KURAU Phantom Memory クリスマス前夜
>天箕博士さん
がんばってくださいね〜私もがんばります。
これからも期待させて頂いてます。
88 :
天箕博士:2005/07/28(木) 01:58:10 ID:F3zN5hGf
>87さん。
ありがとうございます〜。その一言が心底嬉しいですよー。
只今新作書いてますので近日中にも投下予定なのでまたよろしく・・・。
>>88さん
改めて期待させて頂きます〜私も描いています
自分に出来るなにかに頑張れる人が好きですよ。
90 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:05:36 ID:+o6NXXAQ
こんにちわーお久しぶりです。
ようやく新作投下。毎度遅くてすみません。
>89さん、励ましありがとうございます。とても嬉しいです。
他にもこのスレを読んでくださっている皆さんありがとう。
>39さん、また月を越えてしまいましたが、お許しを。
そんなわけで、わたし以外の皆さんの作品も期待しつつ、
「それがわたしたちを遠く隔てたとしても」お楽しみ下さい。
91 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:08:40 ID:+o6NXXAQ
「それがわたしたちを遠く隔てたとしても」
「この大きな『家』がわたしたちを何とか結び付けてきたのよ」
「いや、そうじゃない。それが全てを悲しみの向こうへいざなってしまったんだ」
ヴィボルグ・ハーケンタイン 「黄昏の時刻に」
92 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:20:09 ID:+o6NXXAQ
湖からの風が心地よく感じられるようになってきた遅い午後。
半ズボン丈のオーバーオールを着た少女が丘の上からの道を降りてくる。
少女はひとりいつもの場所―湖の桟橋への緩やかな下り坂を歩いていた。
学校が引けてから、友達のマグダレーナと遊ぼうと思っていたのだが、
彼女は来週に控えた自分の誕生日を前に、明日からの連休を利用して、
遠く地球へのバカンスに出かけてしまう。
93 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:20:51 ID:+o6NXXAQ
「誕生日の前倒しですって」
「わたしだって来週なんだけどな」
少女は少しむくれながら、坂を下る足をばたばたと鳴らしながら歩く。
「友情って儚いものね」
「うちのお父さん、わたしの誕生日覚えているのかなあ・・・」
「あなた、どう思う?」
94 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:22:24 ID:+o6NXXAQ
湖の船着場の入口まで来ると、少女は今来た道を振り返った。
その手には、小さな紙包みと白い封筒があった。
不器用な手つきで包みを抱えながら封筒から、一枚のカードを出した。
そこには、可愛い天使のイラストとつたない文字でこう書かれていた。
『クラウ、お誕生日おめでとう!!今年は一緒にお祝いできなくてごめんね。
地球から帰ってきたらいっぱいお話しよう!大好きだよクラウ♪』
マグダレーナ・ヘルメーレン。
我が愛しの親友「クラウ」へ(笑)。
95 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:23:09 ID:+o6NXXAQ
カードで「クラウ」と呼ばれている少女は、
難しい顔をして何かを考え込んでいるようだった。
やがて、苦笑いしながら子どもに似つかわしくないため息を大仰につくと、
桟橋の入口まえを通るステーションへの街道沿いに据えられた小さなベンチに腰掛けた。
「もう。マグダレーナったら調子いいんだから」
わざとらしくつんとすました面持ちでベンチに腰掛けたクラウは顎を高く上げてふんっと鼻を鳴らした。
最初それは彼女なりの抗議の意思なのか、そんなのには動揺しないのよ、みたいな葛藤なのか窺い知れなかったが、
それすらもクラウにとっては自身を面白がらせるためのフェイクだったようだ。
やがて耐え切れないといった風情でくっくっくと笑い声を上げると、
まあ、いっかといった表情で顎を上げたまま、空を見上げた。
96 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:23:51 ID:+o6NXXAQ
そこには、柔構造REDシステムで管理された偽物の青い空と、
分厚いナノミクロ高分子強化ガラスで作られた真っ黒な星空が交互に広がっていた。
この月面都市の住民にとっては、これが『空』というものであり、
遠く深淵を覗き込むような暗い宇宙に対しては無限の存在を認識しながらも、
『空』は常に有限であるというのが月面に暮らす者共通の見解だった。
月面住民にとって、地球の無限に広がる『空』はたとえ月で世代を重ねたとはいえ、
人間が遺伝子に根源的な記憶として覚えている原風景、すなわち故郷への郷愁と憧れの象徴だった。
97 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:24:33 ID:+o6NXXAQ
人類がアポロ11号で初めて降り立った記念すべき地、静かの海に作られた
最初の殖民都市、『コペルニクス市』ができてはや半世紀。
当初は、地球の環境悪化に耐えかねた高所得者層が中心に移住していたが、
国連を主体とする宇宙移民事業の地道な努力により、
半世紀で地球住民の約4分の1が月面に移住することになる。
それにより、地球温暖化、食糧問題などの多くの問題は解決したとはいえなかったが、
根本的な問題である地球人口の増大に一応の歯止めをかけることで、
その結果が生み出す破綻への道程の拡大だけは回避できた。
少なくとも当座は地球滅亡というシナリオの新規改定は中断したようだった。
98 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:25:12 ID:+o6NXXAQ
そんな新しい歴史も半世紀前、地球規模で頻発した災害や紛争によって失われた多くの生命の
犠牲によって成り立っていたのだが。
だが、そんな世界からようやく抜け出でて手にした楽観的な世界観のほうこそ、
日々のくらしというものが生命の危機や、苦痛への恐怖に満ちているような状況より、
遥かにまっとうで、人が生きてゆくうえで心底希求するものではないだろうか?
正しい戦争や、崇高な死など本当は誰も求めてはいないように。
99 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:25:56 ID:+o6NXXAQ
空にうっすらと霞のような雲が流れて、消える。
しばらくのあいだ静かに空を見上げていたクラウは高台の住宅街から降りてくる自動車の音に気が付いた。
音のするほうへ顔を向けたクラウは軽く伸びをするとその反動でひょいっと立ち上がる。
重力が軽い月面とはいえ、機敏な身のこなしはこのクラウの身体能力がとても高いことをしめしていた。
高台から下る道路からこの湖畔沿いの街道へ繋がる辻に自動車が差し掛かる。
BMWの7シリーズ最新型だ。高機動VWOCブルーユニットを積載し、重力の軽い月面での機動でも
しっかりしたグリップを確保する。さすがBMWの面目躍如と言った車種だ。
月面諸都市の高所得者層のあいだで引っ張りだこ。生産が追いつかないらしい。
しかもクラウに向かってくるのはそのなかでもカーマニアならずとも驚きの
リミテッドエディション、ガンメタリック・ダークターコイズバージョンだ。
月面でも僅か30台しか販売されていない代物。
100 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:26:43 ID:+o6NXXAQ
それにひきかえ、クラウの家では元々車になんてろくに興味のない父・創の15年落ちの
汎用車、トヨタ・カローラ ルナティック(黄)を後生大事に乗っているのだから。
だが、そんなカローラも寄る年波に勝てなかったのか、修理中で今は代車として、
面白みのないオペルのセダンが天箕家の車寄せに鎮座している。
しかし、まだ12歳のクラウにはいま近寄ってくる車が希少なものなんてことはわかるはずもない。
むしろ問題なのはその車に乗っている人物であって、道具そのものではないのだ。
クラウは先日の視力検査で太鼓判の両目2.0を誇るだけあって、フロントシートに座る
マグダレーナの姿を認めるとにんまりと笑う。
車が近付くのにあわせて手を空に向かってしっかりと掲げるとそれを左右に忙しく振り上げた。
101 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:27:21 ID:+o6NXXAQ
「マグダレーナ!」
フロントシートに座っていた少女もクラウに気が付いたらしい。パワーウインドを下ろすと身体を乗り出して
手を振り返した。
「クラウ!」
父親らしい運転者が、クラウが近付くのに合わせて車の速度を緩めてくれる。
クラウはタイミングを計りながら、マグダレーナに持っていた紙包みを手渡した。
マグダレーナもそこはよく心得ている。
まるでブラジル代表のサッカーを見るようだ。
102 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:28:28 ID:+o6NXXAQ
「お誕生日おめでとう、マグダレーナ!!」
「それ、わたしが焼いたクッキー。後で食べてね」
「ありがとうクラウ。帰ったらまた遊ぼう」
「うん。気をつけて行ってらっしゃい!」
やがてBMWはステーションへの道を走り去っていった。
クラウも見えなくなるまで手を振り続けていた。
これが二人にとって今際の別れになるなど、この時点では
お互い想像すらしていなかったのだが。
103 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:29:05 ID:+o6NXXAQ
「・・・・・・」
「さってと、じゃあ行こうかな」
少女たちの喧騒も束の間のにぎやかさで、再び湖畔に静けさが戻ってくる。
この住宅地周辺は日中も殆ど交通量がない。
そばの雑木林から小鳥たちのさえずりが聞こえてくるだけだ。
クラウは手紙をポッケに入れると、ようやく湖の桟橋―いつもの場所へ
歩みを進めていった。
104 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:29:42 ID:+o6NXXAQ
クラウたちの住む一般居住区は月面でもわりに古くから開発された地区だ。、
しかも月面でもそう多くない大きな湖がある。名前はバラサン湖。
昔、この地区を開発した担当官の故郷に同じ名前の湖があったそうで、
そこからつけたという。
美しさは月面でも1・2を争うくらいで、特に夕暮れ時の湖面の光は何物にも換えがたい輝きを放っていた。
それがこの居住区の売りの一つなのだが、
天箕家の場合は、父が勤務する研究所が紹介してくれたのを、これまた世事に疎い父が
特に吟味せずそのまま買ってしまったことに端を発する。
105 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:30:17 ID:+o6NXXAQ
しかし、まあ、結果的に娘のクラウにしてみれば、一番のお気に入りの場所、
すなわちこれから向かおうとしている小さな桟橋に出会えたのだから文句などないのだが。
クラウは、たくさんのヨットやボートが係留されている立派な船着場から、少し離れた小さな物見台のある
岬を回りこむと静かな入江にでた。その傍らに古い板が張られた木製の桟橋が鏡のように凪いだ入江に長く
伸びていた。
周囲には人家もなく、古くなって打ち捨てられた手漕ぎボートが一艘係留されているだけの桟橋を歩くクラウ。
歩みを進めるごとにギッギッと乾いた軋みを立てる板。何も知らない者なら思わず尻込みしそうな音だ。
だが、クラウは全くおびえるそぶりも無く、むしろはやく先端までというはやる気持ちを抑えるので
いっぱいみたいだ。
106 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:33:40 ID:+o6NXXAQ
「わあっ!キレイ・・・。」
時計は午後5時を指していた。少しずつ夕暮れ色に染まってゆく空を見上げながらクラウは嬉しそうに伸びをした。
「良かった間に合ったよ」
クラウは桟橋の先端に腰を下ろすと履いていた靴を脱ぎ、両の手を後ろにまわしてようやく一息つく。
ほんのり赤い夕暮れが穏やかな微笑みを浮かべる12歳のクラウのほほを染める。
「わたしね、一日の中で、朝と同じくらいこの時間、好きなんだ」
クラウは、自らの身体そのものに語りかけるように言葉を紡ぐ。
まるで、すぐそばに誰かいて今日あった出来事を教えてあげているように。
107 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:34:31 ID:+o6NXXAQ
その時、湖からの風がクラウを包み込んだ。ふわりとした風そのものをこの手に触れられそうなくらいの・・・。
「うん」
クラウは何事も無かったように再び話し始める。
しかし、さっきとは何かが違った。
「ずっと昔、お母さんと一緒によくここへ来てたから」
「・・・・ちょうど、この時間くらいに?」
「うん」
「そーなんだ・・・」
夕暮れの色が湖面を黄金色に変えてゆく。
静かに揺らぐ湖面が光を拡散し、クラウをも同じ色に染め上げていた―、
はずだった。
108 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:35:31 ID:+o6NXXAQ
その時、クラウのまだ未発達な少女らしい胸元から、一条の柔らかな黄金色の光が漏れ出した。
遠目に見れば暮れゆく夕日が、少女を同じ色に染め上げているようにしか見えないが、
近くで見るとそれは明らかに少女自身から漏れ出してくる光に他ならなかった。
それは、懐中電灯やら蛍光塗料やらを隠しているみたいなレベルではもはや無く、
むしろ、相当強力な光源でも手元に置かない限りありえない。
「で、話はかわるけどさっきの女の子って・・・」
「マグダレーナ?」
「そう!まぐ・・・ダレーな?」
「ちょっ・・・」
「ふふふ。そう。マグダレーナよわたしの親友」
109 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:36:08 ID:+o6NXXAQ
さっきまでは、12歳の思春期特有のナイーブな独白と思っていたが、
どうも様子がおかしい。
何故か、クラウ以外の存在の声が聞こえてくるのだ。
だがここは、岸からも200メートル近く離れた入江の桟橋の先端。
他に誰か居て大声張り上げてもこんなにはっきり聞こえるはずがない。
そもそも、桟橋にはクラウ以外の人影なんてどこにもないのに。
正確には、クラウ自身の声だった。
しかしそれはクラウの声帯を使って、何か別の意思がクラウと語り合っているのだ。
それは、まるで人形のいない腹話術師みたいだった。
110 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:36:47 ID:+o6NXXAQ
「しん・・・ゆう」
「そっ。お友達のこと」
それからクラウはそんな自分の胸元に手を当てる。
「で、今日はいつも来ているあなたと違う子がきてるみたいだけど?」
「・・・・・・」
「あなただあれ?」
光はまるでそれそのものが意思をもっているように揺らいだり、重なったり強まったり弱ったりしている。
傍目でみているとまるで光がダンスしているようだ。
111 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:37:27 ID:+o6NXXAQ
「・・・・誰・・?」
「わからない」
「わからない」
「もしかしてあなたたち自分が誰かもわからないの?」
クラウは呆れた様子で胸をぽんぽん叩く。
それからおおげさにため息をつくと、今度は鼻息荒くもう一度胸を強く叩いた。
「そーいえば自己紹介もしてなかたし・・」
「よおし!じゃあわたしに任せなさい!」
光は不安げに瞬く。これからおころうとしていることに・・・。
「じゃあ、あなた。あなたは、こないだ初めてわたしとお話したよね」
「・・・う・・ん」
112 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:38:06 ID:+o6NXXAQ
最初に指名された光は途端に不安げな言葉で応える。
「あなた、今日来たおしゃべりな子に比べるとお姉さんみたいな感じね」
「だから、あなたは・・・、お姉さんだからー」
「おねえ・さん・・?」
「そういうことにしとけばいいのよ」
「はあ・・・」
「お姉さんだけにー・・よしわたしと同じ『クラウ』にしよう!」
「・・く・らう?」
「うん!同じ名前だね」
クラウはにっこりと微笑んだ。
113 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:38:46 ID:+o6NXXAQ
「な・・・・・・ま・・え」
「アナタが誰なのかってこと」
「わたし・は・・・クラウ」
一瞬光がぱっと強くなる。
その途端もう一つの光が隣から割り込むように光り輝く。
「わかってる。あなたもだよね」
「はやくはやく!」
「じゃあね〜うーん・・・・」
「うーん」
「う・・・ん」
114 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:39:26 ID:+o6NXXAQ
腕組みしながらうなだれるクラウ。
湖からの風が心地よい涼しさを連れてくる。
そのままうとうと眠り込んでしまいそうな・・・・。
「って!寝ないでよ〜!!!」
後からきた元気な光がすかさずツッコミを入れる。
人ならぬ光たちも人類の至高、「ツッコミ」ができるらしい。
「・・んあ、ごめんごめん」
「ひどい・・・」
「・・そうねーじゃあわたしが一年で一番好きな日―」
「クリスマスにしよう!」
115 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:40:03 ID:+o6NXXAQ
決まった!
これなら完璧だ。クラウはいつも嬉しい時や気合を入れるときによくやる癖、
両のてのひらで自分のほおを軽く弾くように叩いた。
「クリスマス?」
光もクラウに合わせて嬉しそうな声を上げる。
「あたたかい感じがする・・・」
「そうよ!とーっても楽しい日なんだから」
「よかったね、クリスマス」
もう一つのお姉さんと呼ばれた光も祝福する。
しばらくの喜びの後クラウは再び光たちに問いかけた。
116 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:40:46 ID:+o6NXXAQ
「で、あなたたち・・・クラウとクリスマスは、」
「きょうだいなの?」
「いいえ、わたしたちは『リナクス』・・・」
「そして『対』なの」
今度はクラウが戸惑う番だった。目を白黒させながら理解できない風情で
頭を抱え込む。
「えーそれはすなわちィ・・・・」
クラウは父がよくやる困ったときの言い訳の口調を真似する。
大概これがでたあとの父は最後に「ごめんなさい」するのが常なのだが。
117 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:41:31 ID:+o6NXXAQ
「なあに?そのポーズ」
元気な光、クリスマスと名付けられた声がまた合いの手を入れる。
「おとうさんの真似」
「おとうさん?」
クラウと同じ名前の光がこたえる。
「そっ。あなたたちにもいる?」
「・・・・わたしたちは、リナクスだ。それ以上でもそれ以下でも存在しえない・・・」
「うーん、何言ってんだかさっぱり」
「すまない」
「いいよいいよ。まあ、きっとそういうおうちなんだよね」
「お・うち?」
118 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:42:11 ID:+o6NXXAQ
クラウもいいかげんこれは大変な相手だと悟ったのだろう。
ここはわたしが一番のお姉さんとして頑張らないといけないみたいだ。
「まあ、その辺はこんどお話しようよ」
「うん」
「んで、クラウとクリスマス。あなたたちどこに住んでるの?」
初めて名前で呼ばれた光たちは照れているように不思議な明滅を繰り返す。
「えーっとわたしたちは、ずっとずっと遠い世界」
「わたしたち、リナクスしか存在しない場所」
「とても狭いのだけど、ここから出てゆくことができない・・・」
クラウは興味しんしんで聞き入っている。
119 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:42:50 ID:+o6NXXAQ
「そんで、どこからわたしの中に入っちゃったの?」
「そう、えと・・クリスマスが、聞いたんだ」
「あなたが呼ぶ声を!」
「わたしが?」
「そう。わたしたちしか存在しえないこの世界に、あなたが呼ぶ声が僅かに聞こえた」
「そして見つけたの。あなたの声がするこの場所を・・・」
クラウは光たちに聞く。
「じゃあ、あなたたちにはここが見えるのね?」
「ええ。見える。とても、広い世界・・・・・・」
「すごくキレイ」
「そうでしょ。だって、ここはわたしとお母さんにとって・・・・・」
120 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:43:28 ID:+o6NXXAQ
クラウが口をつぐむ。
光たちは戸惑いながら明滅を繰り返した。
もう夕刻が迫っているようだ。風が湖面にさざなみをたて、鳥たちも寂しい鳴き声を上げながら、
巣に戻ってゆく。
「思い出の場所なの」
「ずっと昔に死んじゃったんだけどね、これだけは覚えてる」
「その、お母さんというのはわたしたちでいう『対』のようなものなの?」
クラウと呼ばれた光が遠慮がちに聞いてくる。
「それがあなたたちにとってかけがえのない存在だったら・・・」
「わかるよ。わたしもクラウがいなかったら、つらくて、悲しくて、寂しくて・・・」
クラウは悲しい声を出すクリスマスを慰めるように優しく自らを抱きしめた。
121 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:44:28 ID:+o6NXXAQ
「わたしも同じだよ。クラウ、クリスマス・・・・」
「でもね、わたしは大丈夫!」
突然クラウは元気いっぱいの声を上げると、今まで腰掛けていた桟橋の先端から
ぴょんっと立ち上がった。
「わたしには、お父さんやエラ、マグダレーナにほかのたくさんのお友達がいるから寂しくないよ」
122 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:45:12 ID:+o6NXXAQ
「そして、あなたたち・・・・」
「クラウ」
「は・・・はい」
「クリスマス」
「はいっ♪」
クラウは沈み行く夕日をいっぱいに浴びながら心から幸せそうな表情で
ぎゅっとその小さな胸の奥に連なる世界を抱きしめていた。
「大好きだよ」
123 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:45:49 ID:+o6NXXAQ
山の向こうに日が落ちて、柔らかな暗がりがクラウを包み始めた。
やがて、桟橋のたもとから、父とエラの声が聞こえてきた。
「おーいクラウ済まなかった。誕生日を忘れたわけじゃなかったんだ」
「おじょうさまー旦那様も事情があったんですから・・」
クラウはいたずらっぽく笑うと胸を叩いた。
「あーあ。来ちゃった。でもひどいよねお父さんたらわたしの誕生日忘れてるんだもの」
「よおし、帰ったらうーんと困らせてやるんだから。たまには悪い子クラウもいいよね」
「じゃあ、クラウ、クリスマス。今日はここまで。また来るから。」
「うん」
「じゃあね」
124 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:46:26 ID:+o6NXXAQ
クラウが父たちのもとへきびすを返すと、胸元からの光はすっと弱くなり消えていった。
どたばたと乾いた板を蹴飛ばしながら、すっかり日の暮れた桟橋を後にしていった。
だがこの日の、クラウともう一人の「クラウ」と「クリスマス」たちの約束が、
ある意味悲しい形で守られることになってしまうとは、だれも知らない。
125 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:48:43 ID:+o6NXXAQ
遠くから声が聞こえる。
遠い昔の記憶。
あれはいったい誰だったのだろう。
覚えてはいないけれど、
あの時感じたぬくもりだけは、
あの頃から遠く隔たったはずの今この瞬間にも、
少しも損なわれること無く、わたしの胸に宿り続けている。
「大好きだよ」
1945年8月6日、
廣島県立城廣女学校生徒 本庄沙耶香
友人への手紙から。
126 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:49:27 ID:+o6NXXAQ
「それがわたしたちを遠く隔てたとしても」
了。
127 :
天箕博士:2005/08/03(水) 14:53:05 ID:+o6NXXAQ
ここまでです〜。
いよいよ夏本番、有明でのビックイベントも近付いております。
皆さんも頑張って下さいね〜。
では、また感想などお待ちしてます・・・。
読ませていただきました―
少し敬虔的な内容であられるのでしょうか?
何度か読まさせて頂きたくなる様な内容ですね
クラウワールドをもっと広げていきましょう
自分自身が見たいですしw
夏コミには出られるのですか?
129 :
天箕博士:2005/08/09(火) 23:44:17 ID:C5QmnHrX
>128さん。感想ありがとうございますー。
敬虔な内容なんてめっそうもない・・。わたしには過ぎた言葉です(笑)。
思い出した折にでも読み返していただければそれに勝る喜びはありません。
わたしもこのSSが、クラウワールドを広げる、
ささやかなきっかけになればと・・・・。
>夏コミ
はい、出ます。ただ、クラウスペースとしてとったわけでは
ないので、サークルカットにも「クラウ」とは書いてません・・・。
日時、配置場所は、14日東レ―51a
クラウ本はコピー誌ですが一冊出します。
>>天箕博士さん
夏コミも期待させていただきます
がんばってください。。
131 :
天箕博士:2005/08/12(金) 01:49:02 ID:plCGwEi6
>130さん
ありがとうございます♪
コピー本もさっきようやく完成しましたー。
夏コミもご期待にそえればいいのですが(笑)。
132 :
天箕博士:2005/08/15(月) 16:21:23 ID:fxiGjl70
夏コミお越しいただいたみなさま、
本当にありがとうございました〜。
保守
i
hoshu
,..-──- 、
/. : : : : : : : : : \
冒 /.: : : : : : : : : : : : : : ヽ
l l ,!::: : : :,-…-…-ミ: : : : :',
./〜ヽ{:: : : : :i '⌒' '⌒' i: : : : :} ________
|__| {:: : : : | ェェ ェェ |: : : : :} /
. .||ポサ.|| { : : : :| ,.、 |:: : : :;! < うわゎぁぁぁぁぁっ
/|.l ン||_.ヾ: :: :i r‐-ニ-┐| : : :ノ \
|  ̄ -!、 ゞイ! ヽ 二゙ノ イゞ‐′  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| −! \` ー一'´丿 \
ノ ,二!\ \___/ /`丶、
/\ / \ /~ト、 / l \
/ 、 `ソ! \/l::::|ハ/ l-7 _ヽ
/\ ,へi ⊂ニ''ー-ゝ_`ヽ、 |_厂 _゙:、
∧  ̄ ,ト| >‐- ̄` \. | .r'´ ヽ、
,ヘ \_,. ' | | 丁二_ 7\、|イ _/ ̄ \
i \ ハ |::::|`''ー-、,_/ /\_ _/⌒ヽ
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このスレを見た人は、10年以内にかならず氏にます。
でも、逃れる方法はあります、
※10日以内に20箇所のスレにこれをはるのです。
すみません、僕も氏にたくないんだす