一人は、金髪の美少年。
仕立ての良い白いシャツに、焦茶のベストとズボン。
羽織ったマントと、傍らのシンプルな杖から察するに魔術士だろう。
もう一人は長い黒髪を一つに束ねた少年で、白いシャツと黒いジーンズに
ロングコート。
目深に被ったキャスケットのせいで、表情が読めない。
傍らに、小振りの剣が立て掛けてある。
旅の魔術士と、護衛の剣士といった風情だが…齢が若すぎる。
「初めまして。僕はクリス・C・ノーア。こっちは友人の
リド・シャムです」
金髪の少年は声変わりしてない、キレイな声で自己紹介をする。
「あ…ども」
金持ってそーなナリしてると思ったら、お貴族サマかな。
剣士の方は使用人ってトコか?
金髪の方…クリスが握手を求めてくる。リドは会釈のみ。愛想がない。
「俺はトビーの息子、ホークだ。…だが、親父の代わりなんて
無理かもしんねーぞ?」
俺は親父の仕事すら、よく知らない。
「はい。ホークさんの事は、ママから教えて頂きました。
話を聞いて頂くだけで良いです。それで何かわかれば…」
「ん。了解した」
取り敢えず俺は席に着いた。
話は、要するに魔物退治の手伝い、という事のようだ。
「ボク達は、ツァーザビルから来ました…」
ツァーザビルは割と王都に近いが、確か平和な農村だったと記憶している。
そしてクリスは、その村に住む、代々王宮からも信頼厚い魔術士の
子供らしい。
しかし先日、その邸は正体不明の奴らに、いきなり襲撃を受けた。
彼らは襲撃者が辿り着く前に、邸の当主…つまり、クリスの父に
より逃がされたのだった。
その時に託されたのは、魔物の封印場所が印された地図と、強力な
退魔の魔術。
そして「ヒュージリアのトビーを頼り、魔物を退治せよ」と。
クリスは襲撃者に立ちはだかる父を背に、リドと共に逃げてきた
…と、いう事らしい。
語る少年の顔には時折、悲痛な色が混じる。
「ここまでの道中も、似たような奴らに何度か襲われました」
「この子達、アタシが見つけた時も絡まれてたのよー。ま、アタシを
見たら逃げてったけどネ」
ママが筋肉隆々の腕で茶を配り、そのまま席に着く。
「手口や雰囲気からすると、今まで襲って来た奴らだと思うんです」
「だけどね、ソイツら。なんか見たことあるのよね。…テイラーの
手下だったと思うんだけど」
テイラーてのは、この辺をウロついてるチンピラ。はっきりいって小物。
頭領のボブ・テイラーは、うちの親父となんか因縁があるらしく、
俺もよく絡まれてる。
しかし、なんで奴らが、離れた町の貴族を襲ったりする…?
「そもそも、何故うちの親父なんだ?」
「父とトビーさんは、古い友人同士だと聞いてました。…リドの
お父さんやトビーさんとは、昔の旅仲間らしいですよ」
「へぇ〜」
そーいや親父の昔話って聞いた事ねーや。
このご時世、腕試しやら一攫千金狙いで旅する、荒事専門の何でも屋が
たまに居る。親父も昔はそんなんやってたのかね。
「コレがその地図なんですが…」
「なんだこりゃ」
これは地図…なのだろうか。
真ん中にくにゃくにゃと引かれた線の傍らに、子供が描くような木が
描かれている。そして、その木が丸で囲まれていた。
と、その落書きの片隅に『ヒュージット』と走り書きがあるのに気付く。
「詳しい話は聞けなかったのですが、目的の魔物は、ヒュージット山の
どこかに封印されてるみたいなんです」
「これが、封印場所を示しているって?」
「たぶん。…解りにくい事この上ないですけど」
クリスが苦笑する。
この町を拠点とするボブがあの山に入り込み、その魔物に魅入られた、
というのは有り得無くもない。
こいつらの親が、親父と知り合いというのなら、ボブとも繋がってるのか?
…親父はいつ帰ってくるのやら。
いつもどっかフラフラ出掛けて、たまにしか戻らない。うーん…
面倒なのは嫌だなあ。
「この地図に、心当たりが無いことも無い。」
そう。少し頼りない記憶だけど、思い当たる事があった。
「本当ですか!?」
ホントは面倒事は避けたい…。けど、こいつら見捨てるのもねぇ…。
仕方ないか。
「お前ら、うちに来るか?山にも近いし…」
少年達の目が見開かれる。
「協力して頂けるのですか?ボクらは狙われてます。どんな迷惑が
掛かるか…」
「喧嘩なら慣れてるさ。テイラーの手下くらい、どって事無い。」
暫し俊巡した後、クリスは笑顔で答えた。
「……有難う御座います。では、そうさせて頂きます。」
「クリス…ッ!」
おお、リドが初めて喋った。
否定的な視線を送るリドを、片手で制すクリス。
「ボクらだけじゃ、心細かったんです。そう言って頂けると助かります。」
「そうよぉー、それが良いわー!ホークちゃん、エラ〜い!」
ママ、顔近付けないで。お願い…
「どーせ、親父が引き受ける筈だった事だし。構わんさ。
後、敬語もいらん。むず痒い。」
「リドちゃん、そんな顔してないで♪ホークちゃん、荒事と園芸
じゃあ頼りになるわよー?」
園芸は関係無いだろ、ママ。
話は一応まとまった。
リドは相変わらず憮然としてるが。そんなに俺が不満かい…。
くすん。
* * *
第一の襲撃は、帰り道だった。
後から、買い出しを終わらせたローズと合流し、日が高いうちに町を出た。
俺とローズが乗る馬を先頭に、並ぶようにクリス、少し後ろをリドが駆ける。
少し長めの短髮が、風に揺れて輝く。
「だからね、うちの村は皆、剣が得意なんだ」
クリスから出る話題は、全てリド中心。
…仲良いんだなあ。
なんでもリドの爺さんは、王立騎士団にも所属していた剣の達人らしい。
そして、その爺さんが剣術教室を開いてたので、村は剣士の巣窟だとか…
って、恐い農村だな、おい。
「へぇーっ。クリスちゃんも剣、使えるの?」
ローズが問う。
「ううん。僕が小さい頃に、お爺さんは亡くなられたから…
それに、そういうの、ちょっと苦手」
クリスが苦笑し、続ける。
「でも、リドは凄く強いんだよ。大人も歯が立たないくらい。」
「爺さんに似たんだな」
「かもね。お父さんも結構強かったらしいけど、畑を耕す方が好きで
騎士にはならなかったみたい。リドも畑仕事が好きで、収穫や種蒔きの
時期は、村中を手伝って回ってるんだよ」
意外だ。
チラリと後方に目をやれば、リドはクリスと対照的に、黙々と着いて
来るのみ。
ま、悪い奴じゃないんだろう。
「…リド、今は緊張してるんだ。本当はもっと、明るい子なんだけど…」
「…お前らも大変だな」
「ボクは、そうでも無いよ。」
クリスの表情が、曇る。落ち込む、とか悲しむ、じゃないんだが、
どこか辛さを押し込めたような…。
そんなふうにコイツは、たまに子供とは思えない顔をする。
「…ねえ、ローズとホークは兄妹なの?」
そしてまた、出会った時のような明るい笑顔に戻り、話し掛けてくる。
「こいつは居候。」
「失礼ねっ。家事はちゃんとやってるじゃない!…私、親がいなくて。
行くトコ無かったから、無理矢理ホークの弟子になったのよっ」
胸を張り、Vサインを出すローズ。
「なに、勝ち誇ってやがる!弟子なんて採った覚えは無いっ!」
まず、そんな身じゃねえし…。
「あはは、仲良いね。」
「そうかー?」
クリスは一瞬考えるように間を空け、声を落として話し始める。
「…リドも、小さい頃に、家族が皆亡くなってるんだ。それからずっと
一緒に暮らしてる。だからね、ボクらも兄弟みたいものなんだよ」
重い話を聞いてしまった気がするが、浮かぶ笑顔は、先程と変わらず明るい。
「へぇ…」
彼らは仲が良い。伝えたいのはただ、それだけで、その過程の不幸など
どうでもよいのかもしれない。
その時、前方に不穏な空気を感じた。
「おい!」
止まれ、と叫びかけた瞬間。草叢から矢をつがえた男が踊り出る。
マズい!
慌てて手綱を引く俺の横を、猛スピードで何かが追い越していく。
リドだ。
リドはそのまま弓矢の男に馬をぶつけると、ヒラリと飛び降りた。
同時に剣や斧をもった輩が、更に湧き出てリドに襲いかかる。
しかし、その剣技は噂どおり鮮やかに、敵は次々と地に伏せられて行く。
「お前はそこで待ってろ!」
馬上にローズを残すと、短剣を抜いて加勢に向かう。
途中、クリスが放った魔術の矢が、敵にヒットするのを見た。
* * *
勝負は数分で付いた。もう何も湧いて来ないのを確認して、リドが
指笛で馬を呼び戻す。
「お前ら、結構やるじゃん」
「えへへ、まあね♪」
「…………」
リドくーん…?無視しないでー。
そんなこんなで我が家へ到着。
そびえる山に木々生い茂る、その際に建つ質素な丸太小屋。
その周辺に咲き誇る、色とりどりの花々。
その風景に、クリスとリドが感嘆していたのがいい気分だ。
「さて、まずは怪我の手当てだ。」
隠してたみたいだが、リドの左腕から血が滲んでいたのを、俺は
見逃していない。
「けっこー無茶するよな。実戦経験少ないだろ。」
コートが裂け、血の滲むシャツが覗く。その腕を掴むと、意外に細い。
「…ッ!放せっ」
凄い勢いで、手を振り払われる。
「すまない、痛かったか?」
「…大したこと無い。ほっときゃ治る。」
そっぽ向かれた。お兄さん悲しい…
「り、リド、怪我したの!?手当てしないと!あと残っちゃうよぉ」
クリスが駆け寄る。
でっかい目で、上目使いウルウル攻撃だぁ。
「………」
おお、リドさん困ってます。
「リドの手当は、ボクがやっておくね。部屋は、どこ借りればいい?
ローズ、案内してくれる?」
「はぁい!」
パキパキと仕切る、金髪少年。
家主、俺なんですけどー。(本当は親父だが)
まぁ、チビ共は意気投合してる様なので、俺が茶ぁ煎れますよ。
喉乾いた。
茶の香が漂う居間で、絨毯に座り込み、四人で例の地図を囲む。
「ヒュージットは、神隠しの山って言われててな。開拓しようと、
山に入った奴らは、例外なく行方不明なんだと」
ヒュージリアは山を開拓するために、人が集まって来たのが始まりらしい。
だが、そんなこんなで開拓はら諦める事となり、山を迂回していく旅人
の宿場町、というのが現在の姿だ。王都から離れてる所為もあり、
神隠しの具体的な調査はされた事が無い。
「なるほど…ソイツはかなり昔から山に潜んでたんだね。封印の中
から、人間を引きずり込んで食べてるのかな?」
クリスが、ぞっとしねー事を平然と言ってくれる。
「ただ俺も、ガキの頃に親父の目を盗んで、入り込んだ事あるし…。
親父もたまに、山に行ってるみたいだった」
「二人とも健在って事は、ソレの封印に近づかなければ、問題は
無いんだね。ローズは行った事ある?」
「ううん。あの山はなんか不気味で…好奇心だけで、入れたホーク
が信じられないわ」
てか、絶対にローズだけじゃ入らせない。
こんな近くに住んでても、あの山の危険さは、認識してる。
「で、俺が山に入った時の事なんだが…」
あれは10歳位の事だったか。「駄目」と言われる事ほど、やりたくなる
お年頃。親父の目を盗んで、俺は山に入り込んだ。
山の中は鳥の鳴き声すら聞こえなかった。
でも、好奇心に煽られた俺は、そんな不気味さにもワクワクしながら、
奥へと進んで行った。
そして、どこをどう歩いたのか。大きなクレバスを見つけたのだが、
そこで親父に追い付かれ、家に引き戻されこっぴどく叱られたのだった。
「それが、"心当たり"?この地図は、そのクレバスを表してる…と」
クリスのデカい目が訝しげに細められる。
「あの山じゃ、道らしい道も無いだろうからな。
それに…あの辺の空気は、尋常じゃなかった。よく解らんが、子供
ながらにヤバいと感じたよ」
「じゃあ、そこに…」
「そうだな。出発は明日にしようぜ。山を探索するなら、
日が出てるうちがいい。」
「うん」
「クリス、その親父さんの術ってのは、ちゃんと発動させられるか?」
戦力は確認しておかないとな。
「もちろん。これでも、将来を有望視されてるノーア家の跡取り
だからね!」
「リドは…」
「問題無い」
一刀両断ですな…。
しかし、なぜ室内でも帽子被ったままか?剣を傍らに、背筋を伸ばして
正座する姿が、なんか渋い。
「よし!んじゃ、今日はゆっくり休め。ローズ、部屋の準備頼む。」
「は〜い。あ、二人共、同じ部屋でだいじょぶ?」
リドが無言で頷く。
「…あ、構わないよ。」
ん?なんだ今の間は。
「じゃ、俺は晩飯作ってくるわ。お前らは、てきとーに茶ぁ濁してて」
家事は当番制なのだ。
「ボクらも手伝うよ。」
皆、席を立つ。
「よーし!じゃあ、リドちゃん、私と一緒に来てくれる?」
ローズ…お気に入りはリドか。
そして、クリスが俺に、リドはローズに着いて部屋を後にした。
* * *
夕食後、洗い物をしていると、リドが残りの汚れ物を持って来てくれた。
「…はい」
「お、サンキュ」
相変わらず、殆ど喋らないが、手伝ってくれるらしい。
布巾を手に、皿を拭き始める。
「そろそろ風呂、沸いたと思うから、適当に入って寝ろよ」
「解った」
愛想ない事この上無い。
「あと明日、あまり突っ走り過ぎるなよ」
皿を拭く手が止まる。
「関係無い」
「事情が事情だけに、肩に力が入んのも解るけどよ、ガキなんだから、
お兄さんに少しは任せなさいって」
水気が残った手で、リドの頭をポンポン叩くと、これまた凄い勢いで
払われ、帽子の下から青い目が睨み付ける。
…へぇ、黒髪に碧眼って珍しいな。しかも、キレイな顔してる。
「子供扱いするな!」
「そこでキレちゃうのがおこちゃまでしょ〜」
案外単純でかわいーなーコイツ。
ニヤニヤしながら、リドの頭をグリグリと押さえ付ける。
「アンタなんて、ちょっと体が、大きいだけじゃないかっ」
「やーね、嫉妬しちゃって」
顔を真っ赤にして、ジタバタする少年の頭は、俺の胸の辺り。
俺は確かに身長は、自慢だが。
しかしコイツ、この顔とあの剣技なら、さぞや女にゃ、モテるだろーなー。
…急にムカついてきた。
「早くおーきくなれよ、チビっこめ」
「フンッ…」
嫉妬って醜いわー。
仕上げとばかりに、頭をグッと押し下げて手を離してやると、
さっさと逃げてしまった。
怒って、台所を出ていこうとした足が止まる。
「自分の事は、なんとかなるから…。クリスを頼む…」
少年は、振り向かぬまま、呟いた。
「…了解」
親指を立てて、返事をする。そんな俺を横目で確認すると、リドは
足早に去っていった。
* * *
洗い物を済ませ廊下を行くと、風呂場の前にクリスが座り込んでいた。
風呂上がりらしく、髪には雫が光る。
「こんなトコでなにやってんだ?湯冷めするぞ」
向けられた顔は、赤く火照っていて、女の子みたいだ。
「…一人で部屋にいるの恐くて…。リド、待ってるの。」
中で待ちゃいーのに。
「そーか。風邪引かないよう、気をつけろよ」
「うん。…ねえ、ホーク」
「ん?」
「リド、さ。責任感強いから、昼間みたいに、すぐ無茶するんだ。
接近戦だと魔術士って、無力だから…。だから明日、リドのこと、
お願いね」
緑の大きな瞳に、じっと見据えられる。
似たセリフ、さっき聞いたなー。
「任せとけって。」
言うと、クリスは微かに紅潮した頬で、満面の笑顔を返す。
なんか責任重大になってきたよ、コレ。大丈夫なのかね…俺。
ホーク「ストップ・モーション!私は読者に挑S…」
―バキィッ
ローズ「なーに、某ミステリ作家のマネしてんの!えー、こちらは、
某氏を見て、やりたくなったオマケコーナー"ヒロインは誰だ!"
でーすっ」
ホーク「ぐ…いきなり殴るな!あと、明け透けにバラすな!」
ローズ「気にしない♪ところで、ホークは誰がヒロイン希望?」
ホーク「一言で済まされた…。あぁ?ヒロイン?」
ローズ「一応、ホークが主人公なんだから、相手が気にならない?」
ホーク「…ハッ!もしかして、実はみーんな男で、ヒロインはもしや俺!?
アタシの豊満な肉体が、野郎共に蹂躙されてしまうの!?」
ローズ「ありえない!」
ホーク「んじゃ、ママが実は着ぐるみ!」
ローズ「それは男装って言わない!もう、クリスちゃんかリドちゃん
しかいないでしょ!て、ことで容疑者二人の登場です♪」
クリス「よ、容疑者って…ひどいなぁ。」
リド「………」
ローズ「さて、ヒロインだった場合、もれなくホークとのえっちが
ついてくるワケですが?」
クリス「ま、この可愛いボクに、彼が欲情するのも仕方ないかもねっ☆」
ローズ「☆まで出して、余裕ね。そっち方面自信あり?」
ホーク「くぉら。ガキどもが、なんつー話を!」
ローズ「えー、肝心のホークは照れてるもよーです」
ホーク「実況すな!」
クリス「リドも何か話しなよ。存在、忘れられちゃうよぉ?」
リド「Σ(-_-;…(-_-)………┓( -_-)┏」
一同「喋れ!」
投下一発目にタイトル入れ忘れ、大変失礼しました…
今回はこれにて。コソコソ
フフフフフフフフフフフフフフフ
巧妙に隠したつもりだろうがまだ甘い
GJな作品から湧く女の子のかをり
ヒロインはあいつだーー!!
相変わらずの豊作続きですねー。
そしていよいよ来ましたね、新しいタイプの新作が!
個人的にはリドの方かなーと予想。室内でも帽子被ってるとこがなんか怪しいなーとか。
いっそのことどっちも……! とか思いましたが、それはさすがに趣旨から外れてますしね。
解答編を楽しみに待っています。
ゴッドファーザーズ氏>
思う存分我が道を行ってください! 貴方は我々みんなの先頭に立っている方ですからっ。
ナサ氏>
ちょっと昔の二人ですね。新鮮でよかったです。
実験屋氏>
すっかりオチ担当となってしまった升沢君に爆笑しました。
アヒル氏>
成幸がちょっとだけ優しくなってますねー。背中をさすってあげるとことかさりげなさがいいです。
>>耽溺
めっさエロい。
すげーエロい。
あんた神だ
479 :
実験屋:2005/09/15(木) 00:33:27 ID:BlOwm5Ku
「やった・・・体が・・・体が動くぞ!!」
一月半ぶりにシャバにでたその男は歓喜の声を上げた。
『番外編:ミイラとサキュバス』
「山崎の奴・・・今度こそぶっ殺す。」
先日、狂介に半殺しにされた(狂介的には全殺し)男、升沢。
無事に退院し憎き狂介に復讐すべき執念を燃やしている。
「アイツの所為で俺は・・俺は!!」
狂介に倒された際に流された”再起不能”のウワサが彼から
裏社会での権力、コネクション。すべてを失わせていた。
「復讐だ。まずは・・・・。」
480 :
実験屋:2005/09/15(木) 00:34:43 ID:BlOwm5Ku
「ここが山崎の家か・・・はぁ〜」
前もって調べていた狂介の家に到着する。目的は調査である。
入院中に送った刺客は皆、狂介に倒され、こんな下っ端の仕事まで
自分でしなければならない現状に升沢はため息を漏らす。
「まあいい。弱点、せめて弱みでも見つければ・・・」
正攻法で勝てないので、お約束どおり汚い手段を使う升沢。
でも逆にここまで真っ向な汚い手段を使うところがカワイイね。
「リビング・・・誰もいない。」
手始めに一階から部屋を覗き込む。気配は消しているものの
田代神のような巧みなテクニックは持っていないため、その姿はマヌケだ。
「二階はどうだ?」
壁伝いに二階へ移る。しかし、ここまでしても警察や「キャー!!」と叫ぶ近所のババァ
が現れない当たりが作者のご都合主義でもあり、この町の
治安の悪さを物語っている。
481 :
実験屋:2005/09/15(木) 00:35:30 ID:BlOwm5Ku
「山崎の部屋は・・・」
狂介の自室を目指す升沢。自分は偵察活動とカッコ良く思っているが
壁に張り付き、高所のため足がガクガクと震え腰が引けているその姿は
女性の前で勃起して前屈みになってる男性のようだ。
とその時!!
「あぁぁん!!」
女性の悩ましげな声が聞こえた。
「な?」
突然の出来事にビビる升沢。先に例えた状態が正に現実となった瞬間である。
(オイオイ。真昼間からサカってるのかよ。)
驚き反面、絶対に覗いてやるという決心が生まれた。
482 :
実験屋:2005/09/15(木) 00:37:03 ID:BlOwm5Ku
「山崎ぃ〜。ヤッてる姿拝ませてもらうぜ。」
コレならゆするネタになる。そう確信した升沢は声のする
部屋の外へとたどり着いた。幸いにもベランダがあるため自分のポジを固定しやすかった。
「どれどれ・・・」
カーテンが掛かっていたため見えないかと思ったが完全に閉められているわけではないので
隙間から部屋の中を覗く。
「やってるやってる。」
ソコには相手の女を抱きかかえ情事に勤しむ狂介の姿が・・・・
「へへ・・・」
自分を完膚なきまでに叩きのめした相手の色事を拝見し勝った気分になる升沢。
(相手は誰だ?・・・・・・何ィィ!!)
狂介と交わっている相手を確認した升沢は驚愕した。
(アレって・・・南?)
そう。狂介と交わっている相手は南有紀。しかし升沢が知る限り有紀は男のハズ。
(ホモ?・・・・でもムネでかい・・・え?・・えーーーー!!)
有紀は女。やっと辿り着いた答えに升沢はビビッた。そしてチビった。
483 :
実験屋:2005/09/15(木) 00:39:26 ID:BlOwm5Ku
(マジかよ・・・)
狂介と有紀。憎むべき二人の情事を升沢はただ見ているだけだった。
・・・つーか覗きは立派な犯罪である。
「スゲー・・・」
「まったくだ。」
「誰だ!!」
いきなり隣から声をかけられ振り向く。そこには・・・・
「うぃ〜っす。」
「藤澤・・・なんでココに?」
藤澤はジャージ姿にワンカップをもってと言うホームレスのような姿で立っていた。
「なんでって、二人の愛の育みを観察に。」
そう言ってワンカップをグビと飲む藤澤。ちなみに未成年の飲酒は違法である。
「いや〜若いっていいな。なぁ母さん?」
「そうね〜。」
「!!」
反対側を振り向くと七輪にスルメをあぶった狂介の両親が息子と恋人の
ニャンニャン現場を楽しげにのぞいていた。
484 :
実験屋:2005/09/15(木) 00:40:26 ID:BlOwm5Ku
「何なんだアンタら・・・」
「君も飲みなさい。」
そう言うと湯飲みに入ったお茶を勧める山崎父。
「あ、どうも・・・って違う!!」
やっと頭が状況を理解した升沢は叫んだ。
「オヤジさんスルメください。」
「おぉ、秀君。君はイケるクチだな。」
「イヤイヤ。」
(もしかして、ヤバいヤマに首突っ込んだのか?)
「あらぁ〜今頃気が付いたの?」
魅惑の笑顔を浮かべ山崎母が升沢の肩に手を伸ばす。
「ちなみにこの事、誰かにしゃべったら・・・分るわね?ニコ」
鎖骨を粉砕しそうな握力で升沢を”説得”する山崎母。
「ハイ・・・ワカリマスタ・・・」
升沢は誓った「こいつ等に関わるのはよそう。」と。
485 :
実験屋:2005/09/15(木) 00:41:29 ID:BlOwm5Ku
「チューしろって。」
「リードが甘い。」
「もどかしいわね・・・。」
人の情事を覗いておいて好き勝手のたまう三人。
「そんなに喋って聞こえるんじゃ・・・?」
作者自身忘れていた事を升沢は言い出した。(危ねぇ・・・)
「大丈夫。そんな時の・・・」
「そんな時の?」
「「「ご都合主義だ!!」」」
「・・・・帰ります。」
(山崎、南。・・・・俺が悪かった。・・・そして頑張れ!!)
敵対していた升沢が(マトモな)協力者になった記念すべき瞬間だった!!
486 :
実験屋:2005/09/15(木) 00:53:40 ID:BlOwm5Ku
ここまでが番外編の前半になります。
後半はまだ完成してないので、しばしお待ちを・・・。
本編は狂介or有紀視点が主だったんですが、今回は
そのパターン無しでやってみました。
以外に好き勝手書けるので楽しかったっす。
自分でもまさかの升沢視点。しかも相手がまだ登場してないし・・・。
この不始末は満足のいく後編で挽回します。
>>475 新作GJ!!!っす。情けながら自分まだ誰が女の子か
さっぱりですわ。続き待ってます。
なぜか升沢ファンの俺には嬉しい展開だ!!
ここに住まう神々の作品のおかげで、男装少女に目覚めてしまったよ。
どう責任取ってくれるんだ。
この熱いパトスをぶつけたくなったので、SS投下します。
初めてエロSS書いたから、あんましエロくないかもしんない。
どうすればエロく書けるのか、批評とかアドバイスお願いします。
恋愛感情は交通事故みたいなものだ。唐突で、不意打ちで、予防策なんてアテにならない。しかも当たり所が悪ければ死んでしまう――
小説だか映画だかの登場人物の台詞だが、今の俺には痛いほど共感できた。
なぜなら俺はすでに、その交通事故とやらに遭遇してしまったからだ。しかも致命的なレベルで。
はっきり言って今の俺は、普段の俺らしくない。幼馴染の男友達が見せた何気ない仕草に目を奪われて、あまつさえ激しく胸を高鳴らせたなんて考えられない。
「……トモヤ、どうした?」
不可思議そうに言ってくるアイツ。
心配そうに気遣う瞳も、優しくかけてくれた声も、今の俺には逆効果だ。
心臓はドラムロールのように激しく打ち鳴らされ、そのうち振動で身体全体が揺れ始めるんじゃないかってくらいのメヴィメタル。
教室の窓は全開で、時折秋めいた風が入ってくるというのに、俺だけが鉄工所の溶鉱炉の真横にいるような気分だった。
「あ、いや……な、なんでもねえよ」
ようやく出せたのは、恥ずかしいほど上ずった声。いつもなら憎まれ口も馬鹿話も滑るように出てくる自分の口が、舌の根に鉛でも入っているんじゃないかと思うほど、思い通りに動かない。
「トモヤ。おまえ顔、赤いぞ。熱でもあるんじゃないのか?」
ああ、だから、ほっといてくれって。そんな目で見ないでくれ。そんな無防備に、俺に近寄らないでくれ。
あ――
「……お前、ちょっと熱あるぞ」
アイツが冷たい手のひらを押し付けて、心配そうに俺の顔を覗き込んでる。ただそれだけなのに、金縛りになったかのように身体が動かなくなる。
「そ、そうかも……悪い、俺、先帰るわ」
手が離れたと同時に金縛りも解ける。
アイツは「お前が風邪ひくなんて珍しい。明日は雪だな」と、いつもの調子で言ってくるが、今の俺にはやり返すだけの気力が無い。
机の脇にかけた学生鞄を取り、俺はアイツから逃げるように教室を出て行った。
「かっこわりぃ……」
もっと早く逃げ出したかった。
いっそのことアイツの手を振り払い、開けっ放しの窓から飛び降りてしまいたかった。
でも、それは出来なかった。アイツの手のひらが俺の額に触れた瞬間、胸の苦しさとともに例えようのない快感が脊髄に走っていたから。
そして俺は、その快感を欲していた。麻薬中毒の患者みたく貪欲に、狂おしいほどに。
「かっこわりぃよ、俺……」
自己嫌悪に陥りながらも、俺の脳裏に浮かぶのはアイツ――高科ジュンの、手のひらの感触のことだけだった。
「クソッ!」
それを振り払いたくて俺は走った。運動なんて体育の時間以外やってないから、息が上がってくるのはあたりまえ。
それでも、ジュンを目の前にした息苦しさに比べたら格段に楽だ。
気がつけば、我が家の手前まで来ていた。
いつもは二十分くらいかかる帰り道が、半分以下の時間で終わったのは少しだけ不愉快だった。
もっと長ければ、もっと走っていられたのに。そうすればジュンに対する気持ちも、一時の気の迷いだって結論が出たかもしれないのに。
ああ、くそ。イライラする。
乱暴にドアを開けて帰宅した俺は、これから仕事に出かけようとする母親に「気分が悪い」とだけ伝えて二階の自室に入った。
「トモちゃんたら、あの日? お母さんのタンポンあげようかー?」
品も無ければ子供への気遣いも無い母親だ。
「うるさい。ほっとけ!」
ドア越しに怒鳴りつけ、俺はベッドに倒れこんだ。階下から、なおも母親が何かわめいていたが、それを相手できるような状態じゃない。
「……うるさい。マジ、ムカつく……」
俺は枕に顔を埋め、母親と神と悪魔と世界と自分とジュンの無防備なうなじの白さと手の冷たさと細いあごと――
思いつく限りのありとあらゆるものに呪いの言葉をぶつけながら、ただ意識が眠りに落ちていくことだけを望んでいた。
「トモヤの奴、大丈夫かな……」
いつもより早足でそそくさと帰っていった友人を見送り、僕は誰もいなくなった教室で深々とため息を吐いた。
僕が知る限り、小学校以来の友人である平峯トモヤは変に我慢強い。
小学生の時、皆勤賞を取るんだと息巻いて三十九度の熱があろうが性質の悪い風邪を患っていようが気合と根性で登校してくるような奴だ。
さっきだって、僕が言わなければ無理して遊びに言ったに違いない。もともと、今日の放課後はトモヤの方から駅前のゲームセンターに入荷した新作のゲームで対戦しようというお誘いだったし。
「だから心配なんだよなあ……」
某大作RPGの発売日に自主休校して貫徹三日でクリアするようなヘビーゲーマーなアイツのことだ。もしかしたら家に帰ったと見せかけてゲーセンにいるかもしれない。
「仕方ない。ゲーセンに寄ってから帰るか」
タバコ臭くなるのは激しく嫌だったが、見捨てたせいで数少ない友人が肺炎にでもなって死んだりしたら目覚めが悪いし。
まぁ……本音は、僕もその新作ゲームで遊びたいってだけの単純な理由なんだけど。
「あ、ジュン君だ。やっほー」
駅前に抜ける商店街を歩いていると後ろから、やたら通る明るい声で呼び止められた。
振り返るとトモヤのお母さんが、角の八百屋さんの手前で女子高生みたいにブンブン手を振っていた。
他人様の母親とは言え、ちょっと恥ずかしい。
トモヤが「あのクソ婆は脳内年齢が十八で止まってるから、そのうちセーラー服を着かねないぞ」とか言っていたけど、あながち杞憂に終わらないかもしれない。
「あ、こんにちは。お久しぶりです」
そんな考えはおくびにも出さず、僕は駆け寄ってきたトモヤのお母さんにペコリと会釈した。
駅の反対側にある病院で看護師をしていると前に聞かされた事があったから、きっとこれから夜勤なのだろう。
「ほんと、ジュン君に会うなんて久しぶりねえ。前はちょくちょく家に来てくれてたけど」
「……小学生の頃、トモヤん家に入り浸って遊んでたら『外で遊べお前ら!』って僕ら追い出されませんでしたっけ?」
「あれ〜? そんなことあったかな〜?」
あごに指を当てて小首をかしげるトモヤのお母さん。見た目も若くて美人だから、子供っぽい仕草なのに全然嫌味が無い。
ただ、トモヤにそっくり――いや、アイツが母親に似たのか――の顔でそんなポーズをとらないでほしい。
トモヤがあごに指を当てて小首をかしげてる姿なんて想像したら、明日からアイツの顔をまともに見られなくなる。
「あ、それよりもジュン君。ちょっとお願いしてもいい?」
記憶を手繰るのは取りやめにしたのか、トモヤのお母さんはポンっと手を叩いた。
「トモヤがね、なんだか調子悪そうなのよ。出かける時にチラッと見たけど、なんだか熱があるみたいだったし……辛かったら、うちの病院に来なさいって言っておいたんだけど聞いてるかどうか怪しくってねえ……」
「そうですか……」
あの頑丈なトモヤが、そこまで疲弊していたなんて、ちょっと意外だった。確かに今日のアイツは変だった。話をしても言葉が耳から耳にすり抜けているような上の空だし、顔も赤くて熱もあったし。
そのことを伝えるとトモヤのお母さんは、やれやれと肩をすくめた。
「ったく……トモヤってば馬鹿みたいに頑固なんだから。病気のときくらい弱音吐いたっていいのにね」
きっとトモヤは母親に心配をかけたくないのだろうけど、僕にはあまり効果が無いように思えた。むしろ、トモヤのお母さんは彼に頼ってほしがってるようだった。
「で、お願いって何ですか?」
「あ、うん。たいしたことじゃないんだけど……家に行って、ちょっとトモヤの様子を見ておいてほしいの」
ごそごそとポケットをあさり、トモヤのお母さんはクマのストラップがついた鍵を僕に手渡した。
「へ? いいんですか、これ?」
なんて無防備だ。息子の友達とは言え、まったくの他人に鍵を預けるなんて。
戸惑う僕に彼女はにっこりと微笑んだ。
「いいの。おねいさんは、ジュン君のこと信頼してるし。それに――」
「それに?」
「ジュン君ならトモヤにしないでしょ? えっちな事とか」
僕は派手にズッコケた。
結局ゲーセンには寄らず、僕はトモヤの家に行った。
トモヤの家は商店街を挟んで僕の家とは反対方向にある。
小学生のときは、学校に行くのにお互いに交代で家まで迎えに行ったり、放課後はTVゲームで遊んだりとトモヤの家に上がることが多かったが、中学に入ってからは外で遊ぶことが多くなっていた。
だから、正直、トモヤの家に入るのは四・五年ぶりだった。
「……ごめんくださ〜い」
トモヤのお母さんから預かった鍵でドアを開けたのだが、ついつい遠慮がちに挨拶をする。
少し耳をそばだててみたが、家の奥から返事は聞こえてこない。確かトモヤの部屋は二階にあったから、もしかすると聞こえてないのかもしれない。
「……仕方ないな。上がるか」
お邪魔します、と断って僕は久々にトモヤの家に上がりこんだ。
玄関を入ってすぐの右側にある、ちょっと急勾配な階段を慎重に――昔、この階段で足を踏み外して腰を打ったことがあったので――上って、達磨型という妙に渋い雰囲気のネームプレートが貼られたトモヤの部屋の前に立った。
久々すぎて、なぜか緊張した。
とりあえず深呼吸をして、妙に動悸のする胸を押さえる。
「トモヤ、起きてる?」
呼びかけもドア越しに聞こえるか否か、それぐらいに声を絞った。もしも病気で寝てたなら、たたき起こすのは可哀想だ。起きていれば敏いトモヤのことだし、返事の一つも返ってくるだろう。
だが、返事は返ってこない。
コンコン。
仕方なく控えめにノックするが、それでも部屋の中からトモヤの声が返ってくる様子はなかった。
「アイツ、どっか遊びに行ってるんじゃないよな?」
そんな想像をして僕は苦笑した。
玄関先にはアイツは今朝履いていたスニーカーが脱ぎっぱなしになっていたじゃないか。もしかしたら別の靴を履いて遊びに出たかもしれないけど、それこそ病院に行ったかもしれない。
行き違いになった可能性は充分にある。
むしろ、トモヤが大人しく寝ている姿の方が、僕にはちょっと想像できない。
どちらにしろ、部屋の中を確かめないといけない事には変わりないけど。
「入るよ?」
幼馴染とは言え、一応断りを入れてからドアノブに手をかける。
ノブに鍵はかかっておらず、ゆっくり押し開けるとほんの少しだけ蝶番がキィと軋んだ。
久々に入る親友の部屋は、床にゲーム機と攻略雑誌が出しっ放しにされているのを除けば、そこそこキレイに整頓されていた。
大雑把に見えて微妙に几帳面なのはトモヤらしいといえばらしいかもしれない。片づけが苦手な僕も、少しはトモヤを見習うべきだろうか。
そして肝心のトモヤは――いた。
部屋の左隅に置かれたベッドの上に、学生服のままうつ伏せている。
「ん……」
寝苦しいのだろう。トモヤはかすかに身じろぎしたが、寝相を変えるまでにはならなかったようだ。
「ったく、世話が焼けるなあ、もう」
僕はベッドに近寄り、うつ伏せになったトモヤの胸と腰の下に手を滑り込ませた。
制服のまま寝ているから寝辛いのだ。せめて仰向けにでもしてやれば少しは違うはずだ。それにちょっと寝相を正してやるだけなら、せっかく寝ているトモヤを起こす必要もないだろうし。
「よいしょ――って、え?」
持ち上げようと力を入れた瞬間、僕の手のひらに返ってきたのは、あり得ないほど柔らかい物の感触。
これは、もしや……いや、まさか!?
「んぁ……じゅん?」
愕然とつぶやいた僕の耳朶に飛び込んできたのは、トモヤの驚きに満ちた声だった。
これは悪い夢に違いない。
いろんな物に悪態ついて、しかも制服のまま寝たから夢見が悪かったんだろう。
俺の部屋にジュンがいて、しかも腹這いになった俺の身体の下に手を差し込んでいる状況だなんて、これが悪夢でなかったらなんだというのだ。
ジュンに恋焦がれるうちに夢見た妄想だとでもいうのか。冗談じゃない。
俺はベッドから跳ね起き、目の前で硬直しているジュンに怒鳴りつけた。
「なっ、なにやってんだ、てめえっ!」
「あわわ!」
ぺたん、とジュンが尻餅をつく。どうしてここにジュンがいるのか、俺にはさっぱり分からないが、一つだけ確かなことがあった。出来れば間違いであってほしいが、これだけは確かめなければ。
「……触った、のか?」
びくん!
まるで初めて雷鳴を聞いた小動物のように、ジュンが身体を硬直させる。
ああ、畜生。その反応だけで分かるぞ、お前。
「触ったんだな?」
それでもジュン本人から答えを聞きたくて、今度は一語ずつ噛み締めるように問いかける。俺の剣幕にジュンは今にも泣き出しそうなほど瞳を潤ませていた。
……馬鹿野郎。泣きたいのはこっちの方だってのに。
「なぁ……嘘、だよな?」
まるで悪い夢だといわんばかりの震える声でジュンが聞いた。
嘘とかジョークとかドッキリとかで済めば、笑ってお終いだったろうさ。俺だって出来ることなら嘘にしたい。けれど、これは間違いなく現実なんだ。
クソむかつく現実なんだ。
「ごめん……俺は、お前のことを親友なんて言いながら、ずっと騙してきたんだ。悪ぃな」
出来ることなら、一生騙し続けたかった。かけがえのない無二の親友を失うのは怖かったし、自分に芽生えたあの感情に従うのが怖かった。
けれど、もうどうでも良かった。バレて嫌われるんだったら、最後の最後でいいから、ジュンにだけはちゃんと話そう。
混乱しているジュンの前で、俺は制服の上着を脱ぎ捨て、震える指でワイシャツのボタンを全て外し、サラシで締め付けられた胸をさらけ出した。
「俺……性同一性障害なんだ」
僕はただ、驚くしかなかった。
トモヤの告白は、まさに青天の霹靂で、それこそ雷でも直撃したように僕を打ちのめした。
目の前にはトモヤが――ずっと男だと思っていたトモヤが、サラシと下着だけの姿でベッドに腰掛けている。
それは見まごう事なく、女性の身体をしていた。
……信じられない。西から昇った太陽が東に沈む光景でも見てしまったような気分だ。
信じていたものが根底から覆される衝撃はあまりに大きくて、僕はただ喉に引っかかったような笑い声を吐くぐらいしか出来なかった。
「……おかしいよな、やっぱさ」
トモヤが悲しそうに顔をうつむかせた。自分の両肩を抱きしめ、凍えるように身体を震わせている。
トモヤは、泣いているのかもしれなかった。
そんなトモヤに、僕は口をつぐんで黙るどころか、何か一言でも声をかけることすら出来なかった。
笑っちゃいけないんだって事は分かってる。でも、僕は心のどこかで突きつけられた現実を理解するのを拒んでる。
「俺、すごく小さい頃から『自分は男の子だ』って思ってた――今でも、そうだけどさ。男の格好のほうが自然だったし、女の子を好きになる方が自然だった。だから、この身体も嫌いじゃないんだぜ。月一のアレは勘弁してほしいけどさ」
顔を上げて、おどけるように笑うトモヤ。
目にいっぱいの涙を浮かべて、今にも大声で泣き出しそうな辛い顔しているくせに、変に我慢強くて意地っ張りな親友。
僕の、高科ジュンの一番の――
「けどさ……最近、おかしいんだよ。俺、少し前まで女の子が好きだったのにさ。今は、身体の性別に心が合い始めちゃったみたいでさ。お前のこと考えると、やけに胸がドキドキするんだ。きっと俺――」
「お前が好きだ」
何かを言おうとした口が、言葉を失って無意味にあえいだ。その告白の意味が理解できなかったからなのかもしれない。
「な、なに言ってるんだよ、お前……」
本日二度目のサプライズ。さっきもかなり驚かされたが、今回のはとびっきりのだ。明日が人類最後の日だといわれても、今みたいに驚いたかどうか怪しいくらいだ。
「……聞こえてなかったの? な、何度も言わせないでほしいんだけど……」
熟したトマトみたいに頬を真っ赤にさせて、目の前の幼馴染はずいっと前に身を乗り出した。
「だから、お前のことが好きだって言ったんだよ。ずっと昔からっ。僕はっ!」
「え……んぅ!?」
不意打ちだった。このまま死んでもいいって思えるくらい気持ちいいのに、ほんの一秒間で終わった触れるだけのくちづけ。
「はふぅ……」
どちらともなく吐息がこぼれる。
まだジュンの感触が残ってるような気がする。ふわふわと柔らかくて、マシュマロののように甘い唇。
「……こういう時は目を閉じるのがエチケットじゃない? 男でも女でも、さ」
「う、うるさい……」
人が初めてのキスの感動に浸っているのに、ジュンは意外にマイペースだった。
なんだか自分ばかりが空回りしているようで、かなり恥ずかしい。まともにジュンの顔を見られなくなってしまうじゃないか。
「は、初めてなんだから仕方ないだろ」
「僕だって……そうだよ」
「その割には、なんだか手馴れてる感じが……」
「少女漫画とか読んでるからね」
ちょっとだけ納得がいった。そういや、こいつの部屋って古今東西の漫画で埋め尽くされてて足の踏み場とかなかったな。
エチケット云々ってのも多分少女漫画の受け売りなのだろうが、部屋の片付けは出来ないくせに、変なところで細かい奴だよな、こいつも。
「じゃあその……ジュンの言うとおりにしようかな」
でも、ちょっと悪い気はしなかった。目を閉じて、ほんの少しだけあごを浮かせる。
「ん……」
二度目のキスは、唇同士を押し当てて擦りあう、互いの存在を確認する交歓の儀式のようだった。とても神聖で、中断しようものなら二度と手に入れることが出来ないと思わせるほどに。
「んあ……ふぁ……」
ジュンの唇が、俺の上唇をついばむように甘く噛んだ。ちろり、とジュンの舌先が上唇に触れた瞬間、抵抗しがたい気持ちよさが俺の背筋を駆け上がる。
「あ…………」
零れ落ちる吐息。それは出した本人――精神的には俺は男なので――でさえハッとする様な、女の艶に満ちた声だった。
「……トモヤ、すごく可愛いよ……」
「ば、馬鹿。恥ずかしいことを言うな――ひゃっ」
俺の抗議も空しく、ジュンの唇は俺の頬を滑り、首筋へと落ちてゆく。頚動脈の上をジュンの舌が這いずり、くちづけを繰り返す。
ああ、畜生。背中だけじゃない。身体全体がゾクゾクしているのに、どうにかなってしまいそうに気持ちがいい。
「触るよ……?」
鎖骨にキスをしながら、ジュンが聞いた。コクリ、と俺はうなずいた。
「うん。触って……お願い……」
サラシ越しにジュンの冷たい手が触れる。女であることがバレない様に固く巻いたサラシの上からだというのに、ジュンの指先は俺の敏感な場所を探り当てていた。
「トモヤのここ、サラシの上からでも分かるくらい尖ってるよ。すごく、かたい……」
「や、やめろよ……恥ずかしいじゃん……かぁ……」
手のひらで押し上げるように揉まれるのはこそばゆいのに、指に挟まれた乳首がビリビリと痺れたように疼く。
言いようのない快感が全身を巡り、知らず知らずのうちに腰が引けてくる。このままジュンに全てを委ねてしまったら、もっと気持ちよくしてもらえるのだろうか。
でもそれは、とってもズルいことのように思えた。
「ジュン……おまえ……俺の、恥ずかしいとこばっか見やがって……俺だって、おまえが感じてるとこ見たいんだぞ……」
大体、俺ばっかり裸みたいな格好をしてるのに、ジュンの奴ときたらまだ学校の制服姿だし。これはあまりにアンフェアだ。
それに、今はイニシアチブを取られて受身に回っているけど、本来の俺は攻めの気質――のはずだ。ちょっと自信なくなってるけど。
「あ、まって……」
ジュンが制止の声を上げたけど、そんなのは聞いてやらない。散々イジメてくれたお礼もしてやる。
俺はジュンのズボンに手をかけてベルトをはずし、そのまま右手をジュンのトランクスの中へ滑り込ませる。
くちゅっ
「――え?」
どういうわけか、男性ならあるはずの障害物がそこにはなく、かわりに熱く湿った肉襞が俺の指に絡みつく。そのなんだか身に覚えのある感触におののきながら、俺はジュンの顔を見やった。
「トモヤの、えっち……」
答えになってねえよ、馬鹿。
お願いです神様。馬鹿だのトンマだの口汚く罵ったことは謝りますから、出来ればもう少し人生のサプライズは手加減してくれませんか。
「本当は、トモヤが女だって告白してくれたときに言うべきだったんだけどね」
ベッドの上でなにやらブツブツと考え込んでいるトモヤを横目に、僕は制服もズボンも脱ぎながら言った。
「僕も、女なんだ」
トモヤと同じく、サラシと下着だけの姿になる。ちょっと違うのはトモヤが意外にも女性用の下着なのに対して、僕は男物のトランクスを穿いているって事だろう。
かなり違うのは男の振りをしていた理由だけじゃないだろうか。
「幼稚園のときに……色々あってね。それがトラウマになって、しばらくは母親が一緒でも男性のそばにいることも出来なかったんだ。それが実の父親であってもね」
一人っ子だったし、両親の悲しみようは幼い僕でさえ理解できるほどに痛かった。いっそ死んで消えてしまおうか思うくらいに。
「このままじゃダメだって思った両親がね、駅の反対側の病院でやっているオルレアンセラピーってのを見つけてきてさ。で、あそこの病院の先生の指導で男の格好をしてたってわけ」
オルレアンセラピーってのは、フランスの英雄ジャンヌ・ダルクを元に考案された治療法だ。
男性社会であった当事のヨーロッパで、荒くれの軍人たちを相手するために勇ましい鎧を身につけ、男のように振舞ったという故事から考え出されたのだとか。
「おかげで小学校に上がる頃には父親と一緒に居ても吐いたりすることはなくなったけど、逆にこの格好でないと落ち着かなくなっちゃってね。まぁ、それで今に至るってわけなんだけど……」
僕は未だに呆けているトモヤの鼻先にビシリと指を突きつけた。いきなりのことに目を白黒させている鈍ちんの馬鹿トモヤに言ってやる。
さっきはちょっと気持ちが暴走して言えなかったけど、今ならはっきり言ってやれる。
「中学生のときにお前のことを好きになってから、毎日が辛かったんだからな!」
そうだとも。こいつが僕に対して何かしらの感情を抱く前から、僕はトモヤが好きだった。
何度、自分が性別を偽っていることを告白しようかと考えたことか。
でも、十年以上経った今でも、あのトラウマは消えてない。今だって女の格好をして外に出るだけで吐き気がこみ上げてくるのだ。
だから、怖かった。
トモヤに告白して、彼を異性として見てしまうことが怖かった。
男の姿なら憎まれ口を叩きあう事が出来ても、女の姿になって同じ事が出来るとは限らない。僕にとっての特別な彼を、有象無象の男たちと同じように見てしまうかもしれない自分が怖かった。
怖かったから、この気持ちは胸の奥にしまうことにしていた。
だというのに、こいつときたら――
「僕のことが好きで、身体は女の子だけど心は男の子で、女の子の方に興味があるだって? なんだよ。僕のトラウマ、まったく意味ないじゃないか。僕の煩悶とした中学時代を返せよふざけんなー!」
「え、あ、その……ごめん」
まくし立てる僕の剣幕に驚いて、僕よりも大柄なトモヤがみるみる小さくなっていく。
そういうしょぼくれたトモヤの顔を見るのは初めてだったから、すこし溜飲も下がった気がする。僕は盛大に嘆息して、トモヤの隣に腰掛けた。
「もう、こうなったら仕方がないけどね。驚かせたのはおあいこってことにしようよ。ね?」
だって、そんなことよりももっと嬉しいことがあるんだから。
「……そうだな」
そう言うとトモヤは、しな垂れかかるように僕の身体を横から抱きしめた。僕の肩にあごを乗せ、吐息がかかるほど顔を寄せてくる。
「俺、ジュンのことが好きだ。身体は女だけど、男としてお前を愛したい」
……この馬鹿トモヤ。そんなこと、こんな至近距離で言われたら、クラクラするじゃんか。
「僕も……男とか女とか関係なく、トモヤのことが好き……」
僕らの三度目のキスは、どちらからともなく始まった。
「さっきの続き、しよっか」
「……うん」
お互いに相手のサラシを解くのが上手くて、ちょっと可笑しかったけど言葉には出来なかった。
だって僕はもうトモヤの柔らかい唇をついばむのに夢中だったし、トモヤは僕の舌に自分のを絡めるのが楽しくてしょうがないって感じだったから。
「ん……っ……ぁふ……」
「ふぁ……んんぅ……」
どっちが漏らした声かなんて良く分からない。唇だけの戯れで脳天まで痺れるような気持ちよさが味わえるなら、この先どれだけ気持ちよくなれるんだろうか。
「ジュン……さっきのお返し……」
気づけば、僕の胸はトモヤの両手にすっぽりと収まっていた。体温の高い手のひら全体で、やわやわとこねるように揉まれ、感じたことのない心地よさが肺を圧迫する。
「あ……っ……や……んっ……」
「ジュンのおっぱい……柔らかいのに、コリコリしたのが手のひらに当たってるよ……」
やだっ。乳首が、トモヤの手のひらで擦れて、じんじん痺れてる――
「き、気持ちいいよぉ……トモヤぁ……」
このじんじんした気持ちよさを分けたくて、僕はトモヤの乳首をつまみあげた。僕以上に、ここが弱いのはさっきの愛撫でなんとなく分かってた。
「ふぁ、んんっ……っ!」
出かけた大声を、唇を噛んで抑えるトモヤ。そんなトモヤが愛しくて、さらに乳首弄りに没頭したくなる。
「んぅっ……あくっ……気持ち、よすぎて……だめだって……」
息も絶え絶えに喘ぐトモヤを押し倒し、僕はその乳首に吸い付いた。
「ひあっ!」
びくんっ、とトモヤが打ち震えた。軽く吸い付いたのにこんな反応をされたら、男でなくたってたまらなくなるじゃないか。
なんだか嗜虐心ってのが芽生えてきたかもしれない。それくらいトモヤの反応は初々しくて、可愛かった。
「トモヤ……可愛い……」
「お、俺だって……ジュンの、感じてるの……可愛いとこ、見たい……のに……」
「ダぁメ。ずぅっと僕の気持ちに気づいてくれなかった鈍ちんには三回ぐらいイってもらわなひゃああっ!」
悲鳴を上げたのは、トモヤが僕の内股からトランクスの中へと手を滑り込ませたからだ。トモヤの指先は正確に、僕の身体の中でもっとも敏感な部分を擦っていた。
「ああっ……やぁ……んぅっ……」
冗談じゃないくらい気持ちいい。キスや胸を弄られるのも気持ちよかったけど、そんなものは比じゃない。
好きな人の指でそこを擦られることが、ハンマーで頭を割られるくらいに暴力的で圧倒的な快楽になるなんて。
くちゅりぬちゅりと、指が擦れるたびに聞いたこともないような淫らな水音が響いてくる。一番端の小さな突起に指がかかり、その瞬間、下腹部が気持ち良さに波打った。
「はぁっ、んふぁ……くぅっ! や、やだっ! きもち……きもちいいよぅっ!」
もう半狂乱だった。脳の回線が焼き切れるんじゃないかってくらい快感がスパークして、ところどころで白く火花を散らしてる。僕はトモヤの全身にむしゃぶりついた。
「あぁっ!」
再び跳ねるトモヤの身体。受けた快感が振動となって伝わり、僕の股を擦る指のリズムに変調子を与えてくれる。
嬉しい誤算だ。トモヤを気持ちよくした分だけ、トモヤがもっと僕を気持ちよくしてくれるんだ。
「いっぱい、感じて……トモヤ……」
固く尖った乳首を唇で甘くついばみながら、薄桃色の乳輪の外周を舌先でレコード針のようになぞる。
トモヤの乳首はじれったそうにヒクヒクと震え、それがいっそう僕の劣情を刺激した。
右手で全身を撫で回しながら、空いた左手でトモヤの右乳首をひねるようにつまむと、口に含んだ左の乳首がこれ以上ないほどに固く尖った。
「じゅ、ジュン……」
「トモヤぁ……」
お互いの名を呼び合い、僕たちは唇を重ねあう。トモヤが僕にしているみたいに、僕も右手を下着に隠されたトモヤの最も女性らしい場所へと指を突き立てた。
「ああああうっ!」
ほんの指先。爪の根元が入ったあたりでトモヤの膣内が指を押し返してくる。音を立てて指を出し入れすると、くぐもった悲鳴をあげてトモヤも指の動きをエスカレートさせた。
「あっ、やんっ、トモヤ、もっと、もっとおっ!」
肉襞さえこねられる動きに合わせるように、自分でも気づかぬうちに腰が動いてる。あふれ出た愛液が内股を伝って流れ落ちてゆく。
「やだ、やだぁ……い、いっちゃうよぉ」
「俺も……気持ちよくて――くっ」
もう、限界だった。快楽の波と白い火花が意識の九十九%を覆いつくしてる。残った一%で僕はトモヤの名を呼んだ。
「トモヤぁ……は、はなさないで、ぼくを、やだ、いっちゃぅ――そこ、こすられて、いっちゃ、いや、いっちゃぁ、いっちゃうぅっ……!」
「あ、ああ……ジュン――っ!」
トモヤは優しい。あんなにイジワルに責めたのに、最後の最後で僕のことを支えてくれた。片手で抱きしめて、白い波で意識が朦朧とする僕の唇にそっとキスをしてくれた。
そういうとこが大好きなんだよ、鈍ちんトモヤめ。
心の中で悪態をついて、僕は全ての意識を白い波に手渡した。
恋愛感情は交通事故みたいなものだ。唐突で、不意打ちで、予防策なんてあまりアテにならない。しかも当たり所が悪ければ死んでしまう――
うん。まったく持ってその通りだと思う。特に、致命的な大事故にあった俺が言うのだから間違いない。
ベッドの上で大の字になってそんなことを考えていると、
「とーもーやっ!」
猫のように喉を鳴らし、ご機嫌で俺の腕に絡み付いている高科ジュンという名の大事故が、対俺専用の致死的な笑顔を見せた。
ちなみに、俺も彼女も服は着ていない。ハードに愛し合ったおかげで、ベッドから降りるのが億劫なだけだった。
「どうしたの? なんだか珍妙な顔しちゃってさ」
「ん……ちと考え事してた。お前のこととか色々」
その大半が、さっきジュンが見せたあられもない痴態の事なのだが、言ったら言ったで彼女はヘソを曲げるか――もしくは素晴らしく厄介な報復活動に出てくれるだろう。
こいつの反撃は、結構ねちっこいし。
当たり障りのない答えは、なかなかジュンには好評のようだ。赤面しているところなんて、可愛くってしょうがない。
「そういえばさ……トモヤって、昔からトモヤだったの?」
「……は?」
唐突に、しかも要領を得ない質問をされて俺は面食らった。
お前は俺が宇宙人に宇宙人に誘拐されて改造手術を受けて女になったとでも思ってるのか?と言いたげな視線を返すと、ジュンは「違う違う。名前のことだよ」と苦笑した。
「だってほら、『トモヤ』って男の子の名前だし、生まれて間もない時から男の子を主張してたわけじゃないだろ? 最初の名前ってどんなのかな――って思っただけだよ」
ああ、なんだ。そういうことか。そういえば、そんな名前もあったんだった。
幼稚園時代で自分の性別に疑問を持った俺は、親に頼んで無理矢理名前を変えてもらったんだっけ。
あんまり教えたくはないんだが、お互いにいろんな秘密を打ち明けちまった仲だし、興味津々といった顔のこいつを見ていると黙っているのも出来そうにない。
ああ、これが世に言う『惚れた弱み』って奴か。
「誰にも言うなよな……俺、『トモヤ』になる前は、トモエって名前だった。結構、ありふれてるだろ?」
「へぇ……トモヤっぽくて、キレイで格好良い名前じゃん」
自分ですら使わなくなった名前をジュンは良いと褒めてくれた。恥ずかしかったけど、なんか気分がいいのも事実だった。
「あ、ありがと……」
うん。この気分を維持したまま、別の話題を振ってしまおう。出来れば名前ネタは、これくらいにしておきたい。もっといっぱい、ジュンと色んなことを語り合いたいし。
「で、どんな漢字書くの? やっぱり、巴御前の巴?」
……うん。どうして、お前ってば俺の男心がご理解いただけないんですかね。
「べ、別にどんな字書いたって関係ないだろっ。今の俺はトモヤだし、昔の名前のことなんて――ん……っ」
ファーストキスのときと同じように、ジュンが不意に唇を重ねた。吐き出しかけた言葉を全部飲み込ませる、絶対に抵抗できない優しいキス。
唇が離れると同時にジュンが言った。
「好きな人のこと、全部知りたいって思うのが女心なんだからね」
……お前ってば、時々大胆だよな。そのくせ恥ずかしそうに頬を赤らめたりして、凄く可愛いじゃないか、畜生っ。
この湧き上がるムラムラとした感情をどうしてくれるというのだ。
「俺の男心に火ぃ点けやがってこの小悪魔があっ!」
「あんっ! ちょ、ちょっと、それ、はげしっ、ともやぁ……っ!」
俺は、このどうしようもなく愛しくて可愛らしい恋人に覆いかぶさり、その細い身体にむしゃぶりついた。
後日、あの脳が天気な実の母親から、俺の昔の名前がジュンにバラされた。うちの母親とジュンが仲良かったなんて知らなかったぞ、俺。
「『十萌』ちゃ〜ん。んふふふふ……」
「……だから教えたくなかったんだよ。クソッ」
子猫が毛玉の玩具を見つけたような、小悪魔めいたジュンの笑顔を受け止めながら、俺は空を見上げてうめいた。
神様。お願いですからサプライズな人生は、これで打ち止めにしてくれませんか?と。
おわり。
すばらしくGJ!
ハァハァさせていただきました。
初エロSSとのことですが、ぜんぜん無問題。
ただ視点が切り替わるのがちょっとわかりにくかったかも。
この二人の話でもそうでなくてもいいので、是非また投下してください!
…ハンドル記憶されたままだったorz
華麗に500ゲトーでしたよ…
おねがいっ!
だれか次スレ立ててくださいっ!
今夜も投下があるかもしれないのにもう9Kしか残ってない〜
…スレ立ての仕方学んでおきマツ。
>>502 乙でした
しかし消費早いですね。よきかなよきかな。
>>488 新鮮な設定でしたーGJ!
どっちが男装少女か予想しながら読んでたんですがまさか両方とは!
やはりトモヤ視点とジュン視点の違いが判断つきにくかったんですが
それ以外は読みやすかったです。
いやはや、こんな萌え天国他にありませんな
男装少女同士のレズ物GJ!!
あとみんなが言うように視点入れ替えするときは分かりやすいようにキボン
うん、どっちがどっちだかわからなくなるが新鮮だたよ
トモヤが該当だって段階で、「ああ両方だな」と思った俺は負けかなと思ってる
自分はジュンも男装少女と知ったときは素直に驚いた。
さて、次スレも出来たし
恒例の萌え談義いってみよーー!!
初のエロSSでしたが、受け入れていただけてありがたいです。
アドバイスもありがとです。
読み返してみると、確かに視点変更が分かりづらいですね。
次は、こういうことがないように精進いたしまつ。
>>500 司きゅんの人にGJいただき恐悦至極。
このSS書くにあたって、ちょっぴり司きゅんの百合SSを参考にさせてもらいました。
書いてみたら愛着がわいたんで、もしかしたら続き書くかもです。
>>504 百合板池とか言われたらどうしようかと思ってたガクブルしてました。
てか、百合って難しいです。男みたいに明確な終わりがないんだもの。射精とか。
トモヤもジュンも可愛いと思っていただけたなら幸いっす。
>>505 ゴッドファーザーズの人にもGJもらえたー!
あの飽くなき投稿意欲、見習わせていただきますっ!
>>506 次は書き分けを頑張るぜ!
>>507 早い段階でバレちまいましたか。次は負けないぜ!
>>508 読み手を驚かせるのが一番の目論見でした。
アヒルさんの鬼道の末にも、毎回ハァハァしながら読ませていただいてますー
ここのエロ小説はさらし普及率が非常に高いですよね。そこがいい!
さらし萌え人工が多いから和風もののウケがいいのか
なるヘソ
513 :
実験屋:2005/09/16(金) 00:25:08 ID:M9I3qNDB
>>DNhFr3L39M様
激しくGJ!!
男装はジュンOnlyだと思ってました。完全に泥沼にはまった。
・・・でもその泥沼を心地よく感じてる自分がかわいい・・・キモ。
>510
レスにレスついててびっくりw
むしろ参考にしていただけたなんてこちらが恐縮です…いつかきっと百合のリベンジをいたします。
というか続きお願いします!百合モノ好きなのでワクテカしながら待ってます
さて、まだ書けるかな?
ちょうどいい長さで書けたので埋め立て
* * * * *
「ねぇ、中ってほんとに気持ちいい? 」
噴いた。噴いてむせ返った。そして、自分と目の前の少女のおかしな関係を再認識する。
どうしてまた自分は来てしまったんだろうと後悔しつつ、以前と同じファーストフード店でまた懲りずにシェイクをすすっていたわけだが。
口の周りをぬぐって、司は努めて落ち着いた声を出す。
「…あのね三崎さん、そういう事はもっと遠まわしに言って欲しいな」
「あ、ごめん! あ、あの、でも、他になんて言ったら良いか…」
指摘された途端に頬を染めて俯くゆいは、何処からどう見ても可愛い。何度連呼してもかまわない。可愛い。
中性的な顔立ちの司とゆいは、美男美女のカップルに見えるはずだ。そこにはちょっとした優越感を感じる。
しかし天然の小悪魔であるゆいに油断は禁物だ。
「まぁ、そうだね……俺も最初は良くわかんなかったよ」
「……でもそれだと、男の人ってがっかりしない? 」
禁物なのだが、心底心配そうな表情と声を向けられると、優しくしてやりたくなる。
「そーだね…中で感じるもんだと思い込んでる奴が大半だから…でもそれは別に、こっちが悪いわけじゃないし」
大丈夫だよ、と声をかけても、ゆいの表情は晴れない。
「うん……」
この年頃ではお互いが未熟すぎて、性の不一致など当たり前なのだが、それを真剣に悩んでしまうのも若さゆえで。
なんとかしてやりたい、と司が思うのは自然の成行だ。
「……あれから、自分でしてみた? その…中も」
「うん……してみた、けど……よくわかんなくて」
ゆいは決して感度が悪いわけではない。ただまだ開発が済んでいないだけで、これからどうにかできないわけではない。
……ただ、余計なことを言うと司が泥沼にハマる。
「まぁ、焦らずゆっくりするといいよ。中の感じるところ、覚えてるでしょ? あそこ、自分で触ったり触ってもらったりしてれば…」
「…司君は、それで感じるようになった? 」
頬を染めたゆいの頭の中には、隆也の手で喘ぐ司の姿が思い浮かんでいるのかもしれない。
しかし司が思い出すのは、ゆいと同じように悩んでいた頃の自分と、健だ。
遠慮のない間柄でも男と女のことは別で、それはもう思い出すだけで頬が熱くなるような恥ずかしさが湧いてくる。
「うん。…まぁ、相手に言うのも恥ずかしいから、自分でなんとかしたけど…」
「…司君、顔真っ赤だよ」
指摘されてもどうすることもできず、平静を装ってシェイクをすする。
「自分で、どれくらいしたの? 」
また噴いた。っつーか、噴くよそりゃ。
「…ど、どれくらいって…! 」
言葉攻めじゃねーか! と叫びだしたいのを必死で飲み込んで、司は頬を染めて口をぱくぱくさせている。
ゆいはそんな司を見て無邪気な笑みを浮べて、可愛い、なんて言っている。
「だから…その、頻度」
「あ。あぅ、あ……」
はっきり言われてもはっきり返すことは出来ない。男友達との会話なら、平気で『毎日』とか言えるのだが。
「だって、ちゃんと…感じるようになりたいから……だめ? 」
だからそれは反則だ。可愛ければ何をしても許される人種がいることを司はようやく認めた。
耳まで熱を持っていて、言われなくても自分がひどく赤い顔をしているのがわかる。
「……その頃は、週……三回、とか……したいときは、毎日……」
「…やっぱり、それくらいしなきゃだめかなぁ? するときって、いっつもイくの? 自分でしてて、いける? 」
真面目に聞かれると困る。自分だけ恥ずかしがっているのがものすごく、困る。
「いや、人それぞれ…だろうし。…う、ん…だいたい、軽くイく、かな……」
人に話すようなことではないのに、よりによって男の格好で女の子に告白しなければならないのがひどく恥ずかしい。
「中でイける? 」
「……う……中、といっしょに、クリいじって……」
何言ってるんだ俺! と激しく自分につっこむが、つっこむべきはそこではない。
恥ずかしがりながらも少し気持ちよくなってしまっている自分のM性につっこむべきだ。
「そっかぁ……ありがと、がんばってみるね! 」
何でこの子はこう、さわやかな可愛らしい笑顔で言い切れるのだろう。
立ち去っていくゆいの背中を呆然と見詰めながら、司はようやくシェイクを味わった。
* * * * *
以上。埋め立て不要だったらスマソ
天然言葉攻めw
しかも公共の場で!
バッチリ羞恥プレイだww
517 :
名無しさん@ピンキー:
ここは遠井城という遠井家の居城である。城主遠井真琴とその一人息子絢夫が暮らしているが最近城主の真琴の様子がおかしい。
「一体どうしたんだろう。健康が取り柄の父様が今日も体調が思わしくないなんて・・。」
そう絢夫は三人の従者に話し掛ける。絢夫は明るく人なつっこい印象が特徴の可愛らしい少年である。
その父真琴はそんな息子に似ても似つかず可愛い名前もまた似合ってない見るからに健康で逞しい男性である。
見た目通り豪胆で毎朝の乾布摩擦と武術の鍛錬は毎日欠かさない身も心も逞しい男である。
そんな真琴がここ数日熱っぽく布団から出ることが出来ないでいる。40何年間生きてきて風邪一つ引いたことないと自慢してたのに。
しかも医者に見せても原因が不明であった。
「きっと大丈夫ですよ。あの真琴様が病気なんかに負けませんよ。」
そういって従者の一人、春希が慰める。控えめで利発な性格で繊細な容姿をしている。
「大丈夫など状況も掴めぬのに軽々しく口にするものではないぞ。」
「そんな言い方ないだろ!!夕顔丸!!兄貴は絢様を慰めようとしてんのに!!!」
夏希が怒りの声を上げる。夏希は春彦の双子の弟である。容姿は兄に瓜二つの優男だが
負けん気が強い性格で雰囲気はかなり違っていた。その夏希が怒った相手、夕顔丸は春希、夏希兄弟とは違い、
半年程前遠井家に仕え始めた。辛辣な口を利く上、素性を話さないが楽観的な性格の真琴と絢夫はそんなこと気にしていないが
夏希はことあるごとに夕顔丸につっかかていた。
「・・慰めたところで病気が治るわけでもあるまい。」
「てめぇ!!!」
夏希が夕顔丸に掴みかかろうとしたところ
「夏希!!やめるんだ!!」 「やめなよ!!」
春希と絢夫が同時に制止の声を上げる。その二つの声に夏希の動きが止まる。
「春希も絢様もなんでこんな奴かばうんだよ!!」
「今、喧嘩する様な状況じゃないだろ。」
春希が諭す。その説得に夏希が引き下がる。
「ちっ、春希と絢様に感謝するんだな、夕顔丸。」
「別に貴様と喧嘩したところで負ける気はしない。ま、面倒ごとは避けられただけよいが。」
夏希はその言葉に再び怒りを覚えたが仕方なく抑えている。
「・・・一応言い過ぎたとは言っておこう。」
『なら余計なこと言うな!!』 夏希は内心怒声を上げた。
その状況に少し困りつつも絢夫は父の心配をした。
「父上・・。」