326 :
重ね当て:
今日も香澄は極限流道場に現れた。
「香澄さん!」
門下生たちは少し動揺しつつも、いつもの事だと思い師範であるリョウ・サカザキを呼びにいく。
「さぁ、出て来い!!極限流!お前たちも来るのなら捻ってやる!!」
「いえ、香澄さんが来たら、直に自分を呼んでくれと師範が言われてますので…」
「いい度胸だ!リョウ・サカザキ!!」
一度、母に窘められて日本に帰ったものの、香澄がアメリカにホームステイするようになってから、度々道場に顔を出すようになった。
実際一般向けには極限流でなく護身術程度にしか教えていない、香澄の腕も立ち無駄に門下生を傷つける訳にもいかずリョウは困っていた。
竜白に比べたら香澄も未熟で経験も浅く体格的に女ということが不利に作用しており、門下生のトップレベルの腕の立つ者の中にはいい勝負が
できると人材もいたが、実力が均衡している分、香澄の性格も考えると泥仕合になり、軽症どころか全治数ヶ月の大怪我を互いに負う事は容易に想像でき、
無謀さが生む後遺症が残るだけの得るものがない怪我をさせたくはなかった。
ロバートはユリと共にイタリアへ行き、門下生上級者に手に負えない本物レベル歴道場破りや香澄はリョウ自らが相手になっていた。
タクマもいるのだが、タクマが現役を退いたとい事や現師範は自分という事もあり、その責任として自らが相手をするようにしている。
そのタクマも今はユリの後追うように親友のアルバート・ガルシアへ会いにいって不在だ。
手合わせしたがいつものように勝負はあっさり着いてしまう
リョウの拳が香澄の顔面の直前で止められていた。
「くっ、まだだ!お覚悟よろしいな!」
「ああ、さあ来い」
といつものように続行するのだが何度拳を交えても同じ状態になる。
「くぅ…」
何本目かだろうか、息も途切れ疲れたがたまった香澄は崩れ落ちてしまった。
いつもであれば最後まで強気で形だけは、一応武道の形式に則って礼をして帰るのだが、今回は崩れ落ちたのを見てリョウも
心中僅かに動揺した。
「おいおい、大丈夫か?いわんこっちゃない…」