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今日は、藍華ちゃんのお部屋にお泊りに来ています。藍華ちゃんの部屋にはもう
何度か泊ったことはありますが、やはりお友達とのお泊り会というものは、何度
経験してもとても楽しいことだと思います。そして、どきどきもしました。
夕飯の材料を一緒に持ち寄って、二人で作って、食べて、お話して、
おいしいジュースやお菓子をつまみながら、時間はゆっくりと過ぎていきます。
おしゃべりをしているともちろん船の話にもなって、アリシアさんや晃さんに
アリスちゃん、みんなの話にもなりました。好きな人と、好きなこと、好きなもの
の話しをすることはとても楽しくて、私たちは夜遅くまで話しこみました。
それもこれも、休暇をくれたアリシアさんと晃さんのおかげです。明日にでも
もう一度、お礼を言いたいと思います。

「あれー、藍華ちゃん、どうしたのそれ」
それは、藍華ちゃんがトイレから帰ってきたときのことでした。トイレに行く前には
なにも握られていなかった藍華ちゃんの手に、ひとつのビンが握られていたんです。
「えっへっへー、聞いて驚けー驚けー」
藍華ちゃんは楽しそうににやにや笑いながら、机を挟んで私の向かいに座り、机の上に
散乱しているお菓子を避け、ごん!と音を立てて私の目の前に置きました。
「じゃーん、晃さん秘蔵のお酒!」
そう言って、藍華ちゃんはどこか誇らしげにずいっと私のほうにそのお酒を進めました。

「えっ・・・ええっ、いいの?藍華ちゃん、勝手に持ってきちゃって」
「いいのいいのっ、晃さんだって、勝手に私のお菓子食べちゃうんだから」
へーきへーき、と、藍華ちゃんは笑いながら言いながら、
机の上に身を乗り出して、続けて口を開きました。
10069:2005/10/16(日) 15:47:30 ID:m5fU5BAx
「だってこの前なんか、私のポテチ一袋に、ポッキーでしょ?
それにとっておいた残りのクッキー5枚に、チョコに・・・」
「へ、へえ・・・」
私は藍華ちゃんの勢いに少し圧倒されて、心持ち後ろに下がってしまいました。
「それにこのお酒ね、とーってもおいしいらしいのよ。飲んでみたくない?」
藍華ちゃんは相変わらずお酒を私に薦めてきます。
「えーっ、えーっ」
私がわたわたしている内に、藍華ちゃんはビンの蓋を開けてしまいました。
透明なビンの中でキラキラと揺れるその液体は、薄い黄緑色からピンクへと
綺麗なグラデーションになっており、思わずそれを飲んでみたいと私が思ってしまった
ことも確かです。ぼーっとそんなことを考えていると、藍華ちゃんは
先程まで林檎ジュースが入っていたそのコップに、二人分お酒を注いでしまいました。
「ああー、藍華ちゃ・・・」
「いいのいいの。」
そう言って、藍華ちゃんは今度はそのコップを私のほうに差し出しました。
私が流されるままにそのコップを受け取ると、藍華ちゃんもコップを手に持ち
「カンパーイ!」
と、コップとコップを軽くぶつけました。そのコップはビンと同じように
透明なガラスで出来ていたので、とても綺麗な音がなりました。
「か、カンパーイ・・・って、藍華ちゃん!」
私がその言葉を口にした瞬間、藍華ちゃんはごっきゅごっきゅとそのコップに注がれた
お酒を飲み干してしまいました。
「ぷっはー、やっぱり聞いた通りおいしいわ、これ。それにね灯里、灯里には
まだ言ってなかったけど、晃さんいつもはこれ私に見つからないように隠しておくくせに、
今日は私の目の前で堂々と棚にしまっていたのよ。それって、今日飲めってことでしょ?」
10169:2005/10/16(日) 15:50:28 ID:m5fU5BAx
その言葉を聞くと、私は自分の目が見開くのが分かりました。
「えっ・・・、えーっ、なっなんで教えてくれなかったのー藍華ちゃん!」
「灯里のおろおろする顔が見たかっただけー。」
藍華ちゃんはへっへっへと笑いました。私はかつがれたと知り、少し顔が火照るのが
分かりましたが、そうなると藍華ちゃんはよりいっそう楽しそうに笑いました。
晃さんと藍華ちゃんの信頼関係というか、そんな感じの素敵なものを見せてもらったのに、
なぜかちくんと小さく胸が痛むのが私は分かりました。何故でしょう、前までは、
こんなことなかったのに。

「灯里も飲んでみなさいよ」
私がこの胸の痛みの原因を考えていると、藍華ちゃんが自分のコップにまたお酒を
注ぎながら、私へと進めました。
「・・・うん。」
私は藍華ちゃんに気付かれなくてよかったと思い、そのコップの中に注がれた液体を
眺めました。それはビンからコップの中へと場所を移しても、光を反射してきらきらと
とても綺麗に輝いていました。思い切ってそれを一口飲むと、途端に飲み心地のいい
甘い味が口の中に広がって、それはまるで不思議なジュースを飲んでいるかのようでした。
「・・・おいしい・・・」
私がそう感想を口にすると、藍華ちゃんがとても嬉しそうに笑いました。
「よねっ!うん、ほんとにおいしい。あ、ねえ灯里そこのポテチとってっ!」
そうにこにこと言う藍華ちゃんは、自分の大好きな尊敬している先輩を褒められたと
感じたからか、それともお酒を飲んだ所為でしょうか、いつもより嬉しそうでした。
そんな藍華ちゃんを見ていると、私の胸の痛みもどこかに吹き飛んだようで、
私まで嬉しくなってしまいました。
「えへへー、はいどうぞ、藍華ちゃん」
「サンキュー」
藍華ちゃんの嬉しそうな顔を見ていると、私も嬉しいです。そして私も、嬉しくなると同時に
満たされていくのが分かります。この感情は、一体なんというのでしょうか。
私はまだそれには気付かずに、時間はこつこつと過ぎていきました。