そこを隠そうとする。
脚が閉じきる前に滑りこませた指を、秘裂に押し込むように擦りつけると、
じわりと水気が滲み出す。
「脱がせただけで、こんなになっちまうの?」
「や、ちがっ…あ、やぁっ…」
否定の言葉も最後まで紡げず、泣くような声に変わる。
腰の浮いた所から手を入れ、足ごと持ち上げ下着をゆっくり引き抜くと
透明な糸が伸び、全てが晒された。
リディが、ゆっくり起き上がってくる。
「ホークは私が脱がせるっ」
全てが赤く染まる中で、変わらず涼しげな色の瞳に見据えられる。
「どうぞ」
意地悪く言ったまま動かないでいると、一糸纏わぬ体は、俺の視線から
逃げるように脇に移動し、上着を剥ごうとする。
この上着、ボタンなどは無く、前を一ヶ所紐で止めただけの簡素な物。
結びっぱなしのその紐を解くため、半分抱きつかれる形で腕が伸びてくる。
腕に胸の先端が掠ると、触りたい欲求が膨らみ始めた。
ちらりと視界に入る白い脚を撫でると、悲鳴が聞こえる。
「どした?」
「い、いきなり触るから!」
「暇だったから、つい」
笑って受け流すと、釈然としない顔のまま、剥いだ俺の上着を羽織る。
折角脱がせたのに、とも思ったが、その恥じらいと、開いた上着の
合わせから覗く、細い体がツボだったので一先ず見過ごす。
シャツを脱がされる間にも、どさくさに紛れて体を触っては怒られた。
上半身は裸にされる。
さて、次は…と。
リディさん、俺の前に座り込み、躊躇してるご様子です。
やがて、そろそろとズボンに手が伸び、震える手がボタンを外し、
ジッパーを下ろす。
そこから覗く俺の下着は勿論、膨れ上がってる様が如実に見えて…
あーあ、固まっちゃった。
なんかこっちまで、恥ずかしくなってきたよ。
「よく頑張りマシタ。後は自分で脱ぐよ」
「駄目!」
腰に手をやると、真っ赤なままで叫ぶ。
意地っぱりだなぁ…
でもやっぱ可愛くて、頭を撫でてやる。
「そ、そのままね…」
立たされた俺の腰から、ズボンと下着が同時に下ろされる。
モノは元気良く飛び出て、リディの視線に晒された。
彼女は反射的に目を逸らすが、また恐る恐るこっちを向く。
「こ、こんなのが…?」
「そ、こんなのが…ぅッ!」
ニヤリと笑うと、無言のままいきなり裏筋をツーッとなぞられる。
…出るかと思った。お嬢さん、それ反則…
「気持ち…いい?」
不思議そうに見上げる青い目。
もう駄目だ。犯る。
「ひゃっ!あ、んっ…」
中途半端に下ろされた服を脱ぎ捨て、そのまま押し倒した。
抗議しようとする口は、口で塞ぐ。
手を秘部へ伸ばすと、クチュ、と卑猥な音を発て、俺の指は飲み込まれた。
「ん…ふっ…ぅ」
指を動かすと、押しつけるように重ねた唇から、苦しげな息が漏れる。
ひたすら逃げようと捩れる痩身を、掻き抱いて捕らえた。
「ふはぁっ!ん…あっ、あ、やぁっ……ああぁっ」
唇を解放すると、空気を求めて開かれた唇から、嬌声が溢れ出る。
指を二本に増やし、中を押し広げながら、親指で蕾を押し潰す。
「はぁっ、あぁっっ…うぁ、やぁっ…」
嫌、といいながらも、擦り付けるように腰は動く。
顔を隠すようにかざされた腕は力が無く、今にも崩れ落ちそうだ。
反らされた身体の上で、妖しく揺れる双丘。その先端を口に含み、
舌で転がす。
肌は熱を増し、隘路が指を締め付ける。
強く歯をたてると、全身を震わせ、高い嬌声があがった。
羽織ったままの上着は乱れ、もはやその用途を為していない。
「イッた?」
荒い息のまま、身体を投げ出す彼女に声をかけても、僅かに顔を背けるだけ。
強く噛んでしまった先端を舐めていると、細い腕が俺の背中に回される。
「っ…ホーク…さっきの…んっ、恐い…」
「いきなり押し倒して、ごめんな」
「……すごく、ドキドキして、頭の、中…真っ白に、なって…何も
わから、なく…なる」
それって、つまり…
笑いを堪えられないまま、頭を撫でてやる。
「……大丈夫だよ。俺は、リディがそうなってくれた方が嬉しい。
恐いなら、俺に掴まって」
「うん…」
リディは目を閉じ、背中の腕が俺を抱き締めた。
蜜の溢れるそこに、自身をあてがう。
下から見上げる濡れた瞳は、いつかと同じ光景。でも…
「好きだよ」
あの時は飲み込んだ言葉が、素直に出てくる。
少女は笑って応えた。
「…大好きよ」
その声を聞き、一気に貫く。
俺からは感歎の、リディからは苦悶の息が漏れる。
「…痛い?」
尋ねても、首は横にしか振られない。
「無理するなよ」
前よりは余裕のありそうな微笑みに口付けし、動き始めた。
暖かい肉はまだ固く、痛いぐらい絡み付く中を往復する度、
抱きつく腕に、力が入る。
「んっ…くっ…すき…ーク…あっ」
嬌声の合間に、繰り返し混じる掠れた声。
腕の中の少女が、気が狂いそうなくらい愛しい。
「好きだよ、リディ…」
顔を近付け囁くと、キスをねだるように、頬へと手が滑ってくる。
誘われるままに、唇を貪る。
―気持ちが良い。
瞳が、肌が、吐息が、言葉が…
俺はリディに満たされていく。
もっと。
もっと深く抉り、犯し、汚したい。
頬の手を取り、指と指を絡めベッドへと張りつける。
熱に揺れる、青い双眸には俺が映る。
腰の動きを大きくし、より強く打ち付ける。
「ふ、はぁっ、…ああんっ、ぅああっ!」
隙間なく自身が埋まる隘路は、逃がすまいと絡み付く。
しかし、その奥から沸く蜜が動きを助け、肉と肉は激しく擦れ合い
、粘り気のある液が泡だつ音が響く。
どちらからともなく握り合う指の力に、限界を悟る。
「ホォ…クッ…!」
このままで居たいけど…
ギリギリまで引いて、奥まで一気に突き上げる。
高い嬌声を上げ、跳ねるように震える少女の顔をみつめていた。
未練を振り切って自身を引き抜き、彼女の腹を白濁に染める。
「っ…はぁーっ」
眩暈に近い感覚に深く息を付き、少女の首元に顔を埋める。
甘い女の匂い。汗や、あの店の匂いの混じるそれを吸い込む。
小さな体を抱き締めると、細い腕が抱き返してくる。
こうしているだけで、気持ち良い。
息が修まるまで、そうして抱き合っていた。
* * *
目が覚めたのは、太陽が南天に差し掛かる頃。
あのまま、寝ちまったか…
ぼやけた視界には穏やかなリディの寝顔。
彼女も慣れない仕事で疲れてたんだろう。
髪に手を差し入れても、気付かず眠り続けている。
梳くと少し乱れた黒髪が指に絡み付いてはスルスルと抜けていく。
…猫っ毛だ。
今日は何をしよう。
リディはどのくらい、こっちに滞在するのだろうか。
時間は限られている…
そういや、部屋のドアが開けっ放しだ。
…どーでもいいや。もう少しこうしてたい。
居間も片付けて…
町に…
あ、庭…
微睡みは、再び意識を飲み込んだ。
-end-
最初の事件の時、突然の事で僕達はいっぱいいっぱいになってた。
でも、リディが僕の前で弱音を吐こうとはしなかったのは、彼女が
僕の保護者である事を自認し、それによって自分を保ってたからだと思う。
だから、僕がリディのためにできたのは、被保護者として
振る舞う事だけだった。
リディは本気で嫌がってたのに、それを押し切ってホークに
協力してもらったのは、そのため。
彼女のリスクを減らす為にも、前線向きの頼れる協力者が欲しかったんだ。
この際『頼れる』ってとこは妥協したけどね。
だって、父様の友人を探してたのだから、経験積んでそうなオジサマを
期待してたワケで…。
トビーさんの代わり、と紹介された彼は、少々若すぎた。
まあ、結果から言えば頼りにはなったのかな。
帰り道でのリディは、すごく落ち着いてたから。
(別の意味では、落ち着きなかったけどね)
もう狙われなくなった、ってのもあったんだろうけど、僕が寝込んでる間に
何かが変わっただろう事は、想像ついた。
そして、リディがホークを好きだって事も。
* * *
「あー、焦れったいねぇっ。ホークも男なんだからハッキリ言えば
良いのに!」
厨房から出てきたメイさんは、包丁を握り締めたままで、少し恐い…。
カウンター席に移動した僕達はメイさんも混じえ、リディとホークの
観察をしていた。
どっちも赤面して、固まってるのが見える。
あーあ、何歳だよ。あのヒト達…
「上手くまとまったとしても、ホークはリディちゃんを置いて
帰りそうなのよね。甲斐性無いから」
「あぁ、やっぱり?リディはなー…どうだろ。たまに脊椎反射で動くから」
好き勝手言う僕らを、ママが諫める。
「アンタ達、いい加減にしときなさいよ。後は本人達の問題なんだから」
…存在は非常識なのに、考えは常識的なんだ、この人。
「だって僕、実の父に踊らされてここまで来たんだよ?少しは楽しんで
帰らないと、割りに合わないよ」
「アンタ…」
ママが何か言い掛けるけど、無視。僕はある計画を提案した。
「ね、こんな人の多いトコじゃ進展しなさそうだからさ、無理矢理
二人っきりにしちゃおうよ」
「…アンタ達がほっといてあげれば自然」
「悪くないね」
乗り気のメイさんに遮られ、撃沈するママ。
この夫婦の力関係は解りやすいな。
「で、なんか手段は?」
興味深々といった感じに、ローズが身を乗り出す。
「転送魔法でホークとローズを帰すフリして、リディ達だけどっか
飛ばしちゃおうかと」
その後の二人を観察できないのは、残念だけどさ。
「そんな事出来るのかい?」
「よゆーよゆー」
「じゃあ、ローズはうちに泊まるか!ホークんちまで飛ばしちゃえば、
戻ってくる気力も無くなるだろうさ」
「うん!そうする〜」
女性二人の賛成意見が出れば、決まったも同然だな。
しかし、今度のママの制止はちょっと強気だった。
「ちょっと、待ちなさいって!リディちゃんは、嫁入り前の女の子なのヨ?
ホークちゃんが、いつケダモノになるか…」
『そんな今更』
三人の声が重なる。
「あら、あんた達気付いてたのかい?」
「推測の域は出てなかったけどね。まあ、なんとなく」
「私もなんとなーく。でも、メイさん達まで気付いてんだね」
「ホークは酔うと、よく喋るからねぇ…」
メイさん、勘がいいからなぁ。
口滑らせなくても感付きそうだよ…
余談。このヒト、初対面の時に『リド』の性別見抜いてた。
「で、でもっ!一回くらい過ちがあっても、やっぱりお嫁さんに
なるまでは…」
「スネイル、あたしたちは?」
「そ、それはアナタがっ…!」
メイさんが横目で睨むと、ママは赤面して言い淀む。
この夫婦って…
バランスは取れてるんだろーな。
「ママって少女趣味なのねぇ」
「アンタ達がおかしいのよ〜っ!」
うーん。常識的で純情なオカマか。
「まあまあ。僕達の村もさ、表向きはそんな事言ってるけど、
時間はあっても娯楽施設は無し。ホントのところ、婚前交渉も
当たり前なんだよ」
「そーじゃなくってぇっ、リディちゃんの意思は!?」
諦め悪いなー。
「大丈夫、リディには奥の手があるから。逃げたかったら簡単に逃げれるよ。
ああ、それでショックに打ち拉がれるホークも面白そう」
「人でなしぃっ」
見た目ごっついおっさんに、潤んだ上目で睨まれるのは、ちょっと
背筋が寒い。
「…解ったよ。リディが、自分の意思でホークと二人きりになれば
いいんだね?」
* * *
それが、ホークとローズを置いて僕が帰る、という作戦なのだ。
僕の保護者を自認してるリディなら、僕の不始末を片付けようとする。
帰り際に、ホークの疲労を強調しておいたから、彼が歩いて帰ると
言っても、リディは聞かないだろう。
レッドムーンに泊まると言っても、部屋割りはメイさんが握ってる。
ローズと僕の退場は、わざと不自然に演出しといたから、ホークも
何か企まれてるのに、気付くはず。
うっすい壁のあの宿で、二人で隔離されるぐらいなら、おとなしく
家に帰るだろうさ。
まあ、それでもまだ非道だ、と泣き崩れるオカマがいたけど。
ホークを送ってった後、帰るも帰らないもリディが選択すれば
いいんだもんね。
* * *
「よっ…と」
空間の歪みを越え、自分の家に辿り着く。
夜の農村は暗くて静かだ。
さて、後は…
門扉をくぐり、真直ぐに父様の部屋に向かう。
「父様の◆※★§!!」
部屋に踏み込むなり、熱い想いを吐いてみる。
「おお。クリス、帰ったか!」
ベッドの上には、僕と同じ金髪のおっさん。
僕の悪口雑言を無視した、陽気な出迎えに余計腹が立つ。
「こんの嘘つき親父がっ」
「冷たいな、息子よ…。で、リディはどうだった?ホーク君とは?」
こーゆー話になると、目ぇ輝くんだから…
「さぁね。今頃仲良くやってんじゃないの」
「そうか…」
父様の顔が哀しげに歪む。
この人でも、自分が育てた娘が余所の男に取られるのは心が痛むのだろうか。
どっちかってゆーと、余所様の娘さんの父親(と、旦那さん)を泣かせる方が
多い、この人が。
「協力してあげたのか?」
「なかなか煮え切らないからさ、無理矢理二人きりにしてきたけど?」
この人でも、自分の娘の貞操は、気にするのかな。
様子を伺ってると、肩を落として何か呟いた。
「……賭けが…」
「賭け?」
「あ?ああっ、いや、なんでも無いんだ。うん。リディ、幸せに
なるといーなー」
額に汗を光らせながら、やたら明るい笑顔が怪しい。
「正直に言わないと、僕が握ってる浮気の証拠…」
「うっ…待て、落ち着けっ!話すからっ!!」
「何?」
僕が父様に詰め寄ると、目を泳がせながら話を始めた。
「いや、昔なー…リディが生まれた時に、ペルジオの溺愛っぷりが
面白くて、トビーと冗談で話してたんだ。娘が嫁に行く時、どんだけ
ペルジオが泣くかってな」
「それで」
「当時、ホーク君は産まれてたから、もし私に男の子が産まれたら、
どっちの息子がリディを射落とすか、賭けようって…」
「で?僕、男だよねぇ」
「まあ…お前が産まれた時に、ちょっと話題に出たりはしたが、
トビーがホーク君を、こっちに連れてくる事も無かったから、
すっかり忘れてたんだ。トビーも、忘れてたはずだったんだ」
「ほぉー」
「だが、あの事件の後、トビーが見舞いに来たんだ」
「何時の間に!?」
「ああ、あいつはいつも、こっそり来るんだ。
で、その時にその話を蒸し返されてなぁ。何を今更、と思ってたが
リディの様子はおかしいし、探りをいれようと…」
「それでリデイを泳がせてたんだね?でも、何で僕まで騙すのさ!」
「いや、その…賭けに負けるのは癪だし。この機会にお前が目覚めて、
リディとホーク君の間を、裂いてきてくれないかと…」
「……馬っ鹿じゃないの?」
もう、これしか出て来ない。この人、馬鹿だ!絶対そうだ!!
僕とリディはずっと一緒に暮らしてきた。家族のように。いや、家族だ。
不本意ではあるが、村でリディは、僕の第二の母と言われている。
そんな彼女に、今更そんな感情を持てるものか!
「に、睨むなって。…昔はリディが家出する度に、お前もくっついて
行方不明になってたよなぁ…」
「急に何さ…。覚えてないねっ」
実は覚えてる。
村の皆は、リディは小さい頃から活発だったと言う。
けど、僕の一番古い記憶では、彼女は部屋に閉じ籠もりっきりだった。
僕はリディが大好きで、いつもまとわり付いてた。
いつしか、家を抜け出すようになったリディを追いかけて、
付いて行けずに迷子になった事がある。
一回迷子になってからリディは、後を追う僕の手を引き、一緒に
連れていってくれたっけ。
「お前が一人で帰って来たという事は」
僕の回想は、父様の声で打ち切られる。
「ちゃんと親離れも、子離れも出来たようだな」
そのニヤリと笑う顔に、思い出に和んでた気分がガラガラと崩された。
「もう寝るっ」
部屋を飛び出す間際に、声が聞こえる。
「おーい、たまには実の両親にも甘えてくれよ」
「ふんっ」
勢い良く扉を閉めて、廊下を走る。
淋しくない訳じゃない。
リディの吐けない弱音を引き出して、支えてあげられるのは、僕じゃない。
それは少し淋しくって、凄く悔しい。
でも、それは役目が違うだけの事。
僕は、僕しか出来ない事でリディを手伝って、支えてあげるしかないんだ。
いいさ、賭けの事で父様の弱みをまた一つ握った。
それに、僕はリディの事を誰よりも知ってる。それは変わらない。
そうだ。しばらくは、ホークをからかって遊んでやろうか。
…今頃、上手くやってるかな。
僕が『身を呈して』チャンス作ってあげたんだから、これで何にも
変わって無かったら怒るぞ!
…あーあ、今度リディに会ったら、説教だろうなぁ…
ー本当に、終ー
うわ、オマケが全然ちょっぴりじゃなかった。
長々と失礼しました。
では、これからも神々の降臨を願い…
十分貴方も神の一員ですよぉ。
GJです!!
名前欄がひどく気になりますがGJ!です
リディも可愛いけどクリスもいい子ですね。漏れなく皆幸せにしてやってください
GJです!
キャラが立っているから伽羅同士の掛け合いも面白いし、
なによりリディがかーいいなー
105 :
狂介と有紀:2005/11/23(水) 01:55:33 ID:Y/imTjuK
【「兄として」完結編投下します】
「くたばれクソババァ!!」
狂介の斬撃は確実にトメの中心を叩き切るルートを通っていた。
「ソレって殺人じゃ?」なんて考え無いように、実験屋とのお約束だ!!
「クスクス。」
しかしトメはヒラリとその斬撃をかわした。
「何!!」
「歳が3ケタ言ってるからって弱いなんて思わない方が良いわヨンvv」
うなじからピップエレキバンを除かせて狂介を挑発(この場合は精神攻撃)するトメ。
「ウゲッ・・・ナメるな!!」
狂介は再び刀を構えなおして斬りかかった。
「ハァ・・ハァ・・・クソォ・・・」
しかし、何度攻撃してもトメにかわされてしまう。
「そろそろ限界のようね・・。」
トメは狂介をワザと挑発し体力を削り取っていたのだ。
「いくわよ御若いの!!」
トメの構えた棍が狂介の腹部に命中する。
「ガァッ!!!」
狂介は反対側の壁まで吹き飛ばされた。
「まだまだだぞぃ!!」
狂介が防御に身構える前にトメは物凄い速さで狂介まで接近し棍で狂介を滅多打ちにする。
「ホレホレホレホレ」
「グッ・・コノッ・・・クソ・・」
一方的なトメの猛攻に成す術が無い狂介。
(マズイ、このままじゃ・・・マジ負けるかも・・)
薄れゆく意識の中で狂介は始めて負けを覚悟した。
106 :
狂介と有紀:2005/11/23(水) 01:57:47 ID:Y/imTjuK
「狂介!!」
「!!・・有紀!!」
意識を取り戻した有紀が狂介に叫びかけた。
「頑張って狂介!!」
「何言っとるかぇ!! これで終わりよ!!」
トメの渾身の一撃が狂介に放たれた。
「オラァァ!!」
「ヒェ!!」
狂介の正拳がトメの棍を殴りヘシ曲げたのだ!!
「なんと!!」
「ババァ、よくもやってくれたな!!」
狂介が素手のまま構える。
「ここからが本番だ。行くぜ!!」
狂介はトメに向かって突っ込んだ。
「オラァ!!」
狂介が正拳突きを繰り出す。
「ウッ・・!!」
命中はしなかったものの脇腹をカスる。その衝撃は中々のものだ。
「急に勢いづいて・・・一体これは!?」
「まぁ言うなれば・・・愛の力だ!!」
今時こんなセリフを堂々と言うなんて・・・イタすぎるが現状を見ればすごい説得力だ!!
「隙アリ!!」
「しまった!!」
”愛の力”発言に呆けていたトメにスキが生まれた。ソレを狂介は見逃さなかった。
「オラ!!オラ!!オラ!!オラ!!オラ!!オラ!!」
「スタープラチナ」と「押忍!!番長」に触発されたとしか思えない乱打をする狂介。
「ぐげぇぇぇぎゃべべべがぁぎゃぁぁうdっうydくrygf!!」
DIOも薫先生もビツクリな攻撃だが「老人虐待じゃ?」なんて思わないように、実験屋とのお約束だ!!
107 :
狂介と有紀:2005/11/23(水) 01:59:39 ID:Y/imTjuK
「ヒィ〜・・年寄りは大切にせんかい!!」
「さっきは『弱いなんて思うな』なんてほざきやがったクセに!!」
言ってる事が一秒前と違う・・・痴呆症&健忘症の始まりのようだ。
「俺のマイスイ〜トハニ〜の有紀に暴行を加えた罪・・・・断じて許さん!!」
狂介は倒れているトメに両手を向けた。
「体内電気・・・発電!!」
体内電気:またの名をフォース・ライトニングと言い
その名の通り体内で理力を使い発電した電撃を両手を介して放つ荒技である。
詳しくは「ゲゲゲの鬼太郎 第3シリーズ」か「スターウォーズ」を見てみよう。
ちなみに「パクリだろ!!」と言う苦情には答えるつもりは無いのであしからず・・。
「ギャギャギャギャギャァァァァァ!!!!!!!!!!」
まさかの電撃に対応できずに苦しむトメ。
「無限の・・・・・パワーー!!!」
電撃ごとトメを宙に浮かせる狂介。
「いくぜ!! 必殺・・・・」
狂介が大きく振りかぶった
「摩天楼ウィンドゥ!!」
摩天楼ウィンドゥ:無限のパワーを全開にして電撃を浴びせている相手を
遥か彼方まで投げ飛ばす狂介の新・必殺技である。
喰らった相手はメイス・ウィンドゥのように
摩天楼の彼方へと消えていくため、SWのEPV発売記念に
相応しい技と言える。
※この技は暗黒面に身を委ねなくては使用できず、ノリと勢いで暗黒面に簡単に堕ち
また帰還してくる狂介だからこそ出来る技なのでみんなはマネ・・・・できないか。
108 :
狂介と有紀:2005/11/23(水) 02:00:56 ID:Y/imTjuK
「ギョェェェェェェェェェ・・・・・」
メイス・ウィンドゥじゃなくてトメは白目を剥いて壁を突き破り
空の彼方へと消えたいった。格好が格好のため乳や下着(紐パン)剥きだしと言う
その姿はモザイク物と言えよう。
「ハァ・・ハァ・・ザマミロってんだ。」
「狂介!!」
有紀が狂介に抱きつく。
「有紀・・・敵はとったぜ。」
「ウン、ありがとう狂介。」
見詰め合う狂介と有紀。そして二人の唇が触れ合う・・・・・
ドドドドド!!!!!
「なっ!?」
「ママ、パパ!!」
「アチャー見つかってしまったか〜。」
なんと天井から狂介と有紀のご両親4人がキスシーンを覗くのに失敗し落ちて来た。
※ちなみに有紀のパパは初登場。
「どうもはじめまして、有紀の父です。娘共々よろしく。」
「って何であんたらここにいるんだよ!?」
「「「「だってここウチの裏じゃん。」」」」
「アッ・・・そうだった。」
作者も病気で忘れていたが『ネバダ』の面々は狂介ん家の裏にそびえる塔で戦っていたのだった。
109 :
狂介と有紀:2005/11/23(水) 02:03:16 ID:Y/imTjuK
山崎父「さあ、そんな事より続きを・・・」
狂介 「出来るかこのクソオヤジ!!」
有紀父「狂介君。私も君の事は応援しているんだよ。」
狂介 「えっ!!・・・・あ・・・ドウモ・・・」
有紀父「だから気にしないで・・・有紀もホラ!! チュウ!チュウ!」
やっぱりこんな性格だった有紀父。二人をキスさせようとチュウチュウコールをおっぱじめた。
両親カルテット「「「「チュウ!チュウ!チュウ!チュウ!」」」」
ジャスティライザーのAAのごとく片手を振りながら狂介と有紀のチュウを見る気マンマンの
両親カルテット達。
有紀「恥かしいよぉ・・・」
狂介「アンタらはーーーーー(怒)!!!」
バタン!!
正樹&萌「「チュウ!チュウ!チュウ!チュウ!」」
藤澤&貞子「「チュウ!チュウ!チュウ!チュウ!」」
升沢「チュウ!チュウ!チュウ!チュウ!」
狂介「なっ!!お前らまで!!」
なんと下の階から『ネバダ』のメンバー達もチュウチュウコールに参加した。
苑田「銃っていいかもクセになりそう・・・クスクス」
園太郎は銃を打つ楽しさに目覚め、ダークモードに入っていた。
狂介「・・・いい加減にしろやぁぁぁ!!!!!!」
狂介の本日二度目の”無限のパワー”が開放された。
[5F]
山崎狂介○―×ゴッデス・トメ
こうして『エロチカ5』との対決は狂介達『チーム・ネバダ』の勝利で終わった。
110 :
狂介と有紀:2005/11/23(水) 02:04:42 ID:Y/imTjuK
その後、『エロチカ5』に勝利し山崎家では祝いの宴が繰り広げられた。
そして宴会も終わりに差し掛かり・・・
「じゃあ、俺は帰る。明日のこともあるしな。」
そう言って升沢は自宅へと帰っていった。明日、彼は遂にパパになるのだ。
狂介「今日はどうもサンキューな。」
升沢「いいって、じゃ。」
もう既に彼の背中からは子煩悩オーラが滲み出ていた。
「俺も帰るわ。」
「僕もこれで失礼します。」
藤澤と園太郎も帰るようだ。
狂介「悪かったな、面倒に巻き込んで。」
藤澤「イヤ、正樹さんに殺されるよりマシさ。」
苑田「先輩達には感謝してます・・・・クスクス」
そう言って銃をペロリと舐める園太郎・・・。
狂・藤「・・・・・」
可愛かった後輩が腹黒キャラになってしまった虚無感が二人を包んだ。
萌「ご主人様〜vv」
正樹「萌〜〜〜vv」
ひょんなことからカップル成立となったこの二人。
狂介「ところでなんで巫女の人がここにいるんだ? 敵だろ?」
正樹「甘い!!甘いぞ!!敵同士の垣根を乗り越え俺達は結ばれたのだ!!」
萌「ご主人様・・そこまで萌を・・・・ウレシイですぅ〜」
そのまま二人抱きしめあう。
狂介「ダメだこりゃ・・・」
正樹「そうそう・・・今日から萌はお前の義姉になるんで・・・」
狂介「・・・・」
パチン
狂介が指を鳴らすとMMRのメンバー・ヤツデンワニ・ナージャ・ドラえもんとのび太が現れた。
「「「「「「「「なんだってーーーーー!!!!」」」」」」」」
フルメンバーの『なんだってー!!』は爽快だった。
111 :
狂介と有紀:2005/11/23(水) 02:06:47 ID:Y/imTjuK
「あー・・今日は本当に疲れた。」
狂介はどっかりと自室の寝床に倒れこむ。
「お疲れ狂介。」
「有紀!!」
狂介が驚く、有紀は比較的軽症ですんだのだが大事を見て医者に診てもらっていたのだ。
「いいのか?」
「うん、もうどこも痛く無いし。」
包帯や絆創膏だらけの姿を見てもイマイチ信じられない。
「それに・・・」
有紀はいきなり狂介に口付けた。
「ちゃんと最後までシたかったし・・・・。」
有紀の顔はみるみる赤くなっていく。
「有紀・・・・だが、しかし・・・」
有紀に無理をさせたくないと狂介は最後の一歩を踏み出せなかった。
「狂介は・・・したくないの・・・?」
有紀が悲しげに狂介を見つめる。
「ヤリましょう!!」
結構簡単に最後の一歩を踏み越えやがったよコイツ・・・節操無ぇ奴。
112 :
狂介と有紀:2005/11/23(水) 02:08:05 ID:Y/imTjuK
「でもさ・・・下にはパパ達もいるし・・・静かにね?」
「約束は出来ないな、まぁ親公認だし・・・いいんじゃない?」
「なっ、何言って・・・、んぅ!!」
有紀が言い切る前に有紀にキスする狂介。チュウチュウコールでお預けを喰らい
なんだかんだで溜まっていた感情が今爆発したのだ。
「ううぅ、むぅ・・・きょう・・すけぇ・・・」
有紀の唇を思い切り吸い立て、舌を絡めて、お互いの唾液を混ぜあう。
口付けしながら有紀の衣服を一枚一枚脱がせていく。
「ケガとか痛くなったらさ・・言えよ?」
「ウン。狂介もケガしてるけど・・・大丈夫なの?」
「あぁ、こんなのケガに入らないよ。」
そういいながら狂介は有紀の秘所へと手を伸ばし愛撫を始めた。
「あ・・!!うぅ・・・・狂介・・・」
次第に熱に浮かされたように有紀の声に色が混じる。その証に秘所からは淫蜜が滴り始めた。
「いいよぉ・・・おねがい、もっと弄って・・・」
有紀の要望に答え肉襞をゆっくりと撫で回す。弄っていく程に淫蜜は量を増していった。
「有紀、ガマンできない。もう挿れるぞ?」
「ウン、きて狂介・・・」
指を抜き、入れ違いに剛直を有紀の中へと入れていく。
泉のように湧き出た淫蜜のおかげで狂介の肉棒は簡単に有紀の中へと入っていった。
「有紀・・・」
「狂介・・・」
対面座位でつながり、二人は見つめあいながら口付けあい、両手を握り締めあった。
「んぅ・・ちゅっ・・んっ・・んぅーー!!」
口と腰で繋がりあいながら愛し合う二人。
「有紀・・・有紀の中すごく気持ちいいよ。」
「あぁ・・僕も・・・気持ちいいの・・うぅぁ・・あぁっ!!」
狂介の肉棒はどんどんと奥に引き込まれ、狂介を締め付ける。
113 :
狂介と有紀:2005/11/23(水) 02:09:42 ID:Y/imTjuK
「有紀となら、ずっとこうしていたい。」
「本当?」
「あぁ。」
「うれしい・・・」
有紀のつながっている手に力が入る。
「動くぞ?」
「ウン、来て狂介・・・僕を狂介でいっぱいにして。」
狂介はその言葉に答えるように腰を動かした。
「うぁ!!・・はぁぁ・・・いい!!きもちいい!!・・・もっと・・もっとぉ!!」
狂介のピストン運動に快楽の声を出す有紀。
「狂介・・いいよ!!もっとしてほしいのぉ!!」
有紀は大きく腰を振り乱しながら狂介を求めた。
「オッケー!!任せな!!」
有紀の要求に確かにこたえるために狂介は精一杯腰を突き上げた。
リズミカルに腰を振る狂介に何度も膣奥を貫かれ有紀は身悶えた。
「有紀・・・もうイキそうなんだけど」
「はぅ!!・・・あぁん・・ウン・・・いいよ・・きて狂介・・・あぅ!!」
腰の振りを一層早め狂介は有紀を抱きしめる。有紀も狂介にしっかりとしがみ付き
狂介を迎え入れる。
「あぁ・・・クッ・・・有紀・・・イクぜ・・・有紀!!」
最後の力を振り絞り有紀を貫く、同時に有紀の中がキュッと締まり狂介も
己の分身から灼熱の奔流を流し込んでいく。
「あぁぁ・・・狂介のが・・・中にく・・る・・・」
お互いを深く抱きしめて息を荒げながらも求め合う二人。
「有紀・・・」
「狂介・・・」
「「もう一回・・・」」
二人の第2ラウンドが今始まった。
114 :
狂介と有紀:2005/11/23(水) 02:11:14 ID:Y/imTjuK
〜その頃一階では〜
山崎父「声が筒抜けだと言いに行ってやりたいなぁ。」
有紀父「よせよせ、追い出されるだけだって。」
山崎父「それもそうか。ハッハッハ!!」
有紀父「さっきまでいた升沢君は明日にでもパパになるんだろ?
俺も孫が早く見たいね〜。」
有紀母「アラアラ、まだ早いんじゃない?」
山崎母「何言ってるのよ。あの子達、あんまり避妊とか考えてないのよ〜。
勢いでシてるんだから〜。」
有紀母「アラアラ、じゃあすぐに孫が見れるわね。」
「「「「楽しみだな(ね〜)!!」」」」
両親カルテットは自分たちの子供の異性交遊に多大な理解を示していた。
升沢「ミルクは人肌程度で・・・・オムツは蒸れない様に・・・・
あっ!!どうも升沢啓です。俺パパになりますんで次回をお楽しみに〜!!」
〜おしまい〜
115 :
実験屋:2005/11/23(水) 02:18:01 ID:Y/imTjuK
以上になります。さんざエロを引っ張っておいて
2レスだけ・・・本当にスイマセンでした!!
エロ中心で次回作製作してますのでご勘弁ください。
>>.Xo1qLEnC.様
GJです!!ほのぼのや萌えや面白さと素晴らしいづくめのですね。
>>101の名前欄は自分も気になりますがGJ!!なのでむしろOK!!
実験屋氏、GJですよ!
やっとリアルが片付いたぜ……
ってなんだこの神の行進はあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
アヒル氏>鈴音で泣き浜屋道場で笑い顔がひきつりそうです
実験屋氏>仕事が早すぎ……見習いたいくらいです
SSも良質だしなぁ……
司氏>お兄ちゃんキタ━━(゚∀゚)━━!!
オタクだってのにそれほど痛くない、むしろ優しい兄貴に漢を見た
.Xo1pLEnC氏>リディタンかーいいなぁ
キャラたってるし読みやすいしで非常にいいです
ナサ神>貴方が降臨してたとは……
新キャラのメイちゃんが物語今後どう絡むか楽しみにしてます
男装スレ一の色気キャラは健在ですなぁ
皆さんGJ!!
>実験屋氏
GJ!狂介シリーズ楽しいなぁ
もともとお笑い傾向の話が好きなんだが、ほんと面白いです
エロの含有量の多少はそれほど気に為さらなくてもいいんじゃないかと。愛も燃えも萌えもあるではないか
>リディ
が可愛いぞこらー!周囲が理解あるのは狂介んとこの家族と同じく、うらやましい限りです。やっぱママが好きだ…!
続編も期待してます(ありますよね?)
>ゴッド氏
こらそこで逃げるな(笑
いつでも待ちかまえてるので、いつかはユウたんを剥いてくれ(でもなかなか進まない焦らしプレイも大好きだ…ゴッド氏の思うままに。gogo!
外出前に急いで助平話を。
もうすぐ年末です。時間がなくなります。スレの繁栄を祈ります。
また逢う日まで皆様どうぞお元気で、熱がでたら早く医者に行きませう。
120 :
初夜(1):2005/11/23(水) 19:16:38 ID:edGhpIRo
広い部屋だ。
隅々にまでたてられた燭台の蝋燭の炎に揺らめく、金装飾の天井や壁が遠い。
磨き抜かれた羽目板の時と手間のかかった深み、厚いカーテンの隙間からのぞく透き通ったガラスがはめ込まれた窓枠全てに沈み彫りが施されている贅沢からもわかるようにここはありふれた金持ちの館の一室などではなかった。
王都の中心、王宮の二階。
王の息子の寝室である。
部屋の主の姿はない。
そのかわり部屋の中央に据えられた天蓋つきの大きな寝台の真ん中に、金糸銀糸で縁取られたいくつものクッションに埋もれるようにして、三日前に王子妃になったばかりの若い女性がぽつんと座っていた。
膝のうえに置いた細い指で落ち着きなく、クッションと同じく複雑な草花パターンの刺繍を施した純白のカバーをつかんだりはなしたりしている。
着ているのはくどいほど手の込んだ刺繍の施された、同じく純白の絹の寝間着だ。
その上には繊細なレースで縁取られた夏用の、同色の美しいガウンを纏っている。
長い巻き毛は少し前に女官たちに丁寧にブラシで解きほぐされた。
溶けた黄金のような滑らかさで肩にうちかかり、蝋燭に暗く輝いている。
唇には淡く紅まで差された。
本人は遠慮したかったのだが、有無を言わさずそうされたのである。
*
『公的に』イヴァンと寝るのがこれほどまでに面倒な事だとは。
ナタリーは、皺一つなく整えられたベッドカバー、さらにその上にふんだんにまき散らされた新鮮なばらを、呆然と眺めた。
何もやる事がないままここにこうして座っているからついつい確認してしまったのだが、ばらは注意深く選り分けられた虫食いの痕ひとつない香り高いものばかりで、しかもその茎にはどのような細い棘も見当たらなかった。
一本一本、細心の注意を払って棘が折られているに違いない。
ばらばかりではなく、さきほど寝支度の最中に王妃様が緊張をほぐすだの心をくつろがせるだのと効用を教えてくれたのだが、束ねられた小さな香草の束も混じっている。
ナタリーをとりかこむようにそれらを美しく配置し、蜜蝋製の蝋燭を全て灯して、王妃様と女官たちは口々に祝福と励ましの言葉をかけたあと扉から出て行ってしまった。
それからもう半時間。
いったいイヴァンは何をしているのか。
密閉された部屋に溢れかえる蝋燭と花々の甘い香りが強すぎて落ち着かない。
まるで自分が箱の中に詰められた菓子にでもなったような気がするのは気のせいか。
ここまで美々しく飾りたてられると、うっかりみじろぎもできぬ。
なによりも、早く楽になりたい。
婚儀のあとの足掛け三日に渡る盛大などんちゃん騒ぎを思い出し、ナタリーはベッドカバーに吐息を落とした。
もちろんずっと起き続けだったわけではなく、合間合間できちんと睡眠を補ったが、本当はぐっすりとまとまって眠りたい。
イヴァン抜きで寝たい。
このばらやブーケを全て払い落とし、蝋燭を消し、シーツを皺だらけにして身も世もなく中に潜り込みたい。
だがそれはまだ許されない。
なぜならば、これから婚儀の最も重要な儀式、最後の『初夜』が始まるのである。
*
「疲れたわ…」
口に出してみると、押し隠していた疲れが躯の中心からじわじわとにじみでてきたような気がしてナタリーは目を閉じた。
普通の結婚がどんなものだか想像もつかないが、国王の後継者と結婚するのがこれほど大変なものだとは知らなかった。
知っていたらどんなにイヴァンに苛められようと口先うまくまるめこまれようと結婚なんかしなかったかもしれない。
婚儀前の目の回るような忙しさや緊張も相当なものだったが、この三日間でとどめをさされたような気がする。
最初は自然に笑顔を見せていた自信があるが、昨夜あたりからかなりに意識しないと口の両端があがってくれなくなった事をナタリーはしみじみと思い出した。
今朝からはもう、疲労からくる眠気との戦いで消耗しつつも、生まれついての負けず嫌いと根性で顔に微笑をはりつけていたのだ。
結婚だの新婚だの花嫁だという言葉からくる甘いイメージとはかけ離れた、ほとんど修行の趣きの最後の一日であった。
してみるとイヴァンは立派なのかもしれない。
最初から最後まで、にやにや──ではなかった──満面に笑みを絶やすことなく、国内外にむけて目出たい慶事をアピールしていた。
121 :
初夜(2):2005/11/23(水) 19:17:39 ID:edGhpIRo
王族に入ったという、覚悟がまだ足りないのかもしれない──。
生真面目なナタリーは反省し……つつもがくりと金褐色の頭が胸元に垂れ下がりそうになり、急いで顔をあげた。
いけない。
目を閉じているとそのまま寝いってしまいそうだ。
思い切って寝台から出、床を歩き回ってみたかった。眠気退散には躯を動かすのがいい。
だが…。
ナタリーは、彩りも美しく配置されている花と、完璧に整えられている目にもまばゆい純白のベッドカバーを、再び気怠気に見渡した。
これを崩さずに抜け出すことなどもはや不可能だ。
ガウンの袖のレースまで、クッションに優雅に流れるよう、念を入れた計算の上に整えられているのである。
ああ本当に、花婿のイヴァンはいったい何を……
寝室の、廊下に通じる居間への扉のむこうから、ざわざわとたくさんの人の気配が伝わってきた。
ナタリーはさっと顔をあげ、急いで髪を胸元から肩へと振り払った。
いよいよ最後の戦い、ではない、最後の儀式の始まりである。
*
扉が両側にうち開き、ナタリーよりは装飾の少ない寝間着にガウン姿のイヴァンを先頭にしてどっと人々が部屋に入って来た。
王、重臣、聖職者、侍従、大使や使節とその従者、議員に、貴族たち。
打ち寄せる人波に、あっというまにさしも広大な寝室も、足の踏み場もなくなった。
人々は明るく美しく飾り立てられた豪華な寝室に目を見張り、巨大な寝台の真ん中で陶器の人形よろしく端然と座っている若く初々しい王子妃を見ると糸のように目を細めた。
視線が一斉に注がれて、ナタリーは思わず身を竦めそうになったが耐えた。
ガウンが薄すぎるような気がするが、ベッドカバーを胸元まで引き上げているから躯つきを探られるはずもないだろう。
だが、見せ物になった気分だ。
…と思う間にもやたらに執拗に撫でてくる視線を一つ感じて、つつましく伏せた瞳をちらりとむけるとそこには案の定イヴァンが居た。
いつもの如く、にやにやしている。
(いまさら珍しくもないでしょうに。そんなにじろじろ見ないで欲しいわ)
疲れていると何でもかんでも癇に障る。
胸の中でイヴァンに毒づいていると、幸いにも彼は首に腕を巻かれ肩を抱かれ、友人たちに部屋の隅に連れていかれてしまった。
ナタリーがほっとしていると、近侍に手助けされながら、彼女の義父となった老王が人をかきわけて寝台に近寄って来た。
「綺麗だの、ナタリーや。わしは今、新婚の頃の王妃を思い出しておったよ」
王の皺のよった頬は新たに噴き出した涙でぐちゃぐちゃである。
「イヴァンは我侭なたちだが、あれでちょっとはよいところもあるのだ。愛想をつかさんでいておくれ」
ナタリーがこれまでにも夫に愛想をつかしたことがあるに違いない、という怖れを抱いている様子である。
父だけにさすがに息子の性質を把握しているが、ナタリーは曖昧に微笑して頷いてみせた。
「ご心配はいりませんわ」
たぶん、と心の中で付け加える。王はすこしだけ安心したようだった。
「そうかそうか。では、一日も早くよい跡継ぎに恵まれるように、王妃と共に祈っておるからの」
「ありがとうございます、陛下」
ナタリーはひやひやして王に手を差し伸べた。
自分のことでもないのに心臓発作を起こしそうなくらい感動している様子なのである。
その小さな指先をそっと握ると、王は急いで枕元の脇に避けた。
後ろからこれも豪華に着飾った総大司教が人垣を押し分けて勢いよく現れ、ぎょろりと部屋の隅に目をやった。
「殿下。お妃様の傍らにおこしくだされ」
歓声に押し出されるようにイヴァンが現れた。
皺ひとつなかったカバーをひっぱってはねのけ、彼は新妻の横に収まった。
重々しい指輪をたくさんはめた指を動かして指示し、大司教は新郎新婦の手を重ねさせ、祝福した。
「睦まじくあれ。多くの子に恵まれ、互いに末永く慈しみ合うよう」
一斉に部屋中の人間が唱和した。
事が事なので、浮かれた気分が漂う陽気な唱和になった。
羞恥を抑え、厳粛な顔を保っているのが精一杯のナタリーには、隣のイヴァンの表情を盗み見る余裕もなかった。
122 :
初夜(3):2005/11/23(水) 19:19:31 ID:edGhpIRo
笑ったり喋ったりしつつ、徐々に移動が始まった。
開いたままの扉の外の居間から入りきれなかった人々と押し合いつつ、少しずつ人数が減っていく。
最後に残った従者たちも、みんなの躯で蝋燭が傾いていないかを確認したあと頭を下げて寝室から出た。
ようやくのことで、音をたてて扉が閉まった。
居間からも人の気配が失せていき、そして、やっと静寂が戻った。
*
「……………」
ナタリーはがくりと、カバーの上につっぷした。
もう大丈夫だ。
これ以上、見知らぬ人々に見せ物よろしく晒されることもない。
笑顔を意識しなければいけないこともない。
自分のしたいようにできる自由な時間が、明日の朝までの数時間、まるまる確保できたのだ。
完璧なベッドカバーも、さっきイヴァンが入るとき皺をつくったからもはや怖れることはない。
レースの襞の美的な角度も計算された花の配置も知ったことか。
思えば長かった…!
「おい、どうした」
そのまま意識が心地よく遠くなりかけたナタリーの肩を誰かががくがくと揺すっている。
ナタリーは、閉じようとする瞼をおしあげた。
隣のイヴァンが気遣わし気に彼女を覗き込んでいる。
「あ、イヴァン様…」
「なにが、あ、だ」
イヴァンは、きっちりおり込まれたままのナタリー側のベッドカバーを腕をのばしてひっぱった。
「これがきつすぎるんじゃないのか。緩めてみろ」
「ありがとうございます」
ナタリーはなんとか上体をたてなおし、顔にかかった髪をかきあげた。
「でも違うの、カバーのせいじゃないわ。…緊張が緩んだんです」
「そうか」
イヴァンは頷き、ナタリーの肩をそっと引き寄せた。彼女は尋ねた。
「これで終わったのよね?」
「おおよそはな。明日にはここを出るから、また当分は離宮を整える仕事で忙しいが」
彼は掌で、妻の滑らかな髪を撫でた。
「ややこしい行事のほうはとりあえず終わりだ。可哀相にな。よくがんばった、と思うぞ」
「イヴァン様……」
ナタリーはほっとして目を閉じた。
大きな掌の温もりが肌に伝わってくる。
このくらいで、と呆れられるかもしれないと、頭の片隅で考えていた。
この数ヶ月、イヴァンが花嫁に負けず劣らず婚儀の種々に忙殺されていたことは理解しているつもりである。
なんといっても彼は、同時に日頃の仕事も抱えていることだから。
こんなに優しく労ってもらえるなどとは期待していなかっただけに、その温もりが嬉しかった。
閉じている瞼にイヴァンの唇が触れ、キスされたのを感じた。
キスは額にかかった巻き毛をかすめ、こめかみに移り、耳の前から首筋に降りてゆく。
肩を抱いていたはずの手も、触れるか触れないかの柔らかさでガウン越しの腕の線を辿り始めた。
ナタリーは、いやいやながらも褐色のきれいな目を開けた。
123 :
初夜(4):2005/11/23(水) 19:21:02 ID:edGhpIRo
……もしや。
「イヴァン様…」
口を開くと同時に、イヴァンが強く抱きしめてきた。
「…あっ、ちょっと、待って!」
眠気がいっぺんに吹っ飛んだナタリーは、夫の腕に指をかけた。
「どういうおつもり」
「どうもこうも」
イヴァンは興奮を滲ませた声で囁いた。
「『初夜』は婚儀の大事な儀式じゃないか」
「でも…」
ナタリーは身悶えした。
どうしてこの男は、ちょっと見直すとすぐにこうなのだ。
「わ、私たち、もう、とっくに、その。だから、しょ、初夜といっても特別には…」
「そんな事をいうが、今夜はひどく張り切ってないか?実に色っぽいガウンだ」
イヴァンがじろじろと、二重もの薄いレースに覆われた肩の肌を眺めつつ呟いた。
「私が張り切ったんじゃないわ。よってたかって着替えさせられたのよ」
ナタリーは叫んだ。
「よくがんばった、って仰ったじゃない。眠いの、このまま放っておいて」
「だが、『初夜』だぞ。その格好を見るまではそうしてやってもいいと思っていたが」
イヴァンはにやりとした。その笑顔にこもった底意を感じてナタリーはどぎまぎした。
気まぐれな男だということはわかっているが、ここまでころころ変わらないでほしいものである。
「じゃあこんなもの着ない。着替えてくるわ」
急いで彼女はカバーから這い出た。
まつわりつく長いレースの裾に膝をとられてつんのめった腰を後ろから掴まれた。
その勢いで、花が床にいくつも落ちた。
「着替えるのなら、手伝ってやろう」
にやにやしながらイヴァンがひき倒すと、ナタリーは憤慨した。
「手伝うなんて嘘だわ。脱がせたらそのままのくせに」
「賢くなったなぁ。ちょっと前までは簡単に騙せていたのに」
イヴァンは高笑いして、彼女の上にのしかかった。
重みにつぶされて動けなくなったナタリーを覗き込み、彼はちょっとだけ笑いを消した。
「…言ったろう、今夜は特別なんだ、ナタリー」
イヴァンは肩を竦めた。
「明日は恒例の『シーツ改め』もある。さっきも助平な連中がわざわざオレに耳打ちしたぞ。けしからんことに、楽しみにしているようだ」
「…なんですって?」
ナタリーは褐色の瞳から怒りを消して、夫に向けた。
いやな感じだ。その言葉はどこかで聞いた覚えがある。
「事の翌朝みんなの前でシーツを広げてだな、確かに結ばれたか、それに花嫁が処女だったかどうか確認するんだ」
ナタリーは真っ青になった。
「……え」
イヴァンはしれっと言った。
「安心しろ、お前が処女だったことはオレが確認している」
ナタリーは彼を睨んだが、辛うじてコメントは控えた様子だった。
「でもみんなにはそんな事わからないわ。……いろいろ、知っているひとたちもいるし」
だんだん、口調が非難がましくなっていく。
愛人期間を知っている離宮の関係者は言わずもがなだ。
王宮に仮住まいするようになってからもイヴァンがなにかと部屋に押し掛けてくるので──さすがに正々堂々は入り浸ったり泊まり込んだりはしなかったが──傍付きの人間たちにはとうにバレているに違いない、とナタリーは諦めていた。
124 :
初夜(5):2005/11/23(水) 19:22:36 ID:edGhpIRo
イヴァンは鼻を鳴らした。
「安心しろというのに。事実はどうでもいいんだ、形式だから」
ナタリーを放して肘をつき、果物や水を載せた傍の台からナイフを掴みとる。
「だが、シーツだけで済むんだからいいほうだぞ……床入れを覗くならわしがなくなっただけ、ありがたいと思えよ」
「え?」
「寝室で立会人が、新郎新婦が確かにやったかどうかを見届けるんだ。祖父の頃まではあったらしい」
ナタリーは震え上がった。
イヴァンはナイフの柄を弄びながら、妙にしみじみと言った。
「じいさんとばあさんは偉かった。オレはそういうのはごめんだな」
私も──と言いかけてナタリーは悲鳴を押し殺した。
自分の左手を仰向けにしたイヴァンが、中指の腹にナイフの刃を当てがったのだ。
眉をしかめながら、彼はそのまま刃をひいた。
よく研いであったらしく、動きに沿ってすぐに赤い線が浮き上がった。
「イヴァン様、なになさってるの?」
ナタリーがとびつこうとしたのでイヴァンは声をあげた。
「こら、じっとしていろ。余計なところまで汚れる」
ナイフを台に投げ捨てると、彼はナタリーを肩で押しのけてカバーをさらに剥ぎ取った。
「結婚する女が全員残らず処女なものか、出血しない女だっている。伝統ある小細工を弄してるんだ、黙ってみていろ」
左手の指先を下にさげて、真面目な顔で寝台をじっと眺めているイヴァンの意図が、やっとナタリーにも読めた。
ぱた、ぱたと赤いものが落下した。
「こんなものだろう」
二三滴落としたところでイヴァンは掌を上にあげ、甲でシーツを適当にこすった。
「…本当に、小細工だわ。何の意味があるのかしら」
ナタリーはようやく呟いた。
「だから、形式だからな。少なくとも血は本物だ」
イヴァンはにやりとして、傷口を確かめはじめた。
「見せてください」
ナタリーは、ガウンの袖を肘までおしあげると、イヴァンの左手を掌で包んだ。
力は浅くとどめたらしく、傷に沿って赤い玉が新しく浮かんではいるが、流れを作るまでには至らないようだ。
安堵して、ナタリーは彼の中指をそっと撫でた。
「……びっくりしたわ」
「これで一件落着だ。…目が覚めたかな?」
ナタリーは顔をあげた。
「え?」
イヴァンは珍しく、にやにやせずに彼女を見下ろしていた。
「お前が厭でなければ、ちゃんと『初夜』をしたいんだがな」
*
ナタリーは素直に彼の腕におさまった。
確かに眠気も、それからついでに疲れもどこかにすっとび、断る理由がなくなっていた。
まだ少し腹がたつが、イヴァンにあれこれ教えてもらっていると彼に腹をたてる筋合いでもないような気がしてきた。
儀式がややこしいのは彼のせいではない。
結局いつものごとく言いくるめられただけなのかもしれないが。
こうしてイヴァンにくっついて、その匂いや体温に包まれている時間も、共に味わう快楽も、彼女は決して嫌いではない。
…どころか、大好き、かもしれない。
「ナタリー、あまりそっちには寄るなよ。乾くまでは」
イヴァンは、『証拠物件』のある寝台の中央部分からナタリーの躯を引き寄せた。
寝台は広いから、たいして苦労はない。
「蝋燭はあのまま?匂いがきついと思わない?」
「ああ」
ちらりと、イヴァンは明るい色の目を、甘い香りを放ちながらあかあかと燃えている燭台に向けた。
「あのままでいい。初夜らしいだろ?」
ナタリーはその胸に額を押し当てた。脇腹に腕をまわし、深々と吐息をつく。
髪にするりと潜り込んでくる指先を感じて、ナタリーの胸は幸福感で一杯になった。
125 :
初夜(6):2005/11/23(水) 19:24:08 ID:edGhpIRo
「…でも、明るいと恥ずかしい」
「目を閉じてればいい」
ナタリーは、イヴァンの寝間着に柔らかい頬を擦り付けた。撫でてもらうのも優しくしてもらうのもたまらなくいい。
初めての時にはこんなに甘い雰囲気などなかった。
蜜蝋の匂いも花の香りも、レースも化粧も関係なかった。
祝福も愛の言葉も、ただの会話すらなかった。
あったのは欲望と辱めと喘ぎだけ。温かく力強いイヴァンの躯は、彼女にとって恐怖以外の何者でもなかった。
だが、今傍らにいる男は怖くない。
辱められるのではなく可愛がられるのだとわかっているから、甘えたくてたまらなくなった。
悩まし気にかすかな吐息を漏らして、彼女はイヴァンの膝のあたりにガウン越しの脚を絡めた。
「おい」
イヴァンが小さな声で笑った。
「さっきまで怒っていたのに、なんだ?そんなに簡単に態度を変えていいのか?」
ナタリーはくすくす笑った。
「だって、変な気分になってきたんですもの」
髪を撫でていた掌の動きがやんだ。彼の抑えた興奮を感じ、ナタリーは嬉しくなった。
イヴァンの鼓動は少し速めだったが、自制を覚えた彼が好ましかった。
動きのとまったイヴァンの掌を捉えて彼女は頼んだ。
「さっきの傷を見せて」
半ば凝集した赤い粒はそのまま乾いていきそうだ。
甲をひっくり返してみると、しっかりとした腱にそってわずかに流れた跡が見えた。
ナタリーは口づけし、舌でその跡を舐めた。生臭く強い鉄の味がした。
「痛かった…?」
イヴァンは答えなかった。睫の影から見上げると、これも滅多になく神妙げな顔をしてじっと彼女を見つめていた。
「ナタリー…」
イヴァンは囁いた。
「変な気分のままか?」
「そうよ」
ナタリーは囁き返した。
「明るいのに?いつもは厭がるじゃないか…」
イヴァンはナタリーの頭を長い巻き毛ごと掴むと近寄せてキスを始めた。
舌が絡み合い、しばらく言葉が途切れた。
唇を放してイヴァンは告げた。
「嘘つき呼ばわりされるのもいやだから言っとくが、お前が目を瞑っていてもオレは開けてるからな」
「じゃあ」
ナタリーは、胸元に伸ばされたイヴァンの手をぎゅっと捕まえた。
「脱ぐのは嫌」
「……そうくるか」
イヴァンは少し酔っぱらったような目つきで、ふざけた、意地の悪げな微笑を浮かべて襟を押さえている彼女を眺めた。
「わかった」
「本当?」
イヴァンは、ガウンに包まれたままの彼女の細い腰を両手で軽く掴んだ。
「抜け道はいくらでもある」
その意味がわかって、ナタリーは目の縁をかすかに赤らめた。
このままで抱く、とイヴァンは言っているのだ。
*
仰向けにした彼女の胸の、絹地とレースの複雑なパターンに覆われた膨らみにイヴァンは視線を落とした。
袖に覆われた掌を探り当てて指を絡め、シーツにはりつけるように抑えると顔をおろしていく。
目を閉じたナタリーが喉の奥でくぐもった声をあげ、躯が小さく跳ねた。
細い刺繍糸のかすかな凹凸が唾液を吸い取り、互いの熱を伝え合う。
舐めても繊維の味しかしなかったが、その内側の絶妙なカーブは舌にわかった。
肌にも味があることをイヴァンは改めて知り、じれったさに少々眉を寄せた。
耳の上であやふやな声が漏れる。
繊細な舌の感覚にはあまりにも荒々しいレースの模様を、それでも丁寧に舐めてみると、ナタリーが今度はくっきりとわかる喘ぎをあげた。
126 :
初夜(7):2005/11/23(水) 19:25:12 ID:edGhpIRo
唾液でぴったり張り付いた頂きの部分を舌の先で彫り上げはじめる。
彼女の腰が揺れた。くねるようにイヴァンの腹にすりつけてくる。
「ん…や…あん…」
控えめだがうっとりとしたその声が甘く鼓膜に響き、イヴァンはおもむろにもう一方に移った。
しゃぶりたて、舌全体で持ち上げてレースに支えられた重みを揺らすと、ナタリーは躯を波打たせて、ぞくぞくするような声をあげた。
たっぷり唾液を吸い取った絹は先端の赤みを透かせてしっとりしていたが、やはり実際の感触との差は天と地ほどの違いがあった。
「だめだ、じれったくてつまらない」
一息つきがてら、染まった耳元に教えてやる。ナタリーの睫が揺れ、褐色の瞳が現れた。呼吸が荒い。
「そ、そう…?」
「お前は良さそうだな」
イヴァンは、襟もとから潜り込ませた指先で乳房の熱さと柔らかさを楽しみながら囁いた。やはり、布越しより断然いい。
ナタリーはかすかに頷いて躯をまたくねらせ、顔を背けた。首がなだらかに弧を描き、上気した肌が露になる。
誘ってるじゃないかとイヴァンは思い、布地相手で欲求不満を訴えていた舌を満足させるべくそこに吸い付いた。
「あー……!」
うねる肩を押さえつけ、わざと音をたてて吸い、舌で唾液を塗りたくってやると彼女はとてつもなく淫らな声を漏らした。
「そこ、ダメ…あ…」
「黙れ」
地金の出た一言を囁き、イヴァンはうなじからレースに隠れかけている鎖骨まで、時間をかけて愛撫を続けた。
肌の柔らかさ、熱、そしてしっとりとした感触が、極上のレースも及ばない官能的な甘さを舌に届けてくる。
すべすべとしたなめらかさ。
唾液に潤い、舌に溶ける芳醇な香り。
ばらや蝋燭の刺激ではない。ごくごくかすかに塩の味の混ざったそれはナタリーのものだ。
「…よーくわかった」
イヴァンは顔をあげ、じっとできずに悶えているナタリーに言った。
「ナタリー、このガウンは脱いでしまえ。一つもいい事はない」
ナタリーは染まった顔をイヴァンに向けた。
潤んだ目の蕩け加減は、新婚初夜の新妻のものとは思えない。
「でも、約束したわ、このままって…」
イヴァンはいらいらと、胸のレースを閉じているリボンを外そうとした。
「約束がどうだろうとガウンを脱がない理由にはならん。まだその下に寝間着もある」
「それはそうだけど」
ナタリーは少々怯んだようだった。イヴァンの言葉は間違ってはいない。
「……でも……あ、ちょっと…!」
イヴァンが脇腹を掴んで指を素早く動かしたので、彼女はそのまま笑いの発作に襲われた。
「やっ、やだ、いやっ、あっ、だめ、イヴァ…」
躯を丸めて離れたとたんにガウンの袖を掴んだイヴァンに肩から抜き去られた。
くすぐってくる指を避けながらもとの位置に戻ろうとすると反対側の袖もあっという間にすり抜けていった。
彼女の夫はこういう反則技に長けている。
「このほうがいい」
イヴァンは満足げに囁き、レースの割合が減少して妨害物は薄い絹の寝間着だけになったナタリーの躯を抱え込んだ。
「わかったわ」
ナタリーは、降ってくるキスの合間に妥協した。
「でも…これは…脱がないから……わかった?」
「ああ」
イヴァンは頷いたが、指はまだ胸のあたりをまさぐっている。
ナタリーはイヴァンの顎を押し、息を弾ませながら指摘した。
「…脱がしてるじゃない」
「ちがう、ずらしてるだけだ」
襟もとをほどき、一方の肩を露にした。純白のシーツの上だと、上気した淡い色がよくわかった。
段々興奮を抑えるのが難しくなってきたイヴァンは、その肩に大きくかぶり付いた。
もちろん傷をつけないように、だが。
「やん…!」
ナタリーが声をあげた。あからさまに、甘えた声だった。
いつもはたとえ感じていてもなんだかどこかおさえぎみなのに、今夜はとても反応がいい。
照明の明るさは重要だな、とイヴァンは思った。
見られている恥ずかしさが大きくて、声を抑えるほうにまで注意が行き届いてないのだろう。
127 :
初夜(8):2005/11/23(水) 19:25:56 ID:edGhpIRo
今後はどんどん灯りをともすことにしよう。
もう、下手をするとすねて口をきかなくなったり逃げたりされかねない愛人だの婚約者だのではない。
灯りがいやだの見られるのは恥ずかしいだのといっても簡単に離婚なんかできるものではない。妻には従順の義務がある。
ナタリーの綺麗な顔が羞恥に染まる様子を、イヴァンはその気になれば毎晩でも見て遊べるのである。
やっぱり正式に手にいれてよかった。彼は自分の判断に満足した。
可能な限り引き下ろした襟首の隙間から顔を突っ込んで、絹地の薄暗がりに隠れている小さな乳首に舌をかすめさせる。
肌の柔らかさともともまた違う、とても薄い感触は溶ける一歩手前のゼリーでできた菓子のようだ。
直接銜えることはできないので何度も舌を送り込むと、ナタリーは反らした背をシーツにこすりつけた。
その背を抱き上げるようにして、イヴァンはねっとりと舌を絡めて舐め続けた。
ナタリーの反応も可愛いし、舐めれば舐めるだけその結果がつぶらかに立ち上がり、震える。
楽しすぎる。
散々ナタリーをくねらせ、その躯が薄く光る汗にまみれはじめた頃、やっとイヴァンは顔をあげた。
濡れた口元をぐいと拭い、起き上がると彼は寝間着の裾を捲り上げた。
下着をおろし、硬くなったまま我慢させているものをつかみ出すと、半裸のナタリーをからかった。
「可愛いなぁ、お前の胸は。………ナタリー」
耳元に囁く。ぴくんとナタリーが反応し、喘ぎながらイヴァンを見た。
「裾をあげろ」
彼女は吐息を漏らしたが拒否はしなかった。
「…はい」
ナタリーは胸を弾ませ、イヴァンの視線をさけるよう顔を横にむけた。
イヴァンの腕から手をはずし、すんなりした指を自分の寝間着に絡めた。
繊細な絹の襞が揺れ、顔を伏せながら、彼女は裾を一巻き、するりとひきあげた。
ひきしまった膝までが露になった。
手で触れると一瞬背すじがこわばったが、彼が指の腹でほぐすように膝の周りを撫で回すと、すぐに余計な力は消えていく。
その様子を見ていると、イヴァンは頬が緩むのを我慢できない。
『初夜』がこんなに楽しいものになるとは想像もつかなかった。
相手次第では楽しくもあるのだろうが、そうでもない場合の可能性を考えると、イヴァンには、あまり期待できる儀式とは思えなかった。
好きな相手との結婚を望み、現実にそう努力するといった事を、彼女を手に入れるまでは想像もつかなかったのだ。
ナタリーが手中にとびこんできて彼の人生はかなり変わった。
付け加えるならば、彼女が今夜、右も左もわからないおかたい処女でなくて良かった。
もっとも、馴らしたのが自分だからこうも満足なのであって、そうでなければ相手の男を細かく刻んで殺しているところだ。
すんなりと伸びた太腿が半分露になったあたりでイヴァンはナタリーの手を掴んで誘導した。
彼女は目を開け、イヴァンがじっと自分の顔を眺めているのに気付くと再び視線を伏せた。
指のかたちの熱が昂りをなぞり、絹の重みを落としながら滑らかな脚が絡み付いてくる。
彼の腰の寝間着を、ナタリーのもう片方の手の指がたくしあげた。甘い声が震え、イヴァンの名を呼んだ。
彼女の名を囁きかえし、イヴァンは躯を傾けた。細い躯の背に腕をまわして絹地もろとも抱き寄せた。
片手で躯の線をこすりあげながら金褐色の長い髪に指をつっこみ、ぐしゃぐしゃに掻き回しながらキスをした。
期待通りに優しく彼を迎えた場所はこの上なく熱かった。
イヴァンは露になった彼女の肌に隙間なく唇を這わせ、絹に覆われた肌に指先を食い込ませた。
喘ぐ唇を吸い、舌を舐め、互いに吐息を交換しあいながら夢中で名を呼び合った。
苦痛ではなく快楽を分け合い、ナタリーの至福を垣間見た。
宥めも優しくもしなかった。煽り合い、求め合い、愛し合った。
彼女が何度絶頂に達したのか、何度声をあげたのか、数えもしなかった。
──ただ、イヴァンを求めて絡み付く、彼女の欲望だけを感じていた。
128 :
初夜(9):2005/11/23(水) 19:26:49 ID:edGhpIRo
*
広い部屋は再び静寂を取り戻してうすい闇に沈んでいる。
寿命を全うした蝋燭と、潰れた花びらと香草と女の肌の甘い匂いがかすかに漂っていた。
天蓋に覆われた寝台の乱れたカバーとシーツの襞の合間には、もっと濃厚な、精と蜜の香が淀んでいる。
イヴァンは手探りで、乾いた血液の感触を確認した。
初夜を愉しんだことが一目瞭然のシーツの淫らがましい有様を眺め、彼は軽く眉をあげた。
「…別に、要らんかったかな」
その肩に、長い髪を放恣に雪崩れさせたままナタリーはぐっすりと眠りこけていた。
幸せそうな安らいだ顔はイヴァンと愛を交わしたからか、それとも深刻な睡眠不足を癒しているからか、その双方か。
手はしっかりと夫の腕に絡み付いたままだ。
上気の色の残る頬に唇をつけると、イヴァンはベッドカバーを自分と妃の上に引っ張り寄せた。
夜明けまでもうあまり時間がない。
怒濤の儀式は『全て』終わって今日は離宮に引っ越しだ。
満足の溜め息を漏らし、イヴァンはゆっくりと目を閉じた。
おわり
凄い・・・凄すぎる!正に神!!
GJ過ぎます!!
未だに信じられん
これが神の領域というものか……
GJ……
こんな言葉は陳腐すぎるな
こう改めよう
Good Job
>ナサ氏
仕事終りに一服の清涼…じゃなくて、興奮剤。こっちの疲れも、吹っ飛んだ!
甘い文章に酔わせて頂きました〜。まさに神の御技です!
>実験屋氏
アンタの勢いが大好きだッ。てか、苑田の壊れっぷり最高。
凶介達の暴走を、これからも願って乾杯!
でも、老人gy…おっと、それは言わないお約束w
>司氏
兄貴えぇなあ、兄貴…。
お兄ちゃんっ子の司たんに、萌えた!
司シリーズは、一段落ですか…。淋しいですが、新作にも超期待してます!
>z1nMDKRu0s氏
………(@皿@)
↑無言による、期待の重圧w
続き、待ってます!
でも無理はしないで下さいね。
いや、ちょっとぐらいは…げふんげふん。
寒いし、年末に向け、皆さん忙しくなりますね。
無理はいかんですよーっ!
いや、でもうわ、やめqあwせdrftgyふじこlp
しょ…職人様方、お待ちして…おり、ま…ガクリ
いつもいつもなんて神な作品を書いてくれるんだーーー!!!
本当にGJーー!!!
いやはや、正直こんなエロ無し作品に期待されるとは思ってなかったです投下
やばいな真
このアパートってボロいから隣の音は全て筒抜けだし、さっきの注意もあのヲタクどもにとっちゃ蚊ほども効かないし……
「どうすんだよ……」
文字通り永遠に黙らせることもできなくはないが犯罪者になったら物語進めにくくなるからやめてくれ
ほら急げ真、こうしてる間にもユウタンはこっちに向かっているのだぞ
冷蔵庫なんか見てにやけてる場合ではないぞ
ん? 確か冷蔵庫の中身って……
そういやそうだった
あるじゃないかよ、あいつらのお祭り騒ぎを止めさせて尚且つ後腐れない方法が
完璧に未成年の使う方法ではないが贅沢はいってらんねぇな
「すごい簡単にたどり着けたね」
あれから2時間程してユウタンご到着、流石駅から徒歩5分のクソボロアパート
震度3もありゃ簡単に壊れそうなボロボロの廃墟もどき(魔空空間セット)に何のためらいも無く足を踏み入れる
そして真の部屋に近づくにつれ聞こえてくる声
耳をすましてみると
「オラオラ、もっとか? あぁ?」
この声は真だな、少々熱がこもってるけどなにやってんだあいつ
「もっと……もっとだ……
もっとくれぇ!!」
これは義明のダチか?
何故真と同じく言葉の一つ一つに熱がこもる?
「え……」
おいおいユウタン顔見ろ顔
既に真っ赤っ赤ですぜアンタ
頭の中ではデスノの地雷のブラックノートな光景が浮かんでるし
もう!! なんてエロい娘かしら!!
「そろそろイクか? ん? んん?」
真も部屋の向こうで煽るような発言すな
「ち…ちょっと待てーーーーーーーーー!!!!!!」
耐えられなくなったのかユウタンついに突入!!!!
そこには真がマウント取ってバンダナメガネのオタッキーな輩の口に酒瓶ごと突っ込んで無理矢理飲ませる光景が
「おうユウ、来たんか」
呑気に構えてる場合ではないぞ真
「やだなにこのコかっわいーー!!
真の友達?」
こらこら抱きつくなメイドロバ、しかもおまいかなり酒臭いぞ
「ちょ……やめてくださ……」
「かわいーねキミ
女のコみたい」
みたいじゃなくって本物の女のコデスよーー
しかしなんでユウタンってこう奇人変人にオモチャにされやすいんだろう
「んなこと言ってねーで飲めやオラァ!!!!」
真ーーメイドロバの口に酒瓶突っ込むのは後にして早くユウタン助けろこの酔っ払い
つかさっきまで無理矢理飲ませてたバンダナメガネは……
うわー、酔いつぶれてピクピクしてるー
おもしろーい
「もがっ!!?もががっ!!」
おー苦しんでる苦しんでる、そのままイッキしろイッキ!!
「メイドしゃん は2000のダメージを うけた」
冷静に解説してんじゃねーよこのガリオタ!!
傍目からみりゃオタくさく無いけど、首から下げたコキュートスで台無しなんだよ!! こののいぢファン!!
「んだコラァ
テメェも飲めぇぇぇぇ!!」
既に酒乱といった様だな真のやつ
攻撃対象変えて同じことをしてんなよ
「クフゥ、酒に飲まれるとは何てヤツ
しかしやらせはせん!!
やらせはせんぞぉぉぉ!!」
真も義明ものいぢも大乱闘するのはいいけどさ、ユウタンはどこ行ったのよ
ちょっと目を離した隙にいなくなりやがって
なんだよユウタンは隣りの部屋にいたのか
ってちょっと待て、確か真の部屋の隣りって確か……
「あの……これ着るの強制ですか?」
思いっきり顔がひきつってるぞユウタン
まあ目の前のさっきまでロバがつけていたネコミミ
それに黒と紫のチェック柄の半ズボンとセットのラグビーシャツ
何か危険な香りがしますよこれ
「駄目よツィー君
ちゃん着なさい」
優しく言い聞かせるような口調だけどメイドロバの目が激しくヤバいです
「ツィー君って誰?」
「何なら私が着替えさせてあげまようか?」
に、逃げろユウタン、ヤツの目普通じゃない!!!!
獲物を狙うハンターの目だ!!!!
「お……お断りしますっ!!!!」
そういってドアを開けて飛び出して……
ってあれ?
「開かない……」
マズイぞ、特に後ろのオタクが
「ダメねぇ……アナタにはこんなことしたくなかったけど……」
あの……メイドロバさん?
いつの間に軍服に着替えたのですか?
それじゃまるでグレフの剃刀女では……
「お仕置きです」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
ここで中断
138 :
実験屋:2005/11/24(木) 08:23:19 ID:SKsXQNQk
>>z1nMDKRu0s様
GJ!!!さて続きは・・・・って打ち止めですかぁ!!!
この・・この・・・溜まりに溜まった気持ちをどうすればいいんだぁぁ!!
メイドロバGJそのままいけーーーーーー!!
>>53 遅ればせながらス・ロゼ読みました。
ナサ神さまは脇キャラがうますぎる。
オリヴィエとパトリス好きです。男装じゃなくても、いい嫁さんもらってほしい。
ナタリーいないと知った後のイヴァンを考えると、ジョンの胃袋にも同情。
このスレは脇役好きになる確率高い。
健とか兄ちゃんとかゴッドの面々とか他にも山ほど。
やっぱり、男装少女萌え(萌えじゃなくても好き)という
俺らと同じ目線を持っているからだろうか。
141 :
狂介と有紀:2005/11/24(木) 23:49:39 ID:SKsXQNQk
【投下します。】
・・・・・・・・
・・・・・・オギャーオギャー!!!
「う、産まれたぁ!!!」
『ヤキモチはモチはモチでも食えないから始末が悪い』
「「「「おめでとうございます!!」」」」
遂に升沢とレオの子供が誕生した。『ネバダ』の面々は学校に行く途中
病院まで押し掛けてお祝いに現れた。
「で、男の子?女の子?」
狂介が誰もが気になる所を聞いてみる。
「・・・娘です!!」
「「「「おぉーーー!!(・・・やっぱり・・・)」」」」
昔、『めちゃイケ』で遊び人の子供は女の子になると誰かが言ってたが
升沢とレオはつい最近までソレに該当する類の人間だったため誰もが内心納得していた。
「しかし、いつかこの子は誰かの下に嫁に・・・・イヤじゃぁぁぁ!!!」
いったい何年先の話をしているんだか・・・
「そしてこの子に『今日までお世話になりました』って・・・・俺ってば涙が止まんねぇ!!」
どうやら、「親バカ+花嫁の父シンドローム」にかかってますねこの男。
「レオさん、お疲れ様。」
「ありがとう有紀君。」
一つの生命をこの世に産み落とす大仕事を終えたレオだが、その目は幸せの輝きに満ちていた。
「有紀君も近いうちになるのかな? そのときは頑張ってね。」
「はい!!・・・・って、何でレオさん僕のこと!?」
「あっ、やっぱり図星!?前からアナタのこと女の子じゃないかなって思ってたのよ〜。」
簡単な誘導尋問に引っ掛かってしまった。
142 :
狂介と有紀:2005/11/24(木) 23:50:45 ID:SKsXQNQk
「うぅ・・しまったぁ・・・ねえ狂介、僕ってそんなに男の子のフリ、ヘタ?」
半泣きになって潤んだ瞳で狂介を見つめる有紀。
「いいえ、完璧ですよ!!」
狂介は有紀の手を取り紳士のごとく答えた。っていうか狂介は有紀本人に言われるまで
有紀が女と気付かなかったのだ。ああいう以外に答えようが無いだろう。
「フフ、二人はとっても仲良しなのね。」
「ハイ!!そりゃもう!!」
狂介はそう言いながら有紀を抱きしめた。
「ちょ、ちょっと狂介ってば!!」
有紀は狂介の腕の中でもがいたが狂介は有紀を離す気など一切無いのでその努力は無駄に終わった。
「ではこれで、旦那、園太郎、帰るぞ!!」
「ハイハイ。」
「わかりました。では失礼します。」
「今日はわざわざ来てくれてどうもありがとう。」
そして狂介たちは病室から出て行った。
「・・で連れてきた男は『よくもウチの娘に手ぇ出したな!!』って殴るわけよ!!
そして、”四肢の骨を折って川へ投げ込んで”・・ってアレ?みんな帰ったの?」
どうやら升沢には黄色い救急車が必要のようだ。
143 :
狂介と有紀:2005/11/24(木) 23:51:49 ID:SKsXQNQk
「狂介ったらイキナリ抱きついてくるんだもん!!」
「悪かったよ、機嫌直せって・・・な?」
人目もはばからずにイチャついてきた狂介に有紀はご立腹の様子。
「まぁまぁ、でもユーちゃんだってそんなにはイヤじゃないんだろ?」
「・・・・・・ウン。」
藤澤ナイスフォロー!!
「やっぱりそうだったのか!!有紀ーーーー!!!!」
感極まって狂介は再び有紀に抱きついた。折角の藤澤のフォローも無駄に終わらせやがった。
「狂介の・・・・バカーーーーー!!!!!!!」
有紀の攻撃:狂介に∞の改心の一撃!!
「グフッ・・・・・・・・飛行試験型・・・」
グフシリーズはこれにて打ち止めと相成った。
「あ〜あ・・生きてます先輩?」
「ったく、ノロケるとこれ以上に無くバカになるからなぁコイツは。」
幸せそうな顔をしながら地面にめり込んでいる狂介を見ながら二人は溜息をついた。
144 :
狂介と有紀:2005/11/24(木) 23:52:59 ID:SKsXQNQk
「有紀ってば、いい加減許してくれよ〜(泣)」
「・・・」
学校に着いてから有紀は狂介に一言も口をきかなかった。
「うぅぅ・・・僕ちゃん泣いちゃう・・・」
狂介は机にうずくまって泣き出した・・・勿論、嘘泣きだ。
「あの・・・山崎先輩?」
「ん?」
狂介が顔を上げると見知らぬ女子生徒が立っていた。
「一年の田中って言います。あの・・・」
「はい?」
「これ受け取ってください!!」
田中という生徒は白い封筒を狂介に渡すとそのまま教室から走り去っていった。
「なんだこりゃ?」
突然の出来事に狂介は目を白黒させた。
「手紙かな?」
白い封筒を手に持ち中身を取り出す。
そこには一言
”好きです。付き合ってください。”
と書かれていた。
145 :
狂介と有紀:2005/11/24(木) 23:54:21 ID:SKsXQNQk
「ラブレター?」
「!!」
狂介がそう呟いた瞬間、有紀がピクリと反応した。心なしか怒りのオーラが
有紀から発せられているように見えるのは気のせいではないだろう。
「こんなんもらったの初めてだ・・・。」
「(オイオイ、ユーちゃんキレてるぞ・・気付けって・・・)」
呆けている狂介を尻目に有紀の怒りのボルテージは上がる一方だ。
「しっかしなー、どうしよコレ・・・」
田中さんとやらはいなくなってしまったが最初から断る気なので狂介にとってはいらないものだ。
「良かったじゃん、もらっとけば?」
「!!」
そう言ったのは有紀だった。
「今のコ結構可愛かったし、狂介だってイヤじゃないんでしょ?」
八つ当たりなのは有紀にも分かっていた。しかし、今朝から狂介に好き勝手されて
こうでも言ってやらなければ気が済まなかったのだ。
だが、
「・・・・お前、本気でそう思ってるのか?」
狂介の反応は以外にも冷たいものだった。
146 :
狂介と有紀:2005/11/24(木) 23:56:09 ID:SKsXQNQk
「きょ、狂介?」
「お前は俺がさっきのコに本気なってる思ってんのか?」
「お、おい狂・・・」
「旦那は黙ってろ。」
狂介は有紀ににじり寄った。
「あっ・・・」
「オイ・・・どうなんだ?」
有紀を見つめる狂介の瞳には暖かさが無く冷め切ったものだった。
「だ、だって全然嫌がってないじゃないか!!だから・・・」
「ふざけんな!!」
狂介が声を荒げて叫んだ。普段学校では声を上げて怒る事の無い狂介が
声を上げたことに教室中が騒然となった。
「お前は俺の事、そんなに軽い男だと思ってたのかよ!!」
「やめろ!!このバカ!!」
有紀に掴み掛かろうとした狂介を藤澤が取り押さえる。
「チィッ・・・離せ・・・」
狂介は藤澤を振りほどいた。
「気分悪い・・・帰るわ。」
狂介はそのまま有紀に目を合わせる事無く教室から出て行った。
「大丈夫かユーちゃん?」
「・・・・・・・」
有紀はそれに答える事無くただ黙り込んでいた。
147 :
狂介と有紀:2005/11/24(木) 23:57:38 ID:SKsXQNQk
「クソッ・・・」
狂介は家には帰らず近所の河川敷の草むらに寝そべっていた。
「何で・・・あんな事に」
考えても後悔ばかりが出てくる。100%悪いのは自分だ。だけども有紀が、狂介が有紀より
田中をとると思っていたと言う事が狂介の頭の中から冷静さを消した。
しかも、それだけじゃない。狂介は有紀に掴み掛ろうとしていた。もしあのまま
藤澤が止めなければ・・・
「俺はアイツに何をしたんだろう・・・・・」
あの時の狂介の頭の中は怒の感情だけが溢れ出ていた。あのまま狂介の感情が有紀に
向けられていたならば・・・・・
「どのみち・・・お終いだな・・・」
もう有紀は自分を見ることは無い。有紀が自分に声をかけることは無い。
自分自身の軽率な行動で有紀との関係を全て壊してしまったのだ。
「やっぱ俺ってサイテーだな。」
狂介の頬に涙が一筋流れた。
「おーい!!山崎じゃないか?」
「升沢さん・・・」
病院からの面会帰りの升沢が通りかかった。
「どうしたんだ?こんなトコで・・・学校は?」
「・・・サボった」
「ふ〜ん・・まぁ俺も昔はやってたし何も言わねぇけど。」
「どうも。」
「南と一緒じゃないのか?」
「!!」
升沢の一言に狂介が反応した。
「・・・・・なるほどね。」
何かを察したらしい升沢が狂介を真上から見下ろす。
「ウチ来いや。」
148 :
狂介と有紀:2005/11/24(木) 23:58:26 ID:SKsXQNQk
狂介は升沢に連れられて升沢のアパートに上がっていた。
「ホレ、コーヒー。」
「・・・あんがと。」
狂介がコーヒーを一口飲んだ。
「・・美味い。」
「そうか?うれしいねぇ。」
気が変わる前に升沢は本題を切り出した。
「ケンカでもしたのか?」
「!!」
ストレートに突っ込まれて狂介は俯いた。
「お前らでもケンカするんだな。人の事は言えないがお前さん方も結構なバカップル
だってのに・・・コリャ珍しい。」
「うるせぇ・・」
物笑いの種にされたようで面白くない狂介はソッポ向いた。
「悪かったよ。そんなに不貞腐れるなよ。」
「もういいよ。」
「原因は何なんだ・・・?グチくらいなら聞いてやるから教えてくれよ。」
「・・・・はぁ・・・」
はぐらかすのも無理そうだと思った狂介は原因を離すことにした。
「実は・・・」
「そりゃお前さんが悪い。」
升沢はアッサリ言い切った。
「考えても見ろ。南のことが本気で好きならその場で手紙破るなりなんなり出来たはずだ。
それをしなかったんだから南はお前を疑っちまったんだよ。」
「でも・・・」
「でもも、へったくれも無い!!」
149 :
狂介と有紀:2005/11/24(木) 23:59:07 ID:SKsXQNQk
「そういう事があるとな、不安になるもんなんだよ。相手の気持ちが自分に
向いてないんじゃないかってさ。本気で好きな相手ならなおさらだ。」
「俺は本気だ!!」
「だったら南の気持ちが分かるよな?どう思ったと思う?目の前で好きな男が
他の女からラブレターもらってさぁ。」
「・・・・」
「ニヤけてたら分かりやすいが何も反応を示してないってのは、自分と相手の
どちらかを考えられてるって思われても仕方が無いぞ。」
「そんな・・・」
「その結果がコレだ!!お前さんの決断力の低さが今回の問題を起こしたんだ!!」
「くっ・・・」
「んで・・・・どうする?」
升沢は狂介に問いただした。
「このまま終わりにするなら何もしなけりゃいい、でもそれが嫌なら・・・する事あるだろ?」
「・・・・」
狂介は走り出した。
「サンキュー升沢さん。」
「礼は仲直りしてからでいいぞ。」
狂介がいなくなった部屋で。
「さ〜て娘の名前を考えないとね。」
150 :
狂介と有紀:2005/11/24(木) 23:59:48 ID:SKsXQNQk
「有紀!!」
学校に戻ってきた狂介は有紀に会うために教室まで走った。
と、人気の無い廊下で藤澤に会った。
「狂!!お前どこ行ってたんだ!!」
「んなことより旦那!!有紀はどこだ!!」
「ユーちゃんなら帰ったぜ。」
「なんだと!?」
「・・・お前なぁ!!」
藤澤が狂介の胸倉をつかみ上げる。
「ユーちゃんが男の格好してる理由、知ってるんだろ?
お前に裏切られたら・・・・ユーちゃんどうなると思う?」
「旦那・・・」
「これ以上ユーちゃん苦しめたら・・・・殺すぞ?」
狂介はそのまま床に投げ捨てられた。
「分かってる・・・ゴメン。」
「そう言うのはユーちゃんに言え。」
「あぁ!!」
狂介はそのまま走っていった。
「ったく、世話かかる奴だねぇ。」
そういう藤澤の顔からは笑みがこぼれていた。
151 :
狂介と有紀:2005/11/25(金) 00:00:26 ID:SKsXQNQk
「はぁ・・はぁ・・・」
狂介は有紀の家に着いた。しかし、気まずさから玄関前で立往生していた。
「ゴメンって言ってダメだったらどうしよう・・・」
最悪の結末を思い狂介は最後の一歩が踏み出せない。
ガチャ
「狂介!!」
「あっ・・・」
突然扉が開かれその向こうから有紀が現れた。
「・・・・」
「・・・・」
二人とも気まずさから何も言えないでいる。
「・・・出掛けるのか?」
「うん・・そうだけど・・・」
やっとの思いで出た一言、しかしギクシャクしていて会話として成立しているのかどうか・・。
「でもいいや・・・やめる・・」
有紀が踵を返し家の中に戻ろうとする。
「有紀!!」
狂介が後から有紀を抱きしめた。
「狂・・介・・?」
「悪いのは全部俺だ。俺がはっきりしなかったから・・・・ゴメン・・・
もう遅いとは思うけど・・・嫌いにならないでくれ・・・頼む・・・。」
有紀を抱きしめる狂介の指に力が入る。もし、ここで有紀に捨てられたなら
もう有紀を抱きしめることは無いからだ。
「狂介は・・・悪くないよ・・・僕が勝手に怒っただけだもん。」
有紀の手が狂介の手に触れた。
「嫉妬・・・したんだ・・・絶対にしないって決めてたのに・・・」
「有紀・・・」
152 :
狂介と有紀:2005/11/25(金) 00:01:03 ID:SKsXQNQk
「だから・・狂介を困らせてやりたかったんだ。ちょっとしたイタズラのつもりだったんだ。
でも・・・・僕・・バカだった。狂介を・・・本気で怒らせちゃった。」
有紀の声が震えた。
「狂介・・・いつも優しいのに・・・あんなに怒らせて・・・何が何だか
分からなくなっちゃった・・・ゴメンなさい・・・ゴメンなさい・・・。」
最後の方は言葉になっていなかった。
「有紀は悪くない。絶対に悪くない・・・・俺の方こそゴメン・・・有紀を
こんなに悲しませて・・・・『何があっても守る』って約束したのに・・・」
「きょうすけぇぇーー!!」
有紀は大声をあげて泣き出した。
「有紀・・・ゴメンな・・・」
しゃくりあげる有紀を抱きしめて狂介は悟った。自分は有紀にとってかなり
大切に思われている人間だ。そんな有紀の気持ちを守っていてる人間になりたいと。
153 :
実験屋:2005/11/25(金) 00:02:50 ID:8g6II1ns
ここまでで前半になります。後半も八割方完成はしてるので
完成次第投下します。
私生活と自作品執筆の都合で見るだけで書き込んでいない間に感想たまりまくり・・。
どの作品も主人公カップル以外もキャラ立ちすぎ・・・。
>>実験屋様
インフルエンザ大変でしたね。私は何故か中・高共に卒業直後インフルエンザになりました。
ゼットとエリスが無事結ばれてよかったなぁ。(つ∀`) 短編も楽しみです。いきなりギャグ路線になったらどうしよう(笑)。
狂介強すぎだろ(笑)。ありえねーっと思ってしまいました。理解ありすぎな両親カルテットも、いきなり萌と結婚しようとしてる
正樹も、路線は逆だけど升沢並みにキャラが変わってしまった園太郎も面白すぎです。
『ヤキモチは〜』のラブコメ路線もいいですねー。升沢前半でも後半でもいいキャラしすぎ。後半楽しみwww
他の作品の感想は後にさせてもらいます。嬉しい苦労だなぁ・・。
あ、あまーい
甘すぎデスよ実験屋氏
いいなぁこういう関係
GJ!!
そろそろ8838氏の土曜日の情事が来るのでないかと予測してみる。
田中さんと苑田が付き合うのはありですか?
田中さんも苑田さんも知らないけど
ありだと思いますよ
相手が田中さんかどうかはともかく園太郎に彼女が出来ましたネタは使えそうですな。
てか、いきなりイケメン化したから急にモテモテ状態になってそうだ。腹黒化もしたけどwww
園田君は彼女5人ぐらいつくってハーレム化にしたらどうだろうね
それで二枚舌でその彼女たちをいいくるめてるのを見て狂助達が呆れてる図とかおもろそう
素で誤爆かと思った
狂介シリーズ今度頭から読み返してくるorz
園太郎はイケメン腹黒化してもエキストラ扱いがいいのは俺だけ?
レギュラーだけどエキストラという矛盾した感じで?それにしても園太郎話で盛り上がってるな。
あらためて主役キャラ以外も立ってるキャラばかりなんだなって思い知らされるな。
園太郎ってこんなに愛されているんですね。
司さんのSSって兄ちゃんの回で一旦時間あくんでしたっけ
エルフものか、和風もので新作をやるって言ってましたよ。「いったん締めます」って言ってたので
司シリーズもまたやると思います。
え〜、二日酔いでふらふらしてるので文章おかしかったらスマソ
クリスマスにリアルタイム投下をもくろんでおります。
で、それで司シリーズは終了。
暖めているネタはいくつかあるのですが食傷気味なので、新年には他のものを投下いたします。
来年は中の人が逼迫した状況になるので書きたい気持ちを抑えてROMに徹します。
お〜司シリーズついに最終回ですか…
楽しましてもらいました
ありがとうございます
>z1nMDKRu0s氏
メイドロバ、ウザいだけかと思いきや、GJしそうな予感!?
ワクテカしてますよー!
てか、ヤスコ…orz
>実験屋氏
これまた、ドキドキな展開で。
シリアスになると、途端に漢(オトコ)になる凶介が格好良い!
ギャグでもある意味、漢だけどw
>aPPPu8oul.氏
何かと(仕事で)多忙なクリスマス。
司たんを心の支えに、頑張ろうと思います。
新作も、楽しみにしてます!
暖かいお言葉の数々、有難うございました。
タイミングを逃し、すっかり遅レスになってしまいましたが、
>>101の名前欄について…
数年前、風邪で高熱を出した時。
行事やら人手の関係で、学校もバイトも休めず、やっとの思いで
医者に行ったら、言われた台詞が
>>44の物だったと…
インフルエンザの季節の、いい思い出です…
ヒト トシテ ドウナンダロウ...
>続編
もーちょい、御座います。年内に一つくらい晒せると良いなー…
172 :
狂介と有紀:2005/11/28(月) 03:02:51 ID:5ikYuHw0
【懲りずにまたパソコンを壊してしまいますた・・・治ったので投下】
「今日は走りっぱなしだったから疲れた・・・。」
有紀の部屋に上がりこんだ俺は壁にもたれるように腰掛けた。
「ゴメンね。」
「有紀が謝る事じゃないさ・・・気にしない、気にしない。」
有紀の顔が悲しみに歪みそうになったので急いで取り繕う。好きな子を何度も何度も
悲しませるってのは、さすがに堪える。
「やっぱり狂介は優しいね。」
有紀の顔に笑顔が戻った。
「あのね・・・狂介?」
「ん?どうした?」
ふと有紀が尋ねてきたので耳を傾ける。
「お願いがあるの・・・・ワガママだって言うのは分かってるけど
どうしても・・・お願いしたいの・・・。」
「何を・・・? イイよ言ってごらん。」
「エッチしたいの。」
「有紀・・・。」
「絶対に・・・狂介は僕の事・・・信じてはいるんだ・・・・でも・・・」
有紀の声は途切れ途切れになってはいるもののその意味は理解できた。
「・・不安に・・・なっちゃうの・・・」
「・・・有紀・・・」
手を握り締めて俯く有紀を優しく抱きしめた。
173 :
狂介と有紀:2005/11/28(月) 03:04:01 ID:5ikYuHw0
「こうやってね・・・僕に優しくしてくれるけど・・・それが他の人に
向けられたら・・とか・・僕に向けられなくなったら・・・とか・・」
「怖い。」有紀はそう呟いた。正直、情けなかった。大切な人をここまで不安に
させちまった自分の不甲斐無さを呪う。
「じゃあ・・お詫びしないとな。」
「狂介?」
そのままベッドに有紀を押し倒した。
「思い切り愛してやるよ・・・だから有紀も俺を愛してくれ。」
「・・・ウン、分かった。狂介を他の人に渡さないから!!」
「フェラチオしてあげる。」
そう言いながら乳房を押し付ける有紀・・・はっきし言ってたまんない。
自分から服を脱ぎ捨て、俺をひん剥きにかかった有紀は俺をあっという間に裸にした。
「狂介のどんどん大きくなってる・・・興奮した?」
前屈みになり俺のモノを見つめる有紀。そのまま肉棒をつかみ扱きたてた。
そして有紀の口が肉棒を咥えようとした時、俺はふと考えた呟いた。
「有紀、それよりは挟んでくれよ。」
「えっと・・・パイズリ・・・だっけ?」
「あぁ、前にもやってくれたろ?アレがいいかな。」
「そのほうがいいの?」
「そういう気分。」
「ウン分かった。」
有紀は俺に向き会い、自分の乳房を寄せあげて(といっても有紀は大きいので問題ないが)
谷間に肉棒を挟み込んだ。
「どう・・気持ちいい?」
「すごく気持ちいいよ。有紀のオッパイは最高だ。」
「もう・・狂介ったら。」
柔らかくて、暖かくて、何よりも気持ちいい有紀の胸の谷間で扱かれて俺の肉棒は
ビクビクを震えた。
174 :
狂介と有紀:2005/11/28(月) 03:05:01 ID:5ikYuHw0
「いくよー?」
有紀は身を揺すり胸を動かした。
「うぉ、いいぜ・・・ヤベェもう出るかも・・・」
「へぇ〜・・・」
有紀の瞳に鈍い光が光った。
「じゃあ、これでどうだ!!」
口から涎を垂らし俺の肉棒の先端にこぼす。それを潤滑油にして大きく胸を動かした。
「ちょっ・・ま・・てって・・クッ」
完全に受にされてしまった俺は一旦止めさせるようとするが有紀には通用しなかった。
それどころか、顔を俯かせて亀頭の先端をペロペロと舐め始めた。
「何か出てきたよ?」
あまりの快感に先走りが流れ始める・・・しかもたっぷりと。
「ほ〜ら、気持ちいいでしょ狂介?」
有紀の唾液と俺の先走りが胸で混ざり合い、クチャクチャと卑猥な音を立てる。
「やめ・・マジで・・クッ・・・・」
大事な急所を人質にされている為俺が抵抗できずに扱かれ続けた。
「狂介。」
「ん?・・うぅ」
いきなりキスされてしまった。
「うぅう・・・む・・・うくぅ・・・」
有紀は執拗に俺の舌に絡まり口と胸で俺を翻弄する。二人の口元からはあふれ出る唾液が
とめどなく流れつづける。
「ん・・・・どう狂介?・・・気持ちいい?」
意地の悪い笑みを浮かべて聞いてくる有紀。
「僕ならこんな事までしてあげるんだよ。」
175 :
狂介と有紀:2005/11/28(月) 03:06:11 ID:5ikYuHw0
「それに・・・」
「それに?」
有紀は俺に抱きついた。
「ココは僕の特等席なんだから!!」
そう叫んだ有紀は一心不乱に肉棒を扱きたてた。
「有紀・・・ダメだ・・・出るぞ・・」
「イイよ・・・いっぱい出して。」
有紀が胸の谷間に力を込めて一気に擦りたてた。
「う・・クッ!!」
その快感に耐えられず、俺は限界を迎えてしまった。
先端から放出された精液が有紀の顔にかかる。
「あんっ・・・あつい・・・」
有紀は顔射され少し仰け反ったものの、すぐに胸に顔を戻し放出された精子を舐め取る。
「もっと・・・もっと出して・・・むぅ・・」
有紀は肉棒を咥えこみ静止を吸い上げるように責めてきた。
「待てって・・・おい有紀。」
「狂介の精液は一滴まで僕のなんだもん・・・。」
有紀は俺が再び肉棒を起立させるまで舐め続けた。
176 :
狂介と有紀:2005/11/28(月) 03:07:24 ID:5ikYuHw0
「そうはさせるか!!」
俺は有紀を押し倒して組み敷いた。
「あぁぁん!!」
「やられっぱなしってのはイヤなんでね。」
そのまま有紀の秘所に手を伸ばす。
「あん・・・やぁ・・」
ソコはすでに蜜を流しておりヒクついていた。
「なんだ、入れて欲しかったの?」
「ま・・だ・だめぇ・・」
何とか攻めに戻り有紀に愛撫を加える。有紀は秘所を触られたときに
力が抜けたようで俺の攻めに抵抗できなくなっている。
「さ〜て・・・さっきのお返しだ。」
今度は俺は有紀の秘所にしゃぶりついた。
「うぅあ!! ダメぇ・・あぁぁ。。」
有紀は股間に埋まった俺の頭を押し返そうとする。しかし、力の抜けた有紀の力では
俺を押し返すことは出来ない。
ここぞとばかりに有紀の秘所を舐めまわす。ヒクヒクと震えるソコはとめどなく
蜜を流し舐めても舐めてもとまることは無い。
「やぁ・・ん・・あぅっ!!」
有紀から抵抗が無くなった。その代わりに腰を上げて俺に秘所を押し当てる。
腰を押えて秘所を固定し奥まで舌を伸ばす。
「ふぅぁ!! い・・いいよ・・もっと・・」
有紀の哀願に答えて秘所を舐める。クリトリスを舌で転がし、挟んで攻める。
そうすると有紀が大きく仰け反った。
「あん!! そんな・・うんっ、あぁ!!」
クリトリスを転がすたびに有紀は腰を振り乱した。だが、決して止めて欲しいとはねだらずに
イヤらしく俺に股間を擦り付けてきた。
177 :
狂介と有紀:2005/11/28(月) 03:09:07 ID:5ikYuHw0
「これで・・・フィニッシュだ!!」
舌の真ん中ほどまで沈めて抉る様に舐めまわす。有紀の中の肉襞が
俺の舌に絡み付いて余計に有紀自身に快楽を与える。
「うぅぅ・・・あっ、ぼ・・く・・・やっ・・・ふぁぁぁぁ!!」
有紀が叫ぶと同時に有紀の中が締まり、愛液が噴き出した。
秘所全体が大きく痙攣し、それでも止まらない愛液が俺の顔にかかる。
「ふぅ〜・・・有紀・・ごちそうさま。」
「うぅぅん・・・ま・・だ・・・だよ。」
「え?」
「だって・・まだ挿れてもらってないもん・・もっと・・・ね?」
可愛らしくコテンと首をかしげてお願いする有紀、そんなこと言われちゃ続けるしかない!!
「じゃあ挿れるぜ。」
有紀をそのまま横にしたまま覆いかぶさる。そしてゆっくりと股間で一つになる。
「くぅんっ!!あっ・・狂介が入ってきたよ・・・くぅ!!」
沈み込んだ俺の肉棒は根本まで有紀の中に入る。
「有紀、動くぞ?」
「い・・いよ・・・キて・・お願い・・」
有紀に負担をかけないように腰を動かした。さっきまで舌で舐めまくった肉襞が
再び活動を開始し俺の肉棒を捕まえようと絡み付いてきた。
「うっ・・くっ・・いいぜ、有紀の中・・・あったかくて、気持ちよくて。」
「ホント?・・・うれしい・・・狂介のも・・きも・・ち・・・・いいよ。」
有紀は俺を援護しようと自分から腰を振り、腕を背中に回して身体を固定した。
「んっ、あぁ・・・いい・・・気持ちいい・・よ・・狂・・介・・」
大きく捻りこみながら有紀は腰を動かした。そのたびに有紀の中が
窄まって俺に肉棒を締め付ける。
気持ちいいが引き抜くのに力が要るのが難点だがこれは先端の亀頭を刺激して
物凄く快感が得られてたまらない。
178 :
狂介と有紀:2005/11/28(月) 03:10:34 ID:5ikYuHw0
「ああっ! あぅ・・んっ、あぁ!!」
背中に回された有紀の手に力が入る。それに連動するように有紀の秘所が肉棒を締め上げる。
奥に亀頭が触れるだけでは互いに満足できなくなり、有紀は最深部に亀頭が来た瞬間に
腰を動かして肉棒を飲み込む、俺は奥に亀頭が触れたと感じた瞬間に
更に億へと突き込む。
「やあぁぁ!!ああん!!お腹の中がぁ・・・痺れちゃう・・あぁっ!!」
「有紀、・・そろそろ出すぞ・・いいな?」
「んんっ!!あっ!!う・・うん・・出して・・うぅあぁぁ!!」
腰の動きを小刻みに変えて結合の度合いを深める。
「イクぞ・・・有紀・・・有紀!!」
有紀の名前を叫びながら溜め込んだ精を一気に発射させた。
「あああぁぁ・・・きてる・・・狂介のが・・・いっぱい・・いっぱい・・きて・・る。」
有紀の体が大きく揺れて股間が締まった。有紀にも限界が来たようだ。
「うぅぅ・・・有紀の締め付け・・すっげぇ気持ちイイ・・」
締め付けのリズムに合わせて軽く腰を揺らす。締め付けとあいまって
射精した精液の最後の一滴まで搾り出される。
「はぁ・・はぁ・・・結構きついな・・・」
二度目とはいえさすがに辛くなってきた。一回の射精でかなりの量を
吐き出している。
しかし、有紀は直後にとんでもないことを言い出した。
「何言ってるの?まだまだだよ!!」
「へ?」
「おもいきり愛してくれるんでしょ?だったらもっとしてくれなきゃ足りないよ。」
「ちょっ、待てって!!」
「待たない。」
有紀が怪しい笑みを浮かべながら近寄ってくる。
ヤバイ、このままじゃミイラに・・精根尽き果てるまで搾り取られちまう。
「捕まえた・・・もっと、もっと、狂介が本当に出なくなるまでやっちゃうから!!」
再び受けに回された恐怖の中で一つだけ言いたいことがある。
助けてイムホテップ・・・(byナムナプトラ)
179 :
狂介と有紀:2005/11/28(月) 03:11:52 ID:5ikYuHw0
−次の日−
「田中さんだったな?」
「はい田中詠子(えいこ)って言います!!」
狂介は校舎裏に田中を呼び出した。
「結果から言おう・・・丁重にお断りします。」
「えっ!!」
「さっさといなくなるから言いそびれたけど、俺好きな人いるんだ。」
「私じゃ・・ダメですか・・好きになってもらえませんか?」
「かわいいとは思う。けど、あくまでそれ止まりだ。」
「・・・そうですか。」
詠子はガックリと項垂れた。
「悪いとは思わない。もっと自分にあった男を見つけけば良いんだ・・・じゃあな。」
狂介はそういい残してその場から去っていった。
180 :
狂介と有紀:2005/11/28(月) 03:13:38 ID:5ikYuHw0
「やっぱりね。」
「!! 園太郎、どうしてここに!?」
狂介とは反対側から園太郎が出てきた。
「詠子が狂介先輩に告ったって聞いたからさ・・・。」
「なによ!!バカにしに来たの!?」
「別に・・・」
園太郎は手をヒラヒラと振りながらかぶりを振った。
「マシな顔になったと思ったら性格は歪んじゃって・・・ムカつく!!」
「そう言うなって・・・ヒドイな〜。」
そのまま園太郎は詠子に近寄った。
「こっちに来ないで!!」
「何でここに来たか聞きたいんでしょ?」
そのまま園太郎は詠子を抱きしめた。
「園太郎・・・。」
「慰めに・・・今は”幼馴染”としてだけど・・・」
「同情なんか・・・」
「もし、先輩が詠子と付き合うなんて言ったら・・・戦ってた・・・」
「えっ!!」
「告ったって聞いていい気分じゃなかった・・・いくら先輩相手でも譲れないものがある。」
「私は物じゃないわ・・・。」
「ごめん・・・でもね、詠子だけは誰にも渡さない。」
「園太郎。」
「顔が変わってやっと自分に自信が持てた。弱味に付け込むようで嫌だけど・・・好きだよ。」
ヤキモチやいてたのは有紀だけではなかったようで・・・。
〜おしまい〜
181 :
狂介と有紀:2005/11/28(月) 03:14:48 ID:5ikYuHw0
〜おまけ〜
升沢「美味いって言われたしコーヒーショップでもオープンしようかな〜?
ん?やぁ、どうも!! 次回はどんなお話になるんでしょうか・・・お楽しみに!!」
〜ほんとにおしまい〜
182 :
狂介と有紀:2005/11/28(月) 03:18:00 ID:5ikYuHw0
以上になります。予想上の園太郎人気に自分から便乗して園太郎と田中の幼馴染カップルENDを
追加しました。ちなみに”田中詠子”ってのは近所の役所の名前の”記入例”がモデルだったりします。
ネタが浮かんだらこの二人で番外編考えてみたいです。・・・男装はプレイonlyになるかも・・。
前回の投下直後にパソコンが壊れてしまいました。常に大切なデータだけ
バックアップしてたので今回投下できましたが。昔書いたのが消失してしまって
今気分はグロッキーです。
ではご賞味ください。
襲い受けの有紀たんハァハァ…
マシンがいかれるのはきついね
まけるな
でもインフルエンザ後は夜更かしせずに寝れ
エロかわいい有紀タソにハァハァしつつも
園太郎×田中さんに期待w
こっそりと、司のイメージ画像を作ってみた。
猫耳絵よりは男らしくなってますのであのくらいの可愛さを求める方は見ないほうが吉。
ttp://g.pic.to/4iwd7
実験屋氏、有紀が可愛過ぎですよ〜!
GJです!!
>>185 目が大きくて可愛いな〜司たん
以前の猫耳見損ねたので今回初めて作者さんのイメージを見た
…俺も今日休みなんだ
セールスマンや宇宙人に邪魔されなんだら
自キャラ絵描いてみるべとオモタ
た、楽しそうなんだもんよ…
ただ文章ならどんな現実離れした容姿にでもできるんだけどさ
絵だと難しそうだなぁ
やっぱり司タンはかーいいなぁ(*´Д`)ハァハァ
絵も書けるとは流石司氏
>>187 どんな不思議空間に迷いこんだんだよwww
>実験屋氏
攻め有紀タン(*´Д`)ハァハァ
そういえば男装キャラが攻めってなかったな
新境地開発GJ!!
試してみたがやはり脳内妄想をそのままではアウトプットできないな
こんなんじゃねーんだよ
もっともっと、こう、だな…!
やーめた
司氏は偉い
>>188 え?
家にいると宇宙人こないか?
>>185 なるほど、俺忘れてたけど司タン短髪やったんやね。もうちょいロン毛のイメージがあったから初め見た時びっくりしたけど
GJっす
192 :
8838:2005/11/29(火) 22:36:58 ID:HhzEAk2l
いきなり劇中時間がdだ。
今は反省している。
瑞希はぼんやりと仏壇をながめた。
祖父が亡くなって一ヶ月が経つ。瑞希は祖父がなくなってから初めて、実家に戻ってきていた。
(おばあちゃん)
彼女はゆっくりと語りかけた。骨壷はまだ仏壇の下に仕舞われている。そのため、彼女にはまだ、祖母がすぐそこにいるように
感じられる。
(結局、お爺さまとはほとんど話せなかったよ)
線香の煙がくゆって彼女の鼻腔をくすぐった。隙間風の多い家は殆ど風の無い日でも時たま微風が入ってくる。
(私は結局、お爺さまと少しでも家族になりたくて、男だって偽ってまで、お爺さまに会いに行っただけだった。
だって、自分が男でないと会ってもらえないんじゃないかって――)
涙が滲みそうになり、彼女は頭を振った。
(私、おばあちゃんのことを言い訳にして、自分を誤魔化してた。ごめんね、おばあちゃん)
謝罪と共に手を合わせる。祖父の葬儀を思い出し、祖母の葬儀とはなんと違うものだろうと唖然とし、それでも同じ仏教なら
魂も同じところへ行くのだろうかと思う。二人が互いをどう思っているかにもよるだろうが――出来れば生きているうちに、祖母に
会いに来て欲しかったと思う。
でも、会いに来てくれなかったということは、きっと祖父の心はもう、祖母には無かったに違いない。彼女はうなだれた。それは
肉親の死とは違い、純粋に哀しいものだった。
彼女は立ち上がった。もうそろそろここを出なくてはならない。今日は次の予定がある。
祖父の葬儀の時、ひとつ、瑞希には気になったことがあった。
祖父の式は盛大だった。しかしその中に、実質的な跡継ぎであるはずの龍司が参加していなかったのだ。
あきらかにおかしいと思ったが、彼女は法律的には近親者ではないため、一般での参加だった。そのため当時直接詳細を尋ねる
ことはできなかった。参列者にはそれとなく尋ねてみたが、理由は誰も知らないようだった。
妙は通夜や葬儀、征二郎が亡くなったことに関することをこなしていたため、詳しく話を聞くことはとてもではないが
出来なかった。最近もう一人話を出来る人物ができたが、おとなしく穏やかそうな彼女にそういったことを尋ねるのはためらわれた。
そして一週間前、妙から連絡が入った。話したいことがあるため、訪ねてきてくれという。
(龍司さんのことだ)
瑞希は直感した。会うのはこれからだ。双方の都合が合わなかったため連絡から間が空いてしまったが、今日やっとはっきりする。
龍司が何故、突然公の場所から姿を消したか、はっきりすればもう気にすることもなくなる。――そうしたら、少なくとも私的には
もう二度と会わなくなる。確証があるわけではないが、瑞希はそう感じていた。
瑞希はポケットに入ったアパートの鍵に手をやった。これを返されたとき、瑞希は龍司が自分を二度と解放しないと思って
いただけに、少なからず驚いた。一体これは何の気まぐれだろうか。もう私に飽きたのか。それとも好きな人でも出来たか。
これまでの彼の様子からすればいずれも信憑性は低いと思っていたが、結局自分の勘は当たらないというだけのことなのだろうか。
いずれにせよ、瑞希にとっては歓迎すべき事柄である。実際、彼はあれから二度と彼女のアパートへは来ていない。
しかし何故か彼女はそうなっても、開放されただとか、あるいはただ単純に嬉しいとか、そういった感慨は微塵も沸いて
こなかった。ただ「ああ、そうですか」とその事実を受け入れて、ぼんやりとここまで来ているだけだった。
何事も無く普通に暮らしていると、まるでこれまでもずっと何事も無かったかのように錯覚する。しかし時折、幾度か抱かれた、
そのどうしようもない身体の名残が彼女を襲い、そこで初めてふと、私はもう以前の自分には戻れないのだとも感じる。
そして何故か、どちらの時も等しく、瑞希はわずかに虚しい気分になった。本来なら対極にあるその二つが同じような気分を
呼び起こすことが疎ましかった。
最近、休日は以前ほど外へ出なくなった。龍司が訪ねてくるようになる前は毎週来ていたはずのここにも、祖父の不幸があったとは
いえ今日やっと来られたのだ。本来ならもっと早く報告に来るべきだったのだが。
何処へ行こうとしても何だかやる気がおきない。ふとぼけっとして、気付いたら三十分経っていたなどという事もあった。これが
「気が抜けた」ということなのだなあと他人事のように思う。
何が自分をこんなに空虚にさせるのか、彼女は解らず首を振った。
ただあの表情の無い顔が、時折脳裏をちらつくのだ。
「失礼します」
「どうぞ」
喪中である。黒いスーツとネクタイで、瑞希は大鐘家に招き入れられた。
妙は広い居間に瑞希を案内すると、程なく茶を淹れ、瑞希の前に差し出した。一口啜る。しばらくの間当たり障りの無い話を
した後、合間を見て瑞希は切り出した。
「お話というのは何でしょう」
妙は自分も茶に口をつけると口を開いた。
「龍司さんのことについて何か聞いてる?」
「……いいえ」
ただ首を振る瑞希に、妙はゆっくりと話し始めた。
「ではそのことについてお話をするわね。あの子のことで今大きな問題が持ち上がっています」
「問題ですか?」
何かあったとは思っていたが、問題とは一体何なのだろう。目を丸くした瑞希に向かって妙は言った。
「龍司さんがね、本当は麻紀枝さんの子供ではなかったというの」
「……えっ」
あまりに突拍子も無い話に、瑞希はぽかんと口を開けた。そして固まった。
「まさか、そんな」
三文小説みたいな話があるのだろうか。やっとのことで一言二言を発した瑞希がそれきり固まったままでいるのを見ると、妙は
ひとつ頷いた。
「どうやら本当らしいの。葬儀の前々日、急にそういった話が会社側から入ってきたわ。話によるとね、何ヶ月か前の健康診断で
龍司さんの血液が病院側のミスで別口の鑑定に回ったそうなのよ。それで判明したっていうの」
妙はそこですっと目を細めた。
「でも私はそれは眉唾ものだと思っています。病院でDNA鑑定なんてごく一部の病院でしか実施していないし、されたとしても
照合が必要でしょう?龍司さんだけの血液ならともかく、麻紀枝さんのDNAと照合されて出てくるのはどう考えてもおかしいわ。
それに征二郎が危篤状態だった当時、家の中で一時的に征二郎の立場を受けていた私のところに真っ先に話が来なかった」
「……」
「話の出所はまだくわしくはわからないけれど、会社の中であることはわかってるわ。仮に出所が全くわからなかったとしても
おそらく社内でしょう。家でどれだけ立場が保障されていても、社内ではそういうわけにはいかないもの」
ごく普通の老婦人という印象の妙の口からさらさらとそういった単語が発されるのを見て瑞希はふと、祖父が亡くなる前日
平気な顔をして周囲と会話していた龍司を今の妙とをダブらせた。
今の妙の顔は夫の喪に服す妻の顔ではなかった。家をまとめる一家の長としての顔だった。
「でも家の人間としては、出て来た経緯がどれだけ不自然でも関係ないの。その結果が確かであるかどうかが重要なのよ」
そしてそれは出所はともかく、本当だったというわけだ。瑞希は驚きのあまり適当な言葉が出てこなかった。
「……龍司さんが葬儀に出席していないのには気付いてました。でも、そんなことになっていたとは」
実感がわかず、彼女はただ瞠目した。妙は続けた。
「参加するには周囲の反発が強すぎたわ。もちろんその場では確かめようが無かったから通夜にはなんとか出席できたけれど、
葬儀はね……準備はいろいろと引き受けてくれていたんだけれど、それは私と、征二郎の兄弟が継いだわ」
ということは彼が出席したのは告別式のみで、それも近親者の席ではなく、仕事関係者の席でもなく、つまりは自分と同じ一般での
参加だったのだろう。頭から親族の席にいると思い込んでいたため、見当たらなかったのだ。
「龍司さん、今はどうしてるんですか?」
「今は自宅で謹慎しています。会社での地位も家の力によるところが大きかったから、場合によっては今の仕事も続けられないかも
しれません」
「でも、取締役なんでしょう?」
「株式会社では、取締役は必ず三名以上と決まっています。だから仮に、いつ誰かが抜けても大丈夫なの。ダメージは確かにある
けれど、いずれ全てが元通りになってしまうわ。会社というのはそういうものよ」
「……」
瑞希はしばらく押し黙っていたが、ふと思いつき、尋ねた。
「龍司さんは、自分がお爺さまと血が繋がっていないって知っていたんですか?」
「ええ。自分で認めたわ」
「……そうですか」
瑞希は何とも言えずにそれだけ答えた。顔を上げると、ここに来る前から思っていた疑問を口にする。
「どうして俺にそんなことを?」
妙はゆっくりと向き直った。居住まいを正し、こちらを見る。
「征二郎と私が、あなたのことを他の親族に最小限のことしか知らせていない理由がわかる?」
「……いえ」
瑞希が首を横に振ると、妙はゆっくりと話を始めた。
「混乱を招かないためよ。征二郎は早い時期から龍司さんを傍につけて勉強をさせていた。
後を継がせるのはこの子だと決めていたのね。ここからはあなたを責めるつもりは無いとわかった上で
聞いて頂戴。あなたが出てきたことで、これまではっきりしていた力関係が、急に二分化するのを防ぎたかったのよ。
あなたの希望では、皆にあなたの存在を知らせないわけにはいかなかったしね」
「……」
瑞希は呆然とその話を聞いた。
自分が彼らの目の前に出て行くことがどういうことか。少し考えればわかることに、自分は全く気が付いていなかった。
ただ無闇に手紙を書いて送り返し、半ば強引に出向いた。はっきりと口に出されたことで急に彼女は、その時自分が
征二郎や妙にどう見られ、考えられていたかを認識した。
瑞希は発作的に畳に手を付いて平伏した。
「……ご迷惑をおかけして申し訳ありません……」
押しつぶしたような声しか出てこなかった。自分はあまりに何も考えていなかったのだと悔やまれた。
妙は頭を振ると、瑞希に頭を上げるように言った。
「気にしないで。でも、龍司さんとこの家の人間とが実際には血縁関係が無かったことで、それは覆されてしまった。
これからあなたはいろいろ大変だと思うわ。これまで龍司さんの方を向いていた人たちの殆どがあなたの方を向くように
なるかもしれない。それを覚悟しておいて欲しいの」
「……」
それがどういうことか、瑞希にはまだよくわからなかった。しかし僅かながらでも公での龍司の立場を見ていると、
相応の覚悟は要るものと思われた。
「私としてはこれまでどおり、龍司さんに皆をまとめていって欲しいと思っています。あなたが今から何もかもを覚えるには
大変すぎるし、今のところあなたにそのつもりは無いのでしょ?」
「はい」
それは最初から征二郎と妙に告げていたことだった。
「でも、状況によってはそうなるかもしれないわね。あなたが法的に家族でなくても親族に紹介されたことからわかるように、
この家では血の繋がりが何よりも重要視されるわ。後を継ぐためにずっと勉強を続けてきた龍司さんが排斥されそうになる
くらいにね。征二郎が生きているうちに判明していれば、良くも悪くもはっきりと結論が付いたでしょうけれど。征二郎の力は
それほど強かったのよ。でも征二郎は亡くなったから、今のところはどう転ぶかわからない。あなたには取り敢えず、
それを承知しておいて欲しいの」
「はい……」
「どうにもね……私も、こんな時は不甲斐ないわね」
そんな事を言う妙の顔はとても哀しそうだった。
「あの子ね、征二郎をすごく慕っていたのよ。だから今回のことは……取り返しのつかないことだから、可哀想だわ」
「慕っていた……」
瑞希は睫を伏せた。
「俺には、龍司さんがそんな風には見えませんでした……」
瑞希は控えめにそう言った。妙は瑞希の感情を理解しているのか、責めることはなかった。
「あの子ね、征二郎がもう治らない病気だって知ったとき、随分荒れたのよ。あの頃、あなたには随分良くない態度をとって
いたようね。そのことは私からも謝らせてください。でもね、お願い」
妙はあっさりと、瑞希のそうした欺瞞を打ち倒した。妙は瑞希の目を見て言った。
「龍司さんの事を誤解しないであげて欲しいのよ。龍司さんにはまず立場というものがあったから。あの子はそれを
ようくわきまえていた」
「……」
「能力はともかく性格的には、あの子は本来、今の仕事に向いている子じゃないのよ。それでもあの子はここまでがんばって
きてくれたわ。それくらい征二郎の事を尊敬してたのよ。わかってやって頂戴」
妙の視線に、瑞希は目をそらすしかなかった。妙の言うことなら本当なのかもしれない。だがそれでも、瑞希は妙の言う龍司を
認めたくはなかった。
認めてしまったら、自分が病院で彼に言ったことが、全部間違いになってしまう。それは自分が、無意味に龍司を――他人を
傷つけたことになる。それも単なる自分の浅慮で。それを認めたくはなかった。
私は自分勝手なのだろうか?
電車の中、彼女は自分の中でそう繰り返し続けていた。
龍司に「お前は人に意見を押し付けすぎる」と言われた。それはまだ、自分の中では納得できていない。だがその前に、病院に
来るなと言われながら行ってしまい、龍司の危惧したとおりになったことは事実だった。そして妙に、自分のせいで家に多大な
混乱を招いたことを教えられた。あの妙に気にするなと言われただけに、今の彼女の中で、それは大きなしこりになっていた。
私は自分の考え方が正しいと信じてきた。でも、それは間違っていたんだろうか?私はただ単に我侭で自分勝手な
だけなのだろうか。
(もし私が、それで周りに迷惑をかけていたのなら――)
瑞希は顔を上げて車外を見た。ビルとその谷間と電柱やわずかな緑が流れて消えていくが、彼女の印象に残るものは
何一つなかった。
(その時私は、どうすればいいんだろうか)
今日は咲子と会う約束をしていた。特に用事というわけではないので、一瞬断ろうとかとも考える。今は気が重かった。
それでも、と彼女は考え直した。彼女と話をするのは楽しかった。一見おっとりとしていながら打てば響くような話し方をする
咲子は、瑞希にとっては非常に話し易い相手だった。少しくらい気が重くても、彼女と話せばきっと心持ちも軽くなるに違いない。
彼女は結局待ち合わせの駅で下車をした。
「…………」
瑞希は絶句した。
「養子……!」
「そう」
咲子はいつもの笑みを浮かべてそう言った。
「私の子供になってはくれないかしら」
入った喫茶店は三時を過ぎてなかなかに込み合っており、絶えず人の話し声や食器の触れ合う音が聞こえてきた。小さいが居心地の
いい佇まいのそこは隠れた名店として有名らしく、咲子に教えて貰って初めて入った時はテーブルは満席だった。
こうして咲子と会うのは今月だけで何度目かになる。彼女は何かと瑞希を気に掛け、機会があれば会いたがった。瑞希もそれに
同調しており、彼女らは職業等に特に繋がりのない成人同士としては非常に多い回数、雑談のための時間を設けていた。
運ばれてきた紅茶に口をつけたとき、その会話は始まった。瑞希は突然の申し出に面食らって目の前の相手を見た。紅茶の味は
満点だったが、彼女はすぐにそれを失念した。
咲子はそんな瑞希の様子を見ながら、相変わらずににこにことしていた。
「お話したと思うけれど、私は息子を亡くしているんですよ。あなたみたいな子が来てくれたらと思うんですけどねえ。
今はご家族はいらっしゃらないのでしょ?」
「……はい」
「急な話でごめんなさいね。でもこうやってお話していると、まるで息子が帰ってきたように思うのよ」
微笑しながら言う咲子の表情を見ていると希望に沿いたいという思いが首をもたげるが、彼女はすぐにそれをとどめ、
ティーカップをソーサーに戻した。
逡巡したのは一瞬だった。彼女はすぐに口を開いた。
「……申し訳ありません。そのお話、お受けすることは出来ません」
「まあ、どうして?」
大仰に驚く彼女を見つめる。その視線に気付いたのだろう、咲子は静かに表情を戻して『聞く体勢』になった。こういうところも
瑞希彼女に好感を持てる原因のひとつだった。
「これからお話することを、誰にも言わないでいただけますか?」
「大事なことなのね?わかりました」
咲子は鷹揚にうなずいた。瑞希は口を開いた。本来ならこれは誰にも知られてはいけないことの筈だった。だが瑞希は彼女に対して
既に警戒心を持っていなかった。
彼女はひとつ息を吸った。こういったことはもったいぶってはいけない。
「私、女なんです」
間があり、咲子は皺だらけの顔の真ん中にあった円らな瞳を精一杯まん丸くして、一言言った。
「……まあ」
「大鐘家の中では隠していますが……」
瑞希は姿勢を正した。
「ですから貴方の息子さんの代わりにはなれないんです。ごめんなさい」
率直に頭を下げると、咲子は「そうなの」と短く言った後、黙考した。そして言った。
「私はかまいませんよ」
「え……」
「私はあなただから養子に欲しいと言ってるんです。あなたが男でも女でも、私はまったくかまいませんよ」
「……」
瑞希は顎を落としかけた。
家の中で男女を偽っているということは、祖父の思考もあり相当顰蹙を買うことのはずだったが、咲子はそれは重要な問題では
ないわ、とあっさりと言ってのけた。
瑞希の驚く顔を楽しそうに眺めて、彼女は言った。
「でも、男のふりをしているからには理由があるんでしょう?」
「はい。それは」
口を開きかけた瑞希を制し、
「言わないで結構ですよ。人それぞれ、理由があるものでしょう」
にっこりと笑う。
「その時は男として、私のところへ来てくれて構わないのよ。そのほうが都合がいいのでしょう?それに一度男として名乗り出た
からには、それを明かすのは余計な反発を招くことになります。こんな家だと、なおさらね」
「で、でも」
消え入りそうな声で瑞希は言った。琥珀色の液体に視線を落とす。
「私は少しの間男でいられればよかったんです。このまま、嘘を貫き通す自信は私にはありません……」
「大丈夫。私も出来る限りあなたを助けます。事情は知らないけれど、これだけ女の多い家系ですもの。征二郎さんの意向ももう
何年かすればだんだんと変わってくるはずですよ。そうしたらたぶん、それほど問題にされなくなるとは思うわ。女に戻るのは
それからの方がいいかもしれないわね。ここはひとつ、しばらくの間男を続けてみるつもりはない?」
その状況は大鐘家に龍司がいないことが前提での仮定だったが、瑞希はそれに気付かなかった。
「あなたが可愛いのよ。ぜひ、うちに来てもらいたいの」
瑞希は思わず視線を外して赤面した。臆面なくそんな台詞を言ってしまえる咲子を少しうらやましく思いながら、彼女は紅茶の
カップを両手で包むようにして持った。
「その……」
瑞希はそのままうつむいて小さく言った。
「少し、考えさせてください……」
(男になる……)
瑞希はアパートに戻った。靴を脱ぎ、郵便物を確かめ、部屋に上がる。ここまでひたすら考え事を続けながら来ていた為、
靴は脱ぎ散らかしたまま、書留の不在通知書は読みもしないまま放り出し、おまけに部屋に入るところでつまずいて
転びそうになった。
それでも彼女は考え事をやめなかった。クローゼットを開けてジャケットを脱ぐとハンガーに掛け、続けてネクタイに手を掛ける。
「……」
瑞希はネクタイの結び目を解きながら物思いに耽った。
中学校の頃からずっと男になりたいと思っていた。それが高じて男の真似ができるまでになっている。今ではそれに以前までの
執着は無いが、それでも男として生きていくことが出来るのなら、それは憧れながらずっと叶わなかったことに手が届くような
ものだ。なにより咲子のような女性の養子になることができるというのは、祖母を喪ったばかりの瑞希にとっては魅力的だった。
咲子との食事は、祖母と一緒に過ごす時間を連想させた。
亡くなった祖母とは、よほどの事情でもない限り、別々に食事を取るということは無かった。祖母は必ず瑞希と共に食卓を囲み、
何やかやと話しかけてきた。それは何ものにも変えがたい大事な時間だった。もう一度、そういう時間を取り戻せるかもしれない。
祖母がなくなってからこっち、家で誰かと食事をしたことは無い。彼女はそれが淋しかった。いつもたった一人での夕食だった。
――否。
瑞希は顔を上げた。一度だけ、二人のときがあった。
今日は土曜日だ。
彼は今どうしているだろうか。
ふと至ったその考えに彼女は妙との会話を思い出した。
「……」
彼女はジャケットを羽織りなおし、箪笥の小引き出しを開けた。そこには以前、龍司に渡された小箱があった。
(確かめよう)
震える手で中身を確かめ、彼女は箱をジャケットのポケットに入れた。彼がもうここに来ないというなら、私に合わせて買った服は
ともかく少なくともこれだけは返さなくては。
(私が龍司さんを傷つけたのなら、私は彼に謝らなければならない)
他に何も思いつかないが、とにかくそうしなければならない。そうしないと自分の気が収まらなかった。しかし、
(――)
彼女は心臓の辺りを手で押さえた。心臓が、破裂しそうなほど鼓動を打っていた。
怖い。
それが正直な感想だった。あの記憶がまだ鮮烈に、彼女の脳裏に焼きついていた。
そしてそれ以上に、彼に最後に会った夜言った自分の言葉が、あの日の記憶とはまったく別の恐怖を彼女に与えていた。
それは妙に迷惑をかけたことにも繋がっている仮定だった。
それは自分の言葉が誰かを傷つけたことだった。自分が自覚の無いまま誰かを傷つけることは時折、他人に自分が傷つけられる
ことより大きな恐怖になる。そしてそれを認めることはさらに、自分の中の恐怖を大きくするものだった。
それでも、彼女は電話に向かった。祖父の家の電話番号を叩く。今の時間なら妙がいる可能性が高い。
予想通り、三、四コールで妙が電話に出た。
「妙さま、俺です」
『まあ、瑞希さん?何か御用?』
「あの」
瑞希は一度唾を飲み込み、声を絞り出した。
「不躾で申し訳ありません。龍司さんの家の住所を教えて欲しくて――」
雨が降ってきた。
そういえば昼間から雲が厚かった。しかし瑞希はそんなことはすっかり忘れていた。
手荷物は薄っぺらい財布ひとつと住所を記したメモ紙、そして例の小箱だけだった。電車を降りたところで、ぽつりぽつりと
雨が降ってきた。
(まずいなあ)
しかし彼女にはビニール傘を買う余裕もない。仕方なく傘のないまま彼女は走った。しかし空は、彼に較べれば蟻のような
人間のことなど一向に気遣うことなく盛大に泣き始めた。
雨はやがて、バケツの水をひっくり返したような土砂降りになった。今更ながらスーツのまま来なければよかったと
彼女は後悔したが、全て後の祭りだった。閑静な住宅街に到着する頃には、彼女は文句の付けようもない濡れ鼠になっていた。
広いきっちりとした区画にどれも似たようなこぎれいな家と庭がひとつずつ収まり、それが長く続いている。開き直った瑞希は
自分のいる場所をしっかり確認し、一軒一軒の住所と表札を確かめながら目的の家に向かった。この雨の中、すれ違う人は一人も
いなかった。
やっと目的の家が見える頃にはかなりの多さで降水量の安定した雨は歩道を煙らせ、低い場所に大きな水溜りを作り出していた。
しかしその家に近づくにつれ、瑞希の足は急速に重くなった。長らく雨に打たれた寒さと、何よりずっと縛られ続けていた恐怖が、
彼女の髪を引き、思いとどまらせようとした。
瑞希はその家から随分はなれた場所で足を止めた。
その家も他の家とそれほど変わらない一軒家だった。塀が敷地の周囲を取り囲み、中央に四角い建物が鎮座している。その家も
また、降り続く雨に打たれて暗い表情を見せていた。
「……」
瑞希は急激に自分の身体が震え始めたのを感じた。
瑞希は無意識に胃の辺りに手をやった。キリキリとねじれるように痛い。いまだかつてそんな経験の無かった彼女はそれが何なのか
しばらくわからなかった。ストレスによる胃痛だった。しばらく痛みに耐えるようにそうしていた後、彼女はようやく雨に濡れた
顔を上げた。これから龍司と話をするのなら、また気力が要る。これ以上寒さで体力を消耗しないほうがいい。そう判断した末、
彼女は一歩、前へと足を踏み出した。
自分の肺が、気管を通して冷たい空気を吸い、小刻みに呼吸をしているのがわかった。何故か深く息を吸えない。唇がはっ、はっ、
と短く苦しげに息を吸ったが、吸い込んだ空気はは殆ど肺に届いていないようで、苦しくなるばかりだった。
疲れからか殆ど前が見えなくなり、片足がふらついて水溜りに突っ込んだ。革靴に流入してきた水が激しい不快感をもたらした。
足を引き抜くとがぽと音がして革靴が足から離れかけ、彼女は顔をしかめてとにかく足を戻した。
その時だった。
「ちょっと、ボク、大丈夫?」
この場にそぐわない甘ったるい声が聞こえた。瑞希の肩を打っていた雨が急に遮られ、代わりに傘を打つ雨のやけに大きい音が
耳に飛び込んできた。
見上げると、後ろから傘をさし掛けてくれている女性と目が合った。
背の高い女だった。紛う事なき美女だったが、まるで年齢の読み取れない顔をしていた。十代といわれても三十代といわれても
信用しそうだ。色を抜いた豪奢な髪を背中まで垂らしている。瑞希も女としてはそれなりに背が高いが、女はそれ以上だった。
履いているピンヒールを差し引いても大柄で、肉感的な体つきのくせ、ウエストは引き締まっていて細かった。この土砂降りの中
フェイクにしては艶の良すぎるファーのジャケットを纏って立っている。雨に濡れたら本物の毛皮は一発でおじゃんだ。
寒い気候などものともせず、マイクロミニのスカートにピンヒールのブーツ。ファッション雑誌から抜け出てきたような格好だった。
「あ……ありがとうございます」
瑞希はボクと呼ばれた手前、咄嗟に男の口調で返した。女性はしばらくこちらを見て目を丸くしていたが、
「……」
近眼の人が遠くのものを見ようとするような目つきでこちらを凝視し、やがて言った。
「ありゃあ、失礼。ボクじゃなかったわね。どうしたの、キミ」
その言葉に瑞希ははっとし、身づくろいをしたが、襟は特にはだけたりはしていなかった。びしょ濡れとはいえジャケットを
着ているから肩や体の線が見えているということも無い。
なのにこの人は私が女だとわかった。瑞希は目の前の女を見上げた。女は瑞希のにわかに警戒するような視線を受けておやと
肩をすくめた。
「あー、傘さしてあげてるのに酷いなぁ」
「す、すみません」
慌てて姿勢を正すと女は笑った。
「あー、やっぱ女の子だあ。可愛いね。でもどうして男のカッコなの?」
おおらかに言う。瑞希はあっけに取られて目の前の女性を見た。女性は飄々と龍司の家を見上げた。
「どうしたの。この家に用事?」
「あ……」
しばらく言葉を止め、瑞希は逆に問い返した。
「あなたは……?」
「んー、あたしはそう」
瑞希は飛び上がりそうな心臓を抑えながら言った。
「……私も、です」
瑞希の言葉を聞いた女性は悪戯っぽい笑みを見せた。
「キミ、リュージのカノジョ?」
「か」
瑞希はたちまち赤面して頭を横に振った。
「わ、私、そんなんじゃ……!」
縮こまるようにして返答する瑞希に、女は面白そうに笑った。
「ふーん。いいや」
彼女は手の中でくるくると傘を回した。その表情はまるで童女のようだった。
「あたしはね、リュージが今会社で大変だって聞いたから励ましに寄ってやろうかなーと思って。まあ、陣中見舞いって感じ?」
微妙に違うと思う。が、訂正はせず瑞希は目の前の女を見上げた。
「キミは?」
「……」
戸惑いながらも、瑞希は口を開いていた。自覚の無いまま、瑞希は女に気を許していた。相手は自分と全く違うタイプなのに、
何か親近感のようなものを感じる。
「私、龍司さんに酷い事を言ってしまったかも知れないんです」
瑞希は両手を握り締め、口元に持っていった。息を吐き掛けて少しでも暖めようと苦心するが、まるで効果が無い。
「自分では自覚していなかったけれど、もしそうなら、私は彼に謝らなくちゃいけない」
「ふーん。律儀なんだね」
女は内容まで深く尋ねる事は無く、ただそう言っただけだった。瑞希にはそれがありがたかった。聞かれたところで上手く説明
できないし、伏せなければならない部分もある。それ以上に認めたくない事柄というのは口にもあまり出したくは無いものだ。
「いいえ……彼の人格まで傷つけてしまったかもしれないから」
やっとのことでそれだけ言うと、瑞希は再び両手に息を吐きかけた。
「リュージが女々しいだけよ」
女は突き放すように笑った。
「よくあれに付き合えるねえ。あたしには無理だわ」
瑞希はその台詞を聞いて初めて、この人は一体龍司さんの何なんだろうか、という疑問にぶつかった。
「……」
瑞希は恐る恐る唇を開いた。
「あの……貴方は」
龍司さんとはどういう関係なんですか。言い終わらないうちに、女が突然顔を上げた。
「しっ」
彼女は瑞希を鋭く制止し、瑞希の肩を掴んで数歩下がり、他の家の塀の影に入った。そこは龍司の家の玄関先からはちょうど
死角になっており、塀は女の差す傘まですっぽりと隠して見えなくした。
「ど、どうしたんですか」
思わず小声になって尋ねると、女はわずかにこちらを振り返って言った。
「誰か出てきた」
「えっ」
塀の影の、更に女の影からわずかに身を乗り出した瑞希が見たのは、玄関のドアを開けて傘を差して出てくるいつか見た
一人の女性だった。あの人は――瑞希ははっとして目の前の女を見たが、彼女は特に驚きもせずじっと成り行きを注視していた。
そしてその後から玄関先へと出てきたのは、
(龍司さん……)
瑞希は一瞬息をすることも忘れてその姿を凝視した。
たった一ヶ月会わないうちに、龍司は遠目でも一目でわかるほど、極端に精彩を欠いていた。表情まではわからないが、その姿勢。
立ち方。ドアの開け方。足の踏み出し方。そんなものが全て、彼の今の状態を鮮明に表している。気のせいか、幾分痩せて
いるようにも見えた。陰鬱な空気を身にまとい、簡単なワイシャツとスーツパンツだけでそこにいる。
「離縁は私からしておくよ」
麻紀枝は以前瑞希が見たときと全く変わらない表情と声で言った。その目は息子を見る表情ではありえなかった。まるで物でも
見るような――それを見た途端、瑞希はさっと身を戻した。彼女にとって、彼らの姿は見るに絶えなかった。瑞希にとって
彼らの関係は彼女の知っている家族のものではなく、ましてや親と子のものでもなかった。それを家族と知ってなお見ている事は、
今の彼女には出来なかった。よろけた背中が塀にぶつかった。
「……ああ」
返事をする龍司の声には感情が無かった。彼が無表情でいる時の喋り方だと瑞希は気付いた。
「全くここまで来て足元をすくわれるとは滑稽じゃないか。まさかあんたがこんな失敗をするとは思わなかった。当てが外れたよ」
この大降りの中、麻紀枝の声はいちいち良く通るのではっきりと聞こえるが、先ほどの龍司の声はぼそぼそとしか聞こえなかった。
いまいち距離が遠いせいか、龍司が痩せたせいか、低い声だったせいか。
たぶん全部だろう。
「……」
その龍司が全く反応しないことに、瑞希は激しい不安を覚えてじっと身をすくめた。
「兄さんの財産どころか、この先の権威も失うとはね。お前はお前で勝手にするがいいさ。私は行くよ。もうこんなところに
いる必要も無いしね。何のためにあの女からお前を貰い受けたのかわかりゃしないよ。これじゃただの骨折り損だ」
「……俺の……」
瑞希は顔を上げた。押さえ込まれた声が雨の空気に漣のように滲むように拡がるのを彼女は聞いた。
「本当の母さんはどこにいる?」
瑞希が目を見開いた時、麻紀枝の無遠慮な声が漣をかき消した。
「さあね。おおかたお前の親父とよろしくやってんじゃないかねえ。あの男とは離婚を条件にお前を譲り受けたけど、
それからは会ってないね。知りたくも無いしね」
(――)
瑞希は耳を塞ごうとして、出来なかった。聞きたくないのに、聴覚は二人の会話に神経を集中させてしまうばかりだった。
視線が宙を泳いだ。彼女はゆっくりと座り込んだ。女が彼女の動きに合わせて傘と自分の立つ位置を移動し、継続して雨を
被らないようにしてくれたが、気付くこともできなかった。
「……あんたが」
震える声で龍司は言った。
「あんたさえいなければ、俺は……」
その台詞はこれまでで一番小さな声だったにもかかわらず、その言葉は息遣い一つにいたるまではっきりと聞こえた。
瑞希は最早無言で両手を胸のところで握り締めてうずくまっているだけだった。対して女は瑞希に傘を差しかけながらも
何の感慨もなさそうな全く平坦な表情で立っていた。
「ふん」
龍司の、負の感情をおおよそ詰め込んだような言葉を、麻紀枝は本当に何の感情も抱かなかったのだろう、即座に切って捨てた。
「あたしとしてはあんたにこそ、あんたに掛けた私の金と手間と苦労を返して欲しいけどね」
そして立ち去った。
「……キミ。キミ、大丈夫?」
「――っ」
肩をたたかれ瑞希はびくりと身を震わせた。顔を上げると女と目が合った。
女は腰を落として瑞希と目線を合わせた。
「何にも知らなかった?」
「……私、は」
瑞希はがちがちと歯を鳴らしながら声を出した。
「知りませんでした……何も……」
殆ど知らなかった。そして知ろうともしなかった。これまで目の前にいた彼が、どんな生活をしてきて、どんな考え方をして、
どんな風に思っているのかを。
「じゃあびっくりしたよね。キミ、ああいう話に免疫なさそうだし。龍司が引っ掛けるにはちょっと初心過ぎるな」
女はひょいと傘を差し出した。受け取れというように目の前に出された傘を見て瑞希は不思議そうに目を瞬かせ、受け取った。
女は背筋を伸ばすと身を翻した。長い髪が遅れて後を付いていった。
彼女は堂々と龍司の前に姿を現した。
「だからあんたは子供なのよ」
女は毛皮のジャケットごと雨に濡れながら口を開いた。
「……お前」
龍司はわずかに驚いて彼女を見、そして、
「――」
慌てて彼女に傘を差しかけた瑞希を見て絶句した。
一方、彼の姿を間近で見た瑞希は表現しがたい感情に襲われた。確実に、彼は痩せていた。一ヶ月も会っていなかったのに
一目でわかるくらいだから、体重は相当減ったろう。目の下にわずかながら隈がある。それは単純な寝不足によるものとは違って
消えにくそうなもののように見えた。髪は整えられておらずところどころ跳ねていて、今までとまるで印象が違う。
「あ……」
自分の知っている彼とはあまりに違う彼に、瑞希は言葉を失くした。それでも息を呑み、名前を呼ぼうとした時、
女の声が割り込んだ。
「バカね」
瑞希がぱっと女を見た。その視線に気付いていないはずは無いだろうが、女は彼女の視線など気にも留めなかった。
「自分からさっさと追い出すなりなんなりしてれば、ここまで嫌な思いすることもなかったでしょうに」
返答までにはかなりの間があった。
「……お前には関係ないだろ……」
「そうね。無いわね。でもあんたと関わってる限り、どうしても視界に入ってくるのよ、あんたのそのうざったさ」
やっと吐き出した様子のその言葉を女は一蹴した。
「あんな母親に一体何を期待してたの?呆れるわ。いつもいつも、そうやって他人に何かを期待して待ってるだけ。そのくせ
裏切られたら恨みごとばっかりほざいてさ。悔しかったら自分から動いてみなさいよ」
「やめて、お姉さんっ」
瑞希は女に傘を差しかけながら叫んだ。
「そんな言い方あんまりだわ」
「キミはちょっと黙ってな」
その声には他人に口を差し挟ませないだけのはっきりとした芯が通っていた。瑞希はそれ以上何も言えずに口を噤んだ。
龍司に目をやると、彼はじっと彼女を見つめ、そして、
「わかってるよ、そんな事は!」
爆発した。
彼がここまで感情を剥き出しにしてものを言うのを、瑞希は始めて見た。彼女は怯え、女の陰に半ば隠れるように身を寄せた。
「だがもう期待するものさえ俺には無い!おふくろは出て行った!叔父さんは――」
龍司は瑞希が目に入っていないのか、それとも単に無視しているだけか、続けた。
「叔父さんは亡くなった……俺にとって唯一尊敬できる人はもういない!俺だってただ待ってたわけじゃないさ。叔父さんの後を
継ごうと必死でやってきた。それに人生の殆ど全部注ぎ込んだ様なもんだ!それでも、それでも」
よほど言い難い感情があったのか、言葉は詰まるようにそこで止まった。数拍の間の後、やっと言葉が聞こえた。
「失うのは一瞬だった」
歯軋りするように呟く。彼は顔を伏せたが、どんな顔をしているかは瑞希にも容易に想像が付いた。
「やられたよ。あそこまで事態が早いとは思わなかった。気付いたときにはもう手の打てない段階になってた。俺が元の役職に
戻るのはまず不可能だろう。俺は叔父さんがなくなったことより、叔父さんの遺したものを継げなかったことが痛い。
家族として見送ることも出来なかった」
その台詞には無力感だけがあった。
聞きながら、瑞希は呆然と傘の柄を握り締めていた。感覚のなくなり始めた指先が今にも傘を取り落としそうだった。彼女は
悲しさに裏打ちされた表情で沈痛に目を伏せた――やはり私は彼を傷つけていたのだと。
女は剣呑な瞳を龍司に向けた。頭を軽く振る。濡れた髪がばさりと重い音を立てて翻った。彼女は言った。
「あんた、もうあたしん家来んな」
「――」
「あたしの言いたいことはそれだけよ」
「待って……!どうしてっ」
瑞希は血の気の引いた顔で口を開いた。
「貴方、龍司さんの恋人なんでしょう!なのに――」
いくらその手の話に疎い瑞希でも、二人の会話を聞いていれば龍司とこの女性がそういった関係であることは容易に想像ができた。
必死で引き止めると女は瑞希をも馬鹿にしたような仕草でわずかに首を傾けた。
「フったでしょ?たった今。だからもう、あいつとあたしは恋人同士じゃないの。赤の他人」
肩をすくめて平然と言ってのける。
「あんなのに付き合うなんてもう真っ平。キミも早く見切りつけたほうがいいよ?」
軽やかに踵を翻して彼女は微笑んだ。傘のほかに手荷物が無かった彼女の足取りは本当に軽くなったように見えてしまい、
瑞希は自分の邪推にはっきりと嫌悪をもよおした。
「傘はあげる。もしまた会う機会があったら返してくれればいいよ。じゃあね」
「お姉さんっ」
尚も追いすがる瑞希を呼び止めたのは低く暗い声だった。
「やめろ」
「でも!」
振り返る瑞希に龍司は無言で頭を振った。瑞希は二人の仲に自分が直接関与していない以上それに従うしかなかった。長身を
惜しげもなく雨に晒しながら女が雨靄に消えていくのを、瑞希は歯噛みする思いで見送った。
「それより何でお前がここにいる」
「――」
目を丸くして立ちすくむ瑞希に龍司は言った。彼はよく出来た人形のように玄関先に立ち、いつの間にか感情の無い瞳に
立ち戻ってこちらを見ていた。
「どうしてこんなところまで来た。俺とお前はもう――何の関係もないはずだ」
瑞希は底知れなさを感じて一歩退いた。彼に対して瑞希はあまりに人間の感情を顔に出しすぎる人間だった。丸くした目が
たちまち動揺の気配を帯びていった。
「あ……」
何度も口を開閉させるがなかなか言葉が出てこない。何度も瞬きをし、焦って胸元を握り締め、彼女はようやっと口を開いた。
「私……私、龍司さんに謝りたくて……」
こうして彼に会う理由はちゃんとあったはずなのに、いざ話す段になると、言葉が全くといっていいほど出てこない。
「私、酷い事を言ったわ……だから」
さっきからずっと歯の根が合わない。たどたどしくなってしまった言葉遣いで喉から懸命に声を押し出す。傘を持つ手を握り締め、
吐き出すにはまだ苦しい言葉を彼女は必死で口に出した。
「その……本当は貴方だって、お爺さまのことを心配していたのに……私は、そうじゃないって頭から決め付けて、貴方の話も
聞かないで……散々、自分勝手な事を言って……」
「で?」
「だから……私、貴方のことを誤解していて……」
瑞希はやっとのことで搾り出すように最後の言葉を言った。
「……ごめんなさい……」
龍司は即答した。
「そんな事はもういい。取るに足るようなことじゃない」
その口調はわずかながらにでも期待したものを得られなかった不満を帯びていたが、瑞希はそれに気が付かなかった。
「そんな――」
言うべき言葉を失くして彼女は立ち尽くした。私が気にしていたことは、彼にとってはどうでもいいことだったのか。
呆然と龍司を見ていると、龍司は邪魔だとでも言いたげに掌を振った。
「用件がそれだけならもう帰れ」
「龍司さん!」
瑞希は食い下がった。
「どうしてこんなことになってしまったの!貴方がそんなにまで守ろうとしていたお爺さまの跡目が、こんなに突然に――」
叫んで彼女は身を乗り出した。
「妙さまが仰っていたわ。誰かが故意に、貴方を陥れたって!一体何があったの!どうして、誰が、こんなことをっ」
「知ってどうする?」
「――」
言葉を奪われ、彼女は乗り出していた身体を退いた。言われるまで、知ってどうするかという具体的な考えはひとかけらも浮かんで
いなかった。ただ反射的に尋ねたという自分自身の心理の得体の知れなさに戸惑いながら、それでもある限りの理由を引っ張り出して
彼女は声を出した。
「き……聞いておきたいの……私も、もしかしたら正式に、家の一員になるかも知れないから……」
もっともらしい理由をつけながら、彼女の心には何故か二律背反に似た引き裂かれそうな感情が生まれて渦を巻いた。その感情を
頑なに無視して彼女は続けた。
「咲子さんにね……養子にならないかって誘われてるの……咲子さんは息子さんに私を重ねているから、もしそうなるなら、
私は可能な限り、男として養子に行きたいと思ってるの。だから私、今度こそ、本当に男として家に入ることになるかも知れない」
龍司が言葉を返してくるまでに若干の間があった。
「そうか」
目を閉じ、彼は息を吐いた。そして言った。
「良かったじゃないか」
ついぞ聞いたことのない優しい口調だった。
「――――」
何か大切な糸が一本切れたような感覚がした。
排水溝が排水しきれない雨水が量を増やして彼女の足元まで迫ってきていた。瑞希は傘を力なく握り締めた。
「許してくれないの?」
震えながら彼女は言った。
「私の言った事は貴方にとってはどうでもいいことだったの?私、どうしても貴方に謝りたくて……」
「ああ。どうでもいいことだ」
龍司ははっきりとそう言った。
瑞希は呆けてすとんと肩を落とした。気付いたのか気付かなかったのか、龍司は背中を向けた。家に戻りながら最後であろう
言葉を投げてくる。
「さっさと帰れ。これからもっと降るぞ。天気予報でそう言ってたから」
瑞希は指一本動かせないまま呆然と立っていた。最後に一瞥をくれた龍司の目を見て、瑞希の脳はあることについてようやく
理解の兆しを見せた。
これまで、彼が無表情になるときは決まって、何かとても激しい感情を抱えながら、それを抑えている時だった。
瑞希は直感した。今、彼は怒っているのだ。それもとても激しく。
「――」
その事実に彼女は愕然とし、失望し、そして哀傷した。どうしていいかわからない。私は彼に、どうすればいいのかわからない。
彼女は歩み去る背中を眺めて眼を見開いた。
ああ。
行ってしまう。
彼女の手から傘が落ちた。開いた傘が横に傾いで落ち、アスファルトに跳ねた。びしょぬれの革靴が水音を立てて地を踏み、
主を運んだ。
「待ってっ」
叫ぶ。大きな背中が立ち止まった。瑞希はその背中に向かって一直線に駆けた。
気付いたときには、瑞希は龍司の背に身を預けていた。言葉が勝手に唇を割り、流れ出てきた。
「――何でもする」
自分でもわからないうちに、彼女はそう呟いていた。
「何でも言うことを聞くわ。だから許して。お願い――」
瑞希は懇願した。あたたかい身体を抱きしめ、その背に顔を埋める。このまま行って欲しくないという感情だけが彼女を支配
していた。引き止められれば何でも良かった。とにかく全身で行って欲しくないと訴えるしか出来ることはなかった。
それに感づいたのか、龍司は彼女を引き剥がすことはしなかった。ただ、
「……なんでもすると言ったな」
それを聞いた瑞希はびくりと身を震わせた。
龍司の声は怒りに押し潰され、ひどく歪んだ声になっていた。その声はこれまで以上に彼が怒っていると確信させるのに
十分だった。自分の行動は間違っていたのかと恐ろしくなり、彼女は細かく震え始めた。
腰に回っている震える小さな手を握り締め、彼は一瞬躊躇したようだった。だがやがて短く、やはり無表情に言った。
「なら抱かせろ。今すぐにだ」
その後、玄関まで連れられてきた瑞希は、とにかくその濡れた衣類をどうにかしろと言われて脱衣所に招き入れられた。
与えられたバスタオルで髪を拭きながら、彼女は必死で考えた。私は間違っているのではないか。こんなことで、彼の怒りを
鎮めることはできないのではないか――しかし何も考え付かなかった彼女にはこうするしかなかった。こうしなければ彼をそのまま
見過ごし、自分がそれに対する後悔をずっと引きずりながら過ごさなければならなくなることはわかりきっていた。それだけは嫌だと
彼女は思った。傷つけてしまった人に対して責任を負わないままでいることは自分には出来ない。しかし同時に、どうしていいか
わからないまま状況に流されていってしまうのにはどうしても不安が拭いきれない。
ジャケットを脱ごうとした時、ポケットに入れたままのものに気付いて彼女はそれを引っ張り出した。小さな箱は揺れた拍子に
中のものとぶつかり合って小さな音を立てた。一番外側の紙の箱は完全に駄目になっていたのでそこから中の小箱だけを取り出す。
彼女はそれをとりあえず洗面台の上に置き、濡れた服を脱ぎ始めた。ワイシャツ、パンツに続き、サラシも逡巡した後、解く。
どちらにしろこの濡れ方では付け続けているわけにはいかない。
「……」
洗面台の小箱に指で触れる。彼女は再びそれを握り締めた。
その時、ドアの向こうから声がした。
「終わったか」
突然掛けられた声に驚き、瑞希は咄嗟に小箱ごとバスタオルを掴み、ショーツ一枚のみの身体に巻き付けて振り返った。返事も
待たずにすりガラスのドアが開く。
龍司が立っていた。先ほど瑞希が抱きついた時に彼の服も濡れたため、先ほどと殆ど変わらない服装ではあるが彼も他の服に
着替えていた。瑞希は未だに表情の無い彼にはっきりと自覚を持って怯えた。
「待って、まだ」
「そこまで脱いでいればもういい。来い」
「待ってっ」
後ずさりかけた彼女の空いた方の手を取り、龍司は廊下へ出た。引かれる手の大きさと熱と強引さに、彼女は思わず叫んだ。
「駅からここまで走り通しだったのっ。お願い、シャワーを使わせて――」
「それだけ水浴びしてれば充分だろ」
「そんな」
尚も尻込みする彼女を、龍司はいらだった視線で見つめ、急に動いた。
急激な浮遊感に彼女は声を出さずに呻いた。肩甲骨の辺りと太腿を太い腕に支えられ、彼女は抱き上げられていた。
「あ――――」
降ろして。彼女は言いかけ、急に心胆の冷えた心地になって唇を引き結んだ。
「……」
彼女は真っ青になって口を閉ざした。必死で縫い合わせた心の傷がまたいとも簡単に開きはじめているのを感じて身震いする。
いやだ――触らないで。彼女は辛うじてその言葉を飲み込んだ。今の彼女は自分が傷ついているのと同様に、相手も傷ついている
ことを知っていた。これ以上彼になにごとかの負の感情を呼び起こさせる行為を起こす事はためらわれた。しかし彼女の努力は
むなしかった。彼女は自分の感情を隠すのが下手であり、彼は相手の感情を読み取るのに長けていた。回された手に力がこもったのを
感じ、彼女は観念したように視線を落とした。目を合わせることは怖くて出来なかった。
脇と腿に触れる掌の感触と抱き上げられた時に感じる独特の重力を異物のようにもてあましながら、彼女はそれきり黙り込んで
暴れることもせず彼に従った。階段を上って二階に上がり、寝室に踏み込んだ後やっと彼女は地に足をつけた。モノクロームカラーの
絨毯が素足を受け止める。
龍司の寝室であろうその部屋は意外なことに、酷く地味な印象だった。ベッド、カーテン、テーブル、ソファ、テレビ、
オーディオ、その他のものらどれも統一されたモノクロームで、特筆できる特徴は無い。味気ない。それが彼女が最初に持った
感想だった。生活感もまた無く、ベッドですらろくに使われた形跡は無い。
彼女は立ち尽くして視線だけを動かした。
私と同じだ。
そう感想を持つ前に、肩に手が触れ、彼女ははっと振り返った。抱くように背中から手を回されそうになり、瞬間的に身体を離す。
振り返った直後龍司の何の感慨も無い目がごくわずかに揺らいだのを見て、彼女は罪悪感に「あ」と声を漏らした。気まずくなり、
彼女はとにかく何かしゃべらなくてはと口を開いた。
「龍司さん、あの……」
彼女はバスタオルに隠れて握り締められていたそれを取り出すと、恐る恐る差し出した。
「これ。返さなくちゃって……」
差し出された小さな宝石箱を彼は無感動に見つめたが、特に何を言うこともなく掌を出し受け取る。そのことに安堵の表情を
見せた瑞希の目の前で、龍司はその掌を傾けた。
絨毯の上だったので音は殆どなかった。一直線に床に落ちた箱はわずかに跳ねて中身だけがぶつかり合って音を立て、それきり
静かになった。
「……」
瑞希はショックに言葉を失った。そして何故自分がこんなにショックを受けているのかわからなかった。
箱は横になり、路端の石のように床に転がっている。それが突然何の価値も無いものに成り下がった気がして、彼女は呆然とした。
拾うことはしなかった。何故と尋ねることもしなかった。なんとなく、そうしてはいけないという無言の圧力を感じた。
ただ、素直に表情に出た疑問符は龍司に口を開かせた。彼はわずかに首をかしげた。
「もう要らないだろう」
「……」
その通りだった。
それでも瑞希はショックだった。彼女は頭を振った。何か大切なことを取り落としている気がして、彼女は口を開いた。
「私――」
何かが言いたい。バスタオルで必死に体を隠しながら彼女はまとまらない言葉を懸命に繋ぐ作業に集中した。
「貴方に会う時、私、いつも怖かった。どうしてかわからないけど、怖かったの。今も」
「それはそうだろう」
突然言葉を遮られて瑞希は驚き、目を瞬いた。龍司は彼女に背を向け、部屋の中心に向かって数歩進んだ。部屋の中心にある
テーブルに視線を落とすようにして彼は言った。
「俺はお前をレイプしたんだからな」
あまりに直接的な言葉だった。
一気に、体中の力が抜けた。決して聞きたくない言葉に、意識せず数歩後ずさる。
身体が急に寒さを思い出した。主の意思を無視してがくがくと震え始める。肩も足も鳥肌を立て、何処でもいいから温かいところに
潜り込みたいと悲鳴を上げている。
でも、違う。違う気がする。貴方のことを怖いと思うのは、もっと他に理由がある。しかし彼女はそれ以上言葉を継げず、言葉は
喉元に留まった。
彼女が何も答えないのをどう思ったのか、龍司は背を向けたままで言葉を続けた。
「お前、おかしいぞ。普通だったら警察へ駆け込むなり、誰かに相談なりするもんじゃないのか。そういやいつか言ってたな。
叔父さんが亡くなったら全部暴露するって」
「それは……」
確かに自分はそう言った。だがそれは龍司に提案を呑んでもらいたかったがためのブラフで、その時も今も、それ以上の意図は
ない。無意味に事を荒立てたくは無かった。それだけだった。だが彼はそうは思っていないようだった。
「それが終いにはわざわざ自分から来て抱かせてまでくれるのか。正気の沙汰じゃない」
「……」
彼女は押し黙った。本当に、
〈何故、だろう!)
瑞希はぽかんと口をあけた。彼女は自分の返答の異常さに今、初めて気が付いた。
私は彼を傷つけ、それを贖いたいという気持だけでここまで来た。過去、相手が私を一方的に陵辱したことは忘れているわけでは
なかったが、それとこれとは自分の中でははっきりと線引きが出来ている。だからこそ、いくら何でもすると言っても、抱かせろと
いう要求だけは別のはずだ。これまでのことは、私の中でそんなに軽いものではない。
しかし自分はそれを了承した。酔狂にもほどがある――彼女がそう理解すると同時に龍司が再び口を開いた。自嘲でもするような
口ぶりで、そのくせ酷く押し殺した声で彼は言った。
「俺に同情でもしてるのか?同情だけで抱かせてくれるなんて、安い身体だな。それとも単なる淫乱で、相手は誰でもいいのか」
「――」
ぐらりと視界が傾いだ気がした。
「違う……」
屈辱に涙で目の前が霞んだ。私は――私は、そんな風に思われていたのか。
「違うわ。ただ、私……」
何も考えられず、彼女はうわ言のようにそう繰り返した。眦が熱くなり、勝手に泣き出しそうになった。私は自分を安く見ても、
ましてや貴方を軽く見てもいない。
誤解されるのは嫌。
「どっちでもいいさ。俺としては後者の方が面倒が無いがな」
「違う!」
彼女は悲鳴に似た声を上げて否定した。誤解されるのは嫌――どうして私はこんなことを思うのだろう。でもその想いには
抗えなかった。怒らせるだけだとわかっていても彼女は叫んだ。
「違う、それだけは違うっ。違うわ!」
「ならどうしてこんなところまで来た!」
それまで低調だった龍司の声が突然怒気をはらんだ危険と思えるものに変じ、瑞希は身を震わせて硬直した。
そこには手足を数ミリかすこともできない緊張感があった。沈黙が氷山のように横たわった。それは二人の心理的な隔絶をあらわす
深い溝だった。
龍司は怒気を解かないまま手を伸ばし、乱暴な手つきで瑞希の腕を取った。
「もういい。いずれにしろ、もう遅い」
取られた手が突然引かれた。雨とストレスに体力を奪われた手足はなす術も無く引き寄せられた。足をもつれさせ、彼女は龍司の
胸に倒れこんだ。どんなに恐怖していても、その腕の中は温かかった。
しかし龍司の次の行動にその熱は一気に冷めた。急激なあしらわれかたの変化に彼女は付いていけず、されるがままになった。
「……!」
硬く冷たいテーブルの上に組み伏せられて彼女は目を見開いた。したたかに打ち付けたため身体に鈍い痛みが走る。
飛び上がりそうに冷たい金属の卓に背中から急速に体温が奪われていった。彼女は悲鳴じみた声をあげた。
「こんなところで、やめて……!せめて、ベッドにっ」
「黙れ」
彼はぼそりと呟いた。
「嫌なら抵抗すればいい」
「な」
「前みたいに俺に噛み付いて、逃げ出してみろよ。そうしたらやめてやるさ」
瑞希は混乱した。自分から抱かせろと言っておきながら、逃げれば許してくれると言う。彼は皮肉げに口の端を歪めた。
「やめて欲しいんだろう?」
「……」
瑞希は何故か泣きそうになった。
「……どうしてそんな事を言うの……?」
返答はなかった。腰に潜った龍司の手がたった一枚まだ脱いでいなかったショーツに触れた。
「っ……」
瑞希は怖気を覚えて呻いた。ずるりと湿ったショーツが嫌な感触を残して引き抜かれる。全身に鳥肌を立てながら反射的に
身を引いて逃げようとしたが、当然のように脚を太い腕に絡めとられ引き寄せられた。
「あっ」
右脚を左腕に絡められ、右腕で腰を抱かれるような格好になる。前のめりに圧し掛かられ、鼻が触れるほどに近くまで、
龍司の顔が迫った。
間があった。怖いのに、据わったその目から視線が外せなかった。右手が上がり、首筋から肩に触れられても、微動だにできない。
瞳だけを見開いて彼女は動かなかった。「怖い」という言葉が発せない。喉に引っ掛かってどんな事をしても取れない魚の小骨の
ようだった。その抵抗感が彼女の心を無遠慮に引っかき回してぐちゃぐちゃにしていた。
言いたいことが言えない。跳ね除けたくても出来ない。噛み付きたくても逃げ出したくてもそれら全部が自分の中で不可能だと
断定されていて、さらにそれらが私を苦しめている。
私の心理は矛盾している。
「ひ」
最初からいきなり入り口に触れられ、瑞希は大きく喘いだ。陰裂を下から上に、ゆっくりとなぞっていく指をつぶさに感じて
びくりと身体をしならせる。
彼女は顔を逸らした。精神的な抵抗感から力が抜けなかった全身が、嘘のように弛緩した。ひんやりしたテーブルに
片頬を付けて現状からも目を逸らそうとする。矢先、指が入ってきた。
「っあ!」
悲鳴を上げる。自分のものではない節くれだったごつごつとした指は無遠慮に彼女の中をかき回した。弛緩した四肢が一気に
硬直した。以前のように彼女の様子を見ながらのものではない、自分勝手な動きだった。そしてそれにも関わらず、
蜜壺はあっという間に潤み、その口を広げ始めた。
逃避しようなんて土台無理な話なのだと、彼女は知った。口から勝手に声が漏れ出る。
「……あ、あ、あ……」
隠しようの無い自分の艶声に彼女は絶望した。……これでは本当に、言われたとおり、私はただの淫乱ではないか。
こんなのは嫌だ。嫌――なのに掻き回される度、体の中心は止めどなく蜜を吐き出し、身体はその刺激にまるで悦んでいるかの
ようにぴくぴくと震える。信じられない感覚に瑞希は泣き声を上げて身を捩った。嫌、なのに、どうしてこんなに感じるの……。
絶頂が近い、その兆しを感じるのは以前より明らかに早かった。身体がいうことを聞いてくれない。背筋に弦を張られたように
身体が弓なりに反り返る。
「ひ、あ、う、ああぁあ――――」
怖い。
怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。
病院での様々な負の感情が、今は全てひとつのものにすり替わっていた。白い肢体を仰け反らせて彼女は啼いた。
目の前が真っ白になり、弾けた。
龍司は瑞希の緊張の糸が途切れたのを感じて秘部から手を離した。
「……っ……ふ……あ……」
涙を流しながら達した瑞希の弛緩した四肢を組み伏せたまま、龍司は片手だけで腰のホックを外した。既に硬く反り返ったものが
ひんやりとした空気に晒されたが、熱さはほんの少しも和らがなかった。
「あ……」
先端を瑞希の濡れた箇所に擦り付けると、彼女は今までにない艶っぽさで四肢を揺らした。
「駄、目……まだ、無理……」
その姿は言葉とは裏腹に、誘っているように見えた。と勝手な解釈をし、龍司は力を込めた。
ずぶりと先端が入り込むと下敷きにした手足がびくんと波打った。バスタオルを握り締めるだけでは耐えられなかったのだろう、
硬いテーブルにを立てる細い指を見て、どうせなら自分の背中に立てればいいのにと八つ当たりのように思うと、腰を進める。
「っ、は」
瑞希がまた仰け反る。圧倒的な苦痛と、わずかに快楽を覗かせる吐息をつきながら、やがて彼女は龍司の全てを受け入れた。
「――――」
龍司は目を閉じ、眉をひそめて強烈な快感をやり過ごした。ろくに愛撫をしていない身体はきつく、狭い。最初の日の感覚を
彼は思い出した。
嫌な記憶だ。
瞼を開け、繋がり合ったままの少女に目をやると、彼女はかすかに身じろぎをした。痛みからの反射的なものか、それとも本当に
嫌がっているのか、それまで耐えていたらしい涙を瞳から溢れさせていた。よほど圧迫感があるのか、懸命に肺を膨らませて
息苦しさを逃がそうと浅く息を吐いている。肺が収縮を繰り返すたびに両手で庇った胸が大きく動き、嫌でもその下に隠されている
素の身体を想像させた。
その桜色に染まった唇がかすかに動いた。
「…………いた、い……」
かなりの間をおいて彼女は呟いた。涙を流しながらも抵抗はせず、眉根を寄せて懸命に耐えている。そしてその健気さが、以前とは
逆に龍司の怒りを掻きたてた。
「……こんな、の……」
唇が動いて言葉を紡ぐ。
「こんなの嫌……龍司、さ……はう」
少し腰を動かすだけでその言葉はいとも簡単に中断させることが出来た。彼女の手に自分の手をかけて硬く握り締められた拳と
バスタオルをどける。
見慣れたというほどではないが、その身体は一ヶ月経ってもはっきりと覚えていた。全体的に脂肪が少なく、抱き心地がいいと
言える身体ではない。しかし白くなめらかな肌は初めて見た時から全く変わっていなかった。鎖骨はその骨の細さを象徴するように
頼りなく、だが綺麗な線を描いて伸びている。十八にしては未熟なふくらみが目に付いた。
「……」
急激に、自分でも理解しがたい感情がせり上がってきて、龍司は突然白い乳房をわしづかみにした。
「あ、つぅ」
瑞希の声が痛みを訴える。その身体が跳ね、下半身が痙攣を起こしたように締めつけてきた。入れた時点ですでに彼女の中を
いっぱいに埋め尽くしていた彼自身は、わずかな締め付けでも相当の快感を受け入れなければならなかった。呻いてまた
性感に耐える。
「……」
彼は自己嫌悪に顔をゆがめた。自分の身勝手さに吐き気すら覚える。周囲が思い通りにならないからと言って女に八つ当たり
するとは、俺はこんなに情けない男だったろうか。
そしてそれを自覚してもなお、彼の手は彼女を徒に弄ぶ事をやめなかった。尖り始めた胸の頂を指で擦る。
「あう、あ」
だらしなく口を開いたまま、彼女は息を吸うように呻いた。入り込んだままでいるため身体に力が入らないのか、ちょっとした
刺激にも耐えることができないようだった。それを見た龍司は頭の中で考えるよりも早く、行為をエスカレートさせていった。
腕にも腹にも脇腹にも出鱈目に手を這わせ、その後舌と唇でも同じようにした。 その間ずっと腰は動かさなかった。とにかく
長い間、彼女の中に入っていたかった。
乳首を吸われると瑞希は特に大きく身を震わせた。声は無い。
「……」
彼女はいやいやをするように頭を振った。もう泣いてはいなかったが眦にはまだ涙を残していて、今にもまた泣き出しそうだった。
眉間に皺を寄せ、
眉が哀しげに八の字を描いている。
見ないふりをして執拗に舐め、痛みを感じない程度に歯を立て、更に強く吸う。
「――っはあっ」
ぴく、と湿った肌が震えて仰け反った。一瞬だけ、ひきつけを起こしたようにその背中がくんとしなり、またぎゅうと締め付けた。
どうやらようやく達したようだった。が、達し方がよほど浅かったらしく、あまり気持ち良さそうではなかった。身体の芯から
達せないもどかしさにすぐに身じろぎを始め、彼女は震える声で哀願した。
「……抜、いて……お願……」
ここまできても「動いて」と言えない彼女が愛しかった。
「お前が」
その言葉は殆ど意識せず唇から漏れた。
「お前が悪いんだぞ、――お前が、俺を誘うような真似をするから」
「――」
彼女は声を失ったようだった。黒い大きな瞳が見開かれて、唇の動きだけが「まさか」と言う形を作った。
「……違……そんな、つもり、じゃ」
必死に答える瑞希を見、そうだろうな、と龍司は苦く笑った。この少女に少しでもそんな器用な真似ができるのなら、自分など
とっくに篭絡されている。そしてそれならそれでよかったのだ。……もともと、愛してなどもらえないのだから。
彼は彼女の細い腰に手をやり、テーブルに押さえつけるとゆっくりと律動し始めた。瑞希の台詞はすぐに喘ぎと悲鳴を混ぜたような
切羽詰った叫びに変わって行った。
彼女をはっきりと「好き」だと自覚したのはいつだったろうか。
最初は抵抗されるのが楽しかった。楽しくて楽しくて、さらに犯してやろうと自分の欲望を一方的に叩き込み、屈服と反抗の間を
行き来する彼女を見て面白がっていた。痛めつけている相手に全うな権利はない。一方的に弄ばれながら反撃する力も逃げ出す力も
ない。それでも足掻き続ける。そしてそれを見て楽しむ。それは非常に子供じみた残虐な嗜好だった。
しかしそれは長く続かなかった。子供じみた嗜好は時を経るに連れて彼自身も驚くほどの明らかな変化を見せた。次第に彼女の
反応を見定めるようになり、やがて激痛に身を捩る彼女よりも、感じて声を上げている彼女の痴態を見る方が楽しいと思うように
なった。そして今では、彼は他の何よりも、自分の愛撫によって悦ぶ彼女を望んでいる。今でも彼女をただの玩具だと
思っているならば、絶対にあり得ない思考だった。
この一ヶ月で、龍司は実に多くのものを失った。それは母親であり、叔父であり、叔父の遺産であり、彼女であり、
そして瑞希だった。程度の差はあれ、叔父に倣い力をつけてきたと自負していた彼は、どうにもならない件の多かった一連の難には、
最初は悔しさにひたすら歯噛みし、次第に唖然とし、最後には呆然と立ち尽くすばかりだった。特に、力を注いでいた叔父の跡継ぎと
しての地位が失われた際にはぽかんと呆けるばかりで、随分と長い間脳が理解するのを拒否し続けていた。理解を始めると次第に
目の前が真っ暗になり、何にも手を付けられなくなった。自分が麻紀枝と血がつながっていないとわかってからは自宅謹慎処分に
なってもいたから(これは取り敢えずの処置で、いずれはもっと厳しい処分が待っているだろう事は想像に難くなかったが、
叔父の後について勉強できたのは男である自分ただ一人だったから処分がここまで伸びているのだろうとも想像できた)余計に何を
する気も起きなくなった。しかし何より、謹慎となると自宅に篭らなければならず、毎日のように母親と顔を合わせなければ
ならなくなったことが、彼の憂鬱を倍化させた。
かねてより、龍司は母親を捨て切れなかった。叔父の許に付いたのが小学校中学年の頃という中途半端な時期だったから余計に
そうなってしまったのかもしれない。
良い親か悪い親かということに関わらず親の縛りというのは強力で、それが麻紀枝のような人間となればなおさらだった。
麻紀枝は何かにつけ龍司を縛りたがった。彼女は、龍司が言うことに従わなければ懲罰を加えることも厭わない、いわゆる圧力を
加えることで人を自分に従わせるタイプの人間だった。
龍司は彼女の本当の子供ではなかったから、生来の気質が影響してしまったのか、考えが甘かった。母親が自分に愛情を
与えてくれることは望めないとわかっていながらそれでも心のどこかで期待してしまっていた。それを、叔父という人がありながら
この歳まで引きずってきてしまったのが何より悔しい。
彼女の指摘は全くの正論で、自分の甘えを振り切るという意味でも、自分から母親をはっきりとした形で追い出してしまった方が
良かったのだろうと思う。それが実際にはああだ。情けなくもなる。彼女が自分を見捨てるのも当たり前というものだ。
龍司は怒っていた。それは瑞希にではなく、自分自身に対しての怒りだった。不甲斐なさや無力感、それ以外の様々な小さい
要因もあるが、この一ヶ月の間にひたすら溜め込んだやり場のない怒りが、無防備に彼の前に姿を見せた瑞希に対して
向けられていた。彼女は自分を拒否した。この上も無くはっきりと嫌いだと言った。なのにどうして今更、自分の前に出てきたのか。
あまつさえ何でも言うことを聞くなどと言えば、こうなることは火を見るより明らかだったろう。
本当は、龍司には今こうして彼女を抱くつもりなど今際の際まで全くなかった。一度拒否された以上、もう彼に瑞希を抱く
勇気はなかった。鍵を返したのもそのためだった。無理に抱くにはもう愛しすぎていた。無理に抱いてしまったら、自分が
傷つくだけだ。余計に嫌われる。余計に苦しい思いをさせる。今ではそれはそのまま、龍司にも苦痛として跳ね返ってくる
ものだった。
彼女をもう二度と抱けないと思った時、龍司が取れた行動は、彼女に二度と会わないことだけだった。二度と顔をあわせなければ
忘れることも出来るだろうという、今にして思えばまったく無意味な行動をとり、そのまま謹慎に入った。
しかしその思惑はあっさりと外れた。むしろ失敗と言って差し支えない。暗い部屋で一人でぼうっと考え事をする時、仕事のことや
叔父のことに混じってたびたび顔を出すのは瑞希のことだった。そして思い出すたびに、彼女と何を話し、何をしたかが鮮明に
蘇ってきた。それらは瑞希を諦めたつもりの彼にとって拷問に等しかった。一度手に入れながら自ら手放してしまったそれは、
欲しくても手に入らないものよりずっと激しく彼を苛んだ。
「やあぁ、あ、あああああっ、あ」
一突きごとに瑞希の絶叫に近い泣き声が響き渡った。その悲鳴に自分の内臓が抉られるような心地を味わいながら、それでも龍司は
腰を打ちつけた。
龍司が一番最初に彼女を奪ったとき、彼女は処女だった。それも無理に奪ったのだから、苦痛は相当なものだっただろう。それは
本来なら彼女自身が選んだ相手に捧げられるべきもので、彼女の意思を無視して自分が横から攫うような真似をしていいものでは
なかったと思う。
「あ、ああっ――――あっ――――」
泣き声の響きが変わってきた。熱が籠もり、艶掛かって甘く高くなっている。組み敷いたとろんとした瞳が虚ろに宙を泳いでいる。
明らかに感じ、この陵辱を受け入れてきている。絶頂が近いようだった。もう痛みは全くといっていいほどないのだろう。そして
反比例するように快楽を得ている。耐え切れないほどの快感を流し込まれ、彼女は全身で啼いていた。この抱かれるという行為に
対して精神的にはともかく少なくとも身体的には抵抗をなくし、龍司を受け入れ始めている。
しかし今の龍司にはそれすら厭わしかった。無理に奪い、しかもそれを幾度も繰り返して慣れさせていったことを、今度こそ彼は
後悔した。
今の龍司は彼女を陵辱した人間であると同時に、彼女を愛する人間でもあった。彼女がいかに辱められ、苦しんで処女を
失ったかを、彼は目の前で見ている。その後彼女がこの行為に慣らされていく過程も決して彼女が望んだものではない。
彼女を愛してしまった龍司にとっては、それは悔しく苦しいものだった。また、ありえない仮定ではあるがもし彼女と
正常なこれからがあったとして、それは既に彼女との様々な初期の過程を既に失ってしまったものになるだろうということが
想像できた――彼女を愛して初めて認識を始めたこれらの事柄は思っていたよりずっと深く彼を傷つけた。
そしてそれらは全て、自分自身が引き起こしたことだった。彼にはそれが何より苦痛だった。
それでも、龍司は彼女が欲しかった。この一ヶ月で自分の持てるほぼ全てを失った彼は、確かなものが欲しかった。
足場がなければ自分で立つことすらできない。
そして目の前に瑞希が出てきた。彼に選択の余地はなかった――どれだけ傷つけようが、傷つこうが、
龍司にはもう彼女しかいなかった。
瑞希は失神寸前の表情で揺さぶられていた。がくがくと痙攣しうわ言のようにひたすら「あ」の音だけを発音している。龍司は
壊れかけた様子の彼女をいっそ壊してしまおうとがむしゃらに突き上げた。
壊れてしまえば、彼女はもう何も考えず、自分の傍にいてくれるだろうか?
「あ、あ、あぁあああああああああああ…………!」
断末魔の叫びにも似た声を上げ、瑞希は絶頂を迎えた。
身体を引き裂くほどのオーガズムに翻弄され、その身体はそれを忠実に反映した。四肢は伸び切り、硬直した腿は彼の腰を
挟み込んで締め付けた。腰が押さえつけられているために肩や頭をテーブルに打ち付けるかと思うほど激しくしならせ、
おとがいを限界まで逸らして、啼く。
その表情に、今この瞬間だけでも求められているのだという昏い歓喜が込み上げ、彼は彼女の中に思いの丈を注ぎ込んだ。
焼け付くような熱さで絞り上げられる中、最後の一滴まで彼女に捧げようと、腰を限界まで深く沈ませる。
そうしたまま、何分か経っていたかもしれない。ようやく自我が戻ってきた頃、衝動的な行為によって得た快楽はすぐに
激しい後悔に変わった。引き抜くと、自分の行動によってもたらされた結果を視界に入れる。
ありていに言って、惨状だった。テーブルの上にはぐしゃぐしゃになったバスタオルが一枚だけで、そのほかに硬質のテーブルから
か細い少女の身体を守るものはひとつも無かった。それも言わずもがなの液体がべっとりと纏わりついて汚されている。彼が、憤りと
欲望を一方的にぶつけた少女は完全に気を失っていた。自分の意思に反して乱され尽くした身体をテーブルの上に投げ出している。
脱力した脚の間には紛れも無い彼の欲望の証が流れ落ち、濁った水溜りをつくっていた。彼はそれらをある種の諦観を持って眺めた。
どうせ自分などこの程度の人間だ。
嵐のように激しい感情の後に残ったのは、後悔と自分に対する嫌悪感と、彼女に対する歪んだ愛情だけだった。
「……」
身体が勝手に動いた。瞼を閉じきってぴくりとも動かない彼女を抱き上げ、抱き締める。細い身体が力なく彼に身を預けた。
「ごめんな」
聞こえていないだろう謝罪の言葉を口にする。しばらくの後、軋んだ歯と歯の間からその言葉が漏れた。
「好きだ」
一生告げるつもりの無かったその一言が、本当は告げたくて告げたくて仕方なかったものだったと、彼は今になって気が付いた。
一度口に出してしまうと止まらなかった。間違ってひっくり返した瓶から際限なく砂が零れるように感情が噴出した。
名前を呼ぶなといわれても、もう無理な話だった。
「瑞希」
理性のたがが外れたかのように、彼は何度も何度も彼女の名前を呼んだ。
「好きだ。同情だろうが身体だけの関係だろうが、ただのごっこ遊びだろうが、もう何でもいい……俺の傍にいてくれ、瑞希」
自分でも自由に取り出せない心の底のさらに底の本音の部分が、ようやく彼の意思に従って顔を出した。――遅すぎた、と
彼は痛切に思った。こんなに彼女を傷つけた後で、何を言ってももう足りるものではなかった。
気を失っていたようだった。
朦朧とした意識の中でわずかに瞼を押し上げた時、彼女は夢現にその言葉を聞いた。
「――――」
腕の中の瑞希が微かに動いたのを感じて龍司はわずかに身体を離した。急に心臓が締め付けられるように痛んで、彼の腕が緩んだ。
怖いと思った。もし彼女がこの告白を耳に入れていたとしたら、今すぐにでもこの場を逃げ出してしまいたかった。散々陵辱した
その後で「好きだ」などと告げて、彼女の立場をまるで無視した自分の言葉が一体彼女にどう届くのかを想像して彼は怯えた。
彼女が虚ろな瞳を上げた。その視線が自分に固定されるのを感じて彼は恐ろしくなり、瞼を閉じた。
と、突然両頬に小さな手が掛かり、龍司は完全に虚を突かれて目を開けた。
唇にあまやかな圧力が乗った。小さな柔らかいそれはすぐに離れた。目の前に、視線を合わせるようにして、瑞希の顔があった。
その表情は夢から覚めた夢遊病者のように、青ざめてはいたがはっきりとした思考を持った人間のそれだった。
瑞希は彼の首に腕を回し、その頭をかき抱くようにして抱き締めた。
「……謝らなければいけないのは私だわ……」
耳元で声が囁かれた。
「嘘をついてごめんなさい……」
何を、と反射的に尋ね返そうとした直前、吐息のような声が言った。
「貴方が嫌いなんて本当は嘘……」
「――」
その台詞に、咄嗟に彼女の顔を見ようと身体を捻ろうとし、そして強く抱きついてきた腕にその動きを阻まれる。
瑞希は、龍司とは逆に、今の自分の顔を見て欲しくないと思っているようだった。それを感じ、龍司が瑞希の動きに逆らわない
ようにすると、その腕からは目に見えて力が抜けた。
「自分をちゃんと見て、考えていればすぐにわかったことなのに、考えるのが苦しくてどうしようもなくなって、
考えるのをやめてしまったの……」
彼女はかすかな声で訴えた。もともと体力的には限界なのだろう、やっとのことで龍司にすがり付いているという様相だった。
「鍵を返してくれた時の貴方の顔を見たとき、私、すごく怖くなった……鍵が戻ってきて、もう来ないって言われて、やっと貴方から
解放されたってわかったのに、良かったとも嬉しいとも思わなかった。何故なのかずっとわからなかったけど、やっとわかった。私、
貴方が好きなんだわ。だから貴方が私をどう思っているのかわからないまま抱かれるのが、いつもとても怖かったの」
今にも意識を手放しそうな力ない様子ながら、彼女はそれでも話すことをやめなかった。
「酷い事を言ってごめんなさい……」
彼女は涙声になっていた。
「貴方の事を好きだって認めたくなかった……だって認めてしまったら、私」
「もういい」
狂いかけるほど好きな相手に告白されたことより、彼女の身体が今にも倒れてしまいそうなほどに力の無いことが気に掛かり、
龍司は言い募る彼女を制してとにかくその髪を撫で、落ち着かせようと躍起になった。
「もういい。何も言うな。お前は何も悪くない」
彼はその言葉をひたすら繰り返した。
「疲れただろう。だからもう、眠れ」
「……」
首に回された手から完全に力が抜け落ちた。すとんと、崖から落ちるように眠りに落ち込んだ身体を咄嗟に抱きとめる。
彼女の頬にはまた涙が伝っていたが、憂慮の取り除かれた安らかな寝顔をしていた。龍司はその表情と交わした会話に実感がわかず
しばらくその姿勢のままでそうしていたが、やがてふと口元に手をやり、まるでたった今ファースト・キスを体験した中学生のように
赤面した。そういえば、彼女からキスをされたのは初めてだった。
わずかに姿勢を変えて腕の中に完全に彼女の身体を収める。と、彼女の頬に差す熱に初めて気付きその額に手をやってみた龍司は、
泡を食ったように彼女を抱えて立ち上がった。
214 :
8838:2005/11/29(火) 22:57:31 ID:HhzEAk2l
まあそのなんと申しましょうか。
いつもいつもいつもいつも長文スマソorz
やっと!やっとくっついたよGJ!
どうかもうこれ以上二人を痛めつけないでやってくださいと思いつつ、
でも波乱がなかったら終っちまうよと複雑な心境ですw
しかし8838氏の作品を呼んでいると動悸が激しくなって体に悪いです……
耐え切れず飛ばし読みをしてしまったことを深く謝罪しつつ読み直してきます
うわーっ!キタキタキタキタキタ――――!!!!!GJ!
ああ、途中すっごい切なくてハラハラしっ放しだったけど、最後に
ホッとしたよ。
幸せになってくれよ…
龍司…可愛いな。
GJ!神よ・・・
嗚呼…… この神は一体何なんだろう
練り込まれたストーリー、人を引き付ける文章力
そして「人間」龍司と瑞希の心情
こんなに才能溢れるお方に会えるとは思いませんでした
8838神は作家デビューをお勧めします
では最後に
Good Job!!
キターーーGJGJGJGJ!!!!
相変わらずの神っぷり。
何度いっても足りませんがありがとうありがとう!!
切なすぎる二人の気持ちがやっと通い始めたーー!
瑞希ぜひ幸せになってほしい。
途中ははらはらドキドキでしたが、結局は結ばれて良かったです。
後、気になるのは瑞希は養子になるのか、龍司はこれからどうなるのか、ということです。
それとこれは自分の思い過ごしかもしれませんが、
傘をくれた女が悪いやつには思えません。俺だけかな?
とにかくGJです。素晴らしすぎました!続き待ってます。
GJ!いつもとても楽しみにしてます
ただひとつだけ、この話が好きなのであえて言わせて下さい
細かいことではありません
人それぞれ流儀があるので余計な世話になるかもしれませんが
余韻を感じることができればさらにいい作品になると思います
何もかもを説明しすぎです
めりはりを利かすべきです
そうすれば読む時の“しんどさ”が和らぐと思います
続きを楽しみにしてますね
毎度毎度GJです。
次回は龍司の瑞希看病物語…?
いや、また一週間後にとぶのかな。まだいろいろ揉めそうですが。
楽しみにしてます。
>>220 彼女は大人女なんだろうと思う。
主人公カップルとは違う場所にいて自立してる人なのさ。
師走に入ったな〜
龍司ー!!
アンタ、アンタってやつは・・・うう泣
SSというよりも一編の小説ですよ。
文構成だってこれからどんどん進化できますよ。楽しみです。
がんばってくださいまし。
そして
>>218さんのゴッドファーザーズも楽しみっすよ。
・・・・投下まだかな〜
ワクワク
投下待ちです。
保守に短篇ぼっとん投下。
中途半端なエロは妄想で補って下さい…
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
お風呂場で、楽しそうに洗濯してる人を、扉の影から、私は見守る。
いえ、見守るというより睨みつけてる。
「リディ、湯冷めするぞ?部屋にいろよ」
「お、お願いだから、私のものは自分で洗濯させて!」
私は、さっきから幾度となく繰り返している、台詞を吐く。
「遠慮すんなってー」
私の懇願も、お構い無しに、ホークは籠の中から白い布を取り出す。
「…!待って、それだけはっ」
腕にしがみついての抵抗も虚しく、白い布…私の下着は洗濯桶に沈んでいく。
「ほら、あまり近くにいると、水が飛ぶぞー」
ニヤニヤと笑う顔は確信犯だわ…
昨夜、嬉しくも私たちはいわゆる恋人同士と、なれたわけだけど…
泊まる事など、少しも考えてなかった私は、着替えなど持ってきてなかった。
しかも、下着には染みが…
朝(とゆーか、お昼だ)起きてから、交替でお風呂に入った。
部屋に戻ったホークは「洗濯する」と言って、籠を手に散乱する
服を拾い集めた。私の下着まで。
下着を、しかも染み付きのそれを、見られるだけでなく触られるなんて!
…恥ずかしさで死ねる。
そして、必死の制止も軽くかわされ、今に至るのだけど…
「こら、放しなさい」
「いや」
「てゆーか、離れて…。当たってる」
「え…?あっ!」
私はホークの腕にしがみついていた。胸を押し当てるように…
恥ずかしくなって、慌てて離れる。
「…リディちゃん、誘ってる?」
「はぁ!?」
そのからかうような笑みに、反射的に逃げようとするけど捕まり、
壁際に押しつけられた。
「いきなり、なに?」
内心ヒヤヒヤしながら聞くと、ニヤけた顔が近付き口付けされる。
必死にホークを押し退けようとするけど、侵入して来た舌に、力が奪われる。
抵抗が止むと、すっと唇が離れた。
「だって、可愛いから…」
真っすぐに見られながら、紡がれる言葉に私は何も言えない。
腰が引き寄せられ、耳に暖かいものが触れた。
「やだっ…」
精一杯顔を背けて抵抗する。
今はまた、ホークの寝巻を借りている。
けど、下着はさっき洗濯桶に沈んだばかり…
つまり、ズボンの下は何も履いてない。
「また、汚れちゃうよ…」
言ってから、後悔した。
もう濡れてます、って宣言してるようなものだ。
「洗えばいいよ」
嬉しそうな笑いを満面に湛えたホークは、私の片足を持ち上げ、
そのまま足の間に彼の膝を擦りつけてくる。
いつの間にか上着のボタンは外され、差し込まれた大きな手が、
直接胸を触る。
「洗いざらしの髪って、色っぽいな」
耳元で低い声がし、舌で耳を弄ばれる。
「ふっ…あ…んんっ…」
息は上がり、ホークの膝の動きに合わせグチュグチュと音が響く。
…寝巻のズボンは、もうビショビショだ。
例え洗ったとしても、こんなに自分のが染み込んでしまった物を、
ホークが着るなんて耐えられない…
なのに、その事を思っただけで、体が熱くなり更に溢れさせてしまう。
体全体が震え、片足で立つのがつらい。
片足を抱える力は強く、振り払えない。
「…やっ…もう、むり…」
「逃げない?」
こんな状態で、逃げられるわけが無い。
必死に頷くと、ホークの体が離れ、私は崩れるように座り込む。
床の水気でズボンが冷たい。
ホークはしゃがんで、楽しそうに私を見ている。
「続き、いい?」
ここまでされて中断なんて、無理。
うまく乗せられたなー、と思いつつ私は頷いた。
「後でリディも洗ってやるから」
「…すけべ」
なんとか、それだけ悪態をつき、私はホークに身をゆだねた。
ーendー
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今月中には、もーちょい長いのを落とせるかと。では。
短編だけど読み易くてグッドです
短編も素晴らしいです!
「もーちょい長いの」も楽しみにしてます。
司さんてクリスマスにラストだけど間に何にもはいらないのかな?
一つ質問なんですが、【刀に袴】男装少女でなりきり4【学ラン】にいる司さんは
ここに投下してくれてる人と同じ人なの?
>227
GJ!
リディ視点可愛すぎます。
長いの待ってますよー!
>230
それまでに入れたかった話はあったけど重いし暗いし筆が進まないのであきらめました。
クリスマスまでお待ちを。突発的に書けたら投下しますが期待はせずに。
>231
中の人のことはお教えすべきではないのでこれを
つ【ヒント:鳥】
>>232 不躾なことを聞いてしまって申し訳ないです。ヒントをありがたく頂戴し
理解できました。
最後に一言。クリスマスのリアルタイム投下、楽しみにしてますよ!
234 :
名無しさん@ピンキー:2005/12/05(月) 02:31:15 ID:5I1jPujo
投下が止まってしまいましたね。誰か職人さん、投下してくだせぇ〜。
プロジェクトXで宝塚のベル薔薇やってた
男装の麗人もいいよなぁ
なんだかんだで10代の少女がほとんどだし、20代カモン!
237 :
名無しさん@ピンキー:2005/12/07(水) 12:12:57 ID:dPoIlHD8
「・い・・お・・い、お〜い、居るんでしょ?居るんだったら早く開けてよ。今日11時に家に行くって約束したじゃんか〜。早く開けてよ、こんな暑い中立ちっぱなしだったら死んじゃうって、ねぇ、ねぇ!」
蝉が鳴き、近所の悪ガキ達の遊ぶ声が聞こえてくるそんな夏の昼。俺は、安普請のアパートのドアを突き破りそうな、ノックの音で目が覚めた。
ふと時計をみると、11時半。国民の半分はまだ寝ている時間だ。「約束ぅ?約束は破るためにあんだろうが・・・」
そう不機嫌そうに一人呟きながらも、「もう少し待ってろ!今入れてやるから!」と、とりあえず怒鳴って返事をする。ふと隣を見ると、女が裸で寝ていた。
・・・そうだ、昨日ナンパした子家に連れ込んで、夜中中ヤりまくってたんだっけ。道理で体がダルいはずだわ。・・・
少し待ってろと言われ20分が経った。この部屋の中の時間は狂っているらしい。すっかり茹で上がってしまった頭で、そんなことを考えていると、やっとドアが開いた。
「遅すぎるんだよ、ボケェ!殺すきか!」
そう言いながら僕が部屋に入ると、まだ奴は女の子と楽しそうに喋くっていた。
「いや〜、昨日は楽しかったよ。体が疼いたらまた来いよ」
「んじゃ、明日また来る〜」
「まったく、君はHだなぁ〜」
「やめてよねぇ〜、そういうこと言うの・・・・嬉しくなっちゃうじゃない!」
僕の存在を、二人はまったく認識していないらしい。しかしこれ以上このド低脳な会話を聞いてると、こっちの頭までイかれてくるので、わざとせきをしてやると、女の子は、やっと気づいたようだ。顔を赤くしながら奴に「じゃあ、またね」と言うとそそくさと帰っていった。
「いや〜、久しぶりだけど相変わらずのプレイボーイっぷりだね〜。いやプレイガールと呼んだほうが正しいかな?」
「うっせ〜な〜、ったくお前のせいでせっかくの上玉を帰さなくちゃいけなくなったじゃねぇか、これからあんなことやこんなことするのを楽しみにしてたのにぃ〜」
と髪の長さは、ショートカット、目元は気の強さを表すかのように、きりっとした女性・神無月響はそういって、さっきまで死にそうな顔をしていた男・瀬戸涼の顔を恨めしそうににらめ付けた。
そう俺・神無月響はこんな姿、言葉使いをしてはいるが女なのだ。ちなみに周りには俺が女だってばれると面倒だから、龍二と名前を偽っている。中学の終わり頃から男装をするようになり、男の子ではなく女の子が好きになっていった。
んで高校生活は完全に男として過ごし今に至る。
涼二は昔住んでいた家の隣に住んでいた幼馴染で、中学の終わり頃から男装をするようになったせいで、周りから人が離れていった中、
普通に接してくれた稀有な存在。まあ姉一人しか居ない俺にとっては弟のようなもの。
「え、僕との約束は?」と涼が聞いてくる。
「んなの、オラシラネ」
「はぁ〜ぁ、んであの子はどこで捕まえてきたの?」
「いや〜、昨日クラブに行ったらいかにも『ナンパ待ってますよ~』てな感じで一人でいたから、家に連れてきてさ、
んでナニするとき俺が女だってわかったら、最初は嫌がっていたけど、三回くらいイかせてやったら向こうから求めるようになったわ。」
「怠惰な生活ここに極まれりですな、ってまたラッキーストライクなんて吸ってる〜!仮にも女の子なんだからそんなの吸ってちゃ駄目でしょ」
「いいじゃん、別に〜。ジョニー・サンダースもフランク・ザッパも吸ってるし、カッコいい男の基本だよ、ラッキーは。つーかなに?お前は、俺に説教しにきたの?」
そういうと、涼はいきなり座っていたソファーから立ち上がり、近くに来て「いや大事な事を頼みに来たんだ」と真顔で言った。
「響姉ぇ、サックス相当上手いよね?」
「う、うん。まあね。」
「聴いてる音楽の趣味、僕とかなり似てるよね?」
「う、うん。つーか俺がお前にCD色々かしてやったんだし・・・」
「んじゃあ、大丈夫かな〜、でも断られそうだしな〜。」と涼がブツブツ言い始めた。
「なんだよ、言いたいことあったら言わなきゃだめだぞ」
「んじゃ言うね、ひ、響姉ぇ僕のバンドに入らない?・・・じ、時間がなかったりしたらいいんだよ、別に無「やるぞ」」
「へ、今なんと?」
「二度も言わせるなよ、やると言ってるんだ。ちょうど最近暇だったし。」
「ホントにやってくれるの?」
「ホントだ。」
「ホントのホントに?」
「ホントのホントのホントにだ!いい加減しつこいぞ!」
途端に、涼は、嬉しそうに、顔をニンマリとほころばせた。
「マジで!?決まりだよ!いまさらなしっつても駄目だかんね〜」と言いながらまるで子犬のようにハシャギ回る涼。
「つーか何でそんなに嬉しがっているんだ。俺なんかに頼らなくても、他に候補は沢山居たろ?」
「いやね、僕達のバンドこれまで4人でやってきたんだけど、音楽性の変化からサックスを取り入れることにしたんだ。
でもまったく人が見つからなくてさ。んでそういえば、響姉ぇがサックス上手かったし、趣味も合うなって思い出して、駄目モトであたってみたわけ。
いや〜よかった、よかった〜!」と言い涼は、俺の手を握り嬉しそうに、振り回す。
「んじゃ、僕もう帰るよ」
「なんだ、もう帰るのか?」
「うん、他のメンバーに早く伝えなきゃいけないしね。ん?響姉ぇ、もしかしてさみしいの?}
「うっせーな、早く帰れよ」と言いながら、涼を玄関まで見送る。
「んじゃ、響姉ぇ、今日はありがとね。明後日空いてる?みんなに響姉ぇ、会わせて、スタジオにも入りたいんだけど・・・」
「うん、空いてるぞ。」
「んじゃ、明後日の11時に迎えに来るから、約束忘れないでね!」
「俺は約束は守るほうだぞ」
「信じられないなぁ〜、んじゃ、こーゆー時昔からしてたアレやろ」
「あぁ」
そう言い、俺たちは小指と小指を合わせ、指切りをし始めた。
『ゆ〜びき〜りげんまん、う〜そついたらはり千本の〜ます、ゆ〜び切った』
「それじゃあ、明後日ね!」と言い涼はアパートの階段の手摺りを滑り降り、ゴキゲンに鼻歌を歌いながら帰っていった。
その後ろ姿を見ながら俺は、あふれ出る喜びを抑え切れなかった。こんな変な性癖がある女、普通なら避けるものだが、響姉ぇ、響姉ぇと懐いてきてくれ、バンドにまで誘ってくれた!
今夜は一人パーティーだな、キムチ鍋でもしようか。などと考えながら俺もゴキゲンに鼻歌歌いながら部屋に戻って行った。
240 :
名無しさん@ピンキー:2005/12/07(水) 12:16:36 ID:dPoIlHD8
初めて書いたので色々至らない点があると、
思うのですみません。
すみません、sage忘れました
sage忘れ以外はGJ!
あとは涼の視点は無しの方が分りやすいかも。
二人称から一人称に、とくるくる視点が変わるとわかりにくい。
しかし今までにないタイプ!
続き楽しみにしてるよー!
新しいヒト来た〜!
視点が変わる時は、一行開けるかなんかした方が、わかりやすいかもです。
にしても、GJ!
響も涼も、かあいいぞー!!
こういう仲良しさん達は大好きです。
続きも楽しみにしてますね。
なんか久しぶりにラッキー吸いたくなったなぁ。
普段はセブンスター(レボ)の女ですがorz
新しい職人キターーーーーー!
がんがれがんがれ
続き楽しみですぞ
らんらん
新しい方ですか。GJです!とても続きの気になります。
頑張ってください!!
それとすでに何人かが指摘していることですが、視点が変わっているのが
少し分かりづらいので、そこを次回では上手く修正していただけるとありがたいです。
まあなんにしてもGJです!
246 :
狂介と有紀:2005/12/08(木) 02:06:02 ID:7iY7wq7W
【久々ですが投下行きます。】
「プレゼント、なにがいいかな・・・。」
『プレゼント』
狂介は悩んでいた。有紀の誕生日が明日に迫ったのだがプレゼントに何を送るかで
結局、前日まで何も出来ない状態に追い込まれてしまった。
「女の子っていったい何がほしいモノなんだ?」
人から物は奪うが挙げる貰うと言った経験がほとんど無い狂介はプレゼントひとつ
満足に選べないでいた。
「わからん・・・・ウーン・・・」
これが親兄弟ならば福沢諭吉の一枚や二枚を直に渡せば目を¥マークや$マークに
変えて飛びつくから簡単なのだが、大好きな子、しかも女の子にあげるものなんて
考えたことが無かった狂介は目星もつかずに唸るだけだった。
「しょうがない、誰かに参考までに聞くか。」
人を頼りにしたくない、と言うか有紀へのプレゼントと知られて冷かされるのを
ウザく思っていた狂介は人に聞くのを拒んでいたが、実際ここまで何も考えつかなかった
以上、ヘタな意地を張るわけにも行かないといろんな人にプレゼントの参考を聞くことにした。
[山崎家]
「兄貴いるかー?」
「あっ、狂介君。ご主人様は今お仕事でいないよ。」
兄の正樹の部屋には以前”色々あって”自分の義姉になった萌(旧姓:天王寺)がいた。
当然衣装は巫女さんだ!!
「マジで・・・じゃあ・・えっと・・・義姉さん?」
「萌でいいよ。」
「じゃあ萌さん、ひとつ聞きたい事があるんだけど。」
「私で役に立つなら。なに?」
正直なところ面と向かって話すのはこれが始めての狂介と萌。
「女の子ってさ・・・プレゼント貰うなら何がいいもんなの?」
「・・・もしかして有紀ちゃんに?」
「グハッ!!」
いきなり核心をコークスクリューでブチ抜かれた。
247 :
狂介と有紀:2005/12/08(木) 02:07:00 ID:7iY7wq7W
「まあ・・ね・・。」
しどろもどろになりながらも返事を返す狂介。
「一概に何がいいとは言えないよ。本人じゃないんだもん。」
「・・そりゃそうだ。」
「でも大切なのは、何を貰うかよりも誰から貰うかだと思うよ。
狂介君から貰ったものなら有紀ちゃんは何でも喜ぶと思うな。」
「それは実体験からですか?」
「モチロン!!」
ちゃっかりノロケられていた狂介。
「うん・・わかった。サンキューね萌さん。」
「いえいえ。」
[学校]
「そういえば今まで有紀に何あげてたっけ?」
狂介は過去に有紀に贈ったプレゼントを思い返した。その頃は有紀を男と思っていたので
特に何か考えて送っていたわけではないのだが。
小学校の頃:ゲームソフト(中古)
中学校の頃:DVD(18禁)
去年:アキバで購入した同人誌や同人ゲーム(中古で18禁)
「ヤベェ、俺って最低ジャン」
何を今更・・・
「うるせー殺すぞ作者!!」
どうもスイマセン。
248 :
狂介と有紀:2005/12/08(木) 02:08:11 ID:7iY7wq7W
「本当・・・何やってるんだか・・・。」
今思えば本当に何を送っていたんだというラインナップに狂介は頭痛と目眩を覚えた。
「先輩!!」
「ん? 園太郎じゃないか。」
後ろから声をかけられ振り向けば園太郎がいた・・・そしてその隣に。
「あれ? 君は確か?」
「このあいだは・・・ドウモ。」
まえに告白してきた下級生、田中詠子がいた。
「ん?あれ? もしかしてお前ら・・・」
「そのまさかと思ってください。」
詠子と手をつないで満面の笑みを浮かべる園太郎。
「へぇ〜・・いいんじゃない?お似合いだと思うよ。」
「当然ッスよ。」
「ありがとうございます。」
イケメン化して以来、自己主張が強くなった園太郎と恥ずかしげにうつむく詠子。
「そうだ園太郎。ちと聞きたいんだけど。」
「なんでしょう?」
「彼女に何かあげるとしたら何をあげる?」
「そりゃモチ自分にリボン巻いて『俺を食べて』って・・」
「なにいってるのバカ!!」
そう言いながら園太郎の胸板をポカポカ叩く詠子。
「痛い、痛いって叩くなよ・・・。」
ここでもノロケられてしまった狂介。
249 :
狂介と有紀:2005/12/08(木) 02:09:20 ID:7iY7wq7W
「もういい・・・」
「あっ、スイマセン先輩。参考になるか分かんないッスけど直接
聞けばいいじゃないッスか?南先輩に。」
「そうだけど・・・って、オマ・・エ・」
「狂介先輩が他人に物をあげるって行ったら相手は決まってるじゃないッスか。」
「テメェ・・・まあいいや・・アンガトね」
「いいえ。」
狂介は足取りも重く去っていった。
「ねえ、園太郎。山崎先輩と南先輩って・・・ホモ?」
「はぁ?何言って・・・あぁ、そうか詠子は知らない派か。」
「?? どういう事?」
「口で言うのもなんだから・・・」
園太郎は懐から抜き出した拳銃を上に向けた。
「秘技 スレタイ落とし!!」
園太郎が発砲したと同時に上からスレタイが落ちてきた。
つ【男装少女萌え】
「こういう事。」
「男装・・・って・・えぇ!!」
田中詠子、自分がいる世界の根源に触れる。
250 :
狂介と有紀:2005/12/08(木) 02:10:36 ID:7iY7wq7W
それからも狂介は手当たり次第に聞いて回った。
藤澤「大人のおもちゃは?ローターなりバイブなり。」
狂介「氏ね!!」
升沢「前にも言ったけどオマエさんがおしゃぶり咥えて赤ちゃんプレイ・・・」
狂介「氏ね!!」
結果は散々だった。
「人に聞いても成果は無いなぁ・・・」
結局、これといって参考にならなかった狂介は近所のデパートへと足を向けていた。
「んーーーー・・・・・。」
地下食料品売り場から7階催事場、4階迷子センターにまで足を伸ばし
店員「ちょっと君、なにしてんの!?」
ちゃっかり怒られた。
「全然だ・・・本当に困った。」
一通りデパート内を回り終えた狂介はふと足を止めた。
「ん?ここは?」
狂介が今いるのは家電製品売場。
「別に家電なんて・・・・ん?」
狂介の目にあるものが飛び込んだ。
「・・・・・・・・・・・これだ!!」
そのあるものに狂介はガッツポーズを向けた。
251 :
狂介と有紀:2005/12/08(木) 02:11:58 ID:7iY7wq7W
〜次の日の夜〜
「はぁ〜・・・」
有紀は自分の部屋でため息をついていた。今日は自分の誕生日、黙ってはいたが狂介からの
プレゼントを有紀は楽しみにしていたのだった。
しかし、狂介は朝から学校にも姿を現さず、家を訪ねても留守との事、
結局狂介に会える事が出来ずに一日が過ぎようとしていたのである。
「狂介・・・」
家族や同級生、知り合いなどにたくさん祝いの言葉を言われた。だが、肝心の狂介からは
まだ「おめでとう」と言われていない。寂しさと悲しさが有紀の心を襲った。
コンコン
その時、部屋の窓が叩かれた。
「なんだろう?」
有紀が窓に向かいカーテンを広げると・・・
「よっ!!」
「狂介!!」
窓の外のサッシにしゃがみこむ様に狂介は佇んでいた。
「邪魔するよ。」
狂介はそのまま部屋の中に上がりこんだ。
「時間は・・・11時半か、ギリギリだね。」
「狂介、今日はいったいどこ行ってたの?」
丸一日姿を見せなかった狂介を不安に思いながら有紀は狂介に尋ねた。
252 :
狂介と有紀:2005/12/08(木) 02:13:07 ID:7iY7wq7W
「人には言えないところに・・・ちょっとね。」
「ちょっとって、僕心配したんだから・・んっ」
次の瞬間、有紀の口は狂介の口に塞がれていた。
「ゴメンな。だからコレをお詫びに・・・」
そういって狂介は抱えていた小さな包みを有紀に渡した。
「何なのこれ?」
「あけてみて。」
そう促され有紀は包みを開ける。
「あっ、これ・・・。」
中にはサイズは小さいが丁寧に彩られたケーキが入っていた。
「気に入ってもらえると嬉しいんだけど。」
「まさかコレ狂介が・・・」
「慣れない事はするもんじゃないな。」
見れば狂介の指はバンドエイドだらけだった。
「もっとでかいのを作るつもりだったんだけど失敗に失敗を重ねたら
それ一個作る分しか材料が無くなってさ。いやマイッタマイッタ。」
冗談めかして笑う狂介。
「んっ・・くぅ、うぅ・・・ふぇ・・・」
「え?オイ有紀、何で泣いてるの?」
有紀の目には涙がたまり、身体は震えていた。狂介は何がなんだか分からず焦った。
「もしかして、コレじゃ嫌だった?ゴメン、じゃあ何か他のを・・」
「違うの!!嬉しいの!!」
「有紀。」
「狂介が僕のために・・・凄く・・・凄く嬉しい。」
253 :
狂介と有紀:2005/12/08(木) 02:14:44 ID:7iY7wq7W
「そっか、気に入ってもらえて良かった。」
何も嫌だったわけではないと分かり狂介は安堵のため息を漏らした。
「本当にありがとう狂介。」
「いえいえ、じゃあ改めて・・・誕生日おめでとう有紀。」
「狂介・・・僕嬉しい。」
「ハハ、そう言って貰えて俺も嬉しいよ。」
「ところで、このケーキ食べてもいい?」
「そのために作ったんだから食ってくれよ。」
「ウン。」
有紀は添えてあったフォークを使いケーキをつまんだ。
「あっ、ちょっと待った。」
そう言うと狂介は有紀からフォークを取り上げた。
「狂介?」
「はいアーン。」
狂介はケーキがのったフォークを有紀の口元に差し出した。
「ちょ、ちょっと狂介!!恥ずかしいよ!!」
「恥ずかしがって下さい。はいアーン。」
「あ・・アーン。」
顔を真っ赤にしながら有紀はケーキを口にした。
「お味はいかが?」
「お・・美味しい・・・とっても美味しいよ。」
恥ずかしがりながら有紀は顔をうつむかせて答えた。
「よかった〜。有紀にそう言ってもらえるのが一番うれしい。」
「もう・・・」
「はいじゃあ次、アーン。」
「も、もういいよ。一人で食べれるから。」
「今日の主役は有紀だよ。ご奉仕させてちょうだいな姫さま。」
「うぅ〜〜〜・・・。」
254 :
狂介と有紀:2005/12/08(木) 02:15:57 ID:7iY7wq7W
結局、最後の一口まで狂介の給仕でケーキを食べさせられた有紀。
「ごちそうさま。」
「おそまつさま。」
「恥ずかしいかったんだから。」
「ハハ。」
笑ってごまかす狂介。
「ねぇ、狂介?」
「ん?どうした?」
急に真剣な顔になる有紀。
「もうひとつだけお願いがあるんだけど・・・いいかな?」
「お願い? まぁ俺であげられるんならいいけど。」
「欲しいものがあるの。」
「なに?今すぐ買って来ようか?」
「大丈夫、そういうのじゃないから。」
「はい?」
有紀は真っ赤になった顔を狂介に向けた。
「めくるめく夜をお願いします!!」
狂介の脳内にある記憶の世界、その世界のファラオが理性と自制を生贄に召還を行った。
アテム「『なんだって隊』召還!!」
なんだって隊「「「「「「「なんだってーーーーーーーーーーーー!!!!」」」」」」」
255 :
実験屋:2005/12/08(木) 02:24:33 ID:7iY7wq7W
とりあえず以上になります。後半の「めくるめく夜」編は
完成次第投下します。
ちと遅くなりましたが神々の投下に正座中です。
>>8838様
ついに結ばれましたね。このまま幸せになることを祈るばかりです。
>>Xo1qLEnC.様
短編GJ!!です。可愛くてエロチックなリディ視点が堪らないです。
もーちょい長いのが楽しみです。
>>237様
新しい神、新しいタイプの作品。
続きが早くみたいです。
ダレモイナイ投下スルナライマノウチ
さて、久しぶりだから作者までどんな状況で終わったんだか忘れちまったいコノヤロウ!!
とりあえず状況整理のために今ユウタンが脱出しようとしている部屋の構造を再確認
まず今軍服に着替えたメイドロバに抱きしめられてバタバタともがいてる物体がユウタン
只今攻め側も気づいてないレズプレイ絶賛続行中
そのままの状態でTシャツとか次々に脱がされる哀れなユウ
つかメイドロバよ、おまい何故そんなに手慣れているのだ?
もしや現役ショタっ子のチェリーハンターとか実〇屋氏のドドガドン(だっけ?)の団員じゃ無いだろうなコラ
「ちょっ……
やめて下さい!! 怒りますよ」
腕力は強くともするりするりらと抜けて巧みに脱がすメイドロバのテクニックにはかなわない
「ダメねぇ……アナタはチャンポと違って物分かりが良いと思ったのに」
既に〇子さんモードのメイドロバ、顎に人差し指あてて考える仕草まで怖いから不思議だ
「ちゃんぽん? リンガー〇ット?」
おいバカ!! 他の事に神経持ってくなバカユウ!!!
「スキありっ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
艦長!! 上半身の全ての服が看破されました!!
現在その残骸は腕の辺りに万歳の姿勢を保つための拘束用具として机の足にくくりつけられてます!!
「もう完璧に逃げられないわよ…ジュルリ」
ま、また寝過ごしたorz
>実験屋氏
有紀たんお誕生おめでとう〜!
と、お祝いの言葉をGJに代えて。
続き楽しみにしてまっす!
>z1nMDKRu0s氏
>寝落ち
恒例恒例w 元気な時で良いんで、続き頼んます!
つーか、メイドロバが羨ましいっつーんじゃゴルァ―――!!!!
>>Xo1qLEnC.様
リディかわいすぎです。特にホークを脱がそうと意地になってるところが。
クリス始め、周りの面々もいい味出しまくってますね。GJ!
>>QKZh6v4e9w様(あえてハンドルで)
神!「ス・ロゼ」のストーリー性と個性の立ってるキャラ!「初夜」のエロさ!
>>aPPPu8oul.様
兄貴がマイペースでおたくだけどいいキャラしてますね。エルフものと和モノも楽しみにしてます。
>>185の司絵、中性的な美少年って感じですね。
>>z1nMDKRu0s様
ユウタンが、ユウタンがー!!!ロバメイドもとい剃刀女に剥かれるのか!!?
>>169 うわっ!でも、露出が低い分ヤスコよりマシ?でも、年齢が(笑)。
>>171の.Xo1qLEnC.様
わたしも風邪引いてたのに家族に思いっきり放置され、仕方なく、出かけてた親に電話して帰ってきてもらって
ようやく病院行ってインフルエンザと診察されたことがあります。そのときは流石に家族を恨みましたね。
>>実験屋様
積極的な有紀タン(*´Д`)ハァハァ 狂介次の日無事だったということはイムホテップに助けてもらったのでしょうか?
おい園太郎 お前エキストラだろ!!? なに幸せ掴んでんだコノヤロー!! GJ!!
z1nMDKRu0s様の台詞をパクらせてもらいました。更に。
へのへの顔のエキストラ→美形化&腹黒化→彼女Get&主人公格 (予定)
という見事な出世&幸せGETで美味しい奴だぜ園太郎ぅ!
DNhFr3L39M様の台詞もパクらせてもらいました。
やっぱりオチ担当の升沢もナイスですね。ほんとにコーヒーショップ開いたりして。後、娘の名前も気になりますね。
パソコン故障とは気の毒な・・。私も実家のパソコンが夏に壊れてしまったので・・。
>>8838様
紆余曲折の末、ようやく素直になれた瑞希と龍司、よかったなぁ・・。(つ∀`*)
傘をくれた女性は三週目のあの女性ですよね?
すっかり長くなってしまいました。私生活が忙しいので自宅でパソコン見ないでいたのですっかり間が空いてしまいました。
そんなわけで225までの感想で。それでも長い。あー大変(喜)。
260 :
名無しさん@ピンキー:2005/12/11(日) 00:18:51 ID:PMnBXlv/
職人さんカモーン!!
な ぜ あ げ る
こんだけ職人さんがいるんだからageたら逆効果だろ
投下キボンするならおとなしくsageろ
>>Xo1qLEnC.様
とても微笑ましくて乙です。長いのも楽しみにしてます。
>>237様
ヤングコミック系の大人びた雰囲気が新鮮ですね。涼と響がこれからどの様な関係になっていくのか気になりますね。
>>実験屋様
なんかどこもここもノロケで微笑ましいですね。そして一番ノロケてるであろう二人の「めくるめく夜」編も楽しみにしてます。
狂介が過去に有紀にしたプレゼント、園太郎の「秘技 スレタイ落とし」 、「『なんだって隊』召還の一連の流れとギャグも笑えました。
>>z1nMDKRu0s様
>寝落ち
同じく恒例恒例w ロバメイドこええなぁ。本当にもしかしてドドンガドンの団員なのか?
5スレ目145改めひょこと申します。
1ヶ月いなかったから覚えてる方がいるか不安ですが、投下致します。
未だエロ無し、また無駄に長い
『二重奏』第3話
映画館の前に着いて携帯の時計を見ると、10時48分を指していた。
だいたい10分前か、ちょうどいいくらいについたな。
館内へ入っていくカップル達の列と、その周りを見てみるがカナデと乃木さんはまだきてないようだ。
しかし、カップルが多いのはこの映画のせいなんだろな。
チケット売り場の上にある男女が描かれたポスターを見ながら考える。
その映画は感動できる恋愛ものとして大ヒット上映中の映画…らしい。
俺はそのポスターの隣にあるような、スカッとしそうなアクションものばかり見るのではなから眼中にない。
だが乃木さんが選んだ映画という事は、この恋愛ものだろうな。カナデもこういうのが好きそうだし。
いや、昨日乃木さんと話した感じではこっちのアクションものって可能性もあるな。
「ソウくん、おはよう!」
後ろから呼ばれて振り返ると薄手のセーターにロングスカートといった、おとなっぽい服装の乃木さんと、小学生がいた。
いや、カナデなんだが上はTシャツにパーカー、下はハーフパンツに白ソックス、スニーカーといった組み合わせなので小学6年生くらいにしか見えない。
「なあカナデ…その格好…」
俺の思わず出た呆れたような声にカナデは自分の服を見て恥ずかしそうにする。
「このパーカーお兄ちゃんのおさがりだから、やっぱりデザインが古いかなぁ?」
違う。恥ずかしがるところはそこじゃない。
学校でも小さいとは思っていたが、服装次第でここまでとは。
やっぱりガクランの力は偉大だ。
「カナデ、これからも学校にはガクランで通おうな」
私服だと迷子だと思われるかもしれないし。
肩を軽く叩きながら諭す。
「えっと、よくわかんないけどもソウくんもね」
頬を染めながら恥ずかしげに返してくる。
だから何故君は頬を染める。
「ほらほら、いちゃついてないで、中に入るわよ」
降りてきたエレベーターの前で乃木さんが俺たちを呼んでいる。
「あれ?ハコちゃん、エレベーター使うの?」
「当たり前じゃない、私4階まで階段で上るのなんて嫌よ」
「4階・・・?」
乃木さんの言葉にエレベーター横にあった、階ごとの作品を表示した掲示板を見てみる。
2階:件の恋愛映画とアクション映画、カップル供が階段にズラズラと向かっているのはこのためか。
3階:アニメ映画、親子連れの姿がちらほらと、あまりはやってないのだろうか?
4階:?…あーるしてい?
「乃木さん、何だか妙なマークがついてるんですけど」
「だから昨日、学生証持ってきてって言っておいたでしょ?」
真っ赤なインクが踊るようなポスターを指しながら、あっさりと言ってのける。
「にしても、なぜに年齢制限がつくようなホラー?」
「せっかく貰ったんだから勿体無いじゃない?」
「た、確かにタダならいいか」
そう自分に言い聞かせ、エレベーターに乗ろうとすると、袖を引っ張られる。
「あん?何だよカナデ」
振り向いてみると俺の袖を掴み、引きつったかのように固まっているカナデがいた。
どうやら、カナデも何の映画を観るのかを知らされていなかったようだ。
目の前で手を振ってみる。反応なし。
「おーい」
呼びかけてみる、反応なし。
仕方ないので、指で両わき腹を軽くなぞってみる。
「っひゃん」
との無駄に色っぽい声とともにカナデが再起動する。
「ソ、ソウくん!いきなり何するの!」
「いや、ただ気づかせようとしただけだが、どうする?怖いならやめとくか?」
どう見ても気の小さそうなカナデにはキツイ気がする。
するとカナデは俺と乃木さんの顔を交互に見て、言った。
「だ、大丈夫。2人と映画見たいから頑張る」
そうだよな、男なら女の前でビビってられないよな。実は俺も怖かったが、カナ
「だから昨日、学生証持ってきてって言っておいたでしょ?」
真っ赤なインクが踊るようなポスターを指しながら、あっさりと言ってのける。
「にしても、なぜに年齢制限がつくようなホラー?」
「せっかく貰ったんだから勿体無いじゃない?」
「た、確かにタダならいいか」
そう自分に言い聞かせ、エレベーターに乗ろうとすると、袖を引っ張られる。
「あん?何だよカナデ」
振り向いてみると俺の袖を掴み、引きつったかのように固まっているカナデがいた。
どうやら、カナデも何の映画を観るのかを知らされていなかったようだ。
目の前で手を振ってみる。反応なし。
「おーい」
呼びかけてみる、反応なし。
仕方ないので、指で両わき腹を軽くなぞってみる。
「っひゃん」
との無駄に色っぽい声とともにカナデが再起動する。
「ソ、ソウくん!いきなり何するの!」
「いや、ただ気づかせようとしただけだが、どうする?怖いならやめとくか?」
どう見ても気の小さそうなカナデにはキツイ気がする。
するとカナデは俺と乃木さんの顔を交互に見て、言った。
「だ、大丈夫。2人と映画見たいから頑張る」
そうだよな、男なら女の前でビビってられないよな。実は俺も怖かったが、カナデの根性に覚悟ができた。
「よし、いくぞカナデ!」
「うん!」
二人で共に気合を入れエレベーターに向かう。
「なに、盛り上がってんだか・・・」
乃木さんのあきれたような視線は無視することにした。
そして映画が始まって。
「ひあぁぁ!ヤモリがぁぁぁー!」
とか、
「ひゃうぅぅ!目がー!耳がぁ!はにゃあぁぁ!」
とか、
「体が3分割ー!」
てな具合に叫んではカナデが抱きついてくる、耳元で叫ばれるからさっきから耳鳴りがやまない。
とは言え、俺も窓とかから急に出てくるようなシーンではいちいちびっくりしてるので、情けないのは同じだが。
乃木さんは普通に見ながら、カナデが叫ぶところや、俺とカナデが同時に竦みあがるのを見て笑っている。
まったく、男二人で情けない散々な結果だった。
すっきりした顔の乃木さんと疲れ果てた二人で扉を開け、通路に出る。
「いやー、面白かったわねー」
「しばらく、お肉食べたくない」
「俺も今日は食いたくない」
俺たちの言葉に乃木さんは思いついたように、手をたたき、提案する。
「時間もいいし、お昼食べに行こっか」
時計を見ると13時、確かにいい時間だとは思う。
「ほら、ステーキハウスの割引券もあるし」
「ハコちゃん!!」
「あー、冗談よ冗談」
そんな会話をしながら歩き出す二人に俺は声をかける。
「ごめん、先に出ててくんないか?」
「どうしたの、ソウくん」
「いや、そのトイレだよ」
さすがに乃木さんの前で堂々と言うのは恥ずかしく、小さくつぶやき、「出口にいるねー」といった、声を背に受けながら逃げるようにさっさと歩き出した。
恐怖に縮こまったモノにため息をつきながら、用を済ませと振り返ると、エプロンをつけたゴツイ映画館の従業員と軽くぶつかる。
「あ、すみません」
との声に聞き覚えがあたので、2m近いところにある顔を見てみると、中学時代に色々と世話になった大木悦次先輩の顔が合った。
「大木先輩じゃないですか、ここでバイトしてるんですか?」
「ん?ソウマか!いやー、ますますいい男になって」
とか何とか言いながら、全身を嘗め回すように見てくる。
「そ、そりゃどうも」
「相変わらず男には興味はないのか?」
「え、えぇもちろん」
残念そうな顔に少し引き気味に答える。
この人は大木悦次先輩、中学時代最初に俺に告白してきた人間だった。
俺が男には興味がないことを伝えると、残念そうにしながらも、その後はいい先輩として色々と助けてもらった。
例えば、体育倉庫に連れ込まれたときとか、保健室で寝てたら男の保険医に狙われたときとか。
真っ黒な中学時代を振り返っていると、先輩が用を足しながら話しかけてきた。
「今日はもしかしてデートか?」
「いやだなぁ、そんなんじゃないですよ」
乃木さんの顔が浮かび、少し期待をしながらも否定する。
「お、何だその照れようは?ついに春が来たか」
とかなんとか、手を洗いながら話していると、入り口横に立っているカナデがいた。
「あ、ソウくんハコちゃんがお腹空いたから早く、だって」
「おぅ、もう終わったぞ。けどわざわざその為に来たのか?」
俺の質問に、カナデはモジモジしながら黙ってしまう。妙な雰囲気に変なことを聞いてしまった気がして、どうしようか迷い、
「カナデ、この人は俺が中学時代に世話になった大木先輩だ」
話題を変えることにした。
その言葉にトイレから出てきた先輩と、カナデがお互いに顔を見て二人とも固まった。
まあカナデはわかる、ホラー映画見た後に大木先輩の顔は怖い、だって滅茶苦茶いかついから。
しかし、なぜに先輩まで?
「なあ、ソウマ…」
ゆっくりと優しい声で威圧してくる大木先輩。
「な、なんですか?」
「この子は誰だ…?」
ま、まさかカナデに惚れた?やばいぞ、せっかくできた親友を魔道に落とすわけにはいかん!
「せっ先輩、こいつは!」
「言い訳はいい、お前、わしの告白を断ったときにこういったよな、男には興味がない。と」
「は、はい」
「それ以来、せめてお前にとってよき先輩であろうとし、わしもそれで満足だった」
「は、はぁ」
な、なんだか変な流れじゃないか?
「だが、その子はなんだ、いや別にわしを振ったことは恨んではおらん、ただなぁ、ただなぁ」
先輩の周りにゴゴゴといった効果音がつきそうな空気が集まっていく。
まずい、これは逃げるべきなんだろう、退路の確認をすると奥のほうに非常階段の扉が見えた。
置いてきぼりにならないように、カナデの手を先輩から見えないようにそっと握ると、「あっ」と言いながらカナデが潤んだ目でこっちを見上げてくる。
頼むからその反応やめてくれ。
「嘘でわしの純情を踏みにじったのが許せんのじゃー!」
「よく分からんが!カナデっ逃げるぞ!」
爆発した先輩に捕まらないように、手を引いて走り出す。
扉をくぐり、先輩が来る前に扉を閉める。ガンガンと叩く音に焦りつつも外にあったほうきや、ゴミで扉が開かないようにし、階段を降り始める。
「ショタ趣味ならそう言わんかー!それならわしにも努力のしようがあっただろうがー!」
「あんたどの面下げて、んな世迷言言ってやがる!」
「半ズボン履くぞ!なんならランドセルを背負ってもいい!」
上から聞こえる扉越しの声に思わずイメージしてしまう。
2m近い筋骨隆々の男の半そで半ズボンランドセル姿を…
「そりゃ犯罪だー!!」
映画館からずっと路地裏を通り、しばらく進んだ公園で一息つく。
「ここまで来れば大丈夫だろ」
肩で息をしているカナデに振り返りつつ、話しかける。
「…ぅう、ソウくん…足…速い…」
「そっちのベンチに座ってろ、なんか飲み物買ってくるから」
俺のせいで逃げなきゃならなかったから、ジュースくらい奢るべきだよな。
近くの自販機に小銭を入れ、自分用にC○レモンを一本買う。
「やべ、小銭がない」
つり銭切れのランプと自分の小銭入れの中を見比べながら、考える。
「一本を分けりゃいいか、侘びの分は別の物でもいいし」
ペットボトルを開けて、一口飲んだ後ベンチへと戻る。
ベンチには疲れを漂わせたカナデがボーっとして座っていた。
「ほれ、炭酸だけどよかったか?」
俺の言葉にこっちを見てペットボトルを受け取る。
「うん、ありがとう。ハコちゃんにメールしたらこっちに来るって」
「そっか」
そしてカナデは開けて飲もうとし、蓋に手をかけたところで動きが止まる。
「ん、どうした」
「これ、ソウくんのみたいだけど飲んでもいいの?」
「ああ、気にするな」
大木先輩の勘違いで走り回らせたしな。
俺の言葉にカナデは、何処となくゆっくりとした動きで二口ほど飲む。
「はい、ソウくん」
受け取り、俺が再び飲んでいるとおずおずとカナデが話しかけてくる。
「ほんとによかったの…?」
なにが?とカナデに目でたずねる。
「えっと、その、間接…キス」
ファーストキスはレモン味、そんなフレーズが思い浮かぶと同時に青空に向けて吹き出していた。
「ゲホッ、な、何馬鹿な事言って、お、男同士で間接キスも何も」
近づいてきたカナデが俺の顔についたジュースをハンカチで拭きながら少し悲しそうな顔をする。
「あのねソウくん、私女の子だよ?」
「へっ?女の子?」
女の子って言うとあれだよなぁ、俺は男の子だから女の子じゃないわけでアレがあっておっぱいが無くて、乃木さんは女の子でおっぱいが大きいわけで、カナデのおっぱいは見当たらないけどおっぱいの小さい女の子もいるわけで。
なんだかハンカチとカナデからジュースとは違う、甘いようないい匂いが、ああそうか、カナデは女の子なのか…
「そーかそーかかなではおんなのこか…」
「ソ、ソウくん?」
そういわれて見ると確かにかわいいよなぁ、最初に話したときクラッときそうだったし。
今の服装もボーイッシュて感じに見れば、なかなかだし。
「そーかぁ、かなではかわいいおんなのこだねー」
「ねえ!本当に大丈夫?そんなにびっくりしたの?」
心配そうに見てくる顔もかわいいなぁ、うんうん。
「…って、んなバカなーっ!!!」
青空の下、やっと気づいた少年の叫びがビルの谷間にこだまする。これはそんな動き始めた恋の物語。
>>265はミスです。
てなわけで第3話でやっと主人公が気づいたというか、気づかされました。
まだエロまで遠いですが、宜しければお付き合いをば。
カナデウマキタ━━━!!!!
と、失礼しました。
改めまして
>ひょこ氏
GJー!保管庫眺めながら、密かに待ってましたよ〜。
カナやん、かわええのう。飴あげたら、付いてきてくれるかしら。
おじさん、いたづらした(ry
主人公のマイペースっぷりも好きです。
続き待ってますね〜。
大木先輩ステキ。
おお!二重奏の続きですね!楽しみにしてました。
GJです。続きも楽しみにしてますよ〜
やった〜
続きが早くよみてぇ〜
誰もいないの〜?
いるよんノシ
ノシノシ
ノシ
ノ
>二重奏
お、大木先輩…どうか…幸せになってくれよ!
続きも楽しみにしてますです。
えー、今年最後の投下をします。
エロっていうか萌えのみ。軽く鬱展開の上長話。
苦手な人はさくっとスルーしちゃってください。
毎日寒いですね。よいお年を。
ガンガンの読みきりに男装少女発見。テラモエス ノ
281 :
塔に柊 1:2005/12/18(日) 14:30:44 ID:NzwDk+OM
低く霧が這っている。
躯が重く、疼痛に似た感覚がときおり意識を現実へとゆり戻した。
頬や顎の感覚が遠い。水面に浸した四肢も頭蓋の内側も例外ではない。
唯一熱を帯びた液体が外界の光を求めて、細く開いた目から脈打つように滴り落ちてゆく。
ミシェルが泣いているのではない。
危険を感じた『これ』が泣いているのだ。
泣いたって何の役にもたたない。
この数ヶ月でただ一つ学んだ現実を教えてやりたい。
だが、その機会を持つことを自分は望んではいない。
躯に脈打つ感覚が激しいものへと貌を変え、反射的に腹の下へと重い手足を引き寄せた。
小さく丸く、外界から身を隠そうとするかのように。
ミシェルは目を閉じ、何の役にもたたない流れを断ち切った。
*
用足しの口実が長くなった。
ジェイラス・ダジュールは、腰に括りつけた兎の重みを確かめた。
(いい事もひとつぐらいはなくてはな)
乾いた藪の小枝をかきわければ小気味よく音をたてて折れていく。
灰色の濃淡に沈んだ森の中を、縦横に刻むけものみちを利用すれば楽だろうに、彼はわざと薮を選んで進んでいた。
狼罠を怖れたわけではない。
戻る場所のつまらなさを考えれば、誰に迷惑をかけるわけでもないこれくらいの時間稼ぎは許されてしかるべきだろう。
行く手にひときわ大きな茂みがあらわれた。彼は喜び勇んで突っ込んだ。
手前の小枝の差しかわす角度が、シラー『閣下』の、体躯に似合わぬ尊大な口ひげそっくりに見えたせいもある。
薮は小鳥を数羽吐き出し、ジェイラスの手の甲にささやかな擦り傷をつけるとあえなく陥落した。
彼は笑いながら──二十九にもなるのにと兄やジャックが見れば呆れることだろう──獲物を揺らして立ち止まり、破壊の痕へと満足げに振りかえった。
その灰色の目が丸くなった。
惨めな藪の奥に、灌木に囲まれた池が見えた。水面を挟んだむこうは小さな空き地になっている。
その縁に、水の中に半分浸かり丸まっている人間の姿があった。
ショールが巻き付いているから女だと知れるが、その色がなければ目にはとまらなかったことだろう。
彼は急いで薮痕に再突入した。
池の縁を周り、倒れている女の傍にひざまづく。顔を寄せるとかすかな呼吸を感じ取った。
ジェイラスは兎が潰れるのを無視して剣帯を引き下げ、弓を首に廻し、力を込めて女を抱き上げた。
スカートはたっぷりと水を含んで重かった。
今度ばかりは薮は敬遠し、灌木の隙間をけものみちへと踏み分けはじめる。
282 :
塔に柊 2:2005/12/18(日) 14:32:15 ID:NzwDk+OM
*
野営地はジェイラスが出て来た時と比べると幾分活気を呈していた。
食器や毛布を抱えて荷車から荷車へと動き回る者、調達した薪を割る者。主人のおまるを抱えてもったいぶって歩く従者、汲んできた水を瓶に詰め直している男。
飼葉を担いだ馬番、同じ籠を背負ってついていく若い助手、焚き火の傍で横着に下着姿を晒している兵士、天幕の垂れ布を巻き上げて空の様子を窺う従軍坊主、道具を点検する大工の群。
塔に柊が絡まる意匠の連隊旗が垂れ下がる天幕の向こうの低い丘陵は、晴れかけた朝靄でまだらな灰色に塗りつぶされていた。
馬の尻からひり落とされる湯気がひときわ濃いことを除いては、いつもの朝の情景である。
ジェイラスは抱えたドレス姿に目を落とした。
女と名のつくものが入れば目立つ事この上ない男所帯に、死にかけているとはいえこの者を巧く隠しておけるとも思えない。
堅物の副官の顔があたりにない事を確認して安堵する。クレドーにみつかるとややこしくなるにきまっている。
(ジャックに任せるしかない)
彼は決心してほっとした。実は、決心するもなにも、最初から従者の助太刀を期待していた。
常設王軍の『塔に柊』連隊長という要職にあるジェイラスだが、戦場を離れればただの人である。
自分ではちゃんとしているつもりでも、ジャックがいないと場に相応しい衣服も選べておらぬらしいのだ。
もっとも、ジェイラス自身が(そのようだ)と弁えている点は救いといえるかもしれない。
彼はシラーの、『赤い木に金色の稲光が落ちかかっている』派手な家紋のついた天幕を避け、そろそろと野営地を迂回しはじめた。
シラーの天幕の傍ら──よりは『すこし』…いや、正直言って『だいぶ』…はっきり言うと『かなり』に離れた場所に設営された天幕の我が連隊旗──塔に柊──目指して歩みを進める。
幸いシラー『閣下』の天幕の傍は大量の荷物や随行者のための天幕で埋め尽くされており、野営地中央の広場にたむろしている兵士達の目からは、彼の不審な動きは隠されていた。
あと一息だ。
最後の柵に隠れるように、重く垂れ下がろうとする女のドレスを指でたぐり寄せて周囲の様子を窺っていると、天幕の後ろからせわしない呼吸の音がして、愛犬のマルメロとジッドが現れた。
短く口笛をふいて伏せさせる。主人にしっぽをふりつつも、彼らはうさんくさ気にスカートから滴り落ちる水の匂いを嗅いだ。
と、
「都まで用足しにお行きになったんですかい!」
聞き慣れた怒声がとんできてジェイラスは反射的に首を竦めた。
竦めた自分に腹をたて、怒鳴り返そうとして──口元を引き締める。いけない、今回はジャックと遊んでいる暇はない。
「静かにするんだ、ジャック。森でこんなものを見つけた」
天幕の杭に靴をひっかけないように腿を高くあげながら、童顔の眉間に皺を刻んだジャックが現れた。
主人の腕で意識を失ったまま丸まっている女に気付くと忙しく視線を上下させた。
「大きな兎ですな」
「冗談を言っている場合か」
「『もの』だなんて仰るから」
ジャックはぶつぶつと言った。手にはチーズの小さな塊とナイフを握ったままだ。朝食の支度を整えていたらしい。
チーズを傍らにいた犬に放り投げ、従者は黒っぽい目で素早く周囲を窺った。
「人目についてはいませんね」
「そのつもりだが」
「中へ」
ジャックはご馳走を一口に呑み込んだ犬たちを先にたて、ジェイラスを急かした。
*
ドレスの状況を見て取ったジャックが、急いで洗濯物用の布袋を重ねた。
「……………」
「……………」
袋の上に女を横たえさせ、それから主従はゆっくりと顔を合わせた。
「弱りましたな」
ジャックが口を開いた。ジェイラスは急いで言い訳をした。
「死にかけていたのだ、ジャック。冷たい池に半分はまってな。放ってはおけないだろう…」
「わかってますよ」
ジャックは主人の台詞を、面倒くさそうにさえぎった。
「そうじゃなくて、これは女です。女で、濡れ鼠です。この服を着替えさせるのはいったい誰なんですか」
283 :
塔に柊 3:2005/12/18(日) 14:33:20 ID:NzwDk+OM
「お前だ」
間髪いれず指名され、従者ジャックの暗い童顔はますます暗くなった。
「確かにジェイラス様よりは上手くやれそうです。ですが、私たちのような見も知らぬ中年男に介抱されるのは、この娘さんとしてはできれば避けたい事態でしょうな」
「一緒にするな、中年はお前だけだ。……なに?娘…?」
ジェイラスは灰色の視線を、横たわったままぴくりとも動かない影に向けた。
つやのないこけた頬はかすかに赤らんでいる。
言われてみれば確かに娘だ。おそらくまだ相当に若い。
池に浸かっている姿を見たときには、ジェイラスには到底娘とは思えなかったのだが。
「若い娘だったか…。うーむ、困ったな」
腕を組んだ主人を見上げ、ジャックはきれいにあたった顎を撫でた。
「しかし、こりゃ熱が出ますよ。顔が赤い。早く着替えさせませんと」
溜め息をつき、ジェイラスは組んだ腕を揺すった。
「仕方ない。麓の村に行って適当な女を探して来い」
「かまわんですかね」
──『閣下』に知られると、ジェイラス様のただでさえ芳しくないご評価が一層下がりますよ。
従者の黒っぽい目はそう語っていた。簡単に読み取れてしまう付き合いの長さに少々うんざりしてジェイラスはじろりと童顔を睨む。
「ここまで連れてきておいて、見殺しにはできんだろう」
「もちろんです」
ジャックは垂れ布を撥ね除けて冷たい朝日の溢れ始めた外へととびだしていった。
*
娘と判明した身元不明の女、加えて二疋の犬と共に天幕に残されたジェイラスは所在なく鎧櫃に腰を下ろした。
ざわざわと広場からざわめきが聞こえてくる。兵士たちはみな朝飯の時間なのだ。
従者の早い仕事ぶりを期待しながら待つうちに、うなり声とともにマルメロの耳があがり、それにあわせてジッドの鼻先がひくりと動いた。
娘が咳き込み、身じろぎをしている。
ジェイラスは立ち上がり、そわそわとあたりを窺ったが何も役に立ちそうなものがない。
それでも軍用の重い襟立マントが天幕の柱から下がっているのを発見した。鷲掴みにして娘に近づいてみる。
娘の頬ははっきりと赤くなっていた。呼吸のリズムも変な具合に乱れている。
ジェイラスは思い切ることにした。ジャックと村の女を待つ間に、少しでも思いつくことはしておこう。
彼女の喉の周りにはりついているうす汚れたショールを──もちろんたっぷりと水を吸っている──ぐいとひいた。マントを被せようとして、灰色の目が薄く細まった。
娘の耳の下に、かさぶたがはがれて間もない新しい傷跡が見えた。
その下に隠れるように、白く変色した古い傷も。
濡れた髪の束の影に回り込んだ複数の傷は、つやのない肌にひどく目立った。
「ジッド。マルメロ」
ジェイラスは犬を呼び、マントですっぽりと娘の躯を覆い尽くして傍らに座りこんだ。
警戒しながらも寄って来た犬たちを、娘の両脇に臥させた。
*
間もなく天幕に戻ってきたジャックは、犬と輪になって娘の足元に転がっている主人の姿に目を丸くした。
「ジェイラス様、マルメロとジッドに乳でもおやりになるんですかい」
ジェイラスは顔を顰めた。言うに事欠いてなんと失礼な事を言う奴だ。
「うるさいぞジャック。こうして全員で囲んで、少しでも娘の周りの空気を暖めるべきだと思ったのだ」
「そんなあほうな真似をするくらいなら、男らしく抱きついてやるべきさ」
ジャックの躰をつきとばす勢いで小さな老婆が入って来た。
「全く騎士様がたのなさる事はわしらにはわからない。これが病人かね。ほれ、さっさと外に出てくださいよ」
「こら婆さん、俺のご主人様にあまり無礼な事を言うなよ」
ジャックが自分の台詞を棚に上げて窘めたが、老婆は聞くそぶりも見せず、曲がった腰で娘の上にかがみ込んだ。
無視された形となり、従者は急いでジェイラスを捕まえると天幕の外に出た。
284 :
塔に柊 4:2005/12/18(日) 14:34:17 ID:NzwDk+OM
「なかなか早く連れてきたな」
ジェイラスが褒めるとジャックは当然という顔をした。
「村でまじない師をやっとる婆さんです。病人も診るし産婆も得意らしいです」
「いくらで買収した」
「口止め料をいれて銅貨を三枚。それと婆さん相手ですからね、フロマンテ用にとっておいた小麦を桝に半分ほど」
よくやった。そんな顔をした主人に、ジャックは肩を竦めてみせた。
「ジェイラス様の分けぶんからですよ。私のじゃありません」
だがジェイラスは、老婆が出てくるのを待つ間、従者としみったれたいがみ合いを楽しむことはできなかった。
「ジェイラス・ダジュール様」
かけられた声に振り向くと、赤い木に金の稲妻のついた緑のお仕着せを着た小姓が立っている。
「シラー様がお呼びです」
それだけ伝えると小姓はすぐに立ち去った。慇懃無礼な切り口上がこの野営地でジャックの主人が上官から受けている扱いを物語っている。
ジャックは小姓の背に反感と侮蔑を送りつけたが、もちろん口は挟まなかった。
「『閣下』がお呼びのようだ。あとは頼むぞ」
ジェイラスは水に濡れていささか色の濃くなった上着の前面に親指で触れた。ジャックが小姓に怨念を送るのに忙しくてそれに気付かないのを見て取って微笑した。
そのまま気の進まない足取りで、緑のお仕着せのあとを追っていく。
*
垂れ布を引き上げられて足を踏み入れると、やはり今回も、ここは野営地だったはずだがというとまどいがジェイラスの胸に淡くきざした。
彼のそれとは比べ物にならない規格の天幕には、ほの暗い柱の上部から、タペストリーまがいの長い極彩色のしきりが、何枚も重なり合って流れ落ちている。
正面を右に折れると──信じられないことに内部はいくつも仕切られた房になっているのだ──正面に、いつ見てもぴかぴかに磨き上げられている鎧と具足が据えてあった。
思わず顔を近づけてみたくなるようなその表面は冴え冴えとして美しく、歪みもへこみも何一つない。
最高級のサラク製品ではあるが、果たして持ち主はこれを何度身に纏ったことやら。
そうジェイラスは考えてかすかに唇の端を震わせた。
(あの体躯、いや、あの腹では相当な苦行だな)
「来たのかジェイラス」
不愉快そうな声と水音がクジャク模様のタペストリーの向こうからした。
ご自分が呼んだ事をもうお忘れのようで──と言ってしまいたい誘惑を堪え、ジェイラスは一瞬にして部下らしい表情を装った。
だんだん嫌になってきた作業だが、毎日繰り返していればかける時間も短くなってくる。だからといって楽しいわけでもないが。
しきりの向こうはこれまた華やかな色合いに溢れていた。異国の絨毯が、踵が沈むほど敷き重ねられている。
タペストリーはいわずもがなだが、ただし、房中央に据えられた大きな風呂桶から濛々とあがる湯気でそこらじゅうがぼやけてみえた。
多少時代遅れだが豪華なサーコートや衣服が順に衣裳櫃にうちかけられており、お気に入りの高そうな杖を傍に置き、彼を呼びつけたシラーは小姓に背中を流されて入浴の真っ最中だ。
──目が腐るぞ、この小男め。
ジェイラスは腹の中で罵った。『閣下』は、人を呼びつける時機も選べぬらしい。
*
シラーはこの野営地におけるジェイラスの唯一の上官である。
富裕な男爵家の当主と貧乏子爵家の次男に生まれた結果常設軍叩き上げの連隊長となった男との間にはそれ以外何の接点もない。
見た目も気質も、おそらくは考え方にも類似と呼べるものは何一つ見あたらない。
ジェイラスは体躯魁偉な血筋のダジュール家にあって珍しく中肉中背の体つきであるが、短躯出っ腹のシラーに比べると所作の全てに無駄がない。
鍛え方が違う。くぐり抜けた経験が違う。生き方が違う。
シラー司令官とダジュール連隊長の仲がしっくりいかないのはやはりそのせいなのだろうか。
人の心と行動との捩じれ加減を他人が窺い知ることは難しい。
285 :
塔に柊 5:2005/12/18(日) 14:35:13 ID:NzwDk+OM
たとえば小男のシラーが重々しく杖を振り、連隊長を従えて歩いていると、滑稽な違和感が強烈に周囲に漂うらしい。
そのたびに周囲の兵士たちがなにげなく目を逸らすからだ。ひどい奴になるとかみ殺した笑いに咽んで肩を大きく奮わせていたりする。
それを察知したシラーは包囲が初まってわずか二日で人前でジェイラスと並ぼうとはしなくなった。
だがそういう気まずさはともかくとして、シラーは国王の命でレヴュルの城を包囲する軍勢を率いる司令官である。
包囲軍はジェイラスの『塔に柊』、それから四十半ばのアルチュール・ゴラールが率いる『青猪』の二連隊で構成されている。
『青猪』連隊長はジェイラス同様経験豊富な軍人だが、年齢のせいかそれとも郷士の出だからなのか、圭角のとれた物腰の男だ。
連隊の構成規模は『塔に柊』が『青猪』より六百名ほど多かった。
司令官の滞在する本陣にはジェイラスの連隊のほうがふさわしかろう、とアルチュールは打ち合わせの時穏やかに言った。
というわけで彼とその隊はここではなく、城を挟んだ向かい側の狭い丘陵を本拠地として布陣している。
ジェイラスは連隊長として同格の彼ともども司令官を補佐するのが仕事だが、正直言ってアルチュールにしてやられたと思うのだ。
年の功だ。あいつはうまく『お守り』から逃れおった。
もっともジャックの意見では智恵は年齢には関係なく、ジェイラスのような人間には百年たってもつく見込みは少ないそうだが。
*
レヴュル城が包囲されたのは、城主である財務官クレール・ダンジェストの巨額の横領が発覚したためだ。
クレールは富裕な商人であり、名士として都の議員を務めているうちに有能な仕事ぶりが王の目にとまった。
強い引き立てを受けながら順調に頭角をあらわし、ついには王国の首席財務官にまで上り詰めた、立志伝中の人物である。
それが、であり、まさか、でもあり、人によってはやっぱり、との耳打ちが王国中を駆け抜けた。
ことによると横領だけなら、大様なところのある王に対してまだ申し開きができたかもしれぬ。彼の才能は非常に寵愛されていたからだ。
だが粉塗のための計画的な書類改竄の証拠があがってみると、その書類処理の杜撰さが、信頼を裏切られた一刻者の王の怒りをかき立てた。
いやしくもこの自分の任を受けた人物であるからにはもっと巧妙に立ち回るべきではないのかという、まことに理不尽な怒りである。
もちろん即座に王の召喚がかかったがクレールは現れなかった。
そればかりか彼は妻子や一族を都に見捨て、王に賜った東部の城へ留守居の防御隊とともに閉じこもった。しかも翻意を促す使者すら門内に入れず、自らも会いもしないという横着さである。
相当腹をたてたのだろう。王はついに城の攻略と財務官の『生きての』捕縛を命じた。
人は見かけによらぬもの、の言葉を地でいくような、人品才覚ともに高いと噂されていた財務官の凋落は王国にひとかたならぬ震撼を及ぼした。
だが、それはそれでありこれはこれである。
常設王軍が実際にやるべきことはいつもと何のかわりもない。
包囲戦ならなおのことである。高みを選び野営地を築き、街道と間道を全てかため、密接な連携を保ちながら徐々に補給を絞っていく。
それというのもレヴュルの城は古来からの要害にあたる切り立った尾根にあり、大人数で攻めたてればそれで終了といった物件ではなかった。
規模からいうと小城ではあるものの、もとは南部への街道を護る堅固な砦であったのだ。
だがいつかは備蓄物の費えに耐えかねて陥落するであろうし、囲まれたからといって城方が押し出してくることもない。
防御隊は少人数で、しかも城主は軍人ではないのだ。
だから一応体裁を整えてジェイラスたちの野営地を囲っている柵なども役立たずな事このうえない。
現に、おそらく使うことのない攻撃と防衛に関する施設の種々を作成したあと、大工たちは修理に必要な人員を残して明日から、少しずつそれぞれ近在の故郷の町に戻ることになっている。
正直言ってジェイラスにとってこの任務はさほどの感興のあるものでもなかった。
なにも自分がついている事はないと思う。
国境での小競り合いに事欠いているわけでもないし、もっと凶悪な反乱者だって、こうしている間にも現れないとは限らない。
ジェイラスが傲慢なわけではない。
彼のこれまでの経歴、つまり軍歴を見れば誰にも明らかなはずである。
だからこそたいしたコネもない場所で、貧寒の田舎貴族の次男の身でありながらそれなりの頭角を現しているのだ。
286 :
塔に柊 6:2005/12/18(日) 14:36:15 ID:NzwDk+OM
だがジェイラスがつけられたその理由は、都出発の五日前になって明らかになった。
アルチュールと並んだ目の前に包囲戦の司令官だと紹介されたその小男は、大きな口ひげをつけて腹の出た──そう、シラー男爵であった。
挨拶に引き続く三秒間で、連隊長の二人には全ての事情が呑み込めた。
「バナレット侯爵と私の母はいとこでね」
この小男は常設軍名誉元帥の親族なのだ。シラーは、戦場ではとりあえず閣下とでも呼びたまえと鷹揚に言った。
「君たちが一番…なんといったか…そう、よけいな係累が少なくて邪魔になら、ではない、頼りになる軍人だと聞いていたので頼んだのだよ」
ジェイラスとアルチュールは小男の頭上で、互いにだけ通じる温度の視線を交わした。
彼らとてこの手の上官にあたるのはこれが初めての経験ではない。
豪奢と贅沢に甘やかされた体型のこの男に限らず、名ばかりの騎士のくせに暇を持て余したあげく自分専用の名誉を求めはじめる富裕な貴族は多い。
その場合彼らが欲しいのは華やかに目立つ役回り──今回の、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった首席財務官の捕縛劇は、願ってもない大舞台だろう。
恣意的な人事の典型ゆえ今回も面白くもない目にあうに違いない。
こういう上司は気位が高く戦場の常識を知らず分を弁えず部下の権限を侵し上官風をふかしたがるものだ。
ジェイラスもアルチュールも、互いの目の中に新しい上官への嫌悪を認めた。
まともな連隊長なら当然だろう。
*
「…村に従者をやったそうじゃないか」
不快げにシラーが口を開いた。
ジェイラスが黙って突っ立っているだけなので、自分から話を始めなくてはいけないのが面白くないのだろう。
先刻の事がもう知れている。
ジェイラスはたいして驚かなかった。朝食時で広場には兵士が多く出ているのである。誰一人ジャックを見ていなければある意味危うい。
ただ、シラーも知っている点だけには少々感銘を受けた。当たり前にできる事もあるらしい。もっともこの感想は上官に対して無礼なものかもしれないが。
「熱い。もっとゆっくり注ぐのだ」
シラーは風呂桶に湯の壷を傾けている小姓を怒鳴りつけ、湯気で垂れ下がった口ひげの角度を気にしながらジェイラスに目を戻した。
「問題は、ふたつある。まじない師の婆さんらしいな」
「よくご存じですな」
ジェイラスはぬけぬけと頷いた。
「私用のクリームを村まで調達に行く召使いが知っておったのだ。ここには軍医がいるだろう、何故わざわざそのような者を呼ぶ。それにもう一つだが」
シラーは湯に波をたててジェイラスに向き直った。
「あそこは城の麓だぞ。こんな朝っぱらから、もしや、あの元財務官めになにか関わりがある事なのではなかろうな」
「ほう」
ジェイラスはかすかに眉をあげた。
「『元』ですか」
クレール・ダンジェストが王と評議会の名において職を解かれたとはまだ聞いてはいなかった。シラーは鼻から太い息を吐きながら湯船に沈んだ。
「『元』で当然の扱いだ。あの成り上がりの反逆者めが」
「何も関わりはありません。今朝がた、森で行き倒れを見つけたので救いました。それだけです」
シラーは湯気の奥の目を光らせた。
「行き倒れ?どんな奴だ」
「農民です」
ジェイラスはうす青いショール、荒い生地のドレスを脳裏に甦らせた。あれはたぶん、自作農の娘だろう。
「年は。年よりか。若者か」
「十五・六かと」
痩せた頬のせいもあるが、よくよく見れば顔つきはまだ未熟だった。あの娘の髪を覚えていないことにふと思いあたる。何色だったろう。
「若くとも油断はならんぞ。間諜やもしれぬわ。で?軍医を呼ばなかった理由は」
シラーは不満そうだった。
ジェイラスはわずかに目を逸らした。富裕貴族の例に漏れず、この小男も人後に落ちぬ女好きだと聞いている。
「軍医というものは傷兵の手足を切り落とすのは得手ですが、病人の世話には向いておりません。それが理由です。では失礼」
返事を待たずに踵をかえすと、シラーの、湯気で拡散した声が追いかけてきた。
「ジェイラス」
足をとめる。
「この件で、私には一切迷惑をかけるなよ。いいか」
「ご心配には及びません──閣下」
ジェイラスは答えた。むかむかしていた。
「責任は私がとります」
287 :
塔に柊 7:2005/12/18(日) 14:37:21 ID:NzwDk+OM
*
二十歩の距離を十四歩で突破したジェイラスの眉根を寄せた顔を迎えたのは、負けず劣らずの渋をまぶした三十男の面構えだった。
「死んだのか」
思わず尋ねたのはジャックの暗い視線のせいだ。彼の従者がこんな目をするときはろくなことがない。
「縁起でもない。熱は高いですが生きてますよ」
ジャックは主人の袖を引っ張って天幕を裏手に回った。ひょろひょろとした頼りなげな木が二・三本絡み合っている。
その下で、ジェイラスは従者の手をふりほどいた。
「なんだ」
「婆さんは、街道の出外れまで送りました」
ジェイラスは頷いた。従者がなんとなく視線を伏せているのが不吉な感じだ。
「よし。で、どうした。なにか気に掛かることがあるのか?」
「はあ。あの娘、身ごもっているようですよ」
いきなり耳元で大声を出されたように、ジェイラスはびくりとした。
「なに?」
「痩せ細っているからわかりにくいが、腹に赤ん坊がいる、と」
ジャックは無愛想に言い直した。
「しかもその腹も背中も刃物でつけた傷だらけだそうで」
脳裏に、さきほど確かに見た、折れそうなうなじをとりまく傷跡が浮かんだ。胸が悪くなってジェイラスは木の幹に寄りかかった。
「そんな躰で池に浸かっていたのか」
「……ふしだらのあげくの、身投げですかな」
ジャックが鼻の付け根に筋を入れた。そうであってくれという寄せ方である。
ジェイラスは首を振った。
「身投げにしては思い切りが悪かった。上半身からのめるように浸かる方法はあまり聞いたことがない」
「それでは、どこかの農家の若奥さんが山賊にでも襲われて気を失って倒れていたというのはどうです?」
ジャックは自分でも全然信じていないだろう筋書きを繰り広げた。
ジェイラスは首を振った。
「あの娘の服は血で汚れてはいなかった。それに確かに痩せ細っている。お前も見たはずだぞ、ジャック」
主従は無言で、天幕に視線を向けた。
「私は思うのだが」
ジェイラスはためらいながら付け加えた。
「婆さんの見たその腹の傷は幾重にも重なっていたはずだ。…首と同じならな」
「…荒んだ人間のやる事ってな、どいつもこいつも代わり映えのないもんですなぁ」
ジャックが重いため息をついた。いやいやながらもいつも通りに現実を見つめることに決めたらしい。口調が厳しかった。
「傭兵だかなんだか、きっとろくでもない獣どもにとっ捕まったに違いありませんや。連れ回されて虐められた挙げ句、病気になっんだか飽きがきたんだかで捨てられたんでしょう」
「………」
ジャックの推測は当たらずといえども遠からずといったところだろうとジェイラスも思った。
常設軍は金を喰う。
近隣諸国では群を抜いて裕福なこの国においても必要な兵力全てを王軍だけでまかなうことはできず、大規模な戦時には未だ傭兵を雇っている。もちろん他国は言わずもがなだ。
そして戦時の傭兵は平時には民にとっては迷惑なものである。国境付近の農村地帯で略奪行為を働く傭兵は多い。なにかあればすぐに国境の森に逃げ込むのだ。
傭兵ばかりではない。世の中には野盗もいえばならず者もいる。
また、領主への納税や疫病戦その他の理由で農耕地を維持しきれず遺棄者となり、生きながらえるために悪事に手を染める者たちもいる。
彼らは食糧や衣服や家財や装飾品、家畜や女などを奪う。凶暴なのになると必死の抵抗を試みる共同体に、腹いせや嫌がらせに火を放ったり皆殺しにしたりする。
抱き上げた時は重いと感じたが、あれは荒い布地が滴るほどに吸いこんだ池の水のせいだったのだろう。
虐待の証らしき傷だらけのやせ衰えた躰で身ごもり、氷水の中に倒れ込んでいた娘。
この時代、あかの他人がすぐにでも見当をつけられるほどにありふれた悲劇の生き見本が、今あの天幕の下で横たわっている。
「都にいてはわかるまいな…」
ジェイラスは呟いた。脳裏に一瞬シラーの顔が浮かんだのが我ながら嫌だった。
ジャックが咳払いし、主人の注意をひきつける。
「で、どうなさいます。婆さんは解熱薬を置いていきましたが」
「薬か」
彼はジャックの顔を見た。
「急に呼んだにしては手回しのいいことだ」
従者は素知らぬ顔で、朝日を浴びて立っている。
288 :
塔に柊 8:2005/12/18(日) 14:38:44 ID:NzwDk+OM
「ジェイラス様」
天幕を見ながら中年男は囁いた。
「…またご病気が出そうなんでしょう?」
「お前がこうやってそそのかすからだ」
そう答えたジェイラスの灰色の目に、肩を竦めるジャックの童顔が映った。
「ですが今回も、拾っていらしたのはジェイラス様なのですよ」
*
ぽっかりと浮かび上がった場所はひどく明るい。
純白の光が四方八方から降り注いでいる。瞼を閉じているのたが、それでもまだ眩しかった。
ミシェルは息を潜めて明るい瞼の中で周囲の気配を窺った。じっと、じっと、そのまま身を潜めてみる。
誰も近寄ってこない。何も伸びてこない。私は一人だ。
安堵のあまり力が抜けた。そのまま糸が切れたようにミシェルはまたうす闇に呑まれた。
次には目を開けている自分に気付いた。
まばゆいほどの光は失せ、視界を穏やかに照らしているのはなにかの台にのせられている、蝋燭の安定した炎だった。
おかしい、とミシェルは思う。男たちが使っていた安物のそれはいつも炎が歪んでいた。保ちも悪ければ煤もひどかった。
なのにここにはいやな臭いも燻す煙も立ちこめてはいない。
どういう事だろう。
そう考えてミシェルの意識は途切れた。
次にまた唐突に目を覚ました。蝋燭の数が増えているようだった。
「まだ目を覚まさぬかな」
男の声だ。びくつきながらミシェルは辛うじて意識を立て直そうとした。
いつも、寝たふりをしていると必ず殴られた。
ミシェルの望みは一人で横たわっている事だけだ。殴られたくなかった。何もしないから、殴らないで欲しい、何もしないから……。
「熱はまだ高いようです」
他の男の声がした。ミシェルは怯え、瞼をおしあげる努力は続けつつも心の殻に閉じこもった。
怯えたまま、何かが起こるのを待った。何かが起こるはずだった。ミシェルはいつも誰かと一緒にいさせられたからだ。
だが何も起こらない。いくら待っていても誰も彼女に近づこうとはしなかった。
ミシェルは再び安堵した。
途端に意識がほどけはじめ、彼女は辛抱強く背後で待っているうすい闇に倒れ込んだ。
*
最後に目が覚めると、唇が乾ききっているのがわかった。
ミシェルはぱちりと目を開け、自分の上の天井に初めて焦点を合わせた。伸びやかな波のように、ほの白い布が優雅なカーブを描いている。
その波が不規則に揺れていた。天井が布『だけ』であるらしいことにミシェルは気付いた。
風の音が低く唸っており、荒れ模様を思わせた。
背に感じるのは寝台……なのだろう。洗い晒したシーツをかけただけの狭くて硬い藁マットだが、生まれてこのかたそれ以上のものに横になった事のない彼女には随分立派に思えた。
動こうとして背中や肩がすっかりこわばっている事を知り、躰の上に厚手の毛布が掛けられていることに驚いた。
ここはどこ。
ミシェルは声を出そうとしたが、妙にかすれた音しか出ない。
焦っていると布が擦れる音が軽く宙に響いた。ひたひたといくつもの柔らかい音が近づき、せわしない呼吸がするところをみるとその主は人ではなく動物らしい。
犬か、猫か、それとも…考えている彼女の耳に、布が擦れる音が再び響いた。
「ジャック!気がついたぞ」
ぼんやりしている時に聞いた声とは思い出せなかった。だが絶対にあいつらではない。
深く安堵し、発音と抑揚から、身分の高い人のようだ、とミシェルは感じ取った。
頭を巡らせて声の方へ視線をやろうとしたがひどく億劫でそれができない。
足音が近づいてくる。酔っぱらった人間の重いそれではなく、頭に血が上った人間のそれでもない。
足音はふたつあった。きびきびしたものとややゆっくりとしたもの。
その音は寝台の傍で止まった。
大ぶりではないが肉厚の掌が額に触れた。乾いた表面から漂う匂いはあたたかかった。
一瞬全身に力が入ったが、その掌が動こうとしないことで彼女の躰の緊張はほぐれていった。
289 :
塔に柊 9:2005/12/18(日) 14:39:48 ID:NzwDk+OM
熱を吸い取るかのようにしばらくミシェルの額を癒し、その掌の圧力はふいに去った。
「さきほどよりは下がってきたように思います」
「そうか、良かった」
一人の声は、細かな点は違うもののミシェルにも馴染みのある感触だった。ミシェルは思わず唇を動かした。声は出なかった。
(とうさん…)
「何か言っているようです」
「何だ?水か?ジャック、砂糖水をやってくれ」
いつのまにかまた瞑っていた目をおそるおそる開けてみた。のぞき込む二つの顔が見えた。
丁寧に剃りあげた顎が童顔を一層若く見せている、少しくたびれた印象の男と、灰色の目が穏やかげな印象の青年。
他にも視線を感じて目を動かすと、耳が大きく垂れ下がったのと鼻がピンクの斑のと、二疋の犬が彼らの下に控えている。
ここはどこですか。そう言おうとしたミシェルはかすれた音をたてて咳込んだ。
「無理に喋ってはいけない」
弱々しく跳ねる躰を押しとどめられたミシェルは反射的に硬直した。
慌てて力を抜き、所在なげに、灰色の目の青年が犬の頭に両の掌を置いた。
大きな掌だ。親指の関節にたこができている。剣を扱う軍人の掌だ、滑らかで強そうな皮膚をしている。
さっきの重みのある掌ではない。あれは農夫の手のように、もっと乾いてかさついていた。
「ほら、こちらを向いて」
童顔の男が、ひんやりと冷たくて甘い棉を唇に押しつけてきた。ひび割れた表面を覆った潤いに、ミシェルは夢中で吸い付いた。
「大丈夫だ、まだたくさんあげるから。ゆっくり」
青年の声は役にたたなかったようで、ミシェルはすぐにむせて激しく咳込み始めた。
それでもわずかながら摂取した水分が喉を開いたのだろう。やっとまともな音がでた。
*
「ここはどこですか」
どこか北部訛りを感じさせる発音に、童顔の中年男と灰色の目の青年、つまりジャックとジェイラスは顔を見合わせた。
娘は漠然と想像していたよりも遠くの出身らしかった。
「レヴュル城を包囲している『塔に柊』連隊の陣中だ。私は連隊長のジェイラス・ダジュール。これは盾持ちで従者のジャック」
「レヴュル…?」
娘が途方に暮れたように眉をよせる姿に確信を抱きながらジェイラスは頷いた。
「王国東部の南寄りの行政区だ。国境に近い」
「…………」
娘は瞼を伏せた。次に目をあげた時には質問は変わっていた。
「私はどうしてここにいるんですか?」
「森の池の傍に倒れていた。それよりもう少し飲みなさい」
ジャックが次から次に差し出す綿の砂糖水をおとなしく含み、やがて娘は吐息を漏らして謝絶した。
「君は朝からずっと目を覚まさなかったのだ。そうだ、腹は空いていないか?」
娘は、熱に染まった痩せた顔をさらに赤らめた。ジェイラスの言葉に応えるように腹が鳴ったからだ。
中年男が心得顔でそっと立ち上がり、垂れ幕の向こうに消えて行った。
「そうだろうと思って、ちゃんとジャックがフロマンテを煮ている」
ジェイラスは微笑した。
こけた頬だが熱で血の色がのぼっているせいか、この娘が非常に若い事がよくわかった。
寝台に広がっている、もつれたままに乾いた長い髪は赤みのかった茶色だった。
「……あの」
娘が顔を巡らせてジェイラスに目を向けた。
大きく張った目は皮を剥いたブドウの玉のような緑色で、力に欠けた視線はただただひたすらに不思議そうだ。
「どうして、私はここにいるんでしょうか」
さっき説明した。…そう言いかけてジェイラスは思い直した。相手は兵士ではなく若い娘である。
犬たちを床に伏せさせ、床几に腰を据え直した。
「そうだな。うむ…おそらく、まだ死ぬべき時期ではなかったのだ。そうだろう?」
──冗談が下手な人間は無理に喋らなければいいんですと、ジャックは軽蔑するに違いない。席を外してくれていてよかった。
だが意外なことにその回答を聞いた娘は、ひどく驚いたような様子を見せた。
「……」
横たわったままの彼女の片方の手が動き、毛布に覆われた腹のあたりをおずおずとさするのをジェイラスは見ていた。
そして、遅ればせながら心づいた。
「そういえば、君の名前は?」
290 :
塔に柊 10:2005/12/18(日) 14:41:00 ID:NzwDk+OM
娘は、不思議そうな視線に戻って彼を見上げた。瑞々しい色に我にもあらあずうろたえて、動揺を隠すべく早口にジェイラスは付け加えた。
「呼びかけるのに困るのだ。難しい名前でなければ覚えるから、良ければ教えてくれないか」
娘のひびわれた唇が歪んだ。
歪んだ、と見えたが緑色の目には涙の気配も怒りも見えない。
「ミシェル」
彼女はゆっくりと発音した。
その名を呼ぶのが難しそうだった。決して複雑な名ではないのだが、忘れかけていた知人の名を久しぶりに呼んだような、そんなぎこちなさがあった。
盆を持って入って来た中年男にジェイラスは呼びかけた。
「ミシェルというそうだ」
「そりゃ良いですな。そのまま呼ぶ事ができます」
「うむ」
匙と、湯気のあがる深皿を載せた盆を毛布の端に置きながら、ジャックが咳払いした。
「…その、お前さん…ミシェル。どこか、居場所を連絡しておきたいところはあるかね」
娘──ミシェルはじっと天幕の上の波をみつめ、のろのろと首を振った。
連絡したい人も、心配してくれる人ももういない。あの襲撃のあった夜、生まれ育った小さな村ごと一人残らず奪われてしまった。
何をどう説明すればいいのか。全てを今説明しなければならないのか。
強い不安がぐっと、ようやく再び動きはじめた心にのしかかる。
命を助けてくれたこのふたりの恩人には聞かせる義務がありそうだが、今の自分に到底それができるとは思えない。
「そうかね」
ジャックは頷いた。不満げではない。
彼は寝台の後ろから小さな樽を転がしてきた。そこに腰を据え、盆から匙を持ち上げる。
「まあ、それより今は力をつける事だよ」
ジェイラスが立ち上がった。
「すまないが食べさせてやっていてくれ、ジャック。クレドーを連れて会議に行く。そろそろアルチュールが来る時間だ──ミシェルの事以外は、今日も動きのない一日だったな」
「お任せください。若い娘が相手です。アルチュール様や『閣下』とお話をするよりは随分楽しい」
いけしゃあしゃあと言いきる従者に顔を顰めてみせ、青年は犬たちの頭をそれぞれ叩くと天幕から出て行った。
ミシェルからちらりと見えた垂れ布の外の空は遅い夕刻といった趣だった。ずっと向こうの広場の端にはかがり火が焚かれている。
──まだ死ぬべき時期ではなかったのだ。
ジェイラスのさきほどの言葉が、新しい驚きをはらみながら躯の奥に沈んでいく。
ジャックの差し出された匙から鼻孔に届いた香ばしい匂いに全てを忘れた。
ミシェルはジャックが唇にあててくれた薄い粥を、久々の固形物に狼狽している喉をなだめながらなんとか一口呑みこんだ。
あたたかかった。
そして甘かった。
ミシェルは次の匙を、自分から口に含んだ。
なめらかな粥が食道から胃に流れ落ちると、そこから躯が暖かくなっていくのがわかった。
「急いで食べてはいけない。さっきの水と同じだよ、少しずつ口にするんだ」
中年男は辛抱強くつきあって、用意した深皿の粥を半分以上ミシェルに食べさせ終えた。長い間食べていなかったせいか、ミシェルのおなかはすぐに一杯になった。
残った皿を床に置くと犬たちが喜んで寄ってきた。
ミシェルは、顔をあげたジャックの腕先を見た。がっしりとした肉厚で指先が荒れている。
「あの……」
ミシェルはやっと声をあげた。
「…ありがとうございます」
ジャックはどぎまぎしたように、その掌で顎を撫でた。
「お礼はジェイラス・ダジュール様に言うがいいよ。お前さんを拾ったのはあの方だ。俺はただの従者だから」
「ジェイラス・ダジュール様…」
ミシェルは繰り返した。
「どんな方なんですか」
ジャックはこころなしか誇らし気に胸をはり、黒っぽい目を埋め込んだ童顔を輝かせた。途端に言葉に熱が入った。
「俺のご主人のジェイラス様はダジュール子爵家の次男様だ。十五の年に、常設軍に入られた。ご立派な、心根のよい方だよ」
ダジュール家は権門の家柄ではない。元々の出は王国西部の辺境地方である。
かつてはその領地に小さいながらも銀の鉱山を所有していた。それなりに羽振りも良かったらしい。
かなり昔に子爵位を得ていたらしいのだが、先々代の頃に鉱脈が尽きて以後、家運も年々没落気味なのだそうだ。
291 :
塔に柊 11:2005/12/18(日) 14:42:32 ID:NzwDk+OM
貧乏な田舎貴族の子弟が食い詰めて軍隊に入るという話は聞かぬわけでもない。
曖昧にミシェルが頷く傍ら、ジャックは首を振った。
「今では伝統ある『塔に柊』の連隊長だ。ご主人様は常設軍でご出世なさって、王国中の辺境の町や村の余計な苦労を軽くなさるおつもりなんだ。……昔、俺と約束なさった」
「約束…?」
ミシェルがうった相づちに、ジャックは我にかえった様子だった。
「あ、いやいや。思わず興奮して」
その照れくさ気な口ぶりにミシェルは引き込まれた。主人をひどく慕っているらしいこの従者に好感を抱いた。
ジャックは腰をかがめて床から皿を拾い上げた。
「この調子でしっかり食べるんだ。次の粥はもっとかたくしてあげよう」
皿は洗ったようにぴかぴかだった。
「…まだ、ちゃんと洗う。心配しなくても大丈夫だよ」
童顔の横目でミシェルを見て言った。
錆び付いたような微笑がミシェルの口元にのぼった。
皿を樽の上に置き、ジャックは胸をつかれて動きをとめた。
目の前で笑った娘は、やせた頬、血色の悪い肌にもかかわらず、もとはおそらく器量良しなのだろうと思わせる表情を一瞬だけ取り戻していた。
毛布を掴んだ指先は荒れている。袖口から覗く手首にはうっすらと黄色く褪色した痣が見えた。そこから目を逸らし、ジャックは急いで言った。
「──そうだ。お前さんの服だけど、濡れてたし傷んでいたから、外から婆さんを呼んで着替えさせたんだ」
ミシェルが手をあげ、袖を眺めた。灰色の、ジャックが着ているものよりもずっと上等な男物のシャツだった。
「ジェイラス様のだよ。おれのよりは小さいから」
ジャックの注釈を受けてミシェルは少し赤くなった。では、貴族のシャツを着ているらしい。
「…いいんでしょうか」
急に緊張したそぶりで、彼女は毛布に肩を竦めて潜り込んだ。ジャックは手を振った。
「気になさらない。それより、お前さんが眠っている間にご主人様と相談したんだが──」
急いで戻るところがないのなら、まだ動かないほうがいい。包囲軍はたぶんしばらくはここから動かないから大丈夫である。
だがひとつ問題がある。ミシェルは若い娘だが、ここにはほとんど男しかいない。軍隊だからだ。
中には女癖の良くないものもいるし、ジェイラスの立場もあるから余計ないざこざは望ましくない。
だから、躯の調子が戻るまでは寝台にいても油断せず、何があってもばれないように男の格好をし、男のふりをしていてほしい。
着ていた女ものの服はこのまましまっておく。目立つのでたびたび洗濯もできないから。
男ものの衣服は、もっとぴったりとあうものをジャックが調達する。明日まで、おさがりで我慢して欲しい。
ジャックの言葉をミシェルは夢の中のお告げのように聞いていた。さっきから、状況を理解するので精一杯だ。
ただ、着ていた衣服の話になると彼女は躊躇いなく言った。
「…要りません。捨ててください」
よく動く中年男の唇を眺めながら、彼女は毛布の上からぼんやりとお腹を撫でていた。
彼の目が、ふと、細すぎるその手首に止まった。
「──とにかく、もう少し肥らないといけないとあの婆さんは言ってたんだよ。一人の躯じゃないんだから」
──え?
氷の塊を呑み込んだように胸の奥が冷たくなる。ミシェルは我知らず緑色の目を見開いた。
がつんとジャックの言葉が胃の腑を強打し、その衝撃を彼女は一拍遅れて受け止めた。
この人たちは知っているのだ。
お腹に『これ』がいることを。
「……………」
ミシェルは唇を結んだ。
……咄嗟に。何をどう言えばいいのかわからない。どう受け流せばいいのかわからない。
さらに肩をよせ、ジャックの視線を避けるように彼女は毛布の中に首を竦めた。このまま消えてしまいたい。
毛布に半分顔を埋めたところで、不快な刺激を目の奥に感じた。歯を食いしばる。
泣いたって何の役にもたたない。
辛うじて涙を食い止めたものの、ミシェルは石のようになったままもう指一本動かせなかった。
親切な中年男が寝台の傍で困っているだろう。早く動かなければ。
そう思っても腕はこわばったまま、ぴくりとも持ち上げられなかった。
292 :
塔に柊 12:2005/12/18(日) 14:43:41 ID:NzwDk+OM
──面白くねぇ
谺がした。
──泣けよ
──動け
──死体を抱いてるんじゃねぇや
ミシェルは浅くなった呼吸を感じて眉を歪めた。また息ができなくなる。
「どうした、大丈夫かい」
谺の向こうから遠く声がした。耳の奥に響く罵り声の輪郭とは違う、それだけはわかった。
──やめとけ。あまり血が出ると死ぬぞ、この変態
──この時だけ反応しやぁがるからだ
──おい、顔にゃ傷つけんなよ。取り柄はそれだけだ
息ができない。背中や胸までこわばって、肺を膨らませることができない。
ミシェルは毛布に隠れた緑色の目を見開いて、執拗に耳の奥から泡立つ谺を振り払おうとした。
目に涙が溢れていないのだけはわかった。
ミシェルは唯一の事実に縋り付いた。
泣いたって何の役にもたたない。
──やめろ、娘を、ミシェルを放してやってくれ──
「しっかりしろ」
毛布が顔からひきはがされた。
目の前にジャックの切羽詰まった顔があったが、ミシェルには見えていなかった。
固まった仮面のような表情に彼は眉根を寄せた。
「お前さん──ミシェル。ミシェル、聞こえるか?」
やつれた頬を軽く叩き、ジャックは急いで毛布を捨てると薄い肩を掌で包んだ。
「息をしてないじゃないか。ミシェル!」
勢いよく娘の背中を撫で擦る。がくがくと躯が揺れ、その力のなさにジャックは焦った。
「ミシェル!わかるか?」
緑色の瞳は放心したように開き、唇はぶつぶつと、おそらく残りわずかな空気を濫用してかすれた言葉をつむごうとしていた。
ジャックは耳を近づけ、辛うじてその響きを聞き取った。
──とうさん
「とうさんだ!」
ジャックは耳元に叫んだ。なんでもいいからこちらに気付かせなくては。
「とうさんだぞ!ミシェル!大丈夫だ、しっかりするんだ!!」
ミシェルの顎がひくりと動いた。胸がひとつだけ呼吸を取り戻した。
「とうさん──」
せっかく吸った空気で彼女は一言呟いた。目に焦点が戻り始めた。
「息をしろ、そうだ、もう一度ゆっくり──」
「どうした、ジャック」
中年男は娘を抱えたまま振り向いた。定例会議を終えた彼の主人が入り口で立ちどまり、すぐに急いで駆け寄ってきた。
「ジェイラス様、この娘を励まして息をさせていてください。私はすぐにあの婆さんを呼んでまいります!」
細い躯を毛布ごと主人に押しつけたジャックは、入れ替わりに垂れ布を揺らせて飛び出して行った。
*
「よし、急げ」
ジェイラスはその背に声を投げかけ、ミシェルの様子を観察した。
ぜいぜいと、呼吸はひどく浅く早い。緑色の瞳がのろのろと動いて、ジェイラスの顔を捉えた。
「とうさん──」
293 :
塔に柊 13:2005/12/18(日) 14:44:51 ID:NzwDk+OM
とうさん?
ジェイラスは戸惑ったが、即座に調子をあわせた。
「そうだ、とうさんだ。しっかりするんだ、ミシェル」
瞳に光がゆるく戻り、彼女はあやふやな表情でジェイラスを眺めた。
ぎこちなく周囲を見回す。その指がさまよって、上腕を支えているジェイラスの掌に触れた。
はっとしたようにミシェルは尋ねた。
「とうさんはどこ」
「……ジャックか?あいつなら婆さんを呼びにいった。大丈夫だ、すぐに戻る」
「…………」
ミシェルは瞳を閉じた。がくんと力が抜け、彼女はジェイラスの腕に沈んだ。
慌てて顔を覗き込むと、楽になったような表情で気を失っている。呼吸は早いが、さっきよりは穏当なものに変わっていた。
「ミシェル?」
声をかけたが応答はなかった。だが、とにもかくにも命に別状はなさそうだ。
ジェイラスはそう判断し、娘を寝台に横たえて毛布をしっかりと喉元までかけてやった。
ジッドとマルメロが鼻を鳴らしながら主人の脚にすりついてきた。両方の頭を撫でてやり、ジェイラスは床几を寝台に寄せ、座りこんだ。
どうも、まだ油断ができない。
ジャックが連れて来た老婆に、彼ら主従は再び天幕から揃って追い出された。
「どうやら様子がなおったらしくてようございました」
ジャックは吐息をついた。
「気付いたばかりだったのに。私が悪かったんだ、厭な事を思い出させたに違いない」
「そうだ。あの娘は、さっきお前に何と呼びかけたんだ?」
ジェイラスは心づいて従者に訊いた。
「は?はあ、さて。えーと…」
ジャックは暗く眉間に皺を寄せた。
「たしか……『とうさん』とか呼ばれましたな」
「何故だろうな」
ジェイラスは頷いた。
「……私もさっき、間違えてそう呼ばれたぞ」
ジャックはじろじろと、自分より若い主人の隠しきれぬ仏頂面を眺めた。大いに心が慰められた様子である。
「なるほど。ではこうなりますな。私だけが親爺くさいというわけではない、と」
「それは私がお前と同じくらい親爺くさいという意味か?」
「それはどういう意味ですか?」
「そっちこそどういう意味なんだ?」
「旦那がた、もういいよ」
非生産的なやり取りは天幕からの声に断ち切られた。
「よく眠れる薬を飲ませといたさ」
ちょこちょこと歩み出て来た老婆は不機嫌そうだった。
「大事な時なんだから静かにさせとかにゃ。腹の中が流れちまったら命とりだよ」
「そうなのか?」
ジェイラスの声に老婆はじろりと目をくれた。
「見たらわかりなさるだろう。そんだけ弱ってんだよ」
主従は顔を見合わせた。くれぐれも、当分の間はあの娘の取り扱いには注意しなければ。
「わかった。いや、助かった。また明日も頼みたい」
ジェイラスが言うと、老婆は顔をしかめた。
「なに、もとは結構丈夫そうだし、あとはいいもん食わせて肥らせるだけさ。薬は持ってきといたから、もう迎えにこんでくれんかね」
「なに?」
「ばあさん、それは冷たくはないか」
老婆に負けじと、ジャックは童顔をしかめた。
「ジャックの言う通りだ。私たちは男だし、妊婦の事など全くわからない」
ジェイラスが従者に加勢すると、老婆は目を逸らしてもじもじとした。すかさずジャックが追求した。
「報酬が少ないかね?」
「違うよ」
老婆は首を振り、上目遣いに斜め上を見上げた。二人がその視線を追うと、視界に『赤い木に金の稲光』の紋章のついた天幕が飛び込んで来た。
294 :
塔に柊 14:2005/12/18(日) 14:46:40 ID:NzwDk+OM
「…あれからすぐ、あの紋章のついた服を着た人がきてさ。お城やこの子のことをしつこく訊いたんだ。やっかい事はごめんだよ」
戻した直後にシラーの使用人が訪れたらしい。ジェイラスのかくまっている行き倒れに、根深く間諜疑惑を抱いているのだろうか。
ジャックが暗い声で言った。
「婆さん、まさか、あれが女だという事は…」
「安心しとくれ。あんたに貰った小麦にかけて、ちゃーんと、貧弱な小僧っこだって言っといたよ」
老婆はジャックに首を振った。
「でも客でもない偉そうなお使いに家まで押し掛けられるのは嫌なもんさ。お城とわしらは関係ないし」
「……城?」
ふとジェイラスは聞きとがめた。
「旦那様方が囲んでなさるお城だよ」
老婆は無表情に補足した。
「ご城主様の顔も見た事ないってのに、迷惑な話さね」
クレール・ダンジェストがレヴュル城とその裏手の切り立った尾根に広がる森を賜ったのは、財務官になってからの話である。
城を取り巻く平地は交通の要所だけに王の直轄地になったり公家の領地になったりと昔から変遷が激しく、代官でもない彼と地元民とが繋がりに欠けるのは無理からぬ話だろう。
「ほう。城についてどんな事を?」
レヴュル城は前々から食糧や物資を用意していたのではとしか思えぬほどの余裕で、水も漏らさぬ厳重な包囲網のただ中をしのいでいる。
シラーの使いは村からの食糧の密かな拠出などを調べたのではないか。
そう思ったジェイラスが職業柄つい真剣に訊ねると、老婆は鼻を鳴らした。
「なんだったっけね…しょうのない、つまんない事だよ。夜、崖に不審なものが見えんかと」
「………」
ジェイラスは天幕ごしの彼方に聳え立つ城の尾根に目をやった。平地への正面は剣で断ち切ったような崖になっている。
片側はびっしりと生い茂った灌木で覆われ、その合間には大きな岩が露出していかにも脆い。もう片面が城への唯一の道であり、そこは城から突き出た砦で塞がれている。
何度かあの砦に近づいてみたが、兵士が一列にしか並ぶことのできない斜面に砦から岩や熱湯を撒かれると簡単に手が出せるとは思えなかった。
「あの崖が…?」
「変なもんは何も見えんし、そんな噂も昔話も昔から村では聞かんと言ったんだよ。ただの岩だらけでな」
老婆はジャックが新たに握らせた銅貨をそそくさとどこかにしまい込み、かわりに、布ベルトに吊るしていた干涸びた薬草の束を押し付けた。
「半分にわけて鍋で煎じるんだよ。寝る前に一杯。なくなる頃にゃ元気になるさ」
*
五日が過ぎた。
レヴュルの城は手強かった。
尾根にも城にも村にも王軍の陣にも、一様に薄く初雪が降った。
すぐに溶けたが、真冬に入る前に早々に片がつくと思われていたこの一件の長引きように、ジェイラスの機嫌は悪くなる一方である。
南部に近い地方だからこの程度の雪で済んでいるが、本格的な降雪が始まれば、包囲を維持するだけでも大変になる。
動きのない日々に兵士達の士気はだらけはじめ、近くの森に繰り出して兎狩りをして遊ぶ(先日のジェイラスのような)不届きものが出てくる始末である。
これはいけない、そうジェイラスは思った。なにより自分自身、あまりの退屈に腐りそうだ。
シラーの許可を得、兵士の訓練を兼ねて本格的な狩りを行った。
だが、一体自分はこんなところで何をしているのだろうと獲物のシチューを部下たちと囲みながらふと考えてしまう。
城がいくら峻険な要害にあるといえども護るのは人間だ。
城主も軍人ではないし、賜った城を熟知してもおらぬはずだ。それなりの攻めようもある。
しかも、そろそろ積極的な手に出るべきだと主張するジェイラスを彼の上官は何故か抑えるのだ。
「待つことで成果が転がり込んでくるのがわかっているのだ。無理をする必要はない」
これだから血の気の多い叩き上げは。
そう言いた気に口ひげを蠢かすシラーの注意を、ジェイラスはひいてみた。
「ですが、そもそもは包囲が目的ではないはずです。あまり引き延ばしますと…」
視線を落とす。
かつて、身内である凶悪殺人者の引き渡しを頑強に拒み篭城した、とある結社の砦に踏み込んだ体験がある。
…王軍が入ったときには内部に立てこもっていた者のほとんどが餓死寸前の有様だった。
食糧と名の付くものはなにも残されてはいなかった。
柱も燃料として燃やしたらしく、残ったものは壁と石材と骨と皮の人間ばかり。太鼓の皮まで消え失せていた。
295 :
塔に柊 15:2005/12/18(日) 14:47:43 ID:NzwDk+OM
あのような惨状を再び見るのは、できれば避けたい。
任務を果たすのが軍人の義務だがそれにしてもああいった光景は後味が悪すぎるものである。
幸い城主の財務官、クレール・ダンジェストは商人の出だ。事の理を糾せばあるいは、それほどせっぱつまらぬ今なら話が通じるのではあるまいか。
そう進言すると、シラーは冷たい目で連隊長を眺めた。
「甘い。君はそれでも有能な軍人か?…下賎な成り上がりめに理など通じるものか。
陛下より預かった大切な兵士たちを一人残らず無事に故郷に戻すのも私の大事な役目ではないか。君は、私に逆らうのか」
それを言われると二の句が継げず、ジェイラスはおし黙って上官の天幕を後にする。
野営地の広場の隅で立ち止まり、先日の狩りの獲物を塩漬けにしている部下たちの作業を目に映しながら、彼はむしゃくしゃする気持ちを抑えられなかった。
シラーの考えは一方では正しい。
だがその正論の裏には我が身の栄誉を求める小心者の巧みな計算が見え隠れしているような気がする。
翻るに、ジェイラス自身の一見温情的な意見の裏にも、本当は、このようなつまらない場所から早々に逃れたいという軍人の欲望が隠されている。
まあ、どのような理屈も結局は運用する人間次第という事になるのだろうが、それにしても気に食わない。
「ありがとう、グラン・ルシ。ジャックが喜ぶ」
塩漬け肉を押し付けられ、赤ら顔の古参兵に礼をいいながらジェイラスは思った。
シラーはあのような綺麗ごとをいってはいるが、実際、例えばこの兵士グラン・ルシが別の戦場で飢えたとしても口ひげどころか眉の毛一本も動かすまい。
ジェイラスにとってこの兵士は同じ連隊の、顔と名前の一致した一人の人間だ。
グラン・ルシが戦死したとしてシラーは痛くも痒くもあるまいが、ジェイラスにとってはそうではない。
…あちらの防衛隊にも、グラン・ルシのような男がいるに違いない。
城主に従って現在背いてはいるものの、彼らももとを糾せば王国の兵士たちのはずである。
一時が万事その伝だ。つまりはシラーには味方にも敵にも情がない。
シラーは、可能な攻撃のタイミングを見逃すよう強制し、相手方を無駄に苦しめるやり方を強いてくる。
宮廷において今をときめく威勢にあった頃の首席財務官クレール・ダンジェストとは、おそらくシラーは顔見知りであったろうに。
シラーの言動の端々に、クレール・ダンジェストに対する侮蔑を感じるたびに、ジェイラスはなぜかひどく腹が立つのだ。
(クレールが成り上がりだからだ。奴にとっては成り上がり者などはどこまでいっても人間ではない)
ジェイラスは我が天幕に向かいながら胸の中で呟いた。
(私も奴にとっては貧乏貴族の成り上がりだ。兵士も下賤の者だ。……うむ、道具だな。名誉と賞賛を浴びるための道具だ)
だから、道具が何を考えていようが興味も関心もないのだ。
自分の邪魔さえしなければ──そこまで鬱々と考えて、ジェイラスははたと視線をあげた。
唯一、シラーがジェイラスのやる事に興味を抱いた、とある事例を思い出したのだ。
わざわざ城の麓の村にまで主人同様もったいぶった使用人を派遣した。
(そういえば、あの婆さんが妙な事を言っていたな)
*
薬草の束を煮詰めた怪し気な臭いの漂う鍋を布で巻いた手で捧げ、ジャックが天幕に入ってきた。
ちょうど、ジェイラスが軍用マントを掴んで立ち上がるところだった。
従者は急いで鍋を置いた。
「ジェイラス様、どちらに?もう夕刻ですぞ。コウモリでもお狩りになるんですかい」
「うむ。『閣下』やクレドーからなにか訊かれたらそういう事にしておいてもらおうかな。ジッドとマルメロは置いていく」
ジェイラスはミシェルの寝台についている犬たちを眺めた。彼女はすやすやと眠っている。
あれからミシェルの様子がおかしくなることはない。
ジャックがせっせと食べさせる滋養に富んだシチューや甘い粥のお陰で、削げたようだった頬もやわらかみをうっすら取り戻し、このごろ肥ってきたようだ。
といってももとがもとだけにやっとやせっぽちにも人心地ついたといった趣きだったが。
296 :
塔に柊 16:2005/12/18(日) 14:49:05 ID:NzwDk+OM
「私は犬と一緒に留守番ですか?」
弓を手に取る主人を眺めながらジャックは口を尖らせた。
「お前が必要になったら連れて行く。ちょっと気になることがあるのでな、今回は確かめるだけだ」
ジェイラスはきびきびと入り口に向かった。肩の向こうで頬の線を歪めたのが従者の目にも見えた。
「ミシェルも、お気に入りのお前が傍にいるほうが安心だろう?」
ばさりと垂れ幕が落ちた。
あっけにとられていた中年男の眉間にもの思わしげな皺がよった。
「………………」
首を振り、踵を返そうとして置きっぱなしだった鍋にけつまづきそうになる。
慌てて大股を広げて踏みとどまった。幸い、蓋をしていたので少し溢れただけで済んだ。
この薬でおわりなのだ。あの老婆の言いつけ通り、ちゃんと最後まで娘に飲まさねば。
変な格好で足をふんばっているジャックを、寝台の傍で腹這いになったままのジッドがうさんくさそうに見上げた。
マルメロも頭をあげ、今では嗅ぎ馴れた臭いが強く溢れた気配に、小さく唸った。
「なんでもない、ジッド。マルメロ。静かに」
ジャックは制した。犬たちは興味を失ったように再び前肢の上に顎を置いた。
(──何を仰るやら。ジェイラス様らしくない…)
ジャックは口の中で呟きながら、身を屈め、鍋を持ち上げた。
ジェイラスは何か勘違いしているのではないか。なにせジャックは『とうさん』なのだ。
──お暇なのが良くないのかもしれない。
城はいつまでも陥ちないし、シラー閣下はジェイラス様の具申には聞く耳もたないし、大掛かりな狩りも所詮は遊びだし。
(なんだあの肉は)
ジャックはミシェルの枕元の木台の上に置かれた塩漬けの塊肉を発見した。
犬たちが素知らぬふりをしているという事は、ジェイラスが置いたものに違いない。こんなところに置かず、ちゃんとジャックに渡してくれればいいのに。
「ジャックさん」
突然背後からかけられた声にジャックは飛び上がりかけた。
鍋を辛うじて肉の隣に置き、中身が溢れてないのを見てほっとした。
「やあ。目が覚めたかね」
寝台に向き直ると、ミシェルの緑色の目がぱっちりと開いていた。白い部分が、よく眠ったしるしの透き通った青みを帯びている。顔色もいい。
「何をぼうっとしているんですか」
「いろいろ考え事をしていたんだ。こう見えても私は忙しいんだよ」
ミシェルは申し訳なさそうに首を竦めた。
「…ごめんなさい」
「あ、いやいや」
ジャックは急いでかぶりを振った。
「お前さんのせいで忙しいわけじゃないよ、ミシェル。ご主人様がこうやって肉でもなんでもそのへんに置いておくから」
ミシェルはほっとしたように微笑した。わずかにふくよかになった頬が盛り上がり、温かな微笑になった。
「ええと、吊るすための紐と──瓶が要りますね」
ジャックは頷いた。
「そうなんだ、汁が垂れるから。よく気がついた」
ミシェルは寂しそうに口元を歪めた。
「豚を屠ると塩漬けにするでしょう…きっと猪も同じだと思って」
ジャックは彼女のこの表情をこの五日で何度か見かけて知っている。笑っているつもりなのだ。
彼女が農家の出身ではないかと思っているのだが、交わすわずかな言葉の端々にジャックはその思いを確かにする。
冬は家畜の屠殺の季節だ。きっとミシェルは家でその作業の手伝いをしてきた娘なのだろう。
だが、実家の話を彼女はしない。身の上を語ろうとはせず、当たり障りのない言葉をぽつぽつと口にするのみだ。
躯の調子が戻るまでは無理に喋らなくてもいい、とジェイラスが禁止したせいもある。ジャックも素知らぬふりをしている。
無理に喋らせても──困るだけだ。
「なあ、ミシェル」
ジャックは鍋から小さな瓶に煎じ薬をうつし、塩漬け肉を天幕の柱に吊るしてしまうと、とりあえずマルメロの餌皿をその下に受けた。
犬たちはじっと肉を見上げている。
「お前さん、……髪、本当によかったのかい」
「ああ──」
ミシェルはか細い腕をあげた。ぱらぱらと茶色の髪の先を弄ぶ。耳のあたりで断ち切った長さは少年のようだった。
「心配しないで、ジャックさん──楽になりました」
297 :
塔に柊 17:2005/12/18(日) 14:50:44 ID:NzwDk+OM
本気かな、とジャックは不安だった。男のふりをすると聞くと、ミシェルは自分から髪を切ってくれと言い出したのだ。
切ったのはジャックだ。
ジェイラス用の散髪用具を借用し、寝台に身を起こせるようになったミシェルの髪をほぐした。
汚れて縺れた髪を梳くと随分と長かった。櫛がかかり、軽く引っ張られるたびにミシェルは震えた。
緊張したジャックは巧く揃えることができず、しまいになんとか整えると随分と短くなってしまった……。
──頭巾で隠すだけでいいと言ったのに。なにを一所懸命なんだか、どうもなんだか可哀相になぁ、とジャックの腹の底が少々熱くなる。
しまった、これでは本当に『とうさん』になってしまう。
急いでジャックはジッドの鼻先に手をやった。
「ああ、こいつらがいつも一緒だけど、犬は…その、好きかね。それとも嫌いかね」
唐突に振られた話題に、ミシェルは少し躊躇ったようだった。
「……本当は、あまり好きじゃなかったけど──」
マルメロがぴくりと顔をあげ、抗議のしるしに黒い唇の端を曲げた。
「──でも、この子たちは好き。ごめんね、マルメロ」
ミシェルは腕をのばして、おっかなびっくりマルメロの耳を撫でた。犬は満足したげに寝台の端に首を載せた。
「こどもの頃、大きな犬に追いかけられたことがあって」
ミシェルは小声で言った。
「でもジッドとマルメロはお行儀がいいのね。上手にしつけてもらったんだわ」
「ジェイラス様と私でね」
ジャックは得意そうに聞こえぬよう、控えめに言った。
「こいつらは捨てられてたんだ。三年前くらい…雨の日だったか、ご主人様が拾ってきなすったのさ」
「子犬の頃に?」
「いや」
顔をしかめてジャックは首を振った。
「もう大きくなりかけてた。ぐるぐる巻きに首に縄をつけられて、どっかの墓地の生け垣の中に繋がれていたそうだ」
ミシェルの手がとまった。マルメロが愛撫の継続をせがんで唸った。
「飢え死に寸前だったよ。えらく人間を恨んでてな、無理もないが。触ろうとすると二疋とも牙を剥くんだ」
「……………」
ジャックは肩を竦め、上品に構えている犬たちの頭を、がっしりとした掌で撫でた。
「…………」
ミシェルはマルメロの黒い目を見つめている。考え込んでいるのを見て、なにかまた余計な事を言ったのだろうかとジャックは内心汗を感じた。
「さ、無駄話は終わりだ。夜になる。お前さんは、あの薬を飲んでよく休まなきゃ」
杯に注いだ煎じ薬をミシェルはおとなしく飲み、寝台に横たわった。
毛布を整えてやるジャックの掌を見つめていた彼女は、ふいに、こう言った。
「──ジッドとマルメロが死ななくて、本当に良かった」
何を言うのかとそちらに向けたジャックの目に、真剣な表情をしているミシェルの顔が映った。
緑色の瞳には、一途な頑さに似た色をたたえている。
「ジェイラス様とジャックさんは、きっと一所懸命、ジッドとマルメロを助けようとしたんでしょう」
「いや……」
ジャックは言葉に詰まった。
「きっとそうです……」
彼女は唇を噤んだ。
堪えるように瞬きをすると、短い髪の娘はジャックにくるりと背を向けた。
*
闇が濃くなりまさり、かがり火が寒い夜気の中、野営地のあちこちで揺らめいていた。
ジャックはぼんやりと主人の天幕の入り口近くに座っていた。
手にはフェルト布を握っていたが、膝の間の肩当てはあまり動いてはいない。
「──どうした、ジャック」
闇の中からぬっとジェイラスが現れた。灰色の目が遠くかがり火の灯りを反射して煌めいた。
「ぼんやりとして。ミシェルに何かあったのか?」
「いえ。ぐっすり眠っています。お戻りなさいまし、ご無事で」
ジャックは反射の動きで立ち上がった。
「お気になさってらしたことはいかがでしたか」
「話は中だ」
298 :
塔に柊 18:2005/12/18(日) 14:51:58 ID:NzwDk+OM
ジェイラスは冷たい空気をマントごと持ち込んだので、ジャックは急いで入り口の垂れ布を下まで落とし、火桶の埋み火を掻立てた。
「何でこんなに膝が汚れてなさるのやら」
ジャックはぶつぶつと──ミシェルの眠りはさまさぬよう──主人のズボンを点検した。
「どこの巣穴に潜り込んだんですかい」
「レヴュル城だ、ジャック」
ジェイラスも小声だった。
「村の裏手の丘の天辺から、崖の中腹に灯りが見えた。城の真下だ」
仰天して、ジャックはまじまじと主人の顔を眺めた。ジェイラスは頬をかすかに紅潮させている。
いい兆候ではない。ジャックの主人は、なに事か非常に緊張している。
「城の下にあるものといえば何だ、ジャック」
「倉か──牢屋でしょうね」
常識的に考えるとこの線である。ジェイラスは頷いた。灰色の目が鋭く瞬いた。
「いいぞ。だが、倉なら灯りは不要だろう。あの灯りは牢に違いない」
なぜ言い切るのか。
ジャックは異議を唱えてみることにした。今夜のご主人様は結論をやけに急いておられるようだ。
「よっぴいて何かの作業をしているのかもしれませんよ」
「それはない」
ジェイラスはきっぱりと首を振った。灰色の目がますます輝いた。中年男はため息をついた。
「降参です。どうしてそんなに牢屋にしたいのか、その理由を教えてくださいよ」
ジェイラスはさらに身を従者に近づけた。種明かしをする曲芸師の顔つきで、ジャックの主人は囁いた。
「あそこにいるのがクレール・ダンジェスト財務官だからだ」
*
中年の従者はジェイラスの期待通りの反応を見せた。
目と口がぽかんと広がった。
「まさか!」
「確かだ」
ジェイラスの目は冗談を言っている色ではない。
「下の岩場の縁にしかとりつけなかったが、本人と声を交わすことができた。私のような者でも彼の声くらいは知っているからな」
それでこのお膝か、とジャックは納得したが、主人につられてひそひそと反論した。
「でもクレール・ダンジェスト様はたてこもってるあの城の主じゃないですか。そのご城主様がどうして自分とこの牢屋なんかにいるんですかい。酔狂にもほどがあります」
「幽閉されておるのだ」
ジェイラスは、はばかるようにちらとミシェルに視線を送った。
「離れていたし、上に聞こえるといかんのでこみいった話はできなかった。だが事のおおよその次第はつかめた気がする。整理がてら聞いてくれないか、ジャック」
言わずもがなである。ジャックは思わず姿勢をただした。
「ひと月ほど前の事だ」
ジェイラスは脱ぐのを忘れていたマントの襟を指でほどいた。
「都のクレールの館に憲兵隊が踏み込んだ。横領が発覚したと言われてクレールは無実を主張し、国王への面会と釈明を望んだ。もちろん断られたがな」
とんでもない疑惑だが何かの間違いに違いない、と当然クレールは思った。
憲兵隊本部で一旦身柄を拘束されると告げられたが、特徴のない馬車に乗せられた直後、事態は思わぬ進展を見せた。
本部は王城を囲む堀のすぐ北口にあるはずだった。だが、馬車はそこを通り過ぎても止まらなかった。
昼も夜も走り続け、二日後に行き着いた先は、ここ、レヴュル城だった。
そしてそのまま投獄され、──現在に至る。
299 :
塔に柊 19:2005/12/18(日) 14:52:58 ID:NzwDk+OM
「待ってください。じゃあ、その踏み込んだ憲兵隊ってのは」
「偽物だったという事だな」
ジャックは呆れた顔をした。
「クレール・ダンジェスト様ってのは目端がきくと巷で評判のお方じゃありませんかね。それがそんな簡単に」
「そこが人間の面白いところだ」
面白さはみじんも感じていない様子のジェイラスはもの思わし気にマントをまとめると、櫃の上に放り投げた。マントはずるずると床に落ちた。
「でも横領の証拠はあるんでしょう」
「王陛下の前に出されたものがある。私が思うに、それも偽物ではないかな…考えてもみろ、疑い通り財務官殿が横領をしていたとしてそんな書類を残しておくかな」
「ははぁ」
ジャックは納得した。
「抜け目のない方がそんな明々白々な証拠を残すとも思えませんね」
「そうだ。なにより…」
ジェイラスは頷いた。
「生きて捕縛せよとの王陛下のご命令がある。おそらく、陛下も財務官殿の横領や、都合よく出て来たあの数々の証拠を疑っておられるのではないかと思う。そうだろう?」
「ははあ。そういわれればその通りです」
「だが、とすると」
ジェイラスは腕を組んだ。
「クレール・ダンジェストの命は危ういのだ」
「なぜですか。生きて捕まえろとの王様のご命令じゃないですか」
「シラーはなぜ包囲をしつこく続けようとすると思う?」
「こっちの兵士が無駄死にしないようにとの事なんじゃないですかい」
「そうだ。シラーはそう言っておるが、だがそれは建前だ。どうやら『閣下』は財務官殿をどうにかする腹づもりらしい」
「なんでです。王様にこっぴどく叱られるじゃないですか」
ジャックが口を尖らせるとジェイラスは顔をしかめた。
「ジャック。お前、役にたつ男だと思っていたが案外鈍い奴だったんだな」
「なんとでも言ってください。で、なんでシラー閣下が王様のご命令を無視なさるんですか」
「陛下の面前でクレールの疑惑がはれては困るのだ。これも私の想像だがな、ジャック。あの横領には閣下とそのご一族が噛んでいるのかもしれない。一石二鳥という奴でな」
「……いくら気が合わないといってもそこまで上官を侮辱してちゃいけませんや、ご主人様。もっとも」
ジャックは掌で顎を撫で、童顔を暗くうつむけた。
「シラー閣下がいかにもやりたがりそうな計画ですがね」
ジェイラスは微笑した。
「現に、クレール本人の話では包囲が始まってからは見張りから水しか与えられていないそうだ。城主が牢獄で腹を空かせておるのが何より怪しいではないか」
「それもそうですね。王様に叱られても、『餓死するまでとは思いませんでした』で言い抜けることもできます」
ジャックは顔をしかめた。
「ジャック」
ジェイラスは従者に顔を寄せた。
「急ぎグラン・ルシを都に送ろうと思う。本当ならクレドーをやりたいところだが目立つから」
「王様へ告げ口ですな」
ジャックは頷いた。
「でも、グラン・ルシがとんぼ帰りしてる間に、今、もうおおかた一週間以上水っ腹の財務官様が餓死しちまったらもともこもありませんぜ」
「うむ。そこでお前の出番だ、ジャック。急いで、村の崖から食糧をクレール・ダンジェストに差し入れてほしい」
「…おやすいご用ではありますがね」
ジャックは眉をひそめた。
「私はご主人様の従者だからシラー閣下に目をつけられてますよ。こないだも婆さんとこに行く時にあの派手な従者がいやーな目つきで見てた」
「そういえば、そんな事を言ってたな」
ジェイラスは組んだ腕を無意味に揺さぶった。
…できれば、グラン・ルシがなんらかの国王の意を受けて戻ってくるまでは音無しの構えでいきたい。
急げば往復四日で済むが、一兵卒が、たぶんこの陰謀に一枚噛んでいるはずの名誉元帥の目を避けて国王への面会を叶えるのは容易なことではない。
連隊長として国王の信任は厚いジェイラスにしても、上官を通さぬ使者を直接王城に送り届けるわけにもいくまい。
「兄を頼る。末のサディアスが王宮衛兵隊に入るんだと言い張って聞かなかっただろう。今、あいつの試験に付き添っているはずだ」
都に嫁いだ娘の家に滞在中の兄のもとにルシがたどり着けば、知り合いが多くもない田舎出の一族ではあるがそれでも腐っても子爵家である。
親子ほどに年が離れているせいかジェイラスを可愛がってくれている兄のことだから、なんとか首尾良く取りはからってくれるだろう。
だがいくら兄が急いでも半日程度はかかるかもしれない。
十日近く水だけの財務官にとっては半日も惜しい時間である。
300 :
塔に柊 20:2005/12/18(日) 14:54:07 ID:NzwDk+OM
「……私ではいけませんか」
小さな声が割り込んだ。
ぎょっとして顔をあげた主従の目に、おずおずと見返す毛布越しの緑色の目がみえた。
毛布をずらして起きあがり、少年のような娘は頬を赤くして喋り始めた。
「私ならまだここの誰にも姿を見られていません。今夜、これからこっそり抜け出して、村に…」
少し考え、彼女は頷いた。
「あのお婆さんのところに、お使いの人が戻ってくるまで泊めてもらいます。そして、そのご城主様に食べ物を差し上げ…」
「だめだ!」
ジェイラスは娘をにらみつけた。
「盗み聞きをしていたのか、ミシェル」
「ごめんなさい。でも…きっと、お役に立てます」
ミシェルは身を竦めた。太い息を吐き、ジェイラスは首を振った。
「お前は死にかけていたんだぞ」
「でも、お役に立てます!」
ミシェルは繰り返した。
「ジャックさんがうんと美味しいものを食べさせてくれたから、ずっと元気になりました。もう、一昨日から少しずつ、燭台を磨いたり、そのへんの片づけだってやってます」
ジェイラスは従者の童顔に灰色の目を据えた。ジャックは気弱げに頭をふった。
「やると言って聞かないんですよ。止めても勝手に起き上がって始めるし」
「寝台に縄で縛り付けておけ」
「嫌です!」
ミシェルは毛布を握ったまま寝台から降り立った。確かに足元はしっかりしていた。
「皆さんが困ってらっしゃるのに、自分だけ寝ているのは嫌です。お願いです、お手伝いさせてください」
ジェイラスは怒鳴った。
「あの崖は危険なんだ。私でも何回も滑った」
「ジェイラス様、お声が」
ジャックがたしなめた。ジェイラスはむすっとして声を低めた。
「あの崖は岩だらけだ。落ちると腹の子ともどもお前も死ぬぞ。せっかく元気になってきたのに、そんな事は許さぬ」
ミシェルはすぐに言い返した。
「下から牢まで…そう、矢かなにかを使って細い丈夫な紐を渡していただければ、その端に籠をつけます。軽い食べ物を入れて、ご城主様に引き上げていただけばいいと思います」
ジェイラスがぽかんと口を開けた。ジャックも唖然としてミシェルを見た。
「人の出入りは無理でもそれくらいはできるんじゃないでしょうか。…お願いです。恩返しがしたいんです」
少しやわらかみを帯びた輪郭の細面に必死の色を滲ませてミシェルは懇願した。
「…そういえばこの二・三日」
ジャックがぼそぼそと呟いた。なにを言い出すかとジェイラスは従者の童顔に視線を突き刺した。
「クレドー様が、ジェイラス様が助けなすった行き倒れはもう元気になった頃だろう、軍に関係のないものはとっとと追い出せとうるさくてですね」
「あいつは救いようのない石頭なのだ。気にするな」
「クレドー様のお考えは正しいと思います」
きっぱりとミシェルが言った。
「ジェイラス様に助けていただかなかったらあのまま無くしていた命です。私が村に行くのが一番いいんです」
「……えー、どうでしょうジェイラス様。実際いい考えだと思いますし」
ジャックがおずおずと言い始めた。
「あの婆さんは事情を知っております。言われてみれば、今後しばらく養生するには悪くない場所ですな」
「ジャック!お前はどっちの味方だ」
ジェイラスがこめかみに筋を浮かせて立ち上がるとミシェルがびくりとした。ジェイラスの灰色の瞳に反射的な後悔の色がよぎった。
この娘が暴力的な雰囲気に怯えることは最初からわかっていたのに。
ジャックが急いで両手を振った。
「ジェイラス様、お静かに、ジェイラス様」
「………」
ジェイラスは腰を下ろした。
躰の前で握りしめた拳を重ねて、ミシェルが落ち着こうとしている。その震えがおさまるのを待って彼は呟いた。
「……好きにするがいい。だが、まだ躰が完全ではないんだ。無理はするな」
「はい」
ミシェルの顔が輝いた。
「城主の件はアルチュールにも伝えておかねばならんな。あいつも『閣下』には心底うんざりしている」
マントを掴んで、彼はひっそりと立ち上がった。
「夜中までに準備だ。ミシェルを村まで送れ、ジャック。気をつけていけよ」
301 :
塔に柊 21:2005/12/18(日) 14:55:21 ID:NzwDk+OM
*
森の朝を染め付ける単色の濃淡はもう見飽きた。狩りも兎もどうでもいい。
ジェイラスは藪に突っ込む憂さ晴らしをやる気もおきないまま、気がつけば小さな池の縁に突っ立っていた。
一週間前にミシェルを見つけた池だ。いつの間にここまで来てしまったのだろう。
野営地にジャックはまだ戻っていまい。
ジャックには副官のクレドーを付けた。食糧綱の細工をするように命じてある。
石頭に事情をあらかた呑み込ませるのは予想以上に大変だったが。
相も変わらずつまらない景色だ。灰色に染まった、彼自身の目の色のように面白くもない無味乾燥な。
ジェイラスは霜と雪で痛めつけられつつもわずかに残った枯れ草の上に、情け容赦なくブーツの踵を踏みおろした。
従者のくせに主人よりもミシェルの味方をするジャックに腹が立つ。
手厚い看病をして世話をやいてやり、いつもミシェルと一緒にいるジャックに腹が立つ。
とうさんなどと呼ばれてやにさがっているジャックに腹が立つ。ついでに言えば、ジャックと一緒にとうさん呼ばわりされたのにも腹が立つ。
クレドーの奴、ミシェルに会うのは初めてだが、あの石頭めは短い髪の女がこの世にいるとは気付くまいな。
ジャックの冗談口やクレドーのしかめつらしい挨拶に楽しそうにしているかもしれないミシェルに腹が立つ。
そしてなにより、面白みもなく、うまく冗談を言って笑わせてやれない自分に腹が立つ。
ミシェルを怯えさせないジャックの技が欲しい。
…いや。
ジェイラスは灰色の目を、静まりかえった水面に遊ばせた。
ジャックが悪いのではないし、ミシェルが悪いのでもましてやクレドーが悪いのでもない。
自分が悪いのだ。
イライラしているのはシラーとこの仕事のせいだと思いこんでいるうちは幸せだった。
それは一週間前までは確かにそうだったのだが、今の自分の苛立ちはそれとは無関係であることに気付いてしまった。
気付いたのは夕べミシェルをジャックが村まで送っていってからのことだ。
ミシェルが天幕にいなくなってしまった。
いつもと違う場所にある布や、きれいに垂れを掃除して磨いた蝋燭立てに気付いた。
ミシェルがいたのはたった一週間だけのことだというのに、その姿が寝台にないのがひどく…
寂しい。
ジェイラスは立ち上がり、草むらを歩き回った。
あんなやせっぽちの娘がいなくなったからといってどうしてジェイラス・ダジュールともあろう者がこうも落ち着きがなくなるのだろう。
しかもミシェルはたいして綺麗なわけでもない。
いや、ジャックは元にもどればミシェルはきっと器量よしですよとか無責任なことを言っていたな。
違う違う、ジェイラスは片手で髪をかきむしった。
そうではないのだ。ミシェルはまだ完全な大人ではないのにあんなひどい目にあっている。
まだ詳しいことは何もわからないが意に染まぬ無体な目にあった事だけは間違いない。
しかも子供を身ごもっているのだ。誰の子ともわからぬ、望んだわけでもない子を。
なのにあの強さはなんなのだろう。あの気力はどこから出てくるのだろう。
横になっている間も弱音を吐かず、起きることができるようになると掃除まで始めた。恩返しができると主張した。
どうしてあんなに強いのだろう。加えて彼女には頭もあるのだ。食事籠の工夫には感心した。
ミシェルの、皮をむいたブドウの玉のような瑞々しい目の色が脳裏をよぎった。あの目が天幕にないととても…
寂しいのだ。
ジェイラスは草むらの上をしつこく歩き回った。
本当の怒りはジャックにもミシェルにも腹の子にも自分にもないのだとわかっていた。
彼が深く憎んでいるのは顔も名も知らない連中だ。ミシェルをあんな目に遭わせた奴らだ。
今どこにいるのだろう。奴らが無事でいる確証はないが、無事だとすれば許せない。
もしそうであればこのジェイラス・ダジュールが許さない。
グラン・ルシが都から戻り次第いかようにも事態は動き、この仕事は終わるはずだ。
そうすれば王国中の災難にあった村や町を調べ上げ、ミシェルを連れ去り陵辱し虐待した者たちを草の根わけても探し出し──。
302 :
塔に柊 22:2005/12/18(日) 14:56:58 ID:NzwDk+OM
だが、この決意は彼女が彼に望むことだろうか。それはジェイラス・ダジュール一人の義憤に過ぎないのではないか。
ジェイラスの、マントに包まれた肩が下がった。
彼は視線を水面に向けた。
枝の隙間の、彼の目と同じ色の空から薄片が舞い降りて、波紋も残さず溶けていった。
*
ジャックは、天井からあやしげな匂いのする束が滝のようにぶらさがっている部屋で老婆と向かい合っていた。
同行した副官のクレドーは首尾良く任務を果たしたあと、一足先に野営地に戻っている。
「わしは弟子にとると言った覚えはない。この娘と……うんにゃ」
ジャックの視線に口を噤んで老婆は咳払いした。
「この子ときたらゆんべから、目に付いた順に薬草の名前と効きめを知りたがるだろ。面倒くさいんでつい口が滑っただけだよ」
ジャックは小屋の暖炉の脇で夢中になって薬草をよりわけているミシェルを眺めた。
短い髪が上気した顔を彩っている。炎のせいではなく興奮のためらしい。
「面白いのかい、ミシェル?」
ジャックは婆さんが押し出した白湯を啜りながら尋ねてみた。今日は特別に高価な粉砂糖も握らせてやったので婆さんの機嫌は悪くないらしい。
「面白いです」
ミシェルは満足そうにきれいにわけた薬草の束を眺めた。
「アディールさんは本当に物知りなんです。納屋に干してある束も、きちんとわけたら、もっといろいろ教えてくださるそうです」
唐突に出てきた美しげな響きにジャックはきょとんとした。
「誰だ、そのアディールさんというのは」
老婆がじろりとジャックを見た。
「わしさ。悪かったね」
彼の握っていた素焼きのカップを奪い取ると、老婆はつんとして小さな洗い場に消えていった。
ジャックは身をかがめてミシェルに囁いた。
「本当に弟子入りする気かい。あの婆さん、お前さんを使ってこの家のゴミを全部片づけさせる気だぞ」
「はい。それにゴミなんかじゃありません、薬草です」
「俺にはゴミに見えるね」
ジャックは疑わしげに、天井ばかりか柱から壁まで覆っている乾燥物を眺めた。
ミシェルは分けた薬草に目を走らせた。
「えーと……発熱…寒気のする時。血が足りない時にはこれはあまり服んではだめ……」
「なあ、ミシェル」
ジャックは童顔を心配そうに傾けた。
「お前さん、このまんまこの村に居着く気かい」
「……私、行くところもありませんし」
ミシェルは顔をあげた。少年のような髪と衣裳の彼女は真剣な目をしていた。
「助けていただいたからといって、そのままお世話になるわけにはいきません。寝ている間、身の振り方を考えていたの」
「にしても、せめてもう少しくらい…」
ジャックは肩をすぼめた。
「ちょうどお役にも立てるんです。願ってもない機会だわ。それに…」
きっぱりとミシェルは言った。少々大きめの毛織物の上衣に覆われた腹に目を向けた。ベルトはゆるやかに締めてあった。
「…お産も見るってアディールさんが約束してくださったの」
クレドーとジャックが崖で作業をしている間にこの家では着々と話が進行していたらしい。
「そうかね。…あー……その…」
良かった、と言うべきか。
本来ならそう言うものなのであろうがミシェルの場合どこまで気持が整理されているものだか、ジャックには想像が難しかった。言えない記憶もあった。
彼はカップがなくなって手持ち無沙汰になった指を机の上で組み合わせた。
「……ミシェルは偉いなぁ」
思っていたことがそのまま口から出てしまった。耳にしたミシェルが急いで首を振っている。真っ赤になっていた。
「えらくなんか、ありません。私……」
また首を振った。
「……ジェイラス様…と、ジャックさん…に助けていただかなかったらきっと……」
言葉が途絶えた。ジャックはミシェルを横目で眺めた。上気した顔を伏せて、ミシェルは肩を竦めた。
「……えらくなんかないです」
ジャックはのんびり首を振った。
「いやいや。いろんな奴がいるからね」
303 :
塔に柊 23:2005/12/18(日) 14:58:01 ID:NzwDk+OM
喋りながら目の裏に浮かぶ母親の顔を見極めようとした。別れたのは随分昔だったから、細かな顔立ちはもう判然としなかった。
彼女は、当時西部の国境を荒し回っていた傭兵の集団に乱暴されて望まぬ息子を産んだ後はいつでも酔っぱらっていた。まれに素面の時にはジャックに恨み言を言った。
父親がどこの誰だか、だからジャックには未だにわからない。
母親は、まだジャックが小さかった頃川に落ちて死んだ。いつものように酔っていた。仕方なく引き取った祖父は、娘を不幸にした獣の息子には母以上に冷たかった。
少しでも楽しく生きるには悪い仕事と仲間のほうがジャックにはやさしかった。そのままだったらたぶん見知らぬ父親のようなろくでなしになっていたはずだ。
強盗に失敗し、仲間に見捨てられ、袋だたきにされた半死半生の姿で道ばたに転がって、どうもろくでもない人生だと考えているところを拾われた。
拾ったのはジェイラス・ダジュールだった。
「…いつかね。その、お産は」
「春の終わりごろだそうです」
「あー……そうか」
短い沈黙が降りた。
「あら、ジャックさんのカップはどこに行ったんですか?お茶、淹れますね」
さっと立ち上がるミシェルの表情が一途な親身さに溢れているのを、ジャックはくすぐったいような気分で見た。
(そういえば、あの時のご主人様もこのくらいの年頃だったかなぁ)
──立ち上がれるか、とジェイラスは訊いた。
──がんばれ。
腕や肋が何カ所も折れている事はわかっていたが、相手の真剣な目と口ぶりに、なけなしの気力を振り絞って立った。
あの時のジェイラスはやっぱり一途な目をしていた。ジャックが生まれて初めて見る系統の目つきだった。
「ジャックさん?」
ぼんやりしたらしい。
我に戻ると、ミシェルが不審そうに湯気のたつ新しいカップを差し出しているところだった。
老婆アディールも、いつの間にか暖炉の傍の椅子に戻って居眠りをはじめている。
「どうしたんですか」
「いや…」
ジャックは掌で顎を撫でた。
「お前さんを見てて、昔、初めてお会いした時のジェイラス様を思い出してたんだ。似てるのかな」
「昔のジェイラス様…?」
ミシェルは顔を傾けて興味を示したが、ジャックは急いで手を振った。
「──いやいや、別にたいした話じゃない」
「そうですか」
少しふくれて、ミシェルは床に戻った。
*
ジャックが戻ってきた時、彼の主人は天幕にいた。
疲れたような横顔でなぜか燭台を弄っている。マルメロとジッドが構ってもらいたげに周囲をうろうろしているが目を向けてもらえないようだ。
赤毛の生え際にはちらほらと白くなったものが見え隠れし、額には考え事をしている時の癖皺が現れている。
……苦労してなさるせいか、歳を取んなすったなぁ。
ジャックは思った。
ミシェルを見てきたばかりだからそう思うのかもしれない。とはいうものの彼の主人はジャックよりかなり年下なのだが。
「遅かったな」
じろりと灰色の目で睨まれた。ご機嫌斜めだ。ジャックは急いで垂れ布を落とした。
「ただいま戻りました」
「一体、どうなっているんだ」
「うまくいきました。クレドー様の弓矢の腕は大したもので」
ジェイラスはむっつりと首を振った。
「クレドーがさっき自慢にきたから首尾は知っている。そうではなく…」
「クレール・ダンジェスト様ですか。無事食糧をお届けできましたよ」
「そうか。で……」
「ご安心ください。シラー閣下様の小姓の派手な衣裳は村では見かけませんでした」
ジェイラスは音をたてて燭台を置いた。
「ジャック…。お前はあれか、わざとミシェルの話を避けてでもいるのか」
304 :
塔に柊 24:2005/12/18(日) 14:59:20 ID:NzwDk+OM
ジャックは呆れて主人を眺めた。
「ご主人様の一番心配してらっしゃるのがその件だとは思わなかったんですよ。元気ですよ。それがなにか」
童顔の凝視にジェイラスは気色悪げな顔になった。
「…お前は心配じゃないのか?あれだけ集中的になつかれていたくせに。ミシェルの様子はどうだった。落ち込んだりはしていないのか?」
「ミシェルは見た目はぴんぴんしてますよ。麗しのアディールの言ってた通り、もともと丈夫なたちみたいですな」
「見た目?どういう意味だ」
『麗しのアディール』の謎にジェイラスは食いつかなかった。ジャックは残念に思った。
「あの婆さんに弟子入りして修行するつもりらしいです」
「弟子入りだと。婆さんは了解したのか」
「そのようです。ミシェルはやる気ですよ。春には婆さんの介添えで子を産むとか」
ジェイラスがびくりとした。
「………」
「えー……余計な事かもしれませんが」
ジャックは主人の顔から視線を逸らし、小さな声で言い添えた。
「ミシェルは、あのままで大丈夫でしょうか」
ジェイラスは肩をいからせたが黙っていた。ジャックはおそるおそる続けた。
「なんとかやっていくんでしょうか」
ジェイラスは燭台に視線を向けた。
「………自分が決めたのだ。好きにさせてやれ」
「私は心配です」
ジャックは呟いた。童顔にはめこまれた黒い目が年齢相応の陰を帯びた。
「いくらしっかりしているようでもあの娘は一人です。負けてしまうかもしれません。覚悟はどこまで続くでしょうか」
「…………」
ジェイラスは従者を眺めた。灰色の目がかすかな光を放った。ジャックは視線を伏せた。
「私の母親がそうでしたからね」
「もういい、ジャック」
ジェイラスは影のように立ち上がると入り口に向かった。
マルメロとジッドが主人の背とジャックの顔を見比べた。
どこへ行くと、今回従者は尋ねなかった。
*
三日が過ぎた。
グラン・ルシと王の使いの姿は未だ現れず、包囲軍は相変わらず積極的な作戦を検討しないまま城の包囲を続けている。
城主の現況とジェイラスの推理を聞かされたアルチュールは案の定張り切って、『閣下』の野望を転覆させるべく模範的な部下役を続けることを約束した。
そういうわけで二人の連隊長は息を潜めてシラーの動向を監視し、籠の食糧に文を入れ、ミシェルを通じて幽閉中の財務官とも連絡を取り合った。
クレール・ダンジェストは籠の中身とともに希望と勇気を取り戻し、「見張りに怪しまれぬよう、いつも弱った振りをしている。なかなか上手くなった」などと茶目っ気を窺わせる手紙をよこしてきた。
「それはいい。財務官殿はやはり頭の切れるお人らしいな」
『定例会議』の後、ジェイラスの天幕を単身訪ねてきたアルチュール・ゴラール連隊長が言った。
「このごろ『閣下』は機嫌が悪いと思わないか、ジェイラス」
「財務官がなかなか死なないので退屈してきたのだろう」
ジェイラスは辛辣に言った。
「華の都は遠く離れ、女もいない。見るものといえばお前や私の仏頂面にむさ苦しい兵士たち、こんな田舎の冬景色だからな」
「そっくりそのまま、奴に言い返してやりたいな」
アルチュールは唇をめくって唸った。
温厚な男だと思っていたが、ここに来てから──いや、正確にいえばシラーの部下にされてからというもの、アルチュールの物腰が変わった。
事あるごとに、ことさらに、より『成り上がりの連隊長』らしい態度を選択するようになった。シラーへのいやがらせかもしれない。
いや、シラーとつきあっているとついついそうしたくなる、というだけのことかもしれない。自覚があるのでジェイラスには何とも言えぬ。
305 :
塔に柊 25:2005/12/18(日) 14:59:49 ID:NzwDk+OM
「グラン・ルシはまだ戻ってこないのか?」
「見張りからはまだ連絡が来ない。そうだな、クレドー」
傍らに控えていた堅物の石頭が頷いた。
「はい。…あの、ジェイラス様。実はさきほど、いつも卵を届けてくる農夫が村から私宛の伝言をもって来ました、ミシェルからです」
ジェイラスはさっと頭を巡らせた。クレドーは思わず一歩身を退いた。
「伝言?」
「はい。ミシェルは字が書けるのですな。たいしたものです。このごろミシェルは婆さんから毒草の集中講義を受けていて、それで心づいたらしいのですが……」
アルチュールが怒鳴った。
「余計な事はいいからさっさと教えんか」
ジェイラスは表情を変えずに膝の上で密かに拳を抑えた。クレドーは急いで懐から紙のようなものを取り出した。薬を小分けにするのに使う、木の皮を薄く削って整えた経木だ。
「は。……で、ミシェルが心配しているのは、財務官殿は毒殺されるかもしれないという事だそうです」
「毒殺?」
殴られるところだったとはつゆ知らず、アルチュールがまた唸った。
「だが食事を届けているのはそのミシェルなにがしだろう?」
「そうか…」
考え込んでいたジェイラスは目をあげた。
「クレール・ダンジェストがなかなか死なないと、幽閉側がしびれをきらして、水になにか混ぜるかもしれないということだな」
クレドーは頷いた。
「ミシェルは、あるいは食事を再開するかもしれないと書いております。味やにおいがごまかしやすいからと。種類によっては、怪しまれずに弱らせていくものもあるそうで」
「いかにも『閣下』の好きそうな、安全確実で嫌らしいやり方だな」
アルチュールは腕を組み、貧乏揺すりを始めた。
「だが、頭のきれる財務官殿がそんなもの食べるわけがなかろう。杞憂だ」
「いや、アルチュール」
ジェイラスは考えながら言った。
「頭がきれるからこそ、怪しまれぬようわざと牢番の前で口にするかもしれない。演技にも目覚めておられることだしな。そこまで考えていなかった。早速ミシェルに、私からの財務官への伝言を送れ」
「はい」
クレドーはかしこまった。
アルチュールは少し感心したようだった。
「そのミシェルなにがし、なかなかの男らしいな」
ジェイラスは微笑した。ミシェルを女だと知ったらアルチュールもクレドーもさぞかし驚く事だろう。
「私もそう思う」
*
自分の野営地に戻るアルチュールを出入り口まで見送り、戻ってきた副官は連隊長の天幕の前でジャックにがっちりと袖を掴まれた。
「なんだ、ジャック。私はジェイラス様に就寝前のご報告があるのだ」
「あの、クレドー様。ミシェルは元気でしたかね。私はわけあってあまり様子を見にいけないのです」
「伝言だけでそんな事わかるものか。放せ」
ジャックの指をふりほどき、天幕に入ると連隊長の声が迎えた。
「ご苦労。で、クレドー、ミシェルの伝言を持っていたな。私にそれを寄越せ」
「………」
クレドーは懐からはかなげな木の皮を取り出して上官に提出した。ジェイラスは字面に目を走らせると裏返して、ほかには何も書いてないことを確認した。
「……クレドー」
連隊長ががっかりした様子なのにクレドーは気付いた。
「で、この他にはなにか伝言はなかったか。……その、私にではなくとも、ジャックにとか」
連隊長の、目もとのあたりが赤く見えるのは気のせいか。
己の目を疑いつつクレドーは口を開いた。
「特にありませんでした」
「そうか……」
ジェイラスは首をかすかに振り、小声で尋ねた。
「…なにも?」
「はい、それだけです」
きっぱりと言うと、その口調に傷ついたように…傷ついた?連隊長が?……ジェイラスは投げやりに言った。
「わかった。もう下がって休むといい」
306 :
塔に柊 26:2005/12/18(日) 15:00:49 ID:NzwDk+OM
首をひねりながら垂れ布をくぐると、まだジャックが張り付いていた。
「クレドー様。それで、ミシェルは他には伝言を寄越しませんでしたか?アディール婆さんはあの子をこき使ってやしませんかね」
うんざりした副官とまとわりつく従者との言い争いに耳を傾けながら、ジェイラスはマルメロの頭を掻いていた。
ジッドが、自分も掻いてもらおうとしてマルメロを押しのけようとする。マルメロが怒って小さく唸った。
「こら、喧嘩をするな」
(…こいつらも運動不足だな)
ジェイラスはそう思った。
野営地が広く中を駆け回れるといっても、猟犬の血筋のマルメロもジッドも体力は有り余っているはずだ。
「……外に行くか?」
声をかけるとどちらも耳をそばだて、そわそわと頭を高く持ち上げた。尾が元気よく床に打ち付けられはじめた。
ジェイラスは立ち上がった。素早く剣をつけマントを羽織った。
「よし。行こう」
天幕を出ると少し離れたしょぼくれた木の下で、副官がジャックに質問責めにあっていた。めざとく主人の姿を見つけたジャックが叫んだ。
「ジェイラス様、どちらへ?」
「こいつらの散歩だ」
「それでしたら私が…」
最後まで聞かず、ジェイラスはマルメロとジッドの後を追い、マントを翻らせて駆けだした。
引き離すなら今のうちである。ジャックは中年のくせにああみえて意外と足が速いのだ。
………クレドーにはあとでそれとなく埋め合わせをしてやろう。
*
「今夜は特に冷えるみたいだし、早く寝ちまいな」
アディール婆さんは頭巾とショールをかぶった上にマントをきつく巻き付けた完全防備の姿で、道具や薬草の入った籠を手にし、戸口に立った。
「このまま朝まで戻れないと決まってるのさ。ペリョのおかみさんは毎回長引くから。火の始末には気をつけるんだよ」
ミシェルは頷いた。彼女の師匠は村の反対側の農家まで赤ん坊をとりあげに行くのだ。
遠ざかるアディールに手を振って家に戻ると、ミシェルは老婆が早めの腹ごしらえをしたスープとゆで鳥の残りで夕食を済ませた。
皿を片づけ、暖炉の脇の小机によりわけておいた薬草の束を床にひろげた。覚えたいことは山のようにある。
「吐き気止め……ええと、この花と葉は……」
ミシェルは、もとは白や桃や紫色なのだと老婆が教えた、今は黒っぽく見える乾燥花を指先に拾った。
「そう。胸が苦しいとき…で、こっちは」
どのくらい熱中していただろう。
ふと手を止め、彼女はさっと頭をあげた。
遠くで物音がしたような気がした。しばらく耳を澄ませ、ミシェルは急いで立ち上がった。
まだ早いがもう戸締まりをしておこう。村の中ではあるけれどこの家の周囲は林に区切られているから用心に越した事はない。
立ち上がるとミシェルは床の薬草を避ける暇も惜しんでまっすぐに扉に向かった。
戸締まり──と思うと歯止めが効かなくなった。どこかに消えたと思っていたどす黒い不安が頭を擡げ、周囲を見回しているのがわかった。
どうして今の今まで忘れていたのだろう。忘れることができたのだろう。
ミシェルは必死で扉に辿り着いた。狭い部屋なのに、暖炉からそこまで沼の中を進んでいるようにもどかしかった。
指が震えている。その指に力を込めて無理矢理閂をかけようと──途端に扉が叩かれた。
ミシェルは悲鳴をあげ、閂にしがみついた。
いや。
いや。
いやだ、『あいつら』が入ってくる。
軋む扉が内側に勢いよく押し開けられ、ミシェルははねとばされるようにしてよろけ、後ずさった。
冷たい風に雪が混じり、暖炉まで薬草を吹き散らしながらどっと吹き込んできた。
「なにをしている」
「すぐに開けないか」
二人の派手な緑色のお仕着せをつけた従者たちが威丈高に怒鳴りつけた。ミシェルは目を見開きながらその胸についた紋章を見た。赤い木に落ちかかる稲妻──。
従者たちを押しのけて、尊大な口ひげをつけた小男が現れた。
「おやおや。なんというむさくるしい小屋だ」
シラー男爵だった。
307 :
塔に柊 27:2005/12/18(日) 15:01:53 ID:NzwDk+OM
*
シラーはうさんくさげに、直線という直線が薬草に覆われた部屋を見回した。
火に飛んだ葉や花がくすぶって、一種異様な臭いが漂いはじめている。
「臭い。さっさと用事を済ませよう」
従者の一方がミシェルに進み出た。
「あのまじないの婆さんはどうした?いないのか」
ミシェルは呆然と突っ立ったままだった。なぜジェイラスの上官がこんな場所に現れたのか、その理由が掴めなかった。
なによりも心臓が波打ち、さっき一瞬甦りかけた恐ろしい記憶に怯えていた。
ミシェルと妹のコレットと父が住んでいた小さな家は村の外れに近かったから最後に襲われた。
あの時も夜だった。夏の終わりで、戸締まりに気をつかっていなかった。村の誰もが日中の労働で泥人形のように眠りこんでいた。
「婆さんはいないのか?お前は口がきけないのか?答えぬと…」
従者の、苛立ちをのせた詰問をシラーはおさえた。
「誰でもいい。用事が済めばな。おい、小僧」
口ひげが蠢いて、シラーはひどく卑しい目をした。
「よく効く薬をよこせ。邪魔者の命を、後々知られぬように奪えるような」
ミシェルの理性が火花を散らした。要求とその具体的な内容が即座に結びついた。
ジェイラスに知らせた通りに──ミシェルが予測した通りに、クレール・ダンジェストの命に危険が迫りつつある。
だがミシェルは動けなかった。遠く感じる理性とは別に、かすかに震えながら、ミシェルの心は数ヶ月前の悪夢の中を彷徨っていた。
扉を叩く音がして──何事かとミシェルがあけると押し入って来た男に手首を掴まれた。外に引きずり出されて殴られた。
数瞬気が遠くなり、気付くとミシェルの上に男がのしかかっていた。抵抗すると容赦なく殴られ、また気を失った。
誰かが叫んでいた。その声で目覚めると、げらげらと笑いながら誰かが火になぶられた家の中に妹を投げ込んだ。
コレットはまだ十歳にもなっていなかったのに。
「シラー様にお答えせぬか、小僧が!」
従者がミシェルの膝を蹴った。ミシェルはよろけて床に座り込んだ。緑色の目は開ききり、顔色が吹き込む雪のようになっている。
「聞こえてはおらぬか、それとも頭が変なのではないか?」
シラーは顔をしかめて従者に顎をしゃくった。
「それはそれで始末が楽で良いがな。…毒物ならそれなりに保管してあるはずだ。家捜ししろ」
従者の一人は床に這いつくばり、もう一人は暖炉の傍の小机の抽出をかたっぱしから落とし始めた。
シラーは退屈そうに傍らの椅子に座り、持っていた杖の先で床のミシェルの肩を強く小突いた。
ミシェルはがくりとのけぞり、絶叫した。
コレットの影が火の中で崩れ落ちても男は離れようとしなかった。一人が起き上がると別の男がすぐにミシェルをおさえつけた。
誰かが泣いていた。叫んでいた。娘を放せ。ミシェルを。やめてくれ、やめて──逃げて、とミシェルは祈った。とうさんだけでも逃げて。
腹から下が麻痺していて何もわからなかった。
自由になるのは目だけで、その目でミシェルが見たのは、顔中を腫らし、首に縄をつけられた父と、その縄の先を繋がれた馬が鞭で殴られるところだった。
「な、なんだこいつ」
「男のくせになんて声を出すんだ」
従者たちが仰天して飛び上がった。シラーも驚いたようにまじまじと床の貧弱な小僧を眺めた。
「待て」
黙らせようとミシェルに飛びついた従者たちをシラーは怒鳴りつけた。退いた彼らの間にしゃがみこみ、一声叫んだあとは身を揉んで低く呻き続けているミシェルを観察した。
その視線が細まり、シラーは杖の先を持ち上げた。胸を突くと、ミシェルはまた小さく叫んで縮こまった。
口ひげの下の唇が薄く伸び、シラーはにんまりと笑った。
「ほう。ほうほう。……これは驚いた、やせてはおるがこの感触。しかもよく見ればそう悪くもない顔立ちだ。これは面白い」
「…女、でございますか。しかし、男のような格好ですぞ、ご主人様」
従者たちは驚きとあきらめの目を見交わした。シラーは立ち上がり、杖を投げ捨てた。
「そんな事はどうでもいいわ。お前達、汚い納屋が見えただろう。あちらをしばらく探しておれ──ゆっくりな」
主人の病的な女好きに馴れきっているらしい従者たちは急いで小さな流し台傍の戸口を潜って姿を消した。
308 :
塔に柊 28:2005/12/18(日) 15:03:19 ID:NzwDk+OM
「あまりに退屈なのでついてきたが、正解だったの。ふわはははは」
シラーは高笑いし、ミシェルの胸ぐらを捕まえて引き寄せた。虚ろな目にちょっと顔を顰めたが、手はとめなかった。
ミシェルの上着の合わせ目をむしるように引っ張りながら、シラーは彼女がぶつぶつ呟いている声に気付いた。
「……さん……とうさん………逃げて……やめ……」
「何を言っておるのだ。うるさい、黙らんか!」
シラーは怒鳴りつけ──はっと後ろを振り向いた。
強い風が吹き込み、きちんと閉じていない扉が雪を散らせながら勢いよく開いた。
さえない中年男が立っていた。
怒りに青ざめた童顔に、いつもは埋まりがちの黒っぽい目が飛び出すように見開かれていた。
「──ミシェル!」
ジャックは叫んで部屋に飛び込んだ。シラーの手からやせた躯を奪い取って揺さぶった。
「ミシェル、大丈夫か、ミシェル!」
ミシェルの、茫洋とした視線と、喉から漏れるぜいぜいという、細い、途切れがちの呼吸音にジャックは半狂乱になった。
「ミシェル!俺だ、ジャックだ!」
「何をするか、無礼者!」
突き飛ばされて床に腹這いになったシラーがわめいた。
「ど、どこかで見た顔だ。たしか、えーとお前は確か、連隊長めの従者ではなかったか?なぜこんな所にいる!」
ジャックはシラーに視線をやりもしなかった。
「ミシェル!ジャック──いや」
ジャックはミシェルの頬を掌で軽く叩いた。
「とうさんだ!とうさんがいるぞ!とうさんは、お前のとうさんは大丈夫だ!」
ミシェルの喉がひゅっと音をたてた。振り絞るように彼女は呼んだ。
「とう──さん」
「そうだ!しっかりしろ!ミシェル!!」
ミシェルの緑色の目に、中身が戻って来た気配を感じたジャックは安堵し、次の瞬間後ろ頭に炸裂した痛覚に一瞬視界が狭まった。
ミシェルを投げ出し、ふりむいたジャックに覆い被さるようにして腹の出た小男が重そうな杖を手にしている。
「この私にどんな無礼を働いたのか、その身で思い知れ!この身の程知らずめが!」
意外な素早さでシラーは手首を翻し、ジャックをめった打ちにし始めた。
「お前は!お前のような者が貴族を突き飛ばすなど、許される振る舞いと思っておるのか!主人が無礼なら従者も無礼だわい。ええい、死ね死ね死ね」
ジャックは目を燃やして起き上がろうとしたが、シラーの叫びに固まった。
「おもしろい、下郎の分際で私に逆らうつもりか。お前の主人めのゆく末に気をつけろよ。私はゆくゆくは常設王軍の元帥にもなる身なのだぞ」
*
野営地を出たジェイラスと愛犬たちは街道を大回りして森の端を抜け、尾根側のぎりぎりから村に入った。
シラーの尾行がないか確認していたので思ったよりも時間がかかってしまったが、村に入ると小川の向こうに苔むした屋根が見えてきた。
小さな草葺きの納屋のついた古い民家。まじない師の婆さんの住処である。
だがここまで来ておいて、橋に近づくに連れてジェイラスの足取りは鈍り始めた。
小川に木造の小さな橋がかかっている。そこから道は緩やかに曲がって、そこまでいけば家全体が見渡せるはずだった。
「………………」
散歩のついでに様子を見に行くだけなのだ。別にやましい事はないのだ。
マルメロとジッドが亀よりも鈍くなった主人に焦れて先に橋を渡り始めた。…犬が先に行くから、仕方がないのだ。
ジェイラスは迷う足で橋を渡り終え、緩やかな曲がりにさしかかり、立ち止まった。
灰色の目が、村から合流する道にうっすらと積もった雪の上に消えかかる複数の足跡を見つけたからだ。マルメロとジッドが唸りながらうろうろ臭いを嗅いでいる。
ジェイラスの視線は上に流れ、家の扉がわずかに開き、雪まじりの風に揺れているのを見て取った。内側から灯りが漏れていた。
犬たちが吼え、一目散に家に向かって駆けはじめた。
ジェイラスは剣の鞘を後ろに廻し、全速力で後を追った。
309 :
塔に柊 29:2005/12/18(日) 15:05:02 ID:NzwDk+OM
*
ミシェルは咳き込みながら、震える腕に力を込めた。
「この愚か者が!貴族に手をあげおった罪はその薄汚い血で償うのだ。そら!そら!」
短い風切り音と共に肉がうたれる響きが伝わってくる。縮こまろうとする躯をミシェルは必死に押しとどめた。
とうさん──逃げて──とうさん。
中年男は逃げようとしなかった。しっかりと頭をおさえ、躯を丸めて、シラーの執拗な暴行にただひたすら耐えている。
シラーは指が疲れたのか、杖を投げ捨てた。だがそれでやめたわけではなく、今度はジャックに乗りかかって直接殴り始めた。
ミシェルは、目の前の床に転がった重そうな杖を見た。金のめっきで覆われた石突きに黒く血が跳ねている。手を励まして、その柄を握りしめた。
がくがくと震えながら、ミシェルは杖を頼りに立ち上がった。
泣いたって役に立たない。
ミシェルは目の下で揺れている父親の躯と、その上に乗りかかって殴りつけている男の頭を見下ろした。
とうさんは逃げない。いつまでも逃げない。逃げられないのだ、いくら多勢に無勢でもコレットとミシェルを見殺しにできなかったから。
とうさんの掌はいつもあんなに温かだったのだから。
ミシェルを守ろうとして、それから──ジェイラスを──守ろうとして、ジャックはこの場を動けない。
──二度と大事な人たちを失いたくない。
ミシェルは大きく息を吸い込んだ。信じられないくらい深い息ができた。
「やめて!」
叫んだ。振りかざした杖を、ぎょっとして振り向いた男の額に、思い切り打ち込んだ。
「やめなさい!」
額をおさえた男の手首にもう一度ミシェルは打ち込んだ。
「とうさんにもコレットにも触らせない!ジャックさんにもジェイラス様にも、あんたなんかには触らせない!」
たまらず丸まったシラーの背に、ミシェルは三度目の杖をうち下ろした。
「あんたなんかっ!怖くない!弱い相手にしかなにもできないくせにっ!」
「ミシェル!」
大きな掌がミシェルの手を掴んだ。二疋の犬が吼えながら駆け込んできて、シラーの尻に噛み付いた。
涙を散らせてミシェルが振り仰ぐと、灰色の目が覗き込んでいた。
「シラーがなぜここにいるんだ。それにどうしてお前が──」
そこまで言ってジェイラスは、頭を抱えて丸まっているジャックと、猟犬の鋭い牙でしたたか噛み付かれた痛みに悶絶したシラーと、ミシェルの手の中の見覚えのある杖に気付いた。
「──いや、もう少し殴ってもよかった。ジャック!大丈夫か!?」
「………いててて。ああ、この閣下はとんでもない野郎だ」
ジャックがもぞもぞと動いて顔をあげた。童顔の額にはびっしりと汗を、こめかみには血を浮かべていたが、ミシェルを見ると急いで起き上がった。
腕の中のやせた躯がくたくたと崩れ落ち、ジェイラスは慌てて膝をついた。
「…ジェ…ジェイラス様」
「ミシェル」
ミシェルは緑色の目でジェイラスを見上げた。震えていたが、言葉は明晰だった。
「わたし、私──とうさんを助けました。で、できました。ジェイラス様みたいに」
ジェイラスはその目に涙が盛り上がるのを見て、急いで片手の手袋を噛み抜いた。目尻を指で拭うと、ミシェルは錆び付いたような微笑を漏らした。
ジェイラスはかすかに息を呑んだ。ジャックは別として、彼がミシェルの微笑を見たのはこれが初めてのことだった。
ジャックが這うように近づいて来て、ジェイラスの傍に肘をついた。
「ミシェル、本当に偉かったよ」
その声が聞こえたのか聞こえなかったのか、ミシェルはジェイラスを見上げていた。
「……あの時、躯が重くて、もう死ぬんだと思いました。嫌ではありませんでした。死んでもいいと思っていました」
310 :
塔に柊 30:2005/12/18(日) 15:06:28 ID:NzwDk+OM
うわごとのように囁き続ける。
「ずっとずっと死にたかった。見張られていたからできなかったけど、ずっととうさんや妹のところにいきたかった。あ、あいつらに捨てられた時、これでようやく一人で死ねると思いました」
聞くしかできそうになく、それは彼にとって苦痛以外のなにものでもなかったがジェイラスは黙ってミシェルの涙を拭い続けた。
涙はあとからあとから、言葉と同じに転がり出てくる。
「こんな躯、いらない。あいつらが触った髪も、ドレスもいらない。自分も死んで、こ、この子も死ねば一番いいと思ってました」
ミシェルの指が、ジェイラスの手を握った。
「だからあの池の水に入ろうとしました。池の底は、岸の近くで深くなるから。でも──」
涙で歪んだ目が、緑色を増してジェイラスを見た。
「死ねませんでした。さ、寒くて、冷たくて、勝手に涙が出るんです。し、死にたくなかったんです。本当は、あんな奴らのために死にたくなんかなかったんです。わ、私も、この子も──」
語尾は嗚咽で聞き取れなかった。
「とうさんも──い、妹も─村の、ともだち…………」
「もういい、ミシェル」
ジェイラスは、腕に力を込めてやせた娘を抱きかかえた。今回は水を含んだスカートはなく、軽々と彼は立ち上がった。
マルメロとジッドが足元に駆け寄って来て、ジェイラスは従者に言った。
「立てるか」
「当たり前です」
ジャックは痛みに引き攣った笑いを浮かべた。
「昔ご主人様に助けて頂いたときにゃもっとひどい有様でしたさ」
ジェイラスは頷いた。
「戻るぞ」
ジャックは机に掌をつき、顔を顰めた。視線の先に、破れたズボンの尻から血を流したシラーが転がっている。
「『閣下』はどうします」
「あの者たちがなんとかするだろう」
ジャックは小さな戸口の影から恐る恐るこちらの様子を窺っている四つの目を見つけた。気絶したままの主人を介抱しに駆け寄ってくる気配はない。
童顔の従者は吐き捨てた。
「きっと、気付いて喚き出すまではできるだけ放っておきたいんじゃないですかね」
*
野営地に戻ってみると、寝ているはずのクレドーと向こうの丘にいるはずの『青猪』連隊長アルチュールが血相変えてジェイラスを探しまわっていた。
「どこにいらっしゃったんですか、ジェイラス様!グラン・ルシが戻りました!」
副官がとびついてきて、腕の中の少年に気付いた。
「…ミシェル?ジェイラス様、この子はどうしたのですか」
「病気だ。ジャックと一緒に、私の天幕に頼む」
クレドーが急いでジャックとミシェルを連れて行くと、ジェイラスは近くにいた別の兵士を呼び止めて手早く村への伝言を命じた。
ミシェルの師匠が留守だったのはおそらく仕事のためだろうが、万が一にも今夜は我が家には戻らないほうがいい。
兵士が復唱して飛び出して行くのと入れ替わりに、アルチュールに伴われてグラン・ルシが現れた。
「ただ今戻りました、連隊長。国王様のお使者をお連れしています」
「よくやった。で、使者はどなただ」
赤ら顔の古参兵はにやっと笑った。
「正真正銘の憲兵隊長殿のご一行です。シラー閣下の天幕にご案内しています。…国王様のご決断の早い事、連隊長の兄上様も、今回私をお目見えさせなさるのにたいしたご苦労はおありではありませんでした」
「憲兵隊長か」
ジェイラスも思わず頬を緩めた。クレールの話が真実ならば──真実だろうが──憲兵隊もこのたびの大掛かりな詐称のネタに使われているのだ。
憲兵隊長が今の時点でどれほど事情を知っているかは判らない。
だが、財務官の証言を得た暁にはきっとシラーをはじめとする関係者に対する訊問は厳しいものになるだろう。
「で、ジェイラス」
アルチュールが割り込んだ。
「あの小男めがどこにもいないのだ。まさか風向きが怪しくなったことを悟って逃げ出したのではなかろうな」
ジェイラスは肩を竦めた。
「村のまじない師の家に行ってみろ。犬に尻を咬まれて泣いている」
311 :
塔に柊 31:2005/12/18(日) 15:07:30 ID:NzwDk+OM
「またまた」
アルチュールは眉をあげた。
「本当だぞ。咬んだのは私の犬だ。マルメロとジッドだ」
ジェイラスのマントの下で、二疋の犬がちぎれるほどに尾を振った。
温厚なはずのアルチュールは不謹慎なほどの大声で笑い出した。
「よくやった。後でこいつらに、『青猪』から干し肉を贈る。牙を消毒してやっておけよ。……わかった、上官殿が現場にいないんじゃ仕方ないな。打ち合わせを始めよう」
ジェイラスは頷いた。国王の使者が来た事を城方に悟られる前に、一刻も早く財務官の身柄を確保しなければならない。
久方ぶりの本気の仕事だ。
自分の天幕をちらりと見て──かがり火に照らされ、雪をまぶしてひっそりと佇むそれを灰色の目で穏やかに見て──ジェイラスは大声で、兵士達にシラーの身柄の確保を命じた。
*
天幕の布は変わらず高く白い優雅な波を描いて寝台に横たわるミシェルを包んでいた。
ぐっすり眠ったからだけではないようなスッキリとした心地で、彼女は短い茶色の髪に覆われた頭をもたげた。
寝台の傍で樽に座ったまま舟をこいでいるのはジャックだ。あちこち血がこびりついた顔がいたいたしいが、思ったほど腫れてはいない。
ミシェルは視線を巡らせた。ジャックの足元で伏せている二疋の犬が耳をあげてミシェルに視線を合わせた。
「…ジェイラス様は?」
ミシェルはマルメロに囁いた。
「ご主人様はどこにいらっしゃるの?」
マルメロはジッドと相談するように鼻先を触れさせたが、二疋とも尾を軽く振っただけだった。
外は彼女の記憶にないほど賑やか、というより慌ただしげな足音や話し声でざわめいている。この明るさからいくと、おそらく午前中半ばといったあたりだ。
ジェイラスに似た声が近づいてきた。ミシェルは思わず撥ねたままの毛先に手をのばした。
一言二言何事かを命じた後、垂れ布を払いのけてジェイラス本人が入って来た。
「ジェイ──」
言いかけたミシェルに軽く手を振ってみせた。ジャックが眠っていることを思い出し、ミシェルは口を噤んだ。
寝台の脇までくると、ジェイラスは床几を引き寄せて座った。
「気分は?」
心地よく低い小さな声だった。
唐突に、ミシェルはその声を何度も聞いていた事を思い出した。この天幕の中に浮かびあがる度に囁き交わしていた声のひとつ、ジャックの掌と同じく何度も彼女を気遣っていた声だ。
ミシェルは口元をおそるおそる綻ばせた。ジェイラスが灰色の目を促すように細めた。
「──ミシェル?」
ミシェルは視線をジェイラスの目に合わせた。なにか言わねばならず、言いたくもあった事がたくさんあるような気がしたが、何も言えないような気もした。
彼は呟いた。
「無事で良かった」
「…………」
「ジャックも大丈夫だ。マルメロもジッドもがんばった。お前も──良くやったな。その調子だ」
ミシェルは上気した顔を思わず伏せた。
ジャックの気持ちがわかるような気がした。
ジェイラスはいつまでも次の言葉を紡がなかった。天幕の中には外からのざわめきとそれに紛れたジャックのかすかな寝息の音、それと犬たちの尾が床を叩く音だけが響いている。
「──そういえば、財務官殿だが」
ジェイラスが唐突に会話──と呼べるものなら──を再開した。
「救出したぞ。城は落とした、夜明けにな」
ミシェルは問うように緑色の目をジェイラスに向けた。彼は頷いた。
「ご無事だ。しばらく休養すれば、すぐに元通りにおなりだろう」
真面目な口ぶりで付け加えた。
「お前のおかげだな」
ミシェルは急いでかぶりを振った。
「自分を見誤るな、ミシェル。お前には勇気がある。お前は──」
ジェイラスは周囲を見回した。樽の上のジャックを見つけて肩をそびやかした。
「──ジャックに、娘のように大切に思われている。マルメロとジッドにも。こいつらが人の尻を咬んだのは昨夜が初めてだ」
微笑を期待した灰色の目を見返さず、ミシェルは毛布の上に再び面を伏せた。
「…それは、きっと、みんなジェイラス様が好きだから」
今度はジェイラスが黙り込んだ。
ミシェルはかすれそうになる喉をはげました。
「ジェイラス様は、私とこの子に命をくださいました。だから、みんなは私を護ろうとしてくれたんです」
312 :
塔に柊 32:2005/12/18(日) 15:08:29 ID:NzwDk+OM
「……その理由をお前さんは知っているのかい、ミシェル」
従者の声にジェイラスは、娘につられ、伏せ勝ちになっていた顔をはねあげた。
樽に座って目を閉じたままのジャックが呟いた。
「いーや、知らないから出て行ったんだ。一番反対なすったのは誰だね。せっかく行儀よくしつけたマルメロとジッドを閣下の尻にけしかけなすったのは誰だ」
「けしかけたんじゃない」
ジェイラスは唸った。
「それより、寝た振りをするのはミシェルだけかと思っていたのに」
「…みんな似た者同士なんでさ」
ジャックは横着に目を閉じたままにやっとした。
「それよか忘れてなさりますよ、ご主人様」
ジェイラスはむすっとして立ち上がった。
「何の事かわからぬ。忙しいからまた後でな、ミシェ…」
「差し出がましいようですが、ご主人様はどうなんです」
ジェイラスはマントを翻らせて立ち去ろうとしたが、床几に脛をぶつけてよろけた。目の前に滑ってきた床几の足を避けて、ジッドが唸った。
「私と犬たちがミシェルを気に入ってるのはその通りです。ジェイラス様は?──命を助けて男の格好をさせただけでご満足なんですかい」
「だから!」
ジェイラスは怒鳴った。
「勇気があると褒めている。勇気があるのは人間として一番大事なことだ」
ジャックは腕をほどいて樽から立ち上がった。
「その大事な勇気を今、もうちっとだけ振り絞ったらどうですか。だから戦場以外じゃ役立たずとか人様に言われるんです」
「言っているのは主にお前だ」
ミシェルは呆然として主従のやり取りを聞いていた。
その前に自分の主人の肩を押し出して、ジャックは痛そうに口元を歪めつつ犬たちに「さあ、一緒に来な」と呼びかけた。
「一世一代の正念場の邪魔はしちゃなんねえよ。いいですか、ジェイラス様。ちゃんとお言いなさいよ」
「行くなジャック。──何を──どう──言えというのだ」
ジェイラスが小さな声で言った。頬が赤くなっていた。
「後でひどいぞ」
「喜んでお叱りを受けますよ。お言いなすったらね」
ふと、ジャックは寝台の傍らで足をとめた。混乱しているミシェルに、彼は囁いた。
「嫌でなけりゃ、これからも俺たちと一緒にご主人様を護って差し上げないかね。お前さんには充分その資格がある──なにせ」
ジャックは痣のできた童顔をほころばせた。
「今回も、拾って来たのはジェイラス様なんだから」
313 :
塔に柊 33:2005/12/18(日) 15:09:24 ID:NzwDk+OM
***
「──とにかく遠慮のない奴だったがいい従者だった。六年前の秋に流行病で死んだが。そうだ、お前はジャックは覚えているな?」
ジェイラスは目の前の椅子に目を向けた。
椅子に座っていても嵩高い彼の甥──現在の、北部駐屯軍の中心である『塔に柊』連隊長──は青い目を懐かしそうに瞬かせて頷いた。
「覚えております。ですが、私にはいつもよい従者に見えました。館に伺ったおりにはよく犬たちと遊ばせてくれました」
ジェイラスは白い筋の太くなった頭を、肘掛けに置いた手に凭れさせた。
「マルメロもジッドも、生きておればジャックと一緒にお前の祝言に連れていってやるのだが。あれらも、長生きはしたがやはり犬だからな」
「そうですね……で、その……そ、そ、そういうわけでして」
サディアスは居心地悪気に、執務机の上に置かれたミニアチュールに目をやった。
彼の従妹にあたる、叔父の長女が生き生きと描き出されている。
彼の叔父の将軍は笑って、片手をのばすとそれを伏せた。
「いやいや、この件は忘れてくれ。かねてから目をつけていたつもりだったが、お前がとうに婚約しているとは知らなかったのだ。で、いつその相手を紹介してくれる?」
大男の甥は恐縮してかしこまった。
「あ、あ、あの、実はその。予定ではもう少し先のつもりだったのですが、そ、そ、その。この夏までには式をあげようかと」
ジェイラスは眉をあげた。
「それは急なことだな。なにかあったのか」
甥は赤毛の根元まで真っ赤に染めた。
「叔父上に言うのは恥ずかしいのですが、そ、その。こ、こここ………こどもができまして」
ジェイラスの灰色の目がいたずらっぽく見開かれた。
「そう、かしこまらんでもいいだろう。……私も妻に求婚した時には、モリーが腹にいた」
「そ、そうでしたか…」
サディアスが上体を硬直させた。王国中の青少年と彼の憧れの星であるジェイラス・ダジュール将軍の意外な話に仰天したらしい。
「だが、それはよかったな。大事な者と一緒にいると勇気が湧くぞ」
ジェイラスは年齢よりもはるかに滑らかな動作で立ち上がった。
机の上のミニアチュールを懐にしまい込むと、口の中でなにか呟いた。
「……となると……第二候補だな」
叔父の将軍には娘ばかりが五人いる。
長女から末の娘まで揃って叔母によく似て気だてのいい美人揃いだし、なによりジェイラス・ダジュールの娘であるしで、サディアスが辞退したとてすぐに良縁に恵まれそうだ。
だが、叔父の腹づもりでは跡取り娘の婿の第一候補だったらしいことにサディアスは驚いたものの悪い気はしなかった。
実は、美人のモリーはともかく、この叔父と親子になれなかった事だけは正直なところ残念だ。
これもクロードに知られたらむくれられるだろうか。
叔父が窓の外を見ている。晴れた北の空に翻るそれは塔に柊が絡まる意匠の連隊旗だ。
「サディアス、あれはいい旗だろう」
前任者オベルの何代か前の連隊長は叔父だった事を思い出し、サディアスは頷いた。
「はい」
叔父は灰色の目を懐かしそうに細めた。
「…ジャックもあの旗が好きだったよ。私が初めて勇気を振り絞った時の旗だといってな」
きびきびと扉に身を翻した叔父を見送ろうと、サディアスは巨体を揺るがせて椅子から立ち上がった。
おわり
どんな言葉を捧げて良いのかわからないので致し方なくGJ!
なんというか、男が惚れる男を描かれるのが上手いですね。
もちろんミシェルも健気で惚れました。泣きそうになりました。
と思ったらサディアス登場でニヤニヤしてしまいました。
これを糧に卒論頑張りますーノシ
315 :
実験屋:2005/12/18(日) 16:10:25 ID:EnmSysUl
>>ひょこ様
GJです!!!女とばらしてコレからが楽しみですね!!
期待してます!!
>>ナサ様
長編乙でございます!!ミシェルにグッときました。
今年最後の投下と言う事で、来年も楽しみにしております。
右手にヒビが入りまして投下遅れてます。何とか週末には投下できる
ようにします。
GJっす
GJ!
今回の主人公はこれまでも名前が時々でてきた将軍ですね。
確かに鬱なところもあったけど、読後感はさわやかでした。
良いお年を。
GJ!
クロードはどんな母親になるんだろうか。
悲しくて泣き、嬉しくて泣きました。
ミシェル、幸せになったんだな…
なんだか、こっちまで父親の気分になりましたよ。
最後は幸せそうで、本っ当ーに良かった!
あれ、まだ心の汗が流れてる…
ナサ神様あいやー、いいもん読ませていただきました。
314さんの後追いですが、ナサ神様の書かれる男どもが好きです。
ジャックもアルチュールも財務官も、いい男だ。
肝心のジェイラスも、サディアスと血縁ってことは
似た外見なんだろうかと、余計なこと考えちまったけどやっぱりいい奴だ。
犬も麗しのアディールもいい奴だ。実を言うと『閣下』も好きだw
ミシェル、某スレでイヴァンの姉ちゃん付き女官が同じ名前だったので
そっちに就職の世話させられて、少々寂しげendかと覚悟決めていたのですが
良かった良かった。
さーて、あとはクリスマス投下のあの男装少女だな。
321 :
狂介と有紀:2005/12/20(火) 23:38:16 ID:YmN/sH1s
【クリスマス前に投下します】
なんだって隊にギャラの地域振興券を渡し終え、平常心を取り戻した狂介。
「ま、まぁいいや。『めくるめく夜』差し上げましょう。」
狂介は有紀をそっと抱き寄せた。
「今日はちょっとした小道具があるんだ。」
狂介はそう言うと上着からある物を取り出した。
「何なのソレ?」
「生クリームの残り。」
チューブに入った生クリームを口に含む狂介。
「んぐ、んぅ、うぅーー!!」
有紀に口づけてお互いの口腔でクリームを溶かしあう。
「うぅぅ・・んぅぅ、ん!!・・・ううぅぅ・・・」
始めは驚いていた有紀も狂介とのキスに積極的になっていく。
「あっ・・・んっ・・・」
余韻に浸っていたその時、狂介の口が有紀から離れた。
「甘ーーーーーーい!!」
どこぞの井戸田と小沢のコンビネタのごとく叫ぶ狂介。
「甘い、甘すぎるよ。曙のトレーニング位甘すぎる!!」
「あの・・・狂介?」
有紀が首をかしげながら聞いてくる。
「か、可愛い(鼻血)!! じゃなかった、なんだい?」
「そのクリームって・・?」
「あぁ、実は・・・」
322 :
狂介と有紀:2005/12/20(火) 23:39:04 ID:YmN/sH1s
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
さかのぼる事、前日。
狂介がプレゼント探しの為にデパートに来ていた時、狂介の目には
ある家電製品が留まっていた。
「テレビ・・・・」
何気なくテレビを見ていたがそのときに放送していた番組に目がいった。
「これまた再放送してるんだ。」
その番組は、『妻を亡くした男性が3人の子供を育てる為に義理の弟とその友人が同居する』
という別にタイトルを挙げなくても腐るほど再放送してるんだから一切説明しなくてもいいよね
っていう感じの海外ドラマだった。(ちなみにフル●ウスです。)
そのドラマで・・・
「あんなにデカイアイスクリーム売ってるんだ、アメリカって。」
出演者がバケツサイズのアイスクリーム食べている光景に驚く狂介。
「トッピングもあんなに・・・ん?」
狂介はトッピングに目を見やった。チョコチップやフルーツソースなら納得がいくがその他に・・
「あれ、クリームなのか?」
そのシーンではトッピングの最後にスプレー缶に入った俗に言う『エアゾール・ホイップ』を
アイスにかけていた。
「・・・・・・・・・・・これだ!!」
何のことはない、狂介はただ『生クリームプレイ』がしたかっただけだったのだ!!
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
323 :
狂介と有紀:2005/12/20(火) 23:40:16 ID:YmN/sH1s
「ってな訳でして・・・。」
「じゃあケーキはおまけだったの?」
「まぁ、クリーム使うならお菓子でも。って思ったんで・・・」
「ちょっとガッカリかも・・・」
結局は肉欲系だったというオチに落胆する有紀。
「い、いや待てって!!だからってケーキは手ぇ抜いて作った訳じゃないぞ。全身全霊かけて作りました。」
「狂介・・・」
「でも結局ソッチ関係だもんな・・・悪かった。」
土下座して誤る狂介。
「そんなことないよ。僕の方こそ今のはワガママだったよね・・・ゴメンなさい。」
有紀の目に涙が溜まっていく。
「イヤイヤ、いいんだよ。有紀は今日の主役なんだから、ワガママ言ってくれよ。」
狂介は指の甲で有紀の涙をぬぐった。
「・・・・」
しかし有紀の顔はうかないままだった。
「どうしたんだ有紀?」
「・・・なんで狂介はそんなに優しくしてくれるの?」
「ん?」
「僕・・いつもワガママ言ってるのに・・・狂介は僕の事嫌いにならないの?」
「有紀は俺に嫌いになってほしいのか?」
「違う!! 狂介に嫌われたら僕・・・ぼ・・く・・ふぇ・・」
「ゴ、ゴメン!!言い方が悪かったよ。」
狂介は有紀を優しく抱きしめた。
324 :
狂介と有紀:2005/12/20(火) 23:42:19 ID:YmN/sH1s
「ひっく・・・ひっく・・・」
抱きしめられて徐々に有紀の嗚咽が静まっていく。
「(・・・自惚れても・・・・いいのかな?)」
有紀にとって自分がどれだけ大きい存在か実感する。
「有紀。」
「ひゃ!!」
狂介は有紀の頬に流れる涙を舐め取った。
「俺は有紀が大好きだ。だから、有紀が望む事はなんだってしてあげたいと思う。
ワガママだって、無理な事だって大歓迎だよ。それに、有紀が言ったことで
ワガママとか思ったこと一度も無いよ俺は。」
「狂介・・・」
「むしろ、もっとあれこれ俺の事使ってもいいよ。」
「そんなことしないよ。 それに・・・」
「それに?」
「僕だって狂介の望む事は何だってしたいんだから。」
「有紀・・・・」
狂介はそう言われて口元が綻ぶのが抑え切れなかった。
「ありがとな有紀。」
「狂介・・ん。」
次の瞬間、有紀の唇は狂介に奪われていた。
「『めくるめく夜』だったよな?」
「うん。」
「じゃあ俺も・・・楽しませてもらうからな。」
そうして二人はベッドへとなだれ込んだ。
325 :
狂介と有紀:2005/12/20(火) 23:43:58 ID:YmN/sH1s
狂介は有紀の着ていたパーカーをすっぽりと脱がせた。
「あっ・・やぁ・・」
衣擦れが痛かったのか有紀は可愛らしい声をあげた。
「・・痛かった?」
「ううん、ちょっとくすぐったかったの。」
顔を赤く染めてサラシに隠された胸を覆う有紀。
「はい、手を退けて下さい。」
有紀の抵抗も虚しく上下に掻き分けられたサラシの間から有紀の乳房が露出した。
「あぁぁ・・・」
「それでは・・・」
狂介は有紀を後ろから抱きすくめ、左の膨らみを左手で包んだ。
「有紀の胸はスッゲェ柔らかいな。」
「ホント?」
「あぁ、スベスベしてて気持ちよくて、最高。」
「嬉しい・・・じゃあもっと好きにしていいよ。」
お許しが出たので狂介は左の胸はそのままに右の胸にしゃぶりついた。
「やっ・・はぁぁ、んぅ・・・あぁ!!」
胸に狂介の舌が這い回る感触に有紀は思わず震える声を出した。
「こっちも。」
包まれたままの左胸にも狂介は愛撫を開始した。すくい上げる様に持ち上げ、
指先で乳首を摘む。
「んぅぅ・・はぁぁん!!」
両方の胸にまったく違う刺激を受け有紀は狂介に翻弄された。
「コレ使うよ。」
「え? あぁぁん!!」
いきなり有紀はベッドに横にされた。視線の先には狂介がクリームを
手に持って満面の笑顔で佇んでいた。
「アート、アート。 ルンルン♪」
狂介はクリームを有紀の両胸に螺旋を描くように塗り付けた。
326 :
狂介と有紀:2005/12/20(火) 23:45:11 ID:YmN/sH1s
「これは・・・芸術だ!!!」
満遍なく塗られたクリームは有紀の胸を覆いつくし白いブラの様に
胸を彩った。
「もぉ・・やだぁこんなの・・・」
「クリームも使い切ったし・・・さて」
「いただきマンモス!!」
改めて狂介が有紀の胸にむしゃぶりついた。
「ひゃう・・ふぁぁぁぁ・・・」
狂介の舌に引き伸ばされたクリームが有紀の身体に次々と行き届いていく。
その過程でズボンも取り払われてしまい、お腹、脇腹、遂には秘所まで隅々舐めつくされた。
「んぅ・・やりすぎだよぉ・・んっ!!」
有紀の訴えはクリームを口に含んだ狂介のキスで閉ざされた。
「はぅむ・・んぅぅ・・」
クリームの甘さが口いっぱいに広がる。それに加えて口腔に侵入した狂介の舌が
口の中全体を這いずり回り、吸い立てた。
何度も吸い立てられる内に有紀は身体中を火照らせる。そしてフッと力の抜けた
身体を狂介に委ねた。
「今の有紀も新鮮味があっていいな。」
テラテラと光る有紀の身体を見渡し狂介はある種の達成感に満たされていた。
「あとでベトベトになっちゃう・・」
「あとはあと、今は今。」
狂介は有紀の心配をよそに有紀を抱きよせる。
「あっ、ダメだよ。狂介までベトベトに・・・」
「俺もベトベトになりたいのだ!!」
ルパン三世の様に一瞬で服を脱ぎ去ると狂介は有紀を抱きしめた。
「ん〜いい香りだ。」
「クリームのせいだよ。」
「イヤイヤ、有紀だって負けず劣らず甘くていい香りがするんだよ。」
「・・・バカ。 はぅ!!」
狂介は有紀のうなじをペロリと舐め、警戒が手薄になった有紀の下半身に狙いを定めた。
327 :
狂介と有紀:2005/12/20(火) 23:46:05 ID:YmN/sH1s
「やぁぁ!!」
秘所に伸ばされた狂介の手に驚く有紀。
「きょ、狂介。ソコは・・・ひゃぁぁ!!」
いきなり秘所を触られた有紀は身体を硬直させた。
「スマン、怖かったか?」
「大丈夫、ビックリしただけ・・・お願い続けて。」
そう言われ狂介は秘所への愛撫を再開した。先に軽く舐めていたので有紀のソコは
触れただけで蜜を流し始めてた。
「ん!! あぁぁ、ふぁ!!」
捏ねる度に有紀は腰を震わせて感じた。そして、腰からは徐々に力が抜け落ち
後ろで狂介が支えなければ、そのまま倒れてしまいそうにまでなってしまう。
「ひぃ、はぁぁ!!」
有紀の身体が引きつり、膣に侵入していた指が締めつけられた。
軽く絶頂を迎えたようだ。
「大丈夫か?」
大きく息をつきながら喘ぐ有紀に問いかける。
その時、
「うぉ!!」
狂介は下半身に危機的な感触を感じた。
「オ、オイ有紀・・・」
「これ・・・早くキて・・・お願い。」
有紀はあろう事か狂介の肉棒を掴み扱き立てていた。
「くっ・・わ、分ったからまずは離してくれ・・・」
ここまでの有紀への攻めで狂介自身も充分に昂っていたのだ。これ以上、有紀に
男の急所を扱かれてはあっという間に果ててしまう。
328 :
狂介と有紀:2005/12/20(火) 23:47:31 ID:YmN/sH1s
そのまま仰向けになった有紀に狂介は身体を重ねていった。充分に濡れた有紀のソコは
狂介の肉棒を余裕で飲み込んでいく。
「あふっ・・・ふぁぁぁ・・・」
有紀は恍惚とした表情を浮かべて自分から腰を動かした。その動きは徐々に、しかし確実に
狂介を取り込んでいく。
「こっちもいくぜ。」
返事を待たずに狂介は腰を動かした。お互いに興奮しているからなのか腰の動きが
リズミカルに動き相手を求め離さない様に喰らい付き合った。
「やっ、あぁ・・んあ!!・・い・・いいよ・・ふぁ!!」
身に迫る快感に有紀は抱きしめる狂介の背に力を込めた。
「あっ!!・・ゴメッ・・狂介にキズが・・・んぁ!!・・でも・・あん!!」
狂介の背に有紀の爪が食い込む、有紀はその事を気にしているようだ。
「なんとも無い・・・気にしないで・・・もっと!!」
痛みを感じるのだろうが有紀とつながり快感を貪る事に身体が集中していて
狂介は実感する痛みなどまったくなかった。
「ひぁ・・うぅ、あぁぁ!!・・ひぃ!!」
その間も二人は互いに身体をぶつけ合い快楽の争奪戦を繰り広げた。
「ゆ・・有紀・・・ダメだ・・俺もう限界が・・・」
「僕も・・きちゃう・・・きちゃうの・・・イッちゃう!!」
二人ともそれが限界だった。有紀の膣が締まり狂介の肉棒を飲み込む。
狂介も溜まりに溜まった欲望を有紀へと放った。
「くぁ・・ゆ・う・・き・・・」
限界を迎えた狂介は息も絶え絶えに有紀へと覆いかぶさった。
「あぁぁ・・・狂介のクリーム・・・いっぱい・・」
膣口を痙攣させながらも有紀は狂介を抱きしめてその胸板に擦り寄った。
「ハッピーバースデー有紀。」
「ありがとう狂介。」
329 :
狂介と有紀:2005/12/20(火) 23:48:43 ID:YmN/sH1s
「あぁ!!やっぱりベトベトじゃない!!」
余韻に浸りあわよくば第二ラウンドと洒落込もうと思った矢先、二人の前に
悲しき現実が襲い掛かった。
「うっわ、こりゃ乾いたらパリパリになっちゃうな。このシーツ。」
クリームでベトベトになった二人が絡み合ったベッドは案の定ベットリと
そこで”何”をしていたのかをハッキリと表現していた。
「もう!!布団全部洗濯だよ!?これじゃ僕寝れないじゃない。」
「ゴメンよ、調子に乗り過ぎた。反省してます。許してちょ?」
嵐を呼ぶ五歳児が得意な『母性本能をくすぐる視線』を有紀に発射する狂介。
「しょうがないなー。」
「許してくれる?」
「でも狂介の誕生日に絶対にお返ししてやるんだから。」
有紀は机の引き出しから何かを取り出した。
「何ソレ?」
「コックロック。」
「ウゲッ!!」
コックロック、それは一言で言うならば竿を締めつけて絶頂を防止する大人の玩具である。
「これを狂介に嵌めるんだ。そして、何度も狂介をイカせるの。
そうして狂介が『外して』って何度も何度もお願いして限界まで虐めてから外すんだ。」
「なんつー恐ろしいことを・・・何処でそんな事・・」
「ママはそうやってパパを落としたんだって。」
「・・・・」
アンタら娘に何教えてるんだと狂介は叫びたくなったが明日は我が身の恐怖から何も言えなくなっていた。
「楽しみだな〜狂介の誕生日。」
「お助けーーーーーーー!!!」
これは心が篭ってるだけでもプレゼントは100点ではいなんだなって言う、そんなお話。
〜おしまい〜
〜おまけ〜
升沢「コックロックはMっ気が無いと痛いだけ・・・」
レオ「じゃあやってあげるよ。」
升沢「いや・・・それは・・・」
レオ「久しぶりなんだしいいじゃない・・・ソレ!!」
升沢「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」
升沢娘「バブバブブ〜(次回をお楽しみに)」
〜ほんとにおしまい〜
330 :
実験屋:2005/12/20(火) 23:50:44 ID:YmN/sH1s
以上になります。自分も今年はこれが最後になるかと。
神々の投下を心待ちにします。
>330
実験屋氏GJ!!
読んでるこっちが恥ずかしくなるくらいの二人のラブラブっぷりが最高です!
つか有紀両親はホントにナニを教えてんだww
コックロックの使い方や使用感なんか普通年頃のうら若き乙女に教えるコトじゃねーだろww
しかも升沢は経験者?!
それはともかく、また来年の投下お待ちしておりまする〜。
ぶっはっは!
有紀どこまでいくんだろうなぁ(笑
来年も楽しみにしてます!
凄すぎる、凄すぎるよ、神々は。もう喜ぶことしか出来ないです。
ヾ(*´∀`*)ノ キャッキャ
来年も楽しみにしてます。
もちろん、まだ今年投下してくださるという神々がいたら大大大歓迎です。
狂介、Mも似合いそう。
GJ!
司さん最終回ってクリスマスだっけ
クリスマスイブだっけ
投下予告というか、何と言うか。
現在AA板の某スレを下敷きとした「男装妻」モノを構想中。
序章だけでもそれなりに長くなりそうだが、期待せずに。
+ +
∧_∧ +
(0゚・∀・) ワクワク
(0゚∪ ∪ + テカテカ
と__)__) +
房津のことか?
ごめんなさい。体調崩してしまって完成してません
が、お待たせするのも何なのでいつものごとく前半のみ投下いたします
後半間に合わなかったらすいませんm(_ _)m
「カズやん今年の予定は? 」
「例年通り」
「健は? 」
「右に同じく」
「司は? 」
「デート」
カズやんと健は顔を見合わせ、深くため息をつく。
『は〜』
「結局去年と同じなのは俺ら二人か」
「まさかこうなるとはな……」
一年生の頃からの友人である四人の間では、司は年上の女性と付き合っていることになっている。
三宅隆也の姓と名をいれかえてもじり、高久都という架空の女性を作り上げている念の入れようだ。
その四人は去年ことごとく一人身だったのだが、今年は司とマサにそれぞれお相手ができ、
寂しいクリスマス率は50%減となったのだ。
そのマサは、それこのこの昼休み、年下の彼女と屋上でいちゃいちゃしているはずである。
飄々と苺ミルクをすする司の横で健とカズやんが肩を落としていると、
タイミングよく昼休みの終りを告げる予鈴が鳴った。
「んじゃ俺戻るわ。またな」
腰を上げたカズやんは、司と健の隣のクラスだ。
「おう」
「じゃーな〜」
言っちゃ悪いが顔も後姿もオッサンのカズやんは、今日は何時にもまして哀愁を漂わせている。
モテないのも頷けるのだが、その性格の良さを知っているとどうにも同情したくなる。
――してる場合じゃねーけどよ
ふと自分で入れた突っ込みが胸に刺さって、健は首を振り頭を切り替える。
「で、司。どーすんだ、当日」
「何が? 」
きょとん、なんて可愛い顔ではなく、どうにも可愛げのない無表情で聞き返す司に、健は少し言いよどむ。
目の前にいる司は男だが、大前提として、やっぱり司は――一度は好きになった――女なのだ。
だからこそ、ややこしい問題が身の回りに山積していて、こうして自分は手助けをしようとしているのだが。
「……だから、俺のアリバイ工作はいるのか、って聞いてんだよ」
それは間接的に、隆也と会う手伝いをしてやろう、という申し出なのだが。
「いや、今回はいらない。俺も色々考えてあるから。ありがとな」
特に何の気遣いもなく、あっさりとそう言い切られるのは予想外のことだった。
男の友人として、以前の付き合いに戻れたことは嬉しい。
「そっか。ま、うまくやれよ」
「おう」
「期末テストも終わったし、先生もやっとゆっくりできるね……って、先生?」
数日後。十二月も半ばの日曜日。司はお気に入りのマグカップでココアを飲んでいた。
その隣に隆也がいたのだが、その手が何の脈絡もなく司の体を抱き寄せた。
本当に、何の前触れもなく、である。
思わずいぶかしげな声をあげた司が顔を上げると、これもまた唐突に、唇を奪われる。
甘い口内を貪る舌の動きは激しく、司は手にしたカップをテーブルに置くこともできず体を強張らせた。
それでも、愛しい人の舌使いは快感に結びつき、ぞくぞくと体を疼かせる。
「……っ、は、せんせっ」
ようやくのことで口を離した司に呼ばれ、ようやく隆也は言葉を発する。
「司……可愛い、な」
すっかり興奮した目でそう言う隆也の様子は明らかにおかしい。
「なっ、何言ってるんですか!? なんか今日の先生ヘン―」
「だってしょうがないだろ。司がほんとに可愛くて……美味そうなんだから」
司の手からマグカップを取り上げてテーブルに置いた隆也は、さらにおかしな台詞を口にする。
いや、普段もこのくらいのことは言う男だ。しかしどうも、様子がおかしい。
戸惑いながらも頬を染めた司の視線が隆也のそれとかみ合って、それを契機に隆也は再び唇を重ねた。
情熱的な口付けは簡単に司の力を奪い、戸惑いを消し去る。
静かな昼下がりの部屋に響くのは乱れた息遣いと口付けを交わす音だけで、それはいつもの情事と変わらない。
「司……」
愛しそうに呼ぶその声も、それに感じてしまうのも、何一つ変わらないはずだ。なのに。
「せん、せ……」
ソファに横たえられた司は頬を上気させ息を乱して、ふいに不安に駆られ口を開く。
「先生、なんかヘン……だよ」
その隆也は、眉をひそめた司の言葉にもまともに反応しない。
「そうか……」
ふ、と口元に笑みを浮べた隆也はうなじを舌でなぞり、服の中に手を差し入れる。
「や、ぅ……やだ、なんかっ……あ」
さらしの上から敏感な先端をひっかかれ、抗議の声が止む。
「そっか。嫌か。じゃあしょうがないな……」
言葉とは裏腹に執拗に続けられる悪戯にぴくぴくと背をのけぞらせ、首を振って耐える。
それでも体は快感に従順で、こりこりと固くしこるそこを強めに摘まれ、飲み込んでいた声が漏れる。
「ひゃっ、うっ……あう、あ……」
口をぱくぱくさせている司の耳元に顔を寄せ、ズボンの中に手を差し入れる。
「……嫌じゃなかったのか? いつもの男らしい司はどうした?」
下着の上から割れ目に指をおしこむと、じっとりとした熱が伝わる。
指を動かせば内側にぬめる蜜が溢れていることもわかる。
「ひ、い、やっ……せんせ、いつもと違うっ……」
ぐ、と肩口を掴んでにらみつける司の瞳が潤んでいるのを見て、隆也はようやく悪戯をやめる。
「……悪い……」
「……」
隆也の下から抜け出した司は、眉間に皺を寄せて黙り込む。
隆也が声をかけるのを躊躇っている間に、司が口を開いた。
「……なんで? 」
「……」
隆也は答えられない。
冷たい声が、再び彼にかけられる。
「なんでですか」
「悪い……その……」
後が続かない、そこに見える後ろめたさが、司をいらだたせる。
「はっきりしてください。理由、あるんでしょ?」
つめよるような口調におされ、隆也は溜息をつき、そして申し訳なさそうに言葉を継ぐ。
「その……昨夜、AVを見てて、だな……男装した女の子の……それでこう、余計に、したくなって」
「何それ」
冷ややかな返事と視線に、嫌な汗が流れる。
表情を凍りつかせた司の機嫌をつくろうように、隆也は慌てて続ける。
「いや、別にそれだけじゃないぞ? もちろん相手が司だから……」
隆也が言い掛けたところで、凍り付いていた司の口が動く。
「俺は」
その声の静かさが、ぞっと隆也の背を走った。
「俺は、先生だから……嬉しいし、気持ちいい、のに……」
そしてその静かな声は、彼の胸を締め付ける震えを伴っていた。
だというのに、それを聞いた瞬間、隆也の口から出てきたのは往生際の悪い言葉だった。
「だから、俺だって―」
「嘘。さっきの先生は、俺じゃなくても良かった。こういうカッコしてれば、それでよかったんだ」
たしかに、隆也は司の表面だけを求めようとしていたかもしれないが、
もちろん相手が司でなければあんな性急な態度はとらなかった。そこに愛はあったのだ。
それを言い分も聞いてもらえず、こうも一方的に非難されると、大人気なく反論もしたくなる。
「そんなこと―」
「じゃあなんで服脱がせなかったの? この格好が良かったからでしょ? 違うの?」
まくしたてる司の台詞はほとんどが真実で、隆也は返す言葉がない。
押し黙り必死で言葉を探すが、どんな繕いの言葉もこの怒りの前では無意味に思える。
それくらい、目の前の司の語気は強く、目は。
「……」
目は潤んで、とうとう俯いてしまった。
司の手がきつく握られているのを見て、隆也はようやく謝罪を口にする決心がついた。
「司」
「帰ります」
間髪いれずそう言い放って、司は立ち上がり隆也に背を向ける。
乱暴に上着を拾って出て行くその背中に、隆也は何か言いたげな表情を見せる。
けれどその口からは、気の利いた言葉など出てきそうもない。
ただこのまま帰らせたくはないという思いだけで、口を開く。
「司」
自分を呼ぶ声に気付いただろう、司は。
彼を拒絶するように、そのまま部屋を出て行った。
乾燥したドアの音を聞いて、あげかけた腰をソファに落とす。
目の前のテーブルには、おそろいのマグカップ。
腰を落ち着けたソファの片隅には、司が使っていたクッション。
そのまま目線を壁にやれば、可愛らしいサンタクロースの描かれたカレンダーが視界に入る。
「……何やってんだ、俺……」
ちくたくと、無機質な時計の針が進む音だけが部屋に満ちた。
一週間が過ぎた。
街中がクリスマス一色で、放課後ぶらりと遊びに出た司と健は溜息をつく。
「って、司、どーかしたのか? 」
「あ? 何が? 」
「何が、ってお前。ものっそ溜息ついてたぞ」
先生と何かあったのかと、健としては聞きたいが聞けない。
うっかり聞いてしまったら、まだ心のどこかで喜んでしまいそうだし、何より司の不機嫌を煽るのは怖い。
「あー……こーいう華々しいイベントごとってあんま好きじゃねーんだよな」
「あぁ、そうだっけな。ほんとに枯れてるよなぁ司は」
「うっせ。似非クリスチャンの祭りがなんだってんだ」
まったく浮かれた様子のない司は、やはりおかしい。
聞きたくはなかったが、やはり聞かなければならない。友人として。
何でもなさそうに、顔を正面に向けたまま問いかける。
「―先生となんかあったのか? 」
「……うん、まぁ」
呟く横顔はイルミネーションに照らされて、微妙な影を落としている。
健は努めて明るい声を出す。
「ばっかだなー。なんでまたこの時期に喧嘩なんかするかね」
「俺のせいじゃないし。っつーか100%先生のせいだし。っつーかもういい。滅入る」
畳み掛けるように言って、司は歩調を速める。
それに遅れじと健も足を速めて、司のやや後ろから声をかける。
「で? 仲直りして仲良くクリスマスを迎えようって気はねーのかよ?」
「先生が謝れば考える」
「お前、先生が謝ってもきかなかったんじゃねーの? 」
ぴたりと司の足が止まり、思わず肩がぶつかる。
「……なんで」
「いや、お前切れると言い訳きかねーし。つーか図星か」
「……」
再び無言で足を動かし始めた司に溜息をつきつつ、後を追う。
「でー、どうすんだ、お前」
「……どうもしねーよ」
「そうもいかないだろ。 都 さ ん も落ち込んでるんじゃねーの?」
そう、仮の名前を強調する健を置いていきそうな歩調で前を行く司が呟く。
「……しらねーよ」
もうひとつ溜息をついた健は、それ以上その話題には触れなかった。
「電話に出ません。メールも返しません。学校でも目を合わせません、か」
ぼんやりとカレンダーを見つめつつ呟いて、隆也はソファに荷物を投げ出す。
とうとう終業式のこの日まで、司は機嫌を直してくれなかった。
成績表を手渡すときすら目もあわせず、手も触れず、それどころか返事すらしなかった。
何もそこまで、と思うとこちらも折れる気が失せる。
子供っぽいといわれようがなんだろうが、それはお互い様だ。
――と、七つも年上の男が意地を張っても仕方がない。
仕方がないから一生懸命接触を図ろうとしているのだが、応じてくれないとどうしようもない。
家にでも押しかけたいところだが、こんなかたちで司の両親に会うのも気が引ける。
マフラー、コートを脱ぎ捨てて台所に向かいながら悶々と考えを巡らすが、どうにもいい案がうかばない。
そのうえ冷蔵庫は空ときている。
今回に限っては行きたくもなかった職員の忘年会から帰ってみればこのざまだ。
買い物に行くのも忘れていたのかと思うと、イライラを通り越して情けなくなってくる。
「……しょーがねーな」
カップラーメンでも食おうと湯を沸かしながら、一度はソファに投げ捨てた携帯を拾う。
ここ数日は聞いていない、司からの着信音を心待ちにしながらメールを打つ。
『24日、待ってるからな』
もう機嫌を取ろうとか仲直りをしようとかいう努力は諦めた。
あとは司が折れるのを待つだけだ。それがだめなら、もう全てを諦めるしかないのかもしれない。
着信音は、鳴らない。
二十四日。午前九時。
ベッドから伸びた隆也の手が携帯を開き、メールも着信もないことを確かめる。
「……」
昨日メールを送ってから、いまだ携帯は鳴らず、こちらからも何もしていない。
先週までは、当たり前のように司が来てくれるものだと思っていた。
終業式の後から、ひっきりなしにメールを交換するんだろうと思っていた。
ケーキも予約してあるし、シャンメリーも買うつもりだった。
なんなら、手料理の一つも作ってやろうと。
溜息をつきながら体を起こす。
がしゃがしゃと髪を混ぜて、身をすくめて歩く部屋は寒気に満ちている。
床の冷たさから逃れるように暖房をつける。
ケーキは取りに行かなければ。ついでに、自分が食べるものもない。
洗面所の鏡に映った自分の顔はひどく憔悴していた。
顎を撫でて気づく。ここのところ、髭も剃り忘れていたかもしれない。
溜息をつきながら髭を剃って、着替え、家を出る。
予約した以上ケーキは取りに行かねば。一人でもまぁ、この際仕方ない。
この寒空の下、一人身などいくらでもでもいる。
+++++
連投規制ひっかかりますたorz
それではみなさん、悶々としたクリスマスをお過ごしくださいノシ
イヤミですか。
そうだよ、俺はどーせ悲しい喪男だよ!\(`д´)ノウワァン!!
とまあボヤキは燃えるゴミにでも捨てといて。
GJです。でも体調不良なのに無理して書くのは控えた方がよろしいかと。
他の方もそうですが、遅れても構わないのでしっかり休養を取って体調を回復させて下さい。
悪化させてPCに向かう事すら辛くなったら元も子もないですから。御自愛下さい。
GJ
規制に引っかかったらどうなるんだっけ?
>344
厭味ではありません。ショックのあまり厭味だとすら理解できてないのですw
お気遣い感謝です。風呂入って枕元に靴下置いて寝ます
>345
ストレスが溜まります
>>338 それだけのヒントでよく分かりましたね。ご名答です。
ただし、名前などはAAは使いません。あと、結構シリアスな感じになるかと。
>>346 いつもながらGJ!!ラストエピソードに相応しい盛り上がり期待してます。
街中は予想通り、幸せそうなカップルと家族連れで溢れかえっていた。
中にはもちろん、男同士や女同士で歩いているものもいるが、とにかく一人で歩いているのは浮く。
それでも大人しく一人で帰るのが悔しくて、わざわざファーストフード店で早めの昼食を取ることにした。
学生の集団や中年女性の二人組みなど、多少は気が紛れるかと思ったが、
やはり男一人黙りこんでバーガーを口に運ぶのは味気ない。早々に店を後にする。
そして、これでもかという大量の食材とケーキと、飲めもしないシャンパンを買って家路を行く。
イルミネーションもクリスマスソングも知ったことか。
あの可愛げのない恋人が隣にいないというだけで、やけに僻みっぽくなって困る。
マンションの駐車場に車を入れて、大荷物を手に部屋に向かう。
司の来た形跡はない。もちろん携帯も鳴っていない。
一人の部屋はまた冷え切っていて、もういっそはやく日が暮れてしまえと思う。
早めの昼食をとったおかげで、もうほとんどすることがない。
なんとはなしにテレビをつけてみても、どこもかしこもクリスマス特番とやらで盛り上がっている。
気に食わない。
自分の心の狭さに溜息をついて、テレビを消しソファで横になる。
天井に伸ばした手は何も掴まない。
掴まないまま自分の胸に落ちて、お前のここは空っぽなんだと思い知らせる。
「……司」
この間ここで怒らせたときの、泣き顔が目に浮かぶ。
そんな顔を見たいんじゃないんだ。嬉しそうに、腕の中で笑う顔が見たいんだ。
着飾っていなくても、女の子らしくなくても、ひねくれていても、それでもいいんだ。
ただ、ここにいて欲しいだけだというのに。
自分の失態を思い出すと、感傷的な気分も馬鹿馬鹿しくなってくる。
目を閉じた。日が暮れたら、一人で冷蔵庫の中にあるケーキを食ってしまおうと思いながら、目を閉じた。
気付けば、本当に日が暮れかかっていた。
呆然と身を起して、くしゃみをする。暖房は勝手に切れていた。
「……ない、か」
携帯の画面に目を落としても、それで司がここに来てくれるわけではない。
むしろ、距離ばかり感じられて泣きたくなる。
それでも泣けないのが、男の意地というか、馬鹿なところというか。
がりがりと頭をかきながら、送信済みメールと送信履歴を確かめる。
これだけこっちからはアピールしたんだ。それでも返事をしないというのは強情すぎる。
返事もしないくらい機嫌が悪いなら、わざわざ遊びに――しかももう夜だ。来るはずがない。
「……知るかよ」
呟いて、立ち上がろうとしたときだった。
来客を告げるベルが鳴り、動きが止まる。司だろうか。いや。期待はしない方が良い。
それでも、久々に胸がドキドキと鳴っている。
おそるおそる玄関を上げると、そこには一人の少女が立っていた。
目の前にいるのは、可愛らしいとしか形容できないような、そんな女の子だ。
ミニスカートとブーツ、白いコートと帽子、赤いマフラー、それに、見慣れた大きな瞳。
「……司?」
一瞬、あてつけかと思った。
男装が好きなだけだろうとか、そんなくだらない問題がこの数日間、彼の思考と彼女の眉を曇らせていたから。
「……メリークリスマス」
けれどそれは、思い違いだったようだ。
気恥ずかしげにそう言う司は、そのまま動けずに隆也の前に立っている。
「あ――……」
あまりといえばあまりの展開に、隆也は言葉が出てこない。
寒い玄関で固まってしまった彼の顔を、司が覗き込む。
「……先生? ――まだ、怒ってる?」
気遣わしげに問いかけられてようやく人心地を取り戻し、隆也は司を家に招き入れる。
「いや、そんなことない。いいから入れ。寒かっただろ」
隆也が肩に手を回しても、司は何も言わない。
自然と玄関に足を踏み入れ、まごつきながらブーツを脱ぐ。
不慣れなその格好が、きっと、多分だが、自分のためだということが嬉しい。
先ほどまで体を投げ出していたソファに司を座らせ、いつもより少し距離を置いて隣に座る。
「えー、と、だな、その」
とりあえず、直接謝罪を口にするのが一番良いだろうと言葉を探していると、手に冷たいものが触れる。
見れば、司の細い指が隆也の手を掴んでいる。
「……ごめんなさい……」
先手を打たれて、思わず俯いていた顔を自分の方に向かせ、額を合わせる。
「司。ごめんな……」
「……」
潤んだ瞳が恥ずかしそうに細められて、自然と唇を重ねる。
離れると、はにかんだ笑顔が生意気な口を叩く。
「先生。メリークリスマスは? まだ言ってないよ」
「そっか。そうだったな。じゃあ、メリークリスマス」
にこりと笑いかける。それから、改めて司の体に目を移す。
「しかし……うん、似合うな。可愛い」
可愛らしい膝小僧に何気なく手を置くと、あっさり退けられる。
「……恥ずかしいからコメントはいらない……」
退けられた手で帽子を取って、短い髪を撫でる。
「何で」
「だから、恥ずかしいから」
自然と顔がにやけてしまう。あまりからかうとまた怒られそうだが、やめられない。
「いいじゃないか。可愛いんだから。俺に見せるために着てきてくれたんじゃないのか?」
「……そうだけど……そうだよ。だから、親に怪しまれないように中学のときの友達に口裏合わせてもらって」
「そっか。頑張ってくれたんだな。ありがとう」
頭を撫でてキスをしてやると、むくれていた顔にますます赤みが差す。
「だ、も、もういいでしょ? 何か食べよう――」
「待て。自慢したい」
言った隆也に、冷たい声が返される。
「は?」
だがめげない。司には理解されそうもない思いつきに、立ち上がる。
「よし。自慢しに行こう。誰でもいい。この際」
「え、ちょ、ちょっと? 何? 」
「こんなに可愛い彼女がいるんだってことを、誰でも良いから自慢したいんだ! 」
「はぁ!? ちょ、ちょっと待ってよ! 」
「まだ夕飯には早いだろ。大丈夫、知り合いのいないとこまで行こう」
有無を言わさず司の手を取り、立ち上がらせる。
「せっかく苦労して着てきたんだから、な? クリスマスらしいことでもしよう」
「でも……」
司の言葉も聞かぬうちに部屋にコートを取りに向かい、ドアの前で体をひねる。
「いいから! そうだ、何時まで大丈夫なんだ? 」
立ち尽くしていた司と目が合い、むくれた口から意外な言葉が出てくる。
「……泊まれる……」
「……そっか。なんだ、じゃあなおさら問題ないじゃないか」
防寒具と鍵の束を手に戻ってきた隆也の機嫌はすこぶるいい。
現金な、と呟く司は、それでも足を玄関に向ける。
――ブーツ、めんどくさいのに
それでも気を使って履いてきただけ、隆也が喜んでくれたことは嬉しい。
嬉しくて、怒る気も失せてしまった。
わかりやすく笑みを浮べる隆也と、わかりにくく喜んでいる司は、手を繋いで部屋を出て、車に乗り込んで。
イルミネーションの輝く街に繰り出した。
夕暮れ時の街中はカップルでいっぱいで、誰も人のことになんて興味はなさそうだ。
それでも、視線は必ずどこかで動いている。向けられている。
それがどうしようもなく息苦しく感じられて、司は居心地の悪さに溜息をつく。
「……ね。どこ行くの? 」
歩きながら、隆也の袖を捕まえて聞く。履きなれないブーツは歩きにくくて、歩調が合わない。
「そうだな。クリスマスプレゼントでも探すか。何か欲しいもんあるか? 」
「ない。っていうか、プレゼントなんかいらないから、もう帰ろう? 」
「……何でだ? 」
足を止めて顔を覗き込むと、司は恥ずかしげに視線を逸らす。
「だって……恥ずかしいよ。このカッコ……」
俯けば、視界に入るのは見慣れないスカートから伸びる自分の足と、ブーツ。
姿見で確認したあまりにも女の子らしいその格好が、どうしようもなく恥ずかしい。
「恥ずかしがることなんてないさ。可愛いんだから」
こちらは恥ずかしげもなく言い放って、冷たい頬をなでる。
「…………」
冷たい頬に血が上る。それでもう、司は抗議するのを諦めてしまった。
いつもは好奇の視線に晒されてできないことが、今日はこの服装のおかげで堂々とできる。
しっかりと手を繋いで、歩くことができる。
手を引かれ、ブーツで足を痛めながらも、いつしかその表情は和らいでいった。
結局、どうしても物はいらない、と豪語する司に隆也が折れて、二人は何も買わずに帰ってきた。
それでも二人は満足そうに、一緒に見た様々なものを思い出しては口にする。
大きなツリーや、おもちゃを抱えてころんでしまった子供や、幸せそうな老夫婦の姿など。
そのどれもが幸せそうに輝いていて、数時間前までの大きな隔たりなどすっかり消し去ってしまった。
宅配のピザをとり、ケーキを食べて、シャンメリーを飲んで。
もう一度この夜を祝う言葉を口にして、饒舌に時は過ぎてゆく。
「……司」
ころあいを見計らって、隆也が司の隣に腰を落ち着ける。
何気なく頬に唇を落とすと、嬉しそうに腰の上にまたがってくる。
「なんだ? 積極的だな」
「いーの。一週間分だから」
「そっかそっか。うん。そうだな、それじゃ」
ぐ、と司を抱き上げて、そのままベッドに連れて行く。
じゃれあうようなキスを重ねて服に手をかけると、司がそれを止める。
「待って。ちょっと話、したいから」
「……うん」
真剣な物言いに手を止め、司に覆いかぶさったまま続きを待つ。
それがきっと、あまりにもあっさりとした和解では解けきらなかったしこりなのだろうと気付いたから。
「……あんなことで、怒って。先生からの連絡も無視して、ごめんなさい」
隆也は黙って、先を促す。できるだけ穏やかな表情で。
「でも、先生に会いたかった。先生に触りたかった。触ってほしかった」
その言葉に答えるように、頬を、耳を、うなじをなでる。目を細めた司に顔を寄せて、次の言葉を待つ。
「抱きつきたかった。抱きしめてほしかった」
ぎゅ、と背に回された腕に力がこもる。
「司、って。呼んで欲しかった」
震える声に胸を掴まれる。
「なのに。なのに、ヘンな意地、張って。せん……せい、に、会いたかった、のに」
ぽろぽろとこぼれる涙が頬を濡らす。
それを掌でそっとぬぐってやりながら、胸の奥からこみ上げてくる熱いものに視界を奪われる。
「……先生も、泣いてるの?」
問われて、隆也ははっとする。
「馬鹿言うな。泣いてるわけ……」
言う声が、自分の物ではないように震えている。
瞬きをした瞬間に司の頬にぽたりと落ちたものを見て、思わず表情をゆがめる。
「……泣いてる、な」
司の細い指が、隆也の目をぬぐう。その手が暖かくて、愛しくて、どうしようもない。
「嬉しいんだ。司。司が、こんなに俺のこと、好きなんだって……」
その手を取って指を絡めて、額をくっつける。お互いの瞳だけを見つめて、幸せそうに笑う。
「司……好きだ……愛してる……」
「先生。好き。大好き。愛してる……」
どちらからともなく唇を重ねる。一度目は、触れるだけのキスを。それから、唇を貪りあい、舌を差し入れる。
唇を離しては見詰め合い、見詰め合ってはまた唇を重ねて、それだけで体温を上げていく。
「服、脱がす、ぞ……」
服の上から司の胸をまさぐっていた手が、器用に服を脱がせ始める。
司もそれに応じて、セーターとシャツは簡単にはぎ取れられる。
「……新鮮な眺めだな」
そこに残ったのは、ミニスカートに上は下着だけという姿の司。普段なら決して見られない光景だ。
「い、いいから、はやく……」
「ん。そうだな……」
言いながらも、うなじにキスを落として、スカートの中に手を差し込む。
下着の上から秘所を揉んでやると、くぐもった声が漏れる。
「ん、や、ぁ……」
「嫌じゃない。だろ? ほら」
首から胸へと口を移し、下着をずらして乳首を吸い上げると、一際高い声が上がる。
「ひ、あんっ……だ、ってぇ……もち、いいん、だもんっ……」
「ん……ここ、が? こうがいい? 」
胸を口で責めながら秘所を弄り続けると、さらに良い声が上がる。
「あ、あっ……だめ、せんせぇ……」
立てた膝がふるふると震える。腿を撫でて、上体を起こす。
「ん。せっかくの服、汚しちゃうわけにはいかないもんな」
背に腕を回してブラジャーを脱がせ、腰を持ち上げてスカートも下着もいっきに取り払う。
新鮮な光景は一転して、見慣れた肢体になる。
「……どうしてほしい? 」
顔を寄せて聞くと、小さな声が耳をくすぐる。
「――いっぱい、して……」
「……わかった」
+++++
やっぱり完成しませんでした。えらそうに予告なんてするもんじゃないですね。
と、いうわけで、続きはまた次回。しばしお待ちを。