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590AMARIA -35-
 街は、歩くような速さで静寂に染まっていった。
 人々は帰るべき場所に帰り、建物もそんな人々を迎え入れる。
 空が変わり、昼の顔とは違う、夜のそれを見せ始めていた。
 きっと、そこに表裏は無いと思う。
 一体ではない、個別の内外表現を個々が秘めていて、世界を形成する一部を成し、担っているだけ。
 どちらが表か裏か、なんて求めるのは、こんな素敵な夜には相応しくない。
 風は流れ、星月夜を無色透明な彩りで飾る。
 月下、2人並んで歩いても、所詮は夜の引き立て役にしかならないだろう。
 だけど、いくら完全な夜でも、俺の隣を歩く水の妖精には敵わないはず。
 艶を持つ髪が月光を照らし返し、真っ直ぐな瞳が夜を見つめ返す。手は風を切って、身体を闇の中で躍らせる。ただ歩いているだけでも、そこからは魅力が溢れていた。
 急に、手を掴まれた。
「こっちです」
「み、水無さん……」
 見惚れていたのは事実。手の温もりを感じながら、突然の行動に少しだけ驚き、それを隠せない。
 そこでやっと、今までの彼女とは違った印象を受けた。少なくとも、今日までにこんなにも大胆な行為を彼女の方から起こされた覚えは無い。
 そんな俺の反応さえ気にせず、どんどん暗い夜道を先導していく。
 更に闇は深くなり、街灯は無くなって、建物からこぼれる光すら疎らになってきた頃、本当にこっちで合っているのか、尋ねようとして、視界に見たことのある建物が映ったきがした。
 いや、確かに、ここは―――あの、闇への入口。
「ここって―――」
 知っている。俺はここを知っている。
 歩いたことのある小道。通ったことのある広場。
 造形も、石の感触も、壁の色も、全部を感じた覚えがあった。
 当然、辿り着く場所にも推測が働く。つまり、同じということだ。
 頼りない小さな灯りを手にして、目の前に現れた1人の女と舟。
591AMARIA -36-:2006/04/08(土) 01:54:47 ID:jq+YI/Iv
「いらっしゃいませ」
 無表情で、機械的に挨拶を向けた。まるで、俺を知らないかのように。
 つまり、そういうことなのか?
「水無さん、これは……」
 何を言われるのか。どういうことなのか。大体の察しはついていたが、わからないことが多すぎた。
「入ってください。それから、話しましょう」
 得意のはにかんだ表情なんて、微かにも感じない無表情。その声に反応して、夜の水先案内人は、先に乗り込んで布を持ち上げた。
「どうぞ」
 そして、素知らぬ顔で舟の上から手を差し出す。
 手を取り、自分で下りている布を左右に避けて中へと足を踏み込んだ。
 以前入った時と変わらない、吊り下げられたランタンとベッドだけの空間が広がっている。麝香の残り香が、鼻を衝いた。
 呆然としていると、続いて水無さんが入ってきた。
 すぐに帽子を取り、衣服を肌蹴させていく。白い彼女らしい下着と、その下の肌が見え隠れしていた。
 後退る俺に合わせて、1歩ずつ四つん這いで迫る。その目が、これまでに見たこと無いほど真剣で、一瞬でも油断を許せば、簡単に呑み込まれてしまいそうだ。
「ちょっと、待ってください」
 口を開いた瞬間には、もう目の前に彼女の顔があった。その柔らかそうな顔を、静かに綻ばせて、彼女は喋り出す。
「私を好きじゃなくてもいいんです。ただ、私の気持ちを知って欲しいだけなんです……。気持ちを抑えきれないだけ。そのあとで、答えを出してくれれば良いですから」
「そんな―――」
 都合の良いこと、できるわけがない。だって、それに俺は………。
「それで、もし叶うのなら、これが最後の願いでもいい―――貴方を感じたい」
 ファーストキスは突然で、セカンドキスは強引だった。
 唇を強引に押し当てるだけのキス。1度目のものと違ったのは、勢いだけかと思ったら、それだけでは終わらなかった。
 身を引いていくだけの俺にぴったりと身体を合わせて、ゆっくりベッドに重なりながら沈ませていく。軽いはずの女性の身体のはずが、今は重く圧し掛かる。
 同時に女性的な柔らかい肉感を感じつつ、僅かに残った理性で抵抗を試みようと、肩に手を伸ばした。
 細い肩を掴もうとして、逆に手を捕らえられてしまう。自由を拘束され、無抵抗のまま最後の砦までも心身共にベッドに埋もれていく。その中で、まどろみさえ感じていた。
 据え膳食わねば、という諺がある。それは、誰もが欲に素直な人間であることの証明。
592AMARIA -37-:2006/04/08(土) 01:57:58 ID:jq+YI/Iv
―――『あの時』の願いが、想いが、閉じたはずの扉から溢れ出してくる。
 鍵をかけても無意味。扉には隙間があり、そこから無常にも漏れ始めていた。
 静かに、舟が動き始める気配。水面を滑っていくような薄い感覚を背中で察知しながらも、どうでもいいと感じている自分がいた。
 頭の思考回路を切断するように、舌が侵入してきた。入った瞬間に、思考の停止を確認し、すぐに切られた回路への神経が感覚へと直結される。
 感覚が、物凄い速度で研ぎ澄まされていく。鳥肌が立った。
「んっ、むぁ……んふぅ、はぁ………」
 口を離すと、唾液が橋を架ける。次第に弛緩し、橋は落ちた。顎にかかり、唾液の温度さえ感じられる。
「やっぱり―――甘い、です」
 水無さんが唇を舌で舐めずった。唇に残った味をもう1度味わうように。その動作だけで、思わず背筋がぞくりと反応する。
 今までの彼女は、そこにいなかった。まるで、別人。
「水無さん、もう……こんな」
 上手く言葉に出せない。感覚だけに集中している神経だが、それでも、役立たずの思考だけは独立して働いている。
 いや、正確には何とか働かせていたという方が正しい。考えることを止めてしまえば、それは―――
「んっ、ん、むぅっ」
 そんなことお構いなく、口を塞がれた。そして、再度強引に舌で俺の舌を絡めとってくる。ぎこちない動きだったが、その動きが逆に興奮する要素になった。
 思考の回転速度がどんどん落ちていく。よく考えてみると最近は、こんなことばかりだった。
 相手から強く求められると、どうしても断れない。それが性なのかは知らないが、最後には、こうして考えることすら面倒になっている。
 でも、それは最後の砦。考えなくなった人間にどんな意味が……あるわけない。
「はぁっ……ふ、ぅん、ん、んぁ……」
 脳の髄にまで、互いの口と舌が奏でる卑猥な音が響き渡る。全身の毛が、これから降り立つものを受け止めるために逆立とうとしていた。
―――こうして水無さんと身体を重ねるなんて、何を、
 そこまで辿り着いて、停止させた。今は、起源に迫る思考は要らない。必要なのは、行為を感じ取る外面的な、機能的な思考だけだ。
 弾力を持つ肌も唇も、濡れた双眸と反る眉も紅潮する頬も、照れ隠しのように顔を隠そうと垂れる長い髪も―――何より長い口付けから全てを感じ取る。
 重ねられていた手を優しく振り解くと、髪のカーテンを持ち上げて耳にかけた。露わになった頬へ手を伸ばし、彼女の領域に入り込む。
 顎のラインからそっと持ち上げるように、耳元へ流れ、手の平で頬を包み込んだ。熱を持つそこは、発熱時のように高温で火照っている。
 頬への集中によって警戒が緩んだところを狙い、もう片方の手も拘束を解く。そのまま、指通りの良い髪を何度も指で梳いた。
「ん、む……ちゅぅ、ちゅ、んっ」
 呼吸が続く限り、俺は彼女の唇を求めて、彼女も俺の唇を追う。そんなやり取りを数回繰り返したあとで、飽きるほど梳いたさらさらの髪を持ち上げ、耳にかけると項に手を乗せた。