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85 :
名無しさん@ピンキー:2005/07/19(火) 13:48:38 ID:L3cAPYq3
保守
告げる。こちら名無し。SSを投下する。感想を寄せよ。以上、通信終わり。
「そなたが死んだら、私が悲しむ。それでは不足か?」
狭い救命莢(ウィコー)の中にラフィールの凛とした声が響いた。
その言葉を聞いてはっとなるジント。あのときラフィールは…
いつもながら自分の鈍さにはあきれ果てる。愚鈍さに自己嫌悪して
落ち込んでいるジント。なんで自分はいつもこうなんだ、と自省に苛まれていると
なんだかラフィールの様子がおかしい。
俯きながらラフィールは小さく、小刻みに震えている。
――怒ってるのかな?
ジントはそう思った。部下のためとはいえ、間抜けな失態のせいで
生命を危険に晒した翔士など、自分の側に置いておきたくないのかもしれない。
こんなていたらくではあきれられて、捨てられてしまっても仕方がない。
なんと言ったら許してもらえるだろう?
そうジントが必死に考えているとラフィールは顔を上げた。
「そなたが死んだら……わ、私が…私が…」
そう言ったラフィールの瞳は涙で縁取られている。
ラフィールが泣いている?
ジントは驚愕した。
あのラフィールが。
いつも自身の塊みたいな姫が。
まるで子供みたいに!?
優美な線を描く眉が切なげに寄せられ、ラフィールは涙とともに驚いて何も言えないでいる
ジントの胸に飛び込んでくる。
無重力の中、胸にぶつかるように。
空間種族として発達したアーヴのはずなのに、ラフィールは慣性を殺せずに
ジントの背は救命莢の壁に叩きつけられる。
ラフィールは握った拳でジントの胸を叩く。
「そなたが…死んだら、そなたが……そなたがっ、…ジ、ジント……
ひぐっ、ジ、ジント…ジントの…馬鹿(オーニュ)!」
馬鹿、馬鹿、ジントの馬鹿、とまるで稚い幼子のように泣き喚きながらラフィールは
ジントの胸に拳を叩きつける。
ジントの胸にはラフィールの拳が響く。
華奢な体格のラフィールの腕力などさほどのことではない。
ジントも翔士(ロダイル)となるべく修技館(ケンルー)で肉体的に訓練を積んだ身だ。
同じ年代の少年としては平均以上の体躯を持っている。
しかしそんなジントにとってラフィールの震える小さな握り拳が痛い。
「そなたが……死んだら、私は……わ、わたしは…」
叩きつけられる拳の弱々しさにジントは胸の一番奥底から痛みを感じている。
誰よりも大切に思っている無二の親友。
他に代わりがないくらい大切な、大切な想いを抱いている女の子。
その大切な女の子を自分のせいで泣かせてしまった。
悲しませてしまった。
ずっと側にいると誓った相手を。
自分のミスで。
89 :
名無しさん@ピンキー:2005/07/20(水) 02:01:18 ID:lBDIzICY
ジントは泣きじゃくるラフィールの頭をそっと掻き抱いた。
ラフィールに自分の心臓の音を聞かせるかのようにアブリアルの耳(ヌイ・アブリアルサル)を
軍衣(セリーヌ)の胸の中央に優しく押し当て、黝い髪を優しく撫でながら言った。
「ラフィール……ごめん」
誰よりも愛しく想う少女の尖った耳にジントは心からの言葉を囁く。
「僕はもう二度と、君の前からいなくなったりしないよ。約束する」
胸郭の震動がラフィールの耳朶を甘くくすぐる。
「本当に?」
幼児のような純粋な瞳が前髪の向こうから問い掛けてくる。
黒瑪瑙の瞳を涙で潤ませながらクリューブ王家の王女は銀河系で一番大切な少年を
真っ直ぐに見つめる。
「本当に」
そう言ってジントはラフィールの浅い小麦色の頬に掌をあてがう。
手から伝わるのは茹で卵のような滑らかな感触。
頬を撫でられてラフィールは心臓が自分の意志を離れて踊りだすのを止められない。
――柔らかい。
初めて触れる、大好きな少女の肌。
ジントの脳の中で何かに火が付く。
気がつくと、ジントはそのまま自分の唇をラフィールのふっくらとした唇に押し当てていた。
――ラフィールの匂いと同じ味がする。
微かな汗の匂い。
薔薇の花びらを浮かべた浴槽の香り。
桃果汁(ティル・ノム)の微かな風味。
ジントにとって星界の姫の唇はなによりも温かく、どんなものよりも柔らかく、
いままでに口にしたもののなかで一番甘かった。
いつまでもその感触に酔っていたいジントだったが、呼吸ができないせいでゆっくりと、
名残惜しげにラフィールの唇から顔を離す。
そこにいるのは……猫が透明な樹脂壁にぶつかったときのような表情のラフィール。
唇に指を当てて「信じられない」とでもいうような表情を浮かべている。
ジントは自分がまた異文化の壁に衝突してしまったと思い、慌てて言った。
「あ、ああ、こ、これはその、地上世界出身者(ナヘヌード)の風習で………その………
……大好きな人にする行為なんだ。君たちアーヴがどうやるのかは知らないけど、
地上世界(ナヘーヌ)じゃこれが一番一般的な方法で――」
「…馬鹿(オーニュ)」
先ほどまでの罵倒とは違った、すこし呆れたような口調でラフィールは言った。
「…それはアーヴの流儀でも同じ意味だ」
「あ、そうなんだ」
心の底からほっとするジント。
「……ホントになにも知らないのだな、ジントは」
すこしだけ険しい視線で見つめながらラフィールはジントにそう言った。
「あ、うん……僕はこんなことするのは初めてだからね」
少し恥ずかしそうにジントは答えた。
「わ、わ、私も初めてだ、無論……な、何事にも最初はある。そうだろう?」
慌てつつも挑むような視線でジントを見つめるラフィール。
チリチリと脳内を焦がすような感覚がジントには感じられる。
この熱を逃がす方法をジントはひとつしか知らない。
またも呼吸ができないジント。
引き離される柔らかな粘膜どうしの間に唾液の橋がかかる。
91 :
名無しさん@ピンキー:2005/07/20(水) 02:02:56 ID:lBDIzICY
恥ずかしくてジントの顔を見れないのか、少年の胸に顔を埋めながら
ラフィールは言った。
「さっきの私はどうかしていた」
「でも、さっき言ったことは――」
「本当だ」
そうラフィールは断言する。
銀河系よりも大切な友人。
他では得られる筈もない、本当の自分を見つめてくれる親友。
何度ともなく命を救ってくれた恩人。
そして……この宇宙とも比べられないくらい大好きな想い人(ヨーフ)。
全身の細胞から溢れ出る甘い痛みを堪えながらラフィールは想人に囁きかける。
「だからもう、私の前からいなくなったりするな。私は…胸が張り裂けるかと思ったぞ」
その痛苦を思い出したのか、ラフィールは俯きがちに呟く。
ジントはそんなラフィールの哀しみを消したくて。
三度、唇を交換する。
鼻で呼吸するコツを掴んだジントはキスのあとで愛する少女の耳にこう囁いた。
「それはもう、誓って。わたしの可愛い殿下(ファル・フィア・クフェーナ)」
「野暮ですいませんが、救命莢(ウィコー)を回収してよろしいでしょうかね、艦長(マノワス)?」
サムソンの声が通信儀から莢内に響き渡る。
『バースロイル』の短艇(カリーク)からの電波通信(ドロシュ・デム)だ。
ラフィールは慌てたように通信儀に手を伸ばすと怒鳴るようにして答えた。
「野暮ってなんのことだ? 許可する、監督(ビュヌケール)!」
「了解しました。……あと五分でそちらを回収できます。どうかご用意を」
「用意はすでにできている!」
「ええ、わかりました。通信終わり」
息荒く通信儀を睨むラフィール。視線で機械を壊すことができたら通信儀は
跡形もなく破壊されていただろう。
「ジント」
「なんだい?」
「私は、星界軍から艦を預かる身だ」
「爆散しちゃったけどね」
「それはいい、われらの落ち度ではない。またすぐに次の艦が割り当てられる筈だ」
「そうなの?」
「そうだ。…いや、とにかくだ。私は艦長という職務にある。今後も。
だから…その、任務(スコイコス)の間は…今までどおり、艦長と書記という関係でいるほかない。
軍律の乱れは義務(スレムコス)を果たせなくなる原因になるからだ」
「そうだね」
「わかっているのか?」
「さっきみたいな可愛い顔は僕にだけしか見せたくない、って意味だろ?」
一瞬の内に顔を真っ赤に染めるラフィール。
細くて尖った家徴まで毛細血管を浮かばせながら星界の王女は大好きな少年を
睨みつける。
「わ、わ、わかってるなら話は早い。こ、今後は……あんまり人前で馴れ馴れしい態度は取るな」
「了解しました、艦長(マノワス)。ところで私室での態度はいかが致しましょうか?」
悪戯っぽい表情でジントは大好きな星界の王女の顔を覗き込む。
もちろんラフィールの返答は決まっている。
「そ、それは・………そ、そなたの……好きにするがよい!!」
94 :
名無しさん@ピンキー:2005/07/20(水) 02:06:05 ID:lBDIzICY
以上、投下終わり。当方これより返信を待つ。
サーソート・フリューバラリ・ア!!