下僕と令嬢 (
>>288-292続き)
クロゼットの扉を開け、中に並んだメイド服や外出着を眺める。
扉の内側にある鏡に写る僕の服装は、白いブラウスを着てサスペンダーでスラックスを
吊った、いかにも欧米の御屋敷に仕えている少年のような姿だ。
しかし全体のラインが柔らかいので、にあっているとはいいにくい。
仁美お嬢様が父に会える間だけ、僕は男の格好に戻れる。でも今の僕にはにあわないし、
自分でも違和感を覚える。
少し胸が苦しい。腰や手足は逆に細すぎる。肩までかかる髪は後ろでゆっているが、
どうしても不自然だ。
ほんの数年前、父とともに企業家同士の交流回に出かけた時、まれにみるような美少年を
目にした事がある。今の僕に似て上がブラウス、サスペンダーに吊った半ズボン、タイツ
といった姿だった。
美しい婦人の側によりそっていたので幼い付人かと思えば、夫につきそってきた妻子だった。
母子だけあって、よく似た顔立ちだった。
僕は少年に話しかけ、色々な事を語りあった。家族の事、家業の事、学業、趣味、親に
隠している秘密の事。少年は整いすぎた外見で、人づきあいの悪そうな印象があったが、
僕の話によく笑い、言葉を返してきた。
しかし、本当は会話の内容自体はどうでも良かった。僕は人形のように美しい少年と
いつまでも話していたいだけだったのだ。
もちろん、そのころは女装なんて考えもしなかったから、性的な感情ではなかったの
だろうけど。思い出してみると胸に熱を感じる。
胸をさわってみる。ブラウスとタンクトップ越しに感じる弾力。きつくしめているので
少し硬いけど、男のそれとは全く違う。
股間も半立ちになってきた。手を伸ばそうとして、やめる。
こういう事を続けている時間はない。
僕はためいき一つついて、クロゼットの扉を閉めた。
寝室に行くと、やはりお嬢様はいなかった。寝台が使われたようすもない。また父の
部屋で休まれたのだろう。
とりあえずシーツを取りかえ、念入りに部屋を掃除する。わずか一室とはいえ、それ
なりに広いので時間はかかるし体力も使う。
それでも、僕は友人の息子という事で、お嬢様一人に仕えているだけ。雇い主からは
さほど多くの仕事は与えられていない。別荘番や調理師、清掃夫、庭師。別荘であっても
それなりの規模のため仕事は多いが、見合うだけの人々は働いている。
僕に与えられた役目は仕事というより、お嬢様の精神を安定させるためにあるのだろう。
そんなふうに僕は思っている。
掃除を終え、僕は壁一つの面に取りつけられた戸を引いた。全体がクロゼットになって
いて、衣装がつめこまれている。湿度調節器の小さなうなり声が耳についた。
僕は洗濯の終わった服を順番にかけて、下着を引き出しに入れた。
簡素なデザインが多いが、ほとんどがオーダーメイドで手縫いされ、手間がかかっている。
素材となる人間が美しければ、過剰な装飾は邪魔なだけなのだろう。
この服を僕が着るとどうだろう。やはり合わないだろうか。お嬢様に笑われないだろうか。
いや、そもそも僕は女装が好きではなかったはずだ。いつから嫌いでなくなったのだろう。
お嬢様の姿が思い浮かぶ。
僕はお嬢様のようになりたいのかもしれない。あるいは、女装すればお嬢様の側にいられ
るから嫌いじゃなくなったのかもしれない。
かたづけが終わり、僕はお嬢様を探して廊下に出た。
途中で出会った執事の室寺さんにたずねると、外出はしていないらしい。
たしかに窓を掃除している時に外を見たが、主人の乗ってきた外車も使用人に自家用車も
車庫に入ったままだった。それにクロゼットにはお嬢様の外出着が全て残されていた。
何より、お嬢様は僕を連れてないと遠出をなさらない。
やはり父の部屋だろうと見当をつけ、一階に降りてみると、扉がうっすらと開いていた。
隙間から小さな声が漏れてくる。照明を灯していないのか、奇妙に暗い。
いけないと思いながらも、僕は隙間に顔を寄せた。
窓を背にお嬢様が立ち、かしずくようにお父上が片膝を立てている。
「パパ、パパ……」
お嬢様は優しいような悲しいような声で語りかけ、お父上は亡くなられた妻の名を、つまり
お嬢様の母の名をつぶやき続けている。
お父上はお嬢様の腰に腕を回し、頭を腹になすりつけている。そしてお嬢様は、お父上を
優しく見下ろしている。
はだけられた、なめらかな胸。ぬけるように白い肌。お嬢様は上半身を脱ぎ、半裸だった。
そこに実の父がむしゃぶりついている。
逆光に映えるお嬢様の美しさと、あまりに倒錯的な眺めで、僕は眼をそらす事ができなかった。
ややあって、お嬢様が顔を上げた。
身体が硬直する。お嬢様が無感情な瞳で僕を見ている。
何かいおうとするが口が開かない。逃げ出そうとしても足が動かない。
お嬢様はすぐに眼をそらし、お父上に何事かささやいた。それでようやく僕も体の自由を
取り戻し、扉から離れる事ができた。
心臓が壊れそうなほど熱く鼓動を早めているが、僕の頭は冷えていた。
普段のようすから、何となく感づいて事だったからだ。
亡くなった妻の幻を追う男、失った母の姿に望んで似ようとするお嬢様。
病んでいるとは思うが、僕には止められない。僕も同じように病んでいるからだ。
そして二人が病んでいるからこそ僕はここにいられる。
晩餐を済ませ、お父上は仕事に戻った。
去る時、お嬢様とお父上はまるで恋人のように長いくちづけをかわしていた。
そして室寺さんをふくめてほとんどの使用人も別棟に移った。
僕は男用使用人服を脱ぎ、下着をかえ、ストッキング、パニエ、ワンピース、エプロン、
手袋、室内靴と順番に身にまとい、髪型を整えて薄く化粧を施す。
最後にカチューシャをつけて、いつものメイド姿に戻った。
屋敷は僕とお嬢様の二人きり。
お嬢様は居間のソファに座り、本を開いた。僕は命じられて対面の椅子に座らされた。
静かな山奥の夜。振り子時計の音が大きく響く。
お嬢様はテーブルの上に置いた紅茶を時々すすってはページをめくる。
てもちぶさたな僕は、紅茶からたちのぼる湯気をながめていた。
ふいに、お嬢様が口を開いた。
「さっき覗いていた時、勃っていたでしょう」
僕はあわてて顔を上げた。
お嬢様は何もいわなかったかのごとく本に目をやっている。
しかしお嬢様は読書を続けながらも、聞き間違いでなかった事を証明するようにふたたび
たずねてきた。
「ねえ、どうなの。勃ったの、勃たなかったの」
悩んだが、結局は応えざるをえなかった。
「……勃ちました」
「じゃあ見せて。今ここで」
お嬢様は顔を上げ、テーブルに身をのりだしてきた。
「ダメです。無理です」
「私の命令が聞けないの。ねえ、晶が女装を続けていられるのは誰のおかげかしら」
いつになく不満そうなお嬢様を見ると、立ち上がざるをえなかった。
それに、お嬢様の言葉を聞いて、すでに僕のスカートは小さく隆起していた。
自分の手でスカートをめくると、半勃ちでふくらんだ下着が目に入った。
先ほど着がえたばかりのショーツなのに、先端を少しばかり汚してしまっている。
煌々と輝くシャンデリアの光の下。見られる事そのものにはなれているはずなのに、
僕の顔は羞恥で赤く染まった。
お嬢様にとっても新鮮らしく、興味しんしんに見つめている。
「もっとしっかり勃たせなさい。よく見えるようにね」
テーブルを回ってきたお嬢様が、私の耳もとでささやいた。
「はい……」
ショーツをひざまでずらし、慰めるように握る。
手袋の感触がきもちよく、少しこすっただけですぐ射精できそうな態勢になった。
「あの、お嬢様、やめてください。お手が汚れます」
お嬢様が隣から手を伸ばし、睾丸をもみしだいたのだ。
鈍痛と快楽が交互に襲ってきて、僕は涙をにじませながら射精してしまった。
テーブルに白濁した液体が飛び散り、紅茶や本にまでかかってしまった。
しかしお嬢様はテーブルにも僕の股間にも興味を持たず、無言で指に付着した精液を
なめとった。
そんなお嬢様を見て、垂れかけていた僕のは再びふくらんでいった。
お嬢様は自らの指をなめ終わると、テーブルに両手をついて僕に命じた。
「晶、次は私のここを綺麗にしなさい」
そういって尻を僕へ突き出してくる。
予想外な命令のため、僕はとっさに応じられずに身体が固まってしまった。
ロングスカートに包まれたほっそりとした尻が、テーブルが低いために顔の前にまで
近づいている。顔が熱い。
「……どうしたの、早くしなさい」
僕は眼を閉じ、息を止めてお嬢様のスカートをめくった。
眼を開けると、ストッキングに包まれているしなやかなおみ足と、上にある純白の
ショーツが眼に飛び込んでくる。
ショーツから漏れた雫が一滴、垂れ落ちた。
「舌でなめなめなさい」
僕はおずおずとお嬢様の下着を太ももまで下ろし、舌をとがらせて顔を近づけた。
肛門の周りをなめると、最初にぴりりと舌に突き刺すような苦味があったが、すぐに
何ともなくなった。お嬢様だけあって、ここも綺麗にしているのだ。
もちろん僕のために洗ったのではないだろう。洗ったとしても父のためだ。
「もっと下、下を」
舌をせいいっぱいとがらせたまま、下に顔を動かした。
「晶……」
お嬢様のほてったような声を聞きながら、皺だらけの中心にある筋を、何度も上下に
ていねいになめていく。
お嬢様のおみ足ががくがく震え、力がぬけていくのがわかる。
ふくらんだ玉を口にふくんだ時、お嬢様が言葉にならないあえぎ声を発した。
お嬢様の腰ががくがくと震え、ショーツの中が爆発して白い飛沫を噴出した。
溜めてどろどろに粘っていた精液がテーブルに流れ落ち、敷いていたクロスを汚す。
白く柔らかいお嬢様の物がショーツの脇からはみ出て、残った精液がゆっくり粘って
垂れた。
僕は体液で汚れた物を掃除するために口を近づけ、お嬢様から出たとは思えないほど
苦く生臭い液体をなめとった。
しかし心はなめさせてもらえる嬉しさで満ち足りて、嫌悪感は全く無かった。
ただ一つ心残りがあるとすれば、お嬢様がなめさせてくれる時、スカートの下に僕の
頭をやるため、お嬢様の表情を全く見られない事だけだった。
紅茶のカップに入ったお嬢様の精液が白い固形物となって浮かんでいる。
お嬢様は何かを期待しているかのようにじっと僕を見つめている。
僕は眼を閉じ、一息に飲み干した。
「美味しいかしら」
お嬢様の質問に、僕は正直に答える。
「美味しいです」
するとお嬢様は蔑んだ笑顔を見せ、一言だけ答える。
「本当に変態ね」
そして僕に後片付けを任せ、浴室に向かう。
嘘をついて不味いと答えれば、私の紅茶が不味いというのと叱責されるだけだった。
紅茶を飲まなければ何も言われないのかもしれないが、僕の選択肢にそれは無い。
そしていつものように浴室でお嬢様の身体を可能な限り献身的に洗う。
ただ、今日は特別にお嬢様の命で共に浴槽に入った。お嬢様は僕が持つ偽物の胸に
顔をうずめ、しばらく無言のまま時間が流れた。
今から思い起こして気づいた話だ。
交流会にて一度きり会っただけなのに、僕は年下の少年に恋愛感情めいたものを感じ
ていたように思う。
その少年が母を亡くして、いかにして少女の姿を取るようになったか、父とどのよう
な関係を持っているか、僕が知りえる話ではない。
ただ全ての真実を知っても、きっと否定は出来ないだろう。そして僕もお嬢様の望む
ままに身体を作りかえていくだろう。
それが恋というものだと思うから。