「香澄君……泣いて、いるのか?」
「……!!」
言われて、目元をぬぐってみる。熱い液体が指に触れると、余計に惨めな気持ちになった。
泣くまいと思っていたのに。女として見られていないなら……リョウに他に好きな女性がいるのなら、
自分はまた彼を狙う敵に戻るしかなかったのに……。
敵の前で涙を見せる刺客など、いる訳がない。
「だ、黙れぇ!!」
「しかし……!教えてくれ、一体どうしたんだ!?」
「うるさい!心配してるようなフリをするな!私のことなんかなんとも思ってないくせに!」
「な?ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「キングさんは強いし、綺麗だし、カッコいいし……!」
「キング?」
思わず、キングが戦っているところに目を移す。相手は武器をもっているとはいえ二対一。
すでにまりんは片膝をついている。
キングは、最初の奇襲以来ほとんど傷を受けなかったらしい。堂々と立ち、襲撃者を見据えている。
「っあぁぁっ!!!」
「…!オラァッ!」
襲い掛かる飛び蹴りを、虎咆で迎え撃つ。
(自分の気持ちを……正直に、拳に乗せて……伝える!)
「香澄君!俺は確かに、キングをいい女だと思っている。その強さにも、気高さにも、正直惹かれている!」
「やっぱりそうなんじゃないか!!」
「だが!!今の君を心配する気持ちにだって嘘はない!俺は全力で君に答える!!
だから君も、全てを賭けてぶつけてこい!!」
「……!!」
香澄はその言葉に圧倒された。言葉の内容にではなく、その奥に秘められた気迫に、である。
同時に、何度リョウを殴りつけても、何度技を受けても晴れなかった心の霞が一瞬で晴れてしまった。
「………参る! 藤堂流・奥義!!」
夜のビル街が見下ろせるガラス張りの壁を背に、香澄が構える。
「来い!極限流・奥義!!」
それに対し、リョウも姿勢を正し、最大級の気を練り上げる。
一瞬の静寂、そして……。
「超ーーーーーっ!!重ね当てぇっ!!!」
「覇王!!翔・吼・拳んんんっっ!!!」
互いの持つ、最大限の気の塊が激突した。