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507AMARIA -4-
「はっ、初めまして。私、ARIAカムパニーから参りました水無灯里と申しますっ」
 噛んだ。今微妙に噛んだ。
 アマリアが颯爽と去った10分後、暇潰しのタネになるかと思っていた猫もいつの間にかいなくなってしまい、ぼんやり空を見上げていると突然声を掛けられた。
 約束の時間ぴったりに現れたのだが、どうも遅刻寸前だったらしい。
「なんというか、とりあえず、どうぞ座ってください」
「あわわ……すみません」
 あれか。さっきのアマリアといい、ウンディーネってのは、綺麗な人ばっかりなのか……? そんな軽い動揺が俺の中を埋め尽くす。もちろん、小さなガッツポーズ。ナイスくじ運強い俺。
 気がつけば、隣に座った彼女のことをじっくりと観察していた。長い髪の毛が陽光を浴びて、額に浮かんだ汗と共に輝く。
 思わず髪の川を指で梳いた時の感触を夢想した。滑らかな指通りは必然だろう。顔に多少の幼さが窺えるが、体つきは完全に成熟した女性のそれで、まさに『水の妖精』の名に相応しい。
 俺の視線に気付いたのか、水無さんは申し訳なさそうに目を合わせる。噛んだことを、まだ気にしているようだ。……俺の方こそ、何か気まずい。
「水無さん」
 気まずくなったので、話題を逸らす。これ常套手段ね。
「は、はひっ」
「いい天気ですね」
 一瞬の空白。きっと俺は間抜けなくらい、清々しい顔をしているんだろう。こんな気の利いた台詞が出てくるなんて、すっかりアクアの気候にやられているらしいからだ。
「え―――はひ。涼しくて気持ちいいですね」
 ほれ、彼女も困っていたみたいだ。
「このくらいの季節が好きなんだよなぁ。四季で言えば、春とか秋の過ごしやすい季節。まあ、地球じゃ味わえないですけど」
「私も好きです、秋。食べ物も美味しいですし」
 何だか、落ち着いたようだ。気がつけば、他愛の無いことをいくつも話していた。頃合いを見計らって、元の話題に修正していく。
「もしかして緊張してました?」
「えっと、その、取材の方に粗相の無いようにって思って……いつもはアリシアさんが対応してくれていたんで、こんなこと初めてで……」
「大丈夫です。別にとって食おうってわけじゃないんですから」
 そんな面白くも無い冗談にも水無さんは笑ってくれた。
「じゃあ、早速会社へお願いできますか?」
「あ、そのことなんですが……アリシアさんが急な用事が入ってしまって、夜までは帰れそうにないんです」
 頭を下げる。緊張していたのは、このことを伝えるためでもあったのかもしれない。
「そうですか。まあ、仕方ないですよ」
 なるほど。それで待ち合わせにアリシアさんが来なかったのか。
 忙しいことは前々から承知していたが、こんなに急に入るなんて……凄いな。
 しかし、それはとても困る。時間が空いてしまった場合に対しては何も考えていなかった。約束の時間が延びるとなると、流石に向こうで長居するのも悪い気がする。
 適当に観光でもしようかと考えていると、
「すみません……あの、お詫びといっては何ですが、これから時間空いてますよね?」
 水無さんが尋ねてきた。
「いや、空いてるも何も予定を空けてきましたから」
「そ、そうですよね。じゃあ、空いた時間の代わりに、私でよろしければお客様をご案内致しますけど……」
 突然の観光案内のお誘いに、驚く。取材といえど、1度は舟に乗ってみるつもりだったのだが、丁度いい。
「良いんですか?」
「はひ、実は今日お仕事は休みで、ちょうど暇だったんです」
 せっかくの休みを、とも思ったが、彼女の魅力的な笑顔に負けた。というか、ここで断ってどうするっていうのか。
 色々と取材のプラス材料になることがあるだろうし、ネオ・ベネツィアの写真も撮っておきたかった。取材だけで終わってはやっぱり寂しい。
「―――そうですね。それじゃ、よろしくお願いします」
 笑顔に変わり、快く頷いてくれた。
「はひっ、お任せください」
508AMARIA -5-:2006/03/14(火) 01:31:48 ID:zUacnGN5
 複雑に入り組んだ水路をゆっくりと流れながら舟は進んでいく。
「では、右手をご覧ください。あちらが、サン・マルコ広場です」
 差し出される右手が、美しい水の都の建物を指す。その手に手袋は無い。また、オールを持つ手にも手袋は無く、つまり彼女は手袋なし―――プリマだった。
 ウンディーネの嵌めている手袋によって段階を分けられていることは、月刊ウンディーネの『これで貴方も立派な水先案内人通!』の中級編に書いてあった。
 これは、操舟術が上達すればするほど、余分な力を入れずに舟を自由自在に操ることが出来るようになれば、手にマメや傷ができなくなるかららしい。
「ネオ・ヴェネツィアを代表する、いわば中心とも言える広場です。先程までお客様がいらっしゃったマルコポーロ国際宇宙港もご覧になれます」
 その折に混ぜられる緩やかなナレーション。言葉の流れと同じく、ゆったりとした潮の流れ。緩やかな歪みは時間まで遅らせてしまいそうだ。
「こうやってみると、やっぱり大きい建物なんですね」
 宇宙港内を通ってみるだけだと、そんなに気にならないようなことが舟の上からだと違った視点で見られた。外観の美しさも遠くから眺めることで広場全体を含め、風景画のような雰囲気だ。
「はい。それに連なって、向かって右からサン・マルコ寺院、大鐘楼など多くの建造物を見ることが出来ます」
 流れていく風景にカメラを向け、撮る。そのまま流れに任せて、次に去り行く広場と目の前に水無さんが捉えられた。
 特に嫌がる素振りもみせず、ファインダーの中に綺麗に納まる。
「はい、じゃあ撮りますよー。ハイ、キック」
 多少吹き出したものの、狙い通りの最高の笑顔を向けてくれた。油断した隙を狙って、シャッターを切る。
「っ、―――ええぇ、なんですかー、それ」
 しかも連続撮影モードになっていたらしく、彼女の笑顔は止まらなかった。自然と俺も頬が緩む。
―――そんな、楽しい時間だった。
 結局、水無さんも気づかないうちにすっかり遅くなってしまった。あまり遅くなっては失礼だと思い、取材の件は次回に持ち越された。再び都合の悪いことに重なるとは、俺はついているのか、ついてないのかよくわからない。
 次回の取材の日時の決定も含めて、とりあえず挨拶だけでもするべく明日の朝改めてARIAカンパニーを訪れることになった。
 場所の確認は今回の観光案内をしてもらった時に、既にしてもらっている。おまけに詳しい地図も貰ったし、まず迷うことはなさそうだ。
「それじゃ、お休みなさい」
 水無さんは少しだけ寂しそうに、それでも明朗な声でお別れを告げる。その声に答えて、俺は宿泊先へと向かった。

「とはいったものの―――」

 完全に、迷った。
 このネオ・ヴェネツィアは複雑に入り組んでいる、とさっき舟の上で言われたばかりなのに、早くも永遠の迷子に成り果ててしまいそうだ。明日の朝が思いやられる。
 目的はあるのだが、道もわからず感覚だけで歩き続けた。時刻は完全に夜の時を指し、完全な闇が街には下りている。
 建物の中から夜闇へと射し込む光は、無数に辺りを照らしているが統率された様子もなく、大した意味を成してはいなかった。
 闇は人を不安にさせるとは、よく言ったものだ。それに秋といえ、夜は流石に冷えてくる。どれでもいい、何でも良いなどとそんな縋りたい気持ちを際立てるのか。
 何かの一筋の明かりにも身体が鋭敏に反応してしまう。感知にも一瞬の緩みを見せず、緊迫した感覚を感じた。
 感覚は、不意に暗い路地の奥に僅かな明かりを見た。
509AMARIA -6-:2006/03/14(火) 01:32:48 ID:zUacnGN5
「こっちか……?」
 呼んだかのように光が揺れる。呼ばれたかのように心が揺らぐ。
 ぼんやりとした、淡い光。
 その頼りなく灯るランタンの灯りの横に、昼間の少女―――アマリアが闇に包まれて佇んでいた。
「あれ?」
 縮まった距離。人の気配を感じ取ったのかアマリアは視線を上げた。
「貴方……昼間の」
 驚いた顔のアマリアだったが、
「君こそ、どうしてこんなところに……」
 掠れそうな俺の声を聞くと、唇の端を上げ、微笑む。
「ふーん」
 何を思ったのか。そして、今度はじろじろと顔を観察し始めた。
「まあ、これも何かの縁でしょ。案内するから、乗っていけば?」
 すぐそこに、舟があった。しかしそれは、ウンディーネが通常使う舟とは違う形をしていた。簡単に言うなら、舟と小屋とが組み合わされたもの。小屋といっても布で囲んだだけで頼りない。
―――今は、そんなことどうでも良い。
「いや、実はホテルに急いでるんだ。悪いけど―――」
「でも、迷ったんでしょ?」
「う……でも、観光案内は昼間、1人で済ませたし」
 名刺を受け取った側としては断じて他のウンディーネにお願いしたとことは言えない。その考えがギリギリのところで出てきて、何とか隠せた―――かのように思えた。
「嘘つき。1人で、なんて露骨すぎ。見え見え。あのウンディーネさん可愛かったしね」
 呆れた表情を浮かべて、腕組みをする。その様子は怒っているようにも見えた。
「って、見てたのか」
「サン・マルコ広場にて君を待つ、って言ったでしょ。乗ってるの、見えたのよ」
 そんなこと言ってないだろ。
 怒ったと思ったら今度は笑う。ころころと転がるように表情は変化した。同時にそれが本気なのか嘘なのか、俺には全くわからない。
「お金は要らないわよ。どのみち、ホテルまで案内は必要でしょ。早く乗って」
 アマリアが灯りを手にとって、俺の手を掴む。
「あ、ありがとう」
 その手は温かく、冷え切った俺の手を優しく迎え入れた。
「こっち」
 下りていた厚い布を分けて、舟の中へ導く。入ってみるとそこには、灯りの点いた部屋のようだった。一面に柔らかいベッドのようなものが敷き詰められている。おそらくここは彼女の生活スペースなのか……。
「なんだ、結構広いんだな」
 部屋を見回しているうちに、天井の布が上げられた。すると、吹き抜けになって建物とそれに囲まれた星空が姿を現す。
「じゃあ、ちょっと待ってて。舟を出すから」
 アマリアはそう言うと外へ出て、舟を漕ぎ出した。ゆっくりと建物の間を縫うように舟は進んでいく。その間俺は、ただひたすら星々を見ていた。
 漕ぎ始めて、数分が経ったところでアマリアが再び中へと入ってくる。表情は無く、相変わらず感情も読み取れない。
「あれ? もう着いたのか?」
 意外に時間はかからなかった。いつの間にか天井から建物は見えず、星空だけが埋め尽くしている。
「ええ、着いたわ」
 妖艶な笑み。腰を落として、膝を突くと俺に向かって抱きついてきた。
「おいっ、何、するんだよ」
 突然の出来事に思考が働かない。極めつけは、彼女から香る刺激的な匂い。だんだんとまどろみが頭の中を塗り潰していく。
「別に」
「別に、じゃない」
 抵抗も空しく、終に軽々と押し倒された。そこでやっと悟る。
「俺、金は持ってないって言わなかったか?」
「言ってないし、聞いてない。私、お金は要らないって言ったけどね」
 星の瞬く夜空をバックに、アマリアが微笑む。
「じゃあ、なんで―――」
「でも、貴方は欲しい」
 乗りかかったアマリアは、耳元で囁く。その柔らかい囁きと彼女の身体によって、全身の力が抜けていく気がした。
 目眩を感じる。鼻は、あの香りに支配されていた。
 攻撃的な、誘惑。
「やっぱり―――運命、だったのかな?」
 アマリアは、唇を落としていく。