かーいい幽霊、妖怪、オカルト娘でハァハァ【その10】

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258名無しさん@ピンキー
ドアを開けるとかぼちゃ頭がいた。
大学進学を期にこのボロアパートで1人暮しを始めてから1年と半分。
その間、新聞の勧誘やら公共料金の取り立てやらあなたの幸せを祈らせてくれやら色々な客が来たが、
今目の前にいるのはその中でもかなり異質な存在だった。
頭には目と口を刳り抜いた大きなかぼちゃを被り、首から下は地面まで届く真っ黒なマントで完全に覆われている。
頭の位置は俺の胸までようやく届く程度。
頭頂部のかぼちゃの厚みを考えれば、実際の身長はさらに低くなるだろう。
確か、外国の風習でこんな格好をするものがあったような。
「――――――?」
子ども特有の甲高い声で何かを言われたが、上手く聞き取れなかった。
「あ、えー?」
答えに詰まる俺に、かぼちゃ頭はカクンと首を傾けて、
「trick or treat?」
今度は心構えができていたおかげで、何とか聞き取れた。
トリック? 手品か?
オアは「〜か〜」だったよな。
トリート? 何だったっけ? トリート……トリートメント……シャンプーか?
まずい、せっかく聞き取れても意味がよくわからない。
「あーあー、あい、きゃんと、すぴーく、いんぐりっしゅ、おーけいおーけい?」
俺がたどたどしくそう言うと、かぼちゃの中から小さな溜め息が聞こえた。
ちょっとカチンと来るが、ここは日本だ。
日本語を喋らないヤツの方が非常識なのだ。
「お兄さん、馬鹿ですね」
溜め息に続いてかぼちゃの中から響いてきたのは、呪文のような英語でもなく、溜め息でもなく、流暢な日本語だった。