腰に何とか力を入れて立ち上がると、彼女の腕を取って身体を反転させた。今までと逆の立ち位置。
「後ろ、向けよ」
過激な台詞のくせに、似合わない優しさを感じる。不釣合いな感情。
それだけ俺には主導権なんてないってことで―――それでも、アマリアは言われた通りに、後ろを向き、お尻を突き出す。顔は羞恥に染まっていた。
そこに重ねられる、戸惑いと恥ずかしさと悦びが入り混じった複雑な表情。
しかし、こうして身体は正直、且つ積極的に情事に訴えかけてくる。
壁に手を突いて、弓なりに撓った身体。ゆっくりと弛緩していく力を見送り、スカートの中に手を潜り込ませると、そこに在るべき感触が無い。
ざらつくストッキングの上から、下を潜ろうと指を伸ばせば、
「―――こっちも、か」
在るべき布の肌触りは無く、溢れ出す蜜壷と垂れ流し状態の蜜が歓迎してくれた。
短いスカートを捲りあげて、ノーブラに留まらないその姿に嬉しい驚きを隠せない。
躊躇いも無く、ストッキングを破って指を侵入させた。
「ちょ、っ……あっ」
もう既に、前戯は必要ないほど濡れていた。
軽く指で膣内を掻き回すだけで、アマリアの身体は何度も震える。
「やっ……ぁぁ、ふぅん」
粘性を持つ液体が指を染め、快楽の度合いを示してくれた。
準備は十分。強がって劣勢を見せたくないのか、一言も哀願の言葉を吐こうとはしない。加えて、口を噤んで声を我慢しようとしているらしく、鈍った小声が漏れる。
なら、無理矢理にでも、可憐ないやらしい唇でもっと過激な台詞を言わせてみたくなるものだ。
「挿れて欲しい?」
何度も何度も。縦に首を振られた。それが最後の堤防か。声には出さず、自分の欲望を抑えている。
―――どうして?
答えは容易。これ以上の繋がりを、求めてはいけないと彼女の本能は察知しているからだ。その意味を、俺もよくわかっている。
何度も言おう。これは夢。
だが、夢であっても―――
つまらないことばかり生み出す思考をシャットダウンし、魅惑の花弁に向かって、硬く反り返ったモノをあてがう。
「挿れるぞ」
それは掛け声。承諾なんて求めない。俺もそれを望み、アマリアも望んでいると、わかりきっていたことだ。静かに、そう思う。
「ぅん……んぁあ、あっ、ああっ……!」
全部が収まると、すかさず激しく動く。 先で抉るように膣内を暴れまわる。隈なく、満遍なく、余す所なく。
「あぁっ! は、っ、あああっ! やぁっ……ふぁっ、んっん、くぅ!」
途端に、喘ぐ声が勢いを増した。
羞恥など何処へ行ったのか。やはり、元々無かったのか。誰かに聞かれることも、見つかることも恐れずに、張り詰めた緊張で溢れる闇へ、声を溶け込ませていった。
次に、無防備な背中に自分の身体を重ねた。それでも、切り離されたように腰だけは動かし続ける。
ただ繋がるだけでは飽き足りず、腕を掴んでいた手を今度は這わせ、乳房へ辿り着かせた。
「乳首、勃ってる」
さっきパイズリされていた時から気付いていたのだが、あえて言わなかった。この時にまとめて仕返ししてやろうと、思ったからだ。
乳首の周りを指で撫で回し、突起を軽く弾く。
「ひゃああっ!」
それだけで、過敏な反応が返ってきた。予想以上に硬くなっていて、まるで芽を触っているような感じだ。
摘まんだり、指で弄ったり、繰り返し集中的に攻めていく。
「そこばっか、やらないでぇ、はぁん、あっあぁっ!」
迫り来る津波をかわせずに何度も波を浴び、溺れ、海に呑まれそうになりながら何とか必死に浮かび上がろうとする。
必死故に、声を上げることを堪えようともしない。自ずと漏れ、次第に拡張していく。
「膣内(なか)、凄い音出てる」
重ねた背中越しに、顔を伸ばして赤くなった耳に向かって囁いた。
「ふぇ、っあぁ! やあ……言わないでっ」
すぐに反応で返ってくる。押し潰されると思うほどの強い圧力で、膣が俺を締め付ける。たった一言でこの鋭敏な快感が迫り来る。
常に継続している乳首への独奏。腰と重なれば二重奏と成る。逆に言えば、その2つの反動が一気に膣から返され、肉棒を攻め立てる。
向こうは分散されても、こっちには全部一点集中で戻ってくるのだ。その上での更なる追撃は、こちらにとってかなり不利になるだろう。
―――なら、こっちが果てる前に。
再び、小さな耳に目を向ける。それは熟れた果実のように赤く美しい形をしていた。今を逃せば、次は無いかもしれない。
まず、口付けて感触を確かめると、唇で甘く噛み、舌を伸ばす。肉は薄く、それでも弾力は十分。舌の温度よりも熱く、興奮を測るにはうってつけだった。
最早、全身が性感帯と言ってもおかしくないくらいにアマリアの身体は、快楽で染まっていた。
何よりも正直な顔は歪み、熱でもあるのか紅潮しきっている。耳も先程と同様。乳首は指で扱けるくらいに完全に勃起し、膣からは愛液が漏れ続け、地面に水溜まりを作るほど。
背中は撓り、震える足では頼りないのか壁に手を突くだけでは支えきれず、冷たい壁に寄りかかって後ろからの快感運動に悶えていた。
「くぅ、あっ! あっ、あっ、ああっ! ぁぁう、はぁあっ!」
動けば、突けば、扱けば、囁けば、彼女は震え、漏らし、締め、染まる。
呼吸は荒々しく、行為の激しさを物語る。時に、呼吸が重なり、まるで意識まで繋がったような不思議な勘違いをしていた。
耳に届く音は、艶を帯びて最高の扇情道具になる。音は、ぐちゃぐちゃと、まるで全てを液体へと変貌させてしまうかのように。声は、率直な快楽表現評価。全てを語り、表す。
繋がり、絡みつきを繰り返す秘所を見て、パイズリが脳裏を過ぎる。唐突に、あの胸の柔軟な感触を思い出し、求めた。
乳首を扱いていた指の動きを治めて、手のひら全体で掴み切れない乳房を揉む。
「ひぃあっ! 胸はだめぇ……ぁぁああっ!」
挟んでから射精の瞬間まで感じていた、柔らかさが蘇った。同時に、そこまでの圧迫感までもフラッシュバックする。
汗が粒になって、所々に噴き出していた。額から、ぽとり、ぽとりと動けば動くほど雫を彼女の背中に落としていく。
「止めて欲しい?」
卑猥な行為の中で覗き見た感覚。絶対的に優位な立場は、攻めている方に間違い無い。
与えられる射精へと導くための脈動に耐えながら優位を偽った。もちろん、止める訳などない。むしろ、この2人だけの夜のセカイが壊れるまで蜜壷を突き続けたい限りだ。
しかし、セカイの終わり以前に俺の限りが見えてきた。その証拠に、視界は徐々に霞んでいく。
「いやぁ! やっ、め、やめ、ないでぇっ……」
腰を掴み、突き立てる。打ち付ける肉の感触。密着させ、離し、強く引き寄せることで勢いを上乗せする。
その突き上げにより、途切れ途切れになりながらも訴えてくる。その姿が何よりも誰よりも愛おしくて、抱き締めたくなる。
お得意の微かな笑みも、強気な瞳も背中越しには見えない。ただ、歪んだ官能のセカイに染め上げられ、絶え間なく生まれてくる快感に震えている背中だけが視界に収まっていた。
白き視界の中、踊る背中。あらゆるものを弾ませ、終わりに向かう。
「もう……私ぃ……」
言いたいことがわかった。膣の動きも、それを示している。
「ああ」
1度だけの返答。もう頷く余裕すら無い。
速さが最大に調節され、強弱もなく、腰を打ち付けるだけ。肉がぶつかり合う音と、共に響く蜜の溢れる音。聴覚からの興奮剤は、脳へ到達し、確実に精神を狂わせる。
ここが、屋外ということすら頭の中には無く、誰かの目に触れることすらどうでもよくなっていた。
耐えていた高みへと上るための階段を一気に駆け上がった。堪えていたのはどちらも同じで、リミッターが外れたエンジンは加速し続けるだけ。
「あ、ひっ、ああっ、や、あ、ああああぁぁっ!!」
「う、ぁ……っ」
ほぼ同時に、お互いに絶頂へと到達した。俺は、白濁液を欲望のままに膣内で叩き付けた。限界まで溜めていた性が、全て吐き出される。
僅かにアマリアの方が早くイッたため、やってきた膣内での急激な圧迫。それに見舞われながらの射精となった。
「なかぁ……熱いの、出てる……」
解き放たれた恍惚とした顔。それと、身体で感じる悦び。
ようやく出し切って、硬さを失いつつあるモノを抜く。あんなに締め付けて、離そうとしなかったくせに、今ではすんなりと抜けてしまった。
抜いた瞬間、俺の吐き出した白濁が、垂れ落ちて地面に吸い込まれる。漆黒の闇に純白の記憶が広がっていく。
終わりはいつもと同じ。白く霞んでいた視界が、今度は逆に暗転していく。その闇の中で、壁を頼りに凭れ込んだ。